第158回国会閉会後 参議院憲法調査会 第1号


平成十五年十二月三日(水曜日)
   午後二時開会
    ─────────────
   委員の異動
 十一月二十八日
    辞任         補欠選任
     鈴木 政二君     藤野 公孝君
 十二月二日
    辞任         補欠選任
     椎名 一保君     市川 一朗君
     福山 哲郎君     本田 良一君
    ─────────────
  出席者は左のとおり。
    会 長         上杉 光弘君
    幹 事
                武見 敬三君
                保坂 三蔵君
                吉田 博美君
                若林 正俊君
                鈴木  寛君
            ツルネン マルテイ君
                若林 秀樹君
                魚住裕一郎君
                小泉 親司君
    委 員
                阿南 一成君
                市川 一朗君
                岩井 國臣君
                亀井 郁夫君
                常田 享詳君
                中曽根弘文君
                藤野 公孝君
                舛添 要一君
                松村 龍二君
                松山 政司君
                森田 次夫君
                山崎  力君
                江田 五月君
                大渕 絹子君
                川橋 幸子君
                小林  元君
                角田 義一君
                中島 章夫君
                平野 貞夫君
                堀  利和君
                本田 良一君
                松井 孝治君
                白浜 一良君
                山口那津男君
                山本  保君
                宮本 岳志君
                吉岡 吉典君
                吉川 春子君
                大脇 雅子君
                松岡滿壽男君
   事務局側
       憲法調査会事務
       局長       桐山 正敏君
    ─────────────
  本日の会議に付した案件
○日本国憲法に関する調査
    ─────────────
○会長(上杉光弘君) ただいまから憲法調査会を開会いたします。
 日本国憲法に関する調査を議題といたします。
 先般、憲法事情に関する実情調査のため、本院よりコスタリカ共和国、アメリカ合衆国及びカナダに議員団が派遣されました。
 この際、本調査会において、海外派遣議員から報告を聴取することといたします。
 なお、御発言は着席のままでお願いいたします。
 まず、派遣議員団の団長を務められました市川一朗君から総括的な報告を聴取いたします。市川一朗君。
○市川一朗君 本年九月三日から十三日にかけて行われました特定事項調査第五班、憲法調査の概要を御報告いたします。
 本班の調査目的は、コスタリカ共和国及びカナダの憲法事情につきその実情を調査し、あわせて、これらの国の政治経済事情等を視察すること、並びに平和主義と安全保障の実情について国際連合本部及び国連開発計画の動向等を実情調査することでありまして、本憲法調査会の調査に資する観点から御報告させていただきます。
 憲法事情に関する具体的な調査項目といたしましては、ちょっと時間の関係でこの辺省略いたしますが、一、コスタリカ共和国、二、国際連合、三、カナダと、それぞれに多くの課題を掲げまして調査をいたしました。
 以下、調査内容につきまして、その概要を調査日程に従って御報告いたします。
 一九四九年に制定されましたコスタリカ憲法は、第十二条で「恒久的制度としての軍隊は禁止する」と定め、一九八三年には「積極的・永世・非武装中立」を宣言し、その平和主義への取組が我が国からも注目されているところであります。また、憲法の基本的人権規定におきましては、普遍的人権のほか、環境権を定めて環境保護を図り、また、公教育の充実を定めるなど、先駆的かつ充実した内容を有しております。さらに、司法機関等による人権救済制度が充実しておりまして、選挙の公正を確保するために選挙最高裁判所が設置されているのも特色の一つと言えます。
 九月四日午前、まず、コスタリカ共和国議会を訪ねました。議会では、国際関係委員会、環境委員会、社会問題委員会等の委員に、議会の平和憲法への姿勢、平和主義・安全保障の実際、人権保障の確立等をお伺いいたしました。
 チンチージャ国際関係委員、前公安大臣でございますが、らから、戦争は相手があって可能であり、非軍備で戦争の意思がないことを示すことが抑止力になっている、軍の廃止によって浮いた軍事予算を教育、福祉等に回し、中米一の高い教育水準、経済水準を達成できた、ニカラグアから過去に侵略行為があったが、米州相互援助条約、リオ条約及び国際世論に訴えることによって対処した、軍を持たないことは国民のコンセンサスとしても定着しており、再軍備の意思は国にも国民にもないこと、この平和憲法を世界に輸出したい旨の見解が述べられました。
 また、憲法における環境権の明記は、長い環境保護に対する努力の結果であることなどの意見が述べられました。
 続いて、議会事務局より、昨年の国民投票制の導入を例に、コスタリカ憲法の改正手続についての説明を受けました。
 同日午後は、最高裁判所を訪ねまして、ソラノ憲法法廷長と会談しました。コスタリカ最高裁判所は四つの法廷を有していますが、その一つである憲法法廷は、憲法裁判所としての権限を有し、一、法律の合憲性の判断、二、庇護申請、三、立法に関するコンサルティング、四、国の諸機関の権限の調整等、多岐にわたる任務を担っております。
 また、人身保護、人権擁護に関する護民官的役割を負っているため、扱う事件数は最高裁係属事件の八三%にも上ること、そして国民も身近な存在として深い信頼を寄せているとのことでありました。
 続いて、環境エネルギー省のロドリゲス大臣と会談いたしました。
 大臣は、コスタリカでは、憲法で環境権を定めて環境保護を積極的に図り、また実際に、生物多様性や熱帯雨林の保護等に努め、その環境保護の取組に対して世界から高い評価を受けている。その豊かで貴重な資源を持続可能な形で有効利用し、国立公園やエコシステムを整備するとともに、森林破壊を止めることにも成功したと言える。この環境保護を根付かせるために特に重要と心掛けているのは、市場原理を導入して経済的にもメリットあるものにし、森林所有者に森林を守る意義とメリットを知ってもらうことである旨を述べられました。また、環境権は権利と義務が表裏一体であり、常に責任を伴うことを強調されました。
 コスタリカはまだ開発途上国でありますが、これらの環境への取組は、我が国の今後の国際協力にも参考になる点が多いと思います。
 さらに続いて、選挙最高裁判所フォンセカ長官と会談いたしました。
 コスタリカでは、選挙最高裁判所を設置し、強い独立性と権限を与えて、選挙に対する国民の信頼を守っており、その大きな役割は第四権力と称されるほどであります。
 長官から、選挙最高裁判所は単なる選挙裁判所ではなく、選挙過程について、組織し、管理し、監視し、解決するという選挙についての独占的な権限を有し、コスタリカの民主主義を守る上で極めて大きな働きを担っている旨が述べられました。
 翌日は、常備軍のないコスタリカにあって治安維持の役割を担っている公安警察の実情を知るため、公安警察学校を訪問いたしました。
 公安といいましても、一般の刑事警察と独立しているわけではなく、通常の警察機構の名称が公安警察であり、ほかに軍に類似するような特殊な警察機構があるわけではありません。この警察学校にはコスタリカ全地域から生徒が集まり、警察官として必要な訓練を受けており、その訓練の一部も視察いたしました。私は、訓辞もさせていただきました。
 オバンド校長は、公安警察は主権を守ること及び国民を保護することの二つの役割を担っている。戦車や戦闘機はもちろん、軍に相当するような武器は一切なく、国境警備や森林パトロールにおいて、麻薬の密輸等を防ぐため、自動小銃やヘリコプターを備えている程度である。公安警察としても再軍備の意思は全くない。ニカラグアからの不法入国者の増大について、侵略ではなく経済的理由からと見ている。ただ、治安の悪化は我々が直面している課題であると述べられました。
 続いて、国家緊急事態委員会のモラレス委員長と会談いたしました。委員長からは、コスタリカでは、人的、自然的とを問わず、一切の緊急事態に対処するため、関係省庁がシステマチックに対応できる体制を整えており、その調整や基本計画作成に当たるのが国家緊急事態委員会である。コスタリカでは戦争はなく、また軍備もないため、自然災害や事故等の人為的災害の対処が中心になっているという旨の説明がありました。
 その夜は、国際開発事業団等、コスタリカで国際協力のために働く日本人の方々と懇談いたしまして、国際協力の重要性、現地での苦労などのお話を伺いました。
 六日になりましてニューヨークに移動いたしまして、七日午前、グラウンド・ゼロを視察いたしました。あの九・一一同時多発テロから二年、外観はさながら再開発の大きな工事現場のようでしたが、二周年も近いためでございましょうか、弔意に訪れるアメリカ人の姿も多く、改めてテロの残忍さ、その被害と傷跡の深さを実感いたしました。
 翌八日及び九日は、国際連合及び国連専門機関の一つである国連開発計画(UNDP)を訪れました。
 ちょっと飛ばさせていただきます。
 八日午前は、まず、アメリカ合衆国国連代表部カニングハム次席大使と会談いたしました。今回のイラク戦争においてアメリカ合衆国と国際連合とが対立し、国連の役割の一定の限界を指摘する声が我が国にもあったことから、国際的な平和・安全保障の構築における国際連合の位置付けと課題、PKO活動等に向けての努力、今後の国連改革等に関するアメリカ合衆国の立場をお伺いしようとしたものです。
 折しも、その前日、ブッシュ大統領からイラクの復興支援に関して国連に大きな役割を求める演説があり、安全保障理事会に決議案を提出するとのことから、大使との話題もその問題が中心になりました。
 大使は、米国は日本を国連における主要なパートナーとして位置付けてきたし、互いに共通する立場から幅広く国連の諸問題に対処してきた。米国は日本が安全保障理事会の常任理事国になることを支持している。昨日のブッシュ演説は、米国が今後もイラクの平和と安全を回復していくこと、また国際社会が一致団結してテロリストに付け込むすきを与えないようにすることを訴えるものであり、米国の政策変更ではなく、現実に起きている諸問題に応じた展開をしていこうというものである。北朝鮮問題については、米朝二国間だけではなく関係国と連携して対処したい。国連への財政的貢献は世界の平和と安全を確保するための良い投資であり、日本その他の国と協力しながら予算が賢明かつ有効に使用されるよう、していくようにしたいという旨が述べられました。
 その後、昼食を挟みまして、国連及び国連専門機関で働く日本人職員の方々と懇談会を行いました。国連での様々な経験を伺いながら、日本人職員の数、特に幹部職員の数が絶対的に少ないこと、我が国政府も努力しているが、語学力と専門知識の点で志望者の層が薄く、またキャリア途中で転職する者も多く、更なる応援が必要等の話がありました。
 午後は、国連で安全保障理事会を担当するプレンダガスト政務担当国連事務次長と会談いたしました。
 事務次長は、安保理の拡大については過去十年にわたって議論しているが依然として合意には至っていない、ただ日本が有力候補であることはどの国も認めている。テロや核拡散等の新たな課題について国連は集団的対応を取るべきと考えている。イラク問題について国連が重要な役割を果たすためには米国の政策変更が必要であり、軍事力の拡大のみで対処できるとは思わない。米英はイラクの主権回復、憲法制定のプロセス・方向性をイラク人にきちんと明示すべき旨を述べました。
 その後、フレシェット国連副事務総長と会談いたしました。副事務総長ポストは、一九九七年末の総会で新たに設けることが決議され、フレシェット氏はその初代として就任した女性の方でございます。
 副事務総長は、国連の評価について国によって分かれるのは確かであるが、すべての責任を国連に負わせるのは問題がある。国連は加盟国の組織であり、それ以上のものではないからであって、重要なのは加盟国が結束を重視していくことである。国連改革については、今次総会でもミレニアム宣言及びそれに基づく今月提出の事務総長報告をベースに議論されるだろう。イラク問題に関する米国の新決議案について、安保理理事国の多くが国連としての結束について議論する用意ができている。イラクでの国連の最大の目標はイラク人の主権回復であるが、そのプロセスの合意はまだできていないと述べられました。
 翌日は、国連開発計画(UNDP)マロック=ブラウン総裁と会談いたしました。また、西本政務局長にも御同席いただいて話を伺いました。
 同総裁は、日本は財政面での貢献だけでなく、UNDPには二名の事務次長補を始め日本人職員も多い、日本国憲法が示す平和、発展、人道的観点からの安全保障はUNDPでも高い価値として評価されている、世界には貧困等の多くの問題があり、今後とも日本に期待するところは大きいと述べました。
 また、西本局長は、若手を中心に日本人職員数は増えているが意思決定過程に関与できる幹部職員の数はまだまだ少なく、高いポストであればあるほど本国政府のバックアップが必要、現在世界には紛争中又は紛争中に近い状態の国が四十か国を超えており、紛争に関連する支援に力を入れていると述べました。
 国連及び国連関係機関の環境・貧困・健康・教育等、人間の生存とその権利に果たしている役割は極めて大きいものがあり、我が国が唱える人間の安全保障の観点からも極めて重要であることから、今後とも多くの日本人職員が進出していくことを願ってやみません。
 午後は、ゲーノPKO局長と会談いたしました。
 同局長は、PKOは万能ではなく、成功するための条件として、一、紛争当事者間に停戦合意があること、二、様々な状況・課題に対応し得る部隊の派遣であることの二点が挙げられるといたしまして、この観点からDDR(武装解除、動員解除、社会復帰)は極めて重要であり、単純に部隊を派遣するだけでなく、人道的な支援活動を含め、文民による統治へ戻すための包括的な戦略を構築することが必要とされていると。国連そのものが暫定政府を構成したのは東チモールとコソボの二つだけであるが、シエラレオネ、コンゴ、リベリアなど弱い現政権を様々な場面で支援することは復興において極めて重要な意味を持つ。イラクについては様々な困難が予想されるが、透明性の高い包括的なプロセスを樹立することが長期的な平和構築のための最良の道である。いずれにしても、PKOは、国際環境の変化を反映して、軍事部門と非軍事部門が互いに協力し、統合された戦略の下で実施されることが重要である旨を述べられました。
 ちょっと飛ばします。
 その後、日本人として軍縮担当国連事務次長の要職にある阿部次長と会談いたしました。
 阿部次長からは、国連にとって軍縮は重要な柱であるはずだが、残念ながら現在は優先課題とされていないと言わざるを得ない。実際、軍縮局の専門職員は約四十名、巨大な国連事務局機構の中では小さな部局にすぎない。冷戦崩壊後に平和が訪れるという安心感から軍縮に対する関心が失われたこと、一方で、最近の動向からテロや大量破壊兵器への対応策に関心が移っており、軍縮は向かい風の時代にあると考えている。その打開のためには、草の根の市民レベルでの取組、軍縮に関する意識の共有、特に教育が重要である。国連憲章には内政不干渉の原則があるが、時代とともに干渉の解釈も変遷しており、大量破壊兵器もその一つである。個別の軍縮案件として、化学兵器禁止条約は査察制度もきちんとしており、隠れて廃棄処理しようとしても原子が残り発見することができるが、他方、生物兵器は遺伝子なので熱処理や塩素処理すると何であったか分からないことになるためどう査察できるか難しい問題である。北朝鮮の核保有は軍縮の観点からは核不拡散の問題に入る。安保理が決めれば国連として乗り出す。日本は地雷問題や日本が提案して成立した通常兵器の登録制度など、率先して軍縮の個別問題にも取り組んでいるなどの説明がありました。
 なお、日本人職員の増強については、各国とも自国の職員を採用してもらえるよう強力に押しているわけでございまして、職員募集は原則全部公表しコンピューターで管理して透明性を高めている。日本人職員が増加しない背景に、明石元次長など第一世代は定年退職し、それに続く第二世代は経済成長等の影響で途中退職する者が多く層が薄いということがある。今後、帰国子女等が増加し競争に参加できるようになれば期待できると思うという話がありました。
 同日夕刻、カナダ・オタワに移動しました。
 カナダ憲法は、一八六七年憲法、その修正法及び一九八二年憲法から成り立っております。一八六七年憲法は、英国型の統治機構と連邦制を定めておりますが、一般的な人権保障規定は存在せず、またこの改正権も英国議会にあったため、一九八二年に、新たに権利と自由の章典を置くとともに、憲法制定権を英国から移管するなどして、全体を再構成した一九八二年憲法を制定したものでありました。ただ、英国国王がカナダの国家元首であり、その代理として総督が置かれているという点は変わっておりません。
 十日午前は、カナダ上院を訪れ、ロバート上院事務総長補から説明を受けました。
 事務総長補は、カナダ憲法について、一八六七年憲法が制定された当時は国自体も政府の役割も小さかったが、その後の時代の変遷、社会の複雑化に伴って連邦、州ともに政府の役割が拡大し、これを反映し、かつ基本的人権を明確にした権利と自由の章典である一九八二年憲法が成立した。カナダ議会は二院制であるが、上院が任命制であることから両院のダイナミックな関係が余り知られていないのは残念である、しかし、上院の承認なくして法案は成立できないなど上院は下院とほぼ同等の権限を有するとともに、第二院としての補完的機能もよく果たしている。上院を任命制にしたのは、母国英国の議会を模範としておるわけでございますが、上院を公選制にすると下院及び議院内閣制を弱めかねないという思想によるものであるという説明がありました。上院議員数は百五名で、カナダの元首・英国女王の代理人である総督によって任命され、定年である七十五歳まで務めることができます。任命に際してカナダを四つの地域に分け(東部・沿海、ケベック、オンタリオ、西部)そのそれぞれに分布した形で議席を配分しておりまして、その中で裕福で社会的影響力のある人が選ばれやすい、上院改革として州代表にすべきとの意見もあるが、国・連邦の制度や政府の在り方を大幅に変えることになるため多数意見には至っていない。余り注目されていないが、上院の特色として下院に比べより政党から独立している点が挙げられる、確かに任命のときは与党側から選ばれることが多いが、だんだん政府の立場から独立的になっていく傾向があるからであるというような話がありました。
 同日午後は、最高裁判所を訪れ、まずマクラクラン長官を表敬いたしました。同長官は、世界でもまだ珍しい女性の最高裁判所長官であり、日本の司法制度改革についても大きな興味を持っていると述べられました。
 最高裁判所の具体的な説明は、バスタラシェ判事から受けました。一九八二年憲法の制定目的は、一、それまで英国議会で決められていたカナダ憲法をカナダ議会で決めることによってカナダ化すること、二、憲法改正権を完全にカナダに移してカナダ各州の意向も反映できるようにすること、三、法律レベルではなく憲法として基本的人権を保障することにあった。包括的に基本的人権を保障した第一章権利と自由の章典は、議会、政府、裁判所、州すべてに大きな影響を与えている。裁判所は訴訟を通して法規に憲法に反する内容がないか解釈、判断する。同憲法の条文は州により基本的人権適用の違いを認めているように見えるが、それは誤解であって、だれにでも公平に適用される。州も憲法を制定しているから州により保障される権利もあるが、その最終的解釈はすべてこの最高裁判所が行う。同憲法制定当初は従来の法律でこれに合致していないものが多数あったため非常に多くの違憲訴訟があったが、現在は落ち着いている。基本的人権における平等原則については、米国と異なり、個人のみならず言語や宗教など集団の権利としても見ているのが特徴である。カナダはマイノリティーの権利保護にも力を入れているが、差別的な法律を違憲とし又は適用制限することによって、更に能動的な差別是正措置によって実現している旨が述べられました。
 続いて、カナダ国防省でPKOを担当している国際安全保障局を訪れました。カナダは、世界の中でも最も早く積極的に国連PKOに参加した国であり、また世界唯一の国連PKO訓練センターとしてピアソン・PKOセンターを設置し便宜を図るなど、そのPKO活動への熱心な取組は世界的にも大きく注目されているところであります。
 ロバーソン局長及びそのスタッフであるキーラー氏から、カナダのPKOについて説明を受けました。PKOは、カナダ人にとって身近な存在であり歴史的にもその初期から深く関与している。PKOのルーツは外交政策であり、より安定した世界の枠組みを目指して一国ではなく多国間で行うこと及び国連は重要だがすべてではないというポリシーの下に進められている。現在はカナダ軍六万名のうち三千七百名を海外に出しており、それは国連指揮下の派兵と国連からの委任を受けた多国籍軍への参加とに分けられる。特に、冷戦崩壊後、世界各地で地域紛争が頻発し紛争の形態も多様化していて、アフガニスタンやコソボのように国連だけでは対応し切れないものがあり、軍と文民を併せて派遣するなど、より複雑な形での派遣が増えている。PKOを決定するに際しては、一九九四年国防省の定めたガイドラインに従って、透明性、確実性を期するようにしている。ガイドラインは戦闘状況にあっては必ずしも役立つものではないが、重要なのは一つの共通した枠組みであり、それを基に政府内で議論できることであるとの見解でした。
 翌日午前は、重要インフラ防御・緊急事態対応庁を訪問しました。カナダは、きめ細かく緊急・非常事態に備えた各種対処法を制定するとともに、重要インフラ防御・緊急事態対応庁を設置して、充実し入念な制度作りを行っています。
 フィリップス対外局長及びソシエ同局戦略担当課長は、同庁は国防省の一機関であるが、現場に急行するのではなく緊急・非常事態に備えた体制作り・調整・援助等を行うことを主たる目的としており、またこれらの準備は民間等との連携も必要なため文民だけで組織されている。対象は、サイバー面を含むインフラ、山火事・地震等の天災、テロや化学工場事故等の人災、人・家畜・農作物の伝染病・疫病等幅広い。ただし侵略戦争に対処するのは軍である。米国の連邦緊急事態管理庁(FEMA)との相違についてこちらがお尋ねしましたので、その相違については、カナダでは現場における対応能力はなく、また一次的には州が対応するという点で異なっているということでありました。人権の保護とのバランスを考えなければならないことは十分承知しており、権限が与えられる場合を限定するとともに、期限も設ける、権限を付与する議会の権限にも制限があるなどの形で調整しているとのことでありました。
 引き続いて、午後は、キングストン市にあるカナダ政府PKO訓練センターを視察いたしました。
 説明に当たったボアソナール副所長は、このセンターは派遣前にPKOの特性に応じた事前訓練を行うことを目的としており、一九九六年に設置され、これまで約五千人が受講し修了している。紛争の形態は特に九〇年以降多様化しており、善意だけで割り切れるものではなくなった。したがって、派遣地がどのようなところか、そこで何が起きているのか等の背景情報をしっかり教え込むことが特に重要になっている。特に人種、宗教を問わず、人はだれもが同じ権利を持っているとの認識が重要である。もちろん、PKOに必要な救急医療や武器の使用方法のほか、地雷の知識、捕虜になった場合の対処、ストレス管理等も教えている。国連やピアソン・センターとも連絡を取り合い、世界水準の内容を目指していると述べられました。
 また、紛争地でよく用いられるカラシニコフ銃などの武器の安全な解除方法、地雷原の見分け方の訓練方法等も視察いたしましたが、実践的で合理的なPKOに対する考え方に感銘いたしました。
 以上が報告でありますが、今回の調査におきましては、数多くの要職にある方々と親しく意見を交換することができました。多忙の中、快く会談に応じていただいた方々、また仲介の労をお取りいただいた在外公館等の関係者の皆様に改めて感謝申し上げます。
 報告書は既に議院運営委員会会議録に掲載されていますが、このほかに、別途、詳細な冊子を作成し、配付いたしますので、ごらんいただきたいと思います。
 以上、御報告申し上げます。
 ありがとうございました。(拍手)
○会長(上杉光弘君) ありがとうございました。
 引き続き、他の派遣議員の方々から御発言いただきたいと存じます。本田良一君。
○本田良一君 本田良一です。
 私は民主党の憲法調査会のメンバーではございませんでしたけれども、党の方から、ほかの方の希望がなかったのか何か知りませんが、私が行くようになりましたので、報告をいたします。
 しかし、本当に私は有意義な、市川団長とともに、また他の政党の皆さんとともにすばらしい経験を、また考え方を与えていただいたと感謝をしております。
 まず、議事録に大体ありますから、その点は省略をして、感想を述べさせていただきます。
 まず、コスタリカ。
 これは私どもは、私は特に過去社会党の政治家でございましたので、非常にある面関心がありました。ところが、行ってみましたら、まずチンチージャさんが、政治家としてこの憲法を輸出をしたいと、こういうことを言われました。だから、政治家だから、そういう憲法の下にあるコスタリカとしては当然そういう理念で言われるだろうと。しかし、その理念の定着がどういうものか。これが非常に関心がありましたから、オバンド警察長官、現場に行きまして驚いたのは、この方が非常に信念を持ってこの憲法を推進をしている、このことに関心を持ちました。
 それで、特にこの中で、三十一ページで私が聞いた中と、それから、三十三ページにありますが、猪又大使がイデオロギーというのを使っておりますが、難民とかそういう人たちが富めるコスタリカを目指して、この貧しき国の周辺が攻撃をしないか、そういうことを聞きましたら、決してそれはないと。
 それから、あくまでも、犯罪者であってもコスタリカとしては受け入れる、しかしその基本はイデオロギーを持っていないことだということを強調をしました。
 それで、私は、これ、朝日新聞の、その後日、帰国しまして、この取材がありましたからここでも答えましたが、それでは、本田さんは社会党だったのに、なぜ、その社会党が言う護憲が、憲法のこの護憲の理論が国民に浸透をして政権を取れなかったのかと、こう聞かれましたから、私は、社会党、旧社会党はイデオロギーを持って、これを前面に出し過ぎたために、国民からの理解が得られずに政権を取ることができなかったと、こういうことを言いました。これは、私は信念でもありましたからそういうふうに言ったんですが、私の考えと、ここで、コスタリカで得たイデオロギーの考え方はある面一致していたなと、こう思いまして、そういうふうな報道に対する取材で答えております。
 それから、国連に行きまして、国連の中で聞きましたのは、特に安全なところが今のイラクにはあるかということを聞きました。ところが、安全なところがあったら私どもが教えてもらいたいと、こういう言葉が返ってきました。これには非常に私も納得をするとともに、確かにそうだろうと。
 それからもう一つ、この中で私がこういうことを聞いたわけですね。六十七ページに、私は、国が崩壊を、戦争とかそういうことで崩壊をしたときに、イラクには中心的な人物、その崩壊をした後復興をしていくために中心的な人物がいないようだと。日本には天皇がいたし、あるいはカンボジアにはシアヌーク殿下がいたし、アフガニスタンではカイザル、それから前の国王がいたし、東チモールではグスマンがいたし、これには書いておりませんが、もう一つは、南アフリカではマンデラがいたと。そういう中心的な人物がいたんだが、イラクでいないのに、国連、イラクの復興が非常に障害となってはいないかと、こう聞きましたら、正にそのとおりであって、そのことが残念だと。その中で、特にフセイン政権を支えていたバース党、このバース党を余りにも早く追い散らし過ぎたと、こういう面もなきにしもあらずだという答えが返ってきたことですね。これにちょっと私も驚き、なるほどと思いました。
 それから、PKOで、このカナダ軍のPKOの訓練所、この訓練所は非常にやっぱりすばらしいと。今、団長の報告の中で、それぞれ地雷の見方とか、こうありましたが、例えば、機関銃が少し壊れて放置されている、その機関銃に何げなくビニールが巻き付いている、それを取ればそれが爆発するということですね。だから、そういうふうなことが、非常にいろいろな経験の中から、そういう爆発物の見分け方とか、そういうのは様々ありましたね。
 それで、私はここで聞いたのは、このPKOの訓練を、軍隊であってもカナダでは一般人も訓練をしてこのPKO参加の国にやっていると。PKOといえばそういう紛争国に派遣していると。だから、日本でもこういう訓練所があって、一般の人やジャーナリストや、この間、毎日新聞が爆弾で、を拾ってくるようなことがないような、いわゆるジャーナリスト、官僚、一般の人、それからNPO、そういう人たちもこういう日本の、やっぱり訓練の場所でやった後で、そういうそれぞれ行ってもらうと。そういうことが常時恒久化することが重要だなと思いました。
 それからもう一つ、九十五ページにありますが、この緊急事態の中で、日本は過去の戦争も、これは団長と行く前から話しておったんですが、例えばWTOの農業交渉にしたって、過去の日本軍にしたって、撤退という言葉が日本にはないですね。しかし、このカナダのPKOには必ず撤退を、いつ撤退するという理念をちゃんと盛り込んでそれを指導していると。だから、ここに書いてありますから読んでいただきますと、この撤退の理論というのをぴしゃっと書いて明記しておりますね。だから、この撤退ということをこれからの重要な一つの位置付けにしなければならないということを感じました。
 以上です。
○会長(上杉光弘君) 次に、小泉親司君。
○小泉親司君 私は、憲法調査会の代表として、コスタリカ、国連、カナダへの海外派遣に参加させていただきました。既に団長から口頭の基本的な御報告がございましたので、私は、私自身の感想的な意見を述べて発言とさせていただきたいと思います。
 まず第一は、コスタリカの経験でありますが、私はコスタリカへ行きまして、コスタリカの憲法がコスタリカ国民の生活の隅々に大変強く生かされているということを痛感をいたしました。
 コスタリカは、皆さんも御承知のとおり、憲法十二条で常備軍は持たないと、侵略行為があった場合については他国との集団防衛とともに軍備を保持するということを明記しております。
 私は、モラレス国家緊急事態委員会委員長に、じゃ、もし緊急事態の場合に軍隊を保有するということになったときに、どういうふうな権限でだれがどのように組織するのかということを質問いたしました。そのときに委員長は、もう一度軍を構成するためには憲法制定議会を作ってそこで行わなければならない、今の憲法では軍隊を再編することはできない、もし国の安全保障が脅かされた場合、コスタリカは米州機構に助けを求め、米州機構を通じて国連の助けをかりることになるということを語っておりました。
 それから、国会議員との懇談では、先ほども本田委員からもお話がありましたように、国際関係委員の元公安大臣のチンチージャ議員、女性の方ですが、大変理論的な方で、私がコスタリカが六十回も憲法改正をやっているのになぜ十二条は改正しないのかというところを尋ねたところ、同議員は、国民は憲法十二条を支持している、そればかりかそのコンセプトが国民の中に根付いているんだと。軍備の廃止によってその費用を国民の他の部門に利用できるようになった、その結果、コスタリカは中米の中では経済的に安定した国になっているということを語っていたことが私は大変印象的でありました。
 この立場は、私は、国会議員の、政治家だけかなというふうに思っておりましたが、それだけじゃなくて、実際に治安警察を担当している警察においても徹底していると。私どもが敵国から守るには武力が必要ではないかと幾ら質問しても、オバンド警察学校長は、敵というのは、攻撃を受けるかもしれないという国と、いわゆる二つの立場があるんだと、よって、コスタリカは決して戦争をしないと言っているんだから、一方の立場が成り立たなくなれば当然戦争ということができないんだというような極めて積極的な中立宣言の立場を表明したことに、私は非常にこの国の憲法に基づく方針が警察部隊にも徹底しているなということを強く感じました。
 コスタリカのこの立場は、憲法十二条ばかりじゃなくて、国民主権を徹底させるという点でも大変優れたものがあると思います。
 最高裁判所の憲法法廷長と会見をいたしましたが、法廷長は、国民が憲法に明記されている教育を受ける権利、健康に過ごす権利、労働の権利、そして国際法の権利に基づく権利が侵害された場合については庇護申請というのがあるんだと。
 この庇護申請というのはどういうことかといいますと、二十四時間、最高裁判所の玄関先に庇護申請を受け付ける場所がありまして、そこで労働基本権を侵されたということを訴えると、すぐに直ちに最高裁判所が動けるようになっていると。この点は、例えば読み書きができない方についても、当然のこととして、その代理人が直ちにこの申請を受け付けられるような、非常に優れた制度が私はできているのがこの点でも印象的でありました。私は、二年、失礼、一年前だったかな、にスペインにも行かせていただきましたが、スペインでは護民官という制度がありましたが、同じような大変積極的な制度で、この点も私はコスタリカの憲法を見る上でも大変重要かなというふうに思いました。
 以上のように、コスタリカでの活動の印象は、憲法で明記された理想を議員や行政官や国民がこぞって具体化を進めているという事実でありまして、やはり憲法を暮らしの中に生かしているという点で大変私は感動を受けました。
 二つ目にお話ししたい問題は、国連で特に日本がより積極的な活動を行う重要性があるということであります。
 国連の調査では、ちょうど八月の下旬にイラクの国連事務所が攻撃されまして、御承知のとおりデメロ代表が亡くなり、ちょうど国連が国連中心の復興計画に切り替える努力を開始した下で調査が行われたというので、大変タイムリーだったというふうに思います。
 国連ではアメリカが提案した国連決議が大変問題になっておりまして、イラク戦争で傷付いた国連の権威をどうやって取り戻すかという点で、国連の大変な事務当局を始め多くの国々が大変頑張っている姿を大変かいま見ることができました。
 先ほども団長からもお話がありましたように、昼に、国連で働く日本人の職員の方々と昼食懇談をする場を持たせていただきました。これらの方々が異口同音に語っていたのは、やはり日本が国連においてもっと大きな影響力を持つべきなんだと。例えば、もっとトップの機関を日本人が持って、より日本の国連中心の外交と言われているものがより具体化できるようなことを実践すべきだということが強調されたと、このことをやはり特筆すべきなんじゃないかというふうに思います。確かに外務省の資料を見ましても、国連の日本人職員は、国連本部では要請される人員に比べて四三%、ユネスコが六二・七%、WHOが二八・三%という状況でありますので、これは単なる職員の数という問題にとどまらないで、日本が国際社会の中でこれからどういう重要な役割を果たしていけるかという指標でもあると思いますので、これらの点の改善を進める必要性を大変実感をいたしました。
 コスタリカ、国連とともにカナダにも参りましたが、包括的には調査団長の報告にゆだねたいというふうに思います。
 以上で報告に関する発言といたしたいと思います。どうもありがとうございました。
○会長(上杉光弘君) ありがとうございました。
 大脇雅子君。
○大脇雅子君 私も、四人の、ほかの三人の方々と本当に実のある視察ができたことをとても幸せだと思いました。
 コスタリカというのは地球の裏側にあって、私たちのように戦争放棄条項は持たないけれども、常備軍を持たないという憲法を持っている国であります。そうした中で、先ほども他の議員の方がおっしゃったように、我々の憲法を世界に輸出したいんだと、知らしめたいんだというチンチージャ議員の言葉とか、あるいは警察学校長の常備軍のないことこそ最大の防衛なのであるという言葉をじかに聞きますと、正にそうした平和の、常備軍を持たないという憲法が実践され、生活と政治の原理として国のコンセプトにしっかりとなっているということに私は感動しました。その平穏な生活、そして憲法に対する誇り、そしてそこで維持されている平和というのは、私は実際文章で読むよりも正に目で見てそれを痛感いたしました。
 とりわけ、私は、コスタリカには、先ほど小泉議員がおっしゃいましたように、憲法法廷という、二十四時間ファクスでも電話でも何でも受け付けて弁護士も何も要らない憲法に基づく庇護申請という、国民の生活と憲法との関係の異議申立て制度というものがあることを思いまして、ああ、私どもで憲法を生かすと言いながらこうした制度やシステムを作ってこなかったということを残念なこととして反省をいたしました。
 そして、コスタリカの憲法は亡命者をすべて受け入れるということが憲法上明記されておりまして、実は、これはリオ条約の米州機構や多国間の条約、それから国連における平和外交と相まってコスタリカの存在というものを安定させているのではないかというふうに思いました。
 それから、今議論中だったのですが、市民の五%が発案権を持つことによって法律を制定したり憲法を改正したりするというシステムが議論されておりまして、やはり立法というのは私は市民のイニシアチブでどう動かしていくかということが民主主義の制度の中で大事だというふうに思っておりましたので、このシステムについて大変大きな興味を持って帰りました。まだこれは議論中のことでございます。
 そして、団長が警察学校で講演というか演説をされましたが、私は大変感動いたしました。
 そしてそれから、私どもはニューヨークへ、カナダは行ったんですけれども、すべて国連大使始め、なぜ視察団がコスタリカに行ったのかとお尋ねになるのであります。コーヒーがおいしいからでしょうか、あるいはカメが卵を産むという有名な地域だからでしょうかということで、コスタリカが国連で軍縮外交を展開をし、なおかつ軍備、常備軍を持たない国であるということをそのトップの外交官が御存じでないということに私はショックを受けました。阿部軍縮大使はもちろん御存じでございましたが、それ以外の人はもうカナダに至るまで、防衛庁から出てきている武官も含めて、もうなぞなぞで全然解けなかったということで、私は、やはり日本の外交というのは結構アメリカ向きというか大国主義だなということを肌で痛感して帰りました。
 カナダでは、ポジティブアクションなど、マイノリティーの政策というのが世界で最も進んでおるところでございまして、人権もそうしたマイノリティーのグループとして重視されているという特徴を質問をして深く理解いたしました。
 そして、PKOの研修センターで一番感銘を受けましたのは、PKO研修センターでの訓練、危険の訓練のほかに教えていることは、その派遣地の人たちのために、人はだれでも同じように人権があるんだと、そして文化や伝統についてきっちりと研修を受けて危機対応をしっかり勉強して派遣されていると。軍隊と違って、またPKOのそうした訓練というものが恒常的であり、そこを経ないと派遣しないというこの徹底ぶりに学ぶものがあって帰りました。
 以上です。
○会長(上杉光弘君) 以上で海外派遣議員の報告は終了いたしました。
 これより、ただいまの海外派遣議員の報告を踏まえ、委員相互間の意見交換を行いたいと存じます。
 まず、各会派を一巡してそれぞれ五分程度御意見をお述べいただきたいと存じます。
 それでは、御意見のある方は順次御発言願います。吉田博美君。
○吉田博美君 自由民主党の吉田博美でございます。私から発言をさせていただきます。
 参議院憲法調査会では、現在、憲法における最重要課題の一つである平和主義と安全保障のテーマに精力的に取り組んでおるところでございますが、今回の派遣でコスタリカ、国連、カナダと、このテーマに関連の深い国あるいは国際機関を視察されましたことは誠に時宜を得たものではないかと思うところでございます。
 そこで、私は二点について団長にお伺いしたいと思います。
 まず、コスタリカと安全保障の関係についてでございますが、コスタリカは軍隊のない国として我が国でも有名でございますが、参考資料のコスタリカ議会チンチージャ委員の発言によりますと、米州相互援助条約があることによって第十二条が改正されることなく存続し続けていると私は考えているということでございますが、コスタリカの領土がニカラグアから侵略を受けた際、コスタリカ国内で軍隊を作るのではなく米州機構に助けを求め、すぐに反応があったと。それによって第十二条が今も改正されることなく継続しているとのことでありますが、コスタリカの軍隊を廃止した憲法規定は日本国憲法第九条と共通するところが多いと思いますが、憲法九条も、日米安全保障条約があることにより憲法九条もそのまま存続できたと思うのですが、団長の御感想はいかがでしょうか。
 二点についてお伺いしますから。
 参議院憲法調査会において平和主義と安全保障と並んで重要な課題が、二院制あるいは参議院の在り方という問題であります。
 カナダの上院におきまして、その特色の一つとして上院議員の方が下院議員より政党から独立しているということが述べられています。また、上院には独自の議会文化があり、そのために下院をよりよく補完をしているとも述べられております。私も、国会におきまして参議院が独自性を保ちそれを発揮してこそ参議院の意義であるチェック・アンド・バランスの機能をよりよく発揮できると思いますが、いかがでしょうか。
 二点でございます。
○市川一朗君 まず最初の部分でございますが、同行した委員からもいろいろ感想の中でお話がございましたが、私もコスタリカに関しましては、初めに予期していた以上にコスタリカという国あるいは国民の皆さんが、コスタリカの平和主義とか安全保障の在り方について、コスタリカ方式と言っていいんでしょうか、非常によく考え、そして実行しているなということを感じました。全く、先ほどもお話ございましたように、最初チンチージャ議員からの話のときはあの方はプロかなと思って聞いたんですが、公安警察の学校長、警察学校長に会ってもより強い意向がございまして、ニカラグアから侵略されるおそれはないのかと、そういう国から侵略されるおそれはないのかと再三再四みんなが聞いたんですが、いろいろ見るところ、自分としては、むしろあの連中は最後の亡命先としてコスタリカを考えているんじゃないかと、だからコスタリカは侵略されることはないというようなところまで、我々が何回も聞いたからでございましょうが言い切っておりまして、私はそういう考え方に理解できるなと思いましたので、コスタリカはコスタリカなりによく考えているから、コスタリカの平和と安全保障に関してはそういう考え方でいかれたらどうですかと、この体制で頑張りなさいというようなことを、訓辞を求められましたので生徒さんに申し上げたところ、大脇先生から感動したという感想をいただきまして恐縮に存じているところでございます。
 ただ、朝日新聞の取材を受けたときに申し上げたんですが、私は、それはやはり日本の場合にコスタリカ方式が当てはまるとは思えないと。選挙制度もコスタリカ方式と称しておりますが、実はコスタリカにああいう制度はございませんで、コスタリカらしい部分が若干あるんですが、再選禁止なんですね。だから、次は出れないというところでコスタリカ方式が日本でも適用されておりますが、やはりコスタリカの考え方を、この日本のような経済大国であり、そして貿易立国であり、そしてアジアの現状なり、いろんなことを考えますと、やはりそれは非常に難しいと。日本には日本なりの考え方で対処せざるを得ないのではないかということを、また改めて深くそういう確認をして帰ってきたところでございます。
 それから、二院制の問題についてのお話でございますが、これはやはり、詳しく実態を調べたわけじゃなくて事務局の方からお聞きしましたので、議会そのものを傍聴できればもっとよかったんですが、かなり専門的な立場の議員が多くて、そして独立性の強い、議員としての存在感を持った御発言をする議員が多いのが上院であるという印象は私も強く受けました。
 これを日本にどういうふうに当てはめられるかということで考えてみますと、やはり行き着くところは、カナダは上院は任命制なんですね。日本は公選制を取っていると。この任命制であるカナダの上院の特徴と、公選制である日本の上院である参議院議員との在り方といったようなことでは、やはり基本的に異なる部分ございますので、いずれにいたしましても、私はこの憲法調査会、参議院の憲法調査会が二院制の在り方についてしっかりとした見解を述べる、まとめることが極めて重要であると確信しておりますので、どうぞ皆さんよろしくお願いしたいと思う次第でございます。
○会長(上杉光弘君) ありがとうございました。
 じゃ、吉田さん、いいですね。
○吉田博美君 はい。
○会長(上杉光弘君) 次に、若林秀樹君。
○若林秀樹君 民主党の若林でございます。
 まず、このたびのイラクの二人の日本人外交官の殺害、訃報に接し、本当に心からお悔やみ申し上げたいというふうに思います。奥参事官、井ノ上書記官、正に日本外交の最前線で頑張られた人であります。非常に残念であり、憤りを禁じ得ません。
 国際社会の平和と安定にどう貢献していくのか、その国際社会の在り方を規定するこの憲法ですが、その憲法の在り方をこれから議論するわけで、改めて、その重要性というんでしょうか、気を引き締めてここで頑張っていきたいなという思いで一杯でございます。
 その上で、三点について感想を申し上げたいというふうに思います。
 まず、コスタリカの憲法でございますが、先ほど来話題になっている恒久的な軍隊の禁止それから非武装中立ということで、正に一九四九年というこの冷戦の真っただ中の始まりだったと思いますが、このような先進的な考えでの憲法を導入したということを非常に驚いております。
 それ以上にびっくりしたのは、ずっとこの間、五十年以上それを守り続けてきたということであります。私は、それはやはり憲法の効果もありますけれども、やっぱり政治的な安定があったんではないかなというふうに思います。
 なぜそういうふうに思ったのかは、実は今年、私、ニカラグアへ訪問いたしまして、コスタリカのすぐ上で、先ほど来話が出ていた場所ですけれども、ここは、七九年だったと思いますけれども、内乱が起きて、勃発して、正に七〇年代は本当に国家予算の七〇%を軍事に使っていたという国であります。そういう意味で、やはりこの当時、七〇年代の半ばは、ニカラグアというのはすごい経済大国だったんですね。結果的には、民生にお金が使えず、社会は混乱した結果今日に至って、今ではハイチに次ぐ最貧国になりました。
 そういう意味では、どんなにいい憲法も絵にかいたもちであってはいけないんですが、そういう意味では、政治的な安定、統治能力というものが非常に併せて重要だなということを御報告を聞いて感じたところであります。
 そして二番目に、国連とある意味での日本との関係、アメリカとの対立の問題であります。
 日本国憲法が掲げる平和主義、国際協調主義というのは、正にこの国連の制定、国連憲章との非常にかかわり合いがあるという意味で、我が国が外交の基軸が国連を中心に置くというのは、非常に意義あることではないかなというふうに思っております。
 報告の中で、副事務総長が、国連は加盟国の組織でありそれ以上のものではないという発言がありました。非常にこれは、私はこれは重いと思います。生かすも殺すも加盟国次第であるという意味において常任理事国の責任は非常に大きいわけですし、とりわけやはりナンバーワンの拠出国のアメリカの責任は私は大きいと思います。その拠出国二番目である日本がやっぱり協調して、特にアメリカが常任理事国としてここの国連を生かしていく立場で働いてもらうということを日本が働き掛けるというのも重要ではないかと、そんなことを感じたところであります。
 そして最後に、三点目ですが、やはりカナダにおける二院制の在り方に非常に興味を持ちました。連邦国家であるということはもちろんありますが、任命制であり、人口比ではなく地域ごとに割り当てているこの人数比等々ありましたが、興味を引いたのは、下院に比べ政党から独立している点でありまして、時間がたつにつれて政府の立場から独立的になっていくという傾向があるという報告がありました。
 私は、やはりこの中で、特に議案が上院を通過できなくても政権が倒れることはないとか、上院の修正がまた下院で修正されて議決していくというような、このような議会文化、上院文化というのは、私は非常に参考になる点があるんではないかなというふうに思います。
 先ほど団長がおっしゃられたように、正にこの二院制の在り方を議論するというのは、ここの参議院の憲法調査会が非常にある意味での独自課題として重要性を帯びているんではないかなというふうに思いますので、是非とも来年は、参議院、二院制の在り方について積極的に議論にかかわっていきたいと思います。
 以上です。
○会長(上杉光弘君) ありがとうございました。質問はありませんね、団長に。
 魚住裕一郎君。
○魚住裕一郎君 公明党の魚住裕一郎でございます。
 参議院の憲法調査会が平和主義と安全保障のテーマに取り組んでいる最中でございますが、関係の深い国や国際機関を調査されたことは正に時宜にかなったものというふうに考えます。
 二、三感想と、また質問をさせていただきたいと思いますが、国連とまずイラクの問題でございますが、先般、日本人外交官が殺害されるという悲惨な事件がございました。心からお悔やみ申し上げるものでございますが、このようにイラク情勢は一層混迷を増しているというふうに思います。
 今、団長報告を聞き、また参考資料のインタビューを拝見いたしますと、国連における調査ではこのイラク問題が大きなポイントであったように思われます。この九月時点でもかなり国連側の憂慮が感じられる発言がありましたが、残念ながら、それから三か月後、事態は好転していないというふうに言わざるを得ません。ただ、国連側も、イラク情勢打開のための役割をしっかり担おうというような、積極的になったなというふうに思います。
 例えば、フレシェット副事務総長、国連の最大の目標はイラクの主権回復であり、加盟国の一致した意見でもあると。問題はどのようなプロセスによるのが一番良いか、このような御発言があったというふうにございましたし、またプレンダガスト安全保障担当事務次長も、重要なのはイラク人が何を望んでいるかであるというような意見も述べられております。
 私も、イラクの復興支援につきましては、国連が明確な役割を担い、また各国が協力をしていくということが大事ではないかと考える一人でございますが、実際に国連でお話を聞かれた御感想というものは、団長で結構でございますが、市川先生、どのような御感想だったでしょうか。これが一点目です。
 二点目はカナダの関係でございますが、私は、日本は二十一世紀、人権大国を目指すべきであるというふうに考えておりましたし、また、議論に参加をさせていただいておりましたが、カナダにおいては一九八二年の憲法で権利章典が明確になったといいますか、制定されたと聞いて、ある意味ではびっくりをしているものでございますが、特に、この調査の中で、最高裁判事のコメントとして、平等の権利についてございました。この平等については、アメリカは個人の権利として見ているが、平等は個人のみならず集団の権利でもあるというようなことで、この集団の権利として宗教上の教育とか言語とか先住民についてのものがあるというようなお話だということでございます。
 元々、人権というのは少数派のためにあるわけでありますが、このマイノリティーの人権確保という点について、個々人のみではなくて、個々人の集合体である団体といいますか、そういうものにも人権の主体性を認めていくということが大事ではないかなというふうに感ずるものでございます。弁護士でもある大脇先生にその点について御感想があればお伺いをしたいと思っております。
 あと一点、感想でございますが、この憲法を論ずる際に、例えば環境権というのがかなり大きくクローズアップされました。このコスタリカでの環境権についてのいろいろなコメントがございましたけれども、ロドリゲス環境省大臣の、森林の持ち主の八〇%は、森林の存在意義、そしてその保護が国際的責任であることを知っているというようなこと、あるいは哲学やコンセプトがバックにないと環境権の議論には、最初が大事であるというような御発言があったというふうに伺っているところでございますが、それに対する、環境権に対する国民の意識あるいは共感というものは極めて大事だなというふうに思っております。
 環境権を議論する本当に大事な視点がこの際得られたんではないかということを一言感想として申し上げるものであります。
 以上です。
○会長(上杉光弘君) それでは、市川団長。
○市川一朗君 第一点の御質問といいますか、感想を言えということだと思いますが。
 いろいろお話も出ておりますように、ちょうどたまたま前の日にブッシュ大統領の演説があったときに行ったものですから、非常に生々しいやり取りをお聞きすることができたように思いました。
 私自身が一番印象に残った言葉が、フレシェットさんが言った言葉だったと思いますが、ツーレート、ツースモール。ツーリトルだったですかね、どっちだ。ツーレートは間違いないです。ツースモール、ツーリトル。(「ツーリトル」と呼ぶ者あり)ツーリトル、そう。ツーレート・ツーリトルというのを言って、要するに、アメリカの話はちょっと遅過ぎると、まあ遅かったということと、それから話が細か過ぎると。こういうことでございまして、つまり、国連の皆さんは、やはり基本的にはイラクにおける国民の主権回復、それが重要であるということでは一致しているけれども、そのプロセスについてなかなか意見がまとまっていないというところが国連としての悩みであるということですが、逆に、やっぱりそういう問題についてしっかりとした議論を米英とやる必要があるし、米英もそれについてはしっかりとした議論をする用意をしてほしいと。
 だから、ブッシュ大統領が発言をして、それは政策変更ではないと。私どもも大使に、代理大使に会ったらそういう発言があったことを確認しておりますが、そういうことではなくて、もう政策変更だと言ったっていいじゃないかということで、そういうもっと根本的な議論をきちっと国連加盟国間で話す必要があるのがイラク問題ではないかと。
 イラクの問題について国連は逃げる気はないんだというようなことをいろいろ述べられておられまして、私は、国連の今の苦悩みたいなものを御一緒に行きました四人の先生方と共々感じながら、余り突っ込んだ、それ以上の議論はできませんでしたので、感想としては貴重なお話だったなという印象で帰ってまいりました。
 以上でございます。
○会長(上杉光弘君) 人権問題について、個人と集団を中心に。大脇君。
○大脇雅子君 カナダの場合は歴史的になお権利の受入れ方においてアメリカ合衆国と異なるのだという説明でございました。
 権利章典というものがあるわけですが、それは、時の時代の状況と価値観を反映して、正にカナダでは、個人の権利だけではなくて、グループの権利、集団的な権利も保障するのだということでした。宗教教育の保障とか、二つの言語の保障とか、先住民の権利の保障とか、そうしたものが平等権の内容であるということでございました。
 カナダでは、アファーマティブアクションといいまして、積極的な差別是正政策というような方策がかなり前から進んでおりまして、差別を解消するために同じ能力のある者であればその差別を受けているグループの方からその人たちを採用したりしていくということで、例えば、男性と女性なら女性、それからマジョリティーとマイノリティーで先住民だったら先住民からとかというふうに、そうした、それから年齢差別をしないとか、様々な、それから障害者と健常者なら障害者の方を同じ能力ならその人を採るとかいう、そういうアファーマティブアクションというのは進んでおりまして、ほとんどそれがカナダでは実現を見たという報告もありますので、私はそのアファーマティブアクションの効果はどうなのかと、差別は今あるんでしょうかという質問をいたしました。
 そうしましたら、差別を受けている人に融通性を持つ、不利を受けている人や不利を受けそうな人を優遇していくというのは、その差別解消で、ポジティブアクションとして法律の運用がされているということで、しかし依然として差別は残っているんだ、法律によって市民の態度を変えるのは時間が掛かると。例えば先住民差別は、面と向かった差別はないけれども分からないような差別というものが現にありますと。それから、新たな問題として、移民に対しては、移民の中にテロリストが含んでいるのではないかということで、今、トロントやモントリオールでは五千人のテロリストの報告などもあって、実は特定のグループの人たちに対して危惧が今発生をしているという二つの深刻な問題点があるのだという報告でありました。
 しかし、カナダは、そういう意味では人権保障というのは、どの人種にも平等に権利章典を適用するということは国の施策として貫徹しているように思いました。
○会長(上杉光弘君) ありがとうございました。
 市川君。
○市川一朗君 感想とか質問は求められていないんですが、環境の問題について魚住先生がお触れになりましたので一言だけ言っておきたいと思いますが。
 ロドリゲス大臣は大変しっかりとした意見を持っておりますが、憲法で環境権を設けるかどうか、私は権利と義務とがあるから難しい問題もいろいろあるというようなことを申し上げましたら、御発言がありまして、議事録には載っておりますけれども、コスタリカもいろいろ環境に関する法律を決めたけれども、作ってきたけれども、その場その場でやってきたので、私としてはちょっと失敗だったんじゃないかと思うと。やっぱり環境については、先生も言われているように、哲学とかそういった点をはっきり背景に持って、本来どうあるべきかという原理原則論をしっかり議論をすると。そのしっかり議論する場はあるいは憲法かなと。その上で個別の法律を作っていくというやり方をしないとなかなか成功はしないというようなことも言われましたので、憲法調査会にふさわしい話題でございますので追加的に御報告させていただきます。
○会長(上杉光弘君) ありがとうございました。
 吉岡吉典君。
○吉岡吉典君 日本共産党の吉岡です。
 団長始め各委員の報告、大変勉強になりました。先にいただきました調査資料と併せていろいろ実情が分かって、非常に良い調査だったと思います。
 私は、まず最初に感じましたことは、この団長報告の中に、日本国憲法制定は、制定の背景に国際連合設立及びその憲章の精神が大きな影響を与えていますと指摘されていることです。私も全く同感であり、そういう国際連合憲章を受けての今の日本国憲法があると思いました。同時に、私は九条を持つ日本国憲法に誇りを持っている者の一人ですので、コスタリカの憲法に特別に関心を持ちました。
 私が今、団長報告と併せてコスタリカの憲法について触れるのは、日本国憲法第九条というのは、いろいろ論議がありますけれども、制定経過がどうあろうと、やはりそれは、戦争のない世界を目指す世界が長い間の努力を続けてきたその努力の到達点が、日本では憲法九条を持つ憲法という形で現われたと思っているからであります。
 この委員会でかつて宮本岳志議員も触れたことがございますが、早くも二百十二年前のフランス革命の際に作られたフランス憲法では戦争放棄をうたっていたということがここで述べられたことがあると私は記憶しております。
 戦争違法化というのは、第一次世界大戦後本格化し、国際連盟規約が戦争に訴えざることを義務付けたのに始まり、国際連盟の、私いろいろな記録を調べてみますと、国際連盟の総会あるいはその当時いろいろな国際会議や二国間、多国間の取決めの中で、戦争の違法化あるいは戦争の犯罪化ということが繰り返し強調されており、一九二八年には不戦条約が作られ、そして第二次世界大戦を経て国連憲章、さらに、それをより一層発展させたものとして日本国憲法九条があり、また今問題のコスタリカの憲法というような流れの中で日本国憲法九条もコスタリカの憲法も見るのがやっぱり正確な見方ではないかという気がするからでございます。
 日本国憲法九条はGHQに押し付けられたものだという議論がありますけれども、やはりそれは皮相な見方ではないかというのが私の考えであります。
 選挙中のことですけれども、憲法九条をめぐる議論、各党の論争の中で、世界じゅうで軍隊を持たない憲法を持っているような国は日本だけだと、これはとんでもない憲法であり云々というような議論が行われていたのを私聞いて、やはり、今の議論の中でもちょっとありましたけれども、世界には、日本だけでなく、軍隊を持たない憲法があるんだということが日本でも余りにも知られていないんだなという感じを持ちました。
 その軍隊を持たない憲法というのは、日本の憲法、コスタリカだけでなく、学者の研究書によりますと、アイスランド、リヒテンシュタイン、サンマリノ、モナコ、バチカン、モルディブ、西サモア、ナウル、ガンビア、モーリシャス等の小さい国にはありますが、現在では十一か国に上ると、私、手元に持っているこの本にも書かれておりますし、さらに別の資料を読んでみますと、軍隊を実際に持っていない国が現在では十七か国に上るという記録もありました。
 ですから、私は、それらは小国の特殊な事情ということもあるかと思いますが、やはり世界が長い間戦争のない世界を目指してきた努力というのは、そういう形で地球上のかなりの、十七というのは私は決して小さい数字ではないと思います。そういう国々に実際に軍隊を持たないという実態が生まれている。
 私は、そういう中で、先ほどの報告の中で、コスタリカでは再び軍隊を持つことはないということを言ったということも非常に興味深く聞きました。というのは、やはり軍隊を持たない国がもう一度軍隊を持ち直すというところへの後返りというのはないのが今の世界の大きな流れではないかと思うからであります。
 そういう意味で、私は、今、ヨーロッパではEUの憲法草案の中に戦争放棄条項を織り込もうという運動が広がっているという報道とも併せて、世界の目指す方向というのがだんだん明らかになりつつあるという気がしております。
 私は、そういう世界の歴史的な憲法の歩みを見る中で、やはり憲法九条というのは戦争のない世界を目指す先駆的な憲法であったという感じを更に強めるものでございます。
 憲法制定議会の際に、吉田首相は、世界にこの憲法九条を広める先頭に立つということを当時言っていましたけれども、私は、そういうことが今こそ大事なときに来ているんだなという感じを持ちました。
 私のようなコスタリカ憲法やら日本国憲法の受取方は違っているのかどうなのか、団長と小泉議員とに一言ずつ述べていただきたいと思います。
○会長(上杉光弘君) じゃ、皆さんにですか、メンバーみんなですか。
○吉岡吉典君 いやいや、団長と小泉議員と。
○会長(上杉光弘君) 分かりました。じゃ、市川団長から。
○市川一朗君 コスタリカの憲法の問題については先ほど来いろいろお話があったわけでございますが、そのコスタリカの憲法の在り方という意味においては非常によく考えた一つの憲法であると、そういうふうに思いました。
 我々日本の憲法についてはどう考えるかということについては、やはり日本人として日本の国をどういうふうに持っていくかという基本的理念の中で憲法を作っていくということが必要だと思いますし、先ほどお話ありましたように、それが今ある憲法は押し付けられたものであるかどうかということは大した問題ではないというお話もございましたが、そういったようなことについての意見も分かれる部分はあると思いますが、いずれにしても、日本の国の憲法というのはどういうことが規定され、そしてどういう国の形を持っていくことが大事なのかということについて、コスタリカの人に負けないようによく勉強した方がいいんじゃないかなと。日本にふさわしいものは何だという議論を、やっぱり我々日本人はしっかりと議論する必要があると。
 そういう意味で、憲法調査会が今機能しているということは非常に大事なことであるというふうに思いましたし、そして、私ども四人でございますので、もう御想像できますように、考え方は全くいろいろと分かれるわけでございますが、しかし考え方が違っても議論はしっかりとできたわけでございますので、そういう議論の過程の中で一つの結論を出していく必要性があると思っております。
 そして、やはり日本の国の在り方として、今後、平和な国際社会を築き、日本が平和と安全保障の点で問題ない国をしっかりと構築できるためにはどうしたらいいかという議論をやっていく必要があると思いますが、まあ今日のお話の流れとしてしかちょっと今日は受け止めることができませんが、吉岡議員と私とでは相当基本的なところでは意見の食い違いがあるかなと。しかし、それはそれでいいんじゃないかなというふうに思っているところでございます。
 以上、お許しいただきたいと思います。
○会長(上杉光弘君) 魚住裕一郎君。
○吉岡吉典君 いや、小泉議員。
○会長(上杉光弘君) 失礼しました。小泉君。
○小泉親司君 私、二つの点だけお話をさせていただきたいと思います。
 主に感想的な意見でありますが、私は、コスタリカに行く前に、一つは、コスタリカのいわゆる常備軍を持たないという憲法がどういうふうに具体的に実践されているのかということが一つ、それからもう一つは、日本国憲法との違いは一体具体的にはどこにあるんだろうかと、この二つの点が大変興味がありましたので、質問でもその点を大変強く聞きただしました。
 何遍もしつこいほど聞きましたが、私、そこで感じたのは二つありまして、一つは、コスタリカという国は脅威対応型というのを取っていないと。つまり、幾ら脅威があるじゃないか、武力でそれは対処しなくちゃいけないじゃないかと幾ら言っても、そういう考え方そのものがありませんので、それはやはり平和志向型で、大変強く憲法のものが生かされているなということが一つと。
 それからもう一つ、日本国憲法との違いでは、戦争放棄という条項がないわけですが、コスタリカ憲法の方には。なぜないのかということを私は先ほど話題になっていますチンチージャ国際関係委員にお尋ねしましたところ、その委員が言うには、それは日本との大きな違いは、例えば日本の場合は戦争の惨禍に遭っている、それから原爆という被害に遭っている、だからやはり戦争放棄ということをきちんと明記して、それを実践しているんだろうと。ただ、コスタリカの場合は非常にひどい戦争被害というのが存在しなかったと。しかし、我々は日本と戦力、戦争放棄条項とほぼ同じようなことを具体的に実践しているというふうな趣旨の御発言がございました。
 この点では私は大変、コスタリカに行きまして、単なる十二条の条文では、常備軍を持つけれども、有事の際は軍隊を持つということは規定されているけれども、実際的には事実上戦力不保持、戦争放棄というふうな我が国の日本国憲法と大変近い関係がやはり具体的には実践されているなということを私は感じたわけです。
 もう一つだけ、ちょっと簡単なことだけ発言させていただきますと、通訳の方が大変コンセプト、先ほども委員の中からいろいろな御意見が出て、コンセプト、コンセプトということを非常に使うんですね。この報告の中でもコンセプトという言葉がたくさん出てまいります。私、通訳に、コンセプトという意味はどういう意味で向こうの人は使っているんだと。向こうの通訳の説明は、理想とか精神とか、いわゆる概念とかという言葉で使っているんだと。そのコンセプトをいかに具体化するかという点では、私は非常に優れているのは、私、コスタリカの憲法とその具体的な政治の在り方じゃないかなと。ですから、特に十二条の常備軍の問題についても、単なるコンセプトばかりじゃなくて、それを、理想を実践しているというところが私大変重要な内容としてあるんじゃないかなということを感じました。
 以上でございます。
○会長(上杉光弘君) 各会派を一巡して御発言をいただきましたが、他に御意見のある方は挙手をお願いいたします。
○山崎力君 自民党の山崎でございます。
 今、コスタリカの憲法のことでいろいろお話ございましたけれども、その具体的な中身のところについて考え方をお聞きになっていれば、どなたでも行かれた方結構でございますので、御回答願えればと思います。
 と申しますのは、このいわば武力、戦争放棄の条項というのが日本の九条においても一種の自衛権の放棄ではないかと。すなわち、自然権的正当防衛権の国家としての放棄ではないかという考え方があるわけです。ですから、そこのところについての法理解釈をどのようにコスタリカでは取っているのかという点が一点。
 それから二点目は、武力紛争になったときに抵抗はしないという考え方なのか。すなわち、占領は許すと、こういう覚悟を決めてこの政策を取っているのかどうか。特に警察の場合、戦争状態といいますか、違法な侵入があった場合、住民の保護とかそういった面で人権侵害があったときにどうしてもその擁護者としての立場があるわけですが、そういった点でも他国の軍隊に対して警察として抵抗しないという覚悟でやっているのかどうかという点。
 それから第三点は、米州機構を頼むという話が、国連も含めてですが、ありましたけれども、この場合の米州機構に協力を得るといった場合に武力援助を想定しているのかどうか。
 以上三点について、お聞きになったのかどうかを含めて、教えていただければと思います。
○会長(上杉光弘君) それじゃ、団長から。市川君。
○市川一朗君 じゃ、まず私が答えて、あとを補っていただきたいんですが、一番目はちょっと私は聞いていないんですが、何かほかの委員さんから話があったらお願いしたいと思います。
 それから二番目は、公安警察で何回も確認したんですが、これで守れるという考え方です、基本的には、考え方。だから、やむを得ないということではなくて、これで守れると。それで、この体制でいく限りは、例えばニカラグアの将軍とも会って云々なんという話もいろいろ、議事録にもあるように、出ていますが、周りの国はコスタリカを侵略してくることはないと。難民がいろいろ来たりしてもそれはあくまで経済的な問題だということですね。
 この程度の軍隊で強い外国から襲われて、場合によっては負けて占領されてしまう、そういう覚悟はちゃんとできた上での憲法なのかという御質問と一応受け止めますと、いや、そういうことじゃなくて、そもそもそこが、コンセプトが違うんですね、理念が違うと。これで十分守れるという考え方で、信じているという考え方でございます。
 それから三番目は、やはりそういう条約は軍事的な面も含めて機能するというふうに理解していると私はちょっと思っていますけれども。
○山崎力君 済みません、それでちょっと質問なんですが、公安警察が対外的な武力侵略に対して対抗できると、法的に対抗できるということになれば、国際法上これは警察軍の扱いで、軍隊ではないかというのが私の感想なんです。ですから、コスタリカは軍隊は持っていないけれども、対外的な侵略行為に対抗できる武装組織、これは一般国際法では軍というわけですが、警察がその分を担っているという解釈になるのではないかなと思うんですが、その辺のところのことを含めて、ほかの方で御回答できる方があればお願いしたいんですが。
○会長(上杉光弘君) どなたかありますか。
○本田良一君 もう団長言われたとおりですけれども、非常に強調、我々もそこのところを聞いたときに、本当にあそこに行って、警察、校長の話を聞くと分かるんですけれども、二人で、何人で言ってもこれは実感がわかない、それは。言ったときに、まず攻めてこない、これをはっきりもう堂々と言われる。だから、ニカラグアの時の首相に聞いたと。あのときあんたたちは攻めてくるつもりがあったのかと。攻めないと言ったと、それを信じている。それと、米州機構に頼るのかと、よって憲法が、あの憲法がちゃんと定着をしているのかというとそうでもない。米州機構に頼るというのは、ただ条約上あるだけであって、本当に頼ろうとする気持ちは、私はなかったと思うんです。それくらい本当にコンセプトね、これが全然違う。
○会長(上杉光弘君) いいですか、山崎君。
○山崎力君 よく分からない。
○大脇雅子君 確かに、常備軍がなくて警察力があって、警察力が軍隊組織なのではないかということは日本でもよく言われているんです。それで、私たちもかなりしつこくその点を聞きましたけれども、兵士には敵があるけれども、警察には市民を守るという義務があるんだと。で、軍隊がなくても双方とも警察が担うことが可能で、敵というコンセプトが要らないというか、ないというようなことであります。したがって、沿岸警備とか空の警備ということはやって、国境警備隊の武装については特別の訓練をしているけれども、武器は市民の、最高でもM16ぐらいであって、国境警備隊の役割は麻薬や野生動物の密輸であるということで、軍隊がないということが正に最大の防衛であるというふうに説明を堂々となさいます。私どももそういう考えというものを新鮮に受け止めました。
 将来的には国連協力を見据えながら訓練というものも行わなければならないということも考えているけれども、そういう警察組織であるということで、一貫してそういう答弁でした。
○会長(上杉光弘君) はい、ありがとうございました。
○中島章夫君 民主党の中島でございます。
 団長始め、皆さん貴重な御報告ありがとうございました。私は一点御意見をいただきたいと思います。
 国連及びUNCTAD等を御訪問になりまして、職員、幹部職員、絶対的に少ないというお話がございました。これは、実はもう我が国の長い懸案でございますが、これに対応した体制が我が国ではなお取られていないと私はかねがね思っております。
 大体、一九八五年ごろからこちら、世界の動きに我が国は対応し切れていないと思っておりますが、これは我々政治家の責任でもあるわけですが、官庁も二年ないし三年、大体そういう任期で局長等が替わっていくという体制では、ほとんどそのころからそれまでの経緯を覆してくるような、システムを変えてくるような案は一つも出てきておりません、私が見る限り。
 私はこのことに関連をして、若い間はいろんな経験を各省庁で積んでくるのは結構ですが、四十歳以上ぐらいになりますと、各省庁との情報の連絡は取っておきながらも中央でこれを集めまして、四年ないし六年の任期でポストに付けると、そしてその結果を見て信賞必罰でやると。その中に国際職員も考えるという体制を私は組むべきだと思っておりまして、実は大使の任命も外務省に任せておくというのは私はおかしいと思っておりまして、そういう体制を私たちとしては組むべきだと思っておるんですが。
 関連をしまして、アメリカあるいはカナダ等おいでになったわけですが、これらの国々は国連等へも我々のようにアンダーリプレゼンテーションではないわけで、そういうところで何かそういうことへの対応で参考になるようなことを見聞されたのかどうか、それについてもし何かございましたら教えていただきたいと思います。
○会長(上杉光弘君) それはオールメンバーの中でですか、団長ですか。
○中島章夫君 いいえ、団長さんで結構でございます。
○会長(上杉光弘君) じゃ、市川団長から。
○市川一朗君 まず結論から申し上げますが、私は、アメリカ、カナダあるいはコスタリカがあるんだと思いますが、そういう日本人と国連との関係みたいな話を直接は聞きませんでした。あるいはほかの委員さんでそういう感想の方あると思いますが。
 ただ、感じましたのは、明石さんみたいな第一世代から第二世代に入って、ちょうど日本の経済成長とかバブルとかいうのが重なったせいだと思いますが、かなり有能な人が途中で辞めていった例が非常に多くて、その層はもうほとんど薄い状態になっているということを言われましたので、今後の対策はなかなか難しいと思いますが、やはりもうこれは長期的に、もう今埋めるということよりも長期的に取り組んでいくと。
 先ほど報告でも言いましたように、帰国子女等が増えることも想定して、これは日本政府といいますか、先ほど外務省に任せては駄目だということでございましたが、何らかの形で日本、国挙げて取り組んでいく重要なテーマではないかという感想を持ちました。
○会長(上杉光弘君) いいですか。
 時間が大体四十分までに日程がなっていますが、吉川春子君、最後にいたしたいと思います。
○吉川春子君 はい、済みません。じゃ、短く伺います。
 団長報告の十五ページにカナダの二院制について報告がありますが、上院が、二院制であるということについて国民の意思を正確に反映するための仕組みがあるのか、それが機能しているのかという点を第一点。第二点は、任命制にしたのは議院内閣制を弱めかねないという思想によると書かれていますが、これは、議院内閣制を弱めるというのはどういうことなんでしょうか。日本は大変省庁再編で内閣が強固になってきておりますが、昨今ですね、カナダは内閣が非常に強力に、国会より強力になっているという、そういう傾向はあるのかどうか、その二点お願いします。
○会長(上杉光弘君) 団長からお答えいただけますか。
○市川一朗君 カナダの制度というのはイギリスの制度を模範にして作ったという点はありまして、いろいろ議論していくと、イギリスがそういう制度を作ったときの考え方はこういう考え方だというところまで行くような議論ですので、いまいちすっきりした部分はありませんが、私ども感じておりましたのは、要するに、下院が庶民を代表する議会であって、その下院が中心になって代議制でもって作られる議院内閣制が本来の議院内閣制であるというようなことのようなんですね、考え方として。そして、それを上院がチェックすると、そういう考え方なので、上院も下院と同じような構成にしてしまうとその辺のところが非常にごちゃごちゃしちゃって逆に下院の力も弱めるし、それから下院によって構成される議院内閣制も弱められると、そういうような説明だったというのが私なり事務局の理解でありまして、今日、実は私その辺について、必ずしも腑に落ちない部分もありましたので、ちょっと発表のときは少しそこをデフォルメして話したんですが、ちょっとその辺のところは正に核心をついた御指摘だと思います。私は、上院を任命制にしていることが非常に優れているというふうには実は理解していないんですが、向こうの事務局の説明はそういう説明だったというふうに受け止めていただきたいと思います。
 したがいまして、下院制を中心に国民の意思が国家活動としては反映されるという考え方がイギリスの場合には非常に強くあって、それでイギリスの場合、上院は御存じのとおり貴族院でございますので、そこはあくまで国民の代表というよりはチェック機能を果たしている、その考え方がカナダにも来ていると、そういうことなのかなという程度の理解で帰ってまいりました。
○吉川春子君 はい、了解しました。
○会長(上杉光弘君) はい、ありがとうございました。
 それでは、時間が参りましたので、本日の意見交換はこの程度といたします。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後三時四十一分散会

ページトップへ