7 教育にかかわる権利

 日本国憲法26条は、教育を受ける権利として、能力に応じてひとしく教育を受ける権利及び義務教育の無償を定めている。この教育を受ける権利は、子供が将来社会で活躍するために身に付けていなければならない基礎的能力をひとしく享受できるようにする点に基本的内容があると言われ、この規定から、国は教育制度を維持し、教育条件を整備すべき義務を負うと解されている。

 教育を受ける権利に関して、教科書裁判を巡って争われた教育内容を決定する教育権の所在の問題や、より能動的な学習権として教育を受ける権利をとらえなおすべきなどの問題提起もあり、本憲法調査会では、教育と国や社会・家庭とのかかわりも含め、議論が行われた。

 まず、教育を受ける権利の内容について、

  • 個人が人格完成に向けて発展する権利は重要性を増しており、義務教育だけにとどまらず、社会の変貌過程で転職を余儀なくされる場合の職業能力の養成なども、教育権の内容を成す(民主党)、
  • アイデンティティーや情報編集能力を獲得するための学習権として、生涯にわたり必要な学びを支援される権利、学びの内容を決定し実施する自由を侵されない権利、経済的理由・社会的理由によりその学びを妨げられない権利などを位置付けることが必要、
  • 義務教育対象者にも私学通学者は多く、これを無視するわけにはいかないため、義務教育の無償ではなく、無償で教育を受けることができるという形にした方が良いのではないか、

などの意見が出された。

 また、学習権について、

  • 21世紀の新しい時代における人権の見方として、情報リテラシーや生涯学習社会の到来に対応するとともに、人間の潜在能力の開発を支援することを行政などの責務とする学習権などが挙げられる(民主党)、
  • 教育を受ける権利には若干受け身的な要素があるが、生涯学習の時代にあっては、自ら学ぶことによって人格を高め、自分自身をつくっていくという意味での学習権の思想が教育を受ける権利に含まれていることの確認が必要(公明党)、

などの意見が出された。

 教育内容を決定する教育権の所在については、

  • よりよい社会を実現するには公共の精神、社会規範を尊重する意識や態度の育成が重要で、この理想を実現するには国の教育権も憲法上積極的な位置付けをもって規定されるべき、

などの意見が出される一方、

  • 教育を受ける権利には、社会権としての面のほか、自由権としての面も重要であり、子供を育てるという義務を伴う権利は、第一義的には両親にあることを確認すべき、

などの意見も出された。

 さらに、児童の権利条約等との関連で、

  • 教育を受ける権利の自由権的側面である教育の自由という考え方が今まで非常に弱く、児童の権利条約、国際人権A規約、世界人権宣言などの観点からの議論が日本では深まっていない(公明党)、
  • 26条1項を検討するのであれば、児童の権利条約における教育の定義に倣って、児童の持っている能力を最大限に発達させていくという文言を入れたい、

などの意見が出された。

 さらに、戦前の教育勅語に代わるものとして、憲法と相前後して制定された教育基本法について、

見直しに積極的な意見
  • 日本の良き伝統と文化を踏まえ、基本的人権の大前提とも言うべき自由と責任、公益と私益のバランス、公共性への配慮、他人の人権への思いやり、遵法精神を皆が持つようになるためには、教育の役割が重要であり、教育基本法の見直しは喫緊の課題、

などの意見が出される一方、

消極的な意見
  • 教育基本法制定時に、戦前の国家主義的教育の誤りが敗戦を招いた、教育が思想統制の道具とされたというような議論の中で、教育が時の権力に左右されてはならないとの議論になったことを、重みを持って受け止めるべき(公明党)、

などの意見が出された。

 なお、教育基本法の性格に関連し、

  • 日本国憲法と教育基本法とは不可分一体のものとしてでき上がっており、教育基本法を改正する場合に、教育にかかわる憲法条項にのっとったものにするのか、それとも生涯学習や学校教育基本法的なものに性格を変えてしまうのかが非常に大きな論点(公明党)、

との意見も出された。

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