第147回国会 参議院憲法調査会 第2号


平成十二年二月十六日(水曜日)
   午前十時四分開会
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   委員の異動
 二月九日
    辞任         補欠選任
     田  英夫君     大脇 雅子君
 二月十四日
    辞任         補欠選任
     畑   恵君     北岡 秀二君
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  出席者は左のとおり。
    会 長         村上 正邦君
    幹 事
                久世 公堯君
                小山 孝雄君
                鴻池 祥肇君
                武見 敬三君
                江田 五月君
                吉田 之久君
                白浜 一良君
                小泉 親司君
                大脇 雅子君
                扇  千景君
    委 員
                阿南 一成君
                岩井 國臣君
                岩城 光英君
                海老原義彦君
                片山虎之助君
                亀谷 博昭君
                木村  仁君
                北岡 秀二君
                陣内 孝雄君
                世耕 弘成君
                谷川 秀善君
                中島 眞人君
                野間  赳君
                服部三男雄君
                松田 岩夫君
                浅尾慶一郎君
                石田 美栄君
                北澤 俊美君
                笹野 貞子君
                高嶋 良充君
                角田 義一君
                直嶋 正行君
                簗瀬  進君
                魚住裕一郎君
                大森 礼子君
                高野 博師君
                橋本  敦君
                吉岡 吉典君
                吉川 春子君
                福島 瑞穂君
                平野 貞夫君
                椎名 素夫君
                水野 誠一君
                佐藤 道夫君
   事務局側
       憲法調査会事務
       局長       大島 稔彦君
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  本日の会議に付した案件
○幹事補欠選任の件
○日本国憲法に関する調査
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○会長(村上正邦君) ただいまから憲法調査会を開会いたします。
 幹事の補欠選任につきましてお諮りいたします。
 委員の異動に伴い現在幹事が一名欠員となっておりますので、その補欠選任を行いたいと存じます。
 幹事の選任につきましては、会長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○会長(村上正邦君) 御異議ないと認めます。
 それでは、幹事に大脇雅子君を指名いたします。
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○会長(村上正邦君) 日本国憲法に関する調査を議題とし、今後の本調査会の進め方、また委員の皆さん方の憲法観、御見識等々自由にきょうは活発に御意見を賜りたいと存じます。
 明治憲法にいたしましても現憲法にいたしましても、こういう形で憲法が議論されたということは初めてのことだと思いますので、大いに議員のそれぞれのうんちくをひとつ傾けて御披露願えればと、そしてそれを今後の運営に資してまいりたい。そういうことで、きょうは自由討議、議員間同士でやりとりがあれば大いに結構だと私は歓迎をいたします。その運営のあり方については会長に御一任願いたい、こう思います。できればお一人三分ぐらいにまとめていただければ、御協力賜れば幸いであると。一人でも多くの御意見、党代表ということではなくして、きょうはひとつそれぞれの委員の意見をお聞かせ賜りたい、こう思っておりますので、自由に忌憚のない御意見を伺いたいと思っております。
 発言の指名につきましては、それぞれ挙手を願った順番、またはそれぞれ政党にこだわらない、相互を見計らって、これを会長が指名をさせていただきます。
 それでは、御意見のある方は挙手をお願いいたします。順次意見発表をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
 幹事の優先権を認めさせていただきたいと思いますので、江田幹事から御意見を賜りたいと思います。座ったままで結構です。
○江田五月君 冒頭に御指名いただいたことを会長に感謝を申し上げます。
 私は、民主党としてこの調査会の進め方につき何を期待し、どう取り組もうとしているかについて若干の意見を申し上げます。
 まず、これまでともすれば賛否の激突となって冷静な議論が行われにくかった憲法論議が、こうして国会で行われることになったことを評価いたします。憲法も決して不磨の大典ではなく、時代の変化に伴ってそのあり方が議論されることは何も不思議なことでも憂うべきことでもありません。
 振り返ってみれば、憲法を議論するといえば、初めから現憲法を民族の恥辱とみなしてこれを改めることこそ政治の要諦と主張したり、逆に、初めから時代を逆転させる反動の動きとみなして論難したり、真っ向からの不毛な対立が横行していました。私たちはこのいずれの立場もとりません。初めから憲法改正を目指すことを前提とするのでなく、しかし、絶対に改正をしてはならないという前提を置くのでもなく、憲法とこれを取り巻くあらゆる問題を真っ正面から議論の対象としていきたいと思っております。
 したがって、私たちはいわゆる論憲の立場に立ちますが、これは憲法論議を避けたり先送りしたり、消極的な姿勢をとろうとするものではありません。逆に、二十一世紀を目前にして、世界も日本も大きな変容を遂げていますから、またこれからも一層大変化を経験することは避けられない時代ですから、むしろ積極的に二十一世紀のこの国の形はいかなるものであるべきかにつき議論したいと思っております。
 憲法は国の形そのもの。確かに、古いことわざがあります。チェスのこまと盤だけではチェスは成り立たないので、チェスのルールがあって初めてチェスとなる。同様に、国民、領土、主権といった部分品がそろっただけでは国は成り立たない。その国の形の基本を定めるルール、すなわち国の基本法があって初めて国が成り立つ。しかも、この基本法は国民の側から国家主権に対してたがをはめる、そういうものでなければ、そして主権と国民の間の社会契約の性格を持つものでなければ近代憲法とは言えない。
 そこで私たちは、二十一世紀のこの国の形をどのようなものと構想するかを議論し、その合意を得ることができれば、これがおのずから二十一世紀の憲法を示すことになると思います。これが現在の憲法と同じものであればもちろんそれでいいし、違っていれば新しいこの国の形を実現するために憲法を書きかえることもあり得るということになろうと思います。
 私たちはまた、現在の憲法が基本的原則としている三つのこと、すなわち平和主義、民主主義、基本的人権、これはこれからもこの国の形の原則であり続けると思っています。ですから、その意味では現在の憲法の三原則は変える必要はないし、逆に変えてはならないものと思っております。
 現憲法は、我が国が戦争に敗れて占領されていた時代に制定された。占領下ですから、憲法制定過程に占領権力からの介入があったことはだれも否定はできません。しかし、敗戦と占領ということ自体が大日本帝国憲法を基本法とする当時の我が国の形が引き起こした歴史の展開の帰結であるわけで、制定過程と言うなら、これらの歴史全体を観察しなければなりません。占領権力のこうした民主主義、平和主義、基本的人権といった世界の憲法史の流れにその淵源を有する介入というものがあったということで、第二次世界大戦終了直後という時代における国際社会と我が国との約束というそういう側面もあるわけです。
○会長(村上正邦君) あと一分でおまとめ願います。
○江田五月君 したがって、憲法制定過程を我が国の側からだけ見るのではいけない。一つ一つの出来事を断片的にとらえて論ずるのも妥当でない。現憲法は、帝国議会の審査、審議を経て作成、成立し、その後半世紀にわたってこの国の形を規定する基本法として受け入れられ、機能してきているのであって、制定過程に問題があるから憲法を書き改めなければならないというのは、木を見て森を見ない議論だと思っております。
 二十一世紀のこの形を論ずるには、私たちはまず二十世紀、この憲法とともに歩んだ半世紀及びこの憲法成立までの歩みを振り返ってみなきゃならぬ。その中で、この憲法の三原則を初めとする諸規範がいかに実現されてきたか、あるいはいかに実現されていないか、規範が変容を受けてきたか、こういうことを総括してみなければなりません。その上で二十一世紀の展望を議論しなければなりません。
 そこで私たちは、衆議院では憲法制定過程をまず調査するというようなことも聞こえてきていることでもあり、参議院では、我が国の各界の知識人、碩学の皆さんから、二十世紀の総括と二十一世紀の展望といった大所高所の御意見を伺うことから調査を始めるのが妥当だと思います。
 なお、憲法を論ずるということは画期的な試みであり、国の基本法の議論にふさわしい進め方をしなければなりません。言うまでもありませんが、そのためには、議論の進め方が党利党略に流れたり、十分な議論を欠いた強引なものになってはなりません。憲法論議にふさわしい、歴史と社会に対する深い洞察に基づいた、幅と奥行きのある英知に富んだ議論の展開となりますよう、賢明なる会長、幹事及び委員の皆さんの御努力を心からお願いいたします。
○会長(村上正邦君) 発言希望者、今手を挙げていただいた委員のお名前を読ませていただきますが、小山孝雄君、世耕弘成君、平野貞夫君、大脇雅子君、笹野貞子君、高嶋、橋本、白浜各委員でございます。
 そこで、小山孝雄君にお願いをいたします。
 順次発言を求めてまいります。
○小山孝雄君 ありがとうございます。
 私は、まず、憲法に対する基本的な考え方を申し上げますが、最近遺伝子、DNAの研究というのが長足の進歩を遂げておりますけれども、私は、これは一人の個人の人間のみならず、国家、国民、民族にもDNAがあると思います。したがって、国家の基本法であります憲法はその国のDNAに合ったものでなければいけない、その観点から大いに検証すべきであろう、このように一つは思います。
 そこで、本調査会のあり方について三つの基本的な考えを申し述べたいと思います。
 一つは、調査会の審議期間でございますけれども、議院運営委員会の申し合わせにより、おおむね五年ということになっておりますが、しかし考えてみますれば、私ども参議院の今二百五十二名の議員の中で五年の任期を持っている者は一人もいないわけであります。来年七月末には半分が任期が切れるわけでございますので、五年先のことについて私どもは責任を持てない。しからば、一年半先の来年の七月、すなわち来年の通常国会終了時までを一つのめどとすべきじゃないのか。そこで第一次の中間報告というものをまとめ、国民に示すべきであろう、この点をまず審議期間のあり方について一つ申し上げたいと思います。
 二つ目は、基本的な姿勢でございますが、調査会の目標が広範かつ総合的にこれを行う、こうあることは御承知のとおりでございますが、そのことからいたしましても、審議の対象にタブーを設けないこと、タブーがあってはならない、一切のタブーを設けずに徹底的に調査、検証するということを第二に申し上げたいと思います。
 御案内のとおり、現憲法は占領期間中の国の主権がない時代、あるいは大幅に制限をされている時期に国際法に違反をして制定されたものだ、こういうふうに私は認識をいたしておりますが、それ以降一字一句も変えられていないというのは、これは世界の憲法事情からいたしましても異常だ、異常な憲法の状況の中にある、このように認識をいたしております。
 ちなみに申し上げますと、アメリカ憲法、一七八七年制定のものは十八回、二十七カ所。戦後、日本の憲法以降に制定されたイタリア憲法、一九四七年、七回、十三カ所。ドイツ基本法、一九四九年に制定されましたが、四十二回の改変が行われております。そしてまた、フランス憲法、昭和三十三年、一九五八年にできておりますが、これですら八回の改正が行われているということがあります。
 やはり憲法というのは時代の変化に応じて改正してこそ憲法の権威が保たれるんだ、このように思うわけであります。
 そこで、タブーを設けないとはいいながらも、じゃどこから審議に入るかということでございますけれども、審議のテーマにつきましては、私は、緊急の国家的な課題から入るべきであろう、それを当面来年の七月ぐらいまでには中間報告をまとめられるようなスピードで審議をすべきであろう、このように思います。
 一つには、安全保障の問題がありましょう。昨年の三月に、北朝鮮の不審船が我が領海を侵しているものに対しても、日本国自衛隊は撃沈することも拿捕することもできませんでした。国民は大きな不安を持ったに違いありません。
 あるいは教育の問題、憲法には教育を受ける権利はあっても、どこが教育をする、授ける権利があるのか一切書いておりません。教育の混乱のもとにも私は現憲法の問題点があろうかと思います。
 こうした緊急の国家的な課題から早急に審議に入るべきだろう、このように思います。
 以上です。
○会長(村上正邦君) ありがとうございました。
 白浜一良君。
○白浜一良君 私どもの基本的な憲法に対する考え方は、党として一致している視点というのは、先ほどもお話がございましたが、現憲法、国民主権、平和主義、基本的人権というこの三原則、これは普遍の原理であるわけでございますが、それを堅守するというのは当然でございますし、憲法九条を堅守するという立場で現憲法全体を幅広に議論していこう、論憲という立場が党の基本的立場でございます。
 それで、こういうことばかり言っておっても議論がなかなか進みませんので、現憲法をさまざまな角度から議論するという意味で、私は、歴史的過程としてこの現憲法が作成された経緯というものをそれぞれ研究し議論するというのはこれはベースとして当然だと思いますが、もう一つは、やっぱり日本という国と憲法はこれは一体のものでございます。そういう意味で、今の憲法の中に二十一世紀の日本という姿がすべてあらわれているかどうかということ、日本の国の形というものは何かということを私たちの立場でやっぱり議論し明確にしていく理由はあるというふうに今考えるわけで、そういう意味でこの調査会で幅広に調査研究、議論をしてまいりたい、このように考えている次第でございます。
 そういう観点で、私ども四名の委員がおりますが、それぞれ自由な立場で議論をした方がいいというふうな申し合わせをしておりますし、若干それぞれ微妙に意見が違うのは当然でございまして、そういう場として活用させていただきたい、このように考えております。
 今、小山先生からのお話がございました中間報告の件でございますが、当然節目節目、選挙もございますし、それなりの中間報告はまとめていく必要はあろうかとは思いますが、やはり世論の支持がなければ憲法を変えようというムーブメントにはならない。そういう面で、余り拙速感は避けるべきだ。節目節目は刻んでいくべきだとは思いますが、拙速でない方がいい、そのように私は基本的に考えております。
 以上でございます。
○会長(村上正邦君) ありがとうございます。
 橋本敦君。
○橋本敦君 憲法調査会の基本的課題について発言させていただきます。
 今回の調査会は、国会法によって議案提案権は持たず、「日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行う」と明記されておりまして、まさに調査という目的に限定された機関であります。これは、日本国憲法に検討を加える、そのことを掲げた五六年の内閣憲法調査会とは明確に目的及びその性格を異にするものであると考えます。
 このことから明白なとおり、我が党としては、本調査会を憲法改正、特に第九条改正の足がかりにすることが許されないことは明白であると、こう考えておりまして、我が党としては、憲法の平和的民主的原則を擁護するという立場に立って本調査会で積極的な論議と調査を行っていきたいと考えております。
 第一にまず必要なのは、二十一世紀を展望する今日、日本国憲法が世界でも先駆的な意義を持っていることを広く調査してこれを明らかにすることであります。
 すなわち、憲法九条に明記されている恒久平和主義、生存権の明記を含む基本的人権などは、国際的にも先駆的な内容を持っているものであります。したがって、それが二十一世紀を展望する今日の世界の流れ、日本の向かうべき国づくりと進路にとって、いかに人類の高邁な理念を現在もまたこれからも持つものであるかを明らかにする広範かつ総合的な調査が必要なのであります。
 例えば、昨年、オランダのハーグで行われた世界市民平和会議では、各国議会は日本国憲法九条のような政府が戦争をすることを禁止する決議を採択すべきである、こういった原則を決めました。このような問題も含めまして、我が憲法が国際的に持っている先駆的意義について、世界の主要国の憲法との国際的比較を含め、国内のみならず国際的な視野で広く本調査会で調査を進めることが必要であると考えます。
 また、我が党は、我が憲法の積極的内容を国民主権と国家主権、恒久平和主義、基本的人権、議会制民主主義、地方自治のいわゆる憲法五原則として整理しておりますが、これらの諸原則についても、我が憲法が今日の現実政治において持つ重要な先駆的意義を明らかにすることも重要であると考えます。
 第二に、憲法と現実政治との乖離について、それがどのようにして、なぜ生まれてきたのかの点検と調査であります。
 憲法制定五十年を経て、憲法と現実との乖離が存在するという議論がありますが、それは、人類普遍の原理として憲法に明記された基本的人権や国民の生存権などの先駆的諸原則がこれまでの政治によって国民の暮らしに忠実に生かされず、その理念が現実に実行されてこなかったためであります。憲法の先駆的民主的原則と現実政治とのゆがみにほかなりません。なぜそうなったのか、これまでの政治の責任と社会的要因について点検をするという調査が必要であると考えます。
 第三に、憲法の制定過程と今日に至る歴史的な事実関係を正しく調査する必要がある問題であります。
 この問題の視点としては、いわゆる押しつけ憲法論なるものが言われておりますが、その歴史的検証と調査が必要であります。
 我が憲法の平和的進歩的原則は、歴史的にも主権者たる国民の意思として、軍国主義とファシズムを打ち破った世界諸国民の世論と日本国民の民主主義、平和への志向を反映したものでありました。現憲法が制定された経過には、新しい平和、民主の日本に向かって新憲法を志向した国民の主体的運動がありました。他方、アメリカの公開公文書によりますと、憲法施行からわずか一年後の時期から、アメリカ政府が当時の国際情勢に起因して日本に軍隊を持たせるために第九条の改憲の方針を検討し始めた、そこにまさに改憲の源流があったことを示しております。しかし、これに対して日本国民が第九条を守る国民世論を高めてこの改正を許さなかったのであります。
 以上のような歴史的経過について、憲法を守る国民的立場からの正しい調査が必要であると考えます。
 以上のような調査を進める上で、どのような問題で調査、議論を進めていくかについても、各委員の意見を広く取り上げるとともに、最初から小委員会に、各論的議論、それにゆだねることなく、全体会議で以上指摘しましたような基本的諸課題について検討、調査を進めることが必要であると考えます。
 以上で終わります。
○会長(村上正邦君) ありがとうございます。
 平野貞夫君。
○平野貞夫君 参議院自由党の意見と個人的な意見をちょっと味つけしまして申し上げたいと思います。
 まず、憲法に対する基本的な考え方でございますが、現在の我が国の国家、社会は大きく流動化し、衰退しております。まやかしの平和主義とか規律のない市場経済、場当たりの社会保障、偏った基本的人権、崩壊した教育等々、歴史と伝統を忘れた戦後型日本のあり方と日本人の生き方が大きく揺さぶられていると思います。これらの根本原因は、敗戦、占領体制に伴う後遺症、すなわち私はポツダム・シンドロームという言葉で呼んでいるんですが、にあると思います。
 私たちは、新しい国家目標を二十一世紀を迎えるに当たって立てて、昭和憲法の基本原理である平和主義、国民主権、基本的人権を継承、発展させながら新しい憲法をつくるということが日本の再生のかぎであるというふうに思っております。
 次に、調査を始めるに当たっての基本的姿勢でございますが、各党各人は冷静かつ論理的な調査を行うことを基本的姿勢とすべきだと思います。また、可能な限り客観的事実を共有して、憲法をめぐる諸問題に共通した認識を持つことが大事じゃないかと思います。
 それから、調査に当たっての課題でございますが、私は一応三つのことを考えております。一つは、制定過程についての調査。二つ目は、解釈、運用についての調査。随分いろいろな混乱がございますので、これも大事だと思います。それから三番目に、日本の憲法はいかなる憲法であるべきかについての調査。この三つが課題ではないかと思います。
 それから、調査の方法でございますが、制定過程と解釈、運用の問題につきましては、学識経験者から意見を聴取する。それから、いかなる憲法であるべきかについては、学識経験者及び国民の各層を代表する人たち、まずこういう人たちから意見を聴取する。これが第一段階だと思います。
 第二段階で、制定過程、解釈、運用について報告書をまとめ、あるいは、いかなる憲法であるべきかについて各党あるいは学識経験者、国民各層の意見及び各党からやはりそういった問題提起があってしかるべきだと思います。
 第三段階で、いろいろな意見を総合して、意見の一致点と対立点を整理してまとめるべきではないかと思います。
 それから、調査の期間でございますが、そのような方法をとれば約二年間で全体の調査は終わるのではないかというふうに、約二年ぐらいを目標とすべきではないかという意見でございます。
 それから、調査に関する留意事項としまして、憲法に関しては、その改正案の審査に関して衆議院の優越性は法律案とか予算とかと違って、ございません、両院対等でございます。したがって、調査に関して衆議院の影響を妙な形で受けてはならぬと思います。また、一部報道されております、両院で事項を分担する、あるいは分けるという、分割するというような調査はやるべきでないと思います。
 次に、その調査期間について関係者からさまざまな意見が提示されておりますが、これは調査活動の計画の作成の中で協議されるべきことだと思います。いろんな合意があるようでございますが、ちょっとそれは私は問題だと思います。
 ただし、調査が仮に長くなった場合、国家に緊急事態が生じた場合、憲法の改正の必要が生じた場合、仮に、やはりこの調査が終わらなければそういうものに着手できないということであってはいけないと思いますので、そういう場合は拘束しないということをやっぱり確認が必要じゃないかと思います。
 それから三番目に、自由党としましては、昨年の六月の党大会で、憲法改正手続制度が欠陥である、整備されてない、国民主権が冒涜されていると、こういう問題意識で、参議院の自由党扇議員会長を会長に、党に憲法問題研究会というのを設置しまして、憲法改正国民投票法、それからそれに伴う国会法の改正というのをまとめております。
 この改正手続の整備について、小渕総理初め、憲法調査会で議論するようにという意見がありますが、私はこれは非常に誤った考えではないかと思っています。改正手続制度が整備されていないのは、国会の怠慢で放置されている憲法体系の欠陥でございます。これは所管の委員会で早急に審議し、制定すべきであると思います。最近の世論調査によれば、憲法改正賛成意見が過半数であり、改正手続制度を放置しておくことは、憲法制定権を持っている国民主権を冒涜したものであると思います。まして、議案提出権のない、議案を提出しないという憲法調査会でその議論をする意味はないと思います。
 そういう意味で、別途そういうものの審議促進もひとつ図らねばならない、こういう意見を持っております。
 以上でございます。
 なお、お手元に資料をお届けしておりますが、詳しいことはそれを見ていただきたいと思います。
○会長(村上正邦君) ありがとうございました。
 大脇雅子幹事。
○大脇雅子君 憲法の制定から五十年余、憲法の基本的な原理、すなわち国民主権、平和主義、基本的人権保護の原則は、日本国民の暮らしに定着し、日本経済発展の基礎となり、国際的にも日本のアイデンティティーとなってきたと思います。
 冷戦が終結し、なお民族紛争や局地的な戦争が絶えない今、日本の平和憲法は、核の時代の平和を先取りして世界の理想を体現し、世界のグランドデザインを描く憲法として光を放つようになったと考えます。平和主義、主権在民、基本的人権の原理はまさに普遍の原理であり、恒久的な規範であるべきだと思います。二十一世紀に光り輝く憲法として、この憲法は世界に広められるべきであり、暮らしに憲法は生かされるべきであると考えます。
 この観点に立って、私どもは、憲法調査会の設置に反対をしてまいりましたが、積極的に議論に参加をしていきたいと思います。
 運営について四点の意見を述べたいと思います。
 一つは、まず、改憲を前提としないということであります。
 憲法調査会設置法の目的は、「広範かつ総合的に調査を行う」としております。あくまで調査に徹するべきである。縦に歴史を見、横に世界を俯瞰いたしまして、骨太なあるべき国家像を語り合う中で、この調査が推進されるべきであると思います。そして、議案提案権を持たないということ、そして議長に報告をするというこの会のいわば魂のような部分はしっかりと守っていくべきであると思います。
 ただ、一つ今国民が抱いている大きな疑問に触れたいと思います。
 この憲法調査会は、結局焦点は憲法九条ではないか、九条を変えようとしているのではないか、人権に議論が敷衍してもそれは誘い水ではないか。こうした国民の議論を払拭し、本当に普遍的かつ恒常的な憲法の理念の我が国における政治とのかかわりをしっかり議論するために、九条が中心ではないということをしっかりと確認すべきであると思います。アジアの近隣諸国の懸念や警戒感は新ガイドラインの比ではないという我が国の置かれた立場も十分に留意すべきであると考えます。
 第二に、憲法と現実の乖離が云々されておりますけれども、なぜこの現実が憲法と乖離してきたのかということは、国民の権利と生活の視点から検証し、五十年の総括をなさねばならないと思います。現実から出発し、憲法に引き寄せて、なぜこのような乖離があったのかということが、変遷過程を明らかにする中で議論すべきだと思います。
 例えば、新しい人権議論に関しまして、環境基本法になぜ環境権が盛り込まれなかったのか。雇用機会均等法がなぜ憲法十四条に法のもとの平等がありながらかくもおくれて不十分なのか。外国人の参政権はなぜかくも長い議論を経てまだ実現していないのか。超憲法的機能を営む通達行政が国民の生活に及ぼしてきた効果というものをはっきり認識した上で、憲法を具現する個別の立法も視野に入れて、違憲訴訟の判例も踏まえながら、日常生活の中で人権を検証し、つくり上げる。そのためには常任委員会での議論も並行して行われるべきだと思います。
 さらに、国際人権規約等、日本が人権後進国と言われるように、条約を批准してもその委員会から勧告や懸念が表明されています。国際条約もその射程に入れて、国際的な視野で我が国の議論を深めていかなければならないと思います。
 第三に、公開の原則を確認したいと思います。
 議事録の公開、傍聴はもちろんのことであります。今の日本国憲法は、憲法改正小委員会という秘密会で、公開されたのは一九九五年であります。一九五四年、改憲論が自民党から言われながら、四十年後に公開された。このようなことは二度としてはいけない。
 私たちは、歴史の教訓として、国民のプレッシャーのない永田町の密室の議論としてはならない、そうした政治文化も変えていくということで、情報公開を徹底すべきだと思います。インターネットで議事録を公開し、パブリックコメントを手に入れて、党派を超えて意見の発表の機会を平等に与えていくということが重要だと思います。
 そして第四番目に、拙速に反対であります。
 五年をめどということになっております。憲法は主権者である国民のものであり、社会の基礎に憲法があって国民の自由が守られているわけであります。憲法は権力の行使をする我々の縛りをかけるルールでもあり、憲法擁護義務は我々が負っている義務であるということでありますから、十分に歴史認識とさらに現実の人権状況その他をしっかりと見詰めながら、二十一世紀に向けてこの議論を展開していくべきだと考えております。
 終わります。
○会長(村上正邦君) 一応各会派から出ておられる幹事の皆さん方の御発言を賜りました。
 ここでちょっと、私聞いておりまして、余り、こうあるべきだということは結構ですが、初めから疑念、疑惑、そういうものを前提にして御発言なさるということは、この調査会そのものをみずからが私はじゅうりんしたことになると思いますので、そういったことについての御発言はお慎みを願いたいと、こう思っておりますので、忠告を申し上げておきます。
 そこで、椎名幹事、佐藤幹事、後ほどでいいということでございましたが、この際、一応幹事の御資格でお二人の御発言を賜って、後、各委員の自由な御発言に移らせていただきたいと思いますが、御発言ございますか。
 では、椎名幹事。
○椎名素夫君 ありがとうございます。
 今、会長が言われたことは非常に重要だと思いまして、きょうからいきなりそれぞれのお持ちになっている理念、これは大事なことであるけれども、そこに飛び込むまだ段階ではないように思います。とにかくいろいろな議論がされながら、初めてこうして憲法調査会が、さまざまな制約はあるとはいえ、ここに設置されたということは大変に評価をすべきことだと思いますし、また、何人の御発言者の中からありましたように、二十一世紀の日本の形をつくろうという意気込みでやるべきだということには大賛成であります。これは本当に本気になって考えなければいけないことで、我々二十一世紀に相当借金も残すわけですから、せめて立派な憲法を残すということによってそれを補うというぐらいのことは考えた方がいいのではないかと考えております。
 それから、こちらは参議院でありますので、やっぱり参議院らしい議論をしなければいけない。どうも拝見しておりますと、各党でそれぞれ、これは貴重なことでありますけれども、研究をお積みになっておる。これは大事なことであるとは思いますが、しかし参議院は参議院らしく、ここにお集まりの委員の皆さんそれぞれがやはりそれに個人の見識というものを加味しながらお考えになり、御発言になるという態度をぜひお願いをしておきたいと思うわけであります。
 次の点は、とにかく先入観を捨てて、いわゆるタブーなしで議論をするということが大事でありまして、憲法の議論というのは非常に断片的に私は今まで行われてきたように思う。そのために、どこかで拾ってしまった先入観に私をも含めて随分とらわれているところがあるんじゃないかと思うわけです。それを本当に総合的に調査をするというのは、この調査会の一番大事な役目であるということであると思いますので、会長の手綱さばき、ぜひよろしくお願いを申し上げたい。
 それから、そこで、憲法そのものに即しての調査でありますが、私はやはり制定過程というのは問題にすべきであると考えております。それが、だれがやった、どうやったということももちろん大事でありますが、普通の法律をつくるのでも随分時間をかけて仕込んで、そして国会にかかり、あるものは継続審議、継続審議というようなことで二、三年かかるということもそう珍しいことではありません。しかるに、このただいま我々が持っております憲法は、わずかに二週間で起草され、そして一月の間に成立までしたという、このことはどう考えても私は異常であるという要素があるのではないかという疑念を持っております。
 それと同時に、このでき上がりました憲法、明治憲法からこれのつなぎ目ということも問題でありますけれども、当時やはり非常に活発な憲法論議が行われた。そして、今や幻のようになっておりますけれども、自民党ではおつくりにならなかったかな、例えば高野憲法とか、あるいは共産党の起草なさった憲法草案とか、いろいろなものが私はあったと思うんです。そういうものをもう一度きちっと振り返ってみるということは今大事ではないかと思っております。
 それから、運用の問題ですが、私はあえて申しませんが、先ほどからのお話の中で、現実が憲法から乖離したのはどういう理由かということをしっかり考えなければいけないという御表現がありました。現実が憲法から乖離したのではなくて、我々が持っておった憲法が現実から乖離したというのが正確な言い方ではないかと私は思っております。それには、先ほど御主張がありましたような、今までやってきた政府のやり方がまずいから乖離が起きたということもあるかもしれませんが、やはり憲法そのものが持っておった性格が現実から乖離したということかもしれない。これをやはりそれぞれの先入観なしに、なぜ乖離が起こったか、そしてどこを直さないと我々の、これからの国民にとって、国益にとって都合が悪いかということをしっかりと調査をするということが大事かと思っております。
 最後に蛇足を申し上げますけれども、日本という国は昔々律令体制というのを導入いたしまして、これが日本のいわば憲法であった。しかし、その後、時代が変わって武家政治になったときに、実際の行政というのは武家式目、いろんなものがありましたが、それによって行われて何百年か来た。しかし、建前上は律令というのは明治維新までずっと残っておったんです。そうでなければ、ああいう太政大臣とか関白とかいうようなことはなかったに違いない。そういうような現実と全く離れたものを、ただもうそのときの、棚上げをして運用するということはこの現代の世の中で許されてはいけない。そこのところをじっくり我々は考えるべきであると思っております。
○会長(村上正邦君) ありがとうございました。
 佐藤道夫幹事。
○佐藤道夫君 発言の機会を与えていただきまして、大変光栄でございます。この調査会の審議の進め方につきまして、私、具体的にちょっと意見を申し述べさせていただければと思っております。
 実は憲法調査会は、先ほども話が出ておりましたけれども、昭和三十一年、鳩山内閣のときにつくられまして、政府に置かれまして、これはもう皆さん方も御存じと思いますけれども、委員は五十名で、うち三十名が国会議員、二十名は憲法学者その他当代一流の学者と有識者。この中には、例えば経団連副会長で極めて有名な植村甲午郎氏だとか、ああいう方も入っておりまして、これが六年か七年精力的に審議を行いまして、三十九年、池田内閣のときに答申を行った。
 テーマとすれば、制定の経過、それから運用の現状、最後に改正の要否、こういうことで議論をしてきた。アメリカあるいは日本にも憲法制定時の関係者が当時まだ皆生存しておりましたから、アメリカまで行って親しく話も聞いたということで、実に膨大な資料がまとめられておりますので、やっぱり物事の初めとしてこの分析、研究から始めるのは、そこでもう行われていることについて改めて議論しても仕方がないという気もいたしますし、制定の経過などにつきましても、それを国会図書館あたりの方から説明していただくというのも私は大切なことではないか、むだを省くという意味においてですね。
 それから、改正の要否というのも大体の議論が出尽くしておるわけです。それをもう一度検証し直して、さらに時代がこれだけたっていますから何かあるかということで考えて、事項があれば追加していくということもやっていいんじゃないかという気がいたしております。
 それから、憲法改正の議論というのは、これはどうしても観念論、抽象論になってきて、今までの経過を見ますと第九条がどうしても中心になってしまう。賛成だ反対だ、それだけで議論がおしまいになってしまうようなこともないわけじゃない。憲法といえども今現在運用されておる実定法ですから、実定法の改正。ですから、この憲法は法律としてどういう弊害があるのか、どういうふうに改めればよりよくなるのか、そういう議論が実は基本だろうと思います。法律の改正ということです。
 例えば、具体的に一つ二つの例を申し上げますけれども、私学助成金、私学助成が今、年間何千億か何百億か出ておりますけれども、憲法八十九条は、私学助成はしてはならない、公の支配に属さない教育機関に金をやっちゃいかぬとはっきり書いておるんですけれども、そうは言っていられない、私学が皆つぶれてしまうというならあの規定を改正する必要があるんではないかという気もいたします。
 それから、これも具体的な例ですけれども、信仰の自由は絶対だと、こう言われておりますけれども、それから何十年もたちましてオウム真理教とかあるいは何かよくわけのわからぬカルトじみた宗教が輩出しております。国民の立場から見ましても、こんなものを放置しておいていいのかという人も多いと思います。それを憲法でどういうふうに、いや、それはやるべきではないとか、いや、きちっとした方がいいんだとか、いろんな議論があろうと思います。そういう運用上の継ぎはぎを拾い上げていって、これでいいのかどうか、憲法がそこまでタッチする必要があるのかないのか、そういう何か地に足のついた議論をすることが大切ではないのか、こういう気がしております。これが私の願いと言ってもいい。
 それから、前回の憲法調査会は三十九年に答申いたしましたけれども、それはお蔵入りでそのままになってしまっているわけです、非常に膨大な緻密な議論があったにもかかわらず。余り時間がかかりますと皆飽きてしまいまして、何だと。そのころ人もかわっておりますから、せっかく答申してみても、これはおれが始めたんじゃないやというようなことを言い出す人もおりまして、軽くあしらわれてしまうということもありまして、なるべく、少なくともここにおられる方の半数ぐらいは残っておるときに結論を出して政府に対応を求めると、あるいは国会として対応を考えていくというふうなことを考えられてはどうかと思います。
 以上でございます。
○会長(村上正邦君) 大体、各会派の代表者、各党を代表してのこの調査会に対する考え方が述べられたと理解をいたします。
 そこで今、佐藤先生のおっしゃられました、あれは高柳調査会だと思いますが、この報告書は膨大な資料でございますけれども、各委員のところへ資料として配付をすることに決めておりますので、御勉強なさった上で、今後の議論の資料にしていただきたいと、こう思っております。
 いや、答弁は要りません、答弁というか、別に。
○佐藤道夫君 極めて膨大な資料ですから、それを個々的な議員が精査をするということはまず不可能だと思いますよ。できるだけ専門家に……
○会長(村上正邦君) いやいや、だから一応資料はお届けしますということを申し上げておるわけでありまして、あなた、オブザーバー、幹事会であとの議論は進めてください。
○佐藤道夫君 わかりました。
○会長(村上正邦君) では、それぞれ委員の皆様の御意見をいただきたいと思います。それぞれ今、各代表が御発言なさったことに対する反論でもこれは結構でございますので、大いにそういう議員間の議論ということで始めさせていただければと思いますから。
 まず世耕弘成君。
○世耕弘成君 どうもありがとうございます。世耕弘成でございます。
 私は、この憲法調査会に対しては、もちろん自由民主党の一員ということもございますけれども、若い世代を代表して入らしていただいているものだという決意で臨んでおります。
 私、この憲法の議論については、もちろん法律学的な議論、あるいは哲学的な議論、あるいは制定の過程にさかのぼって歴史的な検証を行う、そういう議論ももちろん大切であると思っておりますけれども、しかし一方で、我々若い世代、二十一世紀半ばまで生きる運命にある我々の世代やあるいは我々より若い世代にとって、我々が生まれるはるか以前の二十世紀半ばに制定されたこの憲法が、果たして、二十一世紀を実際に具体的に生きていく上で、社会生活を営んでいく上での基本法として本当に機能し得るものであるのかどうかという検証をきっちりやることが重要なんではないかなというふうに考えております。
 また、そういう具体的な検証、議論を率直に、現実的にかつフランクに行うことによって、若い世代の政治離れとか、あるいは政治的無関心とかいった流れにも一定の歯どめ、あるいは流れを変えることにもつながっていくんではないかなというふうに思っております。
 私は、具体的には、既に二十一世紀に確実に起こると言われていること、例えば情報化の進展、あるいはグローバリズムの進展、環境の問題、あるいは少子高齢化、そういったそれぞれの問題にこの今の憲法がどういうふうに対応できるのか、あるいは対応できないとすればどういうふうにしていけばいいのかという具体的な議論をできるだけ早い時期に始めていただきたい、そのように考えております。
 そしてまた、今回のこの憲法調査会での議論を進めていくに当たっては、この議論を公表し、国民に広く知ってもらい、また国民の意見も反映していくことが非常に重要だと考えております。そういう意味で私は、先ほど大脇議員から提案のありましたインターネットによる公表や意見の募集といったことには大賛成でございまして、ぜひ進めていただきたいと思っております。
 そしてまた、その関連で報道機関にも一言お願いをしたいと思っております。
 私、今発言をしておりますけれども、私の前には民放さんのマイクは置かれておりません。こうやって見渡しましても、置いている先生と置いてない先生のところがある。自民党のところにはだれも置いてありません。私の意見は発言する前から肉声を国民に伝える価値がないという御判断をされているのかなというふうにも思いますけれども、しかし議事の公正公平な報道というのがこの調査会の成功にとって非常に重要なファクターであると思いますので、報道機関にも御協力をお願いしたいと思います。
 以上でございます。
○会長(村上正邦君) 余り、そんなに卑下なさらないで。
 民放のマイクを置いていることについての意味というのは、どうなんですか、差別ですか、これは、私にもわかりませんが。しかし、全部皆さんの前に置くわけにいかないんだろうしね。──音は全部入っているわけね。それは大して問題になさることはないようでございますので。
 では次に、笹野貞子君。
○笹野貞子君 民主党の笹野貞子でございます。
 原則論は先ほど民主党の江田幹事が述べましたので、私は重複しない意味で女性の視点からお話をさせていただきたいと思います。今までのお話の中で女性のことが一言も触れておりませんので、私はそこに力を入れてお話をいたしたいというふうに思っております。
 この調査会は、何か時代に合わないとか、あるいはそういう問題が随分発言の中にありますけれども、私は、憲法が理念としているその理想にまだ現実が追いついていない部分がたくさんあるわけですから、そこを調査の対象にしていかなければならないところがあると思います。
 そのまず具体的な一つに、女性の問題があります。私たち女性にとっては、この憲法というのはまさに女性解放の救世主でありました。今ここにこうやって私たち女性議員が座っているのもこの憲法のおかげでありまして、日本の国がこの憲法で女性がどれだけ女性解放されたかということは、もう一度私たち女性はしっかりと見直さなければならないと思っております。
 そこで、私が今女性の視点にお話をしましたのは、今、介護保険とかあるいは教育改革、そしていろんな宗教団体の問題が出てきて、家庭のしつけというようなことがどんどん提起されております。私はそこで非常に身の危険を感じます。こういうような問題というのは、ともすればこの憲法がなかった前の、純風美俗あるいは公序良俗というのは、まさに女性に対する一つの大きな個人の尊厳を踏みにじるような問題がいっぱいありました。私は、そういう意味では、女性に関するもろもろの規定というのは、個人の尊厳あるいは両性の平等あるいは夫婦の平等、いろんな問題で、果たして憲法が理念としているところに現実が追いついていないということをしっかりと調査していただかなければならないと思います。
 特に、村上会長は、女性については非常に造詣が深く、大変に女性に対する応援の御発言もあります。私は、労働大臣のときに、大臣の非常に働く女性に対する温かい御配慮をしっかりと聞いておりますので、この憲法調査会がそういう意味ではまだ現実が追いついていない部分を抜き出して、それを現実のものにするという調査もあわせてしていただかなければ、何か現実にもうおくれているという言い方をされますと、女性といたしましては、まだまだ追いついていない部分がある。
 例えば議員の数にしてみましても、国際的に日本は議員の数は百二十三番目という大変おくれているわけですから、そういう点ではどうぞこの調査会が、女性の奴隷解放からの一つの大変なすばらしい憲法であるということをお忘れなく研究の対象にしていただきたいと思います。
 以上です。
○会長(村上正邦君) 魚住裕一郎君。
○魚住裕一郎君 公明党の魚住裕一郎でございます。
 今まで憲法を論ずること自体タブーとされてきた中で、このような調査会が設置され、また提案権がないと仮定しても、このような自由な論議ができるということ自体、大きな前進であると評価するものであります。
 私は、まず憲法を論ずるに当たり、改正がありきというような立場ではありません。これは我が党の白浜幹事からも言ったとおりでございますが、憲法を幅広くまた深く論じ、調査していくことが重要であるというふうに考えております。そういう意味で論憲ということであります。国民主権主義、また基本的人権の尊重、恒久平和主義というのは講学上、根本規範というふうに言われているところであり、これを根幹にして、少なくとも、先ほどこの国の形というような表現がございましたけれども、半世紀ぐらいたえ得るような、そういう議論をしっかりしていきたいと考えております。
 現行憲法制定過程の話が若干先ほどから出ておりましたけれども、帝国議会においても貴族院の議論というのは大変高度なまた深いそういう内容であったというふうに私は認識をしておりまして、参議院らしい議論というのがこれから要請されてくるのではないかというふうに考えております。
 そこで、もう既に発言が多く出ておりますが、問題意識がいろいろそれぞれ違うわけでありまして、今までの問題整理という意味も含めまして、この制定過程ももちろん否定するわけではありませんけれども、現今の憲法状況あるいはこの規範と現実との乖離状況等につきまして、学識経験者等を参考人としてお呼びして、まずそこから問題整理、俯瞰的なところから入っていったらどうかというふうに考えております。
 また、この調査会の開催のペースでありますけれども、やはり拙速は避けるべきであると。私の目の前には別に民放のマイクはありませんけれども、このマイクの音声自体インターネットを通じてリアルタイムで多分きょうは流れているというふうに思いますけれども、映像も含めて流れているわけで、国民の世論喚起あるいは啓蒙を含めて拙速は避けるべきではないか、このように考えております。
 先ほど、高柳調査会は七年、八年かけて調査したというお話がございましたけれども、それからもう既に三十年たっているわけで、今日的状況に関してやはりしっかりした議論を進めていきたい、このように考えております。
○会長(村上正邦君) 扇千景君。
○扇千景君 ありがとうございます。
 私は、もっと早く我々国会議員がこういう憲法調査会を開き、そして国民に広く憲法のあり方、今まで各委員のお話しになりました現実と憲法のあり方等が国会で論議されなかったことがまことに残念だと思っておりましたので、きょうこうして初日を迎えたことに対して万感の思いでございますし、いよいよこれから私どもの日本の国のあり方を基本的に改めて考える時期到来ということで、感慨ひとしおのものがございます。
 基本的なことはこれから入りますからあれですけれども、私がこの調査会で一つ提案申し上げたいと思いましたのは、今まで委員からも憲法制定時の検証をするべきだという議論もございました。
 私、たまたま一九九七年十一月十七日に、当時マッカーサー元帥のもとに民政委員であられました方々を五人お招きして、憲政記念館でこの制定時のアメリカの皆さん方の中から五名をお呼びしたのに接しましたそのときに、今も笹野貞子先生がおっしゃいましたけれども、その中にいらっしゃいましたベアテ・シロタ・ゴードンさんという女性が、当時憲法制定委員会に入りまして小委員会に入って、弱冠二十二歳で私がその人権問題と女性の権利を明記した、まさか二十二歳の私の言ったことが通るとは思わなかったとその当時を述懐してくださいました。
 そういうことを、私たちはそのおかげで今日の女性解放があるんだとたまたま笹野先生がおっしゃったんですけれども、私はそういう意味において、この当時憲法を制定した二十四名の人たちがだんだんお年を召しておりますので、もしも会長の御配慮で、予算が許すのであれば、まず、生き証人が、御高齢ではございますけれども、一九九七年に五名の制定委員会の委員の皆さんのお話を聞いてとても私は感慨を深くしたものですから、国民の皆さん方にもその生き証人が御存命の間にぜひ一言、この調査会の資料として残す意味においても、私は費用を何とか捻出していただいて参考人としてお呼びしていただきたいという要望だけきょうは申し上げておきます。
 以上でございます。
○会長(村上正邦君) 高嶋良充君。
○高嶋良充君 御指名いただいてありがとうございます。
 先ほど世耕委員が若者の代表ということで発言をされましたが、私はもう既に若者ではございませんでして、ちょうど戦時中の生まれでございまして、戦後新しい教育を最初に受けた、こういうことでございます。そういう意味では、現憲法に非常に愛着を持っているという、それがまず会長から言われた私の憲法観かなというふうに思っております。
 とりわけ現憲法の中で、既に先に各幹事の皆さん方からも言われておりますけれども、国民主権あるいは人権尊重さらに平和主義といったこの三つの原理の上に構築をされた憲法の基本理念というのは、これは大多数の国民が支持をしているのではないかなというふうに思っています。
 それと同時に、日本が国際社会の一員として生きる指針になってきたのではないか。これは昨年の秋に自民党の憲法調査会長の葉梨先生も雑誌に寄稿されておりましたけれども、世界から今日の日本が信頼を得ているのは日本の憲法の果たした功績が大きいんだ、こういうふうに評価をされていました。私もその点については同感であります。
 ですから、まずこの調査会でそれらの現憲法の今日までの検証というか総括というのをやっぱりじっくり時間をかけてやっていただくということが必要なのではないかなというのを、まず冒頭に申し上げておきたいというふうに思っています。
 とはいえ、先ほどから多くの委員の皆さん方から意見が出されていますように、社会の現実と憲法というか法との乖離の問題というのがあることは事実であります。とりわけ近年の新しい課題ということからいいますと、今までも言われていますように、冷戦後の国際関係の変化の問題、二つ目には地球環境の問題が非常に深刻化してきているという問題で環境権の問題、さらには地方分権一括法が制定されましたけれども、国と地方の役割分担という意味からいう地方分権の必要性の問題、あるいは共生社会の必要性の問題、課題、さらに人権の問題からいえば知る権利やプライバシー権という新しい人権といわれる部分について、そういう社会の現実と憲法なり現行法規の問題との乖離についてやっぱりこれはきちっと議論をしていく必要があるのではないかなというふうに思っています。
 その場合に、椎名先生からもお話がございましたけれども、これらの社会の現実と法の乖離の問題について憲法のどの条文とかかわっているのか、その規定がどのように不備なのかということをやっぱり明確にしていく必要があるのではないか。それは憲法を変えなければならないのか、それとも現行の憲法以外の法律に問題があるのか、あるいは行政のあり方に問題があるのかというのをやっぱり洗いざらい議論をする必要があるのではないかというふうに思っていまして、そういう視点で十分な議論をしていくことについて私はぜひお願いをしておきたいというふうに思っております。
 最後に、これは世耕さんからも申されました、国民的議論というか国民の意見を反映する、声を反映しろという、これは全く同感でございます。憲法論議は国民の理解と支持がなければ上滑りをしてしまう、国会内だけの議論になるのではないかというふうに思っておりまして、ぜひ会長や幹事の皆さん方の間でこれからの進め方について、このような院内だけの議論ではなしに、調査ということですから、国民の中に入って調査ができるようなあるいは地方に行って国民とも議論できるような、そういう場をぜひ提供いただくように最後にお願いを申し上げておきたいと思います。
○会長(村上正邦君) たまたまその話が出ましたので。
 幹事会できょうも提案をいたしましたが、この調査会にしても、一般の国民の方が傍聴に来やすいような、例えば土曜日にやる。そうすれば、民間の関係はお休みですからどんどん来てもらえる。それから、やっぱり土曜日に外へ出ていっていろいろな階層の方々の意見を聞く。土曜日、日曜日の活用を検討してもらうようにいたしておりますので、皆さん方の趣旨にかなうことだと思いますよ、それはいかぬよなんという話にならないようにひとつ御賛同願いたいということを申し上げておきます。
 海老原義彦君。
○海老原義彦君 自民党の海老原でございます。
 皆様なかなか大所高所からの高邁な議論が続いておりますけれども、中には大変具体的な結構な御提案もありまして、私はいずれももっともだと思っております。ただ、私がここで特に発言を求めましたのは、若干これまでの御発言に対しての反論があってもいいじゃないかという会長のお言葉もありましたので、少しそういう反論めいた部分を申し上げたいなと思うわけでございます。
 まず第一点は、拙速を避けろということを何人かの委員の方がおっしゃっておられます。この拙速というのはどういうことなのか。今の日本国憲法は、私は非常に、いろいろ問題もあるけれども、しかし基本的には笹野先生初め皆さんがおっしゃっているようによくできておる、人権のためにもいろいろよく配慮されておるという面もある憲法だと思っておりますけれども、この立派な憲法が、先ほどお話もありましたように、たった二週間でというお話がありましたが、実際は二週間どころか一週間ですね、たった七日間でGHQで素案がつくられておる。その気になれば七日間でこれだけ立派な憲法ができるんです。それが五年も月日を要して、それでさらに拙速がどうこうとか言っておるのは私は非常に問題があると思う。
 これはやはり、まず参議院の特徴というお話もございましたけれども、参議院の特徴としては衆議院と違って解散がなくて任期が決まっておる。だから、その任期内に上げるということが一番いいんじゃないかと。先ほど一年半でワンクールというお話がございまして、私はそれに賛成でございます。一年半でともかく一回目の、いわば一読を終わって、中間報告を出すぐらいまで持っていくべきではないか。だって、たった七日でできたものでしょう。だから、その十倍の七十日もあれば、もう本当にすぐれた方々が四十五人も集まっておるんですから、小委員会なり分科会なりつくって精力的にやれば検討できないはずはないと思うんです。
 それから、第二点でございます。長期的な展望、殊に二十一世紀を見通した展望が必要であるというお話がございました。私はもちろん、憲法というのは基本的な法律でございますから、この国のあり方、今後を見通すということは絶対に大事でございますけれども、二十一世紀を見通すとか、要するにそれじゃもう耐用年数百年を目指すということでございますが、私は憲法というのはそういうことじゃないんだ、憲法は国民のニーズに応じて随時変えていっていいんだと、そう思っておりますので、ここでは余り長期的な視野で慎重にということを言うべきではないんだろうなと思っているんです。
 もちろん、慎重に審議することは大事でございますし、拙速は避けなきゃならないけれども、しかし余り大所高所の高邁な議論に終始するよりも、現実に今この憲法ではこういう条文があるけれどもこれはどうも国民のニーズに合わないぞ、あるいはこういう条文があるべきだけれども入れてないのはどうするんだと、こういう具体的な議論をやっていけば、拙速ということでなくて早急に議論は進められるんじゃないかと思います。
 以上でございます。
○会長(村上正邦君) 簗瀬進君。
○簗瀬進君 発言の機会を与えていただきましてありがとうございました。民主党の簗瀬進でございます。
 まず冒頭に、七日間のGHQの論議ということでございますけれども、その以前、一七八九年のフランス革命から始まる二百年の歴史がその前にそびえているというようなことを冒頭に指摘させていただきたいなと思っております。そこで、私は過去のことと未来のことと三点にわたってちょっと発言をさせていただきたいと思います。
 まず第一番目に、この憲法改正の議論をする際に、私はそれと必ず並行して、何人かの委員の皆さんのお話にあるとおり、明治維新、それから明治憲法、そして太平洋戦争として終わる、言うならば日本国憲法の成立過程前史の総括というものがやはり必要なのではないのかなと思っております。ワイマール体制の中でナチズムが生まれてきたように、明治憲法も決してまずい憲法ではありませんでした。当時の世界史的な比較の中からいっても大変すぐれた憲法であったと思いますけれども、そういう中でなぜ軍部の独走というようなものが生まれてきたのかという、そういう因果関係の分析、これもまた大変重要だろうと。
 私はこれは二つの意味を持っていると思います。
 まず第一は、対外的な意味でありまして、すべての外交関係の基礎である信頼の醸成、特にアジアの日本に対する根深い不信感を払拭するためには、このような歴史の失敗といいますか、それの本質についての冷静な分析をする、それによって初めて本当の意味での新しい安全保障等の日本の取り組みが理解をされるのではないのかなと思います。
 それから第二点は、国内的な意味であります。憲法改正はまさに日本人の自己決定能力が問われるこの国にとって最重要な課題だと思いますけれども、日本人の中にはまだまだこのような失敗の歴史のある意味での呪縛、それから解放されていない人たちもたくさんいるのではないのかなと。特に、例えば軍隊のコントロールということで言ってみますと、結果的には失敗の歴史しかやっぱり我が国は持っていない。そういう意味で、ある意味での自分の自信というようなものの根拠が、まだまだ歴史に求めることができないわけであります。そういう意味で、過去の歴史のきちんとした検証をしておくということは、まさにみずから厳しく過去の歴史をみずからに問いかけることでありまして、みずからのある意味での失敗の原因を明らかにする、それでしかこのような本当の意味での自己決定能力の回復というのはないのではないのかなと思っております。
 二番目に、今ある意味ではここで憲法改正の論議を国会が始めるということは大変歴史的にも非常に重要な意味を持っているということ、それはある意味での代議制民主主義の危機といいますか、そういう大変な歴史的な変換点に来ているのではないのかなと思うわけであります。最近も、言うならば吉野川の河口堰のあの住民投票の問題がございました。まさにそういう意味では、いわゆる議会制民主主義あるいは間接民主主義というようなものの一種の曲がり角に来ているのではないのかなと、こういうふうな一つの歴史的な展望に立って議論をしていく必要があるのではないのか。
 私は、ある意味では、情報革命というようなものは政治の姿あるいは憲法を制定する場合にもこれからさらに衰えることなくこの傾向は続いていく、まさに自分で有権者は本当に情報を発信できるようになる。それに対して、政治あるいは法体制がしっかりとこたえていかない限り、いつまでもそういうストレスがたまっていって体制自体が崩れてしまう、こういうふうな大きな危機に差しかかっているのではないのか。そういう意味では、ある意味で直接民主主義的な方向性をどのように考えていくのかということもこの憲法を考える場合の大変大きな論点になっていくのではないのかなと思います。そういう観点では、首相公選とかあるいは二院制とか、あるいは国民投票制等もあるのではないのか。
 それから三番目に、最後に、私は前文の重要性というようなものを指摘させていただきたいと思います。現在の日本国憲法前文の中で、大変崇高な国際平和主義への理想の宣言があります。その部分を今度の憲法でどのようにとらえていくのか。ある意味では新しい日本のナショナルゴールといいますか、国家的な、あるいは国民一人一人の精神的な理想あるいは志にしっかりとこたえられるような、そういう一つの目標というようなものを憲法の中でどういうふうに私たちが提案し得るのか、それも、後世の歴史の評価にたえ得るような新たなナショナルゴールというようなものをどう設定するのかということをやっぱり国会の中できちんと議論をすべきだと思っております。
 以上です。
○会長(村上正邦君) 福島瑞穂君。
○福島瑞穂君 社民党の福島瑞穂です。発言の機会を与えていただいて、ありがとうございます。
 やり方についてなんですが、まず一番確認をしたいことは、この調査会が憲法調査会であって憲法改正調査会ではないということです。この調査会、もちろんさまざまな議論は出るでしょうけれども、この調査会の中でどうやって憲法を生かしていくのかという現実的な議論が私は一番重要なことだというふうに思っております。
 総合的かつ慎重にという意見がさまざまな委員さんの中から出ました。私は、それはそのとおりだと思います。間違いなく憲法は最高法規でありますから、この五十年の間にたくさんの法律、たくさんの通達、たくさんの条例、たくさんの規則ができました。ですから、憲法についての議論をするということは、日本国内における国法体系そのものを全部議論するということも、影響を与えるということもあります。本当に重要なことですので、総合的かつ慎重に、憲法一条も含めて、すべてについて総合的かつ慎重に議論する必要があるというふうに考えております。
 それから、三点目の視点なんですが、やり方について、国際人権法、条約についてもこの調査会の中できちっと徹底的に議論すべきだと思っております。
 御存じのとおり、日本は国際人権規約A規約、B規約、拷問禁止条約、先ほど笹野先生、扇先生おっしゃいましたけれども、女性の問題については女性差別撤廃条約、子供については子どもの権利に関する条約、たくさんの条約を日本は批准しておりますし、被拘禁者については国連の被拘禁者の準則などがあります。先ほど大脇委員の方からも言っていただきましたが、日本はたくさん勧告を受けております。日本国憲法を精緻にしたのが国際人権規約B規約だと思いますけれども、その国際人権規約B規約の規約人権委員会から、日本は基本的人権について、システムについてこういう点を変えろということの勧告を何回も受けておりますし、三十二項目にわたっております。
 もし、基本的人権を議論するに当たって、日本のシステムを議論するに当たって、欠陥があるとすれば私はこの条約の勧告にきちっと日本がこたえていないと。ですから、憲法の議論の際に条約で言われていることをどう実現していくのか、それにこたえられないようでは基本的人権の擁護ということはできないというふうに考えております。
 ですから、どう日本の状況をそれに変えていくのか。そのために、法律に欠陥があるのか、制度に欠陥があるのか、通達に欠陥があるのか、運用に欠陥があるのかということをきちっとやはりすべてについて議論すべきである。先ほど高嶋先生の方から、逐条的にかなりやるべきだという議論がありました。例えば基本的人権の条項それぞれについて、どの条約が問題で、何があり、それから違憲訴訟もたくさん出ていますし、違憲判決が出ているものもあります。ですから、それがどこで何が障害になって実現できないのかという総合的かつ精緻な議論を、ぜひこの調査会で徹底した調査をしていただきたい。
 それなく、この五十年間、もっと言えば先ほど二百年という簗瀬先生の話もありましたが、この中での蓄積があるわけですから、徹底した調査をこの調査会でやる、憲法をどう生かすかということを私たちが考えたいと思っております。
 先ほど大先輩の笹野先生からもありましたが、やっぱりこの憲法ができたので民法の親族編、相続編の改正があり、女性は姦通罪、男女不平等の点からも解放され、やっと選挙権、被選挙権もあり、戸主権というものから解放され、妻は結婚すると行為無能力者でしたけれども、そういうことから解放されたわけです。私は、その点では日本国憲法大好き、とても愛していると思っているんです。憲法は、やっぱり女性も元気でいいのだ、男性も元気でいいのだ、子供も高齢者もハンディキャップがある人もみんな元気でいいのだと励ましてきた、外国人も含めて、と思っております。
 ですから、この調査会で憲法をどう生かすかという議論を徹底してしていただきたい。それがやり方についての要望です。
 ありがとうございました。
○会長(村上正邦君) 高野博師君。
○高野博師君 公明党の高野でございます。
 私の立場は、論憲という立場であります。
 現憲法が持っている普遍的原理は維持すべきものだ、堅持すべきものだということでありますが、私の最大の関心は憲法と現実の乖離という点でありまして、今までもたくさんの御意見がございましたが、私は憲法というものが日本国民の精神文化、あるいは社会、政治、文化、こういうものに相当深い影響を与えているのではないか。そこで、今日本が抱えているさまざまな深刻な問題、その根底に憲法があるとすれば、これは重大な問題ではないか。そこで、この現実と憲法の乖離という点について十分な議論をすべきではないか、そう思っております。
 例えば、地球的規模の問題群というのがありますが、こういう問題に日本がどうやって貢献していくのか、あるいは人間の安全保障というような理念を憲法の中でうたうことはどうなのか、そういうことも議論していいのではないか。単なる政治的な、あるいは政策的なレベルで対応できないもっと深い次元でこれは考えるべきではないか、議論すべきではないか、そういうふうに思っております。
 人権上の問題も、先ほどもプライバシー権の問題、あるいは環境権、知る権利、さまざま出ておりますが、憲法の中で私は外国人の位置づけというものもきちんとすべきではないか。外国人の権利というものもきちんとこれは憲法の中に位置づける必要がある。
 それから、司法の問題ですが、司法の政治的な中立性あるいは司法の独立ということが強く求められていることによって司法そのものが萎縮しているのではないかという議論がありまして、私もこれは同感であります。したがって、市民社会の中で司法がもっと大きな役割を果たせるのではないか、そういう観点から司法権についても憲法の上から十分議論すべきではないか、そう思っております。
 簡単ですが、以上です。
○会長(村上正邦君) 岩城光英君。
○岩城光英君 いろんな論議がなされておりますけれども、私からは一点だけ手短に問題提起させていただきたいと思います。
 先ほど来、この国の形という、そういった表現がされておりますが、この国を支えております、構成しておりますのは全国の三千二百三十幾つかの市町村であります。国民にとりまして一番身近なかかわりを持ちます地方自治の問題、これを論じていくべきだと私は思っております。
 この四月から地方分権が一歩具体的にスタートするわけでありますけれども、財源の問題等も先送りされておりますし、真の意味での地方自治、地方の自立といった点からまだまだ道遠しと、こういった感を受けております。道州制の論議等もなされているわけでありますが、そういった点で地方自治の問題につきましても論議をしていきたい、こう思っております。
 以上です。
○会長(村上正邦君) 直嶋正行君。
○直嶋正行君 会長、どうもありがとうございます。
 私の方からも一つ意見を言わせていただきたいと思います。
 私は昭和二十年生まれでございまして、今五十四歳です。ちょうど私が生まれたころから今の憲法の体制下で日本の国が動いてきたということでありますが、ごらんのとおり大分頭が白くなりました。恐らく、先ほど来議論がございますが、この戦後五十数年を振り返りましてもさまざまなやはり変化があると思いますし、私どもがこれから議論をし、答えを出していかなければいけない課題も当時と比べるとかなり変わってきているというふうに思います。
 したがいまして、先ほどこの国の形という議論もございましたが、やはり私は、少なくとも新憲法下の五十数年間を経て変わったもの変わらないものを確認すべきだ、そしてさらに将来に向けてどんな国の形がふさわしいのかという議論をきちっとすべきであるというふうに思っております。
 特に、先ほど来の議論の中でも、現実が憲法と乖離しているのか、憲法が現実と乖離しているのかというお話がございました。
 私は、憲法というのはやはり北斗七星のようなものだというふうに思っています。ただ、理想が高くてやってもやっても追いつかないというのではやはり困ると思うんです。私たちが迷ったときにきちっと憲法に照らして答えが出せるような、すなわち実定法としての性格も持っておかなきゃいけない、こういうふうに思っておりまして、その面から申し上げますと、私は今の憲法には、先ほど来御指摘がありましたが、欠けている点が多いというふうに思います。
 さっき地方自治のお話もございましたが、私ども分権連邦国家という一つの理念を掲げておりますが、こういった国のあり方について本当に踏み込んだ議論をしたいと思いますし、環境問題や、それから先ほど来御指摘ございませんでしたが、今の憲法ができたころの国際情勢とかあるいは日本の立場と現在の国際情勢及びその中における日本の立場というのは相当大きな変化があると思います。したがいまして、こういった現状変化も踏まえて、先ほど来お話ございますが、平和、国民主権、人権という三原則、これはどなたも異論がなかったように私は思っておりますが、こういうものをさらにどう深めていくかという議論をすべきじゃないかというふうに思います。
 それで、最後に簡単に進め方について申し上げたいと思いますが、先ほど来、今の憲法は七日でできたとか、せめて一年半にはというお話もございます。確かにどこかめどを立ててという発想はわからないわけではありませんが、ぜひもう一つ私たちが踏まえておかなければいけないのは、この憲法調査会を置くことですら長年議論があったということでありまして、私たちがこの国会で、この調査会で議論をするだけではなくて、やはり国民世論の理解なり後押しというものがなければ現実に新しいものというのはできてこないと思います。
 そういうことも踏まえて考えますと、初めに出口を決めるというようなやり方ではなくて、やはり議論を深める中でおのずからまとめるタイミングというのは決まってくると思いますので、ぜひ会長にはそういう進行をとっていただきますようにお願いを申し上げたいと思います。
 どうもありがとうございました。
○会長(村上正邦君) これ、出口はないんですよ。公聴会決めましょうか、じゃ。冗談は別にいたしまして。
 吉川春子君。
○吉川春子君 日本共産党の吉川春子でございます。
 橋本議員が冒頭発言しましたように、私は憲法と現実政治との矛盾について、それがなぜどのようにして生まれてきたか、これを広範かつ総合的な調査をすることが必要だと考えております。
 諸外国の憲法に比較してこの憲法の先駆性をあらわす憲法二十五条、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」、すなわち生存権を保障しております。財産権を保障しつつも、十八、九世紀の自由権中心の憲法と違って生存権保障のため国のとるべき措置と責務を明らかにしています。これに基づいて生活保護法などが制定されていますけれども、昭和三十年代、結核患者が六百円の生活費で生活できるのか、この二十五条を直接争った朝日訴訟を初め国民の生存権が脅かされている事態が現在も存在しています。
 今、大企業を中心にリストラが横行して失業者が三百万人を超え、中高年の過労死、自殺、その結果男性の平均寿命が下がるという深刻な事態です。この事態は、憲法みずからが生存権の具体的な保障として制定した二十七条、二十八条の労働権からの著しい乖離ではないでしょうか。
 また、自由権でいえば、旧憲法は平等について公務につく機会のみを定めて著しく不完全でありました。特に、性による差別は当然のことと考えられて、先ほど来お話がありましたように、著しく男尊女卑の思想が法律にもあらわれていました。これに対して現憲法は、一切の差別を禁止し、憲法十四条は法のもとの平等、性による差別を禁止しています。これを受けた労基法が男女同一労働、同一賃金を定めています。しかし、多くの賃金格差も残っておりまして、労働省の調査でも男性一〇〇に対して女性の賃金は六三、パートも入れると五〇・八%、こういうことになっておりまして、憲法の立場からも賃金における男女格差というものは是正されなくてはならないと思います。
 そして、去年成立しました男女共同参画社会基本法でも女性の政治参加というのが非常に重要な課題として議論されました。
 今、日本の女性国会議員は全体の国会議員の九%、国連加入の百九十カ国の中で衆参合わせていえば九十二、三番目、こういうランクです。憲法前文が大事だというお話もありましたが、「国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」するということになっておって、その両院議員の資格は性別等によって差別してはならないことにもなっています。女性の政治の場への進出が大幅におくれているということも現憲法の理念に照らして重大だと思います。
 旧憲法に比べて国民の基本的人権の保障について画期的な内容を持つ現憲法は、国民の不断の努力によって今日まで無数の運動あるいは裁判もありました。そういう中で、施行後五十余年を経て生存権が脅かされ、性による差別が各方面に残っている、こういう問題について何がその要因になっているかということを十分に調査、審議することも当調査会の重要な任務であろう、このように考えております。
 ありがとうございました。
○会長(村上正邦君) 中島眞人君。
○中島眞人君 自由民主党の中島でございます。
 さまざまな御意見が出てまいりましたけれども、私は冒頭、この調査会の問題ですけれども、立法府に調査会が設けられたということ、この意味は、国民のサイドから見れば、やっぱり憲法という問題について立法府がいわゆる調査を始めたということの意義は、ただこれで終わるんだという受けとめ方ではないであろう、こういうふうに思いながら、私どもが調査をしていく過程の中で立法府が調査をしているということはどういうことなのかということに波及をしていくんだということを我々は自覚をしなければいけないし、また立法府の調査会というのはそういうものであるべきだ、私はそういうふうに思います。
 同時に、さまざまな意見が出ましたけれども、先ほど扇先生から出ましたように、一人の人間でも何でもそうですけれども、やっぱり出生の過程というのは大変意味があるんではないか。この問題について、憲法が制定をされた経過、制定の時期、制定の背景、それに我々国民がどうかかわっていたのか、あるいは議会がどうかかわっておったかということまでも含めて、制定の経過というものをやっぱりスタートの段階で私は論議をして、調査をしていっていただきたいということをまず申し上げたいと思います。
 同時に、現憲法の掲げる平和主義、国民主権、基本的人権というこれはすばらしい一つの原則だというふうに思いますけれども、五十年経過した今、果たして国際社会の中にあってこのままでいいんだろうか、現実と乖離していないだろうか。例えば、国内にあって本当に国民の理解を得ているだろうか。乖離乖離という問題が出ておりますけれども、一面には女性の問題とかあるいは人権の問題とか現実に乖離をしている。逆に、日本が国際社会の一員として生活をしていく場合においての乖離という問題もこれまた表面に出していかなければ私はならないんではなかろうかと思います。
 特に、国際的な問題というのは、八九年冷戦の終結、九一年の湾岸戦争を契機に起こってくる局地的な紛争、これに対して国際社会の一員として日本はどうかかわっていくべきかという問題が、憲法という問題の中で常に解釈論議で済まさせているというところに問題はなかったんだろうかというような問題もやっぱり論議をしていかなきゃいかぬと思います。
 ですから、笹野先生がおっしゃいましたような女性等の問題はまだまだ到達度に達していないんだよ、これもまた現実の乖離ですから、そういう問題も私は憲法との現実の乖離の中で論議をしていかなければいけないというふうに思います。
 国内においても、制定当時に比べますと半世紀を経た中で大きな変革が起こっていることはもうここにいらっしゃる皆さん方は御存じだろうと思います。例えば、教育においては崩壊というような問題、あるいはある面では末期的な症状と言われるようなさまざまな問題が起こってきております。あるいは環境の問題もまさに避けては通ることができません。あるいは公共の福祉の問題、あるいは社会秩序をどう維持していくかという問題。こういうものの中で国民一人一人がどうこれにかかわっていくのかという問題も私どもはやっぱり考えていかないと、国家があって国民がある、そして国民があって国家があるという、そういう問題の中からこれらの問題を論議をしていかなければならないだろう。
 ですから、現実の乖離という問題は、おくれている、あるいは到達をしていない問題があるという問題も、さまざまな面でいけばこれらの問題もやっぱり論議をしていかなければいけないんではなかろうか。そういう点で、論議すべき点は枚挙に私はいとまがないと、こんなふうに思うわけであります。
 先ほどから申し上げましたように、立法府に設置された調査会という意味は大変重い。ただ調査をするだけではありませんよというのが国民の側から見ているこの調査会に対する一つの位置づけであろうということを考えると、私どもはやっぱり一つの論議というものを集中的に行っていく、会長が土日をも、あるいは国民の皆さん方も入っていただくという形の中で論議をしていくというのはこれまた必要なことではなかろうか、こんなふうに思えてならないわけでございます。
 取りまとめができませんけれども、以上申し上げまして、私の意見といたします。
○会長(村上正邦君) 浅尾慶一郎君。
○浅尾慶一郎君 御指名いただきましてありがとうございます。
 諸先輩からいろいろと貴重な御意見をいただいておりますので、私、簡単に一点だけ、進め方ということでございますので、御要望をさせていただきたいと思います。
 それは何かといいますと、憲法の議論をさせていただく調査会ということでございますけれども、憲法とは何か。逐条のことではなくて、憲法は何をするものか、何のためにあるのかという議論もぜひ、広く国民に開かれた調査会ということであればその点も含めて調査をしていただきたいと思います。
 それはどういうことかと申しますと、先ほど来現実との乖離ということが言われておりますが、憲法がもし国としての理念、理想に重きを置くのであれば、当然現実と乖離が出てくるであろうと思いますし、そうではなくて、国家の基本的な、基本法的な性格ということであれば、現実との乖離というのは余り好ましくないということになるのではないかな、このように思います。恐らくここにお集まりの四十五名の皆様方、それぞれ憲法とは何のためにあるのかということであれば違った御意見はあろうかと思いますが、学識経験者も踏まえて、その位置づけというんですか、憲法そのものの位置づけというものをぜひ議論していただきたい。それは、前文あるいは逐条とを分けても結構でございますから、議論をしていただければと思います。
 以上です。
○会長(村上正邦君) 小泉親司君。
○小泉親司君 日本共産党の小泉親司でございます。
 憲法の進め方の基本的な問題については橋本委員からもお話がありましたので、特に私の意見について発言をさせていただきたいというふうに思います。
 まず一つは、私たちは今度の憲法調査会については憲法改悪への足がかりにするということが明瞭だったので反対をいたしましたが、つくられた以上、参加して積極的な議論をしていきたいというふうに考えております。
 そもそもこの調査会は、先ほどからもう皆さん繰り返し言われておりますように、「調査期間は、おおむね五年程度を目途とする」、しかも議案提案権がないという当然申し合わせがまずあるわけで、その前提に立ちまして、今度の「日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行う」ということになっているものでありますから、当然やはり調査を徹する必要があるというふうに思います。
 先ほど拙速云々かんぬんのお話が出ましたが、やはり私たちは、五七年の例えば鳩山内閣のもとに設置された内閣憲法調査会の議論でも、制定過程の議論だけでも二年少し、全体では五七年から実質的なものが始まりましたので七年近くを費やしてやられたわけで、その意味では今度は、鳩山調査会は「日本国憲法に検討を加え、」と、つまり、鳩山内閣当時の改憲という立場で、そういう趣旨でありましたから、今度の調査会自体は性格を異にいたしますけれども、その調査会自体でもこういうふうにきちんと調査活動をやったという点はやはり重要なことで、この点でもこの憲法調査会は、調査に限定するという立場で十分な時間をとって調査を進める必要があるというのがまず第一点目の問題であります。
 二点目の問題は、先ほど三点の問題について橋本委員からも話がありましたが、私はこの憲法の今何が一番大事かという点でいけば、やはり私たちはこの憲法の先駆的な内容、この先進的な中身を調査する必要があるんじゃないかというふうに思います。
 例えば、先ほども御紹介ありましたが、昨年、ハーグのNGOの世界市民会議というところで公正な世界秩序のための十の基本原則というのがありまして、ここでもまず第一番目に、十の原則の一番目に挙げているのが、各国議会は日本国憲法第九条のような、政府が戦争をすることを禁止する決議を採択すべきであるということをきちんとうたっているわけで、現段階でなぜそういう決議がされたのか、こういう問題についても深く今の憲法九条の値打ちを調査していく必要があるんじゃないかというふうに思います。
 生存権や基本的人権の問題でも、私も少しアメリカの政治をかじりましたけれども、アメリカでも憲法九条の会という、九条を守る運動もあるわけで、こういうやはり今の時点での憲法の値打ちを、恒久平和の第九条の問題、それから生存権を初めとする基本的な人権の問題についても調査を進める必要があるというふうに思います。
 三点目は、憲法制定過程に関する問題については、既に五七年の内閣憲法調査会の話をしましたけれども、ここに私持ってきたんだけれども、この鳩山調査会の報告というのは、まず第一分冊だけでもこれだけあるんですね。実質的に七年半かけてやったわけで、この点では制定過程の問題についても現段階でどういう議論が必要なのか、その辺でもよく委員の方々の意見をやっぱり広く踏まえて調査を十分に研究、検討することが大事じゃないかなというふうに思います。
 以上です。
○会長(村上正邦君) 時間も迫ってまいりました。発言登録をいただいている委員がお三名おられますので、お三名の発言をもって本日の調査会の自由討議は終わらせていただこうと、こう思っております。松田岩夫君、そして大森礼子委員、久世幹事と、こういうことで締めたいと思っております。
 どうぞ、松田岩夫君。
○松田岩夫君 発言の機会をいただいてありがとうございます。
 先ほど来から二時間になりますか、こうして初めて各政党の皆さんと国会の場で日本国憲法についてお話し合いができているということを今まざまざと喜びを持って感じておる一人であります。
 せっかくこういう機会をつくっていただきました。できた背景は、もう時間がありませんのであれでございますが、簡単に言えば歴史が積み重なってこうなったと思います。国際情勢も変わり、日本の国民もここまで豊かになって、皆それぞれ、各政党もいろんな思いがありますが、しかし憲法調査会をつくることには一致できた、私は一つの大きな進歩だと思います。
 そういう意味で、憲法調査会、いろいろ意見がありましたけれども、せっかくこうしてできてきたわけでございます。憲法は、皆さん御存じのように、守るべきものは守らなきゃいけませんし、また必要があれば考え直したらいいところは考え直したらいい、普通の法律ではありません。最も基本的な法律ではありますが、先ほどからお話しのとおり実定法の一つでございます。
 五十年以上たちまして、正直私は個人的にはいろいろ考え直したらいいところがあるなという思いを持つ一人でございますが、そういったことを、初めから変えないでいいという思いでおっしゃったり、いや変えるんだという思いでおっしゃったりとかいう、立場はそれぞれあっていいと思いますが、せっかくできたわけでございます。どうぞひとつそれぞれの委員、思い切りひとつ、それぞれ党の考えなり、これまでの考えはあったにせよ、ぜひこの調査会の運営におかれて、先ほど会長も言われましたけれども、まさにこの会ができた意味を大いに考えていただいて、とらわれないでやっていただけたらなというのが第一であります。
 言うまでもありませんが、これほど五十年以上にわたって守り続けてきた国は日本だけであります。必要に応じそれぞれ議論し、直すべきところは直し、また直し間違ったらまた直しているというのが各国の経験であります。我々よりもはるかに早く民主主義、人権を尊重し、各種の市民革命をなし遂げてきた国がそういう経験を今積み重ねてきているわけでありますから、そういう意味でも、ぜひ皆さんのそういう気持ちでの審議を心からお願いしたいというのが第一であります。
 第二に、正直、国会ではこれ我々初めてでございますが、国民各界各層におかれては、学界はもちろんでありますけれども、議論はもうある意味で五十年にわたって積み重ねられてきておるわけであります。私どもは議論いたしませんでした。これから大いにやろうという意気込みはもちろんすばらしいものでありますが、しかし、そうかといって、こうしてこれまで積み重ねられてきたものを、まるでまた私たち自身が初めからやり直すということは正直できることでもありませんし、またやるべき道筋でもありません。
 そういう意味で、憲法制定過程の話とか、あるいは高柳調査会の話とか、あるいは各界各層のいろいろな御意見、研究成果、新聞社で行われたものもありますし、いろいろあります。そういったものをひとつぜひ総合的に御整理を賜りまして、できるだけ能率よくと言うと言い過ぎでございますが、勉強の成果にさせていただきたくお取り計らいをお願い申し上げたいというふうに思います。
 以上でございます。
○会長(村上正邦君) 大森礼子君。
○大森礼子君 公明党の大森礼子です。
 憲法のことをこれまで論ずること自体がタブー視されていましたけれども、本当に自由に論ずることができる場を与えられてとてもうれしいと思います。
 何を論ずるかについては、まず参議院ですから、本来ですと、何かいろいろ参議院不要論とか二院制のあり方とか言われておりますので、参議院としてはここから入るのもひとつ必要なことかなと思っております。
 海老原委員の方から、拙速を避けるということは言うべきではないのではないかという御意見がありまして、その内容を伺いながら、やっぱり慎重にやらなきゃいけないなと改めて確認をいたしました。ただ、先生は何か具体的な議論をやっていけば早く進むのではないかとおっしゃいましたけれども、この具体的な議論をやっていくというのはそのとおりだと私は思います。ただ、それを丁寧にやると一年半では無理かなとも私は思っています。大事なことは、この調査会で何をするかを決めることだと思います。そして、それによって中間報告できるのかできないのか、そういう時期も決まるわけでありまして、それは決まる前から一年半で中間報告というのは少し順序としておかしいのではないかと思います。
 それで、論憲の必要性、する場合には要するにこの調査会、この憲法はこのままでよいのかどうかというところでは共通認識があるわけですから、憲法の中で変えてはならないもの、それから変える余地があると思われるもの、それから変えるべきもの、それから新たな規定を設ける必要のあるもの、この四つのカテゴリーに分けられるのではないか。ですから、早くその中にどれが入るかということを論点を明確にして、それを国民の皆様に示して、そして一緒に議論していくという姿勢が大事だと思います。憲法制定過程についての議論も、この四つのカテゴリーですが、この関係から必要であれば採用すればいいと考えております。
 それから、これまで憲法といいますと九条のみの問題になっておりましたけれども、きょうの議論を聞きまして、基本的人権の尊重の見地からも御意見もたくさんあって非常に私はほっとしております。
 憲法三原則の一つに基本的人権の尊重とあるわけですけれども、環境権、プライバシー権、知る権利、新しい人権が問題になりながら、すべて十三条の幸福追求権の中にほうり込む、非常に荒っぽい手法がこれまでされておりました。これらの新しい人権と言われるものについて、人権として憲法上具体的に認知するかどうか、これも十分検討していかなくてはいけないと思います。
 というのは、これは一つには、そういう人権として認めるかどうかということは、裁判上、刑事訴訟法四百五条、民訴法三百十二条ですが、いわゆる憲法違反かどうかということが上告理由になるという関係からも検討すべきだと思います。
 例えば一つの例としますと、マスメディア、週刊誌等による人権侵害報道というのが問題になっておりますけれども、民法上の不法行為ですと損害賠償が非常に少ない。これも実は、そういう人権というものが憲法にきちんと規定されていないからこういう結果になるのではないかな、こういうふうに思っております。
 この調査会の進め方については、白紙の論憲からスタートすべきであると思います。それから、すぐ九条の問題ではないということを示すためにも、あるいはお互い疑心暗鬼になっている心を和らげるためにも、基本的人権の原則の辺から入るのも必要ではないかなというふうに思っております。
 それから、福島委員の方から条約との関係をおっしゃいましたけれども、これは各常任委員会の中でもやれることではないか。これをこの調査会でやる必要があるのかどうかについては、さらに検討をする必要が、少し疑問であると思っております。
 いずれにしましても、論点というのを明確にして、それを国民の皆様に知らせて、そして世論調査等、こういう意見をフィードバックしながら調査会を進めていくべきであると考えます。
 以上です。
○会長(村上正邦君) 発言者もまだいらっしゃいますので、多少予定した時間を延長いたしますが、今幹事間で協議をいたしまして、延長続行いたします。
 次の発言者、亀谷博昭君。
○亀谷博昭君 時間をとっていただきましてありがとうございます。自由民主党の亀谷博昭でございます。簡単に三点だけ申し上げたいと思います。
 一つは進め方でありますが、この調査会、大変国民の関心を呼んでいるだろうと思いますし、これからさらに国民世論を高める、国民の議論参加をいただくという意味では、わかりやすい形で進めなければいけない。そういうことになりますと、やはり一年とか一年半とかの期間をまず設定する、そしてそこに同時にテーマを設定して、国民にもわかりやすくそういった内容を提供していくということが必要だと思います。
 それからもう一つは、議論が進む中で、さっき大森先生からもお話がありましたが、何を残すか、あるいは変えるか、あるいは加えるかという議論が出てくる、その中で各党のスタンスがさらに明確になってくると思いますが、スタートのときは私はタブーを設けるべきではない、こう思いますので、ぜひそこのところは幹事会の方でもよろしくお取り計らいをいただきたいと思います。
 それから三点目は、調査対象でありますが、制定過程の問題、高柳調査会の問題等々ありましたが、私はもう一つ、憲法の解釈運用というのはどこまで可能なのか、ある意味ではどこまで許されるのかということも検討する必要があるだろうと思います。
 先ほど九条の問題、あるいは八十九条の問題ありましたけれども、やはりいい解釈であればそれは是認されるという議論もありますし、根本にかかわる問題については解釈運用というのは許されないという議論もあります。今さまざまな条文についての解釈運用がなされているわけですが、このこともぜひ調査対象に私は加えていただくべきであろう、こんなふうに思います。
 以上三点、考え方を述べさせていただきました。
 ありがとうございます。
○会長(村上正邦君) 吉岡吉典君。
○吉岡吉典君 この調査会の論議というのは、日本国民のみならず世界からも注目されていると思います。したがって、私はこの調査、論議自体を通じて、日本が国際的にもより信頼を高め、また国民と世界の心ある人々に希望を与えるような論議をしていきたいと思っております。その点で、現在の憲法をどうとらえるかという問題が第一の問題としてあると思います。
 憲法制定の経過については、いろいろな意見が出されました。しかし、その憲法制定の経過がどうあれ、つくられた憲法それ自体については、当時の憲法担当大臣であった金森徳次郎氏も、吉田茂著作の「回想十年」の第二巻の中に掲載されておりますが、その寄稿文の中で、「日本を世界の水準に押し上げたのである。」、こう述べておられます。
 私はこういう評価は重要な評価だと思います。日本を世界の水準に押し上げるだけでなく、私は憲法九条と、あるいは基本的人権その他世界に先駆的な内容を持った憲法だと思います。だから、その日本国憲法を各国の憲法にしようという先ほど来紹介された意見も出ている、そう思っているわけです。
 そして、私は、憲法制定議会での速記録を読み返してみると、その当時の憲法の論議自身の中に、我々が目指した、とりわけ戦争放棄の条項が世界の憲法になる方向で努力をしようという論議が繰り返し行われ、それに対して、そういう努力を行うという政府の答弁も行われているということを非常に重視すべきだと思っております。
 例えば、「此の憲法は実に日本の憲法に止まらず、世界の憲法たらしむるの信念を持たなければならぬ」、こういう意見、あるいは「世界の各国に此の精神を徹底せしめて、以て世界各国が、即ち国際連合に加盟して居る国々が平和愛好の日本国の精神を諒解すると共に、此の戦争放棄と云ふことが、各国の憲法の中にも編み込まれるやうに、政府の御努力を戴きたい」、こういう意見が述べられ、吉田総理が「新憲法第九条の精神を世界各国に徹底せしむるやうにと云ふ御意見は洵に賛成であります。政府と致しましても極力機会ある毎に九条の精神を徹底せしむるやうに努力」します、こう答弁しておられるのが速記録には残っております。
 問題は、こういう努力が十分に行われたのかどうなのか。私は、十分どころでなく、それと逆の方向に日本の政治が動いたところに問題があると思っております。
 こういう諸点が今後の論議の中で繰り返し調査もしていかなければならない問題だと思いますが、私は憲法制定議会で述べられたその精神に立ち返りながら調査をすることが大事だと思います。憲法制定議会の速記録を読むと、本当に今改めて非常に重要だと思う心を打つ論議がたくさん行われております。
 例えば、幣原喜重郎国務大臣の……
○会長(村上正邦君) 時間が参っております。
○吉岡吉典君 はい。
 次の言葉を私は非常に心を打たれる発言だと思って読みました。それは、「文明と戦争とは結局両立し得ないものであります。文明が速かに戦争を全滅しなければ、戦争が先づ文明を全滅することになるでありませう。」という言葉であります。
 私は、そういう点で日本が世界並みの国になったのみならず、先駆的な意味を持つ憲法の内容を十分に論議して、それを生かすということにこの調査会の一番大きい努力を置いていただきたいという要望をして発言といたします。
○会長(村上正邦君) では、最後に久世公堯君。手短に。
○久世公堯君 きょうは各委員から非常に貴重な御意見をたくさん拝聴したと思います。
 特に憲法調査会の今回の使命と申しますのは、やはり憲法制定以来五十二年、内閣憲法調査会の報告が出て二十五年、この間に各界各層からいろんな論議があり、またそれ以上に情勢が変化をしております。先ほどからしばしば御指摘がありましたように、冷戦構造の終結に伴う国際情勢の変化、そこから地域紛争が起き、PKO問題等が起きているわけでございます。また、社会経済構造が大きく変化をいたしております。加えて、国民の価値観が非常に多様化している、こういうものに伴ういろんな問題というものを、ひとつ五年間という目標をにらみながら当面の目標も設定して、広範かつ深みのある議論をすることが本調査会の目的であると思います。
 そこで、私は、次に申し上げたいのは、私どもは憲法改正というものを念頭に置いた論議を展開することが必要だろうと思っております。
 と申しますのは、しばしば問題になっております内閣憲法調査会、あれは昭和三十一年の五月に設置法ができたわけでございますが、そのときの国会の情勢を見てみますと、衆議院の方は、要するに憲法改正をできる勢力というものは当時六四ないし六五%あったと記憶をいたしております。三分の二に若干足りなかったわけでございます。それに対して参議院は、当時は非常に構成が難しゅうございまして、特に緑風会あるいは無所属がかなり多かったわけでございますが、これも計算の仕方によっていろいろございますけれども、大体六五%から七〇%の間あったわけでございます。憲法改正をしようと思えばもう一息というところで内閣憲法調査会ができたわけでございますが、そのできた七月に参議院選挙がございまして、そのときに大きく三分の二を割るに至ったわけでございます。
 したがって、内閣憲法調査会は、意気込んで設置をいたしましたものの、実態といえば、これは調査に専念せざるを得なかった。加えて、日本社会党は一年間、最後まで参加をすることをしなかったわけでございまして、結局社会党抜きでやったわけでございます。そういうような経緯というものを考えて、今回はこの憲法改正も念頭に置いて考えなければいけないと思います。
 加えて、国民の世論というものは、最近の調査によりますと、憲法改正を是とする国民世論というものが非常に多くなっているということを念頭に置かなければならないと思います。
 最後に、私は特に参議院の憲法調査会において論議をすべき問題について一言申し上げたいと思います。
 衆参分野を分かつことなく憲法に関するすべての問題について取り上げて徹底した論議をすることが必要でございますが、特に参議院は、私どもの本質的な性格として、国の政策の中でも長期的、総合的な視点に立って議論する必要性の高いもの、例えば外交、防衛、教育、経済、財政の基本、こういうものに積極的に取り組むことが要請されております。したがって、この憲法調査会においてもそういう本質的任務を前提として考えるべきであると思います。
 もう一点、日本国憲法制定の経緯からも、両院制に関する議論というものは極めて大事でございます。最近、参議院のあり方、参議院の存在理由についていろいろ問われておりますけれども、これは憲法に由来するところが非常に大きいわけでございます。参議院の独自性の発揮、参議院の存在意義をひとつ本調査会においても明らかにしてまいりたいと思っております。
 以上です。
○会長(村上正邦君) 大変ありがとうございました。
 挙手を願った委員の先生方全員、完全燃焼、御発言をいただいたものだと、こう思っております。
 御意見が尽きたようでございますので、本日はこの程度といたします。
 十二時の予定が五分ほどオーバーいたしましたが、皆様から拝聴いたしました貴重な御意見をそんたくいたしまして、参考にさせていただきまして、今後、幹事会において本調査会の進め方を協議してまいりたいと存じます。
 なお、私は、ここで御発言のあった問題点におきまして申し上げられますことは、この調査会の必要な経費については、例えば外国の方をお招きする、こういうことの制度面に開かれております限度内の予算面は保証いたしてまいりたい、こう思いますので、御参考にどんどん、こういうことをやってほしいという御要請があれば、各党会派の幹事を通して提案していただきたい。
 それから、憲法調査会は原則公開であります。御心配要りません。何も秘密会にすることはございません。そういうつもりもさらさらございません。この議論はオープンにするのは当然でございます。傍聴、テレビ、インターネット等、あらゆる部分で開かれた体制をつくってまいりたい。そうしたゆえをもちまして、国民参加の議論を進めるということで画期的な、土曜、日曜も活用させていただく、このようなことを会長としては御提案申し上げておるところでございます。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後零時十一分散会

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