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- 第九十囘帝國議會 貴族院議事速記録第四十號
○第九十囘帝國議會 貴族院議事速記録第四十號
昭和二十一年十月六日（日曜日）午前十時十八分開議━━━━━━━━━━
議事日程 第四十號
昭和二十一年十月六日
午前十時開議
第一 帝國憲法改正案（衆議院送付） 第一讀會ノ續
第二 競馬法の一部を改正する法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會
第三 貿易資金特別會計法案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會
第四 産業復興營團法案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會
第五 恩給法臨時特例案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會
第六 自作農創設特別措置法案（政府提出、衆議院送付）第一讀會
第七 農地調整法の一部を改正する法律案（政府提出、衆議院送付）第一讀會
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○議長（公爵徳川家正君） 報告ヲ致サセマス
〔宮坂書記官朗讀〕
昨五日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
自作農創設特別措置法案
農地調整法の一部を改正する法律案
同日議員ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
帝國憲法改正案ニ對スル修正案（牧野英一君外一名發議）
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○議長（公爵徳川家正君） 是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、日程第一、帝國憲法改正案、衆議院送付、第一讀會ノ續、昨日ニ引續キ討論ヲ繼續致シマス
○子爵大河内輝耕君 私ノ昨日ノ發言中、速記録ニ載セマシテ差支ノアルヤウナ所ガゴザイマシタラ、ドウゾ御削ヲ願ヒタウゴザイマス、其ノ削除ノ部分竝ニ方法ヲ議長ニ一任致シタイト存ジマス
○議長（公爵徳川家正君） 只今大河内子爵ヨリ申出ノ通リ、議長ニ於テ取計ラフコトニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス、三土忠造君
〔三土忠造君登壇〕
○三土忠造君 私ハ此ノ憲法改正案ニ付キマシテ、委員長ノ報告ニ贊成致ス者デアリマスガ、其ノ理由トシテ、先ヅ大局論ヨリ申述べタイト存ジマス、申ス迄モナク、我ガ帝國ハ、短見ニシテ驕激ナル少數者ノ爲ニ惹起サレマシタル無謀ナル戰爭ノ爲ニ、可惜多數ノ人命ヲ失ヒ、國帑、國富ヲ傾ケ、經濟機關ハ甚ダシク破壞セラレ、帝都ヲ初メ、全國多數ノ都市ハ灰燼ニ歸セシメラレ、遂ニ世界孤立ノ地位ニ陷リマシタ、所謂刀折レ矢盡キテ、彼ノ最モ峻嚴ナル「ポツダム」宣言ヲ受諾スルノ已ムナキニ至ツタノデアリマス、此ノ「ポツダム」宣言ノ包含スル條項ハ多數ニ上リマスルケレドモ、其ノ主要目的トスル所ハ、我ガ國ノ國防力ヲ完全ニ撤廢セシムルト共ニ、民主主義ヲ復活強化致シマシテ、極端ナル軍國主義者、超國家主義者等ノ跳梁跋扈ヲ根絶セシメ、將來再ビ戰爭ヲスルコトガ出來ナイヤウニスルニアルト思ヒマス、而シテ此ノ「ポツダム」宣言ヲ受諾致シマシタル以上ハ、其ノ義務履行ノ第一歩トシテ、帝國憲法ニ大改正ヲ加フルノ必要アルノデアリマス、是ト同時ニ、此ノ無理ナル戰爭、慘澹タル敗北ノ爲ニ、國内ニ於キマシテ、政治上、社會上、思想上、經濟上、急激ナル變化ガ起ツタノデアリマス、此ノ混沌、此ノ廢墟ノ中カラ國家再建ノ途ヲ開キマスルニ付キマシテモ、政治機構ニ大改革ヲ加フルノ必要ガ起ツタノデアリマス、此ノ義務ノ履行及ビ政治機構改革ノ觀點カラ考へマシテモ、我ガ帝國憲法ノ精神、理想トスル所ヲ十分ニ理解シテ居ル識者ノ間ニハ、此ノ際帝國憲法ヲ基幹トシテ、之ニ相當思ヒ切ツタ改正ヲ加ヘマスレバ、ソレデ足リルノデハナイカト考ヘテ居ツタ人ガ少クナカツタト存ジマス、然ルニ其ノ後聨合諸國ノ輿論ノ向フ處、要路ノ人々ノ希求スル處ガ段々明瞭ニナルニ及ビマシテ、我ガ政府ト致シマシテモ、寧ロ此ノ際抜本的改革ヲ斷行スルコトガ、内外ノ要請ニ應ズル所以ナリト致サレマシテ、殆ド新憲法ト申スベキ此ノ憲法改正案ヲ起草スルノ大英斷ニ出デラレタノデアリマス、此ノ間ニ政府ノ態度ニ飛躍的變化ノアツタコトハ事實デアリマス、之ニ付キマシテ、本院ニ於キマシテモ、其ノ理由ヲ質サレタ人ガアリマシテ、吉田總理大臣ハ、一ニハ國際情勢ノ變化ニ依ルト御説明ニナリマシタケレドモ、國際情勢ノ變化ト申スヨリモ、國際情勢ニ對スル我ガ方ノ認識ノ變化ト申ス方ガ事實ニ合スルカト思ヒマス、何レニ致シマシテモ、此ノ憲法改正案ハ、斯クノ如キ内外ノ情勢ニ即應セムガ爲ニ愼重考慮ノ上ニ起草サレタモノデアリマス、此ノ真情ヲ立法府トシテハ十分ニ了解シテ其ノ態度ヲ決定スベキモノト思ヒマス、我々ハ豫テヨリ斯樣ナ見地カラシテ、此ノ憲法案ニハ大體ニ於テ進ンデ協贊ヲ與フベキモノト決心シテ居ルノデアリマス、衆議院ニ於キマシテハ、二箇月ノ長キニ亙リマシテ熱心ニ審議ヲ遂ゲラレマシテ、又本院ニ於キマシテモ、一箇月餘ヲ費シマシテ、憲法案ノ各條章ニ亙リマシテ、最モ愼重周密ナル審査ヲ致シタノデアリマス、政府ニ於キマシテハ、豫テヨリ此ノ憲法改正ノ重大性ニ鑑ミラレ、勅選議員補充ノ機會ニ於キマシテ、努メテ廣ク斯界ノ權威者ヲ選バレマシテ、之ヲ本院ニ送ラレマシタ爲ニ、我々ハ此ノ一堂ノ下ニ是等ノ諸大家ト相集リマシテ、其ノ御意見ヲ拜聽スルノ機會ヲ得マシテ、啓發セラレタルコトガ少クナカツタコトヲ感謝致シテ居リマス、本會及ビ委員會ヲ通ジマシテ、政府ノ御意見ヲ質スコトニ全力ヲ注ガレタヤウデアリマス、固ヨリ此ノ憲法ノ提案者タル政府ノ御意見ヲ質スコトハ、我々ノ判斷ノ參考トシテ最モ重要デアルコトハ申スニ及ビマセヌ、併シナガラ政府ガ如何ナル解釋ヲ取ラレヨウトモ、ソレニ依ツテ此ノ憲法ノ解釋ガ一定スルモノデハアリマセヌ、政府ガ迭レバ、次ノ内閣、又次ノ内閣ガ、各々別個ノ見地ヨリ別ナ解釋ヲ取リマスルコトハ自由デアリマス、若シ行政法ノ如キモノナラバ、政府ガ政策遂行ノ爲ニ提案サレルノデアリマシテ、一度是ガ法律トナリマスレバ、其ノ實施ハ政府ニ一任サレルノデアリマス、而シテ其ノ政府ノ所見如何ト云フコトガ、直チニ國家國民ノ利害ニ關係スルコト重大ナルモノガアリマスルガ故ニ、立法府ト致シマシテハ、政府ノ意見ノ存スル所ヲ十分ニ質サナケレバ、之ニ協贊ヲ與ヘルコトハ出來マセヌ、併シナガラ憲法ナルモノハ全ク是ト性質ヲ異ニスルノデアリマス、憲法ハ政治、經濟、社會、思想、教育、宗教等頗ル内容ガ廣汎ニ亙リ、極メテ複雜ナルモノデアリマス、即チ全般ニ亙ル根本法デアリマスルガ故ニ、其ノ各條章ニ付テ解釋ヲ確定スルナドト云フコトハ、到底不可能デアリマス、現行憲法ハ、御承知ノ通リ、發布以來五十七年ノ星霜ヲ經テ居リマス、此ノ間ニ於テ、此ノ憲法ニ對スル學者ノ意見ガ種々雜多ニ岐レテ居リマス、種々ナル學者ガ簇出致シマシテ、今日尚主ナル條章ニ付テスラモ意見ノ一致ヲ見ルコトハ出來マセヌ、其ノ極端ナルモノニ至リマシテハ、氷炭相容レザルモノサヘアルノデアリマス、時ニハ又曲學阿世、實ニ唾棄スベキ學者モ現レマシテ、我ガ憲政ヲ毒シタコトモ諸君ノ御承知ノ通リデアリマス、（拍手）斯樣ナ次第デアリマスルカラ我々ハ政府ノ御意見ハ十分ニ承リマスルケレドモ、政府ノ御意見ヲサウ尊重スル必要ハナイト思フノデアリマス、我々獨自ノ判斷ニ依ツテ協贊ヲ與フベキモノハ與ヘルノデアリマス、此ノ憲法案審議ノ間ニ於ケル專門家ノ諸君ノ御意見ヲ承リマシテモ、諸大家ノ間ニ色々意見ノ相違ガアリマス、故ニ我々ハ前ニ申シマスル通リ、此ノ諸大家ノ意見ヲ承ツテ裨益スル所ハ少クナカツタノデアリマスルケレドモ、率直ニ申シマスルト云フト、是亦唯一個ノ參考トシテ承ツタニ過ギマセヌ、本會議及ビ委員會ヲ通ジテ最モ重要ナル中心問題トシテ論究サレマシタモノハ國體問題デアリマス、即チ此ノ憲法改正ニ依ツテ我ガ國體ハ變更サレルヤ否ヤト云フノガ大ナル問題デアリマシテ、是亦國民諸君モ共ニ倶ニ聽カムト欲スル所デアラウト思ヒマス、國體ナル言葉ハ現行憲法ニモ見エテ居リマセズ、新憲法案ニモナイ言葉デアリマス、此ノ言葉ガ初メテ法律語トシテ用ヒラレマシタノハ、彼ノ治安維持法デアリマス、而シテ大審院ノ判例ニ依リマスト云フト、國體トハ萬世一系ノ天皇ガ統治セラルヽコト、天皇ガ統治權ヲ總攬セラルヽコト、此ノ二ツヲ内包トスル概念ト云フコトデアリマス、處ガ今囘ノ改正ニ依リマスト云フト、天皇ガ統治權モ有セラレズ、統治權ノ總攬者タル御地位デモナクナルノデアリマスルカラ、之ヲ法理上ヨリ見マスレバ、明カニ國體ハ變更サレルト主張サレルノデアリマス、併シ此ノ治安維持法ノ中ニアル國體ト云フ言葉ハ、此ノ特定法ニ用ヒラレタ其ノ言葉ハ、如何ナル意味ニ使ハレテ居ルノデアルカト云フコトヲ大審院デ判決シタノデアリマス、又此ノ特定法ガ何ヲ目的トスルカ、其ノ目的ニ合致セムガ爲ノ解釋デアリマシテ、即チ法律的解釋デアリマシテ、我々ガ茲ニ論究セムトスル國體問題トハ別個ノモノデアリマス、即チ我々ノ論究セムトスル國體概念ヲ明瞭ニスル目的ヲ以テシタモノデアリマセヌ、又新憲法ニ依リマスト云フト、主權ハ國民ニ在ルト云フコトヲ明記サレテ居ルノデアリマス、帝國憲法ハ主權在君主義ヲ基本トシテ出來テ居ツタノデアリマスルガ、其ノ主權在君主義ガ改ツテ、主權在民主義ニナツタノデアリマスルカラ、政治學上ヨリ申シマシテモ、明カニ國體ハ變更サレタト論ゼラレルノデアリマス、併シナガラ凡ソ憲法ナルモノハ何レノ國ノ例ヲ見マシテモ、政體ヲ規定スルモノデアリマシテ、其ノ他ニ及ブモノデハアリマセヌ、獨リ我ガ國ニノミ此ノ國體ト云フ概念ガアルノデアリマシテ、茲ニ議論ノ紛更ガ生ズルノデアリマス、其ノ國體ナルモノハ統治權トカ或ハ主權トカ云フモノノ外ニアリ、後ロニアリ、奥ニアルノデアリマス、故ニ我々ハ此ノ憲法ノ改正ニ依リマシテ、政體ハ變化スルト致シマシテモ、國體其ノモノニハ何等ノ變化ガナイト云フ政府ノ解釋ヲ是認スルモノデアリマス、唯金森國務大臣ノ御説明中ニハ、或ハ憧レノ中心トカ、心ノ繋ガリト云フヤウナ稍々神秘的ニ聞エル言葉ガ用ヒラレマシタノデ、幾分明瞭ヲ缺クヤウナ氣ガ致シマスガ、今少シク之ヲ簡單明瞭ニ表明スルコトガ出來ルト思ヒマス、即チ國體トハ、國ノ基本的本質デアツテ、其ノ基本的本質トハ、萬世一系ノ天皇ガ國民統合ノ中心デアル國柄ヲ言フノデアリマス、斯ウ解釋致シマスレバ、最モ適切ニシテ事實ニモ合シ且俚耳ニモ入リ易イト思フノデアリマス、金森國務大臣ノ或場合ニ於キマスル説明ニ於キマシテモ、丁度左樣ナ言葉ヲ用ヒラレタコトガ度々アツタト思ヒマス、故ニ國體問題ニ付キマシテハ、私共ハ左樣ニ解釋シテ本案ニ贊成スルノデアリマス、之ヲ國史ノ跡ニ稽ヘテ見マシテモ、天皇ノ大權ハ、時ニ依ツテ非常ナル變化ガアリマス、伸縮消長ガアリマス、或時代ニ於キマシテハ大權武門ニ歸シテ、天皇ハ全ク虚位ヲ擁スルニ過ギナカツタ時代モアリマス、ソレニ致シマシテモ、天皇ガ國民統合ノ中心ト云フ我ガ國體ニハ何等ノ變化ハナカツタモノデアリマス、明治維新ノ改革ニ依リマシテ、王政ハ復古セラレ、大權ハ遽カニ擴大強化サレマシテ、帝國憲法ニモ之ヲ明記サレタノデアリマス、併シナガラ明治、大正、昭和ヲ通ジテ、天皇大權ノ行使ハ、一ニ國務大臣ノ輔弼ニ御任セニナルト云フ方針ヲ嚴守セラレマシテ、未ダ曾テ天皇親ラ大權ヲ行使セラレタコトハナカツタノデアリマス（拍手）新憲法ニ於キマシテハ、聖旨ニ依リマシテ、大權ハ又復甚ダシク縮小サレルコトニナツタノデアリマス、併シナガラ新憲法案ノ第一條ニモ、天皇ハ、國ノ象徴デアリ日本國民統合ノ象徴デアルト明記シテアルノデアリマシテ、昔ナガラノ我ガ國體ニハ何等ノ變化ガナイト云フコトヲ私共確信シテ疑ハナイノデアリマス、（拍手）此ノ信念ガアリマスル爲ニ我々ハ此ノ憲法ニ贊成スルノデアリマス、諸君、此ノ際私ハ昨年八月十四日、彼ノ悲痛ナル終戰ノ聖斷ガ降リマシタ時ノ國民ノ感慨ヲ諸君ガ想起セラレムコトヲ希望致シマス、アレ程敗戰ノ憂キ目ヲ見テ居リマシテモ、尚以テ執拗ニ頑強ニ戰爭ヲ繼續セムト致シマシタル陸海軍幾百萬ノ將卒、又軍部ノ宣傳ヲ盲信シテ戰爭ノ繼續ヲ冀ツテ居ツタ多數ノ國民モ、一度聖斷ガ降ルヤ、血涙ヲ呑ンデ之ニ服從致シタノデアリマス、是レ抑々何ガ故デアリマセウ、統治權ヲ總攬セラレル天皇陛下ノ御意思デアルカラトカ、最高統帥者タル大元帥ノ御命令デアルカラトカ云フヤウナ法的根據ニ依ル理知的判斷ニ出デタモノデハ斷ジテアリマセヌ、悠久ノ昔ヨリ我々ノ祖先竝ニ我々ガ最大最高ノ尊敬ヲ拂ツテ居リマスル天皇ノ現實ノ權威ニ打タレテ、其ノ御意思ニハ絶對ニ背クコトガ出來ナイト云フ國體觀念ニ支配サレタモノデアルト私共ノ確信致シマス、（拍手）而シテ此ノ國體觀念コソハ、實ニ皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ、徳ヲ樹ツルコト深厚ナル歴史ノ精華デアルト云フコトヲ考ヘナケレバナリマセヌ、大權ノ縮小ニ付キマシテハ、久シキ傳統ニ育マレタル情緒ノ執著カラ蝉脱シ難イ人情ノ常ト致シマシテ、何トナク忍ビナイ氣ガ致シマス、又何トナク不安ナ感ジモ致シマス、併シナガラ深ク思ヲ致シマスルト、從來輔弼ノ重任ニ當ル者ニシテ、動モスレバ袞龍ノ袖ニ隱レ、憲法ヲ曲解シ、濫用シテ政治上ノ責任ヲ天皇ニ歸シ奉リ、至尊ヲシテ獨リ社稷ヲ憂ヘシムルガ如キ行動ニ出デタル人々ノ心境ニ付テ屡々眉ヲ顰メタ我々、殊ニ最近、戰前戰時ヲ通ジテ十數年間ニ亙ル軍閥野心家ガ官僚ヲ技師トシテ憲法ヲ曲解シ、濫用シ、蹂躪シテ國家ヲ今日ノ破局ニ導イタ此ノ經緯ニ付テ憤慨シ戰慄致シテ居リマスル我々ト致シマシテハ、寧ロ聖旨ニ依ツテ此ノ大權ヲ縮小致シマシテ、將來天皇ヲ政治上ノ御責任カラ超然タル御地位ニ置キ奉ルコトガ、我ガ國體ヲ永遠ニ護持スル所以ナリトシテ、愼重、遠謀深慮ノ上ニ此ノ案ヲ決定サレタモノト考ヘマス、雙手ヲ擧ゲ贊成致シタイノデアリマス、國體問題ノ外ニ皇室典範ハ申スニ及バズ、參議院ノ構成、最高裁判所ノ裁判官ノ任命、皇室財産其ノ他内閣制度、裁判所構成法ニ付キマシテ相當考慮ヲ要スル問題ガ多々アリマス、併シ皇室典範ニ付キマシテ、今日之ヲ論議致シマスルコトハ未ダ其ノ機會ニ非ズト存ジマス、參議院ノ構成ニ付キマシテハ、要スルニ參議院ノ定員ト選擧方法ノ問題デアリマス、此ノコトヲ憲法ノ改正ト共ニ明瞭ニ致シマスルコトハ頗ル困難デアリマス、裁判官ノ任命、皇室財産等ノ問題ニ付キマシテハ、衆議院ニ於キマシテハ熱心ニ審議セラレ、或程度ノ修正ガ加ヘラレタノデアリマス、其ノ他憲法附屬法ニ付キマシテハ、皇室典範ト共ニ政府ニ於テ只今折角愼重ニ審議シ、研究シテ居ルヤウデアリマスカラ、次ノ議會ニ是等ノ提案ヲ待ツテ、同時ニ總テヲ見合セテ決定スルコトガ最モ時宜ニ適スルト私共ハ信ズルノデアリマス、偖、愈々此ノ新憲法ガ成立致シマスレバ、我々ハ不磨ノ大典ト信ジテ、其ノ有終ノ美ヲ濟スニ精進致シテ參ツタ帝國憲法ト永遠ニ訣別ヲ致サナケレバナリマセヌ、發布以來明治天皇始メ、先輩元老諸公等ノ最モ苦心慘澹ノ下ニ出來マシタ憲法、サウシテ我々ハ守リ護ツテ來タ此ノ憲法ト別レルノデアリマスルカラシテ、今日我々ハ實ニ之ヲ思ヘバ感慨無量デアリマス、佐々木博士ノ如キ此ノ現行憲法ヲ守ツテ新憲法ニ反對サレル御心境ハ十分ニ分リマス、唯、佐々木博士ト我々トハ時局ノ認識ニ於テ聊カ距離ガアリマス、（拍手）其ノ距離ガ因トナツテ、結論ニ於テ大ナル差ガ生ズルノデアリマスガ、誠ニ遺憾ナコトデアリマスルケレドモ、致シ方アリマセヌ、佐々木博士ノ御議論ハ傾聽ニ足リマス、我々ハ非常ニ敬服致シテ聽イタノデアリマス、十分ニ御心事ハ首肯サレルコトヲ茲ニ申上ゲテ置キマス、帝國憲法ハ歴史ヲ經トシテ、理想ヲ緯トシ、雄渾ニシテ宏大、之ヲ何レノ國ノ憲法ニ比ベマシテモ遜色ハアリマセヌ、運用宜シキヲ得レバ、之ニ依ツテ民主主義モ育成セラレ、完成セラレ、之ニ依ツテ國利民福ヲ増進シ、世界ノ平和ニ貢獻スル上ニ於キマシテ何等不備ナルコトハナイト私共ハ信ジ來ツタノデアリマス、然ルニ此ノ理想ヲ解セズ、經緯ヲ知ラザル人々ノ爲ニ是ガ曲解セラレ、濫用セラレ、蹂躪サレマシテ、國家ヲ之ガ爲ニ今日ノ破局ニ導イタコトヲ考ヘマスト云フト、誠ニ浩歎長息轉タ斷腸ノ思ニ堪ヘナイノデアリマス、（拍手）併シ今日トナリマシテハ如何ニ憧レテモ、如何ニ惜シンデモ、如何ニ歎イテモ、所謂死兒ノ齡ヲ數ヘルニ過ギマセヌ、我々ハ寧ロ此ノ際豁然大悟シ、過去ハ過去トシテ、新タニ生ジテ來ル憲法ヲ育成シ、此ノ憲法ヲ規範トシテ、國家國民ノ安寧幸福ニ邁進スルノ外ハナイト思フノデアリマス、新憲法ハ民主主義ヲ基調トシ、人權ノ擁護ニハ頗ル徹底致シテ居リマス、此ノ人權ノ徹底的擁護ニ依ツテ個人ヲ完成スルト共ニ、國家社會ノ健全ナル發達ヲ期シテ居ルモノデアリマス、併シナガラ國民多數ガ此ノ新憲法ノ意圖スル所ヲ十分ニ理解シ、之ヲ育成シ、之ヲ堅持スルノ決心ト叡智ガナカツタナラバ、彼ノ最モ民主的憲法ト稱セラレマシタ「ワイマール」憲法ガ「ナチス」黨ノ爲ニ蹂躪セラレテ、國家ヲ滅亡ノ深淵ニ陷レタ「ドイツ」ノ如キ事態サヘモ起リ得ルノデアリマス、固ヨリ我々ハ將來如何ナル國ニ於キマシテモ、「ドイツ」ノ覆轍ヲ蹈ムガ如キ事態ノ現レルコトハ夢想ダモ致シマセヌ、ケレドモ、大政黨ノ出現ニ依リマシテ多數横暴ノ弊害ニ陥ルガ如キ事態ノ發生ニ至リマシテハ、全ク是レナキヲ保シ難イノデアリマス、而シテ是等ノ不祥ナル事態ノ發生ヲ防止スルノモ、打破スルノモ一ニ國民ノ堅實ナル輿論ノ力ニ俟タナケレバナリマセヌ、而シテ輿論ノ力ノ根柢ヲ成スモノハ、眞ノ民主主義ノ理解ト堅持デナケレバナラヌト思フノデアリマス、然ルニ熟々帝國憲法制定以來五十七年ノ憲政ノ跡ヲ稽ヘテ見、且現在ニ於ケル人心ノ趨向、社會情勢等ヲ考ヘテ見マスルト云フト、國民多數ガ此ノ憲法ヲ理解シ、民主主義ヲ理解シ、之ガ普及シ徹底スルニ至リマスルコトハ、前途頗ル遼遠ナリトノ感ヲ懷カザルヲ得ナイノデアリマス、私ノ觀察スル所ヲ率直ニ申シマスルナラバ、我々日本人ハ概シテ常識ガ乏シイ、判斷力ガ低イ、短見デアリ、淺慮デアリマス、熱シ易ク冷メ易イ、浮華輕佻ニシテ附和雷同シ易イノデアリマス、故ニ一時ノ風潮ニ驅ラレテ、擧世滔々トシテ思想、言論、行動ガ極端カラ極端ニ走ツタコトガ度々アルノデアリマス、其ノ最モ顕著ナル事例ハ戰時ト戰後トノ對蹠的ナル國民ノ思想ノ動キニ於テ之ヲ見ルコトガ出來マセウ、若シ我ガ國民ガ今少シク常識ニ富ミ、冷靜ナル判斷力ヲ有シ、容易ニ附和雷同シナカツタナラバ、如何ニ少數ノ軍閥ガ專恣横暴ヲ極メムト致シマシテモ、此ノ慘澹タル戰禍ヲ見ル程ニ、此ノ戰爭ヲ繼續スルコトハ許サナカツタデアリマセウ、戰時ニ於キマシテハ極端ナル軍國主義、超國家主義ノ宣傳ニ協力致シテ居リマシタ同ジ人間ガ、今日掌ヲ飜スガ如ク急變シテ、一知半解ナル民主主義宣傳ニ狂奔シテ居ルデハアリマセヌカ、（拍手）又他人ノ自由ヲ尊重セズ、義務ヲ閑却シテ自己ノ自由ノミヲ主張シ、權利ノミヲ要求シテ居ル者ガ頗ル多イ今日ノ世相デハアリマセヌカ、斯樣ナ世相ヲ毎日目ノアタリ見テ居リマスル我我ト致シマシテハ、此ノ新憲法ガ本當ニ理解セラレ、圓滿ニ運用サレテ、サウシテ平和日本、文化日本ノ建設ガ我我ノ理想トスル通リ出來マスト云フコトハ、頗ル難事デアルト云フコトヲ考ヘナケレバナリマセヌ、或ハ又其ノ發達ノ過程ニ於テ民主主義ヲ履キ違ヘ、我ガ儘放縱ヲ以テ民主主義デアルト云フヤウナ誤解ニ陷リマスルナラバ、國家ノ再建、經濟ノ復興等ハオロカ、或ハ社會ノ秩序ヲ紊リ、國家ヲ危殆ニ瀕セシムルノ虞ナシトシナイノデアリマス、然ラバ之ガ對策如何ト云フコトニナリマスルガ、世間多クノ人々ハ直チニ之ニ答ヘテ、一ニモ教育、二ニモ教育ト云フヤウニ申サレマス、固ヨリ此ノ教育ナル言葉ガ廣義ノ意味デ用ヒラレマスルナラバ、或ハ此ノ一語ニ盡キルカモ知レマセヌ、併シナガラ多クノ人々ガ考ヘテ居ルヤウニ、主トシテ學校教育ヲ意味スルモノデアリマスルナラバ、ソレハホンノ一部ノ任務ヲ果スニ過ギマセス、何トシテモ天下識者ノ一致團結ノ力ニ依ラナケレバナリマセヌ、天下ノ識者ガ經國濟民ノ志ヲ一ニシテ、共ニ倶ニ手ヲ携ヘテ國民ヲ指導スルノ覺悟ヲ致サナケレバナリマセヌ、殊ニ政府ノ要路ニ立チ、國政ノ重任ニ當リ、憲政運用ノ實際ヲ掌ル所ノ人々、我々帝國議會ノ議員、地方自治團體ノ首腦者、地方自治團體ノ議員、官公吏等ハ申スニ及ビマセヌ、社會ノ木鐸ヲ以テ任ズル言論機關ヲ掌ル人人、勞働運動ヲ指導スル勞働組合ノ幹部、是等ノ諸君ヲ初メト致シマシテ、イヤ、宗教家モ、教育家モ、學者モ、苟モ社會ノ先覺ヲ以テ任ズル人々ハ、各々其ノ自己ノ責任ヲ考ヘマシテ、熱誠ト勇氣トヲ以テ國民ヲ指導シ啓發セズンバ已マザルノ決意ヲ要スルノデアリマス、不肖私ノ如キモ此ノ老躯ヲ提ゲテ諸君ノ驥尾ニ附シ、專心此ノ事ニ從ヒマシテ、最後ノ御奉公ヲ效サムコトヲ覺悟致シマシタ、之ヲ諸君ニ誓ヒ、以テ此ノ憲法案ニ贊成致ス者デアリマス（拍手）
○議長（公爵徳川家正君） 松本學君
〔松本學君登壇〕
○松本學君 私ハ憲法改正案ノ委員長報告ノ修正ニ贊成ノ意ヲ表スル者デアリマス、現行ノ明治憲法ガ私共子供ノ時カラ不磨ノ大典デアルトシテ尊重ヲ致シテ來テ居リマシタ、其ノ憲法ガ殆ド全面的ニ此ノ度改正セラレナケレバナラヌト云フヤウナ情勢ニ相成リマシタコトハ、誠ニ遺憾ニ堪ヘナイコトデアリマシテ、涙ナクシテ考ヘラレナイコトデアリマス、併シ是モ今日ノ情勢已ムヲ得ナイコトデ涙ヲ呑ンデ之ヲ忍バナケレバナラヌ、茲ニ新ラシイ憲法ノ此ノ改正案ト云フモノヲ我々ガ茲ニ涙ヲ以テ審議ヲセナケレバナラヌコトニ相成ツタノデアリマス、此ノ度ノ憲法改正ニ付キマシテ、「マッカーサー」司令部ノ示サレマシタ理解アル態度、國際情勢ノ複雜多岐デアル此ノ時ニ、此ノ憲法改正ヲスルニ當ツテ、非常ナ苦心ヲサレ、御努力ヲナサツ々政府ノ御盡力ニ對シテハ、滿腔ノ敬意ヲ表シ感謝致ス次第デアリマス、此ノ御苦心ニ依ツテ出來マシタ憲法改正ノ草案ヲ先般來質疑應答ノ結果、私共必ズシモ完全ナモノトハ考ヘラレナイノデアリマス、色々ナ點ニ於テマダマダ十分デナイ、モツト、斯ウアツテ欲シイ、解釋ニ於キマシテモ十分滿足ノ行カナイト云フヤウナ點モアリマス、或ハ字句ニ於キマシテモマダ如何ニモ生硬デアル、不熟デアルト云フヤウナモノモアリマシテ、必ズシモ完璧デハアリマセヌ、併シナガラ兎ニ角此所迄ノ憲法ガ出來テ、而モ此ノ情勢下ニ於テ此ノ程度ノ憲法ガ出來タト云フコトハ、恐ラク後世我々ノ子孫ハ、昭和ニ於ケル我我ノ祖先ハアノ情勢ノ下ニ能クモ是ダケノモノヲ作ツテ呉レタト言ツテ感謝ヲシテ呉レハシナイカト云フコトヲ考ヘテ、一ツノ慰メト致シテ居ルノデアリマス、完全デハアリマセヌガ、私ハ此ノ完全デナイ、完璧デナイ所ノ憲法改正草案ニ贊成ヲ致シマス所以ノモノハ、此ノ改正憲法ノ中ニ日本的ナ性格、我ガ國本來ノ面目ガ相當見出サレルト云フコトニアルノデアリマス、サウシテ此ノ憲法ハ世間デハ摸倣憲法デアル、昨日モドナタカ此ノ壇上ニ於テ「アメリカ」ノ新聞ヲ御讀上ゲニナツテ、日本ノ憲法デナクシテ、「アメリカ」カラ與ヘラレタ憲法ノ如キ批評アルコトヲ承ツタノデアリマス、左樣ナ批評モアルヤウニ思ヒマス、併シ私ハ決シテ是ハ摸倣憲法デハナイ、欽定憲法ノ第七十三條ノ手續ニ依ツテ、陛下ノ御思召ニ依ツテ、此ノ議會ニ御提案ニナリ、其ノ御思召ニ從ツテ我々ガ愼重ニ之ヲ審議シタ日本ノ憲法デアル、決シテ摸倣ノ憲法デハナイ、無論外來ノ思想モ入ツテ居リマス、外カラ來ル色々ナ良イ點ヲ採リ入レテハ居リマセウケレドモ、決シテ強ヒラレタ憲法デハナイト云フコトヲ私ハ確信致シテ居リマス、ソコデ私ガ此ノ憲法ガ決シテ摸倣憲法デナク、強ヒラレタ憲法デナク、我々ノ憲法デアルト云フコトヲ私ガ考ヘ、私ガ解釋スル點ニ於テ、日本的ノ性格、日本本來ノ面目ヲ發揮シテ居ルト云フコトヲ此ノ中ニ見出スコトガ出來マスノデ、此ノ憲法改正案ヲ贊成致ス譯デアリマス、其ノ點ガ四ツアリマス、先ヅ第一ニ主權ガ國民ニ在ルト云フコトガ前文及ビ第一條ニ明記サレテ居ルコトデアリマス、現行憲法ニ於キマシテハ御承知ノ通リニ、主權ガ何處ニ在ルカト云フ所在ハ明文ニハ載ツテ居リマセヌ、其ノ爲ニ主權所在ト云フコトヲ國體論ノ基本ト致シマス爲ニ、現行憲法ノ解釋ニ於テハ統治權ノ總攬者ガ誰デアルカト云フコトヲ以テ國體論ヲ進メテ居ルト云フ状態デアツタノデ、憲法ノ中ニ主權ノ所在ガ明記サレテ居ナカツタ、其ノ爲ニ國體論ガ紛糾シ、色々ナ變論ガ起ツタト私ハ考ヘルノデアリマス、而モ今日迄ノ憲法ニ於ケル國體ヲ論ズルト云フ時ニ、此ノ憲法、法律學ト云フ唯、一部局ダケノ改正ノ議論トシテ此ノ國體ヲ論ジテ居ルト云フ所ニ過チノ根本ガアツタト私ハ思フノデアリマス、然ルニ此ノ改正憲法ニ於キマシテハ、主權ハハツキリト國民ニ在リト明カニ書イテアルノデアリマス、此ノコトガ私ハ日本ノ本來ノ面目ヲ發揮シテ居ルト申シ、言葉ヲ換ヘテ申スナラバ、之ニ依ツテ我ガ國體ガハツキリシタト云フコトヲ感ズルノデアリマス、現行憲法ニ於キマシテ、國體ハ統治權ノ總攬者ト云フコトヲ基本ニ於テ論ゼラレテ居リマスガ、若シ假ニアノ國體ノ總攬者、即チ現行憲法ノ第一條、第四條ノアノ條項ヲ基礎ニシテ主權ガ君主ニ在リ、主權在君ト云フ其ノ國體ヲ論ズルト致シマスナラバ、ソコニ過チノ因ガアルノデアツテ、統治權ノ總攬ト云フコトハ政體ヲ意味シテ居ルト思フノデアリマス、若シ統治權ノ總攬者ノ變更ト云フコトニ依ツテ國體ガ變革シタト云フコトニナルナラバ、幕政時代ニ於テ、徳川幕府ガ統治權ヲ總攬シテ居リマシタガ、明治維新ニ依ツテ此ノ幕政ガ倒レテ統治權ノ總攬者ガ變ツタ時ニ、一體日本ノ國體ハ變革シタモノデアリマセウカ、我々ハソレヲ理解スルコトガ出來ナイノデアリマス、主權ガ國民ニ在リ、即チ主權在國民ト云フコトハ日本ノ國體ヲ明確ニ示シタト云フコトニ私ハ信ズルノデアリマス、之ニ依ツテ少シモ此ノ改正憲法ガ國體變革ノ憲法デアルト云フコトデナク、却テ日本ノ國體ヲ明カニ憲法ノ條章ノ上ニ明示シタモノデアルト云フコトヲ考ヘルノデアリマス、然ラバ國體トハ何デアリマスカ、茲デ謂フ國民ト云フノハドウ云フ意味デアラウカト思フノデアリマス、第一條ノ「主權の存する日本國民」、此ノ「日本國民」ト云フコトハ私ハアノ第三章ノ「國民」トハ意義ガ違ツテ、此處ノ第一條ノ「日本國民」ト云フモノハ過去、現在、未來ヲ通ジタ歴史的ニ存シテ居ル其ノ歴史的存在デアル國民ヲ意味スルノデアツテ、此ノ國民ノ中ニ天皇ヲ含ムト云フ説明デアルナラバ、政府ノ説明ヲ私ハ納得シテ聽クノデアリマス、併シ政府ノ説明ハ、國民ノ中ニ天皇ヲ含ムト云フ其ノ天皇ハ、個人ノ資格ニ於ケル天皇デアルト云フ御説明ヲ承ツタノデ、私ハ其ノ點ニ於テ納得ガ行カナイノデアリマス、併シ私ノ解釋トシテハ、此ノ歴史的ナ存在デアル過去、現在、未來ヲ通ジタ一貫シタ日本國民ト云フ觀念ノ中ニハ、君民一如ノ形、君民一如ト云フ其ノ境地ニ於ケル國民ト云フ意味デアリマシテ、サウ云フ意味ニ於テハ、天皇ヲ含ムモノト解釋ガ出來ルト思フノデアリマス、即チ君民一如ノ境地ニアル此ノ歴史的ナ過去、現在及ビ將來ヲ一貫シタ日本國民ト云フ其ノ君民一如ノ境地ニ主權ガ存在シテ居ル、斯ウ云フコトヲハツキリト憲法ノ第一條及ビ前文ニ書キ示シテ居ルモノト、私ハ解釋ヲ致スノデアリマス、此ノ解釋ヲ若シ誤ツテ居ナイトスルナラバ、此ノ度ノ憲法改正ニ依ツテ主權在國民ト云フコトヲ規定シタカラト云ツテ、決シテ日本ノ國體ガ變革サレタト云フ議論ハ成立タナイト思フノデアリマス、兎ニ角主權ガ國民ニ在ルカ、君主ニ在ルカト云フコトニ依ツテ國體ヲ決メヨウトスルヤウナ議論ハ、要スルニ君民對立ノ觀念ニ立ツテ居ルモノデアリマス、西洋ノ所謂近代國家觀念ノ發達ノ過程ヲ見マスレバ、君主對人民ト云フ二元的ナ對立的ナ事實ヲ示シテ居ルノデアリマス、此ノ對立的ナ對立觀ノ上ニ君ト民トノ對立觀ノ上ニ近代國家ト云フモノハ發達シ、「イギリス」ノ憲法ノ發達、憲政ノ發達モ其處ニアルト思フノデアリマス、此ノ君民對立ト云フ對立觀ノ此ノ議論ヲ根據ニシテ、我ガ國ノ國體ヲ論ズルコトハ出來ナイノデハナイカ、ソコデ私ハ我ガ國ノ國體ハ法律論トシテモ、亦世界觀的ナ、哲學的ナ見地カラ見テ、之ヲ考ヘテ見マシテモ、此ノ改正憲法ニ依ツテ、即チ主權國民ニ在リト云フ此ノ規定ガアルト云フコトダケニ依ツテ、我ガ國ノ國體ガ變更サレタモノデ絶對ニナイト云フコトヲ信ズルモノデアリマス、即チ國體ノ事實ハ儼トシテ不變不動ノモノデアリマス、唯國體ヲ論ズル國體論ト云フモノハ、色色ニ變化シマス、是ハ色々ナ政府ノ御説明ニ依ツテモ認識ノ變化、認識ハ如何ニ變ツテモ仕方ガアリマセヌ、國體論ハ如何ニ變ラウガ、國體ノ事實ハ儼トシテ變ルモノデナイ、古イ歌ニ「見る人のこゝろごころに任せ置きて 高嶺に澄める秋の夜の月」ト云フ歌ガアリマスガ、私ハ是ガ只今私ガ申上ゲマシタ國體ノコトヲ誠ニ能ク言ヒ現シテ居ルモノダラウト思フノデアリマス、（拍手）即チ第一ノ點、最モ日本的ナ性格、最モ日本ノ本來ノ面目、國體ヲ其ノ儘ニ言ヒ現シテ、率直ニ第一條及ビ前文ニ掲ゲラレタト云フコトニ付テ私ハ滿腔ノ贊成ヲ表スル者デアリ、是ガ私ノ申ス日本的性格ノ現レダト云フ第一ノ點デアリマス、其ノ第二ノ點ハ九條ノ規定デアリマス所ノ戰爭放棄ト云フアノ平和宣言、私ハアノ九條ハ憲法ニ規定セラレタル一箇條デハアリマスケレドモ、我ガ國ガ世界各國ニ向ツテ堂々タル平和宣言ヲシタモノダト解釋致スノデアリマス、戰爭ヲ放棄シテ恆久ノ平和ヲ維持スルト云フコトヲ、捨身ニナツテ世界ニ宣言ヲシテ居ル是ハ大宣言デアリマス、處ガ、或ハ之ヲ評シテ日本ハ全部武裝ヲ解除シ、軍備ヲ持タナイ國デアリナガラ、今更戰爭放棄ト云ヒ、世界平和ヲ宣言スルナント云フコトハ「ユートピヤ」ニ過ギナイ、引カレ者ノ小唄デアル、負ケタ者ノ負ケ惜シミヂヤナイカト云フコトデ評セラルルカモ知レマセヌ、又我々ガ侵略國民デアル、或ハ帝國主義的ナ、好戰的ナ國民デアルト云フコトヲ世間カラ、之ヲ是迄世界各國カラ思ハレテ疑ハレテ居ツタカラ、其ノ疑ヲ解ク爲ニ戰爭放棄ト云フヤウナコトヲ箇條トシテ書キ上ゲテ居ルト云フガ如キ考ノ方モアルカモ知レヌト思フノデアリマス、ソコデ私ハ決シテ左樣ナ意味デナク、此ノ戰爭ヲ放棄シテ平和日本ヲ作リ、而モ日本ガ平和デアリ、文化國デアルト云フダケデナク、世界ニ向ツテ此ノ平和ノ大キナ旗ヲ飜ヘシテ呼ビ掛ケテ行クト云フ其ノ根本ニハ、先刻申上ゲマシタ所ノ私ノ申ス日本的性格、日本本來ノ面目ガ存シテ居ルト云フコトヲ信ズルノデアリマス
〔議長退席、副議長著席〕
ソレハナゼカト申シマスレバ、皆樣モ御承知ノ通リニ古典ニ國々ノ思想ト云フモノヲ我々ハ持ツテ居リマス、今日此ノ壇上ニ於テ神話ヲ説クナラバ、彼ハ神祕的ナ神懸リヲ言フト云フ批評ガアルカモ知レマセヌ、併シナガラ神話ハ國民ニ取ツテ最モ大切ナモノデアリマス、神話ノナキ國民程氣ノ毒ナモノハナイト思フノデアリマス、古典ノ中ニ、二柱ノ神ニ依ツテ神々ガ生レ、國國ガ生レテ居ルノデアリマス、此ノ國ヲ生ムト云フ思想ハ決シテ他ノ國ヲ侵略シ、他ノ國ヲ奪ヒ、其ノ國民ヲ虐ゲ、或ハ是カラ搾取シテ自分ノミガ利益ヲ得ヨウトスルヤウナ、サウ云フ侵略的ナ、帝國主義的ナ思想デハ絶對ニナイノデアリマス、生ムト云フ思想、或モノヲ生ミ出シテ之ヲ育テル、即チ生生發展スルト云フ思想コソ、日本國民ノ民族性デアリ、我々ガ祖先傳來持ツテ來テ居ル所ノ心ノ奧底ニ在ル日本精神デアルト思フノデアリマス、只今此ノ國生ミノコトヲ此處デ私ハ長々ト申上ゲル迄モナイコトデアリマス、皆樣モ御承知ノ通リデアリマシテ、此ノ思想コソ日本民族ノ持ツテ居ル平和思想、平和愛好ノ國民デアルト云フコトヲハツキリト示ス事實デハナイデアリマセウカ、生ムト云フコトハ決シテ他所ノモノヲ奪ヒ取ルノデナクシテ、其ノ土地ニ於テ或モノヲ生シ出シ、其ノ生産サレタモノヲ以テ世界人類福祉ノ爲ニ之ヲ用ヒルト云フ意味ニ生々ト云フコトガ考ヘラレルト思フノデアリマス、又我ガ國ハ尚武ノ國デアルト申シマス、武ヲ尚ブ國デアル、其ノ爲ニ往々ニシテ我ガ國民ガ好戰國民デアル、戰ヲ好ム國民デアルト云フ風ニ言ハレルノデアリマスガ、一體我ガ國ノ武ト云フ觀念ハドウ云フコトデアリマセウカ、中國ニ於テハ、武ヲ文字ニ依ツテ戈ヲ止メルニ在リト申シマスケレドモ、我ガ國ノ方ハ、ソレ等ノ考ヘ方ヨリモモツトモツト深刻ナ、モツト深イモノデアリマス、是ハ大江匡房卿ノ作ト傳ヘラレテ居ル所ノ我ガ國ノ古來ノ武經ノ一ツニ斯ウ云フコトガ書イテアリマス、我ガ武ハ天地ノ初ニ在リテ一氣天地ヲ分ツコト雛ノ卵ヲ割ルガ如シ、故ニ我ガ道ハ萬物ヲ根源ニシテ百家ノ權興ナリ、是ガ第一章ニ書イテアルノデアリマス、雛ノ卵ヲ割ルガ如シ、此ノ言葉ヲユツクリト玩味シテ見マシタナラバ、初メテ我ガ國ノ神武ノ本當ノ心持ガ分リ、決シテ武ト云フモノハ唯無暗ニ力ヲ用ヒルモノデハナイ、總テノ力ノ根源ヲナシテ居ルモノデアル、小サイ雛ガ今生レ出ヨウトスル、其ノ卵ノ殻ヲ小サイアノ嘴デ以テ突キ破ツテ出テ來ル、アノ力、アノ氣持、アノ氣合、ソレガ我ガ國ニ謂フ所謂武デアリマス、斯クノ如キ哲學的ナ非常ニ深イ意味ヲ持ツテ居ル此ノ精神其ノモノヲ我々ハ尊ブノデアリマス、ソコデ我々日本國民ハ尚武ノ國民ト言ヒ得ルノデアリマス、是等ノコトガ若シ外國ノ、西洋各國ノ人々ニ十分ニ徹底シテ、十分ニ理解ヲ深メルコトガ出來マシタナラバ、恐ラク今日迄我々ガ疑ハレタ所ノ色々ナ疑問ハ釋然トシテ解ケルノデハナイカト思フノデアリマス、是ガ私ノ第二ニ擧ゲマシタ平和宣言ノ基本ニ於テ、我々ハアノ九條ノ基本ニ於テ日本的ナ本來ノ面目ヲ發揮シ、日本的性格ヲ十分ニ表シテ居ルト云フコトヲ申上ゲタイノデアリマス、
〔副議長退席、議長著席〕
第三ニ申上ゲタイコトハ、憲法改正案ノ第三章ノ規定ニ付テデアリマス、即チ國民ノ權利義務ノ規定デアリマス、此ノ第三章ノ規定ハ私ハ非常ニ良ク出來テ居ルト感服致スノデアリマス、是コソ本當ニ日本ノ「デモクラシー」ヲ其ノ儘ニ言ヒ表シテ居ルモノデアルトシテ、非常ナ贊意ヲ表スル者デアリマス、此ノ種ノ規定ニ付キマシテハ議論ガアリマセウ、或ハ十八世紀カラ十九世紀ニ掛ケテノ人權宣言、「フランス」革命ニ起ツタ人權宣言ニ過ギヌヂヤナイカ、或ハ國家ニ對スル個人ノ要求デアリ、國家ガ個人ノ自由ヲ保障スル、即チ個人カラ言フナラバ、國家ニ對シテノ要求權ヲ是ハ認メタモノデアルトカ、斯ウ云フ議論ガ行ハレテ居ルヤウデアリマス、成ル程個人固有ノ權利自由ガ認メラレテ居リ、ソレガ規定サレテ居リマス、併シナガラ第十二條ヲ讀ンデ見マスト、「この憲法が國民に保障する自由及び權利は、國民の不斷の努力によつて、これを保持しなければならない。又、國民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」ト書イテアル、是ガ原則デアラウト思ヒマス、個人ノ自由、個人ノ權利ヲ十分ニ尊重シ、人權ヲ尊重スルガ、同時ニ又公共ノ福祉、即チ社會生活ノ秩序ヲ尊重スルト云フコトニ付テ個人ノ責任ヲ求メテ居ル規定デアリマス、現行憲法ニ於キマシテハ、臣民ノ權利義務ノ中ニ個人ノ自由權利ガ認メラレテ居リマス、併シナガラ私ハ考ヘマスルノニ、此ノ現行憲法ノ規定デハ、マダ人權宣言ノ域ヲサウ十分ニ脱シテ居ナイヤウナ感ガ致スノデアリマス、サウシテ現行憲法デハ所謂法治主義ヲ採ツテ、殆ド全部ノモノヲ法律ニ依ツテ、法律ノ範圍内ニ於テ之ヲ保障スルヤウナ規定ニナツテ居リマス、然ルニ此ノ改正案ニ於テハ憲法自體ニ於テ全體ニ於テ全體ヘノ奉仕、及ビ個人ノ自由ト云フコトガ憲法自體ニ於テ規定サレテ居ルト云フコトニ特色ガアルヤウニ思フノデアリマス、即チ第三章ハ個人ノ權利ヲ尊重シ、其ノ自由ヲ認メルト同時ニ、全體ヘノ奉仕、全體ヘノ責務ト云フコトヲ定メテ居ルヤウニ見エルノデアリマス、是コソ本當ノ「デモクラシー」デアリマス、自己ヲ主張スル、大イニ自己ノ權利自由ヲ主張スルト同時ニ、他人ノ立場ヲ十分ニ理解シ、之ヲ尊重シテ、他人ニ對シテ寛容デアルト云フコトガ「デモクラシー」ノ本義デアリマス、此ノ「デモクラシー」ノ本義ガ第三章ノ此ノ規定ノ中ニ十分ニ認メラレルト云フコトヲ私ハ喜ブノデアリマス、自由ト云フト或者カラノ自由ト云フコトト、ソレガ發展シテモツト進ンデ、或者ヘノ自由ト云フ所迄、其ノ境地ニ迄進マナケレバ、本當ノ人間完成ハ出來ナイノデハナカラウカ、壓迫トカ、壓制等カラ自由ヲ主張シテ、ソレカラ逃レ出ヨウトスル自由、人權宣言ノ程度ノ自由ハ、私ハ或者カラノ自由ヲ要求シテ居ルモノダト思フノデアリマス、「ドイツ」語デ申ス、「フオム・エトワス・フライ・ザイン」ト云フ其ノ境涯ニ止ツテ居ルト思フノデアリマス、然ルニ人權宣言程度ノモノデナイ、是ガモツト進ンデ社會公共福祉ノ爲ニ、自分ノ自由ヲ或程度犠牲ニシテデモ責任ヲ負フト云フ、社會公共ノ福祉ヘノ自由ト云フモノ、「ツーム・エトワス・フライ・ザイン」ト云フ所迄到達シナケレバ、本當ノ人間完成ハ出來ナイデハナカラウカ、斯ウ云フ意味ニ於テ私ハ此ノ第三章ヲ解釋ヲ致スノデアリマス、而モ斯ウ云フ個人ガ十分ニ權利ヲ尊重シ、自由ヲ主張シナガラ全體ヘ奉仕シ、全體ニ對シテ責任ヲ負ヒ、全體ノ發達ニ貢獻ヲスルト云フヤウナ、サウ云フ境地、境涯ニ立ツコトガ眞ノ「デモクラシー」デアリ、是コソ我ガ國本來ノ「デモクラシー」デアルト思フノデアリマス、決シテ第三章ハ「イギリス」ヤ「アメリカ」カラ貰ツテ來タ「デモクラシー」ヲ規定シテ居ル規定デハナイノデアリマス、明治天皇ガ、一人モ所ヲ得ザル者アラバ朕ガ罪ナリト云フ御言葉ヲ賜ハツタコトガアリマス、一人デモ所ヲ得ザル者ガアレバ之ヲ嘆イテ下サルト云フ、サウシテ所ヲ得ルト云フコト、一人々々ガ皆所ヲ得ルト云フコトガ、是コソ本當ノ日本ノ「デモクラシー」デアリマス、無論我ガ國ノ「デモクラシー」ハ歴史ヲ見マスレバ度々曲ゲラレテ居リマス、必ズシモ此ノ理想通リノ「デモクラシー」ガ我々ノ生活ニ實現シタト云フコトハ度々ハアリマセヌ、常ニ曲ゲラレ、常ニ雲ニ依ツテ蔽ハレテ居ルノデアリマスガ、併シ日本ノ本當ノ面目デアル所ノ「デモクラシー」ハ、只今申上ゲタヤウニ一人々々ガ所ヲ得ルト云フコトデアラウト思ヒマス、所ヲ得ルト云フコトハ、各々ガスクスクト自由ニ自分ノ能力ヲ十分ニ發揮シテ、人ノ爲、世ノ爲ニ盡シ得ル状態ニ置カレテ居ルト云フコトデアリマス、例ヘテ申セバ假ニ鍋釜ト云フモノガアレバ、鍋釜ト云フモノハ臺所ニ置カレテ初メテ所ヲ得テ居ルノデアリマス、掛軸トカ、花活ケダトカ、置物、香爐ノ如キモノハ床ノ間ニ飾ラレテ所ヲ得ルノデアリマス、若シ鍋釜ガ床ノ間ニ置カレ、掛軸ガ臺所ニ掛ケラレルナラバ、決シテ所ヲ得タモノデハアリマセヌ、即チ自分ノ立場ニ置カレナイデ、人ノ立場ヲ侵シテ居ルコトニナルノデアリマス、斯ウ云フ意味ニ私ハ解シマスルカラ、第三章ノ規定ハ我ガ國ノ「デモクラシー」ヲ實ニ良ク言ヒ表シタ規定デアルトシテ、此ノ點ニ贊意ヲ表スル次第デアリマス、唯、私ガ前ニモ申上ゲマシタヤウニ、此ノ憲法ハ完璧デナイ、色々ナ點ニ缺點モアルト申上ゲマシタガ、其ノ一ツノ殘念ナコトデアルト思フ缺點トシテ考ヘラレマスコトハ、我ガ國ノ社會生活トシテ最モ重要デアリマス人間ノ共同生活トシテ、所謂我ガ國ノ社會生活トシテ最モ大事デアリマス所ノ家ノ生活、家族ノ生活ト云フコトガ、此ノ第三章ノ中ニ尊重ヲセラレルト云フガ如キ規定ノナイコトデアリマス、第二十四條ヲ讀ンデ見マスト、二十四條ノ婚姻カラ始ツタ家ノ關係、家ノ生活ノコトト云フモノハ、是ハ何ト見マシテモ、西洋ノ家庭生活ヲ規定シタモノニ過デマセヌ、茲デ私ガ日本ノ家ノ生活ト、西洋ノ家庭ノ生活トノ比較ヲスル時間ヲ持チマセヌガ、我ガ國ノ家ノ生活ト云フモノハ祖孫一體ノ血ノ縱ノ繋ガリデアリマシテ、アノ家庭ノ生活ト云フモノハ、自墮落ナ、氣樂ナ、暢氣ナ生活ノ中ニ、何トモ言ヘナイ秩序ガ存シテ居ル、親子、兄弟、夫婦、皆分ヲ守ツテ居ル、分ヲ守ルト云フ生活ヲシテ居ルト云フ、此ノ生活形態ト云フモノハ、恐ラク何處ノ國ニモナイ人類ノ共同生活形態ダラウト私ハ思フノデアリマス、此ノ日本獨得ナ家ノ生活、此ノ家ノ生活ト云フコトガ、先刻來私ガ申上ゲタヤウニ、如何ニモ日本的ナ日本ノ「デモクラシー」ヲ掲ゲテ呉レタト思フ此ノ第三章ノ中ニ脱ケテ居ルト云フコトハ、返ス返スモ殘念ナコトニ思フノデアリマス、而モ此ノ修正ノ案ガ委員會ニ於テ、或委員カラ提出サレマシタガ、ホンノ僅カノ差ヲ以テ、是ガ敗レタノデアリマス、私ハ之ヲ非常ニ遺憾ト致シテ居リマス、若シ此ノコトガ規定サレテ居ツタトスルナラバ、一層此ノ第三章ト云フモノニ日本的ナ光ガ輝イテ來ルノデハナカラウカ、斯ンナ風ニ私ハ考ヘテ居リマス、第四ニ日本的ナ性格ト申シマスカ、日本本來ノ面目ヲ發揮シテ居ルモノト考ヘラレマスコトハ、第八十八條及ビ第八條ノ二ツノ關係ニアリマス皇室財産ニ關スル規定デアリマス、第八十八條ハ皇室無財産ト云フコトガ規定サレタ事項デアリマス、成ル程、一部少數者ハ我ガ國ノ皇室ノ財閥タルコトヲ防ガムトシテ、我ガ國ノ皇室ニ財産ヲ與ヘナイヤウニ努力シテ、サウ云フ風ニ考ヘテ居ル人々ガアルヤウデアリマス、併シ此ノ議論ハ勝手デアリマス、皇室無財産ト云フコトニ付テ、是等ノ議論ニ拘ラズ、私共日本人ハ我々ノ信念トシテ皇室無財産デアルト云フコトヲ私ハ考ヘルノデアリマス、我ガ國體ガ世界無比デアルト云フコトヲ申シマス、此ノ國體ノ世界ニ類例ナイト云フコトノ事實トシマシテハ、萬世一系デアルト云フコトモアリマス、併シナガラ私ハ、ソレ等ノ色々ナ條件ガアラウト思ヒマスケレドモ、世界無比デアル一ツノ大キナル事柄ハ何デアルカ、他ニ類例ノナイ事柄ハ何デアルカト申セバ、私ハ考ヘマスノニ、皇室ニ姓氏ガナイト云フコトデアルト思フノデアリマス、源平藤橘デハアリマセヌ、我々日本國民ハ源平藤橘ニ分レテ居リマス、我々ハ松本デアルトカ山田デアルトカ云フ氏ヲ持ツテ居リマス、然ルニ皇室ニハ姓氏ガアリマセヌ、一體世界ニ姓氏ナキ存在ト云フモノガ文明國ニアルデアリマセウカ、或ハ歐洲ニ於テ「ホーフェン・ツオレルン」ダトカ、「オーストリア」ノ「ハプスブルグ」ダトカ、或ハ「ハノーヴァー」ダトカ、「ロマノフ」ダトカ、是等ハ皆姓氏ヲ持ツテ居ル、デアリマスガ、皇室ニハ姓氏ガアリマセヌ、姓氏ガナイト云フコトハ、私ハ是コソ絶對的ナ存在ダト思フノデアリマス、相對デアレバ茲ニ姓氏ヲ分ツテ二ツノモノヲ比較スルト云フ立場ニ立タナケレバナリマセヌガ、姓氏ノナイト云フコトハ、是ハ絶對ナモノデアリマス、比較スルモノガナイ、是ハ無デアリ、無色透明デアリ、無比デアリマス、デアリマスカラ、此ノ無色無比、無色透明デアル絶對的ナ存在デアル所ノ皇室ガ、他ト比較セラルベキモノヲ御持チニナルト云フコトハナイ筈デアリマス、又日本ノ歴史ヲ見マシテモ、決シテ皇室ガ私有ノ財産ヲ御持チニナリ、皇室ノ財産トシテ御持チニナツテ居ツタト云フコトハナイト私ハ存ジテ居リマス、即チ古イ詔勅ノ中ニ、是ハ私、ツイ調ベルコトガ十分デアリマセヌノデ、或學者ノ友人カラ聞イタノデアリマスケレドモ、古イ詔勅ノ中ニ天子ニ私財ナシト云フ御言葉ガアルト云フコトデアリマス、幕政ノ時ニ於キマシテモ、皇室ハ決シテ、財産ヲ御持チニナツテ居ツタノデハアリマセヌ、此ノ皇室無財産ト云フ規定ヲ此ノ憲法ニ置カレテ、而モ第八條ニ於テ皇室ト國民トノ間ノ財産ノ交流ニ付テノ規定モ定メラレテ居リマス、此ノ二ツノ規定ヲ運用スルコトニ依リマシテ、本當ニ日本ノ本來ノ面目デアリ、言葉ヲ換ヘテ申スナラバ、日本ノ國體ノ中心デアルトモ謂フベキ事柄ガ實現スルコトニ相成ツタト云フコトハ、私ノ欣ビニ堪ヘナイ所デアリマス、八十八條ノ規定ニ於キマシテ、將來恐ラク皇室ノ費用ハ豫算ニ計上セラレテ、國會ノ議決ヲ經ルコトニ相成ルト思フノデアリマス、政府ノ質問ニ對スル御答辯ニ依リマスルト、此ノ八十八條ニ於ケル皇室ノ費用ト云フモノハ、天皇ノ公ノ費用デアリ、又皇室財産ト云フ、此ノ八十八條ノ皇室財産ト云フノモ、公ノ意味ニ於ケル財産ヲ申スノデアツテ、天皇ノ私的ノ御財産ハ此ノ中ニ含マヌト云フ御説明デアリマス、私ハ多少見解ヲ異ニシテ居リマス、政府ノ此ノ憲法ヲ通ジテノ御説明ノ中ニ、我々ガ聽キ取リマス所ニ依リマスト、天皇、即チ憲法上ノ天皇ト云フコトト、御一人々々々ノ天皇陛下ト云フコトヲ混同シテ居ラレルノデハナイカト云フヤウナ感ジガ致スノデアリマス、憲法上ノ天皇ト云フコトハ、是ハ觀念デアリマス、御一人御一人ノ天皇陛下ト云フ、アノ御肉體ヲ御持チニナツテ居ラレル陛下、其ノ御一人ヲドウモ混同シテ考ヘテハナラナイノデハナイデセウカト私ハ思フノデアリマス、デアリマスカラ、國民ノ中ニ個人トシテノ天皇ヲ含ムト云フヤウナコトハ、苟モ憲法ノ解釋トシテハ成リ立タナイノデハナイダラウカ、憲法以外ニ於ケル何ト申シマスカ、私ノ生活ノ上ニ於テハ、私ノ天皇トカ、公ノ天皇ト云フコトガ考ヘラレルカモ知レマセヌガ、憲法上ノ天皇ト云フコトハ、是ハ私ノ無キ、即チ無色無比ノ天皇ト云フ、即チ歴史ヲ一貫シテ、悠久ノ昔ヨリ天壤無窮、永劫將來ニ亙ツテ萬世一系ノ皇祚ヲ踐マレ、天壤無窮ノ皇位ニ即カレル其ノ天皇ト云フ觀念ガ憲法上ノ天皇デナクテハナラナイノデハナイカト思フノデアリマス、從ツテ憲法ノ上ニ於テ私ノ天皇ヲ考ヘル、即チ八十八條ニ於テモ皇室財産ノ中ニ私ノ天皇ノ財産ヲ考ヘルナドト云フコトハ間違ヒデハナイカ、天皇ノ私ノ御生活ト云フヤウナコトハ憲法上ノ問題デハナイノデ、而モ私ハ第八條ノ規定ニ依ツテ是等ノコトハ解決ガ附クノデハナカラウカ、即チ憲法上ノ天皇ト云フコトハ、能ク申サレマス所ノ「義ハ君臣ニシテ」ト云フ此ノ意味デアツテ、御一人々々々ノ天皇陛下ニ對スル我々ノ心持、私生活ヲ遊バス天皇陛下、私有財産ヲ御持チニナル、御手許ノ物ヲ御持チニナルト云フ天皇陛下ト云フ此ノ考ヘ方ハ、即チ情ハ父子ト云フ氣持ノ天皇デアルノデハナカラウカ、從ツテ私ハ八十八條ノ皇室財産ニ付テモ、毎年計上セラレマスル所ノ皇室費ニ付テモ全部公ノ憲法上ノ天皇ノ御財産デアリ、御費用デアルト云フコトニ御解釋ヲ願ツテ、將來議會ニ、毎年國會ニ出テ來マスル所ノ費用等ニ付テノ御考ヘ方モ政府ニ於テ左樣ニ御取扱ヒヲ願ヒタイト考ヘテ居リマス、其ノコトハ先刻來申上ゲマシタヤウニ無色無比デアリ、絶對的ナ姓氏ナキ御存在デアルカラシテ、他ト比較サルベキ財産ヲ御持チニナルモノデナイ、又御持チニナルベキモノデモナイ、事實上無財産デ、此ノ無色無比デアリ、絶對的ノ存在デアル所ノ天皇ヲ中心ニシテ、我々ハ二千數百年來、日本國民ガ團結シテ來タ、此ノ國柄デアルト云フコトヲ申スノデアリマス、此ノ四ツノ點ニ付キマシテ私ハ日本的ナ色彩ガ濃厚ニ出テ居リ、又日本本來ノ面目ヲ發揮シテ居ルト云フコトニ付テ大イナル贊意ヲ表スルト云フコトヲ申上ゲル次第デアリマス、殊ニ最後ニ申上ゲマシタ皇室財産ノコトニ付キマシテハ、昨年ノ末陛下カラ有難キ大御心ノ程モ仰セ出サレテ居ルコトヲ洩レ承ツテ居ルノデアリマス、是等ノコトハ國民トシテ感激ニ堪ヘナイ所デアリマス、偖、私ガ只今迄申上ゲマシタ意味ニ於テ、此ノ憲法改正案ヲ贊成ヲ致スノデアリマスガ、只今申上ゲマシタヤウナ意味ニ於ケル此ノ改正憲法ト云フモノハ、私ハ斯ウ考ヘマス、即チ内ニ向ツテハ、即チ國民ニ向ツテハ此ノ憲法ガ據ルベキ指針ヲ示シテ居ルノデアリマス、外、諸外國ニ對シテハ我ガ國ノ本當ノ姿ヲ明カニシテ、同時ニ正義ト秩序ヲ基調トスル國際平和ヲ熱心ニ希求シテ居ルト云フコトヲ宣言シテ居ルモノデアルト解釋ヲ致スノデアリマス、此ノ二ツノ意味ヲ以テ國内及ビ國外ニ向ツテノ大キナル意義ヲ此ノ憲法改正案ガ持ツテ居ルト致シマスナラバ、先ヅ世界平和ニ貢獻セムトシ、恆久ノ平和ヲ希求シテ戰爭ノ放棄ト云フ思切ツタル處置ヲ採ツテ、之ヲ第九條ニ規定シテ居ルト云フ以上ハ、何カ世界ニ向ツテ日本國カラ世界平和ヲ招來スルト云フ何カノ具體案ヲ提案スベキデハナイデアリマセウカ、此ノコトハ私ハ委員會ニ於テ、總理大臣ニ御質問ヲシタノデアリマスガ、恐ラク政府ハ何カ具體案ヲ御持チニナツテ居ルダラウト申シタノデアリマス、ソレハ何故サウ申スカト言ヘバ、唯、漫然ト戰爭ヲ放棄スルトカ、平和主義デアルト云フコトヲ言ヒ放シニシタノデハ何ヲ言ツテ居ルノカ、「ユートピア」ダ、或ハ負ケ惜ミダラウト言ハレル虞ガアルノデアリマス、デアリマスカラ、是ダケノ決心ヲシテ、憲法ニ此ノ條項ヲ堂々ト御書キニナツタ以上ハ、世界ニ向ツテ何カ具體案ヲ御示シニナラナケレバナラヌデアリマセウシ、恐ラク御持チニナツテ居ルダラウト云フコトヲ申シタノデアリマス、適當ナ時機ニ於テサウ云フコトヲ考ヘルト云フ御答辯デアリマシタ、私ハ當然サウデアラウト思ヒマス、然ラバ如何ナル具體案デアルベキデアリマセウカ、現在國際聯合ト云フ組織デ以テ世界各國ハ世界ノ平和ヲ維持セムトシテ努力ヲ致シテ居リマス、是ハ一ツノ方法デアリマス、併シナガラ政治、經濟ト云フヤウナ各國ノ利害關係ノ非常ニ深刻デアル事柄ヲ基礎ニ置イタ國際聯合ノ此ノ組織ト云フモノガ是亦必要デアリマセウ、併シナガラソレヨリモモツト根本的ナ、モツト奥底ヲ行ク所ノ各國ノ文化ヲ基礎トシタ、即チ世界各國ガ互ノ國ノ、各國ノ文化ヲ十分ニ理解シ、之ヲ互ニ尊重シ合ツテ、サウシテ文化ヲ基礎ニシテ、互ニ理解シ、尊重シ合フト云フヤウナ、何カ國際的ナ組織ガアツテ宜イノデハナイカ、現在國際聯合トシテ政治、經濟、外交、所謂各國ガ今日迄、國際聯盟トシテヤリ來ツタヤウナヤリ方ヲ行ツテ居リマスルガ、別ニ我ガ國カラ、文化國際聯合トデモ言フベキ組織ヲ世界ニ向ツテ呼ビ掛ケテハドウデアリマセウカ、實ハ只今カラ十年程前、昭和十一年ニ私一個ノ渺タル一個人ガ、其ノ當時國際聯盟ガアンナ状況ニナツテ居リマシタノデ、別ニ文化國際聯盟ノ提唱、ソレカラ對立觀ニ對スル一如觀ヲ基礎トシタ所ノ、奇抜ナル名前デアリマスガ、第五「インターナショナル」ノ主張ト云フモノヲ世界ノ知識人、學者、思想家等ニ呼ビ掛ケタコトガアルノデアリマス、其ノ時ニ其ノ反響ハ非常ニ大キカツタ、小サイ一個人ガヤツタ此ノ運動ガ相當大キナ反響ヲ呼ンダノデアリマス、其ノ中ノ一ツニ「ハーバート」大學ノ政治學ノ教授ノ「ブルース・シー・ホッパー」教授ガ私ニ手紙ヲ寄越シテ、其ノ手紙ノ中ニ丁寧ナ言葉デ自分ノヤツテ居ルコトニ非常ナ贊意ヲ表シテ、サウシテ「チャペール・サービス」ニ於テ之ヲ私ハ學生ニ話シテ居ル、其ノ「チャペール・サービス」ニ於テ話シタ講義ヲシテ居ル内容ヲ此處ニ送ツテ來タノデアリマスガ、其ノ中ニ、滿洲事變、國際聯盟離脱後、日本人ハ自己辯護ヨリ、自己反省ヲシテ、固有ノ政治哲學ヘノ序曲トシテ、西洋文化ノ本質的ナル再檢討ニ向ハムトシテ居ルト、斯ウ書イテ居リマス、サウシテ、最後ニ附加ヘテ我々米國人ノ役目ハ、日本ノ行動ヲ徒ニ傍觀シタリ、軍艦ヲ造ツテ對抗スルコトデハナクシテ、忍耐ヲ以テ、日本人ヲ研究シ、ソコニ創造サレツ、アル新政治哲學ヲ研究スルコトデアラウト云フコトヲ附加ヘテ參ツテ居ルノデアリマス、私ハ小サイ一個人ガ微力ヲ以テ思ヒ切ツテヤツタコトニ、世界各國カラ相當ニ反響ガアツタノデアリマスカラ、現在新ラシイ世界ヲ造ラウトシテ、世界各國ガ惱ミ拔イテ居リ、如何ニシテ平和ニ向ハムカト努力シテ居ル、此ノ機會ニ於テ我ガ國ハ戰爭ヲ放棄シテ、平和ノ國ヲ建テル宣言ト共ニ、何カ一ツ、斯ウ云フ具體的ナモノヲ以テ、世界ニ臨マレムコトヲ切望シテ已マナイノデアリマス、政府御自身トシテハ、或ハムヅカシイカモ知レマセヌガ、日本ノ國ノ中ニ、斯ウ云フ運動ガ起ルコトガ焦眉ノ急デハナカラウカト思フノデアリマス、次ニ國内ニ向ツテノ、此ノ憲法ノ役目ハ、國民ニ指針ヲ與ヘルト云フコトデアリマス、今日ノ國内状勢ヲ見レバ、終戰後、虚脱カラ今日デハ昏迷ノ状態ニナツテ居ルト思ヒマス、國民ハ今迷ヒ拔イテ居リマス、日本國民ハ今何處ニ行カムトスルカ、指針ヲ求メテ居リマス、新タナル國民ノ時代ヲ造ルト云フ此ノ機會ニ於キマシテ、日本ノ正シイ姿ヲ認識スルト云フコトニ依ツテ、此ノコトガ出來ルノデハナイカト思ヒマス、即チ先程申上ゲマシタヤウニ、第三章ノ國民ノ權利義務、アノ規定ヲ十分ニ其ノ眞價ヲ發揮スルヤウニ、此ノ第三章ノ規定ノ正シイ理解ヲ國民ニ與ヘルヤウニ努力スルコトガ大切デハナイカト思ヒマス、新ラシイ世界ヲ茲ニ建テテ新タナル國民ノ時代ヲ造ラウト云フ以上ハ、今日ノ此ノ日本ニ於テ、斯クノ如キ状態ニ持ツテ來タ其ノ原因ガ何處ニアルカト云フコトヲ探究スルコトガ、先ヅ第一ニ必要デハナカラウカ、今日此ノ状態ニ日本ヲ陷レタト云フ其ノ原因ハ何デアリマセウカ、互ニ責任ヲナスリ合ツテ他人ヲ責メルコトヲ止メテ、靜カニ日本國民ガ反省シテ見ナケレバナラヌデハナイデアリマセウカ、明治ノ末、昭和、大正ニ掛ケテ、我々日本國民ノ態度ガ常ニ無反省ナル模倣デアツタヤウニ思フノデアリマス、或ハ左ニ於テ「マルクス」ガ盛ニナレバ、無反省ニ「マルクス」ヲ謳歌シ、之ニ心醉シ或ハ或外國ヲ祖國ト呼ブガ如キ心持ニ迄ナリ、又「ナチス」、「フアッシヨ」ガ盛ニナレバ、「ナチス」ニ心醉シテ、「ナチ」ノ全體主義コソ、我ガ日本精神デアルト云フコトヲ臆面モナク演説シタ人モアルノデアリマス、左ニモ右ニモ、常ニ今日迄ノ日本ガ、自分ノ本當ノ値打ヲ探究スルコトヲ止メ、自ラ反省スルコトヲシナイデ、輕々シク外來ノ色々ナ思想ヤ制度等ヲ摸倣ヲシ、之ヲ心醉シテ來タト云フ所ニ、今日ノ此ノ日本ノ國状ヲ來シタ大キナ原因ガアルノデハナカラウカト思ヒマス、此ノ憲法ノ改正ガ成リ立チマシタ今日以後ニ於テ、此ノ無反省ナル模倣ト云フコトヲ止メテ 本當ニ日本ノ面目ヲ發揮スルヤウニ、即チ日本本來ノ面目ニ歸リ、日本ニ歸ツテ、日本人ヘノ囘歸ト云フコトヲ念願ヲシテ、而モ自主的デアリタイト云フコトデアツテ、ソレニ依ツテノミ今日以後ノ日本ガ救ハレルノデハアリマスマイカ、而モ相當良ク出來タ此ノ憲法ト云フモノガ、實際ニ國民ノ中ニ生命ヲ發揮シテ行クト云フノモ、此ノ基礎的ナ國民ノ考ヘ方、反省ヲ求メナケレバ、何ノ效果モナイコトニナルノデハナイカト思フノデアリマス、先達テ私共少數ノ集リノ時ニ、皆樣御承知ノ、京都、奈良ノ文物ヲ戰火カラ救フコトニ盡力ヲサレタト云フ、アノ「アメリカ」ノ「ワーナー」博士ガ、藝術生活ト云フ題デ座談的ナ講演ヲサレタノデアリマス、其ノ中ニ、現代ノ日本人ハ後世ノ子孫ニ恥ヂナイヤウニ、此ノ窮屈ナ、苦シイ慘澹タル此ノ現状ニ於テ、尚日本ノ傳統ヲ活カシ、日本ノ良イモノヲ益々發揮スルト云フヤウナ努力ヲシテ行カナケレバナラヌト云フコトヲ言ヒマシタ後デ、斯ウ云フコトヲ申シタノデアリマス、若シ「アメリカ」人ガ、今日日本デ造ラレテ居ルアノヤウナ劣惡ナ品物ヲ、米國デ賣ラシテ貰ヒタイトアナタニ頼ンダ場合ニハ、アナタハ一體彼ガ民主主義ノ根本原理ヲ心得テ居ルカドウカト云フコトヲ反問スベキデアリマセウ、民主主義ノ根本原理トハ各人ガ自己ノ良心ニ從ツテ行動スベク、先ヅ自己ノ心ヲ吟味シナケレバナラナイト云フコトナノデアリマス、誠ニ聽クベキ言ダト思フノデアリマス、次ニ申シマスノニ、私ガ日本ヲ批評スル場合ハ、同時ニ米國ヲモ批評シテ居ルノデアリマス、我々米國人ハ機械的發明ト巨大ナル生産力ト云フ二ツノ點デ、大キナル成功ヲ收メテ來マシタ、從ツテ日本ノ心ナキ人々ハ、之ニ對シ羨望ノ念禁ジ難ク、米國式ノ機械的生活方式ガ幸福ヘノ道デアルカノヤウニ思ヒ込ンデ來クノデアリマス、併シ米國ノ聖者トモ謂フベキ「エマーソン」ハ、七十五年前ニ、羨望ハ無智デアリ、摸倣ハ自殺デアル、只管汝自身ヲ信頼セヨ、人ノ心ハ自信ト云フ鐵ノ琴線ニ觸レテ振動スルモノデアルト謳ツテアリマス、而シテ私ハ嚴肅ニ是ガ正シイト確言致シタイノデアリマスト申シテ居リマス、私ハ是ハ今日ノ日本人ニ取ツテ頂門ノ一針デアリ、大イニ聽クベキ言葉デアラウト思ツテ居リマス、只今迄申上ゲマシタ四ツノ點ニ於テ、日本的ナ性格ガ十分ニ現ハレテ居ルト云フコトヲ、私自身ノ解釋デアリマスガ、左樣ニ解釋ヲ致シマシテ、憲法草案ニ贊成スル者デアリマス（拍手）
○議長（公爵徳川家正君） 木下謙次郎君
〔木下謙次郎君登壇〕
○木下謙次郎君 本憲法ニ於テノ審議ガ、既ニ天下ノ才ヲ集メ二箇月ニ亙ツテ、專門家、學者ヨリ精密詳細ナル研究ノ御議論ヲ拜聽致シ我々素人ニ於テハ啓發スル所少カラズ、深ク感謝スル次第デアリマス、私ハ憲法上ノ學問ニハ全然素人デアリマスルカラシテ、斯ク論議サレタ後ニ何等申上ゲルコトハナイノデアリマス、唯純素人ノ立場トシテ、私一個ノ感想ニ付テ本案ヲ批評シ、之ヲ批評スルコトニ依ツテ、本案ニ贊成ノ意思ヲ表明致シタイト考ヘマス、茲ニ御許シヲ願ツテ置キタイコトハ、私ハ老人デアリマシテ、私ノ感想ニハ支那ノ文學ノ生噛リヤ、或ハ支那ノ古典ノ受ケ賣リニ似タコトガナイトモ限リマセヌカラ、其ノ點ニ付テハ極メテ古臭ク、且御聞キ苦シイ點ガアルカモ存ジマセヌガ、ドウカ此ノ老人ニ免ジテ特ニ御容赦ヲ願ツテ置キマス、昨日來本案贊否ノ御議論ヲ承リマスルニ、多クハ此ノ憲法ハ何ダカ舶來ノ臭ガスル、日本製ノ物デハナイヤウデアルト云フ點ヲ、議論サレタ方々ガ大分多イノデアリマス、反對論者ハ無論、贊成論者モサウデアリマス、是ハドウ云フコトカラ來テ居ルカト云フニ、先程三土君カラモ略々御話ガアツタ、又今ノ松本サンカラモ略々其ノ問題ニ付テ御話ガアツタ、私ハ之ニ付テ深ク共鳴スルコトヲ避ケテ、唯成ル程我々モ舶來臭イヤウナ臭ヲ感ズルコトハ、餘リ良イ氣持ハ致シマセヌガ、内容ガ良カツタナラバ、先ヅ其ノ臭ヲ暫ク避ケテ、内容ノ良イ點ニ滿足シテ、私ノ御話ノ筋ヲ進メタイト考ヘルノデアリマス、（拍手）然ラバ君ハ内容ガ良イト云フガ、ドノ點ガ良イノカ、サウ云フ御尋ヲ假定スルトスレバ、私ノ最モ傾倒致シテ居リマスノハ、此ノ憲法ハ世界ノ平和ヲ祈念シ、人類愛ノ目標ヲ以テ構成セラレテ居ルト云フ、其ノ點ニ付テ私ハ傾倒致シテ居ルノデアリマス、甚ダ物識リ顔ノコトヲ申上ゲテ恐縮デアリマスルケレドモ、「キリスト」ノ博愛ノ思想カラ見テモ、佛教ノ慈悲ノ觀念カラ見テモ、或ハ孔孟ノ仁義禮智ノ觀念カラ見テモ、此ノ憲法ニハ共鳴スベキ美點ガ數々看取セラレルノデアリマス、從ツテ此ノ憲法ハ國家統治ノ大憲章デアルト同時ニ、一面人類ノ生活ノ根本ヲ教ヘタル尊重スベキ教典デアルトモ考ヘラレマス、世界列國ノ成文憲法ハ此ノ憲法程良ク行キ届キ、又内容ノ充實シテ居ルモノハナイデアラウカト私ハ考ヘテ居ル程デアリマス、昨日、澤田君ノ御話デハ、此ノ憲法ハ憲法ノ本領ヲ逸シテ、要ラヌ世話迄行キ届キ過ギテ居ルト云フ御非難ガアリマシタガ、私ハ此ノ憲法ノ内容ノ充實致シテ居ルコトニ贊成ヲスルノデアリマスルカラ、是ハ御意見ノ相違デアリマス、斯クノ如ク此ノ憲法ハ新タナ構想ヲ以テ、可ナリ革新的ナモノデアリマスルカラ、我ガ國從來ノ制度、典章、文物、法令、有ラユル百般ノモノニ亙ツテ改革、或ハ急激ノ變化ヲ來スコトハ誠ニ已ムヲ得ヌ、是ハ澤田君ノ御話ノ通リデアリマス、現ニ此ノ貴族院ノ如キモ廢止ノ運命ニ逢著致シタノデアリマス、其ノ結果トシテ時代ノ儀表トシテ多年院内ニ活躍セラレタル公侯伯子男ノ名流諸公モ、或ハ國家ノ功勞者、學識、經驗ノ誇リヲ持ツ勅選ノ諸君モ、學界ヲ代表スル名譽アル諸君モ、我ガ國ノ富豪階級ヲ代表スル互選ノ議員モ、總テ同ジ運命ニ逢著セラレルノデアリマス、斯クシテ、政界ノ表面ヨリ姿ヲ消サレル方々モ少クナイト考ヘマスル、世界ノ表面ヨリ姿ヲ消サレタ方々ハ、或ハ范蠡ヲ學ンデ江湖ノ外ニ放逸シ、或ハ東陵公ヲ學ンデ瓜ヲ青門外ニ作ル方モアルデアリマセウ、人生滄桑ノ變、誰カ感慨ノ情ナカラムヤデアリマス、（拍手）併シ我々ハ國家ノ現在ノ事情ニ直面シテ、一切ノ私情、一切ノ考ヲ捨テ去ラナケレバナリマセヌ、茲ニ古イコトヲ申上ゲテ甚ダ恐縮デアリマスルガ、私ハ唐ノ魏徴ノ感慨ノ言葉ヲ借用スルコトノ御許シヲ得タイト思フ、「豈艱險ヲ憚ラザラムヤ、深ク國士ノ恩ヲ懷フ、人生意氣ニ感ズ、功名誰カ又論ゼム」、我々此ノ憲法ノ嵩高ナル人類愛ニ感激シタル者、功名富貴、一身一個ノ利害得失、誰カ言フニ足ルモノガアリマセウカ、成ル程澤田君ノ御話ノ通リ、世ノ變革ニ遭ヒ、或ハ不愉快ノコトニ直面スルコトモアリマセウ、或ハ迷惑ヲ感ズルコトモアリマセウ、豈艱險ヲ憚ラザラムヤ、深ク國士ノ恩ヲ懷フ、我々ハ赤裸々ノ眞ツ裸トナツテ、全國民ト一心同體、新日本ノ建設ニ努力スベキデアルト考ヘテ居ルノデアリマス、現在我我ガ直面致シテ居ル此ノ國ノ状況ニ付テハ私ヨリ申上ゲル迄モナク、三土君ヨリモ詳シク御話ガアツタヤウデアリマスルガ、敗戰ノ結果、我々ハ總テノ物ヲ失ツテ居ル、計算スベカラザル莫大ナ損害、名状スベカラザル莫大ナ犠牲、其ノ犧牲ヲ拂ヒ、今尚拂ヒツ、アルノデアリマス、國民ノ多數ノ中ニハ、居ルニ家無ク、著ルニ衣無ク、食フニ物無ク、政府ハ其ノ威信ヲ失墜シ、道徳倫理ハ頽廢シ、人心適從スル所ナク、暗黒昏迷ノ間ニ彷徨致シテ居ルト云フ今日ノ現状デアリマス、此ノ際ニ當ツテ、此ノ新憲法ノ誕生ハ正ニ一條ノ光明ヲ國民ニ與ヘタモノト言ウテ然ルベキデアリマス、（拍手）併シ光明ハ現實デハアリマセヌ、光明ハ現實デハアリマセヌ、新憲法ハ如何ニ立派ナモノデアツテモ、是ハ現實ノ日本ノ再興ノ姿デハアリマセヌ、其ノ點ニ付テハ三土君ヨリモ先刻詳シイ御話ガアツタヤウデアリマスルガ、此ノ新憲法ノ良キ精神ニ副ウテ現實ノ再興、文化日本ヲ造ルニハ、國民ハ非常ナ努力ヲ拂ハネバナラヌモノデアルト云フ御話ガアツタ、私モ極メテ同感、極メテ同感、我々ガ文化新日本ノ再興ニ努力スルトナレバ、第一番ニ我々ハ舊日本ノ長イ間ノ惡イ夢カラ醒メテ、眼ヲ擦ツテ活眼ヲ開イテ世界竝ニ人生ト云フモノヲ見直サネバナラヌ、我々ノ過失ニ因ツテ招イタ今日ノ恐ルベキ此ノ罪業ヲ第一、之ヲ清算シナケレバナラヌ、言葉ハ惡イカモ存ジマセスガ、小國民根性、是モ三土サンカラ先刻御話ガアリマシタ小國民根性トモ謂フベキ利己的ノ利慾心、自負心、獨善、輕擧、淺慮、我々ノ過失ヲ招イタ原因ヲ成シタモノト思ハレル一切ノ迷妄ヲ拂ヒ除ケナケレバナリマセヌ、迷妄ト云フ言葉ガ若シ惡カツタナラバ、妄想デモ宜シイ、拂ヒ除ケナクチヤナラヌ、或ハ諸君ノ中ニ御氣ニ障ルカモ存ジマセヌガ、我々ガ始終使ヒツケテ居リマス日本精神、大和魂、日本魂、總テ是等モ再檢討ノ爼ノ上ニ乘セテ先ヅ見直シヲシナケレバナラヌト考ヘルノデアリマス、總テ是等ノ妄想上ノ思想ヲ一掃スルコトモ容易ナラヌコトデアリマスルガ、凡ソ文化ノ暢達、文化日本ノ再興ニ付テノ文化ノ暢達、其ノ暢達ニ於テハ、或程度ノ高イ文化ノ保障ガ伴ハナケレバナラヌコトハ御承知ノ通リ、生活無クシテハ文化無シ、衣食足ラズシテ禮節無シ、文化ノ暢達ニハ衣食ガ必要條件トナツテ居ル、衣食ノ基本タル我ガ國ノ産業状態ハドウデアルカ、其ノ産業ノ復興、再開ニ付テハ、其ノ組織モ時期モ混沌トシテマダ目鼻ノ附イテ居ラヌト云フ今日、凡ソ文化ノ進展ニ付テ之ヲ發達向上スルニハ總テ反對、反對ト云フ言葉ガ惡ケレバ逆手、逆手ガ惡カツタラバ都合好クナイ惡條件ニ取圍マレテ居ルト云フ悲シムベキ状態ニアルノデアリマス、併シ、我々ハ如何ニ困難ガアラウトモ、之ヲ乘切ツテ新日本ノ建設ニ成功スル以外ニハ斷ジテ我ガ日本ノ活路ハ無イト信ジマス、我我ハ聰明ナル良識ト眞劍ナル努力ニ依ツテ、飽ク迄難關ヲ克服打開シテ文化日本ノ彼岸ニ達スルコトニ邁進シナケレバナラヌト私共ハ考ヘテ居ルノデアリマス、是迄申上ゲテ、時間ガ大分過ギマスノデ、私ハ直グ結論ニ急ギタイト存ジテ居リマス、結論、私ノ結論ヲ明確ニスル爲ニ、又甚ダ古イコトデ恐縮ヲ致シマスガ、孔子先生ノ言葉ヲ借用スルノ御許シヲ得タイト思ヒマス、孔子先生ノ御弟子ニ、御承知ノ通リデアリマスガ、子貢ト云フ人ガアツタ、是ハ當年チヤキチヤキノ政治家デアツタガ、其ノ政治家タル子貢ガ先生ニ伺ヒヲ立テタ言葉ニ、國ガ破レテ愈々行詰ツテ、國ノ再建ヲシナケレバナラヌト云フ時ニハ、ドウ云フ事カラ先ニ手ヲ著ケタナラバ宜シイカト云フ御尋ヲシタ、丁度二千五百年後ノ日本ノ今日ノ現状ヲ子貢ガ想定シテ先生ニ御尋ネシタモノト見エル、處ガ孔子ハ、是ハ皆樣御承知ノ通リデアリマスガ、論語ニアル「兵ヲ去レ食ヲ去レ古ヨリ人皆死アリ信ナクバ立タズ」ト云フ名句ヲ吐カレタ、兵ヲ去レ、軍備ヲ撤廢セヨ、今ノ言葉デ言ヘバ戰爭放棄ヲヤレ、是ガ一番、其ノ次ニ食糧問題モ大事デアルガ、併シソレヨリ先ヅ信ヲ立テテ、國ノ信ヲ立テテ國ノ内外ノ信ヲ繋ゲ、是ガ國家再建ノ第一條件デアル、信ト云フモノハ御承知ノ通リ、儒教ニ於ケル政治ノ根本義デアル、此ノ信ヲ分解シテ、或ハ演繹スルカ、或ハ歸納スルカシテ、之ヲ成文ニ書イタモノガ、今我我ガ言フ憲法デアル、今我々ガ戰爭放棄ヲ翳シテ、國家多事ノ際ニ斯クモ憲法審議ニ熱中シ取急イデ居ルコトハ、孔子先生ノ言葉ト思ヒ合セテ、人生ノ眞理ハ萬古ヲ一貫シタル不變ノモノデアルト云フコトニ深イ感銘ヲ覺エルモノデアリマス、尚、毎度先生ヲ借用シテ恐縮デアリマスルガ、論語ノ中ニ、「之ヲ東隅ニ失ヒ、之ヲ桑楡ニ收メル」ト云フ格言ガアル、是モ御承知ノ通リニ、色々ナ解釋ガアリマスルガ、東隅デ何カ過チガアツテ損ヲシタラバ、如何ニ犠牲ガ多大デアラウト、損害ガ莫大デアラウト、過去ハ過去ニ葬リ去レ、之ニ愚痴ヲ殘スナ、未練ヲ殘スナ、負ケ惜ミヲ言フナ、其ノ代リニ桑楡ノ間ニ立派ナ別ナモノヲ作リ上ゲテ、東隅ニ失ツタモノヲ取返セ、之ニハ相當深イ哲學上ノ意味ガ籠ツテ居ルト考ヘマスルコトハ、東隅ト云フノハ東ノ方、桑楡ト云フノハ西方ヲ象ツタ意味ニ字ノ上カラ考ヘラレマスルガ、併シ此處ニハ一ツノ哲學ガアル、一方デ損ヲシタモノヲ一方デ取返セバ宜イデハナイカト云フ意味バカリデナシニ、東隅ハ物質ヲ意味シ、桑楡ハ精神的ノモノ、我々ガ領地ヲ失ヒ、軍艦ヲ失ヒ、陸軍ヲ失ヒ、多少ノ物質ヲ失ツタガ、桑楡ノ間ニ精神的ナ立派ナモノヲ再建ガ出來レバソレデ宜イデハナイカ、此ノ意味ニ當テ嵌メテ、或ハ今日ノ現状ニ大イナル示唆ヲ與ヘルモノガアリ、尚又、此ノ言葉ニ含マレタル、負ケテ勝ヲ取レ、此ノ寓意モ我々ノ胸底ニ深ク響クモノヲ感スルノデアリマス、斯クシテ二千五百年前ノ古聖人ノ教ヘガ今日我々ノ今議定シツヽアル最モ新ラシキ此ノ新憲法ノ精神ト契合融和スル點ヲ深ク玩味スルコトニ於テ、我々ハ東洋人トシテ大イナル感激ヲ覺エル者デアリマス、而シテ此ノ感激ハ、新日本ノ建設ニ付テ一層ノ熱情ヲ加ヘルモノガアリマス、此ノ感激ト熱情ニ依ツテ我々ハ新日本ノ建設ニ依リ、外ハ列國ノ信用ヲ博シ、内ハ國民ノ安寧ヲ保チ、進ンデ世界ノ平和ニ貢獻シ、人類ノ幸福ニ寄與スルコトアルベキコトガ、我我今日ノ理想デアリマス、此ノ理想ヲ飽ク迄達成スベク努力セネバナラヌコトガ、日本國民ニ課セラレタル一大責務デアルト我々ハ覺悟ヲ致シテ居ル次第デアリマス、而シテ新憲法ノ目指ス意圖モ、蓋シ之ニ外ナラザルコトヲ信ジマシテ、此ノ意味ニ於テ、新憲法ノ前途ヲ祝福シ、茲ニ私ハ本案贊成ノ意思ヲ表明スル者デアリマス（拍手）
○議長（公爵徳川家正君） 是ニテ討論ハ終結致シマス、採決ヲ致シマス、本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔起立者多數〕
○議長（公爵徳川家正君） 三分ノ二以上ト認メマス、仍テ第二讀會ヲ開クコトニ決シマシタ
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス
○子爵植村家治君 休憩後直チニ第二讀會ヲ開クノ動議ニ贊成ヲ致シマス
○議長（公爵徳川家正君） 西大路子爵ノ動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス、休憩ヲ致シマス、午後ハ一時三十分ヨリ開會致シマス
午後零時二十七分休憩
━━━━━◇━━━━
午後一時五十七分開議
○議長（公爵徳川家正君） 休憩前ニ引續キ、會議ヲ開キマス、帝國憲法改正案ノ第二讀會ヲ開キマス、先ヅ山田三良君外一名ヨリ提出セラレマシタ修正案ヲ議題ト致シマス、發議者ニ對シテ趣旨説明ヲ許シマス、高柳賢三君
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｛左ノ提出文及修正案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ茲ニ載録ス以下之ニ倣フ｝
「帝國憲法改正案ニ對スル修正案
右議院法第二十九條ニ依リ提出候也
昭和二十一年十月五日
發議者
山田 三良 高柳 賢三
贊成者
公爵岩倉 具榮 侯爵小村 捷治
伯爵二荒 芳徳 伯爵橋本 實斐
男爵白根 松介 子爵入江 爲常
長岡半太郎 小山 松吉
姉崎 正治 林 春雄
平塚 廣義 中田 薫
村上 恭一 男爵飯田精太郎
塩田 廣重 長谷川赳夫
男爵團 伊能 中川 望
三浦 新七 田所 美治
澤田 牛麿 坂田 幹太
稻畑勝太郎 有馬忠三郎
岸本 彦衞 山本 勇造
高木 八尺
貴族院議長公爵徳川家正殿
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帝國憲法改正案中左ノ通修正ス
第七條第五號中「竝びに全權委任状及び大使及び公使の信任状」ヲ削リ、同條第六號中「認證すること」ヲ「行ふこと」ニ改メ、同條第八號中「批准書及び」ヲ「國會の承認により内閣の締結した條約を批准すること竝びに」ニ改メ、「その他の」ヲ削リ、同條第九號中「外國の大使」ノ上ニ「内閣の指名に基いて大使、公使及び全權委員を任命すること竝びに」ヲ加ヘル」
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〔高柳賢三君登壇〕
○高柳賢三君 私ハ山田三良議員ト私トノ名前デ提出サレマシタ、帝國憲法改正案ニ對スル修正案ヲ簡單ニ説明サセテ戴キマス、修正案ノソレハ條約ノ批准ノ問題ト、大公使ノ任命ノ問題ト、恩赦ノ問題ト、三ツノ問題ニ關聯スルモノデコザイマス、大公使ノ派遣ト接受及ビ條約ノ批准ト云フヤウナコトハ、國際法上ノ元首、即チ君主國ナラバ君主、民主國ナラバ大統領ト云フモノガ行フト云フコトガ、之ガ國際慣例ニナツテ居ルノデアリマス、デ、或國デハ元首ト行政府ノ長トガ結合シテ居ル場合ガゴザイマス、例ヘバ「アメリカ」合衆國ニ於キマシテハ、大統領ハ行政府ノ長デアリマスト同時ニ元首ナノデゴザイマス、又「スイス」ニ於キマシテハ、七名ノ委員カラ成ル聯邦會議ト云フモノガ元首デアリマシテ、此ノ七人ノ委員ハ同時ニ行政長官デゴザイマス、ソレガ毎年順番デ聯邦會議ノ議長ドナルコトニナツテ居リマス、是等ハ寧ロ例外的ナ場合デゴザイマスガ、斯ウシタ場合デモ、元首ノ資格デ右ノヤウナ國際的ナ行爲ト云フモノヲスルノデゴザイマス、多クソ國ニ於キマシテハ、元首ト行政府ノ長ト云フモノガ別々ニナツテ居リマス、例ヘバ「フランス」デハ、内閣總理大臣ノ上ニ大統領ト云フモノガゴザイマス、又中華民國ニ於キマシテハ、行政院長宋子文ノ上ニ國民政府主席ノ蒋介石ト云フ者ガゴザイマス、「ソ」聯デモ、「スターリン」首相ノ上ニ「ソ」聯最高會議幹部會議長「シュベルニック」ト云フ者ガゴザイマス、是等元首ト行政府トノ長ト云フモノガ分離シテ居ル場合、大公使ノ派遣ト接受、又條約ノ批准ト云フモノハ皆、首相デハナク、元首ガ行フコトニナツテ居ルノデゴザイマス、改正案ノ下ニ於キマシテ、國際法上日本ノ元首ハ天皇デゴザイマシテ、内閣總理大臣デハナイコトハ、委員會ニ於キマシテ私ノ質問ニ對シテ金森國務大臣ガ之ヲ御認ニナツタノデゴザイマス、又其ノコトハ外國人ノ眼カラ見マシテ、天皇ヲ「エンペラー」、内閣總理大臣ヲ「プライム・ミニスター」ト云フ風ニ譯シマスルナラバ、兩者ノ關係ト云フモノガ、國内的ナ規定デ色々新規ナコトガ規定サレテ居ルニ致シマシテモ、矢張リ元首ハ「エンペラー」、即チ天皇デアルト見ルト云フノガ、是ガ當然ナコトデゴザイマス、從ツテ國際慣例ニ從ヒマスルナラバ、大使ノ派遣、或ハ接受ト云フモノ、又ハ條約ノ批准、是等ハ元首タル天皇ガナサレルト云フコトガ國際法ノ常道デアリマス、改正案ノ下ニ於キマシテモ、外國ノ大使及ビ公使ヲ接受スル方ハ元首タル天皇ガセラルヽコトニ定メテアリマスルガ、是ハ國際法ノ常道ニ從フノデゴザイマシテ、大使公使ノ接受ト云フコトヲ、元首デハナク行政府ノ長ガ行フト云フヤウナ國ハ、世界ニ一ツモナイノデゴザイマス、處ガ、我ガ國カラ外國ニ派遣致シマスル大使及ビ公使ノ任命ハ、天皇ガセラレナイデ内閣ガ之ヲ任命シ、天皇ハ内閣ノ出ス信任状ニ認證ヲナスト云フコトニナツテ居ルノデゴザイマス、是ハ國際慣例ニ反シ、從ツテ信任状ノ作成ナドニ付テ隨分ト無理ナコトヲシナケレバ、國際慣例、或ハ又日本國憲法ニ合致シナイコトトナル虞ガアルノデゴザイマス、ソレバカリデナク、元首ガアルノニ、元首カラデナク、内閣總理大臣カラ、外國ノ元首ニ宛テテ書面ヲ送ルト云フコトハ、外國ヲ蔑視シテ居ルヤウデアリマシテ、國際禮讓ノ上デモ失禮ナコトダト受取ラレル虞モ多分ニアルノデゴザイマス、序デアリマスルガ、斯ウシタ國際慣例ト云フモノハ、單ナル慣例、意味ノナイ慣例、仕來リデハナイノデゴザイマス、重要ナ意味合ガ其處ニアルノデゴザイマス、大公使ハ國ヲ代表シ、且、元首ヲ個人的ニ代表スル者デゴザイマス、又條約ハ行政府ノミヲ拘束スルモノデハナク、國其ノモノヲ拘束スルモノデゴザイマスカラ、度々更迭ヲ致シマスル内閣デハナク、元首ノ名デ結ブト云フコトガ適當デアルト云フ風ニ考ヘラレテ居ル譯デゴザイマス、斯ウシタ譯カラ致シマシテ、國内的ニ特ニ重大ナ不都合ト云フモノノナキ限リ、此ノ國際慣例ト云フモノヲ尊重致シマシテ、之ニ合致スルヤウニ憲法ノ規定ヲ定メルト云フコトガ、望マシイコトデアルト考ヘルノデゴザイマス、飜ツテ改正案第七條ノ規定ヲ見マスルト、天皇ガ天皇御自身ノ意思デ、又ハ何人カガ天皇ノ大權ヲ濫用シテ、國政ヲ左右シ、延イテ天皇ノ御責任ノ問題ガ起ラナイヤウニ、極メテ入念ニ、念ニハ念ヲ入レテ規定サレテ居リマス、此ノ目的ヲ達スル爲ノ技術ノ一ト致シマシテ、改正案ハ天皇ノ「認證」ト云フ新規ナ先例ノナイ制度ヲ造リ出シ、此ノ認證制ト云フモノヲ外交關係ニモ使ツタノデゴザイマス、大公使ハ内閣ガ之ヲ任命シテ、天皇ハ内閣ノ任命及ビ信任状ヲ認證サレルダケダト云フコトニナツテ居リマス、又條約ハ、天皇デハナク、内閣ガ之ヲ締結スルモノトシ、又全權委任状トカ批准書ノ認證ダケヲ、天皇ガナサレルト云フコトトシタモノデアリマス、此ノ天皇ヲ政治ノ世界カラ遮斷シテ、如何ナル場合デモ、野心ノアル政治家ガ天皇ノ大權ヲ利用シテ、其ノ結果、責任ガ天皇ニ及バナイヤウニト苦心セラレタ政府ノ意圖ニ對シマシテハ、甚大ノ敬意ヲ私ハ表スルモノデゴザイマス、大河内子爵ハ、此ノ同ジ尊敬スベキ動機カラ、政府案ニ満足セズ、委員會ニ於キマシテ改正案ノ第四條、第五條、第六條、第七條ヲ全部削除シ、又第三條ヲ削除致シマシテ、之ニ換フルニ、「天皇は國政に關する權能を有しない。」ト云フ規定ヲ以テスルコトヲ提案セラレタノデゴザイマス、是ハ例ヘバ第六條ノ規定ニ依リマシテ、天皇ガ内閣總理大臣ヲ任命セラルヽコトト致シマスルト、假令國會ノ指名ニ基イテソレガナサレルコトトナツテ居リマスルトシテモ、ソコニ責任問題ガ生ズル虞ガアル、又例ヘバ認證ト云フモノハ、總テ皆内閣ノ助言ト承認ニ依ツテナサルヽニシテモ、一定ノ行爲ガ最終的ナ法律上ノ效果ヲ發生セシムルノニハ、認證ト云フモノヲ要件トスル關係上、矢張リ責任問題ガ起リハシナイカト云フ御心配ナサツタカラダラウト推察致シマシテ、子爵ニ對シテ大イニ敬意ヲ表スルモノデゴザイマス、併シ私ハ憲法改正案ニハ、天皇無答責ノ原則ト云フモノヲ明定シテハ居リマセヌガ、第三條ニハ「天皇の國務に關するすべての行爲には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。」ト云フ規定ガアリ、此ノ規定ト云フモノハ、第六條、内閣總理大臣任命ニモ、又第七條國事ニ關スル行爲ヲナサルヽ場合ニモ適用ガアルノデアリマスルカラ、天皇ニハ責任ハ及バナイノデアルト、斯ウ云フ政府ノ見解ガ正シイノデアルト考ヘマス、又サウ解釋スルコトガ君主制、立憲君主制ニ於ケル一般的常識ニ合致スルモノデアルト考ヘルノデゴザイマス、從ツテ、改正案ニ從ツテ天皇ガ國事ニ關スル行爲ヲ行ハレマシテモ、天皇ニ責任ガ及ブト云フヤウナコトハ全然ナイモノト信ズルノデゴザイマス、從ツテ不幸ニシテ、此ノ點ニ於テハ大河内子爵ト見解ヲ異ニシ、政府ト見解ヲ同ジウスルモノデゴザイマス、改正案ノ第七條ノ規定ニ於キマシテ、政府ノ御苦心ノアル所ハ十分ニ私ハ諒トスルモノデアリマス、否、大イニ敬意ヲ表スル次第デゴザイマス、尤モ憲法學者ノ權威ノ方々ノ中ニハ、天皇ノ責任ナキコトヲ明カニスル爲ニ、斯ウシタ認證ト云フヤウナ先例ノナイ制度迄設ケル必要ガアルカドウカト云フコトニ付テ、寧ロ否定的ナ意見ヲ懷カレテ居ル方モ相當アルノデゴザイマス、又一般人モ公證人ノ認證ト云フモノヲ想ヒ出サセマスル此ノ認證制ト云フモノハ天皇ノ「ディグニティー」、尊嚴ヲ傷ツケルコトニ稍々不快ナ感ジヲ懷ク者モ相當アルノデゴザイマス、此ノ點ハ大イニ考慮シナケレバナラナイコトデハアリマス、併シ私ハ、今政府ノ採用サレマシタ天皇ニ依ル認證制ト云フ技術ノ根本問題迄立入ルコトハ致シマセヌ、寧ロ一應政府提出ノ原案ト云フモノヲ大イニ尊重スル、實際的ノ建前デ考ヲ進メテ行キタイト存ジマス、ソコデ、斯ウ云フ問題ガ提出サレルノデゴザイマス、改正案ノ立法技術ヲ一應尊重スルコトト致シマシテ、言ヒ換ヘレバ天皇ノ大權ト云フモノヲ少シモ増大スルコトナク、サウシテ大公使ノ任命ヤ、條約締結ニ付キマシテ、國際間ノ一般慣習ニ合致シ、餘リ無理ヲセズ、又國際間ノ禮儀作法ニ反スル虞ノナイヤウニスル方法ハナイモノデアラウカ、斯ウシタ見地カラ私達ノ作ツタノガ、左ノ二ツノ修正案ナノデゴザイマス、第一ノ修正案ハ第七條ノ八ヲ次ノ如ク改メルコトデゴザイマス、「國會の承認により内閣の締結した條約を批准すること竝びに法律の定める外交文書を認證すること」改正案ニ依リマスレバ、批准ハ内閣ノ權限デアリマスルガ、假令内閣ニ依ル批准ト云フモノガアリマシテモ、天皇ノ認證ガナケレバ、批准ノ交換又ハ寄託ナドニ依リマシテ、對外的ニ之ヲ表示シ得ナイノデアリマスカラ、條約ノ效力ヲ發生セシメ得ナイノデゴザイマス、從ツテ批准ガナサレナイト等シイノデアリマス、此ノ修正案ニ依リマスレバ天皇ガ批准ヲセラレ、又批准書ニ署名セラルヽコトニナルノデゴザイマス、原案及ビ修正案孰レモ此ノ點天皇ノ一定ノ行爲ガナサレナケレバ、條約ハ最終的ナ效力ヲ發生シナイノデアリマスルガ、孰レノ案ニ依リマシテモ、天皇ガ勝手ニ一定ノ行爲ヲセラレタリスルト云フ譯ニハイカナイノデアリマシテ、一ニ内閣ノ助言ト承認ニ依ツテ、内閣ノ責任ニ依ツテナサレルノデゴザイマス、從ツテ實際上ノ效果ハ同ジデゴザイマス、ソレ故斯ウ改メマシテモ、ソレハ單ニ形式的ナ改正デゴザイマシテ、實質的ニハ天皇ノ權限ハ増加シナイノデゴザイマス、尤モ此ノ場合ニ於キマシテ、批准ト云フモノヲ無條件ニ天皇ノ權限ト致シマスルト云フト、或誤解ガ生ズルノデ、批准ト云フモノハ天皇ガセラレルガ、其ノ批准ハ國會ノ承認ニ依ツテ内閣ガ締結シタ條約ヲ批准スルニ過ギナイト云フ趣旨ヲ明文デ特ニ表示スルコトトシタノデゴザイマス、天皇ノ批准ハ内閣ノ助言ト承認ニ依ルコトヲ必要トスルコトハ、第七條ノ冒頭デ明白ナノデアリマスルガ、批准ト申シマスルト、一般人ニモ又専門家ニモ、直チニ米國大統領ノ行ツテ居ル所謂「ヴィートー」、拒否權ト云フモノヲ想ヒ起サセマスル虞ガアリマスルノデ、重複ヲ厭ハズ、斯ウシタ誤解ヲ囘避スル爲ニ之ヲ明示シタノデゴザイマス、又内閣ノ條約締結及ビ國會ノ承認ニ關スル第六十九條第三號トノ或程度ノ重複ヲモ厭ハナカツタノデゴザイマス、ソレニ依ツテ、天皇ノ大權ノ範圍ト云フモノヲ實質的ニ増スノダト云フヤウナ誤解ト云フモノヲ一掃セムトシタノデゴザイマス、第二ノ提案ハ、第七條ノ九ヲ次ノ如ク改メルコトデアリマス、「内閣の指名に基いて大使、公使及び全權委員を任命すること竝びに外國の大使及び公使を接受すること。」大使、公使、全權委員ノ任命ト云フモノモ、第六條ノ最高裁判所ノ長タル裁判官ノ任命ト同樣、天皇ハ内閣ノ指名ニ依ツテ行フコトニ致シマスレバ、天皇ノ任命ガ勝手ニ行ハレルト云フモノデナイコトガ明カニナルノデゴザイマス、此ノ任命ハ第六條ノ内閣總理大臣及ビ最高裁判所ノ長タル裁判官ノ任命ト同樣、天皇ノ任命デアリマスルガ、之ニ依ツテ大使、公使ト云フモノヲ内閣總理大臣又ハ最高裁判所ノ長タル裁判官ト同格ニスルト云フ意味デハナク、此ノ任命ト云フモノハ、單ニ對外的ニ日本國及ビ天皇ヲ代表スル外交使節タル國際慣例上ノ特別ノ性質ニ基クモノデゴザイマス、尤モ第六條ニ内閣總理大臣及ビ最高裁判所ノ長ト列ベテ之ヲ規定致シマスルト、是ト同格トナルヤウニ見エ、國務大臣ナドニ此シテ權衡ヲ失スルト云フヤウナ誤解ヲ避ケル爲ニ、第七條ノ九ニ、外國ノ大公使ノ接受ト列ベテ之ヲ規定シタノデゴザイマス、是ナラバソレガ國際慣例ト云フモノニ基礎ヲ置イタ大公使ノ特別ノ性格ニ基クモノデアルト云フ趣旨ガ明カニナルト考ヘタカラデゴザイマス、尚信任状及ビ全權委任状ノ附與ハ、任命ノ中ニ當然含マレマスルカラ、特ニ之ヲ置ク必要ガ無クナルノデアリマス、從ツテ第七條ノ五ノ中カラ「竝びに全權委任状及び大使及び公使の信任状を認證すること。」ニ關スル規定ヲ削除シタノデゴザイマス、右ノ二ツノ修正ニ依リマシテ、本改正案ヲ通ズル趣旨、即チ天皇ノ大權ト云フモノヲ實質的ニ増スコトニ依ツテ、政治的ヲ野心家ノ非立憲的ナ活動ヲ爲スコトヲ封ジ、又天皇ニ責任ガ及ブコトナキヤウニト云フ政府原案ノ趣旨ヲ少シモ傷ツケルコトナク、同時ニ無理ヲシナイデ一般國際慣例ニ依ツテ外交ヲ行フト云フコトガ出來ルヤウニシタノデゴザイマス、此ノ修正ニ依リマシテ、外國ニ對スル關係デ、天皇ノ尊嚴、「ディグニティー」ト云フモノヲ増シ、延イテ日本國及ビ天皇ノ代表トシテ派遣サレル外國使節ノ、外國ニ對スル尊嚴ヲ増スコトニハナリマセウ、併シナガラ任命ハ内閣ノ指名ニ依リ、内閣ノ責任デ爲スノデアリマスルカラ、天皇ノ責任ニハ影響ヲ及サナイノデゴザイマス、又條約ノ批准ヲ、屡々更迭ヲ見ル内閣デハナク、日本國ノ象徴デアラセラレル天皇ガナサレルコトニ依ツテ、條約ガ行政府ノミデハナク、日本國ヲ拘束シ、條約ヘノ尊重ノ趣旨ニモ寄與スルコトニナルノデゴザイマス、併シ批准ニ對スル責任ト云フモノハ、是ハ内閣ガ負フノデアツテ、天皇ガ負フベキモノデナイコトハ、憲法ノ明文カラモ、立憲君主制ノ通念カラモ明々白々デアルト考ヘルノデゴザイマス、以上ハ外交關係ニ付テノ改正案ノ二三ノ條項ニ對スル修正デゴザイマスガ、更ニ、モウ一ツ修正案ト云フモノヲ提出シタイノデゴザイマス、ソレハ第七條ノ六、恩赦ニ關スル規定ノ中デ、「認證すること」トアリマスルノヲ、「行ふこと」ト改メルコトデゴザイマス、改正案第七條ノ七、榮典ノ授與ト云フモノハ天皇ガ行ハレルコトニナツテ居リマス、是ハ結構デゴザイマス、此ノ規定ハ英國憲法デ所謂「プレロガティヴ・オブ・オーナー」ト云フモノニ相當スルノデアリマスルガ、第七條ノ六ハ「プレロガティヴ・オブ・マーシー」ニ關スルモノデゴザイマス、御承知ノ如ク「イギリス」デハ「キング」ノ特權ト云フモノ、「プレロガティヴ」ト云フコトハ實際的ニ不都合ガゴザイマスレバ、何時デモ國會ノ制定シタ法律デ之ヲ奪フコトガ出來ルノデアリマスル、併シナガラ榮典ト恩赦ト此ノ大權ニハ多年ノ經驗上何等不都合ト云フモノヲ認メズ、之ヲ奪フヤウナコトハシテ居ラナイノデゴザイマス、否、榮典ト恩赦ハ、是ハ「キング」ノ名ヲ以テ與ヘル方ガ宜イト一般ニ考ヘラレテ居ルノデゴザイマス、斯ウシタ榮典トカ恩赦トカ云フ所謂有難味ト云フモノニ、其ノ意味合ガアル行爲ト云フモノハ、政治的ナ對立ト云フモノヲ、必然的ニ伴フ政黨内閣ノ名ニ於テ與ヘラル、ヨリモ、日本國ノ象徴デアル天皇カラ直接戴クト云フコトニ依ツテ、有難味ト云フモノヲ増スノデアリマス、政治ノ世界ニ於キマシテ、斯ウシタ考慮ト云フモノガ必要ナノデアルト考ヘマス、サウシテ榮典ニ付キマシテハ、直接天皇ガ與ヘラレル建前ニナツテ居リマスルノデスカラ、是ト極メテ類似スル恩赦ニ關シテ同ジ原則ヲ採用シテ、天皇ガ之ヲ行ハレルト云フコトニ致シマシテモ、政府原案ノ建前ガ崩レルト云フコトニハ少シモナラナイノデゴザイマス、而モ天皇ガ恩赦ヲ行ハレルノハ、是ハ内閣ノ助言ト承認ニ依リ内閣ノ責任デ行ハレルノデアリマスルカラ、修正案ニ依ツテ齎サル、變化ハ形式ダケデゴザイマシテ、認證ノ場合ニ比シテ實質的ニ少シモ天皇ノ大權ヲ増スコトニハナラナイノデゴザイマス、而モ此ノ形式ト云フコトガ、恩赦ノヤウナ場合ニハ榮典ノ場合ト等シク、特ニ重要ナノデゴザイマス、以上ノ三ツノ提案ハ極メテ合理的ナ修正デアルト信ジマス、ソレハ一般ノ國際慣例ニモ合致シ、立憲君主制ノ基本原理ニモ合致シ、又民主主義憲法ノ精神ニモ少シモ背反シナイモノデアリマス、從ツテ内外共ニ其ノ妥當ナコトヲ認メルコトヲ確信スルノデゴザイマス、私ハ此ノ修正案ニ對シテ皆樣ノ御贊成ヲ御願ヒシマシテ、私ノ説明ヲ終リマス（拍手）
○議長（公爵徳川家正君） 討論ノ通告ガゴザイマス、子爵大河内輝耕君
○子爵大河内輝耕君 私ハ討論前ニ本案ニ對スル政府ノ御意見ヲ伺ヒタイノデアリマス
○議長（公爵徳川家正君） 金森國務大臣
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕
○國務大臣（金森徳次郎君） 高柳議員ヨリ詳細ヲ籠メテノ修正案ニ付テノ御主張ガゴザイマシタ、伺ヒマスレバ、仰セニナリマスルコトハ、一々御尤モノ如クニ伺ハレマスルケレドモ、政府ノ考ヘマスル所ハ、全然態度ヲ異ニシテ居ル譯デアリマス、今御修正ニナラウトスル所ハ、此ノ憲法ノ持ツテ居ル所ノ根本ノ原理ヲ直チニ全部的ニ破壞スルモノデアラウト私ハ信ジテ疑ハナイノデアリマス、試ミニ申シマスルガ、第一ニ國際關係上、條約其ノ他ノコトニ付テ、特殊ナルモノヲ取ラナケレバナラヌ、私ハ固ヨリ國際關係ヲ尊重致シマスル、國際關係ト云フモノハ、國アツテノ國際關係デアツテ、國内秩序ヲ先ヅ第一ニ考フベキモノデアラウト思ヒマス、次ニ國内關係ニ於テ、我々ハ度々色々ナ機會ニ於テ申上ゲマシタヤウニ、我々ノ過去ノ經驗、國民的ナ傳統的ナ忠君ノ思想ヲ基礎ト致シマシテ、天皇ヲ飽ク迄モ御安泰ノ地位ニ御置キ申上ゲナケレバナラヌト信ズル次第デアリマス（拍手）然ルニ斯樣ナ修正ヲ致シマスルナラバ、ドウナリマスカ、過去ノ我々ノ經驗ヲ再ビ繰返スコトニナルコトヲ信ジテ疑ハナイ次第デアリマス（拍手）更ニ是ガ國際關係ニドウ云フ累ヲ及スカト言ヘバ、新ラシキ國内秩序ヲ、日本ガ大イナル抱負ヲ以テ、新タナル國内政治ヲ作リマスナラバ、之ニ伴ツテ必要ナ國際慣例ヲ發スルコトヲ信ジテ疑ハナイ次第デアリマス、次ニ恩赦ト榮典ノコトニ付テ仰セニナリマシタガ、是ハ私ハ違フノデアリマス、榮典ハ天皇ノ御榮光ヲ分チ與ヘルト云フ思想ガ、相當強キ根源ヲナシテ居リマスガ故ニ、天皇ガ行ハレルヤウニ此ノ憲法ニ於テハ決メテアル次第デアリマス、併シナガラ特赦ニ付キマシテハ、是ハ冷ヤカニ言ヘバ、立法權ト司法權トノ間ニ於ケル特殊ナル偶然、或ハ其ノ他ノ事情ニ依ツテ起ル諸關係ヲ調節スルモノデアリマシテ、全ク政治的ト云フコトガ主眼デアル、勿論沿革的ニ言ヘバ、特赦大赦ハ其ノ名ノ示スガ如ク、特殊ナル意味ハアリマスルケレドモ、冷ヤカニ言ヘバ、裁判所ガ間違ツタ場合之ヲ是正スル、或ハ一般ノ法規ガ特殊ノ場合ニ不合理デアツタ、之ヲ是正スル、其ノ他國ニ特別ナ、特殊ナ事情ガアツテ、人心ニ特ニ影響ヲ及スヤウナ場合ニ於テ、恩赦ヲシテ犯罪ノ持ツ或效果ニ大イナル影響ヲ與ヘルト云フヤウナコトハ、是ハ全ク政治現象デアリマシテ、之ヲ以テ若シモ天皇ノ直接ナル大權ノ御發動ニ委セマスルナラバ、相次イデ外ノ權能モ亦悉ク天皇ノ御大權ニ持ツテ來ナケレバナラヌ、我々ガ何ヲ苦シンデ此ノ憲法ヲ改正セムトスルカト云フコトガ沒却サレルノデアリマシテ、是ハドウカ政府原案ノ如ク御認ヲ願ヒタイト御願ヒスル次第デアリマス（拍手）
〔子爵大河内輝耕君登壇〕
○子爵大河内輝耕君 度々御邪魔ヲ申上ゲテ相濟ミマセヌ、只今高柳博士カラ、非常ニ私ニ對スル同情アル御言葉ヲ頂戴致シマシテ、茲ニ感謝致シマス、又政府カラハ率直ニ意見ヲ述ベラレマシテ、是亦感謝致ス次第デゴザリマス、今政府カラ述ベラレマシタノデ、私ハ何モ申ス必要ハナイノデアリマス、併シ一通リ私ハ私トシテノ意見モゴザイマス、少シノ時間ヲ拜借シテ茲ニ述ベサシテ戴キタイト思ヒマス、先ヅ私ハ第六號ノ大赦、特赦、減刑ノ方カラ參リマス、大赦、特赦、減刑ト云フモノハ、山田博士ノ御話デシタカ、政治ニ關係ガナイト云フ御話デアリマシタガ、飛ンデモナイ御話デ、大赦、特赦、減刑ヲヤリ損ヘバ、非常ニ社會ニ大問題ヲ起シテ來マス、ドウモ此ノ前モ何時デシタカ、豫算ガ足リナイカラト云フノデ、マダ餘リ改悛ノ情十分デナイヤウナ囚人ヲ放ツタコトガアツテ、非常ニ社會ニ惡イ影響ヲ與ヘマシタ、斯ウ云フヤウニ非常ニ政治上ニ惡イ影響ヲ與ヘル以上、之ヲ天皇ガ遊バスト云フコトニナレバ、世間ノ口ニ戸ハ立テラレマセヌ、ドウシテモ事實ハ國體ニ惡イ影響ヲ與ヘルコトハ、是ハ申ス迄モナイコトト存ジマス、尚其ノ外ニ許サレナカツタ人ノ立場カラ見タラ、ドウデゴザイマセウカ、外ノ人ハドンドン許サレテモ自分ハ許サレナイコトニナレバ誰ヲ怨ムデセウ、行フ方ハドナタデゴザイマセウカ、怨マレル方ハドナタデゴザイマセウ、申ス迄モナイコトデアリマス、現ニ是ハ最近ノ例モゴザイマス、治安維持法ノ違反者ノ某ハ十七年モ置カレテ、外ノ者ハドンドン出ラレルノニ自分ダケハ出ラレナカツタ、其ノ爲ニ怨ミ骨髄ニ達シテ、サウシテアノ放送ヲシタ、アレハ皆サン御聽キニナリマシタデセウ、ドレダケ國體ニ惡イ影響ヲ及シタカト云フコトハ、此ノ一事ヲ以テ明カデアリマス、ドウカ一ツ高柳博士ニモ、モウ少シ外部ノ影響ヲ御考ニナツテ、サウシテ此ノ惡イ憲法ヲ議スル、此ノ困ツタ憲法ヲ議スル、涙ヲ以テ此ノ憲法ヲ議スル所ノコトヲ少シ考ヘテ戴キタイ、ナカナカ手續ダケノ問題ヂヤゴザイマセヌ、容易ナラヌ影響ヲ國體ニ及シテ參リマス、幸ヒニシテ第一條ニ於テ國體ハ嚴トシテ認メラレマシタケレドモ、之ヲ現行ノ憲法ニ比レバ、大分異ル所ガアルヤウデゴザイマス、次ニ批准ノ方ニ入リマス、只今高柳博士ハ、此ノ修正案ハ天皇ノ責任ヲ加重スルノヂヤナイ、天皇ノ權限ヲ擴メルノヂヤナイト仰セラレマシタガ、私ハ小委員會ニ出席致シマシテ、皆サン方ノ御問答ヲ聽イテ居リマシタ、大分高柳博士ニ對シテハ學者方カラ、専門家ノ方々カラ反對論ガアリマシタ、是ハ天皇ノ權限ヲ擴張スルコトニナル、サウシテ外交ニ於ケル天皇ノ建前ヲスツカリ變ヘテシマフコトニナルト云フヤウナ御議論モアツタ、是ハ學者ノ間ニハ意見ガ一致シナイト云フコトヲ申上ゲテモ宜イ、サウシテ是ガ世間ニ出マシタラドウデゴザイマセウカ、學者ハ必ズシモ高柳博士ノヤウナ方バカリハナイ、反對スル人モ大分アラウカト思ヒマス、殊ニ學者ハソレデ宜イト致シマシテモ、世間ノ一般ノ議論ハドウデゴザイマセウ、世間ノ口ニハ戸ハ立テラレマセヌ、ソレデ憲法ト云フヤウナモノハ、外ノ民法トカ、刑法トカ云フモノト違ツテ、世間ノ人ノ色々ナ議論デ決ルノガ、是ガ通例デゴザイマス、ソレデ世間ノ人ハ常識カラ考ヘテモサウダ、「認證」ト言ツテモ、「認證」ト云フ字ハ政府ガ餘程注意シテ考ヘテ書イタ、事實ヲ御認メニナルコトダケデスカラ、ソレデ宜シウゴザイマスガ、ソレガ「批准」ニナツタト言ヘバ、是ハドウ考ヘテモ外交權ハ天皇ニ歸シタト云フヤウニ常識デハ考ヘラレル、外ノコトヲ幾ラウマク書イテモ駄目ダ、何故カト云フト、現行憲法デモチヤント「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」、「國務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス」ト立派ニ書イテアツテモ、今度ドレダケ國體ニ惡イ影響ヲ及シタカ、ソレヲ考ヘレバ、ハツキリシタ話デアリマス、ソレデ殊ニ此ノ頃ハ、世論ガ宜シクゴザイマセヌ、御承知ノ通リ、熊澤某ト云フ者ハ、アンナコトヲ申シタガ不起訴ニナツテ居リマス、ソレカラ休戦カラ少シ間ヲ置キマシテ、隨分エライ放送ガアツテ、我々ヲシテ悲憤セシメタ所ノ事件モゴザイマシタガ、是モ不起訴ニナツタ、サウ云フヤウナ調子デゴザイマス、ドウカ一ツ、此ノ案ヲ議スルニ於キマシテハ、如何ニ此ノ國體ニ惡イ影響ヲ及シテ居ツタカト云フコトヲ一ツ御反省ニナツテ戴キタイ、昨日モ佐々木博士、其ノ他カラ御説明ニナリマシタヤウニ、實ニ此ノ憲法ト云フモノハ、涙ナクシテハ讀メナイ憲法デゴザイマス、現行憲法ノ一條カラ四條迄ハ無慚ニモ破壞サレタ、併シソレハ第一條ガゴザイマスカラ宜シウゴザイマスガ、國體ニ大ナル影響ヲ及シタト云フコトハ爭フベカラザル事實デゴザイマス、佐々木博士ノ歎ゼラレル所モ其處デアラウト思ヒマス、私モソレニ對シマシテハ、昨日モ申上ゲタ通リ、熱血胸ノ中ニ沸キ返ル覺エナキヲ得ナイ、此ノ思ヒサヘアレバ、國際法ノ儀禮ガドウデアルトカ、不便デアルトカ云フヤウナ議論ナンゾハ一飛ビニ飛ンデシマフ、詰リ泣キ樣ガ足リナイ、一口ニ言ヘバモツト泣カナケレバナラヌ、此ノ憲法ニ對シテ、何故カサウ云フコトヲ言フ人ハ、斯ウシタ喉元過ギレバ熱サヲ忘レルデ、ドウカナルダラウト云フヤウナコトヲ言ツテ、又天皇ノ責任ヲ重クスルヤウニナルヤウナ、理論上ナルカナラヌカハ姑ク別ト致シマシテモ、ナルヤウナ結果ニナルヤウナコトヲオヤリニナレノハドウ云フ譯デアルカ、國内ノ世論ノドウダ、其ノ通リ外國關係ヲ御考ニナツテ見タラドウカ、外國人ニハ戸ハ立テラレマセヌ、外國ハ之ヲ以テ、定メシ今度又、外交權ハ天皇ニ復歸シテ來タト云フヤウニ考ヘルカモ知レナイ、又都合ノ好イ場合‥‥、サウ云フヤウニ理窟ヲ附ケレバサウ云フコトハ始終アル、サウシテ天皇ヲ目掛ケテ、惡イ場合ニハ攻撃シテ來ル、斯ウ云フコトハ、サウ云フ外國ハアリマスマイガ、國際關係ニ依ツテドウ云フコトガ生ジテ來ルカ知レナイ、其ノ時ニ、是ハ國務大臣ノ責任ヲ規定シテ居ルカラ、天皇ニハ責任ハナイヨト言ツタ所デ、ソンナ議論ハ通用致シマセヌ、今度ノ戰爭デ分ツテ居ル、國務大臣ノ責任ハ歴然ト書イテアルガ、皆天皇ガ御責任ヲ多少、ヂヤナイ、大イニ御受ケニナツテ畏多イ結果ニナツタコトハ、皆サン御承知ノ通リデアリマス、同ジ譯ニナリマス、ドウシテコンナコトヲ又繰返サウトスルノデアルカ、例ヲ擧ゲテ見マスレバ、今度ノ講和條約ニ、斯ウナレバ國民ハ天皇ガ講和條約ヲオヤリニナル、斯ウ云フ風ニ考ヘル、サウシテ天皇ニ向ツテ色々ナ御願ヒ、要求ト云フコトヲヤルニ違ヒナイ、赤旗ガ坂下門ヲ潛ル時代デアル、何事カ起ルデアラウ、サウシテ外ノモノト違ヒマス、國際關係ノモノデゴザイマス、條約ヲ總テノ人ガ滿足スルヤウナ、サウ云フ條約ハ出來ヤシマセヌ、是ニハ國民ガ皆不滿ヲ持ツ、條約ニ付テハ、是ハ當リ前ノコトデ、相手アツテノ仕事デスカラ、政府ガ我々ノ考ヘテル五割ナリ、七八割行ケバ成功ダ、是ハ條約ノ性質上當リ前デセウ、若シサウ云フヤウナ場合ハ、ソレハドナタニ責任ガアルカ、サウ云フ風ニ考ヘレバ、必ズ聖上ニ責任ガ歸スル、事實ドウシテモ畏多イ所ニ持ツテ行ツテ、責任ヲ歸シ奉ツテ、ソレニ對シテ何カ言フ者モ出ヨウシ、事ニ依ツタラ或一部ノ者ナドハ、ソレヲ利用シテ何ヲ始メルカ分ラナイ、誠ニ畏多イ結果、國内ハソレデ宜イニシテモ、講和條約ニ限ラナイデモ、ドンナ條約ニシテモ、萬一第三國、外國ニ不信望ナ條約ヲ結ンダラドウデセウ、外國ニ於テハ遠慮ナク、其ノ講和スベカラザル所ノ、鉾先ヲ向ケテ來ルニ相違ナイ、防ギヤウガアリマセヌ、サウシテドンナコトヲ持チ出サヌトモ限ラヌ、是ガ政府ノ考ヘタヤウニ、「認證」デアレバ、唯事實其ノ儘認メタダケダカラ、是デ宜イト言ヒマス、ソレガ「批准」トシテシマツタラバ、是ハ防ギヤウガナイ、水掛論ニナツテシマツテ、結局向フカラ押サレルダケノ話デアリマス、非常ニ畏多イ結果ニナラウカト存ジマス、御承知ノ通リ今度ノ三國同盟條約、又其ノ他ノ其ノ後ニ於ケル外交交渉ハ、憲法ノ命ズル如ク、ソレハ國務大臣ノ責任デハアリマスケレドモ、外國ハサウ見テ居リマセヌ、如何ニ此ノ條約ガ國體ニ累ヲ及シタモノカト云フコトハ明カナノデアリマス、コンナ憲法ヲ議サナケレバナラヌヤウナ、コンナ所迄落サレテシマツタ、少シ考ヘテ見タラ分ル話ヂヤゴザイマセヌカ、ソレカラ今御話ノヤウニ、日本ノ各國大使、公使ハ天皇ヲ代表シナケレバ仕事ガシニクイ、出來ナイト云フコトヲ仰シヤル、國家ヲ代表シテ仕事ガ出來ナイト言フ、大間違ヒデス、國家ヲ代表シテ堂々トヤレバ宜イ、萬一其ノ大使、公使ガシクジツタラドウシマスカ、ドナタガ責任ヲ負ヒマスカ、天皇陛下ノ代表ナリト言ツタ者ガ飛ンデモナイコトヲヤツタラドウナリマスカ、現ニ例ハ駐獨ノ某大使ニアリマス、此ノ方ノヤツタ事ガ良イカ惡イカハ此處ニ論ズル限リデハアリマセヌ、兎ニ角一般カラ戰犯ノ第一ノ責任者ト見ラレテ居ル、如何ニ天子樣ニ惡イ影響ヲ及シタラウカ、是ハ言フ迄モナイコトデアル、同樣ニ任命モサウデス、任命ヲ陛下ニ移サウト云フヤウナ御案モアリマスケレドモ、アヽ云フヤウナ大使ヲ御任命ニナツタラ、責任ハ何處ニ歸著スルデアリマセウ、アヽ云フ方ヲ御出シニナルナンテ甚ダ怪シカラヌト列國ハ言フニ違ヒナイ、サウ云フ地位ニ陛下ヲ陥レテ、ドウシテ我々ガ濟ムデゴザイマセウ、之ニ依ツテモ状態ハ分ツテ居リマス、實情ヲ御覽ニナレバスツカリ分ル、實情ヲ無視シテ、サウシテ何デモ法律ノ理窟バカリ、高柳博士ノ仰シヤル通リ、アノ法律ノ理窟ガ世間一般ニ、誰ニモ彼ニモ通ルノダト、斯ウ前提シテシマヘバ、ソレキリデアリマスガ、併シサウハ參リマセヌ、斯ウ云フ風ナコトニナツテ來レバ、決シテサウ云フコトニハ參リマセヌ、國ノ内外ヲ通ジテ、サウ云フ都合ノ好イヤウナ風ニ人ヲ説得スル譯ニハ行キマセヌ、ナカナカ學校ノ生徒ガ先生ノ答案ヲ書クヤウナ譯ニ、皆一致シテ同ジ文句ナド出ル筈ガアリマセヌ、ソレデハ今手續ガアツテ、ソンナコトハ外國ニ對シテ失禮ヂヤナイカ、斯ウ云フ御話ガアル、天皇ヲ代表ニシナイデ、國家代表ニシタラ失禮ヂヤナイカ、斯ウ云フ御話モゴザイマスガ、是ハ何ガ失禮ナンデアリマスカ、現ニ元首ト云フ御言葉モ御使ニナリマシタケレドモ、是ハ私ハ政府ニ度々尋ネマシタガ、元首トハ申上ゲラレナイ、元首ト言ヘバ、政治上ノ意味ガ大分深ク入ツテ居リマスカラ、元首トハ申上ゲラレナイ、併シ私ハ政府カラサウ云フ答ヲ得テ居ルノデス、併シソレハ何レト致シマシテモ、元首デナイ者ガ信任状ヲ出シテ居ル例、批准ヲ出シテ居ル例ガ「スイス」ニアルト云フコトハ、今高柳博士モ言明サレテ居ル、ソレカラ日本ト國情ガ違ヒマスガ、「イギリス」ヲ例トシテ私ハ申上ゲマセウ、「イギリス」ハ「キング・イン・パーリアメント」ガ統治權ヲ總攬スルノデアツテ、即チ君民同治國デアリマス、國ハ「ヴイートー」ノ權ヲ持ツテ居リマス、批准シヨトシマイト勝手デゴザイマス、唯事實、行ハナカツタト云フダケデアリマス、サウスルト日本ノ統治權ノ總攬者ハ誰デアルカト云フコトニナリマスト、是ハ政府ニモ御尋ネシマシタシ、又色々ナ著書デモ私ハ參照致シマシタガ、統治權ノ總攬者ト言ヒ、主權者ト言フノハ、或ハ最高權者ト言ツテモ宜イガ、是ハ憲法ノ改正權ヲ持ツテ居ル機關ガソレデアルノダ、憲法ノ改正權サヘ持ツテ居レバ何デモヤレマス、之ヲ統治權ノ總攬者ト見ルノガ當リ前デアル、是ハ何處ノ著書ニモ書イテアルコトデアリマス、サウシテ日本ノ新ラシイ憲法ヲ見マスルト、「この憲法の改正は、各議院の總議員の三分の二以上の贊成で、國會が、これを發議し、國民に提案してその承認を經なければならない。この承認には、特別の國民投票又は國會の定める選擧の際行はれる投票において、その過半數の贊成を必要とする。」、此ノ改正憲法第九十六條ニ明定シテアリマスル通リ、議會ト國民トガ最高權者、詰リ元ノ言葉デ言ヘバ、統治權ノ總攬者ニナツタ、斯ウ見ルヨリ外仕方ガナイ、ソレデアリマスルカラ、「イギリス」ト日本トハ國情ガ違ヒマスガ「イギリス」ハ、「ヴイートー」ノ權ヲ持ツテ居ラレル政府ト議會ト一緒ニ統治權ヲ總攬シテ居ラレル、所謂元首ノ地位ニ居ラレル「キング」ガ之ヲ出サレル、日本ハ議會國デアリマス、君民同治國デハアリマセヌ、君臣同治國デナイ議會國デアリマスル以上、議會デ指名サレタ總理大臣、是ガ批准ヲシヨウガ、信任状ヲ出サウガ、何モソレハ失禮ナコトデモナケレバ何ノコトモナイ、當リ前ノ話デアリマス、今又、總理トノ御比較ガアツタ、總理ノ任命ヲ天皇ガ遊バスヤウニナツテ居ルヂヤナイカ、ソレナラバ責任ハ同ジヂヤナイカ、一應御尤モデス、併シ私ハ年來ノ主張、又此ノ憲法ノ上カラ言ツテ、此ノ前文ニモ、「國會における代表者を通じて、行動し、」、斯ウ云フ風ニ一般ニ書イテアリマスヤウニ、議會政治ヲ前提トシテ居リマス、議會政治デアル以上ハ、其ノ政黨ノ領袖ガ立ツテ内閣總理大臣ニナラレルコトハ分ツテ居ル、サウデアル以上ハ、大概ナル人ハ分ツテ居ルノデス、モウ吉田總理ガナラレル前ニ、自由黨ノ總理ニナラレルデアラウト云フコトハ、誰ニモ分ツテ居ツタノデス、縱令吉田總理ハサウ云フコトハナクテモ、サウ云フ方ガ非難ヲ受ケテモ、天皇陛下ガア、云フ人ヲ御任命ニナツタカラ惡イナント言フ人ハアリマセヌ、從來政黨ノ總裁デ總理ニナラレタ、原總裁ニシテモ、濱口總裁ニシテモ、ソレハ多少ノ非難ハアリマシタ、非難ハアリマシタガ、アヽ云フ人ヲ陛下ガ御任命ニナツタカラ惡イト言ツタ人ハ一人モアリマセヌ、アレガ官僚内閣デハ、ソレハ高柳サンノ仰シヤル通リ危ウゴザイマス、政黨内閣デハサウ云フコトハ斷ジテ起リマセヌ、是ガ立憲政治、政黨内閣ノ有難イ所デ、今後ソレデ行カナケレバナラヌ、我々ガ憲政擁護ヲ主張スルノハ、單ニ憲政擁護ヲ主張スルノヂヤナイ、國體擁護ヲ主張スルノダト云フコトハ、繰返シ繰返シ、度々述ベテ居ル通リデアリマス、殊ニ總理大臣ハ國内關係デ、外國ノ大公使ト云フモノハ國際關係デアル、此ノ國際關係ガ一番恐イノデス、國内關係ノ方ハ、マア少シハ累ヲ及スヤウナコトガアツテモ、何トカナリマスケレドモ、國際關係デ累ヲ及シテ來ルト、何事ガ起ツテ來ルカ分リマセヌ、其ノ點ニ於テ大公使ノ任命ト云フコトハ決シテ御觸リニナルベキモノヂヤナイ、サウ私ハ信ジマス、以上ノ理由ニ依リマシテ、私ハ國體擁護ノ立場カラ天皇陛下ヲヨリ御安泰ナ地位ニ御置キ申シタイ、長ク、長クヂヤナイ、未來永劫第一條ノ國體ガ擁護サレルヤウニト云フ、此ノ見地カラ、此ノ修正案ニ反對スル者デゴザイマス、ドウゾ宜シク御願ヒ致シマス（拍手）
○議長（公爵徳川家正君） 次ノ通告者ハ秋田三一君デゴザイマスガ、秋田君ハ議席ニ居ラレマセヌカラ、通告ハ放棄セラレタモノト認メマス、子爵植村家治君
〔子爵植村家治君登壇〕
○子爵植村家治君 私ハ簡單ニ今只ノ議員提出ノ本修正案ニ對シマシテ、極ク簡單ニ贊意ヲ表シタイト思フ者デアリマス、此ノ度ノ憲法改正案ハ更正日本國ニ、新憲法ノ創定トモ申スコトニナリマシテ、今日ノ時流下已ムヲ得ズ一日モ早ク原案ノ儘デモ宜イ、其ノ成立ヲ早メテ日本ノ誠意ヲ見セルベキデハアリマスルガ、併シ飜ツテ靜カニ考ヘテ見マスルコトモ、是ハ國民ノ義務デアリマシテ、今日ノ日本、假令完全ナル獨立國デナイトシマシテモ、一國ノ憲法ヲ制定スル以上ハ篤ト再考シテ、天皇ノ御地位ヲ過去ノ誤リニノミ見過ギマシテ、全法文、何レノ條項ニモ天皇ニ其ノ責ヲ歸シ奉ラムトシテ、餘リニ物扱ヒニ致シ、無能力化サスコトノミニ成文化シ、其ノ御安泰ヲ圖ルコトハ徒ニ極端ニ過ギマシテ畏多イト思ヒマス、（拍手）就イテハ本案ノ修正ヲ私ハ見マシテ、セメテ今日後ノ日本ノ外交上ダケニデモ權威附ケラレタルニ其ノ意ヲ強クスルモノデアリマス、決シテ權限ヲ擴大スル意デハアリマセヌ、即チ日本ノ外交上其ノ儀禮ヲ受クル、送クルノ上ニ、對等ノ御地位ニ天皇ヲ置キ奉ルコトガ誠ニ相應シイコトデアリマシテ、是ガ又國際慣例デアラウト信ジマス、（拍手）是ハ或ハ提案者ノ趣旨御説明ニ重複ヲ致シマスルガ、御許ヲ願ツテ置キマス、卑近ナ一ツノ例ヲ申上ゲテ甚ダ恐レ入リマスルガ、我々ノ私交際上ニ於テ、先方ガ其ノ主人ヨリ命ゼラレタル代表ヲ客トシテ受ケル、コチラハ家令、家扶ノ命ジタ代表ヲ送ルト云フコトハドウモヲカシナ感ジガ致シマス、所謂交際慣例ニ反シテ、其ノ儀禮ヲ紊シテ居ルト思フモノデアリマス、仍テ天皇ノ御場合ニ於キマシテモ、外國ノ元首ガ任命シタ大公使ヲ御接受ナサルナラバ、之ヲ送ル上ニモ日本ノ元首、御主ト申シマスカ、其ノ象徴デアラセラルヽ天皇ガ自ラ先方ノ外國ト同等ノ御鄭重サヲナサルコトガ當然デアリマシテ、是ガ所謂國際儀禮、慣例ヲ果ス上ニハ妥當ナル御仕打ト存ジマス、或ハ言フ、此ノ條項中ニモ、天皇ノ任命ニヨリ萬一、大公使ニ過アラバ、一ニ天皇ニ其ノ責ヲ歸シ奉ルコトニナラバ大變デアラウト申サルヽ方モアリマス、此ノ御考ハ、立憲國ニ於キマシテハ非常識ナ御話デアラウト私ハ思ヒマス、何デモカンデモ其ノ責ヲ天皇ニ歸一シ奉ルコトノミニ心配セラルヽナラバ、本憲法第七條ノ、天皇ハ、内閣ノ助言ト承認トニ依リマシテ國務ヲ行フコトノ、此ノ條項ノ一ツノ中ニデモ、萬一誤リガ生ジマスレバ、全部其ノ責ヲ御負ヒ遊バスコトニ或ハナリハスマイカト思ヒマス、其ノ御心配ノ除去ニハ、第七條全部ヲ削ツテシマハナケレバ御氣ガ濟マヌト云フコトニナリハスマイカト思ヒマス、（拍手）仍テ私ハ第七條ガ存スル以上ハ、錦上ニ花ヲ添ヘテ、本修正案ノ如ク、天皇ノ象徴タル御地位ニ相應ハシク、セメテ外交上ダケニデモ其ノ慣例ヲ盡シ得タル一定ノ事項ヲ修正シタルモノトシテノ本案ニハ私ハ滿腔ノ贊成ヲ表スル次第デアリマス、（拍手）
○議長（公爵徳川家正君） 是ニテ討論ハ終結シタルモノト認メマス、是ヨリ修正案ノ採決ヲ致シマス、本修正ハ、二ツニ分ケテ採決致シマス、先ヅ問題ト致シマスコトハ、第七條第五號中「竝びに全權委任状及び大使及び公使の信任状」ヲ削リ、同條第八號中「批准書及び」ヲ「國會の承認により内閣の締結した條約を批准すること竝びに」ト改メ、「その他の」ノ四字ヲ削リ、同條第九號中「外國の大使」ノ上ニ「内閣の指名に基いて大使、公使及び全權委員を任命すること竝びに」ヲ加ヘル點デゴザイマス、以上ノ修正ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔起立者少數〕
○議長（公爵徳川家正君） 起立者三分ノ二ナイト認メマス（拍手）
〔子爵植村家治君發言ノ許可ヲ求ム〕
○議長（公爵徳川家正君） 植村子爵
○子爵植村家治君 異議ガゴザイマス
〔其ノ他「議長、異議アリ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 異議ガゴザイマシタ以上ハ、記名投票ヲ以テ表決ヲ致シマス、先程問題ニ致シマシタ修正ニ贊成ノ諸君ハ白票ヲ、修正ニ反對ノ諸君ハ青票ヲ、九條公爵ヨリ順次御登壇ノ上ニ、御投票ヲ願ヒマス
〔投票執行〕
○議長（公爵徳川家正君） 投票漏ハゴザイマセヌカ……投票漏ナイト認メマス、是ヨリ投票ヲ計算致サセマス
〔書記官投票ヲ計算ス〕
○議長（公爵徳川家正君） 投票ノ結果ヲ報告致シマス、投票總數三百票、投票總數ノ三分ノ二ハ二百票デゴザイマス、可トスルモノ、白票七十二票、否トスルモノ、青票二百二十八票、右ノ結果可トスルモノ、三分ノ二以上ニ達シマセヌ、即チ修正案ハ否決セラレマシタ（拍手起ル）
━━━━━━━━━━
〔參照〕
贊成 七十二名
反對 二百二十八名
贊成者氏名
公爵岩倉 具榮君 伯爵二荒 芳徳君
伯爵清閑寺良貞君 伯爵柳澤 保承君
伯爵橋本 實斐君 伯爵黒田 清君
伯爵大木 喜福君 男爵白根 松介君
子爵高橋 是賢君 子爵植村 家治君
子爵本多 忠晃君 子爵入江 爲常君
子爵伊集院兼高君 子爵藤井 兼誼君
子爵齋藤 齊君 子爵稻葉 正凱君
子爵稻垣 長賢君 子爵井上 勝英君
長岡半太郎君 白澤 保美君
小山 松吉君 山田 三良君
姉崎 正治君 林 春雄君
中田 薫君 河井 彌八君
牧野 英一君 荒川 文六君
松村眞一郎君 羽田 亨君
村上 恭一君 下條 康麿君
塩田 廣重君 慶松勝左衞門君
男爵松岡 均平君 長谷川赳夫君
男爵内海 勝二君 高柳 賢三君
男爵岡 俊二君 男爵島津 忠彦君
男爵團 伊能君 男爵田中 龍夫君
中川 望君 三浦 新七君
松嶋 鹿夫君 田所 美治君
澤田 牛麿君 坂田 幹太君
竹下 豐次君 諸橋 襄君
田島 正雄君 稻畑勝太郎君
結城 安次君 松尾 國松君
瀧川 儀作君 田島 道治君
中島 徳松君 三橋四郎次君
山隈 康君 山地土佐太郎君
有馬忠三郎君 中島徳太郎君
水野甚次郎君 塩田 團平君
中山 太一君 岸本 彦衞君
秋田 三一君 上野喜左衞門君
長島 銀藏君 岩元 達一君
橋本萬右衞門君 高木 八尺君
反對者氏名
公爵九條 道秀君 公爵島津 忠承君
公爵桂 廣太郎君 公爵三條 實春君
侯爵細川 護立君 侯爵廣幡 忠隆君
侯爵中御門經恭君 侯爵徳川 頼貞君
侯爵中山 輔親君 侯爵嵯峨 實勝君
侯爵黒田 長禮君 侯爵池田 宣政君
侯爵西郷吉之助君 侯爵西條 隆徳君
侯爵鍋島 直泰君 侯爵大炊御門經輝君
侯爵淺野 長武君 侯爵大久保利謙君
侯爵前田 利建君 侯爵佐竹 義榮君
伯爵林 博太郎君 伯爵奥平 昌恭君
伯爵前田 利男君 伯爵後藤 一藏君
伯爵徳川 宗敬君 伯爵南部 利英君
伯爵宗 武志君 伯爵金子 武麿君
伯爵久松 定武君 伯爵東久世通忠君
伯爵壬生 基泰君 三土 忠造君
男爵幣原喜重郎君 子爵西大路吉光君
子爵今城 定政君 子爵岩下 家一君
子爵秋月 種英君 子爵大河内輝耕君
大谷 正男君 子爵加藤 泰通君
子爵秋元 春朝君 子爵松平 乘統君
子爵富小路隆直君 子爵黒田 長敬君
子爵秋田 重季君 子爵森 俊成君
子爵戸澤 正己君 子爵織田 信恒君
子爵細川 興治君 子爵北小路三郎君
子爵實吉 純郎君 子爵西尾 忠方君
子爵梅園 篤彦君 子爵安藤 信昭君
子爵内藤 政光君 子爵京極 高修君
子爵柳澤 光治君 子爵交野 政邁君
子爵高木 正得君 子爵大久保教尚君
子爵永井 直邦君 子爵三島 通陽君
子爵六角 英通君 子爵瀧脇 宏光君
子爵北條 雋八君 子爵綾小路 護君
子爵仙石 久英君 子爵松平銑之助君
子爵田中 薫君 子爵七條 光明君
子爵梅溪 通虎君 子爵錦小路頼孝君
子爵水野 勝邦君 子爵松平 親義君
子爵土井 利章君 子爵鳥居 忠博君
子爵日野西資忠君 子爵青木 重夫君
子爵朽木 綱博君 子爵伊東 祐淳君
子爵榊原 政春君 子爵三浦 矢一君
子爵京極 高鋭君 子爵三宅 直胖君
子爵植松 雅俊君 子爵牧野 忠永君
田中館愛橘君 桑木 嚴翼君
平塚 廣義君 永井 松三君
佐々木惣一君 出淵 勝次君
男爵久保田敬一君 男爵今園 國貞君
吉田 久君 男爵飯田精太郎君
霜山 精一君 川村 竹治君
男爵高木 喜寛君 男爵高崎 弓彦君
副島 千八君 男爵伊江 朝助君
男爵周布 兼道君 白根 竹介君
寺尾 博君 安倍 能成君
長 世吉君 男爵北島 貴孝君
村上 義一君 男爵松本 本松君
金森徳次郎君 男爵徳川 誠君
男爵沖 貞男君 男男伊藤 一郎君
男爵奧田 剛郎君 南原 繁君
男爵長 基連君 男爵松平外與麿君
男爵稻田 昌植君 男爵鶴殿 家勝君
男爵尚 琳君 男爵松田 正之君
男爵中御門經民君 男爵佐竹 義履君
男爵平山洋三郎君 男爵八代五郎造君
男爵中村 貫之君 男爵渡邊 修二君
男爵三須 精一君 男爵杉溪 由言君
男爵肝付 兼英君 男爵加藤 成之君
男爵岩村 一木君 男爵山根 健男君
男爵坊城 俊賢君 男爵松平 齊光君
男爵毛利 元良君 男爵内田 敏雄君
男爵多久龍三郎君 男爵水谷川忠麿君
男爵林 忠一君 男爵倉富 鈞君
男爵古市 六三君 男爵山名 義鶴君
男爵紀 俊忠君 男爵坂本 大造君
男爵北大路信明君 男爵西 酉乙君
男爵小原謙太郎君 男爵斯波 正夫君
男爵前島勘一郎君 男爵宮原 旭君
男爵明石 元長君 男爵中村 徹雄君
黒田 英雄君 中村藤兵衞君
種田 虎雄君 赤木 正雄君
瀬古 保次君 大木 操君
飯沼 一省君 大村 清一君
入江 俊郎君 木下謙次郎君
山崎 延吉君 野村 嘉六君
松本 學君 井川 忠雄君
木内 四郎君 我妻 榮君
古島 一雄君 河合 良成君
板谷 宮吉君 安田伊左衞門君
石川 一郎君 奧村 嘉藏君
合田 健吉君 井上篤太郎君
磯貝 浩君 橋本辰二郎君
熊谷三太郎君 名取 和作君
河西豊太郎君 小山 完吾君
鹿島 精一君 高橋龍太郎君
馬場 恒吾君 田部長右衞門君
徳田 昂平君 竹中藤右衞門君
伊藤 傳七君 板倉 卓造君
藍澤 彌八君 作間 耕逸君
中山 壽彦君 畠山 一清君
小野 耕一君 片岡 直方君
町村 敬貴君 片倉兼太郎君
原田 讓二君 河端作兵衞君
松岡 潤吉君 齊藤万壽雄君
杤木 嘉郎君 小汀 利得君
名古屋三吉君 渡邉 覺造君
岩淵 辰雄君 飯塚 知信君
佐々木長治君 野田六左衞門君
栗栖 赳夫君 淺井 清君
寺田 甚吉君 江口 文雄君
渡邊 甚吉君 渡部 信君
太田 半六君 渡邊 三郎君
佐藤惣之助君 萱野 長知君
鏑木 忠正君 杉山 茂君
松尾嘉右ヱ門君 瀬川彌右衞門君
深田 武雄君 伊藤 豊次君
━━━━━━━━━━
○議長（公爵徳川家正君） 次ニ問題ト致シマスコトハ、第七條第六號中「認證すること」ヲ「行ふこと」ニ改ムル修正デゴザイマス、右修正ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔起立者少數〕
○議長（公爵徳川家正君） 起立者三分ノ二ナイト認メマス
〔子爵植村家治君發言ノ許可ヲ求ム〕
○議長（公爵徳川家正君） 植村子爵
○子爵植村家治君 異議アリマス
〔「異議アリ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ガゴザイマシタカラ、修正ニ反對ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔起立者多數〕
○議長（公爵徳川家正君） 宜シウゴザイマス、反對者ノ起立、三分ノ一以上ト認メマス、仍テ修正案ハ否決セラレマシタ
━━━━━◇━━━━
○議長（公爵徳川家正君） 次ニ牧野英一君外一名ヨリ提出セラレマシタ修正案ヲ議題ト致シマス、發議者ニ對シ趣旨説明ヲ許シマス、牧野英一君
━━━━━━━━━━
「帝國憲法改正案ニ對スル修正案」
右議院法第二十九條ニ依リ提出候也
昭和二十一年十月五日
發議者
牧野 英一 田所 美治
贊成者
侯爵淺野 長武 伯爵清閑寺良貞
伯爵柳澤 保承 伯爵黒田 清
伯爵後藤 一藏 男爵白根 松介
子爵西尾 忠方 子爵植村 家治
姉崎 正治 中田 薫
河井 彌八 村上 恭一
男爵飯田精太郎 下條 康麿
男爵松本 本松 長谷川赳夫
男爵肝付 兼英 男爵松平 齊光
中川 望 三浦 新七
黒田 英雄 中村藤兵衞
大木 操 澤田 牛麿
坂田 幹太 松本 學
諸橋 襄 稻畑勝太郎
結城 安次 松尾 國松
瀧川 儀作 菅澤 重雄
中山 太一 秋田 三一
貴族院議長公爵徳川家正殿
──────────
「帝國憲法改正案中左ノ通修正ス
第二十四條ニ第一項トシテ左ノ如ク加ヘル
家族生活はこれを尊重する。」
━━━━━━━━━━
〔牧野英一君登壇〕
○牧野英一君 私ノ提案ハ第二十四條ニ第一項トシテ「家族生活は、これを尊重する。」ト云フノヲ加ヘテ戴キタイト云フノデアリマス、其ノ理由トシテハ既ニ御承知ノコトデアリマシテ、今更特ニ申述ベルコトハ必要ガナイト考ヘマス、委員會ニ於ケル審議ノ次第ハ委員長ノ報告ノ如クデアリマス、誠ニ遺憾ナガラ極メテ少數ノ差デ可決ヲ見ルコトガ出來ナカツタノデアリマスガ、其趣旨ニ於テハ各委員ノ方々カラ厚意ヲ持ツテ戴ケタト私ハ信ジテ居ルノデゴザイスル、ソレニ又此ノ問題ハ衆議院ニ於テモ大イニ考慮セラレタ所デアルコトハ御承知ノ如クデアリマス、此ノ第二十四條ガ婚姻ニ關シテ規定ヲ設ケテ居リマス、其ノ規定ノ趣旨ハ固ヨリ結構ナコトデハゴザイマスルガ、更ニ親子ノ關係モ亦憲法ノ上ニ明カニシテ置カレルコトガ希望ニ堪ヘナイノデゴザイマスル、此ノ憲法改正案ニハ指導的ナ規定、原理的ナ規定、教訓的ナ訓示的ナ規定ガ色々アリマシテ、是ガ此ノ改正案ノ顯著ナル特色ノ一ツヲ成シテ居ルノデアリマス、斯樣ニ色々各方面カラ周到ナ規定ガ設ケラレテ居ルニモ拘ラズ、不幸ニシテ家族生活ノ全體ニ亙ル規定ガ漏レテ居ルノデゴザイマスル、是ハ固ヨリ民法ニ規定ヲ置ケバソレデ足リルノデハナイカト云フ風ニモ考ヘラレル次第デゴザイマスルケレドモ、ソレナラバ婚姻ニ付テモ同樣ト云フコトニナリ得ルモノデハアリマスマイカ、而モ婚姻ニ關スル規定ガアツテ、親子乃至家族生活全體ニ亙ル規定ガ缺ケテ居リマスル爲ニ、既ニ世上ノ一部ニハ誠ニ意外ニモ粗暴ナ言語ヲ以テ遺憾ナル思想ヲ發表スル人達ガ、而モソレヲ憲法改正案ノ精神デアルトシテ、公然放言シテ居ルト云フヤウナコトニナツテ居ルカニ聞キ及ンデ居リマスル、ノミナラズ不幸ニモ更ニ法律家ノ間ニサヘ其ノ誤解ガ相當ニ廣ク行ハレテ居ルヤウニ見受ケテ居リマスル次第デゴザリマスル、茲ニ申ス迄モナク「父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ」ト云フコトガ家族生活ノ本質デアリ、本體デアリ其ノ一ツヲ缺イテモ既ニ家族生活ヲ理解スルト云フコトハ出來ナイコトト心得マス、ソレデ幸ニ家族生活ノ全體ニ亙ツテ之ヲ尊重スルト云フ趣旨ノ規定ガ此ノ第二十四條ノ第一項ニ設ケラレマスルナラバ、ソレヲ承ケテ更ニ次ニ、特ニ婚姻ニ關シテ規定ヲ設ケタト云フコトガ、獨リ其ノ趣旨ニ於テ明白ニナルバカリデハナク、其ノ精神ニ於テ一層光ヲ放チ、其ノ倫理的、社會的及ビ法律的意義ヲ發揮スルコトガ出來ルコトニナルノデハナイカト存ジマスル、是ハ獨リ法律問題デアルニ止マリマセヌ、更ニ教育上ノ問題デアリ、思想上ノ大キナ問題ト考ヘラレマス、教育勅語ニ付テ委員長カラ報告ガアリマシタ、アノ報告ノ次第ノヤウニ、若シ考ヘテ行カネバナラヌト致シマスルナラバ、此ノ規定ガ今憲法ニ於テ明カニセラレルト云フコトハ、餘程重大ナ意味ガアルモノト考ヘテ然ルベキデハゴザリマスマイカ、固ヨリ現行民法ノ戸主權中心ノ制度、是ハ所謂、封建的ナ色彩ノ濃厚ナモノデアリマスルシ、又甚ダシク實情ニ副ハナイ點モアリマスルノデ、是ハ憲法ガ新タニセラル丶ト共ニ、斷然改メラレネバナラナイ譯デゴザリマスルケレドモ、併シ家族生活其ノモノハ之ヲ平和的ニ、之ヲ民主的ニ保持シ、矢張リ依然十分之ヲ尊敬シ續ケルト云フコトガナケレバナリマスマイ、是ハ我ガ國ノ美風トシテ考ヘラレルバカリデハゴザリマセヌ、先進諸國ニ於テモ此ノ點ハ矢張リヤカマシク論ゼラレテ居ルノデアリマシテ、實ニ人類普遍ノ法則デアルト言ハネバナリマセヌ、委員會ニ於テ政府ノ所見トシテ伺ツタ所デハ、斯樣ナ家族生活ノ尊重ト云フコトハ其ノ實體ニ付テハ固ヨリ異存ガナイガ、併シソレハ餘リニモ當然ナコトデ、特ニ規定ヲ設ケテ之ヲ明カニスルト云フ必要ハナイデアラウト云フ御答デアツタカニ承知致シテ居リマス、サリナガラ現ニ人心ガ兎角ニ荒ンデ居リマス今日、忌ハシイコトノ多イ世相ノ眞中ニ於テ、右述ベマシタヤウナ一種ノ誤解ガ、此ノ憲法改正ノ精神デアルトシテ世ニ行ハレテ居ルノデゴザリマスルシ、尚將來ニ亙ツテモ斯樣ナ思想ノ世ニ蔓延ルデアラウト云フコトニ對シテハ相當ナ用意ヲ致シテ置クベキデハナカラウカト考ヘラレルノデアリマス、斯樣ナ問題ハ正ニ貴族院トシテ特ニ考慮シテ置クベキ問題ナノデハアリマスマイカ、（拍手）尚斯樣ナ提案ヲ申出デマスルニ付テハ、心ヲ配ラネバナラヌ方面ノコトモ十分考ヘネバナリマセヌガ、此ノ點ニ付テハ心配ヲ致ス必要ナシト信ズル理由ヲ持ツテ居リマスルノデゴザリマス、今新タニ憲法ガ出來上リマス、新シイ憲法ガ出來上リマセウトスルニ付テハ、是非ソレヲ完璧タラシメルガ爲ニ此ノ修正案ニ付テ滿堂ノ御贊成ヲ切望致シマスル次第デゴザリマス、尚此ノ問題ニ付キマシテハ、委員會ニ於テ政府ノ御所存ヲ度々伺ヒマシタコトデゴザリマスルケレドモ、今日迄内閣總理大臣ノ御考ヲ伺フ機會ガゴザリマセヌデシタ、今日ハ幸ヒ御出席ニナツテ居リマスルカラ、此ノ席デ伺フコトガ出來レバ甚ダ幸福ニ存ジマスル次第デゴザリマス（拍手起ル）
○議長（公爵徳川家正君） 金森國務大臣
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕
○國務大臣（金森徳次郎君） 牧野委員カラ總理大臣ニ對シテ御尋ニナリマシタノヲ私カラ御答ヘ申上ゲマスルコトハ恐縮デゴザイマスルガ、是ハ實ハ衆議院ニ於テ若干ノ關係ヲ持ツテ居ル問題デアリマシテ、其ノ場面ヲ存ジテ居リマスルノハ固ヨリ私ノ方ガ當面者デアリマスルガ故ニ、暫ク御言葉ニ對シマシテ私ノ言葉ヲ以テ一ツ御返事ヲ申上ゲテ置キマス、ソコデ仰セニナリマシタコトハ前々カラ敬承ヲ致シテ居リマシタ、第一ニ現在ノ夫婦制度ヲ決メテ居リマスル第二十四條ノ規定ガアルナラバ、家族制度ヲ規定ニ入レルガ宜イデハナイカ、斯ウ云フ點デアリマスルガ、是ハ非常ニ事情ガ違フノデアリマシテ、第二十四條ノ夫婦ニ關シマスル規定ハ、是ハ全ク憲法ニ書カナケレバ趣旨ノ貫カナイ規定デアリマシテ、即チ婚姻ニ付テハ合意ノミニ基礎ヲ置ク同等ノ權利ヲ男女ガ持ツテ居ル、或ハ又兩性ノ本質的ナル平等ト云フヤウナ從來ノ思想ト稍々異ル所ノ權利ヲハツキリ憲法ニ決メル、斯ウ云フ點ニ於テ非常ニ意味ガアルノデアリマス、處ガ、此ノ家族制度ノ尊重ニ付キマシテハ、是ハ日本在來ノ考ガ傳統的ニ變化ハアリマスルニシテモ變化ノ仕方ヲ自然ニ適フヤウニ維持シツ、自ラ適當ナル所ニ行クモノデアラウト思ヒマスルガ故ニ、此ノ際之ヲ憲法ニ特ニ採入レル迄ノ必要ハナイト考ヘテ居ル次第デアリマス、大體仰セノ通リ家族制度ヲ尊重シマスルコト自身ニ付テ、現在ノ所ニ於テ政府ニ於テ何等ノ反對ノ意見ノナイコトハ固ヨリデアリマスルガ、問題ハ之ヲ憲法ノ規定ノ中ニ採入レルガ良イカ惡イカト云フ問題ニナル譯デアリマス、今囘御示シニナリマシタ案文ニ依リマスルト、家族生活ヲ尊重スルト云フ御趣旨ハ誠ニ適當ノヤウニ考ヘマスルケレドモ、ソレガ憲法ノ上ニハツキリアリマシテモ、現在國民ノ持ツテ居ル考ト格別ノ差ハナイノデアリマス、又ソレガ憲法ノ中ニアリマシテモ、將來ノ國民思想ニ對シテ確乎タル標準ヲ與フルダケノ具體性ハアリマセヌ、斯樣ナ問題ハ之ヲ法律其ノ他ノ方法ニ依リマシテ、詳細ニ時代々々ニ適應シテ、今後十分ナル規定ヲ設ケマスルコトガ妥當デアルト思ツテ居ル次第デアリマス、尚此ノ憲法ノ中ニ類似ノコトヲモウ少シ入レタラドウカト云フ論ハ澤山ゴザイマシテ、ソレヲ入レマスレバ、此ノ憲法ハ相當内容ヲ變化サセナケレバナリマセヌ、先程仰セニナリマシタ勅語ノ言葉ヲ引イテ「父母ニ孝ニ、兄弟ニ友ニ、」ト云フヤウナ風ニ仰セニナリマシタガ、是ハ家族生活バカリデハアリマセヌ、家族生活ヲ越エマシテモ、尚ソレ等ノ徳目ハ守ラナケレバナラヌコトハ當然デアリマス、ソレハ憲法ニハハツキリ規定致シテ居リマセヌ、若シソレヲ規定致シマスルナラバ勢ヒソレニ及バナケレバナリマセヌ、憲法ニ入レルガ善イカ惡イカト云フコトハ、自然別問題デアラウト考ヘマス、尚モウ一ツ此ノ衆議院トノ關係ニ於テ申上ゲタイノデアリマスルガ、衆議院ニ於キマシテ此ノ趣旨ノ系統ノ色々ナ御質疑モアリ、又之ヲ以テ修正ノ項目ニシロト云フヤウナ動キモアツタノデアリマス、芦田委員長ガ衆議院本會議ニ於テ報告サレマシタ中ニ付テモ、是ト稍々類似ノ文字ノ規定デアリマスルガ、此ノ家庭生活ヲ保護スルト云フ案ガ出タラシイノデアリマス、家庭生活ト家族制度トハ言葉ハ似テ居リマスルケレドモ、相當趣旨ハ違ツテ居ルノデアリマシテ、其ノ家庭生活ト云フ規定ハ、衆議院ニ於テハ政府ノ申シマスル所ヲ御聽取ニナツタデアラウト存ジマスルケレドモ、是ハ法律ニ依ツテ解決スベシト云フ御結論ニナツテ居リマス、シテ見レバ家族制度ノ方モ同ジヤウナ御取計ラヒヲ得マシタ方ガ是カラ先ノ憲法ノ成立ニ付キマシテノ手順等カラ申シマシテモ、非常ニ願ハシイ次第デアル、詰リハ此ノ儘御通シヲ願ツタラ政府トシテハ都合ガ好イ、都合バカリ申上ゲテハ恐縮デゴザイマスガ、左樣ナコトガ私ノ考デアリマス
○子爵植村家治君 議事進行ニ付テ……、只今發議者ハ總理大臣、日本ノ首相トシテノ御考ハドウカト伺ツテ居ラレルノデハナイデセウカ、國務大臣ノ代辯ハ多ク聽イテ居ラル丶ト思ヒマス、議長ハ首相ニ對スル御考ノ答辯ノ御取計ラヒハナサラヌノデアリマスカ
○議長（公爵徳川家正君） 吉田内閣總理大臣
〔國務大臣吉田茂君登壇〕
○國務大臣（吉田茂君） 御答ヘ致シマスガ、只今金森國務大臣ノ御答ヘ致シマシタコトハ、即チ政府ヲ代表シテノ御話デアリマシテ、無論私ニ於テモ同意見デアリマス（拍手）
○議長（公爵徳川家正君） 討論ノ通告ガゴザイマス、子爵大河内輝耕君
〔子爵大河内輝耕君登壇〕
○子爵大河内輝耕君 度々色々ナ修正案ガ出マスノデ、私ガ度々此處デ皆樣ニ御迷惑ヲ掛ケルノデ、何トモ相濟ミマセヌガ、ドウカ暫ク一ツ御待チヲ願ヒマス、「父母ニ孝ニ、兄弟ニ友ニ、夫婦相和シ、」何人モ之ニ異議ヲ挿ムモノハ日本人一人モゴザイマスマイ、又是ハ「之ヲ古今ニ通シテ謬ラス、之ヲ中外ニ施シテ悖ラス、」恐ラク海外各國ニ於キマシテモ、古今ヲ通ジテ守ラレテ來タ道徳デアラウト存ジマス、併シナガラ家族制度ト云フコトニナリマスト、是ハチヨツト別ナ話デゴザイマス、何モ西洋ノ眞似ヲシロト云フ譯デハゴザイマセヌガ、西洋デハ家族制度ハゴザイマセヌ、「ホーム」ト云フノハ誠ニ愉快ニヤツテ居リマス、「ホーム」、家庭ト云フモノハ愉快ニヤツテ居リマスガ、家族制度ハゴザイマセヌ、是ハ其ノ時々ノ國ノ風ニ依リ、時代ニ依ツテ、國ニ依ツテ違フノデゴザイマス、ソレデ此ノ案ハドウ云フ案カト拜見シテ見マスルト云フト、詰リ家族制度ヲ維持スルト云フコトノ案デス、處ガ、今日本ノ状態ハドウデゴザイマセウカ、家ヲ維持スルトカ、家ヲドウトカト云フ觀念ハズツト薄ライデ居リマス、殆ド私ハモウ大部分ノ人ニハサウ云フ考ハナイト思フ、尤モ農村ノ一部、或ハ大キナ華族サンノ御家庭ナドニハ斯ウ云フモノハゴザイマス、マア華族サンノ御家庭ナドハ此ノ爲ニドノ位御迷惑ニナツテ居ルカ分リマセヌ、ソンナコトハ別トシテ、ソンナコトハ彼此言フノヂヤゴザイマセヌ、兎ニ角存ジテ居ルコトハ事實ナンダカラ、殘シテ置イテ貰ヒタイ所ハ殘シテ置イテ宜イヂヤゴザイマセヌカ、（「制度ヂヤアリマセヌ」ト呼フ者アリ）農村デ殘シテ御置キニナリタイト御考ニナレバ殘シテ御置キニナレバ宜イ、又御家庭ニ於テ年來サウ云フ御風デヤツテ居ラレル方ガアレバ、決シテ之ヲ打壞スト云フノデハアリマセヌ、ソレデアルカラ法律ヲ以テ之ヲ打壞スト云フコトハイケナイ、我々モ贊成致シマセヌ、サウカト云ツテ法律ヲ以テ強ヒテ之ヲ保存シテ永遠ニ迄傳ヘテ行カウト云フコトハ少シ無理ヂヤゴザイマセヌカ、餘リニ人爲的デハゴザイマセヌカ、餘リニ不自然デハゴザイマセヌカ、是ガ將來ニソレヂヤドウナルカト云フコトヲ見マスト、民法改正案ノ内容ニ付テ伺ツテ見マスルト、戸主權ハ排除セラレル、ソレカラ相續ハ均分相續ニナツテ居ル、家督相續ハ廢メラレル、ソレカラ財政上カラ見マスト、家ヲ保ツニハ相續税ヲ置イチヤ駄目ダ、ドウシタツテ五十萬カラ百萬位家産トシテ置カナケレバ家ヲ保テルモノヂヤナイ、併シ相續税ヲ減ラスト云ツテモ到底行ハレルモノデハナイ、ドンドン加重サレルバカリダ、今度ノ財産税デ皆ガ十萬圓位ニ減サレテシマツテハ家ヲ保ツドコロノモノヂヤナイ、極ク大キナ方ハ別トシテ普通ノ家ヂヤ出來ヤシマセヌ、斯ウ云フ風ナ傾向ガ多イ、家ト云フモノハ到底保チ得ナイト云フ風ニ大勢ガドンドン行ツテシマツテ居ル、現在保テト言ツテモ保テヤシナイ、是ハ「ピーアス」ノ制度モ、是モ大變同情ノ御方ガアツテ保存シテ置イタラ宜カラウト云フ御話ガゴザイマシタケレドモ、ドウモ社會ノ大勢上是ハ許サレナイ、善イ惡イハ別トシテ保存スルコトハ出來ナイシ、我々モ之ヲ廢止スルコトニ贊成致シマシタノデスガ、同ジヤウナ理窟デ之ヲ段々ニドウモ維持シニククナル、現ニ今日ト雖モ世間ニ行ハレテ居ナイ、無理ニ之ヲ行ハセヨウトスレバ、世間ノ實情ト遊離シタ立法ヲシナケレバナラヌト云フヤウナ始末デゴザイマスカラ、マアマアコンナ問題ハ憲法ナドデハ構ハナイデ置イテ、サウシテ民法以下ノ規定ニ於テ時勢ニ應ジ、所ニ從ツテ相當ナ規定ヲ設ケラレタラ宜カラウト思ヒマス、此ノ意味ニ於キマシテ私ハ本案ニ反對ヲ致シマス（「「ロヂック」ガ通リマセヌ」ト呼フ者アリ）
○議長（公爵徳川家正君） 是ニテ討論ハ終結シタルモノト認メマス、是ヨリ修正案ノ採決ヲ致シマス、修正案ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔起立者‥‥‥〕
○議長（公爵徳川家正君） 確認致シ難ウゴザイマスカラ、記名投票ヲ以テ票決ヲ致シマス、就キマシテハ只今ノ修正案ニ對シ贊成ノ諸君ハ白票ヲ、修正ニ反對ノ諸君ハ青票ヲ九條公爵ヨリ順次御登壇ノ上御投票ヲ請ヒマス
〔投票執行〕
○議長（公爵徳川家正君） 投票漏ハゴザイマセヌカ、‥‥‥投票漏ナイト認メマス、是ヨリ投票ヲ計算致サセマス
〔書記官投票ヲ計算ス〕
○議長（公爵徳川家正君） 投票ノ結果ヲ報告致シマス、投票總數三百票、投票總數ノ三分ノ二ハ二百票デゴザイマス、可トスルモノ白票百六十五票、否トスルモノ青票百三十五票、右ノ結果可トスルモノ三分ノ二ニ逹シマセヌ、即チ修正案ハ否決セラレマシタ（拍手）
━━━━━━━━━━
〔參照〕
贊成 百六十五名
反對 百三十五名
贊成者氏名
公爵九條 道秀君 公爵島津 忠承君
公爵岩倉 具榮君 公爵桂 廣太郎君
公爵三條 實春君 侯爵廣幡 忠隆君
侯爵中御門經恭君 侯爵徳川 頼貞君
侯爵中山 輔親君 侯爵嵯峨 實勝君
侯爵黒田 長禮君 侯爵池田 宣政君
侯爵西郷吉之助君 侯爵四條 隆徳君
侯爵鍋島 直泰君 侯爵淺野 長武君
侯爵大久保利謙君 侯爵前田 利建君
侯爵佐竹 義榮君 伯爵清閑寺良貞君
伯爵柳澤 保承君 伯爵橋本 實斐君
伯爵黒田 清君 伯爵後藤 一藏君
伯爵大木 喜福君 伯爵南部 利英君
伯爵宗 武志君 伯爵久松 定武君
伯爵東久世通忠君 伯爵壬生 基泰君
大谷 正男君 子爵白根 松介君
子爵秋元 春朝君 子爵松平 乘統君
子爵富小路隆直君 子爵細川 興治君
子爵北小路三郎君 子爵高橋 是賢君
子爵西尾 忠方君 子爵植村 家治君
子爵梅園 篤彦君 子爵安藤 昭信君
子爵内藤 政光君 子爵本多 忠晃君
子爵六角 英通君 子爵綾小路 護君
子爵藤井 兼誼君 子爵田中 薫君
子爵齋藤 齊君 子爵七條 光明君
子爵梅溪 通虎君 子爵錦小路頼孝君
子爵稲垣 長賢君 子爵日野西資忠君
子爵三浦 矢一君 子爵三宅 直胖君
子爵植松 雅俊君 子爵牧野 忠永君
子爵井上 勝英君 田中館愛橘君
長岡半太郎君 白澤 保美君
小山 松吉君 山田 三良君
姉崎 正治君 林 春雄君
中田 薫君 河井 彌八君
牧野 英一君 松村眞一郎君
羽田 亨君君 男爵今園 國貞君
村上 恭一君 男爵飯田精太郎君
下條 康麿君 塩田 廣重君
男爵松岡 均平君 男爵伊江 朝助君
男爵周布 兼道君 男爵北島 貴孝君
男爵松本 本松君 長谷川赳夫君
男爵内海 勝二君 高柳 賢三君
男爵奧田 剛郎君 南原 繁君
男爵稲田 昌植君 男爵尚 琳君
男爵平山洋三郎君 男爵八代五郎造君
男爵三須 精一君 男爵肝付 兼英君
男爵加藤 成之君 男爵岩村 一木君
男爵山根 健男君 男爵松平 齊光君
男爵毛利 元良君 男爵岡 俊二君
男爵島津 忠彦君 男爵水谷川忠麿君
男爵倉富 鈞君 男爵古市 六三君
男爵山名 義鶴君 男爵紀 俊忠君
男爵村田 保定君 男爵前島勘一郎君
男爵宮原 旭君 男爵明石 元長君
男爵田中 龍夫君 中川 望君
三浦 新七君 黒田 英雄君
中村藤兵衞君 大木 操君
田所 美治君 澤田 牛麿君
坂田 幹太君 松本 學君
竹下 豐次君 井川 忠雄君
諸橋 襄君 板谷 順助君
田島 正雄君 稻畑勝太郎君
結城 安次君 松尾 國松君
瀧川 儀作君 板谷 宮吉君
磯貝 浩君 橋本辰二郎君
山隈 康君 河西豊太郎君
田部長右衞門君 竹中藤右衞門君
伊藤 傳七君 山地土佐太郎君
有馬忠三郎君 藍澤 彌八君
中島徳太郎君 水野甚次郎君
塩田 團平君 中山 太一君
畠山 一清君 小野 耕一君
町村 敬貴君 岸本 彦衞君
松岡 潤吉君 齋藤万壽雄君
渡邉 覺造君 佐々木長治君
野田六左衞門君 秋田 三一君
栗栖 赳夫君 江口 文雄君
上野喜左衞門君 長島 銀藏君
岩元 達一君 渡部 信君
太田 半六君 渡邊 三郎君
佐藤惣之助君 橋本萬右衞門君
高木 八尺君 杉山 茂君
反對者氏名
侯爵細川 護立君 侯爵大炊御門經輝君
伯爵林 博太郎君 伯爵奧平 昌恭君
伯爵二荒 芳徳君 伯爵前田 利男君
伯爵徳川 宗敬君 伯爵金子 武麿君
三土 忠造君 男爵幣原喜重郎君
子爵西大路吉光君 子爵今城 定政君
子爵岩下 家一君 子爵秋月 種英君
子爵大河内輝耕君 子爵加藤 泰通君
子爵黒田 長敬君 子爵秋田 重季君
子爵森 俊成君 子爵戸澤 正己君
子爵織田 信恒君 子爵實吉 純郎君
子爵京極 高修君 子爵柳澤 光治君
子爵交野 政邁君 子爵高木 正得君
子爵大久保教尚君 子爵永井 直邦君
子爵三島 通陽君 子爵瀧脇 宏光君
子爵北條 雋八君 子爵入江 爲常君
子爵仙石 久英君 子爵伊集院兼高君
子爵松平銑之助君 子爵水野 勝邦君
子爵松平 親義君 子爵稻葉 正凱君
子爵土井 利章君 子爵鳥居 忠博君
子爵青木 重夫君 子爵朽木 綱博君
子爵伊東 祐淳君 子爵榊原 政春君
子爵京極 高鋭君 犬塚勝太郎君
桑木 嚴翼君 平塚 廣義君
永井 松三君 佐々木惣一君
出淵 勝次君 吉田 茂君
荒川 文六君 男爵久保田敬一君
吉田 久君 霜山 精一君
川村 竹治君 男爵高木 喜寛君
慶松勝左衞門君 男爵高崎 弓彦君
副島 千八君 白根 竹介君
寺尾 博君 安倍 能成君
長 世吉君 村上 義一君
金森徳次郎君 男爵徳川 誠君
男爵沖 貞男君 男爵伊藤 一郎君
男爵長 基連君 男爵松平外與麿君
男爵鶴殿 家勝君 男爵松田 正之君
男爵中御門經民君 男爵中村 貫之君
男爵渡邊 修二君 男爵杉溪 由言君
男爵坊城 俊賢君 男爵内田 敏雄君
男爵多久龍三郎君 男爵林 忠一君
男爵坂本 大造君 男爵北大路信明君
男爵西 酉乙君 男爵小原謙太郎君
男爵斯波 正夫君 男爵中村 徹雄君
種田 虎雄君 瀬古 保次君
松嶋 鹿夫君 飯沼 一省君
大村 清一君 入江 俊郎君
木下謙次郎君 山崎 延吉君
野村 嘉六君 木内 四郎君
我妻 榮君 古島 一雄君
田島 道治君 安田伊左衞門君
石川 一郎君 中島 徳松君
三橋四郎次君 奧村 嘉藏君
合田 健吉君 井上篤太郎君
熊谷三太郎君 名取 和作君
小山 完吾君 鹿島 精一君
高橋龍太郎君 徳田 昂平君
板倉 卓造君 作間 耕昂君
中山 壽彦君 片岡 直方君
原田 讓二君 河端作兵衞君
山本 勇造君 杤木 嘉郎君
小汀 利得君 名古屋三吉君
岩淵 辰雄君 飯塚 知信君
淺井 清君 寺田 甚吉君
渡邊 甚吉君 萱野 長知君
鏑木 忠正君 松尾嘉右ヱ門君
瀬川彌右衞門君 深田 武雄君
伊藤 豊次君
○議長（公爵徳川家正君） 是ヨリ委員會ノ修正ニ係ル部分ヲ採決致シマス、先ヅ前文ヲ問題ニ供シマス、委員會ノ修正ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔起立者多數〕
○議長（公爵徳川家正君） 三分ノ二以上ト認メマス、仍テ委員會ノ修正通リ決シマシタ、次ニ第十五條ヲ問題ニ供シマス、委員會ノ修正ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔起立者多數〕
○議長（公爵徳川家正君） 三分ノ二以上ト認メマス、仍テ委員會ノ修正通リ決シマシタ、次ニ第五十九條ヲ問題ニ供シマス、委員會ノ修正ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔起立者多數〕
○議長（公爵徳川家正君） 三分ノ二以上ト認メマス、仍テ委員會ノ修正通リ決シマシタ、次ニ第六十六條ヲ問題ニ供シマス、委員會ノ修正ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔起立者多數〕
○議長（公爵徳川家正君） 三分ノ二以上ト認メマス、仍テ委員會ノ修正通リ決シマシタ、是ニテ委員會ノ修正ニ係ル修正案全部ノ採決ヲ終リマシタ、次ニ只今迄ニ可決セラレマシタ修正箇所ヲ除ク殘リ全部ヲ問題ニ供シマス、殘リ全部原案即チ衆議院送付案ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔起立者多數〕
○議長（公爵徳川家正君） 三分ノ二以上ト認メマス、仍テ原案通リ可決セラレマシタ（拍手起ル）
○議長（公爵徳川家正君） 是ニテ第二讀會ヲ終リマス
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス
○子爵植村家治君 贊成
○議長（公爵徳川家正君） 西大路子爵ノ動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス
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○議長（公爵徳川家正君） 本案ノ第三讀會ヲ開キマス、本案全部第二讀會ノ決議通リニ議決スルコトニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔起立者多數〕
○議長（公爵徳川家正君） 起立者三分ノ二以上ト認メマス、仍テ第二讀會ノ決議通リ決シマシタ（拍手起ル）
○議長（公爵徳川家正君） 内閣總理大臣ヨリ發言ヲ求メラレテ居リマス、吉田内閣總理大臣
〔國務大臣吉田茂君登壇〕
○國務大臣（吉田茂君） 只今本院ニ於テ憲法改正案ガ可決セラレマシタ、此ノ機會ニ政府ヲ代表致シマシテ一言御挨拶ヲ申述べタイト思ヒマス、去ル八月二十六日衆議院ヨリ送付セラレマシタ憲法改正案ガ本院ニ上程セラレマシテ以來、本會議委員會等ヲ通ジ、議員各位ガ終始愼重且熱心ナ御努力ニ對シマシテハ、心カラ政府ト致シマシテ敬意ヲ表スル次第デアリマス、申ス迄モナク本案ハ新日本建設ノ礎石ヲ築キ、世界平和ヲ招來セムトスルモノデアリマシテ、本院ニ於ケル議員各位ノ御發言ハ、即チ國民ノ知識階級ノ總意ヲ代表スルモノトシマシテ、内外ニ反響ヲシ、本案ノ意義特色ヲ能ク内外ニ了解セシメタコトト確信シテ疑ハナイノデアリマス、誠ニ欣快ニ堪ヘナイ所デアリマス、本案ハ是ヨリ更ニ衆議院ノ審議ニ付セラレルコトトナルノデアリマスルガ、茲ニ議員各位ノ御努力ニ對シテ、政府ト致シマシテ感謝ノ意ヲ表スル次第デアリマス（拍手起ル）
○議長（公爵徳川家正君） 是ニテ帝國憲法改正案ヲ議了致シマシタ
「憲法改正案以外の案件の審議部分につき省略」
