2 参議院の機能-特に独自性を発揮すべき分野

 参議院が補完・抑制、多様な民意の反映といった本来の役割・機能を果たすためには、衆参両院の構成・権能等の相違を明確にすべきことが多くの小委員から指摘された。そのためには、参議院が独自性を発揮すべき機能は何か、衆議院とどのような役割・機能分担を行うかが大きな課題であることは、一致した意見であった。

役割・機能分担の重要性

 役割や機能の分担を考えるに当たって、参議院は6年間と任期も長く、しかも解散がなく安定していること、全国単位の比例区と都道府県単位の地方区という選挙制度の下で何十万という支持を得て議員になっていることなどの参議院の特質をいかすことが重要であることは、一致した意見であった。

 したがって、参議院の補完機能の充実は無論のこととして、衆議院との違いを明らかにするため、独自性を発揮すべき機能をどのようなものにするかが大きな議論の焦点となった。なお、両院の役割分担は、ある程度は政党内の運営により可能との指摘も同時にあった。

独自性を発揮すべき具体的分野等

 参議院が独自性を発揮すべき具体的分野と果たすべき役割・機能について、次の項目が挙げられた(は憲法改正に係る事項と考えられるもの)。

(1)  長期的、基本的な政策課題

 参議院は、長期的・基本的な政策課題を重点的に行うという点で、意見は一致している。

  • 基本法は参議院中心で審議すべきで先議案件にすることも考慮に入れるべき() (60条関係参照)、
  • 世代間にわたる年金・教育等の問題や長期的な視点が要求される条約等の外交案件など、長期的テーマに取り組むべき、
  • 参議院調査会の立法などの成果は多様な意見を反映し、非党派的かつ客観的議論を背景に実現したものであり、これらをさらに強化すべき、
  • 中長期的政策の調査研究の強化が必要、

などの意見が出された。

(2)  決算及び会計検査院

 参議院は、チェックの院として、決算審査を重点的に行うべきことは一致した意見である。 そして、決算審査の実効性を高めるため、

  • 決算を報告ではなく議案とする、
  • 参議院の決算議決内容は次の予算を拘束するような効果を持たせたり、決算を通じて予算について介入・管理していくことが必要、
  • 会計財政のチェックのみならず制度や政策の根幹からチェックすべき、
  • 組織的には実動部隊を足下に置くことが重要であり、スタッフの強化が必要、
  • 会計検査院は国会または参議院に帰属させることが望ましい()(90条関係)、
  • 会計検査院的機能を参議院に取り込むべき()(90条関係)、

などの意見が出された。

(3)  行政監視、政策評価

 決算と並んで、行政監視、すなわち国政調査や政策評価をさらに充実させ、チェックに重点を置く監視の院として権威を高めることが重要であることは、一致した意見である。

  • 国民の側に立ち統計を十分につかんだ行政監視をすることが独自性発揮となる、
  • 例えばお手盛りになる可能性が高いODAの調査・評価を参議院がしっかりできることが重要、
  • 参議院に実動部隊として総務省行政評価局を置くことも考えられるし、政策評価院的なものを作る考え方もある、
  • 行政監視の一環としてほとんど野放しになっている政省令や通達のチェックが重要、

などの意見が出された。

(4)  国会同意人事案件

 国会同意人事案件について、

  • 米国上院のように、参議院の専権ないし優先事項とすべき、
  • 重要な人事案件について、ヒアリングも含めた審査を参議院が中心になって行うべき、
  • 現在は国会同意人事となっていない大使人事について、国会承認事項とし参議院の専権事項とすることも考えられる、

などの意見が出された。

(5)  司法府との関係

 特に司法府に対するチェックを含めた関係を見直したらどうかとの考えが示された。

  • 行政全体が事後チェック型になろうとしている中で、司法との関係をどう考えるかは、チェックの院という意味で参議院にとって非常に重要、
  • 裁判官の訴追は衆議院に、弾劾は参議院の専権事項にする()(78条関係)、
  • 現在は国会同意人事となっていない重要な裁判官の任命についても承認事項とし参議院の専権事項とすることも考えられる() (79条関係)、

などの意見が出された。

(6)  国と地方の調整

 参議院の地域代表性を重視する考え方にかんがみ、参議院が国と地方の関係を扱うこととしたらどうかとの考えが示された。

  • 国と地方の権限調整・財政調整は、国会が担うべきで、政治的対立の中で議論するより、参議院にその仕組みを持つべき、
  • 地方公共団体の長との協議・意見交換の機能を参議院に創設するという考えもあろう、

などの意見が出された。

(7)  憲法解釈機能・違憲審査的機能

 最高裁判所が容易には統治行為の憲法審査に踏み込まない状況があり、また内閣法制局の憲法解釈が絶対的地位を占めるのは不健全であるという議論を背景に、憲法解釈機能、そして違憲審査的機能を参議院に持たせたらどうかとの考えが示された。

  • 内閣が内閣としての憲法解釈機能を持つのはよいが、それが憲法解釈のすべてを決めるような現状はおかしく、立法府として憲法解釈機能を持つべき、
  • 国会が自らの憲法解釈について見解を示すべきだが、政治的に使われないために参議院に憲法解釈を持たせてはどうか、
  • さらに違憲審査権的な機能を持たせるという考えもある()(81条関係)、

などの意見が出された。

 なお、これらの独自性機能を持つ場合、衆議院と重複する権限・機能については、参議院として逆に弱めるところや行わないところをより明確化させることも必要であって、例えば、予算案や衆議院で全会一致であった法案など特定の議案について、参議院は審査の省略ないし簡略化を行うなどの意見が出される一方、参議院の果たすべき抑制・補完の機能という観点から反対する意見も出され、見解が分かれた。

会期制

 会期制()(52条、53条関係)についても、参議院の役割・機能との関連で議論がなされた。

 会期不継続との関係や衆参同一会期の要否については検討が必要であるが、参議院では通年国会的に、政策機能を抜本的に充実し、チェックの院として立法機能をより広範に果たすべき、また、必要があれば会期にこだわらずチェックの院としての機能を果たすべきとの意見がある一方、会期制を採らないと法案を参議院に送っておけばいつでも成立が図れることになり、衆議院で会期制を採る意味がなくなるとの反対意見もあり、見解が分かれた。

運営事項

 憲法事項に限らず、運営の改善に関する事項についても多数の指摘がなされた。

  • 議員立法をもっと活発に行うべきで、そのための党内手続も検討すべき、
  • 法律案の逐条的審査や審査の本会議中心主義も検討に値する、
  • 法律の改正について、その改正部分より、その法律の根っこや時代の要請を体しているのかという根本からの議論をすべき、
  • 政治日程とは独立に委員間で具体的制度・政策についての突っ込んだ意見交換を行うようなことも必要、
  • 参議院は必ず修正案や衆議院とは別の附帯決議を出すようにし、修正案提出ルールを整備して意見が修正案に結集するようにすべき、
  • 修正協議に対する弾力化・柔軟化が実質的審議活性化の突破口になる、
  • 参議院で会派を超えて調査会活動で議員立法をより強めていくということが重要、
  • 調査会の数を増やすほか、報告書を議長に提出するだけでなく、行政府にも提出し、回答を出させることなどが有効である、
  • 委員会でより客観的、非党派的議論を行い、フランス、ドイツ等の報告者制を導入するなど、議会の中で与野党が協議をしながらより良いものにしていくことを制度的に位置付けていった方がよい、
  • 公聴会や参考人の多用など参議院独自の審議をしている委員会もあり、そのような形で専門性を出していけば価値がある、
  • 民意の反映として請願の扱いは重要、
  • 調査会の機能強化、決算審査の強化などを果たすには、スタッフの充実が重要な観点、
  • 権限を実効あらしめるものにするには霞ヶ関への政策人材一極集中を是正し国会のスタッフを充実すべき、

などの意見が出された。

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