第一囘　帝國憲法改正案特別委員小委員會筆記要旨

　昭和二十一年九月二十八日
　開會　午前十時四十八分
○子爵織田信恒君　ＧＨＱヨリ政府ヲ通ジテ十五條二項ニ universal adult suffrage ノ原則ヲ明記スルコト及六十六條中ニ總理及其ノ他ノ國務大臣ハ civilian デナケレバナラヌトノ條項ヲ追加スルコトヲ申入レテ來タ。本院デ修正シタ方ガ穩當デアラウカラ、十五條一項ニ續ケテ、又ハ第二項トシテ「男女成年者による普通選擧權は保障せられる」ヲ追加シ、六十六條第一項ノ續キニ「それら大臣には武官を本來の職歴とした者はなれない」ヲ加ヘテハ如何。
○松本學君　此ノ二點ハ重大ナ事柄デアルカラ、政府カラモ事情ヲ聽キ、又字句モ練ラナケレバナラヌ。
　　　（金森國務大臣出席）
○國務大臣（金森徳次郎君）　二十四日、ＧＨＱノ「ホイットニー」ト「ケーディス」ガ首相ヲ訪ネテ修正ヲ要求「實質的ナモノデハナイカラ受入レテ呉レ、此ノコトハ新聞ニモ書クナ、内容ニ付テモ餘リ云フナ、ドウシテモ云ハネバナラヌトキハＧＨＱノ希望ニヨルモノダト云ッテ欲シイ。本當ハＧＨＱ以外ノ所カラ來タモノデアル」ト云ッテ英譯ノ十五條ノ所ニ「Universal adult suffrage is hereby guaranteed」ヲ六十六條 I 項ノ次ニ「Prime Minister and all Ministers of the State shall be civilians」ヲ加ヘタ英文ヲ手交シタ。
　衆議院ノ小委員會デ修正ヲ研究中ニＧＨＱカラチビリチビリ修正ヲ申入レテ居リ、ＦＥＣヨリ民主政ノ基本原則タル普選ノ規定ガ憲法ニナイノハ宜クナイカラ入レロト要求シテ來タ。年齡ノ外、教育、収入、財産ニ依ル差別ヲ認メナイノガ普選ノ要求トセラレルガ、一應修正案四十四條ノ程度デ落着イタ。最後ニ近ヅイタ頃總理及國務大臣ノ資格ガ餘リニルーズダカラ六十七條及六十八條ニ civilian タルベキコト及國會議員タルベキコトヲ追加セヨト要求シテ來タガ、既ニ軍人ハ居ナカッタノダカラ、non-civilian ナルモノハナイシ、又日本語ニハ適譯ガナイカラ困ルト云フ當方ノ説明デＧＨＱモ納得シタ。今囘更ニ之ヲ蒸返シテ來タノハ、「マ」元帥ニ對スル本國ヨリノ干渉ガ激シクナリカケテ居ルノデハナイカ。昨日打合セノ結果十五條 III 項トシテ「公務員の選擧については成年者による普通選擧を保障する」ヲ入レ、六十六條 II 項トシテ「内閣總理大臣その他の國務大臣は武官の職歴を有しない者でなければならない」ヲ入レルコトニ略ヾ話ガツイタ。義務履行トシテデナク、志願ニ基キ本職トシテ陸海軍武官（將校、下士官ノ兩者ヲ含ム）タリシ者ノ意味デアル。
○松本學君　civilian ト云フ含蓄アル言葉ヲ窮屈ニ「武官の職歴」ト譯スヨリモ、モット裕ノアル譯ヲ考ヘルベキデアル。
○高柳賢三君　non-civilian トハ軍人ノ現職ニ在ル者ト云フコトデハナイカ。
○國務大臣（金森徳次郎君）　先方ハ軍籍ノアッタ者、軍人ノ匂ヒノアル者ヲ除キタイ考ヘノヤウデアル。融通ノ利クヤウナ文字ガ欲シイ。先方ハ進駐軍引揚後ノ諸制度ガ元ノヤウニナルコトノナイヤウニ憲法ニ出來ルダケ多クノ楔ヲ打込ンデ置カウトシテ居ル。最初ハドウシテモ一院制デナケレバイカヌト云ッタガ當方ハ飽迄二院制ヲ頑張ッタノデ、ソレデハ選擧ト國民代表ノ二點ヲ條件トスル參議院ナラ宜イト云フコトニ妥協ガツイタ。
○下條康麿君　衆議院ノ修正中ＧＨＱノ要求ニ依ルモノト自發的修正トヲ指示セラレタイ。
○國務大臣（金森徳次郎君）　前文及第一條　「主權の存する」ノ部分ノミＧＨＱノ要求ニ依ル修正。「國民の至高の總意」ハ松本前國務相ノ最モ苦心セル所デアルガ、七月中旬頃「金森ノ説明ハ保守的デ昔乍ラノ天皇制ヲ擁護スル嫌ヒガアル。「マ」元帥ハ天皇制支持ノ氣持デ本憲法ヲ承認シテ居ルガ、オールマイティデハナイ。聯合國ハ天皇ヲ戰犯トシテ、裁判ニカケルコトモ證人トシテ喚問スルコトモ出來ルノダ、至高トハ至ッテ高イト云フコトデアッテ supreme ト云フコトデハナイカラ、前文カ第一條カニ主權在民ヲ明記セヨ」ト云フ要求デアッタ。
　四條　ＧＨＱノ要求。
　英文ハ天皇ハ儀禮ノミヲ行フトノ建前デ出來テ居リ、I 項の「國務」ヲ「儀禮」ノ語ニ換ヘルト四條ノ意味ガヨク分ル。私ハ六、七條ノ權能ハ單ナル儀禮ニ非ズ、國務ナリト突張ッタガ、結局「國務」ヲ「國事」ニ「政治」ヲ「國政」ト修正スルコトニ折合ッタ。
　六條　自發的修正
　三、五、七條　四條修正ニ伴フ字句ノ整理。

　休憩　午後零時二十五分　

　再開　午後一時四十分

○國務大臣（金森徳次郎君）　九條　自發的。第 II 項ノ「前項ノ目的」トハ第 I 項ノ「……誠實に希求し」ヲ受ケルカ、又ハ「永久にこれを放棄する」ヲ受ケルカニ付疑惑ガアルガ、私ハ最初カラ前者ト考ヘタ。
　十條　　　自發的　ＧＨＱハ十條ハ harmless ダカラ差支ナイト云フ。
　十七條　　自發的
　二十四條　自發的　
　二十五條　自發的　社會黨ノ主張ニ依ルモノ、三分ノ二ノ多數ヲ得ル爲他ノ政黨ト社會黨トノ妥協デアル。
　二十七條　自發的　社會黨ノ主張ニ依ルモノ、三分ノ二ノ多數ヲ得ル爲他ノ政黨ト社會黨トノ妥協デアル。
　四十四條　ＧＨＱノ要求。
　五十五條　合作。自發的ナモノデアルガＧＨＱニモ修正ノ氣持ガアッタ。
　六十條　　自發的
　六十二條　自發的
　六十七條　ＧＨＱノ要求
　六十八條　ＧＨＱノ要求
　七十九條　六條修正ノ結果ニ基クモノ。
　八十一條　合作。ＧＨＱカラ「絶對的ナモノデハナイガ……」ト云ッテ要求シテ來タモノ。
　八十八條　草案ノ出來ナイズット前カラ日本側トＧＨＱノ間ニドウシテモ話ノツカナカッタ條項。衆議院デ色々ト修正案ヲ出シテイル中ニ六十七、六十八、四十四條等ノ要求ト共ニＧＨＱ以外ノ所カラ來タ。
　九十八條　ＧＨＱノ要求。
　原案九十七條削除　各黨一致ノ自發的ナモノ。
　　（注）原案九十七條「この憲法施行の際現に華族その他の貴族の地位にある者については、その地位は、その生存中に限り、これを認める。但し、將來、華族その他の貴族たることにより、いかなる政治的權力も有しない。」
○松本學君　四十四條ノ「社會的身分」ノ中ニハ職歴、學歴モ入ルヤ。
○國務大臣（金森徳次郎君）　自己ノ自由意見デハ洗ヒ落スコトノ出來ナイヤウナモノヲ意味スル。
　十五條 III 項ノ英文ハ Universal adult suffrage is hereby guaranteed as regard to the election of public officials .
　六十六條 II 項ハ Prime Minister and all Ministers of the State shall be persons without carriers as military or naval officials . トスルコトニナッタ。
○松本學君　civilian トハ文化人ノ意味デハナイカ。
○高柳賢三君　英國ノ海軍大臣ハ civilian デナケレバナラナイコトニナッテイル。現在軍人デナイ者ハ總テ civilian デハナイカ。
○宮澤俊義君　non-civilian ヲ其ノ儘軍人ト譯シタラ死文トナッテ宜クハナイカ。
○國務大臣（金森徳次郎君）　先方ハサウ云フ輕イモノヲ云ッテ居ルノデハナイヤウデアル。
○松本學君　金森國務相ノ御考ヘノヤウナモノダト影響ガ大キイ。高柳君ノ考ヘヲ前提トシテ何トカ適當ナ文字ヲ作ッテ先方ニ之ガ non-civilian ダト説明スルコトトシテハ如何。
○國務大臣（金森徳次郎君）　適當ナ文字ガ見ツカラナイ。ヨイ文字ヲ考ヘテ呉レヽバ、喜ンデコレヲ以テＧＨＱト交渉シタイ。
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　civilian ヲ如何ニ譯スベキヤヲ高柳、高木兩君ニ一任シテハ如何。
　　　（異議ナシ）
○松本學君　貴族院ガ修正セル場合ニ於ケル衆議院トノ關係如何。
○國務大臣（金森徳次郎君）　三十日午前十時ヨリ衆議院ハ各派交渉會ヲ開キ、政府カラ貴族院ニ善處方ヲ依頼セルコトヲ報告シテ諒解ヲ求メル積リ。
○松本學君　　貴族院ノ立場トシテハ斯様ナ修正ハ引受ケタクナイ。
○霜山精一君　貴族院ノ立場トシテハ斯様ナ修正ハ引受ケタクナイ。
○高木八尺君　貴族院ガ政府ノ諒解ノ下ニＧＨＱト話合ヲシテ誤解ノナイヤウニシテハ如何。
○國務大臣（金森徳次郎君）　ＣＬＯヲ通ジテ委員會トシテデハナクテ、個人的ニナラ宜カラウ。
○子爵織田信恒君　十五條ニ付テ、男女普通選擧トスルガ宜イカ。又、選擧ヲ保障スルトスベキヤ又ハ選擧權ヲ保障スルトスベキカ。
○宮澤俊義君　普通選擧制度ヲ保障スル意味デアラウ。日本語トシテハ普通選擧權ト云フヨリモ普通選擧トシタ方ガ宜イ。
○國務大臣（金森徳次郎君）　男女ト云フ言葉デハヲカシイシ斯ウ云フ時ダカラ、「普通選擧」トアッテモ男女ヲ總テ含ムト解スルコトデ宜クハナイカ。
○高柳賢三君　新シイ日本語ヲ作ッテ、之ガ西洋ニ云フ civilian ノ意味ダト説明スル外アルマイ。
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　四十三條ヲ問題ニ供ス。
○田所美治君　ＧＨＱガ代表ト選擧ノ二點ヲ固執スル以上、四十三條ニハ觸レナイコトニシテハ如何。
○川村竹治君　高柳君ト先方トノ私的談合ニ於テ參議院ノ構成ニ付テ話ガ出タコトハナイカ。
○高柳賢三君　當方カラ五ツ程試案ガ出テ居リ、其ノ最近ノモノハ小林書記官長案デアッタガ、餘リ贊成出來ナイトノコト、又年齡ノ引上ハ不贊成デアリ、人員ハ精々百五十人位ニセネバイカヌト云フ意嚮デアッタ。
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　小林案ヲ朗讀セシム。
　　　（朗讀）
○下條康麿君　各自ニ於テ日曜午前中ニ試案ヲ提出シ、午後カラ之ヲ審議スルコトトシテハ如何。
　　　（異議ナシ）
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　前文ヲ議題ニ供ス。
○田所美治君　牧野君等ニ於テ一應下審査シテ戴キタイ。
○牧野英一君　前文中ニ社會的及文化的ナコトヲ追加スル譯ニハ行カナイカ。
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　新ニ附加セズ全ク止ムヲ得ナイ修正ニ止メタイ。
○松本學君　一寸デ間ニ合フモノナラ新シク追加シテ戴キタイ。
○侯爵淺野長武君　衆議院トシテハ憲法全般ニ亙ッテ文章ヲ整ヘルコトニハ異存ハナイトノコトデアル。
○松本學君　十五條、六十六條ノ修正要求ヲ呑ムトスレバ多少自由ニ昨日ノ懇談會ニ出サレタ修正意見ヲ取上ゲテ討議ノ上小委員長ヨリ委員會ニ報告セラレ、其ノ議ニカケルコトトセラレタイ。
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　付託事項外ダガ斯ウ云ウ事項ニ付意見ガ出來タコトハ報告シテモ宜イ。
○田所美治君　單に其ノ程度ノ報告ダケデハ足ラナイ。
○宮澤俊義君　委員會ヨリ正式ニ事項ヲ限定シテ付託サレタ以上小委員會デ付託外ノ事項ヲ取上ゲルコトハ不穏當デハナイカ。
○川村竹治君　松本君ノ意見ニ贊成。
○子爵織田信恒君　正式ノ委員會ニモ現ハレナカッタ修正案ヲ小委員會デ取上ゲルコトハ權限ヲ越エルモノデハナイカ。
○牧野英一君　明日ノ修正意見中ノ若干ヲ取上ゲテ審議シ委員會ニ付託事項ト共ニ報告スルノガ便宜ト思フ。
○松本學君　サウ違法デモナイカラ、越權ト云ハレタラ止メルコトトシ、云ハレナイ中ハ審議スルコトトシテハ如何。
○男爵飯田精太郎君　ＧＨＱノ二要求ヲ呑ム以上、其ノ二ツノ修正ニ止メルコトハ世間ニ妙ナ印象ヲ與ヘルノデ貴族院トシテハ面白クナイ。從ッテ付託外ノ修正意見モ、トリ上ゲテヨイ。
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　付託事項ノ審議ダケデモ相當ノ時間ヲ要スルノデ一應之ニ限定スルコトトシ、是非トモ外ノ修正意見ニ付テモ檢討シタイトノ御希望ガ強イナラ、モウ一度委員會ヲ開イテ貰ッテ權限ノ付與ヲ要求スルコトトシタイ。
○子爵織田信恒君　一應付託事項ニ審議ヲ集中シ、尚時間ガアレバ他ノ修正意見ニモ觸レルコトトシテハ如何。
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　自然ニサウナラウ。
　　　（大體異議ナシ）
　月曜午前中ニ四十三條及前文ノ審議ヲ了シタイ。
　七十九條 II、III、IV 項ヲ議題ニ供ス。
○霜山精一君　ドウ考ヘテモ裁判官ノ國民審査制度ハ宜クナイ。
殊ニ最高裁判所ハ法律審査權ヲ有シテ居リ、違憲ト判決シタ場合ニ、之ガ直チニ政府、政黨、國會ヲ刺戟シテ、裁判官ノ罷免ノ結果ヲ來スヤウデハ、裁判官ハ罷免ヲ惧レテ良心カラ出ル裁判ニ影響ヲ來スコトトナッテ裁判ノ公正ヲ害スルヤウニナル。又法律ノ判斷ハ國民ニ容易ニ分ルモノデハナイカラ、國民審査制度ハ是非廢メタイ。
○高柳賢三君　七十九條 II、III、IV 項削除ニ贊成。米國西部ノ幾ツカノ州デハ裁判官ノ選擧制ガトラレ、ソコデハ裁判官ノ recall ト云フコトハアルガ、益ヨリモ害ガ多ク、米國デモ裁判官ノ recall 制ハ宜クナイトノ考ヘガ一般的デアル。「ケーディス」モ同意見デアル。ＧＨＱデモ斯ル問題ニハ貴族院ガ大イニ檢討シテ適當ニ處理シテ欲シイト云ッテイル。 recall 制ヲヤルト裁判官ガ自分ノヤッタ裁判ヲ defend スル傾向ニ陷ル惧レガアリ、又裁判官ガ直接ニ政治ニ乘出ス惧レガアル。
米國ノ recall 制ヲ採ル或ル州デノ調査ニ依レバ裁判官ハ其ノ時間ノ四十％ヲ政治ノ方ニ費シテ居ルトノコト。
○淺井清君　削除ニ贊成。衆議院デモ問題ニナッタガ間ニ合ハナカッタヤウデアル。
○宮澤俊義君　國民審査ノ制度ヲヤメルト同時ニ例ヘバ任期制トカ、裁判官ノ任命ニ民主的統制ヲ加ヘル要ナキヤヲモ檢討スベキデアル。
○高柳賢三君　ＧＨＱモ裁判官ノ任命ニ國會ノ承認ヲ要件トシテハドウカトノ話ガアッタ。
○田所美治君　七十九條 II、III、IV 項削除ニ伴フ所要ノ修正ヲ霜山君等ニ於テ考ヘテ戴キタイ。
○川村竹治君　七十九條 II、III、IV 項削除ニ伴フ所要ノ修正ヲ霜山君等ニ於テ考ヘテ戴キタイ。
　　　（異議ナシ）
　散會　午後三時三十八分

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