5 国際平和とそのルール(国際連合、国際法)

 第一次・二次世界大戦の惨禍の経験から、国際連合を中心とした国際平和の確立が目指された。国連憲章の戦争の災害から将来の世代を救おうという精神は、日本国憲法の理念と基本的にはつながるものである。

 国際連合を中心とした国際平和活動に日本がどのようにかかわっていくかが大きな問題であるが、国際連合、特に安全保障理事会の在り方には、様々な意見がある。国際連合を重視するが、安全保障理事会をはじめ改革が必要であることは、憲法調査会におけるおおむね共通の認識であった。

 また、国際社会においても、法の支配の確立を目指し、国際連合だけでなく、様々な努力が積み重ねられている。そして、21世紀にはますます国際協調が進み、主権国家の制約が強まり、確立された国際法秩序の下で法の支配に基づく行動が求められるようになると言われている。

 このような、国際平和とそのルールをめぐって、議論が行われた。

国際社会の現状と国際平和の確立

 現実の国際社会における問題状況の認識に基づき、平和の確立への取組について、

  • 国際的な世界各国の協調の場が国連であり、その上で、日本は日米関係を基軸としており、また日本はアジアの中にあることから、日本の今後の外交安全保障上の立場を考えるときには、国連と日米とアジアの三つの軸でしっかり考えるべき(公明党)、
  • 冷戦終結後の民族・宗教に起因する紛争の多発や難民の発生、グローバリゼーションの進展による貧富の差の拡大や社会・文化の多様性への影響等の問題が生じているが、このような課題に対しては、国連等の国際機構を通じた取組や、個々の課題ごとに集まった国家のグループによる取組が不可欠、
  • 戦争史上最大の悲惨をもたらした二つの世界大戦の教訓をいかした国連憲章と、それを一層発展させた日本国憲法を基本とし、国連憲章に規定された平和の国際秩序を擁護すべき、
  • 憲法が掲げる平和主義、国際協調主義は、国連、国連憲章と非常にかかわり合いがあるという意味で、日本が外交の基軸を国連中心に置くのは非常に意義のあること、
  • 米国が提供する軍事力による平和に世界も日本もゆだねるのか、国連をしっかりさせて国際社会を制度化し、法の支配を確立させる方向に行くのか重要なところにきている、

などの意見が出された。

国際連合

 国際連合の役割と在り方について、

  • 人類が国連に代わる国際機関を持ち得ていない現在、日本は国連憲章の掲げる理想を追求し、その機能の強化に努めるべき、
  • 消極的に国連重視を語るだけであってはならず、国連改革など他の条件も整備しながら、国連を発足当初想定されていたような状態に近付ける努力をしなければいけない、
  • 平和の構築や貧困格差の是正、地球環境など、21世紀の全人類が直面する課題の解決のために国連が果たすべき役割は重要。冷戦終結後、国連が本来の機能を発揮する道を切り開くことも可能となり、日本は、国連の機能強化を進めるべき、
  • 日本は、人権と安全保障について、国連を中心とする国際機関の実効的措置やそのための組織・機関の強化について、国際刑事裁判所を始めとし、国連軍や国連警察軍の創設に至るまで、積極的に発言し、行動していくべき、
  • 国連の現実に理想から懸け離れた部分があることは否定できないが、世界平和の破壊や不正義が地球上に存在する限り、国連の不完全さを理由に傍観者然と振る舞うことはできず、日本は、国連決議による多国籍軍や国連平和維持活動に主体的に関与すべき、

などの積極的な意見が出されたほか、

  • 国連憲章の敵国条項が未だに削除されないのはおかしい、

などの意見も出された。

安全保障理事会

 常任理事国の拒否権など、安全保障理事会の在り方や限界をめぐって、様々な議論がある。また、常任理事国に日本が入るべきとの意見は強い。これらの課題をめぐって、議論が行われた。

 安全保障理事会常任理事国入りへの賛否について、

常任理事国入りを積極的に考えるべきとの意見
  • 日本の安保理常任理事国入りは、国連が幅広い手段で国際平和を実現していくことに不可欠であるとともに、国際社会における日本の役割と貢献を更に高めていくことになると確信する、
  • 日本は常任理事国となって議論に参加し決議の提出にもかかわることが必要であり、20数パーセントの国連出資金を支出する日本が常任理事国にもなっていないこと自体が問題である、

などの意見が出され、実際に常任理事国となる場合の条件として、

  • (1) 旧敵国条項を含む国連憲章の改正、(2) 日本の常任理事国入り、(3) 憲法改正をワンパッケージで行うべき。集団的自衛権を認めることなく常任理事国になることは矛盾が多過ぎる、

などの意見が出された。

 これに対して、

安全保障理事会との関わりを見直すべきとの意見
  • 国際活動への関与と称して国連安保理が志向されているが、軍事力による貢献ではなく、途上国の貧困撲滅、南北問題や世界環境問題の解決など、ユニセフ・ユネスコ・WHO等の機関による取組にもっと積極的に協力することが重要であり、憲法の平和原則、民主的な原則に基づく貢献を大いに重視すべき、
  • 国連中心主義は日本の外交の基本とは思うが、安保理がそれなりの国の思惑で動き、拒否権を持つ常任理事国が存在する中で、最後まで日本の安全保障を国連にゆだねることについては、議論すべきところがあるのではないか、
  • 国連は、世界各国が得意な分野を持ち寄って国際社会全体として最も効果的な行動を取るための掛け替えのない場であるが、イラク問題への対応をめぐり、安全保障理事会や国連の在り方に疑問が出てきた、

などの意見も出された。

国際法

 近代国際社会の原則は、主権平等、国家平等の原則であるが、国家主権を制限し、人権と法の支配を重んじる努力が国際法分野でも行われているところであり、

  • 国際刑事裁判所の設置により、戦争犯罪等を犯した個人に対する被害者の賠償請求が認められたが、現実の救済には困難があると思われるので、加害者の所属国に法的責任があれば、そこに賠償責任を認めるよう国際法を確立し、それに応じた国内法も整備していくことが必要、
  • 国際法の中核と言ってよい国連憲章を再度、日本の憲法と併せて考える時代ではないか。現在、逆の方向へ世界が向かっていることを危惧する、
  • 国際社会の中で「名誉ある地位を占めたい」(前文)としながら、実際には憲法上の制約により条約・国際法規を誠実に遵守できない部分があるが、国際社会が合意したものを誠実に遵守し、実行できる国家でなければ、国際社会における主体的地位は占められない、
  • 国際刑事裁判所の設置により、国連軍が武力で犯罪・戦争犯罪等を解決するという19世紀・20世紀の伝統を変え得るとすれば、国際刑事裁判所は、21世紀の平和構築に重要な意味を持つ、

などの意見が出された。

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