第164回国会 参議院憲法調査会 第2号


平成十八年四月十九日(水曜日)
   午後一時開会
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   委員の異動
 二月二十二日
    辞任         補欠選任
     舛添 要一君     藤井 基之君
     浅尾慶一郎君     江田 五月君
     喜納 昌吉君     山本 孝史君
     福本 潤一君     山下 栄一君
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  出席者は左のとおり。
    会 長         関谷 勝嗣君
    幹 事
                荒井 正吾君
                岡田 直樹君
                武見 敬三君
                藤野 公孝君
                若林 正俊君
                高嶋 良充君
            ツルネン マルテイ君
                簗瀬  進君
                山口那津男君
    委 員
                秋元  司君
                浅野 勝人君
                柏村 武昭君
                河合 常則君
               北川イッセイ君
                佐藤 泰三君
                櫻井  新君
                中川 義雄君
                中曽根弘文君
                福島啓史郎君
                藤井 基之君
                森元 恒雄君
                山本 順三君
                犬塚 直史君
                江田 五月君
                佐藤 道夫君
                鈴木  寛君
                内藤 正光君
                広田  一君
                福山 哲郎君
                藤末 健三君
                藤本 祐司君
                前川 清成君
                松岡  徹君
                水岡 俊一君
                山本 孝史君
                魚住裕一郎君
                白浜 一良君
                山下 栄一君
                仁比 聡平君
                吉川 春子君
                近藤 正道君
                田村 秀昭君
   事務局側
       憲法調査会事務
       局長       小林 秀行君
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  本日の会議に付した案件
○日本国憲法に関する調査
 (憲法改正等国民投票制度の主要論点)
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○会長(関谷勝嗣君) ただいまから憲法調査会を開会いたします。
 日本国憲法に関する調査を議題といたします。
 本日は、憲法改正等国民投票制度の主要論点について、各会派にそれぞれ十五分程度で御意見をお述べいただきたいと存じます。
 なお、御発言は着席のままで結構でございます。
 それでは、順次御発言願います。若林正俊君。
○若林正俊君 自由民主党の代表幹事をいたしております若林正俊でございます。
 本日は、憲法改正国民投票法制に関する主要な論点について簡潔に基調発言をさせていただきます。
 まず第一は、国民投票法制の対象を憲法九十六条に定める憲法改正国民投票に限定するか、それとも、国政における重要問題についても一般的に国民投票に付することができる法制を併せつくるかという論点であります。
 私は、両者は、国民主権の直接的な発露という意味で同根ではありますが、その性格は本質的に異なりますので、今回は憲法改正国民投票に限定して立法化すべきであるとの意見であります。
 憲法改正国民投票は、各院の三分の二以上の賛成で発議され、その結果も拘束的でありますが、一般的国民投票は、意見が対立している国政上の重要事項について問う諮問的なものであり、その結果は憲法上も拘束されておりません。一般的国民投票制度は欧州諸国でかなり採用されており、議会制民主主義、間接民主主義に一部直接民主主義を導入するという性格のものであり、諮問的であるといっても、結果は唯一の立法機関である国会の立法権に影響を与え、あるいは何らかの形で国会を縛ることになりますので、憲法上の調整を要するなど、憲法改正そのものであると考えられるのであります。したがって、今回は憲法上義務的なものとされている憲法改正国民投票に限定して立法すべきものと考えております。
 第二は、国民投票の投票権者の範囲、特に年齢についてどうするかという論点であります。
 昨年の衆参各院の欧州各国現地調査では、各国の投票年齢はいずれも十八歳とされておりますが、いずれの国においても国政選挙の選挙権年齢と同じであります。我が国においても、義務教育終了年齢を考慮して、政治参加の年齢を原則的に十八歳以上とすることも検討に値すると思いますが、そのときにはこれと併せて、民法の成人年齢や少年法等関係法令の改正も併せて討議、検討すべきであると考えております。
 また、国政選挙の選挙権者と国民投票の投票権者の範囲が異なれば、その名簿も別々になりますが、事務コストや名簿調製のための期間の確保、在外投票などを考えると実務的にも困難が多く、さらに有権者にも戸惑いがあると思われます。したがいまして、国民投票の投票権者は原則として国政選挙と一致させるべきとの意見であります。
 第三は、憲法改正案の周知、広報についてであります。
 憲法は、主権者である国民の意思によって定められた国の最高法規であります。したがって、その改正は当然のことながら国民が正しく十分に理解して行われるべきでありますから、改正案の内容が国民に周知徹底するまでの十分な期間が投票日まで確保されるようにする必要があります。
 また、発議をした国会がその責任において改正案について国民に周知し広報するため、改正のその要旨、改正の趣旨を平易に解説したパンフレットなど国民投票公報を発行することが重要であり、またその内容の公正中立を確保しなければなりません。そのために、国会に衆参各院の議員の中から選任された委員による国民投票広報委員会のごときものを設置し、国民に対する周知徹底を図るようにすべきだと思います。
 第四は、国民投票運動の規制についてであります。
 国民投票運動は、公選法のように人を選ぶ選挙とは異なり、国家の基本政策を選ぶ投票ですから、原則は自由であるべきだと考えますが、投票の公正を確保するための最小限の規制として、投票事務に直接関係する投票・開票管理者や裁判官、検察官などの特別公務員の規制や、公務員や教育者がその地位を利用して行う運動は禁止すべきではないか、また外国人については、組織的な国民投票運動や国民の投票行動に重要な影響を及ぼすおそれのある行為についても規制を考えるべきではないかなどについて更に慎重な検討を要すると考えています。
 なお、新聞社、通信社、放送機関、その他の報道機関に対する規制は、憲法二十一条の表現の自由との関連からも原則は自由とすべきものと考えますが、虚偽の事項の報道など、明らかに国民投票の公正を害することがないようにするため、報道機関による自主的な規律の取組を促すような規定については、なお検討の余地があるのではないかとの意見がございます。さらに、国民投票の期日直前のテレビ等のスポットコマーシャルについては禁止すべきではないかと思います。
 第五は、国民投票の単位についてであります。同一の国民投票において賛否を問う憲法改正案に複数の項目が含まれる場合に、それらを一括して賛否を問うのか、それとも個別の項目ごとに賛否を問うのかという論点です。
 国民の意見を正しく反映させるという国民投票の趣旨からすれば、個別項目ごとに賛否を問うのが原則だと思います。しかし、項目が相互に関連していて賛否が異なった場合に論理的あるいは政策的、体系的に不整合が生ずるような場合、これらは一くくりの項目として賛否を問うべきでありましょう。特に、自由民主党が新憲法草案として昨年提案したように、前文を含む全面改正というような場合には、これを項目別に分けることができないような場合もあろうかと思います。
 この問題は、どこまでが関連する項目かを発議する国会自身が決めることになりますが、国民に正しい判断をしてもらえるためには、どのような提案が適切であるかを国会内で十分考慮して議案を立案するしか方策はないように思います。
 以上、憲法改正国民投票法制に関する主要な論点について私の意見を申し上げましたが、ほかに投票の方式、罰則、国民投票の無効訴訟などの問題や、国民投票法制以前の問題として、議員による憲法改正案の提出の要件、改正案の審議機関、審議手続、発議の要件等、国会法の改正問題がございます。これらの問題も、憲法改正国民投票法制と一体のものとして調査、審議することが望ましいと考えますので、意見として申し上げます。
 最後に、憲法改正の国民投票法制の早期の制定についてでございますが、憲法に改正手続規定があり、そこで国民投票が求められている以上、本来、憲法が公布、施行されるときには国民投票法を定めておくべき性格のものだと思います。今日まで国民投票法が定められていないのは立法不作為との意見があるほど、立法府に問題があるのではないでしょうか。
 私は、憲法を変える、変えないという議論とは切り離して、憲法改正についての意見の違いを超えて、公正中立な憲法改正手続についてのルールとして、憲法改正国民投票法制をできるだけ早く制定すべきである旨申し上げて、私の基調発言を終わります。
○会長(関谷勝嗣君) 次に、簗瀬進君。
○簗瀬進君 民主党の代表幹事を務めます簗瀬進でございます。
 憲法改正国民投票法制に関する私ども民主党の考え方、あるいは基本的にどんな論点が挙げられるかということについては、既に三月二十九日付けで論点メモを提出をしてありますので、今回は、その中で重点を絞りながら、我が党の考え方の基本を御説明をさせていただければと思います。
 マスコミ的には、自公民はこの国民投票法で随分接近をしていると、かなり一致点があるかのような報道が出ております。しかし、私個人にとってみれば、一番最初のスタートラインでの溝というようなものは依然として埋まっていないんではないのかな、こういう感じがするわけであります。
 まず前提として、どうも憲法という国家の最高規範と、それから通常の国会制定法をどうも同じように考えているんではないのかなと、節が見受けられるわけでございます。
 私どもは、そういう意味では、今回の国民投票法を定めるについて、これを一般国民投票法制をつくるべきであるという、こういう立場を明瞭にさせていただいております。そして、そのうちの各論の一つが憲法改正手続であり、もう一つがいわゆる国政問題に関する一般的な国民投票であると、それを二つをくくるものとして国民投票法制を定めるべきであると、このように考えておるわけでございます。
 なぜかといいますれば、言うならば、先ほどのお話にこれつながる話でございますけれども、憲法改正というのは、言うならば憲法制定権者としての国民の、民主主義の基本としての権限の発動でございます。したがいまして、その憲法改正を行うということについては、できる限り主権者としての国民の考え方が生に非常にストレートに出てくるような、そういう手続をつくるべきであろうと、私どもはこのように考えているわけでございまして、このことがすべてに広がりを見せてまいります。
 例えば、先ほど申し上げたように、我が国が、ある意味で間接民主制の限界を意識しながら、重要な国政問題については国民の考え方を直接聞かせていただこうというのは、正に憲法改正に非常に率直に表れている、直接民主主義の新たな二十一世紀的な発動の姿なんではないのかな、こういうふうに考えておるわけでございますし、通常の国会議員の選挙、これの投票年齢をそのまま憲法改正に当てはめてこようというのは、いわゆる代議制民主主義というようなものが憲法によって、一種選挙制度は憲法で、立法によって定めるという国会の意思によって選挙制度が出てくるわけでございまして、ある意味では憲法の下位規範としての選挙制度の中で様々な投票要件が出てくるわけでございますけれども、これが憲法改正という形になりますと、非常にもっと原初的な形で国民の率直的な意見が出てもいいんではないのかなと、こういうふうに考えるから、投票要件については別に通常の国政選挙の投票年齢に横並びにする必要はないと、こういうふうな考え方になってくるわけであります。
 そういうことで、正に私どもは、今回の国民投票をつくるにしても、まず基本的にはいわゆる民主主義の本来的な姿であります直接民主主義の発動の在り方をどういうふうに考えていくのか。その一つの表れが憲法改正という行為であり、もう一つの表れが重要な国政問題に対する国民の権利行使であると、こういうふうに整理をしていくべきではないのかなと、このように考えておるわけでございまして、ここが自公案と我が民主党のいわゆる考え方の大変大きな違いなんではないのかなと、こういうふうに考えるわけであります。
 その次に、総論的な問題として、私たちは憲法改正の限界というようなものをどういうふうに考えていくのかということについてもきちんとした議論をしなければならないと、こういうふうに思っているわけであります。
 自民党、公明党さんもいわゆるこの手続をつくるに際して、無効争訟、投票の効力に関する争訟制度をつくるということについては、これは同じような考え方に立っていらっしゃるようでございますけれども、仮にそうであるとするならば、この憲法改正の限界として考えられたものが無効争訟の中にどういうふうな形で反映をしていくのかという、そういう結論も出していかなければならないと。そういうふうに考えてみますと、手続法の中で憲法改正の限界というようなものについてどういう対応を取るのかなということはやっぱり一つ大きなポイントとして出てくるのではないのかな、このように考えているわけでございます。
 以上、総論的なところで国民投票法についての一般的な性格付け。私どもは、正に憲法改正手続とそれから通常の重要な国政問題に関する国民投票と、それを総合的に対処できるような国民投票法制をつくるべきだと、そういう新しい二十一世紀的な民主主義の姿をどう考えるのかという、そういう考え方に立ってこの国民投票法の議論をすべきだと、こういうふうに思っているということが一つ。
 それから、仮に無効争訟制度というようなものをつくるということになれば、今申し上げた憲法改正の限界についてのもうちょっと精度の高い議論をしていく必要があると、このように考えているわけでございます。
 今の考え方が私はスタートだと思っております。そして、その上で、各論的なところで様々な細かな論点、大きな論点があるわけでございますけれども、例えば国民投票運動についてのその在り方でございますが、正に先ほど申し上げたように、憲法改正が国民の主権者としての権限を非常に率直に受ける機会であるということを前提にするならば、基本的には原則自由で最小限の規制にとどめるべきであると、こういうふうな原則的な考え方が出てまいるわけであります。
 そういう観点に立って、例えば運動の主体に関する規制、例えば特定公務員、例えば選管職員をどうするのか。選管職員のみに限って国民投票運動を禁止すれば足りると、それ以外については広くこの運動を認めるべきであるとか、あるいは公務員、教育者の地位利用による国民投票運動ということについては、国家公務員法等の政治活動の制限規定で対処すれば足りることであり、新たな制約を設けるべきではないとか、あるいは外国人の国民投票運動をどうするのかということでございますけれども、こういう論点についても、公共の福祉に反する場合を除き、基本的に外国人にも国民投票運動は保障されるべきであると、こういうふうな考え方にこれがつながってくるわけであります。
 さらには、先ほどの言うならば年齢の話も、私どもは単に十八歳を言っているわけではございません。案件によりますれば、例えば十八歳以下の者でも、教育関係あるいは介護の問題とか様々な部分で自分にかかわりのある様々な重要な課題が憲法の中にも当然含まれてくるわけでありますから、それを前提にするならば、先ほど申し上げた、いわゆる憲法の授権による国政選挙、その資格要件であります二十歳とか、そういうことと横並びで考える必要は全くない。案件によれば十八歳よりももっと下げていいんではないのかなと、こういう場合が出てくると、このように考えておるわけであります。
 その他、投票用紙への賛否の記載の方法とか、過半数の意義とか効果とか、様々な細かな論点がありますけれども、いずれにしても、基本的にはこのすべての問題解決のキーワードというようなものは、憲法改正というようなものが主権者としての国民の非常に原初的な権限の発動であるというところからすべてを組み立てて考えていくべきなのではないのかなと、このように考えているわけでございます。
 さらに、このようなことから、例えば国会法改正にも絡む論点が幾つかあるわけでありますけれども、例えば憲法改正原案の提出というところでは、私どもは内閣の提案権は認めるべきではないと、このように考えておりますし、また国民請願による憲法改正案の提案ということについても、一定の限度で、国民の側から憲法改正の案が出てきた場合は、それをしっかりと受け止められるようなそういう制度をつくるべきであると、このように考えておる次第でございます。
 いずれにしても、EUの新しい国家の枠組みを超えるようなそういうシステムが出てくるときに、それぞれの国民の直接的な意見を聞きながら国の新たな姿を形作っていったというあのヨーロッパの経験は、これから国民投票法制を議論をする際にも、しっかりとそれを踏まえながら、二十一世紀の新しい民主主義の姿というようなものを考えていく必要があるのではないのかなと思っておる次第でございます。
 また、衆議院での議論もございますけれども、参議院に参りまして新たな追加論点が出てまいりましたので、そのことについて若干触れさせていただきたいと思います。
 例えば、天皇、皇族の投票権の有無というような問題もあるのではないのかなと思います。
 皇室典範の改正という問題が出てまいりましたが、非常に皇族御自身にも関係の深いテーマであるということは、これは言わずもがなでございます。天皇、皇族とも投票権を有すると、このように考えてもいいのではないのかなという意見も党内にはございます。結論は出ておりません。
 諸外国を参照いたしますと、例えば王室制度を有しておる諸外国の中には王族に国民投票権を与えている例があると、こういうこともございますので、しっかりとやっぱりこのことも議論をすべきなのではないかなと思う次第でございます。
 それから、同一案の再発議の可否という問題も新たに参議院の段階で私ども論点として追加をさせていただいた部分でございます。スロバキア共和国憲法では、直近の国民投票の実施から三年経過後には同一の問題に関する国民投票を再度実施することができると、すなわち三年間はいじってはならないと、こういうふうな規定を置いてあるところもございまして、一事不再議ではございませんけれども、同一案、憲法改正案が否決をされた後どうしたらいいのかと、こういうふうなことについても論点として考えられるのではないのか。
 また、国民投票運動への公費助成とか費用規制の点も新たに出てまいります。大変圧倒的な物量で一種のマインドコントロールが行われるようなところで憲法改正が行われていいんだろうかと、こういうふうな問題意識でもございます。
 それから、我が党としてもう一つ結論が出せていない部分がございます。それは、最低投票率制度を導入することの是非でございます。これについてはまだ意見が実はまとまっておりません。例えば、憲法改正を実施してみたら投票率が三〇%にも満たなかった、そこで過半数で決まるという形になりますと、国民の一〇%前後で憲法改正が行われてしまう、こういうふうな状況でよろしいんだろうかという、こういう議論もきちんとしていかなければならないと思っております。
 以上、かいつまんで重要と思われる論点について御報告をさせていただきました。
 ありがとうございました。
○会長(関谷勝嗣君) 次に、山口那津男君。
○山口那津男君 公明党の山口那津男でございます。
 論点について、私ども公明党の考えを述べさせていただきたいと思います。この各論点に対する公明党の意見は別の機会に譲りたいと思います。
 まず掲げましたのは、総論的な事項として、国政選挙と同時実施することを念頭に置くか否かという論点であります。国民の参加を広く促すという意味では国政選挙と同時実施という考え方もあり得ますし、また、民意の拡散を防いで集中させるという意味ではこれを避けるという選択肢もあり得るというところで、論点となり得るものであります。
 次に、一般的な国民投票も対象とするか、あるいは憲法改正国民投票に限定すべきかという点でありますが、この点も、投票の結果、法的効果を生じさせるものと政治的な重要な参考意見にとどめるかどうかという二つのものを一緒に制度として仕組むかどうかという判断の問題でありまして、これは重要な論点の一つと思われます。
 次に、各論的な事項として、投票権者と投票人名簿の関係について。投票権者の範囲については、国政選挙と一致をさせ選挙人名簿をそのまま用いるという考え方もあり得ますし、この憲法改正については、国家の基本を定めるものであるから、できるだけ幅広く認める必要があるということで、国政選挙の有権者と一致させる必要はないとする考え方があり得ると思われます。
 その広く認める場合の一つの視点として、投票権者の年齢を十八歳以上として二十歳よりも下げるという視点、それから選挙権停止中の者、これも、人を選ぶ選挙あるいは政党を選ぶ選挙とこの憲法の選挙というのは価値判断の基準が異なるということで、投票権を与えてもいいという考え方もあり得るということであります。
 さらに、三か月の居住要件というのが公職選挙法にございますが、これは二重投票を防ぐという意味と、どの場所で投票すべきかという点を考慮するものでありますが、憲法については全国で二重投票を防ぐということを最も重視すべきか否かという論点になろうかと思います。
 次に、投票期日及び憲法改正案の周知、広報の在り方に関する論点であります。
 投票期日までの周知期間をどの程度とするかということでありますが、これはどういう発議の仕方をするかにもかかわるところでありますけれども、慎重かつ十分な配慮期間、周知期間というものを基本的に置くべきであろうと思われます。
 次に、投票期日をだれが定めるかということでありますが、この投票について、発議者以外の機関をつくってそこにゆだねるという考え方もあり得ますが、まず発議者が基本的にすべてを、手続的なことを決めると、詳細を決めるという考え方もあり得るところでありまして、ここも論点になると思われます。
 憲法改正案の周知、広報の在り方についてでありますが、どのような事項を記載した資料を配布することとすべきかということで、これは発議者の意見を分かりやすく解説する、その意味で要約あるいは賛成の論拠というものを記載するのは当然でありますが、反対の立場からの論拠というものも載せる必要があると思われますが、その作り方、範囲についてはいろいろと意見のあり得るところだろうと思います。そのパンフレットをだれが作成すべきかということについても、これを発議する国会の側に例えば憲法改正広報協議会等々あるいは国民投票委員会というような機関をつくって、この作成の内容について詳細を詰めるという手続が必要かと思われますが、そこも一つの論点であります。また、そのような機関を国会につくった場合にその構成をどうするかということ、これは発議に賛成する側と反対する側が予想される中で、公正な中身というものを詰めていく必要があると思われます。
 次に、国民投票運動の在り方についてでありますが、この国民投票の運動については原則自由として、投票の公正確保のための最小限の規制を課すということを基本に考えるべきであると思われます。その上で、次のような規制又は助成の規定を置くべきかどうかが論点となると思われます。
 まず、運動の主体に関する規制についてですが、公選法等にあるように、特定の公務員、例えば選管職員などの国民投票運動を禁止するべきか否かという点があります。それから、公務員あるいは教育者等の国民投票運動の禁止を設けるべきか否かという点があります。
 次に、外国人の国民投票運動の禁止の是非ということも論点となり得ると思います。今の憲法の解釈においては、基本的な人権も可能な限りその性質に応じて外国人にも適用されるべしという理解でありまして、その改正を論ずる場合に外国人に対する人権が論点になるということも観念的にはあり得るわけでありまして、その場合に、外国人の国民投票運動の参加を拒否していいのかどうかというところが論点となり得ると思います。
 次に、運動の期間、方法に関する規制の在り方でありますが、公職選挙法の戸別訪問の禁止、飲食物の提供の禁止等の是非、これについても議論の余地があると思われます。特に、この国家の基本法である憲法に対する国民の参加を促すためには、人を選ぶ、あるいは政党を選ぶ選挙とは別な視点からの規制の在り方というものを検討すべきであろうと思われます。
 予想投票の公表の禁止。これも、人を選ぶ、政党を選ぶ選挙とは違った視点で検討されるべきものがあると思います。
 また、マスコミに対する規制についてでありますが、新聞、雑誌、テレビ等の虚偽報道、不法利用等の禁止は、必要最小限の規制にとどめるべきであると思われます。基本的には、自由な中で自主的な規制に任せるという基本の上で、どの程度の規制を設けるべきかということを議論されなければなりません。
 例えば、放送メディアの影響力が強いということを考慮した場合には、投票期日直前の一定期間にスポットCMの禁止等を設けるべきかどうかというところが現実的な論点になり得るだろうと思います。
 それから、罰則による規制でありますが、投票干渉罪、投票箱開披罪、詐偽投票罪等、これら公選法と同様の規定を置くべきか否かということも論点であります。
 それから、買収罪の是非ということでありますが、これも、人を選ぶ選挙、政党を選ぶ選挙ではないと、むしろ国民の参加を広く促すという意味から、厳密な規制を設けるべきかどうかということについては議論のあり得るところであろうと思われます。
 それから、投票の自由、平穏を害する罪等の是非。これについては、投票過程の公正をどの程度担保すべきかという点で議論のあり得るところだろうと思います。
 次に、国民投票運動への公費助成についてですが、これは、発議にかかわった賛否いずれの立場からも、テレビ、新聞に無料枠の提供を考えるべきか否かといった、国民参加を広く促すためにどのような仕組みがあり得るべきかということで論点となり得ると思います。
 次に、投票用紙とその記載方法についてでありますが、投票用紙の様式等をどうするか、これは個別条項ごとに賛否を問うべきか、あるいは一括でやるべきかという考え方の違いによってくるところであります。我が公明党のように加憲という考え方を取っている立場からすれば、個別投票、個別項目ごとの投票が可能となるような記載の投票用紙の様式というものを考慮すべきであろうと思われます。ただし、憲法の中には、例えば基本的人権のように個別ごとの検討になじむ分野と、統治機構のように全体としてシステムの一体性というものが重んじられる分野とそれぞれありますので、この記載の在り方については十分な慎重な議論が必要かと思われます。
 投票用紙への賛否の記載方法をどうするかということでありますが、マルかバツか、あるいは賛成、反対を明記させるかどうか、いろいろな記載の在り方が考えられると思いますが、いずれにしてもその意思を明確に判断できる、そういう記載方法を検討すべきであると思います。
 次に、過半数という憲法の規定の意義でありますが、これは、有効投票総数の過半数と考えるべきか投票総数の過半数と考えるべきか、非常に難しい論点、非常に重要な論点であろうと思います。
 また次に、最低投票率制度を導入すべきかどうかというところでありますが、これは、棄権運動などが起きてくることも予想しながらこういう制度の是非を考えるべきだろうと思います。これは、有効投票総数の過半数か投票総数の過半数かいずれかを取った場合に、現実にどういう投票行動が出てくるかということとも関連する問題でありまして、仮に有効投票総数の過半数といった場合に、実際問題、非常に低い投票率で賛成意見が形成されるということもあり得るわけでありまして、この点、関連させた議論が必要だろうと思われます。
 次に、投票の効力に関する争訟制度、これは投票制度をつくる以上必ず設けなければならないと思われますが、無効訴訟をどこで提起できるようにするか、管轄、あるいは三審制、二審制等々、どのような制度とすべきかを検討すべきであります。
 次に、投票結果はいつ確定することとすべきかということでありますが、これを早く確定すべきか、あるいは慎重に争訟の確定等を待って確定させるべきか等々、考え方の分かれ得るところであります。それは、次の執行停止の制度を導入すべきかとも関連しているわけでありますが、投票結果を早く確定させた上で例外的な制度を設けるべきとするかどうかという点であります。
 次の論点として、在外投票制度についてでありますが、この点については可能な限り広く認める方向で制度を検討すべきかと思われます。
 それから、郵便投票制度の簡素化等ができるかどうかということでありますが、これも、投票の機会を広く保障する必要があるという点で、現行よりも広く認める余地があるのではないかという意見もあり得るところであります。
 さらに、国会法の改正案についても主要な論点を提起いたしました。
 これについては、まず提案権の所在でありますが、内閣にも認めるべきかどうかということでありまして、三権分立との関係で議論のあり得るところであります。
 それから、国民請願による憲法改正案の提案のような制度を認めるべきかどうかということでありますが、これは請願の果たす役割と現行の機能とを比較しながらこれを検討すべきであろうと思われます。
 憲法改正案の審議の体制、手続についても決めなければなりません。憲法調査委員会等の権限をどうするかというようなことと関連すると思われます。
 また、憲法改正案の審議手続、議事手続の特則を設けるべきか否か、例えば中央・地方公聴会を義務的なものとするかどうか、こういう論点があり得ると思います。
 また、憲法改正案の発議についてですが、総議員という憲法上の規定、これが現在議員数か法定議員数か、この解釈の分かれが生じないように明確に規定する必要があるだろうと思います。
 それから、発議の在り方については、個別項目ごとにするかあるいは一括にするか、これは先ほど述べたことと関連するわけでありまして、ここも発議の在り方について重要な論点であると思われます。
 以上、主要なものについて意見を述べさせていただきました。
 終わります。
○会長(関谷勝嗣君) 次に、仁比聡平君。
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
 私は、小泉首相が郵政選挙だと唱えて圧勝した昨年の総選挙後の特別国会で衆議院に憲法特別委員会の設置が強行され、当憲法調査会も再開されるに当たって、憲法改定国民投票法制定の動きのねらいが我が国を海外で戦争をする国につくり替える九条改憲を焦点とした改憲への地ならし、条件づくりにあることは明白であり、強く反対する立場を申し上げました。
 参議院憲法調査会は、日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行うことを目的とし、議案提出権を持たない、つまり、あれこれの結論を求めない、調査任務に限定した機関であることを改めて申し上げなければなりません。憲法改定の国民投票法制を審議するという衆議院憲法特別委員会とは全く性格を異にするのであり、当調査会の調査が、国民投票法ではなく国民投票制度の調査だといいながら、正に衆議院憲法特別委員会理事懇談会の論点整理と論点協議に呼応する形で論点整理の上進められることは、調査会本来の任務と在り方に反して許されないということを改めて強く申し上げるものでございます。
 したがって、我が党は、当調査会の論点整理に反対し、論点整理案を提出しなかったことを改めて明らかにしておきます。
 昨年十二月二十日、自民、民主、公明各党の衆議院憲法特別委員会の責任者がこの通常国会で国民投票法案の成立を目指す旨の合意をして迎えた今国会で、改憲のための国民投票法案をめぐる動きが一気に加速をしています。
 私は、今なぜ国民投票法なのか、論点整理の上で調査を進めることがどのような政治的意味を持つのかについて、同僚委員お一人お一人にお訴えをしたいと思います。
 まず、九十六条があるから、あるいは手続法を定めるだけだから、さらには国民投票法が制定されていないのは国会の怠慢だ、立法不作為だといった議論は、現実に改憲をスケジュールに入れ、その不可欠の手続として国民投票法制定を急ぎながら、そのねらいをごまかす改憲派の土俵に乗り、その論者の意図にかかわらず、国民との関係では政治的詭弁になるという点でございます。
 既に、自民党は、昨年十一月に新憲法草案を発表し、現実の改憲を政治スケジュールにのせております。それは、憲法第二章の表題から戦争放棄をなくし、自衛隊を自衛軍として憲法上明記し、その自衛軍は、自衛のために必要な限度での活動のみならず、国際協調の名の下に海外での活動を憲法上の任務とするなど、九条、とりわけ九条二項の全面的改廃をねらうものであるとともに、構造改革をもっと推進するための首相のリーダーシップ、社会権や福祉の諸課題は国の責任を放棄して自治体にゆだね、社会保障の市場化でマーケットを止めどなく拡大し、住民負担による自主財源と受益者負担主義で住民にツケを回す地方制度の改革、また九十六条の改正要件緩和などを柱としています。
 そしてそれは、我が国の戦争国家化、とりわけ海外での武力行使を可能にするための憲法九条二項の削除、集団的自衛権の行使を強く求めるアメリカの対日要求と新自由主義に基づく構造改革と併せ、九条と九十六条に焦点を絞った改憲構想を示した昨年一月の日本経団連の「わが国の基本問題を考える」など、財界の強い要求に支えられた極めて具体的な日程です。だからこそ、自民党の船田元憲法調査会長は読売新聞二月九日付けのインタビューで、「憲法改正に向け、通常国会で国民投票法を成立させたうえで、政党間協議の入り口まで今年後半にはたどり着き、来年、本格的な協議に入りたい。」と言明しているのでございます。
 このように、改憲に向け、国民投票法案の上程と成立という出口を決め、衆議院憲法特別委員会では論点整理と論点協議が行われています。これに呼応して、当調査会が各党の主要論点に関するメモを出し合い、それに基づいて調査を進めることは、一つには、改憲そのものの準備ではないように見えながら、しかし改憲の準備に確実につながる、その意味で改憲派にとって大変具合の良い課題であり、二つ目には、改憲に不可欠な手続を確実に整備をしながら、改憲発議のための大連立と言われる多数派の形成を進めるものであり、三つには、その中で、将来行われる国民投票を有利に進める制度的手掛かりを確保することになるという政治的意味を実際には持っているのでございまして、これと離れた抽象的又は中立的な手続の調査はあり得ないということを我々は深く自覚すべきであります。
 まず改憲ありきというよこしまな動機に基づくからこそ、憲法改正のためにはどうしても国民投票が必要だから、言わば改憲発議を国民に追認させることができるよう、本来なら国民主権の直接行使であるにもかかわらず、国民投票と国民投票運動に様々な規制を掛ける。日弁連からも、いわゆる与党案に対する厳しい批判と反対の意見、運動が広がっているとおりでございます。
 ならば、改憲派の本音どおり、本当に改憲に向けた準備として国民投票制度の論点整理と調査を進めてよいのでしょうか。
 三月二十日の琉球新報は、「国民投票法案 問題の本質を見失うな」との社説を掲げました。ここでは、国民投票法案をめぐる与野党協議は投票権者の年齢が大きな争点となってきた、原則二十歳以上とする与党に対し、民主党が十八歳以上と譲らず対立していると紹介した上でこう述べています。
 「憲法改正論議は、いつから投票権年齢の話にすり替わったのだろうか。現行憲法は「戦争放棄」と「戦力不保持」をうたい、比類なき平和憲法として位置付ける国民は少なくない。見直す理由が見当たらないとの指摘もある中で、論議を深めることなく、改正に向けた準備だけが着々と進んでいる。そんな印象が否めない。 これでは何のための国会か、ということになる。平和憲法を変えるとすれば、その理由を、政治家は分かりやすく国民に説明することから始めるべきであろう。 憲法改正への機運が国民に熟したとはとても思えない状況下で、国会論議を深めることもなく、改正への手続きを急ぐことは許されない。投票権年齢の問題などに目を向けさせる手法も姑息と言わざるを得ず、そんなことで国家の将来が決まってしまっていいのかと思う。」。この厳しい指摘に委員の皆さんはどのようにお答えになるでしょうか。私は正に正鵠を得た指摘であろうかと思います。
 一方で、解釈改憲によるぐずぐずの状態を直して立憲主義を再建するためには、憲法をきちんと改正して自衛隊については認めないといけないという有力な議論がございます。そのための国民投票法が必要だという議論になるのかもしれません。
 ですが、私は、憲法の本来の要求から解釈改憲によって乖離させられた現実に憲法の側を合わせることが本当に立憲主義なのかという疑問とともに、解釈改憲によってはどうしても乗り越えられない限界は依然として非常に大きく、その意味で、九条二項の歯止めを取り払おう、解釈改憲を打破して明文改憲を行おうという強い衝動が九条改憲派にあり、そこに今日の改憲問題の中心的焦点があることを正面から見なければならないと思います。その方向で改憲がなされればどうなるか。その結果は、自衛隊の現状を憲法で追認することにはとどまらない重大なものとなります。
 小泉首相は、戦争をするために憲法を改正するわけじゃない、なぜ九条を変えれば戦争することになるのか分からないと語気を荒げてみせ、自衛隊の認知のみが九条改憲の意味であるかのように言います。
 しかし、九条二項の歯止めとしての意義について、九〇年十月二十二日の内閣法制局答弁によっても、九条二項を改廃するなら、第一に海外での武力行使、第二に集団的自衛権の行使、第三に国連が組織する武力行使、すべてへの参加が憲法上可能になります。
 さらに、交戦権の否認という憲法原則を改廃すれば、交戦国が有する種々の権利、すなわち相手国兵力の殺傷及び破壊、相手国の領土の占領、そこにおける占領行政、中立国船舶の臨検、敵性船舶の拿捕など、政府自身、憲法上禁じられるとしてきた行動が解禁されます。別の角度でいえば、今の九条明文改憲をめぐる焦点は、自衛隊が違憲であるか合憲であるかではなく、集団的自衛権も含めて自衛隊の武力行使目的での海外派兵を正当化する点にあるということです。
 在日米軍再編の中で進められている日米の軍事一体化、アメリカの世界戦略の中に更に深く組み込まれようとしている日米同盟と自衛隊の現実を直視すべきであります。
 昨年十二月十三日、額賀防衛庁長官が、例えば嘉手納飛行場の訓練を何機、何回移転するといった具体的な案がないと地元に説明する上でも不十分と問うた会談の中で、ローレス・アメリカ国防副次官はこう答えました。日本側は沖縄の負担軽減と言うが、アメリカ側は訓練減少自体が目的とは考えていない、自衛隊との共同訓練や相互運用性の向上がまず目的だ、日米同盟の能力強化が重要なねらいであると、こう言っています。
 自治体ぐるみの反対にもかかわらず、岩国でも沖縄でも、政府はアメリカ言いなりに強硬姿勢を強めています。それは、平和と安全の代価だと言い、日米同盟の軍事一体化で同盟能力を高めることを最優先にしているからにほかなりません。そして、これは九条改憲と表裏一体であり、先取りであります。だからこそ、改憲日程を具体的スケジュールとし、国民投票法について今国会で成立させるなど、出口を決めて論点整理を進めようというのではないでしょうか。
 私は、そのような調査の在り方に強く反対し、改憲のための国民投票法制定反対の大きく広がる声を院内外で受け止めて、奮闘する決意でございます。
 ありがとうございました。
○会長(関谷勝嗣君) 次に、近藤正道君。
○近藤正道君 社民党・護憲連合の近藤正道でございます。
 私は、あらかじめ「国民投票制度の論点」というメモを皆様のところに配付をさせていただきました。本日は、そのメモに基づきながら、国民投票制度の論点申し上げたいというふうに思います。
 本題に入る前に、本調査会における論議の対象について一言申し上げたいと思います。私は、本調査会のこの間の経緯に照らし、論議の対象は国民投票制度に限定されるべきと考えております。したがって、私自身、今回、改憲発議以後の手続に限定して論点を提起させていただきました。
 しかし、一部会派では、国民投票の前段である改憲発議など、国会法改正の領域についても論点を提起されておられます。これは本調査会の守備範囲の逸脱ではないかと思います。本調査会については、その活動範囲について常に厳しい論議がございました。五年間の調査を終え、私自身、議長への報告によって調査会は幕を下ろすべきだと主張もいたしました。しかし、反対にもかかわらず、国民投票制度の調査を続け、今日に至っているわけでございます。そうである以上、論議の対象は厳格に守られるべきだと考えます。
 改めて、論議の範囲を明確にし、国会発議以降の手続である国民投票手続に限定して論点整理がなされるべきであると、こういうふうに指摘をさせていただきたいと思います。
 本題に入ります。
 初めに、総論として四点申し上げたいと思います。
 最初は、憲法の意義、役割についてであります。国民投票制度が憲法改正を主要な対象としている以上、対象である憲法の意義、役割について、調査会において一応の共通理解を持つことは、後で述べます憲法の限界論ともかかわりがあり、必要なことだと思っております。憲法は何のために存在するのかという問題であります。国民の人権を守るため、国家権力を縛り、制限するために存在する。近代立憲主義の立場に立ち、国家権力を制限する規範であるとの立場に立つのか、それとも国民に対する行為規範として存在するとの立場に立つのかという論点であります。
 この点は、憲法改正手続を論議する大前提として整理しておく必要があります。日弁連などは、この論点が不明確なまま国民投票制度の論議が進むことに強い危惧の念を示しております。しっかりと論議されるべきであります。
 二つ目であります。なぜ今国民投票なのか、国民投票制度がないことが立法不作為に当たるのかという論点であります。
 そもそも、国民の多くは本当に今憲法改正を望んでいるのか。とりわけ九条についてはどうでしょうか。私は、現在の論議は九条改憲論に強力に引っ張られたものであると思っております。国民の多くは九条改正を望んでおりません。これは各種世論調査からも明らかであります。国民が改憲を望まなかったから、憲法制定以降六十年近くにわたり改憲のための国民投票の論議が起こらなかったのであって、立法不作為は成り立たないと考えております。また、直近のNHKの世論調査でも、六六%の人々が国民投票法制について知らないと答えております。知っていると答えた二七%の人についても、その七六%、四分の三以上の人々が国民投票制度は必要ない、また急いでつくる必要はないと答えております。これがこの国の現実であります。憲法改正手続を法制化する状況としては最悪ではないでしょうか。
 国民投票の中身の論議の前に、今本当に国民投票法制が必要なのか、立法不作為の事実はあるのかという問題について、しっかりと論議すべきだと考えております。
 三つ目、憲法改正案と国民投票制度は切り離して論議することができるかという問題であります。
 後で述べます投票方式や発議から投票までの期間、さらに憲法改正の限界の問題等に照らしてみれば明らかなとおり、この二つの問題は互いに密接不可分の関係にあり、切り離して論議することは困難であります。
 また、そもそも国民投票については、憲法改正とは別に、あらかじめ一般法としてつくる方式と、憲法改正の発議ごとに、その都度一回きり使う個別法として制定する方式がございます。私たちが訪れましたフランスのデクレは後者であります。また、折衷の方式もあります。
 それぞれメリット、デメリットがあり、憲法九十六条は果たしてどちらを想定しているのか判然といたしませんが、この問題も重要な論点であり、併せて冒頭しっかりと論議しておく必要があると考えます。
 四つ目は、憲法改正の限界にかかわる論点であります。
 問題は二つあります。一つは、憲法改正に限界はあるか。憲法九十六条は改正に限界ありとの立場に立つかという問題であります。二つ目の問題は、仮に限界説に立つとき、改憲の限界を超えた改憲案が発議されたとき、国民投票はこれにどう対処するかという問題であります。このことは国民投票の各論の論点であります争訟制度とも深くかかわる問題であります。
 この問題は、とりわけ昨年の十一月に発表された自民党の新憲法草案で俄然現実味を帯びてまいりました。自衛軍の保持と海外での武力行使を可能とする自民党新憲法草案は、国民主権、基本的人権、平和主義という現憲法の根本原理のうち、とりわけ平和主義を実質否定し、大前提である立憲主義に対しても大幅な後退が見られ、どう見ても現憲法との一体性を認めることはできません。また、改正ではなく新憲法の制定とうたっております。
 このように、実質的にも形式的にも改憲の限界を超え、憲法九十六条が予定する改正の域を超える全面改正や、新憲法の制定を憲法九十六条に基づく改正手続で対処することが果たしてできるのか、重要な論点としてしっかりと議論すべきであります。
 そのほか、国民投票を憲法改正の場合だけに限るのか否か、実施時期をどうするのか、こういう問題点もありますが、主要な四点として提起をさせていただきました。
 次に、各論について主な論点を述べたいと思います。
 私どもは、憲法改正国民投票制度は現時点で必要だとは思っておりません。今つくるべきではないと考えております。しかし、仮につくるのであれば、主権者たる国民の憲法制定権行使にふさわしく、憲法の理念に立脚し、国民主権の原則にしっかりと沿う国民投票制度にすべきだと考えております。
 冒頭申し上げますけれども、憲法改正の国民投票は、憲法九十六条に基づいて実施されるものでありまして、憲法十五条に基づく公職選挙法とは憲法上の根拠を異にしており、性質も全く違うものであります。性質の異なる公職選挙法の選挙運動規制を安易に憲法改正国民投票制度に横滑りさせるようなやり方は厳に慎まなければならないと思っておりまして、その観点から申し上げたいと思います。
 第一は、投票者の範囲であります。
 憲法は、国家の根本規範であります。そうであるがゆえに、憲法改正に当たっての国民投票制度は、国民が最大限参加できる仕組みにする必要があります。国政選挙の二十歳以上の規定を当てはめればいいという議論もありますが、一方、十八歳以上にすべきだという議論もあります。また、義務教育終了者以上との議論もあります。傾聴に値する意見であり、投票者についてはできるだけその範囲を拡大する方向で検討すべきであります。また、皇族や在外国民、定住外国人、重度の障害者等の投票人名簿の調製も検討すべき重要な論点であります。
 第二は、改憲発議から国民投票までの期間であります。
 根本規範にふさわしい十分な期間を保障すべきであります。問題は、投票者が憲法改正の賛否を判断するに当たって、どういう改正案か情報を集め、学習し、理解するための期間が十分に保障されるのか、また、憲法改正に反対の立場の者、政党などが十分な広報宣伝活動を行う期間が保障されるかであります。この点は、改正内容に深くかかわり、結論の出しにくい問題でありますが、憲法という国の根幹にかかわる重大な問題であることや、我が国では国民投票の経験がないことなどを勘案すれば、期間は最低でも半年は必要ではないかという考えもございます。これは日弁連も主張しているところであります。
 第三は、国民投票運動についてであります。
 これについては様々な問題があります。原則自由の立場に立つものであることを申し上げながら、運動の主体に関する規制、運動の期間、方法に関する規制について、その一つ一つについてしっかりと議論をしなければなりません。そして、マスメディアに対する規制は、表現の自由や国民の知る権利に直結するものだけに原則自由の立場に立つことは当然であります。そのほか、規制と罰則について公職選挙法の事例を丹念に検討しなければなりません。また、運動に対する公費助成についての論点も欠かせません。改正反対の少数派に対し公平な運動をどう保障するか、そのための公費助成の在り方も重要な論点であります。
 第四は、メディアの規制と活用についてであります。
 団体であれ政党であれ、公平平等にメディアを活用できるようにすべきであります。大きな政党や団体、国会議員を多数抱えている政党が議員数に比例して活用時間等で有利に扱われるというやり方は果たして公平なのかという議論もあります。憲法改正の是非についての投票は国会議員を選ぶ投票とは違うのであって、小さな団体、数の少ない政党がメディアの活用から排除されたり差別的取扱いをされたりしないよう配慮すべきだという考えによるものであります。
 第五は、投票の方法等であります。
 すべての改正条項を一括して賛否を問うのか、それとも改正する個別の条文、条項ごとに賛否を問うのかという論点であります。投票者が賛否の決定を迷ったり判断できないような投票方法では、結果として投票者の意思が投票結果に正確に反映されない。投票用紙とその記載方法の問題と併せ、この点は十分に論議を尽くす必要があります。
 第六は、憲法九十六条に規定されているところの過半数の定義等であります。
 硬性憲法の改正という極めて重要な問題を問うのでありますから、賛成票の数え方については慎重であるべきであり、有効投票数の過半数ではなく、全有権者の過半数か、少なくとも総投票数の過半数を超えたかどうかで決すべきだという論点であります。
 また、国民の憲法改正案についての承認、否認の意思が正確に反映されたものとなるよう、最低投票率制度を導入すべきとの論点があります。著しい低投票率で憲法改正のための国民投票が成立し、その過半数の賛成で改正案が承認されたとするには無理があるのではないかというものであります。
 そして、国民投票制度の効力に関する争訟制度、無効事由に憲法改正案の内容を含めるか否かも含め、出訴期間や投票結果の確定時期など、多くの論点があります。徹底的に議論を尽くすべきであります。
 以上、議論を尽くさなければならない論点はたくさんあります。国民投票制度について様々な観点から論点を出し合い、それらの論点について一つ一つ、参考人質疑を含め丁寧に時間を掛けて論議し、認識を深めていくことが大切だと考えます。
 以上であります。
○会長(関谷勝嗣君) 以上で意見陳述は終了いたしました。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後二時八分散会

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