1 主な論点のうち共通またはおおむね共通の認識が得られたもの

(28) 国と地方との関係(第92条、第94条関係)

 地方分権が進む中、国と地方の関係は、国が地方を支配監督するという従来の関係ではなく、対等な関係であるべきとするのが、おおむね共通した認識であった。

(報告書201~202頁)

 地方自治は民主主義の基盤であり、また、地方自治への参加を通じて住民が民主主義の在り方を学ぶという「民主主義の学校」であると言われています。

 これまで、国と地方の関係は、国が地方を支配監督するという関係でした。しかし、今日、国際環境・国内環境が大きく変わり、従来の中央集権型行政システムでは的確な対応が困難であるとして、地方分権が推進されています。この流れを受けて、新たな地方自治の在り方について、議論が行われました。

 本調査会では、国と地方の関係は、国が地方を支配監督するという従来の関係ではなく、対等な関係であるべきであり、「将来的には国と地方の対等独立原則に基づいた憲法改正も視野に入れるべき」、「国が行う事項は何か、地方にゆだねる事項は何か、地方間の財政較差をだれがどのように調整するかについて、憲法で基軸を定めるべき」、「微にいり細にわたって地方自治の在り方について定めている地方自治法自身が、地方自治体の自主決定、自己責任をがんじがらめにしているのではないか」などの意見が出されました。

(29) 地方財政(第94条関係)

 国と地方の対等な関係を実現し、地方が真に自立するためには、健全な財政基盤が不可欠であることは、共通の認識であった。

(報告書202~204頁)

 我が国の憲法には地方財政に関する規定はありませんが、主要国では自主財源の保障や財政調整制度など、踏み込んだ規定を有するものが多くあります。本調査会では、国と地方の対等な関係を重視し、地方が真に自立するためには、健全な財政基盤が不可欠であるとされました。

 この共通認識に基づき、課税自主権・財政自治権、国の財政調整義務等についても「地方自治体に課税自主権・財政自治権を憲法上保障し、必要な財源を自らの責任と判断で調達できるようにすべきであり、課税自主権には税目・税率の決定を含めるべき」などの意見が出されました。

(30) 住民自治の強化(第93条関係)

 地方自治が住民の意思に基づいて行われるべきことは共通の認識であった。

(報告書205~209頁)

 憲法の保障する住民自治の強化策についても、議論が行われました。住民自治とは、地域団体の政治や行政が地域団体の住民の意思に基づいて行われるという原則です。

 本調査会では、「国政では代議制が基本であるが、地方政治では直接民主主義も大きな柱とされ、これを実質的に保障することが必要」などの理由から、地方自治が住民の意思に基づいて行われるべきとされ、自治体が自らの裁量で定めるチャーター(自治憲章)により「議員定数等を決め、住民投票で自分たちの自治体の姿をつくる」、専門家に行政執行をゆだねる「シティーマネージャー制度の採用や、道州制を視野に入れるとすれば、地方自治体の長の選出方法を憲法上住民の直接選挙のみに限定しない方が適当ではないか」などが提案され、また「条例に基づく住民投票は、法律の範囲内で定められるが、政治的には非常に大きな意味を持つ」などの意見が出されました。

(31) 基礎的自治体の強化(第92条、第94条関係)

 地方分権の流れの中で受け皿となる基礎的自治体を強化すべきことについては、共通の認識があった。

(報告書207~208頁)

 本調査会では、地方自治体の組織の在り方について、「基礎的自治体*を優先するという考え方を明確にするのが望ましい」などの意見が出され、特に地方分権の流れの中で受け皿となる基礎的自治体を強化すべきとされました。

 また、この認識に基づき、「身近な基礎自治体に財源と権限を移譲し、地方の自主性、自己決定能力を高めていくことが地方の個性を回復させるために必要」などが提案されました。

*基礎(的)自治体:広域的自治体である都道府県に対し、住民により身近な行政を担う自治体である市区町村(区は東京都の特別区)のことを指します。

(32) 地方分権(第92条、第94条関係)

 地方分権を推進していくべきことは共通の認識である。

(報告書210~211頁)

 本調査会では、「長年地方自治にかかわった経験から、基礎的自治体の充実強化と地方分権の推進が住民の福祉の向上につながることを確信している」などの意見が出され、地方分権を推進していくべきとされました。

 そして、この認識に基づき、地方分権に関わる憲法の在り方について、「中央集権から地方分権の社会になっていることを前文に位置付けていくことが重要」、「国と自治体の関係、自治体相互の関係、首長と議会の関係について、憲法上明確に規定しておくべき」などの意見が出されました。

(33) 国民投票法制(第96条関係)

 憲法改正手続における国民投票については、その重要性にかんがみ、維持すべきとの共通の認識があった。

(報告書216~217頁)

 現行憲法の改正手続規定(第96条)は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成による発議、国民投票の過半数の賛成による改正を定めています。法律の制定が原則として国会の議決のみで成立するのに対し、憲法改正に国民投票という直接民主制的手続が求められていることは、憲法改正という重要事項に関する最終的な判断を主権者である国民による直接の判断にゆだねるものと考えられています。

 本調査会では、「憲法制定権力が国民にあるのは妥当なことであり、憲法改正はすべて国民投票によるという形が妥当」、「憲法は国民が国に課した規範であり、国民投票を不要とする改正手続の改正には問題がある」などの意見が出され、憲法改正手続における国民投票は維持すべきとされました。

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