第153回国会 参議院憲法調査会 第3号


平成十三年十一月二十一日(水曜日)
   午後一時開会
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   委員の異動
 十一月七日
    辞任         補欠選任
     松村 龍二君     桜井  新君
     松岡滿壽男君     椎名 素夫君
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  出席者は左のとおり。
    会 長         上杉 光弘君
    幹 事
                市川 一朗君
                加藤 紀文君
                谷川 秀善君
                野沢 太三君
                江田 五月君
                高橋 千秋君
                山下 栄一君
                小泉 親司君
    委 員
                愛知 治郎君
                荒井 正吾君
                景山俊太郎君
                近藤  剛君
                斉藤 滋宣君
                桜井  新君
                陣内 孝雄君
                世耕 弘成君
                中島 啓雄君
                舛添 要一君
                松田 岩夫君
                松山 政司君
                大塚 耕平君
                川橋 幸子君
                北澤 俊美君
                小林  元君
                角田 義一君
                直嶋 正行君
                堀  利和君
                松井 孝治君
                柳田  稔君
                魚住裕一郎君
                高野 博師君
                山口那津男君
                宮本 岳志君
                吉岡 吉典君
                吉川 春子君
                大脇 雅子君
                福島 瑞穂君
                平野 貞夫君
   事務局側
       憲法調査会事務
       局長       桐山 正敏君
   参考人
       最高裁判所事務
       総局総務局長   中山 隆夫君
       最高裁判所事務
       総局行政局第二
       課長       増田  稔君
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  本日の会議に付した案件
○日本国憲法に関する調査
 (国民主権と国の機構)
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○会長(上杉光弘君) ただいまから憲法調査会を開会いたします。
 日本国憲法に関する調査を議題といたします。
 本日は、国民主権と国の機構に関する憲法判例について最高裁判所当局から説明を聴取した後、質疑を行います。
 なお、発言は着席のままで結構でございます。
 まず、最高裁判所当局から説明を聴取いたします。最高裁判所事務総局総務局長中山隆夫君。
○参考人(中山隆夫君) 最高裁事務総局総務局長の中山隆夫でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 本日は、今、会長の方からお話がございましたように、国民主権と国の機構に関する憲法判例について説明を求められました。それで参上いたしました。御説明には、本来であれば担当局長であります行政局長が最適任でございますけれども、本日、よんどころのない事情により出席いたしかねますので、私が参った次第でございます。
 ただ、私には専門外であり、いささか荷が勝ち過ぎるところがございますので、担当局の第二課長の隣に座っております増田稔を同道いたしました。御質問によりましては、増田の方から御説明申し上げることを御理解願いたいと存じます。よろしくお願い申し上げます。
 それでは、座ったままで失礼してよろしゅうございますでしょうか。
○会長(上杉光弘君) どうぞ。
○参考人(中山隆夫君) 本論に入らせていただきます。
 まず、裁判所の機構等について簡単に御説明申し上げたいと思います。
 日本国憲法のもとにおきましては、司法権はすべて裁判所に帰属するとともに、立法権は国会に、行政権は内閣にそれぞれ帰属するとされております。そして、各国家機関がその権限を行使するに当たって行き過ぎるのを防止するため、三権相互の抑制と均衡を図る三権分立制度が採用されております。
 本日、お手元にお配りしております資料のうち、その十一がその仕組みを図にしたものでございます。
 このように、裁判所は三権の一翼である司法権を行使し、具体的な事件の処理を通じて国民の権利を守るという重大な使命と職責を与えられておりますが、裁判所がこのような使命を全うするためには、個々の裁判が法以外のいかなる勢力や権力からも拘束されないことが必要であり、そのための制度的裏づけとして憲法上、司法権の独立が保障されているわけでございます。
 さらに、裁判所には、憲法上、国会が制定された法律や行政機関の命令等について、それが憲法に適合するか否かを審査する権限が認められております。いわゆる違憲審査権と呼ばれているものでございますが、後に御説明申し上げます最高裁判所の違憲判決はこの権限に基づくものでございます。
 そして、さきに述べました三権分立制度との関係では、この違憲審査権は、司法が立法または行政の権限行使をチェックする役割を果たしていることになります。他方、立法については、弾劾裁判という形で司法に対するチェックを行い、また行政につきましては、最高裁判所長官についてはその指名、最高裁判所判事については任命を行い、その他の下級裁判所の裁判官につきましては、指名権が認められている最高裁判所の作成した名簿の中から内閣が任命するという形で司法に対するチェックを働かせ、相互に抑制と均衡を図ろうとしているものでございます。
 以上のような使命や権限を担う裁判所は、我が国の憲法及び法律上、最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所及び簡易裁判所の五種類とされており、法律で定められた管轄の範囲内で各裁判所がそれぞれ事件の処理等を行っているわけであります。
 なお、裁判所の数を御紹介いたしますと、資料にございます最初に「ホワット・イズ裁判所?」というパンフレットがございますが、そこの二ページをごらんいただきたいと思います。そこに今申し上げました五つの裁判所がございますが、最高裁判所は、これは当然のことながら一つであり、東京にしかございませんけれども、高等裁判所は全国に八庁、地方裁判所及び家庭裁判所はそれぞれ五十庁、支部につきましては二百三庁、簡易裁判所は四百三十八庁となっているわけであります。
 そして、正しい裁判を実現するために三審制度、すなわち第一審、第二審、第三審の三つの審級の裁判所を設け、判断の内容に不服がある当事者は上訴の手続により不服申し立てができることとなっているわけでございます。
 それでは次に、憲法調査会の幹事会の御依頼に基づきまして、国民主権と国の機構等に関する最高裁判決について御説明させていただきます。
 ただ、あらかじめお断りしておきたいのですけれども、最高裁判所はこれから御説明する裁判をした当事者という立場にございますので、私といたしましては、裁判の内容の当否と評価にわたる事項や今後出される裁判の予測等については御説明はいたしかねるところでございます。憲法理論の是非につきましても同様でございます。したがいまして、判決文にあらわれている客観的な事実関係と判決内容のみを御説明させていただくことになりますので、先生方には隔靴掻痒の感を抱かれるかと思いますが、御了承のほどよろしくお願い申し上げます。
 法令等の合憲、違憲という憲法判断をした戦後の最高裁判決は多数ございます。その中で何を主要な判例と見るかは、論者によって区々さまざまであります。
 資料一をごらんいただきたいと思いますが、そこに法律雑誌等で戦後の主な憲法裁判例と紹介されているものを一覧表にしたものでございます。次に、資料二をごらんいただきたいと思います。これは、今申し上げました資料一の裁判例の中から、憲法調査会幹事会の方で「国民主権と国の機構」というテーマにふさわしいものとして選定された五件の判決、そのほか代表的な違憲判決等として選定された十一件の判決等でございます。これらにつきまして、ただいまから順次御説明させていただきます。
 国の機構といいますと、憲法において国権の最高機関と位置づけられている国会を思い浮かべるわけでございますが、国会と国民主権ということになりますと、いわゆる一票の格差をめぐる多数の判決がございます。この点については、衆議院、参議院、それぞれ一件ずつ選定されておりますので、御説明申し上げます。
 まず、資料の二ページにございます①の「衆議院議員定数配分規定違憲判決」でございます。
 この判決は、一票の格差が最大約五倍となっていた衆議院議員の定数配分規定につきまして、一票の格差が憲法十四条一項等の要求する選挙権の平等に反する程度になっており、しかも合理的期間内に是正がされなかったので違憲であるとしたものであります。
 なお、この判決は、衆議院議員選挙を無効とすることにより、直ちに違憲状態が是正されるわけではなく、かえって憲法の所期しない結果を生ずるような事情があるとして、その選挙が違法である旨を主文で宣言した上で、選挙を無効とする旨の判決を求める請求は棄却いたしました。
 次に、資料二の三ページにあります②の「参議院議員定数配分規定訴訟判決」であります。
 こちらの方は、一票の格差が最大六・五九倍となっていた参議院議員の定数配分規定につきまして、その格差は憲法十四条一項等の要求する選挙権の平等に反する程度にはなっていたけれども、合理的期間内に是正がされなかったものとは言えないとして、違憲と断ずることはできないとしたものでございます。
 また、衆議院は新たな民意を問うために解散されることがありますが、かつて衆議院の解散が有効か無効かが争われたことがございます。それが四ページの③の「苫米地事件判決」であります。
 この判決は、衆議院の解散は極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であるから、その有効無効を審査することは裁判所の権限外にあると解すべきであるといたしました。
 次に、最高裁判所裁判官の国民審査に関する判決を御説明申し上げます。
 次ページの④の「最高裁裁判官国民審査事件判決」であります。
 この判決は、最高裁判所裁判官の国民審査は、裁判官を罷免すべきか否かを決定する趣旨の制度であり、裁判官の任命を完成させるか否かを審査するものではないから、白票を積極的に罷免する意思を有するものではない者の数に入れるとしている最高裁判所裁判官国民審査法の規定は憲法に違反しないとしたものでございます。
 次に、六ページの⑤、「条例罰則規定事件判決」をごらんください。
 これは一言で申しますと、罰則を定めた条例が有効か無効かが争われた事件であります。
 この事件は、街頭での売春勧誘行為等について罰則を定めた条例に違反したとして罪に問われた者が、条例に一般的かつ抽象的に罰則の制定を授権した地方自治法の規定及びこれに基づいて制定された本件条例は憲法三十一条に違反して無効であるとして、無罪を主張した事件であります。
 最高裁は、地方自治法は具体的かつ限定的に刑罰を定めることを条例に委任したものにすぎず、憲法三十一条に定める手続によって刑罰を科すものということができるので、本件条例は違憲ではないといたしました。
 ここで、資料二のまた一枚目をごらんいただきたいと思います。
 「国民主権と国の機構」というテーマで幹事会の方から説明を求められましたものは今申し上げました五つの判決でありますが、国会で制定されました法令等の合憲、違憲を判断する裁判所の違憲立法審査権も国の統治機構における重要な作用であり、最高裁の違憲判決等についても説明を求められましたので、幹事会の方で選定されたその余の十一件の判決等について御説明申し上げます。
 まず、最初の「警察予備隊違憲訴訟判決」であります。資料二の七ページにございます。
 この訴訟判決は、我が国の違憲審査権の性格について言及いたしました、いわば違憲審査の土俵を明確にした判決でございます。
 この事件では、国会議員が原告となって、警察予備隊の設置や維持に関して国が行った法令の制定等の一切の行為が無効であると主張し、その確認を求めて直接最高裁に訴えを提起したものであります。先ほども申し上げましたとおり、本件は、最高裁判所が具体的な事件に関係なく抽象的に法令等の合憲、違憲を判断することができるのかという点が最初の争点となった事件でした。
 最高裁判所は、法律、命令等に関して有する違憲立法審査権は、司法権の範囲内においてのみ行使されるものであって、具体的事件を離れて抽象的に法律、命令等が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有するものではないとして、そのような訴えを求めることはできないと判断いたしました。
 続きまして、法令や処分が違憲であるとされたその他の十件の判決ないし決定を順次説明させていただきます。
 先ほど御説明した①の「衆議院議員定数配分規定違憲判決」においても、違憲であるとの判断がされておりますことを改めて申し上げておきたいと思います。
 それでは、資料二の八ページの⑦、「自白調書有罪認定違憲判決」から御説明申し上げます。
 自白の偏重あるいは自白の強要といった弊害を防ぐため、憲法三十八条三項は、本人の自白が唯一の証拠である場合には有罪とすることはできないと規定しております。本件は、ここに言う「本人の自白」の意義が問題となったものであります。
 本判決は、被告人の第一審の公判廷における供述、自白及び被告人の警察官に対する尋問調書中の供述、自白は、いずれも憲法三十八条三項に言う「本人の自白」に該当するから、裁判所が事実認定をするに当たり、これら以外に自白を補強する証拠なしに有罪認定をすることは許されないといたしました。
 次に、次ページの⑧、「強制調停違憲決定」でございます。
 裁判所が、戦時民事特別法という法律に基づきまして、家屋の明け渡し請求事件を職権で調停に付したのですが、調停がまとまらなかったため、調停にかわる決定をしたという事件に関するものであります。この調停にかわる決定は非公開の手続で行われたわけですが、そのことが裁判の公開を定めた憲法八十二条等に違反するか否かが争点となったものであります。
 本判決は、当事者の意思いかんにかかわらず、終局的に事実を確定して当事者の主張する権利義務の存否を判断する裁判は、公開の法廷における対審及び判決によってなされなければならないというのが憲法八十二条の趣旨であり、本件の決定は、家屋の明け渡し請求権という権利義務の存否が争われている事件について終局的になされた裁判であることから、この事件について非公開の手続で審理判断したことは違憲であるとしたものであります。
 次に、十ページの⑨、「第三者所有物没収違憲判決」でありますが、これは、貨物を密輸した罪により被告人から貨物を没収いたしましたが、その貨物には第三者の所有物も含まれていたところ、その第三者たる所有者に告知、弁解、防御の機会を与えずに没収を行ったのは、財産権を保障した憲法二十九条、さらに適正手続を保障した憲法三十一条に違反するとしたものであります。
 十一ページの⑩の「余罪量刑考慮違憲判決」でありますが、これは、起訴されていない犯罪事実で、被告人の自白以外に証拠のないものをいわゆる余罪として認定し、これをも実質上処罰する趣旨のもとに重い刑を科すことは、適正手続を定めた憲法三十一条に反するし、かつ、被告人の自白だけでは有罪とすることができないとする憲法三十八条三項にも違反するとして違憲としたものでございます。
 次に、十二ページの⑪の「偽計自白有罪認定違憲判決」でありますが、これは、捜査段階におきまして妻が被告人との共謀の事実を供述していませんのに、検察官が被告人に対し、妻が共謀の事実を供述したとうそを告げて被告人に自白をさせた事件についてであります。このような偽計によって被告人が心理的強制を受け、その結果、虚偽の自白が誘発されるおそれがある場合には、偽計によって獲得された自白はその任意性に疑いがあるから証拠とはできないと解すべきであって、このような自白を証拠に採用することは憲法三十八条二項に反するとしたものであります。
 次の⑫の「高田事件判決」であります。これは、弁護人の要望もあって併合予定の別件の審理を優先したところ、その審理が予想外に長期化したため、結果的に第一審で十五年余にわたる審理の中断があった事件でありますが、このように長期間にわたり全く審理が行われなかったことは、迅速な裁判を受ける権利を保障した憲法三十七条一項に違反するのであって、その審理を打ち切るという非常救済手段をとることも認められるとしたものであります。
 十四ページの⑬、「尊属殺重罰規定違憲判決」でありますが、これは、被告人が実の父親を殺害した事案で、親などの尊属を殺害した場合について規定しておりました当時の刑法二百条は、その法定刑が死刑または無期に限定されている点において余りに厳しいものであり、普通殺人に関する刑法百九十九条の法定刑に比較して著しく不合理な差別的取り扱いをするものであって、法のもとの平等を定めた憲法十四条一項に違反するとしたものであります。
 十五ページの「薬事法距離制限規定違憲判決」は、薬事法の規定に基づき薬局等の配置の基準を定めた条例の距離制限規定は、過当競争による不良医薬品の供給の防止等を目的として定められたものではあるけれども、距離制限はその目的のために必要かつ合理的な規制とは言えないから、職業選択の自由を定めた憲法二十二条一項に違反するとしたものであります。
 十六ページの「森林分割制限規定違憲判決」は、森林の共有者は、共有物の分割を認めた民法の規定にかかわらず、共有している森林の分割を求めることができないと定めていた森林法の規定について、この分割制限規定の目的は、森林の細分化を防止することによって森林経営の安定を図り、もって国民経済の発展に寄与するという点にあるが、そのように森林の分割を制限することは、その立法目的との関係において合理性も必要性もないとして、財産権を保障した憲法二十九条に違反し、無効であるとしたものであります。
 十七ページの「愛媛玉串料訴訟違憲判決」でありますが、愛媛県が靖国神社や護国神社に対して公金から玉ぐし料等を支出したことが政教分離の原則に違反するかが争点となった事件でありますが、県が玉ぐし料等を支出したことは、県が特定の宗教団体とのみ意識的に特別のかかわり合いを持ったことを否定することはできず、政教分離を定めた憲法二十条三項、八十九条に違反するとしたものでございます。
 御依頼のございました裁判例についての御説明は以上でございますが、外国の憲法裁判制度についても簡潔に説明せよという御依頼がございましたので、英米独仏の制度につきまして簡単に御説明させていただきます。
 資料三という二枚紙をごらんください。
 一枚目の英米独仏の制度を見ますると、特別の憲法裁判所制度を有するのはドイツだけでございます。アメリカは、日本と同様、通常の裁判所が具体的事件を前提として憲法判断を行う仕組みとなっており、イギリスとフランスではそもそも裁判所は違憲審査権を有しておりません。
 なお、ドイツの憲法裁判所の制度につきましては、次に別紙をつけてございますが、ドイツの憲法裁判所では、通常の裁判所が具体的事件について適用しようとする法律が違憲であると考えるときは、その手続を中止して憲法裁判所に判断を求めることになっております。そして、このような具体的事件に伴う違憲判断、合憲判断とは別に、連邦政府、州政府、あるいは連邦議会議員の三分の一からの申し立てがあれば、具体的事件と離れて、法令が違憲であるかどうかの判断をする抽象的違憲審査の制度が設けられております。また、公権力によって憲法上の基本権を侵害された者は、一定の要件のもとで、対象となった法律や処分等の合憲性の審査を申し立てることができるともされているところであります。
 以上が憲法関係のものでございますが、我が国の司法の実情についても概略を説明していただきたいという御依頼がございましたので、これについても簡単に御説明申し上げます。
 まず、地裁の第一審の事件数について御説明させていただきます。資料四をごらんいただきたいと思います。
 資料四は、地裁の民事訴訟事件の推移を示しております。訴訟事件の数につきましては、社会情勢、経済の規模、景気、法曹人口等さまざまな要因により影響を受けるものでありますが、ごらんいただけばおわかりになりますように、長期的に見ますと大幅に増加してきており、平成十二年度は新受件数が十五万六千八百五十件に上っております。
 また、地裁の刑事訴訟事件については、資料五にありますように、戦後の社会状況を反映して昭和二十四年、二十五年がピークとなり、一たん減少した後、増減を繰り返しながらほぼ横ばいで推移しておりましたが、昭和五十年ころから増加傾向になり、昭和六十年ころからは減少に転じたものの、最近は再び増加傾向になってきております。平成十二年は新受事件数が九万四千百四十人で、近年で最も多くなっております。
 次に、平均審理期間を見ますると、資料四に戻っていただきたいと思いますが、地裁の民事訴訟事件につきましては、昭和四十八年の十七・三カ月をピークとしておおむね短縮傾向にあり、平成十二年では八・八カ月まで短縮されました。これは、運用レベルにおきまして裁判所が中心となり争点整理や集中証拠調べを行うとともに、これらが国会における御審議を経て新民事訴訟法として結実し、平成十年にこれが施行されたことによるものと思われます。
 また、地裁の刑事訴訟事件については、資料五にございますように、昭和四十九年には六・六カ月でございましたが、これをピークとして年々短縮され、平成十二年度は三・二カ月、起訴から判決までが三・二カ月ということになっております。
 民事訴訟事件、刑事訴訟事件、いずれにつきましても非常に長いというような御批判があるところは承知しておりますが、実はこの平均審理期間について見ますれば、国際的に見て遜色のない水準にあると言ってよいと思われます。一部に非常に長くかかっている長期係属事件というのがございますが、これを見たものが資料六と七でございます。民事、刑事とも、昭和四十年代後半をピークに大幅に減少していることがおわかりになるかと思います。
 しかしながら、地裁の民事訴訟事件については、争いがあって証拠調べをして終了した事件、あるいは公害訴訟のように訴訟当事者が極めて多数の大型事件、医事関係事件などのような専門的事件、これらは解決までに依然として長期間を要しておりますし、刑事訴訟事件についても、件数はごくわずかでありますが、御承知のオウム事件のように極めて長期間を要する例もあるわけでございます。今後、このような長期間を要している事件について、さらにこれを短縮化していくということが裁判所に課せられた課題であるというふうに認識しております。
 次に、資料八が裁判官の数の推移を示したグラフでございます。
 裁判所としては、事件数の変動あるいは事務処理形態や事務処理体制の変化など諸要素を総合的に考慮して確実に増員を行ってまいりました。平成十三年度の定員は、裁判官は三千四十九人であり、裁判官以外の裁判所の職員は二万二千四十七人となっております。
 資料九が、最高裁の年間受理件数の推移を示したものでございます。
 戦後しばらくは刑事事件が非常に多く、民事・行政事件が少ないという状況が続いておりましたが、その後逆転し、民事・行政事件が刑事事件の数を大きく上回っております。また、最近は民事・行政、刑事ともに増加傾向にございます。
 民事・行政事件につきましては、最高裁の負担を軽減し、本来最高裁が担っている憲法判断や最終審としての判断を示して法令の解釈を統一するという重大な機能をより一層充実強化しようとする観点で、さきに申し上げました平成十年一月一日施行の新民事訴訟法におきまして、最高裁に対する上告の理由が大きく制限されることになりました。
 その結果でありますけれども、上告事件の平均審理期間は平成九年には九・五カ月であったものが平成十二年には五・四カ月、行政上告事件のそれは平成九年に十三・八カ月であったものが平成十二年には七・四カ月と大幅に短縮され、また未済事件のうち係属後一年を超えるものの割合が減少するなど、事件の重さに応じた事件処理の効果が徐々にあらわれつつあるのではないかと考えております。
 以上が御依頼のございました事項についての御説明でございます。御質問がございましたらお受けいたしますが、先ほども申し上げましたように、裁判例につきましては、最高裁判所は判決をしたいわば当事者でございますので、その当否や評価といった点については申し述べることは差し控えさせていただきたいと思います。そのあたりは、そのような評価等を専門にしていらっしゃる憲法の学者の方々が大勢いらっしゃると存じますので、そちらの方にゆだねることにいたしまして、裁判所としては客観的な事実関係や判決文の内容等についてわかる範囲でお答えさせていただきたいと思います。
 以上でございます。ありがとうございました。
○会長(上杉光弘君) ありがとうございました。
 以上で説明の聴取は終わりました。
 これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。谷川秀善君。
○谷川秀善君 自由民主党の谷川秀善でございます。
 ただいまは、最高裁の中山総務局長さんから「国民主権と国の機構」に関する憲法判例についてお話をお聞かせいただき大変参考になりましたが、私は、かねがね現在の最高裁判所が本当に憲法の番人と言えるかどうか大変疑問に思っておる一人でございます。
 憲法第八十一条では、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と規定されております。したがって、最高裁判所の大変大きな任務の一つは、国会や内閣の制定した法令が憲法に違反していないかどうかを審査することであると思っております。この規定によりまして最高裁判所が法令審査権の最終裁判所であるというわけですから、地方裁判所も高等裁判所も当然法令違憲審査権を持っていることになります。
 そこで、二、三お伺いをいたしたいと思いますが、地方裁判所や高等裁判所がある法令を憲法違反であると判断したにもかかわらず最高裁判所が合憲と判断した場合、こういう例が過去に幾つかあったと思いますが、もちろんその場合には最高裁判所の判断が優越されるわけですが、人間が判断することですからそんなに大きな差はないと思われるんです。そうすると、特に学説上通説と言われているものが下級審の違憲判決を支持するものである場合、最高裁が違った判断をした場合、最高裁判所の判断の法解釈に私は疑問が残るのではないかな、こう思っておるんですが、中山さんはどうお考えでございましょうか。
○参考人(中山隆夫君) 大変厳しいお言葉をいただきました。今のお言葉をお聞きして、最高裁はこれまで以上にその役割を果たすについて心していかなければならないなという感を抱いたわけであります。
 地方裁判所や高等裁判所がある法令を憲法違反であると判断したものの中には、今の御質問にもありますように、学説により支持されているものもございますが、最高裁判所といたしましては、法令等が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所として、そのような下級裁の判断や学説を十分に踏まえた上で、あらゆる側面から総合的に検討し、最終的に法令が違憲であるか否かを判断しているものでありまして、そのような検討を経た上で、必要がある場合にはちゅうちょすることなく毅然としてその権限を行使してきたものと考えております。
 以上でございます。
○谷川秀善君 やっぱり信頼だと思うんですね。だから、国民が最高裁判所の判断を本当に信頼できるというような努力をこれからもお続けいただきたいというふうに思います。
 それで二つ目でございますが、日本の裁判は、今の御説明でも大分裁判の期間が、ずっと時間がかからなくなっておりますけれども、昔からよく言われますね、裁判は非常に長いと。なかなか結果が出ないということをよく言われるわけですが、例えばある案件で十年かかったとしますね、その裁判が。そして、最高裁判所で最終的にその件が法令の違反、違憲だと判断されたとしますね。そうすると、法令ができてから違憲だと判断されるまでに十年かかるわけですね。そして、その違憲の法令が十年間ずっと適用されていると。こういう非常に何というか不合理な現象が続くわけですね。
 この点について、どうお考えでございましょうか。
○参考人(中山隆夫君) 先ほども御説明いたしましたけれども、我が国の裁判所は具体的事件を前提として、その解決に必要な範囲で憲法判断を行うといういわゆる付随的審査制というものを採用しているところであり、そのため、具体的な事件で問題とされない限り、法令等が違憲であるかどうかは裁判所は判断を示すことができません。そのため、結果的に違憲の法令が長期間放置されるという事態も起こり得るところであります。また、訴訟につきましては、第一審判決後、控訴審を省略して直ちに上告するという跳躍上告の制度も認められておりますけれども、原則として三段階の審級制度を採用しているところです。
 憲法違反の有無を争点とする訴訟について、最上級審である最高裁まで争われることになれば、これまたある程度の審理期間を要することになるのはシステムとしてやむを得ない面もあろうかと思われます。しかし、委員が問題点として御指摘になるように、憲法違反の法令が長期間適用される事態というのは決して好ましいことではございません。
 そこで、裁判所は、下級裁も含め、憲法論が争点となっている訴訟については、ひときわその審理の充実あるいは迅速化のために努力してきたところでありますが、今後もさらに努力を傾けていきたいと考えているところであります。
 以上です。
○谷川秀善君 できるだけ審査を迅速にやっていただいて、そのギャップが余り生じないようによろしくお願いを申し上げたいと思います。
 ただいま中山さんの方からお話がございましたが、我が国の違憲審査というのは、おっしゃったように具体的な事件が起こって初めて裁判を通じて発動されるということになるわけですね。例えば、自衛隊法が憲法違反であると考えて、裁判所に自衛隊法が憲法違反であるのではないかと訴えても、裁判所はそれを受けつけてくれませんね。具体的にどんな事件が起こって、どんな条項が憲法違反なのかどうかを提示しなければならないわけですね。
 自衛隊法の前身である警察予備隊法が制定をされたときに、当時の左派社会党が同法令の違憲性を求める、最高裁判所にその判断を求めましたけれども、最高裁判所は、「我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない。」ということで門前払いしていますね。
 だから、いわゆる日本の裁判所は結局、ただいま御説明あったようなドイツの裁判所のように、違憲だけを裁判する機能を現在持っていないわけですね。具体的な事例がなければ違憲判断をする機能を持っていない。だから、私はむしろ、これは憲法改正の問題にも絡むと思いますが、憲法判断だけをする、専門にする裁判所といいますか、これに特化してはどうかと思っていますが、中山総務局長はどうお考えでございましょうか。
○参考人(中山隆夫君) お答え申し上げます。
 いわゆる憲法裁判所を設けることを初め、最高裁判所に憲法判断に特化した機能を付与するか否かにつきましては、今御指摘のありましたように現行憲法の改正を含む制度のありようの問題でありまして、裁判所としてそれを是とかあるいは非とする、コメントする立場にはないことは御理解いただきたいと思います。
○谷川秀善君 だから、やっぱり裁判はその事件だけに判断するわけですね。
 例えば、尊属殺人の判断が違憲だということで四十八年に違憲判決が出ました。結局、平成七年までずっと刑法は改正されませんでしたから、尊属殺人の規定は生きていたわけですね。何か具体的にはある段階で、いわゆる起訴をする場合でも普通殺人で起訴しておられたようで、そのギャップはある程度司法の方で埋めていたのではないかと思いますが、この場合やっぱりある程度司法の方で早く、この場合は刑法の改正でございますが、早くしないと、これは四十八年から平成七年というのは大変な期間ですね、その辺についてどうお考えでございましょうか。中山参考人。
○参考人(中山隆夫君) 今、御質問の中にもございましたように、我が国では付随的違憲審査制をとっております。当該事件の解決に必要な限りで違憲審査を行うということにしておりますことから、違憲判決の効力もその当該事件に限って効力を持つ、いわゆる個別的効力説というのが通説とされております。もっとも、個別的効力といいましても、他の国家機関、立法機関あるいは行政機関は、最高裁判所の違憲判決を尊重すべきであるというふうに言われているところであります。
 そのような観点からいえば、違憲判決が出されましたときに、その執行に当たる行政機関においてその条項を適用しないようにし、あるいは法令の制定機関によって速やかにその廃止または改正がされる、それが一番好ましいことであろうとは考えております。
○谷川秀善君 いろいろ問題があろうと思いますが、そういうことで最高裁判所、国民が皆信頼をして期待をしているわけでございますので、どうぞよろしくお願いを申し上げて、私の質問を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。
○会長(上杉光弘君) 高橋千秋君。
○高橋千秋君 民主党・新緑風会の高橋千秋でございます。貴重な機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
 私は法律家ではございませんので初歩的な質問になるかもわかりませんが、お許しをいただきたいと思うんですけれども、最高裁判所というと、私たちからすると非常に縁遠い、余り縁がない方がいいのかもわかりませんが、非常に縁遠いところだなというふうに思っております。
 その中で、幾つかの違憲判決、合憲判決、それぞれここに事例をいただきましたけれども、非常になかなか難しい判断を迫られているなというふうに思いますが、幾つか具体的なことでお伺いをしたいなというふうに思います。
 その中で、きょういただいた資料の中に「主な憲法裁判例年表」というのがありますけれども、この中に、ナンバーの二十四番、二十七番、三十八番それぞれに、全逓東京中郵事件判決、それから都教組事件判決、それと全農林警職法事件判決というのがあります。
 これは、基本的な部分というのは労働基本権の部分のことについての判決なんですけれども、きょう午前中の本会議の中でも給与二法というのが通りました。人勧のことが通ったんですけれども、私、昨日、総務委員会の中でもこの全農林の警職法事件判決について少し触れたんですが、人事院勧告というのが、そもそも日本の今の公務員に対しては労働基本権というのが認められていない、それの代償措置として人事院勧告制度というのがあるということになっています。
 ただ、先ほど申しましたこの三つの判例、これはそれぞれかなり違うわけですね。一番最初の方からいくと、三つの段階に分かれるというふうな説明があるんですけれども、特に全逓の東京中郵事件判決のときに、この労働基本権について、制約的ではありますが少し認めるような判決が出ている。一方で、全農林警職法の方では、これについては認めないというような判例が出ているわけであります。ただ、この全農林の警職法のときには裁判官の中でかなり反対意見もあって、僅差でそういうことが通ったというふうに聞いております。
 確かに難しい問題ではありますけれども、この件について、意見は述べられないということで再三にわたって念押しをされましたので、具体的な、客観的なことで結構ですけれども、この件についてまずお伺いをしたいと思います。中山さんの方にお願いします。
○参考人(中山隆夫君) 行政局の担当の課長が参っておりますので、事案の内容はむしろ行政局の課長からと思っております。よろしゅうございますでしょうか。
○会長(上杉光弘君) それでいいですか。
○高橋千秋君 はい、わかりました。
○参考人(増田稔君) それでは、御指摘のありました三件の判決につきまして、客観的な概要を私の方から御説明させていただきます。
 まず一件目でございます。全逓東京中郵事件判決について御説明させていただきます。
 この事件は、被告人らが全逓信労働組合の役員として東京中央郵便局の職員に対して勤務時間内に行われる職場集会に参加するよう説得しまして、現に三十八名の職員を職場から離脱させたとして郵便法違反の罪、具体的には郵便物の取り扱いをしない等の罪の教唆犯として起訴された事件でございます。
 この事件につきまして、最高裁判所は、争議行為が労働組合法一条一項の目的を達成するためのものであり、暴力の行使その他不当性を伴わないときは正当な争議行為として刑事制裁の対象とはならないが、そうでない場合には郵便法の罰則が適用され、これを教唆した者は共犯になるという、こういう判断をしております。
 続きまして都教組事件でございます。
 この事件は、都教組の幹部でありました被告人らが公立学校の教職員たる組合員に対しまして勤務評定実施に反対する一斉休暇闘争の指令を配布しまして、闘争への参加を呼びかけた行為が地方公務員法上禁止されている争議行為のあおり行為に当たるとして起訴された事件でございます。
 この事件につきまして、最高裁判所は、地方公務員法を文字どおりに解することは労働基本権を保障した憲法の趣旨に反するので、処罰の対象になるものは争議行為及びあおり行為の違法性が強いものに限られるとしまして、この事件について無罪判決を言い渡しております。
 続きまして、全農林警職法事件の判決について御説明いたします。
 この事件は、全農林労組の幹部でありました被告人らが内閣の警職法改正法案の衆議院提出に反対する運動の一環といたしまして正午出勤行動の指令を出しまして、また職場大会において職員に対し争議行動をあおったとして起訴された事件でございます。
 この事件につきまして、最高裁判所は、公務員の地位の特殊性と職務の公共性を根拠といたしまして、公務員の労働基本権に対し、必要やむを得ない限度の制限を加えることは十分合理的な理由があると言うべきであるとした上で、財政民主主義の観点から、公務員の勤務条件の決定に関して、政府が国会から適法な委任を受けていない事項について公務員の争議行為は的外れであること、公務員の争議行為には市場の抑制力がないこと、労働基本権の制限に対して、人事院を初めとする適切な代償措置が講じられていることから、国家公務員法による争議行為及びそのあおり行為等の禁止は憲法二十八条に違反せず、また争議行為及びあおり行為のうち違法性が強いもののみを処罰の対象とする不明確な解釈は憲法三十一条に違反する疑いがあるといたしまして、従前の判例を変更して被告人らを有罪としたものであります。
 以上、長くなりましたが、三件の判決について御説明させていただきました。
○高橋千秋君 御説明のとおりだと思うんですが、この判例は同じ内容についてかなり判決が変わった大きな例ということで有名な判決だそうなんです。
 公務員自体、勤労者には変わらないわけで、自分の給料はやっぱり自分たちで交渉して決めるべきだということだと私は思うんですが、そのことに対して、国民への奉仕者ということで基本権が認められていないわけでありますけれども、それのあくまでも代償措置としてこの人勧、人事院の制度、ほかにもありますけれども、代償措置でこれを制約しているということなんです。
 今、行革推進本部の中で公務員制度改革自体が見直されようとしています。この中で、先ほど申しました代償制度の人事院勧告自体の力というのを弱める方向にあるというふうに聞いているんですけれども、そうなると、またそこを基本としてきた、代償制度を基本としてきたわけですので、判例自体が今後、まだ訴訟されていないわけですからわかりませんが、判例自体が変わっていく可能性もあると思うんですが、裁判官がこの全農林の事件のときはごろっとかわったということで判決がかなり厳しくなったというふうに聞いているんですが、そのことについてはいかがでございましょうか。
○参考人(増田稔君) 先ほど総務局長が御説明しましたとおり、判決の憲法理論の当否でありますとか、評価、位置づけに関することに関しましては事務当局の方からコメントすることは難しい問題でありますので、御了承をいただきたいと思います。
○高橋千秋君 わかりました。
 なかなか意見は述べにくいんだと思うんですけれども、私はかなり問題をまだまだ含んでいる判例の幾つかだと思うんですけれども、意見が言えないということですのでなかなか質問が難しいんですが。
 ほかに、今回御説明いただいた中で、衆議院、参議院のそれぞれの定数の問題があります。投票者の平等性という問題で、きょういただいた中には幾つか出ておりますが、私は直近の中で、平成十二年九月六日に判決が出ている参議院議員定数配分規定違憲訴訟、これの判決について、簡単で結構ですが御説明いただけますでしょうか。
○参考人(増田稔君) 判決の内容に関してのことでありますが、私の方から御説明させていただきます。
 まず、参議院に関するものといたしまして、平成十二年九月六日の大法廷判決について御説明させていただきます。
 この事件は、平成十年七月十二日に行われました選挙区選出の参議院選挙につきまして、選挙人が、公職選挙法の規定によると一票の格差が最大四・九八倍に及んでおり、この規定が憲法十四条一項等に違反して、これに基づいて行われた選挙は無効であると主張しまして選挙の無効の判決を求めた事案でございます。この事件につきまして、最高裁判所は、本件選挙当時の一票の格差は憲法上看過することができないと認められる程度には達していないとして、定数配分規定は違憲ではないとしたものでございます。
 次に、衆議院に関するものといたしまして、平成十一年十一月十日の大法廷判決について御説明させていただきます。
 この事件は、平成八年十月二十日に行われました衆議院選挙について、選挙人が、公職選挙法の規定によると一票の格差が最大二・三〇九倍に及んでいて、この規定が憲法十四条一項等に違反して、これに基づいて行われた選挙は無効であると主張して選挙の無効の判決を求めたものでございます。この事件について、最高裁判所は、本件選挙当時の一票の格差は一般的に合理性を有するとは考えられない程度に達しているとまでは言うことができないとして、定数配分規定は違憲ではないとしました。
 以上が定数訴訟についての最新の最高裁の判決でございます。
○高橋千秋君 先ほど谷川委員の方からも質問がありましたけれども、時間がかなり短くなってきているとはいうものの、やっぱりかなりの時間がかかっているわけですよね。この定数訴訟についても、訴訟が行われて結局判決が出るころには当事者はもうほとんどいないというような状況が続いているように思います。
 その意味でも、これはつい最近も中選挙区の復活というような話もありましたけれども、これについてもまた違憲訴訟のようなものが出るのかもわかりませんが、その防止効果だとか、いわゆるもっと事前から意見を言うようなことも必要なのではないかなと思うんですが、なかなか今の話では具体的な訴訟がない限り出せないということがありましたけれども、そうであれば、先ほどの時間の問題、もっとやっぱり早くしていくべきだろう。それから、最近、ヤコブの和解の件とかハンセン病のことだとかいろいろありますけれども、これらについても、先ほどの選挙の話ではありませんが、既に訴訟を起こした方が亡くなってしまっているということがかなりあるわけですね。
 ですので、やはり私は、一般の人から見ると何でこんなに時間がかかるんだと。確かにいろいろな調査をしてかなりの資料をつくってやっていかなければいけない。それから、裁判については本当に中身を十分吟味しなければいけないということから、時間がかかるのはある程度はやむを得ないにしても、やはり当事者がもういなくなってしまって何のためにやっているのかわからない、判例をつくるためだけの訴訟になっているような気もするんですが、この件について、中山さんの方からお答えいただけますでしょうか。
○参考人(中山隆夫君) 今、御指摘がありましたように、司法は新しいほど芳しいという言葉もありますけれども、早目早目に紛争処理の役割というものを果たしていかなければお話のようなことになってしまうだろうと思っております。
 そのために、裁判所としましては、適正な裁判を実現するのはこれは当然のことでありますが、さらに迅速な裁判を実現しようということで種々工夫をしてまいりました。その結果が、先ほど先生方には意外に思われたかもしれませんけれども、例えば民事の訴訟事件では一審の平均審理期間が八・八カ月、刑事では三・二カ月、こういうような状況にもなってきているところであります。
 ただ、今御指摘がありましたような医事関係訴訟というものを一つ取り上げてみますと、これは三十五・八カ月まだかかっているというのが実態であります。平成二年、十年前はこれが四十二・八カ月でしたから、その間かなりの努力をしてきた結果は御理解いただけるかというふうには思いますけれども、今後はこういった専門的な知見を要する事件、これについてどういうふうに対応していくかというのが最大の課題であります。
 そこで、一例としては、この医事関係事件、ことしの四月から東京地裁、大阪地裁、あるいは十月から千葉地裁において医療過誤を専門に扱うそういった集中部をつくりました。さらには、お医者さんの鑑定人がなかなか得られない、こういうところもございましたので、この七月に医療の専門家も参加して鑑定人などの推薦をするための全国的な委員会システム、医事関係訴訟委員会というものを最高裁に設置し、あらゆる面からそういったものに対応してまいろうと考えているところでございます。
 今後とも、そういった努力を続けてまいりたいと思っています。
○高橋千秋君 さらに努力していただくことをお願いして、質問を終わりたいと思います。
○会長(上杉光弘君) 次に、魚住裕一郎君。
○魚住裕一郎君 公明党の魚住裕一郎でございます。このような御質問の機会を与えていただきまして、感謝申し上げます。
 中山総務局長が権力分立の中での御答弁をいたしまして感謝申し上げますが、論憲という立場で、よりよき裁判所制度にしたいということで何点か質問をさせていただきたいと思います。
 先ほど判例を御紹介していただきました。一番、二番が衆議院そして参議院の定数配分の訴訟判決となっているわけでありますが、一つは事情判決で請求は棄却するという形、そしてまたもう一つは立法裁量論で内容的に退けているということでございますが、やはり程度問題、不平等の程度問題もありますし、また是正に要する期間というものも具体的に見ていかなきゃいけない問題だろうと思います。
 裁判所の判断に基づいて、例えば衆議院においては区画定審議会ですか、あるいはよりよく格差是正のために中選挙区制を復活させるべきだというような提案もなされておりますし、また参議院においても、昨年定数削減をした上で格差を少しでも軽くしていこうというような努力をしているわけでありますが、そういう最高裁の判断に基づいて立法府としても努力をしておりますが、ただそれが間に合わない場合、やはり判断をせざるを得なくなってくるんだろう。
 そういう場合には、状況によりますけれども、やはりいつまでも事情判決あるいは立法裁量論で退けていってしまうと、国民主権を本来生かすべき制度のあり方について司法の役割も放棄してしまうことになってしまうのではないか、そういうような疑問を持つものでございまして、事情判決なり立法裁量論の射程というのはどの辺まで考えておくべきか、この点について御教示いただきたいと思います。
○参考人(増田稔君) 判決の内容にかかわることでありますので私の方から御説明させていただきますが、最後にありました判決の射程距離というものは判決の評価に直結するところでございますので、最高裁の判決において具体的にどのような説示がされているかということを御説明させていただいて、答弁とさせていただきたいと思います。
 まず、立法裁量論の点でございますが、本日冒頭に御説明させていただきました資料二にございます①の衆議院議員定数違憲判決に基づいて説明させていただきますが、この点についてこの判決は、選挙制度というものは、選挙された代表者を通じて国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし、他方、政治における安定の要請をも考慮しながら、それぞれの国においてその国の事情に即して具体的に決定されるべきものであって、我が国の憲法も議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし、両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的な決定は原則として国会の裁量にゆだねているとしております。
 続きまして、定数の不平等の状態が生じた場合の是正のための合理的期間に関しましての説示でございますが、この点につきましては、人口の異動は不断に生じ、したがって選挙区における人口数と議員定数との比率も絶えず変動するのに対して、選挙区割りと議員定数の配分を頻繁に変更することは必ずしも実際的ではなく、また相当でもないことを考えると、人口の変動の状態をも考慮して、合理的期間内における是正が憲法上要求されていると考えられるのに、それが行われない場合に初めて憲法違反と断ぜられるべきものと解するのが相当であるとしております。
 最後に、事情判決の法理でございますが、定数訴訟において選挙無効の判決をした場合には、これによって直ちに違憲状態が是正されるわけではなく、かえって当該選挙により選出された議員がすべて当初から議員としての資格を有しなかったことになる結果、それまでに成立した法律や予算の効力にも問題が生ずるほか、今後における衆議院の活動が不可能となって定数配分規定を憲法に適合するように改正することさえもできなくなるという明らかに憲法の所期するところに適合しない結果を生ずることから、事情判決の法理を一般的な法の基本原則に基づくものとして適用して、選挙は無効とはせずに違法の宣言をするにとどめるとしたものでございます。
 以上で説明とさせていただきます。
○魚住裕一郎君 説明を二回聞いたような感じもするけれども。
 判決をずっと先ほど教えていただいたわけでありますが、流れとして、高田判決ぐらいまでは旧憲法時の刑事事件をめぐる判断とか、あるいは新しい刑事訴訟法、あるいは新憲法の解釈の問題等、そういう問題が中心に議論されてきたのかな、その後、尊属殺以降は平等原則とか人権についての憲法判断、あるいは同時並行で公の制度、この定数の問題とかあるいは公金支出が政教分離原則に反するかどうか、そういうような何かちょっと判断の中身が変わってきたのかなというふうにも感ずるところであります。
 まとめて聞くと、非常に憲法判断もたくさんしているように聞こえますけれども、例えばことしの六月十二日の司法制度改革審議会の意見書の総論の中にも、憲法問題にも専念すべき体制をというような表現ぶりがあったかと記憶をしております。また、新聞等に佐藤幸治会長が、もっと本格的に取り組むべきではないかと、そういうような意見も述べていたというふうに思っております。
 司法制度改革審議会で憲法問題に専念できる体制をと言っている以上、裁判所も何らかの体制を考えていくべきではないかと思いますが、この辺の取り組みはどのようにお考えでしょうか。
○参考人(中山隆夫君) 司法制度改革審議会の意見書でそのような御指摘があることは承知しておりますし、それを受けて最高裁として心してまた対応していかなければならないというふうに考えておりますが、先般、憲法判断等が必ずしも十分に行われていない、それは民事上告事件等で非常に裁判官が忙し過ぎるからではないか、こういうようなことでございました。それが新民事訴訟法に基づきまして上告理由の制限といったところにつながったわけでありますが、先ほど御説明申し上げましたように、最高裁判所の民事事件の審理期間は大幅に短縮されてきているところであり、十分憲法判断等についてもできる体制ができてきているというふうに考えておるところであります。いましばらくそういった状況を見ることが肝要かなというふうに思っております。
 また、裁判所のシステムをどうするかということは、基本的に裁判所の方は法案提出権等はないものでございますから、国会等の方で、あるいは内閣の司法制度改革推進本部の方で御議論、御検討をいただく事柄であろうというふうに考えております。
 以上です。
○魚住裕一郎君 あと一分半ぐらいありますので、もう一問だけ。
 この司法制度改革審議会の意見に対して、行政訴訟についてのコメントが余りにも少なかったという御意見があります。確かに、事前規制あるいは調整型社会から事後監視・救済型社会、そういうふうになっていく中で、これは行政についてもやはり同じように考えていくべきではないか。あるいは、政治・行政過程において多数の意見は行政上に反映するわけですが、少数者の意見というのはやはり司法というか訴訟が利用されるのではないかというふうに思っておりますが、もちろん行政に代替し得るものではありませんけれども、この行政事件についてもできるだけ門戸を広くしておくべきではないかというふうに意見がございますが、この点についてはいかがでございましょうか。
○参考人(中山隆夫君) 審議会におきましても行政訴訟の問題が議論されました。
 そこでは、行政実体法あるいは行政手続法、両面にわたる問題があるというふうにされたところでありますけれども、今後、行政訴訟についてどうしていくかということは、より根本的には、司法権に対しどの範囲で行政権の判断を覆す権限を与えるかという三権相互の関係のあり方、あるいは権力分立のあるべき姿という国の制度の根幹にかかわる重要な問題であるというふうに考えております。
 しかし、いずれにしても、そのあたりは立法政策の問題であり、最高裁判所としてどうこうコメントする立場にないことは御了承いただきたいと思います。
○魚住裕一郎君 終わります。
○会長(上杉光弘君) 次は、吉川春子君。
○吉川春子君 日本共産党の吉川春子です。
 まず、違憲立法審査権の限界という問題について伺いたいんですけれども、統治行為論で憲法判断を避ける事例があるわけなんですけれども、この統治行為論とは一体何なのかということです。
 それで、この統治行為論の定義が非常にあいまいであれば、本来判断されなければならない憲法判断が避けられるわけですし、重大な憲法問題がすべて統治行為論で判断されないということにもなりかねないとすれば非常にゆゆしい問題であると思いますが、そういうことを防ぐためにも統治行為論というものをどのようにお考えですか。
○参考人(増田稔君) まず、統治行為論について御説明させていただきます。
 統治行為論とは、高度の政治性ある国家行為については、その有効無効の判断が法的に可能であっても、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負う政府、国会等の政治部門の判断、ひいては国民の政治判断にゆだねるべきであるとして、このような国家行為は裁判所の審査権の外にあるとする考え方でございます。
 こうした考え方は学説においても一般的に支持されているところでございまして、アメリカの判例理論においても同様の考え方がとられているところでございます。
○吉川春子君 いや、それで、それを統治行為論ということで、すべて重大な憲法問題が判断の対象外に置かれるということになったらまずいんじゃありませんか。
○参考人(増田稔君) 統治行為論につきましては、統治行為論を採用したと学説等で言われております最高裁判例としましては二件ございます。一つは、最初の、冒頭の説明で御説明いたしました衆議院の解散の有効無効が争われた苫米地事件でございます。もう一件は、砂川事件と言われている日米安全保障条約の憲法適合性等が争点になった事件でございまして、学説上、統治行為論を採用したと言われているのはこの二件のみでございます。
 我が国の、これは私の口から申し上げるには口幅ったいことではございますが、我が国の裁判官は、国民主権や三権分立といった我が国の憲法が採用している基本原理をも考慮に入れた上で、事件の解決のために必要がある場合にはちゅうちょすることなく毅然として違憲審査権を行使しているものと考えておりまして、統治行為論を用いて憲法判断を回避しているという批判は当たらないものと考えております。
○吉川春子君 統治行為論というか、一見極めて明白に違憲、無効でなければというか、いろいろ抽象的な問題については判断しないんだというか、いろいろな理由があるんですけれども、やっぱり裁判所は憲法判断を避けてはならないにもかかわらず、随分憲法判断を避ける傾向にあるというふうに言われているわけですね。
 それで、今いろいろ説明されましたけれども、違憲立法審査権というのは、要するに三権分立の例外なんですよ。行政や立法に対して司法としてチェックできるんだと、それが違憲立法審査権であり、旧憲法ではなかったわけでしょう。そういうものを、いや、何だかんだと言いながら避けるということは、そういう意味では違憲立法審査権をきちっと行使していないというか、それは司法の怠慢になってはならないと思うんですよね。そういう点はいかがお考えですか。
○参考人(中山隆夫君) かりそめにもそういったような事態に最高裁判所が陥っているということになりますと、これは大問題だろうと思っておりますが、そういった御批判があるということもまた私どもの方も承知しているところでありますし、今後とも、谷川委員の御質問にも答えたところでありますけれども、最高裁としてその与えられた、負託された権限をきちんと行使するように努力してまいりたいと考えております。
○吉川春子君 要するに、違憲立法審査権というものが司法に与えられているわけですから、それのらち外に置くものをいろんな理屈をつけてどんどん範囲を広げていく、そういうことであってはならないわけで、きちっとこれを行使しないと国民の人権が守られないからでしょう、要するに。だから違憲立法審査権というのは設けられているのであって、それを難しい政治判断を迫られるとかなんとかかんとか、そういう理由でやっぱり憲法判断の範囲を広めてはならない。それは八十一条の趣旨でもないと思いますが、どうですか。
 確認で結構です。
○参考人(中山隆夫君) それはまことにおっしゃるとおりだろうと思いますが、先ほど増田の方からも御説明いたしましたように、統治行為論というところで判断しているものは二件でございます。
 したがって、最高裁としてそれをむやみに広げてきているというような認識はないところは御了解いただきたいと思います。
○吉川春子君 統治行為論というのは一例なんですけれども、いろんな理由をつけるわけですよね、憲法判断を避けるときに。そういう憲法判断を避けないで、やっぱり新しい憲法のもとできちっと、制度として設けられた違憲立法審査権というものは地裁、高裁、最高裁含めて十分に活用して、仮にも人権侵害が起こらないように、そういう運用をするということが求められていると思います。
 それからもう一点、司法制度改革に関する裁判所の意見書を資料につけていただきましたけれども、実は国会の弾劾裁判所で公判廷でやっていることですので構わないと思うんですが、買春行為をした裁判官について弾劾裁判が今、係属中でございます。そして、この事例は、子どもの権利条約とかあるいは女性差別撤廃条約とか、女性や子供の権利を非常に侵害する事例でもって既に有罪判決を受けているわけですけれども、こういう人権あるいは国際条約、こういうものについて、裁判官についてきちっと教育するということが求められていると思うんです。
 これは、九八年の国連人権委員会から日本に対する最終意見の三十二パラグラフのところに、委員会は、国連の人権委員会は、裁判官、検察官及び行政官に対し、規約上の人権についての教育が何ら用意されていないことを懸念する。委員会は、かかる教育が得られるように強く勧告する。裁判官を規約の規定に習熟させるための司法上の研究会、セミナーが開催されるべきだ。委員会の一般的な性格を有する意見及び選択議定書に基づく通報に関する委員会の見解は、裁判官に提供されるべきだと、こういうふうに勧告もされているんですけれども、私は、その裁判官がきちっとした人権教育を受けていないのではないかというその事例ですね、というふうにも思うんですが、司法制度改革の中で裁判官に対する人権教育、それはどういうふうな改革を検討されておりますか。
○参考人(中山隆夫君) 裁判官は、それぞれ具体的な事件あるいは日常の社会生活を通して各自の自己研さんにより裁判官としてふさわしい人格、識見の涵養に努めているところでありますけれども、裁判所は、そのような自己研さんの一助とするため、司法研修所等で多くの研修を設けてきております。
 裁判官に対する人権問題に関する研修につきましては、従来から、令状実務に関する諸問題やあるいは少年事件に関する諸問題を取り上げた講義、共同研究などにおいてこのテーマについて言及してきたほか、人権擁護推進審議会の動き、あるいは国際人権規約、いわゆる同和問題やセクシュアルハラスメントなどの人権問題をテーマとした講義なども実施しているところであります。
 ここに来る前に、近年のカリキュラムを実際に見てまいりましたけれども、例えば平成十一年、十二年度は部総括、これは裁判長になった直後の研究会でありますけれども、それとか新任判事補の集中研修、これは裁判官になったばかりの者に対する講習でありますが、そこで国際人権規約を中心テーマとして取り上げ、大学教授による講義を行っております。また、支部長裁判官研究会、各支部の長たる裁判官に対する研究会におきましては、外務省人権人道課長よる講義等も行っているところでございます。
 裁判所としては、こういった研修をさらに充実していきたい、もって人権感覚豊かな裁判官を養成していきたいと考えているわけであります。
○吉川春子君 終わります。
○会長(上杉光弘君) 大脇雅子君。
○大脇雅子君 社会民主党の大脇でございます。きょうは御苦労さまでございます。
 裁判官の手持ち事件が非常に多過ぎるということで、非常に裁判が遅延をするとか、あるいは司法の強化のためにその障害になっているなどと言われるわけですけれども、大体、裁判官のケースの担当実数と、それから司法強化のためには一体何が必要で、障害になっている点はどのようなものがあるとお考えでしょうか。
○参考人(中山隆夫君) 委員御指摘のとおり、一時、バブル経済が平成三年に崩壊した後、事件が急増いたしました。それは、先ほどの資料をごらんいただいても、平成三年以降、民事訴訟事件が急激に伸びているというところをごらんいただけばおわかりになると思います。その結果、一時、東京地裁や大阪地裁の各民事部におきましては手持ち件数が三百件近くになったということもございました。しかし、その後着実に増員を進め、こういった繁忙庁に対して裁判官を増配置してきた結果、現在は大体二百件を切るくらいのものになっております。
 二百件も持っているのかということで、そんなことですべて頭に入るのかと、こう御心配になるかもしれませんけれども、実際に二百件ということになりますとどんなことになるかといいますと、新しく事件が来まして、まだ主張未整理のものが大体そのうちの五十件ぐらいということになります。また、判決に熟しているものが二十件程度、さらに証拠調べを行っているものが二十件程度、そのようなものにつきましては主張をそれぞれぶつけて戦わせている、必要によってその中で和解を進めているというものでありまして、現在の二百件を切るというところは、一審の裁判官、普通の裁判官におきますれば相当ゆとりがあるという状況でございます。今現在は、そういった状況にまずなってきております。
 司法を強固にするために何が障害となっているかということでございますけれども、このあたりにつきましては、先ほども民事事件について、公害事件のように極めて訴訟当事者が多い、あるいは医事関係のように専門性が非常に求められる、こういったものについては、例えば鑑定人をなかなか得られない、あるいは訴訟当事者の準備が必ずしも十分には進まないといったところで、相当程度事件が延びる傾向にあることは否めません。
 司法制度改革審議会では、そういうような状況を受けて法曹人口の大幅増加ということを打ち出されました。そうなりますれば、司法に対するアクセスは容易になり、かつまた、訴訟当事者の準備も格段に進むということになるんではないかというふうに期待しているところであります。また、裁判官についても増員ということで、今の現在の事件数を固定的に考えた場合でありますが、最高裁の方からは、五百人の増員をこの十年間で行う必要がある、そうすれば今現在の審理期間、証拠調べをしているものは大体二十カ月ぐらいかかっているのでありますけれども、それが一年でできるようになる、そういったところも考えていかなければならない問題だと思っております。
○大脇雅子君 最高裁は上告裁判所として、上告理由に憲法判断を求めるケースというものが上がっていっていると思うわけですけれども、憲法判断を求めているケースというのは上告の受理件数の中で大体何%ぐらいのものであるんでしょうか。
○参考人(中山隆夫君) 実際問題、憲法違反であるといったところを上告理由にしているものがどのくらいあるかというような統計はとっておりません。それから、無理して憲法違反であるというふうに結びつけて上告をしてくるものも相当多数ございます。
 お答えになるかどうかはわかりませんけれども、大法廷にどのくらいの事件が回付されているかというところで御説明申し上げますと、最近二年間、平成十一年は三十二件であり、それから平成十二年度は八件でございました。ちなみに、昭和二十五年は七十一件、昭和四十年は三十四件、昭和六十年は四十六件といったところでございます。
○大脇雅子君 受理件数が何千件という中で大法廷回付の件数、したがって新しい憲法判断をするケースというのは極めて少な過ぎるように思われるのですが、いかがでしょうか。
○参考人(中山隆夫君) 例えば、昭和二十五年は七十一件でございましたが、このあたりのときは新刑事訴訟法というものが施行されてまだ日が浅うございました。しかも、戦後の混乱期ということで、新憲法そのものもまだどういった解釈になるかといった状況がございました。そういった状況がそういった数の多さに反映してきている。
 それが今、比較的制度的な安定期を迎えて、既にかなりの問題について憲法判断がなされてきている。そういうところから回付件数は少し少なくなっているのかな、こういうふうに考えております。
○大脇雅子君 先ほど、統治行為論について質問がございましたが、少なくとも憲法判断を新たにする、ないしは変更するケースが少ないという理由には、一つには個別的なケースをもって判断をするというシステム、それからいわゆる統治行為論で行政裁量や立法裁量に対して非常に司法権の限界として位置づける、いわば禁欲的といい意味でいえば言えるのかもしれませんが、そうした態度というものが憲法と裁判所を遠くしているのではないかというふうに思うわけであります。
 先ほど、統治行為論では砂川事件と苫米地事件という二つのケースを言われましたが、昭和三十七年三月七日の大法廷の警職法改正無効事件というのは、やはりこのケースに入るのではありませんか。三件と記憶しているんですが、違いますか。
○参考人(増田稔君) 確認をさせていただきます。
 三十七年の何月ということで、あらかじめこちらで用意してある判決の中に、最初の説明で使用いたしました資料一というのがございますが、その中に含まれている判決でございましょうか。
○大脇雅子君 それは含まれているかどうか知りませんが、その三つの判決ということで、ただ、この三つの判決のいわば統治行為論というのは、例えば苫米地事件ですと、裁判所の審査の範囲外に政治問題はあって、その有効無効を一切判断しないとするものに対して、砂川事件は、一見明白に極めて違憲、無効が高度な場合というふうで、言ってみれば統治行為論でも根拠といいますか法的根拠が違うと思うんですが、裁判所はどちらの統治行為論に立たれているというふうに判断したらいいのですか。
 裁判官の会同等で、こういうことは議論されていることはないのでしょうか。
○参考人(増田稔君) まず、いわゆる統治行為論につきましてでございますが、衆議院の解散の有効無効が争われた苫米地事件におきましては、統治行為論という言葉自体は使っておりません。この判決について統治行為論を採用したというのは、それは憲法学者の評価でございまして、最高裁の判決自身では統治行為論という言葉自体は使っておりません。
 また、砂川事件の中では、この事件では、日米安全保障条約というのは主権国としての我が国の存立の基礎に極めて重大な関係を持つ高度に政治性を有するものであって、その内容が違憲なりや否やの判断というのは準司法機能をその使命とする司法裁判所の審査には原則としてなじまないとした上で、一見極めて明白に違憲、無効であるという場合には審査の対象になるという、そういう考え方を示しまして、苫米地事件の場合とはまた違った判断基準といいますか、どの範囲が審査の対象になるかというのは、苫米地事件と砂川事件で判決の内容に違いがあるのは議員御指摘のとおりでございます。
 裁判官の会同のことについて議員の方から御発言がございましたが、行政行為の憲法判断基準といいますか憲法判断のガイドラインのようなものについて裁判官の会同で協議したことはあるとは、私どもの方としては記録をたどってもないということでありますので、その点は御理解いただきたいと思います。
○会長(上杉光弘君) 大脇雅子君、時間が参っております。
○大脇雅子君 はい。私は、やはり憲法判断の回避の準則が極めて禁欲的過ぎるということを最後に申し上げたいと思います。
 三権分立の中で司法権のいわばきちんとした権威を確立し、国民のために憲法擁護の役割を果たすというためには、やはり果敢に、この姿勢を変えられる中で、国民の憲法上の権利を守っていくというようなスタンスで判断をしていただきたいということを最後に申し上げまして、終わります。
○会長(上杉光弘君) 平野貞夫君。
○平野貞夫君 自由党の平野でございます。
 引き続き、統治行為論といいますか、あるいは具体的事件を離れて抽象的に法律、命令等が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有するものではないという問題についてちょっと意見を聞きたいんですが、警察予備隊違憲訴訟の判決の中で、その理由として、司法権の範囲内においてその違憲立法権は行使されるものであると、こういうことを判決に書いてありますが、しからばその司法権とは何ぞやということなんですが、ちょっとそちらの方に。
○参考人(増田稔君) その司法権の定義につきましては、一般に言われているところでは、当事者間の具体的な権利義務の存否に関する紛争につきまして、法解釈を適用してこれを解決する国家作用であると、このように言われております。
○平野貞夫君 この参考といいますか、今お話しの憲法上の根拠として八十一条を引かれておるわけですが、この八十一条を素直に読みますと、「一切の法律、命令、規則又は処分が」云々となっています。
 ですから、素直に読みますと、一つは、一切の法律、命令、規則の条文について違憲かどうかを判断し、またはそれらの処分についても判断すると、こう読むのが素直な論理じゃないかと私は思うんですよ。それを、先ほどのように具体的な司法作用と言うのはちょっと論理的に問題があるんじゃないかと。むしろそれ自身が司法権の範囲だと、抽象的に判断することもですね、というのが僕は世界的な法理じゃないかと思うんですが、そこのところはもう意見聞きませんよ、皆さんが答える立場じゃありませんから。だから、ドイツでは認めているわけでしょう。しかも、これは条件はもちろんつけるべきでしょうけれども、そういう意見を申し上げておきます。
 それから二点は、国会議員の定数是正判決のことなんですが、昭和五十一年の判決、御紹介ありましたんですが、政治的に大騒ぎした判決が五十八年の秋ごろたしか出ていると思いますが、類似の判決だと記憶していますが、ちょっとそこを、五十八年の判決の簡単な概要、ポイントを教えてくれませんか。
○参考人(増田稔君) 議員御指摘の昭和五十八年の十一月七日に、最高裁の大法廷で衆議院の定数に関しての判決がございます。これは昭和五十五年の六月に実施されました衆議院選挙に関するものでございますが、最初の説明で申し上げましたが、昭和五十一年の最高裁判決で、定数の不均衡が違憲の状態にあって合理的期間を経過しているということで違憲だという判断を示しておりますが、その後、その判決が出る前でございますが、昭和五十年に公職選挙法が改正されまして定数の不均衡が是正されております。
 その結果、昭和五十五年の六月に行った選挙の当時におきましては格差が一対三・九四になっておりました。この点につきまして、最高裁判所におきましては、一対三・九四という格差については憲法の選挙権の平等の要求に反するという判断はいたしましたが、まだ公職選挙法の改正がされてから期間がそれほど経過していないということもありまして、合理的期間はまだ経過していないということで、この規定自体は憲法に違反するという言い方はしておりません。
 以上でございます。
○平野貞夫君 私はこの五十八年の判決を受けて衆議院の定数是正の立法事務をやった人間なんですが、もう本当に困ったのは、一体じゃ何倍にすればいいのかという論理なんですね。
 そこで、この問題は現在も続いているわけですが、しかし選挙制度が大幅に変わりましたので改めて確認するんですが、現在、最高裁の判決は、衆議院では何倍なら合憲、参議院なら何倍なら合憲という判断ですか。
○参考人(増田稔君) 最高裁判所の判決におきまして、具体的に何倍であれば違憲、何倍であれば合憲という言い方は、判断ではしておりませんで、具体的な訴訟において問題となった事件についてこの格差が憲法に違反するかどうかという形で判断を示しております。
 まず衆議院の方でございますが、その最大格差におきまして憲法の選挙権の平等の要求に反するとしたものは平成五年の一月二十日の判決がございまして、これは平成二年に行われた衆議院選挙のものでございますが、ここでは最大格差が一対三・一八でございました。これについては、最高裁判所は憲法の求める選挙権の平等の要求に反するという判断をしております。
 他方、最高裁の昭和六十三年の十月二十一日の判決でございますが、これは昭和六十一年に行われた衆議院選挙でございますが、ここでは最大格差が一対二・九二でございました。この一対二・九二という格差につきましては、憲法の選挙権の平等の要求には反しないという判断をいたしております。
 続きまして参議院の方でございますが、参議院につきましては冒頭に御説明申し上げました平成八年の九月十一日の判決でございますが、これは平成四年の参議院選挙でございますが、最大格差が一対六・五九になっていたものでございますが、これについては憲法の選挙権の平等の要求に反するという判断をいたしております。
 ただ、この憲法の選挙権の平等の要求に反するけれども合理的期間は経過していないということで、規定自体は違憲ではないという判断をしております。
 この格差に関しましては、そのほか最高裁の昭和六十三年の十月の判決でございますが、これは昭和六十一年の七月に行われた参議院選挙のものでございます。これは最大格差が一対五・八五のものでございましたが、このものについては、この格差については憲法の求める選挙権の平等の要求には反しないという判断をいたしているところであります。
 以上でございます。
○平野貞夫君 ありがとうございます。
 ずばっとこれ以内ならいい、これ以上ならだめだと言ってもらうと非常に立法する者は楽なんですけれども、わかりました。
 残りの時間で、ちょっと質問なのか意見なのかわかりませんが、法の支配という近代社会の考えがあるんですが、これはやはり司法権の決定に従うということが法の支配というふうに考えてよろしいでしょうか。もし答えできなかったら結構ですが。
○参考人(増田稔君) 非常に次元の高い問題で、適切にお答えできるかどうかあれでございますが、議員御指摘のとおり法に従ってその国家の統治が行われるというのは、それは法の支配の原理でありまして、その法の支配を保障するために裁判所が存在するわけでございます。
○平野貞夫君 最後で恐縮です。
 ハンセン病の一審控訴を断念したのは、これは一審が司法権の決定になったわけでしょう。司法権の意思だと思うんですよね。その法の支配に従わない政府声明を出した小泉さん、あれは法的には控訴すべきだったという政府声明を出した。私は、こんな司法権を冒涜したことはないと思うんですよ。最高裁はああいうときに怒らなきゃだめだと思うんです。ということを言いまして終わります。
○会長(上杉光弘君) それで終わりですか。
○平野貞夫君 はい。
○会長(上杉光弘君) 答えは要らないですか。
○平野貞夫君 いや、それは無理でしょう。
○会長(上杉光弘君) 参考人としてお二方には御苦労さまでした。
 本日の調査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。
   午後二時四十八分散会

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