○第九十囘帝國議會　貴族院議事速記録第三十九號

昭和二十一年十月五日（土曜日）午前十時四十五分開議
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　議事日程　第三十九號
　　昭和二十一年十月五日
　　　午前十時開議
　第一　帝國憲法改正案（衆議院送付）　第一讀會ノ續（委員長報告）
　第二　競馬法の一部を改正する法律案（政府提出、衆議院送付）　第一讀會
　第三　貿易資金特別會計法案（政府提出、衆議院送付）　第一讀會
　第四　産業復興營團法案（政府提出、衆議院送付）　第一讀會
　第五　恩給法臨時特例案（政府提出、衆議院送付）　第一讀會
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○議長（公爵徳川家正君）　報告ヲ致サセマス
　　〔根本書記官朗讀〕
一昨三日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案ハ即日裁可ヲ奏請シ又可決ノ旨ヲ衆議院ニ通知セリ
　林業會法案
　商工協同組合法案
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
　競馬法の一部を改正する法律案
同日政府ヨリ左ノ法律案ハ議院法第二十七條但書及第二十八條但書ニ依リ議定相成タキ旨ノ要求書ヲ受領セリ
　競馬法の一部を改正する法律案
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
　帝國憲法改正案修正報告書
昨四日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
　昭和二十一年度改定歳入歳出總豫算追加案（改第一號）
　昭和二十一年度特別會計改定歳入歳出豫算追加案（改特第一號）
　昭和二十一年度改定歳入歳出總豫算追加案（改第二號）
　昭和二十一年度特別會計改定歳入歳出豫算追加案（改特第二號）
　豫算外國庫の負擔となるべき契約を爲すを要する件
　帝國鐵道會計又は通信事業特別會計における昭和二十一年度の經費支辨のための借入金等に關する法律案
　復興金融金庫及び産業復興營團出資拂込金支辨のための公債發行に關する法律案
　自作農創設特別措置特別會計法案
　貿易資金特別會計法案
　産業復興營團法案
　恩給法臨時特例案
本日議員ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
　帝國憲法改正案ニ對スル修正案（山田三良君外一名發議）
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○議長（公爵徳川家正君）　是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、日程第一、帝國憲法改正案、衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報告、委員長安倍能成君
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　　帝國憲法改正案
　右別册ノ通修正議決セリ依テ及報告候也
　　昭和二十一年十月三日
　　　　　　　委員長　安倍能成
　　　貴族院議長公爵徳川家正殿
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　　　（小字及━━ハ特別委員修正）

　　　　日本國憲法

　　日本國民は、正當に選擧された國會における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸國民との協和による成果と、わが國全土にわたつて自由のもたらす惠澤を確保し、政府の行動行爲によつて再び戰爭の慘禍が發生し起ることのないやうにすることを決意し、ここに主權が國民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも國政は、國民の崇高嚴肅な信託によるものであつて、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行使し、その福利は國民がこれを享受する。ものである。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基く。○ものである。○われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
　　日本國民は、常に恒久の平和を念願し、人間相互の關係を支配する高遠崇高な理想を深く自覺するものであつて、われらの安全と生存をあげて、平和を愛する世界の諸國民の公正と信義に委ね信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、專制と隷從、壓迫と偏狹を地上から永遠に除去しようと努めてゐる國際社會に伍して、おいて名譽ある地位を占めたいものと思ふ。われらは、全世界の國民が、ひとしく恐怖と缺乏から免かれ、平和のうちに生存する權利を有することを確認する。
　　われらは、いづれの國家も、自國のことのみに專念して他國を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであると信ずる。あり、この法則に從ふことは、自國の主權を維持し、他國と對等關係に立たうとする各國の責務であると信ずる。
　　日本國民は、國家の名譽にかけ、全力をあげてこの高遠崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
　第十五條　公務員を選定し、及びこれを罷免することは、國民固有の權利である。
　　　すべて公務員は、全體の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
　　　公務員の選擧については、成年者による普通選擧を保障する。
　　　すべて選擧における投票の祕密は、これを侵してはならない。選擧人は、その選擇に關し公的にも私的にも責任を問はれない。
　第五十九條　法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、兩議院で可決したとき法律となる。
　　　衆議院で可決し、參議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多數で再び可決したときは、法律となる。
　　　前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、兩議院の協議會を開くことを求めることを妨げない
　　　參議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、國會休會中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、參議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
　第六十六條　内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣總理大臣及びその他の國務大臣でこれを組織する。
　　　内閣總理大臣その他の國務大臣は、文民でなければならない。
　　　内閣は、行政權の行使について、國會に對し連帶して責任を負ふ。
　　〔安倍能成君登壇〕
○安倍能成君　本院ニ於ケル憲法改正特別委員會ハ、八月三十一日カラ憲法改正ノ審議ニ入リ、前後二十二囘ノ會合ヲ開キマシタ、九月二十六日ニ質疑ヲ終了シテ、懇談會ニ入ツテ、其ノ結果、小委員會ヲ設ケテ、各委員カラ提出セラレタ修正案ノ審議ヲ行ヒマシタ、小委員會ハ四囘ニ亙ツテ開カレマシテ、其ノ修正案ヲ得テ、十月三日ニ之ヲ委員會ニ報告シ、同日委員會ハ本案及ビ各修正案ニ付討論ヲ行ヒ、結局本案及ビ修正案ヲ可決シタノデアリマス、其ノ間ニ於ケル質疑應答ノ概要及ビ修正案文ニ付テノ説明ヲ致シタイト思ヒマス、政府ニ依ツテ本議會ニ付議セラレマシタ憲法改正案ハ衆議院ニ於テ若干ノ修正ヲ受ケタ後、本院ニ送付サレタノデアリマス、本改正案ノ有スル重大ナル意味ニ鑑ミテ、貴族院ガ全智全能ヲ擧ゲテ審議ニ當ラウトシタト云フコトハ、過日ノ本會議ニ於ケル審議ニ於テモ普ク世ノ認メル所デアリマシタガ、委員會ニ於テモ亦終始愼重熱心ナ態度ヲ以テ其ノ審議ニ當ツタノデアリマス、委員會ヲ開クニ當リマシテハ、委員長ハ會期ノ切迫ヲ考慮致シマシテ、大體委員會ノ審議期間ヲ三週間ト見テ、第一週ハ總論的質疑ニ、第二週ハ各章別ノ審議ニ當テ、サウシテ第三週ヲ討論及ビ修正案ノ決定ニ當テルコトト致シマシテ、大體九月二十二三日頃ニ本會議ニ上程スルコトヲ豫期シテ居タノデアリマスガ、併シ各委員カラ詳細熱心ナ質疑ガ行ハレマシタ爲ニ、豫定ノ如ク議事ヲ進メルコトガ困難ニナツテ來マシタ、併シ會期ノ延長ニ依ツテ其ノ時間ニ餘裕ヲ得マシテ、略々遺憾ナク本案審議ノ實ヲ擧ゲルコトガ出來マシタ、本日茲ニ其ノ結果ヲ報告スルニ當リマシテ、委員長トシテハ、委員會ノ審議ガ頗ル充實シタモノデアツタト云フコトヲ第一ニ議員各位ニ報告スルコトガ出來ルト云フコトヲ喜ビトスル者デアリマス、先ヅ總論的質疑ニ於ケル主要ナル論點ニ付テ報告致シマス、第一ニ最モ論議ヲ闘ハサレタ點ハ、此ノ憲法改正案ハ我ガ國體ヲ變革スルモノデハナイカ、斯ウ云フ問題デアリマシタ、此ノ問題ハ御承知ノ如ク衆議院ノ審議ニ於テモ論議ノ焦點トナツタ問題デアリマシテ、又本院ノ本會議ニ於テモ熱心ナ質疑應答ヲ行ハレタト云フコトハ、諸君ノ御存ジノ通リデアリマス、委員會ニ於テモ此ノ同ジ問題ニ付テ多クノ委員カラ質疑ガ行ハレマシタ、サウシテ之ニ對スル政府ノ答辯ハ、其ノ主意ニ於テハ衆議院ニ於ケル態度ト別ニ違ツタモノハナイノデアリマスガ、本院ニ於ケル委員ノ質疑ガ從來ノ質疑ニ比シテ一層論理的ニ緻密デアリ、且問題ノ核心ニ肉迫シテ居ル所ノ鋭イ論旨デアツタコトノ結果、政府ノ答辯モ之ニ應ジテ從來ノ説明ヲ一層敷衍シ、且明確ニスルト云フ結果ニナツタモノト考ヘラレマス、例ヘバ或委員ハ現行憲法ノ第一條乃至第四條ガ國體ヲ定メタ規定デアルト云フ説ガ、是ガ一般ノ通説デアリ、從ツテ改正案ハ國體ノ變革ヲ來スモノデアル、然ルニ政府ガ國體ニ獨得ノ解釋ヲ下シテ居ルノハ、學説上ノ立場ニ依ルト云フヨリモ、國體ガ變革サレタトスルト國家ノ同一性、連續性ガ失ハレルト云フコトニナリ、サウスレバ現行ノ憲法ノ第七十三條ニ依ツテ改正ノ行フコトガ出來ナクナルノデアツテ、之ヲ避ケルガ爲ニ、此ノ國體ノ不變ト云フコトヲ主張シテ居ルノデハナイカ、斯ウ云フ風ナ質疑モアツタノデアリマス、之ニ對シテ政府ハ第七十三條ニ付テハ、「ポツダム」宣言ハ國家ノ政治組織ノ變更ヲナスベキ義務ヲ負ハセテ居ルガ、其ノ受諾ニ依ツテ直チニ其ノ變動ヲ來シテ居ルモノデハナイカラシテ、國家ノ同一性ハ其ノ爲ニハ搖ガナイ、從ツテ第七十三條ニ依ツテ、憲法ノ全面的改正ガ可能デアルト云フコトハ確實ダト云フ意見ヲ採ツテ、更ニ下ノ如キ見解ヲ披瀝シマシタ、即チ現行憲法第一條乃至第四條ガ、國體ノ規定トシテ疑ハレナカツタノハ、一ツニハ天皇ノ地位ガ神勅ニ基礎ヲ置クト考ヘラレテ居タト云フコト、二ツニハ即ニ憲法ニ成文化サレテ居ル以上、疑ヲ容レヌ所デアルトサレテ居タ爲デアツタノデアルガ、併シ此ノ第二ノ説明ハ、問題ノ本質的根據ノ説明ニハナラナイ、天皇ノ御地位ハ、天皇ヲ含メタ國民全體ノ總意ニ基クト考ヘルコトノミガ正シイ解決デアル、サウシテ此ノ意味ノ國體觀念ハ、我ガ國ノ歴史ヲ一貫シテ潛在シテ居タモノデアツテ、國ト共ニ存シ、ソレガ變レバ即チ國ガ滅ビルト考フベキ國ノ基本特色ト云フコトヲ國體デアルトスルナラバ、ソレハ政府ガ述ベタ如キ所ノモノデナケレバナラナイ、斯ウ云フコトデアリマシタ、之ニ對シテ同ジ質疑者ハ、政府ノ見解ハ、從來ノ意味ニ於ケル所ノ國體ハ變革サレタト云フコトニ歸スルノデアルカラ、寧ロ國體ノ變ツタト云フコトヲ積極的ニ言明シタ方ガ、今次ニ於ケル憲法改正ノ本當ノ意味ヲ明カニスル上ニ望マシイコトデハナイカ、斯ウ云フ意見ヲ開陳致シマシタ、又他ノ一委員ハ、我ガ國ニ於テハ從來ト雖モ、國民主權デアツタト云フ此ノ政府ノ見解ニ承服出來ナイ、現行ノ憲法ノ上諭及ビ第一條ノ意味ハ、天皇統治權ノ正統性ノ根據ハ天孫降臨ノ神勅ニアルコトデアル、然ルニ改正案ハ、天皇ノ地位ガ國民ノ總意ニ基イテ定マルトシテ、明カニ天皇ノ統治權ニ對シテ主權在民ト云フコトヲ宣シ、從ツテ論理的ニハ天皇制ヲモ否定シ得ルノデアリ、其ノ否定ヲ超エテ之ヲ存續セシメタト云フ所ニ改正案ノ意味ガアルト考ヘナケレバナラナイ、國家ノ根本的性格タル國體ガ成文法ヲ離レテ潛ミ隠レタ所ニ在ル筈ハナイノデアル、要スルニ統治權ノ正統性ノ根據ハ、改正案ニ依ツテ完全ニ變ツタノデアリ、正ニ肇國以來ノ革命デアツテ、政府ハ新タナル國民ノ自覺ニ依ル確乎不動ノ基礎ノ上ニ新タナル天皇制ガ打チ樹テラレタト云フコトヲ闡明スベキデアル、斯ウ云フ風ナ意見ヲ述ベタノデアリマス、之ニ對シテ政府ハ、此ノ正統的ナ神勅解釋、斯ウ云フ風ナモノノ根據ガ、突如トシテ一變シタトハ考ヘラレナイノデアツテ、此ノ神授説的ナル、神カラ授ツタト云フ神授説的ナル思想ガ支配的デアツタ時期ニ於テモ、政府ノ述ベルヤウナ國體觀念ガ潛在的ニ懐カレ居タノデアル、ソレガ今日顯ハニ認識サレルニ至ツタノデアル、斯ウ云フ風ニ答ヘタノデアリマス、右ニ述ベマシタ如ク、両委員ノ質疑ハ、孰レモ國體ノ變革サレタコトヲ率直ニ認メルコトヲ政府ニ迫ツタモノデアリマスガ、此ノ問題ニ關スル委員會ノ質疑ノ全體ヲ通ジテ、政府ノ根本的見解ハ政府ノ解スルヤウナ意味ニ於ケル國體ハ不變デアルト主張シツヽ、從來ノ意味ニ於ケル國體、之ヲ政府ニ於テハ政體ト云フヤウナサウ云フ言葉ヲ使ハレタコトモアリマスガ、從來ノ意味ニ於ケル國體ハ明カニ變化サレタコトハ之ヲ承認スルト云フ點ニアツタト云フコトガ明カニサレタト思ハレマス、サウシテ以上ノ經過ハ、要スルニ此ノ問題ガ國體ノ觀念ヲ如何ニ定メルカト云フコトニ懸ツテ居ルト云フコトヲ明カニスルト云フ結果ニナツタノデアリマシテ、或委員ガ改正案ニ依ツテ國體ガ變革サレタカ否カト云フコトニ付テ議論ガ岐レルノハ、要スルニ國體ノ觀念ノ定メ方ノ相違ニ依ルノデアツテ、即チ現行憲法第一條乃至第四條ニ現レテ居ル國體ノ外ニ、或ハ治安維持法トカ、サウ云フヤウナモノニ現レテ居ル國體ノ外ニ、法ノ上ニ現レナイ所ノ信念、道徳上ノ問題トシテノ國體ガアリ、此ノ後者ハ、憲法ノ上ニ浮ビ上ツテ居ナイモノデアツテ、政府ガ國體ハ變ラナイト云フ場合ノ國體ハ此ノ意味ノ國體デアル、之ニ對シテ、國體ハ變ツタト主張スル所ノ論者ハ、國體ヲ第一ノ意味ニ捉ヘテ居ルノデアルト述ベタコトニ依ツテ略々其ノ意味ハ要約サレルカト思ハレマス、又他ノ委員ガ國體ノ觀念ニハ二ツノ種類ガアル、第一ハ治安維持法ニ定メラレテ居ル國體デアツテ、政府モ此ノ意味ノ國體ハ變革サレタト云フコトヲ言明シテ居ル、第二ニハ國民ガ天皇ヲ中心トシテ結付イテ居ルト云フ國家ノ基本特色トシテノ國體デアル、此ノ意味ノ國體ハ不變デアルト云フコトヲ政府ハ説クノデアル、サウシテ國民一般モ「天皇在マス」ト云フ一點ヲ我ガ國體ナリト考ヘテ居ルノデアルカラ、政府ガ此ノヤウナ意味ニ國體ヲ捉ヘ、其ノ不變ヲ説クノハ國民一般ノ常識ニ合スルト思フ、「天皇在マス」ト云フコトガ國體デアル、以上ノヤウニ考ヘテ宜イカ、ト質シタノニ對シ、政府モ、其ノ通リデアルト答ヘタノデアリマシタ、改正案ガ國體ヲ變革スルモノデナイカト云フ問題ハ、略々此ノヤウナ歸結ニ到達シタノデアリマスガ、惟フニ此ノ問題ハ、尚今後ニ殘サレテ居ルト考ヘラレマス、ソコデ或委員ガ此ノ政府ノ國體論ノ説明デハマダ足リナイ、更ニ學問的ナ世界觀、或ハ哲學ノ立場カラスル所ノ國體論ノ構成ヲ要望スルト云フヤウナ、サウ云フコトモアリマシタ、併シ政府ハ之ニ對シテ、學説ハ各人ニ相違ガアリ、議會ニ於テ國體トハ何ゾヤト云フヤウナコトニ付テ、學理的ニ有權的ナ、「オーセンテイック」ナ解釋ヲ下スコトガ出來ナイト述ベ、又或委員ガ政府ノ主張ニモ拘ラズ、民間、學界等ニ於テ國體ハ變革サレタトノ説ガ有力トナツタ場合ニハ政府ハ之ヲ如何ニスルカト云フ質疑ヲ行ツタノニ對シテ、ソレハ眞理ノ闘ヒデアツテ、政府ハ言論、學問ノ自由ヲ制限スル意思ハ毫モ持ツテ居ナイト、斯ウ云フヤウナ答辯デアリマシタ、又今後嘗テノ世ノ中ニ出タ所ノ憲法義解ノヤウニ、憲法ニ對スル政府ノ公權的解釋トモ言ハレルヤウナ、サウ云フモノハ出スコトハ避ケネバナラヌト考ヘテ居ルト云フコトデアリマシタ、要スルニ國體論モ此ノ議會ニ於テ、政府ノ見解ガ一應明カニサレル結果ニナリマシタケレドモ、ソレハ尚今後全國民自身ガ力ヲ協セテ解釋スベキ所ノ問題デアルト思ハレルノデアリマス、以上ノ國體ニ關スル論議ト關聯シマシテ、改正案第一條ニ付テモ、多クノ質疑ガ行ハレマシタ、政府ノ説明ニ依レバ、第一條ハ國體其ノモノノ規定デハナイガ、我ガ國ノ基本特色ト云フ、サウ云フ意味ニ於ケル國體ト不即不離ノ關係ニ立ツテ居ルモノデアツテ、謂ハバ國體ノ姿ガ茲ニ憲法ト云フ法文ノ上ニ影ヲ映シタトデモ言フベキモノデアル、斯ウ云フ風ニ説カレタノデアリマスガ、此ノ第一條ノ「統合」ノ意味ニ付テ、或委員ガ、此ノ「統合」ト云フノハ、是ハ「統合體」ノ意味デアルカ、又「統合作用」ノ意味デアルカト問ヒ、天皇ハ、我ガ國ニ於テハ、今次戰爭終結ノ時ニ果サレタ御作用ニモ現レタヤウニ、假令平常ノ場合ニハ表面ニハ御現レニナラナクテモ、國ノ運命ヲ決スルト云フヤウナ場合ニ於テハ、國民ヲ統合スル絶大ノ力ヲ有セラレテ居ルノデアリ、又國民ノ心ノ中ニモ、天皇ニ歸依スルト云フ、サウ云フ念ガ強イノデアルカラ、此ノ「統合」ハ「統合作用乃至ハ統合ノ經過」、斯ウ云フ意味ニ解サナケレバナラナイ、サウシテ此ノヤウニ解スルナラバ、第四條、第六條、第七條等ニ定メラレテ居ル天皇ノ權能ハ餘リニモ弱過ギルノデアツテ、寧ロ第六條、第七條等ノ權能ハ一ツモ持タレナクテモ、國ノ非常ノ際ニ、現行憲法ノ非常大權ノヤウナ權能ヲ天皇ニ認メルベキデハナイカト云フ、斯ウ云フ趣意ノ意見ヲ述ベマシタ、此ノ質問ニ對シテ、政府ハ、此ノ「統合」ト云フノハ「統合作用」ト云フヨリハ、統合サレタ姿ト解スルト云フコトデアリマシテ、質疑者ガ非常ナ情熱ヲ以テ、天皇ノ營マレル御作用ヲ論ゼラレタコトニハ同感シタイケレドモ、天皇ノ世襲制ト云フコトト、天皇ノ無答責ト云フコトトヲ結付ケテ考ヘルナラバ、天皇ノ安泰ナル御地位ハ、天皇ノ賢明ニ依存スベキデハナク、冷ヤカナル制度ニ頼ルコトニ依ツテノミ達成セラレル、即チ天皇ガ如何ナル場合ニモ政治上ノ實權カラ超然タル地位ニ立タセラレルコトガ、凡ソ立憲君主制ノ在ルベキ姿デアルト信ズルト答ヘタノデアリマシタ、其ノ外ニ此ノ統治權ノ總攬ト云フコトハ、統治權ノ行使ト同ジデハナイノデアツテ、民主的ナル所ノ政治組織ニ於テモ陛下ガ統治權ヲ總攬セラレルト云フコトハ差支ナイ、又此ノ協力者ニ其ノ人ヲ得レバ、決シテ皇室ニ、天皇ニ此ノ禍ヲ及シ奉ルコトハナイト云フヤウナ、サウ云フ風ナ意見モ出マシタガ、政府側ハ、今述ベタヤウナコトト同ジヤウナ趣旨デ以テ、ソレニ答ヘラレタノデアリマス、次ニ此ノ委員會ニ於ケル審議ノ特徴ハ、改正憲法ノ精神ガ國民ノ道徳倫理ニ及ス影響ノ甚大デアルト云フコト、又改正憲法ノ本當ノ意味ハ、新シイ國民道徳ノ確立ヲ俟ツテ初メテ萬全ヲ期シ得ルト云フコトニ鑑ミテ、今後ノ教育ノ大方針ニ對シテ、熱心ニ論議サレタノデアリマシテ、是ハ分量カラ言ツテモ相當委員會ノ大イナル部分ヲ占メルモノデアリマシタ、而シテ其ノ際具體的ナ問題トシテハ、現在ノ教育勅語ヲ如何ニスベキカト云フ、サウ云フ問題ガ中心トシテ論議セラレマシタ、之ニ對スル政府ノ立場ハ、從來ノ教育勅語ニ對スル態度一般ガ必ズシモ正シクナカツタト思フ、即チ勅語ヲ神ノ言葉ト同ジヤウニ見ル態度ハ、本年一月元旦ノ詔書ノ御趣旨ニモ反シ、又其ノ内容ニ付テハ、ソレガ人倫ノ大本ヲ示シ給フタモノデアルコトハ事實デアルガ、併シ不當ニ歪曲セラレテ、所謂超國家主義的色彩ヲ加ヘラレテ解釋セラレテ居タコトモ事實デアル、サウ云フ見解デアリマシタ、次ニ改正セラルベキ所ノ憲法ノ解釋トシテ、天皇ガ教育勅語ヲ發セラレルコトガ出來ルカドウカト云フ問題ニ付テ、政府ノ説明ハ、天皇ガ個人トシテ國ノ政治以外ノ種々ノ行爲ヲ行ハセラレルコトハ憲法トハ無關係デアル、教育勅語ノ問題ニ付テハ、極メテ愼重ニ考慮スベキデアルガ、國政ノ内容ヲ成ス意味ニ於テ勅語ヲ出サレルコトハ出來ナイ、但シ天皇ガ個人トシテノ御地位ニ於テ、即チ國政上ノ權威トシテデハナク、其ノ勅語ノ中ニアル客觀的眞理ノ故ニ國民ガ服從スルト云フガ如キ勅語ナラバ天皇ガ出サレテモ差支ナイト思フト云フ答辯デアリマシタ、尚其ノ際、外ノ委員ガ政治的ナ效果ヲ期待スルノデナケレバ、教育勅語ヲ出ス意義ガナク、而モソレガ憲法上許サレナイトスレバ、結局ハ教育勅語ヲ改訂發布スルコトハ出來ナイノデハナイカト云フ質問ガアツタノデアリマスガ、之ニ對シテハ、新シイ教育勅語ヲ出ストスレバ、從來ノモノトハ性格ガ一變スルノデアツテ、天皇ガ一個人トシテ、恰モ親ガ子ニ對スルト同ジ意味ニ於テ、道徳ノ大本ヲ示サレルト云フヤウナ形ニナルト思フ、サウシテ其ノ影響力其ノモノガ此ノ民主主義的政治トドウ云フ風ニ交渉スルカト云フコトハ、寧ロ國民自身ノ判斷ニ依ツテ定マルト思フ、斯ウ云フ見解デアリマシタ、政府トシテハ新教育勅語發布ノ奏請ノ意圖ヲ持ツテ居ル譯デモナク、今後ノ愼重ナル所ノ考慮ニ俟ツト云フ態度ト見受ケラレタノデアリマス、次ニ總論ノ際ニ最モ多ク論議サレマシタノハ、第三章ノ基本精神ニ付テデアリマス、此ノ第三章ハ、國民ノ權利義務ヲ規定シタモノデアリマスガ、此ノ權利義務ヲ規定スル基本精神ニ付テ、全體トシテ更ニ積極性ヲ持タセタイト云フ意見ガアリマシタ、即チ第十九世紀ノ憲法ニ於ケルガ如ク、唯民法刑法ノ原則ヲ擧ゲルニ止マラズ、又單ナル自由解放ト云フモノニ止マラナイデ、自由ノ内容ヲ具體的ニ擴充スルコトニ依ツテ將來ノ此ノ日本國民ノ進ムベキ所ノ針路ヲ示スト云フヤウナモノデアリタイ、斯ウ云フヤウナ意見ガアリマシタ、又此ノ基本的人權ニ付テハ、社會主義的見地カラ樣々ナ批判ガアツテ、衆議院ニ於テモ若干ノ修正ガ行ハレタガ、政府ハ今尚原案ヲ以テ妥當ナリトスルカ、ト云フヤウナ質疑モアリマシタ、之ニ對シテ政府ハ、第三章ニ於テ認メテ居ル基本的人權ノ範圍ハ、第一ニハ廣イ視野カラ見テ、基本的人權トシテ疑ガナイト考ヘラルベキモノニ付テハ之ヲ率直ニ採入レ、第二ニ、現在發達シツ、アルコトハ認メルガ、未ダ内容ノ定ツテ居ラヌモノニ付テハ、今後立法及ビ行政ノ指導原理トシテ其ノ方向ノミヲ認メ、サウシテ第三章ニハ、更ニ國民ノ一部分ニ於テハ尊重サレテ居テモ、尚今後自由ナル論議ニ依ツテ發達セシメラルベキモノニ付テハ、此ノ憲法ニ於テハ觸レズニ置クト云フ三ツノ標準ニ於テ取捨ヲ決定シタイデアツテ、謂ハバ將來發達スベキモノニ對シテ、一ツノ安固ナル土俵場ヲ提供スルト云フヤウナ意味デ立案シタト云フヤウナ趣旨デアリマシタ、尚衆議院ノ修正モ、此ノ本來ノ標準ヲ逸脱シテ居ルノデハナイト云フ意味ニ於テ同感シタト云フ答辯ヲ得マシタ、次ニ委員會ニ於テ重要ナル論點トナリマシタノハ參議院ノ制度ニ付テデアリマス、貴族院ハ從來衆議院ト共ニ立法府ノ一翼ヲ擔當シテ、動モスレバ時流ニ動カサレ易イ傾向ノアツタ衆議院ニ對シ、獨自ノ立場ニ立ツテ兩院制度ノ長所ヲ發揮スルコトニ努メテ來タノデアリマスカラシテ、改正憲法ニ於ケル參議院制度ニ關シ、特ニ重大ナル關心ヲ懷イテ居ルコトハ是ハ勿論ノコトデアリマス、而モ參議院ノ構成ニ付テ改正憲法ノ定メル所ハ、單ニ全國民ヲ代表スル選擧サレタル議員デ之ヲ組織スルト云フ簡單ナル文句ニ止ツテ居ルノデアリマシテ、更ニ選擧ニ際シテハ、選擧權、被選擧權ノ資格ニ社會的身分、門地、教育、財産又ハ收入ニ依ツテ差別シテハナラナイト云フ定メガアルノデアリマス、參議院議員ノ選擧ニ付テ、何等カ時ニ周到ナ考慮ヲ拂ハナケレバ、衆議院議員ト何等異ル所ノナイ議員ガ選擧セラレテ、兩院制ヲ設ケタ所ノ意味ガナクナル虞ガアルト云フノガ委員一般ノ考ヘ方デアリマシタ、ソコデ委員會ノ當初カラ一部委員ノ間ニ、政府ニ對シテ參議院議員選擧法ノ要綱ノ提示ヲ要求シタノデアリマスガ、政府ハ目下臨時法制調査會ニ於テ鋭意研究中デアリ、未ダ成案ヲ發表スル時期ニ達シテ居ナイト云フ旨ノ答辯デアリマシテ、其ノ後改正案修正、第四十三條ノ審議ニ達スベキ日ニ至ツテモ、其ノ具體案ノ提示ハ見ラレナカツタノデアリマス、ソコデ第四十三條ノ審議ニ入ルニ際シテ、一部ノ委員ノ中ニハ、政府ニ其ノ具體案作成ノ自信ガナイト云フノナラバ、此ノ第四十三條自身ノ修正ト云フヤウナモノモ、考慮シナクテハナラナイト云フ意見ヲ主張シタ者モアツタノデアリマスガ、又他方ニ是ハ此ノ四十三條ニ對シテハ、憲法デ決メルカ、法律ニ依ルカヲ審議決定スベキデアツテ、參議院法ノ内容ヲ決メルト云フコトハ論理的ニ先決問題デハナイカラ、其ノ政府ノ提案ニ拘ラズ、此ノ議事ヲ進メルベキモノデアルト云フヤウナ、サウ云フ議論モ出タノデアリマス、政府ハ具體案作成ノ自信ガナイノデハナク、唯十分時間ヲ利用シテ、萬全ノ調査ハ行ヒタイ、デ先ヅ第四十三條ニ付テ御審議ヲ願ヒタイト云フ、サウ云フ態度ヲ持シテ居ツタノデアリマス、而モ全國民ヲ代表スル選擧サレタ議員デ組織スルト云フ定メハ、之ヲ衆議院ノミニ限ルコトトシ、參議院ノ構成ニ付テハ參議院法ノ定メル所ニ依ルトスルガ如キ主張ハ、詰リ全國民ヲ代表スル選擧サレタル國民デ組織スルト云フ定メハ、是ハ衆議院ダケノコトデアツテ、參議院ノ構成ニ付テハ、別ニ參議院ノ定メル所ニ依ルト云フ、サウ云フ主張ハ改正案ノ豫定スル國會制度ノ基本性格ニ反スルモノデアリ、是ニハ反對デアルト云フ明白ナ態度ヲ示シタノデアリマス、サウシテ參議院ヲ設ケル理由ニ付テノ委員ノ質疑ニ對シテハ、政府ハ特ニ詳細ナ説明ヲ行ヒ、改正案ニ於ケル兩院制ハ徹底的ニ民主政治ヲ實現スルト云フ本改正案ノ精神ト、而モ一面一院制ノ下ニ於ケル所謂一院專制ヲ防止シテ、國ノ審議ノ周到ヲ圖リ、又輿論ノ見極メノ判斷ヲ正シクスル、サウ云フ目的トヲ調和セシメル爲ニハ、改正案ノ如キ組織ト權限トヲ有スル、謂ハバ第二次院タル性格ヲ持ツ參議院ヲ認メルコトガ最モ適當デアリ、外ニ方法ガナイト云フ旨ヲ詳細ニ説イタノデアリマシテ、此ノ趣旨ニ關シテハ、委員會モ之ヲ了承シテ居ツタノデアリマス、從ツテ問題ハ、此ノ原則ニ適合スルガ如キ參議院ノ構成ハ如何ニシテ實現セラレルカ、斯ウ云フ點ニアツタノデアリマシテ、此ノ問題ハ恐ラクハ、改正憲法ノ實施ノ上ニ於テハ最モ困難ナル所ノ問題ノ一ツデアラウト思フノデアリマシテ、前ニ述ベマシタヤウニ、政府ニ於テモ未ダ確定シタ具體案ガナク、若干ノ委員カラシテ提出サレマシタ私案モ、未ダ完全ノ域ニ達シタモノデハナイノデアリマス、要スルニ此ノ問題ハ、尚今後政府ト共ニ、我々ガ鋭意研究スベキ問題トシテ殘サレテ居ル現状デアリマス、尚最後ニ、以上ノ外熱心ニ論議サレタノハ本改正案ノ字句文章ノ問題デアリマシタ、前文、本文、殊ニ全文ヲ通ジテ文字ノ表現ガ適當デナイ部分ガ多ク、而モソレハ單ニ表現ノミノ問題デハナク、廷イテハ改正憲法ノ内容ニモ關聯スルモノデアルトシ、若干ノ委員カラ種々ノ修正案ガ提出サレタノデアリマス、之ニ對シテ政府ハ、此ノ改正案ニ口語體ヲ用ヒルコトトシタ場合ノ方針トシテハ、現在世間デ最モ廣ク用ヒラレテ居ル口語體ヲ用ヒルト云フコトデアリ、而モ斯クノ如キ口語體ニハ未ダ文法ガ確立サレテ居ルノデハナク、從ツテ國民ガ意識シ得ル「ノーマル」ナ、正常ノ口語體ヲ用ヒルコトニ重點ヲ置キ、文章ヲ文學的、或ハ美術的ニ表現スルト云フコトニハ、第二義的ナ注意ヲ拂ツタニ過ギナイ、用語ノ上デ從來ノ國民感情ニ十分合致シナイ部分モアルヤウニ見エルカモ知レナイガ、現實ヲ冷ヤカニ直視スルト云フ意味デハ、此ノ程度ノ表現ハ適當ナ所デアルト考ヘルトノ説明ガアツタノデアリマス、是デ大體、全體ニ對スル質疑ヲ終リマシタガ、次ニハ章別審議ニ移リマシテカラノ質疑應答ノ概要ニ付テ御報告ヲ申上ゲマス、先ヅ前文ニ付テハ其ノ法律的效力ニ付テ、二三ノ委員カラ否定的ナ意見ガ表明サレ、從ツテ其ノ結果、或ハ之ヲ削除シタラドウカ、或ハ之ヲ單ニ本文ノ制定ノ由來ナリ經歴ナリヲ示スニ止マルベキモノト考ヘルガ、ソレデ宜イカト云フ風ニ政府ノ意嚮ヲ質サレタノニ對シテ、政府カラハ前文ハ條文ノ形ヲ採ツテハ居ナイガ、形式的效力ノ點ニ於テハ本文ト同樣デアリ、從ツテ法規トシテノ效力ヲ有スル箇所モアリ、又少クトモ本文各條ノ解釋ニ當ツテ其ノ指針トナルト云フ、サウ云フ法的意味ガアルト云フコトノ答辯ガアリマシタ、次ニ衆議院ノ修正ニ係カル「一切の憲法云々を排除する」ト云フ、サウ云フ箇所ニ付テ、「一切の憲法」ト云フノハ、我ガ國ノヤウニ現行憲法ガ唯一ツシカナイ、サウ云フ國デハ理解シ難イト云フ意見ト、「排除する」ト云フノハ、廢止スルト云フノトドウ違フノカト云フ疑問ガ提示サレマシタガ、政府ノ了解スル所ニ依リマスト、「一切の」ト云フ形容詞ハ單ニ現行憲法ノミナラズ、將來トモ民主政治ノ原理ニ反スル憲法ハ、如何ナルモノモ其ノ存在ヲ認メナイ、斯ウ云フ趣旨ノ下ニ附セラレタノデアリ、又「排除する」トハ、現行ノ法ハ之ヲ廢止シ、將來ノ法トシテハ其ノ發生ヲ認メナイト云フ趣旨ノ表現デアツテ、單ナル廢止ト云フ言葉ニ比シテ、政治的ナ意味ガ加味サレテ居ルト云フコトデアリマシタ、前ニモ申シマシタ通リニ、前文ニ付テハ特ニ其ノ文章ノ生硬不熟ナコトガ指摘セラレマシテ、又内容トシテハ、更ニ積極的ナ雄健明朗ナ、是カラノ日本國民ヲ立タシメルヤウナ、サウ云フ性格ヲ與ヘル爲ノ内容ノ改正ヤ充實モ提議サレマシタガ、是ハ政府ノ容ルヽ所トハナラナカツタノデアリマシタ、次ニ第一章ニ移リマス、第一章ハ「天皇」ノ章デアル爲ニ、其ノ質疑應答ニハ最モ多クノ時間ガ割カレテ終始緊張ノ裡ニ白熱的議論ガ闘ハサレマシタ、就中、天皇ノ御地位ニ付テ規定シテ居ル第一條ニ付テハ、誠ニ傾聽スベキ多クノ議論ガ交ハサレマシタガ、其ノ結果、本條ノ趣旨ハ略々明カニナツタト信ズルノデアリマス、先ヅ「象徴」ト云フ言葉ニ付テハ、之ヲ或ハ元首、或ハ表章、表ト云フ字ニ文章ノ章ト云フ字ヲ書イタ表章、或ハ中心等ノ言葉ニ改メル意思ハナイカト云フ質疑ガアツタノニ對シテハ、政府ハ、元首ト云フ言葉ハ、一般人ハ國ノ主權者、少クトモ行政權ノ首長ト云フ意味ニ之ヲ解スル虞ガアルカラ、此ノ言葉ヲ用ヒルコトハ、折角天皇ヲ國ノ政治ノ渦中カラ超越シタ地位ニ移サウトスル改正ノ根本ノ趣旨ヲ破壊スルコトニナリ、孰レモ適當デナイノニ反シテ、象徴ト云フ言葉ハ、過去ニ係リノナイ深味ノアル言葉デアリ、又一般人ニ耳馴レナイダケニ却テ天皇ノ御地位ヲ表現スルニモ最モ適切デアルト思フ旨ノ答辯ガアリマシタ、次ニ第一條ノ法律的效果如何ト云フ質疑ニ對シ政府ハ、第一條ヲ根柢トシテ、天皇ノ所謂無答責ノ御地位、敬稱等ノ規定ノ必要ガ生ズルシ、又第六條、第七條等ノ國事ニ關スル天皇ノ一聯ノ行爲ノ規定ノ合理性ガ判明シテ來ルト答ヘテ居リマス、尚本條ニ關シテ表明サレタ意見ノ中、注目スベキモノトシテハ、一委員カラ、本條ノ「日本國の象徴」ト云フノハ、政治國家、「ポリティカル・ステート」トシテノ日本國ノ象徴ノコトデアリ、「日本國民統合の象徴」ト云フノハ、「コンミュニティ」トシテノ日本人ノ象徴ト云フコトデアツテ、此ノ「ステート」ト「コンミュニティ」ノ區別ヲ意識セズシテ、本條、延イテハ本改正案ノ理解ハ不可能デアリ、從ツテ此ノ見地カラハ「日本國民統合」ノ語ハ、「ステート」ノ色彩ガ附キ纒ツテ居ル爲ニ、必ズシモ適當デナイト云フ所見ノ開陳ガアリ、政府側ノ國體ノ解釋トモ一脈相通ズルモノデアリマス、又或委員カラハ、從來ノヤウナ天皇ハ、現人神ダト云フ神秘的思想ハ脱却シナケレバナラナイガ、日本人ガ「神」的デアルコトハ必要デアル、日本人ガ新タニ謙遜ナ良心ニ基イテ、將來ノ日本國ヲ「神の國」ニスルト云フ固イ決意ヲ有サズシテ、ドウシテ戰爭抛棄、軍備撤廢ガ出來ヤウカ、ト云フ見解ガ述ベラレマシタ、第一條以外ノ各條ニ付テモ綿密周到ナ議論ガ交ハサレマシタガ、政府ノ答辯ニ依ツテ、明カトナツタ所ニ依ルト、皇位ノ世襲トハ萬世一系ト云フコトト本質ニ於テ變リハナイガ、比喩的ナ表現ヲ避ケタモノデアルトノコトデアリ、又皇室典範ハ斯樣ナ特別ノ名稱ヲ持ツテハ居ルガ、一般ノ法律ト同ジモノデアツテ、今後ハ從來ノヤウナ憲法系統ト典範系統ノ法令ノ二元性ハ消滅シテ、國法ガ一元化サレルトノコトデアリ、更ニ從來ノヤウナ宮中府中ノ別モ廢止サレテ、苟モ天皇ノ公ノ御地位ニ關スル事務ハ、國ノ機關ガ之ヲ司ルコトトナル、トノコトデアリマシタ、天皇ガ「國政に關する權能を有しない」ト云フ規定ニ付テハ、世襲ニ依ツテ皇位ヲ繼承サレ、且無答責ノ御地位ニ在ル天皇トシテハ、抑々政治ニ關與サレナイコトヲ本則トスベキデアルコト、併シ全クノ儀禮的ナ御存在ニ迄及ブベキデハナク、一定ノ國事ニ關スル行爲ヲ行ハレハスルガ、併シ所謂殘餘權ト云フモノヲ御持チニナラナイト云フコト、其ノ半面國政ニ關シナイ、例ヘバ我ガ國ノ古典藝術ノ保護助長トカ、教育ニ關スル御見解ノ御發表トカハ、固ヨリ之ヲナサレテモ差支ナイト云フヤウナ、サウ云フヤウナ趣旨ガ此ノ規定ニアルコトガ明カニサレマシタ、尚此ノ天皇ト實際政治ノ分離ヲ幾分デモ緩和シヨウト云フ、サウ云フ試ミハ改正ノ趣旨ヲ沒却スルコトニナルノデアツテ、全然同意出來ナイト云フ態度ヲ政府ハ持續サレタノデアリマシタ、此ノ點ニ關聯シマスガ、認證ト云フ制度ニ付テハ特ニ外交關係ニ付、外ノ國々トノ權衡ノ上カラモ之ニ反對スル意見ガ委員ノ間ニ強カツタコトハ、諸君モ既ニ御承知ノ通リデアリマス、併シ之ニ對シテ政府ハ、認證ト云フ制度ハ現在コソ各國ニ先例ハナイニシテモ、寧ロ今後ニ於ケル立憲君主ノ採ルベキ正シイ方法ヲ示スモノデアリ、此ノ國内關係ノ改正ニ伴ツテ、國際關係ニ於テモ此ノ制度ガ容認サレル、之ニ必要ナ國際慣例モ生レテ來テ、別ニ不都合ヲ生ズルコトハアルマイト了解スル、而モ認證ガナケレバ文書ノ法律的效力ハ生ジナイノデアルカラ、是ハ決シテ無意味ナ行爲デナク、又其ノ形式モ十分適切ナモノト考ヘルコトガ出來ヨウ、之ニ反シテ此ノ點ヲ認證デハナク、直接天皇ノ權能トスルコトハ、結局責任ヲ天皇ニ歸シ、累ヲ皇室ニ及スコトトナルト云フ虞ガアルノデ、絶對ニ贊成ガ出來ナイト云フ意見デアリマシタ、是ト反對ニ主張サレタ委員ノ方カラハ、認證ガナケレバ最後ノ効力ガ發揮シナイト云フ意味ニ於テ、天皇ガ批准サレテモ、是ハ形式ダケノ相違デアツテ、天皇ノ此ノ政治的權力ヲ増スト云フコトニハナラナイ、大公使及ビ全權委員ノ任命ニ付テモ同ジヤウナコトヲ主張サレタノデアリマシタ、第八條ノ皇室ノ財産ノ授受ニ關スル規定ニ付テハ、其ノ内容ガ不揃ヒデアルカラシテ、寧ロ無償ノ場合、即チ皇室ニ對スル財産ノ獻上ト、皇室ニ依ル其ノ受納及ビ皇室ニ依ル賜與ダケヲ制限スルニ止メルベキダト云フ意見ガ二三ノ委員カラ有力ニ主張サレマシタガ、之ニ對シテ政府ハ、本條ハ萬一ノ場合ニ備ヘテ、憲法上ハ洩レノナイ規定ヲ設ケ、實際ハ國會ノ適切ナ議決ニ依ツテ圓滑ナ運營ヲ期待スル趣旨ノ下ニ出來タノデアツテ、從ツテ特に脱法的行爲ガ絶對ニアリ得ナイト迄ハ斷言シ切レナイ所ノ、皇室ヘノ財産ノ流入スル面ニ付テ詳細ニ規定ヲ置イテ、其ノ半面ニ於テ皇室カラ財産ノ流出スル面ハ、財産ノ讓渡行爲ニ於ケル讓ル方ト受ケル方トノ雙務性ヲ通ジテ自然ニ制限セラレル仕組トシ、唯、皇室ニ依ル片務的ナ賜與行爲ノミハ、其ノ儘デハ規定ノ枠カラ洩レルノデ、之ニ付テ特ニ明文ヲ置イタ次第デアル、斯ウ云フ風ナ説明ガアリマシタ、尚此ノ第八條ヲ第一章ニ掲ゲルト云フコトニ付テ委員カラ意見ガアリマシテ、是ハ「財政」ノ第八十八條ノ次ニ置クベキモノデアルト云フヤウナ、サウ云フヤウナコトガ申出ラレマシタガ、政府側ハ特ニ此ノ皇室ト國民トノ煩ハシキ關係ヲ避ケルガ爲ニ、是ガ規定セラレタモノデアルト云フ意味ヲ述ベテ、サウシテ第一章ニ之ヲ置クト云フ、サウ云フ原案ヲ固執サレタノデアリマシタ、第二章デアリマスガ、第二章ハ、此ノ改正憲法ニノミアツテ、外國ノ憲法ニナイ規定デアリマス、學者ノ説二依リマスト、第一項ノ戰爭抛棄ハ外ニモ稀ナル例ガアルサウデアリマスガ、戦力竝ニ交戰權否認ト云フコトハ、未ダ曾テ何處ノ國ノ憲法ニモ見ザル所ダト言ハレテ居リマス、之ニ對スル政府ノ所論ヲ御紹介致シマスト、先ヅ世界恆久平和ハ全人類ニ與ヘラレタ宿題デアルガ、我ガ國ノ現状ハ積極的ニ其ノ達成ニ付テ國際的努力ヲ拂フト云フ、サウ云フ所迄ハ許サレテ居ラナイ、ソコデ差當リ可能ナルコトハ、此ノ憲法改正ニ當ツテ、我ガ國ノ徹底的ナル平和主義ノ態度ヲ内外ニ闡明シテ、之ヲ世界ニ先ンジテ爲サムトスルモノデアル、此ノ點我ガ國ニ對スル聯合國ノ疑惑ノ拂拭ト云フコトハ、是ハ結果デアツテ必ズシモ目的デハナイ、又逆ニ斯樣ナ規定ヲ憲法ニ掲ゲルコトニ依ツテ世界ヲ瞞著スルモノダト云フサウ云フ非議ニ對シテハ、今後ニ於ケル我ガ國ノ態度ガ終始最モ明確ニ之ヲ反駁スルコトニナラウト云フコトデアリマシタ、併シ本條ハ固ヨリ國内法デアツテ、國際的ニハ政治的ナ意味ヲ持ツニ過ギナイノデアツテ、法律的ナル意義ヲ持ツコトハ出來ナイ、尚所謂自衛權ノ問題ガ大分問題ニナリマシタガ、此ノ自衛權ハ戰力撤廢、交戰權否認ノ結果トシテ自ラ發動ガ困難ニナルノデアリマシテ、外國ト攻守同盟條約ヲ締結スルコトモ結局不可能トナリ、國際聯合憲章ノ規定スル自衛戰爭、共同防衛戰爭等トノ關係ハ、將來國際聯合ニ加入スルコトトナツタ場合ニ別個ニ考ヘルベキデハアルガ、寧ロ其ノ際ハ我ガ國トシテハ、兵力ノ提供義務ヲ留保スルト云フコトヲ考ヘルコトニナルデアラウ、要スルニ此ノ戰爭ノ抛棄、戰力ノ撤廢、交戰權ノ否認ト云フコトヲ此ノ憲法ノ中ニ入レタト云フコトハ、是ハ全ク捨身ノ態度デアツテ、身ヲ捨テテコソ浮ブ瀬モアレト云フ、サウ云フ風ナ異常ナ決心ニ基クト云フ政府ノ開陳デアリマシタ、次ニ第三章ニ移リマス、第三章ハ「國民の權利及び義務」、就中、基本的人權ヲ確認スルト同時ニ、基本的國民ノ權利及ビ義務ヲ規定スル所ノモノデアリマスガ、一委員カラハ、斯ウ云フ風ナ基本的人權ヲ確認スルト同時ニ、政治的ニ國民トノ關係ニ於テ國家作用ヲ制限シタモノデアルト云フヤウナ、サウ云フヤウナ解釋ガ下サレマシタ、政治的ニ言ヘバ國民ト政府トノ關係ニ於テ、國家作用ヲ國民ノ自由ノ爲ニ制限シタ、サウ云フヤウナ趣旨ヲ持ツテ居ルモノデハナイカト云フヤウナ、サウ云フヤウナ質疑ガアリマシテ、政府モ大體之ヲ了承サレタヤウデアリマシタ、此ノ基本的人權ハ人類ニ與ヘラレタ不可侵ノ、侵スベカラザル永久ノ權利ト見ラレルモノデアリマスカラ、此ノ憲法ニ於テハ色々ナ方面カラ此ノ權利ガ列擧サレテ、之ヲ國民ニ保障シテ居ルノデアリマシテ、其ノ半面國民トシテモ如何ナル國家權力ニモ屈スルコトナク、自己ノ基本的人權ノ保持ト主張ニ積極的ニ不斷ノ努カヲ拂ハナケレバナラナイ、サウ云フ風ナコトガ此ノ第三章ノ趣意デアリマス、固ヨリ基本的人權ハ全人類ノモノデアリマスカラ、單ニ我ガ國民ノ特有ノ權利タルニ止マルベキモノデナイノデアツテ、此ノ憲法モ其ノ中、斯樣ニ普遍的性質ヲ有スル權利ニ付テハ、態々「すべて國民は」云々ト云フ表現ヲ避ケテ、「何人も」云々ト云フ表現ヲ採ツテ居ルノデアリマスカラ、是ハ外國人ニモサウ云フ意味ニ於テ適用サレルト云フコトヲ妨ゲナイノデアリマシタガ、差向キ是ハ日本國民ニ向ケラレテ居ル、日本國民ヲ主トシタモノデアルト云フ、サウ云フ政府ノ意見ノ開陳デアリマシタ、此ノ第三章ヲ審議スルニ當ツテ先ヅ問題トナツタ點ハ、本章ニ、所謂「國民」ノ中ニ天皇及ビ皇族ハ含マレルカト云フコトデアリマシタ、第十四條ニ依ツテ「すべて國民は、法の下に平等」デアルト規定サレテ居ルカラ、象徴ト云フ御地位ニアツテ、特別ノ尊嚴ヲ保タレナケレバナラナイ天皇ハ、寧ロ此ノ本章ノ國民ノ中ニ含メテ考ヘナイ方ガ適切デアルトシ、又本章ハ沿革カラ言ヘバ、現行憲法第二章ノ「臣民の權利義務」ヲ引繼イダ規定デアルカラシテ、天皇トノ關係ニ付テ國民ヲ規定シテ居ルノデアツテ、從ツテ此ノ國民ノ中カラハ、天皇ハ當然除カレルト解スベキデアルトシ、更ニ斯ク解スルト前文ノ中ニアル國民ト云フ語ト一見矛盾シタ内容ヲ持ツモノニナルガ、前文中ノ國民ハ、過去カラ未來ヘ理論的ニ一貫シタ、纏ツタ國民ヲ指スモノデアルニ對シテ、本章ノ國民ハ個々ノ國民ヲ指スモノデアルカラシテ、兩者ハ謂ハバ同語異義デアル、斯ウ云フ風ナ、從ツテ本章ノ國民ノ中ニハ天皇ハ含マレナイト論ズル委員ガ多数アツタノデアリマスガ、政府ハ終始一貫、本章ノ國民ノ中ニハ天皇及ビ皇族モ含マレルト云フ態度ヲ持シテ讓ラナカツタノデアリマス、即チ政府ノ説明ニ依ルト、先ヅ基本的人權ト云フ權利ノ性質上、天皇モ御一人タル立場ニ於テハ、之ヲ享有サレルコトハ寧ロ當然デアツテ、例ヘバ今後ハ天皇ニ付テモ其ノ御財産、租税等ニ付、法的規制ヲ加ヘル必要ガ生ズルノデアルガ、若シ本章ノ適用ガ天皇ニナイトスルト、却テ一般國民ニ比シ、憲法上ノ保護ガ薄イ結果トナル虞ガアル、又此ノ憲法ハ天皇ヲ御一人タル立場ニ於テハ、出來ルダケ國民ト本質上同樣ニ考ヘテ居リ、從來ノヤウニ天皇ヲ何等カノ超越的ナ御存在トシテ考ヘルコトハ、寧ロ君民一如ノ國柄ニ適ハナイト云フ、サウ云フ態度ヲ採ツテ居リ、從ツテ第三章ノ國民ノ中ニハ天皇モ含マレルト解スベキデアルノミナラズ、此ノ點皇族ハ國民ノ中ニハ含マレルガ、天皇ハ別ダト云フヤウナ論ハ、皇位繼承ノ際ノ説明ニ却テ窮スル結果トナルコトガ指摘出來ル、更ニ本章ノ規定ハ、國民ヲ天皇トノ關係ニ於テ規定シタモノデナク、寧ロ國家トノ關係ニ於テ、其ノ立場ヲ保障シタモノデアツテ、其ノ點現行憲法、第二章トノ沿革的ナ關係ニ基クヨリハ、寧ロ基本的人權ノ世界史的性質ニ基イテ論定スベキデアルト云フ、大凡斯ウ云ツタ點ニ其ノ論據ヲ置イテ主張サレタノデアリマス、而モ政府ノ説明ニ依ツテモ、天皇及ビ皇族ニ對スル本章ノ規定ノ適用ニ當ツテハ、第一章ニ規定スル天皇ノ特殊ナ御地位ガ當然影響シテ來テ、必要ナ特例ヲ設ケルコトガ可能デアリ、實際上何等ノ不都合ハ生ジナイト主張サレタノデアリマス、要スルニ此ノ問題ハ解釋論トシテハ將來モ説ノ岐レル論點トナルト云フコトガ豫想セラル、ノデアリマス、次ニ政府原案第九十七條ヲ衆議院ガ削除サレタコトニモ關聯シテ、華族制度ノ廢止ニ付テモ、政府ハ此ノ榮典トシテノ華族ハ認メルケレドモ、併シナガラ世襲的ナル所ノ華族ハ、今日ノ此ノ民主主義的大勢ニ於テハ廢止スベキモノデアル、併シソレハ急激ニヤル必要ハナイト云フ考デアツタガ、併シナガラ衆議院ニ於テ我ガ國ノ今後ニ於ケル所ノ民主化ノ障碍トナル虞ガアルト云フコトデ、之ヲ廢止スルト云フ措置ニ出デタ、ソレニ對シテハ矢張リ其ノ理由ヲ、求メテ之ニ反對シナカツタト云フヤウナ意見ノ御開陳ガアリマシタ、尚此ノ思想、信仰、學問等ノ自由ニ加ヘテ、藝術、技術ノ尊重、サウ云フヤウナモノヲ加ヘルベキデアルト云フ御意見モアリマシタガ、政府ハ、是ハ必ズシモサウ斷ル必要ハナイト云フ御意見デアリマシタ、其ノ他ニ第三章ニ於テ問題ニナツタコトヲ唯列擧シマスルト、信仰ノ自由ニ伴フ政教ノ分離ト云フモノデ宗教教育ト云フコトガ、宗教情操ノ強化ガ困難ニナリハシナイカト云フ、サウ云フヤウナ質疑、ソレカラ家族ニ於テ夫婦ノ同等、個性ノ尊嚴、男女ノ本質的平等ガ認メラレテ居ルガ、是ハ我ガ國ノ親ヲ尊ブ所ノ、サウ云フ風ナ從來ノ家族ノ美風ヲ破壞スルモノデハナイカト云フヤウナ、サウ云フ風ナ質疑ガアリマシタ、併シ政府トシテハ戸主中心主義ノ、此ノ弊ヲ排斥スルノデアツテ、サウシテ家族ガ社會的事實トシテ家族制度ト云フ、家族ノ組織ト云フモノガ存在スルト云フコトニ付テハ、之ヲ進ンデ廢止スルト云フヤウナ意思ハナイ、斯ウ云フ風ナ意見ノ開陳ガアリマシタ、尚中産階級ヲ重視シコト云フ、サウ云フ要望モ、或委員カラ出タノデアリマス、第四章ハ特ニ國權ノ最高機關デアリ、國ノ唯一ノ立法機關デアルト憲法ニ規定セラレタ國會ニ關スル章デアツテ、而モ參議院制度ト云フ疑問ヲ含ンデ居マシタダケニ、各委員ヨリ極メテ活溌ナル議論ガ展開サレタノデアリマシタ、參議院ノ組織ニ付テハ前ニモ述ベタ通リデアリマスガ、其ノ權限ニ付テ二院ノ不平等、即チ衆議院ノ優位ト云フコトニ關聯シテ、一委員カラ、皇室典範、參議院法等ノ審議ニ付テ、參議院ニ何等カノ特殊ノ權限ヲ認メル意思ハナイカトシテ政府ノ所見ヲ質シタノニ對シテ、政府ハソレモ矢張リ法律デアル以上、當然第五十九條ノ適用ガアリ、其ノ審議ニ付理論上參議院ニ優位ヲ認メル理由ハナイ、唯、皇室典範ノ立案ニ付テハ愼重ヲ期スル爲、特別ノ手續ヲ考ヘルコトモ或ハ必要カト思フト云フ答辯ガアリ、又他ノ委員カラハ、參議院ノ緊急集會ノ權限ニ付質シタノニ對シテ、緊急集會ハ國會ノ權限トスル所ヲ總テ行フコトガ出來ルガ、併シ性質上緊急ノ措置ニ限ラレテ、從ツテ已ムヲ得ヌ場合ハ豫算ノ議決モ出來ルト、サウ云フ答辯ガアリマシタ、條約ノ承認ニ關スル參議院ノ權限ニ付テ、一委員カラ稍々注目スベキ意見ガ表明サレマシタ、即チ條約ハ、内閣ガ愼重ナル考究ノ下ニ之ヲ締結スルモノデアル以上、國際信義ノ上カラ國會ガ之ヲ否認スルコトハ妥當デハナカラウガ、一面國家ノ運命ニ關スル重大問題デアルコトモ多イノデ、國會ハ之ヲ愼重ニ審議スル必要ガアル、然ルニ議院内閣制ノ下ニ於テハ、衆議院ハ内閣ノ政策ニ迎合スル傾向ヲ免レナイノデ、參議院ガ主トシテ其ノ批判ノ任ニ當ラナケレバナラナイ、「アメリカ」ノ上院ノ模樣ヲ見テモ、參議院ハ事、外交問題ニ關シテハ、審議能力ハ寧ロ衆議院ノ優位ニアルト考ヘテモ宜イヤウニ思ハレル、從ツテ條約ノ承認ニ對シテハ本來兩院對等ノ權限ガ望マシイガ、ソレガ實現出來ナイ限リハ、少クトモ第六十一條ヲ第六十條ト入レ替ヘテ條約ノ締結ノ承認ニハ、第五十九條第二項及ビ第三項ノ規定ヲ準用スベキデナイカト云フノデアリマス、之ニ對シテ政府ハ條約ノ締結ヲ否認スルコトハ對外關係カラモ望マシクナイコトモ多イノデ、其ノ點ハ豫算ト同一ニ扱フノガ適當デアル、而モ矢張リ議決ノ重點ハ國民代表ノ性格ノ明瞭ニ現レテ居ル衆議院ニ置カルベキデアル、「アメリカ」ノ上院ハ各州ノ外交權ノ歴史ニ基ク特殊ノ事情ガアツテ、之ヲ我ガ國ノ參議院ト同日ニ論ズルコトハ出來ナイ、サウ云フ風ナ答辯ガアリマシタ、之ニ關シテ一委員ガ同ジ必要カラ、參議院ニ外交委員會ヲ常置スル必要ガ説カレタコトヲ一言シテ置キマス、第五章内閣、第六章司法、第七章財政、第八章地方自治、第九章改正ノ各章ニ付テハ、時間ノ關係上、此處デ申述ベルコトハ差控ヘマスガ、孰レモ各個ノ問題ニ付キテ其ノ理論上ノ解明、實際上ノ運營ニ付テ、各委員カラ極メテ熱心且詳細ニ質疑ガ行ハレマシタ、政府モ亦誠意ヲ以テ之ガ答辯ニ當ツテ、今後ニ於ケル改正憲法ノ理解ト運用ニ資スルコトガ大ナル所ガアツタコトハ疑ヲ容レナイ所デアリマス、第十章最高法規ハ、或ハ他ノ法規ト重複シ、或ハ自明ノ理デアルトシテ全章ヲ削除スベシトノ論モ強カツタノデアリマスガ、政府ハ其ノ存置ノ必要ヲ主張シ、又委員ノ間ニモ政府ト所見ヲ同ウスル向モアツテ、此ノ點ハ其ノ儘ニナツタノデアリマス、次ニ此ノ特別委員會ニ於テ修正セラレタ修正案ニ付テ申上ゲマス、第一ニ前文デアリマスガ、前文ノ字句修正ハ出來ルダケ之ヲ簡單ニスルト云フ方針デ爲サレタノデアリマスガ、ソレニ付テハ御頒チシタ印刷物ニ讓リマス、ソレカラ第十五條「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、國民固有の權利である。すべて公務員は、全體の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。すべて選擧における投票の祕密は、これを侵してはならない。選擧人はその選擇に關し公的にも私的にも責任を問はれない。」、此ノ第二項ノ次ニ「公務員の選擧については成年者による普通選擧を保障する」、此ノ成年者ニ依ル普通選擧ハ、此ノ憲法ニ於テ保障サレタノデアリマスガ、公務員ノ選擧ニ付テモ特ニ之ヲ明カニスル必要ガアルト云フ所カラ此ノ修正ガ行ハレタノデアリマス、第五十九條ノ「法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、兩議員で可決したとき法律となる。衆議院で可決し、參議員でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議院の三分の二以上の多數で再び可決したときは、法律となる。」ト云フソレニ加ヘテ、「前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、兩議院の協議會を開くことを求めることを妨げない。」國務大臣ノ任命、ソレカラシテ豫算、ソレカラ條約ノ締結ト云フコトニ付テハ、衆議院ト參議院トノ間ニ協會ガ行ハレ得ルト云フコトガ、此ノ憲法ノ條文ニ規定シテアルノデアリマスガ、法律ニ關シテハ其ノ規定ガナイノデアリマス、之ヲ國會法デ以テ規定スルト云フコトハ、此ノ憲法カラ必然的ニ出テ來ルカドウカト云フコトニ付テ多少ノ懸念モアルノデアリマシテ、旁々此ノ規定ヲ入レテ置クト云フコトガ萬全デアラウ、サウ云フ意味カラシテ、此ノ修正ガ施サレタノデアリマス、ソレカラ第六十六條、「内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣總理大臣及びその他の國務大臣でこれを組織する。内閣は、行政權の行使について、國會に對し連帯して責任を負ふ。」此の第一項ト第二項トノ間ニ「内閣總理大臣その他の國務大臣は、文民でなければならない。」斯ウ云フ修正ガ下サレタノデアリマス、是ハ第二章、第九條ノ戰爭抛棄ノ規定ト相照應シテ世界平和ヲ末永ク續カセテ行クト云フ、サウ云フ考慮カラ修正サレタモノデアリマス、文民ト云フ言葉ガ多少不熟ナ感ガアリマスガ、此ノ文民ニ代ルモノトシテハ或ハ文人、文治人、文臣、平人、民人ト云フヤウナ、サウ云フ風ナ案モ提出サレタノデアリマスガ、其ノ中デ比較的一番良イト思ハレル文人ト云フノハ官吏ニ限ラレルト云フ、サフ云フ風ナ虞ガアルノデ、文民ト云フ所ニ落著イタノデアリマス、交民ハ武臣ニ對スル所ノ言葉デアリマス、以上三ツガ此ノ特別委員會ニ於テ決定シタル所ノ修正案デアリマス、此ノ改正憲法草案ニ對シテハ、是ハ極メテ法文トシテ體ヲ成シテ居ナイトカ、或ハ不完全デアルトカ、或ハ積極的要素ガ乏シイ、サウ云フヤウナ色々ナ非難モ、此ノ委員會ノ開會中ニ加ヘラレタノデアリマシタガ、併シ此ノ憲法改正ト云フコトガ、現行憲法ト云フモノヲ自ラ毀ツタ、我ガ國民ノ過去ニ於ケル所ノ行跡カラ考ヘテ免ルベカラザル所ノ必然的ナモノデアルト云フコトハ、是ハ言フ迄モナイコトデアリマシテ、其ノ點ニ付テハ一般ノ民衆ハ兎モ角トシテ、政府者モ議員モ學者モ、ソレカラシテ官吏モ、皆悉ク其ノ責任ヲ免レルコトハ出來ナイモノデアツテ、今後ノ新シイ憲法ト云フモノヲ實現スル所ノ責任ハ、サウ云フ風ナ過誤ヲ犯シタ所ノ日本國民全體ガ之ヲ負フベキモノデアルト考ヘルノデアリマス、私ハ此ノ憲法ヲ審議スルニ當ツテ、實ニ感慨無量ナモノガアリマシテ、此ノ新憲法ニ對シテ必ズシモ欣ビヲ感ズルコトハ出來ナイノデアリマスガ、併シ唯之ヲ履マヘテ此ノ憲法ノ良キ精神ヲ發揮シテ、サウシテ日本ノ將來ニ於ケル所ノ欣ビト幸トヲ拓イテ行キタイト考ヘルノデアリマス（拍手起ル）
○議長（公爵徳川家正君）　質疑ノ通告ガゴザイマス、園田男爵
　　〔男爵園田武彦君登壇〕
○男爵園田武彦君　私ハ本改正憲法ニ關シマシテ茲ニ所信ヲ披瀝致シ、併セテ吉田總理大臣ノ御所見ヲ伺ハムト致ス者デアリマス、併シナガラ目下、會期モ切迫致シテ居リマス此ノ貴重ナル時間ヲ多ク費シマスコトハ如何ト存ジマスルノデ、私ノ質疑ハ唯一點ニ止メタイト存ジマス、明治天皇ニ依リマシテ制定致サレマシタル所ノ憲法ガ、斯クモ根本的ニ改正ヲ見ルニ至リマシタルコトヲ誰ガ豫想致シタデアリマセウカ、勿論時代ノ推移ニ伴ヒマシテ、其ノ一部ノ改正アルベキコトハ考ヘラレタノデアリマスルガ、之ヲ要シマスルノニ、若シモ我ガ國ノ政治ガ正シク今日迄行ハレ來リマシタナラバ、今次戰爭ヲ防止シ得、又平和國家ヲ維持シ得テ、進ンデハ眞ノ民主主義國家ヲ打建テル上ニ於キマシテ、現行憲法ハ決シテ我ガ國ニ取リマシテ、不適當デハナイト考ヘラレタカラデアリマス、然ルニ我ガ國ハ今次戰爭ニ敗レ、無條件降伏ト「ポツダム」宣言ヲ受諾致シ、之ガ忠實ニ履行ヲ約シ、其ノ義務ヲ負フニ至ツタノデアリマス、眞ノ民主主義國家ト平和國家ノ再建ヲ茲ニ圖ル上ニ於キマシテ、之ガ全面的ノ改正ヲ必要トスルニ至ツタモノト私ハ深ク信ズルノデアリマス、又今議會ヲ通ジマシテ、最モ重要ナル法案ハ此ノ改正憲法法案デアルト申シ得ルノデアリマス、即チ我ガ國ノ礎ヲ成スモノデアルカラデアリマス、此ノ審議ニ當リマシテハ、委員各位ハ連日ニ亙リ愼重審議ヲ遂ゲラレマシタ所ノ御苦勞ニ對シマシテハ、私ハ深ク感謝ノ意ヲ表スル一人デアリマス、殊ニ我ガ貴族院ニ於キマシテハ、斯界ノ權威者竝ニ我ガ國有數ノ學者ヲ擁シマシテ、卓越セル所ノ論旨ガ進メラレ、且又其ノ論據ノ正シキ點ニ至リマシテハ、國民深ク之ヲ傾聽致シタノデアリマス、併シナガラ結局ニ於キマシテ、政府提出ノ原案ヲ貴衆兩院ニ於テ修正サレタル何レニ於キマシテモ、其ノ根本意義ニ變化ナキ範囲ノ修正ヲ見ルニ過ギズシテ、今ヤ茲ニ通過成立ヲ見ムト致シテ居ルノデアリマス、政府ハ民主主義ニ則リ、何事モ國民ニ對シテ赤裸々ニ明瞭ニ理解シ得ルヤウニセラレタイノデアリマス、此ノ憲法案ヲ議會ニ提出セラレルニ至リマス迄ニハ、前内閣ヨリ之ヲ踏襲セラレ、又「マッカーサー」元帥ト十分ニ協議ヲ遂ゲラレ、其ノ承認ヲ得テ、然ル後ニ初メテ今議會ニ提出セラレタモノト思フノデアリマス、又之ニ對スル論議ハ民主主義ニ則リマシテ、十分ニ之ヲ許サレテ居リマスルガ、是ガ大幅ノ修正ハ之ヲ認メラレナイノデハアリマスマイカ、更ニ我ガ國ノ現状ヨリ致シマシテ、完全ナル獨立國家ヲ成シテ居ラヌ點ヨリ見マスレバ、現行憲法ノ價値ハ餘リ認メラレナイノデハナイノデアリマセウカ、行政權ノ一部ヲ握ラレ、其ノ管理下ニ置カレタル今日、例ヘバ議會ニ提出シテ其ノ協贊ヲ經テ行フベキ所ノ法律案、又ハ之ヲ廢止スベキ所ノ法律案モ、指令ヲ我ガ日本政府ニ發セラレテ、即時實行ニ移スコトヲ爲シ得ルナラバ、是ガ假令憲法違反ニセヨ、無條件降伏ノ包含スル所ノ總テノ條項ニ於テ之ヲ爲シ得ルモノデアリマシテ、現行憲法其ノモノガ深ク認メラレナイコトニ相成ルノデハアリマスマイカ、從ヒマシテ現行憲法ヲ對象トシ、或ハ之ヲ基盤トシテ論議セラレマシタル其ノ價値ニ變化ヲ與ヘヌ其ノ意義ヲモ異ニ致スコトニ相成リマシテ、百日ノ説法モ水ノ泡ニ歸スルノ感ヲ深ウ致スノデアリマス、例ヘバ國會ガ政府首班ヲ決定セラレタト致シマシテモ、聯合國側ニ於テ其ノ人物ガ好マシカラズト認メラレタル場合ニ於キマシテ、之ヲ拒否スル權能アリト致シマシタナラバ、此ノ憲法ノ運用ト其ノ意義ハ、果シテ如何相成ルノデアリマセウカ、深ク疑ヲ懐ク者デアリマス、故ニ我ガ國ガ「ポツダム」宣言ヲ忠實ニ履行シ了リ、之ヲ聯合國側ヨリ十分ニ認メラレ、眞ノ平和的ナル民主主義國家ガ打建テラレマシタル時、又占領軍ノ總テガ我ガ國ヨリ撤收シ去リシ時ニ於テ、初メテ此ノ憲法ガ眞ノ我ガ國ノ憲法トシテ其ノ價値ト意義ヲ發揮スルノデハアリマスマイカ、故ニ一日モ速カニ其ノ日ノ至ルコトヲ望ム上ニ於キマシテハ、出來得ル限リ國内闘爭ノ如キハ之ヲ避ケ、國民總テガ一致協力、以テ眞ノ平和ナル民主主義國家ヲ打建ツベキ重大ナル時デアルコトヲ深ク認識シナケレバナラヌト思フノデアリマス、政府又最善ノ努力ヲ盡サレテ、其ノ指導ニ遺憾ナキヲ期スベキデアルト思フノデアリマス、私ハ茲ニ吉田總理大臣ノ之ニ對スル御所信ト御所見ヲ質シ、私ノ質疑ヲ終ルコトニ致シマス（拍手）
　　〔國務大臣吉田茂君登壇〕
○國務大臣（吉田茂君）　御答ヘ致シマス、只今ノ御質問ハ、日本ノ政府或ハ日本國ノ統治權ガ、「ポツダム」宣言及ビ降伏條項ヲ受諾シタ今日ニ於テ、如何ナル状態ニアルカト云フヤウナ御質問ノヤウニ考ヘラレル、又從ツテ此ノ出來タ憲法ガ如何ニ運用セラルヽカ、占領治下ニ於ケル憲法ガ如何ニ運用セラレルカト云フヤウナ御質問ノヤウニ考ヘラレマスガ、此ノ點ハ屡々私ガ此ノ本議會ニ於テ申述ベタ通リ、日本ノ政府、日本國ノ統治權ナルモノハ、「ポツダム」宣言及ビ降伏條項履行ノ範圍ニ於テ制約セラル、ダケデアリマシテ、日本政府ハ儼トシテ存在シテ居ルノデアリ、日本國ノ統治權ナルモノハ、其ノ制約ノ範圍外ニ於テハ自由ニ行使セラレテ居ルノデアリマス、從ツテ此ノ憲法ナルモノノ審議ニ付テモ、本院ニ於カレテ、十分審議セラレテ御自由ニ改變セラレ、若シクハ提案サレテ差支ナイノデアリマス、又此ノ出來上ツタ憲法ハ、假ニ占領治下ニ於キマシテモ、「ポツダム」宣言受諾ノ制約外ニ於テハ有効ニ運行セラレルモノデアリマス、唯、日本ノ敗戰後ノ今日ノ状態ニ於テハ、日本國ト致シマシテハ甚ダ困難ナ地位ニ居ルノデアリマシテ、此ノ難局ヲ突破致シマス爲ニハ、國民上下ガ一致シテ此ノ難局ニ當ルベキモノデアツテ、從ツテ無用ナ政爭、若シクハ闘爭ト云フコトガ、甚ダ好マシカラヌコトハ御意見ノ通リデアリマス、願クハ此ノ難局ヲ、國民一致ノ力ヲ以テ突破シ得テ、サウシテ新日本ノ建設ニ國民一般上下ガ協力スルヤウナコトニナツテ行キタイモノト政府ハ切ニ希望致シテ居ル次第デアリマス
○男爵園田武彦君　簡單デアリマスカラ、自席カラ發言ノ御許ヲ願ヒタイノデアリマス
○議長（公爵徳川家正君）　宜シウゴザイマス
○男爵園田武彦君　只今吉田總理大臣ヨリ、御鄭重ナル御答辯ヲ戴キマシテ深ク了承致シタノデアリマス、茲ニ感謝ノ意ヲ表シマシテ私ノ質疑ヲ終リマス
○議長（公爵徳川家正君）　休憩ヲ致シマス、午後ハ一時三十分ヨリ開會致シマス
　　　午後零時九分休憩
　　　━━━━━◇━━━━
　　　午後一時三十九分開議
○議長（公爵徳川家正君）　休憩前ニ引續キ會議ヲ開キマス、是ヨリ討論ニ移リマス、通告順ニ依リ發言ヲ許シマス、佐々木惣一君
　　〔佐々木惣一君登壇〕
○佐々木惣一君　私ハ帝國憲法改正案反對ノ意見ヲ有スル者デアリマス、此ノ私ノ意見ヲ我ガ貴族院ノ壇上ニ於テ述ベマスコトハ、私ニ取ツテ實ニ言ヒ難キ苦痛デアリマス、今日帝國憲法ヲ改正スルコトヲ考ヘルコト其ノコトハ、私モ政府ト全ク同ジ考デアリマスルガ、唯、今囘提案ノ如クニ改正スルコトハ、私ノ贊成セザル所デアリマス、冐頭、私ガ帝國憲法改正案ニ對シマシテ、贊否ヲ決スルニ當ツテ如何ナル點ニ標準ヲ置クカト云フコトニ付テ一言致シマス、次ノ二ツノコトヲ考ヘル必要ガアリマス、其ノ一ツ、今囘ノ改正案ハ、改正トハ申シマスルケレドモ、憲法中ノ一部ヲ特ニ定メテ改正セムトスルノデハアリマセヌ、其ノ全部ニ亙ツテ改正セムトスルノデアリマス、改正ノ名ノ下ニ新制定ヲナサムトスルノデアリマス、故ニ其ノ案全體ノ是非ヲ判斷スルニ當ツテハ、改正案ノ規定中、特定ノ或モノダケヲ取上ゲテ見テモ、決シテ適正ナル結果ヲ得ルコトハ私ニハ出來マセヌ、改正案ノ規定ヲ全部ヲ關聯セシメテ見テ、其ノ改正案ノ規定セムトスル事項ノ輕重ヲ考ヘルノ外ハナイノデアリマス、我ガ國トシテ重ンズベキモノガ捨テラレマスナラバ、他ノモノニ採ルベキ點ガアリマシテモ、改正案全體トシテハ之ヲ不可トセザルヲ得ナイト信ズルノデアリマス、其ノ二ツ、今囘我々ガ帝國憲法ノ改正ヲ考ヘルト云フコトハ抑々如何ナル必要ニ依ツテ生ジタコトデアリマセウカ、ソレハ要スルニ次ノコトニ歸著致シマス、我々ハ最近ノ經驗ニ徴シテ、將來ノ活動ニ付テ痛切ナル要求ヲ持ツニ至リマシタ、即チ我ガ國ハ終戰前迄執ツテ居タ所ノ軍國主義的、極國家主義的ノ誤レル態度ヲ捨テテ、平和主義的、道義的ノ正シイ態度ヲ執リ、人類ノ幸福ヲ増進スルコトヲ使命トセナクテハナラナイ、此ノ使命ヲ達スルガ爲ニハ、先ヅ國家ノ活動ニ於テ破壊サレテ居ル「デモクラテイック」體制、即チ民意主義體制ヲ復活強化シナクテハナラヌ、次ニ國民ノ自由ガ實際ニ尊重サレ、其ノ基本的人權ガ確保サレナクテハナラヌ、民意主義的體制ノ復活強化ト國民ノ自由ノ實際ノ尊重トニ依リ、近年ノ如ク軍國主義的、極國家主義的ノ傾向ヲ持ツ者ガ政治ヲ擔當スルト云フ事實ノ再ビ現レテ來ル餘地ヲナクシナクテハナラヌ、是ガ我々ノ痛切ナル要求デアリマス、斯ウ云フ考ハ我々國民自身ノ間ニ起ツタノデアリマスルガ、是ハ當然ノコトデアリマス、加フルニ敗戰シテ受諾シマシタ彼ノ「ポツダム」宣言ガ巖肅ニ之ヲ命ジテ居ルノデアリマス、即チ右ニ述ベマシタ要求ハ、内外ノ事情カラ我々ガ今痛切ニ感ジテ居ル要求ナノデアリマシテ、我々ハ此ノ要求ヲ滿ス爲ニ適當ナル活動ヲ爲サナケレバナリマセヌ、然ルニ此ノ要求ヲ滿ス爲ノ適當ナル活動ハ、現在ノ儘ノ帝國憲法ノ下デハ十分ニ行フコトガ出來ナイ、ソコデ帝國憲法ノ改正ト云フコトヲ考ヘタノデアリマス、以上述ベマシタ所ヲ結ンデ申セバ、今帝國憲法ノ改正ヲ爲スト云フコトニ付テハ我々ノ今後ノ活動上ノ要求、詳シク言ヘバ民意主義體制ノ復活強化ト國民ノ自由ノ實際上ノ尊重、而シテ之ニ依リ軍國主義的、極國家主義的ノ傾向ヲ有スル者ノ政治擔當ト云フ事實ノ再現ヲ防止スルト云フ要求ヲ滿ス爲ニ必要ナ改正デアルト云フコトヲ忘レテハナラヌノデアリマス、故ニ或ハ此ノ必要ニ應ズルコトノ出來ル現在ノ規定ヲ變更シタリ、或ハ此ノ要求ニ應ズルコトノ出來ヌ規定ヲ新設シタリスルコトハ、今囘ノ帝國憲法ノ改正ニ於テハ努メテ避クベキコトデアリマス、右ノ如キ見地ニ立ツテ私ハ今囘ノ帝國憲法改正案ニ付テ討究シ、且政府ノ説明ヲ聽キ、又政府ニ質疑シ、其ノ結果、帝國憲法改正案ヲ全體トシテ見テ不可ト斷定スルニ至ツタノデアリマス、頗ル遺憾ニ存ジマス、其ノ理由ノ主ナルモノ次ノ通リデアリマス、第一、我ガ國ノ政治的基本性格ハ之ヲ變更シテハナリマセヌ、帝國憲法改正案ニ依レバ、我ガ國ノ政治的基本性格ガ變更セラレマス、又此ノ政治的基本性格ノ變更ノ結果トシテ、我々ガ政治的活動ヲ爲ス上ニ必要ナル諸種ノ事項ニモ變更ヲ及スト云フ派生的影響ヲ齎スノデアリマス、凡ソ國家ニハソレゾレ政治的性格ガアツテ、其ノ性格ヲ成ス事實ハ色々アルノデアリマスルガ、其ノ中ニ、ソレアルガ故ニ其ノ國家デアルト、其ノ國家ノ一般國民ガ思ツテ居ルモノガアルノデアリマス、是ガ即チ其ノ國家ニ取ツテハ政治的基本性格デアリマス、デアリマスルカラ、其ノ政治的基本性格トスルモノガ變更スルナラバ、其ノ國家ハ政治團體トシテノ本質ニ於テハ變更スルノデアリマス、是ハ政治團體トシテノ本質ニ付テ言フノデアツテ、國内法上トカ、又ハ國際法上トカニ於テ同一ノ人格デアルカナイカ、サウ云フヤウナ法理構成ノ問題デハナイノデアリマス、我ガ國家ニ於キマシテハ、今日迄、天皇ト申ス特定ノ御一人ガ國家ノ意思力、即チ統治權ヲ總攬シテ、詳シク申シマスレバ國家意思ヲ統ベ括ツテ其ノ源泉トナツテ居ラレルノデアリ、サウシテ其ノ御一人ガ天皇トシテ國家統治權ヲ總攬スル地位ヲ有セラレテ居ルト云フコトノ根據ハ、唯其ノ御一人ガ萬世一系ノ特定ノ血統ニ出デサセラレテ居ルト云フコト、其ノコトニアルノデアリマス、其ノ他ノコトガ根據トナツテ居ルノデハアリマセヌ、殊ニ國民ガ其ノ意思ニ依ツテサウ云フ地位ニ就カルヽコトヲ認メルト云フヤウナコト、即チ國民ノ意思ニ基クト云フコトガ其ノ根據トナツテ居ルノデハ斷ジテアリマセヌ、此ノコトガ我ガ國柄ヲ示スモノトシテ、別ノ言葉デ我ガ國ノ國體ト申サレテ居ルモノデアリマス、國體ト云フ言葉ハ今日色々ノ場合ニ用ヒラレテ居リマスガ、政治的性格ヲ示スモノトシテ用ヒラレル場合ニハ、統治權ヲ總攬スル者ガ何人デアルカト云フ面カラ見タ國家ノ國柄ヲ申スノデアリマス、勿論世界ノ國家國家ニ就テ見ナクテハナリマセヌ、我ガ國家ニ就テ見マスル時ハ、前述ノ如ク萬世一系ノ血統ニ出デサセラレタル御一人ガ唯其ノ故ニ國家統治權ヲ總攬セラルヽト云フコトガ、我ガ國ノ即チ政治的基本性格デアルノデアリマス、此ノ我ガ一般國民ノ意識ガ成文法トナツテ居ル所ノモノガ、實ニ帝國憲法デアリマシテ、其ノ第一條ニ「大日本帝國ハ萬世一系ノ天皇之ヲ統治ス」、第四條ニ「天皇ハ國ノ元首ニシテ統治權ヲ總攬シ」トアルノデアリマス、然ルニ帝國憲法改正案ハ右ノ定メヲ變更セムトスルモノデアリマス、先ヅ改正案デハ、天皇ガ國家統治權ヲ總攬セラレルト云フコトヲ廢止セムトスルノデアリマス、即チ改正案第四條第一項ニハ「天皇は、この憲法の定める國事に關する行爲のみを行ひ、國政に關する權能を有しない。」ト規定シ、第七條ニ「天皇は、内閣の助言と承認により、國民のために、左の國事に關する行爲を行ふ。」トシテ一號乃至十號ニ其ノ事項ヲ列記シテ居リマス、固ヨリ本條ノ外ニモ第六條、第九十六條等ニ、天皇ノ行爲ニ依リ行ハレル事項ヲモ示シテ居リマスガ、要スルニ此ノ憲法改正案ニ依リマスルト云フト、天皇ハ特ニ示サレタ小數ノ國事ニ關シテノミ行爲ヲ行ハセラルヽノ權能ヲ有セラルヽコトニ相成ルノデアリマス、其ノ場合ニ於キマシテモ、其ノ特ニ示サレタル行爲ハ多クハ國務ノ實質ニ觸レザル形式的ノ、儀禮的ノモノデアリマス、即チ天皇ガ統治權ヲ總攬セラレルト云フコトハ、改正案ニ依リマスルト云フト、先ヅ全ク止マルト申シテ宜イノデアリマス、ドウシテ斯ウ云フ風ニ止メテシマフ必要ガアルノデアリマセウカ、私ニハ全ク理解出來ナイノデアリマス、（拍手）次ニ改正案第一條ニハ「天皇は、日本國の象徴であり日本國民統合の象徴であつて、この地位は、主權の存する日本國民の總意に基く。」トアリマス、今天皇ガ象徴デアルト云フヤウナコトモ、法ノ規定ノ上ニ用ヒルコトハ私ハ贊成致シマセヌガ、併シ此處デハ其ノ問題ハ暫ク止メテ置キマス、改正案ニ依リマスレバ、天皇ノ地位ガ今述ベマシタル條項ニ示シテ居リマスルガ如ク「主權の存する日本國民の總意に基く。」トセラレテ居ルノデアリマス、是ハ天皇ガ其ノ地位ニアラセラレルト云フノハ、國民ノ意思ニ依ツテ認メルカラデアルトセラレテ居ルノデアリマス、今日特ニ定マレル所ノ萬世一系ノ血統ニ出デサセラレルコト、其ノコトノ故ニ其ノ地位ニアラセラレルトスルノトハ雲泥ノ差異ガアルノデアリマス、デアリマスルカラ、帝國憲法改正案ガ、天皇ノ統治權總攬者タルノ地位ヲ廢止シ、又天皇ノ地位ヲ國民ノ意思ニ基クトスルコトハ、即チ我ガ國ノ政治的基本性格ヲ變更スルモノデアルノデアリマス、抑々或御一人ガ天皇デアルト申スノハ、其ノ御一人ガ前述ノ如ク、萬世一系ノ出デアルノ故ニ統治權ヲ總攬セラレルト云フ性質ヲ有セラレルコトヲ指シテ言フノデアリマス、其ノ性質ノ如何ニ拘ラズ、唯天皇ト云フ名稱ヲ有セラレタラソレデ宜イト云フノデハ斷ジテアリマセヌ、改正案ノ如クデアリマスレバ、依然トシテ天皇ト申シマシテモ、其ノ實ハ失ハレテ居ルノデアリマス、正確ナル意味デノ天皇制ハ茲ニ廢止ニ歸セムトスルノデアリマス、（拍手）右ノ我ガ國ノ政治的基本性格タル事實ハ、今日迄我ガ國ニ於テ最大ノ價値ガ置カレテ居ル所ノ事實デアリマシテ、此ノ事實ハ外ノ言葉デ國體ト呼バレテ居ル事實デアリマス、尤モ此ノ事實ガ國體ト呼バレテ居ルト言ヒマスルノハ、我ガ國朝野ニ於テ一般ニ呼バレテ居ルト云フコトデアリマス、國家ノ法制ガ右ノ事實ヲ意味スルモノトシテ國體ト云フ言葉ヲ用ヒテ居リマスシ、裁判所モ法制ヲ適用スル場合ニ、サウ云フ意味ニ解釋シテ居マス、又從來、政府、立法府、教育機關等ガ爲シ來ツテ居リマスル所ノ幾多ノ措置ニ於テ、或ハ國體ノ明徴ト云ヒ、或ハ國體ノ擁護ト云ヒ、或ハ國體ノ尊嚴ト云ヒ、或ハ國體ノ觀念ト云フ如キ言葉ヲ用ヒテ居リマスル場合ニハ、其ノ所謂國體ハ皆右ニ述ベタ意味デアルノデアリマス、加之、同ジ意味デ一般世間モ其ノ言葉ヲ用ヒテ居ルコトハ疑アリマセヌ、サウデアリマスルカラ、サウ云フ意味ノ國體ト云フ言葉ハ、一部ノ人々、殊ニマア政府ノ中ノ或方モ言ハレルガ如ク、學者ガ學問上ノ説明ヲ爲ス場合、説明ノ便宜上用ヒルモノニ過ギヌト云フヤウナモノデハ斷ジテナイノデアリマス、ソレハ今日社會通用ノ語デアリマシテ、學問上ノ術語ト云フヤウナモノデハナイノデアリマス、斯ウ云フ意味ノ國體タル事實ハ、前述ベマシタ如ク、今囘ノ改正案デハ變更スルノデアリマス、此ノ變更ト云フコトニ付キマシテハ、政府ハ私共ノ質疑ニ答ヘマシテ、當初ハ變更ヲ否定スルカノ如キ口調ヲ取ツテ言ハレタノデアリマスルガ、後ニハ之ヲ改メマシテ、肯定スルノ意、變更ヲ肯定スルノ意ヲ明言サレルニ至ツタノデアリマス、處デ、右ノ國體タル事實ガ變更スルコト、即チ萬世一系ノ天皇ガ統治權ヲ總攬セラレルト云フ事實ガナクナルト云フコトハ、我ガ國ニ於キマシテハ實ニ重大ナ問題デアリマス、何故デアリマスルカ、只今モ申シマシタ如ク、一般國民ハ古來、右ノ事實ニ最モ大ナル價値ヲ置イテ政治生活乃至一般社會生活ヲ爲シテ居ルノデアリマスルカラ、今之ヲ變更スルノハ一般國民ニ右ノ變更ヲ望ムト云フ意識ガアツテ、而シテ其ノ意識ガ平静ナル社會事情ノ下ニアツテ最モ明白ニ、又最モ眞ニ實質的ニ表示セラレタ場合デナクテハナリマセヌ、サウシテ、サウ云フ一般國民ノ最モ明白ナ、又眞ニ實質的ノ意識ノ表示ハ、今日決シテ存在シテ居マセヌ、我々國民ノ右ノ如キ意識ハ傳統的ノモノデアリマシテ、一種ノ國民的感情ト申シテ宜イノデアリマスルカラ、今國家ノ制度ヲ考ヘルニ當リマシテハ、之ヲ尊重シナクテハナラナイノデアリマス、凡ソ國家ノ制度ヲ工夫スル場合ニハ、理性ニ依ツテ判斷スべキデアツテ、感情ニ馳スベキデナイト云フコトハ勿論デアリマス、ガ國家ノ制度ヲ工夫スル場合ニ、工夫スル者ガ國民ノ傳統的感情ヲ尊重スベキデアルト云フコトハ、是ハ理性デアルノデアリマス、感情デハナイノデアリマス、ソレ故ニ今日我ガ國民ノ間ニ國家ノ政治的基本性格、即チ國體ト呼バレテ居ル事實ニ價値ヲ置クト云フ傳統的感情ガアルカラ、其ノ感情ヲ尊重シテ制度ヲ立テルト云フコトハ、制度ヲ工夫スル者ニアツテハ理性的判斷ナノデアリマス、然ルニ今囘ノ帝國憲法改正案ニ於キマシテハ、傳統的ノ國民感情ヲ顧ミズ、國體ノ事實ヲ變更セムトスルノデアリマス、反對セザルヲ得マセヌ、第二、天皇ヘノ協力機關ノ徹底的改革ヲ行フコトヲ超エテ、政治的基本性格タル國體ノ變更ニ進ムコトハ不必要デアリマス、帝國憲法改正案ニ依リマスレバ、右ノ不必要ノコトガ行ハレルデアリマス、現在ノ帝國憲法ニ依リ、天皇ガ統治權ヲ總攬セラレルト云フコトハ、天皇ガ具體的ノ個々ノ事項ニ付テ統治權ヲ獨斷的ニ行ハセラルルト云フコトデハナイノデアリマス、立法、司法、行政ノ三作用ニ付テ、皆ソレゾレ憲法所定ノ協力機關ガアリマシテ、天皇ニ協力スルノデアリマス、又各々ノ協力機關ガ天皇ニ協力スルニ當リマシテモ、任意ニ氣紛レニスルノデハアリマセヌ、政治ニ付テ國民ノ意思ガ尊重セラレルヤウニシ、又責任ガ明カニセラレルヤウニスルコトトナツテ居マス、唯併シ協力機關ニ關スル帝國憲法ノ規定ニハ不備ノ點ガアリマスルシ、又其ノ規定ノ解釋ヤ運用ニ誤リガアリマシタノデ、政治ノ結果ガ國家ノ不利益トナツタ事例ハ尠クアリマセヌ、最近ノ且最大ノ例ハ皆サン御存ジデアリマスル通リニ、我國ヲ今日ノ悲慘ナル状態ニ陷レマシタ彼ノ軍部ノ行動デアリマス、軍統帥ハ帝國憲法上國務デアルニモ拘ラズ、軍部ハ國務デナイトシテ政府ノ參與シナイモノトシテ取扱ツテ來マシタ、又陸海軍大臣ガ現役軍人デアリ、又軍三長官ノ推擧ニ依ラナケレバナラヌトスルヤウナコトヲ致シマシタ結果、其ノ選任ニ付テ政府ノ參與ヲ排除スルコトニ相成ツタノデアリマス、又此ノ間ニアツテ、軍部以外ニ於テ、政府ハ勿論、殘念ナガラ立法府タル帝國議會モ毅然タル國家的ノ態度ヲ始終執リ來ツタモノトハ申サレナイト思フノデアリマス、今日朝野國民ガ口ヲ極メテ非難シテ居リマスル彼ノ戰爭ガ行ハレマシタノハ、實ニ天皇ヘ協力機關ガ協力ノ方法ヲ誤ツタコトノ結果デアリマス、天皇ガ統治權ヲ總攬セラレテ居タト云フコトノ結果デハ斷ジテアリマセヌ、故ニ一般ニ政治ノ結果ヲ適正ナラシムル爲ニハ、天皇ガ統治權ヲ總攬セラル、ト云フコトヲ廢止スベキモノデハナク、天皇ヘノ協力機關ヲ其ノ構成及ビ其ノ協力ノ仕方ニ於テ徹底的ニ改革スベキデアリマス、其ノ改革ノ目標ハ協力機關ガ國民ノ眞ノ意思ヲ能ク政治ニ通達スルヤウニシ、又其ノ行動ニ付テ國民ニ對シテ責任ヲ有シ、從ツテ國民カラ其ノ責任ヲ問ハレルヤウニスルコトデアリマス、此ノ點ニ於キマシテハ、現在ノ帝國憲法ノ規定ヤ其ノ運用ニハ満足出來ヌモノガアリ、帝國憲法改正案ハ之ヲ良キヤウニ補正シテ居リマス、此ノ點ニ於キマシテ、帝國憲法改正案ノ條項ニ私ハ贊成スルモノガアルデアリマス、例ヘバ改正案ニ依リマスレバ、其ノ第六十七條、第六十八條ニ、内閣總理大臣及ビ他ノ國務大臣ノ過半數ハ國會ノ議員ヨリ任用スルコトヲ明カニ規定シテ居リマスガ、是ハ法制上ノ議會内閣制度デアリマス、法制上ノ議會内閣制度ガ宜イカ、又ハ運用上ノ議會内閣制度ガ宜イカハソレ自身問題デアリマシテ、私ハ運用上ノ議會内閣制度トスルコトガ、彼ノ「イギリス」ノ制度ノ如クスルコトガ宜イト思ヒマスガ、併シ今ハソレハ別ノ問題デアリマス、兎ニ角詰リ内閣ノ構成ニ付テモ國民ノ意思ト云フモノガ尊重セラル、ト云フコトニ相成リマスルノハ、是ハ現行帝國憲法ノ運用ノ場合ヨリモ明カニ宜イト思フノデアリマス、併シ現在ノ帝國憲法ノ下ニ於キマシテモ、運用上ノ議會内閣トナル傾向ガアツタノデアリマスルケレドモ、戰時中是ガ中絶致シマシテ、終戰後皆樣御存ジノ通リニ、其ノ運用上ノ議會内閣制度ガ復活致シマシテ、現ニ此ノ内閣ガ其ノ運用上ノ議會内閣制度ニ近イモノト見ラレルノデアリマス、又例ヘバ國民ガ責任ヲ問フト云フコトニ付キマシテハ、今囘ノ改正案デハ第六十六條第二項ニ「内閣は、行政權の行使について、國會に對し連帯して責任を負ふ。」ト明カニ規定シテ居リマス、是ハ良イ改正ノ一ツト私ハ考ヘテ居リマス、併シ唯是モ實ハ現行帝國憲法ノ正當ナル解釋ニ依リマスレバ、當然ニ認メラル、所デアツタノデアリマス、然ルニモ拘ラズ、實際家及ビ之ニ追從スル一部ノ學者ガ即テ議會ニ對スル所ノ政府ノ責任ト云フヤウナ問題ヲ曖昧ニシテ來ツタノデアリマス、マア其ノ誤リハ兎ニ角ト致シマシテ、今囘ノ改正案ガハツキリト其ノコトヲ規定シテ居リマスノハ、私ハ此ノ點ニ於テ贊成スル者デアリマス、デ斯カル點カラ見マスレバ、此ノ帝國憲法改正案ノ目標ニハ大體正シイモノガアルト思ヒマス、併シソレハ協力機關ノ協力ノ方法ヲ改正スルト云フコトニ付テ申スノデアリマス、天皇ノ統治權總攪者タルノ地位ヲ廢止スルト云フヤウナコトトハ、毛頭關係アリマセヌ、元來天皇ガ統治權ヲ總攬セラレルト云フコトト、具體的ノ個々ノ事項ニ付テ其ノ總攬セラレテ居ル統治權ヲ行ハセラレルト云フコトトハ、全ク別々ノコトデアリマス、個々ノ事項ニ付テ統治權ヲ行ハセラレルコトヲ大權ト申シマス、故ニ統治權ト云フノハ是ハ單一ノモノデアリマシテ、大權ハ色々ノモノガアルノデアリマス、其ノ大權ノ發動ニ付テ、協力的機關ガ協力スルノデアリマス、其ノ個々ノ大權ノ發動ニ協力スルコトニ付テ、國民ノ意思ガ最モ能ク政治ニ通逹セラレルヤウ、又政治ニ付テ國民カラ責任ヲ問ハレルヤウ改正スルコトハ必要デアリマス、併シ是ハ天皇ノ統治權ヲ總攬セラレルコト、即チ國體タル事實ヲ變更スルコトトハ何等關係ハナイデアリマス、斯クノ如キ方面カラ國體ノ事實ヲ變更スルト云フコトハ、何等必要ハアリマセヌ、今囘ノ帝國憲法改正案ニ依リマスレバ、右ノ不必要ノコトヲ行ハムトスルモノデアリマス、反對セサルヲ得マセヌ、第三、天皇ニ特殊ノ重大天職ノ存スルト云フコトヲ見落シテハナリマセス、帝國憲法改正案ニ依リマスレバ、此ノ事ガ見落サレテ居リマス、天皇ハ統治權ヲ總攬セラレテ居マスガ、具體的ノ個個ノ事項ニ關シテ統治權ヲ行ハセラレル場合ニハ、大體ニ於キマシテ協力機關ノ進言スル所ヲ御採納アラセラル、ノデアリマシテ、御自身ノミノ御判斷ニ依ツテ御決定ニナルコトハアリマスマイ、併シ何等カノ事情ニ依リマシテ、御自身ノ御判斷ニ依ツテ御決定ニナラナクテハナラヌコトガナイトハ申セマセヌ、其ノ實例ハ現ニ昨年終戰ノ場合ニ、我々ガ目撃シタ所デハアリマセヌカ、天皇ヘノ協力機關ハ皆判斷シ得ズ、遂ニ天皇ノ御裁斷ヲ仰イダノデアリマシテ、其ノ結果終戦ノ御決定ガアツタノデアリマス、若シアノ時ニアノ御裁斷ガ下ラナカツタナラバ、國内ノ状況ハ果シテ如何樣ニ相成ツタデアリマセウカ、想像スルダニ戰慄スル次第デアリマス、（拍手）斯カルコトハ滅多ニ起ラヌコトデアリマスルケレドモ、併シナガラ其ノ滅多ニ起ラヌコトガ大切ナノデアリマス、且ソレガ起ルコトガアルト云フコトガ、右ニ述ベマシタ如ク經驗上我々ニ實證サレタノデアリマス、戰爭ト云フヤウナコトニ是ハ限リマセヌ、凡ソ重大ナル事情ガ存シテ、而モ協力機關ノ力盡キ、行キ詰ルコトガアル場合ニ、前述ノ如キ國内ノ收マリ、決定ヲナスノ力ガ何處カニ存シテ居ルト云フコトガ必要ナコトデアリマス、憲法改正案ニ依リマスレバ、斯クノ如キ力ガ決シテ法的秩序ノ上デハ存在シテ居ナイノデアリマス、其ノ結果ハ勢ヒ所謂實力ノ對抗ニ依ツテ事實的ニ決定セラレルト云フコトニナラザルヲ得ナイカモ知レマセヌ、社會的混乱ニ陷ルノ虞ガナイト何人ガ保證シ得ルノデアリマセウカ、斯ウ云フ場合ニ天皇ノ御裁斷ニ依ツテ決定セラレルト云フ結果ノ生ジマスルノハ、實ハ單ニソレガ統治權ノ總攬者ノ活動デアルト云フコトカラデハナク、天皇ノ統治權ノ‥‥‥何人ガ統治權デアツテモ宜イト云フノデハナイ、天皇ノ統治權ノ總攬者トシテノ活動デアルカラデアリマス、天皇ハ政治ニ於テ如何ナル場合ニアツテモ、一ニ國家國民ノ利益ノミヲ念トセラレ、其ノ個人的感情、利害ニ依ツテ動カサレ給ハヌト我々國民ハ信頼シ奉ツテ居ルノデアリマス、ソレデアリマスルカラ、已ムヲ得サル場合ニ天皇ノ御判斷ノミニ依ツテ決定サレテモ國内ハ收マルノデアリマス、是ハ國民ノ心理的作用デアリマシテ、單ナル法的ノ作用及ビ實力ノ作用デハアリマセヌ、天皇ノ活動デアツテ始メテ爲スコトノ出來ル作用ナノデアリマス、斯クノ如キコトハ獨リ戰爭ノ場合ニ限ラズ、如何ナル場合ニソレノ必要ガナイトハ斷言出來マセヌ、斯クノ如キ力ヲ心理的ニ持ツテ居ル方ガ、何レノ國家ニモアルトハ言ハレナイノデアル、我ガ國ハ幸ニシテ斯クノ如キ力ヲ御持チニナツテ居ル方ガ現ニアルノデアリマス、ソレヲ何故ニ廢止スルノデアルカ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ見ナケレバナラヌト思フノデアリマス、斯ク考ヘ來リマスルト云フト、斯カル場合ニ天皇ガ御持チニナツテ居リマスル所ノ力、從ツテ其ノ力ニ依ツテ御盡シニナリマスル所ノ天皇ノ特殊ノ重大ナル御職分ト云フモノガアルノデアリマシテ、此ノ職分ト云フモノハ實ニ我々國民生活ノ實際ニ重大ナル關係ヲ持ツモノデアリマス、斯カル天皇ニ特殊ノ天職ノ存スルコトヲ見落シテハナラナイノデアリマス、今囘ノ帝國憲法改正案ニ依レバ、右ノコトガ見落サレテ居リマス、反對セザルヲ得マセヌ、第四、天皇ヲ政治ニ關シテ無能力ノ者ト定ムルコトヲ以テ天皇ニ責ヲ歸シ奉ラヌコトデアルト誤解シテハナリマセヌ、帝國憲法改正案ニ依レバ、斯カル誤解ガナサレテ居ルト思ヒマス、天皇ガ國家ノ政治ニ關與サレルコトカラ責ヲ負ハセラル、ヤウナコトガアツテハナラヌト云フコトハ、改メテ申ス迄モアリマセヌ、是ハ天皇ガ君主デアルト云フコトニ付テ我々國民ガ皆持ツテ居ル感情デアリマス、併シ此ノコトカラ天皇ガ政治ニ關與シ得ル地位ヲ有セラレテハナラヌト云フコトニハナラナイノデアリマス、右ノ天皇ニ責ヲ歸シ奉ラヌト云フ感ジハ、天皇ト云フ特定ノ人ニ對シテ我々國民ノ持ツ感情デアリマス、其ノ感情ハ天皇ガ政治ニ關與アラセランナイト云フコトカラ生ズルノデハアリマセヌ、天皇ガ政治ニ關與セラレヌト定ムルコトハ、天皇ヲ政治ニ關シテ意思ヲ活用シ得ナイモノ、即チ政治無能力トスルモノデアリマス、政治ニ付テ或人ガ意思活用シ得ヌトスルノハ、政治ニ關スル限リハ意思ヲ有スル人間ト取扱ハズ、意思ヲ有セザル物ト一般ニ取扱フコトニナルノデアリマス、我々ハ天皇ヲ神ト見奉ツテハナリマセヌガ、併シ又物ト一般ニ見奉ツテハナラナイノデアリマス、人間ト見奉ラナクテハナラナイノデアリマス、人間デアリマスル限リハ、即チ其ノ意思ヲ社會的ニ、天皇ノ場合ニ於キマシテハ國家的ニモ活用セラレル所ノ地位ト云フモノヲ御持チニナラナクテハナラナイノデアリマス、政治ニ關シテ天皇責ヲ歸シ奉ラヌト云フコトハ、天皇モ、普通ノ人間ト同樣ニ、政治ニ付テ意思活用ヲ爲サレルケレドモ、之ガ爲ニ天皇ニ責ヲ歸シ奉ラヌト云フノデナクテハナリマセヌ、ソレガ本當ノ意味ノ責ヲ歸シ奉ラヌト云フコトデアリ、皇室ガ御安泰デアラセラフレルト云フコトデアリマス、故ニ天皇ヲ政治ニ付テ意思活用ヲ爲シ得ザル所ノ政治無能力者トスルト云フノデハ、ソレデハ天皇ニ責ヲ歸シ奉ラヌト云フコトノ、又皇室ノ御安泰デアルト云フコトノ本當ノ意義デハナイノデアリマス、政治ニ付テ責ヲ歸シ奉ラヌヤウニスル爲ニ、天皇ヲ政治ニ關與シ得ザルモノニスルト云フノハ、如何ニモ尤モノヤウニ聞エマスルガ、前述ノ如ク天皇ニ責ヲ歸シ奉ラヌト云フコトヲ誤解スルモノデアリマシテ、謂ハバ子供騙シノヤウナ感ジヲ持ツ説明デアリマスト私ハ信ズルノデアリマス、處デ、今囘ノ帝國憲法改正案デハ、天皇ノ政治的能力ト云フモノヲ殆ド全ク無クシテ居ルノデアリマス、私ハ初ハ天皇ノ政治能力ヲ無クスルコト、其ノコトヲ是トスルト云フ政府ノ意見デアルト思ヒマシテ、贊否ハ別トシテ、ソレモ一種ノ意見デアルト尊重シテ居マシタ、其ノ意見ヲ尊重シテ居リマシタ、然ルニ後、段々ト政府ノ説明ヲ伺ヒマスルト云フト、ソレガ天皇ニ責ヲ歸シ奉ラヌトカ、皇室ノ御安泰ヲ圖ルトカ云フヤウナ爲デアルト云フコトモ伺ツタノデアリマシテ、實ハ其ノ意見、意見ト申シマスルヨリモ、或ハ説明ノ方法、技術ト言ツタガ宜イノデアリマセウカ、其ノ餘リニ表面的ナ言葉デアルコトニ失望致シタノデアリマス、要スルニ天皇ヲ政治無能力トスルコトヲ以テ、天皇ニ責ヲ歸シ奉ラヌコトデアルト誤解シテハナラナイノデアリマス、今囘ノ帝國憲法改正案ニ依リマスレバ、右ノ誤解ガ爲サレテ居ルト存ジマス、反對セザルヲ得マセヌ、第五、天皇無答責ヲ規定スルコトヲ忘レテハナリマセヌ、今囘ノ帝國憲法改正案ニ依リマスレバ、此ノコトガ忘レラレテ居マス、前ニ述べマシタ如ク、天皇ニハ政治ニ付テ責ヲ歸シ奉ラヌ、即チ天皇無答責ト致シマシテ、併シソレニ付テモ、何レカニ責任ノ歸スル所ガナクテハナリマセヌ、現在ノ帝國憲法デハ、勿論國務大臣ガ其ノ責ニ任ズルコトト規定シテ居マス、帝國憲法改正案デハ、天皇ガ國事ニ關スル行爲ヲ爲サレル場合ハ、極メテ少數ニ限ラレテ居ルコトハ前述べマシタ通リデアリマスルガ、第三條ニ於テ、之ニ付テ内閣ガ責ヲ負フト規定シテ居リマス、天皇ノコトニ付テハ何モ言ウテナイノデアリマスルケレドモ、此ノ規定カラ天皇ガ責ヲ負ハセラルヽコトハナイモノト解釋出來ルノデアリマス、處ガ、天皇無答責ト云フコトハ、右ノ如ク天皇ガ政治的生活ヲ爲サル場合ニ付テノミ考ヘルコトデハナイノデアリマス、政治上ノ行動ニ限ラズ、天皇ノ一般ノ行動ニ付テ、國家ハ天皇ノ尊嚴ヲ侵スト社會的ニ考ヘラルヽガ如キ方法ヲ以テシテハ、天皇ニ責ヲ歸シ奉ルコトヲシテハナラヌ、是ガ即チ天皇無答責ノ一般原則デアリマシテ、彼ノ政治ニ付テノ無答責ナルモノハ、右ノ無答責ノ一般原則ノ適用ニ過ギマセヌ、現行ノ帝國憲法ハ第三條ニ「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」トアリマスルガ、即チ此ノ天皇無答責ノ一般原則ヲ規定シタモノデアリマス、是ハ決シテ政治ノミニ付テノ無答責ヲ規定シタモノデハアリマセヌ、唯茲ニ「神聖」ト云フコトハ決シテデスネ、一部ノ人ガ此ノ言葉ノミヲ見テ神祕性トカ何トカ云フヤウナ、サウ云フモノデハ斷ジテナイノデアリマシテ、是ハ詰リ法的意味ヲ持ツタ言葉デアリマシテ、天皇ノ尊嚴ト云フモノハ、天皇ニ相應シク之ヲ保タナクテハナラヌト云フコトヲ言ウタモノデアリマスルガ、此ノ規定ガアリマスルガ故ニ、獨リ政治ニ付テノミナラズ、一般ノ行動ニ付テ、國家ハ天皇ニ對シテ其ノ尊嚴ヲ侵スト認メラルヽヤウナ取扱ヲナシテハナラヌノデアリマス、故ニ例ヘバ天皇ニ如何ナル御行爲ガアラセラレマシテモ、天皇ヲ處罰スルト云フコトハナラヌ、法デハ、斯ウ云フコトヲ國家ガ定メテハナラナイ、當然、又天皇ノ財産ニ付テ差押執行ト云フヤウナコトヲ定メテハナラナイヤウナコトニ今日ハ解釋サレテ居リマス、然ルニ帝國憲法改正案ニ於キマシテハ、現行憲法第三條、無答責ノ一般原則ニ該當スルガ如キ條項ハ全クアリマセヌ、其ノ他ニ天皇無答責ノコトヲ規定シタ條項モアリマセヌ、デアリマスルカラ、此ノ改正案ヲ、マア正直ニ解釋致シマスレバ、將來法律ヲ設ケテ、右述ベマシタヤウニ天皇ニ制裁ヲ科スルトカ、或ハ其ノ御財産ニ差押執行ヲ爲スト云フ如キ規定ヲ設ケマシテモ、是ハドウモ正當ナル解釋デハ、憲法改正案ノ違反トハ言ヘナイ、許サレルコトニナラザルヲ得ナイト思ヒマスガ、今日我々ハサウ云フ規定ガナクトモ、サウ云フコトハ實際ニアルコトデハナイト云フヤウナコトハ、法律ヲ立テル場合ニ言フベキ議論デハアリマセヌ、法律ハ其ノ現代ノミニ止ラズ、將來ドンナ人間ガ、出テ來ルトモ分ラナイ、サウシテ即チ此ノ憲法ノ不備ヲ本ト致シマシテ、天皇ニ責任ヲ科シ奉ルヤウナ法律ヲ作ラムト心組ム者ガナイトモ限ラナイノデアリマス、サウ云フ風ナ、即チ長イ間ノ國家生活ト云フモノヲ想定シテ、サウシテ法ヲ作ルノガ、殊ニ憲法ニ於テ必要ナコトデアリマス、尤モ此ノコトニ付キマシテ私ガ質問致シマシタ時ニ、政府ガ恐ラク初カラ御考ニナツテ居ツタカドウカ知リマセヌガ、ソレガ第一條ノ天皇ガ國家ノ象徴デアルト云フコトカラ生ズルコトダト仰シヤツタノデアリマスガ、是ハ少シク苦シイ説明デアルト思フノデアリマス、併シ意見ノ相違デアリマスルカラ、述ベテモ仕樣ガアリマセヌ、唯、此處デ私ハ國家ノ象徴ト云フコト、其ノコトニ付テ御尋ネシタ時ニ、ソレハ象徴ト云フコトハ法的‥‥‥ソレ自身ニハ法的意味ハナイト、私ノ質疑ニ對シテ御答ガアリマシタ、ソレハサウデアリマス、其ノ法的ノ意味ノナイ國家ノ象徴ト云フコトカラ、天皇ノ無答責ト云フヤウナ重大ナル法的效果ヲ、法ノ規定ガナクシテ當然ニ生ズルト云フコトハ、少シク牽強附會ノ解釋デアルト私ハ思フノデアリマス、況シテ帝國憲法ニハ明カニ其ノ規定ガアルノデアリマス、其ノ帝國憲法ノ明カニ定メテ居リマスル所ノ規定ヲ何故ニ特ニ廢シテシマツテ、サウシテ、サウ云フ所謂解釋ニ任スト云フヤウナコトヲスルノデアリマスルカ、私ハドウモ其ノ理由ガ分リマセヌ、ソレデ此處ニハ又反對セザルヲ得ナイノデアリマス、第六、天皇ヲ媒介トスル三權分立ノ機關ノ心理的歸一ト云フコトニ注意スベキデアリマスガ、帝國憲法改正案ニ依リマスレバ、右ノコトガ注意サレテ居リマセヌ、帝國憲法ニ於キマシテハ、皆サン御存ジノ通リニ、國家ノ立法權ヲ行ヒマス所ノ立法機關、司法權ヲ行ヒマス所ノ司法機關及ビ行政權ヲ行ヒマス所ノ行政機關ガ各々其ノ職分ヲ行フノデアリマスルガ、併シナガラ其ノ機關ノ職分ト關聯シテ居ルモノト考ヘラレテ居ルノデアリマス、立法機關ハ天皇ガ立法ヲ行ハセラレル所ノ職分ヲ輔翼シ、之ニ參與スルノデアリマス、司法機關ハ天皇ガ司法作用ヲ行ハセラレル職分ニ代ツテ司法作用ヲ行フノデアリ、行政機關ハ天皇ノ委任ヲ受ケテ行政作用ヲ行フノデアリマス、之ヲ他ノ通俗ノ言葉デ申シマスナラバ、皆天皇ヨリ委託ヲ受ケテ、其ノ職分ヲ行フノデアリマス、其ノ行フ作用ハ相異リ、其ノ行フ態度ハ相異ツテ居リマスケレドモ、之ヲ行フ機關タルモノハ皆天皇ノ委託ヲ受ケテ居ルト云フ其ノ觀念ニ基イテ、而シテ天皇ニ對スル責任ヲ感ジテ居ルノデアリマス、立法府タル帝國議會ヤ、司法府タル裁判所ヤ或行政府ハ、其ノ職務ノ執行ニ於テハ天皇ノ指揮ヲ受クルコトナク、天皇ニ對シテ獨立シテ居ルノデアリマスルケレドモ、ソレハサウ云フ天皇ニ對シテモ獨立スルト云フ態度ヲ以テ其ノ職分ヲ盡スベキコトヲ天皇カラ委託サレテ居ルノデアリマス、ソレデ皆天皇ニ對シテ責任ヲ感ジテ居ルノデアリマス、議會ニ對スル責任ヲ感ジテ居ルコトハ勿論デアリマス、ソコデ是等ノ機關ハ皆天皇ノ委託ヲ無ニシナイヤウニト責任ヲ感ジテ居ルノデアリマス、同時ニ立法機關、司法機關及ビ行政機關相互ノ間ニ於キマシテモ、皆等シク天皇ノ委託ヲ受ケテ天皇ニ對シテ責任ヲ有スルモノデアルト云フ點ニ於テ、自ラ心理的歸一ノ觀念ヲ生ジテ居ルノデアリマス、此ノ心理的歸一ノ觀念ハ、必ズシモ意識サレテ居ルノデハアリマセヌケレドモ、意識サレテ居ナイトシテモ、是等ノ諸機關ノ心ノ底ニソレガアルコトハ疑ヒアリマセヌ、即チ天皇ヲ媒介トシテ存スル所ノ國家三權ノ機關ノ心理的歸一ハ是デアリマス、是ガ實ニ、我ガ國ノ三權分立制度ニ於テ特ニ注意スベキ點ナノデアリマス、現今、立憲國ハ皆三權分立ノ主義ヲ採ツテ居ルノデアリマスルガ、其ノ主義實現ノ方法ハ決シテ一樣デナク皆異ツテ居リマス、其ノ異ツテ居ル點ハ、制度其ノモノニ於テモ存スルノデアリマスルガ、ソレヨリモ重大ナコトハ、制度ニ伴フ機關ノ心理ノ相違デアリマス、右ノ天皇ヲ媒介トスル三權機關ノ心理的歸一ト云フコトハ、外國ノ三權分立ノ制度ニ於テハ斷ジテ見ラレナイ所デアル、是ガ即チ我ガ國ノ三權分立制度ヲ心理的方面カラ見々特色ノ一ツデアルノデアリマス、帝國憲法改正案ニ依リマスレバ、天皇ハ前述ノ如ク政治ニ關與サレナイト云フ一般的地位ガ規定サレテ居ルノミナラズ、立法、司法及ビ行政ヨリ排除サレルモノデアルト云フコトガ、各作用ニ關スル規定ニ於テ特ニ明ラカトナツテ居ルノデアリマス、即チ立法權ハ國會ヲ唯一ノ機關トスル所デアリマス、天皇ハ現行ノ憲法ノヤウニ裁可ノ權ヲ有セラレザルハ勿論、拒否ノ權ヲモ有セラレテ居リマセヌ、積極的ニモ消極的ニモ立法ノ作用ヨリ除外サレテ居ラレルノデアリマス、又司法權ハ裁判所ニ屬シマス、是レ改正案、第七十六條ノ規定スル所デアリマス、即チ裁判所ガ司法權ヲ行ヒマスルコトハ、現行ノ帝國憲法ノ下デモ同樣デアリマスルケレドモ、併シナガラ現行憲法ノ下ニ於キマシテハ、裁判所ハ天皇ノ名ニ於テ之ヲ行フノデアリマス、デアリマスルカラ、其ノ本質ニ於キマシテハ天皇ノ職分ニ屬スルモノト考ヘラルヽモノヲ、ソレガ裁判所ニ委託サレテ、裁判所ニ依ツテ行ハレテ居ルト云フコトニ相成ルノデアリマス、處ガ、帝國憲法改正案ニ依リマスレバ、初ヨリ天皇ヲ司法ノ作用ヨリ除外シテ居リマス、是ハ非常ナル相違デハアリマセヌカ、唯裁判所ガ行フト云フ國家作用行使ノ現象的同一ナルヲ見テ、兩者ノ本質上ノ差異ヲ見落シテハナラナイノデアリマス、又行政權ハ内閣ニ屬シマス、是レ改正案、第六十五條ノ規定スル所デアリマス、是モ現行憲法ト大ナル差異デアリマス、現行憲法ノ下ニ於キマシテハ、行政權ハ天皇ニ屬スルノデアル、行政機關ハ天皇ノ委任ニ依ツテ之ヲ行フト云フノガ大體ノ本則デアリマス、帝國憲法改正案ニ於キマシテハ、行政權ハ初ヨリ天皇ニ屬シナイト云フノガ本則デアルノデアリマス、從ツテ天皇ハ特ニ憲法ガ天皇ノ行ハセラルヽモノト定メタ極メテ少數ノ場合ノ外ハ、行政權ト云フモノヲ行ハセラルヽコトハアリマセヌ、即チ本則トシテ天皇ヲ行政ノ作用ヨリ除外シテ居リマス、是モ形ノ上デハ行政機關ガ行フト云フコトノ現象的ノ同一性ガアリマスルケレドモ、其ノ本質ニ於テハ全然差異ガアルト云フコトヲ忘レテハナリマセヌ、之ニ依ツテ見マスレバ、國家ノ作用ヲ行フ三權ノ機關ガ天皇ヨリ委託ヲ受ケテ、天皇ニ對シテ責任ヲ感ジテ其ノ職分ヲ盡スト云フコト、及ビ天皇ヲ媒介シテ存スル心理的歸一ト云フコトハ、今日迄ノ如クニハ憲法改正案ノ下ニ於テハ期待シ得ナイト案ズルノデアリマス、尤モ帝國憲法改正案ニ依リマスレバ、國會ガ國權ノ最高機關デアリマスルカラ、ソレハ恰モ現行憲法ニ於ケル天皇ト同ジク、事務的ニハ國會ヲ媒介トシテ諸機關ノ歸一ガ形式的ニ保タレルノデアリマス、併シ茲ニ問題トシテ居リマスルノハ、ソンナ事務的ノ形式上ノコトヲ言フノデハナイノデアリマシテ、行動ニ於ケル心理上ノコトヲ言フノデアリマス、天皇ヲ媒介トシテ諸機關ノ心理的歸一ト云フコトハ、實ニ我ガ國ノ今日ノ三權分立ノ制度ノ下ニ於テ最モ注意スベキコトデアリマスガ、帝國憲法改正案ニ依レバ、此ノコトガ注意サレテ居リマセヌ、反對セザルヲ得マセヌ、第七、「ポツダム」宣言ノ趣旨ヲ誤解シテ、之ニ依リ我ガ國ガ君主國ヨリ民主國ニ轉ジタモノト思ヒ、又サウ轉ジナクテハナラナイモノトナツタト思ツテハナリマセヌ、憲法改正案ニ依リマスレバ、右ノ誤解ヲ基礎トシテ居ルト思ハレル節ガアルノデアリマス、尤モ之ニ付キマシテハ、私ハ本會議ニ於テ私ノ質問ノ場合ニ一言致シマシタケレドモ、事ハ極メテ重大デアリ、又其ノ當時ハ明カニシテ居ナイ點モアリマスルカラ、御許シヲ得テ茲ニ再ビ申述ベタイト思フノデアリマス、我ガ國ガ受諾シタ「ポツダム」宣言ノ條項ヲ忠實ニ實施スルノ義務ヲ有スルコトハ言フ迄モアリマセヌ、同宣言ハ第十項ニ於テ、日本國政府ハ日本國人ノ間ニ「デモクラチック」傾向ノ復活強化スルコトニ對スル一切ノ障害ヲ除去スベキデアルト聲明シテ居リマス、又第十二項ニ於テ、是等ノ目的ガ達成セラレ、且、自由ニ表明サレタ日本國人ノ意思ニ合致シテ平和的傾向ノ、又責任アル政府ガ樹立セラルヽ時ハ、直チニ聯合國ノ占領軍ハ日本國ヨリ撤収セラルベキデアルト聲明シテ居リマス、之ニ依リ我々ハ次ノ義務ヲ負ウテ居リマス、其ノ義務ノ一トシテハ、我ガ國ニ於テ、今後、我ガ國ノ社會生活一般ニ於テ、「デモクラチック」ノ傾向ガ復活強化セラレナクテハナラヌ、「デモクラチック」ト云フノハ、社會生活ニ於テ皆ガ共ニ其ノ意思ニ依ツテ其ノ態度ヲ定メル、所謂共意主義トデモ言フベキコトデアリマス、又其ノ義務ノ二トシテ、我ガ國ニ於テ我々日本國人ガ自由ニ表明シタ意思ニ合致シタ平和的傾向ノ、又責任アル政府ガ樹立セラレナクテハナリマセヌ、是ハ我々ノ社會生活ノ仕方ヲ定メル根本的態度ニ關スルコトデアリマス、以上ノコトハ‥‥右ノ前ノモノハ、一般ニ我々ノ社會生活ノ仕方ノコトデアリマシテ、獨リ政治生活ノ仕方ノミニ關スルコトデハアリマセヌ、其ノ事ガ特ニ政治生活ノ面ニ現レテ、右申シマシタ中ノ後ノモノトナルノデアリマス、此處デハ此ノ後ノモノノコトヲ問題トスルノデアリマス、之ニ依リマスルト云フト、我ガ國ニ於テ平和的傾向ヲ有シ、又責任アル政府ガ樹立セラレナクテハナラヌノデアリマスルガ、サウ云フ政府ハ我々日本國人ガ自由ニ表明シタル意思ニ合致スルモノデナクテハナラヌノデアリマス、是ハ「ポツダム」宣言ハ、我ガ國ノ政府ガ平和的傾向ヲ有スルモノデナクテハナラヌシ、又責任アルモノデナケレバナラヌトスルト共ニ、其ノ政府ガ日本國人自身ノ意思ニ合致シテ樹立サルベキモノデアルトスルノデアリマス、換言致シマスレバ、平和的傾向ヲ有シ、又責任アル政府ノ樹立サレル方法ハ、我我日本國人自身ノ意思ニ依ツテ定メラルベキモノダトシテ居ルノデアリマス、實ニ我々日本國人ノ自律的ノ努力ヲ要求シテ居ルノデアリマス、茲ニ日本國人ト申シマスルノハ、イツカモ申上ゲマシタヤウニ、「ジャパニーズ・ピープル」ト云フノデアリマスガ、此ノ「ジャパニーズ・ピープル」ト云フノハ、或一部ノ人ノ誤解シテ居ルガ如ク、君主ト對象ノ意味ニ於テ國人ト言フノヂヤナイ、日本國ヲ構成シテ居ル所ノ人間、君主トカ國民トカ云フコトヲ見タモノデハナイ、ソレ故ニ之ヲ日本國民ト譯スノハイケナイノデアリマシテ、日本國人デアリマスルガ、サウ云フ意味ニ解釋シナクテハナラヌシ、此ノ事ハ「ポツダム」宣言ノ條項自身ノ解釋カラモ出テ來マスルト共ニ、終戰ニ當リマシテ、我ガ國ト聯合國トノ間ニ交渉サレマシタ所ノ、其ノ外交ノ文書カラモ出テ來ルノデアリマスルケレドモ、ソレヲ詳シク申上ゲルコトハ止メテ置クノデアリマス、要スルニ、即チ我々日本國自身ノ意思ニ依ツテ、決シテ日本國ノ君主ニ對スル國民ト云フヤウナモノデハナイ、日本國ヲ構成シテ居ル日本國人ノ意思ニ依リ、サウ云フ即チ民主主義的ナ政府體制ヲ作ラナケレバナラヌト云フコトニ相成ツテ居ルノデアリマス、デアリマスルカラ若シ「ポツダム」宣言ト云フモノノ受諾ノ義務ト云フヤウナコトカラ何カ、我ガ國ガ即ニ君主國カラ民主國ニ轉ジタモノデアルト考ヘ、或ハ又必ズ君主國ヨリ民主國ニ轉ジナクテハナラナイモノト考ヘルナラバ、ソレハ非常ナル誤解デアルト思フノデアリマス、此ノコトハ、私ハ此處ニ於キマシテモ、又委員會ニ於キマシテモ、政府ノ御方ニ御尋ネ致シマシテ、「ジャパニーズ・ピープル」ト云フノハ、私ノ申上ゲマシタ如ク君主トノ對象ニ於ケル國民ト云フ意味デハナイ、私ノ言葉ヲ許スナラバ、日本國人ト云フヤウナ意味デアルト云フコトニ御同意ヲ得テ居ルノデアリマス、ソレデ是ハ第七デアリマス、第八、我ガ國ノ政治的基本性格タル國體ノ變更ハ、延イテ結局精神的、倫理的方面ヨリ見タル國柄、即チ別ノ意味ノ國體ノ變更ヲ來ス危險ガアルト云フコトヲ忘レテハナリマセヌ、帝國憲法改正案ニ依レバ、是ガ忘レラレテ居リマス、帝國憲法ノ改正案ニ依リマスルナラバ、萬世一系ノ天皇ガ、萬世一系タルノ故ニ統治權ヲ總攬セラレルト云フ事實ヲ變更スルノデアリマシテ、其ノ事實ヲ國體ト呼ブト云フ意味ニ於テハ、國體ノ變更ヲ來スモノデアルト云フコトハ私共ガ申ス所デアリマスルノミナラズ、是ハ政府モ先達テサウ云フ意味ニ御認ニ相成リマシタ、サウ云フ意味ニ於テハ國體ノ變更ガアルト云フコトハ御認ニナツタノデアリマスガ、處デ、國體ト云フ言葉ハ又別ノ意味ニモ用ヒラレ來ツテ居ルノデアリマス、詳シク申上ゲルコトハ、遠慮致シマシテ、一口ニ申シマスレバ、精神的倫理的ノ方面ヨリ見テ、我ガ國ノ國柄ト、斯ウ云フ意味モアルノデアリマス、前ノ意味ノ國體ト云フ事實ハ、是ハ政治ノ樣式ヨリ見タ我ガ國ノ國柄デアリマス、斯ウ云フ風ニ「國體」ト我々ガ言葉デ呼ンデ居リマスルモノニ、右ノ二ツノ事實ノ區別ノアルコトハ明カニシテ置カナクテハ問題ノ混雜ヲ來スノデアリマス、此ノ頃國體ニ關スル色々ナ議論ガアル中ニ、恐ラク此ノ二ツノコトヲハツキリト區別セズニ其ノ議論ヲ出發セシメテ居ルコトガ混雜ヲ來シタ原因ノ主ナルモノデアルカト私ハ思フノデアリマス、ソコデ政府ノ御方ハ、右ノ中ノ政治ノ樣式ヨリ見タ國體ハ憲法改正案ニ依ツテ變更ハシタ、成ル程サウデアルガ、精神的、倫理的ノ方面ヨリ見タ國體ハ變更シナイト申サレテ居ルノデアリマス、元來初メカラ問題トシテ居ルノハ政治ノ樣式ヨリ見タ國柄、即チ前ノ意味ノ國體ノコトデアリマスルガ、其ノコトハ變ツタト仰シヤルノデアリマスカラ、ソレハ暫ク別ト致シマシテ、次ニ更ニ進ミマシテ、然ラバ、所謂精神的、倫理的ノ方面ヨリ見タ國體ナルモノガ、政治ノ樣式ヨリ見タ國體ノ變更ニ依ツテ何等影響ヲ受ケナイノデアルカドウカト云フ問題デアリマス、凡ソ國家ヲ成シテ居リマスル所ノ人間ノ社會ニ於テ、其ノ精神的、倫理的ノ状態ガ政治ノ樣式ト密接不可分離ノ關係ノアルモノデアルコトハ言フ迄モアリマセヌ、殊ニ我ガ國ニ於キマシテハ、萬世一系ノ天皇ガ統治權ヲ總攬セラレテ居リ、而モソレガ一ニ民意ヲ尊重セラレ、又政治ノ責任ニ歸著スル所ヲ明カニスルト云フコトヲ重ンゼラレテ居ルト云フ、サウ云フ事實ガ我々社會生活ニ於ケル精神的ナ作用、倫理的ナ作用ニ非常ニ大ナル影響ヲ與ヘテ居ルト云フコトハ何人モ否ムコトハ出來ナイノデアリマス、影響ヲ與ヘテ居ルト申シマスヨリモ、我ガ國ノ精神的、倫理的ノ方面ヨリ見タル國柄、即チ別ノ意味ノ國體ト言ヒマスルモノニ於テモ、其ノ要素其ノモノノ中ニ萬世一系ノ天皇ガ統治權ヲ總攬セラレテ居ルト云フコトヲ重ンズル觀念ガ含マレテ居ルト思フノデアリマス、影響ドコロヂヤナイ、精神的、倫理的ノ意味ノ國體ト云フ觀念ノ要素ノ一ツトナツテ居ルノデアリマス、デアリマスルカラ、萬世一系ノ天皇ガ統治權ヲ總攬セラレルト云フ國柄ガ變更シマスレバ、精神的、倫理的方面ヨリ見タ國柄モ變更セザルヲ得マセヌ、前ノ意味ノ國體ガ變更スルノハ、後ノ意味ノ國體ノ變更ニ影響ヲ與ヘズシテハ置カナイノデアリマス、ソレハ決シテ國體ト云フ言葉ノ意義ヂヤナイノデアリマス、其ノ言葉ノ示ス事實ノ問題デアルノデアリマス、政府ノ説明セラレル所ニ依リマスレバ、今囘ノ帝國憲法改正ニ依ツテ即チ國體ガ變更シタトスルモ、精神的、倫理的ノ方面ノ事實タル國體、チヨツト御斷リ致シマスガ、精神的、倫理的方面ト云フ言葉ヲ御使ヒニナツタカドウカハ覺エテ居リマセヌガ、實質的ニハサウ云フ意味ノ國體ハ變更スルモノデナイト仰シヤイマシタケレドモ、私ハ茲ニサウ云フ方面カラ見タ國體ヲ變更スル危險ガアルト云フコトヲ今言フノデアリマス、此ノコトガ今囘ノ國體論ニ於テ忘レラレテ居リマス、又別々ノモノトシテ引離シテ居ル、我々ノ社會生活ハ、ソンナ觀念的ニ、概念トシテ區別シ得ルヤウナ、サウ云フモノヂヤアリマセヌ、實際的ニハ皆關聯シ一體トナツテ居ルノデアリマス、故ニ此ノ政治樣式カラ見タ所ノ國體ト云フ事實ガ變リマスルナラバ、精神的、倫理的方面カラ見タ國體ト云フ事實ニモ、今ハサウデナクテモ何時カハ自ラ影響ヲ與ヘルト云フ危險ガアルコトハ十分アルダラウト思フノデアリマスガ、今囘ノ改正案ニ於キマシテハ、此ノ點ガ忘レラレテ居ルト思フノデアリマス、反對セザルヲ得マセヌ、第九、我ガ國ノ今後ノ平和主義的、道義的ノ使命ハ、我ガ國家ノ個性ヲ基礎トスル活動ニ依ラナクテハ、之ヲ達成スルコトハ出來ナイト云フ點ガ注意サレナクテハナリマセヌ、帝國憲法改正案ニ依レバ、右ノ注意ガ不十分デアルト思フノデアリマス、我ガ國家ハ、今後國内生活ニ於キマシテモ、國際生活ニ於キマシテモ、平和主義的、道義的國家トシテ、人間社會ノ平和、道義ヲ實現スルコトヲ使命トスルノデアリマスルガ、其ノ使命ヲ逹成スルニハ、我ガ國家ノ個性ニ基礎ヲ置イテ、ソシテ活動スルノデナクテハ、到底有效ナル結果ヲ齎スコトハ出來ナイノデアリマス、固ヨリ人間ハ、總テノ社會ノ人間ガ普遍的ナ性質ヲ持ツテ居ルコトハ言フ迄モアリマセヌケレドモ、今日斯クノ如ク幾多ノ國家ガ相分レテ、各々其ノ國家群トシテ社會生活ヲナシテ居リマスル以上ハ、其ノ活動ノ樣式ニ於キマシテモ、必ズ其ノ國家々々ニ存在シテ居リマスル所ノ個性ニ基礎ヲ置カズシテハ、其ノ活動ハ結局無效ニ終ルト思フノデアリマス、此ノコトニ付キマシテハ、モウ時間モアリマセヌカラ詳シク申上ゲルコトハ止メテ置キマス、此ノコトハ唯、我ガ國ノ國内生活ノミデナク、國際生活ニ付テ特ニ感ズルノデアリマス、ソレデ世界ノ人間ハ、皆一樣ニ平等的、道義的ノ社會生活ノ實現ニ努力シナクチヤナラヌノデアリマスルケレドモ、併シナガラ其ノ努力ハ、各國家々々ニ特別ナル所ノ個性ニ相應シキモノデナクテハ、到底其ノ効果ヲ挙ゲルコトハ出來ナイト思フノデアリマス、將來我ガ國ガ從來ノ誤レル所ノ國際的態度ヲ改メテ、大イニ世界ト相提携シマシテ、平和的道義ヲ實現スルト云フコトハ當然ノコトデアリマスルガ、ソレデアレバアル程、我ガ國ノ活動ノ状況ヲ、我ガ國ノ個性ニ適合シタモノトセナクテハナラナイト考ヘルノデアリマス、此ノ點ニ於キマシテ、帝國憲法改正案デハ、少シク其ノ用意ガ不十分デアルカト思フノデアリマス、反對セザルヲ得マセヌ、第十、帝國憲法ノ改正案ノ個々ノ條項ノ可、不可ト云フコトハ、ソレ自身デハ、私ノ判斷スル立場ニ於キマシテハ、帝國憲法改正案ヲ一體トシテ見テ其ノ可、不可ヲ決定スルノ材料トハナリマセヌ、帝國憲法改正案ノ條項ヲ個々ノモノトシテ見マスル時ハ、可ナルモノモ不可ナルモノモ色々アリマス、私ノ大イニ贊成スルモノモ決シテ少クハアリマセヌ、併シナガラ何レニ致シマシテモ、今囘ノ如キ改正案ニ對スル判斷ト致シマシテハ、之ヲ全體トシテ、一體トシテ見テ、其ノ可否ヲ決定シナクテハ、ナラヌト私ハ思フノデアリマスルカラ、私ガ今囘ノ改正案中、可トスルモノガアル、從ツテ其ノ點ニ於テハ贊成スルモノガアリマシテモ、而モ全體トシテ其ノ改正案ヲ不可トスルノハ已ムヲ得ナイ、斯ウ云フ意向デアリマス、其ノ理由ハ、前刻來申上ゲタ通リデアリマス、最後ニ感想ニ付テ一言スルコトヲ許シテ戴キタイト思フノデアリマス、以上、私ハ今囘ノ憲法改正案ヲ不可トスルノ意見ヲ述べマシタ、憲法ハ言フ迄モナク、國家ノ根本法デアリマスルカラ、一度ソレガ成立シマシタ以上ハ、ソレガ正當ナル批判ヲ受ケ得ルコトノ差支ナイコトハ勿論デアルノデアリマス、併シソレガ所定ノ手續ニ依ル改正ヲ經ナイ限リハ、兎ニ角實際ノ行動ニ於テハ、今囘ノ改正案ヲ遵奉シテ、之ヲ我々ノ行動ノ準則トセナクテハナリマセヌ、デアリマスルカラ、ソレガ成立スルニ至ル迄ハ、我々ハ眞劍ニ其ノ可、不可ヲ研究シナクテハナラナイノデアリマス、殊ニ曩ニ司令部ノ方面カラ聲明セラレタル所ニ依リマスレバ、我々國民ハ今囘ノ改正案ニ付テ忌憚ナキ意見ヲ公表スルコトヲ許サレテ居ル、許サレテ居ルドコロヂヤナク、求メラレテ居ルノデアリマス、若シソレニモ拘ラズ、我々ガ今日反對ノ意見ヲ持チナガラ、之ヲ公表シマセヌナラバ、或ハ恐ル、此ノ司令部ナリ、或ハ聯合國、更ニ進ンデハ世界一般ガ、此ノ憲法ニハ、日本國民ガ總テ反對デナイノダ、總テ贊成シテ居ルノダ、反對ノ者ハ一人モ居ナイト云フ風ニ解釋サレテモ致シ方ガアリマセヌ、其ノコトハ唯理論的ニ致シ方ガナイト云フノデハナイ、是ハ實ニ我ガ國ノ將來ノ國際的活動ノ上ニ於テ、非常ニ重大ナル意味ノアルコトト思フノデアリマス、故ニ私ハ此ノ點カラ致シマシテモ、苟モ反對ノ意見ヲ持ツテ居ル者ハ、ハツキリト公ノ壇上ニ於テ反對ノ意見ヲ表白シテ置クコトガ實ニ我ガ國家ノ國際的ノ將來ノ發展ニ非常ニ有益ナコトト考ヘルノデアリマス、（拍手）今囘ノ帝國憲法改正案ガ成立致シマスナラバ、今日マダ我々ガ持ツテ居リマスル所ノ帝國憲法ト云フ法典ハ、實質上消滅ニ歸スルモノデアリマス、帝國憲法ト云フ名モ消滅致シマス、新タニ日本國憲法ト云フ名ヲ以テ發布セラルルノデアリマス、又國家ノ公ノ名タル國號モ、大日本帝國デハナクナリマシテ、日本國トナルノデアリマス、今囘ノ帝國憲法改正案ハ、帝國憲法廢止ノ名ヲ捨テテ、其ノ實ヲ取ツタモノデアリマス、帝國憲法ハ皆サンノ御存ジノ通リニ、明治天皇ガ長年月ニ亙リ、我ガ國ノ歴史ニ徴シ、外國ノ制度ノ理論ト實際トヲ調査セシメ給ヒ、其ノ結果ニ付、御裁定ニナツタモノデアリマス、其ノ根本ハ、政治ヲ民意ト合致シテ行ヒ、又國民ノ自由ヲ尊重シテ政治ヲ行フト云フ原理ニ立ツテ居ルノデアリマス、加之、明治天皇ハ憲法制定ノ事務ヲ御考ニナツタノミデナク、御一個トシテ、明治維新以來夙ニ民意政治ヲ原理トスルノ必要ヲ思ハセラレマシテ、サウシテ其ノ御教養ノ爲ニ、或ハ我ガ國ノ學者ヲ招イテ外國ノ書ヲ講ゼシメ給ヒ、或ハ或侍臣ヲ「イギリス」ニ派遣セラレマシテ、其ノ制度ヲ研究セシメ給ウタノデアリマス、又嘗テ「アメリカ」ノ第十八代大統領「グラント」將軍ガ職ヲ退イテ、世界ノ旅行ニ上ラレ、我ガ國ニ寄港セラルヽヤ、明治天皇ハ特ニ國賓ノ禮ヲ以テ之ヲ迎ヘ給ヒ、所謂聖主英雄會見ノ場面ト稱セラレテ居ルノデアリマスルガ、其ノ際「グラント」將軍ヨリ、我ガ國憲法制定ノ方針ノ大本ニ付テ、言葉短クデハアリマスルケレドモ、進言スル所ガアツタト傳ヘラレテ居ルノデアリマス、又後ニ有栖川宮殿下ニ國憲制定ノ命ヲ下サレマシタ時ニモ、參考ニシロトテ、先刻申上ゲマシタ、「イギリス」ニ派遣セラレタ一侍臣ガ、「イギリス」ヨリ御土産ニト持ツテ歸ラレマシタ所ノ所謂「トッド」氏ノ「バーリアメント・ガヴァメント」、議會政治ト題スル所ノ書物ヲ有栖川宮殿下ニ參考ニシロトテ御下賜ニナツタト傳ヘラレテ居リマス、明治天皇ガ唯政治的ノ事務トシテ帝國憲法ノ制定ノコトニ御盡瘁アラセラレタノミデナク、其ノ御準備トシテ、或ハ又御一個ノ御修養トシテ、如何ニ民意政治、立憲政治ノコトニ御軫念アラセラレタカト云フコトハ、實ニ拜察スルニ餘リアルノデアリマス、獨リ歐洲大陸流ノ思想ノミナラズ、英米流ノ思想ヲモ御研究ニナツタコトハ、是デ明カデアリマセウ、而モ我ガ國ノ個性ノ守ルベキモノハ之ヲ守ラレ、捨ツベキモノハ屑ヨク之ヲ捨テラレテ居ルノデアリマス、傳フル所ニ依リマスレバ、前ニ申シマシタ「アメリカ」ノ「グラント」將軍ハ、明治天皇ト會見ノ際、明治天皇ニ對シ奉リ、日本ニモ軈テ憲法ヲ制定セラルヽコトデアラウト考ヘルノデアリマスルガ、日本ノ憲法ハ、日本ノ歴史習慣ヲ基礎トシテ制定セラルヽコトガ望マシイト申上ゲタノデ、明治天皇モ御喜ビニナツタト云フコトガ我々ニ教ヘラレテ居ルノデアリマス、斯クノ如キコトヲ長々ト申上ゲルト云フト限リガアリマセヌケレドモ、モウ一ツ申上ゲナクテハ氣ノ濟マヌコトガアルノデアリマス、帝國憲法ノ草案ガ成リマシテ、樞密院ノ議ニ付セラレ、連日親臨、審議セラレタノデアリマスルガ、或日宮内省ノ者ガ、當時議長デアリマシタ所ノ伊藤博文ノ所ニ來リ、何事カ述ベマシタ、伊藤議長ハ天皇ノ前ニ罷リ出マシテ、何事カ申上ゲマシタ、ケレドモ、天皇ハ其ノ儘審議ヲ進メラレマシタ、聞ク所ニ依リマスルト云フト、當日一皇子ノ御不幸ノコトガアツタノデ、宮内省ヨリ伊藤議長ニ通知シ來リ、伊藤議長ハ天皇ニ此ノコトヲ申上ゲテ、御退座ヲ御願ヒ申上ゲマシタガ、天皇ハ之ヲ却ケサセラレ、當時審議中デアリマシタ所ノ或條項ノ審議ガ終ツテカラ初メテ御退座ニナツタト云フコトデアリマス、之ヲ聞イテ、我々ハ果シテ如何ナル感ヲ懐クデアリマセウカ、加之、我々ノ父祖タル先覺國民ガ、此ノ明治帝國憲法ノ制定ヲ冀フ時ニ、當路ノ忌諱ニ觸レマシテ、或ハ獄ニ投ゼラレ、或ハ財産ヲ抛チ、或ハ時ニ生命ヲ抛ツタ者ガ實ニ枚擧ニ遑ガナイノデアリマス、斯クノ如ク、上ニ聖天子アリ、下ニ愛國先覺ノ國民アリ、又事務的ニ精勵ノ當局アリ、斯クノ如ク上下一致シテ長年月ノ努力ノ結果、漸クニシテ成立シマシタル所ノ帝國憲法ガ、其ノ發布以來今日ニ至ル迄幾十年、是ガ如何ニ大イニ我ガ國ノ國家ノ發展、我ガ社會ノ進歩ニ役立ツタカハ、茲ニ喋々スル迄モアリマセヌ、其ノ憲法ガ今一朝ニシテ勿勿ノ間ニ消滅ノ運命ニ曝サレテ居ルノデアリマス、實ニ感慨無量デアルノデアリマス、飜ツテ思ヒマスレバ、現内閣ガ前内閣ノ志ヲ繼ガレテ、今囘ノ帝國憲法改正案ヲ帝國議會ニ提出セラレテヨリ今日ニ至ル迄、或ハ説明ニ、或ハ其ノ維持ノ爲ニ、多大ノ努力ヲ拂ハレタコトハ、私ノ衷心、敬意ヲ表スル所デアリマス、固ヨリ私ハ此ノ案ニ反對スル者デアリマスルケレドモ、此ノ諸公ノ苦衷ノ存スル所ハ能ク分ツテ居リマス、衆議院ニ於キマシテハ先ニ可決致シマシタ、我ガ貴族院ニ於テモ久シク審議ヲ致シ、今將ニ其ノ議決ニ至ラムトシテ居ルノデアリマス、斯カル憲法案ト云フガ如キモノニ付キマシテハ、出來ルナラバ、一人ノ不可トスル者ノ存在セザルコトガ勿論望マシイノデアリマス、私モ固ヨリサウ云フコトハ分ツテ居ル、内閣ノ諸公、我ガ貴族院ノ議員諸君モ同樣デアラウト思フノデアリマスルガ、併シナガラ私ハ前ニ述べマシタ所ノ意見ニ依リマシテ反對ノ意ヲ此處デ表明セザルヲ得ナイコトニ相成ツタノデアリマス、實ハ誠ニ苦痛ノ至リデアリマス、若シ之ガ爲ニ我ガ貴族院ノ同僚諸君ノ御氣持ヲ損フヤウナコトガアリマシタナラバ、私ハ唯々、諸君ニ向ツテ私ノ頑愚ナルヲ笑ツテ御許シ下サレムコトヲ御願ヒスルノデアリマス、斯カル強ク、又弱キ思ヒヲ懐キナガラ、私ハ今此ノ壇ヲ降ルノデアリマス（拍手起ル）
○議長（公爵徳川家正君）　松村眞一郎君
　〔松村眞一郎君登壇〕
○松村眞一郎君　私ハ本案ニ贊成スル者デアリマス、大日本帝國憲法ハ全部改正セラレテ、新タニ日本國憲法ガ生マレムトスルノデアリマス、何故ニ憲法ヲ改正スルノ必要ガアルノデアルカ、我等國民ハ心ニ之ヲ問ヒ、大日本帝國憲法ト本法案トヲ心ヲ以テ讀ミ、本法案ノ成立ヲ可トスベキヤ否ヤヲ我我各自ハ各自ノ心ニ懷ク所ノ法理ニ依リテ判斷セナケレバナラナイノデアリマス、私ガ本法案ニ對スル贊否ヲ決スルガ爲ニ準據スル素朴、未熟ナル法理トシテ私ノ心ニ懷ク所ノモノハ、是ヨリ陳述スル通リノモノデアリマス、凡ソ國體ナルモノハ國ノ存在ト共ニ定ツテ居ルノデアリマス、國在レバ即チ國體ガアリマス、而シテ國在レバ即チ法ガ存在シマス、「ウビ・ゾツィエタス・イビ・ニス」デアリマス、法、「ロー」ハ國秩序維持規範、「スティート・オーダー・メーンテーニング・ノルム」デアリマス、憲法ハ國秩序維持根本規範デアリマス、「ファンダメンタル・ノルム」デアリマス、法規範、「リーガル・ノルム」ハ倫理規範、宗教規範トハ異ツテ、行爲ヲ強制スル規範デアリマス、規範ナルモノハ無形ノモノデアリマス、而シテ憲法ノ成文ハ無形ノ規範ノ一部ヲ文字ニ示シタルニ過ギナイノデアリマス
　〔議長退席、副議長著席〕
文字ヲ以テ無形規範ヲ遺ノ憾ナク表現スルコトハ不可能デアリマス、故ニ英國デハ憲法モ、刑法モ、民法モ不文法ヲ本體トシテ居リマス、ソレガ普通法、「コンモン・ロー」デアリマス、併シナガラ法ガ外形ニ現ハル、所ノ行爲ノ規範ナルノ故ヲ以テ、法其ノモノヲモ成文ナル外形ニ示スコトヲ便宜ト致シマス、是ガ歐洲大陸諸國ガ成文法ヲ本體トシテ居ル所以デアリマス、元來日本ハ不文法ノ國デアリマス、建國ノ初ニハ文字スラ有シテ居ナカツタノデアリマス、併シナガラ國在レバ法在ルガ故ニ、建國ノ初カラ法規範ハ存シテ居ルノデアリマス、日本國ガ成文法國トナツタノハ、明治二十年ヨリ後ノ現行憲法ノ制定カラ始ツテ居ルニ過ギナイノデアリマス、茲ニ成文憲法案ヲ議スルニ當リ、我々國民ハ先ヅ法ノ本質ヲ了解シナケレバナラナイノデアリマス、前述ノ如ク國在レバ國體ハ存スルノデアツテ、成文憲法ニ依リテ國體ガ定ルノデアリマセヌ、國體ガ成文法ヲ定メルノデアリマス、國體ハ國々ニ依リテ異ツテ居リマス、唯、何ヲ標準トシテ國々ノ國體ヲ區別スベキヤト云フコトヲ考ヘル、而シテ日本國ノ國體ハ如何ナル國體デアルカト云フコトヲ考ヘルコトハ、日本ノ憲法ヲ理解スル爲有益ナル思索デアリマス、穗積八束先生ハ、主權ノ所在ニ依ツテ國體ヲ區別スベキデアルト論ゼラレマシタ、私ハ此ノ考ヘ方ガ妥當デアルト考ヘルノデアリマス、併シナガラ主權其ノモノノ意義ヲ定メタル後ニ於テ、初メテ國體ノ區別ヲ爲シ得ルノデアリマス、主權、「ソヴリンティー」トハ何デアルカ、私ハ國秩序維持主力デアル、國ノ秩序ヲ維持スル所ノ主ナル力デアル、主力デアルト定義致シマス、主力デアリマスカラ主權デアリマス、即チ國秩序維持主權、「ステート・オーダー・メーン・テーニング・ファンダメンタル・ライト」ト私ハ定義致シマス、主權即チ國秩序維持主權、「メーン・テーニング・ソヴリンティー」、之ヲ分解致シマス、サウシテ國秩序安定主權、國ノ秩序ヲ安定スル主權、之ヲ「スタビライジング・ソヴリンティー」ト申シマス、是ト國秩序基礎主權、「ファンディング・ソヴリンティー」、斯ウ云フ風ニ私ハ區別出來ルト思ヒマス、新憲法制定ニ當リ、私ハ此ノ區別ヲ以テ主權ヲ考ヘルノガ宜シカラウカト存ジマス、法案ノ前文ニ「主權が國民に存することを宣言し」ト言ツテ居リマス、第一條ニ於テ「主權の存する日本國民の總意に基く」ト言ツテ居ルノハ、國ヲ構成スル所ノ天皇ヲ含メタル日本民族ニ主權ガ存スルコトヲ宣言シテ居ルノデアリマス、此ノ憲法ノ前文ニ「宣言」ト言ツテ居リマス、是ハ即存ノ事實ヲ宣言シテ居ルノデアルト思ヒマス、茲ニ稱スル主權トハ、私ガ先程分類シマシタ國秩序基礎主權ノコトデアリマス、第一條ニ「基く」トアリマスノハ此ノ意義デアルト私ハ考ヘマス、サウシテ基カシメラレテ居ル所ノ「天皇ノ地位」、即チ第一條ニ「天皇は、日本國の象徴であり日本國民統合の象徴であつて、この地位は、」トアリマス、其ノ規定シテ居ル所ノ其ノ地位ニ國秩序安定主權ガ存在シテ居ルト云フコトヲ私ハ考ヘルノデアリマス、國民、ソレニ基礎主權ガアリ、而シテ天皇ノ地位ニ安定主權ガアル、斯ウ云フ考ヘ方ヲ私ハ致シテ居ルノデアリマス、安定主權ノコトハ成文ノ文字ニハアリマセヌ、併シナガラ基礎主權ノ外ニ主權ナシトハ規定シテハ居ラナイノデアリマス、天皇ノ有シテ居ラルル國秩序安定主權ハ、建國ノ初ヨリ今日ニ至ル迄、未ダ曾テ皇位ニ存セザリシコトハナイノデアリマシテ、是ガ我ガ國體ノ本質デアルト私ハ考ヘマス、建國ノ初ヨリノ不文ノ憲法デアル、即チ茲ニ其ノ不文ノ憲法ノ一部ヲ成文デ宣言セムトスルニ當リマシテハ、成文ノ文字ニ囚ハレテハナラナイノデアリマシテ、文字ノ方ヲ捕ヘナケレバナラナイノデアリマス、抑々法ト云フモノ、ソレハ「カント」ノ分類ニ依リマシテ、分チテ二ツトスルコトガ一般ノ學説デアリマス、一ヲ必至ノ法、「ミユセン」ノ法、又ハ不可不ノ法、「エス・ムス・ゾー・ザイン」ト言ヒマス、他ヲ當爲ノ法、即チ「ゾレン」ノ法、又ハ不許不ノ法、「ドウー・ゾルスト・ゾー・ハンデルン」ト云ツテ居リマス、此ノ演壇デモ金森國務大臣ハ天動説、地動説ト云フヤウナコトデ説明サレマシタ、其ノ天動説ガ非デアツテ地動説ガ是ナリトスル天文學ノ法ハ是ハ必至ノ法デアリマス、物理、化學、鑛物、植物、動物ノ法モ亦必至ノ法デアリマス、宗教、倫理、法律ノ法ハ當爲ノ法デアリマス、ソコデ私ハ必至ノ法ヲ物ノ法ト稱シマス、サウシテ當爲ノ法ヲ心ノ法ト稱シマス、是ハ説明ノ便宜カラデアリマス、「ガリレオ」ハ「コペルニクス」ノ太陽中心説ニ依リマシテ、地動説ナル物ノ法ヲ唱ヘマシタ、サウシテ心ノ法ノ法庭デアル所ノ「ローマ」法王ノ法庭デ裁判セラレタノデアリマス、物ノ法ヲ心ノ法ニ依リテ裁判スルコトノ誤リナルコトハ今日何人モ認ムル所デアリマス、ソレデアルナラバ、心ノ法ヲ物ノ法ヲ以テ判斷スルコトノ誤リナルコトモ亦明瞭デアリマス、宗教ノ法ハ心其ノモノノ法デアリマス、倫理ノ法ハ行爲ニ出ヅル心ノ法デアリマス、法律ノ法ハ心カラ出タ行爲ノ法デアリマス、從ツテ心ヨリ出デザル行爲ハ刑法之ヲ犯罪トセズ、民法之ヲ法律行爲ト致シマセヌ、憲法ハ心ノ法デアリマスカラ、憲法ヲ解スルニハ文字ノ形、條文ノ字義ニ拘泥シテハナリマセヌ、英國ノ憲法ガ不文法ヲ本體トスルノハ此ノ故デアリマス、尤モ英國ニハ憲法ノ不文法ヲ補フ所ノ斷片的ナ成文法ガアリマス、千九百十一年議會法、「パーリメント・アクト」ハ此ノ成文法デアリマス、本法案、第五十九條第二項ノ「衆議院で可決し、參議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多數で再び可決したときは、法律となる。」ノ規定、同條第三項ノ「參議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、國會休會中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、參議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。」ノ規定、及ビ第六十條第二項ノ「豫算について、參議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、兩議院の協議會を開いても意見が一致しないとき、又は參議院が、衆議院の可決した豫算を受け取つた後、國會休會中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を國會の議決とする。」ノ規定、是ハ英國ノ千九百十一年議會法ノ規定ト趣旨ヲ同ジクスルモノデアリマス、私ハ世界ノ諸國ノ國體ヲ區別スルノ標準ヲ國秩序維持主力ノ所在ニ求メムトスルモノデアリマス、此ノコトハ前述致シマシタ、國秩序維持主力ガ、國ノ中央ニ集中スル國ヲ集中主權國、又ハ主權集中國ト私ハ申シマス、「コンヴァーヂエント・ソヴリンティー」、又ハ「コンヴェルヂャンス・ドウ・スーヴレヌテ」ト稱シマス、國秩序維持主力ガ國ヲ組成スル所ノ全民族ニ遍在スル國ヲ遍在主權國、又ハ主權遍在國ト申シマス、「ユービクイタス・ソヴリンティー」、又ハ「ユビキテ・ドウ・スーヴレヌテ」ト稱シマス、前者ハ民族ノ信頼、從順ノ勢ニ伴フノデアリ、後者ハ民族ノ自彊、協調ノ勢ニ副フモノト考ヘマス、日本國ハ天皇ヲ中心トスル主權集中國デアルト考ヘマス、國秩序維持主力ガ一政黨ノ力ニ依存スル國モ、亦之ヲ主權集中國ト私ハ稱シマス、純然タル共和國ハ主權遍在國デアリマス、國體ノ區別ハ國ソレ自身ガ自ラ稱シテ居ル所ノ國名ニハ關係ナク、又其ノ國ノ憲法ノ規定ニ拘泥スルコトナク、其ノ國ノ歴史、傳統、現状等ヨリ考ヘテ、其ノ實質ナリト私ガ想像致ス所ニ依リマシテ私ハ分類區別ヲ致シマス、「ソヴィエト」聯邦ハ「エス・エス・エス・エル」、即チ「サユーズ・ソヴィエトスキフ・ソツイアリスティチエスキフ・リエスププリク」、即チ「ソヴィエト」社會主義共和國聯盟ト稱セラレテ居リ、又「ソヴィエト」聯邦ヲ組成シテ居ル國ノ一タル「ロシヤ」國ハ「エル・エス・エフ・エス・エル」、即チ「ロシイスカヤ・ソツィアリスティチエスカヤ・フエデラティヴナヤ・ソヴィエトスカヤ・リエスププリカ」、即チ「ロシヤ」社會主義聯邦「ソヴィエト」共和國ト稱セラレテ居リ、且、ソレゾレノ憲法ニ國體ヲ判定スルニ適スル規定ハゴザイマスケレドモ、其ノ憲法ハ勞晨憲法、「ラボチエクレストイヤンスカヤ・コンスティトウツイヤ」ト稱セラレテ居リマシテ、農業ノ鎌ト槌、「セルプ」ト「モロト」、即チ「セルプ・イ・モロト」ヲ國ノ象徴トシテ居ル所ノ勞農國デアリマス、其ノ國ノ民族ノ歴史、傳統、推移、現状等ヲ考ヘ、「ロシヤ」共産黨、「ロシイスカヤ・コムムニスティチエスカヤ・パルテイヤ（ボリシエヴイキ）」今ノ全聯邦共産黨ヲ中堅トスル國秩序維持主力ガ存スルノデアルト考ヘマシテ、主權集中國ト考ヘマス、英本國ハ主權遍在國ト考ヘマスガ、印度、「カナダ」、濠洲等ヲ包容シテノ英帝國ハ主權集中國ト考ヘマス、日本國ノ國秩序維持主權ハ天皇ヲ中心トシ、天皇ト國民ガ渾然融合一體タル所ニ、安定主權ト基礎主權トガ融合シマシテ生成存立スルノデアリマス、天皇ハ安定主權ヲ有セラレ、天皇ヲ含メタル日本民族ハ基礎主權ヲ有シテ居ルノデアツテ、即チ前述ノ如ク、日本ハ主權集中國デアリマス、北米合衆國ハ、建國ノ由來及ビ歐洲諸國ヨリノ移民、屬地主義、國籍法ノ規定等ヨリ考ヘマシテ、主權遍在國デアリマス、而シテ奴隸ヲ有シテ居ツタ昔ノ南部諸州ハ主權集中貴族國、「アリストクラシー」デアルト思ヒマス、奴隸ヲ有シテ居ツタ昔ノ「ローマ」國ハ主權集中貴族國デアリマス、政治ハ寡頭政治、「オリガーキイ」デアリマス、奴隸ヲ有シテ居ツタ昔ノ「エヂプト」王國ハ主權集中獨裁國、「オートクラシー」デアリマス、農奴ヲ有シテ居ツタ昔ノ帝政「ロシヤ」國ハ主權集中獨裁國デアリマシタ、今ノ奴隷ノナイ日本國ハ、民主主義國、「デモクラティック」デアルト思ヒマス、本法案ハ、日本ニハ封建的、隷屬的因襲遺習ガアツテハナラナイコトヲ強調スルノ趣旨ヲ以テ、第十八條ニ「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。」ト規定スルノデアリマス、英國、米國ハ勿論民主主義國デアリマス、サウシテ民主主義國ノ典型トモ申スベキモノデアリマシテ、又民主國デアリマス、「ソヴィエト」聯邦ハ民主主義國デアリマス、併シ私ハ民主主義國トハ申シマセヌ、日本ハ民主主義國デアリマスケレドモ、此ノ法案ノ新憲法ニ於テ主權集中國デアリマスカラ、私ハ民主國トハ申シマセヌ、民主主義國ニシテ主權遍在國ヲ私ハ民主國ト申シマス、即チ私ハ民主主義國トハ政體ヲ申スノデアツテ、民主國トハ国體ヲ申スノデアリマス、日本ノ國秩序安定主力ガ天皇ニ存シテ居ルコトハ、建國以來今日ニ至ル迄不變ノ事實デアツテ、歴史ノ證明スル所デアリマス、現ニ昭和二十年八月九日ヨリ十日ニ亙リ「ポツダム」宣言受諾ニ關シ、統帥部及ビ閣僚等ノ意見不一致ニ對シ、御聖斷ニ依リマシテ、該宣言ハ國體ヲ變更スルノ要求ヲ包含シ居ラズトノ趣旨ノ了解ヲ明カニシテ之ヲ受諾スルコトニ決定セルコト、又八月十四日首相以下全閣僚、内閣四長官、參謀總長、軍令部總長、樞密院議長出席ノ御前會議ニ於テ御聖斷ヲ仰ギ奉リタル結果、同日午後ノ閣議ニ於テ、帝國政府ハ「ポツダム」共同宣言ニ擧ゲラレタル條件ヲ受諾、之ヲ實施スルコトニ決意シ、畏クモ天皇陛下ニ於カセラレテハ、昭和二十年八月十四日附ヲ以テ「ポツダム」宣言ノ條項受諾ニ關スル大詔ヲ渙發セラレタルコトノ經過ヲ考ヘマシテ、我等國民ハ御聖斷ナクシテハ何ヲ爲シ得タリヤヲ想フ時、天皇ガ日本ノ國秩序安定主力ヲ有セラル、コトヲ、我等國民ハ心ニ徹シテ明瞭ニ確知スルノデアリマス、而シテ我等國民ハ何故ニ愚蒙ニシテ何ヲ憚リ、怯懦ニシテ戰爭開始ノ際、斯クモ叡聖ナル天皇陛下ノ曇リナキ御聖斷ヲ仰ギ奉ラナカツタノデアルカヲ痛恨スルノデアリマス、聖斷ナルモノハ單ニ人間トシテノ天皇ノ御判斷デハナイノデアリマス、皇位ナル尊嚴ノ地位ニ立チ給フ時ニ、國意思トシテ發露スル所ノ御判斷デアリマス、皇位ニ立チ給ハナケレバ發露セムト欲セラレテモ發露シ得ザル純化サレタル判斷デアリマス、何人ト雖モ責任ノ地位ニ立ツ時、其ノ地位ニ立ツコトニ依リテ純化サレタル判斷ノ發露ヲ我々ハ體驗スルノデアリマス、本法案ニ於テハ天皇ノ御聖斷ヲ仰グ場合ハ少イコトニナツテ居リマスケレドモ、ソレガ爲ニ天皇ノ有セラル、國秩序安定出力其ノモノガ減少スルコドニハナリマセヌ、昭和二十年九月二日ノ詔書ニハ、「朕ハ朕ガ臣民ニ對シ、敵對行爲ヲ直ニ止メ、武器ヲ措キ、且降伏文書ノ一切ノ條項、竝ニ、帝國政府及大本營ノ發スル、一般命令ヲ、誠實ニ履行セムコトヲ命ス」ト仰セラレテ居リマス、昭和二十年八月十四日附大詔及ビ此ノ九月二日ノ詔書ノ聖旨ヲ奉戴シテ、國ノ内外ニ在ル日本陸海軍將兵ガ、聊カノ動搖モナク、無條件、無血降伏、武装解除ヲ甘受シタノデアリマス、日本國民ハ終戰當時、軍役ニ在ルト否トヲ問ハズ、齊シク聖旨ヲ奉戴シテ日本國民ノ總テガ救ハレ、日本ノ國秩序ハ維持セラレタノデアリマス、而シテ我等日本國民ガ擧ツテ聖旨ヲ遵奉シテ、一糸紊レザル態勢ヲ執ツタコトハ、天皇ヲ含ミタル國民、即チ日本民族ニ國秩序基礎主力ガ存スルコトヲ明カニ証明シテ居ルノデアリマス、是レ即チ法案第一條ノ規定スル所デアリマス、而シテ此ノコトハ、又天皇ヲ中心トシテ天皇ト國民トガ渾然融合一體タル所ニ安定主權ト基礎主權トガ融合シテ、國秩序維持主權ガ生成存在スルコトヲ如實ニ澄明シタルモノデアリマス、斯クノ如ク國秩序ガ天皇ヲ中心トシテ維持セラレタルノ事實ハ、聯合軍ニ於テ、國際間ニ於テ、明瞭ニ承認セラレテ居ルノデアリマス、即チ國ノ内外ニ亙リ世界ヲ通ジテ承認セラル、事實デアリマス、本法案ガ天皇ノ權能、權限ニ關シテ規定シテ居ルノハ、天皇ニ責任ノ及バナイヤウニ致シタイト云フコトヲ冀ヒテ政權ヲ天皇ヨリ御任セ願フ意味ニ於テ規定シテ居ル所ガ少クナイノデアリマス、凡ソ權限ニハ、他カラ持ツテ戴キタイト願ハレテ有シテ居ルモノト、他ヨリ與ヘラレテ有シテ居ルモノトガアリマス、又本來固有ノ權限ト、有セザリシモノヲ與ヘラレテ有スルニ至リタル權限トガアリマス、此ノ法案ノ規定スル天皇ノ權限ハ、天皇ノ本來ノ固有ノ權限デアツテ、又此ノ權限ヲ天皇ニ於テ保持セラル、ヤウニト國民ノ方カラ御願ヲシテ、即チ願ハレテ有セラル、ノデアリマス、之ヲ固有權能、又ハ固有權限ト私ハ申シマス、デ、天皇以外ノ國會、内閣、裁判所ナドノ有スル權限、地位ハ法ノ規定ニ依リテ與ヘラレテ有スルニ至ルモノデアリマス、私ハ之ヲ被託權能、又ハ被託權限ト申シマス、此ノ託サレタ權能、權限ガ天皇カラ委託、又ハ信託セラレタルモノデアルカ、又ハ天皇ヲ含ミタル國民カラ委託、又ハ信託セラレタルモノデアルカ、ソレトモ法案第九十七條ノ基本的人權ノヤウニ過去、現在、將來ノ國民ニ依リテ信託セラレタルモノデアルカハ事柄ニ依リテ區別スルコトヲ要スルノデアリマス、次ニ法ノ規定ハ、本來不文法トシテ存スルモノヲ成文法ニ宣言スルモノト、成文ヲ以テ新タニ定ムルモノトガアリマス、私ハ前者ヲ宣言法規、後者ヲ設定法規ト申シマス、此ノ法案ニ規定スル天皇ニ關スル規定ハ、宣言法規ガ多イノデアリマス、天皇ガ有セラレシ權能ノ部分ヲ政治機關ニ御任セ願フ意味ノ規定ハ、天皇ノ其ノ權能、權限ノ減少ナルコトノ爲ニ、新タニ定ムルモノデアリマシテ、設定法規デアリマス、政治機關ガ國民カラ委託、又ハ信託セラル、規定モ亦設定法規デアリマス、政治機關ノ權能ガ天皇ノ固有權能ヨリ配分サレ、天皇ノ固有權能ヨリ出ヅルモノナルトキハ、政治機關ノ權限ガ今後縮小スレバ、其ノ部分ハ當然天皇ノ固有權能ニ復歸スルノデアリマス、國民ノ固有權能ヨリ出ヅルモノハ、國民ノ固有權能ニ復歸スルモノデアリマス、天皇ノ國秩序安定主權ノ存在ニ付テハ、以上述ベタル所ニ依リ、其ノ面影ハ浮ビ出ヅルノデアリマスガ、尚法案ノ條文ニ根據ヲ求メマスレバ、第一條ノ規定スル如ク、天皇ガ日本國ノ象徴トシテ、日本國民統合ノ象徴トシテ仰ガレ給フコトヲ考ヘ、天皇ニ於テ天皇ノ權能、權限トシテ留保セラレムコトヲ國民ヨリ冀ヒテ定メタル第六條ノ規定ガ、天皇ノ内閣總理大臣ヤ、最高裁判所ノ長タル裁判官ヲ任命セラル、コトヲ、天皇ニ御願ヒスルモノナルコトヲ思ヒ、第七條ノ規定ニ依リ憲法改正、法律、政令、條約ノ公布、榮典ノ授與等ヲ天皇ニ御願ヒスルコトヲ要スル所以ヲ考ヘル時ニ、而シテ是等ノコトガ、國秩序上緊要ナノデアルト云フコトガ了解セラル、ナラバ、天皇ハ、國秩序安定主力ヲ有セラル、コトガ了知セラル、ノデアリマス、天皇ノ有セラル、國秩序安定主權ト、天皇ヲ含メタル國民ニ存スル國秩序基礎主權トガ、天皇ヲ中心トシテ天皇ト國民トガ渾然融合一體デアル所ニ融合シテ、國秩序維持主權ガ生成存立スルノデアリマス、此ノコトハ前ニ申シマシタ、而シテ此ノ天皇國民渾然融合一體ナルコトハ、「義ハ天皇ト國民、情ハ父ト子」ナル言葉ノ存スルコトニ依リテモ、日本民族ニ通徹シタル觀念デアツテ、此ノコトハ昭和二十一年一月一日ノ年頭ノ詔書ニ於テ「朕ハ爾等國民ト共ニ在リ、常ニ利害ヲ同ジウシ、休戚ヲ分タント欲ス。朕ト爾等國民トノ間ノ紐帯ハ終始相互ノ信頼ト敬愛トニ依リテ結バレ、單ナル神話ト傳説トニ依リテ生ゼルモノニ非ズ。天皇ヲ以テ現御神トシ、且日本國民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、廷テ世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ストノ架空ナル觀念ニ基クモノニモ非ズ。」ト仰セラレテ居ル所ニ依リテ明瞭ニ會得シ得ルノデアリマス、國ハ法團體デアリマス、民族ノ法團體デアリマス、即チ民族協動、秩序強制維持共同目的團體デアリマス、團體デアルカラト言ツテ、國ハ法人格ヲ有ストノ結論ハ直チニハ出テ來ナイノデアリマス、法人格ナキコト、民法上ノ組合ノ如シト考ヘテモ宜シイノデアリマス、日本國ガ人格ヲ有スルモノナリト説キ、法人デアルト説クコトハ日本ニ於ケル學説ノ推移ヲ考ヘマシテ、日本國ニ取ツテハ、今日ニ於テハ不必要ナ學説デアルト思ヒマス、何トナレバ國ヲ法人ト考ヘルコトニ依リテ誘導セラレテ、天皇機關説ナルモノガ唱ヘラレルニ至ルカラデアリマス、天皇機關説ハ不適當ナル學説デアルト思ヒマス、元來團體ノ機關ナルモノハ團體ガ先ヅ存在シテ、然ル後ニ團體ノ必要上、團體ガ作ルモノデアリマス、例ヘバ株主ガ株式會社ヲ組織シテ株主總會ナル機關ガ出來マス、其ノ株主總會デ會社ノ業務ヲ執行シ、會社ヲ代表スル所ノ取締役ヲ選任スルノデアリマス、其ノ取締役ハ會社ノ機關デアリマス、併シ取締役全部ガ缺員トナツテモ會社ハ存在シテ居ルノデアリマス、然ルニ日本國ノ天皇ハ國ガ先ヅ存在シテ、國ガ天皇ヲ選定シダノデハアリマセヌ、國ト共ニ、國法ト同時ニ天皇ハ存在シテ居ルノデアリマス、又天皇ナクシテハ日本國ノ秩序維持根本法タル憲法ハ成立致シマセヌ、本法案、第四十一條ニ於テ、國會ヲ機關ト稱シテ居リマス、是ハ國會ハ憲法ガ作ルコトニ依リテ初メテ出來ルモノデアルカラデアリマス、又法案第九十三條ニ於テ地方ハ公共團體ノ議會ヲ機關ト稱スルノハ、其ノ第九十三條ノ規定ニ基キテ定メラル、所ノ法律ニ依リテ出來ルモノデアルカラデアリマス、日本國民タル要件ハ、法案第十條ニ依リ法律デ定メラレルノデアリマス、其ノ法律ハ從來ノ例ニ依レバ國籍法ト稱スルノデアリマセウ、天皇タル御身分ハ、法案第二條ニ依リ皇室典範デ定メラレルノデアリマス、日本國ハ天皇ト國民トノ渾然融合一體ノ日本人、日本民族ノ團體デアリマス、日本國ハ政體トシテハ民主主義國デアルガ故ニ、國政ハ日本人民ノ爲ニ行ハレ、日本人民ニ屬シ、日本人民ニ依リテ行ハルヽノデアリマス、即チ「リンカーン」ノ所謂「フォア・ゼ・ピープル、オブ・ゼ・ピープル、バイ・ゼ・ピープル」デアリマス、國ノ意思ノ決定及ビ表示ハ、法案ノ規定スル所ニ依リ、必ズシモ一樣デハナイノデアリマス、國會ハ最高機關トシテ立法權、豫算議定權等ヲ行使シテ國ノ意思ヲ決定致シマス、決定セラレタル國ノ意思ハ、法律、政令、條約ノ如キハ天皇ガ内閣ノ助言ト承認ニ依リ之ヲ公布シテ表示セラル、ノデアリマス、司法權ニ付テハ裁判所ガ之ヲ行使シテ國ノ意思ヲ決定スルノミナラズ、之ヲ表示致シマス、併シ均シク日本人民ノ構成スル國ノ意思ノ決定及ビ表示デアリマス、日本國憲法ハ法律的法、「リーガル・ロー」デアリマス、道徳又倫理ノ法デハアリマセヌ、又宗教ノハ法デハアリマセヌ、併シナガラ憲法ナル法ハ、國秩序維持根本法デアリマスカラ、憲法ノ淵源トシテハ倫理ノ法モ、宗教ノ法モ、經濟學、社會學ノ法モ、歴史、傳統神話、哲學モ、文學、理學、工學、醫學、農學ノ法モ、有ラユル法ハ人ノ法タルト、物ノ法タルトヲ問ハズ、總テ淵源トナルノデアリマス、昭和二十年九月四日、第八十八囘帝國議會開院式勅語ニハ、「朕ハ終戦ニ伴フ幾多ノ艱苦ヲ克服シ國體ノ精華ヲ發揮シテ信義ヲ世界ニ布キ平和國家ヲ確立シテ人類ノ文化ニ寄與セムコトヲ冀ヒ日夜軫念措カス」ト仰セラレテ居リマス所ノ、其ノ國體ノ精華ヲ淵源ト致シテ居リマス、大日本帝國憲法ニ於テモ、日本國憲法ニ於テモ、凡ソ我ガ國ノ憲法ニ於テ我ガ國體ノ精華ヲ淵源トセザルモノハ存在致シマセヌ、何トナレバ、我ガ國體ノ精華ヲ淵源トセズシテハ、我ガ國ノ秩序維持根本法タル憲法ナルモノハ存立シ得ザルカラデアリマス、以上ハ國體ニ關シテ述ベタノデアリマス、政體ニ關シテモ幾分ハ申述ベマシタ、次ニ政體ニ付テ陳述致シマス、政權ニハ一、天皇親政ノ場合ト、政權ガ天皇ヨリ離ル、場合トガアリマス、二、政權ガ總攬セラル、場合、之ヲ私ハ全政權ト申シマス、全政權ト、政權ガ分別セラル、場合、即チ分政權トガアリマス、三ニ政權ガ帝都、即チ中央デ行ハル、場合ト、地方デ行ハルル場合トガアリマス、四、專制政體ト三權分立ノ立憲政體トニ依リテ、專制ト憲政トニ分類致シマス、本法案ハ分政權ノ政體トスルコトヲ要旨トシテ居リマス、建國ノ當初ニ於テ、神武天皇ノ政治ハ天皇、中央、全政權、專制デアリマス、蘇我氏等ノ民族ガ政權ヲ私シタル頃ハ、民族、中央、全政權、專制トモ言フベキ政情デアリマシタ、大化改新ニ依リテ天皇、中央、全政權、專制ニ復シマシタ、其ノ後平安朝ニ於テ攝政關白、攝關、中央、全政權、專制トモ稱スベキ事態ヲ生ジマシタ、鎌倉幕府ガ出來テ、幕府、地方全政權、專制トナリマシタ、後醍醐天皇ノ建武中興ニ依リ、一時ハ天皇、中央全政權、專制トナリマシタガ、幾何モナクシテ南北朝分立ニ依リテ、天皇、分政權、專制トナリマシタ、室町幕府ガ帝都ニ出來テ、幕府、中央全政權、專制トナリマシタガ、關東管領ノ自立ノ勢ヲ生ジマシテ、分政權、專制ヲ馴致致シマシタ、元龜、天正ノ群雄割據ニ至リマシテハ、地方分政權、專制トナリマシタ、江戸ニ於ケル徳川幕府ニ依リテ、幕府、地方全政權專制トナリマシタ、明治維新ニ依リテ、天皇、中央全政權專制ノ古ニ復シマシタ、明治二十二年二月十一日公布、二十三年施行ノ大日本帝國憲法ニ依リテ、天皇、中央全政權憲政ノ政體トナリマシタ、然ルニ現行憲法ノ下ニ於テ、天皇、全政權ガ文政ト武政トノ分政權トナラムトスル勢ヲ生ジ、漸次軍ノ全政權、軍全政權ナルガ如キ情勢ヲ馴致致シマシテ、遂ニ今次ノ戰爭ヲ惹起シ、國ヲシテ悲慘ナル敗戰ノ結果ニ陷ラシムルニ至リマシタ、現行憲法第十一條ニ依リ、「天皇ハ陸海軍ヲ統帥」セラルヽノデアリマス、是レ即チ軍令天權デアリマス、陸軍參謀本部、海軍軍令部ナル軍令機關ヲ以テ、大元帥トシテ天皇ハ軍令大權ヲ行ハレタノデアリマス、明治十五年一月四日ノ軍人五箇條ノ勅諭ニ於キマシテ、「世論ニ惑ハス政治ニ拘ラス只々一途ニ己カ本分ノ忠節ヲ守」ルベシト諭サレテ居ツテ、憲法發布以後ニ於テモ今次ノ終戰ニ至ル迄、此ノ軍人五箇條勅諭ハ、軍人ノ金科玉條トセラレテ居ツタノデアリマス、而シテ軍今大權ニ付テハ、現行憲法第五十五條ノ「國務大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス」ノ規定ノ適用無キヲ以テ陸軍參謀本部、海軍軍令部等ノ軍令機關ハ憲法上ハ何等ノ責任ニモ任ゼザルモノデアリマス、而シテ現行憲法第十二條ニハ、「天皇ハ陸海軍ノ編制及常備兵額ヲ定ム」トアリマシテ、是レ即チ軍政大權デアリマス、此ノ軍政大權ハ、陸軍大臣、海軍大臣ガ國務大臣トシテ天皇ヲ輔弼シ、其ノ責ニ任ズルノ現行憲法第五十五條ノ規定ニ從ツテ居ツタノデアリマス、然ルニ軍政ナルノ故ヲ以テ前述ノ軍人五箇條ノ勅諭ノ、「世論ニ惑ハス政治ニ拘ラス只々一途ニ己カ本分ノ忠節ヲ守」ルベシトノ御諭シハ陸軍省、海軍省ノ軍政ニ與カル軍人ニハ適用ナキモノナリト解セラレ來ツタノデアリマス、又現行ノ明治二十二年勅令第百三十號、内閣官制、第七條ニハ、陸軍大臣、海軍大臣ノ帷幄上奏ノ規定ガアリマス、斯ウ云フヤウニ規定シテアリマス、「事ノ軍機軍令ニ依リ奏上スルモノハ天皇ノ旨ニ依リ之ヲ内閣ニ下付セラルルノ權ヲ除クノ外、陸軍大臣、海軍大臣ヨリ内閣總理大臣ニ報告スベシ」ト定メテ居リマシテ、閣議ヲ經ベキ旨ヲ定メテハ居ラナイノデアリマス、斯クノ如ク陸軍大臣、海軍大臣ハ軍機軍令ニ關與スルモノデアリマスガ、一方ニ於テハ軍政大臣、即チ各省行政大臣デアリマス、行政大臣デアルノニ陸軍省官制、海軍省官制ニハ、大臣、次官ハ現役將官ニ限リ之ニ任ゼラレル旨規定シテ居ルノデアリマス、制度トシテノ、官制ノ此ノ規定ノ妥當性ニ關シ、政黨政治ノ漸ク強盛トナルニ從ヒテ論議セラレルニ至リマシタ、遂ニ大正二年六月十三日勅令第百六十五號ヲ以テ陸軍省官制ヲ、勅令第百六十八號ヲ以テ海軍省官制ヲ、ソレゾレ改正シ、官制ノ「別表備考中第一號ヲ削リ、以下順次繰上グ」ルコトトナツタノデアリマス、備考第一號トハ、「一大臣及次官ニ任セラルル者ハ現役將官トス」トノ規定デアリマス、此ノ規定ヲ削ツタノデアリマス、當時ノ閣僚ハ山本權兵衞首相、牧野外務、原内務、高橋大藏、木越陸軍、齊藤海軍、松田司法、奥田文部、山本農商務、元田遞信ノ諸大臣デアリマス、官制改正ニ依リ、陸軍大臣ハ更迭シ、楠瀬陸相ノ就任ガアリマシタケレドモ、矢張リ軍人デアリマス、海相ニハ更迭ハアリマセヌ、而シテ其ノ後モ陸軍大臣、海軍大臣ニハ未ダ曾テ軍人ニアラザル者ガ任ゼラレタルコトハアリマセヌ、唯政務次官、參與官ニハ衆議院議員、貴族院議員ガ任ゼラレタニ過ギマセヌ、而シテ昭和十一年ニ至リ、五月十六日附ヲ以テ、五月十八日官報公布ニ依リ、陸軍省官制、海軍省官制ハ改正セラレテ、官制ノ「別表備考中第一號ヲ第二號トシ以下順次繰下ゲ第一號トシテ左ノ一號ヲ加フ」「一大臣及次官ニ任セラルル者ハ現役將官トス」ト定メタノデアリマス、大正二年ヨリ歳ヲ閲スルコト二十三年、茲ニ大正二年六月以前ノ現役軍人制度ニ逆戻リシタノデアリマス、此ノ時ハ世論ニハ格別問題トセラレナカツタノデアリマスケレドモ、大正二年當時ノ政黨ノ人々ノ努力ノ跡ヲ顧ミテ、今昔ノ感ニ打タレタ者ハ少クハナカツタノデアリマス、此ノ昭和十一年五月官制改正當時ノ閣僚ハ廣田首相、寺内陸軍、永野海軍、潮内務、有田外務、馬場大藏、平生文部、林司法、島田農林、小川商工、頼母木遞信、前田鐵道、永田拓務ノ諸大臣デアリマス、斯クノ如クデアリマスカラ、陸軍大臣、海軍大臣ハ現役將官ニ專屬シ、現役軍人ニアラザル者ヲ排除シテ居リマスケレドモ、軍人ハ總理大臣ハ勿論、各省大臣トナリ得ルコトハ當然デアリマスカラ、陸海軍將官ハ陸海軍省ノ外、他ノ各省ノ大臣ニ任ゼラレテ居リマス、殊ニ日華事變以後ハ軍人ノ國務大臣ガ續出シマシタ、内務、外務、司法、文部、農林、商工、遞信、鐵道、運輸通信、拓務、厚生ノ諸大臣、即チ大藏大臣ヲ除キ何レノ大臣ニモ陸海軍將官ガ任ゼラレテ居ルノデアリマス、大使ニモ任ゼラレマシタ、大藏大臣ト雖モ、軍ト親シキ人、軍ノ了解アル人ニ非ザレバ任ゼラレテ居ラナイヤウニ思ハレテ居リマス、又文官デアツタ所ノ各省大臣及ビ大東亞大臣ト雖モ、何レモ軍ニ親シキ人、又ハ軍ノ了解アル人デナケレバ任ゼラレテ居ナイヤウニ思ハレテ居リマス、大藏大臣ガ軍人デアツタノハ、明治四十一年桂内閣ニ於テ桂首相ガ大藏大臣ニ兼任セラレ、四分利公債發行ガ行ハレマシタ、金利低下ノ爲ノ一ツノ試ミデアリマシタ、其ノ財政政策ハ長島理財局長心得ノ考ノ加ツタ政策デアルトモ申サレテ居リマス、其ノ後ハ大藏大臣ニハ軍人ガ任ゼラレテハ居リマセヌ、而シテ現行憲法ノ下ニ於テ組織セラレタル歴代ノ内閣ニ付テ、内閣總理大臣ガ軍人タリシコト幾度ナリシカ、又其ノ軍人總理ノ下ニ幾年政治ガ行ハレタリヤヲ思フ時、日本國ニハ如何ナル程度ニ軍政ガ行ハレタカガ了解セラレ得ルデアラウト思フノデアリマス、斯クノ如クシテ遂ニ今次ノ戰爭ニ際シマシテ、明治維新以來、未ダ曾テナキ軍全政權トモ申スベキ事態ニ迄相成ツタノデアリマス、終戰ノ聖斷ニ依リ昭和二十年九月二日ノ詔書ガ下サレ、「帝國政府及大本營ニ對シ聯合國最高司令官ガ提示シタル降伏文書ニ朕ニ代リ署名スベキコトヲ命ズ」ト仰セ出サレタルニ基イテ、「千九百四十五年九月二日午前九時四分日本國東京灣上ニ於テ署名ス」、「大日本帝國天皇陛下及日本國政府ノ命ニ依リ且其ノ名ニ於テ重光葵」、「日本帝國大本營ノ命ニ依リ且其ノ名ニ於テ梅津美治郎」ト記シ、即チ大日本帝國天皇陛下ノ統治權總攬ノ下ニ天皇陛下ノ名ニ於テ、且一方ニ於テハ日本國政府ノ名ニ於テ、一方ニ於テハ、日本帝國大本營ノ名ニ於テ署名セラレタルモノデアリマシテ、文政ト武政トノ分政權ノ形式及ビ實質ニ於テ署名セラレタモノデアリマス、降伏ノ結果、日本國ハ武装解除ニ依リ文政ノ天皇、中央全政權憲政トナツタノデアリマス、本法案ノ成立ニ依リマシテ中央分政權憲政ナル新タナル政體ガ樹立セラル、ノデアリマス、本案第四條ニ於テ、「天皇は、この憲法の定める國事に關する行爲のみを行ひ、」トアルハ分政權ヲ示ス規定デアリマス、天皇ガ法案第三條、四條、六條、七條ノ規定ニ依リ、國事ニ關スル行爲ヲ行ハルヽノハ政治デアリマス、併シ既ニ國會、又ハ内閣ガ決定シタル國ノ意思ヲ手續上表示セラルヽト云フガ如キ類ノ形式的行爲デアリマスカラ、國政ノ實質内容ニ關スルモノデハアリマセヌ、從ツテ第四條、第一項後段ニ規定スル通リニ、「國政に關する權能」ヲ有シ給ハナイノデアリマス、而モ第三條ニ規定スル如クニ「天皇の國事に關するすべての行爲には、内閣の助言と承認を必要」トスルノデアリ、「内閣が、その責任を負ふ。」ノデアリマスカラ、天皇ハ責任ヲ負ヒ給フコトガナイノデアリマス、第四十一條ノ「國會は、國權の最高機關であつて、」ト云フ規定、第六十六條、第二項ノ「内閣は、行政權の行使について、國會に對し連帯して責任を負ふ。」ノ規定、第六十九條及ビ第七十條ノ内閣總辭職ノ規定等ニ依リテ、又第四章、國會第五章、内閣第六章、司法ナル三權分立ヲ示ス規定ニ依リマシテ、本法案ハ中央分政權、國會最高、内閣全責任憲政ナル政體ヲ樹立セムトスルモノナルコトヲ明カニシテ居リマス、次ニ本法案ハ第二十條ニ依リテ祭政分離ヲ明カニシ、第二章ニ於テ戰爭放棄ヲ規定シ、以テ昭和二十年九月四日、第八十八囘帝國議會開院式ノ勅語ニ仰セラレタ通リ、日本民族ハ「道義立國ノ皇謨ニ則リ」「信義ヲ世界ニ布キ平和國家ヲ確立シテ人類ノ文化ニ寄與セム」トスルノデアリマス、日本國ハ建國以來、祭政一致ヲ以テ進ミ來ツタノデアリマス、抑々神社ハ之ヲ宗教、道徳、法律及ビ迷信的信仰ノ四ツノ方面ヨリ考察スルコトガ適當デアルト思ヒマス、日本人ガ神社ヲ禮拜スル場合ニハ祈願、祈祷ヲ伴フノガ常デアリマシタ、即チ宗教トシテ崇拜シテ居ツタノデアリマス、然ルニ國ハ一方ニ於テ神社ヲ禮拜スルコトヲ國民ニ強制シテ居ツタノデアリマス、現行憲法第二十八條ニハ、日本臣民ハ「信教ノ自由ヲ有ス」ト規定シテアルガ爲ニ、政府ハ神社ヲ宗教ナリト言明スルコトヲ囘避シ來ツタノデアリマス、即チ政府ハ神社ガ實質ニ於テハ宗教デアルコトヲ認メナガラ、憲法ノ規定ヲ憚リ、不明朗ナル態度ヲ以テ神社行政ニ當ツテ來タノデアリマス、而シテ前述ノ如ク、國民ハ神社禮拜ヲ強制セラレテ居ツタノデアリマス、仍テ私ハ憲法違反ナラザルカノ嫌ハアリマスケレドモ、法令第二條ノ規定、即チ「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反セザル慣習ハ法令ノ規定ニ依リテ認メタルモノ及ビ法令ニ規定ナキ事項ニ關スルモノニ限リ法律ト同一ノ效力ヲ有ス」トノ規定ニ準據シタルモノトシテ、國ノ秩序上ニ必要ナリトノ理由ヲ以テ、國教的性質ノ神社ノ方ヲ不文ノ慣習法トシテ國民ニ強制シテ居ツタモノト考ヘルノガ妥當デアルト思フノデアリマス、然ルニ政府ノ不明朗、不徹底ナル神社行政ノ態度ニ隨伴シ、又ハ之ニ誘發セラレ、又ハ之ヲ奇貨トシテ神社ガ迷信的ニ取扱ハレ、或ハ神懸リトナリ、或ハ誇大妄想トナリ、或ハ強迫ガ行ハレ、國ヲ誤ルヤウナコトモ生ジタノデアルト思ヒマス、日本デハ神社禮拜ト同ジヤウニ祖先崇拜ニ付テモ祈願、祈祷ヲ伴ハシメテ、宗教信仰ノ如クニ考ヘテ居ルコトガ存在スルノデアリマス、元來神社禮拜モ祖先禮拜モ道徳トシテ考フベキモノデアツテ、宗教トシテ取扱フベキモノデナイト考ヘマス、神社ヤ祖先ヲ祭ル時祈願、祈祷ヤ崇拜ヲナスベキデナクシテ、敬禮シ敬愛スベキモノデアリマス、從來神社ガ宗教トシテ取扱ハレテ居リマシタガ故ニ、本法案第二十條第一項後段ノ「いかなる宗教團體も、國から特權を受け、又は政治上の權力を行使してはならない。」トノ規定、同條第二項ノ「何人も、宗教上の行爲、祝典、儀式又は行事に參加することを強制されない。」ノ規定、同條第三項ノ「國及びその機關は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」ノ規定、第八十九條ノ「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは團體の使用、便益若しくは維持のため」「これを支出し、又はその利用に供してはならない。」ノ規定ヲ設クルノ必要ガ生ジタノデアリマス、尤モ是等ノ規定ハ神社ニ限ラズ、總テノ宗教ニ付テ考ヘラレテ居ルモノナルコトハ勿論デアリマス、將來ハ神社ヲ國民モ政府モ道徳トシテ取扱フヲ可ナリト考ヘマス、昭和二十年十二月十五日ノ聯合國最高司令官ノ政府宛覺書ヲ以テノ政府ニ依ル國家神道、神社神道ノ後援、支持、保全、管理、及ビ弘布廢止方ニ對應シテノ文部省ノ措置トシテ、神道トシテ届出タモノニ限リ宗教トシテ取扱フコトトシ、届出ザルモノニ付テ何等考慮スル所ナキハ當ヲ得ザルモノト考ヘマス、私ハ神社ニ付テハ神社神道ト神社道トニ分チ、神社神道ハ神道デアルカラ宗教デアリ、從ツテ信教ノ自由ニ關シテノ法案第二十條ニ依ラシムベク、神社道ハ道デアル、道徳デアリマスカラ、法案第十九條ノ良心ノ自由ノ規定ニ依ラシムベキモノト考ヘマス、道徳トシテ良心ヲ以テ神ヲ見ルノデアリマス、宗教ハ悟ルモノデアリ、道徳ハ磨クモノ、學ブモノデアルト思ヒマス、昭憲皇太后ノ金剛石ノ御歌ハ、道徳ノ本質ヲ適切ニ示シテ居ラルヽト思ヒマス、武士道ノ道モ道徳デアリマス、法案第二章ハ戰爭ノ放棄ヲ規定シテ居リマス、人ノ國ハ戰爭ヲ放棄スルコトハ出來ナイデアリマセウ、併シ良心ノ神ノ國ニシテ初メテ戰爭ヲ放棄シ、世界平和ヲ齎シ得ルノデアルト考ヘマス、「人新タニ生レズバ神ノ國ヲ見ルコト能ハズ」、日本民族ハ過去ノ大ナル過誤ヲ悔イ改メ、神ノ國ヲ建設セネバナリマセヌ、日本ガ神ノ國デアルト云フノハ、道徳上ノ神ノ國、即チ良心ノ國デアルベキコトヲ意味スルト思ヒマス、惟神ノ國、良心サナガラノ國ヲ見ムコトヲ冀フノデアリマス、凡ソ國ノ存スル以上ハ、自衞權ハ存スルノデアツテ、自衞權ハ國ノ固有權デアルト考ヘ、從ツテ自衞權行使トシテ戰爭ヲ行フコトハ、國存在上當然デアルトノ考モ存スルデアリマセウ、基本的人權ガ天賦ノ人權デアルガ如ク、戰爭權ハ國ノ根本的本質權デアル、故ニ一時ハ戰爭ヲ放棄シテモ、何レハ從來ノ面目ニ復歸スベキモノデアルトノ考モ起ルデアリマセウ、併シ戰爭權ハ天賦ノ國權デハアリマセヌ、神ト惡魔トハ兩立ヲ許サザルガ如クニ、平和ト戰爭トハ兩立ヲ許ササルモノト私ハ考ヘマス、之ヲ要スルニ、我ガ国體ハ新憲法ニ依リテ變革セラルヽモノデハマリマセヌ、天皇ハ國秩序安定主權ヲ有セラレテ居リ、天皇ヲ含ミタル國民、即チ日本民族全體ガ國秩序基礎主權ヲ有スルノデアツテ、日本國ハ天皇ヲ中心トシテ天皇ト國民トガ渾然融合一體デアル所ニ、國秩序安定主權ト國秩序基礎主權トガ融合シテ、茲ニ國秩序維持主權ガ生成存立シテ居ル所ノ主權集中國デアリ、中央分政權、民主主義ノ立憲政體國デアルコトガ本法案ニ於テ明カニサレルノデアリマス、以上ガ私ガ懷ク所ノ素朴未熟ナル法理デアリマス、日本國憲法ガ成立シタル場合ニ、憲法學者ノ方方、政治家ノ方々、其ノ他各方面ノ方方ノ御意見ヲ承リ、御教示ヲ蒙リ、私ノ此ノ法理ヲ檢討シテ誤謬ヲ訂正スルコトガ出來ルデアラウト存ジマス、今ハ目前ノ責務遂行上、私ガ今日懷ク所ノ法理ニ依リテ本法案ヲ考覈シ、之ヲ成立セシムベキモノナリトノ結論ニ到達シタノデアリマス、要約スレバ新憲法ハ三要綱ヲ骨子トシテ居リマス、第一、日本國ハ各國ニ率先シテ戰爭ヲ放棄シ、文化國家トシテ、世界永遠ノ平和ノ成立ニ貢獻セムトスルモノデアリマス、第二、日本國ノ國體ハ天皇ヲ中心トシタル主權集中國體デアツテ、新憲法ニ依リテ日本國ハ新タニ中央分政權、國會最高、内閣全責任、民主主義、憲政ノ政體ヲ樹立スルノデアリマス、第三、基本的人權ガ廣ク深ク尊重セラレ、國民ノ自由福祉ガ永久ニ確保セラルヽノデアリマス、我等國民ハ敗戰ニ至ル迄ニ陷リタル大ナル過誤ヲ、未來永劫重ネテハナラナイノデアリマス、我等國民ハ一層深ク廣ク國政ニ關心シ、政治上ノ責任ノ益々重加シ來レルコトヲ心ニ銘ジ、和樂、協働シテ平和日本建設ニ勇往邁進シ、世界ノ福祉、増進ニ貢獻セムコトヲ期スルモノデアリマス、以上ノ見地ニ立脚シテ本法案ニ贊成致シマス（拍手）
○副議長（伯爵徳川宗敬君）　澤田牛麿君
○澤田牛麿君　大分遅クナリマシタカラ、明日ドウセ開クナラ、明日ニシテ戴ケマセヌカ
○副議長（伯爵徳川宗敬君）　マダ五時頃迄宜シウゴザイマス
○澤田牛麿君　大臣モ見エヌヤウデスシ、明日ニシテ戴キタイデスガ‥‥
　　〔澤田牛麿君登壇〕
○澤田牛麿君　私ハ遺憾ナガラ此ノ憲法改正案ニ反對スル者デアリマス、ソレハ、誠ニ政府ノ御立場ヲ察セザルニシモアラズデアリマスケレドモ、良心ノ命ズル所ニ從ツテ、聊カ反對ノ理由ヲ申述ベタイト思ヒマス、私ノ論旨ハ三段ニナリマス、第一ハ憲法改正ノ時期ニ付テ、第二ハ憲法改正案ノ内容ニ付テ、第三ハ改正憲法ノ施行ノ齎ス結果ニ付テ、其ノ三段ニ分ケテ申上ゲタイト思ヒマス、時期ノ問題ニ付テハ、是ハ既ニ吉田首相カラ國際情勢デ猶豫出來ヌト云フ御話モアリマシタカラ、一應御尤モダト私モ了承スルノデアリマスルガ、併シ政府ノ御考ニ依レバ、日本ハ完全ナ獨立國デハナイト云フ御話デアリマス、之ニ付テハ果シテドウ云フ見解ヲ下シタラ宜イカ、私自身ニモハツキリ分リマセヌガ、憲法ノ制定ト云フモノハ獨立國ガスベキモノデナイダラウカ、獨立國デナイモノガ憲法ノ制定ヲスルト云フコトハ、是ハ少シ間違ツテ居ルンヂヤナイカト私ハ思フ、ソレデ、日本ガ完全ナ獨立國ニナツタ後ニ憲法ノ改正ヲシテ然ルベキモノデハナイカト思フノデアリマス、其ノ點ニ付テ、此ノ改正ノ時期ニ關シテ、元カラ懷イテ居ル疑問デアリマスガ、今日モ尚其ノ時期ガ適當デナイト云フコトヲ思フノデアリマス、第二ノ論旨ハ、憲法ノ内容ニ付テデアリマスルガ、此ノ憲法ハ各位ノ方々カラモ御話ノアツタヤウニ、古イ著物ヲ脱ギ捨テテ新ラシイ著物ヲ著ルノガ宜イヂヤナイカト云フ御話ガゴザイマシタ、成ル程新ラシイ著物ヲ著ルコトニ付テ、ソレ自身ニ於テハ、私ハ必ズシモ反對スル者デモアリマセヌガ、其ノ著物タルヤ繼ギハギダラケ、裄丈モ合ハナイ借著デアツタナラバ、是ハ必ズシモ賞讚スルニ足ルモノデハナイト思フノデアリマス、其ノ繼ギハギダラケデアルト云フ所ヲ一ツ御覽ニ入レタイト思フ、大變分類ナゾヲシテ、イヤニ學究ジミテ來マスケレドモ、御許ヲ願ヒタイト思ヒマス、此ノ憲法ハ、内容ニ付テ言ヘバ、法律ノ進化ニ逆行スルモノデアルト私ハ思フ、其ノ説明ヲ「エー、ビー、シー」ニ分ケテ御話ヲ申上ゲタイト思ヒマス、「エー」トシテ倫理律、道徳律ト法律トノ分離ハ、是ハ法律ノ進化ノ結果デアリマス、其ノ點カラ言ヒマスト、道徳律ト法律ト混同シテ居ルモノハ、是ハ進ンダ法律トハ言ヘナイト思フ、現在ノ憲法ハ其ノ點ニ於テハ大變進ンデ居ル、法律的ノコトダケガ述ベテアル、然ルニ改正案ニハ倫理的ノコトガ非常ニ多イ、其ノ實例ハ詳シクハ申シマセヌガ、第十條、第十二條、第十五條第二項、第二十四條第一項、此ノ内容ハモウ皆サン御承知デアリマセウカラ、此處デ朗讀スルト時間ガ掛リマスカラ省キマスル、是等ノ點ハ總テ教訓的ノコトデアリ、心得ノ點デアリ、倫理ニ屬スベキモノデ法律ニ屬スベキモノデハナイ、之ヲ掲ゲタト云フコトハ、法律論トシテハ寧ロ逆轉デアリマシテ、今日ノ大日本帝國憲法ヨリハ寧ロ「プリミティヴ」ト云フカ、原始的ト云フカ、進化ノ度ノ低イモノデアル、即チ好イ著物ヲ棄テテ、西陣織ノ立派ナ著物ヲ棄テテ、「ス・フ」入リノ借著ヲシタト云フノハ此ノ點デアリマス、ソレカラ「ビー」トシテハ公法ト私法ノ混同デアリマス、是モ法律進化ノ上カラ言ヘバ、公法ト私法ト分レルノヲ混同シテ居ルノハ、法律進化ノ程度ノ低イ時ノコトデアル、然ルニ此ノ改正案ノ二十四條ノ規定ハ、是ハ純然タル民法ノ規定デアル、憲法ニ書ク必要ハナイノデアル、是等ノ點カラ言ツテモ此ノ法律ハ決シテ進歩シタル立派ナモノトハ言ヘナイ、ソレカラ更ニ「シー」、是ハ私共ガ度々言フ通リ三權分立ノ理念ノ紛糾デアリマス、其ノ例ヲ條ヲ擧ゲテ簡單ニ申上ゲマス、第四十一條ニ國會ガ最高ノ機關トナツテ居リマス、處ガ、其ノ國會ノ作ツタ法律ガ、第八十一條デ少數ノ裁判官ニ依ツテ憲法違反デアルト云フコトノ裁判ヲサレルト云フコトニナツテ居ル、其ノ裁判ガ有効ダ、終審ダト云フコトニナツテ居ル、サウスルト最高機關ノ作ツタモノヲ、而モソレガ衆議院及ビ參議院、兩院約千人掛ツテ作ツタ法律ガ憲法違反デアルト云フコトヲ、五人カ十人ノ判事ニ依ツテ決定サレルト云フコトハ、是ハ國會ヲ最高機關ト云フコトノ觀念トヒドイ矛盾デハナイカト思フ、外國ニ例ガアルト言ハレマスガ、外國ハ又ソレゾレ事情ガ違フノデアツテ、外國ニ例ガアルト云フコトガ直チニ其ノコトガ適切デアル、若シクハ正シイ、若シクハ宜シイト云フコトニハナラナイ、各各異ツタ事情ノ下ニ於テ異ツタ状態ガ出現スルト云フコトハ、是ハ當然ノ話デアリマス、外國ニ例ガアルト云フコトヲ以テ、議會自身ガ憲法違反ト思ツテ法律ヲ拵ヘル筈ガナイノデアリマスカラ、議會自身ガ拵ヘタ法律ハ憲法ニ即シタ、憲法ニ少シモ違反シナイト云フコトヲ前提トシテ法律ト云フモノハ出來ルノデアリマス、其ノ議會多數ノ人ガ拵ヘタ法律ヲ少數ノ判事ガ、是ハ憲法違反デアルト判斷スル、憲法違反ナラバ即チ無効ニナル、斯ウ云フコトハ徒ニ法律状態ノ紛糾ヲ來スノミデアツテ、何等ノ利益ハナイト思フ、實際問題トシテモ判事ノ數名ガ、果シテ憲法ニ反スル法律デアルカドウカト云フコトヲ、最終的ニ決定スルダケノ能力、叡智ガアルデアラウカ、サウスルト國會議員ト云フ者ハ餘程詰ラヌモノダ、サウ云フ者ガ最高ノ機關ト云フコトハ、是ハドウモ了承出來ナイ事柄デハナイカト思フ、ソレカラ又之ニ反シテ司法權ト立法權トノ混淆デアリマスガ、第六十四條ニ彈劾裁判所ト云フモノヲ設ケル、議會内ニ設ケル、サウシテ裁判官ヲ裁判スル、斯ウ云フノデアリマスガ、是ハ司法ノ部ニアル所ノ司法ノ最高裁判所ハ終審デアル、最終ノ審判デアツテ、外ノ機關デハ最終ノ裁判ガ出來ナイト云フコトガ規定シテアリマスルカラ、是ト衝突スル、矛盾スルコトデアル、國會ガ司法權ヲ侵害スルモノデアル、斯ウ云フ點ハ三權分立思想ノ理念ヲ打チ壤スモノデアル、更ニ第七十九條ニ裁判官ノ任命ハ内閣ガスル、任命ヲスレバ、其ノ任命スル人ハ任命サレル人ヨリハ上位ニアルノデアル、普通ノ觀念カラ言ヘバ任命サレタ者ハ、例ヘバ大臣ガ屬官ヲ任命スル、知事ガ屬官ヲ任命スルト言ヘバ、其ノ屬官ハ大臣、知事ノ下ニアルモノデアル、サウスルト司法權ト云フモノハ内閣ノ下ニアルト云フコトニナル、是等モ筋ノ立タヌ議論デアルト思フ、ソレカラ又第六十八條ニ大臣ノ任命ノコトガアリマス、是ハ總理大臣ガ決メルト云フコトデアル、ソレカラ七十三條ノ第二號「外交關係を處理すること。」、第三號「條約を締結すること。」是ハ内閣ノ權限トナツテ居リマスルガ、サウデアルト云フト内閣ガ統治權ヲ持ツト云フコトニナルノデアル、世界ノ各國ノ立法例ハ、サウ詳シクハ知リマセヌガ、千九百三十年以降ノ諸國ノ憲法ニ依リマスルト、外交ノコトハ千九百三十一年ノ「スペイン」、千九百三十一年ノ「ユーゴースラヴィヤ」等ノ例ヲ見マシテモ、大統領トカ國王トカ云フモノニ其ノ權ガアルノデアル、總理大臣ニアルト云フヤウナコトハナイ、條約ニ付テモサウデアリマス、「エストニア」、「ポーランド」、「ユーゴースラヴィヤ」、「ポルチュガル」等憲法ハ、皆サウナツテ居ル、ソレデナケレバ總理大臣ガ主權者トナルノデアル、此ノ憲法草案ノ規定ニ依リマスルト、國會ガ主權者デモアル如ク、總理大臣ガ主權者デモアル如ク、何處ニ何ガアルカ分ラヌ、ソコデ私ガ委員會ニ於テ統治權ト云フモノノ行方不明ト云フコトヲ申上ゲマシタガ、統治權ト云フモノガ何處ニアルカ分ラナクナル、斯ウ云フ紛糾シタ規定ト云フモノハ、餘程幼稚ナ法律觀念カラ出タモノデアル、決シテ進歩シタモノトハ言ヘナイト思フ、諸種ノ規定ニ於テ矛盾ヤラ僞瞞ヤラアリマシテ、立法技術ノ非常ニ拙劣ナコトハ、嘗テノ本會議ニ於テモ私ハ指摘致シマシタガ、
　　〔副議長退席、議長著席〕
更ニ一二ノ例ヲ擧ゲテ申上ゲマスト、第十五條「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、國民固有の權利である。」ト云フ條項、是ハドウモ國ノ此ノ憲法ノ運用ト云フカ、國政ノ運用ト云フカ、之ヲ不可能ニスル規定デハナイカト私ハ思フ、何トナレバ任命スル、罷免スルト云フコトハ、具體的ノ一ツノ行爲デアツテ、是ガ國民固有ノ權利デアルトスレバ、是ハ他人ニ委任スルコトガ出來ナイモノヂヤナイカ、或ハ居住ノ自由トカ、移轉ノ自由トカ云フナラバ、ソレハハツキリシタ具體的ノ行爲デナイカラ、漠然トシタコトデアルカラ、其ノ細カイコトハ法律デ決メルト云フコトガ出來マスケレドモ、任ズル、免ズルト云フコトハ、ハツキリシタ「コンクリート」ナ事柄デ、之ニハ餘地ガナイ、サウスルト唯、一判任官ヲ、今判任官ト言フカナンカ知リマセヌガ、判任官ヲ任命スルニモ之ヲ罷免スルニモ、八千萬ノ人民ガ始終「レフェレンダム」ヲヤラナケレバナラヌ、ソレデナケレバ他ニ途ハナイト此ノ憲法ノ規定カラ思フ、是ハ迚モドウモ國ノ事務ハ一日モ存續スルコトノ出來ナイ非常ニヘンテコナ規定デアル、之ヲ辯護スル人ハ七十三條ノ内閣ニ、「法律の定める基準に從ひ、官吏に關する事務を掌理する」トアルカラ其ノ結果トシテ官吏ノ任免ハ出來ルノデアツテ、此ノ十五條トハ關係ナイト云フヤウナコトヲ言ハレマスガ、十五條ニ明カニ憲法ノ明文ニ、「國民固有の權利である。」ト書イテアリ、此ノ權利ヲ何人ニ委ネルカ、或ハドウ云フ手續ニ依ツテ委ネルカ、法律ニ委ネルカ、何ニ委ネルカト云フ規定ガ十五條其ノモノニ書イテナイカラ、十五條ハ動カスベカラザル融通ノツカナイ規定デアル、免ズル、任ズル總テ國民固有ノ權利デアルトスレバ、之ヲ直シ樣ガナイ、サウスルト此ノ十五條ガアル爲ニ日本ノ國務ト云フモノハ行ヘナイコトニナル、是ハ非常ナ問題デアルト思フ、ソレカラ第八條ノ如キモ、私ハ皇室ヲ準禁治産者扱ニスル嫌ガアルト云フコトヲ述ベマシタガ、人カラ物ヲ貰ツテモ人ニ物ヲヤツテモナラヌ、財産ヲ處分スルコトハナラヌト云フコトハ、民法デ言ヘバ準禁治産者扱デアル、是ハ甚ダ不當ナ規定デアツテ、皇室ニ對スル侮辱デアルト思フ、斯ウ云フ規定ガアル、ソレカラ又第九十九條ノ天皇、攝政、國務大臣、裁判官其ノ他ノ公務員ハ、此ノ憲法ヲ尊重シ擁護スル義務ヲ負フ、是ハ各國憲法ノ例ヲ見マスト、多クハ大統領ノ就任スル時トカ、或ハ「キング」ガ位ヲ繼グ時トカ云フ時ニ宣誓ヲスル文句ニナツテ居ル、ソレナラバ宜シイ、宣誓ナラバ一ツノ行爲デアツテ、是ハ事實上ノ問題デアルカラ‥‥‥、憲法ノ規定ニ斯ウ云フモノガアルト云フコトハ不可思議ナ話デアル、私ハ實ハ餘リ例ヲ知ラナイ、是等ハヲカシナモノデアルト思フ、ソレカラ又九十七條モ、是モ詳シクハ申上ゲマセヌガ、唯、是ハ何ト申シマスカ一種ノ宣言ヲシタニ過ギナイ、先程ドナタカノ御説ノ中ニ、法ト云フモノハ「ノルム」デアル、規定デアルト言ハレマシタガ私モサウ思フ、サウスレバ何事ヲ規定シテ居ルノデアルカ、九十七條ト云フモノハ何等ノ規定ヲシテ居ラヌ、唯宣言ヲシテ居ルダケ、斯ウ云フモノハ法律ノ條項トシテ採上グベキモノデナイト思フ、其ノ他是ハ他ノ憲法委員カラ色々議論ガアリマシタガ、文章其ノ他用語等ニ付テモ、モウ實ニ亂雜極マルモノデアル、直サウトスレバ迚モ追附カナイ、斯ウ云フ風ニ非常ニ粗雜ナモノデアル、尚斯ウ云フコトヲ細カク言ツテ居リマスレバ果ガアリマセヌカラ、其ノ位ノ程度ニ止メテ置キマスガ、要スルニ憲法ト云フモノハ國民ノ慣習、感情等ニソグハナイモノハ憲法ノ價値ガナイト私ハ思フ、ソレデ此ノ憲法ハサウ云フ點ニ於テ非常ナ缺點ガアルト思フノデアリマス、私ガ縷々數萬言ヲ費スヨリモ、「アメリカ」ノ一新聞ノ記事ヲ引證スルノガ一番宜イト思フノデアリマス、「アメリカ」ノ新聞ニ「ヂス・イズ・ナット・ジャパニイズ・コンスティチュウション」、或ハ「ヂス・イズ・アン・アメリカン・コンスティチュウション・フォアージャパン」、斯ウ書イテアリマス、譯スルコトハ私ハ下手デスカラ譯シマセヌガ、詰リ日本ノモノデハナイト云フコトハ明カデアリマス、（拍手）此ノ「アメリカ」ノ新聞ノ記事ガ、私ハ數萬言費スヨリハ有力デアルト思ヒマス、斯ウ云フモノヲ御出シニナル政府ノ態度ト云フカ、意思ト云フカ、私ハ實ハ了解ニ苦シムノデアル、何故モウ少シ憲法ラシイモノヲ御出シニナラヌデアラウカ、隨分憲法學者モ澤山アルヤウデアルシ、又内閣ソレ自身ニモ相當ナ技術家モ澤山居リマス、何デ斯ウ云フ粗雜ナ亂暴ナ規定ヲ出シテ、之ヲ急速ニ進行シナケレバナラヌノデアルカ、憲法改正其ノモノニ付テハ、私モ必要アル場合ニ之ニ贊成スルコトニ異存アリマセヌケレドモ、苟モ憲法デアル以上、是ハ所謂「タームス・ピース」ト違フ、降伏條件、講和條件ト違フ、永續性ヲ持ツモノデアリマスカラ、其ノ意味ニ於テノ憲法ヲ出シテ戴キタイモノダト思フ、ソレカラ第二憲法ノ内容ニ付テノ批評ハ餘リ諄ドクナリマスカラ、其ノ程度ニ止メテ置キマス、第三ノ論點ノ此ノ憲法施行後ノコトニ付キマシテ一言申シタイ、ソレハ此ノ憲法ハ御承知ノ通リ、所謂英米系ノ色彩ノ非常ニ強イモノデアル、日本ハ大陸系ノ法制ヲ採入レテ、今迄ニ隨分法制ガ完備シテ居ル、ソコヘ持ツテ行ツテ斯ウ云フモノガ來レバ、此ノ憲法ニ從ツテ日本ノ各種ノ法制ハ非常ナ變革ヲ遂ゲナケレバナラヌ、民法、刑法、訴訟法其ノ他辯護士法、色々アルデセウガ、各種ノ法令ニ向ツテ大改革ヲシナケレバナラヌコトニナルト私ハ思フ、私ハ實ハ法律ノ知識ガ餘リアリマセヌカラ、サウ細カク何法々々ト悉ク列擧スルコトハ出來マセヌケレドモ、常識的ニ想像スルニ、非常ニ澤山ノ法令ノ改廢ヲ必要トスルト思フ、人民ノ迷惑ハ甚ダシイモノデアル、立法スル議會ハ勉強スレバ年中開イテ居ツテ議シテモ宜イダラウ、日ニ一ツヅツ法律ヲ出シテ行ツテモ宜イカモ知レナイ、併シ之ヲ受ケル方ノ人民カラ言ヘバ、非常ニ迷惑ナ話、此ノ憲法ガ實施サレナケレバサウ云フ煩雜ハナイガ、此ノ憲法ガ實施サレルトナレバ、サウ云フ日常生活ニ取ツテ非常ナ不便ヲ受ケルコトニナルト云フコトハ私ハ疑ヒナイト思フ、サウ云フモノガ果シテ「デモクラチック」デアラウカ、民主主義ト云フモノハサウ云フモノデアラウカ、私ハサウデナイト思フ、サウスルト此ノ憲法ヲ施行スルト云フコトハ、「ポツダム」宣言ニ違反スルコトニナリハシナイカ、民主主義的デナイ、唯人民ヲ困ラセルコトニ了ルヂヤナイカ、サウシテ尚其ノ他ニ此ノ憲法ガ能ク讀マレテ居ラヌ、實ハ多クノ人ガ讀ンデ居ラヌノデス、正直ニ言フト、條文ナド讀ンデ居ル人ハ極メテ少イ、唯一種ノ宣傳ニ迷ツテ居ル、新憲法ガ出レバ有難イ、丁度現行憲法ガ出ル時ニ、憲法發布ト云フコトガ頻リニ言ハレタ時ニ、絹布ノ法被ヲ賜ハルノダト言ツテ大變何處カデ喜ンダト云フ噂ガ殘ツテ居リマス、其ノ程度ト餘リ違ツテ居ラヌ、新憲法デ俄カニ自由ニナリ、民主的ニナリ、何デモ何スルト云フコトデ、非常ニ有難イコトノヤウニ思ツテ居ルケレドモ、多クノ人ハ此ノ憲法ノ内容ヲ一ツモ讀ンデ居ラナイ、斯ウ云フコトハ、詰リ日本人ノ程度ノ低イト云フコトヲ表明スルコトニ外ナラヌデセウケレドモ、餘程爲政者トシテ心掛ケナケレバナラヌコトト思フノデアリマス、サウ云フ點ニ於テ私共ハ此ノ憲法ハ贊成スルコトノ出來ナイ所デアリマス、甚ダ遺憾デアリマスケレドモ、私ハ此ノ憲法ヲ贊成出來ナイ、從ツテ政府ニ對シテハ斯カル憲法ヲ御出シニナツタト云フ、其ノ法律的頭ノ水準ヲ失禮ナガラ疑ハザルヲ得ナイノデアル、願ハクハモウ少シ研究サレテ、モウ少シ勉強サレテ、總理大臣ハ御出席ニナツテ居ラヌヤウデアリマスケレドモ、モウ少シ政府自ラ憲法ニ熱心ニナツテ、衆智ヲ集メテ立派ナ憲法ヲ作ツテ戴キタイ、其ノ意味ニ於テ是ハ私ハ返上シタイト云フ意味デ反對ヲ致スノデアリマス
○議長（公爵徳川家正君）　子爵大河内輝耕君
　　〔子爵大河内輝耕君登壇〕
○子爵大河内輝耕君　遅ク迄皆サンヲ御引留メシテ相濟ミマセヌ、只今諸先輩カラ色々贊成論、反對論ヲ伺ヒマシタ、誠三々御尤モ、誠ニ私モ良イ教訓ヲ受ケ、政府ニ於テモ、又社會一般ニ取ツテモ大變良イ影響ヲ與ヘタコトトシテ、茲ニ感謝ヲ致シマス、就中佐々木博士ノ反對論ノ如キハ、國體問題ニ觸レラレマシテ熱烈ナ意見ヲ開陳サレマシタ、私モ此ノ憲法ヲ讀ミマシテ、實ニ涙ナクシテ讀ムコトハ出來ナイ、一部官僚ガ事ヲ誤ツタ爲ニ今日我々ガ斯カル憲法ヲ議サナケレバナラヌト云フコトハ、何タルコトデアリマセウカ、我々ハ遺憾ト言フカ、何ト言フカ、殆ド之ニ接スル言葉ヲ知ラナイ、併シナガラ、ソレハソレト致シマシテ、我々ハ之ニ對シテソレデハ將來ドウスルカ、佐々木博士ノ御議論ニ對シテ我々ハドウ感ズルカ、憤慨スルダケ憤慨スルガ宜イ、泣クダケ泣クガ宜シイ、我々ハ體中ノ熱血ガ腹ノ中デ燃エテ居ル、モツト燃エルガ宜シイ、百度迄燃エルガ宜シイ、二百度迄燃エルガ宜シイ、「塚モ動ケ我ガ泣ク聲ハ秋ノ風」、ソコ迄行ツテ初メテ目ガ醒メル、泣キ樣ガ足リナイカラ目ガ醒メナイ、何處迄モ泣クダケ泣キ、憤慨スルダケ憤慨スル、ソコデ初メテ我々ハ目ガ醒メテ來ル、私モ佐々木博士ニ劣ラズ泣イタ、泣キマシタカラ茲ニ初メテ光明ヲ發見シテ來タ、昨年ノ花ハ散リマシタ、如何ニモ遺憾デゴザイマス、遺憾デゴザイマスガ、其ノ花ノ散リ方ハドウデアルカ、來年ニ至ツタラモツト綺麗ナ花ヲ咲カセテヤラウト云フ意氣込ヲ以テ散ツテ居ル、人間ガ死ヌ時モサウダ、我々ハ死ヌ、死ヌ時ハ死ヌガ、來世ニハモツト立派ナ人間ニナツテ生レテ來ヨウト思ツテ死ヌ、此ノ憲法モ亦然リ、舊憲法何ノ惡イ所ガアルカ、曲歪ハサレタケレドモ、立派ナ憲法デアル、金甌無缺ノ國體デアル、數千年來我々ガ此ノ爲ニ生存シテ來タ有難イ國體デアル、之ヲ今日斯ウ云フ状態ニ置クト云フコトハ、實ニ殘念デアル、ソコニ至ツテ泣イテ泣イテ泣キ切レナイ所カラ新シイ進路ガ起ツテ來ルト信ジマス、昔聖武天皇ハ最愛ノ王子ニ別レ、追慕止ミ難ク、涕泣眼ニアラク、涙玉ヲ貫クト云フ状態デアラセラレタ、ソレガ一度思ヒヲ飜シテ廬遮那佛ヲ建立シ、アヽ云フ大キナ工事ヲセラレタト云フコトハ、明々白々ノ事實デアリマス、此ノ精神ヲ以テ我々ハ將來ノ新日本ノ建設ニ掛ルベキモノト存ジマス、（拍手）偖然ラバ將來新日本ノ建設ニ對シテ如何ナル所ニ我々ハ目標ヲ置クベキデアルカ、是ハ申ス迄モナク民主主義ト平和主義トデゴザイマス、ソレデ此ノ憲法ノ中ヲ通覽シテ見マスルト、成ル程御話ノ通リ、文章モ甚ダ上手デハナイヤウデアル、殊ニ文法ナドモドウカト云フト、此ノ文法ニ付テハ、私ハ餘計ナコトヲ言フヤウデスガ、ソレハ恕サナケレバナラナイノデ、今口語體ノ文法ト云フモノハ決ツテ居ラナイカラ、多少トモ滅茶苦茶ニナツテ居ルノハ仕方ガナイ、ソレヲ無理ニ決メタリ、口語體ニ持ツテ行ツテ本居ノ文法ヲ嵌メルヨリ、口語體ヲモツト發達サセテ、其ノ發達シタ處デ文法ヲ決メタ方ガ宜イノデスカラ、文法上ハ仕方ガナイノデ、文章ハ上手デハナイト思ヒマスケレドモ、併シ此ノ憲法ニ於テ平和主義ト民主主義ガ明白ニ現レテ居ルト云フコトハ申上ゲテ宜イ、澤田先生ハ皆能ク讀ンデナイト仰シヤイマスケレドモ、私ハ讀ムダケハ讀ミマシタ、讀ミマシタガ、立派ニ現レテ居リマス、ソレハ文章ハ拙イケレドモ、實質ハ少シモ差支ハナイ、ソレハ細カイ所ヲ言ヘバ缺點ハゴザイマス、細カイ缺點ハゴザイマセウガ、百ノモノナラバ、九十迄ハ立派ニ及第シテ差支ナイ憲法ダト思ヒマス、少シ御ウルサイヤウデゴザイマスガ、中ヘ入ツテ一ツ其ノ事例ヲ二三言ハシテ載キタイ、二三ヂヤナイ、事柄ガ少シ多イカラ恐縮シマス、ソコハ惡シカラズ、前文ニ於テハ平和主義ト民主主義ガ立派ニ現レテ居ル、成ル程文章ハドウカ知リマセヌケレドモ、其ノ何ヲ言ツテ居ルノカト云フコトハ能ク分ル、第一章ニ於キマシテハ、天皇ノ權威ヲ明カニシ、且其ノ第六條以下ニハ天皇ノ權限ヲ明確ニ致シマシテ、天皇ヲ御安泰ノ地位ニ置ク、第二章ニ於テハ、自衛ノ戰爭ト雖モ之ヲ禁ジテ、サウシテ平和主義ノ大宣言ヲ世界ニ向ツテ致シテ居リマス、第三章ニ於キマシテハ、國民ノ基本的人權ヲ定メ、人種或ハ門地等ノ不合理ナル差別、法ニ於ケル所ノサウ云フ不合理ナル差別ヲ撤廢シテ、時勢ニ伴ハナイ華族「ピアース」ノ制度ヲ廢止シ、公務員ヲ選定スルコトハ國民ノ權利デアルコトヲ宣言シテ官僚專制ノ弊ヲ防ギ、又小サイコトデハアリマスガ、公務員ノ不法行爲ノ損害迄規定シ、又何人モ奴隸的拘束ヲ受ケナイ、或ハ苦役ニ服サセラレルコトハナイト云フコトヲ掲ゲテ人權ヲ擁護シ、又不合理ナ戸主權ヲ廢メマシテ、サウシテ家族制度ヲ強ヒテ法ニ認メルコトハナイ、是ハ家族制度ヲ破壞シタノデハゴザイマセヌ、家族制度ヲ強ヒテ認メルコトハ致シマセヌ、ソレデ夫婦財産制、妻ノ無能力ヲ廢シ、又家督相續ヲ廢メマシテ均分相續トスル、サウシテ遺留分ノ規定ヲ直系卑屬ニ對シテハ二分ノ一ト云フコトヲ認メテ、サウシテ昔ノ不公平ナ家督相續制ハ排除シテシマツテ、均分相續ニ行クト云フ制度ヲ定メル、勤勞者ノ團結權ヲ認メル、社會生活ノ基礎ヲ固ウシタ、又自白ノ効力ヲ認メマシテ、サウシテ拷問ヤ其ノ他ノ殘虐ナ刑罰ヲ禁ジテ、茲ニ司法權ノ擁護、又人權蹂躪ヲ防止スルト云フ所ノ方策ヲ樹テ、第四章ノ國會ニ於キマシテハ、兩院議員ハ全國民ヲ代表スル選擧デ選バレタモノデアルト云フコトヲ明カニ致シマシテ、尚其ノ選擧被選擧ノ資格ハ、門地トカ或ハ詰ラヌ資格デ差別スルコトヲ禁ジ、法律案其ノ他ノ議決ニ付キマシテハ、參議院ト衆議院ト其ノ性質ニ鑑ミテ其ノ權限ヲ異ニシ、殊ニ法律案ニ付キマシテハ、委員方ノ御注意ニ依ツテ協議會ノ規定迄モ挿入セラレル、内閣ノ規定ニ付キマシテハ、内閣員ガ穩健ナル思想者デアルト云フコトヲ明カニセムガ爲ニ内閣大臣ガ文民ニ限ルト云フコトノ規定ヲ挿入サレマシタ、是ハ委員長カラ御説明モゴザイマシタガ、私ハ一ツ是ハ私ノ見解ヲ述ベサシテ戴キタイ、委員會デ議シテ居リマスル中ニ、ドウモ皆サンノ御意嚮ガ、内閣ノ大臣ハ穩健ナ思想ノ所有者デナケリヤイカヌト云フ空氣ガボツボツ現レテ來タ、ソレデ誰言フトナク、ソレヲ綜合シテ見ルト云フト、ソレハ文章ノ此ノ中ヘ入レテモ宜イヂヤナイカ、此ノ中ヘ入レテ宜イノヂヤナイカト云ツテドンナ言葉ガ宜イダラウカト言ツテ居ルト、或人ガ言フニハ、ソレハ英語ナラアル、「シヴィリアン」ト云フ字ナンダ、斯ウ仰シヤツタ、ソレデ成ル程ソレガ能ク穩ナ思想ノ所有者ダト云フコトヲ表シテ居ル、能ク表シテ居ルガ、偖之ヲ日本語ニ譯シタラドウダト云フコトデ、色々御苦心ニナツタ結果、文民ト云フ字ガ現レテ來タノデゴザイマス、誠ニ此ノ字ハ今迄ナイ字デゴザイマシテ、サウシテ、其ノ點カラ言フト餘リ何デスガ、文化人ト申スト、其ノ儘受取レバ宜シウゴザイマスガ、少シ斯ウ何カ平家ノ公達ミタイナモノヲ聯想シテ參リマス、ソレカラ文人ト云フノモ文人墨客ト云フノデ何ダカヲカシイ、ソレハサウ云フ言葉ハ宜イノデスカラ、虚心坦懷ニ取レバソレデ宜イノデスケレドモ、穩健ナ思想ノ所有者ト云フコトハ表レマセウケレドモ、ドウモ外ニモ意味ガアルモノデスカラ使ヒ難イ、遂ニ斯ウ云フ言葉ニ落著イタノデゴザイマスガ、是ハ私ト致シマシテ御伺ヒシタ時此ノ字義ハイカヌ、此ノ字義ハ實ハ委員會デハ御決定ハナカツタ、私ハ併シ皆樣ノ御研究、皆樣ノ教ヲ仰グ便宜ノ爲ニ、此ノ私ノ解釋ヲ申上ゲタイト思フ、文民、此ノ意味ハ前文ニスツカリ表レテ居ル、前文ハ何カト云フト、民主主義ト平和主義トヲ唱ヘテ居ル、サウシテ專制ト、隷從ト、壓迫ト偏狹トヲ地上カラ永遠ニ除去シヨウト努メテ居ルト斯ウ書イテアル、其ノ民主主義ト平和主義ヲ體得シ、ソシテ專制ト隷從ト、壓迫ト偏狹トヲ排除スル、是ガ所謂「シヴィル」ノ思想デス、「シヴィル」トカ「シヴィライズ」トカ、「シヴィリゼーション」トカ云フノハ皆斯ウ云フヤウナ思想デアラウト思ヒマス、即チ文民ト云フモノハ、積極的ニ言ヘバ平和主義、民主主義ヲ體得シ、專制、隷從、壓迫、偏狹ヲ排除スル、ソレカラ消極的ニ申セバ、偏狹ナル思想、軍國主義、或ハ偏狹ナ、極端ナル國家主義ヲ排除スル、此ノ人達ノ中カラ取ラナキヤナラヌト私ハ斯ウ解釋シテ、然ルベキト存ジマス、從ツテ先達テ新聞ニゴザイマシタ如クニ、或官歴ヲ持ツタ人ハ排除スルナンテ云フヤウナコトハ私ハ到底ソンナ心ハ起リマセヌ、嘗テドンナ職ニ在ツタ人デモ穩健ナル思想ノ所有者デアレバ、是ハ大臣トスルモ何トスルモ少シモ差支ナイ、大手ヲ振ツテ大臣ニナリ得ルモノト私ハ確信致シテ居リマス、是ハ私ハ此ノ贊成理由ヲ述ベルニ付キマシテ必要ト存ジマスルカラ、私ノ解釋ヲ茲ニ明カニ致シテ置キマス、ソレカラ次ニ又内閣總理大臣ハ國會カラ選バレル、又外ノ國務大臣ハ過半數、國會カラ選バレナケリヤイケナイト云フコトニシテ、是デ天皇ノ御地位ヲ擁護スルト共ニ、又此處ニ議會政治ノ基本ヲ設ケタノデアリマス、ソレカラ衆議院ノ不信任決議ノ效果ヲ定メ、國會ノ召集ノ規定ヲ定メ、是デ政府ガ或ハ條約ノ締結ニ對シテハ、國會ノ承認ヲ經ルト云フ權限ヲ與ヘ、是等ニ依ツテ議會政治ニ依ル、即チ前文ニアル所ノ「正當に選擧された國會における代表者を通じて、行動し、」ト云フコトノ意味ガ、所謂議會政治ノ意味ガ、此處ニ此ノ二章ニ依ツテ嚴然ト表レテ居ルト存ジマス、第六章司法ノ所ニ於キマシテハ、裁判官ノ立場ヲ、司法ノ獨立ヲ確認シ、殊ニ最高裁判所ニ對シテハ憲法ヲ審議スル權限迄與ヘテ、サウシテ其ノ地位ヲ愈々重クシ、又國民ニ安心ヲ與ヘ、第十章ニ最高法規ヲ定メテ國ノ基本ヲ定メ、國民ノ最モ重ンズベキ所ヲ教ヘ、殊ニ九十八條ニハ條約ノ效力ヲ此處ニ明定シテ、サウシテ今迄ノ疑問ヲ解決シタ、之ニ又更ニ錦上花ヲ添ヘタノハ九十七條ノ規定デアリマシテ、一代華族ヲ廢シ、斯ウ云フ鵺ノヤウナモノハ今日ノ時世ニハ到底合ヒマセヌ、之ヲ洗ツテシマツタト云フコトハ、是ハ私ハ衆議院ニ對シテ感謝致サナケレバナラヌト思ヒマス、是ダケノコトダケ申上ゲレバ、大體ニ於テ此ノ憲法ハ新日本ヲ建設スルニハ一向差支ナイ、我々ハ此ノ方針ニ依ツテ新日本ノ建設ヲスレバ宜イト云フコトハ明瞭ニ見ラレルト思フ、若シ此ノ憲法ガデス、二十年カ三十年モ前ニ行ハレテ居リマシタラバ、今日ノ慘禍ハ避ケ得ラレタト云フコトハ、是ハ誰方モ御承知下サルコトト存ジマス、併シ私ハ、皆樣ニハ誠ニ御迷惑デゴザイマスガ、無條件デ贊成ハ出來マセヌ、少シ此ノ運用ニ付テハ政府ニ御注意ヲ促シタイト思ヒマス、如何ニ憲法ガ良クテモ、ソレニ對スル善後ノ措置ガ良クナクチヤイカヌ、先ヅ第一ニ何カト申シマスト、此ノ憲法ハ良過ギル憲法デアリマス、日本國民ノヤウナ事大主義ノ大勢順應主義ノ國民ニ、斯ウ云フ良イ憲法ヲ與ヘルト云フコトハ危險デス、實際危険デス、是ハ餘程之ニ付テハ教育ニ付テ、御考ヘ願ハナケレバナラヌ、此ノ大勢順應主義ヲ何デモ打チ壞サナケレバイケナイ、一擧一動悉ク自分ノ責任カラ來ルト云フコトニナラナケレバ、民主主義モ、平和主義モアリマセヌ、民主主義ト云フコトハ分ヲ守ルト云フコトガアツテ始メテ行ハレルコトデアル、平和主義ト云フノハ國際道徳ヲ蓄積スルコトニ依ツテ行ハレルコトデアル、之ガデス、何方ニモ此方ニモ引摺ラレルト云フヤウナコトデハ迚モ斯ウ云フコトハ行ハレルモノヂヤアリマセヌ、之ニ付テハ人文科學ノ教育、之ニ付キマシテ、私ハ餘程ナ御考慮ヲ政府ハ要セラレルコトト存ジマス、實ハ委員會ニ居リマシテ、私ハ此ノ質問ヲ致シマシタノデスガ、ドウモ皆樣ニ十分ナ徹底ガ行カナイデ、後ヲ繼イデ下サル方ガナカツタ、文法ノ論ヤ字句ノ修正ハ隨分大部分ノ時間ヲ取リマシタガ、教育家ヲアレダケ集メタ委員會デ、而モ法學博士ヲ澤山列ベテ、人文科學ノ改良策ニ付テ餘リ多クノ論議ガ費サレナカツタト云フノハ、是ハ甚ダ遺憾ナガラ委員會ノ爲ニ惜ミ、又是ハ委員會ノ委員ノ一人トシテ皆樣ノ前デ謝サナケレバナラヌ、ソレハ兎モ角トシテ、出來タ上ハ致シ方アリマセヌ、ドウカ皆樣ノ御援助ニ依リ、又政府ノ努力ニ依リ、是非此ノ教育ヲ何トカシテ戴キタイト云フコトヲ此處ニ切望シテ置キマス、次ニ中ニ入ツテ少シ申上ゲマスガ、此ノ憲法ガ出來テモナカナカ附屬法規ガウマク行カナケレバ駄目デス、實ハ憲法ニ色々ナ事ガ書イテアリマスカラ、是ハ一々附屬法規ハドウナルカト云ツテ御尋ネ致シマシタ處、ナカナカ決ツテ居ナイ、現ニ、參議院ノ組織サヘ具體的ナ御答ガナカツタ、サウ云フ譯デスカラ、此ノ附屬法規ヲドウスルカト云フコトハ實ニ重大ナコトデアリマス、此ノ議會ニハ出マスマイガ、次ノ議會ニハ提出サレマセウガ、是ハ實ニ重大ナコトデ、政府ニ於テモ愼重ナ考慮ヲ廻ラサレナイト云フト、折角良イ憲法ヲ拵ヘテモ何ニモナラナクナルダラウト存ジマス、又法規ノ制定バカリデナク、其ノ運用ニ付テモ、常ニ平和主義、民主主義ノコトヲ體得シテ、サウシテ運用スルニアラザレバ、到底此ノ好イ効果ヲ得ルコトハムツカシカラウト思ヒマス、例ヘバ此ノ中ノ一例ヲ申上ゲマスレバ、六條、七條ニ於キマシテ、天皇ノ御權限ヲ‥‥‥御權限ト云フコトハゴザイマセヌガ、御扱ニナル事柄ヲ御定ヲシタ、是ハ又一方ニ依リマスト、若シモ又内閣ノ助言竝ニ承認ガ一歩ヲ誤ツタナラバデス、誠ニ飛ンデモナイ結果ヲ又起シマス、實ハ其ノ點ハ、私ハ此ノ憲法ニ對スル重大ナル、何ト云フカ、危イ所ダラウト思ヒマス、殊ニ運用ニ付キマシテ私ハ御願ヒシタイノハ、此ノ憲法ハ皇室ノ權威ヲ保タレルコトヲ唯一ノ第一義トシテ、根本ノ義トシテ奉ゼラレテ居ル以上ハ、各種ノ施設ハソレニ伴ツテ政府デヤツテ戴キタイ、卑近ナコトデ一例ヲ申上ゲマスレバ、御經費ノ如キモ、財産税ノ掛ルト云フヤウナ状態デハ誠ニ畏多イ、ト云フコトモ何デゴザイマスガ、今迄ノヤウニ參ラヌ結果モゴザイマセウガ、併シ國民ガ皇室ニ金ヲ獻納スルニ何デ惜シム所ガアルダラウ、何卒十分ナ御經費ヲ皇室ニ獻納セラルヽヤウ、是ハ憲法ニ運用關聯致シマシテ政府ニ切望スル次第デゴザイマス、殊ニ宮中ニ使ハレル御方々ハ公務員ニナラレルノデ、此ノ通リ行クト、惡クスルト、内閣ノ指名ト云フヤウナコトニナルカモ知レマセヌ、是モ誠ニヲカシナ結果デ、畏多イ結果ニナリハシマスマイカ、畏多イト云フト言葉ハ惡イガ、餘リ不穩當ナ結果ニナリヤシマスマイカ、表向キノ御方ハ別デゴザイマスガ、奧向キノ侍從サンナドハ、是ハ陛下ノ思召ニ依ツテ進退ヲサレベキモノダラウト存ジマス、卑近ナコトヲ申シマスガ、私共ノ家ノ女中ヤ書生ヲ他處ノ家カラミンナ向ケテ來ルト言ツタラ、非常ナコトニナルダラウト思ヒマス、ソレヲ考ヘテ見レバ容易ニ分ルコトデアルマイカト思フ、但シ此ノ人々ガ假ニデモ政治ニ口ヲ入レルヤウナコトガアツタラ、是ハ斷乎トシテ處分シナケレバナリマセヌ、從來宮内省ニ惡風ガアツタ、ドウモ政治上ニ關係ヲシテイケナイ、殊ニ戰爭ニナツテカラサウ云フ風ガ非常ニアツタ、此ノ殘滓ハ何處迄モ徹底的ニ掃除ヲシテシマフ必要ガアルト存ジマス、第二ノ、次ノ問題トシテハ公務員ノ選定デアリマス、是ハ澤田君モ御述ニナリマシタヤウニ、是ハ下手ヤルト公務員ノ任免ハ國民固有ノ權利ダトアリマスケレドモ、決メ方次第デ是ハ何今トチツトモ變ラナイコトニナル、ソレデハ何ニモナリマセヌ、斯ウ云フ風ニ國民固有ノ權利デアル以上ハ、其ノ任免ニ國民ノ意思ガ徹底スルヤウニ、附屬法規ニ於テ然ルベク御考ヲ願ヒタイ、ソレカラ又民法モ之ニ依ツテ改正サレマス、只今申上ゲタヤウニ、家族制度ト云フモノハ法ノ上デ認メラレナクナリマス、是ハ認メラレナクナツタト云フコトハ、家族制度ヲ打破シテシマヘ、サウ云フコトヲ申スノヂヤナイ、サウ云フ規定ヂヤナイ、ソレデアリマスカラ、農村ノ一部ニ存シテ居ルヤウナ家族制家トカ、或ハ是ハ餘リ善イコトカ惡イコトカ知リマセヌケレドモ、大キナ華族サンノ御家庭ナドニモアル、此ノ家族制度ハ何モ壞ス必要ハナイ、宜イノナラバ、保存シテ置クガ宜イ、併シ今家族制度ト云フヤウナモノハ世間カラマルデ遊離シテ居リマスシ、家ナント云フ觀念ハ薄ライデ來ル、今後財産税ナンカ掛ツテ來ル、均分相續ガ始ツテ來ル、相續税ハ加重サレテモ減ラナイト云フヤウナコトヂヤ、家ナンテトテモ保テマセヌカラ、ソレヲ人爲的ニ無理ニ保ツノハ惡イケレドモ、サウカト言ツテ、無理ニブチ壞スノモ惡イ、殊ニ茲ニ考フベキコトハ、此方ニオイデノ田所君ノ非常ニ御心配ニナツタ所デ、私ハ全ク其ノ感ヲ同ジウスル、此處デ甚ダ先輩ノ代辯ミタイナコトヲ致シマシテ恐縮デゴザイマスガ、私ハ非常ニ其ノ感ニ打タレマシタカラ、茲ニ一言其ノ機會ヲ許シテ戴キタイ、田所先生ノ御話ニ依レバ、此ノ二十條四ノ規定ハ何レニシテモ、父母ニ孝ニ、兄弟ニ友ニ、夫婦相和シト云フ所ノ道徳ハ、是ハ社會ノ基本デアル、基本デアル以上飽ク迄之ヲ守ラナケレバナラナイ、不幸ニシテ國民ノ間ニ誤解ヲ起シテ、夫婦デヤツテ居ルンダカラソレデ宜インダ、親權ダツテ少シ變更シタカラ、親ナンゾハ構ハナイデモ宜イト云フヤウナコトデモアツタラバ、容易ナラナイコトヲ起スト云フコトヲ、繰返シ御述ベニナリマシタガ、私ハ實ニ其ノ誠意ニ對シテ多大ノ感謝ト、ソレカラ尊敬トヲ拂フモノデアリマス、特ニ此ノ點ニ付キマシテハ、政府竝ニ皆樣方ノ御援助カ何カ、御努力カヲ御願ヒ致シタイノデゴザイマス、ソレカラ二十七條ニ於キマシテハ、勤勞ノ義務ト云フコトガゴザイマス、是ハ危イ規定デス、是ハ下手ニヤルト、「アルバイト・デインスト」ガ始ル、厄介ナ奴ダト思フト、オ前ハ困ルカラ北海道ヘ行ツテ石炭ヲ掘レトカ、イヤ此ノ土擔ギヲヤレト云フヤウナコトガ、ヤラレサウニ見エル規定デアル、處ガ、政府ニ聽イテ見ルト、サウ云フ譯ヂヤナイノダ、勤勞ト云フノハ兎角權利ノ方面ダケ見ラレテ、義務ノ方面ガ兎角閑却サレルカラ、斯ウ云フ規定ヲ置イタンダ、ソレデ此ノ附屬法規ニ於テ今ノヤウナ「アルバイト・デインスト」式ノコトヲ、サウ云フコトハヤリヤシナインダカラ、ソレハ政府ヲ信頼シテ呉レト云フコトデ、私ハ之ノ修正案ハ撤囘シマシタ、サウ云フ次第デアリマスカラ、併シ是ハ政府ニ於テ十分御注意ニナツテ戴カナイト、法律ノ規定次第デ何處迄脱線スルカ、飛ンデモナイ結果ニナルコトダラウト思ヒマス、ソレカラ財産權ニ付キマシテハ茲ニ規定ハゴザイマスガ、從來目茶苦茶ニ蹂躪サレテ居ル、是ハモウ申ス迄モナイコトデアル、一々繰返シマセヌ、是モ政府ノ反省ヲ求メタイト存ジマス、ソレカラ國會ノ章ニ入リマシテ、法律案ニ於キマシテ、之ヲ協議會ニ付スルト云フ規定ガ入ツタ、是ハ誠ニ穩當ナコトデ、協議會ナシデヤルト云フコトハドウモ工合ガ惡イコトデ、兩院ノ審議ヲ滑カニスルニ於テ必要ナ規定ダツタラウト存ジマス、唯衆議院デ出席議員ノ三分ノ二以上ノ多數デ可決シタ時ハ法律トナルトアリマスガ、ソレハ其ノ會期ヲ言フノダサウデアリマス、同一會期ダサウデアリマシテ、是ハ少シ無理ダト思ヒマス、向フカラ、衆議院カラ出シテ來テ、參議院デソレヲ反對ノ決議ヲシタ、或ハ否決シタト云フヤウニナルト、サウスルト其ノ會期ノ内ニ議決シタラソレデ宜イノデスカラ、ソレハ一遍院議デ決ツタンダカラ、三分ノ二位ヲ得ルコトハ、雜作モナイ、是ハ寧ロ次ノ會期ト致シタカツタ、是ハ實ハ私ハ委員會デハ主張致シマシタノデスガ、御贊成ガ少クテ成立ハシマセヌデシタケレドモ、是ハ寧ロ議院法デ御決ニナルヤウナ場合ニ、餘程此ノ點ハ御考慮下サルコトヲ私ハ希望スル、ソレカラ總理大臣ハ國會議員ノ中カラ、或ハ又國務大臣ノ半數ハ國會議員ノ中カラトアリマスガ、是ハ私ハ寧ロ衆議院議員トハツキリオヤリニナツタ方ガ宜イト思フ、ソレデ國務大臣ニ御尋ネ致シマシタ處ガ、イヤ實際ハサウナルンダカラ心配ニハ及バナイト云フ、ソレナラバ誠ニ結構、參議院ト云フノハ長老院デスカラ、大臣ニナラウナンテソンナ考ヲ起スノハ間違ツテ居ル、從來貴族院カラ大臣病者ガ出テ困リ拔イタノデス、實際斯ンナニ貴族院ガ改革ニナツテ、有爵議員ナンカ追ツ拂ヘト言ハレタコトガアツタ、ソレノ原因ハソコニアル、大臣病者ガ出タカラサウナル、大臣病者ハ平氣デ‥‥此處ニハ御出デニナリマセヌ、其ノ時ハ平氣デヤツテ居タ、大臣病者ハ首ヲ切ラレテ事ガ濟ンデシマツタ、是ハ非常ナ弊デス、其ノ位、我々ガ首ガ切ラレル位、ソレハ宜ウゴザイマスケレドモ、大臣病者ガ出ルコトヲ誠ニ恐レル、參議院ノ性質ト全然相容レナイ、是ハ寧ロ衆議院ニ限リタカツタ、寧ロ是ハ將來ノ運營ニ付テ重大ナ注意ガ要ルコトト存ジマス、ソレカラ次ニ總理大臣ノ行政各部ノ監督デアリマスガ、是ハ非常ニ強化サレタ、如何ナル程度ニ強化サレタカト云フコトハ非常ニ重大ナ問題デアリマス、是ハ政府ニ伺ヒマシタケレドモ、此ノ點甚ダ不明デアリマス、ソレデ若シモ企畫院ノヤウナモノガ出來テ、象牙ノ塔ヲ一ツ拵ヘルヤウデハ、ソレハ却テ何ニモナラナイ、各省ノ邪魔者ニナル、サウカト言ツテソコノ切リガ徹底シナイノモ、是モ宜クアリマセヌ、是ハ相當ニムツカシイ規定ダト存ジマス、ソレカラ次ニ委任命令デアリマス、此ノ委任命令ヲ何處迄許スカト云フコトハ非常ニムツカシイ規定デアル、是ハ書クコトハ迚モ出來ナイ、サウカト云ウテ、現状ハドウカト云フト、日本ノ法律程委任命令ノ廣イモノハナイ、皆急所ヘ行クト勅令ヲ以テ定メルト逃ゲテ居ル、サウシテ内容ハ聽イテ見ルト、今分ラナイ、此ノ案ガ通ツタナラバ委員會ヲ作ツテ審議スルンダ、型ノヤウナ答辯デ、我々ハ盲判ヲ押シテ居ル、サウ云フコトツテアルモノヂヤナイ、其ノ委任命令ヲシヨウト云フ以上ハ、斯ウ云フコトハ決メロト言ツタラ決メナクチヤナラヌ、ソレヲデスネ、アツテモナクテモ同ジヤウナ委員會ニ任セテ平氣デ居ルト云フコトハ出來ナイ、是モ運用上大イニ注意ヲ要スルコトダト存ジマス、尚七十六條ハ行政裁判所ノ行政裁判ノ範圍ヲ擴ゲテ、給與ノ規定迄モ行政裁判ニ入レヨウト云フコトデス、誠ニ結構デス、是ハ一ツ擴ゲラレルダケ擴ゲテ戴キタイ、國民ノ權利ヲ害スルコトヲ十分ニ救濟方法ガ出來ルヤウニヤツテ戴キタイト切望致シマス、尚九十六條ノ憲法改正ノ件、是ハ貴衆兩院ヲ同等ナモノト見テ居リマス、是ハ矢張リ法律案ノ上ニ是ハ貴衆兩院‥‥‥ヂヤナイ、參衆兩院、參議院ト衆議院ノ間ニ區別ガアツテ宜イト思フ、權限ノ強弱ガアツテ宜イト思フ、是ガ同ジニアルト云フコトハ餘リ面白イモノヂヤゴザイマセヌ、現ニ御承知ノ通リ「イギリス」邊リデモ自由黨内閣ガ度々ヤツテモ、貴族院ニハ‥‥‥上院ニハ「ユニオニスト」ガ多イ爲ニ、何時デモ叩カレテシマフ、其ノ結果「パリヤメント・ビル」ニナツテ出マシタガ通ラヌ、解散迄ヤツタガ、政府ガ多數ト云フコトガ分ツテ居ツテモ通ラナイ、到頭「キング」ヲ煩シタト云フコトガ「アスキス」内閣ノ時ニアツタ、斯ンナ例モアリマスカラ是ハ區別ヲシテ戴キタカツタ、ドウスル、參議院ノ方ヲ弱クシテ置ク必要ガアルト思フ、斯ウナツタ以上ハ仕方ガアリマセヌ、ソレデ中ニハ斯ウ云フ御説モアル、衆議院デヤツタモノハ輿論ダカラ參議院ナンカソレデ押通シテシマヘト云フノモアリマシタガ、是ハ私ハ大變ナ間違ヒダ、參議院ト云フモノハ長老院ダ、ドウ御考ニナルカ知レマセヌケレドモ、衆議院ト同ジヤウナモノヲ置クンナラバ、參議院ハ要リマセヌ、一院デ澤山ダ、何故アア云フモノヲ置クカト云フト、各方面ノ長老ヲ置イテ、力ハナイ、力ハナイガ權威ハアル、マアアノ經驗ノアルオ爺サン達ノ言フコトナラバ、チヨツト聽イテ見ヨウヂヤナイカト云フダケノ作用ヲスレバソレデ宜イ、ソレハ衆議院デ決メテシマツタカラ力デ押通セハ少シヒドイ、サウ云フ御説ガ假ニアツタトスレバソレハ宜クナイ、是ハ法ノ缺陷デアリマスガ、ドウカ運用ニ付テ十分ノ御注意ヲ願ヒタイモノダト思ヒマス、是等ノ點ヲ私ハ希望致シマス、是等ノ點ニ能ク御注意下サレマシテ、附屬法規モ立派ニ出來、又運用モ宜シキヲ得タナラバ、立派ナ華ヲ此ノ東洋ノ一角ニ咲カセルコトハ決シテ困難デハナイ、極メテ容易ナコト、民主主義國家、平和主義國家ハ世界ノ模範トシテ此ノ土地ニ榮エルコトニナラウト私ハ確信シテ疑ハナイ、此ノ意味ニ於テ私ハ此ノ憲法改正案ニ對シテ贊成ヲ表スル一人デゴザイマス（拍手）
○議長（公爵徳川家正君）　本日ハ此ノ程度ニ於テ延會致シ、明日午前十時ヨリ本日ニ引續キ帝國憲法改正案、其ノ他ノ議案ノ會議ヲ開キマス、議事日程ハ決定次第彙報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、本日ハ之ニテ散會致シマス
　　　午後五時十六分散會

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