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- 第九十囘帝国議會 貴族院議事速記録第二十四號
○第九十囘帝国議會 貴族院議事速記録第二十四號
昭和二十一年八月二十七日（火曜日）午前十時二十三分開議━━━━━━━━━━
議事日程 第二十四號
昭和二十一年八月二十七日
午前十時開議
第一 帝國憲法改正案（衆議院送付） 第一讀會（前會ノ續）
第二 電氣事業法の一部を改正する法律案（政府提出）
第一讀會ノ續（委員長報告）
第三 所得税法の一部を改正する等の法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會ノ續（委員長報告）
第四 臨時租税措置法を改正する法律案（政府提出、衆議院送付）
第一讀會ノ續（委員長報告）
第五 地方税法及び地方分與税法の一部を改正する法律案（政府提出、衆議院送付）
第一讀會ノ續（委員長報告）
第六 石炭及コークス配給統制法の一部を改正する法律案（政府提出）
第一讀會ノ續（委員長報告）
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○議長（公爵徳川家正君） 諸般ノ報告ハ御異議ガナケレバ朗讀ヲ省略致シマス
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〔參照〕
昨二十六日委員長ヨリ豫算委員第三分科擔當委員伯爵大木喜福君ヲ第五分科兼務委員ニ選定シタル旨ノ報告書ヲ提出セリ
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
所得税法の一部を改正する等の法律案可決報告書
臨時租税措置法を改正する法律案可決報告書
地方税法及び地方分與税法の一部を改正する法律案可決報告書
本日第七部ニ於テ豫算委員川村竹治君ノ補闕選擧ヲ行ヒシニ小山完吾君當選セリ
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○議長（公爵徳川家正君） 是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、日程第一、帝國憲法改正案、衆議院送付、第一讀會、前會ノ續、是ヨリ昨日ニ引續キ質疑ヲ許可致シマス、南原繁君
〔南原繁君登壇〕
○南原繁君 今囘ノ憲法改正事業ハ、祖國敗殘ノ後ヲ承ケマシテ、自ラノ過誤ヲ清算シテ、我ガ國ガ將來完全ナル獨立國トシテ立チ得ルヤ否ヤノ試金石デアルト考ヘルノデアリマス、是迄我ガ国ノ歴史ニ於キマシテ、之ガ審議ニ當リマスル今期議會位重大ナル使命ヲ帯ビタモノハ曾テナカツタデアリマセウ、併シソレニモ勝ツテ、此ノ草案ノ作成ノ任ニ專ラ當リ來ツタ政府ノ責務ノ極メテ重大ナルヲ思フ者デアリマス、何故ナレバ今囘ノ憲法改正事業ノ成否ハ、一ニ懸ツテ此ノ草案ノ作成ニアツタト考ヘルカラデアリマス、此ノ意味ニ於キマシテ、政府ガ憲法改正ニ際シテ當初カラ如何ナル根本方針ト態度ヲ以テ臨マレタカ、又此ノ草案ガ如何ナル成立過程ヲ辿ツタカト云フコトヲ、私ハ極メテ重大視スル者デアリマス、斯カル見地カラ私ハ草案自體ノ質疑ニ入ルニ先立チマシテ、先ヅ此ノ問題ニ付キマシテ、相關聯シタ數箇ノ點ニ付テ御尋ヲ申シタイノデアリマス、ソレ等ニ付キマシテハ前首相、幣原國務大臣竝ニ吉田總理大臣カラソレゾレ御答辯ヲ煩シタイノデアリマス、抑々日本ガ將來國際社會ニ伍シマシテ恥ヅルナキ獨立國トナル爲ニハ、何ヨリモ正義ト、自由ガ人類ノ至實デアルコトヲ改メテ認識致シマシテ、外ハ世界ニ向ツテ最早戰端ヲ開カズ、却テ人類ノ間ニ實現セラルベキ高貴ナル理想ヲ自覺シタ平和的國家ノ建設デアリマス、又内ニ向ヒマシテハ、最早人ノ人ニ對スル壓迫ト隸屬ヲ知ラズ、再ビ大權ノ蔭ニ隱レテ人間ノ自由ノ權利ヲ抑壓スル危險ノナイ國民共同ノ民主國家ノ建設デナケレバナリマセヌ、此ノ事ハ我ガ國ガ受諾致シマシタル「ポツダム」宣言ノ結果カラサウデアルバカリデナクシテ、實ハ日本ガ自ラノ更生ノ爲ニ進ンデ斷行シナケレバナラヌ所ノ問題デアリマス、而シテ其ノ事ハ外ナラヌ國家ノ基本法タル憲法ニ向ツテ、根本的ナ改革ヲ加ヘナケレバナラヌト云フ問題デアリマス、從ツテ之ガ解決ハ單ニ法律解釋論的ナ立場ニ囚ハレルコトナク、世界ノ政治的動向ト、時代ノ意義ヲ能ク洞察致シマシテ、之ニ適應シタモノデナケレバナリマセヌ、然ルニ當時幣原首相ハ此ノ問題ニ關シマシテ、果シテ問題ノ重要性ヲ認識サレテ、之ニ相應シキ根本的ナ對策ヲ御持ニナツテ居ツタカドウカト云フコトヲ先ヅ第一ニ御伺ヒ致シタイノデアリマス、ト申シマスノハ、昨年十月松本國務相ヲ中心ト致シマシテ、憲法問題調査委員會ナルモノガ設立致サレマシタ、ケレドモ何故カ殆ド最後ニ至ル迄、同國務相ノ一ツノ試案トシテ之ヲ取扱ツテ、而モ其ノ内容ハ憲法一條カラ四條ニ至ル所謂天皇統治ノ大權ニ付テハ變更ノナイ旨ヲ、昨年十二月ノ衆議院ノ豫算總會ニ於テ當局ノ發表セラレタ答辯、又越エテ本年二月上旬新聞ニ發表セラレタ當局ノ談話ニ依ツテ、我々ハ之ヲ知ルノデアリマス、心アル人々ハ斯樣ナ政府ノ消極的デアリ、寧ロ現状維持的デアツテ、而モ荏苒時ヲ過シツヽアルコトヲ國家ノ爲ニ憂ヘ來ツタノデアリマス、然ルニ本年ノ三月六日突如トシテ現在ノ政府草案ノ要綱ガ發表サレタノデアリマス、此ノ日位大キナル衝動ヲ國民ニ與ヘタコトハ、昨年終戰ノ詔書渙發以來此ノ一年ナカツタコトデアルト申シテ差支ナイデアリマセウ、ソレハ其ノ内容ガソレ迄各政黨竝ニ各種研究團體ノ發表致シマシタル各々ノ憲法改正案トモ根本的ナ懸隔ガアツタバカリデナシニ、何ヨリモ政府自ラガ調査シ審議シ來ツタコトトハ殆ド二ツノ極ノ間ノ懸隔ガ其處ニ認メラレルカラデアリマス、茲ニ第二ニ御尋ネ致シタイノハ、憲法改正ト云フ如キ重大ナル案件ニ付キマシテ、斯樣ナ急激ナル變化、恐ラクハ同一政府ノ下デハ執リ得ベカラザル政策ノ根本的轉囘デアリマス、ソレガドウシテ左樣ニナツタカト云フコトデアリマス、國民ハ今日迄之ヲ不可解トシテ、尚疑惑ノ中ニアルノデアリマス、吉田總理大臣ハ之ヲ御説明ニナリマシテ、國際事情ノ急激ナル變化ニ基クト言ツテ居ラレマス、併シナガラ衆議院ニ於テ首相ノ左樣ニ御答辯爲スツテ居ルガ如キモノト致シマスルナレバ、ソレハ豫見シ得ルコトデアル、ソレヲモ考慮シテ、初メカラ政府ハ確乎タル之ニ向ツテノ方策ヲ講ジテ居ルベキ筈ノモノデアリマス、ソレナノニ、失禮ナガラ我ガ國外交界ノ二大長老デアラレル御兩相ガ此ノコトヲ認識サレナカツタ、而シテ事態茲ニ至ツタトスルナレバ、ソレハ事ヲ餘リニ安易ニ御考ニナツタ爲デ、端的ニ申シマシテ、ソレハソレ迄ノ長イ間ノ政府ノ消極的現状維持的態度ガ根本ノ原因ヲナシタノデハナイカト云フコトヲ、私ハ御尋ネ申シタイノデアリマス、ソコニハ實ハ政府ノ責任ノ問題モオアリニナツタノデハナイカト云フコトモ考ヘラレマス、是等ノ點ニ付キマシテ前首相幣原國務大臣ニ御辯明ヲ煩シタイノデゴザイマス、次ニ第三ニ、草案ノ内容ノ可否ハ姑ク別ト致シマシテ、該草案ノ制定方法ノ非民主的デアツタト云フコトニ付テデアリマス、凡ソ新憲法ガ眞ニ民主的デアルガ爲ニハ、獨リ其ノ内容ニ於テノミナラズ、其ノ制定方法ニ於テ、正ニソレニ相應シク民意ニ基イタ公明ナル、自由ノ討議ヲ前提トスベキデアリマス、サウシテ其ノコトハ獨リ議會ニ於ケル決定ニ於テノミナラズ、草案自體ノ作成ノ過程ニ於テ、正ニサウデナケレバナラヌト存ズルノデアリマスル、此ノ意味ニ於キマシテ、本來改正案自體ガ國民ノ選ンダ代表者タル議會ニ於テ作成サレルベキコトハ、一ツノ理想ト考ヘラレルノデアリマス、併シ政府ハ憲法ノ法的繼續性ヲ保ツガ爲ニ、現行憲法ノ七十三條ニ依ツテ此ノ度ノ改正ヲシテ居ラレマス、ソレハ私ハ認メマス、然ラバ尠クトモ斯カル議會人ヲ中心ト致シマシテ、ソレニ學者、經驗家ヲ加ヘマシテ、日本ノ國ノ有ラユル角度カラノ意思ト慧智ヲ結集シタル憲法審議會ヲ作ラレルト云フコトハ、是迄ノ日本ノ重要ナル法案ニ付テサヘ採ラレ來ツタ所ノ方法デアツタノデアリマス、然ルニ之ヲモセラレナイデ、國民ノ知ラナイ間ニ改正案ガ作成サレマシテ、ソレガ一ニ政府ノ決定案トシテ御發表ニナツタト云フコトハ、ドウ云フ理由ニ基クノデアリマスルカ、ソレデハ如何ニモ獨斷的デ、又シテモ上ヨリ與ヘラレタル憲法ト云フ感ガアルノデアリマス、一體政府ハ本案通過ニ對シマシテ、何故左樣ニ性急デアラレルノカ、此ノ問題ニ付キマシテハ昨日總理大臣カラノ御答辯ニ依リマシテ、内外ノ情勢上速カニ之ヲ作成スル必要ガアツタト云フコトヲ御述ニナリマシタ、私ハ其ノコトヲ了解致シマス、併シ尠クトモ、然ラバ今申上ゲマシタ憲法審議會ノ外ニ、今期ノ此ノ議會トハ別ニ、草案ニ對スル十分ノ審議、討議ヲ盡スガ爲ニ、此ノ秋アタリニ於テ特別ニ其ノ爲ノ憲法會議ヲ御開ニナル用意ハ何故ナカツタノデアルカ、ソレサヘナカツタノデアルカドウカ、現ニ六月下旬ニ召集サレマシタ今期議會ニ於テ、最初ハ會期僅カ四十日、其ノ間ニ諸法案斯クノ如ク錯綜シテ居リマスル中ニ憲法ヲ織込ンデ、是デ總テヲ議了シ去ラウトセラレタコトハ、ソレ程性急ナノハドウ云フ理由ニ依ルノデアルカ、衆議院ノ憲法審議ノ期間ダケデモ二箇月ヲ要シマシタ、政府ハ一再ナラズ大幅ノ會期ヲ延長セザルヲ得ナクナツタト云フコト自體、ソコニ政府ノ何カノ齟齬ハナカツタカ、サウ云フコトニ對シマシテ國民ヲ納得セシムルダケノ御答辯ヲ、吉田總理大臣ニ御願ヒ申上ゲタイノデアリマス、更ニ第四ハ、私ノ質疑ハ、三月六日彼ノ憲法草案要綱發表ノ際ニ、當時ノ幣原總理大臣ガ謹話ヲ發表サレマシタ其ノ中ニ、此ノ草案ハ聯合軍司令部トノ緊密ナル連絡ノ下ニ作成サレタト云フコトヲ御發表ニナツタコトニ關シテデアリマス、此ノコトハ恰モ日ヲ同ジウ致シマシテ發表セラレマシタ聯合軍最高司令官ノ聲明ニ依リマシテ、ソレガ我ガ當局ト「聯合軍最高司令部關係當局トノ苦心ニ滿チタ研究ト、幾囘トナキ會談」ニ依ツテ行ハレタモノデアルト云フコトヲ、我々ハ了解致スノデゴザイマス、我ガ國ノ運命ヲ決スル重大ナル憲法改正ノ起草ガ、最後ノ段階ニ至リマシテ斯クノ如キ結果ニナラザルヲ得ナカツタト云フコトニ對シマシテ、政府ハ如何樣ニ御考ニナルノデアリマスルカ、其ノ間ニ於キマスル政府ノ御苦心ニ付キマシテハ十分察知ハ致シスルケレドモ、私共ハ日本政府ガ此ノ憲法ノ改正ニ對シテ、最後迄自主自律的ニ自ラノ責任ヲ以テ之ヲ決行スルコトノ出來ナカツタト云フコトヲ極メテ遺憾ニ感ジ、國民ノ不幸、國民ノ恥辱トサヘ私共ハ感ジテ居ルノデアリマス、斯クノ如ク致シマシテハ、憲法ハ獨リ上ヨリ與ヘラレタト云フダケデナシニ、或ハ外ヨリ與ヘラレタノデハナイカト云フ印象ヲ與ヘル危險ハナイカト云フコトデアリマス、現ニ巷間左樣ナ臆説モ行ハレテ居ルト云フコトハ蔽フベカラザル事實デアリマス、若シ是ガ國民ノ相當ノ廣イ範囲ニ廣マルナレバ、是ハ大事ナ問題デアリマス、新憲法ノ安定性ノ上カラ申シテ極メテ憂慮スベキ問題ガアルト考ヘマスルガ、政府ノ御所感ハドウデアリマスカ、又政府ハ斯カル印象ト臆測トヲ拂拭シ去ルガ爲ニ、如何ナル確信ト、又如何ナル方法トヲ以テ之ニ御臨ニナツテ居ルカト云フコトヲ、吉田總理大臣ニ御伺ヒ申上ゲタイノデアリマス、又他面斯クノ如キ結果ニナリマシタト云フコトニ付テ、聯合國ノ名譽ヲ傷ツケル虞ハナイカト云フコトヲ考ヘルノデアリマス、私共ハ「ポツダム」宣言附屬文書ニ依リマシテ、聯合軍ノ進駐シテ居ル期間、帝國政府ハ其ノ最高司令官ノ下ニ從屬シテ居ルト云フコトヲ承知シテ居リマス、又實際ソレニ依リマシテ幾多ノ良キ改革ガ、本來我々ノ手ニ依ツテ爲スベキ良キ改革ガナサレツヽアルコトモ存ジテ居リマス、併シナガラ此ノ同ジ文書ニ依リマシテ又私共ハ知ツテ居リマス、即チ日本國ノ最終政治形態ハ、日本國民ノ自由ニ表明シタル意思ニ依ツテ決定スルト云フコトヲ書カレテアリマスル、從ツテ少クトモ此ノ問題ニ關シマシテハ、政府ノ草案作成ニ當リマシテモ、右文書ノ趣旨ト精神ニ從ヒマシテ、假令國際情勢ガドウデアリマセウトモ、其ノ變化ノ一ツ々々ニ左右セラルヽコトナクシテ、日本トシマシテハ「ポツダム」宣言ノ要求ニ忠實ニシテ、初メカラ確乎タル方針ヲ以テ自主自律的ニ、政府ノ運命ヲ賭ケテモ之ヲ斷行スベキ筈デナカツタカト考ヘルノデアリマス、此ノ「ポツダム」附屬文書トノ關係ヲ如何ヤウニ御解釋ニナルノデアリマスカ、是ハ吉田總理大臣ニ御尋ネ申上ゲタイノデアリマス、或ハ言フカモ知レマセヌ、ソレハ單ナル一ツノ草案ニ過ギナイト、併シナガラ私ハ此ノ點ニ關シテ聯合軍最高司令官ニ愬ヘタイノデアリマス、斯クノ如クシテ作成サレ、而モ最高司令官ノ全面的支持ト承認ノ下ニ發表サレタ草案ガドレダケ大ナル影響ト結果ヲ持ツテ居ルカト云フコトハ、「マッカーサー」元帥ノ御想像ニナラヌコトデアリマセウ、其ノコトハ彼ノ要綱ノ發表サレマシタ翌日カラ、ソレ迄ニ作成發表サレタ各政黨ノ草案ガ影ヲ潛メ去ツテ、各政黨擧ツテ此ノ原案ニ贊成スルニ至ツタト云フ事實ヲ見テモ分ルノデアリマス、斯樣ナコトハ「アメリカ」ノヤウナ「デモクラシー」ノ發達シタ國デハ或ハナイカモ知レマセヌケレドモ、是ガ日本ノ現状デゴザイマス、我ガ國ハ今憲法改正ヲ通シマシテ、民主主義ノ訓練ヲ受ケツツアルノデアリマス、處ガ最近七月二十一日、丁度此ノ議會ガ始マリマシタ劈頭ニ當リマシテ、聯合軍最高司令官ガ再ビ聲明ヲ發表セラレマシタ、其ノ中ニ、斯カル憲章ノ採擇ガ日本國民ノ自由ナ意思ノ表明タルヲ示スベキコトガ絶對ニ必要デアル、ソレヲ草案通リニ採擇スルカ、修正ヲ加ヘルカ、或ハ否決スルカ、即チ其ノ形式ト内容ヲ決定スルノハ、一ニ日本國民ガ正當ニ選出シタル議員ノ手ニ依ツテ行フベキデアルト發表セラレマシタ、是ハ正ニ斯クアルベキコトト存ジマスル、然ルニ丁度此ノ朝、當貴族院ニ於キマシテ吉田總理大臣ハ、特ニ我々ノ注意ヲ喚起サレマシテ、憲法草案ニ對スル論議ハ自由デアルケレドモ、國際關係ヲ考慮セヨト云フ要請ガアリマシタ、此ノコトハ今期ノ貴衆兩院ヲ通ジテノ憲法審議ノ根本前提ニナツテ居ルコトト思ヒマスル、以上ノヤウナ首相ノ言明ハ、「マッカーサー」元帥ノ聲明ノ趣旨ト背反スルモノガアルノデハナイカ、寧ロ日本ノ總理大臣ハ元帥ノ公明ナル態度ニ應ヘラレテ、同ジヤウナコトヲ我々議會ニ向ツテ要望シ激勵セラルベキ筈デハナカツタカト云フコトヲ御尋ネ申シタイノデアリマス、政府ノ隠レ場ハ又シテモ國際情勢デアリマス、併シナガラ日本ト致シマシテハ、「ポツダム」宣言ト其ノ執行ニ當ツテ居ラレル最高司令官ノ聲明トニ對シテ、更ニハ其ノ根本ニ於テ自由ト眞理トニ對シテ忠實ナル外ニ、何ヲ迷ヒ何ヲ疑フ必要ガアリマスルカ、我々ハ固ヨリ敗戰國ト致シマシテ、謙虚デアリマスルト同時ニ、大膽ニ眞理ヲ眞理トシ、之ヲ自由ニ主張シ、論議シ、愬ヘテ然ルベキデハアリマセヌカ、是ガ「デモクラシー」ノ根本精神デモアリマスル、聯合國ガ日本ニ要求シテ居リマスルノハ、實ニソレ以外ノモノデハナイ筈デアリマス、將來日本ガ國際場裡ニ伍シテ、列國ノ信頼ヲ贏テ、世界人類ニ寄與貢獻シ得ルノハ、斯カル國民ニナツテ始メテ可能デアルト私ハ考ヘルノデアリマス、憲法改正ニ對スル政府ノ態度、方針ノ自主自律性ヲ疑ハシムル尚一ツノ質疑ト致シマシテ私ノ問題ト致シタイノハ、草案全體ヲ通ジマシテ、其ノ構造竝ニ文體ニ關シテデアリマス、是ハ草案ヲ一讀スル者ハ何人モ、其ノ構造ニ於テ又表現形式ニ於テ、是レ迄ニ我ガ國ノ立法例ニ嘗テ見ラレナカツタ程ノ外國調ニ滿チテ居ルト云フコトヲ感ジナイ者ハゴザイマセヌ、現行憲法ハ周知ノヤウニ、「プロシャ」ニ其ノ範ヲ取ツテ居リマスルケレドモ、我々ノ先輩ハ之ヲ日本ノモノトスルガ爲ニ、ドレダケ努力ヲ拂ヒマシタコトデアリマスルカ、此ノ度敗戰ヲ轉機ト致シマシテ、今改メテ米英ノ、殊ニ「アメリカ」ノ立法例乃至政治文獻ヲ參照スルト云フコトハ想像サレ得マスルシ、又大イニ其ノ必要ハアルト考ヘル者デアリマス、併シナガラ是ハ又恰モ何カノ都合デ初メ一先ヅ英文デ纏メテ置イテ、ソレヲ日本文ニ譯シタガ如キ印象ヲ與ヘルノデアリマス、占領治下ノ暫定憲法ト云フナレバイザ知ラズ、之ヲ其ノ儘獨立國家タル日本ノ憲法トシテ、我々ガ子孫後代ニ傳ヘルニ足ル形式ヲ果シテ持ツテ居ルカドウカ、我ガ國ノ立法技術者ニ果シテ其ノ人ガナカツタノカドウカ、之ニ關シマシテ政府ノ御措置ニ大ナル遺憾ハナカツタノカ、特ニ吉田總理大臣ニ御説明ヲ願ヒタイノデアリマス、事ハ獨リ文體ト其ノ構造ニ關スル問題ニ止リマセヌ、ソレハ軈テ精神ト内容ニ關係シタ部分ガゴザイマス、是ヨリ草案内容ニ關スル主要ナ問題ニ付キマシテ質疑ヲ致シタイト存ジマス、改正草案内容ニ付キマシテ私ノ質疑ノ第一項目ハ、日本國家ノ所謂政治的基本性格ニ關シテデゴザイマス、申ス迄モナク、是ハ天皇制ヲ繞ル日本政治ノ民主化ノ問題デゴザイマス、私ハ最初自分ノ主觀ヲ混ヘズニ、法案ヲ客觀的ニ解釋スルコトニ依リマシテ、ソレガ政府ノ言明セラレテ居ル所トノ間ニ大ナル齟齬、或ハ矛盾ガナイカト云フコトヲ御尋スル積リデアリマス、先ヅ第一點ハ天皇制自體ニ付テデアリマス、草案ニ於キマシテハ、天皇ハ新ニ日本國、或ハ日本國民統合ノ象徴トシテ書カレテ居リマス、サウシテ政治ニ對スル權能ハ全クゴザイマセヌ、單ニ儀禮的ナル國事ノ事項ガソコニ規定サレテ居リマスル、之ヲ現行憲法ニ於キマシテ、天皇ハ國ノ元首デアツテ統治權ヲ總攬スルト云フアノ條文、ソレニ引續イテ廣汎ナル大權事項ヲ記シテ居リマスルノトハ正ニ對蹠ノ位置ニアルト誰モ認メテ居ル譯デアリマス、元來此ノ度ノ改正草案ニ於キマシテハ、從來我ガ法典ニ於テ一度モ恐ラク使用サレタコトノナイ、全ク新シイ概念ノ「象徴」ト云フ言葉ガ用ヒラレテ居リマス、此ノ本來詩的ナ、藝術的ナ言語ガ持ツテ居ル神秘性ニ依リマシテ、天皇制ヲ潤色ハシテ居リマスルケレドモ、今ヤ所謂「象徴」ト云フノハ純粹ニ法律學的ニハ何等ノ實體概念デモナケレバ、又機能ヲ表ス概念デモゴザイマセヌ、即チ今ヤ國會ガ國家ノ最高機關デアリマシテ、天皇ハ最早一ツノ機關デモアリマセヌ、即チ國家ノ政治的意思構成ニ對シマシテ、何ノ關係、形式的ノ關係ヲモ持タレナイ、即チ儀禮的、修飾的ナ天皇トナツテ居ルノデアリマス、天皇制ト申シマシテモ、今ヤ單ニ名稱ノミノモノデアリマシテ、政治性トシテハ既ニ其ノ意義ヲ消失シタモノト言ハナケレバナリマセヌ、斯クノ如キハ、其ノ可否ハ別トシマシテ、客觀的ニ解釋致シマシテ、日本國家ノ政治的基本性格ノ根本的變革ト言ハナケレバナラヌト思フノデアリマス、吉田總理大臣ノ六月二十四日ノ當貴族院ノ御答辯ハ、果シテソレデ宜シイノカドウカ、金森國務相ハ其ノ限リニ於テハ變更ヲ認メラレテ居リマス、其ノ間政府當局ノ間ニ御答辯ニ矛盾ガナイカト云フコトヲ御尋ネ申シタイノデアリマス、又終戰以來、歴代ノ内閣、殊ニ幣原前首相ガ臣節ヲ盡シテ護持セムト傳ヘラレタ天皇制ノ内容ハ果シテ斯クノ如キモノデアツタカドウカヲ幣原國務大臣ニ御尋ネ申シタイノデアリマス、憲法改正ノ一ツノ理由ト致シマシテ、皇室ノ安泰ト云フコトヲ總理大臣ハ説明セラレマシタガ、斯ク迄致シテ殘ルト云フコトガ果シテ皇室ノ御名譽デアルカ、從ツテ國民ノ榮譽デアルカト云フコトモ一ツノソコニ問題ガアルト考ヘラレルノデゴザイマス、政治的基本性格ニ關スル第二ノ點ハ主權論、是ハ所謂國體ニ關聯シタ問題デゴザイマス、現草案ノ前文及ビ第一條ニ繰返シ主張サレテアリマスルヤウニ、國民ノ總意ガ至高デアルト云フコト、或ハ國政ハ崇高ナル國民ノ信託ニ基クノデアツテ、其ノ權利ハ國民ニ依頼スルト云フコト、或ハ天皇ノ地位ハ國民ノ至高ナル總意ニ基クトナツタ如キ、是等ハ今度ノ新憲法ノ新シイ案デアリマス、是ハ紛フベクモナク、所謂君主主權ニ對立スル人民主權ノ理論デゴザイマス、斯ク解シテコソ初メテ先程私ガ申上ゲマシタヤウニ、草案ニ於キマシテ日本國家ノ意思構成カラ、政治秩序其ノモノカラ天皇ヲ除外シタ其ノ新シイ國家形態ノ基礎ヅケトシテ極メテ徹底シタル立場ト申スベキデアリマス、之ヲ現在ノ憲法ニ見マスルノニ、上諭ニ於キマシテ「國家統治ノ大權ハ朕カ之ヲ祖宗ニ承ケテ之ヲ子孫ニ傳フル」云々、又ソレヲ承ケマシテ、第一條ニ於テ「大日本帝國ハ萬世一系ノ天皇之ヲ統治ス」トアリマスルノト較べマスル時ニ、此處ニ根本的ノ相違ヲ認メザルヲ得ナイノデアリマス、何故ニ政府ハ率直ニ之ヲ承認シテ明言爲サラナイカ、我ガ憲法解釋上ニ於キマシテ、國體ト相違シテ居リマスノハ、實ハ斯カル成文法ノ斯カル條章ニ基イテ解釋サレ來ツテ居ルノガ通説デゴザイマス、又政府當局ノ強辯セラレテ居ルニモ拘ラズ、國民一般ガ所謂國體トシテ考ヘテ居ルモノハ、斯カル政治ノ基本性格ト無關係デハナイノデアリマシテ、寧ロ内的ナ關聯ヲ持ツテ居ルノデアリマス、現ニ現在ノ憲法ノ發布ト相前後シテ渙發サレマシタ教育勅語ニ於キマシテ、「我カ國體ノ精華」ト宣セラレテアリマスノモ、斯カル日本ノ根本的政治性格ト關係ガアルノデアリマス、此ノ意味ニ於キマシテ、我ガ國體觀念モ、草案ニ於テハ明カニ變更サレテ居ルト解釋スベキデアリマス、政府ハ流石ニ斯カル變更ヲ蔽フ爲ニソレヲ緩和致シマシテ、國民ノ中ニハ天皇ヲ含ムト云フ、極メテ奇怪ナル解釋ヲ案出サレタノデアリマス、加之初メノ間ハ國民ノ總意ガ至高デアルト云フノハ、必ズシモ主權ノ所在ヲ規定シテ居ルノデハナイト云フ御説明デアリマシタ、併シナガラ斯樣ニ國民ノ中ニ天皇ヲ含ムト云フ御解釋ハ是迄ノ日本ノ國語竝ニ法律用語トシテ嘗テナイト申シテ宜シイノデアリマス、且日本ノ政府ガ發表サレマシタ英譯文ニ於キマシテハ、明カニ「ソヴリンウィル・オブ・ザ・ピープル」、「ソヴリニティ・オブ・ザ・ピープル・ウィル」トナツテ居ルノデアリマス、殊ニ三月六日ノ聯合軍最高司令官ノ聲明ニハ、「主權ハ今ヤ率直ニ人民ノ手ニ置イテアル」ト宣言セラレテアルノデアリマス、斯ク迄明白ナ事實ノ中ヲ押切ツテ、敢テ人民主權デナイト主張セラレル態度ハ、所謂耳ヲ蔽ウテ鈴ヲ盗ムノ類デハアリマセヌカ（拍手）、現ニ今囘ノ衆議院憲法委員會ノ審議ニ於キマシテ、色々經緯ハアツタヤウデアリマスルケレドモ、私共ハ何故カ其ノ理由ガ解シニクイノデアリマスケレドモ、最後ノ段階ニ、却テ政府與黨カラ主權在國民ノ提案ガアツテ、ソレガ遂ニ今囘衆議院ノ修正トナツタト心得テ居リマス、政府ハ之ニ同意セラレタ理由ハ何處ニアルノデアリマスカ、私共ノ解釋トシマシテハ、寧ロ現草案ノ論理ヲ徹底シタモノ、即チ今ヤ純粹ノ人民主權ヲ表シタモノ、殊ニ其ノ意味ニ於テハ、英文ノ精神ニ於テハ、ヨリ忠實ニナツタモノト私ハ考ヘルノデアリマス、唯併シ此ノ場合ニモ依然トシテ國民ノ中ニハ天皇ヲ含ムト云フ解釋ヲ殘スコトニ依リマシテ、一方ニハ是迄主權在君説ヲ維持シテ來タ政黨ガ之ニ轉換シマシテ、又他方ニハ他ノ政黨ガ此ノ中ニハ新シク人民主權ノ思想ヲ織リ込ンダモノトシテ之ヲ贊同スルト云フ、極メテ奇態ナル現象ヲソコニ生ジテ居ルノデアリマスル、併シ議會ト政府トガ如何樣ニ妥協セラレ、解釋サレマシテモ、國民主權、或ハ人民主權ト云フ、世界共通ノ政治學上ノ既念ガ持ツテ居ル眞理性ハ之ヲ蔽フコトハ出來ナイノデアリマス、從ツテ若シ之ヲ以テ、我ガ在來ノ政治的基本性格乃至又國體觀念ガ變更サレヌト御考ニナルナレバ、是ハ一ツノ自己滿足、自己慰安、敢テ申セバマ一ツノ自己欺瞞ト申シテ宜シイト思フノデアリマス、（拍手）實ニ今囘ノ憲法改正ニ依リマシテ、天皇制ト主權論ヲ繞ツテ、政府ノ否定的ナ御答辯ニモ拘ラズ、私ガ純粹ニ、客觀的ニ、論理的ニ解釋致シマシテ、肇國以來ノ大革命ガ進行シツヽアルノデアリマス、私共ハ敢テ斯カル主義ノ革命ヲ避クルモノデハアリマセヌ、唯問題ハ國民ガソレヲ意識シ、自覺シ、ソレヲ要望シテ居ルカドウカト云フコトニ繋ルノデアリマス、政府ハ此ノ問題ヲ如何樣ニ御覧ニナツテ居ルノカ、昨日モ金森國務相ノ説明、又嘗テノ變會ノ總理大臣ノ御辯明ニ依リマシテモ、今囘政府ノ改正ノ一ツノ理由ハ國内情勢ノ變化ヲモ考ヘテ居ルト云フ御話デゴザイマス、ソレナラ一體彼ノ草案作成ニ至ル迄、各種政黨、竝ニ各種研究團體ガ公表シタ憲法改正案ハ、サウ云フモノヲ果シテ政府ニ要求シタカドウカ、況ンヤ健全ナル大多數ノ國民ガ沈黙ヲ守ツテ居ルノデアリマス、何時デモ時代ノ勢力ニ迎合スル少數者ノ意見ガ前面ニ出ルノガ我ガ國ノ國情デアリマス、私ハ斯カル状態ヲ以チマシテ、他日、十年或ハ二十年ノ後ニ國民ノ間ニ大ナル反動ヲ起ス口實、或ハ名分ヲ與ヘハシナイカヲ惧レルモノデアリマス、此ノ點ニ關シマシテ、總理大臣ハ如何ナル御認識ヲ持ツテ居ラレマスルカ、先程申述ベマシタ新憲法ノ安定性ノ問題ト關聯シテ御答辯ヲ煩シタイノデアリマス、我々ハ今敗戰後滿一周年、此ノ改正ノ事業ヲ通シマシテ、祖國興廢ノ第二ノ關頭ニ謂ハバ立ツテ居ルト申シテ宜シイノデアリマス、何故ナレバ、敗戰ト降伏トニ依ツテ日本ノ國家ハ、國體ハ變更シタ譯デハアリマセヌ、「ポツダム」宣言ヲ受諾シタト云フ瞬間ニ國民主權ガ日本ニ布カレタト云フ譯デハ決シテナイノデアリマス、政府ノ昨日ノ御答辯ニハ私ハ贊成スルモノデアリマス、併シ今國民ノ自由ノ意思ニ依ツテ、今期議會ニ於テ國家ヲ、國體ヲ變更スルカセスノカノ問題デアリマス、此ノ秋ニ當リマシテ、聯合軍最高司令官ノ先程申述ベタ第二ノ聲明書ノ中ニ、政略上ノ信條ヤ、不當ナル野心ヤ、利己的ナ陰謀ヲ拭ヒ去ツテ、眞ニ自分ノ國ト、其ノ國民ニ對スル責任ニ於テ、尊嚴ト叡習ト、而シテ愛國心ヲ以テ今ヤ當ルベキデアリマス、草案ガ餘リニモ外國ノ政治哲学カラ借リ來リマシテ、日本ノ傳統的思想カラ遙カニ斷絶シテ居ルコトハ、今ヤ外國ニ於テ公ノ輿論トナリツヽゴザイマス、私共ハ今茲ニ新シイ善キモノハ進ンデ、之ヲ採ツテ、改革ヲ斷行シマスト同時ニ、他方ニ、苟タモ國民ノ歴史的本質ノ中ニ育成シテ來マシタモノハ、之ヲ維持スルコトガ必要デゴザイマス、所謂憲法ノ法的繼續性ト申シマスルノモ、斯樣ナ歴史的ナ繼續性ニ裏付ケラレテコソ始メテ具體的ノ意義ヲ持ツノデアリマシテ、之ナクシテハ新憲法ハ日本國民ノ血トナリ肉トナルコトハ出來ナイノデアリマス、斯樣ナ見地カラ、私ハ我ガ國ノ政治的基本構造ニ關シマシテハ、所謂現状維持的ナ保守主義デナク、又他方ニ現在ノ政府ノ草案ニアルヤウナ、或意味ニ於テ歴史ノ斷絶ヲ意味スル革命主義デモナク、第三ノ途ヲ選ブ必要ガアツタト考ヘルノデゴザイマスルガ、政府當局ハソレヲ如何ニ御考ニナルカ、現ニ此ノコトハ、各政黨竝ニ有力ナル諸研究團體ガ、是迄ニ公ニシマシタ改正案ノ中ニ主權ノ所在ヲ以チマシテ、或ハ日本國家ニ在リトシ、或ハ又天皇ヲ含ンダ日本國民全體ニ在リトシ、或ハ天皇ヲ首長トスル國民全體ニ在リトシタコトハ、是ハ輿論ノ或、致點ヲ思ハシムルモノデアリマス、孰レモガ政府案ニ比シマシテ、遙カニ日本ノ歴史ノ上ニ立脚シテ或改革ヲ狙ツテ居ルノデアリマス、況ンヤ今囘衆議院ニ於ケル修正案ト違ツテ、即チ修正案ノ如キ主權在國民トハ本來根本的ニ異ツタ立場ニ立ツテ居ツタ筈デアリマス、私自身豫テ民族共同體或ハ國民共同體、英語ニ譯シマスレバ「ナショナル・コムミニティ」ト云フ考ヲ持ツテ居ルモノデゴザイマス、是ハ一面我ガ國ノ歴史ニ於キマシテ、所謂西歐ニ先進シタ、君主主權ト人民主權トノ對立ヲ遙カニ越エテ、日本國民共同體ノ本質ヲ活カス所以デアルト考ヘラレルノデアリマス、同時ニ他面ニ於キマシテハ、御承知ノヤウニ民主主義ハ何ト申シマシテモ個人ト其ノ多數ニ基礎ヲ置イテ居ルノデアリマス、之ヲ新タニ國家ノ共同體ヲ構成スル所ノ新タナ世界觀ヲ與ヘル、ソレニ此ノ問題ガ重要ナル役割ヲ爲スノデアリマス、丁度此ノコトハ十八九世紀ノ所謂自由主義的民主主義カラ新タニ今世紀ニ入リマシテ、共同體的民主主義ヘノ發展ヲ意味スルモノデアリマス、サウシテ我ガ國ニ於キマシテ國民ノ結合ヲ根源ニ於テ支ヘテ來タモノガ皇室デアツタト云フコトハ、我ガ國ノ是カラノ世界ニ普遍的ナ新シイ民主主義ノ上ニ、是コソ我ガ國固有ノ一ツノ意義ヲ加ヘルモノデアルト確信スルモノデアリマス、政府當局ハ私共ノ言ヒマス左樣ナ國民共同體ト云フモノノ概念ニ必ズシモ反對サレズ、或場合ニハ之ヲ採ツテ御説明ニナツテ居ルヤウデアリマスケレドモ、單ニ國民ト云ツタヤウナ集合概念トハ違ツテ、根本ノ立場ニ立ツテ居ルノガ國民共同體、或ハ民族共同體ノ考デアリマス、ソレナラバ寧ロ政府ハ進ンデ此ノ概念ヲ御採用ニナツテ、之ヲ確立セラルベキデナカツタカ、併シ其ノ場合ニハ此ノ新タナ民族共同體若シクハ國民共同體ト申シマスノハ、最早古代的ナ神權思想ヤ、或ハ中世的ナ封建思想ヤ、或ハ憧レノ中心ト云フガ如キ、新シイ浪漫主義的ナ神秘性ヲ排除致シマシテ、實ニ本年初頭ノ詔書ニ示サレテ居ルヤウニ、人間トシテノ天皇ヲ中核トシ、專ラ人トシテノ相互ノ信頼ト、尊敬ノ關係ニ置キ換ヘテ、所謂倫理的、新シキ文化的共同體ノ概念デゴザイマス、此ノ點ニ於キマシテモ政府當局ハ啻ニ我ガ國體觀念ガ變ラナイト云フコトダケヲ辯明セラレルノヲ御止メニナツテ、寧ロ國體觀念ガ變化シ、時代ト共ニ進展スルト云フコトヲ御認ニナツテ、ソレヲ宣明サレ、同時ニ我ガ國ノ政治的權威ハ斯カル民族若シクハ國民共同體ニ淵源スルコトヲ御宣明ニナルコトガ必要デアルト思フノデゴザイマス、ソレヲドウ御考ニナリマスルカ、唯其ノ場合大事ナコトハ、國家ト申シマスノハ左樣ナ國民共同體ノ、正ニ最高ノ組織體デゴザイマス、ソレ故ニ國民共同體ノ中心デアリマスル天皇ハ、必ズソレニ相應シイ地位ヲ、外ナラヌ此ノ國家ノ中デ、當然御持ニナルト云フコトハ當然ノ論結デアリマス、改正案ニ於キマシテハ御承知ノヤウニ議會、内閣、最高裁判所、ソレゾレノ獨立ノ機能ヲ發揮スルコトニ依リマシテ、三權分立ノ思想ガ徹底シテ居リマス、是ハ宜シイコトデゴザイマス、併シナガラ其ノ代リニ、其ノ間ノ法的政治的ノ統一ハ或點ニ於テ空白ニ殘サレテ居ルノデアリマス、然ルニ此ノ形式的ナ統一ヲ充スモノコソハ、正ニ天皇ノ地位デアルト我我ハ考ヘルノデアリマス、併シソレハ單ナル最早象徴デハアリマセヌ、所謂國家ノ一ツノ機關、即チ國家統一性ヲ保障スル機關トシテ、私ハ之ヲ日本國家ノ統一意思ノ表現者デアルト云フコトガ適當デアルト思ハレルノデアリマスルケレドモ、サウ云フヤウナモノトシテ構成サレナケレバナラヌト思フノデアリマス、其ノ限リニ於キマシテ、最早天皇ノ行爲ハ單ナル儀禮的ナモノデハナクシテ、正ニ政治ニ關スル一ツノ國務トシテソレニ相應シイ名分ト形式ヲ備ヘナケレバナラヌト云フコトガ當然デゴザイマス、サウシテ又此ノコトハ從來我ガ國ノ天皇制ニ關スル論議ノ中デ、左右ノ兩極端ヲ除イタ外、有力ナル在野政黨ヲ初メ、又有力ナル民間研究團體ニ於テモ一致シタ意見デゴザイマス、私ノ主張致シタイノモ正ニ其ノ一點デアリマス、ソレハ蓋シ我ガ國家ノ統一的、政治法律秩序ノ要請カラ來ル當然ノ論結デゴザイマス、苟クモ天皇制ヲ存置スルカラニハソレ以下ノモノデハナラヌ筈デゴザイマス、同時ニ又私ノ主張シタイコトハ、ソレ以上デ敢テアツテハナラヌト云フコトデアリマス、即チ現行法ノヤウニ、包括的ナ大權事項、是ハ出來得ル限リ限定スルト云フコト、且又天皇ノ國務ニ關スル一切ノ行爲ニ付キマシテハ、現草案ノ如ク内閣ノ輔佐乃至同意ヲ必要トシ、内閣ハ國會ニ對シテ責任ヲ負フ、サウ云フ一ツノ議會政治ノ確立、是ハ正ニ草案ノ如クデナケレバナラヌト思フノデアリマス、斯樣ニテ天皇ト國民トノ間ニハ、最早少數者ノ獨裁政治ノ介入スル餘地ガナク、外ニ向ツテハ、戰爭ノ危險ハ絶對ニナク、内ハ、最早天皇ノ名ニ於テ人間ノ自由ヲ蹂躪スル危險ノナイ平和民主日本ノ實現ガ可能トナルデアリマセウ、サウシテ斯カル天皇制ト民主主義トガ本來何等矛盾スルコトナク相結ビテ、ソコニ日本的民主主義ノ實現ガ可能トナルデアリマセウ、斯樣ニシテ全ク新ニセラレタ日本ノ新憲法ハ、何故ニ聯合國ト世界ニ了解サレナイ筈デアリマセウ、私ハ政府當局ガ草案ヲ作成サレルニ當リマシテ、私ノ申上ゲタ所謂第三ノ道ニ付テ如何ナル努力ヲ、國民ノ生命ヲ賭ケテモ此ノ努力ヲ爲サレタカドウカト云フコトヲ御尋ネ申上ゲタイノデアリマス、憲法ノ内容ニ付キマシテ、以上御尋ネ申シマシタ所謂政治的基本性格ノ次ニ質疑致シタイコトハ、第二項目トシテ、所謂戰爭抛棄ノ條章ニ關係シテデゴザイマス、是ハ新ニ更生シマシタ民主日本ガ、今次ノ不法ナル戰爭ニ對スル贖罪トシテデバカリデナク、進ンデ世界ノ恆久平和ヘノ日本民族ノ新ナ現想的努力ヲ捧ゲル其ノ決意ヲ表明スルモノトシテ、我々ノ贊同惜マザル點デゴザイマス、殊ニ此ノコトハ、古來幾多ノ世界ノ哲學者乃至宗教家ノ夢想シ、構想シテ參ツタ理想ガ、ハシナクモ我ガ國ノ憲法ニ於テ是ガ實現サレルモノトシテ、世界人類史上ニ新ナ意義ヲ持ツモノトシテ我々ハ之ヲ重大ニ考ヘルノデアリマス、ソレダケニ問題ガアルコトヲ又私共ハ考ヘナケレバナラヌノデアリマス、理想ハ高ケレバ高イダケ、ソレダケニ現實ノ状態ヲ認識スルコトガ必要デゴザイマス、サウデナケレバ、ソレハ單ナル空想ニ終ルデゴザイマセウ、本案ガ發表サレマシタ當時ニ「アメリカ」ノ新聞ノ批評ノ中ニ、是ハ一個ノ「ユートピャ」ニ過ギナイト云フコトガアリマシタコトハ、兎角我々ノ反省スベキ點デアルト思フノデゴザイマス、戰爭アツテハナラヌ、是ハ誠ニ普遍的ナル政治道徳ノ原理デアリマスケレドモ、遺憾ナガラ人類種族ガ絶エナイ限リ戰爭ガアルト云フノハ歴史ノ現實デアリマス、從ツテ私共ハ此ノ歴史ノ現實ヲ直視シテ、少クトモ國家トシテノ自衛權ト、ソレニ必要ナル最小限度ノ兵備ヲ考ヘルト云フコトハ、是ハ當然ノコトデゴザイマス、吉田總理大臣ハ衆議院ニ於ケル御説明ニ於キマシテ、是迄自衛權ト云フ名ノ下ニ多クノ侵略戰爭ガ行ハレテ來タ、故ニ之ヲ一擲スルニ如カズト云フ御説明デアルヤウデアリマスガ、是ハ客觀的ニ其ノ正當性ガ認メラレタ場合デモ、尚且斯カル國家ノ自衛權ヲ抛棄セムトセラレル御意思デアルノカ、即チ國際聯合ニ加入スル場合ヲ現在ノ草案ハ豫想シテ居ルコトト考ヘマスガ、其ノ國際聯合ノ憲章ノ中ニハ、斯カル意味ノ國家ノ自衛權ト云フコトハ承認サレテ居ルト存ジマス、尚又國際聯合ニ於キマスル兵力ノ組織ハ、特別ノ獨立ノ組織ガアルト云フコトデナシニ、各加盟國ガソレゾレ之ヲ提供スルト云フ義務ヲ帯ビテ居ルノデアリマス、茲ニ御尋ネ致シタイノハ、將來日本ガ此ノ國際聯合ニ加入ヲ許サレル場合ニ、果シテ斯カル權利ト義務ヲモ抛棄サレルト云フ御意思デアルノカ、斯クノ如ク致シマシテハ、日本ハ永久ニ唯他國ノ好意ト信義ニ委ネテ生キ延ビムトスル所ノ東洋的ナ諦メ、諦念主義ニ陥ル危險ハナイノカ、寧ロ進ンデ人類ノ自由ト正義ヲ擁護スルガ爲ニ、互ニ血ト汗ノ犠牲ヲ拂フコトニ依ツテ、相共ニ携ヘテ世界恆久平和ヲ確立スルト云フ積極的理想ハ却テ其ノ意義ヲ失ハレルノデハナイカト云フコトヲ憂フルノデアリマス、ソレノミナラズ現在ノ國際政治秩序ノ下ニ於テハ、「アメリカ」國ノ或評論家ガ批評致シマシタヤウニ、苟クモ國家タル以上ハ、自分ノ國民ヲ防衛スルト云フノハ、又其ノ爲ノ設備ヲ持ツト云フコトハ、是ハ普遍的ナ原理デアル、之ヲ憲法ニ於テ抛棄シテ無抵抗主義ヲ採用スル何等ノ道徳的義務ハナイノデアリマス、又何レノ國家ニ於キマシテモ、國内ノ秩序ヲ維持スルガ爲ニハ、警察力ダケデハ不十分デアリマス、本來兵力ヲ維持スル一ツノ目的ハ、斯カル國内ノ治安ノ維持ト云フコトモ考ヘラレテ居ルノデアリマス、殊ニ日本ノ場合ニハ、將來ヲ想像致シマスルト、國内ニ於キマスル状勢ノ不安、其ノ状態ハ相當覺悟シテ居ラナケレバナラヌト思フノデアリマス、政府ハ近ク來タラムトスル講和會議ニ於テ、是等内外ヨリノ秩序ノ破壊ニ對スル最小限度ノ防衛ヲモ抛棄サレルト云フコトヲ爲サラウトスルノデアルカ、此ノ點ヲ御尋ネ申上ゲタイノデアリマス、若シソレナラバ既ニ國家トシテノ自由ト獨立ヲ自ラ抛棄シタモノト選ブ所ハナイノデアリマス、國際聯合ハ決シテ國家ノ斯カル自主獨立性ヲ否定シテ居リマセヌ、寧ロソレヲ完全ナモノニスル爲ニ、互ニ聯合シテ、世界ニ普遍的ナ政治秩序ヲ作ラウト云フノガ其ノ理想デアリマス、尚且大事ナコトハ、斯カル新シイ國際運動ハ、結局ニ於テ、世界ハ一ツ、先程申シタ私ノ申上ゲマスル各國ノ民族共同體ヲ越エテ、ソコニ世界人類共同體ト云理想フヲ目途トシテ居ルモノト我々ハ解釋スルノデアリマス、然ルニ此ノ世界共同體ノ理想ニ於キマシテハ、單ニ其處ニ與ヘラレテ居ル平和ヲ維持シ、唯國際ノ安寧ヲ維持スルト云フダケヂヤナシニ、人種、言語ノ區別ヲ立チ越エテ、世界ニ普遍的ナル正義ヲ實現スルト云フ爲ニ各國間ノ協力ガ要請セラレルノデアリマス、其ノ爲ニ功利主義的ナ、單ニ現状ヲ維持スルト云フダケデナシニ、政治經濟上ノヨリ正シキ秩序ヲ建設スル爲ニ絶エズ努力ガ各國民ニ依ツテ拂ハレナケレバナラヌノデアリマス、而モソレヲ武力ニ依ラナイデ、飽ク迄モ人類ノ理性ト良心ニ愬ヘ、平和的方法ニ依ツテ之ヲ達成シヨウトスル所ノ大ナル理想ガアルノデアリマス、日本ガ是迄ノ過誤ヲ清算致シマシタル以上ハ、將來世界ニ向ツテ單ニ戰爭ヲ抛棄スルト云フコトダケヲ宣言スルダケデナシニ、進ンデ世界共同體ノ間ニアリマシテ實現スベキ斯カル理想目的ヲ持ツコトガ必要デアリマス、ソレハ現ニ近ク來ラムトスル所ノ講和會議ニ對シテモ其ノ備ガアルベキ筈ダト私ハ思フノデアリマス、今囘衆議院ノ修正ニ於キマシテ、「日本國民は、正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希求し」、ト云フ一句ガ當該條文ニ加ヘラレタノデアリマス、此ノコトハ私ノ以上説明シマシタヤウナ意味ニ於テ、頗ル重要ナ意味ヲ持ツテ居ルト私ハ思フノデアリマス、何故ナレバ、是ハ單ニ戰爭ヲ抛棄スルト云フダケデハナシニ、進ンデ民族ノ平和ノ理想ヲ謳ツタモノデアリマス、ソレ以上ニ私ノ考ヘマスコトハ、單ナル平和ノ現状ヲ維持スルト云フノヂヤナシニ、飽ク迄モ國際正義ニ基イタ平和ヲ理想トスルト云フ所ニ重要ナル意義ガアルト思フノデアリマス、今囘ノ衆議院ノ憲法修正ニ對シテ、修正ノ中ノ最モ重要ナ意義ヲ持ツテ居ルモノハ是デアルト私ハ叫ブ者デアリマス、政府ハ右修正案ニ對シマシテ、此ノ問題ヲ如何ヤウニ御考ニナツタカ、又此ノ問題ニ對シテ如何ナル御用意ガアルノカヲ吉田外務大臣ニ御尋ネ致シタイノデアリマス、又其ノ間ノ法理的ナ問題ニ付キマシテハ、金森國務相ニ御尋ネ致シタイノデアリマス、次ニ憲法内容質疑ノ第三項目ト致シマシテ、國民ノ社会經濟生活ニ關シテ御尋ネ致シタイノデアリマス、凡ソ民主政治ノ發達ハ國民ノ經濟的生活ノ民主化、其ノ經濟的基礎ノ確立ナクシテハ不可能デアリマス、處ガ此ノ問題ノ解決ニ關シマシテ、草案ノ第三章、「國民の權利及び義務」ノ規定ハ、果シテ十分ナル條件ヲ充シテ居ルカドウカト云フコトデアリマス、草案ガ一般ニ個人ノ自由及ビ權利ニ關スル基本的ナ人權ヲ確立シタコトハ、後レ馳セナガラ我ガ國ニ於テ啓蒙思想ヲ完成シタモノトシマシテ、現行憲法ニ比シ重要ナル意義ヲ持ツテ居ルコトヲ私ハ認識シタイノデアリマス、併シナガラ單ニ個人ノ所謂天賦人權思想ヲ以チマシテハ、政治的國家生活ノ問題ト同ジヤウニ、社會經濟生活ノ問題モ決シテ解決シ得ルモノデハゴザイマセス、此處ニモ先程申上ゲマシタ十八、九世紀ノ自由主義的ナ民主主義デナク、新タニ共同體的ナ民主主義ノ發展ガ生ジテ來ルノデアリマス、取分ケ戰敗後ノ我ガ國ト致シマシテハ、國土資源ノ著シク少クナツタ此ノ我ガ國ニ於テ、今迄ノヤウニ、況ンヤ又「アメリカ」ノヤウナ先輩國ノ如ク、單ニ自利心ノ追求ト、ソレニ依ル個々ノ企業ノ發達競爭ト云フコトヨリモ、寧コ全體ノ計畫經濟、新經濟秩序ノ樹立、ソレニ依ツテ國民全體ノ生活ノ安定保障ト云フコトガヨリ重要ナル意義ヲ持ツテ來ルト考ヘマスルガ、之ヲ如何樣ニ政府ハ御考ニナツテ居ルカ、ソレハ個人ノ自由及ビ權利ト云フ領域ヨリモ寧ロ社會的正義ノ問題デアリマスガ、戰爭抛棄ニ付キマシテ世界ニ理想ヲ宣言致シマシタ日本ガ、此ノ國内ニ於ケル社會的正義ノ實現ニ向ツテ同ジク劃期的ナル一ツノ立場、方向ヲ憲法ニ於テ宣示スルノ必要ガナカツタカト云フコトヲ御尋ネ致シタイノデアリマス、草案ニ於キマシテハ、成ル程個人ノ權利ハ濫用シテハナラヌ、之ヲ公共ノ福祉ニ利用スベキデアルト云フコトハ書イテアリマス、政府ハソレヲ手掛リト致シマシテ色々社會政策ヲ實施ナサル、又ソレガ或程度迄出來ルコトト考ヘマス、ケレドモソレニハ自ラ一定ノ限界ガ出テ來マス、若シソレヲ超エマスルト、新憲法ニ於キマシテハ、最高裁判所ニ依ツテソレガ憲法違反トシテ宣言サレルコトハ、之ニ依リマシテ折角ノ政府ノ計畫モ施設モ無效ニ終ルコトハナイカ、ソレハ御承知ノ通リ、最近「アメリカ」ニ於テモ苦イ經驗ヲ持ツタ問題デゴザイマス、私ハ今茲ニ一ツノ例ヲ取上ゲテ説明致シタウゴザイマス、草案ニ於キマシテハ、總テノ國民ハ勤勞ノ權利ヲ持ツテ居ルト云フコトガ書イテゴザイマス、之ヲ認メマシタ以上ハ、國家トシテ之ヲ出來ル限リ社會ニ奬勵シ、又自ラモ此ノ方向ニ向ツテ施設シ、計畫シ、立法スルト云フコトハ當然ノコトト考ヘマス、其ノ爲ニ政府ハ場合ニ依ツテハ經濟ノ再編成ヲ爲スト云フコトノ必要モ生ズルコトデゴザイマセウ、然ルニ現草案ニ於キマシテハ、財産權ハ侵シテハナラヌト云フノガ根本ノ建前デアリマス、私有財産、是ハ必ズ正當ナル補償ヲ爲スノデナケレバ公共ノ爲ニ使用スルコトハ出來ヌトナツテ居リマス、特定ノ目的ノ爲ノ公用徴收等ノ場合デアレバソレデモ宜イカモ知レマセヌケレドモ、苟クモ國家ガ廣汎ナル政策ト施設ヲ講ジヨウトスル場合ニ、是デ果シテ出來ルモノカドウカト云フ問題デアリマス、ソコデ御尋ネ申上ゲタイコトハ、一體政府ハ此ノ勤勞權ト云フモノヲ具體的ニ果シテ何處迄奬勵シ、又政府ガ之ニ向ツテ計畫ヲ爲サラウトシテ居ルカト云フコトデアリマス、又之ヲ忠實ニ實行セムトスル場合ニ、以上申上ゲタヤウナ點ニ付テ憲法上支障ハナイノカ、是ハ寧ロ實際ノ任ニ御當リニナツテ新シク經濟政策ノ抱負ヲ持ツテヤツテイラツシヤル厚生大臣ニ御説明ヲ承リタイノデアリマス、尚國民生活保障ノ問題、所謂生存權ノ問題デアリマス、此ノ度衆議院ノ修正ニ於キマシテ、「すべて國民は、健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有する。」ト云フ一條ガ入リマシタ、是ハ先程申上ゲマシタ、新タニ我ガ國ノ經濟政策ガ社會的正義ニ向ツタモノトシテ、私ハ喜ブベキ現象ト思フノデアリマス、此ノ點ニ關シ一言御尋ネ致シタイコトハ、政府當局ハ只今ノ國民大衆ノ生活ヲ如何ニ御覽ニナツテ居ラレルカト云フコトデアリマス、彼ノ過グル日ノ長期ノ間ノ主要食糧ノ遅配、ソレニ依ル大幅ノ結局繰延ヲシタト云フコト、此ノコトニ付テハ今此處デ問ヒマセヌ、今ハ聯合軍ノ食糧放出ニ依リマシテ、僅カニ都民ハ今日生活ヲ支ヘテ來テ居リマス、ソレデモ明白ナコトハ、政府ノ配給量ヲ以テシテハ健康ナ生活ハオロカナコト、生命ヲ維持スルコトモ絶對ニ不可能デアルト云フ一事デアリマス、他方當局ノ否定セラレテ居ルニ拘ラズ、「インフレ」ハ益々昂進致シマシテ、物價ノ騰貴ハ止マル所ヲ知リマセヌ、是デハ國民大衆ニ於キマシテ文化生活ヲ享受スルト云フコトハ思ヒモ及バヌ所デアリマス、斯樣ナ状態ノ下ニ國民ノ生存權、生活保障ト云フノハ意味ヲ爲サナイノデアリマス、事態ノ困難性ハ誰ガ局ニ當リマシテモ深刻デアルト云フコトハ十分了承致シマス、併シソレデハ餘リニモ政治ガナイデハナイカ、總ジテ此ノ種問題ニ付キマシテハ、如何ニ憲法ニ於テ明文化サレマシテモ、立派ニナリマシテモ、政府ハ之ニ對スル熱意ト努力ガナケレバ意味ヲ爲サヌモノトナルノデアリマス、ソコデ私御尋ネ致シタイコトハ、憲法改正ニ當ツテ、殊ニ此ノ度衆議院ノ修正ニ依ツテ國民ノ生活權ヲ認メマシタ以上ハ、政府自體ガ現在其ノ統制ヲシテ居ラレマスル國民生活、其ノ新タナ標準ヲ何處ニ置カレルカ、從ツテ特ニ食糧ノ問題カラ、之ニ對シテドウ云フ具體的ナ政策ヲ新タニ樹テヨウトシテ居ラレルカヲ農林大臣ニ御説明ヲ承リタイノデアリマス、憲法ノ内容ニ付テノ私ノ最後ノ第四項目トシテ御尋ネ致シタイノハ、教育及ビ文化ノ問題デアリマス、凡ソ新憲法ノ制定ニモ比スベキ今囘ノ改正案ニ於キマシテハ、初メカラ偉大ナル一ツノ構想、體系的ナ考ヲ持ツテ之ニ臨マナケレバナラヌト云フコトハ當然デアリマス、然ルニ前申シマシタ經濟生活ノ問題ニ付テモサウデゴザイマスルケレドモ、此ノ教育問題ニ付キマシテモ、正ニ其ノ前文ニ於テハ國家ノ文化的ナ使命ニ付テ一言モ觸レル所ガアリマセヌ、僅カニ第三章ノ國民ノ權利義務ノ條下デ、二三ノ規定ガ散見スルニ過ギマセヌ、是ハ今世紀ニ於キマシテ新シタ出來マシタ外國ノ憲法ニ照ラシテ見マスル時ニ、特ニ其ノ爲ニ章ヲ設ケタリ、少クトモ根本ノ規定ヲ憲法ニ書イテ居ルト云フコトハ、十分我ガ國ニ於テモ參照スベキ必要ガアルノデハナカツタカ、殊ニ今後ノ日本ニ取リマシテハ、世界ニ向ツテ戰爭抛棄ヲスルト云フコトダケデナシニ、世界人類ニ向ツテ我ガ國民ノ果スベキ文化國家トシテノ使命ヲ自覺セシメル上カラモ、又内ニ於キマシテハ先程申述ベタ新シキ民主主義ノ實現ノ爲ニ、經濟的ナ民主化ト云フコトト竝ンデ、或ハソレ以上ニ教育ト知的ノ、之ガ基礎要件ヲナサネバナラヌト云フコトニ鑑ミマシテモ重要デアツタト思フノデゴザイマス、政府ガ説明セラレル所ニ依リマスルト、教育法ノ如キモノヲ新タニ設ケラレマシテ、學校教育ニ關スル根本ノ問題ヲ規定ナサラウトシテ居ルト云フヤウニ承ツテ居リマスルガ、外ナラヌ憲法ニ於キマシテ、其ノ教育ノ全般ニ通ジタ根本方針竝ニ國家ノ之ニ對スル任務ヲ規定スル必要ハナカツタノカ、之ヲ先ヅ御尋ネシタイノデアリマス、是ト關聯致シマシテ、私ガ文部大臣ニ伺ヒタイノハ、文相ガ豫テ懷抱シ、又新聞ニモ傳ヘラレテ居リマスル、所謂教權確立ト云フ問題ガ誤解ヲ起ス虞ガナイカドウカト云フコトニ付テデアリマス、ソレハ今後或意味ニ於テ盛ニナラムトシマスル政黨ノ間ノ激烈ナル抗爭、又其ノ勢力ノオ互ヒノ交替、サウ云フモノカラ獨立シテ教育ノ權威ヲ確立シヨウト云フ所ニモ一ツノ狙ヒガアルト考ヘラレマス、其ノ意味ニ於テハ正シキ主張ヲ含ンデ居ルト思フノデゴザイマスケレドモ、又他面其ノ結果ハ國民ノ政治的、社會的生活カラ遊離シテ、一種ノ何カ教階的制度、「ハイアラーキー」ト申シマスカ、一種ノ文教官僚主義ニ陷ル虞ハナイカト云ノコトデゴザイマス、殊ニ地方教育制度ニ付キマシテ、傳ヘラレマスルヤウニ、大學總長ヲ長官トシタ學區廳ヲ全國ニ幾ツカ設ケマシテ、ソレヲ文部省ノ直轄トスル、又其ノ下ニ、地方ノ府縣ニ文部省ノ支廳ヲ設ケルト云ツタ如キ構想ハ、所謂教育ノ民主化ニ對シテ寧ロ逆行スルモノヲ含マレルノデハナイカ、是ハ寧ロ今後新ニセラレマスル地方自治體トノ連繋ニ於キマシテ、各層ノ教育化、殊ニ國民公衆ノ中カラ選バレタ者ヲ以テスル教育委員會ノ如キモノヲ以テ運營セシメルコトヲ適當ト考ヘナイカドウカ、是ハ寧ロ教育ノ地方分權化ノ問題デゴザイマス、米國教育使節團ノ報告モ此ノ線ニ沿ウテアツタモノト私共ハ了解スルノデアリマス、要スルニ國民一般カラ分離スルコトニ依ツテ教育ノ權威ヲ確立スルト云フノデナクシテ、國民ニ直結シテ、國民ノ自覺ト、其ノ手ニ依ツテ教育ノ進歩ヲ圖ルト云フコトガ眼目デナケレバナラヌト考ヘルノデアリマス、凡ソ教育理念ハ眞理トカ正義トカ云フ單ナル抽象性ニ止ツテ居ラナイ限リハ、必ズヤ其ノ時代ノ政治的、社會的精神ト分離シテ考ヘルコトノ出來ナイモノデアリマス、是ガ具體的ナ内容ハ、必ズヤ國民ノ左樣ナ政治的、社會的現實生活カラ生ジテ來ルモノデアリマス、茲ニ必要ナコトハ、各政黨ノ世界觀的ノ對立ヲ超エテ、苟クモ新憲法ハ如何ナル國民モ把握シナケレバナラヌ、サウ云フ國民的ナ世界觀、或ハ政治觀ト云フモノヲ作ツテ、公衆ノ識見ヲ高メルト云フコトガ極メテ重要ナコトニナルト思ヒマスル、蓋シ、近代民主主義ノ大キナ使命ハ、其處ニ實ハアルト考ヘルノデゴザイマス、此ノ意味ニ於キマシテ一般國民ノ政治教育ハ、今後極メテ重要ナ意味ヲ持ツテ來ルト思ヒマスルガ、政府當局ハ、之ニ對シテドウ云フ御方針、ドウ云フ御對策ヲ御持チニナツテ居ルカヲ伺ヒタイノデアリマス、尚其ノ場合、特ニ文部大臣ニ私ノ伺ヒタイノハ、文部大臣ハ、新憲法草案ノ中デ、其ノ他ノ事ハ姑ク別ト致シマシテ、先程申上ゲマシタ我ガ國ノ所謂政治的基本性格ニ關シテドウ云フ御考ヲ持ツテ居ラレルカ、本年一月ノ下旬デアリマシタカ、當時文部省學校教育局長兼東大教授デ在ラレタ文相ガ、朝日新聞紙上ニ「天皇制ノ辯明」ト云フ一文ヲ發表セラレマシタ、ソレハ我ガ國ノ歴史的ナ事實ト民族ノ固有性カラ天皇制ノ合理的根據ヲ認メラレテ、就中我ガ國ノ法的秩序ノ理念カラ、天皇制ノ必要アルコトヲ重要視セラレ、其ノ爲ニハ保守的ナ名稱スラモ必ズシモ厭ハズニ、普ク天下ニ向ツテ、之ガ同志ニ向ツテ呼ビ掛ケタ優レタ一文デアリマシタ、當時若キ學徒竝ニ心アル人々ハ、如何ニモ之ニ共鳴シ、君ノ良心、所信ト其ノ勇氣ニ稱讚ヲ送ツタカ知レマセヌ、其ノ良心的ナ態度ト努力ヲ以テシテモ、此ノ草案ヲ變更スルコトハ出來ナカツタカドウカ、ソレトモ其ノ所信ニ於テ、心境ニ於テ變化ガアツタノカドウカ、事ハ我ガ國ノ文教ノ根本ノ問題デアリマス、心アル多クノ人々ハ、文相ノ態度ヲ注目シテ待ツテ參リマシタ、私共ハ此ノ機會ニ文相ノ所見ト其ノ心境ヲ率直ニ茲デ御説明ニナラムコトヲ御願ヒスルノデアリマスル、以上質疑シテ參リマシタヤウニ、本草案ニ於ケル所謂天皇制ヲ繞ツテノ我ガ國民主政治ノ在リ方、即チ基本的政治性格ノ問題ヲ初メトシテ、世界ニ類例ノナイ戰爭抛棄ノ問題、又今後我ガ國ニ於テ喫緊ヲ要スル社會經濟生活、又教育文化ノ問題ヲ初メ、多クノ問題ヲ内包シタ憲法デアリマス、ソレガ此ノ度衆議院ヲ通過可決シマシタ現段階ニ於キマシテ、今後ノ取扱ヲ如何ニスベキカト云フコトニ付キマシテ、政府當局ニ簡單ニ御伺ヒシタイノデアリマス、一ツハ貴族院トノ關係デアリマス、元來「ポツダム」宣言ノ附屬文書ニ依リマシテ御承知ノヤウニ、國民ノ自由ニ表明シタル意思ニ依ツテ決スルト云フ以上ハ、國民ノ代表者タル衆議院ガ之ニ當ルト云フコトハ當然デゴザイマスル、貴族院ハ此ノ資格ハアリマセヌ、然ルニ政府ハ、今囘ノ改正案ハ現行憲法ノ七十三條ニ依ツテ之ヲ御提出ナサレマシタ、ソレナレバ之ニ從ヒマシテ、貴族院ハ憲法草案ニ對シテ、全面的ニ其ノ見地カラハ修正ヲスル權限ガアル筈デアリマス、此ノ關係ヲ如何ニ了解シタラ宜イカ、是ハ私ハ法律問題デハナイト思フ、政治的問題トシテ其ノ解決ヲ圖ル以外ニ途ハナイト思フ、私一個ノ意見ト致シマシテハ、衆議院ノ院議ヲ尊重スル意味ニ於テ、貴族院トシテハ之ニ修正ヲ加ヘナイ、少クトモ政治的根本性格ニ關スル部分ハ、修正ヲ差控ヘルベキモノト私ハ考ヘルノデアリマス、貴族院トシマシテハ、何レ態度ヲ御決定ニナルコトト存ジマスルケレドモ、政府自身ハ本問題ヲ如何樣ニ御考ニナルノデアルカ、是ハ今囘ノ貴族院ノ審議ノ根本前提トナルモノデアリマスルガ故ニ御尋ヲ申上ゲルノデアリマス、第二ニ衆議院ガ正當ニ選擧サレマシタ國民ノ代表者トシテ、先ヅ之ガ審議ニ當ルコトハ當然デアリマス、ケレドモ事ハ結局國民自身ノ自由ニ表明スル意思ニ依ツテ決ルノデアリマス、其ノ意味ニ於キマシテハ、最後ニ國民投票ノ問題ガ必ズヤ考ヘナケレバナラヌノデアリマス、是ハ政府ガ凡ソ「ポツダム」宣言ニ對シテ忠實デアラウト致シマスレバ執ルベキ態度デアツタト思フ、殊ニ又最近「フランス」或ハ「イタリー」ノ事例ヲ見マシテモサウデアリマスルシ、眞ニ民主主義ノ憲法ハ斯クノ如クニシテ制定サレルデアリマセウ、現ニ本草案ニ於キマシテモ、將來憲法ノ改正ノ場合ハ左樣ニナツテ居ルノデアリマス、然ルニ將來ノ改正ヨリ今更ニ必要ナ此ノ制定ノ場合ニ於テ何故サウ云フ御手續ヲ御考ニナラナカツタカ、少クトモ現在ノ草案ノ附則ニ於キマシテ、議會ヲ通過シタル後、一定ノ期間ニ於テ國民ノ間ニ之ヲ問フト云フコトガ必要デアツタノデハナカツタカト云フコトヲ御尋ネ申シタイノデアリマス、元來此ノ草案ニ於キマシテ一般ノ國民ニ提案シテ其ノ承認ヲ求メルト云フ場合ニハ、只今申シタ憲法改正ノ場合ヲ措イテハ外ニナイヤウデアリマス、處ガ草案ニ於キマシテ、議會絶對主義ト云フモノハ他ノ國ニ類例ノナイ程日本ニ於テハ今度ハ出來タノデアリマス、從ツテ議會ガ、殊ニ多數黨ガ專横ニ流レルト云フ場合ニ之ヲ防グ方法ハ何カ、唯一ニ其ノ背後ニアリマスル所ノ將來教養ヲ持ツテ自覺シタ國民公衆ノ意思決定ヨリ外ニナイノデアリマス、是亦先程申上ゲマシタ自由主義的ナ、代議民主政治トハ異ル所ノ共同體的ノ民主主義ノ主張デアリマス、故ニ極メテ重大ナル一般問題ニ付キマシテハ、即チ「レフヱレンダム」ノ制度ヲ御考ニナル必要ハナカツタカ、此ノコトハ元來ハ政治的基本性格ニ關スル重要ナル問題デアリマスルケレドモ、便宜茲ニ合セテ御質問ヲシタイノデアリマス、以上憲法改正ニ對スル私ノ質疑ヲ終ルニ臨ミマシテ、一言申上ゲルコトヲ御許シ願ヒタイ、今囘ノ改正ハ祖國日本ヲ打換ヘテ、自由ト正義ノ完全ナ國ニ迄高メムトスルニアルモノト我々ハ考ヘマス、從ツテ此ノ出發點ニ於テ自由ト正義其ノモノガ護リ得ズ、其ノ基礎ノ上ニ國ヲ立テルコトガ出來ナカツタナレバ、祖國ノ獨立ハ不可能デアリマス、我々ノ建設ノ事業ハ何時カ又崩壞スルデアリマセウ、眞實ハ一時ノ間ハ掩ハルカモ知レマセヌケレドモ、歴史ハ何時カ之ヲ明白ナル白日ノ下ニ之ヲ照シ出スデアリマセウ、其ノコトヲ私共ハ今次ノ大戰ニ於テ身ヲ以テ經驗シタ筈デアリマス、其ノ意味ニ於テ私共ハ飽ク迄眞理ヲ眞理トシ、僞リヲ僞リトシテ、互ヒニ眞理ノ發見ニ協力スべキデアルト思フノデアリマス、祖國ノ運命ヲ決スベキ重大ナル改正草案ハ、今ヤ衆議院ヲ通過シテ本院ニ廻リマシタ、此ノ時ニ貴族院ト致シマシテハ、假ニ根本的ナコトハ何モ加ヘルコトハ出來ナイト致シマシテモ、之ヲ自由ニ批判シ、質疑シ、將來ノ改革ノ日ノ爲ニ國民ニ勸告ヲスルコトガ出來マス、蓋シ貴族院ニ相應シイ最後ノ御奉公デアリマセウ、私ハ一議員トシ又一學究トシテ乏シキナガラ自己ノ良心ト理性ニ從ツテ責任ヲ以テ質疑ヲ致シタ積リデアリマス、故ニ關係各大臣ニ於カレマシテモ、國家更生ノ爲ニ良心的ナ責任アル御答辯ヲ願ツテ此ノ機會ニ於キマシテ、何ヨリモ國民ノ前ニ眞實ヲ明カニサレムコトヲ希望致ス次第デアリマス、（拍手）
〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕
○國務大臣（男爵幣原喜重郎君） 只今ノ南原博士ノ御質疑ニ御答ヘ申上ゲマス、御答ヘ申上ゲル上ニ於キマシテ吉田首相ニ對スル御質疑ノ點ニモ自然觸レル所ガアルカト思ヒマス、其ノ點ニ付キマシテハ私ノ申述ベルコトハ單ニ私個人ノ考ヘト、斯ウ云フ風ニ御聽取ヲ願ヒマス、前内閣ガ當初ヨリ憲法改正問題ニ關シテ如何ナル方針ヲ執ツテ居ツタカト云フコトデアリマス、先ヅ南原博士ノ御質問ノ第一點ハ、私等ハ當初ヨリ方針ヲ決メテ此ノ問題ノ調査ニ著手シタノデハアリマセヌ、先ヅ調査ヲシテカラ方針ヲ決メルト云フコトニ致シタノデアリマス、從ツテ當初ノ構想トハ調査ノ進ムニ從ツテ、漸次變ツテ來ルト云フコトハ、是ハ當然デアラウト考ヘマス、御承知ノ通リ前内閣時代ニハ松本博士ガ本問題ノ調査立案ヲ主宰セラレマシテ、日夜此ノ爲ニ肝膽ヲ碎レタノデアリマスルガ、私ハ何モ此ノ問題ニ專門的知識ヲ持ツテ居ル譯デモナク、唯同僚ノ一人トシテ其ノ議ニ與ツタダケノコトデアリマスルケレドモ、只今御質疑ガアリマシタカラ、私ニ關スル範圍内ニ於テ私ガドウ云フ心持デ此ノ議ニ與ツタカト云フコトヲ大體先ヅ御話申上ゲタイト存ジマス、此ノ憲法改正案ノ第一條ノ規定ニ付キマシテ、天皇ハ日本國民統合ノ象徴デアラセラレルト云フ此ノ一句ニ御注意ヲ願ヒタイト存ジマス、象徴ト云フコトハ何ダカ神祕性ヲ帯ビテ居ルヤウニ仰セラレマシタガ、私ハ左樣ニ考ヘテ居リマセヌ、是コソ常識的ナ現實ヲ示シタモノト私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、天皇ノ御身ニ依ツテコソ日本國民ノ統合ガ表現シ得ラレルモノト私ハ信ジテ居リマス、天皇ノ御存在ヲ離レテハ日本國民ノ統合ハ考ヘラレマセヌ、日本國民ガ支離滅裂セル烏合ノ衆ニナラナイノハ、天皇ガ自然ト國民ヲ中心點ニ惹キツケル力、即チ求心力トナツテ、イツモ國民ノ中樞ニアラセラレル爲デアリマス、其ノ求心力ト云フノハ權力デモナケレバ、政治機能デモアリマセヌ、天皇ノ御手ノ中ニ何等ノ權力モ、政治機能モナカツタ昔ノ武門時代、封建政治時代ニ於キマシテモ、國民ノ統合ノ中心點ハ儼然トシテ、天皇ノ御身ニ存シ、毫モ移動シナカツタノデアリマス、斯カル事實ハ我ガ國ノ歴史ヲ一貫シ、其ノ濳在意識ハ、今ヤ國民ノ信念トナツテ、人心ニ奥深ク根ヲ下シテ居ルモノト認メラレマス、我ガ國ニ於テ、政體ハ變ツテモ、國體ハ變ラナイト云フノニハ、種々ノ見方モアリマセウガ、其ノ一ツハ此ノ以上ノ事實ヲ指スモノデアラウト私ハ考ヘテ居リマス、現行憲法ニハ、天皇大權事項ガ相當廣範ニ亙ツテ居リマス、之ニ乘ジテ一部ノ人々ガ、誤ツタル理念、盲目的ノ愛國心ニ依リ、濫リニ袞龍ノ袖ニ隠レテ、無謀ナル國際的冐險政策ヲ企テ、遂ニ我ガ國民ヲ血ト涙ノ深ミニ陷レタト云フコトハ誠ニ痛恨ノ極ミデアリマス、之ガ爲、延イテ累ヲ皇室ニ迄及スコトトナツタノデアリマス、憲法改正案第四條ニ、天皇ガ國政ニ關スル權能ヲ有セラレナイト云フコトガ規定サレテアリマスルノハ、畢竟一部ノ人人ガ斯樣ナル危險ナ策動ヲ未來永劫ニ封ゼムガ爲デアルト思ハレマス、天皇ノ大權ノ制限ハ、要スルニ皇室ノ御安泰ト、國民ノ幸福トヲ永遠ニ保障スルノ目的ニ外ナラヌノデアリマス、又改正案ノ第九條ニハ國際紛爭解決ノ手段トシテ、戰爭ニ訴ヘルコトヲ否認スル條項ガアリマス、「マッカーサー」元帥ハ本年四月五日對日理事會ニ於ケル演説中、此ノ第九條ノ規定ニ言及致シマシテ、世間ニハ戰爭抛棄ノ條項ニ往々皮肉ノ批評ヲ加ヘテ、日本ハ全ク夢ノヤウナ理想ニ子供ラシイ信頼ヲ置イテ居ルナドト冷笑スル者ガアリマス、今少シク思慮ノアル者ハ、近代科學ノ駸々タル進歩ノ勢ニ目ヲ著ケテ、破壊的武器ノ發明、發見ガ、此ノ勢ヲ以テ進ムナラバ、次囘ノ世界戰爭ハ一擧ニシテ人類ヲ木ツ葉微塵ニ粉碎スルニ至ルコトヲ豫想セザルヲ得ナイデアラウ、之ヲ豫想シナガラ我々ハ尚躊躇逡巡致シテ居ル、我ガ足下ニハ千仭ノ谷底ヲ見下シナガラ、尚既往ノ行懸リニ囚レテ、思切ツタ方向轉換ヲ決行スルコトガ出來ナイ、今後更ニ大戰爭ノ勃發スルヤウナコトガアツテモ過去ト同樣人類ハ生殘ルコトガ出來サウナモノデアルト云フガ如キ、虫ノ良イコトヲ考ヘテ居ル、是コソ全ク夢ノヤウナ理想ニ子供ラシイ信頼ヲ置クモノデナクテ何デアラウカ、凡ソ文明ノ最大危機ハ、斯カル無責任ナ樂觀カラ起ルモノデアル、是ガ「マッカーサー」元帥ガ痛論シタ趣旨デアリマス、實際此ノ改正案ノ第九條ハ戰爭ノ抛棄ヲ宣言シ、我ガ國ガ全世界中最モ徹底的ナ平和運動ノ先頭ニ立ツテ指導的地位ヲ占ムルコトヲ示スモノデアリマス、今日ノ時勢ニ尚國際關係ヲ律スル一ツノ原則トシテ、或範圍内ノ武力制裁ヲ合理化合法化セムトスルガ如キハ、過去ニ於ケル幾多ノ失敗ヲ繰返ス所以デアリマシテ、最早我ガ國ノ學ブベキコトデハアリマセヌ、文明ト戰爭トハ結局兩立シ得ナイモノデアリマス、文明ガ速カニ戰爭ヲ全滅シナケレバ、戰爭ガ先ヅ文明ヲ全滅スルコトニナルデアリマセウ、私ハ斯樣ナ信念ヲ持ツテ此ノ憲法改正案ノ起草ノ議ニ與ツタノデアリマス、次ニ第二點トシテ南原博士ハ、三月六日ノ憲法改正ニ關スル方針ガ激變シタ理由如何、斯ウ云フコトヲ御問ニナリマシタ、此ノコトニ付キマシテハ、私ハ冐頭ニ一言申上ゲテ置イタノデアリマスルガ、前内閣時代ニ確カニ松本博士ガ現行憲法ノ第一條乃至第四條ハ、自分ハ之ニ對シテ其ノ儘存置シテ置ク積リデアルト云フコトヲ一家ノ私案トシテ申サレマシタ、左樣ニ私ハ記憶致シテ居リマス、是ハ實ハ此ノ第一條乃至第四條ダケデハアリマセヌ、大體カラ申シマスレバ、現行憲法ハ頗ル彈力性ガアリマシテ、是ガ若シ正當ニ適用サレテ居リマスナラバ、憲法改正ノ問題ハ生ジテ居ナカツタト思フ、然ルニ遺憾ナルカナ、是ガ先刻モ申シマシタ通リ歪曲セラレ、間違ツタル方向ニ適用セラレマシタガ爲ニ此ノ問題ガ起ツテ來タノデアリマス、斯樣ニ考ヘマスルナラバ、最早我々ハ此ノ血ヤ涙ノ喰付イタ古イ着物ハ此ノ際綺麗ニ投ゲ捨テテ全ク新シイ着物、斯樣ナ記念ノ存シナイ着物、假令元ノ着物ガ如何ニ本質ガ良クテモ、其ノ地質ガ良クテモ之ヲ捨テテ新シイ衣替ヲスルト云フ氣持ニナラナケレバナラヌ、斯樣ニ我々ハ考ヘタノデアリマス、即チ初メノ構想ト追々構想ガ變ツテ來タト先刻申シマシタノハ此ノ意味デアリマス、今日ノ時代ノ要求ヲ考ヘマスト云フト、斯ウ云ツタヤウナ、モウ血ヤ涙ノ喰付イタ着物、古イ憲法ニ拘泥シテ居ル‥‥其ノ憲法ニ何ニモ責任ハアリマセヌケレドモ、事實上サウ云フ歴史ガ喰付キマシタ以上ハ、是ハ取替ヘル、是ハ私ハ今日ノ時代ノ要求ニ適スルモノデアルト斯ウ云フ風ニ考ヘテ居ル、從ヒマシテ此ノ憲法改正ニ對スル方針ノ激變セル理由ト云フコトノ御質問ニ對シマシテハ確カニ激變シタノデアリマス、急變シタノデアリマス、急變シタノモ我々ガ國際内外ノ情勢ヲ考ヘテ、ドウシテモ是ハ是デ進ンデ行ク方ガ宜イト云フ我々ハ信念ヲ以テ書イタノデアリマス、何モ我々ガ先刻南原博士ガ仰セラレマシタヤウニ、引摺ラレテ躊躇逡巡ツテ愚圖々々長イ間ヲ經過シテ居ツタト云フヤウナ御非難ガアリマシタガ、私ハ左樣ナ非難ハ當ラヌコトダト考ヘマス、尚其ノ他ノ諸點ニ付キマシテハ係ノ大臣カラ御答辯ニナルト考ヘマス、（拍手）
○議長（公爵徳川家正君） 内閣總理大臣
〔國務大臣吉田茂君登壇〕
○國務大臣（吉田茂君） 南原博士ニ御答ヲ致ス前ニ、昨日澤田君ノ御尋ニ對シテ、答辯ヲ保留致シテ置キマシタ衆議院ニ於ケル私ノ演説ニ付テノ文句ノ中ニ御咎メノアリマシタコトニ付テ御答ヲ致シマス、私ノ致シマシタ衆議院ニ於ケル演説ハ、憲法ノ審議ヲ衆議院ガ終了致シマシテ、其ノ審議ノ御勞苦ニ對スル感謝ノ言葉ト致シタ演説デアリマスガ、先ヅ冒頭ニ於テ私ハ斯ウ申シタノデアリマス、本院ニ於テ憲法改正案ガ可決サレマシタ、是ハ衆議院ニ於テデアリマス、又末段ニ於キマシテ、本案ガ成立スル迄ニハ固ヨリ尚必要ナ手續ヲ殘シテ居ルノデアリマス、茲ニ諸君ノ努力ニ對シ感謝ノ意ヲ表シマス、「猶必要ナ手續ガ殘ツテ居ル」、斯ウ申シタノデアツテ、尚之ガ成立スル迄ニハ「猶必要ナ手續ガ殘ツテ居ル」ト斯ウ申シタノデゴザイマス、之ニ依ツテ御咎メノ點ハ明瞭ニナツタカト考ヘマス、次ニ南原博士ニ御答ヘ致シマスガ、此ノ憲法改正案ニ對シテハ、甚ダ早急ニ拵ヘ上ゲテ、爲ニ自主性ヲ失ツテ居ル、唯單ニ政府ノ本旨ハ國際關係ノミデアルト云フヤウナ御言葉ノヤウニ承知致シマシタガ、此ノ憲法改正案ノ成立ニ付キマシテノ來歴ハ、今一應幣原國務大臣カラ説明ガアリマシタガ、政府ト致シマシテハ終戰後直チニ此ノ問題ハ採上ゲテ居ルノデアリマス、東久邇宮内閣以來此ノ問題ハ採上ゲラレタ問題デアリマシテ、幣原内閣ニ至ツテ具體的ニ研究ヲ益々進メラレテ、ソシテ遂ニ成案ヲ得テ、而モ國民ノ意思、國民ノ之ニ對スル批評ヲ十分ニ聽カムト欲シテ、總選擧前ニ之ヲ發表スルノ必要ヲ感ジテ發表致シマシテ、總選擧ニ於テ憲法改正案ニ對シテノ國民ノ意思ヲ問ハムト致シタ譯デアリマス、次ニ自主性ヲ缺イテ居ルト云フ御考ガアルカモ知レマセヌガ、政府ト致シマシテハ、國民ノ自主性、國民ノ要求ハ十分採入レタ考デアリマス、尚其ノ外ニ南原博士ノ御話ノ通リ、現在ハ肇國以來ノ大變革ノ秋デアリマス、從ツテ又國際情勢ハ之ヲ心ノ中ニ入レザルヲ得ナイノデアリマス、ノミナラズ國際情勢ニ於キマシテハ、時ト云フコトヲ十分ニ考ヘナケレバナラヌノデアツテ、故ニ私ハ此ノ必要ノ下ニ此ノ改正案ガ兩院ニ急速ニ提出ノ運ビガ出來ルヤウニ政府ト致シマシテハ十分努力ヲ致シタ譯デアリマス、又此ノ憲法草案ノ爲ニ特ニ議會ヲ召集シテ、特別ナ議會ニ掛ケルガ宜イカ惡イカト云フコトニ付テハ、政府ト致シマシテハ現在ノ議會ニ掛ケルコトガ宜イト、斯ウ考ヘマシタノデ、其ノ點ニ付テハ不幸ニシテ南原博士ト意見ヲ異ニ致シマス、又戰爭抛棄ニ付テ、將來國際聯合ニ入ル意思デアルカ、或ハ自主的、自衛的ノ戰爭ヲモ抛棄シタノデアルカト云フ御尋デアリマスガ、今日ハ日本ト致シマシテハ、先ヅ第一ニ國權ヲ囘復シ、獨立ヲ囘復スルコトガ差迫ツテノ問題デアリマス、此ノ國權ガ囘復セラレ、サウシテ日本ガ再建セラレル此ノ目下ノ差迫ツタ問題ヲ政府ハ極力考ヘテ居ルノデアリマシテ、萬事ハ講和條約或ハ國家ノ態勢ガ整フト云フコトヲ、政府トシテ極力其ノ方向ニ向ツテ努力シテ居ル譯デアリマシテ、ソレ以上ノコトハ御答ヘ致スコトハ出來ナイノデアリマス、（拍手）
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕
○國務大臣（金森徳次郎君） 改正憲法案ノ中ニ於キマスル政治的基本性格ニ關シマシテ南原君ノ御質問ニナリマシタ點ニ付テ御答ヲ致シタイト思ヒマス、南原君ノ御質疑ハ種々ナル角度カラ種々ナル要點ニ觸レテ御質疑ニナリマシタガ爲ニ、一々果シテ網羅的ニ御答シ得ルヤ否ヤト云フコトハ自ラ疑ツテ居リマスルガ、其ノ基本的ナル點ニ付テ申上ゲマシタナラバ、恐ラク御了解ヲ願ヒ得ルコトト思ツテ居リマス、御質疑ノ第一點ハ天皇制ヲ繞ル問題デアリ、第二點ハ主權論トモ謂フベキ事項ニ亙ルモノデアツタト考ヘルノデアリマス、天皇制ヲ繞ル問題ニ付キマシテ色々ナ御意見ヲ御述ニナリマシタガ、ソレハ天皇制ニ關スル此ノ新シキ憲法案ノ取扱方ハ、現行憲法トハ對蹠的デアツテ、政治的ナル意思構成トシテハ殆ド無意義デアツテ、天皇制ヲ存置スルト云フコトハ實ハ制度ノ實體ニ加ヘタル紛飾ニ過ギナイノデハナイカ、斯ウ云フコトガ御議論ノ骨子トナツテ居ツタヤウニ思フノデアリマス、此ノコトハ日本國民ガ過去ノ長イ間、殊ニ明治憲法以來統治權ノ總攬者トシテ、而モ三ツノ權力ノ統括者トシテ、又其ノ中ニ於キマシテモ強力ナル行政權ノ統括者トシテ天皇ノ御地位ガ定ツテ居ツタコトニ對シマシテ甚ダシク違ツテ居ルコトハ是ハ申ス迄モアリマセヌ、且又更ニ根本ニ於テ天皇ノ御性格ノ由ツテ起ル基礎タル理由ニ至リマシテモ、觀ヤウニ依ツテハ變ツテ居ルト言ハナケレバナリマセヌ、ソコデ私共此ノ憲法ノ草案ニ付テ考ヘマスル時ニ、實ニ心ヲ甚ダシク傷マシメタ問題デアルノデアリマス、我々ハ過去ノ戰爭ヲ通ジマシテ、又ソレヨリ前ノ經驗ヲ通ジマシテ、本當ニ眞理ヲ眞理トシテ觀ル力ヲ育成シタモノト思フノデアリマス、世界ノ知識ヲ吸收スルト同時ニ、我々ノ過去ヲ再檢討シテ、今迄蔽ハレテ居ツタモノヲ冷ヤカニ見透シテ、心ニ好マシク思フト否トヲ問ハズ赤裸々ニ事物ヲ判定スルト云フ心持ニナツテ來タノデアリマシテ、其ノ根本ニ於テ一ツノ問題ハ、一體國家ノ意思ノ、即チ國家ノ活動力ノ源泉ヲ成シテ居ルモノハ何デアラウカト云フ點デアルノデアリマシテ、此處ニ目覺メマスルト、種々ナル物ノ考ヘ方ガ根本的ニ變ツテ來ナケレバナラヌト思フノデアリマス、其ノ我々ノ國家活動ノ源泉トナルベキ力ハ何處ニアルカ、ソレハ先程南原君ガ仰セニナリマシタヤウニ、民族共同體デアルト答フルコトハ確カニ聰明ナル、恐ラクハ正シイ所ノ御考デアラウト思フノデアリマス、併シ憲法自身ハ學説ノ範圍ニ迄ハ亙ツテ居リマセヌ、左樣ナ學説ヲモ包容シ得ル立場ニ於キマシテ、此ノ憲法ハ草案ニ於キマシテハ、國ノ至高ノ意思ガ國民ニアルト云フ趣旨ノ言葉ヲ以テ言ヒ現シタノデアリマス、至高ノ意思ガ國民ノ總意ニ在ル、斯ウ云フ言ヒ現シ方ヲ以テシタノデアリマシテ、是ハ考ヘ方ニ依リマシテハ、實ニ過去ノ傳統ヲ甚ダシク破壊スル所ノモノデアルト思ヒマスルガ、南原君ガ仰セニナリマシタヤウニ、十分根柢アル學理的ナル基礎ヲ有シ得ルモノト信ジテ居ルノデアリマス、其ノ前提ニ依リマシテ憲法ノ各條文ハ整理セラレテ居リマスルガ、主權ト云フ言葉ヲ何故使ハナカツタカト云フコトニ歸著致シマス、政府ノ原案ニ於キマシテハ、主權ト云フ言葉ハ使ツテハ居リマスルケレドモ、今申シマシタ意味トハ全然別ノ所ニ使ツテ居リマシテ、謂ハバ國權ト國ノ直接ナル活動力ト云フヤウナ意味ノ所ニ使ツテ居リマシテ、國家ノ働ノ源泉タル意思ト云フヤウナ意味ニハ使ツテ居ナカツタノデアリマス、是ハ主權ト云フ言葉ガ、日本ノ現在ニ於キマシテモ、亦其ノ由ツテ來ツタ所ノ諸國ノ用ヒ方ニ於キマシテモ、種々ナル意味ヲ持ツテ居ル、多岐的デアル、其ノ多岐的ナル言葉ヲ以テ此ノ大事ナ思想ヲ言ヒ現スコトハ、マダ熟シテ居ナイノデハナイカ、斯ウ云フ前提ノ下ニ至高ノ意思ト云フ言葉ヲ以テ説明ヲシタノデアリマス、併シ其ノ意味ハ私ガ衆議院ニ於テ、明カニ説明ヲ致シマシタ通リ、私ノ定義シタヤウナ意味ニ於キマシテハ、主權ハ國民ノ全體ニ在ルト云フコトニ歸著シテ居リマシタ、其ノ點ニ於キマシテ、政府ノ説明トシテハ、一點ノ曖昧サヲモ持ツテ居ル譯デハゴザイマセヌ、然ルニ衆議院ニ於キマシテハ、特ニ其ノ點ヲ一層明確ニスル爲ニ、主權ハ國民ニ在リト云フ言葉ニ修正ヲスルト云フ方向ヲ採ラレタノデアリマシテ、是ハ私ノ説明ノ趣旨ト何等矛盾スル所ハゴザイマセヌ、唯多岐的ナル言葉ヲ輕々シク使フコトヲ避ケタ、其ノ心持ガ此處ニ於テ固成セラレタト云フコトニ歸著スル次第デアリマス、左樣ニ主權ト云フモノガ、國民ノ全體ニ在ルト云フコトハ、即チ過去ノ日本ノ實情、本質ト違ツタモノデアルト云フ所ニ問題ガ起ツテ來ルト思ヒマス、昨日アタリカラノ、恐ラクハ南原君ノ御説ノ中ニモアツタノデハナイカト思ヒマスルガ、是レ即チ日本ノ謂ハバ革命トモ謂フベキモノデアルト云フ風ニ御説明、御主張ニナツテ居ル場面ガアリマス、私ハサウハ決シテ思ヒマセヌ、我々ノ過去ニ於キマシテハ、日本ノ本當ノ姿ガ、言葉ヲ以テ、力ヲ以テ、色々ナモノヲ以テ蔽ハレテ、十分ナル説明ヲ與ヘラレテ居ナカツタ、又之ニ應ジマシテ、國民全體ノ認識モ其處迄至ツテ居ナカツタ、併シ今日ニ於テ考ヘテ見マスレバ、國民ノ全體ノ意思ガ、日本國家ノ活動ノ源泉ヲ成シテ居ツタト云フコトハ、歴史ノ示ス所ニ依ツテ本格的ニ之ヲ類推スルコトガ出來ルノデアル、是コソ認識ノ變化デアツテ、實體ノ變化デハナイ、私、昨日天動説、地動説ノ變化ノ誠ニ愚カナル例ヲ以テ申シマシタガ、誠ニ全ク此ノ例ハ當ツテ居ルト今モ尚信ジテ居ル次第デゴザイマス、斯樣ニ考ヘテ來マスルト、天皇ノ御地位ハ如何ナルモノカト云フコトガ起ツテ來ルノデアリマスルガ、私ハ天皇ノ本當ノ御地位ハ我々ノ心ノ根柢トノ繋リニ於テアルモノデアル、敢テ一片ノ法律ヲ以テ作リ得ルモノデモナク、法律ヲ以テ消シ得ルモノデモナイ、日本民族ノ熱烈ナル血液ガ流レテ居ル限リ、我々ノ全精神トノ繋リニ於テ天皇ノ御地位ガハツキリト國民ノ心ノ中ニ在ルノデアルシ、又遡ツテ見レバ歴史ノ中ニハツキリ現レテ居ル、其ノ基本ノ考ヲ提ヘテ言ヘバ、是ガ即チ日本ノ本當ノ姿デハナイカ、ソレノ本當ノ姿ト言ヘバ、ソレハ即チ國體ト云フ言葉ヲ一ツノ意味トシテ言ヒ表シ得ルノデハナイカ、且又國民ガ常識的ニ國體ト言ツテ居ル其ノ姿デハナカラウカ、此ノ前提ノ下ニ此ノ國體ト云フモノハ日本國民ノ心ノ奥深ク持ツテ居ル其ノ天皇トノ繋リト云フモノニ於テ日本民族ト云フモノハ結成セラレ、ソレニ基イテ國家ガ出來テ居ル、其ノ特色ヲ言フノデアルト云フ説明ヲシテ居ツタノデアリマシテ、私ハ今日ニ於テ其ノ考ガ正シイノデアルト思ヒ、先程此ノ點デハナカツタカモ能ク存ジマセスガ、南原君ハ一種ノ自己欺瞞デアルト、此ノ點デハナカツタラ申譯アリマセヌガ、一種ノ自己欺瞞デアルト仰セニナリマシタ、言葉ノ使ヒ方ハ別トシマシテ、私ハ全責任ヲ以テ自己欺瞞ト信ジテ居ナイト云フコトヲ明言致シタイト考ヘテ居ルノデアリマス、次ニ斯樣ナ基礎ノ下ニ於キマシテ天皇ノ御地位ハドウデアルカト云フ道徳的方面ニ於キマシテハ、國民ノ歴史ト心トノ中ニ宿ツテ居ル、面モ現實ノ政治ノ面、法律ノ面ニ運ビ來リマスル時ニ如何ニスルカト云フコトガ起ツテ來ル、是カラ憲法ノ問題トナツテ來ルノデアリマス、是以前ハ憲法ノ以前ノ問題デアリマス、其ノ本質ガ憲法ニ接觸シテ先ヅ現レマスル所ガ憲法ノ第一條デアリマス、「天皇は日本國の象徴であり日本國民統合の象徴」デアルト天皇ノ御地位ハ日本國民ノ總意、所謂國家活動ノ源泉トナル所ノ「日本國民の至高の總意に基く」ト規定シテアルノデアリマシテ、茲ニハツキリ國家活動ノ源泉トナル國民ノ總意ニ基ク天皇ノ御地位ガ神秘的ナル考ノミニ基イテ是ガ説明セラレルノデハナク、確乎不動ノ歴史ト國民ノ心ノ中ニ根差シテ居ルト云フコトガハツキリシタノデアリマス、今迄ノ天皇ノ御地位ト云フモノハ、小學校ノ子供ト雖モ、疑ヲ差挾メバ差挾ミ得ルヤウナ神話ヲ基礎トシテ日本ノ基礎原理ヲ規定シタト云フコトハ、ドウシテサウ云フコトガヤレタカ今日デモ不思議ニ思ハレルノデアリマス、之ニ依ツテ愈々天皇ノ御地位ハ御安泰ト申スコトガ出來得タ次第デアリマス、斯樣ニ天皇ノ御地位ガハツキリト國法上ニ認定シ得タコトハ、先程南原君ガ申サレマシタ通リ、諸國ノ知識ヲ廣ク集メルト同時ニ、日本ノ中ニ備ツテ居ル美シイ特殊ナル傳統ヲ尊重シナケレバナラヌト云フ原理ニ當ルト思ヒマス、日本國民ノ心ノ中心トナツテオイデニナル方ガ國民ノ總意ニ依ツテ國民統合ノ象徴デアルト云フ風ニ定メルコトハ、實ニ適切デアルト考ヘテ居リマス、サウシテ國法上此ノ地位ガ定マリマスレバ、此ノ象徴タルコトト相繋ツテ適當ナル國家ノ働キニ關シマス御權能ガ之ニ附隨スベキコトハ勿論デアルノデアリマス、憲法第六條、第七條ニ定ツテ居リマスル天皇ノ御權能ハ澤山之ニ萠シテ居リマス、即チ象徴タル地位ニ伴ツテ相應シク且多過ギズ、少カラザルモノヲ特ニ留意シテ規定セラレタモノト考ヘテ居リマス、併シ此ノ限度ニ於キマシテハ色々ナ意見モ立ツコトト思ヒマス、程度ノ問題ニナルヤウナコトガアリマスルガ、何レニ致シマシテモ是ハ本質的ニ儀禮ト云フ意味ヲ深ク持ツテハ居リマスルケレドモ、決シテ儀禮ノミニ止ツテ居ルモノデナイト云フコトハ、特ニ申上ゲナクテモ能ク御承認下サリ得ルコトト思フノデアリマス、一體天皇ノ御地位ニ多クノ權能ヲ認メテ、例ヘバ法律ノ裁可デアルトカ、條約ノ批准デアルトカ云フコトヲ認メマスルコトハ確カニ國民感情ノ一面ニ於テ大イニ適合スル面ガアラウトハ思ツテ居リマス、併シ我々ハキラビヤカナル飾リヲ以テ天皇ノ御地位ヲ考ヘヨウトスルヨリモ、素朴ナル我々ノ心ノ中ニ於テ、眞ニ國民敬愛ノ中心タル天皇ヲ見ルト云フ所ニ重點ヲ置キタイ、サウシテ天皇ニ付テ色々ナ紛糾セル責任ガ起ラズ、又皇位ハ世襲デアルト云フ原理ト、天皇ニハ政治的責任ガ起ラナイト云フ原理トヲ併セ考ヘマシテ、又過去ニ於キマシテ紛糾シタ此ノ政治ガ天皇ノ名ヲ傷ツケタト云フコトヲ避ケマスル爲ニハ、斯樣ナ程度ニ六條七條ノ内容ヲ定ムルコトガ妥當ト思ツタ次第デアル譯デアリマス、是ガ大體ニ於テ此ノ政治機構ニ關シ、政治的基本性格ニ關シマスル私ノ御答デアル譯デアリマス、次ニ此ノ憲法ガ衆議院ヲ通過シテ貴族院ニ廻ツタ場合ニ、貴族院ハ如何ナル關係ヲ持ツベキモノデアルカト云フ御質疑デアリマシタ、是ハ昨日宮澤君ノ御質疑ニ對シマシテ此ノ改正憲法ガ現行憲法第七十三條ニ基イテ議會ノ議ニ付セラレテ居ルト云フコトヲ申上ゲ、其ノ關係ニ於テ説明ヲ申上ゲマシタ、即チ憲法ノ規定ニ依レバ、貴族院ハ明カニ第七十三條ノ示ス通リノ議決權ヲ行使セラルヽモノデアリ、修正權等ニ付キマシテモ、衆議院ト異ル所ハナイト考ヘテ居ル譯デアリマス、併シナガラ南原君ハソレヲ法律的ニ聽クノデハナイ、政治的ニ見テ貴族院ハ如何ニシテ宜シキカ、ド云フモノト政府ハ思ツテ居ルカト云フ御質疑デアリマスルガ、此ノ問題ハ私ガ特ニ申上グル必要モナイノデアツテ、賢明ナル貴族院ノ諸君方ガ十分聰明ニ御判斷ヲナスツテ下サリ得ルモノト思ヒマシテ、私ハ特別ナル御答ヲ申上ゲマセヌ、第二ニ「レフェレンダム」ノ問題デアリマス、此ノ憲法ハ國民ノ全意思ニ基キテ結成セラルベキモノデアルカラシテ、此ノ憲法ガ出來タナラバ、之ヲ國民投票ニ付スルト云フ方法ヲ執リ、少クトモサウ云フヤウナコトヲ此ノ憲法ノ中ニ規定ヲ置イテ、或期間ヲ經過シテ此ノ憲法ガ一應ノ效力ヲ持ツタ時ニ此ノ「レフェレンダム」ニ問ウタラ宜イデハナイカト云フ點ノ御質疑デゴザイマシタ、此ノ憲法ガ將來ノ改正手續ヲ定メテ居リマスル場合ニ「レェフレンダム」ノ制度ガアリマスル限リ、此ノ憲法ノ改正ニ付キマシテモ、亦國民投票ニ訴フルト云フコトハ筋ノ通ル一ツノ論點デアリマス、併シナガラ之ニハ先ニ申シマシタヤウニ、現行ノ憲法トノ繋リニ於テ改正ガ行ハレマスルガ故ニ、即チ憲法第七十三條ガ國内法的ナ基本原理トナツテ居ルノデアリマス、從ツテ此ノ際即座ニ「レフェレンダム」ヲ行フコトハ許サレマセヌ、然ラバ後ニ其ノ「レフェレンダム」ヲヤツタラ宜イデハナイカト云フコトガ起リマスガ、ソレニハ少クトモ「レフェレンダム」ノ規定ダケハ先ヅ憲法上效力ヲ生ジテ、他ノ規定ハ效力ヲ生ジナイト云フ段階ヲ認メナケレバナリマセヌ、斯ウ云フコトヲ考ヘテ居リマスルト、憲法改正ノ手續ガ可ナリ煩雜ナモノニナリ、ソレモ構ハヌト致シマシテモ、大體此ノ憲法ハ先ニモ申上ゲマシタヤウニ、非常ニ急グト云フコトガ好マシイノデアリマシテ、此ノ際特ニ煩雜ナル手續ハ避ケ得ラルベクンバ避ケタ方ガ宜イト思ツテ居ル譯デアリマス、處ガ今囘改正ノ道行ハ其ノ「レフェレンダム」ノ逆樣ヲ行キマシテ、先ヅ憲法草案ヲ世ノ中ニ發表シテ、然ル後ニ衆議院ノ總選擧ヲ行ツテ、其ノ國民ハ憲法草案ヲ眼ニ視、色々ナ話ヲ耳ニ聽イテ、衆議院議員ノ選舉ヲシ、其ノ議員諸君ガ衆議院ニ集ツテ此ノ憲法ヲ審議セラレタノデアリマスカラシテ、自ラ御趣旨ノ内容ハ不十分ナガラ、實質的ニハ實現セラレテ居ルモノト考ヘテ居ル次第デアリマスルカラ、此ノ際改メテ「レフェレンダム」ヲスルコトハ得策デナイト思ツテ居リマス、次ニ尚將來ハ法律ニ付テモ「レフェレンダム」ヲ行ツテハドウカト云フ御尋デアリマシタ、是ハ確カニサウ云フ考ヘ方モアリ得ルノデアリマスルガ、此ノ憲法ヲ考ヘマスル當時ノ議論ト致シマシテ、今日モ正シイト思ツテ居リマスル考ヘ方ハ、先ヅ議會政治ト云フモノヲ完備セシメマスル爲ニハ、議會ニ重點ヲ置キ、其ノ責任ヲ強化シナケレバナラヌノデアル、「レフェレンダム」ハ其ノ議會ト云フモノノ價値ヲ減少シ、其ノ責任ヲ輕クスルモノデアル、故ニ此ノ際ニ於キマシテハ「レフェレンダム」ニ進ムコトハ適當デナイト云フ結論デアリマシテ、今日モ左樣ニ考ヘテ居リマス
〔國務大臣河合良成君登壇〕
○國務大臣（河合良成君） 只今ノ南原博士ノ國民生活ノ保障、或ハ社會政策ノ實行、斯ウ云フ問題ガ此ノ憲法草案通リデヤレルカ、又ソレヲヤルトシタナラバドウ云フ風ニヤルカ、其ノ大體ノ構想ヲ話セト云フ御趣旨ノ御質問デアリマシタ、之ニ御答ヘ致シマスルガ、大體終戰後ノ國情ノ混亂モ段々落著イテ行クト云フ風ニ見テ居リマス、ソレデ一方食糧問題ニ對スル不安モ大分解消スル見透シガ付イテ參リマシタト云フ風ニナリマシタノデ、此處デ矢張リ積極的ニ色々國民生活保障、或ハ社會政策ノ實行ト云フ點ニ大膽率直ニヤツテ行カナケレバナラヌ機會ニ達シタト云フ風ニ確信シテ居リマス、ソレデ勿論此ノ議會ニモ生活保護法、或ハ失業對策ニ對スル各種ノ豫算ヲ提案シテ居リマスルガ、其ノ以外ノモノニ付キマシテハ、多分此ノ秋ニ開カルベキ議會及ビ此ノ暮ニ開カルベキ通常議會ニ出來ルダケ大部分ヲ提案スル見込デ居リマス、大體此ノ憲法ノ草案デサウ云フ目的ハ完全ニ達シテ行ケル、又此ノ憲法草案ハ其ノ意味ニ於テ非常ニ進歩的デアルト云フコトヲ信ジテ居リマス、先ヅ第一ノ御質疑ノ財産權ニ付テノ御疑問ニ對シテ御答ヘ致シマスガ、此ノ財産權ハ是ハ申ス迄モナク憲法第十二條ニ生命、自由及ビ幸福ノ追求ハ最大ニ尊重スルコトガ必要ダト云フ規定ガアリマシテ、此ノ生命、自由及ビ幸福ノ追求ト云フコトニナリマスルト、申ス迄モナク財物ガ必要ニナツテ來ルノデアリマス、ソレデ此ノ財物ト云フ問題ニ對シマシテ、或考ヘ方デハ之ヲ國有トカ公有トカ云フコトニ原則ヲ置ク考ヘ方モアリマスガ、我々ハ是ハ勿論私有ガ適當デアル、私有財産ガ適當デアル、是ハ色々ノ理由デ又私有財産制度ト云フモノヲ存置スルコトガ民族發展ノ爲ニモ宜イノダト云フ考ノ下ニ、勿論此ノ私有財産制ヲ前提トシテ參ル次第デアリマスルカラ、從ツテ財産權ハ侵シテハナラナイト云フ當然ノ規定ガ出テ來ル譯デアリマス、併シ言フ迄モナク民主國家ニ於キマシテハ、自分ノ權利ノ主張ト同時ニ他人ノ自由、權利モ勿論尊重シナクチヤナリマセヌカラ、コヽデ南原博士ノ共同民主主義的ノ考ハ勿論是ハ非常ナ大切ナコトデアリマス、サウ云フ意味ニ於テ、矢張リ一應認メタ私有財産權モ公共ノ福祉ニ適合スルヤウニヤラナクチヤナラズ、又正當ナル保障ノ下ニ之ヲ公共ノ爲ニ使用スルト云フコトヲ明示シタ譯デアリマシテ、原則ハドウシテモ私有財産制ト云フモノニ置キマスレバ、例外トシテ斯ウ云フコトニ書クト云フコトハ是ハ理ノ當然デアル、是デ大丈夫目的ハ達スル、又ソレニ對シテ正當ノ保障ヲ拂フト云フコトハ、之ガ矢張リ民主主義國家ノ理念デアルト、私ハ斯ウ云フ風ニ解釋シテ居リマス、又勤勞權、或ハ生活保障ノコトニ付テノ御尋デアリマシタガ、是ハ憲法ノ草案ヲ法律的ニ申シマスレバ、第一十五條ニ勤勞ノ權利ト義務トガアルコトガ書イテアリマシテ、又二十三條ニハ、「健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有する。」是ハ衆議院ノ修正案デアリマスルガ、ト云フ風ニ規定サレテ居リマシテ、是ハ勤勞ノ權利デアリ、又最低生活ヲ營ム權利デアリマス、權利デアリマスカラ、是ハ政府其ノ他ノモノガ之ヲ妨害シテハイカヌノデアリマス、妨害シテハイカヌケレドモ、此ノ文字ヲ法律的ニ考ヘルナラバ、權利デアルガ、國家ハ之ヲドウシテモ勤勞サセナクチヤナラヌ、最低生活ヲ營マサセナケレバナラヌ義務ガ其ノ半面ニ在ルト云フ意味デハアリマセヌ、妨害シテハナラヌト云フ權利デアリマス、併シナガラ直チニ二十三條ノ第二項デ之ヲ承ケマシテ、「國は、すべての生活部面について、社會福祉、社會保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」ト書イテ居リマス、是ハ國ノ義務デアリマス、從ツテ此ノ義務ニ對シテ政府ハ全責任ヲ持ツテ行カナケレバナラヌカラ、今迄申シマシタ勤勞ノ權利トカ或ハ最低生活ノ保障ニモ、政治的ニハ是ハ全責任ヲ持ツテ行クト云フ結果ニナル、サウ云フ風ニ私ハ法律的ニ解釋シテ居リマス、ソレデハドウ云フ風ニ之ヲヤツテ行クカ、其ノ構想ハ如何ト云フ御尋デアリマシタガ、此ノ點ニ付キマシテハ、問題ヲ矢張リ大體二ツニ分ケテ考ヘテ宜イカト思ヒマス、ソレハ一ツハ社會保障制度ノ問題デアリマス、モウ一ツハ完全雇傭ノ問題デアリマス、社會保障制度ノ問題ノ第一ニ數ヘルノハ勞働問題デアリマス、勞働問題ニ付テハ申ス迄モナク、只今勞働組合法ガ實施サレテ居リマシテ、サウシテ此ノ議會ニハ勞働關係調整法ヲ提案シテ居リマス、次期議會ニハ勞働基準法ヲ提案スル積リデ居リマス、是ハ昨日ノ新聞ニ小委員會ノ案トシテ現レマシタ、アノ基準法デアリマス、此ノ三ツデ大體勞働問題ニ關スル建前ハ完了スル見込デ居リマス、ソレカラ第二番目ノ問題ハ、生活保障ノ問題ニ重大ナ關係ヲ持ツテ居リマスル問題デアリマスガ、是ハ建前ハ只今ノ生活保護法、衆議院ヲ通過致シマシテ、只今此ノ貴族院ニ於テ審議中ノ生活保護法、之ヲ根本的ノ建前ニ致シマシテ、ソレニ組合セマシテ、失業保險ノ制度及ビ國民養老年金、是ハ國民全部ヲ網羅シタ養老年金、此ノ制度ヲ具體的ニ考ヘテ居リマス、ソレカラ國民ノ醫療ノ方面ニ關シマシテハ、國民健康保險制度ト云フモノガ只今アリマスガ、三千萬人バカリガ入ツテ居リマスガ、之ヲ強化擴充シテ行ク積リデ居リマス、ソレカラ又醫療普及、病院ヲ増設シタリ、或ハ無醫村ノ村ガアリマス、斯ウ云フ所ニ醫療ヲ普及サセル、公衆衛生ヲ極力増進シテ行ク、斯ウ云フ點ニ付テ色々施策ヲヤリタイト思ツテ居リマス、ソレカラ第二ノ完全雇傭ノ問題デアリマスルガ、是ハナカナカ日本ノ現状ニ於テハヤレマセヌ、ト申スノハ日本ニ於キマスル工業ナリ農業ガ非常ニ発達シマシテ、所謂産業ガ興ツテ來マスルト、此ノ問題ハ容易ニ行ハレルノデアリマスガ、只今ノ情勢ニ於テハ其ノ面ニ沿ウテ完全雇傭ト云フコトハムヅカシイカラ、是ハ失業救濟ノ面ヲ出來ルダケ強化シテ、暫定的ニ處理シテ行ク、又一方ニ於テハ失業保險、國民養老年金等デ之ヲ助ケテ行クト云フ方法ヨリ採ルコトガ出來ヌト思ヒマス、ソレカラ一ツ言ヒ忘レマシタガ、社會保障制度ノ中ニ寡婦、孤兒、廢疾者、浮浪者、斯ウ云フヤウナ者ニ對スル社會政策ノ實行、是ハ思切ツテ劃期的ノ方法ヲ採ツテ行ク積リデ居リマス、サウ云フ風ニ致シマシテ、此ノ憲法決定ノ曉ニハ、其ノ線ニ沿ウタ趣旨ヲ十分實行シテ行クト云フ考デ居リマス
〔國務大臣和田博雄君登壇〕
○國務大臣（和田博雄君） 私ニ關シマスル南原先生ノ御質問ニ御答ヘ致シマス、眞ノ民主主義ハ、私モ同樣ニ、ソコニ力強イ經濟ノ裏付ケガアリマセヌナラバ、又個々ノ國民ノ生活ノ内容ニ民主主義ノ精神ガ滲透致シマスルノデナイナラバ、是ハ單ナル空文ニ終ルト、斯樣ニ考ヘテ居リマス、憲法ノ上ニ現レマシタ健康ナ、サウシテ文化的ナ最低生活ノ保障、確保ノ問題ニ付キマシテハ、此ノ最低限度ノ生活其ノモノハ、是ハ我ガ國ガ今後ニ於キマスル經濟ノ力ノ發展ニ依リマシテ、變化スルト思フノデアリマスガ、差當リ、問題ト致シマシテハ、何ト申シマシテモ、最低限度ノ生活ヲ確保致シマスル上ニ於キマシテハ、食生活ニ付キマシテ國民ニ安定感ヲ與ヘルト云フコトデアルト思フノデアリマス、現在ノ食糧事情ハ甚ダ殘念ナガラ、是ハ二合一勺ト云フ極メテ貧弱ナ配給シカ出來ナイ状態デゴザイマシテ、之ヲ以チマシテ我々ハ十分國民生活ガ、國民ノ食生活ガ安定スルトハ考ヘテ居リマセヌ、幸ニ今年ハ米作、其ノ他甘藷ノ豊作ヲ期待セラレルノデゴザリマシテ、來食糧年度ニ於キマシテハ此ノ點ニ十分思ヒヲ致シマシテ、國民ガ少クトモ闇買ヲシナクテモ宜イ程度ニ配給ノ基準量モ上ゲマシテ、國民ノ食糧生活ノ安定感ヲ是非確保致シタイト努力致シテ居ル次第デゴザリマス、併シ根本ハ何ト申シマシテモ、是ハ國民ノ食糧ヲ供給致シマスル責務ヲ持ツテ居リマスル日本ノ農業ノ生産力ヲ高メマシテ、サウシテ一面ニ於キマシテ農業ニ從事致シテ居リマスル所ノ農民ノ生活及ビ文化ノ水準ヲ上ゲテ行ク、ソコニ餘裕ヲ與ヘマスルト共ニ、又一般ノ國民ニ豊富ナル食糧ヲ供給シ得ルヤウニ致シマシテ、國民ノ食生活ノ根本ヲ培ツテ行クコトダト、斯樣ニ考ヘルノデアリマス、從ヒマシテ政府トシマシテハ、今囘農地制度ノ第二次改革ヲ提案致シマシテ、日本ノ農業ノ生産力ヲ高メ、又農村ヲ民主化シマスルニ付キマシテノ方途ヲ講ジマシテ、只今私ガ申シマシタヤウナ目的ヲ達成スル爲ノ一ツノ手段ヲ講ズルコトト致シタノデゴザイマス、簡單デゴザイマスガ、私ノ答辯ヲ終リマス
〔國務大臣田中耕太郎君登壇〕
○國務大臣（田中耕太郎君） 南原君ノ三點ニ關スル御質問ニ御答ヘ申上ゲマス、先ヅ第一ニ教權ノ確立ニ付テノ御質問デゴザイマス、現状迄ノ制度ニ於キマシテハ、實際第一線ノ教育界ガ、或ハ官僚的ノ勢力ニ依リ、或ハ地方的或ハ中央的政治的ノ權力ニ依ツテ歪メラレテ參ツタノデアリマス、其ノコトハ我々特ニ戰時中ニ於テ痛感致シタ所デアリマス、デ是ガ詰リ教育ノ劃一主義、又教育界カラ溌剌タル精神ヲ奪ツテシマツタト云フヤウナ譯デゴザイマス、從ツテ今後ニ於キマシテハ第一線ノ教育界ヲ、官僚主義又政治的ノ干渉カラ確保シナケレバナラナイト云フコトハ、是ハ一般ニ教育界ノミナラズ、一般ノ與論トナツテ居ルト申シテモ宜イト思フノデゴザイマス、是ハ丁度大學ニ付テ認メラレテ居リマス所ノ自治ト程度ハ或ハ全ク同ジデハナイカモ知レマセヌケレドモ、同ジ精神カラ出テ居ルモノデゴザイマス、又司法權ニ付テ制度化シテ認メラレテ居ルヤウナ、サウ云フ趣旨ト其ノ精神ニ於テ共通ナモノガアル譯デアリマス
サウ云フ意味ヲ以チマシテ、昨年ノ秋以來文部省ト致シマシテハ此ノ問題ヲ非常ニ愼重ニ審議シテ參ツテ居リマス、或ハ外國ノ制度ヲ參考ニシ、外國ト申シマシテモ必ズシモ米國バカリデハナイ、他ノ國々ノ制度ヲモ及バズナガラ參考ニシテ檢討シテ參ツテ居ルノデアリマス、先程御指摘ニナリマシタヤウナ學制、其ノ頭ニ大學ノ總長ヲ持ツテ來ルト云フヤウナコトハ、是モ「フランス」ニゴザイマスノデ、本來ノ趣旨ハ、詰リ決シテ他ノ省ニ屬シテ居ル教育ニ關スル權限ヲ文部省ガ取ツテシマフト云フヤウナ、或ハ地方的ノモノヲ中央ニ收メヨウトカト云フヤウナ、サウ云フ官僚主義的ナ、繩張主義的ナ考ハ全クナイノデアリマス、若シサウ云フ風ニ御解シニナツテ居ルトスルナラバ、我々ノ眞意ガマダ十分理解サレテナイト云フ風ニ存ズル次第デゴザイマス、我々ノ目途ト致シマス所ハ全ク、詰リ地方ノ教育界ニ、教育的活動ノ主ナル部分ヲ委ネル、中央ノ文部省ニ於キマシテハ、出來ルダケ大幅ニ教育ノ實質ニ關スル權限ヲ縮小致シマシテサウシテ地方ニ委ネル、文部省ハ單ナル教育界ノ連絡、世話役、マア併シ、教科書ノ編纂トカ云フヤウナ、紙ノ不足ノ際、今日ハ已ムヲ得ナイ次第デゴザイマス、又或意味ノ民主主義的ノ教育原理ヲ徹底サセル意味ニ於テハ已ムヲ得ナイモノト存ズルノデアリマスガ、サウ云フ方面ヲヤリマシテ、アトハ地方ノ實際ノ教育家ニ委セル、ソレニ付テハ地方ノ一般行政ニ屬シテ居ツタ所ノ、詰リ地方ノ官僚ニ屬シテ居ツタ權限ノ一部分モ、其ノ地方ノ教育界ニ委ネルト云フヤウナ構想ヲ以テ研究致シテ居ル次第デゴザイマスガ、マダ成案ヲ得タ譯デハゴザイマセヌカラ、此處デ現在ノ状態ヲ申上ゲル譯ニハ參ラナイ次第ザアリマス、サウ云フ意味ニ於キマシテ、先程御話ニナリマシタ教育ノ地方分權ト云フ精神ハ、我々ノ考ヘテ居ル精神デモアルノデゴザイマス、ソレカラ第二點デゴザイマスガ、今後ノ政治教育ヲドウシタラ宜イカト云フ問題デゴザイマスガ、先程御話ガアリマシタヤウニ、詰リ各箇ノ政黨政派ヲ超越スル所ノ共通ノ再教育ヲ通ジ世界觀ニ立脚シテヤラナケレバナラヌヂヤナイカ、是ハ全クサウ云フ考デ以テヤラナケレバナラヌト思フノデゴザイマス、詰リ憲法ノ改正案ノ前文ニ謳ハレテ居リマスヤウナ、アヽ云フヤウナ精神、又ソレ以外ニ補ハナケレバナラナイ點モ多々アルト思フノデゴザイマスガ、詰リ政治的ノ色々ナ立場ノ最大公約數的ノモノガアルト思フノデゴザイマス、ソレヲ詰リ今後學校教育ナリ或ハ社會教育ノ方面ニ於テ徹底シナケレバナラナイト云フ風ニ存ジテ居リマス、其ノ方法ハ、或ハ教科書ヲ通ジ、或ハ先生ノ再教育ヲ通ジ、或ハ大學ノ専門學校ノ教授ノ方々ニ御協力ヲ願ツテヤラナケレバナラナイコトモゴザイマセウシ、色々「プラン」ヲ文部省ト致シマシテハ立テテ居ル次第デゴザイマス、ソレカラ第三ノ點ノ、私自身ガ數箇月前ニ天皇制ノ辯明ニ付キマシテ、小サナ短イ文章ヲ新聞ニ載セマシタ、ソレヲ書イタ氣持ト、現在憲法改正案ガ現内閣ニ依ツテ上程セラレタ其ノ閣僚ノ一員トシテ持ツテ居ル感想如何ト云フ御質問デゴザイマス、私ハ其ノ文章ヲ書キマシタ時ト今日ト、天皇制ト云フモノニ付テノ、持ツテ居リマス所ノ考ハ全ク變ラナイノデゴザイマス、私ハ其ノ文章ヲ書キマシタ時ニ持ツテ居ツタ考ハ、日本ガ詰リ共和國、大統領ヲ頭トスル所ノ共和國ニナツテハナラナイ、サウデナイナラバ日本ハ「ラテンアメリカ」諸國ノヤウニ「アナーキー」ニナツテシマフ、革命トソレカラ獨裁制ト云フモノガ交替ニ日本ヲ見舞ツテ來ルダラウ、日本ガ秩序ヲ維持スルノハ、天皇ヲ中心トシテ統合サレテ居ル以外ニハナインダト云フ氣持カラデアリマス、從ツテ天皇ノ御權限ノ範圍ノ廣狹如何、或ハ御地位ニ付キマシテノ法律上ノ學者ノ加ヘル所ノ解釋如何ト云フヤウナコトニハ關係ナイノデアリマシテ、天皇ハ御存在自身、天皇ノ地位ニアラレルコト自身ガ、我ガ國民ノ爲ニ必要ナノデアリマス、詰リ天皇ハ我ガ國ノ秩序ノ象徴ト申上ゲテモ宜イト思フノデアリマス、其ノ天皇ハ憲法改正案ニ於キマシテ天皇タル地位ニ御出デニナルノデアリマスカラ、從ツテ私自身心境ニ於テ何等變化ハアリマセヌ、確信ニ於テモ何等變リハナイコトヲ申上ゲテ置キタイト思ヒマス（拍手）
○議長（公爵徳川家正君） 休憩ヲ致シマス、午後ハ一時四十五分ヨリ開會致シマス
午後零時四十九分休憩
━━━━━◇━━━━
午後一時五十二分開議
○議長（公爵徳川家正君） 休憩前ニ引續キ會議ヲ開キマス、休憩中内閣總理大臣ヨリ、九月二十七日迄三十日間帝國議會ノ會期ノ延長ヲ命ゼラルヽ旨ノ詔書ガ傳達セラレマシタ
━━━━━◇━━━━
○議長（公爵徳川家正君） 南原君
〔南原繁君登壇〕
○南原繁君 先程私ノ質疑ニ對シマシテ、厚生大臣、農林大臣、文部大臣カラソレゾレ御答辯ガアリマシタ、ソレニ依リマシテ私ノ了解致シタ點モゴザイマスルシ、尚御尋ネ致シタイコトモゴザイマスケレドモ、是ハ又他ノ適當ナ機會ニ讓リタイト存ジマス、ソレカラ幣原國務大臣ニ對シテ御尋ネ申上ゲタコトニ付テモ御説明ヲ戴キマシタ、率直ニ申上ゲマシテ、私ハ之ニ對シテ滿足ヲ致シマセヌ、是ハ國務大臣ハ現在ノ憲法ノ運用宜シキヲ得レバ必ズシモ改正ノ必要ガナイト云フ御認識カラ抑々出發セラレタト云フコトデアリマシテ、其ノ御認識自身ヲ私ハ初メカラ問題ニシテ居ルノデアリマシテ、サウ云フ面ガアリマスルト同時ニ、如何ニアノ時代ニ良キ憲法デアツタトハ申セ、憲法自身ニ又遺憾ナガラ根本ノ問題ガ一面ニアルノデアリマス、サウ云フ御認識ヲ以テ、此ノ國家轉換ノ大時代ニ政治家トシテ初メカラ此ノ問題ニ臨マレルト云フコトガ私ハ無理デアツタト御尋ネシタノデアリマシテ、ソレニ其ノ後松本國務相ダケニ御委ネニナツテ、其ノ一試案トシテノ憲法改正案ヲ殆ド最後迄御使ニナツテ、サウ云フ政府御自身ノ御作ニナツタ調査委員會、ソレト最後ノ段階ニ於ケルアノ結末ト云フモノトハドウ云フ關係ニアツタカト云フ風ナコトニ付テ御尋ネシタノデアリマスケレドモ、私ハ此ノ問題ニ付テ十分了承ハ致シマセヌケレドモ、是レ以上御尋ネ申上ゲルコトハ最早止メマス、唯吉田總理大臣ニ對シテ御尋ネ致シタイノデアリマスケレドモ、其ノ爲ニ御出席ヲ要求シテ置キマシタガ、萬已ムヲ得ナイ御理由デ出テ居ラレマセヌト云フコトデアリマス、是ハドウカ後デ速記録ヲ御覽戴キマシテ、何カノ機會ニ御答ヲ願ヒタイト思フノデス、ソレハ一ツハ今申上ゲマシタヤウナ次第デ、最後ニ三月六日政府發表ノ通リノ結末ニナリマシタ、其ノコトト「ポツダム」宣言ニ規定セラレテアリマスル日本ノ自主的ナ態度ニ依ツテ、少クトモ最高形態ハ決メテ宜シイト云フコトハ、純粹ニ客觀的ニ見マシテドウ云フソコニ解釋ガ執ラレルノカ、其ノコトヲ御聽キシタノデアリマシテ、此ノ重要ナル問題ガ御答ヘ洩レデアリマシタカラ、是ハ大事ナ問題ト存ジマスノデ、御尋ネ申シテ置キマス、モウ一ツ大事ナ問題ト致シマシテハ、新憲法ノ安定性ノコトヲ御尋ネ致シタ積リデアリマス、是ハ事實我々ガ耳ニスル限リニ於キマシテハ、先程申上ゲタヤウナ意味ノ不幸ニシテ臆測ガ、或ハ印象ガアルノデアリマス、之ニ我々ハ耳ト眼ヲ蔽フコトハ出來マセヌ、私ハ新憲法ヲシテ眞ニ日本ノモノタラシメルガ故ニ、此ノ事實ヲ極メテ重大ニ考ヘルノデアリマス、今日政府ガドウ云フ風ニ御認識ニナツテ、之ニ對スル對策ヲドウ御講ニナツテ居ルカ、是ハ政府トシテハ何ヨリモ既ニ爲シテ居ルベキ、又今後モ計畫ヲ持ツテ爲サナケレバナラヌコトデアルト思ヒマス、サウデナケレバ、新憲法安定性ノ上ニ於テ重大ナル危惧ガアルノデアリマス、此ノコトヲ政府ハドウ云フ風ニ御考ニナツテ居ラレルカ、對策ヲセラレルカ、篤ト御考ヘノ上、御答辯ヲ願ツテ置キタイト存ジマス、一ツ先程承ツテ居リマシテ、伺ヒタイ重要ナ問題ト思ヒマスノハ、金森國務相ノ御答辯ニ付テデアリマス、日本ノ主權或ハ國軆ノ問題ニ付キマシテハ、是レ以上オ互ニ質議致シマシテモ、是ハ無用デアリマス、失禮ナガラ私共ガ此ノ問題ニ付テ衆議院竝ニ貴族院ニ於テ是迄闘ハサレマシタ經過ヲ見テ居リマシテ、今ヤ問題ノ所在ハ極メテ明瞭デアリマス、即チ此ノ問題ニ關シテハ金森國務相ガ主トナリ、先程來御説明ノアリマシタヤウナ解釋ヲシテ居ラレルノデアリマス、殊ニ著シイノハ國民主權、主權在國民ト申シテモ、其ノ國民ノ中ニハ天皇ヲ含ンデ居ル、ソレ故ニ從來ノ日本ノ根本的ナ性格、或ハ或意味ニ於テノ國體トハ變リハナイノダト、此ノ御説明ハ金森國務相ノ御意見トシテ繰返シ拜聽致シマタ、ソレハ獨リ政府トシテハ同國務相ダケデハナク、恐ラク政府全體ノ御意見ト承知シテ居ルノデアリマス、ケレドモ、問題ハ、私ノ御尋ネシタイノハ、ソレハ政府ノ意見、少クトモ之ニ協贊ヲ與ヘマスル議會ノ意見デアリマス、ケレドモ、今後是ハ愈々新憲法トナツテ確定シマシテ國内ニモ國外ニモ是ガ愈々公布サレタ場合ニ於キマシテ、其ノ解釋ガ何處迄維持セラレルカ、政府ハソレニ對シテドウ云フ態度ヲ御執ニナルカ、明治憲法ニ付キマシテハ、伊藤公ノ憲法義解ナルモノガアリマス、政府デソレニ似タ有權的ナ解釋書ヲ作リマシテモ、ソレガ如何程ノ權威ヲ持チマスカ、殊ニ學問ト言論ノ自由ノ新シイ時代ニ於キマシテハ、政府ガ一定ノ決メタ新憲法ニ於テハ、斯クノ如ク國體ハ解スベキモノダ、或ハ主權概念ハ斯クノ如クスベキダト御解シニナツテ、ソレヲ宣傳サレマシテモ、其ノ通リソレガ擴ガリ、ソレガ受入レラレルトハ決シテ限ラナイノデアリマス、眞理ガ最後ノ勝利ヲ得ルノデアリマス、私ハ大學ニ關係スル一人トシテ申上ゲマス、少クトモ是ガ世界ニ普遍的ナル國民主權乃至人民主權ト違ツテ、我ガ國特有ノ今迄ノ考ヘ方ト變ツテ居ナイ、君主モ含メテノ國民主權ダト云フコトヲ仰シヤツテモ、其ノ議論ハ今ノ教養ノアル者ニハ通リマセヌ、恐ラクハ憲法ヲ擔當シテ居ル教官、行政法、政治學、法律學ノ初歩ヲ研究シタ者デモ、其ノ議論ヲ受入レヲスルトハ、決シテ私ハ請合フコトガ出來ナイノデアリマス、左樣ナ次第デアリマシテ、眞理ガ遂ニ擴ガツテ、政府ノ現在御採ニナツテ居ル解釋ト違ツタモノガ、ソレガ普及シテ、ソレガ勝利ヲ得ルト云フコトニナツタ場合ニ於テドウナルカ、即チ私ノ御尋ネシタイノハ、其ノ爲ニ政府ハドウ云フ方策ヲ御採ニナルカ、サウ云フ場合ヲ豫想シマシテ‥‥‥、從來ト違ツテ言論ノ制限ヲスルコトハ出來マセヌ、憲法學説ヲ一定ノ枠ニ當嵌メルコトモ出來マセヌデセウ、此ノ時ニ之ニ對抗シテ、政府ハドウ云フ態度ヲ御執ニナルカ、是ハ眞面目ナ問題卜シテ考ヘマス、之ニ依リマシテスツカリ變ヘルノダ、今迄ノ國體觀念モ變ヘルノダ、主權概念モ變ヘルノダト云フコトヲ明カニ仰シヤツテ、國民ニソレヲ覺悟サシテヤルナラ、是ハ別デアリマス、ケレドモ、是ダケノ根本的ナ改革ガ加ツテ居ツテ、而モ尚且變ラナイモノデアルト云フ屬性ヲ仰シヤル爲ニハ、一體ドウ云フ方法ヲ御執ニナラレルカ、ドウ云フ對策ヲ持ツテ居ラレルカ、之ヲ金森國務相ニ御尋ネシテ置キマス、ソレガ萬一‥‥‥萬一ト云フヨリモ、私ハ火ヲ睹ルヨリモ明カダト思ツテ居リマス、ソレガ世間ガ之ヲ受入レナイ時ハ、國民ガ之ヲ受入レヌ場合ニハ、我々學者ガ考ヘルヤウニ、是ガ完全ナル世界共通ノ普遍的ノ人民主權ノ問題ニナツテ、之ニ大ナル變革ガアツタト云フコトニナリマシタ場合ニ、此ノ草案作成ニ當ツタ所ノ政府、命ヲ賭ケテ此ノ作成ニ當ツタ政府ガドウ云フ責任ヲ御取リニナルノカ、是ハ悔イテモ及バヌコトガ起ルカモ存ジマセヌ、ソレハ總理大臣ニ於テ政府ヲ代表セラレテ御答辯ヲ他ノ機會ニ戴キタイト思フノデアリマス、之ヲ以テ私ノ質疑ヲ終リマス
〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕
○國務大臣（男爵幣原喜重郎君） 只今私ガ御答申上ゲタコトガ、南原博士ニ御不滿足デアツタヤウデアリマス、是ハ私ノ言ヒ現シ方ガ甚ダ宜シクナカツタノデアリマセウカラ、是ハ致シ方モアリマセヌガ、只今仰セラレタ中ニ一言申上ゲテ置ク必要ガアリマス、ソレハ私ガ初メカラ、此ノ憲法ハ運用宜シキヲ得レバ改正スルノ必要ナイト云フ、其ノ見地カラ出發シテ此ノ問題ニ進ンデ行ツタノデアルト云フヤウナ御話ガアリマシタ、絶對ニサウ云フコトハアリマセヌ、私ハサウ云ツタヤウナ見地ガ‥‥サウ云フ風ナ見方モアルカモ知レヌケレドモ、此ノ際ハ總テ古イ著物ハ投ゲ棄テテ、新シイ見地ヨリ出發シナケレバイケナインダ、内外ノ情勢ニ徴シテ見レバ、サウ云ツタヤウナ見地ニ拘泥スベキモノデナイト云ツタヤウニ私ハ説明シタ積リデアリマス、若シサウ云ツタヤウナ見地カラ出發シマスナラバ、何ノ必要ガアツテ調査會ヲ設ケマセウ、松本博士ヲ主任トシタ調査會ヲ設ケマシタノハ、改正スルノ必要ガアルト認メタカラデアリマス、從ツテ改正スルノ必要ナシ卜認メテ調査ニ著手シタト仰セラレルナラバ、事實誤リデアリマスカラ、此ノ點ヲ申上ゲテ置キマス
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕
○國務大臣（金森徳次郎君） 只今南原君ヨリ、私ノ縷々申上ゲマシタ點ニ付テ反對ノ御意見ヲ御示ニナリマシタ、多分其ノ重點ハ、私ハ曾テ申上ゲマシタ、天皇ハ國民ノ中ニ在ル、其ノ國民ノ全體ニ主權ガアル卜、此ノ點デアラウト思ヒマシタガ、ソレニ付キマシテ、政府ハ左樣ニ答辯ヲスル、併シ眞理ハ最後ノ勝利者デアル、斯ウ云フ風ニ仰シヤツテ、ソレニ對シテ如何ニ對抗スルカト云フ御質問デアリマシタ、私モ亦眞理ハ最後ノ勝利者デアルト云フ風ニ考ヘテ居リマスカラ、之ニ別ニ對抗スル考ハ今持ツテ居リマセヌノデアリマス
○南原繁君 是デ質疑ヲ終リマス
○議長（公爵徳川家正君） 牧野英一君
〔牧野英一君登壇〕
○牧野英一君 此ノ憲法改正案ニ對シ、私ハ唯極ク小サイ、狭イ、サウシテ細カイ立場カラ政府ノ御考ヲ伺ヒタイト思ヒマス、私ハ自分ガ專門トシテ年來御奉公ヲ致シマスル學問ノ立場カラ、基本的人權ニ關スル部分ニ付テ質疑ヲ提出スル譯デアリマス、併シナガラ憲法ノ構成ハ、其ノ一半ガ國家機關ノ構成及ビ權限デアリマシテ、其ノ他ノ一半ガ國民ノ權利義務ニナル譯デアリマス、サウシテ此ノ兩者ガ互ニ關聯ヲ致シテ居リマスルノデ、憲法ノ一部分タル基本的人權ニ關シテ質疑ヲ申出マスルコトハ、自ラ憲法改正案全體ノ精神ニ亙ル質疑ニナルノデアリマス、即チ私ノ質疑ト致シマスル要點ハ、此ノ改正案ノ中ニ現レテ居ル國家理念ガ果シテドウ云フモノデアルカト云フ點ニアルノデアリマス、私ハ唯此ノ改正案ノ第三章、即チ第十條以下ノ中デモ、其ノ一部分ニ對シテ疑ガ出ルノデアリマスルガ、サウシテ又之ヲ所謂公法上ノ見地カラデナク、民法及ビ刑法ノ立場カラ質疑ヲ提出スルダケノコトデアリマスルケレドモ、併シ其ノ立場カラ伺フノハ、國家理念其ノモノデアリマス、從來ノ憲法ニ於キマシテハ、我ガ現行憲法ヲ初メト致シマシテ、十九世紀ノ諸國ノ憲法ニ於テハ、其ノ國家理念、即チ不干渉主義、放任主義、「レッセフェール」ノ原則ノ結果トシテ、民法、刑法ニ付テハ關聯スル所ガ先ヅナカツタノデアリマス、併シナガラ此ノ新シイ憲法ノ改正案ニ依ツテ、我々ガ今構成セムトスル所ノ國家理論ニ於テハ、憲法ハ民法、刑法ト相交渉スル所ガ甚ダ密接ナノデアリマス、從來ノ憲法ハ謂ハバ唯政治ノ法律デアルニ過ギナイノデアリマスルガ、此ノ憲法改正案ハ更ニ大イニ日常生活ノ法律デアルコトニナツテ居リマス、從來ノ憲法ニ於テハ所有權不可侵ノ原則、現行憲法ノ二十七條、又罪刑法定主義ノ原則、現行憲法ノ二十三條、此ノ二ツノ簡單ナ規定ガアルニ止ルノデアリマスルケレドモ、今憲法ヲ新タニセネバナラヌト云フコトニナツテ見マスルト云フト、此ノ二ツノ從來ノ規定、而モ此ノ從來ノ規定ト云フノハ、所謂立法事項ヲ規定シタモノデアリマシテ、法律ヲ以テ民法及ビ刑法ノ内容ヲ如何ヤウニトモ規定スルコトノ出來ルモノデアリマスルカラ、憲法ソレ自體ハ謂ハバ民法ニ付テ、刑法ニ付テ、直接ニ何事ヲモ規定シテ居ラヌト言ツテ宜イ位ノモノデアリマス、併シナガラ此ノ新シイ憲法改正案ニ於テハ、最早此ノ我々ノ基本的人權ノコトヲ立法事項トシテ法律ニ讓ツテ居ルノデハアリマセヌ、憲法其ノモノガ此ノ日常生活ノ原則ヲ規定シテ、之ヲ以テ將來ノ立法ヲ羈束シテ居ル譯デアリマス、サウ云フ譯デアリマスルカラ、此ノ新シク成立スベキ憲法ハ公法バカリデナイ、私法ノ要素ヲモ大イニ含ンデ居ルト云フコトヲ考ヘテ戴キ、私法トシテノ憲法ノ意味及ビ解釋ト云フコトガ、是カラ我々ノ大キナ問題ニナルモノト言ハネバナリマセヌ、サウシテ若シ立法權ガ將來ノ民法、將來ノ刑法ニ於テ、此ノ新シイ憲法ノ精神ニ適合シナイ規定ヲ設ケルナラバ、其ノ時ニ於テ最高裁判所ハソレヲ憲法違反ナリト宣言セネバナラヌコトニナツテ居ル譯デアリマス、是ガ此ノ新シイ憲法ノ特色デアリマス、私共ノ考デハ從來ハ憲法ハ公法學者ノ取扱フモノトサレタノデアリマスルガ、無論依然トシテ憲法ハ公法學者ノモノデアリマス、併シナガラ同時ニ我々民法、刑法ノ學問ニ從事シテ居ル者モ、此ノ憲法ニ付テハ大イニ發言スル權利ヲ持ツテ居ル、斯ウ云フ風ニ私ハ考ヘマス、ソコニ新シイ國家理念ガ盛ラレテ居ルモノト考ヘタイノデアリマシテ、斯樣ニ憲法ヲ以テ公法デアルト同時ニ、又私法デモアルト、斯ウ云フ私ノ見解ガ、果シテ政府ノ御承認ニナル所デゴザリマセウカ、ソレヲ第一ニ伺ツテ置キタイト思フノデアリマス、ソレガ質疑ノ第一點、此ノヤウナ考ヲ若シ御容レ下サルコトガ出來ルモノデアルト致シマスルナラバ、其ノ立場カラシテ憲法ノ此ノ改正案ノ第三章ヲ讀直シテ見タイ、斯ウ思フノデアリマス、サウ云フ積リデ繰返シテ此ノ規定ヲ見マシタガ、ドウモ此ノ規定ノ形式ガ從來ノ憲法其ノ儘ノ甚ダ傳統的ナ形ヲ出デナイモノニナツテ居ルヤウニ思ハレマス、抑々基本的人權ト云フ考ヘ方ハ「アメリカ」諸州ノ權利章典カラ始ツテ、「フランス」ノ人權宣言ニ入リ、斯ウシテ十九世紀ノ諸國ノ憲法ニ擴ガツタモノデアリマス、ソレハ所謂十九世紀式ノ法治國思想ニ屬スルモノデアリマシテ、國家ハ國民ノ一定ノ權利自由ニ對シ、之ニ干渉シナイト云フ消極的ナ義務ヲ持ツテ居ルト云フ趣旨ノモノデアリマス、是ハ十九世紀ノ個人主義、自由主義トシテ成立シタモノデアリ、之ニ依ツテ固ヨリ一方ニハ自由競爭ノ原則ガ確カメラレ、他方ニ於テハ國家ガ無暗ニ個人ノ生活ニ干渉シナイト云フ放任主義ガ樹立セラレマシタノデ、所謂十九世紀ノ繁榮ト云フモノガ出來上ツタ譯デアリマス、併シナガラ此ノ十九世紀ノ繁榮ト云フモノハ、其ノ結果トシテ社會問題ト云フモノヲ惹起スルコトニナリマシタ、此ノ社會問題ヲ適當ニ解決スル爲ニ國家ハ新タニ自己ノ責務ヲ感ジナケレバナラヌコトニナリマシタ、斯樣ナ立場カラ考ヘマスト、今日ノ國家ハ十九世紀ノ國家カラ更ニ發展シテ、二十世紀ノ法治國ニナラネバナリマセヌ、此ノ二十世紀ノ法治國ト云フモノヲ我々ハ文化國ト名付ケテ居リマス、文化國ト云フ考ヘ方ハ特ニ今日ノ特別ナ國際情勢ノ爲ニ、我々ガ已ムヲ得ズ引込マレタ考ヘ方デハナイノデアリマシテ、實ニ十九世紀ノ終リカラト申シマセウカ、二十世紀ノ初メカラト申シマセウカ、就中第一次ノ世界戰爭後カラ著シク世界ヲ通ジテノ最近ノ普遍的ナ國家理念ニナツテ居ルノデアリマスル、斯樣ナ立場カラ考ヘテ見マスルト云フト、憲法改正案ノ第三章ノ規定ハ全體トシテ眺メタ時ニ、一應之ヲ虚心平氣ニ讀ンダ時ニ、ソレハ單ニ國民ノ人權ヲ尊重シ、國家ノ不干渉ノ消極的ナ義務ヲ規定シタニ過ギナイ、即チ十九世紀ノ憲法ノ形式ヲ出デナイノデアルト云フ印象ヲ受ケルノデアリマス、此ノコトハ現ニ此ノ政府原案デ申シマスレバ、第十一條、人權ハ國民各自ガ其ノ不斷ノ努力ニ依ツテ自ラ擴充シナケレバナラヌモノデアル、ト斯ウ言ツテ居ルノデアリマシテ、國家ガ國民ノ權利、國民ノ自由ノ内容ヲ擴充シテヤルト云フコトニ付テノ積極的ナ責務ニ付テハ必ズシモ明カニナツテ居ナイノデアリマス、ソレハ從來ノ所謂「レッセフェール」ノ原則デアリマス、併シ二十世紀ノ今日ニ於テハ、文化國トシテ國民各自ガソレゾレ十分ニ努力ヲ重ネネバナラヌト云フコトハ當然ナコトデアリマスガ、併シナガラソレニ加ヘテ國家ノ方面ニ於ケル文化的工作、即チ積極的ニ國家ガ總テノモノヲ擴充シ、總テノモノヲ促進スルト云フコトニ付テノ責務ヲ重ク考ヘテ行ク譯ニナルノデアリマス、私ハ此ノ憲法改正案ヲ通讀致シマシテ、是ガ必ズシモ放任主義ニ終始シテ居ルモノトハ思ヒマセヌ、併シナガラ全體ノ形式トシテ總テガ「アメリカ」ノ權利章典ヲ出ヅルコト幾何ゾヤ、「フランス」ノ人權宣言ヲ出ヅルコト幾何ゾヤ、斯樣ニ考ヘザルヲ得マセヌ、又斯樣ニ考ヘルコトハ、昨日來ノ方々ノ御説ノ中ニモ見エテ居リマスシ、又現ニ世ノ中ニ公ニサレテ居ル色々ノ人ノ批評ニモ見エテ居ル所デアリマス、固ヨリ我ガ國ハマダ所謂封建制度ノ殘リ滓ヲ免カレナイモノガ澤山アルノデ、斯樣ニシテ今世界ノ輿論カラ深刻ナ批評ヲ受ケネバナラヌコトニナリマシタノデ、此ノ憲法改正案ニ於テモ、基本的人權ニ關スル規定ガ、其ノヤウナ封建性ヲ振捨テヤウト云フ所ニ大イニ眼目ヲ置イテ居ルト云フコトハ、成ル程十分理解ヲ持ツテ考ヘネバナラヌノデゴザイマセウ、併シナガラソレダケデハ十九世紀ノ國家ニナルダケト云フコトデアリマス、二十世紀ニ於ケル世界ノ國家理念ナルモノガドウ云フモノデアルカト云フコトヲ考ヘ、世界的ノ趨勢ニ副ウテ、列國ニ對シ其ノ「フロント」ヲ一樣ニシヨウト云フ立場カラハ、甚ダ滿足ノ出來ナイモノデアルト考ヘタイノデアリマス、政府ハ或ハ是デ十分我々ノ所謂文化國家ノ理想ヲ明カニシタモノデアルト斯ウ仰セラレルカモ知レマセヌ、サウ云フコトニナリマスレバ、固ヨリ見解ノ相違デ致シ方ガナイコトニモナリマセウガ、併シ各位ニ於テモ能ク此ノ憲法ノ改正案ヲ通覽シテ戴キタイ、全體トシテ此ノ心持ガ甚ダ十九世紀式ノモノヲ免カレナイト思フノデアリマス、政府原案ノ第十一條ハ國民ノ權利及ビ自由ガ國民自身ノ不斷ノ努力ニ依ツテ保持セラレネバナラヌト云フコトヲ明カニシ、ソレニ引續イテ第十二條ニ、國民ノ權利ハ立法其ノ他國政ノ上デ最大ノ尊重ヲ必要トスルトシテ居ルノデアリマス、此ノ位ナ程度、先ヅ此ノ第三章ヲ十條カラ讀ミ下シマスト此ノ位ナ程度デアリマス、斯樣ナ程度デハ所謂幸福追求ノ權利ニ對スル各自ノ何ト申シマスカ、自由競爭ニ付テ、此ノ世ノ中ノ自由競爭ニ對シ其ノ公正ヲ維持スルト云フ、謂ハバ警察的任務ヲ國家ガ持ツテ居ルト云フダケノモノデアリマシテ、國家ガ進ンデ國民ノ總テノ者ニ對シ其ノ生存權ノ充實ニ付テ積極的ナ責務ヲ負フト云フ意味ガ十分デナイ、私ハ第三章ノ初ノ所、劈頭第一ニ、國家ノ文化的任務ト云フモノガ明ラカニセラレテ欲シイト思フノデアリマス、若シ私ノ今印象ト致シテ居リマスルヤウニ、此ノ改正案ガ其ノ大體トシテ、基本的人權ニ對シテハ單ニ消極的ナ意味ノモノデアルニ過ギナイト致シマスルナラバ、ソレハ政治ノ出發點トシテ、最小限度トシテ成ル程ト云フダケノモノデアリマス、將來ニ亙リ我ガ國ノ憲法トシテ國家發展ノ原則、生生ノ原理ヲ据附ケタモノト云フ譯ニハナリマセヌ、憲法トシテ國民ノ經典トナリ、國民ノ教科書トナルニハ程遠イ古イ形式ノモノト言ハナケレバナリマスマイ、憲法ハ國民生活ノ出發點トシテ最小限度ノモノトシテニ止ルベキモノデハゴザリマセヌ、國民生活ノ全體ニ亙ル發展ノ基本原則ヲ示サネバナリマセヌ、サウシテ民法及ビ刑法ニ關シテ、其ノ積極的ナ原理ヲ憲法ノ上ニモツト鮮カニ、鮮明ニ示サレテ欲シイト、斯ウ云フ風ニ私ハ考ヘル次第デアリマス、斯樣ナ所カラ暫ク、民法及ビ商法ニ對シテ此ノ憲法ノ適用ガドウ云フ風ニナルデアラウカト云フコトヲ、考ヘテミタイモノト思ヒマス、一體此ノ十九世紀ノ諸國ノ憲法ハ比較法學的ニ考ヘマシテ、三ツノ原則ヲ基本ト致シテ居リマス、ソレハ第一ニ人權宣言ノ第一條ニ見エテ居リマスル自由平等ノ原則デアリマスルシ、第二ハ、人權宣言ノ第八條ニ見エテ居リマスル罪刑法定主義デアリマスルシ、サウシテ第三ハ、其ノ第十七條ニ現レテ居ル所有權不可侵ノ原則デアリマス、此ノ三種ノ憲法上ノ原則カラ出發致シマシテ、十九世紀ノ諸國ノ民法及ビ刑法ノ各種ノ規定ガ導キ出サレテ居ルノデアリマス、併シ今日ニ於テハ此ノ三ツノ原則ハ批評ヲ免レナイコトニナツテ居リマス、固ヨリ此ノ三ツヲ排斥スルト云フノデハアリマセヌ、ソレヲ含ミナガラ、包含シツヽ、併シナガラ更ニソレ以上ニ展開スル所謂「オーダー」ノ一ツ高イモノニナラネバナラヌ譯デアリマス、斯樣ニシテ私共ハ新シイ憲法ノ原則トシテ三ツノモノヲ要求致シマス、第一ハ生存權ノ原則デアリマス、第二ハ改善刑、刑ハ犯人ノ改善ヲ目的トスルト云フ改善刑ノ原則デアリ、サウシテ其ノ第三ハ所有權ヲ以テ、私有財産權デハアルガ、同時ニ公共性ヲ持ツモノデアリ、ソレハ義務ヲ包含スルモノデアルト云フ原則デアリマス、固ヨリ今日ノ憲法ノ下ニ於テデモ此ノ三ツノ原則ハ既ニ注意スベキ發達ヲ致シテ居リマス、從ツテ之ヲ以テ新シイ原則トスル程ノコトデハナイノデゴザイマスルケレドモ、兎ニ角是ハ十九世紀ノ百年ヲ經テ、二十世紀ノ初頭ニ至ツテカラ、漸次形ヲ成スニ至ツタ所ノ三種ノ原則デアリマス、此ノ憲法改正案ニ付テ事ヲ考ヘマシテモ、我我ガ法律ノ解釋家トシテ解釋上工夫ヲ凝ラスニ於テハ、固ヨリ此ノ新シイ憲法カラ三ツノモノヲ導キ出スコトガ出來マス、ケレドモ、出來ルナラバ折角古イ衣ヲ投ゲ捨テ新シク衣更ヘヲスルト云フ此ノ憲法ニ於テハ、是等ノ原則ガモツト率直ニ、モツト簡明ニ、モツト斯ウ總テ誰ニデモ掴メルヤウニ、浮キ出デルヤウナ鮮カナモノヲ拵ハテ戴キタイモノト考ヘルノデアリマス、私ハ斯樣ナ立場カラ、暫ク此ノ憲法ノ改正案ノ解釋トシテ、四ツノ原則ヲ拔キ出シテ見マシタ、我々ガ二十世紀ノ憲法ノ三大原則トシテ居ルモノヲ此ノ改正案ニ付テ探シテ見ルト云フト、四ツノ形ニナツテ現レテ居ルカト思ヒマス、第一ニ權利ハ濫用サレテハナラヌト云フコトニナツテ居リマス、第二ニ權利ハ公共ノ福祉ノ爲ニ利用セラレネバナラヌト云フコトニナツテ居リマス、第三ハ個人人格ノ尊重デアリ、サウシテ第四ニハ男女兩性ノ平等ト云フコトニナツテ居リマス、之ヲ綜合シテ考ヘマスルト云フト、民法、刑法ノ範圍内ニ於テハ、從來ノ自由競爭ノ原則ニ代ヘテ、新シキ信義誠實ノ原則ト云フコトニナル譯デアリマス、信義誠實ノ原則ト云フ言葉ハ、是ハ申ス迄モナク「ローマ」法以來ノ法律ノ言葉デアリマス、初メハ債權關係ヲ律スル所ノ原則トシテ設ケラレタモノデアリマスルガ、ソレガ債權關係ヲ超エ、民法ヲ超エ、商法ヲ超エ、今日デハ刑法ニ入リ、ソレヲ超エ行政法ニ入リ、ソレヲ超エ、全法律ニ亙ツテ、總テ國家ト國民トノ關係ニ付テ適用セラルベキ憲法上ノ原則ニナツテ居ル譯デアリマス、是ハ一方ニハ比較法的ノモノデアリマスルガ、他方ニ於テハ此ノ憲法改正案ニ於ケル四ツノ原則トシテ、茲ニ規定サレテ居ルモノト考ヘルコトガ出來マセウ、斯樣ナ立場カラ致シマシテ、民法上、商法上ノ問題ヲ一ツ二ツ數ヘテ見タイト思ヒマス、何ト申シマシテモ問題ノ第一ハ所有權デアリマス、憲法改正案ハ政府原案ノ二十七條ヲ見マスルト云フト、潔ク所有權ト云フ言葉ヲ捨テテ居リマス、固ヨリ現行憲法ノ二十七條ノ解釋ト致シマシテモ、「日本臣民ハ其ノ所有權ヲ侵サルルコトナシ」トアル、其ノ所有權ト云フ言葉ハ、單ニ廣ク財産權ト云フ意味ニ解スベキデアルト云フ學説ガアルノデアリマスルケレドモ、併シ其ノ由來スル所ハ人權宣言ノ第十七條ニアルノデアリマシテ、ソレガ所有權ノ絶對性ト云フコトヲ基本トシテ居ルモノデアルト云フコトハ疑ヒアリマセヌ、所有權ノ絶對性ト云フコトガ、中世ノ封建制度ヲ打チ破ツテ十九世紀ノ民主主義ヲ生ミ出ス所ノ第一ノ原則デアツタ譯デアリマス、斯樣ナ次第デ、千八百四年ニ「ナポレオン」ガ「フランス」民法ヲ制定致シマシタ時ニ、「疑ハシキハ所有權ニ從フ」ト云フ原則ヲ豫定シテ居ツタト云フコトニナツテ居リマス、併シ今憲法改正案ハ所有權ノ斯樣ナ絶對性ヲモウ認メルコトナク、財産權ヲ一律ニ相對的性質ノモノトシテ規定スルコトニナツタノデアリマス、政府原案ノ二十七條第一項ニハ私有權ノ不可侵ヲ規定シテ居リマスルシ、ソレヲ受ケテ第二項ニ「財産權の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」、斯ウアルノガソレデアリマス、サウシテソレガ政府原案ノ第十一條ニ依ツテ統制ヲ受ケル譯ニナリマスルノデ、獨リ財産權ノミナラズ、改正案ノ第十一條ニ依リマスルト云フト、權利一般ニ付テ「國民は、これを濫用してはならぬのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」ト、斯ウ云フコトニナツテ參ツタ譯デアリマス、ソコデ此ノ規定ニ對シテ私ハ第一ノ註文ト致シマシテ、斯樣ニ先ヅ第一ニ財産權ノ不可侵ガ規定セラレ、次ニ財産權ノ相對性ガ規定セラレタノハ結構デアリマスルガ、其ノ財産權ニハ同時ニ義務ガ喰付イテ居ルモノデアル、所有權ハ義務ヲ伴フト云フ言葉ガアリマスルガ、同時ニ其ノ權利ニハ義務ガ伴ツテ居ルモノデアルト云フコトヲ、明カニ規定サレテ欲シイモノト思フノデアリマス、固ヨリ政府原案ノ二十七條ニ於キマシテモ、第二項ニ於テ、財産權ノ内容ガ相對的ナモノデアルバカリデナク、第三項ニ參リマスルト云フト、公共ノ爲ニ用ヒラレルモノデアルト云フコトガ書イテアリマス、相當ノ賠償ヲ以テ公共ノ爲ニ用ヒラレルト云フコトガ書イテアリマス、其ノ外ニ政府原案ノ第十一條ニハ、先程モ申上ゲマシタ通リ、「公共の福祉」ト云フコトガ謳ツテアリマスルノデ、ソレデ一應ノ埓ハアイテ居ルコトニナツテ居リマスルガ、併シ私トシテハ、私有財産權ハ更ニ廣ク義務ヲ負擔スルモノデアルト云フコトヲ、モツト率直ニ明カニシテ戴イタラドウ云フモノデアラウカト思フノデス、例ヘバ茲デ一ツ諸君ニ御相談ヲ申上ゲタイ、農地調整法ト云フモノガ先年出來、改正サレ、又更ニ一層之ヲ改正シヨウト云フコトニナツテ居リマスガ、農地調整法ニ依ル所有權ノ制限ト云フモノハ、現行憲法ノ下ニ於テハ適法ノモノデゴザイマセウ、二十七條ノ第二項ニ、公益上必要ナルコトハ法律ノ定ムル所ニ依ルトアルノデアリマス、併シナガラ此ノ改正案ノ下ニ農地調整法ヲ處置セネバナラヌト云フコトニナリマスルト云フト、或ハ私ハ憲法違反ト云フ宣言ヲ受ケネバナラヌコトニナリハシナイカト、私カニ憂ヘテ居ルノデアリマス、何トナレバ、改正案ノ二十七條ノ第三項ハ、適當ナル補償ノ下ニ公共ノ爲ニ用ヒラレルト云フコトシカ書イテアリマセヌ、又改正案ノ第十一條ハ、權利ハ公共ノ福祉ノ爲ニ利用セラレネバナラヌト書イテアルダケデアリマス、權利ガ公共ノ爲ニ取リ上ゲラレル、ト言ツテハ言葉ガ少シ荒イデセウ、併シナガラ公共ノ爲ニ著シイ制限ヲ受ケルト云フコトニナル場合ニ於テハ、改正案ノ下デハ、或ハ私ガ誤解ヲ致シテ居ルノカモ知レマセヌガ、文字ガ少シ足リマセヌ、尤モ現行憲法ノ下ニ於テハ「公益ノ爲必要ナル處分」ト云フコトニナツテ居リマシテ、「必要」ト云フ非常ニ嚴格ナ文字ガ使ツテアルニ拘ラズ、實際土地収用法ヲ見マスルト云フト、有用ト云フ程度デ、此ノ憲法第二項ガ動イテ居リマス、是ハ我ガ國バカリノコトデハゴザリマセヌノデ、外國ニ於テモ憲法上必要ト規定シテアルモノヲ行政法規ニ於テ、有用ナルコトニ付所有權ヲ制限シテ居ルト云フコトニナツテ居ルノハドウ云フモノカト云フ議論ガ隨分アルノデアリマス、ケレドモ其ノ點ハ暫ク除外致シマシテモ、兎ニ角現行憲法ノ下ニ於テハ農地調整法ガ法律トシテ成立スルト云フコトニ付テハ、先ヅ異論ナキモノト言ツテ宜イデセウ、併シナガラ改正案ノ下ニ於テハ、公共ノ爲ニ用ヒラレルダケ、土地ノ所有者ハ公共ノ爲ニ所有權ヲ行使スル、十一條‥‥、又公共ノ爲ニ保障ヲ與ヘテ、サウシテ國家ガ「公共の爲に用ひる」、「用ひる」ト云フ字ガ用ヒテアルノデアリマス、御參考ノ爲ニ、ト云ツテ申上ゲル迄モナク、改正案ノ勤勞ノ件ニ關スル規定、第二十五條ノ邊リデス、此ノ修正案ノ第二十五條ノ第一項ハ、勤勞ニ付テ修正ヲ致シマシテ、「勤勞の權利を有し、義務を負ふ」ト云フコトニナツテ居リマス、私ハ後デモ一言又繰返シテ申上ゲタイト思ヒマスガ、此ノ勤勞ノ義務ト云フコトヲ、ドウ云フ意味合デ衆議院ガ附加ヘタカ、非常ニ重イ重大ナ意味ガソコニ湧出ルモノト考ヘルノデアリマスガ、ソレハ又後ノ御話ト致シマシテ、兎ニ角所有權、其ノ他ノ財産權一般ニ付テモソレガ一定ノ、何ト申シマスカ、財産權ラシイ、公共ノ爲ノ義務ヲ持タネバナラヌト云フコトヲ、モツト概括的ニ書イテ欲シイモノト思フノデアリマス、扨、斯樣ニ考ヘマスト云フト、サウ云フヤウナ考ヘ方ガ民法、商法ニ亙ツテ、重大ナ影響ヲ與ヘルモノト考ヘラレルノデアリマス、恐ラクハ我ガ民法、商法ハ全面的ナ改正ヲシナケレバナラヌコトニナルノデハアリマスマイカ、固ヨリ民法ハ「ローマ」法以來發達シタル其ノ技術的規定ニ於テ、又商法ハ近代ノ商業生活ニ我々ニ示シタ技術的ナ組織ニ依ッテ、其ノ細カイ點ニ付テハ其ノ儘デ宜イデセウ、併シ民法ノ、商法ノ基本的ナ原則トセラレマシタ所有權及ビ契約ノ自由ト云フモノガ捨テラレルノデハアリマセヌ、ソレヲ含ミナガラ、併シナガラソレヲ超エテ、「オーダー」ノ一ツ高イモノ、即チ先ヅ權利濫用ノ原則トシテ出來上リマセウ、更ニ信義誠實ノ原則ト云フコトニナリマセウ、權利ノ濫用及ビ信義誠實ノ原則ト云フコトハ、不幸ニシテ我ガ國ノ法律ニハ見エテ居リマセヌ、最近ニ大審院ノ判例ガ段々ニソレヲ受入レテ、法律ノ運用ヲ進メテ居リマスルガ、斯ウナツテ見ルト云フト、此ノ改正案、殊ニ其ノ第十一條ノ規定カラ導イテ、此ノ二ツノ原則ガ民法、商法ノ劈頭ニモツト明カニセラレル筈デアラウト思ヒマス、實ハ此ノ憲法第十一條ノ規定ト云フモノハ、失禮ナガラ私カラ申シマスルト云フト、言葉ハ生温イ、モウ少シ率直ニ、明白ニ、例ヘバ例ヲ以テ言ヘバ、「ソヴィエト」民法ノ第一條ノ如ク、或ハ「スイス」民法第二條ノ如ク、モツト明白ニ民法ノ劈頭ニ‥‥民法バカリデハアリマセヌ、憲法ノ上ニ表サレルト云フコトヲ希望スルノデアリマスガ、暫ク憲法ノ改正案ノ第十一條ノ規定ヲ修正スルトカ修正シナイトカ云フコトハ先ヅ委員會ニ讓ルト致シマシテ、民法、商法ノ全體ニ向ツテ此ノ二ツノ原則ヲ明カニスルト云フ必要ガアルト考ヘマス、政府ハ果シテ、近ク進メラルベキ民法、商法ノ改正事業ノ劈頭ニ於テ、此ノ新シイ原則ヲ掲ゲルダケノ御積リガ御アリニナルカ無イカ、既ニ此ノ二ツノ原則ハ學説ノ上デモ廣ク認メラレルコトニナリ、判例ノ上デモ或程度迄大審院ノ運用シテ居ル所デハアリマスルケレドモ、併シナガラ今日尚其ノ影ガ薄イト云ツテモ宜イデセウ、殊ニ學説上若干ノ反對ガアリ、數年前迄ハ若干ドコロデハアリマセヌ、相當ニ強イ反對ガアツテ、我々信義誠實ノ原則ト云フコトヲ考ヘテ居ル者ハ、餘程骨ヲ折ツテソレト爭ハネバナラヌ状況デアツタノデアリマス、判例ニ於テモ、其ノ發達ハ大正ノ後期ヨリ始リ、昭和ノ年代ニ至ツテ大イニ見ルベキモノガアルコトニナリマシタケレドモ、尚希望スベキ所ニハ遠イノデアリマス、政府ハ此ノ二ツノ原則ガ學説ノ上ニ於テ爭ヒガアルト云フコトヲ理由トシテ之ヲ明白ニスルコトヲ躊躇セラレルデアリマセウカ、或ハ又憲法ガ新タニセラレル今日ニ於テハ、此ノ學説ノ爭ヒト云フモノニ對シテ、法律自ラガ率直ニ、簡明ニ裁斷ヲ下シテ、之ヲ民法ノ劈頭ニ規定スルノガ然ルベキト御考ニナルモノデゴザイマセウカ、民法、商法ノ改正ハ此ノ次ノ議會ノモノデ、後日ノ問題デアルナゾト御逃ゲニナツテハ困ル、私ハ憲法上ノ問題トシテ、今日其ノ點ヲ政府ガドウ云フ風ニ御考ニナツテ御アリニナルカト云フコトヲ明カニ一ツ伺ツテ置キタイモノト考ヘルノデアリマス、扨、次ノ問題ニ移リマスルガ、斯樣ナ所有權ノ原則ハ二ツノ方面カラ、十九世紀百年ノ間、二十世紀ノ約五十年ニ亙ツテ、自ラ著シイ制限ヲ受ケルコトニナリマシタ、其ノ一ツハ企業、「エンタープライズ」、企業ノ方面カラノ制限デアリマスルシ、其ノ二ツハ勞働ノ方面カラノ制限デアリマス、一體憲法ノ改正案ハ、所有權ガ企業及ビ勞働ノ二ツノ方面カラ制限セラレテ居ルト云フ現象ヲドウ云フ風ニ取扱ツテ居ルモノト理解シテ然ルベキモノデゴザイマセウカ、先ヅ企業ト所有權トノ關係ニ付テ申シマセウ、是ハ法人、特ニ商法ニ於ケル會社ノ性質、就中株式會社‥‥會社ノ性質如何ト云フコトニナル譯デアリマス、從來ハ會社ハ其ノ所有關係ガ基本ヲ成スモノトシテ考ヘラレラ居リマシタノデ、謂ハバ所有者タル株主ガ、株主總會トシテ會社ニ對シ最高權ヲ持ツテ居ル仕組ニナツテ居リマス、今日ニ於テハ會社ノ所有關係ト、會社ノ經營關係トハ段々ニ區別シテ考ヘラレルコトニナリマシタノデ、既ニ昭和十三年ニ出來マシタ新商法ニ於テハ、所有關係ト經營關係トノ分離メ趣旨ガ著シク現レテ居ルモノト云フコトガ出來マセウ、併シナガラ全體トシテハ矢張リ依然トシテ、株主總會ガ最高權ヲ持ツモノト云フコトニナツテ居ル譯デアリマス、併シナガラ一方ニ於テハ、所有權ノ社會的使命ト云フモノガ、ドウアルベキデアルカト云フコトヲ考ヘ、他方ニ於テハ、會社ノ企業其ノモノニ對シ、株主ノ外ニ色々ノ利害關係人ガアルト云フコトヲ考ヘネバナリマセヌ、先ヅ第一ニ其ノ多數ノ使用人デアリマス、多數ノ使用人ハ株ヲ朝ニ買ツテタニ賣ルト云フヤウナ株主ヨリモ、モツト、寧口一生ヲ會社ニ捧ゲテ居ル者デアリマス、其ノ次ニ多數ノ社債權者ト云フ大キナ社會問題ガアリマス、サウシテ更ニ最後ニハ、其ノ企業ヲ利用スル所ノ社會一般ト云フモノガアル譯デアリマス、是等ノ總テノ方面ガ會社其ノモノニ對シテドウ云フ利害關係ヲ持ツテ居ルカト云フコトヲ考ヘ合シテ見マスト云フト、産業民主化ノ原則ガ、茲ニ微妙ニ働イテ來ネバナラヌ譯デゴザリマセウ、斯樣ニシテ此ノ頃デハ學説上企業ソレ自體ノ原則ト云フコトガ唱ヘラレテ居ル譯デアリマス、企業ソレ自體ノ原則ト云フノハ、謂ハバ企業ハ一方ニ於テハ株主ノモノデアルガ、使用人ノモノデモアリ、社債權者ノモノデモアリ、更ニ社會一般ノモノデモアル、併シナガラ他ノ方面カラ考ヘテ見ルト、株主ノモノニアラズ、使用人ノモノニアラズ、社債權者ノモノニアラズ、社會ソレ自體ノモノニモアラズ、企業ソレ自體ト云フコトヲ原則トシテ考ヘネバナラヌト云フ學説デアリマス、斯樣ナ學説ノ意味、價値ト云フモノヲ考ヘテ見マスト云フト、會社法ノ組織ト云フモノガ、全面的ニ考ヘ直サレネバナラヌト云フコトニナルノデハアリマスマイカ、憲法改正案ハ直接ニ企業ト云フモノヲ取扱ツテ居リマセヌ、併シ政府原案ノ、財産權ニ關スル規定カラ考ヘマスレバ、ソレガ一ツノ財産權、企業ハ財産權ノ一ツノ形態デアルトシテ考ヘラレ得ルモノデアリマセウ、併シ會社ト云フ組織ノ下ニ財産權ガ、今日ノ經濟組織ニ於テ、企業ト云フ一ツノ形ヲ持ツコトニナリマスルト云フト、一般財産權トハ離レテ、特別ニ企業ト云フ一種ノモノニナルモノト考ヘネバナリマセヌ、私ハ斯樣ナ立場カラ企業ノ國家的、社會的性質乃至使命ニ關スル規定ガ憲法ノ上ニ鮮カニセラレルコトヲ必要ト考ヘテ居ルノデアリマスルガ、假ニ其ノ點ヲ別ニ致シマシテ、商法一般、取分ケテ會社ニ對シ商法ノ改正ヲ政府ハドウ云フ風ニ御考ニナツテ居ルカト云フコトヲ伺ツテ置キタイ、例ヘバ手近ク、企業ノ管理ト經營トガ株主總會ヲ越エテ、如何ニ廣ク利害關係人一般、又特ニ國家ノ立場カラ考ヘ直サネバナラヌト云フコトハ、十分憲法上ノ問題トスルニ値スルモノト考ヘマス、企業ハ最早十九世紀ニ理解セラレタヤウナ、所謂經濟人、「ホモ・エコノミーカス」ノ營利的ナ手段トシテノミ考ヘラルベキモノデハゴザリマセヌ、從ツテ商法ハ最早單純ナ、技術的ナ法律トシテ論ジ去ラルベキ性質ノモノデハアリマセヌ、企業ノ社會的、國家的性質乃至使命ニ關聯シテ、新シク倫理的意義ノ深イモノトシテ、總テノモノガ取扱ハレネバナラヌコトト考ヘマス、サウシテ此ノ新シイ憲法ニ於テハ、是非共ソレガ特筆大書サレテ然ルベキト考ヘネバナリマセヌ、併シ固ヨリ此ノ點ニ於テモ學説上爭ガアリマス、能ク政府ノ當局カラ色々ナコトデ伺ヒマスルト云フト、學説上爭ノアル所ハサウ無暗ニ氣短カニ法規ノ上ニ表スコトガ出來ヌト云フ御話デゴザリマシテ、固ヨリ其ノ御心持ニ付テハ理解ヲ惜シム積リデハゴザリマセヌ、併シナガラ今憲法ガ改正セラレルノデアリマス、如何ナル精神ニ基イテ憲法ガ新タニセラレルカト云フコトヲ考ヘマスルト云フト、商法ニ於ケル企業ソレ自體ノ原則ト云フモノハ、獨リ商法改正ノ問題デアルニ止ラナイノデアリマス、世ノ中ニ財閥解體ト云フ問題ガアリマス、法律論トシテ考ヘマスレバ、持株會社整理委員會ト云フ制度ガ設ケラレテアリマスガ、此ノ委員會ノ性質、乃至働キト云フモノガ大イニ問題トセラルベキモノデアリマス、ソレト憲法改正案トノ關係ガ果シテドウナルモノデゴザリマセウカ、憲法ハ一般財産原則ト共ニ、併シ一般財産權トハ離レテ、獨立シテ企業其ノモノノ性質ヲ明カニシ、企業ソレ自體ノ原則ヲ商法ニ適當ニ織込ンデ戴キタイト思ヒマス、若シ是モ明文ガナイ場合ニ於テハ、我々ハ解釋家ノ仕事トシテ之ヲ此ノ新憲法カラ引出スコトガ出來ナイトハ申シマセス、併シナガラ解釋ノ廻リ遠イ途ヲ通ラナイデ、此ノ時勢ニ於テ、學説ノ爭ニ對シ、政府ハ勇敢ナ裁斷ノ鉈ヲ揮ハレムコトヲ希望シタイモノト考ヘルノデアリマス、扨、次ニ勞働ノ方ニ移リマス、所有權ハ一方企業ニ依ツテ制限サレル譯デアリマスルガ、他方ニ於テハ勞働カラ重大ナル制限ヲ受ケル譯デアリマス、憲法改正案ハ之ニ付テ二種ノ規定ヲ設ケテ居リマス、其ノ一ツハ勤勞ノ權利ニ關スル政府原案第二十五條ノ規定デアリマスルシ、其ノ二ハ團結權ニ關スル政府原案第二十六條ノ規定デアリマス、此ノ二ツノ規定ハ、勤勞ヲ民法上ノ雇傭關係ノ問題ニ放任シナイデ、國家ノ特別ナル保護ト干渉トノ下ニ置カムトスルモノデアリマス、是ハ明カニ十九世紀式ノ法治國的ナモノヨリ、二十世紀式ノ文化國的ナモノニ移ツタモノデアルト云フコトヲ示スモノデアリマスルガ、併シ其ノ用ヒラレテ居ル所ノ言葉ト其ノ規定ノ内容トニ付テハ聊カ疑ガアル次第デゴザイマス、先ヅ勤勞ノ權ト云フ言葉デアリマス、先程厚生大臣ノ説明ヲ伺ヒマスト云フト、是ハ勤勞ヲスル自由ト云フ意味ダ、一ツノ自由權ノ一面デアルト云フコトデアツタカト心得マス、併ツナガラ我々ハ學問上從來勞働權ト云フ言葉ヲ用ヒテ居リマスガ、此ノ勞働權ト云フ學問上ノ言葉ト、改正案ノ勤勞ノ權ト云フ言葉トハ、何カ一ツ連絡ヲ付ケテ考ヘテ戴ク譯ニハ行キマスマイカ、勞働權ト云フ我々ノ用語ハ固ヨリ飜譯デゴザリマスルノデ、言葉トシテ甚ダ熟シテハ居リマセヌケレドモ、ソレガ飜譯トシテ認メラレテ居ル關係上、沿革的ニモ、理論的ニモ「ヨーロッパ」ノ用語ニ於ケル一種ノ意味ヲ持ツテ居ルモノトシテ、學界ニハ認メラレテ居ルモノデアリマス、ソレハ勞働スル自由デハアリマセヌ、其ノ自由ノ權利ニ止ラナイデ、勞働ヲ欲スル者ガ勞働ノ機會ヲ國家ニ要求シ、國家ガソレニ對シテ十分ノ責務ヲ負フト云フ關係ヲ意味スル所ノモノデアリマス、ソレデ勞働ノ關係ニ於キマシテハ、國家ハ勞働者ノ自由ナル行動ヲ尊重スルト云フダケノ消極的ナ立場ニ立ツモノデハゴザイマセヌ、勞働ニ從事セムコトヲ欲スル者ニ對シ、國家ハ其ノ希望ヲ尊重シ、ソレニ對シ希望ヲ達成セシメルヤウニ十分ニ活躍セネバナラヌコトニナルノデアリマス、其所ニ此ノ勞働ニ對スル最近ノ國家ノ文化的意味ガ成立シテ居ル譯デアリマス、併シ成ル程先程ノ厚生大臣ノ御説明ノヤウニ、此ノ改正案ニ付テ勤勞ノ權利ト云フ言葉ヲ素直ニ眺メマス時、ソレハ學界デ所謂勞働權ト稱スルモノヲ想ヒ起スノニハ、少シ困難ナコトデアラウカトモ考ヘマス、ケレドモソレハ政府原案二十五條ノ第二項ニ「勤勞條件に關する基準は、法律でこれを定める。」或ハ政府原案ノ第二十六條ニ參リマスト、團體行動ヲ爲スノ權利ヲ保障スルトアリマシテ、此ノ二ツノ規定ガ全體トシテ甚ダ消極的ナ不徹底ナ形ニナツテ居ルカラデアリマス、要スルニ政府原案ノ趣旨ハ第十一條ニ所謂「自由及び權利は、國民の不斷の努力によつて、これを保持しなければならない。」此ノ一種ノ考カラ來テ居ル、從ツテ勞働關係ニ付テモ、事業家ト勞働者トノ間ノ駈引、「バーゲン」即チ自由競爭ニ付テ、成ルベクソレヲ公正ニ「フェアー・プレー」ニ總テヲ保ツヤウニ保障スルト云フダケノ意味ノモノデアラウカト察スル、察スルノデハゴザイマセヌ、厚生大臣ハサウ云フ風ニ先程御説明ニナリマシタ、即チ勞働ノ保全ト勞働ノ促進トニ關スル國家ノ積極的任務ト云フモノハ、其處ニハ考ヘラレテ居ナイヤウナ形ニナツテ居ルノデアリマス、固ヨリ自由權トシテノ勤勞權ハ、ソレ自體トシテ既ニ十分尊重ヲサレネバナラヌモノデアリマスルケレドモ、併シ今、我々ハ勞働ト所有權トヲ適當ニ結合シ配合シテ、産業ノ發展、充實ト云フモノヲ圖ラネバナラヌ立場ニアルノデアリマス、其ノ立場カラ考ヘマスルト右ノ二種ノ規定ハ甚ダ微温的ナモノデアルト云フコトニナルモノデハアリマスマイカ、憲法ハ新シイ憲法トシテ制定セラルヽ以上、勞働ニ對シテ單ニ其ノ自由ヲ保障スルト云フニ止マルベキデハアリマセヌ
〔議長退席、副著長著席〕
進ンデ積極的ニ勞働ノ國家的保護ニ關シ、基本トナルベキ原則ヲ明カニセネバナラヌ譯デアリマス、既ニ若干ノ勞働法規ガ成立致シマシタ、又此ノ議會ニモ若干ノモノガ審議中デアリマス、此ノ次ノ議會ニ更ニ新シイ案ナルモノガ提出セラルベキ筈ト厚生大臣ガ明言セラレテ居リマス、此ノ點ニ關スル政府ノ熱意ハ十分私共トシテ理解致シマス、併シ憲法其ノモノノ規定トシテハ、斯樣ナ法律ノ發展ヲ指導、促進スル所ノ原理ヲ示スモノトシテハ甚ダ物足リナイ感ガアルモノトシナケレバナリマセヌ、尚序ナガラ修正案ノ第二十七條ニ付テ一言致シテ置キタイ、上デモ一言致シマシタヤウニ、此ノ改正案ノ第二十七條ニハ、「勤勞の權利を有し、義務を負ふ。」ト云フコトニナツテ、新タニ義務ヲ負フト云フ言葉ガ附加ヘラレテ居リマス、先程モ申上ゲマシタ通リ私ハ是ニハ重大ナル意味ガアルモノト考ヘテ居リマス、此ノ勞働者ノ方ニ於テハ非常ニ大キナ義務ヲ持ツテ居ルト云フコト、單ニ勤勞ヲスル自由ヲ持ツテ居ルバカリデハナイ、勤勞ヲシナケレバナラヌ義務ヲ持ツテ居ルト云フコトニ依ツテ、財産權ト勞働トノ適當ナ結合、按排ト云フコトガ是カラ促進サレル譯デアリマス、此ノ義務ニ付テノ規定ハ、立法上、行政上濫用セラレテハナリマスマイ、先頃ノ非常時ニ於ケル徴用ノヤウナモノニナツテハナリマスマイガ、併シ義務ヲ負フト規定シテアリマシテ、扨、我々ガ現在ノ産業關係ヲ見渡シマシタ時ニ、聊カ想像シテ見タダケデモ此ノ義務ヲ負フト云フ規定ハ、將來ノ立法上、行政上非常ニ大キナ働キヲ持ツモノデアルト考ヘマス、私ハ財産權ニ關スル規定ニ於テ、農地調整法ガ、憲法ガ新タニナツタ曉ニ於テ、最高裁判所ガ如何ナル宣言ヲ受ケネバナラヌカト云フコトヲ考ヘテ見テ下スツテモ宜イノデハナイカト私カニ思ツテ居ル次第デアリマスルガ、又此ノ勞働ノ義務ノ規定ガ將來ノ産業關係ニ付テ、ドウ云フ風ニ擴ゲラレテ行クカト云フコトハ、餘程關心ヲ以テ考ヘテ置カネバナラヌ重大ナ問題デアルト思ヒマス、斯樣ニ考ヘテ參リマスルト結局所有權ト云フ問題カラ、更ニ此ノ生存權ト云フコトヲ考ヘナケレバナラヌコトニナル譯デアリマス、政府原案ニハ生存權ニ付テノ規定ガナイトハ申シマセヌガ、例ニ依ツテ明白デハアリマセヌ、併シ修正案ニ於テハ新タニ一種ノモノガ設ケラレルコトニナリマシテ、先程南原君カラソレニ付テノ説明ガアリマシタ、修正案第二十五條ノ第一項デアリマス、結局我々ノ意味スル所ニ於テノ勞働權ト云フモノヲ擴張シテ考ヘマスト云フト、更ニソレガ生存權ト云フ理論一般ニ及バネバナラヌ譯デアリマス、私ハ政府原案ヲ勉強致シテ居リマスル時ニ、此ノ點ニ付テ特ニ政府ニ付テ伺ヒタイト思ツテ居タノデアリマスルガ、既ニ衆議院ノ修正ヲ經テ新シイ規定ガ出來マシタ、其ノ規定ノ文句ニ付テハ、相當ニ私トシテ曰クガアリマス、曰ク健康、曰ク文化的、健康ト文化的ト二ツダケデ宜イカ、恐クハ有形無形ニ生活ヲ充實シロト云フ意味ニ違ヒゴザリマセヌガ、用ヒラレテ居ル言葉トシテハ其ノ規定ノ形ニ私トシテハマダマダ御考慮ヲ仰ガネバナラヌ餘地ガ多イト思ヒマス、併シナガラ信義誠實ノ原則ガ憲法上ノ問題トシテ國家ト個人トノ關係ニ適用セラレタ時ニ、國家ハ其ノ全力ヲ擧ゲテ生存權ノ保持ニ努メナケレバナラヌト云フコトガ斯樣ニ認メラレルコトニナリマスル以上ハ、此ノ點ニ付テノ稍々詳シイ質疑ノコトハ此處デハ省キマセウ、唯政府原案ノ第二十三條ニ「法律は、すべての生活部面について、社會の福祉、生活の保障及び公衆衛生の向上及び増進のために立案されなければならない。」ト云フ規定ガ既ニ政府原案ノ中ニアツタト云フコトダケハ私モ忘レテ居ル譯デハナイト云フコトヲ申上ゲテ置クニ止メマセウ、極ク序ノコトデゴザイマスルガ、此處ノ規定ニ今讀上ゲマシタ通リ、「法律は、すべての生活部面について、」云々ノヤウニ立案セラレネバナラヌト云フ、「は」ト云フ言葉ガ私ニハ甚ダ氣ニナルノデス、ソレデ配付セラレマシタ英譯ヲ見マスルト云フト、稍々樣子ガ違ツテ居リマス、英譯ニ付テ私ガ理解シタ所デハ、生活保障等ノ爲ニ法律ガ立案セラレネバナラヌト云フ、斯ウ云フ意味ニナツテ居ルト心得マス、サウスルト云フト生存權ノ保障ニ對スル憲法改正案ノ趣旨ガ餘程斯ウナダラカニ、穩カニ響イテ來ルヤウニ思ヒマスルガ、兎ニ角修正案デ全然是ガ書直サレタノデアリマスルカラ、此ノ點ヲヤカマシク議論スル必要ハアリマスマイ、私ハ今生活保護法案ト云フモノガ當貴族院ニ於テ審議サレテ居リマスルノデ、政府ノ此ノ點ニ對スルナント言ヒマスカ、一ツノ覺悟、ソレヲ疑フ積リデハアリマセヌ、唯憲法上此ノ點ガ明カニサレテ欲シイモノト思フ、ソレガ滿足ノ程度デハアリマセヌケレドモ、稍々承知出來ル程度ニ於テ衆議院ノ修正ヲ見ルコトニナツタ譯デアリマス、扨、私ハ再ビ民法ニ立返ツテ親族法、相續法ノコトニ付テ諸君ノ御考ヲ一ツ伺ヒ、同時ニ政府ノ所見如何ト質疑ヲ提出シタイト思ヒマス、政府原案ノ第二十二條ガ、御承知ノ通リ婚姻ニ付テハ、男女兩性ノ合意ノミニ基クト、英譯ニ依ルト云フト、「オンリー」ト云フ字ガ其處ニ書イテアリマス、サウシテ其ノ言ヲ探シテ見ルト、合意ニ依ル夫婦ノコトハ書イテアリマスルケレドモ、親子ノコトハ一ツモ見エテ居ラヌ、此ノコトハ昨日來各位ノ既ニ論ゼラレタ處、私ガ新タニ申出ル迄モナイ所デアリマスルケレドモ、ドウモ寂シイ、新シイ憲法ガ夫婦ダケヲ書イテ、而モ我々ノ家ト云フモノヲ除外シタノハドウ云フモノデアリマセウカ、（拍手）今更私ガ之ヲ特ニ議論ヲスルノデモゴザリマセヌ、ケレドモ我々ノ家ト云フモノハ、モウ少シ法律學ノ連中ノ用ヒテ居ル言葉デ申シマスレバ、家族協同體ト云フモノハ我々ノ生活ノ現實デアリマス、我々ハ今サウ云フモノヲ新タニ持込マウト云フノデハアリマセヌ、長イ歴史ヲ持ツテ居リ、現在ノ我々ノ生活ニ於テサウ云フ一ツノ家族協同體ヲ持ツテ居リマスルガ、併シソレハ放ツテ置ケバ今日ノ産業關係ノ結果トシテドウ云フ運命ニ接スルカモ知レナイ状況ニアルノデス、ソレデ矢張リ夫婦ト云フモノヲ法律上ナントカシテ置カネバナラヌト云フコトデアルナラバ、矢張リ此ノ家族協同體ト云フコトヲ少クトモソレト同等ニ憲法上明カニシテ置イテ然ルベキコトデハナイカト思フノデアリマス、固ヨリ我ガ民法ニ現ニ規定セラレテ居ル所ノ家及ビ戸主權ノ制度ト云フモノハドウモマヅイ、民法ハ明治三十一年カラ實施セラレマシタガ、明治三十四年ニ於テ既ニ大審院ガ戸主權ノ統制ニ關スル一種ノ判例ヲ示シテ居ルノデアリマス、戸主權ト云フモノハ實施日ナラズシテ既ニ破綻ヲ來シテ居ル、判例ニ於テ斯樣ニ戸主權ガ統制ヲ受ケタバカリデハナク、最近ノ非常時法ニ於テハ重大ナ制限ヲ受ケルコトニナリマシタノデ、今現ニ形式上民法ニ於テ規定セラレテ居ル戸主權ノ制度ヲ維持シナケレバナラヌト云フノデハアリマセヌ、況ンヤ此ノ憲法改正案ノ上カラ考ヘマスルト、色々ナ言葉ニ民主主義ト云フ字ヲ、政治上ノ民主主義、産業上ノ民主主義ト云フ風ニ附加ヘテ、或ハ家族制度ニ於ケル民主主義トデモ申シマセウカ、斯樣ナ民主主義ノ結果、從來ノ戸主權ノ制度ト云フモノハ餘程改メナケレバナラヌモノニ違ヒアリマセヌ
〔副議長退席議長著席〕
ノミナラズ先年來、大正ノ初メカラ、我ガ國古來ノ淳風美俗ト稱スル一派ノ議論ガアリマシタガ、其ノ議論ノコトハ姑ク別ニ致シマシテ、兎ニ角從來ノ戸主權ハ此ノ際廢止セラルヽニシテモ、我々ノ現實ニ營ンデ居ル家族協同體ノ生活ヲ基本トシテ、此ノ家族協同體ト云フモノヲ法律上適當ニ保護シ、奬勵シ、其ノ發展ヲ促進スルト云フコトハ、矢張リ憲法上ノ問題トシテモ重要ナコトデアラウト思ヒマス、一體家族協同體バカリデナク、婚姻關係ニシテモ、是ハ法律ヲ超エタ道徳上ノ問題デアリマス、併シ道徳上ノ問題ナガラ婚姻關係ニ付テ或規定ノアル方ガ結構デアルヤウニ、矢張リ主トシテ道徳ノ方面カラ取扱ハレネバナラヌ所ノ家族協同體ニ付テモ、新シイ憲法ハドウ考ヘテ居ルカト云フ基本的ナ原則ハ矢張リ明カニシテ置イテ戴クコトガ色々ナ意味ニ於テ適當ナノデハアリマスマイカ、加之此ノ現實ニ我々ガ營ンデ居リマスル家族協同體ト云フモノガ、資本主義ノ爲ニ段々崩レテ行クト云フコトハ、我ガ國ダケノ問題デハゴザリマセヌ、民主主義ノ諸國、先進諸國ニ於テモ敦レモ此ノ點ヲ問題ニシテ居リマスルノデ、獨リ社會學者、教育家、倫理學者ト云フヤウナ人々ガ之ヲ取扱フバカリデハナク、矢張リ法律學者ガ之ヲ取扱ツテ居ルノデアリマス、ソレデ結局、法律上、就中憲法ニ於テモ夫婦相和シト云フ原則ノ外ニ、父母ニ孝ニ、兄弟ニ友ニト云フ原則ガ何カノ形ヲ以テ適當ニ現サレテ欲シイモノト考ヘル次第デアリマス、戸主權ノ制度ハ、封建式ノモノデアルトシテ相當ニ深刻的ナ批判ヲ受ケマシタケレドモ‥‥
○議長（公爵徳川家正君） 此ノ際一言申上ゲマス、只今米國下院議員團ノ一行ガ傍聽席ニ見エラレマシタ、「ペンシルバニア」州選出民主黨議員「シエリダン」君（拍手）「フロリダ」州選出民主黨議員、「サイクス」君（拍手）「ミズリー」州選出共和黨議員「ショート」君（拍手）「アイオワ」州選出共和黨議員「マーチン」君（拍手）「カリフォルニャ」州選出共和黨議員「ジョンソン」君（拍手）「オハイオ」州選出民主黨議員「フェイガン」君（拍手）牧野君宜シウゴザイマス
○牧野英一君 斯樣ナ譯デ私ハ封建的色彩ヲ拭ヒ去ツタ所ノ家族協同體ノ原則ト云フモノガ、原則其ノモノガ、簡明ナ言葉ヲ以テ先ヅ憲法ニ掲ゲラレ、其ノ適用ガ新シク修正、改正セラルベキ民法ニ若干規定セラレテ然ルベキモノト思ヒマス、例ヘバ今差當リ私ガ考ヘテ居リマスル所ダケデモ、家族協同體ニ於テハ、其ノ家ノ氏ヲ稱スルト云フコトガ權利デモアルシ、義務デモアルトシナケレバナリマスマイ、家族協同體ノ間ニ於ケル扶養義務ト云フモノハ、單ニ一般ノ扶養義務ノヤウナ金錢給付ノ義務ニ止ラナイデ、矢張リ夫婦ト同樣ナ實體的ノ協力義務デアツテ然ルベキモノト思ヒマス、サウシテ婚姻ニ對スル戸主ノ同意ト云フヤウナコトガ從來問題ニナツテ居リマス、今日デハ最早此ノ憲法改正案ノ適用トシテハ、其ノ同意ハ必要デアリマセヌケレドモ、併シ苟クモ婚姻ヲスル以上ハ、家族協同體ニ對シテ適當ナ理解ヲ得ルノ途ヲ履ムト云フコトダケハ義務トシテ然ルベキデゴザリマセウ、其ノ適當ナ現解ヲ得ナイデモ婚姻ハ出來マスルガ、若シ婚姻ヲシタナラバ、家族協同體ニ對シテ自分ハドウ云フ責任ヲ覺悟セネバナラヌカト云フ位ハ考ヘテ然ルベキデアリマセウ、住所、居所ト云フヤウナ問題デモ同ジヤウニ考ヘルコトガ出來マス、サウ云フ所カラ問題ハ、家族協同體ニ於ケル協力ノ義務ヲ超エテ更ニ相續ノ問題ニモ影響ガ及ビ得ルモノト思ヒマス、相續法ノ上デモウ家督相續ト云フモノハ止メラレルコトニナリマセウ、併シナガラ相續ノ制度ヲ、遺産相續一本建ト致シマシテモ、家族協同體ニ於ケル統合責任者ト然ラザル者トノ間ニ區別ヲ認メルト云フコトハ然ルベキコトデハアリマスマイカ、又家族協同體ノ一員タル者ト、既ニ外ヘ出タ者トノ間ニハ、矢張リ區別ガアツテ然ルベキモノト云フコトニハナリマスマイカ、斯樣ニシテ民法上色々ナ適用ヲ考ヘルコトガ出來マス、是ハ技術上相當ニ骨ノ折レルコトデハアルト思ヒマスルケレドモ、先ヅ憲法ニ於テ原則ヲ明カニシ、民法ニ於テソレゾレノ適用ヲ規定スルト云フコトガ然ルベキコトデハナイカト私ハ考ヘテ居リマス、尚此ノ序ニ更ニ申上ゲテ見タイノハ、一體此ノ親族法全體ニ付テ、モウ少シ倫理的ナ、社會的ナ原則ヲ明カニスルコトガドウ云フモノデアラウカ、我々ノ家族關係ト云フモノハ、主トシテ道徳的ノ關係デアルニモ拘ラズ、法律ノ上ニ規定セラレテ居ル所ノ關係ハ、皆權利ト義務トノ、何ト申シマスカ、誠ニ情ケナイ潤ヒノナイモノニナツテ居ルノデアリマス、併シ所有權及ビ契約ノ關係ニ於テモ、既ニ信義誠實ノ原則ト云フモノヲ明カニセネバナラヌト云フコトニナリマスレバ、況ンヤ親族關係ニ於テヲヤ、人事調停法第一條ハ、人事調停ノ目的ヲ規定シマシテ、道義ニ基ク温情ヲ以テ事件ヲ解決スルト云フコトニ致シテ居リマスルガ、親族法其ノモノガ正ニサウ云フ譯ノモノデナケレバナリマセヌノデ、斯ウ云フコトガ民法ノ上デ出來ナケレバナラヌ、憲法ノ上デ考ヘラレテ然ルベキデハアリマスマイカ、法律ノ倫理化、「モーラリゼーション・オヴ・ロー」ト云フコトガ一ツノ大キナ問題ニナツテ居リマス、法律ノ倫理化ト云フコトハ、先ヅ親族法カラ始ル譯デアリマス、是ハ思想問題デアリマスルガ、同時ニ法律問題デアリマス、親族法ノ規定ガ、乾カラビタ河原ノ小石ノ積ミ重ネノヤウニナツテ居ルト云フコトハ、法律ヲ讀ミナガラ誠ニ我々ノ忍ビザル所デアリ、又憲法改正案ノ精神トハ凡ソソグハナイ性質ノモノデハナイカト考ヘルノデアリマス、（拍手）斯樣ナ所カラ更ニ進ンデ相續法ト云フコトガ問題ニナリマス、此ノ憲法改正案ノ結果トシテ、相續法ハ非常ニ大キナ影響ヲ受ケルコトニナリマス、即チ家督相續ト云フコトガナクナリマス、或ハ民法ノ改正ニ於テハ總テ均分相續ト云フヤウナコトニナリマセウガ、斯樣ニシテ所有權ガ零細化スルト云フ社會問題ハ、既ニ均分相續制ヲ採ツテ居ル諸國ニ於テ皆問題ニシテ居ル所デアリマス、先ヅ例ヘバ農村ニ於テ經濟上ドウ云フ打撃ヲ受ケルデアラウカト云フコトガ考ヘラレル譯デアリマス、此ノ點ニ付テハ「アメリカ」ニ於テモ亦「ヨーロッパ」ニ於テモ、既ニ政治家ノ骨ヲ折ツテ居ル所デ、此ノ民主主義的先進諸國ニ於ケル立法例トシテ參酌スベキモノハ色々アルノデアリマス、事ヲ單純ナ分割相續ニ委セテ、例ヘバ土地ガバラバラニナル、零細化スル結果、農村トシテノ能率ヲ擧ゲルコトノ出來ナイヤウニナルト云フコトヲ防グニハドウ云フ風ニシタラ宜イデセウカ、所有權ハ義務ヲ伴フト云フ原則ガ相續法ニ於テハ餘程大キナ適用ヲ見ナケレバナラヌコトデアリマス、是モ後日ノ民法改正ニ讓ルト云フ問題デハナイ、憲法ノ改正ノ問題トシテ矢張リ私共ハ提出シタイト思ヒマス、産業民主主義、經濟民主主義ノ適用トシテ農地調整法ト云フモノガ既ニ出來上リ、改正セラレ、更ニ改正セラレムトシツヽアルト云フコトヲ既ニ一言致シマシタ、斯樣ニ農地調整法ガ實施セラレル結果トシテ、自作農ト云フモノガ段々發達スルコトハ誠ニ喜バシイコトデハゴザリマスルガ、併シナガラ自作農ハ發達シタケレドモ、農村ノ生産力ガ全體トシテ低下シタト云フノデハ、角ヲ矯メムトシテ牛ヲ殺スヤウナコトニナルノデアリマス、此處ニ大キナ問題ガアリマスルノデ、農地調整法ヲ越エテ更ニ農村法ト云フモノガ發達スル譯デアリマス、丁度商法ヲ離レテ企業法ト云フモノガ發達シツヽアルヤウニ、今迄ノ民法ヲ離レテ新シイ農村法ト云フモノガ考ヘラレツヽアル譯デアリマスルガ、此ノ農村法ニ於テ相續法ガ又大キナ關係ヲ持ツト云フコトニナル譯デアリマス、併シ農村法ニ止リマセヌノデ、家族協同體其ノモノニハ協力ノ義務ガアルト云フコトニナリマスルト、其ノ協力ノ爲ニ資産ノ零細化ト云フコトヲ何トカ防グト云フコトモ一ツノ問題トシテ考ヘラレテ然ルベキデゴザリマセウ、從ツテ資本或ハ財産ガ餘リニ小サク分割セラレルコトヲ避ケ、ソレガ資産トシテ適當ナ能率ヲ發揮スルヤウニナルガ爲ニハ、例ヘバ有價證券ト云フヤウナモノデゴザリマスルナラバ、ソレハソレデ易ク分割モ出來マセウガ、サウデナイ色々ノ財産ニハ分割ヲスルコトヲ厭フモノガ隨分アル譯デアリマス、例ヘバ單純ニ不動産ノ問題ニ付キマシテモ、ソレヲ分割スル時ニハ換貨處分ニ附シテ金デ分割スルト云フコトニナルカモ知レマセヌガ、何レニシテモ、均分相續ニ依ツテ財産ガ零細化サレル他方財産ガ、所有權ガ零細化サレマシテモ、所有權ノ社會的作用ト云フモノガ常ニ其ノ効果ヲ保ツヤウニ考ヘルト云フコトガーツノ大キイ問題デアリマス、差當リ其ノ問題ヲ法律上技術的ニドウ云フ風ニ作リ出スカト云フコトハマダマダ是カラノ問題デアリマス、ソレデ今ノ問題トシテハ出來ルナラバ或原則ヲ憲法上掲ゲ得ルコトニナリマス外、多クノ教育問題ニ委セルト云フコトハ已ムヲ得ナイコトデゴザリマセウ、ソコデ家族協同體ノ倫理ト云フモノヲ尊重シテ民法ノ上デハ如何ニ分割相續、均分相續ニナツテモ皆ガ協力ヲシテ家族協同體ヲ組織スル、維持スル、發展セシメル、ト云フコトヲ教育上明カニスルト云フコトニスルニ付テハ憲法ガ獨リ婚姻ニ付テ規定ヲ爲スニ止リ家族協同體ニ付テ何等ノ規定ヲ設ケテ居ラヌト、其處ニ世ノ中ノ誤解ヲ生ズル虞ガアリマスマイカ、（拍手）先達テ内閣ノ法制調査會ガ發表致シマシタ刑法ノ改正要綱ノ中ニ、「姦通罪ノ規定ハ之ヲ削除スルコト、」ト云フ一項ガアリマス、サウ云フ積リデ議決シタ譯デハナカツタト私ハ思ツテ居ルノデスガ、結局サウ云フ形デ發表サレマシタ處ガ、若イ人ガ是カラ姦通ハ自由勝手ダト云フコトデゴザイマスカ、斯ウ云フ質問ヲ致シタ人ガアリマス、私共ノ積リハ姦通罪ニ對スル制裁ハ男女同性平等トシ、之ヲ民法ニ專ラ委ネルコト、斯ウ云フ形デ議決シタ積リデアルノデス、ソレヲ刑法ノ改正要綱デアルカラ、刑法ダケ書ケバ宜イノデアルカラ、ソコデ「姦通罪ノ規定ヲ削除スルコト」斯ウヤツタモノデスカラ、ドウモ世ノ中ノ誤解ヲ招イタコトニナリマスルガ、家族問題ニ付キマシテモ憲法上若シ片手落ニナツテ居ルト云フコトガ言ヒ得ラレマスルナラバ、此ノ片手落ノ規定ガ矢張リ風教ノ上ニ、教育ノ上ニ、遺憾ナル影響ヲ及スコトニナリハシナイカト云フコトヲ考ヘテモ、マンザラ無理ナコトデハナイノデハアリマスマイカ、（拍手）私ハ家族協同體ノ理念ト云フコトニ付テ法律論者ガ今ノ所デハ之ヲ精密ニ規定スルコトガ出來ヌ、サウ云フ人ガアルノデス、ソレハ一ツ考ヘテ見ナケレバナリマセヌガ、併シ假ニ不幸ニソレヲ規定スルコトガ出來ナイトシタ時ニ、是ハ一ツ教育問題デ、倫理ノ問題デアルト致シマスナラバ、一體此ノ憲法ノ下デドウ云フ風ニ此ノ問題ヲ取扱フベキカ、教育ノ當局トシテドウ云フ一體覺悟ヲ御持ニナツテ居ルカト云フコトヲ伺ツテ置キタイト思フノデアリマス、姦通罪ノ削除ニ關スルアノ要綱ノ如キハ早速抗議ヲ申込ンデ置キマシタ、是ハ刑法ニ關スルコトデゴザイマスカラ、抗議ヲ申込ンデ置キマシテ、修正案ヲ出セト云フコトデゴザイマスカラ、若シ許サレルナラバ、先程申シタヤウナ趣旨デ修正案ヲ出シタイト思ヒマスガ、サウ云フ心持デ私ハ家族問題ニ付テ規定ノナイ憲法改正案ニ對シ一抹ノ寂サヲ感ゼザルヲ得ナイ譯デアリマス、（拍手）段々長クナリマシタケレドモ御容赦ヲ願ヒマス、是カラ漸ク刑法ノ方ニ入リマス、（「散會」ト呼フ者アリ）段段御迷惑デゴザイマセウ、實ハ民法ト刑法ト一人デヤルコトハ無理ナコトデゴザイマスノデ、誰カ片方ニ分擔ヲ願ヒタイト思ヒマシタケレドモ、サウ云フ風ニイカヌノデ私ガ一人デ罷リ出マシタ、是ハ一體二人デヤルノデスカラ、明日ニ亙ツテ更ニ申上ゲルノガ本當カモ知レマセヌ、（「サウ願ヒマス」ト呼フ者アリ）、議長ガ御許シ下サレバ私ハ喜ンデ刑法以下ノコトヲ明日勤メマス、如何ナモノデゴザイマセウカ、是ハドウ云フ形式デ‥‥‥手續デ議長ニ御願ヒシタラ宜シウゴザイマセウカ
○議長（公爵徳川家正君） 御繼續ヲ願ヒマス
○牧野英一君 ソレデハ誠ニ長ク申上ゲテ濟ミマセヌデシタ、刑法以上ノコトハ明日更ニ引續キ御願ヒスルコトニ願ヒマス
○議長（公爵徳川家正君） 其ノ儘御繼續ヲ願ヒマス
○牧野英一君 失禮致シマシタ、議長ハ此ノ儘繼續ヲシロト云フ仰セデゴザイマスカラ、誠ニ恐レ入リマスケレドモ、モウ少シ申上ゲルコトニ致シマス、（拍手）改正案ハ刑事訴訟法ニ付テハ非常ニ細カイ規定ヲ設ケテ居ルノデゴザイマスルガ、刑法ニ付テハ幾ラモ規定ヲ明カニシテ居リマセヌ、ソレデ先ヅ刑法ノ根本問題トシテノ罪刑法定主義カラ始メマスガ、一體從來ノ十九世紀ニ於テ發達致シマシタ、罪刑法定主義ハ、政府原案ノ二十八條ト三十六條トガ之ヲ規定シテ居リマス、「何人も、法律の定める手續によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない、」トアルノデス、又第三十六條ニハ「何人も、實行の時に適法であつた」「行爲については刑事上の責任を問はれない」トアルノデス、當リ前ノコトデアリマス、併シナガラ斯樣ナ十九世紀ノ罪刑法定主義カラ二十世紀ノ文化國家ハ更ニ新シイ罪刑法定主義ニ考ヲ進メテ居ルノデアリマス、丁度自由權ニ付テ十九世紀ニハ個人ノ自由ナル行動ニ干渉シナイト云フコトヲ原則ト致シマシタノニ對シ、二十世紀ノ憲法ハ、個人ノ自由ナル活動ヲ實質的ニ充實セシメテヤルト云フコトヲ考ヘルヤウニナリマシタト同ジク、罪刑法定主義亦獨リ法律ニ對シテ人ヲ保護スルト云フバカリデハナク、人ト云フノハ結局罪人デアリマシテ、惡イコトヲシテモ法律ニ規定ガナケレバ罰シナイノデアリマスカラ、法律ニ對シテ犯罪人ヲ保護スルト云フノガ從來ノ罪刑法定主義デアリマスルガ、今度ハ新タニ法律ニ依ツテ犯罪人ヲ保護シナケレバナラヌト云フ考ヘ方ニ變ツテ來タノデアリマス、言ヒ換ヘテ見マスレバ、法律ニ違反シタル者ヲ捉ヘテ來テ、ソレヲ再ビ社會ノ一員トシテ役立ツヤウニ拵ヘ直ス、陶冶練成スルト云フコトガ刑罰ノ要點デアルト云フコトニナツテ來タノデアリマス、改善主議ノ刑法論トモ申シマスル、ソレヲ稍々皮肉ナ言葉ヲ用ヒテ我々ハ教育刑ト云フコトニ致シテ居リマス、刑罰ハ一種ノ強イ固イ嚴格ナ教育デアルト云フコトニナルノデアリマス、サウシテ犯罪人ヲシテ、犯罪ヲヤツタト云フヤウナ社會ノ屑、最後ノ一人ヲモ、社會ニ皆ト一緒ニ進ンデ行ケルヤウナ人的資源ノ一人ニ作リ直シテヤラウト云フノデアリマス、從來ノ考ヘ方ニ於テハ、犯罪人ヲ捉ヘテ來テ之ニ刑ヲ言ヒ渡シタ時ニ、國家ハ仕事ヲ終ツタモノトシテ居ツタノデアリマス、罰シテヤツタ、是デ宜イ、併シナガラ今日ノ考デハ犯罪人ニ對シテ刑ヲ宣告シタ時ニ本當ニ國家ノ仕事ガ始ル、斯ウ云フ風ニ考ヘルコトニナツタノデアリマス、即チ刑罰ハ犯罪人ニ對シテ國家ノ權威ヲ明カニスル所ニ使命ヲ終ルモノデハナクシテ、其ノ犯罪人ヲ再ビ社會ニ取戻シ、之ヲ善良ナル社會人トシテ、善良ナル市民トシテ、我々ノ國家ニ、我々ノ社會ニ受ケ入レルヤウニスルコトガ其ノ任務デアルト云フコトニナル譯デアリマス、此ノ點ニ關スル憲法改正案ノ規定ハ必ズシモ明白デハアリマセヌ、二種ノモノガアリマス、其ノ一ツハ政府原案第三十三條ニ、殘虐ナ刑罰ハ之ヲ禁止スル、斯ウアリマス、是ハ直接ニ意味スル所ハ、刑罰ヲ緩和化シタト云フダケノモノデアリマス、ガ今度ハ其ノ二ト致シマシテ第十六條ニ、「何人も、」「犯罪に因る處罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」斯ウ云フ規定ガアリマス、是ハ刑罰ガ間接ニハ苦役デアルト云フコトヲ示シテ居リマス、刑罰ハ何處迄モ苦役デアリマス、併シナガラ其ノ刑罰ノ殘虐性ト云フモノハ許サレナイ、此ノ殘虐性ヲ禁ズルト云フコトガドウ云フコトニナルカ、此ノ言葉ハ甚ダ消極的ナ意味ノモノデアリマシテ、形トシテハ十九世紀ノ法治國式ナモノデアリマス、併シ其ノ消極的ナ形ノモノヲ積極的ナモノニ展開ヲスル、引伸スト云フコトガ我々ノ任務ナノデアリマス、ソレヲ引伸シタ時ニ果シテドウ云フ結論ニ到達スルコトデゴザイマセウカ、先ヅ考ヘラレマスノハ、社會保全ノ必要ノ程度ニ刑罰ハ止ラネバナラヌト云フコトデアリマス、社會デ必要トスル以上ノ刑罰ヲ加ヘルト云フコトハ、殘虐性ト云フコトニナルノデハゴザリマスマイカ、刑罰ハ固ヨリ我々ノ共同生活ノ規律ヲ正シ、社會ヲ保全スルモノデアリマスルガ、此ノ世ノ中ニ行ハレテ居ル觀念的ナ一種ノ議論、感情的ナ一種ノ議論ハ嚴罰ト云フコトヲ主張シテ居ルノデアリマス、サウシテ其ノ嚴罰ト云フコトガ一種ノ倫理的ナ意味ノモノデアル、倫理的責任ノ理論上然ルベシト云フヤウナコトヲ言ツテ居ルノデアリマス、片方ニ於テハ斯樣ニ倫理的ナ觀念論ガアルト同時ニ、片方デハ刑罰ハ被害者ニ代ツテ復讐ヲヤルノダ、復讐ヲ整頓シ、度ヲ越スコトノナイヤウニスルノガ刑罰デアルカラ、其ノ積リデ刑罰ヲ科スベキデアルト云フ議論ガ現ニ行ハレテ居ルノデアリマス、サウ云フソレゾレノ議論ガ刑罰ヲ社會保全ニ必要ナル程度ニ止メテ居ル中ハ、我々モ異論ハナイノデス、ケレドモ我々ノ裁判ニハ、裁判的「テロリズム」、裁判的「フアッシヨ」ト云フ誠ニ不愉快ナ批評ガ或方面カラ與ヘラレテ居ルノデアリマス、サウシテ我々ハソレヲ必ズシモ事實トシテ本當デアルトハ考ヘマセヌケレドモ、此ノ際之ヲ考慮シナケレバナラヌ場合ニ立至ツテ居ル譯デアリマス、社會保全ノ必要ト云フ點カラ考ヘマスルト、尚御承知ノ通リ一般豫防論ト云フモノガアリマス、碎イテ申シマスレバ見セシメ主義、見セシメノ爲ニ刑罰ヲ科スルト云フ主義デアリマス、今日デモ公判廷ニ於テ檢事ガ、此ノ被告人ハ十分之ヲ後悔シ、悔悟ヲシテ居ルト認メルケレドモ、一般豫防ノ爲ニ云々ノ刑ヲ科セザルベカラズト云フコトヲ公言シテ居ル場合ガ相當ニ多イノデアリマス、又稍々暫ク前ノコトデアリマスルガ、當局ノ大臣ガ一罰百戒ト云フ言葉ヲ聲明サレタコトガアリマス、一罰百戒ト云フ言葉ニ依ツテ當局ノ大臣ガ何ヲ意味セラレタカハ實ハ私共ニハ分リマセヌ、ケレドモ、斯樣ナ聲明ニ對シテハ世ノ中ハ震ヘ上ツタノデアリマス、即チ斯樣ナ聲明ニ依ツテ其ノ邊ニ經濟統制違犯者ガ澤山アル、其ノ中ノ一ツヲ拔キ檢査デ持ツテ來テ、ソレヲ嚴罰ニ處スルコトニ依ツテ他ノ者ヲ威壓シヨウト、斯ウ云フ風ニ世ノ中ノ人ハ、恐ラクハ誤解デセウ、併シナガラ理解ヲシタ譯デアリマス、斯樣ナ一罰百戒ト云フヤウナコトハ、當局ガ檢擧ヲ全ウシ、本當ニ罰スベキ者ヲ遺漏ナク罰スルト云フ點ニ於テノ自己ノ粗漏ヲ蔽ヒ隠シテ、見付カツタ者ヲ嚴罰ニ處スルコトニ依ツテ、事ヲ解決シヨウトシタモノトシテ世ノ中ガ考ヘタ、サウシテソレヲ司法「フアッシヨ」ト云フヤウナ名デ呼ブコトニナツタノデアリマス、檢擧ト裁判トハ、尚富籤ノ如シ、富籤ハ當レバ宜イケレドモ、檢擧ノ方ハ當ツタラ大變ダ、斯ウ云フヤウナコトニナツテ、一罰百戒ノ聲明ハ却テ不幸ナル逆効果ヲ齎シ、社會的不安ヲ招イタ譯デアツタノデアリマス、私共ハ此ノ一般豫防論ニ對シテ、特別豫防論ヲ考ヘテ居リマス、即チ先程ノ改善主義ノ刑罰デアリマシテ、眞ニ重カルベキ者ニハ重ク、サウシテ輕カルベキ者ニハ輕ク、斯ウ云フ方法デ裁判ガドウ云フモノデアルカト云フコトヲ世ノ中ニ示セバ、自ラ其處ニ一般豫防ノ効果ヲ待チ設ケルコトガ出來ル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマスルノデ、特別豫防ト云フコトハ、一般豫防ト云フコトヲ無視シタ議論デハアリマセヌ、能ク世ノ中ノ人ガ特別豫防論ハ、一般豫防ト云フコトヲ無視シテ居ルト云フコトヲ言ツテ居リマス、無視シナイノデス、ソレヲ十分重要視シマスルガ、併シナガラ重キヲ重シトスルト同時ニ、輕キヲ輕シトスルコトニ依ツテ刑罰ノ殘虐性ト云フコトヲ避ケヨウ、斯ウ云フ趣旨ニナツテ居ルノデアリマス、是ハ何處迄モ犯人ト雖モ、苟モ人間デアル以上ハ、其ノ個人ノ人格ヲ尊重スルト云フ倫理的ナ人格主義ノ考ヘ方デアリ、ソレガ又此ノ憲法改正案ニ於ケル個人ノ尊重ト云フコトト併セテ考ヘラレテ然ルベキモノデアラウト思フノデアリマス、刑事政策ト云フコトハ要スルニ此ノ改善主義ノ刑法理論ヲ徹底セシムルコトニナルノデアリマス、サウシテ刑ノ執行猶豫ト云フヤウナ制度ガ段々ニ發達シナケレバナラヌコトニナリマスルシ、ソレニ連レテ今度ハ累犯ニ對スル加重制度ト云フモノガ、段々巧妙ニ然ルベク運用サレネバナラヌコトニナリマス、其ノ間ニ於テ假出獄ト云フモノガ微妙ナ働キヲスルノデアリマス、過ツテト言ツテハ惡ウゴザイマスガ、兎ニ角一定ノ刑罰ヲ言ヒ渡シタ時ニ、ソレガ實際上重過ギタ時ニハ假出獄ノ制度デ之ヲ調節スルト云フコトニナルノデアリマス、此ノ我ガ刑法ノ假出獄ノ制度ハ「ヨーロッパ」諸國ノ刑法ノ制度ニ較ベテ非常ニ寛大ニ出來テ居リマス、「ドイツ」ノ學者ガ我ガ國ノ刑法ノ其ノ點ニ付テ非難ヲ致シテ居リマスルノデ、私ハ論文ヲ書イテ、ソレヲ「ヨーロッパ」デ發表致シマシタ、我々ハ假出獄ノ制度ニ依ツテ、「ヨーロッパ」ヨリモ寛大ナ仕組ヲ持ツテ居ルト云フコトニ付テ後悔ヲシテ居ラヌ、統計ハ斯クノ如シト云フコトヲ發表シ、其ノ學者ニモソレヲ送ツタノデアリマシタ、サウシテ現ニ昭和六年ニ假釋放審査規程ト云フノガ出來マシタ、又昭和八年ニ行刑累進處遇令ト云フ司法省令ガ出來マシタ、前ノハ司法省訓令デアリマス、後ノハ司法省令、ソレニ伴ウテ今日デハ行刑ノ實際ガ段々ニ發達シテ居ル譯デアリマス、ソコデ此ノ假出獄ニ付テ一ツ申上ゲテ見タイコトガアリマス、昭和六年ノ右ノ規定ガ實施セラレルコトニナリマシテ以來假出獄ノ數ガ非常ニ多クナツタノデアリマス、而モ假出獄ヲシタ結果ガ善イト云フコトニナツタノデアリマス、誠ニ假出獄ハ善政デアリマスルノデ、私ハ之ヲ誇トシテ外國人ニ對シ論文ヲ書イテ見タコトデアリマシタ、併シナガラ飜ツテ考ヘテ見マスト云フト、假出獄ガ斯樣ニ多ク、而モソレガ成功シテ居ルト云フコトハ、從來裁判所ノ言渡シタ刑ガ無用ニ所謂殘虐性ヲ持ツテ居ツタノデハナイカト云フコトヲ意味スルコトニナリマスルノデス、尚片方ニ於テハ、我ガ國デハ累犯統計ト云フモノガ誠ニ面白クナイノデス、累犯ガ非常ニ多イノデス、片方デハ累犯ガ多イト云フコトハ刑ガ本當ニ嚴格ニ出來テ居ラヌ、社會保全ノ必要ニ應ジテ出來テ居ラヌ、又其ノ點ニ於テ裁判所ガ少シ緩ンデ居ル、而モ假出獄ガ非常ニ多イト云フコトハ、裁判所ガ不當ニ重カツタト云フコトヲ示スモノデアリマス、ソレデ此ノ際、一ツ刑法ニ於テモ改善主義ノ刑法理論ト云フモノヲ、此ノ各個人ノ人格ヲ尊重スルト云フ刑法改正案ノ原則ニ基イテ何處カデ之ヲ明カニシタイ、刑罰ノ殘虐ナル刑罰ハ之ヲ禁ズト云フ位ノ外ニ何トカ是ハ方法ハナイノデセウカ、例ヘバ最近ノ例トシテハ「フランス」ノ第四共和國ノ憲法草案ニハ教育刑ノ原則ヲ掲ゲテ居リマス、之ヲ何トカ憲法ノ上デ掲ゲルコトガ出來ナイモノデゴザイマセウカ、少クトモ斯樣ナ精神ハ將來ノ刑法ノ改正ノ上ニハ明カニセラレナケレバナラヌ所デアリマス、是ハ斯樣ニ申シマスルガ、容易ニ實際家ノ容レル所ニハナツテ居リマセヌ、學説ニ於テモ反對ガアリマス、現ニ立法上此ノ點ニ付テノ改正ヲ當局ニ促シマシタケレドモ、其ノ人々ハ、學説上色色議論ノアルモノハ今俄カニソレヲ立法ニ現スコトガ出來ヌト、斯ウ云フ譯デ今日ニ至ツテ居リマス、併シナガラ今日ハ、此ノ刑法改正案ノ下ニ其ノ學説上ノ爭ヲ國家自ラ直接ニ解決シナケレバナラヌコトニナツテ居ルノデアリマスマイカ、我々ハ立法上直接ニソレヲ解決スルコトガ出來マセヌデシタカラ、昭和六年以來搦手ノ方ニ廻ツテ、假出獄ノ制度ヲ促進スルコトニ依ツテ改善刑ノ目的ヲ或程度迄今日全ウスルコトガ出來テ居ルノデアリマス、併シナガラ假出獄ト云フヤウナコトハ例外的ノ方法デアリマスルノデ、矢張リ裁判所ガ刑罰ヲ行フ時ニ、刑罰ヲ宣告スル時ニ、矢張リ此ノ教育刑ノ原則ハ、犯罪人ノ末ニ至ル迄其ノ人格ヲ尊重スルト云フ原則ヲ設ケ仕事ヲシナケレバナラヌ、サウ云フコトガ此ノ際此ノ憲法改正案ニ關聯シテ考ハテ戴イテ如何ナモノデゴザリマセウカ、私共ハ嚴罰ガ社會生活ノ規律ヲ嚴格ニ正サネバナラヌモノデアルト云フコトヲ忘レテ居ルノデハゴザリマセヌ、ケレドモソレハ一罰百戒ニ依ツテ全ウセラレルモノデハナク、眞ニ重カルベキ者ニ重ク、輕カルベキ者ニ輕イト云フ人格的ノ刑罰制度ニ依ツテ出來上ルモノト考ヘルノデアリマス、私ハ此ノ司法「テロリズム」ト云フヤウナ言葉ガ世ノ中ニ擴マツテ、我々ノ裁判ノ働キガ不幸ナル誤解ヲ招イタニ付テモ、此ノ際法律上事ヲ明カニスルコトガ望マシイコトトセネバナラヌノデアリマス、眞ニソコノコトハ民法上諸國ニ例ノアルコトヲ先程一言致シマシタガ、改善刑ノ原則ニ付テハ「アメリカ」ノ「プリズン・アスソシェイション」ノ原則宣言即チ「デクラレイション・オブ・プリシプルス」ト云フモノガアルコトヲ、申上ゲテ置キタイト思ヒマス、是ハ「アメリカ」ノ「バア・アスソシェイション」ト竝ンデ最モ有力ナ法律家、社會事業家ノ團體デアリマス、此ノ原則宣言ハ三十七條カラ出來テ居ルモノデアリマスルガ、其ノ第一條ニハ刑罰ハ犯罪ノ故ヲ以テ犯罪人ニ科セラレル苦痛デハアルケレドモ、其ノ犯罪人ノ改善ヲ完ウスベキ特別ナ見地ニ於テ科セラレネバナラヌモノデアルトアリマス、第二條ニハ社會ニ依ル犯罪人ノ處置ハ社會ノ保全ノ爲ノモノデアル、其ノ處置ハ犯罪ト云フ事實ニ對スルヨリモ犯罪人ニ對シテ向ケラレルモノデアルカラ、其ノ目的ハ犯罪人ノ道徳的再生、「モラル・レヂェネレイション」デナケレバナラヌ、監獄規律ノ最高ノ目的ハ犯罪人ノ改善デアツテ、報復的苦痛ヲ科スルコトデハナイ、コンナ風ニ出テ居リマス、第四條ニハ、希望ハ恐怖ヨリモ効果的ナモノデアル、「ホープ」ハ「フィア」ヨリモ「モア・ポテント」デアルト書イテ居リマス、サウシテ第十三條ニ至ツテ社會ノ利益ト受刑者ノ利益トハ一致スルモノデアリ、現在ノ所デハ此ノ二ツノモノハ互ヒニ爭ツテ居ルヤウデアルケレドモ、受刑者ヲ改善スルト云フ立場ニ立ツニ於テハ、兩者ハ利害共同ノ關係ニ立ツモノデアル、斯ウ規定シテ居リマス、第十五條ニ至ツテ刑ハ道徳的ノ力ヲ以テ執行セラレネバナラヌモノデ、有形ノ力ハ成ルベク避ケナケレバナラヌモノデアル、權力ニ依ツテ、良キ受刑者「プリズナー」ヲ作ルコトハ出來ルガ、良キ市民、「シティズン」ハ道徳的訓練ニ依ツテノミ之ヲ見ルコトガ出來ル、サウシテ監獄ノ吏員ニ向ツテ監獄ノ吏員ハ如何ナル犯罪人ト雖モ結局之ヲ改善スルコトガ出來ルモノデアルト云フコトノ「コンヴィクション」ヲ擲ツテハナラヌト、斯ウ規定シテ居ルノデアリマス、斯樣ナモノヲ直チニ我々ノ法律ノ中ニ受入レルト云フ譯ニハ行キマセヌケレドモ、併シナガラ斯ウ云フモノガ、今世界ノ趨勢デアリマス、國際刑務協會ト云フモノガアリマシテ、諸國デ五年毎ニ入レ替リニ國際會議ヲ開イテ、我ガ國モ常ニ代表者ヲ出スノデアリマスルガ、其ノ會議ノ我々ニ齎シテ居ル決議ハ皆斯樣ナ精神ニ依ツテ出來テ居ルモノデアリ、今更改正憲法ヲ俟ツテ初メテ是ガ明カニナル譯デハアリマセヌガ、此ノ際我々ハ我々ノ學説デ唱ヘテ居ル程度ノ古イ衣ヲ擲ツテ、新シク憲法ノ上ニ綺麗ナモノヲ一ツ拵ヘテ戴キタイト斯ウ思フ次第デアリマス、少クトモ近ク刑法ガ改正セラレマスルニ於テハ民法ノ劈頭ニ新規則ガ明カニセラレルト同ジク、刑法ノ劈頭ニ改善刑ノ原則ト云フモノガ明カニセラレネバナリマスマイ、斯樣ナ次第デ、問題ハ更ニ訴訟法ニ移ツテ參リマス、成ルベク是モ手短カニ申上ゲルコトニ致シマセウ（「簡單々々」ト呼フ者アリ）誠ニ出來ルダケ簡單ニ申上ゲヨウト思ヒマスガ、事ガ民法、刑法ノ全面ニ亙ルノデアリマシテ、是ハサウ簡單ニハ參リマセヌデス、而モ憲法ハ、民法刑法ニ於テ斯クノ如キ新タナル變革ヲ齎スモノデアルト云フコトノ私ノ考ガ若シ間違ヒデナイト思召シ下サルナラバ、今暫ク御辛抱ヲ願ヒタイ、（拍手）訴訟法ハ今裁判所構成法ト共ニ、改正憲法ト共ニ非常ニ大キナ影響ヲ受ケネバナリマセヌ、今迄ノ訴訟法ト云フモノハ民事訴訟法ノ言葉ヲ以テ申シマスレバ、攻撃ト防禦トノ爭ヒトシテ組立ラレテ居リマス、攻撃ト防禦トニ依ツテ民事訴訟ガ出來テ居ル、其ノ民事訴訟法ノ理論ト云フモノハ、非常ニ緻密ナモノデ煩瑣ナモノデアリマス、理論的ナ其ノ意味ト云フモノハ、我々ハ專門家トシテ十分之ヲ認メマスケレドモ、今信義誠實ノ原則ト云フコトヲ訴訟法ニ及シマスルト云フト、其ノ適用ノ結果ハ餘程新ラシイモノニナラネバナリマスマイト思フノデアリマス、サウ云フ所カラ先ヅ第一ニ問題トナリマスルノハ、裁判所構成法ノ問題トシテ、一方ニハ最高裁判所ト云フモノガ設ケラレルノデアリマスガ、他方ニハ恐ラク簡易裁判所ト云フモノガ設ケラレナケレバナリマスマイ、最高裁判所ノコトハ姑ク之ヲ別ニ致シマス、今迄司法的「テロリズム」或ハ裁判的「フアッシヨ」ノ一ツノ現レハ違警罪即決ト云フコトニナツテ、サウシテ其ノ制度ガ濫用サレル、所謂盥廻シト云フヤウナ現象ヲ見テ、如何ニソレガ殘虐性ヲ持ツテ居ルカト云フコトニ付テ今新ラシク問題トサレテ居リマスカラ、年來久シク問題トナツタ違警罪即決例ト云フモノハ今潔ク抛タレネバナリマセヌ、是ハ十分當局ニ於テモ承知サレテ居ルコトト思ヒマス、其ノ違警罪即決即チ警察ガ拘留科料ノ裁判ヲ言ヒ渡スニ代ヘテ、今度ハ簡易裁判所ト云フモノガ出來ナケレバナリマセヌガ、此ノ簡易裁判所ト云フモノノ組織ハドウ云フ風ニナリマセウカ、是ハ法律家ダケデ宜イモノカ、殊ニ若イ法律家ダケデ宜イモノカ、或ハ民間カラ常識ノ豐カナ紳士ヲ裁判官ニナツテ貰フト云フヤウナ途ヲ付ケルト云フ工夫ガドウカト云フヤウナコトガ問題ニナル譯デアリマス、簡易裁判所ハ攻繋ト防禦トノ錯綜ニ依ル所ノ刑事訴訟法、民事訴訟法デヤル所デハアリマセヌ、何處迄モ健全ナル常識ニ依ツテ裁判ガ進メラレネバナラヌ譯デアリマス、今迄ノ裁判所ハ謂ハバ封建主義ノモノデアリマシタ、之ニ對シテ本當ニ豐カナ潤ヒノアル簡易裁判所ト云フモノガ出來ネバナラヌ譯デアリマス、此ノ簡易裁判所ニ於テハドウ云フ趣旨デ裁判ヲスルカ、ドウ云フ手續、考デ裁判ヲスルカト云フコトガ劈頭第一ニ明カニセラレネバナリマスマイ、此ノ間或席上デ簡易裁判所ノ問題ガ起リマシテ、或司法部ノ係官ガ簡單迅速ニ裁判ヲスルノヲ趣旨トスルト云フコトヲ言明セラレマシタ時ニ、横ニ若イ辯護士ノ皮肉ナ人ガ居リマシテ、是カラハ手短カニ人ヲ罰スルト云フコトニナルノデスカト、斯ウ云フ風ニ批評シタ人ガアリマス、先程ノ姦通罪ノ規定ヲ削除スルト云フヤウナ場合ト同ジコトデ、簡單明瞭ト云フ言葉ニハ無理ハナイノデアリマスガ、常識的ニ簡單明瞭ニト云フ、「常識的ニ」ト云フ言葉ヲ儉約サレタノガ誤解ノ因デアリマシタ、併シナガラ單純ナボンヤリシタ常識デハアリマセヌ、何處迄モ健全ナル常識デアリマス、其ノ健全ナル常識ニ依ツテ、法律ニ依ツテ裁判ヲスルノデハアリマスルガ、法律ヲ超エテ、公平ニ法律ニ依ツテ刑ヲ言ヒ渡スノデアリマスルガ、何處迄モ犯人ノ改善ヲ目的トシテ、拘留科料ノヤウナ、百圓二百圓ノヤウナ事件デモ之ヲ懇ニ、併シナガラ手短カニ裁判スルト云フコトニナラネバナリマセヌ、斯樣ナ原則ハ將來民事訴訟法一般、刑事訴訟法一般ニ及バネバナリマセヌ、併シナガラ法律ノ倫理化ハ家庭カラ始ルト同ジヤウニ、我々ノ裁判ノ何ト申シマスルカ、新ラシイ行キ方ハ簡易裁判所カラ手始メヲスル譯ニナリマス、此ノ簡易裁判所ノ劈頭ニ於テ、民事ニ於テハ公平ニ併シ常識的ニ、刑事ニ於テハ犯人ノ改善更生ヲ目的トシテ、是モ常識的ニ手短カニ罰スル、斯ウ云フヤウナ趣旨ノコトガ此ノ簡易裁判所ノ規定ノ劈頭ニ規定セラレテ欲シイモノト思ヒマスルガ、出來ルナラバサウ云フ趣旨ガ憲法ニ既ニ現レテ居ルト云フ風ニ願ヘタラ非常ニ有難イコトト思ヒマス、憲法改正案ニ於ケル各種ノ刑事訴訟法ノ規定ハ非常ニ煩瑣ナモノデアリマス、是ハ細目ニ付テ議論ヲ致シタイト思ヒマスルケレドモ、此ノ席上デハ適當デハアリマスマイ、今司法當局ハ法制調査會ニ於テ刑事訴訟法ノ改正ヲ進メテ居ラレマスルケレドモ、改正憲法トノ關係上、非常ニ大キナ疑ガアルノデアツテ、現ニ委員會ニ於ケル或決議ノ如キハ、憲法ノ關係ハ之ヲ除外シテ決議ヲスルト云フヤウナ意味合ノコトニナツテ居ルノデアリマス、細カイコトハ失禮ナガラ相當ニ專門的ナルコトデアリマスルカラ、委員會ニ於テ然ルベク御審議ガアルベキデハアリマセウ、衆議院ノ其ノ點ニ付テノ修正ハ周到デアリマセヌ、是ハドコ迄モ貴族院ニ於テ專門家ガ十分ニ審議ヲ盡サネバナラヌ所デアリマスルガ、其ノ點迄ハ此處デハ、此ノ席上デノ質疑デハ入リマセヌ、斯樣ナ所カラ更ニ監獄法ニ迄事ガ及ブ譯デアリマス、刑ノ殘虐性ハ之ヲ禁ズルコトニナツテ居ルコトガ、監獄法ノ改正ニドウ云フ影響ヲ及スカ、現在ノ監獄法ト云フモノハ監獄ノ事務規程デアリマス、監獄ノ役人ガドウ云フ風ニ事務ヲ扱フカト云フダケノモノニナツテ居リマスルガ、併シナガラ行刑法ノ中ニ此ノ刑罰執行ノ大理想ヲ盛ルト云フコトハ、既ニ「ヨーロッパ」ノ立法例ガ我々ニ範ヲ示シテ居ル所デアリマス、憲法改正案ノ審議ニ連レテ、是ハドウシテモ當局ニ於テ此ノ際更ニ御考ヲ願ハネバナラヌ所ト信ジマス、ソコデモウ一ツ御願ヒ致シマス、ソレハ裁判所ノ改革ト云フコトニ關聯ヲ致シマシテカラ裁判官ノ養成ト云フコトガ非常ニ大キナ問題ニナリマセウガ、ソレト同時ニ裁判ノ外ニ、今簡易裁判所デハ恐ラクハ法律家デナイ裁判官ガ出來ルヤウニ法制調査會ノ仕事デハ出來テ居リマスルガ、其ノ他ニ調停制度ト云フモノガ段々進マネバナリマスマイ、又陪審法ト云フモノガモウ一遍考ヘ直サレネバナラヌ運命ニ差迫ツテ居ルノデアリマス、是等ノ素人裁判官ト云フヤウナ者ハ、一體ドウ云フ所カラ常識ノ豐ナサウ云フ人人ヲ探シ出シテ來ルコトガ出來マセウカ、是ハ要スルニ左翼ニアラズ、右翼ニアラズト云フ言葉ヲ使ツテハ穏デナイカモ知レマセヌガ、中流階級ト云フ所カラ人ヲ探シテ來ナケレバナラヌ譯デアリマス、此ノ中流階級ヲ保全スルト云フコトガ斯樣ニシテ問題ニナル譯デアリマス、固ヨリ中流階級ノ保全ト云フコトハ裁判官ダケノ問題デハゴザイマセヌ、健全ナル常識ガ此ノ世ノ中ヲ支配スル爲ニハ、中流階級ト云フモノガドコ迄モシツカリシナケレバナリマセヌノデアリマス、今日ノヤウナ社會組織ヲ此ノ儘ニシテ置キマスト云フト、中流階級ハ漸次滅ビサルヲ得ナイヤウナコトニナツテ居ルコトハ、尚健全ナル家族制度ガ崩壊シツヽアルノト趣ヲ同ジクスルノデアリマス、斯クノ如クニシテ中流階級ノ保護保全ト云フコトガ憲法上ノ問題ニセラレネバナラヌ筈ト思ヒ、既ニ他國ノ憲法ニハ其ノ例ヲ見ルノデアリマスガ此ノ憲法改正案ノ下ニ於テハ、中流階級ニ對スル配意、配慮關心ノ示サレテ居ル何物モナイヤウニ思ヒマスノデ、是ハ如何ナモノデゴザイマセウカ、今度ハ裁判所ニ關聯シテモウ一ツ問題ヲ出シテ置キタイ、ソレハ英米法ト考ヘラレテ居ルヤウナ人身保護律ノ問題デアリマス、非當時ノ數年ノ間、人身ノ自由ト云フモノガ甚ダ危殆ニ差迫ツタコトガアツタノデアリマスルガ、此ノ問題ハ今後モ恐ラク續クコトデアラウト思ヒマス、ソコデ固ヨリ刑事訴訟法ニ於テ十分其ノ點ガ考慮セラルヽノデアリマスルケレドモ、別ニ最高裁判所ノ取扱フ問題トシテノ人身保護ノ問題、英米法ノ所謂「ハベヤス・コーパス・アクト」ノ問題ガ我ガ國ニ於テモ考ヘラレテ如何ナモノデゴザイマセウカ、英米ニ於テハ自由ノ保護ト云フコトニ付テハ、裁判ニ關係シ、司法ニ關係シテハ第一ニ陪審、第二「ハベヤス・コーパス・アクト」ト、斯ウ云フコトニナツテ居リマスノデ、陪審ヲ英米レ範ヲ取ツテ規定ヲ設ケタ我ガ國トシテハ、ソレハ此ノ際多少ノ修正ヲ施サネバナラヌニシテモ、陪審ハ英米ノモノデアリマス、人身保護律ノ關係ニ於テモ官憲ノ濫用ノ場合ノ外、或ハ其ノ邊ニ誰ヤラガドウヤラデ軟禁サレテ居ルト云フヤウナ事柄ガ起ツタ時ニ、警察官ノ手デナク、檢事ノ手デナク、裁判所、「イギリス」ニ於テハ「ハイ・コート」ガ之ヲ取扱ツテ居ルガ、「ハイ・コート」、我ガ國デ言ヘバ是カラ設ケラレル最高裁判所ニ訴ヘルト云フ途ヲ開ク、固ヨリ英米ノ法制ヲ其ノ儘輸入スルト云フコトハ出來マセヌケレドモ、我ガ國ラシク之ヲ改メルコトニ依ツテ、人身保護ノ制度ト云フモノヲ特ニ設ケルト云フコトガ、此ノ際問題ニセラレテ如何デゴザイマセウカ、人身保護ノコトハ「イギリス」デ言ヘバ、矢張リ憲法ノ一條目ト云フコトニナリマセウ、兎ニ角之ガ出來ルナラバ、或形ニ於テ憲法上基礎ガ置カレルコトヲ希望スル次第デゴザイマスルケレドモ、併シ若シ憲法ニ於テソレガ設ケラレナイト云フコトニナリマスルナラバ、憲法ノ精神ヲ汲ンダ所ノ將來ノ法律ノ改革トシテ、其ノ問題モ一ツ當局ニ於テ十分考ヘテ戴キタイト思ヒマス、是ハ憲法草案ノ第三十條及ビ第三十一條、特ニ第三十一條ニ關聯スル非常ニ重大ナ問題デアルト私ハ考ヘテ居リマス、不幸ニモ衆議院ハ此ノ點ニ付テ何等ノ考慮ヲモ拂ツテ居リマセヌ、是デ私ノ質疑ヲ終リマスガ、唯序ニ小サナコトデハアリマスガ、此ノ改正案ヲ讀ミナガラ、此ノ用ヒラレタ言葉ト文體トニ付テ聊カ私ノ印象トスル所ヲ附加ヘルコトノ御許ヲ願ヒタイト思ヒマス、此ノ改正案ガ憲法トシテ成立スルノ日ニハ、此ノ憲法ハ國語トシテ標準的ナモノニナラネバナラヌ筈デゴザイマセウ、併シ政府ハ此ノ憲法ノ全文、即チ各條ノ規定ガ是デ我ガ國ノ國語ノ用ヒ方ノ模範的ナモノトシテ、使命ヲ果シ得ルモノト云フコトノ覺悟ガオアリニナルモノト言ツテ、失禮ナガラ‥‥‥御咎ヲ蒙ムラナイコトヲ御願ヒ致シタイ、固ヨリ此ノ全文ヲ讀ミマシテ此ノ文章ノ心持トシテ之ヲ論ズルノデアリマスカラ、是デ結構デハナイカ、又衆議院ニ於テ或程度ノ修正ヲ經マシタ、サウ云フ衆議院ノ或方ノ演説ニハ誠ニ此ノ前文ノ如キハ天下ノ名文デアルト云フヤウニ賞讚ヲシテ贊成サレタ方ガアリマスルガ、私トシテハ不幸ニシテ此ノ前文ヲ讀ミナガラ、少クトモ先ヅ政府草案ヲ讀ンダ時ニ餘リニ好イ心持ニハナラナカツタノデアリマス、内容ニ於テ成ル程好イ心持ニナリ得ナイ理由モアリマセウガ、其ノ文章ガ其ノ滑ラカサ、其ノ潤ヒ、果シテ是デ宜イモノデゴザイマセウカト思フノデアリマス、處ガ飜譯トシテ英文ノモノガ我々ニ配付セラレテ居ルノデアリマスガ、飜譯ノ方ヲ見マスルト云フト、チヨツト樣子ガ違フ、私ハ英語ヲソンナニ巧ニハ致シマセヌケレドモ、一通リハ讀ンデ分ル積リデアリマスガ、英語ノ方デ讀ムト云フト割ニ穏ヤカニ理解ノ出來ル所ガ、失禮ナガラギゴチナイヤウナ國語ノ用ヒ方ニナツテ居ルノデハナイカト思ハレルノデアリマス、言ヒ過ギデアリマスナラバ當局トシテドウゾ御宥恕ヲ御願ヒ致シタイノデアリマスガ、ドウゾ一ツモウ少シ國語ノコトニ達者ナ方ガ何トカ、之ヲ中學校ノ教科書ニシ、小學校ノ子供ニ讀マシテモ納得スルヤウニ模範トスルヤウニ、サウシテ我々ガ之ニ從ツテ是カラノ文章ヲ書クヤウナコトニナルヤウニシテ戴ク譯ニハ行キマスマイカ、ソレハ文章全體ノ滑ラカサ、潤ヒト云フヤウナ點ノ問題デアリマスガ、又言葉ノ微細ナ使ヒ方ニ付テモ、何トカ御考慮ヲ仰グコトガ出來ナイカト思フモノガ相當ニ澤山アルノデアリマス、例ヘバ前文ヲ第一ニ開イテ見マスト云フト、「政府の行爲によつて再び戰爭の慘禍が發生しないやうに」ト書イテアル、發生シナイノハ政府ノ行爲ニ依ルノデセウカ、ドウモサウデナイヤウデスナ、サウスルト云フト是ハ「政府ノ行爲ニ依ツテ再ビ戰爭ノ慘禍ガ發生スルコトガナイヤウニ」斯ウ云フ風ニ御書キヲ願フ方ガ宜イノデハナイカ、是デハ政府ノ行爲ニ依ツテト云フ、一ツノ「アドヴャービァル・フレーズ」、是ガ慘禍ト云フ名詞ニ掛ツテ居ルノデ、ドウモ文法トシテハ體ヲナサヌ書キ方デアルト私ハ斯ウ考ヘマス、ソレハ英譯ノ方デ見ルトスラリト讀メルヤウナ氣ガ致シマスノデ是ハ誤譯デアルノカ、ウマク譯シタノカ、又第二條ヲ見マスト「皇位は、世襲のものであつて、國會の議決した皇室典範の定めるところにより、これを繼承する。」トアリマス、「これを繼承する」ト云フノデアリマスルカラ、「サブジエクト」ガナケレバ、文章ニハナリマセヌ、「皇位は、世襲のものであつて、國會の議決した」、其ノ「繼承」ハ「國會の議決した皇室典範の定めるところにより」ト書クカ、サウデナケレバ「皇室典範ノ定メルトコロニヨリ承繼セラレル」、斯ウ云フ風ニ書カネバ文章ヲナサヌ筈デアリマス、英語ノ方ヲ讀ムト云フト上手ニ出來テ居ルト云フヤウナコトニナリマス、是ハ皇位ハ何人ガ之ヲ繼承スルカト云フコトモ、矢張リ皇室典範デ定ルノデスカラ、此ノ書キ方デハ少クトモ私ハ文法上ドウデアラウカト考ヘルノデアリマス、斯ウ云フヤウナ例ガ相當ニ拾ヒ出セバアリマス、オウルサイデセウガ、又是ハ本會議ノ質問デ議論ヲ願フコトデモゴザイマセヌ、委員會デソレゾレノ專門家ガ適當ニオヤリニナルコトデゴザイマセウ、又先程ノ政府原案二十三條デ、「法律は」ト書イタノガ、英文デ見ルト云フト「法律ガ」デアルノデ、「ガ」ノ方ガ適リガ宜イノデアルト云フコトヲ申シマシタガ、英文デ讀ムト云フト、マア大變ナダラカニナツテ居リ、是ハ先程モ一言致シマシタガ、衆議院ノ修正案ガ然ルベク處置シテ居リマス、ソレカラ「國務大臣は、その在任中、内閣總理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の權利は、害されない。」トアリマス、「これがため、」「されない」ノヂヤナイ、「これがため、」「サレルコトガナイ」ノデアリマス、之モ之デハ書キヤウガドウカト思ヒマス、モウ一ツ重要ナ點ト致シマシテハ、先程財産權ニ關スル規定ノ所デ、「私有財産は、正當な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」トアリマス、「用ひる」ト云フ言葉デハ少シ狹イ、農地調整法ニ關聯シテ考ヘテモ、此ノ言葉デハ不十分デハナイカト申シマシタガ、之モ英語デ讀ミマスト云フト、「用ひる」ト云フ所ガ「テークン」ト云フ字ガ使ツテアリマス、サウスルト是ハ誤譯デスネ、「用ひる」ト云フノトハ大分違フノデハナイカ、之モドウモ英語ニ堪能ナ方ノ御教ヘヲ受ケナケレバナリマセヌガ、英語ヲ讀ンデスラスラト讀メルヤウニ思ヒマスル點ガ、案外本文ノ改正案ニ付テ見ルト云フト、却テ疑問ヲ生ズルト云フヤウナコトガアルノハ、或ハ私ノ不敏ノ致ス所デアルコトデアリマセウガ、餘リ斯ウ云フ席上デ申上ゲルト云フコトハ、誠ニ畏イコトデアリマスルケレドモ、尚一ツ御考ヲ願フコトガ出來レバ幸ニ存ジマス、又政府原案第十一條ノ權利ノ濫用ニ關スル規定デモサウデアリマス、「國民は、これを濫用してはならないであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」「のであつて、」ト云フ日本語ハドウ云フ意味ノモノデアリマセウカ、私ノ理解スル所デハ、「國民ハ獨リコレヲ濫用シテハナラナイノミナラズ、更ニ進ンデ公共ノ福祉ノタメニ利用スル義務ヲ負フ」、斯フ云フヤウニ先ヅ消極的ニモノヲ云ツテ、然ル後ニソレヲ積極的ニ展開シタ趣旨ノモノデアラウト思ヒマス、英語デ讀ムトサウナツテ居リマス、英語デ讀ムト「アンド」ト云フ字デソコヲ續ケテアリマスルカラ、ハヽアト思フノデアリマスガ、日本語デ「のであつて」、ト云フ日本語ハ、私ハ田舍者デアリマスルカラ、折々此ノ都ノ洗練サレタル言葉ニ通ジマセヌノデドウ云フコトニナルカ知リマセヌガ、「のであつて」、ト云フコトハ、斯ウ云フ場合ニハ用ヒナイヤウニ心得マスルガ、如何ナモノデアリマセウカ、其ノ他モウ一ツ、是ハ餘程遠慮シテ申上ゲネバナラヌコトデアリマスルガ、「戰爭の抛棄」ト云フコトガ、是デ國語トシテ意味ヲ爲スデゴザイマセウカ、戰爭ト云フ言葉ニ依ツテ、普通我々ガ考ヘルコトガ、「戰爭の抛棄」ト云ツテソレデ意味ヲ爲スカ、英譯ノ方ヲ見マスト云フト、國民ノ主權的權利トシテノ「ウオー」「ソヴェレント・ライト・オヴ・ザ・ネーション」ト、斯ウ書イテアルノデスカラ、ソコデ「ウオー」の抛棄ト云フコトガ意味ヲ爲スヤウニ思ヒマスガ、日本語デ戰爭トヤツタ時ニ、戰爭ヲ抛棄スル、分ラヌコトモナイヤウデスナ、皆サン御使ニナツテ居ルカラ、私モ使ヒマス此ノ頃ハ‥‥是デ宜イデアラウト思ヒマスガドウカ、併シナガラマア抛棄ト云フヤウナコトヲ離レテ實體的ニ議論ヲスレバ、更ニ進ンデ我々ハ、戰爭ヲ否定スルト、斯ウ云フ處迄行ツテ抛棄以上ノ力強イ言葉ヲ用ヒルト云フコトガ出來ナイモノデゴザイマセウカ、先程弊原國務大臣ガ文明ガ戰爭ヲナクスルカ、戰爭ガ文明ヲナクスルカ、斯ウ云フ關係ニ今立ツテ居ルト仰セラレタ、其ノ御言葉ガ私ハ非常ニ名言デアルト思ヒマス、サウシテ我々ハ其ノ一ツノ意氣込ノ下ニ戰爭ノ抛棄ヲスルナラ、我々ガ戰爭ヲ抛棄スルナドト云フ弱イ言葉デナクテ、戰爭ト云フモノソレ自體ヲ否定スルト云フヤウナ處迄行クト云フ勇氣ハナイモノデゴザイマセウカ、又先程此ノ刑罰ハ苦役デアル、苦役ト云フヤウナ字、苦役ト云フヤウナ字ハマア是ハ法律デ使ツテ使ヘナイコトモナイデゴザイマセウガ、英譯デハ「サーピチュード」ト云フ字ガ使ツテアリマス、「サーピチュード」、是デ分リマス、「イギリス」ノ本ヲ少シバカリ讀ンデ居ル私達ハナダラカニ讀ンデ行カレルヤウニ思ヒマスガ、日本ノ憲法ニ苦役ト云フヤウナ言葉ガ使ツテアルト、何ダカドウモ土足デ座敷ヘ上ツタヤウナ心持ガセラレルヤウニ思ヒマスルシ、又政府原案ノ第二十五條ノ第三項ニ兒童ノ酷使ト云フ言葉ガ用ヒテアリマスルガ、英語ニ之ヲ飜譯シタ人ハ「エキスプロイティション」ト云フ文字ヲ使ツテ居リマス、成ル程「エキスプロイティション」ト云フ文字ヲ使フ方ガ兒童問題ニ關スル本當ノ意味ヲ現スモノデ、我々ノ國語ノ酷使デハ足リマセヌト思ヒマス、陸海軍、空軍ハ之ヲ保持シテハナラナイト云フ文句、是ハ衆議院デ修正シマシタ、戰力ハ之ヲ保持シナイト云フノデアリマスカラ、是ハモウ私ガ申述ベルコトハアリマセヌガ、英譯ノ方ニハ戰力ノ保持ハ許サレナイ、斯ウ云フ風ニ素直ニ出來テ居リマス、文章其ノモノガ文化國家ノ憲法ニ相應シイ氣力ト滑カサトヲ缺イテ居ルト云フコトガ此ノ憲法ノ改正案ニ付テ言ヒ得ルコトデハナイカ、甚ダ私ノ立場トシテハ自分ヲ顧ミナイ言葉デアリマスルケレドモ、御急ギノ間ノ立案デアツタトハ言ヘ、憲法ハ尊重セラレ擁護セラレネバナラヌモノデアツテ見ルト云フト、此ノ憲法ノ用語、文體ト云フモノハモウ少シ一ツ洗練サレテ然ルベキモノデハアリマセヌカ、即チ汚レタル古イ衣ヲ抛ツタノデアリマス、新シイ衣ヲ我我ガ身ニ纏ウタコトニナレバ、其ノ新シイ衣ハ矢張リ寒サ暑サヲ凌グバカリデナク、我々ノ體ニ相應シク上手ニ縫針ガ出來テ居ルト云フコトヲ希望スベキデハアリマスマイカ、（拍手）私ハ此ノ憲法ノ成立シタ曉ニ於テ國民ガ、サウシテ學校ノ子供ガ快ク此ノ憲法ニ用ヒラレテ居ル所ノ言葉ト文章ヲ受入レラレルカドウカ、憲法ニ對スル反抗ガ憲法ノ用語ト文體トニ先ヅ始ルト云フヤウナコトガアルナラバ憂フベキコトデアラウト思フノデアリマス、政府ハ之ヲ國語トシテ果シテ模範的ノモノト考ヘテ居ラレルノデアルカ、マア是デ模範的ナモノデアルト仰ツシヤレバ、ソレ以上議論スルコトハアリマセヌケレドモ、憲法ハ、繰返シテ申シマス、我々ノ國民ノ經典デアリ、國民ノ教科書デアルト云フコトヲ考ヘネバナリマセヌ、失禮致シマシタ（拍手）
━━━━━◇━━━━
○議長（公爵徳川家正君） 御諮リヲ致シマス、帝國憲法改正案審議ニ要スル定足數ヲ缺ク虞レガゴザイマスカラ、只今ノ牧野君ノ質疑ニ對スル政府ノ答辯竝ニ爾餘ノ通告者ニ依ル質疑ハ明日ニ讓リマシテ、此ノ際議事日程ヲ變更シ、日程第二以下ヲ議題ト致シタイト存ジマス、御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス
━━━━━◇━━━━
○議長（公爵徳川家正君） 日程第二、「電氣事業法の一部を改正する法律案」、日程第六、「石炭及コークス配給統制法の一部を改正する法律案」、政府提出、第一讀會ノ續、委員長報告、是等ノ兩案ハ同一委員ニ付託セラレマシタノデアリマスカラ、日程ノ順序ヲ變更シ、一括シテ議題トシ、委員長ノ報告ヲ求メタイト存ジマス、御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス、委員長八代男爵
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電氣事業法の一部を改正する法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和二十一年八月二十三日
委員長 男爵八代五郎造
貴族院議長公爵徳川家正殿
石炭及コークス配給統制法の一部を改正する法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和二十一年八月二十四日
委員長 男爵八代五郎造
貴族院議長公爵徳川家正殿
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〔男爵八代五郎造君登壇〕
○男爵八代五郎造君 大分時間モ經チマシタノデ、成ルベク簡單ニ御報告申上ゲタイト存ジマス、只今議題ニ供サレマシタ「電氣事業法の一部を改正する法律案」外一件ニ付テ特別委員會ニ於ケル審議ノ經過竝ニ結果ヲ御報告申上ゲマス、本委員會ハ去ル八月十四日ヨリ二十四日ニ至ル迄前後九囘ニ亙ツテ之ヲ開催シ、仔細ニ檢討ヲ加ヘ、愼重審議ヲ行ヒマシタ結果、政府原案通リ可決スベキモノナリト決定致シマシタ次第デゴザイマス、委員會ハ最初ニ先ヅ商工大臣ヨリ提案理由ノ説明、續イテ政府委員ヨリ法律案ノ逐條的説明ヲ聽取致シマシタガ、是等ノ内容ハ此處デハ省略スルコトニ致シマシテ、質疑應答ノ主ナルモノニ付キマシテ御報告申上ゲマス、順序ト致シマシテ電氣事業法ノ方ヲ先ニ申上ゲマス、先ヅ第一ニ今後ノ電氣事業ニ關シテ其ノ組織竝ニ運營ニ對スル政府ノ方針如何、又東京都其ノ他公共團體ニ依ル電氣事業經營ニ對スル政府ノ所見如何、又電力ノ國營問題ニ關スル政府所見如何等、電氣事業全般ノ企業形態ニ關スル質問ガゴザイマシタ、之ニ對シマシテ商工大臣及ビ政府委員ヨリ我ガ國ノ地勢ノ特質ニ鑑ミ本州中央部ニ集中シテ居ル水力ヲ最モ合理的ニ開發シ、運營シテ、發電用石炭ノ節減、之ヲ圖ルコトノ爲ニ發電及ビ送電ニ關シテハ日本發送電會社ノヤウナ單一ノ機關ニ依ツテ行フコトガ最モ適當デアリ、又配電ニ付テモ配電事業ノ合理的運營ト云フ見地カラ配電會社ノ形態ハ配電統制令廢止後ト雖モ現在ノヤウナ形デ以テ存續シテ行ク必要ガアル、又公營問題ニ付テハ經營ノ規模、設備ノ復舊、資材ノ節約、電力配給ノ合理化、農村電化ノ促進等ノ見地カラ、之ガ實施ニハ多大ノ疑問ガアリ、今後ノ電氣事業全體ノ合理的運營ト云フ要請ニモ逆行スルヤウナ感ジガスル、又國營問題ニ付テハ今日ノ情勢ニ於テハ國營ニ準ズル現在ノ國家管理ノ方式ガ適當デアルト考ヘル、又電氣事業ハ肥料、石炭ニ比較シテ一層國營ニ適スルモノト考ヘラレルノデ、今後ハ十分ニ研究スルコトトシタイ、尚以上ノ如キ將來ノ電氣事業ノ組織運營ノ問題ニ付テハ、今囘ノ改正案ノ中ニ織込マレテ居リマスル電氣委員會ガ設定サレ、バ此ノ委員會ニ於テ十分ニ調査審議シテ、具體的ナ結論ヲ得タイト考ヘテ居ルト云フ答辯ガゴザイマシタ、第二點ト致シマシテ、今後ノ料金政策及ビ補給金制度ヲ如何ヤウニスルカト云フ質問ガゴザイマシタ、之ニ對シマシテ商工大臣及ビ政府委員ヨリ、公益事業タル性質ニ鑑ミ極力低廉ニシタイト思フガ他面企業トシテ成立セシムル必要モアルノデ、企業ノ利潤、國民ノ負擔ノ兩者ヲ比較考慮シテ合理的ニ決定シタイト云フ考デアル、併シ最近ノ物價騰貴ノ趨勢ニ鑑ミ、將來ニ於テ現行ノ料金ハ是正ヲ要スルカモ知レヌ、又補給金制度ヲ今後存續セシムルカドウカト云フコトニ付テハ、經濟安定本部ニ於テ研究スルコトトシタイト云フ答辯デゴザイマシタ、第三點ト致シマシテハ、經濟ノ再建、失業對策トシテ電源開發ヲ積極的ニ行ツテハドウカ、政府ハ之ニ對シテドウ云フ計畫ガアルカト云フ質問デゴザイマシタ、之ニ對シマシテ商工大臣カラ電源開發ノ隘路ハ「セメント」デアル、而モ其ノ「セメント」ハ石炭ト云フ隘路ガアツテ、從ツテ一方ニ於テ極力之ガ増産ヲ圖ルト同時ニ目下石炭ノ輸入ヲ其ノ筋ニ懇請シテ居ルガ、幸ニ是ガ受入レラレテ多少ノ餘裕ガ出來レバ極力「セメント」ニ廻シテ、速カニ電源ノ開發ニ著手シタイト云フ答辯ガアリマシタ、續イテ政府委員ヨリハ開發計畫ニ付キマシテ相當詳細ナ説明ガアリマシタガ、大分數字的ノコトガアリマスノデ、此處デハ省略致シマシテ、速記録ニ讓ルコトニ致シマス、第四點ト致シマシテハ、周波數統一ノ問題デアリマスガ、周波數統一ト云フノハ長イ間ノ懸案デアリ、今ガ最モ絶好ノ機會デアルカラ直チニ著手シテハドウカト云フサウ云フ質問デゴザイマシタ、之ニ對シマシテ政府委員カラハ周波數統一準備調査委員會ト云フ委員會ガアリマシテ、之ニ諮問シマシタ結果答申ヲ得マシテ、約十二億圓ノ經費トソレカラ五年ノ歳月ヲ費シテ、之ヲ實現シタイト云フ計畫デアル、今年ガ其ノ準備ノ期間デアルト云フ答辯デアリマシタ、其ノ周波數ハ五十「サイクル」ト六十「サイクル」トアリマスガ、六十「サイクル」ニ統一スル方針デアル、斯ウ云フコトデアリマシタ、第五點ト致シマシテハ、最近ニ於ケル停電其ノ他ノ電事事故ノ復舊ニ關シ、配電事業ノ「サーヴィス」ガ非常ニ低下シテ居ル、之ヲ政府ハドウ對策ヲ講ジテ行クノカト云フ質問ガゴザイマシタ、之ニ對シマシテ商工大臣及ビ政府委員カラ最近ノ配電事業ノ「サーヴィス」低下ハ頗ル遺憾デアリ、政府トシテハ機會アル毎ニ此ノ點ニ關シテ業者ニ警告ヲ發シテ居ルガ、根本ノ點ハ資材ノ不足、從業員ノ心構デアツテ、今後ハ變壓器其ノ他配電設備ノ増産ニ一層力ヲ拂ヒ、從業員ニ對シマシテハ公益事業デアルト云フコトノ衿持ヲ以テ其ノ職ニ當ルコト、又待遇ヲ相當ニ改善スルト云フヤウナコトヲ萬事相談ヅクデ以テ話ヲ進メテ、公益事業ノ本來ノ面目ヲ發揮スルヤウニ努力スルト云フ答辯デゴザイマシタ、第六點ト致シマシテハ、電力ノ需給状況及ビ電力制限ノ具體的方法ハドウデアルカト云フ質問デゴザイマシタ、之ニ對シマシテ政府委員カラ最近ノ電力需要ノ激増ニ關スル説明ガアリマシテ、今年ノ冬ニ於テハ渇水ノ程度、發電用石炭ノ入手状況ニ依ツテ相當制限ヲシナケレバナラヌト云フ説明ガゴザイマシタ、現ニ此ノ委員會ヲ將ニガ終ラムトスル日ニ、一部ノ電力消費制限ヲ發令サレタノデアリマス、其ノ發令サレタ翌日相當ノ降雨ガアリマシテ、其ノ發令ヲ延期スルト云フコトニナリマシテ、一安心スルト云フヤウナ形デゴザイマス、又此ノ制限ニ付キマシテ色々ト研究ノ結果特ニ重要ナ産業及ビ家庭用ノ電氣ハ出來ルダケ制限ノ外ニ置キタイ、斯ウ云フ風ノ考デアルト云フコトデゴザイマシタ、其ノ他戰災設備ノ復舊、農村電化、電氣委員會ノ運用、社債及ビ罰則等ニ關シテ頗ル熱心ナ質疑應答ガアリマシタノデアリマスガ、是等ハ總テ速記録ニ讓ルコトニ致シマス、斯樣ニ致シマシテ討論ニ入リ、一委員ヨリ本案ニ付テハ贊成デハアルガ、罰則ハ他ノ法規トノ均衡ヲ將來考慮スルヤウニシタイト云フ希望ヲ添ヘテ贊成ガアリマシタ、續イテ一委員ヨリ配電事業ノ「サーヴィス」向上等ニ關シ、政府ノ善處ヲ要望シテ本案ニ贊成スル旨ノ發言ガアリマシタ、又一委員ヨリ今後ノ電氣事業ノ運營ニ付テハ統制ニ依ル缺陷ヲ除却シテ、眞ニ公益事業ノ模範タラシムルヤウニ努力ヲ希望スルト云フ意味ノコトヲ添ヘテ贊成セラレタノデアリマス、斯樣ニ致シマシテ採決ニ入リマシタ處、全會一致本案ハ政府原案通リ可決スベキモノデアルト決定致シマシタ次第デアリマス、次ニ「石炭及コークス配給統制法の一部を改正する法律案」之ニ付テ申上ゲマス、是モ初メハ商工大臣ノ提案理由ノ説明、後ニ政府委員ノ逐條的説明ガ詳細ニ行ハレマシタ、其ノ要旨ハ戰後ノ産業再建ノ事態ニ即應スル爲ニ石炭及ビ「コークス」ノ配給統制機關デアル所ノ日本石炭株式會社ノ運營ヲ民主化スル目的ヲ以テ其ノ社長及ビ重役ヲ株上總會ノ選擧ニ俟ツコト一般ノ諸會社ト同樣トシ、社長ノ原案執行權ヲ削リ、監理官制度ヲ廢止スル等戰爭中ノ軍國的色彩ヲ拂拭シ、又實際運營ニ當テハ下請會社ヲ指定スル權限ヲ會社ニ附與シテ、事業ノ圓滑ヲ圖ツタモノデアリマス、以下質疑應答ノ主ナルモノヲ申上ゲマス、第一ニ、石炭ノ生産配給及ビ輸送ノ實情竝ニ之ニ伴フ諸種弊害ノ防止、是等ニ對スル措置ハ如何デアルカト云フ質問ガアリマシタ、之ニ對シマシテ政府委員ヨリ、生産及ビ配給ニ關シ執ツテ居ル從來ノ施策竝ニ將來ノ見透シニ付テ詳細説明ガアリマシテ、日本石炭株式會社ノ運營ニ關シテモソレゾレ善處スベキ旨ノ答辯ガアリマシタ、第二ニ、石炭ハ巨額ナ價格調整補給金ヲ使ツテ居ルノデアルガ、増産ノ見地カラ政府ノ深甚ナ考慮ヲ希望スル、勞務者ニ對スル能率的ノ賃金制ヲ採用スルト併セ、之ガ生産意欲ヲ刺戟向上セシムベキ施策ニ關シテドウ云フ風ナコトヲ考ヘテ居ルカト云フ質問ニ對シマシテ、政府委員ヨリ、其ノ趣旨ヲ了承シマシテ、目下其ノ對策ニ付テ折角立案中デアルト云フコトデアリマス、大體九月中ヲ一轉機トシテ石炭ノ増産ヲ向上サセルト云フ答辯デゴザイマシタ、第三ニ石炭消費ノ合理化及ビ各動力資源ノ綜合利用ニ付テ方策ガ立ツテ居ルカドウカ、具體的ニ申シマスルト、石炭ヲ單ニ燃料トシテ燃シテ居ルノハ如何ニモ惜シイデハナイカ、石炭本來ノマダマダ利用スべキ要素ガ澤山ニアルデハナイカ、之ヲ單ニ燃シテシマフト云フコトハ、石炭不足ノ今日甚ダ惜シイコトデアルカラ、之ニ對シテ何カ方策ヲ立テテ能率ヲ上ゲルト云フヤウナ考ハナイカト云フコトデアリマシタ、之ニ對シマシテ商工大臣カラ、關係各方面ノ智能ヲ動員シテ折角研究ヲ進メテ居ル、マダ成果ハ擧ラヌケレドモ、サウ云フ方向ニ向イテ居ルト云フ答辯デアリシマタ、其ノ他炭礦勞働爭議ノ模樣、勞務者ノ補充ノ状況、亞炭及ビ「コークス」増産對策ニ付テ色々ノ質問ガゴザイマシテ、一々政府委員カラ丁寧ナ説明ガゴザイマシタガ、是等ハ總テ速記録ニ讓ルコトニ致シタイト思ヒマス、一般的ノ質問ヲ終リマシテ、更ニ逐條的ノ質疑ヲ行ヒ、是亦一々政府委員カラ詳細ナ説明ヲ得マシタ、質疑ヲ終リマシテ、討論ニ入リマシタ處ガ、一委員カラ、石炭ハ實ニ巨額ナル補給金ヲ與ヘテ居ル現状ニ鑑ミ、本改正案ノ趣旨ヲ十二分ニ發揮シ得ルヤウ善處セラレタキ旨希望ヲ附シテ本案ニ贊成スル旨述ベラレマシタ、又一委員ヨリハ、日本石炭株式會社ノ機構ノ民主化ハ本案ダケデハ物足ラヌ感ジガスル、其ノ他尚不十分ト思ハル、點モ多々アルカラ、是等ハ將來ノ整備ヲ期シテ載キタイ、サウ云フ希望ヲ附シテ本案ニ贊成スルト云フ意見ガゴザイマシタ、斯樣ニシテ討論ヲ終リ、採決ニ入リマシタ處、全員一致本法律案ハ政府原案通リ可決スベキモノト決定致シマシタ、以上極メテ簡單デゴザイマスガ、兩案ノ委員會ノ報告ヲ申上ゲマシタ
○議長（公爵徳川家正君） 別ニ御發言モナケレバ兩案ノ採決ヲ致シマス、兩案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス
○子爵西大路吉光君 直チニ兩案ノ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス
○子爵植村家治君 賛成
○議長（公爵徳川家正君） 西大路子爵ノ動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス
━━━━━◇━━━━
○議長（公爵徳川家正君） 兩案ノ第二讀會ヲ開キマス、御異議ナケレバ全部ヲ問題ニ供シマス、兩案全部委員長ノ報告通リデ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス
○子爵西大路吉光君 直チニ兩案ノ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス
○子爵植村家治君 贊成
○議長（公爵徳川家正君） 西大路子爵ノ動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス
━━━━━◇━━━━
○議長（公爵徳川家正君） 兩案ノ第三讀會ヲ開キマス、兩案全部第二讀會ノ議決通リデ御異議ゴサイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス
━━━━━◇━━━━
○議長（公爵徳川家正君） 日程第三、所得税法の一部を政正する等の法津案、日程第四、臨時租税措置法を改正する法律案、日程第五、地方税法及び地方分與税法の一部を改正する法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報告、是等ノ三案ヲ一括シテ議題ト爲スコトニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス、委員長周布男爵
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所得税法の一部を改正する等の法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和二十一年八月二十六日
委員長 男爵周布 兼道
貴族院議長公爵徳川家正殿
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臨時租税措置法を改正する法律案右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和二十一年八月二十六日
委員長 男爵周布 兼道
貴族院議長公爵徳川家正殿
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地方税法及び地方分與税法の一部を改正する法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和二十一年八月二十六日
委員長 男爵周布 兼道
貴族院議長公爵徳川家正殿
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〔男爵周布兼道君登壇〕
○男爵周布兼道君 只今議題ニ上リマシタ所得税法の一部を改正する等の法律案外二件ノ特別委員會ノ經過竝ニ結果ニ付キマシテ御報告申上ゲマス、此ノ三案ハ八月十五日衆議院ヨリ受領、十六日委員付託トナリマシテ、十七日正副委員長ノ互選後、直チニ會議ヲ開キマシテ、藏相及ビ内相ヨリソレゾレ提案理由ノ説明ヲ聽取致シマシタ、連日六囘ニ亙リ愼重審議ヲ重ネ、八月二十六日ノ午後採決ヲ致シマシタル結果、全會一致ヲ以チマシテ原案通リ可決ニ相成ツタノデゴザイマス、提案ノ目的及ビ内容ニ付キマシテハ、過日本會議場ニ於テ大臣ヨリ御説明ガソレゾレゴザイマシタガ、其ノ重要ナル點ニ付キマシテ私ハ申上ゲタイト思ツタノデゴザイマスルガ、時間ノ關係上、遺憾ナガラ之ヲ省略致シマシテ、唯左ノ二點ニ付テダケ申上ゲテ置キマス、政府提出案ニアリマシテハ、平年度ニ於テ二十九億七百餘萬圓、初年度ノ昭和二十一年度ニ於テハ、二十四億五千百餘萬圓ノ増收見込デアリマシタノヲ、衆議院ニ於ケル遊興飮食税ノ免税點引上ゲノ修正ニ依リマシテ、平年度ニ於テ一億三千百餘萬圓、初年度タル昭和二十一年度ニ於キマシテ六千五百餘萬圓ノ減收トナル譯デアリマス、此ノ修正ニ對シマシテ、政府ハ之ヲ尊重スルトノ言明ガゴザイマシタ、尚遊興飮食税ガ修正ニナリマシタ結果ト致シマシテ、配付税ノ減收額ヲ入場税及ビ遊興飮食税ニ對スル配付税ノ繰入レ割合及ビ分與割合ノ變更ニ依ツテ補填セムトスルトノコトデアリマシタ、次ニ質問ニ移リマシテ、其ノ主ナルモノヲ御報告申上ゲマス、先ヅ委員ヨリ本法案ヲ立案スルニ際シ、財産税ノ徴收、金融機關經理應急措置案及ビ會社經理應急措置案、是等ヲ考慮ノ中ニ入レタカ、所定税金徴收ノ見込ハドウデアルカト云フ質問ニ對シマシテハ、政府トシテハ、財産税ハ考慮ニ入レタガ、金融措置、會社經理措置ハ考ニ入レテハ居ラナカツタガ、假令此ノ二案ガ實施サレテモ、歳入ニ大キナ狂ヒヲ生ズルトハ思ハレナイ、直接此ノ影響ヲ受ケルモノトシテハ法人税ガアルガ、ソレトテモ昭和二十一年度分ハ十數億圓ヨリ見込ンデ居ラヌシ、多クハ一二年度前ノ事業年度ノモノデ、未ダ決定ヲ見ナイ法人モアルカラ、十分徴收ハ擧ゲラレル見込デアルトノ答辯デアリマシタ、次イデ一委員ヨリ、立案ニ當リ經濟界ノ状況、物價ノ騰貴、負擔ノ權衡、國民ノ負擔能力、國民所得ノ目標ヲ立テ、ソレニ基イタモノデアルカドウカ、近キ將來ニ於テ根本的ニ税制改革ヲ行フト云フコトデアルガ、財政ノ基礎ヲ鞏固ニスル爲ニ、増税ノ必要ヲ認メ、税制ニ根本的ニ改正ヲ加ヘ、負擔ノ均衡ヲ圖ルト云フ趣旨ナリヤトノ質問ニ對シマシテハ、立案當時ハ、財産税徴收後ノ國民ノ擔税力ノ正確ナ把握ハ出來ナカツタガ、此丿際國民ニ出來ルダケノ負擔ヲシテ貰ハウト云フノデ研究ヲ進メ、税制ノ根本的改正ハ次ノ機會ニ讓リ、財産税トノ關係デ、今囘ハ是非必要ト思ハレル範圍内ニ止メタトノコトデアリマシタ、今後ハ財産税トノ關係カラモ高額資産者ハ減少スルト思フガ、小額資産者ニハ財産税ハ餘リ掛ラヌノデ、其ノ方面ニ相當負擔能力ハ殘サレテ居ルト考ヘル、税制ノ根本的改正ト云ツテモ、所得税中心ノ税制ニ根本的改革ヲ加ヘル餘地ハ少イ、戰時中ノ増税ニ付テハ改正ヲ加ヘ、直接税、間接税ノ均衡ヲ圖リ、國民ノ擔税力ヲ見究メテ税率ノ決定ヲシタイト考ヘルト云フ答デアリマシタ、又一委員ヨリハ、來年度ハ相當歳入不足ヲ生ズルト思ハレル、特ニ戰時中、國費ノ使用ガ放漫ニ流レ、歳出ノ節約ヲ餘リ考ヘヌ傾キガアルガ、此ノ際行政各部門ニ亙リ、歳出ノ引キ緊メヲ徹底セシメル必要ガアルト思フ、來年度ノ豫算中ニハ、本年度ニ比シテ經費ノ増額ニナル科目ハナイカ、本年度ノ赤字ニ對シテハ財産税ノ徴收ニ依ツテ賄ヒ得ルモ、來年度ニ於テハドウシテモ租税收入ニ頼ラネバナラヌコトト考ヘルガ、政府ハ來年度豫算編成ニハ如何ナル方針ヲ以テ臨マレルヤトノ質問ニ對シマシテ其ノ答ハ、本年度ノ豫算中約半分ハ本年度限リノ經費デ、其ノ主ナルモノトシテハ、在外同胞ノ引揚ノ費用、進駐軍將兵ノ兵舎、家族ノ宿舎ノ建設費等デ、來年度ハ相當ニ歳出ノ減少スル見込デアル、明年度ノ豫算ノ收支ガ償フカドウカニ付テハ言明出來ヌガ、今日ノ情勢ニ於テハ多少ノ赤字ハ已ムヲ得ヌト考ヘテ居ル、明年度豫算中増加スルモノアリトスレバ、進駐軍費ヲ別トスレバ、失業救濟事業費ト考ヘラレル、國内的經費トシテハ、ソレ以外ニ非當ニ増額スルモノアリトハ考ヘラレヌガ、問題ハ賠償物件ガ確定シタ時ニ、ソレノ解體輸送ニ要スル經費ガドノ位ノ額ニ達スルカデアル、非公式デハアルガ、商工省アタリノ計算ニ依レバ、百億圓ニ上ル見込デアルガ、此ノ點ニ關シテハ司令部ノ方面デモ、餘リ日本ノ財政ノ負擔ニナラヌヤウ、其ノ爲ニ多クノ失業者ヲ出サヌヤウニ考慮サレテ居ルト聽イテ居ルガ、此ノ點ガ心配デアルトノコトデアリマシタ、又一委員ヨリ、政府ハ日本ノ税率ハ外國ニ比シテモ高過ギルコトハナイトノコトデアルガ、此ノ儘デ推移スレバ、日本ノ中産階級ハ是以上ノ増税ニハ耐エ得ラレヌノミナラズ、沒落ノ外ハナイト思フ、財政ノ緊縮ヲ圖リ、行政費ノ節約ヲ行ヒ、國民ノ負擔ノ輕減ヲ圖ルコトガ是非必要デアル、又國債ノ利拂ニ付テモ考慮ノ餘地ハナイカ、軍需補償ノ打切リト關聯シテ、何モ三分半ヲ維持スル必要ハナイト思フ、例ヘバ「コンソル」公債ニスルトカ、一分カ二分半ノ利率デ五十年百年ノ長期公債ニ借リ替ヘルコトモ、一ツノ解決策ナリト考ヘル、更ニ聯合軍ノ駐屯モ是ハ世界平和ノ爲デアリ、其ノ經費ヲ日本ダケガ負擔スルニモ及ブマイ、此ノ點ニ付テ聯合軍ニ交渉ヲ進メルコトハ、一面ニ於テ「インフレ」防止ノ意味ニモナルト考ヘルガ如何ト云フ問ニ對シテハ、行政整理ハ一ツ根本的ニ考ヘテ見タイ、國債利子ノ引下ハ公債ノ九割何分迄ガ金融機關ノ手持ニナリ、預金ノ見返リトシテ所有サレテ居ル現状トシテハ、直チニ英國ノヤウニ「コンソル」公債ト云フ譯ニモ行カヌ、利率ノ一分引下ハ郵便貯金ノ利拂、國債ノ價格低下、銀行資産ノ關係ヨリ困難デアリ、事實國債ノ打切、利子ノ引下ハ預金整理ノ問題ニ關聯シ、殊ニ補償打切ニ伴フ預金整理ノ見透シモツカヌ爲、事實上手ガ付ケ兼ネル、進駐軍ノ經費ハ前内閣時代ニ削減ブシテ貰ツテ居ルガ、今後モ出來レバ更ニ削減シテ貰ヒタイト考ヘテ居ルトノ答デアリマシタ、又次ノ質問ハ、昭和二十一年度ノ所得税ノ査定ニ當リ、所謂闇所得者ニ對スル課税ニハ寛ヤカニシテ、眞面目ナ所得者ニ對スル課税ノ方ハ苛酷ニ失スルモノガアツタガ、今後ハ如何ニシテ公正ヲ期スル考カ、最近農漁村方面ニ新圓ガ滞留シテ居ルガ、之ニ對シテハ如何ニ課税ヲ爲ス方針デアリヤ、第三國人ノ間ニ相當多額ニ上ル新圓ガ集中サレテ居ルガ、此ノ方面ニモ課税スル意向ハナキヤトノ問ニ對シテハ、當局ハ昭和二十一年度ノ査定ハ、實際ノ所得ニ對シテ課税シテ居ル、昨年度ハ米價ノ値上リ、野菜ノ自由販賣ニ依リ農村ニ於ケル所得ハ非常ニ増大シテ、二十年度ノ査定額十九億圓ニ比シ二十一年度ハ九十三億圓ニ上ツテ居ル、之ニ依リ相當ニ農村ノ所得ヲ捕捉ツ得タト考ヘテ居ル、唯例外的ニ苛酷ナモノモアツタノデ、之ニ對シテハ至急訂正ヲ加ヘタノデアル、漁村モ二十年度一億七千萬圓、二十一年度七億二千萬圓ニテ、是亦相當ニ捕捉出來タト思フガ、今日ノ状態トシテハ、職員ノ手不足、質ノ低下ノ爲ニ、課税ノ適正ヲ期シ得ナイ憾ミガアル、又第三國人ニ對スル課税モ、今デハ課税方針モ定リ、實施ノ運ビニ至ツテ居ルトノ答デアリマス、次ハ今囘ノ改正ニ依リ、年額三萬圓ノ所得者ニ對シテハ五割強、五萬圓ノ所得者ハ六割強、十萬圓ニ七割強ノ課税ニナツテ、増税ノ餘地ハナイヤウニ思ハレルガ、將來更ニ増額スル積ナリヤト云フ質問ニ對シマシテ、政府ハ、今次戰爭中ニ於ケル累次ノ増税ノ爲、所得税ノ負擔ハ過重ニナツテ居ルト思フガ、直接ニハマダ増税ノ餘地アリト考ヘル、一萬圓ヨリ十萬圓程度迄ノ所得ニ對シテハ、外國ニ較ベテ尚高過ギルトハ思ハレナイ、敗戰後ノ日本トシテ、増税ノ餘地ナシトハ言ヘナイトノ答辯デアリマシタ、次ニ、戰爭ニ基ク資材、資産ノ減損、生産設備、私有財産ノ減少、賠償ニ依ル生産減ト共ニ、地方復興費、物價高ニ依ル生活費ノ昂騰ヲ考ヘルト、國民ノ擔税力ハ頗ル貧弱ナリト思フ、納税ニ當ツテハ、預貯金ヲ之ニ振當テル必要ガアルト思フガ、第二封鎖ノ預貯金ヲ充當セシメルコトハ出來ザルヤ、今日社會ノ不安定ハ、食糧事情ニ基因スルモノ大ナリト考ヘルガ、幸ニ本年度ノ農作物ノ作柄ハ良好デアルカラ、食糧ノ増配ヲ行ヒ、民生ノ安定、生産ノ増強ヲ圖ル意思ナキヤ、今日肥料行政ノ多元化ガ肥料増産ニ一大支障ヲ來シテ居ルガ、「インフレ」防止ノ爲ニモ生産増強ヲ圖ラネバナラズ、食糧増産ノ意味カラシテモ之ヲ一元化スルコトハ出來ヌモノカ、石炭事情ハ現在如何ニナツテ居ルカトノ問ニ對シマシテハ、戰爭ノ損害ニ基ク擔税力ノ減少ノ半面ニ、物價騰貴ニ依ル資産ノ増加所得額ノ増大ガアルカラ、昨年度ヨリ三十數億圓程度ノ増收ハ負擔力アリト考ヘル、石炭ニハ思切ツテ補給金ヲ出シ、十月迄ニハ何デモ増産ヲサセル、八月中ニ計畫ヲ樹テ、計畫生産ニ依リ達成スル考デアル、食糧ハ今年ノ十一月ヨリ始ル食糧年度ヨリ増配シタイト考ヘ準備ヲ進メテ居ル、成ルベク早イ機會ニ食糧ノ基準量ノ引上ゲヲ發表シタイ、肥料行政ノ一元化ハ經濟安定本部モ發足スルシ、關係各省間ニ於テモ緊密ナル連絡ヲ取リ、増産ヲ實現シタイ、人ヲ動カスモノハ食糧デアリ、機械ヲ動カスモノハ石炭デアルカラ、石炭ノ生産ハ年産二千三百萬「トン」ヲ確保シタイ、併シナガラ製鐵用石炭ハ國内ニ産出ナク、輸入ニ俟タネバナラナイノデ、目下司令部ニ懇請中デアルトノ答デアリマシタ、次ニ所得税法ニ於テ重要物産ノ製造、採礦又ハ採取ヲ業トスル個人ニ對シテハ免税ノ規定ガアルガ、鑛區税、登録税ノ引上ゲラレタ理由ハドウデアルカ、國内事情ヨリモ、生産増強ノ爲ニモ、寧ロ奬勵サレテ然ルベキモノデハナカラウカトノ質問ニ對シマシテハ、税制ノ見地ヨリ生産増強ニ支障ヲ來サナイ程度ニ増税ヲシタノデアル、鑛區税ハ明治三十八年以來數次ニ亙ル増税ニ際シ、生産ノ點ヲ考慮シ、今日迄据置カレテ居ルノデ、他税トノ均衡上三倍程度ニ、又登録税モ左程上ゲテ居ラヌトノコトデアリマシタ、次デ多年ニ亙リ地租、営業税、家屋税等ノ地方移讓ガ問題ニナツテ居ルガ、技術的ニ困難ナル理由デモアルノカトノ問ニ對シマシテ、地方ニ移讓出來ヌコトハナイ、今後地方自治ノ發達ニ依ツテハ無論移讓シテモ差支ナイノデアルトノコトデアリマシタ、更ニ一委員ハ府縣民税ガ新設サレ、市町村税ガ増額トナツタ結果、國税トハ別個ニ賦課ガ行ハレルトスレバ、負擔ノ公平ヲ缺クバカリデナク、場合ニ依ツテハ所得額以上ノ負擔ヲ擔フ虞ハナイモノデアラウカトノ質疑ニ對シマシテ、大體ニ於テ終戰後ノ地方團體ハ財源ニ苦シミ、今日迄ハ地方分與税ノ増額デ急場ヲ凌イデ來タガ、是レ以上ハ困難ナル事情モアリ、地方團體ノ財政ノヤリ繰リガ分與税補助金ニ依存スル爲ニ自主性ヲ持タズ、地方自治ノ強化ノ目的カラモ、財源的ニモモウ少シ自主性ヲ持タセルト共ニ、他面個人ノ所得ヲ國税ダケデハ捕捉シ難イノデ、地方税ヲ相當賦課スルコトハ上述ノ要求ニモ應ズルモノデアルト考ヘ、從來ノ制限ノ撒廢、引上、新設ヲ爲シタ次第デ、今後ノ行キ方トシテハ中央ヨリノ一方的ナ指導命令ヲ避ケテ、地方當局ヲシテ地方ノ實情ニ即シテ徴税ノ實體ヲ把握セシメテ、不當ナル賦課ノ行ハレザルヤウニ仕向ケタイ、個人ノ所得ハ國税ノ徴收ニ當リ相當ハツキリシテ居ルカラ、正確ナル税引所得表ヲ作成シ、一割ヲ超エテ賦課スルコトナキヤウニシタイトノ御答辯デアリマシタ、更ニ次ノ質問トシマシテハ、地方分與税中特別配付税ノ與ヘラルベキ特別ノ事情トハ如何ナルモノヲ指スカ、又與ヘラルベキ金額デ間ニ合フト考ヘルカト質問セルニ對シ、内務當局ヨリノ答辯ハ、其ノ事情ハ詳細ニ調査シテ決定スルガ、大體ニ於テ災害ノ復興ノ爲ニ負債ガ多額ニ上ツタ場合、人口増加ガ顯著ナル場合、人口密度ガ稀薄ナル場合、國民學校ノ兒童數ガ多イ場合、獨立税ガ少額ナル場合、其ノ他特別ナ事情ガアル場合ニ交付スルコトニナル、其ノ金額ハ凡ソ二分ノ一ヲ補給シ、殘リハ經費ノ節約ニ依リ、自前トセシメルトノコトデアリマシタ、尚他ニモ砂糖消費税、織物消費税、酒税、物品税等ニ關シテモ種々熱心ナル質疑應答ガ取交ハサレマシテ、討論ニ入リマシタガ、發言ナク委員會ハ全會一致原案通リ可決スベキモノト議決致シマシタ、以上ヲ以チマシテ、御報告ヲ終リマス
○議長（公爵徳川家正君） 別ニ御發言モナケレバ三案ノ採決ヲ致シマス、三案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス
○子爵西大路吉光君 直チニ各案ノ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス
○子爵植村家治君 賛成
○議長（公爵徳川家正君） 西大路子爵ノ動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス
━━━━━━◇━━━━
○議長（公爵徳川家正君） 三案ノ第二讀會ヲ開キマス、御異議ガナケレバ全部ヲ問題ニ供シマス、三案全部委員長ノ報告通リデ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス
○子爵西大路吉光君 直チニ各案ノ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス
○子爵植村家治君 賛成
○議長（公爵徳川家正君） 西大路子爵ノ動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス
━━━━━━◇━━━━
○議長（公爵徳川家正君） 三案ノ第三讀會ヲ開キマス、三案全部、第二讀會ノ決議通リデ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君） 御異議ナイト認メマス
○議長（公爵徳川家正君） 明日ハ午前十時ヨリ開會致シ、帝國憲法改正案ノ審議ヲ繼續致シマス、議事日程ハ彙報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、本日ハ是ニテ散會致シマス
午後五時十七分散會
