3 シビリアン・コントロール

 軍組織に対する民主的統制は民主主義国家体制を守る上で不可欠であり、自衛隊を統制する上でも、前項で述べた法の支配と並び、シビリアン・コントロール(文民統制)は重要であるということがおおむね共通の認識であった。このような統制規定について、最高法規たる憲法に明示することが望ましいとして、自衛隊の存在を憲法上に明記しようとする立場から、シビリアン・コントロールも併せ明記する旨の主張がなされたが、具体的な内容については意見が分かれた。なお、憲法には、現役の武官が大臣に就任し、国政に大きな支配力を持った反省に基づき、国務大臣については、文民でなければならないとの規定が置かれている。

 また、シビリアン・コントロールの意味や内容については議論のあるところであり、議会における戦争の宣言と予算の権限、行政府の長の指揮権、軍が国民の自由を不法に侵害した場合の裁判所の権限などが含まれるべきなどと言われている。

シビリアン・コントロールの意義、シビリアンの定義

 シビリアン・コントロールの意義について、

  • 民主主義は歴史の中で達成された最善のシステムであるが、民主主義に基づくシビリアン・コントロールにより自衛隊を運用していくことも人類の英知と考える、

などの意見が出され、また、シビリアン・コントロールについて議論する必要性について、

  • シビリアン・コントロールを担保する方策として、最近では軍の行動に対する法の支配が各国で言われているが、日本でも、コントロールを外れたときの責任について議論する必要がある、
  • 軍事に対する立法権によるコントロールは、重要な問題として国会において考えるべき問題、

などの意見が出された。

 また、シビリアン・コントロールでは、シビリアンの具体的な身分もさることながら、立憲主義的なメカニズムこそが重視されるべきとして、

  • シビリアン・コントロールについては、軍隊の最高指揮者が非軍人、文民でなければならないといった狭義の意味でとらえられるべきではなく、民主的手続によって選ばれた議会の統制に服するという、民主的統制として理解されるべきである、
  • 軍事力は本来的・本性的に暴走することもあるため、各国の憲法にも明記されているように、だれがコントロールするかのメカニズムを最高法規で決めておくことが必要、

などの意見も出された。

シビリアン・コントロールについて憲法に明記する必要性

 さらに、憲法に明記する必要性については、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、首相の最高指揮権及び民主的文民統制の原則に関する規定を憲法に盛り込むとしている(自由民主党)、
  • 党の論点整理(平成16年)は、首相の最高指揮権及びシビリアン・コントロールの原則に関する規定を置くべきとの意見が出たとしている(自由民主党)、
  • 日本では、自衛隊が軍隊か否かの議論に終始し、自衛隊をどうコントロールするかについての議論が封じ込められてきたが、自衛隊のシビリアン・コントロールについての基本原理を憲法に定めておく姿勢は、絶対に必要、
  • 各国の憲法は安全保障に関して詳細に記述しているが、これは軍が必要であるから持つという一方、軍をコントロールする仕組みが憲法に必要であるとのスタンスに立つからではないか、
  • 世界有数の予算を軍事力に使いながらそれを統制するシステムが憲法に明記されていないとの事実は、国際社会から信用をかち取るための、あるいは憲法を改正することへの大きな障害になる、

などの意見が出された。

 また、

  • 先進国家が議会優位の民主主義体制から行政優位の形態に変貌し、シビリアン・コントロールにおいても、より専門性や機動性を持つ行政府のウエートが増し、国会によるコントロールが形骸化していくのではないかとの懸念を持つ、

などの意見が出された。

シビリアン・コントロールの内容

 シビリアン・コントロールの手段として重要とされている指揮監督権や議会統制の在り方が議論され、

  • 自衛隊に対する民主的統制の原理として、(1) 戦争の開始、(2) 戦争の終了、(3) 戦争の予算、の3点は議会の決定によるということを憲法上明記すべきであると考える、
  • 自衛隊法7条(内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有する)や8条(防衛庁長官は、内閣総理大臣の指揮監督を受け、自衛隊の隊務を統括する)のような規定を憲法上設け、かつ、自衛隊の使用や派遣についての国会関与を憲法上規定すべきであり、これは個別法に憲法上の根拠を与えるものと考える、
  • 海外に自衛隊を出す場合の議会の関与に関する統一した原理原則をつくらない限り、本当の意味において議会の自衛隊に対するコントロールを確立することは出来ない、
  • 政治が軍事行動に関与する際、防衛力整備への関与は予算統制の形で比較的行いやすいが、作戦構想への関与は情報が共有されにくいため難しく、政治決定者に情報が十分届くかが問題となる、

などの意見が出された。

 また、防衛庁の内局制度について、

  • 防衛参事官制度を廃止すべきとの議論や、防衛事務次官が持つ自衛隊に対する監督権を統幕長に移すべきとの議論があるが、これが現実になると、首相と自衛隊が直結するという形で、平成の統帥権独立制度になってしまうとの懸念を持つ、
  • 日本のシビリアン・コントロールの特色とされる内局制度と自衛隊の行動の法定化は、シビリアン・コントロールの必須要件ではないとされるが、これらにより、欧米諸国よりも一層徹底したシビリアン・コントロールになっていたのではないか、

などの意見が出された。

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