- トップ
- 関連資料
- 貴族院帝国憲法改正議事速記録
- 第九十回帝國議會貴族院 帝國憲法改正案特別委員會議事速記録第七號
第九十回帝國議會貴族院 帝國憲法改正案特別委員會議事速記録第七號
付託議案◎帝國憲法改正案
━━━━━━━━━━
昭和二十一年九月七日（土曜日）午前十時十一分開會
○委員長（安倍能成君） 會議ヲ開キマス、今日ハ瀧川委員ノ御質疑ガアルノデアリマス、其ノ外ニ大河内委員ノ御質疑ガアルノデアリマスガ、是ハ文部大臣ガ、巳ムヲ得ザル理由デ出席ガ出來マセヌノデ、明後日カ或ハ次ノ機會ニ讓リタイト思ヒマス、ソレカラ議事ノ進行ニ付テ澤田委員カラ御發言ガアリマス
○澤田牛麿君 私ハ議事ノ進行ニ付テ、委員長ノ御考ヲ伺ヒタイト思ヒマスガ、此ノ會議バカリデナク、總テ委員會ハ、委員ト政府側トノ質疑應答ヲ本體トスルモノト思ヒマスルガ、委員ノ發言ニシテ、他ノ委員ノ言議ヲ批判スルト云フヤウナサウ云フ發言ガアツタ場合ニ、其ノ批判ヲ受ケタト信ズル委員ガ、辯駁ノ機會ヲ與ヘラレルカドウカ、其ノ辯駁ノ機會ヲ與ヘラレタトナルト、所謂切捨御免デ、是ハ甚ダ封建的ト云ヒマスカ、或ハ「アンデモクラチック」ト云フカ面白クナイコトト思フノデアリマスガ、若シ其ノ反駁ノ機會ヲ與ヘラレナイナラバ、批判シタ委員ノ發言ヲ、其ノ部分ダケ取消シテ貰フカ、或ハ委員長ニ於テ取消スカ、何カセヌト云フト、他ノ委員ヲ批判シタ言葉ガ、其ノ儘殘ツテ居リ、批判ヲ受ケタト信ズル委員ノ方デ、ソレニ對スル駁論ガ出來ナイト云フコトハ、片手落ノコトニ陥ルノヂヤナイカト私ハ思フ、其ノ邊ニ付テ、委員長ノ御考ヲ伺ツテ置キタイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 委員長ノ意見ヲ述ベル前ニ委員諸君ノ御意見ハ如何デスカ
○澤田牛麿君 具體的ノコトヲ申上ゲルト、小山君ノ御發言中少クトモ私ニ對シテハ、批判若シクハ、批評ト見ラレルヤウナ御言葉ガアツタト私ハ感ズルノデスガ、私ノミデナク、私ト同説ノ人ガ此ノ委員會ニ居ラレタナラバ、其ノ人達モ矢張リ批判ヲ受ケタ人デハナイカト思フノデアリマス、サウ云フ場合ニ批判ヲ受ケタ方ノ委員ガ立ツテ辯駁ヲスルトカ、辯明ヲスルトカ云フ機會ガ與ヘラレナケレバ、先程申シタヤウニ切捨御免ニナルノヂヤナイカ、是ハ甚ダ面白クナイト思フノデアリマスカラ、委員同士ノ辯論ガ面白クナイ、宜クナイト云フコトデアルナラバ、前ノ批判シタ委員ノ批判ニ當ル一部分ヲ委員長ニ於テ取消シテ戴クカ、或ハ其ノ發言シタ委員カラ取消シテ戴クカ、ドツチカニナラヌト云フト、片手落ノコトニ陥ルノヂヤナイカ、斯ウ思フノデアリマス、ソレハ今後モサウ云フ「ケース」ガ起ツテ來ルト思ヒマスカラ、其ノ點ニ付テノ御考ヲ伺ツテ置キタイト思ヒマス、或ハ他ノ委員ニ於テ私ト同樣ノ御考ヲ持ツテ居ル御方ガアレバ、其ノ御方ノ御意見モ伺ヒタイ、是ハ今後必ズ色々ナ問題ガ起ルト思ヒマス
○子爵織田信恒君 是ハ懇談的ニ研究サレル必要ハナイノデセウカ、速記ヲ付ケテ此ノ問題ヲ御研究ニナリマスカ、ドツチニ致シマスカ、私ハ速記ヲ付ケテナサツテモ宜イガ、速記ヲ付ケナイ懇談ト云フ慣例ガアリマスカラ、懇談ニナサツテハ如何デスカ
○委員長（安倍能成君） 懇談ニシタ方ガ宜シウゴザイマスカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） 懇談ニ致シマス、速記ヲ止メテ‥‥
〔速記中止〕
○委員長（安倍能成君） ソレデハ速記開始
○子爵大河内輝耕君 私モ議事進行デ簡単ニ申述ベタイト思ヒマス、昨日誰方カチヨツト存ジマセヌデシタガ、同ジ論議ヲ繰返シテ言フノハ止シタラ宜カラウト云フ風ナ御議論ガアツタノデアリマスガ、是ハ貴族院ノ審査ノ能率ヲ擧ゲヨウト云フ御考カラ來タノデ、其ノ方ノ御親切ニ對シテハ誠ニ敬意ヲ表スル次第デゴザイマスガ、私ハ又チヨツト違ツタ觀點カラ議事ノ進行ニ付テ述ベテ見タイノデス、成ル程國體問題ナンゾニ付キマシテハ同ジ質問ガ出タコトハ確カデアリマス、色々ナ方カラ同ジ意味ノ質問ガ出タ、出マシタケレドモ、私仔細ニ茲デ承ツテ居ルト、仰ツシヤル文句ハ同ジダケレドモ、我々ニ與ヘル氣分、其ノ方ノ心情ト云フモノハスツカリ違フ文句ハ同ジデスケレドモ、肚ノ中迄切リ下ゲテ見ルト、例ヘバ甲ノ議員ノ仰ツシヤツタコトト乙ノ議員ノ仰シヤツタコトト、言フコトハ同ジデモ肚ノ中カラ切リ下ゲテ見ルト非常ニ違フ、詰リ耳デ聽ケバ同ジデスケレドモ、肚デ聞ケバ大變ナ違ヒデス、謠曲ニ隅田川ト云フノガアリマスガ、アノ中ニ、「ナウ、舟人」ト云フ文句ガ三ツモアル、活字デ書ケバ「ナウ、舟人」デ同ジコトダ、併シ或場合ニハソレガ輕妙ニ聞エ、或場合ニハ壯重ニ聞エ、或場合ニハ哀調ヲ帶ビテ聞エル、文句ハ同ジデモコツチデ受ケル感ジハ大變ナ違ヒデス、色々ナ方ガ仰ツシヤツテ下スツタ御蔭デ、政府ト國體問題ニ付テノ經緯ハ、私ハシツクリ合ツタト思フ、是ハ皆サンガ色々仰ツシヤツテ下スツタカラダト思フ、ソレデ私ハ希望シマスガ、同ジコトガ繰返サレルト云フコトハ決シテソンナニ惡イコツチヤナイト思フ、有益ナコトダト私ハ思フ、今後モアリマセウガ、サウ云フヤウナ場合ニハドウカ一ツ、各々氣分ハ違ツテ申スノデスカラ、皆サン方ニ於テモ御構ヒナク仰ツシヤツテ下サル方ガ、却テ此ノ審議ヲ進メル上ニ於テ非常ニ都合ガ好カラウト存ジマス、殊ニサツキノ御話ノヤウニ、是ハ私ノ聽キ違ヒダツタラ取消シマスガ、ソンナコトハ貴族院ノ體面ニ關スルト云フヤウナ御話ガアツタガ、是ハトンデモナイ話ダ、是ダケノ重要ナ憲法ヲ議スルノニ、各方面カラ色々ナ質問ガ出、又言葉ハ同ジデモ意味ノ違ツタ、氣分ノ違ツタ質問ガ出ルト云フコトハ必要缺クベカラザルコトデ、貴族院ノ體面ニ關スルドコロノ騒ギヂヤナイ、ソレヲシナケレバコソ貴族院ノ體面ニ關スル、是ハトンデモナイ大間違ヒダ私ハサウ思フノデス、是ハマア私ノ聽キ違ヒダツタラ取消シマスガ、ドウカ其ノ意味ヲ以テ、私ハ委員長ニモ御願ヒシ、皆サンニモドウゾ忌憚ナク此ノ憲法ノ問題ニ付テハ論議ヲシテ下サレムコトヲ希望致シマス
○委員長（安倍能成君） ソレハ要スルニ程度ノ問題ヂヤナイカト思フノデス、兎ニ角ソレハ私ノ考デ議事ヲ整理スルト云フヤウナコトニナレバ、是ハ色々御議論モアルト思フノデスガ、要ハ矢張リ各々ノ委員ガ自分デ能ク御考ニナツテ、サウシテヤツテ戴ク、サウ云フコトニ委スヨリ外ニ仕方ガナイカト思ヒマス、ソレデハ瀧川君
○瀧川儀作君 私ハ分リ易ク言フ爲ニ結論ヲ先ニ付ケテ申上ゲマスガ、今回政府ノ御提出ニナリマシタ改正憲法ノ原案第十三條第二項ヲ削除シテ、更ニ第九十七條、即チ衆議院ニ於テ削除セラレマシタル政府ノ原案ヲ復活致シマシテ、新タニ華族制度ヲ制定セラレムコトヲ希望スルモノデアリマス、私ハ教育上ノ見地カラ、現貴族院ハ其ノ實質、内容共ニ尊キ存在デアルコトヲ確信致シマシテ、近ク提案セラレムトスル參議院法ニモ此ノ性格ヲ持タシムルベク希望スルモノデアリマシテ、之ニ關スル御當局ノ御意嚮ヲ伺ヒタイノデアリマス、幣原國務大臣ハ、憲法ニ對シ舊キ着物ヲ脱ギ捨テ新シイ着物ヲ着テ出發シタイト申サレマシタコトニハ全然御同感デアリマスガ、是ト同時ニ、私ハ教育ニ關シマシテハ、明治天皇ノ教育勅語ト云フ舊イ親讓リノ着物ダケハ着テ行キタイト思フモノデアリマス、教育勅語ハ舊イ着物デアルカモ分リマセヌガ、少シク雲ガ掛リマシタガ、吹ケバ綺麗ニナリマス、膺チ人倫道徳ノ大義、人類處世ノ大道ヲ御示ニナツタ曠古不磨ノ大典デアリマス、我々ノ一生ヲ通ジ拳々服膺スベキモノナリト信ズルノデアリマス、日露戦爭ノ直後明治四十二三年ノ頃カト存ジマスガ、幸徳秋水ナル主義者ガ現レマシテ、天下ニ一大衝動ヲ與ヘタノデアリマスガ、當時先輩憂國ノ士ハ、國體ノ尊嚴ヲ汚スモノナリトシテ非常ニ憂慮サレタモノデアリマス、蓋シ明治教育ノ所謂文明開化ニ對シマシテハ大イニ其ノ功績ヲ認メザルベカラザルモ、之ノ行キ過ギタル惡思想ノ輸入ハ弊害ノ大ナルモノトシテ、斷ジテ之ヲ矯正セザルベカラズト云フコトデアリマシテ、之ガ唯一ノ救濟策ハ、偏ニ教育改善ノ力ニ俟ツノ外ナシト云フ結論ニ達シマシタノデアリマス、私共モ微力ヲ顧ミズ、小學教育ニ志シマシテ、更ニ進ンデ中等學校ノ必要ヲ感ジマシテ、先考ニ依ツテ設立セラル、コトトナリ、爾來數十年間今尚繼續中デアリマス、然ルニ近來所謂雲ガ掛リマシテ、終戰後幾度カ私ノ學校ノ教員ヲ集メテ人物養成ニ對シテノ注意ヲ致シタノデアリマスガ、歴代文部省ノ劃一方針、所謂詰込教育ニ馴ラサレ、一ニモ進學、二ニモ進學、上級學校ヘ入學率ノ多イコトノミヲ競爭シマシテ、マルデ「ヒステリー」ノ如ク父兄モ生徒モ、先生モ試驗ノ點數ヲ爭フ外何物モナイト云フ有樣デアリマス、即チ大キナ雲ガ掛ツタ譯デアリマス、私多年ノ經驗上ヨリ見マシテ、監督官廰タル文部省ニ於カレマシテハ、歴代ノ大臣ハ孰レモ時弊ニ鑑ミラレマシテ適切ナル改善方針ヲ發表サレタノデアリマスガ、常ニ其ノ實行之ニ伴ハズ、ト申シマスルノハ文部省ガ直接監督スルノデナク、内務省ニ託シ、内務省ハ地方廰ニ於テ學務部長トカ、或ハ教育民政部長ナル係ヲ置イテ擔當セシメテ居ルノデアリマスガ、是亦頻々タル内閣ト共ニ吏員ガ更迭致シマシテ、爲ニ其ノ實權ガ自然ト地方視學ナルモノノ手ニ移リ、所謂属僚政治ト化シ弊害百出、殊ニ近來ノ如キ生活難ヲ繞リマシテ各種ノ問題ガ發生スルノデアリマス、私ハ之ガ改善策ニ付キマシテ、地方ニ有力ナル教育會ヲ組織シマシテ、之ニ依ツテ地方色ノアル教育ヲスルコトト共ニ、此ノ時々刻々變リマス係官ノ不備ヲ補ヒタイト云フコトデ、歴代當局ニ建言致シテ居ルノデアリマスガ、前内閣デアリ、現内閣ノ當局ハ特ニ此ノ方面ニ細心ノ御努力ヲ御拂ニナリ居ラレルコトヲ承知致シマシテ、私カニ感謝致シテ居ルノデアリマス、茲ニ於テ教育眼ヲ通シテ見マシタ貴族院デアリマス、貴族院ハ皇室ノ藩屏タル華冑ノ方々ヲ中心トシ、之ニ配スルニ國家ノ功勞者、學者竝ニ經驗家ヲ以テシ、其ノ個々ノ品性、人格、言語、動作ニ至ル迄實ニ一世ノ師表トシテ仰グベキ尊キ存在デアリマス、而シテ其ノ議長初メ舊各藩ノ諸侯竝ニ舊藩士ト共ニ互ニ相倚リ相扶ケテ恪勤精勵、一意君國ノ爲ニ盡瘁サレツヽアルノデアリマス、又勅選議員ニ至リマシテハ孰レモ學識經驗兼備ノ選良デアリマス、國家ノ功勞者デアリマシテ、我々議員ハ固ヨリ、國家ハ是等議員諸君ノ御指導ニ負フ所尠カラザルモノガアルノデアリマス、誠ニ恐縮ナル申分デゴザイマスルガ、貴族院ハ經濟問題等ニ付キマシテハ聊カ遺憾ノ點ナキニシモアラズデアリマスガ、一朝國家國體ノ問題トカ、或ハ教育ノ問題、其ノ他思想道徳ノ問題等ニ付キマシテハ、斷ジテ不問ニ附スルコトナク、實ニ力強ク論議ヲ闘ハサレ、國民ノ赴ク所ヲ指導サレテ居ルノデアリマス、其ノ眞劒味ニ對シマシテ自ラ頭ノ下ルノヲ覺エルノデアリマス、個人ノコトヲ申上ゲマスト甚ダ恐縮デスガ、私ハ先代以來、二代ヲ續イテ長イ間此ノ方面ノ空氣ニ觸レマシタ經驗上、現状ニ依ツテ私ハ斯ク信ジテ居ル者デアリマス、現下憲法問題ニ對シマシテモ、新ニ學界ノ大家ノ加リマシタ關係モアリマスガ、一段ト此ノ感ヲ深クスルモノデアリマス、私ハ地方ニ歸リマシテ御土産話トシテ、苟モ貴族院ノ存在スル限リ思想道徳問題ヲ繞リ、日本帝國ハ大磐石ナリト話シタコトモアルノデアリマス、凡ソ教育ハ一片ノ文章ヤ訓示ノミニテハ效果ノ擧ルモノデハアリマセヌ、常ニ實踐躬行自ラ範ヲ示シテ指導ノ任ニ當ラナケレバナリマセヌ、此ノ意味ニ於キマシテ貴族院ハ我ガ國學校教育ニ對シマシテモ、亦社會教育ニ對シマシテモ逸スベカラザル尊キ存在デアリマス、私ハ此ノ現實ヲ活カシテ一面國民教育ノ指導ニ、又政府竝ニ衆議院ニ對シマシテモ單ナル立法府タルノ機關タルニ止マラズ、我ガ國政治道徳ニ關シ誠心誠意、忠實ナル助言者トシテ重大ナル責任ヲ自覺シテ、此ノ頽廢セル國民道徳ノ回復、敗戰日本ノ國運ノ復興ニ當ラシメラレムコトヲ希望シテ止マナイノデアリマス、此ノ意味ニ於キマシテ、近ク提案セラレムトセル參議院ノ構成上重大關係ヲ持チマスノミナラズ、更ニ明治維新大政返上以來、飜然ト新シキ境地ニ立ツテ君國ノ爲ニ誠忠ヲ致サレタ華族、竝ニ華族ト皇室間ノ御關係ヲモ考慮致シマシテ、新シク現今ノ國状ニ適シタル華族制度ノ制定セラレムコトヲ要望スル者デアリマス、從ツテ新憲法第九十七條ノ政府原案ノ復活ト同時ニ、第十三條第二項ノ削除、又ハ修正ヲ要スルコトトナルノデアリマス、詳細ハ各條審議ノ際ニ讓リマシテ、此ノ問題ニ對スル政府御當局ノ御意向ヲ伺ツテ置キタイノデアリマス、就中文部大臣ノ御出席ヲ要求致シマシタノハ此ノ點ニアルノデアリマスガ、幸ヒ金森國務大臣オイデニナルコトデアリマスカラ、速記録ニ依リマシテ他日御回答ヲ願ヒマシテ結構デアリマス、私ハ此ノ亡ビムトシツヽアル國家、否寧ロ思想的ニハ即ニ亡ビテ居ルノデナイカト痛感スル現状ニ對シマシテ、之ガ救濟策ハ一ニ教育ノ力ニ依ルヨリ外ナイト信ジテ居リマスル爲、敢テ一介ノ野人ノ身分ヲモ顧ミマセズ、學界ハ固ヨリ政界財界ニ於ケル先輩各位、歴々ノ方々ノ面前ニ於テ敢テ非禮ヲ顧ミズ此ノ言ヲ弄シマシタコトハ甚ダ恐縮ニ存ジマス、深ク其ノ點ハ陳謝致シマス、之ヲ以テ私ノ質問ヲ終リマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 瀧川委員カラシテ華族制度ヲ繞ツテ教育ノコトニモ關シテ數點ニ付テ御質疑ニナリマシタ、其ノ中新憲法ノ實施セラレマスルコトニ伴ヒ、且又現實ノ日本ノ國民的性情、言ヒ換ヘマスレバ、大キナ變革ヲ受ケテ、古キモノハ亡ビントシテ、新タナルモノハマダ十分出來上ラナイト云フ思想上ノ變化ノ中ニ於キマシテ、教育ノ點ガ最モ重要ナル項目ノ一ツデアルト云フ御示ノ點ニ付キマシテハ、私共此ノ憲法ヲ取扱ヒマスル上ニ於キマシテ、當初ヨリ全ク左樣ニ考ヘテ居ツタ次第デアリマシテ、骨組ハ憲法ニ依ツテ築カレルケレドモ、實體ハ種々ナル今後ノ國民的協力ニ依ツテ出來上ラナケレバナラヌコトハ豫々申上ゲテ居ル所デアリマシテ、其ノ中ニ於キマシテモ、國民ノ心ヲ固メテ行ク、而カモソレハ自主的ナ民主的ナル方法ニ依ツテ固メテ行クト云フコトノ重大ナルコトハ色々ノ場合ニ所見ヲ述ベタ所デアリマス、處デ、華族制度ト新タナル參議院ノ制度ト云フモノニ關シテノ問題デアリマスルガ、實ハマダ私ハ衆議院ノ委員會ニ於キマシテモ、貴族院ノ諸般ノ會議ニ於キマシテモ、華族制度ヲ廢メルコトノ理由ヲ申上ゲル機會ガナカツタノデアリマスルガ、私ノ考ヘテ居リマスル處、日本ニ於キマシテノ此ノ華族制度ハ内容ニ於キマシテ種々ナルモノヲ含ンデ居リマシテ、即チ俗ニ申シマスル大名華族ト公卿華族ト新華族ト云フ荒ツポイ言葉デ分類セラレマシテ、各々其ノ中味ニ種々ナル特色ガ盛ラレテ居ル譯デアリマスル、是等ノ華族制度ガ日本ニ存在シタト云フコトガ齎シタ利害得失ハ種々デアラウト思フノデアリマス、其ノ利益アル方面カラ考ヘマスレバ、過日モ貴族院ノ本會議ニ於テ或議員カラ御演述ニナリマシタヤウニ、外ノ事ニ煩サルヽコト少ナクシテ、國ノ眞ツ直ノ行キ道ニ付テ多クノ所見ヲ示サレ、又之ニ努力セラレタト云フ點ニ於キマシテハ、甚ダ此ノ貴族院ノ關係カラ見マシテモ、好マシキ要素デアツタト云フコトハ信ジテ疑ハナイノデアリマス、併シナガラ人間ノ考ヘ方ハ時ト共ニ漸次發展ヲシテ行クノデアリマシテ、今回此ノ憲法改正案ノ基盤ト致シテ居リマスル處ハ、人間ヲ平等的見地ニ近付ケテ考ヘテ居ルノデアリマシテ、是ニハ色々ナ條件モ付ケテ考ヘナケレバナリマセヌシ、批判ノ餘地モアラウト思ヒマスケレドモ、謂ハバ生レナガラニシテ人間ノ尊サニ差別アリ、又其ノ働キヲ法律デ決メル上ニ差別ガアル理由ハ分ラナイ、斯ウ云フコトヲ基本トシテ居ル譯デアリマス、固ヨリ皇室ニ關シマスルコトハ、是ハ又別個ノ根據ニ依ツテ特殊ナル説明ヲ持ツベキデアリマスルケレドモ、其ノ他ノ關係ニ於キマシテ、人ハ特ニ區別ヲシナイモノデアルト云フ見地ヨリシテ、原案第十三條ニ於キマシテ、國民ハ法ノ下ニ平等デアル、ト云フ基本原則ヲ掲ゲタノデアリマス、固ヨリ一人々々ノ人間ニ能力ノ差ガアリ品性ノ差ガアリマシテ、現實ノ世界ニ於テ之ヲ平等ニ扱フベシト考ヘテ居ル譯デハアリマセヌ、唯制度ノ上ニ於キマシテ之ニ區別ヲシテハナラヌ、斯ウ云フ見解ヲ取ツテ居ル譯デアリマス、此ノ原則ガ善イカ惡イカト云フコトハ、是ハ容易ニ言ヒ切レナイカモ知レマセヌ、歴史的ニハ色々ナ風ニ解釋セラレテ來テ居リ、其ノ時代々々ニ認識ガ違ツテ居ツタモノ、又其ノ時代々々ニ相應シキ正シサヲ含ンデ居ツタモノト思ヒマスケレドモ、此ノ憲法ノ立ツテ居リマスル其ノ基礎ノ原理ト致シマシテ、又現在ノ一般通念ノ認ムル所ト致シマシテハ、人間ニ生レナガラノ尊卑ノ區別ハ之ヲ認メナイト云フ立場ヲ採ツテ居ル譯デアリマス、之ヲ前提ト致シマスルト、今日ノ貴族制度ハ原則トシテソレハ世襲的デアリマス、又一人ガ貴族タル事ガ其ノ人一人ニ止ラズシテ、其ノ同ジ家ニ屬スル人ニ迄效力ガ及ブヤウナ風ニナツテ居ルノデアリマス、是ガ根本ノ原理ニ當嵌メマシテ甚ダ呑込ミニクイ制度デアル譯デアリマス、斯ルガ故ニ其ノ基本的ナル原理ニ依リマシテ、原案第十三條ノ如キモノガ設ケラレタノデアリマシテ、私ハソレガ正シイ行キ方デアルト考ヘテ居ル次第デアリマス、唯經過規定ニ於キマシテ此ノ點ヲ、現在ノ人ノ生キテ居ラル丶間效力ヲ認ムル、但シ特殊ナル權能ノ方面ニ於テハ效力ヲ認メナイ、斯ウ云フ風ニ致シマシタコトハ、種々ナル考慮ヲ含ンデ居ルノデアリマシテ、一ツハ遷リ變ル思想ノ中ニアツテ現實ノ制度ニ無益ナル變化ヲ加フルコトヲ好マナイコトガ一ツデアリマス、他ノ一面カラ申シマスルト、此ノ日本ノ貴族制度ハ、或面ニ於キマシテ勳章其ノ他ノ榮譽ノ授與ト趣ヲ同ジウシテ居ル點ガ、相當ニアル譯デアリマス、特ニ新シキ華族ニ付キマシテハ其ノ意味ガ深イノデアリマス、然ルニ勳章其ノ他ニ於キマシテハ其ノ儘ニナツテ居ルノニ、ソレト意味ヲ同ジウスル部分ノアル貴族ノ制度ニ付キマシテ、突如トシテ消エ去ルト云フコトニモ、幾分ノ釣合ノ壞レル點ガアリマシテ、旁々考慮シテ此ノ附則ヲ設ケタ次第デアツタノデアリマスルガ、衆議院ニ於キマシテハ、原則的ニ人間ノ法律上ノ平等ト云フコトヲ直截簡明ニ此ノ際主張スルト云フ前提カラシテ削ラレタノデアリマシテ、私共ノ立場トシテハ、初ノ提案ノ趣旨トハ幾分異ル所ハアリマスケレドモ、程度ノ問題デアリマシテ、國民ノ廣イ範圍カラノ代表者ノ意見ハ尊重スベキモノデアラウト思ヒマシテ、御同感ヲ申上ゲタ次第デアル譯デアリマシテ、諸般ノ廣イ基盤ヲ考ヘテ見マスルト、今迄ノ如キ貴族制度ヲ今後存置致シマスルコトハ適當デハナイト考ヘテ居ル次第デアリマス、尚附加ヘテ申シマスルガ、華族制度ガ前ニ皇室ノ藩屏ト云フ言葉ニ依ツテ結附ケラレ、又君主政治ノ國ニハ必ズ貴族政治ガアルト云フヤウナ言葉ニ依ツテ補充セラレマシテ、何トナク此ノコトガ皇室ノ制度ト關係アルガ如クニ世間ノ一部ニ於テ言ハレテ居リマスルケレドモ、私共ハ左樣ニ考ヘテハ居リマセヌ、皇室ハ言フ迄モナク國ノ象徴トシテノ國民ノ心ノ根柢ニ基盤ヲ持ツテ居ラル丶關係ガアルノデアリマシテ、其ノ範圍ニ於キマシテ、特殊ナル地位ヲ御持ニナリ、之ニ應ジテ特殊ナル尊嚴ヲ維持セラレマスルコトハ理ノ當然デアリマス、是ハ一般ノ貴族制度ト全然趣キヲ異ニスル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居ル譯デアリマス、是ハ御質問ノ範圍ヲ實ハ超脱シテ居リマス、ソコデ斯樣ニ考ヘマシテ、次ニ參議院トノ關係ニ移ルノデアリマスルガ、瀧川委員カラ仰セニナリマシタヤウニ參議院ハ衆議院ト異ル角度ニ於テ國民ヲ代表スベキデアリ、其ノ狙ヒ所ハ愼重圓熟ト云フ種類ノ點ニ重キヲ置クベキデアリマシテ明治憲法ニ附屬シテ貴族院制度ヲ考ヘラレマシタ金子サンノ御話ニ依レバ、詰リ社會ノ上流ヲ代表セシムルト云フコトガ貴族院ノ本質デアツタト云フコトデアリマス、其ノ社會ノ上流ト云フ言葉ハ、若シモ實質的ニ取リマシテ、知識、能力、經験等ニ於テ社會ノ特別ナル信頼ヲ集メテ居ル人々、斯ウ云フ意味ニ取リマスルナラバ、參議院ノ構成ニ於キマシテモ、貴族院ノ持ツテ居ラレタ特質ト頗ル相聯關スル所ノモノガアラウト思フノデアリマス、併シ今回ノ建前ニ於キマシテハ、曩ニ申シマシタ國民ノ心ガ可ナリ深入リシテ、政治ノ有ラユル部面ニ影響ヲ持ツテ來ルト云フ立場ヲ取リマシタガ故ニ、從來ノ如キ特殊ノ構造ニ依ツテ居ル所ノ貴族院ノ制度ヲ參議院ニ移スコトハ、憲法ノ規定モ許サナイノミナラズ、憲法ノ精神モ亦之ヲ許サナイ所デアラウト思ヒマシテ、實質ノ中ニ出來得ル限リ愼重圓熟、場合ニ依ツテハ耐久ト云フ思想ヲ參議院ニ取込ムコトハ理想デアリマスケレドモ、其ノ根本ニ於キマシテ、國民ノ選擧ト又國民代表ノ思想ト組合セテ考ヘナケレバナリマセヌカラ、今仰セニナリマシタヤウナ華族制度ト云フモノニ類似スル新タナル、多分貴族制度デアリマセウガ、サウ云フモノヲ考ヘテ制度ヲ立テルト云フコトハ、恐ラク許サレ得ナイコトノヤウニ思ツテ居ル次第デアリマス、私ノ御答ヘ申シマシタコトハ、多分御本旨ニ副ハナイトハ考ヘテ居リマスルケレドモ、已ムヲ得ズト申シマスカ、斯ク御答ヘスルヨリ外仕方ガナイト思ヒマス
○瀧川儀作君 金森國務大臣ノ懇切周到ナル御答辯ニ對シテハ感謝ニ堪ヘナイ次第デアリマス、唯問題ヲ解決スルノニハ、此ノ問題ハ華族ノ方々ノ多數議席ヲ占メテ居ラレル此處デ進メルコトハ、假ニ私ニ賛成者ガアルトシテモ、皆サン方ノ御人格ニ對シテ御迷惑ナコトト存ジマスルカラ、私ノ申上ゲタコトハ、列席ノ委員諸君ニ民間ノ聲トシテ、野人ノ聲トシテ斯ウ云フ風ニ感ジテ居ル、獨リ瀧川ガ質問セムガ爲ノ質問ヲヤツタノデナイ、長イ間ノ經驗上カラ割出シタ希望ガ茲ニ現レタノデアルト云フコトヲ御了解下サルナラバ、ソレデ滿足スルノデアリマス、更ニ又改メテ參議院ノ時ニ意見ヲ申上ゲル場合モアルカモ知レマセヌガ、私ハ之ヲ以テ質問ヲ打切リマス
○委員長（安倍能成君） 是デ御申出ニナツテ居タ總論ニ關スル質疑ノ分ハ豫定ヲ終リマシタ、唯前ニ申シマシタ通リ、大河内委員カラ教育ニ關スル質疑ガアルノデアリマスガ、是ハ文部大臣ノ出席ヲ要求シテ居ラレルノデ、今日デハ出來ナイコトデアリマスカラ、大體是デ總論ニ關スル質疑ヲ終リマシタノデ、今日ハ是デ會ヲ休ムコトニシタイト思ヒマス、ソレカラ、日曜日ヲ休ミマシテ、月曜日ノ午前十時カラ開會ヲ致シマス、月曜日カラハ大體章別ニ御質疑ヲ御申出戴クコトニナツテ居ルノデアリマスガ、既ニ御申出ニナツタ方モ四五人アリマス、併シ章別ニナリマスト、條ノ順序ト云フヤウナモノモアリマシテ、必ズシモ御申出順ダケデヤラナイ方ガ、議事ノ促進ト云フ點ニ都合ガ好イト云フヤウナコトモアリマセウシ、色々ソコニ複雑ナ關係モアルカト思ヒマス、私ノ方デモ考ヘテ見マスカラ、今度章別ノ質疑ヲ始メル前ニ皆サンノ御意見ヲ伺ツテ、出來ルダケ能率的ニヤルコトニ致シタイト思ヒマス、尚其ノコトニ付テハ今日連絡委員トモ御相談シマシテ、サウシテ其ノ結果ニ付テ御諮リスルコトニナルダラウト思ヒマス、總論的ノ問題ニ付テモ、學問的ニ總論的デナイモノガ總論ノ中ヘ入ツタト云フヤウナ御意見モ承ツタノデアリマスガ、私モ全然ソレヲ感ジナイ譯デハアリマセヌケレドモ、總論的ト云フコトハ、必ズシモ題目ダケデ以テ決メラレナイノデ、題目ニ對スル態度デ總論的ニモナルト云フヤウナコトモアリマスシ、ソレカラ章別ノ審議ニナルト相當時間ヲ要スルト云フヤウナコトモアリマシテ、總論ニ六日ヲ充テテアルト云フコトガ、却テ章別ノ質疑ノ場合ニ時間ヲユツクリ取レルト云フヤウナ長所ガアルカト思ヒマシタカラ、サウ云フヤウナ御意見モアリマシタケレドモ、其ノ儘、私ハ専門ニ法律ヲヤツタコトガナイ者デアリマスカラシテ、法律學的ニハ色々混亂ガアツタカトモ思ヒマスケレドモ、サウ云フコトモ多少ハ感ジツ丶サウ云フ風ニシタ次第デアリマスカラ、御了承願ヒマス、尚今後ノ章別、或ハ逐條審議ト云フコトニナリマスト、隨分時間ヲ要スルコトト思ヒマスカラシテ、十分御意見ノ御開陳ハ結構ト思ヒマスケレドモ、委員各位ニ於テ十分ニ御考ヘ下サツテ、出來ルダケ能率的ニ質疑ヲ進メルト云フ風ニ御協力ヲ御願ヒ致シタイト思ヒマス、本日ハ是ニテ散會致シマス
午前十時五十八分散會
出席者左ノ如シ
委員長 安倍 能成君
副委員長 伯爵橋本 實斐君
委員
公爵岩倉 具榮君
侯爵淺野 長武君
伯爵後藤 一藏君
三土 忠造君
子爵大河内輝耕君
大谷 正男君
男爵白根 松介君
子爵織田 信恒君
子爵松平 親義君
山田 三良君
牧野 英一君
佐々木惣一君
男爵今園 國貞君
村上 恭一君
男爵飯田精太郎君
霜山 精一君
下條 康麿君
岩田 宙造君
男爵松田 正之君
男爵渡邊 修二君
男爵松平 齊光君
田所 美治君
野村 嘉六君
澤田 牛麿君
松本 學君
宮澤 俊義君
結城 安次君
瀧川 儀作君
小山 完吾君
長谷川萬次郎君
淺井 清君
渡邊 甚吉君
國務大臣
國務大臣 金森徳次郎君
政府委員
法制局長官 入江 俊郎君
法制局次長 佐藤 達夫君
