○第九十囘帝國議會　貴族院議事速記録第二十六號

昭和二十一年八月二十九日（木曜日）午前十時二十七分開議
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　議事日程　第二十六號
　　昭和二十一年八月二十九日
　　　午前十時開議
　第一　帝國憲法改正案（衆議院送付）　　　第一讀會（前會ノ續）　
　第二　食糧緊急措置令（承諾ヲ求ムル件）（衆議院送付）　會　議
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○議長（公爵徳川家正君）　諸般ノ報告ハ御異議ガナケレバ朗讀ヲ省略致シマス
　〔參照〕
昨二十八日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
　請願文書表（第九囘報告）
同日内閣總理大臣ヨリ左ノ通第九十囘帝國議會政府委員仰付ケラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
　外務省所管事務政府委員
　　　　　外務事務官　朝海浩一郎君
　　　　　同　　　　　下田　武三君
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○議長（公爵徳川家正君）　是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、日程第一、帝國憲法改正案、衆議院送付、第一讀會、前會ノ續、昨日ニ引續キ佐々木惣一君ノ發言ヲ許シマス
　〔佐々木惣一君登壇〕
○佐々木惣一君　昨日ニ引續キマシテ質問ヲ致シマス、今日初ニハ此ノ第三類改正内容ノ中ノ第十點トナリマスガ、政府ハ自ラ意義ガ不定デアルト知ツテ居ラルヽ主權ト云フ言葉ヲ法文中ニ用ヒラルヽニ至ツタ事由ハ、ドウ云フ譯デアルカト云フコトヲ御尋ネ致シタイノデアリマス、主權ト云フ文字ガ、此ノ帝國憲法改正案ニ關係致シマシテ、屡々用ヒラレテ居ルノデアリマス、帝國議會外ニ於ケル言論ニ於キマシテモ亦、帝國議會内ノ言論、即チ衆議院ニ於キマシテ、又此ノ本院ニ於キマシテモ、屡々用ヒラレテ居リマスル、私ノ感ジヲ率直ニ申上ゲマスレバ、此ノ言葉ガ今囘ノ問題ノ中心ヲ非常ニ誤ラシテ居ルノデアリマス、實ハ斯ウ云フ文字ヲ法文ニ於テ用ヒ得ベキモノデナイト私ハ信ジテ居ルノデアリマス、元來此ノ文字ハ、或ハ言葉ハ、是ハ金森國務相ガ自ラ御認メニナツテ居リマスル通リニ意義頗ル多樣デアリマス、多樣デアルト云フコトハ即チ其ノ意義ガ不明デアルト云フコトニ歸著スルノデアリマス、併シ或ハ學説上ノ所論ニ於テ斯ウ云フ文字ヲ使フコトハ、ソレガ不明デアリマシテモ一々説明ヲ加ヘルコトガ出來ルノデアリマスルカラ差支ハアリマセヌケレドモ、法文、又其ノ法文ノ説明ニ當ルベキ前文ト云フヤウナモノノ中ニ斯ウ云フ文字ヲ用ヒルト云フコトハ實ハ私ハ贊成出來ナイノデアリマスルガ、私ダケデハナイ、金森國務相御自身ガ頗ル此ノ文字ハ不明デアルト云フ風ニ仰ツシヤツテ居ルノデアリマスルガ、ソレハ一體ドウ云フ譯デ御用ヒニナツタノデアリマセウカ、初ニ政府原案ノ儘ノ時ニハ所謂此ノ戰爭抛棄ト云フコトニ關スル第九條ノ規定ノ中ニ「國の主權の發動たる戰爭」ト云フ文字ガアリマシタ、此ノ主權ト云フコトヲ殊ニ使ツテ居ル、マア英譯ト云フヤウナ方面ト關係シテ私ハ茲ニ非常ニ九條ノ解釋上多大ナル疑問ヲ持ツテ居ルノデアリマスルケレドモ、是ハ兎ニ角此ノ條文ト致シマシテハ、衆議院ノ修正ニ依ツテナクナリマシタガ、併シ衆議院ハ更ニサウ云フ個々ノ一箇條ト云フコトデハナシニ更ニ重イ地位ヲ與ヘマシテ、改正案ノ第一條ニ、天皇ノ此ノ地位ト云フモノハ主權ノ存スル國民至高ノ總意ニ基ク、政府ノ方ノ案ニ依リマスルト云フト、單ニ「日本國民の至高の總意に基く」ト云フ文字ヲ、今度ハ「至高の」ト云フ文字ヲ變ヘテ特ニ「主權の存する日本國民の」ト斯ウ云フ言葉ニ變リマシタ、更ニ其ノ日本國憲法ノ前文ニ於キマシテ「ここに國民の總意が至高なるものであることを宣言し、」ト云フ初ノ政府ノ原案ヲ特ニ變ヘマシテ、「ここに主權が國民に存することを宣言し、」ト斯ウナツテ居リマスルガ、昨日ノ總理大臣ノ御説明ニ依リマスレバ、政府ハ此ノ衆議院ノ修正ニ同意ヲ表セラレタト云フコトデアリマス、仍テ本院ニ廻ツタノデアリマスルガ、特ニ斯ウ云フ文字ヲ御用ヒニナル所以ノモノハドウ云フ意味デアルカ、主權ト云フ文字ハ、使フニシテモ本來意義多樣デアルト云フコトヲ御認メニナリツヽ尚且特ニ斯ウ云フ風ニ御改メニナルコトハドウ云フ理由デアルカ、是ハ明確ナル所ノ御説明ガナクテハナラヌカト存ズルノデアリマス、序デニ主權ト云フ言葉ハ、元來斯ウ云フ法典ノ制定トカ云フヤウナ場合ニハ其ノ説明ヲ正確ニスルニ非ザレバ用ヒ難イモノデアル、從ツテ法典ニ關スル説明デナシニ法典其ノモノニ用ヒルト云フコトハ極メテ愼ムベキモノデアルト云フコトニ付テ一言致シタイト思ヒマスガ、元來金森國務相ノ御考ノ通リ此ノ文字ハ其ノ意義ハ極メテ不明ナノデアル、デ金森國務相ハ嘗テノ御意見、用法、又嘗テ此の議案ニ關シテ、衆議院デアリマシタカ、本院デアリマシタカ、主權ハ國家ノ統治權、サウ云フモノト同ジ意味ニ於テ御用ヒニナツタコトモアルカト記憶致シテ居リマス、サウ云フ用法モアルノデアリマス、御存ジノ通リニ國際條約ニ於テ、國家ガ主權ヲ活用スルトカ云フヤウナ時ニハ、ソレハ國家ノ主體ニナル國家統治權其ノモノヲ言フノデアリマスガ、併シ同ジク國家ノコトニ關シマシテモ、同ジク國家ト云フ性格ヲ持ツテ居リマシテモ、主權ノアル國、主權ノナイ國ト云フコトヲ學問的ニハ申シテ居ルノデアリマスガ、マア聯邦國ノ場合ハ特ニサウ云フコトヲ言フノデアリマス、甚ダ講義ノヤウニ相成リマシテ相濟ミマセヌガ、チヨツト言ハシテ戴キマスガ、「ドイツ」ノ「ライヒ」ガアリマシタ時ニ、其ノ個々ノ支分國ト云フモノガ一體主權ガアルカ、或ハ「ライヒ」ニ主權ガアルカト云フコトヲ實際家ノ間、學者ノ間ニ議論ガアリマシテ、兎モ角「ドイツ」ニ關スル學説ノ支配的ナモノト致シマシテハ、兎ニ角非常ナ問題ガアツテ疑問ノ儘デアリマスルケレドモ、聯邦ノ方ニ主權ガアルノダ、斯ウ云フコトヲ言ヒ、又「アメリカ」ノ此ノ國家ガ獨立シテ、續イデ憲法ガ出來マシテ、即チ本當ノ「アメリカ」合衆國トナリマシタ時ニモ、其ノ聯邦國前ノ状態ニ於キマシテハ、即チ主權、「ソヴァレンティ」、ソレハ各州ニアルノデアルガ、併シナガラ所謂「アメリカ」合衆國ト云フモノガ出來テ、サウシテコヽデ愈々本當ノ憲法ガ出來ル時ニハ、其ノ「ソヴァレンティ」ヲ各州カラ、各「ステート」ト言ツテ居リマスガ、「アメリカ」ノ「ステート」カラ「ユーナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカ」ニソレヲ引繼イダ譯ダ、斯ウ云フコトニナツテ居ルノデアリマス、詰リ國家ノ統治權ト云フモノヲ主權ト稱スル場合ニ附加ヘテ、同ジク國家デアリマシテモ、其ノ國家ト他ノ團體トノ關係ニ於テ、自己ノ上ニ更ニヨリ高イ所ノ一ツノ權力ト云フモノヲ持ツテ居ル時ニハ、其ノ國家ハ所謂主權國デハナイ、斯ウ云フ風ニ言フ譯デアリマス、其ノ高イ團體ノ方ニ主權ガアル、斯ウ云フコトヲ申シマス、併シ是ハ共ニ國家ト云フモノニ關スル性質ヲ現ハシタ言葉デアリマスガ、サウデナシニ更ニ、詰リ何ト申シマスルカ、國家ノ所謂權力ノ成立シ發動スル根源ト云フヤウナモノノ意味ニ於テ、此ノ主權ト云フヤウナ文字ヲ使フコトモアリマスルノデスガ、此ノコトハ此ノ意味ニ於テ主權ガ何レニアルカト云フコトハ、主トシテ所謂君主國ト稱セラレル國家ニ於テ其ノ問題ノ意味ガアル、ト申シマスルノハ、所謂國民主權、ソレカラシテ君主主權ト云フヤウナコトヲ能ク言ツテ居リマスルノデスガ、ソレハ昨日來外ノ質問議員諸君カラモ御話ガアリマシテ、是ハ詰リ其ノドチラニ根源ガアルカト云フコトニナリマスルカラ、若シ主權ガ國民、所謂君主國ニ於ケル君主ト違ツタ意味ノ國民ニアルト云フコトニ相成リマスルト云フト、ドウシテモ其ノ君主ノ‥‥其ノ人ガ君主デアルト云フ其ノ地位其ノモノガ國民ノ意思ニ、國民ノ力ニ依ルノデアルト云フコトニナラザルヲ得ナイノデアリマス、國民主權ト云フコトハ‥‥デサウ云フ色々ノドチラガ宜イカト云フコトヲ此處デ申上ゲルノデハアリマセヌデスケレドモ、サウ云フ色々ノ意義ノアル主權ト云フ文字ヲ何故ニ茲ニ特ニマア御用ヒニナルノデアルカト云フコトハ、ドウモ是ハ憲法ノ説明ノ時ニハドウシテモハツキリセナケレバ國民ハ決シテ納得スマイカト思フノデアリマス、ソレデ其ノ點ヲ御尋ネシテ見タイト思フノデアリマス、固ヨリ天皇ノ地位ヲ所謂「レデユース」シテ、サウシテ實際的ノ力ノ無イモノデアルトスル立場ヲ採ル以上ハ、ソレデ固ヨリ内容的ニハ一致シテ居リマスガ、思想的ニハ主權ハナイ、主權的君主デハナイ、斯ウ言フ、併シナガラ言葉トシテサウ云フ風ニ意味ノ不明ナ言葉ヲ何故ニ用ヒラレルカ、斯ウ云フコトニナルノデアリマス、例ヘバ甚ダ講義臭クテ失禮デアリマスケレドモ、例ヘバ同ジク王、「ベルヂック」ノ王ハ「ロア」デアリマス、其ノ「ベルヂック」ノ王デアルト云フ、君主君主ト云フケレドモ、併シナガラ「べルヂック」ニ於キマシテハ即チ國權ト云フモノハ國民カラ發生スルト云フ規定ガ別ニ憲法ニアル、ダカラシテ「ベルヂック」ノ王ハ實ハ君主トハ申シマスケレドモ、主權的君主ヂヤナイ、國民カラ其ノ力ヲ貰ツタ所ノ君主デアル、ダカラ是ハ君主ト云フ言葉ハ俗語ニナリマシテ、其ノ場合ハ主權的君主デハナイ「イギリス」ノ如キモ稍々ソレニ近イ、即チ「イギリス」ハ王、「キング」デアリマシテ、ソレガ君主々々ト云フケレドモ、元來所謂歴史的ニモ、又今日ノ法制的ニ申シマシテモ、「キング・イン・パーリアメント」、歴史的ニ言ヘバ實ハ遡リマシテ、君主ト云フ地位ニハ國民ガ就ケルト云フ歴史的ナ事實ガアルノデアリマス、サウ云フ意味ニ於キマシテ「イギリス」ノ「キング」ハ主權的君主デハナイト云フコトニ學説上考ヘラレテ居ルノデアリマス、今囘天皇ト云フ名ハ保存スルケレドモ、サウ云フ性質ヲ與ヘラレムトスルノデアリマストスレバ、其ノ主權ト云フ文字ヲ使ハレテ居ルコトト、其ノ根本思想トハ矛盾ダト云フコトヲ決シテ言フノヂヤアリマセヌケレドモ、唯其ノ主權ト云フ文字自體ガ非常ニ不明確ナ文字デアルニ拘ラズ、何故特ニ第一條及ビ前文ニ殊更主權ト云フ文字ヲ御使ヒニナツタノカト云フコトヲチヨツト御尋ネスルノデアリマス、是ハ先日來非常ニ國民教育、政治教育ト云フヤウナコトガヤカマシク言ハレルケレドモ、政治教育、國民教育ト云フヤウナモノハ空念佛デハイカヌ、其ノ内容ニ於テ、兎ニ角ドチラニシテモハツキリトシタ内容ヲ掴ンデ、サウシテソレニ付テノ即チ教育者ノ信念ト云フモノガナクテハ其ノ教育ハ擧ガルモノデハナイ、サウ云フ時ニ、今主權ト云フ多岐ナル文字及ビソレヲ特ニ使フト云フヤウナ事由ニ付テ非常ニ不明ナコトガアリマスナラバ、私ハ決シテ國民教育ナルモノハ效果ヲ奏スルモノデナイ、斯ウ考ヘルガ故ニ其ノ點ヲ御尋ネスルノデアリマス、ソレガ第十點デアリマス、ソレカラ第十一點ニナルノデスガ、今度ハ私ノ先刻カラ申シテ居リマスル、ソレハドウ云フコトカト申シマスルニ、立法作用ガ今度ノ憲法ノ下デ果シテ適正ニ行ハレルモノデアラウカドウカ、斯ウ云フコトニ付テ御意見ヲ伺ヒタイノデアリマス、私ハ今迄ノ所デハ天皇ト云フ制度其ノモノハ別ニ廢止スルノ必要ハ毛頭ナイ、ソレニ協力スル所ノ協力機關ト云フモノノ、詰リ構成ナリ、或ハ其ノ態度ト云フモノニ付テ、非常ニ私ノ言葉デモ、徹底的ニ革新スルト云フコトヲ必要トスルノデアル、又ソレデ十分デアル、斯ウ云フ風ニ言ウテ來マシタガ、其ノ協力ト云フコトヲ立法、司法、行政ノ個々ノ作用ニ付テ、詰リ申上ゲルノデス、私ノ昨日迄申上ゲタコトヲ、個々ノ作用ニ付テ更ニ檢討シテ見ル必要ガアル、斯ウ云フ譯デス、デアリマスカラ第十一點ト致シマシテハ、果シテ其ノ中ノ立法作用ガ、今後適正ニ是デ行ハレルト云フヤウナ御確信ガアルダラウカト云フコトカラ、是ハ段々ト入ツテ行カナケレバナリマセヌノデアリマス、其ノ中デ第一點ト致シマシテ、立法作用ヲ行ヒマスル所ノ國會ノコトニナリマスノデスガ、ソコデ今度ノ憲法案ニ依リマスル所ノ國會ト云フモノノ行動ニ依リマシテ、果シテ適正ニ行ハレルデアラウカドウカト云フコトヲ御尋ネスル、但シ茲ニ適正ト申シマスノハ、是ハドウモドウ云フノヲ適正ト云フカ、私ハ初ニ申シマシタヤウニ、我々ノ共同生活ニ關スル所ノ共生理念即チ皆ガ日本ナラ日本人ガ皆共ニ生キルト云フ此ノ共生理念ト云フモノガ、立法ノ方面ニ於テ能ク現出サレルト云フ、サウ云フ意味ニ於テ之ヲ適正ト云フ風ニマア申シテ置キマスガ、其ノ意味ニ於キマシテ果シテ此ノ立法、今囘ノ國會ト云フモノニ依ツテ、立法作用ト云フモノガ適正ニ行ハレルカト云フコトヲ少シ御尋ネシテ見タイト思フノデアリマス、言フ迄モナク國會ガ、マア兎ニ角書イテアル所ニ依リマスレバ、唯一ノ即チ立法機關ト相成ツテ居リマスルガ、サウシテ單ニ立法機關デアルノミナラズ、國家ノ最高機關ト云フコトニナツテ居リマスルカラ、是ハ理解ガ出來ナイコトハナイ、立法機關ガ即チ或意味ニ於テ國家ノ最高機關デアルト云フコトモ理解出來ナイコトハアリマセヌガ、此處デハ最高機關ト云フヤウナコトニ觸レルノデハアリマセヌ、立法機關トシテ今囘ノ國會ト云フモノガ果シテ適正ニ立法作用ヲ行フコトガ出來ルカト云フコトニナリマス、ソレニ付キマシテチヨツト伺フコトハ止メテ、此ノ我々ノ立法作用ト云フモノカラシテ全然、特ニ天皇ヲ除外ヲスルト云フ必要ガ一體何處ニアルカ、即チ天皇ノ裁可、裁可權ト云フモノハナイノデアリマスガ、其ノ天皇ガ特定ノ場合ニ天皇ハ裁可ヲセラレナイト云フコトハナイノデス、「イギリス」ニ於テモアリハシマセヌデスガ、併シナガラ場合ニ依ツテ裁可スルト否トヲ御決定ニナルト云フヤウナサウ云フ力、餘地ヲ、力ト云フト天皇論ニナルカラ止メマシテ、サウ云フ餘地、客觀的事實、客觀的状態其ノモノ、即チサウ云フ天皇ノ裁可ト云フヤウナコトガアルト云フ餘地ガドウシテイケナイノカドウモ分ラナイ、餘地ガアツテモソレヲ實際ニ運用スルト否トハソレハ其ノ場合ノ問題デアル、斯ウナリマスト、例ヘバ米國ノ大統領ニ於キマシテモ、皆サン御存ジノ通リニ所謂「ヴィートー・パワー」ト云フモノガアル、サウシテ我々ノ知ツテ居ル所ニ依リマスレバ、却テ其ノ大統領ハ事實サウ云フ拒否權ヲ行ヒ來ツタコトガアルノデアリマス、サウシテ決シテソレガ「アメリカ」ノ理想タル所ノ即チ「デモクラティック」ノ政治、社會ノ「デモクラティック」化ヲ妨ゲルトハ未ダ曾テ聞イタコトハナイノデアル、我ガ國ニ於キマシテハ、是迄天皇ノ裁可權ト云フモノガアリマスルガ、ソレハドウシテ悪カツタノカ、斯ウナリマスルト、天皇ノ方面カラ此處デ言フノヂヤアリマセヌケレドモ、併シナガラ天皇ノ方面ヲ見マシテモ、天皇ハ大統領ヨリモ政治的ノ意味ニ於テマア力ト云フモノハナイコトニナル、是ハドウシテモ分ラナイ、天皇ハ出來タ法律ヲ公布ハセラレルノデアリマスケレドモ、ドウシテ天皇ノ權能カラ裁可ト云フコトヲ取ツテ居ルノデアルカ、我々ニハ分ラヌノデアリマス、ソレハ天皇トノ方面デアリマスケレドモ、ソレハ別ト致シマシテ、偖テサウ云フコトヨリモ、國會自身ノ權限ト致シマシテ、果シテ國ノ唯一ノ立法機關デアルト云フコトガ徹底出來ルカドウカ、或ハ又此ノ憲法デ既ニ徹底シテ居ルカドウカト云フコトヲ御尋ネシタイノデアリマス、其ノ一ツト致シマシテハ、即チ内閣ハ「この憲法及び法律の規定を實施するために、政令を制定すること」ガ出來ルト云フコトニナツテ居ルガ、此ノ政令ト云フコトハ一體ドウ云フモノナノカ、我々ハ法律ト云フコトヲ我々ノ行動ヲ規定スル所ノ規則デアルト、斯ウ觀念シテ居リマスルガ、我々ノ行動ヲ規律スル、規定スルコトノ出來ルト云フサウ云フ規則ヲ含ンダ意味デ政令ト言フノデアリマセウカ、是ハ唯新憲法上ノ用語トシテ御尋ネスルノデアリマスルガ、併シ是ハ非常ニ重大ナコトデアル、若シ「この憲法及び法律の規定を實施するため」デアリマシテモ、内閣ナルモノガ我々ノ行動ト云フモノ、從ツテ自由ノ拘束制限ヲモ規定スル所ノ規則ヲ作ルコトガ出來ルト致シマスレバ、假ニサウ解釋スレバ、ソレハ國會ト云フモノガ唯一ノ立法機關デアルト云フコトヲ一方ニ定メテ居ルコトヲ實ハ運用上空ニスルモノデアル、固ヨリソレハ憲法又ハ法律ヲ實施スルトハアリマスケレドモ、ソレハ唯一ツノ概念的ノ標準ヲ示シタモノデアリマシテ、憲法又ハ法律ヲ實施スル爲ニハ結局我々ノ自由行動ト云フモノヲ拘束スルト云フ規則ガ必要デアルト思フノデアリマス、是ハ決シテ行政組織内部ノ内規的ノモノデアルノヂヤナイカト思ヒマスガ、内規的ノモノデアルナラバ、サウダトハツキリトシテ置ケバ宜イ、此ノ政令ト云フコトノ解釋ハ非常ニ重大ナコトデアリマス、此ノ解釋ヲハツキリトシテ置カナケレバ何ニモナラナイ、是ハ實ハ個々ノ條文ニ關スルコトデアリマスルカラ、普通ノ場合ナラ委員會デ御尋ネシテ宜イヤウナ事柄デアリマスルケレドモ、實ハ是ハサウヂヤナイ、其ノ政令ト云フモノガ何デアルカト云フコトガ實ハ此ノ憲法ノ精神ト云フモノヲ事實ニ於テ壞スカ壞サヌカト云フ問題ニナリマスルカラ、ソコデ内閣ノ制定スル政令ト云フモノハ一體ドンナモノデアルカ、我々ノ自由ノ行動ト云フモノヲモ拘束シ、規定シ、制限シ得ルヤウナ、サウ云フ内容ヲ有ツタ規則ヲ作レルト云フ意味デアルカドウカト云フコトヲ御尋ネスル、私ハソレガイヽ惡イト云フコトデハアリマセヌ、唯サウ云フ政令ノ意義ヲ御尋ネシマシテ、ソレカラ可否論ニ入ル譯デアリマスガ、ソコデサウ云フ風ニ御尋ネスル、併シ私ノ考ヘマスル所ニ依リマスレバ、我々ノ行動ヲモ規定シ、拘束シ得ルヤウナ規則ヲモ含ムモノト解釋セザルヲ得ナイノヂヤナイカトモ思フノデアリマス、ト申シマスルノハ、「但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない」ト云フコトニナツテ居リマスルガ、罰則ハ言フ迄モナク我々ノ行動ノ自由ヲ制限シ拘束スルモノデアリマスルガ、ソレヲ政令ガ作ル爲ニハ、實施セムトスル法律ガ委任ヲシナケレバナラヌト云ツタ場合ニ限ルト申シマスル以上ハ、サウ云フ罰則ト云フモノデナイ所ノ、我々ノ行動自由ト云フモノヲ制限スル爲ニハ別ニ法律ノ委任ガ要ラヌノダカラシテ、政令ノ一般的性質其ノモノトシテハ、我々ノ自由ヲ拘束シ得ルモノダト云フ風ニ解釋ヲセザルヲ得ナイヤウニ此ノ規定デハ見エマスルガ、サウ云フモノデアラウカドウカト云フコトヲ唯御尋ネスルノデアリマス、ソレカラ第二ノコトト致シマシテ、所謂委任命令、此ノ憲法ハ即チ委任命令ト云フモノヲ一般的ニ認メルモノデアルカドウカト云フコトヲ御尋ネスルノデアリマスガ、併シソレハ正直ニ此ノ憲法ヲ讀ミマスルト、一般的ニハ委任命令ト云フモノヲ認メルト云フ風ニモ言ハナケレバナラヌカト思ヒマスルガ、ソレハ今申シマシタ通リニ、「その法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない」トアリマスカラ、一般ニ法律ガ政令ニ所謂其ノ法規ノ制定ヲ委任スルト云フコト其ノコトハ、此ノ憲法ガ認メテ居ルト云フサウ云フ前提ヲ取ツテ居ルト言ハザルヲ得ナイノデアリマス、私ハサウ解釋スル、サウナリマスルト云フト、元來茲ニ、今度ハ解釋論デハナシニ、特質論、政治論ト致シマシテ非常ナ問題ガアル、法律ガ命令ニ、此ノ場合ハ政令デアリマスルガ、政令ニ法規ノ制定ヲ委任スルト云フコトガ果シテ政治的ニ適當デアルカドウカト云フ非常ナ重大ナ問題ガアルノデアリマス、又現行憲法ノ下ニ於キマシテモ、一體サウ云フ委任命令ト云フモノガ出來ルデアラウカドウカト云フコトガ非常ナ法律論トシテ重大ナ問題ニナツテ居ル、是ハ當然ノコトデアル、今皆サンガ、或ハ政府ノ方々モ疑問トシテ居ラレル所ノ國家總動員法ト云フモノガアルガ、國家總動員法ト云フ法律ガ直接ニ皆作用シテ居ルノデハナイ、國家總動員法ト云フモノハ皆他ノ多クノ命令ニ委任シテ居ル、ソコデ其ノ國家總動員法ノ委任ニ依ツテ、即チ委任ヲ受ケマシタ所ノ其ノ命令、即チ委任命令ダガ、其ノ委任命令ト云フモノデ今日迄ノ統制ハ總テ出來テ居ル、即チ委任命令ト云フモノヲ一般ニ認メルト云フ論ヲ採ツテ居ル、アレガ所謂委任命令デアル、委任命令ノ概念ニ適合スルト云フ論ヲ採ルトサウデアリマス、私共ハアヽ云フ程度、種類ノ委任命令ト云フモノハ、現行ノ帝國憲法デモ許サレヌト云フ建前デアリマスカラ、ソレハ別デアリマスケレドモ、ソコデ無制限ニ從來ノ我ガ國ノ憲法ノ下ニ於テ行ハレテ居リマシタ所ノサウ云フ意味ノ委任命令ト云フモノガ出來ルト云フコトニ相成リマスルト、實ハ法律ニ依ルト云フコトハ何モナラヌコトニナル、詰リ法律ニ依ルトシテ、サウシテ所謂法律ノ根據ナルモノヲ與ヘテ置イテ、サウシテ内閣ト云フ所ノ行政機關ガ所謂憲法又ハ法律ヲ實施スル爲ニ必要ナリト考ヘテ、我々ノ行動ヲ拘束スルコトガ出來ルト云フコトニ相成ル、少クトモサウ云フ風ナ餘地ガ出來ル、此ノ點ニ付キマシテ政府ノ御考ハドウ云フ意味デアリマセウカト云フコトヲ御尋ネシテ見タイ、ソレカラ更ニ少シ細カクナリマスルノデスケレドモ、偖テ将來ノ立法ニ對シマシテ、内閣總理大臣或ハ又各省大臣ト云フモノガ将來出來ルカドウカト云フコトモ、是モ亦後デ御尋ネシタイト思ヒマスガ、ソレカラ地方長官ト云フモノハ即チ命令ヲ作ルト云フコトガ出來ルノデアラウカドウカ、ソレ等ノ命令ト云フコトハ、現行ノ制度ニ於キマシテハ、或ハ法律ニ依ル委任モアリマスルシ、或ハ天皇ノ命令ニ依ツテ、官制ニ依ツテ委任サレテ居ルト云フコトモアリマスガ、マアサウ云フ官制ハ今度ナクナルノデアリマスガ、兎ニ角併シソレ等ノ所謂内閣總理大臣、此ノ場合ハ行政機關デアリマスガ、ソレカラシテ各省大臣或ハ地方長官、其ノ他ノ行政機關ト云フモノニ、此ノ我々ノ自由ヲ制限スルト云フヤウナ、サウ云フ意味ヲ持ツタ所ノ其ノ即チ法規ト云フモノノ制定ヲモ委任スルト云フコトガアリ得ルト云フ建前デアリマセウカ、是ハ實ハ非常ニ重大ナ問題デアルノデアリマス、ソコデソレ等ノコトヲ御尋ネスルノデモアリマスガ、ソレカラ更ニモウ一ツ序ニ御尋ネシテ置キタイト思ヒマスノハ、最高裁判所ハ、政府ノ元ノ案デハ、第一案デハ、最初ノ案デハ七十三條、衆議院ヲ通過シタ後ノ案デハ七十七條ニナリマスルガ、最高裁判所ハ、訴訟ニ關スル手續、辯護士、裁判所ノ内部規律、其ノ他ニ關スル事項ニ付テ、即チ規則ヲ定メル權限ガアルノデアル、更ニ裁判所ノミナラズ檢察機關デアリマスガ、檢事即チ檢察機關モ其ノ最高裁判所ノ定メル規則ニ從ハナケレバナラヌト云フコトニナツテ居ル、此ノ規則ト云フモノハ一體ドウ云フ性質ノモノデアリマセウカ、固ヨリ既ニ機關組織ニ入ツテシマヘバ、ソレハ又別ノ理論デ内部關係ノ行動ダト云フコトニナリマスルケレドモ、サウデナシニ、詰リ訴訟ニ關スル手續ト云フヤウナコトハ、一體ドウ云フコトヲ言フノデアルカ、今日ハ訴訟法ト云フ法律ガ出來テ居ツテ、其ノ訴訟法ト云フモノハ矢張リ訴訟ニ關スル手續ヲ定メル法ダト云フコトニナツテ居ル、サウシテ其ノサウ云フ訴訟法ト云フモノハ、サウ云フ訴訟ニ關スル手續ト云フモノハ法律デナクチヤイカヌト云フコトハ、現行憲法ノ建前デアリマスルガ、ソコデサウ云フモノデアリマスカ、何ノコトカ分ラヌノデ、訴訟ニ關スル手續ニ付テ規則ヲ最高裁判所ガ設ケルト云フコトハ、或ハ裁判所内部ノ、詰リ事務規程ノコトダケヲ言フノデアルカドウカト云フコトヲ、是ハ御尋ネデアリマス、若シサウデナシニ、刑事訴訟法ミタヤウナ、ソレハ刑事訴訟法ト云フモノハソレハアルノダカラ、ソレハ部分的ノモノニ違ヒナイケレドモ、性質上ハ刑事訴訟法ト同ジヤウナモノデアルトスルナラバ、サウ云フモノモ一體定メ得ルモノデアルカト云フコトヲ御尋ネスルノデアリマス、最高裁判所‥‥、サウシタナラバ、即チソレハ法規ヲ定メル、國家ガ立法機關デアルト云フコト、唯一ノ立法機關デアルト云フコトニハ適合シナイト云フコトニナル、サウ云フコトニナリマスガ、ドウ云フ趣旨ノモノデアリマセウカト云フコトヲ御尋ネ致シマシテ、是デ詰リ果シテ國會ガ唯一ノ立法機關デアルト云フ憲法上ノ原則ガ徹底サレルカト云フコトヲ御尋ネスルノデアリマス、ソレカラ立法手續ノコトデアリマスガ、第十一點ノ第二ト致シマシテ、立法機關タル所ノ國會ノ構成デスネ、國會ノ構成ニ付テ御尋ネ申シタイト思フノデアリマス、詳シイコトハ申上ゲル時間モアリマセヌシ、殆ド必要モナイカト思ヒマスガ、所謂今日二院制度ト云フコトニナリマシテ、サウシテ即チ衆議院ト參議院ト云フコトニナル譯デアリマスナ、現行制度ノ下デハ所謂貴族院及衆議院ト云フコトニナツテ居リマシテ、サウシテ何時デモ此ノ貴族院ト云フモノノ方ヲ先ニ書ク即チ規定、態度デアリマスケレドモ、今囘ハデスネ、衆議院ト云フヤウナコトノ方ヲ先ニ書クト云フ態度ヲ執ツテ居ル、是ハ私ハ贊成デアリマス、兎ニ角國會自體ノ中デモ衆議院ト云フモノガ國民ノ意思ヲ通達スベキ任務ヲ持ツテ居ルモノデアル、少クトモヨリ多ク、サウ云フ風ニ解釋スベキモノデアリマスカラ、サウ云フ立場カラ言ヘバ、衆議院及參議院ト、斯ウ云フ風ニ規定スルコトハ贊成デアリマス、從來ノヤウニ貴族院及衆議院ト云フコトノ代リニ、サウ云フ風ニ書クコトハ私ハマア贊成デアリマス、併シソレハ順序ノ問題デアリマスルケレドモ、其ノ順序ニハ即チ或思想ト云フモノガアルカラシテ、順序ハ偶然ニ換ヘルモノデハアリマセヌカラ、或思想ニ依ツテ換ヘルノデアリマスカラ、其ノ思想ハ私ハ贊成致スノデアリマスガ、唯然ラバ此ノ詰リ新憲法ニ依リマスル所ノ所謂衆議院、參議院ト云フヤウナモノガ、一體ドウ云フ職責ヲ持ツモノト云フ風ニ御考ニナツテ居ルノデアラウカト云フコトヲチヨツト御尋ネシテ見タイノデアリマス、先ヅ此ノ新憲法案ノ條文、規定ニ依リマスルト云フト、明カニ其ノ構成ハ書イテアルノデアリマシテ、今申シマシタヤウニ、兩院ヲ以テ構成スルコトハ言フ迄モナイガ、「兩議院は、全國民を代表する選擧された議員でこれを組織する」ト、斯ウ云フコトニ相成ツテ居ルノデアリマス、サウ致シマスルト云フト、此ノ衆議院ト、ソレカラシテ參議院トノ間ニハ、其ノ職責ニ於テ何等差違ト云フモノヲ認メナイノデハナイカ、憲法ガ既ニ初メカラ同ジ職責ヲ持ツテ‥‥與ヘテ居ルト云フ風ニ理解スベキモノデアラウカドウカ、此ノ職責ト特ニ申シマシタノハ、實質上ノ、從ツテ政治的ノ意味ノ職責デアリマシテ、決シテ法理構成カラ出テ、衆議院ノ方ガ參議院ニ優越シテ居ルトカ、ソンナヤウナコトヲ言フノデハアリマセヌ、兎ニ角衆議院ハ何ノ爲ニ存スルカ、參議院ハ何ノ爲ニ存スルカト云フ、サウ云フ實質上カラ見タ職責デスナ、其ノ實質上カラ見タ職責ニ付テ、兩者ノ間ニ何等カ差異ヲ認メタト云フ、サウ云フ根本見地デアリマスカ、サウデナイカ、斯ウ云フコトデアリマスガ、此ノ憲法ヲ其ノ儘拜見致シマスルト、案ヲ‥‥ドウモ何ニモ差異ヲ認メテナイヤウデアリマス、固ヨリ差異ヲ法理的ニ認メテナイト云フテモ、二ツノ働キデアリマス、物ノ働キデアリマスカラ、ソコデ議決ノコトニ付キマシテ、衆議院ヲ參議院ニ優越セシメルト云フヤウナコトハモウ別ノコトデアル、ソンナコトヲ言フノヂヤナイ、本來デス、職責其ノモノガドウ云フ風ナ差異ヲ持ツテ居ルモノデアルカト云フコトヲチヨツト御尋ネ致シタイノデアリマスガ、其ノ前ニチヨツト何デアリマスケレドモ、私ハ此ノ案ノ解釋ヲ致シマスレバ、ソレニ基イテ御答辯ヲ願ヒタイノデアリマスガ、兩議院ハデスナ、共ニデス、全國民ヲ代表スルト云フ任務ヲ持ツテ居ル、仍テ選擧スルト云フ方法デ之ヲ組織スル、斯ウ云フコトニ取レルノデアリマス、「全國民を代表する選擧された議員でこれを組織する、」ソレデ全國民ヲ代表スルト考ヘラレルモノガ、サウ云フ同ジ任務ヲ持ツテ居ルモノガ二ツアルト云フコトハ、果シテ必要デアルカドウカ、サウ云フモノハ論理的ニハ實ハ考ヘラレナイ、全國民ヲ代表スルト云フモノハ甲カ、又ハ乙カト云フ風ニ考ヘラレルノデアリマシテ、サウシテソレモデスナ、同ジ共ニドツチモ全國民ヲ代表スルト云フヤウナコトハ、ドウ云フ一體意味デアルカ、國民ヲ代表スルノハ言フ迄モナイコトデアリマスルケレドモ、國民ノ意思ヲ傳達シテ居ル、國民ノ意思ヲ國民ノ意思デアルカラトシテ、國家カラ見マスレバ、此處ニ國民ノ意思アリト認メナケリヤナラヌモノヲ知ルト云フ方法デアルト思ヒマスガ、サウ云フ即チ職責ヲ持ツタモノガ衆議院ト參議院ト二ツアルト云フヤウナコトハドウモ理論的ニ考ヘラレルカ、又更ニサウ云フモノガアルトスルナラバ、理論的ニハ衆議院モ參議院モ、俺ハ國民ノ意思ヲ傳達シテ居ルノダ、俺ハ國民ノ意思ヲ傳達シテ居ルノダト云フ、國民ノ意思ヲ傳達スルト云フ、即チ國民ヲ代表スルト云フ其ノ點ニ關スル限リニ於テハ同等性ヲ認メラレナケレバナラナイ、其ノ點ニ付テ特ニ衆議院ガ國民ノ意思ヲ傳達シテ居ルノダト云フコトハ言ヘナクナツテシマフ、是デハ却テ‥‥却テデスネ、憲法ガ共ニ國民ノ意思ヲ傳達スルノ職責アリトシテ居ルノデアリマスルカラ、是ハ矛盾ガアル、此ノ規定ヲ前提ト致シマスレバ、却テ衆議院ノ優越性ト云フモノハ否定サレナケリヤナラヌ、同ジク國民ノ意思ヲ傳達スルト云フ職責ヲ持ツテ居ルモノデアリマス以上ハ、何故衆議院ノ方ガ其ノ點ニ關スル限リニ於テデスヨ、其ノ點ニ關スル限リ於テ、何故優越スルカ、衆議院ノ優越ト云フコトハ、唯手續上ノ問題デハナイノデアリマシテ、是ハ實ニ實質的ニ國民ノ意思ヲ代表スルモノデアルト斯ウ考ヘルカラ、ソレデ衆議院ノ意見ト云フモノヲ尊重スルト云フコトニナル、手續上ノ問題ヂヤナイ、併シ此處ニ貴族院モ國民ノ意思ヲ傳達スル職責ヲ持ツテ居ルモノデアルト云フコトニナリマスルト云フト、是ハ憲法ノ規定其ノモノニ於テ矛盾ガアルノデハナイカ、斯ウ云フコトデアリマス、デ茲デ私ノ國會ノ組織論ノコトヲ詳シク申上ゲルノデハアリマセヌ、唯サウ云フコトヲ申シマシテ、唯之ニ附加ヘテ申上ゲルナラバ、今日デハ貴族院、新憲法案ニ於ケル參議院ト云フモノハサウ云フ國民ノ意思ヲ傳達スル從ツテ國民カラ選擧サレルト云フヤウナコトヲ、本來ノ建前トスベキモノデハナイノデアルト私ハ思フノデアリマス、是ハ意見デアリマスカラ仕樣ガナイデスケレドモ、即チ參議院ト云フモノヲ認メル限リハデスヨ、認メル限リハ、衆議院トハ違ヒマシタ所ノ職責ト云フモノガ其ノ根本ノ基礎ニナラナケリヤナラナイ、從ツテ其ノ根本ノ職責ヲ異ニシマスル所ノ、其ノ參議院ニ關シマスル組織等ハ又是ハ別ニデスナ、即チ法律ナラ法律ヲ以テ定メルト云フヤウナコトニスベキモノデハナイカ、一律ニ衆議院ト同ジ立場ヲ取ルベキモノデナイト、斯ウ云フコトニ考ヘマスガ、如何ナモノデアリマセウカ、但シ個々ノ意見ニ亙ルヤウデアリマスルケレドモ、私ハ決シテ此ノ意味ニ於ケル所ノ參議院ト云フモノヲ偉クシロトソンナコトハ言フノヂヤアリマセヌデスヨ、私ハ衆議院ト云フモノハ國民ノ意思ヲ代表スル唯一ノ機關デアツテ宜イノデスケレドモ、私ノ考デハ併シ其ノ衆議院議員諸君ト云フモノモ決シテ神樣ヂヤナイ、ソレ故ニソレニ對シテ詰リ熟慮愼重ト云フコトヲ促ス所ノ、サウ云フ又國家機關ト云フモノガナクチヤナラヌ、ソレガ實ハ即チ參議院、今日ノ貴族院デモ私ハサウ云フ任務ヲ持ツテ居ルト思ヒマスガ、參議院ト云フモノハサウ云フモノデアル、斯ウ云フ風ニ職責ガ變リマス以上ハ、ソレヲ構成スル所ノ構成方法ト云フモノモ自ラ變ツテ來ナキヤナラヌ、何トナレバ其ノ職責ヲ實現スルニ適當ナルモノトシテノ構成方法ヲ取ラナキヤナラヌノデアリマスルカラ、ソレデ是ハ私個人トシテノ意見ヲ申シマスレバ、選擧ト云フコトガ參議院構成ノ基礎トナツテ居ルト云フコトハ、實ハ理解出來ナイノデアリマス、衆議院ト同ジヤウニ選擧ト云フコトハ‥‥併シマア是ハ意見デアリマスルカラ、別ト致シマシテ、兎ニ角此ノ參議院ト云フモノヲ此ノ憲法デハ衆議院ト同ジモノノヤウニ考ヘラレテ居ルノハ一體ドウ云フモノカ、サウ云フ意味ニ於テノ兩院ト云フモノガドウシテ必要ガアルカト云フコトヲ私ハ御尋ネシテ見タイト思フ、是ハ實ニ根本問題デアリマスノデス、更ニ一ツ、是ハ少シ細カイヤウデスケレドモ、重大ナ問題デアリマスガ、若シ國民ノ選擧ニ依ツテ國民ノ意思ヲ知ル爲ノ參議院ト致シマスレバ、其ノ點ガ即チ衆議院ト同ジモノダト致シマスレバ、何故ニ參議院ニ對スル解散ト云フコトノ制度ヲ認メナイカ、解散ハ今日ニ於テモ御存ジノヤウニ衆議院ダケデアルガ、此ノ新憲法ノ下ニ於キマシテモ、解散ハ衆議院ノミデアリマスル、併シ此ノ憲法ガ取ツテ居リマスル所ノ建前デ、之ニ依ツテ國民ノ意思ヲ傳達シ、仍テ即チ國民ノ選擧ニ依ルト云フ建前ヲ取ル以上ハ、參議院ニ對シテモ解散ト云フコトガアラナケレバナラナイ、是ハ詰リ國民ノ意思ヲ代表シテ居ナイノダ、サウ云フヤウナ建前カラ衆議院ニ對シテ此ノ解散ト云フコトガナイノデアルカ、斯ウ云フ風ニモ私ハチヨツトマア疑フノデアリマス、是ハ現行憲法制度ノ建前ニ於キマシテモ、マア色々ノ議論ハアリマセウガ、兎ニ角貴族院ニ對シテ解散ガナイト云フノハ一ツノ根據ハアルノデアリマスガ、是ハ別論デアリマス、併シ斯ウ云フ建前ニ於キマシテハ、衆議院ト同ジコトダカラ解散ガアルべキダ、此ノ點ニ對シマシテ、政府ハドウ云ウ風ナ御意見デアリマセウカト云フコトヲ伺ヒタイト思ヒマス、之ガマア第十一點デ、即チ立法手續ノコトデアリマスガ、次ハ第十二點ニナリマシテ、司法作用ト云フモノガ今日ノ新憲法案ニ依リマシテ、果シテ適正ニ行ハレルノデアラウカドウカト云フコトヲチヨツト御尋ネシタイノデアリマスガ、是ハマア言フ迄モナク司法ト云フコトノ觀念ノ中ニ、行政裁判ト云フコトモ入レラレタコトハ、私ハ是ハ非常ニ贊成デアリマシテ、唯併シ是ハ文字ノ何デアリマスガ、從來兎ニ角司法ト言ヘバ、民事、刑事ノ裁判ト云フコトニハモウ既ニ法律界ニ於キマシテモ、亦一般社會モサウ思ツテ居ルノデアリマスカラ、今度ノ司法ト云フ言葉デハ行政裁判モ入ルト云フヤウナコトハモウ少シハツキリト言ハナケレバナラヌト思フ、是ハサウ云フ建前ニ於キマシテ、今度ノ憲法案デハ司法權ト云フヤウナ言葉デナシニ、裁判權ト云フ言葉ニスベキデアツタト思フ、サウスルト從來ノ司法ト云フコトハ民事、刑事ノ裁判ト云フコトニ限ラレテ居ツタ、ソレニ對シテ更ニ凡ソ一切ノ裁判、ソレハ憲法裁判モ今アリマスガ、行政裁判モアルト云フヤウナ裁判權ト云フ風ニシタラドウデアツタカト思フノデアリマス、ソレハ言葉ノ問題デアリマスカラ、ソレデ宜イト致シマシテ、ソコデ之ニ付キマシテ、行政裁判モ入ルト致シマシテ、憲法裁判ト云フモノガ特ニ入ル、是ハ私モ非常ニ宜イト思フノデアリマシテ、誠ニ贊成セザルヲ得ナイ、即チ最高裁判所ダケデスケレドモ、唯此處ニ一ツ疑ヒガアリマスノデスガ、詰リ八十一條デスケレドモ、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は處分が憲法に適合するかしないかを決定する權限を有する」ト云フノデ、ソレデ是ハ能ク分ツテ居ルヤウデスケレドモ、唯一體是ハ或具體的ノ係爭ノ事件ガ起ツテ、其ノ係爭ノ事件ニ關係スル限リニ於テ、即チ法律、命令、規則、處分ガ憲法違反ナリヤ否ヤト云フコトヲ、適合スルヤ否ヤト云フコトヲ明ニスルト云フコトデアリマスルガ、サウ云フコトデナシニ、特別ノ係爭事件ト云フコトノ有無ヲ離レテ、或場合ニ一般ニ法律ガ出タ、此ノ法律ハ憲法違反デアルト斯ウ思ツタ時ニ、固ヨリソレハ一定ノ手續ヲ經テデアリマスケレドモ、或要件ヲ定メルコトハ言フ迄モナイガ、其ノ法律ナリ命令ナリヲ憲法違反デアルト云フコトヲ一ツ調ベテ貰フ、其ノ法律命令ガ憲法違反デアルカ否カト云フコトヲ調ベテ貰フ、或事件ノ解決ノ方法トシテ關聯問題トシテ調ベテ戴クト云フコトデナイ、ドチラノコトナンダカ、是ハ非常ニ重要ナコトナンダ、若シ是ガ一般國民ト云フモノガ或法律命令ノ憲法違反ト云フヤウナコトヲ調ベテ貰ヘルト言フノデアル時ニ、初メテ本當ノ憲法ヲ擁護スルト云フコトガ出來ルノデアリマスケレドモ、具體的ナ係爭事件ガ起ツタ場合ニ、其ノ係爭事件ニ關スル限リニ於テノ憲法論ヲ調ベルト云フコトニ限ルトスルナラバ、或ハ此ノ憲法裁判ト云フモノハ多クハ實效ノナイコトニナラヌトモ限ラナイ、デアリマスルカラ、其ノ點ハ唯意見ヲ言フノデアリマセヌガ、ドウ云フ風ナ意味デ此ノ憲法ヲ御作ニナツタカト云フコトダケヲ御尋ネスルノデアリマス、ソレハ即チ司法ノ範圍ノコトヲ申シマシタガ、其ノ次ニハ司法機關ト裁判ノ獨立ト云フコトニ付テデアリマス、是ハ何人モデアリマスルシ、恐ラク色々ナ場合ニ、併シ質問ニハ餘リ出ナカツタナ‥‥デチヨツト申シマスガ、此ノ憲法案ノ方法デ果シテ裁判ノ獨立ト云フコトガ維持出來ルカドウカト云フコトヲチヨツト御尋ネスルノデス、今日我々ハ裁判機關ニ對シマシテハ色々ナ批判ガアル、ソレモ宜イノデアリマスガ、併シ何ト申シマシテモ、我ガ國ニ於テ兎ニ角國家ノ作用ニ付テ信頼スル、其ノ信頼スルト云フノハ其ノ職務ガ詰リ間違ヒナク行ヘルト云フコトデハナイ、裁判所ノ判決ニ對シマシテモ、多クノ學者ガ判例批判ト云フモノヲ爲シテ居リマスノハ、判例内容其ノモノニ間違ガアリ得ルカラデアリマスカラ、サウ云フコトデハナイ、唯其ノ職務態度ニ於テ、職務意識ニ於キマシテ、一ニ法ト云フモノニ忠實ニシテ、法ヲ通ジテ社會正義ヲ實現スルト云フコトノ其ノ點ニ於テハ、大體ニ於キマシテ信頼スベキモノガアル、此ノ裁判ニ對スル所ノ、或ハ裁判官ニ對スル所ノ公平ノ信頼デス、是ガアツタト云フコトハ疑ナイコトデアリマス、固ヨリ是ハ其ノ信頼感ニ付テ色色ノ度合モ違ツテ來テハ居リマスケレドモ、大體ニ於テマアサウデアリマス、其ノ信頼感ト云フモノハ將來維持セナキヤナラヌ、凡ソ裁判ニ限リマセヌケレドモ、特ニ裁判ハ公正ナルベシト云フコトハ言フ迄モナイノダ、是ハ行政デモサウデアル、單ニ公正ナルベシデハナイ、公正ニ對スル所ノ信頼感ト云フモノガ大事デアリマス、是ハ國家ノ政治デモサウダ、政治ハ正シクヤラナケレバナラヌト云フコトハ當然ノコトデアルガ、併シナガラ國民ガ其ノ政治ハ正シクヤラレルモノデアルト云フコトノ信頼感ヲ持ツテ居ルト云フコトガ大事ダ、是ハ孰レノ國家作用ニ付テモサウデアルガ、裁判ニ付テハ特ニ必要ナンデアル、裁判ハ其ノ結果ガ公正デアルト云フコトハ必要デアリマスルガ、ソレノ前提トシテ裁判ニ對スル公正ノ信頼ト云フコトガ絶對デアリマス、其ノ信頼ハ何カラ生ズルカト言フノニ、其ノ裁判機關ト云フモノハ即チ權力ニ屈スルコトナク、或ハ又其ノ他ノ利害ニ囚ハル、コトナク、一生懸命ニ自己ノ任務ヲ盡スノデアル、サウ云フコトヲ信頼シテ居ルノデアル、但シ一生懸命ニ盡シマシテモ、誤ツタコトヲスルカモ知ラヌ、ソレハ其ノ人ノ原因ノ問題デアリマスルカラ、是ハ仕樣ガナイ、ソレハ何ニデモアリマス、ケレドモ、サウ云フ結果ヨリモ何ヨリモ、先ヅ第一ニ其ノ裁判ノ公正ニ對スル所ノ信頼感ト云フモノガ必要ダ、裁判ガ公正デアルト云フコトダケデナシニ、公正ニ關スル所ノ信頼感ト云フモノガ必要デアリマス、今日迄ハ幸ニシテ國家機關ノ中デ裁判機關ニ對シマシテハ、大體ニ於テ信頼感ト云フモノヲ持來ツテ居ルノデアリマス、此ノ頃變ツテ來テ居ルコトハ別デアリマスガ‥‥ソレハ何故カト申シマスト、私ノ考ヘル所ニ依リマスレバ、第一裁判機關ト云フモノハ何ト申シマシテモ、今日迄ハ天皇ノ名ニ於テ行ハレルト云フコトハ、兎ニ角其ノ裁判ト云フモノハ、其ノ裁判ヲスルト云フ‥‥統治權ヂヤアリマセヌヨ、裁判ヲスルト云フ其ノ權威、其ノ「オーソリチー」、外國デ「オーソリチー」「オーソリチー」ト言ツテ居リマスノハ、權力ノ場合モアリマスケレドモ、サウ云フ權限ヲ持ツテ居ル所ノ根源デスネ、ソレガ兎ニ角天皇ニ來テ居ル、ソコデ裁判官諸君モ、是ハ天皇ノ名ニ於テ裁判ヲスルモノデアルト云フ其處ニ非常ナ、何トモ言ヘヌ所ノ、誇モアルガ、非常ナ誠實觀念ト云フモノガアルト云フコトニ由來シテ居ルト思ヒマスルガ、其ノコトハ天皇論ト關係アリマスルカラ、是ハ止メテ置キマスル、今日ノ問題デナイカラ‥‥ソレハ別ト致シマシテ、兎ニ角裁判官ト云フモノノ其ノ地位ト云フモノハ何人ニ依ツテモ妄リニハ動カサレナイモノデアルト云フコトデス、サウ云フコトカラ何ト申シマシテモ、裁判ト云フモノガ非常ニ獨立ニ行ハレテ居ル、又其ノ信頼感ト云フモノモ實ハ、私共ハコンナコトヲ言フト怒ラレルカモ知レマセヌケレドモ、裁判官ガ決シテ他ノ行政官ト比べテ人間トシテ立派ナ人間トハチヨツトモ思ツテ居リマセヌ、實際ハ行政官ノ人ガ決シテ裁判官ヨリモ人間トシテ惡イトハチヨツトモ思ツテ居ナイ、皆同ジ詰ラヌ人間デアル、或ハ皆同ジ立派ナ人間デアル、言葉ハドチラデモ宜シイ、ソレデアルケレドモ、併シナガラ裁判官ト云フモノニ對シテ我々ガ、サウ云フ公正ニ關スル所ノ信頼ヲ與ヘテ居ル所以ノモノハ、裁判官ノ個人的ノ人格デハナイ、其ノ裁判官ト云フモノガ國家ノ制度ニ於テ置カレテ居ル立場カラ見マシテ、成ル程アヽ云フ立場ニアル人ハ即チ良心ノ閃ニ依ツテ公正ナル態度ヲ、自ラヲ殺シテサウシテ公正ナル任務ヲヤルダラウト云フコトニ信頼シテ居ルノデアル、裁判官ニ對スル信頼ハ決シテ裁判官ノ個人的ノ人格ニ對スル信頼デハナイ、本當ヲ言フト、‥‥マアサウ言ヒマスケレドモ、實際ハ我々ハ裁判官ノ置カレテ居ル地位カラデ、意識シナクトモ、地位トノ關聯ニ於テ、裁判官ハアヽ云フ地位ヲ持ツテ居ル人ダカラシテ公正ニヤツテ呉レルダラウト思ヒマスガ、サウ云フ裁判官ガ‥‥詳シイコハ時間ガアリマセヌ、要スルニ第一ニ政府、内閣ト云フヤウナ、サウ云フモノカラ全然獨立セナケレバナラヌコトハ當然ノコトデアリマスルシ、又同時ニ國民ノ顔色ヲ見テモドウニモナラナイ、政府ノ顔色ヲ見ルコトガイケナイノミナラズ、同時ニ國民ノ顔色ヲ見ルコトハイケナイト、斯ウ云フコトニ私共ハ固ク信ジテ居ルノデアリマス、ソコデ今囘ノアレニ依リマスルト、ドウモ詳シクハ申サレマセヌケレドモ、最高裁判所ノ長官ハ固ヨリ天皇ノ任命セラルヽ所ニ相成ツテ、是ハ即チ衆議院ガサウ云フ風ニ直シマシタ、初ハサウ云フ風デハナカツタ、デ、此ノ點ハ私ハ衆議院ノ修正ガ尤モダト思ヒマス、此ノ點ニ於キマシテ、内閣、此ノ任命ノ點ハ内閣總理大臣ト同ジコトデ、内閣總理大臣ガ天皇ニ依ツテ任命サレルト同ジヤウニ、最高裁判所ノ長官ガ天皇ニ依ツテ任命セラレルト云フコトニナリマシタガ、ソレハ大變宜イ、ソレ以外ノ最高裁判所ノ裁判官、今日ノ所謂大審院ノ判事諸君‥‥此ノ次ニハ今度ノ最高裁判所ハ大審院以上ノモノニナリマスヨ、ソレ等ノ者ガ内閣デ以テ之ヲ任命スルト云フコトニ相成ル、此ノ憲法デハ‥‥、詳シイコトハマア時間ガナイカラ言ハナイトシテモ、兎ニ角是ハドウ云フ譯デアラウカ、私ハ矢張リ最高裁判所ノ裁判官位ハ、是ハドウモ矢張リ長官ト何モ區別スル必要ハナイ、矢張リ天皇ノ任命ト云フコトニシテハドウダラウカ、斯ウ云フ風ニ私ハ思フノデアリマスルガ、如何ナモノデアリマスカ、（拍手）ソレカラ今ハ政府ノ方面トノ關係デ見マシタガ、私ハ此ノ不覊獨立ト云フコトハ、是ハ決シテ所謂形式的ノ權力ニ對シテ言フノヂヤナイデス、社會一般ノ俗論ト云フモノニ對シテモ、畫然トシテ信念ヲ持ツテ不覊獨立ニナラナケレバナラヌ、此ノ點ガ時ニ我々ハ誤ルノデアリマス、ソレデ時ニ我々ハ政府ノ權力ト云フモノニ從ハザルコトヲ平氣ニナラナケレバナラヌ、ノミナラズ時ニハ所謂社會ノ輿論ト云フモノニ對シマシテモ、我我ノ其ノ輿論ヲ非トスル限リニ於キマシテハ、之ニ從ハヌト云フコトガ、太當ノ意味ノ不覊獨立ダラウト思フノデアリマスルガ、併シ私共ハ學問ハサウデアラナケレバナラヌト思フケレドモ、私共ノヤウナ凡人ハ出來マセヌガ、併シ少クトモ裁判官ノ如キニ於キマシテハ、其ノ意味ニ於テ國民カラモ不覊獨立ト云フコトヲ一ツ要求スルノデアリマス、處ガデスナ、ソレハムツカシイケレドモ、制度トシテサウ云フコトヲ可能ナラシムルヤウニシナケレバナラヌノデアルガ、其ノ點ニ於キマシテ、私ハ今囘ノ憲法ト云フモノハ、決シテ適切デハナイト思フノデアリマス、（拍手）詳シイコトハ別ト致シマシテ、要スルニ七十九條ヲ見マスルト云フト、初メニ申シマシタヤウニ、裁判官ハ決シテ聖人君子ダト思ツタラ自惚デスヨ、裁判官諸君ハ此處ニ居マスマイケレドモ‥‥、即チ政府ニ依ツテ不覊獨立ニセラレテ居ラナケレバナラヌ、學問、學者ハ殘念ナガラサウ云フ制度ハアリマセヌカラシテ、實ニ不遇ニアル、是ハ餘言デアリマスケレドモ、制度ヲ離レタ不覊獨立ト云フコトハ、是ハ常ニ孤獨ニナル、常ニ淋シイモノデアル、併シナガラ裁判官ト云フモノハサウ云フモノデハアリマセヌカラ、國家ガ制度上、國民ニ對シテモ不覊獨立ニスルヤウニシナケレバナラヌト思ヒマスルガ、此ノ點カラ申シマシテモ、是ハ到底イケナイ、ソレハ要スルニ、裁判官ト云フモノハ結局國民ノ審査ニ懸ツテ居ルノデアリマス、是ハドウモ私ハ七十九條ト云フモノハ、如何ナル理由ニ依ツテ出來テアルノカ疑ハシイト思フ所モアリマスルガ、是ハマア裁判官ト云フモノノ官僚主義ダトカ、色々ノコトニ關スル所ノ批判ガアルカラ、ソコデ米國流ノ考ヘ方ヲ唯容レタノデハナイカト思ヒマス、ケレドモ私ハドウモ將來ノ爲ニ非常ニ憂フル所デアル、セメテハ裁判官ハ制度上ソレ自身ノ人格ニ俟ツテノコトガ望マシイケレドモ、ソレハ別トシテ、制度ニ依ツテモ毅然トシテ、所謂國民ノ輿論ナルモノニ對シテモ、不覊獨立ニアリ得ルヤウナ制度ヲ設ケタイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居ル、其ノ點カラ此ノ七十九條ハ、私ハドウモ理由ガ發見シ難イ、斯ウ云フコトニナリマス、（拍手）ソレカラモウ一ツ所謂司法機關、裁判ノ機關ニ對シテ御尋ネ申上ゲタイノハ、斯ウ云フ規定ガアリマスガ、此ノ意味ヲ御尋ネ致シタイト思フノデアリマス、七十六條、「特別裁判所は、これを設置することができない。」、是ハマアソンナコトハ宜イ、「行政機關は、終審として裁判を行ふことができない。」トアリマスガ、此ノ「終審として、」ト云フノハ一體ドウ云フ意味カ、是ハ文字ニ依ツテ拘泥致シマスレバ、行政機關モ裁判ヲ行ヘルノダ、唯ソレガ終審トシテ行フコトガ出來ナイト云フダケデアル、斯ウ云フ風ニナルノデアリマスルガ、一體行政機關ト云フモノハ、行政機關トシテ裁判其ノモノヲ行フコトガ出來ナイト云フノガ即チ現行ノ憲法ノ規定デアリマス、但シ行政機關ガ其ノ任務ヲ執リマスル時ニデスネ、法律問題ヲ色々研究シテ解決スルト云フコトハ固ヨリ當然ナコトデアリマス、即チ法ノ解釋、適用ヲ爲スト云フコトハ、其ノコトヲ行フト云フコトハ別デアルケレドモ、併シナガラ裁判ヲ行フト云フコトハ、或場合ニ其ノ事柄ニ關係シテ、法ノ解釋、適用ヲ爲スト云フコトヲ言フノヂヤナイ、其ノ法ノ解釋、適用其ノモノヲ取扱ツテ、ソレヲソレトシテ決定スルト云フコトガ即チ裁判ヲ行フト云フコトデアル、行政機關ハサウ云フ裁判ヲ行フト云フコトヲ終審トシテハシナイケレドモ、併シナガラ兎ニ角行ヘルト云フコトニナル、サウシマスト假ニ行政機關ガ裁判ヲ致シマシテ行政法上ノ裁判デセウナ、ソレニ更ニマア控訴トカ上告トカ云フコトヲ認メルト致シマシテモデスナ、常ニ控訴、上告ト云フモノヲヤルモノヂヤナイ、結局裁判官……、行政機關ノ裁判ト云フモノガ、少クトモ或期間ヲ經タラ確定スルト云フコトニナラザルヲ得ナイノデアリマスルシ、又殊ニ我々日本人デハ面倒臭イカラソレヲ更ニ審査シテ貰フ爲ニ、正式ノ裁判ヲ要求スルト云フコトガナイコトハ通例デアル、今日ノ所謂違警罪即決例、違警罪即決ト云フモノガ、實ハアレハ本當ノ正確ナル解釋ニ付テハ一種ノ裁判ダラウト思ヒマスケレドモ、ソレニ對シテハ固ヨリ正式ニ問題トスルコトハ出來ルニシテモ面倒ダ、後ガ怖イト云フコトデ大抵泣寝入ニナツテ居ルト云フコトガ今日ノ實情デアリマスガ、サウ云フヤウナコトト關係シテ、此ノ行政機關ガ終審トシテハ裁判ヲ行フコトガ出來ナイニシテモ、兎ニ角此ノ規定ヲ文字ニ依ツテ見マスト、裁判ヲ行フコトガ出來ルヤウニ解釋出來マスガ、マアソレハサウ云フ風ニ解釋スベキモノデアラウカドウカト云フコトヲ唯御尋ネスルノデアリマス、ソレカラ今少シ私モ急グ氣持ノコトデアリマスノデ、言葉ハ略シマスケレドモ、要點ダケノ言ハサセテ戴キタイト思ヒマスガ、ソレハ第十三點ト致シマシテ、今度ハ行政デス、行政ト云フモノガ行政作用ガ新憲法ニ依リマシテ、適正ニ行ハレルト云フコトガ即チ保證出來ルカ、適正ニ行ハレルモノデアルカト云フコトニ付テ御説明ヲ願フト云フ譯デス、第一ニ於キマシテ行政ハデスナ、行政權ヲ内閣ガ之ヲ行フト云フコトニナツテ居リマスガ、其ノコトハ何ト申シマシテモ是モデスナ、天皇論ト關係ガアルカラシテ、質疑ガ濟ンデシマヒマシタノデ、私共ノ建前ト致シマシテハ、兎ニ角行政機關ト云フモノハ兎ニ角其ノ行政權限ト云フモノノ由ツテ來ル「オーソリチー」ハ、其ノ權威ト云フモノハ制度上、法制上ノ意味ノ權威デスヨ、ソレハ何ト申シマシテモ天皇ト云フモノニアツタ、兎ニ角天皇カラ天皇ノ力ヲ貰ツタト云フノヂヤナイケレドモ、天皇カラサウ云フ任務ヲ授カルモノデアルト云フ建前ナンデス、今日ノ憲法ハ、其ノ建前ト云フモノノ良シ悪シヲ茲デ言フノデアリマセヌ、ソレハ天皇論デ昨日濟ンデシマツタカラソレヲ言フノヂヤアリマセヌガ、兎ニ角サウデナイ建前ニナツテ居ルガ、私ハ茲デモ疑問ヲ持ツノデアリマス、ソレデ段々ト構成ノコトニナリマスガ、内閣ガ行政權ヲ行フ、是ハ是デ宜シイノデアリマスガ、ソコデ其ノ構成ニ付キマシテ、總理大臣ト他ノ國務大臣トガ組織スル、是ハ當然ノコトデアリマシテ、サウシテ第一ニ其ノ中デ總理大臣自體ハドウ云フ風ニシテ之ヲ定メルカト云フコトニナルノデアリマスガ、是ハ御存ジノヤウニ今度ハ國會ノ議決デ之ヲ指名シテ、其ノ指名セラレタル者ガ其ノ儘デ總理大臣ニナルノデナイノデ、天皇ガ任命セラレルト云フコトニナツテ、此處ハ天皇ノ任命ト云フコトニナツテ居ル、是ハソレデ宜シイト思フノデアリマスルガ、今度衆議院ノ修正ニ依リマスルト云フト、内閣總理大臣ハ國會議員ノ中カラ、國會ノ議決デ之ヲ指名スルト云フコトニ相成リマシタ、私ハ憲法ノ明文ニ於テ此ノ修正ニ於ケルガ如キ規定ヲ設クルノ必要ヲ知ラナイ、知ラナイト云フケレドモ、サウ云フ必要ハ決シテナイ、固ヨリソレハ一般抽象論ヲ、假ニ觀念論ヲ申シマスレバ、ソレハ理論的ニハ内閣總理大臣ト云フモノハ何モ國會議員ニ限ル必要ハナイ、詰リ觀念的ニ申ストデスヨ、衆議院議員以外、參議院議員以外ノ人デ内閣總理大臣ノ適任者ガナイト云フコトハ、是ハ誰ガ斷定出來ルデアラウカ、併シナガラ實際ノ論ト致シマシテハ、兎ニ角國家ノ政治ヲスルト云フ人デアリマスルカラ、現ニ具體的ニ現實ノ政治ノ衝ニ當ツテ居ル所ノ衆議院ナリ又參議院ノ議席ヲ持ツテ居ル者ノ方ガ、能力カラ言ツテモ宜イダラウト云フコトハ考ヘラレマス、實際ニ又單ニ能力デナシニ、殊ニ今日迄デモサウデアリマスガ、今後ノ内閣ト云フモノハ、固ヨリ所謂「デモクラティック」ノ強化ト云フコトニナリマスルカラ、始終國會ト色々制度的ニモ亦人的ニモ連絡アル人ノ方ガ宜イコトハ疑ヒナイノダカラ、ソレデ國會議員ノ方カラ内閣總理大臣ヲ取ルト云フコトガ大體ニ於テ宜イデアラウトハ思フノデスケレドモ、併シソレヲ何故ニ運用ニ依ツテセズニ、帝國憲法デキチントソレヲ決メナケレバナラヌカ、只今申シマシタノハ一般ノ論デアリマシテ、時ニ衆議院及ビ參議院ニ、甚ダ失禮ダケレドモ一國ノ政治ヲ託スルニ足ラヌ人間ガナイトモ限ラヌ、又反對ニソレ以外ニ於テ政治ヲ託スルニ足ル所ノ人間ガナイトモ限リマセヌ、其ノ場合ニ此ノ規定ニ依リマスト、兎ニ角國會議員ト云フモノデナクテハ國會ノ議決デ指名スルコトガ出來ナイト云フコトニナツテ居ルガドウモサウ決メテシマフコトガ分ラナイ、國會ノ議決デ指名スルト云フ所迄ハ宜イ、併シ國會議員ノ中カラデナケレバ指名サレヌト云フ理由、私ハ法的ニサウ云フコトヲ決メテシマフ理由ガ分ラナイ、大體ハサウデアリマセウケレドモ、然ラバ運用デサウシタラ宜イヂヤナイカ、且又サウデナク國會議員ノ中ニサウ云フ人間ガアルトスレバソレデモ宜イヂヤナイカ、唯ソレガ國會ノ多數ノ支持ヲ得テヤツタラ宜イヂヤナイカト私ハ考ヘルノデアリマスガ、私ハ實ハサウ申シマスルケレドモ、誤解シテ戴イテハ困ルノデアリマシテ、私ハ非常ニ國會尊重論デアツテ、從ツテ運用上政黨ト云フモノヲ尊重致ス者デス、ケレドモ假ニ政黨外ニ於テモ適任者ガナイトモ限ラナイ、觀念的ニハサウデス、併シナガラ實際的ニハ政黨内ニモアリマセウガ、政黨ノ首領ニシテ何カノ事情デ、衆議院議員デモナイ、或ハ又參議院議員デモナイト云フヤウナ者ガナイトモ限リマセヌ、サウ云フ場合ニ、サウ云フ人ガ内閣總理大臣ニ何故ニ不適任デアルカ私ニハ分リマセヌ、元來法律萬能論ト云フコトヲヤカマシク世間ガ言ウテ居リマシテ、私モ實ハ法律萬能ト云フコトハイケナイト云フコトヲ、多年唱道シ來タツタ一人デアリマス、併シソレハ世間ノ言フ法律萬能論ヲ非難スル聲トハ少シ違ヒマスケレドモ、法律萬能論ニハ反對デアリマスルガ、要スルニ何事モ社會ノ體制ヲ法律デ決メナケレバナラヌトスル根本ノ觀念ガ間違ヒデアル、凡ソ社會ノ體制ト云フモノハ機械的ノ體制トハ違ヒマス、機械的ノ體制ハズツト組立ガアリマシテ、何處カポント「スイッチ」ミタイナモノヲ押セバ總テグルグル廻ル、何等人間的ノ作用ヲ要シナイノガ即チ機械的ノ體制デス、人間ノ社會生活ノ體制ハソレヂヤイケナイ、體制ハ決ツテ居リマスルケレドモ、其ノ體制ヲ動カスニハ何等カ人間的ナモノガナケレバナラナイノデアリマスカラ、凡ソ社會ノ體制ヲ機械ノ體制ニ於ケルガ如ク、寢テ居ツテモポント「スイッチ」ヲ押セバ召使ヒノ人ガ來ルト云フヤウナ譯デナクテハイケナイト云フ風ナ考ヘ方デ法律ヲ決メルト云フコトハ、根本ノ間違ヒナンデス、處ガ此ノ規定ハサウ云フ意味ノ法律萬能論カラ來テ居ルト思ヒマス、少クトモサウ云フ風ニシカ理解出來ナイ、是ハ矢張リ内閣總理大臣ハ國會ノ議決デ之ヲ指名スルト云フ最初ノ政府ノ原案デ宜カツタデハナイカト私ハ思フノデアリマスガ、如何ナモノデアリマセウカ、政府デ御同意ニナツタノダカラ、私ノ議論ガイケナイト思ハレルノデスガ、サウ云フ譯デアリマス、今ハ内閣總理大臣其ノモノノ問題デアリマシタガ、次ニ内閣總理大臣ト他ノ國務大臣トノ關係ノコトヲチヨツト申上ゲテ見タイト思ヒマス、一體内閣ト云フモノニ付テハ、今ノ帝國憲法ニハ何モナク、唯官制ニアル、併シ是ハ私ハイカヌト思ツテ居リマシタカラ、今囘政府ノ原案ニ於キマシテ、内閣ト云フモノヲ正面ニ憲法ノ上ニ御出シニナツタト云フコトハ、實ハ私ハ非常ニ贊成シテ居ル、是ハ非常ニ贊成スベキ點デアリマス、又解釋論ニ於キマシテモ、内閣ノ國務大臣全體ノ責任ト云フヤウナコトモ、是レ迄ノ憲法デモ當然ノコトダケレドモ、今度ソレガ明カニモナリマスシ、内閣ト云フモノヲ憲法上ノ機關トシテ明カニ御出シニナツタト云フコトハ、是ハ私ハ非常ニ贊成シテ居リマス、ソコデ内閣ト他ノ國務大臣トノ關係デアリマスガ、此ノ場合ニ於キマシテ、總理大臣ガ他ノ國務大臣ニ對シテ非常ニ特別ノ強イ力、其ノ強イ力ト云フノハ、法的デアルトカ一ツノ人格的デアルトカ云フコトハ第二ノ問題デ、強イ力ヲ持タナケレバナラヌト云フコトハ言フ迄モナイコトデアリマスカラ、總理大臣ノ力ガ強イト云フコトハ宜イノデアリマスケレドモ、但シ其ノ強イ力ト云フモノヲ矢張リサツキ申シマシタヤウナ意味ニ於キマシテ、飽ク迄法律萬能論的ニ、形式的ノ決メ方デ總理大臣ノ強イ力ト云フモノヲ明カニスルト云フヤウナコトガ、果シテ適當デアラウカドウカト云フコトニ付テ私ハ少シ疑問ヲ持ツノデアリマスガ、ソコデソレハ即チ内閣總理大臣ハ固ヨリ是ハ極ク強クナケレバイカヌノデアルケレドモ、併シナガラ他ノ國務大臣ニ對スル強サト云フモノガ、他ノ國務大臣ノ地位ヲ法上動カシ得ルト云フヤウナサウ云フ建前ニ居ルカラ、ソレデ内閣總理大臣ノ強化ト云フモノガアル、斯ウ云フ風ニ考ヘルコトハドウデアラウカ、斯ウ云フ風ニ私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、ソレデ私ハ此ノ點ニ付キマシテハ、實ハ斯ウモ考ヘテ居ルノデアリマス、獨リ内閣總理大臣ノミナラズ、他ノ國務大臣モ内閣總理大臣ノ實ハ補助機關デハナイ國務大臣ト云フモノハ‥‥‥仍テ是ハ矢張リ最高裁判所ノ長官、及ビ最高裁判所ノ判事諸君ガ等シク天皇ニ依ツテ任命サレルト云フコトト同ジヤウニ、即チ他ノ國務大臣モ天皇ニ依ツテ任命サレルト云フ風ニシテ少シモ差支ナイ、何デ一體サウ云フコトヲ遠慮スルノカ、其ノ點ニ於キマシテハ内閣總理大臣ト云フモノガ他ノ國務大臣ト同等デアリマシテモ、兎ニ角内閣總理大臣ト云フモノハ殊ニ將來ハ皆自分ト一緒ニ進退ヲ共ニシテ國事ニ當ルト云フ人ヲ採ラレルノデアラウト思ヒマスカラ、ソコニ人的ノ繋リガアルベキモノナンデス、是レ迄ノ内閣組織方法ハソコニ付テ非常ニ缺點ガアツタ、ソレハ政黨ト云フヤウナモノトノ關係ガドウモウマク行ツテ居ナイト云フヤウナ色々ナコトモアリマセウガ‥‥デアリマスカラ、私ハ總理大臣モ他ノ國務大臣モ一樣ニ天皇ノ任命ニ依ルト云フコトニスベキモノデアツテ、サウシテ矢張リソレハコヽハ内閣總理大臣ト云フモノノ人柄ニ依ツテ、他ノ國務大臣ト云フモノノ自ラノ指揮、指導ト云フモノガ出來ルト云フ風ニシタイト思フノデアリマス、唯ソレヲサツキ申シマシタヤウニピント押ヘレバパツト自然ニ機械的ニナルト云フ風ナ法律萬能論ト云フ風ニ出來テ居リマスト、内閣總理大臣ハ任意ニ國務大臣ヲ罷免スルコトガ出來ルノデアル、他ノ國務大臣ト云フモノハ任意ニ内閣總理大臣ト云フモノガ罷免シ得ルト云フコトニナツテ居リマスルガ、私ハドウモ斯クノ如キ規定ハ、所謂法律萬能論ト云フモノニ陷ツテシマツテ、餘リニ内閣總理大臣ノ人間的ノ活用ト云フモノモ無視シタ所ノ、ドウモ私ノ即チ法理觀カラ云ヘバ好マシカラザル規定ト斯ウ云フコトニナリマスルカラ、此ノ規定ニ付キマシテ一面非常ニ強イヤウナモノデアリマスガ、總理大臣ノ強化ノ如ク似テ居ルケレドモ、此ノ強化タル唯普通ノ行政長官ガ部下ニ對スル強化トハ違ハナケレバナラヌ、内閣ト云フモノニ於ケル所ノ内閣總理大臣ト云フモノガ、他ノ國務大臣ニ對シテ強イ力ヲ持タレルト云フコトハ、長官ガ部下ニ對シテ罷リ間違ツタラ罷メサセテシマフゾト云フヤウナ、所謂地位ヲ握ツテ居ルカラ已ムヲ得ヌト云フヤウナ氣持ノ強化ダツタラ、恐ラクソレハ國家ノ政治ノ最高ノ衝ニ當ツテ、而シテ全體的ノ責任ヲ負フト云フヤウナ氣持ハ、他ノ國務大臣モ薄ラグト思フ、是ハ私ハ實際ヲ知ラヌモノダカラ、唯法制ノ上カラ感ズルノデアリマスガ、是等ニ付キマシテ若シ政府ノ御考ヲ伺ヘレバ‥‥私ハ要スルニ他ノ國務大臣モ其ノ點ニ於テハ總理大臣ト一諸ニ天皇ノ任命デアツテ、サウシテ總理大臣ガ他ノ國務大臣ヲ罷免スルト云フヤウナサウ云フ機械的ノ強化ト云フヤウナコトハ止メテシマツタ方ガ宜イ、人間的ノ作用デ以テ、皆一身同體ニナリマシテ、從ツテ全體ノ責任ヲ以テ衝ニ當ルト云フ風ナノガ宜イノデハナイカト斯ウ思ヒマス、ソレカラ是ハ行政ノコトデアリマスガ、モウ少シ‥‥國務大臣ト行政長官トシテノ各省大臣ト云フモノノ關係、又他面ニ於キマシテハ今日アリマスル所ノ宮内大臣ト云フモノノ關係、將來是ハドウナルノデアリマセウカ、是ハ憲法ニハ何モ表レテ居ナイノデアリマスルカラ、憲法ノ規定ニ關スル質疑トシテ申上ゲルノデハナイノデスケレドモ、併シナガラ是ハ非常ニ重大ナコトデアリマスカラ、ソコデ國務大臣ト云フモノハ、憲法ニ依ツテ内閣ガ出來マシタナラバ‥‥今一體我々ガ申シテ居リマスル所ノ各省大臣、行政ノ長官トシテノデスネ、ソレハ一體將來ドウ云フ風ニ御考ニナツテ居ルノデアリマスカ、此處ハ私ハ意見ガアリマスガ、此處デ意見ヲ申述ベルノハ適當デナイカラ質問ダケ申上ゲマス、宮内大臣ト云フモノハ一體ドウナルノカト云フヤウナコト、今ハ宮中ノ事務ノミニ止ツテ居リマスルコトガ、段々ト國務ノ方ニ入ツテ來テ居ルノデアルカラ、ソコデ宮内大臣ト云フモノニ付テハドウ云フ風ニ御考ニナルカ、是ハ宮内大臣ハ宮内省ノ方デドウ考ヘテ居ルカ知ラヌト云フヤウナ、ソンナ形式論デハイケナイ、苟モ憲法デ決メル以上ニハサウ云フコトニモ關係シテ來ル、斯ウ云フコトモチヨツト御尋ネシテ見タイ、斯ウ云フ譯デモアリマスガ、ソレカラ行政ノ中デ特ニ財政、財政ノコトニ付テハ特ニ憲法ニモ規定シテアリマスカラ、之ニ付テモ色々申上ゲタイコトモアリマスケレドモ、詳シイコトハ止メマシテ、此ノ新憲法ニ依リマスレバ會計年度ト云フモノハ、是ハ詰リドウ云フモノカ、此ノ憲法ニ依リマスレバ、毎年々々所謂暦年ノ毎年ヲ一ツノ年度トシテ豫算ヲ作ラナケレバナラヌト云フコトニナリマスガ、今度ハ例ヘバ六箇月ヲ一ツノ會計年度トシテ、サウシテ豫算ヲ作ルト云フヤウナコトモ出來ルノデアルカドウカト云フコト、是ハ非常ニ不明デアリマス、此ノ文章ニ於キマシテハ‥‥今日ノ憲法デハ「毎年」ト云フ文字ニナツテ居リマスガ、此處デハサウハナツテ居ナイノデアリマスカラ、是ハチヨツト重大ナコトデアリマスカラチヨツト御尋ネシテ置キタイノデアリマスガ、ソレカラ「毎會計年度」トアリマスガ、會計年度其ノコトハ普通ノ年度ト違フ、會計年度ト云フ其ノコトハ‥‥唯ソレガ何月ニ始ルトカ何トカ云フコトヂヤナイ、ソレカラ今度ハ豫算ガ不成立ニ終ツタ時ハ一體ドウスルカト云フヤウナコトハ、何モ此處ニ規定ガナイ譯デアリマスガ、是ハドウ云フ風ニナルノデアリマセウカ、是ハ會計法カ何カデ、此ノ點ニ付キマシテ行政事務的ノ取扱ハ決メラレルデアリマセウケレドモ、併シナガラ是ハ豫算ガ成立シナカツタ時ニハ、其ノ豫算全體トシテドウナルカト云フコトハ、實ハ會計法上ノ規定ダケデ決メルコトヂヤナイ、其ノコトハ憲法其ノモノガ決メナケレバナラヌコトカト思ヒマスガ、サウ云フ點ハドウカト云フコトト、ソレカラ最後ニハ皇室經費、皇室經費ノコトヲチヨツト御尋ネシテ見タイト、斯ウ思フノデアリマス、是モ即チ財政ノ中ニ入ツテ居リマスガ、此處デ便宜上政府ノ初メノ案ヲ讀ミマスガ、「世襲財産以外の皇室の財産は、すべて國に屬する。皇室財産から生ずる収益は、すべて國庫の収入とし、法律の定める皇室の支出は、豫算に計上して國會の議決を經なければならない。」、斯ウ云フコトニナツテ居リマスガ、是ガ衆議院デ、「すべて皇室財産は、國に屬する。すべて皇室の費用は、豫算に計上して國會の議決を經なければならない。」斯ウアリマス、ソコデ第一點ニ御尋ネシタイノハ、一體皇室財産ト云フノハ本法ニ於テハドウ云フ概念ヲ言フノデアルカ、天皇ノ財産ト云フコトデアルカ、何カ皇室ト云フモノガ財産ヲ御持ニナツテ居ルト云フコトデアルカト云フコトダケヲチヨツト御尋ネシテ置キマス、ソレカラソレヨリモ重大ナ問題ハ、皇室ノ費用、皇室ニモ色々御生活ガアルノデアリマスガ、皇室ノ御生活ノ費用ト云フモノハ一體ドウシテ之ヲ償フカ、出スカト云フコトニ付テノ根本觀念ハ一體ドウ云フモノデアラウカ、是ハ無論間接ニ言ヘバ分ル、「皇室の費用は、豫算に計上して國會の議決を經なければならない。」トアリマス、是ハ併シ國家ガ皇室經費ヲ支出スル時ニ、國家ノ支出ノ態度トシテ豫算ニ計上シナケレバナラヌト云フコトダケナノデアル、併シ凡ソ皇室ノ財産ト云フモノガ、斯ウ云フ風ニ我々間接直接ニ知ツテ居ルガ如ク、段々ト減ツテ行ク、是ハ已ムヲ得ヌコトデアリマセウガ、サウ云フ場合ニ一體皇室ノ經費ト云フモノハドウ云フ風ニシテ、誰ガ負擔スルモノデアルカト云フ其ノ根本原則ガ示サレテ居ナケレバナラヌ、是ハ國家ガ皇室經費ヲ出ス時ニハ、國會ノ議決ヲ經ナケレバナラヌト云フダケデアリマス、併シソレハマア國家ガ皇室經費ヲ負擔スルト云フヤウナコトガ前提ニナツテ居ルトモ言ヘナイコトモナイデスケレドモ、凡ソ憲法ノ建前トシテハ、一體皇室經費ハ誰ガ負擔スルモノカ、此ノ原則自體ヲ示ス必要ガアリハシナイカ、私ハ自分ノ意見ヲ申上ゲレバ、殊ニ今後ニ於キマシテハ皇室ノ御入用ニナル經費ト云フモノハ、國家ガ之ヲ負擔スベキモノダト云フ根本理念其ノモノヲ何處カニハツキリト立テテ、法制上明カニシナケレバナラヌ、斯ウ思ヒマス、是デハ皇室經費ヲ出ス時ニハ豫算ニ計上シナケレバナラヌト云フダケデアルカラ、是等ノ點ニ付キマシテハ、固ヨリ政府ノ御意見モ同ジヤウナコトカト思ヒマスケレドモ、ドウモ法制上少シ缺點ガアリハシナイカ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマスガ、（拍手）其ノ點ハドウデセウカ、ソレハ固ヨリ天皇ノ御事、從ツテ又皇室ト云フモノニ付テモ社會ニハ色々ニ批判ヲシテ居ル者モアルデセウ、私ハ其ノ批判ヲ決シテ肯定スルノデモ何デモナイ、併シドウアラウトモ、國家ガドウ云フ状況ニナリマシテモ、皇室ノ經費ト云フモノハ我々即チ國民ガ之ヲ負擔シテ差上ゲルト云フコトガ、我々ノ根本觀念ニナクチヤナラナイ、ドウシテモ我々ガソレヲ差上ゲルト云フコトハ、之ヲ法的形式ニ表シマスナラバ、國家ガ之ヲ負擔スルト云フコトニナルノデアル、此ノ根本觀念ト云フモノガ薄ラグヤウナコトガナイトハ思ヒマスルケレドモ、サウ云フコトガアツテハドウモナラヌガ、是ハ假ニ皇室經費ヲ國家ガ出ス時ニ、豫算ニ出サナケレバナラヌダケデアル、若シ皇室經費ト云フモノヲ國家ガ一切負擔セヌ方ガ宜イト云フヤウナ議論デモ起リマシテ、サウシテサウ云フモノガ法律トシテ出マシタ時ニハ、ソレハ憲法違反ノ法律ト言ヘルデセウカ、言ヘナイデセウカ、凡ソ皇室經費ト云フモノハ、國民ガ、形式的ニ言ヘバ國家ガ費用トシテ負擔シ奉ルモノデアルト云フコトヲ憲法ニ規定シテ置キマスルナラバ、今申シマシタヤウナ法律案ヲ出ス者ガアリマシテモ、第一ニソレハ憲法違反ナリトシテ排斥スルコトガ出來ル、併シ現行法ノ規定ノ形デハ、ソレヲ憲法違反ナリトシテ排斥スルコトハ出來ナイノデアリマス、私ノ皇室觀ニ依リマスト、非常ニ遺憾ヲ感ズルノデアリマス、ドンナニ國家ガ窮乏ニ陷リマシテモ、我ガ日本ニ於キマシテハ皇室ノ經費ハ我々國民ガ之ヲ差上ゲルト言フノハヲカシイ言葉デアリマスケレドモ、獻上スル、ソレヲ國家ガ負擔スルト云フ建前ダケハハツキリト維持シテ行キタイ、從ツテソレヲ憲法ニ現シタイト云フノガ、私ノ皇室経費ニ關スル所ノ根本觀念デアリマス、此ノ點ニ付テハ、恐ラク氣持ハサウデアリマスケレドモ、憲法ニ規定スルコトハマヅイ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス、況ンヤ衆議院ノ改正ニ依リマスルナラバ、天皇ニハ皇室財産ト云フモノハナイト云フコトニナル、總テ國ニ屬スルノデス、尤モ之ニ付キマシテ、衆議院ノ方ニ於ケル所ノ政府ノ説明デハ、此ノ皇室財産ト云フモノニ付テ色々ノ御説明ガアルヤウデアリマスケレドモ、率直ニ取ツテ、皇室ト云フモノニハ少クトモ皇室全般ニ關スルヤウナ、サウ云フ財産ト云フモノハナイノデアル、又皇室財産カラ生ズル収益ハ、總テ國家ノモノニナル、世襲財産モサウデアルト云フヤウナコトデ、我々‥‥ト申シマスルカ或ハ私ト申シテ宜シウゴザイマセウカ、ソレハドウシテモ理解出來ナイノデアリマス、ソレデ我々一般臣民デモ、總テ財産ヲ持ツテ居ルヂヤナイカ、持ツコトヲ認メラレテ居ル、サウシテ其ノ財産ノ収益ト云フモノハ、我々自身ノ所有ニ屬スルト云フコトニナツテ居ル、何故ニ皇室財産ト云フモノニ付テ同ジヤウナ原則ガ適用出來ナイノデアルカ固ヨリ皇室財産ト云フモノガ、從來ノ例或ハ又此ノ頃發表セラレテ居リマスコトニ依ツテ、或ハ國民ガ色々ノコトヲ思フカモ知レマセヌ、其ノ額ニ於テモ、又其ノ支出ノ方法ニ付キマシテモ‥‥、即チ天皇ガ皇室財産ト云フモノヲ御持ニナル所ノ能力ヲ、法的ニ奪ツテシマフト云フヤウナコトハ如何ナモノデアリマセウカ、是ハ私ハドウシテモハツキリシテ戴キタイト斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス、只今申上ゲマシタノハ、詰リ今後ノ新憲法ノ下ニ立法、司法、ソレカラモウ一ツ行政ト云フモノヲ餘リ輕ンジマシテ、從ツテ官吏ト云フモノニ對スル所ノ別ノ評價ト云フモノガ不當ニ下ガルト云フコトハ、國家ノ爲ニ宜クナイ、今非常ニ官吏ニ對スル惡評ガ起ツテ居リマスガ、何ト申シマシテモ國家ノコトヲ現實ニ行ツテ居ルノハ官吏デアルカラ、此ノ官吏ト云フモノヲボロ糞ニ、兼好法師ヂヤナイケレドモ、ボロ糞ノヤウニ言ツタリ考ヘタリスル國家ハ必ズ滅亡シマス、（拍手）我々ハ今日ノ官吏ニ對スル所ノ考ヘ方ヲモツト變ヘナケレバナラヌ、官吏ハ公僕デアルト云フコトハ、國家ノ爲ニ私ヲ捨テテ働クト云フコトデアリマシテ、國民自體ノ個人的ノ召使ヂヤアリマセヌ、「ポアンカレ」モ言ツテ居リマス、併シ同時ニ官吏諸君ノ態度ニ付キマシテモ、非常ニ改メル所ガナケレバナラヌ、此處デ官吏論ノコトヲ言ツテモシヤウガナイケレドモ、兎ニ角今日餘リ官吏ニ對スル所ノ考ヘ方ガ非常ニ無茶苦茶ニナツテ居ル、之ヲ行政ノコトニ關聯シテ申スノデアリマス、ソコデ只今申シマシタノハ第十四點デスガ、立法、司法、行政ト云フモノガ、新憲法ノ下ニ於テ果シテ適正ニ行ハレテ居ルカト云フ個々ノモノヲ取ツテ申シタノデス、更ニ十四點ニ至リマシテ、是等ノ機關ガ實質的ニ統一ヲ保ツテ行クコトガ出來ルカ、又更ニ新憲法ノ下デハ、新シイ意味ノ獨裁者ト云フモノガ出來ルト云フ餘地ガナイカト云フコトヲ一ツ御尋ネスルノデアリマス、ソレハ今我ガ國ニ於キマシテハ、立法機關、司法機關、行政機關ト分レテ居リマスルケレドモ、併シソレハ又天皇論ニ矢張リナリマスケレドモ、總テ天皇ト云フモノヲ中心トシテ、哲學的ノ流行リ言葉デ申シマスレバ、天皇ヲ媒介トシテ皆統一サレテ居ル、ソレハ機械的ニ、法的ニ統一サレテ居ルト云フコトデハアリマセヌ、心ノ上デ皆天皇ヲ媒介トシテ繋ツテ居ル、此ノ意味ニ於キマシテ、金森國務大臣ガ屡々言ハレタ心ノ繋ガリト云フコトハ、サウ云フ時ニハ許サレル、即チ立法機關、司法機關、行政機關ハ天皇ヲ中心トシテ繋ツテ居ルト云フ所ニ、即チ實質的ノ統一ガアルノデアル、是ハ統一ト云フノハソンナ機械的ノコトヲ言フノヂヤアリマセヌ、是ガ將來ナクナルノデアリマスガ、是デ果シテ實質的ナ統一ガ將來出來ルカト云フト、更ニ今囘ノ新憲法ガ行ハレマスト云フト、私ハ憂ヘマス、從來トハ違ツタ意味ノ獨裁者ト云フモノガ出來ルトハ申シマセヌケレドモ、出來ル虞ガ、餘地ガ十分アル、即チ私自身ハ、ソレ自身ニハ非常ニ贊成シテ居リマスル所ノ政黨ダ、政黨ガ有力ニナリマス、政黨ガ有力ニナリマスレバ、即チ議會中特ニ衆議院ト云フモノガ將來ハ有力ニナル、即チ此ノ參議院ト云フモノハ無力ニナル、ソコデ即チ先刻申シマシタヤウニ、總理大臣ト云フモノハ國會議員ノ中カラトハアリマスルケレドモ、實質的ニハ衆議院議員ニナルノハ、ソレハ當然ノコトデアリマス、ソレハ憲法ニハ、ドンナコトヲ考ヘテ居ツテモ、マサカ衆議院議員ノ中カラトハ書ケマセヌカラ‥‥‥‥ソコデサウ云フ構成ニ於キマシテハ、ソレハソレデモ無論正當デス、衆議院ト云フモノガ立派ニ國家的ニ働ケバソレデモ宜シウゴザイマスケレドモ、ソレハナカナカ期シ難イ、ソレデ結局何等カノ政黨ト云フモノガ他ノ政黨ヲ壓シテ、言ヒ換ヘテ見レバ、國民的ニ、而モ國民ノ後援ガアルト云フ其ノ名ニ於テ相當久シキニ亙ツテ實力ヲ占メテ、或ハ久シキデナクテモ、少クトモ其ノ瞬間ニ於テ獨裁的ニ決定ヲスルト云フ餘地ハナイカドウカ、是ハ唯運用上ノ見込ミデアリマスルカラ、ドウモ水掛論ニナリマスケレドモ、私ハ今日ノ實情ニ於キマシテハ、十分其ノ虞ヲ感ジテ居ルノデアリマス、サウナリマスレバ、即チ「ドイツ」ノ「ヒトラー」ト同ジコトニナリマス、「ドイツ」ノ「ヒトラー」ハ皆サン御存ジノ通リニ個人的ノ獨裁者デハナイノデアル、背後ニ「ナチス」黨ト云フ所ノ黨ヲ擔ツテノ獨裁者デアツタノデアリマス、「ムッソリニー」デモサウデアツタノデセウ、個人的獨裁者ト、背後ニアル國民ト云フ名ヲ持ツタ獨裁者ト二ツアリマスガ、後ノ奴ガ却テ危險デス、個人的獨裁者ヨリハ‥‥‥、サウ云フ意味ニ於キマシテ、此ノ憲法ガ果シテ個人的ノサウ云フ意味ノ新タナル獨裁者ト云フモノヲ生ズル餘地ハナイカドウカト云フコトヲ御尋ネスル、新タナルト申シマシタノハ、從來我々ガ今日此ノ状態ニ至リマシタ結果ヲ非難シテ居ルノハ、實ハ或者ガ獨裁的ニ政治ヲシタノダ、斯ウ云フコトヲ言ツテ居ルノデアリマスルカラ、宜シイ、ソレハ今後ハ軍部ガナイノダカラ、或ハ官僚モ今後ハ、今日ノ如クヒドク叩カレタ後ニハ、從來ノヤウナ官僚閥ト云フモノハナイデアリマセウケレドモ、併シソレニ代ツテ何等カノ獨裁者ト云フモノガ出ル虞ハナイカ、私自身ノコトヲ雜駁ニ申セバ、其ノ虞ハアルト信ズルノデアリマス、ソレデ新タナル獨裁者ト云フコトヲ言ツタノデアリマス、是ハ非常ニ重大ナコトデアリマス、此ノ點カラ矢張リ憲法ノコトヲ考ヘナケレバナラヌ、斯ウ云フ點デアリマス、次ニ十五點デスガ、國民ノ中ニ天皇ヲ入レルトカ入レヌトカ云フコトハ、金森國務大臣ニハ甚ダ恐縮デスガ、是ハ何ト申シマシテモ民ト云フ中ニ君主ガ入ルナント云フコトハ、ソンナコトハ言ツテハイカヌ、サウ云フコトハ言葉ニ出シテ言ツテハイカヌ、此ノ時ニ作ツタ説明、言葉ハ矢張リ我々ノ社會的ノモノデアルカラシテ、社會的ニ率直ニ理解サレル言葉ヲ使ハナケレバナラヌ、ソレニハ民ト云フ言葉ノ中ニ君主ト云フ文字ハ何ト申シマシテモ入リマセヌ、其處デ私ハ君主、日本デハ天皇及ビ國民ヲ含ム概念トシテ國人ト云フ言葉ヲ使ツテ居リマスガ、其處デ即チ日本人ハ直接ニハ共生體ヲ持ツテ、其處デ我々ガ人生ノ正義ト云フモノヲ實現スルト云フコトニ努力スルノデアリマスガ、併シソレト共ニ、我々ハ世界ノ人々ト共同ヲシテ其處デ一ツノ世界共生體ト云フモノヲ作ラナケレバナラヌ、世界ノ人間ガ皆共ニ生キルト云フ立場ノ一ツノ共生體ニナラナケレバナラヌ、併シ世界共生體ト云フモノニナリマスルガ、世界ノ生活ト云フモノヲ共生ノ理念、共ニ皆ガ生キルコトガ出來ルト云フノハ、皆ガ幸福ヲ達シテ、又何ガ幸福デアルカト云フコトヲ考ヘ、又其ノ方法ヲ講ズルノモ、皆ガヤル、是ガ即チ私ノ共生理念デアルガ、其ノ世界共生體ト云フモノハ、今日デハソレハ何ト申シマシテモ、其ノ國家ノ共生體ヲ通ジテスルヨリ仕樣ガナイ、ソレヲ世界的一國ト云フモノガ出來テ居リマセヌ時ハ、其處デ我々ハ直接ニハ日本人共生體ト云フモノノ理念デ能ク働カナケレバナラヌ、同時ニ日本人共生體ト云フモノノ生活ヲ正シクスルト云フコトニ依ツテ、又世界共生體ト云フモノノ正義ニ依ツテ、正義ヲ實現スルト云フコトニナルノデアルカラ、從ツテ此ノ日本人共生體ト云フモノハ他ノ國家ノ共生體ト交渉ヲ生ズルト云フノハ、是ハ當然ノコトデアリマス、我々ガ世界正義ト云フモノヲ實現シナケレバナラヌノデアルケレドモ、併シソレハ我々日本人ノ共生體ダケガサウ云フ責任ヲ持ツテ居ルノデハナイ、即チ天下ニ存シテ居ル所ノ總テノ共生體ハ皆一樣ニ此ノ世界ニ正義ヲ實現スルト云フヤウナ、サウ云フ責任ヲ持ツテ居ルノデアルカラシテ、サウ云ウ建前ヲ考ヘマスルト云フト、即チ私ハ茲ニ昨日カラ話ガアリマシタ所ノ條約ノ効力ノコトナドモ申シタイケレドモ、是ハ餘リ重要性ガナイノデ止メテシマヒマスガ、戰爭抛棄ニ付キマシテ一ツノ私ノ愚見ヲ申シタイト思フ、敢テ不必要ナ謙遜ノ言葉ヂヤナイ、本當ニ謙遜シテ居ル者デアリマスルガ、此ノ戰爭ノ抛棄ト云フコトニ付キマシテハ、殆ド私共以外ノ者ハ皆、是ハ宜イコトダ、正シイコトダト云フコトニ言ハレテ居ルノデアリマシテ、而シテ私ハ密カニ之ニ付テ疑ヲ持ツテ居ル者デアリマスルカラ、是ハドウモ自分ノ考ガ愚ヂヤナイカト實際思ツテ居ルノデス、ソコデ私ノ考ヘマスルノニ、世界ハ今申シマシタヤウニ、平和的ニ正義ヲ實現ヲスルノデアルガ、併シ此ノ平和的ニ正義ヲ實現スルト云フコトハ日本ダケノコトヂヤナイ、日本ダケノ責任ヂヤナイノダ、是ハ皆ノ國ガ相寄ツテ其ノコトニ寄與スルト云フノデナクチヤナラヌ、ソレデアリマスルカラ、我々ハ如何ニ平和的ニ正義ヲ實現スルト申シマシテモ、此ノ世界ノ現實ト云フモノヲ見ナケレバナラヌ、此ノ世界ノ歴史的現實ト云フモノヲ離レテ觀念的ニ問題ヲ考ヘルコトハ、此處ニ非常ナ危險ガアルノミナラズ、是ハ本當ノ意味ニ於テノ即チ共生體ノ理論ニ適ハナイト私ハ思フノデアリマス、現實ニ於キマシテハ、此ノ間申シマシタ通リニ、兎ニ角他ノ國家ニ於キマシテ其ノ戰爭ト云フモノヲ致サナケレバナラヌ事實ガアルト云フコトハ現實ニ示サレテ居ル、現實ニ戰爭シテ居ルト云フコトヲ言フノヂヤアリマセヌヨ、歴史的經驗カラ見マスルト、サウ云フコトヲセナケレバナラヌ必要ガアルノダト云フコトガ考ヘラレル、然ラバ我ガ國ニ於キマシテモ、我ガ國ノ國家ト云フモノノ性格自體カラ見マスルト云フト、自分カラサウ云フ力ヲ國内的ニ棄テテシマフト云フコトハドウ云フ譯カ、是ハ但シ外國トノ關係ニ於テ、或ハ他ノ國家ト條約ニ入ル、或ハ聯盟ニ入ツテ、サウシテ自分ハ戰爭ヲセナイト云フ國際的義務ニ入ルコトハソレハ宜シイ、私ハ今後ソレハ大イニ希望スルノデス、今後國際聯合ニ入ルトカ、其ノ他ノ時ニ當リマシテ、嘗テノ不戰條約ト同ジヤウニ戰爭ハヤラナイト云フコトヲ皆デ決メルト云フ關係ニ入ルト云フコトハ宜イガ、自分ノ國ガ自分ノ力デ以テソレヲ棄テテシマフト云フコトヲ何故宣言スル必要ガアルカ、宣言セナイト云フコトハ戰爭ヲスルト云フコトヂヤアリマセヌヨ、宣言シナクテモ戰爭ヲスルコトガ惡ケレバシナケレバ宜イ、何故ニ之ヲ國法的ニ宣言スルト云フ必要ガアルカト云フコトニ付キマシテ非常ナ疑問ヲ持ツテ居ルノデアリマス、固ヨリ他ノ國トノ國際關係ニ於テ戰爭セヌト云フ國際的義務ヲ負フコトハソレハ宜シイ、併シナガラ國家法ニ於テ何故ニ他ノ國ニ於テ類例ヲ見ナイ所ノ斯ウ云フ規定ヲ設ケル必要ガアルカト云フコトニ付テ非常ニ疑問ヲ持ツノデス、誤解サレテハイケマセヌデス、戰爭其ノモノヲ私ガ贊成シテ居ルト云フノデモナンデモナイ、ソレハ戰爭セヌト云フコトハ國際的義務トシテハ負ウテ然ルベキデアル、ソレハ他國モ、共同ニ世界平和ヲ實現スル責任ヲ持ツテ居ル者皆ガ戰爭セヌト云フ責任ヲ相互ニ負フコトハ、ソレハ非常ニ宜イコトデアル、唯日本ダケガサウ云フコトヲ國法的ニ宣言スルト云フ、サウ云フコトハ言ハヌデモ宜イト思フ、ソレデ實ハ第十六點ニ、國民ノ權利義務ノコトニ付テ意見ヲ聽イテ戴キタイト思フノデスガ、時間ガアリマセヌカラ申シマセヌケレドモ、チヨツト是ダケノコトヲ言ハセテ戴キタイ、私ハ一體此ノ第三章「國民の權利及び義務」トシテアル此ノ規定ニ付キマシテハ、私ハ實ハ非常ニ良イモノヲ含ンデ居ルト思ツテ贊成シテ居ル部分ガ少カラズアルノデアリマス、唯併シ是ハ觀念ガハツキリシテ居ナイコトガアリマスルシ、第三章「國民の權利及び義務」トシタ題ガ惡イト私ハ思ヒマス、是ハマア現行憲法ニ即シテヤツタノデアリマセウケレドモ、私ハ是ハ國民生活ノ共生原理トデモスルカ、或ハ國民ノ社會生活トデモシマシテ、結局我々國民ト云フモノハ、ドノ社會ニ屬スルト云フコトニ限ラズ、凡ソ人間デアルカラト云フ立場ニ於キマシテ國家カラ認メラレナケレバナラヌ所ノ地位ガアリマス、所謂基本權トカ基本義務トカ云フモノハ此ノ類ノモノダラウト思フノデアリマス、ソレカラ更ニ我々ハ何等カノ社會生活ヲ爲スト云フ其ノ上ニ於テ認メラレナケレバナラヌ一ツノ地位ト云フモノガアル、其ノ兩點ト云フモノニ付キマシテ、固ヨリ從來憲法ノ理念ニナカツタトハ申サレマセヌケレドモ、併シナガラ憲法ノ明文カラ申シマシテモ、又憲法制定者ノ其ノ當時ノ心ノ上カラ申シマシテモ、ドウモ其ノ個人的ノ地位ト云フモノニ付テ重キヲ置イテ決メタモノデ、我々ガ社會生活ヲ爲ス上ノ地位ト云フヤウチモノニ付テ考フル所ハ少カツタト、ドウモ公平ニ見テ言ハナケレバナラヌト思フノデス、是迄ノ憲法ガデスナ‥‥、然ルニ今囘ノ憲法ハ其ノ點ニ於キマシテハ、個人的ナ地位ト云フコトニ付テノ規定ヲ設クルノミナラズ、凡ソ我々ノ社會生活ト云フノハ、詰リ家モアリマセウ、國家ト云フモノモアル、其ノ他ノ社會モアル、兎ニ角社會生活デスナ、其ノ社會的ノ生活ト云フモノカラ我々國民ノ地位ト云フモノヲ規定セムトシテ居ル所ノ態度ハ非常ニ宜イ、是ハ私ハ實ハ雙手ヲ擧ゲテ贊成スル所デアリマス、ソレガ色々ノ意味ニ於テ、十八世紀トカ、十九世紀トカ、二十世紀トカ、ソンナコトハドウデモ宜イ、此ノ點ニ於キマシテハ、金森國務大臣ノ答辯ハ私ハ贊成スルノデス、金森氏ハ、遡ツテ見レバ即チ「グリース」、或ハ「ローマ」ノ或哲人ノ言ツタ理念ニ及ブト、ソレデ宜イノデス、少シモ差支ナイ、ソンナ憲法ノ建前ニ於キマシテハ、其ノ所謂主義理念ト云フコト其ノコトヨリモ、ソレモ必要デアリマスルガ、其ノ主義理念ト云フモノヲ實現スル形態ガ論ジラレナケレバイカヌ、主義理念ガ無論問題デアリマスガ、併シナガラ主義理念其ノモノガ問題ヂヤナイ、主義理念ヲ實現スル形態ヲ適當ニスルト云フコトガ問題デアリマスルカラ、先般來此ノ點ニ付キマシテ金森國務大臣ガ時々言ハレテ居ルコトハ、サウ云フ言葉デハアリマセヌケレドモ、サウ云フ風ダト思ツテ、私ハ此ノ點ハ矢張リ金森君ダト思ツテ居リマス、實際ハ、私ノ一般ニ、學問的ニ交渉ノアル人デアリマスカラ、ソレハ大變宜イノデス、同時ニソンナコトヲ言ツテ居ツタラ、十九世紀ダラウガ、二十世紀ダラウガ、十八世紀ダラウガソンナコトハ構ヤセヌ、根本理念ニ至ツテ、極ク太古ニ至ル、「アリストテレス」、「プラトン」ニ至ツテモチツトモ差支ナイガ、ソレガ其ノ時々ノ状態ニ於テ歴史的ノ現實ノ事實ト結ビ著イテ如何ニシテ行クベキカト云フコト、是ガ即チ法トシテノ形體ノ問題デアリマスルカラ、私ハ金森國務大臣ノサウ云フ建前ニ全然贊成スルモノデアリマス、併シ理念其ノモノヲ考ヘタリ、其ノ特質ヲ論ズルト云フコトハイケナイト言フノヂヤアリマセヌ、ソレハ誤解シテハイケマセヌ、法ヲ執ル建前ニ於テハ、理念其ノモノヲ論ジタリ、明カニスルト云フコトガ建前ヂヤナイ、理念ニ形體ヲ與ヘル、形體ノ仕方ガ問題デアリマス、是ハ私ガ金森國務相ノ意見ヲ誤解シテ居ツタラ正シテ戴キタイ、サウ云フ建前デアツタラ大變宜イト思フノデスガ、サウ云フ點カラ見マスルト、第三章ハ私ハ大變贊成スル所ガアルノデアリマスルケレドモ、併シ個々ノ條文ニ於キマシテハドウモ贊成出來ナイコトガ可ナリ多イノデアリマスルガ、ソレヲ一々申スコトハ出來ナイノデアリマス、サウデアリマスルカラ、サウ云フ意味ニ於キマシテ、個々ノ點ニ於キマシテ、第三章ハ根本的ニ非常ニ贊成スル點ト、ソレカラ法的ニ、注文トシテ不贊成ナ點ト非常ニコンガラカツテ居リマスガ、一々申スコトハ時間ガアリマセヌ、併シ法的技術トシテモチヨツト贊成スル點ハアル、ソレハ從來ノ憲法デハ、何々ト云フ自由ハ、法律ノ範圍内ニ於テトカ、法律ノ定ムル場合ヲ除クノ外ト云フコトガアリマシテ、ソレデモ正シク理解スル時ニハ、住所ノ自由ナラ住所ノ自由デモ宜シインデスガ、我々ガ斯ク斯クノ自由ヲ有スルト云フコトガ根本ノ建前デ、ソレヲ公益ノ爲ニ侵害スルヤウナ必要ノアル時ニハ法律デ定メルト云フコトデアツタケレドモ本當ノ解釋ハ‥‥、サウデナク解釋サレテ居ル態度ガアルノデス、法律ニ定メテ居ル範圍ノ自由ガアルノダ、斯ウ云フ風ニ憲法ガ規定シテ居ルト云フ風ニ、學者デモ實ハサウ云フ風ニ解釋シテ居ル人ガアリマスガ、是ハ大間違ヒナンデス、ケレドモ兎ニ角サウ云フ誤解ノ解釋ガアル時ニ、此ノ憲法ハアベコベニ、我々人間ハ斯ウ云フ自由ガアル、斯ウ云フ自由ガアルト云フ建前ヲ先ニ示シテ、サウシテソレヲ制限スルノガ斯ウ云フ風ダト、斯ウ云フ風ニ規定シテアル規定態度カラ言ヒマシテモ、私ハ此ノ第三章ノ規定ノ態度ニハ贊成スルモノデアリマス、併シソレハ大雜把ナ議論デアリマシテ、細カイ點ニ於キマスルト云フト、矢張リ不贊成ナ點ガアルノデアリマスカラ、矢張リ反對セザルヲ得ナイト、斯ウ云フコトニナルノデアリマス、急ギマスルガ、茲デ大事ナ點ヲ申上ゲマス、今度ハ第十七點ニナリマスガ、最高法規、是ハ非常ニ重大ナ點デアリマス、憲法ノ第十章ニ「最高法規」ト云フ規定ガアリマス、ソコデ之ニ付キマシテハ、只今モ申シマシタ第三章ノ由來的ノコトガアツテ、所謂基本的人權ナルモノガドウシテ出テ來タカト云フコトヲ言ツテ居リマスガ、此ノ事モ我ガ國ノ實際ニ於テハ當ラヌコトデアリマシテ、是ハ西洋ノ人權擁護ノ歴史ノコトヲ説明シタ言葉デスカラ、九十七條ノ如キハ日本ノコトニハ當ラヌ、全然削除シタイノデスケレドモ、ソレヨリモ九十八條ト九十九條ノ如キモ、是モ我ガ國ニ於キマシテハ全然無意味ノ規定デアリマス、ソレハ九十八條ニ於キマシテハ、詰リ修正ニ依リマスト、此ノ憲法ハ國ノ最高法規デアリマシテ、サウシテ其ノ條規ニ違反スル所ノ法律命令云々ノモノハ、其ノ效力ヲ有シナイトアリマスルガ、是ハドウモ一昨日デアリマシタカ、澤田議員モ之ニ觸レラレタカト思ヒマスガ、或ハ觸レラレナカツタカ知レマセヌガ、不必要ナコトガアルト言ハレタ時ノコトニ屬スル、コンナモノハ實ハナイ方ガ宜イ、第九十九條ニ於キマシテハ、「天皇又は攝政及び國務大臣、國會議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」、コンナモノモナイ方ガ宜イ、是ハ實ハ「アメリカ」ノ合衆國ノ憲法ニハ、サウ云フ類ノ規定ガアルノデアリマス、ソレハ必要ガアルノデス、「アメリカ」ハ、前ニ申シマシタヤウニ、澤山ノ國家カラ出來マシテ、サウシテソレノ上ニ「ソヴァレン・ステート」トシテノ合衆國ト云フモノガアルノデアリマスカラ、個々ノ國ト云フモノハ、「ソヴァレン・ステート」ト云フモノノ、其ノ合衆國ノ憲法ナリ法律ナリト云フモノニ從ハナケレバナラヌト云フコトヲ意味シテ居ルノデス、ソレヲ特ニ書イテ居ルノデス、合衆國ノ憲法ノ第六條ニ‥‥、ソンナ關係ノナイ我ガ國ニ於キマシテハ、第十章ノ如キハ何等書ク必要ガナイ、コンナモノハ書カヌデ置イタツテ當然ナコトデアリマス、書イタガ爲ニ特別ノ何カ必要ガアルガ如キ意味ヲ與ヘル、是ハ非常ニ面白クナイ規定ダト思ツテ居ル、私ハ全然削除ガ宜イト思ツテ居ルノデアリマス、ソレカラモウ段々最後ニナツタガ、第十九點ノ憲法ノ改正ノコト、私ハ矢張リ將來憲法ヲ改正スル時ニハ、何等カノ形ニ於テ國民ガソレヲ發議スルヤウナ、サウ云フ一ツノ方法、其ノ方法ニ付テモ案ガアリマスガ、モウ時間ガナイカラ詳シイコトヲ言フコトハ出來マセヌガ、兎ニ角餘地ヲ殘シテ置イタ方ガ宜イト思フ、此ノ憲法ニ於キマシテハドウモ其ノ餘地ガナイノデス、詰リ議會ノ方カラ國民ニ與ヘルト云フコトハアリマスケレドモ、國民ノ方カラ議會ニ與ヘルト云フコトハ出來ナイノデアルガ、是ハドウモイケナイト思フ、之ニ對シマシテハ金森國務大臣ノ一昨昨日來御答辯ガアリマシタカラ‥‥ソレデ第三類ノ質問内容ノコトハ大體濟ミマシタ、マダ色々ナ點ガ殘ツテ居リマスガ、是ハ仕樣ガナイ、ソコデ第四類ト致シマシテ、私ハ最後ニ、然ラバ汝ノ言フガ如キ帝國憲法改正案デアルナラバ、是ハ一體如何ニ處置スベキモノデアルカト云フコトノ反問ガ何處カラカ出ベキデアル、出ナケレバイカヌ、斯ウ云フ風ニ私ハ思ツテ居ル、出ナイ迄モ自分デ反問シテ居ル譯デアリマス、要スルニ私ノ是レ迄申上ゲマシタ議論ガ存在スル餘地ガアルトスルナラバ、此ノ憲法ハ實ハ缺點ダラケナンデアリマス、甚ダ失禮デアリマスルケレドモ、缺點ダラケデアリマス、然ラバ此ノ憲法ヲドウ云フ風ニ取扱ツタラ宜イカト云フ問題ニナリマスト云フト、茲暫クハ私ノ一ツノ書生‥‥、ト言ツテモ、私ハ單純ナル學究デハアリマセヌ、今茲デハ議員トシテ、實際的ノ政治ヲ解決スル一人トシテノ學究デアリマスガ、其ノ者トシテ、實ハ次ノ如キ考ヲ持ツテ居ルノデアリマス、ソレハ政府ハ帝國憲法改正案ヲ撤囘シ、更ニ愼重ナル調査ヲ經テ立案シタルモ謂ヲ、特ニ國民ノ判斷ヲ求ムルト云フ意味ニ於テ公表シ、一定ノ期間ヲ經テ特ニ憲法審議ノ爲ノ帝國議會ノ議ニ付スルト云フコトガ出來ナイノデアリマセウカ、私ハソレガ宜イト思フノデアリマスルガ、政府ハ其ノ意思ガナイノデアリマセウカ、之ガ爲ニハ固ヨリ所ノ關係方面トノ交渉ガ困難デアルト云フコトハ分ツテ居リマスルケレドモ、兎ニ角關係方面ニ向ツテサウ云フコトニ關スル所ノ交渉ヲ一ツシテ見テ戴クト云フコトハ出來ナイノデアリマセウカ、實ハ大變ナ是ハ非常識ナヤウニ御考ニナリマスデセウケレドモ、私ハ眞ニサウ思ツテ居ルノデアリマス、ソレハ先刻來申上ゲマシタ所ノ憲法ノ案ノ内容カラモ出テ來ル當然ノ歸結デアルノミナラズ、實ハ改正ノ仕方ノ問題ニ付キマシテ申上ゲマシタヤウニ、國民ハ本當ニ知ツテ居ナイ、ソレデ國民ニ示シテ知ラシタト申サレマスルケレドモ、特ニ選擧前ニ‥‥併シソレハ特ニ國民ノ判斷ニ此ノコトヲ愬ヘルト云フ意味ニ於テ御公表ガアツタノデハアリマセヌ、唯新聞ニ出シタ、ソコデ私ハ茲ニ特ニ國民ノ判斷ヲ求ムルノ意味ニ於テ公表シト云フ文句ガアルノデアリマス、サウシテソレデ以テ一ツ國民ノ意ノ在ル所ニ依ツテ更ニ憲法ト云フモノヲ審議スルト云フヤウナ、サウ云フコトガ出來ナイモノデアラウカト云フコトヲマア御尋ネスルノデスケレドモ、是ハ獨リ、政府ハ恐ラクソンナコトハ出來ナイト仰シヤルカモ知レマセヌノミナラズ、或ハ他ノ諸君モ非常ニ非常識ナト云フ風ニ御思ニナルカモ知レマセヌケレドモ、私ハ實際我ガ國ノ國家ノ將來ヲ思フ時ニ、此ノ憲法ノ取扱ト云フモノハソンナ輕々ニ附スベキモノデハナイト斯ウ考ヘマスルノ故ニ、今囘ノ憲法取扱ニ關スル一ツノ御尋ハ、私ノ眞ニサウ思ツテ居ルノデアリマス、ソレデソレハモウ今迄申シマシタ所カラ當然ニ出ルベキ結論デアルト思ヒマスルガ、此ノコトヲモウチヨツト説明サシテ戴キマス、ソレハ第一ニ是ハ此ノ儘デ通リマシタナラバ、或ハ虞ル、世界ノ物笑ヒニナルト云フコトハ此ノ間申シマシタガ、「タイム」ニハ實ニ皮肉ナ、我々ハ讀ミマシテ實ニドウモ恥シイ、腹ヲ立テルコトガ出來ヌ事實ダカラ……併シ恥シイ文章ガアルノデアリマス、ソレハ第一、題其ノモノガ即チ「ウヰ・ザ・ミミックス」、我々「ミミックス」、御存ジノヤウニ模倣上手ダ、眞似上手ダ、斯ウ書キマシテ、サウシテ此ノ憲法草案ト云フモノニ對シテ可ナリ言葉ハ柔カイケレドモ、痛烈ナル所ノ批判ヲバ下シテ居ルノデアリマス、其ノ一部ニ昨日申上ゲマシタ即チ「シンボル」ト云フコトニ「レデユゥース」サレタト云フ言葉デ申シテ居リマスガ、ソレ以外ニ即チ斯ウ云フ妙ナコトヲ、妙ナト云フコトヲ言ツテモ怒ル譯ニ行キマセヌ、本當デスカラ……、ソレハ斯ウ云フコトヲ書イテ居リマス、「コンクエラー」ノ間ニハ「ポピユラー」ナ「ドクトリン」、併シナガラ今囘サレタ……我々デセウ、我々ノ間ニハ「アルファミリアー」ナサウ云フ「ドクトリン」ニ向ツテ、シツカリト見テ、私自身ガ人ノ名ヲ言フコトヲ止メマスガ、兎ニ角色々ノ人ガ、「ユナイテッド・ステーツ・ポリティカル・リテラチューア」、米國ノ政治的ノ文獻ヲ「パラフレーズ」シタ、即チ日本語ニ依ツテ他ノ言葉ヲ説明シタ、斯ウ云フコトヲ言ヒマシテ、概括的ニ更ニ即チ所謂「アメリカ」ニ於ケル「デクラレーション・オブ・インディペンデンス」獨立宣言ノ中カラ……是ハ誠ニドウモ仕樣ガアリマセヌ、ハツキリ申上ゲナケレバナリマセヌガ、詰リ元ノ十三條ニ當ルノデアリマスルガ、詰リ總テノ人民ハ「インディヴィジアル」トシテ、個人トシテ尊重サレナケレバナラヌ、彼等ノ生命、自由、幸福ヲ追求スル權利ガアル、ソレガ國ノ政治ノ上デハ「シュープリーム」、最高ノ「コンシタレーション」ニ入レテシナケレバナラヌ、是ハ即チ「デクラレーション・オブ・インディンペンデンス」ニ書イテアル、ソレガ十三條ニ當ル譯デアル、十三條ト云フコトハ私ガ申上ゲルノデアル、ソレカラ引張リ又更ニ所謂「ゲッテイスバーグ・アドレス」即チ「リンカーン」ガ皆サン御存ジノ通リ、其ノ數箇月前迄戰ツテ居リマシタ「ゲッテイスバーグ」ニ於テ「アドレス」シタ千八百六十三年、ソレニ「ガヴァメント」ノ「オーソリチー」ハ人民カラ「デラレヴ」スル、ソレカラ其ノ「パワー」、ソレハ人民ノ代表者ニ依ツテ行ハレル、ソレカラ人民ノ福祉幸福ト云フヤウナモノガ享受サレルト云フヤウナコトモ書イテアル、是ハ結局前文デアル、前文デ「ゲッテイスバーグ・アドレス」カラ來テ居ル、更ニ「アトランティック・チャーター」ト云フモノガアリマスガ、其ノ中カラ總テノ人間ガ平和ニ住ンデ、恐怖ト缺乏カラ自由ニ解放サレル權利ヲ持ツト云フヤウナ事ガ來テ居ル、是等ノモノカラ「パラフレーズ」シテ出來タノガ日本ノ憲法ダト云フコトヲハツキリ言ウテ居リマス、私ハ此ノ文章ヲ讀ミマシタ時ニ、實ニ非常ニ悲シカツタケレドモ怒ル譯ニイキマセヌ、全クサウナノデアリマスカラ……ソレデアリマスルカラ、此ノ意味ニ於キマシテ此ノ憲法ト云フモノガ、ドウモ是ハ或ハ英文ニ、或ハ獨文ニ、佛文ニ、今我々ニ與ヘラレテ居ルヤウナ「ドラフト」トシテデナシニ諸種ノ印刷物ノ中ニ於テ示サレルノデアリマセウガ、如何ナモノデアリマセウカ、私共ハ茲ニ非常ナル恥シサヲ感ゼサルヲ得ナイノデアリマス、ソレ等ノモノガ出版サレマシタ時ニハ必ズ我々ノ眼ニ入ルノハ當然ノコトデモアリマスシ、外國人ノ眼ニ入ルコトハ當然ナコトデアル、ト云フノガ第一デアリマス、ソレカラ第二ト致シマシテハ、一體コンナニ急イデ、本當ヲ言ヘバ何ト云ツテ言葉ヲ言ウテ見テモ、國民ガ眞ニ事前ニ知ツテ居ルト言ハレヌヤウナ状態ニ於テ急イデ憲法ヲ制定スルト云フコトハ、是ハ總理大臣ノ御話デ能ク分ルケレドモ、國際情勢ト仰ツシヤルノデスケレドモ、併シナガラ、果シテ是ガ司令部ノ本旨ニ適ツテ居ルデアラウカト云フコトヲ疑フノデアル、却テ少クトモ司令部、或ハ廣ク外國デ是ハ日本人ガ自主的ニ、大イニ、本當ニ眞劍ニヤツタモノカドウカト云フコトヲ却テ疑ヒハシナイカト、斯ウ云フコトデ以テ此ノ提案ヲ致シタ譯デアリマスガ、昨日モ申上ゲマシタ日本「タイムス」ノ論文ニ書イテアル「ツー・マッチ・スピード・メイ・レイズ・ダウツ・アブロード・アズ・ツ・ウエザー・チャーター・レフレクツ・ピープルズ・ウイル」餘リ急グト却テ是ガ眞ニ「ピープルス」ノ「ウイル」ヲ反映シテ居ルカドウカト云フコトニ關スル所ノ「ダウト」、疑惑ヲ「アブロード」、海外ニ却テ起サセナイカト云フ論文デス、私ト同ジヤウナ心配ヲ持ツテ居ル者ガ兎ニ角アルナト云フコトヲ思ツテ、個人的ニハ愉快デアルガ、個人ノ問題ハ離レマシテ、是ハドウモ大變ナコトデアルナト思ツテ、私ガ斯ウ云フヤウナ御尋ヲスルコトヲ益々實ハ勇氣ヅケタト云フコトニ相成ツタノデアリマス、甚ダ長ク亙リマシテ皆サンノ御迷惑ニナツタカトモ思ヒマスガ、實ハ貴族院ニ於ケル一議院トシテ、兎ニ角是ハ重大ナコトデ、實際問題ノ論議ニ亙ツテ此ノ程度嚴肅ナ氣持ニナツテ居ルコトハアリマセヌ、自分ハ此處デ愚ヲ曝シテモ宜イ、汝ノ言フ所ハ愚ナリト言ハレテモ構ハナイ、自分ノ信ジテ居ル所ハ兎ニ角申上ゲテ、サウシテ直接ニハ政府ノ方ノ御意見ヲ伺フノデアルシ、又延イテハ皆サンノ御批判ヲ仰グト云フコトニ於テ唯專心ヤツタノデアリマス、サウ云フ氣持デアリマスノ故ニ、私ノ説明ニ用ヒマシタ所ノ言葉ヤ、文章ト云フモノハ或ハ熟セヌコトガアルカモ知レマセヌ、ソレデ或ハ私ノ眞意ト云フモノガ其ノ儘傳ハラズシテ、或ハ時ニ人ノ誤リ解スル所トナラムトモ限リマセヌ、此ノ言論ニ依ツテドウ云フ結果ニ私自身ガナラウトモ、私ハ毛頭ソンナコトハ考ヘテ居リマセヌケレドモ、併シナガラ事ハ國際關係、國内關係ノ非常ナ重大事ニ關スルコトデアリマスカラ、何カ私ノ言論カラサウ云フ影響ノアルヤウナコトノ虞ガアリマシタナラバ、其ノ際ハ議長ニ於テ適當ニ速記録ノ上デ圖ツテ戴クコトハチツトモ差支アリマセヌ、是ダケノコトヲ以テ私ノ質問ヲ終リマス、（拍手起ル）
○議長（公爵徳川家正君）　只今佐々木君ノ申入レガアリマシタ通リ、議長ニ於テ適宜處置ヲ致スコトニ御異議ゴザイマセヌカ
　　〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長（公爵徳川家正君）　御異議ナイト認メマス、内閣總理大臣
　　〔國務大臣吉田茂君登壇〕
○國務大臣（吉田茂君）　只今佐々木博士カラ縷々熱心ナ御意見ヲ拜聽致シマシテ、之ニ對シマシテ一應御答ヲ致シマス、時間ガナイ爲ニ或ハ簡單ニ失シテ、誠ニ不本意ナ御答ニナルコトヲ惧レルノデアリマスガ、先ヅ第一ニ御尋ノ、此ノ度ノ憲法改正ニ於テ、其ノ改正ノ方向ハ既ニ決ツテ居ルノデアルカラ、不必要ナ改正ハ避ケテ必要ナ改正ダケシテハドウカト云フ御意見デアリマシタガ、此ノ點ニ付キマシテハ政府ト致シマシテハ所謂民主主義、平和主義ニ徹底シタイト云フ精神カラ、此ノ度ノ憲法改正ヲ企テタノデアリマシテ、其ノ精神ニ徹シマスル爲ニハ實ハ全面的ニ改正ヲ要スルモノト考ヘルノデアリマス、憲法ノ各條ハ孰レモ有機的ニ互ヒニ連結シテ居リマスノデ、其ノ一部ヲ採ツテ、サウシテソレノミヲ改正スルト云フコトハ、如何ニ考ヘマシテモ出來難イヤウニ考ヘマスルノデ、此ノ點ハ御了承ヲ願ヒタイト思ヒマス、又憲法改正案決定ニ至ル迄如何ナル調査ガ行ハレタカト云フ御尋デゴザイマシタガ、是ハ過日モ一應申上ゲマシタガ、政府ト致シマシテハ昨年以來、殊ニ幣原内閣――前内閣以來、憲法ノ各方面ノ權威者ニ御依頼ヲシテ憲法問題調査委員會ヲ設ケマシテ、各國ノ立法例、内外ノ學説、其ノ他憲法改正ニ關シマシテ有ラム限リノ調査研究ヲ行ツタノデアリマス、其ノ調査研究ノ結果ガ改正案立案ノ場合ニ於テ有力ナル資料トナツテ、サウシテ此ノ憲法改正案ガ決定致シタノデアリマス、政府ト致シマシテハ十分調査ヲ致シ、研究ヲ致シタ考デ居リマス、又最後ニ此ノ憲法改正案ナルモノハ不十分デアルト考ヘラルヽカラ一應撤囘シテ、更ニ愼重ナ調査研究ヲシテ立案シタモノヲ豫メ公表シテ、更ニ國民ノ意見ヲ徴シ、輿論ノ趨向ヲ徴シ、又議會ヲ召集シテ、之ニ付スル意思ハナイカト云フ御意見デアリマスガ、此ノ改正案ハ誠ニ短イ時間ノ間ニ出來ルダケノ調査研究ヲ遂ゲテ立案致シマシタノデ、其ノ爲ニ各位ニ於テ不滿足ニ御考ニナルコトガアルカモ知レマセヌガ、併シナガラ政府ト致シマシテハ出來ルダケノ努力研究ヲ致シタ積リデ居リマス、又屡々申シマスガ、總選擧前ニ其ノ草案ヲ發表致シマシテ、輿論ニ可否ヲ問フト云フ考デ、特ニ總選擧施行前ニ此ノ憲法改正案ハ發表致シテ輿論ニ問ウタノデアリマス、又此ノ改正案ハ總選擧執行後ノ最初ノ議會タル此ノ議會ニ於キマシテ其ノ審議ニ付シテ、サウシテ兩院ノ研究審議ヲ願フ譯デアリマスガ、此ノ點ニ付テ色々御不滿足ナ點ハ拜承致シマシタガ、何分敗戰ノ今日國家ト致シマシテハ國家ガ平和化、民主化サレタ其ノ精神ニ徹底シタコトヲ示スコトガ、今日ノ國家ヲ救フ所以デアリ、又國體ヲ擁護スル所以ト考ヘマシテ、甚ダ急速デアリマスガ、各方面ノ研究ヲ了シテ茲ニ提案ヲシタ次第デゴザイマス、色々御不滿足ノ點ハ御指摘ヲ受ケテ拜承致シマシタガ、事情ハサウ云フ次第デアルコトヲ御了承願ヒタイト思ヒマス
○議長（公爵徳川家正君）　休憩ヲ致シマス、午後二時ヨリ再開致シマス
　　　午後一時休憩
　　　　━━━━━◇━━━━
　　　午後二時八分開議
○議長（公爵徳川家正君）　休憩前ニ引續キ會議ヲ開キマス、金森國務大臣
　　〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕
○國務大臣（金森徳次郎君）　佐々木博士ヨリ連日ニ亙リマシテ、各種ノ廣汎ナル事項ニ付キ御質疑ガアリマシタ、其ノ論點ハ、憲法ノ改正案ヲ研究致シマスニ付テノ、必要ナル各般ノ事項ヲ、恐ラクハ一ツモ殘ラズ網羅サレテ居ラルヽヤウニ考ヘマシテ、私共ガ御答辯ノ機會ヲ十分ニ得マシタコトヲ喜バシイト考ヘテ居ル次第デゴザイマス、時間ノ關係カラ御提出ニナリマシタ各種ノ論點ヲ悉ク整理スルコトガ出來タカドウカ、聊カ心配スル點モアリマスルガ、成ルベク其ノ眼目トナリ、骨子トナリマスル點ニ付テ御答ヲ致シタイト存ジテ居リマス、又私ノ申シマシタ一二ノコトニ付キマシテ通リスガラノ御言葉デハアツタラウトハ存ジマスルケレドモ、公人ノ立場ト致シマシテ御答ヘスベキ範圍ニ付キマシテハ、細カイ點デアリマシテモ御答ヲ致シタイト存ジテ居リマス、先ヅ御質疑ノ改正前提トナル問題ノ一部分ニ付テハ、總理大臣ヨリ既ニ午前中ニ答ヘラレマシタ他ノ點、即チ此ノ憲法改正ニ付テ日本ハ如何ナル自主的行動ノ範圍ヲ持ツテ居ルカト云フ點ニ付テ御答ヲシタイト存ジマス、佐々木博士ハ、「ポツダム」宣言ニ表レテ居リマスル條項ノ中ニ於キマシテ、日本國ノ最終ノ政治形式ハ「ピープル」ノ自由ナル意思決定ニ依ルベキモノデアルト云フ點ノ解釋カラ、「ピープル」ト云フノハ即チ日本ノ國ノコトデアル、日本國ガ此ノ改正ヲ爲スベキデアツテ、外來的ナル勢力ニ依ツテ動カサルベキ理由ハナイト、斯ウ云フ御趣旨デアツタカト了解ヲシテ居リマス、其ノ中ニハ私ノ解シマスル所ニ於テハ二ツノ論點ヲ含ンデ居ル、一ツハ外國ノ力ニ依ツテ日本ノ國家組織ガ變ルノデハナイ、是ガ一ツノ點デアリマス、第二ノ點ハ「ピープル」ト云フノハ日本國家ト云フコトデアツテ、從ツテ日本國民一人々々ト云フ方面ニ重點ヲ置イテ改正論ヲ論議スベキデナイト云フ、此ノ二點デアラウト存ジテ居リマス、「ポツダム」宣言ノ解釋ヲ今此處デ申ス必要ハナイト存ジテ居リマスルガ、私ハ此ノ規定ニ依リマシテ、日本國ノ最終ノ形式ハ日本國自ラ之ヲ決定スベキモノデアルト信ジテ居ル譯デアリマス、併シナガラ其ノ日本國ガ意思決定ヲ致シマスル時ニハ、國民ノ、詰リ一人々々ノ國民ヲ集メテ考ヘマスル所ノ、其ノ國民ノ自由ナル意思決定ニ依ルベキモノデアルト云フ風ニ考ヘテ居リマス、其ノ内容ハ、此ノ憲法改正案ノ前文ノ中ニ含マレテ居ル所ト略々類似ノ意味ニ解シテ宜イト思ツテ居ル譯デアリマス、之ニ付キマシテハ、私ノ誤解カモ知レマセヌケレドモ、御示ニナリマシタヤウナ他ノ解釋モアリ氣ニ思ハレマスケレドモ、少クトモ世ノ中ニ今迄發展シテ來マシタ考、且ハ又關係方面ノ人々ガ意見ヲ表明シテ居リマスル立場等モ、此ノ私ノ考ト同ジ方向ニアルヤウニ存ジテ居リマス、ト同時ニ一言申上ゲナケレバナラヌノハ、此ノ憲法ノ改正ハ、今述ベマシタ所ノ國民ノ自由ナル意思ニ依ツテ決ルト云フコトバカリノ制約ヲ受ケテ居ルノデハゴザイマセヌ、「ポツダム」宣言ハ他ニ此ノ憲法ノ内容ヲ拘束スルガ如キ規定ヲ含ンデ居ルノデアリマス、言フ迄モナク民主政治ノ復活強化ニ關スル規定、或ハ思想、宗教等ノ自由ヲハツキリサセ、且又國民ノ基本權ヲ充實セシムルト云フ趣旨デアリマシテ、此ノ二ツノ原則ハ、實質的ニ日本ノ是カラ定ムベキ基本制度ニ大イナル制約ヲ持ツテ居ルモノト考ヘテ居リマス、次ノ問題ニ移リマシテ、此ノ改正ノ仕方ノ問題ト云フ中ニ於キマシテ、第一點ハ憲法改正ニ付テ必要ナル十分ノ準備的手續ガ、即チ調査ガ行ハレタカ、是ガ一ツノ御質疑デアリマシタ、之ニ對シマシテハ總理大臣カラ既ニ答ヘラレテ居リマス、ソレニ關聯ヲ致シマシテ、金森國務大臣ハドノ段階ニ於テ關係シタカト云フ御質疑ガゴザイマシタ、是ガ御答ヲスル必要ガアルカナイカト云フコトハ、私ハ自ラ十分判定ヲ致シ兼ネマスルケレドモ、御尋デアツタカラ御答ヲ致シマスルガ、私ハ六月十九日ニ國務大臣トシテ、此ノ憲法ヲ擔任スル職責ヲ持チマシタ、而シテ三月ノ或時期カラ、實質的ニ於テ此ノ憲法ノ草案ノ熟成シテ行ク段階ニ關與シテ居ツタト云フコトヲ申上ゲテ置キマス、第二點ト致シマシテ、一般國民ハ此ノ憲法ノ草案改正ノ趣旨ニ付テ十分理解ヲシテ居ルノデアラウカ、是ハ形式的ニ答ヘナイデ、實質的ニ答ヘヨト云フ御質疑デアリマシタ、此ノ憲法改正案ガ形式的ニハ政府ニ依ツテ、其ノ草案ノ時ニモ、詰リ草案ノ要綱ノ時ニモ一般ニ發表セラレ、又ソレガ文章ノ形ヲ成シタ段階ニ於テモ公表セラレ、其ノ他種々ナル方法ニ依ツテ世ノ中ノ批判ヲ求メテ居ルト云フコトハ、既ニ御承知ノコトデアリマスガ、是ハ形式的ノ見方ト言ヒ得ルノデアリマセウ、實質的ノ點ニ付キマシテ明カニ國民ガ知ツテ居ルト云フ證跡ヲ述ベルコトハ出來ナイノデアリマス、併シナガラ日本國民ハ決シテ盲目デハアリマセヌ、此ノ問題ニ付キマシテ相當熱心ナル意見ヲ持ツテ居ラルヽノデアツテ、固ヨリ其ノ内容ヲ詳細ニ知ルト云フコトハ、是ハ總テノ人ニ望ミ得ベクモナイ、如何ナル時代トシテモ望ミ得ベクモナイト存ジマスケレドモ、其ノ大項目ニ至リマシテハ略々知ツテ居ラルヽモノデハナイカ、且ツ熱烈ナル之ニ對スル注目ガナサレテ居ルノデアツテ、衆議院ニ於ケル約二箇月ノ審査ト云フモノガ、常ニ世ノ中ニ幾多ノ影響ヲ齎ラシ、少クトモ今日ノ段階ニ於キマシテハ、國民皆能ク知ツテ居ルノデハナイカ、詰リ準備行動ノ時ト今日迄ト合セマシテ、相當周知セラレテ居ルヤウニ思フノデアリマス、若シ其ノ證據ヲ出シ得ナイト致シマシテモ、私自ラノ心ニ觸レテ居ル點ヲ申シマスレバ、私ノ行動ニ付キマシテ、日本ノ幾ツカノ方面カラ、例ヘバ福井縣ノ或村ノ部落會デハ、特ニ此ノ憲法ニ付テ、自分達ハ十分ノ熱意ヲ持ツテ居ルト云フ風ノ議決ヲ、是ハ非公式デアリマセウガ、シテ私ノ所ニ送ラレタヤウナ事例モアルノデアリマス、又甚ダ詰ラヌコトヲ申上ゲテ恐縮デアリマスケレドモ、大和ノ國ノ或ル、恐ラクハ山村デアリマセウ、山村ノ青年團ハ自ラ耕シタル所ノ馬鈴薯ヲ特ニ私ノ爲ニ、全ク知リマセヌケレドモ、私ノ爲ニ送ツテ來テ居ルノデアリマス、其ノ分量トカ何トカ云フ問題デハナク、サウ云フヤウナ各種ノ點カラ大キク推測ヲシテ見マシテ、日本國民ハ之ニ對シテ相當ノ了解ヲ有ツテ居ルト云フコトヲ信ジテ疑ハナイノデアリマス、ソレカラ第三點ニ於キマシテ、法的連絡ガ能ク保タレテ居ルカト云フヤウナ御趣旨デアリマシタ、ソレハ其ノ現ハレノ一ツト致シマシテ、憲法ヲ改正スル國家ノ現實ノ作用ハ如何ナル機關ガ之ヲ行フカト云フ御尋デアリマシタ、サウシテ自ラ其ノ答ニ對スル御所見ヲ御示シニナリマシテ、國家ノ機關トシテノ天皇ガ行ハセラレルノデアル、然ルニ今囘ノ案ハ其ノ點ガ不明確デアツテ、前文ノ示ス所ニ依レバ、此ノ憲法ヲ定メル者ハ國民デアツテ天皇デハナイ、斯ウ云フ風ノ御意見ヲ御示シニナリマシタ、私ハ憲法第七十三條ニ依ツテ、天皇ガ今囘ノ改正案ヲ御定メニナルモノト信ジテ居リマス、前文ニ掲ゲテアル所ハ、是ハ憲法ノ制定‥‥憲法改正案ノ成立致シマスル其ノ主タル或段階ノ記述ト、之ニ對スル憲法的ナル内容トヲ加ヘタモノデアツテ、斯樣ナモノヲ内容トシテ天皇ガ此ノ憲法ヲ御決定ニナルト、左樣ニ考ヘテ居ル次第デアリマス、從ツテ七十三條ニ反スル所ハ毫モゴザイマセヌ、次ニ第四點ト致シマシテ、法的連絡ヲ現行憲法トノ間ニ持ツテ居ルカドウカト云フ一ツノ問題トシテ、憲法ノ改正案ハ議會ニ於テ修正スルコトヲ得ザルモノデアルト云フ一ツノ考ヘ方ガアル、之ニ對シテ此處ニ立ツテ居リマスル金森個人ハ、曾ツテ著書ニ於テ、憲法ノ改正案ニ對シテハ議會ハ修正出來ナイモノト言ツタ、今日ハ其ノ修正ヲ衆議院デ行ハレタモノヲ、其ノ儘是認シテ居ルガ如キ形ヲ執ツテ居ルノデハナイカ、持論ヲ變ヘタノカドウカト云フ御尋デアリマシタ、個人ノ所見ヲ此ノ場合ニ申述ベマスルコトハ、甚ダ遠慮スベキコトデアラウトハ思ヒマスルケレドモ、併シ事ハ個人ノ所見ノ問題デハナクテ、斯クノ如キ憲法改正案ニ對スル修正問題ト云フモノガ、果シテ法律的ニ是認出來ルヤ否ヤト云フ論點ニ係リマスルガ故ニ、私ハ此ノ機會ヲ利用シテ一言御答ヘヲ致シタイト思フ次第デゴザイマス、尚私ガ著書ニ於テ其ノ修正ノ出來ナイト云フコトヲ言ツタコトハ事實デアリマス、大體、佐々木博士ハ固ヨリ十分御承知ニナツテ居リマスル通リ、日本ノ一般ノ憲法學説ニ於キマシテハ、七十三條ニ依ル憲法ノ改正案ニ對シテ議會ハ修正シ得ザルト書キ記スノガ傳統的デアリマシタ、此ノ形ヲ逐ウテ多クノ學説ガ同ジ系統ニ言ヒ現ハサレテ居ツタヤウニ思フノデアリマス、併シナガラ、何故ニ憲法改正案ニ對シテ議會ハ修正ヲ爲シ得ナイノデアルカト云フコトノ論據ハ、議會ニ發案權ナシト云フコトニ基イテ居ルト思フノデアリマス、詰リ憲法改正ト云フコトハ勅命ニ依ルモノデアツテ、議會自ラ發案ヲ爲シ得ナイノデアル、故ニ憲法ノ改正案ニ修正ヲ加フルコトハ、又是レ一ツノ議會ノ發案デアルト云フ見地ニ基イテ、其ノ修正權ガ否定セラレテ居ルト思ツテ居リマス、併シ此ノ論據ヲ採リマスルナラバ、現ニ行ハレテ居リマスル豫算等モ議會ニ於テ修正權ナシト云フ論議ガ起ルカモ知レマセヌ、モツト適切ナル形ニ於キマシテハ、此ノ貴族院令ノ改正自身ニ付テソレガ考ヘラル、ノデアリマス、貴族院令ノ改正ハ、是ハ勅令ノコトデアリマスルガ故ニ、發案ハ其ノ方面ニ於テ發案セラルル、貴族院ハ之ヲ承ケテ審議スル、議決スルコトハ出來ルケレドモ、發案的ナ修正ハ出來ナイ、斯ウ云フコトニナラウト思ヒマス、此ノ點ハ確カ年月日ハ正確ニハ覺エテ居リマセヌガ、多分大正十四年ニ於キマシテ、貴族院自身ノ問題ニナツタノデアリマス、一ツハ、貴族院令ノ政府提案ニ對シテハ、貴族院ニ修正權ナシ、此ノ論ガ一方ニ主張セラレテ居リマシタ、他ノ一面ニ於キマシテハ、貴族院ハ自由ニ修正ヲ爲シ得ル、既ニ出タモノヲ審議スルナラバ、其ノ道程ニ於テ適切ナル變更ヲ加フルコトハ當然ナコトデアル、斯ウ云フ風ニ論議セラレテ居リマシタ、實際ノ結果ト致シマシテハ、貴族院ハ貴族院令ヲ政府發案ノ上ニ更ニ修正ヲ加ヘラレタノデアリマス、多分其ノ法理的ナル考ヘ方ハ、發案セラレタモノニ對シテ、其ノ事項ニ亙ツテ修正ヲ加フルコトハ當然ニ爲シ得ル權能デアル、斯ウ云フ解釋ニ基イテ居ルト思フノデアリマス、此ノ考ヘ方ヲ憲法ニ當嵌メテ行キマスルナラバ、憲法ノ改正ニ付キマシテモ、既ニ是ガ議會ニ於テ議案トナレバ、少クトモ或範圍ニ於テ修正ヲ爲シ得ルト云フコトハ、理論ト先例トニ繹ネテ明白ナコトデアラウト考ヘマス、如何ナル範圍ニ於テ修正權ガアルカト云フコトハ、尚殘ル議論デハアリマセウ、併シ今囘ノ如キ憲法全體ニ對スル改正案デアリマスルナラバ、凡ソ憲法トシテ論議シ得ル範圍ノ事柄ニ付キマシテハ、總テ之ヲ議會ニ於ケル修正權ノ範圍ニ屬セシメ得ルコトヲ私ハ毫末モ疑ツテ居リマセヌ、私ノ書物ハ古イ流レヲ繹ネタモノデアリマシテ、或時期ニ當然版ヲ改ムベカリシデアリマシタケレドモ、色々ナ事情ニ依リマシテ、詰リ私ガ筆不精ノ故デアリマスガ、改版ヲシテ居リマセヌガ、其ノ趣旨ノコトハ既ニ幾多ノ機會ニ於テ述ベテ居ル所デアルノデアリマス、次ニ此ノ憲法ノ改正案ハ、若シ兩院ノ議決ヲ終ツタ場合ニ於テハ天皇ノ裁可ヲ要スルノカ、要シナイノカト云フ御尋デアリマシタ、私ハ裁可ヲ要スルト考ヘテ居リマス、更ニ又之ニ續イテ非常ニ技術的ナル問題デアリマスルガ、此ノ憲法ハ改正ノ形ヲ採ツテ居ルガ、表題迄モ變ルノカ、大日本帝國憲法ト云フノガ現行憲法ノ名デアルガ、是ガ今囘ノ改正ヲ了シタ場合ニ於キマシテ日本國憲法ト云フ表題ニナルノカ、ソレトモ大日本帝國憲法ノ名ヲ其ノ儘承繼ダノカト云フ御質疑ガアリ、尚御意見ト致シマシテ、大日本帝國憲法ヲ變ヘルノデアルカラ、新シク現ハレ來ルベキ憲法モ亦大日本帝國憲法ノ表題ニ依ツテ現ハルベキモノデアル、ト云フヤウナ御意見ヲ御示シニナリマシタ、是ハ稍々技術的ナル問題ニナルト思ヒマスルガ、私ハ大日本帝國憲法ト云フ名前ハ變ヘラルベキモノノ名前デアル、之ヲ變ヘタ後ニ如何ナル名前ガアルノカト言ヘバ、之ヲ變ヘル時ノ趣旨ニ依ツテ決マルノデアル、從ツテ今囘ノ場合ニ於キマシテハ、手續ガ終了致シマスレバ、大日本帝國憲法ト云フ表題ノモノニ取ツテ代ツテ、日本國憲法ト云フモノガ出來ルモノト思ツテ居ルノデアリマス、是ハ私ノ獨斷デモ何デモゴザイマセヌノデ、日本ニ今迄出來タ法律勅令等ノ上ニ於キマシテ、有ラユル場合ヲ通ジテノ原理デアル譯デアリマス、餘計ナコトデハアリマスルガ、顯著ナル例ヲ言ヘバ、私ノ記憶ニ依レバ、曾テ徴兵令ト云フ一ツノ法規ヲ議會ノ協贊ヲ經テ改正セラレテ、ソレガ兵役法ト云フモノニナツタコトモアルコトヲ記憶シテ居リマス、次ニ第五ノ點トシテ、法文ハ必要ナル品位ヲ有スベキモノデアル、憲法ハ特ニ憲法ニ相應シキ品位ヲ有スベキモノデアル、而シテ此ノ憲法ハ必要ナル品位ヲ缺イテ居ルト言フノ外ハナイ、斯ウ云フ風ニ仰セニナリマシタ、サウシテ是ハ一身上ノ辯明ニ近キコトニナリマスルガ、私ガ牧野博士ノ御質疑ニ答ヘマシタ時ニ、憲法ハ美術品ト云フヤウナ風ニ扱フコトヲ考ヘテ居ナカツタト申上ゲマシタ言葉ヲ以テ、美術品ト考フルベキ理由ハナイ、ソンナコトヲ誰モ論議シテ居ルノデハナクシテ、適當ナル品位ヲ具フルヤ否ヤト云フコトガ論議デアルト仰セニナリマシタ、私ハソレ等ノコトハ牧野博士ノ御質疑ニ對シテ御答ヘシタ言葉デアリマシテ、後ニ述ベラレマシタ佐々木博士ノ御言葉ニ對シテ豫メ御答ヘシタ言葉デハアリマセヌノデ、是ハ能ク申上ゲテ置キタイト思ヒマス、面シテ此ノ憲法ノ文句ガ果シテ新タニ起上ツテ來マスル憲法ラシイ品位ヲ具ヘテ居ルカドウカト云フコトハ、御議論ノ點トシテ傾聽致シテ居ツタノデアリマスルガ、私共ノ考ニ於キマシテハ、憲法ト云フモノノ本來ノ使命ヲ考ヘ、ソレガ裝飾品デハナクシテ、生キタ現實ノ日本國家ヲ指導スル基本原理トナリ、現在ノ立場ニ於ケル總テノ政治的行動ノ基準トナル、其ノ若々シサヲ實現致シマスル趣旨ニ於キマシテハ、完璧トハ固ヨリ申上ゲ兼ネマスルケレドモ、幅廣ク之ヲ觀察致シマスルナラバ、或程度ノ條件ニ當嵌ツテ居ルノデハナカラウカト存ジテ居ル次第デアリマス、次ニ御質問ノ第三類ニ移リマシテ、其ノ第一點ハ國號ヲ改ムル、日本國號ヲ改ムルト云フコトノ點デアリマシテ、從來ハ憲法ニハ大日本帝國ト云フ言葉ガ用ヒラレテ居ツタ、今囘ノ憲法ハ日本國ト書イテアル、是即チ國號ヲ改ムルノデアルカ、國號ヲ改ムルト云フコトハ重大ナ點デアリ、「アメリカ」ガ憲法デ特ニ「アメリカ」合衆國ト云フコトヲハツキリサセテ居ルト云フヤウナ點ヲモ、御引用ニナツテ居ルノデアリマス、私ハ日本ハ新シク出來ル所ノ國デハナイ、豫ネ豫ネ申上ゲテ居リマスルヤウニ、其ノ起源ヲ知リ得ナイ程度ノ古キ歴史ノ下ニ、日本國ガ儼乎トシテ存在シテ居ルノデアリマシテ、憲法ヲ以テ新タニ國號ヲ定ムル必要ハ毛頭起ツテ居ナイト思ツテ居ルノデアリマス、國家ノ繼續性、國法ノ一貫性ト云フモノヲ尊重致シマスル限リ、當然ノ歸結トナルト思ツテ居リマス、從ツテ現行憲法ニ用ヒラレテ居リマスル言葉ト、憲法改正案ニ用ヒラレテ居リマスル言葉ト、國ヲ指シ示ス上ニ於テ異ツテ居リマシテモ、其ノ何レモガ、國ノ名前ヲ決メテ居ルト云フ趣旨ニトルベキモノデハナイ、國ノ名前ハ色々ナ言ヒ方ガアルノデアリ、其ノ一ツノ言ヒ方ガ、今囘ノ憲法ノ上ニ種々ナル考慮ノ後ニ採入レラレテ居ルノデアルト斯ウ申上ゲタイト存ジマス、次ニ第二ノ點ト致シマシテ、國家ヲ構成スル者即チ日本國民ニ關シマスル規定ノ中ニ於キマシテ、第二十條ニ於テ國籍離脱ノ自由ガ認メテアルガ、此ノ國籍ヲ離脱スルト云フコトハ絶對自由デアルカ、ドウデアルカト云フ御質疑デアリマシタ、第二十條ヲ御覽ニナレバ分リマスルヤウニ、ソレハ離脱ノ自由ヲ侵サレナイト書イテアルノデアリマス、侵サレナイト云フコトハ、此ノ憲法ノ他ノ條文ト同ジヤウニ、公益ノ必要ニ依ツテ制限ヲ受クルコトアルベキコトヲ豫見シテ居ルノデアリマシテ、絶對的ノ自由ト云フ趣旨デハナイノデアリマス、次ニ第三點ト致シマシテ、此ノ改正憲法ニ於テハ、天皇制度ハ廢止セラレテ居ルノデハナイカ、佐々木博士ノ觀ラルヽ所ニ依リマスルト、天皇制度ハ天皇ガ統治權ヲ總攬セラルヽト云フコトトガ、一ツノ點デアル、第二ニ特定ノ血統ニ出デラルヽト云フコト、其ノ事ニ基イテ統治權ノ總攬者タル地位ヲ御充シニナルト云フコトデアル、此ノ二點ヲ天皇制度ノ骨子トスルノデアルガ、此ノ二點ハ共ニ此ノ憲法改正案ニ依ツテ消滅シテ居ルノデハナイカ、斯ウ云フ意味ノ御主張デアツタノデアリマス、仰セノ通リ、此ノ憲法ノ改正案ニ於キマシテハ、其ノ意味ニ於ケル天皇制度ハ、佐々木博士ノ所謂天皇制度ハ存在シテ居ナイノデアリマス、佐々木博士ハ更ニ之ニ續イテ、何故ニ斯クノ如キ天皇制度ヲ廢止スルノデアルカ、其ノ理由如何ト云フコトノ御質疑ガアツタノデアリマス、此ノ點ハ此ノ憲法ノ根本ヲ成シテ居ル問題デアリマシテ、一昨日以來之ニ關シマシテ、私ハ種々ナル角度カラ御答ヲ申上ゲテ居ツタノデアリマスルガ、此ノ新タナル形ヲ以テ御質疑ニナリマシタノデアリマスルカラシテ、特ニ所見ヲ述ベテ御答ヲ申上ゲタイト存ジテ居ル次第デアリマス、私ハ先ヅ其ノ御答ヲ佐々木博土ノ御提出ニナリマシタ天皇制ノ定義ノ一角カラ引起シタイト思フノデアリマスルガ、佐々木博士ノ御主張ニナリマシタ天皇制ハ、天皇タルノ御地位ガ特定血統デアルコトニ基クト云フコトデアル、誰カラモ其ノ地位ヲ認メラレタモノデナイト云フコトガ特色デアルト仰セラレテ居リマス、萬世一系ノ或特定ノ地位ヲ御充シニナルト云フコトガ、即チ天皇ノ唯一ノ根源デアルト云フコトニ御説明ニナツテ居ルト了解シテ居リマス、ソレハ正シイ考ヘ方デアルニ相違ハナイト思ヒマスルガ、併シ更ニ一歩ヲ進メテ考ヘテ見マスルト、萬世一系ノ或特定ノ條件ヲ御充シニナリマスル時ニ、是デ天皇ノ地位ヲ御充シニナル條件ガ完成スルデアラウカ、詰リ天皇ノ地位ノ基礎タル根源ノ理由如何ト云フ問題ニ至ラザルヲ得ナイノデアリマス、ソレハ佐々木博士ハ特別ニハ御説明ニハナリマセヌ、我々カラシテ之ヲ想像シテ見マスルナラバ、一ツハ法ト云フ一ツノモノ、最高ノモノニ於テ、法ハ斯ク定マツテ居ル、故ニ天皇ニ御就キニナルト云フヤウナ考ヘ方、ソレガ一ツノ考ヘ方デアラウト思ヒマス、他ノ一ツノ考ヘ方ハ、從來言ハレテ居リマシタヤウニ、神話的ナル考ヘ方ニ基礎ヲ置クコトモ一ツノ考ヘ方デアルト思ヒマス、何レニ對シマシテモ私ハ何等ノ反對ノ見解ヲ持ツ者デハゴザイマセヌ、併シソレ等ヲ更ニ通リ越シテ、本當ノ天皇ノ根源ノ御地位ト云フモノヲ我々ハ考フベキ段階ニ置カレテ居ルト私ハ信ズルノデアリマス、此ノ議場ハ立派ナ壁ヲ以テ廻ラサレテ、外部ト一應切離サレテ居リマシテ、此ノ中ニ居ツテ眼ヲ廻ラシテ見マシテモ、特別ナル異状ヲ感ジマセヌ、併シ一度窓ノ外ニ出テ見マスレバ、滿目我々ノ眼ニ映ル所、悉ク大イナル悲劇ヲ持ツ處ノ姿ヲシテ居ルノデアリマス、此ノ大キナ變化ト云フモノガ我々ノ心ニドウ云フ影響ヲ持ツタカ、其ノ一ツノ現レハ眞實ヲ見ルト云フコトデアリマス、昨日ノ御質疑ノ言葉ニアリマシタガ、眞理ハ最終ノ勝利者デアル、全ク私ハ左樣ニ思ツテ居ルノデアリマス、物ノ眞理ヲ見ルコトヲ許サズシテ、或一ツノ前提ヲ置イテ、此ノ前提ヲ非難スベカラズト決メタ處ニ、我我ハ如何ナル過去ノ經驗ヲ持ツタデアラウカ、過去ノ日本ノ之ニ關シマスル考ヘ方ト云フモノハ、全ク考ヘナイデ居レバソレ迄デアリマスルガ、考ヘマスレバ、要スルニ神秘主義ト合理主義トノ其ノ中間ニ於キマシテ、曖昧模糊タル説明ヲ以テ、各人ノ心ニ不十分ナル滿足ヲ與ヘテ居ツタニ過ギナイノデハナイカト思フノデアリマス、私ハ神秘主義ヲ少シモ排除スベキモノトハ考ヘテ居リマセヌガ、政治ノ現實ニ於テ斯クノ如キ思想ニ依ツテ導カル、ト云フコトハ、決シテ堅實ナル政治ノ行クベキ途デハナイ、一切ヲ合理的ナ立場ニ置イテ之ヲ見タ時ニドウ説明スルカ、是ガ國民ノ置カレタル本當ノ立場デアリマシテ、ソレコソ昨日來ノ御質疑ニアリマスルヤウニ、國家ノ意思ノ源泉ハ國民全體ニアル、其ノ國民全體ノ意思ニ依ツテ一切ノモノノ基準ヲ作ツテ行クト云フ處ニ新タナル國家生活ガアルノデアツテ、神秘ノ扉ノ中ニ不十分ナル説明ヲ以テ考ヘ來ツタ過去ノ制度ガ、新タナル、堅實ナル、實際的ナル原理ニ基イテ再認識セラレ、再檢討セラレテ、眞ニ確定不動ナル新タナル、私共ノ言フ天皇制ガ生レ來ルト云フコトガ此處ニ根源ヲ持ツテ居ルノデアリマス、從ツテ如何ナル理由ニ依ツタカト云フ佐々木博士ノ説ニ對シマシテハ、私ハ極メテ冷嚴ニ物ノ眞理ヲ見タノデアル、一切ノ現實的ナラザル説明ノ仕方ハ別ノ分野ニ之ヲ殘シ去ツタト云フ處ニアルト考ヘマス、從ツテ是ハ決シテ外部ノ力ニ依ツテ斯クナツタノデモ何デモゴザイマセヌト私ハ考ヘテ居リマス、而シテ次ニ佐々木博士ノ仰セニナリマシタノハ、天皇ガ在存セラルヽト云フコトハ職務上ノ意味ハナイカト云フ御尋ネデアツタノデアリマス、其ノ職務上ノ意味ト云フコトハ、政治的ノ見地ヲ離レマシテ、日本ニハ天皇ニハ私生活ハナイ、實ニ八面玲瓏、公平無私デアル、之ニ依ツテ國家ノ萬般ノ政治ガ統一セラレテ行ク、又之ニ依ツテ日本國家ガ現實ニ統合セラレテ行ク、此ノ値打ヲドウ見ルカト云フ御尋ネデアツタノデアリマス、私ハ天皇ノ御地位ヲ功利的ナル見地ヨリシテ考ヘルコトハ、必ズシモ主タル考ヘトシテ是認スベキ行キ方デハナイト思ツテ居リマス、併シナガラ日本國民ハ、過日モ申シマシタヤウニ、第一義的ニ天皇ヲ中心トスル考ヘ方ニ依ツテ結合シテ居ルノデアリマス、此ノ考ヘ方ハ政治ノ面ニ於キマシテモ何等カノ影響ヲ持タズニ居ル譯ハアリマセヌ、國民ガ天皇ヲ中心トシテ結合シテ居ルト云フ道義的ナ、詰リ政治トカ權力トカト云フコトヨリモ遙カニ離レテ基本的ニ存在シテ居リマスル處ノ其ノ現實ニ見覺メテ、ソレト調和スルヤウナ制度ガ政治ノ上ニ導キ來ラレルコトハ、理ノ當然デアラウト思フノデアリマス、佐々木博士ノ仰セニナリマシタ御尋ニ對シマシテハ、私ハ功利的ニ考ヘル意味ハナイケレドモ、天皇アルコトニ依ツテ日本國家ノ統合ガ充實サレテ居ルト云フコトハ一點ノ疑ナイ所ト考ヘル、斯ウ御答ヲ申上ゲタイト存ジテ居リマス、次ニソレニ續キマシテ、斯樣ナ憲法改正案ノ導ク所ハ、天皇ノ名アツテ實ナシデハナイカ、即チ佐々木博士ノ所謂天皇制度ハ茲ニ滅却セラレ、全ク別ノモノガ出來タノデアル、之ニ對シテ天皇ノ名ヲ殘スコトハドウ云フ理由カ、斯ウ云フ意味ノ御質疑デアツタノデアリマス、私ハ之ニ對シマシテハ再ビ憲法改正案ノ基本ノ考ヘ方ヲ申上ゲナケレバナリマセヌ、此ノ憲法改正案ノ骨子ト致シマス所ハ、天皇ヲ憧レノ中心トスル歴史ト國民ノ感情トニ基ク基本ノ事實、基本ノ原理ト云フモノヲハツキリ把握シテ居リマシテ、此ノ根本ノ思想ニ基イテ政治的ナ國法的ナ世界ガ其ノ上ニ現出サレテ來ルノデ、其ノ國法的ナ世界ニ於キマシテハ、其ノ基本ノ事實ト密接シテ、天皇ハ國ノ象徴デアルト云フ國法的ナ地位ヲハツキリ樹立サセ、併シソレハ神話ニ基クニ非ズ、無形ノ法ニ基クニ非ズ、國民ノ總意ニ基イテト云フ確實ナル基盤ヲ之ニ認メマシテ、サウシテ其ノ象徴タル天皇‥‥言ヒ換ヘマスレバ、誰ガ見テモ天皇ヲ仰グコトニ依ツテ國家ヲ認メ、天皇ヲ仰グコトニ依ツテ國民統合ヲ現實ニ意識スルト云フ法律的ナル地位タラシメ、其ノ天皇ノ御地位ヲ更ニ充實スル爲ニ、此ノ憲法改正案ニ示シマスルガ如ク、多カラズ少カラザル適當ナル權能ヲ天皇ノ御働キノ中ニ歸屬セシメテ、而モソレカラ萬々一弊害ガ起ツテ天皇ノ御徳ヲ傷ケタリ、國家ノ政治運行ニ思ハシクナイ色彩ノ生ズルコトハ、有ラユル工夫ヲ以テ之ヲ排除シタノデアリマス、即チ法律的ノ裁可ト云フヤウナ積極的ナル意思行動ノ權能ハ之ヲ存在セシメナイコトニシテ、且ツ又一切ノ行爲ニ付テ内閣ノ助言ト承認ト云フ一ツノ要件ニ繋ラシムル、斯ウ云フコトニ依リマシテ、國民感情ノ有ラユル面ヲ必要ナル限度ニ於テ適正ニ盛リ込ムト云フコトガ此ノ憲法ノ精神デアリマス、ダカラ非常ニ冷カナル原理ニ依ツテ此ノ憲法ハ出來テ居リマス、此ノ點ニ於キマシテ御不滿ノ方モアラウト思フノデアリマス、又併シ國民感情ニ對シテ相當ノ尊重ヲシ、又此ノ感情ニ對シテ良キ行キ所トシテ過チヲ生ゼザルガ如キ注意ガ施シテアルノデアリマシテ、此ノ點ニ於テ又他ノ方々ノ不滿足ガアルカモ知レマセヌ、併シ一切ノ方面ヲ公平ニ眺メマシテ、此ノ新タナル天皇制度ハ、理論ニ於テ徹底シ、國民感情ヲ尊重スル上ニ於テ適正ヲ期シ、且ツ又過去ニ我々ガ經驗シテ殆ド日本國ヲ破滅ニ導カムトシタ其ノ政治的禍ヒヲ絶無ト云フ程度ニ防衞シタト云フ所ニ特色ガアルノデアリマシテ、其ノ點ニ付テ十分御理解ヲ得タイト存ジテ居リマス、更ニ進ンデ天皇ガ象徴デアルト云フコトハドウ云フコトデアルカト云フヤウナ風ノ御質疑ガアリマシタガ、其ノ本質ニ於キマシテハ大凡私ハ既ニ御説明ヲ終ツタト存ジテ居リマス、唯併シ佐々木博士ハ、天皇ガ象徴デアルト云フコトハ記號的意味デアルカ、表現的意味デアルカト云フ言葉ヲ以テ御尋ネニナリマシタ、私不敏ニシテ、不敏ト申シマスカ、知識ガ少クテ、記號的トカ表現的ト云フ言葉ヲ存ジテ居リマセヌガ、天皇ヲ見ルコトニ依ツテ國家其ノモノガ見エルト云フ考ヘ方ハ、國ノ或特性ト天皇ノ或特性トガ共通デアルト云フ意味カラ來テ居ルノデハアリマセヌ、我我ノ國民感情ノ中ニ脈々トシテ充チ渡ツテ居ル所ノ其ノ感情ニ近接致シマシテ、天皇ヲ見レバ即チ國家ガ躍動的ニ我々ノ目ニ見エルノデアリマス、象徴ト云フコトハ正シキ意味ニ於キマシテハ、無關係ノ場合ニハ十分ノ働キヲ起シマセヌ、甚ダ卑近ナル例ヲ取ツテ見ルナラバ、鶯鳴ケバ春來レリト云フ感ジガスレバ、鶯ハ春ノ象徴ト斯ウ申シマス、併シ鶯ト春トノ間ニ少クトモ季節的ニ十分ノ關係ガナケレバ其ノ感ジハ起リマセヌ、我々ガ天皇ニ對スル愛著ノ心ハナカナカ言葉ヲ以テ言ヒ表ハスコトノ出來ナイモノデアリマスルガ、天皇ヲ國ノ象徴ト仰グト云フコトニ依リマシテ、略々充實セル内容ガ得ラレルモノト考ヘテ居ル次第デアリマス、次ニ從來ノ關係ニ於テ國體トシテ考ヘテ居ルモノノ本質ハ變ツタノデハナイカ、ソレヲ變ラナイト云フノハドウカト云フ風ノ御質疑ガアリマシタ、是ハ昨日モ私ハ明白ニ答ヘテ居リ、單リ昨日ノミデハナイ、衆議院以來明白ニ答ヘテ居ルノデアリマス、不幸ニシテ私ノ申シマスル所ガ多ク聽キ入レラレテハ居リマセヌ、恐ラクハ世間ノ‥‥議會ノコトハ申シマセヌ、世間ノ多クニ於キマシテハ先入主トナツテ居ル其ノ考ヘガ基ニナツテ、私ノ申ス所ガ採入レラレナイ虞レガアルト思ヒマスガ、憲法ノ現行規定ニ於ケル第一條、第四條等ノ規定ノ趣旨、之ヲ國體ト法、律學者ニ倣ツテ呼ブナラバ、國體ハ明カニ變ツテ居ルト云フコトハハツキリ申上ゲテ居ル所デアリマス、併シソレハ國家不滅、國家不變ノ其ノ原理ト伴ツテ頭ニ浮ビ出デ來ル所ノ國體ト云フモノトハ無關係デアルト云フコトハ、昨日既ニ述ベタ所ノ點デアリマス、次ニ天皇無答責ノ規定ヲ廢止シタ理由如何ト云フ御質疑ガアリマシタ、詰リ天皇ニハ政治的責任或ハ刑事的責任ニ付テ無答責デアラセラレルト云フ趣旨ノ規定ガナイ、其ノ理由如何ト云フコトデアリマシタガ、是ハ昨日私ハ淺井議員ノ御質疑ニ對シマシテ、三ツノ論點ヲ明カニシテ御答ヲシタノデアリマス、第一ノ論點ハ、不必要デアル、解釋上當然ニ斯カル地位ハ御有リニナルノダト云フ考ヘ方デアリマス、第二ハ、之ヲ積極的ニ言ヒ表ハスコトガ却ツテ天皇ノ此ノ八面玲瓏タル御地位ヲ國民ガ受入レル氣持ニ反スルノデハナイカ、寧ロ是ハ「ヨーロッパ」流ノ一ツノ特別ナル沿革ニ基ク思想ト組合サレテ居ルノデハナイカト斯ウ考ヘテ居リマス、第三ニハ之ヲ置カナクテモ、憲法ノ諸種ノ規定ノ綜合的解釋ニ依リマシテ疑義ヲ起ス餘地ハナカラウ、此ノ三段ノ趣旨ヲ以テ御答ヲシテ置イタノデアリマス、繰返シマセヌ、次ニ天皇ノ制度ニ付テハ、從來弊害ノ起ツタノハ其ノ協力機關ガ惡カツタノデアル、例ヘバ輔弼スル機關、或ハ統帥ノ命令ヲ受ケテ働ク機關、サウ云フ協力機關ガ惡カツタノデアツテ、天皇ニ關スル制度其ノモノガ惡カツタノデハナイ、從ツテ今囘ノ改正ニ於テモ其ノ協力機關ヲ十分憲法上補整スレバ宜イノデアツテ、ソレガ爲ニ天皇制度其ノモノニ對シテ根本的變革ヲ起ストハ何故デアルカ、斯ウ云フヤウナ趣旨ノ御尋ガアリマシタ、是ハ天皇ノ御本質ニ付キマシテ、其ノ本質ヲ冷ヤカニ考フルト云フコトヲ先ニ申シマシタ、ソレガ十分御質問ニ對スル答ヘヲ根本的ニハ供給シテ居ルモノト思フノデアリマス、我々ハ好ムト好マザルトニ拘ラズ、眞ニ新タナル目覺メヲ以テ我々ノ此ノ基本ノ制度ニ付テ批判ヲ加ヘナケレバナラヌノデアリマス、其ノ結果トシテ、私ノ申シマシタ新タナル天皇制度ガ正シキモノデアルト考ヘタ譯デアリマス、併シ天皇ノ御持チニナル權限ノ幅ヲ如何ニスルカ、是ハ別ノ問題ニナリマス、現行憲法ノ認ムルガ如ク、種々ナル權能ガ御一身ニ集中スルヤウニスルガ宜イノカ、ソレトモ改正憲法案ノ示スガ如ク、限ラレタル若干ノ基本的ナル權能ノミニ限定スルコトガ宜イノカ、是ハ個々ノ問題トシテ現ハレ得ル所ト存ジマス、併シ象徴タルノ御地位ニ伴ヒ、皇室ヲ萬代ニ亙ツテ泰キニ置キ、有ラユル弊害ガ何等ノ關係ヲ持タナイヤウニスルト云フ趣旨ニ基キマシテ、多カラズ少ナカラザル範圍ニ御權能ノ幅ヲ規定シタト云フコトハ、大體曩ニ御説明ヲ申上ゲタトコロデアリマス、次ニ佐々木博士ハ主權ノ問題ヲ御論議ニナリマシタ、主權ト云フ文字ハ面白クナイ、然ルニ衆議院ニ於テ、前文及ビ第一條ノ中ニ新タニ主權ト云フ文字ヲ加ヘタノデアルガ、之ニ政府ガ同意シタ其ノ理由如何ト云フ風ノ御尋デアリマシタ、是ハ前々カラ衆議院ニ於テ私ガ申シテ居リマシタ通リ、佐々木博士モ幸ニシテ御贊成ヲ下サイマシタ通リ、日本ノ言葉ニ於テ、主權ト云フ言葉ニハ幾ツモノ意味ガアル、外國ノ言葉ニ於テモ主權ト云フ言葉ニハ幾ツモノ意味ガアル、其ノ多クノ意味ヲ持ツテ居リマスル言葉ヲ使ヒマスレバ、其ノ間ニ同ジ文字ヲ使ツテ考フル人ノ意味ガ皆違ツテ來ル、議論ハ紛糾シ、解決ハ混亂スル、故ニ斯クノ如キ文字ハ避ケルコトガ好マシイト云フ主張ハ堅持シテ居ツタ次第デアリマス、從ツテ此ノ憲法ニ付キマシテノ政府提案ノ原案ニ於キマシテハ、主權ト云フ言葉ハ、國家其ノモノガ外ニ向ツテ持ツテ居ルト云フヤウナ風ノ、國家ノ統一シタル意思自體ヲ言フ爲ニ國家ノ主權ト云フヤウナ言葉ヲ用ヒ、又前文ノ終リ頃ノ所ニモサウ云フヤウナ字ガ使ツテアル、詰リ嵌箇所ニ極ク平タイ意味ノ主權ト云フ言葉ヲ使ツテ、其ノ他ノ特殊ナル意味ノ言葉ハ之ヲ避ケタノデアリマシテ、ソレニ代フルニ至高ノ意志ト云フヤウナ字ヲ當嵌メタノデアリマス、然ルニ世ノ中ノ議論ノ道行ト致シマシテ、私共ガ意ヲ用ヒテ字ヲ選擇シテ居リマシタノニ拘ラズ、是ハ却ツテ政府ガ曖昧ナル言葉ヲ以テ事自體ヲ曖昧ニシヨウトスル嫌ヒガアルト云フ風ノ疑惑ヲ受ケタカノ感ガアルノデアリマス、私ハ衆議院ニ於キマシテ、或意味ニ於テ主權ト云フノハ國家意思ノ源泉ヲ指スノデアル、其ノ意味ノ主權ト云フモノハ國民全體ニアルトハツキリ申シマシタ、申シマシタニ拘ラズ、之ニ疑惑ヲ組合サレテ何トナク滿足セラレザルガ如キ向モアツタヤニ聞イテ居リマスガ、恐ラクハサウ云フコトガ一ツノ原因ノ中ニ加ハツテ、前文及第一條ニ、主權ハ國民ニアルト云フ趣旨ノ規定ガ入ツタノデアルト私ハ考ヘテ居リマス、意味ニ於キマシテ私共ノ當初カラノ考ト寸毫ノ差ハアリマセヌ、而シテ主權ト云フ言葉ヲ今用ヒマシタヤウナ場合ニ使ヒマスレバ、前後ノ關係ニ依ツテ自ラ此ノ主權ト云フ言葉ハ何ヲ意味シテ居ルカガハツキリシテ來ルノデアリマス、單純ニ主權ト云フ言葉ヲ使ヘバソレハ非常ナ紛糾ノ種ニナリマスルガ、主權ガ國民ニ在リト云フヤウナ使ヒ方デアリマスルナラバ、決シテ類例ノナイコトデモナク、孤立シタル見解デモアリマセヌ、自ラハツキリシタ意味ガ出テ來ルノデアリマシテ、衆議院ニ於テ斯ク修正セラレル上ニ於テモ同感デアルト申上ゲマシタノハ、其ノ理由ニ基イテ居ル譯デアリマス、次ニ第十一點ト云フ譯デアリマスカ、立法作用ガ適正ニ行ハル、デアラウカト云フ疑問ヲ御提起ニナリマシテ、其ノ中ニ於キマシテ種々ナル論點ヲ指摘セラレテ居リマス、第一ノ論點ト致シマシテ、立法作用カラ天皇ヲ除外シタル理由ハ何處ニアルカ、斯ウ云フ御尋デアリマス、御承知ノ如ク現行憲法ニ於キマシテハ、立法作用ハ天皇ガ行ハセラルヽノデアリマス、議會ハ之ニ對シテ協贊ヲスルニ過ギマセヌ、然ルニ今囘ノ改正案ニ於キマシテハ、立法作用ハ國會其ノモノガ持ツテ居ル、天皇ハ唯出來上ツタルモノニ對シテ公布ヲ行ハル、ニ過ギナイ、非常ナ變化ニナツテ居ルコトハ申ス迄モゴザイマセヌ、佐々木博士ハ此ノ問題ヲ以テ、米國ノ大統領モ法律案ノ成立ニ對シテ「ヴィートー」ヲ持ツノデハナイカ、議會ガ可決シタルモノニ對シテモ之ヲ拒否スルコトヲ得ルノデハナイカ、然ルニ日本ニ於テ天皇ノ裁可權ト云フモノヲナクシタト云フコトハ甚ダ了解ニ苦シムト云フ前提ノ下ニ御質疑ニナリマシタ、茲ニ本當ニ我々ガ考ヘナケレバナリマセヌノハ、天皇ハ果シテ過去何十年ノ間ニ不裁可ト云フコトヲ行ハセラレタデアラウカ、行ハセラレテハ居リマセヌ、行ハセラレテ居ナイト云フコトハ、佐々木博士ノ言葉ヲ以テスレバ、不裁可ノ餘地アリト云フ前提ノ下ニ、現實ニハ不裁可ガナイト云フコトニナルノデアリマス、而モ法律デハ可能ナコトガ實際ニハ行ハレナイト云フコトハ、唯輕ク見レバソレモ一ツノ見方デアリマセウ、併シ法律ニ裁可不裁可ノ自由アルニ拘ラズ、未ダ嘗ツテ不裁可ガナカツタト云フコトソレ自體ノ眞實ヲ正確ニ見究メマスルナラバ、或見方ニ依レバ、法ガ實際ニ對シテ人ニ錯覺ヲ生ズル價値ヲ持ツテ居ルノダト云フコトニモナルノデアリマス、改正憲法ハ現實ノ規定ヲ設ケ、法律上ノ技巧ニ依ツテ錯覺ヲ世ノ中ニ生ズルコトナキヲ期シタノデアリマシテ、之ニ着眼致シマスレバ、天皇ニ御裁可權ノナイト云フコトハ、國政ノ實情ニ合ツテ居ルノミナラズ、此ノ問題ヲ中心トシテ政治上ノ紛糾ノ起ルコトヲ完全ニ避ケ得ル所以デアラウト思ツテ居リマス、「アメリカ」ノ大統領ハ「ヴェートー」ヲ持ツ、是ハ當リ前ノコトデアリマス、「アメリカ」ニ於テハ立法權ト行政權ト云フモノガ對立的ニ分レテ居リマス、ダカラ議會デヤツタカラトテ、行政ノ方デ之ヲ一應刎ネル、併シ刎ネテモ通ラナケレバ、詰リ議會ガ更ニ再議決ニ依ツテ法律トスレバ、ソレハソレデ濟ンデシマフ、斯ウ云フ風ニナツテ居リマス、日本ノ天皇ノ御地位ハサウデハアリマセヌ、議會ト對立スルト云フ觀念ヲ持ツテ居リマセヌ、現在ノ此ノ大權政治ノ下ニ於キマシテハ、天皇ガ全體ヲ統率サレテ居ル、此ノ考ガ元ニナツテ居リマス、議會ノ可決シタモノヲ天皇ガ「ヴェトー」ヲ行ハセラルヽト云フコトハ、軈テハ、若シ其ノ「ヴェトー」ノ意味ニ取リマスルナラバ、議會ガ天皇ノ意思ヲ明々白々ニ更ニ否定スル段階ヲ持ツコトニモナリマス、色々ノ見方ハアリマセウケレドモ、綜合致シマシテ改正案ノ趣旨ガ正シイト私ハ考ヘテ居リマス、第二ニ内閣ガ政令ヲ作ル權能ガアルガ、是ハ我我ノ行動ヲ規制スル所ノモノ迄モ規定シ得ルノカ、詰リ内閣ノ政令ハ法規ヲ定メ得ルノカ、非常ニ専門的ナ問題デアリマス、是ハ法規ヲ定メ得ル趣旨デハナイト云フコトヲ御答ヘスルニ止メテ置キマス、次ニ委任命令ヲ政令ヲ以テ定メ得ルカ、是ハ委任命令ヲ定メ得ルト考ヘテ居リマス、委任ト云フコトハ不都合デハナイカ、折角議會ヲ以テ立法ノ唯一ノ府トシナガラ、委任命令ガ至ル處ニ出來ルト云フコトハ、其ノ趣旨ヲ沒却スルノデハナイカト云フ趣旨ノコトモ仰セニナリマシタ、委任命令ハ諸國ノ憲法ガ出來ルダケ之ヲ禁ゼムトシ、又諸國ノ政治家ガ出來ルダケ之ヲ禁ゼムトシテ居リマスニ拘ラズ、諸國ニ於キマシテ委任命令ハ次第々々ニ殖ニテ居ルノデアリマス、是ハ何ヲ物語ルカト言ヘバ、此ノ問題ハ一片ノ理窟デ決マルモノデハナイ、現實ノ已ムニ已マレヌ政治ノ要請カラ來テ居ル根抵ノ深イ問題デアルト思フノデアリマス、我々ノ考ヘル所ハ、委任命令ガ濫用セラレテハナラナイ、議會ガ最高ノ立法府デアルト云フコトノ本質ヲ壞スヤウナ委任命令ハ、絶對ニ之ヲ認メルベキデハナイ、併シ必要ナル、適當ナル限度ニ於ケル委任命令ハ尚許シ得ルモノト考ヘテ居ル次第デアリマス、同時ニ佐々木博士ハ、地方長官等ノ委任命令モ認メルカ、是モ亦適當ナル限度ニ於テ認メ得ルモノト考ヘテ居リマス、又最高裁判所ノ定ムル規則ハ法規デアルカ法規デナイカ、是ハ内部ノ手續ヲ規定スルモノデアルト考ヘテ居リマス、又次ニ立法機關タル國會ノ構成ト云フ點ニ論議ヲセラレマシテ、國民ヲ代表スル衆議院ト參議院ト二ツノ議院ガ出來ルト云フコトハヲカシイデハナイカ、苟モ一ツノ國民ヲ代表スルナラバ、一ツノモノデ代表セラルベキデアル、國民ヲ一面ニ於テ衆議院ガ代表シ、他面ニ於テ參議院ガ代表スルト云フガ如キコトハ論理的ニアリ得ナイト云フコトノ前提ノ下ニ御質疑ニナリマシタ、國民ト云フモノハ多角形ノモノデアリマス、複雑ナモノデアリマス、ソレヲ違ツタ角度ニ於テ代表セシムルコトガ論理的ニ不可能デアルト私ハ考ヘテ居リマセヌ、唯如何ニ代表セシムベキカ、詰リ如何ナル角度ヲ採ツテ、國民ノドノ角度ヲ採ツテ之ヲ衆議院ニ代表セシメ、ドノ角度ヲ採ツテ之ヲ參議院ニ代表セシムベキカト云フコトハ、是ハ憲法ノ全精神、憲法ノ各規定ニ現レテ居リマス全精神ヲ汲ミ取ツテ適當ナル制度ヲ設ケナケレバナラヌコトハ、自明ノ理デアルト考ヘテ居リマス、次ニ何故ニ參議院ニモ解散ヲ認メナイカ、是ハ參議院ノ働キト其ノ地位トカラ考ヘマシテ、解散ハ不適當デアルト考ヘテ居リマス、何故カト言ヘバ、參議院ハ憲法ノ豫想スル所ハ、第一院ト言フヨリモ第二次ノ院デアリマス、衆議院ノ議決ニハ十分ノ效力ガアル、參議院ノ議決ニハ、補助的ノ效力ト言フト甚ダ薄クナリマスケレドモ、兎ニ角多クノ制約ヲ受ケタ權能シカアリマセヌ、法律ニ付キマシテモ、豫算ニ付キマシテモ、總理大臣ノ推薦ニ付キマシテモ、或ハ政府不信任ノ決議ニ付キマシテモ、直接ニ政府ト對立スルヤウナ權能ヲ持ツテ居リマセヌ、從ツテ參議院ニ解散ガナイト云フコトハ、同時ニ參議院ガ政府ノ總退却ヲ要求スル憲法上ノ權能ノナイト云フコトト相對比致シマシテ、釣合ノ取レテ居ルモノト考ヘテ居リマス、次ニ司法作用ノコトヲ御尋ネニナリマシタガ、是ハ私カラハ御説明ヲ致シマセヌデ、外ノ方面カラ御答ヲシテ載キタイト思ツテ居リマス、次ニ十三點トシテ、行政ガ適正ニ行ヘルカト云フ風ノ御質疑ガアリマシタ、其ノ意味ハ、從來ノ色々ナコトガ今囘變ツテ行ツタト云フ中ニ於キマシテ、幾ツカノ論點ヲ御擧ゲニナリマシタガ、一ツハ總理大臣ヲ國會議員ノ中カラ任命スルト云フ今度ノ改正案ノ、而モ衆議院ノ修正シタ點ガ行キ過ギデハナイカ、斯ウ云フ御質疑デアツタト思ヒマス、政府原案ハ、ソレハ其處迄踏ミ込マナクテモ、政治ノ實際ニ委セテ置イテ、運用宜シキヲ得レバ宜イト思ツタノデアリマス、併シナガラ衆議院ニ於キマシテ、是ハ的確ニ國會議員ノ中ニ内閣總理大臣タルベキ人ヲ求ムルト云フ憲法上ノ規定其ノモノニスル方ガ適切デハナイカ、斯ウ云フ御趣旨デ御直シニナツタモノト思フノデアリマス、大體ノ方向トシテ、此ノ考ハ是認スベキモノデアル、將來ノ政治ノ形態ヲ考ヘマスル時ニ、事實サウナルデアラウ、然ラバ其ノ根本ノ筋道ヲ達觀シテ法ノ上ニ斯ク定メテ置クト云フコトハ、決シテ杓子定規ニナル虞ハナイノデアル、斯ウ云フ趣旨カラシテ御同感ヲ申上ゲタ次第デアリマス、次ニ内閣ハ強力ナモノデナケレバナラヌケレドモ、内閣總理大臣ガ國務大臣ニ向ツテ特別ナル影響ヲ持ツノハ面白クナイデハナイカト云フ前提ニ依ツテ、詰リ國務大臣ハ内閣デ任命スルト云フヨリモ、天皇ガ御任命ニナルコト、尚最高裁判所ノ長官ト同ジヤウニスベキデアル、斯ウ云フ點ヲ御示シニナリマシタ、又國務大臣ヲ内閣總理大臣ガ罷免スルト云フコトモ面白クナイ、斯ウ云フ風ニ御示シニナリマシタ、是ハ要スルニ程度ノ問題ニ歸著スルノデアリマスルガ、私モ亦佐々木博士ノ仰セノ通リ、内閣ガ堅實ナル一體ヲ成スト云フコトハ、法律ノギゴチナイ規定ニ依ツテ之ヲ導クモノデナイト云フ點ニ付キマシテハ、全ク佐々木博士ノ御意見ト合一シテ居リマス、併シナガラ或程度ノ基本的ナ原則ガ守ラル、コトモ亦實際ニ適切デハナカラウカ、其ノ適切ナル限度ヲ何處ニスベキヤト云フコトハ問題デアリマセウケレドモ、大凡此ノ程度ノ基本原理ハ誤リナキ所デアラウト信ジタ譯デアリマス、次ニ國務大臣ト各省大臣トハドウ云フ關係ニナルカ、現在ノ宮内大臣ハドウナルカ、是ハ憲法上ノ問題デハナイケレドモ、關係シテ質問ヲスル、斯ウ云フ御趣旨デアリマシタ、之ニ付キマシテハ、國務大臣ト各省大臣ハ、出來ルダケ早イ機會ニ内閣法ヲ起案シテ議會ノ協贊ヲ求ムルコトニ依ツテ、正確ナル御答ヲ致シタイ、ソレヲ以テ正確ナル御答ニ代ヘタイト思ツテ居ルノデアリマスルガ、今日尚審議中デアル譯デアリマス、又宮内大臣ハドウナルカ、是ハ此ノ憲法改正案ガ成立致シマスレバ、恐ラク宮内省ト云フ獨立ナル官廰ハ相當變形シナケレバナラナイモノト思ツテ居リマス、從ツテ宮内大臣ノ地位モ自然ニ動キ、國家ノ働キヲ擔任スル所ノ職員トナルベキモノト考ヘテ居リマスルガ、此ノ具體的ノ研究モ可ナリノ程度迄進行ヲシテ居リマスルケレドモ、此處デ正確ニ申上ゲマスルニハマダ早イノデアリマス、次ニ豫算ノコトニ付テ御尋ガアリマシタ、豫算ハ其ノ會計年度ヲ毎年度、詰リ一年度限リノ豫算ニスルモノカドウカト云フ、斯ウ云フ風ナ御尋ガ第一點デアリマス、是モ豫算等ノ根本ノ方針ヲ決メマスル具體的ノ法律案ヲ合法制調査會ニ於テ研究ヲシテ居リマシテ、ソレガ具體化サルヽニ從ツテ是等ノ制度モ具體化サレテ來ルノデアリマスルガ、根本ノ考ト致シマシテハ、必ズシモ豫算ハ一年ヲ標準トスルト云フ原理ハ採ラナイ、併シ大體ニ於テ一年ト云フモノヲ中心點トスルト云フ原理ニ依リタイト考ヘテ居リマス、憲法ノ規定ハソレヲ窮屈ニ拘束スルヤウニハ出來テ居リマセヌ、又豫算不成立ノ場合ニハドウナルカト云フ御尋デアリマシタ、是ハ現行憲法ノ如ク、前年度ノ豫算ヲ踏襲スル途ハ全然ナイト云フコトハ言フ迄モゴザイマセヌ、萬々一豫算不成立デアリ、而モ支出スベキ別個ノ方法ガナイト致シマスルト、國ノ支出其ノ他ニ於キマシテ特別ナ障碍ノ起ルコトハ、是ハ免レ得マセヌ、之ニ善處致シマスル爲ニ如何ナル方法ガアルノデアラウカ、之ニ付キマシテハ幾ツカノ方法ヲ研究シテ居リマス、併シ今日尚ソレヲ具體的ニ申上グルコトハ早イト思ヒマスルガ、一ツノ考ヲ申シマスレバ、暫クノ、臨時ノ必要ニ應ジマスル爲ノ豫備費ノ類ヲ設クル考ヘ方モ成立致シマス、或ハ又若シ適當ナル手續ガ了シ得ラルヽナラバ、暫定豫算ヲ設ケテ圓滑ニ場合ヲ處置スルコトモ出來ルノデアリマセウ、方法トシテハ種種ナル途ガ考ヘラレテ居リマス、次ニ皇室財産ノコトニ付テ御尋ネニナリマシタ、憲法八十四條ニ皇室財産ト云フ言葉ガアリマスルガ、是ハ私ノ考ヲ申上ゲマスレバ、結局天皇ノ御地位ト云フコトト不可分ニ考ヘナケレバナラナイ所ノモノデアリマシテ、我々ハ天皇ニ私事ナシ、是ハ佐々木博士ノ御用ヒニナリマシタ御言葉デハアリマスルガ、之ヲ全然別ノ意味ニトリマシテ、我々ガ從來聞イテ居リマシタ所ハ、天皇ノ行ハセラルヽコトハ悉ク公ノコトデアル、天皇ノ行ハセラルヽコトニ個人的ナコトハナイ、コンナ風ニ言ハルルコトヲ聞イタノデアリマシタ、大學ノ教壇ニ於テ明カニソレヲ我々ニ教ヘラレタ先生ノアツタコトヲ記憶シテ居リマスガ、併シ私共之ヲ疑ツテ居ツタ者デモアルガ、併シ其ノ點ガ茫漠トシテ現實ノ制度ガ生レタモノデハナカラウカ、詰リ天皇ノ公ノ事ト私ノ事トハ限界ガハツキリシテ居ナイ、其ノ結果ト致シマシテ、皇室ニ於テ包容セラレテ居リマスル財産ハ、公ノ目的ニ用ヒラレル場合モアリ、私ノ途ニ用ヒラレル場合モアリマス、細カイコトニハ區別ガアリマセウケレドモ、達觀スル場合ニ其ノ區別ガハツキリシテ居リマセヌ、又ソレニ依ツテ單リ經費ノ問題デナク、現實ニ御用ヒニナル財産、例ヘバ宮殿ヲ御持チニナル場合モ、御別莊ヲ御持チニナリマス場合モ、何トナク世間ノ見ル所ニ於テハ、區別ナキガ如キ感ジガシテ居ツタノデアリマス、併シ天皇ハ公ノ資格ヲ有セラルヽト共ニ、當然私的生活ヲ營マセラレルノデアリマシテ、是即チ又私ガ、象徴タル地位ニ於ケル天皇ト、又個人タル地位ニ於ケル天皇トハ區別シ、其ノ個人タル地位ニ於テハ憲法第三章ガ適用ガアルト云フコトヲ申シマシタ所以デアリマス、ソコデ此ノ皇室ノ‥‥廣イ意味ニ於ケル皇室ニ御所有ニナリマスル財産ノ中ニ、公的性格ヲ持ツモノモアリマセウ、私的性格ヲ持ツモノモアリマセウ、其ノ公的性格ノ範圍ニ於キマシテハ、天皇ノ地位ヲ明カニ突キ止メマスルナラバ、ソレハ國ノ働キデアリマス、即チ國ノ爲ノ働キデアル、國ノ働キ自體トシテ考フベキデアリマス、從ツテ其ノ經費ハ固ヨリ國ニ依ツテ支辨スベキノミナラズ、其ノ財産ハ國ノ財産ヲ直チニ御用ヒニナツテ宜イコトニナルデアラウト思ヒマス、此ノ點ニ著想ヲ致シマシテ憲法八十四條其ノ他ノ規定ガ出來テ居ルノデアリマス、衆議院ニ於キマシテ八十四條ニ付キ若干ノ議論ガ起リマシタケレドモ、此ノ根本ノ原理ト相矛盾スル所ハ前後ニ於テ毫モナカツタ譯デアリマス、次ニ此ノ皇室經費ハ誰ガ負擔ヲスルカト云フ點ニ付テ、此ノ憲法ノ規定ハ其ノ點ガ明瞭デナイト云フ風ニ御示シニナリマシタ、併シ私ハ明瞭デアルト信ジテ居ルノデアリマス、何トナレバ、憲法八十四條ノ中ニ於キマシテ、總テ皇室ノ經費ハ豫算ニ計上シテ國會ノ議決ヲ經ル、詰リ豫算ニ計上シナケレバナラヌ、其ノ豫算ニ計上シタルモノハ固ヨリ國會ノ議決ヲ經ルノデアリマス、此ノ二段ノコトヲ續ケテ書イテ居ルノデアリマス、總テサウ云フ經費ハ豫算ニ計上シナケレバナラヌト云フコトハ、其ノ根本ニ於テ國家ガ之ヲ負擔スベキモノデアルト云フコトヲ含ンデ居ルコトハ、言フ迄モナイ所デアラウト考ヘル次第デアリマス、次ニ官吏ヲ輕ク見ルコトハ國滅ブル基デアルト云フ御意見デアリマス、此ノ憲法ハ官吏ヲ輕ク見ルト云フ趣旨ハゴザイマセヌ、唯併シ官吏ト云フモノノ持ツテ居ル幾多ノ性格ガ、今日迄ニ於キマシテ十分批判サレテ居ナイノデアリマシテ、
　　〔議長退席、副議長著席〕
今後此ノ憲法ガ施行セラレテ行キマスル機會ニナリマシタナラバ、官吏及官吏制度ニ對シテ、嚴重ナル批判ト改善ガ加ヘラルベキモノデアル、其ノ一端ガ内閣制度ノ中ノ一ツノ條項トナツテ頭ヲ出シテ居ル次第デアリマス、次ニ第十四點ト致シマシテ、此ノ憲法ガ出來マシタ後ニ於テ、立法、司法、行政等各種ノ機關ガアリマスル時ニ、ソレガ統一シテウマク動イテ行クノカ、詰リ各種機關ガ實質的ニ統一サレテ行クモノデアラウカト云フ點ニ付テノ御疑惑ガアリ、而シテ新タナル意味ニ於ケル獨裁政治ガ生レテ來ルノデハナカラウカ、斯ウ云フ御疑念デアツタノデアリマス、言フ迄モナク國家ノ權力ハ種種ナル機關ニ分レマシテ與ヘラルヽ、裁判ハ裁判所ニ、立法ハ國會ニ、而シテ行政ハ内閣ニ、其ノ外必要ナル區分ケガアルニ從ツテ國家ノ機關ガ手ヲ分ツコトハ當然デアリマス、斯クスルコトニ依ツテ自由公正ハ能ク保タル、デアリマセウ、併シナガラ其ノ分レル方法ニ著想スルノデナクテ、是ガ現實ニ統一セラレテ行ク、分レタモノガ一ツノ原理ニ依ツテ一絲紊ルヽコトナキ統一ヲ得テ行クコトガ、憲法ノ如キ根本法ニ於テ考ヘナケレバナラナイ問題デアリマス、現行ノ憲法ハ之ヲ統轄スル爲ニ所謂大權政治ノ原則ヲ採ツテ居リマス、總テ天皇ノ責任ニ於テ之ヲ行フノデアリマス、立法ハ國會ノ、議會ノ協贊ニ依ツテ天皇ガ之ヲ行ハセラルル、而シテ其ノ外ノコトハ大權事項或ハ行政事項トシテ天皇ノ御支配下ニアル、此ノ見地ヲ堅ク執ツテ居リマス、併シナガラ裁判ハ天皇ノ名ニ於テ行ハルヽト云フコトハ是ハ實際デハナイノデアリマシテ、法律上ノ一ツノ考ヘ方デアリマス、議會ガ法律ヲ作ルト云フコトハ、現行憲法ノ規定ニ拘ラズ現實ニサウナツテ居リマス、議會ガ決メタモノハ結局法律ニナラザルモノナシト云フ姿ニナツテ居リマス、言ヒ換フレバ、現在ノ憲法ハ大權ヲ以テ總テノモノノ統轄ノ中心トシテハアリマスルケレドモ、是ハ法律的ナル構成デアツテ、或ハ唯二重制度ト言ヒマスカ、憲法ニハ天皇ガ行ハセラルヽトアリナガラモ、事實ハ議會ノ協贊ニ、議決ニ依ツテ行ク、詰リ二重制度デ、本當ノ事柄ハ直截簡明ニ言ヒ表シテ居ナイノデアリマス、總テ廻リクドイ制度ハ新タナル憲法ノ嫌フ所デアリマシテ、此ノ憲法ハ見タ所或ハ人々ニ依リマシテハ蕪雜ノ如ク御覽ニナツタカモ知レヌ、サウ云フヤウナ御意見ヲ伺ヒマスガ、要スルニ直截簡明デアリ、其ノ若シ秩序トシテ若干ノ美シサヲ加フル必要ガアルナラバ、ソレハ最少限度ニ止ムルト云フ建前デアリマス、其ノ爲ニ此ノ憲法ハハツキリ三權ノ統制ノ仕方ヲ明カニシテ居ルノデアリマス、國會ハ最高デアル、國會ノ意思ニ基イテ内閣ガ出來ルト云フ趣旨ヲハツキリシテ居リマス、裁判所ハ又裁判所トシテ職務上獨立スルケレドモ、最後ニハ國民ガ鍵ヲ持ツテ居ルト云フヤウナ規定ガアリマス、要スルニ之ヲ人的ニ言ヘバ、國民ガ統制ノ鍵ヲ持ツテ居リマス、之ヲ形式的ニ言ヘバ、憲法自體ガ全體ノ統制ノ鍵ヲ握ルト云フコトニ依ツテ、此ノ憲法ノ運用ノ統一ヲ圖ツテ居ル譯デアリマス、尚之ニ加フルニ種々ナル方法ヲ以テ一層圓滿ニ此ノ各種運營ノ統一ヲ期スルコトハ、寧ロ附屬法令ノ問題トナツテ來ルト考ヘテ居リマス、次ニ此ノ制度ニ依リマシテ新タナル獨裁政治ガ起ルノデハナイカ、國民ノ後援ガアルト云フコトノ名ニ於テ、例ヘバ政黨ノ獨裁ト云フコトガ起ルノデハナイカ、「ナチス」黨ノ獨裁デアルト云フヤウナ事例ハハツキリアツタデハナイカト云フ御疑點デアリマス、是ハ此ノ憲法ニ於テ其ノ虞ナシト斷言スルコトハ出來マセヌ、如何ナル完全ナル制度ト雖モ、制度ソレダケニ依ツテ理想的ニ動クト云フコトハ是ハ迚モ言ヒ切レルコトデハアリマセヌ、制度ト此ノ運用、而シテ其ノ運用ノ基礎ニハ人間ト云フコトガナクテハナラヌノデアリマシテ、憲法ハ其ノ制度ノ方面ノミヲヤツテ居ルノデアリマスルガ故ニ、憲法ノミニ依ツテ運營ノ萬全ヲ期スルト云フコトハ理論的ニ不可能デアルト思ヒマス、併シ此ノ憲法ハソレデハサウ云フ好マシカラザル弱點ヲ其ノ儘具ヘテ居ルノデアルカト言ヘバ、サウデハアリマセヌ、極力御示シニナリマシタヤウナ弊害ノ起ラザルヤウニ留意ガシテアルノデアリマシテ、要スルニ國民ノ健全ナル判斷力ガ充實シテ居ルナラバ恐ルベキ何モノモ殘ラナイノデアリマス、「ナチス」ガ特殊ナル弊害ヲ齎シタト云フノハ、少數ノ人ニ政黨的ノ實權ヲ與ヘ、他ノ多數ノ者ニハ何等ノ發言權ヲ與ヘナカツタ、此處ニ其ノ根抵ガアツタト思ヒマスガ、新シイ憲法ハ言論、思想、集會、結社、其ノ外ノ意思表示ノ方法ニ付キマシテ、殆ド絶對ニ近キ自由ヲ認メテ居リマス、既ニ此ノ自由ガ完全ニ行ハレマス限リ、而シテ國民自體ガ健全デアルナラバ、恐ラク特別ナル弊害ヲ豫想ヲ致シマスルコトハ、杞人ノ憂ヒニ止マルノデハナカラウカト考ヘテ居ルノデアリマス、次ニ國際活動ト云フ點ニ付キマシテ、詰リ憲法第二章ノ平和的宣言ト云フコトニ付テノ御疑點ヲ御示シニナリマシタ、要ハ原案第九條ノ戰ヒヲ行ハザル宣言、軍備ヲ持タザルノ宣言ト云フモノハ、是ハ國際的ナル約束トシテヤレバ意義ガアルケレドモ、一國ダケデ、國内法的ニ主張シタツテ弊害アルノミデアツテ、實益ハナイノヂヤナイカ、日本ダケデモノヲ言ツテモ役ニ立タヌノヂヤナイカ、斯ウ云フ風ノ趣旨ヲ以テ御質疑ニナツタト思フノデアリマス、其ノ考ヘ方ハ確カニ理由ガアルト思ヒマス、人ガ寄ツテタカツテ初メテ立派ナ事ガ行ハレルノデアリマス、自分一人ヂヤ出來ナイノダ、ダカラヤラズニ置カウ、或ハ言ハズニ置カウ、此ノ考ヘ方ガ世界ノ秩序ヲシテ今日迄十分ナル發達ヲ爲サシメズシテ、平和ニ對スル望ミヲ遠ザカラシメテ居ルノデハナカラウカ、有ラユル角度カラ本當ニ物ヲ考ヘテ、此ノ時日本ガ起ツテ、平和ニ對スルハツキリシタ覺悟ヲ示スト云フコトハ、ソレコソ勇氣ヲ要スルコトデアリマスルケレドモ、其ノ勇氣ヲ要スルコトヲ斷行シタノデアリマシテ、人ガヤル迄ハ、ヤラナイトカ、人ノ振リヲ見テノミ我ガ振リヲ決メテ行クト云フ考ヘ方ハ、斯ノ如キ根本ノ問題ニ付テハ我々ハ執リタクナイ、斯ウ考ヘテ居ル次第デアリマス、次ニ第十六點ト致シマシテ、國民ノ基本的自由、基本的權利等ニ付キマシテ色々御意見ヲ伺ヒマシタ、大體ニ於テ御褒メヲ受ケマシタ點モアルト同時ニ、幾多ノ缺點ガアルト云フ暗示ヲモ與ヘラレマシタ、其ノ點ハ時間ノ不足ニ依ツテ正確ニ御伺ヒスルコトガ出來ナカツタノデアリマスルガ故ニ、又必要ニ應ジマシテ、他日ノ御答ヘト致シタイト存ジテ居リマス、次ニ第十七點ト致シマシテ、此ノ最高法規ニ關スル政府提出案ノ九十四條、九十五條ノ規定ハ無意義ノ規定デアル、「アメリカ」ナレバコソ意義ガアルカモ知レヌガ、日本ニ取ツテハ意義ハナカラウ、斯ウ云フ御趣旨ノ疑點デアリマシタガ、私ハ必ズシモサウハ思ヒマセヌ、各種ノ法規ニ系統的ナ價値ヲ認メル、或ハ條約ト云フモノヲ決シテ輕視シナイト云フ趣旨ヲハツキリサセルトカ云フコトハ、國内的ニ非常ニ必要ナルコトデアリ、殊ニ條約ノ點ニ付キマシテハ、日本ノ現ニ置カレテ居ル地位ガ、過去ニ於テ條約ヲ輕視シタト云フ疑ヲ世界ニ撤キ散ラシテ居リマスル時ニ、相當理由アル規定デアルト信ジテ疑ヒマセヌ、且又官吏、公務員其ノ他ガ憲法ヲ守ルト云フコトハ當然ノコトヲ書イタニ過ギナイト云フコトデアリマスルガ、確カニ其ノ通リデアリマス、併シ當然ノコトヲ書イテナラヌト云フ理窟ハナイノデアツテ、若シソレガ書クダケノ價値ガアルナラバ、書イテ然ルベキモノト思フノデアリマス、憲法ヲ遵守スベシト云フコトハ現行憲法ノ上諭ノ勅語ノ中ニ於テモ相當ニ御示シニナツテ居ル所デアリマシテ、ソレガ憲法ノ本文ノ中ニ入リマシテモ決シテ無意義デアルト云フ非難ハ當ラナイモノト信ジテ疑ヒマセヌ、第十八點ト致シマシテ、憲法ノ改正ニ付テ國民ノ改正發議ヲ認メザル理由如何ト云フ御質疑デアリマシタ、是ハ如何樣ニモ解シ得ラレル問題ノ如クデアリマスルガ、原案ハ、此ノ民主政治ガ十分發達ヲ致シマスルナラバ、國民ノ輿論ノ聲ヲ代表スルモノガ、即チ國會ガ適切ナル働キヲスルデアラウ、複雜ナル國民發案ノ原理ヲ採ラナクテモ目的ヲ達スルノデハナカラウカト云フ利害ヲ考慮シテ、此ノ改正原案ノ結論ヲ妥當ト見タ次第デゴザイマス、第四類ノ御質疑ニ對シマシテハ總理大臣ヨリ既ニ御説明ニナツテ居リマスルガ故ニ、私ハ是ダケヲ以テ御答ト致シマス
　　〔國務大臣木村篤太郎君登壇〕
○國務大臣（木村篤太郎君）　佐々木博士ノ御質問中、司法ニ關スルコトニ付キマシテ私ヨリ簡單ニ御答ヘ申上ゲマス、先ヅ第一ニ此ノ改正憲法草案ニ依ルト、司法官ノ獨立性ガ十分ニ保障セラレルカドウカト云フ御質問デアリマス、私ハ此ノ改正草案ガ施行ノ曉ニ於テハ、現在ニ比シテ十二分ニ裁判官ノ不羈獨立性ガ保障セラレルモノト確信シテ疑ヒマセヌ、而シテ此ノ草案實施ノ曉ニ於キマシテハ、現今ノ如ク裁判官ガ司法大臣ノ管轄下ニ在ルコトカラ離レマシテ、最高裁判所ノ長官ノ監督ニ服スルノデアリマス、而シテ草案第七十四條ニ依リマスルト、裁判官ハ裁判ニ依ツテ、心身ノ故障ニ依リ職務ヲ執ルコトガ出來ナイト決定サレタ場合ノ外ハ、彈劾ニ依ルノ外罷免スルコトガ出來ナイト云フ、強力ナ地位ヲ保障サレテ居ルノデアリマス、加之裁判官ハ將來相當ナ定額ノ給料ヲ保障サレテ居リマス、是ハ尤モ裁判官ノミナラズ、他ノ行政官吏ニ於テモ將來ハ生活ハ保障サレルデアリマセウガ、裁判官ニ付テハ特ニ相當ナ俸給ヲ給與スルト云フ明文ヲ設ケテ、茲ニ生活ノ保障ヲシテ居ルノデアリマス、是等ノ觀點カラ論ジマスルト、草案實施ノ曉ニ於キマシテハ、裁判官ノ身分ト云フモノハ今ヨリモ十分ニ向上サレマシテ、其ノ不羈獨立性ト云フモノハ保障サレルモノト信ズルノデアリマス、佐々木博士ハ此ノ草案七十五條ニ依ル所謂最高裁判所ノ裁判官ノ十年毎ノ審査ハ、裁判官ノ獨立性ヲ害シハシナイカト云フ御疑問ノヤウデアリマシタガ、私ハ左樣ニ解セナイノデアリマス、裁判官ノ不羈獨立ハ尊重致スコトハ申ス迄モナイコトデアリマス、併シ裁判官ト雖モ人デアリマス、時ニ其ノ不羈獨立性ニ狎レテ、或ハ進歩性ガソコニ止メラレル、或ハ安易ニ流レル、或ハ怠惰ニ陷ルト云フコトハナキニシモアズラデアリマス、是ハ國民一般ノ判斷ニ依リ審査ヲ俟ツテヤルト云フコトガ、裁判官ヲシテ刺戟ヲ與ヘテ却ツテ、私ハ裁判官ノ地位向上ガ圖ラレルモノト信ズルノデアリマス、十年毎ニ於ケル審査ニ於テ不羈獨立性ヲ帶ビタ裁判官ガ世俗ニ媚ビルト云フヤウナ、左樣ナ危險ハ私ハ毛頭ナイト信ジテ疑ヒマセヌ、斯カルガ故ニ、七十五條ニ依リマスルト、十年毎ノ審査ハ博士ノ虞レラルヽガ如キ不羈獨立性ヲ害スルモノト存ジナイノデアリマス、次ニ七十三條ノ最高裁判所ノ訴訟ニ關スル規定ハ如何ナル意味デアルカト云フ御質問デアリマスルガ、是ハ裁判ノ實際ニ於ケル手續ヲ圓滑ニ運用シ得ル爲ノ内部規定デアリマス、國民一般ノ權利義務ニ重大ナル關係ヲ有スル刑事訴訟手續、或ハ民事訴訟手續ト云フヤウナモノハ、法律ヲ以テ制定セラレルガ當然デ、言フヲ俟タナイ所デアリマス、又檢察官ハ最高裁判所ノ定メル規則ニ依ラナクテハナラヌト云フ規定ハドウカト云フコトデアリマスガ、此ノ規定ト申スノモ矢張リ最高裁判所ニ定ムベキ内部規定デアリマス、檢察官ニ關スル基本的權限ノ問題或ハ身分ノ問題ト云フモノハ、別ニ法律ヲ以テ定ムベキモノト信ジマス、次ニ七十七條ノ最高裁判所ノ法律ノ違憲審査權デアリマスガ、是ハ先般ノ本會議ニ於キマシテ私ガ御説明申上ゲマシタ通リ、裁判所ニ具體的ノ事件ガ起ツテ法律ヲ適用スル場合ニ、其ノ法律ガ憲法ニ違反スルカドウカト云フ疑ヲ持ツタ場合ニ於テ、最高裁判所ハ之ニ對シテ適正ナ判斷ヲ與ヘルノデアリマス、一般的ニ此ノ法律其ノモノガ憲法ニ違反スルカドウカト云フヤウナコトニ付テノ裁判ハシナイノデアリマス、左樣ナコトニナリマスルト、國會ト裁判所トノ對立紛淆ヲ來シテ、惡影響ヲ及ボスコトハ言ヲ俟タナイノデアリマス、左樣ニ御了承ヲ御願ヒ致シタイト思ヒマス、次ニ行政裁判機關ハ最終トシテ裁判ヲ行フコトハ出來ナイト云フコトハドウデアルカト云フ御質問デアリマスガ、是ハ御承知ノ通リ或ハ特許事件、海事審判事件ト云フヤウナモノハ行政機關デ行ツテ居ルノデアリマスルガ、左樣ナ行政機關ニ於テ行ハレタ裁判ハ最終的ニハ裁判所ニ於テ是ハ判斷スル、國民ニ對シテ左樣ナ事件ニ付テモ最終的ニハ裁判所ニ於テ判斷ヲ求メ得ル權利ヲ保障シタノデアリマス、左樣御承知願ヒマス、私ノ答辯ハ先ヅ是デ終ツタト存ジマス
○佐々木惣一君　再質問ヲシテ宜シウゴザイマスカ
○副議長（伯爵徳川宗敬君）　宜シウゴザイマス
○佐々木惣一君　矢張リ壇上デ致シタイト思ヒマス
　　〔佐々木惣一君登壇〕
○佐々木惣一君　只今總理大臣、金森國務大臣及司法大臣カラノ御答辯ヲ得マシタノデアリマスルガ、此ノ御答辯ニ對シマシテ矢張リ再質問ガアリマスノデスケレドモ、實ハソレヲ詳シク申上ゲル時間ガアリマセヌノデ、要點ダケヲ申シマス、茲ニ總理大臣ハオイデニナラナイノデアリマスルガ、チヨツト申上ゲテ置キタイノハ、全面的デアルカラシテ、不必要ナ改正ヲ餘リ行フコトハ必要ナイヂヤナイカト云フコトヲ言ウタノデスケレドモ、全面的ノ改正ダカラ‥‥斯ウ云フ御話デアリマシタケレドモ、私ハ數量的ニソンナコトヲ言ウタノデハナイ、根本的ニデアツテ、不必要ナ‥‥例ヘバ國體ニ關スル規定ト云フヤウナコトヲ改正スルノ必要ガ何處ニアルカト云フヤウナ意味ニ於テ言ウタノデアリマシテ、其ノ他ノ點ニ於テ色々澤山ノ改正、數ガアルト云フヤウナコトヲ、ソレヲ必要ガナイト云フヤウナ風ニ言ツタノデハナイノデアリマシテ、此ノ改正ノ要求ヲ達スル爲ニハ、改正シナクテモ宜イ規定ヲ改正スルノ必要ガドウシテアルカト云フコトヲ申上ゲタノデ、性質的ニ言ツタノデアリマスカラ、是ハオイデニナラヌノデスケレドモ、外ノ大臣ノ方モ聽イテ戴キタイト思ヒマス、ソレカラシテ調査會ノコトハ、私ハサウ云フ調査會ガ出來テ愼重ニ御調査ヲナスツタト云フヤウナコト、ソンナコトヲ伺ツタノデハナイノデアリマシテ、唯其ノ調査ノヤラレタコトデ、調査會ナルモノガ、此ノ改正案ノ内容ニ如何ナル影響ヲ與ヘタカ、言ヒ換ヘテ見レバ、調査會ノ調査ト云フモノガ此ノ改正案ニ現レテ居ルカドウカ、サウ云フコトヲ御尋ネシタノデアリマス、其ノ調査會ニ於テ實際的ニ愼重ニヤツタ‥‥ソンナコトヲ言フノデハ勿論ナイノデアリマス、ソレカラ又總理大臣ノ御答ノ三點ト致シマシテハ、色々不滿ガアルト云フコトハ、是ハ私ノ質問中デアリマセウガ、能ク承知ヲシタ、併シドウモ今ノ際已ムヲ得ナイト云フヤウナ御答デアリマスカラ、是以上別ニ何モ再質問ノ餘地ハナイデス、ドウシテモ‥‥、サウ云フ譯デアリマスガ、併シ私ガ質問ヲシタ本旨ト云フモノハ全然他ニ外レテ居リマスルカラ、ソレダケノコトヲチヨツト申上ゲル、願クハ他ノ御出席ノ大臣カラ其ノコトヲ御傳ヘトサレバ大變結構デアリマス、ソレカラ是ハ金森國務大臣ノ御答辯ニ關シテ申上ゲルノデスガ、實ハ此ノ間申上ゲマシタ「ジャパニーズ・ピープル」ト云フモノデスナ、ソレガ其ノ意思ニ依ツテ決メルノダト云フコトハ、決シテ日本ノ天皇即チ君主及ビ所謂日本流ニ言フ國民トノ‥‥サウ云フ概念的ニ竝ベタ意味ノ其ノ國民ト云フヤウナコトヲ言ツタノデハナクシテ、ソレハ日本人ガヤルコトダ、日本ト云フ國ヲ構成シテ居ル國民、日本人ガヤルコトヂヤナイカ、「ポツダム」宣言ハ其ノ受諾前ノ交渉ニ於ケル「ピープル」、サウ云フモノダ、不戰條約時代ノ「ピープル」モサウダツタ、サウ云フコトヲ御尋ネシタノデスカラ、ソレニ對シテ實ハ外務大臣トカ、或ハ更ニ進ミマシテ、一個ノ外務大臣トシテデナシニ、總理大臣トシテノ御答辯ヲ得タカツタノデアリマスケレドモ、私ハソンナコトハ言ハナクトモ當然デアルト思ツテ、別ニ外務大臣又ハ總理大臣ト云フコトヲ申上ゲナカツタノデアリマスガ、併シソレニ付テノ總理大臣ノ御答辯ガナイト云フコトハ頗ル遺憾ト致シマス、何トナレバ是ガ實ハ根本問題ナノデス、是ガ實ハ今囘ノ我ガ國ノ憲法改正ニ關スル論議、又我ガ國ガ今後如何ナル態度ヲ執ルベキカト云フコトノ政治的ノ實質問題トシテノ根本義ナンデスネ、デソレニ付テ今金森國務相ガ御答辯下サイマシタノデスケレドモ、ソレハドウモハツキリシテ居ナイ、私ノ今申上ゲマシタコトニ對シマシテハ、ドウモ是ハ全然私ノ御尋ネ申上ゲタ事柄ニハ、實ハ全ク内容的ニ觸レテ居ナイト云フコトヲドウモ殘念ナガラ申上ゲルコトニナリマス、併シ是レ以上ハ同ジヤウナコトヲ繰返スノデアリマスルカラ如何トモ致シ方ナイ、但シ「ピープル」ト云フ文字ハ固ヨリ君ト民ト對立シタ、竝立シタモノトシテノ國民、人民ト云フ意味ニモ使フコトモアリマス、外國語ニシテモ‥‥ケレドモサウ云フモノトハ違フ、此方カラ問ウタコトニ對シテ、ソレハ俺等ガオ前ノ國ニ干渉スルコトヂヤナイ、是ハ私ノ附加ヘタ言葉デスガ、オ前等ノ國ヲ成シテ居ル所ノ人間ノ決ムベキコトダト、斯ウ云フ意味デアルコトハ疑ヒナイノデス、ソレデ此ノ事ハ國家トカ、「ステート」トカ、「ネーション」トカ、サウ云フヤウナ字ノ詮索デハ決シテナイノデアリマシテ、國家トカ何トカ金森サンハ仰ツシヤツタケレドモ、ソンナモノヂヤナイ、要スルニ實質的ニ見テソレハ俺等ノ知ツテ居ルコトヂヤナイ、日本ト云フ國ノ人間ガヤレト云フ意味デアルコトハ疑ヒナイト思ヒマス、是ハ併シナガラ斯ウ再ビ質問シテモ何モナラナイノデアリマスカラ、全然私ノ質問ニ對シテハ、ドウモハツキリトシナイト云フコトヲ申上ゲテ置クヨリ仕樣ガアリマセヌ、是ハドウモ斯ウナケレバ‥‥ソレ等ノ金森國務大臣ノ御答ノ（「簡單」ト呼フ者アリ）中ニ色々アリマシタケレドモ、サウ云フコトハ最早申上ゲテモ仕樣ガナイノデアリマスガ、此ノ法的連絡ノコトニ付キマシテ、矢張リドウモ天皇ガ憲法ヲ改正ナサルノデアルトカ、ナサルノデナイト云フコトニ付テ色々アリマスガ、何ト申シマシテモ日本ノ言葉トシテハ、君主ト云フモノハ民ト云フ言葉ノ中ニ入ラナイト云フコトハ、是ハ事新シク言フ迄モアリマセヌカラ、ソレデ前文ガ今ノ御答辯ノ如ク、天皇ガ憲法ヲ改正スル、國家ノ作用ヲ行フノ機關トシテソレヲ行ハセラレルノデアルト云フコトニナリマスト、ソレハ矢張リ今度ノ前文ハドウシテモイケナイ、日本國民ガ此ノ憲法ヲ確定シタト云フ文字ガ前文ニアルノダカラ、其ノ前文ト云フモノハ即チ法的連絡ト云フモノヲドウシテモ傷ツケテ居ルト云フコトハ疑ヒナイ、天皇ガ改正シタト云フコトニナツテ居ナイ、前文自體ハ‥‥ソコヲ御尋ネシタノデアリマス、ソコヲハツキリシテ置キタイ、問ヲ以テ問ニ答ヘラレタヤウナコトデアリマスカラモウ仕方ガアリマセヌ、ソレカラ澤山ノ點ガアルガ止メテ置キマシテ、國號ノ問題、是ハドウモ非常ニ重大ナル問題デアリマシテ、日本國ト言ハウガ、大日本帝國ト言ハウガ、兎ニ角日本ノ國ト云フコトハ分ルノデアリマスカラ、ドチラモ國號ニナツテ居ルト云フコトノ御趣旨ニ伺ヒマシタガ、ソレハドウモ實ニ亂暴ナコトデアリマシテ、ハツキリトドチラガ日本ノ國號カト云フコトヲ御尋ネシタノデアリマスカラ、茲ハモウ少シ御研究ヲ御願ヒシタイト私ハ思フノデアリマス、ソレナラバ御尋ネシマスガ、是ハ重大ナコトデアル、日本國トアリマスガ、「ニホン」ト讀ムノデアリマセウカ、「ニッポン」ト讀ムノデアリマセウカ、是ハ本居先生モ研究サレテ、横ニ特ニ「ニホン」ト假名ヲ振ツテ居ル位ノコトデアリマス、「大ニッポン」ノ場合ハ「大ニッポン帝國」ト自ラ出テ來ル、或ハ「大ニホン」デモ出テ來ル、處ガ日本國ト言フ時ニハ自ラ「ニホン」ノヤウニモナルシ、要スルニ此ノ國號ノ問題ハサウ云フ風ニ簡單ニ片附ケテシマフベキモノデハナイト、斯ウ云フ風ニ思ツテ居リマス、（「簡單々々」ト呼フ者アリ）四時十分御許シヲ得テ居リマスカラ、四時十分迄ハヤルノデス、（笑聲起ル）ソレカラ天皇制度ノ廢止ニ付キマシテハ、天皇制度ハ私ハ廢止サレタト云フ風ニ考ヘルノデアルケレドモ、從來ノ意味ニ於テハ廢止サレタト云フコトハ、詰リ御認メニナツテ居ルノデアリマス、ソレデソレハ宜イノデアリマスルガ、唯茲ニ天皇ノ象徴ト云フコトノ、合理的デナイ……法的意味ヲ私ハ御尋ネシタノデス、其ノ法的意味ト云フコトニ對スル御答ヘト云フモノハ、ハツキリトシテ居ナカツタト私ハ考ヘルノデアリマス、之ヲ私ハ象徴トカ何トカ云フコトノ意味其ノコトヲ申上ゲタノヂヤナイ、其ノ象徴ト云フコトガ法的ニドウ云フ意味ヲ持ツカト云フ法的意味ヲ御尋ネシタノデアリマス、天皇ノ無答責ノコトニ付キマシテ、私ハモツト具體的ニ、將來法律ガ天皇ヲ處罰スルト云フヤウナ、サウ云フ規定ヲ設クルコトガ出來ルカドウカ、是ハ今日ノ憲法デハ第三條ニ依ツテ出來ナイノデアルガ、今後ノ憲法ハ天皇ヲ明カニ處罰スルト云フ、サウ云フ法律ヲ設クルコトガ出來ルカドウカト云フ、具體的ノコトヲ申上ゲタノデアリマスケレドモ、ソレ等ニ付テハ御答ガナカツタノデアリマスカラ、是モハツキリト御答ヲ御願ヒシタイト云フヤウナ譯デアリマス、ソレカラ司法作用ハ司法大臣カラノ御話デアリマシタシ、行政作用ニ付キマシテモ、最早アレ以上ハ意見ノ交換ニナリマスカラ、是ハ止メテ置キマシテ、他ノ機會ニ讓ルコトニ致シタイト思フノデアリマス、ソレカラ是ハ總理大臣ガオイデニナラヌデスカラ仕樣ガナイノデアリマスルケレドモ、本案ノ取扱ノ方法ニ付テ、無論サウ云フコトハ出來ナイト云フヤウナコトニナリマスルガ、併シ最後ニ私ハ附加ヘテ、サウ云フヤウナコトニ付テ何カ關係方面ノ了解ヲ得ルト云フヤウナコトハ、シテ戴クコトハ出來ナイデアラウカト云フコトヲ、特ニ申上ゲテ御尋ネシテ居ルノデアリマス、處ガソレニ對シマシテハ何等ノ御答ガナイ、是モ私トシテハ御答ヲ逸シテ居ル點ノ一ツデアリマスカラ、是等ノコトヲ再質問ト云フ形デ申上ゲテ、サウシテ私ノ質問ハ是デ終ル譯デアリマス（拍手）
○副議長（伯爵徳川宗敬君）　本日ハ此ノ程度ニ於テ延會シタイト存ジマス、御異議ゴザイマセヌカ
　　〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○副議長（伯爵徳川宗敬君）　御異議ナイト認メマス、明日ハ午前十時ヨリ開會致シマス、議事日程ハ本日ト同一デゴザイマス、是ニテ散會致シマス
　　　午後三時五十四分散會

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