6 国際貢献(PKOなどの国際平和活動、ODAなどの国際協力)

 日本が、国際社会の一員として、国際平和活動やODAを活用するなど国際協力に積極的に取り組むべきことは本憲法調査会における共通の認識となっているが、国際貢献について憲法上明記するか否かについては、意見が分かれた。さらに、PKOや国連の決定に裏打ちされた多国籍軍などにも積極的に参加するかどうか、軍事面についても貢献を行うかどうかについては、これを積極的に推進すべきとする意見と、非軍事力による国際貢献に限るべきとの意見とに分かれた。

国際貢献の在り方

 現行憲法の下では、一国平和主義ではなく国際平和への責務を負うことは、自国のことのみに専念してはならないという前文にも明らかなところであり、国際貢献の在り方について、議論が行われた。

 国際貢献を積極的に行うべきという点については、意見が一致したが、憲法上明記すべきとの点については意見が分かれた。

国際貢献について憲法への明記を検討すべきとの意見
  • 党の論点整理(平成16年)は、平和への貢献を行う国家となるべきとの観点から、自衛権や国際協力、国際貢献のルールをどこまで新憲法に書き込むか検討するとしている(自由民主党)、
  • 日本が国際平和活動や国際協力に、より主体的、能動的に取り組んでいくためには、国民一人一人の理解が不可欠であるとともに、国家の基本法たる憲法本文に国際協力の理念や国際機構の活動への参加を明記することが必要、
  • 前文の国際協調主義、平和主義を具体的に書いた項目が憲法中になく、どのような国際協調主義かという条項がないので、新たに章立てをし、国際協力・国際協調を明記すべき、
  • 国際貢献・国際協力への対応が9条改正の中で取り上げられなければならない、
  • 日本の責務としての国際貢献について、前文で十分との意見もあるが、前文は政治宣言的な意味合いが強く、日本の責務としての国際貢献・国際的な安全保障における関与について、具体的条文に盛り込まれることが必要、
  • 日本の国際貢献は地球村の一員として当然の責務であり、自衛隊も含め、NGO、NPO、市民団体等様々な形態の人道支援、ODAを通じた非軍事的な協力等が考えられ、国際貢献又は国際協力として新たに条項を設けて規定してもよい、

などの積極的な意見が出された。

 具体的な貢献手段については、軍事的協力まで視野に入れるか、非軍事的協力に限定すべきかで意見が分かれ、

軍事的協力まで視野に入れるべきとの意見
  • 日本は、国連による平和維持・平和構築活動に積極的に参加するとともに、国連決議に基づいた正当な目的のために行われる活動に対しても可能な限り協力を行うことを検討すべき。これは、現9条の下においても十分可能である、
  • 冷戦後の世界情勢を見ると、安保理の決議を受けた多国籍軍の活動や武力行使を伴うPKOが増えているが、これらの努力は貴重であり、日本も積極的に参加していくべきであり、日本が果たせる国際貢献の理想的な在り方の一つと考える、

などの意見が出される一方、

国際貢献は非軍事的協力に限定すべきとの意見
  • 9条は、戦争違法化という20世紀の流れを示した国連憲章に合致し、更に前に進めるという点で誇り得るものであり、このような憲法を持つ日本は、核兵器廃絶、南北問題の解決、環境破壊の防止など、非軍事の分野で国際的な平和貢献を積極的に行うべき。9条は国際貢献の足かせどころか日本が独自の積極的役割を果たすためのものになる、
  • 日本の最大の課題である世界平和のための国際貢献の基本は国際交流を深めることにあり、国際交流は国民参加の下で進めなければならず、そこで一番重要なことは世界の人々に来てもらうことである、

などの意見も出された。

PKOなどの国際平和活動

 国際法上、国際紛争解決の手段としての武力行使は正当化し得ないが、国連軍やPKOが行う活動は、国際的公共的な性格を持ち、安全保障理事会の決定と国際連合の指揮の下で行われる。このことから、PKOや国連の集団的軍事措置への参加をめぐっては、国際法上正当とされる武力行使であれば日本も参加すべきとの意見がある一方、この場合でも非軍事的な貢献に限るべきとの意見がある。

 このような問題や貢献の在り方について、

日本は積極的にPKOなどに参加すべきとの意見
  • 憲法の平和主義の原則は、一国による武力行使の放棄と国連主導の集団安全保障への積極関与の2点と考えるが、後者は国連の実力部隊の行動に参加するということである、
  • 日本は、国連による平和維持・平和構築活動に積極的に参加するとともに、国連決議に基づいた正当な目的のために行われる活動に対しても可能な限り協力を行うことを検討すべき。これは、現9条の下においても十分可能である、
  • 冷戦後の世界情勢を見ると、安保理の決議を受けた多国籍軍の活動や武力行使を伴うPKOが増えているが、これらの努力は貴重であり、日本も積極的に参加していくべきであり、日本が果たせる国際貢献の理想的な在り方の一つと考える、
  • 日本は、平和構築に対し積極的にかかわる機能まで持つに至ったPKOや、国連の意思決定に裏打ちされた多国籍軍に、責任を持って積極的に参加すべき、

などの意見が出される一方、

自衛隊派遣を中心とする国際貢献は疑問との意見
  • 侵略や人道法の大規模な侵害を阻止、鎮圧する国連の軍事行動には、武力を伴うものであってもできるだけ参加すべきとの主張もあり、傾聴に値するが、軍事的安全保障における集団主義は、現実の国際社会で普遍的なものになっているわけではなく、国連軍は有名無実になったとまで言われており、この点は慎重であるべき、
  • 9条のために日本は国際貢献を果たせないというが、自衛隊派遣だけが国際的貢献ではなく、日本が国際的に協力できる分野は、政治、経済、人的協力など各分野にわたり多面的なものがあり、自衛隊派遣抜きの国際協力・国際協調はあり得ないとする最近の議論は、一面的である、
  • 国際貢献には賛成であるが、なぜ自衛隊でなければならないかという点には疑問を持つ。中国を始めとするアジア諸国は、自衛隊が強大になることを歓迎しない、

などの意見が出された。

 また、派遣される実力組織について、

自衛隊の中から派遣すべきとの意見
  • 自衛隊のPKOの活動については、自衛隊とは別組織をつくり派遣すべきとの意見もあるが、日ごろの訓練による危機管理能力や装備の整備の点から考えても、自衛隊の中での派遣が妥当、

などの意見が出される一方、

別組織を派遣すべきとの意見
  • 日本がPKOや国連の意思決定に裏打ちされた多国籍軍に参加するための部隊は、日本の主権の行使に携わる自衛隊でなく、自衛隊と別組織の国連待機部隊とすることがよいと考える、

などの意見が出された。

 さらに、武器使用の基準について、

  • 国連ないしこれに準ずる国際的なスキームの下での派遣にあっては、目的に照らして合理的な範囲で武器使用を認める方向で法により明確化すべき、
  • 海外でそれなりに危険な地域で活動するのであるから、武力行使と区別された武器使用の基準を自衛隊の活動の実態に即して考えることが喫緊の課題、

などの意見が出された。このほか、

  • 日本もPKO訓練センターをつくり、一般人、ジャーナリスト、NPOの人等が恒常的に訓練を受ける機会を持つことが重要、
  • PKO活動に当たっては、何時どのようなときに撤退するか、その理念を持つことが重要、

などの意見が出された。

ODAなどの国際協力

 世界の平和保障は、経済問題の解決をなくしては成り立たず、特に、南北問題や貧困などの解決が不可欠であることは憲法調査会における共通の認識と言える。これらの問題を解決するには、国家間で多様な経済的・社会的援助がなされることが重要であり、我が国もODA(政府開発援助)として、開発途上国の経済・社会の発展や福祉の向上に役立つように資金・技術提供を行っている。

 ODAをはじめとする国際協力の問題に関して今後取るべき姿勢として、

  • 日本は、ODAを戦略的に活用し、また、紛争地域の平和構築に国際社会と協力して積極的に貢献していくべきであり、このような国際貢献の分野については、経済的貢献のみならず人的貢献、知的貢献などその総力を挙げて取り組むべき、
  • 自らの繁栄を平和で安全な世界の自由貿易体制に依存する日本は、国際社会共通の課題に応分の負担や協力を果たしていく責務があり、国際社会における長期的な国益につながる国際協力を打ち切ったり、性急に削減すべきではない、

などの意見が出された。

 また、現在ODAの有効性に疑問が呈されていることに関連し、

  • ODAについては、国民の間に不信感が満ちており、評判が良くない面もあるが、積極的に予算を増やしていく必要がある、
  • ODAについては、政府全体としての戦略がなく、各省庁が縦割りで行っているが、日本全体としてODAを活用すべきであり、ODAが削減されている現状は全く逆行である、

などの意見が出された。

 さらに、その他の国際協力について、

  • 青年海外協力隊を国際協力という視点でもっと重視すべきであり、政府が予算も付けて大きく発展させるべき、
  • 草の根無償資金は顔の見える支援であり、現地のニーズに強く、対応が難しい小規模な案件に即応できるが、海外のNGOが主たる対象であり、日本のNGOが対象となる場合も予算規模が見劣りするので、日本のNGO育成のために、政府を挙げて総合戦略を持って取り組むべき、

などの意見が出された。

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