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第九十回帝國議會貴族院 帝國憲法改正案特別委員會議事速記録第十七號
付託議案◎帝國憲法改正案
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昭和二十一年九月十九日（木曜日）午前九時三十九分開會
○委員長（安倍能成君） 會議ヲ開キマス、牧野委員
○牧野英一君 司法大臣居ラレマスカ
○委員長（安倍能成君） 司法大臣ハマダオイデニナラナイヤウデアリマスカラ後デ‥‥
○子爵織田信恒君 議事ノ進行デスガ、今日ノ大體審議ノ目標ヲ一番先ニチヨツト仰シヤツテ戴キタイ
○委員長（安倍能成君） 今日ノ審議ノ目標ハ第三章ヲ終リタイト思ツテ居リマス、ソレデチヨツト議事ノ進行デ御諮リシタイト思フノデアリマスガ、牧野委員ノ御質問デ二十四條ハ終リマスカラ、二十五條以下ヲ試ミニ之ヲ逐條審議ト云フコトニシテ、御質疑ノ申出ノ順序デ逐條ニヤツテ見テ、サウシテ成ルベク一問一答ト云フヤウナ形デヤツテ行ツタ方ガ、議事ノ進行ニ都合ガ好イカト思ヒマスガ、如何デゴザイマスカ
〔「異議ナシ」「賛成」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） ソレデハサウ云フコトニ致シマス、ソレデハ司法大臣ノ御出席ニナル迄ニ、二十五條ニ付テ牧野委員ノ御質疑ヲ先ニ致シマス
○牧野英一君 二十五條ニ付キマシテ、金森國務大臣ニ御伺ヒ致シタイ一點ハ、言葉ノ爭ヒニナリマスノデ恐縮デゴザイマスガ、是モ衆議院ノ修正デ出來マシタ言葉デゴザイマス、第一項ニ「すべて國民は、健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有する」トアリマスガ、是ハ英文ノ飜譯ヲ拜見致シマスト、趣旨ガモツトハツキリ分ルヤウニ出來テ居ルト考ヘマシタノデスガ、最低限度ノ生活ヲ營ム權利ヲ有スルト云フコトニナリマスト、言葉ヲ碎ケテ下品ニ申シマスレバ、貧乏權ヲ持ツテ居ルト云フヤウナ、貧乏デ暮ス權利ヲ持ツテ居ルト云フヤウニ取レル書キ方デハナイカト思ヒマス、最低限度トシテ一定ノ生活ヲ營ム權利ヲ有スルトシカ取レマセヌノデ、衆議院ノ文字ノ用ヒ方デ、政府トシテハ、直接ニ御關係ノナイコトデオアリニナリマセウケレドモ、生存權ノ意味ヲモツトハツキリ表ハスヤウニ、英譯ニ現ハレテ居ルヤウナ工合ニ御考慮願ヘヌカ、是ダケガ金森國務大臣ニ失禮ナガラ御相談ヲ願フノデアリマスガ、是デヤツパリ分ルト云フ皆樣ノ思召ナラバ、私ハ特ニ反對ハ致シマセヌ
○國務大臣（金森徳次郎君） 斯樣ナ文字ハ、色々ノ沿革的ナ考ヘ方ヲモ含メテ解釋セラレルモノト思ヒマシテ、大體衆議院デ御書キニナリマシタ此ノ原案デ、趣旨ハ分ルト云フ風ニ理解ヲシテ居ル譯デアリマシテ、英文トノ方ノ差モ、色々ナ御批判ハアリ得マセウケレドモ、大體此ノ原文ヲ本ニシテ、専門家ニ飜譯シテ貰ツタラ、斯ウ云フ風ニナツタト云フヤウナ譯デアリマシテ、サウ違フ趣旨ノモノデハナカラウト思ツテ居リマス
○牧野英一君 私ダケノ案ヲ申シマスルト云フト、健康デト云フノガ今ノ食糧不足ニ對スル是ハ文字デゴザイマセウガ、モウ少シドウニカスル、又最低限度ノ生活ヲ營ム權利デハナイノデゴザイマシテ、最低限度ノ生活ニ付テ權利ヲ有スル、斯ウ云フコトデアリマスカラ、生活ノ最低限度ニ付キ權利ヲ有スルト、チヨツト「タッチ」ヲ入レテ戴ケレバモツト明白ニナリハシナイカト考ヘテ居リマス、是ハ何レモ内容ノ問題デゴザイマセヌカラ、私又後デ條文整理ノ時ニ御相談ヲ願ヒマス、アトハ此ノ邊ニ付キマシテハ厚生大臣ト文部大臣ニチヨツト伺ツテ置キタイト思ツタノデアリマスガ、兩大臣トモ御見エニナツテ居リマセヌカラ、ソレハ後刻ニ御願ヒ致シマス、司法大臣ガ御見エニナリマシタガ‥
○委員長（安倍能成君） ソレデハ牧野委員
○牧野英一君 修正ノ二十四條ニ付テ司法大臣ニ伺ヒタイト思ヒマス、二十四條ノ規定其ノモノニ付テモ私ハ疑ヲ持ツテ居ル點ガアリマスガ、恐ラク是ハ文字ノ爭ヒニ歸着スルコトト考ヘマスノデ、ソレハ暫ク差控ヘマス、私ガ特ニ御伺ヒ致シタイノハ、憲法ガ斯樣ニ婚姻ニ付テ特ニ原則ヲ表ハシマシタニ付テハ、ソレト相竝ンデ我々ノ家族生活ノ原則ヲ憲法上明カニスル、將來ノ立法ニ邪魔ヲシナイヤウニ、否將來ノ立法ヲ指導スルヤウナ原則ヲ簡單ニ掲ゲルト云フコトガ如何デゴザンセウカト云フ意味ニ於テ御質問申上ゲタイ、昨日金森大臣ヨリ此ノ二十四條ニ付テノ御話ガアリマシテ、二十四條ハ家族制度ニ付テ特別ニ「イエス」トモ「ノー」トモ言ツテ居ルノデハナイ、家族制度ノコトハ現ニ内閣ノ調査會デ調査ヲシテ居ルコトデアルカラソレニ讓ル、斯ウ云フヤウナ御趣旨デ御説明ガアツタヤウニ心得マシタ、之ニ付テソレ以上ノ事柄ヲ實ハ私ハ金森大臣ニハ伺ヒマセヌデシタ、是ハ今日司法大臣ノ御説明ヲ伺ツタ上、更ニ金森國務相ノ御考ヲモ伺ハネバナラヌコトニナルカトモ思ヒマス、司法大臣ノ御手許ニ於ケル司法制度審議會ノ議論ノ模樣ニ付テハ、大臣既ニ御案内ノ通リ、又司法制度審議會ヲ離レテ、私ガ私ノ狹イ範圍ニ於テ世ノ中ノ樣子ヲ聽キマシタ處ガ、二十四條ヲ讀ムコトニ依ツテ二ツノ説ガ私ノ耳ニ入ツタノデアリマス、第一ハ此ノ規定ハ憲法デハモウ家族制度ノコトハ構ハヌノデアル、家族制度ハドウニデモナレ、斯ウ云フ考ノモノデアル、斯ウ云フ考ヘ方デアリマス、此ノ規定ノ形式カラ考ヘテ、家族制度ニ付テ國家ハ何等ノ關心ヲ示サナイト言ヒ切ルノハ、反對論法ノ濫用デアリマスカラ、我々法律家トシテハ斯樣ナ論理ニハ服從シナイノデアリマス、ケレドモ世ノ中ノ人ハ直チニ反對論法ヲ用ヒテ、而モ教養アル社會ノ人々ガ、具體的ニ申シマスルト云フト、家ノコトデ相談ヲ受ケタ社會學者、倫理學者、教育學者ト云フヤウナ人ガ、モウ憲法ハ我々ノ家族制度ノ健全ナル發達ト云フコトニ付テハ何等ノ關心ヲ示サナイ規定デアル、是ガ一ツノ方面ノ説デアリマス、モウ一ツノ説ハ、ソラ來タ、之ニ依ツテ家族制度ナシト云フモノハブツ潰スノダ、斯ウ云フ荒ツポイ考ヘ方、是ハ相當ニ年ノ若イ連中デ、私ニ對スル冷カシヲ含メテ、先生モ亦老タルカナト、斯ウ云フ批評ヲ與ヘテ居ルノデアリマス、併シナガラサウ云フ誤解ガ世ノ中ニアルト致シマスレバ、既ニ婚姻ニ付テ斯クノ如キ規定ヲ御設ケニナツタ此ノ憲法ノ改正案トシテ、家族生活ニ付テモ、何カ斯ウ穩カナ一原則ヲ掲ゲテ戴ク譯ニハ行キマスマイカ、固ヨリ政府當局トシテハ、此ノ改正案デ一應結構ト御認メニナツタコトデゴザイマスカラ、今政府ニ於テ特別ノ立案ヲシテ出シテ戴キタイト云フコトヲ申上ゲルノハマア禮ヲ失スルコトニナリマセウガ、併シ假ニ家族生活ノ健全ナル發達ヲ保障シ、保護スルト云フ精神デ規定ヲ設ケルト云フ試ミヲ致シマシタナラバ、ソレハ此ノ憲法改正案ノ全體ニ亙ツテ不都合ヲ生ズルコトデゴザイマセウカ、ト申シマスルノハ、司法大臣ハ既ニ本會議ノ議場ニ於テ、司法大臣トシテハ、家族生活ニ付テ十分ノ力ヲ致ス積リデアルト云フ趣旨デアツタカト思ヒマスルシ、文部大臣ニ至ツテハ教育上特ニ骨ヲ折ルト云フ趣旨ノ釋明ガオアリニナリマシタ、デ司法大臣トシテ、文部大臣トシテノ外ニ、國務大臣トシテ憲法上サウ云フ規定ハ少シ困ル、斯ウ云フヤウナ風ニ御考ニナリマスカ、或ハサウ云フ規定ヲ設ケマシテ、出來タ案ノ如何ニ依ツテハ考慮スル餘地ガアルト云フヤウニ御考ヘ下サルモノデセウカ、其ノアタリノコトヲ司法大臣ニ伺ツテ置キタイ、斯ウ思フノデアリマス、民法ノ改正ヲ、獨リ民法ノ改正トシテ調査會ガ獨自ニシナイデ、丁度婚姻問題ヲ目下憲法ノ下ニ於テ審議シテ居ルト同ジヤウニ、家族問題モ憲法ノ下ニ於テ審議スルト云フ形ニシテ戴クト云フコトハ、餘程御迷惑ナコトデゴザイマセウカ、ソレヲ伺ヒタイ
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、此ノ憲法第二十四條ハ、申ス迄モナク日本ノ家族制度ヲ正面カラ廢止シヨウト云フ意思ノナイコトハ極メテ明瞭デアリマス、唯婚姻ガ兩性ノ合意ノミニテ成立スルト云フコト、夫婦ガ同等ノ權利ヲ有スルコトヲ基本トシテ、相互ノ協力ニ依ツテ維持サレルト云フコトヲ規定シテ居ルニ過ギナイノデアリマス、併シ日本ノ現在行ハレテ居ル此ノ家族制度ガ良イカ惡イカト云フコトハ疑問デアリマス、非常ナ批判ノ餘地ハアラウカト思ヒマスケレドモ、此ノ二十四條ノ建前ハ、詰リ夫婦ガ同等ノ權利ヲ有スルコトヲ基本トシテ婚姻ガ兩性ノ合意ニ依ツテ成立スルト云フコトヲ正面カラ規定シタノデアルガ、此ノ規定ハ何ノ理由ニ基キマシタカト云フト、要ハ日本ノ從來ノ家族制度ノ成立チ、申ス迄モナク是迄ハ戸主中心主義デアリマス、戸主中心ハ一定ノ範圍内ノ親族ガ、是ガ一ツノ戸籍上ノ單位トナツテ居ツタト云フノガソレデアリマス、之ニハ非常ナ不合理ガ伴ツテ居ル、餘ニモ封建的ナ色彩ガアル、一ツノ例ヲ以テ申シマスルト、本籍ガ鹿兒島ニアツテ此處ニ戸主ガ存在シテ居ル、東京ニ於テ子供ハ生活シテ居ル、而モ其ノ子供ニ年頃ノ娘ガ出來タ、是ガ結婚スルニ付テハ一々鹿兒島ノ本籍地ノ戸主ノ同意ヲ求メナケレバナラヌ、是ハ一例ニ過ギナイノデアリマスガ、戸主中心主義ノ從來ノ家族、所謂民法上ノ家族制度ト云フモノハ非常ニ不合理ナ點ガアル、斯ウ云フ點ハドウシテモ憲法改正ト同時ニ拂拭シナケレバイカヌト云フ考ヲ持ツテ居リマス、ソコデ是迄ノ戸主中心主義ノ家族ハ廢止スルニシテモ、所謂從來ノ良キ意味ノ家族制度ト云フモノハ、是ハ何處迄モ尊重シテ行カナケレバナラヌト云フ考ヲ持ツテ居リマス、所謂日本ノ親子、夫婦、兄弟相寄ツテ安住ノ場所タル此ノ家族ハ、何處迄モ維持シナケレバナラヌノデアリマス、ソレデ戸主中心主義ノ所謂封建的色彩ノ濃厚ナ家族制度ヲ廢メルコトトハ、是ハ別個ノ問題デアラウト考ヘテ居リマス、此ノ憲法ノ建前カラ申シマシテ、良キ意味ニ於ケル家族制度ト云フモノハ、決シテ壞ス意思ハ毛頭ナイノデアリマス、ソコデ左樣ナ意味ノ家族制度ハ、矢張リ是ハ戸籍法ト相俟ツテ制定サレルベキモノデアラウト思フ、其ノ意味ノ家族ニ關スル規定ト云フモノハ、是ハ民法デ十分ニ規定サレ得ルト私ハ信ジテ居リマス、今御説ノ通リ、内閣ニ於ケル臨時法制調査會ニ於テモ、其ノ問題ニ付テ折角檢討中デアルノデアリマス、牧野委員ニ於カレマシテハ、毛頭ノ誤解モナイデゴザイマセウガ、世間往々此ノ二十四條ヲ以テ家族制度其ノモノヲ破壞スルノデアルト云フ誤ツタ議論ガ假ニアリトスレバ、サウ云フヤウナコトハ決シテナイト云フコトヲ申上ゲタイト思ヒマス（拍手）
○牧野英一君 法律家トシテ私ハ司法大臣ノ御説明ノヤウニ、家族制度ヲ無視シタ規定デナイト斯ウ仰セラレルコトニ付テハ異存ガナイノデアリマス、併シナガラ世ノ中ガ現ニ誤解ヲシテ居ル、其ノ事實ハ餘リ輕ク御覽願ヒタクナイノデアリマス、法律家デナイ、併シナガラ教養アル一般ノ社會ガ此ノ規定ニ付テ相當ニ疑惑ノ眼ヲ以テ眺メテ居ルト云フコトダケハ、是ハ事實デハナカラウカト私ハ察シテ居リマス、又規定ノ體裁カラ申シマシテモ、婚姻ダケハ憲法上原則ヲ掲グルガ、家族制度ニ付テハ原則ヲ掲グル必要ガナイト仰セラルヽノハ如何デセウカ、民法デ以テ事ガ處置出來マスルナラ、婚姻ニ付テモ民法ダケデ處置ガ出來マスルノデ二十四條ハ要リマセヌ、ソレデアリマスルカラ、矢張リ憲法ハ民法刑法ノ大本ヲ決メテ居ル所ノ法律トシテ、財産法ニ付テハ云々、親族、相續ノ關係ニ於テハ、家族ニ付テハ斯ウ、婚姻ニ付テハ斯ウト車ノ兩輪ノ如ク、御規定置キ下サイマスレバ、法制調査會及ビ制度審議會ニ於テ仕事ヲスルノニモ樂ナコトニナルノデハアリマスマイカ、憲法トシテモ其ノ體ヲ爲シ、社會一般ニ對シテモ疑惑ヲ生ジナイ、本當ニ憲法ヲ讀ムト、我々ノ家族生活ノ實體、殊ニ婚姻ハ斯ウ云フモノデアルト云フコトガ分ルコトニナルデアリマセウガ、家族生活ノ大本ヲドウ規定シタラ宜イカト云フコトガ一ツノ問題デアリマセウ、私ハ僣越ナガラ一ツノ案ヲ拵ヘテ居リマスガ、外ノ方々ニモ案ヲ練ツテ戴イテ、若シ適當ナ案ガ出來マシタナラバ、幸ヒニ適當ナ案ガドナタカノ手ニ依ツテ出來上ツタ曉、ソレヲ憲法ヘ持込ムト云フコトハ、餘程御迷惑ナコトデゴザイマセウカ、若シソレガ憲法ノ全體ノ組織ト相容レナイモノニナリマスレバ、私ハ申譯ゴザイマセヌ、併シ民主主義、平和主義、社會的及ビ文化的ノ立場カラ見テ、ソレガ然ルベキモノデアルナラバ、サウ云フモノヲ特ニ御考慮願ヒタイト、斯ウ思ヒマスノデ、差當リサウ云フモノヲ拒絶、必ズシモ拒絶スル意味デハナイト云フ御趣旨デアルナラバ、其ノ積リデ仕事ヲ致シマセウガ、政府ハ斷然ソレハ迷惑ニ存ズルト、斯ウ云フ御趣旨ノヤウナコトニナリマスト、我々モ餘程自分ノ案ヲ練ル時ニ考ヘ直サナケレバナラヌト存ズルノデアリマスガ、政府ハ是デ宜イト仰セラレタノデアリマスカラ、一應私ハ御尤モト拜察致シマスケレドモ、尚、車ノ兩輪ノヤウニ是ガアツタ方ガ宜イ、少クトモアツテモ差支ナイト思召スカ、其ノ點ヲ伺ツテ置キタイ、斯ウ思ヒマスルノデス、是ハ殘念ナコトニハ、今法律論トシテ家族制度ヲ無視シテ居ナイト仰セラレタノハ、御尤モナ話デアリマスルガ、併シナガラ御膝元ノ法制審議會デ、如何ニ此ノ點ノ疑惑ガ法律家ノ間ニモアツタト云フコトハ、大臣ハ既ニ御承知ノ通リデアリマス、ソレニ對シテ出來ルダケノコトヲ私トシテモ御奉公致シタ積リデゴザイマスルノデ、司法大臣トシテ民法ノ御起案ヲ御命令ニナルノニ對シ、憲法上矢張リサウ云フモノガアルト云フコトヲドウ云フ風ニ御考ヘニナツテ居ルカ、從來ノ民法ニ於ケル形式的ナ家ノ制度ヲ維持スルト云フノデハゴザイマセヌ、此ノ憲法ノ精神ニ合フヤウナ家族制度ノ大原則ヲ私ハ婚姻ト相竝ンデ書キタイ、例ヘバ斯ウ云フ譯デアリマス、「相互の協力により」ト云フ原則ガ此處ニ書イテゴザイマスガ、婚姻ニハ相互ノ協力ガ要リ、親子ニハ相互ノ協力ハ要ラヌカト云フ茶目ガ世ノ中ニハ居リマスノデ、ソコデ親子ノ協力ガ必要デアリ、又場合ニ依ツテハ兄弟ノ間ニモ協力ガ必要デアル、之ヲ具體的ニ申シマスレバ、此ノ點ニ付テハ、例ヘバ私ノ考デハ、扶養ノ義務ノ規定ヲ書直サウト云フヤウナ考ヲ持ツテ居ルノデアリマシテ、今ハ戸主ノ婚姻ニ對スル承諾ノ義務ガアリマスケレドモ、是ハ扶養ノ義務トカ、相續トカニ誠ニ影響ノアルコトデ、民主的ナ平和的ノ家ノ制度ヲ維持シナガラ家族生活ヲ大切ニスルト云フ趣旨ノ下ニ立案ガ出來ルモノト思ヒマスノデ、敢テ此ノ點ヲ重ネテ司法大臣ニ御伺スル次第デアリマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、御承知ノ通リ、此ノ改正憲法草案ハ個人ノ人權ト云フコトニ非常ニ重キヲ置イテ居ルノデアリマス、殊ニ國民ノ義務ノ各條項ヲ御覽下サイマスレバ極メテ明白デアリマセウガ、個人ノ人權、人格ノ尊重ト云フコトニ付テ非常ナ力ヲ用ヒテ居ルノデアリマス、而シテ從來日本ニ於キマシテハ、申ス迄モナク男女ノ差別ハ非常ニ不自然ニ設ケラレテ居ツタ、殊ニ婚姻ナンカニ付テハ、戸主ノ同意ヲ要スルト云フヤウナコトデ、甚ダシク不合理ナ點ガアツタノデアリマス、個人ノ尊嚴ト、夫婦、男女ノ平等ト云フコトヲ此ノ規定ニ表ハスベク用意サレタノデアリマス、家族制度ノ意義トハ此ノ二十四條ハ別箇ノ考ヲ持ツテ居ルノデアリマス、（拍手）家族制度ニ付テハ、是ハ民法デ十分ナル規定ヲ設ケレバ敢テ不都合ハナカラウカト考ヘテ居リマス、ソコデ最後ノ此ノ修正ノ場合、別ノ條項ヲ設ケタラドウカト云フ御説デアリマス、ソレハ政府當局ト致シマシテハ、此ノ規定ヲ設ケテアル以上、別ニ民法ニ於テ家族制度ノ十分ナル規定ヲ設ケレバ差支ナイ、併シナガラ此ノ憲法草案ニ付テハ、國會ノ御審議ヲ願ツテ居ルノデアリマスカラ、此ノ審議權ノ御行使ニ依ツテヤルト云フコトハ、是ハ各委員ノ御權限デスカラ、政府當局トシテハ、是ハ何ントモ申上グルコトハ出來ナイ、一應政府當局ト致シマシテハ、此ノ案デ十分デアルト云フコトダケヲ申上ゲタイ（拍手）
○牧野英一君 御考ハ能ク了解致シマシタ
○子爵大河内輝耕君 此ノ二十四條ニ付テチヨツト御質問致シタイト思ヒマス、先日司法大臣デハゴザイマセヌデシタガ、確カ金森國務大臣ダト思ヒマシタガ、此ノ二十四條ニ付キマシテハ、ドウ云フ法制ガ出ルカマダ分ラナイカラ内容ニ入ツテハ答ヘラレナトイ、斯ウ云フ御話デアリマシタガ、段々質問應答ノ樣子ヲ伺ツテ居リマスト、二十四條ト離レズニ、二十四條ノ當然ノ結果トシテ民法其ノ他ガ直ルト云フコトハ爭フベカラザルコトノヤウデアル、ソレガ何ンダト云フコトハマダ御決リニナリマセヌカラ伺ヒマセヌガ、我々ガ此ノ憲法ヲ議スル上ニ於テ、民法ノ上ニ當然及シテ來ル効果、或ハ戸籍法其ノ他ニ當然及シテ來ル効果、或ハ家族制度ニ付テ伺ツテ居ルト、私ハ今大臣ノ仰シヤツタ言葉ニ依レバ、此ノ家族制度ト云フモノハナクナツタノト同ジダト思フ、ソレニ依ツテ當然起ツテ來ル法律ノ改正ハ、是ハ之ヲ伺ハナケレバ今ノ二十四條ヲ審議スルコトハ出來ナイ、二十四條ガ民法ト關係ナイト仰シヤレバソレハ宜シウゴザイマスガ、サウデナクシテ、當然ノ結果トシテ起ツテ來ル法律ノ改正ト云フモノハ、ドウシテモ具體的ニ伺ハナケレバ審議ノシヤウガナイ、今日只今直グ伺ヒタイトハ申シマセヌケレドモ、是ハドウカ憲法ノ委員會ガ終ル迄ニ政府デ具體的ノ御考ヲ御決メニナツテ、サウシテ我々ニ質問ヲスル機會ヲ御與ヘ願ヒタイ、其ノ希望ヲ申上ゲマスガ、如何デゴザイマセウ
○國務大臣（木村篤太郎君） 實ハ今審議中デアリマシテ、私モ唯中間的ノ報告ヲ受ケテ居ルダケノコトデアリマシテ、是ハ何レ確定致シマシタ曉ニ於キマシテハ、次ノ臨時議會デ提出案トシテ御審議ヲ願フコトニナツテ居リマス、併シ只今ノ中間報告程度ノモノデアレバ御參考ノ爲ニ差上ゲテモ宜カラウト思ツテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 ソレハ政府トシテ少シ御間違ヒヂヤアリマスマイカ、中間デ御審議ニナツテ居ルモノハ政府ノ内部ノモノデセウ、我々トシテハソレヲ知ラナケレバ此ノ憲法ノ決定ガ出來ナイノデス、ソレデスカラドウシテモソレヲ伺フト云フコトハ我々トシテハ是非必要ナコトナンデス、中間デ御審議爲サルノモ何等差支ナイノデス、兎ニ角政府トシテハ斯ウ云フ風ニスルノダト云フ一定ノ決ツタ御考ヲ、此ノ憲法ノ委員會ヲヤツテ居ル間ダケハ御洩ラシ下サラヌト、コツチノ審議ノシヤウガナイ
○國務大臣（木村篤太郎君） ソレハ私ハ今ノ大河内委員トハ別箇ノ考ヲ持ツテ居ルノデアリマスガ、此ノ憲法ノ御審議ヲ願ツテ確定シタラ、其ノ線ニ據ツテ我々ハ立案シテヤルベキモノデアル、又我々ハ經過的ニ今研究シテ居ルノデアリマシテ、寧ロ私ハ此ノ憲法ガ決ラナケレバ本當ニ各法律ノ起案ト云フモノハ出來ヌト思フ、先ヅ之ヲ決メテ戴クト云フコトガ先決問題ダト思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 御趣旨ハ能ク分ツテ居リマスガ、私ハソレヲ二ツニ分ケタイ、是ガ決ツテカラ決メルヤウナ法律ハソレデ宜シウゴザイマス、是ガ決マル爲ニ當然起ツテ來ル法律ノ改正、例ヘバ參議院ノ組織、斯ウ云フモノハドウシテモ中迄伺ハナケレバ宜イカ惡イカ分リマセヌ、今ノ家族制度ノ問題ダツテ大變ナ問題デス、デスカラドウ云フ結果斯ウ云フモノヲ決メルノカ、斯ウ云フコトヲ伺ハナケレバナラヌ、總テノ法律ガサウデアル、昨日ノ賠償ノ問題ダツテ、賠償ヲ好イ加減ニサレテハ、此ノ憲法ハ好イ加減ナモノニナツテシマフ、凡ソ此處迄ハ賠償ヤルノダト云フ範圍ヲ伺ハナケレバ‥‥是以上ハ伺ヒマセヌ
○川村竹治君 私モ大河内委員ト同ジ考デス、參議院ノ構成問題ニ付テ大體ノ政府ノ意見ヲ決メテ、サウシテ御出シ下サイト云フコトヲ申上ゲテ居ル、今ノ問題ハ必ズシモ二十四條ニ限ラズ、大體之ヲ審議スル上ニ於テ、先ヅ政府ノ意見ヲ御決メ下スツテ參考案トシテ御出シ下サラナイト、我々ハ審議スルコトガ出來タト思フ、サウ云フ意味ニ於テ私ハ大河内委員ノ御意見ニ賛成ヲ致シマス
○委員長（安倍能成君） 大河内委員、川村委員ノ御意見ハ政府ノ方デモ御聽キニナツタト思ヒマス、ソレデハ二十五條‥‥
○松村眞一郎君 二十四條デモウ少シ伺ヒタイノデスガ、質問ノ通告ハ致シテ居リマセヌガ、通告シテナケレバイケマセヌカ
○委員長（安倍能成君） ヂヤ簡單ニ‥‥
○松村眞一郎君 私ハ今ノ家ト云フコトニ付テ大河内子爵ト同ジ考ヲ持ツテ居ル、唯漠然ト家族ニ關スル事項ハ法律ニ定ムト云フヤウナコトデハ實ハ分リマセヌ、私ノ御尋スルノハ親ト云フコトヲドウ云フヤウニ御考ニナツテ居ルノデアリマスカ、此ノ憲法ノ樹テ方ヲ申シマスルト云フト、夫婦ガアツテ子供ダケ見テ居ルヤウニ考ヘテ居ル、家族ハ子供ノコトハ考ヘテ居リマスガ、上ニ對スル家族ト云フ觀念ハ私ハナイト思ヒマス、是ハ戸主ヲ廢スルト云フコトニ必然起ツテ來ル問題デアルガ、其ノ親ト云フコトハドウ云フヤウニ御考ニナツテ居ルカ、ソレヲ伺ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 親ト云フコトニ付テハ、私ハ茲デ管々シク申上ゲル必要ハナカラウカト思ヒマス、此ノ憲法ノ建前ハ、今申上ゲマシタ通リ個人ノ人格ノ尊嚴、之ヲ基調ニシテ規定サレタノデアリマス、從ツテ此ノ規定ト云フモノハ男女ハ平等デアルゾト云フ建前ヲ茲ニ表ハシタノデアリマシテ、親ト云フ觀念トハ別個ノ規定デアリマス、親ノ意義ト云フコトハ別段茲ニ表ハサナクテモ、是ハモウ人類トシテ當然ナコトデアルノデアリマス、是ハ普遍ノ原則デアリマス
○松村眞一郎君 普遍ノ原則ノコトハモウ司法大臣カラ御聽キスル必要ハアリマセヌ、ソレハ當然ノコトデアリマス、親ト云フモノヲドウ御考ニナリマスカト云フコトヲ云ツテ居ルノデス、法律トシテ、國家ノ秩序トシテ親ト云フモノヲドウ云フヤウニ御考ニナツテ御作リニナツテ居ルカト云フコトヲ伺ツテ居ルノデス
○國務大臣（木村篤太郎君） 私ハ其ノ意味ガ分ラヌ、親子ト云フモノハ人倫ノ原則ナンデスサウ云フコトハ御説明スル必要ハナカラウト思ヒマス
○松村眞一郎君 人類ノ原則ト云フコトヲ伺ツタノヂヤナイノデス、憲法デハ法的秩序トシテ親ト云フモノハドウ御考ニナツテ居ルカト云フコトヲ伺ツテ居ルノデス
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、是ハ必ズ民法ノ改正規定ニ於キマシテモ、家庭ニ於テハ親ヲ中心トシテ考ヘラレルコトト思ヒマス、ソレ以上ノコトハ私ハ御説明スル必要ハナカラウカト思ヒマス、（拍手）此ノ規定ハ今申上ゲマスル通リニ、此ノ根本ノ夫婦平等ノ原則ヲ表ハシテ［居ルノデス］
○松村眞一郎君 今御答辯ニナリマシタカラ、ソレデ或程度ハ明瞭ニナツタト思ヒマス、親ヲ中心トシテ考ヘルト云フコトヲ仰シヤイマシタ、親ヲ中心トシテ‥‥
○國務大臣（木村篤太郎君） サウデス、親子夫婦中心デ我々ハ考ヘテ行キタイト思ヒマス
〔「名答辯」ト呼フ者アリ〕
○霜山精一君 委員長‥‥
○委員長（安倍能成君） 簡單ニ願ヒマス
○霜山精一君 私ハ司法大臣ニ對シテ昨日モ質疑ヲ出シテ置イタノデゴザイマスガ、丁度御出席ニナリマセヌノデ、金森國務大臣カラ御答辯ヲ願ツタノデアリマスガ、此ノ二十四條ノ規定ト云フモノハ非常ニ重大ナ意味ヲ持ツ規定デアルト思フノデアリマス、今迄ノ憲法ニハ婚姻ニ付テ何等ノ規定ヲ設ケナイ、婚姻ノコトハ民法ノ方ニ規定ヲ設ケテ居ル、ソレヲ此ノ憲法ニ採リ上ゲテ、婚姻ト云フコトヲ茲ニ憲法上ノ規定トシテ持出シテ來タト云フコトハ非常ナ意味ガアルコトト考ヘルノデアリマス、詰リ今迄ハ、昨日モ申上ゲタ通リ、日本ノ社會組織ノ單位ト云フモノハ、家族中心、民法デ所謂戸主中心、戸主ヲ單位トスル家ト云フモノヲ單位トシテ認メラレテ居ツタノデアリマス、家ガ中心デスカラ、從ツテ婚姻ナンテ云フモノハ又其ノ家ノ下ノ段階ニアルモノトシテマア取扱ハレテ居ツタ譯ナンデス、處ガ今度ノ憲法ニ於キマシテハ、婚姻ヲ憲法デ浮ビ上ラセテ、サウシテ家ノコトハ、默ツテ居ル譯デアリマス、此ノ趣旨ハ、詰リ是カラノ日本ノ社會組織ト云フモノハ、家中心カラ個人中心、個人制ニ移ルト云フコトニ結局此ノ二十四條デナツテ來ル譯デアリマス、今迄ノ家ハナクナツテ、二十四條ニ依ツテ、詰リ婚姻中心デ將來ノ社會生活ガ出來ルト云フコトハ、結局ハ歐米ノ所謂個人制ニ移ル譯デアリマス、是ハ家族制カラ個人制ニ移ル規定ナンデス、其ノ意味デ茲デ現ハレテ居ルカラ、是ハ日本ノ社會組織ノ上ニ重大ナル意味ヲ持ツ規定デアルト、斯ウ云フ風ニ私ハ昨日カラ論ジテ居ル譯デアリマス、（「同感」ト呼フ者アリ）サウ云フ意味デスカラ、此ノ婚姻ヲ中心トシテ‥‥從ツテ個人ノ尊嚴ト兩性ノ本質的平等ニ立脚シテ、是カラノ家族生活ト云フモノハ維持サレテ行ク、斯ウ云フコトニナル譯デアリマス、サワ云フ風ニ此ノ規定ヲ見テ參リマスト、モウ家ハ棄テラレテシマフ譯デス、此ノ規定ノ趣旨カラ言ヘバ‥‥、（「其ノ通リ」ト呼フ者アリ）從ツテ政府トシテハ、寧ロ此ノ際サウ云フ家ハマダ保存スルノダト云フヤウナコトハ言ハナイデ、綺麗サツパリト、從來ノ本當ノ日本ノ封建的ナ家族制度ト云フモノハ棄テテシマフノダ、斯ウ云フ風ニ明確ニ態度ヲ此ノ規定ニ依ツテ示スコトガ寧ロハツキリシテ宜イノヂヤナイカ、（拍手）斯ウ云フ風ニ私ハ考ヘテ居ルノデアリマスガ、多分木村司法大臣モ、先程ノ御話デ同樣ノ御趣旨ト我々ハ拜察シテ居ルノデスケレドモ、其ノ點ヲ勇敢ニ一ツ言ハレタ方ガ、天下ノ疑惑ヲ寧ロ一掃スル所以デハナイカト云フ風ニ考ヘテ居ルノデアリマス（拍手）
○國務大臣（木村篤太郎君） 申上ゲマス、此ノ二十四條ノ結果、私ハ先刻申上ゲマシタ通リニ、戸主ヲ中心トスル家族制度ト云フモノハナクナル、從ツテ民法ノ所謂戸主家族、アノ章ハナクナルモノト確信シテ疑ヒマセヌ、併シナガラ今霜山委員ノ仰セニナリマシタヤウニ、親子、夫婦ガ相倚リ相集ツテ協同體ヲ組織スル此ノ概念的ノ家ト云フモノハ決シテナクナル譯ヂヤナイ、斯ウ私ハ申上ゲタノデアリマス、從ヒマシテ今霜山委員ノ仰セニナリマシタ現在ノ民法上ノ所謂家族制度ト云フモノハ、此ノ規定ノ結果ナクナルト云フコトハ、是ハ當然デアラウカト私ハ信ジマス、左樣ナ意味ニ御了解願ヒタイノデス
○松村眞一郎君 私ハ今ノ司法大臣ノ御言葉ハ、モウ少シ明確ニサレヌトイカヌト思ヒマス、親子、夫婦ト申シマスト、夫婦ノ上ニ親子ガアルト云フコトニナリマスガ、ソレデ宜シウゴザイマスカ、伺ヒマス、夫婦ヲ中心ニシテ上ニ親ヲ眺メル、下ニ子ヲ眺メルト云フ思想デ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 其ノ點ニ付テハ、今如何ニ取計ラフカト云フコトニ付テハ、我々ハ考慮中デアリマス、是ハ主トシテ戸籍法ノ問題ニナラウカト思ツテ居リマス
○松村眞一郎君 サウ云フ問題ガ考慮サレテ居ツタノデハ審議ハ出來マセヌ、ドツチカニ御決メニナル必要ガアルト思ヒマス（拍手）
○國務大臣（木村篤太郎君） 是ハ政府ヨリ、アナタ方ニ一ツ御審議願ヒタイ‥‥
○松村眞一郎君 私ハ親ヲ含メナケレバイカヌト申シテ居リマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 政府トシテハ斯ウ云フ憲法草案ニ付テ‥‥
○松村眞一郎君 ソレデ霜山委員ノ意見ハ一應出テ居ル、親ト云フモノヲ見ナイト云フ意見ガ出テ居ル、私ハ親ヲ見ナケレバイカヌト申シテ居ルノデアリマスカラ、委員ノ中ニ二ツノ意見ガアルト云フコトハ明瞭デハアリマセヌカ、政府ガソレニ對シテノ態度ヲ早クハツキリ決メル必要ガアルト思ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 霜山委員モ決シテ親子ト云フモノハ認メナイト云フ御趣旨デハナカラウト思ヒマス、ソレハ夫婦ヲ中心ニスルト云フコトハ、仰セニナツタ親子ヲ認メナイト云フヤウナ霜山委員ノ御考デハ毛頭ナカラウト考ヘテ居リマス
○松村眞一郎君 ソレハ霜山委員ガ直接御答辯ニナツタラ宜カラウト思ヒマス、私ノ申スノハ人倫ト云フコトヲ言ツテ居ルノデハナイ、法制トシテ國家秩序トシテ此ノ憲法ハ夫婦中心ノ立法デハナイカト言ツテ居ルノデス、霜山委員ドウゾ願ヒマス
○小山完吾君 關聯シテチヨツト伺ヒマス、私ハ司法大臣ノ御答辯竝ニ霜山サンノ御説ヲ承リマシテ私ハ兩方トモ其ノ意見ハ少シモ錯誤シテ居ラヌト大體ニ於テ思フノデスガ、唯此所ニ私ノ考ヲ念ノ爲ニ申上ゲテ、ソレガ違ヒマスルナラバ政府ノ御答辯ヲ願ヒタイ、憲法ノ取極メニ於テ一夫一婦ト云フコトノ態度、大原則ヲ決メルト云フコトハ當リ前ノコトデアル、國家社會ノ一單位ガ夫婦ニアルト云フコトハ是ハモウ當然ノコトト思ヒマス、ソレデ其ノ人倫ノ大道ヲ茲ニ決メテ、後ハ親子ハドウデアルトカ兄弟ハドウスベキデアルカトカ云フヤウナコトハ、其ノ時ノ時代々々ノ道徳ノ觀念ニ依ツテ規正サレベキコトデ、ソレハ即チ何時デモ變ヘルコトノ出來ル法律ニ於テ之ヲ採入レテ斟酌スレバ宜イト斯ウ私考ヘテ居リマスガ、政府ノ御考ヘハ如何ナモノデゴザイマスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 誠ニ其ノ通リデアリマス、同感デアリマス
○松村眞一郎君 サウ云フ問題ハ斟酌スベキ問題デハアリマセヌ、モツト根本的ノ問題デアリマス、私ハ今小山委員ガ一夫婦ト云フコトヲ仰セラレマシタカラ、其ノ點ニ付テ私ハ此ノ委員會デハ申サナイ積リデアリマシタケレドモ、一言申サザルヲ得ナクナリマシタ、ソレハ餘程能ク御考ヲ願ヒタイ、一夫一婦ト云フコトニ付テ、ソレハ大正天皇樣ガ崩御ニナリマシタ時ニ「アメリカ」ノ雜誌「カレント・センチュアリー」或ハ「レヴュー・オブ・レヴュー」ダツタカト思ヒマスガ、斯ウ云フ記事ヲ戴セテ居ル、大正天皇陛下ハ御崩御ニナリマシタ、此ノ天皇陛下ハ日本創ツテ以來ノ一夫一婦ノ天皇樣デアリマス、斯ウ云フコトヲ書イテアリマス、能ク其ノコトヲ御考ヘ願ヒマス
○川村竹治君 私ハ此ノ問題ニ關聯シテ司法大臣ニ伺ヒタイ、今モ現在ノ家族ト云フモノハ異ナラナイ形ニ於テ維持シテ居ルト云フヤウナ御趣旨ノヤウニ承リマシタ、サウスルト其ノ家族ガ唯協同體トシテ一所ニ集ツテ居ルト云フ形デアリマスカ、或ハ中心ガアツテ之ヲ中心ニシテ集ツタ所ノ團體、斯ウ云フ意味ノ家族デセウカ、司法大臣ノ今御考ニナツテ居ル點ヲ一ツ御説明願ヒタイ
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、繰返シテ申スヤウデアリマスガ、今ノ現行民法ノ下ニ於ケル戸主中心トシテノ家族ト云フモノハナクナルト思ヒマス、併シナガラ之ニ代ハルベキ所謂夫婦中心ノ、是ハ勿論親子關係モ包含サレルノデアリマスガ、其ノ戸主ヲ拂拭シタ殘リノ家族ト云フモノハ維持サルベキモノダラウト確信シテ居ルノデアリマス、所謂夫婦ハ、相倚ツテ、サウシテ其ノ間ニ親子關係ガ生ジ、兄弟關係ガ生ズル、其ノ協同體ハ依然トシテ殘ルベキモノダラウト、斯ウ思フノデアリマス
○川村竹治君 サウスルト中心ガナイ雜居ノ形ノ家族ト云フモノガソコニ殘ルト云フ御趣旨ト解釋シテ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 從來ノヤウナ所謂戸主ト云フ中心ハナクナルダラウト思ヒマス、是ハ所謂封建的色彩ガ濃厚デアルト云フ理由ノ下ニ從來批判サレテ居ツタノデアリマス、此ノ戸主中心主義ノ家族ト云フモノハナクナルダラウト思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 只今ノ御答ハ憲法ノ當然ノ結果トシテ起ル御答デアル、霜山委員ニ對スル御答ニ於テモ川村委員ニ對スル御答ニ於テモ、此ノ憲法ヲ改正シタ當然ノ結果トシテ起ツテ來ル解釋上ノ結果デアルト、斯ウ云フ風ニ承知シテ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） サウ考ヘテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 ソレナラ結構デス
○委員長（安倍能成君） 大體御議論ハ盡キタト思ヒマスカラ、第二十五條以下ニ移リマス、ソレデハ佐々木委員
○佐々木惣一君 第二十五條ノ第一項ニ付テ御尋ネ致シマス、「文化的ナ最低限度」トアリマスガ、是ハ要スルニ文化的ナ生活ト云フコトデセウガ、文化的ナ生活ト云フノハ一體ドウ云フコトヲ此ノ法文デハ言フテ居ルカ、固ヨリ文化的トカ、文化ト云フコトハ何レノ方面デモ用ヒテ居ツテ、殊ニ近頃流行リノ言葉デスガ、唯併シ法律、殊ニ憲法ト云フヤウナモノニ於テ之ヲ用ヒマス以上ハ、其ノ概念ト云フモノハ極メテ明瞭ニナラヌト困ルト思ヒマス、ソレデ此ノ方面ノ意味ニ於ケル文化的ト云フコトヲ御尋シタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 御答ヘ申シマス、是ハ衆議院ニ於テ出來タ言葉デアリマシテ、私ノ御答ガ果シテ衆議院ノ方ノ思想ニ當ツテ居ルカドウカト云フコトハ存ジマセヌガ、茲ニ文化的ト申シマスルノハ、原始的ト云フ言葉ノ反對ノ意味デアリマシテ、人間ガ歴史的ニ段々ト文化ヲ建設シテ來マスレバ、其ノ時代其ノ時代ニ自ラ然ルベキ文化ト云フモノガアラウト思フノデアリマス、其ノ文化ト云フモノヲ中心ニ致シマシテ、ソレヲ基準トシテ居ル生活、斯ウ云フ風ニ了解致シマス
○佐々木惣一君 御説ノコトハ大體分リマシタガ、マダドウモ分リニクイ、其ノ時代時代ニ於テ文化ト云フモノガアルト仰シヤツタガ、ソレハサウ思フノデスケレドモ、其ノ所謂文化ト云フノハドウ云フ意味デセウカ、今ノ御説明ニ於ケル文化デスナ
○國務大臣（金森徳次郎君） 斯樣ナ包括的ナ言葉ヲ的確ニ定義ヲ致シマスコトハ、チヨツト私ニハ出來サウモナイノデアリマスガ、併シ私ノ平素カラ了解シテ居リマスル所デハ、人間ハ精神的ナル努力ニ依リマシテ我々ガ一歩々々ト、謂ハバ原始的トモ謂フベキ人間其ノモノニ、物ヲ加ヘテ生キテ居リマス、知識學問ノ發達及ビソレニ基イテ諸般ノ建設的ナル企テヲ致シテ居リマシテ、兎ニ角我々ノ生活内容ヲ豐富ニシテ居ルト云フコトハ疑ノナイコトデアリマス、左樣ナ建設セラレタル面ニ於テ、原始的ナル人間ハ文化的ナル人間ニ相當變形セラレテ居ルト考ヘマスルト、斯樣ナ意味ニ於テ文化ト云フコトガ考ヘラレルト私ハ信ジテ居ル譯デアリマス
○佐々木惣一君 ドウモマダ私ハヨク分ラヌノデスガ、併シソレヲ議論シテ居ツテモ仕樣ノナイコトデスカラ、唯斯ウ云フ風ニ考ヘルコトガ私自身ノ言葉デ、正確デアラウト云フコトヲ信ズル譯デハアリマセヌガ、大體宜シウゴザイマセウカ、先刻御話ニナリマシタヤウナ意味デ、其ノ時代、其ノ時代ニ我々ニ與ヘラレテ居リマスル所ノ、我々自身以外ノ事實ガアル、其ノ事實ニ我々ガ自分ノ社會生活ニ關スル所ノ價値判斷ヲ加ヘテ、サウシテ我々ノ外ニ存在シテ居リマスル所ノ事實ニ色々ソレヲ我々ノ價値觀念ニ適フヤウニ、サウ云フ風ニ一ツノ力ヲ加ヘテ工作ヲスルト云フヤウナコトヲ、假ニ文化ト言ウテ、サウ云フ文化的ノ努力、社會ノ状態ト云フモノヲ、我我ノ價値觀念ニ適フヤウナ風ニ我我ガ工作ヲスルト云フ風ナ、サウ云フ生活ヲ詰リ文化的生活ト云フ風ニ私ハ言ヒタイト思フノデスガ、此ノ本文ノ意味ハ離レテ‥‥サウ云フヤウナ意味ヲ此ノ法文ハ持ツテ居ルモノト大體ニ於テ考ヘテ宜シウゴザイマセウカ、大體同ジヤウナコトデゴザイマスガ、ハツキリト御尋ネシテ置クダケデス
○國務大臣（金森徳次郎君） 大體同ジヤウニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 ソレダケノコトヲ伺ツテ私トシテハハツキリ致シマシタ、實際分ラヌコトデスカラ、此ノ頃文化生活ト言ツテ甚シキニ至リマシテハ西洋式ノ家ヲ建テル文化住宅ト云フヤウナコトヲヤツテ居リマスカラ、矢張リ一應ハツキリシテ置カナケレバナラナイ、ソレカラ第二項デスガ、是ハ別ニ大シタコトデハアリマセヌデスケレドモ、「國は、すべての生活部面について、社會福祉社會保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」斯ウアリマスガ、又無論サウデスケレドモ、是ハ時ニハ其ノ社會ノ事情ニ依リマシテ、何處カニ重點ヲ置クト云フヤウナコトヲ排斥シタ意味デハアリマセヌ、デセウナ、總テノ生活部面ニ皆一樣ニヤルト云フコトデハアリマセヌナ、ソレダケノコトヲ唯‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 御説ノ通リデアリマシテ、是ハ範圍ガ廣ク行キ亙ルト云フ意味ニ於テ明カニシタダケデアリマシテ、輕重ノ點ヲ規定シテ居ル譯デハゴザイマセヌ
○佐々木惣一君 私ガ申上ゲタイノハ、唯是ダケノコトデアリマス、詰リ今日言フ迄モナク、何人モ知ツテ居リマスル通リニ、戰災者ガ非常ニ困ツテ居ル、又復員者、戰爭ニ行ツテ來タ者ガ非常ニ困ツテ居ルト云フヤウナ人ガアリマスカラ、アヽ云フ人々ノ生活ニ對シテハ、無論國家ハ總テノ生活ト云フ面ニ努力ハシナケレバナラヌケレドモ、今日ノ如キ情勢ニ於テハ、サウ云フ方面ニ特ニ努力ヲスルト云フ必要ガアルト私ハ感ズルノデスガ、サウ云フ意味ニ於テ輕重ノ差異ヲ設ケテモ構ハヌ、言ヒ換ヘテ見マスレバ今日非常ニ戰災ノ爲ニ禍ヒニナツテ居ル、或ハ又戰爭ニ行ツテ復員シテ非常ニ困ツテ居ルト云フヤウナ人ノ、サウ云フ生活方面ヲ良クスル爲ニハ、他ノ生活部面ニ於テハ多少我々ガ忍ブト云フヤウナ政策ヲ國家ハ執ラレテモ已ムヲ得ヌ、斯ウ云フ風ニ私ハ解釋スルノデアリマスガ、大體サウ云フコトハ宜シウゴザイマスナ、マア宜シウゴザイマス、大體分リマシタ
○委員長（安倍能成君） ソレデハ第二十五條ニ關スル牧野委員ノ質疑ヲ後廻シニ致シマシテ、第二十六條ニ關スル牧野委員ノ御質問、牧野委員
○牧野英一君 是ハ簡單ナコトヲ伺フノデスガ、「法律の定めるところにより、」ト云フコトガ殊ニ斷ツテアリマスガ、第二項ニ至リマシテハ政府原案ニナイニモ拘ラズ、新タニ衆議院デ、是モ「法律の定めるところにより、」トアリマス、政府原案ノ御趣旨デハ一項ニ法律ノ定メル所ニ依リトアツテ、第二項ニナカツタノハドウ云フ次第デゴザイマセウカ、又兩方ニ之ヲ設ケルノト、兩方共之ヲ省クトニ依ツテ、ドノ位ノ差ヲ生ズルノカヲ御伺ヒシタイノデアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ第二項ニ關シマス限リハ、衆議院ノ入レラレタ所デアリマシテ、其ノ氣分ニ付キマシテハ、文部大臣ヨリモ私ノ方ガ幾分觸レテ居リマスルカラ、私カラ御答ヘ申上ゲタイト思ヒマス、是ハ多少ノ推測ヲ加ヘテノ御答デハアリマスケレドモ、衆議院ニ於キマシテ、此ノ第二項ニ於テ、義務教育ノ範圍ヲ高メルヤウニ、或ハ範圍ヲ擴張スルヤウニ企テラレタ譯デアリマス、政府原案ハ兒童ト云フコトデ制限ヲシ、初等教育ト云フコトデ制限ヲ致シマシタノヲ、ソレヲ子女ニ普通教育ト云フ風ニ範囲ヲ高メラレタノデアリマス、左樣ニナリマスト、言葉ノ内容ニ於キマシテモ、相當幅ノ廣イモノニナツテ來マスノデ、其ノ儘當然ニ此ノ憲法ノ「義務を負ふ。」ト云フ規定ヲ當嵌メマスト、或ハソコニ多少ノ考慮ヲ要スベキ場面ガ起ツテ來ルノデアリマス、ソレヲ的確ニ、法律上間違ノナイヤウニスル爲ニハ、何等カノ制限ヲ加ヘル必要ガアル、故ニ法律ノ定メル所ニ依リト云フ言葉ガ入ツタノデアリマス、其ノ結果ト致シマシテ、普通教育ト云フ言葉ニ付キマシテモ、法律ニ依ツテ其ノ部分ニ多少ノ解釋的ナ餘裕ガ強クナツテ來ル、子女ト云フ言葉等ニ付キマシテモ、例ヘバ年齢何歳迄ト云フヤウナコトニ付キマシテノ解釋ヲシ得ル範圍ガ廣クナツテ來マシテ、ソレハ法律デアレバ構ハヌ、他ノモノデヤレバイケナイト云フ解釋ニナラウト思ヒマス、次ニ第一項ニ付キマシテ「法律の定めるところにより、」ト斯ウ云フ風ニアリマシタノハ、矢張リ斯樣ナ教育ヲ受ケル權利ト云フコトニ付キマシテハ、單純ニ書キ放シデ置キマスト、其ノ權利ノ内容ト云フモノガ可ナリ絶對的ニ近イヤウニ考ヘラレル懸念ガアリマスノデ、茲ニ法律ニ依ツテ、憲法上適正ニ範圍ヲ明カニスルコトガ出來ル、斯ウ云フ意思ヲ以テセラレタ趣旨デアリマス
○牧野英一君 了解致シマシタ、ソレデ私ガ斯樣ナコトヲ特ニ質問ヲ申上ゲタ趣旨ダケヲ附加ヘテ置キマセウ「法律の定めるところにより、」ト云フ言葉ヲ加ヘル加ヘヌニ依ツテ、既ニ幾度モ金森國務相ト意見ヲ交換致シマシタガ、「法律の定めるところにより」ト云フ言葉ヲ加ヘルコトハ、單純ナ「レトリック」デハナイ、今仰シヤツタヤウナ特別ノ意味ヲ含ミ得ルモノト思ヒマス、牧野ノヤウナコトヲ言フト、ドノ條文ニモ「法律の定めるところにより」ト云フコトヲ附加ヘナケレバナラヌカラ、省イタト云フヤウナ御言葉ガ前ニアツタカト私ハ記憶シテ居リマスガ、此ノ僅カバカリノ文字ト云フモノハ、第三章ノ規定ノ「カテゴリー」ヲ決メル上ニ餘程重大ナル差異ヲ持ツテ居ルモノト心得テ居リマス、此ノ條文ニ付テハ金森國務大臣カラサウ云フ趣旨ノ答辯ノアツタヤウニ了解スル次第デゴザイマスノデ、サウ云フコトヲ念頭ニ置イテ、今後ノ御審議ノ方向ト致サレタイト思ヒマス
○結城安次君 私ノハ第二十六條デアリマスガ、此處ニ金森國務大臣ト書イテアリマスガ、私ハ文部大臣ニ御質問スル積リデ書イテ出シテアリマスルカラ、誤リデアリマスカラ文部大臣ニ御願ヒ致シマス、二十六條ニハ「すべて國民は、法律の定めるところにより、その能力に應じて、ひとしく教育を受ける權利を有する。」ト書イテアリマスルガ、只今牧野先生カラノ質問デ法律論ノコトハ能ク分リマシタカラ是ハ省キマス、唯私ハ此ノ二十七條ノ勤勞ノ權利ノ所ニハ總テノ者ガ「勤勞の權利を有し、義務を負ふ」トアツテ此ノ教育ヲ受ケル方ニハ省イテアルノハドウ云フ譯デアルカ、此ノコトヲチヨツト御伺ヒ致シタイ、ソレカラ此ノ學問ト云フコトト勤勞ト云フコトガ相俟ツテ日本再建ノ爲ニ本當ノ役割ヲスルモノト思ヒマスルガ、此ノ兩條ニ一方ニハ特ニ「法律」トアリ、一方ニハ「法律の定めるところ」ト云フノガナイノハドウ云フ譯デゴザイマセウカ、此ノ點ダケヲ御伺ヒ致シテ置キマス、ソレカラ唯權利ヲ有スルト云フコトダケデハ空文デハナイカト思ヒマス、此ノ國歩艱難ノ際ニハ、寧ロ國家ガ本人ニ權利ヲ認ムルト同時ニ各々其ノ能力ニ應ジテ勉強サレ、國ニ御奉公サセルト云フ義務迄負ハセル、又更ニ進ンデ國家モ本人ノ能力ニ應ジ、ソレヲ教育スルダケノ義務迄負擔セネバナラヌノデハナイカ、左樣ニ思ヒマスガ、文部大臣ノ御考ハ如何デゴザイマセウカ、實ハ此ノ憲法ノ草案ヲ拜見シマシタ時ニ戰爭抛棄ト云フ條項デハ實ニ驚イタノデアリマス、併シ段々中ヲ讀ンデ參リマスト、此ノ二十六條ヲ見マシタ時ニ、是ガアレバ戰爭ヲ棄シテモ宜イノダト云フヤウナ考ヲ私ハ持ツタノデアリマス、戰爭、所謂軍備ヲ撤廢スル、軍備ト云フモノハ大體從來ニ於テハ國力ノ基準ニナツテ居ル、國交、通商共ニ國力ヲ「バック」トシテ居ツタ、其ノ國力ト云フノハ主トシテ軍備、戰力デアルト云フ時ニ、今ノ日本ガ假ニ軍備ヲ持ツテ宜イト言ハレタ處、大シタ軍備ハ現在ノ状態トシテハ當分ノ間ハ出來ナイデアリマセウ、サウスルト日本ハドウナルノダラウ、丸デ裸デ外國カラドウ云フ目ニ遭フダラウカト思ヒマシタガ、併シ更ニ飜ツテ考ヘマスト、少シバカリノ軍備ヲ持ツタ所デ何ニモナラヌ、ソレナラ寧ロ進ンデ抛棄シテ、從來ノ國力觀念、外交觀念ヲ百八十度轉回シテ、日本ハ武力ヲ背景トスル外交ヲスルノヂヤナイ、國交ヲスルノヂヤナイ、所謂此ノ戰爭抛棄ノ條項ニアル「正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希述」スルト云フ此ノ觀念ヲ以テ我々ハヤルノダト云フコトヲ主張シテ、而モ現實ニ行ヘバ十分ニ日本ハ今迄以上ノ國ニナレル、併シソレニハ現在ノ如キ状態デハ到底イケナイ、國民ノ教養、文化ノ點ニ於テ、又産業ニ於テドコノ國ニモ負ケヲ取ラナイト云フ位迄國民ノ力ヲ引上ゲルト云フ爲ニハドウシテモ本當ニ教育ヲ擴充スル、立派ナ人間ヲ造ルト云フ所ニ行ツテ、ソレヲ外國ガ認メタナラバ必ズ日本ハ從來以上ノ日本ニナレルト云フコトヲ考ヘマシタ時ニ、初メテ戰爭抛棄ト此ノ二十六條ト云フモノハ謂ハバ表裏一體ヲ成スモノダト云フ考ヲ持チマシタ時ニ、戰爭抛棄ハチツトモ苦ニナラヌ、安心シテ棄テラレルト云フ考ヲ持ツタノデアリマスガ、併シ現在ノ日本ノ状態ヲ見マスルト、最早私カラ申上ゲル迄モナク皆樣御承知ノ通リ、道義頽廢有ラユル方面ニ於テ殆ド我々ガ想像シテ居ラナカツタ程ヒドイ有樣デアリマス、是等ヲ十分ニ直シテ本當ニ日本人ヲ造ル、武器ノナイ外交トシテ、軍備ノナイ日本ガ世界ニ浮ビ上ルニハ特別ニ教育ト云フ所ニ力ヲ注ガナクチヤナラヌトスレバ、此ノ際此ノ二十六條ニ教育ヲ受ケル權利バカリデナク義務ヲ負ハセ、同時ニ其ノ義務ヲ國家ガ履行スル必要ガアルノヂヤナカラウカ、此ノ點ニ關シテ文部大臣ノ御所見ヲ伺ヒタイ
○國務大臣（田中耕太郎君） 御答ヘ申上ゲマス、只今縷々御話ガアリマシタヤウナ趣旨デ、教育ノ充實ト云フコトガ將來極メテ必要デアルコトハ申ス迄モアリマセヌ、處デ第二十四條ノ第一項ガ權利ノミヲ規定シテ義務ヲ規定シテ居ナイデハナイカト云フ理由ヲ御尋ネニナリマシタ、此ノ點ニ付キマシテハ義務教育ハ第二項ガ之ヲ決メテ居ルノデアリマシテ、第一項ハ詰リ能力ニ應ジテ教育ヲ受ケル權利ヲ有スル、其ノ受ケルコトヲ得ル所ノ教育ノ種類ハ是ハ學校ニ關スル法規デ以テ別ニ決メラレナケレバナラナイ譯デアリマス、デ是ハ詰リ國民學校カラ大學ニ至ル迄色々學校系結ガゴザイマシテ、ソレ等ノ細目ニ付テハ法律デ以テ決メラレル譯デアリマス、處デソレ等ノ教育ヲ受ケル權利ガ更ニ義務迄伴フト云フコトニナリマスルト、國民ニ非常ナ負擔ヲ負ハセルコトニナリマスシ、又國家ト雖モ負擔ヲ過重スル譯ニナルノデアリマシテ、從ツテ教育ヲ受ケル權利ノミヲ全般的ニ與ヘテ、國家ハサウ云フ教育施設ヲ整備シテ置ク、義務ノ方面ハ併シ必要ナ限度ニ止メルト云フコトニスルノガ憲法ノ建前カラ申シマシテ妥當デアルト考ヘマス次第デアリマス
○結城安次君 只今ノ文部大臣ノ御答辯ハ整備スルト云フコトデアリマスルカラ、若シ國民ガ其ノ能力ニ應ジテ教育ヲ受ケタイト云フ申出ノアツタ場合ニハ、其ノ能力ニ應ジテ有ラユル人ニ教育ヲ受ケサセル設備ヲ國ハスルト云フ風ニ了解シテ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 斯樣ナ權利ニ對シマスル義務ト申シマスト、是ハ國家ノ詰リ政治的ノ義務ト云フコトニナリマスノデ、國家ハ或程度ノ能力ガアル者ハ其ノ能力ノ程度、或ハ能力自身ノ性質ニ應ジテ設備ヲ整ヘテ希望者ヲ受入レルト云フヤウナコトヲスル政治的ナ義務ヲ負フ譯デアリマス、別ニ司法關係ト違ヒマシテ或請求權ガアツテ、ソシテソレニ對シテ國家ガ履行ノ義務ヲ負フト云フヤウナ性質ノモノデハナイト云フ風ニ考ヘテ居リマス、従ツテ國家財政ノ都合上、入學ノ希望者ガ澤山アル、併シナガラ其ノ設備ヲ俄ニ擴充スルコトハ出來ナイト云フヤウナ場合ニ於キマシテハ、是ハ十分其ノ要求ヲ滿足サセルコトガ出來ナイヤウナ場合ガアリマスシ、又能力ノ判定ト云フコトモ試驗其ノ他ノ方法ニ依ツテ公正ニ行ヘレバ、ソレヲサウ云フ方法ニ依ツテ判定スルコトハ巳ムヲ得ナイカト存ジマス、左樣ナ譯デアリマシテ權利ニ對應スル義務ト申シマスノハ、國家ガ教育方針トツテ出來ルダケ、詰リ教育ヲ欲スル所ノ者ニ必要ナル教育ヲ與ヘルト云フ風ニ解シテ居リマス、尚サウ云フ意味ニ於キマシテハ國民ノ間ニ經濟的ニ惠レナイ者ガアル、サウ云フ者ニ付キマシテモ育英制度其ノ他ノ方法ニ依リマシテ、出來ルダケ能力アル者ニハ必要ナル教育ヲ、欲スル所ノ教育ヲ受ケサセルト云フコトニ努力シナケレバナラヌト云フ政治的ナ責任ガ生ズルヤウニ解シテ居ルノデアリマス
○結城安次君 文部大臣ノ御考ハ大體了承致シマシタガ、私ハ文部大臣ノ熱ガ此ノ條文ニ對シテ頗ル足リヌカト思フノデアリマス、私ハ先程申上ゲマシタ通リ、戰爭抛棄ト云フコトハ此ノ條文ニ依ツテ取返スノダ、財政云々ノ話モアリマシタガ、軍備ヲ撤廢シタ日本ハ、此ノ教育其ノ方面ニ向ツテハ餘程ノ金ヲ使ツテモ宜イ筈ダト思フノデアリマス、義務教育トシテハ、國民學校初等教育ニ付テハ國家ガ義務トシテヤルト申シテ居リマスガ、是ダケデハ本當ノ人間ニハ成レマセヌ、ドウシテモ高等専門學校以上ノ者ガ澤山出テ、ソレ等ガ眞ノ人間トシテ、本當ニ何處ニ出シテモ恥シクナイ教養ヲ持ツテ居ル、又文化的ニモ立派ナモノダ、サウ云フ人ガ多數出テ初等教育ヲ受ケタ人ヲ其ノマハリニ置イテ感化スル、産業ニ於テモ「メード・イン・ジャパン」ト云フモノナラ誰モ世界中信用シテ買ヘルト云フ所ニ迄持ツテ行ケバ、始メテ軍備ノナイ日本ガ世界ノ立派ナ地位ニ就キ得ルト云フ戰爭抛棄ト裏表スべキ此ノ條項ナノデアリマスカラ政治的、無論政治的デアリマスルガ、有ラユル努カヲシテ教育ニ關スル設備ヲ政府ハスベキデハナイカト思フノデアリマス、文部大臣ハ左程重クハ取ツテ居ラヌト云フヤウニ私ノ耳ニハ聞エタノデアリマスガ、私ニハ非常ニ此ノ條項ハ重イ、百條ノ中ノ僅カ一條デアリマスガ此ノ條項ニ依ツテ日本ハ生キルト云フ風ニ私ハ重ク見テ居ルノデアリマス、是ダケノ重イ條項デアリ、又今後ソレ程必要缺クベカラザル教育ナノデアリマス、此ノ第六條ニ「天皇は、國會の指名に基いて、内閣總理大臣を任命する。」「天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。」トアルガ、斯ウ云フ位迄教育ニ關スル人ノコトヲ第六條ニ入レテ、最高裁判所長、内閣總理大臣ト同格位迄ニ置クヤウナ御考ハナイデセウカ、又サウ云フコトガ直グ出來ナイトスレバ、或ハソレニ似寄ツタモノヲ教學獨立ノ爲ニスルト云フコトガ必要ヂヤナイダラウカ、今後此ノ憲法制定ノ上ハ政黨政治ニナリマセウ、併シ當分ノ間ハ政情安定ト云フコトカラ參リマスレバ‥‥サスレバ内閣ノ迭ル度ニ文教ノ府ノ長モ迭リ、其ノ爲ニ教學ノ方針ニ影響ヲ來スト云フヤウナコトガアツテハ相成ラヌ、教育ノコトハ十年、二十年先ヲ目指シテ、直グ普通ノモノノヤウニ來年、再來年ニ其ノ效果ヲ學ゲルト云フコトハ出來ナイモノデアリマスカラ、常ニ不動ノ方針ノ下ニ國家ノ指導者ヲ育成スルト云フヤウナ御考ハ如何ナモノデアリマセウカ、文部大臣ニ伺セタイ
○國務大臣（田中耕太郎君） 御質問ノ範圍デハゴザイマセヌデシタケレドモ、戰爭ヲ日本ガ抛棄シタ以上、今後ハ教育デ以テ建直シテ行カナケレバナラナイト云フコトニ付テ、私ガ熱意ヲ缺イテ居ルト云フヤウナ風ナ御認定デゴザイマシタガ、教育ノ根本論ニ付キマシテハ、御質問ニ應ジテ既ニ有ラユル機會ニ於テ本會議ニ於テ、或ハ豫算總會ニ於テ或ハ此ノ席ニ於キマシテモ繰返シマシタ、今是ハ憲法ノ條文ニ入ツテ居ルノデアリマシテ、若シ速記録ニ依リマシテ御讀ミ願ヒマシタナラバ、私ガ熱意ガナイト云フヤウナ御感ジハ或ハ薄ラギハシナイカト思ヒマスノデ、ドウゾ左樣御願ヒ致シマス、ソレカラ教學獨立ト云フコトニ付テモ、色々ナ機會ニ於テ既ニ申上ゲ、衆議院ノミナラズ貴族院ニ於テモ色々御質問ニ應ジテ答ヘマシタ、只今ノヤウナ御趣旨ハ十分了解シテ居リマシテ、ソレニ努力致シタイト存ジテ居ル次第デアリマス
○結城安次君 私ノ言葉ガ過ギマシテ誠ニ相濟ミマセヌデシタ、其ノ熱意ガアリマスナラバ安心シテ居ラレマスガ、大臣一人デナク、教育ニ同情ヲ持ツ總テノ者ガ協力シテ此ノ文教ト云フモノヲ興隆サシタイ、是ハ餘リ良イ例デモアリマセヌガ、「ヨーロッパ」大戰爭後ニ、殊ニ日本ニ於テ二箇師團減少後ニ、軍部ガ國防ノ充實ト云フコトヲ叫ビ出シ、軍部上下ガ協力一致各方面ニ運動ヲシテ、結局我々ハ引摺ラレタト云フヤウナコトニナツタノデアリマスガ、人間ガ立派ニナリ過ギタト云フコトモアリマスマイ、文化ガ良過ギタト云フコトモアリマスマイ、我々ヲ惹附ケル熱意ヲ以テ今後モ御指導ニ當ラレムコトヲ希望致シマシテ私ノ質問ヲ終リマス
○佐々木惣一君 私モ此ノ第二十六條ニ付テ少シ質問致シタイト思フ、先ヅ其ノ第一項デアルガ、「法律の定めるところにより、その能力に應じて、ひとしく教育を受ける」ト云フ此ノ「ひとしく教育を受ける」ト云フコトノ意味デス、大抵分ツテ居リマスケレドモ、ソレヲチヨツト御伺ヒシテ見タイ能力ノ方ハ能力上差異ヲ設ケルト云フコトガアリ得ルト云フコトハ當然ノコトデアリマスガ、例ヘバ財力デスネ、資力、經濟力等ニ依ツテ教育ガ受ケラレナクナル、例ヘバ月謝トカ授業料ト云フヤウナ關係デ、或者ハ樂ニ受ケル、或者ハ受ケラレナイト云フヤウナサウ云フ差別ガ自ラ出ルヤウナコトハ、之ニ含ミマスカドウカト云フコトヲチヨツト伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（田中耕太郎君） 財力ノ乏シイ者ガ欲スル教育ヲ受ケルコトニ困難ヲ感ジテ居ルト云フヤウナコトハ、是ハ社會的ニ見マシテ甚ダ遺憾ナコトデゴザイマス、サウ云フ意味ニ於キマシテ、勿論金持ノ子弟デアラウガ、或ハ貧乏人ノ子弟デアラウガ、全ク平等ニ試驗制度ニ依ツテ實力ノアル者ハ受入レル、是ハモウ當然ノコトデアリマス、併シナガラ學力ガアツテモ入レナイト云フヤウナ者ニ付キマシテハ、先程モチヨツト御答ヘシマシタガ、育英制度ト云フ樣ナサウ云フ制度ヲ擴充強化致シマシテ、其ノ要求ヲ充サナケレバナラナイト云フ風ニ存ジテ居ル次第デアリマス
○佐々木惣一君 本條ノ重點ハ一體ドコニアルノデゴザイマセウカ、總テノ國民ハ教育ヲ受ケルノ權利ヲ有スルト云フ處ニ重點ガアルノデスカ、「ひとしく教育を受ける」ト云フ處ニ重點ガアルノデアリマスカ、ソレヲチヨツト御尋ネ致シマス、例ヲ以テ申シマスレバ、現行憲法ニ於キマスルト云フト、我々ハ官吏其ノ他ノ公職ニ就クコトニ付テ、均シク即チ公職、公務ニ就クコトガ出來ル、即チソレハ公務ニ就クコトガ出來ルノ權利デハナクシテ、公務ニ就クト云フコトニ付テ差別待遇ヲ受ケナイト云フコトニ、御存ジノ通リ現行憲法デハサウ云フ類ニ似タ規定ヲシテ居ル、此ノ文句ハ規定デスカラ、均シク教育ヲ受ケルト云フコトガ權利ノ内容ニナルノカ、教育ヲ受ケルト云フコトガ權利ノ内容ニナルノカト云フコトガチヨツト伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（田中耕太郎君） 第三章ノ精神カラ申シマスト「ひとしく」ト云フコトニ非常ニ意味ガアルト存ジマス、併シナガラ第三章ノ内容トシテ權利ト云フトヲ規定シテ居リマスカラ、權利ノ方面モ矢張リ強調シテナイト云フコトハ申シ得ナイ譯デアリマス
○佐々木惣一君 兎ニ角教育ヲ受ケル能力サヘアレバ均シク教育ヲ受ケルト云フコトニ付テ他人ト差別ヲ設ケラレナイト云フコトガ此ノ法文ノ主眼點デアリマスレバ、例ヘバ學校ヲ無償ニスル、併シ今言フノハ第二項デハゴザイマセヌカラ、月謝、授業料ヲ取ルト云フヤウナ時ニデモ、マア授業料ト云フヤウナモノヲ取ル取リ方ニ付テ自ラ此ノ適用上規定ガ限定セラレマシテ、例ヘバ餘リ貧乏ナ者ハ出セナイ、金持ナラバ出セルト云フヤウナ、サウ云フ程度ノ授業料ナドハ取ラレナイト云フヤウナ限定ガ此處ニ來ルモノト理解シテ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 其ノ點サウ云フ考慮モ矢張リ入レルト云フコトニ解シテ居リマス、是ハ從來各學校等デモ或程度迄ヤツケ參ツタヤウナコトデゴザイマシテ、從ツテ今後ト雖モ益々サウ云フ經濟的ニ困ツテ居ル者ニ付テハ授業料ヲ免除スルトカ輕減スルトカ云フヤウナコトニ付テ大イニ爲スベキコトデアルト思ヒマス
○佐々木惣一君 ソレハ分リマシタガ、實ハ從來ハマア私共ノ知ツテ居ル範圍ニ於キマシテハ、勝手ニ月謝ヲドンドン上ゲル、サウシテ其ノ學校ノ、官立大學デモ授業ヲ受ケル者ノ立場、状況ナドハ考ヘズニマア實ハ金持デナケレバ入レナイヤウナ程度ニ上ゲルト云フ傾向モ一向顧ミナカツタト云フノガ實情デアリマス、サウ云フコトハ少クトモ方針トシテハ是ハ具體的ニ當ル當ラナイハ別トシテ、行政ノ方針トシテハサウ云フコトハ許サレナイト云フヤウニ理解シテ宜シウゴザイマスネ、心得トシテハ‥‥
○國務大臣（田中耕太郎君） 授業料ノ額ト云フモノノ決定ハ、是ハナカナカ物價其ノ他ト勘案シテ決定シナケレバナラナイ困難ナ問題デゴザイマス、併シナガラ先程申上ゲマシタヤウニ均シク教育ヲ受ケルヤウナ可能性ヲ與ヘル爲ニ、個々ノ場合ニ付テ矢張リ必要ニ應ジテ考慮スルト云フヤウナコトハ、是ハ可能デアル、或ハ又更ニサウ云フ方向ニ努力サレナケレバナラナイト云フコトハ申上ゲルコトハ出來マス
○佐々木惣一君 ソレデ大變ハツキリ致シマシタ、處ガ其ノ「法律の定めるところにより」ト云フノデスガ、詰リ先刻文部大臣ノ御話デハ、是ハ政治上ノ義務ダト云フヤウナコトヲ仰シヤツタノデ私共少シ分ラナイノデスガ、矢張リ是ハ國民ノ方ガ國家ニ對シテサウ云フ配意ヲ求メ得ルト云フ法的權利ヂヤナイノデセウカ、從ツテ國家カラ言ヘバ法的ノ義務ガアルノデ、政治的ト仰シヤツタ意味ガ私ハ分ラヌノデスケレドモ、政治的ト云フ意味デナシニ、矢張リ是ハ憲法デ國家ト國民ノ間ニハ、サウ云フ權利義務ノ關係ハ入ツテ居ルノヂヤナイノデスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 憲法上ノ權利ト云フコトニナリマスルト、先程申シマシタヤウニ司法的ノ權利義務トハ餘程變ツテ參リマス、權利ト申シマシテモ、法律概念ト政治概念トハ極メテ密接ニ關係シテ參リマスノデ、權利ニ對應スル義務ト申シマシテモ、果シテドノ程度ニ立法シタナラバ完全ナ立法デアルカト云フコトハ甚ダ漠然トシテ居リマス、左樣ナ意味ニ於テ申シマシタ
○佐々木惣一君 ソレハ分リマスガ、ソコデ法規上權利義務ノ關係ヲドノ程度迄實現シ得ルカト云フコトハ、其ノ時ノ事情、ソレカラ國家社會ノ事情ニ依ツテ、殊ニ財政事情ニ依ツテ決ル、ソコデサウ云フコトヲ定メルノガ「法律の定めるところによる」ノヂヤナイデセウカ、ソレデ均シク教育ヲ受ケル權利ガアルケレドモ、場合ニ依ツテハ設備ガ足ラヌカラシテ、學校ガ少イ時ニハ矢張リ希望者ダケデ皆ニ與ヘルコトハ出來ナイト云フ状況ガ出テ來ルノデスカラ、サウ云フ場合、國家ガドウシテモ學校ノ設備ガ出來ナイト云フヤウナ時ニハ、出來ナイヤウナコトガ矢張リ法律ノ結果デ出テ來テ差支ナイト云フコトモアル譯ヂヤナイノデスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 私ノ解釋致シテ居リマス所デハ、「法律の定めるところにより」斯ウ云フ教育ヲ受ケル權利ヲ持ツテ居ル、教育ノ内容ニ關スルモノト云フ風ニ解釋致シテ居リマス
○佐々木惣一君 ハア、サウデスカ、内容デスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 學校ノ設備其ノ他現在存在シテ居ル制度其ノモノガ果シテ妥當デアルカドウカト云フコトハ、是ハ再檢討ヲ要シマス、サウ云フヤウナ詰リ國家ノ義務ノ内容ニ關シマスルノデ、出來ルダケ學校ヲ澤山殖ヤシテ、サウ云フ需要ヲ滿サナケレバナラナイト云フコトハ、是ハ此ノ憲法ノ條項ノ詰リ文化國家トシテノ使命カラ直接ニ出テ來ルコトヂヤナイカト云フ風ニ理解致シテ居リマス
○佐々木惣一君 ソレデハ私ノ考ヘテ居リマシタ所ハ間違ヒデアリマスガ、法律ノ定メル所ニ依リ均シク教育ヲ受ケルト云フ權利ヲ有スルノデスカラ、ソレデ施設トカ何トカ云フコトデハナシニ「法律の定めるところにより」ト云フノガソレニ掛カツテ居ルト思ヒマシタカラ‥‥イヤ、分リマシタ、ソレハ宜シウゴザイマス、ソレカラ御尋ネ致シタイノデアリマスガ、同條ノ第二項ニ入リマシテ「すべて國民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる」トアリマスノデス、ソコデ初メニハ「初等教育」デアリマスガ、特ニ「普通教育」此ノ「普通教育」ト云フコトノ矢張リ概念モハツキリト伺ツテ置ク方ガ便宜デアル、或ハ又政府ノ方ニ於カレマシテモ、此ノ法ヲ執行セラル、場合ニ必要ガアルカト思ヒマスガ、「普通教育」此ノ普通教育ニハ私ガ申上ゲル迄モナク、現行ノ制度ノ上ニ於テモ或概念ガアリマスガ、ソレデ普通教育ニモ矢張リ高等普通教育ト云フモノモアリマスルカラシテ、ソコデ普通教育ト云フモノニ付テ第一ニ御尋ネ申上ゲタイノハ、現行ノ教育制度ニ於テ謂フ所ノ普通教育ト云フノデアルカ、或ハ又此ノ憲法ヲ御決メニナツタ時ニ、必ズシモ現行制度ニ謂フ普通教育トハ無關係デ、何カ普通教育ト云フ一ツノ或概念ヲ御持チニナツテ居ルト、ソレナラソレデ宜イカト思ヒマスガ、然ラバドウ云フ意味ノコトヲ普通教育ト御考ニナツテ居ルカト云フコトヲチヨツト伺ツテ置クコトガ便宜ダト、斯ウ思フノデアリマス
○國務大臣（田中耕太郎君） 此處ニ衆議院ノ修正ト致シマシテ、「普通教育」ト云フ字ガ用ヒラレテ居リマスノハ、必ズシモ現行ノ普通教育ト云フ觀念ト合致スルモノデハナイト云フ風ニ存ジマス、例ヘバ高等學校ノ教育モ高等普通教育ト申シマス、其處迄マア入ルト云フヤウナコトハ、常識的ニハ考ヘラレナイデアリマス
○佐々木惣一君 ソレデ是ハ今此處デ私モ考ガハツキリトシテ居リマセヌシ、今聽クノヂヤアリマセ、ヌデスケレドモ、併シ例ヘバ初等教育ト云フコトニナリマスト、法律ヲ離レテモ今日ハ自カラ概念ガ決ツテ居リマス、何トナク一般國民ガ‥‥、内容ノ具體的ノコトハ別トミテ、ドウ云フモノデアルカ、普通教育ト云フコトハナカナカサウハ行カヌカラシテ、矢張リ是ハ願クハ、私モ決シテサウ云フ觀念ガハツキリシテ居リマセヌ、實際申上ゲマスレバ‥‥、政府ノ方デモ、本憲法ニ謂フ「普通教育」ト云フノハドウ云フコトヲ言フノデアルカト云フコトニ付テ、觀念ヲ御決メニナツテ置ク方ガ宜イト思ヒマシテ、將來サウ云フコトガ出來マスナラ御願ヒシタイト、斯ウ云フ風ニ思フダケデアリマス、此ノ問題ニ付テ‥‥、ソレカラ「その保護する兒童」‥‥「兒童」ガ「子女」ニナツタト云フ御説明ハ分リマシタガ、「子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。」此ノ「保護する」ト云フ意味デアリマスガ、是ハ初等教育ナラバ、所謂親トカ親權者ト云フコトニナリマスルガ、例ヘバ此ノ中ニ、工場ノ傭主ナドノコトハ此處ニハ入リマスノデスカ、入リマセヌデスカ、「保護」ト云フ文字ニハ、入ラヌト云ヘバソレ迄デアリマスガ‥‥
○國務大臣（田中耕太郎君） ソレハ研究ヲ要シマスケレドモ、一應ノ答辯ト致シマシテハ、青年學校等、工場ニ附屬シテ居リマスモノモアリマス、サウ云フ場合ニ於キマシテハ、矢張リ工場主ガ教育義務ヲ負擔シテ居ルト見テ宜イノヂヤナイカト思ヒマス
○佐々木惣一君 其ノ程度ニ於ナハ所謂保護者、從來ノ教育制度ナドデ謂フ保護者以外ノ者モ含マレル譯デスネ、サウ云フ程度デスネ、正確ニ其處迄決メル譯ヂヤアリマセヌガ‥‥、ソレデハツキリト致シマシタ、ソレデ今度ハ、同條ニ矢張リ關聯スルコトデアリマスルケレドモ、詰リ教育ノ施設ノコトニ付テ御尋ネシテ見タイト思フノデアリマスルガ、先ヅ第一ニ私ハ斯ウ云フ點ヲ御尋ネシタイノデス、教育施設ト申シマスルト云フト、第一ニ學校教育、ソレカラ學校ニ依ラザル、學校以外ノ施設ニ依ル教育モアリマスガ、固ヨリ文部省ノ方デハ兩者共‥‥別ニ學校教育ダケヲ重ンジラレルト云フ譯ヂヤナイト思ヒマスガ、其ノ點ヲ念ノ爲ニ伺ヒマス、學校ニ依ル教育ダケヲ重ンジテオイデニナル譯デハナイデスネ、學校以外ニアル施設ニ依ル教育モ重ンジテ居ラレルデセウネ、ソレダケ御伺ヒ致シマス
○國務大臣（田中耕太郎君） 文部省ト致シマシテハ、學校教育ト竝ンデ、今後社會教育ノ必要ヲ痛感シテ居リマス、此ノ點日本デハ他ノ文明諸國ト較ベテ、決シテ劣ツテ居ナイトハ言ヘナイノデアリマスカラ、サウ云フ意味ニ於キマシテ、社會教育的ノ施設モ今後出來ルダケ擴充スルヤウニ努力致シマス
○佐々木惣一君 イヤ、ソレデ宜シウゴザイマス、ト申上ゲルノハ、言フ迄モナク社會教育機關ガ非常ニ今ノ大臣ノ御話ノヤウニ劣ツテ居ル、例ヘバ帝室圖書館ニ行キマスト、私ハ時々御厄介ニナリマスガ、迚モナツテ居ナイ、其ノ施設ガ‥‥利用出來ナイ、斯ウ云フコトニナリマス、アヽ云フヤウナコトハ今後ハ例ヘバアノ圖書館デモ、例ヘバ此ノ間賛成シテ居ルコトノ一ツトシテ、議會ノ圖書館ヲ設ケル、大學ノ圖書館ヲ設ケル充實スル、非常ニ良イコトダガ、併シソレト同時ニ、少クトモ學校トカ、或ハ又議會ト云フ、サウ云フ特ニ所屬シテ居ルモノダケデナク、一般社會教育ノ機關トシテノ圖書館ト云フヤウナモノガ實際ナツテ居ナイカラシテ、其ノ方面ニモ將來ハ此ノ憲法ノ規定ニ依ツテ御盡力願ヘルコトダト云フコトヲ今伺ツテ、例ヘバ帝國圖書館ノ如キハ、上野ニアル、帝室圖書館ト云フカ、アレハドウモ非常ニ氣ノ毒デアルシ、實際無茶苦茶デスカラ、アヽ云フモノハ非常ニ立派ニシナケレバナラヌト思ヒマス、ソレカラ博物館ノ如キモ、博物館ト申シマスノハ、日本デハ動モスルト骨董的ノ娯樂的或ハ高級趣味ノヤウニナリマスガ、アヽ云フ通俗的ノ、教育的ノ博物館ト云フヤウナモノニ付テモ何等カ御考慮ガアリマスカ、詰リ外國ノヤウニ、至ル所ニ博物館ガアツテ、ソレデ市民ガ入レバ、自ラ教育ヲ受ケルト云フヤウナ意味ノ博物館、日本ノヤウナ考古的ノ、或ハ趣味的ノモノデナク、サウ云フコトニ付テ御考慮ヲ願ヒタイト思ヒマスガ、如何デスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 圖書館ノ充實ハ勿論ノコト、博物館ニ付テモ、社會教育局デ大イニ考慮致シテ居リマス、又科學教育局ノ方デ、自然科學ノ方面ニ付キマシテハ、モツト博物館ト云フモノヲ「ポピュラー」ニスル、街頭進出ト云フヤウナコトモ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 大變有難ウゴザイマス、モウ一ツ伺ヒマス、ソコデ其ノ教育ノ施設ヲ、假ニ學校ダケニ問題ヲ限ルトシマシテ、ソコデ文部省ノ方ニ御尋ネスルノデスガ、文部省ハ固ヨリ學校ト云フモノニ付テ、學校教育局モアリマセウシ、何カ色々御盡力ニナツテ居ルト云フコトハ分ツテ居リマス、唯文部省ノ學校ト云フモノニ付テノ、學校行政ニ付テノ根本的ノ立場ヲ伺ヒタイト思ヒマスガ、私ガ忌憚ナク是迄ノ事實カラ想像スルト云フト、文部省ガ學校ノコトヲ心配サレテ居ルノハ宜イカ、ソレハ其ノ國家ノ學校、文部省ガ經營サレテ居ル學校ヲ良クスルト云フコトニハ非常ニ御盡力ニナツテ居ルデスナ、ケレドモソレ以外ノ學校ト云フヤウナコトニ付テハ、ソレハ自分ノ學校教育行政トハ別ノコトダカラ、是ハ監督シ、マア保護スルト云フヤウナコトガアルガ、自分ノ學校ト云フモノヲ良クスルト云フコトハ非常ニ御熱心ダガ、併シナガラ文部省ガ直接經營シテ居ルト云フノデナイ學校、例ヘバ私立學校ナドデスナ、サウ云フモノニ付テノ御立場ガ少シ私共ハ腑ニ落チヌ所ガアル、ソレハ人ノヤツテ居ル學校ト云フ風ニ考ヘズニ、其ノ私立學校ヲ良クスルト云フコト自體モ、是ハ文部省ノ學校教育行政ノ内ダト、斯ウ考ヘルノデアリマス、文部省ノ學校教育行政ト云フモノハ、自分ノ經營シテ居ル學校ヲ良クスルト云フコトヲ意味スルノデナク、凡ソ日本ニアル學校ヲ總テ良クスルト云フコトガ文部省ノ學校教育行政ダラウト思ヒマスガ、サウ解シテ宜シイデスカ、過去ノコトハ別トシテ‥‥
○國務大臣（田中耕太郎君） 私學ト官學ノコトニ付テハ、實ハ豫算總會デ御質問ヲ受ケタヤウナ次第デアリマス、極ク簡單デゴザイマスガ、一般的ノ態度ヲ御了解ヲ願ヒタイ、元來學校ハ、詰リ諸國ノ例等ヲ考ヘテ見マシテモ、私學的ノ性質ヲ以テ發達シテ參ツタノデアリマス、日本ハ逆ニ明治以來官學ガ非常ナ優勢ナ地位ヲ占メテ參ツテ居ル譯デゴザイマス、デ國家的ニ考ヘマスルト、今後益々此ノ私學ヲ發展セシメナケリヤナリマセヌ、私學ノ健全ナル發達、又充實ト云フコトハ、是ハ極メテ望マシイコトデアリマシテ、本當ノ教育ト云フモノハ、國家自ラガヤルベキモノデハナイ、官立ノ學校ニ於キマシテモ、矢張リ教育ト云フ仕事ハ個人的ノ天才、才能、或ハ人格ノ發露デアリマスカラ、單ナル政府ガ世話役ヲスルニ止マルト云フ建前デアリマス、從ツテ官公立ノ學校ニ對シテモ、文部省ハ其ノ性格ヲ變ヘナキヤナラナイト云フコトヲ確信シテ居リマシテ、サウ云フ精神デ以テ徐々ニ政策ヲ立テテ實現シテ參ツテ居ル次第デゴザイマス、私學ニ對シマシテ決シテ冷淡デアツテハナラナイ、寧ロモツト從來ヨリモ熱意ヲ持ツテ私學ヲ助長シテ行カナキヤナリマセヌガ、併シソレト同時ニ干渉ハシテハナラナイト云フ建前デ、尤モ私學ニモ色々ゴザイマスガ、必ズシモ放置出來ナイヤウナモノモゴザイマス、是ハ理想論カラ申シマスルト、矢張リ官僚的ノヤリ方デハナクシテ、私學自身ノ立派ナ協會ト云フヤウナモノガ出來テ、自ラ自肅スルト云フ風ナ行キ方デ行カナケレバナラナイカト存ジテ居リマス、要シマスルニ、文部省ハ私學ノ振興ト云フコトハ大イニ考ヘテ居リマス、又、併シ之ニ對スル干渉的ノ態度ハ、官學ニ對スル以上ニ是ハ個性ヲ發達サセナキヤナリマセヌカラ、出來ルダケ控ヘナキヤナラヌト云フ風ニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 少シ私ノ申上ゲタコトハ、私ノ言葉ガ足ラナカツタノデスガ、私ハ教育其ノモノノ行キ方トカ、内容其ノモノニ、勿論私學、官學ヲ問ハズニ、文部省ハ干與スベキモノデナイコトハ勿論デス、私ハサウ云フ風ニ申上ゲタノヂヤナイノデ、學校ノ施設ト云フモノガ良クナルト云フコトニ付テハ、文部省ノ方デ、文部省ノ所謂經營シテ居ラレル官立大學トカ、高等學校トカ、サウ云フヤウナコトハ、其ノ學校行政ハ自分ノ仕事ダ、併シナガラ
○委員長（安倍能成君） 佐々木委員ニ御注意シマスガ、憲法ニ直接ノ關係ノナイコトハ成ルベク簡單ニ
○佐々木惣一君 是ハ憲法ニ直接關係ガアル質問ナンデスガ
○委員長（安倍能成君） 關係ガアルト言ヘバ、總テ關係ガアリマスカラ、出來ルダケ簡單ニ
○佐々木惣一君 ソレハ宜シウゴザイマス、ソレガサウ云フ學校施設ニ付テ文部省ハ今後モ、私立學校ガ良クナルト云フコトハ、矢張リ自分ノ教育行政ノ一ツダト、斯ウ御考ニナルト理解シテ宜イノデセウ、其處ヲ御尋ネシテ居ルノデアリマス、ソレダケノコトデス
○國務大臣（田中耕太郎君） 經濟的ノ援助、私立ノ爲ニ政府ガ建物ヲ建テルトカ云フヤウナ、サウ云フ問題ニナツテ來マスルト、是ハ一概ニ官立、公立ノ場合ト同ジヤウナ風ニハ御答ヘ出來マセヌ、是ハ詰リ私學自身ノ自發的ノ力ニ依ツテ本來ヤルベキ事柄デアリマス、併シナガラ斯ウ云フ戰災ノ結果、私學ガ非常ナ困難ナ状態ニアルト云フヤウナ場合ニ於テ、國家カラノ援助ニ付テ考ヘナキヤナラナイト云フコトハ、是ハ認メマス、又努力モ致シテ居リマス、併シ矢張リ飽ク迄、此ノ經營、「フアイナンス」ノ方面ニ付キマシテハ、矢張リ私學ノ特質ガアルノデアリマスカラ、ソレハ認メナキヤナリマセヌ
○佐々木惣一君 是ハ憲法ノ條文ニ關係アルコトヲ最後ニ申上ゲマス、是ハ私ノ考ニ依リマスルト云フト、國家ハ詰リ第一項ニ依ツテ、一體國民ト云フモノニ等シク教育ヲ與ヘナキヤナラヌ、國民カラ言ツテモ等シク教育ヲ受ケ得ル、併シナガラ國家ノ實際ノ事情トシテハ、ソレ等ノ權利義務ヲ實現スルニ十分ナル施設ヲ、國家自ラガ設ケルコトハ出來ナイ、仍テ自分ガ學校ヲ經營スルコトノ外、マア私立學校ト云フモノニ經營シテ貰ツテ居ル、是ハ實ハ法律論ハ別トシテ、實際ニ於キマシテハ、私立學校、大學ニ限リマセヌガ、私立學校ノアルコトニ於テ、日本ノ現状ニ於テハ國家ガ自分ノ國民ヲ教育スルト云フ義務ヲ、責務ヲ行ツテ居ルノデアリマス、ソレデアルカラシテ、即チ私立學校ト云フモノ心配ヲスルト云フコトハ、決シテ國家ガ他人ノコトヲスルノヂヤナイ、是ガ恰モ第一項ニ關係スルノデアル、此ノ憲法ニ關係シナイトカ、ソンナコトヂヤ決シテアリマセヌカラ、文部大臣モドウカ其ノ御心持デ‥‥、是デ質問ヲ止メマス
○委員長（安倍能成君） 議事ノ一般的遂行ニ付テ申上ゲマス、決シテ佐々木委員ニダケ關係シタコトデハアリマセヌガ、昨日大體一人ノ質疑ヲ三十分以内ニシヨウト云フヤウナ御申合セヲシタ譯デアリマスガ、併シ此ノ逐條質疑ト云フコトニ致シマシタノモ、議事ノ遂行ヲ圖ル爲デアリマスカラシテ、之ヲ一々逐條審議ニナツテ、ソレガ三十分以内ト云フヤウナコトニナリマスト、一層長クナリマスカラ、其ノ點ニハドウゾ御考慮ヲ願ヒタイト思ヒマス、御答辯ノ方モ出來ルダケ簡單ニ願ヒタイト思ヒマス、田所委員
○田所美治君 數分間拜借シマシテ、兩君ノ御尋ニナツタ教育關係ニ付テ、政府ト我々トノ今後ノ憲法運營上ノ圓滿ト云ヒマスカ、十分ノ效果ヲ擧ゲル、斯ウ云フ意味ニ於テ、モウ少シ御確メシテ置キタイト思フ點ガ一、二點アリマス、文部大臣ハ質問ニ對シテ、第二十四條ノ第一項ニ付テ「すべて國民は、法律の定めるところにより、その能力に應じて、ひとしく教育を受ける權利を有する、」此ノ權利ヲ有スルト云フ規定ニ付テ、權利ガアレバ一方ニ義務ガアルヂヤナイカ、ソレニ對シテ政治上ノ義務ハアルケレドモ、憲法ニハキチツトシタ憲法上ノ責任ト云フカ、義務ト云フカ、サウ云フコトデアルカラシテ、此ノ權利ハ主權ノヤウナ確定シタモノデナイ、斯ウ云フ御答ガアリ、ソレカラ内容ニ付テモ、色々御説明ガアリマシタガ、私ハ一ツ斯ウ云フヤウニ御尋ネシテ見タイト思フ、此ノ條項ハ、各國ニハ大分必要デアツタノデス、各國ノ先進國ト言ヒマスカ、歐米各國ニハ‥‥、此ノ第一項ニ付テ御尋ネシマスガ、ソレハ必要デアツタト思ヒマス、日本ニ於テハ必要デナイ、其ノ御答辯ノヤウニシマスト云フト、ソレハ何ダト云フト、私ノ知ツテ居ル範圍デハ是ハ教育ノ機會均等ト云フ言葉デ、能ク俗論デヤツテ居リマス機會均等、機會均等トハ一體何ダラウ、「イクオール・エデュケーション」ヲ能力ニ應ジテ受ケル、即チ之ニ事實違ヒナイ、貧乏デモ金持デモ、財閥ノ如何ニ拘ラズ、門閥ノ如何ニ拘ラズ、例ヘテ言ツテ見ルト、「イギリス」ニ行ツテ見ルト、門閥デナケレバ大學ハ「ケンブリッヂ」トカ、「オックスフォード」トカハ卒業ガ出來ナイ、其ノ前ニ辿ツテ行クト、其ノ大學ニ入ル、「ケンブリッヂ」トカ、「オックスフォード」ニ入ル前ニハ「パブリック・スクール」ヲ經過シナケレバナラヌ、是ハ私立學校デ「イートン」トカ「ハーロー」トカ、其ノ「イートン」、「ハーロー」ヘ私行ツテ參リマシタガ、其處ニハ幼稚園ハアツタカ、ナカツタカ存ジマセヌガ、小學校ノ上ハ、確カ滿九歳カラ入ツテ十八歳迄ヤツテ居リマス、此ノ九箇年間、其ノ前ニハ家庭教育カ、或ハ「キンダー・ガードン」ノヤウナモノデヤツテ居リマスカラ、ソレハアソコデ設備シテ居ルヤ否ヤハ分リマセヌガ、斯ウ云フ形ニ於テ、「パブリック・スクール」ニ入ラナクチヤイカヌ、其ノ九箇年ハ御承知ノ通り塾ニ入リマシテ、其處デハ五、六人ノ兒童ヲ置イテ、九箇年間教員ガ一家族トナツテ、マルデ子供ノヤウニ世話シテ居ル、一年ノ學費ト云フモノハ、其ノ時分ニ二百「ハウンド」、丁度日本ノ御金デ言フト二千圓、三千圓ト云フ譯デアリマシタ、私ノ行ツタ時分ハ、今カラ三、四十年前デアリマシタガ、ナカナカ高イ金ガ要ル、無論其處ヘ入ルニハ門閥ノ子デナクチヤナラヌ、ドウ云フ貴族ノ子デナクチヤナラヌトカ、斯ウ云フヤウナ金持ノ子デナクチヤナラヌ、斯ウ云フ風ニ「リミット」サレテ居ルノデアリマス、其處ヘ九年ヤリマシテ、ソレカラデナケレバ、「ケンブリッヂ」ヤ「オックスフォード」ヘ入レヌ、ダカラ「ケンブリッヂ」ヤ「オックスフォード」ト云フモノハ高帽子ガ多イ、或ハ「イートン」ヤ「ハーロー」ノ十五、六ノ子供ガ高帽子デ「ロンドン」ノ中ヲ散歩シテ居ル、斯ウ云フ状態デアリマシテ、貧乏者ハ行ケナイ、我々ミタイナ中等社會以下ノ者ハ行ケナイ、私ハ自分ガ「イギリス」ニ生レテ居タラ、大學ヲ出ルコトハ出來ナイト‥‥
○委員長（安倍能成君） 出來ルダケ簡單ニ願ヒマス
○田所美治君 尤モ一面ニ於テハ「ロンドン・ユニヴァーシティー」トカ、新ラシイ「ユニヴァーシティー」モ起ツテ參リマシタ、サウ云フ情勢ガ、社會情勢ガ一方ニアル、又「ドイツ」ヘ行ツテ見マシテモ、是ハ委員長ノ御注意ガアリマシタガ、ソレハ言ハナケレバ分ラナイ、二十四條ノ第一項ノ立テ方ノ意味ヲハツキリシテ置カナケレバナラヌカラ、御話申上ゲマス、少シ中等社會以上ノ子供ハ「ギムナジゥム」ヘ入ラナキヤナラヌ、「ギムナジゥム」ハ附屬トシテ「フォーアシウレ」ヲ持ツテ居ル、是ハ四年ノ小學校ヲ三年デヤツテ、サウシテ續ケザマニ、七年制ノ高等學校ハアソコカラ考ヘ出シタモノデアリマスガ、ソレデ「ギムナジゥム」ヲ卒業シテ「ユニヴァーシティー」ヘ行キマス、斯ウナツテ居リマスカラ、ソレガ八年、若シクハ九年間ニナツテ居ル、斯ウ云フ譯デ、其處ヘ貧乏人ノ子供ハ行ケナイ、俺ノ子供ハ憚リナガラ「フォルクスシウレ」ニハ行ツテ居ラヌ、「ギムナジゥム」ヘ行ツテ居ル、「フォーアシウレ」ヘ行ツテ居ル、小學校ノ生徒モ「フォーアシウレ」、即チ豫備校ヘ行ツテ居ル、斯ウ云フ譯デ、頭カラ金持ト貧乏人ト分ケテ居ル、是ハ十八、九世紀カラ、例ノ機械文明ノ發達シテ來タ時分カラ、社會政策、社會主義ノ發達シテ來ルニ伴ヒマシテ、教育ノ機會均等ト云フモノガ呼バレ出シタ、貧乏人ノ子供モ能力ニ應ジテ、「ファキュリティ」ニ應ジテ行クノダ、斯ウ云フコトガ一面ニ起ツテ參リマシタガ爲ニ、教育機會均等ト云フ言葉ガナカナカ盛デ、到頭此ノ遲レバセノ今日ニ於キマシテ、我ガ國ノ憲法ニ斯ウ云フモノガ入ル、其ノ意味ハ朝來御尋ニナツタ所ヲ見ルト、マア憲法ニ於テ國民ノ權利トシテ、矢張リ思想ノ發達トカ、文化ノ發達トカ、サウ云フ部面カラ必要デアルダラウ、斯ウ云フ御答辯ガアルノデアリマスガ、サウ云フ私ハ由來ニ基イテ、又其ノ意味デナケレバ、之ヲ解決出來ヌト思フノデアリマス、等シク教育ヲ受クルノ權利ヲ有スル今日、大工ノ子供デモ、左官ノ子供デモ、皆學校ニ行ケルト云フ、斯ウ云フ意味デアラウ、即チ教育ノ機會均等ヲ規定シタモノカト私ハ解釋スルノデアリマスガ、サウデナケレバ意味ハ取レマセヌ、何カ外ニ御教ヲ受クル點ガアレバ承リタイト思ヒマス、既ニ之ヲ規定シタ以上ハ、是ハ修正サレルカドウカ分リマセヌガ、此ノ通リ通ルトナルト、ソレハ一面ニ新ラシイ解釋デ文部大臣トシテハ御考ガナクチヤナラヌ、教育ノ機會均等ハ初メカラ日本ニアリマス、明治天皇ガ學制ヲ御拵ヘニナツタ時分カラ、華族平民ノ別ナクト云フコトヲ仰セラレテ居ル、ソレカラアノ時分ニ昔ノ平民以外ノ一種ノ士族ガ居リマシタガ、ソレモ入ツテ宜シイ、斯ウナリマシタカラ、初メカラ日本ノ小學校ト云フモノハ、尋常高等孰レモ、ソレニハドンナ子供モ、入レル、門閥ノ差別ナク、財閥ノ差別ナク、總テ一視同仁デ、車挽キノ子供モ皆同ジデアル、斯ウ云フ譯デ私共一生懸命ニヤツテ來タノデアリマスガ、ソレハ初メカラ機會均等ニナツテ居ルノデス、今日何モ憲法ニ載セル必要モ何モナイ、教育社會デモ機會均等デアル、私ハ一遍、教育ノ機會均等トハ日本デハ何ヲ言フノカト質シタコトガアル、其ノ意味ニ於テ改良スベキ點ハ、先ヅ月謝ノ點デアル、經濟力ノ點デアルガ、ソレハ育英制度サヘヤレバ宜イ、ソレハボツボツ發達シテ居ルヂヤナイカ、若シ今日ニ於テ御教ヲ戴ケレバ、ドノ方面カラデモ御教ヲ請ヒタイト思フ、私ハサウ考ヘテ居ル、サウナツタ以上ハ、之ヲ運營スル上ニ於テ效果アラシメナクチヤナラヌ、既ニ國民ノ權利トナツタ以上ハ憲法上ノ權利デアリマスカラ、一方カラ言ツタラ政治上ノ心持デ之ニ對應スルコトガ出來ナイ、一方ニ義務ヲ脊負ウテ居ル、即チ官立學校モ増設スルガ宜イ、私立學校モヤルガ宜イ、到ル處ニ此ノ條文ノ效果ヲ完ウセシムルヤウニ御願ヒ致ス、是ガ私ガ先日總括シテ極ク簡單ニ御尋ネシタ一項デアリマシタガ、サウ云フヤウニ御願ヲセナケレバナラヌ、ソレデナケレバ是ハ削ツテ宜イノデス、何ニモナリヤシナイ、斯ウ私ハ考ヘルノデアリマスガ、此ノ點如何、時間ノ制限ガアリマスカラ、簡單ニシテモウ一ツ御尋ネシテ置キマス、第二項デス、第二項ハ義務教育ノ點デアリマスガ、是ハ小學校、今デハ國民學校デアル、色色ト國デ皆違ヒマス、「プライマリー・スクール」ト言フ所モアリ、「コンモン・スクール」ト言フ所モアリ、「エレメンタリー・スクール」ト言フ所モアリ、「フォルクスシウレ」ト言ツテ居ル所モアリ、色々アリマスガ、日本ミタイニ小學校ト、一番大キナ學校ヲ小サイ學校ト言ツテ居ル、ソンナ所モアツタノデアリマスガ、ソレハ別トシマシテ、義務教育ヲ何故文部大臣ガ、賢明ナ文部大臣ガ、一番進ンダ若イ文部大臣ガ何故ニ義務教育ヲ御廢止ニナラナカツタカト云フコトヲ御尋ネシタイ、日本ノ初等教育ハ義務教育ニスル必要ハアリマセヌ、私ハ義務教育ノ延長ヲ多年絶叫シテ居リマシテ、此ノ議會ニ於キマシテモヤツトノコトデ八年ニシテ貰ヒマシタガ、其ノ八年モ戰爭ノ爲ニ延ビテ居リマスガ、チヨツトモ初メカラ義務トカ云フヤウナ觀念デ進ンダモノデアリマセヌ、今憲法ヲ御制定ニナル場合ニ於テハ、平和思想デ戰爭モ抛棄シテ、ソレヲ單獨ニ世界ニ宣言迄シテ居ルト云フ斯ウ云フ場合ニ於テハ、何故ニ義務教育ヲマダ御實行ニナリマスカト、斯ウ言ツテ見タイ、明治以來長イ年デハアリマスガ、何處ノ國ニモナイ義務教育、小學校教育ハ發達シマシテ、今日ハ殆ド百ガ百デス、九十九「パーセント」九分位ニ行ツテ居リマセウ、デスカラ百人ノ中ニ一人ノ十分ノ一位シカ學校ヘ行カヌ者ガナイ、是モ學校ヘ行カヌ者ハ三萬カ五萬カ殘ツテ居リマセウ、併シソレモ殆ド不具者或ハ赤貧ノ者デアル、サウ云フ者ガ多少殘ツテ居リマセウガ、高等小學校ノ生徒ニ付テモ其ノ通リ、サウシテ御承知ノ通リソレガ何等ノ制裁モナク圓滿行ハレテ參リマシタ、明治天皇ノ御威徳ノ結果デハアリマスケレドモ、村ニ不學ノ徒ナクト、斯ウ仰セラレタ御言葉ガ年々歳々都合好ク行キマシテ、制裁ノナイ、罰則ノナイ規定デ今日迄來テ居ル、極ク「ルーズ」ノ規定デアル、義務ト云フコトモ言ツテ居リマセヌ、小學校ニ入ルベキモノトスデ始ツテ居リマス、サウ云フコトデ義務教育ト云フノハ、教育上ノコトデ言ツテ居リマスガ、サウ云フコトデ來テ居ルモノヲ、何故ニ我ガ國デハモウ一歩進ンデ、文化ノソレコソ最高頂ヲ期シテ居ル、我ガ國デアリマスシ、又今日ニ於テモ貧國ナリト雖モ、教育ハ、殊ニ義務教育ノ點ニ於テハ、世界ニ餘リ後レハ取リマスマイ、一、二ノモノデアリマセウ、殊ニ今ノ普及ノ程度ニ於キマシテハ‥‥、内容ニ於テハモツト進マナケレバナリマセヌガ、コンナニ考ヘテ居リマス、何故ニ惜シイコトヲナサツタカト私ハ考ヘテ居ル、憲法ニ於テ俺ノ國ハ義務ハナイ、「オブリゲートリイ・エデュケーション」ト云フモノハアルカト云フト、ソンナモノハナイ、ソレナラ皆馬鹿カト言ヘバ、皆學校ヘ來テ居ル、百ガ百來テ居ル、斯ウ何故誇リナサラナカツタカ、是ハ事實デアリマスカラ、誇ル爲ノ誇リデアリマセヌ、「ドイツ」ハ三十年モ前ニハ一萬人ニ付テ五人位學校ヘ行カヌ者ガアツタ、「イリタラシー」ハ一萬人ニ付キ五人、私ガ行ツタ時ニ百分比ヲ訊キマシタ、日本デハ其ノ時分ハ九十二「パーセント」位デアリマシタガ、其ノ時ニ向フハソンナ統計ハアリマセヌ、ソレデ色々ト書物ヲ漁リマシタ處ガ、徴兵ノ時分ノ調ベガ一萬人ニ付タツタ五人デアル、五人ガ「イリタラシー」、即チ學校ヘモ行ツテ居ラヌ無學ノ者デアル、併シアソコニハ罰則ノ強制ヲシマシテ、學校ヘヤルノニトテモムヅカシイ、「イギリス」ヘ行ツテ見ルト、ドンナ工合カト云フト、七十「パーセント」位デアル、アトノ三十人ハ學校ヘモ何モ行ツテ居ヤシナイ、ソレヲ歸ツテ下宿デ訊キマスト、ソレハ田所、何ダ、學校ハ、「スクール・イズ・エネミイ・オブ・ファミリー」ダ、學校ハ家庭ノ敵ダ、其ノ意味ガ分ラナカツタガ、ソレハ働ク子供ヲ取ツテ居ルカラデ、「アルバイト」ノ方ガ、「レーバー」ノ方ガ先ニ來テ居タカラデ、子供ガ十ニナリ十一ニナルト、「ウェージ」ヲ取ツテ親ヲ助ケルカラダ、サウ云フ話ガアツタ、果セルカナ、途中デ道ヲ訊キマシテモ、書イタ物ハ讀メマセヌ、皆樣御經驗ノ方モアルダラウト思ヒマスガ、言葉ハ本當ノ英語ヲ使ツテ居ラヌ、斯ウ云フ者ハ學校ニ行キマセヌ、斯ウ云フ次第デ、罰則ヲ以テ強制シマシテモ其ノ通リデアル、義務年限ヲ六年ニシ八年ニスルノハ、ソレハ段々矢張リ義務教育ニ行カナケレバナリマセヌガ、今日デハ其ノ義務ハ取ツテ「フリー」ニシテ行ク、「レーア・フライハイト」モ御入レニナツタ、「アカデミック・フリードム」モ御入レニナツタ、昨日モ御尋ネシマシタガ、何故義務教育ト云フコトヲ御取リニナラナイカ、自由教育ニ何故ナサラナカツタカ、決シテ減退致シマセヌ、今朝カラ議論ガアル家族制度、即チ親ガ子ヲ愛スルト云フコトハ、古來拔クベカラザルモノデ、何處ニモアリマスマイ、此ノ子ヲ愛スルノ情、子供ヲ學校ヘヤラヌト云フ親ハ殆ド居リマセヌ、又憲法上ニコンナコトヲ後レ馳セニ書カナイデモ、十分文部大臣ノ一言デ、若シサウ云フ不心得者ガアツタラヤレバ宜イ、コンナ風ニ考ヘル、是ハ惜シイコトデアル、今更之ヲドウスルコトモ出來マセヌ、我々ガ修正スレバ宜イノデアリマスガ、何故其處ニ御考ヘガナイカ、況ヤ法律デ教育ノ根本法ヲ御制定ニモナリマセウガ、其ノ大綱ヲ勅令デ出シタ、是ハ樞密院デ色々ヤツテ居リマス、今迄ハ義務教育ノ制度デ義務ニシテ、親ニハ義務ヲ課シ、サウシテ市町村ニハ義務費ヲ出サセテ、ソレガ勅令デ圓滿ニ行ハレテ居リマシタ、是モ何處ニモアリマスマイ、サウ云フ揚句ニ今日此處デ古臭イ何十年ト云フカ、或ハ此ノ第一項ニ付テハ、百年二百年以來ノ問題ノコトヲ、教育ノ機會均等ナドト云フ、私カラ言ヘバ、ソンナモノハ意味ガナイト思ヒマス、サウ云フモノヲ此ノ自由主義ノ憲法ニ於テ御加ヘニナツタノハ殘念デアルト思フ、ソンナ風ニ感ズルノデアリマスガ、其ノ點ニ付テ御所見ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（田中耕太郎君） 御答ヘ申上ゲマス、第一點ノ二十四條一項ガ教育ノ機會均等ノ精神ヲ持ツデハナイカト云フ御尋ニ對シマシテハ、先程佐々木博士ニ御答ヘ致シマシタヤウナ意味デ、此ノ點ニ重點ガ置カレテ居ルト云フ風ニ存ジマス、從ツテ其ノ結果ト致シマシテ、國家トシテハ育英制度ノ擴充強化ト云フヤウナ方法、或ハ其ノ他ノ方法ニ依ツテ、出來ルダケ機會均等ノ精神ヲ徹底サセナケレバナラナイ義務ヲ負擔シテ居ル譯デアリマス、尚併シ此ノ規定ノ實益ハ、學校制度ガ法律ニ依ツテ定メラレルコトニナルト云フヤウナコトニ付キマシテモ、意味ガアルト存ジテ居ル次第デアリマス、ソレカラ第二點ノ義務教育ノ廢止ヲ此ノ際何故考慮シナカツタカ、過去ニ於テハ極メテ自然ニ、別ニ強制シナイデモ、日本ニ於ケル義務教育ノ状態ハ、實施ノ程度ニ於キマシテ、完全ニ近イ状態ニアルノヂヤナイカト云フ御説デゴザイマス、是ハ寧ロ非常ニ結構ナコトデアリマス、ダカラシテ、義務教育ノ規定ヲ撤廢シテシマハナケレバナラナイト云フコトニハナラヌノデハナイカ、若シ撤廢シマス場合ニ於キマシテハ、サウ云フ完全ナル状態ハ今後ノ經濟状態ノ推移、其ノ他ニ依リマシテ、又逆行シナイトモ限ラナイノデゴザィマシテ、外國ニモ御承知ノヤウニ義務教育ノ制度ハ多々ゴザイマス譯デアリマス、又御指摘ニモナツタ通リデス、左樣ナ譯デ現在迄圓滿ニ行ハレテ居ルノダカラ、法律ノ規定ガ必要ハナイヂヤナイカト云フヤウナ事例ハ、他ニモ澤山ゴザイマス、大變結構ナ状態デアリマスガ、併シ國家トシテ又國民トシテ一定ノ教育ヲ受ケナケレバナラナイト云フコトヲ法律上ノ義務ト規定シテ居ルカラト言ツテ、教育ノ本旨ニ反スルト云フ譯デハナイト存ズルノデアリマス、又日本ノ今日迄ノ現状ニ照シテ見マシテ、斯ウ云フ制度ガ必要デナイト云フ風ニハ申シ兼ネルヤウナ次第デアリマス
○田所美治君 一言申シ添ヘテ置キマス、教育ノ問題ハ、文部大臣ガ御精通デアリマスカラ、モウ私カラ何モ申上ゲルコトハゴザイマセヌガ、日本ハ文化國家トシテ進ムノダト、斯ウ言ツテ居リマスネ、私ハ君主國ト言ツテ居リマスガ、ソレニハ教育ガ幸ニ宜イ根柢ヲ持ツテ居リマスカラ、將來ニ於キマシテハ、唯向フノ眞似ヲスルダケデハナク、一頭地ヲ拔イテ一ツノ御考ヲ願ヒタイ、英斷ヲ御施シ願ヒタイ、我々ハ皆協賛致シマスカラ、コンナコトヲ申上ゲマシテ質問ヲ終リマス
○子爵織田信恒君 私ハ矢張リ教育ノ機會均等ニ付テ御尋ネシヨウト思ヒマシタガ、今、田所委員カラモ御話ガアリマシタ、唯結城委員以後、今迄觸レテ居ラレナイ點ダケヲ伺ツテ見タイト思ヒマス、教育ノ機會均等ハ、矢張リ教育ノ自由デアツテ、是ハ根本的ニ大事ナコトデアルト思ヒマス、「アメリカ」等デモ、數十ノ私立大學ハ無月謝デ學生ヲ入レテ居リマス、ソレガ爲ニ、向フノ勞働者ノ子弟ナドハ、親ガ勞働者ダカラト云ツテ、三代ト勞働ハシナイ、無月謝デ學校ヲ出テ、相當社會的ノ地位ヲ得テ居ル、斯ウ云フコトデ、本當ノ教育ノ自由ト云フモノガ效果的ナコトガ明瞭ナノデアリマス、先程カラノ政府ノ御答辯ヲ伺ツテ居リマスルト、將來ハ官立ニ對シテ、私立ノ方ニ力ヲ入レテ、サウ云ツタヤウナ理想的ナ方面ヲ開拓シテ貰ヒタイト云フヤウナ御意向モアツタト思ヒマスガ、併シ今後ドウ云フ風ニ日本ノ社會状態ガナリマスカ、豫想ハ出來マセヌガ、大體今迄ノヤウナ大金持ト云フヤウナモノモナクナツテ、自然「アメリカ」等ノヤウニ篤志家ガ理想的ニ私立大學ヲ作ツテ、無月謝デ子弟ヲ受入レルト云フヤウナコトガ、ナカナカ困難ニナリハシナイデセウカ、矢張リ収入主義ノ私立學校ト云フモノガ出來テ參リマスルト、貧乏デ教育ヲ受ケラレナイト云フヤウナ者ヲ無月謝デ収容スルト云フヤウナ餘地ガ、ナカナカ日本デハ少イノヂヤアルマイカ、ノミナラズ、今迄ハ學校ニ受入レルコトダケヲ御考ヘニナツテ居リマスガ、無月謝デ教育ヲ受ケタ以上ハ、社會的ニ又就職ノコトモ考ヘテヤラナケレバイケナイト思ヒマス、結局學校ヲ出テカラ食ヘナイト云フヤウナコトデハ、學校ヲ出テモドウスルノカ、其ノ子弟ハ、學校ヲ出テモ失業シテ、何處ニモ行カナケレバ、早ク何處カヘ行ツテ働イタ方ガ宜インダト云フコトニナツテシマヒマスカラ、矢張リ教育ノ自由ト學校ヲ出テカラ後ノ就職問題ト云フモノハ、是ハ切リ離シテハ考ヘルコトガ出來ナイ問題デアルト私ハ思ヒマス、「アメリカ」等ノヤウナ所デハ、學校ヲ出テカラ就職ガ出來マスカラ、ソレデ教育ノ自由、若シクハ教育ノ機會均等ト云フコトガ、最後迄自然ニ、自分ノ一生ヲ通ジテ歩ンデ行カレルト思ヒマスガ、サウ云フ點ハ日本ハ殊ニ領土モ狹クナリ、是カラ産業ハドウ云フ形態ヲ以テ發達スルカト云ツテ、サウ云フ先キ先キノコト迄考ヘマスルト、學校ヲ出テカラ、ドウ云フヤウニシテソレ等ノ就職ノ問題ヲ國家トシテ考ヘテヤルカ、其處迄深切ニ御考ヘ下サラナイト、此ノ問題ハ中途半端ノ問題ニナツテシマフト思ヒマスカラ、此ノ點ニ付キマシテ政府ノ御所見ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（田中耕太郎君） 御答ヘ申上ゲマス、私立學校ノ經營ノ問題、殊ニ授業料ノ問題デゴザイマスガ、御説ノヤウニ、無月謝デ私立學校ヲ經營シテ行クト云フヤウナコトハ、極メテ困難ナコトデアリマシテ、從來ト雖モ私立學校ノ授業料ハ、官公立ト比ベマシテ、相當高イノデアリマシテ、今後モ恐ラクハサウ云フ風ニナルダラウト思ヒマス、私立學校ノ性質カラシテ、官公立ノ學校デ見ラレナイヤウナ色々ナ特色ヲ發揮サセル意味カラ言ヒマシテ、官公立ヨリ高イト云フコトハ、或意味ニ於テ巳ムヲ得ナイ次第デハナイカ、唯併シソレガ教育ノ方面、或ハ職員ノ優遇ノ方面ニ當テラレナイデ、營利的、或ハ政治資金ノヤウナ方面ニ横流レシタリスルト云フヤウナコトガアレバ、是ハ大イニ取締ラナケレバナリマセヌ、其ノ以外ニ於キマシテハ、授業料ノ問題モ寧ロ制限ヲ緩和スルヤウニ向イテ行カナケレバナラナイカト存ジテ居ルノデアリマス、從ツテ其ノ點カラ申シマスト無償主義、或ハ無償主義ニ近イ授業料ハ、是ハ官公立ノ方ヘ行カナケレバナラヌ、私立ハ特ニ學校ノ特色ヲ慕ツテ、其ノ學校デ勉強シタイト云フ者ノ行ク所ト云フ風ニ考ヘテ居リマス、ソレガ又私立學校ノ面目ヲ發揮スル所ヂヤナイカト存ジマス、ソレカラ、就職ノ問題ト、教育ノ問題ノ関係ニ付テノ御質問デゴザイマシタ、學校ノ建前カラ申シマスト、是ハ又甚ダ「ラディカル」ニ聽エルカモ知レマセヌケレドモ、就職ノ爲ニ學校ニ入ツテ教育ヲ受ケルノデハナイト云フ建前ヲ今後ハ明カニスル必要ガアルノヂヤナイカ、從ツテ假令、卒業者ガ街頭ニ溢レルト云フヤウヂコトガアツテモ、教育ヲ受ケサセルコトソレ自身ガ宜イト云フコトヲ前提ト致シマシテ、文化國家、平和國家ニ相應ハシイ教育施設ノ充實ヲ圖ラナケレバナラナイト思ヒマス、其ノ場合ニ於テ卒業生ヲドウ云フ風ニ處理スルカト云フコトハ是ハ第二ノ問題デ、文部省ハ關係各方面ト色々協力シテ、其ノ際ノ對應策ヲ講ジナケレバナラナイト云フ風ニ存ジテ居リマス
○子爵織田信恒君 只今ノ御答辯ニ依リマスルト、理想的ナ無月謝デ行クト云フコトハ實際困難デゴザイマセウケレドモ、矢張リ教育ノ自由、機會均等ト云フコトヲ考ヘレバ、私立ガ困難ナラバ、セメテ官立、先程結城委員カラモ言ハレタヤウニ軍備費ト云フモノガ無クナルナラバ、出來ルダケ割イテ官立ノ方ニ於テ月謝モ安クスル、又育英資金等デ處置ヲサレルノモ、是ハ結構デアリマスガ、私立ノ方ニ望マナケレバ、官立自ラガサウ云フ理想ニ向ツテ進マレルト云フノガ一ツノ目標ダラウト思ヒマス、ソレカラ就職ノ問題ハ、成ル程教育ト云フ立場カラ見レバ、或限度ガアリマセウ、職業ノコト迄考ヘル必要モナイト云フコトモゴザイマセウガ、併シ教育ヲ受ケテ行ク國民、是ガ年々繋ガツテ何十萬ト云フ多數ノ國民ガ其ノ中ニ入ツテ來ルノデスガ、何時迄モサウ云フヤウニ見テ居ラレナイダラウト思ヒマス、學生デ以テ就職不可能ナ者ガ街頭ニ溢レテ來ルトアレバ、文部當局ハ矢張リ默ツテ居ラレナイト云フ結論ガ其處カラ生レルト思フノデアリマス、又假ニ卒業後ノ生活問題ヲ考ヘナイデ行クトスルナラバ、就職ノ方ヲ考ヘナイデ、唯教育スルコトソレ自體ニ目的ガアルト云フナラバ、義務教育ノ程度ヲ上ゲタラ宜イト思ヒマス、何モ今ノ國民學校デ宜イト云フノデナク、モツト中學ナリ何ナリノ程度ヲ上ゲテ、國家ノ義務教育トシテ、詰リ國民ノ素質ヲ良クスルト云フ目的デ行クナラバ、ソチラヲ上ゲナケレバイケナイ、矢張リ其處ニチヨツト矛盾ガ起ルト思ヒマス、是ハ國家ノ財政カラモ來ル問題デ、ナカナカサウ一概ニ結論ハ出來ナイ大キナ問題ダト思ヒマスカラ、是以上質問ハ致シマセヌガ、併シサウ云フコトヲ矢張リ念頭ニ入レテ、サウシテ深切ニ將來國民ノ教育、素養ヲ高メルト共ニ、成ルベク學校ヲ出タ者ノ失業ガ起ラナイ、生活ノコト迄モ、或程度關聯シテ包括的ニ教育ノ制度ヲ考ヘテ戴キタイ、此ノ程度デ私ノ質問ヲ終リマス
○川村竹治君 私ハ條文ノ解釋ニ付テ、此ノ二十六條第二項デスガ「國民は法律の定めるところにより」云々トアツテ「教育を受けさせる義務を負ふ」、ソレデ「義務教育は、これを無償とする」斯ウアルノデスガ、此ノ普通教育ト云フモノニハ、中等程度ノ教育モ無論入ルト思ヒマスガ、何處迄入ルノデアリマスカ、ソレガ一點、ソレカラシテ「義務教育は、これを無償とする」ト書イテアルカラ、之ヲ有償トスルト云フコトハ出來ヌノヂヤナイカト思ヒマスガ、ソレハ有償ト云フコトガ出來ルノデアリマスカ、此ノ二點ヲ御伺ヒ致シタイ
○國務大臣（田中耕太郎君） 御答ヘ申上ゲマス、御質問ノ第一點、普通教育ノ中ニ中等教育ガ入ルカドウカト云フ點デゴザイマスガ、只今ノ處、恐ラクハ衆議院ノ修正ハ、現在ノ國民學校六年程度デハ義務教育トシテ不足ダト云フ風ナ有力ナ意見モアルカラ、是ハ法律デ以テ決メル際ニ讓ル、ダカラ初等教育ヲ中等教育ノ方迄多少擴張致シマシテ、サウシテソレヲ含メル意味ニ於テ、普通教育ト云フ文字ヲ使ツタノダト存ジテ居ル次第デゴザイマス、從ツテ現ニ青年學校ノ教育ハ、御承知ノ通リ義務教育ニナツテ居リマス、具體的ニ申シマスルト、青年學校制度ヲ維持スルカドウカ、此ノ範圍如何ト云フコトニ引掛ツテ參ル譯デアリマス、斯ウ云フ含ミヲ持ツタ修正案ダト存ジマス、ソレカラ無償ノモノヲ有償ニスルコトガ出來ルカト云フ御尋デゴザイマス、是ハ私立學校ニ付テ特ニ問題ニナルノデアリマスガ、是ハ官公立ノ場合トハ違ヒマシテ、任意ニ其所ニ入學スル、其ノ學校ノ特色ヲ認メテ入學スル譯デゴザイマスカラ、從ツテ假令義務教育ニ該當ナル段階ノ私立學校教育デアリマシテモ、有償ニハ爲シ得ルト信ズルノデアリマス
○川村竹治君 大體了解致シマシタガ、唯私立學校デモ、義務教育ナレバ有償トスルト云フコトガ憲法違反ニナリハセヌカト思ヒマスガ、此ノ點ハ如何デアリマスカ、幾ラ法津ニ定メテモ
○國務大臣（田中耕太郎君） 此ノ憲法ノ規定ハ、政府ト國民トノ關係ヲ規定シテ居ル譯デゴザイマス、ソレデ私立學校ノ場合ニ於テハ、勿論其ノ私立學校全體トシテハ、國ノ管理ニナツテ居ル譯デアリマス、併シ國民ノ側カラ申シマスルト、私立學校デ、例ヘバ國民學校ノ教育課程ヲ受ケルコトニ依ツテ、國家ニ對スル義務ヲ果シタト云フコトニナル意味ニ於テハ、憲法ノ其ノ範圍ニ入ツテ參リマスケレドモ、現在デモ國民學校程度ノ義務教育ニ該當シテ居ル私立ノ學校ハ、是ハマア數ハ少イノデアリマスガ、矢張リ有償ニナツテ居リマス、サウ云フ状態、憲法ノ規定ガ現状ヲ變更スルヤウナ趣旨ハ特ニ持ツテ居ナイト解釋致シテ居リマス
○高柳賢三君 只今文部大臣カラノ御説明ニ依リマシテ、此ノ「ひとしく教育を受ける權利」ト云フ、謂ハバ基本的人權、是ハ勤勞者ノ團結スル權利トカ、或ハ團體交渉ヲスル權利、ソレ等ノ場合ト異ナツテ、法律ニ依レバドウ云フ風ニソレヲ侵シテモ救濟ノ途ハナイ、斯ウ云フ趣旨ノヤウニ了解致シマシタノデ、是ハ非常ニ弱イ權利デアル、即チ法律ガ此ノ原則ニ違反シタヤウナ内容ノ規定ヲ設ケタヤウナ場合ニ於テモ、最高法院ハ之ヲ無效トスルコトハ出來ナイ、斯ウ云フ風ニ了解致シマシタガ、其ノ了解ハ間違ツテ居ルカ、其ノ點ヲモウ一回御説明ヲ御願ヒ致シマス
○國務大臣（田中耕太郎君） 此ノ權利ノ内容ハ、先程來應答ノゴザイマシタ、漠然トハ致シテ居リマスケレドモ、併シ精神ニ於キマシテハ、法律デ以テ無内容ニ致シテシマツテ、ドンナコトヲ規定シテモ、最高法院デ以テ無效ニサレルモノデハナイト云フ風ニハ解シテ居リマセヌデス、假ニ法律デ以テ不平等ナ取扱ヲ規定スルト云フヤウナコトニナリマスレバ、ソレハ其ノ法律ハ無效ニナルコトハ明瞭ダラウト思ヒマス
○高柳賢三君 「法律の定めるところによリ」ト云フノハ、法律デ自由ニ其ノ内容ハ決メルコトガ出來ル、現行憲法ニ於ケル所謂法律ニ依ルト云フ場合ト同ジヤウナ意味デハナク、ソレトハ違ツタ意味合デアルト、斯ウ云フヤウニ今ノ御説明デハ理解サレルノデ、矢張リ是ハ基本人權的ナ性格ヲ持チ、國會ノ定メタ法律ト云フモノデモ、之ニ反スレバ無效ダト、是ダケノ強イ權利ダト、斯ウ云フ解釋ノヤウニ理解シ、現行憲法ニ依ル法律ニ依レバ何デモ出來ルト云フ、ソレトハ違フノダト云フ風ニ理解シタノデスガ、ソレデ宜シイノデスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 左樣ナ解釋デ宜シイト思ヒマス
○高柳賢三君 私ノ質問ハソレデ終リマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ休憩致シマス、正一時カラ始メマス
午後零時四分休憩
━━━━━◇━━━━
午後一時八分開會
○委員長（安倍能成君） 會議ヲ開キマス、午前中ハ逐條的ニヤツテ見マシタケレドモ、餘リ能率ガ上ルト云フ風ニモ行キマセヌシ、ソレカラ又大臣ノ都合ヤ何カデ一括シテ質問サレルト云フコトモアリマスカラ、甚ダ無節操ノヤウデゴザイマスガ、又元ノヤリ方ニ還リマスガ、御差支ナイデセウカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） ソレカラ厚生大臣ガ見エルサウデシタガ、見エマセヌカラ、二十七條ニ付テ大河内子爵
○子爵大河内輝耕君 私ハ二十七條ノ勤勞ノ義務ニ付テ伺ヒタイノデスガ、是ハ衆議院デ入ツタノデ、政府ガドウ云フ意味デ是等ニ御賛成ニナリマシタノデスカ、一體勤勞ノ義務ナドト云フコトヲドウ云フ風ニ解シテ居ラレマスカ、其ノ具體的ナ範圍ト云フモノハドウ云フモノデセウカ、是ハ政治的ナコト、其ノ他ノコトニ隨分濫用スルト云フ傾モアリマスシ、又十八條ノ「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又犯罪に因る處罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」ト云フヤウナコトト是ガドウシテ調和シマスカ、刑務所デヤルノサヘ就役ハ修養ダト云フノニ、何モ惡イコトヲシナイ國民ガ無暗ニ勞働ヲサセラレテモ困リマスシ、サウ云フ點ハ如何ナモノデゴザイマセウカ、出來得ル限リ勤勞ノ義務ニ對スル具體的ノコトヲ伺ヒタイ
○澤田牛麿君 議事ノ進行ニ付テ大河内サンニ申上ゲタイ、如何デセウカ、アナタハ義務ノコトヲ御聽ニナツテ居ルノデスガ、私ハ權利モ聽キタイト思フノデスガ、一緒ニアナタノ御質問トシテ、權利義務トシテ政府ノ‥‥
○大河内輝耕君 ソレハ私ガヤルト附ケ燒刄ニナリマスカラ、ドウゾアナタカラ
○委員長（安倍能成君） ソレデハマア、大河内委員ノ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 只今御質疑ヲ受ケマシタ勤勞ノ義務ノ所ハ、是モ度々申上ゲマスルヤウニ、斯ク入レラレタコトニ依リマシテ、衆議院ガドウ云フ氣持ヲ以テ入レラレタカト云フコトハ、實ハ推測ダケデアリマシテ、殘ル問題ハ、政府ハ斯樣ナ文字ガ入ツタコトニ付テドウ了解シテ居ルカ、從ツテソレヲドウ感ジタカト云フ點カラ御答ヲ申上ゲマス、原案ニ於キマシテ度々申上ゲマスルヤウニ、我々ハ個人生活ト云フモノニ相當重キヲ置イテ居ルト云フコト、即チ人間自身ノ尊重ト云フコトカラ、此ノ憲法ガ出發シテ居ルコトハ申ス迄モナイ譯デアリマス、併シナガラソレハ決シテ純粹ノ個人主義ヲ讃ヘルモノデハアリマセヌ、個人ヲ尊重シツヽ全體ノ福祉ト云フコトヲ考ヘテ行カナケレバナラヌ、斯ウ云フ範圍ニ於キマシテ、當然各人ハ御互ニ協力シ合ツテ、此ノ共同生活ヲ導イテ行カナケレバナラヌト云フコトニナリマスルト、人間ハ働クベキ權利ヲ持ツト同時ニ、又ソレハ働クノミニ止マラズシテ御互ニ働クコトニ依ツテ、共同ノ利益ヲ高メテ行クベキモノデアルト云フコトハ當然デアル、斯ウ云フ風ナ結論ニ到達スルト存ジマス、併シ是ハ謂ハバ道徳上、或ハ社會上ノ問題デアリマシテ、ソレヲ憲法ニ採リ入レルノハドウカト云フコトニナリマスルト、其ノ法的價値ヲ考ヘツヽ若シ法的價値ヲ附與スルコトニ意義ガアルナラバ、憲法上ソレヲ採リ入レル、ソレガナケレバ、憲法上ハ必ズシモ採リ入レル必要ハナイト云フコトニナラウト思ヒマス、ソコデ原案ニ於キマシテハ、國民ガ其ノ本來存シテ居ル勤勞ノ權利トモ謂フベキ社會的ナ働キニ付キマシテ、國家ガ之ヲ國法ヲ以テ妨ゲル、例ヘバオ前ハ働イテハイカヌ、職業選擇ノ自由ナドトモ關係ヲ致シマシテ、故ナク其ノ活動ヲ止メルト云フコトハ宜シクナイ、從ツテ斯樣ナ意味ニ於キマシテ勤勞ノ權利ヲ認ムルコトガ正當デアル、斯ウ云フ風ニ考ヘマシテ、第二十七條ノ中ニ「すべて國民は、勤勞の權利を有する。」ト斯ウ書キマシタ、義務ノ方面ハ其處迄行カナクテモ、大體十一條ノヤウニ、勤勞ノ權利ガアレバ、當然之ヲ行使スル義務ノアルコトハ、總括的ナ規定カラ來ルカラシテ宜カラウト、斯ウ云フ考デ草案ヲ固メテ議會ノ御審議ヲ仰イダ譯デアリマス、處ガ衆議院ニ於テハ、左樣ナ考ヘ方ヲ恐ラク認メラレナイノデアリマス、勤勞ノ權利ガアルカラ、之ニ伴ツテ義務ガアル、斯ウ云フ考ヘ方デナクテ、初メカラ人間ガ共同生活ヲスル限リハ權利モアリ、同時ニ義務モアル、權利ノ方カラ言フヨリモ、先トカ後トカ言フノデハアリマセヌガ、同時ニ勤勞ノ義務ガアツテ、協同生活ヲ健全ニ發達セシメテ行カナケレバナラヌ、斯ウ云フ趣旨ニ於テ勤勞ノ義務ノ規定ヲ入レラレタモノト察シテ居リマス、從ツテ法律的ニ申シマスルト、勤勞ノ義務ヲ妨ゲルト云フヤウナコトハ、國家ノ方カラハ想像ハ出來マセヌ、國民ノ側カラ申シマスレバ、サウ云フ大原則ヲ茲ニ確立セラレタト云フコトヲ、ハツキリシタ姿デ認メル、斯ウ云フ權利義務ノ宣言ト云フヤウナ意味ニナラウト思ヒマス、從ツテ是カラ直接ニ何ノ具體的ナ義務ガ出テ來ル譯デモナイト考ヘテ居リマス、尚當時ノ經緯カラト申シマスルカ、衆議院ノ此ノ論議ノアリマシタ經緯カラ想像シテ見マシテ、勤勞ノ義務ト申シマスルノハ、例ヘバ能ク戰時中ニアリマシタ徴用セラレマシテ働クトカ、何カ「ドイツ」ニアリマシタガ、若イ者ハ學校ヲ出テカラ或期間勤勞ノ義務ヲ果スコトニ依ツテ、初メテ國民的ナ一人前ノ仕事ガ出來ルト云フヤウナ思想ガアツタヤウデアリマスガ、此處ノ勤勞ノ義務ト云フモノハ、サウ云フ箇々ノ具體的ノコトヲ言フノデナクテ、人間ト云フモノハ協同生活ニ對シテ貢献スベキ勤勞ノ義務ヲ持ツテ居ルノダト云フノデ、原則ヲ表明シタト、サウ云フ趣旨ニ了解シテ、ソレナラバ極メテ正道ナ規定デアルトシテ、御同感ヲ申上ゲタノデアリマス
○子爵大河内輝耕君 私ハモウアリマセヌ
○委員長（安倍能成君） 澤田委員ハ只今ノ御答辯デ、今ノ權利ニ關スルコトハ宜シウゴザイマスカ
○澤田牛麿君 私ハ權利ニ關スルコトデアリマスカラ、大河内サンガ同時ニ御聽キニナルコトヲ希望シマシタガ、私ノ番ガ參リマシタラ權利ノコトヲ伺ヒマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ午前ニ遡リマシテ、牧野委員ノ厚生大臣ニ對スル質疑、逐條ト云フ原則ヲ又抛擲シマシタカラ、厚生大臣ニ對スル質問ヲ續ケテオヤリ下サツテ宜シウゴザイマスガ、成ルベク簡單ニ願ヒマス
○牧野英一君 ハイ、此ノ二十五條ノ第一項ハ衆議院ニ於テ新タニ加ヘラレタモノデアリマスガ、私ハ今内容ニ付テハ理解ガ出來ルヤウニ思フノデス、ソコデ又文句デゴザイマスガ、文句ガ「最低限度の生活を營む權利を有する。」斯ウ云フ言葉ヲ使ツテアリマスト云フト、私ノ理解スル範圍内デハ、最低限度ノ暮シヲスル權利ガアル、貧乏ヲシテ暮ス權利ガアル、斯ウ云フ意味ニ取レ得ルノデスナ、サウ云フ意味デナイコトハ明瞭デ、サウシテ現ニ英譯ヲ見マスト云フト、英譯ハ誠ニ私共ノ得心ノ出來ルヤウニ書イテアリマスノデス、ソレデ是ハ矢張リ最低限度ノ生活ヲ營ムニ付テノ權利デセウ、英語デハドウ云フコトニナリマセウカ、「フランス」語デ申シマスレバ、最低生活ノ權利ヲ有スルト言ヘバ、「ドロワ・ド・レグジスタンス」、處ガ此ノ法案ノ意味スル所、英譯ニ現ハレタ所ハ「ドロワ・ア・レグジスタンス」「ド」ト「ア」トハツキリ區別シマス、「ドイツ」デハ二格ヲ使フ場合ト、「アウフ」ト云フ前置詞デ受ケル場合、三格ニ使フ場合トノ區別ガ明瞭ニナツテ居リマスノデス、日本語デハサウ云フ區別ガ出來ナイモノトサレレバ、ソレデ宜シウゴザイマスレドモ、我々、柄デハアリマセヌケレドモ、國語ノ尊重ト云フコトヲ考ヘテ居ル立場カラ申シマスレバ、サウ云フ場合ニ二格ノ言葉ト三格ノ言葉トハ、言葉ノ使ヒ分ケガ矢張リ出來ルモノト信ジテ居リマスノデ、現ニ是ナドガ一例ニナルト、斯ウ云フノデス、ソレデ生活ニ付テノ權利ト、三格ヲ現ハス其ノ言葉ニ付テハマダ十分ニ考ヘテ居リマセヌガ、今日迄考ヘタ所デハ、最低生活ニ付テノ權利ヲ有スル、我々ノ生活ハソレヨリ下ラナイトスル權利ヲ有スルト云フコトヲ現ハス言葉ガ欲シイト思フノデアリマス、事柄ハソレダケノコトデゴザイマスガネ、尚「健康で文化的な」ト云フヤウナノハ、何トカモウ少シ考慮ヲ煩ハシタイト思ヒマスケレドモ、是ハ文字ノ末梢的ナコトニナリマセウ、斯樣ニ文字ヲヤカマシク申立テマスノハ、前々カラ厚生大臣ニ伺ヲ立テテ居ル二十七條ノ勤勞ノ權利ト是ハ「コレスポンド」スルノデアリマス、私ハ此ノ點ニ付テハ、モウ既ニ厚生大臣カラ二回モ御解釋ヲ伺ツテ居リマスルカラ是以上伺フ積リモゴザイマセヌガ、是ハ「勤勞の」ト云フ二格デハナイ、矢張リ「ドイツ」語デハ「アウフ」デアル、「アウフ・アルバイト」デアル、即チ「フランス」語デ「ドロア・オー・ドラヴァイ」ト斯ウ云フコトニナリマスルノデ、「の」ハゴザイマセヌ、併シナガラ若シ二十五條ノ第一項ヲ、斯ウ云フ言葉デ、國民最低「の生活を營む權利」ト云フ、二格ヲ示シテ居ル言葉ヲ御使ヒニナツテ、而モ「フランス」語デハ第三格ニナルベキ意味ヲ現シテオイデニナリマスルナラバ、二十五條ノ「勤勞の權利」ト云フコトニ付テモ、益々牧野ノ考ヘテ居ルヤウナ解釋ガ成リ立チ得ルモノデアルト云フ御考慮ヲ願ヒタイト思ヒマスルノデス、サウシテ牧野ト致シマシテハ「勤勞の權利」ト云フコトガ「ドロア・オー・トラヴァイ」デアル爲ニ、勤勞ノ義務ト云フコトハ、單ナルサウ云フ自由ヲ行使スルコトガ義務デアルト云フ簡單ナル、今金森國務大臣ノ御説明ニナツタ生易シイモノデハナイ、國民ハ所有權ヲ持ツテ居リマスルガ、其ノ所有權ヲ自由ニ行使スル權利義務ヲ持ツテ居ルナドト云フモノデハゴザイマセヌ、現ニ二十七條、修正案二十九條ニ於テ御詮議ヲ願ヒマスレバ、相當重大ナル義務ヲ持ツノデアリマシテ、所有權ガ重大ナル義務ヲ持テバ、勞働モ亦重大ナル義務ヲ持ツノハ當然デアリマシテ、修正案ノ第十二條ニ於テ、單ニ「利用する責任を負ふ。」ト云フヤウナ生易シイモノデハナイ、勞働ト所有權ガ共ニ、重大ナル權利ト共ニ重大ナル義務ヲ持ツノデアル、サウ云フコトニ依ツテ、例ヘバ各種ノ勞働法制、就中、今回ノ勞働調整法ト云フヤウナモノノ意味ガ、段々理解出來ルト、斯ウ云フ風ニ私ハ考ヘテ居リマス、御仕事ノ内容ニ付テハ厚生大臣ノ段々御進メニナル事柄ニ付テ、十分ノ理解ヲ持ツテ居ルト考ヘテ居リマス、唯先ヅ二十五條第一項ノ言葉ノ使ヒ方カラ始メテ、サウシテ二十七條ノ第一項ニ對スル厚生大臣ノ御解釋ガ今金森國務相ノ御解釋ト同ジヤウニ、私カラ見ルト、モウ一歩進メテ戴キタイヤウナ氣ガ致シマスルノデゴザイマス、ソレデ差當リノ問題トシテハ、孰レニシテモ、二格デ現スト云フコトニ付テハ、日本語トシテ不十分、殊ニ第二十五條ノ第一項ノ所謂「トロア・ア・レグジスタンス」ヲ示スモノト致シマスルナラバ、是デハドウシテモ面白クナイト思ヒマスルカラ、何カ御考慮ヲ願フコトガ出來マスマイカ、是ガ第二十五條第一項ニ付テノ質問デ、此ノ文字ノ御詮議ヲ願フコトガ、サウ云フ實體的ノ意味ヲ含ンデ居ルト云フコトヲ御承知願ヒタイト思ヒマス、其ノ實體的ノ意味ト申シマスルノハ、續ケテ申シマスルガ、要スルニ基準法ト云フコトニナリマス、今厚生大臣ハ勞働基準法ト云フモノヲ立案ナサイマシテ、遠カラズ此ノ議會カ次ノ議會ニハ御提出ニナルヤウナ御豫定ノヤウデ、新聞デ拜見シマス所デハ、ナカナカ結構ナ御立案ト考ヘテ居リマス、就テハ此ノ二十五條第一項ニ付テハ、勞働基準法及ビソレヲ超エテ、又生活保護法、ソレヲ超エテ、相當ノ御抱負ガオ有リニナルコトダラウト思ヒマスルカラ、セメテ其ノ一端ナリトモ、此ノ二十五條ニ關聯シテ伺ヒタイ、尚ソレニ付テ、二十五條ノ二項ノ、チヨツトシタ言葉ノ意味デゴザイマスルガ、社會保障ト云フ言葉ガゴザイマスルガ、是ハ私自分ノ無學ヲ曝ケ出スヤウナコトニナルノデ恥カシウゴザイマスケレドモ、社會保障ト云フ言葉ガ相當ノ意味ヲ持ツトシテ、我ガ學界ナリ、或ハ實際ノ法令デ用ヒラレテ居ル處デゴザリマセウヤラ、ソレヲ伺ツテ置キタイ
○國務大臣（河合良成君） 只今牧野博士ノ御質問デゴザイマスガ、修正ノ二十五條デゴザイマスガ、是ハ矢張リ今ノ文字ノ使ヒ方ノ問題ハ別トシマシテ、是ハ最低生活ヲ維持スルコトノ權利ヲ有スルト云フヤウナ意味ト私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、ソレデ權利ノ意味ハ、矢張リ國家ガ維持サセルコトニ付テ、法律上ノ義務ヲ持ツテ居ルモノダト云フ所迄ハ、ドウシテモ行カナイト云フ風ニ私ハ思ツテ居リマス、其ノ意味ハ此ノ食糧問題ナドニ付キマシテモ、例ヘバ日本人ハ二千百六十「カロリー」ト云フモノヲドウシテモ攝取スルト云フコトニ、通常ナツテ居ル、處ガ今年ノ春カラ只今迄ノ状態ヲ見マスルト、配給量デハ千百「カロリー」位ニシカナツテ居リマセヌ、其ノ外ノ色々ノ物ヲ自分デ攝ツテ、千六百トカ七百トカ云フモノヲ攝ルコトダケガ精々デアリマシテ、國ニ是ダケノ人口ガ居リマスル時ハ、或ハ海外ノ市場、或ハ世界的ノ凶作トカ云フヤウナコトデ、最低生活ト云フモノガ根本ニ維持出來ルカ出來ヌカト云フコトガ、事實上ノ問題ニナツテ來ルコトモ考ヘナクチヤナラヌト思ヒマス、ト申シマスノハ、人間ノ最低生活ト云フコトト、生キルト云フコトト、又「カロリー」ノ點ニ付テ問題ガアリマスルノデ、生キルト云フコトハ運動時間ヲ非常ニ短縮シマスルト、千四百「カロリー」位デ生キテ行ケルノデス、ソレヂヤ働ケナイ、最低生活ト云フコトハサウ云フコトデナイ、モツト程度ノ高イ二千百「カロリー」位ノコトヲ想像シナケレバナラヌノデス、サウ云フモノガ果シテ保テルカト云フコトハ、將來ノ國情如何ニ依ツテ、或ハ保テヌカモ知レマセヌ、ト云フヤウナ意味カラ考ヘマシテモ、實質的ニ、ドウシテモ義務ト云フコトデナイ、ドウシテモ國家ハソレニ努メル、最大ノ努力ヲ爲スノダト云フコトヨリ外ニ、ヤリ樣ガナカラウ、是ガ今ノ日本ノ國情デアルト云フヤウナコトカラ考ヘマシテモ、矢張リ是ハサウ云フ意味ニ私ハ再々御答ヘ申シテ居ルヤウナ意味ニ考フベキモノダト、併シナガラ社會ノ將來ノ理想トシテ、ドウ云フヤウニ行クカト云フコトニ對シテ、平面的デナイ立體的ニ考ヘマシテ、茲ニドウ云フ目標ヲ持ツテ行クカト云フコトハ、自ラ別ニナリマスルカラ、矢張リ法律的ノモノト理想的ノモノト分ケテ、私共ハ分ケテ考ヘテ行クト云フ立場デ、之ヲ解釋シテ居ル次第デゴザイマス、ソレカラ社會保障ノ問題デアリマスルガ、此ノ言葉ハ大體學界ノ言葉トシテ、段々決ツテ來ルト云フ傾向ニアルト思ヒマス、併シ生活保障ナドト云フコトヨリモ意味ガ廣イヤウニ、私ハ只今ノ日本ノ用語トシテハ解釋シテ居リマス、ソレデ「アメリカ」ナリ、或ハ「イギリス」ニ社會保障制度ヲ布クト云フヤウナ言葉ガ往々用ヒラレルノデアリマスガ、其ノ言葉ノ意味ハ、生活保障ヨリモ廣イ方ニ解釋シテ居リマス、併シナガラ同時ニ能ク使ヒマス言葉デ、完全雇傭ト云フヤウナ言葉ナドトハ又自ラ別ノ趣ガアリマシテ、完全雇傭ト云フヤウナ言葉ハ、非常ニ其ノ一國ノ産業ノ振興、非常ニ榮エルト云フコトヲ考ヘテ、完全雇傭ト云フヤウナ問題ハ、チヨツト面倒ダト思ヒマス、社會保障ノ問題ハ斯ウ云フ日本ノヤウナ状態ニ於テモ、矢張リ最低生活ヲ維持スルコトニ最善ノ努力ヲスルト云フ意味ニ於テ、社會保障ト言フコトガ出來ルノデアリマス、サウ云フ制度ヲ又布クベキモノダト云フ風ニシテ、目下此ノ憲法ガ出來マスコトヲ前提トシテ、其ノ線ニ向ツテ進ミツヽアルト云フヤウナ現状デゴザイマス
○牧野英一君 私ガ伺ヒマシタ趣旨ハ是ハ厚生大臣ハ此ノ席上ヘ、他ノ方面ガ御忙シイノデオイデヲ願フコトガ出來マセヌデゴザイマシタガ、牧野ハ妙ナ羽目カラ、ソレ程ヤカマシク言フ積リハナカツタノデアリマスガ、用語ノ詮議ト云フコトヲエラク申立テマシテ、サモ私ガ特別ノ國語學者ノヤウナ顔ヲシナケレバナラヌコトニナリマシテ恐縮ニ存ジテ居リマスルガ、サリナガラ從來法律勅令ノ立案ト云フヤウナコトニ參加シタ長イ間ノ經驗ニ依ツテ、兎角文字ヲイヂクル癖ガアリ、併シナガラ文字ノ問題ガ、決シテ末梢的ナ文字ノ問題デナク、思想ノ大原則ニ連ナツテ居ルト云フコトヲ絶エズ考ヘテ居ルノデス、ソレデ憲法改正案ノ第一條カラ此ノ議論ヲ致シテ居リマスルノデ、此ノ場合ニ於キマシテモ、生活ヲ營ム權利、權利ノ方ノハ、實ハ御説明デ滿足致シテ居リマスルシ、私モサウ云フ積リデ居リマス、「ドロア・ア・レグジスタンス」ト云フ意味、サウ云フ意味デアリマスルカラ、權利ト云フ言葉ヲ御承知ノヤウニ理解スルコトニ付テ、私疑ヲ持ツテ居リマセヌガ、又生活ヲ營ム權利ト云フコトモ御説明ノ通リダト思ヒマスルケレドモ、併シ言葉カラ言ヘバ、生活ヲ營ム權利ト云フコトハ、營業ヲ營ム權利ト云フノト同ジヤウナコトデ、文法デ言ヒマスト二格ニナリマス、是ハ御趣旨ノヤウナコトニナリマスノデ、二格デハ日本語ガ通リマセヌ、三格ニナル、「フランス」語、若シクハ「ドイツ」語デ言ヘバ三格ニナル言葉ヲ使ツテ戴キタイノデス、ソレハ言葉ダケデス、其ノ程度ニ於テ言葉ダケデス、併シナガラ、ソレガ直チニ修正案二十七條ノ理解ニ及ブノデス、其ノ理解ニナルト云フト、不幸ニシテ厚生大臣ト私トノ間ニ行キ違ヒガアリ、此ノ行キ違ヒハ相當ニ大キイ違ヒデアル、私ハ本會議ノ席上デ、勞働調整法案ニ付テ勞働者側ノ利權的服從ノ義務ト云フコトヲ論ジマシタ、ソレニ付テハ、厚生大臣モ或程度迄御同情ヲ下スツタヤウニ拜聽致シマシタガ、此ノ義務ト云フコトガソレヲ超エテ場合ニ依レバ私有財産權ガ公共ノ福祉ノ爲ニ意外ナ制限ヲ免レナイト同ジヤウニ、公共ノ福祉ノ爲ニナラバ、ドウ云フコトガ起ルカ知レヌト云フコトヲ考ヘテ置カネバナラヌ、其ノ點ニ、此ノ勤勞ノ義務ヲ負フト云フコトニ意味ガアリ、勤勞ノ義務ヲ負フト云フ意味ニ對應シテ、勤勞ノ權利ト云フモノハ、勤勞ニ對シテ、即チ「フランス」語デ「ドロア・オー・トラヴァイ」ト云フコトニナラナケレバナラナイ、斯ウ云フ議論ニナリマスルノデス、是ハ厚生大臣ノ心持、又金森國務相ノ心持ハ分ツテ居リマスカラ、是以上御辯明ハ求メルト云フヤウナ態度ニハ出ル積リハアリマセヌガ、併シ私ガ斯樣ニ申上ゲルコトガ、ドウゾ御參考ニナレバ有難イ、斯ウ思ヒマス、結局厚生大臣ノ御仕事ニ對シテ私モ理解ヲ持チ、ソレデ進ンデ行クヤウニ私ダケノ立場トシテ御奉公シタイ、斯ウ思ツテ居リマスノデ反對スル趣旨デハゴザイマセヌ、ソレカラ私ノ考デハ二十五條第二項ハ、第一項ヲ受ケテ其ノ適用ノ一面ヲ成シタモノト、ソレデ理解スルノデアリマスガ、唯社會保障ト云フ言葉ガドノ位熟シテ居ルカ、英語デ言ヘバ「ソシアル・セキユリテ」、「フランス」語デ言ヘバ「プレヴォアイヤンス・ソシアール」、是ハ法律語ニナツテ居リマス、ケレドモ、日本ノ法令ニ外ニ用途ガアツタモノカドウカ、是ダケデ果シテ世ノ中ノ人ガ社會保障ハドウ云フコトカト云フコトヲ、此ノ法律ノ運用ニ間違ヒナイ位ニ理解スルモノカト云フコトニ付テ疑ヲ持ツタ譯デ、御尋ネ申上ゲタノデアリマスルガ、御苦心ノ言葉デハゴザイマス、併シナガラ、相當ニ説明ヲ要スル言葉デアラウカト、斯ウ思ツタ次第デアリマス、其ノ邊デ私ノ其ノ點ニ關スル質問ヲ打切リマス、第二十七條ニ移ツテ一ツ御伺ヒ致シタイノハ、勤勞ノ權利及ビ義務ト云フコトニ付テハ、厚生大臣ト私トハ見解ガ違フノデゴザイマスカラ、是以上御願ヒスルト云フコトハ出來マスマイ、若シ幸ニ「勤勞の權利」ト云フコト、「義務を負ふ」ト云フコトヲ、牧野ノヤウナ意味ニ理解シテモ宜イト云フ思召デオアリニナルナラバ、之ニ付テ將來ドウ云フ御抱負ガオアリニナルカト云フコトノ一端ヲ御伺ヒシタイト思ツタノデゴザイマス、既ニ生存權ニ付テ、今日勞働調整法及ビ生活保護法ト云フモノヲ拜見致シマシタ、是ハ更ニ一歩ヲ御進メニナラネバナラヌ譯デ、ソレニ付テ御抱負モ伺ヒタイト、先程申シマシタノデアリマスガ、同ジヤウニ勤勞ノ權利義務ニ付テ、厚生大臣トシテハ相當ニ大キナ御見透シガオアリニナルコトト存ジマシタノデゴザイマスガ、ドウゾ伺ヘレバ伺ヒタイ、此ノ第二項第三項ト云フモノガ相當ニ貧弱ニ出來テ居ル、如何ニモ消極的ノ規定デアリマス、其ノコトハ別ニ致シマシテモ、茲ニ勤勞條件ニ關スル基準ト云フ規定ガアリマスルカラ、基準法ニ於テ、ソレヲ御示シニナツテ居ル、色々ノ各種ノ政策ヲ意味スルモノト考ヘマス、ソレデ私トシテハ、質問ヲ超越シテ相濟ミマセヌガ、二十五條ノ運用ニ付テモ、毎々牧野ハ、此ノ憲法ノ審議ニ付テ申シマスヤウニ、モツト積極的ニ進ンデ大キクスル、即チ我々ノ自由ヲ護ルト云フ所カラ超エテ、自由ヲ擴充スルト云フ考ガ望マシイト思フノデアリマスガ、先ヲ急ギマスカラ、私ノ意見ヲ述ベテ御答ヘ下サレバ有難ク思ヒマスガ、金森國務相ノ先程ノ御答辯デ、又恐ラクハ厚生大臣トシテ同ジヤウナ御意見デオアリニナラウト思ヒマスカラ、此ノ位ニ致シテ置キマス、唯一ツ小サナコトヲ御願ヒ致シマス、「兒童はこれを酷使してはならない。」トアリマスガ、是ハ特ニ第三項ニ御設ケニナツタ理由ハ、是ハ第二項ノ後ニ御續ケニナツタラ如何ナモノデゴザイマセウカ、英譯ニハ何カソンナ風ニナツテ居ルト思ヒマスガ、サウ云フ風ニ心得テ居リマス、是ハ基準法ノ一ツノ適用デゴザイマセウ、ソレカラシテ「酷使してはならない」トアリマスガ、酷使ト云フコトハ、身體的ニ酷使シテナラヌノデゴザイマスガ、身體的ニ使用スルコトハ當リ前ニヤツテ居ルガ、賃金ハ意外ニ安イト云フヤウナ場合ニハ、酷使ト云フ概念ニ入リマスカドウカ、英譯ヲ拜見スルト、「エキスプロイテーション」ト云フ言葉ガ使ツテアリマスノデ、相當ニ勞働問題ニ普通ニ廣ク行ハレテ居ル文字、是ハ日本語ニ現ハス時ニ、我我ガ困ツテ色々ニ飜譯シテ居ル文字デアリマスガ、今度新タニ立法サレル時ニハ、チヨツト「エキスプロイテーション」ト云フ言葉トハ違ツタ酷使ト云フ言葉ヲ御使ヒニナツテ居リマスノデ、モツト率直ニ申シマスト兒童ハ之ヲ不當ニ酷使シテハナラヌト云フ位ノ包容ノ大キナ文字ヲ御使ニナツテハドウカ、質問ヲ離レテ手前ノ意見ヲ先ニ申上ゲマシタガ、私ノ意見ノ御批評旁々思召ノ程ヲ伺ツテ置キタイ
○國務大臣（河合良成君） 兒童ノ酷使ト云フコトニ關シマシテハ、チヨツト茲ニ法律ヲ持チマセヌケレドモ、從來カラモ之ニ類似ノ用語ヲ使ツタ法規ガアツタト思ツテ居リマス、ソレデ最近ハ餘程此ノ事實ハ減リマシタケレドモ、工場法實施前後カラ大分幼年工、少年工ノ問題ガ長イ間、問題ニナツタノデアリマシテ、サウ云フ歴史的ノ事實モアリマシテ、ソレデ斯ウ云ウ酷使ト云フ言葉ヲ使ツテ居ルノヲ、其ノ儘此處ニ使ツタノダ私ハサウ云フ風ニ解釋スル次第デアリマス
○牧野英一君 私ノ質問ヲ申上ゲタノモ、少シ徹底シナイ點ガアリマシタカモ知レマセヌガ、マア兎ニ角、普通ニ考ヘル酷使ノ程度デアル、マア是以上色々御伺ヲ立テマシテモ致シ方ガゴザイマセヌ、私ハ何トカ、モウ少シ包容ノ廣イ、子供ヲ身體的ニバカリデナシニ、社會的ニモ精神的ニモ道徳的ニモ酷使ヲシテハナラヌ、サウ云フ意味ノ言葉ヲ使ツテ欲シイ、又「エキスプロイティーション」ト云フ言葉ニハ、其處迄ノ意味ガ入ルノデハナイカ、子供ハ八時間シカ勞働サセヌケレドモ適當ナ、修養ヲスルトカ、其ノ他保護ヲスル途ヲ缺クトカ、爲ニ子供ガ不良化スルト云フコトガ隨分アリマス、又子供ハ八時間シカ使ハヌケレドモ、オ金ハ幾ラモヤラナイ、是ガ子供デアル爲ニ、單ニ子供ノ身體ガ害セラレルト云フコトデナシニ、更ニ越エテ不良少年ノ問題ニ及ブ、其處ニ私、自分ノ專門トシテ、年來考ヘテ居ル一端ガ現ハレテ參リマスノデスガ、酷使ト云フ言葉ダケデ宜イカドウカト云フコトハ、尚一ツ御詮議ヲ願ヒタイト思ヒマス、次ニ二十八條ニ移リマスガ、「勤勞者の團結する權利及び團體交渉」云々の權利ト云フモノト、二十七條ノ「勤勞の權利」ト云フモノ、厚生大臣ノ御解釋ニナル「勤勞の權利」ト云フモノトハ、全ク違フモノデゴザイマセウカ、相交渉シテ居ルモノデゴザイマセウカ、概念ノ定メ方ニ、聊カ當惑シタノデゴザイマス、其ノ模樣ヲ一ツ伺ツテ置キタイ
○國務大臣（河合良成君） 二十七條ノ「勤勞の權利」ト云フコトハ國民全ヲ體包括的ニ申シマシテ、ソシテ又勤勞者デナイ者デモ、勤勞ノ權利ヲ有シ得ルノデアリマス國民全體ニ付テノ觀念デアリマスルガ、二十八條ノ問題ハ、是ハ勤勞者ニナツタ者ノ特別ノ權利ニナツテ居ルト思ヒマス、ソレデスカラ其處ニ關係ガアルト申セバ關係ガアリマスケレドモ、別ノ權利ヲ定メタモノダト言ヘバ、ソレモ言ヘル、サウ云フ風ニ解シテ居リマス
○牧野英一君 サウスレバ先ヅ二十七條ハ、原則的ニ廣ク規定シタノデアリ、其ノ中ノ特殊ノ場合ヲ特ニ明カニスル爲ニ二十八條ガ設ケラレタノデアル、即チ團結權ト云フモノハ勤勞權ノ一ツノ形トシテ認メラレタモノデアル、コンナ風ニ伺ツテ宜シウゴザイマセウカ
○國務大臣（河合良成君） 國民ノ勤勞權ノ一ツノ形ト申スコトハ、ドウ云フ意味デアリマスルカ、チヨツト私ニハハツキリ致シマセヌガ、結局國民全體ハ勤勞權ト云フモノヲ持ツテ居ル、勤勞者ト云フ特別ナ形ニナツタ者ハ、團結權ト云フモノニ對シテ特別ナ保障スルト云フ風ナ譯デアリマスルカラ、御質問ノ趣旨ニ依リマシテ
○牧野英一君 分リマシタ誠ニ私ノ伺ヒ樣ガ惡カツタノデゴザイマス、國民ハ勞勞ノ權利ヲ有スト云フコトハ、唯廣ク國民ハ自由ヲ有スト云フダケノ一ツノ面ヲ寧ロ現ハシタノデ、二十八條ニ至ツテハ、特ニ勤勞ヲシテ居ル者ノ權利ト云フモノヲ現ハシタ、斯ウ云フ風ニ伺ツテ宜ウゴザイマスカ
○國務大臣（河合良成君） 私ハ左樣ニ解釋致シマス
○牧野英一君 サウスレバ、寧ロ私ハ勤勞者ニ付テノ特別ノ規定デアルナラバ、勤勞者ニ付テ二十八條ガ出來タナラバ、二十七條ノ二項三項モ、二十八條ノ方ニ入レル方ガ本當デナイカト思ツタノデアリマス、ソレハ技術ノ問題ニナリマスガ、私自身トシテハ、其ノ間ハ寧ロ境ヲ撤回致シマシテ、一緒ニシテ、賃金、其ノ他ノ基準法モ決メルガ、團體交渉權モ決メル、區別ヲシナイ方ガ物事ヲ理解スルノニ都合ハ好クハナイカト、斯ウ思ツタノデアリマスガ、尚私トシテ考ヘテ見マスト、立法ノ技術トシテ區別ヲナサイマシタ所ニ、稍々疑ヲ招クヤウナモノガアリハセヌカト差當リ思ヒマシタガ、尚一ツ今ノ御趣旨ニ基イテ考ヘ直シマセウ、私ダケノ考ヲ申シマスレバ既ニ勤勞ノ權利ト云フコトガ一般的ニ認メラレ、其ノ勤勞ノ權利ノ「アップリシエーション」トシテ團結權ガ認メラレルト致シマスト云フト、團結權ヲ超エテ更ニ勤勞ノ權利ノ發揚ガナサレネバナラナイ、茲ニ私ノ主張ノ要點ガアルノデス、團結權ヲ超エテモツト大キナ權利ガアリ、又ソレニ隨伴スル所ノ社會的國家的義務ガアル、斯ウ云フ所ニ重キヲ置イテ考ヘテ居ルモノデアリマスカラ、二十五條、二十六條ノ理解ノ仕方ガ、河合厚生大臣ハ、金森國務相ノ御話ノヤウニ、地味ニ出來ルダケ狹イモノニ憲法ヲ御考ヘニナリ、私ハ餘程廣ク大キク理解シテ行カウト云フ心持ニ違ヒガアルノデス、他ノ言葉ヲ以テ申シマスレバ、此ノ法律ハ、個人ノ權威ヲ尊重スルト云フコトニ非常ニ重キヲ置イテアル、斯ウ云フ風ニ今朝來、緒大臣ノ説明デゴザイマス、勿論サウデハアリマスガ、ソレト同時ニ、各國民ノ社會的國家的義務ト云フモノ、ソレニ對スル又國家ノ義務ト云フモノ、サウ云フモノコソ、本當ニ此ノ新ラシイ憲法ニ於テ新ラシク規定サレテ居ル筈ノモノデナケレバナラヌ、斯ウ私ハ理解致シマスノデ、同ジヤウナ文句デアツテモ、自ラ當局ノ御考ト私ノ考ノ間ニ距離ガ出テ來ルコトニナルノデスガ、私ノ心持ダケハ、ドウゾ御推察置キ下サイ、二十七條ニ對スル私ノ質問ハ是デ終リマス
○澤田牛麿君 只今牧野委員ノ御質問ガ、大分先ニ進ンダ方ノ事柄ニ付テアリマシタガ、私ノハ逆戻リシテ、極ク「プリミティーブ」ナコトヲ御聽キスルノデ、甚ダ濟ミマセヌガ、極ク初歩ノ質問ヲ申上ゲタイト思ヒマス、私ハ此ノ勤勞ノ權利義務ト云フコトノ大體ノ御説明ヲ伺ヒタイト思ヒマス、是ハドウ云フコトヲ指スノデセウカ、實ハ能ク了解シテ居ラヌノデ、極メテ初歩ナ質問ヲ申上ゲマス
○國務大臣（河合良成君） 第二十七條「すべて國民は、勤勞の權利を有す」ト云フ意味ハ、結局モウ極ク端的ニ申シマスレバ誰デモ働クコトガ出來ルノダ、働クコトヲ妨グルヤウナコトヲシテハナラヌト云フ意味ニ私解釋シテ居リマス、ソレカラ義務ト云フノハ、働カネバナラヌノダト云フコトヲ、結局勤勞者ガ矢張リ協同生活ノ必要上、働クコトヲ矢張リ自覺シナクチヤナラヌノデアルト云フヤウナ風ニ、極ク通俗的ニ申シマスレバ、サウ云フ風ニ解釋シテ居ル次第デアリマス
○澤田牛麿君 只今ノ御説明ニ依リマスルト、チヨツト權利ト云フ言葉ノ解釋ニナルカモ知レマセヌガ、私共ノ極メテ幼稚ナ法律思想カラ申シマスト、權利ト云フモノハ誰カニ對シテ何事カヲ主張スル内容ヲ含ンダモノガ、其ノ權能ヲ含ンダモノガ權利デアルト思ヒマス、只今大臣ノ御説明ニ依リマスルト、チヨツトサウ云フ點ニ於テ今迄我々ノ考ヘテ居ツタ權利ト云フコトト少シ違フヤウナ感ジガ致スノデアリマスガ、勤勞スル權利ト云フノハ一體公法上ノ權利デアルカ、私法上ノ權利デアルカ、サウ云フコトハ學問上ノコトデアルカラ強ヒテ御説明ヲ願フ必要ハアリセヌガ、誰ニ對シテ之ヲ主張スルカ、ドウ云フコトヲ主張スルノデアルカ、其ノ内容ガ分ラヌト云フト、勤勞ノ權利ノ意味ガ分ラヌト思フノデアリマスガ、只今ノ大臣ノ御説明ニ依リマスルト、誰モ働カナケレバナラヌト云フヤウナ、働クコトヲ妨ゲラレナイト云フヤウナ消極的ノコトデアリマスルト、我々ノ今迄極ク初歩的ニ解釋シテ居ル權利ト云フコトトハ、チヨツト範圍ガ違フヤウニ思フノデアリマスガ、權利ト言ヘバ、何カ主張シ得ル何カヲ持タナケレバ、唯働クコトヲ妨害ヲサレナイト云フダケデハ、ソレヂヤ權利ト云フ觀念ニ少シ不十分ヂヤナイカト思ヒマスガ、モウ少シ御説明ヲ願ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（河合良成君） 權利ト云フ文子ハ、實ハ此ノ條文ダケデアリマセヌデ、第十一條ニモ、少クトモ其ノ觀念ガ出テ居リマス、ソレカラ第十二條ノ「この憲法が國民に保障する自由及び權利」ト云フヤウナ風ニモ出テ居リマスルシ、是ハ私實ハ此ノ委員會ニハ初メテ出テ參リマシタノデ、總テ是迄ノ進捗ノ樣子ヲ知リマセヌカラ、或ハ適當ナ答辯ヲ出來ナイノカモ知レマセヌガ、多分金森國務大臣カラ、斯ウ云フ點ニ付テ十分ナ御説明ガアツタコトト思ヒマス、ソレデ權利及ビ自由ト云フ、此ノ憲法ニ於ケルモノハ、民法上ノ普通ノ債權、債務ト云フヤウナモノト多少趣ガ違ツテ居ルノデハナカラウカ、ソレデ此ノ權利ニ對シマシテハ、其ノ權利ヲ行フコトヲ妨害シチヤナラヌト云フヤウナ、義務ト云フモノヲ對象ニ考ヘルト云フヤウナ意味ニ於ケル權利デアル、消極的ト申シマスカ、積極的ニ民法ノ規定ニ於ケル權利トハ多少觀念ガ違ツテ來ルヤウニ、私ハ解釋シテ居リマス、若シ間違ツテ居リマシタナラバ、金森國務大臣カラ御説明ガアルコトト思ヒマス
○澤田牛麿君 只今ノ御説明ニ依リマスルト、權利ト云フコトト自由ト云フコトノ間ニ區別ノナイヤウニ聞エマスガ、サウ云フ意味デアリマセウカ、サウスルト權利ト云フ字ヲ使ツテモ、自由ト云フ字ヲ使ツテモ同ジコトダト云フ意味デゴザイマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 斯樣ナ憲法ノ所謂基本的人權保障ノ規定ト云フモノハ、大凡、沿革的ニ諸國ノ間ニ發達シテ居ルモノデアリマシテ、國々ニ依ツテ特色ハアリマスルケレドモ、又時代ニ依リマシテ變遷ハアリマスルケレドモ、大凡中味ニ持ツテ居ル心持ハ一貫シテ居ルモノト考ヘテ居リマス、從ツテ此ノ第三章ノ標題ハ「權利及び義務」トアリマスルケレドモ、中ニ「自由」ト云フ言葉ヲ用ヒマシテ、其ノ自由ガ、此處ニ言フ權利ニ類似ト言ヒマスカ、同ジ意味ヲ違ツタ言葉デ現ハシテ、前後ノ關係カラ言葉ニ味ヲ持タセルト云フ趣旨ノモノモアルモノト存ジテ居リマス、ソコデ今御尋ニナリマシタ權利ノ觀念デアリマスルガ、厚生大臣ガ言ハレマシタ如ク、又一兩日前ニ、私ガ佐々木委員ニ對シテ、其ノ角度カラデハアリマセヌケレドモ、アラ方申上ゲマシタ如ク、此處ニアリマスル權利義務ノ本體ハ、國ト個人トノ間ニ於ケル基本的ナ關係ヲ明カニスルト云フ趣旨ニ考ヘテ居リマス、從ツテ何トカノ權利ヲ有スト云フコトガ國民ノ側ニ向ケテ規定セラレテ居リマスナラバ、ソレハ國家ニ對シマシテ、斯クノ如キモノノ存スルコトヲ妨グルコト勿レト、要求スル一ツノ意思ノ力デアル、廻リ諄ク申シマスルト、略々其ノ意味ニ當ルヤウナ氣ガ致シマシテ、確カ學者ガ「ネガティフエル・シュターツス」トカ何トカ云フ言葉ヲ用ヒテ居リマスガ、是ハ妨グルコト勿レト云フ意味ニ用ヒテ居リマシテ、所々、此ノ憲法ニ使ツテ居リマスル文字ガ、多少變形ヲシテ説明ヲシナケレバナラヌ點モアリマセウケレドモ、基本ノ點ハ左樣ナ意味デアリマス
○澤田牛麿君 チヨツト今ノ御説明ハムヅカシクテ、私共初歩ノ者ニハ分リ兼ネマスガ、大抵、權利デアルト何カ相手ガアルコトデ、例ヘバ選擧權ト云フヤウナモノガアル、投票ナラ投票ヲスルト云フコトノ行動ノ權利デアリマスガ、此ノ勤勞ノ權利ト云フモノガナクテ、今御話ニ依ツテ、國家ガ之ヲ妨害シナイト云フコトダケガ權利デアルヤウニ聞エルノデアリマス、ソレハ一體勤勞ト云フコトヲ個人ガ欲スル場合ニ、國家ガ妨害スルト云フヤウナコトガチヨツト想像ノ出來ナイ事柄デアルヤウニ思フノデ、此ノ權利ト云フノハ、外ノ條文デハ大體想像ノ出來ルモノデゴザイマスガ、此處ダケハ非常ニ想像ガムヅカシイノデアリマス、ドウモ今ノ御説明デハ、何カヲ主張スルト云フ積極的ナ或モノガアルノデナクテ、國家ガ妨害スルコトノ出來ナイ、國家ニ妨害サセナイト云フコトガ權利ダト、言フノデアリマスルケレドモ、其ノ妨害スルト云フコトハ何ヲ妨害スルノデアルカ、個人ガ勤勞シタイト云フコトヲ、或個人ニ向ツテ申出タ場合ニ、國家ガソレヲ妨害シテナラヌト云フ意味デアリマセウカ、ドウモマダハツキリ其處ノ所ガ分リマセヌ
○國務大臣（金森徳次郎君） 御尋ネヲ受ケマシテ誠ニ私ノ説明ガ惡クテ恐縮ニ存ジマスルガ、權利ト云フ言葉ハ可ナリ色々ナ意味ニ使ハレテ居ルノデアリマス、先ニ仰セニナリマシタ選擧權ト云フヤウナ言葉デモ、誰カニ向ツテ請求スルトカ、サウ云フ意味ノモノデハナイカモ知レマセヌデ、ハツキリ相手ヲ掴ムコトノ出來ナイモノデアリマス、各々權利ニ依リマシテ、其ノ意味ハ違フモノト存ジテ居リマス、斯樣ナ此ノ勤勞ノ權利ト云フモノニ付キマシテ、ソレヲドウ云フ風ニ正確ニ申スコトガ出來ルカト云フコトハ、是ハ學問上ノ問題トナラウト存ジテ居リマシテ、斯樣ナ場合ニハ差控ヘル方ガ宜イトハ思ヒマスルガ、先ニ牧野委員ガ含蓄ヲ含メテ御質疑ニナリマシタ、其ノ御考ニ入ツテ居ル勤勞ノ權利ト云フモノト、私ノ今申シマシタヤウナ勤勞ノ權利ト云フモノハ若干、或ハ牧野委員カラ仰セラレマスレバ、相當幅廣キ差ガアルモノデハナイカト存ジテ居リマス、私共ノ考ガ古イノカドウカ知リマセヌガ、此ノ三章ニ盛リ込ンデ居リマス國民ノ權利ハ、凡ソ三通リ位ニ分ケテ考ヘテ居ルノデアリマシテ、一ツハ、國家ニ對シテ消極的ナル態度ヲ要求スル權利デアリマス、妨ゲテハナラヌゾ、シテハナラナイゾ、斯ウ云フコトヲ要求スル權利デアリマシテ、例ヘバ言論ノ權利、宗教ノ權利、是ハ權利トハ書イテアリマセヌガ、一種ノ自由權デアリマセウ、ソレハ國家ニ對シテ、自分達ガ宗教ヲ信ズルコトヲ妨ゲルコト勿レ、自分達ガ言論スルコトヲ妨ゲルコト勿レ、斯ウ云フ主張ヲ内容トスルモノト思ヒマス、勿論斯樣ニ法律的ニ冷ヤカニ分析致シマスレバ、言葉ノ持ツテ居ル味モ何モスツカリ消エテシマヒマシテ、甚ダ面白クナイモノニナリマスルガ、強ヒテ要點ヲ申上ゲマスレバ、サウ云フコトニナラウト思ヒマス、又或場合ニハ、國家ニ對シテ何カ積極的ニモノヲヤツテ呉レト云フコトヲ求ムルヤウナ權利モアリマセウ、先ニアリマシタ請願權ノ如キハ、或意味ニ於テ左樣ナ意味ヲ持ツテ居リマセウ、請願書ヲ出シタ限リハ、國家ハ之ヲ見テ考ヘナケレバナラヌゾ、斯ウ云フ積極的ナ力ヲ持ツテ居ル意味ニ於テ、左樣ナ内容ト言ヒ得ルノデアリマス、又其ノ外ノ權利ニ於キマシテハ、サウ云フ特ニ相手ヲ考ヘナイデ、何トカ積極的ニ國家ノ内容ニ嵌リ込ムト云フヤウナ權利モアルト思ヒマス、例ヘバ被選擧權ヲ持ツテ居ツテ、其ノ基礎ニ於テ國家ノ公務員トナレルト云フヤウナノハ、何トモ請求權デハナクテ、自分ガ國家ノ公務員トナレルゾト云フ、何カ創設的ナ意味ヲ持ツテ居ルヤウニ存ジマス、左樣ニアラ方權利ノ性質ヲ分ケテ考ヘテ見マシテ、箇々ノ勤勞ノ權利ト云フモノガドノ部類ニ屬スルカト云フコトニナラウト思ヒマス、ソコデ私共ハ、是ハ勤勞スル權利デアル、國民ハ全部ノ力ト申シマスカ、働カムト欲スレバ働クコトノ出來ル筈ノモノデアリマス、故ニ國家ガ之ヲ積極的ニ自ラノ力デ妨ゲルコトモイケナイシ、又國家ガ法律、秩序ヲ作リマシテ他ノ者ヲシテ之ヲ妨ゲシメテモイケナイ、又若シ是ガ注意ガ行キ届クナラバ、自然ニ他ノ者ガ妨ゲマスルヤウナ場合ニハ、國家ガ乘リ出シテ其ノ妨害ヲ取ツテヤルヤウニシテヤラナケレバナラナイ、斯ウ云フ内容ヲ含メマシテ、此處ニマア勤勞ノ權利ト私共ハ意識シテ居ル譯デアリマス、サウスルト、斯樣ナ勤勞ノ權利ヲ設ケル實益ガ何處ニアルカト云フコトニナリマス、ソレハ又例ヲ豫想シマスレバ、強ヒテ考ヘレバ考ヘラレナイコトハナイノデアリマシテ、或人々ニ對シテ勤勞ヲ禁止スルヤウナ、サウ云フ者ガアリマスレバ、或ハ又何等カ婉曲ナル方法ヲ以テ、勤勞ノ出來ナイヤウニ政治的ニ引ツ張ツテ來ル、斯ウ云フコトハ確カニ勤勞ノ權利ヲ妨ゲルコトトナラウト思ヒマス、ノミナラズ、斯樣ナ規定ヲ憲法ニ置キマスレバ、法律的ニ言ヘバ簡單デアリマスルガ、政治的ニ其ノ周リニ幾多ノ雰圍氣ガ生ジマシテ、國家ハ政治ヲ行ヒマスル上ニ、必ズ此ノ權利規定ノ周リニ於テ適切ナル考慮ヲ廻ラサナケレバナラヌト思フ譯デアリマス、是ガ一番實際ニ於テハ大事デアリマシテ、國民ハ勤勞ノ權利ヲ持ツテ居ルト云フコトニナリマスレバ、勢ヒ國家ハ政治的ニ其ノ勤勞ノ權利ヲ充實サセテ行ク一ツノ政治的義務ヲ持ツテ來ルコトト思フノデアリマス、先程牧野委員ガ賃金、就業時間、或ハ第二十八條ノ團結權等ニ付キマシテ婉曲的ニ、多分ニ原案ニ對スル御非難ノ意味ヲモ含メテ御尋ニナツタト思ツテ居リマスガ、原案者ノ建前ニ於キマシテハ、勤勞ノ權利ハ飽ク迄自由權デアル、併シ其ノ周リニ、更ニ補充的ニソレヲ保障スルヤウナ規定ヲ若干憲法ニ織リ込ンデ居ル、助ケテ行キマシテ、ダカラ勤勞ノ權利ソレ自體ニ、私ノ申シマシタ範圍ニ止マルケレドモ、更ニ賃金ノ制度、就業時間ノ制度、或ハ勞働者團結權ノ制度ト云フコトヲ憲法ニ織リ込ンデ、ソレデ以テ勤勞ノ權利ガ活キテ働ケルヤウニ、補強的ナ國家ノ働ヲ要求シテ居ル譯デアリマス、更ニ又、今ノ社會保隙ノ規定等ガアリマシテ、モウ一層背後ニ於テ必要ナ程度ニ勤勞ノ權利ノ實體ヲ茲ニ充實サセテ行クト云フ考デアリマス、ソコデ長クナリマシタガ勤勞ノ權利ト云フコトハ、法律的ニ言ヘバ極メテ簡單デアリマス、併シ之ヲ取圍ム所ノ憲法ノ他ノ規定ハ、又ソレヲ取圍ム政治的ナ意味合ニ依ツテ、是ガ意味深キ權利トナルコトト考ヘマス
○澤田牛麿君 是以上ハ、又含ツテモ同ジコトデアリマスカラ、私ノ質問ヲ止メマス
○小山完吾君 私ハ衆議院修正案ノ二十七條、原案ノ二十五條ノ規定ヲ、極メテ簡單ナコトヲ伺ヒタイト思フノデアリマス、或ハ私ハ遲參致シマシタ爲ニ、牧野委員ト金森國務相トノ間ニ、既ニ御解説ニナツテ居ルカト思ヒマス、私ハ此ノ二十七條、衆議院デ修正ノ二十七條ヲ讀ミマシテ、勤勞ノ權利迄ハ理解出來ルノデアリマス、是ハコンナコトハ書イテナクテモ宜イコトト思ヒマスケレドモ、近世ノ是ハ傾向デ、勞働ハ權利ダト云フコトデ、一種ノ人格、生活權ノ要求ト思ヒマスカラ、是ハ有ツテモ宜イト思ヒマスガ、併シ義務ヲ負フト云フコトハ、一體ドウ云フコトニナルノデアリマセウカ、ドウ云フ積リデ、此ノ權利ヲ有スルト云フ上ニ、義務ヲ負フト云フコトヲ附加ヘタノカ、一體其ノ義務ト云フモノノ内容ハドウ云フコトニナルノデアリマセウカ、ト云フノハ、是ハ甚ダドウモ法律ヲ知ラナイ素人ノ質問ト御笑ヒニナルカモ知レマセヌガ、義務ヲ負フト云フコトハ、國民ニ取ツテソレダケノ詰リ國家ノ方ナリ、或ハ社會全般ノ方カラ要請スル權利ガアルト云フコトニナル譯デアリマスガ、勤勞ト云フ文字ノ中ニハ、精神勤勞モアリマセウシ、勞働勤勞モアリマセウ、必ズシモ勤勞ト云フ文字ハ有形ノ力ヲ以テ働ク所ノ其ノ勤勞ノミヲ意味シテ居ナイコトト思ヒマスガ、此ノ義務ヲ負フト云フコトハ、餘程用心シナイト云フト、我々ノ基本權ヲ國家ニモ害セラレ、又心ナキ民衆ニモ害セラレル、我々ノ基本權ト云フモノガ害ヲ受ケルト云フコトガ生ズルノデアリマス、現ニ實例ヲ以テシマシテモ、先達テ總論ノ時ニモチヨツト觸レテ居ツタノデスケレドモ、此ノ個人ノ基本權ヲ理解シナイ所ノ民衆ト云フモノハ、隨分我々ノ「プライベーシー」ニ對シテ無用ナ干渉ヲスル、強制ヲスルト云フコトガ、文明ノ程度ノ低イ社會ニ於テ、往々有リ勝チデアリマス、殊ニ戰爭中ノ如キ、例ヘバ町會ト云フヤウナモノハ、我々ノ意見ヲ代表シテ、サウシテ國家ノ爲ニ協力スルト云フ機關デナケレバナラナイノデアリマスケレドモ、日本ノ民衆ノ教育ノ程度ト云フモノガ低イモノデスカラ、町會ト云フモノヲ作レバ、直グ區役所ノ知識ナキ小役人ノ言フコトヲ其ノ儘押シ附ケルト云フコトガ起ル、例ヘバ義務ヲ負フト、勤勞ノ義務ヲ負フト云フコトハ、ドウ云フ事柄ニナツテ現レテ來ルカト云フコトハ、私共ハ自分ノ爲ニ勤勞ヲ毎日シテ居ツテモ、其ノ勤勞ハ、必ズシモ山ニ行ツテ松ノ根ヲ掘ルト云フ勤勞デハナイ、又開拓ノ爲ニ山ニ行ツテ木ヲ伐ルト云フ勤勞デモアリマセヌ、併シナガラ國家ノ爲、又自分ノ爲ニ勤勞ハ一日モ休ムベキコトデナイ、然ルニモ拘ラズ、今開墾ガ必要ダト云フコトニナレバ、村中デ、町中デ行ツテ、サウシテ山ノ開墾ヲセナケレバナラヌ、アナタ出テ呉レト、斯ウ云フコトニナル、又松ノ根ヲ掘ツテ松根油ヲ作ツテ、是デ戰爭スルナンテノハ恐ルベキ無智ナ話デアリマスケレドモ、併シ其ノ當時ノ指導者ノ方針トシテハ、之ヲヤラセルト云フコトデ、サウスルト私共ニ向ツテチヤント自己ノ勤勞ヲシテ居ル者ニ向ツテ、山ニ一緒ニ行ツテ松ノ根ヲ掘レ、或ハ女ダケノ世帯ニ對シテ、女ニ對シテモ一世帯持ツテ居レバ、ソレヲ強制スルト、斯ウ云フヤウナコトヲ言ツテ來ルノデスガ、私ハ少數ノ專制ト云フコトガアルシ、多數ノ專制ト云フコトモアル、民主政治ノ世ノ中ニ於テ、多數ノ理解ナキ專制ト云フモノハ、最モ警戒シナクチヤナラヌ、サウ云フコトヲ考ヘ及ビマスルト云フト、此ノ義務ヲ負フト云フコトハ、一體其ノ内容ハ、ドウ云フコトヲ御考ニナツテ、之ニ同意ナサツタノデスカ、ソレヲ私教ヘテ戴キタイト思フノデス
○國務大臣（金森徳次郎君） 仰セニナリマシタヤウニ、此處ニ勤勞ノ義務ト云フ言葉ヲ書キマスルコトハ、若シ之ヲ錯覺シテ濫用ヲ致シマスルナラバ、社會ニ相當ノ影響ガアル虞ガアラウト考フルノデアリマシテ、ソコデ原案ヲ作リマスル時ニハ、左樣ナコトヲモ顧念ヲ致シマシテ、其ノ規定ヲ設ケナイデ置キマシタ、サウシテ憲法ノ草案ノ修正第十二條ニ於キマシテ、既ニ勤勞ノ權利アリトスレバ、之ヲ公益ノ爲ニ使ハナケレバナラナイ、濫用シテハナラナイト、斯ウ云フ風ニ働カセヨウト云フ趣旨デアツタ譯デアリマス、處ガ衆議院ニ於キマシテハ、多分ハ勤勞ノ權利ヲ先ニ考フルノハ、必ズシモ正シクナイ、勤勞ノ義務ヲモ同時ニ考フベキモノデハナカラウカト云フ御説デアラウト思ヒマス、ソコデ本文ノ中ニハ矢張リ勤勞ノ義務ト云フモノヲ書キ入レルノガ正當デアルト云フ御考ノ下ニ修正セラレタモノト思ツテ居リマス、デ、政府ト致シマシテハ、初メハ斯樣ナ規定ヲ入レルコトニ付キマシテ、若干ノ誤リ用ヒラルヽ虞ヲ心配シテ居ツタノデアリマスルケレドモ、物ノ道理ニ於キマシテハ、之ヲ入レマスルコトニ何ノ間違ヒハナイ、斯ウ云フヤウナ考ヲ以チマシテ、御同感ヲ申上ゲタ譯デアリマス、ソコデ此ノ勤勞ノ義務ヲ此處ニ入レルト云フコトハ、如何ナル趣旨ヲ持ツテ居ルノデアラウカト云フコトニナリマスルガ、豫々私カラ申上ゲマシタヤウニ、此ノ憲法ハ、積極的ニ經濟的ナ「イデオロギー」ノ孰レヲ採用スルト云フ態度ハ執ツテ居リマセヌ、大體民主政治ト云フモノニ必要ナル原理ヲ取リ、又現在ニ於テハツキリシテ居ル所ニ根據ヲ取リマスルケレドモ、ソレ以上ニ進ミマシテ、甲ノ集團ニ於テハ此ノ考ガ正當デアリトナシ、乙ノ集團ニ於テハ此ノ考ガ正當デアリトナシ、又學説ノ範圍ニ於キマシテモ、甲ノ側ノ學説ト、乙ノ側ノ學説ガアツテ、論議、今將ニ盛デアルト云フヤウナモノニ付キマシテハ、絶對必要ガナイ限リハ、是ニハ關與シナイト云フ態度ヲ執ツテ居ルノデアリマス、斯樣ニ致シマスルト、中味ガ雜駁デアルトカ、或ハハツキリシタ筋ガ通ラヌト云フ御非難ハ起リ得ルカモ知レマセヌケレドモ、國家ノ運命ヲ擔ツテ將來ノ發展ヲ豐カニ、ソレハ將來ノ問題トシテ、殘シテ、此ノ際ノ根本方策タル此ノ組織法ヲ決メマスル上ニ於キマシテハ、私ノ申シマシタヤウナ態度ガ賢明デアルト信ジタカラデアリマス、此ノ委員會ニ於キマシテ物足ラヌトカ、何トカ云フ御非難ハ、或程度迄私ハ心ノ中ニ個人的ナ主義カラシテ御賛同申上ゲルコトハアリマスルケレドモ、併シ全體ノ道筋トシテハ、今申上ゲマシタヤウナ趣旨ニ立ツテ居ルノデアリマス、ソコデ此ノ第二十七條ニ、此ノ勤勞ノ義務ヲ負フト云フ規定ヲ御入レニナリマシタ趣旨ハ、私共特殊ナル經濟的ノ「イデオロギー」、特殊ナル學問上ノ「イデオロギー」ト云フモノニ關係ナク、此處ニ入レラレマシタ文字其ノモノトシテ受ケ容レテ、御賛同ヲ申上ゲタ譯デス、何故ニ之ヲ、文字其ノモノトシテ受ケ容レルカト申シマスルト、是ハ常識的デアリマスルガ、我々個人ノ尊重ト云フコトヲ旗印ニシテ、此ノ憲法ノ原則ヲ樹テテ居リマスルケレドモ、自由、平等、是ダケデハ我々ノ社會的生活ヲ完ウスルコトガ出來マセヌノデ、少クトモ、更ニソレヲ一歩ハミ出シタ所ノ協同生活相互ニ亙ル所ノ考ヘ方ガナケレバナラヌノデアリマス、唯此ノ憲法ハ、露骨ニハソレヲ言ツテ居リマセヌガ、其ノ精神ハソレヲ取込ンデ居リマス、サウスレバ協同生活ヲオ互ニシテ居リマスレバ、オ互ニ働ク權利ガアルト同時ニ、又オ互ニ働ク義務ヲ持ツノデハナカラウカ、其ノ義務ハ何デアルカカニデアルカト云フコトデハナクテ、兎ニ角協同生活ト云フ今日ノ常識ニ於テ、オ互ニ何カ物ヲ、詰リ勤勞ヲ、自由ニシナイデ、權利義務ノ形ニ於テ、受ケ容レルダケノ心持ニナツテ居ルノデアラウ、然ラバ此處ニ義務ト云フ言葉ヲ入レルコトニハ、何等ノ過チハナイト考ヘタノデアリマス、從ツテ此處ニ義務ト書キマシタノハ、是ハ午前中ニモ申上ゲマシタガ、具體的ニ一定時間ノ勤勞ヲ仲間ノ間ニ、部落ノ間ニスルトカ、國家ニ對シテ何カ一年ニ何日ノ勤務ノ義務ヲ捧ゲルトカ何トカ、サウ云フ具體的ナ内容ヲ一ツモ考ヘテ居リマセヌ、大體サウ云フコトハ、斯ウ云フ義務ガアリト考ヘルコトガ人間ノ本義デアル、ソコデ國家ハ之ニ對シテ、此ノ憲法ニ於テ明カナ規定ヲ設ケルト云フ非常ニ廣イ意味デアリマス、ソコデ今度ハ此ノ義務ヲ現實ノ世界ニ具體的ニ致シマスルニハ、積極的ニ法律ヲ設ケナケレバナラヌト思ヒマス、現在デモ賦役ナドト云フ場合ニ、其ノ賦役ト云フコトハ、勤勞ノ義務ヲ含ンデ居リマス、既ニ法律世界ニハ左樣ナモノガ誌メラレテ居リマス、今後ノ場合ニ於キマシテモ、斯樣ナ一般的原則ヲ基礎ト致シマシテ、之ニ正當ナ判斷ヲ加ヘテ、一ツ一ツノ法律ガ出來テ、ソレデ現實ノ義務ハ出來テ行クモノト存ズルノデアリマス、斯樣ニ考ヘマスルト、是ハ物ノ考ヘ方ニ於テ尠クトモ現代ノ常識ニ照ラシテ間違ヒハナイ、而カモ實行上懸念ハナイ、斯ウ考ヘテ居ルノデアリマス
○小山完吾君 大變ニ、金森國務相トシテハ心ヲ入レタ御説明デアツタノデスガ、私ハ根本カラ思想ヲ異ニシテ居リマスカラ、是以上御聽キスルコトモナイノデスガ、私ノ考ヲ申上ゲレバ、一體此ノ二十五條ノ「すべて國民は、勤勞の權利を有する」此ノ言葉ハアツテモナクテモ宜シイコトデスケレドモ、併シ社會主義者トカ、サウ云フ方面ノ人ハ勤勞ト云フコトヲ一ツノ生活權ト認メテ居ルノデアリマスカラ、ソレハ入レテモ惡イコトハナイ、殊ニ第二項、第三項ト云フヤウナ問題ガ常ニ起ツテ來ルノデ、先刻ノ御説明ニ依リマスレバ、二項三項ハ補強的ノ規定ダト言ハレマスガ、私ノ見ル所デハ補強的ノ規定デナイ、之ヲ言ヒタイカラ、「すべての國民は、勤勞の權利を有する」、斯ウ書カネバナラヌコトニナツテ居ルモノト私ハ考ヘテ居ル、ソレデソレニ義務ヲ負フト云フ字ヲ附加ヘタト云フコトハ、政府モ、初メハ私ト恐ラクハ御考ガ同ジデアツタカラ、其ノ時ハ加ツテ居ナカツタ、只今ノ御説明ヲ伺ヒマスト、權利ノ裏ニハ常ニ義務ガアルト云フヤウナ極メテ通俗的ナ考デ、少シモ學問上、法律上ノ根據ハナイモノト言ハネバナラヌヤウナ御説明デアリマシテ、甚ダ私ハ此ノ衆議院ノ修正ヲ遺憾トスルト云フダケノ意見ヲ述ベマシテ、私ノ質問ハ是デ打切リマス
○高柳賢三君 私ハ只今迄ノ二十七條ニ關スル政府ノ御説明ヲ聽イテ、實ニ意外ニ思ツタノデアリマス、實ハ政府ノ原案モ、私初メ讀ミマシテ、原案ノ二十五條ト二十六條、是ハ勞働立法ニ關スル歴史ヲ讀ンダ人、殊ニ米國ニ於ケル勞働立法ノ違憲性ノ問題ヲ研究シタ人ニ取ツテハ、二十五條、二十六條ハ非常ニ明白ナ規定ニ思ハレタノデアリマス、一ツノ勞働立法ニ特殊ナ意味ガアルト云フ風ニ考ヘタノデアリマス、是ハ御承知ノ如ク、勞働立法ハ自由契約ニ基ク經濟組織ト云フモノデ放任シテ置イテハ、色々ナ弊害ガ走ル、ソコデ先ヅ最初ハ兒童ノ勞働ヲ禁止スル、工場ノ衞生設備ヲ良クスルコトヲ國家ガ命ズル、ソレカラ婦人ノ勞働時間ト云フモノノ制限ヲ加ヘテ行ク、ソレカラ少シ進ミマスト、所謂最低賃金ノ問題ガ出テ來ル、之ヲ國家ガ保障シナケレバナラヌト云フヤウナ問題ガ出テ來ル、ソレガ認メラレル迄ニハ、相當ナ勞働組合ノ運動ノ結果、ソレガ認メラレルヤウニナツテ來ル、更ニ進ンデハ完全雇傭ノ問題ト云フモノガ問題ニナル、總テノ人ニ勞働ヲ國家ガ保障スルト云フコトガ、是ガ勞働ノ見地カラノ要求トシテ提出サレテ來ル、ソレ等ノ段段ト發展シテ來タ勞働立法ト云フモノノ歴史ノ背景ニ於テ、二十七條ト云フモノト二十八條ヲ讀ミマスレバ、自カラ意味ガハツキリスルダラウト思ツタノデス、殊ニ此ノ團體交渉權ノ如キハ、丁度私、「アメリカ」ニ留學シテ居ツタ頃ハ、「アメリカ」ノ法學者デモチツトモサウ云フモノニハ關心ヲ持タナカツタノデアリマス、斯ウ云フコトガ認メラレルヤウニナツタノハ、極ク最近ノ現象ナノデアリマス、ソレ等ノ勞働立法ノ從來ノ具體的經過ト云フモノニ照ラシテ見マスレバ、例ヘバ第一項ノ如キハ、是ハ「勤勞の權利を有し」ト云フ所ニ非常ナル意味ガアルノデアツテ、是ハ確カニ國民ノ國家ニ對スル一ツノ勞働ノ權利ノ主張デアツテ、我々ニ職ヲ與ヘヨ、無ケレバ、國家ガ之ヲ供與シロ、供與スルヤウナ方策ヲ採用シロ、斯ウ云フコトヲ明カニ命ズル一ツノ憲法上ノ規定デアルト私ハ解釋スルノデアリマス、又ソレガ勞働立法ノ沿革ニ合致スル解釋ダト思ツテ居リマス、個人ガ自由ニ勞勤シテ居ルノヲ國家ガ妨害シテハイカヌ、ソンナ變ナ意味ヂヤナイダラウト思ツタノデアリマス、ソレカラ「賃金、就業時間、その他の勤勞條件に關する基準」是ハ法律デ積極的ニ決メロ、「法律でこれを定める」ト書イテアルノハ、唯命令ヲ出サナケレバイカヌト云フヤウナ意味デナイノデアツテ、法律デ定メナイデ置クコトハ出來ナイ、法律デ積極的ニ之ヲ定メナケレバイカヌト云フ意味ガアルノダラウト、私ハサウ云フ意味ニ解釋スル、ソレカラ「兒童は、これを酷使してはならない。」ト云フコトモ、文字ハ兎ニ角、一定ノ年齡以下ノ子供ヲ工場ナドデ使フコトヲ法律デ禁止スルト云フコトヲ豫定シテ書カレタ憲法上ノ規定デアルト云フ風ニ私ハ解釋シタノデアリマス、從ツテ衆議院ガ之ニ對シテ「勤勞の權利を有し、義務を負ふ。」ト云フ修正ヲ加ヘタノデ、何ノ意味ナノカチツトモ分ラナクシテシマツタ、折角完全雇傭ト云フモノノ主張ヲ、此處デ以テ、憲法ノ規定デ以テ書キ表シタモノヲ、ソレヲ全部「デグレーデッド」ニシテシマツタ、ソレシカ是ハ解釋出來ナカツタノデアリマス、是ハ非常ニ勞働立法ノ歴ノ史上カラ言ツテ、此ノ改正ハ勞働者ノ爲ニ、國民ノ爲ニ非常ニ遺憾トスル改正デアル、斯ウ云フ風ニ考ヘタノデアツテ、「義務を負ふ」ト云フ文字ヲ用ヒマシタ爲ニ、却テ「權利を有し」ト云フコトハ個人ガ唯働ク自由ヲ有スルノダト云フヤウナ解釋ガ出テ來ルコトニナリ、第一項ノ趣旨ト云フモノハ、全部失ハレテシマツタト云フ風ニ私ハ解釋スルノデゴザイマス、從ツテ只今迄ノ政府ノ御説明ハ、非常ニ意外ナノデアリマシテ、此ノ點ニ付テハ、モウ一遍一ツ、此ノ二十七條、二十八條ト云フモノヲ勞働立法ノ沿革ト云フモノヲ背景ニシテ、之ヲ一ツ解釋シ直シテ戴ケナイモノデアラウカト云フコトヲ考ヘテ居ルノデゴザイマス、ソコデ解釋トシテ政府ニ御尋ネシタイハ、第二項ニ「法律でこれを定める。」斯ウ云フ風ニ書イテアルノハ、私ノ了解スルヤウニ、是ハ單ニ命令デ定メテハイケナイ、法律デ定メルト云フヤウナ消極的ナ意味デハナク、默ツテ置イテハイケナイ、法律デ必ズ定メロ、斯ウ云フ意味デハナイノデアルカドウカ、其ノ一點ダケヲ御伺ヒ致シマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ勿論決メナケレバナラヌ、決メル時ニハ法律デ決メル、斯ウ云フコトデアリマシテ、詰リ形ヲ言フノデナクテ、決メルト云フコトノ實體ヲ要請シテ居ル規定デゴザイマス
○高柳賢三君 私ハ是デ終リマス
○委員長（安倍能成君） 佐々木委員
○依々木惣一君 私モ此ノ問題デ、二十七條、二十八條デスガ、二十七條ノ方カラ伺ヒマス、私ハ矢張リ「すべて國民は」ト云フ風ニ言ツテアリマスノハ、矢張リ一般國民ノ地位ト國家トノ關係ニ於ケル地位デアリマシテ、箇々ノ具體的ノ場合ニ、其ノ具體的ノ國民ノ權利義務ト云フヤウナコトデナイ、從ツテ國家ハ國民ガ勤勞ヲナスト云フヤウナ風ノコトヲ考ヘナケレバナラヌト云フ意味ダラウト、私モサウ思フノデスガ、ソコデ一ツ御尋ネシテ見タイノデアリマスガ、私ノ結論ヲ先ニ申上ゲマスガ、今大體小山委員トカ、高柳委員ガ御尋ニナリマシタヤウナコトト一致シテ居ルヤウナ考ヲ持ツノデアリマシテ、實ハ其ノ氣持カラ御尋ネスルノデスガ、ソコデ御尋ネシテ見タイノハ、所謂勤勞ノ權利ナルモノノ由ツテ生ジマス所ノ、斯ウ云フ風ニ規定サレマシタ根據、ソレハ私ハ第二十五條ノ國民ノ生活權トデモ申シマスカ、國民ノ生活權ト云フモノニ基礎附ケタ規定デハナイカト思フノデス、國民ハ國家トノ關係ニ於テ生活ヲ營ム權利ヲ持ツテ居ルト云フコトガ、結局具體的ニドウ云フコトニ現レルカト云フノニ、其ノ生活ノ一ツノ方法トシテ勤勞ト云フコトヲナシテ、ソレガ生活ノ手段ト云フコトヲ言ヘルデアリマスカラ、私ノ考デハ、サウ云フ見地カラデセウカ、其處ノ所ヲ一ツ御尋ネシマス、勤勞ノ權利ト生活權トノ關係デスナ、第二十五條ノ方ヲ假ニ生活權ト名附ケテ置キマスレバ
○國務大臣（金森徳次郎君） 御尋ノ點ハ先程申シマシタヤウニ、此ノ憲法ハ、學理、又ハ或特別ナル識見ヲ基礎トシテサウ云フ風ナ部分ハ出來テ居リマセヌデス、謂ハバ實踐的ナ立場カラ判斷シテ來テ居ルノデアリマス、デアリマスカラ、學理的ナ根柢ニ付テ御答ハ出來ルダケ避ケマシテ、サウシテ御解釋ノ範圍ノ豐カナルコトヲ願フ譯デアリマス、唯原案者トシテ考ヘマシタノハ、矢張リ國民ト云フモノハ一人々々ガ集マルト同時ニ、協同生活ヲシテ居ルノデアル、シテ見レバ働クコトモ必要デアリ、其處ニ權利義務ガ起リ、又相扶ケ合ツテ生キテ行カナケレバナラナイヂヤナイカト云フ、簡單ニシテ確實ト思ハレマスル一ツノ實踐的原理ヲ基礎ニ致シマシテ、此ノ規定ガ生レテ來タノデアリマシテ、又生活、生存保障ト云フコトニ、原案ニハ其處迄ハアリマセヌデシタケレドモ、社會保障等ノ規定モアリマシテ、甲カラ乙ガ生レタカ、乙カラ甲ガ生レタカト云フノデナクテ、ソレガ一緒ニナツテ一ツノ考ノ下ニ各規定ガ生レテ來タト斯ウ申上ゲテ置キタイト思フノデアリマス
○依々木惣一君 分リマシタケレドモ、私ノ考ニ依リマスルト云フト、實ハ「すべて國民は、勤勞の權利を有する。」ト云フヤウナ規定ハ要ラヌノヂヤナイカト思フ、ソレハ第二十五條ニ依ツテ「生活を營む權利を有する。」國家ノ方カラ生活ヲ營マセナケレバナラヌト云フコトニ相成リマスルカラ、其ノ方法トシテ勤勞ノ出來ルヤウニスル、コチラカラ‥‥、私ノ考デハ勤勞ト申シマシタツテ、勤勞、詰リ體格ヲ良クスルトカ云フ、サウ云フ意味ヂヤナクテ、此ノ勤勞ハ、是ハ修養トカ何トカ云フ勤勞ヂヤナイデスカラ‥‥、ソコデ更ニ進ンデ何ノ爲ノ勤勞、何ノ爲ニ勤勞ヲ與ヘルカ。斯ウ云フコトニナル、サウスルト生活ヲ與ヘラレル、生活ヲ與ヘル、斯ウ云フ所ノ勤勞ト云フコトニナルノデスカラ、私カラ申シマスレバ‥‥、ソレデ、マア是ハ當然ニ要ラナイ、「すべて國民は、勤勞の權利を有する。」ト云フ文字ハ、詰リ第二十五條ノ實際ノ執行カラ、法律デ以テサウ云フ風ニ爲スノデアル、斯ウ云フ風ニ考ヘルカラ、ソコデ勤勞ノ文字デス、サウナリマスト云フト、詰リ勤勞ト云フ文字ニハ、只今申上ゲマスル通リニ、別ノ意味ヲ持ツテ居ル、唯勞働トカ、勞務トカ云フモノデナイ、私ノ考デハサウ云フ感ジガスル、ソレデ國民ハ生活ヲ保障サレテ居ル、國家ガ保障スルノデアルガ、其ノ一ツノ方法トシテ、即チ勞働、働イテ之ニ依ツテ生活ヲ與ヘルト云フコトニスル、生活ヲ與ヘラレルヤウニスルト云フヤウナコトヂヤナイカト思ヒマス、サウナレバ二十七條ハ二十五條ト照應ヲスル結果ニナルト云フコトヂヤナイケレドモ、マア要ラヌヂヤナイカ、二十五條ニ當然含マレテ、當然ニ別ノ法律デ出來ルヂヤナイカト思ツテ御尋ネシタノデス、サウ相成リマルト云フト、サウ解釋シマスルト云フト、所謂是ハ高柳サンノ御話ニナリマシタヤウニ、二十五條、二十七條、關聯シマシテ、勞働者ノ地位、權利ト云フモノヲ非常ニ保護スルト云フコトニピント來ルト宜イノデスケレドモ、サウ云フ勞働ト云フコトニ關係ナク、唯凡ソ人間ハ何カ働クモノト云フコトニナリマスルト云フト、私ハ少シドウモ法律的ニ理解出來ヌコトニナリマス、ソレカラ次ニ義務、勤勞ノ義務ヲ負フト云フ、是ハ私ハ只今申上ゲマシタヤウニ、二十七條ト云フモノハ、元來生活、生活權、生活保障ト云フコトカラ出テ來タ、發露シタモノダト思セマスカラ、勤勞ノ義務ヲ負フト云フヤウナコトハ、是ハ正當ニ解釋ヲシテモ此處ニ要ラヌヂヤナイカト思ツタノデス、別ノコトヂヤナイカ、サウ致シマスルト云フト、第二項ノ「賃金、就業時間、休息その他勤勞條件」ト云フコトガキツパリト活キル、大凡人間ハ何カ勤勞シナケレバナラヌ、協同ノ生活ノ爲ト云フヤウナコトニナリマスルト云フト、二項ハドウモピント來ヌデスワ、勤勞就業時間ト云フコトガ‥‥、ソレデ私ノ考デハ、衆議院ノ修正ヲ加ヘマシタ「義務を負ふ。」ト云フコトハ、ドウモイケナイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ、此ノ點ハ先刻來御質問ノアリマシタ方ト全ク同意見ナンデスガネ、然ラバサウ致シマスト、是ハ此ノ條文ニ關係ハナイノデスケレドモ、別ニ私ノ申シマスル勤勞ノ、我々ノ義務ト申シマスカ、責務ト云フコトニ付テ、別ニ條文ガ要ルト思フノデス、ソレハ大凡、我々ハ國家其ノ他ノ公共團體ノ公益ノ爲ニ、適當ニ何カ勤メナケレバナラヌ、勤勞ト云フノハ、單ニ勞働ト違フノデ、今ハ混同サレテ居リマスガ、一般ノ文字ハ何カノ爲ニ役立ツ、或一ツノ客觀的ノ目的ガアツテ、其ノ客觀的ノ目的ノ爲ニ役立ツモノトシテノ勞務ヲ提供スルト云フコトガ從來ハ勤勞デアル、官吏ノ義務ト云フ風ニ今ハ混同サレマシテ、普通ノ勞務、勞働ト同ジコトニナツテ居リマスケレドモ、文字ノ使ヒ方ハ恐ラクサウヂヤナイカト思ヒマス、サウナリマスト、先刻金森サンノ言ハレルヤウナ勞働關係ヲ‥‥、アレデ一般國民ト云フモノハ、私ノ申シマスサウ云フ意味ニ於テ、勤勞ノ義務、勤務ノ義務ヲ持ツテ居ル、サウ云フ風ナ、ソレハ二十五條、二十七條ト無關係ノ條文ニ一ツ欲シカツタ、サウシマスト、矢張リ勤務、其ノ代リニ唯勞務ト云フ、唯働クト云フコトヂヤナイ、何カノ目的デ國家公益ノ爲ニ一ツ勞務ヲ提供シナケレバナラヌト云フ限定ヲ附ケテ、ソレヲ勤務ノ義務ト云フ風ニ言フノヂヤナイカト、斯ウ云フ風ニ考ヘマシタノデスケレドモ、サウ云フ意味デ、サウ云フ條文ヲ附加ヘルコトガ出來ナケレバ、サウ云フコトヲ離レテモ、ドウモ誤解ヲ生ジマスカラ、此ノ勤務ノ義務ト云フノハ、先刻ドナタカ、小山サンデシタカ仰シヤイマシタヤウニ、ドウモ不當ニ唯勤務ヲ義務附ケルト云フヤウナコトニナル虞ガアル、サウデナイ、我々ハ國家公益ノ爲ニ、何等カ公ノサウ云フ何カ目的ノ爲ニ、勞務ヲ提供スルト云フ義務ハアル、是ハコンナ條文トハ別ダ、斯ウ云フ風ニ思ツタノデスガ、根本ノ立場ガ違ヒマスカラ、是ハ私共ガサウ云フ風ニ了解ハシテ居ルガ、是ハ大臣ナドノ御考トハ違フト云フコトヲ申上ゲテ、其ノ點ハ質疑ヲ終ツテ置キマスガ、ソコデ今度ハ、第二十八條ノ團體行動、ソコデ此ノ二十五條ヤ二十七條ハ我々國民ノ一般的ノ地位ヲ言フノデアツテ、ソコデ勤勞ノ關係ニ入ツテシマツタ者ノ關係ガ二十八條、是ハ先刻カラ金森國務大臣ナリ、河合厚生大臣ナドガ言ハレタ立場デ、私ハ解釋ハ同ジニナル、ソコデ一般國民ノ地位ヲ持ツテ居ル我々ハ、箇々ノ或特定ノ國民、我々ガ勤勞ニ入ツテシマヘバ勤勞者ニナル、サウナルト勤勞者ハ一般國民ノ勤勞ニ關スル權利義務ト違ツテ、其ノ勤勞者トシテ勤勞ノ權利義務ヲ持ツテ居ルト云フ、二十八條ハ、ソコデ其ノ内ノ團結スル權利、團體交渉、其ノ他ノ團體行動ヲナス權利ガアル、之ヲ此處デ解釋ノ前提ト致シマシテ、ソコデ此ノ團體行動ト云フコトニ付キマシテハ、政府ノ方ニ於カレマシテハ、何等カ限界ト云フモノガアルベキモノダ、當然ノ事柄ノ性質上トシテ、從ツテ其ノ事柄ノ當然ノ性質ヲ實現スル爲ニ、將來法律デ團體勤勞者ノ權利タル團體行動ト云フモノニ付テ、何等カ法律上ノ規定ヲナサルト云フ御考ヘデモアルモノデスカ、其ノコトヲチヨツト御伺ヒシマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 御尋ネノ團體行動ト申シマスルコトハ、結局曩ニ高柳委員ガ言ハレマシタヤウニ、斯樣ナル勞働關係ニ於キマシテノ色々ナ歴史的發逹ノ跡ヲ能ク遡ラナケレバ、本當ノ意味ハ出テ來ナイド思ヒマス、結局勤勞者ガ何ノ爲ニ團體行動ヲスルカト言ヘバ、勤勞者トシテノ要求ヲ實現スル爲ニスルノデアリマスカラ、其ノ勤勞者ノ要求目的ヲ果ス爲ニ行ハレテ來マス團體行動ハ、自ラ一定ノ限界ガアルモノト思ツテ居リマス、文字デハ團體行動ト云フ四ツノ漢字ニナリマスルケレドモ、併シ實體トナルベキハ、一ツノ歴史ヲ背景トシタ實體ニ相違アリマセヌ、此ノ憲法ノ保障シテ居リマスノハ、其ノ歴史的背景ヲ持ツテ居リマス一ツノモノヲ保障シテ居ル、ソレハ具體的ニ斯ウト云フコトハ出來マセヌケレドモ、サウ云フ意味デ御了解願ヒタイト思ヒマス
○佐々木惣一君 モウ一ツ御尋ネシタイ、其ノ團體行動ト云フモノニハ自ラ性質ニ或限界ガアルト云フコトハ分リマシタガ、今伺ツタ所デハ、團體行動ハ、其ノ團體行動ヲ爲ス勞働者ト云フモノ其ノモノノ其ノ地位カラ見テ生ズル限界ト伺ツタノデアリマスガ、更ニ私ハ考ヘマスルニ、サウ云フ勞働者ト云フモノソレ自身、勞働者ナリ色々ナモノソレ自身ハ一ツノ團體デハアルガ、更ニヨリ高次ナ團體ノ中ニ入ツテ居ル、社會トカ國家トカ‥‥、サウ云フ面ヲ一ツ考ヘナケレバイケナイ、自分自身ガ團體デアルト同時ニヨリ高イ社會トカ國家トカ云フ團體ニ入ツテ居ル、ソレハ直接ニハ所謂團體デハナイニシテモ、サウ云フ點カラ矢張リ團體行動ニ關スル限界ヲクツ付ケルト云フヤウナコトハ何等カ御考ニナツテ居リマセヌデセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ナ場面ハ、或ハ私ガ御質疑ノ趣旨ヲ誤解シタカモ知レマセヌガ、此ノ草案ノ第十一條ノ公益ノ枠ニ依ツテ當然規正セラルベキ範圍デアリマスカラ、自由放埒ニナル趣旨デハゴザイマセヌ
○佐々木惣一君 分リマシタ、私ハ是デ質疑ヲ終リマス
○委員長（安倍能成君） 今度ハ第二十九條ト第三十條ニ移リマス
○子爵大河内輝耕君 私ハ此ノ財産權ノコトニ付キマシテ伺ヒタイノデスガ、ドウモ一番尊重サレナイノガ財産權デアル、是ハ今ノ所ハ私ハ曲歪サレテ居ルト思ツテ居ル、前ノ憲法ガ色々曲歪サレタ如クニ、此ノ新憲法二十九條デスカ、是ハ現ニ行ハレテ居ルノデアリマセヌケレドモ、此ノ精神ハ今日デモ尊重サレテ宜イト思フノデスガ、一向尊重サレナイ、公共ノ福祉ニ適合スルヤウニ使フコトハ結構デスケレドモ、正當ノ補償ト云フコトガ行ハレテ居ナイ、叩キ潰シテ安ク買ヒ潰シテモ構ヤシナイト云フ思想ガ一般ニ行ハレテ居ル、是ハ政府デモ御認メデアラウト思ヒマス、ソレデ私ノ伺ヒタイノハ、ドウカシテ是ハ正當ナ補償ハシテヤラナケレバイケナイト思フ、其ノ補償ナドハシナイデモ構ヤシナイト云フナラ別デスガ、正當ナ補償ヲシタイト思フ、ドウモ議會デ法律デ決メルト云フヤウナコトニナルト、ドウシテモ多数ガ勝ツテシマフ、多數ニハ衆議院モ敵ハナイト見エテ、ドウモ引摺ラレル傾ガアル、貴族院モ今度ハ參議院ニナツタラドウカ知リマセヌケレドモ、今ノ所デハ矢張リ遠慮シテシマツテ何モ言ハナイ、參議院ニナツテモ恐ラク權限ノ弱イモノデスカラ大シタコトモアルマイ、サウスルト此ノ補償ヲ決メルコトニ付テハ餘程獨立ナ、中正ナ、公正ナ機關ガナケリヤ、憲法ヲ決メテモ何ニモナラナイト思フノデス、正當ナ補償ト言ツテ見タ所デソレハ仕方ガナイ、ソレハ成ル程後デ裁判所ヘ訴ヘル途モアルデアリマセウケレドモ、ソレダケデハドウモ迂遠ナ話デ容易ナコトヂヤナイト思ヒマス、手數モ隨分厄介デアル、ソンナ手數ヲ掛ケズニ正當ナ補償ヲ決メテヤルヤウナ極ク公平ナ機關ガ出來レバ宜カラウト云フヤウニ一應考ヘマス、是ハ決シテ自分ノ自説ダトテ頑張ル譯デモナシ、ホンノ唯質問ノ一ツノ目的ニ使フダケノコトデアリマスガ、政府ハ何カ御考ニナツテ居リマスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、財産權ノ保護ハ、是ハ其ノ必要ハ言フヲ俟タナイ所デアリマス、新憲法ニ於キマシテモ其ノ趣旨ヲ現シタノデアリマシテ、今大河内委員ノ御説ノヤウニ、正當ナ補償條件トシテ、財産權ヲ或ハ使用シ或ハ處分スルト云フコトニナツテ居ツテモ、正當ナ補償ニ付テ十分ナ考慮ヲシナケレバ空文ニ歸スルヂヤナイカト云フコトハ、誠ニ御尤モデアリマス、御承知ノ通リ只今ニ於キマシテモ公用徴收ノ場合ニハ、先ヅ收用審査會ニ於キマシテ、如何ナル程度ニ於テ補償スベキカト云フコトヲ決メテ居ル譯デアリマス、之ニハ相當ノ專門家モ加ヘテ審査スルノデアリマス、其ノ審査ニ對シテ不服ガアル場合ニハ、更ニ民事裁判所ヘ増額ノ請求ガ出來ルト云フ建前ニナツテ居リマス、左樣ナ制度ヲ、此ノ憲法實施ノ曉ニ於テモ十分活カシテ行キタイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、左樣ニ御了承願ヒマス
○子爵大河内輝耕君 ソレハ政府ノ方デハ正當ニ相當ニ善處サレルコトト思ヒマスガ、其ノ組織ニ付テハ、ドウ云フ風ナ組織ニナリマセウカ、御案デモアツタラ御示シヲ願ヒタイ、ソレカラ此ノ補償ヲ法律デ決メルト云フヤリ方ガアルノデスガ、ドウモ是ハ法律デ決メラレル以上ドウスルコトモ出來ナイノデスガ、法律デ決メルヤリ方ガ正當デナイ場合モ有リ得ルコトダト思ヒマス、サウ云フ場合ハ其ノ法律デ決メル前ニ、何カ今ノヤウナ補償委員會ト云フヤウナモノガ、ソコニ有效ニ活動スルト云フヤウナコトデモアツタラバ宜カラウカト云フヤウニモ思ヒマスガ、一方カラ考ヘルト、何カ議會ノ權限ヲ制限シタヤウニナツテ、甚ダマヅイコトモアリマスカラ、其ノ調和ハドウ云フ風ニ御考ヘニナツテ居リマスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 此ノ補償ノ額ヲ決メルコトニ付キマシテハ、或ハ法律デ其ノ儘書クト云フ場合モアリマセウ、併シ建前ト致シマシテハ、今申上ゲマシタヤウニ一ツノ機關ヲ設ケテ、補償ノ枠ヲ決メルヤウナコトニナリハシナイカト思ヒマス、サウシテ其ノ委員會ト申シマセウカ、補償ヲ決メマスル一ツノ機關ニ付キマシテハ、是ハ御承知ノ通リ新憲法ノ建前ト致シマシテハ、總テ民主的ニヤラナケレバナラヌト思ヒマスルカラ、從來ノヤウナ建前ヲ一掃致シマシテ、十分民主的ニ民間ノ意見モ採リ入レルヤウナ組織ニナラウカト考ヘテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 サウシマスト、法律上正當ナ補償ト認メラレナイヤウナ規定ヲ假ニスルト‥‥人間ノヤルコトデスカラサウ云フコトハ有リ得ルコトダト思ヒマス、議會デモ萬々間違ヒナイコトモナイノデス、サウ云フ場合ハ最高裁判所ノ最後ノ決定ニ依ルヨリ外ニ、チヨツト救濟ノ方法ハアリマスマイカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 結局ハサウナルカト思ヒマス、最高裁判所ハ御承知ノ通リ最モ公正ニシテ信頼スベキ一ツノ機關デアリマスカラ、結局ノ所ハ其處デ最終的ニ決マルモノダラウト思ハレマス、左樣ナ機關ヲ設ケタ時ニハ、今申上ゲマスル通リ、或ハ直チニ法律デ枠ヲ決メラレル場合モアリマセウガ、左樣デナイ場合ニハ、最高裁判所迄之ヲ解決シ得ル一ツノ機關トシテ持ツテ行ケルト云フヤウニナルカト思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 私ノ質問ハ是デ終リマス
○牧野英一君 第二十九條ニ付テ、司法大臣ニ四ツノ點ヲ御伺ヒ申上ゲタイト思ヒマス、第一ハ、第一項ハ結構ト存ジマス、理解致シマシタ、ソコデ第二項デゴザイマスガ、「財産權の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」御趣旨ハ誠ニ私抽象的ナ形デハ理解致シマシタガ、從來ノ權利デ、此ノ規定ニ依ツテ新タニ規定ノ變更ヲ見ルヤウナモノガアリマスカ、ドウデスカ、アリトスレバ一ツ二ツデ宜シイノデゴザイマスガ、ドンナ場合ニドンナ風ニ書キ直スヤウナコトニナルモノデアリマスカ、ト云フコトヲ一ツ御伺ヒ致シタイ、何カ御氣付ノコトガ御アリニナリマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 今説明ヲ一ツ述ベヨト云フコトデアリマスガ、例ヘバ特許權ノ問題ニ當リマスガ、是ハ所謂公共ノ福祉ニ從フヤウニ、或程度ノ公開ヲスルヤウナコトモ一ツノ考ヘ方ダト思ヒマス
○牧野英一君 有難ウゴザイマス、誠ニ特許權ガ其ノ著シイ例デアリマシテ、大正九年デアリマシタカ、特許法ヲ改正致シマスル時モ、今迄ノ先發明主義ニ對シテ先願主義ヲ採ルヤウニ改メタト云フコトモ此ノ趣旨デゴザイマス、此ノ趨勢ニ應ジテ尚段々此ノ規定ノ適用ガ出來ヨウト云フ御話デアリマシテ、誠ニ理解致シマシタ、第二ノ御伺ト致シマシテハ、第三項デゴザイマスガ、「私有財産は、正當な補償の下に、」「法律の定めるところにより、」ト云フヤウナ斷リ書ガアル方ガ規定ノ動キヲ定メルノニハツキリスルヤウナコトガナイデセウカ、矢張リ是ハ此ノ儘デ宜シイモノデゴザイマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 私ハ無論今牧野委員ノ仰セニナリマシタヤウニ、之ヲ法律デ定メナケレバナラヌト云フコトハ御尤モナコトト思ヒマス、併シ原案ニ於キマシテモ、十分其ノ意ハ含メテ居ルモノト信ジテ居リマス、特ニ法律デ定メルト言ハナクテモ、前ノ第一項ニ依リマシテ侵害シテハナラナイト云フコトニナツテ居リマスカラ、法律ニ依ラナケレバナラヌト云フコトハ自然ニ出テ來ルモノト信ジテ居リマス
○牧野英一君 此ノ第三章ヲ考ヘマスル中ニ、或規定ニハ「法律ノ定メル所ニ依ル、」ト斷ツテアリ、或規定ニハソレガナイノデアリマシテ、是ハ「レトリック」ノ問題カ、或ハ實體上影響ガアル問題カト云フコトニ付テ、先日來研究致シテ居ルノデアリマス、今日ハ教育ニ關シテ其ノ議論ガアリマシテ、特ニ「法律ノ定メル所ニ依ル」トアルト云フコトニ依ツテ、特別ナ意味ガ出ルモノデゴザイマセウカト云フコトガ午前ニ問題ニナリマシタ、此ノ所モ若シ無理ナコトカモ知レマセヌガ、解釋ノシヤウニ依ツテハ、法津ノ定メル所ニハ依ラナイ、正當ナル補償ヲスルト云フダケデ、法律ノ根據ナク、行政官廰ガ行政處分トシテ、或制限ヲスルト云フコトガ出來ルモノデゴザイマセウカドウデゴザイマセウカ、斯ウ云フコトヲ心配致シテ居リマスノデ、矢張リ「法律ノ定メル所ニ依ル、」ト行政權ノ活動スル根據ガ、法律ニアルコトヲ明カニシタラドウカト密カニ思フ次第デアリマスガ、是ハ如何デアリマセウカ、例ヘバ警察官ナドガ公共ノ爲ニト言ツテ、補償サヘスレバ宜イト云フノデ、規定ノ根據ナクシテ活動スルト云フヤウナコトガアリ得マセヌカドウカ、此ノ心配デゴザイマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 私ハ左樣ニ考ヘテ居リマセヌ、今御説ニナツタ警察官、是ハ行政處分デ或ハ行ケルト云フヤウナ見解モアリマセウガ、ソレハ此ノ後ニナリマスガ、大體ニ於テ斯樣ナ財産權ヲ侵シテハナラナイト云フ、一ツノ例外デアリマスカラ、此ノ大原則ニ基イテ、之ヲ採用スル、或ハ國家ニ於テ處分スル場合ハ、法律デ定メルト、斯樣ニ解釋シテ居リマス
○牧野英一君 實際論トシテハ、ドウシテモ法律デ基準ヲ決メテ置カナケレバナラヌコトデゴザリマスルカラ、今司法大臣ノ御説明ニナツタヤウニナルデアラウト思ヒマス、尚此ノ第三章全部ニ亙ツテ「法律の定めるところによる、」ト云フコトヲ加ヘル條文ト、其ノ必要ノナイ條文トノ區別ヲ考ヘテ居リマスノデ、此ノ點ニ付テハ、私一箇トシテモ、マダ迷ヲ持ツテ何度モ繰返シテ此ノ規定ヲ讀ンデ居ル次第デゴザリマスガ、私ノ懸念スル疑ヲ、尚當局ニ於テモ了解下サレバ有難イコトニ存ジマス、ソコデ第三ノ質疑トシテ、是ハ特ニ一ツ司法大臣ニ御考慮ヲ仰ギタイ私ノ最モ眼目トスル質疑デゴザリマスルガ、是ハ私ガ誤解ヲシテ居ルノカモ知レマセヌノデ、非常ニ遠慮シナガラ御伺ヒスル次第デゴザリマス、ソレハ本會議ニ於テモ申上ゲタ通リ、此ノ規定ハ「公共のために用ひることができる」ト云フ言葉ヲ使ツテアルノデアリマス、「用ひる」ト云フコトハ相當ニ廣ク理解スルコトガ出來マセウ、故ニ解釋論トシテ大概ノコト迄ハソレデ運用ガ付クト思ヒマスガ、差當ツテ私ノ懸念致シテ居リマスノハ、本會議デ申上ゲタ通リ、農地調整法ノ問題デアリマス、今日ハ農林大臣ノ御出席ヲモ願フコトガ出來レバ幸福ト考ヘタ次第デゴザリマスルケレドモ、農林大臣御多忙ノコト勿論ノコトト察シマス、又司法大臣ノ御考慮ヲ仰ゲバソレデ目的ハ達シマスノデ、特ニ司法大臣ニ御願ヲ致シマス、又企業整備ニ付テ此ノ問題ガ直接ニ影響ヲ及シマスノデ、現ニ持株會社整理委員會令ト云フモノガアリマスガ、持株會社整理ニ關シテ、今後ドウ云フ法律ガ出來ルコトデゴザイマセウカ、農地ノ調整ニ於テ、農地ノ所有權ガ甚大ナ制限ヲ受ケルト同樣ニ、株式ニ依ツテ表示セラレル財産權ガ根本的ナ變更ヲ受ケルコトニナル譯デアラウト思ヒマス、是ハ經濟民主主義ノ逐行トシテ當局ニ於テハ、餘程重大視セラレル政策ニ屬スルコトデアルト考ヘマスルシ、其ノ意味ニ於テ私共モ十分是等ノ法規ニ付テノ考慮ヲ運ラシテ居ルノデゴザリマス、現行憲法ノ範圍内ニ於テハ、誠ニ今ノ法規ヲ有効ニ理解スルコトニ付テ差支ナイノデアリマスガ、「用ひる」ト云フ言葉ヲ用ヒラレテ居リ、不幸ニシテ之ニ疑義ヲ生ジテ、最高裁判所ノ問題ニナルヤウナコトガアルトスレバ、其ノ時ニナツテ遺憾ナコトニナルト存ズルノデアリマス、御趣旨ハ、「用ひる」ト云フ言葉ヲ十分廣ク理解スルト云フコトデアルニ違ヒゴザイマセヌノデ、現ニ本會議ニ於テモ、司法大臣自ラ大丈夫第三項デ動クト御説明ニナリ、私ハ一先ヅ安心ヲ致シテ居リマスケレドモ、併シナガラ假ニ私自身ガ此ノ憲法ノ解釋ヲシナケレバナラヌト云フ地位ニアル時ニハ、農地調整法ヲ新憲法後ニ於テ有効ナルモノト論ズルニ付テハ、相當ニ骨ノ折レル論理ヲ色々ニ振廻シタ取扱ヲシナケレバ、ムヅカシイコトニナリハシナイカト思ヒマス、ソレデ私トシテハ内容ニ付テ司法大臣ノ御心持ト同ジデアリマスノデ、折角立法スルノデゴザイマスカラ、モウ少シ斯ウ誰ニデモ疑ナク、‥‥農地調整法ニ於ケル所有權ノ制限デハゴザイマセヌ、制限以上ノ處置デアリマス、「公共のために用ひる」ト云フ言葉デハ相當ニ聯想ノムヅカシイ一ツノ處置デゴザリマスルガ、サウ云フモノ迄モハツキリト含ムヤウナ言葉ヲ御考ヘ下サル、又當局デハ是デ宜イト云フ思召デゴザイマスカラ、何モ禮ヲ失シタ言葉ヲ使ヒタクナイノデゴザリマスケレドモ、ドウモ此ノ疑ガアルヤウニ思ヒマスル、疑ガアリ得ルト云フコトニ付テ御理解下スツタナラバ此ノ言葉ヲモウ少シハツキリスルヤウニヤリ直スト云フコトニ付テ、御考ガアルカドウカ、其ノ點ヲ御伺ヒ致シテ置キタイ
○國務大臣（木村篤太郎君） 此ノ二十七條ト十一條トノ關聯ニ於キマシテ、ドウモ「用ひる」ト云フ言葉ガ、總テ使用或ハ處分スルト云フコトヲ包含サレルコトガ明カデアルト云フ我々ノ見解デアリマスガ、今ノ牧野委員ノ御見解ハ我我御意見トシテ承ツテ置ク次第デアリマス
○牧野英一君 ソレデハ、尚此ノ點ハ政府ノサウ云フ御趣旨ノアル所ヲ十分考慮致シマシテ、私共ノ方デモ更ニ審議ノ御務メヲ致シマス、ソコデモウ一ツ是ハ本會議ニ於テ伺ヒヲ立テテ置イタ此點ニ付テ「正當な補償の下に」ト、必ズ正當ナ補償ガナケレバナラヌコトニナツテ居リマスル、併シナガラ社會黨ノ修正案ニ於テハ極ク特別ナル場合ニ於テハ、補償ナクシテ財産ヲ公用ニ供スルト云フコトモアリ得ルト云フ修正案ヲ出シテ、是ハ衆議院ニ於テ否決ニナツテ居リマスルガ、無論此ノ否決ニナツタ趣旨ニ、政府ハ御同意ニナツタコトデ、私ニハ理解出來ルヤウニモ思ヒマスルケレドモ、一朝事アツタ時ニハ、無償デ公用、例ヘバ土地ヲ收用ヲスルト云フヤウナコトガアル、徴發ヲスル、徴發ト云フコトハ今日デハ問題ニナリマスマイガ、サウ云フ特別ナコトガアリ得ナイカ、殊ニ風雨、洪水等ノ場合ニ於テ、色々ノ處置ヲスルヤウナ場合ニ、人ノ所有權ヲ制限ヲスルト云フヤウナコトガアリマセウ、法律ニ於テ豫メ警察權ノ行動ニ付テ相當ノ制限ガアリマセウガ、其ノ時ニ一々補償シナイデ、洪水ノ爲ニ斯ウスル、火事ノ爲ニ斯ウスルト云フヤウナコトガアル、ソレヲ慮ツテ置クト云フヤウナ必要ハナイモノデゴザリマセウカ、正當ナ補償ト云フコトハ法律ノ定ムル處ニ依リ、或場合ニハ條件ニナラナイコトモアリ得ルト云フヤウナコトヲ御考慮願フ譯ニ行キマスマイカ、社會黨ノ修正案ノ趣旨ハ私ニハソレ以外ハ理解出來マセヌ、ソコデ社會黨ノ提案ニ應ジテ私ガ主張ヲスル譯デハゴザリマセヌガ、場合ニ依ツテハ正當ナ補償ナク、警察處分ヲスルト云フヤウナコトガ出來ルヤウニ矢張リ裕リヲ附ケテ置クト云フコトハ如何ナモノデゴザリマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 一説トシテ十分考慮スベキ御議論ダト思ヒマスルガ、併シ此ノ正當ナ補償ト云フコトノ、此ノ正當ト云フコトハ、唯客觀的ニ、或ハ收用サレルベキ物件其ノモノノ價値ヲ基本ニスルコトバカリデナク、其ノ一般的社會状勢カラ見テ、果シテソレガ適當デアルカドウカト云フコトヲ決メマスカラ、其ノ點カラ私ハ非常ニ大幅ニ解釋ガ出來ルノヂヤナイカト考ヘテ居リマス
○牧野英一君 如何ニモ正當ト云フ言葉ニ含蓄ガアルト云フ御説明ハ了シマシタ、私ハ正當ト云フコトヲ公平ト云フコトニ考ヘマシテ、サウシテ矢張リ此ノ場合ニモ常ニ私有財産權ノ尊重ト云フコトヲ本ニシテ、考ヘタイト思ヒマシタカラ心配ヲシタノデゴザイマスルガ、成程正當ト云フ言葉ノ動キニ尚大イニ面白イ所ガアルト云フ御趣旨デアリマスナラバ、如何ニモ其ノ意味ニ一應了解致シマス、次ニ第五デゴザイマスガ、サウシマスト本會議ニ於テ申上ゲマシタノハ、企業ソレ自體ノ原則ノコトデゴザイマス、是ハモウ説明ハ繰返シマセヌガ、産業ノ復興ノ爲ニハ企業ト云フモノヲ、一方ニ於テハ企業所有者ニ對シテ擁護シナケレバナリマセヌガ、他方ニ於テハ勤勞者ノ行動ニ對シテ企業ヲ保全シナケレバナリマセヌ、色々運動ノアルガ爲ニ企業ガ滅ビル、例ヘバ資本主ガ配當ヲ餘計取ルガ爲ニ到頭企業ガ潰レルコトガアルナラバ殘念ナコトニ違ヒアリマセヌ、同時ニ勞働者ガ一種ノ主張ヲナスノニ委シテ置ク爲ニ、企業其ノモノガ滅ビテシマフト云フコトガアツテハ殘念デゴザイマセウ、企業ト云フモノハサウ云フ性質ノモノニナルデアラウト思ヒマスルカラ、所有權ト勤勞者ノ權利トヲ併セ睨ミナガラ國家社會ノ爲ニ企業其ノモノノ安全及ビ發展ヲ期スル爲ニ、財産權ト云フモノガ企業ノ形ヲ取ツタ時ニハ、特ニ之ヲ保障シ、保護スルト云フヤウナ原則ヲ憲法ニ於テ明カニシテ置イタラ如何ナモノデゴザイマセウカ、是ハ商法ニ於キマシテハ先年昭和十三年デアリマシタカ、商法ノ改正ノ時ニ、特ニ會社ノ整理ト云フ規定ガ設ケラレマシテ、將ニ滅ビントスル會社ガ出來マシタ時ニハ、裁判所ガ特ニ會社ノ當局者ニ代ツテ所謂「レシーヴァー」ト云フモノニ整理ヲサセルト云フ規定ヲ設ケマシタ、危イ會社ガソレニ依ツテ生キ直ルノデアリマシテ、日本デモ段々「レシーヴァー」ノヤウナ方ガアルサウデアリマスガ、外國ノ例デハ會社、醫者、即チ惡イ會社ヲ建直シテ歩ク商賣ヲシテ居ルト云フ特殊ナ人ガアルサウデアリマス、サウ云フヤウナノハ矢張リ企業ソレ自體ノ原則ノ一ツノ適用ニナルト思ヒマスルガ、サウ云フヤウナ譯デ企業ト云フモノハ、固ヨリ所有者ノ所有物デアリマスルガ、同時ニ勞働者ノ利害關係ヲ持ツテ居ルモノデアル、併シ所有者ガ我儘ヲシテハナラヌ、勞働者モ我儘ヲシテハナラヌ、公共ノ福祉ノ爲ニ企業ソレ自體ガ保持セラレ、且發展セシメラレネバナラヌ、斯ウ云フヤウナ原則ガ一項設ケラレテ欲シイ、ト云フヤウナ風ニ私ハ考ヘルノデゴザイマス、併シナガラ解釋ノ筋合ニ依ツテハ、總テ公共ノ福祉ト云フコトガ前ニ謳ツテアリマスルカラ、ソレデ或ハ十分デアルト云フ御答ヲ受ケルカモ知レヌト思ヒマスケレドモ、産業ガ企業ト云フ形ヲ取リマシタ時ニハ、普通ノ財産權ヲ離レタ特別ノ形ヲ持ツヤウニナルト云フコトモ考ヘテ見タイト思ヒマスルノデ、政府ニ於テハサウ云フコトハ問題トスルニ及バヌト云フ御考カ、尚憲法ノ問題トスルノデハナイケレドモ、一般ノ法規ニ於テハ十分御考慮下サルルト云フ趣旨デ、本會議ニ於テハ私ノ申上ゲタコトニ付テ司法大臣ハ相當ニ理解アル御説明ヲ與ヘラレマシタモノデ、私ハ甚ダ幸福ニ存ジマスルガ、此ノ憲法ノ質問ニ對シテハドウカ一ツ、憲法ニ財産權ノ一適用トシテ一項ヲ設ケテ戴キタイ、尚婚姻ニ關スル規定ノ横ニ家族生活ニ關スル規定ヲ併セテ置キタイト同ジヤウニ、企業ト云フモノハ企業ソレ自體トシテ、國家ハ之ヲ保障シ及ビ保護スル、斯ウ云フヤウナ規定ヲ御設ケニナルト云フト、將來其ノ向キノ法制ノ發展ニ基礎ガ置カレル、斯ウ云フヤウニ考ヘマスルガ、私ノサウ云フ考ニ對シテ司法大臣ハドウ云フ風ニ御考デゴザイマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 企業ソレ自體ノ原則、正ニ私ハ傾聽ニ値スル御論ダト思ヒマス、申ス迄モナク企業ハ資本ト勞働カラ成立ツテ居ルノデアリマス、資本家ノ恣意ヲ許サナイノデアリマス、資本家ハ勞働者ト相提携シテ、企業ノ發達ヲ圖ラナクチヤナラヌ、是ガ國家産業ノ興隆スル唯一ノ原因デアリマス、而シテ此ノ憲法ニ於キマシテハ、十一條ニ於テ各人ガ各々公共ノ福祉ニ從フヤウニ行動シナケレバナラヌ、是ガ大原則ニナツテ居ルノデアリマス、企業家モ正ニ企業ノ經營ニ當ツテハ、公共ノ福祉ト云フコトヲ大眼目ニシナケレバ相成ラヌコトハ、此ノ原則カラ當然出テ來ルコトデアリマス、從ヒマシテ政府原案ト致シマシテハ、既ニ此ノ點ニ付テハ十分此ノ憲法ノ建前カラ理解サレテ居ルモノデアラウ、斯ウ考ヘテ居ル次第デアリマス
○牧野英一君 私ハ二十七條ノ「勤勞の權利」ニ關スル規定ト雖モ、政府原案ノ十一條カラ當然是ハ引出セル所ノ原則デアリマシテ、特ニ是ノ必要ハナイト思ヒマスルケレドモ、併シ勤勞ト云フモノガ、特ニ今大キナ社會問題ニナツテ見マスルト、之ニ付テ事ヲ明カニシテ置クト云フコトガ新憲法トシテ妥當デアルト考ヘマスルト同時ニ、企業ト云フモノヲ新シク理解スルコトガ、現代ノ特別ナ問題デアルト考ヘマスルナラバ、勞働ト並ベテ企業ソレ自體ノ原則ト云フモノヲドウゾ一ツ御考慮ヲ願ヒタイト思ヒマス、併シナガラ其ノ規定ナクシテ、私共ニ解釋トシテ企業ソレ自體ノ原則ヲ引出セト云フコトヲ仰セラレルナラバ、現在ノ法制ノ解釋ノ下ニ、私共ハ既ニ企業ソレ自體ノ原則ヲ立テテ居リマスルケレドモ、出來ルダケ事柄ヲハツキリシテ、サウシテ新日本建設ノ用意ト云フモノヲ國民ニ知ラセ、憲法上ノ基礎ヲ明カニシテ置クコトガ望マシイト思ヒマスルノデ、私ノ老婆心トスル所ニ對シ、政府當局ニ於テモ尚御考慮ヲ廻ラシテ戴ケレバ、甚ダ幸福ト存ジマスト云フ次第ヲ申上ゲテ質問ヲ終リマス
○結城安次君 私ノ御伺ヒシタカツタコトハ大體前ノ方々ノ御質問デ以テ盡サレテ居リマスノデ、是以上別ニアリマセヌガ、チヨツト簡單ニ御伺ヒシテ置キタイノハ、「財産權の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」トアリマスガ、其ノ次ノ「私有財産は、正當な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」此ノ公共ト云フ性質ヲ持ツタモノナラバ、誰デモ他人ノ私有財産ニ對シテ使用ヲ請求スルコトガ出來ルノデアリマスカ、其ノ點ヲ一ツ‥‥
○國務大臣（木村篤太郎君） 左樣デハゴザイマセヌ、私人ガ勝手ニ他人ノ財産ヲ處分スルト云フコトハ出來ナイノデアリマス
○結城安次君 サウシマスト此ノ公共ト云フモノハ、詰リ公共團體或ハソレニ類スルモノニ限定サレル譯デスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 是ハ國家ト國民トノ間ヲ規定シタ譯デアリマス、法律デ以テ或ハ公共團體ニ正當ナ補償ヲ立テサセテ、私人ノ財産ヲ或ハ徴收スルヤウナ場合モアリマセウカ、建前ト致シマシテハ是ハ國家ト國民トノ間ヲ規定シタモノデアルト御了承ヲ御願ヒ致シマス
○結城安次君 能ク了承致シマシタ、私ハ是デ終リマス
○佐々木惣一君 私モ此ノ二十九條ニ付テ少シ御尋ネシテ見タイ、第一點ト致シマシテハ、此ノ第二十九條第一項ニ「財産權は、これを侵してはならない」ト云フコトガアリマスガ、此ノ財産權ト云フモノト、所謂財産制度ト云フモノト、ドウ云フ區別ガアルカ、モツト之ヲ具體的ニ申上ゲタ方ガ問答ガ早クナルカラ申上ゲマスガ、將來一般ニ財産制度ハ之ヲ廢止スルト云フヤウナ法律ヲ作ルコトガ憲法デ許サレルカドウカ、サウ云フマア假設的ナ、具體的ナコトデ御答ヲ願ツタラ宜イ、色々意見ガアリマセウガ、私ハ唯ソレダケノコトヲ御伺ヒ致シマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 是ハ制度ノ問題ヲ論ジテ居ルノデハアリマセヌ、明カニ財産權ト云フコトニナリマス
○佐々木惣一君 サウスルト云フト、只今申上ゲマシタヤウナ、サウ云フ法律ガ出來又ハ別トシテ、出來テモ憲法違反ニハナラヌト云フ風ニ見テ宜シウゴザイマスナ、財産制度ハ之ヲ廢止スルト云フヤウナ法律ヲ作ルト、此ノ規定ニハ牴觸シナイト斯ウ云フ風ニ‥‥從來其ノ時ノ制度迄ニ於テ享有シテ居ル財産權者ハ、ソレハ侵サレナイノデスケレドモ、其ノ後ニハ財産權ト云フモノハ、一切制度上之ヲ設ケナイト云フコトニナル、今ノ御説明デ、サウ云フコトハ許サレルカドウカ、斯ウ云フ譯ナンデス、是ハ可ナリ重大ナ問題ダラウト思ヒマスノデ、ソレヲチヨツト御尋ネ致シマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 財産制度ノ問題ニ付テハ、今此所デ御答ヘスルコトハ出來マセヌ、併シ假ニ財産制度ノ結果、此ノ財産權ヲ侵害スルト云フヤウナコトデアリマスレバ、ソレハ憲法ニ牴觸シハシナイカト考ヘラレマス、併シ今此所デ論ジテ居ルノハ財産權ノ問題デアリマシテ、財産制度ノ問題デナイト云フコトヲ御了承願ヒタイ
○佐々木惣一君 財産制度ノ問題デハナイノダカラシテ、結局此ノ規定ニハ該當シナイト云フコトニナルノデスナ、サウ伺ツタラソレデ宜イノデスガ、但シ是ハ可ナリ重要ナ問題デアリマスカラ、チヨツト政府ノ御方ニ申上ゲマスガ、法律ヲ以テ財産制度ハ一切之ヲ廢止スルト云フコトガ出來ルカドウカト云フコトハ、其ノ當時持ツテ居ツタ財産權ヲ侵害スルコトハ勿論ナクシテ、サウ云フ制度ヲ作ルコトガ出來ルカ出來ヌカト云フコトハ、可ナリ重大デアリマスカラ、此ノ問題ニ關係ガナイトハ言ヘヌ、關係ガアルノデスカラ、ドウカ尚能ク一ツ御研究ヲ願ヒタイ、ソレカラシテ第二點デアリマスガ、「財産權の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」ト云フノデアリマスガ、此ノ内容ヲ定メルト云フコトガチヨツトハツキリシナイノデアリマス、例ヘバ所有權ナラ所有權ト云フモノハ、現行法デハ「所有者ハ法令ノ制限内ニ於テ自由ニ其ノ所有物ノ使用、收益及ビ處分ヲ爲ス權利ヲ有ス」ト斯ウ云フコトニナツテ居リマスガ、權利ノ内容其ノモノヲ公益ニ適合スルヤウニ定メルト云フコトハ、一體ドウ云フコトナンデスカ、其ノ内容ヲ一ツ御伺ヒ致シタイ
○國務大臣（木村篤太郎君） 只今御話ニナリマシタ財産權ノ中ノ所有權ノ御話デアリマスガ、所有權其ノモノノ規定ヲスル場合ニ直接ニ公共ノ福祉ニ適合スルヤウニ定メルカドウカ、是ハ問題デアリマス、一ツノ法律ヲ作ル際ニ、財産權ニ觸レタ場合ニ、ソレハ公共ノ福祉ニ適合スルヤウニ規定スレバソレデ足リルト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 詰リ要スルニ其ノ内容其ノモノガ公共ノ福祉ニ適フヤウニナラナケレバナラヌノデスネ、ソレナラソレデ宜シウゴザイマス、サウスルト詰リ或權利ノ内容其ノモノガ公共ノ福祉ニ適フヤウナ結果ヲ持來サナケレバナラヌト云フコトニナリマスネ、其ノ權利ヲ公共ノ福祉ト云フヤウナコトカラ、ソレ以外ニ其ノ權利ノ作用ヲ制限スルト云フコトヂヤアリマセヌデスナ、内容自體、ソレヲ伺ヒタイ
○國務大臣（木村篤太郎君） 左樣デアリマス
○佐々木惣一君 サウスルト云フト將來新タニ權利ヲ設定スルト云フヤウナ時ニ、可ナリノ拘束、注意ヲシナケレバナラヌヤウナコトニナルカト思ヒマスノデ、ソレヲ伺ツタノデアリマス、ソレカラシテ是ハ私チヨツト中座シテ居リマシタカラ、前ノ質問者ノ質問ニアツタノデセウガ「正當な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」例ヘバ公用徴收ナドハ、是ハ恐ラク前ノ質問ニアツタノデセウガ、私ハ居ナカツタモノダカラチヨツト御答ヘヲ願ツタラ宜シイノデアリマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 無論入ルコトト思ヒマス
○佐々木惣一君 サウデセウガ、唯言葉トシテハ、今ノ牧野委員ノ御説ノヤウニ、例ヘバ之ヲ公共ノ用ニ供スルコトヲ得ルト、斯ウ云風フニデモスレバ、或ハモツトハツキリスルカモ知レヌト思フノデスガ、私有財産ハ公共ノ爲ニ之ヲ用ヒルコトガ出來ルト云フコトニナルト、勿論是デモ徴收シテシマフコトガ出來ルト云フ解釋モ出來ルト思ヒマスガ、併シ一般ニハ「用ひる」ト云フ文字ガ或ハ誤解ヲ生ズルカト思ツタモノデスカラ、ソレデチヨツト御尋ネシテ見タノデスガ、解釋ノ問題ダカラ、サウ云フ意味デ使ツタト云フ風ニ承ツテ置ケバハツキリト致シマス、是デ私ノ質問ハ終リマス
○委員長（安倍能成君） 今度三十一條カラ四十條迄、牧野委員
○牧野英一君 各條ニ付テ疑ヒトスル所ヲ司法大臣ニ御伺ヒ致シタイト思ヒマスガ、先ヅ第三十一條デゴザイマス、「何人も、法律の定める手續によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」トアリマスガ、率直ニ申上ゲマス、是ハ「何人も、法律の定める手續によらなければ刑罰を科せられることがない。」ト簡單ニオヤリニナツテモ宜イコトデハナイデゴザイマセウカ、ト申シマスノハ、大抵「その他の刑罰」トアリマスカラ、前ノ「生命」「自由」ガ刑罰トシテノ「生命」「自由」ダケダラウト思ハレマスケレドモ、又生命、自由ヲ奪ハレ、又ハ刑罰ヲ科セラレルコトガナイイ云フヤウニモ取ラレマスガ、御趣旨ハ矢張リ刑罰ダラウト拜察致シマスルノデ、何モ率直ニ書ケバ宜イコトデハナイカ罪刑法定主義ノ一ツノ規定デゴザイマス、訴訟法上ノ規定、現在ノ憲法デ申シマスレバ、「日本臣民ハ法律ニ依ルニ非スシテ逮捕監禁審問處罰ヲ受クルコトナシ」トゴザイマスガ、其ノ「逮捕監禁審問」ニ該當スル言葉デゴザイマセウガ、是ハ簡單ニシタ方ガ宜イノデハナイカト斯ウ考ヘマスルガ、ソレトモ政府トシテハ何カ特別ノ御趣旨ガオアリニナルコトデゴザイマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 此ノ規定ハ要スルニ手續規定ヲ決メタノデアリマス、生命身體ノ自由ヲ奪フト云フヤウナ内容ニ關スルコトハ無論法律デ決メルノデアリマス、其ノ他ノ刑罰ヲ科スルヤウナ手續モ、是ハ法律デ共ニ定メルト云フコトニナル譯デアリマス
○牧野英一君 刑罰トシテノ生命若シクハ自由ヲ奪ハレル、斯ウ云フコトデスネ
○國務大臣（木村篤太郎君） サウデス
○牧野英一君 私トシテハ、斯ウ云フ規定ハ、サツパリト「何人も法律に定める手續によらなければ刑罰を科せられることがない。」デ、特ニ例トシテ生命、自由ト云フヤウナコトヲ謳ハナイデモ明瞭ナコトト思ヒマスガ、マア當局ハ、親切ニ是ダケノモノヲ例トシテ御擧ゲニナツタト云フコトニナルモノト心得マス、第三十二條ハ「何人も、裁判所において裁判を受ける權利を奪はれない。」是ハ文字ノ議論デゴザイマスガ、裁判所ノ裁判ヲ受ケト云フコトニナリマスカ、是ハ御趣旨ハ私ニ理解出來ルヤウニ思ヒマスカラ、次ニ進ミマス、第三十三條、之ニ付キマシテハ二ツ、趣旨トスル所ヲ御伺ヒ致シテ置キタイ、第一ハ「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、」トアリマスルガ、御承知ノ如ク、現行刑事訴訟法ニハ現行犯、昔ハ準現行犯ト云フ言葉ヲ使ヒマシタ、今日デハ現行犯、其ノ現場ニアルモノト見做スト云フ特別ノ文字デ現ハサレテ居リマスガ、現行犯ト同ジヤウニ論ズベキ若干ノ場合ニ付テハ、現行犯ノ規定ヲ準用スルノデアリマスノデ、現行犯、其ノ場所ニアルモノト見做スノデゴザイマシテ、是ダケデハサウ云フ所謂準現行犯ノ場合ガ缺ケルコトニナリハシナイカト、斯ウ云フ私心配ヲ致スノデアリマス、是ハ政府トシテハドウ云フ風ニ御考ニナツテ居ルノデアリマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 現行犯ト云フノハ、準現行犯ヲ包含サレルカドウカト云フ御議論ノヤウニ承リマスルガ、私ハ準現行犯ト考ヘラレル場合デモ、此ノ規定デ行ケルノヂヤナイカト考ヘテ居リマス
○牧野英一君 是モ例ノ老婆心トシテ私申上ゲマスルノデ、準現行犯ナルモノハ、刑事訴訟法ノ規定ニ依ツテ初メテ現行犯ト同ジ取扱ヒヲ受ケルノデゴザイマスルカラ、モウ少シ言葉ヲ附ケ足シテ置カナケレバ、刑事訴訟法ノ規定ガ最高裁判所ヘ行ツテ審査ヲ受ケルト云フコトニナル虞ガアラウト思セマスカラ、是モドウゾ一ツ御考ヘ置キヲ願ヒタイト思ヒマス、第二ノ疑ヒトシテ御伺ヒ致シマスルノハ、「權限を有する司法官憲」ト云フ言葉デアリマス、誠ニ分ルヤウナ分ラナイ言葉ニナルノデゴザイマスガ、現行刑事訴訟法ヲ元ニシテ考ヘマスルト云フト、檢事ガ強制處分ヲスル場合ガ相當ニ多イノデス、殊ニ先程御配付ニナリマシタ法制審議會ノ中間報告ト云フモノヲ拜見致シマスルト、豫審ハ之ヲ廢止スルト云フコトニナツテ、從來豫審判事ノ取扱ツタコトハ檢事ガヤルヤウニナルノデアリマス、是ハ手續ノ改正ノ仕方トシテハ、十分理由ノアルコトト察シマスルガ、權限アル司法官憲ト云フ言葉ダケデハ、餘程疑ヲ生ズル虞ガアル、恐ラク政府トシテハ此ノ言葉デ十分遺漏ナキヲ期待スルコトガ出來ルト云フ御趣旨デゴザイマセウケレドモ、是モ言葉ノ上デ牧野ガ老婆心ヲ披瀝シテ恐縮ニ存ジマスガ、何カモウ少シ言葉ヲ變更シテ戴イテ、判事、檢事、場合ニ依ツテハ司法警察官ガ現行刑事訴訟法通リ相當ノ手續ヲ運ブコトノ出來ルヤウニ御考慮ヲ仰グコトガ出來マスマイカ、權限アル司法警察官ト云フ言葉ニ甚ダ疑ヲ持チマスルノデ、是モ政府ノ御趣旨ヲ伺ツテ置キタイ
○國務大臣（木村篤太郎君） 此ノ「司法官憲」ト申シマスルノハ、憲法草案デハ、裁判官ト云フ文字ト區別シテ使ツテ居ルノデアリマス、此ノ中ニハ無論檢事モ入ル意味ガ十分分リ得ル、斯ウ政府デハ考ヘテ居リヤウナ譯デアリマス
○牧野英一君 是モ裁判官ト司法官憲ハ違フト云フ、言葉ニ區別ガシテアルト云フ御趣旨ハ、御尤モデゴザイマスルガ、片方ニ於テハ檢察官廳獨立論ト云フモノガアリマシテ、御配付ノ中間報告ニ依リマスルト、檢察官廳ト云フモノハ餘程裁判所トハ區別セラレタ、今迄デモ相當ニ法規ノ上デハ區別セラレテ居ルノデゴザイマスルガ、ソレ以上ニ檢察官廳ト云フモノヲハツキリ區別スルコトニナツテ居リマスノデ、檢察官ノ行動ハ果シテ司法事務ト言フコトガ出來ルカドウカト云フコトニ付テ疑ヲ挿ム餘地ガアリハシナイカト懸念致サレマス、折角斯ウ云フ風ニ立法スルト云フコトニナリマスレバ、何カ一ツ其處ニ御工夫ガアツチ戴ケレバ有難イト存ジマスルシ、マタ細カイ所迄ハ研究致シテ居リマセヌケレドモ、場合ニ依ツテハ司法警察官ニ或程度ノ強制處分、逮捕ヲ許サネバナラヌコトガアリ得ヨウカト思ヒマスノデ、是モ一ツ段々ニ御考慮ヲ煩ハシタイト思ヒマス、ソレデ今ノ司法大臣ノ御話デハ、檢事ハ當然司法官憲ニ含ムト云フコトノ御趣旨デアリマシタガ、司法警察官迄含ンデ宜イカ、固ヨリ名稱ガ司法警察官トアル位デスカラ、司法官憲ニナルト仰セラレルカモ知レマセヌガ、ドウゾコンナコトデ後日ノ疑ノ起ラナイヤウニ手ヲ加ヘルコトガ出來レバ、各方面ノ御審議ヲ煩ハシタイ、斯ウ云フ風ニ考ヘル次第デゴザイマス、ソレデハ次ニ移リマス、第三十四條、是ニハ稍々困難ナ場合ガ若干アリマスルノデ、先ヅ第一ニ「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに辯護人に依頼する權利を與ヘられなければ、抑留又は拘禁されない。」抑留又ハ拘禁ト云フ新ラシイ言葉ガ用ヒラレテ居リマシテ、今我々ガ刑事訴訟法ニ於テ用ヒテ居ル言葉トハマルデ別ニナツテ居リマス、ソレデ是ハ刑事訴訟法トハ關係ナク、抑留、拘禁ト云フコトヲ御規定ニナツタ、廣ク抑留、拘禁ト云フヤウナ言葉ニ該當スルヤウナコト、例ヘバ行政執行法ノ檢束デアリマスルヤラ、精神病者看護法ノ看護ト云フコトデアリマスルヤラ、サウ云フコト迄モ含メテノ御規定デオアリニナルノカ、ソレトモ辯護人ト云フ言葉ガ用ヒラレテ居リマスルカラ、矢張リ刑事訴訟法ニ關スル制限規定トシテ御規定ニナツタモノデアルカ、此ノ抑留又ハ拘禁ト云フ言葉ガ後デ又二回、三回出テ參リマスルガ、其ノ點ニ付テ疑ガアリマスルノデ、御伺ヒ致シテ置キタイ
○國務大臣（木村篤太郎君） 此ノ規定ハ行政檢束ナドト違フト考ヘテ居リマス、是ハ詰リ犯罪ヲ豫見シテノ場合デアリマスカラ、現在ノ刑事訴訟手續法ニ於キマスル留置、勾留ト云フヤウナモノニ該當スルモノダト、斯ウ考ヘテ居リマス
○牧野英一君 刑事訴訟法ヲ御改正爲サルコトニナツテ居リマスルガ、我々ガ多年使ヒ慣レタ勾引、勾留ト云フ言葉ハ御廢メニナル御積リデオアリニナルノデアリマスカ、ソレトモ斯樣ニ使ヒ慣レタ勾引、勾留ト云フ言葉ヲ存置ナサル御積リデオアリニナルカ、若シ存置ナサル御積リデオアリニナルナラバ、憲法デ新ラシイ言葉ヲ御用ヒニナラナイデ、此ノ憲法ノ改正案ニ於テモ、勾引又ハ勾留ト御規定ニナツタナラバ、誠ニ萬事ガ滑カニ進行スルノデハナイカト、斯ウ考ヘラレルノデゴザイマスルガ、是ハ如何ナモノデアリマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 別段今ノ刑事訴訟手續法ニ用ヒラレテ居リマスル用語ヲ直チニ改正スルト云フ氣持ハ持ツテ居リマセヌ、唯此ノ抑留、拘禁ト云フ文字ヲ使ツタノハ、寧ロ廣ク分リ易ク國民ニ知ラセルト云フ意圖ノ下ニヤツテ居ルノデアリマシテ、別段今申上ゲマシタヤウニ、刑事訴訟手續法ノ用語ヲ直チニ訂正スルト云フヤウナ氣持ハ持ツテ居リマセヌ
○牧野英一君 御趣旨ハ能ク理解致シマシタ、實體的ニハ今日ノ勾引、勾留トハ違ハナイノデ、唯國民ニ分リ易ク言葉ヲ作リ直シタト云フコトデゴザリマスルガ、勾引、勾留ト云フ言葉ハ術語デアリマスルモノノ、既ニ長ク使ツテ居リマスル言葉デ、却テ抑留ト云フヤウナ言葉ヲ用ヒルコトニ依ツテ、勾引トハドンナ違ヒガアルノカト云フヤウナ、マア私ハ抑留ハ勾引ニ該當スルモノデアラウト云フヤウニ考ヘマスガ、無用ナ誤解ヲ生ズルヤウナコトガアツテハ殘念ナコトニ思ヒマスルシ、又現ニ法律家ノ間ニ於テ、此ノ抑留及ビ拘禁ト云フコトハ刑事訴訟法ノ勾引又ハ勾留トハ違ツタ概念デアル、モツト廣イ概念デアルト云フコトヲ論ジテ居ル人モアル位デアリマスカラ、成ルベクナラバ、若シ是ガ刑事訴訟法ニ於ケル規定ノ原則ヲ定メタモノデアルト云フ御考デ御アリニナルナラバ、サウシテ私ハソレニ賛成ヲスル次第デゴザリマスルガ、刑事訴訟法デ使ヒ慣レタ言葉ニ戻スト云フヤウナコトヲ御考ヘ戴クコトハ出來マスマイカ、今度ハ第三ニ辯護人ト云フ言葉ニ移リマス、是ハ第一行ニナリマスガ、後ノ方ニハ「資格を有する辯護人」ト云フ言葉ヲ使ツテ居リマスガ、單ニ「辯護人」ト云フ言葉ヲ御使ヒニナツタ場合ト、「資格を有する辯護人」ト云フ言葉ヲ御使ヒニナツタ場合トデ違フモノデゴザイマセウカ、如何デゴザイマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 後ノ資格アル辯護人ト申シマスルノハ、所謂辯護士デナクテモ、御承知ノ特別辯護人ト云フヤウナ制度ガアリマスルカラ、ソレヲ含マセテ左樣ナ文字ヲ使ツタ譯デアリマス
○牧野英一君 サウ致シマスルト、三十四條ノ場合ノ、辯護人ト云フ場合ハ辯護士タル辯護人デ、資格ヲ有スル辯護人ト云フノハ特別辯護人ヲモ含ムコトガ出來ルト、斯ウ云フ御趣旨ニナリマスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） サウデゴザイマス
○牧野英一君 此ノ點ニ付テハ、實體上ドウ云フ風ニスレバ宜イカト云フコトニ付テハ私マダ十分考ヘテ居リマセヌガ、實ハ是ハ區別ノナイコトデ、後ノ資格アルト云フ言葉ハ、所謂高柳委員ノ「レトリック」ニ過ギナイト、斯ウ云フ風ニ私ハ考ヘテ居ツタノデゴザリマスルガ、斯樣ナ區別ノアルト云フコトニ付テノ御趣旨ハ十分之ヲ體シテ研究ヲ續ケマセウ、最後ニ、此ノ規定ガ一體ドウ云フ風ニ動クモノデアルカト云フコトニ付テ疑ガアリマスルノデス、「何人も、理由を直ちに告げられ、」迄ハ宜シウゴザイマスガ、「直ちに辯護人に依頼する權利を與ヘられなければ、」ト、斯ウアリマスルカラ、勾引状ヲ持ツテ來テ勾引シヨウトスル場合ニ、俺ハ東京ノ辯護士ニ頼ミニ行クカラソレ迄待ツテ貰ヒタイト、斯ウ言ツテ東京迄出掛ケルト云フコトニナツタ場合ニ、名古屋ナリ大阪ナリニ居ツテ、マア名古屋ナリ大阪ナリト云フノハ例ガ餘リ酷イノデスガ、田舎ニ居ツテ直グ勾引スルコトハ出來ナイト、斯ウ云フモノニナリハシナイカト恐レテ居ルノデアリマス、依頼スル權利ヲ與ヘラレナケレバ勾引、勾留ヲ受ケナイト、斯ウ云フノデスカラ、ソレデハ勾引、勾留スル甲斐ガナイコトニナルヤウニ思ヒマスルノデ、ドウ云フコトカト思ヒマスルガ、是ハ如何ナモノデアリマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 其ノ詳細ナ規定ハ何レ別ノ法規デ定メラレルコトダラウト思ヒマスガ、是ハ辯護人ヲ依頼スル一ツノ機會ヲ與ヘルコトニナツテ居リマス、左樣ナ今仰セノヤウニ、東京デ勾引サレタ者ガ名古屋ノ辯護士ニ頼ムト云フヤウナ極端ナ場合ハ恐ラク發生シナイモノト確信致シテ居リマス、唯辯護士ニ頼ム機會ヲ與ヘルト云フコトニ過ギナイノデアリマス
○牧野英一君 私モ實ハ左樣ニ心得マシタノデ、假ニ私ガ試ミマシタ案デハ、勾引又ハ勾留ヲシタ時ニハ、直チニ辯護人ニ依頼スル權利ヲ與ヘネバナラヌ、斯ウ云フ意味ニ過ギナイノデアリマス、辯護人ニ依頼スルト云フ權利ヲ行使スルノヲ待ツテソレガ「直ちに」デアラウトモ、ソレヲ待ツテ然ル後ニ勾引状、勾留状ヲ執行スル、斯ウ云フ順序ニナルノデハナカラウカト思ヒマスガ、サウ致シマスルト此ノ文字デハ聊カ通リガ惡イノデハナイカト心得マスルノデ、此ノ點モ尚一ツ御考慮ヲ仰グコトガ出來レバ幸福ニ存ジマス、尚三十一條ノ文字ノ竝べ方ニ付テハ、實體ニハサシテ關係ガナイト思ヒマスルガ、聊カ意見ガアリマス、ソレハ稍々末梢的ナ議論ニナリマスルカラ此處ノ所デハ取リ除ケマス、更ニ第三十五條ニ移リマス、第三十五條デ「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押收を受けることのない權利は、第三十三條の場合を除いては、正當な理由に基いて發せられ、且つ捜索する場所及び押收する物を明示する令状がなければ、侵されない。」先ヅ第一ニ疑ニナリマスノハ、「第二十三條の場合を除いては、」ト斯ウアリマス、ソレカラ第三十三條ハ「令状によらなければ逮捕されない。」ト云フ規定ナノデゴザイマスルカラ、三十三條ヲ除クト云フノデハ意味ガ通ジナイト思ヒマス、是ハ現行犯等ノ場合、又ハ權限ヲ有スル司法官憲ノ令状ニヨル場合ノ外、斯ウ云フ意味ダラウト思ヒマスルノデ、是デハ「三十三條の場合を除いては、」デハ甚ダ映リガ惡イ、斯ウ心得マス、是ハ私ノ誤解カモ分リマセヌガ、ドウモ斯ウ云フ風ニ書イテハ二十三條ヲ直チニ承ケテ居リマセヌ、之ヲ能ク一ツ御考慮ヲ仰ギタイト敢テ申上ゲマスケレドモ、私ノ誤解デゴザイマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 此ノ三十三條ノ現行犯トシテ逮捕サレル場合ヲ除イテハカカルト云フ規定デアリマス
○牧野英一君 ドウシテモサウ云フ御趣旨ト私モ理解致シマスルノデ、斯ウ云フ所ハ整理ノ問題ニナリマシテ、實體ニ付テハ爭ヒガナイノデゴザイマス、併シ此ノ儘ニシテ置キマスルト、ドンナ所カラ紛議ガ起ルカモ知レヌト云フコトヲ私ハ憂ヘテ居リマス、ノミナラズ其ノ次ノ三十五條ニ對スル疑ト致シマシテハ、斯ウ云フ權利ハ斯ウ云フ場合デナケレバ侵サレナイトアツテ、相當ニ廻リ遠イ規定ニナツテ居リマス、是モ言葉ノ「レトリック」ナ議論ニナリマスガ、「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押收を受けることのない權利」ヲ明カニシテ、其ノ權利ハ正當ナ理由ニ基イテ發セラレ、且令状ノアル場合ニノミ制限セラレル、斯ウ云フヤウナ風ニ分ケテ御書キ下サルト大變分リガ宜イノデハナイカト存ジマス、實ハ此ノ憲法ノ斯ウ云フ條文ニ付テ稍々教養ノアル、併シナガラ素人、法學部ノ學生ト致シマシテモマダ幾ラモヤツテ居ラヌ學生ニ付テヤツテ見マスト、斯ウ云フ規定ハ相當ニ分リニクイサウデアリマス、私共ハ斯ウ云フコトヲ長年仕事トシテ居リマスルカラ、サウ云フ意味カト心得マスルケレドモ、ドウゾ一ツ、斯ウ云フ所ハ整理ノ問題デゴザイマセウ、今實體ニ付テハ私ト考ヘガ同ジデアルト司法大臣ノ御答デゴザイマスカラ、ドウゾ一ツモウ少シ滑ラカニスルコトニ付テノ御考慮ヲ煩ハシタイト思ヒマス、第二項ニ參リマシテ「權限を有する司法官憲が」ト云フ言葉ガアリマスルノデ、是ハ先ノ「司法官憲」ト云フ言葉ニ付テ質疑ヲ申出マシタト同ジ問題ガアル譯デゴザイマス、次ニハ第三十六條「公務員による拷問及び殘虐な罰刑は、絶對にこれを禁ずる。」是ハ稍々議論ガマシイコトヲ申上ゲタイノデ、少シバカリ私ノ立場ヲ釋明スルコトノ御許シヲ願ヒタイト思ヒマス、併シ時間通リニハ努メタイト思ヒマス、先ヅ此ノ刑罰ノ殘虐性ヲ禁ズルト云フ理由デゴザイマスルガ、殘虐性ヲ禁ズルト云フ極ク素朴的ナ、常識的ナ言葉ガ、更ニ批判的ニ考ヘタ時ニドウ云フ意味ニナルカト段々詮議ヲ致シマスル結果、事柄ガ教育刑ノ原則ニ及ブト云フコトハ、本會議デ既ニ一應申上ゲタコトデモアリマスルシ、又此ノ總論ノ時ニモ一言申上ゲタト思ヒマスル、丁度勞働權ニ關スル規定ガ勞働ノ權利ヲ有スト云フコトガ第二項ニ及ビ、次ニ二十八條ニ及ビマス、勞働ノ權利ヲ有スト云フ言葉ヲ、段々ニ批判シテ論理的ニ擴張致シマスルト、結局ハ勞働ノ自由權ガ、勞働ノ何ト申シマスルカ、高柳委員ガ先程御話ニナツタヤウニ、勞働ノ權利、即チ我々ガ通常「ドロア・オー・トラヴアイ」ト稱シテ居ル所ノ權利ニナルノデ、厚生大臣ノ御解釋ハ、論理的ニ擴充スルコトニ依ツテ、私ノ考ヘテ居ルヤウナコトニ迄、發展シナケレバナラヌ、斯ウ云フ趣旨ノコトヲ先程申上ゲマシタ譯デゴザイマスルガ、ソレト同ジ「メソツド」ニ依ツテ、批判的方法ヲ用ヒマスルト、殘虐ナ刑ハ絶對ニ之ヲ禁ズルト云フコトハ、更ニ單リ消極的ニ刑ノ殘虐性ヲ除去スルニ止ラナイデ、刑ノ目的ガ何處ニ在ルカト云フコトヲ考ヘネバナラナクナリ、刑ノ目的ニ副ハナイ所ノ刑ハ殘虐性ヲ持ツコトニナルノデアリマスカラ、刑ノ目的ガ何處ニ在ルカト云フコトヲ考ヘネバナラナクナルシ、ソコデ刑ノ目的ヲ考ヘルト云フト、改善ヲ出來ルダケ目的トシナケレバナラヌト云フ譯ニナルノデアリマス、然ル處、片方ニ於テハ政府ハ刑罰ハ苦役デアルト云フ言葉ヲ御用ヒニナツテ居リマスルノデ、先達テ多少問題ニ致シタ譯デアリマス、アノ當時ノ私ノ申上ゲ方ガ甚ダ不束デゴザイマシテ、用意ニ不十分ナルモノガアリ、御叱リヲ受ケタコトニ付テハ深ク自ラ省ミテ居リマス、恐悚ニ堪ヘザル次第デアルト云フコトヲ申上ゲマス、サリナガラ由來司法部ノ一角ニハ苦役論者ト云フモノガ甚ダ力強イ、言葉ヲ用ヒマスレバ、司法部ノ一角ニ苦役論者ガ蟠居シテ居ルト申上ゲマセウ、其ノ苦役論者ノ蟠居シテ居ル爲ニドノ位皆ガ困ツテ居ルカト云フコトハ、失禮ナガラ三土翁御自身ガ其ノ被害者デアリマス、三土翁ガ當時如何ナル精神ト氣力トヲ持ツテ、其ノ態度ニ對シテ反抗セラレタカト云フコトニ付テハ、窈カニ聞議致シマシテ格別ナ敬意ヲ持ツテ居ル次第デゴザイマスル、私ハ三土翁ノ其ノ意氣ト氣力トニ肖ツテ此ノ苦役論ニ對シテハ十分ノ何ト云フカ、闘ヒト云フ言葉ハ成ルベク申上ゲタクナイノデアリマスルガ、私ノ思想ヲ貫キタイト云フコトヲ考ヘテ居リマスルノデ、是ハ相當ニ司法省エ於ケル司法制度審議會ニ於テモ骨ノ折レル仕事ニナツテ居リマスルノデ、餘リニ骨ヲ折ツタガ爲ニ、此處デツイウツカリト此ノ席上タルコトヲ心得ナイデ稍々物事ヲ言ヒ過ギタケレドモ、最近何週間ノ間、之ガ爲ニハ闘ツテ來タノデアリマス、ソコデ私ハ反對論ヲ踏ミ潰スナドト云フ亂暴ナコトヲスル積リハゴザイマセヌガ、併シナガラ司法大臣ガ本會議ニ於テ犯人ノ改善ト云フコトニ付テハ十分ノ考慮ヲ拂ツテ居ルノデアル、斯ウ云フ風ニ御話ニナツタノデゴザイマスカラ、單リ司法部ノ仕事トシテ其ノコトヲ段々御進メニナルコトノ外ニ、憲法論トシテ刑罰ニ關スル原則ヲモウ少シ一ツ積極的ニ、即チ文化的意義ノアルヤウニ何カ一ツオ加ヘニナルト云フコトヲ希望スルコトガ出來マスカ、是ハ婚姻ノ規定ニ對シテ家族生活ニ對スル規定モ相並ベテ設ケラレルコトガ、此ノ國民思想ノ趨ク所ヲ示スノニ餘程重要ナ影響ガアルモノト考ヘテ今朝モ御伺ヒ致シタ譯デゴザリマスガ、刑罰ト雖モ、荒ツボイ刑罰デ盛ンニ死刑ヲスルト云フヤウナコトデハ、一體刑罰ノ權威ト云フモノヲ果シテ保ツコトガ出來マセウカ、斯ウ云フ風ニ考ヘマスノデ、所謂嚴罰ニ對シテハ、色々ノ意味ニ於テ尚一ツ考ヘ直シテ戴キタイト思ツテ居リマス、ソコデ私ハ反對論ヲ全ク無視スルヤウナ規定ノコトハ考ヘマセヌガ、矢張リ刑ノ言渡シ及ビ執行ニ付テハ犯人ノ改善ヲ考慮スベキデアル、斯ウ云フヤウナ趣旨ノ一項ヲ御設ケ下サルナラバ、刑ノ殘虐性ハ之ヲ嚴禁スルト云フ趣旨ヲ批判的ニ論理的ニ擴充シタコトニナリマス、所謂消極的ナ規定カラ更ニ一歩出タ意味ヲ持ツコトニナリマス、反對論者ノ説ヲ無視スルノデハアリマセヌガ改善ト云フコトヲ相當ニ適當ニ考慮シテ貰フト云フコトヲ此處ヘ御加ヘ下サルト云フ御詮議ハ願ヘヌモノデアリマセウカ、是ハ一ツ司法大臣ノ憲法改正ニ付テノ御考‥‥司法大臣トシテハ十分努力シテ居ルノダト仰ツシヤイマシタカラ、憲法改正ノ問題トシテノ御心持ヲ伺ツテ置キタイト思ヒマス、尚是ハ私ハ反對論ト云フモノ、所謂害惡刑論ト云フモノハ全部此ノ際頭ヲ引込メテシマヘト云フヤウナ強イコトヲ申スノヂヤアリマセヌケレドモ、今ノ苦役ト云フ言葉ヲ何トカ一ツ御考ヘ願ヒタイ、餘リ司法省ノ從來ノオヤリニナツテ居ルコトトハ一致シナイ點ガアルト存ジマスルノデ、是ハ又別ニ案ヲ立案致シマシタノデ御詮議ヲ願ヒタイト思ヒマスガ、此ノ場合デモ反對論ヲ無視スルト云フ積リハゴザイマセヌガ、此ノ點ヲ相當ニ考慮シテ貰ヒタイト云フ趣旨デゴザイマス、ソレデ刑ノ言渡シ及ビ執行ニ付テハ犯人ノ改善ヲ考慮スルコトヲ要スルト云フヤウナ趣旨ノ規定ガ欲シイト思ヒマスルガ、偖テ如何ナモノデゴザイマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、犯人ノ取扱ヒ問題ハ是デ御説御尤モデアリマス、我々政府當局ト致シマシテモ、十分其ノ點ハ實ハ留意シテ居ルノデアリマス、今日犯罪人ノ取扱ニ關シマシテハ、恐ラク牧野委員モ現在ノ實情ハ御存ジダラウト思ヒマス、決シテ之ニ對シテ苦役ヲ加ヘルコトヲ以テ能事トシテ居ルノデハアリマセヌ、我々モ及バズナガラ此ノ司法保護其ノ他ノコトニ付テ全力ヲ擧ゲテ居ルノデアリマス、實ハ先刻モ司法保護團體ノ各位ト會見シテ來タノデアリマス、之ヲドウカシテ立派ナ人間ニ仕上ゲナケレバナラヌ、是ハ平和民主的日本ノ再建ノ一翼タルベキモノダラウト云フ考デ、司法當局トシテハ全力ヲ注イデ居ルノデアリマス、然ラバ左樣ナ規定ヲ此ノ憲法ニ設ケルカドウカト云フコトハ、是ハ別ナ問題デアラウト思ヒマス、苦役ノ問題ガ起リマシタガ、言葉ノ問題デアリマス、此ノ苦役ト云フモノモ、要スルニ兎ニ角教育シテ行ク以上ハ、一定ノ強制勞働ヲ加ヘナケレバナラヌノデアリマス、是ハ唯遊バシテ置イテハイケナイノデアリマス、本人ノ意思ヲ無視シテデモ強制勞働サセルト云フコトハ、寧ロ私ハ教育刑ノ一ツノ本然ノ姿ヂヤナイカト考ヘテ居リマス、ソコデ修正ノ第三十六條ニ「公務員による拷問及び殘虐な刑罰は、絶對にこれを禁ずる。」トアリマスガ、實際ノ行刑ノ局ニ當ル者ハ、須ラク此ノ憲法ノ趣旨ニ副ツテ行刑ノ目的達成ヲ圖ルベキモノデアルト私ハ確信スルノデアリマス
○牧野英一君 憲法問題ハ兎ニ角トシテ、司法大臣ガ私ノ申上ゲタ趣旨ニ付テ餘程御同情ヲ下サツタコトニ付テハ幸福ニ存ジマス、更ニ一歩ヲ進メテ先程ノ家族生活ノ原則ノ問題ト共ニ、刑政ニ付テモ本當ニ平和的ナ、文化的ナ刑法ノ原則ガ憲法ノ上ニ明カニセラレルヤウニ、尚一ツ御配慮ヲ仰グコトガ出來レバ幸福ニ存ジマス、其ノ次ニハ第三十七條、「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける權利を有する。」トアリマスガ、態々「公平」ト斷ラネバナラヌモノデゴザイマセウカ、既ニ三十二條ニ於テ、何人モ裁判所ニ於テ裁判ヲ受ケル權利ヲ奪ハレルコトガナイト云フコトデ、裁判ト云フ言葉ニハ當然公平ト云フコトガ豫定サレテ居ルカラコソ、此ノ憲法ノ草案ガ出來ルノデアリマスカラ、斯ウ云フヤウナ言葉ハ御取リ止メニナツタ方ガ、單ニ文字ノ上バカリデハナク、思想ノ上ニ大キナ影響ノアルコトデ、裁判ニハ公平ナモノト不公平ナモノトアル、コンナヤウナコトニナリ得ル虞ガアラウカト思ヒマスルガ、法律ヲ議論スル者ニ兎角言葉ノ揚ゲ足ヲ取ル惡イ癖ガアリマスノデ、成ルベクナレバサウ云フモノヲ防グコトガ如何ナモノカト考ヘラレルノデ、此ノ「公平」ト云フヤウナ文字ハ御取リ下ゲヲ願フ譯ニハ行キマスマイカ、是ハ私ハ言葉ノ議論トシテ申上ゲル積リハゴザイマセヌ、斯ウ云フ文字ガアルコトガ思想ノ上ニ遺憾ナル誤解ヲ生ジ、影響ヲ及ボスコトガアリハシナイカト虞レルノデゴザイマス、是ハ如何デゴザイマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 御説御尤モニ聞エマス、併シ此ノ「公平」ト云フ文字ヲ使ヒマシタノハ、裁判所ハ何處迄モ公平ナモノデアルゾト云フ一ツノ強調的意味ヲ持ツテ居ルト同時ニ、此ノ手續ノミナラズ組織迄モ公正ニサレタ裁判所デアルト云フ意味ヲ包含シテ居ルノデアリマス、寧ロ私ハ「公平な」ト云フ文字ガ入レラレルコトニ依ツテ、裁判所ノ一般民衆ニ對スル考ヘ方ガ好イヂヤナイカト云フ氣持ヲ持ツテ居ル次第デアリマス、唯後ハ御議論ニナリマス
○牧野英一君 誠ニ言葉ノ上ノ議論ヲシ過ギマシタカモ知レマセヌガ、此處ノ要點ハ公平ナ裁判ヲ求メル點ニアルノデハナクシテ、迅速ニ事ヲ運ンデ貰ヒタイト云フ所ニ要點ガアルノデアリマセウカラ、私トシテハ「公平な」ト云フヤウナコトハ、迅速デアリサヘスレバ不公平デモ宜イ、コンナコトニナル筈ハナイト心得テ居リマスノデ、斯樣ニ申上ゲタ次第デゴザイマス、第二項ニ移リマス、「刑事被告人は、すべての證人に對して審問する機會を充分に與へられ、又、公費で自己のために強制的手續により證人を求める權利を有する。」言葉ノ遣ヒ方デスガ、「強制的手續により證人を求める‥‥」、言葉ガ續キマセヌネ、求メルコトガ強制的手續デハナイノデ、證人ノ出頭ヲ強制スルヤウニ手續ヲ運ンデ貰フコトヲ要求スル權利デアル、斯ウデアラウト思ヒマスガ、如何デゴザイマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 御説ノ通リデアリマス
○牧野英一君 サウスルト、例ニ依ツテ強制的手續ニ依リ求メルコトニナリマスノデ、少シドウカト思ヒマスガ、ドウゾ一ツ斯ウ云フコトハ全體ニ亙ツテ澤山アリマスルノデ御詮議ヲ願ヒタイ、第三項、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する辯護人を依頼することができる。」是ハ先程御説明ガアリマシタ、私ハ御説明ニ對シテハ多少ノ疑ヲ持ツテ居リマス、單ニ「辯護人」ト書イタ場合ト、「資格を有する辯護人」ト書イタ場合トハ却ツテアベコベデハナイカ、「資格を有する」ト云フコトコソ形式的ナ資格ヲ有スル辯護人ヲ指スノデナイカト思ヒマスルガ、現ニサウ云フ風ニ解シテ居ル法律家ガアリマス、此ノ點ハ尚更ニ細目ニ亙ツテ御詮議ニナル時ニ御考ヲ願ヒタイ、第三十八條、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」第二項、「強制、拷問若しくは脅迫による自己又は不當に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを證據とすることが出來ない」、此ノ中ノ「不當に長く抑留」トアリマスルガ、若シ私ガ解シタヤウニ抑留ト云フ言葉ニ依ツテ拘引ト云フ言葉ガ意味セラレマスルナラバ、拘引ニハ一定ノ期間ノ定メガゴザイマスルカラシテ、是ハ「不當に長く」ト云フヤウナ言葉ハ少シ當嵌ラヌコトニナリハシナイカト思ヒマス、「拘禁」ノ方ニ寧ロ主トシテ係ルノデ、此ノ邊モ恐ラクハ内容的ニ司法大臣ニ兎ヤ角ト御伺ヒヲ立テル程ノコトハナカラウト思ヒマスガ、整理ノ際ノ問題トシテ御考慮ヲ仰グト云フコトニシテ如何ナモノデゴザイマセウ、是ハ特ニ「不當に長く抑留」スルト云フヤウナ場合ガ刑事訴訟法上デ特ニ想像サレルノデゴザイマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 只今ノ所デハ左樣ニ想像ハサレマセヌガ、萬一ノ場合ニサウ云フコトガアルカモ知レマセヌ
○牧野英一君 御尤モデス、ドウゾ是モ一ツ御考慮ヲ願ヒマス、其ノ次ニ、「何人も、自己に不利益な唯一の證據が本人の自由である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。」トアリマスルガ、有罪トサレルト云フコトト、刑罰ヲ科セラレナイト云フコトトノ區別ヲ設ケラレタコトニ疑ヒガアルノデス、率直ニ申シマスレバ、「有罪とせられない」ト、是デ宜イノヂヤゴザイマセヌカ、如何デゴザイマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 今ノ御説ニ依リマスト、有罪トサレル場合ニハ必ズ刑罰ヲ科セラレルカラト云フ御意見ノヤウニ拜聽スルノデアリマスルガ、有罪トサレテモ刑罰ヲ科セラレナイ場合モアリ得ルノデアリマス、左樣ニ御承知下サイ
○牧野英一君 御免下サイ、私ノ積リハ、刑罰ヲ科セラレル場合ニハ、ドウシテモ有罪トセラレナケレバナリマセヌカラ、有罪トセラレナイトアレバ、刑罰ヲ科セラレル場合ハ解決セラレマス、斯ウ云フ積リデ申上ゲタノデアリマス、ドウゾ御考慮ヲ願ヒマス、今度ハ第三十九條、「何人も、實行の時に適法であつた行爲又は既に無罪とされた行爲については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。」斯ウ云フ規定デアリマス、又文字ノ詮議ヲ申シテ相濟ミマセヌガ、此ノ「實行の時に適法であつた」ト云フ「實行」ト云フ言葉ハ、刑法四十三條ニ、「犯罪ノ實行ニ著手シ之ヲ遂ケサル者」ト云フコトニナツテ居リマシテ、刑法理論ノ上デハ特殊ノ意味ヲ含ンダ言葉デアリマス、之ヲ英譯ニ付テ申シマスト、唯「行爲ヲヤツタ時ニ」ト云フコトニナツテ居ルノデ、其ノ方ガウツリガ宜イ、私共ノヤウニ刑法ノ專門的ナ頭デ讀ミマスト云フト、甚ダ此ノ「實行」ト云フ言葉ニ心配ガアリマスルノデ、結局ハ行爲ノ爲ニ適法デアツタ行爲ト云フコトニ御直シヲ願ヒタイモノト考ヘマス、是ハ實體的ニハ御異論ガナイト思ヒマス、豫備陰謀ヲ罰スル‥‥犯罪ヲ取逃シテハナリマセヌ、併シナガラ「實行の時に適法であつた行爲」ト云フノデハ文章ニナリマセヌカラ、何レ是ハ御考ヲ願ハネバナリマスマイ、是ハ私モ一應假ノ立案ヲ試ミテ見マシタガ、整理ノ時ニ御詮議ヲ願ヒタイ、是ハ刑法四十三條ノ意味ニ於ケル實行ト云フ意味デハナイト云フコトハ、是ハ司法大臣ニ於テモ御異論ハナカラウト思ヒマスガ、尚念ノ爲ニ伺ツテ置キマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 左樣デゴザイマス
○牧野英一君 今度ハ後段ニ於テ「又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。」是ハ刑法上ノ一事不再理ノ原則ヲ示シタモノデゴザイマスガ、是ハ刑事ニ付テ特ニ普段御關係ノアラセラレナイ諸君ニ於テハ、是デ無論宜イト思召スコトハ當然デアリマスルガ、斯ウ云フコトガゴザイマス、此ノ頃經濟統制違反デ同ジヤウナ統制違反ヲ二十モ三十モヤリマス、サウ云フ連中ガ、初メ一ツカ二ツ白状スルノデアリマス、ソレデ或程度ノ處罰ヲ受ケマスト、「同一の犯罪」‥‥刑法五十五條ニ「連續シタル數個ノ行爲ニシテ同一ノ罪名ニ觸ルルトキハ一罪トシテ之ヲ處斷ス」トアリマスルカラ、後ニナツテ發見シタ所ノ何十カノ統制違反ヲ論ズルコトガ出來ナクナルノデアリマス、今日ニ於テハ尚被告人ノ不利益ニ於ケル再審ノ制度ガ許サレテ居リマスルカラ、或ハ或程度ノ救濟モ認メラレマセウガ、兎ニ角サウ云フコトガ面倒ナコトニナツテ居リマス、是ハ「同一の犯罪」ト云フコトガドウ云フ意味デアルカト云フコトニ付テ疑ヲ生ジマスルノデ、兎ニ角連續犯ニ付テハ、今ヤツテ居ルヤウナ困難ナコトノナイヤウニ御考慮ヲ煩サネバナラヌ次第デ、是ハ固ヨリ司法大臣ニ於テモ御異議ノナイコトト信ジマス、ソコデ無論刑法ノ方ハ改正ヲ要シマスルノデ、連續犯ト雖モ、之ヲ一罪トシナイデ數罪トスルト云フ規定ヲ設ケルコトニナツタト、此ノ間ノ中間報告ニハ見エテ居リマスケレドモ、其ノ刑法ノ改正ガ此ノ憲法ノ違反デアルト云フコトニナツテハ、誠ニ萬事畫餠ニ歸スル、ソコデ憲法ノ上デ何トカ一ツ御工夫ヲ仰ガナケレバナラヌコトニナリマスカラ、「同一の犯罪」ト云フ言葉ヲ何トカ一ツ御考慮ヲ煩ハスコトガ出來マスマイカ、假ニ私ハ、一個ノ行爲ニ付テハ重ネテ刑事上ノ責任ヲ問ハレルコトハナイト云フヤウニ‥‥即チ刑法第五十五條ノ規定ハ「數個ノ行爲ニシテ」トアリマスカラ、其ノ中ノ一ツノ行爲ヲ再ビ論ズルト云フコトハ出來ナイケレドモ、アトノ行爲ハ矢張リ論ズルコトガ出來ルノダト云フ趣旨ヲ既ニ憲法ニ於テ明カニシテ置イタナラバドウカト思ヒマス、學問上ノ議論ト致シマシテハ、一個ノ行爲、數個ノ行爲ト云フ言葉ニ付テハ多少ノ議論ガアリマスルケレドモ、既ニ刑法ニ於テ用ヒ慣レテ居ル言葉デゴザイマスカラ、此ノ場合デハ、「同一の犯罪」ト云フ言葉ノ外ニ、「犯罪」トシナイデ、「同一の犯罪」ト云フ言葉ヲ止メテ一個ノ行爲ト云フヤウニシテ戴クト云フコトガ出來ナイモノデセウカ、私ハ一個ノ行爲ト云フ私ノ主張ヲ貫カントシテ御伺ヒスル譯デハゴザイマセヌ、此ノ言葉デハ疑ヲ招ク虞ガアリマスマイカ、之ニ付テノ司法大臣ノ御考ヲ伺ヒタイ、是ダケノ趣旨デアリマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 私ハ寧ロ此ノ「同一の犯罪」ト云フ言葉ガ、左樣ナ場合ニ該當スルモノカト云フコトガ一般ノ人ニ寧ロ明カニサレタト、斯ウ云フ考ヲ持ツテ居リマス
○牧野英一君 是モサウ云フ實際上ノ問題ガゴザイマスルカラ、尚一ツ重ネテ御考慮下サレバ有難ウ存ジマス、サウシテ第四十條ニハ「抑留又は拘禁された後」ト云フ言葉ガ出マシタノデ、是ハ曩ニ「抑留又は拘禁」ト云フ言葉ニ付テ御伺ヒ申シタコトヲ繰返スダケニナリマス、是デ私ノ質問ヲ終リマス
○委員長（安倍能成君） 高柳君
○澤田牛麿君 私ハ通告シテ居ツタト思ヒマスガ、ドウデゴザイマセウカ
○委員長（安倍能成君） アナタハ御取消シニナツタノヂヤアリマセヌカ
○澤田牛麿君 ソレハ前ノ方デス、第二十九條ノ方デス、三十一條カラ以降デハ取消シテナイ積リデス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ澤田委員ドウゾ‥‥
○澤田牛麿君 私ハ刑事法ニ付テハ殆ド何ニモ知リマセヌカラ、極メテ幼稚ナ質問ヲ申上ゲマスルガ、第三十一條以降第三十九條迄ノ規定ハ現行ノ刑事法トドレダケ違フノデゴザイマスカ、極ク其ノ概略デ宜シウゴザイマス、私之ヲ讀ミマスト、現行法デモ大體此ノ通リヤツテ居ルト思ヒマスカラ‥‥、尤モ新憲法ニ於テ初メテ與ヘラレタ自由トカ何トカ云フモノガアルノデゴザイマセウカ、サウ云フ點ニ付テ極ク概略ノ總論ヲ御伺ヒ致シマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 四十四條ナンカ新シク設ケラレタ規定デアリマス
○澤田牛麿君 私ハ三十一條カラ三十九條迄ノコトヲ御伺ヒシテ居ルノデスガ、今ノ御答ヘハ四十四條ダト思ヒマスガ‥‥
○國務大臣（木村篤太郎君） 併シ全般ニ亙ツテノ新シク設ケラレタ規定ノコトヲ申上ゲタノデス、是ハ澤田委員ニ申上ゲマスガ、申ス迄モナク、現行ノ法律ニ規定サレテアルカラ、憲法ニ規定スルト云フコトハ或ハドウカト思ハレルト云フ御趣旨ノヤウデアリマスガ、此ノ憲法デハ度々申上ゲマスルヤウニ、國民ノ權利義務ニ付テノ大原則ヲ茲ニ掲ゲタノデアリマス、或ハ現行ノ法律ニ照シマシテ重複シテ居ル筋ガアルカモ知レマセヌ、私ハソレハ差支ナイカト思ヒマス、總テ國民ノ權利ヲ申シテ
○澤田牛麿君 司法大臣ハ私ノ質問ノ通リニオトリニナツテ居ラヌヤウデアリマス、私ハ良イトカ惡イト云フコトノ前ニ、三十一條カラ三十九條迄ノ規定ハ、現行法デハ刑事訴訟法若シクハ刑法其ノ他ノ刑事法ニ於テ何モナイコトデアリマスカ、或ハ既ニアルコトガアリマスルカ、又此ノ中ノドレガ新タニ憲法ニ斯ウ規定サレルコトニ依ツテ如何ナルコトガ新タニ發生シタノデアリマスカ、サウ云フ點ヲ先ヅ伺ヒタイ
○國務大臣（木村篤太郎君） 從來カラアル規定モアリマスル、此ノ三十二條ノ「何人も、裁判所において裁判を受ける權利を奪はれない」ト云フヤウナコトハ從來ノ規定ニハアリマセヌガ、是ハ現實ニ行ハレテ居ル譯デアリマス、何人モ裁判所ニ於テ裁判ヲ受ケテ居ルノデスカラ‥‥、併シ是ハ原則トシテ茲ニ掲ゲル必要ハ十分アルデアラウト思ヒマス、ソレカラ三十四條ノ規定ノ如キハ是ハ新タニ設ケラレタ規定ト存ジマス
○澤田牛麿君 其ノ必要ノアルナシト云フ問題ヂヤナイ、ドレガ新タニ設ケラレタ規定デ、今迄ノ刑事法ニナイコトヲ規定シテ居ル條項ハドレデアルカト云フコトヲ御示シ願ヒタイト云フノデアリマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 三十四條、ソレカラ三十五條モサウデアリマス、ソレカラ三十六條モ新タニ設ケラレタ規定デアリマス、是ハ當然ノコトデアリマスカラ‥‥、ソレカラ三十八條モサウデアリマス
○澤田牛麿君 三十六條、是ハ今迄モ大體サウ云フコトハナイト思ヒマスガ、マア拷問ト云フコトハ許サレテハ居リマセヌガ、此ノ拷問ト云フコトハ事實ニ於テハアツタカモ知レマセヌケレドモ‥‥、拷問ヲ許シテ居ルト云フコトハ今迄ナイコトデ、又殘虐ナ刑罰ト云フコトモ刑法ニハ何モサウ云フコトハナイコトデアルト思ヒマスガ、三十六條ガ此ノ憲法ニ依ツテ與ヘラレタ人民ニ對スル權利トカ云フ意味カラシテ新タニ與ヘラレタモノデハナイヤウニ思ヒマスガ、如何デセウ
○國務大臣（木村篤太郎君） 三十六條、是モ新タニ設ケラレタ規定デアリマス、是ハ從來モ「公務員による拷問及び殘虐な刑罰」ハ、理論トシテ左樣ナコトハアルべキ筈ハナイノデアリマス、此ノ規定ハ往々ニシテ左樣ナコトハナイトモ限ラヌ、從ツテ是ハ立法上左樣ナコトハ絶對ニ出來ナイ卜云フ立法制限規定デアルノデアリマス
○澤田牛麿君 私ノ質問ハ是デ終リマス
○佐々木惣一君 私ハ三十一條以下ニ付テ少シク御尋ネシテ見タイ、三十一條ニ「その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」トアル、此ノ「生命若しくは自由」ト云フノハ、刑罰ノ手段トシテノ生命及ビ自由ヲ奪ハレルト云フヤウニ解釋スベキダト云フ御話デアリマシタネ
○國務大臣（木村篤太郎君） サウデアリマス
○佐々木惣一君 サウスルト、一般ニ我々ガ生命若シクハ自由ヲ奪ハレルト云フヤウナコトニ付テハ、國家作用ノ刑罰トシテデナシニ、サウ云フコトニ付テハ、此ノ條文以外ニドノ條文デ求メマスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 是ハ當然ナコトデアリマスガ‥‥
○佐々木惣一君 條文ハナクテモ當然ダト云フノデスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 此ノ規定ハ二ツニ係ツテ居リマス、先程ノ牧野委員ニ對スル説明ハ不十分デアリマシタガ、無論刑罰トシテ生命及ビ自由ヲ奪フヤウナ刑罰ハ科セヌ、是ハ出來ナイ、又刑罰以外ニ此ノ生命及ビ自由ヲ奪フヤウナコトガアツテモ是ハイカヌ、斯ウ云フノデアリマス、其ノヤウニ御了承願ヒマス
○佐々木惣一君 了解シマシタ、ソレナラ兎ニ角前ノ答辯トノ關係ハドウデモ宜イ、要スルニ私ノ今伺ツタノハ、生命若シクハ自由ヲ奪フト云フ其ノコトモ刑罰トシテデナシニ、法律トシテ‥‥イヤ分リマシタ、ソレカラ「法律の定める手續」トアリマスガ、此ノ手續ト云フノハ手續規定ダト云フヤウニ仰ツシヤツタガ、ソレハ刑罰ニ付テ申シマスレバ、矢張リ實體的ノ斯ウ云フ場合ニ斯ウ云フ程度ノ罰ヲ科スルト云フヤウナコトモ手續ノ中ニ含メテノ御言葉デセウネ、手續ト言フト普通サウ云フコトヲ除ケルモノデスカラ‥‥
○國務大臣（木村篤太郎君） 左樣デゴザイマス
○佐々木惣一君 理解シマシタ、ソレカラ三十二條ニ「何人も、裁判所において裁判を受ける權利を奪はれない。」トアリマスガ、是ハ何人モ裁判所ニ於テ裁判ヲ受ケル權利ヲ有スルト云フノト同ジコトデスナ
○國務大臣（木村篤太郎君） 結局サウ云フコトニ相成ルモノト思ヒマス
○佐々木惣一君 結局同ジコトナンデスネ、「裁判所において裁判を受ける權利」ト云フコトヲチヨツト御尋ネスルノデスガ、是ハ裁判ヲ受ケル權利ト云フコトデナシニ、單ニ裁判所ニ於テ裁判ヲ受ケル權利、斯樣ニ理解シタイノデスガ、ソレデ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 宜シウゴザイマス
○佐々木惣一君 サウスルト、裁判所以外ノ機關ニ依ツテハ裁判サレナイト云フ權利ガ當然含ンデ居ルコトニナル、是ハ立憲主義ニ於テハ非常ニ重大ナコトデスカラ‥‥、非常ニ滿足致シマス、ソレカラ三十四條ニ「何人も、正常な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は‥‥」トアル、此ノ「要求があれば、」ト云フノハ誰ガ要求スルト云フコトナンデセウカ、其ノ當事者ニ限ルノデアリマスカ、何人デモ宜イノデアリマスカ、ソレダケノコトヲ伺ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 是ハ主トシテ當該者ニ見テ居ルノデアリマス
○佐々木惣一君 主トシテデスケレドモ、時ニハ其ノ當該者ハ詰リサウ云フコトヲ要求スルコトガ出來ナイヤウナ場合ガアリマスガ‥‥
○國務大臣（木村篤太郎君） 御説御尤モデス、ソレデ是ハ廣ク解釋スルヤウニ考ヘテ居リマシテ、刑法ニ付テ其ノ關係者カラモ要求サセルヤウナ手續ヲ執ツテ居ルノデアリマス
○佐々木惣一君 兎ニ角主トシテハサウデスケレドモ、誰デモマア要求シタラ理由ヲ言ハナケレバナラヌト、斯ウ云フ風ニ理解シテ宜シウゴザイマスネ、單リ本人デナクテモ‥‥
○國務大臣（木村篤太郎君） 誰デモト云フ譯デモアリマセヌガ、一定ノ範圍ヲ限ツテ‥‥
○佐々木惣一君 兎ニ角本人デナクテ宜イト云フコトガ含マレテ居ルト云フコトハ分リマシタ、ソレカラ此ノ三十五條ノ「受けることのない權利」ト云フコトニ付キマシテハ、牧野委員カラ御尋ニナリマシタシ、私モ全ク牧野委員ト同ジ考デス、サウ云フ「受けることのない權利」ト云フコトハ、更ニ文章トシテドウカト思フノデスケレドモ、マア宜シウゴザイマス、ソコデ今度ハ私ノ御尋ネ申上ゲタイノハ、各條ニ付テハ今ノ通リデアリマシテ、ソコデ第五ト致シマシテ、第三章全般ニ付テチヨツト御尋シテ見タイノデアリマスガ、是ハ恐ラク金森國務大臣ニ伺ツタ方ガ寧ロ妥當ヂヤナイカト、斯ウ思ヒマスガ、ソレハドチラデモ宜シウゴザイマス、ソレハ私ハ私ノ信ズル所ヲ申上ゲマシテ、サウシテサウデアルカナイカト云フコトヲ御返事ヲ願ツタ方ガ樂デアリマス、此ノ第三章ノ全般ノ規定ト云フモノハ「國民の權利及び義務」ト云フ方面カラ規定サレテ居リマスケレドモ、併シ是ハマア反面ニト申シマスカ、寧ロ主トシテ法律的ニハ反射的デスケレドモ、政治的ニハ主トシテ國民ノ權利ト自由ニ關スル關聯ニ於テ國家ノ作用ヲ是デ制限シタモノダ、拘束シタモノダ、斯ウ云フ風ニ理解シテ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 全ク其ノ通リデアリマス
○佐々木惣一君 ソレデ大變ハツキリシテ有難ウゴザイマシタガ、ソコデ詰リソレハ國家ノ作用ト申シマスルケレドモ、立法作用ハ勿論サウデナイノダカラ、マア行政作用デアリマスナ、結局行政ト云フモノハ、主トシテ法律或ハ時ニハ法律ヨリモ下デアル所ノ命令ト云フヤウナモノニ拘束ヲ受ケテ行ハレナケレバナラヌト云フコトデアリマス、所謂從來言フ行政ニ關スル法治主義ト云フモノハ矢張リ維持サレタト、斯ウ理解シテ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 御説ノ通リニ、從來ノ行政ニ關スル法治主義ハ維持サレタト云フ明文ハ、必ズシモ一ツニ纒ツテハ居リマセヌケレドモ、全ク其ノ權利ノ取ツテ居リマシテ、サウシテ寧ロ此ノ國體ニ關シマスル所ノ立法權ハ國會ガ唯一ノ機關デアル、アア云フヤウナ所ニ意味ガ一面カラ表ハシテアル積リデアリマス
○佐々木惣一君 ソレデマア分リマシタ、是ハドウデセウカ、此ノ文章ガ特ニ規定ヲ設ケテ保障シテ居ナイ自由ガアリマスガ、サウ云フモノハドウ云フ性質ニナリマセウカ、其ノコトヲチヨツト一ツ御尋ネ致シタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ此ノ章ノ御質疑ノ最初ニ何カノ機會デ申シマシタヤウニ、國民ノ自由ト云フモノハ包括的ニ此ノ憲法ガ保障シテ居ル、斯ウ云フ態度ヲ執リマシテ、以下擧グル所ノ多クノモノハ其ノ或モノヲ列擧シタ、斯ウ云フ態度ヲ執ツテ居リマスガ、同ジ運命ニナル譯デアリマス
○佐々木惣一君 ハツキリト致シマシタ、無論今ノヤウナ御説明ヲ前ニ私ハ伺ツテ居ルト思ツタノデスガ、最後ニ引締メニ明カニシテ置キマス、ソレカラ今度ハ、是ハマア立法ノ趣旨ニナルノデアリマスケレドモ、一體斯ウ云フ規定ハ、我々ノ自由ヲ尊重セラレマシテ政府ガ濫リニ制限セヌト申シマスカ、併シモウ少シソレヲ掘リ下ゲテ見ルト云フト、我々國民ニ國家社會ノ爲ニ創造的活動ト云フモノヲ爲サシメヨウト云フ趣旨デアツテ、肉體的ニモ、精神的ニモ、道徳的ニモ、即チ創造力ヲ以テ國家社會ノ爲ニ盡スニハ、ソレニハ斯ウ云フ外的或ハ内的ノ自由ト云フモノヲ國家ガ保障シナケレバナラヌト云フヤウナ、我々ヲシテ創造的活動ト云フモノヲ成ルベクヤラセヨウト云フ趣旨デ出來テ居ルト私ハ思ツテ居ルノデスガ、サウ云フコトハ餘計ナ考デスガ、チヨツト御尋シタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ憲法ノ建前自體ガ個人ガ伸ビルト云フコトヲ前提トシテ、國家ハ元來個人ガ伸ビルト云フ範圍ニ屬スルモノハ抑制ヲ加ヘナイト云フ態度ヲ執ツテ居リマス、伸ビルナラ伸ビヨ、伸ビナケレバイケナイト云フ態度ヲ執ツテ居リマセヌ、ソレハ極メテ冷ヤカナ意味ニ解シタ見方デアリマシテ、是ハ法律上ノ本當ノ精神ハ、前文等ニ述ベテアリマスルヤウニ、總テノモノニ行ク所迄十分伸ビシメヨウト云フ考デアリマス
○佐々木惣一君 ソレデ分リマシタ、我々ノ個人ノ能力ヲ國家社會ノ全體ノ幸福ニ合體スルト云フコトニアルト云フコトガ分リマシタ、ソレカラ甚ダ失禮デスケレドモ、此ノ文章其ノ他ノ文句、規定ノ態度ニ付キマシテハ、皆サンノ御指摘ニナリマシタヤウニ私モ實ハ賛成ヲシテ居マセヌ、私自分ノ文句デヤレト言ハレレバヤレマスガ、此處デハ申上ゲテモ仕樣ガナイト思ツテ一切觸レマセヌ、ソレカラ最後ニ、是ハ日本國民ニ關スル規定デアルト云フコトハ疑ナイコトデアリマス、色々御説ガアリマシタヤウデアリマスケレドモ、私ハ金森國務大臣ノ御説ニ從ツテ居ルノデアリマスガ、兎ニ角第三章ノ規定其ノモノトシテハ日本國民ノ地位ヲ規定シタモノデアル、斯ウ云フ御説デアリマシテ、私モ其ノ解釋ニ從ツテ居ルノデアリマス、處デ其ノ事ハ併シナガラ外國人ハドウデモ宜イト云フコトデハナイ譯ナンデス、殊ニ今後ノ國際關係ニ於テハサウ云フ譯ニハ參リマスヌ、從來ヨリモ一層ヨリ多ク注意シナケレバナラヌノデアルガ、ソコデ此ノ憲法ノ規定ヲ見マスルト云フト、實ハドノ條文ト云ツテ今申上ゲル遑ハアリマセヌガ、條文ニ於キマシテハ、必ズシモ日本國民ニ限ラヌヤウナ條文ガアル、最モ著シイ例ハ宗教ノ自由デアリマスガ、サウ云フヤウナモノハ、「何人も」トカ或ハ「信教の自由」ト云フヤウナモノハ、初メカラ「何人も」ト云フ字ハアリマセヌ、初メカラ其ノ事自體ヲ「サブジエクト」ニシテ規定シテ居リマス、詰リ三段階ガアリマス、或モノハ斯ウ云フコトガ出來ルト云フコト、ソレカラ事柄自體ヲ決メテ居ルノトアリマス、ソレカラ申上ゲル迄モナイコトデアリマスガ、現行法デハ總テ日本臣民、日本臣民ト云フコトガ「サブジェクト」ニナツテ居リマスカラ、日本臣民以外ニハ問題ニナラヌ、第三章ノ國民ノ權利義務ト云フヤウナコトハ大臣ノ御解釋ニ私ハ從ツテ居ルノデアリマスガ、併シソレト同時ニ、マア御尋ト言ツテ宜イカ、或ハ御願ト言ツテ宜イカ、分ラヌデスケレドモ、私ハ外國人ノ第三章ニ關係アルヤウナ地位ノコトニ付テ、何等カ特ニ御考ニナツテ居ルヤウナコトハナイダラウカ、今必ズシモナクテモ‥‥、併シナガラ御考ニナルヤウナコトハナイノカ、詰リ要スルニ、私ノ方ハ若シ假ニ憲法‥‥ソンナコトハ假リデスヨ、憲法ヲ立案ヲスルト致シマスレバ、此ノ條文ノ何處カノ規定ハ、外國人ニ之ヲ準用スト云フ規定ヲ一文入レルノデス、私共ガ案ヲ持ツタ時ハサウ云フ規定ヲ入レテ居リマスガ、サウ云フコトハナイノダカラ、總テ外國人ヲ含ムト云フコトニ表ハレテ居リマスカラ、ソコデ此ノ憲法其ノモノデハアリマセヌケレドモ、外國人ノ取扱ト云フヤウナコトニ付テ、特ニ何カ制度ヲ設ケマシテ、サウシテ其ノ事柄ノ性質ニ依ツテハ、憲法上ノ地位ハ違フケレドモ、其ノ他ノ法條ノ地位ニ於テハ殆ド日本人ト同ジヤウナ取扱ニナル、是ハ憲法上ノ縱ノ取扱デアリマセヌ、横ノ取扱ガデスネ、サウ云フ風ナコトヲ御考ヘ下サルヤウナコトハ出來ナイデアリマセウカト云フコトヲ、質問ト言ツテ惡ケレバ御願ヒトシテチヨツト‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 私ガ外國人ノ權利ニ付テ申上ゲマシタコトハ、是ハ法律的ナ、消極的ナ、詰リ正確ナ物言ヒヲシタ譯デアリマス、併シナガラ日本ノ現在ノモノノ考ヘ方ハ、外國人ニ對シマシテ此ノ憲法ニ擧ゲテアリマスルヤウナ個々ノ自由ヲ特ニ制壓シヨウト云フ考ハ持ツテ居ナイト思ツテ居リマス、從ツテ憲法上ノ制度ハ豫ネテ御説明ヲ申上ゲマシタヤウデアリマスルケレドモ、此ノ憲法ヨリ以下ニ於キマナテ、孰レハ個々ノ法律ガ具體的ナ制度ヲ設クルト思ヒマス、ソレノ解釋及ビ運用ト云フモノハ、特別ナ必要ガ起ラヌ限リハ、外國人ニモ及ブヤウニアルベキモノト思ツテ居リマス、實ハ現在ノ憲法ノ下ニ於キマシテモ、憲法自身ハ日本國民ニ權利ヲ保障シテ居リマスルケレドモ、ソレニ基キマスル個々ノ制度デハ、極ク特殊ナモノ以外ハ外國人ト一視同仁デアリマシテ、此ノ憲法モ亦左樣ナ見地ニ於テ運用サレマス、マア將來、殆ド豫想モ出來ナイノデアリマスケレドモ、萬々一何カ特殊ナ扱ヒヲシナケレバナラヌコトガアルカモ知レナイト云フ懸念ヲ以テ、憲法ハ窮屈ニ狹ク案出シテ居リマス
○佐々木惣一君 今ノ全般ノ御説明、殊ニ最後ノ御説明デ大變ハツキリ致シマシテ、又滿足致シマス、ソレデ私ノ質問ヲ終リマス
○國務大臣（木村篤太郎君） チヨツト私訂正致シテ置キマス、先程ノ牧野委員ニ對シテノ私ノ答辯中、辯護人ノコトデアリマスガ、第三十七條ノ第三項ノ「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する辯護人を依頼することができる。」ト書イテアリマス、之ヲ私ハ條文ヲ逆ニ考ヘテ居リマシタノデ訂正致シタイ、此ノ三十七條ノ方ハ詰リ公判手續ニ付テノ規定ナノデアリマスカラ、所謂「コンペテント」デ、サウデナケレバイカヌ、其ノ人ノミニ出來ル、片方ノ方ハ詰リ「コンペテント」ノ方デナイノデアリマスカラ、廣イ意味ノモノ、左樣御了承ヲ願ヒタイ
○牧野英一君 分リマシタ
○委員長（安倍能成君） 出來レバ今日中ニ之ヲ纒メタイト思フノデスガ、後モウ二人殘ツテ居ルノデゴザイマスガ、如何デゴザイマスカ、「バス」ハ今チヨツト聞キ合ハシテ見マスケレドモ、オ間ニ合ハスヤウニ出來マス
○子爵織田信恒君 概略ドノ位ノ時間ヲ要シマセウカ
○委員長（安倍能成君） 霜山君ハ簡單デスカ
○霜山精一君 極ク簡單デス
○委員長（安倍能成君） 松村サンモ簡單デスカ
○松村眞一郎君 私ノハチヨツトドウ云フコトニナリマスカ、司法大臣ノ御答辯ニ依ツテ‥
○子爵織田信恒君 長クナルヤウダツタラ後ニ廻シテ戴キマス
○霜山精一君 私ハ三十一條カラ三十四條ニ亙ツテ司法大臣ニ御尋シタイノデゴザイマス、今迄ノ質疑ニ依リマシテ大體了解致シマシタノデ、極ク簡單ニ二三ノ點ニ付テ司法大臣ノ御意見ヲ伺ツテ置キタイト思フ、先ヅ第一ニ御伺ヒスルコトハ、此ノ憲法草案ニ於キマシテハ、「何人も、法律の定める手續によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」斯ウ云フコトニシテ人權ヲ擁護スル譯デアリマス、從來ニ於キマシテモ、法律デ其ノ人權ノ擁護ガナカツタ譯デハナイノデス、併シナガラ事實ニ於キマシテハ、警察等ニ於キマシテ、濫リニ人ヲ拘禁ヲ致シマシテ、相當ノ自由ヲ奪ハレテ居ツタノデアリマス、憲法草案デ如何ニ此ノ人權ノ自由ヲ尊重シテ置キマシテモ、事實警察官憲アタリデチヨツト來イトカ、色々ノ理由デ人ヲ引ツ張ツテ、サウシテ法律ニ依ラナイデ自由ヲ拘束スルト云フコトガ事實行ハレマスルナラバ、是ハ憲法違反デハアリマスケレドモ、折角ノ此ノ憲法ノ制定ガ其ノ點ニ於テ效果ヲ失フノデアリマス、從來ノ弊風ヲ此ノ際新憲法ノ制定ト同時ニ一掃セラレルコトガ最モ必要ナノデハナイカ、事實ノ上ニ、事實ノ問題トシテサウ云フコトガ全然ナクナル、絶無ニナルト云フコトハ、斯ウ云フ際デナケレバモウ出來ナイノデス、今迄多年人權蹂躪デ色々ナコトヲ叫バレテ居リマスケレドモ、實際實行出來ナイノデス、斯ウ云フ際ニ初メテ本當ノ人權擁護ガ出來ルノデアリマス、其ノ點ニ於キマスル司法大臣ノ御考ヲ一ツ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 只今ノ霜山委員ノ仰セ誠ニ御尤デアリマス、我々モ其ノ積弊ニ隨分惱マサレタノデアリマス、此ノ新憲法草案ガ實施ニナツテモ、其ノ運用ヲ全クシナケレバ、左樣ナ憂ハ根絶スルコトハ出來ナイヂヤナイカ、至極御尤モノ御義論ト思ヒマス、我々ト致シマシテハ、有ラユル角度カラ考ヘマシテ、此ノ新憲法草案ガ實施サレマシタ曉ニ於テハ、此ノ線ニ沿ツテ左樣ナ從來ノヤウナ人權蹂躪ノ跡ヲ絶ツヤウニ、有ラユル方面カラ工作ヲシテ行キタイト考ヘテ居リマス
○霜山精一君 モウ一點御伺ヒ致シマス、三十七條ニ依リマシテ、「被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける權利を有する。」斯ウ云フ規定ヲ設ケテ居リマス、今日ノ裁判所ガ非常ニ公平デアルト云フコトニ付テハ、大體國民ノ信頼ヲ受ケテ居ルト思ヒマスガ、迅速ナ裁判ト云フコトニ付テハ、大イニ遺憾ノ點ガアツタノデハナイカト考ヘルノデアリマス、是ハ單リ刑事事件ニ限ラズ、民事事件ニ於キマシテモ、ドウモ裁判所ニ訴ヘテモ非常ニ長ク掛ル、斯ウ云フコトガ一般ニ言ハレテ居リマス、折角權利ノ保護ヲ致シマシテモ、時ガ經ツテ少シモ役ニ立タナカツタト云フヤウナコトモアルノデアリマス、新憲法實施ノ曉ニハ裁判所ノ方面モ一大革新ガ行ハレルト思フノデアリマシテ、刑事民事ヲ通ジマシテ、一番今迄裁判所デ缺點デアリマシタ迅速ナル裁判ト云フコトニ付テ、甚深ナル考慮ヲ拂ハナケレバナラヌモノデハナイカト考ヘテ居リマス、此ノ點ニ付キマシテハ各方面カラ考察シナケレバナラヌ問題デアリマシテ、從來ノ弊害ガ色々ナ點ニアツタ譯デアリマス、其ノ所謂弊害ノ點ニ着眼シマシテ、各方面カラ能ク御檢討ニナリマシテ、迅速且的確ナル裁判ヲスルト云フコトガ、最モ必要ナコトデハナイカト思ヒマス、是モ矢張リ斯ウ云フ風ナ裁判所ノ改革ノアリマスル斯ウ云フ切ツ掛ケデナイトナカナカ出來ナイ、從來色々ナ角度カラ裁判ノ迅速ト云フコトモ我々モ圖ツテ參リマシタケレドモ、絶對ニ行ハレナイ、何トカ斯ウ云フ改革ノ時ニ、斯ウ云フ問題ガ極ク解決スル好機デハナイカト斯ウ云フ風ニ考ヘマスノデ、司法大臣ノ御考ヲ伺ヒタイノデアリマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 霜山委員ノ今ノ御議論至極御尤モデアリマス、私モ多年法曹ト致シマシテ、裁判ノ迅速ガ非常ニ缺ケテ居ツタ、ソレガ爲ニ一般人民ガ或ル意味ニ於テハ、裁判所ヲ信頼致シテ居リマスルガ、其ノ迅速ヲ缺クト云フ意味ニ於テ、裁判所ヲ信頼シテ居ラナカツタ、是ハ事實デゴザイマス、何トシテモ改革シナクチヤ相成ラヌト平素考ヘテ居リマス、此ノ新憲法ガ實施サレル此ノ機會ニ、今霜山委員ノ仰セラレマシタ絶好ノ機會ト存ジマスノデ有ラユル角度カラ其ノ處置ヲ致シタイト、今考慮致シテ居ル次第デゴザイマス
○委員長（安倍能成君） 松村委員
○松村眞一郎君 私少シ長クナリマスガ宜シウゴザイマスカ
○委員長（安倍能成君） 何分位御掛リニナリマスカ
○松村眞一郎君 司法大臣ニ申上ゲルノデスガ、チヨツト二十分位掛リマセウ
○委員長（安倍能成君） 司法大臣モ御歸リヲ御急ギニナルト云フコトデゴザイマスカラ、明日ニ願ヒマス
○松村眞一郎君 デハ明日ニ‥‥
○委員長（安倍能成君） 今日ハ是デ閉會致シマス、明日ハ矢張リ午前九時半カラ致シマス
午後四時四十二分散會
出席者左ノ如シ
委員長 安倍 能成君
副委員長 伯爵橋本 實斐君
委員
公爵岩倉 具榮君
侯爵細川 護立君
侯爵淺野 長武君
伯爵後藤 一藏君
三土 忠造君
子爵大河内輝耕君
大谷 正男君
男爵白根 松介君
子爵織田 信恒君
子爵高橋 是賢君
子爵三島 通陽君
子爵松平 親義君
山田 三良君
平塚 廣義君
牧野 英一君
佐々木惣一君
松村眞一郎君
男爵今園 國貞君
村上 恭一君
男爵飯田精太郎君
霜山 精一君
川村 竹治君
岩田 宙造君
高柳 賢三君
男爵松田 正之君
男爵中御門經民君
男爵渡邊 修二君
男爵松平 齊光君
田所 美治君
野村 嘉六君
澤田 牛麿君
松本 學君
宮澤 俊義君
結城 安次君
瀧川 儀作君
小山 完吾君
山本 勇造君
淺井 清君
渡邊 甚吉君
國務大臣
國務大臣 男爵幣原喜重郎君
司法大臣 木村篤太郎君
文部大臣 田中耕太郎君
遞信大臣 一松 定吉君
商工大臣 星島 二郎君
厚生大臣 河合 良成君
國務大臣 金森徳次郎君
政府委員
法制局長官 入江 俊郎君
法制局次長 佐藤 達夫君
外務事務官 萩原 徹君
司法事務官 佐藤 藤佐君
同 奥野 健一君
