第二囘　帝國憲法改正案特別委員小委員會筆記要旨

　昭和二十一年九月三十日
　開會　午前十時二十五分
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　第十五條ニ付テハ昨日略議ガマトマッタガ其ノ案文ヲ讀ンデ戴キタイ。
○子爵織田信恒君　第十五條第三項トシテ「公務員の選擧については、成年者による普通選擧を保障する。」ヲ插入スル。
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　第六十六條修正ヲ議題ニ供スル。
○牧野英一君　civilian ヲ「平人」トシテハ如何。「凡人」トシテモ略ヾ同意義デアル。
○子爵織田信恒君　言苑ニハ「文臣」ノ言葉ガアル。文官ト云フコトデ武官ニ對スル言葉デアル。即チ「文臣トハ武臣ト對照シ武事ニ携ハラザル國ニ仕ヘル人ヲ云フ」トアリ。「文臣」ガ適當デハナイカ。而シテ文臣ナリヤ否ヤハ總理ニ付テハ國會ガ認定シ其ノ他ノ國務大臣ニ付テハ總理ガ認定スルコトトナル。尤モ之デ行クト、將來ＵＮＯニ加入セル場合ニ國際聯合軍ニ加ハッテ武官トナリ又ハ外國ノ軍隊ニ加ハル者ハ或ハ之ニヒッカカルカモ知レナイ。
○田所美治君　「文人」トシテハ如何。
○川村竹治君　臣ト云フト君主ノ臣ト云フ觀念ガ殘ッテイケナイカラ「文民」トシテハ如何。
○子爵織田信恒君　「文化人」ト云フコトモ考ヘテ見タ。
○松本學君　「内閣總理大臣その他の國務大臣は、文臣でなければならぬ。」トスルト總理及國務大臣ハ文臣デアルト云フ定義ノヤウニナッテ了フ。先方ハ軍國主義的デナイ人ヲ要求シテ居ルト考ヘラレルカラ、文治主義ノ人ト云フ意味ヲ表ハス宜イ言葉ハナイカ。
○下條康麿君　「文臣」ト云フト嘗テノ軍部大臣文官制ノ場合ノ文官ノ意味ニモトレル。之デハ civilian ニ該當シナイデハナイカ。
○子爵織田信恒君　文臣ハ文官ヨリモ廣義デアル。
○山田三良君　現在デハ「文臣」ニ贊成。
○川村竹治君　文臣ト云フト現在官吏ヲシテイル者ニ限ラレルヤウニ考ヘラレルコトハナイカ。
○侯爵淺野長武君　「民人」デハ如何。市河三喜等ノ大英和辭典ニ依レバ、民人トハ軍人ト僧侶トヲ除イタモノヲ云フ。
○淺井清君　内閣法デ之ヲ書クコトヲ約束シテ憲法ニハ入レナイコトニシテハ先方モ承知シナイカ。
○牧野英一君　高柳君ノ意見ニ依レバ non-civilian トハ軍人ノコトデハナイ。先方ノ要求ハ將來軍隊ヲ置イタ場合デモ大臣ハ文官ヲ充テルノダト云フダケノ意味デハナイカト云フコトダッタ。
○宮澤俊義君　ソレデアルトスレバ、「軍人は大臣になれない」トスルダケデ宜イガ、果シテ之デ宜イカヲ確メル必要ガアラウ。
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　午後ニ金森國務相ノ出席ヲ求メテ淺井、宮澤兩君ノ意見ノ二點ヲ確メルコトトスル。
○男爵飯田精太郎君　ソコマデ行ケバアッサリ「文官」トスレバ宜イ。
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　七十九條第二、三、四項ヲ議題ニ供スル。霜山君ノ案ハ、本條ヲ「最高裁判所はその長たる裁判官及び法律の定める員數の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。その裁判官は任期を十年とし、再任されることが出來る。」ト改メ第二、三、四項ヲ削除スルト云フコトデアル。
○牧野英一君　私ノ案ハ「最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員數の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任される事ができる。但し法律の定める年齡に達した時は退官する。」デアル。
○宮澤俊義君　最高裁判所ノ裁判官ヲ内閣ガ任命スルコトニスルナラ任期ヲ付ケナイ方ガ宜イ。任期ノ爲ニ裁判官ガ多少トモ動カサレルコトハ宜クナイ。
○高柳賢三君　米國ノ最高裁判所ノ裁判官ニハ任期ハナク、八十歳、九十歳ノ老齡ノ人ガ居ル。
○山田三良君　國民ニ評判ノ惡イ裁判官ノ地位ヲ國民ガ動カシ得ルモノトスルコトハ裁判官ヲシテ反省サセル爲ニ必要デアル。漸次民主化スルニ伴ヒ國民モ裁判ニ關心ヲ持チ、裁判ノ當否ヲ批判スル力ヲ持ツニ至ルカラ、此ノ心理、其ノ批判力ヲ向上サセル爲ニモ國民審査ノ制度ヲ殘スベキモノト思フ。
○宮澤俊義君　任期制トスルト任期滿了毎ニ内閣カラ影響サルル惧レアリ。
國民審査ヨリモ内閣カラノ影響ガ恐ロシイカラ、國民審査ヲ廢メルナラ、其ノ任命ニ對シ民主的統制ヲ考慮スル必要ガアル。任期制ヲ存置スルナラバ國民審査モ殘シタ方ガ宜イ。
○山田三良君　宮澤君ノ意見ニ贊成。
○高木八尺君　宮澤君ノ意見ニ贊成。
○牧野英一君　最高裁判所ノ裁判官ダケハ任期ノナイモノニシタイ。ソレハ司法權ノ獨立ノ爲ニモ必要デアル。
○子爵織田信恒君　七十八條ノ「公の彈劾」ノ意義如何。
○子爵大河内輝耕君　政府部内ニ彈劾ヲ掌ル部局ヲ設ケ之ガ起訴ヲ爲シ、彈劾裁判所ガ裁判スルトノ政府ノ説明ダッタ。
○松本學君　行政官モ裁判官モ齊シク公務員トシテ其ノ任免權ハ窮極的ニハ國民ニ在リトハセラレ乍ラ行政官ハ各廳ノ任免トセラレ裁判官ニノミ國民審査トスルコトハ司法權ノ獨立ヲ阻害サレル惧レガアル。
○山田三良君　裁判官ハ終身官トセラレルガ行政官ニハ地位ノ保障ガナク何時デモ内閣カラ罷免サレ得ルカラ referendum ヲ必要トシナイ。
○子爵織田信恒君　七十九條一項ダケデハ情實ニ依ル任命ガ爲サレル惧レガアルカラ、之ヲ抑制スル爲 referendum 制ヲ設ケタノデハナイカ。
○高柳賢三君　ＧＨＱデモ、recall 制ヲ廢メルナラ任命ニ付國會ノ同意ヲ要スルコトトセネバナラヌト云ッテ居タ。
○宮澤俊義君　新憲法ハ議院内閣制ヲトルカラ、内閣ノ任命ニ付テハ國會ノ支持ガアルモノト見テ、任命ニ國會ノ同意ヲ必要トスル必要ハナイ。
○淺井清君　米國ノ實例ヲ見テモ利益ヨリモ害ガ多イカラ referendum 制ヲ削除シ、最高裁判所ノ裁判官ノ任期制ヲ止メルコトニシテハ如何。
○高柳賢三君　recall 制ニスルト社會情勢ノ變化ニ依テ裁判官ガ變ル、之ガ政爭ノ具ニ供サレルコトガ宜イカドウカト云フ問題ニナル。
○松本學君　内閣ノ任命ダケニ任スト却ッテ政爭ノ具ニ供セラレルノデハナイカ。
○山田三良君　却ッテ激シクナル惧レガアル。
○牧野英一君　recall 制ハ裁判官ノ獨立ヲ害スル惧レガアル。
○高柳賢三君　米國デモ彈劾ガ實際ニ適用サレルコトハ滅多ニナイ。實際上ハ彈劾ノ制度ハ餘リ役ニ立タナイ。
○松本學君　任期ハナイ方ガ宜イ。
○下條康麿君　referendum 制モ廢メ、又任期制モ止メルコトトシテハ如何。
○田所美治君　衆議院モＧＨＱモ削除ニ異議ハナイトノコトダシ十五條六十六條ノ修正ノ要求ヲ含ムダケデハ不體裁ダカラ宜イ種ガアレバ二、三見ツケテ修正シタイ。此ノ問題ハ貴族院ノ發意ニ依ル修正トシテハ宜イ種デハナイカ。
○山田三良君　recall 制ヲ削リ放シデハイケナイ。七十九條ニ手ヲ觸レルト六條ヲモイヂラナケレバナラナクナル。
○松本學君　長タル裁判官モ裁判官タルコトヲ失ハナイカラ、七十九條二項ニ「最高裁判所の裁判官の任命は國會の同意を要する」ヲ入レレバ六條ヲ動カサズニ濟ム。
○男爵飯田精太郎君　衆議院ノ勢力ガ強クナルトスレバ、内閣ニ依ル裁判官ノ任命ニ國會ノ承認ヲ要スルトシテモ大シタ意味ハアルマイ。
○淺井清君　國會ノ同意ヲ要スルコトトスルナラバ兩院ノ意見ガ一致シナイ場合ニ付六十條二項ヲ準用スル規定ヲ設ケル必要ガアル。
○高柳賢三君　米國デハ裁判官ノ任命ニ對スル同意權ハ上院ニノミアリ、本人ガ直接呼出サレ、祕密會トセラレル。
○山田三良君　裁判官ノ任命ノ同意ヲ參議院ダケノ權限トシテハ如何。
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　スルト七十九條、二、三、四項ヲ削除シ放シデハイケナイカラ、任命ニハ國會ノ同意ヲ要スルモノトシ、兩院ノ意見不一致ノ場合ニハ六十條二項ヲ準用スル規定ヲ設ケルコトト云フ結論ニナル。
○高柳賢三君　六十六條ニ付一ツノ考へ方ハ「軍人デナイコトヲ必要トスル」ト云フ書キ表ハシ方デアリ、他ノ一ツハ peaceful pursuit ニ從事スル人ト云フ面ヲ出シテ「平和業務者」ナル語ヲ作リ之ガ civilian ダト決メルコトデアル。

　休憩　午後零時二十分

　再開　午後一時四十二分

○子爵織田信恒君　civilian ニ付、三土君ハ「文治人」デハ如何トノコトデアッタ。言苑ニ依レバ「文治トハ武斷ニ對應スル語ニシテ教化又ハ法令ヲ以テ世ヲ治メルコトヲ云フ。」
○田所美治君　贊成。
○高柳賢三君　治ノ字ガ少シドウカト思フ。
平和的ナ人、戰争ヲ事トスル人ニ非ザル人ノ意味デナケレバナラヌ。軍國主義ニ對スル文治主義ノ意デアラウ。
○侯爵淺野長武君　「民人」デハ如何。
　　　（金森國務大臣出席）
○國務大臣（金森徳次郎君）　今朝ヨリ衆議院各派交渉會ヲ開キ政府カラ經過ヲ報告シタ。ＧＨＱヨリノ要求ノ二點ニ付テハ報告シタ範圍ニ於テハ別ニ意見モナイヤウデアル。修正ノ結果ヲ呑ミ込ンデ呉レルモノト見テ宜イ。
此ノ二點以外ノ修正ニ付テハ別ニ發言ハナカッタ。
○牧野英一君　七十九條ノ國民審査制ノ削除ニ對スル政府ノ所見如何。
○國務大臣（金森徳次郎君）　政府ノ意見ニ付テハ申シ上ゲラレナイ。私自身ハ原案ガ宜イト思フ。衆議院デモ意見ガ出タガ未決ニ終ッタ。
○子爵織田信恒君　二項ガアル爲ニ司法權ノ獨立ヲ害スル惧レガアルノデハナイカ。
　選擧ニ依ル裁判官ニ付テハ recall 制ガアッテモ宜イガ任命ニ依ル裁判官ニ付キ recall 制ハ宜クナイ。 recall 制ヲ削除シテモ弊害ハナイ。其ノ代リ任命ニ付、國會ノ同意ヲ要スルトノ意見ガアルガ、政府ノ所見如何。
○國務大臣（金森徳次郎君）　衆議院デモ裁判官ガ國民ノ顔色ヲ見テ裁判スルコトハ宜クナイカラ削除シタラドウカト云フ意見ガアッタ。
　北レイ吉君ハ選擧訴訟ト之トヲ削レト云フ意見ヲ強ク主張シタガ、結局選擧訴訟ヲ削ルコトデ納ッタ。之カラノ最高裁判所ノ裁判官ハ單ナル裁判官ニ非ズシテ立法者デアル。裁判官ノ立法權ト云フ英米法ノ思想ヲ追フモノデアリ、國會ノ立法權ニ對シテ國民ガ control ヲ有スルト同ジク國民ガ或ル程度裁判官ヲ control スル手段ガナケレバ國家意思ノ統一ガ保タレズ立憲主義ノ根本原則ト國家意思ノ統一ノ結ビ付キノ方法ガナイ。ソコデ實際ニハ餘リ實効ノナイ referendum デ統一セントシテ本制度ヲ設ケラレタ。此ノ趣旨ガ十分理解サレテ居ナイノデハナイカ。十年目ニ referendum ヲヤッテモサウ荒ッポイ結果ヲ生ズルコトモナイダラウシ、又十年間モシツコク憎マレテ居ル裁判官ナルモノハ理窟抜キニシテ辭メテ貰ッテ宜イノデハナイカ。
新憲法ハ現在ノ如ク裁判官ガ自分ノ反對スル判決ニ對シテモ印ヲ押スヤウナコトデナク、判決ノ作ラレル過程ヲ國民ニ昭ラカニシ、擔當ノ裁判官ガ當該判決ニ對シテ贊成ナリヤ反對ナリヤヲ昭ラカニセントスルモノデアル。 recall 制ハ陪審制ト共ニ一ツノ新シイ英米法ノ行キ方ヲトッテ居ルノデ recall 制ヲヤメルト此ノ行キ方ノ根本ガ崩レルノデハナイカ。本憲法ノ據テ立ツ基本原理ハ humanism デアリ個性ノ尊重デアル。世ノ中ニ個々ノ國民ノ意思ニ基カナイ役人ノ居ルコトハ本憲法ノ嫌フ所デアリ此ノツナギヲナスノガ實際ニハ實効ノナイ recall 制デアル。問題ハ之ガ有害デアルヤ否ヤデアル。
○高柳賢三君　recall 制ハ裁判官ヲ政治家化スル惧レガアルト思フ。
○國務大臣（金森徳次郎君）　裁判官ヲ石ヤ瓦ノヤウニ封鎖シテ了フコトハ正シイ行キ方デハアルマイ。裁判官ヲ辭メサセル方法ガナイトスルコトハ却ッテ裁判官ヲ排除スル爲ニ Roosevelt ノ如ク法律ヲ以テ裁判官ノ定員ヲ増減スルト云フ立法權ノ横暴ヲ來スコトハナイカ。原案下ニ於テ、法律ヲイヂッタトスレバ「十年毎ニ recall 制ガアルノニ斯ル法律ヲイヂルコトハケシカラヌデハナイカ」ト云フ非難ガ生ズルモノト思フ。
　第三章ノ規定ハ曖昧デアッテ何處マデガ公益ノ枠内ニアルカハ裁判所ノ判決デ決メラレル外ハナイ。米國デハ法律ノ千分ノ二・五ガ違憲判決ヲセラレテ居ル。日本デモ相當程度違憲判決ガアルモノト豫想セラレルノデ、裁判官ノ地位ヲ絶對ニ動カシ得ナイモノトスルコトハ却ッテ弊害ガアラウ。削除ニ付テハ之ニ代ルベキ宜イ方策ガナケレバ絶對ニ同意スルコトハ出來ナイ。
○子爵織田信恒君　任命ニ國會ノ同意ヲ要スルコトトシテハ如何。
○國務大臣（金森徳次郎君）　スルト益々裁判官ヲ國會ニ隷屬セシメルコトニナル。
○高柳賢三君　米國ノ法曹協會デモ裁判官ニ任期ヲツケルコト及國民審査制ヲトルコトハ司法權ノ獨立ヲ害スルトノ意見ガ強イ。
○國務大臣（金森徳次郎君）　裁判官ノ立場ヲ代辯スル主張ハ一應分ルガ、民主制ガ正シイトスレバドコカニ結ビ付キヲ求メルコトハ必要デアリ、而シテ民主制下ニ於テハ之ヲ國民ニ求メルノガ正シイノデハナイカ。實際ニハ國民審査ニヒッカヽッテ罷免サレル裁判官ハナイデアラウ。理論的滿足ト萬々一ノ場合ノ爲ノ規定トシテ國民審査制ハ適當ナモノデアラウ。 recall 制ヲ封鎖サレテ了フト、身分保障ノ積弊ガ築上ゲラレタトキハ、荒療治ニヨルカ又ハ憲法改正ヲスル外ナクナッテ了フ。
○山田三良君　公務員ノ任命權ガ窮極的ニ國民ニアリトスレバ裁判官ニ對スル最後ノ統制手段タル referendum 制ヲ奪ヒ去ルコトハドウデアラウカ。
○國務大臣（金森徳次郎君）　國民ニ背景ヲ持タナイ者ノ立場ハ弱イト云フ立場デ本法ハ出來テイル。
○男爵飯田精太郎君　國會ニ於ケル多數派ノ横暴ヲ制スル最後ノ切札ガナイノデハナイカ。
○國務大臣（金森徳次郎君）　多數黨ノ横暴ヲ制御スル方法ハ結局ハナイ。唯議會ニ於テ多數派ガ横暴ニ振舞ッテモ、國民ヲ聰明ニシテ置ケバ民主政治トシテ望ミ得ベキ解釋ガ得ラレルデアラウ。ソレニハ政治教育ヲ普及セシメ、言論ヲ自由ニシ、又行政機構ニ妥當ナ範圍内ノ安定性ヲ與ヘルナラバ巧ク行クデアラウ。
○高柳賢三君　civilian ヲ裏カラ「軍人でない者なることを要する。」トスルダケニシテハ如何。
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　前文ヲ議題ニ供スル。
○牧野英一君　（牧野案ヲ朗讀）
　「われら日本國民は、正當に選擧された國會における代表者を通じて、こヽに主權が國民に存することを宣言し、我が憲法を改正する。われらはわれらとわれらの子孫のために諸國民との協和による成果と、わが國全土にわたつて自由の齎らす惠澤を確保し、政府の行爲によつて再び戰爭の慘禍が發生することのないやうにする事を決定する。そもそも國政は國民の嚴肅な信託によるものであり、この權威は國民に由來し、國民の代表者がこの權能を行ひ、國民がこの福利を受ける。これは人類に共通な原理であつて、この憲法はかかる原理に基くものである。われらは、この憲法によつてこれに反する一切の法令及び詔勅を排除する。
われら日本國民は恆久の平和を念願し、人間相互の關係を支配する高遠な理想が人類を指導し、鼓舞しつヽあることを深く自覺するのであつて、われらの安全と生存をあげて、平和を愛好する諸國民が、公正とし信義とする所に委ねる。われらは國際社會が平和を維持し、專制と隷屬を、又壓迫と頑冥を地上から永遠に除去しようと努めている間に伍して、名譽ある地位を占めたい。われらは凡そ地上にある人々が、すべて等しく恐怖と缺乏から免かれ、平和と安全の中に生活する權利を有することを固く信ずる。
　人は各ヾ個人として尊重せられ、相共にこの地位と職能に従つて公共の福祉に奉仕せねばならぬし、國は、政治上社會的正義を普ねからしめ、國民の生活を衡平にし、豊富ならしめなければならぬ。同時にわれらは、文化の爲に全力を盡し、われらの福祉を精神的にも豊ならしめる事によつて、進んで國際社會に對しても寄與する所があるやうに深く期する。
われらは何れの國民も自國に對してのみ責任を負ふものでなく、政治道徳の諸法則は普遍的なものであつて、この諸法則に従ふことは、自國の主權を保持し、他國と對等の關係に立たうとする國民の責務であることを信ずる。
われら日本國民は國家の名譽にかけ、全力をあげてこの遠大崇高な目的を達成することを誓ふ。」
○田所美治君　第三段目ノ牧野獨自ノ案ヲ加ヘルコトハ困難デアラウ。原案ノ範圍内ニ於テ改善スル外時間ハナイデアラウト思フ。
○川村竹治君　英文ハ、國會ヲ通ジテヾナケレバ國民ハ主權ガ國民ニ存スルコトヲ宣言出來ナイトナッテ居ルカ。
○高柳賢三君　然リ。主權ガ國民ニ存スルコトヲ國會ニ於ケル代表者ヲ通ジテ宣言スルト云フ意味デアル。
英文デハ do ordain ト do proclaim トガ determine ニカヽルガ、牧野案ハ之ヲ切リ離スカ。
○牧野英一君　然リ。
○川村竹治君　日本語ノ原案デハ國民ガ直接ニ宣言スルノデハナイカ。
○牧野英一君　然リ。
○高柳賢三君　ＧＨＱハ、前文ニ付テハ英文ハ變ヘテ貰ヒタクナイ、英文ノ意味ヲ益々ハッキリサセル爲ニ日本文ヲ修正スルノハ構ハヌトノコトダッタ。
○山田三良君　英文ニ忠實ナラントスルナラ高柳案ヲ中心トスル外ナク、又今ソレ以外ノコトハ出來ナイト思フ。
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　其ノ意味ニ於テ審議ヲ御進願ヒタイ。
　　　（大體異議ナシ）
○松本學君　修正案ト原案トハ可ナリ開キガアルガ、衆議院ガ貴族院ノ修正ヲ呑ムカドウカヲ考ヘネバナラヌカラ、衆議院修正案ヲ元トシテヤルベキデハナイカ。
○宮澤俊義君　英文ト比ベテ最少限度ドウシテモ修正セネバナラヌ所ハドコカ。
○高柳賢三君　私ノ案ハ其ノ程度ノ修正ニ止メタ。
○山田三良君　衆議院ノ各派交渉會ト非公式ニ話シ合ッテ見テ、貴族院ノ修正ガ通ラヌト云フナラ修正ヲ止メルコトトシテハ如何。
　　　（高柳案ヲ基礎トシテ各委員ニ於テ修正意見ヲ交換）
○小委員長（伯爵橋本實斐君）　念ノ爲ニ只今ノ前文修正案ヲ朗讀シテ戴キタイ。
○子爵織田信恒君　（朗讀）
　「われら日本國民は、正當に選擧された國會に於ける代表者を通じて、われらとわれらの子孫のために、諸國民との協和による成果と、わが國全土にわたる自由の惠澤を確保し、政府の行動によつて再び戰爭の慘禍が起ることのないやうに決意し、こヽに主權が國民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも國政は國民の嚴肅な信託によるものであつて、その權威は國民に由來し、その權能は國民の代表者がこれを行使し、その福利は國民がこれを享受する。これは普遍の原理であり、この憲法は、かヽる原理に基くものであつて、われらはこれに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除し、廢止する。
われら日本國民は、永遠の平和を念願し、人間相互の關係を支配する崇高な理想を深く自覺するのであつて、平和を愛する諸國民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しやうと決意した。
われらは平和を維持し専制と隷從、壓迫と偏狹を地上から永久に除去しやうと努めている國際社會に於て名譽ある地位を占めたい。われらは全世界の國民がひとしく恐怖と缺乏から免かれ平和のうちに生存する權利を有することを確認する。
われらは、何れの國民も自國に對してのみ責任を負ふものでなく、政治道徳の諸法則は普遍的なものであつて、この法則に從ふことは、自國の主權を維持し、他國と對等の關係に立たうとする國民の責務であると信ずる。
われら日本國民は、國家の名譽にかけ、全力を擧げてこの崇高な原理と目的を達成することを誓ふ。」

　散會　午後四時五十六分

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