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第九十回帝國議會貴族院 帝國憲法改正案特別委員小委員會議事速記録第一號
付託議案◎帝國憲法改正案
委員氏名
委員長 伯爵橋本 實斐君
侯爵淺野 長武君
子爵織田 信恒君
山田 三良君
牧野 英一君
男爵飯田精太郎君
霜山 精一君
下條 康麿君
川村 竹治君
高柳 賢三君
田所 美治君
松本 學君
宮澤 俊義君
淺井 清君
高木 八尺君
昭和二十一年十月二日（水曜日）
午後三時五十三分開會
○委員長（伯爵橋本實斐君） ソレデハ更メテ茲ニ開會致シマス、今日ハ速記ヲ附ケテ審議ヲ繼續致シマス、本小委員會ハ去ル九月二十八日以來今日迄、四日間ニ亙リマシテ、各員カラ詳細ナ御意見ヲ懇談裡ニ進メテ參リマシタ、御意見ノアル所ヲ能ク了承致シマシタ、此ノ間、必要ニ應ジマシテ吉田内閣總理大臣及ビ金森國務大臣ノ御出席ヲ求メマシテ、必要ノ箇所ニ付キマシテ、各員トノ間ニ十分ナル質疑應答モ重ネラレタノデアリマス、連日ノ各員ノ御努力ニ依リマシテ、此ノ小委員會ニ付託セラレマシタ前文案ノ修正、第十五條ノ修正、第四十三條、第六十六條、第七十九條、此ノ五項目ニ付キマシテ、十分ナ懇談ヲ遂ゲマシタ、皆サンノ御意思モ十分分リマシタカラ、今ヤ、質疑應答ノ時期モ濟ミマシタ今日、此ノ案ヲ採決ニ付シマシテ、本委員會ノ是等ノ諸案ニ對シマスル態度ヲ決スル時期ニ到達シタト考ヘマス、仍テ各員ノ御異議ガナケレバ、是ヨリ討論ニ入リタイト存ジマス、仍テ、先ヅ此ノ際前文ヲ討議ノ問題ニ供シタイト思ヒマス
○田所美治君 委員會カラ付託サレマシタ諸項ノ中、前文ニ付キマシテハ御手許ニ廻シテゴザリマスル案ノヤウナ工合ニ、修正ヲ少シ加ヘタラドウカト存ジマス、此ノ前文ハ、今回新憲法ニ依リマシテ、憲法ノ條項モサウデアリマスガ、前文モ亦所謂言文一致體デ、言葉ノ通リニ初メテ出來タモノデゴザイマス、其ノ文體ノ上カラ見マシテモ、ナダラカサヲ缺ク點モアリマスシ、中ニハ了解ニ苦シムヤウナ點モナイデハアリマセヌ、是ハ初メテノ試ミデアリマスカラ、又、時日モ十分ニアツタト云フ譯デハナイノデアリマスカラ、生硬ノ文章ガ、十分ニ融和サレナイデ出テ居ルヤウナ點ガポツポツアルノデアリマス、衆議院ニ於キマシテモ、多少ノ修正ヲ加ヘラレマシテ本院ニ廻ツテ來タ譯デアリマスガ、尚ソレヲ精査檢討シマシテ、又繰返シテ之ヲ詳讀シマシテ、理解シニクイヤウナ點ハ、改メル方ガ宜イデハナイカ、コンナニモ考ヘラレマス、又中ニハ、内容ヲ變ヘルト云フコトデハアリマセヌガ、日本ノ此ノ憲法ノ前文トシテハ、少シ文字モ變ヘテ、意味ヲ變ヘナイデ文字ヲ變ヘマシタナラバ、尚其ノ原意ガ徹底スルト云フヤウナ所モアリマス、ソレ故私ハ、此ノ前文ノ内容ノ意味ハ、即チ主權ガ國民ニ在ル、平和主義ニ基イタ宣言、我ガ國ノ將來ノ理想、ソレヲ世界ト共ニ協和シマシテ維持シテ行カウ、斯ウ云フ意味ノ内容ニ付キマシテハ、少シモ變ヘルコトナシニ、曩ニ申上ゲマシタヤウナ了解シ易ク、ナダラカニ、此ノ急イダ際ニ於キマシテモ、出來得ルダケ完備ナモノニ致シタイト云フコトノ爲ニ、十分デハゴザリマセヌケレドモ、此ノ際御手許ニ廻シテゴザリマスヤウナ文字ノ大體修正デアリマスガ、或ハ前後ヲ多少變ヘマシタトカ云フヤウナ位デ、元ノ文ヨリハ、或ハ衆議院ノ修正ヨリハ 尚少シデモ、サウ云フ意味ニ於キマシテハ、改善ヲ加ヘル意味ニ於キマシテ、御手許ヘ草案ヲ差出シテアリマスカラ、御熟讀ノ上、ドウゾ御贊成ヲ願ヒマス
○委員長（伯爵橋本實斐君） 御諮リ致マスガ、只今、田所委員カラ御動議ガ出マシタ前文ニ付キマシテ、是ハ朗讀ヲ致スコトガ適當ト存ジマスルガ、時間モ掛リマスコト故、且讀ミ違ヒ等モアツテモ困リマスルカラ、此ノ案文ヲ速記録ニ載セタイト存ジマスガ、御異議ナケレバ、左樣致シタイト思ヒマスガ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（伯爵橋本實斐君） ソレデハ左樣取計ラヒマス、之ニ對シマシテ、何カ御意見ガゴザイマスカ
〔「贊成」ト呼フ者アリ〕
○委員長（伯爵橋本實斐君） 御異議ガナイヤウデゴザイマスカラ‥‥ソレデハ御異議ガナク全會一致ヲ以テ前文ノ修正案ハ可缺スベキモノト云フコトニナリマシタ、次ノ議題ニ進ミマス、ソレデハ第十五條ヲ議題ニ供シマス
○子爵織田信恒君 意見、理由等ハ憲法ノ委員會デ一應述ベマシタカラ、私省略致シマス、修正案ヲ提出致シタイト思ヒマス、ソレハ第十五條ノ第三項ニ「公務員の選擧については、成年者による普通選擧を保障する」以上ヲ附加ヘタイト思ヒマス
○委員長（伯爵橋本實斐君） 之ニ對シテ御意見ハゴザイマセヌカ
〔「贊成」ト呼フ者アリ〕
○委員長（伯爵橋本實斐君） 御異議ガナイヤウデアリマスルカラ、全會一致ヲ以テ、十五條ノ修正案ヲ可決ト云フコトニ致シマス、次ニ四十三條
○川村竹治君 此ノ條項モ此ノ小委員ニ付託サレタ箇條ノ一ツデアリマス、此ノ條項ハ兩議院ノ構成ヲ規定シテ居ル、サウシテ選擧方法ヲ規定シテ居ル條文デアリマス、衆議院ニ付テハ、別ニ問題モナイノデゴザイマスルガ、參議院ノ構成ニ付テハ、從來、貴族院ノ研究會ニ於キマシテモ、又政府ノ法令調査會ニ於キマシテモ、又憲法委員會ガ出來テカラ後ニ致シマシテモ、色々研究ヲシマシテ、參議院ニ相應ハシイ構成ヲ研究ヲシテ居ツタノデアリマス、處ガ、ナカナカ是ガムヅカシイ問題デアリマシテ、參議院ノ構成ニ適當ナル、適切ナル案ガ出來レバ宜イノデスケレドモ、ナカナカソレハムヅカシイノデアリマス、若シ適切ナル修正案ガ出來マシテ、此ノ條項ニ違反スルヤウナ點ガアレバ、此ノ條項モ修正シタイト云フ意見モアツタノデアリマスガ、處ガ、ナカナカサウ云フ、其ノ確定ノ良イ案ト云フモノヲ發見シ兼ネタノデアリマス、且又、色々ノ事情ヲ斟酌シマシテ、此ノ際ハ此ノ四十三條ハ、無修正ノ儘デ、此ノ儘ニ此ノ委員會ヲ通過サセルコトニシタイト思ヒマス、御贊成ヲ願ヒマス
○委員長（伯爵橋本實斐君） 之ニ對シテ御意見ノ御陳述ハアリマスカ‥‥、御發言ハナイヤウデアリマス
○山田三良君 チヨツト、今其ノコトニ付テ、田所君ト下條君カラ案ガ出マシタカラ、アソコハ速記録ニ御掲載ニナツタラ如何カト思ヒマスガ
○委員長（伯爵橋本實斐君） 只今山田委員カラ申出ガゴザイマシタガ、左樣取計ラツテ宜イデセウカ
○田所美治君 誠ニ詰ラヌ案デゴザイマスケレドモ、他日ノ御參考ニデモナリマスカラ、此ノ一項ニ付テハ、内閣ノ方デ審議會ガ出來テ居リマス、ソレニ付テ多少、參考ニデモナルト云フ案ナラバ、御載セヲ願ヒマス
○川村竹治君 私ハ、委員長カラ特別委員會ニ御報告ナスツテ下サツタラ、ソレデ宜シカラウト思ヒマス
○委員長（伯爵橋本實斐君） 只今色々御意見ガアリマシタガ、私モ御異議ガナケレバ、川村委員ノ御説ニ依リタイト存ジマスガ‥‥、然ラバ川村委員ノ御説ニ從ヒマシテ、小委員長報告ノ際ニ、之ヲ特別委員會ニ報告致シタイト思ヒマス、之ヲ以テ四十三條ハ無修正ト云フコトニ決定致シマス、然ラバ、次ニ六十六條ヲ議題ニ供シマス
○子爵織田信恒君 第六十六條、是モ一ツ修正案トシテ一項目ヲ挿入シタイノデアリマスガ、是ハ第二項ニ「内閣總理大臣その他の國務大臣は文民でなければならない。」以上デアリマス、此ノ「文民」トハ文ノ民ト書キマス、文民トハ、武臣ニ對照シマシテ、英語デ申シマスナラバ、「シビリアン」ト云フ言葉ニ當テ嵌ルト思ヒマス、以上ヲ修正案トシテ提出致シマス
〔「異議ナシ」「賛成」ト呼フ者アリ〕
○委員長（伯爵橋本實斐君） 只今ノ織田委員ノ御意見ニ對シマシテ、御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（伯爵橋本實斐君） 御異議ガナイヤウデアリマスカラ‥‥
○高木八尺君 意見ハ重ネテ申出ヲ致シマセヌ
○委員長（伯爵橋本實斐君） 御意見ハ重ネテ御申出ガナイ‥‥
○霜山精一君 今ノ修正案ハ、第六十六條ノ一項ノ後段ニ續ケテ書クノデハナカツタデセウカ、第二項ニ捜入スルト云フコトデセウカ
○委員長（伯爵橋本實斐君） 霜山委員ニ御答ヘ致シマスガ、第二項ニ挿入スルコトニ決ツタヤウデアリマス
○霜山精一君 分リマシタ
○委員長（伯爵橋本實斐君） ソレデハ只今ノ六十六條モ、別ニ御異議ガナケレバ、左樣ニ決定スベキモノト致シマシテ、委員會ニ報告致シマス
○高木八尺君 決ヲ御採リニナリマス時ニハ、私ハ不贊成ト云フ考ヲ持ツテ居リマス
○宮澤俊義君 異議ナシデ御決メニナルノデスカラ、滿場一致ト仰シヤラナクテモ宜シイノデハナイカト思ヒマス、多數デ決ルナラバ‥‥
○委員長（伯爵橋本實斐君） 承知致シマシタ、多數ニ依ツテ是ガ決ツタコトヲ宣告致シマス
○田所美治君 滿場一致デ決ツタコトヲ滿場一致ト御願ヒ致シマシテ‥‥
○委員長（伯爵橋本實斐君） 左樣了解致シテ居リマス、次ノ議題ニ進ミマス、第七十九條ヲ議題ニ供シマス
○霜山精一君 本委員會ニ付託サレテ居リマスル此ノ七十九條ノ、最高裁判所ノ裁判官ノ國民審査ノ問題デアリマス、此ノ問題ニ付キマシテハ、本會議ニ於キマシテ質問モアリマスシ、ソレカラ特別委員會ニ於キマシテモ、此ノ國民審査ノ規定ニ反對デアルト云フ趣旨デ、色々質疑サレテ居リマシテ、其ノ理由ノ詳細ノコトヲ此處ニ一々申上ゲル必要ハナイト思フノデアリマス、ソコデ、此ノ七十九條ノ規定ノ中デ、國民審査ニ關係ノアル七十九條第二項、第三項及ビ第四項、之ヲ削除スベシト、斯ウ云フ修正意見ヲ提出シタイト思ヒマス
○委員長（伯爵橋本實斐君） 只今霜山委員ノ修正御意見ガ出テ居リマスガ、之ニ關シマシテ御意見ヲ伺ヒマス
〔「異議ナシ」「贊成」ト呼フ者アリ〕
○委員長（伯爵橋本實斐君） 御異議ガナイヤウデアリマス、是ハ滿場一致ヲ以テ、霜山委員ノ御提議ノ通リノ修正ヲナスベキモノト決定致シマス、以上ヲ以チマシテ本小委員會ニ付託セラレマシタ五ツノ議案ヲ、ソレゾレ御報告通リニ、修正、或ハ無修正ニ依リマシテ、決定スベキモノト致シマシテ之ヲ委員長ヨリ後日特別委員會ニ報告致スコトニ致シマス、此ノ際御諮リヲ致シマスガ、此ノ四日間ノ小委員會ヲ通ジマシテ、其ノ間本委員會ノ付託事項デハゴザイマセヌガ、委員ノ數名ノ御方カラ御意見ガ出テ居リマス、ソレハ付託議案デハゴザイマセヌガ、第七條、第二十四條、ソレカラ第五十九條ニ關聯スル事柄デアリマシテ、本委員會ト致シマシテハ、付託セラレタ問題デハゴザイマセヌガ、之ニ關シマスル各委員カラ御熱心ナ御意見ノ御披露モゴザイマシタ、仍テ委員長ノ考ト致シマシテ、之ヲ特別委員會ニ此ノ御意見ヲ映シマスルコトハ、憲法ヲ審議スル上ニ於キマシテ有效デアルト存ジマスルカラ、其ノ計ラヒニ致シタイ意味ニ於キマシテ、只今ヨリ順次是等ノ修正意見ヲ御提出ニナリマシタ方々ニ御述ベヲ願ヒタイト存ジマス、御意議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○下條康麿君 決ヲ採ルノデスカ
○委員長（伯爵橋本實斐君） 決ハ採リマセヌ、是ハ本小委員會ノ擔當事項デゴザイマセヌカラ、決ハ採ラナイコトニ致シマス
○下條康麿君 改メテ提出者ガ、委員會ノ方ヘ修正ヲ出サナケレバナラヌノデスカ、特別委員會ノ方ヘ
○委員長（伯爵橋本實斐君） 左樣デゴザイマス、其ノ御了解ノ下ニ御述ベヲ願ヒタイト思ヒマス
○田所美治君 是ハ、順序デ宜シウゴザイマスカ
○委員長（伯爵橋本實斐君） 順序デ
○山田三良君 是ハ案ハ讀マナクテモ宜イデセウ、讀ミマスカ
○委員長（伯爵橋本實斐君） 御希望ニ副フヤウニ、ドウゾ
○山田三良君 私ノ提出シマシタ修正案ハ第七條ニ付テデアリマス、第七條ノ中ノ「五」ニ付キマシテ「竝びに全權委任状及び大使及び公使の信任状」、是ダケヲ削ルノデアリマス、ソレカラ同條ノ「六」ニ付キマシテオ終ヒノ「認證すること」トアリマスノヲ、「行ふこと。」ト改メルノデアリマス、同條ノ「八」ニ付キマシテ「批准書及び」ト云フノヲ削リマシテ、「國會の承認により内閣の締結した條約を批准すること竝びに」ト改メマシテ、其ノ下ノ文字ノ中デ「その他の」ト云フ四字ヲ削ルコトニ致シマス、同條ノ「九」ノ初メニ「内閣の指名に基いて大使、公使及び全權委員を任命すること竝びに」ト云フノヲ加ヘマシテ、現在ノ「九」ト云フノハ、ソレニ續クノデアリマス、以上ノ修正案ヲ提出致シマシテ、御審議ヲ願ヒタイト云フ積リデアリマス
○委員長（伯爵橋本實斐君） 之ニ對シテ御意見ガゴザイマスナラバ‥‥
○川村竹治君 之ニ付テハ、懇談會ノ時ニ相當意見ヲ述ベテアリマスカラ、之ヲ繰返ス暇モナイノデ、委員長ヨリ其ノ状況ヲ特別委員會ノ方ニ御報告ヲ願ツタラ、ソレデ宜クハナイカト思ヒマスガ、如何デセウカ
「〔贊成」ト呼フ者アリ〕
○委員長（伯爵橋本實斐君） 只今川村委員ヨリ御意見ガ出テ居リマス、此ノ問題ニ付キマシテハ、小委員會ノ懇談會ニ於キマシテ、隨分詳細ニ各委員カラ御意見モ出テ居リマス、其ノ模樣ヲ小委員長ヨリ特別委員會ニ御傳ヘスルコトニ致シマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（伯爵橋本實斐君） 御異議ガナケレバ、次ノ議題ニ移リマス、第二十四條ヲ議題ニ供シマス
○田所美治君 懇談會デモ申上ゲマシタ通リ、二十四條ノ規定ハ、此ノ憲法ニ依リマシテ、新主義ト言ヒマスカ、新ラシイ主義ノコトヲ憲法ノ規定ニ加ヘラレマシタ、ソレハ夫婦生活、婚姻ニ關係シタ條項、配偶者ノコトデアリマストカ、財産權等ト云フ意味ノ規定ガ二項設ケラレテ居リマス、而シテ又、衆議院ニ於キマシテハ、其ノ次ノ條ヘ國民ノ生活ニ關スル規定モ加ヘラレマシタヤウナ譯デアリマスガ、此ノ國民ノ權利義務ノ章ハ誠ニ良ク出來テ居ル一章デハアリマセウケレドモ、之ヲ通讀シマシテ、我ガ國ノ國體ノ根本ニナリマス家ノ關係ト申シマスカ、家生活ノ關係ト申シマスカ、或ハ家族ノ生活ノ關係ト申シマスカ、其ノ内容ハ即チ親子ノ忠孝ヲ基トシタ國體、即チ家族主義ノ國體、是ガ何千年來ノ日本ノ家庭生活、社會生活、人生生活ノ基本ニナツテ居リマスコトガ、一ツモ書イテナイノデアリマス、ソレデ二十四條ハ、婚姻關係カラ生ジマスル事柄、ソレヲ主ヂヤアリマセヌ、ソレノミヲ書イテ居ルヤウニ思ハレマス、取リ方ニ依リマシテハ‥‥、其ノ中ニ「家族」ト云フ言葉ガアリマスカラデハアリマスガ、是ハ一項ト二項トヲ讀ミマシテ、私ガ懇談會デ申上ゲマシタヤウナ、即チ只今申シマスルヤウナ親子ノ關係トカ、兄弟ノ關係トカ、サウ云フモノノコトニハ解レマセヌ、ソレガマア、普通ノ讀ミ方デゴザイマセウト思ヒマス、ソレ故、皆サンガ本質ニ於テハ、ドナタモ御異存ハナイコトト思フ根本義デアリマス、家族生活ニ關スル規定ヲ、何處カヘ御加ヘヲ願ヒタイ、文字ハ、或ハ家族制度ト申シマスカ、親子ノ生活ト申シマスカ、親子ヲ中心トシタ親族ノ生活ト申シマスカ、家族ト申シマスト、戸主、家族ノ關係デ、今問題ニナツテ居リマス民法ノ改正ノ條項デ、戸主權ガ云々ト云フコトニ關係シテ居ルト、サウ云フ意味デハナイノデアリマシテ、親子ノ情ガ、即チ孝ニナル、子供ノ親ニ對スル孝、ソレガ及シテ忠ニナル、是ガ根本義デゴザイマスカラ、何處カヘ御入レヲ願ヒタイ、二十四條ノ方ヲ假ニ本トシマスト、二十四條ノ一項ニ御入レ下サイマスカ、或ハ二十四條ノ三項カ、或ハ二十五條ヘ新ラシク御加ハ下サツテ、逐次條項ヲ繰下ゲテ行クト云フヤウナコトデ、一ツ簡單デ宜シウゴザイマスカラ、我ガ國ノ國體ノ根本ニナリマス家族ノ生活トカ、家ノ生活トカ、親子ノ生活トカ云フヤウナモノハ、之ヲ忘レテハナラヌ、尊重スル、「レスペクト」トカ、「レガード」トカ云フヤウナ字ヲ御使ヒ下サレバ、尊重スル、是ガ國民ノ權利義務ノ關係ニ、親トシテハ養育ノ義務、子トシテハ親ニ仕ヘル義務、是ハ權利義務ノ方カラ申シムスレバ、ソンナコトニナルタラウト思ヒマスガ、ソレヲ一ツ御考慮ノ上、適當ナ文字ヲ御挿入願ヒタイ、斯ウ云フコトヲ發議致シマス
○委員長（伯爵橋本實斐君） 只今議題トナツテ居リマス二十四條ノ修正ニ付キマシテモ、當小委員會ニ於キマシテ相當論議モゴザイマシタ、各位ノ御意見モ略々、分リマシタカラ、御異議ガナケレバ、此處デ改メテ御意見ノ御陳述ヲ求メマセヌデ、特別委員會ニ御傳ヘ致スコトニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（伯爵橋本實斐君） 然ラバ左樣ニ取決メマス、次ニ御異議ガナケレバ、次ノ議題ニ進ミマス、第五十九條ニ付キマシテノ御意見、下條委員
○下條康麿君 第五十九條ニ關スル修正デアリマスガ、御承知ノ通リ、兩院ニ付議セラレル議案ノ中、豫算案、條約案竝ニ内閣總理大臣ノ指名ニ付キマシテハ、兩議院ノ間ニ議ノ調ハナイ場合ニ、議事ノ圓滑ヲ期スル爲ニ、兩院協議會ト云フ制度ガアリマス、併シ法律案ニ付キマシテハ、サウ云フ制度ガナイノデアリマスガ、併シナガラ政府ノ庶幾スル所ハ、必ズシモサウ云フ憲法ニ現レテ居ルヤウナ兩院協議會ヲ認メナイ趣意デハナク、矢張リ法律ノ定メル所ニ依ツテ兩院協議會ヲ設ケタイト云フ考ノヤウデアリマス、固ヨリサウアルベキコトト考ヘマシテ、第五十九條ノ第三項ニ「前項の規定は」、「前項」ト云フノハ、衆議院ト參議院ノ議決ノ異ナツタ場合デアリマスガ、「前項の規定は法律の定めるところにより、衆議院が兩議院の協議會を開くことを求めることを妨げない」ト云フ規定ヲ挿入シテ、兩院協議會ノ活用ニ依ツテ、法律案ノ圓滑ナル成立ヲ見タイト云フ、斯ウ云フ趣旨ノ修正案デアリマス、ドウゾ御贊成ヲ願ヒマス
○委員長（伯爵橋本實斐君） 本案ニ付キマシテモ、改メテ何カ御意見ガゴザイマスナラバ、此ノ際御陳述ヲ願ヒマス‥‥御發言モナイヤウデゴザイマスカラ、御異議ガナケレバ、本件モ他ノ意見ト同樣ニ特別委員會ニ御傳ヘ致スコトニ取計ラヒマス、尚先刻、付託セラレマシタ五ツノ議案ヲ議題ト致シテ居リマシタ時ニ、委員長、申添ヘルコトヲ失念致シマシタガ、此ノ際改メテ申シテ置キマス、第四十三條ハ無修正デゴザイマスカラ、其ノ關係ハ起リマセヌガ、第十五條、第六十六條及ビ第七十九號ニ付キマシテハ、ソレゾレ字句ノ新タナ挿入ガゴザイマシタ、自然條文ノ番號、條文數ト申シマスカ、項ノ次第等ニ異同ヲ生ジマスカラ、是ハ適宜、委員長ニ於テ整理シテ、特別委員會ニ御報告致スコトニ致シタイト思ヒマス、御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（伯爵橋本實斐君） ソレデハ、之ヲ以テ本小委員會ハ、總テ議了致シマシタコトデゴザイマス、此ノ機會ニ於キマシテ、チヨツト御挨拶ヲ申上ゲマス、去ル九月二十八日以來、此ノ小委員會ヲ開催致シマシタノデアリマシタガ、連日ニ亙リマシテ、各位ガ良ク御出席ヲ戴キマシテ、非常ニ御熱心ニ、而モ和氣靄々トシテ、誠ニ圓滑ニ議事ヲ進行致スコトヲ得マシタコトハ、誠ニ不馴レデアリマス私ト致シマシテハ、望外ノ仕合セニ存ズル次第デアリマス、是レ偏ヘニ此ノ議案ノ非常ニ重イコトニモ依リマスケレドモ、又各位ガ、特別ノ御同情ト御支援ヲ、不肖、私ニ御與ヘ戴キマシタ結果ニ外ナラナイノデアリマシテ、小委員長ト致シマシテ、誠ニ有難ク存ズル次第デゴザイマス、其ノ間議事ノ取連ビ等ニ付キマシテ、多々不行届ノ點ガゴザイマシタコトハ、私、不馴レノ致ス處デハゴザイマスルガ、平ニ御容赦ヲ願ヒタイノデアリマス、之ヲ以チマシテ、無事ニ此ノ責ヲ果シマシタコトニ付キマシテ、一言御禮ヲ申上ゲマシテ御挨拶ニ代ヘマス、之ヲ以テ散會致シマス
午後四時二十九分散會
出席者左ノ如シ
委員長 伯爵橋本 實斐君
委員
侯爵淺野 長武君
子爵織田 信恒君
山田 三良君
牧野 英一君
男爵飯田精太郎君
霜山 精一君
下條 康麿君
川村 竹治君
高柳 賢三君
田所 美治君
松本 學君
宮澤 俊義君
淺井 清君
高木 八尺君
〔參照〕
日本國憲法前文
日本國民は、正當に選擧された國會における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸國民との協和による成果と、わが國全土にわたつて自由のもたらす恵澤を確保し、政府の行動行爲によつて再び戰爭を慘禍が發生し起ることのないやうにすることを決意し、ここに主權が國民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも國政は、國民の崇高嚴肅な信託によるものであつて、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行使し、その福利は國民がこれを享受するものである。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基く○ものである○。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本國民は、常に恒久の平和を念願し、人間相互の關係を支配する高遠崇高な理想を深く自覺するものであつて、われらの安全と生存をあげて、平和を愛する世界の諸國民の公正と信義に委ね信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷從、壓迫と偏狹を地上から永遠に除去しようと努めてゐる國際會社に伍しおいて、名譽ある地位を占めたいものと思ふ。われらは、全世界の國民が、ひとしく恐怖と缺乏から免かれ、平和のうちに生存する權利を有することを確認する。
われらは、いづれの國家も、自國のことのみに専念して他國を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであると信ずるあり、。この法則に從ふことは、自國の主權を維持し、他國と對等關係に立たうとする各國の責務であると信ずる。
日本國民は、國家の名譽にかけ、全力をあげてこの高遠崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
