第156回国会 参議院憲法調査会 第1号


平成十五年二月十二日(水曜日)
   午後一時二分開会
    ─────────────
   委員氏名
    会 長         野沢 太三君
    幹 事         市川 一朗君
    幹 事         武見 敬三君
    幹 事         谷川 秀善君
    幹 事         若林 正俊君
    幹 事         堀  利和君
    幹 事         峰崎 直樹君
    幹 事         山下 栄一君
    幹 事         小泉 親司君
    幹 事         平野 貞夫君
                愛知 治郎君
                荒井 正吾君
                扇  千景君
                景山俊太郎君
                亀井 郁夫君
                近藤  剛君
                桜井  新君
                世耕 弘成君
                常田 享詳君
                中島 啓雄君
                中曽根弘文君
                服部三男雄君
                福島啓史郎君
                舛添 要一君
                松田 岩夫君
                松山 政司君
                伊藤 基隆君
                江田 五月君
                川橋 幸子君
                木俣 佳丈君
                高橋 千秋君
            ツルネン マルテイ君
                角田 義一君
                松井 孝治君
                若林 秀樹君
                魚住裕一郎君
                高野 博師君
                続  訓弘君
                山口那津男君
                宮本 岳志君
                吉岡 吉典君
                吉川 春子君
                田名部匡省君
                松岡滿壽男君
                大脇 雅子君
    ─────────────
   委員の異動
 一月二十日
    辞任         補欠選任
     続  訓弘君     椎名 一保君
 二月十日
    辞任         補欠選任
     松井 孝治君     広中和歌子君
    ─────────────
  出席者は左のとおり。
    会 長         野沢 太三君
    幹 事
                市川 一朗君
                武見 敬三君
                谷川 秀善君
                若林 正俊君
                峰崎 直樹君
                山下 栄一君
                小泉 親司君
                平野 貞夫君
    委 員
                愛知 治郎君
                荒井 正吾君
                亀井 郁夫君
                近藤  剛君
                椎名 一保君
                世耕 弘成君
                常田 享詳君
                舛添 要一君
                松田 岩夫君
                松山 政司君
                伊藤 基隆君
                江田 五月君
                川橋 幸子君
                高橋 千秋君
            ツルネン マルテイ君
                角田 義一君
                広中和歌子君
                若林 秀樹君
                魚住裕一郎君
                山口那津男君
                宮本 岳志君
                吉岡 吉典君
                吉川 春子君
                松岡滿壽男君
                大脇 雅子君
   事務局側
       憲法調査会事務
       局長       桐山 正敏君
   参考人
       社団法人日本経
       済団体連合会専
       務理事      矢野 弘典君
       日本労働組合総
       連合会事務局長  草野 忠義君
       日本労働組合総
       連合会企画局長  熊谷 謙一君
       社団法人アムネ
       スティ・インタ
       ーナショナル日
       本理事長     和田 光弘君
       社団法人アムネ
       スティ・インタ
       ーナショナル日
       本事務局長    寺中  誠君
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  本日の会議に付した案件
○日本国憲法に関する調査
 (基本的人権)
    ─────────────
○会長(野沢太三君) ただいまから憲法調査会を開会いたします。
 日本国憲法に関する調査を議題といたします。
 本日は、「基本的人権」について、参考人の方々から御意見をお伺いした後、質疑を行います。
 御出席をいただいております参考人は、社団法人日本経済団体連合会専務理事矢野弘典君、日本労働組合総連合会事務局長草野忠義君、同企画局長熊谷謙一君、社団法人アムネスティ・インターナショナル日本理事長和田光弘君及び同事務局長寺中誠君でございます。
 この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多忙のところ本調査会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございました。調査会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。
 忌憚のない御意見を承り、今後の調査に生かしてまいりたいと存じますので、よろしくお願いいたします。
 議事の進め方でございますが、矢野参考人、草野参考人、和田参考人の順にお一人二十分程度御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、参考人、委員ともに御発言は着席のままで結構でございます。
 それでは、まず矢野参考人にお願いいたします。矢野参考人。
○参考人(矢野弘典君) 御紹介いただきました矢野でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 資料がございますので、座ってやらせていただきます。
 本日は、日本国憲法の経済的自由及び労働基本権などに関連いたしまして、特に人と経営の問題に焦点を当てまして、実例を踏まえながら、日本経団連がどのように取り組んでいるかについてお話をさせていただきたいと思います。
 レジュメに沿ってまいりますが、まず初めに、憲法に規定されている経済的自由と社会権、とりわけ労働基本権など、言わば労使関係の基本に関する考え方でございます。
 憲法論一般につきましては、私ども内部の委員会でも特に検討を行っているわけではありませんので、私見ではございますけれども、三つに分けて御説明申し上げたいと思います。
 一つは、経済的自由の意義及びその重要性についてでございます。
 人権は、個人を個人として尊重するために不可欠な権利でありますが、個人が自立して生きていくということは、経済活動の自由が保障されることによってこそ可能になると考えております。自らの生存手段を自力で獲得できる体制があって初めて個人は自らの力で経済的な自立ができ、真に個人の尊重が図られるわけでありまして、このことは企業にとっても同じであります。憲法が第二十二条、そして二十九条で経済的自由を保障しているのは、正にこのような考えによるものであると思います。
 今日、国家による過剰介入ということが問題視されております。国家の過剰な介入が経済の活力を奪うのみならず、人々を過度に国家に依存させ、個人が自立的な生き方をする基盤を弱めているのではないかと危惧されております。その反省もあって、現在、政府では規制改革の政策が各方面で推し進められております。経済のグローバル化への対応と国際競争力の強化を迫られている日本の企業にとって規制改革は不可欠な道筋であり、経済の分野での一層の改革が進められるべきであります。
 二つ目は、経済的自由と生存権及び労働基本権との関係についてであります。
 経済的自由が幾ら重要であるといっても、それが弱者の生活基盤を破壊し、生存の自由を脅かすものであってはならない、これは当然のことであります。憲法では、社会権として生存権、二十五条や労働者の権利、二十七条、二十八条を保障しているゆえんであると思います。
 したがいまして、経済的自由への制約は予定されているとも言えるわけでありますが、このことは、一般的にあらゆる権利について、憲法十二条を始めとし、公共の福祉の観点に立ってその濫用は戒められねばならないところであると思います。また、経済や企業の安定的な発展があればこそ労働者の雇用や生活が守られるのでありまして、その点から見ますと、経済的自由と生存権、労働基本権は互いに矛盾するものではないと考えることができます。経済的自由の確保は、生存権、労働基本権の実現と深いつながりを持っていると考えております。
 三つ目は、経済的自由と生存権及び労働基本権の調和を実現するための労使自治の重要性についてであります。
 我が国の多くの企業におきましては、職場を代表する多数組合とユニオンショップ協定を結び、またチェックオフのように、ある程度組合への便宜供与を保障することにより、円滑な労使関係を築き上げ、生産性向上や技術革新を成し遂げ、企業別組合を前提とした労使関係の下、円滑な話合いを通じて幾多の苦境を乗り越えてまいりました。
 私どもは、労使は社会の安定体と考えております。戦後の経済発展はそれなくして実現することはなかったし、今日のような厳しい経済情勢の中では、とりわけ、企業が生き残り、発展し、また労働者の雇用や生活を守るためには安定した労使関係が必要であり、それを可能にするのは労使自治でございます。
 日本経団連では、後ほども述べますが、雇用問題に関する政労使合意あるいは多様な働き方とワークシェアリングに関する政労使合意を政府及び労働組合とともに取りまとめました。発端は、雇用の現状、さらには雇用社会の将来に対し労使の危機感と課題を共有できたというところにございまして、これも労使自治の一つの表れであると言ってよいと思います。経済的自由と生存権及び労働基本権の調和を実現するための手段は労使自治ではないかと私は考えております。
 次に、第二番目の雇用問題について申し上げます。
 まず初めに、雇用情勢に関して申し上げますと、昨年平均の失業率は五・四%と過去最悪となりました。今後、不良債権処理が加速すれば失業が増大し、一層深刻の度を増すおそれがあると懸念しております。
 こうした事態の背景に、国際競争の圧力がこれまで以上に厳しくなっていること、サービス経済化により産業・就業構造が大きく変化しようとしていること、技術革新の進行に伴い労働者に求められるスキルが変化していること、労働力の高齢化、少子化が進んでいることなど、構造的な変化が生じていることを忘れてはならないと思います。
 このような雇用情勢に対しては、まず何よりも雇用不安を緩和、解消して、消費回復、景気回復への道筋を付けることが大事であり、各企業が雇用の維持に最大限努力することに加え、雇用対策の体系的な整備が必要であると考えます。
 雇用対策で最も重要なのは雇用の創出であります。これは基本的には企業、経営者の務めであると考えますが、政府は、新事業、新産業の育成を目指し、参入規制の撤廃などにより企業が雇用の維持、創出を実現しやすいよう環境条件を整えるべきであります。
 具体的に申し上げますと、例えば医療や介護、保険などの健康関連産業を始めとして、住宅供給並びに関連サービス、環境保全、育児や家事の支援、代行、あるいは人材供給、人材育成、さらに観光産業などには大きな潜在的需要が存在し、雇用創出が期待できます。
 しかし、これらの分野では、サービスの質、量、価格などの面で国民、住民のニーズに十分こたえ切れていないのではないでしょうか。このような分野での規制を改革し、民間企業の参入を進め、より安価で良質なサービスを潤沢に供給するための様々な社会的基盤を整えることによって、膨大な潜在需要の顕在化、雇用の拡大、経済の活性化が実現できると考えます。
 どうしても時間が掛かる部門がありますが、短期的な雇用創出の方法としては、補正予算により行われております緊急地域雇用創出特別交付金の有効活用が必要であります。雇用の創出に加えまして、職業紹介機能の強化、勤労者の職業能力の向上、政府の雇用対策、雇用保険・社会保障改革などの雇用のセーフティーネットの体系的な整備が必要であると考えます。
 雇用対策の効果を十分に発揮させるには、円滑な労働移動を可能にする環境条件を整える必要があります。例えば、人材派遣事業においては、派遣期間の諸制限の撤廃、許可制から届出制への移行、物の製造業務や医療関係業務への派遣禁止の撤廃が必要でありますし、民間職業紹介事業も許可制から届出制へ移行すべきでありますし、手数料に関する規制を一段と緩和する必要があると考えています。
 なお、雇用保険制度改正法案が国会に提出されていますが、今回の改正法案の全体的な趣旨が離職者の早期再就職の促進であることから妥当であると判断しております。
 次に、雇用問題への企業等の対応について申し上げますと、昨年は三つの政労使合意が生まれました。一つは、去年の十二月四日に雇用問題に関する政労使合意が生まれました。企業における対応の基本としましては、その中に書いてありますが、雇用の維持確保について、経営側はこれまで以上に最大限の努力を行い、労働側はこれに対応して雇用維持のために労働条件の弾力化などにより協力しと、こういう方向性が示されているわけであります。
 また、あと二つの政労使合意はワークシェアリングに関するものでございまして、昨年の三月の二十九日にできたものは緊急対応型のワークシェアリングに対するスキームでありまして、雇用調整策の一つとして具体的なスキームを示すことができたと思います。失業をこれ以上増やさないための一つの手法として取り組むことに意義があると思います。また、暮れの十二月二十六日には、多様な働き方とワークシェアリングに関する政労使合意をまとめました。中長期的な多様就業型ワークシェアリングについて政労使それぞれの課題を整理し方向付けを行いましたが、この中では、個々の企業の対応として、多様なライフスタイルのニーズと生産性向上を両立させるため、従来の雇用慣行や制度の検討、見直しに取り組み、様々な雇用形態や就労形態を組み合わせた雇用システムを整備することが重要であるとしております。
 雇用形態の多様化に対する取組については、一つは、日本経団連が提唱しております自社型雇用ポートフォリオの考え方の実践であります。
 お手元の経営労働政策委員会報告の三十四ページにその絵がありますが、この基本的な考え方は、長期安定雇用のメリットを生かしつつ、短時間就労、在宅勤務、有期雇用などなど多様な働き方を工夫し、適切に組み合わせることによって、景気変動にも柔軟に対応し、働く側のニーズにも対応しようとするものであります。今後は、各企業がそれぞれの人材戦略に応じて、長期蓄積能力活用型グループの雇用管理区分を多様化して、長期雇用の中で労働時間の柔軟な伸縮を行ったり、派遣社員、有期雇用を始めとする様々な雇用形態を活用するなど、自社型雇用ポートフォリオの高度化が求められると存じます。
 二つ目は、ダイバーシティ・マネジメントの推進であります。
 これは、既存の価値観や方法論にとらわれず、多様な属性や発想を取り入れることによって、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と個人の幸せにつなげようという戦略です。
 今後、企業が国際競争力を維持していくためには、様々な考え方、多様な価値観の人が集まって互いに認め合い刺激を与え合う多様性あふれる組織作りが必要となります。こうした戦略によって従業員の働く満足度を高め、働くことへの生きがいが感じられるような職場環境作りを通じて生産性の向上にもつながり、こうした望ましい企業と個人の関係を維持していくことが二十一世紀の企業発展の条件となると考えております。
 次に、レジュメの第三の賃金問題でございますが、日本経団連では去る十二月にお手元の経営労働政策委員会報告を発表し、その中でこの問題について取り上げております。
 趣旨は、我が国の国際競争力の低下、深刻な産業の空洞化の進行を指摘し、これを回避するためには、生産性に応じた人件費コストの決定、一層の生産性向上、事業の高付加価値化、新事業育成、新技術・新商品・新サービスの開発力向上の必要性を訴えています。その上で、今次交渉の課題は、雇用の確保を最重点に、企業の生き残りを可能にする人件費の効率化、生産効率の向上を労使で徹底的に議論することにあることを訴え、とりわけ賃金につきましては、我が国の賃金水準が先進諸国の中でトップレベルにあること、労働分配率が上昇していることを指摘し、企業の競争力維持強化のためには名目賃金のこれ以上の引上げは困難であり、ベースアップは論外であるという考え方を表明いたしております。
 次に、レジュメ第四の労働法制の在り方について申し上げます。
 我が国では、経済的に豊かになるとともに労働者のニーズも多様化し、パートタイム労働や派遣労働、契約社員など、先ほども申し上げたように、雇用形態の多様化が進んでおります。他方で、企業は経済情勢の急激な変化の中で国際競争に勝ち抜くために、事業の効率化、再構築が必要とされており、近年における規制改革の方向での法改正を更に進めるべきであると考えます。
 まず、有期労働契約期間の上限を引き上げる方向での労働基準法の見直しにつきましては、雇用形態の多様化に対応し雇用の選択肢を拡大するものであり、労使双方のニーズにこたえるものであると考えております。
 また、企画業務型裁量労働制は、以前の改革で実現した点は大きな進歩でありますが、煩瑣な手続、要件が多々ありまして、これの改革が必要であると考えています。仕事の成果などが労働時間の長短に比例しない労働者が増加している今日では、端的に申し上げますと、アメリカのホワイトカラーエグゼンプションのような一定の労働者には労働時間規制の適用を除外する制度の早期導入が望まれます。
 最後に、社会保障制度の在り方について申し上げます。
 年金、医療、介護、雇用保険などの社会保障制度は勤労者や国民の生活を支えるセーフティーネットであり、我が国の水準は相当のレベルにありますが、近年、経済成長の鈍化や少子高齢化の進行が進む中で、負担増と制度の見直しが繰り返し行われ、国民の不信と将来不安を呼ぶものとなっています。特に我々は、今日、社会保障コストは現役世代や企業にとって相当に重い負担となってきていると考えております。
 このため、租税を含めた国民負担率の上昇を抑制し、将来に向けて社会保障に対する国民の信頼、社会的安心を確保するため、社会保障制度改革ビジョンを早急に策定し、国民に明示し、国民の将来不安、老後不安を取り除いていくことが必要です。その際、社会保障の分野においても、民営化の推進、規制改革の断行によって給付の効率化を徹底的に進めるとともに、社会保険と労働保険とをパッケージにしたトータルの負担とその限界について検討する必要があると思います。さらに、トータルな負担の限界の検討と併せて個別制度の負担の限界を明確にし、個々の給付もその範囲内とするといった発想が必要であると思います。
 以上、本日のテーマに沿って私ども経営側の考え方や取組の状況についてお話をさせていただきました。
 ありがとうございました。
○会長(野沢太三君) ありがとうございました。
 次に、草野参考人にお願いいたします。草野参考人。
○参考人(草野忠義君) 連合事務局長の草野でございます。委員長の御指示でございますので、着席のまま発言をさせていただきたいと思います。
 参議院の憲法調査会がこれまで熱意ある真摯な討議をされておられることに敬意を表したいというふうに思います。このたびは、憲法と基本的人権等について考えを述べさせていただく機会をいただきましたので、労働基本権、社会権などを中心に意見を申し述べさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いを申し上げます。
 まず、憲法に関します連合の基本的な考え方についてでございますが、連合は、一九九九年十月の第六回定期大会で、国の基本政策に関する見解の一環として憲法についての当面の考え方を整理をいたしました。それは、まず平和主義、主権在民、基本的人権尊重という日本国憲法の三大原則を重視し、その貫徹を期すことであります。同時に、憲法論議を否定するものではないということについても確認をいたしております。
 その後、国会におきます憲法調査会での審議の進展を踏まえまして、昨年五月から、連合内に設置しております国の基本政策検討作業委員会において憲法の論点などについて検討を進めているところでございます。この作業委員会では、まず労働権、社会権について検討を行い、昨年の十月に論点についての整理を行いました。現在は、人権に関する諸問題、国会と行政の問題などについて検討を進めておりますが、今後、六月を目途に司法と裁判、地方自治、安全保障などにつきまして順次論点の整理をしてまいりたいと、このように考えております。
 したがいまして、本日の時点では労働権、社会権に関する私たちの論点整理の内容を中心にお話を申し上げ、あわせて、そのほかの人権などをめぐる検討状況などについても触れさせていただきたいと考えております。
 まず、労働権、社会権についてでありますが、これらの権利を検討することの今日的な意義についてまず述べさせていただきたいと思います。それは、我が国が企業などに雇われて働いている人を中心とする社会、一言で言えば雇用社会となっているということであります。
 我が国の雇用労働者は、憲法制定の翌年、昭和二十一年には十五歳以上の国民のほぼ四分の一、二四%でございましたが、それが現在では十五歳以上の国民の過半数、五二%に達しております。これを労働力人口に占める雇用労働者の割合、すなわち自営業などを含む勤労者全体の中で企業などに雇われて働いている人の比率で見ますと、昭和二十一年には三七%でございましたが、平成十四年には八三%となっております。これは、我が国が本格的な雇用社会となっていることを示していると思います。
 我が国が雇用社会となるにつれ、労働に関する権利や制度にかかわる問題は、憲法制定時に比べるとき、経済社会の中ではるかにその重みを増しております。労働権、社会権の問題は、労働者にとって日常的かつ切実な問題であるのみならず、広く国民的課題であることをまず申し上げておきたいと存じます。
 さて、憲法の労働権、社会権の基本的な評価について申し上げたいと思います。
 憲法はこれらの権利を基本的人権の柱の一つとしておりますが、これは二十世紀の先進的な憲法の流れをくむものであります。改めて申し上げるまでもなく、私たちはこのことを高く評価をしております。すなわち、憲法二十七条の勤労の権利、労働条件の法定、児童酷使の禁止、二十五条の生存権、社会権の規定について、それぞれが高い意義を持つものと判断いたしております。しかしながら、この間の経済社会の大きな変化、本格的な雇用社会の出現などを考えますと、労働権、社会権の適切な整備強化が必要であると思っております。
 お手元に配付をさせていただいております連合の論点整理は、このような考えに基づくものでございます。
 ただし、私たちは労働権、社会権の整備と強化について、憲法、基本法、現行法のいずれにより対応すべきかということにつきましては、この論点整理の段階では踏み込んでおりません。国会の憲法調査会におきまして、十分な検討をお願い申し上げたいと思っている次第でございます。
 さて、労働基本権、すなわち憲法二十八条に関する現状と課題の問題に移りたいと思います。
 昨年十一月二十一日、国際労働機関、ILOの理事会は、我が国の公務員の労働基本権の制約について見直しを求め、公務員制度の全面的再検討を求めるという勧告を採択をいたしました。このことは大変大きな意味合いを持つものと考えております。
 そもそも労働基本権は、勤労者、労働組合のみならず、我が国社会にとって最も重要な権利の一つであることは申し上げるまでもございません。しかしながら、我が国の労働基本権の状況は先進国とは言い難い深刻な問題を含んでおります。
 最大の問題は、憲法第二十八条が団結権、団交権、団体行動権のいわゆる労働三権を規定しているにもかかわらず、公務員の労働基本権が公務員関係法等によって大きく制約されているということであります。
 しかも、政府は、平成十三年十二月に、公務員制度を根本的に改革するとして、労働組合との協議を行わないまま、労働基本権の回復は行わないと明記した公務員制度改革大綱なるものをまとめました。連合は、これに強く抗議いたしますとともに、昨年の二月に、ILOの結社の自由委員会への提訴に踏み切ったわけでございます。この提訴に対して、先ほど申し上げましたように、昨年十一月にILOの理事会において、労働基本権の回復などを求める勧告が採択されたわけであります。
 なお、民間産業の分野でも前時代的なスト規制法がいまだに存在しており、対象である電気事業などの労働組合はもちろん、連合としてその撤廃を求めることを併せてお伝えしておきたいと思います。
 繰り返しになりますが、我が国の労働基本権の状況は、国連の機関であるILOから厳しく指摘されるほどの重大な問題を含んでおります。連合は、憲法二十八条について、何よりもその徹底が必要と考えております。参議院の憲法調査会におかれましても、十分検討していただきますよう、要請いたしたいと存じます。
 次に、憲法二十七条の勤労の権利にかかわる問題について申し述べたいと存じます。
 憲法二十七条一項は、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」と規定しております。しかしながら、政府の現在の雇用政策には憲法の趣旨から見て首を傾けざるを得ないものがございます。
 まず、雇用対策であります。
 我が国の雇用をめぐる情勢は、現在、正に危機的状況にあると言っても過言ではありません。政府は、憲法に定める勤労の権利の趣旨に沿って諸対策を進める義務がありますが、現在の対応は極めて不十分であると考えております。
 例えば、政府の補正予算、新年度の予算におきまして、この厳しい雇用失業情勢を改善する措置を実現できるのか、デフレからの脱却、失業の削減につながるものであるかについては甚だ疑問を持たざるを得ません。
 また、雇用保険制度の問題も重大だと考えております。
 憲法の勤労権は失業者の生活資金を給付する義務についても規定していると考えられており、これを具体化したものが雇用保険制度であります。しかし、政府は、現在雇用保険制度が財政的に厳しい状況に立ち至っていることを理由として、給付水準の大幅削減などを行おうとしております。このような姿勢は、憲法の趣旨と相入れないものがあると考えます。
 なお、雇用対策として今後進めていかなければならない重要な政策として、ワークシェアリングの問題に触れておきたいと思います。
 先ほど矢野参考人からもお話がございましたように、政労使は昨年の三月と十二月、二度にわたりワークシェアリングに関する合意を行いました。ワークシェアリングは憲法の保障する勤労の権利を実現する観点からも大変大きな意義を持つものであり、政労使それぞれが積極的に対応しなければならない課題であると考えております。
 次に、勤労の権利をめぐる憲法の論点について述べさせていただきたいと思います。
 先ほど申し上げましたとおり、憲法二十七条第一項の条文は勤労の権利を規定しておりますが、その具体的な内容としては、国の政策義務を規定したものと解釈されております。これについて、解釈にゆだねるのではなく、憲法の条文において国が雇用対策を適切に推進することを示すことが労働権の適切な強化に結び付くとの見解があります。
 また、経済社会の変化と発展の中で重要視されているものとして、労働者の職業能力の開発がございます。
 これについて、国や使用者が労働者の職業能力を尊重し、その開発に協力する義務などを憲法に規定することにより、勤労の権利の内容をより内実あるものにしてはどうかとの見解もございます。これらは、憲法に関する論点として検討する価値があるものと思います。
 次に、労働基準の問題に移らさせていただきます。
 憲法第二十七条二項は、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」としております。この条文は、労働基準法を始めとする労働保護法の根拠となっております。しかしながら、今日の社会では憲法の趣旨に反する多くの事例が報告されております。
 まず、賃金不払残業、いわゆるサービス残業の問題をお話ししたいと思います。
 連合が昨年六月に実施をいたしました生活アンケートによれば、連合組合員の過半数が不払残業をしており、その時間数の平均は月二十九・六時間という結果が出ております。これは明らかに違法であることは言うまでもありません。連合としても、今年の春季生活闘争の最重点課題として不払残業の撲滅に向けて取り組んでおります。
 また、これ以外にも、私たちの電話相談では、解雇、賃金、未払などを始めとする労働法違反の問題が訴えられております。憲法二十七条の趣旨を実現するためには、労働組合のみならず政労使挙げて取り組んでいかなければならない重要な問題であると考えております。
 また、従来から指摘されている基本的な課題として男女の不平等の問題があります。我が国の多くの職場は、憲法が制定されて半世紀以上がたった今日なお、いわゆる男社会であり続けております。例えば、賃金格差の問題であります。女性の賃金は、パートタイマーを除く一般労働者で比較いたしましても、平均では男性の六五%程度であります。さらに、女性パートタイマーの時給で見ますと、一般労働者の半分以下となっております。しかも、このような賃金格差が近年拡大を続けております。このような状況が憲法の趣旨に相入れないことは明らかであると思います。
 なお、憲法の法の下の平等の規定との関係でございますが、憲法十四条は、国家からの自由として規定されており、私人間、つまり私としての個人の間の関係には及ばないとされております。
 このような状況を踏まえ、労働場における男女の平等についても労働権として明示すべきとの見解があります。憲法制定時にも条文に加えるべきとの意見があったと聞いております。
 また、職場での過労死やいじめ、セクシュアルハラスメントなども労働基準にかかわる重大な問題でございます。連合の電話相談への相談も相次いでいるところでございます。これらの問題も労働基準の規定の在り方に関する論点であると考える次第であります。
 ここで、「児童は、これを酷使してはならない。」とする憲法二十七条三項の規定に触れておきたいと思います。
 もちろん、私は、この規定の内容は当然のことと考えております。ただし、子どもの権利条約が批准され、関係施策が進展していることを考えますと、少子高齢化が進む我が国の今後を担う子供や若年者のための規定は憲法において今日的に充実させるべきであると指摘があることも理解できます。これも憲法二十七条をめぐる論点であることには異論がないことと考えます。
 憲法二十五条の規定する社会権の問題に移らさせていただきます。
 憲法二十五条は、最低限度の生活保障と社会福祉の増進を定めるもので、社会権の根本規定として誠に意義深いものがあります。しかしながら、社会権の現状には今なお問題があると考えております。
 我が国の社会は、憲法制定時に比べますと見違えるような発展をいたしました。しかしながら、その発展の陰の中で、先ほど申し上げましたような過労死や企業リストラが進む中での自殺の増加の問題など、新しい深刻な問題が発生をいたしております。これらにつきましては、憲法二十五条の趣旨に照らし、改めて見詰める必要があるのではないかと考えます。
 なお、一方では、社会権の強化についての論議もございます。
 経済社会のグローバル化と国際競争の激化が進む中で、国際的には比較的平等と言われた我が国の社会が変質し、弱肉強食の社会となるのではないかとの懸念も強くなっております。これに関して、憲法二十五条において、社会権の理念にとどまらず、社会的な連帯や弱者への配慮を重視する社会を目指すことをより明確にしてはどうかという見解も検討に値すると思います。
 さて、ここで、労働権、社会権以外の人権問題などについてお話をさせていただきたいと思います。
 連合は、人権の問題を運動の主要な柱の一つとしておりまして、様々な取組を進めております。その中から、法の下の平等を規定した憲法十四条、職業選択の自由を規定した同二十二条、結社の自由を規定した同二十一条に関し、その趣旨に相入れない実態が報告されております。
 例えば、同和地域に今日なお根強く残る就職、雇用における差別の問題がございます。連合は、部落解放同盟などとともにこの問題に取り組み、毎年セミナーやシンポジウムを行っておりますが、多くの問題事例が報告されております。
 憲法の基本的人権の諸規定について、私たちはいささかも気を緩めることなく厳しく実態を見詰め続ける必要があり、その貫徹に向けての取組が必要であると考えております。
 また、私たちの委員会では、新しい権利につきましては、環境権、プライバシー権、知る権利などを検討いたしました。例えば、環境権につきましては、現在の規定に基づいて主張することが可能とする見解がある一方、市民運動サイドからも、憲法に環境権の規定を持つ意義は大きいとの主張がございました。
 連合は、地球環境の保全と持続可能な社会構築に向け、政府への要請を強めるとともに、エコライフ21と名付けて職場からの環境運動を進めております。環境権につきましても、憲法に関する論点として、今後、プライバシー権や知る権利の在り方とともに十分検討してまいりたいと思っております。
 なお、本日の陳述の結びに申し上げたいことは、労働権、社会権を始め、基本的人権の在り方は国の形として見られるということであります。新しい世紀に憲法の規定する基本的人権を我が国に完全に定着させ、どのように発展させ得るのか、これは大きな国民的課題であると考えております。
 本調査会の先生方の真摯なる御検討に重ねて敬意を表しますとともに、審議の実りある成果を御期待申し上げて、私の陳述とさせていただきます。
 ありがとうございました。
○会長(野沢太三君) ありがとうございました。
 次に、和田参考人にお願いいたします。和田参考人。
○参考人(和田光弘君) ただいま御紹介いただきました社団法人アムネスティ・インターナショナル日本の理事長をしております和田です。
 本日は、私どもアムネスティ・インターナショナル日本として、貴調査会におきまして基本的人権について意見を述べる機会をいただきまして、大変ありがとうございます。
 市民団体として、「アムネスティ・インターナショナルの活動とめざすもの」ということで簡単なレジュメを用意しましたが、アムネスティは、国境を越えて一人一人の人権を保障していこうということでできた市民団体ですが、日本支部は一九七一年から活動を開始しまして、私でちょうど七人目の支部長ということになります。特別顧問になっていただいているイーデス・ハンソンさんは御存じの先生方が多いかと思いますが、私も職業は弁護士ですけれども、元々は学生のときにアムネスティと出会いまして現在に至っているということです。
 少し古い話ですが、一九七五年五月、私、まだアムネスティに入る前に、韓国の詩人で死刑判決を受けていた金芝河さんという方の良心宣言、獄中からという文章を「世界」で読んだことがございます。それは拘束される前に自分の良心に懸けて非転向を誓い、体の自由を奪われているときに公表された調書類などはすべて無効であることをあらかじめ宣言しておくという内容でして、これに強く引かれた覚えがございます。
 その後、一九七六年にアムネスティに入会しましてキャンペーンに参加しましたが、七八年、当時学生で訳しましたアルゼンチンは今というレポートを今でも覚えております。
 アルゼンチンで約二万人に近い人々が失踪したというもので、若い夫婦が子供ともに失踪しまして、子や孫の行方を求める母親、祖母たちがブエノスアイレスの五月広場で毎週デモンストレーションを行うと。当時アルゼンチンで行われたワールドカップとともにそのニュースが世界じゅうに広がり、その後、国連でも強制失踪に関する作業部会が設けられまして、この国家が行う汚い戦争と呼ばれた、ダーティーウオーと呼ばれていましたが、人権侵害こそ、一人一人の個人である市民が間違っている、やめるべきだと声を出すことで変えていく必要があるんじゃないかということで、私も今日に至っているわけです。
 簡単に今日はアムネスティの活動の特色をお話ししながら、日本のどのような人権分野が問題になっているかについて、ここ数年の実情を踏まえながら指摘させていただければと思います。
 まず、アムネスティを始めた方ですが、この方はイギリスのピーター・ベネンソンという弁護士さんです。軍事政権下のポルトガルでレストランで学生が自由に乾杯というふうにやって七年の懲役刑を受けたという記事に彼が憤りまして、独りでポルトガルの大使館に抗議に行って相手にされなかったということで、友人の人たちと酒場で議論しながらナプキンにアムネスティの目的を書き付けて原型ができ上がったと。そこから、忘れられた囚人たちという意見広告をロンドンの日曜新聞のオブザーバーに出します。今、掲げているものがそのコピーです。
 その中に、自分の意見だけを理由に捕らえられた人の釈放のために運動しようとか、公正な裁判を求めようとか、政治的な難民の権利を拡大しようとかという目的が記されています。一九六一年五月二十八日でした。二か月後、ヨーロッパ五か国に広がり、六二年に七か国の活動となり、六四年には、非常に早いんですが、国連の経済社会理事会の人権委員会の諮問機関となります。七七年、ノーベル平和賞をいただき、現在では、百四十以上の国と地域にまたがる百万人の会員と四十億円の国際予算と三百人以上の国際事務局という陣容で、調査並びに活動をやっているということです。日本支部は少し減少傾向で、六千五百人の会員と年間約一億六千万円程度の規模であります。
 元に戻りますと、一人一人の個人のために一人一人の個人が動こうという呼び掛けで運動は始まりました。良心の囚人という言葉とともに今日も続いているわけです。
 良心の囚人の定義は、暴力を行使せず、ないし唱導しないにもかかわらず、自らの政治的、宗教的、その他良心的な信念を理由として、若しくは民族的出自、性、肌の色、言語を理由として、人が刑罰としての拘禁、身柄拘束、その他身体的自由の制限を加えられることとしておりまして、現在、日本と関係のある数名の良心の囚人の方がおられます。
 今年一月二十三日仮釈放されましたが、二年を超える期間拘禁されてきたロシアのグリゴーリ・パスコさんという方がおられます。この方は、先生方も覚えておられると思いますが、九三年、日本海にロシア海軍が放射性廃棄物と弾薬を投棄したという映像を日本のジャーナリストに提供しました。メディアはこれを使いました。しかし、その後、彼はロシアで国家反逆罪ということで捕らえられまして、二〇〇一年十二月に四年の強制労働判決を受けます。しかし、日本のメディアはこれを報道しませんでした。海外からは、なぜなのか、日本のメディアは債務を支払っていないという批判もありました。アムネスティは、二〇〇一年十二月以後、三回ほど国際的ニュースで意見を発表していますし、釈放要請の手紙書きをしています。
 お配りした資料の中にニュースレターが入っていたと思いますが、その中にこういうはがきがあります。これを全世界の人たちが書いて、釈放を求めると。彼のケースは、今、欧州人権裁判所でケースとして取り上げられて、決定待ちです。
 そのほか、現在、東大の大学院に学籍のあるトフティ・トゥニヤスさんという方がおられます。彼は、九八年二月にウイグル地区の歴史的研究を行っただけにもかかわらず、国家機密にかかわる罪状ということで中国ウイグルの刑務所に拘禁されています。この方は、国連の人権委員会第五十八会期の恣意的拘禁作業部会の報告書で取り上げられ、はっきり中国が世界人権宣言や国際人権規約に反するという結論が出されている方です。日本でも救援運動が始まっていますが、一九九九年に十一年の刑を受けたままです。そして、今示しましたこのはがきの、全世界のはがきキャンペーンの対象になっている人物です。
 それからさらに、中国出身で日本人の配偶者と婚姻した佐渡の女性で金子容子さんという方がおられます。この方は、昨年、法輪功という宗教団体のリーフレットを北京で配ったということで一年六月の矯正労働の判決を受けています。その後、この方のお姉さんも理由なく捕らえられており、アムネスティとして後で述べる緊急行動の対象となっている方です。
 そのほか、日本の中で起きたケースとしては、ゴヴィンダ・プラサド・マイナリさんというネパール人、殺人事件で一審無罪になったにもかかわらず、検察側控訴の段階で東京高裁が無罪の人を勾留し続けるという決定をした事件がございます。その後、二〇〇〇年十二月において高裁で無期懲役刑の判決が出て、現在、最高裁係属中ですが、アムネスティとしては検察による迫害ということで勾留制度の濫用という批判をしております。
 次に、アムネスティの活動の特色として、世界じゅうから一斉に一人一人の声を動員して騒がしい声にして、これを届けるという方法を取ることがございます。
 先ほど申し上げた緊急行動ですが、最初に行われた緊急行動は、一九七三年、ブラジルのルイス・ロッシさんという大学の歴史学の先生のケースでした。家族が閉じ込められた家の中から裏窓を通じてメモを渡して、それがアムネスティの調査員のところまで行き着くという幸運を得て、緊急行動が始まります。
 現在でも、その人の命が奪われるおそれがあるとき、拷問が行われるおそれがあるとき、行方不明になるおそれがあるとき、確実な事実調査に基づいて情報が配信され、世界じゅうのメンバーからの行動が始まります。
 日本では、難民や死刑の執行の問題で、数回にわたりこの緊急行動の要請が行われています。先ほどの金子さんは難民、死刑ではないんですが、この行動要請がなされたケースです。
 少し死刑の問題に触れますと、アムネスティは当初、自由に意見を言うことで捕らえられる人々の釈放を大きな柱としていたわけですが、一九七七年にはストックホルムで会議を開きまして、国家の死刑も人道に反するとして死刑廃止のための活動に力を入れてきました。こうした活動拡大の中で、日本は死刑と難民の問題でアムネスティのターゲットになり続けています。
 難民の関連でいいますと、二〇〇〇年八月、成田の上陸防止施設で起きた人権侵害の件、それから二〇〇一年十月、アフガン難民を強制収容したことに対する批判、東京地方裁判所がアフガン難民収容取消し決定を出したにもかかわらず、東京入国管理局が即時抗告したことへの批判、二〇〇二年九月のクルド人難民の再収容の東京高裁決定に対する批判、十月には森山法務大臣あての公開書簡の発表などを行いました。
 とりわけ最後の公開書簡では、国連難民高等弁務官事務所が難民と認めて、マンデート難民と言っていますが、これに反する主張を繰り返しまして、当該難民が自殺まで考えてしまう状況の中で、十分な医療の機会も与えていない、さらには強制送還禁止のノンルフルマンの原則を確立していないようだと日本は条約違反になるとまで言われて質問されています。
 この最後のノンルフルマンの原則について、国際法上確立された法原則であるにもかかわらず、法務省は国際法としては確立していないと考えている書面を裁判所に提出しています。
 死刑問題でも、夏冬の執行を予想して、これをしないよう繰り返し緊急行動の要請が出ています。何度繰り返しても執行が続く日本の事態に対して、二〇〇二年十一月、アムネスティは、国際的に、日本での死刑執行は恣意的であり、かつ秘密裏に行われる、日本政府は国会閉会中あるいは議会選挙や休暇期間中などに繰り返し執行を行ってきた、これは日本政府が国会内での議論や一般の目を避けるためにそうした時期を選んでいるためだとアムネスティは考えていると発表しています。欧州評議会は議長声明で、強い怒りを覚える、これは間違っているというふうに述べております。こうした騒がしい声は日増しに強まっているわけです。
 最近、名古屋刑務所の事件をきっかけに明らかになった革手錠などの拷問用具につきましてもアムネスティは批判しています。革手錠、拘束用のベルト、また割れズボン、保護房、これは国際的に日本の拷問非人道処遇セットとしてやゆされ、規約人権委員会の懸念をどう思っているのかといぶかしがられています。
 それから、人権侵害者の処罰を求める活動ですが、ピノチェトのケースはその一つです。スペインのガルソン判事の国際刑事警察機構を通じての事情聴取、英国での逮捕、裁判、アムネスティはその場で参考人団体として意見陳述をしました。そして、いろいろあって、現在はチリに戻っているわけですが。
 日本でも、アルベルト・フジモリ元大統領のペルーにおける人権侵害について、アムネスティは次のように述べています。日本の当局は、フジモリ政権下で起こされた人道に対する罪を含む大規模な人権侵害に対し、裁きがなされることに協力しなければならない。
 これは、現在、アムネスティの報告書では二つの事件を指摘しています。九一年、リマで起きたバリオスアルトスの十五人の人々の殺害事件と九二年、リマのラカントゥータというところで起きた学生九名、教授一人の失踪とその後の殺害、発見の事件であります。今、日本政府の対応が問われていると思います。
 それからさらに、条約の関係でいいますと、幾つか日本政府が批准していない有名な条約がございます。
 レジュメにも書いてありますように、自由権規約の第一選択議定書、個人通報制度を規定してございます。同規約の第二選択議定書、死刑廃止を決めている条約です。それから、女性差別撤廃条約の選択議定書、個人通報制度が規定されています。子どもの権利条約の選択議定書、十八歳以下の子供兵士を義務的に徴募することの禁止です。国際刑事裁判所ローマ規程、これは先生方御存じだと思います。それから、拷問等禁止条約の選択議定書、拘禁施設の査察制度を定めたものです。これらへの批准が期待されているところです。
 今回、特に触れておきたいことにつきましては、拷問等禁止条約の選択議定書の件です。
 日本政府は、この拷問禁止の実効を確保するために査察制度を盛り込むという議案書に対して、二〇〇二年七月の経済社会理事会、十一月の国連総会第三委員会でそれぞれ反対しました。そして、本会議では棄権しました。
 これは、法務省はそうではないと言っても、日本は拷問禁止のための査察が嫌だし、恐れていると見られることは必至です。そうでないと言っても、ほかの条約もそうですが、国際的な場で審査されることを避けているとしか思われない状況を作り出しているということです。条約の個人通報制度もそうです。拷問等禁止条約の第一回報告書も出してございません。対話に基づいて解決していくという外交姿勢を日本自ら実行しないで他国を説得することは容易ではないと思います。
 それから、アムネスティは現在、様々に広がりを見せております。一昨年の世界大会決議では、規約第一条を、身体及び精神が保護される権利、良心の自由・表現の自由に対する権利、差別されない権利が侵害されないように調査、活動を行い、すべての権利の促進を図るということになりました。これは、それぞれの権利が実際に行使され、人権侵害を受けた者が実際に救済される、そういう手続をすべて保障していこうという考え方です。経済社会権にも踏み込むということです。
 現在、アイリーン・カーンという方が国際事務総長をやっておられますが、彼女が支部長を集めた会議でこういう話をされています。ひどい暴力を受けた南アフリカの女性に面会して、なぜ手続を取らなかったのかと聞いたと。南アフリカではドメスティック・バイオレンスの法制度が整っていたにもかかわらず、女性は答えたそうです、バス代がなかったと。経済的不平等、権利を行使するための人権教育の徹底など、今後求められる活動領域であります。
 私たちは、実際に現地に行って医療器具を運ぶ活動をしているわけでもなく、生活物資を送り込む活動をしているわけでもありません。実に都合のいい、言葉のボランティアです。ただ、そういうボランティアとして九・一一の事件については様々に考えさせられてきたわけです。
 二〇〇一年十月二十五日、朝日新聞で加藤周一さんが「ソムリエの妻」という随筆を書かれていました。それは、九・一一事件で崩れ落ちたビルの最上階の料亭で働いていたソムリエの妻の話で、夫が殺された直後のインタビューで言ったというものです。
 少し引用しますと、彼女は、死んだ夫がアメリカ国民に伝えたかったことがあるという。えっ、それは何ですかと司会の女性が聞き返すと、彼女はカメラの方へ向き直って、「復讐とか報復とかいうことを彼は必ず拒否するでしょう。彼は犯人と話したかった。その死をさかさまにして、私たちが他の人間の血を流してはなりません」と、こう言ったそうです。司会があきれて、一方のほおを打たれたら他方を差し出せということかと詰問したら、ソムリエの妻は少しも騒がず、「夫は話し合いが暴力よりも実り多いものだと信じていました。私たちはこのような犯罪がくり返されるのを防ぐように努めなければなりません。それには、私たちを憎む人々と共通の理解に達しなければならないのです」というふうに言われたそうです。
 私たちは、これが理想だとはいっても、言葉でボランティアをし続けるということとなります。
 最後になりますが、日本国憲法との関連で少しだけ触れておきたいと思います。
 一つは死刑の問題です。
 九八年の規約人権委員会の勧告では、一般論としてではありますが、公共の福祉を理由に権利制限をすることは認められないという指摘をした上で、死刑についても様々に勧告をしているところです。今後、世界人権宣言や国際人権規約第二選択議定書、様々な国際決議に照らしてこれをどう扱うかということは、政治の意思の問題だと思います。
 二点目は、改善が求められている被疑者段階での権利保障の問題です。
 公設弁護人制度の新設、それから取調べなどのビデオによる可視化や規制の問題、代用監獄の廃止などを具体的にどうするかということが問われているわけです。
 三点目は難民です。
 憲法上の位置付けが不明確です。様々に概念が広がりつつありますが、まず難民の保護を確立するという位置付けが必要です。確立された難民の位置付けを前提にして、さらにそれから、人道的立場で滞在を保障するなどの問題を検討する必要があります。現在の入管法改正の視点としても、排除よりも、まず保護に力点を置く方向で考えなければならないものと思っております。
 最後に、国際条約の受入れの問題ですが、確立された国際法の国内法的効力を認める姿勢を明確にすべきだというふうに思っておりますし、公務員を始めとして日本国民全体が基本的人権尊重をするという形を取っている以上、国際法、国際条約が発展して基本的人権が拡充されていった場合、それを憲法としてどのように受け止めるのかということについても御検討いただければと思います。
 以上です。
○会長(野沢太三君) ありがとうございました。
 以上で参考人の意見陳述は終了いたしました。
 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。
 なお、時間が限られておりますので、質疑、答弁とも簡潔に願います。
 近藤剛君。
○近藤剛君 ありがとうございます。自由民主党の近藤剛でございます。
 本日は、参考人の皆様には、御多用の中、大変有意義な御意見をいただき、ありがとうございました。憲法の労働権、社会権等にかかわる状況とそれに対するそれぞれのお立場からの論点につき、我々の理解を深めることができたと思います。皆様からは大変幅広い視点から具体的な議論をいただきました。また、より深く御意見を伺いたい多くの問題点を御指摘いただいたと思います。
 しかし、今日は時間の関係もございまして、私からは、労働基本法の問題を中心とした二、三の質問に絞らせていただきたいと思います。
 それではまず、矢野参考人と草野参考人にお伺いをいたします。
 憲法第二十七条第一項に規定される勤労の権利は、両参考人もお話しされましたが、能力と意思があっても就労の機会がない者に労働の機会を提供することを国がある意味で保障するものと言われております。政府には、国民が完全就業できる体制を作る義務、そして失業者に就業の機会を与える義務、三つ目に失業者の生活資金を給付する義務という三つの義務があると解釈をする学説もあるように承知をしております。
 その第一の、国民が完全就業できる体制を作る義務についてでありますが、申すまでもなく、雇用の維持、創出は、基本的には民間企業経営者の役割であります。しかし、矢野参考人からお話しいただいたとおり、政府には、新事業、新産業の育成、あるいは民間活力の最大限の発揮をねらいとした参入規制や障壁の撤廃、あるいは税制の改革などによりまして、企業などが国際競争に耐え、雇用の維持、創出をより実現しやすい環境条件を整える責任があると思います。
 そのような視点から、現在政府が行っていること、あるいはこれから行おうとしていることにつきまして、お話しそれぞれいただいているわけでございますが、更に追加して御所見及び御要望があれば、この際お聞かせいただきたいと存じます。
 また、そのような政府の努力義務につきまして、現行憲法の規定上問題はないか、あるいは改善の余地はないのか、草野参考人より一定の見解をお示しいただきましたが、更に付け加えて御意見があれば、併せてお聞かせいただきたいと存じます。
 まず、矢野参考人からお願いをいたします。
○参考人(矢野弘典君) 憲法第二十七条の勤労権は社会権でありまして、御指摘のとおり、働く意思と能力を持つけれども就労の機会を得られない国民に対して国が一定の配慮をすべきことを命じている条文と、このように考えております。しかし、その権利の実現を裁判所にこの憲法二十七条を根拠として請求できるという、そういう具体的な権利ではないというふうにも考えております。
 今日の雇用情勢、経済情勢を見ますと、一番大事なことは働く場の提供、つまり雇用の確保ということであると思います。これは企業労使にとっても政府にとってもそうでありまして、それが十二月四日の政労使合意に結び付いたというふうに思っております。
 何としても景気を回復し、雇用機会の創出を図る必要があるというふうに思うわけでございますが、あの合意書にも書きましたとおり、企業の社会的使命という言葉を使って雇用の維持の問題について私どもは踏み込んだ合意をしたわけでございますが、会社が生き残らないことには雇用も維持できない。労働条件の在り方も含めまして、個別労使でよく話し合ってほしいというふうに思います。
 それから、政府に対しましては、これは先ほどの御説明でも少し触れましたが、雇用対策の一層の充実を図る、つまり長期的な雇用開発と短期的な公的雇用、両方であります。
 それから、参入規制の撤廃などによりまして、企業が雇用の維持、創出をしやすい環境条件を整えるべきであります。もっともっと労働市場が流動化して、そして、たとえ職を失ったとしても次の職を見いだしやすいような、そういう環境整備をする必要がある。それは労働市場の流動性であるとともに、同時に職業訓練についてしっかり見直す必要があると思っております。再就職に結び付くような職業訓練でございます。
 私ども雇主側から率直に申し上げるわけでございますけれども、本当に企業が必要としているそういう技術、技能のレベルを持った人が欲しいわけであります。職種によっては求人倍率が一を超えているところもあるわけでございますから、やりようによっては可能であります。
 従業員の雇用される能力、エンプロイアビリティーについては企業も努力します。そういう人が仮に会社を辞めたとしても、次に再就職しやすいように個人の能力を高める努力をしなくちゃいけませんが、まず政府にお願いしたい点は、再就職に結び付くような職業再訓練ということが大きな柱の一つになろうかと思います。
 以上でございます。
○会長(野沢太三君) 次に、草野参考人お願いします。
○参考人(草野忠義君) 先ほども申し上げましたように、私どもとしては、この勤労権というのはやはり完全就業がまず第一義的になければならないと、こういうふうに思っております。
 具体的な問題としては、今、矢野参考人も申し上げたとおりでありますが、やはり雇用の場を拡大をしていくということがやっぱり国の政策の基本になければならないと、このように思っております。
 そういう意味でいいますと、これも同参考人のお話でありましたように、昨年十二月四日の政労使の雇用に関する合意というのは、私は労働組合の立場からもかなり高く評価をいたしている次第でございまして、御案内のとおり、時の総理が政、政というのはないんですか、労使に呼び掛けて社会的合意を作ろうということは大変歴史的に見ても画期的なことだというふうに思っておりますし、また、その一部につきましては直ちに補正予算なり平成十五年度の予算の中に一部反映をしていただいたということについては一定の評価をするものでございますが、ただ、今の状況を考えますと、これではやはり余りにも不十分ではないだろうかというのが率直な思いでございまして、正に雇用を回復するところ、すなわち憲法に規定をされておりますこの権利を十分保障するというところからむしろ経済の回復につながっていくんではないかと、こういうふうに実は思っているところでございます。
○近藤剛君 ありがとうございました。
 続けて矢野参考人と草野参考人にお伺いをいたします。
 勤労の権利に関しまして、私は、特に問題意識を持つのは若年層と高年齢層の雇用問題でございます。学校卒業後に就職しない無業者あるいはフリーターが増加しております。これは若者個人にとっても不幸なことでありますし、また我が国にとっても大きなマイナスであります。また、高年齢者の雇用状況も厳しい。せっかくの豊富な経験が生かされず、残念なことであります。根の深い社会的問題が横たわっているのでしょうが、この点に関し、どう考えるべきでしょうか。
 連合は、平成十三年十月の定期大会の「新しいワークルールの実現をめざして」と題する特別報告の中で、新しい労働契約法の制定を要求をされておられます。その労働契約法案要綱骨子案の第四項で差別禁止がうたわれておりまして、労働契約については、その締結、履行、終了において人種、国籍、性、身体の状況、宗教、思想信条、社会的身分あるいは家族責任による差別が禁止されることとあります。
 ここでは年齢が除かれておりますが、そこには何か特別の理由があるのでしょうか。また、憲法第十四条第一項は、年齢と身体の状況による差別を明示的に禁止しておりません。それはどのように解釈すべきでありましょうか。まず、草野参考人からお願いをいたします。
○参考人(草野忠義君) 今、先生御指摘の若年層それから高年齢層の雇用の問題は、全く御指摘のとおり、私どもも大変重大な問題だと、こういうふうに考えております。
 特に、こういう雇用情勢でございますので、新規学校を卒業しても就職できなくて派遣あるいはパート、中にはフリーターという方で、フリーターを就職と言うのかどうかちょっとなかなか難しいところがあると思いますが、そういう状況にあるということは承知をいたしております。
 これは、やはり若い人たちの自らの人生設計、あるいは将来の夢を果たしていくということから見ても大変重要な課題だと思っておりますし、一方、国の力といいますか、国の産業力と言っても、経済力と言ってもいいと思いますが、若い人たちのマンパワーの総和を最大にしていくということから見ても大変ゆゆしき問題ではないか、こういうふうに思っております。
 言うまでもありませんけれども、やはりフリーター等については労働条件も総体的に極めて良くありませんし、またさっき矢野参考人が触れられました能力開発という面でも非常に、ほとんど手が付いていない。こういうような状態が続きますと、トータルとしての日本のマンパワーの喪失といいますか激減といいましょうか、こういう点で大変重要な問題があるのではないか、こういうふうに思っております。そういう意味でも適切な政策が極めて喫緊の課題ではないかと、このように思っております。
 それから、高年齢層の方も、これは社会保障の問題ともまた絡んでまいりますし、正に高齢化がますます急速に進展する中にあって、高年齢者の方々のやっぱり生きがいとかそういうもの等含めて考えた場合に、両面で大変重要な課題だろう、こういうふうに思っております。そういう意味では、国の政策に求めること大でございますが、先ほど申し上げましたようなワークシェアリングというものを本格的に導入するという国民合意を私は作っていく必要があるのではないだろうか、そこに非常に大きなポイントがあると、このように考えております。
 長くなって恐縮でありますが、あとワークルールの中の年齢の問題につきましては、実は私どもの中でも様々な議論がございました。基本的には、年齢による差別の禁止というのは私ども基本的考えとしては持っております。特に最近、採用面におきます、あるいは募集面におきます年齢の差別というのは大変ひどうございまして、ハローワーク前で私どもが求職者のアンケートを取ったときでも一番大きいのが年齢による差別でございまして、実際に求人票には年齢は一切記述しておりませんが、現実にそこに行きますとまず年齢ではねられるということが散見されるどころか極めて多い。そういう意味では極めて重要な問題だと思っております。
 ただ、今の日本の現実の賃金のシステム等を考えた場合に、その部分で一気に年齢の差を外すということは現実的かどうかと、こういうような実は議論がございまして、もう一度繰り返しになりますが、基本的には年齢における差というのは私どもは認めたくない、認めるべきではないと。ただ、現実問題、一部のところではやっぱり年齢による差を一気に解消するのは不可能だと、こういうような議論の中から先ほどのような結論になったということで御理解をいただきたいと思います。
○近藤剛君 矢野参考人の御意見もお願いします。
○会長(野沢太三君) 矢野参考人、お願いします。
○参考人(矢野弘典君) 御指摘のとおり、大変ゆゆしい問題であると私どもも考えております。
 フリーターと呼ばれている人が急増しておりまして、平成十二年にはこれが約百九十三万人だというふうに言われている状況でございます。卒業後の進路に展望が持てないということで、学生の意識や意欲に重大な悪影響を与えている点もこれは否定できませんし、やはり現に卒業した後でもなお就職の道がない。本人が進んで就職しないという場合もこのフリーターの中には含まれているんですが、いろいろ中を調べてみますと就職したくてもできないという状況がある。こういうことを考えますと、若者の働く場の拡大に産業界を始め国を挙げて取り組む必要があると、このように考えております。
 その点で一つ申し上げておきたいのは、若者の職業観という点でございまして、実は私どもは産学連携という観点でインターンシップを進めております。高校生、大学生に職場体験をしてもらいまして、そこで将来の進路についていろいろと示唆を得ると、こういうことでございます。今、日本経団連の傘下に全国各都道府県に経営者協会というのがございまして、そこが主体となってそのインターンシップの受入れ開拓を行っております。昨年末現在で千七百十六社がこれに登録しておりまして、相当多数の学生さんが去年の夏にも現場体験をしたということがございます。
 こうしたいろいろな活動を通じて、何とか若者の就職ということについて、それが具体化するように取り組んでいきたいというふうに思っております。
 高齢者につきましては、これまた個々人の意欲や能力に応じた雇用機会の確保、創出ということが重大問題だというふうに思っております。いわゆる団塊の世代というのがもう少しで六十歳定年を迎える時期に来ているわけでありまして、これからどうなるのか、人口構成を考えてみましても本当に決して遠い先の、今既にある問題でありますが、これからもっと大きな問題になるということを認識する必要があると思います。
 募集、採用時の年齢制限につきましては、おととしの秋にできた雇用対策法だったと思いますが、それに基づいて私どもも傘下の企業に対してその年齢制限の問題についてはPRをしていきたいというふうに思っております。
 ただ、一つ、若年層と違って、高年齢者を考える場合には大変大きな特徴が、若者とは違う特徴があるというふうに私は思っております。それは、六十歳以上といいますか、いわゆる高年齢者層には個人差が大きいという点なんでございます。自分の財産にしても能力にしても体力にしましても、個人差が大きいという点を考える必要がありますし、また自分が老後どういう生活をしたいかという、そういう考え方も実に幅が広くなっているというふうに考えるべきだと思います。
 そういう点で、産業界としては定年後再雇用という形で高齢者の活用が進みつつあります。これは年金の支給開始年限が六十五歳に上がっていくという、それに結び付けた措置、対処の方法なのでありますが、それ以外にも、各企業としても優れた技術、技能を保持したいというのがありますし、働く側もどうせ働くなら同じところで働きたいということがありますから、そこで意見が一致して、労働条件は下がるけれども同じ企業で続くという再雇用が、いったんやめて再雇用が続いているわけです。
 しかし、私が先ほど言いましたように、個人差が大きいものですから、同じ企業での雇用だけではなくて、生涯掛けて培った一つの見識なり体験というものをもっと幅広く世の中が活用するということが必要なんじゃないか。それはNPOであったり海外の企業であったり、何も同じ企業でなくてもいいと思うんですね。場合によっては収入はわずかであったりボランティアであったりするかもしれませんけれども、例えば小中学校の子供たちの生活指導とか、あるいは地域社会でのそういうマナーの教育とか、そういう面で高齢者が幅広くいろんな形で参画すれば、きっとこの国もっと良くなるんじゃないかなと思うんですね。
 高齢化の現象を何か大変だ大変だということの面からとらえることはもちろん必要ですが、高齢者が増えることによって、そういう経験豊富な人たちが日本の次の次の世代を育てるという意味できっと働いてくれるに違いない。そういうやっぱり枠組み、枠組みといいますか奨励といいますか、そういうことを考えたらどうだろうかと、ちょうどいい機会でございまして、御質問があったものですから申し上げる次第でございます。
○近藤剛君 ありがとうございました。
 草野参考人それから矢野参考人のお二方にはまだまだたくさんお伺いしたいことがございますが、時間も迫ってまいりましたので次の機会にさせていただきたいと存じます。
 最後に、せっかくの機会でございますので、和田参考人にお伺いをいたしたいと存じます。
 アムネスティ運動はノーベル平和賞あるいは国際人権賞を受賞されるなど、世界の人権状況の改善に大きな貢献をされておられると思います。今日の御説明で、その活動範囲の広さと積極性につき、私どもの理解は深まったと思います。
 そこで、憲法問題と直接関係のない質問で恐縮でございますが、今日の御説明でも、それから事前に配付していただいた資料を拝見をいたしましても、北朝鮮による拉致などの人権侵害あるいは脱北者に対する中国の対応につきアムネスティがどう考え何をされているのか何も分からないわけであります。その実情につきまして、簡単で結構でございます、教えていただきたいと存じます。
○参考人(和田光弘君) 北朝鮮の問題につきましてはかなり古くから取り上げていまして、アムネスティの立場としては、北朝鮮内における人権侵害が事実として調査された場合に、日本のケースだけにとどまらず、外国人の場合でも強制労働のために収容されているケースに反対したりとかということは過去ございます。ただ、現在行われている日本での様々な問題については、十分アムネスティとして事実調査の上発言してきたということはありません。
 ただ、脱北者と呼ばれている方々の問題につきましては、中国が不法入国者として強制送還している、しかもかなり政治的迫害が行われるであろう、若しくは拷問が行われるであろうということを了解しながら強制送還をしているということについては、既に数回にわたって国際ニュースとして声明を発表し、中国の強制送還に対して厳重な警鐘を鳴らしているところです。
○近藤剛君 ありがとうございました。
○会長(野沢太三君) 時間が来ています。
○近藤剛君 大変参考になりました。どうもありがとうございます。
○会長(野沢太三君) 峰崎直樹君。
○峰崎直樹君 民主党・新緑風会の峰崎でございます。今日は三人の参考人の方、ありがとうございました。
 そこで、最初に、私も矢野参考人あるいは草野参考人の方に特に労働基本権の問題あるいは労使関係の問題等についてお聞きしたいと思いますが、最初に、実は私も関心を持っている問題として、実は公務員制度の今改革問題が起きております。公務員制度の改革に向けた法案までもうそろそろ準備されようとしているわけですが、先ほども草野参考人の方からILOの問題が出されておりましたけれども、この公務員の労働基本権と言われているものが、ある意味では日本の戦後の労働運動の歴史の中でもかなり闘い、あるいはILOの場を通じて随分議論されてきたと思うわけでありますが、その点、率直に今のILOの勧告をどのように受け止められておるのか。
 さらに、ついでに、我が国がILOに関する条約というのが批准が余り多くないんですね。先ほど、アムネスティの和田さんの方からも、国際的にある意味では取り決めた問題を日本に早く批准をするなり、あるいはそれを国内法を早く定着させるなり、そういう努力がやはり欠けているんではないかというふうに思うんですが、このいわゆる基本権の問題、関連してILO条約、そこには国際的な労働関係から見て基本権の問題が随分議論されていると思いますが、その点についてはどのように考えておられるのか。
 草野参考人、それから矢野参考人の順番で結構でございますので、よろしくお願いいたします。
○参考人(草野忠義君) 公務員制度の問題、特に私どもが最重視しておりますのは労働基本権、労働三権の問題でございます。
 そこで、今、峰崎先生御指摘のように、正に戦後の日本の労働運動の一つの大きな課題の一つで、今日まで残念ながらまだ前進が見られていないというのがまず私どもの認識でございます。そういう意味で、一昨年でございましたか、政府の方で公務員制度の改革をやろう、公務員制度を見直していこうということになりましたので、一昨年のILOの総会の場で私どもも問題提起をさせていただきました。その過程において、ILOの総会の名において当事者同士で誠実かつ真剣に話し合う必要があるという御指摘をいただきましたので、私どもも政府関係者の皆さん方と話合いをしてまいりました。
 しかし、残念なことに最終段階の公務員制度改革大綱ができる直前といいますか、一か月強前から全くその話合いがぱったり途絶えてしまいまして、全く協議ができないまま閣議決定を、大綱が閣議決定をされたと、こういう状況になりましたので、これはILOの総会におけるお話合いと随分違うのではないかということで、我々としては見直しを要請をしたわけでありますが、そこで前進を見ませんので、先ほど申し上げましたように昨年の二月にILOの結社の自由委員会に提訴をさせていただいたと、こういうことでございます。
 その後、三回の議論を得た上で、昨年十一月のILOの理事会の名におきまして勧告が出たわけでありますが、これはもう時間の関係で多くを申し上げる必要はないと思いますが、まず第一は、やはり公務員制度改革大綱を見直すべきだというふうに私どもは理解をしておりますし、その中において長年の懸案でありました労働三権、基本権を公務員にも付与すべきであるというのがこの勧告の趣旨だと、こういうふうに考えております。そういう意味で、今我々として労働組合の立場で、関係する政党の皆様方にもお願いをしているところでございます。
 それから、二つ目のILOの条約の批准の問題でございますが、御指摘のとおりでございまして、大変、百八十余にわたりますILOの条約のうち三分の一以下、四十幾つだと記憶しておりますが、しか批准をされていない、これは正に国際社会の中ではやはり大きな問題ではないだろうかと、こういうふうに思っております。どうも何か聞くところによりますと、一年に一つずつしか批准しないというような何か慣行があるやに聞いておりますが、ここは是非ともこの批准を急いでいただくように是非お願いを申し上げたいというふうに思っております。
 以上でございます。
○参考人(矢野弘典君) 社会権の法的な性格についてどう考えるかというのは先ほども申し上げましたので、労働基本権の問題、ただいま御指摘、御質問の点についてちょっと考え方を申し上げますと、公務員は民間と比べまして労働基本権が制約されておりますけれども、公務員の地位の特殊性とか公共性といった点から考えますと、現行の制限はやむを得ないのではないかというふうに私ども思っております。
 公務員には、民間にはない身分保障、それから勤務条件を法律で定める法定主義とか、あるいは人事院勧告制度などの措置が取られているわけでありまして、民間の私どもから見るとはるかに恵まれた地位にあるというふうに思っております。
 そういう点で考えますと、公務員制度改革が進められているということは大変結構なことでありまして、やはり国民に対するサービス意識とかコスト意識が薄いんじゃないかという批判は謙虚に受け止めて、この制度改革に反映していただきたいと思いますし、やはり能力主義とか実績主義も大胆に導入して、全体の奉仕者としてふさわしい、そういう公務員を育ててほしいというふうに思っております。
 今申し上げましたような考え方に立ちますと、今回のILOの勧告でございますね、中間報告という形ではありますけれども、勧告として出てきた中身は私どもも承知しておりますけれども、やはり制約の範囲など、これについては、やっぱり各国の歴史的背景とか公務員労使関係の状況とか、そういった状況を幅広く総合的に見る必要があるんじゃないだろうかというふうに思っております。
 ILOからの説明を読んでみますと、気に掛かるのは、当事者間でよく話し合っていないんじゃないかというようなことがあって、お話聞いてみますと、よく話し合っているということもありますし、そうでもないというのもありまして、ここいら辺はやはり誤解を招かないようによく、説明責任というのがあるんじゃないかなというふうに思っております。見解の違いというのは、これはあって当然だと思いますけれども、話し合っていないと言われるのは大変残念な私は指摘なんじゃないだろうかと思っております。当事者ではございませんので詳しく分かりません。蚊帳の外のような気分で申し上げているので申し訳ないんですが、そういう感想を持っておる次第でございます。
 それから、ILO条約でございますが、この批准、確かに日本は遅れておりまして、草野参考人のおっしゃったとおりだと思います。私は、やっぱり基本条約と言われているものから取り組んでいったらいいんじゃないかと思います。
 ただいまのILOは、四つの労働基準ということを基本、労働基準の基本ということに置いて、例えば児童労働の禁止とか強制労働の禁止とか差別撤廃というのはやっておるわけでございますが、それに関連する条約がたしか八つあったと思いますので、それからまず着手していけばいい、大事な意義の大きいものから順番にやるというふうにして、できれば、日本の国内法との調整に時間が掛かるのかもしれませんけれども、そこら辺、当事者の努力によって数が増えるようになってほしいというふうに私は思っております。
○峰崎直樹君 ありがとうございました。
 次に、経済的自由と労働基本権との関係について少しお聞きしたいと思うんですが、先ほど、規制改革の話を少しされておりました。規制の問題については、私たちはよく経済的な規制と社会的な規制と、こういうふうに分類をすることがあるんですが、この労働に関する規制改革といいますか、規制を改革するというのは、これは時に経営の側からすると、非常に経済的な規制を緩和するんだ、こうおっしゃるんですが、労働の側からすると、いやいや、それは働く人たちの権利を守るための規制なんであって、これを改革してもらっては困りますよと、こういう対立をよく聞くのでありますけれども、その意味で社会的規制と経済的規制との関係で、そういった点について、ちょっと非常に抽象的なお話をしていますが、労働に関する規制、最近の規制緩和の、改革の動きなんかに関連して、私は、その点はやはりここがどうも最後は労使の間の信頼関係といいますか、そこに結び付いていく問題なんだろうと思いますが、その点、もし両参考人がそれらの点について何か御意見ございましたらお伺いしたいと思いますけれども。
 矢野参考人の方からお聞きしましょうか。
○参考人(矢野弘典君) 権利というものが、その社会で機能する役割とか中身というのはやっぱり時代によって変わっていくものだと思います。貧しい時代に、あるいは昔のように奴隷みたいな労働が行われていた戦前のような女工哀史というような時代にできるそういう法律とか基準というものと、今日のように豊かになった時代に出てくる法律とか基準というものとはやっぱり違っていいんじゃないかと思うんですね。基本的に憲法に書いてあるような権利が守られるということが大事でありまして、やはりそれは相対的なものではないかというふうに思うわけでございます。
 そういう観点に立って考えますと、今日、何よりも大事なことはやっぱり雇用の確保である、そして経済の活性化であるということを考えますと、そのための手段というものに対してもっと大胆に取り組む必要があると思います。それは社会的規制であっても例外ではないというふうに思うわけでございます。労働基準法や人材派遣法や職業紹介法やそういう関連する法律を大胆に見直すということが必要であると思うわけでございます。
 実は、雇用問題に関する政労使合意、十二月四日の合意でございますが、これは三本柱がございまして、皆さんも御承知でございましょうけれども、この経労委報告の六十四、五ページに書いてあるんですが、三本柱があって、一つは「雇用の維持・確保」、二つは「就職促進」、もう一つが「労働市場改革」というふうにうたっているんですね。ここで、必要な規制改革、「経済の発展を考え、就業形態の多様化を進めるため、必要な規制改革を推進し、労働法制の見直しを行う。」、こういう合意に達したわけです。
 これは大変、正直申し上げまして労使激論をいたしました。しかし、これからの国の経済や社会を本当に豊かにし弾力的にするためには、とりわけ、今のように雇用情勢の悪い、景気の悪いときには、今やっぱり変える必要があるんじゃないかということで、こういう文書で書かれたような合意に達したわけです。
 具体的な中身についてはそれぞれ詰めていく必要があると思いますが、大きな方向については合意ができたということを私は評価しておりますし、そこまで踏み切られた連合の皆さんに対しても、先ほどの労働条件の弾力化という文言と併せまして、敬意を表する次第であります。
○参考人(草野忠義君) 今、矢野参考人から少し褒められたような感じもいたしますが、余り褒められ過ぎると、後が怖いものですからよくないんですが、まず、経済活動における自由あるいは市場競争というものを私どもは否定するつもりは全くありません。このことはまずはっきり申し上げておきたいというふうに思います。
 ただ、峰崎先生御指摘のように、労働に関する課題についての一方的な規制緩和というのは、これはやはり基本的な人権にもかかわってくる極めて重要な課題だと、こういうふうに認識をいたしております。したがいまして、今行われております緩和につきましては、余りにも市場経済あるいは市場競争万能主義に基づいた緩和ではないだろうか、本来ならその緩和に相対する労働者の保護、権利の保護というのがなければならないというふうに思っておりますが、今の議論は一方的に偏ったものになり過ぎているということは明確に主張させていただきたいというふうに思います。
 それからもう一つだけ申し上げますと、雇用の流動化ということにつきまして経営側の皆さんが盛んに主張をされます。これは労働組合も雇用の流動化を否定するつもりはありません。しかしながら、今の状況の中で雇用の流動化を先行させますと、受皿が全くありませんので、失業という受皿に行かざるを得ないということがまず第一義的にございますし、もう一つは、外部労働市場というものが全く整備されていない状況で雇用の流動化というのは、いたずらに混乱を招くだけ、もっと厳しい言葉で言えば、雇う側にとって都合のいい労働力のみを使うということになってしまうのではないかと、こういうふうな懸念を大変強く持っておるということを申し上げたいと思います。
○峰崎直樹君 それでは、アムネスティ・インターナショナルの方の和田さんに一点お聞きして終わりたいと思いますが、先ほど質問されました近藤さんと実はよく似た質問なんですが、実は拉致問題、実は先日も私、参議院の予算委員会でこの拉致問題に絡めて、本当に拉致の責任を追及する、最終的に北朝鮮のこれは責任者を追及をしていくというときに、これは今は国際刑事裁判所、ICC条約なんですが、この中に実は拉致の規定が入っておりまして、その意味で早くこれを批准すべきではないかと。そして、当然、過去の批准前の行動であっても現実にまだ依然として拉致の疑惑が残っておるというときにはそれが追及できると、こういう実は国際的な約束事があるはずでありますから、当然、このICC条約を早く批准すべきだということで私ども迫ったんですが、依然として関係国内法の整備が遅れておるということで、これがずるずるずるずる延ばされていると、こういう状況なんですが。
 先ほど、随分、レジュメの五番目ですか、国際人権法と人権条約の発展をめぐる活動ということで、日本の選択への期待の中の五番目に入っているわけでありますが、この一から六、最近いわゆる発効したものとか、かなり時間的な問題があるんでしょうけれども、なぜこんなに日本の国際的な人権法に対する批准が遅れているのか、それについて何か御指摘があればお伺いしたいし、また拉致問題について、そういう形で国際刑事裁判所の方でそういった大きな役割を果たすということについてどのように考えておられるのか、お聞きしたいと思います。
○参考人(和田光弘君) まず、条約の関連ですが、日本が批准している条約のアムネスティが関心を持っている条約の件数からすると、ちょっと前もって配った資料をごらんいただくと分かりますが、ドミニカとかナイジェリアとか、その国と大体似たり寄ったりか、むしろそれよりも少ないという状態です。
 法務省の考え方は様々あるかと思いますが、とりわけ個人通報制度などに対する考え方としては、日本の司法は完全である、日本の国内の救済手続がきちんと整備されていて、その中で処理されていることにおいて全く問題はないという考え方が強いのではないかと思います。それによって、国際的にもう一度チャレンジを受ける、もう一度審査をされるということに対して極めて消極的な立場を取り続けてきたのではないかというふうに考えております。
 それから、拉致の点と刑事裁判所条約については、事務局長の寺中が来ておりますので、そちらから少しお話しさせていただきます。
○参考人(寺中誠君) アムネスティの寺中でございます。
 今の御質問の国際刑事裁判所ローマ規程の批准の問題ですが、これは、おっしゃったとおり、まだ国内法の整備が進んでいないというような理由でなかなか批准が手続に入れないという問題がございます。
 ただ、この国際刑事裁判所規程自体は昨年の七月一日に発効しております。問題は、この国際刑事裁判所規程自体は時間的管轄権というものが規定されておりまして、この七月一日以降に発生した人権侵害でなければこの国際刑事裁判所の管轄権に入ってまいりません。もう一つは、やはり締約国がどこであるかということが問題になりますので、日本もですが、その相手国も同じように国際刑事裁判所の規程を批准しているということがまた必要になってきますので、いろいろ直接に使うというツールとしては難しいのかなというふうには思います。
 ただ、国際刑事裁判所規程自体は、国際的に認められた、あるいは国際法上の最もひどい犯罪というものを規定して、これを普遍的に犯罪化していくということを強く促進するものです。したがいまして、この国際刑事裁判所の規程を批准するということは、この条約に加入するということのみならず、国際的に決められた犯罪というものを自分たちも認めたということになります。したがって、それに対する責任追及の努力も取られることになりますし、また、現在は国連における強制的失踪作業部会の方に提訴する云々というような話が出ておりますけれども、この国際刑事裁判所規程を批准した暁には、こういったような問題についてもどのような対応措置を取るのかといったようなことを国際的に議論をしていく場というものもだんだんと開かれていくわけでありますし、そういう意味では非常に重要だろうというふうには考えております。
○会長(野沢太三君) 時間でございますので、よろしいですね。
○峰崎直樹君 ありがとうございました。
○会長(野沢太三君) 山口那津男君。
○山口那津男君 公明党の山口那津男でございます。
 参考人の皆様には貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございました。
 まず初めに、矢野参考人と草野参考人に共通のお尋ねをいたします。
 社会保障制度、これは第一義的には国の役目あるいは公的部門の責任が大きいと思いますが、民間で果たす役目というものも少なからずあるだろうと思います。例えば、退職後の生活保障という意味で退職金とか年金とかあるわけでありますが、国会議員の場合は退職金について国会法に定めがありまして、実際にはそれを実質的に年金という形を取って給付をいたしております。
 民間の場合には、この退職金制度あるいは年金の制度共々にいろんな工夫がなされているだろうとは思いますが、しかし、その給付の内容あるいはその権利の保障という、権利というのは、契約上の権利の保障という意味では個々の企業間に相当なばらつきがあるのではないかと思われます。しかし、今日の両参考人とも個々の企業を横断的にかかわるお立場の方々でありますから、このばらつきというものを是正して一定限の重要な役目を果たす方向に努めていただきたいと、こう期待をするわけであります。
 この民間の役目、そして退職後の生活保障、給付の役目、これについての整備の方向について、それぞれの御意見を賜りたいと思います。
 まず、矢野参考人からお願いいたします。
○参考人(矢野弘典君) 御承知のとおり、年金制度というのは三階建てになっておりまして、一階で基礎年金があって、二階で報酬比例の年金があって、それぞれ保険料を払ってずっとやってくるわけでありますから、それはそれなりに個人なり企業なりとして貢献していく部分があるんですが、それは公的な部分と言われている年金でございます。
 もう一つ、三階がございまして、これが企業がやっている年金でありまして、実は私ども、これを充実させたいと思うんですね。国の年金というのはやっぱりどうしても限度があります。保険料をどんどん上げて給付を減らせばいいというわけにいかないと思うんですね。そうすると、保険料をあるところでとどめておいて、それに合わせて給付を下げていくということしかこの制度を維持する道がないとするならば、やはり私的な年金を充実してやっていくということがそれを補う重要な方法だと思います。
 ですから、これは各企業とも一生懸命努力しているんですが、御承知のとおり、こういう経済情勢でございまして、その積立てそのものがもう大変な状況になってきているという事情を是非御賢察賜りたいと思います。そういう私的な厚生年金が本当に経営破綻に陥っていると。これは健保組合もそうなんですけれども、大変苦しい状態に陥っているんですね。ですから、何とかそういう状況を脱していくようにしたいということであります。
 そのために、随分もう、おととしでございましたか、確定拠出年金法というのを作っていただきまして、私ども大変熱心に進めていたものを皆様方のお力によりまして実現できたというのは、本当に良かったなと思って感謝しております。
 ただ、やっぱりマッチング拠出とか限度額の問題とか、そういう点でまだ本当に何か規模の小さな年金なんですね。やはりあれはポータビリティーもありますので、どうかあれをもっと使いやすい制度にすればいいんじゃないだろうか。これから雇用の流動性というのも高まってまいりますが、その場合に必ず確定拠出年金というのは重要な役割を果たしていきますので、また税制の面についても、これについては是非御配慮を賜りたいというふうに思っております。
○参考人(草野忠義君) 社会保障の問題につきましては、日本経団連さんは一月一日付けでビジョンを提起をされておりますが、私どもは昨年の秋口に連合としてのビジョンを提起をさせていただいておりますので、この議論はそちらの方に譲りたいというふうに思います。
 今、山口先生御指摘の、年金の方じゃなくて退職金の問題は、これは本当に頭が痛い問題であります。私ども労働組合の立場からいえば、企業規模間の労働条件の格差是正というのはある意味では悲願でございまして、一生懸命それぞれに努めてきていただいてはおりますが、このような経済情勢も反映をし、経済情勢あるいは経営の状態を反映して、なかなかこの格差が是正が進んでいかない、場合によっては格差拡大の状況さえ見られているというのが昨今の状況でございます。
 そして、その中でも、月々の賃金その他よりも退職金の格差、企業規模間格差というのが大変に大きいものですから、ここをどう整理していくかという点では本当に頭を抱えているというのが率直なところであります。
 それから、もう一つこの問題について頭が痛い問題は、先ほどもちょっと触れさせていただきましたけれども、外部労働市場を整備していく、そしてその結果として雇用が流動化をする、こういう問題になってまいりますと、最後に、この退職金をどうしていくかという課題が最後に残ってしまう。今のところいい解決策がないんですが、大変頭の痛い問題だというのが現状の率直な気持ちでございます。
○山口那津男君 草野参考人に続いてお伺いいたします。
 独立行政法人が数が増えてきているわけでありますが、その労働基本権の問題につきまして、例えば国立大学が独立行政法人化されるという予定になっておりますが、ここで働く人々は非公務員型の制度になると言われているわけであります。公務員として今まで身分保障があったものがなくなる、その代わりに労働基本権が保障されると。
 これは、従来、連合の皆様が公務員の労働基本権を認めよと、こう言ってきたことと必ずしも同じ方向と言えるかどうかは分かりませんが、実質、公務員的な職場であったところが、研究者や職員も含めてこの労働基本権が保障されると、そういう制度に変わるわけでありまして、これが果たしてどういう方向になるか、どういう評価をなされるか、この点について御意見を伺いたいと思います。
○参考人(草野忠義君) 先ほどの一連の御質問等を含めてちょっとだけお話をさせていただきたいと思いますが、私どもは、公務員のあるべき姿について今のままでいいというふうには思っておりません。それはもう我が連合の公務員部隊からも、もっと民主的で透明な公務員制度を作ろうということを自ら提案をいたしておりますし、そういう意味では、天下りの禁止であるとか、あるいはキャリア制度の廃止であるとか、あるいは職務に応じた賃金の評価の問題等を含めて、これから自らそこを切り開いていかなければならない、こういうふうには思っておりますが、その一方で、やはり働く以上は労働基本権は当然付与されるべきだと、こういう視点に立っているわけであります。
 したがいまして、その観点からいきますと、今、山口先生御指摘のように、独立行政法人化された場合、労働基本権が付与されるのは私どもとしては当然のことではないか、このように考えております。
○山口那津男君 もう一問、草野参考人に伺います。
 先ほども指摘がありましたが、フリーターや無業者と言われる人たちが増大しているとか、高齢者の雇用の面での年齢差別が横行しているとか、あるいはリストラ、賃金水準の抑制等々、働く現場にとっては好ましくない状態がるる指摘されるわけであります。
 そうした中で、昨年、連合東京においては加入者が増加していると、こういうお話も承っているところでありますが、しかしこの言わば働く人々の権利が実質的に保障されるべきでありますが、その点についての労働基本権の機能、これが十分に果たされているのか、発揮されているのかどうか、それからこれからの労働基本権の役割についてこの点をどう認識していらっしゃるか、お伺いしたいと思います。
○参考人(草野忠義君) 御指摘のように、昨年、全国的には労働組合の組織率はまた低下に歯止めが掛かりませんで二〇・二%ということになりました。その中で、連合東京は組合員が増えているという状況にあることは事実でございます。
 今、連合といたしましては、個々の組合は別にして、連合全体としては、非典型労働者と私ども呼んでおりますが、いわゆるパートタイマー、あるいは派遣労働者、あるいは契約労働者等々に対する組合の枠というのが非常に目が届いておりませんでしたので、そちらの方にもっともっと手を広げていこうと。
 これは組合員が減ってきたからということじゃなしに、やっぱりナショナルセンターとしては、そういうどちらかというと労働条件が厳しい、あるいは労働者としての権利が守られにくいところに対して労働組合としての網の目を広げていって、そこで処遇改善なり、あるいは労働者の基本的権利を守るというのがナショナルセンターの本来の役割ではないだろうかと。
 そういう意味で、今そちらの方向に鋭意力を入れていきたい、こういうふうに思っておりまして、御質問の趣旨と合わないんですが、今、組合員であるところのいわゆる従来型の正規従業員といいましょうか、常用労働者の方々についてはそれぞれの単位組合が責任を持つ、むしろそれ以外の幅広いところを私ども連合というナショナルセンターがカバーをして、権利を守っていくために何ができるかと、こういう方向に運動を大きく転換をしていきたい。そういう中で、今御指摘のような大変厳しい逆風下ではございますけれども、労働組合としての雇用の維持あるいは労働条件の格差の是正、そして基本的な人権や権利の擁護というものに精一杯頑張ってまいりたい、こういうふうに思っております。
○山口那津男君 次に、和田参考人にお伺いいたします。
 先ほども国際刑事裁判所、ローマ規程のお話が出ておりましたけれども、この規程につきまして、日本はかつて推進する側で論陣を張ったこともあったと思います。しかしながら、例えばジュネーブ四条約の追加議定書等のいわゆる国際人道分野と言われるような法制、条約の批准、並びに国内法制がいまだに達成されておりません。したがいまして、この国際刑事裁判所に参加していくためにはこうした批准や国内法の整備が不可欠の前提であると、こう考えますが、その点についての見解をお伺いしたいというのが一点あります。
 それからもう一つ、このローマ規程について、七十五条には民事的な補償、賠償の規定がございまして、本来、刑事裁判所でありますから、その加害者、被告人を裁くところが本来の目的でありますが、被害者に対する補償というものについても言及している非常に画期的な規定だと私は思っております。
 しかし、これについての国の責任、加害者が所属する国の責任について必ずしも明快ではありません。この分野についても私はこれからもっと発展を図っていく必要があると思っておりますが、この点についての御見解も併せて伺いたいと思います。
○参考人(和田光弘君) まず、前段の国内法の整備との関係ですが、一昨年になりますか、国際事務総長のピエール・サネが日本に来日しまして、高村法務大臣、表敬訪問いたしました。私、それに随行で行ったんですが、当時、大臣とこの国際刑事裁判所規程の批准についてお願いした際には、国内法等の調整はあるけれども前向きに取り組むという感触を得たわけです。
 しかしながら、その後、むしろ国内法の整備の問題というよりは、アメリカ合衆国における九・一一以後の見解の変更、若しくは、とりわけ米国の軍隊に対する適用除外という問題が出てきたころから極めて日本における批准について、内部的にどのような動きをなさっているのか分かりませんが、消極的に我々のような市民団体からは見えるというふうに考えております。
 七十五条の民事賠償につきましては、できれば事務局長の寺中の方から答えさせていただきたいと思います。
○参考人(寺中誠君) まず、ICCの前段の方にも若干関係しますけれども、例えば日本という国はジュネーブ四条約を批准しております。批准したのは随分昔で、五三年ですね。しかしながら、現段階に至るまで、このジュネーブ諸条約で決めなければいけないという戦争犯罪というものに関しては規定を作っておりません。したがいまして、ICCというふうによく呼びますが、国際刑事裁判所規程、これを批准するに際して国内法の整備が先行しなければならないという理由はありません。
 これに関しまして、国際刑事裁判所規程自体は、もし国内法に該当する規定がなければそれが適用されるという形になっておりますので、要は日本国として、日本国政府としてどのようにこの国際刑事裁判所の問題に対して取り組んでいくのかという意思の問題であろうというふうに考えます。
 七十五条のこの賠償権に関してですが、おっしゃるとおり非常に画期的な内容になっております。しかしながら、この内容について細かな規定を作っていく、いわゆる規則の部分ですね。このルールの策定に関しましては、現在、準備会議、会合等が行われておりますけれども、まだ更に詰めていかなければいけないところがたくさんあります。これに関しまして、まず最重要の四つのルールに関しましては既に採択されておりますが、更に細かいルールに関しては現在でもまだ起案中あるいは草案中というものです。したがいまして、一刻も早くこの国際刑事裁判所規程に加入することによって、こういったような議論に参加できるものというふうに我々は考えています。
○山口那津男君 終わります。
○会長(野沢太三君) 吉岡吉典君。
○吉岡吉典君 日本共産党の吉岡です。
 職場に憲法なしという言葉があるように、労働分野は憲法と現実との乖離の最も大きい分野だと、こう言われております。そこで、憲法に立ち返りながら若干お伺いしていきたいと思います。
 まず、矢野参考人、草野参考人、両方にお伺いしますけれども、私は、日本国憲法というのは国連憲章の精神、とりわけ労働関係法規はそれに加えてILO憲章、あるいは一九四四年、終戦の、第二次世界大戦終結の直前ですが、戦後の新しい世界に対応するために採択されたフィラデルフィア宣言、こういうものの精神を受けたものだというように思っておりますが、その点、どうお考えになるか、簡単で結構ですから、お伺いします。
○参考人(矢野弘典君) ILOの始まりました一九一九年でございましたか、そのときの初めての宣言、これはおっしゃるフィラデルフィア宣言、そうしたものは、加盟国として、これは政労使、それぞれに皆尊重して今日来ているわけでありますから、当然それを批准するにいたしましても、あるいは労使関係を考えるにつきましても、大きなその指針の一つになっているというふうに思います。
○参考人(草野忠義君) 憲法そのものについての論評というのは、私どもまだ十分な議論をしておりませんのでそこは避けさせていただきたいと思いますが、基本的に私どもが労働分野に関しての今の憲法の条文から考えれば、このILOの問題、あるいは国連憲章の問題、フィラデルフィア精神の問題の流れをくんでいるものだというふうな理解をいたしております。
○吉岡吉典君 私は、憲法を根本的に論議しているこういう機会、やっぱり原点に返ることが非常に必要だと思ってお伺いしたわけです。
 私が今フィラデルフィア宣言を挙げたのは、これは、永続する平和は社会正義を基本としてのみ確立できるというILO憲章の宣言を再確認し、さらに、戦後の政策の基調として完全雇用や福祉の増進などの原則を挙げているという点を重視するからです。現実はとてもフィラデルフィア宣言が言ったような状況でない実態であります。
 そこで、先ほど来論議になっております二十七条の、この「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」という規定に関連してですが、これは繰り返し言われてきましたように、当時の憲法制定議会の速記録を読んでみますと、働く能力があり、働きたいという意欲のある者に対して勤労の機会を与えるという趣旨でございますと、こう答弁されておりますね。
 問題は、だれがそういう保障を行うかということだと思います。
 憲法制定当時、労働法学者の書いた本によりますと、その一般的な意味では今の答弁だけれども、限定された意味においては、労働能力を有する者が私企業の下で就業し得ない場合に、国又は公共団体に対して労働の機会の提供を要求し、それが不可能な場合には相当の生活費を要求し得る権利だと、こういうふうに書かれております。
 これ、時間の関係で草野参考人に、こういう憲法制定当時のそういう説明が行われたことをどう今の時点でお考えかということと、同時に、実際の職場の状況というのはどうなっているかということに関連してお答え願いたいと思います。
○参考人(草野忠義君) 今御指摘のように、この二十七条の解釈につきましては、国に対して国民が完全就業できる体制を作る、国家がその義務を負っているということというふうに私どもは理解をいたしておりますし、また失業者への就業の機会を与える義務があると。同時に、今、先生御指摘のように、失業者に対しては生活資金を給付する義務がある。
 これは、今もってこの基本的な考え方は私は変わっていないし、変えるべきではないだろうと、こういうふうに思っておりますが、現実どうかと言われますと、先ほどから話題になっておりますように、昨年の年間の完全失業率は五・四%、恐らく潜在失業者を入れれば二けたに近いところの数字になっているのではないかとも言われておりますし、現実に、雇用のセーフティーネットと一般的に言われておりますが、雇用保険給付についての削減案が提示をされているということについては私どもは極めて遺憾だというふうに思っております。
○吉岡吉典君 矢野参考人にも、今の点、ちょっとお伺いします。
○参考人(矢野弘典君) 二十七条勤労の権利、これは社会権といいますか、その一つであるというふうに思います。その法的な性格というのは、ただこの法律をもって、憲法の条文をもって裁判所に権利の実現を求めることができるというものではない、やはり特別な立法措置が必要だというふうに私どもは考えております。そういう意味で、生活保護法とかたくさんの法律が具体化しておりますので、それによって実行するということになるだろうと思います。
 それから、憲法制定とILOの精神あるいは宣言との関係については、ちょっと私は憲法制定のときのいきさつが分かりませんので、どういう関係があるかについては承知しておりません。したがいまして、ILOの考え方とこの二十七条が直接につながっているのかどうか、制定のいきさつの中からは分かりませんけれども、今日のILOの場での論議も、やはり労働者の保護とか、先ほどちょっと触れました四つの基準を推進するという意味では、いろんな形で、憲法の規定ということではなくて、もっと別の法律の形で具体化しているというふうに考えたらいいんじゃないかと、このように思っております。
○吉岡吉典君 二十七条との関係でお伺いしますけれども、矢野参考人に。
 よく企業の社会的責任ということが言われますけれども、その企業の社会的責任という中にはこういう労働者の労働権を保障するというようなことも含めてお考えになっているかどうかという点、お伺いします。
○参考人(矢野弘典君) 企業の社会的責任という場合には、私どもはよく、何といいましょうか、ステークホルダーに対する責任というふうにとらえておりまして、つまり企業の所有者である株主はもちろんでありますが、従業員、そして地域社会、そうしたいろいろな関係者に対して幅広い責任を負っているというふうに考えるわけでございます。
 でありますから、当然、従業員に対する責任ということを感ずるがゆえに、十二月四日の政労使宣言にもありますとおり、雇用の維持のために全力を投球するということを合意したわけであります。
 そうはいっても、本当に会社が立ち行かなくなりますと倒産をするわけでありまして、倒産をした企業は雇用を維持できないわけですね。そこにおのずから限界があるという非常なジレンマを覚えます。ですから、倒産にまで至らないように労使でよく相談して、譲るものは譲り合って、そしてその企業の存続を考えてほしい、それが雇用の確保につながるというふうに申しているわけでございます。
 私どもが実際の現場で憲法二十七条の精神に沿って従業員を考えるというふうなことは、そういう論じ方はいたしておりませんが、多分、考え方の底に同じものがあるんじゃないだろうかと言っていいんじゃないでしょうか。
○吉岡吉典君 矢野参考人、先ほどの発言の中で国家の過剰介入という言葉がありました。どういうことを念頭に置いてお話しになったのかということも含めての質問ですけれども、憲法二十七条を受けて制定された労働基準法など一連の労働法に関連して、労働省はその後ずっとその解説書の中で言ってきていることは、これは契約の自由の原則を修正したものだということを言い続けております。
 例えば、こういうふうに言っておりますね。産業革命以降の歴史は、労働者と使用者との間の法律関係を契約自由の原則にゆだねることは労働者の生存そのものを脅かすことを明らかにしてきたと。そういうことから、労使関係においては、契約の自由の原則を修正して、法律が労働条件について一定の基準を設け、これを義務付けると、こういうことにしたものだというふうにずっと労働省自身の本で書かれているわけですね。
 こういう契約自由の原則の修正という考え方についてはどのようにお考えになっているのか。これは、例えば国家の過剰介入という先ほどありました中に入るのか入らないのか併せてお伺いし、あわせて、この問題、草野参考人にもお伺いしたいと思います。
○参考人(矢野弘典君) 経済が活性化していくためには経済的自由というのが保障されなければならないということが前提でありますが、しかし、幾ら経済的自由が重要であるからといって、それが経済的弱者の生活基盤を破壊するようなことではあってはならないという意味では、経済的自由への制約というのも、これは言わば労働保護法によってなされているというふうに考えております。
 これは、しかし、あらゆる権利について言えることだと思うんですね。やはり、憲法が公共の福祉というところで何か所か公共の福祉を論じ、権利の濫用について十二条で論じておりますように、やはりあらゆる権利というものがそういう制限の中にあるというふうに考えなければならないだろうと思います。
 でありますから、今のように考えるわけでございますが、過剰介入と申し上げましたのは、やはり規制の問題を申し上げているわけでありまして、やはり経済を活性化し、労働市場をもっと流動化し、弾力化し、再就職の機会を増やし、雇用機会を増やしていくためには、経済的な規制と同時に社会的規制の緩和といいますか、改革も進めていく必要があると。それが広い意味では労働者保護にも雇用の確保にもつながるわけでございますので、基本的にはお互いに譲り合うわけでありますが、経済的自由と労働基本権というのは互いに矛盾するものではない、相助け合うものだというふうに私は考えております。
○参考人(草野忠義君) 今、先生御指摘のように、労働者の基本的な権利、勤労権等を含めて守っていくためには、労働基準法というのはこれはなくてはならない法律だと思いますし、我々の立場から見ればまだまだ不十分な点もこれあるし、最近の動きで見れば、これが改悪、私どもの言葉で言えば改悪の方向に流れているものについては大変危機感を持っているということだけ申し上げたいと思います。
○会長(野沢太三君) 時間が来ていますね。
○吉岡吉典君 和田参考人に、時間がなくなっちゃいましたので、申し訳ありませんけれどもお許しください。
 終わります。
○会長(野沢太三君) 平野貞夫君。
○平野貞夫君 私は国会改革連絡会という参議院にある会派に所属しております。国会改革連絡会というのは、自由党と無所属の会、二つの政党といいますかで構成しているところでございまして、私の話が会派を代表しての話ではございません。むしろ個人的な意見というふうに御理解いただきたいと思います。
 自由党では、平成十二年に実は「新しい憲法を創る基本方針」というものを作って発表しております。この基本的スタンスというのは、一九八〇年代ごろから資本主義は変質したという、変わったという問題意識で、したがって現憲法では限界があるので新しい二十一世紀の憲法を作るべきだと、こういうスタンスに立っております。
 そこで、どういうふうに資本主義が変わったかということの認識として、一つは、やっぱり労使が対立する、あるいは労働組合が国家権力と対立するという時代でなくなった、むしろ資本主義を本質的に動かしているのは資本家でも経営者でもない、消費者であると、これが世界的になっているという変化。それからもう一つは、技術とそれから人間の欲望の異常な拡大で、やはり地球環境保全と経済の自由、人間の活動の自由というものを調整しなくてはならなくなったということと、もう一つは、やっぱり情報技術の発達で情報文明化に入ったことで資本主義がマネー投資資本主義といいますか、非常に悪くなった、おかしくなっていると。実体経済でなしに投機経済が資本主義をおかしくしている、こういう三つの変化を見ているわけでございますが。
 そこで最初に矢野参考人にお伺いしますが、私はこれから新しい憲法を作る際に、経済の自由、経済活動の自由ということについて、地球環境保全という原理の下に市場経済原理を規制すべきだと、これを憲法で原理として確立すべきだという意見を持っていますが、それに対するひとつコメントをいただきたいと思います。
○参考人(矢野弘典君) 大変難しい御質問で、どうお答えしていいのか分からないというのが私の回答なんですけれども、環境問題の重要性を軽々しく見るというのではございません。地球環境ということは、ある意味では人類の生存の問題でありますので、それはもう何よりも大事なことであると思います。
 しかし、憲法というのは国のあらゆる活動、あらゆるプレーヤーに対する基本法でありますから、環境問題を最上位の基準に置いてその下にほかのものを置くということが果たして合意が得られるだろうかということについては疑問を覚えますけれども、この点についてはっきりした意見を持たないので、お答えにならないかとは思いますが、そのように考える次第でございます。
○平野貞夫君 失礼しました。難しいつもりでやったわけじゃないんですが、あらゆるものについて最優先するということじゃございませんよ。市場経済原理より上に置くべきだということだと。それから、日本経済連がこの問題についてまともにやっぱり議論していないとすれば私はおかしいと思うんですよ。今一番大事なことだと思います。
 それから二番目に草野参考人にお尋ねします。
○会長(野沢太三君) 草野参考人。──そのままいいですか。
○平野貞夫君 ええ、結構です、時間がありませんから。いずれまた番外でやりますから。
 もう一つ、私たちの憲法原理の一つは、勤労者の社会的あるいは政治的、経済的な権利を拡大する。拡大するというのは、国家権力に対立するとか経営者に対立するという意味でなくて、そういう対立する意味でない拡大は市場経済の発展とデモクラシーの健全化に欠かせない原点であると思うんです。こういうことも憲法の、私たちが志向する憲法の原理の一つに入れたいと思うんですが、そのことについて御意見を。
○参考人(草野忠義君) 今、平野先生から御指摘のあった新しい憲法を作る基本方針ということにつきましては勉強をさしていただいたつもりではおりますが、なかなか、中身までどうかと言われると立場上なかなか難しい部分があると思いますが、最初に国及び国民の在り方についてというところからたしかこれは始まっていたと思いますし、そういう中で、市場経済が発展をする、ある意味では行き過ぎになる、それから一方でこの民主主義というものが少し形骸化をしていく、そういう中にあって、この働く人たちの権利を拡大することによってそのバランスを取るという意味でございましたら、私どもはその方向で進むべきだ、こういうふうに思っております。
○平野貞夫君 ありがとうございます。
 私たちの考え方は、やはり広い意味で働く人が資本主義を支え、そしてデモクラシーを支える時代になったと、あるいはしなきゃ駄目だと。特定の権力を持っている人間が、官僚なり特定の族議員がそういうもののイニシアチブを取るんじゃなくて、そういう意味でのことでございまして、健全な市場経済というものなくして我々の幸せもないわけでございまして、そういう思いからでございました。
 それからもう一点、草野参考人にお尋ねしますが、私、専門的な知識がなくて大変よく分からないんですが、ワークシェアリングという言葉がヨーロッパから出てきて、日本の社会でもかなり定着といいますか、導入されようとしていると。これは、現在のこの厳しい経済状況下で、社会的共存という点からいえば非常に大事なことだと思うんですが、いつまでもこんな時代じゃないと思います。
 憲法の議論をする場合に、やっぱり多少普遍的なスタンスで見た場合、本質的にはこのワークシェアリングというのは基本的人権と矛盾するものではないかと。やっぱり、いい社会では、お互いに仕事を分け合ってというシステムというのは、これは臨時かつ緊急なものであると。いわゆる基本権としてのワークシェアリングというのは僕はちょっと理解できないという部分があるんですが、その辺の位置付けについてお話を伺いたい。
○参考人(草野忠義君) 先ほど矢野参考人も御発言されましたが、緊急対応型のワークシェアリングと多様就労型ワークシェアリングと、私どもは基本的に二つに分けて考えておりまして、緊急対応型のワークシェアリングは正に今のような状況の中で雇用を何とか維持をしていこうという臨時措置ということだろうというふうに私は思っております。そういう意味でいえば、かなり普遍的な形ではないと、こういうふうに理解をいたしております。
 多様就労型というふうに今名付けられておりますワークシェアリングにつきましては、将来の働く姿として、例えばジェンダーフリーの世の中にしていく、あるいは先ほども御指摘のありました高齢化社会の中にあって、高齢者の方々にも社会に参加をしていただくという観点から見た場合のワークシェアリングという意味で、私は大変一つの絵姿としていい絵姿ではないだろうかというふうに思います。
 ですから、もっと端的に言いますと、何といいますか、非常に単純化して言いますと、一人の男の人が、世帯主が働いて奥さんと二人の子供を養うという世代から、夫婦がともに仕事をすると。その代わり、世帯主が今まで一だった収入が場合によっては〇・七になるかもしれないけれども、配偶者が働きに出ることによって〇・七で、足すと世帯収入は一・四になると。なおかつ、世帯主が一働いていた労働時間よりもそれが相応の短い労働時間になりますから、相互に家事あるいは育児あるいは地域社会との関係等についても相互にシェアができると。そういう意味では、これからの働き方として一つのビジョンとして成り立ち得るんではないかと、こういうふうに思っております。
○平野貞夫君 矢野参考人にもう一点、社会保障制度の在り方についてお尋ねしたいんですが。
 先ほどお話の中で、年金と介護と医療ですか、これを、セーフティーネットの必要性を力説されて、経団連の立場としての画期的なお話だと思うんですが、実はこの点について私たちは、基礎年金とそれから介護、それから高齢者医療は、これはセーフティーネットというものではなくて、憲法二十五条にむしろ書き入れて、国が責任を持って整備をすると、いわゆる保険制度をやめると。ここで言わば人間が生きていく最小限度の結果平等を国が保障して、その上で敗者復活なりあるいは競争、自由に競争できるシステム、市場経済システムを作るべきじゃないかという、こういう考えを持っておりますが、それに対してちょっと御意見いただければ有り難いんですが。
○参考人(矢野弘典君) 社会保障の要するに費用をどうやって負担するかという点につきまして、私どもは公費負担をどう位置付けるかということを大変重要な課題として考えております。例えば、基礎年金について申し上げましても、国庫負担を三分の一から二分の一に上げる場合、その財源負担をどうするか。私どもは、消費税で一%程度になるのでそれでやったらどうだろうかという提言をしているわけで、先生方の御議論を得たいというふうに思っているわけでございます。
 この年金の在り方についてもいろんな議論がございまして、この点について私ども徹底的に議論しているんですが、最終的にどういう姿がいいのかというところまではまだ来ていないんですね。長年続けてきました、保険料があって、そして税があってという構造を、もっと税負担、それは直接税もあるし間接税もあるしという形で負担の在り方を考えていって、最終的にどこに持っていくかという、これが議論の道筋だろうと思うんですね。
 でありますから、これから本当に、特に年金の場合は今年一年掛けて来年改正しようということでありますし、医療改革につきましては春までに方針をまとめて、そして少し時間を掛けて具体化を図ろうということでありますし、介護については単価の改正については審議会で結論を出しましたが、制度そのものですね、できて三年たったばかりなんですけれども、五年ごとの改正が間もなくありますから、その辺どうするかということでありまして、先生の御指摘の点についてはよく私ども問題意識は持っております。一挙にそこまで行けるかどうかということは、これはなかなか負担の問題で大問題だと思いますので、しっかり議論さしていただきたいと思っております。
○平野貞夫君 ありがとうございました。
 最後になりましたが、和田参考人に。
 アムネスティの活動というのは私たちも非常に注目して、また感動しておるんですが、今のこの日本の諸制度あるいは我々政治家の考え方に対してどこが一番問題かと、ここをこうしてくれということを一点か二点おっしゃっていただきたいと思いますが。
○参考人(和田光弘君) 先生の御期待にこたえられるかどうか分かりませんが、自由を束縛する在り方について、少しオール・オア・ナッシングになり過ぎているんじゃないかというふうに考えています。
 諸外国では、拘禁するというレベルから居所を指定するレベルまで、かなり様々に自由の拘束の仕方は変わってきているわけで、刑務所内でもテレビを見たり、家族と交流があったりというところもありますが、日本は非常にオール・オア・ナッシングで、例えば難民申請者の方に対しても拘禁施設に入れてしまうというようなことをやっていますけれども、居所指定若しくは定期的な報告ということであっても十分対応できる問題があると思います。この辺、日本の自由というものに対する考え方が極めて硬直しているんではないか、かなり厳しく考えている面があるんではないかというふうに思いますので、それをいろいろ変えていくのも一つのポイントかなというふうに思います。
○会長(野沢太三君) 大脇雅子君。
○大脇雅子君 大脇でございます。
 今日は貴重な御意見ありがとうございました。
 現在は、労働市場においては正社員がだんだんと非正規労働者に代替されていっております。このスピードはかなり速いものでございまして、労働者の中でも格差が拡大をしているということだろうと思います。両者間の賃金格差も増えておりますし、とりわけ社会保険の不加入者が増大することによって社会保障を担う働き手が非常に不安定になってきていることが非常に重要ではないかと思います。労働者の側は低い賃金で可分所得を削られたくないと、被用者も、使用者側負担の保険料がなければ使いやすいということですが、これが増大していくと日本の雇用形態の中でほとんど社会保障制度が崩壊していく危険性があるのではないかということが考えられます。
 これについて、矢野参考人と草野参考人、いかがお考えでしょうか。
○参考人(矢野弘典君) 雇用の多様化と社会保障との関係でございますけれども、雇用の多様化の現象というのはこれから私はますます進むというふうに思っております。各企業の立場に立ってみますと、やっぱり長期安定雇用ということをベースに置いて、いろいろの形のいろいろな働き方の従業員が増えていくというふうになっていくと思っております。しかし、正規社員が依然として企業の基幹社員であるということには変わりがないというふうに思っております。
 いわゆる正規従業員と非正規従業員との労働条件の差の問題でありますけれども、それは私どもは、公正な処遇といいますか、仕事や働き方に応じた処遇というものがあるということが大事なことだと思うんです。差のあることが問題なのではなくて、公正な処遇が行われるということが大事であるというふうに思っております。そういう意味で、多様化の現象をやはり前向きにとらえて、社会的にもそれを認めるし、企業の中でも処遇について複数の、複線型の処遇制度があってもいいんじゃないかというふうに思います。
 私は、それからもう一つ、社会保障との関係で申しますと、これ一番問題は、先生の御指摘の点も確かにあるわけでございますが、少子高齢化という問題が一番大きな社会保障にとっての大問題なんだというふうに思うんですね。何遍でも統計を取るごとに、中位推計ではなくて下位推計の出生率になってしまって、人口がどんどん減るばかりだと、高齢者は増えるばかりだと。その中で社会保障の破綻の現象が起こっているというふうに思います。
 それともう一つ、いわゆる国民年金の部分でも、未加入者とかあるいは未納者が相当増えてきているという点も大きな問題でありまして、そういうふうに総合的に考えていく必要があると思います。
 短時間労働者については、社会保障の支え手という観点でどういうふうな整理ができるのかという問題意識を持って今詰めているところでございます。
○参考人(草野忠義君) 今、大脇先生御指摘のところは、全く問題意識としては同じでございまして、いわゆる正規社員といいますか、典型労働者から非典型の労働者への代替が極めて急スピードで行われていると。労働組合としての力が弱いという部分がそこになきにしもあらずだとは思いますけれども、余りにも速いスピードで行われていることに対しては危機感を持っております。
 ただ、私どもも、何といいますか、終身雇用のみがすべてだというふうには思っておりませんけれども、最も大きな問題は、同じ仕事をやっているのに賃金が違うと、ここが一番大きな問題だろう。いかに均等あるいは均衡待遇を実現していくかということを早くやらないと、とんでもないことになってしまうのではないかというふうにまず思っております。
 そういう中にあって、社会保障を担う働き手が急減少しているということも全くそのとおりでございますので、今の均等待遇あるいは均衡待遇を実現する中から、例えば今言われております百三十万円、あるいは百三万円、あるいは六十五万円問題というところを改善をしていく必要があるのではないかと、このように思っております。
○大脇雅子君 矢野参考人も今、公正な処遇が大切であると言われました。自社型雇用ポートフォリオということを言っておられまして、企業としては長期安定雇用のメリットとか、あるいは短時間労働とか在宅勤務とか様々な多様な働き方を推進すると言っておられますけれども、一人の労働者を考えた場合も、やはりそのライフステージに従って様々な働き方と自由な選択があっていいのではないかというふうに思います。
 そうしますと、やはり公正さとか平等な処遇とか、そういった、今、草野さんは同一化しろ、同一賃金の原則と言われましたが、やはりそういった原則を法制化する必要があるのではないかというふうに考えます。これがあって初めて、少子高齢化社会もシステムを変えることによって、私はこれを働き方の構造改革としばしば言いますけれども、それが必要であるというふうに思いますが、矢野参考人、草野参考人、いかがお考えでしょうか。
○参考人(矢野弘典君) 雇用のポートフォリオというものは産業や企業によって皆違ってくると思います。それぞれの企業にとっての雇用の必要性、それから雇用の中身というものが前提にあるわけでありますので、どうしても変わってまいりますから、自社型ポートフォリオというのを見いだしていく必要がある。これは人事労務管理上の大事なテーマであるというふうに思っております。それは、先生が御指摘になりましたように、正にライフステージに合ったいろんな働き方が選択できる、働く側からいえばそういう選択が増える。要するに、選択肢が増えるということが私はこれからの世の中で大事なことなんじゃないかと思います。多様化という現象がそこに現れてくると思うんですね。
 結局、雇用の契約もそうでありますが、例えば在宅勤務とかSOHOとかいろんな働き方があって、それが選択できるということが大事なんじゃないかと思います。また、そうした多様化を求める働く側のニーズがあるというふうに思っております。
 もちろん、そうではなくて、本当は長期雇用で雇われたいんだけれども、そういう機会がないのでパートになっているとか、いろんなケースもあるとは思います。あるとは思いますが、私は長期的に見れば、やはりそういう働く側のニーズと企業側のニーズとが一致して働き方というのは生まれてくると思います。片っ方のニーズだけでは、それは決して長続きしないと私は思っております。
 もちろん、企業は競争力の向上とか、国際競争力の向上とか生産性の向上ということがなければ企業は発展いたしませんので、その前提でいろいろな人件費の在り方を考えます。しかし、働く側にそういうニーズがなかったら、それは絵にかいたもちと言ったらいいと思うんですね。
 ですから、そういう点での短期的な見方よりも、むしろ長期的な見方でそういう選択肢を増やすという考え方を持つ必要があるのではないかというふうに思います。
 それから、法制化の問題について御指摘がありましたが、やはり私冒頭申し上げましたように、労使の自治ということが大事だと思います。それぞれの企業、いろんな労使の場におきまして労使の自治を持っていろんな実際の取組をしていくということが大事で、そうしてそれが社会的に一つ大きな事実として形成されていったときに、それが法律とかいうふうな形になっていくのではないだろうかというふうに思います。
 先に、まだ実態がしっかりと把握できない状況の中で、また考え方が統一されていないところで法律化に進むというのは、労使の自治という観点からいってやはり疑問があるのではないかと私は思っておりまして、これはこの憲法の論議の冒頭にも申し上げましたように、やっぱり労使の自治というのが本当の意味での経済の自由とそれから社会権というものを調和させる道であるというふうに思っております。
○参考人(草野忠義君) 選択肢の拡大ということについては否定をするものではありませんが、押し付けられた選択肢の拡大であってはならないということを申し上げておきたいというふうに思います。
 今の状況では、やはり自らの意思による選択というよりも、もうそこしか選びようがないというところに追い込まれての選択ということに今なっているのではないか、こういうふうに思っております。
 それから、法制化の問題でございますが、私どもとしてはやはり法制化の方向で進めていただきたいというふうに思っております。
 冒頭も申し上げましたけれども、いわゆる世間で言うサービス残業、私ども不払残業という、正に労働基準法のやってはならないということがこれだけ横行し、なおかつ逮捕者まで出すという状況の中でございますので、将来のワークシェアリングの方向も含めた国のあるべき姿を求めていくときにはやはりきちっと法制化をしていくべきではないか、こういうふうに思っております。
○大脇雅子君 ありがとうございました。
 それでは、アムネスティの和田参考人にお伺いしたいんですが、寺中参考人でも結構です。
 刑事裁判所ができることによって、やはり平和を構築する世界の秩序の在り方が、国連憲章では国連軍などを創設して武力で様々な犯罪、戦争犯罪等を解決するという十九世紀、二十世紀の伝統的なものを変え得るとすれば、この二十一世紀の平和構築というのは、刑事裁判所というのは非常に重要な意味を持ってくると思うんですが、その点について何か御意見がございましたら是非お聞かせいただきまして、例えばここではチリのピノチェトの問題とかペルー大統領の問題とか言っていらっしゃいますし、ユーゴのミロシェビッチの問題もあると思いますし、ひいてはイラクや北朝鮮の問題も視野に入るのではないかと思いますが、アムネスティとしての御意見はいかがでしょうか。
○参考人(和田光弘君) アムネスティは元々、政治的信条を理由に捕らえられた人たちに対する釈放を求めて運動してきたわけですが、現在の国際刑事裁判所規程に基づいてきちんと処罰をして、適正な罰をというふうに申し上げているのは、これが将来の人権侵害を予防する大きな効果を有するということからです。
 今までは、権力を持った為政者がいかなる行為、人権侵害を行っても、それが罰せられることがないというふうに国際的にもなってきたわけですので、これを大きく変える、将来の人権侵害を予防するために必要な国際的な司法秩序であるということを申し上げて、この国際刑事裁判所の条約化に向けても随分アムネスティは努力してきたわけです。
 そういう意味では、そういう将来の人権侵害が起きないための一つの大きな枠組みとして是非必要であるし、それが先生がおっしゃるように、平和を築き、ともに生きる世界を実現するために必要だというふうに考えているわけです。
○大脇雅子君 ありがとうございました。
○会長(野沢太三君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 この際、一言申し上げます。
 参考人の方々には大変貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。調査会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。(拍手)
 本日はこれにて散会いたします。
   午後三時三十九分散会

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