4 集団的な安全保障と日米安全保障条約

 世界の安全保障や日本の安全保障を考えるに当たっては、冷戦終焉後、唯一の覇権国になった米国と同盟し、軍事力によりグローバル秩序の障害物を排除して平和秩序を維持していく構想と、国連憲章が想定する集団安全保障はまだ実現されていない状況ではあるが、国際連合を中心にし、また大国が自己規制をすることによって、平和秩序を維持していく構想という、二つが軸になると言われている。

 世界の安全保障や日本の安全保障の考え方について、

  • 法律が遵守されるためには実行力が必要で、警察を不要と思う者はまずいない。国際社会も同様で、いかに自国の安全と世界の平和を守っていくか、現実を見据えた上でしっかりと憲法上もその制度を構築していくべき、
  • 日本の包括的な安全保障という概念を再構築し、その中で平和主義をきちんと確認しつつも、深刻な国家的脅威にいかにして的確に対処するかということが求められている、
  • 地球上から一切の紛争がなくなり、テロリストもいない理想の社会が来ることを皆が願っているが、現実に9.11以降の世界では、米軍を含めすべての政策はテロとの戦いに向かっており、理想は理想として、現実を見据えた具体論が必要、

などの意見が出され、一方、

  • 日本が恒常的戦力によらずに安全保障を図ることが可能な時代が到来しつつあるとの立場を表明しているが、これは、9条の完全実施の前進・発展(日本共産党)、
  • 相手方が平和政策を導き出すための軍縮と核の廃絶、非核構想地帯と多国間の安全保障条約、その基底にある平和的生存権と人間の安全保障ということを考えている。非武装中立論は、国連全体に法治システムが完遂したときに実現すると考える(社会民主党)、

などの意見も出された。

集団安全保障

 国連憲章は、平和に対する脅威に対し、加盟国は有効な集団的措置をとるものとし、個別の武力の威嚇又は行使を慎むとしている。これは個々の国家の自衛権行使をできるだけ少なくし、国際社会が協力して対処していくことを意味するが、国連憲章が想定する完全な集団安全保障はまだ実現していない。

 国連の集団安全活動への参加については、

積極的に考えるべきとの意見
  • 党の憲法調査会中間報告(平成16年)は、憲法に、国連安保理又は国連総会の決議による正統性を有する集団安全保障活動には関与できることを明確にし、地球規模の脅威と国際人権保障のために日本が責任を持ってその役割を果たすことを鮮明にすべきとしている(民主党)、
  • 50年間に日本は大きく発展し、国際的な責任と役割が増大し、国際的な安全保障に関して責任ある態度を取らなければならない。今、日本に求められていることは、国連憲章に基づく集団安全保障への参加について議論を展開することである、
  • 国連憲章上の国連軍はまだできておらず近い将来できる見通しもないが、国際社会における軍事的な実力の行使は国連の警察的機能に一元化し、すべて国連の意思決定に従って行うという理想を失ってはならない、
  • 集団安全保障措置の確立こそを日本の使命とすべきであり、集団的自衛権の行使を認めることはこれと相反する、

などの意見が出される一方、

慎重に考えるべきとの意見
  • 軍事的安全保障における集団主義は、現実の国際社会で普遍的なものになっているわけではなく、国連軍は有名無実になったとまで言われており、この点は慎重であるべき、

などの意見も出された。

日米安全保障条約

 国際社会において米国の力が圧倒的になった中で、日米同盟の在り方はいっそう重要な課題となっている。日米安全保障条約には、日本の安全保障と地域の安全のための貢献という二つの目的があるが、今後は後者の比重が高まり、この部分における日本の役割分担が求められていると言われる。

 日米安全保障条約については、

積極的に評価する意見
  • 日米安保体制は日本の防衛のために必要であるとともに、世界1・2位の経済大国であり、ODAの二大供与国でもある日米両国が協力関係を維持することは、アジア太平洋地域のみならず、世界の平和と繁栄のためにも重要であるとの観点から、今後とも日米安保条約を基軸とした日米間の協力関係の維持に努めるべき(公明党)、
  • 日本は、米国に次いで世界をリードする経済力を持つほか、違いを認める文化を持ち、文化面で世界に貢献できれば、世界は変わる。ここに日米同盟の新たな意義があり、日米同盟は、世界のために強化されなければならず、世界平和の基軸となる、
  • アジアでは冷戦は完全に終結しておらず、日米同盟を基軸として一定の軍事力を保有しつつ、米国の軍事的プレゼンスを維持することにより勢力均衡を維持し、地域紛争の勃発を抑止し、不必要な軍拡競争を回避することが求められる、

などの意見が出される一方、

消極的に解する意見
  • 日米安保条約を廃棄し、米国を始めすべての国との対等・友好の関係を結び、非同盟諸国に参加して平和・中立・非同盟の道を進むことを提起している(日本共産党)、
  • 日米安保条約は不磨の大典ではなく、同条約10条により、片方が条約終了の意思を通告した後1年で終了するほか、国連が承認をし、日米両国政府が認めた安全保障体制ができれば終了するということも頭の中に入れておくべき、

などの意見も出された。

 なお、

  • 日本の自衛力で不十分な場合、日米安保条約に依存することも政治の選択として正しいが、相互条約であることから、米国の安全保障に協力する面が出てくることは否定できず、その範囲について議論を深めることが必要、

などの意見も出された。

地域安全保障

 アジア諸国と平和構築のため協力していくことは、日米関係、国連関係と並んで重要との意見があり、議論が行われた。

  • 日本は東アジアの不戦や地域協力と統合のために最大限の役割を果たすべきであり、これを憲法上の原則として規定することは、アジアの人々の日本に対する疑心暗鬼をなくし、日本の新しい出発に理解を得るためには欠かすことができない、
  • 長期的視点からは、東アジア地域での安全保障の枠組み構築に日本は積極的に取り組むべきであり、それが憲法の示す道である、
  • 日本、中国、韓国、ロシア、モンゴルにより、軍事面だけでなく、経済的結び付きを中心にした東アジア地域の安全保障のフォーラムをつくるべきであり、その前段として日本・南北朝鮮・モンゴルの間で非核地帯条約を結び、地域の信頼醸成を図るべき、

などの意見が出された。

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