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第九十回帝國議會貴族院 帝國憲法改正案特別委員會議事速記録第六號
付託議案◎帝國憲法改正案
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昭和二十一年九月六日（金曜日）午前十時十三分開會
○委員長（安倍能成君） ソレデハ會議ヲ開キマス、今丁度豫算分科會ガアル爲ニ、各省ノ大臣ガ御出席ガムヅカシイト云フヤウナコトガアリマスガ、其ノ點ヲ御了承願ヒマス、ソレデハ大河内委員‥‥
○子爵大河内輝耕君 私ハ金森國務大臣ト文部大臣ニ質問ヲ致シタイノデアリマスガ、文部大臣ガ御出席デゴザイマセヌカラ、相當ナ機會ニ質問ヲ御許シ願ヒタイ、金森國務大臣ニ質問ヲ致シマス、私ハ實ハ此ノ問題バカリデナク、各論ニ亙リマシテモ色々質問致シタイト存ジマス、其ノ度ニ一々御斷リシテ置クノモ大變デゴザイマスカラ、概括的ニ私ノ態度ヲ一應説明致シテ置キマス、私ハ御遠慮ナク申上ゲマスガ、此ノ現内閣ニ對シテ全幅ノ支持ヲ致シタイ、渾身ノ同情ヲ持ツテ居ル人間デゴザイマス、色々ノ長所ガゴザイマスガ、一番其ノ中デモ、長所中ノ長所ト見ルノハ、人事其ノ宜シキヲ得テ誠ニ御人揃ヒデアルト云フコト、我々ノ理想以上ニ人材ヲ集メテ居ル、人事ト云フモノハ總テノ基礎デアリマシテ、人事サヘ宜ケレバ大概ノ難問ハ解ケル、此ノ意味ニ於テ現内閣ハ此ノ人材ヲ以テ進メバ大概ノ難問ハ解ケテ行カウト思フ、甚ダ國家ノ爲祝スベキモノデアル、私ハ斯樣ニ考ヘル、ソレカラ次ニ此ノ憲法上ノ文字ニ付テ、此ノ前色々御議論ガゴザイマシタガ、成ル程牧野博士ヤ其ノ他ノ方、山田博士アタリノ御意見デモツト好クナレバソレニ越シタコトハゴザイマセヌガ、ナニ、政府ノ作ラレタ文字ニ付キマシテ少シモ不明ナ所ガナイ、是デ私ハ能ク分リマス、尚ソレカラ外ノ學者ヤ何カニ聽カナクテ決メタノハ輕卒ヂヤナイカト云フヤウナ御話ガゴザイマシタガ、是ハ私ハ全然不賛成デアル、金森國務大臣ト松本國務大臣ガ愼重審議セラレタノデ、何モ心配ハナイ、併シ他ノ方カラノ御注意デモツト良クナレバ、ソレニ越シタコトハゴザイマセヌ、此ノ憲法ヲ概觀シテ見ルト、誠ニ良ク出來テ居ル、良ク出來テ居ル所ヂヤナイ、我々ノ氣ガ付カナイ所迄氣ヲ付カレテ、實ニ申分ナイト言ツテ宜イ、尤モソレハ細カク言ヘバ色々アリマセウ、殊ニ天皇制ニ對シテハ非常ニ天子樣ニ御安泰ノ位置ヲ與ヘラレ、私モ實ニ心配ガナクテ誠ニ有難イコトデゴザイマス、ソレカラ華族ト云フヤウナ社會上ノ厄介者ヲ廢シテシマツタト云フコトモ、是モ誠ニ祝スベク、序デニ申上ゲマスガ、衆議院ガ、何條デアリマシタカ、九十七條‥‥九十七條ヲ削ラレテ、一代華族サヘモナイヤウニサレタト云フコトハ、非常ナ私ハ感謝ヲスルコトデ、斯ウ云フ意味ノ分ラナイ規定ト云フモノハアリヤシナイ、旁々以テ益々良クナルバカリデ、誠ニ此ノ憲法ノ制定ノ上カラ言ツテモ、憲法政治カラ言ツテモ喜ンデ居ツテ、衆議院ニ感謝ヲ致シテ居リマス、殊ニ承レバ家迄御廢止ニナルサウデ、家ト云フヤウナモノガ廢サレタラ、實ニ此ノ上モナイ宜イコトダト思ヒマス、此ノ爲ニ社會ノ活動ガドレダケ迷惑シテ居ルカ分ラヌ、旁々良イ方ニ進ンデ行クト云フコトハ慶スベキコトダト存ジマス、ソレデソレハ全體ニ對スル私ノ前置キデアリマスガ‥‥モウ一ツ申上ゲマスガ、能ク伺ヒ損ナツタラ私ハ改メマス、昨日近衛公ガ内大臣府ノ囑託トシテ憲法ニ參與サレタコトガ惡クナイコトダト云フヤウナ御話ガアツタト仄聞スルノデアリマス、ナカツタトシタラ取消シマスガ、私ナンドハ是ハ實ニ怪シカランコトダト思フ、内大臣府デアリナガラ、國務大臣ノ地位デモナイノニ、憲法ノ何ナンゾハ自分ノ職務ノ如ク扱フナンドハ、怪シカラヌコトダ、今後斯ウ云フ憲法ヲ曲庇スルヤウナ行動ガ出タナラバ、如何ニ立派ナ憲法政治ヲ布イテ、立派ナ憲法ヲ布イタ所デ、何ニモナラナイ、實ニ怪シカラヌコトダト云フコトヲ茲ニ申上ゲテ置キマス、ソレデ質問ニ移リマスガ、是ハ金森國務大臣ニ對シテ質問ヲ致シマス、先日來國體ノ議論ガ此處デゴザイマシタ、私共モ雙方ノ論點ヲ伺ツテ非常ニ得ル所ガゴザイマシタ、併シ色々研究シテ見マシタケレドモ、政府ニ向ツテ國體ハ變更シタノデゴザイマスト言明シロツタツテ、ソレハ無理デ、ソレヲ重重私ハ事情ヲ御察シシテ居ル、無理ト言ツテハ失禮デスケレドモ、無理ヲ言ツタト云フノデハナイガ、政府ニサウ云フコトヲ答ヘロト言ツタツテ、是ハチヨツト答ヘラレナイ、併シ能ク考ヘテ見マスト、アレダツテ國體ガ變ツタト云フコトヲ言ハレル説モ立派ナンダ、立派ナ説デ、學説上ノ根據ガアルコトナンデ、ソレハ穗積博士ヲ始トシテ、筧、清水、上杉、皆アノ説ヲ採ツテ居ラレマシテ、ソレハ或一部一木博士ノヤウニ、美濃部博士ノヤウニ國體ヲ認メナイ方ハ是ハ別デスケレドモ、サウデナイオ方ハ皆アノ説ヲ採ツテ居ラレルノデ、詰リ私カラ言ハセレバ國體ハ變更シタノダ、日本帝國ハ此ノ憲法ヲ施行サレルト同時ニ「ファンタメンタル・キャラクター」ヲ失ツテ亡ビタンダ、斯ウ説キタイ、ソレデ金森大臣ニ伺フノデスガ、民間デ斯ウ云フ説ガ起ルデアラウ、是カラデモ教壇ノ上デモ起ルダラウシ、論文ノ上デモ起ルダラウシ、總テハ是カラ起ツテ來ル、何シロ影響ガ大キイノデスカラ、斯ウ云フ場合ニ政府ハ虚心坦懷ニ、サウ云フコトヲ言フコトハ差支ナイノダ、斯ウ云フ風ナ態度ヲ執ラレテ然ルベキダト思ヒマス、分リ切ツタコトデハゴザイマスガ、一應其ノ點ヲ確カメテ置キマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 大河内委員カラノ御尋ノ點ハ、少シ終ヒノ方ヲ聽キ落シタ爲ニ或ハ御答ガピツタリト合ハヌカモ知レマセヌガ、私共ノ考ヘテ居リマス思想ハ、私ノ及ビ内閣ノ考ヘ方トシテハ、國體ト云フモノハ變ツテ居ナイト、斯ウ云フ風ニハツキリ申上ゲテ居ル次第デアリマス、併シナガラ學問ノ自由、言論ノ自由ト云フモノハ固ヨリ尊重シテ居リマスカラシテ、其ノ點ニ付キマシテ何等ノ制限ヲ加フル考ハナイ、要ハ結局眞理ノ闘ヒト申シマスルカ、ソレニ依ツテ解決シタイト考ヘテ居ル次第デアリマス
○子爵大河内輝耕君 能ク分リマシタ、ソレデ私ハ宜シウゴザイマス、又文部大臣ガオイデニナリマシタラ御尋ネ致シマス
○松村眞一郎君 私ハ金森國務大臣ガ何處デゴザイマシタカ、本會議デアリマシタカ、此ノ委員會デアリマシタカ、チヨツト覺エマセヌガ、治安維持法ノ國體ハ變ツタモノデアルト云フコトハ認メルト云フコトヲ仰シヤツタノデアリマスガ、ソレハドウ云フ意味デゴザイマセウカ、モウ一度承リタイノデス
○國務大臣（金森徳次郎君） 私ハ確カニ左樣ナ御答ヲシタト記憶シテ居リマス、其ノ趣旨ハ、御質疑ノ方ノ立場ニ於テ、治安維持法ニ於テ國體ト言ツテ居ルノハ、天皇ガ統治權ヲ總攬セラルヽ第四條ノ規定及ビ天皇ガ日本ヲ統治セラルルト云フ第一條ノ規定ノ内容ニ織込マレテ居ルモノヲ、此ノ法律家ノ方ニ於テハ國體ト解釋ヲシテ居ルト云フ風ノ前提ノ下ノ御質疑デアリマシタ、私ハ左樣ナ解釋ガ行ハレテ居ルデアラウト云フコトモ存ジテ居リマスルシ、其ノ法律ガ出來マスル當時ニ、政府ノ方カラサウ云フヤウナ趣旨ヲ以テ答ヘラレタコトヲモ聞キ及ンデ居リマスルガ故ニ、其ノ解釋ノ下ニ於ケル國體ノ中味ハ變ツタノデアルト、斯ウ云フ風ノ趣旨ヲ以テ御答ヲシタト考ヘテ居リマス
○松村眞一郎君 サウ致シマスト云フト、治安維持法デ申シテ居ル國體ハ變ツタモノト政府ハ認メラレルト云フ、斯ウ云フコトニナリマスカ、ソレダケデ宜シイモノデアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 治安維持法ニ依ツテ、裁判所ニ依ツテ解釋セラレテ居ル意義ニ於ケル國體ハ、此ノ憲法ノ寧ロ内容トハ違ツテ居ル、斯ウ云フコトヲ申上ゲタ次第デアリマス
○松村眞一郎君 治安維持法第一條ニ「國體ヲ變革スルコトヲ目的トシテ」ト云フコトガテリ、第七條ニハ「國體ヲ否定シ」ト云フコトガアリマス、ソコデ此ノ國體ト云フ字ガ法律ニ掲ゲラレテ居ルノデアリマスルカラ、是ハ衆議院、貴族院十分ニ詮議シタノデアリマスガ、國體ト云フモノハ立法府ニ於テ、立法府ト云フトチヨツト文字ガ穩カデアリマセヌガ、立法權ノ協賛ノ任務ヲ持ツテ居ル帝國議會ニ於テ、國體ト云フコトニ付テソレヲ非常ニ詳シク研究シタノハ、私ハ治安維持法ノ場合ノ帝國議會デアルト思ヒマス、ソレハ大正十四年ノコトデアリマスルカラ、此ノ戰爭ト云フ問題ニ關係ナキ時代デアリマス、社會ノ背景ハ色々アリマセウ、併シナガラ兎モ角治安維持法ト云フ法律ヲ出シテ居リマス、國法ノ上デ、憲法ノ認ムル國體ト云フモノハ斯クノ如キモノデアルト云フコトヲ論議ヲ盡シテ決メラレタモノガ、動カナイモノガアル譯デス、サウシテソレニ對シテ大審院ガ之ニ判決ヲシテ、大審院ハ天皇ノ名ニ於テ司法權ヲ行ツテ居ルモノデアリマスカラ、其ノ意味ニ於キマシテ、モウ是ハ權威的ニ、國體ト云フノハ國法ノ上ニ於テ嚴トシテ存在シテ居ルト云フコトヲ認メラレナケレバナラヌノデアリマスガ、金森國務大臣ノ其ノ意味ノ國體ハ變ツテ居ルノデアルト云フノハ何時變ツタノデアリマスカ、何時變ハルノデアリマスカ、ソレヲ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 其ノ意味ニ於ケル國體ハ何時變ハルノカ、詰リ此ノ憲法ノ規定シテ居ル、此ノ改正憲法ノ豫想シテ居ル規定ハ其ノ意味ハ、御示シニナリマシタ法律ノ解釋ニ於ケル國體論ト違ツタ結果ニナルモノト思ヒマスルガ故ニ、此ノ憲法ガ實施セラルヽ時ニハ、從前ノ其ノ法律ノ解釋ニ於ケル國體ノ中味ト云フモノハ法律上是認セラレナイコトニナル、斯ウ云フヤウニ申上ゲタイト思ヒマス
○松村眞一郎君 端的ニ申シマスト、從來國法上認メラレテ居ツタ國體ト云フ觀念ハ、此ノ新ラシキ憲法ノ、改正憲法、日本國憲法ガ實施セラレル時ニ於テ變ハルノデアル、サウナリマスト云フト、其ノ國體ハ日本國憲法ガ變ヘタノダト云フコトニナルノデゴザイマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 其ノ意味ノ國體ハ此ノ憲法ガ、詰リ其ノ意味ト云フコトヲハツキリ限定ヲシテ居リマス、其ノ意味ノ國體ハ此ノ憲法ニ依ツテ變ヘラルヽ結果ニナル、斯ウ云フコトデゴザイマス
○松村眞一郎君 其ノ意味ト云フノハ、大審院ガ天皇ノ名ヲ以テ司法權ヲ行使シテ決メタ其ノ意味ト云フコトニナルト思ヒマスガ、如何デアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス
○松村眞一郎君 非常ニ明瞭ナ御答ヲ承リマシタノデ、國民ハ非常ニハツキリ國體ガ變ハルト云フ意味ヲ把握シ得タト私ハ考ヘマス、次ニ私ハ國體ノ種々ノ意義ト云フモノヲ表題ニ於テ出シマシタガ、是ハ封建的ト申シマスカ、公ノ國家ト申シマスカ、國ノ公ノ文字トシテ現ハレテ居ルモノノ中ニハ、教育勅語ニアル國體ノ精華ト云フコトガアルノデアリマス、私ハ教育勅語ハ法デハナイト思ヒマス、是ハ何人モサウ認メマセウ、是ハ日本ノ彝倫ト申シマスカ、彝倫ノ大道ヲ示サレタル所ノ大綱領デアルト云フヤウニ考ヘテ居ルノデアリマス、是ハ法デハゴザイマセヌ、ソレガ故ニ教育勅語ヲ若シ御變ヘニナルト云フコトニナレバ、是ハ帝國議會ノ協賛ヲ經テ遊バサレルモノデナイト云フコトハ明瞭デアリマス、是ハ法デナイト云フコトハソレニ依ツテ明瞭ダト思ヒマス、サウ致シマスト云フト、教育勅語ノ中ノ國體ト云フ文字ノ意義如何ト云フコトハ、法的解釋デハ是ハ分ラナイコトニナリマスカラ、ソコデ此ノ國體ト云フ文字ヲ權威付ケル解釋ヲナス職責ニアル方ハ文部大臣デアルト思ヒマスガ、文部大臣ハ教育行政ニ當ラレテ居ツテ、其ノ教育勅語ト云フモノハ、教育行政ノ根柢ヲ成シテ居ルノデアツテ、我ガ國體ノ精華デアツテ、「教育ノ淵源亦實ニ此ニ存ス」ト仰セラレテ居ルノデアリマスカラ、私ハ文部大臣ニ國體ト云フコトハ、教育勅語ニ於テハドウ云フコトヲ意味スルノデアルカト云フコトヲ明確ニ御答辯ヲ願ヒタイト思ヒマス、ソレハ法デアリマセヌ、私ハ此ノ憲法ガ帝國議會ニ審議サレテ居リマスルノハ法トシテノ審議デアル、立法權ノ協賛權ヲ我々ハ敢シテ居ルノデアリマスカラ、此ノ日本國憲法ナルモノガ宗教ヲ背景トシ、道徳ヲ背景トシ、哲學ヲ背景トシ、社會學ヲ背景トシ、經濟學ヲ背景トスルノミナラズ、色々ナ法デ申シマスト云フト、當爲ノ法ニ包含サレテ居ル所ノモノモアレバ、必至ノ法ニ含マレテ居ルモノモアル、是ハ天文學ノ地動説、天動説ト云フコトニ付テ金森國務大臣ハ本會議デ二度モ仰シヤツテ居ルノデスガ、其ノ天動説、ソレハ必至ノ法則デス、必ズ至ルデス、我々ガ今目的ニシテ居リマス所ノ憲法ト云フモノハ、是ハ當爲ノ法則デアル、必至ノ法則ヲ以テ當爲ノ法則ヲ類推スルコトハ學問上出來ナイコトデアリマスカラ、私ハ金森國務大臣ハ唯比喩ヲ申サレタノダト思ツテ解釋シテ居リマスガ、此ノ當爲ノ法則ノ一ツデアル憲法、此ノ憲法ヲ議スルニ當リマシテハ、法ト云フ觀念デ明瞭ニ自分ノ審議ノ眞域ヲ眺メテ進メルノ外ナイト考ヘル關係カラ、私ハ質問致シテ居ルノデアリマス、結局法トシテノ憲法ニ於キマシテ、此ノ度ノ修正案ニ依リマスト云フト、衆議院デハ第一條ヲ「主權の存する日本國民の總意に基く。」ト云フコトニ改メラレタノデアリマスルガ、「主權の存する日本國民の總意」、此ノ「主權の存する」ト云フ形容詞ハ「日本國民」ニ懸カルノデアリマスカ、「總意」ニ懸カルノデアリマスカ、是ハ政府トシテハ政府ノ意思ヲ全ク明カニシタモノデアルト云フコトヲ仰セラレテ居ルノデアリマスカラ、其ノ何レデアツテモ結構デアリマス、其ノ主權ハ何處ニ存シテ居ルト云フ御解釋デアリマスカ伺ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） チヨツト私御伺シ間違ツタノデスガ、大日本帝國憲法、詰リ現行憲法ノ中ニ於テ主權ガ何處ニ存スルカ、ソコノ御質疑デアツタヤウニ、私ハ今最後ノ御言葉デ御伺ヒ致シマシタガ、是ハ大日本帝國憲法ニ於キマシテハ、主權ノ所在ト云フモノハ憲法ノ中ニ、是ハ成法ヲ以テ御論議ニナリマスレバ、私ノ見ル所ニ於キマシテハ、成文上何等明白ナル規定ハナイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○松村眞一郎君 私ハ日本國憲法ハ大日本帝國憲法ヲ改正シタト云フ形ニ於テ此處ニ出テ居ルノデアリマスカラ、改正セラレタル「主權の存する日本國民の總意」ト云フ其ノ「主權の存する」ト云フ其ノ「主權」ハデス、大日本帝國憲法ニオイテハドウ云フコトニナルノカト云フコトハ、文字ニナクテモ是ハ御説明願ハナイト云フト、ドウ變ツタト云フコトガ分ラナクナルト思ヒマス、新ラシイ憲法ニ於テ「主權の存する」ト言ツテ居ル、此ノコトハドウ云フヤウニ現行憲法トノ關係ニ於テ改正ニナツタノデアルカト云フコトヲ御尋ネ致シテ居ルノデアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 現行憲法ヲ解釋スル前提トシテ、恐ラクハ其ノ憲法ノ法文ノ文字ノ含ンデ居ナイ其ノ基礎ニ横ハルモノノ考ヘ方トシテ、主權ガ何處ニアルカト云フ御質疑デアルト考ヘテ居リマス、而シテ茲ニ主權ト申シマスルモノハ國家ノ行動ノ力トナルベキ、謂ハバ意思トモ稱スベキモノノ、更ニ源泉トナルモノヲ指スモノト私ハ考ヘテ居リマス、其ノ意味ニ於キマシテハ過日ノ此ノ委員會ニ於テ申述ベマシタヤウニ、一般ニハ神勅ニ起因スルト説明ヲサレテ居リマス、併シ私ハソレハ一ツノ説明ノ仕方デアツテ、國民ノ意思ニアルモノデアルト考ヘテ居リマス、此ノ二ツノ思想ハ古來カラアツタノデアルケレドモ、表裏隱顯シテ居ツタノデアル、時アツテハ甲ノ姿ガ顯レ、時アツテハ乙ノ姿ガハツキリ顯レタノデアル、而シテ從來ハ信仰ヲスルト、理性ヲ以テ認識スルト云フコトノ二ツガ日本ニ行ハレテ居ツタケレドモ、今日以後ノ方針ニ於テ信仰ヲスルト云フ方面カラ來ル考ヘ方ハ、此ノ憲法ノ表向キノ理論ノ外ニ置キマスルガ故ニ、國民ノ意思ニアルト云フ説明ノミガ殘ルノデアル、斯ウ云フ風ニ申上ゲテ置キマス
○松村眞一郎君 サウシマスト云フト、國民ノ意思ニト云フコトニ徹底スルト云フコトニナルト、矢張リ大日本帝國憲法ニ於キマシテモ、主權ハ國民ノ意思ニアル、斯ウ云フコトニナル譯デアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 私ハ左樣ニ考ヘテ居リマス
○松村眞一郎君 非常ニ明快ノ御答辯ヲ願ヘマシタノデ、私非常ニ結構ニ感ジマス、是デ此ノ國體ヲ繞リマシテ起リマス問題ハ、憲法ノ七十三條ノ問題デアリマス、私ハ金森國務大臣ガ改正憲法ノ議會ヘノ提案ヲ御取扱ニナル際ノ御考トシテ、私ハ斯ウ云フ風ニ此ノ七十三條ヲ讀ンデ居リマス、第一項ノ方ハ「憲法ノ條項ヲ改正スルノ必要アルトキハ」ト云フ方ハ是ハ實質ヲ言ツテ居ルノデアツテ、今度第二項ハ其ノ提案ヲスル時ニ議會トシテ斯々ノ三分ノ二以上ノ多數ヲ得ルト云フ鄭重ナル審議ヲ盡スベシ、此ノ二ツノ點ガアルト思ヒマス、ソレデ私ハ色々御意見ガアルヤウデアリマスガ、本質的ニ大日本帝國ノ國體ト云フモノヲ變ヘルヤウナ改正ハ出來ナイト云フ意味ノ解釋ガアルヤウニ此ノ席デ了解致シタノデアリマスガ、私ハ文字解釋ヲ致シマスト云フト、其ノ所謂日本ノ國體ヲ變ヘルヤウナ改正ハ出來ナイト云フ意味ノ學説ト申シマスカ、御意見ヲ御採リニナツテ居ル方ハ、恐ラク重點ヲ第一條乃至第四條ニ置イテ居ルノデハナイカト思ヒマス、サウ致シマスト云フト、是ハ非常ニ文字ノ議論ニナリマスケレドモ、唯第一條乃至第四條ダケノ改正ヲ出シタ場合ニハ、七十三條ノ矢張リ第一項ニモ明瞭ニ當篏マル譯デ、憲法ノ條項ヲ改正スルトアリマスカラ、恐ラクハ非常ニ重點ヲ置イテ居ラレル國體ヲ變ヘルヤウナ憲法ヲ改正シテハイケナイ、或ハ第一條乃至第十四條、其ノ中ニハ色々アリマセウ、私ハ憲法學者デアリマセヌカラ能ク分リマセヌガ、サウ云フ重大規定ヲ改メルヤウナモノハ出シテハイケナイ、斯ウ云フコトヂヤナイカト思ヒマスガ、今申シマシタ形ニ於テ、條項ダケノ改正案ト云フコトニナルト云フト、學者ガ或ハドウ云フコトヲ考ヘテ居ラレルカ存ジマセヌガ、國體ニ關係スルト考ヘラレテ居ルヤウナコトヲ一部改正デ私ハ出來ルノデハナイカト思フ、サウスルト形ノ上デハ餘リ實效ノアル議論デハナイト思ヒマス、國體ヲ變ヘル憲法ノ改正ハ出來ナイト云フコトハ、文字解釋ヲスルトサウナル、サウ考ヘマスガ故ニ、政府トシテ重點ヲ置イテ居ラレルノハ、寧ロ第二項ニアルノデアツテ、若シ此ノ憲法ヲ改正スル際ニ、非常ニ潔癖ナ議論ヲシマスト、大日本帝國憲法ハ之ヲ廢止スト云フ茲ニ一ツノ手續ガアル、一方ニ於テ日本國憲法制定ト云フモノヲ同時ニ出シテ、一方ガ廢止サレタ時ニ一方ガ出ルト云フコトニナルト、其處ニ何等間斷ノナイ、ソレハ甚ダ畏多イコトヲ申上ゲマスケレドモ、天皇崩御スレバ即チ即位スト云フコトト同ジ意味デ、其處ニ間斷ナイ思想デ、私ハソレデモ宜イト思ヒマス、併シサウ云フコトヲ致シマスレバ、今ノ七十三條ノ第二項ノ適用ハ出來ナクナリ、又サウ云フコトヲ書カナクテハイカヌ、サウ云フコトガアリマスカラ、鄭重ナル手續ヲスル必要上、ドウシテモ七十三條ニ依ツタ方ガ宜カラウト、斯ウ云フ意味ニ私ハ解釋シテ居リマスガ、政府ノ御考ハ如何デアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 御尋ニナリマシタ其ノ廢止スルト云フコトモ、本質ニ於テハ出來ルノデハナイカト云フヤウ風ナノ御意見ハ、實、政府トシテハ、實際ニ於テ必要ガアリマセヌノデ、サウ云フ點ハ考ヘテ居ナカツタ譯デアリマシテ、今迄申上ゲタ積極ノ方面ダケガ政府ノ方針トシテ考ヘテ居ル次第デアリマス
○松村眞一郎君 私ハ今ノ第二項ト云フ點ニ付テ今御尋シタノデアリマスガ、矢張リ今申シマシタヤウナ一ツヲ廢シテ一ツヲヤルト云フコトノ手續デナク、全部改正ノ形デヤルノモ同ジコト、斯ウ考ヘテ居ル、實際ハ效力ニ於テハ同ジデス、元來改正ト云フコトハ、一ツヲ廢シ、新ラシイモノヲ立テルト云フコトデスカラ、一ツノ條文デ書イテモ二ツ出シテモ私ハ同ジコトダト思ヒマス、併シ金森國務大臣ガ名前ヲ變ヘタ例トシテ徴兵令ト兵役令ノコトヲ話サレタノデアリマスガ、ソレハ憲法ノ下ニアル法律其ノモノノ關係デアリマスカラ、ドウ云フヤウナコトガアリマシテモ、ソレハ私ハ先例ニナラヌト思フノデス、憲法ト云フ根本法ヲ變ヘルト云フコトニ付テノ問題ノ適例ト考ヘマセヌ、併シ形ハ矢張リ斯ウ云フヤウナ改正案デ御出シニナツタ方ガ私ハ宜イト思ヒマス實質ハ同ジデアツテモ‥‥、ソレハ矢張リ政府モ色々御考究ニナツタモノト思ヒマスガ、七十三條ノ二項デス、是ハ相當ニ重點ヲ置イテサウ云フ御取扱ヲナサレタノダト思ヒマスガ、其ノ點如何デゴザイマセウ
○國務大臣（金森徳次郎君） 七十三條ハ固ヨリ重點ヲ置キマシテ、種々ナル角度カラ研究ヲシテ今回ノ手續キヲ結了シタノデアリマス
○松村眞一郎君 私ノ質問ハ是デ終リマス
○委員長（安倍能成君） 大谷委員
○大谷正男君 私ノ御尋ネ申上ゲタイト思ヒマスノハ二ツアルノデアリマス、一ツハ前文及ビ第一條ノ修正ニ付テ御尋ネ致シタイノデアリマス、第二ハ前文ノ意義トデモ申上ゲマセウカ、其ノコトニ付キマシテ御尋ネ致シタイノデゴザイマス、第一ニ前文及ビ第一條ニ於キマシテ、衆議院ガ加ヘマシタ修正デアリマスガ、此ノ點ニ軈カ疑義ヲ持ツテ居リマスノデ、簡單ニ所見ヲ申述ベマシテ、金森國務大臣ニ御尋ネ致シタイト思ヒマス、衆議院デハ前文ノ原案ニ「國民の總意が至高なものである」トアリマシタノヲ、「主權が國民に存する」ト修正致シマシタ、又第一條デハ原案ニ「日本國民の至高の總意」トアルノヲ「主權の存する日本國民の總意」ト修正致シマシタ、主權ノ所在ノ問題ニ付キマシテハ屡々論議ヲ重ネラレマシテ、專門ノ方々ノ御説モ殆ド出盡シタト申シテモ宜シイカト思ハレマスル今日、淺學ノ私ガ之ニ觸レテ申述ブルノモ誠ニ如何ナコトデゴザイマスケレドモ、私ハ要スルニ主權其ノモノガ國家其ノモノニアル、主權ハ國家其ノモノニアル、國家ガ主權ノ主體デアル、サウシテ國家ノ意思ハ何處カラ出ルカ、是ハ國民ノ統合體ニ發スルノデアル、即チ國民ノ統合體ガ國家意思ノ源泉デアルカラ、此處ニ主權ガアルトモ言フコトガ出來ル、デ國家ガ主權ノ主體デアルト云フテモ、又主權ハ國民ノ統合體ニアルト云フテモ、是ハ表ト裏トカラ言フタ表現デアリマシテ、其ノ實ハ變リハナイ、斯樣ニ主權ノ所在ニ付テハ考ヘテ居リマスルノデアリマスガ、我ガ國ニ於キマシテハ萬世一系ノ天皇ヲ戴イテ、所謂義ハ君臣情ハ父子、天皇ヲ君ト仰ギ父ト敬ツテ、所謂君民一如トカ、一君萬民ノ姿ヲ成シテ居ルノデアリマス、是ガ即チ三千年來國民ガ確信シ來タツタ所デアリマス、是ガ國體デアル、此ノ國體ト云フコトハ是ハ國民ノ姿ト申ス方ガピント來ルカモ存ジマセヌガ、此ノ國體ハ今回ノ憲法改正ニ依リマシテ聊カノ變革モナイ、斯樣ニ存ジテ居リマス、處デ此ノ度ノ憲法改正ニ依リマシテ、國政運用ノ重點ガ國會ニ移ツタ、デ國會ヲ中心トスル政治ノ形態ニ推移致シマシタ、此處ニ根本的ノ一大變革ヲ來タシタト云フコトハ明白デアリマスルガ、是ハ時勢ニ伴ツテ推移スル謂ハバ政體的ノ變革デアツテ、何處迄モ國體、其ノ姿其ノモノニハ變更ハナイ、斯ウ思フノデアリマス、其ノ事ハ金森國務大臣ノ度々ノ御説明ヲ承リマシテ、私モ共鳴スル所デアルノデアリマス、然ル處、此ノ度草案第一條ニ於キマシテ、「日本國民の至高の總意」ト原案ニアツタノヲ「主權の存する日本國民の總意」ト云フコトニ修正ニナリマシタガ、政府モ之ニ御同意デアル、當委員會デ金森國務大臣ノ御説明ヲ承リマスト、意義ニ變リハナイ、寧ロハツキリシタト云フヤウニ仰ツシヤツタト承リマシタ、果シテ左樣デゴザイマセウカ、御尋ネ致シタイノハ此ノ點デアリマス、第一條ノ原案ニ於キマシテ、「この地位は、日本國民の至高の總意に基く」トアリマシテ、天皇ヲ象徴トシテ仰ギマスルコトハ、三千年來ノ國民ノ傳統ニ基イテ居ル、即チ國民ノ總意ノ基礎ノ上ニ存シテ居ルト云フ意義ヲ明カニ致シテ居リマス、サウシテ國民ノ總意ハ至高デアル、ソレハ政治ノ重點ガ國民ニアルコトヲ示シテ居ルト斯樣ニ解釋シテ居ルノデアリマスガ、然ルニ修正案ニ於キマシテハ、主權ト云フ文字ヲ用ヒテ、「主權の存する日本國民の總意」ト斯ウ致シタノデアリマス、先ニ申シマシタ通リニ主權ハ何處ニアルカ、是ハ國家其ノモノニアル、又國民統合體ニアルト申シテモ宜イト存ジマスガ、從ヒマシテ主權ノ存スル日本國民ト云フノガ、若シ國民統合體ニ主權ガアルト云フ意味デアリマスナラバ、斯樣ニ解釋スルノハ無論無理デアラウト思ヒマスガ、假ニ斯ク解釋スルト致シマスレバ、是ハ當然ノコトデアツテ、敢ヘテ明文ニ示ス必要モナク又其ノ意義モナイ、然ラバ政治ノ重點ガ國民ニ移ツタト云フコトヲ示スモノデアリマセウカ、サウスレバ此ノ主權ト云フ文字ハ適當デゴザイマセウカ、先日モ霜山委員ガ此ノ席デ申サレマシタ通リ、國體ハ主權ノ所在ニ依ツテ定マルト云フノガ定説デアツタ、學徒ハ皆斯樣ニ教ヘ込マレテ來タ、ソレガ頭ニ染込ンデ居ルノデアリマス、此ノ主權ノ文字ヲ、天皇ノ御位置ヲ規定シテ居リマスル此ノ第一條ニ用ヒマシテ「主權の存する日本國民」ト云フコトニ致シマスレバ、ドウシテモ是ハ主權在民‥‥是ハ主權在民ト云フノハ國民ノ統合體ニ主權ガアルト云フコトトハ勿論別ノ意味デアリマスガ、其ノ主權在民ヲ規定シタモノト解セラレマシテ、主權ノ所在ニ依ツテ國體ガ定マルト云フ通説ニ依リマシテ、茲ニ正シク國體ノ變更ガアツタト一般ニ確信セラレルヤウニナルト思ハレルノデアリマス、國體ノ變革ガナイト云フコトハ度々聲明ハ致サレマシタケレドモ、國民ノ認識ハドウスルコトモ出來ヌト云フヤウニ考ヘラレマス、今回ノ憲法改正ニ依リマシテ、國體ノ變革ガアリトシ、又之ヲ國體ノ變革デハナイト斯ウ申シマス、是ハ畢竟國體ヲドウ云フ意義ニ用ヒルカ、ドウ解スルカト云フコトニ依ツテ違ツテ來ルノデアツテ、所謂竝行線上ヲ行ク議論トデモ申シマスカ、果シガナイト存ジマスルガ、一歩進ンデ若シ天皇ヲ君ト仰ギ奉ル此ノ國體、即チ普通ノ國體論ノ謂フ所ヨリモ更ニ深イ意味デト金森國務大臣モ屡々言ハレマスル國體、我ガ國ノ昔ナガラノ姿ニ變革ガアリト一般ノ國民ニ信ゼシメルヤウニナリマシテ、是ガ抜クベカラザル確信トナツタナラバ由々シイコトデアルト思フノデアリマス、政治ノ形態ハドンナニ變リマシテモ宜シイガ、國體ノ基礎觀念ニ搖ギガアツテハナラヌト考ヘマス、而シテ日本國民ニ「主權の存する」ト云フ言葉ヲ天皇ノ御位置ヲ示ス所ノ此ノ第一條ノ明文ニ表ハスコトニ依リマシテ、主權在民、國體ガ變革サレタト云フコト、是ガ國民一般ノ認識トナリマシテ、抜クベカラザル信念トナリ、遂ニ昔ナガラノ我ガ國體、我ガ國ノ眞ノ姿ニ對スル國民ノ確信ガ動搖スルト云フコトニナリハシマイカト云フ點ヲ私ハ憂ヘルノデアリマス、若シ原案ノ儘ニ致シテ置イテ、「主權の存する」ト云フヤウナ文字ヲ用ヒナカツタラ、第一條ハ私ノ解スル所ニ依リマスレバ、單ニ天皇ノ御位地ニ關スル規定タルニ止マリマシテ、國體變革ノ確信ヲ生ゼシメル根據モナイ譯デアルト存ズルノデアリマス、先日モ本會議及ビ當委員會ニ於キマシテ、佐々木博士ハ主權ノ意義ハ極メテ不明確デアル、何故斯カル不明ノ文字ヲ用ヒタカト云フヤウニ申サレタト記憶致シテ居リマスガ、私モ此ノ點ニ付キマシテハ誠ニ御同感デ、寧ロ含蓄ノアル‥‥原案ヲ改メテ「主權の存する」ト云フ文字ヲ加ヘタノハ行過ギデハナイカ、行過ギデアル、斯ウ云フ風ニ修正スレバコソ此ノ文字ハ何カ特別ノ響キヲ持ツテ色々ニ解釋セラレ、將來ノ誤解ノ因トナルヤウニ考ヘラレルノデアリマス、今回ノ改正ニ依リマシテ國政運用ノ重點ガ國民ニ移ツタト云フコトハ是ハ明白ナコトデアツテ、第一條ヲ原案ノ儘ニ致シテ置キマシテ、修正致シマセヌデモ、「國民の至高の總意」ト云フコトガアリマス、サウシテ此ノ國民ト云フ文字ノ中ニハ天皇ヲ含マナイト云フコトハ明瞭デアリマスルシ、其ノ他國會ヲ以テ國權ノ最高機關トスルト云フ規定、其ノ他此ノ改正案ニ依リマスル憲法ノ各條ニ依リマシテ、何處ニ政治ノ重點ガアルカ、其ノ重點ノアル所ハ明白デアル、主タル權能ガ何處ニアルカト云フコトハ明白デアリマス、特ニ主權ノ存スルト云フコトヲ明記スル必要ハナイノダラウト存ジテ居リマス、ソレハ第一條デアリマスガ、前文ニ於キマシテ國民ノ總意ガ至高ノモノデアルトアリマスノヲ、主權ガ國民ニ存スルト斯ウ修正シタコトニ付キマシテモ、是ハ同樣デアリマシテ、原案ノ儘ノ方ガ宜イト存ズルノデアリマス、之ヲ要シマスルノニ、私ハ此度ノ憲法改正ニ依リマシテ、形態的ノ變革ハ根本的ニアルガ、國體ニハ變革ガナイト思ツテ居リ、政府モ亦左樣ニ言明セラレテ居ルト存ジマスルガ、前文及ビ第一條ニ「主權の存する日本國民」ト云フヤウニ修正致シマスト、色々茲ニ疑惑ヲ生ジマシテ、是ガ爲ニ圖ラザル禍根ヲ將來貽スト云フコトニナリハシマイカト心配スルノデアリマス、併シ是ハ單ニ私ハ斯樣ニ感ズルト云フダケデアリマスカラ、ソレハ杞憂ニ過ギナイ、斯樣ニ修正シテモ我ガ國ノ國體ニ變革ガアルト云フ誤解ヲ生ゼシムル虞ハナイト云フ御意見デアリマセウカ、此ノ點ニ付テ御説明ヲ願ヒタイト思ヒマス、第一ニ付キマシテハソレダケデアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 大谷委員ノ御尋ニ付キマシテ御答ヲ申上ゲマスルガ、事ノ根源ハ結局國體論ト云フモノニ歸著スルコトニナルノデアリマシテ、過日來議論ガアリマシタヤウニ、日本ハ天皇ガ統治セラルヽト云フコトニ依ツテ、何人モ今迄疑ハナカツタ、斯ンナ風ニ言ハレテ居ルノデアリマス、併シ果シテ何人モ疑ハナカツタデアラウカ、是ガ一ツノ問題トナツテ來ルノデアリマシテ、之ヲ一々論證スルコトハ出來マセヌ、若干稀有ニ世ノ中ニ發表セラレタ事例ヲ以テ論證スルコトハ出來マセウケレドモ、正確ニ日本國民ノ全部ニ付テ、オ前ハ本當ニサウ思ツテ居ツタカト確カメルコトハ、日本ニ於テハ困難デアルト存ジマス、併シナガラ唯私ノ或短キ經驗、ソレハ大體専門學校程度以上ノ學生ニ對シテ斯樣ナ點ニ付テ元ノ考ヘ方、詰リ憲法第一條、第四條ヲ基本トスル考ヘ方ニ依ツテ、天皇ノ御地位ヲ説明致シマスル時ニ、是ハ私ノ説明仕方ガ下手デアツタ、不十分デアツタ故カドウカ知レマセヌガ、學生達ハ表ニ向ツテハ、私共ノ主張スル説明ヲ採入レマス、併シナガラ裏ニ於テハドウシテモ分ラヌ、何カ或言ハレナイ事情ガアツテサウ云フ風ニ言葉ヲ廻シテ居ルノデハナイカ、斯樣ナ反問ヲ受ケタコトガ屡々アルノデアリマス、暫ク其ノ講義ヲ續ケテ居リマスレバ、自然ニ理解スル所ニハナリマスケレドモ、併シ心ノ奥ニ何カナシニ私共ノ當時ノ説明ニ依ツテハ得心サレナカツタモノガアルノデハナカラウカ、甚ダ僣越デハアリマスルガ、多クノ學校ノ先生達ハ、學生ハ從順デアリマシテ、其ノ答ハ恰モ音ガ反射サレテ來ルガ如クニ感ジマスルガ故ニ、諸般ノ組立ノ上ニ先生ノ言ツタコトガ反射シテ、其ノ儘目ニ見エル、サウシテ又次第々々ニ反射スルガ故ニ、遂ニ一點ノ疑ヒモナカツタヤウニ解釋サレタ點モアルト思ヒマス、併シ冷ヤカニ日本ノ過去ノ文献等ヲ見マシテ、世上ノ蔭ニ隠レテ居ル思想ヲ探究シテ見マスル時ニ、少クトモ從來ノ第一條、第四條ヲ以テ絶對ノ根據デアルト云フ説明ノ仕方ニ付キマシテハ、得心ヲシナカツタ要素ガアツタヤウニ思フノデアリマシテ、其ノ事例ハ明治初年ノ自由民權ノ思想ノ盛ンデアツタ時ノ日本ノ文献ニ依ツテ見テモ明カデアリマス、其ノ考ヘ方ハ現在ニ於テモ國民ノ間ニ矢張リソコニ何トナク、本當ダトハ思フケレドモ、マダマダ能ク得心ガ付イテ居ラナイト云フ思想ガアリ、又將來其ノ思想ハ伸ビテ行ク姿ニアルト思ヒマス、ソレハ何カト云ヘバ、信仰ニ依ツテ理性上ノ眞理ヲ説キ明カサウトシタコトニヨルト思ヒマス、私ノ考ヘ方ハ、信仰ニ依ツテハ理性其ノモノノ一切ノ説明ハ導キ出サレテ來ナイト思フノデアリマス、理性ヲ得心セシメル説明ニハ自カラ根抵ガナケレバナラヌト思フノデアリマス、是ガ先程松村委員ニ對シテ私ガ御答ヘ申シマシタヤウニ、我我ハ信仰ニ依ツテ十分アルコトヲ認ムル、ケレドモ同時ニ理性ノ要求ヲ持タズ、御答ヲ求メテ居ル此ノ二ツノモノハ、必ズシモ我々ノ頭ノ中ノ働キ方ダケデハ分ラナイ、結局此ノ理性ノ方面カラ行ケバ、我レ考フ、故ニ我レアリト云フコトデ、自己ノ考ヲ外ニシテ、物ノ眞理ノ認識ハ出來ナイノデハナイカ、斯ウ云フ點ニ歸著スルト思ヒマス、ソコデ從來此ノ二ツノ思想ガ何トナク一ツノ思想ニ固メラレ、ソコヘ持ツテ行ツテ、現實ノ制度ト根本ノ理論トガ一ツニ固メラレテ居ルノガ第一條及ビ第四條ノ現行規定ニ對スル一般ノ説明ノ仕方デアリマシテ、此ノ説明ノ仕方ハ今迄ノヤウニ信仰ト理性ガ分レ、又各人ノ理性ノ働キニ依ツテ自カラ分析ト云ヒマスカ、細カク分ケテ説明ヲシナケレバナラナイ段階ニ既ニ過去カラナツテ居ル、而モ愈々其ノ勢ヒハ増シテ行キツヽアルヤウニ思フノデアリマス、茲ニ於キマシテカ、從來傳ヘラレテ居ツタ所ノ一般的ナ法律家ガ述ベテ居ツタ國體ノ觀念ト云フモノガ、ドウシテモ二ツニ分レテ行カナケレバナラヌ、一番根本ノ觀念、其ノ上ニ建設セラレタル政治機構、其ノ二ツニ分レテ行カナケレバナラナイ、サウ云フ所ニ目ヲ著ケテ行キマスルト、憲法第一條及ビ第四條第二項、其ノ言葉ハ是ハ寧ロ政治的ノ機構ニ近イモノデハナイカ、元ノ本質ハソコニアルノデハナイカ、私ハ此ノ太政官憲法ト云フモノノ草案ヲ見テ見マスル時ニ、第一條ハ統治ストハ書イテアリマセヌ、、君臨スト書イテアリマス、是等ハ稍々政治的機構ヲモウ少シ基本的ナ所ニ於テ把握シヨウトシタノデアリマシテ、結リ義務トシテ臨ムコトニシタノデアリマス、其ノ思想ヲモツト掘リ下ゲテ行キマスレバ、日本國民ノ精神的結晶ノ中心點デ、皇祖皇宗ノ系統ノ天皇ガ御有リニナルノデアリマシテ、ソレハ斯ウ云フ所ニ歸著スルノデハナイカ、日本ノ本當ノ國民組織ノ本體デアリマス、其ノ上ニアル法律的政治的ナ姿ト云フモノハ、謂ハバ其ノ上ニ立テラレタル現象的ノモノデハアルマイカ、日本ノ古イ歴史ヲ見テ行キマシテモ、天皇ノ御地位ハ現象的ニ見レバ、常ニ變ツテ居ル、或ハ種類ノ變ツタ幕府ガ出來タ時、或ハ又京都ノ政權ノ強マツタ時、或ハ更ニ遡ツテモウ少シ過去ニ遡ツテ行キマスレバ、歴史ノ傳ヘル所、必ズシモ今日正確デナイト批判サレテ居リマスガ、種々ニ變ツテ居ルノデアリマス、ニモ拘ラズ、我々ハ國體ト云フ信念ヲ持ツテ居ルノデアリマス、從ツテ此ノ國體ト云フ信念ハ、現象的ナコトニ捉ハレズシテ根柢ニ物ヲ始終掴ンデ居ルノデハナカラウカ、併シ具體的ニドウ云フコトデアルカハツキリシマセヌ、之ヲ心ノ繋リト云ツテ説明シテ居リマスケレドモ、ソレノミデ足レルモノデアルカ、マダマダ考ヘ方ハアルト思ヒマスガ、ハツキリ御答スレバサウ云フコトニナル譯デアリマス、私ハサウ云フ所ニ國體ト云フ觀念ヲ置イタ、其ノ時ニ時アツテ動キ、時アツテ動クモノハ、是ハ現象的ノモノデアリマス、統治、總攬スト云フコトハ、私モ必ズシモ現象的デアルト云フコトハ、強クハ申シクアリマセヌケレドモ、併シ明治以後ノ、殊ニ「ヨーロッパ」風ノ思想ニ依ツテ内容ヲ具體化サレタ所ノ一ツノ考ヘ方デアリヌシ、本當ニ日本國民ノ考ヘ方デアルカドウカト云フコトハ、必ズシモ明瞭デナイト思ツテ居リマス、ソコデドウシテモ我々ガ冷ヤカニ考ヘテ、一切ノ神秘的ナルモノヲ捨テ、政治組織ヲ立テマスル議論ノ外ニ立ツ段階ニナリマスレバ、其ノ半面ニ於テ極メテ嚴密ニ考ヘテ行カナケレバナラナイ、ソコデ國體ト云フ觀念ヲ綜合シタ結果トシテ多タノ國民ノ氣持ガ結局第一章ニ現ハレテ居ルシ、其ノ邊ノ考ヘ方ガ中央部ヲ通ル考ヘ方デハナカラウカト云フ確信ヲ持ツテ居リマス、ソコデ我々ハ國體ハ變ラズト、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、更ニ一歩ヲ進メテ見マシテ、ソレデハ此ノ日本ノ國家ノ統一セル働キト云フモノノ源泉トナルモノハ何デアラウカ、斯ウ云フコトガ問題ニナリマス、現實ニ過去、現在、未來ヲ統合シテ見マシテ、其ノ國家ノ働キノ本當ノ源泉ニナルモノハ、何カト云ヘバ、是ハ今大谷君ノ仰セニナリマシタヤウニ、國デアルト云ヘバ一番簡單デアリ、ソレニ對シテハ容易ニ疑問モ起ラナイト思ヒマス、併シ何ガ國デアルト云ヘバ、是ハ決シテ素朴ナ「アトミック」ナ社會觀ヲ持ツテ居ル者デハアリマセヌケレドモ、併シ國ト云フモノハ何デアルカト云フト、目ニ見ルコトモ出來ズ、掴ムコトモ出來ス、結局我々ノ思想ノ中ニ於テ組立テラレタモノデアリマス、之ヲ若シ目ニ見エルモノノ如ク説明サレルナラバ、結局古イ一ツノ國家學説ト云ヒマスカ、例ヘバ大キナ人間ノ如ク譬ヘラレタ國家學説ニ歸著スルノデアリマシテ、單ニ今日ノ人間ハソレデハ承知シナイト私ハ考ヘテ居リマス、サウナリマスルト、單ニ國家ガ國政ヲ動カス所ノ意思ヲ持ツテ居ルト云フコトモ、何トナクソコニ國民ヲ滿足セシムルコトハ出來ナイノデアリマス、又我々ガ今ハツキリ掴ミタイノハレレデハアリマセヌ、國家ノ中ノ更ニ分析シテ何處ニ其ノ意思ノ源泉ガアルノデアラテカト云フコトニナリマスレバ、理論的ニ考ヘマシテ、此ノ憲法ノ改正案ノ前文ニアリマスルヤウニ、何ガナシニ人間其ノモノニ、其ノ最後ノ源泉ヲ認メナケレバナラヌト斯ウ考ヘテ居リマス、併シ人間其ノモノニ其ノ心ノ種ガアルニ致シマシテモ、ソレガドウ云フ連結ヲシテ、茲ニ國家ノ意思ノヤウニ纒ツテ行クノデアルカト云フコトハ、是ハナカナカ困難ナル問題デアリマシカ、學問ノ上デハ色々説明ガ出來マセウケレドモ、決シテ統一セラレタル説明ハマダ出來テ居ナイト思ヒマス、サウ云フ不確實ナルモノヲ、此ノ憲法ノ基礎ニ態々入レル譯ニハ行カヌト云フコトニナリマスルト、ソレカラ應用シタル思想、結リ國ノ統一アル行動力、其ノ力トナルベキ、例ヘバ國家意思トデモ譬ヘテ云フヤウナ其ノモノノ實體ハ何カ、何處ニアルノダ、ソレガ他ノ言葉デ云ヘバ國民ノ總意ト云フベキモノデアリマス、併シ國民ノ總意ト云フモノハ、單ニサウ云フ抽象的ナモノデハナクテ、結局國民ノ全部ニ精神的繋リヲ持ツテ居ル、繋リヲ持ツトハ云フケレドモ、馬鹿モ氣狂ヒモ犯罪人モ、共ニ現實ニ繋リヲ持ツト云フ譯デハナイノデアリマス、ソコニハ自カラ社會ノ人々ノ眞理ト認メ得ル或原則ニ依ツテ統轄關係ガ決ツテ來ルノデハナイカ、サウ云フ風ニ考ヘラレルノデアリマス、私ガ只今申シマシタコトハ、全責任ヲ持ツテ、間違ツテ居ルカモ知レマセヌガ、併シ全部責任ト良心トヲ持ツテ申上ゲテ居ルノデアリマス、サウ云フヤウナ思想ニ於テ日本國民ノ本當ノ心ノ在リ場所ガ發見出來ルノデハナイカ、ソレヲドウ云フ言葉デ表ハスカト云フコトニナリマス、此ノ憲法ノ草案ニ於キマシテハ國民ノ至高ナル總意ト云フ言葉ヲ以テ表ハシテ居リマシテ、是ハ多少ノ不明ナル要素ヲ含ンデ居リマス所ノ氣持ヲ比較的適正ナル部分ニ於テ表ハシ得タト信ジテ居リマス、併シナガラ此ノ言葉ガ稍々簡單ニ物ヲ判斷スルコトヲ喜ブ人々ノ頭ノ中ニハピツタリト響イテ來ナイラシイノデアリマス、茲ニ政府ハ曖昧ナコトヲ言ツテ居ル、モツトハツキリサシタラ宜イノデハナイカト云フヤウナ議論ガ起リ、主權ハ國民ニ在ルト云フ風ニ衆議院デ御直シニナツタモノト信ジテ居リマス、併シ私ガ過日來申シテ居リマスヤウニ、主權ト云フ言葉ニハ幾ツカノ意味ガアリマシテ、私ハ衆議院デ主權ト云フノハ所謂國家意思ト見ルベキモノノ源泉ヲ謂フノダ、斯ウ申シテ居リマス、其ノ意味ニ勿論取ツテ衆議院デモ修正サレタト考ヘテ居リマス、斯ク考ヘテ見マスレバ、結局國家意思ノ最後ノ源泉ト云フモノハ國民ニ在ルノダ、其ノ國民ト云フモノハ集團的ニモ見ラレ、又個別的ニモ見ラレマスノデ、曖昧ト言ヘバ曖昧ナ言葉デアリマス、サウ云フ含蓄ヲ含メテ主權ハ國民ニ在リト斯ウ言ヒ表ハシマスト、近代ノ一般ノ言葉ノ使ヒ方カラ見マシテ、物ノ本筋ハ變ツテ居ルモノデハナク、其ノ方ガ着物モ何モ着セナイデ、極ク素朴ニズバリト内容ヲ表ハスモノデアルトスレバ、ソレモ一ツノ行キ方デアリ、又多數ニ愬ヘマスル場合ニ宜イノデハナイカ、斯ウ思ヒマシタノガ此ノ案ニ對スル私ノ同感ヲ申述ベタ態度デアリマス、サウ云フ風ニ考ヘマシテ大谷サンノ御心配ニナリマシタヤウナ國體ガ變ツタ、天皇ノ御地位ニドウ云フ變化ガアツタデアラウカト云フコトニ再ビ開キ直ツテ考ヘテ見マスルト、結局是ハ神祕的ナル説明ノ仕方ヲ除キ去レバ茲ニ觸レルヨリ仕樣ガナイ、而モ是ハ物ガ變ツタノデハナイ、我我ノ神秘作用ヲ取除イタ結果トシテ認識ガハツキリシ、古クカラモヤモヤシテ居ツタ國民認識ガ此ノ場合ニ於テハツキリシタ姿ヲ取ツテ來タノデアツテ、是ハ事物自然ノ進ミ行キトシテ怪シムベキコトデハナイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ此ノ説明ガ眞理デアラウ、國民感情過去ノ色々ノ經緯ニ絡ミ合ハセテ見マスレバ、ソレハ又他ノ考ガ出テ來マス、併シ冷カナル眞理ニ對シテ覺メルト云フコトガ是カラノ國民ノ行クベキ正シキ道デハナカラウカト云フコトニナリマスト、政府ノ出シマシタ原案ト、衆議院ニ於テ修正セラレマシタ言葉ト云フモノハ、幾分耳ニ對スル響キハ違ヒマスケレドモ、其ノ利害得失ハドウナツタカト云ヘバ私ハ衆議院デ直サレタ方ガ寧ロ良イノデハナイカ、斯ウ云フ風ニ今思ツテ居ル次第デアリマス、サウ云フ風ニ考ヘテ見マシテ、天皇ノ御地位ガ輕クナツタト云フコトガ起リマセウカ、私ハサウヂヤナイト思フ、天皇ノ色々美シイ政治上ノ組立カラ來ル装ヒヲ御着セスルト云フコトハ、一面ニハ贔負ノ引倒シデアリマシテ、是ガ或者ニ依ツテ濫用セラレ、又ハ或人々ニ依ツテ誤解ノ種トナリマシテ、自然ニ皇位ノ安泰ト云フモノヲ害スル、而モ天皇ヲ取圍ンデ居ル所ノ國民ノ根本ノ考ヘ方ト云フモノハ、是ハ私ハ人間ノ心持ハ何ニ依ツテモ否定サレルコトハナイ、社會ノ色々ナ文字ノ使ヒ方ニ依リマシテ、人間ノ本當ニ持ツテ居ル心持ニ變化ハナイト思ヒマス、此ノ點カラ見マスレバ天皇ノ御地位ガ極メテ明瞭ニナリ、而モソレハ國民ガ心ノ集リノ中心トシテ抱擁シテ居リ、政治ノ上ニ於キマシテハ、先ヅ今日ノ制度トシテ考ヘ得ル限リノ一番御迷惑ノ掛ラナイ立場、而モ國民ノ感情トシテ古クカラ心ニ抱イテ居ツタ方面モ先ヅ缺クベカラザル程度ニハ充實サレル、斯ウ云フコトニナリマスガ故ニ支障ナイト思フ、御答ガ非常ニ混亂致シマシタガ、一言ニ言ヘバ、斯樣ナ文字ヲ使ツタコトハ、人類ノ發展ノ段階ニ於ケル必要ナル、殊ニ認識ガ精密ニナツテ行クニ從ツテ避ケルヲ得ザル道行トシテ斯クノ如クナツタノデアリマス、而シテ天皇ノ御尊嚴ノ地位ト云フモノニ付キマシテハ國民信念ノ變ハラザル限リ變ハルモノデナイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居ル次第デアリマス
○大谷正男君 色々御説明ヲ戴キマシテ有難ウゴザイマス、今御説明ニナリマシタヤウニ、此ノ主權ト云フ文字ハ是ハ國家意思ノ源泉ト申シマスカ、左樣ナル意味ニ於テ主權ヲ謂フト云フヤウニ承リマシタ、サウ致シマスレバ、普通ノ一般ニ主權ト云フモノヲ解釋致シマシテ、主權ノ所在ガ即チ國體デアルト云フヤウニ考ヘテ居リマスコトハ、多少又違フヤウニ考ヘマス、響モ違フノデアリマス、要スルニ私ノ憂ヘテ居リマス點、之ニ依ツテ國體ニ變化ガアツタト云フコトヲ一般ガ確信スルニ至リハシナイカ、サウ云フコトハ心配ガナイト云フ風ニ御解釋ニナツテ居ルヤウニ存ジマス、マア其ノ點ニ付キマシテ繰返シテ色々申上ゲルノモ如何カト存ジマスカラ、此ノ點ニ付キマシテハ止メマスガ、此ノ主權ト云フ文字ヲ使ヒマスト色々ノ疑惑ガ出テ來ル、今ノ御説明ニハ滿足ガ出來ナイト云フ色々ノ論ガ出テ來ルダラウト存ジマス、色色ニ言ヒ誤リ、或ハ故意ニ歪曲シテ國民ニ誤解ヲ生ゼシメルト云フヤウナ所ノナイヤウニ、ドウカ有ラユル機會ニ適當ナ御措置ヲ願ヒマシテ、斯カル心配ガ起ラナイヤウニドウカ最善ノ努力ヲ願ヒタイト思ヒマス、此ノ改正後ニ於キマシテハ新ラシイ憲法義解ト云フヤウナモノモ政府ノ御監視ノ下ニ出ルデアラウト思ヒマス、サウ云フ場合ニ、ドウカ細心ノ御注意ヲ傾ケラレルヤウニ切望スル次第デアリマス、次ニ第二點デアリマス、前文ノ意義ト申シマスカ、此ノコトニ付キマシテ申上ゲタイト思ヒマス、先日本會議ニ於キマシテ、今回ノ改正憲法ハ民約憲法ノ實ガアルト云フ意味ノ御議論ヲ承リマシタ、是ハ前文中ニ「日本國民は」云々ト書キ出シテ、「この憲法を確定する」ト云フコトガアリマス、又最後ニ「日本國民は、國家の名譽にかけ、全力をあげてこの高遠な理想と目的を達成することを誓ふ」ト斯ウアリマスガ、ソレニ依リマシテ民約憲法ノ形ヲ備ヘテ居ルト云フ見解デアラウト存ジマスルガ、正シク是ハ國民ノ誓約トモ、宣言トモ言フベキ形式ヲ備ヘテ居リマス、從ヒマシテ、天皇ヲ離レテ、國民ノ誓約デアルト云フコトニ之ヲ觀マスルト、形式トシテハ民約憲法デアルヤウニ思ハレマスルガ、併シ其ノ趣意トシマセヌデ、天皇ト國民ト一致シテ共々ノ誓約ト云フコトニ之ヲ觀マスレバ、民約憲法タル所ノ疑ヒモ出ナイノデハナイカト存ジテ居リマス、將ニ出來ムトスル改正憲法ハ、改正案附議ノ六月ノ詔書デ之ニ拜シマスルガ如クニ、「國民の自由に表明した意思」ニ依ツテ成立スルモノデ、是ハ正シク欽定憲法デアル、詔書ニサウ云フ風ニ表ハサレテ、「國民の自由に表明した意思」ニ依ツテ成立スル憲法デハアリマスルガ、併シ是ハ正シク欽定憲法デアル、憲法七十三條ニ依ツテ改正セラル、所ノ欽定憲法デアリマスルガ故ニ、此ノ前文ガ民約ノ形式ヲ備ヘテ居ルト云フコトハドウ云フモノデアラウカ、是ハドウモ適當デナイト考ヘラレルノデアリマス、或ハ所謂「國民の自由に表明した意思による」改正デアルカラ、斯樣ニ國民ノ誓約ノ形ヲ採ルノガ宜イト云フ説ガアルカモ存ジマセヌガ、是ハ議會ヲ通ジテ國民ガ自由ニ表明シタ意思ニ依ツテ出來タト言フダケデ足リルノデ、アレト是トハ別ノモノデアルト存ジマス、ソコデ此ノ新日本ヲ建設致シマシテ平和ノ大道ヲ進ンデ行カウト云フ此ノ劃期的ナ憲法ノ改正ニ當リマシテ、誓約セラルヽノデアリマスルカラ、是ハ天皇ガ國民ト共ニ誓約遊バサレルト云フ形式トスルノガ力強クモアリマスルシ、又欽定憲法デアルガ故ニ、斯樣ニセラレタ方ガ形式的ニモ妥當デアルト存ズルノデアリマス、昨日此ノ前文ニ付キマシテ牧野博士カラ、「天皇を中心とする日本國民」ト冒頭ノ文字ヲ改メテ置カウト云フ御提案モアリマシタ、是ハ政府ハ御同意デハアリマセヌデシタガ、其ノ文字ニ付テハ別ト致シマシテ、私ハ彼ノ教育勅語ガ「朕、爾臣民ト倶ニ、拳々服膺シテ、咸其徳ヲ一ニセンコトヲ庶幾フ」ト仰セラレマシタ、固ヨリ是ハ違ツタ例デ、別ナコトデハゴザイマスルガ、天皇ガ國民ト共ニ誓約セラルヽト云フ風ニ、何トカ之ヲ工夫致シマシテ前文ヲ書キ改メタナラバ、欽定憲法トシテノ實體モ備ハリマスシ、適當デハナイカトモ存ズルノデアリマスルガ、之ニ付キマシテ御説明ヲ承リタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 御尋ニナリマシタ前文ノ點デアリマスルガ、此ノ前文ガ從來ノ憲法ノ姿ニ比較致シマシテ、著シキ特色ヲ持ツテ居ル、場合ニ依リマシテハ刺戟的デモアルト云フコトハ、是ハ御尤モダト考ヘテ居リマス、併シ斯樣ナ現在ノヤウナ特別ナ事熊ノ下ニ生ミ出ダサレマスル憲法ノ改正案トシテ、ソレハ決シテ外國ノ力ニ依ツテ動カサレテ居ルト云フ意味デハナクシテ、日本國民ガ本當ニ新タナル目覺メノ下ニ、其ノ總力ノ結成ニ依ツテ國ノ基礎タル法則ヲ樹テヽ行キマスル場合ニ於キマシテ、斯樣ナ前文ガ生レ來ルコトハ亦必要ナコトデアラウト考ヘテ居リマス、唯、中ニ書カレマシタ字句ノ中ニ於キマシテ、「國民」ト云フ言葉ガ主ニナツテ、國民ガ之ヲ定メルト云フ態度ガ、多クノ人ニ異樣ナル感ジヲ與ヘテ居ルヤウニ思ハレマス、是ハモウ一ツ前提ニ申上ゲマスルガ、此ノ新憲法ノ改正案ガ、明治憲法ノ流レヲ追ウテ居ル、從ツテ欽定憲法ト一脈相連ツテ、其ノ間ニ何等斷絶スル所ガナイト云フコトハ御承知ノ通リデアリマス、此ノ改正憲法案ガ正式ニ公布セラレマスル場合ニハ、公式令ニ依リマシテ、天皇ノ御定メニナリマスル上諭文ガ附イテ出ルト云フコトモ、亦明瞭ニ豫想セラレルコトデアリマシテ、其ノ間ニ於キマシテ欽定憲法ノ線ニ沿ツテ居ルモノデアルト云フコトヲ、國民ニ疑ヒヲ抱カシムル餘地ハ寸毫モナイト信ジテ居リマス、唯將來改正セラレタ後ニ殘リマスル憲法トシテハ、斯クノ如キ國民ガ定メタト云フ前文ガハツキリ適當ニ現ハレテ來ルト云フコトハ、是ハモウ動カスベカラザル道行キダト存ジテ居リマス、ソコデ更ニ内容ニ入リマシテ、此ノ「國民」ト云フ言葉ハ何人ヲ指シテ居ルノデアルカ、佐々木博士ノ言ハルヽガ如ク、日本國ヲ構成シテ居ル國人全體ヲ指シテ居ルノデアルカ、ソレトモ君主對人民ト云フ對立觀ノ下ニ於ケル人民ヲ指シテ居ルノデアルカト云フ疑惑ガ、動モスレバ起リ易イト思フ譯デアリマス、餘談デハアリマスガ、今朝モ「ラジオ」ヲ聽イテ居リマスト、或ル憲法學者ガハツキリ其ノ點ニ付テ議論ヲセラレテ、前文ノ問題デハアリマセヌガ、國民ノ中ニハ主權ヲ有スルト云フ意味ノ‥‥、國民ノ中ニハ天皇ヲ含ンデ居ナイト云フコトヲ明白ニ言ツテ居ラレマシタ、私モ甚ダ意外ナ感ジヲ持ツタノデアリマスガ、其ノ點ハ十分留意シナケレバナラヌコトト考ヘテ居リマス、此ノ憲法ヲ起案致シマスル際ノ文字ノ使ヒ方ト致シマシテ、國民ノ中ニハ系統的ニ現在ノ地位ヲ御占メニナツテ居ル天皇ヲ含ムモノデアル、斯ウ云フ風ニ意識シテ文字ヲ使ツテ居ル次第デアリマス、併シ意識シテ居ルナラバ、モツトハツキリスル文字ヲ使ツタナラバ宜イデハナイカト云フ論ヲ四方カラ聽キマシテ、又是ガ然ルベキ理由ヲ含ンデ居ルヤウニ思フノデアリマス、併シ新シキ認識ガ起リマスル時ニハ、文字ノ方ガ之ニ追隨シ得ナイト云フコトハドウモ已ムヲ得ナイコトデアリマシテ、例ヘバ「國」ト云フ文字自身デモ、古イ支那ノ字ノ形ヲ論ズル者カラ言ヘバ、四角ナ輪郭ガアツテ、結局地理的ニ「國」ト云フ字ヲ主トシテ考ヘテ居リマスケレドモ、我々ノ今日ノ考ニ於キマシテ、地理的ニ國ヲ考フル場合ハ寧ロ少イノデアリマス、ト云フ風ニ、此ノ表現形式ハ固定サレテ居リマシテ、其ノ中味ニ新シキ意味ガ盛込マレルト云フコトハ、思想ノ發展ノ上ニ已ムヲ得ナイノデアリマス、而モ思想ハ更ニ進ムケレドモ、文字其ノ他表現形式ガ遅レテ來ルト云フコトハ已ムヲ得ナイノデアリマス、今日ノ段階ハ正ニ其ノ時デアリマシテ、我々ハ天皇ヲ國ノ人ノ總テノ中ニ含マセテ、其ノ上ニ主權ハ國民ニ在リト云フ考ヲ作リ、國民ノ總意ニ基イテ天皇ノ御地位ガアルト云フコトヲ言ヒ、且又國民ノ權利義務ト云フ點ニ付キマシテモ、色々ノ事情ニ依ル變化ハアリマスケレドモ、本質ニ於テハ是モ天皇ヲ含ミ、又皇室ノ所屬員ヲ含ンデ居ル、斯ウ考フルコトガ正當デアルト思ヒマスケレドモ、之ニ對スル適切ナ言葉ヲ容易ニ發見シ得ラレナイノデアリマス、斯樣ナ場合ニ、方法トシテハ恐ラク二ツアラウト思フ、一ツハ新シキ言葉ヲ製造スルコトデアリマス、他ノ一ツハ古キ言葉ニ對シテ新シキ定義ヲ加ヘテ用ヒルト云フコトデアリマス、此ノ何レモ考ヘテ考ヘラレナイコトハゴザイマセヌ、併シ日本國民ノ、廣イ意味ノ日本國民ノ組立テ方ト云フモノハ、何千年ノ歴史ヲ貫イテ居ツテ、國民ノ心ノ奥迄滲ミ込ンデ居ルモノデアリマシテ、茲ニ又此ノ認識ノ昂マツタ時代ニ君主ト人民トガ對立スルト云フ氣持ヲ殘シテ置クコトハ、將來此ノ新シキ考ヘ方ガ普及徹底致シマスル上ニ邪魔ニナルノデアリマス、人々ハ直感的ニ眞理ヲ體認シヨウトシテ居ル、處ガ文字ハ天皇ヲ含ンダル、中心トシタル國民ト云フ風ニ、始終基本ニ現ハレテ來マスル文字ノ對立感ヲ暗示スルガ如キモノノ出テ來ルコトハ、甚ダ喜バシクナイノデアリマス、何トカシテ一ツノ文字デ行キタイモノデアリマス、斯ウ云フ風ニ考ヘテ來タ譯デアリマス、又定義ヲ用ヒテ「國民」ヲ表ハスト云フノモ隨分好マシカラヌコトデアリマス、ソコデ既ニ出來上ツテ居リマスル文字ヲ把握シテ、廣イ意味ノ國民ト云フ思想ヲ表ハシタイト思ツタノデアリマスガ、其ノ時ニドウモ良イ言葉ガナイノデアリマス、處ガ此ノ國民ト云フコトハ、例ヘバ「イギリス」國民ト云ヘバ、恐ラク日本人ノ目カラ見レバ、使ヒ方ニ依ツテハ英國ノ君主ヲモ含ンデ居ル場合ガ多カラウト思ヒマス、又此ノ憲法ノ前文ノ中ニ「諸國民」ト云フ風ナ言葉ガ使ツテアリマスガ、アノ國民ニハ、若シ狙ツテ居ル國ガ君主國デアルナラバ、君主ヲモ含メテ言ツテ居ルト云フコトハ、恐ラク皆樣方ガ直感シテ何等ノ御疑ヒハナイト思フノデアリマス、併シ唯之ヲ日本ニ當嵌メテ見マスルト、餘リニ是ハ我々ガ緊密ニ重點ヲ置イテ考ヘルコトデアリマスガ故ニ、ハテ是ハヲカシイ、斯ウ云フ氣持ヲ起スノデアリマス、サウデナケレバ殆ド不審モ起サズニ君主ヲ含ンデ居ル言葉デアルト思ハレルノデアリマス、是ハ飜譯其ノ他カラ淵源ガ出テ來タカドウカ、ソレハ色々説明ノ仕方ガアリマセウガ、其ノ現實ニ於テ君主モ含ンデ居ル言葉デアリマス、之ヲ日本ニ當嵌メマスト、之ニ君主ガ含マレルト云フコトハ大膽デアルト云フコトハ、是ハマア之ヲ承認セザルヲ得マセヌ、併シ茲ニ今申シマシタヤウニ、新シキ言葉ヲ使ハズ、又古イ言葉ニ特別ナル定義ヲ加ヘズ、サウシテ或眞理ヲ國民感情ニ合フヤウニ包容シヨウト致シマスルト、勢ヒ從來カラアル言葉デアリマスガ、現ニ發達ノ道程ニアツテ、漸次君主ヲモ含ムヤウニ、少クトモ或場合ニ使ハレテ國民ハ怪シンデ居ナイト云フ、其ノ動キ行ク所ノ言葉ヲ、新シキ意味ニ合フヤウニ理解シテ使フト云フコトガ、一番適切ナ方法デアツタト思ツタノデアリマス、ソコデ國民ト云フ言葉ヲ用ヒテ前後ノ關係ニ於テ之ニ説明ヲスレバ、疑ヲ起ス餘地ハナイ、詰リ此ノ憲法草案ヲ初メカラ間違ツタモノデアル、斯ウ見テ行キマスレバ色々ナ解釋ガ出ル、併シ是ガ合理的ナ内容ヲ含ンデ居ルモノト云フ法律解釋ノ一番根本ノ原則デアリマス――其ノ原則ヲ當嵌メテ虚心坦懷ニ見レバ、ドウシテモ君主ヲ含ムト讀マナケレバ讀メナイノデアリマス、文字ノ方ニ重點ヲ置カナイデ思想ニ出デテ居ルノガ宜イノヂヤナイカ、斯ウ云フ譯デ、稍々大膽デハアリマスケレドモ、國民ト云フ言葉ヲ以テ用ヒ來ツタ譯デアリマス、是ハ繰返シマスルヤウニ發達ノ道程ニアル言葉デアリマス、漫然世上ニ現ニ出テ居リマス字引ヲ見マシテモ、ソレハ字引ニモ依リマスケレドモ、國民ト云フ言葉ニハ國ヲ構成スル總テノ人、コンナヤウナ説明ノ仕方モアルガ、此ノ邊ノ所ガ一番宜カラウト思ツテ、色々ノ考慮ノ結果、此ノ言葉ヲ選ンダ譯デアリマス、殊ニ民ト云フ言葉ハドウシテモ上ニ對スル言葉ダト云フ風ニ誰モ思ヒマスケレドモ、併シ私ハ漢學ノ知識ハアリマセヌケレドモ、康煕字典ナドヲ引キマスレバ、民ト云フ言葉ハ一番廣イ意味デ人其ノモノヲ指スノダ、是ハ少シ古イカラ間違ヒナイトハ保證出來マセヌガ、私ハサウ云フ風ナ讀メナイ漢字ノ行列ヲ拾ヒナガラ、サウ云フ判斷ヲシタ記憶ヲ持ツテ居リマス、尚是ハ餘談ニナルカモ知レマセヌガ、當時國人‥‥是ハ佐々木博士ノ書物ノコトナドモ時ニ頭ニ入レタノデアリマスガ、國人ト云フ言葉ヲ使ツタラ宜イヂヤナイカ、斯ウ云フ論ガ我々研究スル段階ニ於テハ起ツテ來タノデアリマス、國人ト云フ言葉ハ如何ニモマダ日本ノ言葉トシテハ成熟シテ居ナイノデアリマス、之ヲ日本風ニ讀ンデ「クニビト」ト云フ風ニ讀ミマスト、日本ノ言葉ニ合フヤウデアリマスガ、其ノ國人ト云フ言葉ニ自ラ他ノ意味ガ組合サレテ居リマシテ、要スルニ現代ニ於テ當嵌リニクイ言葉デアリ、又無用ナル別ノ意味ヲモ澤山含ンデ居ル言葉デアリマシテ、「クニビト」ト言ヘバ、言葉デ言ヘバ方言デアリマス、其ノ考ヘ方ニ依テ居リマシテ、或特殊ノ地方ノ、場合ニ依ツテハ文化ノ低イ人、コンナヤウナ内容ヲ持ツテ居ル虞ガアリマスノデ、ソレヲ避ケマシテ結局斯ウ云フ風ニナツタノデアリマスガ、其ノ私ノ申シマシタ意味ニ此ノ前文ヲオトリ下サリマスルナラバ、廣イ意味、詰リ日本國ノ人、何人タルヲ問ハズ全部此ノ憲法ヲ作ツタノデアル、斯ウ云フ根本ノ理論ニナリマス、唯具體的ナ法制ノ結果ト致シマシテ、或人々ハ必ズシモ直接ニハ選擧デ代表セラルヽト云フ現實ノ形ハ執ツテ居リマセヌ、併シ精神ノ内容ニ於テハ此ノ中ニ織込マレテ居ルト云フヤウナ説明ニナリマスレバ、別ニ無理モナイ、斯ウモ考ヘタ次第デゴザイマス
○大谷正男君 色々説明ヲ承リマシタガ、私ハ國民ト云フ言葉ノ中ニハ天皇ヲ含ムト云フコトハ、是ハモウ度々伺ヒマシタケレドモ、ドウシテモ全般的ニソレヲ全ク信ジサセルト云フコトハ無理ヂヤナイカト斯ウ考ヘマス、國民ト云フ文字ヲ含マナイ場合モ、ソレハ憲法ノ中ニ實質的ニハ出テ參ルノデアリマス、之ヲ或場所デハ天皇ヲ含ム、他ノ場合ニ於テハ含マナイ、斯ウ云フコトヲ説カレルノハ無理デハナイカト考ヘマス、殊ニ前文ニ於キマシテハ、明カニサウ云フコトヲ含ムヤウナ意味ガ明カニナツテ居ナイ限リハ、ドウシテモアノ國民ト云フ文字ダケデサウ諒解シロト言ツテモ、是ハ無理デハナイカト私ハ考ヘルノデアリマス、先刻御話ガアリマシタ上諭文ノコト、是ハ勿論出ルノデアリマス、上諭ハ上諭デマリマスガ、アノ中ノ誓約トデモ申シマスカ、宣言トデモ申シマスカ、アレハ矢張リ天皇ガ一般國民ト共ニ力強ク御誓約ニナル、御宣言ニナルト言フ所ニ意義ガアルト考ヘルノデアリマス、尚是ハ今直グニ具體案ヲ持ツテ居ル譯デハゴザイマセヌ、尚後日皆サント共ニ考究致シタイト思ヒマス、是デ私ノ質問ヲ終リマス
○子爵松平親義君 私ハ此ノ憲法改正案ニ對シマシテ、自分ノ氣持ニ於テドウシテモ納得ガ行カナイ所、又自分ノ何カノ誤解ノ爲ニ理解ガ行カナイ點ガアルト思ヒマスノデ、其ノ私ノ氣持ガドウモシツクリト行カナイ、サウ云フ點ヲ一ツ明カニサシテ戴キタイト思フ意味ニ於テ、私ハ御質問ヲ申上ゲマス、大體通告ノ方ニハ、第一ハ天皇ノ權能ト云フコト、第二ハ戰爭放棄ト云フコト、第三ニ政治ノ機動性ト云フコトヲ申上ゲテ置キマシタガ、戰爭ノ放棄ニ關シマシテハ他ノ方々カラ既ニ御質疑ガゴザイマシテ、私ノ伺ハムトスル所ヲ政府ニ質シテ戴ケタト思ヒマスノデ、其ノ點ハ私ハ質疑ヲ取止メテ置キマス、ドナタカノ委員カラ、將來ノ日本ノ國際政治ノ夢ヲ政府ニ言ヘト云フコトヲ御要求ニナリマシタ、又中ニハ夢ト云フコトヨリモ、更ニ進ンデ、夢ドコロデハナイ、將來ノ歴史的ノ、寧ロ必然ト言ヒマスカ、將來ノ現實ヲ一ツ話シテ貰ヒタイト云フ御要求モアツタト思ヒマス、ソレニ對シマシテノ幣原國務大臣ノ御答辯ハ、目下國際關係ノ非常ナ機微ノ状態ニアル時ニ於テ、其ノ點ハ發表ヲ差控ヘタイト云フ御答辯デアリマシタノデ、御氣持ヲ察シマシテ、私ハ質問ヲ致シマセヌ、ソコデ第一ノ天皇ノ權能ト云フコトデアリマスケレドモ、私其ノ前ニ、新憲法ノ草案ガ軈テ施行セラレマシテ、日本ノ國家ノ再建ニ當ツテ、日本ノ政治ノ上ニ此ノ憲法ガ果シテ一體圓滿ニ運用セラレ、又支障ナク政治ガ運行シテ行クカドウカト云フ、謂ハバ憲法ノ將來性ト云ツタヤウナコトニ付テ聊カ考ヘテ見タノデアリマス、其ノ時ニ私ノ氣持ト致シマシテハ、餘程爲政ニ當ラレタ方ハ細心ノ注意ト、十分ナ心構ヘヲ持タレマシテ、之ニ當ラナイ限リハ、圓滿ナ政治ノ遂行ト云フコトニ非常ナ支障ヲ來スノデハナイカト云フコトヲ私ハ考ヘマス、モウ少シ進メテ申シマスレバ、私ハソレヲ憂フルノデアリマス、曩ニ昭和二十一年ノ六月ノ八日デアリマシタカ、樞密院ノ臨時本會議ニ於テ此ノ草案ガ可決セラレマシタ時ニモ、私ハ是ハ新聞デ讀ミマシタノデアリマスガ、之ニハ希望條件ガ付イタト云フコトデアリマス、即チ前古未曾有ノ變革デアリ、本案運營ニ當ツテハ政府ハ最善ノ注意ヲ拂ツテ誤リノナイヤウ措置スルコトヲ希望スルト云フ一項目ガ、希望條件トシテ掲ゲラレテ居ツタノデアリマス、誠ニ私モ此ノ文字ニ表ハレタ所ダケヲ取リマスト、私モサウ云フ氣持ヲシテ居ルノデアリマス、此ノ憲法ヲ眺メマシタ時ニ、既ニ是ハ衆議院ニ於キマシテモ代議士諸君カラ御意見ガ色々トアリマシテ、一見シテ此ノ憲法ハ十八世紀ノ自由主義的憲法ノ臭ヒガスルト云フ御批判デアリマス、私モ此ノ憲法ヲ初メテ見マシタ時ニ、先ヅサウ云フ感ジヲ致シマシタ、金森國務大臣ハ此ノ點ニ關シマシテ、此ノ委員會ニ於キマシテモ、先日來其ノ點ニ御觸レニナリマシテ御答ニナリマシタガ、私ハ其ノ金森サンノ御言葉ハゴザイマシタケレドモ、未ダニ矢張リ十八世紀的ノ自由主義的ナ憲法原理ヲ茲ニ用ヒテアルト云フコトハ、私ハ今デモ其ノ感ジヲ變ヘテ居ラナイ譯デアリマス、唯所謂「デモクラシー」ノ思想ト云フモノハ、是ハ金森サンモ仰ツシヤルヤウニ、何モ十八世紀ニ始ツタ思想デナク、古ニ遡レバ古代「ギリシヤ」ノ「プロタゴラス」ガ‥‥是ハ甚ダ學問ヲ衒フヤウデ恐縮デアリマスガ、人間ハ萬物ノ尺度デアル、サウシテソレ自身ニ於テ一ツノ立法者デアルト云フコトヲ言ツテ居リマスガ、是ガ一ツノ「デモクラシー」思想ノ、其處ニ淵源ガ私ハアルト思ヒマスノデ、其ノ意味カラ言ヘバ此ノ憲法ニ現ハレテ居ル所ノ思想ハ、決シテ十八世紀ノ思想デハアリマセヌ、ソレハ金森サンノ仰ツシヤル通リ、遠ク古代「ギリシヤ」ニ發シタ所ノ、我々人類トシテ今日迄此ノ爲ニ闘ツテ參リ、又今後モ永久ニ此ノ「デモクラシー」ノ思想ト言ヒマスカ、此ノ「デモクラシー」ノ人生觀ニ依ツテ我々ハ生活ヲシテ行カナケレバナラナイ所ノモノデアリマス、既ニ此ノ憲法草案ニ於キマシテモ、其ノ點ハ第十章最高法規ノ政府原案九十三條ニ其ノ氣持ガ私ハ謳ハレテ居ルモノデアルト思フノデアリマス、ソレデ此ノ憲法ノ各條項ヲ私ガ拜見ヲシマスト、一見ヲシタ時ニ、隨分此ノ中ニハ、日本ノ現状ニ即サナイ、マア一口ニ言ヘバ尚早的ダ、又非常ナ進歩的ダト云フ批評ガ當ツテ居ルヤウニ私モ感ズルノデアリマスケレドモ、ソレハ併シ現在ノ所謂明治憲法ト言ヒマスカ、現行憲法ガ餘リニ封建的ナ中世的ナ臭ヒヲ持ツテ居リマスガ故ニ、ソレニ對シテ我々ガ順應スルニ足ル所ノ準備ガナイ爲ニサウ云フ感ジヲ起スノデアリマシテ、私モ率直ニ總テヲ掘下ゲテ申上ゲタイト思フノデアリマスガ、此ノ憲法ヲ三月六日政府ガ御發表ニナリマシテ見マシタ時ニハ、私モ實ハ斯ウ迄此ノ日本ガ政治的ナ大キナ變革ヲスルトハ思ヒマセヌ、實ハ私モ吃驚致シマシタ、併シ其ノ後新聞雜誌其ノ他色々ナ論調ヲ讀ミ、又先輩ノ色々ナ御考ヲ伺ツテ居リマス中ニ、自分ノ所謂蒙昧ガ啓發サレマシテ、今日デハ此ノ憲法ハ、是ハ大體ヲ申上ゲルノデアリマスガ、精神ニ於テハ決シテ尚早的デモナイ、又決シテ尚早的デモナイ、又決シテ進歩的ナモノデモナイ、寧ロ考ヘニ依リマシテハ、此ノ人權尊重ノ原理ト云フヤウナモノハ、今カラ百數十年モ前ノ「アメリカ」ノ獨立宣言、「フランス」革命時代ノ政治ノ原理ト云ツタヤウナモノヲ、漸クニシテ今日日本ガ採上ゲタト云ツタヤウナコトナンデアリマス、寧ロサウ云フ所カラ考ヘマスト、日本ハ矢張リ世界ノ進運ニ遲レルコト百五十年ナンデアルカト云フコトデ、實ハ感慨無量デアリマス、終戰ノ大詔ヲ拜シマシタ時ニモ、其ノ最後ニ「世界ノ進運ニ後レサラムコトヲ期スヘシ」ト云フ御言葉ガアリマシタガ、此ノ御言葉ハ矢張リ今デモ此ノ憲法ニ於テ痛切ニ私ハ考ヘサセラレルモノガアルノデアリマス、サウ云フヤウナ意味カラ考ヘマスト、此ノ憲法ノ草案中特色アル規定ト云フモノヲ考ヘマスナラバ、第一條、是ハ別デアリマスガ、其ノ他戰爭放棄、此ノ點ダケハ非常ナ特色ノアルモノデアルト思ヒマス、斯ウナリマストマルデ討論ノヤウニナリマスカラ、少シ省キマスガ、其ノ他ノ點ニ於キマシテハ、決シテ進歩的ナ思想デハナイト云フ風ナコトヲ感ジマス、先日來國體論ノ御話ガ出テ、政府トノ間ニ質疑應答ガ交サレマシタガ、此ノ團體論ノヤウナ問題ハ、是モ私ハ學者ノオイデニナル前デ申上ゲルコトハ甚ダ烏滸ガマシク感ズルノデアリマスケレドモ、外國ニ於キマシテハ、國體論ト言ヒマスカ、所謂國民主權論ノ問題ハ、既ニ「フランス」革命ヲ境ニシテ解決ノ付イタ問題デハナイカ、世界ニ於テ主權ガ國民ニアルカドウカト云フヤウナ議論、又國民主權カ或ハ君主主權カト云フヤウナ議論、是ハ既ニ歐米先進國ニ於キマシテハ片ノ付イタ問題デアルト私ハ考ヘルノデゴザイマス、寧ロ最近ノ主權論ト致シマシテハ、「イギリス」アタリデ申シテ居ル所ノ最近ノ主權論ト云フモノハ、寧ロ先程來御話ノ、國家ノ意思ノ源泉ガ何處カラ出テ來ルカト云フ意味ノ主權論デナクテ、國家其ノモノガ國ヲ支配シ、又國際社會ノ一員トシテ立ツテ行ク所ニ必要ナ、國家其ノモノガ持ツベキ所ノ所謂國家主權、國權ト言ヒマスカ、其ノ國權其ノモノガ目下ノ處問題ニナツテ居ルノデハナイカト私ハ考ヘルノデゴザイマス、サウ云フ風ナ意味ニ於テノ主權論、最近デハソレヲ放棄スルトカ或ハ制限スルトカ云フヤウナ議論迄出テ居ルヤウニ私ハ教ハツテ居リマスノデ、サウ云フ點カラ申シマスト、我ガ國ノ主權論、ソレニ對シテ現在西歐ニ於テ行ハレテ居ル主權論ト云フモノハ、同シ主權論デアリマシテモ、大分ソコニ距離ガアルヤウニ私ハ感ズルノデアリマス、私ハ其ノ外サウ云フ風ナコトデ申シタイコトハゴザイマスケレドモ、討論ノヤウニナリマスカラ、時間ヲ節約スル意味ニ於キマシテ申上ゲマセヌ、唯私ノ氣持ヲチヨツト申上ゲテ置イタ方ガ宜イト思ヒマスノデ、ソレダケノコトヲ豫メ御話ヲシテ置キタイト思ツタノデアリマス、ソレデ問題ハ、第一ノ天皇ノ權能ト云フコトデゴザイマス、唯權能ト言ヒマスト甚ダ漠然トシテ居ルノデゴザイマスケレドモ、詰リ私ノ質問致シタイノハ、第一條ト第三條、ソレカラ第七條、詰リ此ノ三箇條ノ條文ノ間ノ關係デゴザイマス、之ヲ讀ミマスト、ドウシテモ心ノ中ニシツクリシナイモノガアルノデアリマスノデ、其ノ點ヲ一ツ金森國務大臣ニハツキリトサセテ戴キマスレバ、私ハ非常ニ仕合セニ感ズルノデゴザイマス、私ガ先ヅ申上ゲヨウト思ヒマスノハ、第一條ニ謳ツテ居リマス所ノ「天皇は、日本國の象徴であり日本國民統合の象徴」デアルト云フコト、是ハ度々ノ御説明ニ依リマシテ、私モ一應金森サンノ御考ノ程ガ分ツタノデアリマス、唯「日本國民統合の象徴」ト云フコト、是ハ一體ドウ云フ風ニ解釋シタラ宜シイノデアリマセウカ詰リ「日本國民統合の象徴」ト云フコトハ、統合ヤラレタ所ノ統合體、日本國民ト云フモノガ憧レノ天皇ヲ中心トシ、心ト心ノ繋ガリニ於テ天皇ヲ持ツ、其ノ我々ノ氣持ニ於テ茲ニ日本國民ト云フモノガ一ツノ統合體ヲ成スノデアル、其ノ統合體ヲ成シタ統合體其ノモノノ「シンボル」デアルノカ、ソレトモ今言ハレタ其ノ統合ヲセラレテ行ク迄ノ過程、統合ヲセラレルト云フ其ノ作用、此ノ作用ニモ其ノ「シンボル」ト云フ意味ガアルノカ、其處ニモ私ハ非常ナ出發點ガアルノデアリマスガ、單ニ統合體ノ象徴デアルノカ、或ハ統合セラレル過程其ノモノガ「シンボル」デアルノカト云フコトデアリマス、私ハ此ノ第一條ノ天皇ノ象徴ト云フコトハ、假令今日、日本ノ神話ガ否定サレマシテ、敬愛ト信頼トニ依ツテ‥‥否定ト言ヒマスカ、單ナル神話ト傅説ニ基クモノデハナイ、實ニ敬愛ト信頼ニ依ツテ結バレルモノデアルト云フアノ一月ノ元旦ノ御詔書ヲ拜承シマシテ、私ハ神秘性ガナクナツタトハ言フモノノ、私ノ心ノ奧底ニハ日本民族トシテノ是ハ確信デアル、一君萬民ノ皇室ヲ戴クト云フコトハ、是ハ我々ノ國民トシテノ民族的ナ確信デアルト云フ風ニ思ツテ居ルノデアリマシテ、將來ニ於テモ、是ハ歴史ノ認識ノ問題ニナルト思ヒマスガ、現在ノ所デハ日本ノ國民ノ大多數ノ者ハ萬世一系ノ天皇ヲ茲ニ象徴トシテ仰グト云フコトニ喜ビヲ感ジテ居ルト私ハ思フノデアリマス、併シナガラ之ニ對シテノ將來ハ、正直ニ申シマシテ、人間ノ所謂眞理ノ結果、眞理ヲ最後ノ權威ト致シマスナラバ、將來ノコトハ、民族的確信ガ如何ニ變ルカト云フコト、是ハ私ハ豫言ガ出來ナイト思ヒマス、併シ現在ニ於キマシテハ、少クトモ民族的確信トシテドナタモ是ハ御持チニナツテ居ルコトデアルト私ハ考ヘルノデアリマス、私ノ氣持トシマシテハ、此ノ民族的確信ハ今後モ永劫ニ亙ツテ變ラナイモノデアリタイト云フコトヲ、氣持トシテ持ツノデアリマス、ソコデ第七條デゴザイマスガ、六條ニモ關聯シマスガ、是ハ金森國務大臣ノ御説明ニ依リマスト、此ノ六條、七條ハ、天皇ノ「シンボル」象徴タル御立場ニ於テ丁度適當ナ、廣クモナイ、狹クモナイ、丁度天皇ノ御地位ニ相應ハシイ所ノ天皇ノ大權ヲ茲ニ規定シタモノデアルト、斯ウ云フ御説明デアルト私ハ解シテ居ルノデアリマス、併シナガラ問題ハ其處ナンデアリマシテ、天皇ガ國民統合ノ象徴デアル、少クモ其ノ統合ノ象徴ノ意味ヲ、私ハ先程申シマシタヤウナ、國民ガ統合シテ行クト云フ其ノ過程ヲ指シテノ象徴ダト云フコト、是ガ若シ私ノ考ガ誤リデナイトスルナラバ、私ハ此ノ第七條及第六條ノ天皇ノ大權ト云フモノハ、何ト云ヒマスカ、是デ此ノ第一條ノ統合ノ象徴タル所ノ、日本國民ヲ統合スル其ノ作用其ノモノノ現ハレトシテ、此ノ七條ノ大權ト云フモノハ力ガ非常ニ弱イト云ヒマセウカ、非常ニ物足ラナク私ハ感ズルノデアリマス、此ノ中デ強ヒテ天皇ノ大權ト申シマスモノハ、第七條第三號ノ「衆議院を解散すること、」此ノコトハ中デモ天皇ノ大權トシテ非常ニ意義ノアル大權デアルト私ハ考ヘマス、併シ是トテモ矢張リ國務大臣ノ輔弼ニ依ツテ、輔弼ト云フ言葉ガイケナケレバ、助言ト承認トニ依ツテ此ノ大權ヲ行使遊バサレルト云フコトデアリマス、又第六條ノ「總理大臣を任命する」、此ノ大權モ、是ハ特ニ重要デアルガ故ニ、條文ヲ別ニシテ御掲ゲニナツタコトトハ私ハ考ヘマスケレドモ、ソレニシテモ、是モ矢張リ同樣ニ帝國議會ノ指名ニ基イタモノヲ天皇ガ御任命ニナル、殊ニ今度ノ衆議院ノ修正ニ依リマスレバ、其ノ指名セラレル所ノ人間ト云フモノハ國會議員デナケレバナラヌト云フ更ニソコニ制限ヲ加ヘテ來タノデアリマシテ、ソレダケ此ノ第六條ノ天皇ノ御權能ト云フモノガ非常ニ小サナモノニナツテ來タ譯デアリマス、私ハ其ノ點ヲ實ハ御尋ネ致シタイノデアリマスガ、太平洋戰爭ニ日本ガ敗戰ヲ致シマシテ、今日僅カニ殘ツタモノハ、此ノ日本ノ國體ト民族ノ生存ト云フ、此ノ僅カ二ツノ細イ線ガ殘ツタ、茲ニ過去ノ日本ト今日ノ日本トノ繋ガリガ私ハアルト思フノデス、其ノ他ノモノハ此ノ戰爭ニ因ツテ物質的ニモ精神的ニモ一應全部破壞シ盡サレタト云フヤウニ私ハ考ヘタイノデアリマス、其ノ僅カニ殘ツタ所ノ此ノ國體、詰リ日本國民ノ統合ノ象徴デアル、之ヲ國體トハ言ヘナイカト思フノデアリマスガ、金森國務大臣ノ御説明ニ依レバ、是ハ譬ヘテ言ヘバ鶯鳴ケバ春ガ來ルト云フ譬ヲ引カレマシタガ、一ツノ日本ノ國體ガアルトスルナラバ、其ノ國體ノ現象デアル、現象形態デアルト云フコトヲ御話ニナリマシタガ、其ノ意味ニ於キマシテ、此ノ現象形態タル所ノ天皇ガ國民ヲ御統合遊バサレルト云フ此ノ作用、此ノ作用ト云フモノハ、是ハ矢張リ實ニ大キナ一ツノ政治的ナ作用ヲ御持チニナツテ居ルモノデアルト私ハ考ヘルノデアリマス、而シテ第四條ニ行キマスト、天皇ハ君臨サレテモ政治セズ、政治ニ關スル權能ヲ有シナイト云フ點デ、茲デ天皇ト云フモノハ今後統治權ノ總攬者デハアラセラレナイ、何ト云ヒマスカ、統治權者デハアラセラレナイト云フコトデアリマス、政治ニ關シテハ全然御權能ガナイ、日本ノ政治ノ形態カラ全然天皇ヲ御除ケヲシテシマツタト云フ形ニナツテ居ルノデアリマス、今第一條ノ方ハ國民統合ノ象徴デアル、其ノ統合ト云フコトモ、統合セラレタ、統合體其ノモノノ象徴ト云フコトト、統合セラレル其ノ過程其ノモノヲ象徴スルト云ヒマスカ、其ノ過程其ノモノニ天皇ガアルト云フコトニナルト、ドウモ私ハ此ノ第四條ニ、天皇ハ君臨スレドモ政治セズ、天皇ハ君臨スルケレドモ統治シナイト云フ、此ノコトヲ謳ツテ置キナガラ、ドウモ第一條デ蔭ニ天皇ノ政治力ト云フモノガ、非常ニ大キイ政治力ガ茲ニオアリニナルト云フコトヲ私ハ感ズルノデアリマス、ソコデ第一條ト第四條トノ關係ガドウモ私ハハツキリシナイノデアリマス、サウシテ第七條ニ行キマシテ、天皇ノ大權ハ茲ニ十項目擧ツテ居リマスケレドモ、孰レモ形式的ナモノデアリマシテ、國務大臣ノ助言ト承認ニ依ツテ遊バスト云フコトニナリマスト、斯ウ云フモノハ實ハ有ツテモ無クテモ宜イ、私ハ寧ロ天皇ヲ日本國民統合ノ象徴トシテ仰グト云フナラバ、斯ウ云フ風ナ法律ノ公布トカ、或ハ政令ノ公布、或ハ認證トカ、サウ云ツタヤウナコト、ソンナマルデ‥‥何ト云ヒマスカ、金森サンノ御説明デハ、是ハ矢張リ天皇ノ御地位カラシテ自然ニ現ハレ出ル所ノ一ツノ御地位ニ相應シイ大權デアルト、斯ウ御説明ニナリマスガ、私ハドウモサウ考ヘラレナイノデ、斯ンナコトコソ一方ニ於テ此ノ憲法ガ三權分立ノ形ヲ採ツテ、立法權ニ關シマシテハ國會ニ主權ガ‥‥ソコ迄言フト言ヒ過ギルカモ知レマセヌガ、國會ガ最高ノ機關デアル、司法權ニ關シテハ裁判所、行政權ニ關シテハ内閣ガ行政權ヲ持ツト云フ、寧ロ「アメリカ」流ノ三權分立ヲ採ツテ居ルノデアリマシテ、サウ云フ點カラ考ヘマスト、法律ノ公布ト云フヤウナコト、斯ンナコトハ何ト云ヒマスカ、餘リ大權トシテ私ハ相應シクナイヤウナ氣モチヨツトスルノデアリマシテ、法律ハ帝國議會ノ協賛ヲ經レバ、法律其ノモノハ成立スルト云フコトニナツテ居ルノデアリマス、唯其ノ公布ヲナサル、國家意思其ノモノハ、帝國議會ガ協賛シタ瞬間ニ國家意思トシテ成立スルノデアリマシテ、裁可ト云フ御作用ガナイ限リ、公布ト云フヤウナコトハ、是ハソレヲ天皇ノ大權ニスルト云フヤウナコトハ私ハ意味ノナイコトデアル、其ノコトヲ規定シタ所ガ、ソレデ以テ此ノ日本國ノ國民ノ統合ノ象徴デアル‥‥公布スルト云フコトト、日本國民ノ統合ノ象徴ト云フコト、是トピツタリト合ヒマセヌ、サウシテ一方ニ象徴デアルト云ツテ置キナガラ、此ノ第四條ニ持ツテ行ツテ、「政治に關する權能を有しない」ト云フ此ノ原則ヲ擧ゲテ、天皇ヲ政治ノ面カラ全然除ケテシマツタト云フ、斯ウ云フ形、ドウモ此ノ三ツノ關係ガハツキリシナイノデゴザイマス、是ハ私ノ少シ横道カモ知レマセヌガ、今デモ斯ウ云フコトヲ申シマス私ノ氣持ハ、アノ太平洋戰爭ガ愈々一億玉碎カ、或ハ「ポツダム」宣言ヲ受諾スルカト云フ最後ノ土壇場ニナリマシテ、八月ノ九日アタリカラアノ十四日ノ終戰ノ大詔ノ發布セラレマスアノ時ノ氣持、日本ハ愈々玉碎スルカ、或ハ「ポツダム」宣言ヲ受諾スルカト云フ、アノ時ニ、申上ゲル迄モナク、此ノ「ポツダム」宣言ヲ受諾スルト云フコトハ、非常ナル措置ヲ以テ天皇ノ御聖斷ニ依ツテ是ガ決定シタト云フコト、此ノコトヲ私ハ非常ニ今デモ頭ニ入レテ居ルノデアリマス、是レ程私ハ畏レ多イコトハ‥‥實ハ本當ニ心カラ宸襟ヲ惱マシ奉ラヌト云フコトヲ大臣ガ言ツテ居リナガラ、結局ニ於テ、最後ノ土壇場ニ於テ宸襟ヲ惱マシ奉ツタト云フコトニナル譯デアリマシテ、マア情ニ於キマシテハ、誠ニ陛下ノ御氣持ト云フモノハ、私ハ何ト申上ゲテ宜イカ分ラナイ程御察シシタイノデアリマス、國務大臣ガ輔弼ヲスルト云フヤウナ時、アヽ云フ時ニコソ帝國憲法ノ條文ニ依ツテ立派ニ内閣總理大臣ガ輔弼シ奉ルノデアリマシテ、ソレデコソ本當ニソコニ日本ノ憲法ノ眞價ガ發揮セラレタデアリマセウ、ソレガ最後ノアノ最モ大切ナ時ニ、此ノ日本帝国憲法ノ規定ト云フモノガ運用ガ出來ナイ、國務大臣、ソレカラ統帥府ニアル所ノ參謀總長、軍令部總長ソレカラ樞密院ノ議長、サウ云ツタモノガ廟議ニ與ツテ、サウシテ議論ヲ闘ハシタ末、遂ニ廟議ガ決セズ、御聖斷ニ依ツテ「ポツダム」宣言受諾ノ大詔ヲ拜承シテ、日本ガ茲ニ敗戰國ニナツタト云フ事實、アノ時ニ矢張リ御聖斷ガ下ラズシテ、何ト言ヒマスカ、戰爭中ノアノ軍閥ト申シマスカ、言葉ガ何カ悪イヤウデアリマスガ、戰爭中ノアノ軍閥ノ勢力ト云フモノガ矢張リ續イテ行キマシタナラバ、戰爭モ終戰スルドコロカ、假令ドウナツテモ最後ノ一戰ヲ闘ハスト云フ譯デ、戰爭モ矢張リ繼續シタデアリマセウ、サウスレバ日本ノ國體モソコニアリマセヌ、又我々民族ノ生活モアリマセヌ、日本國家ハ茲ニ全ク滅亡シテシマツタデアラウト私ハ想像致スノデアリマス、實ニ此ノ御聖斷ガ下リマシタコトニ依ツテ、今日我々ハ僅カナガラモ國體ト、我々民族ノ生活ト云フ其ノ小サナ二點ヲ殘シテ、今日斯ウヤツテ生活シテ居ルト云フ此ノ状態、之ヲ私ハ痛切ニ考ヘマスト云フト、此ノ天皇ガ國民統合ノ象徴ト云フコトハ非常ニ重大ナ意義ガアルノデアリマシテ、若シ金森サンガソレハ國民統合體ノ象徴ナンダ、統合スル過程ヲ言フノヂヤナイト云フナラバ、又私ハ考ガ變ツテ來マスガ、サウデナイ限リハ、此ノ第一條ノ規定ト云フモノハ非常ニ大キナ政治力ヲ持ツテ居ルト思フノデアリマス、同時ニサウ云フ風ニ政治力ヲ持ツテ居ルト考ヘルナラバ、第七條ノ天皇ノ大權ニ、此ノ第一條ノ國民統合ノ象徴ニ相應シイ所ノ大權ノ規定ヲ一ツデモ宜イカラ入レテ戴キタイ、即チ統合ノ象徴デアル所ニ相應シイ所ノ天皇ノ大權ヲ御入レニナルト云フコトガ、寧ロ此ノ三箇條ヲ通ジテ一番筋ガ立ツノヂヤナイカト云フ考ニ實ハナツタノデアリマス、サウ云フ國家非常時ノ際、國家有事ノ際ニ於キマシテ、普段ノ政治ノ先ヅ穩カナ時ハ、是ハ内閣總理大臣ガ國政ヲ總攬致シマシテモ、先ヅソレデ國政ノ圓滑ハ期スルコトガ出來ルト思ヒマスガ、サウ云フ國家有事ノ際ニ於テ、内閣ト雖モ天皇ヲ完全ニ輔弼スルコトガ出來ナカツタト云フコトハ、既ニ今御話シタ終戰ノアノ時ノ經緯ニ依ツテ明カデアルノデアリマシテ、サウ云フ時ニハ、矢張リ我々日本國民ハ、天皇ト云フモノヲ戴クト云フコトニ依ツテ、此ノ日本ノ國體ガ嚴トシテ存在シテ居ルト云フコトヲ私ハ痛感スルノデアリマス、サウ云フ意味ニ於テ、第一條ト第四條ト第七條、此ノ三ツノ關係ヲモウ少シ金森サンニ御説明ヲ願ヒタイト思フノデアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 松平委員ノ御尋ニ對シマシテ御答ヘ申上ゲマスルガ、先ヅ此ノ第一條ノ「國民統合の象徴」ト云フコトハ、御尋ネニナリマシタヤウニ、統合ノ過程ヲ象徴スルト云フ意味ヨリモ、寧ロ統合セラレタモノヲ象徴スル、斯ウ云フ意味ニ了解シテ居リマス、動詞ヲ名詞ノ形ニシテ使ヒマシタノデ、多少其ノ點ニ御疑惑ノ起リマスノモ尤モデハアリマスルケレドモ、併シ言葉ヲ極ク單純ニ見マスレバ、國民統合ト云フ一ツノモノガアツテソレヲ象徴シタノデアル、斯ウ云フコトニナリマス、サウ致シマスルト、國ト違ハナイデハナイカ、斯ウ云フ感ジモ出ルカモ知レマセヌガ、是ハ此ノ憲法ノ建前ノ根柢ニ伏在シテ居ル一ツノモノノ現レデアリマシテ、從來ノ如ク、國ト云フモノヲ何デモ一ツノ單一體ナリトシテ居ル動キガ、法律的ニハ一ツノモノデアル、活動的ニハ一ツノモノデアル、斯ウ云フ面カラバカリカラ捉ヘナイデ、個々ノ人間ノ集リト云フ點ニ一ツノ重ミヲ持チ、ソレニ依ツテ第三章ノ規定等モ出テ來マシタ關係上、國ト云フ法律的單一體ヲ象徴スルト共ニ、國民ガ集ツテ一ツノモノヲ成シテ居ルト云フ點ノ象徴デモアル、斯ウ云フ規定ヲ設ケマシタノデ、ソコニ言葉ノ持ツテ居ル味ヒニ相當ノ差ガアルト思フノデアリマス、例ヘテ申シマスレバ、是ハ譬喩的デアリマスケレドモ、國ト云フ方デ言ヘバ、一ツシカ見エナイ、統合ト云フモノデアレバ、人間ノ頭ヤ身體迄モポツポツ見エルト云フ形ニ於ケル統合體、斯ウ云フ感ジデ此ノ言葉ガ出來テ居ル譯デアリマス、ソレガ左樣デアリマシテモ、先程ノ御質疑ニ對シマシマスル御答ハ別ニ變ル所ハナイト思ツテ居リマス、只今松平委員カラ情熱ヲ盡シテ天皇ノ御地位ニ付テ色々ト御述べニナリマシタコトハ、私ハ心ヨリ御同感申上ゲタイ氣分ニ充チ滿チテ居ル譯デアリマス、我々ノ過去ニ於キマシテ、天皇アリシガ故ニ、國政ハ實ニ良ク行ツタ、合理的ナ立場カラ申シマシテモ、又基本的ナ國民感情カラ申シマシテモ、其ノ點ニ付キマシテ私共松平君ト何等ノ意見ノ異ナル所ハナイト考ヘテ居リマス、併シナガラ冷ヤカナル歴史ノ進展ノ結果ト致シマシテ、斯樣ナ憲法改正案ヲ御覽ニ入レナケレバナラヌコトニナリマシタコトハ、本當ニ國民感情ノ方面カラ見マシテ私共言語ニ絶スルヤウナ心持ガ致ス次第デアリマス、併シナガラ、ドウシテモ、他面ニ冷ヤカナル理性ト世界的ナル事物ノ轉換ト云フモノニ注意ヲ向ケナケレバナリマセヌ、其ノ時ニドウ考ヘテ宜イカ、成程世界ノ人ガ日本ノ天皇ニ恰モ敗戰ノ責任ガアルガ如ク唱ヘテ居ルモノガアリマス、外國ノ文献等ニ左樣ナモノガアリマスルガ、日本國民ハ左樣ナ考ハ全然、ト申シマスカ、極メテ例外的ナ少數ノ人ノ言説ノ外ハ、一ツモサウ云フコトヲ考ヘテ居リマセヌ、茲ニ日本國民ノ豐カナル感情、天皇ト國民ノ間ニ於キマシテハ非常ニ緊密ナ繋ガリガアルコトハ御互ニ感ジテ居ル所デアリマスルガ、併シ心ノ置キ方ヲ別ノ點ニ移シテ考ヘヲ見マスルト、天皇ハ一ツノ血統ヲ追ウテ永續的ニ考ヘラルヽ皇位ヲ時代々々ニ御充タシニナルノデアリマシテ、如何ナル方ガ天皇ニ御就キニナルト云フコトノ判斷ノ標準ハ血統ニアルノデテツテ、其ノ一人々々ノ方ノ特別ナル能力トカ云フ點ニ注意ヲシテ居ル譯デハゴザイマセヌ、同時ニ又、天皇ハ一切ノ國政ニ付テ無答責ノ立場ニアルノデアリマス、苟クモ自分ノ意思デ事ヲ行ツテ置イテ責任ガナイ、責任ヲ問ハレナイト云フコトハ、普通ノ道理ニ於テハアリ得ザルコトデテリマス、併シナガラ此ノ世襲ノ君主制ニ於キマシテハ、ソレガナケレバ一貫シナイコトデアリマス、ソコデ天皇ノ世襲制ト云フコト、天皇無答責ト云フコトト組合セテ考ヘテ見マスルト、他ニ如何ナル良キコトガアリマシテモ、一人々々ノ天皇ノ御聡明ニヨリ多クノナニヲ置カナイデ、制度トシテハ冷ヤカニ樹テテ行クノガ已ムヲ得ザル仕儀デアラウト思フ譯デアリマス、茲ニ天皇ノ御權能ニ付テノ幅ニ付テノ考慮、之ヲ御行使ニナリマスル上ニ於テノ手續上ノ考慮ト云フモノガ現レザルヲ得ナイノデテリマシテ、矢張リ其ノ點ヲ考慮致シマシテ、此ノ憲法ノ第六條、第七條等ハ特ニ左樣ナ見地カラ來テ居ルノデアリマス、現行憲法ニ於キマシテモ、實質ハ矢張リ同ジヤウデアリマスニモ拘ラズ、世間ノ一部トハ言ヘ、兎ニ角國内ニ於テソレニ對スル種々ナ言説ガアツテ、之ヲ論議シテ居リマス者ガアリマスルコトハ、本當ヲ言ヘバ心外ニ堪ヘナイ譯デアリマス、併シソレガ起ルノハ、矢張リ制度ノ上ニ斯樣ナ論議ヲ許ス相當ノ根據ガアルモノト思ハナケレバナリマセヌ、ソコデ冷ヤカナル意思ニ從ヒマシテ、感情ノ上ニ於テハ殆ド心消ユルヤウナ氣持ガ致シマスルケレドモ、此ノ憲法改正案ノ如クニ出來上ツタ譯デアリマス、ソコデ先ニ御示シニナリマシタ非常ノ際ノ措置、即チ非常大權ヲ天皇ニ御歸屬セシムルノガ事物ノ眞相ニ合フノデハナイカ、斯樣ナコトハ、仰セニナリマシタ「ポツダム」宣言ノ最後ノ段階等ヲ見マスレバ、正シク左樣デアラウト思ヒマスルガ、併シ是レ又冷ヤカナル見地カラ見マシテ、斯樣ナ權能コソ特ニ天皇ニ累ヲ及ボシ奉ル虞ガアルモノデアリマシテ、左樣ナ場合ガ起リマシタ時ハ、憲法ハ如何ニ運用サレテ行クカト云フコトハ、直接ニハ此ノ憲法ノ知ラナイ範圍デアリマシテ、我々ノ草案ノ中ニ於キマシテハ、右ノ御示シニナリマシタヤウナ規定ヲ入レルコトハ當ヲ十分ニ得ナイモノデアルト考ヘタ次第デゴザイマス
○子爵松平親義君 マダ宜シウゴザイマスカ、今ノコトニ關聞シマシテセウ二、三點質問致シタイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 時間ガ來テ居リマスカラ、松平サンノ御質問ハ休憩ノ後ニ致シマセウカ
〔「休憩ノ後ニ願ヒマス」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） ソレデハ休憩ノ後ニ致シマス、午後ハ一時二十分カラ再開致シマス
午後零時二十二分休憩
━━━━━◇━━━━
午後一時三十二分開會
○委員長（安倍能成君） ソレデハ會議ヲ開キマス、松平君
○子爵松平親義君 先程金森國務大臣カラ御答辯ヲ戴キマシテ、一應御考ノ程ハ分リマシタ、併シ尚重ネテモウ少シハツキリサセテ戴キタイト思フノデアリマス、此ノ第一條ノ日本國民統合ノ象徴ト云フコトデアリマスガ、先程伺ヒマスト矢張リ重點ノ置キ所ハ日本國民統合體ノ象徴デアル、統合サレタ所ノモノ、其モノヲ象徴スルノデアルト云フ風ニ私ハ承ツタノデアリマスガ、其ノ外ニ統合體ノ象徴デアルト同時ニ、現ニ常ニ統合シツヽオイデニナル所ノ天皇、ソレヲ指シテ象徴ト云フノデアリマセウカ、詰リ現ニ統合サレツヽアル所ノ天皇デアツテ、統合其ノモノヲ象徴スルノデハナク、統合サレツヽアル作用其ノモノヲ象徴ト解釋シテ宜イノデアリマセウカ、モウ一遍ハツキリサセテ戴キタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 嘗テモ申上ゲマシタヤウニ、天皇ガ國民ノ精神的結晶ノ中心デアルト云フコトハ此ノ憲法ヨリモモツト基本ニアル所ノ所謂國體、私共ノ申シテ居リマスル國體ノ觀念ノ中ニ入ツテ居ルト思ヒマス、ソシテ憲法ノ第一條ハ其ノ國體其ノモノヲ表ハスノデハナクテ、國體ト即カズ離レズト申シマスカ、或ハ國體ト影ヲ映スト云フヤウナ意味ニ於キマシテ、其ノ中ノ或要點ダケヲ憲法ノ法文ノ中ニ表ハシタ趣旨ト考ヘテ居リマス、從ツテ第一條ノ趣旨ハ平タク謂ヘバ、國家ト民族トノ象徴ト云フ意味デアリマシテ、天皇ヲ見レバ茲ニ國家ト云フ一ツノ單一體ガ見エルト同時ニ單一體ト迄ハ行カヌカモ知レヌガ、民族集團ト云フモノガ天皇ヲ通シテ國民ニハツキリ分ル、斯ウ云フダケノ意味ト思ツテ居リマス、現ニ天皇ヲ中心トシテ國民ガソレニ心ヲ運ンデ集ツテ來ル姿ト云フモノハ、憲法ヨリモ奥ニアル、憲法ニ現シテ居ル規定ヨリモモツト基礎ニアルト云フ斯ウ云フ考デ出テ居ル、解釋ハ如何樣ニナリマスカ、觀ル人々ノ結局解釋圏ノ範圍ト云フコトニナルノデアリマセウガ、私ハサウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○子爵松平親義君 日本民族ノ象徴デアル、日本國家其ノモノノ象徴ナンダ、民族其ノモノノ象徴ナンデアルト云フ御答辯デアリマシテ、サウシマスト、矢張リ此處ハ國民ノ統合體、體ノ言葉ヲ含メタ方ガハツキリスルヤウニ考ヘルノデアリマス、一應其ノ點ハソレデ了承致シマシタ、尚第七條ノ天皇ノ所デゴザイマスガ、先程御話ヲ承ル所ニ依リマスト、矢張リ此ノ中ニ國家有事ノ際ニ於ケル所謂非常大權ト云フヤウナモノヲ此ノ中ニ含マセルト云フコトハ此ノ際色色ナ社會ノ情勢カラ考ヘテ適當デナイ、天皇ノ御地位ヲ安泰ニスル爲ニハ矢張リ此ノ規定ニ止メテ置クノガ宜イノダト云フ御答辯デアツタト思ヒマスガ、ソレモ一應分リマシタ、併シ更ニ御尋ネ致シタイノハ、現行憲法ニ於テハ申上ゲル迄モナク國家意思ノ源泉ト云フモノハ、是ハ天皇カラ發スルト云フ解釋デアルト思ヒマス、從ツテ國家ノ權能ト云フモノハ一應全部天皇ガ御持チニナツテオイデニナルノデアリマス、我々國民トシテハソレニ翼贊シ奉ルト云フカ、統治權ニ我々ガ參與スルノデアルト云フ風ニ私ハ考ヘテ居リマスガ、今度ノ憲法ニ於キマシテハソレガ全ク逆ノ關係ニアリマシテ、國民ニ所謂主權ガ在ルノデアル、サウ言ヒマスルト言葉ガ足ラナイト思ヒマスガ、詰リ天皇ヲ含メテノ國民ト言ヒマスカ、我々ノ日本ノ國民協同體ト言ヒマスカ、サウ云フモノニ詰リ國家意思ノ源泉ガソコニ發動スルノデアルト云フコトニナツテ居リマスカラ、サウシマスト國家ノ權能ト言ヒマスカ、國家ノ權力ハ先ヅ一應我々國民ガ持ツテ居ル、全ク現行憲法ト其ノ點ハ逆ノ關係ニナルト私ハ解シテ居リマス、從ツテ現行憲法デ申シマスレバ、天皇ノ大權ガ現行憲法第一章ニ規定シテゴザイマスルケレドモ、尚アノ大權事項トシテ規定セラレテ居ル以外ニ於テモ尚且天皇ノ大權ガソコニ存在シ得ル餘地ガアル譯デアリマスガ、今度ノ憲法ハ全然其ノ點ガ逆ニナリマシテ、此ノ七條及ビ六條デアリマスガ、要スルニ此ノ憲法ノ天皇ノ大權トシテ定メテ居ル條項以外ニハ一ツモ天皇ノ大權ト云フモノハナイト云フ風ニ私ハ解スルノデゴザイマス、其ノ點ニ間違ヒガナイト致シマスナラバ第七條ノ天皇ノ大權以外ニハ天皇ノ御意思ガ國家ノ活動ニ發動セラレテ來ル所ノ餘地ガ全然ナクナツテシマフ、斯ウ云フコトデアリ、先程ノ非常大權ヲ此ノ中ニ入レル御考ハナイカト云フコトヲ伺ヒマシタ處、ソレハ政府トシテサウ云フコトハ考ヘナイノダト云フ御考、ソレハ一條カラノ關係カラモ一應了承致シマスガ、サウ致シマスト、先程來教育勅語ヲ一體ドウスルカト云フ御尋ネ、之ニ對シテ國務大臣タル田中文部大臣ノ御答ハ教育ノ見地カラノ御答デアリマスカラ、法律論デナイノデアリマスガ、法律論カラ言ヒマシタナラバ、教育勅語ト云ツタヤウナ所謂天皇ノ詔勅ヲ御發動ニナル、一ツノ天皇ノ大權ノ作用デアリマスガ、斯ウ云フ風ナ詔勅、第六條、第七條ニ掲ゲマシタ以外デ天皇ノ大權ガ御發動ニナル、詔勅ヲ御發動ニナル、公布遊バサレルト云フヤウナ働キト云フモノハ全然ナクナツテシマフト、法律上ハサウ云フコトハ出來ナイト云フコトニナルト思ヒマスガ、其ノ點ハ如何ナモノデゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 先程カラ御話ニナリマシタ點ハ、又言葉ノ上ダケデチヨツト明白ニシテ置キマスガ、現行憲法デハ謂ハバ主權ハ天皇ニ在ツタ、今後ノ憲法ハ主權ハ國民ニ在ルト云フ御説明ニナツタノデアリマスガ、其ノ主權ト云フ言葉ハ私ノ使ツテ居リマス言葉ト違ツテ居リマス、ピツタリト當ラナイト云フコトヲ申上ゲテ置キマスガ、是ハ結論ニ至ツテ居リマセヌガ、其ノ外ハ仰セノ通リト思ツテ居リマス、其ノ外ハ此ノ憲法ノ規定シテ居リマス通リ、國ノ象徴ト云フコト相伴フ意味ニ於キマシテハ、第一章ニ掲ゲテアル權能シカ御持チニナラナイト云フコトニナリマスルガ、第四條ヲ御覽ニナルト分リマスルケレドモ、國政ニ關スル權能ハ有シナイト云フコトニナツテ居リマス、言ヒ換ヘマスレバ、此ノ憲法ニアル外何ニモ爲サルコトヲ得ナイト云フコトハ含ンデ居リマセヌ、第四條ヲ御覽ニナリマスルト、初メニハ積極的ニ、修正ノ結果ニ依リマスレバ、「この憲法の定める國事に關する行爲を行ひ」トアリマシテ、是ハ積極的ニ天皇ガ御行ヒニナリ得ル範圍ヲ決メタモノデアリマス、ソレカラ其ノ次ニ於キマシテ「國政に關する權能を有しない」ト云フコトニナツテ居リマスカラ、苟クモ國政ト言ヒ得ベキ範圍ニ於キマスルコトハ行ハセラレルコトヲ得ナイ、是ハ明白デアリマス、其ノ點ノ松平サンノ仰ツシヤツタコトハ、其ノ通リト考ヘテ居リマス、併シナガラ天皇ハ個人トシテ國ノ政治ヲ行フト云フコト以外ニ色々ナコトヲ行ハセラレルコトハ、少シモ此ノ憲法ハ妨ゲテ居ル譯デハアリマセヌ、一ツノ例ヲ擧ゲマスレバ、學問ヲ研究セラレル上ノ何カ會合ヲ主催セラレルト云フコトニナリマスレバ、其ノ點ニハ此ノ憲法ハ觸レテ居リマセヌ、或ハ宗教上ノ御祭ヲ御行ヒニルナト云フコトガアリマシテモ、是ハ國政ニ關スル天皇ノ權利デナイノデアリマスカラ、差支ナイト思ヒマス、其ノ考ヲ基ニ致シマシテ教育ニ關スル御行動ニ付テドウ云フコトデアルカト云フコトハ、是ハ本當ヲ言ヘバ文部大臣カラ説明セラレマセヌケレバ、筋ハ通ラナイト思ヒマスガ、私ノ考ヘテ居リマスル一般的ナ見地カラ申シマスル時、天皇ハ國政ノ内容ヲ爲ス意味ニ於テ教育ニ關スル勅語ヲ御發シニナルト云フコトハ、恐ラク此ノ憲法ニ許サレナイコトト思フノデアリマス、併シナガラ御一人トシテ御認メニナル所ノ道徳上ノ原則ヲ何等カノ形ニ於テ御發表ニナルト云フコトハ、是ハ此ノ憲法ノ禁ズル所デハナイ、從ツテソレ自身ガ國政上ノ權威ヲ以テ行ハルルノデハナクテ、仰セニナツタ言葉ニ客觀的ナ眞理ガアルト云フコトニ基イテ國民ガ服從ヲシテ行クト云フコトニナリマスレバ、憲法ノ上デハ支障ハナイト、斯ウ云フ風ニ私ハ只今考ヘテ居リマス、併シ更ニ一歩進ミマシテ假令個人ノ御立場ニ依ツテ此ノ道徳ノ徳目ニ關シテ御信念ヲ御發表ニナリマシテモ、實際運用ノ上ニ於テソレガ政治ノ行爲ト同ジコトニナツテ、出發點ハ何デアラウトモ、結果ニ於テ政治ノ働キト同ジコトニナルト云フヤウナ解釋ガ出來マシタ時ニ、果シテ左樣ナコトガ憲法上少クトモ妥當ナコトニナリ得ルデアラウカト云フコトガ、是ガ問題ニナラウト思ヒマス、ソレハ相當研究ヲ要スルコトデアリマシテ、多分文部大臣ガ其ノ點ニ付テ明言セラレナイノハ、サウ云フ所ニ考慮ガアルノデハナイカト、私ハマア傍ノ方カラ考ヘテ居ル次第デアリマス
○子爵松平親義君 其ノ邊ノ關係ハ非常ニ機微ナコトニナルヤウニ私モ感ゼラレマス、併シ何ト申シマシテモ、此ノ政治ト云フモノハ、唯人間ノ合理性ニ基イテノミ政治ガ行ハレルト云フコトハ、是ハ我々一ツノ理念トシテ考ヘラレルト思フノデアリマスガ、實際ノ此ノ世ノ中ニ於キマシテサウ人間ト云フモノハ合理的ナ活動ノミニ依ツテ動クモノデハナイト私ハ思フノデアリマス、寧ロ非合理的ナ一ツノ本能的ナ働キニ依ツテ人間ガ動クト云フコトガ非常ニ多イト云フコトハ、是ハ學者ノ教ヘル所デアリマス、從ヒマシテ此ノ只今ノ教育勅語ノ問題ニ致シマシテ見レバ、ソレハ眞理ナルガ故ニ之ニ一般ノ者ガ從フト云フコトハ、是ハ我々ノ理念ト言ヒマスカ、理想トシテハ言ヘルコトデアリマスガ、現實ノ此ノ政治ノ動キニ於キマシテハ、矢張リ其後ニ一ツノ權威、其ノ權威モ其ノ背後ニ暴力ヲ控ヘテ居ルヤウナ一ツノ壓制ノ權威デアツテハナリマセヌガ、國民ノ心ノ中カラ自ラニ仰イデ居ル所ノ天皇ノ御言葉、ソレニ服從スルト云フ、其ノ天皇ノ權威ニ對シテ自ラ服從スルト云フ其ノ權威ト云フモノハ、是ハ私ハ善イ意味デノ權威デアルト思ヒマスガ、唯眞理ナルガ故ニ服從スル、眞理ノミ從フト云フコトハ、現實ノ社會ニ於テハナカナカ私ハアリ得ナイコトデアル、矢張リ眞理デアルト同時ニ、ソレガ一ツノ權威ヲ持ツト云フ所ニ私ハ國民ガ天皇ノ詔勅ヲ奉體スル所以ガアルト思フノデアリマス、サウ云フ意味ニ於キマシテ、例ヘバ今後教育勅語ヲ御下シニナルト云フ時ニハ、全然ソレガ國政ニ關係シテナイト云フコトハ、私ハ關係セシメナイト云フ風ニスルコトハ、是ハ出來ナイノヂヤナイカ、矢張リソコニ第一章ノ第一條「天皇は、日本國の象徴であり日本國民統合の象徴」デアルト云フ其ノ立場ニ於テ私ハ天皇ノ御詔勅ヲ拜シタイト云フノガ我々ノ氣持ナノデアリマス、併シ此ノ點ハ唯私ノ希望ヲ申上ゲマシテ私ノ質問ハ其ノ點ハ打切ツテ置キタイト思ヒマス、ソレカラ其ノ次ニ伺ヒタイト思ヒマスコトハ、通告致シマシタ「プリント」ニハ、取敢ズ政治ノ機動性ト云フコトヲ私ハ書キマシタガ甚ダ何ト言ヒマスカ、適切ナ言葉デハナイヤウデゴザイマス、要スルニ私ノ伺ヒタイト思ヒマス私ノ氣持ハ、先程モ此ノ現行憲法ニ對スル私ノ氣持ヲ申上ゲマシタ時ニ御分リデアルト思ヒマスガ、要スルニ此ノ憲法ト云フモノハ、此ノ敗戰日本ノ現實ニ於テ、我々ガ取敢ズ此ノ再建日本ノ出發點トシテ如何ニスルカ、其ノ覺悟ヲ決メル一ツノ教デアルト、斯ウ思フノデアリマシテ、今後ノ色々ナ複雜ナ社會ノ動キニ處シマシテ、此ノ憲法デ以テ果シテ今後ノ政治ガウマク日本デ動イテ行クカドウカ、非常ニ大キイ問題ヲ御質問申上ゲマシテ恐縮デゴザイマスガ、御許シヲ願ヒマシテ、ドウシテ動イテ行クカト云フコトニナリマスルト、非常ニ是ハ物足リナイノヂヤナイカト云フ感ジヲ私ハ持ツノデアリマス、サウ云フ意味カラ政治ノ機動性ト云フ、少シ言葉ハ變ナノデアリマシテ、マア段々私伺ツテ行ク中ニ御分リニナルコトダト思フノデアリマスガ、衆議院ノ質疑應答ヲ見マスト、詰リ法律的ニハ斯ウ云フコトデアリマスガ、此ノ行政ノ機動性、安定性ト言ヒマスカ、詰リ現行憲法ニ於テハ此ノ緊急勅令、或ハ財政上ノ緊急處分、サウ云ツタヤウナ行政ノ機動性ヲ圖ル爲ノ一ツノ處置ガ書イテアリマスガ、此ノ新憲法ニ於テハ、其ノ點ガマア缺ケテ居ルノヂヤナイカト云フ質疑デアリマス、ソレニ對シマシテ政府ハ、ソレハ新憲法ニ於テモ臨時議會ノ召集ヲスル、或ハ參議院ガ緊急集會ノ制度ヲ取ツテ、解散シタ場合ニハ是ガ國會ノ機能ヲ代行シテ行クト云フヤウナコト、或ハ暫定豫算ノ制度、或ハ豫備費ノ制度ヲ設ケル、或ハ又法律ニ依ツテ適宜ニ其ノ不測ノ事態ニ備ヘルト云フ措置ヲ講ズル積リデアルカラ、從ツテ行政ノ機動性ト云ヒマスルカ、緊急ナ場合ニ於テモ、尚ソレニ對處スル所ノ措置ハ十分講ジテアルノダ、斯ウ云フ御説明デアリマス、一應ソレデ分リマスケレドモ、併シ、何處迄モ其ノ御考ハ國民ノ代表デアル所ノ國會ノ地位ヲ尊重シテ行カウト云フ、其ノ御考ガ根本ニアルノデアリマス、詰リ何處迄モ國民ノ總意ト云フコトヲ基盤ニ置イテ、サウシテ其ノ上デ行政ト云ヒマスカ、政治ノ機動性ヲソコニ圖ツテ行カウト、斯ウ云フ御考ナノデアリマス、併シナガラ茲ニ私ハモウ一ツ考ヘサセラレルモノガアルト思フノデアリマス、此ノ憲法ノ草案ハ、先程來申上ゲマスルヤウニ、「デモクラシー」ノ思想、是ガ一ツノ太イ筋金トシテ入ツテ來テ居ルノデアリマス、併シナガラ第一次世界大戰後ニ於キマシテ、歐米ノ諸國ニ於キマシテノ政治ニ於キマシテ、「アメリカ」ナリ「イギリス」ナリ「ソ」聯ナリ、サウ云ツタヤウナ國ガ「デモクラシー」ノ思想ヲ採リナガラモ、所謂執行權ノ強化ト云フ方向ニ向ツテ進ンデ居ルノデアリマス、此ノ複雜シタ社會ニ、殊ニ所謂何ト云ヒマスカ、我我ノ生活ニ於キマシテ、今日ハ誠ニ急ヲ要スベキ切實ノ問題ガ非常ニ多イ状態ニアル譯デアリマス、現ニ我ガ日本ニ於キマシテモ、其ノ點ハ同樣デアリマシテ、戰災ノ爲ニ國力ヲ消耗シテシマツタ、サウシテ一方ニハ賠償ノ義務ヲ負ハサレテ居ル、住宅ノ問題モアル、衣料ノ問題モアル、或ハ食糧ノ問題モアル、「インフレ」ノ問題モアル、國家ノナスベキ所ノ機能ト云フモノハ實ニ非常ナ澤山ナモノデアルノデアリマス、此ノ機能ヲ片附ケマス時ニ、單ニ國會ヲ尊重スルカラト云ツテ、國會ノ議場ニ於キマシテ、總意ヲ反映スルト云フ名ノ下ニ、唯討議、質疑應答ヲ重ネテ居リマシテ、ソレデ荏苒日ヲ過シテ居ツテ、ソレデ果シテ所謂政治ノ機動性ト云フモノ、迅速確實ニ行政事務ヲテキパキ處理シテ行クト云フコトガ、何ヨリモ此ノ日本ノ再建ニ於キマシテハ、私ハ必要ナコトデアルト思フノデアリマス、理念ニ於キマシテハ、何處迄モ「デモクラシー」ノ精神ニ立ツテ之ヲヤラナケレバナリマセヌガ、ソレデアルカラト云ツテ、國會ヲ尊重スル、是モ尤モナコトデ必要ナコトデアリマスケレドモ、ソコニ一ツノ政治ノ機動性ヲ圖ル所ノ工夫ト云フモノガナケレバ今後ノ國政ハ圓滿ニ遂行スルコトハ出來ナイト思フノデアリマス、單ニ此ノ新憲法ニ依リマスト、只今申上ゲタヤウニ臨時集會ノ召集ガアル、參議院ノ代行ノ制度ガアルト斯ウ云フコトヲ仰セラレマスガ、斯ウ云フコトヲシマシテモ、決シテ之ニ依ツテ政治ノ迅速、確實ナル處理ト云フモノハ、私ハ是デハ足リナイト思フノデアリマス、唯形式的ニ國民ノ代表デアル所ノ國會ノ地位ヲ尊重スルト云フ爲ニ、法文ノ上ニ形式的ニ、斯ウ云フ所デ政治ノ機動性ヲ圖ラレテ居ルト云フコトヲ唯形式ノ上ニ現シタニ過ギナイノデアツテ、實質的ニ政治ノ運營ヲ的確、迅速ニヤツテ行クト云フノニハ、足ラナイ點ガアラウト思ヒマス、勿論先程申上ゲマシタヤウニ、此ノ憲法ハ善イ意味ニ於キマシテ私ハ暫定憲法デアルト云フヤウナ、感ジガ致シマス、取敢ズノ憲法デアル、今後ノ國政ヲ處理スル上ニ於キマシテハ、金森國務大臣モ屡々御話ノヤウニ、民主政治ニ動イテ行ク過程ニ於テ、必要ニ應ジテ、法律ヲ以テ此ノ憲法ノ足リナイ部分ヲ補ツテ行クノダト云フ御話デアリマスノデ、其ノ點ハ又考モアリマスケレドモ、一應ソレデモ宜シイト思ヒマスガ、多少希望的ニモナリマスガ、其ノ法律ヲ以テ、補ツテ行クト云フ上ニ於テモ、唯「デモクラシー」ノ政治ト云フモノヲ公式論理的ニ考ヘテ、是ガ唯一ノモノデアルト云フ風ニ考ヘラレルト、是ハ非常ナ間違ヒデアルト私ハ思フノデアリマス、サウシテ尚今日迄ノ現行憲法ニ於キマシテハ、三權分立デアルト云フモノノ、矢張リソコニ天皇ノ大權ト云フモノガ中心ニナツテ、三權ガ其ノ大權ニ依ツテ調整サレテ居ル形ニナツテ居リマスガ、今後ノ憲法ニ於キマシテハ、中心ノ天皇ハ「シンボル」ニオナリニナツテシマツテ、三權分立ノ調整作用ハアリマスケレドモ、其ノ在リ方ガ非常ニ違ツテ、所謂極端ナ「チェック・アンド・バランス」ノ形デ其ノ三權ガ調整サレテ行クト云フ形デアリマスノデ、一見シマスト、實ニ日本ノ國政ガ何カバラバラニナツテシマツテ、何處ニ一體統一ガ取レルノカト云フコトヲ私ハ非常ニ感ズルノデアリマス、國民ノ總意ハ一體何デアルカト云フコトデアリマスケレドモ、是モ衆議院ノ御答辯或ハ貴族院ノ御答辯カラ、私ハ更ニ御尋ネシタイノデアリマスガ、國民ノ總意ヲ如何ニシテ發見スルカト云フ問題デアリマス、是ハ所謂多數決ノ原理デアリマス、現在ノ所國民ノ總意ヲ發見スル方法ハ、多數決ニ依ルノ外ハ先ヅナイノデハナイカト私ハ考ヘマス、又學者モサウ云フ風ニ教ヘテ下サルノデアリマスガ、併シ此ノ多數決ニ依ル方法ト云フモノハ、決シテ最善ノモノデハナイノデアツテ、日本ノ過去ニ於テモ嘗テノ政黨政治ノ時代ノコトヲ考ヘマスレバ、多數決ノ政治ト云フモノガ必ズシモ絶對的ナモノデアルト云フコトハ言ヘナイト私ハ思フノデアリマス、金森サンハ今日ノ戰爭終結迄ニ於ケル所ノ日本ノ政治ノ在リ方、所謂一種ノ「ファッシズム」ノ政治、之ニハ非常ナ弊害ガアツタト云フコトヲ仰シヤイマス、是ハ誠ニサウデアリマスガ、併シ「ファッシズム」ノ政治ニ於キマシテモ、一ツノ又長所モアルト私ハ思フノデアリマス、民主政治ニモ短所ガアリ長所ガアリマス、同時ニ「ファッシズム」ノ考ニモ長所モ短所モアリマス、兎角啓蒙思想ト云フモノハ、今日迄アツタモノハ良イモノデモ惡イモノデモ、一切合切過去ノ傳統ヲ振リ捨テテシマフト云フ形ニナルノデ、是ガ非常ナ間違ヒヲ來スト云フコトハ、今日迄私共歴史デ學ブ所デアリマス、此ノ際啓蒙的ナ考ニナルト云フコトハ、已ムヲ得ナイ所デアリマセウケレドモ、併シモウ少シ事態ガ落チツキマシテ、日本ノ今後ノ社會ノ在リ方ト云フモノガ分ツテ來ルヤウニナツタ場合ニハ、唯啓蒙思想デ、昔ノモノハ何デモ彼デモ振リ捨テルト云フ考ヘ方ハ、非常ナ間違ヒニナツテ來ルノデアリマシテ、矢張リ今日迄ノ日本ノ過去ヲ振リ返ツテ見マシテ、多少ソコニ惡イ所ガアツテモ、所謂指導者原理ト云ツタヤウナモノニ於テモ長所モアルノデアリマス、國民ノ總意ノ發見ヲスルノニ、指導者原理ニ依ツテ之ヲ發見スルト云フノモ、是モ強チ惡イト云フコトハ私ハ言ヘナイト感ジマス、昔ノ哲學者ガ申シテ居リマスヤウニ、假令一人デアリマシテモ、其ノ人ガ賢明ナル哲人デアルナラバ、寧ロ國民ノ總意ヲ多數ノ者ガ投票ニ依ツテ決スルヨリモ、其處ニ本當ノ正シイ國民ノ總意ガ出テ來ルノデアル、斯ウ云フコトヲ言ツテ居ルノデアリマス、此ノ點カラ考ヘマシテモ、多數者原理ニ對シテ少數者原理ト言ヒマスカ、指導者原理ト云フモノモ、其處ニ長所ガアリマスカラ、強チ是ガアツタガ故ニ日本ノ軍閥ガ跋扈シテ、日本ノ今日ノ此ノ實情ヲ來シタノデアル、斯ルガ故ニ此ノ指導者原理ト云フモノハ非常ニ惡イモノデアル、今後ハ國民ノ總意ハ宜シク多數者原理ニ依ツテ之ヲ發見シテ行カナケレバナラヌノデアルト云フ御考ハ、是バ一應現在ノ所デハ言ヘルト思ヒマスガ、今後ノ國政ヲ運用スル上ニ於キマシテハ、其ノ邊ニ非常ナ考慮ガ要ルノデハナイカ、サウ云フ意味デ、此ノ憲法草案ニハ其ノ點ガハツキリ致シテ居リマセヌ、是ハ勿論憲法ニ其處迄規定スルカドウカト云フコトハ、私モ實ハ分ラナイノデアリマスガ、少クトモ衆議院アタリデ金森サンガ屡々御答辯ニナツテ居リマス所ニ依リマスレバ、今後國會法トカ、議院法トカ、或ハ選擧法、參議院法、斯ウ云ツタヤウナモノヲ此ノ憲法附屬ノ法典トシテ又議會ニ御提出ニナルノデアリマセウケレドモ、此處デ私ガ申上ゲル迄モナイコトデアルト思ヒマスガ、斯ウ云フ風ナ具體的ナ一ツノ立法ヲ爲サル場合ニハ、其處ニ國民ノ總意ヲ反映スル方法トシテハ、唯徒ラニ國會ヲ唯一ノ國民總意ヲ發見スル所ノ方法デアルアルト云フヤウナ考デナク、要スルニ問題ハ、本當ニ民意ヲ反映シ、國民ノ總意ト云フモノガ本當ニ分ツタ所ノ政治デアルナラバ、私ハソレデ宜イノヂヤナイカ、「ファッシズム」ノ惡イ所、或ハ指導者原理ノ惡イ所ハ、其ノ指導者ノ意思其ノモノヲ國民ニ向ツテ強制スル、權力ヲ以テ其ノ思想ヲ壓制スルト云フ所ニ惡イ所ガアルノデアリマシテ、其ノ權力者ノ立場ニアル者ガ矢張リ民意ニ依ツテ其ノ權力者ノ立場ニ就イテ居ル限リハ、假令一人ノ意思デアツテモ、是ハ正シイ國民ノ總意デアルト私ハ考ヘマスノデ、其ノ點ニ付テ金森サンノ御考ヲ伺ヒ、同時ニ今後ノ憲法附屬ノ色々ノ法律ヲ作ラレル場合ニ其ノ點ノコトニ付キマシテ御考慮ヲ戴キタイ、是ハモウ私コンナコトヲ申上ゲルノハ甚ダ烏滸ガマシイト思ヒマスガ、一應其ノ邊ニ付テノ御考ヲ伺ツテ置キタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 松平委員カラ、此ノ憲法運用ノ上ニ於ケル立場カラ政治ノ機動性ニ付テ色々御疑ヲ下サイマシテ、御質疑ノ内容ニ於キマシテ、私共平素疑惑ト思ツテ居ル點ヲ他ノ角度カラ御闡明下サイマシタコトニ對シマシテ、御禮ヲ申上ゲタイト思ツテ居リマス、仰セノ如ク、此ノ憲法ノ表面ニ於キマシテ、緊急勅令トカ、財政處分トカ云フヤウナ特別ノ規定モナク、規定ヲ致シマスレバ、或所ヘ行ツテ不便ヲ感ズル場面ナシト致シマセヌ、今後戰爭ト云フコトハ豫想出來マセヌケレドモ、天災地變其ノ他ノコトガアリマシテ、之ニ對スル應急ノ措置ヲ必要トスルコトハ豫想スベキコトト思ツテ居リマス、併シ是ハ松平委員ガ御紹介下サイマシタヤウニ、此ノ憲法ノ表ニハ必ズシモ詳シクハ出テ居リマセヌケレドモ、運用ノ上ニ於キマシテ、種々ナル補助的ナ手段ニ依ツテ大體ハ支障ナク動カセルモノト考ヘテ居リマス、而モ其ノ方法ガ、有ラユルモノガ用ヒラレナクナツタ場合ニドウナルカト云フコトニナルト、憲法ノ範圍ニ於テハ御答ノ出來ヌ問題デアリマスルガ、政治ノ實際ニ於テハ又自ラ適當ナ方法ガ案出サレルベキモノト思ツテ居ルノデアリマス、其ノ點ハ別ト致シマシテ、特ニ松平委員ガ御注意下サイマシタノハ「デモクラシー」ハ結局多數ノ決スル政治ト云フコトニ歸着スル、併シナガラ多數ノ力ニ依ツテ果シテ政治ガ敏速ニ、且妥當ニ行ハレテ行クダラウカ、サウ云フ懸念ヲ持ツテ色々ナ注意ヲシナケレバナラヌ、斯ウ云フ風ノ御話デアリマシテ、是ハ私共モシカク左樣ニ考ヘテ居リマス、大體此ノ「デモクラシー」ヲ多數ノ政治ト考フル思想ガ甚ダ現象的ナ考デアリマシテ、私共ハ「デモクラシー」ハ多數ノ力ニ依ツテ解決スル政治ト斷定スルコトニ躊躇致シマス、寧ロ外ノ言葉デ、納得ノ政治アルト言フ方ガ適當デアツテ、御互ヒニ話合ツテ、能ク諒解シ合ツテ、多數デハナイ、全部ノ人ガ一ツ心ニナツタ所ニ據ツテ政治ヲ行フト云フコトガ「デモクラシー」ノ根本ノ考デアラウト思ヒマス、唯實際運用ノ場面ニ於キマシテ、言葉通リノ納得ハ出來マセヌシ、多數ニ依ツテ解決ハ致シマスケドモ、ソレトテモ無鐵砲ナ多數デアルノデハナイ、條理ヲ盡シタル多數デナケレバナラナイト考ヘテ居ルノデアリマス、斯ク考ヘテ行キマスルト云フト、此ノ憲法ノ持ツテ居リマスル「デモクラシー」原理ガ弊害ヲ起シマスルノハ、主ナル點カラ言ヘバ、憲法自身ガ惡イノデハナク、若シ弊害ガ起レバ、納得ノ政治ニ代フルニ多數ノ原理ヲ絶對的ナモノニシテ動カシテ行ク、其ノ動カシ方ガ惡イト云フ、サウ云フ方面ヲ反省シテ行カナケレバナラヌノデアリマスガ、外ノ言葉デ言ヘバ、政治的ノ良キヤリ方ト云フモノガ並行シテ發達スルコトヲ第一ノ願望トシテ居ル、斯ウ云フ次第デアリマス、ソレカラ次ニ、此ノ「デモクラシー」ト云フモノデハ十分行カナイ方面ガアツテ、或ハ執行權ノ強化トカ、色々ナ面ニ於テ指導者原理ニモ良イ點ガアルカラ、サウ云フ點モ、良イ所ヲ入レルヤウニ考フベキデアルト云フ御話デアリマシタガ、私モ根本ノ考ニ於キマシテハ左樣ニ思ツテ居リマス、併シナガラ從來發達致シマシタ所ノ指導者原理ト云フモノハ、最モ濫用サレ易イ骨子ヲ持ツテ居リマシテ、多少ノ便利ハアリマスルニシテモ、根本的ニ弊害ヲ導ク必然ノ要素ヲ含ンデ居ルヤウニ思ハレマスルノデ、廻リ道ハスルニシテモ「デモクラシー」ノ原理ガ正シイノデアリマス、コンナ風ニ根本的ニハ考ヘテ居リマス、詰リ民主政治ト指導者原理ノ政治トノ間ノ利害得失ヲ勘案致シマシタ結果、民主政治デナケレバウマク行カナイ、目ノ前ノ利益ニ囚ハレテハイケナイ、斯ウ云フ考ヘ方ヲ以テ此ノ憲法ノ骨子ヲ正シイト思ツテ居リマスガ、併シ此ノ多數ガ選擧區ヲ持ツ可能性ノアル政治ニハ行詰リガアリマシテ、議會政治ノ危機ナドト叫バレテ居リマスル所ニモ相當尊重スベキ點ガアルト思ツテ居リマス、私ハサウ云フヤウナ多數專制ト云フヤウナ結果ヲ防止スルコトモ考ヘ、善キ政治ノ習慣ガ出來ルヤウナコトヲ考フルト同時ニ、一面ニ於キマシテ、優レタル人々ノ意見ガヨリ能ク行ハレルヤウナ政治ト云フモノガ何處カニ充實シテ來ナケレバナラナイノデアル、斯ウ考ヘテ居リマス、或人ハ何カ昔ノ有名ナ書物ノ中ニ於テ、政治ニハ君主政治ノヤウナ所モ、貴族政治ノヤウナ所モ、或ハ民主政治ノヤウナ所モアツテ、色色ナモノガ組合ハサレテ本當ノ政治ガ出來ルノダ、斯ウ云フコトヲ言ツテ居リマスルガ、確カニ政治機構全體ヲ見マスルト、左樣ナ要素ガ含マレテ居ルモノト思フノデアリマス、ソコデ結論的デアリマスルガ、私ハ日本ノ政治ハ、此ノ憲法デ決メマスルヤウニ、根本ニ於テハ完全ナル「デモクラシー」ノモノヲ採ツテ行クノデアリマス、併シナガラ其ノ中ニ納得ノ政治ノ原理ニ依ツテ、優レタル人々ノ意見ガ十分幅ヲ利カシテ行ハレテ行クヤウニナラナケレバナラヌ、ソレデ或ハ政黨ノ中ニ於テ斯樣ナ優レタ智慧ガ數ヲ支配シテ行ク行キ方ガ生マレテ來ヨウト思ヒマスガ、是ハ憲法ノ直接知ツタ範圍デハアリマセヌ、ソコデ我々トシテ特ニ考ヘマスルノハ、行政ノ中ニ於キマシテ左樣ナ原理ガ行ハレテ來ナケレバナラナイノデハナイカト考ヘテ居リマス、行政ノ中ニ於テ行ハレテ來ル此ノ指導者原理ト云フト、甚ダ聞エガ強ク響キマスルガ、優レタ人ノ意見ガ能ク行ハレテ行クヤウニスルト云フ建前カラ内閣制度デアレ、其ノ外各般ノ行政制度等ノ中ニ於キマシテ十分良キ方法ヲ考ヘナケレバナリマセヌ、既ニ内閣制度ニ付キマシテハ此ノ憲法草案ノ中ニ直接出テ居リマスヌケレドモ、左樣ナ考ノ片鱗ヲ示シテ居ルノデアリマス、ソレハ總理大臣ノ働ク場面ガ色彩ヲ強クシテ居ル、斯樣ナ考ヘ方ニ依リマシテ今後憲法ノ附屬ノ法令、或ハ之ヲ補則スル法令トシテ考ヘラレマスル所ノ各種ノ法令ヲ起案致シマスル際、私ノ申シマシタヤウナ良キ意味ニ於ケル納得ノ行ク政治、必ズシモ數ヲ頼リトシナイ政治ト云フモノヲ程好キ程度ニ於テ充實サセルヤウニ努力ヲ致シタイト考ヘテ居リマス
○子爵松平親義君 更ニモウ一點伺ツテ置キタイト思ヒマス、ソレハ皇室典範ノ制定ノ手續デゴザイマス、此ノ憲法草案ノ政府ノ原案ニ於キマシテ九十六條デアリマスガ、「この憲法は、公布の日から起算して六箇月を經過した日から、これを施行する。この憲法を施行するために必要な法律の制定、參議院議員の選擧及び國會召集の手續竝びにこの憲法を施行するために必要な準備手續は、前項の期日よりも前に、これを行ふことができる。」此ノ規定ガアリマスノデ、自然ニ皇室典範ノ帝國議會ニ於キマス所ノ審議ト云フモノハ、此ノ憲法ノ施行セラレマス前ニ、詰リ大體九月ノ假ニ末ニ是ガ公布サレマシテ、三月ノ末當リニ施行ト云フコトニナリマスナラバ、此ノ秋ノ臨時議會ニハ皇室典範ヲ制定起草サレテ、ソレガ帝國議會ノ議事ニ上程セラルヽト云フヤウニ、此ノ九十六條ノ規定カラサウ云フ解釋ガ出來マセウカ、ドウデセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 全ク左樣ニ考ヘテ居リマス、ソレデ秋ノ議會ト云フモノハ何時開カレマスト云フコトハマダ憲法ノ草案ノ議モ終ツテ居ナイ次第デアリマスカラ、確定的ノコトハ申サレマセヌケレドモ、兎ニ角若シ此ノ憲法ガ私ノ考ヘテ居ルガ如キ運ビヲ以テ實施サレテ行キマスルナラバ、間ニ合フ時期迄ニハドウシテモ兩議院ノ議ヲ經テ皇室典範ヲ制定セラレナケレバナラナイト同時ニ、現在アリマス所ノ皇室典範ハ然ルベキ方法ヲ以テ是ト入レ替ルヤウナ手續ガ執ラレナケレバナラヌ、斯樣ニ考ヘテ居リマス
○子爵松平親義君 サウシマスト是ハ解釋ノ問題デアリマスガ、第九十六條デハ皇室典範ノ制定ト云フコトハ一言モナイノデアリマス、必要ナ法律ノ制定ト云フコト、ソレカラ其ノ最後ノ「この憲法を施行するために必要な準備手續」之ニ皇室典範ヲ含ムト云フ風ニ解釋シテ置キタイト思ヒマス、若シ間違ツテ居リマシタラ尚御教ヲ戴キタイト存ジマス、ソコデ尚伺ヒタイノデアリマスガ、現在デハ皇室典範ト云フモノハ皇室ノ所謂宮務大權ト云フモノハ是ハ國務大臣ノ輔弼ノ範圍デハアリマセヌ、宮内大臣ノ輔弼デアリマシテ、是ハ國政ニ全然關係ガナイノデアリマス、ソコデドウ云フコトニナリマスカ、此ノ秋ニ假ニ我々ガ皇室典範ヲ審議致シマス時ニ、一體帝國議會ニ皇室典範ノ審議權ト云フモノガアルノデアリマセウカ、此ノ憲法ニ依リマスレバ明カニアルヤウニナツテ居リマスガ、現行憲法ニ依リマスト、皇室典範ニ關スル限リハ帝國議會ニハ審議權ガアリマセヌ、其ノ二ツノ間ニ私ハ矛盾ヲ感ジマスガ、ドウ云フ風ニソコヲ考ヘタラ宜シウゴザイマセウカ御説明シテ戴キタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 御説ノ如ク現在ノ皇室典範ハ學問上色色ナ意見ハアリマスケレドモ、要スルニ現行憲法ト併行シテ居ルモノデアリマシテ、憲法ニ基ク手續ニ依ツテ動カサレルモノデナイコトハ御説ノ通リデアリマス、併シナガラ今回ノ改正案ノ憲法ハ第二條ガ明カニシテ居リマスルヤウニ、皇宗典範ハ國會ガ議決スルト云フコトニナツテ居リマス、此ノ意味ハ先程チヨツト何トナク疑ヲ持ツ言葉ヲ以テ御示シニナリマシタガ、私ハ是ハ法律ノ一種デアルト考ヘテ居リマス、詰リ法律タル皇室典範ガ此ノ憲法ニ依ツテハ認メラレテ居ル譯デアリマス、從ツテ此ノ憲法ノ實施サレル時ニ於キマシテ從前ノ皇室典範ハ其ノ存在ヲ續ケル理由ガ消滅ヲ致シマシテ、サウシテ此ノ憲法施行ノ時カラハ此ノ二條ニ豫想シマスルヤウナ法律タル皇室典範ガ效力ヲ持ツテ來ルモノト考ヘテ居リマス、ソコデドウシテモ其ノ時ニ現行ノ皇室典範ノ運命ガ變化ヲ受ケル譯デアリマス、而モ新シキモノガ出來テ來マスガ、サウ云フ所ヲ技術的ニ如何ニ調節スルカト云フ點ニ付キマシテハ私共ハ腹案ヲ持ツテ居リマス、ケレドモ御説ノ如ク今日皇室典範其ノモノニ付キマシテ政府ガ直接ニ働キ掛ケル譯ニハ行キマセヌ、是ハ皇室側ト相談シテ其ノ連絡ヲウマクヤツテ行カナケレバナラヌト思ツテ居リマスガ、淡泊ニ言ヘバ皇室ノ方デ皇室典範ヲ一定ノ期日ニ御廢メニナル、斯ウ云フ御制定ガアリ、其ノ切替ニ此ノ法律ニ依ル皇室典範ガ出來マシテ、サウシテ二者ノ間ノ實質上ノ連繋ガ是亦法律ニ依ツテ保タレルヤウニ工夫ヲスレバ形式上ノ要件ハ充タサレルモノト思ツテ居リマス
○子爵松平親義君 更ニ今ノ皇室典範ノコトニ付テモウ少シ御尋ネシタイト思ヒマス、先達テカラ拜見致シマスル所ノ皇室典範ノ要綱ヲ見マスト、今度ノ皇室典範ト云フモノハ僅カニ天皇ノ皇位繼承ノ問題ト攝政ノ問題、此ノ二ツニ限ラレテ居ツタト私ハ記憶ヲ致シマス、サウシマスト、僅カ此ノ二ツノ條項ヲ皇室典範トシテ別ニ掲ゲル理由ハ一體何處ニアルカト云フ問題デアリマス、今日迄皇室典範ガ憲法附屬ノ成典トシテ別ニ是ガ制定セラレタト云フコトハ所謂宮中、府中ノ區別ヲ附ケル意味ニ於キマシテ、皇室ノ自立權ノ自然ノ作用トシテ自ラ皇室典範ヲ憲法ト分ケナケレバナラナイ、ソコニ要求ガ生ジテ來テ居ル譯デアルト思ヒマスケレドモ、今度ノヤウニ是ガ一種ノ法律トナツテ帝國議會ノ協賛ヲ經テ之ヲ定メルト云フコトニナレバ、僅カ皇位繼承竝ニ攝政、此ノ二ツノ事項ヲ特ニ皇室典範トシテ茲ニ掲ゲルト云フ程ノ積極的ノ理由ヲ私ハドウモ考ヘラレナイノデアリマス、伺フ所ニ依リマスト此ノ皇室典範ノ中ニハ其ノ他皇族ニ關係シタコト、或ハ天皇ノ御一身上ニ關係シタコトニ付テノ規定、詰リ今度ノ憲法ニ於キマシテハ第三章ノ國民ノ權利、義務ノ中ニ‥‥政府ノ御説明ニ依リマスト、天皇ハ國民ノ中ニ在ルノダ、現身トシテノ天皇ハ國民ノ一人ナンダト云フ風ニ御説明ニナツタト、私ハ解釋シテ居ルノデアリマス、從ヒマシテ其ノ現身ノ天皇ノ御立場ニ於キマシテ、一方ニハソレハ國ノ象徴デアリ、同時ニ國民統合ノ象徴デアルト云フ、其ノ御立場ニ於キマス所ノ天皇ト、一方ニ現身ノ天皇ト、此ノ二ツノ御資格ガアルト思フノデアリマシテ、其ノ現身ノ天皇ハ、一方ニ第一章ニ掲ゲマス所ノ天皇ノ御資格ガアルシ、ソレトノ關係ニ於キマシテ自ラ國民ノ一人デアルケレドモ、ソコニ天皇トシテノ一ツノ社會的政治的ナ、或ハ財産的ナソコニ特權ヲ御持チニナルコトハ自然ニ考ヘラレル譯デアリマス、其ノ特權ヲ御持チニナルト云フ其ノ點ニ於テ、皇室典範或ハ皇室財産法カ何カ出來ルカモ知リマセヌガ、サウ云ツタヤウナモノガ、詰リ一般ノ今後ノ法律ニ於キマシテハ色色制定サレル、是ハ總テ矢張リ一應其ノ法律ノ下ニ、皇室モ其ノ法律ノ支配ト云フカ、言葉ハ甚ダドウモ惡イノデアリマスガ、其ノ法律ノ中ニ、我々ト同ジヤウニ入ツテ居ル、斯ウ云フ形ニナリマス、併シソコニ自ラ天皇ノ特權ガオアリニナルノデ、其ノ特權ノオアリニナルト云フ其ノ點ニ着目シテ茲ニ一ツノ皇室法トカ或ハ皇室財産法ト云フヤウナ、詰リ皇室ノ特權ヲ規定スル所ノ、詰リ一種ノ、法律ニ對シテノ特別法ト云ツタヤウナモノガ、ソコニ出來ルト云フ風ニ私ハ解釋スルノデアリマス、今言ヒマス皇室典範ト云フヤウナモノモ、其ノ中ニ皇位ノ繼承トカ或ハ攝政ト云ツタ問題‥‥、尤モ是ハ天皇御一身上ノ問題デナク、是ハ實際我ガ國ノ國政上ノ問題デアリマス、所謂國政形態、國家形態ノ問題ニ入ツテ來ルト思ヒマスノデ、斯ウ云ツタモノヲ、現身ノ御立場ニオイデニナル所ノ天皇ヲ其ノ皇室ト一緒ニシテシマツテ、皇室一般ノ中ニ全部打込ムト云フコトハ、ドウモ形ガ惡イ、立法論ノヤウナコトデアリマスガ、形ガ惡イト云フ風ニ私ハ考ヘマス、僅カソレダケノ規定ナレバ是ハ皇室典範トシテ別ニ制定シナイデ、憲法ノ中ニ入レテシマフ方ガ宜カツタノデハナイカト云フ感ジガ致シマス、サウシテ其ノ他ノ、天皇ノ御一身上ノ權利義務ニ付テノ規定、之ヲ一般ノ法律ニ封シテノ特別法トシテ決メルナリ、皇室財産法ナリトニシテ、ソレヲ制定スル、ソレヲ我々ガ協賛スルト云フ形ニシタイト云フ、私ハ氣持ヲ持チマスガ、其ノ點ニ付テ御所見ヲ承リマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 皇位ノ繼承ト攝政ニ付キマシテノ必要ナル一切ノ規定ヲ、憲法ノ中ニ成文トシテ取入レルコトガ宜イカ惡イカト云フコトニ付キマシテノ御議論ヲ御示シニナリマシタケレドモ、ソレヲ入レマスルコトガ必ズシモ惡イト云フコトハ言ヒ切レマセヌ、併シ他方カラ考ヘテ見マスルト、事ハ重大デアリマスルケレドモ、之ニ關シマスル色々ノ項目ハ細カイコトニモ亘ルノデアリマシテ、例ヘバ庶子ハ嫡出子デハナイ、庶子ハ如何ナル立場ニ置カレルカト云フヤウナコト迄モ先ヅ書ケバ憲法ノ中ニ書入レナケレバナラヌコトニナルノデアリマシテ、ソレハ著シク體裁ヲ失フモノノ如クニモ思ハルヽノデアリマス、理論的ニハ書イテ少シモ差支ヘナイト思ツテ居リマス、此ノ憲法ハ現行ノ憲法ト皇室典範ト相竝ンデ居ル所ニ含マレテ居リマスル此ノ種ノ考ヘ方モ、含蓄ノ中ニ含メマシテ、皇室典範ノ中ニハ色々ナコトヲ書クケレドモ、其ノ具體的ナ一ツ一ツ迄モ憲法ノ中ニ取入レナイ方ガ、國民ノ感情ニモ一致スル點ガアラウシ、又法ノ體裁ガ、細目ニ及バズト云フコトヲ一貫シ得ル點ニ於テモ都合ガ宜カラウト考ヘタ譯デアリマス、次ニ皇室典範ヲ制定スル場合ニ、如何ナルコトヲ中ニ取入レル考デ居ルカト申シマスルト、ソレハ勿論現在ノ皇室典範ノ中味程廣イモノデハアリマセヌ、併シナガラ國ノ象徴タル天皇ノ御地位ト、之ニ關聯シテ起リマスル必要ナル事項ダケハ、此處ニ入ラナケレバナラヌモノト思ツテ居リマス、大體臨時法制調査會ニ於テ、漸次其ノ中味ガ研究サレテ、順調ニ進行ハシテ居リマスルガ、其ノ中ニ、例ヘバ天皇ノ敬稱ト云フヤウナモノ、或ハ皇族ノ範圍、御即位ノコトトカ、サウ云フヤウナコトニ亘リマシテ、相當範圍ハ存在シテ居リマス、唯極ク私法上ノ權利ト云フ性質ガハツキリシテ居ル財産權ト云フ種類ノモノニナリマスルト、是ハマア別個ノ法ノ中ニ組入レル方ガ宜イカモ知レマセヌ、ソレ等モ併セテ研究シテ居ル次第デゴザイマス
○子爵松平親義君 私ノ質問ハ是デ終リマス
○委員長（安倍能成君） デハ小田サン
○小山完吾君 私ハ質問ニ入リマス前ニチヨツト御斷リヲ致シテ置キマス、私ノ是ヨリ申述べマスコトハ、必ズシモ一々國務大臣ニ御返事ヲ是非煩サナケレバナラナイト云フモノバカリニモ限ツテ居リマセヌ、私ノ解釋スル所ニ依レバ、斯カル重大ナ委員會ニ於テハ、成ルタケ時間ノ許ス限リニ於テ、各自ノ懷抱シテ居ル所ノ思想ナリ意見ナリヲ出シテ見テ、之ヲ坩堝ノ中ニ入レテ見テ陶冶スルト云フコトモ一ツノ委員會ノ働ト考ヘマスノデ、極メテ大雜把ナコトダケヲ申上ゲマシテ、其ノ點ニ付テ金森國務大臣ノ注意ヲ喚起シ、又ハ質疑ト思ハレルコトニ付テ御返事ヲ得レバ仕合セト存ジマス、ソレデ先日來本會議竝ニ此ノ委員會ニ於テ、ソレゾレ專門家ノ御立場ヨリ詳シイ色々ナ御説ヲ拜聽致シタ、私ハソレニ依ツテ稗益スル所ハ大デアリマスガ、併シナガラ改正憲法ノ法案ニ付テ見マシテ、主權ガ何レニ存スルカト云フ問題ハ、明文ノ上ニハ私ニハハツキリ致シテ居リマス、即チ此ノ前文ニ於テモ、「主權ガ國民に存することを宣言し」、ト、チヤント立派ニ認メテアル、又「國政は、國民の崇高な信託によるもの」デアルト、斯ウ云ツテ居ル、是程明カナコトハナイ、之ニ封シテ主權ノ所在ガ何處ニアルカト云フコトヲ質問スルノハ、餘リニ法律的ノ御考ニナツテ居ルノデハナイカト、私ノ如キ實際ノ政治ノ觀點ヨリ觀察スル者ニハ見エルノデアリマス、偖テ其ノ主權在民ト云フコトデアリマスガ、古今東西ヲ問ハズ眞理ノ上カラ見レバ、主權在民ト云フコトハ明カナ事實デアリマス、唯ソレガ違フト云フコトハ、國ノ歴史、其ノ國ノ「ポリティカルセンス」政治常識ト云フヤウナ、或ハ政治慣行ト云フヤウナコトニ依ツテ、ソコニ相違ヲ來ス、專制國ニアツテハ、君主ノ上ニ主權ガ存在スルト云フコトモアリマセウ、又ソレヨリモ少シ進ンダ國ニ於テハ國家ノ上ニアルト云フコトモ言ヒ得ルデアリマセウ、又更ニ進ンダ民主的ノ國ニ於テハ、人民ノ上ニ主權ガ存在スルト云フコトガ言ヘルダラウト思ヒマス、ソレハソレゾレ其ノ國ノ文化ノ程度、政治常識ノ度合、歴史ノ沿革ニ依ツテ自ラ定マル所ガアルモノデアラウト私ハ斯ウ理解シテ居ル、是ハ法律學ノ大家ヨリ見レバ極メテ俗論カモ知リマセヌガ、私ハサウ解釋シテ居ルノデアリマス、ソコデ例ヘバ此ノ「デモクラシー」ト云フヤウナ政治上ノ主義ニ致シマシテモ、今日ニ於テハ此ノ文明國家ニ於テ何レモ共通ナ理念トナツテ居リマスルケレドモ、是ハ今ニ始ツタコトデハアリマセヌ、是迄モ屡々御發言ノ方ガアツタヤウニ是ハモウ「ギリシヤ」ノ初メカラアツタコトデ、聊カ「ペダンチック」ナコトヲ申上ゲルヤウデスケレドモ、「アリストートル」ト云フ人ガ言ウタ如ク、此ノ「デモクラシイ」ト云フコトハ高度ノ文明ト、高度ノ政治常識ト、ソレカラ區域ト云フコトノ狹イト云フコトヲ要スルト云フノデアツタノデスケレドモ、今日進ンダル文明國家ニ於テハ、知識ノ點ニ於テモ、又國民ノ常識ノ點ニ於テモ、又空間ノ點ニ於テモ著シク狹メラレテ、サウシテ我々ノ意見交換ト云フヤウナコトガ極メテ容易ニ行ハレルト云フコトニナツテ居ルノデスカラ、是ハ大國ニ於テモ「デモクラシー」ト云フモノハ、十分ニ圓滑ニ行ハレルヤウニナツテ來タト云フコトノ一大原因デアラウト私ハ考ヘル、ソコデ我ガ現行憲法ト云フモノニ付テ考ヘテ見マシテモ、此ノ現行憲法ヲ制定致シマシタ頃ハ、維新匆々ノ際デアツテ、始メテ國ヲ開イテ、西洋ノ文明ニ接シタト云フヤウナコトデ、國民ノ多數ノ中ニハ隷屬、服從、專制ト云フヤウナコトニ慣レテ居ツテ、此ノ人類ノ基本的ノ權利義務ト云フヤウナコトニ付テハ、完全ニ理解シテ居ラヌト云フヤウナ民衆モ澤山アツタ、而シテ又一方ニハ長ク、恰モ山ノ上ニ積ツタ所ノ雪ガ自然ニ解ケテ、地中ニ入ツテ清水トナルガ如ク、「オランダ」トカ或ハ「スペイン」、「ポルトガル」ト云フヤウナ西洋ノ諸國ノ主義ガ段々ニ入ツナ來ル、是ガ最モ感ジ易キ青年ノ頭ニ入ツテ、自由民權思想ト云フヤウナモノガ茲ニ芽生ヘテ來タノデ、サウシテ此ノ兩者ノ間ノ思想ノ衝突、軋轢ト云フモノハ可ナリ強カツタ、明治維新ノ初リニ於キマシテハ、今日我々ガ茲ニ於テ色々ノ思想ヲ代表シテ論議シテ居ル以上ノ茲ニ軋轢摩擦ト云フモノガアツタ、其ノ時ニ當ツテ今ノ憲法ヲ制定スルト云フコトニナツテ、岩倉公ヲ初メ、伊藤公ノ如キガ憲法調査會ヲ設ケテ、色色研究サレテ居ツタ、ソレデ西洋諸國ノ學義、或ハ政治家ニモソレゾレノ方法ニ於テ意見ヲ徴シテ、憲法ト云フモノノ基礎ヲ研究シタノデスガ、其ノ時ニ‥‥是ハ直接此ノ憲法ニ關係ノナイコトデアリマスケレドモ、重大ナ一ツノ説明ニナル譯デアリマスルカラ、暫ク時間ヲ借リマシテ申上ゲルノデスガ、今日ノ憲法ガ根本カラ改正ヲシナケレバナラヌト云フヤウナ茲ニ一ツノ原因ヲ持來タシタ其ノ主ナル點ハドウデアルカト言ヘバ、畢竟是ハ陛下ノ大權トシテ統帥權ト云フヤウナモノガアツテ、其ノ統帥權ト云フモノハ内閣大臣ノ支配ヲ受ケナクテモ宜シイト云フヤウナ、茲ニ言ヒ拔ケノ出來ルヤウナ曖昧ノ點ガアツタト云フコトガ、此ノ現行憲法ノ大疵デアツテ、我々ガ今日ノ悲境ヲ致シタ最大原因デ此ノ事ニ付テ明治ノ官僚學ノ大家トモ言ハレル所ノ井上毅氏ガ、當時ノ憲法調査會ノ幹事デアルカ、理事デアルカ、其ノ名前ハ存ジマセヌガ、兎ニ角サウ云フ資格ニ於テ時ノ司法、法律ノ顧問デアツタ「ロイスレル」又ハ「モスセ」ト云フ人ニ書面ヲ以テ一々質問ヲシテ居リマス、其ノ書面ニ依リマスルト今日現行憲法ニ對スル改正案第一條ニ「天皇は日本國の象徴であり日本國民統合の象徴であつて」ト云フ言葉葉ガアリマシテ、右ニ對シテ今日ノ學者諸君並ニ委員ノ博識ナル諸君ハ色々ナ觀點カラ批評ヲサレテ、我方ハ是ハ誠ニ耳新シキ直譯デアルト云フ御批評モアツタヤウデアリマスガ、焉ゾ知ラン官僚學ノ泰斗井上毅氏ハ西洋ノ立憲君主國ノ君主ト云フ、國王ト云フモノヲ「シンボル」ト端ニ書イテ、象像ト云フ字ヲ用ヒテ居ル、ソレハ屡々使ツテ居ルデスカラ其ノ象像ト云フ字ニ比ブレバ今度ノ象徴ト云フノハ餘程進歩シタ發達シタモノデアツテ、決シテ新規發明ノ飜譯語トハ私ハ了解致シマセヌ、ソコデサウ云ツタヤウナ質問書ノ中ニ於テ、天皇ノ下ニ統帥權ト云フモノヲ保留シテ置ク、サウスルト其ノ軍隊ノ編成權ト豫算權ト云フモノハドウナル、之ニ矛盾スルコトハナイカ、之ヲ議會ニ豫算ト増加ヲ請求スルト云フ場合ニハ、直チニ衝突スルヂヤナイカト云フヤウナ質問ヲ井上サンカラ「モスセ」ニ出シテ居リマス、スルト「モスセ」ハ之ニ答ヘテ、是ハ實ニ重要ナコトデアツテ、ソレハ餘程注意ヲ要スルコトデアル、ソレハドンナ答ヲシテ居ルカト云フト「軍隊ノ編成ヲ定ムベキ君主權ト代議院ノ豫算權トノ間ニハ、憲法上矛盾ノ存スルモノニアラズ、君主ノ權トシテ憲法上無制限ナルトキハ、右二權ノ間ニ或ハ矛盾ヲ生スルモノノ如シ、即チ立憲政體ノ國ニ於テハ、兵制ニ關スル國民ノ負擔ハ身體上ノ服從ト、金錢上ノ負擔トヲ問ハズ、總テ國會ノ承諾ヲ經ルニアラザレバ賦課スルヲ得ズトノ原則ヲ確守スルニ依リ、軍隊編成權ハ此ノ原則ノ爲メニ制限セラルルモノトス、語ヲ換ヘテ言ヘバ君主ノ軍隊編成權ハ憲法上獨リ此ノ制限内ニアリテ存スルノミ、又國家ノ政務中軍政ハ特ニ臣民ノ信用ト、國ニ盡ス所ノ徳義心トヲ要スルモノナルニ、前陳ノ如ク代議院ノ議決ヲ奪フトキハ、政府ノ責任重キヲ加フル外、又人民ガ國ノ軍務ニ反對スル危險ノ弊害ヲ生ズベシ、又政府ノ中ニ於テモ軍政ハ別ニ一箇ノ政府ヲナスノ危險ヲ生ズベシ」斯ウ云フ實ニ六十年前ニ明白ニ現行憲法ノ缺點ヲ喝破シテ居ル、ソレデ私共ハ古イコトヲ申シテ甚ダ恐縮デアリマスガ、明治三十四年カラ、大正初メニ桂公ガ、入ツテハ内大臣トナリ、出デテハ總理大臣トナリ、サウシテ政治ノ權力ヲ專ラニシ、一面ニ於テ二箇師團ノ増設ヲ行フト云フ案ヲ提出シタ、ソレニ對シテ私共ハ二箇師團増設ト云フコトヲ反對シテ、到頭其ノ結果西園寺公ハ總理大臣トシテノ辭表ヲ出サレル、續イテ山本權兵衞内閣ナルモノガ出來テ、ソレデ其ノ頃私共ハ、甚ダ自分ノコトヲ申上ゲテ申譯ナイノデスガ、時ノ状勢ヲ申上ゲル爲ニ已ムヲ得ズ申上ゲルノデスガ我々ハ少壯血氣デアツタ爲ニ、政友會ヲ離黨致シマシテサウシテ山本内閣ニ向ツテ、此ノ陸海軍ノ豫算編成權ハ内閣ノ必ズ固ク持ツテ居ル所ノ政治上ノ權利デアルト云フ、即チ政治ノ下ニ軍部ト云フモノガアラネバナラヌト云フ原則ヲ認メル、ソレカラ豫備後備ノ將軍ヲ以テ陸海軍大臣トスルコトガ出來ルト云フ、此ノ二ツヲ容レルナラバ、一旦離黨シタル我々モ政友會ニ或ハ戻ルデアラウト云フヤウナ約束ヲ取ツテ、サウシテソレハ後ニ實現シテ、私共ハ政友會ニ復歸シタコトガアル、ソレ等ノコトガ、若シ段々順調ニ發達シテ來テ居ツタナラバ、今日ノヤウナ破綻ヲ生ズルコトガナカツタ、二・二六ノ時ニ廣田内閣ガ、ドウ云フコトデアツタカ、譯モナク、ソレヲ元ニ返シテ、陸海軍ノ現役將軍ニ限ツテ、陸海軍大臣ニナルコトガ出來ル、外ノモノハイケナイト云フ規定ニ改ツタ爲ニ、軍部ノ專制ト云フモノガ甚ダシクナツテ、遂ニ「モツセ」ノ警告通リノ禍ガ國家ノ上ニ振リ來ツタ譯デアリマス、サウ云ツタヤウナコトデ、今日色々此處デ論ジラレテ居ルコトハ、サウ珍ラシイコトデハナイノデ、一應私共ノ經驗シタコトデアリマス、サウシテ今日憲法ヲ改メルニ付テハ必ズ其ノ點ヲ改定セネバナラヌコトニナツテ居ル、扨、サウ云フ譯デ、是ハ是非共、大權ノ條項トカ、或ハ人民ノ基本的權利ノ確保トカ、サウ云フヤウナコトハ、是非之ヲ改メナケレバナラヌト云フ政治状勢ニ今日アル、ソレガ一面ニ於テ、此ノ頃中伺ツテ居リマスルト、非常ニ國體論ト云フコトニ縺レテ居ル、全體其ノ國體論ト云フモノハ、私ハドウモ理解出來ナイ、私共ハ日本ノ國體ハ何レニアリヤト云ハレルナラバ、萬世一系ト云ハレテ居ル所ノ帝室ヲ上ニ奉戴シ、併シテ其ノ帝室ハ、政治ト無關係ニ立タレル、政治ノ爭ハ、君主ヨリ見レバ、下界ノコトデアツテ、各々自分ノ赤子ガ意見ヲ異ニシテ、互ニ説ヲ闘ハシテ居ルニ過ギナイ、或時ハ敵トナリ、或時ハ味方トナツテ、甚ダシキニ至ツテハ、血ヲ流スヤウナコトガアツテモ、ソレハ何レニシテモ、陛下ノ尊キヨリ見レバ、是ハ赤子ノ爭ニ過ギナイト云フノガ私ノ考ヘル日本ノ國體ダト考ヘテ居ル、是ハ史上ニ照シテ見レバ、明カナルコトデ、遠クハ源平、ソレ以上遡ツテ、藤原ノ時代ニ遡ツテ、皆ソレゾレ同ジ藤原ガ政權ヲ持ツテ居ツテモ、其ノ政權ノ中ニハ、違ツタ又反對説ヲ唱ヘル者モアリ、大體ニ於テ國民ノ支持ヲ得テ居ル者ガ政權ヲ執ツテ續ケテ居ル、又武家政治ニ付テモ同樣ナコトデ、鎌倉時代ニ付テモ、足利、北條ノ時代ニシテ見テモサウ云フ解釋ハ私ハ出來ル、近クハ西南戰爭ニ於テ、西郷隆盛ガ、謀叛シタト云フヤウナ形ニナツテ、是レ以テ陛下ノ御立場ヨリ御覽ニナレバ、何カ俗界デ意見ヲ異ニシテ、政治上爭ツテ居ルノダ、等シク是我ガ赤子ノスルコトダト見ラレテ居ツタモノニ相違ナイト思フ、ソレ故ニ現ニ西郷家ハチヤント侯爵ニナツテ居ル、更ニ他ノ例ヲ以テスレバ徳川家ノ如キモ矢張リ然リ、三百年間政權ヲ專ラニシ、國學者或ハ明治維新ノ志士ノ言論ヨリスレバ、是ハ國賊ダトカ、或ハ大義名分ニ背クト云フヤウナ説ヲ以テ責メラレタ、責メラレテモ是ガ其ノ當時ノ國民ノ支持ヲ得レバソレガ續クニ相違ナイ、支持ヲ得ナカツタカラ續カズシテ明治維新ニナツタ、其ノ大キイ觀點カラスレバ政治ノ爭ハ一時ノモノデ、日本ハ永久ノ國家トシテ一君萬民、國民ガ上ニ戴イテ居ル帝室ノ高キヨリ見レバ、是レ皆朕ノ赤子デアルト云フコトニナルト私ハ考ヘテ居ル、ソレデスカラ國體論ト云フコトニ付テハ私ニハ理解出來ナイ、其ノ國體論ト云フモノニ付キマシテ勿論法律上ノ色々ノ見解ハアリマス、併シナガラ要スルニ是ハ憲法ガ出來テカラ、穗積サントカ、更ニ進ンデハ上杉博士、筧博士ト云フヤウナ第一流ノ、神道、國學ノ影響ヲ受ケタ方ノ學説ガ組立テラレテ、是ガ官學ノ帝大ニ於テ宣傳ノ本トナツテ、日本ノ政治思想ヲ支配シタ、現ニ此ノ主義ヲ奉ズルニアラザレバ文官試驗ニ應ジテモ落第シテシマフ、甚ダシキニ至ツテハ天皇樣ト書カナケレバ點ガ惡イ、思想ノ自由、學問ノ自由、良心ノ自由ヲ蹂躪シタ思想ガ行ハレタ、此ノ人達ノ説カラ見レバ國體ハ、主權ハ君主ノ上ニアツテ、權利ハ大權ヲ唯少シク分ツタニ過ギナイト云フ見方デアツタデセウ、併シナガラ一方一木サントカ、美濃部サントカノ説カラ見ルト、ソレハ政體、政治ノ形態ニ屬スルモノデ、國體トハ關係ナイト見ラレル、何レニシテモ私ハサウ云フ枠ニ入ツタ所ノ法律論ヲ離レテ、廣ク何千年ノ間ニ徐々トシテ進ム所ノ進化ノ上カラ見テ、餘リサウ云フコトニハ頓着シナイ、日本ノ國體ハソンナ狹イモノデハナイト思ツテ居ル、ソレデ此ノ數日來金森國務大臣ヨリ色々御説明ヲ承リマシタ、實ニ精緻巧妙ヲ極メタ御説明デス、如何ニモ極端ニ左、極端ニ右或ハ大イニ進歩的ナ意見デアルガ如クニシテ、其ノ奥ニハ非常ニ保守的ノ御考ヲ以テ、御尋ニナツテ居ル方ニ對シテ一々滿足ナ御答ヲ與ヘラレルコトハ難儀ナコトデ、私ハ其ノ御苦心ヲ推察致シマス、併シナガラ何レニシテモ私ノ憲法ニ對スル國體變更ト云フ問題ニ付テハ、國體ハ變更シテ居ラナイ、國體ト云フモノノ解釋如何ニハ依ルガ、日本ノ長イ間ノ國體ト云フモノハ寸毫ノ變化ヲ來シテ居ラナイ、勿論今迄ハ國家ノ上ニ主權アリト言ヒ、或ハ君主ノ上ニ主權アリト云フ程度迄容認サレテ居ツタ議論ガ、主權ハ人民ニノミ在リト云フコトニ急轉シテ來タノデアリマスガ、是ハ大變革ニ相違ナイ、併シナガラ變革シタカラト云ツテ、是ハ政治思想ノ變化ニ基クモノデ、少シモ驚クニ足リナイ、先日來伺ツテ見マスル所ニ依ルト、憲法ノ此ノ解釋ハ一轉シテサウシテ置カナケレバナラナイ、文部大臣ハドウ考ヘルカ、文部大臣ハ之ニ對シテ國トシテノ解釋ヲ定メロト云フヤウナ御議論ガ非常ニ強イヤウニ御見受ケ致シテ居ルノデアリマス、一體サウ云フ議論ヲ爲サル方ガ、此ノ新憲法ハソコヘ以テ學問ノ自由、良心ノ自由ヲ明カニ規定シテ居ルニ拘ラズ、ドウシテサウ云フコトヲ言フ人ガアルノカ、我々ハ成文ノ上ニ現レル法文ヲ見テソレヲ理解スレバ、ソレデ以テ足リルト私ハ考ヘテ居ル、私ハ金森國務大臣ハ、私ノ考ニ對シテドノ程度迄一體御同感ニナルデアリマセウカ、ソレ等ノ點ヲ伺ツテ、尚一ツ御尋ネ致シタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 御答ヲ致シマスガ、今小山委員カラ御説明ニナリマシタ通リ、私共モ其ノ最後ノ點ヲ取ツテ御疑問ノ主タル點ト致シマスルナラバ、學問ノ自由、思想ノ自由ヲ認メマシタ此ノ憲法ノ建前ニ於キマシテ、此ノ明治ノ伊藤公ノ憲法義解ノ如キモノヲ我々ノ氣持デ作ルト云フコトハ、甚ダ適當ヲ失シテ居ルト、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居ル次第デゴザイマス、併シ唯一ツ考ヘマスルノハ、此ノ教育ノ色々ナ手段トシテ或程度迄纒ツタ善イ解釋ヲ作ルト云フコトニハ、是ハ異存ハナイノデアリマシテ、少シク餘談ニ飛ビマスカモ知レマセヌガ、私ハ此ノ憲法ノ中ニ教育ト云フコトヲ一面ニ於テ書イテアル、又他面ニ於テ思想ノ自由、學問ノ自由ヲ書イテ居リマス、此ノ二ツノ間ニ一體矛盾ハナイノデアラウカ、教育ト云フモノハドウシテモ其ノ中味ニ於キマシテ或方向ニ人ヲ引張ツテ行クト云フ意味ヲ持ツテ居ルノデス、ソレカラ學問ノ自由、思想ノ自由ノ方ハ、本人ノ心ノ中カラ出テ來ルモノヲ尊重スル、斯ウ云フ點ヲ持ツテ居ル、此ノ二ツノ間ノ調和ガ相當ニ面倒ナモノト考ヘテ居リマシテ、マダドノ段階ニ於テモ議論ニナツタコトハ疑ヒマセヌケレドモ、實行ノ面カラ考ヘマスルト、非常ニ調和ニムヅカシイ所ガアリマシテ、併シ自ラ茲ニ學問ノ自由、良心ノ自由ヲ妨ゲザル教育ト云フモノハ勿論出來ルト思ツテ居リマスケレドモ、其ノ範圍ニ於キマシテ諸般ノ解決スベキ問題ガ生ジルト思ヒマス、其ノ憲法ノ解釋ヲ統一スルコト、ソコニ關係ヲ持ツテ居リマシテ、其ノ方ニ於テ注意深ク何カ統一ラシイコトヲヤルト云フコトハ宜イノデアリマスケレドモ、ソレ以上進ンデシツカリシタ所迄決メルト云フコトハ、少クトモ此ノ建前カラ言ツテ、政府トシテ少クトモ建前トシテハ避ケナケレバナラヌト考ヘテ居リマス
○小山完吾君 只今ノ御説明ニ依ツテ稍々安堵致シタノデアリマスガ、此ノ憲法ノ解釋ト云フ問題ニ付キマシテモ、「イデオロギー」ヲ以テ解釋スルカ、明文ノ上ニ現レテ居ル文章ヲ以テ、サウシテ大體此ノ開明政治ノ精神タル「デモクラシー」ヲ心ノ中ニ於テ學校ニ於テ説明スルト云フヤウナ平明ナコトヲ教科書ニ入レルト云フコトハ、私ハ賛成デアリマスガ、ソレヨリ一歩進ンデ、天皇ハ斯ウ云フ獨得ナ日本固有ナ特色ヲ持ツテ居ラレルト云フヤウナコトヲ言ウテ、神懸ツタコトニ陷リ易イヤウナ誤ツタ思想ヲ植エ込ム虞ノアルコトハ愼ンデ避クベキコトト私ハ思ヒマス、之ヲ愼ムト云フコトハ、ナカナカ今迄ノ傳來ノ空氣ニ養ハレテ居ル所ノ文部省ノ官僚、或ハ教育界ノ人々ニハ可ナリ困難ナ誘惑ト考ヘテ居リマス、ソレデスカラ是ハ餘程御注意ニナツテ、サウ云フコトノナイヤウニ私ハ致シタイト私個人トシテハ考ヘテ居リマス、ソレカラ一ツ此ノ憲法ヲ制定スルニ當ツテ色々ナ御註文ガ出テ居ルヤウデアリマス、私ノ考ガ、憲法ト云フモノハ要スルニ其ノ國ノ政治ノ運用ノ機構ヲ定メテ置クベキコトハ、ソレデ足リルモノデ、若シ文明ノ程度ガ、特ニ國民ノ判斷力ガ進ンデ居リ、政治思想ガ進歩シテ居ルナラバ、サウ一一細カイコトヲ憲法ニ書カナクトモ唯人民ノ基本權ガ斯樣ナ方面カラ侵サレル憂ガアルトカ、或ハ斯ウ云フ點ニ於テ今迄ニ既ニ弊害ヲ生ジテ來テ居ルカラ、是ハ何トカシテ明カニシテ置カナケレバナラヌト云フヤウナ大キナ點ダケヲ注意シテ置キサヘスレバ、ドウモ臣民ノ權利義務ト云フヤウナコトニ付テモ餘リ詳シイコトヲ書ク必要ハナイ、ソレハ憲法上ニ言フ精神慣行ト云フコトモ出來ル、又慣例ト云フコトモ出來ルデアリマセウ、又各國民ノ見識、立法家ノ見識ト云フモノニ依ツテ其ノ時々ノ事柄ニ依ツテ法律ト云フモノハ出來テ行ツテ、ソレデ進歩シ發達スルノデスカラ、ドウモ餘リ專門家ノ言ハレルヤウニ細カイコトヲ規定スルト云フコトハ、私ハ反對シマス、此ノ點ニ付テ金森國務相ハ略々同樣ナ御考ガアラレルノデハナイカト云フコトデ、私ハ唯私ノ意見トシテ述ベマシテ、若シ訂正スルコトガアルナラバ訂正シテモ宜シイノデスガ、ソコデ今度ノ憲法ノ臣民ノ權利義務ノ中ニアノ勞働ノ權利、是ハ近世ノ勞働問題ノ經濟上ノ色々ノ理念ヲ戰ハセラレタ結果、勞働ト云フモノハ差別デナイ、天賦ノ人權ト云フヤウナモノノ一ツデアルト云フ思想カラ使ハレタモノト思ヒマスガ、ソレハ加ヘテモ宜イト思ヒマスガ、是ハ衆議院ノ修正ニ依ルト云フト義務ヲ負フト云フコトガ書イテアル、ドウモ人ニ義務ヲ課スルト云フコトハ餘程考ヘナイト、私ハ獨リ勞働ノ規定バカリデハナイ、憲法全體ノ規定トシテ義務ヲ掛ケルト云フコトハ、餘程用心ヲシナイトイケナイ、處ガ政治識見「ポリテイカル・センス」ト云フコトハ、少數壓制ト云フ問題モ起リマスガ、又一面ニ多數壓制ト云フ問題モ起リマス其ノ原理ヲ一々我々ガ申上ゲマセヌデモ、最近一年間如何ニ民間ノ多數壓制ニ苦ンダカト云フコトヲ見テ御分リデアツタト思ヒマス、例ヘバ町會ノ如キ、元々町會ト云フモノハ、人民ノソレゾレノ利害ヲ代表シテ國家ニ協力スル爲ニ作ツタモノデアルノデスケレドモ、日本ノ現在ノ多數ノ人ノ政治思想ト云フモノハ幼稚デアル爲ニ、此ノ町會ト云フモノハ殆ド専制思想ノ走狗トナツタヤウナ形ニナツテ、實ニ馬鹿氣タコトヲ強要シテ、是ガ爲ニ我々ハ迷惑致シテ居ル譯デアリマス、其ノ事例ヲ申上ゲルコトハ省キマス、又申ス迄モナク大キナ政治問題ニ致シマシテモ、現在ノ憲法ニ於テ言論ノ自由、或ハ議會ニ於ケル發言權ト云フコトニ付テハ、立派ニ保障ノ規定ガアツタニモ拘ラズ、貴族院ニ於テモ、衆議院ニ於テモ、堂々タル意見ノ發表ニ對シテ常ニ意見壓制ガ行ハレタ、サウシテ默々トシテ間違ツタ頭ニ追隨シテ行ツタト云フ所ニ誤ガ繰返サレテ居ルノデアリマス、茲ニ近頃流行ノヤウニ軍部ノ專制ノ結果大變ナコトヲ仕出來サレタト云フコトヲ言ハレルノデスガ更ニ退イテ考ヘマスルト、是ハ我々日本國民ノ身カラ出タ錆デス、若シ我々日本國民ガ全部皆立派ナ考ヲ持ツテ居ツタナラバ、政界ノ先達タルベキ代議士モ皆之ニ引摺ラレタ、デスカラ我々ハ過去ノ失敗ニ顧ミテ、成ルベク個人ノ基本權ノ尊重、或ハ行政權ノ濫用トカ云フコトニ付テ警戒シナケレバナラヌ、之ニ付テハ三權分立ノ思想トカ、或ハ外ニモ色々「チエック・バランス」ノ方法モアリマスケレドモ、私ノ考ヘル所デハソレ等ノ點ニ付テ、寧ロ諸君ノ御考ヲ承ル機會ヲ得テ啓發スル所ガアレバ、仕合セト存ジマスガ、不幸ニシテ今日迄伺ツテ居ル所ニ依リマスルト、憲法草案ハ非常ニ進歩シタモノデアルト云フコトヲ仰セラレルガ、其ノ口ノ裏カラ、直チニ天皇ノ大權、「ロイヤル・プリロガティヴ」ト云フモノガ足リナイヂヤナイカト云フ論ガ、ボツボツ出テ參ルノデアリマスルカラ、私ハ此ノ點ニ付テハ大イニ警戒シ、政府ニ於テモ此ノ原案ハ大體ニ於テ、其ノ要領ヲ得テ居ルモノト私ハ信ジマスルカラ、私ハ之ヲ擁護スル方ニ致シタイト云フノガ、私ノ見解デアリマス、色々雜駁ノコトヲ申上ゲテ相濟ミマセヌガ、ソレニ付テ御意見ガアルナラバ國務相、或ハ今後ノ何カノ機會ニ於テ、委員諸君カラモソレニ付テ承リタイト存ジマシテ、是ダケノコトヲ申上ゲマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 御答ヲ致シマスルガ、御答ヲスル必要モナイト存ジマスルガ、憲法ノ第三章ノ權利義務ノコトニ付キマシテハ、原案者ノ心持ト致シマシテハ、「ポツダム」宜言ハドチラカト言ヘバ權利ニ重キヲ置キマシテ、餘リ義務ニハ直接ニ重キヲ置イテ居リマセヌ、サウ云フコトヲ深ク考ヘタト云フ譯デモアリマセヌガ、矢張リ日本人ハ動モスレバ義務本位ニ物ヲ考ヘタガツテ、ドウモ精神ヲ陰氣ニシテ困ルト云フ意見モアリマシテ、色々考慮致シマシタ結果、結局一切ノ權利ニハ義務ヲ伴フト云フ程度ニ重キヲ置キマシテ、十一條邊リニ權利ニ對シテ義務ガアル、ソレハ權利行使ニ伴ツテ義務ガアルト云フ風ニ、一括シテ片附ケタヤウナ立法ニナツテ居ル譯デアリマス、處ガ先程仰セニナリマシタ勤勞ノ點デアリマスルガ、是モ其ノヤウナ建前デ出來テ居リマシタガ、結局色々ナ御論ヲ聽イテ見マスレバ、今日ノ常識トシテ權利ニ伴ツテ義務ガアルト云フ風ニ考ヘルヨリモ、初カラ義務ガアルト云フ考ヘ方ノ方ガ、經濟的社會的ノ「イデオロギー」ノ如何ニ關セズ、現代ノ先ヅ多數ノ人ガ賛成スル所デアラウ、斯ウ云フ風ノ御論ガアリマシテ、私共モ其ノ考ヘ方ニ理由ガアリ得ルト信ジテ、衆議院ノ修正ニ同感ヲ申上ゲタ次第デアリマス、御答ノ必要ハ多分ナカツタカト思ヒマスガ、唯經過ダケヲ申上ゲテ置キタイト思ヒマス
○澤田牛麿君 此ノ順ニ依リマストマダズツト後デゴザイマスガ、如何デゴザイマセウカ、關聯質問トシテ、今小山君カラ、私ヂヤナイカモ知レヌケレドモ、私ト同樣ナ議論ヲシタ者ニ對スル言明ヲ求メテ居ラレルヤウニ見エマスカラ、此ノ際私ハ總體ノ質問ニ關聯スルコトデアリマスガ、私ノ意見ヲ述ベテ總體ノ質問ニソレヲスル筈ナンデ、旁々小山君ニ御答ヘ致シタイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 宮澤君ノ質疑ガ濟ンデカラニ致シタイト思ヒマス、直グノ方ガ宜イカモ知レマセヌガ、少シ御待チ願ヒタイ
○宮澤俊義君 最初ニ國體問題ニ付テ極メテ簡單ニ申上ゲタイト思ヒマス、先日來本會議竝ニ委員會ニ於ケル活溌ナル質疑應答ニ依リマシテ、略々私ノ了解シタイ所ガ分ツタヤウナ氣ガ致シマスガ、ソレヲ申上ゲテ御所見ヲ御伺ヒ致シタイト思ヒマス、只今迄色々問題ニナリマシタガ、主モナ點ヲ纒メマスト、大體國體ト云フ言葉ニ二ツノ意味ガ、委員トシテ用ヒラレテ居ルヤウニ思ヒマス、第一ハ治安維持法ニ謂フヤウナ意味ノ國體デアリマス、私モ本會議デ此ノ意味ノ國體ハ變ルモノデハナイカト云フ御質疑ヲ致シマシタガ、之ニ付キマシテハ政府ノ御答辯ハ、私ニ對スルモノモ亦既ニ衆議院ニ於ケル速記録ニ依リマシテモ、其ノ意味ノ國體ハ變ツタモノデアルト云フコトヲ、明確ニ仰セラレテ居リマス、又其ノ後ノ諸委員ニ對スル御答辯ニ於テハ、一層明確ニ仰シヤツテイラツシヤルノデアリマス、處ガモウ一ツ國體ノ大キナ意味ガアリマス、ソレハ金森大臣ノ仰シヤル國民ノ心ノ奥深ク根ヲ張ツテ居ル所ノ、天皇トノ繋ガリニ於テ、國民ガ統合シテ居ルト云フ、日本ノ特色ノ意味ノ國體デアリマス、此ノ意味ノ國體ハ從來不變デアルト云フコト、是ハ又政府ノ一貫シテ主張シテ居ラレル所デアリマス、斯ウ云フ風ニ理解シテ參リマスト、色々諸大臣ガ御答辯ナサレマシタガ、私ニハ矛盾ガアルトモ撞着ガアルトモ考ヘラレマセヌ、極ク素直ニ了解出來ルノデアリマシテ、又恐ラク質疑者ノ多クノ方々ノ御見解モ、其ノ邊ニ歸着スルノデハナイカト思ヒマス、要スルニ問題ハ國體ト云フ言葉ヲ、其ノ外ニモゴザイマセウガ、其ノ二ツノ孰レニ入レルカ、又其ノ孰レニ重キヲ置クカト云フコトニアルカト思ヒマス、政府ハ只今申上ゲマシタ中ノ第二ノ意味ノ國體ガ、日本ノ日本タルノ所以ノ特色デアルト云フ風ニ御考ニナリマシテ、此ノ意味ノ國體ガ變ラナイト云フコトヲ、特ニ強調セラレルモノノヤウデアリマシテ、是ハ恐ラク國民大衆ノ常識ニ合スル見解デハナカラウカト私モ思ヒマス、國民ハ多分、先日織田委員ノ仰シヤツタノモ同趣旨カトモ思ヒマスガ、日本ニ天皇在スト云フ一事ヲ以テ、日本ノ最モ重大ナ特色デアル、之ヲ失ヒタクナイト云フ風ニ考ヘテ居ルノダラウト思ヒマスガ、其ノ特色ヲ國體ト呼ンデ、ソレガ變ラナイト云フコトヲ政府ガ強調サレルト云フコトハ、十分ニ理由ガアルノデハナイカトモ思フノデアリマスガ、私ガ今迄伺ヒマシタ國體ニ關スル質疑應答ノ結果、大體サウ云フ風ニ了解致シタノデゴザイマスガ、ソレデ宜シウゴザイマセウカ、一應御意見ヲ御伺ヒシタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 私ノ述ベマシタ言葉ガ何カ彼ニカト一生懸命ニ言ツテ居ツテモ、不十分デアツタ爲ニ皆サンニ誤解ヲ招イテ居リマスガ、今宮澤委員ノ仰セニ依ツテ要點ヲ押詰メテ戴キマスト全ク其ノ通リデゴザイマス
○宮澤俊義君 次ニ實ハ國體ガ變ツタカ變ラナイカト云フコトヲハツキリ、政府ノ言明スルコトガ教育上必要デアルト云フヤウナコトガ問題ニナリマシタノデ、私ハ實ハ其ノ點ニ多少疑ヲ持チマシテ、學説ニ關スル事柄ニ付テハ、政府ガ餘リ公權的ナ解釋ヲ發表スルコトハ、如何カト思ヒマシテ、其ノ點御伺ヒ致シタイト思ヒマスガ、只今小山委員カラ同趣旨ノ質疑ガアリマシテ、御答辯ガアリマシタカラ是ハ省略致シマス、次ニ違ツタ問題デアリマスルガ、今度ノ憲法ニ於キマシテハ、多數黨ト云フモノガ非常ナ權力ヲ持ツコトニナリマシテ、ソコデ勢ヒ多數ノ支配ノ行キ過ギト云フコトガゴザイマスガ、ソレニ對シテ少數者ノ正當ナ權利ヲ擁護スルト云フコトガ必要ナコトハ申上ゲル迄モナイ所デアリマス、今日ノ少數者ガイツ多數黨ニナルカモ知レナイ、又ナルコトガ出來ル、少數者ガ何時デモ多數黨ニナルコトガ出來ルト云フ可能性ヲ確保スルコトガ、最モ重大デアルト云フコトハ申上ゲル迄モナイコトデアリマスガ、其ノ多數ノ横暴、多數ガ多數タル地位ヲ利用シテ、少數者ガ十分ニ存在シ、將來多數ニナル可能性ヲ剥奪スルト云フ危險ニ對スル保障トシテハ、新憲法ニ於キマシテモ、兩院制度デアルトカ、司法權ノ優越制度デアルトカ、色々ゴザイマスガ、其ノ中ノ私ハ一番重要ナモノハ、言論ノ自由ノ確保デアラウト思ヒマス、是モ憲法ノ十分認メテ居ル所デアリマスガ、唯其ノ言論ノ自由ヲ形式的ニ認メルダケデハ決シテ十分デハゴザイマセヌ、ソレヲ實質的ニ認メルコトガ最モ必要デアリマシテ、例ヘバ紙ノ問題、紙ガ公正ニ配給セラレルト云フコト、若シ統制ガ行ハレテ居ル限リハ‥‥又ハ「ラジオ」ト言ツタヤウナ獨占的機關ノ言論ガ公正ニ行ハレルト云フコト、斯ウ云フコトガ實ハ少數者ノ保護ト云フ爲ニ、言論ノ自由ヲ實質的ニ確保スル爲ニ、最モ必要ナコトデハナイカト思フノデアリマシテ、勿論政府モサウ云フ方向ニ十分御留意ノコトトハ思ヒマスガ、其ノ點ニ付テモ、御所見ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 只今ノ言論ノ自由ヲ形式的ニ保障シタダケデハ意味ガ少イノデアツテ、實質的ニ保障サルヽヤウニ諸般ノ制度ノ上ニ、實行ノ上デ法律ヲ適用シナケレバナラヌト云フ理由ハ、其ノ通リト心得テ居リマス、私ハサウ云フ事務ヲ所管シテ居リマセヌ爲ニ、實施面ニ直接效果ヲ持ツヤウナ意味ニ於テハ御答辯ヲスル資格ハゴザイマセヌケレドモ、意見トシテ全ク左樣ナ存ジマス
○宮澤俊義君 新憲法ノ下ニ於キマシテハ、國會ヲ初メトシテ地方議會ガ非常ニ大キナ權力ヲ持チマスカラ、議員ト云フモノ、地位ガ非常ニ重要ナモノニナリマス、處ガ議員ハ總テ選擧ニ依ツテ出テ來ル譯デアリマスガ、其ノ選擧ニ依ツテ出テ來ル議員ガ、成ルベク質ノ良イモノデアルト云フコトガ、此ノ種ノ政治形態ニ於ケル最モ必要ナ問題デアリ、且實際ニ最モ困難ナ問題デハナイカト思フノデアリマス、殊ニ選擧ト云フコトニナリマスト、色々問題ガゴザイマセウガ、一ツハ何ト言ツテモ金ノ問題デハナイカ、詰リ金ガナクテハ選擧ニ出ラレマセヌ、從ツテ國會ニ出テ貰ヒタイ、議員ニナツテ貰ヒタイト云フヤウナ人ハ議會ニ出ラレナイト云フコトニナルノデハナイカ、ソレニハ色々ムツカシイ問題ガゴザイマセウガ、尠ナクトモ其ノ對策ノ一ツハ選擧ニ金ガ掛ラナクナル、詰リ自腹ヲ切ツタリ借金ヲシタリシナイデ、普通ニ運動ヲシテ、ソレデ選擧ニ出ラレルト云フコトニナルコトガ非常ニ理想的ナノデハナイカ、マア是ハ非常ニムツカシイ問題カト思ヒマスガ、サウ云フ點ニ付テ、例ヘバ從來カラ問題ニナツテ居リマス選擧公營ト云フヤウナコトニ付テ、一ツ思ヒ切ツテ之ヲ強化スルト云フヤウナコトハ必要デハナイカト思フノデアリマスガ、サウ云フ點ニ付テノ御見込、御意見ナドモ御伺ヒ致シタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 今日ノ此ノ考ヘテ居リマスル民主政治ノ上ニ於キマシテ、形ダケハ紙ノ上デ出來マスルケレドモ、實際ノ運用ニナリマスルト、今仰セニナリマシタヤウナ選擧ノ上ノ技術的或ハ其ノ外ノ實際的面ノ考慮ガ非常ニムツカシイノデ、且又此ノ選擧心理ト申シマスルカ、今迄ニ發達シテ來タ所ノ選擧ノ實際ノヤリ方カラ釀シ出サレテ居ル一ツノ傳統ガアリマシテ、其ノ傳統ガ十分發展致シマセヌ限リハ、此ノ民主政治ガ花ヲ結ビ、實ヲ結ブト云フコトハ、可ナリ困難デアラウト思ヒマシテ、サウ云フヤウナ點ヲ如何ニスレバ宜イカト云フコトニ付、何トカシテ早ク纒ツタ結論ヲ得タイト始終心掛ケ、氣ニシテ居ル者デアリマシテ、殊ニ新タニ此ノ憲法ガ豫想シテ居リマスル參議院ナドノ關係ニ於キマシテハ、諸般ノ關係カラ一層新シイ意味ニ於ケル適當ナ方法ガ必要トナツテ來ル譯デアリマスケレドモ、何シロ御恥シイ次第デアリマスガ、ウマイ智慧ガナクテ、サウ云フ缺點ヲドウシタラ補正出來ルカト云フコトニ付キマシテ、現在デハマダ研究中デアルト御答ヘ申上ゲルヨリ外ニ致シ方ガゴザイマセヌ
○宮澤俊義君 同ジヤウナ趣旨ニ於キマシテ、新憲法ノ下ニ於キマシテハ、政黨ガ非常ニ重要ナ役割ヲ演ズルト思ヒマス、政黨ハ殆ド國家ノ公ノ機關ト言ツタヤウナ地位ヲ占メテ來ルノデハナイカト思ヒマス、政黨ノ總裁ハ即チ内閣總理大臣又ハ其ノ候補者ト云フコトニナルノデアリマシテ、其ノ領袖ハ國務大臣又ハ此ノ候補者ト云フコトニナルノデアリマス、從ツテサウナツテ參リマスト、政黨ノ働キト云フモノハ、或ハ其ノ構造、金ノ集メ方ト云ツタ問題ガ決シテ私事デハナクナリマスカラ、是ハドウ致シタラ宜イカ、私モ成案ガアル譯デハゴザイマセヌガ、必要ガアルナラバ其ノ點ニ付テ適當ナ立法的ナ方策ヲ、措置ヲ執ルコトガ妥當ナノデハナイカトモ考ヘラレルノデアリマシテ、此ノ點ハ私ニ何等成案ハナイノデゴザイマスガ、サウ云フ點モ考慮スル必要ガアルノデハナイカト平生カラ考ヘテ居リマスノデ、其ノ點ニ付テノ御所見、又若シサウ云フ御準備ガ御アリナラバ、サウ云フ點モ御洩シヲ願ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 今御尋ノ此ノ政黨ニ關シマスル何カ秩序ヲ國法ヲ以テ定ムルコトガ宜イノデハナイカト云フ御議論ハ、古クカラ、私共ガマダ法制局ノ參事官ヲシテ居リマシタ頃カラ、斯樣ナ問題ニ觸レマシテ、又其ノ後モ其ノヤウナ問題ガ政府部内ニ起ツタト云フコトヲ聞イテ居リマスルガ、要スルニ此ノ政黨ノ動キ方ヲ内部的外部的ト云フ風ニデモ考ヘマスカ、政黨ガ實質上如何ニ働クカト云フ問題ト、其ノ働キノ形式ニ付キマシテ何等カ規律アル制度ニスルカト云フ二ツノ點ニ分レル譯デアリマスルガ、政黨ノ妙味アル實質ノ動キヲ國家ガ法ヲ以テ律スルト云フコトハ恐ラク成立シナイ問題ト思ヒマス、併シナガラ政黨ノ謂ハバ外カラ見ユル形ト申シマスルカ、例ヘバ政黨ノ黨費ヲドウ云フ所カラ得ルカ、其ノ黨費ノ使ヒ方ガ公正デアルト云フコトヲ如何ニシテ保證スルカ、或ハ政黨ガ少數ノ活動ヲ致シマスル時ノ國法上ノ扱ノ上ハ取扱ヲドンナ風ニ決メルカト云フヤウナ點ニ付キマシテ、幾多考フベキ點ガアルト思ツテ居リマス、併シ伸ビテ行ク政黨ハ一ツノ生キ物デアリマシテ、之ニ對シマシテ人爲的ナ制約ヲ加ヘルコトハ事實不可能デアルノミナラズ、弊害モ亦豫想シ得ルノデアリマシテ、色々ナ外部的ナ制約デ之ヲ謂ハバ金縛リノヤウナ方法ヲ取ラウト致シマシテモ、事實ソンナコトデ生易シク拘束出來ルモノデモ何デモアリマセヌ、ソコニ却テ虚僞ガ發生シ、面白クナイ結果モ出ルモノト想像セラレマス、ソコデ左樣ナコトニ付キマシテ、世界ノ多クノ國々ガドンナ風ナ意見ヲ持ツテ居ルデアラウカト云フコトニ付キマシテ、先ヅ資料デモ集メテ‥‥少シ氣長デアリマスケレドモ‥‥ソレカラ研究シタイト、此ノヤウニ考ヘテ居リマス
○宮澤俊義君 大體私ガ御質疑申上ゲヨウト思ヒマシタコトハ終リマシタ
○委員長（安倍能成君） 澤田委員カラ關聯質疑ヲシタイト云フ申込ガアリマシタガ、是ハ大臣ニ向ツテ質疑サレルノデスカ
○澤田牛麿君 ソレハ大臣ニ向ツテデゴザイマス、其ノ以前ニ、マダ第二章ニ付テ私ガ質問致シタイト云フコトヲ通告シテアリマス
○委員長（安倍能成君） 其ノ申出ハ宜シウゴザイマスガ、關聯質疑ハ‥‥
○澤田牛麿君 關聯質疑ハ小山君ノ言ハレタコトニ付テ一言辯セザルヲ得ナイノデ、同時ニ之ヲ以テ私ノ憲法ニ對スル考トシテ政府ノ意見ヲ聞キタイ
○委員長（安倍能成君） ソレハ討論ノ方ニ廻サレタラドウデセウカ
○澤田牛麿君 討論トモ少シ違フコトデスガ、時間ノ都合若シクハ他ニ發言者ガ多ケレバ止メテモ宜シウゴザイマスケレドモ、今ノ小山君ノ御話ニ付テハ‥‥
○委員長（安倍能成君） 討論ニ‥‥
○澤田牛麿君 一言セザルヲ得ヌデハナイカト思フノデス
○委員長（安倍能成君） 討論會ニナツテシマフト困リマス
○澤田牛麿君 討論會ト云フ風ニナリマセウケレドモ、小山君ガ「チヤレンヂ」シタノデ、ソレニ應ジナイ譯ニ行カヌト思フノデス
○子爵織田信恒君 議事進行ニ付テ、色々御希望ガアルヤウデスガ、後モウ一人長谷川サンガ殘ツテ居ルト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 長谷川サンハ御止メニナツタノデス
○子爵織田信恒君 質疑者ハ是デ終リデスカ
○委員長（安倍能成君） イヤモウ一人、瀧川サンガアリマス
○子爵織田信恒君 後一人オアリニナレバソレヲ進行シテ戴イテ、ソレカラ今ノ御希望ヲ御諮ニナツタラ如何デスカ、後タツタ一人ナラバ時間ガアルデセウカラ‥‥
○委員長（安倍能成君） ソレヂヤ後ノ申出デハ質疑ガ濟ンデカラ‥‥
○澤田牛麿君 私ハ此ノ第二章ニ付テ總理大臣兼外務大臣ノ御意見ヲ伺ヒタイト思ヒマス、初メ九條ヲ見マスト、是ハドウモ日本デ言フコトヂヤナイ、他人ガ言フコトダト思ツタ、「これを保持してはならない。」何ガ講和條件デ押付ケラレタ文句ナラバ是ハ正當デアルケレドモ、此ノ憲法ノ文句ヂヤヲカシイト云フ感ジガスルノデアリマス、其ノ後衆議院ニ於テ修正セラレタヤウデアリマスガ、是ハ何デスカ、第二項ハ、平和條件ノ中ニ相手方ガ加ヘナイヤウニ、先走ツテ其ノ手ヲ封ズル爲ニ、日本ノ憲法デ軍備ハ持タナイト云フコトヲ言フ、サウスレバ相手方ガ一切軍備ヲ持ツテハナラヌト云フ「タームズ・オブ・ヒーズ」ノ中ニ入レナイデ濟ムト云フ御考デモアリマセウカ、此ノ二項ニ付テハ、チヨツトドウモ私共ノ想像ノ出來ナイコトデ、自分ガ憲法デ決メルナラバ、陸海軍ハ所持セズト言ヘバ宜イ、「保持してはならない」「認めない」トカ云フコトハ、ドウモ相手方ガ言フ言葉ノヤウニ思フ、唯言葉ノ問題デナシニ、サウ云フ考ガ腹ノ底ニアルカラ言葉ニ出テ來ルノヂヤナイカト思ヒマスガ、此ノ點ハ如何デゴザイマセウカ、ソレカラモウ一ツ、是ハ非常ナ想像デ、ソンナコトハ迚モ答ヘラレナイト言ハレヽバソレ迄ダガ、併シ第一次世界大戰ノ終リニ、第二次世界大戰ハ絶對ニナイト云フコトヲ有識者ハ言ツテ居ツタノガ、二十年カ三十年デ第二次世界大戰ガ起ツタ、ソレデ此ノ人類ノコトハサウ斷言ハ出來ナイモノト思ヒマスガ、將來若シ、是ハ稀有ノ場合デアリマスガ、ソンナ場合ニハ答ヘラレナイト云ヘバソレ迄デスガ、若シ二大國ガドツカト戰爭スルコトガアツテ、日本ガドツチカニ附カナケレバナラヌ破目ニナツタ時ニ、好ンデ何スルノヂヤアリマセヌガ、附カナケレバナラヌ破目ニナツタ時ニ、此ノ二章ノ規定ハドウ云フ效力ヲ生ズルノデアラウカ、其ノ點ガチヨツト伺ツテ置キタイノデアリマス、ソレカラ其ノ次ニハ、此ノ頃ノ「パリー」會議ノ樣子ヲ、私ハ向フノコトハ少シモ知リマセヌカラ、全ク文盲デアリマスケレドモ、新聞デ見マスト、「ナチ」ノ「サテライツ」ノ諸國ニ皆軍備ヲ許シテ居ル、是ハ極メテ少量デハアリマスガ、陸軍若シクハ海軍迄許シテ居ル状況モアリマス、サウスルト世界ガ日本ダケヲ「ディスアーム」スルト云フコトハチヨツト想像シ難イノデスガ、ツレ程酷ニ聯合國ガ日本ニ當ルデアラウカドウカ是モ想像シ難イ所デアリマシテ、日本ニモ「ヨーロッパ」ノ五ツノ國ト同ジヤウニ、極ク少數ノ軍備ヲ許サレルカモ知レヌ、是ハ全ク想像デスガ、ソンナ想像モ出來ナイコトハナイデアリマス、サウ云フ時ニ、憲法デ禁止シテ居レバ、折角相手國ガ許シテモ持テナイト云フコトニナル、ソレ迄ニスル必要ハナイノデハナイカ、ソレカラ又、軍備ト云フコトニ付テハ、成ル程是ハ惡用スルコトハ甚ダ怪シカラヌコトデアルガ、警察力ノ何ト云フカ、後楯トシテ或程度ノ軍備ヲ置イテ置カナケレバ、國内ノ秩序ノ完全ナル維持ト云フコトハ頗ル困難ナル場合モ出來ヤシナイカト思フ、ソレハ現ニ、今度ノ改正案デハドウカ知リマセヌガ、地方長官ノ官制ニ、地方長官ニ出兵ヲ要求スル權利ヲ與ヘテ居ルコトハ、何モ地方長官ガ外國ヲドウスルトカ、斯ウスルトカ云フコトデナイノデ、内地ノ治安ヲ保ツ場合ニ、警察力デハナカナカ行カナイ場合ニハ、地方長官ガ出兵ヲ要求スル權利、單ニ嘆願スルノヂヤナイ、要求スル權利ヲ認メテ居ル、是ハ即チ或種ノ兵備ガ國内治安維持ニ必要デアルト云フ一ツノ證據ニハナリハシナイカ、是ガ絶對ノモノヂヤナイガ、一ツノ證據ニナリハシナイカト思フ、サウ云フ點ニ於テ、總理大臣兼外務大臣ハドウ云フ御考ヲ持ツテ居ラレマセウカ、一應御教ヘヲ受ケタイト思ヒマス
○國務大臣（吉田茂君） 御答ヘ致シマス、八條、九條ノ規定ハ屡々本會議ニ於テ御説明申上ゲマシタガ、日本ニ對スル戰爭直後以來、日本ニ對スル再軍備デアルトカ、平和ヲ愛好セザル國デアルトカ色色ノ疑問ガアリ、此ノ疑問、疑惑ハ日本人ノ立場トシテ甚ダ不利デアル、其ノ不利ヲ除ク爲ニ、又日本ガ眞ニ平和愛好國家トシテ、世界ニ先立ツテ戰爭ヲ放棄スルコトニ依ツテ、日本ノ國民ノ意ノ在ル所ヲ徹底セシムル、所謂何ト申シマスカ、國外ノ情勢ニ對スル判斷ノ上カラ言ツテ見テモ、斯クノ如キ規定ヲ、他ノ憲法ニ類ヲ見ザル規定ヲ置クコトガ宜シイト考ヘテ政府ハ此ノ規定ヲ憲法ニ挿入シタノデアリマス、又將來ノ問題、所謂御話ノヤウナ戰爭ガ再ビ起ツタ場合ニ、日本ガ其ノ壓力ヲ受ケタ場合ト言ヒマスカ、戰爭ノ危險ガアツタ場合ハドウスルカ、是ハ所謂假定ノ場合ヲ私ガ外務大臣トシテ今日此處デ其ノ場合ヲ想像シテ彼此申述ベルト云フコトハ言明ヲ避ケタイト思ヒマス、ソレカラ治案維持ノ上カラ云ツテモ必要デハナイカト色々ナ御話モアリマシタガ、是モ假定ノ問題デアツテ、私ハ萬事ハ此ノ間此處デ申上ゲマシタガ、講和條約ガ出來テ後ノ状態ニ依ツテ判斷スベキモノデアツテ、今日治安ノ亂レタ場合、或ハ戰爭ノ危險ガ再ビ生ジタ場合ニドウスルカト云フ假定ノ場合ニ付テハ甚ダ御答ヘシ難イノデアリマス
○澤田牛麿君 只今ノ御答デ大體分リマシタガ、假定デナイ場合ノモノト私ハ思ヒマス、即チ内地ノ治安ノ問題ハ警察ニ關スル問題デ、假定ノ問題デハナイノデアリマス、無論現在事實起ツテ居ナイカラ假定ト云フ字ヲソコ迄持ツテ行ケバ假定デアリマスケレドモ、是ハアリ得ルコトデアリマスカラ假定ト云フ意味ハ私ハ承服シ兼ネル、内地ノ警察力ノ強化ノ爲ト言ヒマスカ、後ロ楯ト言ヒマスカ、少シバカリノ軍備ハ置イテ置ク方ガ宜イノデハナイカ、是ハ勿論相手國カラ軍備ヲ禁止スルト云フナラ、負ケタモノデスカラ已ムヲ得マセヌケレドモ、相手國ガ軍備ヲ禁止スルト云フコトヲ講和條約ニ入レルカドウカ是モ假定デアリマセウケレドモ、サウ云フ點ハムツカシイ問題デアリマセウガ、若シ相手國ガ多少ノ軍備デモ許ス、一萬デモ、二萬デモ内地ノ治安ノ爲ニ軍備ヲ許スト云フヤウナ意嚮ガアツタ場合ニ憲法デ先ニ軍備ヲシナイト云フコトヲ言ツテシマツタラ、折角ノ相手國ノ寛大サモ無效ニナル、斯ウ云フ點ヲ私ハ少シ惧レルト云フカ、殘念ニ思フト云フカ、ソレ迄急イデ此ノ憲法ニ規定シナイデモ宜イノデハナイカ、戰爭ヲ廢メルト云フコトハ結構ナ話デ賛成デアリマスケレドモ、一切ノ軍備ヲ持タナイト云フコトヲ憲法ニ急イデ規定スル必要ハナイヂヤナイカ、斯ウモ思ハレルノデス
○國務大臣（吉田茂君） 治安ノ維持ニ付テハ日本政府ト致シマシテハ警察力ノ増強ナリ、其ノ他ニ付テ有ラユル手段デ以テ治安ノ維持ヲ圖リ得ルノデハナイカ、軍隊ニ據ラザレバ治安ノ維持ガ出來ナイトモ考ヘラレナイト思ヒマス、又憲法ニ挿入致シマス理由ハ、先程申上ゲタ通リデアリマス
○長谷川萬次郎君 議事進行デスガ、モウ大體終ツタヤウデスカラ進行ニ對スル發言モ必要ナイヤウデスガ、又是カラ色々各論ニ入ツテ長ク續キマスカラ、チヨツト私ノ考ヲ申上ゲマスガ、私ハ實ハ質問ヲ提出シテ置イタノデスガ、取消シマス、ソレハドウモ今迄ノ質問ヲ拜聽シテ居リマスト、同ジ問題ニ付テ殆ド内容モ同ジ、多少ソレハ銘々ノ言フコトデアリマスカラ違ヒマスケレドモ、同ジコトヲ繰返シ繰返シ述ベラレテ、サウシテ又金森サンガソレニ對シテ一々御答ヘヲ爲サルト云フコトハ實ニ御苦勞デモアリ、オ互ニ御苦勞デモアリ、非常ニドウモ能率ヲ妨ゲルヤウニ私ハ考ヘラレマス、ソレデ此ノ上私ガ矢張リ質問シマスト云フト、私モ亦唯質問ノ要點ダケヲ述ベル爲ニモ自分ノ學問上ナリ何ナリノ説ヲ多少敷衍シナケレバナリマセヌト云フト矢張リ今迄ヤツタコトヲ繰返スコトニナル、私ハ己ノ欲セザルコトヲ人ニ施ス勿レト云フ意味デ取消シタノデアリマス、サウ云フ譯デアリマスカラ、今迄ノ議事進行ヲ見マスト、能率ノ上ラナイコト夥シイ、日本人ノ協議ノ仕方、斯ウ云フモノニ付キマシテ私ハ始メテ斯ウ云フ席デ接シタノデアリマシテ、斯ウ云フコトデハ能率ガ上ラナイ、官廳デモ會社デモ一日斯ウ云フコトヲヤツテ居ラレルト思フト非常ニ前途ガ悲觀サレルノデアリマス、ソレデ私ハ取消シタノデアリマス、デスカラドウカ皆サンモ色々仰シヤリタイコトモアル、今小山サンガ仰シヤラレタヤウニ斯ウ云フ際ニ於テ銘々ガ所見ヲ述ベテ腹藏ナクソレヲ言ツテ、全體ヲ陶冶スルニハ確カニ必要ダト申サレマシタケレドモ、是ハ新聞ナリ、雜誌ナリガアリマスカラサウ云フ所デ十分ニオヤリニナツタラ宜カラウト思ヒマス、政府ノ方デモ斯ウ云フ會議バカリニ依ル言論ヲ御覽ニナラナイデ、サウ云フ世間ノ雜誌ナリ新聞ナリノ言論ヲ詳シク檢討サレテ、ソレデ考慮サレタラ宜イ、斯ウ云フ所ノ仕事ヲサウ云フコトノ爲ニ徒ニ時日ヲ延スト云フコトハ大イニ考フルベキダト思ヒマスシ、是ハ銘々ノ諸君ガ自肅シテ戴キタイト思ヒマス、今後斯ウ云フ會議ガアリマシタラ議長ハドウカ御注意ヲ一々願ヒマシテ、早ク進行スルヤウニ御盡力ヲ願ヒマス、是ダケ申上ゲテ置キマス
○委員長（安倍能成君） 今日ハ是デ散會致シマス、明日ハ午前十時カラ開會致シマス
午後三時五十二分散會
出席者左ノ如シ
委員長 安倍 能成君
副委員長 伯爵橋本 實斐君
委員
公爵岩倉 具榮君
侯爵細川 護立君
侯爵中山 輔親君
侯爵淺野 長武君
伯爵後藤 一藏君
三土 忠造君
子爵大河内輝耕君
大谷 正男君
男爵白根 松介君
子爵織田 信恒君
子爵三島 通陽君
子爵松平 親義君
山田 三良君
平塚 廣義君
佐々木惣一君
松村眞一郎君
男爵今園 國貞君
男爵飯田精太郎君
霜山 精一君
下條 康麿君
川村 竹治君
岩田 宙造君
高柳 賢三君
南原 繁君
男爵松田 正之君
男爵渡邊 修二君
男爵松平 齊光君
田所 美治君
野村 嘉六君
澤田 牛麿君
松本 學君
宮澤 俊義君
結城 安次君
瀧川 儀作君
小山 完吾君
長谷川萬次郎君
山本 勇造君
淺井 清君
渡邊 甚吉君
國務大臣
内閣總理大臣兼外務大臣 吉田 茂君
國務大臣男爵幣原喜重郎君
國務大臣 齋藤 隆夫君
國務大臣 金森徳次郎君
政府委員
法制局長官 入江 俊郎君
法制局次長 佐藤 達夫君
外務事務官 大野 勝己君
