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第九十回帝國議會貴族院 帝國憲法改正案特別委員會議事速記録第二號
付託議案◎帝國憲法改正案
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昭和二十一年九月二日（月曜日）午前十時十一分開會
○委員長（安倍能成君） ソレデハ憲法委員會ヲ開會致シマス、先ヅ第一ニ總理大臣カラ全體ノ御説明ヲ伺ヒマス
○國務大臣（吉田茂君） 憲法改正案ノ精神、内容等ニ付テハ、本會議、其ノ他ニ於テ一應御説明申シテ置キマシタガ、尚此ノ機會ニ於キマシテ、詳細ノ點ニ亙リマシテ金森國務大臣ヨリ説明ヲ申述ベル筈ニナツテ居リマス、何卒宜シク御審議ヲ願ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 只今總理大臣カラ全體ニ付テノ御話ガゴザイマシタガ、私ヨリ此ノ憲法改正草案ノ持ツテ居リマスル大體ノ意味ト、ソレカラ衆議院ニ於テ大イナル範圍ニ亙リマシテノ修正ガゴゴザイマシタノデ、ソレニ對シマスル政府ノアラマシノ考ヘ方ヲ申上ゲタイト存ジマス、先ヅ本案ハ、御覽ノ如ク、前文ノ外ニ十一ノ章ニ分カタレテ居リマス、其ノ中前文ハ、今囘ノ憲法改正ノ目的ト、ソレカラ此ノ改正憲法ガ據ツテ立ツテ居リマスル根本ノ精神ヲ或程度力強ク且詳細ニ述ベテ居ル次第デゴザイマシテ、其ノ點カラ少シク所見ヲ申上ゲタイト存ジテ居リマス、先ヅ此ノ前文ノ冐頭ニ於キマシテ、日本國民ガ、我ガ國再建ノ唯一ノ途ハ、外ニ於テハ諸國民トノ間ニ平和的協力ヲ成立サセ、内ニ於テハ我ガ國ノ全土ニ亙ツテ基本的人權ト自由ノ福祉トヲ確保スル以外ニハナイ、之ニ依ツテ政府ノ專斷ニ依ル戰爭ノ再發モ防止出來ルト云フ風ニ考ヘマシテ、茲ニ國民ノ總意ガ至高ノモノデアルト宣言致シマシタ、其ノ趣旨ニ依ツテ從來ノ憲法ヲ改正スルモノデアルト云フコトヲ述ベテ居ル次第デゴザイマス、次ニ右ノ基本ノ原理ト申シマスルモノハ、要スルニ國政ノ終極ノ權威ガ國民ニ由來ヲシテ居リ、其ノ權力ハ國民ノ代表者ガ之ヲ行ヒ、其ノ利益ハ國民ガ之ヲ受ケルト云フ、此ノ三ツノ點ニ依ツテ明カデアルコトヲ述ベテ居リマシテ、過去ノ我ガ國ニ於テ見ラレマシタ所ノ、一部ノ權力者ガ國政ヲ壟斷致シマシタ其ノ危險ヲ防止スル方針ヲ規定シテ居ル譯デアリマス、次ニ更ニ前文ニ於キマシテ、今後ノ我ガ國ノ行キ途ガ、國際社會ノ一員トシテ再ビ名譽アル地位ヲ占メムトスル熱望ニ燃エテ居ルト云フコトヲ述ベマシテ、其ノ爲ニハ我ガ國民ノ安全ト生存トヲ擧ゲテ平和愛好ノ諸國民ノ公正ト信義ニ委ネル決意ヲ持ツモノデアルト云フコトヲ明カニシテ居リマス、更ニ其ノ次ニ於キマシテ、此ノ前文ノ中デ政治道徳ノ原則ハ、何レノ國家ニモ共通スル普遍的ノモノデナケレバナラヌト云フコトヲ強調致シマシテ、從來諸國ガ自國本位ノ原則ヲ以テ國際社會ニ臨ミマシテ、ソレガ爲ニ非常ナ禍ヒヲ生ジテ居リマスルガ、斯樣ナ思想ニ基礎ヲ置イテ、廣ク世界各國ニ呼ビ掛ケルト云フ高遠ナル意味ヲ有スルト云フヤウナ趣旨ノコトヲ規定シテ居リ、此ノ事ハ一面ニ於キマシテハ、過去ノ我ガ國ノ態度ニ對スル深イ反省ヲ示ス趣旨デアル譯デアリマス、次ニ前文ノ最後ノ一節ニ於キマシテハ、日本國民ハ國家ノ名譽ニ懸ケテ此ノ高遠ナル主義ト目的ヲ達成スル爲ニ全力ヲ捧ゲルモノデアルト云フコトヲ誓ツテ居ルノデアリマス、斯樣ニ致シマシテ、改正憲法ノ眼目ト致シマスル精神ハ、大凡ソ前文ノ中ニ表サレテ居ルノデアリマシテ、此ノ前文ノ中ニ表サレテ居リマスル思想ト連絡ヲ保チツヽ、此ノ憲法ノ中ノ各條項ガ出來テ居ルノデアリマスルカラ、前文ト本體トハ相照應スルト云フ趣旨ヲ含ンデ居ルト云フコトヲ申上ゲテ置キタイト存ジマス、本文ニ入リマシテ、改正憲法ニ於キマスル天皇ノ御地位ニ付キマシテハ、曩ニ屡々本會議ニ於キマシテ御質疑其ノ他ノ徑路ヲ經テ居リマシテ明カニナツテ居リマスルヤウニ、天皇ハ日本國ノ象徴デアリ、日本國民ノ統合ノ象徴タルベキモノト致シマスルト同時ニ、皇位ハ世襲デアル、其ノ繼承ハ皇室典範ノ定ムル所ニ依ルト云フ點ヲハツキリ致シテ居ル譯デアリマス、之ニ依リ分リマスルヤウニ、皇室典範ハ、國會ノ議決ヲ要スルモノト致シテ居リマシテ、是ハ現行ノ憲法秩序トハ著シク異ツテ居ル點デアリマスルケレドモ、併シ此ノ憲法改正案ノ本趣旨カラ言ヘバ當然ノコトト考ヘテ居ル次第デアリマス、次ニ天皇ノ御權能ノ問題デアリマスルガ、是ハ此ノ憲法ノ定ムル國務ノミヲ行ハセラレ、政治ニ關スル權能ハ有セラレザルコトヲ定メマシテ、且又天皇ノ國務ニ關シマスル一切ノ行爲ニハ、内閣ノ助言ト承認ヲ必要トスルト云フコトニ致シマシテ、之ニ依ツテ内閣ノ責任ヲ一面ニ於テ明カニシテ居ル次第デアリマス、天皇ガ行ハセラレマスル國務ト致シマシテハ、憲法第一章ノ中ニ列記セラレテ居リマスルヤウニ、國會ノ指名ニ基イテ、内閣總理大臣ヲ任命致スコトノ外幾ツカノ項目ニ亙ツテ之ヲ規定致シマシテ、天皇ノ象徴タル御地位ニ相應ハシキ、言ヒ換ヘマスルト多カラズ、少カラズト考ヘマシタ一定ノ事項ヲ規定シテ居ル次第デアリマス、尚皇室ノ財産關係ニ付キマシテハ、皇室ニ財産ヲ讓リ渡シ、又ハ皇室ガ財産ヲ讓リ受ケ、若シクハ賜與セラレルコトニ付キマシテハ、國會ノ議決ニ基クト云フ風ノコトヲ定メテ居リマスルガ、是ハ要スルニ國家及ビ國民統合ノ象徴トシテ至公至平、無色、無私トモ申上グベキ天皇ノ御本質ニ鑑ミマシテ、皇室ト皇室外部トノ間ニ於ケル財産關係ニ付キマシテ、公明性ヲ確保セムトスル趣旨デアル譯デアリマス、次ニ第二章ニナリマシテ、戰爭ノ抛棄ニ關シマスル規定ガ設ケテアリマスルガ、是ハ條文トシテハ僅カニ一箇條、第九條ノミデアリマスルケレドモ、是コソハ日本ガ捨身ノ態度ニ立チ、全世界平和愛好諸國ノ先頭ニ立タウトスル趣旨ヲ持ツテ居リマシテ、恒久平和ヲ冀フコトハ我ガ大理想デアルト云フ趣旨ヲ、且又之ニ基ク諸般ノ方針ヲ力強ク闡明シタモノデアリマス、次ニ第三章ノ點ニ付テ御説明ヲ申上グルノデアリマスルガ、此ノ言論、宗教、思想ノ自由ト云フモノハ「ポツダム」宣言ニハツキリ掲ゲテアル條項デアリマスルシ、又其ノ外ニ基本的人權ノ尊重確立ト云フコトガ「ポツダム」宣言ノ要請スル所ノモノデアリマス、「ポツダム」宣言ノ要請ノ有無ハ別ト致シマシテモ、此ノ基本的人權ノ徹底的保障ヲ致シマスルコトハ、民主主義ニ基キマスル政治ヲ確立スル上ニ於キマシテ、絶對必要ナル基本條件デアルト申サナケレバナラヌト存ジマス、從ツテ此ノ改正案ニ於キマシテハ、各般ノ角度カラ其ノ保障ニ必要ナ諸規定ヲ設ケマシテ、殊ニ過去ニ於キマシテ種々ナル弊害ノ認メラレテ居リマシタ、即チ實驗ニ徴シマシテ多クノ禍ノ本ニナリマシタ刑事訴追ノ關係等ニ付キマシテ、詳細ニ之ヲ定メテ居ル次第デゴザイマス、現行ノ憲法ニ於キマシテモ或一定ノ事項ヲ列擧致シマシテ、臣民ノ權利義務トシテ保障シテ居リマスルコトハ申ス迄モナイノデアリマスケレドモ、其ノ極ク僅カノ例外ヲ除キマシテ、全部トモ言フベキモノガ、孰レモ法律ヲ條件トスル保障デアリマシテ、基本ノ精神ハ別ト致シマシテ、憲法ニ掲ゲラレテ居リマスル文字ノ建前カラ申シマスルト、要スルニ法律ヲ以テスレバ比較的容易ニ制限シ得ル建前ノ權利義務トナツテ居ルノデアリマスガ、改正案ニ於キマシテハ其ノ保障ノ範圍ヲ總テノ基本的人權ニ及ブモノト致シマスルト同時ニ、其ノ保障ノ形式或ハ其ノ保障ノ枠ト申シマスルカ、ソレハ憲法自ラ直接ニ保障スルト云フ原則ニ依ツテ居ルノデアリマシテ、法律ノ定ムル所ニ委セナイト云フコトヲ根幹トシテ居ルノデアリマス、而シテ此ノ人權ノ保障ニ付キマシテハ、此ノ憲法ガ國民ニ保障シテ居ル自由及ビ權利ハ國民ノ不斷ノ努力ニ依ツテ之ヲ保持シナケレバナラヌト云フ風ニ定メマスルト同時ニ、國民ハ濫用シテハナラヌ、常ニ公共ノ福祉ノ爲ニ之ヲ利用スル責任ヲ負擔スベキモノデアルト云フコトヲ規定致シマシテ、箇々ノ權利義務ヲ明ニ致シマスルト同時ニ、原則的ニソレ等ノモノハ公共ノ福祉ノ枠ノ中ニ入ツテ居ルト云フコトヲ明カニ致シタ次第デアリマス、次ニ第四章ノ規定ニ付テ申上ゲマスルガ、此ノ憲法ノ改正案ハ國權發動ノ主ナル機關ト致シマシテ、國會ト内閣ト、裁判所ト云フ三ツヲ設ケテ、其ノ外ニモ固ヨリアリマスルケレドモ、主タルモノハ此ノ三ツデアリマスルガ、其ノ中ニ於キマシテ國會ヲ以テ國權ノ最高機關デアルト云フコトヲ明記致シマシテ、且又之ヲ國ノ唯一ノ立法機關タルモノトシテ居ル譯デアリマス、此ノ點ハ現行憲法ノ議會制度ト一面ニ於テ類似スルカノ如クデアリマスルケレドモ、本質ニ於テ相當ニ趣旨ヲ異ニシテ居ルノデアリマス、而シテ國會ハ兩院制度ヲ採リマシテ、衆議院ト參議院ヲ以テ之ヲ構成スルコトトシテ居リマス、是ハ一ニ國ノコトヲ審議致シマスルニ付テノ愼重ヲ期スルト云フコトノ方針カラ出テ居ル譯デアリマス、兩院ハ孰レモ全國民ヲ代表スル選擧サレタ議員ヲ以テ之ヲ組織スルモノトシテ居リマス、其ノ組織ハ法律ヲ以テ定ムルコトト致シテ居リマス、必ズシモ世間デ往々ニシテ誤リ傳ヘラレマスルヤウナ直接選擧デナケレバナラヌト云フ風ノ規定ハ設ケテ居リマセヌ、次ニ此ノ議員ノ任期ハ、衆議院ハ四年デアリ、之ニ對シテ參議院ハ六年トシテ三年毎ニ其ノ半數ヲ改選スルト云フコトニシテ居ルノデアリマス、此ノ參議院ヲ斯クノ致シマシタル趣旨ハ、參議院ノ組立ノ上ニ繼續性ヲ強クシテ、其ノ參議院ノ特質ヲ十分發揮セシメヨウトスル方針カラ生レテ居ル譯デアリマス、此ノ衆議院ト參議院トノ兩院ノ關係ニ付キマシテハ、幾多ノ點ニ於キマシテ衆議院ニ優越ノ地位ヲ認メテ居リマス、例ヘバ法律案ニ付キマシテハ、結局衆議院ガ三分ノ二以上ノ多數ヲ以テ再議決ヲスレバ、參議院ノ意思ニ拘ラズ法律ガ成立スルト云フヤウナ風ノ規定ヲ設ケテ居ルノガ其ノ一ツノ現レテアリマス、尚此ノ改正案ニ於キマシテハ現行憲法ノ認メテ居リマスルヤウニ、緊急勅令デアリマストカ、財政上ノ緊急處分デアリマストカ云フヤウナ特殊ノ場合ニ對應シマシテ、行政府ニ取ツテ便利デアリマス規定ヲ設ケテ居リマセヌ、唯國會閉會ノ間ニ生ジマシタ臨時ノ必要ニ付キマシテハ、其ノ都度臨時會ヲ召集シテ立憲的ニ適宜ニ措置スルト云フ方針ヲ抱イテ居ルノデアリマスガ、唯衆議院ノ解散中ニ於キマシテノ國ノ緊急ノ必要ガ起リマシタ場合ニハ、稍々特殊ナル考慮ヲ必要ト致シマスルノデ、參議院ノ緊急集會ト云フ規定ヲ設ケマシテ、解散中ニ於ケル不測ノ事態ニ對處シ得ル餘地ヲ設ケタ譯デアリマス、次ニ第五章ト致シマシテ内閣制度ノコトヲ申上ゲマスルガ、行政權ハ内閣ニ屬スルト云フ方針ノ下ニ、内閣ハ法律ノ定ムル所ニ依ツテ其ノ首長タル内閣總理大臣及ビ其ノ他ノ國務大臣ヲ以テ之ヲ組織スルト云フコトニシ、且内閣總理大臣ノ任命或ハ國務大臣ノ任命等ニ付キマシテ特別ナル規定ヲ設ケマシテ、現行憲法ヨリモ、其ノ箇々ノ點ハ別ト致シマシテ、大方針ニ於キマシテ議院内閣制タルノ實質ニ緊密ニ適合スル用意ヲ致シタ譯デアリマス、尚内閣ハ此ノ行政權ノ行使ニ付キマシテ國會ニ對シ連帯責任ヲ負フト云フコトニ致シマシテ、衆議院ニ於テ不信任ノ決議ヲ致シマシタ場合ニハ、衆議院ノ解散ト云フヤウナ手續ガ起ツテ來マスレバ別ト致シマシテ、然ラザレバ常ニ内閣ハ總辭職ヲシナケレバナラヌト云フコトニ定メマシテ、所謂議院内閣制度ノ主義ヲ此ノ點ニ於テ徹底的ニ採用シテ居ル次第デアリマス、ソレカラ司法權ニ付キマシテハ、司法權ハ最高裁判所及ビ下級裁判所ニ屬スルモノト定メマシテ、在來ノ行政裁判所ノ所管シテ居リマシタヤウナ行政裁判ハ、此ノ改正案ニ於キマシテハ司法權ノ作用ニ包括セシメルコトニ致シマシタ尚、特別裁判所ノ設置ハ認メナイコトトシ、綜合シテ國民ノ權利ノ保障ニ遺憾ナキヲ期シテ居ル次第デアリマス、特ニ最高裁判所ニ於キマシテハ、憲法ニ違反スル法令ヲ具體的ノ案件ニ伴ツテ審査シ得ル規定ヲ設ケマシテ、憲法裁判所的ナ機能ノ一端ヲ併セテ之ニ擔任セシメテ居ルト云フ風ニ規定シテアル譯デアリマス、尚此ノ最高裁判所ノ裁判官ノ任命ニ付キマシテハ國民ノ審査ニ付シマシテ、若シモ多數ノ反對投票ガアツタ者ハ罷免セラルヽコトニナルト云フ風ニ致シマシテ、是ハ全ク日本ニ於テ類例ヲ見ザリシ趣旨ノ考ヘ方ニ出ヅルモノデアリマスガ、最高裁判所ト國民トヲ直結スルト云フ點ニ於テ、特別ナル意味ヲ持ツテ居ルト考ヘテ居リマス、次ニ財政ノ點ニ付キマシテハ、此ノ憲法ノ草案ハ、規定ハ現行憲法ヨリモ稍々簡單ニナツテ居ルトモ言ハレマスルケレドモ、其ノ内容ニ於キマシテハ、寧ロ網羅的デアルト云フ風ニ定メテ居リマス、國ノ財政ヲ處理致シマスル權限ハ、國會ノ議決ニ基イテ之ヲ行使スベキモノデアルト云フ根本原則ヲ先ヅ最初ニ掲ゲマシテ、之ニ則ツテ各個ノ場合ニ應ズル所要ノ規定ヲ設ケマスルト共ニ、更ニ皇室財産ノ關係ニ付キマシテハ特別ナル規定ヲ設ケ、第八十四條ガ相當ハツキリシタ趣旨ヲ示シテ居ルノデアリマシテ、特ニ政府原案ニ現レテ居リマスル文字ニ依リマスレバ、「世襲財産以外の皇室財産は、すべて國に屬する」モノトスルト云フコト、「皇室財産から生ずる收益は、すべて國庫の收入とし」、同時ニ又、「法律の定める皇室の支出は、豫算に計上して國會の議決を經なければならない。」ト云フ風ニ定メタ譯デアリマス、次ニ地方自治ニ付キマシテハ現行憲法ニハ何等ノ規定ガナカツタノデアリマスルケレドモ、此ノ改正案ニ於キマシテハ、民主主義的政治ニ於ケル地方自治ノ根本ノ特色ヲハツキリセシメマスル爲ニ、新タニ一章ヲ設ケマシテ、地方公共團體ノ長其ノ他ノ者ニ付キマシテ、直接公選ト云フ途ヲ設ケ、又一ノ地方公共團體ノミニ適用アル特別法ニ付スル住民投票ノ制度ヲ定メタノデゴザイマス、次ニ第九章ハ憲法改正ノ手續ヲ設ケマシテ新タナル觀點カラ民主主義ノ原理ニ照ラシテ、適切ナル改正手續ヲ茲ニ定メタノデアリマス、尚第十章ニ於キマシテハ最高法規ニ關スル一章ヲ設ケマシテ、必要ナル規定ヲ茲ニ集メテ居リマス、斯樣ニ致シマシテ、改正案ハ衆議院ニ之ヲ提出シ、衆議院ノ御審議ヲ經タノデアリマスガ、御承知ノ如ク衆議院ニ於キマシテハ、幾多ノ箇所ニ於キマシテ修正ヲ加ヘラレテ居リマス、之ニ對シマスル政府ノ見解ニ付キマシテ、比較的重要ト思フ點ニ付テ申上ゲタイト存ジマスルガ、先ヅ前文ニ關シマシテハ多クノ文字ガ修正セラレテ居リマスガ、大體ハ文字及ビ表現ノ修正デアリマシテ、斯クノ如ク衆議院ニ於テ修正スルコトニ依リマシテ、憲法ノ前文タル體裁ヲ一層整備シ得ルモノト考ヘラレマシテ、謂ハバ修辭上ノ注意ヲ凝ラサレタモノト考ヘテ居リマス、政府ハ曩ニ本會議ニ於テモ述ベマシタヤウニ、政府原案ノ文章ガ、或程度ノ世ノ中ニ行ハレ得ル組立テト云ヒマスカ‥‥ヲ持ツテ居ルト云フ風ニ存ジテ居リマスルガ、其ノ實質ノ意味ニ於テ變ル所ガナク、箇々ノ點ニ於テ是正セラレル以上ハ、殊ニ此ノ前文ニ掲ゲテ居リマスル若干ノ點ニ於キマシテ、意味ガ一層明瞭ニナリ得ル、斯ウ云フ風ニ考ヘマシタノデ、同感ノ意ヲ表シテ居ル次第デアリマス、前文ノ中ニ於キマシテ此ノ政府ノ原案ノ中ニ「國民の總意が至高なものである」ト云フ字句ガアリマシタノヲ、衆議院ニ於キマシテハ「主權が國民に存する」ト云フ風ニ修正セラレ、是ト關聯シテ本文ノ第一條ニモ其ノ趣旨ノコトガ修正セラレタノデアリマス、是ハ世間ノ批評ニ於キマシテハ、何等カ特ニ重大ナル意味ガアルヤウニモ言ハレテ居リマスルケレドモ、私共ノ立場カラ申シマスレバ、特ニ重大ナル意味ガアルト云フコトハナクテ、政府ノ原案ノ意味ト全ク異ル所ガナイ、唯字句ヲ變フルコトニ依ツテ、直感的ニ世間ノ考ヘ方ヲハツキリサセ得ルト云フ利益ガアルト思ツテ居ルノデアリマス、第一章ニ於キマシテハ第六條ニ第二項ガ追加セラレタト云フ修正ガゴザイマス、詰リ最高裁判所ノ長タル人ノ任命ノ手續デアリマス、是ハ要スルニ最高裁判所ノ地位ガ高イト云フコトヲ一層明カニスル趣旨デアリマシテ、三權ノ一タル司法權尊重ノ趣旨ニ外ナラヌモノト存ジテ居リマス、第二章ノ第九條ノ修正ハ、我ガ國ガ戰爭抛棄、軍備撤廢ヲ決意致シマシタ其ノ精神ヲ更ニ積極的ニ明カニシヨウトスル意圖ニ出デタルモノト了解シテ居リマス、此ノ趣旨ハ既ニ前文ノ中デモ遺憾ナク示サレテ居ルトハ存ジマスケレドモ本文ノ中デモ更ニ之ヲ明示スルコトヲ又適當ナルコトト考ヘテ居ル次第デゴザイマス、第三章ノ中ニ於キマシテハ、其ノ冒頭ニ、「日本國民たる要件は、法律でこれを定める。」ト云フ一箇條ガ挿入セラレ、又第三十條ニ納税ノ義務ノ規定ガ附加セラレタノデアリマス、原案ニ於キマシテハ是等ノ事柄ハ特ニ規定ヲ設ケル迄モナイト云フ考デアツタノデアリマスルガ、衆議院ニ於テハ是等ノ規定ガ憲法タルノ體裁ヲ整ヘル上ニ於テ必要デアルト云フ見地カラ行ハレタモノト考ヘテ居リマス、第三章ニ於キマシテハ其ノ他若干ノ修正ガ加ヘラレマシタガ、公務員ノ不法行爲ニ依ル損害ニ對シテ、國及ビ公共團體ニ其ノ賠償ヲ請求スル權利ヲ國民ニ認メラレル規定ガ第十七條ニ設ケラレテ居リマス、又罪ナクシテ處罰ヲ受ケタ、所謂寃罪ノ場合ニ於キマシテ、國民ガ補償ヲ受ケル權利ヲ認メタ規定ガ第四十條ニ示サレテ居リマス、是等ハ孰レモ第三章ノ持ツテ居ル根本精神デアリマスル所ノ、國民ノ權利ヲ徹底的ニ保障スルト云フ趣旨ヲ、此ノ特殊ノ場合ニ於テ、更ニ明カニスル趣旨デアルト考ヘテ居リマス、是等ノ規定ノ内容トスル所ハ、第三章ノ全體ノ精神カラ申シマシテ、方針トシテハ原案ニ於テ既ニ承認シテ居ル所ト思フノデアリマスガ、之ヲ更ニ的確ニ明記セラレタノデアリマシテ、斯樣ナ考ヘ方モ尊重スベキモノデアルト存ジ同感致シテ居ル次第デアリマス原案第二十三條ノ修正ニ付キマシテモ、又第五章ノ中ノ内閣總理大臣及ビ國務大臣ノ資格ニ關スル原案第六十三條及ビ第六十四條ノ修正ニ付キマシテモ、同ジク此ノ憲法草案ノ持ツテ居リマスル根本思想ヲ具體化サセタト云フ趣旨デアルト存ジ、同感ヲ致シテ居ル次第デアリマス、第七章ノ中ニ於キマシテ、此ノ原案第八十四條ノ皇室財産ニ關シマスル規定ニ付キマシテハ、恐ラクハ御承知ノヤウニ、衆議院ニ於キマシテ種々混ミ入ツタ經緯ガアリマシテ、其ノ後ニ修正セラレタノデアリマスルガ政府モ此ノ問題ニ付キマシテハ特ニ愼重ニ考慮シナケレバナラナイト存ジテ居ル次第デアリマス、原案第八十四條ノ意味、及ビ衆議院ノ修正ノ意味ハ、私共ガ前カラ理解シテ居リマスル點ニ付キマシテハ、本會議ニ於キマシテ佐々木博士ニ對スル御答辯ノ中デモ申述ベマシタガ、更ニ是ハ此ノ委員會ニ於キマシテ、此ノ條文ノ御審議ノ際ニ尚詳シク御説明ヲ申上ゲタイト存ジテ居リマス、要スルニ此ノ衆議院ノ修正案ハ實際上ノ結果ニ於キマシテハ、全體トシテ政府ノ原案ガ企圖致シマシタ所ト大差ハナイ、但シ大差ガナイト云フコトハ、良クモナラズ惡クモナラナカツタト、斯ウ云フ意味デハナクテ、政府ノ考ヘテ居リマシタ趣旨ガ、或程度ニ於テモツトハツキリ具體化セシメラレタ部分ガ多イノデアリマシテ、其ノ意味ニ於キマシテハ尊重スルニ足ル點ガアルト考ヘテ居リマス、尚以上申上ゲマシタ他ニ若干ノ條項ニ付キマシテ修正ガ加ヘラレテ居リマスルガ、ソレハ茲ニ取立テテ申上ゲマセヌデ、其ノ時々ノ御質疑ニ應ジマシテ、所見ヲ申上ゲタイト存ジテ居リマス
○川村竹治君 私ハ議事進行ニ付テ發言致シタイト思ヒマス、宜シウゴザイマスカ‥‥私ハ此ノ憲法草案ヲ審議スルニ當リマシテ、參議院構成ニ關スル法律案解釋、若シクハ其ノ要項ヲ知ルコトガ極メテ必要ダト思フ、就キマシテハ此ノ際政府ニ於カレテハ、右草案又ハ要項ヲ責任ヲ以テ至急ニ決定サレマシテ、サウシテソレヲ此ノ委員會デ示サレタイト希望スルモノデアリマス、從ツテ委員長ニ於カレテハ政府ニ然ルベク御交渉ヲ願ヒタイト思フノデアリマス
○國務大臣（吉田茂君） 此ノ間本會議ニ於キマシテ申述ベマシタ通リ、折角政府デハ參議院ノ構成ニ付テハ研究致シテ居リマス、又法制審議會ノ意見等モ十分參酌致シマシテ、遺漏ナキコトヲ期スル爲ニ、政府ニ於キマシテモ色々研究致シテ居リマスルガ、今日ノ所ハ審議會カラハ中間報告ガ出タ程度デアリマシテ、成ルベク早ク提出シタイトハ考ヘテ居リマスケレドモ、マダ其ノ運ビニ至ラナイノハ甚ダ遺憾デゴザイマスガ、サウ云フ次第ニナツテ居リマス
○山田三良君 私ハ‥‥
○子爵大河内輝耕君 私ハ通告シテ居リマスノデ‥‥
○山田三良君 今ノ問題ニ牽聯シテ居リマスカラ
○子爵大河内輝耕君 通告致シマシタカラ‥‥私ハ此ノ際材料ヲ請求致シタウゴザイマス、本案ヲ通覽致シマスルト、斯ウ云フコトハ法律ヲ以テ之ヲ定ムト云フ條項ガ大分澤山ゴザイマス、之ニ付キマシテ、若シモ出來マスナラバ、此ノ法律案ノ要項ヲ御提出ヲ願ヒタイ、若シソレガマダ御審議中デゴザイマスナラバ、此ノ間參議院ノ參考書ガ出マシテ、コンナ問題ガアル、アンナ問題ガアルト云フコトダケ書イテアリマスガ、アンナ程度デ澤山デゴザイマスカラ、結構デゴザイマスカラ、其ノ程度デ宜シウゴザイマスカラ、ドウゾ之ニ付テ法律ヲ以テ決メルト云フコトヲ書イタモノニ付テハ、サウ云フヤウナモノヲ、大體ノコトヲ示シタモノヲ私ハ御提出ヲ願ヒタイ、ソレカラ尚此ノ憲法ノ附屬法規デ重要ナ法規ガ、變リマス法規ガザイマスノナラバ、ソレノコトモ矢張リ斯ウ云フ風ニ變ヘル積リダ、或ハ斯ウ云フ風ニ變ヘルト云フ問題ガ審議中デアルト云フコトダケデ宜シウゴザイマスカラ、是モ御提出ヲ願ヒタイ、ソレダケ御願ヲ致シテ置キマス
○國務大臣（吉田茂君） 御參考ニナル資料ハ成ルベク速カニ、又御要求ニ應ジマシテ、御遠慮ナク御要求ヲ戴ケバ、政府ト致シマシテハ努メテ參考資料ヲ差上ゲル考デアリマス
○子爵大河内輝耕君 有難ウゴザイマス
○山田三良君 只今川村委員カラノ御發議ノ通リデ、同ジコトデアリマスケレドモ、政府デハ愼重ニ御考ニナルト云フノデ、今御熱心ニ御研究中トノコトデアリマスガ、我々ト致シマシテハ、其ノ規定ガドウナルカト云フコトニ依リマシテ、此ノ憲法第三十九條以下ト云フモノニ修正ヲ加フベキカ、加フベカラザルカト云フ、我々ト致シマシテハ大問題ガ引ツ掛ツテ居ルノデアリマシテ、若シ此ノ委員會ガ終了シタ後デサウ云フ法案ガ出ルト云フコトニナリマスト、此ノ委員會ト致シマシテハ、立場ヲ失ツテシマフ虞ガアリマスカラ、私ハドウシテモ第三十九條ノ審議ニ議事ガ進行スル迄ノ間ニ、政府トシテハ參議院法案ヲ御準備下サツテ、御提出ニナルコトヲ希望致シテ置キマス、是ハ色々御熟考ノ時デハナイノデアリマス、目前ニ我々ガ審議シテ居ル時代デアリマスカラ、其ノ點ヲ御汲ミ取リ下サイマシテ、成ルベク速カニ御起案ヲ願ヒマス
○國務大臣（吉田茂君） 只今ノ處政府ニ於ケル審議ノ程度ハ、先程申上ゲタ程度ニ御答ヘスルヨリ仕方ガナイノデアリマスガ、御希望ハ十分了承致シマシテ、御希望ニ成ルベク副フヤウニ致シマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ議事ノ進行ニ關スル御意見ハ是デ打切リマシテ、愈々質疑ニ移リマス
○野村嘉六君 私ハ總理大臣ニ質問致スノハ、最モ重要ナル國體問題デゴザイマス、國體問題ニ付キマシテハ、衆議院デモ幾多議論ガアリマシタ、又世上ノ學者、識者モ相當ノ意見ヲ發表シテ居リマス、併シナガラ未ダニ是ナラバ的確ナリト信ズルヤウナル意見ヲ見マセヌ、即チ具體的ニ申シマスルト云フト、國體ガ「ポツダム」宣言竝ニ主權在民、是等ノ問題ニ牽聯シテ、サウシテ國體ガ變革サレタト云フ意見ト、從來通リ日本ノ國體ハ變革サレテハ居ナイト、此ノ兩論ガ相對立シテ居ルノデアリマス、此ノ點ニ付テ總理大臣ノ意見ヲ伺ヒタイノデアリマシテ、ソレニ先立チマシテ私ノ意見ヲ參考ノ爲ニ申上ゲタイト思フノデアリマス、私ハ結論カラ申シマスト、日本ノ國體ハ斷ジテ變革サレテ居ナイ、斯ク申上ゲタイノデアリマス、國體ノ成立條件ハ、申ス迄モアリマセヌ、國土、國民、天皇デアル、議論ニナツテ居ルノハ天皇問題デアル、天皇ノ權限ト申シテ宜イカ、或ハ權力ト申シテ宜イカ、其ノ權限ガ時代ニ依ツテ消長ヲ來スコトハアリマス、併シナガラ、消長ハ來シマスガ、決シテ天皇ト云フモノ自體、國體ヲ構成スル一分子ヲ成シテ、確乎トシテ動カヌモノデアルト信スルノデアリマス、時代ニ依ツテ變更スルト云フコトハ、曾ツテ將軍政治ノ時代ノ如キハ、全ク天皇ニハ權力ハナカツタ、唯虚位ヲ擁シテ居タノミデアル、併シナガラ、ソレヂヤト云ウテ、別ニ日本ノ國體ガ變革シタトハ私ハ見ルコトハ出來ナイ、日本ノ國體ハ矢張リ天皇、國民、國土ニ依ツテ構成サレテ居ルノデアル、斯ウ信スル次第デアリマス、唯一時ノ權力ト申シマスカ、政治ノ勢ヒト申シマスカ、其ノ時ニ依ツテ消長ガアレバトテ、直チニ以テ國體ハ天皇ヲ除クト云フモノデハナイト思フ、ソレデアリマスルカラ、私ハ當然國土、國民、天皇ヲ包含シタ構成分子ガ日本ノ國體ヲ成シテ居ルモノナリト信ズルノデアリマス、處ガ、先ニ申シマシタ通リ、今日デハ天皇ノ權力ガ國民ニ移ツタ、從ツテ茲ニ於テ天皇廢スベシ、天皇ヲ廢スルモノデアルト云フヤウナ議論モ出テ居ル、ケレドモ私ハ決シテサウ云フモノヂヤナイ、過去ノ歴史ニ於キマシテモ、時ニ依ツテ消長ハアルベキデアツテ天皇自體ト云フモノハ神武天皇御即位以來三千年連綿トシテ皇位ヲ繼承シテ來テ居ルノデアル、是ハ爭ヘナイ事實デアル、歴史デアル、此ノ歴史ヲ抹殺シテ、サウシテ天皇ヲ廢スルトカ云フヤウナ議論ハ、國體論ニ關スル國體觀念カラ申シマスト、全ク其ノ當ヲ失シタモノト信ズル次第デアリマス、斯カル次第デアリマスカラ、私ハ日本ノ國體ハ變革ナシ、殊ニ昨年ノ八月ノ十四日發布サレタ詔勅ニ依ルト、朕ハ國體ヲ護持シ得テ忠良ナル爾臣民ト共ニ在リトアリマス、是ハ天皇ノ御聖意デアル、ソレカラ又「マッカーサー」元帥ノ今年ノ三月六日ノ聲明ヲ見マスルト、皇位ヲ殘存セシメテ統治力竝ニ國有財産ヲ所有セズ、サウ云フ意味ノコトガ書イテアル、サウスルド云フト、「マッカーサー」元帥カラノ意見ヲ見レバ皇位ヲ存續セシメテトアル、皇位ヲ存續セシメルノハ何デアルカ、皇位ハ天皇デアル、天皇以外ニ皇位ハナイ話デアル、サウスルト、「マッカーサー」元帥ノ意見モ矢張リ皇位ノ存續ダト、ソレカラ又日本ノ天皇ノ意見モ國體ヲ護持シ得テ忠良ナル爾臣民ト共ニ在リト、是等ノ點カラ見マシテ、所謂天皇ガ國體ヲナシテ居ルト云フコトハ私ハ十分デアラウト思フ、殊ニ單純ノ學理ト理論闘爭ダケデ政治ハ出來ナイノデアル、殊ニ太平ノ時ナラバ、ソレハ机上ノ空論モ宜シイ、博學ヲ衒フモ宜イコトデアリマスケレドモ、今日ノヤウナ三千年來ナイ危機ニ接シテ、殆ド亡國トナル迄行ツタ此ノ日本ハ、日本人トシテハ徒ニ論理ダケヲ闘ハスル時代デハアリマセヌ、ドウシテモ實地ニ即シテサウシテ見ナケレバナラヌ、一體先達テ中憲法案ガ衆議院ニ上程サレタ以來、色々偉イ人方ノ高説ヲ拜見致シマシタ、傾聽スベキモノ頗ル多シ、併シ遠慮ナク申スト云フト、稍々理論ニ傾キ過ギテ居ヤセヌカト思フノデアル、私ハ始終斯ウ思フ、政治、殊ニ國家ノ基本ヲ定メル憲法ノ如キハ政治中ノ政治ノ重大問題デアル、何處ヲ目安ニスルカト云ヒマスレバ、言葉ハ平凡デアルガ、治國平天下、即チ天下國家ヲ治ムルト云フコトヲ生眼ニシテ、サウシテ憲法ヲデカサナケレバナラヌ、拵ヘナケレバナラヌ、斯ウ云フ風ニ存ズルノデアリマス、勿論理論闘爭モ結構デアル、ナクテハナラナイガ、ソレヨリモ一層重大ナノハ治國平天下、國ヲ治ムルト云フコト、此ノ眼點ニ一層力ヲ注イデ、サウシテ根本法ヲ定ムルニアリト斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス、私ハ斯ウ云フ考カラ、第一ニ總理大臣ニ御伺ヒ致スノハ、三千年來即チ神武天皇以來日本ノ國體ハ決ツテ居ルノダ、理論デハナイ、事實デアル、此ノ事實ニ付テ、私ノ意見通リデアリマスカ、ドウデアルカト云フコトヲ伺ヒタイ、但シ先ニ申上ゲマシタ通リニ、唯天皇制ト云フコトニ付テハ時勢ノ推移ニ伴ウテ、サウシテ變化ガアツタ、ソレハ變化ガアツタト云フダケデ、天皇其ノモノハソレハ國體ノ一構成分子トシテ儼トシテ存スルノデアルカラシテ、ソレデ綜合的ニ見タナラバ、日本ノ國體ニ變動ナシ、斯ウ云フ私ハ考ヲ持ツテ居リマス、是ガ果シテ適當デアリマスカ、又ソレハ間違ツテ居ルカドウカ、總理大臣カラ御答辯ヲ願ヒタイノデアリマス
○國務大臣（吉田茂君） 野村委員ニ御答ヘ致シマス、政府トシマシテハ國體ニ變化ナシト云フ觀點カラ此ノ憲法ヲ起草致シマシタノデアリマス、又即チ日本天皇ヲ中心トシタ日本國家ノ構成ニハ新憲法ニ於テモ全然違ツタ考ハナイト云フ觀念ヲ以テ此ノ憲法ヲ起草致シマシタノデゴザイマス
○野村嘉六君 只今ノ御答辯ニ於キマシテ、國體ノ變化ナシト私ガ多年心配ヲシテ居タ點ガ、時ノ總理大臣ニ依ツテ明瞭ニ茲ニ闡明サレタト云フコトハ誠ニ喜バシイ話デアリマス、更ニ進ミマシテ、然ラバ其ノ國體ヲ成ス天皇ニ對スル意見ニ對シテ、先ニ申シタ通リニ動トモスルト云フト天皇ハ必要ナシト云フヤウナ議論ヲスル人ガアル、私ハ是ハ以テノ外ダト思フ、私ノ考デハ日本ノ國ハ天皇アツテ初メテ茲ニ國家ガ安泰ニ行クモノナリト思フ、其ノ點ハ意見トシテ申上ゲテ置キマス、ト云フノハ御承知ノ通リニ、遠イ昔ノコトハ申シマセヌ、近ク茲五六十年ノ間ニ於キマシテモ、國家ノ重臣トカ、乃至ハ權力アル人ガ隨分殺サレタリ、不幸ナ場合ニ立至ツタ人ガ多イノデアリマス、併シナガラサウ云フ不祥事ガアリマシテモ、日本ノ國體、日本ノ政體ニハ徴動ダモ影響致シマセヌ、不祥ヲ蒙ツタ人ハ是ハ氣ノ毒デアル、又一部ノ國家的ニ見テモ不利益ハアルニ相違アリマセヌガ、根本タル日本ノ國體、政體ニハ私ハ影響ナシト信ジマス、是ハ何ノ爲デアリマスカ、斯ウ云フト、茲ニ天皇制ガアツテ、サウシテ天皇ガオイデニナツテ國ヲ治メナサルカラ、縱シヤ政治ヲ執ル一部ノ人ガ間違ツテ、サウシテ不幸ナコトヲ出カシテモ、天皇自體ニハ關係ガナイカラ、ソレデ安泰ニ行ケルモノナリト思フ、若シ是ガデス、天皇ガナイト、天皇ヲ廢スル、惡イ譬ヘデアリマスケレドモ、サウナツタラバドウナリマセウカ、諸君ノ御承知ノ通リニ、歴史ヲ見レバ、易姓革命、又場合ニ依ツテ禪讓放伐ノ事實ヲ見ルコトガアル、言ウテ見マスルト云フト、日本ノ國ハ紊亂紊亂、亂レテ収拾ノ出來ナイ結果ヲ出カスカモ知レマセヌ、唯茲ニ天皇ト云フ一ツノ嚴乎タル據リ所ガアル爲ニ、假令一部ノ重臣ナリ權力者ガ不幸ナルコトガアリマシテモ、日本全國トシテハ微動ダモセヌノハ、茲ニ天皇ノ有難サガアルノデアリマス、ソレデアルカラシテ私ハ天皇ニ依ツテ國ガ治マルト云フコトハ有難ク感ジツヽアル次第デアリマス、私ハ此ノ點ニ對シテ、ドウシテモ國ヲ治ムル上ニ於テ最モ必要ナルモノハ天皇ナリト、斯ウ信ズルコトヲ重ネテ申上ゲテ置クノデアリマス、然ルニデス、天皇廢止ナドト云フ論ヲ爲ス人ハ何處ニ論據ガアルノカ、私ニハ分ラヌ、政治ハ事實デアル、事實ヲ根據ニシテ、サウシテ推理スルヨリ外ニ途ハナイ、處ガ、今申シマス通リ、事實ヲ根據ト致シタナラバ、何トシテモ日本ノ天皇ハ之ガ國ヲ治メ、三千年來今日我々ノ祖先ヨリ又將來我々ノ子孫ニ至ル迄、安泰ニ生活シ得ル原因ナリト信ズルノデアリマス、更ニ私ハ斯ウ云フコトヲ思フ、ドウモ何處ノ國デモ衿持ト云フモノガアル、ソコニ所謂必要ナル人間性ト云フモノノ味ガ出ルノデアリマス、此ノ衿持ハ日本ニ於テハ何カ、具體的ニモ申サナケレバナラヌ、御承知ノ通リ生産物資ノ大キイ所ダケ二ツ三ツ掴ンデ申シマスガ、第一日本ノ國ヲ發展シ日本ヲシテ最モ安泰ナラシムル活動力タル生産物石炭ニ付テ見マセウ、大體一年ニ日本ニ於テ消費スル石炭ガ約三千萬「トン」デアル、是デ始メテ總テノ生活其ノ他ノ仕事ヲスル原料ニ供給サレル、處ガ實際ニ於テ石炭ガ幾ラ日本ニ於テ生産サレルカ、斯ウ云フト約二千萬「トン」デ一千萬「トン」ハ足ラナイノデアリマス、石油ハドウダ、斯ウ申シマスト、石油ハ御承知ノ通リニ約三百萬「トン」、處ガドレダケ出來ルカト云フト、漸ク三十萬「トン」、鐵ハドウダ、鐵ハ是ハ正確ナ數字ハチヨツト確カナコトハ言ヘマセヌガ、是モ彼此レ三千萬「トン」程必要デアルニ拘ラズ、漸クニ千萬「トン」程度ダケデアル、若シ夫レ我々自カラ誇ツテ居ル瑞穗ノ國ト稱シテ、サウシテ人ニモ誇リ、又他國ニ對シテモ申シテ居ル食糧デアル、瑞穗ノ國ト稱シテ御承知ノ通リノ米デアル、時間ノ都合上詳シイコトハ申シマセヌガ、年々足ラナイ所ヲ輸入ニ俟ツテ漸クニ凌イデ居ルノデアリマス、斯ク致シマスト所要ノ衣食住ヲ補フ、人間ノ必要ナルモノハ殆ド足ラナイモノバカリデアル、唯此處ニ我々ハ世界各國ニ對シテ公然トシテ誇リ得ルモノ、即チ衿持シ得ベキモノハ天皇制ダケデアル、「エチオピア」ハ嘗ツテハ世界第一ノ國體ヲ擁スル國ダト云ツテ居リマシタガ、併シ彼ノ國モアノ通リノ始末ニナツタ、サウスルト云フト、世界中デ日本ダケデアル、三千年來此ノ立派ナ天皇ヲ擁シ來タ天皇ヲ善イトカ、惡イトカ、要ルトカ、要ラヌトカ云フコトハ、私ハ唯慨嘆ニ堪ヘナイノデアリマス、確カ「フランス」ノ諺デアリマシタカ、「祖國ノ光榮何モノカ之ニ及バム」ト云フテ居リマス、國ヲ指スノハ惡イカモ知レマセヌガ、他國ニ於テハ他國ソレゾレ其ノ國ノ誇ヲ持ツテ誇トシテ居ルノデアル、サウシテ日本ハ唯一ノ誇リ得ベキ此ノ日本ノ天皇ヲ、ソレガ善イトカ惡イトカ言フニ至ツテハ沙汰ノ限リナリト、斯ウ信ズルノデアリマス、私ノ見ル所ニ依レバ、是ハ例ヘデアリマスガ、日本ノ國ノ安泰ニ治マツテ、日本國體自身ガ第二ノ日本國民性ヲナシテ居ル原因ハ、丁度北斗星ガ、御承知ノ通リニ北斗星ノ性質ハ動カナイノデアル、他ノ澤山ノ星ガ動クノデアル、サウシテ北斗星ニ向ツテ行クノデアル、此ノ北斗星ニ向ツテ共ニ光ヲ發シテ居ルノデハアリマスガ、此ノ共ニ光ヲ發シテサウシテソレゾレ機能ヲ發揮シテ居ルノト同ジコトデ、サウシテ其ノ中デ北斗星ダケガ動カズニ牢固トシテ其ノ地位ニ坐ツテ居ルノデアル、私ハ日本ノ天皇ト云フ不動ノ地位ニ居ラレル、此ノ御方ヲ主星ト例ヘ、諸々ノ星ト共々ニ世界ヲ照ラス、ソレト同ジヤウナ立場ニアルノデハナイカト思フノデアリマス、私ハ斯ウ云フ意味カラシテドウシテモ天皇制護持ハ必要ナリ、斯ウ思フノデアリマス、一體此ノ憲法改正ハ、之ニ付テ名論モ澤山アリマスガ、私ハ總テノ人ノ意見ヲ拜見シテ見ルニ、矢張リ眞理ト云フモノハ古今同ジモノデアル、古今ヲ通ジテサウ變ハルモノデナイト云フノハ、今カラ確カ千百年前デアツタカ、其ノ月日ハチヨツト間違ツテ居ルカモ知レマセヌガ、アノ聖徳太子ノ憲法十七箇條、アノ十七箇條ヲ見マシテモ、僅カ十七箇條デアルガ、第一條ニハ、「和ヲ以テ貴シ」ト書イテアル、第一條ニアリマス平和主義デナケレバナラヌ、千年前ニ矢張リ國ノ根本ヲ治メルニハ平和デナケレバナラヌ、斬ツタリ張ツタリシテハイカヌ、此ノ意味ヲ表シテ居リマス、サウスルト云フト眞理ト云フモノハ古今ヲ通ジテ變ラヌモノナリト自分ハ思フ、サウシテアノ第二條ニ御承知ノ通リニ宗教、アレハ聖徳太子ノ第二條ノ宗教ニ對スル問題ハ佛教ヲ主體ニシテ居ル、其ノ後ノ條文ハ道徳ニ關スル問題デアリマス、最後ノ十七條ニ至ツテハ、是ハ大事ハ與ニ衆ト計ルベシト云フコトヲ書イテ居ル、詰リ今日ノ國會ト同ジコトデアル、獨斷シテハイカヌ、斯ウ云フノデアリマス、サウシテ總テヲ通ジタ觀念ニ於テハアレハ道徳律デアリマス、所謂支那デ謂フ王道政治ノ根本デアル、私ハ今度ノ憲法ヲ見マシテモ色々其ノ點ニ言ヒ及ンデ居ラレルノデ、從來ノ高等文官試驗ヲ受ケル時ニ法律一點張リデ、サウシテ制裁法ナンカヲ極端ニ研究シテ、ソレニ依ツテ世ノ中ニ出ル階梯ニシタ有樣ト違ヒマシテ、此ノ憲法ハ決シテ制裁法規ダケデハイカヌ、道徳律ヲモ含ンデ、サウシテ拵ヘナケレバイカヌト云フ立場カラ、偶然ニモ千年前ノ聖徳太子ノ憲法ト、今度御拵ヘニナツタ、今審議中ノ憲法モ誠ニ相似タ點ガアルノデス、唯日本ハ現在只今ノ場合デハ、國亡ビテ山河在リト云フヤウナコトモナイガ、兎モ角モ國ガ亡ビムトスル所迄行キ詰ツテ居ル日本ノ國ノ有樣デアリマス、斯ウ云フ場合デアリマスカラ、太平ノ時ト違ツテ、此ノ場合國ヲ救フ最モ適切ナル法律ヲ作ルト云フコトハ私ハ當然タト思フノデアリマス、サウシテ制裁法規ノミデナク、矢張リ道徳律モ包含シテ居ル意味ヲ、此ノ草案ノ條文ヲ見ルト云フトアルノデアリマス、誠ニ結構ナコトト私ハ信ズルノデアリマス、ソレデ曩ニ申シマシタ通リドウシテモ天皇制必要ナリ、論ヨリ證據御承知ノ通リ昨年ノ八月十四日、ドウデアリマシタ、私ハアノ時ニ若シモ天皇ガ居ラレナカツタラドウデアルカ、畏多イ話デアルガ、私ハ昭和ノ天皇ノコトニモ言及致シマス、昭和ノ天皇ハ非常ニ勇氣ガアル、勇氣ガアツタト云フコトハ宮城前ニハ世ヲ憤ル良民共ガ、三十何人カ腹ヲ切ツテ斃レタノデアリマス、アノ時ニ餘程勇氣ノアル人デナケレバ、ナカナカ後始末ハ出來ルモノデモナイノデアリマス、サウシテ各國ノ樣子ヲ見レバ、各國ノ想像シテ居ル所デハ、或ハ一揆暴動ガ起リハシナイカ、血ナクシテ治マルモノデハナイト、斯ウ云フ風ナ觀察ヲシテ居タ人モ多カツタト云フコトモ聞イテ居リマス、餘程勇氣ガナケレバ出來ナイ、サウシテ此ノ勇氣ノ發露ハ遂ニ無條件降伏トナツタノデアリマス、此ノ無條件降伏ハ大英斷デアリマス、アノ場合ニ軍艦ガ一ツモ無クナツテシマツテ居ル、總テノモノガ無クナツテシマツテ居ル、謂ハバ亡國ノ立場デアル、アノ時ニ、大英斷ヲヤル外ニ途ガナイ、サウシテ天皇ガ、朕ハドウナツテモ宜イ、ドウナツテモ宜イガ、ドウカ國民ニ困難ヲ來タサズニ、ドウカ國民ヲ救ヒタイト、此ノ最モ慈悲ノ御言葉ハ、遂ニアノ英斷ヲ遊バサレタノデアリマス、政治的ニ見タナラバ、アノ無條件降伏、アノ大英斷コソハ、再建日本ガ立上ル礎トナツタ、即チ八月十四日ノアノ天皇陛下ノ大英斷ガ、日本ノ國ノ再建ノ基ヲ爲シタ、私ハサウ固ク信ジテ居リマス、ソレデアリマスカラシテ、私ハ後世ノ歴史家デ聰明ナ人ガアツタナラバ、昭和ノ天皇ハ英主ナリト稱讃スルデアラウ、總テニ通ズル立派ナ歴史家ハ、必ズサウ云フ評ヲ下スモノナリト、斯ウ思フノデス、其ノ後幸ヒ終戰後ニ「アメリカ」ノ好意、其ノ他聯合國ノ好意ト相俟ツテ、サウシテ飢餓ニ迫ツテ居ル日本人ニ食糧ヲ贈ラレ、サウシテ今日ニ至ツテ居ルノデアリマシテ、其ノ點ノ「アメリカ」ノ行爲ハ實ニ寛容デアル、私ハアノ寛容ナル態度ヲ見テ、我々ハ痩我慢ハシテ居ルケレドモ、肚ノ中ニ我々モ人間トシテアノ寛容ナル態度ヲ學バナケレバ駄目ダ、イヤ斯ウ云フ點コソハ大イニ改良セナケレバナラヌト、斯ウ云フ感ジヲ深ク起シテ居ル次第デアルノデアリマス、私ハアノ陛下ノ英斷、勇氣、實ニ偉イ、併シ暴虎馮河ノ勇氣デハナイ、眞ニ民ヲ救フニ至仁至勇ノ勇氣デアル、暴虎馮河ノ勇氣ヲ出シテ國ヲ誤リタ人間モ世ノ中ニ居ル、併シ何者ガ暴虎馮河ノ勇氣ヲ出シテ國ヲ誤ツタカハ、ソレハ私ハ言ハナクテモ、賢明ナル諸君ハ自然ニ御悟リニナルコトト、斯ウ信ズル次第デアルノデアリマス
○委員長（安倍能成君） 成ルベク憲法問題ニ即シテ‥‥
○野村嘉六君 分リマシタ、ソコデ私ハ又他ノオ方々ノ御都合モアルデアリマセウカラシテ、先ヅ先ニ申上ゲマシタ通リニ、總理大臣カラ日本ノ國體ニ變更ナシト云フ御言明ヲ得マシタカラ、私ハ非常ニ滿足ニ存ズル次第デアリマス、ソレヂヤ簡單ニ申シマス、委員長、ソレヂヤ簡單ニ申シマス
○委員長（安倍能成君） 簡單ニ‥‥
○野村嘉六君 ソレカラ私ハドウシテモ日本ノ國ハ、木カラ落チタ猿ト同ジコトデアル、川カラ上ツタ河童ト同ジコトデアル、之ヲ建直シヲシテヤルニハ、何トシテモ教育ヨリ外ニナイ、將來ノ日本ヲ建直シテサウシテ立派ニスルニハ私ハ教育ヨリ外ニ途ハナイト、斯ウ信ズル、ソコデ私ガ質問ヲスルノハ、第二ノ日本ヲ造ルノハ青年デアル、之ヲ教育スルノガ最モ必要デアル、私ハ教育ニ對スル方針トカ、抽象的ナコトハ申シマセヌ、唯大局カラ申シマスト云フト、何ガ故ニ三千年來ナイ失敗ヲ來シタカ、斯ウ申シマスルト云フト、是ハ所謂驕慢デアル、驕リデアル、自己滿足デアル、言葉ヲ換ヘテ言フト、優越感デアル、俺程偉イモノハナイ、世界ノ人ハ馬鹿デアル、日本ノ國人ダケガ偉イノデアルト、此ノ優越感ガ遂ニ總テヲ妨ゲタノデアル、モウ自分ダケ偉イモノトナツタ以上ハ、物ニ於キマシテモ亦物資、總テノコトニ於テモ、俺ノ國ハアノ國ヨリ多イノデアル、俺ノ國ハアノ國ヨリハ品物ヲ澤山持ツテ居ルノダ、俺ハアノ國ノ人ヨリ知識ガアル、俺ハアノ國ノ人ヨリハ發明力ガアル、學問ガアル、斯ウ云フ優越感自惚レ、是ガ高ジテ高ジテ遂ニ今日ノ悲境ヲ來タシタノデアル、名前ハ忘レマシタガ、ドナタカ知ラヌガ、何ト云フ人カ知ラヌガ、竹槍三千本デ戰サヲ解決スルコトガ出來ルト言フタト云フ話デアリマス、不幸ニシテ私ハ其ノ人ノ名前ハ聽キマセナカツタ、サウ云フ風ナ心掛ケデ居ル人モアツタサウデアリマスカラシテ、是等ガ抑々日本ヲ誤ラセタ原因デアル、孔子モサウ言ウテ居ル、驕リ且吝ナラシメバ周公ノ美アリト雖モ敢テ論ズルニ足ラズト言ツテ居リマス、アノ周公デスラモ、アレガ若シ驕リ根生、驕慢ノ心アツタナラバ、モウ周公デモ何デモナイ、アレハ論ズルダケノ値打ガナイノダ、斯ウ孔子ガハツキリト言ツテ居ル、處ガ日本人ハ、周公ノ美ガアル譯デハナシ、十分勉強モセズ研究モセズニ、サウシテ自ラ、夜郎自大、高ブツテ居ル、是ガ抑々今日ノ失態ヲ來シタ所以デアルト思フ、併シ之ヲ矯正シ直サウトシタ處デ、ソレハナカナカ一年ヤ二年デハ直ルモノデハアリマセヌ、是ハ何トシテモ相當ノ歳月ヲ經ナケレバナラヌ、人間ノ相當ノ歳月ヲ經ナケレバナラヌ、人間ノ謂ハバ性格ヲ鍛ヘ直スノデアル、文部大臣ハ御苦勞デアリマスガ、誠心誠意ドウカ此ノ國民ノ惡イ優越感ヲ矯正スルヤウニ、力ノ限リ一ツ矯正シテ貰ヒタイ、私ハ斯ウ云フ風ニ思フ、サウシナケレバドウシテモ日本ガ建直ラヌ、我々ハモウ年ガ行ツテ居リマス、今年ハ七十三ダ、餘命左程ニナイト自分デハ思ツテ居ルケレドモ、此ノ日本ヲ如何セン、此ノ日本ヲ放ツトイテ、是デ我々ハ子孫ニ對シテ義理ガ盡セルカ、我々ハドウデモ宜イガ、子孫ニ對シテドウシテモ立派ニ義理ヲ果サナケバナラヌ、ソレニハ今言フ、將來ハ教育デアルト言フテ、是ハ腹ノ減ツタ所ヘ御飯ヲ食ベルヤウナ譯ニハ行キマセヌ、ナカナカ相當ノ歳月ガカヽル、昔ノ人ノ言フ通リ、木ヲ植ヱルニハ十年、人ヲ植ヱルニハ百年ト云フコトガアル、是ハ古人ノ言ツタコトデ尤モデアル、デアリマスカラシテ、此ノコトニ對シテハ十分ニ一ツ御盡シヲ願ヒタイ、日本ノ國ヲ建直ス第一ノ必要事項ナリト存ジマス、ソレカラ最後ニ申シテ置キマスガ、委員長カラノ注意モアリマシタカラ、一體日本ノ此ノ天皇ニ關シテ、天皇廢止論ナンカモ、アレハ以テノ外ノ話デアルガ、過去ノ三千年ノ歴史ノ中ニ見マスルト云フト、嵯峨天皇ヨリ保元迄二百四十六年ノ間、死刑ガ廢止サレタコトガアル、矢張リ立派ナ徳政デアル、道徳ノ政治デアル、ソレデアルカラシテ、一カラ十迄政治ガ惡イノデハナイ、兎モ角モ約二百四十年ノ間死刑廢止ダ、此ノ頃何處ヤラノ黨派ノ人ハ、死刑廢止ヲオ題目ノ一ツトシテ威張ツテ居ルガ、ドウシテ、今カラ何百年前ニ、何百年間ノ間死刑廢止ヲ實行シテ居タ日本デアル、徳政ヲ行ツテ居タ日本デアル、斯ウ云フ譯デアリマシテ、善政モアル、サレバトテ人間ノ政治デアルカラシテ、惡イコトモアルガ、此ノ點モ見テ、一概ニ總テガ惡イナンカト云フコトハ以テノ外デアルト思フ、私ヲシテ言ハシメマシタナラバ、何トシテモ日本ヲ建直スニハ、尚一層總テノ國民ト天皇ト相倚リ相俟ツテ、サウシテ奮勵努力シナケレバナラヌト思フ、此ノ點ニ付テハ吉田總理大臣ノ詰リ君民一如ト云フコトガ出テ居ツタ、私ハ良イ言葉ト思フ、是ハ成程君民一如デアル、佛語ノ言葉デアルケレドモ、君民一如、君民一體ニナツテ、サウシテ此處デ建直シヲスル外ニナイト、斯ウ云フ風ニ考ヘル次第デアリマス、御注意モアリマシタカラシテ、私ハ大局トシテ申スノデ、是ハ當リ前デハ本會議デ申サナケレバナラヌ、ソレガ色々ニ都合上、委員會デ申スノハ議會ニ於ケル議事ノ進行上ニ於テハ當ヲ得ナイカモ知レマセヌガ、外ニ時間ト場所ガナカツタカラ申上ゲタノデアリマス、私ハ此ノ際殊ニ國體ノ茲ニ立派ナ聲明ヲ得タト云フコトハ衷心ヨリ喜ビヲ持ツテ居ル次第デアリマス、是ダケノコトヲ申シマシテ終リト致シマス
○委員長（安倍能成君） 野村委員ガ委員長ノ勸告通リ簡單ニシテ下サツタト云フコトハ非常ニ有難イコトデアリマスガ、本委員會ハ自ラ本會議トハ性質ヲ異ニシマスカラ、ソレカラ又是ハ質疑ト云フコトデアリマスカラシテ、質疑ノ理由トシテノ色々御説明ハ結構デアルト思ヒマスケレドモ、サウ云フ範圍ニ御止メ下サルヤウニ、隨分質疑ノ申出ノ方ガ澤山アリマスカラ、其ノ邊ヲ御注意ヲ願ヒタイト思ヒマス、吉田總理大臣
○國務大臣（吉田茂君） 御答ヘ致シマス、野村委員ノ國體及ビ皇室ニ關スル御議論ハ誠ニ御尤モデアリ、政府ト致シマシテモ御同感デゴザイマス、此ノ憲法ノ改正ニ依ツテ國體ガ變化アリ、又天皇ノ御地位ニ微動ダモアリトハ政府ノ豫想致サナイ所デアリマス、寧ロ國體ヲ護持シ、又國家ヲ安泰ニ置キタイト云フ考ヘカラ、憲法ノ改正ヲ必要トシタト政府ハサウ云フ考デ提案致シタ次第デゴザイマス
○國務大臣（田中耕太郎君） 今後ノ教育ニ於キマシテ、民族的驕慢心ヲ矯正致シマシテ、謙遜ナ眞理ヲ追及スル國民ニ育テ上ゲテ行カナケレバナラナイト云フ御趣旨ハ全ク同感デアリマシテ、サウ云フ點ニ於テ全力ヲ注イデ努力致シタイト存ジテ居リマス、尚維持サレマシタ所ノ國體、其ノ意味ヲ能ク宣揚スルト云フコトニ付キマシテモ、矢張リ過去ニ陷ツタヤウニ民族的高慢心ニ陷ルヤウナコトガアツテハナラナイト云フコトハ、大イニ警戒シナケレバナラナイト存ジテ居ル次第デアリマス
○委員長（安倍能成君） 此ノ次ノ資疑順序ハ南原繁君ニナツテ居リマスガ、南原君ガ都合ニ依リ後廻シニシタイ御希望デアリマスカラ、下條康麿君
○下條康麿君 私ハ三權分立ト議院内閣制度ト云フコトニ付キマシテ、總理大臣ニ御伺シタイト思ヒマス、先程金森國務大臣ノ御説明中ニモアリマシタガ、此ノ改正憲法案ハ所謂議院内閣制度ヲ考ヘテ居ル、更ニ衆議院ニ於ケル原案第六十三條竝ニ六十四條ニ對スル修正ニ依リマシテ、其ノ點ガ愈々ハツキリ致シタ次第デゴザイマス、何レモ此ノ議院内閣制度ヲ御採リニナツタト云フコトニ付キマシテハ、相當ノ理由ガアルノデアラウト思ヒマス、實ハ三權分立ノ理論カラ申シマスルト、「アメリカ」合衆國竝ニ米洲諸國ニ行ハレテ居リマスヤウナ、權力分立ノ制度ガ最モ適當ナ憲法政治ニナルト考ヘテ居ル一人デアリマス、ト申シマスルノハ文字通リ三權分立ノ所謂理論ヲ實踐シタ所ハ嘗テナイノデアリマスガ、併シナガラ若シソレヲ其ノ原則ノ如ク實行シマスルト云フコト、考ヘテ居リマスヨリモ、其ノ國家機關相互ノ間ニ於キマシテ色々ノ摩擦モ起リ、政治ノ運用ガ圓滑ニ行カナイ虞ガ多分ニアリマスノデ、其ノ間ニ或ハ權力ヲ分配スルト共ニ、其ノ權力ノ相互ノ牽制トカ、或ハ力ノ平衡トカ云フコトヲ考ヘテ色々ノ規定ガ設ケラレテ居リマス、現ニ此ノ改正憲法案ニモサウ云フ規定ガ或ハ國會ト内閣、内閣ト裁判所、或ハ裁判所ト國會竝ニ内閣ニ對スル關係等ガ非常ニ注意深ク規定サレテ居リマス、誠ニ結構ト思ヒマスガ、ソコデ問題ハ、要スルニ三權分立ハ單ナル機關ノ分割權限分配ニ非ズシテ、其ノ機關ヲ構成スル人ヲ分ツト云フノデ、ソコガ問題デアリマス、所謂議院内閣制度ニ依リマスト、立法權ヲ支配シ得ル人ガ内閣行政權ヲ支配スルコトニナルノデアリマスガ、左樣ナ制度ガ宜イカドウカ、私ハ先程申シタヤウニ權力ハ二箇以上ノ機關ノ權限ヲ併合シマスト、ソコニ濫用ヲ生ズルコトガ多分ニアル、昔或人ガ言ツタヤウニ、立法權ト行政權トヲ同ジ人ノ手ニ委ネルコトハ、弱イ人間ニ取ツテハ餘リニ大ナル誘惑デアルト言ツテ居リマス、ソレハ相當ニ眞理ガアルト考ヘルノデアリマス、ソコデ私ハ伺ヒタイノハ、左樣ナ見地カラ考ヘルト、ドウモ議院内閣制度ニ固定サレタ考ヘ方ガ私ニハヨク分ラナイ、併シ政府ニ置カレマシテハ所謂權力分立制度ノ點ニハ斯ウ云フ長所モアルガ、斯ウ云フ缺點ガアル、然ルニ議院制度ハ此ノ缺點ヲ補ヒ而モ斯ウ云フ風ニウマク行クト云フコトヲ御考ノ結果、斯樣ナ政治形體ヲ御選ビニナツタト思ヒマスガ、其ノ點ニ關シマシテ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（吉田茂君） 御答ハ私ヨリモ金森國務大臣ノ方ガ一層明確ニアルト思ヒマスガ、私ト致シマシテ一應ノ考ハ、三權分立ニ致シマシテモ御話ノ通リ人ニ依ル、制度ニ依ル、機關ニ依ルコトデアリマシテ、而モ此ノ政治ノ要諦ハ各機關ガ互ヒニ互讓妥協ニ依ツテ運用ガ圓滿ニ行クモノデアルト考ヘルノデアリマス、即チ人ニ依ル、若シクハ機關ニ依ルト思ヒマスガ、殊ニ議會ヲ中心トシテ政治ヲ致シマシテ、其ノ間ニ自ラ權衡ガ取レ、若シクハ政治ノ運用ノ完キヲ得ルコトニナルト、斯ウ私ハ考ヘルノデアリマス、尚詳シイコトハ專門ノ國務大臣ヨリ申上ゲマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 下條議員ノ御尋ニナリマシタ三權分立問題ト、議院内閣制度ノ利害得失ト云フコトニ付キマシテハ、非常ニ困難ナル幾多ノ問題ガアルト考ヘラレルノデアリマス、實際ニ於キマシテ「イギリス」ガ議院内閣制ヲ採ツテ居リマシテモ、其ノ中ニ自然ニ權力分立ノ内譯ガ出來テ居ルヤウニ思ハレルノデアリマスルシ、又北米合衆國ガ三權分立ノ原理ヲ採リマシテ、議會ト大統領ガ、詰リ立法府ト行政府トガ判然對立ヲ致シマシテ、一方ハ法律ヲ議スル、一方ハソレノ執行ヲスルト云フコトヲ無遠慮ニヤツテ居ル、其ノヤリ方ガ實際ニ於テ可ナリ調節方法ガ困難デアル、且又北米合衆國ニ於キマシテモ、議院内閣制度ニシタ方ガ宜イノデハナイカト云フ政治的ナ議論モ相當ニ起ツテ居ルヤウデアリマシテ、例ヘ「バローレンス・ローエル」ナドノ言ツテ居ルモノヲ見マスト、其ノ方ニ非常ニ宜イ點ガアルケレドモ、北米合衆國ハ是ハ合衆國デアル、即チ各聯ノ各々ガ一ツノ獨立國的ノモノデアリ、ソレノ代表者ガ上院ニ出テ居ル、從ツテ議院内閣制ハ徹底シタル二院制度ノ下ニ於テ「セネート」ト衆議院ト二ツアル場合ニ、此ノ二ツヲ足ノ下ニ於テ議院内閣制ヲ作ルコトハ出來ナイ、サウ云フ所ニ弱點ガアル故ニ議院内閣制ハ作リタクトモ、此ノ場合ニハ當嵌リ得ナイノダト、斯ンナヤウナ議論モ見受ケテ居リマスルノデ、御示シニナリマシタヤウナ權力分立制ヲ徹底スルノガ宜イノカ、或ハ此ノ議院内閣制ヲ採ルノガ宜イノカト云フコトハ相當解決ノ困難ナ點ガアラウト思ヒマス、併シ之ヲ實際的ノ面カラ考ヘテ見マスルト、「デモクラシー」ヲ本當ニ生キタ姿ニ於テ實現ヲシテ行キマシテ、魂ノアル政治ガ内閣ニ依ツテ行ハレテ行キマスル爲ニハ、我々ノ過去ノ日本ノ經驗ヲ參考ニ致シマシテモ、結局議院内閣制ノ方ガ他ノ薄情ナ附合ヒノヤウナ分立制ヨリモ著シク優ル點ガアル、又ソレニ依ツテ多クノ弊害ヲ示サレタ所ハナイノデハナカラウカ、斯ウ云フノガ此ノ案ヲ作リマシタ根本ノ趣旨デアリマス、併シナガラ斯樣ナ構想ニ依リマスル議院内閣制ニ於キマシテモ、固ヨリ其ノ持ツテ居ル弱點ハ意識シナケレバナリマセヌ、其ノ弱點ヲ色々ナ手段ヲ以テ補整スル必要ガアル、其ノ補整スル方法ノ一ツハ二院制度ノ問題デアリマス、適當ナル調節力ヲ持ツ參議院ガ出來マスルナラバ、此ノ草案ノ考ヘテ居リマスル議院内閣制ハ、必ズヤ好キ結果ヲ持チ得ルダラウ、是ガ一ツノ點デアリマス、第二ノ其ノ方法ト云フモノハ、議院内閣制カラ起ツテ來マスル所ノ行政ノ「コンティニュイテイ」ヲ保持スル爲ニハ、殊ニ將來少數黨ノ多クナリマスルヤウナ場合ニハ、政策ニ付テノ恒常性ヲ失フ多クノ虞ガアリマシテ、長所ト同時ニ短所ガ現レテ來ルノデハナカラウカ、其ノ短所ヲ程良ク調節シヨウト致シマスルナラバ、結局行政府ノ組織ノ中ニ最モ深キ注意ヲ加ヘテ、茲ニ宜イ、容易ニ弊害ヲ受ケズ、常ニ利益ヲノミ保全シ得ルヤウナ工夫ヲシナケレバナラヌノデアリマス、是ハ可能デアル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、第三ノ考ヘ方ト致シマシテハ、是ハ結局民主政治ノ根源ハ國民ノ政治的能力ノ普及ニ俟ツベキモノデアル、若シモ國民政治的能力ガ普及致シマスルナラバ、議院内閣制ニ依ツテモ仰セラレル所ノ多數ノ一時的專制、從ツテ又一國ノ方策ガ正當ナル根據ナクシテ動搖スルト云フコトヲ保持スル餘地ハ、賢キ國民ニ依ツテ補整セラレ得ル範圍ガ多カラウ、斯ンナ風ニ考ヘテ行キマスルト、結局議院内閣制ト云フモノガ考ヘラレル民主政治ヲ實現スルニ最モ適切デアル、而モ其ノ弊害ヲ矯正スル手段ハ別ニ考フル餘地ガアル、デ此ノ方法ガ優レリト云フ結論ヲ持ツタ次第デアリマス
○下條康麿君 大變明快ナ御答辯ヲ戴キマシテ結構ト思ヒマスガ、唯我ガ國ノ過去ニ於ケル政治情勢カラ判斷シマスト云フト、俄ニ人間ノ心理状態ガ變更シナイ限リ、只今御述ベニナツタヤウニ、國民ノ政治訓練ガ十分出來マシテ、如何ナル制度ガ布カレテモソレニ適應スルヤウニナレバ格別デアリマスガ、今日ノ現状ト過去ノ經驗カラ推シマスト云フト、相當此ノ政黨ノ横暴ト云フヤウナモノガ考ヘラレル、是ハ衆議院ニ於ケル質問ノ中ニモアツタヤウニ思ヒマス、ソレヲ是正スル爲ニ今御考ヘニナツテ居ラレル三ツノ方法、其ノ第一ノ參議院ノ點ニ付キマシテハ、是ハ他ノ諸君カラ何レ御質問ガアルト思ヒマスカラ觸レマセヌガ、行政ノ繼續性ヲ圖ル爲ニ、所謂行政面ニ於ケル人間ト、立法府ノ人間トヲ截然區別スル必要ガアルノヂヤナイカ、從來衆議院ノ選擧法ノ中ニハ政務官ノ程度ノモノハ衆議院議員ト兼ネルコトガ認メラレテ居リマスガ、貴族院ニハ何等サウ云フ制限ガナイ爲ニ、隨分重大ナ討議ノ際ニ大臣席カラ議席ニ下リテ投票スルト云フヤウナコトモアツタノデアリマシテ、斯樣ナコトハ徒ラニ政治ノ溷濁ヲ招ク、今御述ベニナツタ行政ノ繼續性ト申シマスルカ、純潔ト云フヤウナモノヲ紊ル虞ガアルノヂヤナイカト云フ風ニモ思フノデアリマス、此ノ點ハドウ云フ風ニ考ヘテ居ラレマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 下條委員ノ御尋ネニナリマシタ行政府ト議會トノ關係ガ、極ク僅カナ所デ繋ガツテ居ルノガ宜イノデハナカラウカ、例ヘバ國務大臣、或ハソレニ接近シマスル少數ノ部分ダケデ繋ガルコトニナリマスレバ、割合ニ其ノ間ガ人的區分ガ出來テ、三權分立ノ一面デアル二權ノ分立ガ程良ク行クノデハナイカ、併シソレガ若シ人的ニ大シタ區分ガナクテ彼此レ流通スルトスレバ、ソコニ弊害ノ餘地ガアルノデハナイカト云フ御趣旨ノ御尋デアリマシテ、今日官吏ガ衆議院議員ト兼ネルコトヲ得ナイト云フ原則ヲ、事務官ノ範圍ニ於テ堅持致シテ居リマスルノハ全ク其ノ趣旨デアル譯デアリマス、併シナガラ此ノ制度ハ他ノ一面カラ考ヘテ見マスルト、今日世間デ言ハレテ居リマスル官僚獨善、或ハ官界ノ閉鎖制ト申シマスルカ、世間ノ動イテ行ク氣分トハ全ク違ツテ恰モ穴ノ中ニ住ンデ居ツテ、其ノ中ダケノ完成ヲ期シ、個々ノ部門ニ付テ一糸紊レザル行政ヲ行ツテ居ルニ拘ラズ、大キナ國家的ノ面ニ於テハ甚ダシク不十分デアルト云フ非難ヲ受ケテ居リマスル原因ガ、少クトモ其ノ方面カラ兆シテ居ルノデハナカラウカト思フ術モアルノデアリマシテ、詰リ如何ナル點迄此ノ人事ノ交流ヲ認ムベキカ、如何ナル點カラ先キハ人事ノ交流ヲ認ムベカラザルカト云フコトニ付キマシテハ過去ノ色々ナ行キ道ハアリマシタケレドモ、此ノ際寧ロ本格的ニ考ヘテ見ナケレバナラヌ點デハナカラウカト思ツテ居ルノデアリマシテ、是ハ確カ大正三年頃カラカ、或ハ遡レバ明治十四年ノ大隈參議ノ上奏書ト云フヤウナモノニ沿革ヲ持ツテ居ルノデアリマスルガ、議會ト行政府トノ人事ノ關係ト云フコトニ付キマシテハ過去ノ沿革ヲ離レ、過去ノ學説ヲ離レマシテ、本格的ニ研究シナケレバナラナイ段階ニナツテ居ルト思ツテ居リマス、是ハ全ク私一個ノ今ノ未熟ナル見解デアリマシテ、本當ニ言ヘバ、此處ニ申出ルコトハ出來マセヌケレドモ、委員會デアリマスルガ故ニ少シク自由ナル意見ヲ述ベテ見マスレバ、日本ノ此ノ方面ノコトハ行政制度全般及ビ行政制度ヲ包容シテ居リマスル内閣制度全般、ソレカラ官吏、ソレハ政務官モ事務官モ地方職員ヲモ含メマシテ、其ノ全體及ビ此ノ官府ノ諸般ノ事務ノ扱ヒ方、或ハ又官府デ取扱フ事務ト民間デ取扱フ事務トノ限界線、例ヘバ山ノ木ヲ保有スル時ニ役人ガヤルモノカ、民間ガヤルモノカ、煙草ヲ賣ル時ニ役人ガヤルモノカ民間ガヤルモノカト云ツタヤウナ、仕事ノ境界線ガドウ云フ所ニアルカト云フヤウナ點、總テニ亙リマシテ此ノ憲法ノ大精神ニ顧ミマシテ、ピツタリト合一シタ觀點ヲ實現シナケレバナラヌト考ヘテ居リマスガ、是ハ非常ニ重大デアルト同時ニ非常ニ廣汎デアリマシテ、有リヤウヲ申シマスレバ、此ノ憲法ニ追隨シテ、極ク最近ニ實現スルト云フコトハナカナカムヅカシイト思ツテ居リマス、併シムヅカシイケレドモ此ノ點ニ付テ本當ノ筋ヲ立テマセヌケレバ、此ノ憲法ガ他日成立致シマシテモ、十分其ノ效果ヲ擧ゲ得ナイノデアリマシテ、其ノ點ハ下條サンノ御説明ニナリマシタヤウニ、十分考ヲ深ク進メテ行キタイト考ヘテ居リマス
○下條康麿君 實ハ其ノ點ニ付キマシテハ丁度戰爭ノ末期ニ衆議院議員選擧法第十條ノ改正ガアリマシテ、殆ド總テノ事務官ガ全部議員ト相成ルコトヲ得ルヤウナ、左樣ナ規定ガ設ケラレタノデアリマスガ、ソレハ丁度所謂内閣行政府ト、議會或ハ議會ノ兩院ガ一體ヲナスヤウナ、誤ツタ思想カラ出テ居ツタヤウニ思フノデアリマスガ、幸ニモ其ノ衆議院議員選擧法ノ第十條ノ改正規定ハ施行セラレズシテ闇カラ闇ヘ葬ラレタノデアリマスガ、兩院ハ通過シマシタケレドモ施行セラレマセヌデシタ、サウ云フヤウナ過チノ再ビナイヤウニ、只今色々御苦心ニナツテ居ルヤウニ拜聽致シマシタガ、今後其ノ點ニ付キマシテハ十分御研究ヲ願ヒタイト思ツテ居リマス、尚チヨツトソレニ付キマシテ一言ソレニ續イテ伺ヒタイノハ、此ノ改正憲法案ノ第六十三條及ビ第六十四條ニ今回修正ガ衆議院デアリマシタ、内閣總理大臣ハ國會議員ノ中カラ、ソレカラ國務大臣ハ其ノ過半數ヲ國會議員中カラ選ブヤウニナツテ、所謂議院内閣制度ガハツキリシタノデアリマスガ、是ハ私ハ寧ロ原案ノ方ガ宜イヂヤナイカ、原案デモ此ノ議院内閣制度ハ出來ルシ、又場合ニ依ツテ所謂私共ガ考ヘテ居ルヤウナ三權分立ノ内閣制度モ出來ルシ、又實際問題トシテ議會ニ全然總理大臣タル人ガナイト云フコトモナイカトモ思フノデアリマシテ、併シ議會外ニ非常ナ國政ヲ燮理スル最モ適任ナ人ガ居ルト云フ場合モナイコトモナイト思ヒマスカラ、是ハ寧ロ原案通リニシテ置カレテ、サウシテ自由ニ其ノ時ノ政治情勢ニ合致スルヤウニ運用シテ行クコトガ適當ヂヤナイカ、一體憲法ハ或時ノ情勢ダケヲ判斷シテ行クベキモノデハナイ、恒久法デアリマスルカラ將來ノ見透シモ相當立テナケレバナラヌヤウニ思フノデアリマス、サウ云フ觀點カラシマスルト、此ノ衆議院ノ修正ヨリ寧ロ原案ノ方ヲ支持シタ方ガ宜イト思フノデアリマス、其ノ點ニ關シテ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 只今ノ御尋ノ點ハ結局憲法ガ彈力性ヲ持ツガ宜イカ、ソレトモガツチリト規定ヲ具體化サセテ置ク方ガ宜イカト、斯ウ云フ問題ニ歸着致シマシテ、ハツキリト限界ヲ作ルコトハ理論的ニハ困難ト考ヘテ居リマス、唯想ヒ起シマスルノハ明治憲法ト普通ニ言ツテ居リマスル現行憲法ガ、諸般ノ規定ニ於キマシテ非常ニ彈力性ガアツタ、ソレガ美點ト言ハレテ居リマス、併シ實際上ニハ憲法第二章ニ示シテ居リマスル國民ノ權利ガ、彈力性アルコトノ爲ニ殆ド有名無實ニナツテ居ルト云フコトハ、人ノ多ク言フ所デアリマシテ、彈力性ニモ程度ガアルコトデアリマシテ、大體百中九十九迄ハガツチリト決メテ置ク方ガ宜イ、萬々一ノコトガアツテモ其ノ時ハ何カ事實ノ方デ巧ク適合スル餘地ガアリ得ルデアラウト云フヤウナ考デアリマシテ、之ヲ確實ニ法ノ上ニ固定サセテ置クト云フコトモ一理アルヤウニ考ヘテ居リマス、此ノ憲法ノ六十三條ノ改正案、即チ總理大臣ヲ國會議員ノ中カラ指名スルト云フ點ハ、恐ラク憲法ノ議院内閣制ヲ骨子ト致シマスル所カラ考ヘマスレバ、容易ニ動カナイ原則デアリマセウ、詰リ事實トシテ斯樣ニ行カナケレバ、此ノ憲法ノ期待スルヤウナ民主政治ハ實現サレ得ナイノデハナカラウカ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、又六十四條ノ一般ノ國務大臣ノ方面ニ付テ考ヘテ見マスルト、將來國務大臣ノ擔任スル事項ガ新ラシク内閣法ニ依ツテ定マルトハ思ヒマスルガ、何レニ致シマシテモ各分擔ヲ致シマスル國務大臣ハ、多少專門家ト云フ方面ニ重點ヲ置カナケレバナリマセヌ、ソレガ爲ニ必ズ國會ノ中カラ人選シ得ルカ否カト云フコトハ疑問ト思ヒマス、デアリマスカラ此ノ改正案ノ原案ノヤウニ、全部ヲ國會議員ト云フコトニ結ビ附ケナイデモ、承認ヲ國會ニ求ムルト云フ行キ方ハ、考ヘ方トシテ一理ナシトセズト考ヘテ居リマス、併シナガラ運用ノ實際カラ考ヘマスト、一人々々ノ國務大臣ニ付キマシテ國會ノ承認ヲ受ケルト云フコトハ、政治ノ動キノ上カラ見マシテ可ナリ煩瑣デアリマス、其ノ手續ヲ致シテ居ル間ニ政冶紛糾ガ起ル、或ハ若干好マシカラザル時日ヲ徒費スルヤウナコトニナリマシテ、是ハ相當ニ考ヘナケレバナラヌ制度デアツタ譯デアリマス、詰リ政府ノ原案ハ理論ニ於テ十分ダト信ジテ居リマスルケレドモ、實行ノ面ニ於テハ可ナリヤリニクイ點デアリマス、其ノ十人ナリ十五人ナリノ國務大臣ニ付テ、一々兩院ノ承認ヲ得ルト云フコトノ煩瑣ナル結果ヲ避ケル爲ニハ、此ノ憲法ノ表ノ文字ダケデハイケナイノデアリマス、ソコニ實際都合好ク運ブ政治的ナ「コンヴェンション」ガ出來ナケレバナラヌト、其ノ點ハ初メカラ覺悟シテ居ツタノデアリマス、ケレドモ、ソレヲ避ケヨウト致シマスルト今度ハ一ツノ見解ガアリマシテ、議會ノ人カラ國務大臣ヲ採ル時ハ一々國會ノ承認ヲ經ナクテモ宜イ、併シ議員以外カラ國務大臣ヲ採ル時ハ議會ノ承認ヲ得タラドウカト、一種ノ折衷説、サウ云フ段階モ考ヘタノデアリマス、斯ウ致シマスルト矢張リ政治ノ動キト致シマシテ、殊ニ議會政治ト云フモノノ持ツテ居ル何カ缺點ガ此處ニ絡ミ付イテ來テ、政治ノ圓滑ヲ害スル虞ガナイダラウカ、サウ云フ風ニモ考ヘテ見タノデアリマス、ソコデ色々ナコトヲ考ヘマシタ結果、結局過半數ヲ議會ノ人カラ選バナケレバナラヌト云フコトニ致シマスレバ、是ハモウ實際ノ動キカラ申シマシテ運用ノ上ニモ差支ガナク、理論モ或程度ハ滿足セラレルノデハナカラウカ、唯強ヒテ之ニ對シテ疑ヲ差挾ミマスレバ、過半數ト云フコトガ始終グラツクノデハナイカ、露骨ナコトヲ言ヘバ途中デ誰カ大臣ガ一人罷メタ、其ノ結果過半數ノ關係ガ變ツテ、憲法ノ六十四條ト矛盾スルノデハナイカ、斯ンナヤウナ疑惑モ起ルノヂヤナイガ、斯ンナコトモ縣念ヲ致シマシタ、併シ六十四條ノ規定ハ是ハ任命ノ時ノ條件デアリマシテ、繼續状態デハナイト云フコトニ出來テ居リマスルガ故ニ、其ノ點モ支障ナカラウ、矢張リ此ノ衆議院デ議決サレタ方ガ私ニハ宜イヤウニ思ハレテ居リマス
○下條康麿君 御答ノ御趣旨ハヨク分リマシタケレドモ、結局六十四條ニ付テ、專門ノ場合デアルカラ國務大臣ノ中、或者ハ議員タリ、或者ハ議員タラズト云フコトデ宜シイト云フコトデアリマシタガ、同ジヤウニ專門デナクテモ事實人ヲ得ナイト云フコトハ、先程申シマシタヤウナコトガアリ得ルト思フノデアリマス、ソレカラ御心配ニナルヤウナ例ヘバ獨裁政治ト云フヤウナコトハ、近世ノ獨裁政治ハ大體武力ヲ前提ニシテ居リマスルカラ、是ハ我ガ國ニハ最早サウ云フコトハ絶對ニ存在シナイ事實デアリマス、サウ云フコトモ心配ナイノデアリマシテ、矢張リ私ガ先程申シタヤウニ、六十三條ノ總理大臣ノ資格ヲ議員タルコトヲ要セザルヤウニシテ置クノガ運用上適當ト思フノデアリマスガ、是レ以上ハ議論ニナリマスカラ、私ハ此ノ程度デ質問ヲ止メテ置キマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ是デ會議ヲ休憩致シマス、午後ハ一時十五分カラ始メマス
午後零時十二分休憩
━━━━━◇━━━━
午後一時二十七分開會
○委員長（安倍能成君） 少シ遅レマシタガ、午前ニ引續イテ開會致シマス、其ノ前ニチヨソト御諮リ致シタイコトガアリマス、總論的ノ問題ノ質疑ヲ今ヤツテ居ル譯デスガ、總論ノ中ニドウ云フコトヲ入レルカト云フコトハ、可ナリ今問題デアリマシテ、ハツキリ論理的ニ、ナカナカ片附カナイノデスガ、例ヘバ戰爭抛棄ノ問題デアルトカ、或ハ民主主義ト教育ノ問題デアルトカ、或ハサウ云フ風ナ憲法改正ノ根本ニ觸レルヤウナ問題ハ、總論ノ方ニ入レタイト思ヒマスガ、併シ之ヲ學問的ニ整備スルト云フコトハ、非常ニムヅカシイコトデアリマスカラ、時宜ニ依ツテ、便宜從フト云フコトガアリマスカラ、其ノ點ハ、一應私ニ御一任ヲ願ヒタイト思ヒマス、御異議アリマセヌカ
○佐々木惣一君 ソレニ付テ伺ヒタイ、詰リ具體的ノ例カラ言ヒマスガ、今日午前ニ御尋ニナツタ御質問ノ中デ、チヨツト僕モ同ジ問題ニ引掛ツタ問題ガアルノデアリマス、例ヘバ議院内閣制度トカ、私ノ解釋ニ依レバ、ソレハ總論的ノ問題ヂヤナイト思ヒマスカラ、通告シテ居ナイノデス、ソレハ委員長ガ、今總論トシテ取扱フト云フコト自體ニ異議ハナイノデスガ、サウ云フ場合ニ後カラ例ヘバ私ナラ私ガ自分ハ章別的ノ問題ト思ツテ、ソレヲ取上ゲテ言フコトヲ許シテ戴カナケレバ工合ガ惡イ、サウ云フコトダケヲ申シテ置キマス、サウ云フ意味デ御裁量願ヒタイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 取上ゲレバ、總論的ノ中ニ採入レレバ總論デ御話ニナルト云フコトモアルノデス、ソレハ‥‥
○佐々木惣一君 ソレハ許サレルカト云フ御尋ネデス、サウデナイト、先ニ總論的ノ部分トシテ通告シテ、或人ガ取扱ツタラ、其ノ點ニ付テ何モ言ヘナイノデスガ、唯御尋ネスルノデスガ、ソレダケノコトヲ決メテ置イテ戴ケバ、或ハ總論的ニ人ガ取扱ツタ時ニデモ、自分ハ是ハ各論ト思ツテ居ツタガ、今總論的ニ扱ツテ居ル人ガアルカラ、自分モ言ハウト發言ヲ求メルコトガ出來ルカ、ドチラデモ宜イデスガ、明カニシテ置キタイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） ソレハ、言ヒタイト思フ時ニ直グ言ハレルカドウカ分ラナイ、後デ、取上ゲテ言フコトハ構ヒマセヌガ
○佐々木惣一君 併シ總論トナツタナラバ、其處デ片附ケタガ便利デセウ、今日ノ議院内閣制度ノ如キハ、私ハ十分意見ヲ持ツテ居リマスガ、今日言ハナケレバナリマセヌカ、是ハ餘程重大ナ問題ト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 是ハドウデスカ、御意見ガアリマセヌカ
○澤田牛麿君 私ハ前カラ申シ述ベテ居ルヤウニ、關聯問題ハ成ルベク固メテ片附ケテ行ツタ方ガ進行ニ便宜カト思ツテ居リマス、今ノ佐々木君ノヤウナ御意見ハ、ソレヂヤ三權分立論ハ元ハ總論デナイトシテ居ツタケレドモ、今總論ニナツタカラ總論ニ付テ發言スル順序ニナツテ居ル時ニ、其ノ問題ニ付テドウカト云フコトヲ御許シニナツテ、其ノ問題ヲ一應出シ盡シタラ、如何カト思ヒマス
○三土忠造君 大抵、議事ノ順序トシテ總括質問ト逐條質問トアリマスガ、ソレカラ各條ニ付テ質問スルナラバ、其ノ前ハ何ヲ聽カウガ、總體ノ質問ヲシテ宜イヂヤナイカト私ハ考ヘマス、其ノ範圍ハサウ細カク分ケル譯ニ行カナイ、大體ノ質問ヲスル、逐條質問ハハツキリシテ居リマス、ソレカラ例ヘバ之ヲ見テモ國體ノ問題ガ大勢アル、之ヲ一人ヤツタラ、後ハ國體ハヤレナイト云フコトハナインダカラ、ソレハ何名ヤツテモ構ハナイ、逐條ハ逐條デヤツタラ宜イ、是デ宜クハナイカト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ大體ノ御意見ハ、矢張リ關聯質問トシテ、サウシテ總論ノ場合ニ出タ議論デ、矢張リ總論的性質ヲ持ツテ居ルモノハ、其處ヘ一括シテ論ジタ方ガ都合ガ宜イ、斯ウ云フ御意見ダト考ヘテ宜シウゴザイマスカ
○佐々木惣一君 通告ヲシテ居ナカツタ場合ハドウデセウカ、例ヘバ今ノ三權分立トカ、議院内閣制度ノ如キ、通告シテ居リマセヌデスガ、ソレハサウ云フ場合ハ構ヒマセヌカ
○委員長（安倍能成君） 併シ通告サレテ居ルノハ、大體ノ處ヲ通告シテ戴イテ居ルノデスカラ、 サウ、ヤカマシク言ハナクテ宜イト思ヒマス
○佐々木惣一君 無通告ノ時ニハ、許サレル譯デスネ
○委員長（安倍能成君） 餘リ、サウ脱線シテハ‥‥
○佐々木惣一君 ソレヲハツキリシテ置カナイト‥‥
○委員長（安倍能成君） ソレカラ、モウ一ツ御諮リ致シマスガ、三土委員カラ、席次ヲ決メテ置イタ方ガ色々ノ點ニ便宜ガアルダラウト云フ御意見ガ出タノデアリマスガ、私モサウ思フノデゴザイマスケレドモ、如何デゴザイマスカ
〔「賛成」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） ソレナラバ、今日席次ヲ決メタモノヲ明日差上ゲルコトニ致シマシテ、明日以後ハ、其ノ順序ニ依ツテ御着席ヲ願ヒマス
○霜山精一君 札ヲ貼ツテ戴イタラドウデセウカ
○委員長（安倍能成君） ソレカラ、佐々木委員カラ御話ガアツタヤウナ範圍ニ付テ、色々問題ガアリマスケレドモ、是ハナカナカ論理的ニチヤント成立スルト云フ譯ニ行キマセヌカラ、其ノ決定ハ、委員長デ決メルコトニ致シマスカラ、御承知置キ願ツテ置キマス、ソレデハ、田所委員ガ下條君ノ次ニ御質疑ニナル筈デアリマシタガ、材料等ノ關係ニ依ツテ後ニ廻シタイト云フ御要求デアリマスカラ、霜山精一君ニ願ヒマス
○霜山精一君 私ハ國體ノ問題ニ付テ、簡單ニ質問シテ見タイト思ツテ居ルノデアリマス、私ハ固ヨリ憲法ノ專門家デアリマセヌカラ、見當違ヒノ議論モアルコトト思ヒマスルガ、若シ間違ツテ居ルヤウナ點ガアリマシタラバ、十分ニ御教ヘヲ願ヒタイト思フノデアリマス、此ノ憲法草案ガ發表セラレマシテ以來、國體ニ關スル論議ガ油然トシテ全國ニ起ツテ參リマシタ、私ハ全部其ノ論議ノ全體ヲ通讀シタ譯デハアリマセヌケレドモ、夥シイ數ノ國體論議ガ世ノ中ニ現レテ居ルノデアリマス、又此ノ草案ガ議會ニ提出ニナリマシタ以後ニ於キマシテ、衆議院ニ於ケル論議モ、此ノ點ニ於テ相當盛デアツタヤウデアリマス、又貴族院ニ參リマシテモ、本會議ニ於キマシテ、憲法ノ專門家、總テ此ノ問題ニ付テ論及致サレマシタ、之ニ對シテ政府ノ御答辯ヲ拜聽シタノデアリマス、斯クノ如ク有ラユル點カラ、既ニ國體問題ハ論議シ盡サレテ居ルト言ツテ宜イカモ知レナイ、金森國務大臣ハ憲法專門ノ國務大臣トシテ、衆議院及ビ貴族院ニ於キマシテ答辯セラレルコトハ數百回、其ノ御勞苦ニ對シマシテハ、私共ハ深甚ナル敬意ヲ表スル者デゴザイマス、今迄出テ居ル議論ノ結果ト致シマシテハ、結論的ニハ、憲法專門ノ學者諸先生ノ方面デハ、國體ガ變革サレテ居ルヂヤナイカ、斯ウ云フコトニ結論ハ歸スルヤウデアリマス、金森國務相ノ之ニ對スル答辯ハ、イヤ、ソレハ變革サレテ居ルノヂヤナイ、今日モ吉田總理大臣モ其ノ點ヲ確認サレテ居ルノデアリマス、サウ云フ風ニ、此ノ國體問題ヲ繞リマシテ、朝野ト云ツチヤ少シ語弊ガアルカモ知レマセヌガ、學者側ト政府トノ間ニ意見ノ相違ノアルト云フコトハ、是ハ餘程困ツタ問題デハナイカト思ヒマス、國體問題ト云フノハ、一番大切ナ問題デアリマシテ、是ガ斯クノ如キ對立ガ國民思想ノ上ニ、或ハ教育ノ面ニ於テ、非常ナ影響ヲ與ヘルト云フコトヲ私ハ惧レルモノデアリマス、サウ云フ觀點ニ立チマシテ、私ハ何トカ此ノ國體問題ニ付テ、解決ノ途ヲ見出シテ置カナケレバ、非常ナ重大ナ結果ヲ招來スルノデハナイカト云フ風ニ、實ハ考ヘテ居ル次第デアリマス、ソレデ各双方ノ論議ヲ、私ハ貴族院ノ方ハ自分デ聽キマスシ、衆議院ノ方ハ、大體速記録ニ依リマシテ、能ク讀ンデ見タノデアリマシテ、金森國務相ノ論ゼラレル所モ能ク了承シテ居ルノデアリマス、ソレデ、其ノ双方ノ論議ヲ對照考覈シテ考ヘテ見マスルニ、是ハ言葉ノ行キ違ヒデアツテ、即チ國體ト云フ觀念ヲ何處ニ置クカト云フコトデ、議論ガ分レテ居ルノデアツテ、要スルニ、唯國體ト云フモノノ意義ヲ、ドノ點ニ置クカト云フコトデ、國體ガ一方ハ變革ガアリト言ヒ、一方ハ變革ナシト言フノデアリマシテ、其ノ言葉ヲ離レテ見レバ、政府ノ所見モ學者諸先生ノ所見モ、敢テ異ナツテ居ル所ハナイ、少シモ實質論トシテ變ツテ居ラヌト、私ハ結論的ニハ、サウ云フ風ニ双方ノ論議ヲ對照シテ見タ結果、サウ云フ判斷ヲ下サザルヲ得ナイノデアリマス、デスカラ、其ノ點ヲ十分ニ明カニシテ、之ヲ明徴ニスルコトガ、即チ此ノ新憲法ニ於ケル國體明徴ニナルノデハナイカト云フコトヲ考ヘテ居ルノデアリマス、天皇ノ御地位ニ付キマシテ、明治憲法ニ於キマシテハ、萬世一系ノ天皇ガ統治セラレルト云フコトニ規定シ、又第四條ニ於キマシテ、天皇ハ元首デアツテ、統治權ヲ總攬スルト云フ、此ノ二ツノ規定ガ憲法上ニ現レテ居ル、法規ノ上ニ現レテ居ル、併シナガラ金森國務大臣ノ言ハレルヤウナ、天皇ノ徴象性ト云フカ、是モ矢張リ、無論アル譯デアリマス、即チ法律上ニ現レタモノト、ソレカラ法律ニ現レナイ、天皇ガ日本國ノ徴象デアリ、日本國民統合ノ徴象デアルト云フ性格ト云フモノガ、法規ノ上ニハ見エナイケレドモ、潜在シテ居ル、是ハ金森君ノ常ニ説明セラレテ居ツタ所デアリマス、此ノ二ツノ方面ハ、確カニアル、是ハ憲法ノ條文ニ上ツテ居ル方ハ法律的ニ取扱ハレテ居ル、徴象性ノ方ハ隱レテ下ニ沈ンデ居ル、從ツテ此ノ天皇ノ徴象性ト云フモノハ、國民ノ信念デアリ、道徳ノ問題デアルト云フ風ニ考ヘテ居ツタノデアリマスル、此ノ憲法ニ現レテ居ル部分ヲ以テ國體ト見ルカ、或ハ憲法ニ隱レテ居ル此ノ徴象性ヲ以テ國體ト見ルカト云フコトニ論議ガ岐レル譯デアリマス、從來ノ憲法ニ於キマシテハ、其ノ徴象性ト云フモノハ隱レテ居リマシテ、沈ンデ居リマスルカラシテ、之ヲ法律學上ノ觀念トシテ之ヲ論議シナカツタ、從ツテ憲法ニ現レテ居ル第一條、第四條ノ規定ヲ中心トシテ、天皇ガ統治權ノ總攬者デアル、君主デアルト云フ、萬世一系ノ天皇ガ日本ヲ統治セラレルノデアルト云フ點ニ著眼シテ、其ノ點ヲ主ニシテ、之ヲ以テ日本ノ國體デアルト云フコトニ付テ論ジテ居ルノガ、今迄ノ憲法ノ通説デアルト言ツテ宜カラウト考ヘテ居ルノデアリマスル、此ノ徴象性ト云フコトト、此ノ憲法一條、四條ノ法律上ノ君主ノ地位ト云フモノトハ、其ノ關係ハ、金森国務大臣モ言ハレタ通リ、元來、一體不可分ナモノデアル譯デ、此ノ點ハ私モ能クハツキリ致シマセヌガ、憲法ニ規定ガ、一條、四條ニ規定ガアルカラ、ソレデ天皇ノ徴象性ト云フモノガ出テ來ルノカ、或ハ又本來天皇ノ徴象性ト云フモノガアルカラ、憲法一條、四條ノ規定ト云フモノガ出テ來タノデアルカ、孰レデアルカト云フコトニ付テハ、マア多少論議ガアリマセウケレドモ、兎ニ角徴象ト云フコトト、憲法上ノ天皇ノ御地位ト云フコトガ相俟ツテ、相扶ケテ、憲法上非常ニ重要ナ統治權ヲ總攬セラレル御地位ニ居ラレルカラシテ、愈々天皇ノ徴象性ト云フモノガ明カニナリ、強クナル、又一面カラ言ヘバ、天皇ノ徴象性ト云フモノガ、日本國民ニハ非常ニ強イカラ、第一條、第四條ノ憲法上ノ重要ナ地位ト云フモノガ認メラレテ居ルノダ、斯ウ云フ風ニ了解致シマスカラシテ、我ガ國ニ於キマシテハ、此ノ兩個ノ地位ト云フモノハ一體不可分デアル、相持チ相俟ツテ、天皇ノ御地位ヲ彌ガ上ニモ重ク見ラレテ居ツタ次第デアリマスル、ソレデ愈々其ノ御地位ニ付キマシテハ、嘗テノ國體明徴論ト云フモノガアリマシテ、マダイカヌ、モツト御地位ヲ強クシナケレバナラヌト云フヤウナ論ガ世ヲ支配致シマシテ、サウシテ色色ソレニ反スル憲法學者ヲ壓迫致シマシテ非常ニ天皇ノ御地位ヲ強カラシムルコトニヤリマシタ時代モアルノデアルマス、是ガ又、非常ニ極端ニ行過ギタ結果ト云フモノハ、斯クノ如キ今日、ヤウナ状態ヲ來シテ居ル譯デス、是ハ確カニ一ツノ非常ナ行過ギガ、其ノ點ニ於テアツタト見ナケレバナラヌノデアリマス、而シテ此ノ二ツノ御地位ノ一體不可分ト云フコトハ、併シナガラ能ク考ヘテ見レベ分ケラレナイモノデモナイ、分チ得ナイ本當ノ意味ノ不可分ナモノデアルト云フコトハ言ヘナイト思フノデス、互ニ其ノ間ニハ、天皇ノ兩方ノ御地位ニ付キマシテハ、非常ニ之ヲ理論上分ケテナラヌト云フ性質ガ、其ノモノノ中ニアル譯デモナイ、又徴象ト申シマシテモ、其ノ時ノ時勢ニ依リ、或ハ國民ノ感情ニ依リマシテ、非常ニ徴象性ノ強イ時代モアレバ、徴象性ノ弱イ時代モアリ得ル譯デス、日本ノ歴史ヲ見マシテモ、非常ニ天皇ノ御地位ノ弱カツタ、即チ幕府ニ政權ガ移ツテシマツテ、天皇ハ畏多イコトデスガ、非常ニ力ノ弱イ御地位ニ居ラレタ時代モアルノデアリマス、サウ云フ時ニハ、天皇ノ徴象性ト云フモノハ非常ニ力ガ弱カツタ、斯ウ云フコトニ自然ニナルノデアリマス、相伴ツテ居ルト言ツテモ、或ハ宜イカモ知レナイ、是ハ餘リ古イコトデハナイノデス明治維新前ノ幕府ノ時代ヲ顧ミマシテモ、今日ノ如キ天皇ノ御威光ト云フモノガアツタ譯デハ無論ナイ、徴象ガ非常ニ弱カツタノデアリマス、國民全體ガ果シテ天皇ヲ十分ニ徴象トシテ認識シタカドウカ、頗ル疑ハシイト思フ程ノ弱イ徴象力ヲ御持チニナツテ居ツタノデハナイカト想像サレルノデアリマス、其ノ當時ニ於キマシテハ多クノ人ハ幕府在ツテ天皇在ルヲ知ラナイノデス、今日カラ見レバ、天皇ガ日本ノ徴象デアルト云フコトハ、國民感情トシテ誰モガ承知致スノデアリマスガ、是ハ天皇ニ、明治憲法ニ依ツテ強大ナル地位ガ認メラレタル結果、斯ウ云フ風ニ御威光ガ盛ニナツタト謂ハザルヲ得ナイ、相俟チ、相伴ツテ、此ノ徴象性ト云フモノガ非常ニ發揮サレタノデアリマス、幕府ノ時代ニ於キマシテハドウデアリマセウ、我々ハモウ若クテ、其ノ當時ノコトハ能ク知リマセヌケレドモ、色々書イタモノヲ讀ンデ見マシテモ、西國カラ參覲交代デ、諸侯ガ江戸ニ上ル時ニ、天皇陛下ノ居ラレマス京都ヲ通過スル時ニ如何ナル態度ヲ、諸侯ハ執ツテ居ツタデセウ、果シテ、駕籠ヲ降リテ皇居ヲ拜シタ者ガアツタノデアリマウカ、或ハ又、ソレニ扈從シテ居ツタ所ノ多クノ家來共ガ皇居ニ向ツテ、果シテ如何ナル態度ヲ執ツタノデアリマセウカ、斯ウ云フコトヲ考ヘテ見マスルナラバ、天皇ノ徴象性ト云フモノモ時代ニ依リ、其ノ時ノ國民ノ感情ニ依リマシテ、非常ナ消長ノ差ガアルト云フコトガ明カナノデス、是ハ中ニハ無論非常ニ勤皇思想ノ強カツタ諸大名モアリマシタラウ、アリマシタラウケレドモ、サウ云フ諸侯武士ノ階級ハ、悉ク天皇ヲ象徴トシテ仰ギ、崇メタカドウカト云フコトハ疑ハシイ、ノミナラズ、サウ云フ上流階級デハナイ、一般ノ人間ガ、ドウ云フ考ヲ其ノ當時持ツタカト云フト、非常ニ象徴力ト云フモノガ弱カツタ、斯ウ云フ風ニ私ハ見ナケリヤナラヌトオモフノデアリマス、「イギリス」ノ如ク、皇帝ガ矢張リ非常ニ政治上ノ力ヲ持タナイケレドモ、非常ニ尊敬ヲ受ケテ居ル、英國民ノ尊敬ノ的デアル、斯ウ云フ風ナ國モアルノデアリマスカラ、此ノ天皇ノ政治上ニ於ケル地位ト徴象力ト云フモノハ、是ハ理論的ニハ政治上ノ地位ガナクテモ、政治上強イ力ガナクテモ、非常ニ國民カラ見テ徴象力ガ強イ、非常ナ統合ノ中心力デアル、斯ウ云フ風ニ見ラレル場合モ無論有リ得ル譯デスカラ、從ツテ理論上此ノ二ツノ地位ト云フモノハ分離シ得ル、斯ウ云フコトハ言ヘルト思フノデアリマス、併シナガラ之ヲ分離スルニ付テハ矢張リ政治上ノ力ガ弱クナレバ、天皇ガ象徴デアルト云フ御力モ弱マルト云フコトハ、是ハ我々ガ非常ニ憂ヘル處デアリマス、今ハ惰力ガアリマスカラ、サウ云フコトハナイカモ知レマセヌガ、將來ニ於テ、天皇ノ政治上ノ力ガ弱クナツテシマフ、サウスルト、此ノ日本國ノ象徴ノ力ノ段々弱マツテ來ルト云フ其ノ時代ガ、現ニ日本ノ幕府時代ガサウデアリマス、サウ云フ時代ガ來ヌトハ限ラナイ、其ノ點ニ私ハ今度ノ憲法ノ改正ガ、國民精神ノ上ニ於テ、教育ノ上ニ於テ、重大ナル關係ヲ持ツモノデアルト云フコトヲ憂ヘル譯デアリマス、其ノ點ニ付テ何トカ政治上ノ御力ハ弱マツテモ、此ノ徴象力デ弱マラナイト云フ方策ヲ今日カラ考ヘテ置カナケレバナラヌ、サウ云フ對策ヲ今日カラ十分ニ練ツテ置カナケレバナラヌノヂヤナイカト確信スル者デアリマス、ソレデ憲法上ノ、今迄明治憲法ニ書イテアリマスル天皇ノ御地位ヲ以テ、之ヲ國體ナリト致シマスルコトハ、是ハ諸學者ノ一致スル處デアリマス、是ハ裏ト表ニナツテ居ルノデアリマスケレドモ、天皇ノ二ツノ地位ト云フモノハ憲法上ノ地位ガ表ニナリ、徴象性ガ裏ニナツテ居ル譯デ、表ダケガ法律ノ面ニ浮ビ上ツテ居ルノデスカラ、其ノ浮ビ上ツテ居ル表ノ面ニ付テ、ソコガ國體グト云フコトニ付テハ、殆ド今迄ノ學者ノ異論ノナイ處、金森國務大臣モ現ニ其ノ點ハ自ラ御認メニナツテ居ル處デアリマス、サウ云フ教育ヲ、憲法ノ講義ガ始ツテ以來、何十年トナシニ、今日ニ於テモ續ケテ來テ居ル譯デアリマス、從ツテ我々法律ヲヤツタ者、法律ヲヤラナイ者デモ、何百萬人ノ人間ガ、其ノ憲法上ニ浮ビ上ツテ居ル點ヲ見テ、之ヲ國體ナリト觀念スルコトハ是ハ已ムヲ得ナイ、ミンナ諸先生ガ、サウ云フ風ニ教ヘ込ンデシマツタ、教育ノ結果カラ、又ソレデ宜カツタノデアル、從ツテ治安維持法ニモ國體ト云フコトヲ書キ、大審院ノ判決ニ於テ國體ヲ論ジテ、其ノ點ヲ以テ國體トシテ居ルノデアリマス、ソレヲ今度ハ裏ノ方面ニアル御性質ヲ浮ビ上ラシテ、之ヲ國體ナリトシ、元ノ國體觀念ガ間違ツテ居ル、裏ノ方ガ本當ノ國體ダト云フノガ、今日ノ金森國務相ノ御意見ナンデアリマス、是ハ此ノ憲法ガ起草サレマシタ時ニ、斯ウ云フ風ニ論ヲ變ヘテ來ラレタ、今迄數十年來、此ノ學説ガ日本ノ學界、竝ニ實際ヲ支配シテ居ツタ、大概ノ人ハサウ云フ風ニ國體ト云フコトヲ習ツテ居ル、又信ジテ居ル、ソレガ一朝ニシテ、此ノ憲法ガ出來ルト、直グ此ノ憲法ニ合ハセナケレバイカヌカラ、サウ云フ論ニナツタノデアリマセウガ、兎ニ角數十年來ノ學説ヲ棄テテ、サウシテ表ハ實ハ國體ヂヤナイ、裏ガ國體ダ、裏ヲ法律上ニ現ハシテ來タノデス、裏ガ本當ノ國體デ、裏ハ存續シテ居ルノデアル、裏ガ變革サレナイモノデアル、斯ウ云フ論ニ急ニ變ツタノデアリマス、是ハ金森國務相ガ變ヘラレタ論理デアリマス、又世ノ中ノ人ハ、其ノ論據ヲ初メテ此ノ議會ニ於テ實ハ拜承シタ譯デアリマス、是ハ全ク新シイ見解デアリマシテ、コンナコトヲ今迄説イタ者モナケレバ、世界孰レノ國體論ニ於テモ、裏側ノ微象性ニ國體ガアルト云フコトヲ説イタ學者モナケレバ、サウ云フ學説ハ今迄無イ譯デアリマス、金森國務相獨特ノ説明方法デアル、之ヲ我々國民ニ押附ケラレヨウトシテモ、ナカナカ骨ノ折レル仕事デス、學者諸先生ノ方ハ、從來ノ表ガ國體デアルト云フ觀念デ行キマスカラ、表ハ確カニ變ツテ居ル、表ハ變ツテ居ルニ決ツテ居ル、即チ統治權ヲ總攬スルト云フ規定ハ變ヘラレテ居ル、表カラ行ケバ變ツテ居ル、裏口カラ行ケバ變ツテ居ラヌト、斯ウ云フ論ニ、其處ニナル譯デス、處ガ斯ウ云フ憲法ニ關スル重大ナル問題ハ、是ハモウ、學者ガ既ニ數十年來研究シ來ツタ成果デアリマシテ、今迄ノ間ニ、サウ云フコトヲ以テ國體ナリトスル論ガ出ナカツタト云フコトハ、私ハ實ニ不思議ニ堪ヘナイ、私ハ憲法ノ學者デモ何デモナイカラ、其ノ點ハ研究シナカツタガ、多數ノ憲法學者ガ日本ニ居ツテサウシテ何十年來、専門ニ憲法ヲ研究シテ居ツテ、サウシテ裏側ニ眞ノ國體ガアルト云フ論ヲ未ダ曾テヤラレタモノヲ聞カナイノデス、此ノ憲法始マツテ‥‥、此ノ新憲法草案ガ提出ニナツテ初メテ、所謂憧レ論ト云フヤウナモノデ、其ノ點ガ説明サレタノデアリマシテ、是ハ私共ハ大イニ理解シテ居ル積リデスケレドモ、此ノ舊來ノ學説ニ非常ニ長ク囚ハレテ居ル總テノ國民、法律、學徒ヲ初メ、總テ學校デ法律ヲ習ツタ人間ハ、ナカナカサウ云フ風ニ、唯憧レ論位デハ納ラナイ、デスカラ、國體ノ變革ニナツタノハ、當然ノコトダト云フ風ニ皆ガ考ヘテ居ル、政府ガ唯一時逃レノコトヲ言ツテ居ルノヂヤナイトシカ、世間ノ人ハ考ヘナイ、又學者ハ、國體ハ立派ニ變ツテ居ルヂヤナイカト言ツテドンドン攻撃ヲ向ケテ居ル譯デアリマス、此ノテンハ國體ノ置キ所ニ、國體ナルモノノ觀念ノ置キ所ノ、見解ノ相違デアツテ、幾ラ論議シテモ、是ハ平行線デ以テ打突カル所ハナイ譯デス、國體ト云フ本ノ意義ガ違フノデス、表ガ國體ダト言フ人ト、裏ヲ國體ト言フ人ト、斯ウ言ツテ闘ツテ居ルノデスガ、幾ラ闘ツテモソレハ變更ガアルトカ、一方ハナイトカ、唯自分ノ立場ニ立ツテ變更ガアルト言ヒ、又ハ自分ノ立場ニ立ツテ變更ガナイト言フ、斯ウ云フダケノ話デアリマシテ、是ハ初メテノ學説デアリマスルカラ、是ガ國民ニ十分ニ、若シ其ノ説ガ正シイトスルナラバ、浸ミ込ムヤウニシナケレバナラヌ譯ナンデス、モウ表向キカラ行ツテ、統治ノ大權ヲ失ハレタコトハ、是ハドウモ總攬者デアルト云フ規定ガナクナツタンデスカラ、疑ヒハナイト私ハ思ヒマスケレドモ、明治憲法ノ發布ノ御詔勅ノ中ニモ、「國家統治ノ大權ハ朕カ之ヲ祖宗ニ承ケテ之ヲ子孫ニ傳フル所ナリ」ト、斯ウ云フ風ニ、統治ノ大權ヲ祖先カラ承ケテ之ヲ子孫ニ傳ヘルノダ、ソレデ此ノ憲法ヲ出シテ居ルカラ宜シク協賛シロト云フ風ナ憲法ノ前文ノ規定ガ出來テ居リマス、其ノ御詔勅ニアル國家統治ノ大權ヲ子孫ニ讓ラレタ、其ノ統治ノ大權ト云フノハドウナツテ居ルカ、總攬者デアルカラ統治ノ大權ヲ持ツテ居ラレル、デスカラ、其ノ意味ニ於テハ、表向ノ方カラ論ズレバ、非常ナル茲ニ變革ガアルト云フコトハ否ミ難イ事實デアル、金森國務相自身モ、其ノ點ハ頭ヲ下ゲテ居ラレル、其ノ論カラ見レバ、國體ノ變更間違ヒナシト、斯ウ言ツテ居ラレルノデスカラ、國體ノ變更間違ヒナシト言ツテ居ル一般ノ人ノ觀念ノヤウニ、其ノ一般ノ國體論デ以テ、變更ガアツタト云フ風ニ皆見ルト云フコトニナツテ來マスカラ、是モ非常ニ困ルノデハナイカト云フコトニ考ヘマスルケレドモ、其ノ點ノ理窟ヲ十分ニ明カニシテ、變ツタ部分、變ラヌ部分、變ツタ部分ハ、勇敢ニ變ツタンダト、斯ウ云フコトヲ承認サレ、變ラヌ部分ハ、勇敢ニ是ハ變ラナイノダト云フ風ニ論ゼラレ、其ノ點ヲ明徴ニシナケレバ、將來是ハ非常ナ重大結果ヲ招來スルノヂヤナイカ、曖昧、模稜ヲ許サナイ、此ノ點ハ、主トシテ金森國務相ノ説明デアリマシテ、私ハ植原、齋藤兩国務相ノオイデヲ願ヒ、又田中文部大臣ニ御臨席ヲ願ヒマシタ所以ハ、齋藤、植原兩國務相ハ、非常ニ憲法ニ御精通ニナツテ居ラレル方デアリ、又田中文部大臣ハ、文教ノ當事者トシテノ御關係モアリ、又専門ハ商法デアリマスルケレドモ、非常ニ良心的ナ法律學者デアラレルノデスカラ、此ノ國體ノ變更ニ對スル三閣僚ノ‥‥、金森國務相ニハ私ハモウ質問ハ致シマセヌ、今迄何百回トナシノ論議デ以テ、金森國務相ノ論ゼラレル所ハ能ク了解シテ居ルノデ、ソレ以上聽イテモ同ジコトデスカラ、金森國務相ノ御答辯ヲ煩サナイデ、三閣僚ノ其ノ點ニ付テノ御説明ヲ伺ヒタイ、是ハ政府全體ノ御意向デセウケレドモ、又各自々々ノ立場ガオアリデセウカラ、御自分ノ極ク良心的ナル立場カラ、此ノ點ニ關スル御答辯ヲ願ヒタイト云フノガ私ノ立チマシタ趣旨デアリマス、尚田中國務大臣ニ付キマシテハ、是ハ教育ニ非當ナ影響ガアルト私ハ思フ、無論ナケレバナラヌ、今後ノ教育ニ付テ、國體變更アリト見テ教育シテ行クカドウカ、大學ノ先生ハ、皆變更アリトシテ大學デハ教鞭ヲ執ツテ居ラレル、文部省ハ其ノ點ニ對シテ、ドウ云フ風ナ態度ヲ以テ教育ヲヤツテ行カレルノデアリマスカ、此ノ國體ト云フコトハ、教育ノ基礎デアリマシテ、此ノ點ヲ明徴ニシナケレバ、子供ニ嘘ヲ教ヘルト云フコトニナル、宜イ加減ナコトヲ教ヘテ行ク譯ニイカナイ、是ハ教育ノ基本デアリマシテ、其ノ點ニ對スル田中文部大臣ノ御所見ヲ伺ヒタイト云フノガ、私ノ質問ノ要旨デアリマス
○國務大臣（植原悦二郎君） 御質問ニ御答ヘ致シマス、國體ニ對スル御質問デアリマスガ、國體ニ對スル御尋ニ對シテ御答ヘスル以前ニ於テ、一體、國體其ノモノニ對シテ、ハツキリシタ定義ヲ持タナイコトデ、色々國體ニ對スル異ナツタ見解ヲ有シテ居ルコトガ、畢竟國體ニ對スル此ノ議會ヲ通ジテ議論ノ岐ルヽ所デアルト思ヒマス、故ニ私ガ、只今モ御尋ノ通リ、之ニ付テ私ノ良心的ノ御答ヲ致スニ付キマシテハ、國體ト申スモノノ、先ヅ定義ヲ致シテ掛リタイト思ヒマス、國體ト申スノハ、國ノ樣式トカ、或ハ國ヲ相トカ、國家ノ形態ト云フコトデアラウト思ヒマス、其ノ國家ノ形態ト云フモノニ付キマシテハ、主權ヤ統治權ノ問題ガ之ニ挾マルヤウデアリマスルケレドモ、本當ニ政治學上、或ハ憲法學上國體ヲ申ス時ニハ、國家ノ「フオーム」、樣式、形態ヲ申スノデアリマシテ、左樣ナ立場カラ形態ヲ申シマスレバ、國家ノ形態ニ對シテ、政治學上之ヲ論ズレバ、何ト言ツテモ、二ツニ分ツヨリ外ニ方法ガアリマスマイ、色々分ツ方法ガアリマセウケレドモ、大體ニ於テ君主制カ共和制デゴザイマス、デ、君主制デモ君主獨裁制ノ國體モアリマセウ、立憲政治ノ下ニ於ケル所ノ君主制モアリマセウ、共和制ニ致シマシテモ、「アメリカ」ノ如キ共和制ノ國體モアリマセウ、「デモクラシー」ヲ一方ニ於テ代表スル共和制デアルト申シテ居リマスル所ノ蘇聯ノヤウナ形態モアリマセウ、同ジク共和制ノ形態デ、一言ニシテ言ヘバ、兩方共民主制ノ國家デアルト申セマセウケレドモ、兩者ノ間ニ非常ナ相違ガアリマス、ソレト同ジコト、君主制ト申シマシテモ、立憲君主制ノ國體モアリマセウシ、專制君主制ノ國體モマリマセウシ、又寡頭政治式ノ國體モアリマセウシ、細別スレバ色々アラウト思ヒマスケレドモ、先ヅ大體、大別シテ共和制カ君主制、ソレデ日本ハ天皇制ノ下ニ於ケル國體ダト云フ定義ノ上カラ言ヘバ、日本ノ國體ハ變革サレテ居リマセヌ、時ニ依ツテ、政權ノ實權ヲ握ルモノト、皇室トノ關係ニ於テハ、非常ニ相違ガアツタコトガアリマセウ、御説ノ如ク藤原時代、源平時代、徳川時代、又明治ヲ通ジマシテモ、餘程違ツテ居リマス、此ノ違ツテ居リマスルノハ、悉ク私共政治上カラ言ヒマシテ、政體ノ變革ダト認メマス、日本ガ天皇ヲ有スル國體、而モ其ノ天皇制ヲ有スル國體ハ、今迄ハ萬世一系ノ天皇ガ日本ノ皇位ヲ繼承スルコトニナツテ居リマシタ、新憲法ニ於テハ、其ノ文句ハアリマセヌケレドモ、皇族ヲ中心トシテ、其ノ系統ヲ帶ビル者ガ皇位ヲ繼承スルコトニナツテ居リマスカラシテ、非常ニムヅカシイ、重箱ノ隅ヲ楊枝デツツ突クヤウナコトヲ申シマスレバ、其處ニ多少ノ變革ガアリマセウケレドモ、大體、萬世一系ノ皇統ニ連ナル世襲的ノ天皇陛下ヲ戴クト云フコトカラ申シマスレバ、先ヅ大局ニ於テ變ツテ居ラナイト申シテ宜シイノデハゴザイマスマイカ、サウスレバ私共、先ヅ國體ハ變更シテ居ラヌ、是ガ日本ノ歴史ヲ通ジ、現憲法ヲ通ジ、此ノ憲法ヲ通ジテ、ハツキリト申上ゲラレル所ノ國體觀念トシテ私ハ差支ナイト思ヒマス、ソコデ議論ノアルノハ政體ノ問題、政體ノ問題ト國體ノ問題トヲ分ツニ付キマシテ、姑ク此ノ點ヲ、極メテ重要ダト思ヒマスカラシテ、委員長ノ御許シヲ得マシテ、少シク此ノ議論ヲ詳細ニ申上ゲタイト思ヒマス、此處デ問題ノ起ルノハ、國體ニ關聯シテ主權ノ問題ダト思ヒマス、主權ノ問題ガ、一體主權ガ何處ニアルカト云フコトデアリマスガ、私共政治哲學ノ上カラ、徹底的ニ國家論ヲ主張スル上カラ申シマスレバ、如何ナル時代ニ於テモ主權ハ人民ニアルモノ、國民ニアルモノト云フ解釋ヲ取ルノガ、本當ニ眞理ニ徹シタ正常ノ解釋ナリト思フノデアリマス、如何ナル君主ト雖モ、君主獨裁ノ政治デモ、ソレニ治メラレテ居ル所ノ人民ニ反旗ヲ擧ゲラレル場合ニハ、其ノ地位ヲ保ツコトハ出來マセヌ、「ルイ」十四世ノ如キ、朕ハ即チ國家ナリト言ツタ皇帝デスラ、國民ニ背カレル場合ニ於テハ、其ノ地位ヲ保ツコトハ出來マセヌ、矢張リ主權ノ發動デハナイケレドモ、主權ノ存在ト云フモノガ、既ニ人民ニアルモノデアルカラ、其ノ主權ノ動キ方ニ依ツテ政體ガ時々變革スル、ソレヲ或意味カラ言ツテ、革命ト申シテモ差支ナカラウト思ヒマス、先般來衆議院、或ハ此ノ委員會ニ於テ、既ニ日本ガ現憲法全部ヲ擲ツテ、改正ノ手續ハ憲法第七十三條ニ依ルニセヨ、殆ド一條モ同ジモノモナイ所ノ此ノ憲法草案ヲ議スルニ付テハ、是ハ革命デナイカト云フヤウナ御議論モアリマス、ソレモ私ハ其ノ通リダト思ヒマス、ソコデ主權ノ問題ニナツテ、議論ニナリマスノハ、只今霜山委員モ仰セラレタ如ク、現行憲法ニ於テハ、萬世一系ノ天皇ガ日本ヲ統治スル、而シテ天皇ハ國ノ元首トシテ、其ノ統治權ヲ總攬スル、之ヲ私ハ徹底的ニ政治學上ノ立場カラ考ヘマスルト云フト、是ハ主權ニ非スト申スノデアリマス、是ハ統治權デアル、主權ト云フモノハ、其ノ言葉自體ニ依リマシテモ、其ノ國家ニ於ケル最高、唯一無二ノ絶對權ヲ以テ主權トスルノガ政治學ノ定義デアルト思ヒマス、國家最高絶對、唯一無二ノ國家ノ原動力ト云フモノガ、其ノ國民ノ總合意思、此ノ憲法ニ於ケル至高ノ總意ト申シマセウカ、ソレ以外ニ存在セヌモノダト思ヒマス、憲法ノ規定内ニ定メラレタル權能ハ、是ハ主權ニ非ズ統治權デアリマス、何故カナラバ、主權ハ限定サルベキモノデハアリマセヌ、主權ト云フモノハ、ソレ自體言葉ノ意味カラ言ツテ、絶對無二、最高唯一ノモノデアル以上、國家ノ國民全體ノ總意デアリマスルナラバ、其ノ憲法ヲ時ニ依ツテハ變ヘ得ルモノデナクテハナラナイ、政體ヲ時ニ依ツテハ覆ヘスモノデナケレバナラナイ、ソコデ今度ハ、「ポツダム」宣言モアリマセウ、又世界ノ大勢モアリマセウ、日本ノ國民全體ノ要求モアリマシテ、現行憲法ヲ改メテ、茲ニ提案ノ如キ憲法草案ヲ議スルニ至ツタコトハ、ハツキリトシタ主權ノ發動デアル、其ノ主權ノ發動ニ依ツテ、統治權ノ所在ヲ變ヘルノデアル、デ、成ル程萬世一系ノ天皇ガ日本ヲ統治シテ、其ノ天皇ハ元首トシテ統治權ヲ總攬シ給ウテ居タニ相違アリマセヌケレドモ、只今、霜山委員ノ御説ニ依リマシテモ、實際徳川時代ニ於テハ、京都ヲ通ル所ノ大名デモ、之ニ對シテ本當ニ御挨拶ヲシタ者ガ數少カツタト云フヤウナコトヲ御言ヒニナリマシタガ、事實其ノ通リデ、統治ノ大權ハ徳川ガ持ツテ居リマシタケレドモ、併シ徳川ガ將軍、或ハ關白ノ役名ヲ貰ウトスル時ニハ、矢張リ結局、陛下ニ伺ツテ、御墨附ヲ戴カナケレバナラナカツタト云フコトソレ自體ハ、矢張リ日本ノ天皇ガ日本ノ國家ノ中心トシテ在シマシタト云フコトヲ、ハツキリトスルモノデハアリマスマイカ、平家ガ、アレダケ敗北シテ關西ニ遁ゲル時デモ、安徳天皇ヲ擁シテ行カナケレバナラナカツタコトハ、矢張リ主權ノ中心、元首トシテノ中心ハ矢張リ天皇ニ在ルト云フ、日本ノ國民ノ心理ヲ現スモノデアル、ソレダカラト言ツテ、ソンナ主權ヲ持ツテ居ルカト言ヘバ、私ハ左樣ニハ思ヒマセヌ、如何ナル場合ニアツテモ、日本ノ國家ノ運命ヲ最後ニ決定スル者ハ、日本ノ國民デアツテ、日本ノ國民ガ本當ニ陛下ニ對スル尊敬ヲ以テ之ヲ元首トシ、之ヲ只今ノ言葉デ言ヘバ、象徴トシテ仰グ意思ガナカツタ場合ニハ、是ハ存在出來ナイト、哲學的ニ、政治學的ニ、サウ解釋シナケレバナラナイ、從ツテ日本ノ現行憲法ニ於テ、統治權ニ付キマシテモ、統治權ヲ總攬スルト云フ言葉ヲ使ツテ居リマス、統治權ヲ天皇自ラ御行使ナサルト云フコトハ書イテゴザイマセヌ、此ノ點ハ此ノ現行憲法ノ制定者ハ、非常ニ注意深イモノデ、英語デハ總攬ト云フ字ヲ、「レイン」ト譯シテ居リマス、「ガヴァーン」デハアリマセヌ、統治權ヲ親シク行使ナサルノデハナクシテ、統治權ヲ總攬シ給フノデアル、其ノ統治權ハ憲法ノ規定内ニアルモノデ、主權ニ非ズ、主權ハ國民ニ存スルモノ、國民主權ニ依ツテ政體ノ變革ハ何時デモ出來ル、主權ノ發動ハ憲法ノ以外ニ存スルモノデナケレバ、憲法ヲ變更スルコトハ出來マセヌ、憲法ノ規定内ニ限定サレテ居ル所ノ權力ハ、如何ナル權力デアリマシテモ、是ハ限定サレテ居ル、制限サレテ居ル權力ト見ルノデアツテ、是ハ嚴格ナ意味ニ非スシテ統治權デ主權デナイト見ルベキダト思フ、日本ノ主權、是ハ日本ノ主權ガ天皇ニ在ルト云フガ如ク、褊狹ナル所ノ憲其解釋ヲ致シ、サウシテ國家ノ定義ヲスル時ニ、日本ノ多クノ法學者ノ其ノ褊狹ナル國家ノ定義ガ、世界ニ通用シナイノデアル、政治學上國家ト申シ、法律學上國家ト申ス以上ハ、其ノ國家、國體ト云フ定義ガ、世界ニ通用シナケレバ、學問上ノ定義ト私ハナリ得ナイト思フ、ソレヲ日本獨特ノ國體ガアルト云フヤウナ褊狹ナ解釋ヲシテ、天皇ガ主權ヲ有シテ居ルノダ、天皇ガ主權ヲ有シ、萬世一系ノ天皇ヲ戴テ居ル日本ノ國ハ獨特デ、世界ニ無比ナルモノデアルト云フヤウナ國體ノ定義ヲ致シマシテ、徒ニ國體ノ間違ツタ解釋ヲシ出シタコトガ、此ノ現行憲法ニ對スル可ナリ國民ノ解釋ヲ、歪曲シ易イヤウニナツタ譯デハアリマスマイカ、私ハ憲法三條ノ規定「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」ト云フコトモ、天皇ハ統治權ノ總攬者デアル、統治權ヲ親シク行使シ給ハナイ者ダ、政治上ノ責任ハ總テ輔弼ノ臣ニアル、從ツテ天皇ハ政治的ニ無答責デアルト云フノガ、憲法三條ノ規定デアツテ、天皇ヲ神樣デアルト云フ考デ、明治ノ欽定憲法ヲ定メラレタ方モ、左樣ナ考デ致シタモノデハナイト思ヒマス、左樣ニ解スル事ガ正シイ、左樣ニ解釋シサヘスレバ、現行ノ憲法ニ於テモ、非常ニ曲解サレタリ、歪曲サレタリスルコトハナカツタ、唯現行ノ憲法ニ於テ誤リヲ生ジタコトハ、明治三十三年ノ山縣公ガ作リマシタ陸海軍ノ大臣ハ、現役大中將ヲ以テ任ズルト、是ガ總テノ日本ノ憲法ヲ歪曲シ、此ノ戰爭ヲ惹キ起ス根源デアツタト思ヒマス、然ルニ日本ノ憲法ハ、其ノ法文ヲ觸釋スル所ノモノガナカツタ、明治二十五年デシタカ、豫算ノ先議權ノ問題デ、貴衆兩院ノ間ニ議論ガアツタ場合ニ、ソレガ解決出來ナイデ、陛下ニ奏上シテ、陛下ガ樞密院ニ御下問ニナツテ、サウシテ衆議院ガ貴族院ニ對シテ先議權ガアルト云フ決定ガアツタコトガ、憲法ニ觸レタ一ツノ解釋ノ實例ダト思フノデアリマス、若シ此ノ憲法草案ノ如ク、規定ヲ解釋スルニ何等カノ機關ガ、現行憲法ニ於テ作ラレテ居リマシタナラバ、明治三十三年ノ陸海軍ノ省令ハ憲法違反ナリトシテ斥ケラレタト思ヒマス、ソレヲ斥ケナイデ、殆ド四十數年ノ間、憲法ノ一部分デアルカノ如クニ、軍人ニ我ガ儘ヲ許シテ來タコトガ、今日ノ悲慘事ヲ生ンダ原因デアルト思ヒマス、斯樣ニ考ヘマシテ、主權ノ所在ヲ明カニスル、主權ト統治權ノ存在ヲ明カニスル、國體ト云フモノニ對シテ世界ニ通用スル定義ヲスル、日本ガ君主國ダ、而モ世襲的ノ天皇ガ日本ノ皇位ヲ踐ミ給フノデアル、此ノ憲法ノ存在スル限リハ、日水ノ國體ハ變革セス、併シ統治權ノ所在、其ノ運行ノ方法ニ付テハ、甚ダシク相違スルヤウニナツテ居ル、斯樣ニ觸釋スルコトガ、正シイ解釋ヂヤナイカト、私ハ思フノデアリマス
○國務大臣（齋藤隆夫君） 憲法ノ觸釋ハ、極メテ困難デゴザイマシテ、殊ニ國體ニ關スル議論ハ甚ダ「デリケート」デアリマスルカラシテ、我々閣僚ト致シマシテハ、閣僚ノ言ガマチマチニナツテハ大事件デアリマスルカラシテ、憲法ノ質問ニ關スル限リハ、金森國務相ヲシテ之ニ當ラシムルト云フコトニ、實ハ申合セテ居ツタノデアリマス、ソレ故ニ衆議院ノ本會議及ビ委員會ニ於キマシテモ、特ニ私ノ名ヲ指シテ答辯ヲ要求ニナリマシタケレドモ、其ノ趣旨ニ從ツテ、私ハ答辯ヲ控ヘテ居ツタノデアリマス、處ガ、只今霜山委員カラシテ、特ニ私ノ名前ヲ御指シニナリマシテ、答辯ノ御要求ガゴザイマシタカラシテ、此ノ際、是迄金森國務相ガ把リ來ツタ答辯ニ矛盾シナイ範圍内ニ於キマシテ、私ノ私見ヲ申述ベテ御參考ニ供シタイト思ヒマス、端的ニ申シマスルナラバ、私ハ、只今霜山委員ノ御説ニハ、全ク同感デアリマス、霜山委員ノ御説ハ、極メテ明快デゴザイマシテ、之ニ向ツテ、彼此異議ヲ差挾ム餘地ハナイノデアリマス、元來、國體ト云フ言葉ハ、何時カラ現レタカハ、私ハ能ク存ジマセヌ、或書物ニ依リスルト、餘程古イ書物ノ中ニ國體ト云フ文字ガ書イテアルト云フコトヲ書イテアリマスルシ、是ハ明治以後ニ現レタモノデアルト書イテアルモノモゴザイマスルガ、ソレハドウデモ宜シウゴザイマスガ、元來、日本程國體々々トヤカマシク言フ國ハアリマセヌ、先程モ御話ガアリマシタガ、或時ニ於テハ國體明徴ト云フ如キ議論ガ盛ニナリマシテ、有力ナル所ノ學者ヲ葬リ去ツタヤウナ事實モアルノデゴザイマスルガ、併シ、サウヤカマシクナル所ノ國體トハ、一體何デアルカ、君等ハ國體ト云フ言葉ヲ能ク使フガ、君等ノ言フ國體トハドウ云フ意味デアルカト問ヒマスルト云フト、ドウモ極メテ漠然タルコトデアリマシテ、明快ナ答辯ヲシタ者ハ少イノデアリマス、元來、國體ト云フ文字ノ意義ガ能ク分ラヌ、併シ私ノ見ル所ニ依リマスルト、國體ノ意義ニ付テハ、大體二ツノ見方ガアルノデアリマス、一ツハ、法律上ヨリ見タル國體、一ツハ、倫理上ヨリ見タル國體デアリマス、法律上ヨリ見マスルナラバ、國體ハ即チ主權ノ存在ニ依ツテ決マルノデアル、主權ガ君主一人ニアレバ、ソレハ君主國體デアル、人民ニアレバ、ソレハ民主國體デアル、斯ウ云フコトニ決ツテ居ルノデアリマシテ、日本ニ憲法ガ制定セラレマシテ以來、歿クナラシマシタ穗積博士ヲ初メトシテ幾多ノ憲法學者ガ、憲法ヲ論ズル最初ニ於テ國體ヲモウ述ベテ居リマスルガ、其ノ人々ノ國體論ハ、矢張リ主權ノ所在ニ依ツテ國體ガ決マルノデアル、斯ウ云フ御説デアツタト私ハ思ウテ居リマスノミナラズ、是迄、國民學校ヲ初メトシテ最高學府ニ於ケル國體論ハ、此處ニ基礎ヲ持ツテ居ツタモノデアルト思ヒマス、又其ノ觀點カラシテ見マシテ、日本ノ國體ハ何處ニアツタカ、詰リ日本ノ主權ハ何處ニアツタカ、植原君ハ主權ト統治權ハ違ツテ居ルト申サレマシタケレドモ、私ハ此ノ點ニ付キマシテハ同ジモノデアルト存ジマス、主權即チ統治權デアル、統治權即チ主權デアル、斯ウ私共ハ解釋シテ居ルノデアリマス、日本ノ主權ハ何處ニアツタカト言ヘバ、是ハ申ス迄モナク天皇ニアツタ、霜山サンノ御引用ニナリマシタ所ノ憲法第一條、第四條、及ビ憲法發布ノ當時ニ發セラレマシタ所ノ御詔勅、之ニ依ツテ日本ノ主權ハ天皇陛下御一人ガ掌握シテ居ラレタト云フコトハ、是ハ歴史上及ビ國民的信念カラ申シマシテ、爭フコトノ出來ナイ事實デアリマス、尤モ主權ノ運用ニ付キマシテハ、時代ニ依ツテ色々違ヒマス、藤原氏ガ政權ヲ奪ヒ取ル、或ハ降ツテ源平、更ニ降ツテ徳川幕府、主權ノ運用ニ付テハ、時代ニ依ツテ異ツタコトガゴザイマスルケレドモ、主權ノ本體ニ於キマシテハ、本體ハ依然トシテ天皇ガ握ツテ居ラレタト云フ此ノ事實、此ノ國法上ノ原理ハ曲ゲルコトハ私ハ出來ナイト思ヒマス、若シ之ヲ曲ゲマシタナラバ、日本ノ主權ハ二千何百年ノ歴史ノ間ニ於テ一貫セラレテ居ル、萬世一系ノ天皇ガ日本ヲ統治セラレタト云フコトニ付テハ、僞リガアルト云フ論決ガ下ルノデアリマスカラシテ、我ガ國ノ國法上ニ於キマシテハ、私ハ何處迄モ、日本ノ主權ハ國初以來、天皇ニ歸屬シテ居ル、斯ウ云フ考ヲ持ツテ居ルノデアリマス、處ガ、今度ノ改正憲法ニ依ツテ、ソレガドウナツタカト申シマスルト云フコト、改メテ申ス迄モナク、天皇ノ主權ハ餘程殺ガレテ、主權ハ民主權デアル、改正憲法ノ前文ニ於キマシテモ、又第一條ニ於テモ、國民ガ主權ヲ持ツテ居ルト云フコトニ明カニ規定セラレテ居リマスルカラシテ、是ハ爭ハウト思ツテモ爭フコトノ出來ナイ、極メテ明白ナル事實デアルノデアリマス、詰リ、天皇ノ主權ハ國民ニ移ツタ、此ノ國民ト云フ内ニ天皇モ含ンデ居ルト云フ御説ガアリマスルガ、是ハ含ンデ居ルト致シマシタ處デ是迄天皇御一人デ握ツテ居ラレタ所ノ主權ガ、天皇ト人民、所謂國民、天皇ト及ビ民衆ノ共同體、即チ國民ニ移ツタノデアリマスカラシテ、其ノ觀點カラ申シマスト、確カニ主權ノ存在ハ變ツテ來タノデアリマス、主權ノ存在ガ變ルコトハ、即チ國體ノ變革デアル、斯ウ申シマスナラバ、國體ノ變革サレタコトニ相違ナイノデアリマス、國體ノ變革ハ即チ革命デアルト云フナラバ、是亦革命ニ相違ナイノデアリマス、併シ是ガ本當ノ國體觀念デアルカナイカト云フコトニ付キマシテハ、私ハ留保致シマス、處ガ、一方倫理學上ヨリ國體ヲ見マスルト云フト、是ハ又色々見方ガアリマス、御承知ノ通リニ、教育勅語ニ於キマシテハ、爾臣民、克ク忠ニ克ク孝ニ、世々厥ノ美ヲ濟ス云々、ダカラシテ、是此レ國體ノ精華ニシテ云々ト云フ御言葉ガアリマスガ、是ハ倫理學ヨリ見タ所ノ國體觀念デアル、日本ノ國體ノ本質ハ其處ニアルノデハナイカト云フ考モ起リマス、又金森君ガ述ベラレマシタ所ノ、日本國民ガ天皇ヲ中心トシテ、天皇ヲ國家統一及ビ國民統一ノ象徴トシテ、憧レノ中心トシテ天皇ヲ仰ギ奉ツテ居ル、是ガ日本ノ國體ノ根本デアルト、是モ私ハ相當ニ強イ見方ト思フノデアリマス、是ハ倫理上ヨリ見タ國體デアルカ、或ハ政治上ヨリ見タ國體デアルカ、ソレハ分リマセヌガ、兎ニ角法律上ヨリ見タ國體デハナイノデアリマス、ソレデ霜山サンモ御述べニナリマシタヤウニ、此ノ倫理上ヨリ見タ所ノ國體ガ基ニナツテ、サウシテ法律上ノ國體ガ現レタノデハナイカ、即チ倫理上ノ國體ガ裏デアツテ、法律上ノ國體ハ是ハ表デアルト云フヤウナ見方モ、モウ一ツノ見方デアルト思ヒマス、要スルニ、是迄色々國體論ガヤカマシクナリマシタノハ、詰リ法律論ト倫理論ヲ混同シテ居ルカラシテ、サウ云フヤウナ、コンガラガツタヤウナ議論ガ起ルノデハナイカト思ヒマス、故ニ金森君ノ國體論決シテ誤ツテ居ルトハ申シマセヌ、私ハ是ハ餘程深イ意味ノアル所ノ國體論ト思ヒマス、故ニ政府ト致シマシテハ、此ノ憲法草案ニ付キマシハテ、其ノ考ヲ以テ國體論ヲ維持シテ居ルノデアリマス、併シ最前申シマシタヤウニ、憲法、法津上ヨリ見タ所ノ國體論ハ別ニアツテ、ソレガ是迄學界ハ言フニ及バズ、日本國民ノ頭ヲ支配シタノデアル、其ノ意味ニ於ケル國體ガ今度ノ憲法ニ於テ變更セラレテ居ルノデハナイカト云フコトニ付キマシテハ、是ハ變更セラレテ居ナイト云フコトハ何人モ言ヘナイ、是程簡單明瞭ナコトハナイ、之ヲ能ク御含ミノ上ニ、此ノ國體論ニ向ツテ御考ヲ願ヒタイノデアリマス、私ノ議論ハ以上ノ通リデアリマス
○國務大臣（田中耕太郎君） 霜山君ニ御答ヘ申上ゲマス、教育ト國體ノ問題トノ關係、竝ニ教育ノ立場カラ、憲法改正案ノ國體論ニ付テノ愚見ヲ御質問ニ相成リマシタ譯デアリマス、從來、此ノ國體ト云フ言葉ガ、齋藤國務相カラ御説明ガアリマシタヤウニ、色々多岐ニ用ヒラレテ居リマシテ、或ハ倫理的ニ、詰リ教育勅語ノ國體ノ精華ト云フ意味ノ國體ハ、是ハ全ク憲法ナリ、公法上ノ問題ト違ツテ居リマス、サウ云フ意味トカ、或ハ社會學上、或ハ民族精神トカ云フヤウナ、サウ云フ意味ニモ用ヒラレテ居リマス、極メテ此ノ用語ノ持ツテ居ル内容ガ多岐ニ亙ツテ居ルノデアリマス、其ノ言葉ノ正確サガ色々神憑リ的國體論ヲ作リ上ケマシテ、獨善的、排他的ナ又、只今モ話ニ出マシタヤウナ、國體明徴運動ニ依ツテ、憲法ナリ、公法上ノ學問的ノ議論迄迫害スルト云フヤウナコトニナリマシタ次第デアリマス、今後ハサウ云フ言葉ガ用ヒラレマス場合ニ於テモ、非常ニ概念ハハツキリサセナケレバナラナイト云フ風ニ考ヘテ居リマス、是ハマア、學者ノ方ノ主トシテ御ヤリニナルコトデアリマスガ、政府トシマシテハ、例ヘバ國體ト云フ觀念ハ斯ウ云フモノダトカ、政體ト國體トノ區別ハ斯ウダト云フヤウナ、憲法トカ、公法ノ理論迄立入ツテ、細カイ事柄迄閣僚ガ皆統一シタ理論ヲ持ツテ居ツテ、一糸亂レズ、同ジ説デヤラナケレバナラナイト云フヤウナコトニ付テ、實ハ私ハ率直ニ申シマスト、疑ヲ持ツテ居ルノデアリマス、詰リ斯ウ云フ政府ガ公法ナリ、政治ナリニ付テ、「オーセンチック・インタープレテイション」ヲ下シ、學説ヲデツチ上グベキデハナイデハナイカ、従來、サウ云フヤウナ氣持デ以テ政府ニ對シ、或ハ文部省ニ對シ、民間ガ、社會ガ對シテ居ツタト云フコトニ抑々ノ誤ガアルノヂヤナイカト云フヤウニ考ヘテ居リマス、従ツテ文部省ト致シマシテモ、今後教育面ニ、或ハ國體ト言フ者モアレバ、或ハ言ハヌ者モアル、或ハ法律上ノ概念トシテ取扱ハウトスル者モアルシ、シナイ者モアル、サウ云フ點ハ全ク自由ニ任セテ置イテ宜イノデハナイカ、處デ、ソレハ概念トカ理論ノ問題デアリマスガ、實質的ノ問題ニナツテ來マスト、ソレハ例ヘバ文部省ニ於ケル公民教育ノ問題ト致シマシテ、天皇ノ權限ガ憲法上著シク減少サレテ居ルトカ、或ハ主權ノ所在ノ問題ハ、サウ云フコトニ付テ、或ハ革命トモ謂フベキ所ノ重大ナル變更ガ、改正憲法ノ草案ニ於テ宣明セラレテ居ル譯デアリマスカラ、此ノ事實ハ、忌憚ナク明瞭ニシナケレバナラナイ、ソレガ民主主義的教育ノ徹底ノ意味ニ於テ極メテ必要デアルト論ジテ居リマス、併シナガラ是ハ本會議ノ席デモ簡單ナガラ御答辯致シマシタ譯デアリマスガ、天皇ノ詰リ御權限ノ範圍ガ、或ハ廣イ、或ハ狹イト云フヤウナコトニナリ、或ハ主權ノ所在ト云フ問題、或ハ天皇ノ御地位ノ法律上ノ構成、理論構成ト云フヤウナモノハ、是ハ教育ノ面ニ於キマシテ、影響ヲ持ツベキモノヂヤナイト思ヒマス、又持タナイデ濟ム問題デハナイカト考ヘマス、天皇制ト云フ意味ニ於キマシテ、詰リ國民ガ天皇ヲ國民ノ象徴ナリ或ハ國民統合ノ象徴トシテ戴クト云フ意味ニ於テ、其ノコト自體ヲ天皇制ト云フナラバ又サウ云フコトガ決シテ我々ノ常識ニハ反シナイノデハナイカト云フ風ニ考ヘマス、政治的ニハ餘程内容ハ變ツテ居リマシテモ、社會學的、倫理的ノ意味ニ於テ一般被教育者ヲ納得セシメル意味ニ於テ、決シテコヂ附ケデハナイ、僞善的デハナイ、サウ云フ意味ニ於キマシテ天皇制ハ矢張リ維持サレテ居ルノダ、從ツテ天皇制ヲ國體ト假ニ解釋スル者ガアルト致シマスナラバ、矢張リサウ云フ意味ニ於テハ國體ハ維持サレテ居ルノダト立派ニ言ハレルノダト思ヒマス、而モ憲法ノ改正案ノ第一條ガ示シテ居リマスヤウナ意味ニ於テノ性格ヲ天皇ガ御持チニナルト云フナラバ、天皇ガ日本ノ秩序ヲ維持ノ爲ニ缺クベカラザルモノデ、是ガ大統領デアルトカ、或ハ外ノ制度デアツタ場合ニ於テハ、日本ノ國内ノ秩序ガ保タレナイ、其ノ位大切ナモノデアル、天皇制ハ秩序其ノモノハ象徴ト云ツテモ宜イト言ヒ得ルモノトスルナラバ、又言ヒ得ルモノト我我ハ確信致シテ居リマス、サウ云フ意味ニ於キマシテ、決シテ、或ハ歴史的ノ事實モ色々御説明ニ相成リマシタノデスガ、サウ云フ意味ニ於キマシテ國體ノ變更ハナイト云フ風ニ言ツテモ差支ナイト云フ風ニ考ヘマスノデアリマス、要シマスルニ、教育ノ面ニ於キマシテハ、公民教育ノ方面ニ於ケル天皇ノ御權限ナリ、又御地位ノ法律上ノ構成ト云フヤウナ問題、其ノモノト關係ナク倫理的ナリ、或ハ社會心理學的、社會學的、其ノ意味ニ於キマシテ、日本ノ國ノ特色ト云フ意味ニ於ケル國體ハ變リハナイト云フ風ニ言ヒ得ルノデハナイカト考ヘテ居ル次第デアリマス
○霜山精一君 植原、齋藤國務相及ビ田中文部大臣ノ精細ナル御答辯ヲ得マシタコトハ、誠ニ有難ク感謝致ス所デアリマス、色々此ノ問題ニ付テハ申上ゲタイコトモアルノデアリマスルガ、私ノ資問ハ之ヲ以テ打切リマス
○佐々木惣一君 私ノ質疑ハ、一昨日直チニ實ハ通告ヲシナケレバナラヌト云フヤウナコトヲ知ツテ居ナカツタモノデスカラ、取敢ス通告ヲシテ、四點デシタカ申上ゲテ置キマシタ、實ハ、是ハ今日少シ變更シテ居リマスノデス、ソレハ事務的ニハ差出シテアリマシテ、ソレハソレデ宜イサウデスカラ、甚ダ御迷惑デスケレドモ、變更シテ申上ゲマスガ、其ノ中デスナ、實ハ總理大臣ノ御答辯モ御願ヒシタイ點ガアルノデスケレドモ、今日オイデニナツテ居リマセヌデスカラシテ、兎ニ角其ノ點ダケヲズツト申上ゲマシテ、ドウカ相濟ミマセヌデスケレドモ、最後ニデモ、何時デモ宜イデスカラ、總理大臣ノソレニ關スル御説明ヲ頼ムト云フコトニ御含ミ置キヲ願ヒタイト思ヒマス、ソレデ、マア順次ニ矢張リ申上ゲマスガ、私ノ第一ニ御尋ネ致シタイノハ、昭和二十年、即チ昨年デスガ、昨年中、又ハ昭和二十一年ノ一月頃迄ニ憲法ノ草案ノ決定的ノ立案ガ出來テ、サウシテ發表スルコトガ出來タナラバ、今日ノ事態ニ至ラナカツタ、即チ此ノ頃頻リニ關係方面關係方面、或ハ國際情勢々々々ト云フコトヲ、總理大臣其ノ他ノ方々モ御話ニナルノデスガ、其ノ内容ハ詳シク御尋ネスル氣持ハアリマセヌガ、サウ云フ事情ハ實ハ憲法トノ關係ニ付テハ、此ノ憲法草案ノ立案ガ、餘リニ遅レタト云フコトデハナイカト思フノデアリマス、其ノ結果、今年ノ二月頃ニ至リマシテ、或方面カラ俄ニ此ノ憲法草案ニ付テ色々ナ明示、又ハ默示ニ色々ナコトヲ注文シタト言ヒマスカ、シロト申シマスカ、非公式ノモノデモ公式ノモノデモ宜イガ、サウ云フコトヲ言ウテ來ルヤウニナツタト云フコトニナツテ來タノデハアルマイカト云フコトデアリマス、是ハ私ハ極メテ自分ノ個人的ノ意見ヲ申シマスレバ、非常ニ殘念ニ存ズル所デアリマス、ソレデ、是ハ甚ダ失禮デアリマスケレドモ、總理大臣ニ御説明ノ願ヒタイ、實ハ其ノ事實トシテハ前内閣時代ノ事デアリマスケレドモ、併シナガラソレヲ引繼イデオイデニナル現内閣デアリマスカラ、矢張リ其ノ事實ノ説明ノ職責ハ現内閣ニ引繼ガレタモノト考ヘテ然ルベキモノト思ヒマスカラソレデ總理大臣ニ御願ヒスルノデアリマス、ソレガ第一點、ソレカラ第二點ト致シマシテハ、若シ此ノ貴族院ガ修正ヲ爲スカ爲サヌカ分リマセヌガ、政府ハ貴族院ガ此ノ憲法草案ニ對シマシテ、修正ヲ爲スト云フコトニ付テ如何ナル見地ヲ持ツテ居ラルヽカ、モウ少シ具體的ニ申シマスレバ、無制限ニ修正ヲシテモ宜イト云フ事デアルカ、或ハ修正ヲシテハイケナイト云フ事デアルカ、或ハ修正ヲスルト云フ事ニ付テ、何等カノ限界ガアルト云フヤウナコトデアリマスルカ、是ハ固ヨリ法理論デハアリマセヌ、政府ノ政治的ノ見地デ、ドウ云フ風ニ御考ニナツテ居ルカト云フコトデアリマス、是モ總理大臣ノ御説明ヲ願フ積リデ居リマスガ、オイデニナラヌカラ、ドウカ其ノコトヲ御取次ヲ願ヒタイ、ソレカラ第三點ニナリマスルト云フト「ポツダム」宣言ハ我ガ國ニ對シテ民主國、即チ君主國ニ對スル意味ノ民主國タルコトヲ要求シタモノデナイト云フコトハ、是ハ私ガ本會議ニ於テモ質問ヲ申シマシタ、「ポツダム」宣言ノ原文及ビ「ポツダム」宣言ノ實施ヲ要求スルコトニ關シテ、コチラカラ申シマスレバ、ソレヲ受諾スルコトニ關スル所ノ彼我交渉ノ文書ノ中ノ原文ヲ申上ゲテ「ジヤパニースピープル」ト云フコトハ重ネマスガ大事デアルカラ申上ゲタイノデアリマスガ、君主國民ト云フヤウナ意味ノ「ピープル」ト云フヤウナコトノ「ピープル」デハナイ、日本國民、私ノ言葉デ言ヘバ日本國人日本國ト云フモノヲ構成シテ居ル人間ト云フコトヲ申シタノデアル、處ガ之ニ對シマシテハ、何時デアリマシタカ、一昨日カ昨日カ、金森國務大臣ハ實質上、私ノ質問的説明、或ハ説明的質問ヲ肯定シテオイデニナルノデアリマス、此ノ「ジヤパニース・ピープル」ト云フノハ、決シテ君主ニ對スルト云フコトハ仰シヤラナイ、國民ト云フコトデハナイ、君主ヲ含ンダ國民ト云フ風ニ御話ニナツテ居リマスガ、ソレハソレデ宜イ、言葉咎メヲスルノデハアリマセヌガ、サウ云フコトハ言フ必要ハナイ、日本國ヲ構成シテ居ル所ノ人間、從ツテ君主モ含ムト云フ私ノ質問的説明ト云フモノヲ肯定サレタモノト理解シテ十分ダラウト思ヒマスガ、若シソレニ對スルコトガ誤リデアルト云フナラバ、此處デ更ニ御説明ヲ御願ヒシタイ、ソレハサウデアラウ、唯、希クバ其ノコトヲ確認スル爲ニ、茲デ質問ノ形式ニ於テ申上ゲル、是ハ非常ニ私共ハ重大ト思ヒマスカラ、此ノ「ポツダム」宣言及ビソレニ關聯シタ所ノ彼我交渉、「ジヤパンニース・ビープル」ト云フモノガ、自分ノ自由ニ表明セラレタ意思デ其ノコトハ決定スル、コチラハ「ポツダム」宣言ノ受諾ヲスルガ、併シソレハ我ガ國ノ「サバリーン・ルーラー」トシテノ「ヒス・マヂェステイ」ト云フ地位ニハ影響シナイト云フ「アンダースタンデイング」ヲ以テヤルガト、斯ウ言ツタナラバ其ノ言葉ヲ向フカラノ答ヘ、「アンサー」ニハ、其ノ儘、サウ云フコトヲ照會シタコトニ關シテハ、我々ノ「ポジション」ハ「アズ・フォローズ」、即チ自分等ノ「ポジション」立場ト云フモノハ斯ウダト云フ言葉ハ擧ゲテ居リマスガ、即チソレハ結局、日本政府ノ「ガヴァーメント」ノ「アルティメート・フォーム」ハ、「ポツダム」宣言ニ「インアコーダンス」一致シテ、私ハ依ルトカ、從ツテト云フヤウナコトハ言ハナイ、自分ノ意思ヲ尊重シテソレト一致スル方法ニ於テ、日本人ガ即チ決メベキモノダ、「ポツダム」宣言ノ定ムル所ト一致スル方法ニ於テ、日本人ガ定ムルモノデアル、斯ウ云フ風ニ言ツタト考ヘテ居リマスガ、ソレハ先ヅサウデアツテ、決シテ日本ノ君民ト云フ二ツノ、對立シタ意味ノ、民ト云フヤウナ意味デ言ツタト云フコトハナイト云フコトヲ申上ゲタ、處ガ二、三日前ノ私ニ對スル答辯ハ明カニ、實質上サウ云フ風ニ理解セラレルト思ハレル、唯ドウモ此處デ、本會議ニ於ケル質問ノ第一歩ニ、説明技術ガイカヌト言ツタコトガ此處デ現レルノデアル、ソレナラバ、天皇ヲ含ンダ國民ト云フヤウナコトヲ言フ必要ハナイガ、一遍言ツタラ、ソレヲ維持シヨウト云フコトニナルノデ、若シサウデナケレバ私ハ謝リマスガ、ソコデ、「ジヤパニース・ピープル」ハ君民ノ民デハナイ、日本國人、日本人ト云フコトデアル、ソレハ實質的ニ認メラレタコトト理解シテ、唯併シ、是ハ金森國務相ガ獨リ御答ヘ下サツタガ、實ハ是ハ事ガ重大デアリマスカラ、總理大臣ノ御答辯ヲ御願ヒシマシタガ、總理大臣ハ御答ニナラナカツタ、甚ダ是ハ遺憾デ、確認スルト云フ意味ニ於テ、此ノ點ニ關スル總理大臣ノ御答辯ヲ、モウ一遍御願ヒシタイト云フノデアリマス、ト申シマスノハ、是ガ非常ニ混ガラガツテ居リマス、一體、今日ノ言葉デ「デモクラシー」ガ言ハレテ居ル、民主主義、民主政治、民主國トカ言ハレテ居ルガ、是ハ動モスルト言葉ガ誤ツテ使ハレテ居ル場合ガアルト思ツテ居ルガ、ソレハ別トシテ、其ノ言葉ガ誤リデアルト同ジ意味ニ於テ、此ノ「ポツダム」宣言ノ「ターム」ノナニノ解釋ガ、非常ニ我ガ國ノ國民、朝野ヲ誤ラシテ居ルト思フ、之ガ故ニ、動モスルト徹底的ニ日本ヲ民主國ニスル、徹底的ニ民主國ニシナケレバ、「ポツダム」宣言ノ履行ニ通ジテ居ナイカノ如ク考ヘ、少クトモサウ云フ説明ヲシテ居ル部分ガアルノデ、非常ニ重大性ヲ持ツト思フ、私ハ茲ニ來テ、初メテ此ノコトヲ採上ゲタノデハナイ、「ポツダム」宣言ノ全文ヲ見タ時ニ、是ハ誤ツテ居ルト思ツテ、コチラニ來テカラ、尚自分ノ解釋ヲ確メル材料ハ茲ニ得タノデアリマス、之ニ對スル、ドウシテモ總理大臣ノ御意見ヲ聽カナケレバイカヌ、此ノコトハ重大デアル、私ガ誤ツテ居ルナラバ、私ガ誤ツテ居ルデモ構ハヌ、是ハ金森國務相トシテハ確カニ私ノ意味ニ於テ御答ヘ下サイマシタケレドモ、ドウモ是ハ甚ダ氣ノ毒デアルケレドモ、總理大臣ニモ御願ヒ致シタイト、斯ウ云フ譯デアリマス、ソレカラ今度第四點ニナリマシテ、是ハ初メニ此處ニ書イテ居ルダケヲ申上ゲマスガ、政府ニ於テ主權在民ト云フコトニ反對ノ意見ヲ有セラレル大臣ハナイノデアルカ、斯ウ云フ質問ヲ申上ゲマシテ、是ハドナタカラデモ宜イ譯デアリマスケレドモ、併シ是ハ今日伺ヒマシタ大臣方ノ御説明ニ依ツテ、強ヒテ申上ゲマセヌケレドモ、唯併シ私ガ此處ニ申上ゲマシタノハ、此ノ質問ヲ掲ゲマシタ理由ハ、政府ノ方ハ、此ノ間前文ニ於テモ、亦第一條ニ於テモ主權在民ト云フコトニナツテ居ル、ソレニ後デ申上ゲタイト思ヒマスルケレドモ、國體ノコトガ頻リニアリマシタガ、ソレデモ國體ニハ關係ナイト云フヤウナ御立場カラ、色色仰シヤツテ居ルト云フコトガアリマシタガ、私ハ主權在民デアルナラバ、是ハ即チ我ガ國體ノ變更デアルト云フコトヲ堂々ト公ノ席上デ仰シヤツテ居ル所ノ大臣ノアルコトヲ實ハ知ツテ居ツタ、併シ私ハ言フ迄モナク、個人ノ攻撃トカ何トカ云フ氣持ハ毛頭アリマセヌカラ、名ハ言ハナカツタノデス、唯サウ云フコトヲ抽象的ニ御尋ネシタノデアリマスケレドモ、是ハ實ハ今日ノ齋藤國務大臣ノ説明ヲ聽イテ、私ハ齋藤氏ニ敬服シマス、氏ハ非常ニドウモ學問的ニ、又政治家的ニモ良心ノ人ダ、是ハ齋藤氏ノ非難ニ當ルヤウナ問題ナンデス、ト申シマスノハ、齋藤氏モ、甚ダ失禮デスケレドモ、去年ノ第何囘デスカノ時ノ議會ノ代議士デアツタ時ニ、幣原首相ニ御質問ニナツテ居ル、其ノ質問ハ別トシテ、其ノ中ニ主權在民ト云フコトニナレバ、即チ是ハ國體ノ變更ダト云フコトヲ仰シヤツテ居ルノデアリマス、其ノ時ニ自分ハ斷々乎トシテ反對デアルト云フコトヲ言ツテ居ルケレドモ、ソレハドウデモ宜イデス、今日ハ斷々乎トシテハ反對セラレタヤウダケレドモ、ソンナコトハ構ヒマセヌ、兎ニ角今日、ソレガ主權ガ在民デアルト云フコトニナツタノハ、國體ガ其ノ限リニ於テ變更シタノデアルト云フコトヲ立派ニ言ハレタ、其ノ御意見ニ賛成スル、又ハ別トシテ、非常ニ私ハドウモ敬服致シマス、齋藤氏ハ大臣デアラセラレ、政治家トシテアラセラレルケレドモ、或意味ニ於テ學徒トシテ私ハ見テ居リマスガ、是ハ敬服デス、私ハ或意味ニ於テ敬服致シマス、ハツキリトソレヲ言ハレタ、併シ之ニ關聯シテ、實ハ新タナル事實ガ今俄ニ起ツタ、此ノ國體觀念、又主權ノ意義ニ付キマシテ、甚ダ失禮デアリマスケレドモ、政府内ニチヨツト纒ツタモノガナイ、ソレガ政府自ラノ御答辯ノ間ニ現レテ來タ、是ハ本會議ニ於キマシテ、私ハ金森國務相自身ガ、意義ガ頗ル多岐多樣デアリマシテ、不明ダトセラレテ居ル主權ト云フ言葉ヲ何故ニ用ヒラルヽカト云フコトヲ御尋ネシテ、サウシテ主權ト云フ言葉ガ今日迄持ツテ現レテ居リマスル所ノ意義ヲ、私ガ知ツテ居ル限リノ、一部分ヲ申上ゲマシテ、斯クノ如キ多樣ナル主權ト云フ言葉ヲ、何故用ヒルカト云フコトニ付キマシテハ、實ハ私ノ滿足スルヤウナ、何故用ヒルカト云フコトニ付キマシテハ、サウ云フ御返答ハ得ナカツタト思ヒマスガ、ソレデモ、唯ソレハ國體ガ變ルトカ、變ラヌトカ云フコトダケノ話デアリマシテ、其處ヲ本會議デ問ウタノデハナイ、何故斯樣ナ多岐ナル言葉ヲ使フカ、其處ヲ御尋ネシタノデアリマスケレドモ、ソレニ付キマシテハ返答ガナクシテ、依然トシテ、主權ガ國民ニ在ツテモ國體ガ變ラヌトカ云フ答辯、ソンナコトヲ此ノ間ハ御尋ネシタ譯デハナイ、主權ト云フ言葉ヲ使フコトハ拙イ、今日ノ御話デ分ツテ居ル、此ノ言葉ガ如何ニ不明瞭デアリ、ソレカラ其ノ次ノ議論ガ不明確ニ、一般ニ、アヽナツテ來テ居ルコトガ、是デ證明シテ居ル、是ハ政治學史トカ、講議、著書ニ於テ用ヒラレルコトハ構ヒマセヌケレドモ、苟クモ一國ノ法典ニ於キマシテ、斯ウ云フ不明瞭ナ言葉ヲ用ヒルト云フコトハイケナイト云フノガ私ノ考デアリマシテ、主權ト云フ言葉ヲ一般ニ用ヒルト云フコトガイケナイノデアリマセヌ、ソレハ學説史ニ於テ、憲法史ニ於テ、便宜上用ヒテモチヨツトモ構ハナイ、其ハ時ハ、何時デモ學者タルモノハ、自己ノ言葉ヲ用ヒル時ニ、明瞭ニ内容ヲ與ヘテ用ヒルカラ構ハヌデス ケレドモ、憲法ト云フヤウナ時ニ、第一法理上ノ、屡々、今日モ既ニアリマシタガ、法理上ノ意義ダトカ、政治上ノ意義ト云ツタヤウナコトヲ言ハナケレバナラヌコトヲ何故用ヒル、用ヒナクテモ、チヨツトモ差支ナイ、是ハ矢張リ其ノ意味デアリマス、是ハ私ハ甚ダ失禮デアリマスルケレドモ、兎ニ角サウ云フ意味デ、此ノ主權ト云フ、殊ニ在民ト云フノハ反對ダト云フヤウナ御意見ヲ言ハレテ居ツタ大臣ガアルデハナイカト云フコトダケヲ御尋ネシタ、資料ヲ持ツテ來タデスケレドモ、ソレハ今日質問ヲ申上ゲル必要ハアリマセヌ、ト同時ニ、此ノ點ニ關スル所ノ、シチ諄イヤウデスケレドモ、齋藤氏ノ御態度ハ全ク私ハ敬意ヲ表シマス、ソレカラ第一ニ、金森サンノ是迄ノ説明デハ、ソレハ著書ニモアリマスガ、是迄ノ議會ニ於ケル説明ヲ見マスルト、大體主權ハ統治權ト同ジニ使ハレテ居ルヤウニ、根本的ニハ‥‥、ソレハソレデ宜イデス、サウスルト云フト、又植原國務相ハ全然意見ガ違ツテ來テ居ル、サウナツテ來ルト云フト、斯ウ云フ重大ナ事柄ヲ現スベキ言葉ノ意義ニ付キマシテ、ドウモ閣僚ノ間ニ意義ガ一定シテナイト云フヤウナコトハ、此ノコトダケデモ、既ニ主權ト云フ文字ヲ用フベカラズト云フ論據ニナル、斯ウ是ハ考ヘテ宜イノデアリマス、ソレハソレダケト致シマシテ、今度ハ第五點ニナリマスルト云フト、少シ法理論ニナリマスガ、此ノコトハ‥‥、只今ノコトハ必要ガゴザイマシタノデ、總理大臣ニ御尋ネスルコトニナツテ居リマシタガ、是ハ宜シウゴザイマス、サウ云フ國務大臣ガアルカナイカ、アルコトハ分ツタノダカラ、齋藤サン自ラ言ツタノダカラ分ル、之ニ付テ私ハ現ニ、去年ノ議事録ヲ此處ニ持ツテ來テ居リマス、ソレカラシテ第五點ニハ、此ノ帝國憲法ヲ改正シテ、國體ヲ變更スルコトガ一體出來ルノデアルカドウカ、是ハ法理論デアリマスルカラ、マア主トシテ金森國務大臣、其ノ他ノ大臣方ノ御答辯ヲ得テモ宜イノデアリマスガ、初メカラズツト來テ居リマスルヤウニ、七十三條ニ依リマシテ、現行帝國憲法ノ七十三條ニ依ツテ、此ノ改正案ト云フモノガ出タト云フコトニナツテ居ルノデアリマスルガ、此ノ改正案ヲ出ス時ニ、次ノ法理上ノ問題ガアル、其ノ一ツハ、七十三條ニ、此ノ憲法ノ條項ヲ、詰リ改正ヲスルト云フコトヲ規定シテアリマスルガ、此ノ憲法ノヤウニ、殆ド總テノ條項ヲ改正シテ居ルト云フコトハ、殆ド全體ノ憲法ヲ改正シテ、新タニ憲法ヲ制定スルコトヂヤナイカ、是ハドウダト云フ御尋ガアリマシタ、何處カノ本會議デ‥‥私ハ此ノ點ニ付キマシテ、金森國務大臣ハ固ヨリソレヲ出來ルト云フ御立場デアルト云フコトハ疑ヒナイノデアリマスガ、此ノ點ニ付テ言葉ヲ以テ説明セラレタカドウカハツキリ覺エテ居リマセヌ、兎ニ角出來ル立場デアリマス、其ノ點ニ付キマシテハ金森國務大臣ノ態度ヲ支持スルコトガ出來ル、個々ノ條項ヲドンナニ澤山‥‥此ノ憲法條項ト云フモノハ此ノ憲法ノ中ノ限ラレタル特ニ數ノ條項ト云フノヂヤアリマセヌ、ドンナ規定デモ改正出來ル、デアリマスカラ、矢張リ此ノ憲法ノ條項ト云フモノヲ澤山變ヘテ、サウシテ澤山ノ憲法改正ト云フコトハ私ハ出來ルト解釋ヲ豫ネテ執ツテ居ツタノデアリマスガ、其ノ點ハ差支ナイト思ヒマス、政府ノ態度デ‥‥第二ニ於キマシテ斯ウ云フ問題ガ殘ツテ居ル、改正シ得ル條項ノ中ニ國體ニ關スル國體ヲ定メテ居リマスル所ノ帝國憲法ト云フモノノ條項ヲ改正スルコトガ出來ルカト云フサウ云フ問題ガアリマシテ、之ニ付キマシテハ、甚ダドウモ是モ、金森君許シテ呉レ給ヘ個人トシテ‥‥是ハ國體ニ關スル規定ハ憲法改正ニ依ツテハ出來ナイト云フノガ今日迄ノ憲法學者ノ一致シタ意見デアリマス、デアリマスカラ、若シ此ノ新憲法草案ト云フモノガ國體ヲ變更スルト云フサウ云フ條規ヲ含ンデ居ルモノダト致シマスレバ、是ハ法理論デアリマスケレドモ、帝國憲法ノ改正ト云フコトデハ許サレナイノデアリマス、之ガ所謂七十七條ヲ解釋スル‥‥、許シテ呉レ給ヘ‥‥憲法學者ノドウモ一致シテ居ル所ナンデス、此ノ點ニ於キマシテハ、ドウモ殘念デアリマスケレドモ、金森國務相ヲドウモ非難ヲセザルヲ得ナイ、此ノ解釋デ憲法改正ト云フコトニ依ツテ國體ヲ變更セムトセラレタコトハドウモ私ハ賛成出來ナイノデアリマス、尚併シソコニ何等カ理由ヲ御持チニナツテ居ルカモ知レマセヌデスカラ、ソコデソレヲ御尋シヨウト云フコトデアリマスシ、ソレカラ第六點ニナリマシテ、憲法ニ於テ所謂大權ノ大幅ノ削減ヲ爲スト言ハレテ居ルノデス、今ソレガ必要ダト言ハレテ居ルノデスガ、大權ノ大幅ノ削減ヲ爲スト云フコトノ爲ニ統治權ノ總攬ト云フコトヲ廢止スルノ必要ガ何處ニアルカ、斯ウ云フコトヲ御尋スルノデアリマス、ソレデ是ハ少シ國體論ニ‥‥私ハ實ハ國體ノ何ゾヤト云フヤウナ氣持チハ毛頭アリマセヌ、本會議デモソンナコトハ毛頭アリマセヌデシタ、ト云フコトハ簡單ニ其ノ點ニ付テ述ベ、今日殆ド始メカラ國體ノ議論デアルノデアリマスカラ、此處ニ關聯シテ國體ノ議論ニ付テ申上ゲマシタガ、我ガ國ニ於キマシテ國體々々ト言ヒマスル時ニ、言フ迄モナク政治ノ樣式、政治ノ方面カラ見タ植原サンハ樣式樣式ト言ハレマシタケレドモ、樣式ニハ色々ナ面カラ見タ樣式ガアルノデ、政治ノ方カラ見タ樣式ト云フモノニ著眼シテ、其ノ樣式ガドウ云フ樣式デアルカト云フコトニ著眼シテ國體ト云フ文字ヲ使フコトモアリマスシ、サウデナシニ其ノ國體ノ協同生活トシテ由ツテ立チマスル所ノ詰リ國史ノ倫理的、精神的状況、基礎ト云フヤウナモノヲ見テ、サウシテ國際ト云フコトヲ言フコトモアルノデアリマス、デアリマスルカラ先刻來色色質問サレタ方モ亦植原大臣モ從來ノ憲法學者ガ一面シカ見ナカツタト云フヤウナコトハ、實際憲法論ヲ正確ニ御讀ミ願ヒタイ、ソンナコトハ誰モ言ツテ居ナイ、唯併シ法理論トシテ國體ト云フ時ニ統治權ノ總攬ト云フ總攬者ガ何人デアルカト云フコトニ著眼シテソレデ國ノ姿、樣式ガ違フノデス、サウ云フ點ヲ國體ト言フテ居ルノデアリマスカラ、國家ノ成立チト云フモノガ精神的ニ、或ハ倫理的ト云フコトモ言ヒマスガ、倫理的ニト云フヤウナ思想的ト云フヤウナ主義ト云フヤウナモノヲ基礎トシテ成立ツテ居ルカト云フヤウナコトハ固ヨリ見テ居ルノデス、憲法學者ハソンナコトハ‥‥果シテソレハ所謂憲法ノ外ノ意味ニ於テノ國體トカ何トカ云フ言葉デ言ハヌダケデアリマス、チヨツト此處デ申シマスガ國體トハ何ゾヤト云フコトハ‥‥言葉デアリマス、國體ト云フコトハ國體觀念ト云フコトデ、サウ云フ言葉デ以テ繰ラレテ屡々誤ル所ガアル、國體ト云フノハ事柄ヲ示ス言葉デアル、國體觀念ト云フコトハ國體ト云フ言葉ノ意味合、意義ト云フコトデアリマセヌ、此ノ意義ニ該當スル此ノ事實、此ノ事實及ビ此ノ事實ヲドウ云フ風ニ見ルカ、重ンズルカ、輕ンズルカ、ドノ程度ニ重ンズルカト云フコトガ國體觀念デアリマス、ソレヲ國體觀念ト云フノデアリマシテ、國體觀念ト云フコトハ國體ト云フ文字ノ現ス意義ト云フコトデアリマセヌ、是ガ非常ニ誤ツテ居ル、ソレデアリマスカラ國體ノ觀念トカ意義トカ云フコトヲ止メテシマツテ、兎ニ角此處デ結局言ヒ換ヘテ見マスレバ、國體ト言ハウガ、ドウ言ハウガ、ソレハドウデモ宜イケレドモ、天皇ガ或特定ノ血統ニ御生レニナツテ居ルト云フコト、其ノコトダケデ統治權總攬ト云フ、サウ云フ地位ニ御即キニナルト云フ、サウ云フ事實ヲ唯我ガ國ニ於テハ國體ト稱スルノデアル、國體ト云フ言葉ハ、觀念ハ變ツタガ、ソンナコトハ問題デナイ、外ノ文字ヲ使ツテモチツトモ差支ナイ、斯ウ云フ事實ガ變ツタカドウカ、是ハ本會議ノ時ニハツキリ言ツタノデスガ、斯ウ云フ事實ガ變ツタカ、サウシテソコデ此ノ事實ニ付テ我々日本人ガドウ云フ觀念ヲ置イテ居ルカ、ドウ云フ重サヲ置イテ居ルカト云フコトヲ、之ヲ國體觀念ト云フノデス、國體觀念或ハ國體思想ト云フノハ、是ハ決シテ國體ノ意義、言葉ノ意義ト云フ、ソンナ問題デナイ、其ノ意義ニ該當スル事實ガ變ツタカドウカ、其ノ事實ト云フモノニドレダケノ我々ガ國家生活ニ於テ意味ヲ置イテ居ルカ、ドレダケ重ンジテ居ルカ、之ヲ稱シテ國體觀念ト云フノデアル、觀念ト云フ文字ガ‥‥國體思想ト云ツテ宜イ、國體ト云フ言葉、文字ノ意義ト云フコトデ決シテアリマセヌカラ、ソレニ該當スル事實ガ變ツタ、其ノ事實ヲドレダケ重ンジテ居ルカト云フコトデモアルノデス、サウ云フ風ニヤラヌト云フト、言葉ノ爭ヒダト云フト‥‥決シテ言葉ノ爭ヒヂヤナイ、言葉ノ爭ヒト云フコトハサウ云フ風ニ理解シナイカラサウ云フコトヲ言フノダ、事實其ノモノガ變ツタガ、其ノ事實ニドレダケ重キヲ置イテ居ルカ、斯ウ云フコトデアル、其ノ意味ニ於キマシテ國體ト云フモノハ變ツタノダ、ト云フコトハ實ハ是ハ金森國務大臣ガ私共ノ質問ニ答ヘテ、サウ云フ意義ニ於テハ、流石法律學者ダカラ正確ニ言ツテ宜イノデスケレドモ、サウ云フ意義ニ於テハ變ツタト、斯ウ仰ツシヤツテ居ル、ソレカラ又今日モ齋藤國務大臣モ、サウ云フ國體ハ變ツタト仰ツシヤツテ居ル、私ハ此處デサウ云フ國體ノ變ルコトノ善悪ヲ先ヅ問ウテ居ルノデハアリマセヌガ、ソレハツイテ來ル問題デアル、ソレヲイツデモ混同サレテ居ル、唯國體ト云フ言葉ヲ現シテ居ツタ所ノ事實、及ビ其ノ事實ニ對シテ我々ガ重サヲ置ク程度ガ變ツタカト云フコトヲ御尋ネシテ居ルノデアリマス、ソレハ變ツタノダ、斯ウ仰ツシヤルノデス、是ハ當リ前ノコトデス、サウ云フ風ニ變ルコトノ善シ悪シト云フコトハ後ノ第二ニ來ル問題デアリマス、ソコデ變ツタ、是ハ國務大臣ハ植原サンダケデス、變ラヌト仰ツシヤルノハ‥‥金森サンモ、齋藤サンモ變ツタト仰ツシヤル、是ハ變ツタト云フノハ當然ノコトダト思ヒマス、ソコデ大幅ノ大權ノ削減ト云フコトガアリマスルガ、此處デハ甚ダ講義ノヤウニナリマスルケレドモ、色々ノ方ガ御説明ニナツテ居ルカラシテ言ハシテ戴カナケレバナリマセヌガ、大權ト云フ言葉ハ非常ニ又誤解ガアリマス、ソレデ例ヘバ戰爭ノ時ニ或場合ニ戰爭スルトカ、租税ヲ取ルトカ、ソンナ個々ノ事實ニ付テ、即チ統治權ヲ行使シテ居ルト云フ、其ノ權能ヲ大權ト憲法學者ノ方デハ申シマスガ、ソレト統治權ヲ總攬スルト云フコトトハ別ノコトデアリマス、統治權ヲ總攬スルト云フノハ、別ニ、斯ウ云フコト、斯ウ云フコト、斯ウ云フコトヲスルト云フコトガ統治權ノ總攬ト云フコトヂヤナイ、何カ知ラヌケレドモ、我々一ツノ意志ト云フモノヲ全般的ニ持ツテ居ツテ、其ノ意思ガ必要ニ應ジテ或ハ散歩シ、或ハ寝、或ハ物ヲ食フト云フ風ニ働ク、其ノ個々ニ働ク此ノ状態ガ即チ國家カラ言ヘバ統治權ノ行使デアル、統治權ノ行使ヲ總攬シテ居ル、統治權ノ總攬ト云フコトデハナイノデアリマシテ、統治權ハドウセ國ニアル、國ニアル所ノ此ノ統治權ト云フモノヲ、併シ現實ノ人間ノヤリ方トシテ誰カガキチント握ツテ居ルモノガナケレバナラヌ、掴ヘテ居ルモノガナケレバナラヌ、誰カ掴ム、握ツテ居ルト云フノハ總テノコトヲスルト云フコトデハアリマセヌ、此ノ握ツテ居ルモノガドウ云フコトヲ、ドウ云フ場合ニ、ドウ云フ方法デスルカト云フコトニ、茲ニ即チ統治權ノ行使ト云フコトガ出テ來ル、デアリマスカラ從ツテ統治權ノ大權ト云フモノガ出テ來ル、統治權ノ總攬ト云フコトヲ大幅ニ縮減スルトカ削減スルトカ云フコトノ意味デハアリマセヌ、統治權ノ總攬ト云フコトハ、統治權ヲ握ツテ居ルモノガ個個ノ必要ニ應ジテスルノデアル、處ガ其ノ國家ガ必要ニ應ジテ出來ヌトシテ居ルコト、或ハ外ノモノニヤラセルトシテ居ナイ限リノモノハ、即チ個々ノ必要ニ應ジテ其ノ力ヲ行フコトガ出來ルト云フノデ總攬ニナルノデアリマス、其ノ状態ヲ言フ、ソレヲ何デモヤツテ居ルト云フ其ノ状態ヲ總攬ト云フノデハナイ、ソコデ總攬者ガ決シテドンナコトデモシ得ルト云フコトデモアリマセヌシ、勝手ニシ得ルト云フコトデモアリマセヌ、デアリマスケレドモ併シナガラ握ツテ居リマスルカラ、即チ憲法論デアリマスルガ、憲法ノ上デ、即チ特ニソレカラ除ケタモノトカ、或ハ他ノ機關ニ委ネタモノト云フヤウナモノガナイ限リハ、其ノ總攬ノ範圍、握ツテ居ル範圍ニ屬スル、故ニ若シ所謂天皇ガ斯ク斯クノ場合シカ出來ヌト云フコトハ、ソレハ個々ノ大權ト云フコトデアリマス、總攬デハアリハシナイ、新憲法ニ依リマスレバ天皇ハ斯ク斯クノコトシカ出來ナイ、斯ク斯クノコトガ出來ル、總攬デモ何デモナイ、大權ハ削減サレタノデハナイ、ソレハ宜イガ、總攬ト云フ地位ハナクナツテ居ル、統治權ノ總攬ト云フコトト統治權ヲ現實ニ個々ノ事實ニ即シテ具體的ニ行使スルト云フコトニ混同ガ非常ニアル、個々ノ現實ノ場合ニ即シテ行使致シマスルコトヲ之ヲ大權ト言フ、其ノ大權ハ大幅ニ削減シテ行ク、併シ凡ソ國家ノコトハ何時ドンナコトガ起ルカモ分ラヌ、豫想セヌコトガ起ル、誰ガ一體サウ云フ場合ニ處置スルベキモノダト云フコトガ問題トナツタ時ニハ、統治權ノ總攬ト云フコトガアリマスル限リニ於キマシテハ、思ハヌコトガ出テモ統治權ノ總攬者ガ爲シ得ル、斯ウ云フ解釋ニナリマス、デアリマスルカラ統治權ノ總攬者ト云フコトハ、決シテ何デモ常ニ具體的ニ大權トシテ行使シテ居ルト云フコトデハアリマセヌデスケレドモ、兎ニ角自分ハ外ノ者ニ委ネラレテ居ナイコトモ、或ハ自分カラ明カニ奪ハレテ居ナイコトモ出來ルト云フ抽象的ナ立場ガアル、是ガ統治權ノ總攬ト云フコトデアリマス、是ハ確カニ正確ニ憲法ヲ解釋スルニハ皆斯ウ考ヘテ居ル、サウ云フ意味ノ統治權ノ總攬ト云フコトガアリマスル時ニ、即チソレガ我ガ國ニ於テハ天皇デアルノデアリマスカラ、サウ云フ統治權ノ總攬ト云フコトハ明カニ今度ノ新憲法デハナクナリマシタ、ソレデモ宜シウゴザイマスケレドモ、サウ云フ統治權ノ總攬ト云フコトヲ止メテシマフト云フ必要ガ一體何處ニアルカ、ソレヲ私ハ御尋ネシテ居ル、ドウモ私自身トシテハハツキリシナイモノデスカラ、是ハオイデニナラヌケレドモ總理大臣、ソレカラ金森國務大臣ニ御尋ネ致シタイト思ヒマス、是ガ第六デアリマス、ソレカラ七ニハ、所謂憲改法正案トシテ出シテ居ル改正後ノ憲法ハ、是ハ此ノ間チヨツト申シマシタケレドモ、日本國憲法トナルト云フノデアルガ、サウ云フ理窟ハドウモナイカモ知ラヌト思ヘル、矢張リ是ハ帝國憲法デハナイカ、ト云フノハ、金森國務相ハ、是ハ技術的ノ問題ダト云フ風ニ仰シヤツタノデアリマシテ、サウ云フドウモ喰違ヒデスカ、ドツチダト言ツテモ宜イト云フ風ナ御考ヘデアツタト思ヒマスガ、私ハドウモソレハ必ズシモサウデハナイト思フガ、サウ云フコトハアベコベニ精密ニ決メルト云フヤウナコトノ外ニ必要ダト思ハレルヤウナ方ダト私ハ思ツテ居ルノデアリマスガ、單ニ技術的ノ問題ト云フコトヂヤナイ、日本國憲法ト言ツテモ宜イ、帝國憲法ト言ツテモ宜イ、ソンナコトヂヤアリハシナイ、而シテ金森サンハ從來サウ云フ例モアルト言ハレタ、ソレハ確カ徴兵令ノ改正法律ト云フモノガ出マシタ、サウシテ徴兵令ノコトヲ仰ツシヤツタト思ヒマスガ、ソレヲ兵役法トシテ出シマシタ、是ハ全然之ニ當ルベキモノデナイ、是ハ徴兵令ハ言フ迄モナク帝國憲法施行前ノコトデ、徴兵令ナシト云フ法ガアリ得ナイ、サウシテ兵役法ニ定メマシタ所ハ、徴兵令ニ規定シテ居ル以外ノ事項ガ寧ロ多イ、デアリマスカラ、元來憲法施行後ハ法律ニ依ラナケレバナラヌ、徴兵令ナント云フモノハアリ得ナイ、ソレデ今度法律ニ改メマシテ、ソコデ兵役法トシタ、全然斯ウ云フコトハ關係ナイ、ソコデ例ヘバ刑法ヲ改正スル時デモ刑法改正法津ト云フノガ出マシタ時ニハ、其ノ規定ハ矢張リ刑法ナンデス、選擧法改正法律ト云フコトガ出タ時ニハ、其ノ出タ法律ハ矢張リ選擧法デアル、斯ウ云フ點ニ付キマシテ技術的ノコトダト言ツテドウデモ宜イト言ヘバ、サウ云フコトヲヤカマシク言フノハ法律論ダト言ツテ、此ノ際法律ノ末節ト云フヤウナコトヲ平氣デ言ツテ、法律論ヲナスコトヲ輕ンズルト云フ傾向ガ非常ニアル、是ハ私ハサウ云フ傾向ハ反對デアリマス、サウ云フ思想カラ見レバドウデモ宜イヤウナ問題ダケレドモ、私ハ今トハ申シマセヌガ、是ハ兎ニ角技術ニシテモ非常ニ重大ナコトトシテ御研究ニナツテ置イテ然ルベキモノデアルト私ハ思ツテ居ルノデアリマス、ソレカラ甚ダ長クナリマスガ、一體此ノ憲法草案ニ於ケル前文ト云フモノハ、一體ドウ云フ法的性質ヲ持ツテ居ルモノデアルカ、前文々々ト言ツテ頻リニ問題ニナツタ内容ハ、ソレハ問題ニナルノデスケレドモ、此ノ前文ト云フモノハ即チ上諭、或ハ憲法ノ上諭トカ、或ハ皇室典範ノ上諭トカ、法律ノ上諭トカ云フヤウナ、アヽ云フ上諭トハ違ツタモノデアルカ、或ハ又此ノ草案ノソレ自身ノ一ツノ法規デアルカ、第一條以下ノ法規ト同ジヤウニソレ自身法規ト考フベキモノデアルカ、或ハ單ニ一ツノ宣言デアルカ、宣言ニ違ヒナイガ、宣言ナラバ、宣言トシテ何故イケナイカ、或ハ更ニ是以外ニ上諭ト云フモノハ作ラナイノデアルト云フコトナラバ一ツノ解釋デアル、サウ云フ點ニ付キマシテ此ノ前文ノ法的性質、内容ノ問題デハアリマセヌ、併シ私自身ハ是ハ非常ニ重大ナコトダト思ヒマスカラ、此ノ際是ハ金森國務大臣ニ伺ヒタイ、ソレカラ更ニ今度ハ改正案ガ通過致シマシタラ樞密院トノ關係ハドウナルノデアリマスカ、之ヲハツキリ伺ツテ置キタイノデアリマス、此ノ草案ガ草案トシテ提出セラレマスル前ニ、ソレハ樞密院ニ何カ御諮詢ト申シマスカ、最近新聞ニ傳ツテ居リマスルガ、此ノ草案ガ確定シタ後ニハ一體ドウナルノデアルカ、其ノコトモ御尋ネ致シタイト思フ譯デアリマス、ソレカラ甚ダ長クナルノデアリマスケレドモ、我ガ國ノ國號ノコトヲ此ノ間チヨツト御尋ネ致シマシタガ、是ハ詰リ、私ハ憲法草案ガ憲法トシテ確定シマシタ時ニハ、即チ大日本帝國ト云フ國號ガ改ツテ、日本國ト云フコトニナルノカト云フコトヲ御尋ネ致シマシタ處ガ、甚ダ失禮デアリマスケレドモ、ドウモ御答辯ノ次第ハハツキリトシナイ、是モドチラデモ宜イ、日本ト書イテアリマスガ、アレハ「ニッポン」ト讀ンデモ「ニホン」ト讀ンデモ宜イト云フ御説明デアリマシタガ、ドウモ私共ハサウ云フ風ニハ言ヘナイ、ソレハ假ニ日本トアリマスノヲ、ソレヲ社會デ「ニッポン」ト言ヒ、或ハ「ニホン」ト言フノハ、是ハ暫ク構ヒマセヌケレドモ、ソレヲ詰リ自國ノ國號トスルト云フ國家自身、言ヒ換ヘテ見レバ、今之ヲ國號トセムトスル政府自身ガ「ニッポン」カ「ニホン」カ、ドウ讀ンデモ宜イト云フコトハ許サレヌト思ヒマス、ドツチカデナケレバナラヌ、或ハ先ヅドウ讀ンデモ宜イト云フヤウナ説明ヲ爲サルノデアルカ、ソコノ所ハドウモ私ハモウ少シ愼重ニ御考ヘナサツタラドウダラウカト、斯ウ云フヤウニ思フノデアリマスガ、ソレハ讀ミ方デアルガ國號自體ニ付テチヨツト申上ゲマス、第一ニ、大日本帝國ト云フコトヲ廢メテシマツテ日本國トスルト云フノデアリマセウカ、之ガハツキリトシナイノデスケレドモ、併シナガラ兎ニ角、此ノ憲法ガ新憲法トシテ成立シタ曉ニハ矢張リ是ハ日本國ト國號自體ガ改ツタト言ハナケレバナラヌカト私ハ思ヒマス、日本國憲法、日本國民ト云フ風ニアリマスカラ、日本國トナツテモ、ソレハソレデ宜イデスガ、然ラバ唯御尋ネシタイノハ、大日本帝國ト云フ國號ヲ廢メテシマツテ、或ハ改メテ日本國トスルト云フ必要ガ何處ニアルカト云フコトヲ唯御尋ネスルノデアリマス、國號ノコトニ付キマシテハ、是ハ多少調ベテモ居リマスケレドモ、ソンナコトヲ此處デ諄々シク申上ゲル氣持ハアリマセヌ、唯此ノ間モ申上ゲマシタケレドモ、國號ト云フモノガ非常ニ重大ナルモノデアルト云フ觀念ヲ私ハ持チマスカラ、ソレデ國號ヲ改メルノハ、決シテ改メルト云フコト自體ヲ悪イトハ申シマセヌガ、然ラバ、其ノ國號ト云フモノヲ改メテ、大日本帝國ヲ改メテ日本國トスルト云フ必要ガ一體何處ニアルカ、斯ウ云フコトヲ御尋ネシテ見タイノデス、サウシマセヌト云フト、ドウモ私共ノ國號尊重論、國號ト云フモノハ大事ナモノデアル、個人ガ自分ノ名ヲ重ンズルト同ジヤウニ、サウ云フ立場カラ改メテイケナイト云フノデハアリマセヌガ、改メル理由ヲ御尋ネスル、斯ウ云フコトデアリマスガ、是ダケガ實ハ通告致シマシタ質問デアリマスガ、此ノ議事ノ始リマス前ニ、所謂議院内閣制、ソレカラ三權分立ノ關係ガ御話アリマシテ、併シ是ハ先刻ノ御話デハ、今言ウテモ宜イヤウデスケレドモ、併シ私ハ矢張リ之ガドウモ其ノ章別ニ於テ言ツタ方ガ宜イト思ヒマスカラ、其ノ時ニ質問ヲ御許シ願フト云フコトヲ留保シテ、此處デハ止メテ置キマス、是デ私ノ質問ハ終リマス
○委員長（安倍能成君） 佐々木委員ノ御質問ニ對シテハ、總理大臣ニ答辯ヲ要求シテ居ラレマスケレドモ、總理大臣ハ只今豫算總會ノ方ニ出テ居ラレテ、御出席ガ出來マセヌカラ、ソレハ御傳ヘスルコトニシマシテ、ソレデハ金森國務大臣
○國務大臣（金森徳次郎君） 佐々木博士カラノ御尋ニ付キマシテ、私ノ答辯ヲ許サレテ居リマスル部分ニ付テ御答ヲ致シマス、順序トシテ初メカラ、第一、第二ハ、是ハ總理大臣ニ對スル御質疑デアリマス、ソレカラ第三ノ「ポツダム」宣言ト「ピープル」ト云フ關係ニ付キマシテモ總理大臣ニ付テノ御尋デアリマシタ、第四ニ主權在民ト云フコトニ反對スル大臣ハナイカ、是ハ私ノ答辯デハナイノデアリマスガ、唯之ニ關聯ヲ致シマシテ、私ガ本會議ニ於テ、佐々木博士ニ對シ何カ御答ヲシナカツタト云フヤウナコトニ付テノ御意見ヲ御表明ニナリマシタ、ソレハ此ノ前文、即チ第一條ニ於キマシテ、主權ト云フ言葉ヲ使ツテ居ル、サウ云フ意味、意義甚ダ一樣デナイ所ノ言葉ヲ憲法ニ使フト云フコトノ考ハ、何故ニサウ云フコトヲスルカト云フコトニ付テ答辯ガナイ、斯ウ云フ風ニ仰セニナリマシタ、是ハ私ハ答辯ヲハツキリ致シタト記憶シテ居リマス、其ノ點ヲ申添ヘテ置キマス、次ニ第五點ト致シマシテ、帝國憲法ヲ改正シテ國體ヲ變更スルコトヲ得ルカト云フ御尋デアツタノデアリマス、此ノ點ニ付キマシテモ私ハ本會議ニ於テ相當ハツキリ御答ヘヲ申上ゲテ居ル、ソレハ佐々木博士ニ對シテデハアリマセヌガ、申上ゲテ居ルト思ヒマスルケレドモ、念ノ爲ニ申シマスレバ、結局此ノ問題ハ、私ガ屡々御説明ヲ申上ゲテ居リマスル國體ト云フ言葉ノ意義ト關聯ヲシテ來ルノデアリマス、若シモ佐々木博士ガ國體ト云フコトノ定義ヲ以テ國家ノ根本特色デアル、サウ云フ風ニ御認メニナツテ、サウシテ國體ヲ變更スルコトガ出來ルカト御尋ニナリマスレバ、出來マセヌト御答ヲ致シマス、根本特色ヲ變ヘルト云フコトハ、即チ國家其ノモノガ動クコトニナルカラデアリマス、併シナガラ、佐々木博士ガ憲法第一條及ビ第四條ノ現行規定ヲ變ヘルコトガ出來ルカト仰セニナリマスレバ、ソレハ出來ルト御答ヲ致シマス、何トナレバ、ソレハ私ガ度々申上ゲテ居リマスル通リ、國家其ノモノノ同一性ヲ變更スルコトナクシテ、尚可能ナモノデアルト信ジテ居ルカラデアリマス、此ノ點ニ至リマシテ、國體ト云フ言葉ヲドノ意味ニ使ツテ行クコトガ、一般ノ論議ノ上ニ妥當デアルカト云フコトガハツキリ現ハレテ來ルト、私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、第六ノ點ニ於キマシテ、憲法ニ於テ統治權ノ總攬ト云フコトヲ廢止スルノ必要ガ何處ニアルカト云フ御尋デアリマス、是ハ今回ノ憲法ノ建前ニ於キマシテ、特ニ統治權ノ總攬者ヲ定メマセヌデモ、憲法上ノ必要ナル規定ハ支障ナク動クデアラウト、斯ウ考ヘマシタルガ故ニ、統治權ノ總攬者ト云フ地位ヲ置クコトノ絶對ノ必要ガナクナツタカラデアリマス、御承知ノ如ク此ノ憲法ノ改正案ハ、立法、司法、行政ト云フ三ツノ方面ニ於キマシテ、權限ノ主タル所屬ノ官府ヲ設ケマシテ、更ニ天皇ハ必要ニシテ缺クベカラズト、私共象徴タル地位ト組合セテ考ヘマスル御權能ヲ御持チニナリマス、多分之ニ依ツテ所謂殘餘權トデモ申シマスカ、憲法ニ定ムルコトガ殘ツテ居ル、定メ殘シノ權能ト云フモノガ恐ラク生ジナイコトト考ヘテ居リマス、併シナガラ我々ノ知識ノ及バザル所、行届カナイ所ガアツテ、萬々一此ノ憲法ノ何等カノ規定ニ依ツテ動カナイ場面ノ事項ガアルトスレバ、私ハナイトハ思ツテ居リマスルケレドモ、萬々一アリトスレバ、ソレニ處スベキ國法上ノ働キハ自ラ此ノ憲法ノ中ニ含マレテ居ルモノト信ジテ居ル次第デアリマス、次ニ第七點ト致シマシテ、改正後ノ方ハ帝國憲法デハナイカ、斯ウ云フ御尋ガアリマシタ、ソレハ私ガ前ニ申シマシタヤウニ、此ノ憲法ヲ次ノ如クニ改正スルト云フコトガ此ノ改正案ノ趣旨デアリマス、次ト申シマスルカ別ニ改正案トシテ本文ガ掲ゲテアル、サウ云フモノニ改正ヲスルト云フコトガ此ノ憲法改正ノ趣旨デアリマス、從ツテ此ノ趣旨ニ應ジマシテ日本國憲法ガ現レテ來ル譯デアリマス、此ノコトハ曩ニ徴兵令等ノ點ニ付テ仰セニナリマシタケレドモ、是ハ事例ヲ述ベタノデアリマシテ、詰リ改正ト云フコトノ中ニハ表題モ變ルコトモ當然ニ含ンデ居ルンダト云フコトノ事例ヲ述ベタノデアリマス、從ツテ中味ニ現レテ來マスル言葉ガ現行憲法施行前ノ徴兵令、憲法施行後ニ法律ニシタカドウカト云フコトハ關係アリマセヌ、改正ト云フコトノ中ニハ表題迄モ含ンデ居ルガ、此ノ事例ニ依ツテ示スガ如ク含ミ得ルノデアル、然ラバ此ノ憲法改正ノ場合ニ於テモソレガ含マレ得ルノデアリマス、詰リ是ハ含マレ得ル形ヲ以テ提出セラレテアルガ故ニ當然私ノ申シマシタヤウナ風ニ變ルノデアルト、斯ウ申上ゲタ譯デアリマス、尚斯クノ如キ事例ハ技術的ノモノデアリマシテ、幾ラデモ探セバ出テ來ルモノ、法律如何ニ依リマシテ出テ來ルモノト考ヘテ居リマス、ソレカラ第八ノ點ニ於キマシテ、前文ト云フモノノ持ツテ居ル意義ヲ御尋ニナリマシタガ、是ハ形式的ニ言ヘバ憲法法典ノ内容ヲ成スモノト考ヘマス、從ツテ此ノ前文ヲ改正スル時期ガ參リマスナラバ、此ノ憲法ノ豫想シテ居リマスル憲法改正ノ手續ニ依ツテノミ之ヲ果シ得ルモノト思フノデアリマス、併シナガラソレデハ何故ニ本文ニシナイデ前文ニシタカト言ヘバ自ラ狙ヒ所ガ違ツテ居ル、前文ノ方ハ事實ヲ記述シタリ、大體ノ方針ヲ表明シタリ、中ニハ又法的效果ノアルコトヲモ規定シテアリマス、種々ナル内容ヲ持ツテ居リマシテ、純白ナル法文デアル處ノ憲法法典ノ本文トハ違ヒマスルガ故ニ、自ラ前文トシテ特別ナル地位ヲ認メタノデアリマシテ、日本ノ從來ノ法令ニハ斯ノ如キ形式ハ蓋シ稀デアラウト思ヒマスルケレドモ、物ノ道理ニ於テハ斯ノ如クナツテ支障ナイモノト思ツテ居リマス、次ニ上諭トハ違フカト云フコトヲ仰セニナリマシタガ、是ハ現在ノ秩序ノ建前ニ於キマシテハ上諭ハ本體ガ出來上リマシタ其ノ後ニ加ルモノデアリマス、例ヘバ憲法ニ付テ申シマスナラ憲法法典ガ内容確定シ或段階ニ到達致シマシタ後ニ於テ上諭ガ附セラルヽノデアリマシテ、裏カラ言ヘバ上諭ニ付テハ議會ノ經賛ヲ經ルコトガナイト云フノガ普通ノ仕方デアリマスガ故ニ、其ノ形式的意義ノ上カラ申シマシテモ、前文ト上諭トハ違フモノト思ツテ居リマス、上諭ガ別ニ加ルカト云フ御尋ネデアリマシタガ、今回ノ改正ニ付キマシテハ固ヨリ公式令ノ豫想スル處ニ從ツテ上諭ガ加ルベキ筋合ノモノト考ヘテ居リマス、次ニ第九ノ點ト致シマシテ樞密院ニ掛ルカ、御諮詢ニナルカト云フ御尋ネデアツタト思ツテ居リマスルガ、是ハ樞密院官制及公式令ノ豫想スル處ニ從ヒマシテ、樞密院ノ御諮詢ニナルノガ筋合ノモノデアラウト考ヘテ居リマス、ソレカラ第十ニ於キマシテ國號ノコトヲ色々御尋ニナリマシタ、「ニホン」カ「ニッポン」カ、大日本帝國ト云フ言葉ヲ日本國ニ改ムル必要何處ニアリヤ、斯ウ云フコトノ御尋デアリマシタ、是ハ大體ノ御尋ニ付テノ所見ハ本會議ニ於テ申述ベテ置イタノデアリマシテ、御承知デアラウト思ヒマスルケレドモ、昭和ノ或時期ニ於キマシテ日本ニ於ケル或思想ガ昂リマスルト平行シテ「ニホン」ト云フ言葉ハ生温イ、總テ悉ク「ニッポン」ト呼ベ、斯ウ云フヤウナ運動モ起リマシタ、時ノ文部省ニ於キマシテハ其ノ思想ニ或程度迄追隨シテ、私ノ聽イテ居リマス所ニ依リマスレバ、訓令ヲ發シテ學校デ教ヘル時ニハ「ニッポン」ト呼ベ、唯歌トカ何カ特殊ノ場合ハ「ニホン」ト呼ンデ宜イ、斯ウ云フ通知ノ出タコト私ハ職務ヲ執ツテ居リマス頃ニ記憶シテ居リニス、併シナガラ日本國ノ全體ノ考トシテ左樣ナ限定ヲシタカト云フコトハ私ハ存ジテ居リマセヌ、斯ノ如キモノハ結局我々ノ言葉ガ發達スルト同ジヤウニ、此ノ日本國ノ讀ミ方モ、或ハ「ニッポン」國ト或ハ「ニホン」國ト呼ビ、極端デナイ限リ人間ノ正シキ考ニ依ツテ自ラナル變化ヲ遂ゲツヽ此ノ名稱ガ能ク用ヒラレテ行クモノト存ジテ居ル譯デアリマス、ソコデ大日本帝國ヲ日本國ニ改メル必要何處ニアルカト云フ御尋デアリマシタ、是ハ本質ノ問題カラ申シマスレバ、私ハ國號ヲ變ヘルコトハ此ノ憲法ノ趣旨ノ中ニ含マレテ居ナイト申シマシタ、從ツテ何故ニ國號ヲ變ヘルカト云フコトニ付キマシテハ御答ヲスベキ理由ハナイト思ツテ居リマス、併シナガラ憲法ノ表題トシテ取扱フ限リニ於テ現行憲法ハ大日本帝國デアリマス、改正憲法ノ表題ハ日本國憲法デアリマス、何故ニ變ヘルカト云フ斯ウ云フ御質疑デアルカト思ヒマス其ノ意味ニ於キマシテハ、多分大日本ノ「大」ノ字ナドハ、或人々ガ想像致シマスヤウニ、自己ヲ誇ル、日本國自ラヲ美シク、自己ヲ誇ルト云フヤウナ、サウ云フ窮屈ナ狹イ意味ヲ持ツテ居ナイ字デアラウ、私ハ詳シク研究シテ居リマセヌガ、左樣ニ心得テ居リマス、併シナガラ現在ノ國民ガ實質ニ物ヲ考ヘマス時ニ於キマシテ何トナク「大」ノ字ノ附イテ居ルコトハ誤解ヲ起シ易イ、心持ノ上ニ於テ滿足セザルガ如キモノデハナイカト察セラレマス、帝國ノ「帝」ノ字モ同ジヤウナ意味ヲ持ツテ居ルノデアリマス、我々ハ今新タナル覺悟ヲ以テ新タナル秩序ノ國ヲ眞ニ充實セシメテ行カウト云フ段階ニ立ツテ居リマスガ故ニ、此ノ國民思想ヲ斯クノ如キ文字ノ末端ニ迄適切ニ現ハスト云フコトガ恐ラク適當デアラウ、斯ウ云フ風ニ御答ヲ申上ゲタイト存ジテ居リマス是デ御答ハ終リマシタ
○佐々木惣一君 大變短イ言葉デシタガ、私ニ取ツテハハツキリシタ御答デ、私ハ是迄ノ御答ヨリ結構ト思ヒマス、併シ尚チヨツト質問ヲ致シタイノデアリマス、ソレハ前文ト第一條ニ意義多樣ナル主權ト云フ文字ヲ使ツタト云フコトノ理由ハ既ニ言ウタト云フ御話デアリマシタガ、或ハ私ガウツカリシテ居ツタカモ知レマセヌ、併シ今日ハ時間ガアリマセヌカラ、又或ハ重ネテ伺フカモ知レマセヌガ、今日ハ止メテ置キマス、併シ戰爭ノ抛棄ノ場合ニハ、政府案ニハ單ニ主權ト云フコトガアルノヲ今度國權ト云フ風ニナツテ居リマス、サウ云フ風ニ主權ト云フ文字ヲ御捨テニナツテ居ル場合モアリマス、サウ云フモノト關係シテ又別ノ時ニ‥‥今日ハ時間ガアリマセヌ、ソレカラシテ此ノ國體ヲ變更シ得ルカト云フコトヲ憲法論、帝國憲法ノ解釋論トシテデスケレドモ、ソレハドウモ法律論トシテ私ハ實ハ滿足シナイデ、國體ト云フモノヲ國家ノ根本ノ特色トシテ變ヘナイ、併シ第一條、第四條デスカ、アレヲ變ヘルコトハ許サレル、ソレハ問ヲ以テ問ニ答ヘテ居ルノデ、アノ第七十三條ノ適用ノ場合ニ國體ヲ變ヘ得ルヤ否ヤト云フコトハ、國體ト云フ言葉ノ問題デハナイ、要スルニ一條トカ四條トカ云フヤウナアヽ云フ規定ヲ變ヘ得ルカドウカト云フコトガ法律學者ノ議論トシテ言ハレテ居ルヤウデス、デスカラソレヲ變ヘ得ルト云フ御答デスカラ、結局少クトモ私ノ問ニ對スル意味ニ於テハ國體ヲ變ヘ得ルト云フ御答ト解釋スルヨリ仕樣ガナイ、國家ノ根本的特色ナント云フコトヲ申上ゲタノヂヤナイノデアリマスカラ‥‥、ソレカラ又今度ハ統治權ノ總攬ト云フコトヲ何故止メテシマフカト云フコトニ付テ御尋ネ申上ゲタ時ニ、今度ノ憲法ノ建前ガ、例ヘバ立法、司法、行政ト云フヤウナモノモ止メルノデアルシ、詰リ別ニ總攬ト云フヤウナコトハ要ラヌ、ヤメルノダ、斯ウ仰シヤツタノデスケレドモ、ソレハ又問ヲ以テ問ニ答ヘテ居ル、サウ云フ今度ノ憲法ノ建前其ノモノガ何故必要デアルカト云フコトヲ御尋ネシテ居ルノデスカラ、是デハ具合ガ惡イ、總攬ト云フコトヲ廢止スルト云フ事由ノ説明ニ私ハナラヌト思フ、今度ノ憲法ノ建前ガサウダカラ、建前ソレ自身ヲ問ウテ居ルコトニナル、ソレハモウ時間ガアリマセヌ、ソレカラ改正後ノ方ハ、矢張リ帝國憲法ト云フ風ニ言ハザルヲ得ナクナリハシナイカト云フヤウナコトニ付キマシテハ、此ノ憲法ハ次ノ如ク改正スル意味ダト仰シヤルケレドモ、併シ此ノ憲法ヲ正確ニ見マスト、是ハ餘リ私自身デ主張スルコトヂヤアリマセヌケレドモ、大日本帝國憲法ト云フモノハマダ法理論的ニ殘ツテ居ル、法律論、法律論ト云ハレルカラ止メテ置キマスガ、ドウモ左樣ノヤウデアリマス、ソレカラ今度ハ第八ニナリマシテ、上諭ト云フモノニ付テ樞密院ノ諮詢ノコトヲ申上ゲタノデスガ、一體樞密院ニハ議決シタモノヲ憲法草案トシテ諮詢スルノデアルカ、草案ヲ諮詢スルノデアルカ、我々ガ議決シタモノガ草案トナツテ樞密院ニ諮詢スルコトニナラザルヲ得ナイノデス、細カイ議論ノヤウデスガ、直チニ今デナクテモ宜シウゴザイマスガ、詰リ草案ヲ諮詢セラルヽコトニナリマスカ、私ハ今御返事ヲ戴カナクテモ宜シイデス
○國務大臣（金森徳次郎君） 今ノ方ガ都合宜シウゴザイマス
○佐々木惣一君 ソレヂヤドウカ、ソレカラ國號ノコトデス、是ハ詰リ日本國憲法トシ、或ハ又日本國ノ象徴デアル、日本國民統合ノ象徴デアルト云フ規定ヲシタ以上ハ、矢張リ變ヘルト云フ意味ダト私ハ思フノデス、國號ヲ改正スルト云フ言葉ヲ使ハナクテモ、是デ國號ヲ變ヘルト云フ意思表示ガアルト思フノデスカラ、御答ニハドウモ私ハ滿足シナイ、國號ノ問題ハ憲法ノ内容ヲ此處デ審議シテ居ルノダカラ、憲法ノ内容ニ關スルコトトシテ國號ノ問題ヲ此處デハ別ニ答ヘナクテモイヽケレドモト云フヤウナ御言葉デアツタガ、ソレデハ私ノ考デハ工合ガ惡イ、矢張リ是ハ國號ヲ變ヘルト云フ規定デハナイケレドモ、此ノ日本國憲法ヲ見マスト、從來ノ大日本帝國ト云フ國號カ變ツタ、變ヘルノダ、斯ウ云フ趣旨デアルコトハ疑ヒナイト思ヒマスガ、如何ナモノデセウカ、ソレカラ「ニツポン」又ハ「ニホン」ト讀ムコトノ何レデアルカト云フヤウナコトハ、文字、言語ハ社會的ノモノデアルト云フコトハ無論私共モ言ウテ居ルコトデアリマスケレドモ、併シナガラ政府トカ、公ケニ國家トカ云フモノハ、兎ニ角モ自分ハ、之ヲ「ニホン」ト呼ブ建前デ出ストカ或ハ「ニツポン」ト呼ブ建前デアルト云フコトハ、決メテ置カナケレバナラヌ、ソレニ決メテ置イテモ、社會デドウナルカト云フコトハ、是ハ別ノ問題デアリマスケレドモ、私ハサウ信ジマス、ソレデ政府ハ「ニホン」ト呼ブカ「ニツポン」ト呼ブノデアルカト云フコトハ、問題ガマダ殘ツテ居ルヤウニ思ヒマスガ、是デ私ノ質問ハ打切リマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 度々御答辯ヲシ殘シマシテ誠ニ申譯ナイ次第デアリマスガ、日本國ノ點ハ前カラ申上ゲマシタ通リデアリマシテ、不幸ニシテ御意見ガ私共ノ御説明ニ違フヤウデアリマスケレドモ、大體今迄ハ左樣ニ考ヘテ居リマス、從ツテ將來正式ニ國名ガ使ハレマスル時ハ、恐ラク憲法ノ表題ニアルト同ジヤウナ形ガ主トナツテ行ハレルモノト思ヒマスケレドモ、併シソレガ爲ニ國號ヲ變ヘルト云フコトハアリマセヌ、又讀ミ方ヲ政府ニ於テ如何ニシテ統一スルカト云フ問題ニ付キマシテハ、是ハ又全然別ナ新タナル御提出ノ問題デアリマシテ、ソレハ別ニ能ク考慮ヲ致シタイト思ツテ居リマス、今ノ所デハ、マダソコ迄考慮シタ機會ハアリマセヌ、ソレカラ樞密院ニ諮詢ヲ致シマスル形ニ於キマシテハ、是ハ樞密院官制ノ文字ガ如何ニアリマセウトモ、樞密院ヲ設ケラレマシタ趣旨ガ、此ノ憲法ガ出來上リマス迄ニ樞密院ノ意見ヲ十分ニ聽カウト云フコトデアリマスノデ、初メ變ヘル時ニ、純粹ノ草案デアツタ時ニ樞密院ニ御諮詢ニナル、議會ノ議決ヲ經タ後ニ於キマシテモ、マダ憲法ニハナツテ居リマセヌ、マダ廣義ノ草案デアリマス、御裁可ヲ經ル迄ノ段階ニ於ケル未確定ノモノデアリマス、從ツテ尚樞密院ニ掛ケテ鄭重ヲ期スルト云フコトハ理ノ當然デアリマス、樞密院ノ官制ノ言葉デドウナルカト云フコトハ別ト致シマシテ、之ニ條理ヲ振合セテ考ヘマス場合ニ、一點ノ疑惑ヲ其處ニ存スルコトハナイト考ヘテ居リマス、尚色々御尋ネニナツタヤウデアリマスケレドモ、大キナ問題ハ、佐々木博士ノ所謂第一條第四條ノ憲法ノ現行規定ヲ變ヘル趣旨ノ憲法改正ガ果シテ七十三條ニ依ツテ出來ルカ、是ハ既ニ前々カラ出來ルト云フコトヲ申シ昨日モ本會議ニ於テ述ベテ居リマス、寧ロ私ノ方カラ申シマスレバ、何故出來ナイカト云フコトヲ御示シ下サイマシテ、之ニ對スル私ノ所見ヲ御求メ下サイマシタナラバ、或ハハツキリ御答ヘシ得ルカト存ジテ居リマス
○佐々木惣一君 時間ガアリマセヌカラモウ止メマスガ、今御答ヲ得タノデスケレドモ、矢張リドウモ滿足シ得ナイノデス、併シ其ノ最後ノ所デ帝國憲法ノ改正ガ所謂アノ意味ノ國體ヲ變更セザルヲ得ナイ、サウ云フコトニ付キマシテハ、何故出來ナイカト云フコトヲ私カラ示セト云フ逆襲ヲ受ケマシタノデ、是ハドウモ示サザルヲ得ナイノデスガ、ソレハ今日ハ致シマセヌ、モウ四時ニナツテ居リマスカラ他日ニ致シマセウ、併シサウ云フ逆襲ヲ受ケタ以上ハ必ズヤリマスカラ、ソレヲ御許シヲ願フト云フコトヲチヨツト申上ゲテ置キマス
○委員長（安倍能成君） 今日ハ是デ散會致シマス、ソレカラチヨツト御願ヒシテ置キタイコトハ、大體矢張リ質疑ノ豫定ガ付イタ方ガ宜シウゴザイマスカラ、質疑シタイト御考ヘニナツテマダ御申出ノナイ方ハ成ルベク早ク御申出ヲ願ヒタイト思ヒマス
午後三時五十九分散會
出席者左ノ如シ
委員長 安倍 能成君
副委員長 伯爵橋本 實斐君
委員
公爵岩倉 具榮君
侯爵細川 護立君
侯爵中山 輔親君
侯爵淺野 長武君
伯爵後藤 一藏君
三土 忠造君
子爵大河内輝耕君
大谷 正男君
男爵白根 松介君
子爵織田 信恒君
子爵高橋 是賢君
子爵三島 通陽君
子爵松平 親義君
山田 三良君
平塚 廣義君
牧野 英一君
佐々木惣一君
松村眞一郎君
男爵今園 國貞君
村上 恭一君
男爵飯田精太郎君
霜山 精一君
下條 康麿君
川村 竹治君
岩田 宙造君
高柳 賢三君
南原 繁君
男爵松田 正之君
男爵渡邊 修二君
男爵松平 齊光君
田所 美治君
野村 嘉六君
澤田 牛麿君
松本 學君
宮澤 俊義君
結城 安次君
瀧川 儀作君
小山 完吾君
長谷川萬次郎君
山本 勇造君
淺井 清君
渡邊 甚吉君
國務大臣
内閣總理大臣兼外務大臣 吉田 茂君
國務大臣 男爵幣原喜重郎君
司法大臣 木村篤太郎君
文部大臣 田中耕太郎君
國務大臣 齋藤 隆夫君
遞信大臣 一松 定吉君
國務大臣 植原悦二郎君
國務大臣 金森徳次郎君
政府委員
内閣副書記官長 周東 英雄君
法制局長官 入江 俊郎君
法制局次長 佐藤 達夫君
