2 すう勢である意見

 自民、民主、公明の3党がおおむね一致した意見です。

(1) 新しい人権の憲法上の明記(第3章関係)

 憲法上の規定を設けるべきとする意見がすう勢であった。

(報告書133~134頁)

 新しい人権について、原則として、憲法の保障を及ぼすべきであるということが本調査会では共通の認識として確認されました(→参照)が、憲法上、人権に関する規定を新たに設ける方がよいか、それとも第13条(幸福追求の権利)あるいは第25条(健康で文化的な最低限度の生活を営む権利)等の現在の憲法の規定に基づく立法措置で対応する方がよいかという意見の違いがあります。

 本調査会では、「社会状況の変化への対応」、「人権保障の明確化」、「できるだけ広く、分かりやすく、国際的水準に見合った人権を考えるべき」などを理由に、憲法上の規定を設けるべきとする意見がすう勢となりました。

(2) プライバシー権(第3章関係)

 憲法上の規定を設けるべきとする意見がすう勢であった。

(報告書136~137頁)

 プライバシーの権利は、個人の私生活の自由に由来するもので、自己に関する情報をコントロールする権利とも言われています。

 本調査会では、「新しく追加すべき権利としては、国民の個人情報を守る権利等を挙げている」、「プライバシーの権利を自己に関する情報をコントロールする権利ととらえ、憲法上の権利として明示することを検討すべき」、「プライバシーは平穏な生活の基礎であり、新たな人権規定として憲法に明記することが必要」などの意見が出され、憲法上の規定を設けるべきとする意見がすう勢となりました。

(3) 環境権(第3章関係)

 憲法上の規定を設けるべきとする意見がすう勢であった。

(報告書137~138頁)

 急激な工業化、都市化により、大気汚染、水質汚濁、騒音、振動などの公害が大量発生し、環境が著しく悪化しました。そこで、環境を保全し、良好な環境の中で国民が生活できるようにするために、新しい人権として環境権が提唱されるようになりました。さらに、最近では、地球規模の環境の悪化が懸念されています。

 本調査会では、健康で快適な生活を維持する条件としての良い環境を享受することを目的とする、環境権あるいは環境保全義務について、「健康で良い環境を享受する権利として明記すべき」、地球環境問題は日本の国際貢献の最重要分野の一つであり、同時に、日本は自然と共生してきた長い歴史と伝統を持っており、日本が環境を重視する国であることを憲法上も明らかにすべき」などの意見が出されました。

 また、将来の世代や環境そのものに対する責任として、国民及び国家は環境を守るべきとする環境保全の義務的性格について、「環境権については、将来の世代に対する責任、あるいは環境そのものに対する責任まで含めて考えるべき」、「環境問題は深刻になっており、国家による環境破壊というより企業・個人など私人の活動が影響を与えているので、権利と同時に義務を果たすということも明記すべき」などの意見も出され、環境権について、憲法上の規定を設けるべきとする意見がすう勢となりました。

(4) 内閣総理大臣・国務大臣の就任資格(第66条、第67条、第68条関係)

 従来どおりとすべきとする意見がすう勢であった。

(報告書167~168頁)

 現行憲法は第67条第1項前段で、「内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。」と定め、内閣総理大臣の就任資格を国会議員、つまり、衆参どちらかの議院の議員であることとしています。また、第68条第1項で、「内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。」と定め、国務大臣の過半数が国会議員でなければならないとしています。

 これらの規定について、参議院は主として、政権を監視する役割を果たすべきであるとして、内閣総理大臣・国務大臣の就任資格を衆議院議員に限定してはどうかとの考え方があります。

 これに関して、「首相の資質を持つ議員は上院・下院を問わず存在するのであり、就任資格を狭く限定する必要はない」、「議院内閣制を採用する以上は、衆参両院を基盤とすべきであり、参議院議員からの内閣への人材登用の途を維持すべき」などの意見が述べられ、本調査会では、従来どおりとすべきとの意見がすう勢でした。

 一方、見直しを検討すべきとの立場からは、「決算の院・財政チェックの院としての機能強化を図るには、執行の一翼を担いながらチェック機能を果たせるかを考慮すべきで、参議院議員の国務大臣就任、首相指名権との関係も論点となる」などの意見が出されました。

(5) 予算単年度主義(第86条関係)

 複数年度予算の考え方を評価する意見がすう勢であった。

(報告書195~196頁)

 予算単年度主義*については、「単年度予算主義という使い切り型予算を組んでいることが財政の健全化に逆行している面が強い」など、税金の無駄遣いが生じるとの問題意識から、複数年度予算の導入の是非について、複数年度予算の考え方を評価する意見と、単年度予算を維持すべきとの意見が本調査会では出されましたが、複数年度予算の考え方を評価する意見がすう勢となりました。

 この立場からは、「複数年度予算の編成については、財政民主主義の観点から単年度主義を維持しつつ、年度をまたがる手当が必要なものについては、現在法律で規定されている継続費等の制度を活用し、運用を弾力的なものにする」などの意見が出されました。

 一方、予算単年度主義を維持すべきとの立場からは、「予算単年度主義に弊害はあるが一定の財政規律を確保する意味でメリットもある」などの意見が出されました。

*予算単年度主義:国会における予算の議決は各会計年度(日本では4月~3月)ごとに行わなければならないという原則。

(6) 今後の憲法調査会

 憲法調査会において憲法改正手続の議論を続けるべきとする意見がすう勢であった。
 なお、日本共産党及び社会民主党から強い反対があった。

(報告書220~221頁)

 現行憲法第96条が定める憲法改正手続は、大枠を定めるものにとどまり、実際に憲法改正を行うには、国民投票の方法等、憲法改正手続を詳細に定める法律が必要であると考えられています。しかし、現在まで、この法律は制定されていません。

 この点をめぐり、本調査会では、報告書を提出した後の憲法調査会の在り方、憲法調査機関の必要性と関連し、議論が行われました。

 憲法改正手続の議論を続けるべきとする立場からは「憲法改正手続、国民投票制度については早急に整備すべきであり、本憲法調査会において引き続き調査検討ができるようにするか、本調査会又はこれを継承する本院の機関において調査検討、立案、審議、議決ができるようにするか、措置する必要がある」、「憲法改正手続法は大変重要な意味を持つので、憲法調査会の重要な調査内容として当然含まれるべき」などの意見が出されました。

 一方、憲法調査会は存続させるべきでないとの立場からは、「本調査会を憲法改正、特に9条改正の足掛かりにすることは許されないと考えており、報告書を議長に提出して役割を終えれば、静かに幕を下ろすべき」、「最終報告の後は、本調査会は解散し、憲法理念の実現を目指す国民の様々な論議と実践の場に国会議員も参加をしていくべき」などの意見が出されましたが、本調査会では、憲法調査会において憲法改正手続の議論を続けるべきとする意見がすう勢でした。

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