1 主な論点のうち共通またはおおむね共通の認識が得られたもの

(15) 基本的人権の重要性(第11条、第97条関係)

 憲法三大原則の一つである基本的人権の重要性を評価し維持することについて共通の認識があった。

(報告書103~104頁)

 明治憲法下では、法律の留保*の下に臣民の権利が規定されていたにとどまり、基本的人権は十分には尊重されませんでした。この反省を踏まえて制定された現行憲法の人権規定は、制定当時はもとより、現在においても、諸外国の憲法と比べ充実した内容を有していると言われています。

 本調査会では、「基本的人権と国民の権利義務に関する10条から40条はおおむね存置する」、「基本的人権の尊重は日本国憲法の根本的な規範であり今後とも遵守していくべき」、「個人の尊厳こそ憲法の基礎であり価値である」などの意見が出されました。

*法律の留保:法律に基づく限り、個人の権利・自由を制限できるとすること。明治憲法では、「法律の範囲内において」臣民の権利が保障されていたにすぎませんでした。

(16) 国際人権法の尊重(第11条、第97条、第98条第2項関係)

 国際人権法を尊重すべきことは共通の認識であった。

(報告書104~106頁)

 第二次大戦後、人権思想の進展により、基本的人権を国内法的に保障するのみならず、国際法的にも保障しようとする動きが活発化し、1948年に世界人権宣言が策定されました。現行憲法と制定時期がほぼ同じこともあり、両者の人権規定に大きな差異は見られませんでした。しかし、今日、国際社会では国際連合を中心に人権保障の議論が進み、国際人権規約など様々な人権条約の登場により、世界との間で保障のレベルにギャップが生じるようになったと言われています。

 本調査会では、「裁判規範としての条約の国内での法的実効性が議論されておらず、日本の法治の状況は、国際法と切断されたところにある」などの指摘がなされ、難民や亡命者の人権について議論が行われました。そして、国際的な人権保障への対外的取組としては、「先進国と途上国との人権格差を是正するなど、日本が国際社会で積極的な役割を果たすべき」、国内的取組としては、「国際人権保障を尊重し実践するシステムを整備すべき」などの意見が出されました。

(17) 女性や子供、障害者、マイノリティの人権の尊重(第14条関係)

 女性や子供、障害者、マイノリティの人権について、これらを尊重すべきことは、共通の認識であった。

(報告書113~114頁)

 明治憲法には、一般的な平等原則の規定はありませんでしたが、現行憲法には第14条で明確に平等原則が定められ、この分野は日本でも特に人権保障が発展した領域の一つと言われています。しかし、今日もなお法の下の平等は非常に重要なテーマであり、特に、今後、マイノリティや外国人などに対する取組が注目されます。

 本調査会では、「女性の立場からは、リプロダクティブヘルス・ライツ*も、性と生殖の自由な自己決定権として法の総合的確立が必要」、「子供を独立した人格の担い手として認めた権利として明記すべき」、「障害者の社会参画を妨げないような施策を立法府として考える必要」、「被差別部落、アイヌ民族、在日朝鮮人、外国人労働者に対する差別の解消にも、積極的な差別禁止の人権基本法と平等実現の施策のための個別法の制定が必要」などの意見が出されました。

*リプロダクティブヘルス・ライツ:1994年の国際人口・開発会議で提唱された概念で、安全な妊娠・出産、性感染症の予防等を含む女性の生涯を通じた性と生殖に関する健康とその権利とされています。

(18) 外国人の人権の尊重(第14条関係)

 外国人の人権を基本的には保障すべきという点ではおおむね共通の認識があった。

(報告書114~115頁)

 憲法は、元来、国民に対する国家権力発動の基準を示すものと考えられていることから、外国人の人権が憲法上保障されるか、保障されるとしてその範囲がどこまで及ぶかが問題となります。

 本調査会では、従来からの在日韓国・朝鮮人の問題に加え、グローバル化の進展から、外国人の人権保障問題が国際的にも注目を集めているという認識に基づき、議論が行われ、「外国人の人権保障について、明確な規定が必要であり、国際人権保障に対応するものが求められる」、「アジア市民社会のビジョンを目指す観点から外国人の人権にも取り組むべき」、「FTA(自由貿易協定)等*により人の移動が自由になるに際して、外国人労働者に対する規制緩和と共生のための法制を整備し、意識も変わることが必要」などの意見が出されました。

*FTA(自由貿易協定)等:協定の相手方との間で関税の撤廃等通商上の障壁を除去し、自由な取引活動の実現を目指すもの。近年はこれをもとに投資や人的交流など経済のより広い範囲を対象としたEPA(経済連携協定)を結ぶ傾向にあります。

(19) 社会権の重要性(第25条、第26条、第27条、第28条関係)

 社会保障、教育、労働等の重要性は今後も変わらず、国はその保障に努力すべきというのが共通の認識であった。

(報告書124~126頁)

 社会権は古典的な自由権と異なり、積極的に国家の行為を請求する権利です。具体的には、生存権(第25条)、教育を受ける権利(第26条)、勤労の権利(第27条)、労働基本権(第28条)が憲法に規定される社会権であるとされています。現行憲法制定当時、社会権規定を明文で盛り込んだことは画期的なことで、社会権規定の存在は、現行憲法の大きな特徴の一つとなっています。

 本調査会では、社会権規定の意義や法的性格、社会権実現のための方策、生存権と社会保障、勤労の権利、勤労実態などについて、憲法で保障された権利が現実に具体的な権利として確保されているかどうかの議論が行われ、社会保障、教育、労働等の重要性は今後も変わらず、国はその保障に努力すべきとされました。

(20) 新しい人権の保障(第13条、第25条関係)

 新しい人権については、原則として、憲法の保障を及ぼすべきであるということが、共通の認識であった。

(報告書132~134頁)

 現行憲法は、詳細な人権規定を置いていますが、これは歴史的にみて特に重要な権利・自由を列挙したものであり、すべての人権を網羅的に掲げたものではありません。

 憲法制定時に予想もされなかった社会状況の変化によって、知る権利やプライバシーの権利、環境権といった、内容的には従来の自由権、社会権に収まりきらず、条文上の根拠の点では個別の人権規定でカバーできない人権が考えられるようになりました。これらの権利は、一般に新しい人権と呼ばれていますが、明確な基準があるわけではなく、どのような性格のものとしてとらえるか、憲法上保障される人権の一つとして認めてよいのかが議論となります。

 本調査会では、「人権保障がより明確になることを考慮して、新しい人権カタログを何らかの形で憲法規定の中に取り入れることを検討すべき」、「新しい人権は、憲法の人権規定を踏まえて、国民の運動により発展的に生み出されてきた権利であり、13条など現憲法の人権規定により根拠付けられている」などの意見が出され、新しい人権について、原則として、憲法の保障を及ぼすべきであるとされました。

ページトップへ