[内閣]

1 議院内閣制

 議院内閣制の基本原理は、国会の多数党が中心となって内閣を組織し、行政権の主体となることであり、有権者が選出した議員が首相を選出し、首相が閣僚を部下として行政権を掌握することにより民主政治の糸がつながり、首相の下に国の基本方針が集約され、一貫した政治が行われるものである。

 この点、

  • 行政権の正統性が認められるのは、主権者である国民から直接権限を与えられる国会により選ばれる内閣総理大臣が国務大臣を任命し、行政各部を統括するから(民主党)、

などの意見が出された。


二院制との関係

 議院内閣制と同時に二院制を採用する場合には、内閣は下院に基盤を置いている。二つの院に責任を負うタイプの議院内閣制は日本特有のものではないが、民意からのルートが複雑で整理の必要があるとも言われる。議院内閣制の確立には上院が機能を失うことが必要とも言われるが、この点に関し、

  • 三権分立と議院内閣制を国民主権のためにより良く機能させるには、全国民の代表として唯一の立法機関であり、強大な行政権力を監視すべき国会が本来の役割を果たしていくことが重要であり、そのために衆参両院がともに多様な民意を反映し、抑制と協働の働きを果たしていくことが重要、
  • 首相の指名権は、内閣が国会に対して責任を負うことの一つの表れであり、議院内閣制である以上、衆参両院とも有するという現行の規定を維持すべき、
  • 首相の指名権、閣僚を出すか否かについては、議院内閣制を採る限り、両院同じ位置付けでないとおかしい、
  • 参議院の直接選挙制度は議院内閣制を支える根幹であり、維持していくべき、

などの意見が出され、衆参両院を基盤とした議院内閣制であるべきことが本憲法調査会におけるおおむね共通の認識であった。


内閣総理大臣の選出

 我が国では内閣総理大臣の選出は国会で行われ、国民は直接関与しない。衆議院選挙の結果と首相選出との結びつきが明確でなく、国民の意思と離れたところで首相選出の可能性があることが、議院内閣制が十分機能しない理由の一つとも言われる。

 この点、首相公選制の是非に関する議論の中で、

  • 議院内閣制の中で国民の意見を取り入れる形で首相を決める仕組みを構築することが重要であり、選挙では首相候補を掲げて戦うことが国民の不満解消の手立てとなる、
  • 政権選択選挙である衆議院の総選挙の際に、政党に首相候補の明示を義務付けることにより、首相候補選出に有権者が関与する仕組みを採用することを提案する、

などの意見があった。


内閣総理大臣の指名

 内閣総理大臣の指名権を衆議院に限ってはどうかと言われていることについて、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、首相の選出、国務大臣の任命については現行どおりとするとしている(自由民主党)、
  • 首相の指名権は、内閣が国会に対して責任を負うことの一つの表れであり、議院内閣制である以上、衆参両院とも有するという現行の規定を維持すべき、
  • 首相の指名権、閣僚を出すか否かについては、議院内閣制を採る限り、両院同じ位置付けでないとおかしい、

などの意見が出された。


内閣総理大臣・国務大臣の就任資格

 議院内閣制の中で、参議院は政権を監視する役割を果たすべきであるとして、内閣総理大臣・国務大臣の就任資格を衆議院議員に限定してはどうかとの意見があるが、この点に関しては、

従来どおりとすべきとの意見

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、首相の選出、国務大臣の任命については現行どおりとするとしている(自由民主党)、
  • 首相の資格要件は衆議院議員に限るべきとの意見があるが、インド、フランス、ドイツ、戦前の日本などを見ても、上院議員が著名な首相となっている。首相の資質のある者は参議院にもいるので、資格要件は参議院を含めた国会議員にすべき、
  • 首相の指名権は、内閣が国会に対して責任を負うことの一つの表れであり、議院内閣制である以上、衆参両院とも有するという現行の規定を維持すべき。国務大臣への参議院議員就任もこれまでどおり維持すべき、

などの意見が出される一方、

見直しを検討すべきとの意見
  • 決算の院・財政チェックの院としての機能強化を図るには、執行の一翼を担いながらチェック機能を果たせるかを考慮すべきで、参議院議員の国務大臣就任、首相指名権との関係も論点となる、

などの意見も出された。


衆議院の解散

 憲法は内閣不信任の場合の衆議院解散手続のみを定めるが、他の場合にも、天皇の国事行為に関する規定を用いることで、事実上解散権行使が認められてきた。憲法に解散の要件について新たな規定を設けることなどについて意見が出された。

裁量的な解散権行使を認めるべきとの意見
  • 解散権の制約は行政府における高度に政治的な行政判断に基づくもので、英国でも憲法で解散権が制約されているとは解されていない、
  • 内閣の自由な意思決定ということから、衆議院の解散も明確化してよいのではないか、

という意見に対し、

解散権行使の要件を憲法に規定するべきとの意見
  • 69条に規定する場合以外でも、これに匹敵するような重大な事態が生じた場合に、理由を明示して内閣ないし首相が衆議院を解散できる旨の明文規定を置くべき、
  • 73条の内閣の事務の中に衆議院の解散権を明記すべき。また、解散権行使の制約についても憲法に明記すべきであり、「民意を問うために」という一言をガイドラインとして入れるべき、

などの意見が出された。


国務大臣の出席義務

 国会開会中は国務大臣が国会の要求に応じて出席しなければならず、国際会議への出席等に支障をきたしているとも言われている。このような状況を解消するため、副大臣制が導入されたものの、依然として憲法上大臣の出席義務は存続しており、実態としても大臣の出席が求められることが多い。この点に関し、

国務大臣の出席義務を緩和すべきとの意見
  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、国務大臣の議院出席義務は緩和するとしている(自由民主党)、
  • 国務大臣の出席義務自体は議院内閣制のシステムから削除すべきでないが、大臣に対する時間的拘束を緩和し、副大臣の代理出席でよいとするなど憲法の規定を見直すべき。出席困難なやむを得ない事情がある場合は、法律の定めるところに従い、代理の者を出席させなければならないとする規定を置くべき、

などの意見が出される一方、

緩和は問題であるとの意見
  • 国務大臣の国会出席義務を緩和する議論も主張されているが、立法の圧倒的多数を閣法が占める状況で、自ら法案を提出しながら審議に当たり最高責任者が答弁に立つことすら緩和するような憲法改正の方向は許されない、
  • 首相の国会出席率の激減は、国会審議を形骸化させている重要な要因の一つ、

などの意見が出された。

 これに対して、国会側としても大臣・閣僚の出席をあえて求める必要はないとして、

国務大臣の出席を必ずしも求めない意見
  • 例えば、閣僚がいなくても政府の参考人を呼んで有識者と一緒に議論するようなやり方をすれば問題についての切り込みは深くなるので、審議の在り方を直ちに変えていくべき、
  • 定足数や大臣の出席を必ず求めることなどが審議の形骸化につながっており、形にとらわれず実質的な審議ができるような運営をすることが参議院の存在を高めることにつながる、

などの意見も出された。

ページトップへ