○第九十囘帝國議會 貴族院議事速記録第二十三號

昭和二十一年八月二十六日(月曜日)午前十時十四分開議

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議事日程 第二十三號
昭和二十一年八月二十六日
午前十時開議
一 帝國憲法改正案(衆議院送付)
會 議

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○議長(公爵徳川家正君) 去ル二十三日男爵山名義鶴君、男爵議員補闕選擧ニ當選セラレマシタ、就キマシテハ其ノ部屬ヲ第一部ニ定メマシタ。
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○議長(公爵徳川家正君) 其ノ他諸般ノ報告ハ御異議ガナケレバ朗讀ヲ省略致シマス
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  〔參照〕
去ル二十二日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案ハ即日裁可ヲ奏請シ又可決ノ旨ヲ衆議院ニ通知セリ
 道府縣會議員等の任期延長に關する法律案
同日豫算委員第四分科會ニ於テ當選シタル正副主査ノ氏名左ノ如シ
     主査  男爵倉富  鈞君
     副主査 子爵富小路隆直君
同日委員長ヨリ豫算委員第三分科擔當委員山田三良君ヲ第二分科擔當委員ニ又同委員第四分科擔當委員種田虎雄君ヲ第五分科擔當委員ニ變更シタル旨ノ報告書ヲ提出セリ
    從三位勳一等 勝田 主計君
去ル二十三日政府ヨリ昭和二十一年勅令第百九號ニ基キ八月三日同令第一條ノ覺書該當者ト決定セル旨ノ通牒ヲ受領セリ依テ同令第四條ニ依リ八月三日貴族院議員ノ資格消滅セリ
同日委員長ヨリ豫算委員荒川文六君ヲ第三分科擔當委員ニ選定シタル旨ノ報告書ヲ提出セリ
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
 電氣事業法の一部を改正する法律案可決報告書
 請願委員會特別報告第四號
一昨二十四日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
 帝國憲法改正案
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
 石炭及コークス配給統制法の一部を改正する法律案可決報告書
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○議長(公爵徳川家正君) 是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、男爵本多政樹君、病氣ニ付會期中請暇ノ申出ガゴザイマシタ、許可ヲ致シテ御異議ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ナイト認メマス
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○議長(公爵徳川家正君) 去ル二十二日豫算委員川村竹治君ヨリ、都合ニ依リ委員辭任ノ申出ガゴザイマシタ、許可ヲ致シテ御異議ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ナイト認メマス、就キマシテハ第七部ニ於テ其ノ補闕選擧ヲ行ハレムコトヲ望ミマス
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○議長(公爵徳川家正君) 去ル二十三日電氣事業法の一部を改正する法律案外三件特別委員作間耕逸君ヨリ、都合ニ依リ委員ノ辭任ノ申出ガゴザイマシタ、許可ヲ致シテ御異議ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ナイト認メマス、就キマシテハ其ノ補闕トシテ、高橋龍太郎君ヲ指名致シマス
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○議長(公爵徳川家正君) 是ヨリ議事日程ニ移リマス、帝國憲法改正案、衆議院送付、會議、此ノ際御諮リヲ致シマス、本案ノ審議ニ付キマシテハ、特ニ愼重ヲ期スル爲、三讀會ノ順序ヲ經ルコトニ致シタイト存ジマス、御異議ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ナイト認メマス、吉田内閣總理大臣
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  帝國憲法改正案
 右の政府提出案は本院において修正議決した、因つて議院法第五十四條により送付する
  昭和二十一年八月二十四日
     衆議院議長 山崎 猛
   貴族院議長公爵徳川家正殿
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  朕は、國民の至高の總意に基いて、基本的人權を尊重し、國民の自由の福祉を永久に確保し、民主主義的傾向の強化に對する一切の障害を除去し、進んで戰爭を抛棄して、世界永遠の平和を希求し、これにより國家再建の礎を固めるために、國民の自由に表明した意思による憲法の全面的改正を意圖し、ここに帝國憲法第七十三條によつて、帝國憲法の改正案を帝國議會の議に付する。
  御 名 御 璽
   昭和二十一年六月二十日
    内閣總理大臣 吉田 茂
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日本國憲法

     (小字及び――は衆議院修正)
 日本國民は、國會における正當に選擧された○國會における○代表者を通じて、我ら自身と行動し、われらとわれらの子孫のために、諸國民との間に平和的協力を成立させ協和による成果と、日本わが國全土にわたつて自由の福祉もたらす惠澤を確保し、政府の行爲行動によつて再び戰爭の慘禍が發生しないやうにすることを決意し、ここに國民の總意が至高なものである主權が國民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも國政は、國民の崇高な信託によるものでありあつて、、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行ひ行使し、、その利益福利は國民がこれを受けるものであつて享受するものである。、これは人類普遍の原理であり、この憲法は、このかかる原理に基く。ものであるわれらは、この憲法これに反する一切の○憲法、○法令及び詔勅を廢止排除する。
  日本國民は、常に平和を念願し、人間相互の關係を支配する高遠な理想を深く自覺するものであつて、われらの安全と生存をあげて、平和を愛する世界の諸國民の公正と信義に委ねようと決意した。われらは、平和を維持し、專制と隸從壓迫と偏狹を地上から永遠に拂拭除去しようと努めてゐる國際社會に伍して、名譽ある地位を占めたいものと思ふ。われらは、すべての國全世界の國民が、ひとしく恐怖と缺乏から解放され免かれ、、平和のうちに生存する權利を有することを確認する。
  われらは、いづれの國家も、自國のことのみに專念して他國を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであると信ずる。この法則に從ふことは、自國の主權を維持し、他國と對等關係に立たうとする各國の責務であると信ずる。
  日本國民は、國家の名譽にけ、全力をあげてこの高遠な主義理想と目的を達成することを誓ふ。

第一章 天皇

第一條 天皇は、日本國の象徴であり日本國民統合の象徴であつて、この地位は、○主權の存する○日本國民の至高の總意に基く。
第二條 皇位は、世襲のものであつて、國會の議決した皇室典範の定めるところにより、これを繼承する。
第三條 天皇の國務國事に關するすべての行爲には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
第四條 天皇は、この憲法の定める國務國事に關する行爲のみを行ひ、政治國政に關する權能を有しない。
  天皇は、法律の定めるところにより、その權能國事に關する行爲を委任することができる。
第五條 皇室典範の定めるところにより攝政を置くときは、攝政は、天皇の名でその權能國事に關する行爲を行ふ。この場合には、前條第一項の規定を準用する。
第六條 天皇は、國會の指名に基いて、内閣總理大臣を任命する。
  天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
第七條 天皇は、内閣の助言と承認により、國民のために、左の國務國事に關する行爲を行ふ。
 一 憲法改正、法律、政令及び條約を公布すること。
 二 國會を召集すること。
 三 衆議院を解散すること。
 四 國會議員の總選擧の施行を公示すること。
 五 國務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免竝びに全權委任状及び大使及び公使の信任状を認證すること。
 六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復權を認證すること。
 七 榮典を授與すること。
 八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
 九 外國の大使及び公使を接受すること。
 十 儀式を行ふこと。
第八條 皇室に財産を讓り渡し、又は皇室が、財産を讓り受け、若しくは賜與することは、國會の議決に基かなければならない。

第二章 戰爭の抛棄放棄

第九條 國の主權日本國民は、正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希求し、國權の發動たる戰爭と、武力による威嚇又は武力の行使は、他國との間の紛爭の國際紛爭を解決する手段としては、永久にこれを抛棄放棄する。
  ○前項の目的を達するため、○陸海空軍その他の戰力は、これを保持してはならない。しない。國の交戰權は、これを認めない。

第三章 國民の權利及び義務

第十條 日本國民たる要件は、法律でこれを定める。
十一條 國民は、すべての基本的人權の享有を妨げられない。この憲法が國民に保障する基本的人權は、侵すことのできない永久の權利として、現在及び將來の國民に與ヘられる。
十一十二條 この憲法が國民に保障する自由及び權利は、國民の不斷の努力によつて、これを保持しなければならない。又、國民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
十二十三條 すべて國民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に對する國民の權利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の國政の上で、最大の尊重を必要とする。
十三十四條 すべて國民は、法の下に平等であつて、人種、信條、性別、社會的身分又は門地により、政治的、經濟的又は社會的關係において、差別を受けない。されない。
  華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
  榮譽、勳章その他の榮典の授與は、いかなる特權も伴はない。榮典の授與は、現にこれを有し、又は將來これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
十四十五條 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、國民固有の權利である。
  すべて公務員は、全體の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
  すべて選擧における投票の秘密は、これを侵してはならない。選擧人は、その選擇に關し公的にも私的にも責任を問はれない。
十五十六條 何人も、損害の救濟、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廢止又は改正その他の事項に關し、平穩に請願する權利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
 第十七條 何人も、公務員の不法行爲により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、國又は公共團體に、その賠償を求めることができる。
十六十八條 何人も、いかなる奴隸的拘束も受けない。又、犯罪に因る處罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
十七十九條 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
十八二十條 信教の自由は、何人に對してもこれを保障する。いかなる宗教團體も、國から特權を受け、又は政治上の權力を行使してはならない。
  何人も、宗教上の行爲、祝典、儀式又は行事に參加することを強制されない。
  國及びその機關は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
十九二十一條 集會、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
  檢閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
二十二十二條 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移轉及び職業選擇の自由を有する。
  何人も、外國に移住し、又は國籍を離脱する自由を侵されない。
二十一二十三條 學問の自由は、これを保障する。
二十二二十四條 婚姻は、兩性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の權利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
  配偶者の選擇、財産權、相續、住居の選定、離婚竝びに婚姻及び家族に關するその他の事項に關しては、法律は、個人の權威尊嚴と兩性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
二十三二十五 すべて國民は、健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有する。
  法律は、すべての生活部面について、社會福祉、生活の社會保障及び公衆衛生の向上及び増進のために立案されに努めなければならない。
二十四二十六條 すべて國民は、法律の定めるところにより、その能力に應じて、ひとしく教育を受ける權利を有する。
  すべて國民は、○法律の定めるところにより、○その保護する兒童子女初等普通教育を受けさせる義務を負ふ。初等義務教育は、これを無償とする。
二十五二十七條 すべて國民は、勤勞の權利を有する。し、義務を負ふ。
  賃金、就業時間○、休息○その他の勤勞條件に關する基準は、法律でこれを定める。
  兒童は、これを酷使してはならない。
二十六二十八條 勤勞者の團結する權利及び團體交渉その他の團體行動をする權利は、これを保障する。
二十七二十九條 財産權は、これを侵してはならない。
  財産權の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
  私有財産は、正當な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
第三十條 國民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
二十八三十一條 何人も、法律の定める手續によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
二十九三十二條 何人も、裁判所において裁判を受ける權利を奪はれない。
三十三十三條 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、權限を有する司法官憲が發し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
三十一三十四條 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに辯護人に依頼する權利を與へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正當な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその辯護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
三十二三十五條 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押收を受けることのない權利は、第三十三十三條の場合を除いては、正當な理由に基いて發せられ、且つ捜索する場所及び押收する物を明示する令状がなければ、侵されない。
  捜索又は押收は、權限を有する司法官憲が發する各別の令状により、これを行ふ。
三十三三十六條 公務員による拷問及び殘虐な刑罰は、絶對にこれを禁ずる。
三十四三十七條 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける權利を有する。
  刑事被告人は、すべての證人に對して審問する機會を充分に與へられ、又、公費で自己のために強制的手續により證人を求める權利を有する。
  刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する辯護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、國でこれを附する。
三十五三十八條 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。強制、拷問若しくは脅迫の下でのによる自白又は不當に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを證據とすることができない。
  何人も、自己に不利益な唯一の證據が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
三十六三十九條 何人も、實行の時に適法であつた行爲又は既に無罪とされた行爲については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
第四十條 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、國にその補償を求めることができる。

第四章 國會

三十七四十一條 國會は、國權の最高機關であつて、國の唯一の立法機關である。
三十八四十二條 國會は、衆議院及び參議院の兩議院でこれを構成する。
三十九四十三條 兩議院は、全國民を代表する選擧された議員でこれを組織する。
  兩議院の議員の定數は、法律でこれを定める。
四十四十四條 兩議院の議員及びその選擧人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信條、性別、社會的身分又は門地、門地、教育、財産又は收入によつて差別してはならない。
四十一四十五條 衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間滿了前に終了する。
四十二四十六條 參議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半數を改選する。
四十三四十七條 選擧區、投票の方法その他兩議院の議員の選擧に關する事項は、法律でこれを定める。
四十四四十八條 何人も、同時に兩議院の議員たることはできない。
四十五四十九條 兩議院の議員は、法律の定めるところにより、國庫から相當額の歳費を受ける。
四十六五十條 兩議院の議員は、法律の定める場合を除いては、國會の會期中逮捕されず、會期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、會期中これを釋放しなければならない。
四十七五十一條 兩議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。
四十八五十二條 國會の常會は、毎年一囘これを召集する。
四十九五十三條 内閣は、國會の臨時會の召集を決定することができる。いづれかの議院の總議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。
五十五十四條 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の總選擧を行ひ、その選擧の日から三十日以内に、國會を召集しなければならない。
  衆議院が解散されたときは、參議院は同時に閉會となる。但し、内閣は、國に緊急の必要があるときは、參議院の緊急集會を求めることができる。
  前項但書の緊急集會において採られた措置は、臨時のものであつて、次の國會開會の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その效力を失ふ。
五十一五十五條 兩議院は、各々その議員の選擧又は資格に關する爭訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多數による議決を必要とする。
五十二五十六條 兩議院は、各々その總議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
  兩議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半數でこれを決し、可否同數のときは、議長の決するところによる。
第五十三五十七條 兩議院の會議は、公開とする。但し、出席議員の三分の二以上の多數で議決したときは、祕密會を開くことができる。
  兩議院は、各々その會議の記録を保存し、祕密會の記録の中で特に祕密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、且つ一般に頒布しなければならない。
  出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを會議録に記載しなければならない。
五十四五十八條 兩議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
  兩議院は、各々その會議その他の手續及び内部の規律に關する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多數による議決を必要とする。
五十五五十九條 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、兩議院で可決したとき法律となる。
  衆議院で可決し、參議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多數で再び可決したときは、法律となる。
  參議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、國會休會中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、參議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
五十六六十條 豫算は、さきに衆議院に提出しなければならない。
  豫算について、參議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、兩議院の協議會を開いても意見が一致しないとき、又は參議院が、衆議院の可決した豫算を受け取つた後、國會休會中の期間を除いて四十日三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を國會の議決とする。
五十七六十一條 條約の締結に必要な國會の承認については、前條第二項の規定を準用する。
五十八六十二條 兩議院は、各々國務國政に關する調査を行ひ、これに關して、證人の出頭及び證言竝びに記録の提出を要求することができる。
五十九六十三條 内閣總理大臣その他の國務大臣は、兩議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について發言するため議院に出席することができる。又、答辯又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。
六十六十四條 國會は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、兩議院の議員で組織する彈劾裁判所を設ける。
  彈劾に關する事項は、法律でこれを定める。

第五章 内閣

六十一六十五條 行政權は、内閣に屬する。
六十二六十六條 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣總理大臣及びその他の國務大臣でこれを組織する。
  内閣は、行政權の行使について、國會に對し連帯して責任を負ふ。
六十三六十七條 内閣總理大臣は、○國會議員の中から○國會の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
  衆議院と參議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、兩議院の協議會を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、國會休會中の期間を除いて二十日十日以内に、參議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を國會の議決とする。
六十四六十八條 内閣總理大臣は、國會の承認により、國務大臣を任命する。この承認については、前條第二項の規定を準用する但し、その過半數は、國會議員の中から選ばれなければならない。
  内閣總理大臣は、任意に國務大臣を罷免することができる。
六十五六十九條 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、總辭職をしなければならない。
六十六七十條 内閣總理大臣が缺けたとき、又は衆議院議員總選擧の後に初めて國會の召集があつたときは、内閣は、總辭職をしなければならない。
六十七七十一條 前二條の場合には、内閣は、あらたに内閣總理大臣が任命されるまで引き續きその職務を行ふ。
六十八七十二條 内閣總理大臣は、内閣を代表して議案を國會に提出し、一般國務及び外交關係について國會に報告し、竝びに行政各部を指揮監督する。
六十九七十三條 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
 一 法律を誠實に執行し、國務を總理すること。
 二 外交關係を處理すること。
 三 條約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、國會の承認を經ることを必要とする。
 四 法律の定める基準に從ひ、官吏に關する事務を掌理すること。
 五 豫算を作成して國會に提出すること。
 六 この憲法及び法律の規定を實施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
 七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復權を決定すること。
七十七十四條 法律及び政令には、すべて主任の國務大臣が署名し、内閣總理大臣が連署することを必要とする。
七十一七十五條 國務大臣は、その在任中、内閣總理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の權利は、害されない。

第六章 司法

七十二七十六條 すべて司法權は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に屬する。
  特別裁判所は、これを設置することができない。行政機關は、終審として裁判を行ふことができない。
  すべて裁判官は、その良心に從ひ獨立してその職權を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
七十三七十七條 最高裁判所は、訴訟に關する手續、辯護士、裁判所の内部規律及び司法事務處理に關する事項について、規則を定める權限を有する。
  檢察官は、最高裁判所の定める規則に從はなければならない。
  最高裁判所は、下級裁判所に關する規則を定める權限を、下級裁判所に委任することができる。
七十四七十八條 裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の彈劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒處分は、行政機關がこれを行ふことはできない。
七十五七十九條 最高裁判所は、○その長たる裁判官及び○法律の定める員數の○その他の○裁判官でこれを構成し、その○長たる裁判官以外の○裁判官は、すべて内閣でこれを任命し、法律の定める年齡に達した時に退官する。する。
  最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員總選擧の際國民の審査に付し、その後十年を經過した後初めて行はれる衆議院議員總選擧の際更に審査に付し、その後も同樣とする。
  前項の場合において、投票者の多數が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
  審査に關する事項は、法律でこれを定める。
  最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齡に達した時に退官する。
  最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相當額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
七十六八十條 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齡に達した時には退官する。
  下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相當額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
七十七八十一條 最高裁判所は、終審裁判所である。
  最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は處分が憲法に適合するかしないかを決定する權限を有する終審裁判所である。
七十八八十二條 裁判の對審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
  裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、對審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に關する犯罪又はこの憲法第三章で保障する國民の權利が問題となつてゐる事件の對審は、常にこれを公開しなければならない。

第七章 財政

七十九八十三條 國の財政を處理する權限は、國會の議決に基いて、これを行使しなければならない。
八十八十四條 あらたに租税を課し、又は現行の租税を變更するには、法律又は法律の定める條件によることを必要とする。
八十一八十五條 國費を支出し、又は國が債務を負擔するには、國會の議決に基くことを必要とする。
八十二八十六條 内閣は、毎會計年度の豫算を作成し、國會に提出して、その審議を受け議決を經なければならない。
八十三八十七條 豫見し難い豫算の不足に充てるため、國會の議決に基いて豫備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
  すべて豫備費の支出については、内閣は、事後に國會の承諾を得なければならない。
八十四八十八條 世襲財産以外のすべて皇室財産は、すべて國に屬する。皇室財産から生ずる收益は、すべて國庫の收入とし、法律の定めるすべて皇室の支出費用は、豫算に計上して國會の議決を經なければならない。
八十五八十九條 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは團體の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に屬しない慈善、教育若しくは博愛の事業に對し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
八十六九十條 國の收入支出の決算は、すべて毎年會計檢査院がこれを檢査し、内閣は、次の年度に、その檢査報告とともに、これを國會に提出しなければならない。
  會計檢査院の組織及び權限は、法律でこれを定める。
八十七九十一條 内閣は、國會及び國民に對し、定期に、少くとも毎年一囘、國の財政状況について報告しなければならない。

第八章 地方自治

八十八九十二條 地方公共團體の組織及び運營に關する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
八十九九十三條 地方公共團體には、法律の定めるところにより、その議事機關として議會を設置する。
  地方公共團體の長、その議會の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共團體の住民が、直接これを選擧する。
九十九十四條 地方公共團體は、その財産を管理し、事務を處理し、及び行政を執行する權能を有し、法律の範圍内で條例を制定することができる。
九十一九十五條 一の地方公共團體のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共團體の住民の投票においてその過半數の同意を得なければ、國會は、これを制定することができない。

第九章 改正

九十二九十六條 この憲法の改正は、各議院の總議員の三分の二以上の贊成で、國會が、これを發議し、國民に提案してその承認を經なければならない。この承認には、特別の國民投票又は國會の定める選擧の際行はれる投票において、その過半數の贊成を必要とする。
  憲法改正について前項の承認を經たときは、天皇は、國民の名で、この憲法と一體を成すものとして、直ちにこれを公布する。

第十章 最高法規

九十三九十七條 この憲法が日本國民に保障する基本的人權は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの權利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び將來の國民に對し、侵すことのできない永久の權利として信託されたものである。
九十四九十八條 この憲法竝びにこれに基いて制定された法律及び條約は、は、國の最高法規とし、であつて、その條規に反する法律、命令、詔勅及び國務に關するその他の行爲の全部又は一部は、その効力を有しない。
  日本國が締結した條約及び確立された國際法規は、これを誠實に遵守することを必要とする。
九十五九十九條 天皇又は攝政及び國務大臣、國會議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

第十一章 補則

九十六條 この憲法は、公布の日から起算して六箇月を經過した日から、これを施行する。
  この憲法を施行するために必要な法律の制定、參議院議員の選擧及び國會召集の手續竝びにこの憲法を施行するために必要な準備手續は、前項の期日よりも前に、これを行ふことができる。
九十七條 この憲法施行の際現に華族その他の貴族の地位にある者については、その地位は、その生存中に限り、これを認める。但し、將來、華族その他の貴族たることにより、いかなる政治的權力も有しない。
九十八百一條 この憲法施行の際、參議院がまだ成立してゐないときは、その成立するまでの間、衆議院は、國會としての權限を行ふ。
九十九百二條 この憲法による第一期の參議院議員のうち、その半數の者の任期は、これを三年とする。その議員は、法律の定めるところにより、これを定める。
百三條 この憲法施行の際現に在職する國務大臣、衆議院議員及び裁判官竝びにその他の公務員で、その地位に相應する地位がこの憲法で認められてゐる者は、法律で特別の定をした場合を除いては、この憲法施行のため、當然にはその地位を失ふことはない。但し、この憲法によつて、後任者が選擧又は任命されたときは、當然その地位を失ふ。
 〔國務大臣吉田茂君登壇〕
○國務大臣(吉田茂君) 帝國憲法改正案ニ付キマシテ説明ヲ申述べマス、「ポツダム」宣言及ビ之ニ關聯シ、聯合國ヨリ發表セラレマシタ文書ニハ、「日本國民ノ間ニ於ケル民主主義的傾向ノ復活強化ニ對スル一切ノ障碍ヲ除去シ、言論、宗教及ビ思想ノ自由、竝ニ基本的人權ノ尊重ヲ確立スベキコト」、竝ニ「日本國ノ政治ノ最終ノ形態ハ、日本國民ノ自由ニ表明スル意思ニ依リ決定サルベキコト」ノ條項ガアルノデゴザイマス、此ノ方針ハ正ニ平和新日本ノ嚮フベキ大道ヲ明カニシタモノデアリマシテ、是ガ爲ニハ國家ノ基本法タル憲法ノ改正ガ其ノ要諦ト考ヘルノデアリマス、仍テ政府ハ前内閣及ビ現内閣ニ亙リ、鋭意是ガ調査立案ノ歩ヲ進メテ參ツタノデアリマスガ、曩ニ成案ヲ得マシタノデ、之ヲ帝國議會ニ付議セラレムコトヲ奏請シ、衆議院ノ議決ヲ經マシタ、今日貴族院ノ審議ニ付セラレルコトニナツタ次第デアリマス、本改正案ノ基調トスル所ハ主權在國民ノ原理ニ依ツテ諸般ノ國家機構ヲ定メ、基本的人權ヲ尊重シテ、國民ノ自由ノ福祉ヲ永久ニ保障シ、以テ民主主義政治ノ基礎ヲ確立スルト共ニ、全世界ニ率先シテ戰爭ヲ抛棄シ、自由ト平和ヲ希求スル世界人類ノ理想ヲ憲法ノ條章ニ顯現セムトスルニアルノデアリマス、此ノ精神ハ本改正案中ノ前文ニ詳細ニ示サレテ居ルノデアリマス、以下改正案中、重要ナル諸點ニ付テ申述ベタイト思ヒマス、第一ハ、天皇ノ御地位ニ付テデゴザイマス、之ニ付キマシテハ、第一條ニ、天皇ハ日本國ノ象徴デアリ、日本國民統合ノ象徴デアツテ其ノ御地位ハ日本國民ノ總意ニ基クモノデアルト規定シテアルノデアリマス、是ハ天皇ガ、日本國家ヲ表現シ、且日本國民統合ノ姿ヲ體現セラルヽ地位ニ立タセラルベキコトヲ定ムルト共ニ、此ノ天皇ノ御地位ハ、日本國民ノ總意ニ基クモノデアルコトヲ規定シテアルモノデアリマス、之ニ依ツテ皇位ヲ繞ツテノ過去ノ神祕性ト非現實性ガ完全ニ拂拭セラレ、其ノ基ク所ハ現實ナル國民ノ總意デアルコトガ如實ニ示サレルコトニナルノデアリマス、併シナガラ現行憲法ニ於ケルガ如ク、廣汎ナル大權事項ヲ規定スルニ於キマシテハ、却テ政府其ノ他ノ權力者ガ時ニ誤ツテノ理念ニ動カサレテ、天皇ノ御名ニ隱レ、民意ヲ歪曲シ、國政ヲ專斷シ、動モスレバ無謀ナル政策ヲ施行セムトシテ、遂ニ國家國民ヲ危局ニ導キ、累ノ及ブ所豫斷ヲ許サザルガ如キ事態ニ立至ル虞アルコトハ、既ニ我々國民ガ體驗シタ所デアリマス、改正案ニ於キマシテハ、天皇ハ内閣ノ助言ト承認ニ依リ、一定ノ國務ノミヲ行ハセラレルコトニ致シテ居ルノデアリマス、此ノ形態ハ正ニ民主主義國政ノ常道ヲ踏ムモノデアルト存ズルノデアリマス、次ニ改正案ハ特ニ一章ヲ設ケ、戰爭ノ抛棄ヲ規定シテ居ルノデアリマス、即チ國ノ主權ノ發動タル戰爭ト、武力ニ依ル威嚇又ハ武力ノ行使ハ他國トノ間ニ紛爭解決ノ手段トシテハ永久ニ之ヲ抛棄スルコトト致シマシテ、進ンデ陸海空軍其ノ他ノ戰力ノ保持及ビ國ノ交戰權ヲモ之ヲ認メザルコトト致シテ居ルノデアリマス、是ハ改正案ニ於ケル大ナル眼目ヲ成スモノデアリマシテ、斯カル思切ツタ條項ハ凡ソ從來ノ各國憲法中ニ其ノ類例ヲ見ザルモノト思フノデアリマス、斯クシテ日本國ハ永久ノ平和ヲ希求シ、其ノ將來ノ安全ト生存トヲ擧ゲテ、平和ヲ愛スル世界諸國民ノ公正ト信義ニ委ネムトスルモノデアリマス、此ノ高キ理想ヲ以テ平和愛好國ノ先頭ニ立チ、正義ノ大道ヲ踏ミ進ンデ行カウト思フ固キ決意ヲ、國ノ根本法タル憲法ニ明示セムトスルモノデアリマス、次ニ國民ノ權利及ビ義務ニ付キマシテ、國民ハ總テノ根本的基本的人權ノ享有ヲ妨ゲラレナイコトノ大原則ヲ規定致シマシテ、又此ノ憲法ノ保障スル基本的人權ハ侵スコトノ出來ナイ永久ノ權利トシテ、現在及ビ將來ノ國民ニ與へラレルモノデアルコトヲ明示致シテ居リマス、更ニ具體的事項ニ付テ權利、自由ノ保障及ビ民主主義ノ發展向上ノ爲必要ナル規定ヲ設ケテ居ルノデアリマス、政治ノ機構ニ關シマシテハ、三權分立ノ趣意ニ則リマシテ、國會、内閣及ビ裁判所ヲ設ケ、國會ヲ以テ國權ノ最高機關トスルト共ニ、國ノ唯一ノ立法機關タルモノト定メテ居リマス、此ノ構成ニ付テハ衆議院ト參議院トヲ以テスル兩院制度ヲ採リ、國事審議ノ愼重ヲ期スルコトト致シマシタ、但シ衆議院ニ對シテハ參議院ニ比シ種々ノ點ニ於テ優越ノ地位ヲ認メテ居リマス、又行政權ハ内閣ニ屬スルモノトシ、内閣ハ行政權ノ行使ニ付テ國會ニ對シ連帯シテ其ノ責ニ任ズルコトト致シマシタ、内閣總理大臣ノ任命ハ國會ノ指名ニ基クコトヲ必要トスルモノトシ、衆議院ニ於テ不信任ノ決議ヲ致シマシタ場合ニハ、衆議院ノ解散ナキ限リ、總辭職ヲ爲スコト等ノ條項ヲ設ケマシテ、所謂議院内閣主義ノ原則ラ採ツタノデアリマス、司法權ハ最高裁判所及ビ法律ノ定ムル所ニ依リ設置スル下級裁判所ニ屬スルモノトシ、行政裁判ハ之ヲ司法權ノ作用ニ包括セシムルコトニ致シマシタ、特別裁判所ノ設置ハ之ヲ認メテ居リマセヌ、又最高裁判所ヲシテ憲法裁判所的機能ヲ併有セシメ、一切ノ法令又ハ處分ノ憲法ニ適合スルヤ否ヤノ裁判ヲ爲シ得ルモノト致シテ居ルノデアリマス、以上ノ外、財政ニ關シテ、國ノ財政ヲ處理スル權限ハ國會ノ議決ニ基イテ之ヲ行使スベキ旨ノ原則ヲ掲ゲテ居リマス、之ニ則ツテ必要ナ規定ヲ設ケマスルト共ニ、皇室財産及ビ皇室經費ニ關スル制度ヲ根本的ニ改メテ居リマス、又地方自治ノ重要性ニ著眼シテ、新ニ之ニ關スル規定ヲ設ケ、憲法ノ改正ノ手續ニ付キマシテハ、將來ハ國會ガ之ヲ發議シ國民ニ提案シテ其ノ承認ヲ經ルコトヲ要スルモノト致シテ居リマス、特ニ一章ヲ設ケテ最高法規ニ關スル事項ヲ規定シマシテ、最後ニ補則トシテ、此ノ憲法ハ公布ノ日ヨリ起算シマシテ六箇月ヲ經過シタル日ヨリ之ヲ施行スル旨ヲ定メテ居リマス、其ノ他若干ノ經過的規定ヲ設ケテ居リマス、尚本改正案ハ、只今申述べマシタ實體ニ照シ、其ノ形式ニ於キマシテモ所謂法ノ民主化ヲ圖リ、成ルベク一般國民ノ理解ニ容易ナラシムルヤウ口語體ヲ以テ表現致シテ居リマス、即チ平假名ヲ採用スル等ノ措置ヲ採ツテ居ルモノデアリマスガ、是ハ法令ノ形式トシテ正ニ劃期的ノ事柄デアルト存ジマス、以上原案ニ付テ大體ノ説明ヲ終リマスガ、尚本案ニ付キマシテハ衆議院ニ於テ若干ノ修正ヲ加ヘラレタノデアリマス、政府ハ其ノ修正ニ同意デアリマス、何卒宜シク御審議アラレムコトヲ希望致シマス
○議長(公爵徳川家正君) 質疑ノ通告ガゴザイマス、通告順ニ依リ是ヨリ順次發言ヲ許シマス、高柳賢三君
  〔高柳賢三君登壇〕
○高柳賢三君 帝國憲法改正案ハ過去十數年間ニ於ケル國際的、國内的情勢ノ結果トシテ生レタ或意味デ必然的ナ所産、歴史的ナ所産デゴザイマス、直接ニハ降伏文書中ノ「ポツダム」宣言ノ内容ヲ實現スル國際的ナ義務ノ履行トシテ現レタノデアリマスガ、ソレバカリデハナイ、日華事變カラ太平洋戰爭ニ至ル東亜ノミナラズ世界各地域ニ於テ流サレタ内外人ノ血ト涙、軍ト官僚トノ政治的、經濟的壓迫ニ苦シンダ日本國民ノ隠レタ自由ヘノ要求、ソレ等ガ此ノ改正案ノ背後ニアルノデアルト考ヘルノデアリマス、ソレハ謂ハバ必然的ナ歴史的ナ所産デゴザイマス、併シ此ノ改正案ハ單ナル歴史的ナ所産デハアリマセヌ、將來ノ平和的民主的日本建設ノ基礎工事デアリマス、國民ノ政治的、經濟的、文化的建築ハ此ノ憲法ノ上ニ築カレ、ソレハ有ラユル面ニ於ケル國民ノ生活ヲ方向付ケルノデアリマス、一面歴史的ナ所産デアリ、他面將來ヘノ指針デアルトノ二ツノ觀點カラ、此ノ改正案ヲ檢討致シマシテ、私ハ大體ニ於テ中正ヲ得テ居ルト考ヘルノデアリマス、封建的ナ華族制ハ姿ヲ消シ、有ラユル國家機構ハ民主主義的原理ノ下ニ、徹底的大變革ガ行ハレテ居ルノデアリマス、併シ建國以來有ラユル政治的變遷ヲ越エテ、國民ノ敬愛ノ中心ヲ成シタ天皇ハ日本國民ノ總意ニ基ク日本國ノ象徴、日本國民統合ノ象徴トシテ、平和的、民主的日本ノ中心ヲ成シテ居ルノデアリマス、改正案ノ起草者ハ立法技術ノ點ニ於キマシテ、從來「ローマ」法系ノ立法技術ノ影響ヲ受ケマシタ我ガ國ノ立法技術ヲ棄テテ、英米式ナ立法技術ヲ採用サレテ居ルノデアリマス、是ハ技術的ニハ大改革デアリマス、從ツテ英米的ナ立法技術ニ慣レナイ我ガ國ノ法律家ニ取リマシテ、ソレハ複雜怪奇デハナイニシテモ、頗ル難解デゴザイマス、併シ是ハ明治時代治外法權撤廢ヲ目標トシテ作ラレタ多クノ法令ガ、支那法系ノ影響ヲ受ケタ傳統的法律家ニ取ツテ、分リニクイ術語デ充サレテ居ツタノト能ク似テ居ルヤウニ思フノデアリマス、併シ是ハ法律家ダケノ問題デアリマス、一般國民ニ取ツテハ適當ナ解説ナシニハ現行憲法ニ付テモ、此ノ改正案ニ付テモ、其ノ法律的意味合ト云フモノヲ十分ニ理解スルコトノ困難ナノハ同樣デアリマス、併シ立法技術ノ問題ハ、結局第二次的ナ問題デアリマス、ヨリ重要ナコトハ其ノ内容デゴザイマス、曩ニ一言致シマシタヤウニ、内容ノ見地カラハ、本改正案ハ大體ニ於テ能ク出來テ居ルノデアリマスガ、細カイ點ニ付テハ多クノ疑問ガナイ譯デハゴザイマセヌ、詳細ハ委員會デ御伺ヒスルコトト致シマシテ、本會議デハ一般的ナ問題ニ付テ政府ノ見解ヲ御尋ネスルコトト致シマス、茲デ改正案ノ元ノ條文デ檢討致シマシタノデ、條文ハ原案ノ條文デアルコトヲ一言申添ヘテ置キタイト思ヒマス、第一ハ基本的人權ニ付テデアリマス、基本的人權ト云フノハ「ファシズム」、或ハ「ナチズム」ノ思想體系ニ於テノミナラズ、多クノ學者ニ依ツテ、十九世紀的ナモノトシテ思想的ニ輕視セラレテ居ツタノデアリマス、然ルニ本法案ニ於キマシテハ、基本的人權ガ特ニ重ンジラレテ居ル、其ノ意味ニ於テ「第三章 國民の權利及び義務」ノ表題ノ下ニ規定セラレマシタ多クノ規定ハ著シク十九世紀的デゴザイマス、ソコニ掲ゲラレタ自由ト平等ノ原則、特ニ言論ノ自由、其ノ附隨原理トモ見ラルベキ集會結社ノ自由、出版其ノ他一切ノ表現ノ自由、信教ノ自由、居住、移轉、職業選擇ノ自由、學問ノ自由、又特ニ刑事訴訟法ニ規定セラルヽコトヲ適當トスルモノトモ考へラレルヤウナ、第二十八條乃至第三十六條ニ掲ゲラレル國民ノ自由ニ關スル詳細ナ規定、又第二十二條第二十三條ノ婚姻關係ニ於ケル兩性平等ノ原則ノ如キハ、十九世紀的ナモノト考ヘラルヽカモ知レマセヌ、併シナガラ一部ノ學者ニ依ツテソレガ十九世紀的ナモノデアル、新味ノナイモノデアルト考ヘラルヽコトハ、ソレ等ガ現實ノ我ガ國民ノ生活ニ照シテ必要デナイト云フコトニハナラナイノデアリマス、寧ロ現實ハソレ等ノ規定ヲ強ク要請スルヤウナ事態ガ存在シタノデアリマス、是等ノ自由平等ノ民主主義的原理ノ宣明ハ技術的ニ見マスレバ確カニ米國憲法ヲ母法トシテ居リマス、併シ基本人權ニ關スル是等ノ規定ハ、成文米國憲法ヲ其ノ儘「モデル」ニシタノデハナイヤウデゴザイマス、米國憲法ハ今日ニ至ル迄幾ツカノ憲法改正規定ノミナラズ、判例法ニ依ツテ發展シテ居ルノデゴザイマス、サウシテ本草案ハソレ等ノ二十世紀的ナ發展ト云フモノヲ取入レテ居ルヤウニ見受ケラレルノデアリマス、例ヘバ第二十三條乃至第二十六條ノ規定ノ如キハ、社會主義的ナ要請ヘノ大キナ讓歩ヲ示シテ居リマス、ソコニハ明白ニ米國憲法ノ二十世紀的發展ガ織込マレテ居ルノデアリマス、成文憲法ノミニ現レタ米國憲法ノ基本人權ニ關スル規定ハ、著シク個人主義的デアリマス、從ツテソレハ資本主義的經濟組織ノ牙城トナリ、十九世紀以來現レタ社會立法、勞働立法ノ憲法適合性ノ問題ヲ中心トシテ、聯邦最高裁判所ノ裁判官ノ間ニ、保守派、進歩派ノ間ノ有名ナル意見ノ對立ヲ惹起サセタノデゴザイマス、併シ現在ニ於テハ「アメリカ」ノ最高裁判所ハ、必ズシモ資本ノ番人デハナイ、最高裁判所ノ判例ハ、社會主義的要請ヲ無視シテハ居ナイノデアリマス、勿論此ノ本改正案ガ社會主義的ナ憲法デアルトハ言へナイ、資本主義ト社會主義トハ平等ノ地位ニ立ツテ、自由ニ政治闘爭ヲ爲シ得ルヤウニナツテ居ルノガ、此ノ憲法ノ性格ノヤウニ思ハレルノデアリマス、ソレハ資本主義カ、或ハ社會主義カト云フ世界的「イッシュー」ト云フモノヲ未解決ノ儘ニ残シテ居ル、從ツテソレハ資本カラモ勞働カラモ不徹底ナルモノトシテ非難サレルデアリマセウ、併シ現代日本ノ憲法トシテハ、ソレガ最モ現實ニ合致スルモノデハナイカト思ハレマス、第三章中ニハ國民ニ對シ又ハ立法府、行政府ニ對スル訓示的ナ規定ト見ラルベキモノガナイ譯デハアリマセヌ、例へバ第十一條第十二條ノ如キハ訓示的規定ト見ラルベキモノデアリマセウ、併シ所謂立法權ノ優越ヲ認メテ居ル諸憲法ノヤウニ、基本的人權ニ關スル規定ノ全部ガ政治道徳的ナ規定デハナイ、否寧ロ本章ノ規定シテ居リマスル基本人權ハ、國會及ビ政府ニ對シテ司法的ニ保障サレタ効果的ナ國民ノ基本人權デアル點ニ其ノ著シイ特色ガアルノデアリマス、從ツテ本章ノ規定ニ對スル批判ハ此ノ觀點カラ爲サレネバナラナイト思ハレマス、政治道徳的ナ見地カラデハナク、所謂國權ノ最高機關タル國會ノ立法ニ對シテ、如何ナル法的制約ガ置カルベキカト云フ觀點カラ我々ハ考察ヲ進メナケレバナラナイノデアルト思ヒマス、第二章ノ規定中御尋ネシタイ點ハ數多クゴザイマスガ、茲ニハ左ノ三點ニ付テ政府ノ解釋ヲ御伺ヒシテ置キタイト思ヒマス、第一點ハ、第十二條ニ生命、自由及ビ幸福ノ追求ニ對スル國民ノ權利尊重ニ付、「公共の福祉に反しない」ト云フ制限ガ置カレテ居リマスガ、此ノ原則ハ無制限的ナ形デ書カレテ居ル基本的人權保護ノ規定、例へバ思想及ビ良心ノ自由ニ關スル第十條、信教ノ自由ニ關スル第十八條、集會、結社及ビ表現ノ自由ニ關スル第十九條、學問ノ自由ニ關スル第二十一條ニモ適用ヲ見ル趣旨デアリマスカ、又ハ文字通リ何等制限ノナイ趣旨デアリマスカ、若シモ前者デアルトスレバ、居住、移轉及ビ職業選擇ノ自由ニ關スル第二十條ニ、特ニ「公共の福祉に反しない限り」ト云フ制限ヲ明示サレタ理由ハドウ云フ譯デアルカ、第二點、第二十條其ノ他多クノ規定ニ「何人も」トアリマスノハ、第十二條其ノ他ニ「すべて國民は」トアルノニ照シテ、日本人ノミナラズ外國人ヲモ含ム天賦人權的ナモノトシタ趣旨デアリマスカ、米國憲法デハ斯ウシタ場合ノ「何人も」ノ字句ハ内外人ヲ含ム趣旨ノヤウデアリマスガ、ソレト同様ナノデゴザイマスカ、或ハ又第三章國民ノ權利義務ト云フ表題ニ鑑ミ、當然ソレハ日本人ノミニ限定サレルト云フ趣旨デアリマスカ、若シモ前者デアルトスレバ、基本人權中ニ人類普遍的ナルモノト國民的ナルモノトノ二種類ヲ認メル趣旨デアリマスカドウカ、第二ニ司法ニ付テ御尋ネ致シマス、第六章司法ノ規定ヲ第三章基本的人權ニ關スル規定及ビ第十章最高法規ニ關スル規定ト照合致シマスルト、現行憲法ノ司法ト云フ概念ニ根本的ナ變革ガ加ヘラレテ居ルコトガ明カデゴザイマス、司法ハ民事、刑事ノ事件ノ裁判ニ限ラレルト云フ思想ハ「アンシアン・レジーム」時代ニ於ケル「パールマン」ノ處置ニ對スル反感ニ由來スル「フランス」ノ特殊事情ニ基イテ裁判官ハ行政ニ干渉シテハナラナイト云フ思想ニ依ツテ成立シタノデアリマスガ、「フランス」ノ影響ノ下ニソレガ大陸法系ノ國々ノ司法概念ノ通念トナリ、我ガ現行法モ其ノ影響ノ下ニ成立ツテ來テ居ルノデアリマス、然ルニ英米法ノ司法ノ概念ハ、ソレトハ著シイ對照ヲ成シテ居ル、「イギリス」ニ於テハ、裁判所ハ法ノ面カラ行政府ノ行動ヲバ抑制スル、併シ國會ノ制定シタ法律ニ對シテハ、裁判所ハ絶對服從ノ態度ヲ示ス、「アメリカ」合衆國ニ於キマシテハ、聯邦ニ於キマシテモ各州ニ於キマシテモ、「イギリス」ニ一歩進メテ、基本的人權ニ關スル憲法ノ條項ニ基イテ、裁判所ハ其ノ司法權ヲ行使スルニ當ツテ、立法府ノ行爲ニ對シテ監視的ナ地位ニ立チ、違憲立法ヲ無效トシテ、其ノ適用ヲ拒否スルノデゴザイマス、本改正案ノ國會及ビ内閣ノ規定ハ著シク「イギリス」流デアツテ、「イギリス」人ノ所謂「パーリメンタリ・ソヴェルニティ」ト云フモノヲ思出サセルヤウナ、國會ハ國權ノ最高機關デアルト云フヤウナ建前デ書カレテ居リマス、然ルニ司法ニ付テ、最高裁判所ハ此ノ國權ノ最高機關デアル所ノ國會ノ制定シタ法律ヲ、憲法ノ條項ニ基イテ無效トスル權限ガ與ヘラレテ居ル、是ハ司法權ノ優越トシテ一般ニ言ハレテ居ル「アメリカ」ノ制度ヲ思出サセル種類ノモノデゴザイマス、此ノ司法概念ニ關スル劃期的ナ改正ニ關聯致シマシテ、私ハ左ノ五點ニ付テ政府ノ所見ヲ伺ヒタイノデゴザイマス、第一點ハ、國民ノ總意ヲ基調トスル民主主義ノ精神カラスレバ、國會ヲ以テ國權ノ最高機關トシ、裁判所モ之ニ絶對服從ノ義務ヲ負ハシメル「イギリス」流ノ憲法デ十分デアリマスガ、本改正案ニ於テ、國會ノ制定シタ法律ノ憲法適合性ヲ決定スル權限ヲ裁判所ニ與ヘタノハ如何ナル趣旨ニ基イテ居ルカ、不羈獨立、當面ノ政爭ヲ超越シテ冷靜ニ、理性ト法的經驗トニ基イテノミ裁斷ヲ下ス裁判官ヲシテ、ヨリ永遠的ナ見地カラ、民主政治ニ伴フ多數專制ノ弊ヲ抑制シ少數者ヲ保護スルコトニ依ツテ、基本人權其ノモノヲ保障セムトスル趣旨デアルカドウカ、第二點、第七十七條ハ、法律其ノ他ノ憲法適合性ヲ審査決定スル權限ヲ最高裁判所ノミニ與ヘル趣旨デアリマスカ、或ハ又「アメリカ」合衆國ニ於ケルト同様、下級裁判所ニモ斯カル權限ヲ認ムル趣旨デアリマスカ、若シ前者デアルトスルナラバ、「アメリカ」デハ當然デアルトセラレテ居ル此ノ慣行ト云フモノヲ捨テテ採ラナカツタ理由ハドウ云フ譯デアルカ、第三點、最高裁判所ニ依ル憲法ノ解釋ハ當該事件ノ判決ノ基礎トナルニ止ツテ、國會及ビ政府ハ將來最高裁判所ノ解釋ニ拘束ヲ受ケズ、各自獨立ノ解釋ヲ採ルコトヲ得ル趣旨デアリマスカ、或ハ又「アメリカ」合衆國ニ於テ見ラルヽ如ク、國會及ビ政府ハ過去ニ於ケル最高裁判所ノ憲法解釋ニ依ツテ拘束ヲ受ケル趣旨デアルカ、第四點、第七十五條第二項、第七十六條第二項ノ規定スル裁判官ノ報酬ニ付テハ、從來ノ我ガ國及ビ大陸諸國ノヤウナ昇進制、所謂「プロモーション・システム」ヲ其ノ儘維持スル意嚮デアルカ、或ハ英米ニ於テ司法權ノ眞ノ獨立ニ必要ナモノトサレテ居ル定額報酬制ヲ採用スル御意嚮デアルカドウカ、第五點、裁判所ニ依ル法律ノ憲法適合性ノ審査決定ハ、所謂形式的審査ノミナラズ、實質的審査ニモ及ブモノデアリマセウ、斯カル實質的審査ノ中デ特ニ基本的ナ人權ト云フモノト、公共ノ福祉トノ限界ト云フモノヲ定メル裁判官ノ職務ハ極メテ政治的ニ「デリケート」ナ問題デゴザイマス、國會ニ於キマシテ、保守ト進歩、資本主義政黨ト社會主義政黨トノ激シイ論爭ノ後、多數決ニ依ツテ通過シタ法律ヲ、政治的ナ勢ヒヲ超越シテ、ヨリ永遠的ナ、高踏的ナ立場カラ違憲ト宣言スルコトハ、結果ニ於テ國會ニ於ケル多數議員ノ敵方ニ廻ルコトニナル、又斯カル法律ニ依ツテ利益ヲ受ケル階級カラ憎マレルコトニナル、ソレハ非常ナル勇氣ヲ要スルノデゴザイマス、從ツテ司法的憲法保障制ヲ採ル限リ、裁判官ヲ政爭カラ超越シ得ル十分ナル保障ガ必要デゴザイマス、「アメリカ」合衆國最高裁判所ノ裁判官ニハ斯カル保障ガ完全ニ與ヘラレテ居リマス、從ツテ任命ノ際ハ政黨的考慮カラ任命ガアルトシテモ、一旦裁判官トナレバ、獨立不覊ノ態度ガ執ラレ得ルヤウニナツテ居ルノデゴザイマス、サウシテ不評判ナ判決ヲ爲ス裁判官ノ罷免、其ノ他苟クモ裁判官ノ獨立ヲ傷ツケルヤウナ法案ハ常ニ破レテ居ルノデゴザイマス、然ルニ第七十五條第二項、第三項ノ定メテ居ル國民審査ニ依ル裁判官罷免ノ制度ハ、十年ニ一囘國民ニ問ウテ、所謂骨化シタ頭ノ裁判官ヲ退カシメルト云フ趣旨デゴザイマス、併シ趣旨ニ於テハ兎ニ角、實際上ハ裁判官ヲシテ政黨政治ノ影響ノ下ニ立タシメ、其ノ獨立ヲ實質上害スルコトニハナラナイカ、ソレハ角ヲ矯メムトシテ牛ヲ殺スコトニナラナイカ、此ノ點ニ付テノ政府ノ所見ヲ伺ヒタイ、第三ハ條約ニ付テデゴザイマス、第十章 最高法規ニ關スル規定中、第九十四條ノ條約、國際法等ニ對シテ、立法其ノ他國政ノ上デ最大ノ尊重ガ拂ハルベキコトトシタコトハ、日本國ガ國際團體ノ一員タル以上當然ノ事理デハゴザイマスガ、一部國民ノ間ニソレヲ輕視スル風潮ガアツタコトニ照シテ、此ノ條項ヲ掲ゲタコトニハ贊成デアリマス、唯改正草案ノ下ニ於ケル條約ノ國内法的地位ニ付テ、一二政府ノ見解ヲ御尋ネ致シマス、第一點、九十四條第一項ニハ、「條約」ト云フモノヲ特記シテ居リマセヌガ、條約ハ「國務に關するその他の行爲」中ニ含マレ、憲法ノ條項ニ反スル條約ハ、法律其ノ他ト同様、國内法上無效ト解シテ差支ナイカドウカ、第二點、國内法上條約ト法律ハ竝立的關係ニ立チ、所謂前法後法ノ理論ニ依ツテ兩者間ノ効力ヲ定ムベキ趣旨デアルカドウカ、第三點、第七十七條デハ最高裁判所ハ法律、命令、規則又ハ處分デ憲法ニ適合スルヤ否ヤヲ決定スル權限ヲ有スルモノトシテ居ルガ、此ノ所謂「處分」ハ條約ヲ含ム趣旨デアルカドウカ、第四ニ、戰爭ノ抛棄ニ付キマシテ御尋ネ致シマス、改正案第九條ハ武裝ナキ日本ト云フモノヲ想定シテ居リマス、日本ガ國際交通ヲ絶タザル限リ、將來ト雖モ日本ガ國際紛爭ノ當事者トナルコトハ避ケ得ナイデアリマセウ、ソレ等ハ總テ武力ノ背景ナシニ全部合理的ニ解決スルコトヲ豫定シタモノデアリマス、ソレハ「武力ガ最後ノ議論デアル」ト云フヤウナ思想ヲ捨テ去ツタコトヲ意味スルト解釋致シマス、斯ウシタ思想ハ過去ニ於ケル日本ノ平和主義者中ニモ存在シナカツタ譯デハアリマセヌ、宗教家内村鑑三ハ、嘗テ「余ヲシテ首相タラシメバ、先ヅ軍備ヲ撤廢シテ世界ニ範ヲ示スデアラウ」ト言ツタ、併シナガラ敗戰ト云フ嚴肅ナ事實ガナカツタラ、斯カル原則ガ日本憲法ノ原則トナルコトハ當分ナカツタデアラウコトハ明ラカデアリマス、改正案第九條ハ畢竟歴史的所産デゴザイマス、併シソレハ將來ノ日本ノ建設ニ付テノミナラズ、世界ノ建設ニ付テ重要ナ意味ヲ持ツテ居ルト考ヘルノデゴザイマス、外敵ニ對スル防衛ト云フコトト、國内ノ治安維持ト云フコトハ、國家ノ最小限度ノ職能デアルト云フコトガ從來ノ政治學的ナ常識デゴザイマシタ、斯クシテ武裝セル主權國家カラ成ル國際社會ト云フモノハ、如何ナル平和維持ヲ目的トシタ國際條約ニ拘ラズ、絶エズ爆發ノ危險ヲ内包シテ居ルノデアリマシタ、今次大戰ノ結果ト致シマシテ、原子爆彈ガ發見サレ、科學ノ進歩ニ依ツテ更ニソレハ完成サレルコトデゴザイマセウ、將來ノ世界戰爭ハ或民族ノ殲滅ノミデナク、人類其ノモノノ殲滅ニ導クノデハナイカ、從來ノ主權國家ノ觀念ヲ捨テテ世界聯邦ヲ作ラナケレバナラヌ時期ニ人類ハ到達シテ居ルノデハナイカ、併シ政治思想ハ科學ノ進歩ニ常ニ遲レルノデゴザイマス、斯クシテ人類ハ自ラ作ツタ武器ニ依ツテ自ラヲ殲滅スルコトニナルノデハナイカ、サウシタコトガ世界各國ノ識者ノ最モ強イ關心事トナツテ居リマス、世界聯邦ノ形ニ於ケル世界國家ガ成立スレバ、各國ハ改正案第九條ノ想定シテ居ル武裝ナキ國家トナルノデアリマス、世界ニ生起スル總テノ國際紛爭ハ武力ヲ背景トセズ、理性ニ依ツテ解決サレルコトニナル、武力ハ世界警察力トシテ、人類理性ノ僕トシテノミ存在ガ許サレル、改正案第九條ハ斯カル世界聯邦ヲ前提トシテノミ合理的デアリマス、所謂國際聯合ハ現在斯カル世界聯邦建設ヘノ萌芽ヲ包藏シテ居リマス、ソレガドウ云フ風ニ發展、展開シテ行クカ、或ハ展開セシムベキカ、是ハ將來ノ問題デゴザイマス、併シ改正案第九條ヲ採擇スル以上、速カニ之ヘノ參加ヲ要請スル方針ヲ以テ一面武裝ナキ日本國民ノ安全ヲ確保シ、他面世界聯邦建設ニ努力スルコトガ必要不可缺デアルト思ヒマス、此ノ點ニ關スル政府ノ所信ヲ御伺ヒ致シマス、最後ニ改正案ノ豫定シテ居ル憲法ノ運用ノ問題ニ付テ御伺ヒ致シマス、本改正案ハ政治的民主主義ノ憲法トシテ、最モ進歩シタ種類ノモノデゴザイマス、多年政治的民主主義ノ訓練ヲ受ケタ「アメリカ」デモ「イギリス」デモ例ヘバ第十三條ノ宣明スル男女平等ノ原則ヲ全的ニ認メタノハ、第一次世界大戰以後ノコトデアリマス、改正案ニ依リマスレバ政治的權力ハ終局的ニハ國民ノ手ニアル、國民ノ如何ニ依ツテ政治ノ在リ方ガ決マルノデアル、ソコデ在ルガ儘ノ日本國民ト云フモノヲ對象トシテ考ヘタ場合、此ノ改正案ノヤウナ進歩シタ憲法ヲ基本トシテ、果シテ民主主義的ナ日本ノ建設ニ成功スルコトガ出來ルカニ付テ我々ニ疑ガ起ルノデアル、斯ウシタ憲法ハ所謂「ペーパー・コンスティテューション」ニ終ルノデハナイカ、否却テ弊害百出シテ其ノ目的トスル民主主義日本ノ建設ヲ不可能ナラシメルノデハナイカ、斯ウシタ疑問ガ自ラ我々ノ頭ニ起ルノデアリマス、併シナガラ内外ノ情勢ニ照ラシテ此ノ改正案ノ採用スル民主主義諸原理カラ我々ハ一歩モ後退スルコトハ出來ナイノデアリマス、從ツテ此ノ憲法ヲ運用シテ民主日本ヲ建設スル爲ニハ、國民ノ道徳ト知性ノ在リ方ニ付テ、根本革新ヲ必要トスルト信ズルノデゴザイマス、教育ガソレヘノ唯一ノ道デアルト考ヘルノデアリマス、進歩的ナ民主主義ト云フモノハ相對主義的ノ思想ヲ信條トスルノデゴザイマス、或事ヲ正シイト考ヘテ居ル人間ガ、之ヲ他人ニ強制スル實力、權力ヲ持ツテ居ル場合、反對ノ立場ノ者ノ言論ヲ抑壓シ、又ハ其ノ他ノ方法デ之ニ壓迫ヲ加へ、自ラノ意志ニ屈セシメヨウトスル、サウ云フ心理的傾向ハ、人間ノ性情ノ中ニ深ク根差シテ居ルノデアル、中國ノ儒教、西洋ニ於テハ「プラトン」「セント・オーガスチン」ノ政治理論、又近來ノ「ファシズム」ハ、斯ウシタ心理的態度ト云フモノヲ、政治形態トシテ是認致シマス、ソコニ開明專制主義ノ思想ガ生レマス、ソレハ併シ、絶對主義的ナ政治思想デゴザイマス、反民主主義的ナ思想デゴザイマス、斯ウシタ心理的態度カラハ、民主主義ハ生レテ來ナイ、民主主義ハ眞理ト正義ノ人間的ナ認識デ、畢竟相對的デアルコトノ歴史的經驗ニ基礎ヲ置クモノデアリマス、勿論民主政治ハ輿論政治デアリ、多數決ニ依ツテ物事ヲ決メテ行ク、併シ何處迄モ自由討議ニ依ツテ眞理ト正義トヲ發見セムト努力シ、多數ニ依ツテ排セラレル少數者ノ意見中ニ、却テ人類進歩ニ導ク眞理ノ把握ト云フモノガ存在スル可能性ヲ認メマシテ、之ヲ保護シ、之ヲ尊重セムトスルノデアル、是ガ進歩的ナ民主主義ノ心理的態度デアリマス、從ツテ所謂基本的人權中、生命權、財産權ナドヨリモ言論ノ自由ト云フモノガ進歩的ナ民主主義政治ノ生命線ヲナスノデ、優生學的ナ立法ニ依ツテ、基本的人權デアル所ノ國民ノ生命權ト云フモノガ侵サレルコトガアツテモ、民主主義ハ消滅シナイ、又總テノ私有財産ガ廢止サレ、國家ノ管理ニ移サレテモ、更ニ此ノ國家管理制廢止ノ自由討議ガ許サレル限リ、ソシテ少數ノ意見ガ多數意見トナル可能性ガアル限リ、ソコニ民主主義ハ生キテ居ルノデアリマス、斯ウシタ相對主義的ナ思想ニ基ク民主主義政治ニハ、ソレニ即應シタ道徳的態度ト、知性的ナ態度ト云フモノヲ必要トスル、ソシテ我ガ國ガ民主主義日本トシテ健ヤカニ成長スル爲ニハ、道徳ト知性トノ在リ方ニ付テ、根本的ナ改革ヲ必要トスルノデハナイカ、第一ニ、道徳ニ付テ日本國民ノ大部分ハ、長イ間ノ封建政治ノ下ニ於キマシテ、又近クハ明治時代ニ於ケル教育勅語ノ強イ影響ノ下ニ、政治的權威ヘノ服從ノ道徳ト云フモノニ育クマレタ、斯クシテ日本人ハ或意味デ比類ナキ「ロー・アバインディング」ナ國民デアルト言ヘル、從ツテ他面政治的權力者カラ見マシテ、最モ統治シ易キ國民デアル、併シ斯ウシタ道徳ノ下デハ、民主主義日本ハ建設サレナイト思フノデアリマス(拍手)尤モ「義ヲ見テセザルハ勇ナキナリ」、「千萬人ト雖モ我レ往カム」ト云フ態度デ政治的權威ヲ批判シタ人ガナカツタ譯デハナイ、併シ其ノ言論ハ直チニ官憲カラ抑壓サレ、一般國民カラ效果的ニ支持サレナイ、寧ロ一般國民ハ禍ノ身ニ及バムコトヲ恐レテ、「見ザル聞カザル話サザル」ノ三猿主義ヲ決メ込ムノガ常デアツタ、斯ウシタ道徳的態度カラハ民主主義ハ生レテ來ナイ、民主主義ハ自己ノ信ズル所ヲ勇敢ニ表現スルガ、他人ノ反對意見ヲ尊重シ、自己ノ誤リヲ知ルヤ直チニ之ヲ認メル道徳、他人或ハ自己ノ判斷ニ對スル絶對的信仰デハナク、寧ロ彼我ヲ絶スル客觀的眞理ヘノ信仰、之ニ基イテ眞理ノ共同追求ニ對スル一ツノ「フェヤー・プレー」ノ精神、是ガ不可缺デアリマス、政治的權威ニ對スル尊敬ハ民主主義政治ノ道徳トシテモ或程度必要デアルコトハ勿論デアル、ソレニ依ツテ社會ノ秩序ト云フモノガ維持サレル、併シ客觀的眞理追求ヘノ熱意、ソレニ到達スル共同努力ノ過程ニ於ケル「フェヤー・プレー」ノ精神ノ涵養ヲ必要トスル、此ノ點ニ於テ我ガ國民ノ道徳ハ根本的ナ改造ヲ必要トスル、第二ニ知性ノ在リ方デゴザイマス、考へ方デゴザイマス、我ガ國デハ明治以來歐洲文化ノ成果ヲ受入レルニ急デアリ、教育ノ方法ハ詰込ミ主義ニ傾キ、ソレバカリデナク、一切ノ法制ガ「ヨーロッパ」大陸ノ成文法ニ範ヲ取ツタ關係モアリマシテ、知識階級ノ知性ノ在リ方ガ著シク抽象的、演繹的デアル、「イギリス」ノ「マクミラン」卿ハ「二ツノ考へ方」ト題スル論文ノ中デ、判例ニ依ツテ、具體的ナ事件ノ經驗ノ蓄積ニ依ツテ築キ上ゲラレタ「イギリス」ノ法制ト、權威アル「テキスト」デアル法典ヲ解釋スルコトニ依ツテ築キ上ゲタ「ローマ」法制トノ差異ガ、法律ノ分野ダケデナク、英米ト大陸ニ於ケル政治、經濟、宗教、文化ノ各領域ニ於ケル知性ノ在リ方、物ノ考へ方ヲ根本的ニ異ラシメタノデアルト云フコトヲ論證シテ居リマス、「アングロ・サクソン」ノ考へ方ハ何處迄モ具體的、歸納的デアリ、大陸的ナ考へ方ハ何處迄モ抽象的、演繹的デアルト論ジテ居ル、我ガ國ニ於ケル近代人ノ知性ノ在リ方ハ著シク大陸的ナモノトナツテ居リマス、例へバ政治ノ分野デモ、識者ハ高度ノ抽象性ヲ持ツ「イデオロギー」ノ問題ニ關心ヲ持ツテ居ル、又抽象的ナ美辭麗句デ飾ラレタ政綱、或ハ巧ミナル「スローガン」ニ引摺ラレル傾向ガアル、何處迄モ具體的、國民生活ニ照ラシタ具體的ナ政策ト云フモノヲ生ミ出スト云フ「アングロ・サクソン」的ナ考へ方ノ訓練ニ缺クル所ガ多イヤウデゴザイマス、此ノ抽象的、演繹的ナ知性ノ在リ方ハ、絶對主義的ノ政治ニハ都合ガ好イノデアルガ、政治的民主主義ニハ即應セザル知性ノ在リ方デアル、民主主義日本建設ニハ之ニ即應スル知性ヲ國民ガ涵養スルコトガ是非共必要デアルト考ヘマス、要スルニ本草案ノ想定シタ民主主義政治ノ運用ニ付キマシテ、道徳ト知性ノ在リ方ノ問題ガ、民主主義日本ノ建設ニ即應スベキ教育改造ノ根本問題デハナイカト思ヒマス、此ノ點ニ付キマシテ政府當局ノ所見ヲ伺ヒタイ(拍手)
 〔國務大臣吉田茂君登壇〕
○國務大臣(吉田茂君) 御質問ノ中デ、戰爭抛棄ニ關スル部分ニ付テ御答ヲ致シマス、其ノ他ノ御質問ノ部分ニ付テハ主務大臣カラ御答ヲ致スコトニ致シマス、第九條戰爭抛棄ノ原則ヲ採用スル以上ハ、國際聯合ヘノ加入ヲ政府ガ努力スベキデハナイカト云フ御質問ト考ヘマスガ、政府ト致シマシテハ、御趣意ノ通リデアリマス、唯現状ニ於キマシテハ、日本政府ノ行動ハ「ポツダム」宣言ニ依ツテ制約セラレテ居リマシテ、從ツテ御趣意ノ通リ、此ノ問題ハ、將來ノ問題デアリマスガ、將來國際聯盟ニ加入スル時期、若シクハ努力致スベキ時期ガ參リマシタ場合ニ、政府ト致シマシテハ十分努力スル考デアリマス
  〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕
○國務大臣(金森徳次郎君) 高柳君ノ各種ノ御質問ノ中デ、司法ニ關シマスル問題ト、主トシテ教育ニ關シマスル問題ヲ除キマシテ、其ノ他ノ點ニ付テ私ヨリ御答ヲ致シタイト思フ譯デアリマス、第一ニ第三章ノ「國民の權利及び義務」ノ點ニ付キマシテ、高柳君ハ鋭ク人格ノ尊重、個性ノ尊重ト云フ點ヲ眼目トシテ、此ノ「國民の權利及び義務」ノ章ノ中ニ盛込ンデアル原則ニ觸レテ御尋ニナリマシタ、正シク御説ノ通リデアリマシテ、此ノ憲法ハ、幾分十九世紀或ハ更ニ遡ツタ所ノ個人尊重ノ感ジガシナイコトハアリマセヌケレドモ、併シ決シテソレノミニ終始スルモノデハナクシテ、先ヅ十分ニ個人ノ覺醒ニ、目覺メテ、其ノ個人ガ健全ナル集團生活ヲ營ミマスル時ニ守ルベキ限界ヲハツキリ見定メルト云フノガ、第三章ノ眼目トスル所デアリマス、ソコデ高柳君ハ之ニ付キマシテ二ツノ點ヲ御尋ニナリマシタ、第一ニハ、思想ノ自由トカ、宗教ノ自由トカ、或ハ表現ノ自由、トカ云フコトニ關スル此ノ憲法ノ規定ハ、文字ダケデ見レバ絶對的ノ姿ヲ持ツテ居ルケレドモ、併シソレハ公益或ハ公共ノ福祉ト云フ枠ニ依ツテ規正セラレテ居ルモノデアルカドウカト云フ點デアリマス、言フ迄モナク、個人ノ尊重ハ同時ニ共同生活ノ尊重ヲ含ンデ居リマスルガ故ニ、此ノ第三章ノ規定ハ、各個ノ權利ガ決シテ公共ノ福祉ヲ紊ルト云フコトノナイコトヲ前提トシテ規定セラレテ居ルモノデアリマス、其ノ趣旨ハ此ノ憲法改正案ノ第十一條及ビ第十二條ニ依ツテ明カニセラレテ居ル所デアリマシテ、第十一條ニ於キマシテハ、此ノ權利其ノモノニ觸レテ規定ヲ致シマシテ、國民ハ之ヲ濫用シテハナラナイ、公共ノ福祉ノ爲ニ之ヲ利用シナケレバナラナイト規定シテアリマス、即チ權利ノ濫用ト云フコトハ公共ノ利益ヲ害スルコトデアリマスカラ、是ハ憲法ガ初メカラ排除セムトシテ居ル所デアリマス、又第十二條ニ於キマシテハ、立法其ノ他ノ國政ノ上ニ於キマシテノ尊重ト云フ立場カラ、總テノ權利ガ公共ノ福祉ニ反シナイト云フコトヲ明白ニシテ居リマス、此ノ二ツノ制約ニ依リマシテ、第三章ノ諸般ノ權利ハ必ズ公共ノ福祉ノ枠内ニアルベキ趣旨デアルコトハ明瞭ト考ヘテ居ルノデアリマス、之ニ關聯ヲ致シマシテ、高柳君ハ尚御質疑ニナリマシテ、若シモ左樣ナ意味デアルナラバ、此ノ改正案ノ第二十條ニ居住、移轉及ビ職業選擇ノ自由ヲ規定致シマスル時ニ、態々此處ニ「公共の福祉に反しない限り」ト云フ文字ガ使ツテアルノハ如何ナル趣旨デアルカ、斯ウ云フ御尋デアツタノデアリマス、是ハ第三章ニ盛込ンデアリマスル權利ニ公共ノ福祉ニ反シナイト云フ枠ノアルコトハ當然デアリマスルケレドモ、各個ノ權利ヲ規定致シマスル時ニ、必ズシモ先ニ述ベマシタヤウナ第十一條ノ此ノ制約ノ文字ガ妥當ニ當嵌リ得ナイノデアリマシテ、其ノ明瞭ナル一事例ハ第二十七條ノ財産權ノ場合ニ現レテ居リマスルガ、「財産權の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」ト云フ風ニ態々其處ニ特別ナル「公共の福祉」ナル文字ヲ使ツテ居リマス、是ハ此ノ權利ヲハツキリ定メマスル爲ニ已ムヲ得ザル所カラ使ツテ居リマス、同樣ニ第二十條ニ於キマシテ、居住移轉ノ自由ヲ書キマスル場合ニハ、之ヲ例ヘバ先ノ第十一條ニ當嵌メテ行キマスルト、國民ハ之ヲ濫用シテハナラナイト云フ制約ノ下ニアルノデアリマスガ、居住移轉ノ自由ト濫用ト云フコトヲ組合セマスルコトハ甚ダ不自然ナモノデアリマシテ、容易ニ了解シニクイ嫌ヒガアルノデアリマス、ソコデ積極的ニ第二十條ニ於キマシテハ、權利其ノモノヲ「公共の福祉に反しない限り、」ト云フ言葉ヲ以テ限定ヲシタノデアリマシテ、ソレハ文字ノ取扱上特ニ斯樣ナ風ニ規定シタノデアリマシテ、全體ノ精神ガ之ニ依ツテ動イテ居ル譯デハゴザイマセヌ、ソレカラ第二ノ御質疑トシテ、此ノ第三章ノ中ニハ、或規定ニハ「何人も、」制限ヲ受ケナイト云フヤウナ規定ガアリ、又或規定ニ於キマシテハ他ノ言葉ヲ用ヒテ、「すべて國民は、」ト云フヤウナ風ニ規定シテアル、此ノ「國民は、」ト規定スルモノト、「何人も、」ト規定シテアルモノトノ間ニ意味ノ差ガアルノカ、又其ノ差ガ如何ニ影響スルノデアルカト云フ意味ノ御尋デアリマシタガ、高柳君ガ一面ニ於テ御指摘ニナリマシタヤウニ、此ノ憲法ハ廣ク人間ニ當嵌マル所ノ權利規定ト、日本國民ニ當嵌マル權利規定トヲ先ヅ區別シテ居リマス、從ツテ「何人も、」ト云フ言葉ヲ以テ起シマシタ權利規定ハ、是ハ獨リ日本人ニ當嵌マルト限ラナイノデアツテ、如何ナル人ニモ當嵌マルベキ性質ノ規定デアルト云フ趣旨ヲ明カニシテ居ルノデアリマス、又「國民は、」トアリマスル規定ハ、是ハ日本國民ヲ目指シテ特ニ規定スル必要ノアルモノデアル譯デアリマス、併シナガラ權利自身ニハ斯樣ナ二色ノ性質ガアリマスルケレドモ、此ノ憲法ガ現實ノ制度トシテ規定ノ客體ト致シマスル趣旨ハ、第三章ノ表題ニアリマスル「國民の權利及び義務」ト云フ言葉、或ハ第十條ニアリマスル「國民は、すべての基本的人權の享有を妨げられない。」ト云フヤウナ規定、或ハ又第九十三條ニアリマスルヤウナ規定、詰リ國民ニ權利ヲ保障スル規定ト云フモノニ依ツテ明カデアリマスル如ク、是ハ日本國民ニ對シテ是等ノ權利ヲ憲法上明カニ規定スルノデアリマシテ、然ラザル部分ニ對スル關係ハ、其ノ影響ノ下ニ或程度ノ存在ヲ持ツト云フコトニナラウト考ヘマス、司法ノ點ハ先ニ申シマシタヤウニ、主トシテ司法大臣ヨリ御説明ヲ願フノデアリマスルガ、唯私ノ立場トシテ特ニ申上ゲタイノハ、何故ニ司法ノ權能ニ依ツテ議會ノ立法權ニ對スル批判ヲ加ヘ得ル途ヲ設ケタカ、即チ「イギリス」ニ發達シテ居ル所ノ純粹ナル議會政治ノ原則ヲ採ラナイデ、之ニ在來日本ノ憲法ノ認メテ居リマスル三權分立ノ主義、更ニ徹底ヲシタル權力ノ分立ノ主義迄及ンダカト云フコトニ關シテ私ノ立場カラ一言申上ゲテ置キタイト思フノデアリマスルガ、「イギリス」ニハ「イギリス」特有ノ發達ガアツテ、議會ガ總テ最高デアル、裁判ニ關スル限リモ、立法ニ關スル限リモ、其ノ他ニ關スル限リモ、絶對ノ最高性ヲ保タシムルト云フコトニナツテ居ルノデアリマスルガ、之ヲ日本ニ當嵌メテ見マスルト、矢張リ多數政治ノ中ニハ一時ノ誤解モ起リ得ルノデアツテ、國會ノ定メタル法律モ尚憲法ニ適スルヤ否ヤノ批判ヲ貽ス餘地ガアラウ、必ズシモ少數ヲ壓迫スルト云フコトニ限ラズシテモサウ云フ問題ガ起リ得ルノデアリマスルシ、又少數ヲ壓迫スルヤウナ可能性モ、其ノ中ニ含マレテ居ルノデアリマス、從ツテ一般ノ權力分立ノ基本ノ原理、即チ「チエック・アンド・バランス」ノ原理ヲ此ノ範圍ニ於テ尊重スルコトガ正シキ行途デアラウ、在來ノ我々ノ政治上ノ經驗ニ徴シテモ亦其ノ行途ガ正シイデアラウ、斯ウ云フ著想ノ下ニ裁判所ガ法律ヲ批判シ得ル地位ヲ認メタ譯デアリマス、次ニ條約ノ關係ニ付テデアリマスルガ、御示シニナリマシタヤウニ、憲法改正案ハ第九十四條ニ於キマシテ、「條約及び確立された國際法規は、これを誠實に遵守することを必要とする」ト云フ規定ヲ設ケテ居リマス、此ノ言葉ハ極メテ簡單デアリマスルガ、其ノ包含シテ居ル内容ハ、有ラユル角度ニ於テ誠實ニ遵守スルト云フコトヲハツキリ言切ツテ居ルノデアリマス、從ツテソレガ國際法ノ、國際關係ノ面ニ現レマスル場合ニ、又國内的秩序トシテ現レマスル場合モ誠實ニ遵守スルコトニナツテ來ルノデアリマス、此ノ基本ノ考ヲ前提ト致シマシテ、高柳君ガ御指摘ニナリマシタ三ツノ問題ニ觸レテ行キマスルト、第一ノ御質問ハ、多分九十四條ノ中ニ現レテ居ル「國務に關するその他の行爲」ト云フモノノ中ニ條約ガ入ツテ居ルカ居ナイカ、斯ウ云フ御質疑デアツタト察スルノデアリマス、言ヒ換ヘマスレバ憲法ト條約トノ關係デアリマス、是ハ一言ニシテ盡シ難キモノガアルノデアリマシテ、條約ト云フモノハ國際關係ニ於キマシテ非常ナル深イ價値ヲ持ツテ居リマス、其ノ現レマスル姿ハ必ズシモ一ツノ姿デハアリマセヌ、憲法トノ關係ニ於キマシテハ、其ノ條約ノ性質ニ照ラシテ如何ニ扱フカヲ愼重ニ考ヘナケレバナラヌト思フノデアリマス、言ヒ換ヘマスレバ憲法ニ對シテ制約ヲ加フル條約モ亦アリ得ルト云フ考ニ基イテ御説明ラ申上ゲタノデアリマス、ソレカラ第二ノ點ト致シマシテ、國内法的ニ法律ト條約トハ竝立的ナモノデアル、二者ヲ調節致シマスルニ、所謂前法、後法ノ原理ヲ以テシテ宜シイカ、斯ウ云フ御質疑デアリマシタ、此ノ點ハ從來迄ノ日本ノ實状ニ於キマシテモ、稍々疑點ハアルノデアリマスルガ、多分ハ此ノ前法、後法ノ原理ガ當嵌マルト云フ建前デアツタト思ヒマス、併シナガラ今囘ノ憲法ノ下ニ於キマシテ條約ハ誠實ニ遵守スルコトヲ必要トスルト云フ原則ヲ示シマシタ限リ、其ノ考ハ變ツテ行クノデアツテ、條約ノ方ニ特別ナル尊重ヲ加ヘナケレバナラヌト考ヘテ居リマス、尚第七十七條ニハ條約ト云フ言葉ガ入ツテ居ナイガト云フ御質疑デアリマシタ、是ハ先ニモ申シマシタヤウニ條約ト云フモノノ持ツテ居ル意義ハ、必ズシモ一義的ニ、一ツノ意味ニ於テ、效力ノ解決ヲスルコトガ出來マセヌ、其ノ本質ヲ顧ミツヽ適當ナル國内法的ノ處置ヲシナケレバナラヌノデアリマス、結局條約ハ誠實ニ尊重スルト云フ言葉ノ適用トナツテ宜シキヲ得ル次第ト考ヘテ居リマス
  〔國務大臣木村篤太郎君登壇〕
○國務大臣(木村篤太郎君) 高柳君ノ司法ニ關スル質問中第一點ニ關スル部分ニ付キマシテハ只今金森國務相カラ答辯ガアリマシタカラ私ハ再ビ繰返ヘスコトハ致シマセヌ、第二點ニ付テ先ヅ申上ゲタイノデアリマス、御承知ノ通リ現在我ガ國ノ司法制度ノ建前ト致シマシテハ、命令規定ガ法律ニ適合セザルヤ否ヤト云フコトノ問題ニ關シテハ、裁判所ハ之ヲ審査決定スルノ權能ハ持ツテ居ルノデアリマス、處ガ法律ガ果シテ憲法ニ違反スルカ否ヤト云フ此ノ審査ニ付テハ、左樣ナ權限ハ持ツテ居ナカツタノデアリマス、改正憲法草案第七十七條ニ於テ、初メテ最高裁判所ハ此ノ所謂法令違憲審査權ヲ持ツコトニ相成ツタノデアリマス、而シテ高柳君ノ御質問ニ依リマスト、下級裁判所ガ左樣ナ審査權ヲ持ツモノデアルカドウカト云フコトデアリマスルガ、現實ノ問題ト致シマシテハ、下級裁判所ニ左樣ナ事件ガ必ズ起ツテ來ルカト思ハレマス、其ノ場合ニ、下級裁判所ニ於キマシテ法律ヲ適用スル場合ニ、憲法ニ違反スベキヤノ疑ガ生ジタ場合ニハ、其ノ裁判所ハ、其ノ問題ヲ切離シテ最高裁判所ニ其ノ審査決定ヲ求メルト云フコトニ相成ルカト存ズルノデアリマス、要スルニ最高裁判所ガ法律ノ違憲審査決定權ヲ持ツコトニナルト存ズル次第デアリマス、第二點ノ御質疑ニ對シマシテ御答ヘ致シマス、左樣ナ場合ニ最高裁判所ニ於テ法令ノ違憲問題ヲ裁判シタ場合、其ノ裁判ガ國會及ビ内閣ヲ羈束スベキヤ否ヤト云フコトデアリマスガ、御承知ノ通リ我ガ司法ノ建前ト致シマシテハ、裁判ニ依ツテ下サレタ判決ハ、當事者ヲ羈束スルノデアリマス、其ノ訴訟ニ關係シタ當事者ノミヲ羈束スルノデアリマス、當事者以外ノ者ニ對シテハ羈束力ハナイノデアリマス、併シナガラ此ノ憲法草案第七十七條ニ於テ將來違憲問題ガ訴訟トシテ現レ、ソレニ付判決ヲ下サレタ場合ニ、其ノ判決ハ、無論形式的ニハ國會及ビ内閣ヲ羈束スルモノデハアリマセヌ、併シナガラ國會竝ニ内閣ハ、其ノ判決ヲ尊重スベキハ當然デアリマス、而シテ九十四條トノ關係上、必ズヤ其ノ判決ハ、尊重サレ維持サルベキモノト存ズル次第デアリマス、從ツテ形式的ニハ羈束力ハ持チマセヌガ、實質ニ於テハ羈束ヲサルベキモノト存ズル次第デアリマス、第三點、裁判官ノ俸給ノ問題デアリマス、是ハ裁判官ノ俸給ニ付テハ、法律ヲ以テ相當ナ額ヲ決メルコトニ、憲法草案ニ依ツテハ明カニナツテ居ルノデアリマス、只今司法部ノ考ヘル所ニ依リマスト、最高裁判所ノ判事ニ對シマシテハ、定給額、即チ昇進制ヲ認メナイ一定ノ額ヲ決メテ、其ノ判事ニ在職中、其ノ給料デ支拂ツテ行クト云フ考ヲ持ツテ居リマス、下級裁判所ニ於キマシテハ、御承知ノ通リ色々在職年限モアルコトデアリマスルシ、是ハドウシテモ進級制ヲ採ツテ行カナケレバナラヌト考ヘテ居リマス、併シナガラ御承知ノ通リ進級制ヲ採リマスル以上ハ、往往ニシテ其ノ進級ヲ早目ニ求メタイト云フ點カラシテ、色々ノ弊害ヲ生ズルコトハ當然デアリマスルガ、左樣ナ弊害ヲ生ズルコトヲ防止スル爲ニ、極メテ階級ヲ少ク致シマシテ、サウシテ運用ニ於テ、進級制ニ伴フ弊害ヲ除去致シタイト考ヘテ居ル次第デアリマス、ソレカラ第四點、高柳君ノ御質問ノ第五點ニ相當致シマスガ、此ノ憲法第七十五條デ認メラレマシタ最高裁判所ノ判事ニ對スル審査權デアリマス、國民ニ左樣ナ審査權ヲ與ヘルコトハ、裁判官ノ獨立ヲ害シ、動モスレバ裁判所ノ判事ヲシテ其ノ地位ヲ不安ナラシメ、勢ヒ國民ノ意響ヲ忖度致シテ、不羈獨立ノ地位ヲ穢スヤウナコトニナリハシナイカト云フ御質問デアリマスガ、一應御尤モト存ジマス、併シナガラ我ガ憲法草案第十四條ニ於キマシテハ、一般的ニ公務員ノ選任及ビ罷メルコトニ付テハ、國民固有ノ權利デアルト云フコトヲ規定シテ居ルノデアリマス、此ノ十四條ノ國民固有ノ權利ハ、何處迄モ尊重致サナクチヤナラヌノデアリマシテ、裁判官ノ地位ト雖モ此ノ國民ノ固有ノ權利ヲ排スルモノデハアリマセヌ、故ニ七十五條ニ於キマシテ、此ノ國民ニ對スル審査權ヲ與ヘタヤウナ次第デアリマス、而シテ此ノ國民審査權ハ、御承知ノ通リ、十年ニ一度審査スルノデアリマス、而モ判事ハ一定ノ資格ヲ持ツテ居リマス、一般ノ人ハ誰デモ判事ニナレル筋合ノモノデハナイノデアリマス、十分ナル資格ヲ持ツ者ニシテ始メテ最高裁判所ノ判事ニナルノデアリマスルカラ、此ノ一般的ノ國民ノ審査ト云フモノハ、將來高柳君ノ御心配ニナツテ居ルヤウナコトハ餘リ現實ノ問題トシテハ生ズル心配ハナカラウカト思フノデアリマス、況ヤ將來日本ノ人達ノ教育程度ガ高マリ、司法部ニ對スル認識ガ深マリマスルト、左樣ナ心配ハ追ヒ々々少クナツテ來ルモノダト信ジテ疑ヒマセヌ、此ノ七十五條ノ御心配ノ點ハ私ハ將來現實ノ問題トシテ今申上ゲマシタヤウニ起リ得ザルモノデアルト云フコトヲ申上ゲタイト思ヒマス
  〔國務大臣田中耕太郎君登壇〕
○國務大臣(田中耕太郎君) 高柳君ノ御質問ノ二ツノ點ニ付テ御答ヘ申上ゲマス、第一點ハ民主主義憲法ノトニ於キマシテ、道徳ノ教育ガドウ云フ風ニナラナケレバナラナイカト云フ點ニ關シテ居ルノデアリマス、ソレニ付キマシテ、從來極端ナ國家主義的、又神憑リ的思想ノ下ニ於キマシテ、自分ガ眞理ノ體得者デアル、他人ノ考ハ全部誤リデアルト云フヤウナ獨善的ノ思想ガ横行シテ居リマシタコトハ、是ハ萬人ノ遺憾トシテ居リマシタ所デアリマシテ、サウ云フ考ヘ方ニ若シ從來ノ教育ガ導イテ居ツタトスルナラバ、是ハ根本的ニ是正サレナケレバナラナイト云フ風ニ信ジテ居リマス、併シナガラ他方サウ云フ極端ナ詰リ唯我獨尊主義、自分ガ眞理其ノモノデアルト云フヤウナ思想デナクテ、今度ハ反對ノ極端ニ動キマシテ、眞理ナドト云フモノハ存在シナイ、或銘々ニ考ヘル所ガソレガ眞理デアルト云フヤウナ、ダカラシテ自分ニハ全然確信ガナイ、多數決ニ是レ從フト云フヤウナ風ナ考ヘ方ヲスルヤウニナリマシテハ、是ハ又反對ノ誤リニ陷ルモノデハナカラウカト存ズル譯デアリマス、從ツテ少數ノ者ノ考ヘル所モ、多數ノ者ノ考ヘル所モ、孰レガ正シイカト云フコトハ、是ハ本當ハナカナカ容易ニ決スルコトガ出來ナイコトデアル、從ツテ政治ニ於キマシテハ寛容ノ態度デ以テ、先程モ力説サレマシタヤウニ、又「フエアー・プレー」ノ態度デ以テ、眞理ガ何デアルカト云フヤウナコトハ、輕々ニ自分ガ眞理ヲ體得シテ居ルノダト云フヤウニ、獨斷デナクテ、十分他人カラ切瑳琢磨ヲサレ、又自分モ十分研究シテ判斷シナケレバナラナイ、サウ云フ御説ト承リマシテ、御同意致ス次第デゴザイマス、從ツテ全ク無確信ナ、自分ニハ信念ガナイト云フヤウナ意味ニ於テノ、詰リ相對主義トカ、或ハ懐疑主義ト云フヤウナモノハ、「デモクラシー」ノ精神デナイト云フコトハ、是ハハツキリ認メナケレバナラナイト存ズルノデアリマス、憲法ノ改正案ニ於キマシテモ人類普遍ノ原理ト云フモノノ存在ヲ認メテ居リマス、人權ヲ認メテ居ルノデアリマス、是ハ個人ノ意見、或ハ多數ノ意見ニ拘ラズ嚴トシテ存在スルモノデアリマシテ、サウ云フ眞理ノ存在ヲ否定スルヤウナ相對主義、懐疑主義トハ我我ハ飽迄今後ト雖モ闘ハナケレバナラナイト云フ風ニ考ヘルノデアリマス、從ツテ詰リ根本ノ原理ハ、是ハ憲法其ノ他ニ於テ明瞭デアル、從ツテ個々ノ政策ヲ實行シテ行キマス上ニ於テ何ガ妥當ナ政策デアルカドウカト云フヤウナコトヲ決定スルノニ付キマシテハ、是ハ衆智ヲ絞リ、「フエアー・プレー」ノ精神ヲ以テ、寛容ノ態度ヲ以テ御互ニ論ジ合ヒ、又決定シナケレバナラナイト云フヤウニ考ヘルノデゴザイマス、第二ノ知性ノ問題デアリマス、從來御指摘ニナリマシタヤウニ、日本ノ教育ガ抽象的、又演繹的ニ流レテ居ツテ、歸納的、具體的デナカツタト云フコトハ確カニサウデアリマス、サウ云フ意味ニ於キマシテ非常ニ實際的ナ、歸納的ナ、具體的ナ、「プラクティカル」ナ英米ノ教育ノ方法ナリ、或ハ學問ノ研究ノ方法ヲ參考ニスルコトハ、是ハ極メテ必要ナコトデアルト云フ風ニ存ジテ居ル次第デゴザイマス、併シナガラ然ラバト云ツテ演繹的、或ハ論理的、或ハ抽象的ナル方法ヲ全然不必要デアルト云フコトニナリマスルト、是亦原理ヲ全然存在ヲ認メナイ、時々ノ必要ニ應ジテ間ニ合セテ行クト云フヤウナ、「オポチュニズム」ニ陷ル虞ガアリマシテ、是ハ致治ニ於テモサウデアリマスガ、學問ノ範圍ニ於テモ矢張リ非常ナ淺薄ナモノニ、根本的ナモノ、本質的ノコトハ全然考ヘナイト云フヤウナ弊害ニ陷リ易イノデアリマス、又「ヨーロッパ」ノ大陸ニ於キマシテモ大陸ノ學問 好イ所モアリマス、又惡イ所モアリマスデセウ、「アメリカ」ニモ善イ所モアリ、惡イ所モアリマスデセウ、「アメリカ」ニ於キマシテモ學界デハ矢張リ「ドイツ」カラ來タ學者ヲ大イニ優遇シテ、向フノ善イ所ヲ大イニ學ンデ居ルト云フコトハ御承知ノ通リデアリマス、サウ云フ意味ニ於キマシテ矢張リ此ノ問題ニ付キマシテモ演繹的ノ方法、歸約的ノ方法、或ハ具體的ノ方法、抽象的ノ方法ヲ併用シテ、世界各國ノ學問ナリ、教育ノ善イ所ヲ大イニ參酌シテ、今後ノ學問ナリ、或ハ教育ノ在リ方ヲ考ヘナケレバナラナイノデハナイカト思ヒマス、從ツテ此ノ二ツノ問題ニ付キマシテハ高柳君ノ御述ニナリマシタ所ハ、詰リ從來ノ弊害ヲ反省シナケレバナラナイト云フ風ニ理解致シマシテ、サウ云フ意味ニ於キマシテ御同感致ス次第デゴザイマス
○高柳賢三君 御答辯ニ付キマシテ尚疑問ノ部分モ澤山アリマスケレドモ、是等ハ委員會ニ讓リマシテ私ノ質問ヲ終リマス
○議長(公爵徳川家正君) 是ニテ休憩ヲ致シマス、午後ハ一時ヨリ開會致シマス
   午前十一時五十一分休憩
    ━━━━━◇━━━━
   午後一時八分開議
○議長(公爵徳川家正君) 是ヨリ午前ニ引續キ會議ヲ開キマス、澤田牛麿君
  〔澤田牛麿君登壇〕
○澤田牛麿君 憲法ノ改正ト云フコトハ貴族院始ツテ以來初メテノ重大ナ問題デアリマシテ、恐ラクハ又最後ノ重大ナ問題デアラウト思フノデアリマス、サウ云フ次第デアリマスルカラ、私ハ皆サンノ御迷惑モ顧ミズ少シ長ク質問ヲシタイト思フノデアリマス、此ノ貴族院トシテハ、此ノ憲法ノ改正ニ付テ十分ナ時間ヲ費ヤシテ差支ナイコトト私ハ思フ、又ソレガ本當デアルト思フノデアリマス、私ノ質問ハ二段ニ分チマシテ、初メノ部分ハ、此ノ憲法ノ改正案ガ提出サルヽニ至ツタ迄ノ所ニ付テ質問ヲ申上ゲタイ、ソレカラ後段ハ此ノ改正案ノ内容ニ付テ質問ヲ申シタイノデアリマス、先ヅ改正案ノ提出ノ時期デアリマスガ、是ハ今更申上ゲルト餘リニ時世ニ懸ケ離レテ居ツテ、モウソンナコトハ殆ド濟ンダコトヂヤナイカト云フ御叱ガアルカモ知レマセヌガ、私ハ此ノ時期ニ付テ、先ヅ以テ疑ヲ持ツ、美濃部達吉君ガ嘗テ此ノ春デアリマシタカ、現行ノ憲法ハ改正シナイデモ「ポツダム」宣言ノ受諾ノ義務ヲ果スニ付テ大シタ支障ハナイコトデアル、デ憲法ノ改正ハユツクリ、愼重ニスベキモノデアルト云フ意見ヲ發表サレマシタ、其ノ後間モナク同君ハ政府ノ推薦デ樞密顧問ニオナリニナツタ、ソレデ私ハ美濃部君ノ意見ノヤウニ政府ハ愼重ニ改正ヲ考慮サルヽコトト思ツテ居リマシタノデアリマスルガ、併シ私ノ豫想ト全ク反シテ非常ニ急造粗製ノ憲法改正案ヲ御提出ニナツタ、粗製濫造デアル點ハ後程詳シク申上ゲマスガ、斯ウ云フ風ニ急イデ變挺子ナモノヲ出ス必要ガ何處ニアルノカ、コヽヘ來ルト「ポツダム」宣言ノ解釋ニナルカモ知レマセヌガ、「ポツダム」宣言ニハ、私ハ英文ハ能クハ讀メマセヌケレドモ、第十項ニ、日本人ノ間ニアル「デモクラチック・テンデンシイ」ヲ囘復スル、及ビ強クスルコトニ付テノ云々ト云フコトガアリマシテ、日本ニ直グ外國ニ行ハレテ居ル「デモクラシー」ヲ其ノ儘用ヒロト云フヤウナ意味ハ「ポツダム」宣言ニハナイコトト思フノデアリマス、又是ハ政府ノ方モサウ云フ答辯ヲサレテ居ツタヤウニ衆議院ノ憲法委員會ノ速記録デ拜見シマシタガ、日本ハ無條件降伏シタノデアル、斯ウ云フ解釋ダト云フコトヲ金森國務大臣デアツタト思フガ、多分御答ニナツタヤウナコトガ速記録ニ出テ居ル、私ハ是モ非常ナ疑問ヲ持ツノデアリマス、「ポツダム」宣言ト云フモノハ幾ツモ條件ガアツテ、是ハ即チ無條件ヂヤナイ非常ナ有條件ナ事項デアル、コチラカラ出シタ條件ハナイノダケレドモ、向フカラ差出ス、元ノ申出シタ人ガ既ニ條件ヲ付ケテ居ルノデアルカラ、是ハ無條件ト云フノハヲカシイト私ハ思フ、無條件ト云フ所ハ何處ニアルカト云ヘバ、武力ト云フカ、軍備ト云フカ、詰リ武力ノ無條件降伏ト云フコトハ含ンデ居リマセウ、併シ日本全體ノ無條件降伏ト云フコトハ含ンデ居ラヌト私ハ思フ、「ポツダム」宣言ニハ人種トシテ「エンスレイヴ」シタリ、或ハ「ネイション」トシテ「デイストレス」スルコトハ考ヘテ居ラヌト云フコトヲ先方ガ申出シテ來テ居ル、サウスレバ是ハ明カニ日本ノ自主ノ態度ヲ或程度迄認メテノ上ノコトデアルト思フノデアリマス、條件デアルト思フノデス、ソレハ直接憲法ニハ關係ナイカモ知レマセヌガ、此ノコトヲ頭ニ入レテ論旨ヲ進メタイト思フノデアリマス、急イデ出シタト云フコトハ何ノ必要ガアツテソンナニ急イデ出スノデアルカ、或ハ先程總理ノ御説明ニアリマシタ通リ、早ク平和條約ヲ結ビ、早ク國際交際ヲシタイト云フ爲ニハ憲法ノ改正ガ必要デアル、是モ或點ニ付テハ御尤デアリマスケレドモ、サウ急イデ重大ナ國ノ根本法タルモノヲ急ニ出ス必要ガ何處ニアルカ、平和條約ヲ締結スル迄ノ暫定的ノ憲法ナラバソレハ誠ニ御説明ノ通リデアルノデアル、併シ憲法ハ向フ何十年カ何百年カニ亙ツテ繼續スベキ永久的性質ヲ持ツモノデアルカラシテ、目前ノ唯必要ニ應ズルト云フダケデ之ヲ急イデ出サレタト云フコトナラバ、我我ハ甚ダ贊成シニクイ態度デアルト思フ、是ハ時期ニ付テノ態度デアリマスガ、尚是モ新聞デ今朝讀ンダノデアリマスルカラ、正確ナコトハ分リマセヌガ、總理大臣ハ衆議院ニ於テ憲法ノ通過シタ時ニ、尚多少ノ手續ハ殘ツテ居ルガ、此ノ通過シタコトハ大變嬉バシイト云フヤウナ御挨拶ヲシタヤウナコトガ確カ朝日新聞カニ載ツテ居リマシタ、若シ是ガ本當デアルトスレバ、甚ダ問題デアルト思フ、手續ガ殘ツテ居ルノデハナイノデス、審議權ノ正半分ガ貴族院ニ殘ツテ居ルノデアル、衆議院ヲ通過シタト云フコトハ、審議權ノ五十「パーセント」ダケ通過シタノデアル、是ハ新聞ノ記事デアリマスカラ、首相ノ言葉ヲ正確ニ傳ヘタノデハナイカラ、若シサウデナカツタラ仕合セデアルケレドモ、此ノ點ニ付テモ首相ノ答辯ヲ御願ヒシタイ、ソレカラ憲法ノ改正ト云フコトデ、現行憲法ノ第七十三條ノ手續ニ依ツテ提出サレテ居ル今度ノ改革草案デアリマスルガ、是ハ成ル程第七十三條ニ依ツテ「ドイツ」流ノ所謂「レヒツコンティニュイテート」ガアルト云フ御考デ出サレテ居ルノカモ知レマセヌケレドモ、ソレハ唯單純ナ提出ノ手續ダケデアツテ、法ノ繋ガリハナイノデアル、全面的ノ革新ト云フカ、改廢ト云フカ、舊憲法ハ滅ビテ新憲法ガ出來ルト云フ態度ニナツテ居ルノデアリマス、是ハ「ヨーロッパ」諸國ニ於テモ例ガアルデアリマセウガ、或ハ革命ニ依ツテ、或ハ外國ノ武力ニ依ツテ、兎ニ角舊國ガ亡ビテ新國ガ新タニ成ツタ時ハ、ソレハ前ノ時代トノ「レヒツコンティニュイテート」ハナクテ宜シイ、又ナイノガ當然デアル、サウ云ウ場合ニハ憲法ノ全面改正ガ行ハレテ居ルノデアリマスルガ、苟モ舊國ガ續イテ居ル間ト云フモノハ、舊憲法トノ繋ガリヲ持ツテノ即チ一部改正デナクテハナラヌモノデアルト私ハ思フ、手續ノ上カラ言ヘバ七十三條ニ依ツテ繋ガリハアルノデアリマスルケレドモ、内容ヲ見ルト法的繋ガリハ全クナイ、全然違ツタ憲法デアル、是モドウ云フ譯デアルカ、其ノ理由ヲ承リタイト思フノデアリマス、現行憲法ガソレナラバ何處ガ惡イカ、何故早ク修正シナケレバナラヌカト云フ實體的ノ問題ニナリマスルト、是ハ頗ル議論ノアル所ト思フノデアリマス、天皇ノ大權ガ廣過ギルカライケナイ、併シ天皇ノ大權ガ廣過ギルカライケナイト云フコトモ、是モ直チニ即斷スルコトノ出來ナイ問題デハナイカト思フ、天皇ノ大權ト云ツテ日本ノ憲法ニ書イテアルモノハ、大體内閣ノ廣イ意味ニ於ケル行政權デアリマス、現行ノ憲法ハ私ガ申上ゲル迄モナク御承知ノ通リ伊藤公ガ主體トナツテ、其ノ下ニ多クノ人ヲ集メ、就中明治ノ叔孫通ト言ハレタ故井上毅子爵ノ執筆ニナツタ所ガ多イノデアリマス、誠ニ莊重ナ文章ヲ以テ規模モ頗ル雄大ナ高尚ナモノデアル、現在ノ憲法ハ私ハ一種ノ是ハ藝術品ニモ近イモノト思ハレル、若シモ憲法展覧會ト云フヤウナモノガ世界デ催サレタナラバ、恐ラク金牌ヲ授與サレルニ値スルモノデハナイカト私ハ思フ、日本人ハ是迄今日ノ憲法ヲ非常ニ尊ンデ尊崇シテ來タノデアリマス、ソレガ突然引繰リ返ツテ、今迄ノ憲法ハ非常ニ惡インダ、斯ウ云フモノガアルカラ日本ガ亡ビタンダト云フニ至ツテハ、餘リニモ日本人ノ態度ガ輕薄デハナイカト思フ、自己ノコトヲ餘リ研究セズニ、雷同附和シ丁度御祭ノ時ニ軒並ニ提灯ヲ下ゲルト同ジヤウナ氣持デ、總テ右ヘ倣ヘノ態度ヲ執ルノガ日本人ノ大ナル缺點デアルト思フ、今度ノ戰爭ヲ起シタコトモ、亦負ケタコトモ大體ハ斯ウ云フ心理カラ原因シテ居ルト思フノデアリマス、斯ウ云フ心理ハ是コソ打破シテ行カナケレバナラヌト私ハ思フ、憲法ハ先程申上ゲタヤウニ、大權ノ範圍ガ廣過ギルト云フケレドモ、是ハ大權ガ廣イ意味ニ於ケル行政ノ部分ニ屬スル、内閣ノ仕事ニ屬スルモノデアル、其ノ最後ノ鍵ヲ天皇ガ握ツテ居ラレルト云フ話ダケナンデアル、其ノ中デ最モ問題ニナルノハ所謂統帥權ノ問題デアルト思フ、アヽ云フ規定ガアルカラ軍閥ガ跋扈シタノダト云フコトガ一般ニ傳ヘラレテ居リマスガ、私ハ非常ニ是ハ間違ツタ觀察デアルト思フ、統帥權ノ規定ガアルノハ當然デアツテ、君主國ニ於テ君主ニ統帥權ガナケレバドウナルカ、明治天皇ハ御詔勅ノ中ニ、「政權武門ニ歸ス」ト云フ御言葉ガアリマシタガ、政權武門ニ歸スルコトヲ防グ爲ノ統帥權ノ規定ガアル、臣下ニ委ネナイト云フコトハ、即チ幕府的存在ヲ認メナイ、政權武門ニ歸セザル爲ノ規定デアル、併シ其ノ結果ハ却テ、其ノ規定ガ軍閥ノ跋扈ヲ來シタト云フ、ソレハ法ノ惡用ノ結果ニ過ギナイノデアリマス、法其ノモノハ天皇ガ統帥權ヲ持ツノハ當然ノ話デ、君主國ニ於テ君主ガ統帥權ヲ持タナイデ、誰ガ持ツノカ、ソレハ當然ノ話デアル、唯規定ノ適用ガ寧ロ統帥權ノ機關ガ不可侵ノヤウニ解釋ガ行ハレタ、參謀本部トカ、軍令部ガスルコトヲ、議シタリスルヤウナコトガ統帥權ノ干犯ダト云フヤウナ、餘リニ廣ク解釋ガ用ヒラレテ、統帥權其ノモノデナク、統帥機關ノ行動ニ對スル議論ヲ、統帥ノ干犯ナリト稱シテ長イ間ヤツテ來タ、是ガ即チ禍ノ因デアル、天皇ノ大權ガサウ云フ所ニアルト云フコトハ當然ノ話デアツテ、現ニソレハ天皇ノ大權ガアツタカラ去年ノ八月十五日ノ御裁斷ガ下ツタノデアル、ソンナラ何故早ク統帥權ノ問題ノ時ニ、天皇ノ裁斷ガ下ラナカツタト云フ議論ガ出テ來ルデアリマセウガ、是ハ輔佐ノ臣共ガ私ハ惡イト思フ、天皇ヲ輔佐スル周圍ノ總テノ機關ガ誰モサウ云フコトヲ天皇ニ申上ゲナケレバ、天皇ガ餘程亂暴ナ獨裁的ナ人デナイ以上ハ、臣下ノ一人モガサウ云フコトヲ天皇ニ御發言ニナルヤウニ仕組マナケレバ出來ルモノデハナイ、デアルカラ是ハ寧ロ天皇制其ノモノノ危險ト云フヨリハ、サウデナイ、人ニアルノダト思フ、是ハ私、「ディスレリー」デアツタカ誰カ政治家ガ、「ツー・マッチ・ツー・インスティテューション・アンド・ツー・リットル・ツー・メン」、餘リニ組織ニ重キヲ置キ過ギテ、人ヲ重ク見ナサ過ギルト言ツタヤウデアリマス、サウ云フコトガ現行憲法其ノモノノ規定ガ惡イト云フ所ハ私ハナイト思フ、成ル程「アメリカ」ヤ「イギリス」トハ流儀ガ多少違ツテ居リマセウケレドモ、現行ノ憲法ハ先程申上ゲタ通リ、所謂三權分立ノ思想ノ一番弱點ト稱セラレル、所謂統合、統一ト云フ所ノ扇ノ要ガ外ノ國デハ或ハナイ、ト云フヤウナ現象モアルデセウガ、日本ハ丁度現行憲法ノ第四條ニ於テ、天皇ハ統治權ヲ總攬スル、統治權總攬ト云フコトガ、即チ三權分立ノ要ヲ持ツテ居ラレル譯デアル、私ハ是ハ實ニ理想的ナ立派ナ憲法デアルト思フ、恐ラクハ此ノ戰爭デ負ケタト云フ、此ノ慘メナ状態デナカツタナラバ、多クノ方々ノ中ニ、日本ノ憲法ハ不都合ナ憲法カト云フ問ヲ發シタ時ニ、百人中何人居リマセウカ、コンナ憲法ハ直グ捨テテシマハナケレバナラヌト云フ人ガ‥‥‥、大部分ガ非常ニ結構デアル、數百年ニ亙ツテ尊崇スベキモノデアルト言フデアラウト確信シテ居ル、サウ云フ憲法ヲ直チニ引繰リ返シテ、元モ子モ無クシテシマフト云フコトガ、果シテ適當ナ處置デアラウカドウカ、憲法ノ中デ世ノ進運ニ從ツテ改メナケレバナラヌ所モ多少アリマセウ、如何ナル法規ニ於テモソレハアル筈デアル、デアルカラシテサウ云フコトノ改正ヲスルト云フコトハ、至極結構ナコトデアリマスル、又統帥權ノ問題モ、最早今日ハ軍隊其ノモノガナイカラ、法ノ實物ガナイノデアルカラシテ、法ノ自然消滅ニナツテ、アノ條項ヲ別ニ訂正シナクテモ、アノ條項ハナイノデアル、假ニ統帥權ノ規定ガイケナイト見テモ、是ハ既ニ死ンダ條項デアル、常備兵力ニ付テモ大權事項トナツテ居リマスガ、是モ兵力ヲ持タナイコトニナレバ、空文ニ歸シテ死ンダ條項デアル、自然取レテ居ル、サウスルト憲法ノドノ條ニ、ソレナラバ非常ニムヅカシイ、是ナクテハイケナイト云フ、又之ヲ取ラナクテハドウシテモイカヌト云フ條項ガアルデセウカ、私ハドウモソレヲ發見スルニ苦シムノデアル、今度ノ憲法草案内容ハ、後ニ申シマスガ憲法草案ニ書イテアリマスル、刑事上色々ナ人權保護ノヤウナコト、是ハ現在ノ憲法デモ出來ルノデアル、現在ノ憲法ニ決シテ之ニ反對ノ規定ガ出來テ居ル譯ヂヤナイ、同ジ趣旨デアルト私ハ思フ、唯實行上ノ問題トシテ、警視廳ノ刑事ガ容疑者ヲ打ツタトカ毆ツタトカ、サウ云フコトハソレハアルデセウ、是ハ法ノ問題デハナイ、人ノ問題デアル、現行ノ憲法ニ何處ヲドウシテモ置ケナイト、今日世界ノ交リヲスルニハ置ケナイト云フ所ガ、何處ニアルデセウカ、其ノ點ヲ私ハ政府ガ御示ニナツテ戴キタイト思フ、諺ニ「坊主憎ケリヤ袈裟迄憎イ」ト云フコトガアル、坊主ガ重罪ヲ犯シタカラト言ツテ、冷靜ナ裁判官ハ袈裟迄一緒ニ處罰ハシナイダラウト思フ、又「シェークスピア」ノ名句ニ「デヴル・キャン・サイト・スクリプチュア」、「惡魔デモ聖書ヲ引用シ得ル」ト云フ言葉ガアリマスガ、聖書ヲ惡魔ガ引用シタカラト言ツテ、此ノ聖書ヲ捨テテシマヘ、此ノ聖書ハ存スベカラザルモノダトスル人ハ、恐ラク西洋ニハ一人モアルマイト思フ、サウ云フ譯デアツテ、統帥權ノ問題ヲ惡用シタ人ハ惡イ、惡用シタニ違ヒナイカラ惡イガ、ソレダカラト言ツテ憲法ヲ燒捨テロト云フ問題ハ出テ來ナイト思フ、ソレカラ此ノ憲法ノ大體ノ態樣ト言ヒマスカ、樣子ヲ見マスト、是ハ先程モ前論者ガ十九世紀ト仰シヤイマシタガ、私ハ十八世紀ト思ヒマスガ、十八世紀ノ「フランス」革命ノ時ノ心理状態ヲ茲ニ表シテ居ル、「フランス」革命ト云フカ、「アメリカ」獨立ト云フカ、其ノ時代ノ考ヲ茲ニ表シテ居ルノダ、サウスルト日本ヲ「アンシャン・リジーム」ノ「フランス」トシテ見テノ處置デアルカ、甚ダ我々ハ不滿ニ思フノデアリマス、日本ノ法制ハ、私ガ申ス迄モナク歐洲大陸系統ノ法制ヲ入レテ、總テノ點ニ於テナカナカ進歩シテ居ル、私ハ西洋ノ法制ヲ能ク知リマセヌガ、大體非常ニ進歩シタ制度ガ整ツテ居ル、決シテ是ハ南洋ノ未開國ヤ、或ハ十八世紀ノ「フランス」ノヤウナ、何ト云フカ法ノ低イ程度ノ社會國デハナイト思フ、ソコヘ持ツテ來テ此ノ憲法ハ實ニ時代ニ逆行シテ居ル、古イ形ノ憲法ヲ持ツテ來ラレタト云フコトハ、我々ハ頗ル不審ニ堪ヘナイ、政府ハ平假名ヲ使ツタカラトカ、何トカ云フコトヲ以テ此ノ憲法ガ誰ニデモ分ルヤウニ出來テ居ルノダト云フ御話デアリマスガ、苟モ憲法ヲ讀ム者ハ片假名ヲ讀メナイ人ハナカラウト私ハ思フ、ソレヨリモ寧ロ印象デアルトカ、象徴デアルトカ云フ恐シクムヅカシイ字句ヲ使ツテ居ル、學者ガ集ツテ研究シテモ分ラナカツタ、貴族院ノ調査會ニ於テ、一體象徴トハ何ヲ指スカ、色々ノ人ガ辭引ヲ引イタリシテモ、結局要領ヲ得ナカツタノデアリマス、サウ云フムヅカシイ文句ヲ使ツテ、何デソレガ民主的デアルノカ、私ハ其ノ點ニ於テ疑ハシイト思フ、ソレカラ最モ疑問ニ思フコトハ私ハ消息通デハアリマセヌカラチツトモ裏面ノコトハ知リマセヌ、從ツテ十分ニ私ノ考ヘダケヲ遠慮ナク述ベルコトガ出來ルト思フ、「アメリカ」人ノ或人ノ話ニ、日本人ハドウモ遠慮シ過ギテ言フベキ時ニハ言ハナイカラ困ルト言フヤウナコトヲ言ツテ居ツタコトヲ聽キマシタ、又日本人ハ或程度迄ハ大變勇敢ダケレドモ、或程度過ギルト馬鹿ニ弱クナツテ話ニナラヌ、二百「ヤード」近ク迄近ヅク迄ハナカナカ日本ノ兵隊ハ危險ダケレドモ、ソレ以内ニ突進スルト、日本ノ軍隊ハ非常ニ弱イモノダト云フ風ノコトヲ何カニ書イテアツタヤウデアリマスガ、サウ云フ風ニ諦メガ良過ギル、直グ駄目ダト云フコトデ萬事ヲ擲ツト云フコトハ、是ハ日本ノ國民性ノ「ブリットル」ナル所ヲ示ス、モツト日本人ハ柔軟性ガナケレバナラヌト思フ、其ノ點ニ於テハ是ハ少シ脱線スルヤウデアリマスルガ、私ハ「イギリス」ノ人等ノ態度ハ甚ダ學ブベキ所ガアルト思フ、サウ云フ次第デアリマスルカラ、「アメリカ」人ノ忠告ニ從ツテ私ハ遠慮セズニ物ヲ言フ積リデアリマス、初メ此ノ憲法ノ草案ガ出タ時ニ、私ハ之ヲ見テチヨツト唖然タルモノガアツタ、全ク是ハ形容詞デナシニ唖然茫然トシタ、斯ウ云フモノガ役ニ立ツカト云ツテ床上ニ擲ツタノデアリマスガ、後デ考ヘテ見レバ、何ト云ツテモ政府ノ出シタモノデアル、是ハ相當ニ尊敬シナケレバナラヌ、研究シナケレバナラヌ、又場合ニ依ツテハ之ヲ遵奉シナケレバナラヌモノデアルト云フコトヲ數時間後ニ氣付イタ位私ハ草案ニ付テ異樣ノ感ヲ持ツタ、是ハ衆議院ノ速記録ニ依リマシテモ穗積ト云フ、委員ノ人ガ此ノ憲法ヲ見テ眩ヲ感ジタト云フコトヲ二箇所位述ベテ居リマス、私ハ衆議院ノ方ノ説ヲ茲デ紹介スル譯デアリマセヌケレドモ、是ガ僞ハラザル日本人ノ感情デアラウト思フ、消息通ハ色々ナコトデ囚ハレルカラ思切ツタ公正ナ判斷ガ出來ナイノヂヤナイカト思フノデアリマス、樂屋内ノコトヲ何モ知ラナイ日本人ガ憲法ヲ見タナラバドウ云フ感ジヲ起シマスカ、私ハ恐ラク私ノ茲デ述ベテ居ルコトト大同小異ノ意見ノ人ガ非常ニ多イコトト思フ、數ハ無論統計ヲ取ツテ居リマセヌケレドモ、私共ノ會フ人々ト話ヲ交換シテ見スルト、此ノ憲法ハヒドイナト云フ人ガ多イ、又斯ンナモノハ日本ノモノヂヤアルマイト云フ人ガアル、是ガ本當ノ僞ハラザル國民ノ心デハナイカト思フ、權勢ノ地位ニ在ル人、或ハ將來何カノ便宜ヲ得ヨウト云フヤウナ目的ノアル人ハ或ハ今ハ忍ブベキダト云フ一言デ沈默シテ居ルカモ知レマセヌガ、日本國民ガ永世ニ亙ル憲法ヲ討議スル場合ニ、サウ云フ態度ハ私ハ甚ダ宜シクナイコトト思フ、此ノ憲法ガ初メテ出タ時ニ、一種ノ流説ガ行ハレタ、ソレハ私ハ多分政府筋カラ出タモノダラウト思ヒマスガ、是ハ或ハ邪推カモ知レヌ、即チ此ノ憲法草案ハ一種ノ「タブー」デアル、觸レルコトヲ許サヌト云フヤウナコトガ世間一般ニ傳ヘラレタ、其ノ後「マッカーサー」元帥ノ言明トシテ、憲法ノ討議ハ自由タルベシ、修正モ宜シイ、否決モ宜シイト云フヤウナコトヲ宣言サレタコトヲ新聞デ見テ居リマス、是ハ私直接文章ヲ見ナイカラハツキリシタコトハ言ヘマセヌガ、新聞ニハサウアツタ、是ハ誠ニ然ルベキコトデアツテ、「ポツダム」宣言ノ精神ハ其處ニアルト思フ、サウ云フモノデアルニ拘ラズ、又政府ニハ相當法律技師ヲ澤山抱ヘテ居ルニ拘ラズ、斯ウ云フ支離滅裂ナ變挺子ナ憲法草案ヲ議會ニ提出サレタト云フコトニ付テハ、私ハ唯唖然タルモノデアル(「ノーノー」ト呼フ者アリ)サウ云フ點ニ付テ政府ノ御考ヲ伺ヒタイノデアリマス、ソレカラ此ノ憲法ノ内容ニ入ツテ申上ゲマスガ、是ハ私共カラ見ルト、全部殆ド修正ヲ要スルコトノヤウニ思フ、先ヅ前文デアリマスガ、憲法ハ敗戰懺悔録デハナイ、前文ハ恰モ敗戰懺悔録ノヤウナ感ガアル、憲法ハサウ云フ一時的ノモノデナイト私ハ思フ、ソレカラ全體ノ憲法ノ書キ方ガ是ハ何カ修養團ノ規約カナンカノヤウナ所ガ非常ニ多イ、例ヘバ斯ウ云フ風ニ考ヘナケレバナラヌト云フヤウナ漠然タル規定ガ非常ニ多クテ、而モソレガ一種ノ道徳的ノ要求ミタイナ形ニ於テ現レテ居ル、法規ト云フモノハソンナモノヂヤナカラウト私ハ思フノデアリマス、修養團ノ規約ナラバ、斯ウ云フコトヲ心掛ケナケレバナラヌ、斯ウ云フ考ヲ持ツチヤナラヌト云フヤウナ漠然トシタ規定モ結構デアリマスガ、憲法ニ於テソレガ隨處ニ現レテ居ルト云フコトハ私ハ奇怪ナ念ヲ持ツテ之ヲ見ルノデアリマス、例ヘバ十一條ノ「國民の不斷の努力によつて、これを保持しなければならない、又、國民は、これを濫用してはならぬのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ、」ソレカラ十二條ニハ「立法その他の國政の上で、最大の尊重を必要とする。」ソレカラ九十五條ノ「天皇又は攝政及び國務大臣、國會議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」此ノ憲法トナツタ以上ハ、今私ハ草案中デアルカラ亂暴ナ言葉ヲ以テ之ヲ排撃スルノデアルガ、是ガ成ツタ以上ハ、遵奉スルノガ當リ前デアル、獨リ天皇、攝政、國務大臣、國會議員バカリデナク一般人民ガ之ヲ尊重シテ遵奉シナケレバナラヌ、遵奉シナケレバ、是ハ違反者デアル、コンナコトガ九十五條ニ書イテアル、斯ウ云フコトガ澤山アル、修養團ノ心得ミタイナモノガ‥‥ソレカラ又或部分ニハ憲法編纂心得方トデモ云フベキ體裁ニナツテ居ルノガ澤山アル、斯ウ云フモノヲ尊重シナケレバナラヌ、斯ウ云フ規定ヲ設ケナケレバナラヌ、ソレハ南洋ノ未開地カ何カヘ行ツテ、十分ナ文化ノナイ人ニ教ヘルノニハ、ソレハ非常ニ適當ナコトデ、憲法ニハ、斯ウ云フコトヲ入レナケレバナラヌ、アヽ云フコトヲ入レナケレバナラヌ、ト云フ、憲法編纂心得ヲ述ベル文書トシテハ、此ノ草案ハ相當立派ナモノダト思フノデアリマス、日本ノ憲法ノ成文ノ改正條文トシテハ、私ハ頗ルヲカシナモノダト思フ、ソレカラ憲法ノ内容ニ付テハ、殆ド總テ疑問ガアリマスルガ、之ヲ一々述ベテ居ルコトハ出來マセヌケレドモ、主ナルモノヲ此處デ申述ベテ、政府ノ御答ヲ得タイト思フ、ソレハ先程モ御質問ガアツタカラ、チヨツト其ノ事カラ先ニ申上ゲマスルガ、條約ハ法規デアルト云フコトヲ第十章ニ述ベテ居リマス、私共ハ條約ハ法律ヂヤナイト云フ風ニ常カラ承知シテ居ルノデアリマスガ、之ニ依ルト條約ハ法律ダト云フコトニナツテ居ル、是ハ英文ノ方デハ「ロウ」トナツテ居ル、條約ト法律トハドウモ別ダト云フ説ノ方ガ正シイノヂヤナイカト私ハ思フノデアリマスガ、其ノ説ヲ覆シテ、條約ハ即チ法律ナリ、法律デアルトスレバ、直チニ人民ニ對シテ執行力ヲ生ズル、遵奉力ヲ生ズルノデアル、サウ云フコトモ頗ルヲカシイ、其處迄穿鑿シテナイノヂヤナイカ、ソレカラ餘リ長クナリマスルカラ省略致シマシテ、主ナ點ヲ申上ゲマスルガ、國體ト云フモノハ此ノ憲法ニ依ツテ變ツテ居ラヌカ居ルカト云フコトガ、重大ナ問題デアルト思フノデアリマス、「ポツダム」宣言ノ義務履行ニ付テ見レバ、別ニ日本ハ國體ヲ變ヘル義務ヲ負ウタ譯デハナイ、國體ハ其ノ儘デ宜シイト私ハ思フノデアリマス、サウスレバ憲法モ、其ノ國體ニ從ツタ憲法デ宜シイノデハナイカ、此ノ憲法ニハ、私ハ國體破壊ノ二大橋頭堡ガ建設サレテ居ルト思フ、一ツハ何デアルカト云ヘバ、無論第一章ノ天皇ニ關スル規定デアル、其ノ次ハ二十二條ノ家族ニ關スル關係デアル、二十二條ハ結婚ノコトヲ規定シテ居ルノデ、是ハドウモ民法ニ書クベキコトデ、憲法ニ書クベキコトヂヤナイノヂヤナイカト私ハ思フ、公法、私法ノ觀念ガ混同シテ居ルノヂヤナイカ、英米法デハ或ハサウ云フコトハ混合シテ居ルカモ知レヌケレドモ、我々ノ今迄ノ法的知識デハ、ドウモ公法、私法ノ混同ヂヤナイカト思ハレル、其ノ内容ハドウカト云ヘバ、家族制度ヲ否定シタト云フコトニナルノヂヤナイカ、内閣ニ設ケタ法制審議會カ何カデモ、家族制度ト云フモノヲ壞スヤウ、即チ此ノ憲法ニ適合スルヤウ改正ヲ企テテ居ルト云フ話デアリマスガ、是ハ言葉ハ少シヲカシイガ、私カラ言フト、民間的國體ダト思フ、日本ノ家族制度ト云フモノハ……、公ノ方面ニ於テハ、天皇制ト云フモノガ日本ノ國體デアリ、ソレカラ民間ノ私生活、私生活ト云フノモ少シヲカシイカモ知レヌガ、マア民間ノオ互ヒ同志ノ生活ニ於テハ、家族制度ガ矢張リ日本ノ國體デアルト思フノデアリマス、此ノ二ツヲ壞シテシマヘバ、日本ノ國體ト云フモノハモウ「ゼロ」デアル、此ノ新憲法ハ其ノ二點ヲ壞シテ居ルノデハナイカト私ハ疑フ、壞シテ居ルト斷定ハ出來ナイカモ知レヌケレドモ疑フ、ソコデ此ノ二ツノ點ハ國體護持ト云フモノヲ打チ壞シテシマフ二大橋頭堡デアルト信ズルノデアリマス、政府ハ是迄‥‥‥此ノ降伏以後是迄ノ經過トシテハ、國體護持ト云フコトヲ不變ノ信條トシテ續ケテ居ル、然ルニ此ノ憲法ニ於テ突然身ヲ飜シテ國體ヲ潰シテシマフト云フヤウナコトハ、是ハ果シテドウ云フモノデアルカ、私ハ切ニ政府ノ反省ヲ求メタイノデアリマス、或ハ説明シテ、國體ハ憲法ノ關スル所デナイト云フヤウナ説明ガアルヤウデアリマスルガ、併シナガラソレハ學者ノ研究ノ議論トシテ或部分ニハ成立ツカモ知レヌケレドモ、憲法デ國體ヲ決メナケレバ國體ノ決ルモノハ何モナイ、唯歴史デアルトカ、人民ノ感情デアルトカ云フダケデハ、ソレハ確定シタ國體デハナイノデアリマス、國體ト云フモノハ憲法其ノ他ノ法規ニ現レテ、サウ云フモノト今迄ノ歴史ト相俟ツテ、サウシテ始メテ國體ト云フモノガシツカリ決ツテ行クノダト思フ、今ノ所デハ頗ル曖昧ナ風デアル、政府ハ或ハ一石二鳥デ、左ノ方ヘ向ツテハ、天皇制ハ存スト言フケレドモ、實際ハナクナツタト同ジコトダ、ダカラ君等ノ主張ト大同小異デ宜イヂヤナイカト言ヘルヤウデアルシ、右ノ方ニ向ツテハ、天皇制ハ斯ウ云フ風ニ兎ニ角天皇ト云フコトヲ書イテアルカラ宜イヂヤナイカト云フ風ニ、一石二鳥デ宜イカモ知レナイガ、是ハ兩方ノ非難ヲ買フ、二兎ヲ追フ者ハ一兎ヲモ得ズト云フヤウナコトニナルト思ヒマス、私ハ斯ウ云フ點ニ付テ政府ノ深キ反省ヲ求メ、且十分ニ御考ノアル所ヲ伺ヒタイト思ヒマス、又内容ノ細カイ點ニ付テハ、是ハ委員會デ議セラルベキコトダト思ヒマスガ、此ノ三權分立ノ思想デ出來テ居ル日本ノ現在ノ所ヘ持ツテ行ツテ、國會ハ最高ノ機關デアルト云フコトヲスルト云フコトハ、最高ノ機關ニスルト云フコトハ、是ハドウモ三權分立ノ思想ヲ壞スモノデハナイカ、寧ロ「イギリス」流ノ憲法政治ニナルノデハナイカ、「イギリス」流ノ憲法政治ハ、「イギリス」ノ特別ナ習慣トカ傳統トカ云フモノガアツテ、アレガウマク出來テ居ルノデアツテ、之ヲ眞似ルト云フコトハ私ハ良クナイト思フ、三權分立ノ思想ハ大體ニ於テ良イモノダト思フ位ノモノデアリマスカラ、此ノ三權分立ヲ壞スコトハ、私ハ非常ニ良クナイト思ヒマスガ、草案ニ依レバ之ヲ壞スコトニナル、國會ハ國權ノ最高機關、最高機關ハ國會デアルトスレバ、天皇ト云フモノハ何デアルカ、又先程モ議論ガアリマシタガ、司法ノ役人ヲ内閣ガ任命スルトカ、或ハ國會デ懲戒裁判ヲスルトカ云フヤウナコトニナツテ居ルヤウデアリマスガ、是ハ矢張リ三權分立ノ思想ニ背クモノデハナイカ、詰リ司法權ノ獨立ト云フモノヲ是ガ害スルモノデハナイカト私共ハ思フ、ソレカラ裁判官ヲ内閣ガ任命スルト云フコトモ、其ノ内閣ト云フモノハ一體官廰デアルカ何デアルカ、其ノ性質モマダハツキリ分ラヌノデアリマスケレドモ、總理大臣ガ任命スルト云フナラ、マダ理窟ガ立ツコトカモ知レナイガ、内閣ガ任命スルト云フコトニナルト、内閣ガ、何ト云フカ、機關ト云フカ、人格ト云フカ、何カガナケレバ任免權ヲ持ツト云フコトハヲカシイ、サウ云フ點ガ方々ニアルノデアリマス、ソレカラ「内閣總理大臣は、國會の承認により、國務大臣を任命する。」是モドウモ我々ニハ頭ヘ入ラナイコトデアリマス、國務大臣ト云フモノハ内閣總理大臣ノ書記デハナイ、殆ド同等ノ權力ヲ持ツタ國ノ重臣デアル、之ヲ内閣總理大臣ガ任命スルト云フニ至ツテハ甚ダヲカシナモノデハナイカ、ソレカラ皇室財産ニ付テモ、第八條ニ、讓リ渡シ讓リ受ケノコトガ書イテアルノデスガ、皇室財産ノ根本問題ヲ規定セズニ、突然讓リ受ケ讓リ渡シダケ所有權ノ現レノ一部分ダケヲ此處デ規定シタト云フノハ、ドウ云フ意味デアルカ、是等モ甚ダ立法技術トシテ拙劣極ルモノデアル、斯ウ云フモノハ日本ノ今進ンダ水準ノ法律界ニ於テハ、認ムルコトノ出來ナイ不體裁ナモノデハナイカト思フ、其ノ外意義ヤ範圍ノハツキリシナイ所ガ、澤山アルノデスガ基本的人權ト言ツタ所ガ、何ヲ基本的人權ト云フカト云フコトガ之ニ少シモ表レテ居ラヌシ、分ラナイ、「フランス」革命當時ノ歴史ヲ讀メバ、ソレハ其ノ時ニ於テハ分ルカモ知ランケレドモ、此ノ憲法ノ問題トシテハ基本的人權ト云フノハ何ヲ指スカト云フノガ分ラヌ、ソレカラ天皇ハ内閣ノ承認ト云フ、「アップルーヴァル」ト云フ字ガ使ツテアルヤウデスガ、「アップルーヴァル」ト云フコトハ上級者ニ對スルコトデハナイカ、字其ノモノニサウ云フ意味ハナイニシテモ、誰ノ「アップルーヴァル」ヲ得ナケレバ行動出來ナイト云フコトニナルト、詰リ其ノ人ヲ支配シテ居ル者ノ承認ト云フカ、認可ト云フカ、サウ云フモノニナルノデハナイカ、サウスルト内閣ト云フモノガ天皇ヲ支配スルコトニナルノデアルガ、ドウモサウ云フ點ニ付テ用語ヤ何カデ非常ニドウモ亂雜デ、我々ガ讀ンデモ分ラナイ、寧ロ修正意見ヲ出セト云フナラバ各條悉ク修正シナケレバナラヌト私ハ思フ、憲法ハ私ガ申ス迄モナク、國民ノ長ク遵奉スベキ、容易ニ變ヘルコトノ出來ナイ法規デアリマスカラ、是ハ最モ愼重ニ、殊ニ貴族院ノ職責トシテハ最モ愼重ニ討究サルベキモノデハナイダラウカ、唯時勢ガドウモソレハ仕方ガナイダラウト云フ漠然タルコトデ、皆ガ沈默シテ、委員長報告、贊成ト云フヤウナコトデ成立スルト云フコトハ私ハ貴族院ノ面目ニ掛ケテモ甚ダ以テヲカシイモノデハナイカト思フ、尚斯ウ云フ問題ニ付テハ本當ハ貴族院カラ何カ議員カ、方々デ審議會ヲ設ケ、サウ云フ人ノ色々ナ意見ヲ集メテ、十分ニ研究シテ、此ノ永年ニ亙ル大典ヲ編纂スベキモノデアツタト思フノデアリマスルガ、非常ニ急イデ、街ノ尊ニ依ルト二晩トカ徹夜シテ出來タト云フ案文ダサウデアリマスガ、是ハ輕率ナ扱ヲスベキモノデハ憲法ハ私ハナカラウト思フ、是等ノ點ニ付テ政府ノ御答辯ヲ伺ツタ上、尚質問ヲ繼續スルコトガアルカモ知レヌト思ヒマス(拍手)
  〔國務大臣吉田茂君登壇〕
○國務大臣(吉田茂君) 澤田君ノ御質問ニ對シテ御答ヲ致シマスガ、私ノ御答ヘ致シマスノハ、先ヅ第一ニ此ノ憲法改正ノ必要ニ付テノ御尋デアリマスガ、其ノ次ハ取急イデ改正ヲスル必要ガナイデハナイカト云フヤウナ御尋ニ對シテ、一應御答ヲ致シマス、日本ガ履行ヲ受諾致シマシタ「ポツダム」宣言ノ條項ニハ、日本ニ於テ民主化ヲ徹底セシムルト云フコトガ一ツノ義務ニナツテ居ルノデアリマス、是ハ法律上ノ義務ト言ヒマスカ、兎ニ角履行スベキ義務デアル、又飜ツテ當時終戰後ノ状況ヲ見マスト、日本ニ對スル疑惑、即軍國主義ノ日本デアル、或ハ戰爭ヲ再ビ準備スル危險ノアル日本デアルト云フ等ノ國際的疑惑ガ相當深刻デアツタノデアリマス、此ノ爲ニハ日本ガ日本ノ軍國主義ハ拂拭スルノデアル、日本ハ再戰ノ準備ヲ致シテ居ルノデハナイノデアル、平和主義、民主主義ニ徹底スルノデアル、其ノ覺悟デアルト云フコトヲ明示スル必要ガアツタノデアリマス、法律上ノ義務ハ別トシテ、日本ガ日本ノ國家ノ國權ヲ囘復スル上カラ言ヒマシテモ、又國際團體ニ復歸スル上カラ言ヒマシテモ、日本ガ民主主義、自由主義ニ徹底スルト云フコトヲ内外ニ明白ニスルコトノ必要ガアルノデアリマス、又日本ト致シマシテハ、成ルベク早ク國際團體ニ復歸スルコトニ依ツテ、日本ノ再建ノ時期ヲ早メル、經濟的ニモ、政治的ニモ、日本再建ノ時期ヲ早メルト云フ必要ニ迫ラレテ現ニ居リマス、從ツテ又日本ガ日本國家ノ基本法デアル憲法ヲ改正スルコトニ依ツテ、日本ノ民主主義、日本ノ自由主義ニ日本ガ徹底スルト云フコトヲ、内外ニ宣明スル必要ガアルノデアリマス、政府ハ此ノ見解カラ憲法改正ノ必要ヲ感ジ、其ノ時期ノ成ルベク速カナラムコトヲ期シタノデアリマス、又私ノ衆議院ニ於テノ一昨夜ノ所言ニ付テ御咎メガアリマシタガ、是ハ速記録ヲ一應確メタ上デ御答ヘ致シマス
  〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕
○國務大臣(金森徳次郎君) 澤田君ヨリ憲法改正案ニ對シマシテ、各方面ニ亙ツテ御質疑ニナリマシタ、淡々タル御言葉ノ中ニ、殆ド完膚ナキト見ラルヽ迄改正案ノ各部面ニ御觸ニナリマシタコトハ、言葉ハ非常ニ平易デハアリマスルケレドモ、其ノ中ニ愛國ノ至誠ヲ充實セラレテ居ル次第デアラウト思ヒマシテ、誠ニ其ノ限度ニ於キマシテ御同感ニ堪ヘナイ譯デアリマス、併シナガラ同ジ愛國ノ至情ニ燃ユル立場ニ於キマシテ、茲ニ違ツタ立場ニ於テ、此ノ憲法ノ出來上リマシタル由來、及ビ其ノ内容ニ盛込マレテ居リマスル各要項ニ付テ、御説明ヲ申上ゲタイト存ズル譯デアリマス、第一ニ、此ノ憲法ノ改正ヲ何故ニ斯ク急グノデアルカト云フコトノ御質疑ニ對シマシテハ、先程總理大臣ヨリシテ答辯セラレマシタ通リ、其ノ重要ナル外部的條件ト致シマシテハ、「ポツダム」宣言ノ受諾ニアルコトハ申ス迄モナク、ソレニ附隨致シマシテ、世界ノ情勢ト云フモノトノ關係ニ於テ、篤ト考慮スベキモノデアルコトハ申ス迄モナイト思ヒマス、併シナガラ問題ハ獨リ之ニ止ルノデハアリマセヌ、日本國内ノ要請ト云フモノガ甚ダシク此ノ憲法ノ改正ニ付テ即刻ヲ爭フ程度ニ湧キ上ツテ居ルコトヲ認メザルヲ得ナイノデアリマス、私共昨年終戰ノ後ニ於キマシテ、甚ダ思ヒ至ラナカツタノデアリマスガ、當時ノ國民ノ意思及ビソレト略々竝行シテ居リマシタ私共ノ考ヘ方ニ於キマシテハ、斯クモ憲法ノ各條項ニ大イナル修正ヲ考フベキ機運ハ來ツテ居ナイヤウニ考ヘタノデアリマス、然ルニ終戰後時ヲ隔ツニ應ジマシテ、ソレニ對スル國内ノ識者ノ、或ハ識者ト見ラルベキ方面ニ於キマシテノ要請ハ、可ナリ顯著ナル速度ヲ以テ進ムモノアルコトヲ認メザルヲ得ナイノデアリマス、ソレハ各方面ノ文書ニ現レタ意見等ニ依ツテ我レ人共ニ知ル所デアリマス、同時ニ私共自身ノ色々ナ自ラノ見解ノ導ク所ニ依リマスルト、甚ダシク反省セシメラルヽモノガアツタノデアリマス、先程仰セニナリマシタヤウニ、明治憲法ハ實ニ立派ナル憲法デアリマシテ、私共過去何十年殆ドソレニ對シテ、一點ノ非難ヲ加フベキモノノナキガ如ク信ジテ居ツタノデアリマス、併シ且讀ミ且理解スルニ應ジマシテ、何トナクソコニ或モノガ潛ンデ居ルノデハナイカ、將來ノ禍ノ種ヲ導クモノガ潛ンデ居ルノデハナイカ、或ハ將來ノ發展ノ種ヲ含ンデ居ルノデハナイカト云フ疑念ヲ起シテ居ツタノデアリマスルガ、此ノ戰爭ノ前後ノ大キナ國家ノ經驗ニ照シマシテ、其ノ考ヘ方ガハツキリトシテ來タノデアリマス、明治憲法ノ出來上リハ立派デアリマシタケレドモ、其ノ運用ノ結果カラ見マシテ、日本三千年ノ歴史ガ遂ニ忌ハシキ望ムベカラザル結果ヲ生ジテ、我ガ國家ニ大キナ汚點ヲ印シタト云フコトハ、是ハ言フマイト思ツテモ言ハザルヲ得ナイノデアリマシテ、(拍手)是ハ憲法ガ惡カツタノカ、運用ガ惡カツタノカ、私ハソレヲ輕々シク斷言スルコトハ出來マセヌガ、是ハ此ノ二者ノ綜合ノ結果ニ於テ、此ノ思ハシカラザルモノガ現レタコトハ認メナケレバナリマセヌ、其ノ明治憲法ノ持ツテ居リマシタ多クノ美點ハ、例ヘバ先程御述ニナリマシタヤウニ、三權ヲ調節スル爲ニ大權ノ自由自在ナル範圍ガアル、是ハ實ニ見事ナル明治憲法ノ特色デアツタノデアリマス、併シナガラ其ノ見事ナル特色ガ遂ニ禍ノ因ニナツタト云フコトハ、實ニ意外ナルコトデアリマスルケレドモ、心ヲ潛メテ見マスレバ、大イニ反省ヲシナケレバナラヌコトト思ヒマス、或ハ憲法ノ第三章ニ書イテアリマス國民ノ權利ノ保障、是モ先程仰セニナリマシタヤウニ、其ノ形ノ儘運用シテ何等ノ支障ハナイデハナイカ、美濃部博士モ憲法ハ變ヘナクテモ「ポツダム」宣言ノ實施ハ出來ルデハナイカト言ハレタデハナイカト仰セラレマシタガ、言葉ノ上トシマシテハ、恐ラクソレニ相違ナイト思ヒマス、併シ運用ノ結果ニ見マスレバ、彈力性ヲ非常ニ期待シテ居ツタ所ノ其ノ憲法ノ條章ハ、遂ニ國民ヲ壓迫シ國家ノ安危ヲ不幸ナル方面ニ導イテ來ル原因ヲ成シタノデアリマシテ、(拍手)其ノ外色々ナ點ヲ考ヘマシテ、明治憲法ノ持ツテ居リマスル美點ヲ運用ノ實際カラ見マシテ、大イナル補正ヲシナケレバナラヌ、且又我ガ國ノ色色ナ物ノ考ヘ方ガ、大體ニ於キマシテ物ノ眞理ノ探究ヲ許サナイデ、或程度ニ於テ呑込メ、ソレ以上ハ色々自ラヲ滿足セシメル無理ナ説明ヲシテ濟マシテシマヘ、或事柄ニハ觸ルヽベカラズ、此ノ態度ガ、是ハ獨リ憲法バカリデハアリマセヌ、憲法ヲ中心トシテ幾多考ヘラレテ來タノデアリマス、斯樣ナ次第ニ於キマシテ、我々ハ此ノ非常ナ秋ニ於キマシテ、而モ國民ハ覺醒シ、又新タナル國ヲ眞實ノ日本ノ力ニ依ツテ興サナケレバナラヌ時ニ於キマシテハ、考フベキ點ガ多々アルノデアリマス、ソレハ何カ、其ノ第一ハ、國民ヲシテ本當ニ眞理ニ目覺メシメル、我々ノ持ツテ生レタ掛替ノナイ此ノ人間ノ尊サト云フモノヲ自覺シ、其ノ頭ノ中ニ滾々トシテ湧キ起ツテ來ル所ノ其ノ眞理ニ目覺メテ、其ノ眞理ヲ推シ進メテ新シキ國家ヲ建設スルト云フコトヲ離レテ、日本國民ノ進ムベキ行キ途ハナイト思ヒマス、此ノ見地ニ於キマシテハ、ドウシテモ憲法ノ根本的ナル改正ガ行ハレナケレバナラヌト思フノデアリマス、又今ノ國民ノ權利ノ保障トカト云フコトハ、固ヨリ安全ナル程度ニ之ヲ具體化セシメナケレバナリマセヌ、尚民主政治ノ徹底ト云フコトハ、是ハ色々ナ議論ガアリマセウ、各人ノ持ツテ居ラルヽ所ノ政治哲學ノ意見ニ依ツテハ、幾多ノ結論ガ起ルノデアリマセウガ、實際的ニ是ガ我ガ國ヲ救フニ適スル制度デアルコトハ、恐ラク大多數ノ認メラルヽ所デアリ、又世界ノ要求シテ居ル所デアル譯デアリマス、其ノ他斯樣ナ見地ニ著眼ヲ致シマシテ憲法ノ改正ヲ考ヘマスル時ハ、ドウシテモ部分的ナ改正デハ出來ナイノデアリマス、日本ノ置カレテ居ル只今ノ立場ハ、古キ革袋ヲ以テ滿シ得ル程度ノモノデハナイノデアツテ、相當大規模ナ飛躍的ナル變轉ヲ遂ゲマセヌケレバ、世界ノ中ニ伍シテ新タナル生命ヲ發揮スルコトハ、殆ド不可能デアラウト思フノデアリマス、甚ダ澤田君ニハ御不滿デハアリマセウケレドモ、能ク此ノ憲法ノ狙ツテ居ル所ヲ御覽ニナリマシテ、又條文ノ末節ニ於キマシテ幾多御非難ニ値スルコトガナイト云フコトヲ、私ハ決シテ主張ハ致シマセヌケレドモ、併シ十分意ノ在ル所ヲ御察シ下サイマシタナラバ、相當御考ノ上ニ緩ミヲ生ジテ戴クコトデハナイカト思ツテ居リマス、色色ナ細目ニ亙ツテ仰セニナリマシタケレドモ、試ミニ其ノ重大デアル所ノモノト思ハル、モノヲ考ヘテ見マスルト、先ヅ一ツノ點ト致シマシデ、此ノ憲法ニ盛込ンデ居リマスル國民ノ基本權ト云フモノハ、十八世紀ノ「フランス」革命當時ニ逆戻リヲシタデハナイカ、寧口明治憲法ノ退歩デハナイカ、御説ノ通リデアリマス、決シテ十八世紀ニ逆戻リシタニ止ラズシテ、千二百十五年ノ「マグナカルタ」迄立チ戻ツタトモ言ヘル、更ニ私ハ詳シイコトハ存ジマセヌガ、「ギリシヤ」哲學ノ昔ニ迄遡ツタトモ言ヘルノデアリマス、併シナガラソレハ遡ツタノデハナク、ソレ等ノ思想コソ日本ノ過去將來ヲ貫イテ、恐ラク我々ノ見ル限リ永久不磨ノ原則デアル、斯ウ信ジマスルガ故ニ、古キモノ決シテ古カラズト言ハナケレバナラヌノデアリマス、併シナガラ此ノ憲法ハ決シテソレニ止リマセヌ、古クカラ認メラレタ個人ノ自由ノ外ニ、近代政治、近代經濟ガ要求シ、又近代社會ニ於テ爲サナケレバナラナイ所ノ必要ナル規定ヲ、多カラズ少カラズトデモ申シマスルカ、現代ニ適應シテ、前途ヲ見透シテ誤リナキ限度ニ於テ採用セムトスルノガ、此ノ憲法ノ狙フ所デアルノデアリマス、ソレハ勤勞ノ權利ヲ認メタリ、社會的立法ノ基本ヲ固メタリ、先ニ非難的ニ仰セニナリマシタケレドモ、個人ノ家庭生活ニ觸レルヤウナ部門ノ改正ヲシタリト云フコトヲ著想致シマシタノハ、是ハ正シク現代ノ姿ニ應ジテ必要ナルコトヲ考ヘタノデアリマス、併シナガラ先ニ高柳君ガ午前ノ御質問ニ於テ、微カニ其ノ閃キヲ示サレ、婉曲ナル形ニ於テ、寧ロ此ノ憲法ノ原理ヲ支持シテ下サツタト思ツテ居ルノデアリマスルガ、是ハ一本調子ノ一ツノ「イデオロギー」ヲ以テ突進スルノデハアリマセヌデ、賢實ナル踏ミ方ヲシテ、過去ニ於テ確實ニ證明セラレタルモノハ其ノ儘採リ入レ、現在湧キ上ツテ居ルケレドモ尚發展ノ餘地ノアルモノハ、其ノ餘地ノアル姿ノ儘ニ採リ入レマシテ幾多ノ原則ヲ設ケタノデアリマス、先ニ澤田君ハ、マルデ立法方針ノ教科書ノヤウニ書イテアルト云フコトヲ仰セニナリマシタガ、其ノ見方ハ當ツテ居リマス、當ツテ居ルト云フコトハ何デアルカト云ヘバ、ソレガ一ツノ此ノ憲法ノ狙ヒデアリマシテ、此ノ憲法ヲ確定シタル原理ニ付キマシテハ、明カニ原理トシテ之ヲ承認致シマス、併シナガラ將來ノ發展性ヲ持ツテ居ル、例ヘバ社會立法、公共ノ安寧福祉ニ關スル諸般ノ問題ノ如キハ、直接ニ權利トシテ之ヲ規定シナイデ、國家ガ是カラ立法其ノ他ノ國政ノ各方面ニ於テ、漸次實現シテ行クト云フ方針ヲ明カニスルコトニ依ツテ、之ニ依ツテ國民ノ權利及ビ社會ノ福祉ヲ増進セムトスルコトヲ狙ツテ居ルノデアリマス、決シテ空ナル立法方針デハアリマセヌ、現實ノ責任ヲ以テ政府ニ強要スル所ノ立法方針デアル譯デアリマス、尚色々ナコトヲ仰セニナリマシテ、例ヘバ十一條ノ「不斷の努力」ト云フヤウナ言葉ガヲカシイ、公務員ハ此ノ憲法ヲ尊重シ擁護スル義務ヲ負フコトハヲカシイト色色仰セニナリマシタケレドモ、ソレハ孰レモチヨツト見テヲカシイコトハ確カデアリマス、併シ先ニ申シマシタヤウニ新憲法ノ持ツテ居ル狙所ニ眼ヲ御著ケ下サイマシタナラバ、今迄ヲカシイト御考ニナツタ所ガ悉ク合理的ナルモノトシテ變形シテ來ルト思フノデアリマス、色々申上ゲタイコトガアリマスガ、大體ノ方針ニ付キマシテ御答ヲ致シマシタ(拍手)
  〔澤田牛麿君登壇〕
○澤田牛麿君 金森國務大臣カラ色々御説明ガアリマシタガ、要スルニソレハ金森君ガ持ツテ居ラレル考ト云フニ過ギナイノデアツテ、此ノ法規トシテノ問題トハチヨツト懸ケ離レテ居ルヤウニ私ハ思フ、法規トシテハ法規ノ定メ方、或ハ書キ方、或ハ編簒ノ仕方、色々ナ點ニ於テ審議サルベキモノデアツテ、斯ウ云フ頭ヲ以テ見テ居レバヲカシイコトモヲカシクナクナルト云フヤウナコトハ是ハチヨツト法律ノ審議トシテハ如何ナモノデアリマセウカ、私共ハ空ナル理想トカ何トカ云フモノニ付テ論ジテ居ル者デハナイノデアリマシテ、憲法ノ成文トシテ、出來タ憲法ニ付テ論ジテ居ルノデアリマス、只今ノ御答ハ成文ノ本來ノ意味ハ斯ウ云フ所ニアルノダ、是ハ文章ガ惡イカラソンナヤウニ讀メルカモ知レヌケレドモ、本來ノ意味ハ斯ウ云フ所ニアル、或ハ編纂者ノ頭ハ斯ウ云フ所ニアルト云フコトノ説明ニ過ギナイノデアツテ、私ノ質問ニ對スル答辯ト認メルコトハ出來ナイノデアリマス、併シ此ノ上ハ水掛論デアツテ、自分ハサウ思フ、憲法ヲ讀ンデ見レバソレハ分ルヂヤナイカト言ハレルカモ知レマセヌガ、私ハ是ハ普通ノ辯明トシテ成立タナイト思フノデアリマス、是ハ議論ニ亙リマスルカラ、大抵ノ所デ止メテ置キマス
○議長(公爵徳川家正君) 板倉卓造君
  〔板倉卓造君登壇〕
○板倉卓造君 私ハ先程ノ澤田君トハ全然違ツタ見方ヲ此ノ憲法改正案ニ對シテ持ツテ居ル一人デゴザイマス
  〔議長退席、副議長著席〕
私ハ此ノ改正案ハ非常ニ良ク出來テ居ルト思フノデアリマス、是ハ優秀ナ憲法改正案デアルト信ジマス、此ノ改正案ヲ御作リニナリ、之ヲ提出セラレマシタ前内閣及ビ現内閣ニ對シテ、私ハ其ノ成功ヲ寧ロ祝スル者デアリマス、殊ニ此ノ改正案ハ衆議院ニ於テ修正ヲ得テ、一層立派ナ案トナツタ、一層其ノ優秀性ヲ加ヘタモノデアルコトヲ信ジルノデアリマス、ソンナラ其ノ優秀性トハ何ヲ申スカ、私ハ天皇制、若シ之ヲ廣イ意味デ君主政治ト云フ言葉ヲ當嵌メマスナラバ、君主政治ノ下ニ極メテ巧妙ニ民主政治ヲ徹底的ニ採入レラレテ居ルコトニ成功シタ憲法改正デ、之ガ之ノ改正案ノ最モ優秀ナ點ダト信ズルノデゴザイマス、實ハ此ノ點ニ於テハ世界各國ノ憲法ノ中デモ、一番良イ憲法トナリ得ル望ヲ之ニ屬シ得ルト信ジマス、併シナガラ此ノ優秀ナル憲法改正ヲスルニ付テ、是ハ一ツノ革命デアツタト云フコトヲ認メネバナラヌノデアリマス、革命トハ何ゾヤ、是ハ學説ニ亙リマスルケレドモ、先ヅ通説トシテ主權ノ所在ノ急變、之ガ革命デアルト云フコトノ解釋ガ普通ニ用ヒラレテ居ルノデアリマス、此ノ通説ヲ若シ採用スルコトガ出來レバ、新憲法ハ日本ニ一ツノ政治的革命ヲ齎シタモノデアルコトヲ信ジマス、其ノ主權ノ所在ノ急變トハ、主權在民ノ原則ノ採用セラレタコトデアリ、是ハ改正案ノ前文ニ、第一條ニ於テモ衆議院ノ修正ヲ經テハツキリト主權ガ國民ニ在ルト明記サレルニ至リマシタ、是迄ノ憲法、現行憲法ハ、主權ハ天皇ニ在ルト云フコトノ所在ヲ明カニシテ居ル、然ルニ改正案ハ主權ガ國民ニ在ルト云フコトニ改正サレタノデアリマス、天皇ヨリ國民ニ移ツタト云フコトハ、一國ニ於ケル主權ノ所在ノ急變デアルト言ツテ宜イト思フ、此ノ革命、革命ト云フ言葉ハ不吉ナ、不祥ノ言葉ノヤウデアリマスケレドモ、併シ之ガ立派ナ變革ヲ起シタ例トシテ私ハ「イギリス」ニ今カラ二百數十年前、一千六百八十八年ニ「イギリス」ニ光榮アル革命ト云フモノガ起ツタ、是ハ從來國王ニアツタ所ノ主權ヲ下院ニ「ハウス・オブ・コンモンス」ニ移シタト云フ革命デアリマス、「イギリス」ノ或著名ナ歴史家ハ此ノ革命ヲ評シテ、時ノ國王「ゼームス」一世カラ主權ヲ「ウヰリヤム」王ト「メリー」皇后ニ移シタノデハナクシテ、「イギリス」ノ國王ノ主權ヲ下院ニ移シタ革命デアル、之ヲ稱シテ「グローリヤス・レボリユーション」、サウシテ國内ニ大ナル變動ヲ起スコトナクシテ、先ヅ以テ平穏ニ此ノ主權ノ移動ガ行ハレマシタ、此ノ革命ヲ「イギリス」ニ於テハ光榮革命トシテ誇ツテ居ルノデアリマス、我々モ此ノ憲法ノ改正ヲ以テ日本ノ歴史ニ於ケル一ツノ光榮アル革命ト申シテ過言デハナカラウカト信ジマス、(拍手)此ノ革命ニ依ツテ從來ノ天皇ノ御位置ハ變更サレマシタ、現行制度ニ於ケル所ノ天皇ノ御位置ハ、是ハモウ皆樣ノ御存ジノ通リニ、先ヅ萬世一系デアラセラレル、第二ニハ神聖デアル、天皇ハ神聖デアラセラルヽト云フ、但シ之ニハ誤ツタ多クノ神秘性ヲ加ヘテ、其ノ結果、多クノ不幸ヲ生ジタコトモアリマス、第三ハ、天皇ヲ以テ統治權ノ總攬者トスルコトデアリマス、而シテ此ノ天皇ヲ統治權ノ總攬者トスルニ付テ天皇神聖ト云フコトヲ力説セラレテ居ル、天皇親シク政治ヲ臠ハセラレルト、之ヲ必ズ付ケテ主張スルト云フ傾向ガ現行ノ制度ニハ著シカツタノデアリマス、是等ノ先ヅ以テ四ツノ點ガ現行制度ノ下ニ於ケル所ノ天皇制ノ特徴デアツタノデアル、サウシテ一般ニ之ヲ以テ日本ノ特殊ノ國體ト申シテ居ツタノデアリマス、改正案ハ之ニ對シテ、萬世一系ノ御位置ニ付テハ御變リハナイ、併シナガラ天皇神聖デアラセラルヽト云フコトニ付テハ何等ノ規定モナイノデアリマス、第三ニハ、主權ガ天皇カラ國民ニ移ツタト云フコトハ先程申上ゲマスル通リニ、前文ニモ、第一條ニモ規定サレテ居リマス、更ニ國事ニ關スル天皇ノ行爲ニ付テハ、内閣ノ助言ト同意ヲ必要トスルト云フ規定ガ新ニ設ケラレタ所ヲ見テモ、ハツキリト天皇ハ親政ヲ爲サレナイ、親シク政治ヲ臠ハサレナイト云フコトガハツキリトサレタノデアリマス、是迄ノ制度ノ下ニ於ケル所ノ天皇ノ位置ニ付テ是程ノ變更ヲ加ヘテ、而シテ新憲法ニ新ニ天皇ハ日本國ノ象徴デアリ、日本國民統合ノ象徴デアルト云フ規定ガ加ヘラレタノデアリマス、是ガ現行憲法ト改正案ニ於ケル天皇ノ御位置ニ於ケル最モ顯著ナル變化デアリマス、即チ是迄ノ天皇ノ御位置トシテノ特徴デアルモノノ中デ、殘ツタモノハ萬世一系ト云フコト、新タニ加ヘラレタモノガ象徴ト云フ言葉ヲ以テ表セラレテ居ル、サウシテ見レバ、日本ノ國體、我々ガ是迄ニ了解シテ來テ居ツタ日本ノ國體ハ一變シタモノデアル、サウ云フ感ジヲ我々ハ受ケルノデアリマス、然ルニ此ノ國體ハ變更サレナイト云フコトノ説明ガ、政府側カラ衆議院ニ於ケル答辯ニ屡々繰返サレテ居ル、金森國務大臣ハ、日本ノ國體ハ決シテ變更サレテ居ラナイ、日本國民ノ憧レノ中心トシテ、同ジ心ノ繋リノ結合シタモノガ日本國ノ國體デアル、斯ウ云フ意味ノ説明ヲ繰返サレテ、日本ノ國體ハ變ツテ居ラヌノダ、斯ウ云フヤウニ仰セラレテ居ルノデアリマス、私ハ其ノ説明ニ對シテ同意ヲ致シマス、其ノ説明ニハ反對ハ致シマセヌ、少シ是ハ「センチメンタリズム」ダト思フ、私ハ其ノ説明ニハ反對ハ致シマセヌガ、併シ是ハ日本バカリノコトデナイノデアル、是ハ日本國特有ノ國體ヲ説明シタコトトハナラナイノデアリマス、例へバ「イギリス」國民ノ英國皇室ニ對スル憧レ、英國皇室ヲ同ジ心ノ繋リトシテ、英國或ハ英國聯邦ヲ結合シテ居ルト云フコト、是ハ顯著ナル事實トシテ認メナケレバナラナイ、例へバ「クイン・ビクトリヤ」ガ、四ツノ時ニ自分ノ名前ヲ書カレタ紙切レヲ、大英博物館ノ立派ナ硝子ノ箱ニ入レテ勿體ナク之ヲ尊重シテ居ル、又「スコットランド」ノ「カーコーデー」、「アダム・スミス」ノ生レマシタ「カーコーデー」ニ「クイン・ビクトリヤ」ガ行カレタ時ニ、海岸ヲ歩カレタ、砂ノ上ニ印シタ足跡ヲ石膏ノ模型ニ取ツテ「カーコーデー」ノ市民ハ大切ニ保存ヲシテ居ル、有難ガツテ居ル、是等ノ事實ヲ以テシマシテモ、如何ニ英國民ガ「イギリス」ノ現王朝ニ對シテ憧レノ心ヲ持ツテ居ルカ分ル、是ハ日本バカリ特有ノ皇室ニ對スル信條デハナイノデアリマス、又英國民統合ノ象徴トシテ、英國民及ビ英國海外領土ヲ通ジテノ英國民ガ現王朝ニ對シテ如何ニ忠誠デアルカト云フコトハ、現ニ一千九百三十一年ノ「スタチュート・オブ・ウェストミンスター」ガ海外領土ノ位置ヲ決定致シマシタ、其ノ中ニ、其ノ法律ノ前文ニ、王位ハ英國聯邦諸國ノ自由ナル結合デアリ、又共同ノ忠誠ヲ以テ王位ニ結合スルモノナルヲ以テ云々ト、斯ウ云フ言葉ヲ前文ニ載セテアルノデアリマス、此ノ一例ヲ以テ見マシテモ、憧レノ中心デアル、或ハ國民統合ノ象徴デアルト云フコトヲ以テハ、日本ノ國體ヲ説明スル、之ヲ以テ日本特有ノ國體デアルト誇ルコトヲ得ナイノデアリマス、又新ニ象徴ト云フ言葉ヲ御用ヒニナリマシタ金森サンハ、天皇ヲ仰グ時日本國家ヲ見、天皇ヲ仰グ時日本國民結合ノ姿ヲ見ル、斯ウ云フコトヲ仰シヤツテ居ル、私ハ是ニモ同意致シマス、サウシテ其ノ象徴ト云フ言葉ヲ英文ニ譯サレテ、「シンボル」ト云フ言葉ヲ用ヒテオイデニナル、是ハ日本ノ或一局部ニハ使ハレテ居ツタ言葉デアリマスルケレドモ、憲法ニ載セル程サウ一般的ニ用ヒラレテ居ツタ言葉デハナク、新シイ言葉デアリマス、即チ西洋カラ來タ飜譯語デアリマス、此ノ象徴ト云フ言葉ニ付テドウ云フ解釋ヲシタラ宜シイカ、是ハ非常ニムヅカシイコトデアラウト思ヒマスガ、最近日本ニ來テ居リマス二ツノ「アメリカ」ノ雜誌ノ中ニ、此ノ象徴ト云フ言葉ヲ使ツタ例ヲ申上ゲタイト存ジマス、一ツハ週刊雜誌「ニュース・ウィーク」ノ本年ノ六月號ノ投書欄ニ注目スベキ一文ガ載ツテ居ル、是ハ大統領「トルーマン」氏ガ其ノ頃「アメリカ」ニ起ツタ勞働爭議ニ對シ、「ストライキ」ヲ抑制スル政策ヲ執ラウトシタニ對シテ、或有力ナル勞働團體ノ委員長、「リーダー」ガ非常ニ憤慨致シマシテ、一昨年「トルーマン」ガ選擧ノ時ニ自分ハ應援モシタ、其ノ時ニ自動車ニ乘ツテ選擧運動ヲシタ時、一緒ニ撮ツタ寫眞ガアル、其ノ寫眞ヲ額ニ作ツテ自分ノ事務所ニ掛ケテ居ツタノデアリマス、ソレ程「トルーマン」ニ對シテ好意ヲ持ツテ居ツタニモ拘ラズ、「トルーマン」ノ勞働運動ニ對スル政策ヲ憤慨シテ、自分ノ事務所ニ入ルヤ否ヤ、自分ノ「デスク」ノ上ニ掲ゲテアツタ額縁ヲ壁カラ取ツテ、其ノ儘ソレヲ持ツテ紙屑箱ノ中ニ抛リ込ンダノデアリマス、此ノ寫眞ガ「ニュース・ウィーク」、「タイム」ニモ出テ居リマス、其ノ寫眞ヲ見テ、或人ガ今申シマス「ニュース・ウィーク」ニ投書シタノデアリマス、其ノ投書ニ、數年前自分ガ或學校‥‥「ハイ・スクール」デス、「ハイ・スクール」ヲ卒業スルニ際ニ、政治史ノ或「ブロフエッサー」ガ卒業生ニ對スル訣別ノ辭ヲ述ベタ、其ノ中ニ、國ノ元首タルモノハ、君主デアラウト、皇帝デアラウト、大統領デアラウト、將何タルヲ問ハズ、國旗ト同樣國其ノモノヲ象徴スルモノデアル、ダカラ若シ國民ガ此ノ象徴ヲ侮辱スルナラバ、政治的墮落ハ必然デアリ、亂民政治ハ必至デアル、遂ニ國家ハ忘却サレルデアラウ、斯ウ云フコトヲ卒業生ニ政治史ノ先生ガ言ツタノヲ自分ハ今デモ覺エテ居ルガ、今ノ勞働黨ノ領袖ガ、米國大統領ノ寫眞ヲ紙屑籠ニ投ゲ捨テテ居ル寫眞ト云フモノハ丁度米國國旗ヲ塵埃箱ニ投ゲ捨テタノト同ジヤウニ私ニハ思ハレル、貴誌‥‥貴誌トハ「ニュース・ウィーク」雜誌デアリマス、貴誌及ビ貴誌ノ讀者デ、之ヲ看過シ得ルナラバ、願クバ「ローマ」帝國興亡史テ讀ンデ貰ヒタイ、神ヨ、我ガ國ヲ救ヒ給ヘト私ハ「ゼウス」ニ祈ル、斯ウ云フ投書ガ「ニェース・ウィーク」ノ一番最初ノ表紙ノ裏ニ出テ居ルノヲ私ハ讀ミマシタ、之ニ依ルト、「アメリカ」人ノ中ニ、象徴ト云フ、大統領ハ「アメリカ」國其ノモノノ象徴デアル、金森サンノ謂フ所ノ、天皇ヲ仰ゲバ日本國其ノモノヲ見ルト同ジ考ガ「アメリカ」人ノ中ニモアルコトヲ知ルノデアリマス、ソレカラモウ一ツ、今度ハ「タイム」ニ出テ居ツタ、是ハ最近ニ亡クナリマシタ「エッチ・ジー・ウエルス」、「イギリス」近代ノ文豪ダト言ハレテ居ル「エッチ・ジー・ウエルス」、此ノ人ガ七月ノ‥‥先月ノ「イギリス」ノ最左翼ノ或週刊雜誌ニ投書シテ、「イギリス」ノ「フアッショ」運動ノ領袖タル「サー・オスワイルド・モズレー」、此ノ人ガ戰前ニ「ムッソリニ」ニ財政的援助ヲシタコトガアル、其ノ金ハ「イギリス」王室カラ出タモノデアルト云フ疑ガアル、若シ果シテサウデアツタナラバ、現「ハノーヴァー」王朝、態ト「ハノーヴァー」王朝ト云フ言葉ヲ「ウェルズ」ハ使フノデアリマス、御承知ノ通リニ元ハ「イギリス」ノ現王朝ハ「ハーヴァー」王朝ト申シテ居リマシタケレドモ、前「ヨーロッパ」戰爭ノ時ニ「ハノーヴァー」ト云フ「ドイツ」名前ヲ取ツテ、「ウインゾー」ト云フ名前ニ今日變ツテ來テ居ル、ニモ拘ラズ「ウエルズ」ハ態ト「ハノーヴアー」王家ト言ツテ居ル、「ハノーヴアー」王家ハ「サヴオイ」家同樣ニ追放スベキ有ラユル理由ガアル、而シテ其ノ追放スル場所ハ「アメリカ」ノ何處カカ、或ハ其ノ土地ノ國民ガ制服、「ユニホーム」ガ好キダ、或ハ稱號、「タイトル」ヲ好クト云フヤウナ國ニ「イギリス」ノ王家ヲ放逐シタラ宜カラウ、斯ウ云フヤウナ不敵ナ暴言ヲ「ウエルズ」ハ「イギリス」ノ最左翼ノ雜誌ニ掲載シタノデアリマス、一體「ウエルズ」ハ此ノ前ノ「ヨーロッパ」戰爭ノ最中ニモ、現「イギリス」王家ヲ亡シテ共和政府ヲ作ルノハ此ノ際ダ、國民ヨ大イニ起テト云フ投書ヲ「タイム」ニシタコトガアツタ、其ノ時[タイム」以下非常ニ國論ヲ沸騰セシメテ、而シテソレハ反對論ヲ以テ潰サレタノデアリマス、今度モ「ウエルズ」ノ此ノ投書ヲ「イギリス」國民ハ誰モ取合ハナカツタ、即チ「イギリス」ノ諸新聞ハ之ヲ取合ハナクテ、無視シタ態度ヲ採ツタノデアリマス、此ノ状況ヲ報ジタ所ノ「アメリカ」ノ雜誌「タイム」ハ此ノ記事ニ附記シ、「エッチ・ジー・ウエルズ」ハ國王ト云フ中ニモ、暴君デモナケレバ又紳士振ル俗物デモナク、只管其ノ國民ノ過去ト誇ト及ビ彼等ノ良イ行儀ノ象徴トシテ役立ツテ居ルモノガ多イ、國王ノ中ニモ、アルコトヲ全ク知ラナイノダ、斯ウ云フコトヲ「タイム」ノ記者ハ其ノ記事ニ附記シテ居ルノデアリマス、即チ此ノ場合ニ於ケル象徴ト云フ言葉ヲ、「タイム」ノ記者ノ使ツタ所ニ從ヒマスレバ、其ノ國民ノ過去ト誇ト及ビ彼等ノ良イ行儀ヲ象徴スル――象徴ト云フ言葉ノ使ヒ方ハ多々アリマセウガ、日本皇室ハ日本國及ビ日本國民統合ノ象徴デアラセラレル、ソレノ意味トハサウ違ツテ居ルヤウニハ用ヒラレテ居ラナイノデアリマス、サウスルト云フト日本ノ天皇制ノ説明トシテ、象徴説ト云フモノハ、日本特有ノ國體ヲ説明シタモノトハナラナイヤウニ思ハレルノデアリマス、ソレナラバ新憲法ニ於ケル日本ノ國體ト云フモノハドウナツテ居ルカ、私ノ疑ヒマスノハ、此ノ新シイ憲法ノ改正案ニ於ケル天皇ノ位置ヲ見ルト云フト、一體日本ハ純君主國ヲ以テ任ジテ宜シイノカ、若シ從來ノ用ヒラレテ居ル説明ニ從ヒマスナラバ、君主國ト云フ其ノ國ノ主權ガ一人ノ御手ニ歸屬シテ居ル、即チ天皇若シクハ君主、サウ云フ制度ヲ採ツテ居ル國ハ君主國デアルト云フコトガ從來ノ通説デアツタ、然ルニ此ノ改正案ニ於テハハツキリト日本國ノ主權ハ國民ニ在ルトセラレマシタ、サウスルト從來ノ君主國ト云フコトヲ以テ日本ハ任ジテ宜シイカト云フコトニ付テ疑ヲ持ツノデアリマス、然ルニ是ト同ジ状態ハ「イギリス」ニ於テ見ルコトガ出來ル、「イギリス」ハ俗ニ君主國ト言ツテ居ル、併シ「イギリス」國ノ主權ハ君主ニハナイト言フ、少クトモ光榮革命後ニ於ケル「イギリス」ノ國體ハ、主權ノ所在スル所ハ國會デアルト云フコトニナツテ居ル、ニモ拘ラズ世界ニ「イギリス」ヲ君主國ト言フコトニ於テ誰モ疑フ者ハナイ、ガ實體ハサウデナイ、ソコデ例へバ「イギリス」ノ古イ學者「バジヨット」ハ「イギリス」ノ國體ヲ説明シテ、「イギリス」國ハ變裝シタル共和國デアルト言ツテ居ル、君主ヲ以テ變裝シタル、サウシテ實體ハ共和國デアルト云フコトヲ「バジヨット」ハ述ベテ居ルノデアリマス、日本モ罷ク間違フト云フトサウ云フ説明ヲスル者ガアルカモ知レナイ、日本ノ天皇制ヲ維持シテ「イギリス」ノ君主政治ノヤウニシヨウト云フコトハ相當ニ贊成者モアリ、我々モソレヲ希望シテ居ル一人デゴザイマシタガ、其ノ變裝シタル共和國ト云フ「イギリス」ニ於ケル國王ノ位置ヲ、日本ノ新憲法改正案ニ於ケル天皇ノ位置ト較ベテ見マスト云フト、例ヘバ政權ト云フコトニ付キマシテモ、日本ノ天皇ハ先程申上ゲマシタ如ク、内閣ノ助言ト輔佐トヲ得ナケレバ國事ヲ行フコトガ出來ナイト云フコトニナツテ居ル、處ガ、「イギリス」ノ國體ハ憲法ノ建前カラ見マシテモ、相當ニ政治上ノ實權ヲ持ツテ居ルノデアリマス、殊ニ「クイン・ヴィクトリヤ」以來「イギリス」ノ王家ハ實際上ノ政治ノ上ニ相當ナ干渉ヲ行ウテ居ルノデアリマスカラ、或學者ハ今ノ「イギリス」ノ國王ハ昔ノ「スチユアート」王家、或ハ「チユードル」王家ノ王ヨリモモツトヱライ政治上ノ實權ヲ持ツテ居ルト、斯ウ云フ風ニ述ベテ居ルノヲ、日本ノ新シキ憲法ニ於ケル天皇ノ位置ニ較ベテ見ルト云フト、餘程日本ノ天皇ノ位置ノ方ガ立憲的ニナツテ居ル、此ノ點ハ「イギリス」ヨリモ私ハ優レタ憲法デアルト信ズルノデアリマス、又皇室財産ノ點ニ付キマシテモ、改正案ニ於ケル皇室ニハ世襲財産ト云フモノガナクナリマシタ、是モ私ハ非常ナ善イ改正ダト信ジマス、然ルニ「イギリス」ノ王家ト云フモノハ、國庫カラ得ル「シビル・リスト」ノ外ニ、私有財産ヲ、而モ世襲的ニ相當ニ高ク持ツテ居ラレルノデアリマス、例ヘバ「ダッチ・オブ・ランカスター」、「ランカスター」ノ舊領地カラ相當ノ金額ヲ世襲財産トシテ、「イギリス」皇室ハ持ツテ居ラレルノデアリマス、或ハ又「イギリス」ノ不思議ナ制度ニ依ツテ「イギリス」ノ沿岸ノ干潮ノ時ト滿潮ノ時トノ間ノ海岸ノ土地一帯ト云フモノハ、是ハ「イギリス」ノ王家ノ財産トナツテ居ルノデアリマス、但シ之ヲ港灣ニ使フトカ、其ノ他ノ國家ニ使フ時ニハ此ノ限リデハナイケレドモ、然ラザル場合ニ於テハ、此ノ干潮ト滿潮トノ間ノ海岸一帯ノ土地ハ、英國王ノ所領ニ屬シテ居ル、或ハ又「イギリス」ノ領海内ニ入ツテ來ル鯨ガアレバ、或ハ鮫ガ捕ツタラバ、此ノ鯨モ鮫モ「イギリス」皇室ノ財産トナル、斯ウ云フヤウナ規定迄設ケラレテ居ルノデアリマシテ、今日ノ日本ノ皇室ニ對スル財産制、今度ノ憲法ニ依ツテ改正セラレタル皇室ノ財産、ソレト「イギリス」ノ現行ノ制度ヲ見ルト云フト、是ハ日本ノ方ガ餘程進ンデ居ルト信ズルノデアリマス、又凡ソ君主政治、日本モ君主政治ト云フコトヲ學問的ニ言ヒ得ルナラバ、凡ソ君主政治ニハ貴族ト云フモノガ必ズ之ニ附屬スル制度デアリマス、數百年、千年、或ハ二千年ノ長キ歴史ヲ持ツテ居ル君主國デアルナラバ、必ズ貴族ト云フモノガ必然ニ制度トシテ存在スルノデアリマス、以テ其ノ王家ノ尊嚴ヲ一層高メルト云フ具ニ供セラレタモノデアリマセウシ、其ノ沿革カラ言へバ、ソレゾレ立派ナ理由ガアル、然ルニ今度ノ改正案ニ於テ此ノ君主政治ニ必ズ附物デアル所ノ貴族政治ガ廢セラレタ、之ニ反シテ「イギリス」ハ御承知ノ通リニ、世界ニ是程澤山ナ貴族ノアル國ハナイノデアリマス、但シ日本ノ今ノ貴族ノ家ハ千軒アルサウデアリマス、「イギリス」ノ今ノ貴族モ千軒アリマス、約千軒アル、併シ之ニ日本ノ貴族制度ニハナイ「バロネット」ト云フモノヲ加へマシテ貴族ト言ヒ得ルナラバ、此ノ「バロネット」ハ千何百軒アリマス
  〔副議長退席、議長著席〕
即チ「イギリス」ノ貴族ハ二千何百軒アルト言ツテ宜シイ、斯ウ云フ「イギリス」ノ制度ト今度ノ日本ニ於ケル制度トヲ較ベテ見ルト云フト、是ハ日本ノ方ガ餘程進ンデ居ル制度ヲ用ヒタモノト言ツテ宜シイノデアラウト思フノデアリマス、若シ日本ノ國體ト云フモノガ昂揚セラルヽナラバ世界ニ冠タルモノダト若シ言ヒ得ルナラバ、私ハ只今申シマシタ新憲法ニ盛ラレタル新シイ天皇制ト云フモノガ日本ノ新國體デアルト信ズルノデアリマス、然ルニ日本ノ國體ハ新憲法改正案ニ依ツテ何等ノ變更ヲ受ケテ居ラナイト云フ説明ヲ以テ通サレルナラバ、私ハ其ノ解釋ニ迷フ者デアリマス、何故是程明カナル事實ヲ淡泊ニ、率直ニ、而シテ誇ツテ以テ日本ノ國體ハ斯ウ云フ新シイ立派ナモノニナツタト云フコトヲ仰シヤラナイノカ、是ガ日本ノ皇室ヲ萬代不易、天壤ト共ニ窮リナク我々ハ奉戴シ得ル所ノ唯一ノ方法デアルノデアリマス、然ルニドウモハツキリトシタ説明ヲ與ヘラレナイヤウナ氣持ヲ持ツテ居ル者ガ思フニ日本國民ノ中ニ相當ニアルコトト思フ、是ハ日本國民ヲ迷ハシメルモノデアル、或ハサウ云フ國體ト云フヤウナコトハ輕々ニ論ズルモノデハナイト、是モ一ツノ賢明ナル見識デアリマセウ、併シ是ハ唯一時ノ辯明デアル、國民ヲシテ長ク日本國體ヲ仰ガシムル所以デハナイ、憲法ハ是カラ何百年モ永久ニ續ク所ノモノデアルトスルナラバ、唯一時ノ方便ノ爲ニ國體ハ變ツテ居ナイノダト言フノハ、是ハ淡白デナイト思フ、私ハ以上申上ゲマシタコトヲ以テドウカ國體ハ變ツタノデハナイト云フコトヲ固執セラレナイデ、善イコトニナツタノダト云フコトヲ力説セラレル英斷ヲ望ミマシテ、此ノ英斷ガ御有リニナルカナイカト云フコトヲ是ハ主トテシ金森サンニ御伺致シマス
  〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕
○國務大臣(金森徳次郎君) 御尋ニ對シマシテ御答ヲ致シマスルガ、御論ノアリマスル所ハ十分了解ヲ致シマシタ、唯言葉ヲ用ヒマスル時ニ、國體ト云フ言葉ヲ如何ナル定義ノ下ニ置クカト云フコトニ依ツテ私共ノ御答ヲスル言葉モ御意見ト違ハザルヲ得ナイヤウニナルト考ヘテ居リマス、唯念ノ爲ニ其ノ前ニ一ツ二ツ御質疑ノ中心點デハアリマセヌケレドモ、御答ヲ致シテ置キタイコトガアルノデアリマス、政府ノ原案ニ於キマシテハ、國民ノ總意ガ至高ノモノデアルト云フコトヲ記載シテアリマシタ、衆議院ニ於テ修正セラレマシタ文字ニ於キマシテハ、主權ハ國民ニ在ルト云フコトニナツタノデアリマス、此ノ意味ハ恐ラク同ジ意味デアリ、文字ガ變ツタダケデアルト思ヒマスルガ、畢意國家ノ意思ノ源泉トナルベキ力ハ國民ニ在ルト云フ意味、其ノ國民ト云フノハ、天皇ヲ含メタル全體デアルト云フコトニ歸著スルト思フノデアリマシテ、是ハ私ガ其ノ趣旨ハ衆議院ニ於テ度々述ベタ所デアリマスルガ、板倉君ハ其ノ點ニ付キマシテ、事ニ依ルト私ト少シ違ツタ著想ヲ持ツテオイデニナツタノデハナイカ、私ノ考ヘテ居リマシタノハ、成ル程、主權ハ國民ニ在ルトハツキリ文字ニ現シテアルノデアリマシテ、之ニ依ツテ過去ノ日本ノ主權ノ所在トドウ變ツタカト云フ點ハ、憲法ニハ書イテアリマセヌ、ガ併シ自ラ各人ノ心ノ中ニ其ノ答ガ出テ來ナケレバナラヌト思フノデアリマス、此ノ點ハ實體ノ變化ト考ヘテ居リマセヌ、今日ニ於テ我々ノ心ニハツキリシタ認識ガ、此ノ答ヲ出シタト考ヘテ居ルノデアリマス、天ガ動イテ居ツタカ、地ガ動イテ居ツタカト云フコトハ、議論ガ孰レニアルニシテモ、動キ方ハ古ヨリ今日迄變ツテ居リマセヌ、我々ガ天動説ト唱ヘ地動説ト唱ヘマシテモ、同一ノモノヲ指シテ居ル、唯認識ノ變化ニ伴フダケデアリマスルガ、今ノ國民ノ總意ハ最高ノモノデアルト云フコトハ、私ハ其ノ例ニ引キマシタヤウナ意味ニ於キマシテ、實體ノ變化デハナイ、認識ノ變化テアル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、其ノ點ハ唯表現ノ異ル所ヲ一言申添ヘテ置クニ止ル譯デアリマス、次ニ國體ト云フコトノ意味デアリマスルガ、是ハ御説ノヤウナ考ヘ方モ十分成立シ得ル餘地ガアルト思ヒマス、由來國體ノ言葉ハ決シテ一様ニハ使ハレテ居リマセヌ、延喜式ニ國體ト云フ言葉ガ使ハレタ以來、或ハ其ノ前ニアルカモ知レマセヌガ、種々雜多ナ意味ニ用ヒラレテ居ルノデアリマス、併シナガラ之ヲ學問的ナ立場デ見ナイデ、國民一般ノ常識ニ照シテ考ヘテ見マスル時ニ、如何ナモノデアラウカ、國民全體ノ心ノ中ニ活々トシテ、拭フベクモ拭フベキニアラズ、變化シ能ハムモ變化シ能ハナイモノハ、度々申シテ居リマスヤウニ、天皇ヲ憧レノ中心トスル國民ノ心ノ繋リト云フコトデゴザイマス、ソレヲ本トシテ國家ガ存在シテ居ルコトヲ、國體ト云フ言葉デ言ツテ居ルモノト思フノデアリマス、此ノ點ニ付キマシテハ絶對ニ我々ハ變ツタコトハナイ、又將來變ルベキモノデナイト信ジテ居リマシテ、國體不變ノ原則ヲハツキリ言ハザルヲ得ナイト思フノデアリマス、唯基本的政體トモ言フベキ範圍ニ於キマシテ、此ノ憲法ハ過去ノ憲法ト著シク違ツテ居ルト云フコトハ、ソレハ勿論言ヘルノデアリマスルガ、併シ國家ノ中ニハ變ルベキモノモアリ、變ラザルモノモアリ、諸般ノ原理ハ變ルヤウニ見エテ居リマシテモ、一歩深ク目ヲ著ケレバ變リマセヌ、我々ハ其ノ變ラナイ所ニ於テ國體ト云フ觀念ヲ把握シ、其ノ移リ變ツタ所ノ基本ノ原理ト稱シテ基本的ナル政體ト、斯ウ云フ言葉ヲ使ツテ居ルノデアリマシテ、御尋ノ趣旨トハ實質ニ於テ異ル所ナク、用語ノ差ガアルダケト考ヘテ居リマス
○板倉卓造君 御答辯ヲ得マシタケレドモ、私ノ御尋ネシタコトニ付テハ御答ガナカツタヤウニ思ヒマス、就キマシテハ、他ノ機會ニ御聽キシタイト思ヒマスカラ、只今ノ質問ハ是デ打切リマス
○議長(公爵徳川家正君) 宮澤俊義君
  〔宮澤俊義君登壇〕
○宮澤俊義君 只今ノ憲法改正ガ、果シテ日本ノ政治ノ民主化ニ役立ツカドウカト云フ點ニ付テハ、色々意見ガゴザイマスガ、私ハ先程カラノ澤田議員ガ仰シヤツタ所トハ違ヒ、寧ロ大體ニ於テ只今板倉議員ガ仰シヤツタ所ト同樣ニ、是ハ日本ノ政治ノ民主化ノ道ニ於ケル重要ナル一歩前進デアルト考ヘテ居リマス、併シ其ノ憲法ガ非常ニ完全ナルモノダト考ヘルノデハアリマセヌ、ソコニハ不明瞭ナ規定ヤ不適當ナ規定ガ尠カラズ存スルノデアリマシテ、ソレ等ガ然ルベク修正セラレルコトヲ希望スル者デアリマスガ、ソレニモ拘ラズ、全體トシテ此ノ改正案ガ成立スルコトヲ心カラ祈ツテ居リマス、サウ云フ立場カラ、此ノ憲法改正案ニ關スル原理的ナ問題ノ若干ニ付テ、極メテ簡單ニ箇條的ニ御尋ネ申上ゲタイト思ヒマス、質疑ノ第一點ハ、「ポツダム」宣言ノ受諾ト云フコトハ、國民主權主義ノ承認ヲ意味スルト思フガ、ドウデアラウカト云フコトデアリマス、「ポツダム」宣言ノ第一條、十二項ニハ御承知ノ通リ、日本國國民ノ自由ニ表明セラレタ意思ニ從ツテ、平和的傾向ヲ有シ云々、ト云フ言葉ガゴザイマス、更ニ昨年八月十一日ノ我ガ國ノ降伏申入ニ對スル聯合國ノ囘答ニハ、最終的ナ日本ノ統治ノ形態ハ、「ポツダム」宜言ニ從ツテ日本國國民ノ自由ニ表明シタ意思ニ依ツテ決定サルベキモノテアル、ト言ハレテ居リマス、國家ノ統治形態ガ、其ノ國民ノ自由ニ表明セラレタ意思ニ依ツテ決定サルベキモノデアルトスル建前ハ、即チ所謂國民主權主義ニ外ナラナイノデアリマス、從ツテ「ポツダム」宣言ノ受諾ト云フコトハ、國民主權主義ノ承認ト云フコトヲ意味スルノデアルト思フノデアリマスガ、如何デアリマセウカ、之ガ第一點デアリマス、次ニ第二點、此ノ國民主權主義ハ終戰迄ノ我ガ憲法ノ根本建前ト原理的ニ異ルモノデアルト思フガ、ドウカト云フ點デアリマス、終戰以前ノ我ガ憲法ノ根本建前ハ、我ガ國ノ統治ノ形態ガ所謂天壤無窮ノ神勅ニ依ツテ、即チ神ノ意思ニ依ツテ決定サレルト云フ建前デアツタト思ヒマス、神勅ニ依ツテ、ソレニ基キ萬世一系ノ皇統ニ出テサセ給フ天皇ガ現人神トシテ日本ニ君臨シ給フト云フノガ、其ノ根本ノ建前デアツタト思ヒマス、此ノ建前ヲドウ云フ名前デ呼ブカハ問題デアリマスガ、ソレハ兎モ角ト致シマシテ、此ノ建前ハ、天皇ガ國民ノ意思ニ基イテ君臨シ給フト云フモノデナカツタト云フコトハ明白デアラウト思ヒマス、從ツテソレハ國民主權主義トハ原理的ニ全ク異ルモノデアツタ、異ル建前デアツタト云フコトハ疑ナイト思ヒマス、勿論此ノ建前ニ基ク統治形態、即チ天皇統治制ハ多クノ場合國民ノ支持ヲ得テ居タコトデアリマスシ、又御歴代ノ天皇ハ常ニ國民ノ意思ヲ何ヨリモ尊重シ給フタコトデアリマスガ、併シソレニモ拘ラズ、ソコデハ國家ノ統治ノ形態ガ飽ク迄神意ニ基クモノトセラレタノデアリマス、少クトモ國家ノ統治ノ形態ノ根據ハ決シテ國民ノ意思ニ存スルトハセラレナカツタノデアリマス、政府ハ我ガ國ガ終戰以前カラ國民主權主義ヲ其ノ根本建前トシテ居ルト云フ風ニ説イテ居ラレルヤウデアリマスガ、ソレハ理論的ニ言ツテ何トシテモ無理デハナイカト思ヒマス、皇祖皇宗ノ遣訓ヲ明徴ニスル爲ニ制度セラレ、皇祖皇宗ノ後裔ニ遺シ給ヘル統治ノ洪範ヲ紹述シタモノト言ハレテ居リマス、明治憲法ノ何處ニ國民主權主義ヲ見出スコトガ出來ルデアリマセウカ、若シ之ヲシモ國民主權主義ト言フナラバ、ドノヤウナ國家モ苟クモソレガ多少デモ斷續的生命ヲ有スル限リ、總テ國民主權主義デアルト言ハナクテハナラナクナリマスシ、ソレデハ君主主權主義ト國民主權主義トノ原理的ナ區別ハ全ク意味ヲ失ツテシマフ、其ノ結果トシテ此ノ憲法改正案ガ、國民主權主義ヲ唱ヘルコト自體ガ、全ク無意味ニナツテシマフノデアリマス、我ガ國ガ終戰以前カラ國民主權主義ヲ認メテ居タト説クコトハ、斯様ニ理論的ニ見テ誤デアルト思ヒマスガ、或ハ實際政治的見地カラ見テハ、サウ説クコトガ何等カノ效用ヲ持ツト云フ考モアルカモ知レマセヌ、併シ日本ノ政治ガ茲ニ建國以來ノ生レ變リヲ斷行シヨウト云フ時ニ、其ノ根本建前ガ以前ト少シモ變ラナイト説クコトコソ、現在日本ガ行ヒツヽアル根本的ナ變革ニ對スル正シイ認識ヲ妨ゲルコトニナリ、眞ノ民主政治ノ實行ト云フ目的カラ見テ、實際的ニ却テ不適當デハナイカト考ヘルノデアリマスガ、如何ガデアリマセウカ、次ニ第三點、新憲法草案ハ右ニ述ベタヤウナ國民主權主義ヲ採用シテ居ルト思フガドウカト云フ點デアリマス、是ハ憲法ノ前文、其ノ他カラ言ツテ極メテ明瞭デアルト思フノデアリマス、前文及ビ第一條ノ字句ニ付テ衆議院デ多少ノ修正ガ行ハレマシタ、私ハ此ノ修正ガ絶對ニ必要ナモノデアツタトハ必ズシモ考ヘナイノデアリマスガ、唯一部ニハ政府原案ノヤウナ表現ハ必ズシモ單純ナ國民主權主義ヲ意味セズ、多カレ、少ナカレ、ソレトハ違ツタモノヲ意味スルト云フ見解ガ行ハレ、現ニ此ノ憲法改正案ノ定メル國民主權主義ハ君民共治主義デアルトカ、更ニソレハ必ズシモ天皇主權主義ト根本的ニ違フモノデナイト云フヤウナ見解迄認メラレタ位デアリマス以上、サウ云フ誤解乃至ハ曲解ノ生ズル餘地ヲ防グ爲ニハ、此ノ修正ハ適當デアツタト言ヘヨウト思ヒマス、併シ何レニセヨ、憲法改正案ガ國民主權主義ヲ採用シテ居ルコトハ、此ノ修正ノ有無ニ拘ラズ明白デアリ、又ソレハ「ポツダム」宣言受諾ニ依ツテ最終的統治形態ガ、自由ニ表明セラレタ人民ノ意思ニ依ツテ定マルトスル原理ヲ承認シタ日本ノ憲法改正案トシテハ、當然ノ態度デアルト思フノデアリマスガ、如何ガデアリマセウカ、次ニ第四點、主權者タル國民ノ中ニ天皇ガ含マレルト云フ説明ハ、理論的ニモ實際的ニモ不適當デハナイカト云フコトデアリマス、政府ハ只今モ金森國務大臣ガ仰シヤイマシタヤウニ主權ハ國民ニ在ル、國民ノ中ニハ天皇ガ含マレルト説明シテ居ラツシヤイマス、併シ天皇ノ地位ガ主權ノ存スル國民ノ總意ニ基クトセラレルノニ、其ノ國民ノ中ニ天皇ガ含マレルト説クコトニ、ドウ云フ根據ガアリ、又意味ガアルデセウカ、(拍手)天皇ノ地位ニ居ラツシヤル個人ガ、個人トシテ日本民族ノ一人デアラレ、從ツテ日本人デアラレ、日本國民ノ中ニ含マレルト云フコトハ、餘リニ當然デアリマシテ、特ニ斷ル理由ノナイコトト思ヒマス、問題ハ憲法上ノ制度トシテノ天皇デアリマス、サウシテ制度トシテノ天皇ハ明白ニ主權ノ存スル國民ノ總意ニ基イチ存スルノデアリマス、國民ガ主權ヲ有スルト云フコトハ國家ガ主權ヲ有スルト云フコトトハ違ヒマス、國家ノ内部ニ於テ君主又ハ貴族ガ主權ヲ有スルノデハナイト云フコトヲ意味スルノデアリマス、國民主權ヲ承認シナガラ、其ノ國民ノ中ニ天皇ガ含マレルト説クコトハ、サウ説クコトノ心持、或ハ感情、單純ナ國民主權ト言ヒ切ルニ忍ビナイト云フヤウナ御氣持ハ十分理解シ得ル所デアリマスガ、ソレハ天皇ノ地位其ノモノガ主權ノ存スル國民ノ總意ニ基クト云フ根本原理ヲ曖昧ナラシメル虞ガアルバカリデナク、更ニ政府ガ表ニ國民主權ヲ唱ヘナガラ、裏カラ昔ナガラノ天皇主權主義ヲ忍ビ込マセヨウトシテ居ルナドト誤解セラレ、痛クナイ肚ヲ探ラレル可能性ガアリハシナイカト思ヒマス、從ツテ此ノ説明ハ理論的ニモ實際的ニモ妥當デナイノデハナイカト思フノデアリマスガ、如何ガデアリマセウカ、(拍手)次ニ第五點デアリマス、國民主權主義ノ承認ヲ核心トスル新憲法ハ、國體ニドウ云フ影響ヲ與ヘルカト云フコトデアリマス、此ノ點ハ只今板倉議員カラ詳細ニ御尋ガアリマシタガ、私モ稍々違ツタ角度カラ簡單ニ御伺ヒシタイト思ヒマス、國民主權主義ヲ核心トスル新憲法ガ國體ニドウ云フ影響ヲ及シタカト云フコトハ、衆議院デ多イニ論議セラレタ所デアリマス、金森國務大臣ハ、只今此ノ壇デ仰シヤツタヤウナ意味ニ國體ト云フ言葉ヲ理解セラレ、其ノ意味ノ國體ハ此ノ憲法改正ニ依ツテ少シモ變ツテ居ナイト説明シテ居ラレマス、此ノ説明ハ、先程ノ板倉議員ノ御言葉通リニ私モ贊成致シマス、併シ此處デ問題ト私ガ致シマスノハ、サウ云フ意味ノ國體デナクシテ、從來私ガ國法上、國體トセラレテ來タモノガ變ツタカドウカト云フコトデアリマス、國體ト云フ言葉ガ學者ニ依ツテドウ用ヒラレテ來タカ、或ハソレハ正シクハ寧ロ政體トシテ呼バルベキデハナカツタカト云フヤウナ問題ハ暫ク別ト致シマス、茲デハ成文法ニ依リ、或ハ政府ニ依リ、公式ニ、公ニ用ヒラレタ國體ノ概念ヲ問題ト致シマス、國體ト云フ言葉ガ成文法ニ現レマシタノハ、恐ラク治安維持法ガ最初デアリマセウ、處デ治安維持法ニ所謂國體トハ何ヲ意味スルカニ付テ、丁度今朝程ノ朝日新聞ニ出テ居リマシタヤウニ、大審院ハ斯ウ説明シテ居リマス、「我ガ帝國ハ萬世一系ノ天皇君臨シ統治權ヲ總攬シ給フコトヲ以テ其ノ國體トナシ、治安維持法ノ所謂國體ノ意味モ亦斯クノ如ク解スベキモノトス」サウシテ此ノ解釋ハ恐ラク我ガ成文法上ノ國體概念ノ説明トシテ多クノ人ノ贊成スル所デアラウト思ヒマス、尤モ大審院ノ判例ノ中ニモ多少是ト違ツタノモゴザイマシテ、例ヘバ朝鮮ノ獨立運動ナドヲ致シマシタコトヲ以テ、治安維持法第一條ノ國體ノ變革ニ該當スルト云フコトヲ引用シタ、解釋ト判例モアリマス、サウシテ有力ナ學説トシテ之ヲ支持スル者モアリマスガ、是ハ恐ラク多數ノ人ノ贊成ハ得テ居ナイト思ヒマスカラ、別ト致シマシテ、只今言ヒマシタヤウナ國體、金森國務大臣ノ仰シヤルヤウナ國體デハナクテ、從來我ガ國ガ治安維持法ニ依ツテ、其ノ變革ヲ嚴禁シヨウトシタ所ノ國體、即チ萬世一系ノ天皇ガ君臨シ、統治權ヲ總攬シ給フトスル原理ハ、國民主權主義ヲ核心トスル新憲法ニ依ツテ、果シテドウ云フ影響ヲ受ケルデアリマセウカ、是ガ問題デアリマス、金森國務大臣ハ新憲法ノ下デハ、天皇ハ統治權ノ總攬者タル地位ハ持ツテ居ラレナイト言ツテ居ラレマス、從ツテ私ガ此處デ申スヤウナ意味ノ國體ハ、新憲法ニ依ツテ變ツテ居ルト云フコトヲ、承認シテイラツシヤルコトト思ヒマス、(拍手)衆議院デノ金森大臣ノ御答辯ノ中デモ、勿論國體ガ變ツタト云フ御言葉ハアリマセヌガ、サウ云フ趣旨ハ明瞭ニ讀ミ取ルコトガ出來ルト思フノデアリマスガ、ドウデアリマセウカ、是ハ終戰當時、所謂國體ノ護持ガ問題トセラレマシタ昨年ノ八月十日、下村情報局總裁ガ、政府ハ國體ノ護持ト民族ノ名譽ノ爲ニ、最善ノ努力ヲシツヽアルト云フ、アノ悲痛ナ聲明ヲ發シマシタコトハ、尚私共ノ記憶ニ新タナ所デアリマス、其ノ同ジ日ニ、我ガ政府ハ「ポツダム」宣言ガ、主權的ナ統治者トシテノ天皇ノ大權ヲ害スルヤウナ要求ヲ包含シテ居ナイトノ了解ノ下ニ之ヲ受諾スル用意ガアル、ト云フコトヲ聯合國ニ申入レマシタ、茲ニ主權的ナ統治者トシテノ、「ソヴリン・ルーラー」トシテノ、天皇ノ「プリロガティヴ」ト云フ表現ハ、頗ル明確ヲ缺クノデアリマスガ、其ノ前後ノ事情ノ下ニ之ヲ解スレバ、ソレガ當時護持ヲ叫バレテ居タ所ノ、國體ヲ意味スルコトハ明瞭デアル、而モ其處ニ所謂國體ハ、決シテ金森國務大臣ノ言ハレルヤウナ國體デハナクシテ、寧ロソレ迄國法上用ヒラレテ居タ意味ノ國體、即チ治安維持法デ其ノ護持ヲ保障シタ所ノ國體ト、略々同ジ意味デアツタト思ヒマス、果シテサウデアルトスレバ、日本ノ最終ノ統治形態ガ、自由ニ表明セラレタ人民ノ意思ニ依ツテ決定サレルトスル原理ヲ承認シ、國民主權主義ヲ採用スルコトハ、理論的ニ見テ、其ノ意味ノ國體ニ根本的ナ變革ヲ與ヘルコトト言ハナクテハナラヌト思ヒマスガ、如何デゴザイマセウカ、八月十四日ノ終戰ノ詔書ニハ、「國體ヲ護持シ得テ」ト云フ御言葉ガ拜サレルノデゴザイマスガ、主權的統治者トシテノ「ソヴリン・ルーラー」トシテノ、天皇ノ「プリロガティヴ」ハ、無條件降伏ニ依ツテ、重大ナ侵害ヲ加ヘラレタノデハナイデアリマセウカ、少クトモ天皇ノ統治ノ總攬者タル地位ヲ廃止シタ、新憲法ノ下ニ於テハ、サウ云フ意味ノ國體ハ決シテ健在デハアリ得ナイノデハナイデセウカ、此ノ點ニ關聯シテ、國體ノ變革ヲ承認スルコトハ、日本民族又ハ日本國家ノ同一性ヲ否定スル、ト云フヤウナ見解ガアルヤウデアリマスガ、是ハ不當デアルト思ヒマス、治安維持法ニ所謂國體ガ變ツタトシマシテモ、又終戰當時護持ヲ叫バレタ國體ガ變ツタトシマシテモ、日本民族ハ依然トシテ日本民族デアリ、日本國家ハ依然トシテ日本國家デアリマス、民族トシテノ同一性、國家トシテノ繼續性ハ、ソレニ依ツテ少シモ傷ツケラレルコトハナイノデアリマス、(拍手)國體ガ護持サレ得ナカツタ、國體ガ變更サレタト云フコトヲ正面カラ承認スルコトハ、多クノ國民ノ感情ニ多大ノ「シヨック」ヲ與ヘルカモ知レマセヌ、其ノ意味ニ於テ、政府ガソレヲ正面カラ承認スルコトヲ避ケヨウトスル御氣持ハ、十二分ニ了解サレルノデアリマスガ、日本ノ政治ノ民主化ト云フ大變革ヲ、國民全部ノ心ノ中ニ徹底サセル爲ニハ、サウシテ先程板倉議員ノ御使ニナツタ言葉デアリマスガ、「センチメンタリズム」ヲ捨テテ、冷タイ眞實ニ直面スルコトガ必要デハナイデセウカ(拍手)、次ニ第六點、明治憲法第七十三條ニ依ツテ、國民主權主義ノ採用ヲ内容トスル、憲法改正ガ許サレルカト云フコトデアリマス、從来學説デハ、明治憲法第七十三條ニ依ツテ、所謂國體ノ變革ヲ定メルコトハ許サレナイトセラレテ居リマス、即チ明治憲法ハ治安維持法ニ所謂國體ノ原理ニ立脚シテ作ラレタモノデアリマスカラ、其ノ定メル憲法改正手續ニ依ツテ、其ノ國體變革ヲ定メルコトハ、論理的ニ矛盾デアリ、法律的ニハ許サレナイト解サレタノデアリマス、従ツテ若シ終戰以前ニ於テ、何人カガ此ノ憲法改正案ト同ジ内容ヲ持ツモノヲ提案シタト假定スルナラバ、其ノ者ガ治安維持法違反トシテ、罰セラレルカドウカハ別トシマシテ、少クトモ彼ノ憲法改正ノ提案ハ、恐ラク憲法上許サレナイト考ヘラレタト思ヒマスガ、政府ハドウ御考ニナルデセウカ、私ハ此ノ度ノ憲法改正草案ハ、其ノ前提トシテ「ポツダム」宣言受諾ニ依ツテ齎サレタ、我ガ國ノ政治體制上ノ根本的ナ變革、此ノ變革ハ學問的意味ニ於テ、之ヲ革命ト呼ンデモ宜イト思ヒマスガ、其ノ言葉ガ若シ誤解ヲ招ク虞ガアルトスルナラバ、之ヲ一ツノ超憲法的ナ、憲法ヲ超エタ變革ト呼ンデモ宜イカト思ヒマスガ、サウ云フ變革ヲ考ヘナクテハ、ソレガ憲法上許サレル所以ヲ説明スルコトガ出來ナイト思ヒマス、即チ此ノ度ノ憲法改正ハ、單純ナ明治憲法第七十三條ニ依ル憲法改正デハナクテ、終戰ニ依ツテ行ハレタ、超憲法的ナ變革ニ基キ、其ノ根據ノ上ニ、明治憲法第七十三條ニ依ツテ、併シ同時ニソレヲ超エテ行ハレル、憲法改正ダト思フノデアリマスガ、如何デアリマセウカ、最後ニ第七、民定憲法ノ建前ト、此ノ度ノ憲法改正手續トノ關係ハ、ドウデアルカト云フコトデアリマス、此ノ憲法改正草案ハ、國民ガ之ヲ制定スルト云フ建前、所謂民定憲法、民ガ定メル憲法ト云フ建前ニ立脚シテ居リマス、此ノ事ハ三月六日ノ詔書デモ、亦改正案ノ前文デモ極メテ明白デアルト思フノデアリマス、所デ政府ガ此ノ憲法改正案ハ、明治憲法第七十三條ニ依ルモノトシテ取扱ツテ居ラレルノデアリマスガ、是ハ民定憲法ト云フ建前ト何處迄兩立スルデアリマセウカ、明治憲法第七十三條ハ御承知ノ通リ、所謂民定憲法ノ建前ハ採ツテ居リマセヌ、憲法改正ハ議會ノ議決ト、天皇ノ裁可ニ依ツテ成立スル、ト云フ建前ヲ採ツテ居リマス、衆議院ノ速記録ニ依レバ、金森國務大臣ハ、此ノ改正案ハ明治憲法第七十三條ニ依ルモノデアリマスカラ、勿論議會ノ議決ノ外ニ、天皇ノ裁可ガアツテ初メテ成立スル、ト説明シテイラツシヤイマスガ、若シサウトスレバ此ノ改正ハ貴族院ノ意思ニ反シテモ、又天皇ノ意思ニ反シテモ、成立スルコトガ出來ナイト云フコトニナルノデアリマス、明治憲法第七十三條ノ建前カラ言ヘバ當然サウナクテハナラナイノデアリマス、併シサウ云フ建前ニ基ク憲法改正、貴族院ノ意思ニ反シテモ、亦天皇ノ意思ニ反シテモ成立スルコトガ出來ナイト云フ憲法改正ノ前文ガ、ドウシテ日本國民ハ此ノ憲法ヲ確定スルト宣言スルコトガ出來ルノデアリマセウカ、政府ノ趣旨ハ或ハ此ノ憲法改正ハ必ズシモ民定憲法ノ建前ヲ採ルモノデハナクテ、其ノ改正手續ハ全ク明治憲法第七十三條ニ依ルモノダト云フニアリトモ解セラレマス、併シ若シサウダトシマスレバ、何ガ故ニ其ノ前文デ日本國民ハ此ノ憲法ヲ確定スルト云フヤウナ典型的ナ民定憲法、例ヘバ「アメリカ」合衆國ノ憲法デ用ヒラレテ居ルヤウナ言葉ト同ジ言葉ヲ用ヒタノデアリマセウカ、此ノ改正ガ公布セラレル場合ハ、恐ラク公式令ニ依ツテ天皇ガ議會ノ議決ヲ經タ憲法改正ヲ裁可スルト云フ趣旨ノ上諭カ付ケラレルコトト思ヒマスガ、サウ云フ上諭ノ言葉ト此ノ前文ノ言葉トノ間ニハ明白ナ矛盾ガアルノデハナイデセウカ、政府ハ明治憲法第七十三條ニ依ル改正手續ニ於テモ、國民ノ代表者タル衆議院ノ議決ガアルカラ其ノ改正ヲ以テ日本國民ガ之ヲ確定シタモノト考ヘルコトガ敢テ不當デナイト解スルモノノヤウデアリマスガ、明治憲法第七十三條ニ依ル限リ、國民ノ代表者ト考ヘルコトノ出來ナイ貴族院ヤ、天皇ノ意思ニ反シテハ改正ハ絶對ニ成立スルコトガ出來ナイノデアリマス、國民ノ代表者ノ意思ノミニ依ツテハ改正ハ不可能ナノデアリマス、諸國ノ憲法ノ前文ニ國民ガ之ヲ制定スル旨ヲ宣言スル例ハ極メテ多イノデアリマスガ、ソレ等ハ孰レモ現實ニ國民ノ代表者タル憲法議會ニ依ツテ制定セラレテ居リマス、國民ノ代表者デナイ貴族院ノ議決ト、天皇ノ裁可ナクシテハ成立スルコトガ出來ナイ、憲法ノ前文ニ國民ガ之ヲ制定スルト書クノハ何トシテモ矛盾デハナイカト思ヒマス、此ノ矛盾ヲ解決スルニハ國民ガ憲法ヲ制定スルト云フ建前即チ民定憲法ノ建前ニ徹スルカ、或ハ明治憲法第七十三條ノ建前二徹スルカ、此ノ二ツ以外ニハ途ハナイノデハナイカト思ヒマス、此ノ憲法改正ニ付テ若シ前ノ途ヲ採ルトスレバ、即チ民定憲法ノ建前ニ徹スルトスレバ、天皇ノ裁可ト云フコトハ理論的ニハ不用トナルト考ヘラレマスシ、又貴族院ノソレニ對スル審議權モ衆議院ノソレト同等ノ「ウエイト」ヲ持ツモノデハナイト考ヘラレナクテハナラナイノデアリマス、若シ之ニ反シテ後ノ途ヲ採ルトスルナラバ、即チ明治憲法第七十三條ノ建前ニ徹スルトスルナラバ、此ノ改正ハ天皇ノ裁可ト貴族院ノ議決ナクシテハ成立スルコトガ出來ナイコトニナリマス、其ノ結果日本國民ハ此ノ憲法ヲ確定スルト云フ前文ノ言葉ハ事實ニ合シナイコトニナルト思ヒマスガ、此ノ點ニ付テ政府ハドウ御考ニナルデアリマセウカ、以上七點ニ付テ御質疑申上ゲタ次第デアリマス
  〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕
○國務大臣(金森徳次郎君) 宮澤君カラ相牽連シテ一貫シテ居リマスル七ツノ御質問ヲ提議ニナリマシタ、ソレハ一貫シテ居ルト云フ外ニ非常ニ困難ナ法理上ノ論點ヲ含ンデ居リマスル譯デ、此ノ際御得心ノ行キマスル程度ニ説明シ得ルヤ否ヤ、或ハヨリ多クノ時間ヲ戴カナケレバ、詰リ此ノ場所ニ不適當ナル程度ノ詳シサヲ以テ申上ゲナケレバ十分ノ御了解ヲ得ナイノデハナイカト云フ虞レヲモ持ツテ居リマス、併シナガラ出來ルダケ簡單ニ私ノ所信ヲ申上ゲタイト思ツテ居ルノデアリマス、第一ノ御質疑ハ「ポツダム」宣言ノ受諾ハ國民主權主義ノ承認ヲ意味スルト信ズルガ、如何カ、斯ウ云フ趣旨デアルノデアリマス、此ノ御質問ハ之ヲ肯定シタル形ニ於テ正シイカモ知レマセヌ、併シ私未ダ左様ナル論結ヲ得テ居リマセヌ、「ポツダム」宣言ノ要求致シマス所ハ、日本ガ將來採ルベキ政治ノ基本形式ハ、國民ノ自由ナル意思ニ依ツテ決定スベシト云フコトヲ要求シテ居ルニ止マルノデアリマシテ、是ハ或意味ニ於テ國民主權ト云フコトニモナリマセウ、併シナガラ當然ニ國民主權ト云フコトニナルトノ論結ハ得マセヌ、我々ハ「ポツダム」宣言ノ趣旨ニ基イテ國民ノ自由ナル意思ニ依ツテ國家ノ基本組織ヲ決定スレバ宜イノデアリマシテ、主權ガ何處ニ在ルカト云フ問題ハ別ノ問題ニナルヤウニ考ヘテ居リマス、(拍手)次ニ第二ニ國民主權主義ハ昨年八月以前ノ我ガ憲法ノ根本的建前ト原理的ニ異ルモノデアルト信ズルガドウカト云フ御質疑デアリマシタ、此ノ意味ハ恐ラク宮澤君ノ御考ニナルノモ私ノ考ヘルノモ同ジデアラウト思ヒマスガ、國家ノ意思ヲ決定致シマスル強イ力ハ八月十五日前後ニ於テ變ツタカドウカ、斯ウ云フノデアリマス、ソレハ表面的ニ見マシテ明カニ變ルベキ情勢ニアリマス、情勢ニアルト申シマスノハ、八月十五日ニ變ルベキ情勢デナイ、是ガ憲法ノ制定ヲ經過シテ變ルベキ情勢ニアル、詰リ債務的デアリマシテ、物權的デアリマセヌ、サウ云フ状況ニアルト一應考ヘルノデアリマス、併ツ曩ニモ申シマシタヤウニ、曩ニ板倉君メ御質疑ノ場合ニ申シマシタヤウニ、果シテ變ツタノデアルカドウカ、變ツタノハ認識ノ變化デアツテ、實體ノ變化デナイノデハナイカ、私ハ認識ノ變化デアラウ、實體ノ變化デナイト、斯ンナ風ニ考ヘテ居リマス、第三ニ憲法改正案ハ國民主權主義ヲ採用シテ居ルト信スルガ如何カ、是ハ御説ノ通リデアリマス、國家ノ意思ノ源泉ハ國民ノ全體ニ在ルト云フ原理ヲ採ル、其ノ原理ニ基イテ政府原案モ、又衆議院ノ修正ニ依リマスル文章モ記述セラレテ居ル譯デアリマス、第四ニ主權者タル國民ノ中ニ天皇ガ含マレルト云フ説明ハ理論的ニモ實際的ニモ不適當ト信ズルガ如何カ、斯ウ云フ御質疑デアリマシタ、是ハ不幸ニシテ私ハ御質疑ノ趣旨ヲ産ク理解スルコトガ出來ナカツタノデアリマスルガ、或ハ私共ノ説明ガ惡クテ、天皇ノ國民ノ中ニ含マル、ト云ツタ所ニ誤解ヲ招イタ點ガアルノカモ知レマセヌ、天皇ヲ其ノ公ノ御地位ニ付テ考ヘマシタナラバ、ソレハ國民ノ中ニハ含マレテ居リマセヌ、併シナガラ天皇ハ公ノ地位ヲオ持ニナルト同時ニ、個人タル地位ヲオ持ニナツテ居ルガ、苟モ日本國家ヲ構成スル所ノ個人ガ日本國民‥‥國民ト云フ言葉ノ當否ハ別ト致シマシテ、廣キ意味ニ於キマシテ、日本國家ヲ構成スル人デナイトハ言ハレナイノデアリマス、而シテ是ガ國家主權ノ依ツテ存スル國民ノ一員デナイトハ言ハレナイト思フ譯デアリマス、次ニ第五ノ點ト致シマシテ、國民主權主義ノ採用ハ國體ニドウ云フ變化ヲ與ヘタカ、其ノ點ハ國民主權主義ノ採用カラ國體ニドウ云フ變化ヲ與ヘタカ斯ウ云フ風ニ仰セラレマスルト、稍々御答ニ苦シム次第デアリマシテ、私共ノ認識ハ主權ガ國民ニ在ルト云フコトハ、過去ニ於テハ潛在的ニサウデアツタ、將来ニ於テハ現在的ニ、顯在的ニ、顯ハレタル姿ニ於テサウデアルト云フダケデアリマシテ、本質的ニ變化ハナイモノノヤウニ思ツテ居リマス、從ツテ之ニ對シマシテノ御答ハ申上兼ネマスルガ、多分御趣旨ノ次第ハ、今囘ノ憲法ノ改正ニ依ツテ、所謂治安維持法等ニ解釋セラレテ居ツタ國體ハ變ツタカドウカ、斯ウ云フ御質疑デアラウト存ジマス、其ノ意味ニ於キマシテハ國體ハ變ツタト御返事シテ宜イト思フノデアリマス、第六ノ質問ト致シマシテ、憲法七十三條ニ依ツテ國民主權主義ノ採用ヲ内容トスル憲法改正ヲ行フコトガ出來ナイデハナイカ、斯ウ云フ御尋デアツタヤウニ思ヒマス、若シモ日本ノ此ノ本當ノ意味ノ主權ガ、此ノ前後ニ於テハツキリ變ツタモノト致シマスルナラバ、宮澤君ノ御質疑ノ如ク七十三條ニ依ツテ今囘ノ憲法改正ヲ爲スコトガ、種々ナル疑惑ヲ伴ツテ來ル餘地ガアラウト存ジマス、併シ私共ハ其ノ前提ヲ異ニシテ居ルノデアリマシテ、日本ノ主權ハ實質的ニハ變ツテ居ナイト考ヘテ居リマスルガ故ニ、憲法七十三條ヲ通ジテ此ノ憲法改正案ガ議會ニ提出セラルヽ其ノ手續ノ上ニ於テ一點ノ疑ハシキ點ハ伏在シテ居ナイト考ヘテ居ルノデアリマス、日本ノ國家ハ過去モ現在モ其ノ本質ニ於テハ變ル所ハアリマセヌ、從ツテ其ノ基本ノ本質ニ從シテ前ノ憲法ヲ基礎トシテ、其ノ條項ニ基イテ、新タナル憲法ノ改正案ガ立法ノ機關ニ付セラレルト云フコトニ一點ノ疑モ持ツテハ居リマセヌ、次ニ第七ノ論點ト致シマシテ、今囘ノ憲法ハ言ハバ民定憲法ノ如クニ思ハレル、シテ見レバ七十三條ノ此ノ欽定的憲法ノ規定ヲ基トシテ手續ヲ執リ行フコトハ出來ナイノデハナイカ、甲ナラムトスレバ乙ノ方ニ矛盾ヲスルシ、乙ナラムトスレバ甲ノ面ニ矛盾ヲスルノデハナイカ、斯ウ云フ御質疑デアリマシタ、ソレハ一面ニ於テ左様ナ意味ハ含マレテ居リマス、何トナレバ我々ハ日本國家ノ完全ナル永續性ヲ信ジ、其ノ國法ノ基礎ニ於テ變ツタ所ハナイ、次第ニ種々ナル國家ノ政治的機關ガ憲法ニ依ツテ遷リ變ツテ行クダケデアリマス、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、從ツテ國内法ノ問題ト致シマシテハ、日本憲法ノ改正ハ、現行憲法ノ七十三條ニ依ツテ行フベキモノデアル、ソレ以外ニ方法ハナイト考ヘテ居リマス、併シナガラ國際面ニ於キマシテハ「ポツダム」宣言ヲ受諾致シマシタ結果トシテ、新タナル國家組織ヲ決メマス爲ニハ國民ノ自由ナル意思決定ニ依ラナケレバナラヌノデアリマシテ、言ハバ民定憲法ノ如キ原理ヲ採ラナケレバナラヌノデアリマス、斯クノ如ク國内法的見地ニ於キマシテハ現行憲法七十三條ノ手續ニ依ルコトガ正當デアル、而シテ國際ノ面ニ於キマシテハ「ポツダム」宣言ノ内容ヲ充實サセナケレバナラヌ、斯ウ云フ兩面ノ拘束ヲ受ケテ居ルノデアリマス、此ノ二ツノ要請ガ若シモ全ク一ツノ手續ニ依ツテ包容シ得ラレナイモノデアルト致シマスルナラバ、今囘憲法ヲ提出致シマシタ政府ノヤリ方ハ意味ノ無イモノデアルト言ハナケレバナラヌト思ヒマス、併シナガラ若シモ此ノ二ツノ要請ガ一ツノ手續ノ中ニ滿足セシメラレテ行キ得ル、ソレガ今囘政府ノ執ツタ態度デアルト致シマスルナラバ政府ノ態度ハ理由アリト言ツテ宜カラウト思フノデアリマス、私ハ此ノ後ノ解釋ヲ採ツテ考ヘテ居ル次第デアリマス、唯サウ致シマスルト、曩ニ宮澤君ノ鋭ク御質疑ニナリマシタヤウニ「ポツダム」宣言ニ依レバ貴族院ノ議決モ要ラナイシ、又天皇ノ御裁可モ要ラナイシ、遡ツテハ天皇ガ議案ヲ提出ヲ命ゼラレルト云フコトソレ自身ニモ問題ガ生ズルデハナイカ、斯ウ云フ疑ガ起ルノデアリマス、併シ私ハ斯ウ云フ色々ナ解釋上多少疑惑ヲ生ジマスル事項ハ國内問題ト國際問題トノ調和ヲ圖リマス場合ニハ往々ニシテ起ルノデアリマシテ、之ヲ一貫セル原理的ナ解釋方法ハナイモノト思ツテ居リマス、詰リ此ノ二ツノ相異ル要請ヲ若シモ個々ノ場合ニ正當ニ滿足セシメ得ル方法ガアルナラバ、其ノ方法ニ依ルベキモノト思ツテ居ル譯デアリマス、ソコデ「ポツダム」宣言ハ國民ノ自由ナル意思決定ニ依ルト云フコトヲ條件トシテ居リマス、併シ憲法七十三條ニ依リマスルト改正手續ニ於テハ其ノ他ニ、天皇ノ案ノ御提出、貴族院ノ議決、天皇ノ裁可、此ノ三ツノ手續ガ其ノ上ニ加ツテ居ル譯テアリマス、從ツテ物ガ順調ニ運ビマスレバ、憲法七十三條ニ依リマシテ執ル手續ハ、同時ニ「ポツダム」宣言ノ要請ヲ充スニ足ルモノト考ヘテ居リマス、併シ物ガ順調ニ行カナケレバ或ハ「ポツダム」宣言ノ要請ヲ完全ニ實現スルコトノ出來ナイ破目ニ陥ラナイトハ斷言出來マセヌ、併シ國家ノ動キノ上ニ於キマシテ、容易ニ斯カル懸念ヲ持ツ必要ハ生ジナカラウ、斯ウ信ジテ居ル次第デゴザイマス
○議長(公爵徳川家正君) 本日ハ此ノ程度ニ於テ延會致シタイト存ジマス、御異議ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ナイト認メマス、明日ハ午前十時ヨリ開會致シマス、議事日程ハ、決定次第彙報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、本日ハ是ニテ散會致シマス、
   午後三時四十七分散會

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