第164回国会 参議院憲法調査会 第1号


平成十八年二月二十二日(水曜日)
   午後一時開会
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   委員氏名
    会 長         関谷 勝嗣君
    幹 事         荒井 正吾君
    幹 事         武見 敬三君
    幹 事         若林 正俊君
    幹 事         高嶋 良充君
    幹 事     ツルネン マルテイ君
    幹 事         簗瀬  進君
                秋元  司君
                浅野 勝人君
                魚住 汎英君
                岡田 直樹君
                柏村 武昭君
                河合 常則君
               北川イッセイ君
                国井 正幸君
                佐藤 泰三君
                櫻井  新君
                中川 義雄君
                中曽根弘文君
                福島啓史郎君
                藤井 基之君
                藤野 公孝君
                森元 恒雄君
                山本 順三君
                犬塚 直史君
                江田 五月君
                佐藤 道夫君
                鈴木  寛君
                内藤 正光君
                広田  一君
                福山 哲郎君
                藤末 健三君
                藤本 祐司君
                前川 清成君
                松岡  徹君
                水岡 俊一君
                山本 孝史君
                魚住裕一郎君
                木庭健太郎君
                白浜 一良君
                浜田 昌良君
                山口那津男君
                仁比 聡平君
                吉川 春子君
                近藤 正道君
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   委員の異動
 一月二十日
    辞任         補欠選任
     木庭健太郎君     山下 栄一君
     浜田 昌良君     田村 秀昭君
 二月二十一日
    辞任         補欠選任
     藤井 基之君     舛添 要一君
     江田 五月君     浅尾慶一郎君
     山本 孝史君     喜納 昌吉君
     山下 栄一君     福本 潤一君
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  出席者は左のとおり。
    会 長         関谷 勝嗣君
    幹 事
                荒井 正吾君
                武見 敬三君
                藤野 公孝君
                若林 正俊君
                高嶋 良充君
            ツルネン マルテイ君
                簗瀬  進君
                山口那津男君
    委 員
                秋元  司君
                浅野 勝人君
                柏村 武昭君
                河合 常則君
                佐藤 泰三君
                櫻井  新君
                中川 義雄君
                中曽根弘文君
                福島啓史郎君
                舛添 要一君
                森元 恒雄君
                山本 順三君
                浅尾慶一郎君
                犬塚 直史君
                喜納 昌吉君
                佐藤 道夫君
                鈴木  寛君
                内藤 正光君
                広田  一君
                福山 哲郎君
                藤末 健三君
                藤本 祐司君
                前川 清成君
                松岡  徹君
                水岡 俊一君
                魚住裕一郎君
                福本 潤一君
                吉川 春子君
                近藤 正道君
                田村 秀昭君
   事務局側
       憲法調査会事務
       局長       小林 秀行君
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  本日の会議に付した案件
○幹事補欠選任の件
○日本国憲法に関する調査
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○会長(関谷勝嗣君) ただいまから憲法調査会を開会いたします。
 幹事の補欠選任についてお諮りをいたします。
 まず、去る平成十七年九月二十九日の本調査会におきまして、一名の幹事につきましては、後日、会長が指名することとなっておりましたので、本日、幹事に岡田直樹君を指名をいたします。
 また、委員の異動に伴い現在幹事が二名欠員となっておりますので、その補欠選任を行いたいと存じます。
 幹事の選任につきましては、会長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○会長(関谷勝嗣君) 御異議ないと認めます。
 それでは、幹事に藤野公孝君及び山口那津男君を指名いたします。
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○会長(関谷勝嗣君) 日本国憲法に関する調査を議題といたします。
 先般、本院から、スイス連邦及びフランス共和国における憲法事情並びに欧州連合における欧州憲法条約への対応等の調査のため、海外派遣が行われました。
 この際、本調査会において、海外派遣議員から報告を聴取することといたします。
 それでは、まず私から総括的な報告をさせていただきます。
 着席のままで失礼をいたします。
 自由民主党の関谷勝嗣でございます。
 昨年十一月十二日から二十一日にかけて行われました重要事項調査第四班、憲法調査の概要を御報告いたします。
 本班の調査目的は、スイス連邦及びフランス共和国の憲法事情、特に国民投票制度に関する実情調査をし、併せて、政治経済事情等を視察すること、並びに欧州連合の動向及び欧州憲法条約の批准状況等を実情調査することであります。本憲法調査会の国民投票制度に関する調査に資する観点から、御報告させていただきます。
 具体的な調査項目といたしまして、
 一、スイス連邦では、スイスの国民投票制度及びその運用状況、最近のスイス憲法の改正状況、スイスの二院制の意義・特徴、スイスの連邦制・地方分権等について、
 二、欧州連合(EU)では、欧州憲法条約の制定経緯及び内容、フランス、オランダにおける同条約批准の国民投票での否決とそれに対する考え方・今後の対応等について、
 三、フランス共和国では、フランスの国民投票制度及びその運用状況、最近のフランス憲法の改正状況、フランスの二院制の意義・特徴、フランスの地方分権、憲法院の機能、特に国民投票手続との関係等について、それぞれ調査いたしました。
 以下、調査内容につきまして、その概要を調査日程に従って御報告いたします。
 スイス連邦は、十九世紀以降、永世中立国として、平和的かつ安定した民主主義国家体制を築いてまいりました。特に、州・地方自治体レベルにおいてはもちろん、連邦レベルにおいても、レファレンダム(国民投票制度)及びイニシアティブ(国民発案制度)の両制度を取り入れて運用し、世界でも直接民主制を最も高いレベルで実現している国家として知られております。レファレンダムには、連邦憲法の改正と集団安全保障のための組織又は超国家的共同体への加盟など義務的に行うべきものと任意に行うもの、すなわち、有権者五万人の署名又は八つの州から国民投票の要求があった連邦法律や条約等との二種類が憲法で定められています。また、イニシアティブについては、有権者十万人以上の署名があれば、連邦憲法改正の提案を行うことができると定められております。なお、連邦法律の提案は含まれていません。
 十一月十四日午前、まず、首都ベルンにあるスイス連邦国民議会を訪問し、政治制度委員会のヴァイエネス委員長らと会談しました。
 スイス議会の特徴としては、議員は他に本職を持ちながら国への奉仕として議員活動が行われていること(ミニッツ・システム)、また、コンセンサスが重視され、主な政党は政権に入り、そのため政権の交代は余り起こらないことが挙げられます。
 国民投票制度については、これはスイスでの立法過程の重要な一部を成しており、同時に、スイス市民にとって非常に重要な権利とされています。そのため、国民に受け入れられないような法案だと議会は通っても国民投票で否決されかねないので、政府と議会が緊密に協力する傾向があるとのことでした。
 国民投票は、連邦レベルで原則的に年間四回のスケジュールで行われ、他に州や地方自治体レベルのものがあり、スイス国民は一年間に二十から三十回もの投票を行っていることになります。二院制を取っていることも相まって、一つの法律を通すのに時間が掛かることは確かでありますが、国民が自ら合意したという点で納得性が得られやすいし、民意の裏付けがあるという点では正当性が高いというのが国民投票制度のメリットとのことでした。
 その後、連邦内閣府のヴィル政治的権利担当課長と会談をいたしました。
 まず、スイスの立法過程について、国会を通過した後に国民投票が控えているため、常に国民投票で多数を取れるかを念頭に置いて法律案の協議が行われ、行政府もこれを念頭に置いて法律案を作らなければならないという特徴があること、また、スイスでは、主要四政党すべてが政権入りしており、閣僚ポストを二対二対二対一の比率で割り当てる「魔法の公式」と呼ばれる慣行が続いてきたが、それは国民投票があるがゆえであるとの説明がありました。
 国民投票案件の内容は、国民によく理解してもらう必要があります。国民への国民投票に関する情報提供については、有権者には、何が国民投票の議題になっているかを国民に知らせるための小冊子が配布され、それには、議案や政府の見解だけでなく、政府見解に反対する意見や政治的に中立な立場から記述した解説も掲載されるとのことでした。なお、反対意見は、政府が書くのではなく、「委員会」がつくられ、その「委員会」が文言を作成し、それがそのまま掲載されるとのことです。
 国民投票運動について、個人又は政党を含む団体が自ら行う運動には、他の法律に反しない限り国民投票運動であるという理由での特別の規制はないが、マスメディアを通して行う啓蒙活動等に対しては、新聞や週刊誌といった紙媒体のメディアを使う場合は、国民投票であるという理由での特別の規制はないものの、テレビ、ラジオを通じた広告は全面的に禁止されており、一切認められていないとのことです。これは、スイスでは、ごく小規模の例外的な民間放送局はあるものの、ほぼ完全に国営放送が独占的な支配権を持っているためで、基本的にすべて民間によって運営されている紙の媒体とは異なるという考えによるものであります。
 投票方法について、スイスでは、投票用紙にマル・バツやチェックといった記号ではなく、賛成か反対かを書くようになっています。また、投票全体のうち、郵便投票の占める割合は八〇%にも達しますが、投票の秘密を守る厳重な工夫がなされているということです。
 なお、国民を二分した国民投票の例として、一九三六年の統制経済実施に関する国民投票(結果は否決)、一九九二年の欧州経済共同市場参加に関する国民投票(僅差で否決)、二〇〇二年の国連加盟に関する国民投票(僅差で可決)などが挙げられるとのことでした。
 翌十五日は、スイスにおける連邦制及び地方分権の実態を調査するため、バーゼル都市州議会を訪問し、マツォッティ議長、ブルクハルト副議長らと会談しました。バーゼル都市州は、スイス北部ライン川沿いに位置し、独仏国境と接していることもあって、古くから交通の要衝として栄えてきた地域であります。
 州と連邦との関係について、連邦、二十六の州、そして約三千の地方自治体の三者は、予算もそれぞれ約三分の一ずつを担っており、行政の内容として、連邦は安全保障、コミュニケーション、交通、教育、インフラを、州は保健、教育、文化、治安、連邦からの委託業務を、自治体はインフラ、州からの委託等を担っている、また、州と連邦が摩擦を起こす可能性は常にあるが、連邦法は州法に優越するので連邦法に合わないところがないように注意しているとのことでした。
 国民投票制度については、最後は有権者が決めることがスイスの長い伝統である、ただし、このシステムの欠点として、決定に時間が掛かり、ダイナミズムに欠ける点が挙げられるとのことでした。
 その午後、欧州連合(EU)本部のあるブリュッセルに移動いたしました。
 欧州連合(EU)には現在二十五か国が加盟しており、更なる拡大も見込まれています。欧州憲法条約は、EUのこのような拡大に伴い、より効率的、機能的にすることが必要との認識から生まれ、ローマ条約以降のEU諸条約を集大成させるとともに、閣僚理事会の表決において人口比を反映させ(特定多数決の場合)、さらに欧州理事会(EU首脳会議)常任議長及びEU外務大臣ポストの新設、欧州委員会委員の削減などを内容としています。同条約については、ドイツ、イタリア等十三か国が既に批准しましたが、フランス、オランダでは政府の意に反して国民投票で批准が否決されました。その波紋は大きく、デンマーク、イギリス等五か国も相次いで国民投票の延期を決めたため、昨年六月の欧州理事会で二〇〇六年十一月までの批准期間を当分の間延期することを決定いたしました。フランス、オランダでの否決は、議会では圧倒的な多数で採択されたのに国民投票では否決されるという意味で、代議制の危機も象徴していると言われております。
 十六日午前は、まず、欧州委員会事務総局を訪問し、スタンカネリ欧州憲法条約担当法律顧問と会談しました。
 欧州憲法条約を考えるとき、EUは、国家でも連邦でもなく、また国連のような国際機関でもない、国際条約によって加盟国との関係が規律され権限を付与された、政策などを促す組織という位置付けを確認することが必要であり、そして、欧州憲法条約制定の背景には、一、EUの政策効果を高めること、二、EUの民主主義次元での機能を強化すること、三、既存の複雑な条約を簡明にすることの三つの理由があるとのことです。また、同条約は、フランス、オランダにおける国民投票の否決によって事実上中断しており、今後の対応のため、EU市民社会を巻き込んで議論を推進した後、報告書をまとめることになったが、否決の背景として、一、フランス政府への不信、二、経済・雇用の不安、三、市民レベルでEUへの理解が足りないという三つの要因があったと指摘されました。
 続いて、昼食を挟み、EU関係のシンクタンクである欧州政策センター、デュラン政治アナリストと懇談をいたしました。
 欧州憲法条約は、ニース条約後、今後のEUの様々な危機に対応していくには制度的に不十分という意識がEU指導部に生じたことから構想されたものであり、これまでもEUと市民のギャップをどう埋めるかが最大の問題であったため、同条約はEUと市民とを近づけることを目指したのであるが、それがフランス、オランダの国民投票で否決された結果になったことは皮肉であると述べられ、さらに、このギャップは、EUの機能が十分理解されず、またEUが市民のパートナーと考えられていないことから生じており、その原因について、EU、各国政府、メディアそれぞれに責任があるが、特に、欧州を統合したいという強いリーダーシップが各国首脳に欠如していたと指摘されました。
 なお、欧州の地理的範囲及びその妥当な規模について、グローバル化に対応するにはある程度の大きさが必要となるが、三十五か国まで拡大するのが妥当かは問題であり、このまま拡大を続けていけばEUの目的や求心力が薄まるおそれがある、特にトルコの加盟には、「欧州」というアイデンティティそのものが問われると指摘されました。
 同日午後、欧州委員会対外総局を訪問し、E・ランダブル対外総局長と会談をいたしました。
 欧州憲法条約は、様々な主権国家をEUの下に効率的に調整する仕組みをつくろうとするものであり、現在の案は、長い議論を経てできた最良の妥協案と言えるものであるが、フランス、オランダでの否決により、今後は代替案も考えていく必要があること、それには、一、EUの価値と原則、二、EUの機関と分権の仕組み、三、EUの政策の三つから構成されている欧州憲法条約から、反対が集中している三を切り離すことが妥当であること、また、新しい提案を出すタイミングは二〇〇七年のフランス大統領選後がよいとの考えを示しました。
 翌十七日の午前、パリに移動しました。
 フランスの現行憲法(第五共和制憲法、一九五八年制定)は、国の主権は人民に属し、人民はその代表者を通じて及び国民投票(レファレンダム)により、主権を行使する(第三条第一項)と定め、単に代表者を選挙するだけでなく、問題によっては直接に国民が意思を表明して主権を行使できることを定めています。このような制度は、「半直接民主制」と呼ばれていますが、歴史的にもフランスはその代表国的存在であり、また、イタリア、スペイン等現代憲法の多くが採用している制度でもあります。昨年五月のフランスでの欧州憲法条約批准に関する国民投票は、国民の代表である政府・議会と国民の意思が乖離する場合があることを如実に示すとともに、否決により同条約が凍結される結果になるなど、国民投票の有する影響力の大きさを示す例と言えます。
 同日午後は、フランス上院を訪れ、イエスト法務委員長と会談いたしました。
 今日の二院制には、第一院は国民の代表、第二院は地域の代表であるとの考え方があるが、フランス議会もこのような例であり、上院は間接選挙制を採用し、地方(県や市町村)の代表として選出され、また、このような選出方法から、議員は政党から自立し、実際、政党より人物本位で選ばれることが多いと述べた上で、上院の役割は「賢人」の役割を果たすことであり、危機的状況にあって下院が過熱して一気に法案を通そうとする場合でも、上院は距離を置いて冷静に見ることができる点に価値があるとの考えを示しました。
 また、フランスの地方分権について、多くの小規模な地方自治体(コミューン)が存在するのは、中世以来、教会の教区を基に存在してきたという歴史的伝統によるものであり、現在、全国に約三万五千のコミューンがある、そしてこれら小さなコミューンにも議会があり、地方議員の数は合わせて約五十万人おり、これだけ多くの人々が草の根から民主主義を支えていると言えると述べました。
 翌十八日午前、フランスの憲法裁判所である憲法院を訪問し、プザン委員(裁判官)と会談いたしました。
 憲法裁判について、フランスでは伝統的に、法律は人民の代表が作るものであり、これを審査する必要はないと考えられていたため、裁判所が合憲性あるいは違憲性について審査するという伝統はなかったが、第五共和制憲法(一九五八年)で、憲法院が設置され憲法適合性の審査が始まり、憲法の変化に応じて発展してきた、審査は事前審査という形を取り、法律が議会で採択された後、大統領によって公布される前に行われると説明しました。
 国民投票と憲法院との関係について、そのルールは法律ではなく政府から出されるデクレ(政令)が定めるが、憲法院はこのチェックを行うとともに、国民投票がデクレに従い公正さが確保されて行われるように監視を行い、また、もし手続の瑕疵があるならば、投票の無効を判断できる権限も有するとのことでした。
 引き続いて午後は、フランス内務省を訪問し、国民投票担当課のリツク氏及びレルネル氏と会談をいたしました。
 国民投票には、一、公権力の組織に関する法案、経済・社会政策に関する法案、重要な条約の批准を国民投票にかける憲法第十一条の場合と、二、憲法改正に関する憲法第八十九条の場合との二種類があるが、どちらの場合でも国民投票の準備は変わらない、投票方法として、投票用紙には賛成又は反対の欄にチェックを付けるようになっており、このように非常に単純明快な形式で国民に問う形になっている、なお、郵便投票は、不正が余りにも多かったため七〇年代に廃止されたが、入院中の人や身体障害者などについては代理人投票が可能であるとのことでした。
 国民投票に関する国民への情報提供及び投票運動については、欧州憲法条約の場合、政府は、憲法院の同意を得て、有権者に対して欧州憲法条約条文を掲載したリーフレットとそれに対する政府の立場を説明した説明書を送付したが、なぜ政府が賛成するのかという解説に対しては中立性を欠くとの批判が多かったこと、また、通常の選挙キャンペーンとしてはポスター、テレビ、ラジオ、チラシなどがあるが、今回、インターネットや携帯電話のショートメッセージ、自費によるテレビでのコメントなどの新たな手法が登場したこと、国から認定された政党には八十万ユーロ(約一億千二百万円)を上限として国民投票運動のための助成金が出されたことを述べ、どのように政府の公正性を確保するか、また、有権者に対する情報提供をどのように行うかという二つの大きな課題が残ったことを指摘しました。
 今回の調査においては、数多くの要職にある方々と親しく意見を交換することができました。多忙の中、快く会談に応じていただいた方々、また仲介の労をお取りいただいた在外公館等の関係者の方々に改めて感謝の意を表します。
 報告書は既に議院運営委員会会議録に掲載されていますが、このほかに、インタビューの詳細を記しました冊子を作成配付しましたので、併せてごらんください。
 以上、御報告申し上げます。どうもありがとうございました。
 引き続き、他の派遣議員の方々からも御発言をいただきたいと存じます。
 なお、御発言は着席のままでお願いいたします。
 舛添要一君。
○舛添要一君 今、日本で憲法改正の議論、それから国民投票法案をどうするかという議論がございますんで、そういうことを念頭に置きながら、ヨーロッパでの調査について御報告申し上げたいと思います。
 大きく分けて二つの点を申し上げます。一つは憲法裁判所の設置をするか否かということ、第二は国民投票法案をどうまとめるかという点であります。
 フランスは、憲法院、コンセーユコンスティチューショネルという名前で憲法裁判所を呼んでおります。我が国の最高裁判所は具体的な規範統制のみを行っていますけれども、フランスの場合は当然法律の合憲性審査ということで抽象的規範統制を行っております。
 我が自民党の新憲法草案は憲法裁判所を設けないことになっていますが、私は個人的には憲法裁判所に賛成の立場を取ってきました。
 憲法裁判所を設置しないという多数意見が我が自民党の中で有力となったのは、立法権を持つ我々の権利を、例えば内閣法制局の憲法解釈によって大きく傷付けられているんではないかと、内閣法制局ですらそこまで立法権を阻害するのであれば、それよりもっと大きな権力を持った憲法裁判所を設ければ更なる規制があるんじゃないかという、むしろ立法府の懸念というか、長い間政治経験を重ねられた自民党の国会議員の先生方の意見が強かったわけでありますけれども、フランスの場合は、そういうことが起こらないために、一つは、憲法院は九名のメンバーで構成しているんですけれども、そのうちの三分の一を大統領が指名する、残りの三分の一を上院議長が指名する、更に残りの三分の一は下院議長が指名しますから、要するに、行政権が任命するのは三分の一で、立法、つまり国会が任命するのが三分の二となっております。
 ちなみに、大統領経験者は自動的にメンバーに加わりますから、今はジスカールデスタン元大統領が入っていますから十名です。
 そういうことであるとともに、実を言うと、フランスの場合、非常に私は憲法裁判所が画期的だったと思うのは、二〇〇四年十月にローマにおいて欧州憲法条約案を作ったときに、それまでのフランスの第五共和制憲法ですとこれは違憲になってしまうんですね。つまり、超国家的なシステムを想定していなかった。そこで、フランス憲法院は、これは違憲であるという解釈を下す。それを受けて憲法改正が必要との判断が出ましたのでその憲法改正手続を取りまして、これは国民投票ではなくて両院の合同協議会、コングレと呼びますけれども、ここで採択されて改正案が二〇〇五年三月一日の法律となりました。そして、そこから先は昨年、このEU憲法を、条約案を国民投票にかけたら、これは国民投票で否決をされたわけですけど。
 いずれにしても、新しい時代に新しい判断を下すことによって憲法改正を推し進めるという実績があったという意味においてフランスの憲法院というのは大きな評価をしていいと思いますんで、もし私たちが憲法裁判所を作るとするならば、範に取るのは、韓国ではなくてフランスの憲法院であろうというふうに思います。
 それで、今国民投票について申し上げましたけど、これも時間限られているので幾つかのポイントだけ申し上げますと、フランスは、今会長の御説明にもありましたように、国民投票は法案というのを作りません。国民投票をやるごとにデクレという、デクレって、まあ省令と言ってもいいですが、その規則を作る。で、それは何で恒常的な法を作らないのかというと、時代がどんどん変わっている、インターネットが入ってきた、じゃそれに合った法律、ルールを作った方がいい。それから、毎回作るたびにデクレが違ってきますから、国民投票の投票時間をその状況に応じて長くしたり遅くしたりしている。だから、フレキシビリティーを担保するという意味ではこういう形でやる方法もあるということを御紹介申し上げておきたいと思います。
 それから、これは民主党の簗瀬先生なんかは常におっしゃっていることですが、国民投票の対象を憲法改正ではなくて大きな一般的政策についてもやれということで、これはフランスはそういうことをやっているんですけれども、しかしながら、これはある意味でもろ刃の剣で、一九六九年にドゴールが上院の改革ということを国民投票にかけたんで、上院改革というよりこれはドゴールに対するウイかノンかと、イエスかノーかということだったんで、結局ノーという答えが出てしまったんで、政治指導者にとってはもろ刃の剣になるよということを申し上げておきたいと思います。
 それからもう一つ、細かい投票ルールについてはもう時間がありませんので申し上げませんけど、一つだけ私は賛成なのは、政党助成金を出しているということであります。やはり、これはみんなが自由に国民投票の運動をやればいいんですけど、私は政党政治というのは今日の現代民主主義の基本だと思いますんで、ちょうど公職選挙法で同じように助成金を出す、それから政党助成金も出していますけど、それと同じように、フランスの場合上限が八十万ユーロですから大体一億円ぐらいになりましょうか、それぐらいのは民主主義のコストとして出して基本的に政党を中心の運動をやった方がいいのかなと、そういう感想を抱きました。
 また、後ほど御質問があれば議論をいたしたいと思います。
 以上です。ありがとうございました。
○会長(関谷勝嗣君) 次に、浅尾慶一郎君。
○浅尾慶一郎君 私の方からは、今回の調査に参らせていただきまして私自身が持ちました印象について幾つか述べさせていただきたいと思いますが、まず第一にポイントとして申し上げたいのは、国民投票というのはすべからくその国の制度の中に組み込まれているものであるので、他国の例をそのまま持ってきてもそのとおりにはいかないだろうというのが一番のポイントで申し上げたいところであります。
 具体的に申し上げますと、会長の報告にもございましたけれども、例えば、スイスの場合はほぼすべてのことが国民投票にかかると、重要なことはすべてかかると、あるいは地方の自治体においても重要なことはその地域の住民投票にかかるということでありますので、そういう国における国民投票あるいは投票と、日本の今の制度でいえば、制度で規定されておりますのは憲法改正のときの国民投票でありますけれども、その国民投票とではおのずと違いがあるんではなかろうか。
 もう少し具体的に言いますと、スイスの場合は国民投票の告知ということにそれなりに力を入れているわけでありますが、こういう発言をすると若干語弊があるかもしれませんが、めったにない憲法改正ということであれば、その告知そのものに力を入れるほどのことを日本の場合は場合によってはやる必要がないんではないかなと。これは、まあもう少し検討が、必要があるでしょうけれども、ただ私の率直な感想で申し上げれば、恐らくマスコミもかなり大きくそのことは取り上げるでしょうから、告知ということについて力を入れる必要性があるいはないのかもしれないというふうに思います。
 逆に、今のケースを欧州条約の件でとらえて考えてみますと、欧州条約はもちろん、ここの報告にもありますように条約でありますから、その批准は何も国民投票にかける必要性はないわけでありますけれども、欧州憲法といってもこれは条約の集大成ということでありますから、国民投票にかける必要性自体はなかったんだと思いますが、それぞれフランスあるいはオランダにおいて、それを国民投票にかけるという決意をその時の政府が示し、そして国民投票にかけたということでありますが、それは、常にかけるものではないものを国民投票にかけた結果、これは訪問先でヒアリングをした結果私なりに理解をしたことでありますが、例えばフランスで否決されたのは、それまでの条約の集大成、条約そのものに対して反対しているというよりかは、そのときの政治風土が反対に表れたということでありまして、したがって、日本に翻って、ここは日本の憲法調査会ですから考えてみますと、憲法改正の国民投票において参考になるとするならば、それは憲法改正の条文そのものを問うていくような国民投票にしないと、そのときそのときの政治状況によって、あるいは場合によってはというふうに表現した方がいいかもしれませんが、その問われていること自体以外のものが日本においても国民投票において問われるようになるんではないかという印象を持ちました。別の言い方をするとするならば、国民からすれば、憲法改正という、まあめったにない、そのことによる国民投票ということではありますけれども、そのことと、そのときの政治状況によってもたらされる印象、イメージによって投票行動が変わる可能性があるんではないかなというふうに思います。
 そのことの是非は何とも述べられませんが、率直に言えば、その国民投票で求められるのは、正に条文、憲法の改正ということであれば、条文そのものに対する改正についての認識ということになってくるんではないかなというふうに思いますんで、先ほど国民投票のあることの周知徹底はあるいは他国と比べてさほど必要ないということを申し上げましたが、その中身についての客観的な徹底は日本においても必要なんではないかなというふうに考えております。
 そして、最後に、フランスのケースから参考になることを申し上げさせていただいて発言を終えたいというふうに思いますが、今、舛添委員の方からもお話がございましたように、フランスにおいては、国民投票にかけるかかけないかというところについてやや柔軟なところもあるということでございました。
 我が国においては、これはもう、かけるべきものというのは当然かけていかなければいけないということだと思いますが、そこで逆に柔軟にすればするほど、これは欧州憲法条約についても同じだと思いますが、欧州憲法についても同じだと思いますけれども、そのときの政治状況によって有権者の判断が変わってくる可能性もあるんではないかと、そういう率直な印象を受けましたので、そのことを申し上げさせていただきまして、時間になりましたので発言を終えたいと思います。
○会長(関谷勝嗣君) 次に、喜納昌吉君。
○喜納昌吉君 昨年十一月の欧州視察に参加し、大変勉強になりました。
 フランスでは、自動車焼き打ち事件などが相次いで社会情勢が不穏でしたが、その現場を見る時間はありませんでした。一連の事件は欧州視察の臨場感を醸す材料になったと思います。
 スイスの下院では、政治制度委員会のヴァイエネス委員長に、スイスの制度は初期の米国の憲法の理想に近いと指摘したところ、委員長らはそれを認めました。日本国憲法も、米国からの押し付けだけではなく、米国の先住民族から発した知恵が人類の知恵となって世界に広がっていったことに私は改めて感銘を受けました。
 スイスでの別の会合で、国家と州との関係について質問しました。スイス内閣府の課長は、中国の中央集権制度とOSCE、欧州安全保障協力機構の全加盟国同意制度を挙げて、その中間にあるのがスイスだという説明をしました。非常に興味深かった感想だと思います。この課長は、私が州の既得権と多様性との関係を尋ねたところ、スイスで使用されている言語の多様性と言語による不平等という問題を絡ませて説明しました。
 そして、スイスのバーゼル都市評議会との会合では、マツォッティ議長にスイスがEU、欧州連合に加盟するのかどうか聞きました。議長は、加盟の可能性は遠のいていると答えながらも、スイスはEUと付かず離れずの関係を維持していくという趣旨の説明を付け加えました。
 EUの民間シンクタンクである欧州政策センター、EPCとの会合では、政治アナリストのデュラン氏に白人国家に対する中国など、あるいは中東など非白人側の不満の存在について尋ねまして、デュラン氏は、欧州統合は世界統合の最初のステップという言葉でかわしましたが、彼ら欧州人の抱く遠大な理想だけはよく分かりました。私たちアジア人も、世界に向けてのスケールの大きな理想を打ち出していくべきときだと改めて実感しました。
 欧州委員会対外総局のランダブル総局長との質疑応答では、EUの国家化について質問すると、EUはグローバル化の負の部分を解決する契機になるという答えがすぐに返ってきました。このほかの説明からも、EUの進展が重要なことがうかがわれ、今も冷戦構造を極東地域に残しながら、分裂・対立状況にある私たちアジアは早く何とかしなければならないという気にますますなりました。
 フランス憲法院では、裁判官のプザン委員に対し、平和強化の観点から日本の憲法改正は人類のために貢献できるものでなければならないと指摘しました。音楽家としてもアジアと欧州の対話に貢献したい旨を伝えました。
 フランス内務省では、投票前の広報活動について、ホームレスへの対応や、情宣手段として音楽などのパフォーマンスの利用が可能かどうかを聞きました。
 以上、私がかかわった部分を中心にかいつまんでお話ししましたが、ほかにも数え切れないほどの興味深い話やエピソードがあります。
 一つの感想を付け加えれば、日本でも憲法改正に伴う国民投票だけじゃなく、靖国問題と新たな追悼施設建設問題、日米安保条約、米軍再編に伴う米軍と自衛隊の一体化、社会保険制度、天下りや談合など官僚の不正防止、天皇制などの重要問題については必要に応じて国民投票をするのが時代の要請ではないかという気がしています。もちろん、私たち国会議員が担っている代表制民主制度と国民投票との相互関係を十分に吟味した上でのことです。
 実り多い視察であり、参加できたことに感謝しております。どうもありがとう。
○会長(関谷勝嗣君) 吉川春子君。
○吉川春子君 私は、今回の国民投票制の調査で、スイスとフランスにはそれぞれ国民投票制が国民の間に定着していて、民主主義を支える制度として機能していることを実感しました。これは、立憲制度の立場からも大変必要な制度であり、同時に日本とは比較できない長い歴史と地方自治の上に存立していることを感じました。
 日本では、憲法を改定するため、とりわけ九条二項の戦争放棄規定を廃止するという目的を持って、あるいはその一段階として国民投票法が提案されようとしていることは、この制度を論じるには今は適当な時期なのか、本来この制度の持つ意味がゆがめられるのではないか、私は大きな懸念を持っています。
 第一に、両国には長い歴史があり、スイスの立法は議会の議決のみでなく国民投票が必要ですが、一年間に二十回から三十回もの国民投票が行われています。この直接民主制は、既に十九世紀前半には近代的な形で整えられています。
 過去に行われた国民投票のうちで国論を二分するようなテーマがあったかとの質問に対し、最も適切な例の一つとして、一九三六年の国民投票で、ヨーロッパに戦争が迫ってくる中で経済を統制経済にしなければこの危機を乗り越えられないのではないかという趣旨から提起された国民投票で否決されたという例が挙げられました。一九三六年の日本がどんな状況であったかを考えると、既にこの時期にスイスが国民の意思を問うて政治を進めようとしていたことは驚くべきことです。
 第二に、両国とも地方自治がしっかりと根付いていると感じました。
 スイスは人口七百三十九万で、日本の十五分の一ですが、二十六の州、三千の地方自治体があります。フランスは人口六千百六十八万人で、三万五千のコミューンがあり、五十万人の地方議員がいます。フランスもスイスも、議員は他の職業を持っているということを計算に入れても、人口比でこれだけの地方議員が多いということは、政治を身近に感じることができるのではないかと思います。
 日本では町村合併が行われ、三千三百あった自治体がこの数年間で千八百を切るようなすごさですが、私の視察に行った中の自治体には、住民投票も意向調査すらもせずに、議会や長の判断で合併に踏み切ったところも少なくありません。反対されるからとの理由で住民投票を行わなかったところも幾つかありました。合併で住民自治が崩れようとする危険をはらんでいる日本のことを思いました。
 第三に、社会のありようというか、国民の価値も日本とはかなり違っていると感じました。
 私たちがパリに入ったとき、折しもマルセイユでは労働者のストライキが四十日目でしたが、国民の支持がある程度ないとこんなには長く続かないと思いました。
 パリから五十キロ離れた田舎、フォンテーヌブロー、今回私たちもこの町を通りましたが、ここに住んでいる日本人作家の池澤夏樹さんは、町で会ったバカロレア制度に反対する高校生五百人程度のデモが、陽気で楽しそうでにぎやかだ、路上でデモを見る人の反応が良かったと書いています。そして、僕は東京の惨めなデモのことを考えざるを得ない、まるで日本社会には良識ある国民はデモなどをしてはいけないという了解があるがごとくだと書かれていますけれども、本当にその感覚の違いというものを感じました。
 それで、国民投票の手続ですけれども、スイスでは活字による広報は認められていても、テレビ、ラジオでの宣伝が禁止されています。国営放送に近いメディアしかないということがその理由のようです。フランスでは、テレビ等の宣伝は政府がお金を出しているという違いがあります。どうすれば国民の意思が公平に正確に反映できるか、実践の結果、そうした結論に至ったのではないかと思います。
 当委員会でも参考人から指摘されていたことですが、フランスではナポレオン三世、ドゴール大統領の時代など、人気投票に利用されたという苦い経験を教訓に生かそうとしているように見えます。
 それとの関係で、今度のEU憲法を国民投票にあえて付したシラク大統領の思惑についてもいろいろな意見を伺うことができました。政府が国民投票に付した際に、数千万部作成して国民に配布した資料をいただいてきました。これですが、A4版で百九十一ページに及んでいます。活字は九ポイントか八ポイント程度なので相当文字数は詰め込まれています。これをウイ・オア・ノン、投票することは本当に冒険で、短期間に国民がこれを読む時間的余裕があるのかという印象を持ちました。
 私は、今回のヨーロッパ視察では、日本の憲法改定を目的として国民投票制を短期間で国会に付して結論を得るということは大変危険であるということを今回の調査で強く感じたことを申し上げて、発言を終わりたいと思います。
○会長(関谷勝嗣君) 次に、近藤正道君。
○近藤正道君 社民党・護憲連合の近藤正道でございます。
 国民投票制度の議論が始まった中、国民投票制度を中心としたヨーロッパの実情調査に参加することができて、貴重な勉強の機会を与えていただきました。感謝を申し上げます。団長の報告に付加をいたしまして、私の感想を申し上げさせていただきたいと思います。
 まず、全体の印象、感想でございますが、我が国では幾つかの自治体における住民投票の経験はあるものの、国民投票制度について経験を持っておりません。
 そういう中で、スイスでは年四回、あらかじめ国民投票の日が制定されておりまして、一年に平均二、三十回の、つまり各レベルの国民投票を合計いたしますと年二、三十回の国民投票が行われておると。正に日常的に国民投票が行われております。
 そして、フランスでありますけれども、ここでもしばしば国民投票が実施され、国会における圧倒的多数の賛成にもかかわらず、国民投票の結果、これに反する結果を導き出してほかのEUの加盟国に甚大な影響を与えておきながら、政権交代にもならず、政党トップの責任問題も起こらず、淡々と国民投票の結果を受け止めるフランス。
 この二つの国を見てきたわけでありますが、いずれの国もこの直接民主主義、国民投票が国民の政治の中に、立法過程の中にかなりの歴史を持ってしっかりと根付いて定着をしている。正に民主主義の成熟と受け止め、大変感銘を受けました。
 今回の調査で、私は、憲法改正国民投票の際の国民運動とメディアの規制、投票方式の在り方、方法の在り方、これが今この国でも大きな議論になっているわけでございますが、これらの点についてかの国ではどういうふうな対応をしているのか、このことに関心がありました。
 国民運動とメディアの規制でございますが、スイス、フランスともインターネットとかあるいは携帯など、新しい媒体利用も含め原則自由という形で行われているというふうに私は見ました。今、運動、メディアとも自由であって、自由に表現活動と情報提供活動を行っておって規則は原則的にないと、こういうふうに私は見ました。ただし、国民のメディアの活用の在り方、政府の情報提供と支援の在り方、かかわり方については、それぞれ二つの国とも大変苦労をしているなというふうに思いました。政府の情報提供と支援の在り方、かかわり方について大変苦労しているというふうに思いました。
 そして、国民投票の実施に当たり、政府の公正性を担保するためにどうするか。先ほど政党助成金の話もありましたけれども、公平に政府が賛否両方の意見に機会を保障する、そのためにはどうしたらいいか、本当にたくさんの議論すべき問題があるということがよく分かりました。
 投票方法でありますけれども、フランスではEU憲法条約について十五の条約を四百四十八か条の条約にまとめ、これを一括して国民に問う方式を取りました。先ほど吉川委員が言ったところでありますが、果たして国民に正しい情報が伝わったのか、国民は十分に内容を理解できたのか、正しい情報に基づき国民の正確な意思表示が行われたのか、たくさんの課題や問題点が指摘されております。当時の政治状況が大きな影響を与えているということもまた事実でございます。こういうことを十分に整理をし、分析をしていくことが必要だというふうに思っています。
 また、我が国では投票方法について、条文ごとに行うのか、あるいは一括投票で行うのかという議論もあります。今回のフランスのEU憲法条約のこの問題が一つの大きな参考になるというふうに思っています。この国の憲法の理念に照らしてどちらがいいのか、十分に議論すべき問題だというふうに改めて思いました。
 さらに、そもそも国民投票としてあらかじめ一般法を定める方法がいいのか、あるいはその都度ルールを定めるフランスのデクレのような方式がいいのか、こういう議論もあると思いました。そしてまた、憲法改正の限界についての論議も、どこでどのように論議をするのかということも含めて、これもやっぱり論議に値する、こういう問題があるということも分かりました。
 いずれにいたしましても、たくさんの論点があるわけでございますので、これを論点整理をしながら、これから一つ一つ十分な時間を掛けながら、国民の見ている前でしっかりと論議をしていくという当たり前のことでありますが、そのことを改めて痛感をした、これが私の率直な印象でございます。
 以上でございます。
○会長(関谷勝嗣君) ありがとうございました。
 以上で海外派遣議員の報告は終了いたしました。
 これより、ただいまの海外派遣議員の報告を踏まえ、一時間程度、委員相互間の意見交換を行いたいと存じます。
 まず、各会派を一巡してそれぞれ五分程度御意見をお述べいただきたいと存じます。
 それでは、御意見のある方は順次御発言願います。森元恒雄君。
○森元恒雄君 ただいまのスイス、フランス、EUの派遣議員の先生方の報告をお聞きしまして、私なりの感想を申し上げたいと思います。
 まず、一つ非常に印象を受けたのは、フランスのその憲法院の存在、あるいは国民投票のルールを法律ではなくてデクレで決めるということについてですね。これは、憲法改正を様々な諸情勢の変化に、時代の変化に応じて円滑、スムーズに対応していくという方法として優れた一つの手法かなという印象を受けました。
 特に、我が国の場合には最高裁判所が憲法判断を回避してきたということが、この五、六十年の長い間にわたって憲法改正が一回も行われずに来たということに多少なりとも影響があったところではないのかなという感じを持っておりますけれども、そういうことからして、条約の締結あるいは法律の制定等々に当たって違憲判断を適時適切に行っていくということが憲法の在り方そのものにも影響を及ぼしているんだということを改めて認識した次第でございます。
 反面、法律の、この国民投票についてはスイスあるいはフランスも定着をしておるというふうに伺ったわけでありますけれども、これはむしろその制度改正を、時代のスピーディーな変化に対応するのを難しくしている、ブレーキを掛ける方向で働いておるような気がいたしました。
 特に、スイスの場合には、国会が制定した法律を国民投票でむしろ拒否するか否かを問われるという仕掛けでございますので、殊更そういう印象を受けました。この辺は、国の成り立ち等の違いあるいは制度の定着の違い等を考えた場合に、我が国でこの両国のような国民投票制度を導入することは私はむしろ消極的に解する次第でございます。
 それから、あと一点、両国とも地方自治が大変進んでいるといいますか、定着している国でございます。私も二年ほど前、フランスの内務省を訪れまして、三万五千の市町村についてこれを合併推進するというような考えがないのかというようなことを聞きましたけれども、日本とやっぱりフランスなんかの場合には、市町村の地域における意味、あるいは市町村長の役割、ポジションというものがかなり違っているような気がいたしました。それからまた、市町村にどのような仕事を期待するのか、担ってもらうのかというようなこの位置付けも違うところが多分にあるんじゃないかなと。
 ただ、日本の場合にも、合併を進めても、やはり住民自治というものをもっと充実していく手法としてどういうものがあるかと。合併特例区とか自治区とかいう制度が設けられておりますけれども、そういうものをどう活用していくかということがあるんじゃないかなという感じがしております。
 以上でございます。
○会長(関谷勝嗣君) 藤末健三君。
○藤末健三君 民主党・新緑風会の藤末でございます。調査団の皆様、本当に御苦労さまでございました。非常に貴重な情報をいただき、ありがとうございます。
 私、実は自分なりにヨーロッパの国民投票制度をちょっと勉強しておりまして、三つの点についてお話をしたいと思います。一つは、舛添先生、また浅尾先生等からお話がありました国民投票法の在り方について、そして二つ目に、近藤先生、喜納先生、吉川先生からもお話がありました運動の規制について、そして三点目に、ほとんどの議員からお話がありました投票の方式について、三点お話ししたいと思います。
 まずは国民投票法の在り方につきましては、舛添先生からフランスのデクレ型の臨機応変なシステムがあるということをおっしゃっていただいたんですが、一方で、勉強してみますと、スウェーデンなどは国民投票法の一般法があり、そして各事項ごとに特別法を作ってやっているという方式もございます。ですから、何が一概にいいかというのはまた言えないとは思うんですけど、いろんな方式があるんではないかということをまず一つ問題提起をさせていただきたい。
 そして、二番目にございますのが運動の規制でございます。今回、フランスにも行っていただきましたけれど、運動の規制につきましては、例えばフランスですと、国民投票の方式を規定するデクレだけではなく、選挙法典などにおいて、日本でいうと選挙法においても運動の仕方を定義していると。イタリアも同様に、選挙運動の情報アクセスに関する法律という法律を作りまして、国民運動のやり方を規定しているということでございますので、ここも深い議論が要るんではないかと思います。
 そしてまた、三点目に投票の方式でございますが、吉川先生や近藤先生から御指摘ありますように、本当にイエスとノーという議論だけでいいのかという話があると思います。実際には、調べてみますと、フランス、イタリア、スウェーデン、あとデンマークも、私が知っている範囲ではすべてマル・ペケなんですよ、投票の方式は。ですから、我が国においてどういう投票方式を取るかということを我々深く議論する必要があるんではないかというふうに考えております。
 それで、もし皆様の、調査団の中で御存じの方がおられたら伺いたいことが一点ございまして、この国民投票法、各国で民主主義の一つの基盤として働いているわけでございますが、どういう議論の過程で生まれてきたのか、そしてまた、その制度をつくるときにどれだけの期間を掛けたなどかを御存じの方がおられたら是非御示唆いただきたいと思います。
 以上でございます。
○会長(関谷勝嗣君) 山口那津男君。
○山口那津男君 公明党の山口那津男でございます。
 公明党からは、このたびの派遣には参加者がおりませんでした。ただいま団長の御報告及び派遣議員の発言等をお聞きいたしまして、何点か感想を述べたいと思います。
 まず、歴史と伝統ある民主主義国家の経験、またEUのような新しい試みに学ぶところは非常に多いと思います。とりわけ、それらの制度の背景や盛り込まれた価値観、あるいは具体的な運用の状況、これらを比較対照することによって我が国においての在り方について具体的な論点を明確にしながら今後議論していくことが必要だろうと思っております。
 そして、幾つかの論点について述べたいと思います。
 まず、国民投票制度の機能とか対象、これが主要な論点になろうかと思います。特に国民主権とこの国民投票制度との関係ということについては、これをどう見るかによってその対象の選択にも掛かってくるのではないかと思うわけであります。
 また、この憲法に関する国民投票制度というのは、その投入資源、人や手間や時間といったものは最大の投票制度になる可能性もあるわけでありまして、それをどう使うかというのは非常に難しい問題だろうと思っております。スイスもフランスも、憲法改正以外もその対象にするものを特定して行うという仕組みを取っているようでありますが、我が国もその可能性は排除されていないと思います。
 一方で、国政選挙との機能の違いというものも明確にする必要があると思います。昨年行われたいわゆる郵政解散と言われるものは、単独の問題が主たる争点になった珍しい例でもありまして、非常にこの国政選挙というのは多様な機能を担っているだろうと思います。
 それから、案件の情報提供についてもスイスとフランスではやり方が異なると。ここで問われているのは、発議者あるいは情報を提供する側の公正さというのがいかに担保されるべきかということと自由な情報の交換というものをどう確保するかということが非常に二つ大きな価値だろうと思っております。EUの憲法条約の実例を見たときには加盟国の政府の努力というものが少し足りなかったのではないかと、重要な反省点だろうと思います。
 次に、運動、メディアの役割といったものもスイスとフランスではそれぞれその基盤的な制度との関係で違いが出ているわけでありますけれども、これについてはなるべく広い情報の交流の機会を保障するということが大切でありまして、その意味では発議から投票に至るまでの期間をどう考えるかと。これはスイス、フランスの比較はなされておりませんけれども、この点も重要な論点になろうかと思っております。
 それから、投票方法につきまして、スイスは賛否の意思を明確にさせるというところに重点が置かれておりまして、マル・バツ方式とは違う点があるわけでありまして、その点、その意思の明確性をどう確保するか、それがひいては結果の正当性にどうつながってくるかというところをどう考えるかということだろうと思います。
 それから、今回の報告にはありませんが、その他にも重要な論点がありまして、投票権を持つ人をどの範囲で設定するか。これはこれまでも二十歳あるいは十八歳といろんな考え方が出されておりますけれども、ここは憲法と国政選挙の投票権とは違うと私は基本的に考えます。憲法についてはやはり、人を選ぶあるいは政党を選ぶということではなくて、自分自身の人権やあるいは自らの担う政府、統治機構をどうするかということでありまして、この点については国政選挙よりもより広い投票権を認めるべき余地があるだろうと思います。
 これら具体的な制度をつくるに当たって、技術的な面よりも一般的な論点、これを明らかにしてこれからもっと調査の内容を深めるべきであると、こう考えております。
 以上であります。
○会長(関谷勝嗣君) 吉川春子君。
○吉川春子君 先ほど報告させていただきましたが、四点について質問をさせていただきます。
 まず、フランスのデクレについてなんですけれども、舛添先生の方から時代に即したルールが作れるという良さがあるという御指摘がありましたけれども、逆に言うと、その時々の政府の思惑によってデクレの内容が変わってくるという、国会、議会を通さない政令として作られますので、そういう危険性があるのではないかというふうに思いました。フランスにおいては憲法院というものがかなり厳しくこれをコントロールしているということと、何よりも全体として何か歴史的な民主主義のルールみたいものがあって、その時々の政府の恣意的な内容に流れないようにしているという配慮を伺いましたけれども、そういう点をどうお考えになるのかという点が第一点です。
 それから、先ほど私は触れましたけれども、地方自治体の数がもう決定的に日本の十倍とか二十倍とか、議員の数も五十万人とか、こういう人たちが政治を支えていて、国民が日常的に自分の意思表示をして、それが政治に反映させるというふうに、まあ理想的にいっているという意味じゃないんですけれども、そういうことが行われようとしているときに、今の日本では町村合併というところで、広大な範囲を一つの自治体にして、今まで四つとか、佐渡では十あった自治体を一つにして、そういう政治が行われている。地方自治が非常に私は危機に瀕しているというふうに思うんですけれども。そういう土壌の中で、やっぱり国民投票制というものが民主主義を強化する方法として機能できないのではないかという懸念がありますが、この点についてはどなたでも結構なんですけれども、質問したいと思います。
 それから、投票方式、投票方法なんですけれども、やっぱりかなり自由が保障されているということを実感いたしました。それと、このEU憲法、投票に付された内容が物すごい膨大なんですけれども、今、日本でいろいろな国民投票法案の案が報道されております中には一括というようなものもあるわけですけれども、これは大変危険だなと思います。例えば、スイスなどは、空港にエスカレーター、エレベーターを設置するのがいいかどうか、こういう単純なことも国民投票に付されると、住民投票に付されるというふうになっておりますので、それはそれで機能しているわけですけれども、こういう大部なものが一括して投票に付されてしまうということについて大変危惧を感じました。
 そして、以上ひっくるめて、私は、やっぱり日本で今非常に大慌てで国民投票法案を作成するという、そういうことはやっぱりこの制度を議論する環境としてはふさわしくないと思うのですが、特に自民党とか民主党の方からのお考えを伺えればと思います。
 以上です。
○会長(関谷勝嗣君) 近藤正道君。
○近藤正道君 近藤ですが、先ほどの話の続きという意味で、そしてまた今ほど吉川委員の方から質問といいましょうか問題提起等もありましたんで、これと絡めて私の補足意見を申し上げさせていただきたいと思います。
 まず、この国民投票制度を今すぐやるかどうかという問題について申し上げたいと思いますが、スイス、フランスへ行きまして、憲法改正がよく行われていると、こういう話を聞きました。しかし、スイスでは税率まで憲法で定める国でありますし、フランスでも、この間の改正内容を見ますと、統治機構を動かすと、これが中心でありまして、フランスの人権宣言、フランス革命の直後に作られたフランスの人権宣言は今もフランスの憲法の中に取り込まれ、今も健在であるということでございます。
 つまり、基本的なところ、国家と国民の基本的な関係、基本的人権の根本のところは百年あるいは二百年変わっていないということが大勢ではないか、こんなふうに私は思っておりまして、日本で今議論されている憲法改正の問題は九条など正に根本のところを変えようという、そういう問題でありますので、国民の意見はこの点については分かれている、九条につきましてはこの本調査会でも意見はまとまっていないと、こういう意味ではまとまっていないのが現実でありますし、国民の間では少なくとも九条については全く意見は分かれている。そういう中で、国民投票の必要性を今直ちにという条件が果たしてあるのかどうか、私自身は基本的に疑問に思っているところでございます。
 そういう立場に立って、先ほど申し上げましたけれども、フランス、スイスへ行きまして本当に国民投票の論点が多岐にわたっている、山ほどあると、こういう印象を強く持ちましたんで、時間を掛けてオープンの場で十分な慎重審議が必要であると、こういうふうに申し上げたわけでございます。
 そして、もう一つ、国民投票のルールの問題でありますが、一般法がいいかデクレ的な方法がいいのかという話を、私、先ほどいたしましたけれども、私が言ったデクレ的な方法は、フランスのような行政府が作るということではなくて、いずれも国会が作るということが大前提でありまして、あらかじめ一般法として作っておいた方がいいのか、改正案がある程度できた段階でそれをにらみながら国民投票のルールを定めた方がいいのか、どちらがいいのかということについては十分検討に値すると、そういうふうに申し上げたわけでありまして、行政府が、幾らその憲法院等が監視をするからといって、そこが、行政府が作るということは全く想定外であるということはやっぱり申し上げておきたいというふうに思っています。
 投票方式の問題でありますが、私は、改めてこの今回のフランスのEU憲法条約の国民投票を見まして、やっぱり論点を絞り込み、条文ごとに丁寧に国民の意思を問う、そういう方式でないと憲法の理念に合致しない、そして国民もしっかりと憲法制定権の行使ができないということを改めて痛感をしたということを申し上げておきたいというふうに思います。
 以上です。
○会長(関谷勝嗣君) 各会派を一巡して御発言をいただきましたが、他に御意見のある方は挙手をお願いいたします。
 なお、一回の発言時間は五分程度でお願いいたします。
 それでは、まず福島啓史郎君。
○福島啓史郎君 私、今日、議題になっております報告につきまして、私の意見を述べたいと思います。
 まず、国民投票制度でございます。
 報告にありました、スイス、フランスの例が御報告ありました。私は、この国民投票制度といいますのは、それぞれの国の民主主義の在り方と密接不可分の関係にあると思います。言い換えれば、スイスは直接民主制であり、フランスは半直接民主制であると。これに対しまして、私の考えるところによれば、日本は代議制だろうと思います。これは要するに明治のですね、要するに、この国会開設運動などから見ましても、やっぱり代議制を日本の民主主義の原点にしているだろうと思うわけでございます。したがって、代議制を通じた民主主義というのが私は日本の民主主義の基本ではないかと思うわけでございまして、そういう意味でこの国民投票制度を考えなければならない。
 そうしますと、私、日本における国民投票制度といいますのは、一つは憲法改正でございますね。これはもう憲法にも書いてあるところでございます。それ以外の事項につきまして国民投票制度を設けるか設けないかにつきましては、私はそれは解散によって民意を問うべきものではないかというふうに思います。
 どういう場合に解散を行うべきかということにつきましては、例えばこの報告書の二ページにあります、スイスの場合の集団安全保障のための組織又は超国家的共同体への加盟などの義務的に行う場合の例、それからフランスの、八ページにあります公権力の組織に関する法案、経済・社会政策に関する法案、重要な条約の批准を国民投票にかけるという規定があるわけでございますけれども、そういった重要な事項につきまして解散によって民意を問うということを日本の民主主義の慣行として運用をしていくということを検討すべきではないかというのが私の国民投票制度に対する意見でございます。
 二番目に、憲法裁判所でございますけれども、私は、日本において、自民党の憲法草案にはないわけでございますけれども、検討に値する課題だというふうに考えております。その場合には、憲法裁判所はフランスのように、フランスのこの役割は、私、一種の賢人会議だろうと思います。その一院、二院の上に更に賢人会議として、国の重要な事柄につきまして、国の政策を過ちなきよう賢人としてチェックをするという、そういう役割を憲法裁判所を設けて担わせるのも、私、十分検討に値することではないかというふうに考えております。
 三番目に、EU憲法条約についてでございますけれども、私、フランスで否決されたときにヨーロッパにいたわけでございますけれども、デンマークにしましてもフランスにしましても、EUが将来拡大をしていって、そのときに、国とこの拡大されていったあるいは統合されていったEUとの関係につきまして国民が不安に思っている、この先どういうふうになっていくんだろうかというその不安が、私、否決に導いただろうと思いますし、そのことについてEUは将来像をむしろ示さなければ、この憲法条約はなかなか賛成を得るのは難しいんじゃないかという印象を受けました。これは意見でございます。
 以上でございます。
○会長(関谷勝嗣君) ここで、先ほど、藤末健三君と吉川春子君からの質問に対して、舛添要一君が答弁をしたいそうでございますので、発言を許します。どうぞ、舛添君。
○舛添要一君 私は、藤末委員がおっしゃったように、スウェーデンのようなやり方が一番いいだろうと。基本的な恒久法を決めて、そして時代に応じてその細かい細則について変えていく、それは近藤委員がおっしゃったように、全部国会で決めてもいいと思うんです。
 ただ、実を言うと、今、国民投票法案ということでそれに焦点が当たっていますが、これは単なる手続法です。したがって、内容は例えば憲法九条であり、憲法改正の内容が実は最大の問題であるわけです。
 フランスの場合、もし仮にデクレじゃなくて法律で国民投票法案を決めていたら、ここまで国民からノンを言われなかったんじゃないかと。つまり、もろ刃のやいばだというのは、何だ、政府が勝手にルール決めたじゃないかと。例えば、先ほど吉川委員から御紹介あった憲法条約のこんな分厚いやつ、これ見てくださいと。それだけで分かんないもんですから、政府がこのEU憲法はこういうことですよと解説文を付しているんです。解説文は賛成の立場からやりますから、政府の金使って、賛否両論入れるんじゃなくて賛成の方の解説文しか出してないじゃないかと、そんな政府の言いなりになってたまるかといってノンを入れて、シラク政権に対する不満の表明をそこでやっちゃったんです。
 だから逆に、そのルール設定段階で国会がきちんと関与していれば、これは国会で決めたことですからそのとおりやりましたということだったんですけれども、政府のデクレだったがゆえにむしろ反対、反発を呼んだという面もあるんで、私は、国民投票法案が重要でないとは申し上げませんけれども、憲法改正の中身の方が大事であって、たかが手続法だということも考えていいと思います。
 というのは、投票時間を八時までにするか七時に終わるか、それはその時々で、十八にするか二十歳にするか、果たしてそれが野党に有利なのか与党に有利なのかというのはそう簡単に判別付かないから、それはどっちであったって改正の内容が良ければ勝つんですよと、そういうコンセンサスが得られることが必要だろうと思っています。
 以上です。
○会長(関谷勝嗣君) 次に、犬塚直史君。
○犬塚直史君 民主党の犬塚です。
 先ほど吉川委員お持ちになったA四判の例の百九十ページというやつですね。あれも私も手に取ってみたんですが、非常に薄い紙でもうびっしりと書いてあると。その立場を説明した説明書も見たんですけれども、多分あれをちゃんと読んだ人はいないだろうと。国民性からいって訳の分かんないものは取りあえずノンだという国民性は私、あると思うんですね。
 それに対して、非常に良くできているなと思ったのは、あのころやっていたテレビ番組で、シラク大統領が出て、その周りを若者が二百人ぐらい囲んでもうあらゆる角度からいろんな質問をして、それに対してシラクさんが答えていくというような番組があったのを御存じだと思うんですけれども、ああいうものが果たす役割というのは非常に大きかっただろうなと。しかし、一つ一つ条文ごとに中身を精査していくような内容にはもちろんなり得るべくもなく、やっぱり理解のレベルが非常に低い人もいれば高い人もいるので、全般としてはちょっと物足りないような番組になってしまったなというのが印象なんですけれども。
 やっぱり同じようなことを考えて日本でこういうことをやるとしたら、やっぱりこれはどう見ても条文ごとに十分な情報量を皆さんに提供するという役割を持つのは、一つにはお茶の間にどんと座っているテレビじゃないかなと。やっぱりここで国営放送が、例えば一か月、二か月前からもう常に条文ごとにいろんな情報を流していると、あるいはもうけんけんがくがくの議論をいつもやっているというぐらいの状況になければ、フランスと同じように、訳分かんないからフランスではノンと言ったけれども、日本の場合は、訳分かんないときは信頼している人の言うとおりになってしまうから、ちょっとそれは分かんないんですけれどもね。
 いずれにしても、そういう投票になってしまわないように、条文ごとにしっかりとした情報提供を行うという、まずその手続の方をしっかり担保するということが中身よりもむしろ私はまず重要に考えるべきじゃないかと。拙速は絶対いかぬよということを申し上げておきたいと思います。
 以上でした。
○会長(関谷勝嗣君) 鈴木寛君。
○鈴木寛君 ありがとうございます。
 今日は大変すばらしい報告を聞かしていただきまして、誠にありがとうございました。
 国民投票をやる上でのいろいろな留意点については、今日御報告があったこと、あるいは更にここで引き続き議論があることを踏まえて更に詰めていけばいいということについて私は全く異論はないんですけれども、少し、与党の一部の先生方から、やっぱり国民投票に対する必ずしも積極的でない御意見がございましたので、少し我々の、与野党の先生方から、御意見を申し上げたいと思うんですが、我々、やっぱり憲法調査会で議論をしている原点は何かというと、やっぱりこの国の民主主義とか法治国家というものをこれを機会にきちっと再建をするといいますか、立て直すというやっぱり論点というのは必要だろうというふうに思っております。
 そういう観点から見たときに、日本の有権者、とりわけ若者の政治的無関心というものに憲法を議論するということがどれだけこたえ得るのかということ、それからさらに、やっぱり昨今の日本の政治といいますか、この戦後政治を総括したときに、官僚政治の弊害あるいは限界と、それに対する主権在民というものの強化ということをやはりこの憲法議論の中で深めていくということ、それによる正に官に対する政治家の優位、政党政治の優位ということも確立をされると思います。
 やはりこのいわゆる主権者の関心あるいは参加、参画の低調というのは、やっぱり本当にこの民主主義の正当性、さらには昨今やっぱり法治国家が揺らいでいるというのも、要は自分たちが参加してこのルールを作っているという実感がないということと私は裏腹の関係にあるというふうに思います。
 そういう意味で、今日の報告で私は非常に注目をさせていただいたのは、やはりスイス、もちろんやや過剰であるということはあるにしても、国民投票ということがこの統治構造あるいはルールの徹底という中にビルトインされていて、そして立法者が、スイス国民への説明ということが極めて重要な立法あるいは政策の決定のプロセスの正に根幹にあるという御報告は、私は大変重要な御報告だと思っております。
 我々もやっぱりそういう意味で国民投票の持つ主権在民の強化という観点を注目せざるを得ないわけでありまして、とりわけ通常の選挙というのは最終的には人を選ぶわけですね。候補者を選ぶ選挙であります。したがいまして、どうしてもやはりその先には権力の奪取ということが最終的な争点にならざるを得ない。もちろん、最近はマニフェスト選挙ということによってそれを是正、深化をしようという方向は、これは多としたいと思いますが。
 一方、国民投票というのは、これの最終的な選択の対象、判断の対象というのは、これは立法案であります。政策案であります。そのことはやっぱり極めて重要であって、正に国民の皆様方が立法とかあるいは政策ということについて関心あるいは参加、参画を促進すると。そのことによって国民の皆さんのこの法律、このルールの実現というもの、さらには法治国家の実現というものにコミットメントを高めるというやっぱり国民投票の持つ意義というものは、私はこの憲法調査会で確認をすべきだと思います。
 それで、舛添議員が国民投票の対象を限定的にという御趣旨のお話があったかと思います。確かに、そういうことを留意をして制度設計をすべきだという御主張だと思いますので、その限りにおいては私も分かるわけでありますが、やや議論を正確にするためにあえて申し上げますと、私は、今申し上げたような国民投票の持つ性格あるいは効果ということから考えると、日本国憲法の憲法典に限定をするということはやっぱり控えるべきであろうと。私も、簗瀬議員が従来から主張されていらっしゃるように、やっぱり重要事項は国民投票の対象にすべきだというふうに思います。
 その理由は、今申し上げたことと、加えて、いわゆる国民投票の対象は、やっぱりコンスティチューションプラスアルファのところは国民投票の対象にすべきだということは恐らく舛添議員にも御理解をいただけると思いますが、コンスティチューションというのは単に日本国憲法典のみによって構成されているわけではなくて、正に日本国憲法典とともに統治構造の根幹を規定する立法あるいは憲法附属法というものはこれはあるわけで、何が憲法附属法で、何がその根幹を規定する法律なのか、これは最終的に国会が決めればいい話なんですが、少なくともそうしたものについてはやはり国民投票のターゲットに私はすべきだろうと。
 そういう意味で、やはり重要事項、憲法典プラス重要事項という枠組みというのは残しておくといいますか、そういうことで臨むべきではないかと。その重要事項の決め方、その淵源、範囲等についてはこれから御議論を深めていっていただければいいと思いますが、今の二点の観点から、簗瀬先生始め我々民主党が主張している重要事項も対象にすべきであるということについて私から意見を述べさせていただきました。
 以上でございます。
○会長(関谷勝嗣君) ありがとうございました。
 吉川春子君から発言の申出がありますけれども、三度目でございますので、二分でお願いいたします。
○吉川春子君 分かりました。
 先ほど民主党の藤末議員の方からどれぐらいの期間が法案の検討に要されたかという趣旨の御質問があったんですけれども、スイスは、この議運の議事録の末尾に掲載されていますように、この報告がですね、一八一五年のウィーン会議で永世中立国として承認されて民主主義国家として発展してきたという非常に古い歴史がありまして、百二十五年続いた一八七四年の憲法を一九九九年に全面改定したと。スイスの場合は国民投票制と二院制と二つのものがあるので非常に意思決定としては時間が掛かると。しかし、それは国民の納得の下、じっくりと政策に対する国民の意思決定を得ていくんだという、こういう報告がありまして、私もその辺大変感銘を受けました。
 ですから、慌てていろんなものを早くスケジュール的に決めてしまう、早く国民投票法を作り上げて憲法改正を何とか早くしようというような、そういう焦り方はしない方がいいなと、そのことは今度の教訓であると私は受け止めております。
 以上です。
○会長(関谷勝嗣君) 藤末健三君から再度御意見をいただきます。
○藤末健三君 私も意見と申しますか、舛添先生と鈴木先生、そして犬塚先生がおっしゃっていることについてなんですが、やはり運動をどうするかと、国民運動をどうするかというのは非常に重要なことだと思います。
 一番初めの、前の発言で申し上げたんですけれども、やはり運動の仕方については、各国、国民投票法だけではなく、選挙制度、またイタリアにおいては選挙運動期間及び国民投票運動期間の情報機関への平等なアクセス並びに政治的情報提供に関する法律という何か長い法律がありまして、その中で、やはり放送事業者は情報を発信しちゃいけないとか、世論調査は公表しちゃいけないとか、あと行政機関は情報提供しちゃいけないと決まっているんです、イタリアは。
 ですから、やはり我々もきちんと若い人たちに政治に関心を持っていただくこと、そして細かい内容を理解して投票していただくことということを真剣に考えて議論をして制度をつくっていくべきではないかと思っておりますので、是非議論をしていきたいと思います。
 お願いします。
○会長(関谷勝嗣君) 喜納昌吉君。
○喜納昌吉君 私も、憲法調査会にいて少し憲法のことを勉強しながら感じたんですけれども、西洋の憲法よりも日本の憲法の方が進んでいるのではないかということを感じるんですね、どこかで。特に進んでいる部分は憲法九条と前文。しかし、そこら辺になぜか改正の流れがあるように感じて、非常に残念だなと思っているんですね。
 そこで、今の憲法全体を見ると、主権在民と天皇制と、特に条約の力関係が、力関係の位置が今の憲法では、大体、何というのかな、どちらに主体があるのかあいまいであるという。だから、この辺を、あいまいな部分をもっともっと、何というんですか、国民投票ではっきりさせていくような、国民投票に力を与えていく、権利を与えていく。多種にわたってもっと国民投票に、住民投票もそうなんですけれども、市民投票もそうなんですけれども、そこに与えるという方向に憲法を改正していった方がいいんではないかと私は思っているんですね。
 なぜならば、憲法はやっぱり国民の精神を拘束して未来へ運ぶという役割を持っていますから、今の日米同盟だけでは私は非常に危険な方向に行くんではないかという感じがします。
 もっともっと、西洋から繰り広げられてくるグローバルも問題でありますから、日本側から、何ていうんですかね、西洋と東洋を看破していくというんですかね、新しい考え方を出していくような堂々とした憲法を作った方がいいんではないかと思っています。言わば地球丸ごとという感じでね。そう思っています。
○会長(関谷勝嗣君) ありがとうございました。
 それでは、本日の意見交換はこの程度といたします。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後二時三十分散会

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