3 主な論点のうち意見が分かれた主要なもの

(8) 人権と公共の福祉との関係(第12条関係)

 これをどのような方向で実現していくか、また義務規定を重視するか否かという点で見解が分かれた。

(報告書109~110頁)

 現行憲法は、第12条等で、自由及び権利の濫用の禁止と公共の福祉のために利用する責任を定めています。この公共の福祉とは、最大公約数的には、万人に共通の共存共栄の公益と言えます。

 本調査会では、私人間及び公共と私人の間の基本的人権をどのように考え、調整すべきかについて様々な議論が行われました。

 まず、公共の福祉の概念について、「漠然としていて不明確なので分かりやすいものにすべき」との意見が出されました。また、「現在は人権の制限について過度に抑制的であり公共の福祉の解釈を見直すべき」、「精神的自由については厳格に、経済的自由については個別的に基準が設定されるべき」、「軍事的公共性による制限は基本的に許されない」、「安易な公共の福祉論による人権制限に反対する」などの意見が出され、公共の福祉をどう考えるか、これをどのような方向で実現していくかについて、意見が分かれました。

(9) 権利と義務(第3章関係)

 自由と同時に責任を、権利と同時に義務を課すのは成熟したデモクラシー国家のあるべき姿との考えから、義務や責任についてもっと憲法に書くべきとの意見、近代憲法が国家権力を制限して国民の権利を保障するために制定されたという歴史にかんがみれば、義務や責任を憲法で強調する必要はないとの意見が出された。

(報告書110~112頁)

 本調査会では、権利と義務のバランスについて、義務や責任について憲法により多く書くべきとの立場からは、「現在の憲法は、そのバランスを欠いており新しい義務規定を置くべき」との意見や、「責務として追加すべきものとして、国防の責務、税金だけではなく社会保険料のような社会的費用を負担する責務、家庭を保護する責務、生命の尊厳を尊重する責務、憲法尊重擁護の責務、環境を保護する責務などを挙げている」などの意見が出されました。

 一方、義務や責任を憲法で強調する必要はないとの立場からは、「憲法は国家の国民に対する義務を規定したものであって国民に義務を課すことを目的としたものではなく、権利・自由と表裏一体を成す義務・責任を新憲法に書き込むべきとの考えには賛成できない」などの意見が出され、意見は分かれました。

(10) 外国人の参政権(第15条関係)

 外国人に地方参政権を与えるべきか否かについては、国民主権や地方自治の意義をどのように理解するかと関連し、意見が分かれた。

(報告書115~116頁)

 本調査会では、外国人の人権を基本的には保障すべきという点はおおむね共通の認識となりました(→参照)が、外国人に地方参政権を与えるべきか否かについては意見が分かれました。

 外国人に地方参政権を付与すべきとの立場からは、「地域住民としての義務を果たしている永住外国人の地方参政権を制限する根拠は非常に乏しく、地域公共団体の構成員である外国人が住民投票に参加する権利を保障することも併せて、基本権としての整備が必要」、「永住外国人の意思を反映する選挙を考える必要がある」、「外国人にだけ参政権の保障が及ばないということには無理がある」、「在日外国人の地方参政権は個人の自己決定の集合的処理方法の観点から根拠づけられる」などの意見が出されました。

 一方、外国人に地方参政権を与えることは難しいとの立場からは、「外国人も納税しているから参政権が付与されてもよいとの議論があるが、経済活動又は生活をする中で日本のインフラを使用していることの対価として納税の義務が生じるのであり、外国人参政権は難しいことを憲法にうたうべき」、「国防や教育の問題など、国政への参政権と地方参政権をきっちり分けられないこともあり、現状では地方参政権を外国人に認めることは非常に難しい」などの意見が出され、意見が分かれました。

 なお、外国人に国政参政権を与えるべきとの意見は出されませんでした。

(11) 表現の自由(第21条関係)

 メディアやIT技術の発達に即した規制の在り方については、意見が分かれた。

(報告書117~119頁)

 表現の自由は、思想・情報を発表し伝達する自由であり、民主主義のプロセスを機能させるために不可欠な権利です。

 しかしながら、今日、メディアやインターネット等IT技術の発展は、個人情報の流出、犯罪利用等の新たな問題を生み出しています。そこで、本調査会では、主に、人権救済、プライバシー保護、青少年保護などのためのメディア規制やインターネット等における有害情報規制の在り方が議論の対象となりました。

 新たな規制を考えるべきとの立場からは、「ネット上の人権侵害は、裁判による救済では間に合わないので、法律である程度事前の規制をする必要がある」、表現の自由に関し、「最終的には司法的救済が重要となるが、自費で時間がかかるという困難を強要する形となるため、賠償額の高額化を考えてもよい」、「青少年保護を明記して規制するか否かという問題がある」などの意見が出されました。

 一方、規制には慎重であるべきとの立場から、「表現の過誤は基本的には制限されるべきでなく、思想の自由市場により淘汰されるべきものであるが、マスメディアがプライバシー権を侵害する可能性もあり、高度情報化時代を迎え、インターネットなど新しい媒体における表現の自由をどのように保護し、規定するかが重要になっている」などの意見も出され、メディアやIT技術の発達に即した規制の在り方については、意見が分かれました。

(12) 政教分離(第20条関係)

 国家と宗教との分離の度合いをいかに解するか、日本の歴史や伝統、文化との関係から、意見が分かれている。

(報告書120~121頁)

 戦前の経験から、現行憲法は明確な政教分離を定め、第20条第1項後段及び第3項で、宗教団体が国から特権を受けることを禁止し、国家の宗教的中立性を規定しました。しかし、国家と宗教との分離の度合いをいかに解するか、日本の歴史や伝統、文化との関係から、意見が分かれています。

 本調査会では、「政教分離原則は維持すべきだが、一定の宗教的活動に国や地方自治体が参加することは、社会的儀礼や習俗的・文化的行事の範囲内であれば許容される」、「20条の後に国民共通の伝統・文化・風習を否定するものではないとの趣旨を入れることも必要ではないか」など、特に伝統・文化等に属する場面での分離の度合いを緩和すべきとの意見が出される一方、「20条は戦前の国家体制に対する反省から生まれており、神社神道と国家との結びつきが顕著である以上、20条の重要性は否定できない」として、政教分離は厳格に運用すべきとの意見も出され、意見は分かれました。

(13) 内閣の在り方・機能強化(第5章関係)

 内閣の在り方については、内閣を強化すべきという意見、逆に国会を強化すべきであるという意見などが出された。

(報告書171~172頁)

 議院内閣制の基本原理は、国会の多数党が中心となって内閣を組織し、行政権の主体となることとされています。この議院内閣制の下で、どのような改善が必要か、議論が行われました。

 本調査会では、内閣の在り方について、内閣を強化すべきという意見、逆に国会を強化すべきであるという意見などが出されました。

 内閣を強化すべきという立場からは、「縦割り行政の弊害を解消するために、内閣全体の機能強化とともに、内閣総理大臣のリーダーシップを高めることが必要」などの意見が出されました。

 これに対し、国会を強化すべきという立場からは、「国会の強化、内閣の監視機能の強化こそが現実の課題であり、議員立法の活性化と審議会政治の大幅改善が必要」などの意見が出されました。

(14) 首相公選制(第67条関係)

 首相公選制の導入の是非については、意見が分かれた。

(報告書174頁)

 首相公選制とは、行政府の長である内閣総理大臣を、国民が直接選出する仕組みです。現行の制度では、第67条が「内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。」とし、国会議員が選出することとされています。

 首相公選制については、より国民の意思に沿った内閣総理大臣を選出しうるという考え方や、国会に基盤を持たない総理大臣によって行政が停滞する懸念があるという考え方等があります。

 本調査会では、首相公選制の導入の是非については、意見が分かれました。

 導入に否定的な立場からは、「常にポピュリズムの危険が伴う」、「首相を辞任させる方法、国会の不信任案提出権の有無、解散権の有無、内閣の連帯責任をどうするか等問題が多い」、「首相公選制は、現憲法の議院内閣制とは両立しない」などの意見が出されました。

 一方、公選制を評価する立場からは、「衆議院選挙が首相を選ぶ選挙であるとの意識が国民に余りなく、議院内閣制というものを国民がしっかり意識し、自分たちもその確立に向け努力する中で、首相公選制について検討すべき」、「国民主権の徹底及び官僚政治からの根本的脱却という観点から、議院内閣制から首相公選制に移行すべき」などの意見が出されました。

ページトップへ