第4部 まとめ
本調査会は、国会法の規定に従い、「日本国憲法について広範かつ総合的に調査」を行い、憲法の各論点について、様々な意見が出された。その結果、共通の認識が得られたものもあれば、見解が分かれたものもある。したがって、このまとめは最大公約数的なものであり、詳細は本報告書及び本調査会会議録を参考にされたい。
なお、日本共産党及び社会民主党は、本調査会を憲法改正の足がかりにすることが許されないとの立場から、本調査会に参加し議論を行ってきており、ことさらに論点を設定し「共通の認識」などと意見をまとめ方向付けすべきではないとしている。しかし、本まとめにおいては、両党の意見を含んで整理することとした。
(※ 印及び関係条文は、憲法のどの条項に関わるものであるかを明らかにするため、付したものである。)
I 主な論点のうち共通またはおおむね共通の認識が得られたもの
共通の認識が得られたものとは、5党(自民、民主、公明、共産、社民)で意見が一致している意見である。なお、党又は党内の一部に若干の異論がある認識については、「おおむね」を付した。いずれも本文では、太線のアンダーラインを付している。
- (1) 三大基本原則(国民主権、基本的人権の尊重、平和主義) (※ 前文、第9条、第11条、第97条関係)
- 憲法の三大原則は、戦後半世紀以上の年月を経て、我が国に定着しており、これを今後も維持すべきであるとするのが共通の認識となっている。
- (2) 現行憲法の果たしてきた役割
- 現行憲法は基本的に優れた憲法であり、戦後日本の平和と安定、経済発展に大きく寄与してきたと高く評価する意見が共通であった。
- (3) 国民主権の堅持・発展 (※ 前文関係)
- 「国民主権」の原則を今後も堅持し、さらに発展させていくべきであることは、共通の認識であった。
- (4) 象徴天皇制の維持 (※ 第1条関係)
- 戦後60年の歳月の中で、現在の象徴天皇制は定着し、今後も維持すべきことは、おおむね共通の認識であった。
- (5) 公的行為 (※ 第7条関係)
- 国事行為には該当しないが純粋な私的行為ともいえず、公的な意味がある行為(「公的行為」)が存在することは、おおむね共通の認識であった。
- (6) 女性天皇 (※ 第2条関係)
- 女性天皇を認めることについて、おおむね共通の認識があった。
- (7) 平和主義の堅持 (※ 前文、第9条関係)
- 平和主義の意義・理念を堅持すべきことは、共通の認識であった。
- (8) 第9条第1項の維持 (※ 第9条第1項関係)
- 戦争の放棄を定める第9条第1項の維持はおおむね共通の認識であった。
- (9) 個別的自衛権 (※ 第9条関係)
- 我が国が独立国家として個別的自衛権を有することを認めることは、共通した認識であった。
- (10) 自衛のための必要最小限度の組織の必要性 (※ 第9条関係)
- 自衛のための必要最小限度の組織が必要であることには、おおむね共通の認識があった。
- (11) シビリアン・コントロール (※ 第9条関係)
- シビリアン・コントロール(文民統制)は重要であるということがおおむね共通の認識であった。
- (12) 国際連合の重視と改革の必要性 (※ 第98条第2項関係)
- 国際連合を重視するが、安全保障理事会をはじめ改革が必要であることは、おおむね共通の認識であった。
- (13) 国際貢献への姿勢 (※ 前文関係)
- 日本が、国際社会の一員として、国際平和活動やODAを活用するなど国際協力に積極的に取り組み、行っていくべきことは共通の認識となっている。
- (14) ODAなどの国際協力(※ 前文関係)
- 世界の平和保障は、経済問題の解決をなくしては成り立たず、特に、南北問題や貧困などの解決が不可欠であることは、共通の認識と言える。
- (15) 基本的人権の重要性 (※ 第11条、第97条関係)
- 憲法三大原則の一つである基本的人権の重要性を評価し維持することについて共通の認識があった。
- (16) 国際人権法の尊重 (※ 第11条、第97条、第98条第2項関係)
- 国際人権法を尊重すべきことは共通の認識であった。
- (17) 女性や子供、障害者、マイノリティの人権の尊重 (※ 第14条関係)
- 女性や子供、障害者、マイノリティの人権について、これらを尊重すべきことは、共通の認識であった。
- (18) 外国人の人権の尊重 (※ 第14条関係)
- 外国人の人権を基本的には保障すべきという点ではおおむね共通の認識があった。
- (19) 社会権の重要性 (※ 第25条~28条関係)
- 社会保障、教育、労働等の重要性は今後も変わらず、国はその保障に努力すべきというのが共通の認識であった。
- (20) 新しい人権の保障 (※ 第13条、25条関係)
- 新しい人権については、原則として、憲法の保障を及ぼすべきであるということが、共通の認識であった。
- (21) 三権分立 (※ 第41条、65条、66条、69条、76条、81条関係)
- 三権分立の重要性・必要性はこれからも変わらないというのが、共通した認識であった。
- (22) 二院制と参議院の在り方 (※ 第42条関係)
- 小委員会報告書で示された共通認識、すなわち、(1) 二院制の堅持、(2) 両院の違いの明確化のための、参議院改革の必要性及び選挙制度設計の重要性、(3) 参議院議員の直接選挙制の維持、(4) 参議院が自らの特性をいかして衆議院とは異なる役割を果たすべきこと(長期的・基本的な政策課題への取り組み、決算審査及び行政監視・政策評価の充実など)、(5) 現行憲法の衆議院の優越規定はおおむね妥当であり、両院不一致の場合の再議決要件の緩和には慎重であるべきこと、については本調査会で確認された。
- (23) 議院内閣制 (※ 第66条、69条関係)
- 衆参両院を基盤とした議院内閣制であるべきことがおおむね共通の認識であった。
- (24) 特別裁判所の設置の禁止 (※ 第76条第2項関係)
- 特別裁判所の設置の禁止については、これを維持すべきとするのがおおむね共通の認識であった。
- (25) 司法の迅速化等 (※ 第32条関係)
- 司法の迅速化を進めるとともに、裁判の充実を図っていく必要性については、共通認識があった。
- (26) 私学助成の必要性 (※ 第89条関係)
- 私学助成が必要であることは、共通の認識である。
- (27) 決算 (※ 第90条関係)
- 参議院の決算重視は共通の認識であった。
- (28) 国と地方との関係 (※ 第92条、94条関係)
- 地方分権が進む中、国と地方の関係は、国が地方を支配監督するという従来の関係ではなく、対等な関係であるべきとするのが、おおむね共通した認識であった。
- (29) 地方財政 (※ 第94条関係)
- 国と地方の対等な関係を実現し、地方が真に自立するためには、健全な財政基盤が不可欠であることは、共通の認識であった。
- (30) 住民自治の強化 (※ 第93条関係)
- 地方自治が住民の意思に基づいて行われるべきことは共通の認識であった。
- (31) 基礎的自治体の強化 (※ 第92条、94条関係)
- 地方分権の流れの中で受け皿となる基礎的自治体を強化すべきことについては、共通の認識があった。
- (32) 地方分権 (※ 第92条、94条関係)
- 地方分権を推進していくべきことは共通の認識である。
- (33) 国民投票法制 (※ 第96条関係)
- 憲法改正手続における国民投票については、その重要性にかんがみ、維持すべきとの共通の認識があった。