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- 第九十囘帝國議會 貴族院議事速記録第二十五號
○第九十囘帝國議會 貴族院議事速記録第二十五號
昭和二十一年八月二十八日（水曜日）午前十時十八分開議━━━━━━━━━━
議事日程 第二十五號
昭和二十一年八月二十八日
午前十時開議
第一 帝國憲法改正案（衆議院送付） 第一讀會（前會ノ續）
第二 食糧緊急措置令（承諾ヲ求ムル件）（衆議院送付） 會 議
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○議長（公爵徳川家正君） 諸般ノ報告ハ御異議ガナケレバ朗讀ヲ省略致シマス
〔參照〕
昨二十七日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案ハ即日裁可ヲ奏請シ又可決ノ旨ヲ衆議院ニ通知セリ
所得税法の一部を改正する等の法律案
臨時租税措置法を改正する法律案
地方税法及び地方分與税法の一部を改正する法律案
同日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案ハ即日之ヲ衆議院ニ送付セリ
電氣事業法の一部を改正する法律案
石炭及コークス配給統制法の一部を改正する法律案
同日委員長ヨリ豫算委員小山完吾君ヲ第三分科擔當委員ニ選定シタル旨ノ報告書ヲ提出セリ
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
食糧緊急措置令（承諾ヲ求ムル件）
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○議長（公爵徳川家正君） 是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、請暇ノ件ニ付御諮リヲ致シマス、田島道治君ヨリ、病氣ニ付十三日間請暇ノ申出ガゴザイマシタ、許可ヲ致シテ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス
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○議長（公爵徳川家正君） 是ヨリ日程ニ移リマス、帝國憲法改正案、衆議院送付、第一讀會、前會ノ續、是ヨリ昨日ノ牧野君ノ質疑ニ對シ、各國務大臣ヨリ答辯ガゴザイマス
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕
○國務大臣（金森徳次郎君） 昨日ノ牧野先生ヨリ非常ニ多方面ニ亙ツテ御專門ノ範圍ニ於テ幾多ノ御教ヘヲ受ケマシタ、其ノ中ニ於キマシテ私カラ御答ヘ申上グルノガ適スルト思ヒマスル若干ノ點ニ付テ御答ヲ申上ゲマス、最初ニ憲法ハ獨リ政治ニ關スル法律ト謂フべキモノデハナクツテ、同時ニ日常生活ニ關スル法律トシテノ民法、商法、刑法ノ方面ニ於ケル基本原則ヲモ定ムべキモノトシテ考ヘナケレバナラヌト思フガドウカト云フ御質疑デアリマシタ、申ス迄モナク憲法ハ廣イ意味ニ於キマスル政治ニ關シマスル根本法デアル譯デアリマス、既ニ根本法デアルト申シマスルナラバ、其ノ範圍ニ於キマシテ、民法、商法、刑法、其ノ他我々ノ私生活ヲ爲シマスル其ノ根本原理ニ關シテノ國家政治ノ大方針ガ盛リ込マルべキモノデアルコトハ言フヲ俟タヌコトト存ジテ居ル譯デアリマス、第二ニ先生ハ其ノ前提ヲ採ルトスレバ此ノ憲法改正案ハ政治的ナル自由權ハ多ク認メラレテアルケレドモ、更ニ進ンデ國民生活ノ内容ヲ充實スルヤウニ積極的ナ規定ガ乏シイノデハナイカ、左樣ナ方面ニ於テ多クノ規定ガ設ケラレテ然ルべキデハナイカト云フヤウナ意味ニ付テ御質疑ニナリマシタ、私モ根本ノ考ヘ方トシテハ御説ノ通リト考ヘテ居リマス、併シナガラ申ス迄モナク、憲法ハ比較的根本的ナル原則ノミヲ集メルモノデアリマシテ、而モ今日日本ノ置カレテ居リマスル立場ハ、國民ノ大多數ガ得心スル原理ヲ確立スルコトガ急務デアルト思フ譯デアリマス、先生自身ノ多クノ御言葉ノ中ニ既ニ御示ニナツテ居リマスルヤウニ、民法、商法、刑法等ノ各事項ニ對シマシテノ比較的基本的原則ト思ハレマスルモノニ、今日多クノ場合ニ幾多ノ議論ノ餘地ガ殘ツテ居ルノデアリマシテ、更ニ十分ナル討議ヲ盡シ、之ヲ決定スべキモノデアリ、且又ソレ等ノ内容ハ比較的時ノ變化ニ伴ツテ變リ易イモノモ多カラウト思フノデアリマス、憲法全體ノ立テ方カラ申シマスルト、斯樣ナ法律ニ付キマシテノ根本原則トシテ憲法ノ上ニ採リ込ムニ適スルモノニハ自ラ限度ガアラウト信ジテ居ルノデアリマシテ、此ノ改正案ハ決シテ其ノ方面ニ意ヲ用フルニ吝カデアツタ譯デハゴザイマセヌ、牧野先生御自ラモ御指摘ニナリマシタガ、此ノ憲法ノ改正案ノ中ニ於キマシテ、例ヘバ二十二條、二十三條、二十四條、或ハ又十二條邊リニ於キマシテ、國家ガ、又ハ國家ノ立法權ガ特ニ國民生活ノ上ニ於テ或事柄ヲ留意シナケレバナラヌト云フ前提ノ下ニ、其ノ守ルべキ原理ヲ示シテ居ルノデアリマシテ、一昨日ノ此ノ議場ニ於キマスル御質疑デアツタカト思ヒマスルガ、恰モ是ハ立法心得集ト云フヤウナ意味ヲ含ンデ居ル部分ガアルト云フ御質疑、是ハ恐ラク非難ノ意味ヲ以テノ御質疑デアツタト思ヒマスガ、ソレハ此ノ場合ニ於キマシテハ、直チニ積極的ニ此ノ憲法ガ略々現在ニ於テ之ヲ採入レルコトガ適切デアルト信ズル範圍ニ於テ、相當ノ用意ヲ致シテ居ルト云フコトヲ示シテ居ルモノト考ヘテ居リマス、尚先生ハ民法、商法、刑法ノ各方面ニ亙リマシテ、種々非常ニ教ヘラルル所ノ多イ多クノ點ヲ御注意ニナリマシタ、言フ迄モナク此ノ憲法ハ過去ヲ大キク見直シテ、新タナル建設ノ道程ニ日本國民ガ躍進スル囘轉ノ時機ヲ提供シテ居ルモノデアリマス、從ツテ憲法自身ノ規定シテ居リマスル範圍ハ、何ト云ツテモ所謂公法ノ範圍ニ主點ヲ置イテ居リマスルケレドモ、其ノ精神ノ波及スル所ニ於キマシテハ、各般ノ法律ガ獨リ先生ノ御擧ゲニナツタバカリデハナク、其ノ外ノ部面ニ亙リマシテモ、例ヘバ行政法其ノ他ノ方面ニ於キマシテモ、相當廣汎ナル考ヘ直シヲ致シマシテ、他人ヲ以テ代フコトノ出來ナイ人間一人々々ノ尊キ所以ト云フコトニ著想スルト共ニ、共同生活ニ於キマシテノ公共ノ福祉ト云フコトニ十分ノ考慮ヲ拂ツタ所ノ幾多ノ立法的改正ガ行ハレナケレバナラナイノデアリマシテ、先生ノ御示ニナリマシタ所ハ、我々深ク今後ノ標準ト致シタイト思ツテ居リマス、次ニ先生ノ御質疑トシテハ最後ニ、此ノ憲法改正案ノ用語ガ、或ハ文體ガ甚ダシク不滿ナルモノガアルト云フ御前提ノ下ニ、恰モ決定セルモノノ如キ論調ヲ以テ御非難ニナリマシタ、是ハ大イニ私共モ其ノ御非難ヲ傾聽シ、反省ヲシテ居ル譯デハアリマスルケレドモ、幾分考ヘ方ニ違フト申シテハ語弊ガアリマスガ、私共ニモ幾分ノ考ヘ方ガアリ、又申シ開キヲシタイ點ガ殘ツテ居ルヤウニ考フルノデアリマス、何分ニモ此ノ憲法ハ非常ナ變化ヲ僅カノ間ニ見透サウト云フ立場ヲ以テ築キ上ゲラレテ來タ草案デアリマスルガ故ニ、僅カノ時間ヲ以テ、其ノ間ノ關係者ノ勢力ヲ、内容ノ充實ト云フ點ニ重キヲ置キ、形式ノ點ニ付キマシテハ、自然力ヲ割ク餘裕ガナイ、又此ノ際ニハサウ云フ態度モ是認セラルヽデアラウト云フ前提ノ下ニ進行致シマシタ、尚又此ノ憲法ハ國民ニ對シテ大キナ影響ヲ持ツノハ、ソレガ美術品デアルト云フコトデハナク、其ノ内容ニ於テ烈々トシテ起リ上ルベキ所ノ國民ノ信念ガ盛リ込マレテアル、國民ノ行クベキ途ガ指シ示サレテ居ルト云フ點ニ重點ガアラウト思ヒマシタノデ、其ノ點ヲモ考慮ヲ致シマシテ、決シテ辯解ニ特ニ驅ル趣旨デハアリマセヌケレドモ、字句ノ點ニ於キマシテ、幾分美術品トシテノ方面ニ於テ思ヒ至ラナカツタ點ノアルコトハ、是ハ認メナケレバナラヌト思ヒマスルシ、若シ出來得ルナラバ御許ヲ願ヒタイト考ヘテ居ルノデアリマス、併シナガラ用語及ビ文體ノ中ニ於キマシテ、今日ノ此ノ廣イ標準ニ照シマシテ、許スベカラザル程度ノモノデアルカドウカト云フ點ニナリマスルト、自ラ各語句ノ問題ニ論點ガ分レテ來ル次第デアリマシテ、昨日先生ハ七ツ八ツノ點ヲ擧ゲテ御指摘ニナリマシタ、ソレ等ノ一々ニ付キマシテ御答ヲ致シマスルコトハ、此ノ場合不適當ト考ヘマスルガ、例ヘバ特ニ顯著ニ御指摘ニナリマシタ所ノ「戰爭抛棄」ト云フ、其ノ「抛棄」ト云フ言葉ガ如何ニモヲカシイデハナイカト云フ御意見デアリマシタ、成ル程其ノ「戰爭ノ抛棄」ト云フ文字ダケヲ特ニ注意周到ニ見守リマスルト、茲ニ慊ラザル色々ノ感ジガ出テ來ルノデアリマス、併シナガラ此ノ言葉ハ既ニ過去ニ於キマシテ不戰條約締結ノ當時ニ明カニ條約ノ中ニ認メラレテ、既ニ慣熟セラレ、其ノ言葉ガ生硬、生硬ト云フノハギコチナイト云フ意味デアリマスガ、生硬デナイト同時ニ、又國民ニ對シテ理解ニ愬ヘ易イ言葉デアルノデハナイカト云フ風ニ考ヘテ居リマス、民法ノ中ニハ確カ相續ノ抛棄ト云フヤウナ言葉モアリマシテ、是モ能ク考ヘテ見マスレバ、多少不穩當ナモノデアルカモ知レマセヌケレドモ、我々ハ長イ間怪シマズニ過ギテ來テ居リマス、マアサウ云フヤウナ點ニ於キマシテ廣イ意味デ御覽ヲ願ヘタナラバ仕合セデアラウカト考ヘテ居ル次第デアリマス
〔國務大臣木村篤太郎君登壇〕
○國務大臣（木村篤太郎君） 昨日ノ牧野博士ノ御質問ニ對シテ御答ヘ致シマス、先ヅ第一點ニ付テ御答ヘ致シタイノデアリマス、要ハ信義誠實ノ原則ヲ民法商法ノ規定ニ挿入シタラドウカト云フ御質問ノヤウデアリマス、御承知ノ通リ信義誠實ノ原則ハ既ニ多數ノ學者竝ニ判例ニ於テ認メラレル所デアリマス、我々社會生活ヲ營ム以上、信義ニ則リ誠實ニ事ヲ處スルト云フコトハ當然ノコトデアリマシテ、是ハ人類ノ不變ノ原則ト申シテモ差支ナカラウカト存ズルノデアリマス、憲法草案第三章ノ國民ノ權利義務ヲ熟讀玩味致シマスルト、此ノ信義誠實ノ原則ト云フモノハ脈々トシテ現レテ居ルト存ズルノデアリマス、殊ニ第十一條竝ニ第二十四條ノ規定ヲ見マスルト、文字ノ表現ハ別デアリマスルガ、此ノ信義誠實ノ原則ハ十分ニ現レテ居ルト存ズルノデアリマス、固ヨリ民法、商法ニ於テハ只今此ノ信義誠實ノ原則ノ文字ヲ表現致シテ居リマセヌ、併シ將來之ヲ改正スル事態ガ生ジマスルト、此ノ原則ハ何等カノ形ニ於テ表現致シタイト存ジテ居ル次第デアリマス、次ニ企業ソレ自體ノ原則ニ付テノ御質疑ニ御答ヘ致シマス、近代ニ於キマシテハ所有權不可侵ノ原則ガ尊重致サレマシテ、其ノ結果企業ガ發達シ、個人ノ生活ハ安定致シテ居ルノデアリマス、併シナガラ時勢ノ進運ニ伴ヒマシテ、唯所有權ノ不可侵ト云フダケデハ參ラナイノデアリマス、御承知ノ通リ企業家ハ利潤ノ追求ト云フコトヲ先ヅ第一ニ致シテ居ツタ弊害ガ追々ニ現レテ來タヤウナ状態デアリマス、是ハ何トシテモ是正致サナクチヤ相成ラヌノデアリマス、企業ノ公共性ト云フコトヲ認メラレナケレバ相成リマセヌ、勞働者モ資本家モ企業ノ經營ニ當ル者モ互ヒニ此ノ企業ハ、如何ナル企業ハ如何ナル公共ノ性質ヲ帶ビテ居ルカト云フコトヲ十分ニ認識致シマシテ、社會公共ノ福利ニ適合スルヤウニ經營シテ行カナクチヤ相成ラヌト存ズルノデアリマス、此ノ意味ニ於キマシテ改正憲法草案第十一條ニ於キマシテハ、權利ノ行使ハ公衆ノ福祉ニ適合スル如ク利用サレネバナラヌト云フ大原則ヲ掲ゲタヤウナ次第デアリマス、將來我々日本ノ再建ニ當ル者ハ、十分ニ此ノ點ニ認識致シマシテ、特ニ企業家ハ公共ノ福祉ト云フコトヲ十分ニ考慮ニ入レテ、企業經營ノ任ニ當ラナクチヤ相成ラヌト存ズルノデアリマス、此ノ意味合ニ於キマシテ、商法特ニ私ハ株式組織ニ付テノ將來ノ見透シト云フモノヲ十分ニ著ケテ行カナクチヤ相成ラヌト存ズルノデアリマス、御承知ノ通リ只今商法ノ株式會社ニ於キマシテハ、資本ト云フモノヲ第一ニ置イテ居ルノデアリマス、資本ヲ代表スベキ株式會社ハ、總テノ支配權ヲ持ツテ居ルノデアリマス、此ノ建前ハ將來必ズヤ或點ニ於テ修正サルべキモノト私ハ信ジテ疑ハナイノデアリマス、從ヒマシテ將來商法ヲ改正スベキ時ニ當リマシテハ、牧野博士ノ言ハレル如キ企業ソレ自體ノ原則ト云フモノヲ何等カノ形ニ於テ現スニ躊躇シナイノデアリマス、次ニ第三ノ家族ノ問題デアリマス、御承知ノ通リ從來ノ家族制度ハ戸主ヲ中心トシタ家族制度デアリマス、戸主ニ重大ナル權限ヲ與ヘテ居ツタノデアリマス、御承知ノ通リ結婚或ハ住居其ノ他ニ付テノ同意權ヲ總テ戸主ハ握ツテ居ツタノデアリマス、此ノ戸主ヲ中心トスル家族制度ハ、如何ニモ封建的色彩ヲ帶ビテ居リ、幾多ノ弊害ヲ生ズル、是ハ今度ノ改定憲法ニ於テ、個人ノ尊嚴ト兩性ノ本質的平等ト云フモノカラ立脚致シマシテ、所謂戸主ヲ中心トスル家族制度ヲ無クシヨウトシタ所以デアリマス、然ラバ從來ノ日本ノ所謂良キ意味ニ於ケル家族制度ガ、之ニ依ツテ撤廢サレルカト申シマスルト、決シテサウデナイノデアリマス、御承知ノ通リ我々ハ夫婦、親子、兄弟相寄リ相扶ケテ、安住ノ場所タルべキ家庭ヲ作ツテ居ルノデアリマス、此ノ家庭ハ何處迄モ尊重、維持シナケレバナラヌト云フコトハ當然ノ建前デアリマス、殊ニ我ガ國ノ美風ト致シマシテ、祖先ヲ崇拜シ、家系ヲ重ンズルト云フ此ノ點ニ於キマシテハ、我々是ハ非トモ將來ニ此ノ美點ヲ遺シタイト云フ熱意ヲ持ツテ居ルノデアリマス、改正憲法草案ニ於テモ決シテ此ノ善キ意味ニ於ケル家族制度ヲ破壊シヨウトスルモノデハナイノデアリマス、唯個人ノ尊嚴ト兩性ノ本質的平等ト云フモノヲ何處迄モ認メ、之ヲ尊重シヨウト云フノガ其ノ建前デアルノデアリマス、之ニ付キマシテ牧野博士ノ御質問ハ、將來然ラバ此ノ均分相續ノ問題ニナツテ來ルト、所謂家庭ノ維持スベキ財産ガ細分サレル非常ナ危險ヲ生ズルノヂヤナイカト云フ御質問デアリマシタ、誠ニ當ヲ得タ御質問デアラウト私ハ存ズルノデアリマス、併シ均分相續ニ致シマシテモ、財産ヲ悉ク分割シヨウトスル意味デハナイノデアリマス、是ハ各相續人ノ話合ヒニ依ツテ、或一定ノ、例ヘバ農地ノ如キハ其ノ家族ノ一人ニソレヲ繼ガセテ、アトノ者ハソレ相當ノ話合ヒデ以テ、動産デ之ヲ分ケルト云フヤウナ形ヲ取ルコトモ出來マス、又被相續人ガ相續人ノ一人ヲ特ニ遺言ヲ以テ指定致シマシテ、遺留分ノ原則ヲ侵害シナイ範圍ニ於テ、其ノ中ノ相續財産ノ一部ヲ其ノ者ニ遺贈致シマシテ、サウシテ其ノ者ニ或ハ祖先ヲ祭ルベキ系譜、祭具、墳墓ヲ遺贈致シマス、之ヲ護ルベキ相當ノ財産ヲ附與シテ、家ヲ護ツテ行カセルト云フコトモ出來ルノデアリマス、政府ト致シマシテハ、是等ノ點ニ付テ十分ノ考慮ヲ拂ヒマシテ、只今臨時法制調査會ニ於テ其ノ案ヲ練ツテ居ルヤウナ次第デアリマス、第四ニ、刑罰ニ關スル根本理念ノ點ニ付テ御質疑ガアリマシタ、御答ヘ致シマス、御承知ノ通リ、古ノ哲人ハ、刑政ノ要諦ハ刑ヲナカラシムルニアリト申シテ居リマス、刑罰ヲ科スルト云フコトハ、刑罰ヲナクスルト云フコトガソレ自體ノ目的デアラウト私ハ固ク信ジテ居ルノデアリマス、刑罰ヲ科スルコトハ、ソレ自體ガ目的デナイ、世ノ中カラ罪人ヲ出サヌト云フコトガ目的デナケレバナラヌト信ズルノデアリマス、從ヒマシテ此ノ犯人ニ對スル取扱ニ致シマシテモ、我我ハ十分ニ考慮ヲ致シマシテ、社會的、道徳的更生ヲ十分圖ラナクチヤ相成ラヌト存ジマス、牧野博士ノ所謂教育刑、是ハ私ハ十分尊重シテ行キタイト存ジテ居リマス、司法當局ノ方針ト致シマシテモ、有ラユル場面カラ犯人ノ更生ト云フコトニ努力ヲ拂ツテ居ルノデアリマス、此ノ點ニ付キマシテハ別ノ機會ニ十分ニ申上ゲタイト思ヒマスルガ、司法當局ニ於テハ、有ラユル角度カラ、如何ナル方法ヲ以テ此ノ犯人ノ更生ヲ圖ルベキカト云フコトニ付テ最善ノ努力ヲ拂ツテ居ルヤウナ次第デアリマス、次ニ簡易裁判所ニ付テ申上ゲタイト思ヒマス、此ノ度ノ改正憲法草案ニ依リマシテ、最高裁判所ガ出來ルコトニ相成リマシタ、ソレニ伴ヒマシテ裁判制度ハ根本的ニ改革サレルノデアリマス、簡易裁判所モ全國ニ殆ド千ヲ數ヘルガ如キ多數ノモノガ設ケラレルコトニナリマシタ、此ノ簡易裁判所ノ組織ハ、原則トシテ二人ノ裁判官ヲシテ之ニ當ラシメルノデアリマスガ、此ノ簡易裁判所ハ國民ト密接ナ關係ヲ持ツテ居ルノデアリマス、此ノ運用如何ニ依リマシテ、果シテ日本ノ國民ノ正義ガ此處デ昂揚サレ、十分ナル生活ガ保障サレルカト云フコトノ問題ガ生ズルノデアリマス、從ヒマシテ司法當局トシテハ、此ノ簡易裁判所ノ運營ニ付テ多大ノ考慮ヲ拂ツテ居ルノデアリマス、申ス迄モナク法律ノ運用ニ付キマシテハ、専門ノ法律家ヲ必要トスルコトハ當然言フヲ俟タナイノデアリマスガ、何分ニモ此ノ簡易裁判所ハ、多數ノ國民ト密接ナ關係ヲ持チマシテ、國民ニ親シミヲ持タセルト云フコトガ大イニ考慮ヲ拂ハレナクチヤナラヌト信ズルノデアリマス、仍ツテ此ノ簡易裁判所ノ判事ニハ、少クトモ一人ハ民間ノ經驗アリ、學識アリ、徳望ノアル人ニ當ツテ戴キタイト存ジテ居ルノデアリマス、而シテ是ト同時ニ、調停制度ヲ十分ニ運用致シタイト存ジテ居リマス、調停制度ノ問題ニ付キマシテハ幾多ノ批判ガアルノデアリマスルガ、併シ此ノ運用ニ依リマシテ、十分ニ國民ノ權利義務ガ尊重サレルコトハ期シテ待ツベキモノガアラウト私ハ信ズルノデアリマス、不肖私モ多年調停委員トシテノ經驗ヲ持ツテ居ルノデアリマスルガ、此ノ運用次第ニ依リマシテ、十分ナル働キヲ生ズルト云フコトハ現實ノ事實デアリマス、將來此ノ調停制度ハ何處迄モ良キ意味ニ於テノ働キヲ持タセマシテ、一般國民ノ權利義務ニ付テノ運用ヲ此處デヤツテ行キタイト存ジテ居ル次第デアリマス、次ニ監獄法ノ改正ノ問題デアリマス、監獄法ハ、是ハ牧野博士ノ御説ノ通リ、改正スベキ點ガアルノデアリマス、是ハ司法ノ各法規ノ改正ニ伴ヒマシテ、將來十分ニ考慮ヲ拂ツテ改正ヲシテ行キタイト存ズル次第デアリマス、要ハ、此ノ改正憲法ノ實施ニ伴ヒマシテ、司法部ニ與ヘラレマシタ任務ハ極メテ重大デアリマス、只今司法制度審議會ニ於キマシテ、各部門ニ亙リマシテ民法、或ハ裁判所構成法、或ハ刑事訴訟法、刑法ト云フヤウナ部門ニ亙リマシテ改正ヲ急イデ居リマス、大事業デアリマス、先輩ハ幾多ノ年月ヲ掛ケテ仕上ゲタ此ノ大事業ヲ、僅カノ日數ニ於テ我々ハ仕上ゲヨウカト日夜努力ヲシテ居リマス、近ク開カルベキ臨時議會ニ於テ、是等ノ總テノ法案ハ提出サレマシテ、各位ノ御審議ヲ俟ツコトト存ジマス、此ノ意味ニ於キマシテ、我々ノ任務ノ重大ナルコトヲ自覺致シマシテ、國民ノ權利義務尊重ニ付テ十分ノ考慮ヲ拂ツテ、國家ニ御奉公シテ行キタイト存ズル次第デアリマス
〔國務大臣河合良成君登壇〕
○國務大臣（河合良成君） 昨日ノ所有權、勤勞權、生活保障等ノ問題ニ亙リマシタ御質問ニ對シマシテ、私ノ擔當致シマスル社會問題ノ見地カラ御答ヘ致シマス、大體民主主義國家ノ理想ト申ス點ハ、矢張リ人間個性ノ自覺ト申シマスカ、或ハ完成ト申シマスカ、サウ云フ點ニアルト考ヘテ居リマス、ソレデ生活保障ノ問題ノ如キモ、矢張リ其ノ觀點カラ之ニ包含サレテ考フベキモノダト思ツテ居リマス、ソレデ自己ノ完成ト同時ニ、他人ノ完成ト云フコトガ同時ニ必要ニナツテ參リマスルノデ、矢張リ自己ヲ源トシテ他人ニ發展スルト云フ風ノ大體、見地デアリ、ソレガ矢張リ社會問題解決ノ一番根本理念ニナツテ居ルト私ハ考ヘテ居リマス、ソレデ御話ノ通リ、二十世紀ニ於キマシテ、公共性或ハ公益性ト云フコトノ必要ガ高調サレマシテ、ソレカラ或ハ一ツノ飛躍的ノ考カラ、ソレヲ基調トスベキデアルト云フ點モ出テ來タコトハ勿論問題ナイコトデアリマス、又言フ迄モナク、公益性、公共性ニ非常ニ重點ヲ置カナクチヤナラヌト云フコトハ問題ハナイノデアリマスガ、建前トシマシテハ、矢張リ基本人權、個性ノ尊重ト云フコトカラ「スタート」スベキモノデアルト考ヘテ居リマス、殊ニ戰爭前ニ於キマスル全體主義的ノ傾向ガ駄目ダツタコト、或ハ大戰後ニ於ケル所ノ新個性完成ト云フヤウナ一ツノ主義ト申シマスカ、サウ云フ所カラ著眼シテ憲法ノ基調ヲ此ノ點ニ置イテ、サウシテ財産權、企業權、勞働權等ヲ眺メテ行クベキモノダト云フ風ニ考ヘテ居リマス、ソレデサウ云フ根本ノ考ノ下ニ於キマシテ、二三ノ問題ノ御質問ノ點ニ御答ヲ致シタイト思ヒマスガ、第一ニ財産權ノ點ニ付キマシテ、只今司法大臣カラモ御説明ノアリマシタ企業權ノ獨立性ト云フ問題ニ關聯シマシテ、茲ニ矢張リ只今社會問題トシテ二ツノ問題ガ起キテ居リマス、其ノ一ツハ資本ト經營ノ分離ト云フ問題デアリマス、是ハ御話ノ如クニ、現在事實トシマシテ、特ニ終戰後ノ事實トシマシテ、資本ト經營トノ分離ト云フコトガ著々行ハレテ居ルト云フ事實ハ看過スルコトハ出來マセヌ、併シ是ハ只今ノ處デハ矢張リ契約乃至承諾ニ依ツテ行ハレテ居ル事情デアリマシテ、之ヲ商法的ニ何處迄認メテ行クカト云フコトハ今後ノ問題ニ殘サレル問題ト思ツテ居リマス、モウ一ツハ企業權ト勞働權トノ問題デアリマス、是ハ所謂生産管理ト云フ變態的ナ形ヲ以テ終戰後多少行ハレタ事實ガアリマス、之ニ對シマシテハ、矢張リ現行憲法及ビ此ノ草案ト同一趣旨ニ於キマシテ、財産權ト云フ所ヲ以テ全般ヲ區別シテ居リマス、即チ生産管理ハ財産權ヲ侵犯スルモノナルガ故ニ正當ニ非ズト云フ政府ノ見解ヲ取ツテ居リマス、是ハ恐ラク商法改正ニ依ツテ變ラヌコトダラウト思ツテ居リマス、ソレカラ第二ノ點ハ勤勞權ノ問題デアリマス、此ノ勤勞權ノ問題ハ御説ノ通リニ、自由權ダト私ハ考ヘテ居リマス、「ソ」聯ノ憲法ノヤウニ、此ノ勤勞權ヲ國家ガ勤勞ノ機會ヲ與ヘルト云フコトヲ保障シテ居ル譯デハアリマセヌカラ、自由權ト考ヘテ居リマス、併シナガラ自由權デアルカラ決シテ國家ハ之ニ對スル各種ノ方法ヲ講ゼヌト云フ意味デハアリマセヌ、法律ノ觀念トシテハ自由權ナリト考ヘテ居リマス、從ツテ、勞働權ト云フモノヲ「ソ」聯ノ憲法ニ於ケル勞働權ノ如ク廣義ニ國家ガ勞働ノ機會ヲ與ヘル保障ヲ含ムモノナリト解スルナラバ、日本ノ勤勞權ト云フモノハ所謂其ノ勞働權トハ違ツタ觀念ナリト考ヘテ居リマス、併シナガラ憲法第二十三條ノ二項ニ依リマシテ、國ハ社會福祉、社會保障及ビ公衆衛生向上ノ爲ニ努メナケレバナラヌト云フ風ニ茲ニ憲法上ノ義務ヲ負ヒ、又政治的ノ責任ヲ負ウテ居ル譯デアリマスカラ、結局ニ於キマシテハ、國ノ力ノアル限リハ失業對策ナリ、或ハ其ノ他ノ社會政策、生活保障ト云フコトニ邁進シナクチヤナラヌコトハ疑ナイコトデアリマス、現ニ昨日モ答辯致シマシタ通リニ、生活保護法ヲ提案シ其ノ外次ノ議會及ビ此ノ暮ノ議會ニ於キマシテ、殆ド大部分ノ社會制度ヲ完成スル考ヲ以テ只今進行シテ居ル次第デアリマス、ソレカラ第三ノ問題トシマシテ、勤勞ノ權利及ビ義務ト云フコトニナツテ居ルガ、其ノ義務ト云フコトニ對シテ多少ノ不安ガアルト云フ御尋デアリマシタガ、此ノ勤勞ノ權利ト云フコトモ是ハ勿論適當ナ意味ニ於ケル權利デアリマス、ソレダカラ例ヘバ女子トカ幼年工等ニ對シテ就業ノ禁止ヲスルトカ、制限ヲスルトカ云フ保護ノ目的ヲ以テスルヤウナ場合ニ於テハ勿論勤勞ノ權利ヲ害スルヤウナコトハアリマセヌ、ト同樣ニ義務ト云フコトモ適當ナル義務ト云フコトデアリマシテ、無理ナ強制勞働ノヤウナ義務ヲ包含スルヤウナ意味デハ勿論ナイ、即チ權利ト義務トハ對等ニ考ヘテ、孰レモ適當ナモノデアルト云フ前提ノ下ニ解釋スベキモノダト思ツテ居リマス、即チ權利ノ主張ト共ニ義務ノ自覺ト云フ點ガ此ノ憲法ノ期待スル所デアラウ、サウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
〔國務大臣田中耕太郎君登壇〕
○國務大臣（田中耕太郎君） 家族制度、婚姻、親子關係ト教育ニ關シマスル牧野先生ノ昨日ノ御質問ニ御答ヘ申上ゲマス、憲法改正案ガ婚姻ニ付テ規定ヲ設ケテ居リマシテ、親子關係ニ言及シテ居ナイノハドウ云フ譯デアルカ、或ハ婚姻關係ヲ親子關係ヨリモ一層重ンジテ居ルノデハナイカト云フ風ナ御質問ガゴザイマシタ、是ハ文部當局ト致シマシテモ、サウ云フ風ナ憲法改正案ガ意味ヲ持ツテ居ルノナラバ、是ハ甚ダ意外ナコトデアリマス、我々ハ決シテサウデアルトハ考ヘテ居リマセヌ、婚姻制度ニ付キマシテハ、是ハ婚姻ガ契約關係デアリ、又男女ノ相互ノ複雜ナル關係デモアリマスシ、是ハ詰リ諸外國ニ於テモ政治問題トシテ取扱ハレテ居ルノデアリマス、サウ云フ特別ノ意味ヲ持ツテ居ル結果、婚姻ト云フモノガ特ニ憲法ニ現レテ參ツテ居ルノデアリマス、是ハ離婚ニ付テモ外國ニ於キマシテハ色々非常ナムヅカシイ問題ガアルノデアリマス、詰リ世界觀ノ差異ニ立脚シテ參ル問題デゴザイマス、處ガ親子關係ハ、是ハ人間ノ自然的關係デゴザイマシテ、詰リ世界觀的ノ差異ヲ超越スル人倫ノ大本ニ立脚シテ居ルノデゴザイマスカラ、特ニ憲法ニ於テソレヲ規定スル必要ハナイ、詰リ民法ニ任セテ置イテ宜イノデアル、サウ云フ自然的關係ニ基ク人倫ノ大本、人間性ノ根本カラ發スル所ノ此ノ道徳ト云フモノハ炳トシテ明カデアリマスカラ、特ニ憲法ニ於テソレニ言及スル必要ハナイト云フ風ニ文部當局トシテモ考ヘマス次第デゴザイマス、從ヒマシテ政府トシテ決シテ之ヲ輕視シテ居ルモノデハナイト云フコトヲ信ジテ疑ハナイ者デアリマス、ソレデ法律上ノ概念ト致シマシテノ家ノ制度ガ認メラレナクナルト致シマス、詰リ戸主權ヲ中心トスル所ノ法律的概念デアル家族ト云フ制度ガナタナリマシテモ、婚姻ヲ中心トシ、又親子關係ヲ中心ト致シマスル所ノサウ云フ詰リ一種ノ血族的ノ小サナ社會ト云フモノガ、是ハ日本ノミナラズ、有ラユル民族、有ラユル時代ニ於テ存在シテ居ルノデアリマシテ、其ノ普遍的、人類的道徳ト云フモノハ大イニ強調サレナケレバナラナイト思フノデゴザイマス、特ニ我ガ國ニ於キマシテハ、此ノ普遍的、人類的道徳ガ又我ガ社會ノ歴史、傳統ニ適合シタヤウニ發達シテ居リマスノデ、斯樣ナ淳風美俗ト云フモノハ大イニ維持發揚サレナケレバナラナイ、ト云フコトヲ信ジテ居ル次第デゴザイマス、現在ニ於キマシテ民主主義、自由主義ノ履キ違ヘカラ致シマシテ、動モスレバ我ガ國ノ淳風美俗ハ一概ニ、或ハ反動的デアリ、或ハ封建的デアルト云フヤウナ風ニ、良イモノモ、惡イモノモ、此ノ際十把一絡ニ排撃シテシマハウト云フヤウナ一部ノ聲モ聞エマスガ、是ハ政府トシテ甚ダ遺憾ニ思フ所デゴザイマシテ、サウ云フ者ノ聲ニ驚クコトナク、良イ意味ノ、詰リ世界人類的、普遍的道徳ニ合致シ、而モ又我ガ國ノ古來ノ歴史、傳統ニ合致スル所ノ良イ道徳ト云フモノハ今後益々發揚サレナケレバナラナイモノト信ジテ居リマス、是ハ法律的ノ概念ノ家ノ制度ガナクナリマシテモ、儼トシテ存在シテ居ル所ノ社會的、歴史的ノ事實デアリマス、教育ノ面ニ於キマシテモ、其ノ社會及ビ國家ノ構成分子デアリマス、又道徳ノ根源デモアリマス所ノ此ノ自然的ナル家族團體ト云フモノニ留意致シマシテ、家族倫理ノ昂揚ニ大イニ今後益々努力シナケレバナラナイト云フ風ニ考ヘテ居リマス、處デ牧野先生ガ御教示ニナリマシタ家族協同體ノ概念ハ、是ハ此ノ意味ニ於テ甚ダ有益デアリ、教ヘテ戴ク所ガ甚ダ多カツタト云フコトヲ感謝申上ゲル次第デゴザイマス
○議長（公爵徳川家正君） 淺井清君
〔淺井清君登壇〕
○淺井清君 四ツノ問題ニ關シマシテ政府ノ御答辯ヲ求メマス、是等ノ問題ノ大部分ハ、既ニ一昨日以來ノ質疑ニ於テ採リ上ゲラレテ居ル所デゴザイマスルケレドモ、之ニ對スル政府ノ御答辯ハ殘念ナガラ、恐ラクハ何人ヲモ滿足セシメテ居ラナイト存ジマス、故ニ私ハ本日ハ寧ロ政府ノ最後ノ御返答ヲ承リタイヤウナ心地スラ致スノデゴザイマス、先ヅ第一ニ御伺ヒ致シマス、此ノ度ノ憲法改正ノ手續ノ合法性ト云フコトデゴザイマス、申ス迄モナク我ガ憲法ハ欽定憲法デアリ、天皇之ヲ制定セラレ、從ツテ又天皇之ヲ改正セラルヽモノデゴザイマシテ、殊ニ憲法改正ノ發案ヲ勅命ニ留保致シテ居リマスルコトハ、七十三條ノ規定致ス所デゴザイマス、故ニ政府ニ於カレマシテモ、此ノ七十三條ノ規定ニ依リ天皇ノ御發案ヲ奏請セラレマシテ、本案ヲ茲ニ御提出ニナツタモノデゴザイマス、然ルニ今御提出ニナリマシタル改正案ヲ拜見致シマスルニ、是ハ最早欽定憲法ニ非ズシテ、純然タル民約憲法デアリマスルコトハ、其ノ前文中ニ、「日本國民は、」「この憲法を確定する」トアルヲ以テシテモ明カデゴザイマス、即チ政府ハ欽定憲法ノ改正手續ニ依リマシテ、實ハ民約憲法ヲ制定セムトスルモノデゴザイマスルガ、此ノ兩種ノ憲法全ク其ノ制定者ヲ異ニ致シテ居リマスルガ故ニ、是レ果シテ七十三條ノ規定スル改正ノ範圍内ニアルモノナリヤ否ヤト云フコトニ關シマシテ疑問ガアルト申サナケレバナリマセヌ、又更ニ其ノ改正案ノ内容ヲ見マスルニ、稱シテ改正トナツテ居リマスルケレドモ、實ハ全ク新シキ憲法ノ制定デアリ、現行憲法ノ完全ナル廢止デゴザイマス、然ルニ七十三條ノ豫想致シマスル憲法改正ハ、憲法ノ上諭ニモ、此ノ憲法ノ或條章ヲ改正スルトアル如ク、全ク個々ノ條文ノ改正デアリマシテ、斯クノ如ク現行憲法ノ一箇條ヲモ剩サザル新憲法ノ制定ハ、果シテ本條ノ改正ノ範圍内ニ入ルモノナリヤ否ヤニモ疑問ガゴザイマス、即チ政府ハ、途ヲ欽定憲法ノ手續ニ假リ、名ヲ憲法改正ニ求メ、實ハ欽定憲法ヲ全ク廢止致シ、民約憲法ヲ新タニ制定セムトスルモノデゴザイマス、今日ノ情勢ニ於キマシテ、民約憲法ヲ制定スルコト、及ビ現行憲法トノ何等カノ關聯性ヲ保タシメムトスルコトハ固ヨリ結構デゴザイマスルガ、是ガ爾ク簡單ニ七十三條ニ依ルコトヲ得ルモノデゴザイマセウヤ、故ニ世上ノ一部ニ説ヲ爲ス者ガアリマシテ、宜シク先ヅ暫定憲法ヲ制定致シ、之ニ依リテ新シキ構想ノ下ニ國民議會ヲ召集シ、茲ニ初メテ國民自ラ民約憲法ヲ制定スルコトヲ得ベシト唱ヘテ居リマス、或ハ又、先ヅ七十三條ノミヲ改正致スト云フ説モゴザイマス、之ニハ憲法ノ改正ヲ國民投票ニ付スベシト云フ説ヲモ含ンデ居リマス、又更ニ「ポツダム」宣言ノ受諾ニ依リマシテ、此ノ七十三條其ノモノガ効力ヲ失ツタトノ説モゴザイマスルガ、政府ノ所信ハ果シテ如何デアルカ、或ハ政府ハ流血ノ革命ナクシテ、現行憲法ノ規定ニ依リマシテ、手際ヨク新憲法ヲ制定シ得ルコトヲ以テ私カニ誇トセラルヽノデアルカ、思ヒマスルニ、此ノ度ノ戰サノ犠牲トナリマシタ同胞ハ幾許ナルヤヲ知ラズ、誠ニ前古未曾有ノ流血ノ慘事アツテ、茲ニ初メテ過去ヲ反省致シ、將來ノ更生ヲ誓フモノ、是レ實ニ此ノ度ノ憲法改正デゴザイマス、今更何ヲ誇ト致シマセウヤ、私ハ憲法改正ニ關スル政府ノ御苦心ニ對シマシテ深ク感謝致ス者デアリマスルガ故ニ、又其ノ改正手續ニ將來疑義ヲ生ジマシテ、爲ニ反動勢力ノ擡頭ニ口實ヲ與ヘ、折角ノ御苦心ヲ水泡ニ歸セシムルコトナキヤウ念願致ス者デゴザイマス、仍テ政府ハ第七十三條ノ手續ニ依リ此ノ度ノ憲法改正ヲ圖ラレマシタコトニ付キマシテ、確乎タル所信ヲ茲ニ御述ニナルコトガ必要デゴザイマス、一昨日來ノ質疑應答ニ於キマシテ、政府ハ若干此ノ點ニ御觸ニナリマシタガ、或ハソレガ宜イト思ツタトカ、次囘ノ總選擧ニ間ニ合セル爲ダトカ、内外ノ情勢已ムナシト云フヤウナ御答辯デハ我我ハ滿足出來ナイノデゴザイマス、即チ政府ガ此ノ度七十三條ニ依リ憲法改正ヲ意圖セラレマシタノハ其ノ合法性ヲ御確信アツテノコトト存ジマス、仍テ二ツノ點ニ御答ニナツテ戴キタイ、第一ハ欽定憲法カラドウシテ民約憲法ヲ制定スルコトヲ得ルヤ、第二ニハ個々ノ條項ノ改正ノミヲ豫想スル七十三條ニ依ツテ如何ニシテ憲法全部ノ廢止ガ出來ルカト云フコトデゴザイマス、私ハ決シテ法理ノ末節ニ拘泥致シマシテ、政治ノ妙諦ヲ解セザル者デハゴザイマセヌ、併シナガラ苟クモ憲法ニシテ國家最高ノ法規デゴザイマスルナラバ、政府自ラ茲ニ遵法ノ實ヲ御説明ニナルコトガ出來ナイデ、ドウシテ國民ニ遵法ノ精神ヲ作興サルヽコトガ出來マセウカ、國法ヲ破ル者ヲ以テ忠君愛國ノ士ト考ヘタノハ昨日迄ノコトデハゴザイマセヌカ、今又敗戰ノ今日ニ於キマシテ、最モ國民ノ缺ケテ居ル所ノモノハ、此ノ遵法ノ精神デゴザイマス、故ニ私ハ政府ガ此ノ合法性ヲ茲ニ明カニサル、コトニ依ツテ、自ラ國民ニ遵法ノ實ヲ示サレムコトヲ望ム者デゴザイマス、第二ニ御尋ネ致シマスルコトハ、此ノ改正案ハ我ガ國體ヲ變革スルモノナリヤ否ヤト云フコトデゴザイマス、但シ私ガ茲ニ國體ト申シマスルノハ、或ハ天皇ニ對スル國民ノ憧レト申シ、或ハ天皇ト國民トノ心ノ繋リト申スヤウナ、超法的ナ概念デハゴザイマセヌ、從來ノ法制上ノ通念タル國體デゴザイマス、顧ミマスルニ、大正十四年治安維持法ガ第五十四帝國議會ニ提出セラレマシタル時ニ、其ノ第一條ニ國體ノ變革ト云フコトガゴザイマシタノデ、茲ニ揣ラズモ一體國體トハ何デアルカト云フコトガ問題トナリマシテ、貴衆兩院トモ活溌ニ且愼重ニ之ヲ論議致サレマシテ、結局其ノ當時ノ政府ノ見解、即チ憲法第一條ヲ以テ我ガ國體トスルト云フコトヲ了解セラレタノデゴザイマス、時ノ司法大臣小川平吉氏ハ、是ガ我ガ國ノ團體デアルト云フコトハ、常識ヲ以テ考ヘテモ分ルノデゴザイマス、ト云フ言葉ヲサヘ速記録ニ止メテ居ラレマス、サウシテ是ハ決シテ治安維持法ノミニ通用スル國體ノ觀念ヲ定メタモノデハゴザイマセヌ、先ヅ國體トハ何ゾヤト申スコトヲ定メマシテ、其ノ意味ノ國體ガ治安維持法第一條ニモ規定セラレテアルトシタモノト存ジマス、然ルニ昭和四年五月三十一日ニ至リマシテ、我ガ大審院ハ此ノ治安維持法第一條ノ國體ニ對シ最初ノ判決例ヲ示シマシテ、「萬世一系ノ天皇君臨セラレ、統治權ヲ總攬セラルヽコトヲ以テ我ガ國體トス」、ト致シマシタ、是ハ即チ憲法第一條ト第四條トヲ併セテ國體トシタノデゴザイマス、何レニ致シマシテモ、茲ニ我ガ國體ノ觀念ガ存シテ居ルモノデアル、又之ガ帝國議會ノ了解スル我ガ國體ト申シテモ宜シイカト存ジマス、（拍手）今ヤ治安維持法ハ廢止サレマシタケレドモ、ソレト之トハ別箇ノ問題デゴザイマシテ、我ガ法制上ノ通念タル國體ノ觀念ガ忽トシテ消滅シタルモノト考ヘラレマセヌ、扨、今政府ノ憲法草案ニ於キマシテ此ノ第一條ト第四條トハ何處ニアリヤ、全ク消エテ跡方モナクナツテ居ルデハゴザイマセヌカ、（拍手）サスレバ此ノ改正案ハ我ガ國體ヲ變革スルモノナリト申ス外ハゴザイマセヌ、然ルニ政府ハ尚モ國體ノ變革ナシトノ御見解ヲ持セラルヽヤニ承リマスルガ、果シテ如何デアルカ、從來強ク護持ニ努メテ參リマシタ國體ノ觀念ヲ俄カニ改メ、他ノ超法的ナル觀念ヲ以テ我ガ国體トシ、今般ノ改正ハ國體ノ變革デナイト申サルヽノハ如何デアルカ、殊ニ七月二日衆議院ノ憲法改正委員會ニ於キマシテ、金森國務大臣ハ曰ク、「私ハ國體ノ規定ハ現行憲法ノ條文ノ上ニ現レテ居ルモノデハナクシテ、其ノ基盤ニ存在シテ居ルノデアル、斯ウ信ジテ居リマス、ダカラ憲法ノ條文ニ現レテ居リマスノハ、本當ノ國體ノ規定デハナイノデアリマス、ソレヲ強ヒテ國體規定ト言ツテ居ル、」云云ト御答辯ニナツテ居リマスルガ、苟モ議會ヲ以テ國憲ノ最高機關ト致シ、最高裁判所ニ憲法解釋權ヲ與ヘルヤウナ憲法草案ヲ御作成ニナル政府ニシテ、帝國議會ノ審議竝ニ大審院ノ判例ヲ否定スルヤウナ超法的ナ國體觀念ヲ云々セラルヽノハ果シテ如何ナモノデゴザイマセウカ、（拍手）又君主ニ對スル國民ノ憧レト申シ、君主ト國民トノ心ノ繋リト申スヤウナコトハ、昨日モ御指摘ニナリマシタ如ク、一歩ヲ誤レバ極メテ非論理的ナル、神秘的ナル觀念ニ墮スルモノデゴザイマシテ、若シモ政府ガ斯カル觀念ヲ以テ今後國民ノ政治教養ヲ爲サルト云フノナラバ、ソレハ國體ノ本義ノ改訂版ト隔ルコトハドレ程デアルカ、私ハ深ク之ヲ心配致ス者デゴザイマス、若シ又國體ノ變革アリト致シマスルナラバ、其ノ儼然タル事實ニ對シ強ヒテ國民ノ眼ヲ覆ヒ、視聽ヲ他ニ外ラサムトスルガ如キハ、決シテ今日ノ臺閣ニ立ツ者ノ態度デハゴザイマセヌ（拍手）此ノ緊迫セル國際情勢ノ下、誰カ政府ノ御苦勞ヲ多ト致サザルモノデゴザイマセウ、（拍手）要ハ政府ガ率直ニ國民ニ所信ヲ御述ベニナルコトデゴザイマス、一昨日來板倉、南原兩議員ノ御質疑ニ對シ、金森國務大臣ハ相變ラズ此ノ超法的國體觀念ヲ以テ御答辯ニナリ、變ツタノハ認識デアツテ、本體ハ變ラナイト云フヤウナコトモ仰セニナリマシタガ、一體認識ヲ離レテ本體ノ存在ナドト云フモノハ、哲學者ノ思索トシテハイザ知ラズ、平假名口語體ノ憲法草案ニハ誠ニ相應シカラヌモノデゴザイマス、（拍手）又宮澤議員ニ對スル御答辯ニ於キマシテハ、治安維持法第一條ノ意義ニ於ケル國體ハ變ツタト御答ニナツタト記憶致シマスルガ、是デハ御答辯ガ一貫致シマセヌ、仍テ政府ニ改メテ御尋ネ致シマス、政府ハ憲法第一條及ビ第四條ガ從來我ガ法制上ノ通念タル國體ナルコトヲ認ムルヤ否ヤ、若シ之ヲ認ムルモノトセバ、今般ノ改正案ハ國體ノ變革ナルコトヲ認メザルヲ得ナイガ、如何デアルカト云フコトデゴザイマス、第三ニ御伺ヒ致シマスルコトハ主權ノ問題デゴザイマス、凡ソ主權論ノ歴史ニ依リマスルニ、主權在君ト申セバ主權ハ國民ニ在ラザルコト、又主權在民ト申セバ主權ハ君主ニ在ラザルコトデゴザイマシテ、主權在民ノ其ノ民ノ中ニ君主ヲモ包含スルト云フコトハ、主權在君ノ中ニ國民ヲモ包含スルト云フノト同ジク、性質上全ク矛盾デアリ、世界ニ通ズル主權在君論、又ハ在民論トシテハ成立シ得ナイモノデゴザイマス、今改正案ニ於ケル主權所在ノ問題ニ關スル政府ノ御見解ヲバ、衆議院ニ於ケル憲法改正委員會ノ記録ニ依リ檢討致シマスルニ、政府ハ普通ニ行ハル、主權在民論ニ於キマシテ、主權國民ニ在リト云フ場合ノ、其ノ國民トハ全ク違ツタ意味ニ國民ナル語ヲ用ヒラレテ居ルノデゴザイマス、即チ七月二日ノ委員會ニ於キマシテ、金森國務大臣ハ北委員ノ御質疑ニ御答辯ニナリマシテ、斯ウ申サレテ居リマス、此ノ憲法ノ草案ヲ起草致シマスル時ニ、日本國ノ人間ノ全體ヲ含ムノニドウ云フ言葉ヲ用ヒタナラバ宜カラウカト云フコトヲ考ヘテ、色々文字ヲ探シタノデス、處ガ不幸ニシテ過去ノ日本ノ情勢、天皇ヲモ含メタリ、國民全般ヲ一ツノ言葉デ言ヒ表スヤウナ事例ガ一般的ニハ見付カラナカツタノデス、ソコデ國民ト云フ語ヲ用ヒタトアリマス、即チ政府ハ初メカラ決シテ君主ニ對スルモノトシテ國民ト云フ語ヲ用ヒタノデハナクシテ、國家ヲ組織スル人類ノ全體ヲ指シテ之ヲ用ヒタモノデアリ、普通ノ所謂主權在民論デハナイノデゴザイマス、此ノコトハ同ジ席上デ吉田委員ノ御質疑ニ對スル金森國務大臣ノ御答辯ノ中ニ、主權在民ト云フノハ其ノ君ノ中ニ民ヲモ一體トシテ含ンデ居ル、斯ウ云フ風ニ説明ヲスベキデアラウト思ヒマストアルノト併セ考ヘマスレバ、一層明白デゴザイマス、即チ主權在民ノ民ノ中ニハ君主ヲモ含ミ、主權在君ノ君ノ中ニハ國民ヲモ含ムト云フコトハ、實ハ主權在君モ主權在民モ共ニ否定スル思想デゴザイマス、（拍手）故ニ政府ガ主權國民ニ在リト言ハレルノハ、唯主權在民ト云フ、謂ハバ此ノ頃都ニ流行ルモノヲ用ヒラレタダケデアリマシテ、歐米民主主義ニ基ク主權在民論ヲ採用セラレタルモノデハナク、主權ハ國家ヲ組織スル人類ノ全體ニ在リト云フ説ヲ採ラレテ居ルノデゴザイマシテ、是ハ寧ロ主權ハ國家ニ在リトスル所謂國家法人説ヲ表現ノ形式ヲ變ヘテ言ツタニ過ギナイヤウニ存ジマス、故ニ七月二日衆議院ノ委員會ニ於キマシテ、高橋委員ヨリ主權國家ニ在リト爲ス説ノ妥當ナルコトヲ述ベラレタニ對シマシテ、金森國務大臣ハ之ヲ承認セラレ、ソコデ高橋委員ヨリ主權ト云フノハ國家ガ持ツテ居ルモノダト解釋シテ宜シイノデアリマスカト駄目ヲ押サレタニ對シマシテ、其ノ通リデゴザイマスト御答辯ニナツテ居リマス、若シ主權國家ニ在リトセラルヽナラバ、ソレハ立派ナ理由ノアルコトデゴザイマスルカラ、何故ハツキリ左樣ニ申サレナイノデアルカ、若シ又主權國民ニ在リトセラルヽナラバ、アラハニ主權在民ト稱シ、密カニ之ヲ打チ消スヤウナ結果ヲ生ズル表現ハ之ヲ避クベキデアラウト存ジマス、主權在民ノ民ノ中ニ君主ヲモ含ムト云フヤウナコトハ、少クトモ主權在民論トシテハ世界ニ通ジナイモノデゴザイマス、縱シヤ世界ニハ通ゼズトモ、日本ダケハ斯ウダ、是ガ日本獨得ノ主權論ダト申サレマスルナラバ、此ノ我ガ國ダケハト云フコトガ、如何ニ我ガ國ヲ誤マラセタカト云フコトヲ指摘セザルヲ得ナイノデアリマス、我ガ國ダケハ一君萬民、我ガ國ダケハ一億一心ト云フヤウナ世界ニ通ズル客觀性ノナイ所ニ我ガ國體ヤ特色ヲ求メ續ケテ遂ニ今日ノ有樣ニ立至ツタデハアリマセヌカ、是デハ我ガ國民、殊ニ理性ノ極メテ鋭キ若キ青年層ヲ納得セシメルコトハ最早不可能デゴザイマス、而モ是等若キ青年男女コソ既ニ有權者デアリ、新憲法ノ擔ヒ手デアリ、日本再建ノ働キ手デゴザイマス、彼等ハ最早感情ヤ信念ニ依ツテ物事ヲ強ヒラルヽコトヲ欲シナイ、理性ニ、依リテ理解セシメラレムコトヲ欲シテ居ルノデゴザイマス、今ヤ衆議院ハ改正案第一條ヲ修正致シマシテ、主權在民ノ趣旨ヲ明カニ致シマシタガ、政府モ是ト共ニ衆議院ニ於ケル御答辯ヲ若干修正セラレタノデハナイカ、即チ宮澤議員ヘノ御答辯ニ於キマシテ、天皇ヲ公ノ地位ト私ノ地位トニ分タレマシテ、主權在民ノ民ノ中ニハ私ノ地位ニ於ケル天皇ハ含ムガ、公ノ地位ニ於ケル天皇ハ含マナイト御答ニナツタヤウニ記憶致シマスル、私共ハ初メヨリ公ノ地位ニ於ケル天皇ヲ問題ト致シテ居ルノデゴザイマシテ、私ノ地位ニ於ケル天皇ニ付テハ、ソレハ主權論ノ外ニアルモノデゴザイマス、今ヤ主權論ハ最後ノ關頭ニ起ツテ居リマス、政府ハ從來ノ御答辯ヲ繼續セラルヽカ、御變更ニナルカ、天皇ヲ含マルヽカ、公ノ天皇ヲ除カルルカ、主權國家ニ在リヤ、國民ニ在リヤ、一カ多カ、此ノ一點ニ付テ御答辯ヲ御願ヒ致シマス、第四ニ、最後ニ御尋ネ致シタイノハ、天皇ノ御地位ニ關スル問題デゴザイマス、凡ソ君主國ニ於ケル君主ハ、國民仰イデ威嚴アル存在デナケレバナリマセヌ、併シ此ノ威嚴ト申シマスルコトハ、決シテ神祕的ナ、非論理的ナモノヲ指シテ申スノデハナクシテ、世界各國ノ君主國ノ君主ハ誰デモ持ツテ居ル權能ニ付テ申シタノデゴザイマス、「バジオット」ハ、「イギリス」國王ハ「イギリス」憲法ノ威嚴アル部分ヲ表スト申シマシタガ、誠ニ至言ト謂フベキモノデゴザイマシテ、君主ニシテ威嚴アル地位ヲ失フナラバ、寧ロ大統領ノ事務的ナルニ如カズトモ申シ得ルモノデゴザイマス、ソコデ「イギリス」ニ於キマシテハ、國王ハ誠ニ威嚴アル地位ニ在ラレマシテ、法律裁可ノ大權ハ嚴トシテ國王ニ存シ、議會ハ國王ノ議會デアリ、國務大臣ハ國王ノ下僕デゴザイマス、併シ國王ハ二百數十年來議會ヲ通過セル法律案ヲ却下セラレタルコトナク、大權ノ行使ハ一ニ國務大臣ノ輔弼ニ依リ、内閣ハ最モ典型的ナル議院内閣トシテ全ク下院ノ政黨ノ消長ニ委セラレテ居リマスルコトハ茲ニ改メテ述ベル迄モゴザイマセヌ、即チ國王ニ威嚴ノ名ヲ存シテ、政治運用ノ實ヲ切離ス、此ノ名實巧ニ離ルヽ所ニ「イギリス」立憲政治ノ妙味ガアリ、又立憲君主國ニ於ケル君主ト民主主義トノ在リ方ヲ示シテ居ルノデゴザイマス、扨、今政府ノ改正案ニ於キマスル天皇ノ御地位ヲ案ジマスルニ、最モアラハニ大權事項ヲ調整致ス、例ヘバ法律裁可ノ大權ヲ削リ、大權ノ殘ル所僅カニ認證ト致スナゾ、天皇ノ威嚴果シテ何處ニゴザイマセウヤ、顧ミマスルニ過去十數箇年、我ガ國一部ノ心ナキ者ガ天皇ノ御名ニ隠レ、其ノ威嚴ヲ濫用シテ重大ナル過誤ヲ侵シ、無謀ノ戰ヲ起シマシテ、遂ニ今日ノ悲境ニ陥リマシテ、謂ハバ敗戰ノ廢墟ノ中ニ大權ヲ調整スルノ已ムナキニ至リマシタルガ故ニ、「イギリス」ノ如ク名實ヲ分ツノ餘裕ナク、名モ亦實ト共ニ失フモノ多キニ至リマシタコトハ誠ニ痛恨ノ極ミデゴザイマス、（拍手）、今ヤ「ラジオ」ニ玉音アリ、巷ニ玉歩アリ、前途春秋ニ富マセ給フ天皇ノ御姿ヲ身近ニ拜シマシテ、一層此ノ感ヲ切ニ致ス者デゴザイマス、故ニ私ハ此ノコトニ關シマシテハ決シテ政府ヲ非難致ス者デハゴザイマセヌ、却テ此ノ緊迫セル國際情勢ノ下ニ於キマシテ、只管天皇ノ御安泰ニ盡サレマシタル吉田内閣總理大臣、幣原國務大臣ノ御苦勞ニ對シマシテハ深キ感謝ノ意ヲ表スル者デゴザイマス、（拍手）併シナガラ憲法ハ最モ政治性ノ高キ法デゴザイマシテ、其ノ運用ハ立法者ノ意ニ反シテ、時ニ思ハヌ方ニ流レテ行クコトガ世界各國ノ例ニアルノデゴザイマス、世ノ母親ガ自分ノ生ンダ子ガ大キクナツテ何時迄モ自分ノ意ノ如クニ動イテ呉レルコトヲ期待出來マセヌト同ジク、政府ハ此ノ改正憲法ガ何時迄モ立法者ノ意ノ如クニ運用セラレルモノト考ヘテハナリマセヌ、ソコデ天皇ノ御地位ニ關シマシテ、若干ノ問題ガ豫想セラレルノデゴザイマスルガ、最モ重要ナリト考ヘラレル唯一ツノ點ニ付テ茲ニ御伺ヒ致シ、政府共々天皇ノ御安泰ヲ圖リマスルコトハ、我々ノ大イナル義務ト存ズル者デゴザイマス、ソレハ此ノ改正案ニ於キマシテ天皇ガ刑事上ノ責任ヲ負ハレナイト云フ保障ガ何處ニアルカト申スコトデゴザイマス、若シアルナラバ第何條ニ依ルモノナリヤヲ御示シ願ヒタイノデゴザイマス、凡ソ成文憲法ヲ有スル君主國ニ於キマシテハ、君主ノ無答責ヲ憲法法典ニ規定シナイモノハ恐ラクハゴザイマスマイ、我ガ現行憲法第三條モ、其ノ正シキ解釋ト致シマシテハ、天皇ガ政治上竝ニ刑事上、責任ヲ負ハレザルコトヲ規定致シタモノデゴザイマス、然ルニ改正案ニ於キマシテハ政治上ノ無答責ヲバ第三條及ビ第四條ニ規定致シマシタガ、刑事上ノ無答責ヲ規定シナイノハ如何ナル理由ニ基クモノデゴザイマセウカ、自明自證ノコトト御考ニナルノデゴザイマスルカ、但シハ又第一條ニ天皇ヲ以テ象徴トナスニ依リ十分ナリト御考ニナルノデゴザイマスルカ、六月二十五日、衆議院本會議ニ於キマシテ北議員ヨリ、何故天皇無答責ノ規定ヲ設ケザルヤトノ御尋ガアリマシタニ對シ、金森國務大臣ハ、餘リニモソレハ態トラシイノデアリマシテ、書カナクトモ明瞭デアル云々ト御答辯ニナツテ居リマスルガ、果シテソレデ宜シイモノカドウカ、「イギリス」ハ成文憲法法典ヲ有セズ、此ノコトハ不文ノ法トシテ今日ニ至リマシタ、併シ同國ニ於キマシテハ政治上ノ無答責モ亦不文ノ法デゴザイマス、今改正案ハ一ヲ極メテ明確ニ規定シ、他ヲ全ク規定セザルハ將來ノ運用上如何カト存ジ、特ニ之ヲ御尋ネ致ス者ノデゴザイマス、私ノ質疑ヲ終ルニ當リ特ニ一言致シマス、元來我ガ國民性ト致シマシテ、外國ノ文化ニ對スル感受性ガ極メテ強ク、之ヲ移入スルニ極メテ柔順ナルト共ニ、一ヨリ他ヘ移ル浮動性ノアルコトハ幕末、明治維新以來ノ歴史ノ證スル所デゴザイマス、朝ニ獨裁政治ヲ送リ、夕ベニ民主主義政治ヲ迎フルモ亦我ガ國民性ノ一面デアリ、日本ヲ治ムル者ノ最モ注意ヲ要スル所デゴザイマス、（拍手）故ニ若シ日本ニ於ケル民主主義政治及ビ國際平和政策ノ成功ト持續トヲ欲スルナラバ、移リ行クモノノ中ニ變ラヌモノトシテ、浮動スルモノノ中ニ安定スルモノノ中心トシテ、立憲政治制度ノ上ニ正シク修正セラレタル我ガ天皇制ノ維持コソ最モ必要ニシテ最モ賢明ナル方策ナリト云フコトデゴザイマス、（拍手起ル）
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕
○國務大臣（金森徳次郎君） 淺井君ヨリノ四箇ノ御論點ニ付キマシテ御答ヘ致シタイト考ヘテ居リマス、私ガ從來種々ナル場合ニ於テ御説明致シマシタコトガ、文字其ノ他ノ上ニ注意ガ十分デナカツタセイデモアラウカ、思ハヌ誤解ヲ受ケテ居リマスル嫌ヒノアルコト、御質疑ニ依リマシテ感ジマシタノデ、左樣ナ點ニ付キマシテ留意シツヽ御答ヲ致シタイト考ヘテ居ルノデアリマス、第一ニ改正手續ニ關スル問題デアリマスルガ、此ノ今囘ノ措置ノ如ク憲法第七十三條ニ依リ改正憲法案ガ提出セラレタ道行ニ於テ、一切ノ疑惑ヲ解クコトハ私共ノ職務上當然ノコトデアルト考ヘテ居リマス、昨日ニ於キマシテモ或部面ニ觸レテ之ヲ申上ゲマシタケレドモ、筋ヲ立テテ積極的ニ所見ヲ述ベタイト考ヘテ居リマス、一番根本ノ議論ハ、「ポツダム」宣言ノ受諾ニ依リマシテ現行憲法ガ如何ナル影響ヲ法律的ニ受ケタカト云フ論點デアラウト思ヒマス、或人ノ意見ニ依リマスルト「ポツダム」宣言ノ受諾ニ依ツテ、憲法上ノ天皇ノ統治權總攬者タル權能ハ變化ヲ直チニ受ケタト考ヘル意見ガアリマス、其ノ意見ト私共ノ所見トハ全ク違ツテ居リマス、從ツテ其ノ意見ヲ前提トスル考ヲ持ツ方々ニ對シマシテハ、豫メ豫備的ナ議論ヲ準備シテ置カナケレバナラヌノデアリマス、「ポツダム」宣言ヲ御覽ニナレバ分リマスガ、日本ノ憲法ヲ直接ニ變ヘルト云フ規定ハゴザイマセヌ、將來ニ於キマシテ政治ノ基本組織ガ國民ノ自由ナル意思ニ依ツテ定ルヤウニシナケレバナラヌ、謂ハバ將來行フベキ義務ヲ日本ニ負ハセテ居ル譯デアリマス、將來義務ヲ負フト云フコトハ直チニ憲法ノ條項ニ變化ガアルト云フコトニハナリマセヌ、現在ノ此ノ瞬間ニ於キマシテハ、勿論或場面ニ於キマシテ此ノ「ポツダム」宣言ニ基ク條約ノ影響ハアリマスケレドモ、本質的ニ申シマシテ、日本ノ憲法ノ七十三條ニハ何等ノ影響ハ生ジテ居ナイト考ヘテ居リマス、從ツテ此ノ立場ニ於キマシテ、憲法ヲ改正セムトスル場合ニ於キマシテハ、帝國憲法第七十三條ニ基クノ外、他ニ如何ナル手段モナイ、若シ七十三條ニ依ルコトガ得ナイト云フ場合ハ、國ノ根本ニ於テ大キナ變化ガアツタト云フコトヲ前提トシナケレバナラヌノデアリマシテ、私ハ斯樣ナ前提ヲ了解スルコトガ出來ナイノデアリマス、既ニ第七十三條ニ依リマシテ、此ノ改正ヲ行フコトニスルト致シマスルト、「ポツダム」宣言ヲ承認シタコトノ結果トシテ、日本ノ義務トナツテ居リマスル國ノ政治ノ基本組織ヲ國民ノ自由ナル意思ニ從ツテ、又ハ自由ナル意思決定ニ依ツテ決メルベキデアルトスルコトト如何ナル關係ヲ持ツテ來ルカト云フ問題ガ起ツテ來ルノデアリマス、憲法第七十三條ハ御承知ノ如ク、憲法改正案ハ天皇ガ御發案ニナリ、國會ガ之ヲ一定ノ條件ニ依ツテ議決ヲシ、更ニ又天皇ノ御裁可ヲ俟ツテ効果ガ生ズルコトニナル、此ノ最後ノ段階ハ解釋問題デアリマス、マア左樣ニ考ヘテ居リマス、此ノ七十三條ニ依リマシテ、「ポツダム」宣言ノ要請スル義務ノ履行ガ出來ルカト云フ問題ヲ説カナケレバナラナイノデアリマス、是ハ解ケルカ解ケナイカ、若シ普通ノ法ニ於テ解ケナイトスルナラバ、何等カ別個ノ工夫ヲシナケレバナラナイト云フコトニナルノデアリマスガ、私共ノ見解ハ此ノ二ツノ相異ル觀點カラ來ル事項ガ一ツノ手續ニ依ツテ解決出來ルト考ヘタノデアリマス、何故カナレバ、「ポツダム」宣言ハ政治ノ基本組織ガ國民ノ自由ナル意思決定ニ、是ハ從フトモ讀メマスシ、依ルトモ讀メマス、此ノ二ツノ基礎文書ガアリマスルガ、マア何レニシテモ其ノ「ポツダム」宣言ノ要請ニ依レルカト申シマスルト、日本ノ憲法改正ノ現行ノ手續ハ先ニ申シマシタヤウニ、議會ノ議決ヲ經ルコトヲ條件トシテ居リマス、議會ハ固ヨリ國民ノ代表機關デアリマス、故ニ議會ノ議決ヲ經ルト云フコトニ依ツテ、「ポツダム」宣言ノ要請ハ充シ得ルモノト思ツテ居ル譯デアリマス、一昨日デアリマシタカ、宮澤君ノ御質疑ニ依リマスルト、國民主權ト云フコトヲ前提トサレテ居リマシタガ、其ノコトハ如何ニ解スルニシテモ、國民主權主義ト云フ特殊ナル主義ヲ前提トスルトセザルトニ拘ラズ、現行憲法ニ基キ、議會ノ議決ヲ適正ニ經得ルナラバ、ソレニ依ツテ「ポツダム」宣言ノ求ムル條件ハ充サル、ノデアル、左樣ニ私ハ考ヘテ居リマス、唯言フ迄モナク其ノ憲法改正ノ手續ハ「ポツダム」宣言ノ要請スルモノヨリモ、他ノ手續ガ加ツテ居ルコトハ是ハ自明ノコトデアリマス、此ノ加ツテ居ル手續ト最小限度ノ手續トノ間ニ矛盾破綻ヲ生ジマスルナラバ、是ハ實行上非常ニ困難ナル問題トナルノデアリマス、併シ斯クノ如キ難局ニ處シテ、國民ガ注意深ク行動スル場合ニ於キマシテ、斯樣ナ問題ハ運用ノ方法ニ依ツテ破綻ナク解決シ得ルモノデハナイカ、是ハ豫測デアリマス、其ノ豫測ヲ加ヘマシテ、憲法七十三條ニ依ツテ今囘ノ如キ手續ヲ執ツタ譯デアリマス、從ツテ此ノ措置ハ國内法上一點ノ疑ナキノミナラズ、「ポツダム」宣言ノ要請ヲ充スモノデアル、但シ此ノ實行ノ段階ニ於キマシテ、運用宜シキヲ得サル場合ニハ、更ニ考ヘナケレバナラヌ問題ヲ生ジテ來ルト云フコトハ含マレテ居リマス、私ノ此ノ手續ニ關シマスル主タル御答ハ之ヲ以テ盡キルノデアリマス、唯特ニ淺井君ハ二ツノ點ヲ御指示ニナリマシタ、欽定憲法カラ民約憲法ヲ導キ出セルカト云フ形ヲ以テ疑問ヲ御示ニナツテ居ルノデアリマス、國内ノ正シキ秩序ニ依ツテ又新タナル憲法ノ生レ來タルコトハ、即チ過去ノ秩序ト將來ノ秩序トガ一貫性ヲ持ツテ説明シ得ル爲ニハ、國家ノ同一性、從ツテ國法ノ繼續性ト云フコトガ前提トセラレナケレバナリマセヌ、若シ國家ノ同一性ガ過去及ビ將來ニ於テ一貫セラレ、從ツテ國法ノ基本原理ノ同一性ト云フモノガ、同ジヤウニ論證セラレルナラバ、甲ノ手續ヲ以テ乙ノ結果ヲ導キ出スコトハ、固ヨリ明カニ論證シ得ラレルモノト思フノデアリマス、問題ハ國家ガ果シテ過去現在ニ於テ、根本的面目ヲ改メテ居ルノデアルカ、即チ同一性ヲ失脚シ、從ツテ國法ノ基本體系ノ一貫性ヲ失ツテ居ルノデアルカドウカト云フ問題ガ起ツテ來ルノデアリマシテ、私ハソレヲ、總テ同一性ヲ保ツト云フ前提ノ下ニ考ヘテ居リマス、我々ガ普通ノ言葉ニ於テ用ヒマス革命ハ日本ニハ起ツテ居ナイ、其ノ前提ノ下ニ私ハ説明ヲシテ居リマス、尚此ノ點ニ付キマシテハ、他ノ問題ニ付テ更ニ明カニシナケレバナラヌノデアリマスガ、一應恐ラクハ御聽キニナル方ニハ多少ノ疑ハアリマセウ、ソレハ暫ク御含ミ置キヲ願ツテ、次ノ問題ニ付テ説明スル時ニ、更ニ御考ヲ願ヒタイト思ヒマス、更ニ第一ノ問題ニ付キマシテ、其ノ中ニ含マレテ居ル第二ノ質問トシテ、現行憲法ノ七十三條ハ、憲法ノ條項ヲ改正スルコトヲ豫想シテ居ルノデアル、斯クノ如キ全文ノ改正ト云フコトガ果シテ成立シ得ルモノデアルカドウカ、此ノ疑問デアリマス、是ハ明カニ文字ノ上ニハ條項トナツテ居リマス、且又憲法上諭ノ勅語ノ中ニ於キマシテハ、左樣ナ趣旨ガ示サレテ居ルノデアリマス、此ノ點ニ考ヘマスレバ、今囘ノ如キ全部改正ガ行ハレルコトハ、當時、或ハ文字ヲ用フル時ノ考ヘ方ニ於テ、豫想サレテ居ラナカツタカモ知レナイト思ハレル節ガアルノデアリマス、併シ我々ガ多クノ場合ニ言葉ヲ用ヒマスル時、其ノ時々ノ外部的情勢ト云フモノニ強ク支配サレテ文字ヲ選ブノデアリマシテ、現レマシタ文字ガ直チニ全部ノ氣持ヲ現シテ居ルトハ限リマセヌ、即チ言葉ハ狭イ、併シ其ノ基本ニ在ル所ノ考ハ廣イト云フ場合ハ幾多存在シマス、之ヲ是認シナイ限リハ、法律解釋ノ發展ハ出來上ラナイノデアリマス、此ノ場合ニ憲法七十三條ノ條項改正トアル言葉ノ中ニ、今囘ノ如キ全部改正ガ含マレ得ルカドウカト云フコトハ一ツノ法律解釋ノ問題トシテ起ツテ來ルモノデアリマシテ、ソレハ根本ノ考ヘ方ニ遡リマシテ、國家ガ同一性ヲ保チ、法律秩序ガ同一性ヲ保ツモノデアルトスルナラバ、變ヘラレザル法ト云フモノガアルコトハ豫見出來マセヌ、從ツテ此ノ七十三條ノ言葉ハ狹イニシテモ、其ノ意味ハ廣ク用ヒラレルモノト考ヘルコトガ妥當ト考ヘテ居リマス、ソレガ第一點ニ關シマス御答デアリマス、第二ニ此ノ憲法ノ改正ハ國體ヲ變更スルモノデアルカドウカ、從來ノ法制上ノ通念タル國體、治安維持法等ノ言葉ニ關聯ヲ致シマシテ、此ノ點ヲハツキリサスベキモノデアルト云フ風ノ前提ノ下ニ御質疑ニナリマシタ、此ノ點ハ稍々説明ヲ要スル點デアリマス、國體ト云フ言葉ガ、日本ノ過去ニ於キマシテ色々ナ意味ニ用ヒラレテ居ル、殆ド各種各樣ノ意義ニ用ヒラレテ居ルノデアリマス、極端ナル場合ヲ言ヘバ、國ノ地理的ナ姿、ドンナ形ヲシテ居ルカト云フヤウナ意味ニモ用ヒラレテ居ルノハ、延喜式等ニ於テ既ニ其ノ例ヲ見ルノデアリマス、併シ左樣ナ變ツタ考ヘ方ハ別ト致シマシテモ、併シ種々ナル特色ヲ持チツ、國體ト云フ言葉ガ用ヒラレ、其ノ國體ノ觀念ガ混亂シテ、甲ノ觀念ヲ持ツ人ノ論ト、乙ノ觀念ヲ持ツ人トノ議論ガ紛糾シテ、過去ノ幾多ノ悲シムベキ闘爭ガ國内ニ起ツタコトハ明ナコトデアル譯デアリマス、殊ニ憲法學者ノ最モ先覺者ト目サレル、私ハ目シテ居リマスル或人々ハ、國體ト云フ觀念ヲ國法的觀念トシテ否定シテ居ラレルノデアリマス、ソレモ一ツノ私ハ見識デアルト思ツテ居リマス、過去ノ私ノ所見トハ違ヒマスルケレドモ、ソレハ問題デナク、確カニ一ツノ見解デアツテ、尊重スベキ意味ヲ含ンデ居ルモノト思ツテ居リマス、今我々ニ與ヘラレテ居ル問題ハ、國體ガ變ツタカドウカト云フノデハナクテ、如何ナル意味ニ國體ヲ解スレバ之ガ變ツタカ、如何ナル意味ニ解スレバ國體ハ變ラナイカ、其ノ國體ノ解シ方ヲ甲ノ意味、乙ノ意味ノ取ルト云フ、其ノ區別ノ仕方ガ許サルベキ社會通念上ノ價値ヲ持ツテ居ルカドウカト云フコトニ歸著スルト思フ譯デアリマス、私共ガ國體ト云フ言葉ヲ過去ニ於テ、殊ニ法律系統、政治系統ノ人ニ依ツテ用ヒラル、場合ヲ見マスルト、淺井君ガ御指摘ニナリマシタヤウニ、法律家ハ大體ニ於テ、所謂或意味ニ於ケル主權ノ所在ト云フコトニ依ツテ區別ヲシテ居リマス、天皇ハ統治權ノ總攬者デアル、是レ即チ日本ノ國體ヲ現ス規定デアル、斯樣ニ言ツテ居リマス、同時ニ他ノ一面ニ於キマシテ、國體ハ不可變ノモノデアル、此ノ國體ガ變ル時ニハ國家ガ全然別ノ國家ニ、少クトモ國ト言ツテ居ツタ、過去ノ意味ニ於キマシテハ國ガ變ルノデアル、斯ウ云フ意味ヲ持ツテ説明ヲシテ居ルト思フノデアリマス、詰リ國體ハ變ルベカラズト云フ原理ヲ、一方ニ於テ國體ハ斯ウ云フモノダト、斯ウ云フ風ニ説明ヲシテ居リマス、併シ我々ノ今置カレテ居ル立場ニ於キマシテ、我々ハ國ガ變ルトハ思ツテ居リマセヌ、我々ノ國家ハ一人ノ天皇、ソレハ過去及ビ將來ニ亙ツテノ一貫セル國民結合ノ倫理的中心デアル、私ハ天皇ヲ憧レノ中心デアルト申シマシタコトハ、是ハ早分リスル、謂ハバ枕詞附ニ於テ言フ所ノ言葉デアリマシテ、必シモ的確ナル内容トハ言ハレナイデアリマセウ、稍々正確ニ言ヘバ結局國民ノ心ガ天皇ニ繋ツテ、奥深クソコニ聯繋ガ出來テ居ル、之ニ依ツテ日本國家ガ確定不動ノ一ツノ結合體トナツテ居ルト云フコトデアリマシテ、此ノ意味ニ於キマシテ我々ハ變ルモノトハ思ツテ居リマセヌ、ダカラ此ノ意味ニ於キマシテ、我々ハ何等國家ノ基本特色ハ變ツテ居ナイノデアル、國家ハ同一性ヲ持ツテ居ルモノデアルト考ヘテ居ルノデアリマス、茲ニ國體ト云フ意義ヲ用ヒ來ルナラバ、國體ハ不可變デアルト云フコトニナリ、私ハ其ノ言葉ヲ定義ヲ加ヘツ、今迄説明ヲシテ來テ居リマス、謂ハレナク國體ハ變ラヌトハ申シテハ居リマセヌ、次ニ第二ノ法律的慣例ニ於テ、學説上認メラレテ居リマスル國體觀念、及ビ前ニ御述ニナリマシタ、治安維持法ノ解釋ノ上ニ於テ認メラレテ居リマスル國體觀念ト云フモノハ、是ハ此ノ憲法草案ノ若シ現實ノ法ニナリマスルニ於キマシテハ、變ルコトハ疑ノナイコトデアリ、是ハ衆議院以來、私ハ明白ニ其ノ意味ヲ説明シテ居ルノデアリマス、併シナガラ此ノモノガ變ルト致シマシテモ、我々ノ國家ノ同一性、國法ノ繼續性ト云フモノハ果シテ變ルデアラウカ、變ラナイデアラウカ、私ハソレヲ變ラナイト信ズル、信ズルノデハナク、ハツキリ見定メテ居ルト云フコトハ、私ノ前ノ言葉デ申上ゲタ所デアリ、恐ラク國民諸君ガ御信ジニナル所ノモノデアルト思ヒマス、左樣ニ考ヘテ行キマスルト、此ノ意味ニ國體ト云フ言葉ヲ使ヘバ、ソレハ國ノ同一性ノ下ニ尚變リ得ル所ノ國體デアル、斯ウ云フコトニナルノデアリマス、併シ左樣ナモノヲ我我ハ過去ニ於テ國體トシテ非常ニ尊重シ、非常ニ敬愛シテ、其ノ觀念ニ基イテ激シキ論爭ヲシタデアリマセウ、サウデハナイノデアリマス、變リ得ルモノニ付テ誰ガソンナニ眞劍ニ爭ツタデアリマセウカ、サウデナイノデアリマス、我々ハ目ノ前ニ於テ、今申シマシタ法律的國體ト云フモノヲ扱ツテ居ツタコトハ事實デアル、併シヨリ多クノ經驗ヲ積ミ、新シイ目醒メノ上ニ之ヲ見マスレバ、我々ガ國體ト考ヘテ居ツタノハモツト根本ニアル、即チ國ト終始シテ變ラザル國ノ根本ノ姿デハナカラウカ、斯ウ云フ所ニ疑問ハ移ツテ行クノデアリマス、移リ行クモノハ謂ハバ政體デアリマス、憲法學者ノ言ツテ居ル所ノ國體、政體ノ分ケ方ト云フモノハ、結局國家ト運命ヲ共ニスル特色ヲ國體ト謂フ、運命ヲ共ニセザル、變化自由ノ範圍ニ於キマシテ政體ヲ認メテ居ルノデアリマス、其ノ意味ニ於キマシテ我々ガ國體ト言ツテ居ツタ一ツノ考ハ、實ハ政體トモ謂フベキモノデアリマス、茲ニ著想ヲ致シマシテ、私ハ定義ヲ加ヘツ、國體ハ變ラナイ、此ノ改正憲法ハ政體的ニハ基本的ナ變化ガアル、或ハ或場合ニハ大幅ノ變化ガアルト、斯ウ言ツテ居ツタノデアリマス、斯樣ニシテ此ノ國體ト云フ言葉ニ一ツノ定義ヲ與ヘマシテ、今度此ノ國體ト云フ觀念ガ果シテ、國民全體ニ於テ、私ノ申シマシタヤウナ國體觀念ガ國民全體ニ於テ受入レラレルデアラウカト云フコトニ問題ガ移ルノデアリマス、法律學者ハ緻密ニ自己ノ學問的傳統ヲ守ツテ居リマスルガ故ニ、容易ニ呑込ムコトハ困難デアリマセウ、併シ日本國民ノ大多數ハ斯クノ如キ考ヘ方ニ依ツテ、今迄國民諸君ガ考ヘテ居ツタ所ノ國體ノ考ガ自ラ説明ガ出來タト思ハレルノデハナカラウカ、君民一如ノ日本ノ、此ノ國ノ道義、姿、謂ハバ憲法ノ基礎ニアル姿ト云フモノニ國體ト云フコトヲ求メテ居ルト云フコトハ、本人ハ知ラナカツタカモ知レナイ、併シ想ヒ此處ニ至レバ、ソレコソ自分ノ求メテ居ツタモノデアルト思ハル、ト思フノデアリマス、ソレハ私ノ解釋デアリマス、此ノ前提ニ基キマシテ、私ハ國體ト云フ概念ヲ定義ヲシテ、斯クノ如キ國體ハ變ラナイノデアル、同時ニ今御質疑ニナリマシタヤウナ此ノ法律學者的國體、又ハ從來一部ニ於テ國體ト言ハレテ居リママシタ、其ノ國體ト云フモノハ、是ハ變ツタト明白ニ今迄モ言ツテ居ル、今日モ之ヲ言ヒ得ルノデアリマス、ダカラ此ノ點ニ於キマシテハ、私モ罪人ノ一人デアル、國體ト云フ觀念ヲ狹ク扱ツテ居リ、之ニ幾多ノ説明ヲ加ヘタノハ、其ノ責任ヲ免レ得マセヌ、過去ニ於キマシテ、併シソレハ私獨リノ意見デナク、日本ニ於テサウ云フ考ガ其ノ時代時代ニ當面スル現象的ナルモノニ著想ヲシテ述ベラレタコトハ、歴史的ニハ或ハ是認セラレテ宜イノデハナカラウカト考ヘテ居リマス、次ニ第三ニ君主ト國民トノ主權ハ何處ニアルカト云フ時ニ、私ガ天皇ヲ含ンデ居ル國民全體ニアル、或ハ國民全體ニアル其ノ中ニハ天皇ヲ含ンデ居ル、斯ウ云フ風ニ説明致シマシタコトニ付キマシテ、其ノ連日ノ此ノ議場ニ於キマシテ幾多ノ御疑ヲ受ケテ居ル感ジハツキリシテ來タノデアリマス、是ハ私ノ言葉ニ多少ノ不用意ガアツタカモ知レヌ、寧ロ分リ切ツタコトト思ソタガ爲ニ、別ニ註釋ヲ加ヘナカツタコトガ、多クノ疑惑ヲ生ジタノデハナイカト思ツテ居リマス、是ハ言フ迄モナク衆議院ニ於キマシテ此ノ議論ガ起リマシタ時ニ、此ノ時ニ、天皇ヲ含ムト申シマシタ其ノ天皇ハ、現身ノ天皇、言ヒ換ヘレバ天皇御一人トシテノ個人的資格ニ於ケル天皇ヲ言ツテ居ツタコトハ疑ハゴザイマセヌ、其ノ積リデ申シテ居リマシテ、又聞ク人モ恐ラク其ノ積リデアル、了解セラレルト思ヒマシタ、ソレニ對スル一言半句ノ特別ナル意味ノ御質問ハナカツタノデアリマス、是ハ天皇ヲ、公ノ地位ニ付テ見マスレバ、是ハ其ノ特別ナル立場ニ於テ、特別ナル御權能ヲ御持ニナルノデアツテ、之ヲ一般主權ノ基礎トスルコトヲ得ザルコトハ、尚總理大臣ヲ著テ國ノ主權ノ所在ト言ヒ、國會議員ヲ以テ直チニ國ノ主權ノ所在ト云フコトト一致セザルト同ジコトニ歸著スルノデハナカラウカト思ヒマス、私共ハ國ヲ構成シテ居ル一切ノ構成員ノ全體ガ、國ノ主權ノ歸屬スル所デアルト云フ風ノ意味ヲ以テ説明シテ居ツタト云フコトヲ一ツ御了解願ヒタイト思フノデアリマス、言葉ガ不備デアリマシタトスレバ、私ハ此ノ際明カニ補正ヲ致シマス、サウシテ次ニ、其ノ點カラシテ、今淺井君ハ恐ラクハサウ云フ風ナレバ分ラヌコトモナイカモ知レヌガ、今度ハ主權ハ國家ニ在ルト云フコトヲ是認シタデハナイカ、ソレト矛盾スルヂヤナイカト、斯ウ云フヤウナ風ノ御質疑ガアリ、主權ハ國家ニ在ルト言ツタナラバ、ソレガ最モ良イノデハナカラウカト、斯ウ云フヤウナ考デ以テ御質疑ニナツタト了解シテ居リマス、成ル程主權ハ國家ニ在ルト云フコトハ明カニ言ヘルノデアリシテ、此シノ憲法ノ改正案ニ、衆議院ノ修正前ノ立場ニ於キマシテハ、國ノ主權ト云フヤウナ風ニ、ハツキリ使ツテ居ル所ガ第九條ニアルノデアリマス、現ニ殘ツテ居リマスル條文ノ中ニモ、矢張リサウ云フ風ニ讀ンデ宜ササウニ思フ主權ノ文字ガ殘ツテ居リマス、ガ併シ是ハ私ガ度々繰返シ此ノ議場ニ於テモ申シマシタ通リ、主權ト云フ言葉ニハ幾多ノ變ツタ意味ガアル、此ノ點ハ特ニ申上ゲマセヌデモ淺井君ハ十分御了知ニナリ、恐ラク御書キ物等ニ於テモ明カニシテ居ラル、ノデアリマシテ、茲ニ繰返ス必要ハアリマセヌガ、國家ガ主權ヲ持ツテ居ル一ツノ意味ニ於テハ當リ前ノコトデアリマス、併シ國家ガ主權ヲ持ツテ居ルト云フコトハ、今我々ガ探シテ居ルモノト違フノデアリマス、我々ハ國ノ意志ガドウシテ決定スルノデアルカ、此ノ國ノ意思ガ纒リ上ツテ來ル所ノ其ノ根源ノ所ガ何處ニ在ルノデアラウカ、國家ヨリモモツト奥ニ遡ツテ、何處ニ此ノ國家ノ働ノ源泉ガアルノデアラウカト云フコトヲ探シテ居ルノデアリマスルカラシテ、主權ハ國家ニ在ルト云フコトダケデハ、恐ラクハ其ノ方面ノ人々ニハ、寸毫ノ滿足ヲスラ與ヘ得ナイト思フノデアリマス、茲ニ於テ主權ノ第二ノ意味ト申シマスカ、斯クノ如キ、國家ノ持ツテ居ル活動ノ、其ノ原動力トナルベキ精神力ハ何處ニ基ヲ持ツテ居ルカト云フ所ニ遡ラナケレバナラフヌト思フ譯デアリマス、ソレヲ我々ハ文字コソ改マリシタガ、改ラナイ前カラモ、同ジク日本國家ヲ構成シテ居ル所ノ人々ノ全體ニアルノダト答ヘテ居リマス、此ノ答ハ國家主權ト云フコトダケデハ出テ來ナイノデアリマス、啻ニ國家主權ト云フコトダケデアリマスルナラバ、茲ニ一切ノ専制政治其ノモノスラモ、此ノ上ニ築キ上ゲ得ル構想トナルノデアリマス、國家ガ主權ヲ持ツテ居ル、此ノ主權ヲ或特定人ガ發動スルト云フコトニナリマスレバ、國民ハ其ノ意思、構想ノ全然外ニ立ツテモ出來上ルコトデアリマシテ、我々ノ考ヘテ居ル徹底セル民主政治トハ又縁ノ切レタモノニナリマス、之ヲ民主政治ト密接ナ關係ニ迄押シ進メマスルニハ、ドウシテモ更ニ深ク掘リ進メテ、何處カラ此ノ意思ノ原動力ガ出テ來ルカト云フ時ニ、是ハ國民ノ國家ヲ構成シテ居ル人々、一切ノ人ニ精神的繋リヲ持ツ、其ノ根源ハ各人ノ所ニ在ルト云フ所迄考ヲ進メナケレバナラヌト思フノデアリマシテ、之ガ即チ國民ノ總意ガ至高デアルト言ヒ、主權ハ國民ニ在リトナツタ所デアリマシテ、私ノ申上ゲマスコトハ之ヲ以テ一應盡キルノデアリマス、但シ更ニ考ヘテ行キマシテ辿リ著ケバ、國民ノ各人ニ原動力ガアルト云フ、其ノ主權ガドウ云フ風ニ纏ツテ來テ、如何ナル徑路ヲ經、如何ナル考ヘ方ニ依ツテ一ツノ國家ノ意思ニナツテ來ルノデアラウカト云フコトノ説明ニ至リマシテハ、是ハ各人各樣ト言ヒマスカ、古來種々ノ學説ノアル所デアリマシテ、之ヲ憲法ノ内容トシテ採上ゲルコトハ甚ダ相應シクナイ、斯ウ云フ風ニ考ヘラレテ來ル譯デアリマシテ、今迄ノ衆議院等ニ於キマシテモ、或學説ヲ擧ゲテ主張セラレタコトハアリマスガ、ソレハ唯參考ノ爲ニオ互ニ議論ヲ交ハシタ程度デアツテ、議會ノ議事ノ本體ト爲スベキモノデハナイ、要ハ其ノ出發點ガ國民ニ在ルト云フコトニ依ツテ、先ヅ一應ノ必要ナ論點ハ盡サレルモノデハナイカ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、斯樣ニ考ヘテ行キマスレバ、日本國家ノ此メ纏ツタ意思ト云フモノハ、結局日本國家ヲ構成シテ居ル此ノ人間、一人々々ノ個人的、本質的繋リヲ持ツテ居ルノデアル、斯ウ考ヘル外ハナイト思ヒマス、ダカラ天皇ニ對シテ固ヨリ其ノ國家構成員ノ中ニ御含レニナルト考フルノ外ニ行ク途ハナイノデアリマシテ、若シ此ノコトヲ否定致シマスナラバ、國家ニハ二ツノ集團ガアル、主權ヲ有スル集團ト、主權ヲ有セザル集團ト云フコトニナリ、國家ハ階級的ノ組立トナリ、或種ノ政治的「イデオロギー」ヲ充スニ過ギナイト云フコトニナラウト思ヒマス、デアルカラ衆議院ニ於キマシテ、主權ハ國民ニ在リト云フ言葉ヲ故ラニ使ハレタコトハ、多少ノ其處ニ含ミガアルモノト了解致シテ居リマス、斯樣ニ考ヘテ來マシテ、次ニ、私ハ主權ガ國民ニ在リト云フコトハ、何モ今囘創設シタコトデハナイト云フ風ナコトヲ申上ゲタコトニ付キマシテ、御意見ヲ御示ニナリマシタガ、確カニ私ハ左樣ニ申シマシタ、日本ノ國家ハ歴史ニ現レテ居リマスル若干ノ文字ハ、神話ヲ基礎トシテ國民ニ納得ヲ強フルガ如キ姿ヲ呈シテ居リマス、併シ我々過去ノ國民モ固ヨリ神話ニ依ツテ誘導サレタモノモアリマセウ、併シソレノミニ依ツテ此ノ日本ノ國家ガ結合ヲシテ居ツタモノトハ思ハレマセヌ、近代的ノ歴史家ノ論證スル所ニ依リマスレバ、此ノ點ニ於テ相當明カナルモノガアルノデアリマス、私ハ歴史家デハアリマセヌ、従ツテ包括的ナル見地ニ立ツテソレゾレノ歴史家ノ意見ヲ承認スルヨリ外ニ途ハアリマセヌガ、我々ノ知リ得ベキ過去ノ歴史ニ遡リ、又現在ノ我々ノ心ニ顧ミマシテ、天皇ヲ以テ、私ノ言葉ノ謂ハバ憧レノ中心トシ、之ニ依ツテ統一セラレテ來タト云フコトハ結局是ハ儼然タル事實デアル、而モ斯クノ如キ姿デアルト云フコトハ、盲目的ニ國ノ權力ニ服從シテ居ツタノデハアリマセヌ、意識的ニ服從シテ居ツタノデアル、脅迫セラレテ服從シテ居ツタノデモナケレバ、神經ヲ麻痺セラレテ服從サセラレテ居ツタ譯デハアリマセヌ、其ノ時々ノ姿ニ於キマシテハ、或法律ノ規定、或神話ノ教ヘト云フモノハ強イ姿ヲ持ツテ居ツタカモ知レマセヌガ、心ノ中ニ於キマシテ、ハツキリ自己ノ意思ト云フモノニ、價値ヲ認メテ居ツタト云フコトハ、過去ノ文學、或ハ若干ノ事實、多クノ人ノ所見ト云フモノヲ通シテ不十分ナガラモ認メ得ルデアラウト思ヒマス、私今ノ立場ニ立ツテ、之ヲ反省致シマスル時ニ、我々ハ過去ニ於テ不十分デハアツタケレドモ、主權ハ矢張リ私ノ申シマシタヤウニ、國家ノ意思ノ源泉タルモノガ、國民全體ニアリト云フ氣持ヲ持ツテ居ツタノデアル、或ハソレガハツキリ意識サレナイデ、外ノモガ特ニ顯著ニ現レテ居ツタノデアル、今日必要ヲ生ジ、又時代ノ轉囘ニ應ジテ心ガ目覺メタ時ニ、我々ハ茲ニ認識ノ轉換ヲ生ズルノデアル、認識ノ轉換ソレ自身ハ、社會的ニ見テ大キナ事實デアル、私ハ認識ノ轉換ト言ツタカラツテ、事柄ガ小サクナルトハ申シマセヌ、昨日申シマシタ變ナ説デハアリマスルケレドモ、天動説、地動説ガ矢張リ此ノ場合ニ當嵌ルノデアリマシテ、認識ガ變ツタトシテモ、現實ノ本質ガ變ラナイト云フコトニ於キマシテ、日本ノ國家ハ完全ナル一貫性ヲ持ツテ居ルノデアル、既ニ日本ノ國家ガ一貫シテ居ルトスレバ、曩ニ申述ベマシタ通リ、國家ノ一貫性ニ伴ツテ、憲法ハ法的一貫性ヲ持ツテ居ル、其ノ憲法ノ一貫性ヲ以テ、政體ガ變ツテ行クト云フコトハ、適法ニ是認セラレテ宜イノデハナカラウカト、斯樣ニ私ハ考ヘテ居ル次第デアリマス、是ガ第三ノ點ニ關スル御答デアリマス、次ニ第四ノ問題ト致シマシテ、天皇ノ御地位ノ問題ヲ御説明ニナリ、天皇ハ威嚴アル御地位ヲ御持ニナラナケレバナラヌ、ト云フコトヲ前提トシテノ御質疑デアリマシタ、是ハ全ク左樣デアルノデアリマス、天皇ハ政治上ノ權力ヲ御持ニナル、其ノ他之ニ類似スル所ノ働キヲ行ハセラレマスル場合ニハ、過去ノ弊害ガ思ヒ浮ベラレルノデアリマス、併シナガラ我々ノ憧レノ中心デアルト云フコトノ基盤ヲ持チツツ、此ノ制度ニ於キマシテ、國ノ象徴トシテ、國民統合ノ象徴トシテ仰ガルヽ所ノ天皇ハ、十分ノ「デイグニテイー」ヲ御持ニナルト云フコトハ、當然過ギル程當然デアリマシテ、「デイグニテイー」ヲ御持ニナリマシテ、何等ノ政治的弊害モナク、懸念スベキ所ハアリマセヌ、是ハ十分尊重スベキ點デアルト思ハレマス、從ツテ此ノ憲法ノ改正案ノ中ニ於キマシテハ、其ノ點ハ必要ナル程度ニ於テ、十分意識サレテ居ル譯デアリマス、六條、七條等ノ權能ニ付キマシテ、此ノ定メ方ニ付キマシテ衆議院等ニ於キマシテハ、右左色々ノ御意見ガアリマシタ、權能ヲ減スガ宜イト云フ論モ、相當ニアツタノデアリマス、併シ私共ハ空ナル名稱ヲ天皇ノ象徴タル地位ニ持タシ得ルモノデハナイ、之ニハ「デイグニテイー」其ノ他ヲ考ヘテ、象徴タル御地位ガ十分發揮セラルヽト云フダケノ憲法上ノ用意ヲシナケレバナラヌ、此ノ見地ニ基キマシテ、諸般ノ事情、是ハ實ニ多角形ニ考ヘナケレバナリマセヌガ、此ノ諸般ノ事情ヲ考ヘテ、憲法第一章ニ設ケラレテ居ル、各種ノ事項ヲ考慮致シタ譯デアリマス、更ニ淺井君ハ其ノ觀點ニ立ツテ、刑事上ノ無答責ノ規定ガナイ理由ハドウカ、ト斯ウ云フ風ノ御考デアツタノデアリマス、此ノ憲法ノ草案ハ獨リ天皇ガ刑事上無答責デアルト云フ規定ヲ設ケナイノミナラズ、政治上ノ無答責ノ規定モ設ケテ居リマセヌ、ソレハ明カニ憲法ノ文字ノ示ス所デアリマス、何故ニ左樣ナ政治的、刑事的ナル、責任ノ所屬セザルコトヲ憲法ニ規定シナカツタカ、一ツノ考ヘ方ハソレハ條理上推測シ得ベキコトデアツテ、態々書クト云フコトハ、如何ニモ此ノ憲法ノ本當ノ考ヘ方、詰リ象徴トシテ天皇ヲ仰ギ奉ルト云フ根本的ノ考ヘト、寧ロ背馳スルモノデハナカラウカ、斯ウ云フ趣旨カラ來テ居ルノデアリマス、大體此ノ現行ノ憲法ノ下ニ於キマシテ、天皇無責任ノ規定ハアリマスルケレドモ、ソレニ對シテスラモ學者ノ間ニハ、既ニ宣言的規定デアル、既ニ存スルコトヲ其ノ儘書イテ居ルノデアル、詰リ新タナル何物モ加ヘナイト云フ、説明スラアツタト思ヒマス、國ノ象徴トシテ、國ノ總テノ姿ガ、此處ニ見ラレルト云フ、此ノ特殊ナル地位ニ伴ヒマシテ、斯樣ナ政治的、及ビ刑事的責任ガナイト云フコトハ、私ハ自明ノ理トシテ考ヘタイト思ツテ居ルノデアリマス、ソレガ第一ノ點デアリマス、第二ノ考慮ノ點ト致シマシテハ、獨リ自明ニ止ルノミナラズ、斯樣ナ規定ヲ設ケマスルコトハ、寧ロ國民ガ擧ツテ仰ギ奉ラムトシテ居ル、此ノ象徴タル御地位ニ對スル國民ノ心持ニ、法律的ナル冷カサヲ以テ、何トナク好マシカラザル感情ヲ殘スモノデハナカラウカ、サウ云フ點ヲ考ヘマスルト、アツテモ宜イト云フノデナクツテ、ナイ方ガ宜イト云フヤウナ風ノ考ヘ方ニナラウト思ヒマス、更ニ第三ノ點ニ於キマシテ、左樣ニ考ヘテ行ケバ、萬々一解釋上違ツタ見解ガ出テ來テ、サウ云フ責任ガ國法上アルンヂヤナイカ、斯ウ云フ論ガ起ツテ來タラ困ルヂヤナイカ、ト云フ疑モ起リ得ルト思ヒマス、如何ナルコトニ付キマシテモ、疑ヲ起サウト思ヘバ、恐ラクハ起シ得ルモノデアリマセウ、併シナガラ此ノ憲法ノ規定ノ建前等ヲ見テ行キマスルト、曩ニ淺井君自ラモ御示シニナリマシタ通リ、政治的責任ハ、第三條等ノ規定ヲ通シテ考ヘテ見テ、憲法ニ國法上ナイト云フコトハ、解釋上恐ラク明瞭デアラウト考フルノデアリマス、刑事的責任ニ付キマシテハ、左樣ナ規定ハナイノデアリマスルケレドモ、強ヒテ言ヘバ、是ハ強ヒテ言ヘバデアリマス、憲法七十一條ニ國務大臣ノ刑事訴追ニ付テ、内閣總理大臣ノ同意ガナケレバ、訴追サレナイ、斯ウ云フ規定ガアリマス、既ニ國務大臣ニ付テスラモソレガナイ時ニ、規定ナキ天皇ニ付テハ、解釋上當然自明ノ理トシテ、ソレガ省カレテ居ルノデハナイカト云フヤウナ解釋モ、十分生レ得ルモノト思ヒマス、ダカラ第一ノ理由ハ本質的ニ不用デアル、第二ノ理由ハ、之ヲ設ケルコトガ國民ノ感情ノ上ニ、必ズシモ適切デハナイ、第三ノ理由ハ、之ヲ置カレナクテモ其ノ疑問ニ答ヘル法律的ノ途ハ、解釋ノ上ニ略々備ツテ居ル、斯ウ云フ譯デ規定ヲ設ケナカツタノデゴザイマス、御答ヘ申上ゲマス
○淺井清君 私ノ質問ヲ終了致シマス
○議長（公爵徳川家正君） 休憩ヲ致シマス、午後ハ一時十五分ヨリ開會致シマス
午後零時十九分休憩
━━━━━◇━━━━
午後一時二十四分開議
○議長（公爵徳川家正君） 休憩前ニ引續キ會議ヲ開キマス、昨日南原君ノ質疑ニ對シ、内閣總理大臣ヨリ發言ヲ求メラレテ居リマス、内閣總理大臣
〔國務大臣吉田茂君登壇〕
○國務大臣（吉田茂君） 南原博士ニ御答ヲ致シマス、留保ニナツテ居リマス御質疑ノ第一點ハ、三月ノ草案要綱發表ト「ポツダム」宣言ニ所謂自由ニ表明サレタ國民ノ意思ニ依ル最高政治形態ノ決定トノ間ニ如何ナル客觀的關係ガアルカト云フ御尋ト承知致シマスガ、政府ノ改正案ハ議會ニ付議セラレマシテ、國民ノ代表者ニ依ツテ自由ニ討議サレ修正サレルベキモノデアリマシテ、此ノ議會ニ於ケル手續ガ即チ御示シノ「ポツダム」宣言ノ條項ニ該當スルモノト考ヘマス、又其ノ爲ニ政府ハ特ニ總選擧施行以前ニ改正案ノ要綱ヲ發表致シタノデアリマス、又修正ノ事由ニ付テモ屡々政府ハ何囘トナク確認致シテ居リマス、故ニ其ノ間ノ關係ハ、今申シタヤウニ「ポツダム」宣言ノ條項ガアル爲ニ特ニソレダケノ政府ハ處置ヲ執ツタノデアリマス、又第二ノ御質問ハ、改正案ノ成立ニ付テ色々ナ世間ニ噂ガアル、臆測ガアル、其ノ爲ニ將來憲法ノ安定性ガ危ブマレルガ政府ハ之ヲ考ヘテ居ルカ、又如何ナル對策ヲ講ズル積リデアルカト云フ御尋ノヤウニ承知致シマスガ、改正案ノ原案ハ政府ガ立案致シマシテ、議會ニ付議致シテ參リマシタモノデアリ、又衆議院ハ相當ノ期間、其ノ審議ニ時間ヲ費シテ愼重審議ヲ致シテ居ルノデアリマスルカラ、世間ノ臆測、如何ナルコトカ承知致シマセヌガ、改正案ノ性質ニ付テハ、十分國民ノ間ニ徹底シテ居ルモノト考ヘラレマスルシ、其ノ安定性ヲ害スルヤウナ事情ハ介在シナイモノト私ハ考ヘマス、又國民ニ於テモ相當納得シテ居ル所ガアルト私ハ考ヘルノデアリマス、尚本案成立後ハ、政府ニ於キマシテモ其ノ精神ヲ津々浦々迄徹底サスル爲ニ十分盡力ヲスル積リデ居リマス、御答ヘ致シマス
○澤田牛麿君 私ハ總理大臣ニ對スル質問ガ殘ツテ居リマスガ‥‥‥
○議長（公爵徳川家正君） 心得テ居リマスガ、通告者ガ終リマシテ、御許シスル積リデ居リマス
○澤田牛麿君 總理大臣ガ御見エニナツテ居リマスカラ‥‥‥總理大臣ハ大抵御出席ニナラヌヤウデアリマスカラ、オイデノ時ニ聽カナイト聽ケナイノデスガ‥‥‥
○議長（公爵徳川家正君） 澤田君ヨリ此ノ際通告ノ順序ヲ經ズニ總理大臣ニ質疑ヲシタイト云フ申出ガゴザイマス、許可ヲ致シテ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議アリ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） ドナタデスカ
○子爵松平親義君 異議アリ
○議長（公爵徳川家正君） 只今ノ澤田君ニ發言ヲ許可スルト云フコトニ同意ノ諸君ノ起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○議長（公爵徳川家正君） 宜シウゴザイマス、反對ノ諸君ノ起立ヲ願ヒマス
〔起立者多數〕
○議長（公爵徳川家正君） 反對多數ト認メマス、仍テ澤田君ノ質問ハ他ノ通告ガ終リマシタ後ニ許可スルコトト致シマス、佐々木惣一君
〔佐々木惣一君登壇〕
○佐々木惣一君 私ハ只今カラ帝國憲法改正案ニ付テ質問ヲ致スノデアリマスガ、私ノ質問ノ問題ハ頗ル多キニ亙ツテ居リマスガ、而モソレガ苟モ此ノ帝國憲法改正案ヲ全體トシテ可トスルカ、或ハ可トセズカト云フコトヲ決定スルコトニ付キマシテハ、皆聯關シテ居ルノデアリマスルカラ多クナリマスルケレドモ、暫ク御聽キヲ願ヒタイト思フノデアリマス、仍テ此ノ私ノ質問ノ問題ヲ、詰リ帝國憲法改正ノ前提ニ關スル問題、帝國憲法改正ノ仕方ニ關スル問題、及ビ帝國憲法改正ノ内容ニ關スル問題ノ三類ニ分チマシテ、最後ニ附加ヘテ本案、即チ帝國憲法改正案ノ取扱ニ關スル問題ニ付テ質問致サウト思フノデアリマス、言フ迄モナク今囘ノ改正案ハ、現行ノ帝國憲法ニ對シマシテ全面的ニ改正ヲナサムトスルモノデアリマス、殆ド跡形モナイト云フテ宜イ程ニ帝國憲法ヲ改正セムトスルモノデアリマスルカラ、此ノ改正案ガ可デアルカ可デナイカト云フコトヲ判斷ヲスルニ當リマシテハ、改正案ノ規定ヲ總括的ニ見マシテ、是ガ我ガ國ノ根本法ヲ定メル場合ノ基本思想ヲ總括的ニ明カニシテ掛ラナクテハナラナイノデアリマス、單ニ其ノ中ニ含マレテ居リマスル所ノ個々ノ條項ヲ別々ニ引キ離シテ見テ、之ヲ吟味致シテ見マシテモ、私ノヤウナ立場ニ於キマシテハ、到底帝國憲法ノ改正案ヲ全般的ニ可トスルヤ可トセザルカト云フコトヲ判斷シ得ルモノデハナイノデアリマス、恐ラク今日我ガ國民モ、此ノ改正案ニ付テ惑フ所ガ多イト思フノデアリマスルガ、其ノ惑フ所以ノモノハ、或ハ全般的ニ見テ、一體ドンナ根本法デアルカト云フヤウナコトヲ判斷ニ苦シム點ガ多イノデアラウト思ヒマス、固ヨリ個個ノ問題、例ヘバ國體論ト云フヤウナコトニ付テモ、判斷ニ迷ツテ居ル點モアルカト思ヒマスケレドモ、兎ニ角全般的ニ見テ、總括的ニ見テ一體如何ナル根本法デアルカト云フコトニ付テ、殆ド歸スル所ガナイカト思フノデアリマスルカラ、ソレデ私ハ甚ダ時間ヲ取ルカモ知レマセヌノデスケレドモ、即チ多クノ問題ヲ茲ニ掲ゲマシテ、サウシテ質問ヲ致サウト思フノデアリマス、但シ多クノ問題ヲ採上グルト申シマシテモ、擧ゲ來リマスレバ、殆ド枚擧ニ遑ハアリマセヌ、併シナガラ私ハ總理大臣ノ一般施政演説ニ關スル質問ノ場合ニ、少シク帝國憲法ノ改正ノコトニモ言及致シマシタ、是ハ總理大臣御自身モ其ノ演説中ニ言及致サレテ居ルノデアリマスルカラ、私モ及ンダノデアリマスルガ、ソレハ私ガ施政‥‥政治ヲ行フト云フコトノ全般カラ見テ、帝國憲法ノ改正ガ如何ナル意味ヲ持ツカト云フコトヲ明カニスル爲ニ質問申上ゲタノデアリマス、今囘ハ是ト異ナリマシテ、帝國憲法其ノモノノ改正ト云フコトヲ茲ニ引擧ゲテ、サウシテソレガ帝國憲法ノ改正ト我ガ國家トノ關係ニ於テ如何ナル意味ヲ持ツカト云フコトヲ明カニスル爲ニ質問申上ゲルノデアリマス、ソレモ併シ帝國憲法ノ定メテ居リマスル所ノ國家的事項ヲ個々ニ引擧ゲテ、個々ニ個別的ニ引擧ゲテ質問申上グルノデハアリマセヌ、帝國憲法ノ定メテ居リマスル所ノ個々ノ事項ニ付テ固ヨリ質問スルノデアリマスルケレドモ、之ニ依ツテ以テ帝國憲法ト云フモノガ全般的ニ如何ニ改正スルノデアルカト云フコトヲ理解スル爲ニ質問申上ゲルノデアリマス、帝國憲法ノ定メテ居リマスル所ノ個々ノ事項ニ付テ、更ニソレヲ個別的ニ見テ質問申上ゲルコトハ委員會ニ讓ル積リデアリマス、サウ云ウ意味デ私ハ茲ニ質問ニ立ツタノデアリマスガ、ソレニ致シマシテモ、頗ル問題ガ私ニ取リマシテハ多イノデアリマスルカラ、豫メ御了承ヲ御願シタイノデアリマスノデスガ、ソレデ私ハ從來國家ノ實際ノ問題ニ付テ意見ヲ述ベマスルコトモアリマシタガ、今囘ノ如ク實ニ嚴肅ナル、或ハ恐レ謹ムト云フヤウナ氣持ニ打タレタコトハナイノデアリマス、苟クモ我ガ國ノ根本法デアルノミナラズ、濫リニ改正ヲスルコトヲシナイト云フコトヲ特ニ明言セラレテ、又我々朝野ノ者共モ皆斯ク信ジ來ツタ此ノ憲法ヲ、今日直チニ全面的ニ改正セムトスルノデアリマスルノデスカラ、固ヨリ其ノ必要ノ有無ハ別ト致シマシテ、之ヲ取扱フ者ハ、何人カ嚴肅ナル所ノ氣持ニ打タレザル者ガアリマセウカ、是ハ言フ迄モナイコトデアリマス故ニ、苟モ此ノ問題ヲ取扱ヒマスル以上ハ、他ノ問題ノ場合モ同樣デアリマスルケレドモ、特ニ眞劍性ヲ持タナケレバナラヌノデアル、之ヲ質問スル者モ、又之ニ答辯ヲナサル方モ、其ノ本當ノ心カラ、本心カラ出タ所ノ言葉デナクテハナラナイノデアルコトハ、何時デモサウデアリマスケレドモ、今囘ハ特ニサウデアラウカト思フノデアリマス、質問ヲスル者モ、答辯ヲスル者モ、所謂説明技術、或ハ之ヲ攻ムルノ技術、或ハ唯答辯ノ技術ト云フヤウナコトニ陥ツテハドウモナラナイノデアリマス、其ノコトハ言フ迄モナイコトデアツテ、且ツ唯是ハ私自身ヲ鞭ツノ言葉トシテ此處デ自分ガ斯ウシテ申上ゲテ居ル時ニ、自分ヲ鞭ツ氣持ヲ更ニ新タニスル爲ニ申シタモノデアリマス、從ツテ政府ノ方々ニ於カレマシテハ私共ナドト較べマシテ、比較ニナラヌ程ノ眞劍サヲ御持チニナツテ居ルコトデアラウカト思ヒマスルケレドモ、併シナガラ尚念ノ爲ニ御願ヒ致シテ置クノデアリマス、唯言葉ヲ操リ、言句ヲ飾ツテ問題ノ核心ニ觸レザラシムルト云フヤウナコトハ、質問者モ答辯者モ共ニ之ヲ絶對ニ避ケナケレバナラナイ、斯ウ云フ意味ニ於テ、當然ノコトデアリマスルケレドモ、私自ラヲ鞭ツテ、サウシテ願ハクハ政府ノ方々ニモ御願シタイト思フノデアリマス、要ハ共々ニ、我ガ帝國憲法ヲ改正スルト云フ此ノ大キナ仕事ヲスルニ當ツテ、協同シテ正シキ途ヲ發見スルト云フコトニ外ナラナイノデアル、勝敗ノ氣持ハナイ、我ノ言フ所ガ良イ、彼ノ言フ所ガ誤ツテ居ル、ソンナ氣持ガアツタラ一切イケナイ、デアリマスルカラ、間違ツタコトガアルト思ツタナラバ即刻之ヲ改メル、私モサウ致シマス、自分ノ説明ガ誤ツテ居ツタラ即刻改メマス、斯ウ云フコトハ當然ノコトデアリマスルケレドモ、併シナガラ私ハ少シク感ズル所ガアリマシテ、此ノ言ヲ敢テ爲スノデアリマス、ソコデ先ヅ質問ノ第一類ニ入ルノデアリマシテ、改正前提ノ問題ニ入ルノデアリマス、其ノ問題ノ第一點ト致シマシテ斯ウ云フコトヲ御尋ネ致シタイト思フノデアリマス、今囘ノ帝國憲法ノ改正ニ依リ、我々ノ達セムトスル要求ハ何デアルカ、從ツテ其ノ要求ヲ達スルガ爲ニハ、必ズシモ今囘帝國憲法ヲ改正スルノ必要ナキ條項ノ改正ヲモ行フノデアルカ、斯ウ云フコトヲ一ツ御尋ネ致シタイト思フノデアリマス、デ今囘ノ帝國憲法ノ改正ト云フコトガ、如何ナル要求ニ依ツテ起ツタカト云フコトニ付キマシテ御尋シテ居ルノデアリマスルケレドモ、併シ之ニ關スル私自身ノ考ヲ先ヅ申上ゲタ方ガ便宜カト思フノデアリマス、私ハ之ニ依リマシテ、我ガ日本ガ國内的ニモ世界的ニモ共同生活、即チ社會生活ノ理念トスべキ所ノ人間ガ共ニ生キル、共生、私ノ言葉デハ共ニ生キル、アノ‥‥生レルヂヤアリマセヌ、共生ト云フヤウナ、共ニ生キルト云フ此ノ理念ヲ實現セナクテハナラナイ、斯クノ如キ共生ノ理念ノ要求ハ、實ハ是ハ普遍的ノモノデアリマシテ、我ガ日本ニ於テモ從來アリマシタケレドモ、併シナガラ是ガ其ノ要求ノ實現ノ方法ニ於テ十分デナカツタ、其ノ結果ガ最近ノ戰爭ノ如キ間違ツタ行動ヲ爲シマシテ、サウシテ今日ノ如キ憐レナル状態ニナツタノデアリマスガ、ソコデ即チ人類ノ、人間ノ、誰シモ持ツテ居リマスル所ノ此ノ共生ノ理念ト云フモノヲ實現スルヤウナ行動ヲ、將來我々ハ執ラナキヤナラヌト云フコトニ自覺メマシテ、其ノ共生ノ理念實現ノ爲ノ行動ハ色々ノ方面ニ於テ考ヘラレルノデアリマスケレドモ、先ヅ取敢ヘズ我々ニ直接ニ與ヘラレタル所ノ經驗カラ出發スルノガ一番宜イ、實際的ナ問題ト致シマシテハ‥‥其ノ我々ニ直接ニ與ヘラレマシタ所ノ經驗ハ言フ迄モアリマセヌ、即チ我々ハ國内生活ニ於キマシテモ又世界生活ニ於キマシテモ、此ノ平和的、道義的ノ態度ヲ取ツテ、人間ノ幸福ヲ増進スルト云フヤウナ、サウ云フコトニドウモ十分デナカツタ、却テ軍國主義的或ハ又極國家主義的態度ヲ取リマシテ、サウシテ人類ノ幸福ヲ増進スルドコロデハナイ、却テ人間ノ基本的權利トカ、基本的ノ人間ノ要求ト云フモノヲ破壊スルト云フヤウナサウ云フ行動ヲ取リ來タツタ、是ガ即チ兎ニ角直接ノ經驗デアリマスガ、是ガ誤ツテ居ルト云フコトハ我々自身ガ今日自ラ自覺シタ所デアリマスルカラ、此ノ自覺ニ基キマシテ、即チ我々ハ今後ハサウ云フ誤ツタ行動ヲ再ビ繰返スコトナク、平和的、道義的ノ態度ヲ取リ、以テ人類ノ幸福ノ増進ニ貢獻ヲスルト云フヤウナコトノ出來ル、サウ云フコトニセナクチヤナラナイト斯ウ考ヘタノガ、即チ共生理念ヲ實現スル方法ヲ發見セムトスル所ノ直接ノ經驗デアルノデアリマス、即チ戰敗、戰ニ敗ケタト云フコトヲ中心トシテ我々ガ與ヘラレタ所ノ直接ノ經驗デアル、處ガ我々ハ實ハ終戰前ニモ戰爭ノ最中ニ於キマシテモデアリマスルガ、其ノ戰爭ノオ終ヒ方ニナリマスルト云フト、サウ云フ自覺ハ我々ノ國民ノ多數ノニ間、少クトモ指導的ノ考ヲ持ツテ居リマスル所ノ者ノ多數ノ間ニハ、サウ云フ自覺ガ起ツテ居リマシタケレドモ、併シナガラ色々ノ事情ガアリマシテ、其ノ自覺ヲ明カニ示スコトノ出來ナイヤウナ状態ニナツテ居ツタ、其ノ時ニ所謂終戰ノ状態ニ入ツタノデアル、サウシテ終戰ノ状態ニ入リマシテ、何人モ知ツテ居リマスル通リニ彼ノ「ポツダム」宣言ト云フモノガ出マシテ、ソレヲ受諾シテ、其ノ「ポツダム」宣言ノ指令スル所ニ依リマシテ我々ハ行動ヲスルト云フコトガ、丁度其ノ前カラ我々ノ自覺ニ上リツヽアリマシタ所ノ反省ト云フモノトピタツト結ビ著イタ、斯ウ云フコトニ相成ルノデアルト思ヒマス、デアリマスルカラ、ソレヲ今後ドウ云フ風ニシタラ宜イカト云フコトニナリマシテ、結局是ハ我々ノ政治生活ノ根本的態度ト云フモノヲ改メナケレバナラヌ、政治生活ノ根本的態度ヲ改メルニ付テハ、即チ帝國憲法ヲ改正シナクテハナラナイ、併シ此ノ改正ハ單ニ新タナル國家、例ヘバ「アメリカ」ガ「イギリス」カラ獨立シマシテサウシテ新憲法ヲ作ツタ、或ハ又滿洲國ガ獨立シテ新憲法ヲ作ツタト云フヤウナ意味ニ於テノ憲法ヲ新タニ作ルノデハナイノデアル、我ガ國ガ既ニ我ガ國トシテ存在シ、又我ガ國ノ法的秩序トシテ持ツテ居リマシタ所ノ憲法ノ存在ヲ前提トシテ、サウシテ更ニ只今申シマシタヤウナサウ云フ直接ノ經驗ニ基ク所ノ要求ニ適フヤウナ憲法ノ改正ヲ爲サウト云フコトニアルノダト思フノデアリマス、サウ云フ風ニナリマスルト、此ノ憲法ト云フモノノ改正ハ詰リ方向ガ決ツテ居ル、先刻來申シマシタヤウナサウ云フ方向ト云フモノニ向フノデアリマスルカラ、其ノ方向ニ向フ爲ニ必要デナイヤウナ改正ト云フモノハ、此ノ憲法改正ノ要求トシテハ含マレテ居ナイカト私ハ思フノデアリマス、ソコデサウ云フ點ニ付キマシテ政府ノ御所見ヲ伺ヒタイト思ツテ、即チ帝國憲法改正ノ要求ハ一體何ダ、其ノ要求ヲ達スルガ爲ニハ別ニ改正セイデモ宜イト云フヤウナ、サウ云フ規定ヲモ改正ヲスルト云フノデアルカ、斯ウ云フコトヲ御尋ネスルノデアリマス、是ガ第一點ノ御尋デアリマス、是ハマア改正前提ノ問題ノ第二點ト致シマシテハ、帝國憲法改正ニ付テ、我ガ國ノ自主的行動ノ範圍ガドウ云フモノデアルカ、帝國憲法ノ改正ニ付テ我ガ國ノ自主的行動ノ範圍如何ト云フコトニ付テ御尋ネ致シタイト思フノデアリマス、デ是ハ實ハ斯ウ云フ言葉トシテデハナクテモ、外ノ言葉トシテ、此ノ議場ニ於キマシテモ又此ノ議場外ニ於テモ取扱ハレテ居ル問題カト思フノデアリマスノデスガ、唯茲デ私ハ此ノ問題ニ付キマシテ非常ナル疑問ヲ持ツテ居ルノデアリマス、此ノ問題ヲ論ズル時ニ、即チ「ポツダム」宣言ト云フモノヲ持ツテ來ルノデアリマス、私モ持ツテ參リマスガ、ソコデ私ハ實ハ初カラ、此ノ東京ニ來ナイ前カラ、「ポツダム」宣言ト云フモノガ果シテ正當ニ理解サレテ居ルカドウカト云フコトニ付テ非常ナ疑問ヲ持ツテ居ツタノデアリマス、仍テ私ハ東京ニ來マシテカラモ多少、其ノ疑問ヲ明カニスル爲ニ多少材料ヲ調べマシタ、更ニ偶然デアリマスガ、今月ノ二十二日デアリマスガ、日本「タイムス」ヲ讀ンデ見マシタ所ガ、私ノ疑問及ビ私ノ一應ノ判斷ヲ確カメル一ツノ論文ガ上ツテ居ルノデアル、之ヲ唯一ツ申シマス、ソレハ一體ドウ云フコトヲ申シテ居リマスルカト云フト、是ハモウ私カラ見レバ非常ナ重大ナコトデアリマスノデスガ、「ポツダム」宣言ト云フモノガ屡々引用サレマス、ソレハ宜イノデアルガ、併シ其ノ時ニ、多クハ新聞紙上ニ傳ツテ居リマスル所ノ譯文ト云フヤウナモノノミガ眼中ニ入ツテ居ルノデハナイカト思フノデアリマス、ソコデ詰リ便宜ノ爲ニ譯文ノ方カラ申シマスルガ、「ポツダム」宣言ノ「ターム」ノ中ノ第十二ト斯ウナツテ居リマスガ、此ノ「前記諸目的ガ達成セラレ且日本國國民ノ自由ニ表現セル意思ニ從ヒ平和的傾向ヲ有シ且責任アル政府ガ樹立セラルヽニ於テハ聯合國ノ占領軍ハ直ニ日本國ヨリ撤收セラルベシ」マア斯ウ云フ規定ガアルデスネ、ソレカラソレヲ受諾スルト否トヲ我ガ國ガ決定シマスル時ニ當リマシテ、我ガ國ト聯合國側トノ交渉ノ文句ガアル譯デアリマス、是ハ何人モ知ツテ居ルノデス、ソレハ我ガ新聞ノ譯ヲ通ジテ知ツテ居ルノデアリマスガ、即チマア是デデスナ、日本ノ方カラハ詰リマア、チヨツト此處デ合言葉通リノガ見當リマセヌデスガ、兎ニ角我ガ國ノ謂ハバ國體的ノコトデスネ、國體ニ影響ヲ與ヘルヤウナコトハナイモノト理解シテ宜イカト云フコトヲ問ヒ合セマシタ、處ガ、之ニ對シマシテ、私ノ聞誤リカ知レマセヌガ、總理大臣ガ、サウシテ何處カデ‥‥此處デシタカ、伺ツタ所ニ依リマスト、返答セナイト云フ風ニ‥‥返答セナイ、總理大臣デシタカ幣原サンデシタカ忘レテシマヒマシタガ‥‥處ガ、ハツキリト返答シテ居ル、其ノ返答ノ仕方ガ、實ハ非常ナ誤解ガアツテハドウモナラナイノデアリマス、ソレハ其ノ日本カラノ照會ニ對シマシテ、彼ノ方面カラドウ云フコトヲ言フテ來テ居ルカト申シマスルト、ソレハ即チ降伏ノ瞬間カラ「エンペラー」及ビ「ジャパニーズ・ガヴァーンメント」ノ、即チ國家ヲ「ルール」スル所ノ「オーソリチー」ト云フモノハ、ソレハ固ヨリ「シュプリーム・コンマンダー」ノ「サブジェクト」、ソレノ支配ヲ受ケル、從ハナケレバナラヌ、ソレハ併シ「コンマンダー」ガ、司令官ガ此ノ降伏條項ト云フモノヲ有效ニ實現スル爲ニ適當ダト思フ所ノ手段ヲ取ルンダカラ、其ノ「コンマンダー」ニハ從ハナケレバナラヌト云フコトハアリマスレドモ、併シナガラ斯ウ云フ風ニ規定シテ居ルノデアリマス、我ガ國ハ「ポツダム」宣言ト云フモノハ受諾スルガ、併シソレガ所謂「ヒズ・マジェスチー」ノ「シュプリーム・ローヤル・プレロガティヴ」ヲ害スルヤウナサウ云フ要求ヲ含マヌ、詰リサウ云フ理解ヲ以テ引受ケルト云フ「メッセージ」ヲ日本ノ政府カラ受ケタノデアルガ、併シソレニ對シテ「アワー・ポジション」、即チ是ハ聯合國デアリマセウ、自分等ノ地位ハ次ノ如シトヤツテ居ル、其ノ次ノ如シトハドウ云フコトヲ言ウテアルカト云フト、是ガ屡々新聞紙等ニ現ハレテ居ル日本ノ譯文ヲ通ジテ引用サレテ居ル、此處デモ屡々引用サレマシタガ、日本ノ「ガヴァーンメント」、是ハ矢張リ政府デアリマス、日本ノ終局ノ「フオーム」、即チ政府ハ、「ガヴァーンメント」ト申シマスレバ、色々ノ機關ト云フモノガ綜合シテアル、天皇モ矢張リ「ガヴァーンメント」ニ入ル、向フノ書物ニハ皆‥‥デアリマスカラ、其ノ「ガヴァーンメント」ノ終局ナル所ノ「フオーム」、即チ日本デ言ヘバ天皇ナドノ地位デアリマスルガ、其ノ終局ナル所ノ「フオーム」ハ、此ノ「ポツダム」宣言ト「イン・アコーダンス」、「ポツダム」宣言ト一致シテ、「ジャパニーズ・ピープル」ノ自由ニ表明セラレタル意思ニ依ツテ樹テラレナケレバナラヌ、斯ウ言ツテ居ル、處ガ此ノ「ジャパニーズ・ピープル」ト云フ文字デス、是ハ大抵日本ノ君臣ト分ツタ意味ノ國民ダト解シテアル、茲ニ非常ナル疑問ヲ持ツノデアリマス、サウヂヤナイ‥‥是ハ質問應答ガアリマシテ、茲デハ時間ノ關係上急ギマスカラ結論ダケ申シマスガ、サウヂヤナイ、是ハオ前ノ方カラ問ウテ來タケレドモ、ソレハ日本人、日本國民自身デ、オ前等デヤルベキコトダ、斯ウ云フコトナンデス、「ジャパニーズ・ピープル」、斯ウ言ツテ居ルノハ、俺等ハソンナコトニハ關係シナイ、「アワー・ポヂション」、即チ我々ハサウ云フ問題ニ付テノ地位ト云フモノハ、ソレハ次ノ如シ、即チ「ジャパニーズ・ピープル」、オ前自身ノ方デヤレ、ヤルベキコトダ、即チ自由ダ、即チハツキリト自主性ヲ認メテ居ル、之ヲ我ガ國ニ於キマシテハデスナ、君臣ト云フ意味ノ場合ノ「ピープル」、此ノ民ヲ取ツテシマツテ‥‥例ヘバ屡々アリマスルガ、此ノ宣言ヲ受諾シテ以來、日本ハ即チ君主國ニ對スル意味ノ民主國ニナツタト云フヤウナ、トテツモナイ所ノ説明ガ行ハレテ居ルノデアリマス、是ハ斷ジテサウヂヤナイ、（拍手）是ハ先刻モ御話ニ上リマシタガ、嘗テ不戰條約ガ世界ニ結バレタ、其ノ不戰條約ノ時ニ我ガ國モソレニ入ツテ居ルノデアリマスルガ、其ノ不戰條約ニモ矢張リソレゾレノ國民、「ピープルス」‥‥澤山ノ人ガアリマスカラ、國ガアリマスカラ、其ノソレゾレノ國ノ「ピープルス」ノ名ニ於テ此ノ不戰條約ヲ受諾スルト云フ意味ノコトガ書イテアル、此ノ場合ニ實ニ愚ナ爭ガ起ツタ、我ガ國ニ於キマシテ條約ヲ締結セラレルノハ天皇ダ、ソレヲ國民ノ名ニ於テト譯シタモノダカラ、國民ノ名ニ於テ條約ヲ締結スルノハ怪シカラヌト、所謂右翼ノ方カラサウ云フ議論ガ起リマシタ、サウシテ私ノ記憶ガ誤アリマセヌケレバ、議會ニ於テ大問題ニナツタノデアル、私ハ實ハ窃カニ全ク見當違ヒノ問題ダト思ツタ、何トナレバサウ云フ時ノ「ピープル」ト云フノハ、君民ノ間ノ民、ソンナモノヂヤナイ、是ハ一國ヲ成シテ居ルト云フ、サウ云フ全體ノ人間ト云フコトデアリマス、ソレデアレバコソ、君主國デナイ所ノ、所謂君民ノ關係ノナイ所ノ「アメリカ」デモ「ピープル」ト云フコトガアル、是ハ全ク非常ナ誤デアリマス、ソレデ即チ聯合國ガ我ガ國ノ照會ニ對シマシテ答ヘマシタコトハ、恰モ我々ノ自主ヲ認メテ居ル、ソンナコトハコツチデ言フベキコトデハナイ、オ前ノ方デ自由ニ、勝手ニ、氣兼ナク、自由ニ表明セラレタル所ノ意思ニ依ツテ、即チオ前ノ國ノ最終ノ「ガヴァメント」ノ「フオーム」ハ決メベキモノダ、斯ウ言ツテ居ル、是ハ自主性デアリマス、是ハモウ明カナコトデアリマス、斯ウ考ヘテ居リマシタ所ガ、先刻モ申シマシタヤウニ、即チ二十二日ノ日本「タイムス」ガ、ドナタカ私ハ個人的ニハ知リマセヌノデスガ、「アキヨシ・タジリ」ト云フ人、此ノ方ガ新聞社ノ方ノ「ノート」ニ依リマスルト、嘗テ我ガ國ノ外務省ノ「ゼネラル・アツフエアス・ビューロー・フオーリン・オフィス」トアリマスガ、何ト譯シマスカ知リマセヌガ、サウ云フ所ノ「ディレクター」デアツタト云フコトデアリマス、其ノ方ノ論文ヲ讀ミマシテ、私ハ實ニ快哉ヲ叫ンダノデアリマス、是ハ日本國デ決ムベキコトデアルノダ、サウ云フ建前デ此ノ論文ガズツト書イテアル、是ガ即チ初カラ「ポツダム」宣言ノ理解ノ仕方ヲ誤ツテ居ル、ソレダモノダカラ段々ト民主國ガ、民主主義ガ「ポツダム」宣言デ決ツタトカ決マラナイトカ、ソンナコトハトテツモナイコトデアリマス、ソンナコトハ「ポツダム」宣言及ビ兩國ノ交渉文書ヲ原文デシツカリ見レバ初カラ起ツテ來ナイ、即チ新聞記事ダケデ見ルカラ是ハ非常ニ重大ナル問題ダト私ハ思ツテ居ルノデアリマス、斯ク私ガ解スルコトガ誤リデアルカドウカ、之ヲ一ツ政府ノ方ニ御質問致スノデアリマス、即チ言ヒ換ヘテ見マスレバ、此ノ意味ニ於キマシテ帝國憲法ノ改正ニ付テ、我ガ國ノ自主的行動ノ範圍如何ト云フコトノ御説明ヲ御願ヒシタイノデアリマス、「ポツダム」宣言及ビ兩國ノ交渉ノ關係ニ付テデスナ、斯ウ云フコトデアリマス、是ガ即チ質問第一類ノ改正ノ全體ノ問題ノ二ツノ問題デアリマス、次イデ私ハ質問第二類ニ入リマス、ソレハ改正ノ改正仕方ノ問題ト私ハ名付ケテ居ルノデアリマスガ、併シ此ノ問題ハ實ハ私ガ殆ド最終デアルモノデアリマスカラ、私ノ質問申上ゲル所ガ既ニ色々言ハレテ居ル所モアリマスルカラ、重ツテ居ルコトモ問題トシテアルヤウニ見エマスケレドモ、併シ勿論重複スルコトハドンドン省イテ行ク積リデアリマス、ソコデ第一點ニハ帝國憲法ノ改正案ガ斯ノ如キ内容ヲ持ツモノトシテ、是ハ尤モ衆議院ノ修正ノ方ハ暫ク別デアリマス、昨今デアリマスカラ、アノ如キ内容ヲ持ツモノトシテ決定セラレル迄ニハ、斯ウ云フ場合ニ相應シイト考ヘラレルヤウナ調査ガ行ハレタノデアラウカドウカト云フコトヲ御尋スルノデアリマスケレドモ、併シ之ニ付キマシテハ一昨日來ノ質問答辯ヲ伺ヒマシタ結果、私ハ私ノ初メ問ハムトシタ事柄ヲ大分省イテシマフ必要ヲ徳義的ニ感ズルノデアリマスガ、唯併シソレニシテモ私ハ此ノ前内閣ノ時ノ‥‥今日ハオイデニナルカナラヌカ知レマセヌケレドモ、今ノ國務大臣ノ幣原サンガ、初ハ自分モ兎ニ角ハツキリト方針ハ決ツテ居ナカツタケレドモ、調査ノ結果改正スルト云フ方針ニ決ツタト云フコトヲ仰シヤツタノデアリマスガ、是ハ私ハ幣原氏モサウ云フ言葉ハ實際家トシテハチヨツトモ責メル理由ハナイト思ヒマス、實際家ハ或問題ヲ決定スル時ニ先ヅ調査シテサウシテ決定スル、其ノ初ニハ甲ト云フ意見ヲ持ツテ居ツタケレドモ、併シ調査ノ結果ガ甲ト異ル意見ガ出タト云フコトハ實際家トシテハ責メルコトハ出來ナイ、斯ノ如キコトヲ責メルナラバ世間ノ實際家デハナイ、サウ云フコトヲ特ニ研究シテ居ル學界人ニシテ、初カラ言ツテ居ルコトヲ平氣デ斯ウ直グ變更シテ居ルヤウナ例ノアルコトハ私ハ多ク知ツテ居リマス、ソレハ許サレナイ、學人ニハサウ云フコトハ許サレナイ、專門學人ニハ、‥‥ケレドモ實際家ガ調査ノ結果多少ノ意見ガ違ツタト云フヤウナコトハ、私ハ責メル氣ニハナリマセス、併シ學界人ニ對シテハ學問的ニ之ヲ批評スル餘地ガアリマス、處デソレハマアソレト致シマシテ、前内閣ノ時ニ、詰リ所謂憲法調査會トカ憲法改正會トカ何トカ、名稱ハ忘レマシタガ、サウ云フ調査會ガ出來マシテ、其ノ時ニハ多クハ官立ノ大學ノ學者諸君ヲ委員トシ、或ハ又其ノ時ニ政府ノ方ノ高官トデモ云フヤウナ人ヲ顧問ト致シマシテ調査會ヲ開イタ、暫クチヨツト私自身ノコトヲ言フコトヲ許シテ戴キタイノデスガ、私モ顧問トシテ實ハ或大臣カラ直接ニ頼マレマシタケレドモ、併シ少シク思フ所ガアリマスルカラ、ソレデ無論斷ツタノデアリマス、コンナコトハ個人ノコトデアリマスケレドモ、チヨツト言ハシテ戴キタイコトハ、ソレガ何カ斯ウ連續シテ今囘ノ改正案ガ、田舍ニ行キマスルト云フト、私ニ對シマシテ、先生ガ非常ニヤラレタノデハアリマセヌカト云フコトヲ誤ツテ言フ人ガアル位デアリマスカラ、チヨツト全然關係ガナイト云フコトヲ申上ゲテ置キマス、ソコデ其ノ憲法改正調査會ト云フモノガ、此ノ今問題トナツテ居ル所ノ案ノ内容トドウ云フ關係ガアルカ、此ノ内容ニ付キマシテハ、憲法調査會ト云フモノガ調査シテ、或ハ事前ニデモ事後ニデモ、サウシテ何等カ意見ヲ加ヘテ出來タモノデアルカドウカト云フコトハ、是ハ非常ニ重大ナコトデアリマス、後世斯ウ云フ憲法ガ出來タ時ニ、憲法ノ成立ノ事實的ノ沿革ヲ見ル者ハ、必ズヤソコニ著眼スルノハ當然ノコトデアリマスカラ、ソコデ御尋スルノデアリマス、ト同時ニ甚ダドウモ露骨ナ直接ナ御尋デアリマスルケレドモ、金森現國務相ハ、此ノ憲法ノ内容ガ出來マスル時ニ此ノ内容トドノ程度ニ御關係ニナツタノデアリマセウカト云フコトヲ一ツ御願ヒ致シタイノデアリマス、ト申シマスノハ、衆議院ニ於キマシテモ又本院ニ於キマシテモ、金森國務相ハ、此ノ憲法ヲ作ル迄ニハ心膽ヲ練ツテ非常ニ苦心セラレタカノ如キ御言葉モアリマスシ、或ハ又ソレヲ前提トシタヤウナ御言葉ガアリマスルカラチヨツト御尋シタイノデアリマス、是ハ實ハ非常ニ重大ナコトデアル、斯ウ思ヒマシテ、ソレデ憲法ノ改正調査會ト、今囘ノ内容ヲ持ツテ居ルヤウナサウ云フ憲法トノ内容上ノ關係ト云フコトヲ一ツ御尋ネ致シタイト思フノデアリマス、サウ云フコトハ實ハ斯ウ云フ内容ヲ持ツモノトシテ決定スルコトニ付テ相應ハシキ調査ガ出來テ居ルカドウカト云フコトヲ問題ニスル資料ニナルノデアリマス、是ガ即チ憲法改正ノ仕方ノ第一點ノ問題デアリマス、ソレカラ政正仕方ノ問題ノ第二點トシマシテハ、一般國民ハ今囘ノ改正案ノ内容ノ本義ヲ眞ニ能ク理解シテ居ナイト私ハ思ツテ居リマス、政府ノ御所見ハドウデアリマセウカ、但シ是ハ實ハ形式的ニハモウ御答ハ出テ居ルノデアリマス、殊ニ今日金森國務相ノ外ノ人ニ對スル御答辯ノ中ニモ、即チ選擧前ニ之ヲ國民ニ知ラシタノダカラ國民モ能ク知ツテ居ルモノト思フト云フヤウナ意味ノ御言葉ガアツタカト思フノデアリマスルノデスガ、併シ私ハ實ハサウ云フ形式的ノ説明ニハ滿足シナイノデアリマス、此ノ憲法ガ此ノ内容ヲ持ツモノトシテ出マシタノハ即チ三月六日デアリマセウガ、其ノ時ニハ既ニ、ソレヨリ全然内容ノ違ツタ所ノ所謂憲法案ト云フモノガ、試案デアルニシテモ兎ニ角出テ居ツタノデアリマス、既ニソコニ疑惑ヲ持ツノハ當然デ、何ノコトカ分ラナイ、ソレカラ又直チニ選擧ニナリマシテ、選擧ノ時ハ、ソレハ形式論ハ別トシテ、選擧ノ時ニアヽ云フ憲法ヲ示サレテ、其ノ意味ヲ理解スル程度ニ、國民ガ靜カニ能ク考ヘテ見ルト云フコトガ出來タデアリマセウカ、或ハ其ノ時ノ内閣ニ審議室ト云フヤウナモノガ出來テ、サウシテ所謂國民ノ意見ヲ投書ヲ以テ聽クト云フヤウナコトヲ特ニセラレタノデアリマスガ、併シソレハ總テ形式論ナノデアル、アノ時ニ突如トシテ、而モ選擧ト云フヤウナコトニ國民ガ一心ニナツテ居ル時ニ、アア云フ、而モ從來思ヒモ寄ラヌ所ノ内容ヲ持ツタ憲法ガ出テ、サウシテ其ノ意味ヲ國民ガ能ク知ツタ筈ダト云フヤウナ風ナコトハ、ドウモ是ハ一ツノ形式論デアル、斯ウ云フ態度ヲ執ル限リハ、官僚ニ對スル所ノ國民ノ忿懣ト云ヒマスルカ、信頼ハ將來トモ絶對ニアリマセヌ、ソコハサウ云フ風ナコトヲ言フベキモノヂヤナイノデアル、ドウシテモ本當ニハ、眞ニ國民ト云フモノガアノ憲法ノ本義ヲ、讀ンダコトハ讀ンダカモ知レマセヌ、讀マヌ者ガ多イデセウ、併シ讀ンデモ憲法ノアノ内容ヲ持ツ所ノ本義ヲ、眞ニ能ク理解シテ居タト思ハレルノデアラウカ、斯ウ云フ點ガドウモ私ハ納得出來ナイト思フノデアリマス、ソレカラ第三點ニ至リマスト云フト、此ノ帝國憲法ノ改正案ト現行ノ帝國憲法トノ法的連絡ガ完全ニ保タレルカドウカ、斯ウ云フ問題デアリマス、是ハサウ云フ事柄ノ中ノ一ツトスルノデアリマスルガ、私共ノ考ヲ先ニ申シマスレバ、現行ノ帝國憲法ハ有效ナモノデアル、デアルカラシテ此ノ帝國憲法ノ改正ト云フコトモ、此ノ帝國憲法ニ準據シテ行ハルベキモノデアル、從ツテ帝國憲法ノ改正ト云フコトモ、例ノ帝國法憲第七十三條ニ依ツテ行ハレタモノデアルト云フヤウナコトハ、是ハ政府モ仰シヤツテ居ル所デアリマス、私ハ政府ノ御考ガ御尤モデ、全ク正シイコトデアラウト考ヘルノデアリマス、現行ノ帝國憲法ガ「ポツダム」宣言ニ依ツテ無效ニナツタト云フヤウナ議論ハ、到底之ヲ承服スルコトハ出來ナイ、併シ其ノコト自體ハ大イニ論ジテモ宜イノデアリマスルケレドモ、唯時間ヲ取リマスカラ、其ノ問題自身ヲ又學會ノ問題カ何カデ、或ハ又必要ガアツタナラバ本議場デ論ジテモ宜イノデスガ、今ハ皆樣ニ御迷惑デアリマスカラ、止メマシテ、此ノ點ハ先刻金森國務相ガ仰シヤツタ所ニ、私ハ全然法理トシテハ同感デアリマス、「ポツダム」宣言ニ依ツテ帝國憲法ガ無效ニナツタトカ無クナツタトカ、決シテソンナモノヂヤナイ、帝國憲法全體ノコトカラ少シ離レマシテ、帝國憲法ノ第七十三條ハ是デ無效ニナツタト云フヤウナ説明モアリマスルガ、ソンナコトモ決シテ言ヘナイノデス、即チ「ポツダム」宣言ト云フヤウナモノハ、晝前金森大臣ガ言ハレタコトハ私ハ正シイト思ツテ居ル、即チ假ニ「ポツダム」宣言ノ「ターム」ノ十二ハ、是ハ固ヨリ、即チ正直ニ見レバアレニ依ツテ憲法其ノモノノコトヲ全面的ニ言フテ居ルノデハナイ、唯我ガ國ノ將來ノ「ガヴァーンメント」ノ形態ト云フモノノ作リ方ヲ言フテ居ルノデアリマス、アレデ以テ憲法ガ無效ニナルトカ、ソンナコトハ言ヘルモノデハナイ、又アレデ以テ七十三條ガ無效ニナルナント云フヤウナコトハ、是ハ全然承服シナイ、是ハ金森大臣ノ説明ガ全ク當ツテ居ルト私ハ思ツテ居ルノデアリマス、況ンヤソレハドウ取ルニシテモ、即チソレハ今後ノ方針ヲアレデ決メタモノデアツテ、サウシテアノ「ポツダム」宣言ガ直接ニ帝國憲法トカ、我ハ又我ガ國ノ「ガヴァーンメント」ノ、即チ最終ノ形態ト云フモノニ直接ニ直グサウ云フ變更ヲ與ヘ得ルト云フ法的直接效果ヲ持ツモノデハナイト云フコトハ、流石ニ金森君デアリマシテ、是ハ法理極メテ明快デアル、當然ナコトダ、アレハ直接ニ我ガ國ノ「ガヴァーンメント」ノ形態トカ、更ニ憲法ナラ憲法トシマシテ、憲法其ノモノヲ直接ニ變更シテ居ルモノデハナイ、將來變更スルコトニナルカモ知レナイ、サウ云フ問題、是ハ流石ニ金森氏ハ非常ニ‥‥私トハ意見ガ違ヒマスガ、大體ニ於キマシテ同君ノ法理的説明ニ於テ、極メテ明快ナル説明ヲ普段爲サレテ居ルト云フコトハ敬服シテ居ル、唯今囘ハ敬服シナイ、ソレデ是カラ御尋スルノデスケレドモ、併シ今日ノ御説明ハ私ハ全然同感デアリマス、ソコデマアサウ致シマシテ、ソコデ七十三條トノ關係ハソレデマアハツキリトスル、第二點ニ付キマシテ私ガ御尋ネ致シタイノハ、法的連絡ニ付テデアリマスガ、今ノ憲法ノ改正ト云フモノハ、如何ナル國家機關ガ此ノ憲法ノ改正ト云フ、サウ云フ國家作用ヲ行フノデアルカト云フコトヲ御尋ネ致シタイ、憲法ヲ改正ヲスルト云フコトハ國家ノ作用デアリマス、國家ノ作用デアルケレドモ、併シナガラソレヲ現實ノ具體的ノ行爲トシテ表ハスモノトシテ國家ノ機關ガアルノデアリマスルカラ、ソコデ國家ノ作用トカ、國家ノ作用ヲ行フト云フ時ニ、又言葉ヲ非常ニ整理シナケレバナラヌ、本來ハ國家ノ作用ヲ國家自ラ行フノダケレドモ、併シ其ノ國家ノ作用ヲ我々カラ見マス時ニハ、行フ現實的ノ具體的ノ機關ガナケレバナラヌ、其ノ機關ノコトヲ此處デ御尋シテ居ルノデアリマス、ソコデ我ガ國ガ今憲法ヲ改正ヲスルト云フノハ、我ガ國ガヤルコトデアルガ、其ノ我ガ國ノ憲法ヲ改正ヲスルト云フ作用ヲ現實ノ具體的ノドンナ機關ガ行ハウトスルノデアルカ、斯ウ云フコトデアリマス、ソレヲ一ツ御尋ネ致シタイノデアリマス、ソレデ是ハマア諄々シク言フ迄モナク、現ニ行ハレテ居リマスル所ノ帝國憲法ニ依リマスルト云フト、帝國憲法ノ改正ヲ行フト云フ、サウ云フ機關ハ天皇デアリマス、國家ノ機關トシテノ天皇デアリマス、是ハモウ疑フベカラザルコトデアルノデアリマスルガ、然ルニ此ノ今囘示サレマシタ所ニ依リマスレバ、其ノ點ガ極メテ不明確ニナツテ居ル、不明確ドコロデハナク、明確ニ誤ツテ居ル、ソレハ日本國憲法ト題シテ、其ノ前文ニ「日本國民は、國會における正當に選擧された代表者を通じて」云々トアリマシテ、最後ニ此ノ憲法ヲ確定スル、「エスタブリツシユ」スル、即チ是ハ帝國憲法ト云フモノヲ改正ヲスルト云フ作用ヲ行フモノハ、是ハ天皇ヂヤナイ、日本國民ダ、日本國民ト云フ中ニ天皇ガアルトカ、ナイトカ云フコトハ、是ハ後デ申スト致シマシテモ、兎ニ角天皇ト云フ國家機關ガ行ハセラルヽノデハナイ、天皇ヲ除外シタ日本國民デアルカ、天皇ヲ含ンダ日本國民デアルカハソレハ別ト致シマシテ、兎ニ角天皇ガ帝國憲法ヲ改正スルト云フ、サウ云フ作用ヲ行ハセラルヽノデハナイト云フコトハ明カデアリマス、是ハ即チ帝國憲法トノ連絡性ヲ持ツ爲ニ之ニ依ルト謂ハレテ居リマスル所ノ、即チ帝國憲法第七十三條ニモ反スルノデアルノミナラズ、サウ云フ規定ヲ離レマシテモ、現行憲法ノ全體的ノ建前ニ反スル、現行憲法デハ、憲法ヲ改正ヲスルト云フ國家作用ヲ行フ機關ハ天皇ニ限ルノデアリマス、ソコデ此ノ點ヲドウ云フ風ニ御考ニナツテ居ルカト云フコトヲ御尋ネ申スノデアリマス、ソレカラ連絡性ノ問題ノ中ノ三ト致シマシテ、帝國議會ハ憲法改正案ニ修正ヲ施シテ議決スルコトガ出來ルカト云フコトデモアリマスガ、是ハサウ云フ質問的ノ口調ヲ弄シナクツテモ、既ニ修正ガ出來ルト云フヤウナ御意見ガ、是ハ總理大臣カラモアリマシタシ、金森國務大臣カラモ屡々アリマシタカラ、サウ云フ風ニハ説明ヲシナクツテモ宜イノダケレドモ、併シサウ云フ解釋ガ、果シテ此ノ帝國憲法ガ、法的連絡ヲ保ツテ居ルト稱スル帝國憲法ノ解釋上許サルヽモノデアルカドウカト云フコトヲ御尋シテ見タイノデアリマス、是ハ實ハ學説ノコトヲ申上ゲルコトハ、私ハ成ルベク遠慮スル氣持デ居リマスケレドモ、許シテ戴キタイノデアリマスルガ、帝國議會ハ憲法ノ改正案ニ對シテハ修正ヲ加ヘテハ議決スルコトガ出來ナイト云フノガ今日ノ憲法學者ノ一致シタ意見ナンデアリマス、甚ダ言フコトハ失禮ダケレドモ、金森君自身モ實際ハサウデアツタ、ソレデ唯此ノ中デ其ノ條文ヲ條文トシテ、ソレニ或モノヲ附加ヘルト云フヤウナ意味ノ修正ハ出來ル、斯ウ云フコトヲ言フテ居ラレル學者モアルノデアリマシタノデスガ、併シソレニシテモ全體的ニ今日ノ如キ方法デ修正ガ出來ナイト云フコトハ當然ノコトデアリマス、其ノ最後ノ立場カラ申シマシテモデアリマスガ、是ハドウモドウ云フモノデアリマセウカ、ソレデ私ハサウ云フ詰リ修正ガ出來ナイト云フヤウナ學説ヲ維持シヨウ、一方ニ於テハ修正スルコトハ出來ナイト云フ學説ヲ執リナガラ、他方ニ於テ今囘修正ガ出來ルト云フコトヲ言ヒ得ル爲ニハ、即チ此ノ七十三條、或ハ進ンデ憲法全體ガ「ポツダム」宣言ニ於テ無效トナツタト云フコトヲ言ハザルヲ得ナイデセウ、サウ云フ學説ヲ執ル人ニシテ、今日修正ガ出來ルト云フコトヲ言ハウト思ヘバ、私ハ嘗テ修正ガ出來ナイト云フヤウナコトヲ言フタ人ガ、今日修正ガ出來ルト云フヤウナコトヲ言ヒ出シタ所以ノ其ノ動機ヲ云々スルノデハ決シテアリマセヌ、併シ論理的ニサウナルノデアリマス、言ヒ換ヘテ見レバ、嘗テハ修正ガ出來ナイト云ツテ居ルヤウナ人ガ、修正ガ出來ルト云ヒ得ル爲ニハ、全然自分ノ説ガ誤リデアツタカラ改メタト言フガ、ソレナラソレデハツキリシテ居ル、「ポツダム」宣言ニ依ツテ此ノ憲法ノ少クトモ七十三條ハ無效ニナルト云フヤウナコトヲ言ハザルヲ得ナイノデアリマス、ドチラモ誤リデアルト私ハ思フノデアリマス、此ノ點ニ付テ金森國務大臣ヲ追究スルノハ誠ニ御氣ノ毒デアルトハ思ヒマスケレドモ、併シ修正ガ出來ルト云フ意見ニ御變リニナツタナラバ、ソレナラソレデ宜シイ、唯併シナガラチヨツト御尋ネシテ置ク必要ガアルノデアリマス、ソコデ私共ノ意見ハ修正ハ出來ナイト云フ意見デアリマシテ、ソレハ此ノ問題ヲ別ニ論ズルヤウナ場合デアリマセヌカラ、サウ云フ見地カラ致シマスレバ衆議院ノ修正ト云フコトハ許サレナイコトニナル、從ツテ貴族院ニ來マシテモ修正ト云フコトハ許サレナイト云フコトニ私カラ見レバナルノデアリマス、之ヲ可トスルカ可トセザルカ、何レカ二者デナクチヤナラナイト云フコトニ私カラハナルノデアリマスルガ、若シ修正ヲ許スト云フ人カラ言ヘバ徹底的ニ自分ノ信ズル所ニ從ツテ、衆議院カラ來タ案デモ貴族院ニ於テハ、貴族院自身ノ信ズル所ニ依ツテ徹底的ニ修正スベキデアル、（拍手）此ノ際私ハ衆議院ノ意見ダカラ之ヲ尊重スルト云フヤウナコトハ此ノ憲法ニ關スル限リニ於テハ、サウ云フ遠慮ハスベキモノデハナイト私ハ信ジテ居ルノデアリマス、ソレハ不斷ノコトデアル、今日ハ我ガ國ノ根本的國家性格ヲ變ヘルカ變ヘナイカト云フヤウナ時ニ、サウ云フ遠慮ハ要ラナイノデアル、即チ衆議院ヲ通過シタ其ノ議案ニ對シマシテモ、貴族院ハ飽ク迄徹底的ニ之ヲ審議致シマシテ、サウシテ修正スベキ所ガアツテ衆議院ト違ツタナラバ已ムヲ得ヌ、ソレハ次ノ問題トシテ、大體衆議院ノ決メタコトダカラソレニ從ハナケレバナラヌト云フヤウナコトハ、此ノ際決シテ言フベキデハナイト私ハ思ツテ居ル、甚ダシキニ至ツテハ小サナコトハ修正シテモ宜カラウ、大キナコトハ修正シテハイケナイ、アベコベデアル、大キナ根本ノ國家ノコトニ關スルコトハ、イケナイコトハイケナイ、小サナコトハ自分ノ意見ヲ捨テテモ宜イ、大キナ國體ノドノコトニ關スル限リニ於テ、大キナコトダカラ衆議院ノ修正ヲ許スト云フヤウナコトハ勿論アベコベデアル、大キナコトハ許サレナイノデアリマス、小サナコトハ從ツテモ宜イ、サウ云フ論理ガ、非常ニ誤ツタラ困リマスカラ、我々貴族院ノ一員トシテソレデ私ハ其ノ點ヲ觸レテ申スノデアリマス、ソレカラ更ニ何レニ致シマシテモ無修正ニナルカ、修正致スカ、ソレハ別トシテ、議會ヲ通過スルカセヌカモ分リマセヌガ、議會ヲ通過致シマシタナラバ、ドウ云フ風ナ御取扱ニナリマシテ、政府デハ憲法ノ改正ト云フモノガ出來ルノデアリマセウカト云フコトデアリマスガ、是ハ分リ切ツタコトデアリマスケレドモ、更ニ天皇ノ裁可ヲ必要トシテ裁可ヲ奏請サレルモノデアルカドウカト云フコトデアリマス、併シ是モ既ニ今日午前ノ金森國務相ノ御答辯ノ中ニ、既ニ裁可ガ必要ダト云フ意見ガ見エテ居リマスカラ、私自身ノ質問トシテハ必要アリマセヌガ、唯裁可ガ憲法ノ改正ニ付テハ法律デナイカラ裁可ガ要ラナイト云フ有力ナル意見ガアルノデアリマスカラ、ソコデヒヨツトスルト金森國務大臣モサウ云フ有力ナ學説ニ、外ノ點デハ從ツテ居ルト云フヤウナコトガアルカラ、從ハレルノデアルカドウカチヨツト御尋シテ見ル、ソコデ裁可ガアリマスレバ、偖テドウ云フモノガ出來ルノデアリマセウカ、帝國憲法、之ヲ詳シク申シマスレバ大日本帝國憲法ト云フモノガ、今度改正サレタ内容ヲ持ツテ出來ルノデアリマスカ、或ハ日本國ノ憲法ト云フモノガ出來ルノデアルカ、是ハ實ハ非常ニ重大ナ問題デアル、法律改正ト云フコトデアリマスレバ例ヘバ選擧法ヲ改正致シマスル時ニ於キマシテモ、選擧法中ノ改正法律ト云フモノト、選擧法改正法律ト云フモノガ出ルノデアリマス、刑法デモ皆サウデアリマスガ、選擧法中改正法律案ト云フコトニナリマスト、選擧法ノ中ノ條項ヲ改正シタモノト云フコトニナリマスケレドモ、選擧法改正法律案ト相成リマスルト、初カラ選擧法ト云フモノガ變ツテ來ルノデアル、ソコデ伺ヒタイ、是ハ提案ニハ帝國憲法改正案ト出デ居ルノデアリマスルカラ、之ヲ從來ノ他ノ改正ニ關スル取扱方ニ徴シマスレバ、之ガ出來タ時ニハ矢張リ帝國憲法トシテデナケレバナラヌモノデアル、然ルニ茲ニ日本國憲法トアルノデアル、斯ンナコトハ詰ラヌ問題デアルヤウニ‥‥殆ド或ハ國家ノ根本綱紀、根本機構ト云フヤウナモノヲ餘リ重ク御考ニナラヌ方カラ見レバ、詰ラナイ形式論ト考ヘラレルカモ知レマセヌガ、非常ニ重大事デアリマス、ソコデ改正シテ裁可ヲ得ラレタモノハ、帝國憲法トシテ、併シ内容ハ變ツテ居ル帝國憲法トシテ出ルノデアルカ、或ハ日本國憲法ト云フ、サウ云フ憲法トシテ出ルノデアルカ、是ハ矢張リチヨツト重大ナ問題ト思ヒマスデスヨ、ドウカ御考ヘ置キヲ願ヒタイ、必ズシモ今デナクテモ宜イ、兎ニ角餘程重大ナ問題デスガ、或ハ御氣付ニナツテ居ルカ、御氣付ニナツテ居ラナイカ、サウ云フコトハドウデモ宜イ、兎モ角サウ云フコトデス、是デ私ハ第三點ノ帝國憲法改正案ト、帝國憲法トノ詰リ法的連絡ト云フコトノ問題ヲ申シマシタ、今度ハ第四點ニナリマスガ、妙ナ言葉デスガ、オカシケレバ笑ツテモ宜イデスガ、帝國憲法改正案ノ法文ハ憲法法文トシテ必要ナ品位ヲ十分ニ持ツテ居ルト御考ニナルデセウカ、斯ウ云フコトデス、尤モ是ハ昨日、或ハ今日デシタカ、外ノ議員ノ諸君カラ御尋ニナリマシタカラ、重ネテ御尋スルコトハ詳シクハ止メテ置キマスガ、唯私ノ意見ヲ申シマスレバ其ノ品位ニ於テハ十分デナイト云フヤウナ、サウ云フ謙遜ナ言葉ヨリモ、品位ヲ缺イテ居ルト云フ風ニ言ハザルヲ得ナイ、甚ダ御氣ノ毒デアリ、甚ダ殘念デアリマスケレドモサウ云フ風ニ言ハザルヲ得ナイ、ソコデ唯私ハ口語體ト云フコトガ、法文ヲ口語化スルト云フコトハ、實ハソレヲ曾テ主張シ來ツタ一人デアリマス、併シナガラ同時ニ既存ノ法典ヲ自分デ窃カニ口語ニヤツテ見ルデスケレドモ、是ハムヅカシイデス、私ハ文章ガ下手ナ結果デアリマセウケレドモ、文章語ヲ書クヨリモ、口語文ノ文章ヲ書ク方ガムヅカシイ、今デモソレハ口語體デアラウガ、何デアラウガ、文章ハ話デハナイ、故ニ口語體ト云ツテモ、話ス儘ヲ其ノ通リヲ書イタモノガ口語體デハナイ、青年ナドハ多クソレヲ間違ツテ居ル、ソレデ是ハ外國文デモヨク考ヘテ見レバ其ノヤウデアリマス、ソコデ私ハ此ノ普通ノ文章デモ私自身ノヤウナ無能力ナ者ニ取リマシテハ、口語文ノ方ガムヅカシイ、自分自身ニ付キマシテハ‥‥況シテ普通ノ文章デス、ソレガ況シテ此ノ法文ト云フヤウナモノニ付キマシテハ、非常ニソレガムヅカシイト思ヒマス、何トナレバ法文ハ大變ムヅカシイト、能ク世間デ言ハレマスサウデスケレドモ、併シナガラ法文ガ分リ易イト云フコトハ、小説ヤ又新聞、雜誌ノ時論ヲ讀ンデ、分リ易イト云フヤウナノト同ジヤウナ意味ニ於テノ分リ易サヲ求ムルト云フノガ、抑々間違ナンデアリマス、法文ハ第一説明語デハアリマセヌ、感想語デモアリマセヌ、軌範語デス、我々ノ態度ヲ斯ウ云フ風ニスベシト云フコトノ軌範ヲ示ス規定ノ語デアリマスルカラ、其ノ内容ガ極メテ、其ノ意味ニ於テ明確ナルコトヲ要スルノデアリマス、ドンナ明確ナル文章、文章自體ハ明確ト致シマシテモ、解釋上色々ノ議論ガ出テ來ルノハ、是ハ別ノコトデアリマスケレドモ、軌範文トシテハ非常ニ明確ナルコトヲ要スルノデアル、ソレガ必ズシモ此ノ口語體ニ於キマシテハ、十分出來ルト云フ程度ニ今日口語文ノ習練ガ實際ハ出來テ居ナイ、デアリマスカラ、口語文ハ宜イノデスケレドモ、併シナガラ今日之ヲ其ノ故ニ直チニ法文ニスルト云フ程度ニ習練ガ出來テ居ルト云フコトハ、私ハドウモ斷定ハ出來ナイ、斯ウ云フ風ニ私ハ思ツテ居ルノデアリマスガ、更ニ況ンヤ帝國憲法ト云フガ如キニ於キマシテハ、單ナル法文ト、之ヲ共ニ論ズベキモノデハナイ、是ハ先刻金森國務相モ仰セラレタノデアリマスケレドモ、即チ直接ニハ他ノ法文ノ一ツノ模範トナリ、間接ニハ單ニ法文ノミナラズ、一般文ノ模範トナルベキモノデアリマスルカラ、即チ帝國憲法ト云フヤウナ、サウ云フモノノ文章ハ唯分リ易ク書ケバ宜イト云フヤウナモノデハナイノデアリマスシ、是ハ言葉咎メヲスルノデハアリマセヌケレドモ、晝前金森國務相ハ、其ノ文章ガ美術品、藝術品ト云フヤウナ、サウ云フ状況トシテハ不完全デアラウト云フヤウナ意味ノコトヲ仰シヤツタケレドモ、法文ノ品位ト云フコトハ、ソンナ藝術的、美術的、文學的ノ品位ヲ云フノヂヤナイト、即チ其ノ規定ト云フモノガ内容ニ於テ極メテ明確デアル、一點ノ疑ガナイ、サウシテ之ニ接スル者ハ、成ル程斯ウシナケリヤナラヌナト、斯ウ云フ風ニ思フ、サウ思ヘトカ何トカ云フノデハナイ、其ノ法文ニ備ツテ居リマス所ノ品位カラ、自カラサウ云フ感覺ヲ起サシムルト云フヤウナコトノ意味ニ於テ、必要ナ品位ヲ言フノデアル、美術的トカ藝術的トカ、ソンナコトヲ言フノヂヤナイ、其ノ點ニ於キマシテハ、是ハ言フ迄モナイコトデアリマスケレドモ、現今ノ帝國憲法ノ文章ト云フモノガ、色々ニ見マシテモ、兎ニ角非常ニ名文ダ、名文ダト云フコトハ、單ニ文章トシテノミヂヤナイ、法文トシテハ名文デアルト云フ、是ハ定論ノアル所デアリマスガ、
〔議長退席、副議長著席〕
サウ云フコトヲ求メルノヂヤナイケレドモ、併シナガラ憲法ノ文言ガ、今申シマシタヤウニ、憲法ノ法文トシテ必要ナル品位ヲ持タナケリヤナラヌト云フコト自體ハ、是ハ非常ニ重大ナンデス、デアリマスカラ、此ノ點ニ付キマシテハモウ質問ハ止メマス、畫前ニサウ云フ點ニ不十分ナコトヲ御認メニナツテ居ルノデスカラ、是以上追究スル必要ハナイ、美術品トカ何トカ云フコトヲ仰シヤツタガ、アヽ云フ言葉ハイカヌト思ヒマス、私ハ美術品トシテノ美ヲ求ムルノデハナイ、法文トシテノ美ヲ求メル、美ニハ各々其ノ立場ニ於テノ美ノ内容ガ遠ツテ參リマスルカラ‥‥‥、是ガ質問第二類、改正ノ仕方ノ問題デアリマス、今度ハ質問第三類、是ハ改正内容ノ問題ニ入ルノデアリマスガ、此ノ質問第三類ニ於テ、質問致シタイト思フ第一點ハ、憲法ニ依ツテ我ガ國號ヲ改ムルノデアルカドウカト云フコトデアリマス、是ハ御存ジノヤウニ大日本帝國ト云フ文字ハ、即チ帝國憲法ガ定メテ居ル所デアリマス、又憲法モ自フ大日本帝國憲法ト稱シテ居リマスノデアリマス、ソレデアリマスルカラ、マア今日ノ解釋ニ依リマスレバ我ガ國ノ國號ハ、大日本帝國ト云フノガ、我ガ國ノ國號ト言フテ宜イト思フノデアリマス、此ノコトニ付キマシテハ、私ハ我ガ國ノ國號ノコトヲ書イテ居リマスカラ、重ネテ其ノコトヲ詳シク申上ゲマセヌ、大凡自國ノ國號ガ何デアルカト云フコトハ極メテ重大ナコトデアリマス、此ノ故ニ「アメリカ」ノ憲法ニ於キマシテモ「アメリカ」合衆國ト稱スルト云フコトガ書イテアル、満洲國ガ憲法ヲ作ル時ニモ、即チ満洲國ト號スルト云フコトガ規定シテアル、自分自身、我々個人ニ付キマシテモ自分ノ名ガ公ニ何デアルカ、ト云フコトガ定ツテ居ナケレバナラヌシ、又ソレヲ知ラナケレバナラヌ、ソレ故ニ大凡國家ノ國號ノ問題ハ、非常ニ重大ナ問題デアル、デアレバコソ本居宣長先生モ、久シク研究セラレテ國號考ト云フモノヲ御書キニナツテ居ル位デアリマス、ソコデ此ノ憲法ニ依リマスルト云フト、大日本帝國ト云フヤウナ文字ハ一ツモナイノデアリマシテ、却テ日本國トアルノデアリマスガ、此ノ日本國ト云フノヲ將來我ガ國ノ國號ニスルト云フコトニ、此ノ憲法デナルノデアラウカドウカ、斯ウ云フコトヲ一ツ御尋スルノデアリマス、是ガ改正内容ノ問題ノ質問第一點、第二點ト致シマシテハ、國家ヲ構成スルモノ、大日本國ヲ構成スルモノハ、ドウ云フモノデアルカト云フコトニ付テ、國家ハ如何ナル程度ニ於テ之ニ關係シヨウトスルノデアルカ、ト云フコトヲ御尋ネ致シマス、是ハ一昨日デシタカ、衆議院ノ改正ガ參リマシテカラ、實ハ質問ノ問題ノ出シ方モ違ツテ居リマス、初ノ案ニハ、日本國民タルノ要件ハ、法律ノ定ムル所ニ依ルト云フコトガアリマセヌデシタガ、衆議院ノ方デソレヲ入レラレマシタ、ソレハ私妥當ナコトダト思フノデアリマスカラ、ソレハソレデ宜イガ、唯モウ一ツ此處デ御尋ネ致シタイノハ、現ニ日本國民デアル者ハ、其ノ意思ニ依ツテ何時デモ日本國民デナクナルコトガ出來ル、斯ウ云フ規定ガアルノデアリマスルガ、是ハ一體ドウ云フ根本ノ立場デアルカ、國籍ヲ離脱スル自由ヲ侵サレナイ、非常ニ強ク侵サレナイト云フコトニナツテ居ル、固ヨリ私ハ此處デ日本國民タル者ハ、永久ニ日本國民トシテ縛ツテ置カナケレバナラヌ、サウ云フコトヲ言フノデハアリマセヌ、併シナガラ日本ノ國民タルモノガ日本ノ國民デナクナル、國籍ヲ離脱スルト云フヤウナコトニ付キマシテハ、是ハ何カ國家ガソレニ付テ關係シ得ルヤウナコトガ必要ヂヤナイカ、此ノ規定ニ依リマスルト、例ヘバ日本ノ國籍ヲ離脱スル時ニ、即チ日本ノ認可ヲ得ナケレバナラヌトカ何トカ云フヤウナ規定ヲ設ケルコトガ出來ナイコトニナリマス、即チ自由權デアリマスカラ國籍ヲ離脱スル自由ヲ侵サレナイノデアル、サウ云フコトハ一體ドウ云フ根本見地デアラウカト云フコトガ質問ノ第二點、ソレカラ第三點ト致シマシテ、我ガ國ノ國務機構ノ基本理念タル天皇制度ヲ廢止スル所ノ理由ガ何所ニアルカ、斯ウ云フコトデアリマス、此所デ私ハ質問ノ文言其ノモノニ天皇制度ヲ廢止スル理由ト云フコトヲ言フテ居リマスガ、私ノ理解スル所デハ此ノ憲法ノ改正案ニ依リマスレバ、天皇制度ハ廢止サレテ居ルノデス、ソレデサウ云フコトヲ言フノデアリマス、而シテ私ガ茲ニ特ニ天皇制度ト申シテ、今使ツテ居リマスル所ノ天皇制ト云フ文字ヲ使ヒマセヌノハ、實ハ同ジコトナノデ、天皇制ト云フ言葉ヲ正當ニ使ヘバ同ジコトデアリマスケレドモ、私カラ申シマスレバソレガ正當ナラズシテ使ハレテ居ルカラシテ、ソレデ一應ソレヲ分ツテ言フノデス、説明ニ於テハ天皇制度モ天皇制モ同ジ内容ヲ持ツノデアリマス、今日天皇制ト云フコトハ、天皇ト云フ何カ機關ガアツテ、サウシテ其ノ機關ノ下ニ他ノ色々ナ國家機關ト云フモノガソレヲ輔弼、輔佐シテ、サウシテ政治ヲ行ハレルト云フコトヲ全般的ニ天皇制ト言ツテ居ル、實ハ天皇制ト云フコトハ何モ決ツタ内容ヲ持ツタ言葉デハアリマセヌカラ、ドウ使ツテモ構ハヌカト思ヒマスルケレドモ、本來天皇制ト云フコトハ、天皇ト云フ制度其ノモノノコトナノデス、唯天皇ガ居ラレテ、サウシテ其ノ天皇ヲ輔ケルヤウナ、斯ウ云フモノヲ引括メテ天皇制ト云フノデハナイ、天皇ト云フ制度其ノモノガ本當ノ天皇制ナノデス、ソレガ即チ天皇制ト云フ漠然タル言葉ニ依ツテ、今日尚天皇制ガ有ルトカ無イトカ‥‥‥實際ハアリハシマセヌ、天皇制、天皇制度ト云フノハ、天皇其ノモノノ制度ナノデス、ソコデ然ラバ我ガ國ニ於キマシテ天皇ト云フ制度ハ一體ドウ云フ制度デアルカト申シマスト、單ニ君主トソンナコトデアリハシナイ、君主デハアリマスルケレドモ、天皇制即チ君主制、君主制即チ天皇制ト云フノデハアリマセヌ、天皇ト云フコトハ我ガ國ニ於テ使ツテ居ル言葉デアリマスルガ、其ノ内容ニ二點アルノデス、其ノ一ツト致シマシテハ統治權ヲ總攬スルト云フサウ云フ地位ニ居ル人、或人ガ統治權ヲ總攬スルト云フ、併シソレハ何モ統治權ヲ總攬スル地位ニ在ル人ガ居ルト云フコトハ日本ノミニ限リハシナイ、他所ノ國ニモアルケレドモ、其ノ統治權ヲ總攬スル地位ニ居ルト云フコトガ如何ナル根據ニ基イテサウ云フ立場ニナツテ居ルカト云フコトヲ考ヘテ見マスルト、我ガ國ノ今日迄ノ考ヘ方デハ、其ノ特定ノ一人ノ方ガ或特定ノ血統ニ出デサセラレルト云フコト其ノコトニ基イテ居ル、國民ノ意思ニ依ツテ其ノ位ニ即ケタノデハナイ、其ノコトノ謂ハレハ別デスガ、サウ云フコトハ決シテナイ、ソレデアリマスルカラ我ガ國ノ天皇制ト云フコトハ、統治權ヲ單ニ總攬シテ居ラレルト云フヤウナコトデハナシニ、ソレモアリマスケレドモ、サウ云フ地位ニ居ラレルコト自身ガ、唯其ノ人ガ、其ノ血族ニ出テ居ルト云フコト其ノコトガ原因デアル、誰カラモサウ云フ地位ニ置カレテ居ルノヂヤナイ、是ガ即チ天皇ト云フコトデアリマス、其ノコトノ善シ惡シヲ言フノデハアリマセヌガ、天皇制度ト云フコトハサウ云フコトデアリマシテ、之ヲ稱シテマア天皇ト言ヘバ言ツテモ宜イ、ソレデアリマスルカラ私共別ニ天皇制トカト云フヤウナコトヲ使ハナカツタノデスケレドモ、此ノ選擧ノ前後カラ、イヤ其ノ前カラ、天皇制ノ打倒トカ、或ハ天皇制ノ擁護トカ云フ言葉ガアツテ、其ノ内容ト云フモノヲハツキリセズニ使ツテ居ルカラシテ、此所デ一ツサウ云フコトヲ申スノデアリマス、天皇其ノモノノコトヲ天皇制ト言ハナケレバイカヌ、サウナリマスルト是ハ何人ガ事々シク論ズル迄モナク、今日或方ガ統治權ノ總攬者ニ、天皇ト稱スル方ガ統治權ノ總攬者ノ地位ニ御即キニナルト云フコトハ、ソレガ或特定ノ家ノ血統ニ生レラレタカラト云フコトダケナンデ、誰カガ其處ニ即ケタノデモ何デモナイ、是ガ即チサウ云フ性質ヲ持ツタ君主ヲ日本デ天皇ト稱スルノデアリマス、ソレ故ニ天皇制ト云フコトヲ唯君主制度ト同ジヤウニ言フノナラバ、ソレハ實ハ日本ノ天皇制ト云フコトヲ根本的ニ誤ツテ居ルノデアリマス、ソコデサウ云フ意味ノ天皇制ト云フモノハドウナツテ居リマセウカ、今囘ノ憲法改正案ニ依リマスレバ、言フ迄モナイコトデアリマシテ、第一ニ統治權ノ總攬ト云フコトハ爲サレハシナイノデアリマス、統治權ノ總攬ト云フノハ、法律上ノ講義ヲスルヤウデ甚ダ恐縮デアリマスルケレドモ、即チ統治權ト云フノハ勿論國家ノ力デアル、國家ノ意思力デアルト金森國務大臣モ屡々仰セラレマスガ、個々ノ場合ニ具體的ニドンナ方面デデモ働キ得ルモノデアル、又具體的ニ何處ニモ出ナイ時デモ、何處カニ人間ノ現實、事實トシテハ何處カ具體的ニ國家ノ意思力ヲ掴ンデ居ルト云フモノガナケレバナラナイ、ソレガ即チ總攬デアル、デアリマスカラ我ガ國ニ於キマシテハ我ガ日本ト云フ國家ノ意思力ト云フモノヲ兎ニ角總攬シテ居ラレルノヲ、是ガ天皇ト云フモノデ掴ンデ居ラレル、掴ムト云フコトハ後デ申上ゲマスケレドモ、所謂大權ト云フコトデ何デモ彼デモ力ヲ行使スルト云フコトデアリマセヌ、ガ兎ニ角掴ンデ居ラレル、ソコデ併シ此ノ掴ンデ居ルト云フ地位ニ即クノハ、誰カラモサウ云フ地位ニ即カサレタノヂヤナイ、其ノ血族、サウ云フ出デアルカラト云フコトデアリマスルカラ、サウ云フ點カラ致シマスルト云フト、第一總攬ト云フコトハ爲サラナイコトハ言フ迄モナイ、事々シク新憲法ノ條文ヲ擧ゲテ言フ必要モナイ、統治權ト云フコトハチツトモ掴ンデ居ラレナイ、天皇ハ總攬ドコロヂヤアリマセヌ、限ラレタ國家ノ政治行動ヲ爲サツテ居ラレル、限定サレテ居ルノデ、決シテ總攬デモ何デモナイ、ソレカラサウ云フ天皇ノ地位ニ即クト云フコトガ國民ノ至高ノ總意ニ基クモノデアル、分ラヌ言葉デアリマスルケレドモ、兎ニ角其ノ血統ノ出デアルケレドモ、其ノ血統ノ出デアルト云フコト、其ノコトニ依ツテ當然ニ其ノ地位ニ即クノヂヤナイ、或血族ノ出デアルト云フコト、其ノ血族ノ出デアルト云フコトニ依ツテ、其ノ地位ニ即クト云フノトハ違ヒマセウ、ソレハ外國ノ憲法デモデスネ、或時代ノ王家ノ血統ノ万ガ其ノ王位ニ即クト云フコトハ外國ノ憲法デモ決定シテ居ルモノガアリマス、唯其ノ即ク所以ノモノガ、國民ノ意思ニ依ツテ即ケラレタモノデアルト斯ウ解釋セラレルノデアルカ、其ノ血統ノ出デアルト云フコト其ノコトニ依ツテ即クノデアルト云フ風ニ考ヘルト云フコトトハ、是ハ別デアリマスルカラ、ソレデ我ガ國ニ於キマシテハ、何モ其ノ時々ノ歴代ノ天皇ヲ我々國民ト云フモノノ至高ノ總意ニ依ツテ其ノ地位ニ即ケタト云フヤウナ考ハ是迄ハアリマセヌ、其ノ皇室ノ出デアルト云フコトカラシテ、其ノコトデ即クノデアル、法ノ結果ニ依ツテ唯即クノデス、サウ云フ風ニ考ヘテ居ルノデアリマスルカラ、其ノ意味ニ於キマシテ、ドウシテモ今囘ハ即チ天皇ト云フ制度其ノモノハ廢止サレタト云フ風ニ私ハ解釋スルノデアリマスルカラ、ソコデ其ノ天皇ト云フ制度ヲ廢止スルト云フ理由ガ一體何處ニアルノデアルカ、段々ト先ニナルコトデアリマスルケレドモ、ソレニ引括メテ言ヘバ、天皇ト云フ制度ヲ廢止スルト云フコトガ今囘ノ憲法改正ニ對スル要求デハナクシテ、天皇ヘノ協力ヲ爲ス協力機關ノ構造、機構ナリ、態度ナリト云フモノヲ變ヘルト云フコトニ依ツテ達セラレルノデアリマス、今囘ノ憲法ヲ改正セムトスル要求ハ斯ウ云フ風ニナルノデアリマス、ソコデ即チ天皇制ヲ廢止スル理由ガ如何ト云フコトヲ御尋ネシタイノデアリマス、ソレカラ今ハ是ハ唯消極的ニ現在ノ天皇ヲ説明申上ゲタノデアリマスケレドモ、ソレナラバ積極的ニ、第四點ニナリマスケレドモ、天皇ノ存在ノ意味ト云フモノ、職務上ノ意味ト云フモノガ全然ナイトスルノデアルカト云フコトヲチヨツト御尋ネスル、先刻來申上ゲマシタヤウニ、是ハ今度ノ憲法デハ其ノ點ハ少シ殘ツテ居リマスルケレドモ、天皇ト云フノハ本來政治的ノ制度デアル、政治的ノ制度ヲ離レテ本當ノ意味ノ天皇ト云フモノハアリハシナイ、ソコデ然ラバ天皇ノ存在ト云フコトニ付テ積極的ナ意味ガナイノカ、政治的ニ天皇ノ職務トカ、天皇ノ任務トカ、天皇ノ天職トカ云フヤウナモノハ一體ナイノカ、サウ云フコトガアルト云フコトヲ全然考ヘテ居ナイノカト云フコトヲ思フモノデスカラソレヲ御尋ネスルノデスガ、サウナツテ來マスト、サウヂヤナイ、是迄ノ考ヘ方ハデスナ、ソレヲ私共ノ解釋シテ居リマスル所ニ依リマスレバデスヨ、是迄ノ日本國ニ於キマシテハ、少シ言葉ガ形容ニ過ギテ居ル言葉デアリマスルケレドモ、一般ニ使ハレテ居ル言葉デアリマスカラ申上ゲマスガ、天皇ニ私生活ナシト云フコトハ、何モ天皇ガ神樣ダト言フノデハゴザイマセヌヨ、誤解サレルト困ルガ、天皇ハ其ノ職務ヲ執ラレルコトニ付キマシテ、自分ノ立場ト云フヤウナモノヲ考ヘテ、サウシテ國家ノ政治ニ當ラレルト云フコトハナイノデアルカ、斯ウ云フコトノ意味ヲ言フノデアリマスガ、處デサウ云フモノガ一體必要デアルガト云フコトハ、一般國家論、或ハ新タニ國家ヲ拵ヘルト云フ時ニハ論議出來ルデセウ、併シナガラ我ガ國ノ如ク既ニ久シイ間サウ云フ立場ノ君主ト云フモノヲ戴イテ、サウシテソレニ依ツテ實ハ國家ノ政治ト云フモノガ大體ニ於テ適正ニ行ハレ來ツタト云フ、斯ウ云フ現實ノ歴史的ノ經驗ヲ持ツテ居ル我々ガ、今日特ニサウ云フ天皇ノ即チ積極的ノ存在ノ意味ト云フコトヲ否定スベキ理由ガ何處ニアルカト云フコトヲ御尋ネスルノデアリマス、（拍手）モウ少シ具體的ニ申シマスレバ、我ガ國ガ如何ニ立派ナ國ダト申シマシテモ、私ハ一般世人ガ言ヒマスル如ク、日本ニ於テ皆ガ沒我、私ヲ棄テテ、サウシテ國家ノ爲ニ働イテ居ル、外國ニ於テ見ルガ如キ自己ノ立場カラ主張シテ爭フト云フヤウナコトハナイト云フヤウナ、ソンナ自己欺瞞、或ハ自分カラ慰メ的ナ言葉ハ大嫌ヒデアリマス、現實ニ反スル、我々日本人ト雖モ、即チ自分自身ノ個人的ノ、或ハ又場合ニ依リマスレバ階級的ノ立場カラ或問題ヲ考ヘテ、サウシテ其ノ問題ニ對スル處置、態度ヲ決定スルト云フコトハ、是ハ免レヌト思ヒマス、デアリマスルカラ、資本家ハ資本家ノ立場カラ、勞働者ハ勞働者ノ立場カラ、藝術家ハ藝術家ノ立場カラ、政黨者ハ政黨者ノ立場カラ、官吏ハ官吏ノ立場カラ色々ナ問題ヲ考ヘルト云フコトハ、理念的ニハ望マシイコトデハナイニシテモ、私ハ能ク言ヒマスガ、現實ノ人間ノ問題トシテハソレハドウモ已ムヲ得ヌコトデアル、唯此ノ時ニデスネ、マアムヅカシイコトデアルケレドモ、特ニ其ノ自己ノ立場ト云フモノカラ脱却シテ、サウシテ國事ヲ考ヘ、政治ヲ決定スルト云フヤウナ、サウ云フ任務ヲ持ツト云フ者ガアレバ宜イト思フノデアリマスガ、併シソレハ實際ハムヅカシイノダ、外國ノ大統領デモサウハ行カナイ、ムヅカシイケレドモ、兎ニ角少クトモ建前トシテサウ云フ任務ガアルト云フ者ガアレバ宜イヂヤアリマセヌカ、幸ナル哉、我ガ國ニ於キマシテハ、建前トシテデアリマシテモサウ云フ任務ヲ持ツテ居ル天皇ト云フ機關ガアル、ソレヲ何故ニ此處デ廢メテシマフカ、斯ウ云フコトガ私ニハ分ラナイノデアリマス、將來ハ我ガ國ハ立派ナ國ダト云フヤウナコトヲ夢見テ、國内ニ自己ノ生活意識ト云フモノヲ基礎トシタ爭ガナイト云フヤウナ、ソンナ革胥ノ夢ヲ貪ツテ居ルヤウナコトデハイケマセヌ、必ズ將來ハ爭ガアリマス、アツテモ宜イト云フコトハ申シマセヌケレドモ、已ムヲ得ヌ、サウナル時ニハデスナ、兎ニ角建前トシテ一切ノ階級的立場ヲ超越シテ、サウシテ一ニ國家ノ爲、或ハ國民ノ爲ト云フコトカラ考ヘルト云フ任務ヲ持ツテ居ル者ガアルコトガ何故ニ悪イノデアルカ、私ガ一ツ理由ヲ申シマセウ、最近ノ例ガアルヂヤアリマセヌカ、此ノ終戦ダ、ドウデス、去年ノアノ時ニ皆兎ニ角意見ガ一致シナカツタノヂヤナイダラウカ、即チソレハ直接ニハ廟堂ノ諸公ノ間ニ、大臣ノ方々、或ハ軍人其ノ他ノ方々ノ間ニ意見ガ一致シナカツタ、ソレデ仕樣ガナイカラ天皇ノ御裁斷ヲ仰グト斯ウ云フコトニナツタンデアリマセウ、ドウデスカ、又アノ時ニ國民ノ間ニモ色々意見ガアツタラウト思ヒマスガ、併シ兎モ角モ聖斷ガ降リマシタカラシテサウ云フ風ニナツタ、併シサウ云フ風ニナツタト云フ意味ノモノハ、唯力ニ抑ヘラレタンヂヤアリマセヌデセウ、是ハ政黨ノ總裁ノ力ニ抑ヘラレタトカ、下級官吏ガ長官ニ抑ヘラレタト云フコトデハナイ、其ノ根本ヲ遡リマスト云フト、天皇ハ兎ニ角何等御自身ノ立場ト云フモノハ御考ニナルコトナク、一ニ國家ノ爲、一ニ我々國民ノ爲ニ御裁斷ニナツタト云フ信念ガ我々ニアルカラソレニ従フ、（拍手）、事ノ内容ニ於キマシテハ或ハ不滿ヲ懐イテ居ル者ガアツタカモ知レマセヌ、不滿ヲ懐キナガラソレニ從フト云フノハ、唯力ニ從ツタンヂヤナイ、實ハ天皇ノ其ノ御心持ニ我々ガ從ツテ居ルノデアリマス、斯ウ云フ、一ニ私ナク國事ヲ裁斷ヲナサルト云フヤウナ、サウ云フ御任務ヲ持ツテ居ラルヽト我々一般國民ガモウ信頼シ切ツテ居ツタ所ノ天皇ヲ何故廢止スルンダラウカ、ドウモ我々ニハ實際分ラナイ、併シ天皇ノサウ云フ行動ハ濫リニ出テハイカヌノデス、ソレハ言フ迄モナク濫リニ出ヌカラ協力機關ト云フモノガアル、大臣ニ、ソレカラ議會ニ、此ノ協力機關ノ協力ニ依ツテ行動ヲナサルノデアリマスルケレドモ、或ハ直接ニ國民ノ意思‥‥併シナガラ其ノ協力機關ガ協力セヌ場合ガアツタデハアリマセヌカ、終戰ノ場合ニ‥‥、アノ場合ニ天皇ノ裁斷ガナカツタナラバ、我ガ國ハドウナツテ居ツタデアリマセウカ、是ハ實ニ我々ガ思ヒヲ致サナケレバナラヌコトデアルト存ジマス、私ハ堅クサウ信ズルノデアリマス、サウ云フ風ナ任務ヲ天皇ハ持ツテ居ラレルノガ、即チ天皇ノ天職ト斯ウ云フ風ニ我々ハ言フノデアリマス、併シ私ハ總テノ歴代ノ天皇ガ過去ニ於キマシテサウ云フ風ナ立派ナ方ダケデアツタト云フコトヲ言フノデハアリマセヌ、時ニハ御自分ノ立場カラ問題ヲ御決定ニナツタト云フヤウナコトモナイトモ限リマセヌノデス、併シナガラ茲デ天皇制ノ可否、是非ト云フコトハ、個々ノ天皇ヲ提ゲテ言フコトデハナイノデアリマス、サウ云フ職務ヲ持ツテ居ラレル方々ガ、世々相繼イデ天皇ノ地位ニ即カルヽト云フ、サウ云フ制度ヲ天皇制ト言フノデアリマス、ソレデアリマスルカラ概括的觀察ヲセネバナラヌノデアル、個々ノ天皇ニ付テハ、或ハ今申シマシタヤウナ天皇ノ職務ト云フモノニ反スルヤウナコトモナカツタトモ言ヘマセヌケレドモ全般的ニ見レバ、大體ニ於キマシテサウ云フ職務ト云フモノヲ全ウセラレテ居ツタ、是ハ事實ガサウダ、過去ノ事實カラ將來ヲ想察シマスルト、將來ニ於テモ我ガ國ノ天皇ハサウ云フモノデアラウ、斯ウ云フ風ニ考ヘル時ニ、天皇制ノ存在ノ理由ガ出テ來ル、天皇制ト云フコトハ決シテ個々ノコトヲ見テ言フノヂヤアリマセヌ、デアリマスカラ個々ノ場合ニ、或時代、例ヘバ今ナラ今ノ時代ニ於テ此ノ天皇制ト云フヤウナコトカラ實際ニ酷イ目ニ遭ウタ人間ガアル、併シナガラ其ノ故ニ天皇制ヲ非難スルト云フヤウナコトデハ、ソレハ固ヨリ國家ノ制度ヲ論ズルノ資格ハナイノデアリマス、又或ハ、或時代ニハ天皇制ト云フコトカラシテ非常ニ色々ナ恩惠ヲ受ケテ、非常ニ利益ヲ得テ居ル人間ガナイトモ限ラナイ、併シソレ等ノコトカラシテ自分ハ天皇制ガ宜イト云フ風ニ言ツタラ、ソレハモウ到底國政ヲ論ズルノ資格ハナイノデアル、自分ノコトヲ言フノハヲカシイデスケレドモ、私ハ實ハ最近迄非常ニ窮屈ナ目ニ遭ウテ居ツタノデアリマス、餘リ天下ニハ知ラレマセヌケレドモ、憲兵隊ニモ出テ酷イ目ニ遭ウテ居リマス、京大ヲ唯辭職ヲシタ、ソンナコトダケデアリマセヌシ、又或時ニハ警察‥‥京都デゴザイマスケレドモ、或有力ナル通信機關カラ、或警察ノ方デハ佐々木先生ハドウシテモ引張ラネバナリマセヌト云フコトヲ言ツテ居ルト言ツテ、私ハ行ツタコトモ何度カ知レマセヌケレドモ、ソレハ何デモナイコトデアリマス、私ハ實際今デモサウ思ツテ居リマス、ソレハ民意政治、今ノ「デモクラシー」デス、民意政治ト云フコトニ極メテ熱中シテ、サウシテ反動政治家ト、時ニハ政黨ノ諸君デモ批判ヲスルト云フコトヲヤツテ居ツタモノデアリマスカラ、殆ド天下ガ敵デアリマス、敵ト云フコトハヲカシイケレドモ、少クトモ友デナイ、ソレデ或有力ナ通信機關ノ人ガ、ドンナコトカ知ラヌケレドモ、警察ノ方デ佐々木先生ニドウシテモ一遍來テ貰ハネバナラヌト言ツテ居ルト言ツタノデスガ、何ノコトカ分ラヌ、現ニ私ハ憲兵隊ニ引張ラレタノデアリマス、ソレハ所謂今日天皇制ヲ非難シテ居ル人ガ、ソレハ天皇制ノ爲ダト言ツテ居ルケレドモ、サウ云フコトヲ考ヘテハイカヌ、私ハサウ云フ目ニ遭ツタ爲ニ、決シテ天皇制ヲ非難スルノデハアリマセヌ、ソレハ天皇制其ノモノガ惡イノデハアリマセヌ、即チ天皇ニ協力スル任務ヲ持ツテ居ル人々ノ協力ノ方法ガ惡イノデアリマスカラ、此ノ協力機關ノ機構ナリ、協力ノ方法ナリヲ變ヘタラ宜イト斯ウ堅ク信ジテ居ルノデアリマスカラ……私ハ實ハサウ云フ天皇制ヲ非難スル人々ト程度ハ違ヒマスケレドモ、實際ハ同ジヤウナ目ニ遭ツタノデアリマス、ケレドモソレハ天皇制ヲ論ズルコトトハ関係ハアリマセヌ、サウ云フコトデアル、ソレカラ今度ハ、大變長クナリマスケレドモ、御尋ネセネバナリマセヌノデス、ソコデ尚天皇ト云フ名ヲ存シテ置イテ、天皇制ガアルトカ何トカ云フ風ニ言ウタリ、或ハ又一般世人ヲシテサウ云フ風ニ思ハシムルヤウナ必要ガ一體何處ニ在ルノデアリマセウカト云フ問題デス、ソレヲ一ツ御伺ヒ致シタイト思フノデアリマス、實ハ改正憲法ニ依リマスレバ、天皇ノ名在ツテ實無シト云フコトニナツテ居ルノデアリマスガ、サウ云フコトノ理由ガ一體何處ニ在ルカト云フコトヲ御尋ネスルノデスガ、チヨツトソレニ關聯シテデスケレドモ、チヨツト御參考ニ申上ゲテ置キマスノデスガ、ソレハ曾テ「ドイツ」ニ於キマシテ、御存ジノ通リ色々ナ「プロイセン」、「バイエルン」、「サクソン」ト云フヤウナ、所謂支分國ト稱セラレルモノガアリマシタデセウ、ソレガ一ツノ聯邦國ニナツタノデアリマシテ、其ノ時ニ所謂「ケーニツヒ・フオン・プロイセン」、「プロイセン」ノ國王ガ「ドイツチェライヒ」、「ドイツ」國ノ「カイゼル」ト云フモノニナルト云フコトニナツタノデアリマス、ソコデ此ノ「カイゼル」ト云フノハ、一體ドウ云フ性質ヲ持ツテ居ルモノカト云フコトガ、非常ニ向フノ實際家ノミナラズ、學者ノ間ニモ議論ニナリマシテ、ソコデ是ハ詰リ「カイゼル・テイーテル」ト云フコトヲ言ウテ居ルノデス、「カイゼル」ト云フト、如何ニモ君主ト云フ風ニ思ヒマスケレドモ、實際ハ君主ヂヤナイノダ、是ハ唯「カイゼル・テイーテル」ト云フ言葉ヲ「ドイツ」人ガ使ツテ居ルノデアリマスガ、我ガ國ニ於テ將來天皇ト云フコトハ天皇稱語デアル、天皇「テイーテル」ト云フヤウナ意味ニ於テ天皇ト云フ言葉ヲ殘スト云フ意味デアリマセウカ、此處ニ非常ニ重大ナ問題デアル、私共ハ個人ノ考デアリマスルケレドモ、寧ロ名モ早ヤ何トカ別ノ名ニシタ方ガ餘程徹底スル、從來教育ガ誤ツテ嘘ヲ言ツテ教育ヲシテ居ツタト云フコトヲ言ハレテ居ツタ、大臣自身モ色々言ハレテ居ル、私共ハサウトモ思ヒマセヌケレドモ、兎ニ角サウトスルナラバ、今後ハ別ノ内容ヲ持ツタ嘘ヲ言ハナケレバナラヌ、嘘ノ教育ハ永久ニ續クノダ、サウ云フコトナラバ寧ロ今後ハ天皇ト云フ名稱ヲ然ルベク變ヘタ方ガ宜イ位ニ思ツテ居リマスカラ、何故天皇ト云フ名前ヲ殘ス必要ガアルカト云フコトヲ御尋ネスルノデアリマス、ソレカラ大變ヤヽコシイコトニナリマシタケレドモ、第六點ト致シマシテ天皇ハ象徴デアルト云フコトハドウ云フ意味カ、サウ云フコトノ意味ト云フノハ色々アリマスケレドモ、法的ノ意味ハ何デアルカ、天皇ガ日本ノ象徴デアリ、日本國ノ象徴デアリ、ソレカラ日本國民ノ統合ノ象徴デアルト云フコトハ、一體ドウ云フコトデアルカト云フコトヲチヨツト御尋ネ致シマス、ト云フコトハ今囘ノ憲法改正案ノ中デ非常ニ特ニ特色ノアル改正トシテ、特色ノアルモノトシテ象徴ト云フ文字其ノモノガ特色デアルガ、天皇ガ象徴デアルト云フコトニ付テ色々ノ議論ガ衆議院以來起リマシタカラ、矢張リ此處ハ明カニセナケレバナラヌ、ソコデ法的ノ意味ニ入リマス前ニ一體象徴ト云フコトハドウ云フヤウナ意味ヲ持ツテ居ルカ、象徴ト云フ言葉ヲ考ヘテ見マスルト、是ハ屡々皆サンノ言葉ノ中ニアリマシタヤウニ、「シンボル」、此ノ象徴ト云フノハ表現的ノ意味ト、ソレカラ記號的ノ意味トアル、或モノノ持ツテ居ル性質ヲ或他ノモノノ持ツテ居ル性質デ以テ表現スル、ソレカラサウデナシニ唯或モノヲ示ス一ツノ符號ダ、例ヘバ「アイドルゼン」ノ代リニ「エッチ」ト云フ文字ヲ使フ、サウ云フ記號的ノ意味ニ於テノ象徴ト云フコトト、表現的ノ意味ノ象徴ト云フコトト二ツノ意味ガアルヤウデアリマス、曾ツテ藝術ナドノ方面デ象徴主義ト言ハレタノハ、無論表現的ノ意味デアツテ、其ノモノノ全部ヲ即チ「リヤル」ニ現ス代リニ、其ノモノノ持ツテ居ルモノガヒヨツト掴メバ、ソレデ他ノ掴ンダモノモ似テ居ルカラシテ示スト云フコトニナル、ソレガ即チ表現的ノ象徴デアル、ソコデ天皇ガ日本國ノ象徴デアリ、日本國民ノ象徴デアルト云フノハ一體ドウ云フコトヲ言フノデアルカ、例ヘバ即チ十字架ハ「クリスチャニティー」ノ「シンボル」、十字架ト云フモノハ「キリスト」教ノ「シンボル」デ分ルヤウニ、ソレカラシテ、御釋迦樣ガ手ヲ片方擧ゲマシテ、サウシテ右手デ下デ受ケテ居ル、是ハ即チ佛教ノ慈悲ノ象徴ダト能ク分ルノデアリマス、或ハ又色ノ白サト云フモノハ純潔ノ象徴デアル、是モ能ク分ル、獅子ハ勇氣ノ象徴デアル、是モ能ク分ル、ソコデ天皇ハ日本國ノ象徴デアルト云フノハ、天皇ノドノ性質ヲ日本國ノドノ性質ト表現サシテ居ルノカサツパリ分ラナイ、ソレハ併シソレ故ニ其ノ言葉ノ象徴ト云フノハ唯符號的ノ表象ダ、即チ天皇ヲ見レバ我々ハ唯國家ヲ思ツテ天皇ニ御辭儀スルノハ、天皇ニ御辭儀スルノヂヤナクテ、國家ニ御辭儀スルト云フコトニナル、ソレハ恰カモ何處ノ國ニ於キマシテモ、國旗ニ御辭儀スルノハ國旗ト云フモノニ御辭儀スルト云フコトデナシニ、國家ニ御辭儀スル、但シ一般國家ノ象徴デアリマスケレドモ、其ノ國旗ト云フトサウデナイ、「アメリカ」ノ星條旗ノ如キ内容ヲ持ツタモノデアルカラアノ國旗ハ「アメリカ」ノ象徴ニナル、日本ハ即チ日ノ丸ノ内容ヲ持ツタ國旗デアルカラ即チ日本國ノ象徴ニナル、併シソレハ凡ソ一般國家ト云フモノト一般象徴ト云フコトト全然違フノデアル、ソコデ天皇ハ日本國ノ象徴デアルト云フノハ、一體如何ナル性質ニ依ツテ表現セムトシテ居ルノデアルカ、サウ云フ表現ハ出來ナイ、唯記號ノ如ク國旗ガ國家ノ象徴デアルト云フヤウナ意味ニシカ取レナイ、併シ天皇ハ日本國民統合ノ象徴デアルト云フコトニ相成リマスルト云フト、國民統合ト云フ一ツノ性質ガ茲ニ決ツテ居リマスルカラ、ソコデ色々ノ者ガ居ルケレドモ、ソレガ統合サレテ居ルト云フコトガ、即チ天皇ノアスコニヲサマツテ御出デニナルト云フコトニ依ツテ象徴サレテ居ルト云フ風ニ、或表現的ノ性質ガ出テ來ヌトモ限リマセヌガ‥‥、デ私ハ偶然ニ或日日比谷公園ヲ色々問題ヲ考ヘツヽ歩クモノデスカラ‥‥或日ソレハ軍艦行進曲ト云フノガ、海軍大將有馬良橘サンガ書イテ居ル、其ノ中ニ面白イ私ノ參考ニナツタノデス、軍艦行進曲ト云フモノヲ書イテ居ルノデス、ソレノ又説明ガシテアリマスガ、軍艦行進曲ハ海軍日本ノ象徴デアル、其ノ曲ヲ聽ク時ニ、我等一億日本人ノ胸ニ深キ畏敬ノ念ガ湧キ、高キ勇氣ノ氣ガ燃エ上ガツテ來ル、是ハ我等ガ即チ全身ハ帝國海軍ヲ讚フ熱情ノ詩デアルト云フ風ニアリマシテ、海軍行進曲ハ海軍國トシテノ日本ノ躍動シテ居ル有樣ヲ象徴シテ居ル、是ハ實ニ即チ象徴デアル、是ハ私ガ特ニ探シタ譯デアリマセヌガ、此ノ間歩イタ時ニアンナモノガアルカト見マシタ、所ガ幸ヒナルカナ此ノ憲法論ヲ爲ス一ツノ材料ガ出來タ、是ガ本當ノ象徴デアル、デアリマスルカラ、日本天皇ハ日本國ノ象徴ト云フコトハドウモ工合ガ惡イ、記號的ナ無性格ナコトニナツテ居ル、日本國民統合ノ象徴ト云フコトニ至ルト云フト稍々分ル、斯ウ云フ風ニナリマシテ、私ハ此ノ文字自身ヲカシイト思フケレドモ、ソレハマア暫ク法的ノ意味デナイカラ、サウ云フ法的意味ハドウアラウトモ、是カラ一體ドウ云フ法的意味ヲ與ヘムトスルノカ、天皇ハ日本國ノ象徴デアル、扨、ソレカラ法的ニドウ云フ意味ヲ之ニ與ヘムトスルノデアルカ、憲法ハ法デアリマス、デアリマスルカラ、即チソレガドウ云フ法的意味ヲ持ツテ居ルノカト云フコトヲ一ツ御尋ネシテ見タイト思ヒマス、ソレデ誠ニ残念デアリマスルケレドモ、ドウモ仕樣ガナイ、ソレハ私ハ嘗ツテ「タイム」ト云フ雑誌ヲ讀ンダコトガアリマス、是ハ確カ憲法ガ出マシタ殆ド直グノ雑誌デアリマシテ、「マーチ」‥‥三月十八日デス、ソレガ即チ「ジャパン」トシテ其ノ中ニ斯ウ云フコトガ書イテアル、其ノ中ニ日本ノ新憲法ノコトヲ擧ゲマシテ、サウシテ色々ノコトヲ‥‥其ノコトハ後デ申上ゲマスガ、其ノ時ニ此ノ象徴ト云フコトニ關シマシテ斯ウ云フコトヲ言ウテ居ルノデアリマス、「エンペラー」ハ詰リ國ノ「シンボル」ニ迄成下ツタ「レデュース」トハツキリ書イテアル、ソレハ當然ダ、法的ニハ政治的ニハ内容ガナイノダカラ‥‥、ソコデ更ニ皮肉ニ、若イ「プリンス」、名ヲ申上ゲルコトハ私共畏イコトダカラ申サナイガ、若イ「プリンス」ノ或方ハ尚「スローン」ハ即チ相續シ得ル、併シナガラ「パワー」ノ「シート」ハ相續スルコトガ出來ナイ、成下ツタ「レデュース」、是ハ即チ「アメリカ」人ノ書イテ居ル所ノ憲法ヲ紹介シタ中ニアル一文デアリマス、我ガ國ガ天皇ヲ象徴デアルト云フヤウナコトヲ何故用ヒル必要ガアルノカ、又ソレヲ用ヒタトスレバ其ノ法的意味ガドウデアルカト云フコトヲ一ツ知リタイト實ハ思ツテ居ルノデアリマス、ソレカラ更ニ第七點ニナリマスケレドモ、今度ハ非常ニ重大ナ點ニナリマスガ、國體ノ變更デアリマスガ、國體々々ト云フコトハアツチデモコツチデモ屡々出テ居ルコトデアルカラ申シマスガ、國體ノ意味ガ違ツタトカ、ソンナコトハ問題デハナイ、國體ト云フ名ヲ以テ呼ンデ居ツテ、而シテソレヲ我々ガ兎ニ角我ガ國家性格ニ於テ重要ナルモノト考ヘテ居ツタ、其ノ事實ノ變更ヲ言フノデス、國體ト云フ言葉デ表ス觀念トカ意味トカソンナコトヲ言フノヂヤアリマセヌ、我ガ國ニ於キマシテハ先刻申上ゲマシタヤウニ、統治權ノ總攬者ガアヽ云フ風ナ一人ニ決ツテ居ツテ、ソレガアヽ云フ血統ノアル方デアルカラ、單ニ其ノ方ガサウ云フ地位ニ即カレルト云フヤウナコトヲ、ソレヲ國體ト言ツテ居ル、國體ト云フ觀念ガ精神的ナモノダトカ、何トカソンナコトハ構ハナイ、別ニ言葉ノ問題ヲ言フノヂヤナイ、其ノ言葉ニ依ツテ表レテ來タト云フ事實ガ變更シタト云フコトガ問題デアリマス、此ノ意味ニ於テ國體ノ變更ト云フコトヲ言ツテ居リスガ、此ノ國體ノ觀念ト云フコトガドウ云フコトデアルカト云フコトハ、私ハ三四年前ニ書物ニ書イテ居リマスガ、其ノ中ニ今申シタヤウナ萬世一系ノ天皇ガ統治權ノ總攬者デアル、其ノ地位ニ即カレルコトハ其ノ御血統デアルカラ即カレルノデ、ソレダケノコトデアル、ソレヲ我ガ國ノ國體デアルト今迄ハ言ツテ居ル、ソレヲ政體ト稱スルノガ宜イカ惡イカト云フコトハドウデモ宜イ、併シ我ガ國デハ政體ト言ツテハイケナイ、國體ト言ハナケレバナラナイ、サウナツテ居ル、國體ト云フ言葉ヂヤアリマセヌ、サウ云フ國體ト云フ言葉ニ依ツテ理解サレル事實ヲ我ガ國ニ於テハ重ンジテ居リマシテ、ソレガ即チ治安維持法裁判ノ判決モサウ云フ意味ニ於テ使ツテ居ルノデアツテ、現實ノ事實其ノコトヲ重ンジテ居ルト云フノハ、ソレハドウ云フ譯カト云フコトハ今長クナルカラ言ヒマセヌガ、我々國民ハ從來ハサウ云フ事實ガアルト云フ其ノ事實ニ我ガ國家ノ本質ヲ感ジテ居ツタノデアリマス、是ハ此ノ間以來言ハレタ辯士諸君及ビ國務大臣ノ書物ニチヤント書イテアル、ソレガ我ガ國ノ基本的ナ言辭ナンダ、即チ國體ト云フ其ノ事實ガ變ツタナラバ我ガ國ガ變ルト自ラ言ツテ居ラレルヂヤアリマセヌカ、ソレヲ變ラヌトカ、同一ダトカ、何ダカ譯ガ分ラナイ、言葉ヲ言フノヂヤナイ、我々日本人ノ考ヘ方ハサウ云フコトニ我ガ國家ノ本質ヲ觀テ居ルト云フ、其ノコトヲ言フノデアリマス、サウ云フ事實トシテハ變ツテ居ルノデアリマス、ソコデ變ツテ居ルノデアルガ、其ノ變ツテ居ルト云フコトヲ、然ラバ何故ニ、次ノ第八段ニナリマスナ、ハツキリト明言シナイカ、國體ト云フ言葉ノ意味ヂヤアリマセヌ、其ノ内容ガ變ツテ來テ居ルト云フコトヲ何故ハツキリ言ハナイノカ、從來サウ云フ言葉デ現シテ居ツタ事實、其ノ事實ヲ重ンズルト云フコトガ變ツタノダ、兎ニ角變ル、變ラヌハ別トシテ何故變ツタカト云フコトヲ御尋ネスルノデアリマス、ソコデ更ニ進ミマシテ、ソレハ内面的ニハ、サウ云フ國體ヲ、サウ云フ事實ヲ變ルト云フ必要ハ毛頭ナイト思フガ、ソレハ即チ共産黨的ノ人ハ其ノ事實ヲ必要トシマスガ、併シ一般的ニハナイト思ヒマス、然ラバソレニモ拘ラズソレヲ實質的ニ名ハ變ヘヌト稱シテ、實質的ニ變ヘルト云フコトハ何カ、「ポツダム」宣言ト云フモノニ依ツテ要求サレテ居ルノデハナイカ、斯ウ云フコトヲ御尋ネスル、ソレニ付キマシテハ初メニモ申シマシタヤウニ、「ポツダム」宣言ハ決シテ日本ノ即チ「ガヴァメント」ノ「ホルム」ヲ君主カ國民カト云フ意味ニ於テ國民ノ意思ニ依ツテ決ツタ所ノ君主國ニ對スル所ノ意味ニ於テノ民主國ニシナケレバナラヌト云フコトハ言ウテ居リマセヌ、アノ「ポツダム」宣言デ現ニ「ジヤパニース・ピープル」ニ依ツテ決メルト云フコト、及ビ兩國ノ交渉ノ意味ノ「ジヤパニース・ピープル」デ決メルト云フコトハ是ハ日本人デ決メルト云フコトニ外ナラナイ、決シテ日本ノ君主ト云フコトノ對象ヲ考ヘテ、サウシテ民ガ決メルト云フヤウナ意味デハ言ツテ居ナイト云フコトハ明カデアリマス、處ガソレガ妙ナ風ニ理解サレマシタ結果、今日ハ「ポツダム」宣言ノ受諾ノ結果何カ日本ト云フモノハ所謂君主政治ニ對スル民主政治、民主國ニシナケレバナラヌヤウニ考ヘラレ、甚ダシキニ至ツテハサウ言ハレテ居ルノデアリマスガ、斯ウ云フコトハ如何ナモノデアリマセウカ、此ノ點ニ付キマシテハ政府ノハツキリトシタ、御説明ヲ御願ヒ致シタイト思フノデアリマス、決シテサウ云フコトハナイノデアリマス、ソレカラ少シ長クナツテ相濟ミマセヌデスケレドモ、今申上ゲマシタヤウナ、サウ云フ天皇ノ御職務ノ云フヤウナ、サウ云フ天皇ノ、即チ御一人ノ地位、是ハ先刻來御話ニ上ツテ居リマシタ所謂無答責ト云フコト、天皇ハ神聖ニシテ侵スベカラズト云フコトガアリマスガ、其ノ規定ハ茲ニチツトモナイト云フコトニナリマシタガ、其ノコトハ晝迄モ質問ガアリマシテ、サウシテソレニ對シテ御答辯ガアリマシタデスケレドモ、チヨツトマダ私ハ能ク分ラヌコトモアリマスガ故ニ、極ク簡單ニ御尋ネ申シマス、元來ドウモ甚ダ何デスケレドモ、今日ノ所謂無責任、天皇無責任ト云フアノ現行憲法ノ第三條ノ規定ノ解釋ガ、既ニ一般ニ誤解サレテ居ル、アレハ詰リ所謂無責任々々々ト言ヒマスケレドモ、唯天皇ハ此ノ國家或ハ又國家ノ機関タル他ノモノ、天皇以外ノモノカラ法的ニ其ノ行動ニ付テ責任ヲ問ハレルコトガナイト云フ規定ナノデアリマス、但シ神聖ト云フ文字ガアルカラ、如何ニモ神秘ダトカ何ダトカ言フケレドモ、ソンナコトハナイノデアリマシテ、サウ云フ意味ヂヤナイ、神聖ト云フコトハ、例ヘバ教育ハ神聖デアルトカ、勞働ハ神聖デアルトカ、或ハ教場ハ神聖デアルトカ、皆神聖ト云フコトハ其ノ時々ニ使ヒマスカラ、其ノ使フ場合場合ニ依ツテ其ノ神聖ノ何デアルカト云フコトガ決ルノデアルカラシテ、憲法デ神聖ニシテト云フコトヲ言ツタ以上ハ何モ神祕性トカサウ云フコトハ關係ナイ
〔副議長退席議長著席〕
要スルニアレハ天皇トシテ我ガ國ニ於テ持タルベキ所ノ尊嚴性ガアル、ソレガ神聖、其ノ尊嚴性ヲ侵スヤウナ取扱ヲ即チ國家ハシナイト云フコト、是ガ即チ無答責ト云フコトデアリマシテ、ソレデ例ヘバ今日晝迄ノ御答辯ニ對シテチヨツト御尋ネシナケレバナラヌコトガ答辯ヲ聽イテ出マシタガ、天皇ヲ罰スル場合ニ、天皇ニ刑罰ヲ科スルト云フヤウナ刑法ヲ設ケルコトガ出來マスデスカ、ソレハ政治上ノ責任トカ、サウ云フコトヲ言フノヂヤナイ、天皇ガ假ニ人ヲ殺サレタト云フヤウナ時ニハ、天皇ヲ處罰スルト云フサウ云フ規定ガ出來ルカ、斯ウ云フ問題ダ、政治トカサウ云フコトヲ言フノヂヤナイノデス、國家ガ天皇ノ行動ニ對シテ責任ヲ科スルト云フ其ノ規定ガ出來ナイト云フコトデアル、デアリマスルカラ、例ヘバ甚ダ申上ゲニクイコトデアルケレドモ、天皇ガ人ノ物ヲ、アレハ好キダト云フノデ勝手ニ取ラレル、御買上デナシニ取上ゲラレル、サウ云フ場合ヲ之ヲ處罰スルコトガ出來ルカ、サウ云フヤウナコト、政治上ノ行動トカサウ云フコトヲ言フノヂヤナイ、天皇ノ行動ニ對シテハ國家ガ天皇ノ尊嚴ヲ侵スヤウナ方法ニ於テハ、之ニ對シテ責任ヲ科スルコトガ出來ナイト云フノガアノ規定デアリマスガ、然ラバ新憲法ノ下ニ於テ他日、今日ハアリマスマイケレドモ他日天皇ヲ處罰スルト云フヤウナ刑罰法規ヲ作ルコトガ出來ルノデアリマスカ、出來ナイノデアリマセウカ、是ハ非常ナ重大ナル問題デアル、ソレカラ無答責ナラバ宜イケレドモ、天皇ニ責任ナシ、責任ナシト云フコトハ往住ニシテ誤解サレル、凡ソ國家ノ政治ノ衝ニ當ル者ガ責任ガナイト云フ筈ハ一般的ニハアリマセヌ、天皇ト雖モ、即チ國家ノ爲ニ不利益ナコトヲナサイマシタナラバ、ソレハ天皇トシテドウモ責任ガアル、併シ其ノ責任ヲ天皇以外ノモノ、此處デハ國家ト云フ機關、國家ノ機關デスガ、ソレガ問ヒ質シテ之ニ一定ノ制裁ヲ加ヘルト云フヤウナ、サウ云フコトガ出來ナイト云フコトヲ、天皇無責任ト云フノデアリマシテ、天皇ガ國家ノ政治ニ當ラセラレテ、其ノ結果ニ對シテ責任ガナイト云フヤウナソンナコトハアリ得ナイ、寧ロ天皇ハ一層責任ヲ持タセラレルノデアルガ、其ノ責任ハ天皇以外ノモノ、此處デハ國家ノ機關デアリマスルガ、國家ノ機關ガ其ノ天皇ノ責任ヲ質スト云フヤウナ方法ヲ執ラナイト云フコトヲ言フノデアリマス、サウ云フ風ニ、他人ニ依ツテ責任ヲ問ハレル‥‥問ハレナイト云フコトニ相成リマスル以上ハ、ヨリ多ク天皇ハ其ノ政治ニ付テ責任ヲ御感ニナラナケレバナラヌシ、又ナルダラウト思ヒマス、是ガ即チ日本ノ天皇ガサウダ、日本ノ天皇ハ御自身ノ政治ノ結果ニ付テ責任ヲ自ラ御感ニナルト云フ所ニ日本ノ天皇ノ本質ガアルノデアリマス、ソレデ此ノ天皇ノ無答責ト云フコトハ、實ハ是ハ本當ヲ言ヒマスルト云フト、道義的ニハ一層強イ責任ヲ天皇ガ感ジラレナケレバナラヌ立場ニアルノデアリマス、思ヒマスルノニ、此ノ戰爭以來、一般國民ノ生活状態ガ今日ノ如クニナリ、又是ガ爲ニ幾千萬ノ人間ノ生命ヲ失ハシメタト云フコトニ付キマシテ、陛下ハ恐ラク非常ニ自ラ色々ナ御感想ノ深イコトデアルト察スルノデアリマス、ソレガ即チ日本ノ天皇ナンデアル、更ニ思ヒマスルノニ、今後或ハドウナルカ分ラスコトデアリマスルガ、即チ今行ハレテ居リマスル所ノ東京ノ軍事裁判デスカ、アヽ云フモノガドウ云フ結果ニナルカ知リマセヌガ、是ガ確定シタ時ニ天皇ハ果シテ如何ナル御感想ヲ御持ニナルカト云フコトヲ、實ハ窃カニ、心配ト云フコトハアリマセヌケレドモ思ツテ居ルノデアリマス、天皇ハ本當ニハ非常ニ御感想深イコトト察スルノデアル、ソレデモ我々ガドウスルト云フコトヲ言フノデハアリマセヌ、ソレダケ天皇ハ誠ニ申上ゲルコトノ出來ナイ所ノ非常ナ御苦境ニ立タセラレテ居ルト私ハ思ツテ居ルノデアリマス、サウ云フ問題ヲ解決スルノハ、是ハ憲法デハアリマセヌ、或ハ皇室典範カモ知ラヌ、是ハソコ迄私ハ今論ズル必要ハアリマセヌ、併シ我々ガ眞ニ國家ノ爲ニ、或ハ又眞ニ天皇ノ爲ニ思フト云フヤウナコトハ、唯形式的ナ、表現的ナ態度デハイケナイノデアル、本當ノ人間性、人間ト云フモノニ深ク徹シテ、サウシテ考ヘナケレバイケヌト云フコトヲ私ハ非常ニ痛感シテ居ルノデアリマス、色々長クナリマシタケレドモ、今ハ天皇ノ無答責ノコトヲ申シマシタノデアリマスガ、ソコデ以上ハ天皇ノ方面カラ見テ是迄ノ状況ヲ考ヘテ見タノデアリマスルガ、次ニハ斯ウ云フ天皇ノ下ニ政治ガ行ハレテ居ツタト云フコトデアル、ソレデ今囘ノヤウナ現象ニナツテ、憲法ノ改正ト云フコトニナツタノデアル、ソコデ第十二點ニ進ミマシテ、併シソレヲ改正スルト云フコトハ天皇制度其ノモノヲ止メルト云フコトガ絶對的ニ必要ナノデアルカ、或ハ又天皇ニ協力スル機關ノ協力ト云フモノヲ、其ノ機構ナリ、或ハ又協力ノ態度ニ於テ改正ヲシテ行クト云フコトデ出來ナイノデアルカドウカ、斯ウ云フコトニ問題ハ進ムノデアリマス、之ヲ簡單ニ申シマスレバ、協力機關ノ改造デスナ、改造ト云フコトヲ以テソレヲ徹底的ニ改造スルコトニ依ツテ、達セラレルコトヲモ、天皇制其ノモノヲ廢止セナケレバナラヌト思フ理由ガ何處ニアルカト云フコトニ論點ガ進ムノデアリマス、ソコデ今日ノ如キ状況ニ相成リマシタノハ、固ヨリ是ハドウモ私ハ天皇ガ全然御責任ガアラセラレナイト云フヤウナコトヲ言フベキデナイ、サウ云フコトヲ言ウタナラバ贔屓ノ引キ倒シダ、唯併シナガラ天皇以外ノ者ハソレガ爲ニ天皇ノ御責任ヲ如何トモスルト云フコトハソレハ高イ‥‥、天皇ハ責任ヲ御持ニナルケレドモ、併シナガラモツト高イ、日本國家、君民ト云フモノノ、サウ云フ高イ一ツノ原理カラ我々ガ天皇ノ責任ヲ彼此言フコトハ出來ナイト云フコトニナルノデアルガ、更ニ轉ジテ考ヘテ見マスルト云フト、サウ云フ天皇ノ御自身デハ色々御感想深イコトト拜察スルノデアルガ、サウ云フ結果ヲ惹起シタ因ハ一體ドウ云フコトニ在ルデアリマセウカ、固ヨリ是ハ何ト申シマシテモソレハ協力機關、ソレニ協力シマシタモノガ、軍部ニ致シマシテモ、大臣ニ致シマシテモデスネ、私ハ併シナガラ軍部ヤ大臣、官僚ト云フ者ノミヲ責メルコトハ誤リダト思ツテ居リマス、從來ノ議會自身モ責任ヲ感ジナケレバナラヌ、私ハサウ思ツテ居リマス、在野ノ政治家デモ等シク責任ヲ感ジナケレバナラヌ、サウ云フ風ニ天皇ニ協力スベキ立場ニ在ツタ所ノ者ガ惡カツタト云フコトハ疑ナイコトデアル、ソコデ其ノ惡カツタト云フヤウナコトヲ詳シク長ク申スコトハ止メテ置キマシテ、其ノ中ノ尤モ餘リ注意シナイノダケレドモ、實ハサウ云フコトガ根抵ニハ本當ノ原因ニナツテ居ルト思ハレルコガアルノデアリマス、其ノ一點ト致シマシテハ、所謂統帥作用、統帥作用ト云フモノノ憲法上ノ解釋ヲ多數ノ人ガ誤ツテ居ツタ、其ノ多數ノ人ト云フノハ必ズシモ實際家ノミデハアリマセヌ、學者モ誤ツテ居ツタ、ドウ誤ツテ居ツタカト申シマスルト、云フト、統帥ハ憲法上ノ國務デナイト云フ風ニ、獨斷的ニ行ツテシマツタ、帝國憲法ノ所謂國務デハナイ、從ツテ統帥ノコトニ付テハ、所謂統帥機關ト云フモノハモウ政府トハ無關係ニ行ツテ宜イノデアルト、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居ツタ、軍部ハ勿論ノコト、是ト一緒ニナツテ居リマス所ノ政府機關モサウデアリマスシ、更ニ學界ニ於キマシテモ、サウ云フ詰リ見解ガアツタノデアリマス、私ハ自分ノコトヲ申上ゲルノヲチヨツト許シテ戴キタイノデスガ、初メカラ統帥モ帝國憲法上ノ國務デアルト云フ解釋ヲ執リ來ツテ居ルノデアリマス、デ、サウ云フ即チ實際家ノ誤ツタ態度ト、誤ツタ學説トガ相搦ミマシテ、サウシテ即チ此ノ軍ト云フモノガ政府ト無関係ニドンドン即チ軍事行動ヲ執リ、更に軍事行動ヲ執ルノミナラズ、軍事行動ト稱シテ一ツノ政治行動ヲ執ツタノデアル、デアリマスルカラ、今日ノ如キ状態ニ至リマシタノハ、固ヨリ軍人ノサウ云フコトヲ責ムベキデアリマスケレドモ、實ハ統帥ハ國務ノ外ニ當然ニ置カレテ居ルノデアルト云フ、サウ云フ考ヘ方ガ非常ニ之ヲ誤ツタ、之ヲ導キ來ツタノデアリマス、モウ一ツハ是ハ詰リ軍部大臣ノ任用ノ方法デアリマス、軍部大臣ト云フモノハ古キ時代ニ於キマシテハ陸海軍ノ現役ノ將官ガ之ニ任ゼラレルト云フコトニナツテ居ツタ、ソレヲ民間ノ政治家、此ノ點ニ付キマシテハ今ノ衆議院ノ犬養代議士ナドノ先人デアル犬養木堂翁、ソレカラ又現ニ衆議院ニ席ヲ持ツテ居ラレマス所ノ尾崎咢堂翁ナドノ行動ヲ讃ヘナケレバナラヌガ、實際家トシテハ‥‥（拍手）學問的ニハ叩イテ戴ク必要ハ私共アリマセヌケレドモ、サウ云フ制度ガ惡イノデアルト云フコトヲ論ジ來ツタモノデアル、ナカナカ行ハレマセヌガ、併シ結局兎ニ角斯ウ云フコトニ一時ハナツタノデアリマス、現役ノ軍人タルコトヲ必要トセナイ、豫備ノ將校、豫備ノ軍人デ宜イト云フコトニナツタノデアリマス、處ガ之ガ戰時中、イツノ間ニカ現役將官デナケレバナラヌト云フコトニ改ツタノデアリマス、ドナタノ内閣ノ時デアルカチヨツト記憶致シテ居リマセヌガ、或ハ廣田サンノ時デシタカ、兎ニ角間違ツタラ取消シマスガ、要スルニサウナツタ、而モソレガ長イ間我々ノ先覺者ガ議論シ、非常ニ盡力シ來ツテ、漸ク出來タコトガ一夜ニシテ飜ツテシマツタ、實ハ我々モビツクリシテシマツタ、誰モビツクリシタ、初メテデス、其ノ日ニ新聞ニ出テビツクリシテシマツタ、即チ現役將官デナケレバ軍部大臣ニナレヌト云フコトニ一夜ニシテナツテシマツタ、斯ウナリマスルト、如何ニ有力ナル、或ハ愛國的ノ總理大臣ガ出マシテモ、他方ニ於キマシテ、即チ所謂三長官ノ會同ト云フコトニ依ツテ軍部大臣ヲ奏薦スルト云フコトニナリマスルカラ、結局軍部ガ頭ヲ曲ゲタナラバ、軍部大臣ト云フ者ハ徹底的ニ取レナイト云フコトニ制度上ナツタノデアリマス、デ其ノ以前、豫備ノ將官デモ宜イト云フ時ニデモ、實際ニ於テハナカナカ困難ハアリマシタデセウケレドモ、兎ニ角制度上ハ必ズシモ現役タルコトヲ必要トシナイノデアルガ、一夜ニシテ現役タルコトヲ必要トスルコトニナリマシテ、實ハ私ハ内面ノコトハ知リマセヌケレドモ、遠クハ先ニ統帥權ト、國務トニ關スル所ノ誤ツタ解釋ガズツト斯ウ云フ情勢ヲ釀シ來リ、又近クハ此ノ軍部大臣ヲ總理大臣ガ任意ニ選ブコトガ出來ナイト云フ、此ノ制度ガ今日ノ如キ状態ヲ持チ來シタト、斯ウ思ツテ居ルノデアリマス、是ハ餘リニ表面的ニハドレダケノ影響ガアツタカト云フヤウナコトハ分リマセヌケレドモ、實際ハ僕ハ之ガ餘程内面的ニ今日ノ状況ヲ來シタ原因ニナツテ居ルモノト思フノデアリマス、ソレニ對シマシテ是ハ我々モ、私ハ今囘初メテ此處ニ來タノデアリマスケレドモ、其ノ前ヲ繼グ者トシテ責任ヲ齊シク感ジナケレバナリマセヌガ、議會モ責任ガアル、何トナレバ、戰ト云フモノハ、或ハ之ニ伴フ所ノ諸々ノ行動ト云フモノハ、決シテ軍人ヤ大臣ヤ政治家ダケデ出來ルモノヂヤナイ、兵糧ガ必要デアル、其ノ兵糧タルヤ軍費デアリマス、此ノ軍費ノ支出ノ方法位實ニ亂暴ナ支出方法ハアリハシナイ、之ヲ協贊シタノハ實ハ議會デハアリマセヌカ、デアリマスカラ、本當ヲ言ヒマスト、大臣ヤ政府ヤ軍部ダケヲ責メテハイカヌノダ、我々議會自ラヲ責メナケレバナラヌ、衆議院ノ代議士諸君モ殊ニサウダ、殊ニ再三本院デモサウデアルト思ヒマスルガ、軍人ニ對シテ之ニ所謂感謝ヲスル決議ナドヲ送ツテ居ル、ソレガ唯人ノミヲ責メルト云フヤウナコトハ抑々誤ツテ居ルト私ハ思フノデアリマス、故ニ斯ウ云フ見地カラ此ノ天皇ヘノ協力機關ノ構造、及ビ協力ノ態度ト云フモノヲ根本的ニ改革スルノ必要ガアル、之ヲスレバ、先刻來申シマシタヤウナ意味ニ於ケル天皇制度其ノモノヲ廢止スルノ必要ハ決シテナイト、斯ウ堅ク信ジテ居ルノデアリマス、今日ハ時間ガ參リマシタカラ是ダケデ止メマス
○議長（公爵徳川家正君） 本院規則第五十八條ニ依リ本日ハ是ニテ延會致シマス、明日ハ午前十時ヨリ開會致シマス、議事日程ハ本日ト同一デゴザイマス、是ニテ散會致シマス
午後四時五分散會
