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第九十回帝國議會貴族院 帝國憲法改正案特別委員會議事速記録第九號
付託議案◎帝國憲法改正案
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昭和二十一年九月十日（火曜日）午前十時九分開會
○委員長（安倍能成君） ソレデハ會議ヲ開キマス、昨日牧野サンカラ前文ニ付テ精細ナ字句ニ關スル御質疑ガアツタノデゴザイマス、是ハ内容ニモ關係スルコトデアツテ、相當重要ナコトデアルト云フコトハ認メマスケレドモ、斯ウ云フ風ニシテヤツテ行キマスト、議事ノ進行上多少差支ガアリハシナイカト云フ虞モアリマスカラ、ソレデ字句ニ付テ御意見ノアル方ハ文書ニシテソレヲ差出シテ戴イテ、ソレヲ印刷シテ皆サンニ御廻シシテソレカラ一括シテ後ノ仕上ノ時ニ十分討議スル、斯ウ云フコトニシタラ宜カラウト云フ世話人ノ御意見デアツタノデスガ、御差支アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○牧野英一君 字句ノ問題ノ外ニソレガ内容ニ重要ナ關係ヲ持ツテ居ルト云フ點ハ一應皆樣ノ御考ヲ伺フ爲ニ此ノ席上ノ問題ニスル所ノ御許ヲ願ヒタイト思ヒマスガ、如何デスカ、單純ト申シマシテハ濟ミマセヌガ、例ヘバ昨日申上ゲマシタヤウナコトハ以下之ニ同ジデ行キマスガ、例ヘバ第一章ニ付テ申シマスルト、天皇ノ憲法上ノ地位ト關聯スルヤウナ實體上ノ關聯ノアルモノハ御許ヲ願ヒマス
○委員長（安倍能成君） デハ長谷川委員昨日ノ前文ノ續キデアリマス
○長谷川萬次郎君 前文ノ前ノ方ノ色々字句ノ問題等ニ於テ質問ガアツタノデスケレドモ、此ノ前皆サンノ御質問ニ依ツテ大體了解サレマシタノデ略シマスガ、後半ノ方ノ終ヒカラ二番目ノ項デアリマスガ、「われらは、いづれの國家も、自國のことのみに專念して他國を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、云々」トアリマスガ、ドウモ之ヲ讀ンデ見ルト少シヲカシイノデスガ、ソレハ自國ノコトノミニ專念シテ他國ヲ無視スルト云フノハ、是ハ此ノ憲法ヲ出サナイ前ノ、此ノ憲法草案ノ作ラレナイ前ノ、詰リ終戰以前ノ我ガ國ノ態度デアツタト思フノデス、自國ノコトノミニ專念シテ他國ヲ無視スルト云フコトハ、ソレヲ飜シテ斯ウ云フ憲法ガ作ラレタ譯デアリマス、自國ノコトノミニ專念シテ他國ヲ無視スルト云フコトハ問題ニナラナイ、ソレヲ愈々憲法デ斯ウ云フ風ニ持ツテ來ル理由ガ分ラナイト思ツタノデスガ、英譯ノ方ヲ見マスト云フト、自分自身ニ對シテ責任ガアルノミデナイ、如何ナル人民モ自分自身ニ對シテノミ責任ガアルノヂヤナイ、詰リ政治的ノ「モラリティ」ト云フモノハ「ユニバーサル」ノ「ロー」デアルカラ、ソレニ如何ナル國民モ從ハナケレバナラヌ、斯ウ云フ風ニ譯サレテ居リマスガ、是ハ誤譯カモ知レマセヌガ、此ノ誤譯ノ方ガ意味ガ徹底スルト思フ、詰リ我ガ國ハ自國ノコトノミニ專念シテ他國ヲ無視シタト云フ態度ヲ改メル爲此ノ憲法ヲ作ルノデアリマスガ、此ノ憲法ニ於キマシテハ一歩ヲ進メマシテ、自國民ニ對スル責任ノミデハナク世界ノ政治道徳ニ對スル責任ヲ持タナケレバナラヌト云フ風ニ規定シテコソ此ノ前文ノ意味ニ適フト思フノデス、既ニ改正シタ、昔ノ法則ヲ持ツテ來テ斯ウ云フ風ニ、昔ノ態度ニ對スルコトヲココニ持ツテ來ルヨリハ一歩進ンデ譯文ニアルヤウナ、自國ノ人民ニ對シテノミ責任ヲ持ツモノデナイト云フ所カラ、唯自國ヲ前ノ封建的ナ體制ヲ改メテサウシテ平和ノ國ニシタト云フコトハ、自國民ニ對シテノ責任ハソレデ果サレルカモ知レマセヌガ、如何ナル人民モ、サウ云フ點ダケデハイケナイ、詰リ世界ニ對スル責任ヲ感ジテ居ナケレバイケナイト云フ所ニ一歩ヲ進メタノガ此ノ所ノ意味デアツテ然ルベキダト思ヒマスガ、サウナツテ居ラナイノデアリマス、ドウシテ斯ウ云フ風ナ書方ニナツタカト云フコトヲ推測シテ見マスルト、ドウモ我ガ國ガ詰リコヽニ書イテアルヤウナ自國ノコトノミニ專念シテ他國ヲ無視スルト云フヤウナ態度ノ爲ニ斯クノ如ク破レタ、然ラバ其ノ以上ニドウ云フ發展ヲスベキデアルカト云フ認識ノ不足ダラウト思フノデアリマスガ、第一ノ認識ノ不足ハ斯ウ云フ戰爭ヲ起シタト云フコトニ對スル責任感ノ不足ダラウト思フ、第二ノ不足ハ、更ニサウ云フ責任ヲ持ツモノニ代ル、サウ云フ責任ノアルナシニ拘ラズ、世界國家ノ責任デ、「ポリティカル・モラリティ」ト云フモノニ對スル責任ヲ持ツト云フコトハ、如何ナル國民ニ取ツテモ譯文ニアルヤウニ、如何ナル國民ニ對シテモサウナケレバナラヌ、サウ云フ第二段ノ責任ヲ感ズル譯デアル、併シ第二段ノ責任迄進ミ得ナカツタノハ、第一段ノ責任ノ自國ノ起シタ戰爭ニ付テノ責任ヲ此ノ憲法ノ起草者ナリ國民ノ多數ナリガ適切ニ感ジテ居ラヌコトダト思フ、詰リ戰爭ヲ起シタノハ今戰犯其ノ他デ被告トナリ追放ノ對象トナツテ居ル人々デアル、我々ハ其ノ後ヲ引受ケテ日本ノ國家ヲ建直スノダト云フ風ナ考デアルノヂヤナイカト思フ、勿論今働イテ居ラレル方ハ戰時中、戰前ニ於キマシテモ斯ウ云フ戰爭ノ起ルコトニハ反對サレタ方ガ多イ、戰時中ニ於キマシテモソレハ國民トシテ敗ケテハナラヌト云フ所デ協力ハシマシタガ、其ノ程度ノ協力デアリマシテ、決シテ戰爭ヲ肯定シテノ協力デハナカツタ、今現ニ働イテ居ル方々ハ政府ノ方々ヲ初メ民間ノ人々ト言ヒ皆サウデアル、其ノ結果、何カ自分ダケハ責任ノナイヤウナ氣持ヲ皆持ツニ至ツテ居ルダラウト思フ、チヨツト市中デ話ヲ聽キマシテモ、何カ戰爭ハ外ノ者ガヤツテ俺達ハ關係シナカツタ、引摺リ込マレタノデアルト云フ風ニ唯感ジテ居ルラシイ、恐ラク政府當局モサウ云フ御考デアル所カラ斯ウ云フ文句ヲ思ハズ挿入シテ、サウシテ其ノ先一歩進メタ、常識デ考ヘテ一歩進ムベキモノト云フ、此ノ文章ヲ譯スル者ガサウ云フ誤譯ヲスル程ソレハ常識ノコトデアリマス、サウ云フ常識的ノコトモ忘レル位國民トシテノ責任ト云フモノヲ感ジナカツタト云フコトデハナカツタラウカト思フノデアリマス、此ノ點ニ付キマシテハ、更ニ戰爭抛棄ノ條項ニ對スル場合ニ政府當局ノ御答ヲ得ヨウト考ヘテ居リマスガ、此ノ前文ニ於キマシテハ、ドウ云フ意味デ日本ノ國家ガ唯、今迄ノ態度ヲシテハナラナイト云フコトヲ避ケテ、サウシテ是等ノ目的ヲ掲ゲルコトヲシナカツカト云フコトニ付テ御答ヲ得タイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 長谷川委員ノ御質疑ノ點ハ少シ聽キ落シタ點ガアルカモ知レマセヌガ、「われらは、いづれの國家も」ト云フ所カラノ此ノ文章ハ、客觀的ニ眞理ヲ言ヒ現スト云フ態度ヲ採ツテ居リマシテ、日本ガドウ云フ間違ヲシタカ、之ニ對スル自ラ償フ所ノ念慮ガ如何ニ厚イカト云フコトヲハツキリコヽニハ言ヒ現シテ居リマセヌ、唯一般的ナ態度ヲ採ツテ、斯ク々々ノコトガ正シイト思フ、ソレデ斯ク々々スルコトガ各國ノ責務デアラウ、斯ウ客觀描寫ヲシテ居リマス、併シ斯樣ナ風ニモノヲ言ヒ現シマス根柢ニ於テ、此ノ憲法全體ガ自ラヲ反省シテ日本國民ガ本當ニ目醒ムベキデアリ、其ノ目醒ムベキ段階ヲ通リ越エ、目醒メテ居ルト云フコトヲ基本トシテ書イテ居リマスル所以デアリマシテ、英譯ト違ツテ居ルトカ仰セニナリマシタガ、左樣ナ所ニ特別ナ差ハナイモノト心得テ居リマス
○長谷川萬次郎君 只今ノ御答辯ハ私ノ質問スル所トハ少シ外レテ居ルヤウニ思ハレマスガ、詰リ此ノ憲法ハ私共トシテハ懺悔ノ憲法デハナイノデアリマシテ、モツト前進的ノモノダラウト思フノデス、全體ガサウ云フ構成ニナツテ居リマシテ、唯消極的ニ何々シテハナラヌト云フヤウナコトデハナク、寧ロ進ンデ斯ウシナケレバナラヌト云フコトヲ詰リ主ニ規定シテ居ラレルト思フノデアリマス、其ノ意味カラ申シマスト、無論此ノ文句ヲ入レタコトガ惡イト私ハ申シタノデハナク、一歩前進スルト云フ此ノ憲法ノ精神カラ當然入ルベク、如何ナル國家モ世界ニ對シテ責任ヲ負フ所ノ其ノ責任ヲドウシテ御入レニナラナカツタカト云フコトヲ御尋ネシタノデアリマスガ、若シ氣付カレナカツタノナラバサウ云フ文句ヲ御入レニナツテハドウカ、御入レニナルニハ不賛成デアルカト云フコトニ付テ御答辯ヲ得タイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 仰セハ能ク分リマシタ、此ノ憲法自身ノ建前ガ兎モアレ日本ノ再興ト云フコトニ立場ヲ置キマシテ、比較的謙抑ナル態度ヲ執ツテ居リマスルガ故ニ、日本以外ノ國ヲ明カニ茲ニ引出シテ、ソレニ強ク或義務ヲ負ハセルヤウナ風ノ規定ヲ避ケタ譯デアリマシテ、常ニ日本ヲ中心トスルト云フ考ノ範圍ニ言葉ヲ限定致シマシテ、日本ノ現在アル國際的ナ地位ニモ相應シキ形ヲ執ラウ、斯ウ云フ風ノ考ヲ以チマシテ、從ツテ積極性ガ十分デナイト云フ御趣旨モ起リ得ル譯デアリマスルガ、考ヘ方自體ハ左樣ナコトデ出來テ居ル譯デゴザイマス
○長谷川萬次郎君 サウ致シマスルト、「いづれの國家も」ト云フコトヲ御削リニナツタ方ガイヽト考ヘマスルガ、如何デアリマスカ、削ラレタ方ガアナタノ御趣旨ニ適スルノヂヤアリマセヌカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 徹底ヲスレバ左樣ナ考ヘ方モ理由ガ成立ツモノト考ヘテ居リマスルガ、コヽデハ謙抑ナル姿ヲ以テ我ラハ斯ク信ズルト云フ大キナ前提ノ下ニ一ツノ普遍的ナ原理ト考フルモノヲ此ノ程度ニ於テ立證シテ居ル次第デアリマスルカラ、ソコ迄論理ヲ徹底サセナクトモイヽノデハナイカト考ヘテ居ル次第デアリマス
○長谷川萬次郎君 併シ「いづれの國家も」ト云フ言葉ガアル以上ハ、斯ウ云フ消極的ナモノバカリデナク、矢張リ進ンデ此ノ憲法ノ趣旨ニ適フ所ノ世界ニ對スル國家ノ責任ト云フモノヲ明カニ言ハレタ方ガイヽト思ヒマスガ、斯ウ云フ問答ヲ何時迄繰返シテ居ツテモ駄目デスカラ、私ノ質問ハ此ノ點ニ關シテハ打切リマス
○委員長（安倍能成君） 是デ前文ノ質疑ヲ終リマシテ、第一章ニ移ル譯デアリマスガ、第一章ノ質疑ノ仕方ヲドウ云フ風ニシタラ宜シウゴザイマスカ、色々考ヘラレマス、逐條ニズツト第一條第二條トヤツタ方ガ宜イト云フ御説モアリマスケレドモ、相當皆關聯シテ居ルヤウナコトデ、關聯質問ト云フヤウナコトニナリマスト、折角逐條ニシテモ、ソレダケノ効果ガナイ譯デスカラ、試ミニ第一章ニ付テハ御申出ノ順序ニ從ツテ第一章全體ニ付テ御審議ヲシテ戴ク、サウシテ重複ヲ出來ルダケ避ケテ戴ク、斯ウ云フ風ニヤツテ見タラドウカト思ヒマス
○牧野英一君 皆サンニ先立ツテ質疑ヲ申上ゲルコトヲ皆サンニ對シ恐縮ニ存ジマスル、各位ノ質疑ヲ伺ツタ上デ附屬的ニ私ガ申上ゲル方ガ宜カツタカト思ツタ位デゴザイマスルガ、例ニ依ツテ細カイ點ニ付テ色々申上ゲテ見タイコトガゴザイマスルガ、ソレハ各條特ニ個別的ノコトニ讓ルト云フコトニ致シマシテ、天皇ノ憲法上ノ地位ニ關スル點ニ付テ特ニ御伺ヒ致シタイト思ヒマスル、第一條、ソレカラ第三條、第四條、第七條、之ニ牽聯スルコトデアリマスル、第一條ニ「象徴」ト云フ言葉ノアルコトガ前々カラ色々御議論ニナリマシタガ、段々當局ノ御説明ヲモ伺ヒ、御苦心ノ存スル所ヲ理解スルコトニナリマシタ、私共ト致シマシテハ「象徴」ト云フ言葉ヨリモモウ少シ強イ言葉ガ願ハシイノデ、例ヘバ元首ト云フ言葉ヲ用ヒタラドウカト云フコトヲ考ヘルノデアリマス
〔「聞エマセヌ」ト呼フ者アリ〕
○牧野英一君 高柳委員ヨリ細カイ點ニ亙ツテノ‥‥
〔「聞エマセヌ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） モウ少シ大キイ聲デ御願ヒ致シマス
○牧野英一君 高柳委員ヨリ細カイ點ニ亙ツテノ懇切ナ質疑ガアリマシテ、天皇ハ結局元首デアル、其ノ實體ニ於テ元首デアルト云フコトニ付テハ金森國務相ニ於テモ御異論ガナカツタヤウニ伺ヒマシタ、ソコデ私トシテハ「元首」ト云フ言葉ヲ御用ヒ下サルコトヲ希望スルノデゴザイマスルケレドモ、此ノ點ハ尚委員各位ノ御考慮ヲ仰グコトニ致シマシテ、セメテ此ノ二ツノ象徴ト云フ文字、ソレノ後ノ方ヲ國民統合の「中心」ト云フヤウナ言葉ヲ用ヒルコトニ願ハレマスマイカ、此ノ「中心」ト云フ言葉ヲ用ヒマスルト云フト、少シ強味ガ着キマスル、ソコニ結局問題ガアリマセウガ、ソレニ依ツテ恐ラクハ國民全般トシテハ少クトモ多少、ヨリ滿足スルト云フヤウナコトガアリマスマイカ、ソレガ第三條ニ直接ニ響イテ參リマス、第三條ニハ「天皇の國事に關するすべての行爲には、内閣の助言と承認を必要と」スルト云フコトニナツテ居リマスル、助言ト承認ト云フ言葉ガ天皇ノ憲法上ノ地位ヲ示ス言葉トシテ、我々ガ希望シ理解シテ居ル所トドウモ相距タルモノガアルヤウニ思フノデアリマス、是モ當局ノ御苦心ノコトヲ十分拜察シナイ譯デハゴザリマセヌガ、我我トシテハ矢張リ天皇ヲ象徴トシ中心トシ、元首トシテ奉ツテ居ルト云フ考ガアルモノデゴザリマスルカラ、「助言」ト云フヤウナ言葉デハ、サモ内閣ノ方ガ天皇ヨリモ上ニ位スルヤウニ、況ンヤ「承認」ト云フ言葉ニナリマスルト、他ノ例デハ國會ガ内閣ノ行爲ヲ承認スルト云フ言葉ガ草案ニ三所現レテ居ルト思ヒマスルガ、如何ニモ物足リナイ心持ガアルノデアリマス、是ハ何トカ御考ヘ直シヲ願フ餘地ガナイモノデセウカ、私トシテハ過日「助言」ニ代ヘルノニ「進言」ト云フ言葉ヲ以テシタラドウカト云フコトヲ申出マシタ次第デアリマスルガ、「承認」ニ付テハ今日尚私トシテノ成案ヲ得マセヌケレドモ、少クトモ國會ガ内閣ニ對スル承認ノ場合トハ言葉ヲ異ニスルト云フコトニ依ツテ、其處ニ色合ヲ着ケテ戴クト云フ餘地ガナイモノデゴザイマセウカ、サウ云フ心持ハ更ニ第四條ニ及ビマスルノデ、「天皇は、この憲法の定める國務のみを行ひ、政治に關する權能を有しない」、趣旨ハ能ク私理解出來ルト思ヒマス、ケレドモ、ドウモ「のみ」ト云フ言葉、「權能を有しない」ト云フ言葉、是ハドウモ我々國民ガ天皇ニ對シテ持ツテ居ル感ジヲ現ス用語デハナイト思フノデアリマス、私ノ試案ト致シマシテハ、「天皇はこの憲法に依つて國事に關する行爲を行ひ、國政に關與しない」斯ウ云フ風ニ「のみ」ト云フ言葉ヲ省キ、有シナイト言フ言葉ヲ關與シナイト云フ風ニ、權能ヲ有シナイト云フ言葉ヲ關與シナイト云フ位ニ變ヘルコトニ依ツテ感ジヲ新タニスルコトガ出來ナイカト思フノデアリマス、ソレガ直チニ第七條ニ響イテ參リマスルノデ、第七條ニ於テハ同ジク助言、承認ヲ受ケル規定ニナツテ居リマスルガ、此ノ中味ヲ段々考ヘ合セマスルト云フト、高柳委員ヨリ細カニ御話ニナツタ通リ、何處迄モ國家ノ元首タル地位ヲ明カニシタモノデアリマス、殊ニ此ノ中デハ私ノ疑ヲ持ツテ居リマスルノハ、衆議院ノ解散ノコトデアリマシテ、解散ノコトハ内閣ノ方ニハ直接ノ明文ニハナイカト心得テ居リマス、第六十一條以降ス第五章ノ内閣ノ所ニ解散ニ付テノ特別ナ規定ハナイヤウニ思ヒマスル、固ヨリ進言ト承認トニ依ツテ天皇ノ行ハセラルヽ行爲ニ屬スルノデアリマスルケレドモ、矢張リ解散ヲスルコト、解散ノ内容ヲ茲ニ表シテアリマスルノデ、解散ヲ認證スルノデモナケレバ、宣言スルノデモナイ、解散其ノモノガ天皇ノ權能ノ中ニ入ツテ居ルト云フコトニナリマスル、斯樣ニ考ヘマシテ、天皇ノ憲法上ノ地位ヲ少クトモ先ヅ第一ニハ内閣ニ對シモウ少シ高メラレタコト、高マツタモノデアルト云フコトヲ明カニスルコトノ心遣ヒヲシタラバドウ云フモノデアラウカト思フノデアリマス、結局是等ノ用語ニ依ツテ、將來憲法ヲ理解スル者ガ我々ノ國民生活ノ中心タル天皇ヲ餘リニ低ク見ルト云フコトニナリハシナイデゴザリマセウカ、國會ガ最高ノ機關デアルト云フコト迄ニ手ヲ加ヘル御積リデハゴザイマセヌケレドモ、天皇ニ對スル言葉遣ヒ、從ツテ憲法上ノ地位ニ付テハモウ少シ加減ヲスルコトガ如何カト思フノデアリマスルガ、是ガ當局ニハ尚私ノ思ヒ寄ラヌ御考モ御アリニナルコトト思ヒマスルカラ御釋明ヲ願ヒタウゴザイマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 牧野委員カラ第一章ノ天皇ニ關シマスル色々ナ文字ノ點ニ付キマシテ御教ヘヲ戴キマシタ、仰セノ通リノ考ヘ方ヲ中心トシテ説明ヲスルモノトスレバ、牧野委員ノ仰セニナルコトハ全部左樣デアルベキデアルト云フ結論ガ導カレ得ルモノト考ヘテ居リマス、併シ不幸ニシテ私ハ極力此ノ點ニ付キマシテ、原案ヲ御主張申上ゲナケレバナラナイト云フ、私トシテハ誠ニ牧野委員ニ對シテ心苦シキ立場ニ立ツ次第デゴザイマス、最初ニ御質問ノ順序ニ從ツテ申シマスルガ、初メ牧野委員ハ私ガ高柳委員ニ對シテ元首ト云フ言葉ノ御質問ニ對シテ、大體元首ト考フルコトニ異論ナキガ如キ答ヲシタト云フ風ニ御述ニナリマシタガ、是ハ稍々言葉ノ上ニ於キマシテ簡單ニハ考ヘラレナイ所デアリマシテ、私ハ其ノ時ニ言葉ヲ使ヒマスル上ニ相當用意ヲシテ御答ヲシタト思ヒマスガ、決シテ天皇ガ元首デアルト申シダ譯デハアリマセヌ、一口ニ言ヘバ國際關係ノ儀禮ノ上ニ於テ元首ノ如ク扱ハレテ行クコトニナルデアラウト云フコトヲ申上ゲタノデアリマシテ、天皇ヲ直チニ元首ト云フ言葉ヲ以テ無條件ニ言ヒ現スコトニ於キマシテハ、明カニ條件ノアルコトヲ申上ゲテ置イタ積リデアリマス、ソレヲ條件ト致シマシテ大體此ノ憲法ノ建前ノ根本ヲ御説明ヲ申上ゲナケレバナリマセヌガ、私共ハ激シイ戰爭ノ經過ヲ取リマシテ、諸般ノ點ニ於テ隨分考ヲ改メナケレバナラナイ點ガアル譯デアリマス、獨リ是ハ日本ダケノ立場ヲノミ最高ノ原理トシテ考ヘ得ベキモノデハナク、色々ナル、普遍的ナル立場ニ立チツヽ事物ヲ考ヘテ行カナケレバナラヌト存ジテ居リマス、過日來申上ゲテ居リマスルヤウニ、國民ノ基本的ナル心持ト云フモノハ、是ハ法律ノ決メル所デハナイノデアリマス、我々ガ生キテ居ル限リ其ノ心ガ變ラザル限リ持ツテ居ルノデアリマスルカラ、國體ハ儼トシテ變ル所ナク存シテ、居ルト云フコトハ明カニ申上ゲテ居リマスルケレドモ、其ノ上ニ建設サルベキ政治機構ノ面ニ於キマシテハ、日本ガ過去ノ色々ナ事實ニ依ツテ經驗致シマシタ所ヲ綜合シテ、又冷嚴ナル眞理ニ相應シキ、又國民ニ無用ナル誤解ヲサセナイヤウニ留意ヲシテ規定ヲシテ行カナケレバナラヌト思ヒマシテ、其ノ段階ニ於キマシテ此ノ憲法ニ用ヒマスル文字ガ或ハ不適當デアルト云フ御考ノ出來ル場面モゴザイマセウ、併シ不適當ナル所モ他ノ一面カラ見マスレバ又適當ナルモノデアルト云フ意味ヲ持ツテ居ルノデアリマシテ、國民ノ誤解ガ其ノ言葉ノ綾ニ依ツテ或程度迄改善セラレ得ルト云フコトモ考ヘラレルノデアリマス、其ノ趣旨ニ基イテ憲法ハ幾多ノ文字ノ調節ヲ圖ツタ譯デアリマスルガ、第一條ニ於キマシテ象徴ト云フ言葉ハ牧野委員ハ一應御承認ニナツタヤウデアリマスルガ二ツ目ノ象徴ヲ日本國民ノ統合ノ中心デアツテト云フ風ニシタイト云フ御考デアリマシタ、其ノ根本ニ於テ、國民結合ノ確カニ精神的ナル繋リノ基デアルト云フコトヲ認メラレマス、併シ茲デ考ヘテ居リマスノハ、天皇ヲ見レバ日本國民ガ一ツニナツテ居ルト云フ姿ガハツキリ直感的ニ指示シ得ラレル、謂ハバ、表現的ノ意味ニ用ヒマシタ、或時、或意味ニ於テノ表現ト云フ言葉ガ持ツテ居ル意義ニ用ヒラレマシタ象徴デアリマシテ、其ノ基本ノ所迄踏込ンデ國民精神ノ中ニ迄分解シテ、之ヲ規律スル趣旨デハナカツタノデアリマス、何故ソレヲ規律シナイカト言ヘバソレハ嘗テモ申シマシタヤウニ、斯樣ナ法律的制度ノ基盤ニ横ハルモノデアツテ、ソレヲ法律世界ニ持チ出スコトニ付テハ諸般ノ立場カラシテ考ヘ得ベキ理由ガアルト信ジタカラデアリマス、デアリマスガ、私ノ言葉ハ甚ダマヅイノデアリマシテ、御得心ヲ得ルコトハ出來ナイカモ知レマセヌガ、茲ハ靜カニ天皇ヲ外カラ仰ギ見タ場合ニ一ツノ法律上ノ地位ヲ書キ現スモノトシテ御承認ヲ願フ譯デアリマス、サウスレバ中心ト云フコトハ、必要ナル心持ニハ規定ノ内容トナルベキコトトハナツテ來ナクテ宜イノデハナカラウカト考ヘテ居ル次第デアリマス、ソレカラ次ニ助言ト承認ノ點ニ付キマシテ色色仰セニナリマシタ、其ノ言葉ガ誠ニ世俗一般ニ用ヒラレテ居ル言葉デアリマスルガ故ニ、在來ノ考カラ天皇ニ對シテ當嵌ルベキ言葉トシテハ、誠ニ感心ナ言葉デハナイト云フコトハ私共モ心ヨリ了解シテ居リマス、併シナガラ平易ナ言葉トシテ申上ゲマスルナラバ、矢張リ此ノ言葉ガ適當デハナカラウカ、何故カト申シマスレバ、今後世襲ノ天皇トシテ、且又無答責ナル天皇トシテ、而モ國家ノ永久ノ政治ノ上ニ間違ノナイヤウニ行クベキ立場デアラセラレマスル爲ニ、ドウシテモ一般立憲國家ノ君主制ニ伴ツテ居ルヤウナ特殊ナ政治ノ御執リ方デナケレバナラヌ、從來トテモ恐ラクハ左樣デアツタデアリマセウ、私共ハ左樣デアツタト信ジテ居リマスケレドモ、世間ノ見ル所ハ必ズシモサウデハナカツタ、何故カト言ヘバ現憲法ノ文字デ輔弼ト云フヤウナ古イ支那ノ含蓄ノアル特殊ナ感ジノアル文字ヲ使ツテ、又之ニ對スル説明ノ仕方ガ何トナク十分デナイ爲ニ、天皇神聖説迄モ生ミ出シタ結果ト信ジテ居リマス、斯樣ナ種々ナル考慮カラ致シマシテ、ハツキリ何人モ疑惑ヲ持タナイヤウナ言葉ヲ用ヒタイト思ツタ譯デアリマス、サウシテ茲ニ選ビマシタノガ助言ト承認ト云フ言葉トナツテ來タ、助言ト云フ言葉ハ言葉ノ性質ニ於テ左程御懸念ニナルベキ程卑シイ言葉デハナイト思ツテ居リマス、私ハサウ思ツテ居リマス、是ハ言葉ニ對スル感覺デアリマスカラ、多クノ議論ヲ申上ゲル力ハアリマセヌケレドモ、併シ國務大臣カ、或ハ内閣カ、天皇ニ對シテ御間違ノナイヤウニ心血ヲ注イデ御耳ニ達シテ、其ノ御方針ヲ御決シニナル標準トセラレマスルト云フコトニ付テ、如何ニモ適切ニ其ノ内容ヲ現シテ居ル言葉ト思フ譯デアリマス、ムヅカシイ言葉ヲ使ツタラ天皇ガ尊クナル譯デモ何デモナイノデアリマシテ、斯樣ナ卑俗ナル言葉ハ‥‥、私ハ寧ロ卑俗ト云フコトガ却テ適當デナイト斯ウ云フヤウニ考ヘテ居リマス、次ニ承認ト云フ言葉ハ、是ハ成ル程國會ガ内閣ニ對スル場合モ使ハレテ居リマス、併シ事柄ノ實質的意義ガ或關係ニ於テ共通デアルナラバ、又共通ノ言葉ヲ用ヒルコトモ當然デアルト斯ウ云フ風ニ考ヘマス、唯特ニ之ヲ同意ト云フヤウナ言葉デ言ヘバ何トナク素直ニ聞エルカモ知レナイト云フ説モ、私耳ニシタコトモアリマスガ、能ク考ヘテ見マスレバ幾何ノ差モナイト思ヒマス、法律的ニハ色々ナ意味ニ使ハレテ居リマス、必ズシモ一ツノ意味ニ使ハレテ居リマセヌ、茲デ特ニ承認ト申シマシタノハ、内閣ガ此ノ行爲ニ依リ絶大ノ責任ヲ負フ、詰リ其ノ立場デ天皇ニ對シテ意見ヲ申上ゲルノデハナク、基本的ナ心持ヲ成ルベク適切ナ意味デ現シマスル爲ニ承認ト云フ言葉ヲ用ヒタノデアリマシテ、其ノ點ニ於キマシテ同意ナドト云フ輕イ言葉ヨリモ、幾分其ノ責任觀念ノ響ガ餘計出テ來ルヤウニ思ヒマス、尚牧野先生ハ進言ト云フ言葉ヲ助言ニ變ヘタラドウカト云フコトヲ嘗テ仰セニナリマシタガ、進言ト云フ言葉ハ何トナク建議スル、例ヘバ民間カラ時々政府ニ對シテ建議ヲスル、サウ云フ言葉ヲ稍々飾ツテ言ツタ言葉デ申シマス時ノ進言ト云フコトト違ヒマシテ、茲ニ言フ助言トハピツタリト合ハナイノデハナイカト云フ風ニ考ヘテ居リマス、勿論言葉ノコトデアリマスカラ、前後ノ關係モアリマスガ、言葉ダケヲ裸カニシテ論議スルコトハ誤ツテ居ルカモ知レナイト思フノデアリマス、次ニ同ジ一ツノ思想ヲ流レテ居ルノデアリマスガ、第四條ニ於テ「權能を有しない」ト云フ言葉ガアルガ、是モ面白クナイ、「有しない」ト云フ代リニ關與セズト云フヤウナ、何カ比較的少シ刺戟ノアル言葉ヲ用ヒタラドウカ、尚是ハ他ノ條文ニ對シテモ著シイ影響ガアルト云フヤウナ御示デアリマシタ、其ノ點モ我々ノ在來ノ考カラ申シマスレベ確カニサウデアルト思ツテ居リマスガ、私ハ豫テ斯ウ云フ議論ヲシテ居ルノデアリマス、此ノ場合當嵌ルト思ヒマスガ、現行憲法ノ言葉ハ其ノ言ヒ現シ方ガ眞理ヲ濫リニ言ヒ現シテ居ルノデアリマス、例ヘバ天皇ガ法律ヲ裁可スル、斯ウ書イテアル所ヲ見レバ、國民ハ特ニ法律ヲ研究シナイ者ハ、天皇ガ實際ニ法律ヲ御裁可ニナルト思ツテ居リマス、或ハ天皇ノ名ニ依ツテ裁判ヲ行フトアルト、誤ツタ裁判ヲ受ケテ、ソレニ對シテ不滿ナ人ハ、裁判官ガ間違ツタト言ハナイデ、天皇ガ斯ウ云フ裁判ヲ以テ我々ヲ壓迫シタト、露骨ニ言ヘバサウ云フ言葉ヲ使ツテ居ルノヲ聞イタコトガアリマス、法律的ニ説明スレバ其ノ考ハ根本的ニ間違ツテ居ルコトハ明瞭デアリマスガ、言葉ノ綾カラ來ル結果トシテサウ云フ錯覺ガ起ツテ來ル、現行憲法ノ各條文ニ於テ殆ド總テガ左樣ナ意味ヲ持ツテ居リマス、之ヲ一口ニ言ヒマスレバ、言葉ノ現ス所ハ誠ニ美シイ、併シナガラソレハ本當ノ眞實ヲ隱シテ居ル、其ノ眞實ヲ發見シ得マスノハ、相當ノ法律上ノ教養ノアル者ノミガ之ヲ爲シ得ルノデアリマス、國民ヲ二組ニ分ケテ、一組ハ愚カシク憲法ノ文子ヲ信用シテ居ル、他ノ少數ノ一組ハ憲法ヲ文字ト學問デ本當ニ認識シテ居ル、其ノ二組ガ日本國民ヲ構成シテ居ル、サウシテ過去ノ色々ノ悲シムベキ國家ノ事變ヲ生ミ出シテ來タト思ヒマス、此ノ憲法ハサウデナイ、國民全部ガ如實ニ憲法ヲ認メ得ルヤウニシヨウト云フノデアリマス、ソコデドウシテモ装飾的ナ技巧ガ減ツテ行クコトハ免レ得マセヌ、固ヨリ此ノ憲法ト雖モ徹底的ニ斯樣ナ装飾的技巧ヲ除イテ居ル譯デハアリマセヌ、唯ソレヲ最小限度ニ止メテ、ドノ邊ガ宜イカト云フコトハ是ハ認識ノ爭ガ起ツテ參リマセウケレドモ、私共ハ出來ルダケサウ云フ二重解釋ノ部分ヲ極度ニ制限致シマシテ、國民感情モ尊重致シマスルケレドモ、根本ノ原理ハ冷嚴ナ原理ヲ比較的平凡ナ知識ヲ持ツテ居ル國民ニモ端的ニ知ラシメルヤウニト、斯ウ云フコトニ眼目ヲ置イタノデアリマス、其ノ結果トシテ多クノ規定ガ文字ヲ調節サレテ居リマス、第四條ノ規定ハ文字ダケデ申上ゲマスト殊ニ面白クナイノデアリマス、餘リニ眞實ヲ露骨ニ書イテアルト云フコトガ言ヘルノデアリマス、併シ事實ヲ露骨ニ書イテ悪イト云フコトハ本筋ニ於テハナイ、國民感情ヲ適切ニ保護スル限度ニ於テ考慮スベキデアリマスガ、日本國民ガ果シテ何時迄モサウ云フ廻リ諄イ言葉デナケレバ保護シ得ラレナイノカト云フト、サウデハナイ、日本國民ハ國體ノ尊嚴ヲ能ク認識シテ居リマスカラ、斯ウ云フ露骨ナ言葉ヲ使ツテモ、ソレヲ使ヘバ使フ程本當ニ國體観念ヲ意識シ、其ノ上ニ組ミ立テラレタル政治構想ニ對シテ端的ナル了解ヲ持ツノデハナカラウカ、原案者ハ斯樣ニ考ヘテ居ルノデアリマス、ソコデ第四條ニ於キマシテ政府原案ニ於キマシテハ「この憲法の定める國務のみを行ひ、」云々トアリマシタガ、衆議院ニ於キマシテハ更ニ一層ソレヲ謂ハバ端的ニ言ヒ表ス爲ニ「國事に關する行爲」ト云フ風ニ「國務ヲ改メ、「政治」ト云フノヲ「國政」ニ改メラレタノデアリマス、ソレハ政府ノ考ヘテ居ル考ヘ方ヲ一層現實化サセラレタト云フ見地ニ於テ居同感ヲ申上ゲタノデアリマスガ、斯樣ナ意圖ニ基イテ居ルノデアリマシテ、此所ノ邊ノ氣持ハ私ハ英語ガ能ク讀メマセヌノデ、飜譯ノ方ノコトヲ昨日モ御質問ガアリマシテモ十分ニ取扱ヒ兼ネテ居リマシタガ、強ヒテ此ノ場合ニ飜譯ト對照シテ申シマスルト、第四條ノ所ノ「政治に關する權能を有しない」所ハ、英文ノ方デハ「ネヴァー・シャル・ヒー・ハヴ・パワァース」、斯ウ云フ風ニ「ネヴァー」ト云フ言葉ヲ先ニ出シマシテ、寧ロ飜譯ハ誇張ノ姿ヲ表シテ居ル、即チ此ノ日本文ガ左樣ナ強ク言ヒ表ス氣持ヲ語氣ノ中ニ含ンデ居ル、「斯ウ云フ趣旨デ英譯モサウ云フ風ニナツタモノト考ヘテ居リマスガ、左樣ナ全體ノ考ヘ方ニ基イテ居ルト云フコトヲ、御了解下サイマシテ、ドウゾ御議論モ御修正モ是ハ貴族院ノ御自由デアリマスケレドモ、私共ノ氣持ノアル所ダケハ一ツ一應念頭ニ入レテ戴キタイ、斯樣ニ考ヘテ居リマス
○牧野英一君 冷嚴ナル事實ニ鑑ミテ色々御考慮ニナツタト云フ御心持ノコトハ私トシテモ段々ニ理解出來ルヨウニ思ヒマスルガ、當局ノ御趣旨ハソレト致シマシテ、尚是ハ委員各位ニ於テモソレゾレ御考ヲ仰グコトガ得レバ幸福ニ存ジマス、ソレニ關聯シマシテ、稍々第二義的ノ疑ヒヲ、是ハ目録ノ程度デ申上ゲテ置キタイト思ヒマス、先程解散ノコトヲ申上ゲマシタガ、之ニ付テハ今御答ヲ仰グコトガ出來マセヌデシタ、併シ是ハ内閣ノ規定ト參照シテ見マシテ、矢張リ解散ニ付テハ内閣ガ全責任ヲ負フノデ、内閣ガ總テヲ何ト申シマスカ、發意シ、サウシテ天皇ハ金森國務相ノ述ベラレタ、儀禮的ニ國事ヲ行ハセラレル、斯ウ云フ順序ニナルデアラウト思ヒマスカラ、是ハ文字ノ整理ト云フコトニ或ハナルノデゴザイマセウカ、ソレニ引續キマシテ第七條ノ第六號ニ「大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除」ト云フコトガアリマス、是ハ金森國務相ニ於テモ固ヨリ十分心得テオイデニナルコトト思ヒマスルガ、尚是ハ司法大臣ノ御所管ニ屬スルコトデ、特ニ「刑の執行の免除」ト云フモノヲ御加ニナル必要ガアルモノカドウカ、現行ノ恩赦令ニ依レバ、是ハ必要ノナイコトト思ヒマスガ如何ナモノデゴザィマスカ、殊ニ英譯ノ方ヲ見マスト「刑の執行の免除」ト云フコトトハ餘程懸ケ離レタ文字ガ使ツテアリマス、英米法ニ於テハサウ云フコトノ意味ヲ爲スモノト考ヘマスルガ、我ガ國ノ憲法ヲ起草スルト云フ場合ニナツテ參リマスルト、從來ノ恩赦令デ十分足リル、故ニ此ノ語ヲ附加ヘル必要ハナイノヂヤナイカト愚考スル次第デアリマス、ソレカラ第八號ノ批准書、是ハ批准ノ問題ニナリマスルガ之ニ付テハ山田先生カラ或ハ尚色々ト御話ヲ願フコトガ出來ルデアラウト思ヒマス、是等ノ言葉遣ヒニ付テ多少ノ疑ヲ存シテ居ルコトヲ唯申入レテ置キマス、最後ニ第八條デゴザイマスルガ、是ハ矢張リ内容的ニ問題トナリマス、「皇室に財産を讓り渡し」云々ノ規定ガアリマシテ、此ノ全文ノ書キ方ソレ自體ニ付テ尚同ヒタイコトモアリマスルケレドモ、全體ニ亙ル形式ノコトハ姑ク別ニ致シマシテ、差當リ「皇室に財産を讓り渡し」此ノ言葉ガ矢張リ私ハ少シ穏ヤカサヲ缺イテ居ルヤウナ心持ガスルノデアリマスルガ、併シ其ノ前ニ實體的ニ御同ヒ致シタイノハ、「皇室に財産を讓り渡し」ト云フノハドウ云フ御心持ノ趣旨カ、衆議院ニ於ケル議事ノ樣子ヲ伺ツテ見マスルト、皇室財産ト云フコトニハ特別ノ意義ガオアリノヤウデ、現ニ八十四條ニ付テ斯クノ如クヤカマシイ御議論ガアツタニ付テ、特ニ此ノ八條ノ「皇室に財産を讓り渡し」ト云フコトニ付テハ特別ノ意味ガアルノデハナイカト思ヒマス、其ノ特別ノ意味次第デハ或ハ「讓り渡し」ト云フ言葉デ差支ナイト、斯ウ云フコトニナルノカト思ヒマスガ、何カソコニ特別ノ意義ガアリマスカ、我々ガ唯平凡ニ皇室ニ財産ヲ献上スルト云フ意味ニ了解シテ宜イノカ、此の點ヲ御同ヒ致シタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 衆議院ヲ解散スルコトニ付テ御答ヲ申シマセヌデシタコトハ、用語ノ一ツノ例トシテ御擧ニナツタトバカリ了解ヲ致シテ居リマシタノデ、用語一般論ノ御答ヲ以テ足レルモノト思ツテ居リマシタガ、其ノ實質的ナル御答ト致シマシテハ、衆議院ヲ解散スルコトハ、實質的ニハ内閣所管ノ權能ト存ジテ居リマス、内閣ハ行政權ヲ行フト云フコトニナリマシテ、斯樣ナ衆議院ノ解散ガ狹イ意味ノ行政權デナイコトハ勿論デアリマセウ、併シ立法デモナイ、司法デモナイト云フ趣旨ハ、此處カラ押シ極メテ行ツタ所ノ廣イ意味ノ行政權ニ屬スルモノト考ヘテ居リマシテ、其ノ實體ヲ決メマスルコトハ内閣ノ所管ニ屬スルモノト考ヘテ居リマス、其ノ所管ニ依ツテ決定シタル段階ヲ經テ、其ノ助言ト承認ニ依ツテ最後ノ決定ヲ行ハセラルヽノガ第七條ノ第七號ニ依ツテ行ハセラレル、斯ウ云フコトノ解釋トナルモノト考ヘテ居リマス、次ニ「刑の執行の免除」ニ付テノ御質疑ガアリマシタガ、此ノ點ハ成ル程現在ノ制度ニ於テハ、刑ノ執行ノ免除ハ他ノ事項、多分特赦デアルト思ヒマスガ、其ノ中ニ含マレテ居ルモノノヤウニ思ヒマスガ、斯樣ナ一ツノ形ヲ恩赦ノ權能ノ一ツトシテ特記スルコトハ、決シテ理由ナイコトデハナイト云フヤウニ考ヘテ、原案ヲ斯クノ如ク列ベタノデアリマス、唯、今迄通リデ宜イデハナイカト言ヘバソレモ勿論デアリマス、併シ斯樣ニ一ツノ形ヲハツキリ書クト云フコトモ亦立法ノヤリ方デアラウト考ヘテ居リマス、英語ノ飜譯ガ是ト合フトカ、合ハヌトカト云フ御話デアリマシタガ、實ハ私ハドウモ同ジヤウナコトヲ繰返シマスルガ、英語ニ付テハ十分ノ理解ヲ持ツテ居リマセヌノデ、併シソレハ英文ノ問題デアリマシテ、日本國ノ憲法ヲ起案致シマスル其ノ態度ハ、英文ノ用ヒ方ガ如何樣デアラウトモ、必ズシモ重キヲ生ズルコトデハナイト考ヘテ居リマス、尚「レトリーヴ」ト云フ言葉ハドウ云フ意味ヲ以テ居ルカト云フコトハ、法律家ト社會的ナ言葉ノ遣ヒ方トノ間ニ差異ガアルヤウデアリマスガ、必ズシモ無關係ノ意味デハナイヤウニ私ハ聞イテ居リマス、ソレカラ次ニ批准ノコトガアリマシタガ、是ハ主タル御質疑デナイカト思ヒマシタカラ御答ヲ省略致シマシテ、第八條ノ規定ニ付テ御答ヲ申シマスルガ、第八條ハ言葉通リニ私ハ了解ツテ居ルノデアリマス、即チ皇族ト申シマスノハ天皇ト皇族トヲ含ンダ所ノ一ツノ觀念的ナル存在デアル、ソレヲ集團ト言ツタラ不自然デゴザイマセウ、觀念的ナル存在デゴザイマス、從ツテ其ノ中ニ天皇ト皇族トヲ含ンデ居ル、斯ウ云フ風ニ考ヘマス、其ノ天皇ト皇族トノ範圍ニ對シマシテ其ノ以外ガ、詰リ皇室ト云フベキモノ以外カラソコニ財産ヲ讓リ渡スト云フコト、又ハ皇室ガ其ノ以外カラ財産ヲ讓リ受ケラレルト云フコト、ト云フ風ノコトハ國會ノ議決ニ基カナケレバナラナイト云フノデアリマシテ、之ヲ他ノ言葉デ言ヘバ天皇及ビ皇族ヲ含ンデ居ル其ノ一ツノ存在、ソレ以外ノ存在トノ間ニハ財産ノ交流ヲ、此ノ八條ノ途ニ依ルノ外、存在シ得シメナイト云フノガ此ノ憲法ノ解釋デアラウト思ヒマス、尚之ヲ八十四條ノ皇室財産ノ關係ニ併セテ御質疑ニナリマシタガ、八十四條ハ皇室財産ト云フ言葉ヲ用ヒテ居リマシテ、是ハ前後ノ關係上、自ラ一定ノ意義ヲ有スルモノト了解シテ居リマシテ、八條ニ言フコトト必ズシモ直接ノ關係ハナイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居ルノデアリマシテ、從ツテ八條ノ方ハ其ノ結果トシテ、謂ハバ天皇ノ公有財産ト申シマスカ、八十四條デ申シマスヤウナ所謂皇室財産ニ當嵌ルヤウナコトモ八條ニ規定セラレ、又天皇ノ私有財産ニ當篏ル場合モ之ニ規定セラレ、皇族各位ノ私有財産ニ當篏ル場合モ之ニ規定セラレルト云フ風ニ了解シテ居ル譯デアリマス
○牧野英一君 段々心持ヲ伺ヒマシテ理解ヲ深メルコトガ出來マシタ、最後ニ唯一ツ第八條ノ末文ニ「基かなければならない」ト云フ言葉ガ出シテアル、是ハ單純ナ用語ノ問題ニナリマスガ、此ノ各條ヲ通覽致シマスト云フト、斯ウ云フヤウナ場合ニ、「基くことを要する」ト云フヤウナ形ニ起案サレテ居ル點ガ差當リ氣付キマシタノデモ六箇所ゴザイマス、斯ウ云フ譯デ「なければならない」ト言フ言葉ガ、昨日モ御話ニナツタヤウニ極メテ平易デ宜イカ、或ハ稍々眞面目ニ「國會の議決に基くことを要する」トシタ方ガ憲法ラシイモノノ言ヒ表シ方ニナルカ、「サレル」ト「セラレル」ト云フヤウナ似寄ツタヤウナ議論ニナリマスガ、併シ「要する」ト云フ書キ方ニ致シマスト、現ニ此ノ憲法ノ中ニ今申シマシタ通リ、差當リ似寄ツタヤウナ場合ガ六ツアリマス、「要する」、「必要とする」ト云フヤウナ言葉ヲ御使ヒニナツテ居リマスカラ、尚ソレト照シ合セマシテ御詮議ヲ願ヒタイト思ヒマスガ、是等ノ細カイ點ニ付キマシテハ委員長カラノ御示ノ通リ、更ニ私ノ窃カニ考ヘテ居リマス所ヲ書面ニ認メマシテ差出スコトニ致シマス、私ハ是デ終リマス
○子爵大河内輝耕君 私ハ皇族ノ御地位ニ付テ質問致シタイ、甚ダ質問ノ仕方ガ莫トシタ御尋ネデスカラドウゾ其ノ御積リデ願ヒマス、此ノ憲法ニ依リマシテ帝室ノ問題ハ解決サレマシタト思ヒマス、マダ質問シナケレバ分リマセヌガ、私ノ考ヘル所デハ天皇ハ政治上ニ一切御關係ニナラナイ、唯儀禮ノコトダケ御ヤリニナルト云フコトデゴザイマスカラ、是デ天皇ノ御地位ハ御安泰ニナツタト考ヘマス、ソレカラ、マアソンナコトヲ一緒ニスル譯ヂヤゴザイマセヌガ、皇族ノ地位モ、アヽ云フ厄介ナモノガナクナツタノデ、誠ニ社會生活ノ爲ニ喜ブベキコトデ、殊ニ度々申ス通リ、家ト云フ制度迄ナクナルノダサウデ、誠ニドノ位之ガ國家ノ爲、社會ノ爲ニナルカト我々喜ンデ居リマスガ、扨、一番御氣毒ナノハ皇族樣、是ハモウ何モ手ガ觸レテナイ、ソレデスカラ依然タル地位デ居ラツシヤル、サウシテドウ云フ御地位カト云フト、攝政ニナル御資格モアルシ、ソレカラ皇位繼承ニモ或關係ヲ持ツテ御出デニナル、サウ云フ御關係ナンデスカラ、非常ナ苦シイ御立場デ、之ヲ止メテシマツタラ嘸御喜ビダラウト思フノデスガ、サウ云フ譯ニ參ラヌ、デ、非常ナ御窮屈ナ地位ニ御置キ申スノデ、何トモ恐縮ニ堪ヘナイ、ソレデマア考ヘル所デハ、今後ノ皇族樣ノ御地位トシテハ、誠ニ御氣毒樣デハゴザイマスガ、皇位繼承ヤ攝政ニ御關係ノアル以上ハ、政治ヤ社會ノコトニハ一切御關係下サラナイヤウニ願ヒタイ、之ガサウ云フモノニ御關係ニナルト云フコトニナルト、サウスルト遂ニ天皇迄モ影響ヲ及シテ來ルト云フヤウナ、悪イ結果ヲ生ジナイト限ラナイ、詰リ或ハ自然科學ノ研究デアルトカ、或ハ音樂デアルトカ、美術デアルトカ、文學デアルトカ云フ方ヘ力ヲ御注ギニナツテ戴キタイ、誠ニ無理ナ御注文ダケレドモ、是ハ皇族ノ性質トシテ巳ムヲ得ナイ、ソレニ付キマシテ只今皇族ノ經費ノ關係モ出マシタガ、私ト致シマシテハ此ノ經費ヲ十分御注意ニナツテ、露骨ニ申セバ、澤山差上ゲテ戴キタイ、世ノ中ヲ愉快ニ御暮シニナル經費ト云フモノハ、存外目ニ見エナイデ掛ルモノデス、我々デモ一ツ道樂ヲ始メルトナカナカ金ガ掛ル、況ンヤ皇族樣デスカラ、御日暮シニハ隨分御困リダト思フシ、餘程ソコノ所ハ政府ノ方デ注意シテ十分ナ御費用ヲ差上ゲルト云フコトニナラナイト、ドウモ兎角危イ、ソレニ皇族ノ御身邊ニ對シテハ、動モスレバ近付イチヤ困ルヤウナ人間ガ近付クト云フヤウナコトモ、是モ想像シ得ラレナイコトモナイ、今迄サウ云フコトガアツタト云フ譯ヂヤアリマセヌガ、サウ云フヤウナコトデモアレバ、餘程危イ、何シロ餘程皇族ノ御地位ト云フモノハ、色々ナ點カラ考ヘテ無理ナモノナンデス、制度ト云フモノハ無理ナモノナンデス、此ノ無理ヲウマクヤツテ行クト云フコトハ餘程ムツカシイコトノヤウニ思ヒマスガ、政府ノソレ等ノ御考ヲ一ツ伺ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 今御尋ニナリマシタ皇族ニ關シマスル問題ハ、實際ヲ申シマスレバ、現在研究ノ道程ニアリマシテ、非常ニ堅ク申シマスレバ、政府ガ御答辯ヲスル所迄行ツテ居ナイト、斯ウ御答ヲスベキ譯デアリマスルケレドモ、サウ云ツテシマヘバ實ハ政府ノ考ガ全然ナイト云フコトニナリマスルガ、今私共ガ大凡描イテ居ル考ヘ方ト致シマシテハ、仰セニナリマシタヤウニ皇族ノ御地位ハドウシテモ此ノ憲法ニ依ツテ實質上相當ニ變ツテ來ルト思ヒマス、ト申シマスルノハ、個人生活ノ方面ヲハツキリサセテ來マスル關係上カラ主トシテ來ルノデアリマスルガ、今モ同ジヤウナ皇族ノ範圍デ宜イカドウカト云フコトガ第一ノ問題ニナツテ來ル譯デアリマス、デ、今回ノ此ノ建前ハ、皇族デアルガ故ニ、皇族デアルト、斯ウ云フ考ヘ方デハナクツテ、皇位ヲ御繼承ニナリ、又ハ攝政ニ御ナリニナルト云フコトヲ中心トシテ、皇族ノ範圍ヲ考ヘマスルガ故ニ、萬事ガ皇位繼承及ビ攝政デアラセラルヽ人ノ範圍ト云フモノヲ大凡念頭ニ置キマシテ、其ノ念頭ノ中ニ丁度御含レニナルベキ適當ノ方ダケガ皇族ニ御成リニナル、ソレ以外ノ方ハ必ズシモ皇族デ御アリニナル必要ハナイノデアツテ、ソコニハ然ルベキ働キガアツテ宜カラウ、斯ウ云フ前提ニナツテ來ル譯デアリマス、其ノ點ニ於テ先ヅ一ツノ問題ガ、是ハ私共カラ申上ゲルコトデゴザイマセヌガ、問題トシテハサウ云フヤウニ一ツ起ルノデハナイカ、斯ウ云フヤウニ思ヒマス、次ニ皇族トシテハ今仰セニナリマシタヤウニ皇位ヲ御繼承ニナツタリ、或ハ攝政ニ御就任ニナルト云フ關係上、之ニ對シテ「ノビリティー」ハ十分ニナケレバナラヌ、斯ウ云フコトモ考ヘラレマス、從ツテ「ノビリティー」ニ反スル御職業等ハ常識カラ考ヘマシテ好マシクナイト云フコトニナルノデアリマスガ、是ハ政府ノ方デ法ヲ決メテドウスルト云フ問題デハナクテ、別ノ考ニ依ツテ動イテ行クモノデハナカラウカト存ジテ居ル譯デアリマス、次ニ皇族ノ御經費ヲ補充スル問題デアリマスルガ、是ハ、憲法草案ノ八十四條ニアリマスルヤウニ、皇室ノ經費ハ國ノ方カラ豫算デ決メテ豫算上ノ支出トシテ之ヲ差出ダスト云フコトニナツテ居リマス、其ノ中ニ皇族ニ對スル必要ナル經費ガ計上セラルベキモノト考ヘテ居リマシテ、其ノ經費ノ具體的ノ計算ガ如何ニナルカト云フコトハ私カラマダ申上ゲルベキ段階ニハナツテ居リマセヌケレドモ、國民諸君ノ十分ナ理解ガ存在致シマスルナラバ、誤ツタル方向ヲ辿ルコトハナカラウト實ハ確信致シテ居ル次第デアリマス
○子爵大河内輝耕君 此ノ問題ハソレデ宜シウゴザイマス、次ノ問題ニ移リマス、次ノ問題ニ移ル前ニチヨツト伺ヒマス、第一條デゴザイマスガ、此ノ象徴、是ハ先達テ牧野先生カラモ御質問ガアツタノデスガ、是ハ表象ト變ヘルコトハ如何デセウカ、是ダト餘程分リガ易イ、象徴ト云フ字ハ國民學校ノ讀本ニモナイデセウシ、中學ノ教科書ニモナイデセウシ、ナカナカ縁遠イ、表象ナラバアリマスカラ其ノ方ガ餘程通俗的ニナルノデスガ、私ハナンノ意味モナイ、唯通俗ニスル意味ニ於テ其ノ方ガ宜クハナイカ、如何デセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 表象ト云フ言葉ハ此ノ間モ牧野先生ガ仰セニナリマシタシ、他カラモ聞イテ居リマシテ、現在ハ象徴ト云フ言葉ガ行ハレテ居ルケレドモ、是ハ確カ大正ノ終リ頃カラカ行ハレテ居ツタノデアツテ、其ノ前ハ表象ト云フノガ普通デアツタノダ、斯ウ云フヤウナ教ヘモ他カラ受ケタコトモアリマス、併シ表象ト云フ言葉ノ持味ト象徴ト云フ言葉ノ持味ト比較シテドチラガ適切デアラウカト云フコトヲ考ヘテ見マスルト、是カラ先ハ言葉ヲ以テ言ヒ現シ得マセヌノデ、各々感ズル所ガ違フト存ジマスケレドモ、矢張リ象徴ト云フ言葉ノ方ガ國民意識ニ深イ感覺ヲ與フルノデハアルマイカ、殊ニ表象ト云フ言葉ハ私ハ能ク哲學ノコトハ知リマセヌケレドモ、何カソチラノ方デ他ノ意味デ使ツテ居ル言葉、「フォルステルンク」ト云フ言葉ノ譯語トシテ使ツテ居ルノデハナイカ、象徴ノ方ニナリマスト此ノ前佐々木先生ガ、甲ノ意味ガアル、乙ノ意味ガアルト仰セニナリマシタガ、獨リソレダケニ止マラナイ、私ハ今日餘計ナ言葉デ表現的ト云フヤウナ言葉ヲ使ヒマシタケレドモサウ云フ意味モアルラシイ、凡ソ象徴ト云フ言葉ノ持ツテ居ル正確ナル範圍ハ、ソレハ説明ノ仕方ニ依ツテ違フカモ知レマセヌガ、大體意味ハ一定シテ居ルヤウニ存ジマス、ノミナラズ是カラ先ハ私ノ多少個人的見解ニ近イノデアリマスルケレドモ、天皇ノ御地位ト云フモノハ此ノ憲法ニ書イテ見マスルト、唯冷ヤカナル文字ニ化ケテシマヒマスケレドモ、國民ノ心ノ中ニハ相當重要ナル印象ヲ殘シテ常ニ姿ヲ持ツテ居ナケレバナラヌ、サウ云フ風ニ存ジテ居リマス、サウナリマスルト極メテ使ヒ馴ラシタ言葉ヨリモ、場合ニ依リマシテハ少シク或意味ニ於テ耳障リト申シマスカ、印象ノ強イ言葉ノ方ガ、其ノ言葉ニ依ツテ第二ノ意味ガ發生シマシテ象徴ト言ヘバ直チニ天子樣ノ總テノ御地位ガ客観的ニ映ツテ來ル、斯ウ云フヤウナ氣持ニナリマス、其ノ爲ニハサウ云フ言葉ヲ使フ方ガ宜イノデハナカラウカ、斯ウ云フ氣ガシテ居ルノデアリマス、是ハチヨツト餘談ニナリマスガ、牧野先生ガ戰爭ノ抛棄ト云フ言葉ニ付テ、戰爭ノ否定ト云フ方ガ宜イノデハナイカト云フコトヲ仰セニナリマシタガ、私共ハ其ノ場面ニ於キマシテハ、戰爭ノ抛棄ト云フ多少耳障リト云フカ、サウ云フ意味ノ言葉ノ方ガドウモ深イ印象ヲ殘シテ、國民ニスツト了解セシムル上ニ良イ働キヲ持ツノデハナカラウカ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 其ノ點ハ能ク分リマシタ、ソレデ次ニ第一條ニアリマス「主權の存する」ト云フ主權ト云フ意味ハ、矢張リ昨日御話ノヤウナ政治力ト云フヤウナ意味ナノデセウカ、是ハ矢張リ前文ノ主權ト同ジニ考ヘテ宜シウゴザイマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 仰セノ通リ此ノ言葉ハ前文デ、主權ガ何處ニ在ルカ、斯ウ云フ風ニ書イテアリマス爲ニ其ノ言葉ヲ受ケマシテ「主權の存する國民」ト言ツタノデ、全然同ジ意味デゴザイマス、其ノ「主權」ト云フ言葉ノ持ツテ居ル意味ハ誠ニ御説明シニクイノデ、昨日御話申上ゲマシタ通リデアリマス
○子爵大河内輝耕君 其ノ主權ノ意味ハ能ク分リマシタガ、私ハ統治權ノ總攬者ハ何人デアルカト云フコトヲ伺ヒタイト思ヒマス、主權者ト云フ言葉ハ大變色々ナ意味ガアルノダサウデゴザイマス、統治權ノ總攬者ト同ジヤウニ私ハ假ニ解釋シテ置キタイ、ソレデ統治權ノ總攬者ハ何カト云フト、私此ノ憲法ヲ見タ所デハ兎ニ角最高ノ權力ヲ持ツタ者ガ統治權ノ總攬者デアル、サウ云フコトニナレバ慮法ノ改正權ヲ握ツテ居ル國會ト國民トガ是ガ統治權ノ總攬者デアル、憲法モ改正スルコトモ出來レバ何デモ出來マスカラ是ガ一番最高權者デアリ、統治權ノ總攬者デアルト見ルノガ相當ナ考ヘノヤウニ私ハ思ヒマス、併シ又一方カラ見ルト憲法ノ改正ハ暫ク見ナイデ平カニ見マスト、サウスルト國會モ入ルコトハ勿論デスガ、其ノ他ニ内閣モ入レバ裁判所モ入レバ天皇モ一部ヲ持ツテ居ラレルト云フヤウナコトデ、色々ナコトニナツテ來ル、ソレ等ガ各々一部ノ統治權ヲ持ツテ居ル、ソレヲ綜合シタモノガ統治權ノ總攬者デアルガ、ソレハドウ説明サレルカ、兎ニ角四ツノ機關ガアルト云フヤウニ取ラレル、私ハ素人デドツチガ宜イカ分リマセヌガ、是ハ爭ヒニデモナラウカト思ヒマスカラ政府ノ御意見ヲ伺ツテ置キタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ憲法ハ建前ガ現行ノ憲法ト違ツテ居リマス爲ニ、的確ニ統治權ノ總攬者ト云フ言葉ニ當ルモノハナイト斯ウ御答ヘ申上ゲタ方ガ適當デアラウト思フノデアリマス、併シ統治權ノ總攬者ト云フモノガ具體的ナ姿ノ人デアツテ、而モ最後ノ鍵ヲ握ルト云フ風ニ取リマスナラバ、今仰セニナリマシタヤウニ憲法ヲ改正スル權能ヲ持ツテ居ル國民ト云フヤウニ理解スルコトガピツタリ當ルカドウカ是ハ分リマセヌガ、一番近イ御答ダラウト思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 其ノ次ニ第一條ニ關スル法律上ノ效果ヲ伺ヒタイノデス、ナンダカ私ノ言フコトハ分リニクイデセウガ、之ニ依ツテ色々ノ法規モ出テ來マセウシ、又之ニ依ツテ反射作用モアルダラウト思フノデス、ドンナ法規ガ之ニ依ツテ出テ來ルカ、ドンナ反射作用ガ法律上アルモノダラウカ、大要承リタイノデス
○國務大臣（金森徳次郎君） 第一條自身ノ意味ハ今御尋ノ範圍デアリマセヌカラシテ御答ヘ申シマセヌ、要スルニ第一條自身ハ天皇ガ國ノ象徴デアル、ソレガ國民ノ總意ニ基ク、ソレダケノ規定デアリマシテ、其ノ本體ニ付キマシテハ、謂ハバ靜カナル天皇ノ御地位、外カラ見レバ天皇ハ國ヲ表ス姿デアル、斯ウ云フノデアリマスカラ、靜カナ規定デアルノデアリマスガ、併シナガラ此ノ規定ガアルコトノ結果ト致シマシテ、附隨シテ先ヅ大キナ方向ニ於テ二ツノ流レノ制度ガ考ヘラルヽト思ヒマス、一ツハ公平無私デアリ、八面玲瓏デアリ、國ト本質ヲ同ジウスルガ如クニ考ヘラルヽ御地位デアリマスルガ爲ニ、ソレカラシテ所謂無答責ノ規定、即チ刑罰上ノ問題、政治上ノ問題ニ付テ責任ヲ御負ヒニナルコトハナイト云フヤウナ規定ガ生レテ來ルト思フ譯デアリマス、ソレカラ又此ノ御地位ニ伴ヒマシテ、其ノ尊嚴ヲ擁護スベキ規定ト云フ一段ガ考ヘラレテ來ルノデアリマス、ソレハ何カト申シマスルト、例ヘバ天皇ハ如何ナル敬稱ヲ、陛下ト云フ敬稱ヲ御持ニナルカト云フヤウナ種類ノ問題、又天皇ニ對シテ其ノ御名譽ヲ傷ツケタリナドヲ致シマスレバ、外ノモノヨリモ重ク罰シテ然ルベシト云フ原理等モ、此ノ第一條ヲ根據トシテ説明サレテ來ルモノト思フノデアリマス、ソレガ先ヅ一番直近スル規定デアリマス、次ニ又別口ノ考ヘ方ト致シマシテ、既ニ象徴デアルト云フ御地位ガアリマスレバ、唯象徴デアルト云フダケデハ是ハ永續的ニ象徴デアラセラレルニ不適當デアリマシテ、ドウシテモ其ノ象徴タルニ相應シキ積極的ナ働キヲ行ハセラルヽノデナケレバ、モノハウマク運バナイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、ソコデ此ノ象徴タル御地位ニ伴ツテ、誰ガ見テモソレコソ天皇ノ御働キデアルト思ハルヽ諸般ノ權能ガ之ニ附隨シテ定メラルベキデアリマス、ソレガ此ノ主トシテ第六條、第七條等ニ於テ生ルヽモノデアリマスルシ、マア此ノ席上ニ屡々御質疑ガ出ヨウトシテ其ノ儘ニナツテ居リマスル、國際關係ニ於テ如何ナル扱ヲ御受ケニナルカト云フヤウナコトモ生レテ來ル譯ナノデアリマシテ、大體其ノヤウナ風ニ考ヘテ居ル次第デアリマス
○子爵大河内輝耕君 能ク分リマシタ、次ニ私ハ認證制デ伺ヒタイノデスガ、是ハ高柳先生カラ御質問ニナルコトニナツテ居リマスカラ、其ノ節高柳先生ノ御アトデ必要ガアツタラ關聯質問デ述ベルコトニ致シマス、私ノ質問ハ是デ止メマス
○委員長（安倍能成君） 村上委員
○村上恭一君 前席ノ大河内委員ガ皇室ノ地位ニ付テ御質問ニナリマシタ、次ノ席ノ佐々木委員ハ皇室制度ノ全般ニ亙ツテ御質問ニナルヤウニ察セラレマス、私ハ其ノ間ニ立チマシテ、皇室制度ニ關シテ特ニ疑問ニ感ジマスル所ノ若干ニ付テ質問致シタイト思ヒマス、自然右御兩君ノ御質問ト重複スル所ガアラウカト思ヒマスルガ、此ノ段ハ豫メ御了承ヲ願ヒマス、皇室ノ制ト申シマスレバ、固ヨリ天皇制ニ牽聯スルモノデアリマシテ、改正憲法ニ於キマシテモ、從前同樣ニ重要ナ意義ヲ有スルモノデアルコトハ、申ス迄モアリマセヌ、改メテ申上ゲル迄モナク、皇室ハ天皇ト皇族ノ全員ヲ以テ構成サレマシタ單一ナ集團デアリマス、恰モ一般人民ニ於ケル家ニ相當スルモノデアリマスル、其ノ家ニハ法律上ノ人格ガアリマセヌノト同樣ニ、皇室モ亦集團トシテ法律上ノ人格ヲ有スルモノデハアリマセヌ、ソレ故皇室ト言ヒマスルノハ、實ハ天皇及ビ各皇族ノコトデアリマス、皇室財産ト申シマスルノハ、天皇ノ御所有ニ屬スル財産即チ御料、及ビ各皇族ノ御所有ニ屬スル財産、即チ皇族財産ノ謂ニ外ナラヌノデゴザイマス、扨、皇室制度ハ大別シマシテ、天皇及ビ皇族ノ權利義務ニ關スルモノト、宮内ノ事務ニ關スルモノトノ二ツノ部門トスルコトガ出來マス、其ノ宮内ノ事務ニ關スルモノト申シマスル中ニハ、宮中機關ノ組織及ビ權限ニ關スル規程ヲ包含スルノデゴザイマスル、現行ノ皇室典範第一増補第七條第一項ニ「皇族ノ身位其ノ他ノ權義ニ關スル規程ハ此ノ典範ニ定メタルモノノ外別ニ之ヲ定ム」ト規定シテアリマスル、茲ニハ單ニ皇族トアルダケデアリマシテ、天皇ト迄ハ申シテアリマセヌガ、皇族ニ付テ然リ、況ンヤ天皇ニ於テヲヤト解スベキコトハ、疑ヲ容レザル所デゴザイマスル、サウシテ茲ニ「別ニ之ヲ定ム」ト言ヒマスル皇室典範ニ基ク所ノ規程ガ、其ノ形式ニ於キマシテ、先ヅ皇室令デアルベキコトハ、公式令第五條第一項ニ規定スル所デアリマス、又宮内ノ事務ニ關スル規程ガ、是亦其ノ形式ニ於キマシテ、先ヅ皇室令デアルベキコトハ、同ジク公式令第五條第一項ノ規定スル所デアリマス、此ノヤウナ次第デアリマスルノデ、皇室制度ハ皇室典範及ビ其ノ系統ニ屬スル皇室令以下ノ規程ニ依ツテ規律サレマシテ、其ノ規程ハ帝國憲法及ビ其ノ系統ニ屬スル法律、勅令以下ノ規程ト、形式上截然區別サレテ居リマス、我々ハ通例前者ヲ皇室法規ト稱シ、後者ヲ普通法規ト稱シマスル、普通法規ニ付キマシテハ帝國議會ノ議決ヲ經ルトアリマスルノト異リマシテ、皇室法規ニ付テハ帝國議會ノ議決ヲ經ルコトノナイノガ特色デアリマス、之ヲ我々ハ通例皇室ノ自主權ト稱シテ居リマス、皇室典範ハ形式上帝國憲法ト對等ノ地位ニ立ツモノトモ認メラレマス、此ノ點ニ付キマシテハ學者間ニ説ガアリマスルガ、今申シマシタヤウナ見解モ認メラレテ居リマシテ、其處ニ國法ノ二元説、二ツノ根源ト云フ説ガ成立スルノデゴザイマス、皇室法規トシマシテ、皇室典範ノ外ニ、現ニ多數ノ皇室令ガ制定サレテ居リマシテ、天皇及ビ皇族ノ權利義務ニ關シテハ、屡々廣イ範圍ニ亙ツテ普通法規ガ準用サレテハ居リマスルガ、實體上特殊ナ規定ノ設ケラレタモノモ少クナイノデアリマス、凡ソ斯クノ如キモノガ從前ノ皇室制度ノ組立ノ大體デゴザイマス、是ヨリ質問デゴザイマシテ、先ヅ質問ノ第一點デゴザイマスガ、憲法改正案第二條ニ依リマスレバ、新シイ皇室典範ハ國會ノ議決ヲ經ベキモノトサレテ居リマス、國會ノ議決ヲ經マス以上ハ、ソレハ形式ニ於テ法律デアラウト存ジマス、現行ノ皇室典範ハ形式上帝國憲法ト對等ノ地位ニ立ツモノト解スルコトガ出來タノニ反シマシテ、新シイ皇室典範ハ形式上帝國憲法ノ下ノ位ニ就クモノトナリマシテ、明カニ國法ノ一元化、國法ノ根源ハ一ツトナツタト云フコトヲ認メル外ハナイコトトナルノデアリマス、此ノ場合ニ於キマシテ皇室制度ニ關シ、皇室典範以下ニ設ケラレルベキ規程ハ、如何ナル形式ニ依ルノデアリマスルカ、新憲法ニ於キマシテハ、從前ノ勅令ニ相當スル所ニ政令ト云フ形式ヲ立テテアリマスルガ、右ノ皇室制度ニ關スル皇室典範ノ次ノ階級ノ規程ニハ、矢張リ此ノ政令ノ形式ヲ與ヘラレルノデアリマセウカ、此ノコトハ後ニ述ベマスル宮中機關ノ機構ニ牽聯スル所モゴザイマスルガ、茲ニ先ヅ質問ノ第一點トシテ御尋ネ致シマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 今御質疑ニナリマシタ皇室令ニ當ルベキ事項ハ、今後如何ナルモノニ依ツテ規定セラルヽノデアラウカ、斯ウ云フ御趣旨ト考ヘテ居リマス、ソレハ稍々根本カラ申上ゲナイト正確ヲ期シ難イト申シマスルカ、今回ノ改正ニ依リマシテ村上委員ガ仰セニナリマシタヤウニ、國法ノ一元化トモ云フベキ根本的ナル原理ガ樹立セラルヽコトニナツテ居リマス、即チ憲法ト皇室典範ガ二元的ニ相對立致シマシテ、一方ガ他ト別個ノ權能ニ依リ設ケラレ、又其ノ間ニ特殊ナ連絡以外ニハ直接ノ連絡ガナイ、斯ウ云フ原理ヲ認メズシテ、憲法ガ唯一ノ成文國法ノ根源デアルト云フ考ヘ方ヲ取ツテ居ルノデアリマス、ソコデ皇室典範ハ仰セノ如ク、憲法ニ基ク法律ノ一種トシテ理解サレテ來ルコトニナル譯デアリマス、現在皇室典範ニ依ツテ規定セラレテ居リマスルモノハ、色々ナモノガ含マレテ居ルヤウニ思ハレマシテ、所謂國法一般ノ體系ニ屬スベキモノモ、事皇室ニ關係スルトナレバ、皇室典範ニ含マレテ居ルノデアリマス、ソレト同時ニ皇室御一家ニ關スルコトモ、皇室典範ノ中ニ含マレテ居リマス、今回ノ憲法改正案ニ於キマシテハ、天皇御一家ニ亙リマスルコトハ、若シソレガ私的關係ト見得ル範圍ニ於キマシテハ、直接ニ國法ノ關與スル所デハナイノデアリマスルガ故ニ、別個ノ範疇ニ其ノ規律ガ屬シテ行クモノト思フノデアリマス、謂ハバ皇室内部ノ御規定トデモ謂フモノニナラウカト思ヒマス、他面國法ノ體系ノ中ニ屬スベキ本來ノ性質ノモノハ、或モノハ皇室典範ト稱スル法律ニ盛込マレルコトト思ツテ居リマス、ソレハ此ノ改正案ヲ認メテ居リマスルガ如ク、皇位繼承、攝政ト云フコト及ビ之ニ關聯ヲ致シマスル諸般ノ重要規定ガ、法律デアル所ノ皇室典範ニ盛込マレマス、又他ノ一群ノ國法的規定ハ、皇室典範デハナク一般ノ法律ノ中ニ盛込マレルト思フノデアリマス、ソレハ例ヘバ皇族等ニ關シマスル一般ノ法律規定、例ヘバ民法上ノ規定、其ノ他之ニ類スル規定ト云フモノハ、特殊ナル内容ヲ持ツコトハアリ得マセウケレドモ、規定ト致シマシテハ、一般ノ法律ノ中ニ入ツテ來ルモノト考ヘテ居リマス、斯ク考ヘテ來マスルト、理論的ニハ皇室ニ關スル制度ガ、若シ法的ノモノデアルナラバ、政令ノ中ニ入ツテ來ル餘地ハゴザイマセヌ、ト申シマスルノハ國法的ノモノデアレバ、國ノ法律系統ノ中ニ入ツ來ル、ソレカラ國法的デナイモノデアレバ、皇室ノ謂ハバ内部ノ御定メニナルベキ事項デアル、斯ウ云フコトニナルノデアリマス、併シ法律系統ノ中ニ入ツテ來マスルモノノ中デモ、現實ニハ事稍々細目ニ亙ル等ノ爲ニ、皇室典範其ノ他ノ法律ニ直接ニ規定セラレナイモノハ、固ヨリアリ得ルノデアリマシテ、ソレヲ如何ナル形式ノ法律ニ盛込ムカト云フ問題ニナルノデアリマスルガ、是ハマダ正確ニハ定メテ居リマセヌ、大體カラ言ヘバ仰セノ如ク、政令ノ中ニ盛込ムノデアリマス、併シ其ノ外ニモ下級ノ命令ノ形ガ、此ノ憲法デ設ケラレナイ譯デハアリマセヌカラシテ、尚別ノ考慮ヲ致スコトモアリ得ルト思ヒマシテ、今ノ處ハ政令ト考ヘテ居リマス
○村上恭一君 次ノ點ニ入リマス、皇族ハ御身分上、天皇ト特ニ親近ナ關係ニアラセラレル御方々デアリマシテ、皇族男子ハ皇位ヲ繼承スル資格ヲ有セラレルモノデアリマス、皇族女子ハ皇位繼承ノ資格ハナイトシマシテモ、皇族男子ノ配偶又ハ直系卑屬デアラセラレマス、サウシテ皇位ノ純潔サハ飽ク迄之ヲ保持セネバナリマセヌ、ソレ故皇族ハ國法上、一般ノ人民トハ異ツタ地位ヲ有セラルヽモノトスルコトガ當然デアリマス、憲法改正案、衆議院修正ノ第十四條第二項ニハ「華族その他の貴族の制度は、これを認めない」ト斯ウ規定シテアリマスガ、皇族ニ於テハ固ヨリ貴族ヲ以テ目スベキ限リデハナイト存ジマス、茲ニ於テ皇族ノ範圍ヲ適當ニ限定スルコトガ必要デアリマス、從前ノ如ク、皇室ニ御生レ遊バサレマシタ御方ハ、嘗テノ天皇ヨリ百世ノ御末裔ニ至リマスル迄モ皇族デアルト云フ、所謂百世皇族ノ原則ハ、皇室ノ繁榮ノ爲ノ原則トシテハ固ヨリ結構デアリマスルガ、茲ニモ亦相當ナ疏通ノ途ガナクテハナラヌト考ヘラレマス、即チ現行皇室典範第一増補第一條及ビ第二條ニ規定シテアリマスル如キ、皇族男子ノ臣籍降下ノ特例ノ必要性ガ認メラレルノデゴザイマス、サウシテ又同ジク皇室典範増補第六條ニ規定シテアリマスル如ク、一旦皇室ヨリ出デテ、一般人民ノ列ニ入ツタ御方ハ、女子ガ婚姻ニ依ツテ再ビ皇室ニ入ル場合ヲ除クノ外ハ、復皇室ニ戻ラセラレルコトヲ得ナイモノトシマシテ、皇室ト一般人民トノ間ノ境ヲ立テテ、其ノ出入リヲ制限スルト云フコトガ必要デアリマス、要スルニ皇族ノ範圍ト云フ課題ニ付キマシテ、政府ハ如何ナル見解ヲ持ツテ居ラレルノデアリマセウカ、尚續イテ是ハ皇室ニ關スル根本ノ問題デアリマスルガ、將來ソレハ如何ナル見解ヲ持ツテ居ラレルノデアリマセウカ、尚續イテ是ハ皇室ニ關スル根本ノ問題デアリマスルガ、將來ソレハ如何ナル規程ヲ以テ之ヲ定メラレルノデアリマセウカ、私ノ見ル所ヲ以テシマスレバ、當然新シイ皇室典範ヲ以テ規定サルベキモノト思ハレルノデゴザイマス、ニモ拘ラズ先ニ當委員會ニ配付ヲ受ケマシタ新シイ皇室典範ノ要目ニハ、唯皇位繼承ノコトト、攝政ノコトトガ擧ゲテアルダケデアリマス、其ノ他ノ事項ハ一切掲ゲテアリマセヌ、ソコデ是ガ私ノ疑問トナルノデゴザイマス、以上ノ二點ニ付キマツテ御尋ネ致シマスルコトガ私ノ質問ノ第二點デゴザイマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 皇室ノ範圍ニ付キマシテハ、此ノ問題モ矢張リ憲法實施ニ伴ヒマシテ必要ナル事項トシテ、現在臨時法制調査會ニ諮問ヲシテ、各方面ノ方ニ案ヲ練ツテ居ツテ戴キマスノデ、今日的確ナル所見ハ申上グルニ尚時期尚早デアルト考ヘテ居リマス、併シナガラ私ガ抱懐シテ居ル考ヘ方、是ハ決シテ無責任ニ申上ゲル譯デハアリマセヌガ、假ニ私ノ抱懐シテ居ル考ヘ方ヲ申スコトヲ御許シ下サルナラバ、大體今村上委員カラ仰セニナリマシタヤウナ方法ヲ以テ諸般ノ事項ヲ規定シタイト云フ考ノ下ニ研究ヲ進メテ居リマス、例ヘバ今仰セニナリマシタ百世皇族ト申シマスルカ、ト云フヤウナ考ヘ方ハ必ズシモ物ノ道理ニハ合ハナイノデアリマシテ、之ニ對シマシテ皇位繼承及ビ攝政ノ任ニ當ラセラルベキ適當ナル人々ノ範圍ト云フ見地カラ色々ナ特別ナル考慮ヲ加ヘナケレバナラヌト云フコトモ考ヘテ居リマスルガ、唯現實ニ如何ナル制度ヲ設クベキカト云フコトハ、今日マダ御明言ヲ申上ゲルコトハ出來マセヌ、併シ大體ニ於テ村上委員ノ仰セニナル所ト實質ニ於テハ、異ル所ハナイト思ツテ居リマス、又一度皇族ノ外ニ出ラレタ方ガ御戻ニナラレルコトハナイト云フ原則ノ如キモ、私ハ當然尊重スベキ原則ト考ヘテ居リマス、次ニ斯樣ナ皇室ノ範圍ヲ規定シ、皇族ニ付キマシテノ諸般ノ規程ヲ設ケマスルコトハ、如何ナル形式ノ法ヲ以テ定ムベキカト云フ御質疑デアリマシタガ、是ハ曾テ衆議院ノ委員會ニ政府カラ參考トシテ出シマシタ謄寫刷ノ物ノ中ニハ、成ル程仰セノ通リ皇位繼承ト攝政ノコトノミシカ掲ゲテハアリマセヌ、ソレハ其ノ場合ニ於キマシテ衆議院ニ於テ持ニ重點ヲ置カレマシタ點ヲ掲ゲタ譯デアルガ故ニ、斯樣ナ結果ニナツタノデアリマシテ、今考慮ノ中ニゴザイマスル道行キデ言ヘバ、斯樣ナコトハ矢張リ皇室典範、今囘ノ憲法改正案ニ基ク法律タル皇室典範ノ中ニ當然規定セラルベキモノト考ヘテ居リマス
○村上恭一君 次ノ點ニ移リマス、先ニ申述ベマシタ如ク、天皇ハ勿論、皇族ハ國法上一般ノ人民トハ異リタル地位ヲ有セラルヽモノデアリマスルカラ、其ノ權利義務ニ付キマシテハ、或限度ニ於テ一般ノ人民ノ場合トハ異リタル規定ノ設ケラルベキコトハ當然デアラウト存ゼラレマス、將來皇室法規ト稱スベキモノハ完全ニナクナツテシマヒマシテ、天皇及ビ皇族ニモ形式上普通法規ガ適用セラルルコトドナツタ曉ニ於キマシテモ、天皇及ビ皇族ノ爲ニハ普通法規ノ中ニ實體上相當ナ特例ノ規定ヲ設ケラルヽコトガ又當然デアルト感ゼラレマス、果シテ然リトシマスレバ、今日ニ於キマツテ其ノ天皇及ビ皇族ノ爲ニスル特例ノ規定ガ將來ドウナルカ、其ノ詳細ヲ豫定スルコトハ困難デアリマスルガ、大體ニ於テ現政府ノ御當局ハ、此ノコトニ付テ如何ナル見解ヲ持ツテ居ラレマセウカ、是ガ私ノ質問ノ第三點デアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 今回ノ憲法改正案ハ、個人タル人々ニ取リマシテハ、所謂法津ノ下ニ於ケル國民平等ノ原則ヲ維持シテ居リマス、從ツテ皇族デ在ラセラレテモ純粹ノ個人タル立場ニ於キマシテハ、國民ト法津ノ上ニ於テ平等ノ地位ヲ御保チニナルコトハ理ノ當然ト考ヘテ居ル次第デアリマス、併シナカラ皇族ハ皇位ノ繼承者デアリ、又攝政デ在ラルベキ方デアリ、又ハソレト密接ナル地位ニ在ラセラルヽ方デアリマスルガ故ニ、其ノ見地ニ於キマシテ、特別ナル理由ノ下ニ特別ナル法律上ノ取扱ガアツテ然ルベキモノト思ツテ居リマス、從ツテ村上委員ノ仰セラレマシタ所ニ對シマシテハ、原理的ニハ左樣デアリマスト御答ヘシテ宜イト思ツテ居リマス、併シ唯特ニ御注意ヲ願ヒタイノハ、現在ニ於キマシテ皇族ノ方方ニ諸般ノ法律ノ上ニ於テ差別ヲ致ツテ居リマスル根據ガ、必ズシモ私ガ今申上ゲマシタ理由トピツタリ當ツテハ居リマセヌ、ソコデ如何ナル部分ニ於テ特別ナル地位ヲ認ムベキカ、如何ナル部分ニ於テ國民一般ト同ジ立場ニ置クベキカト云フコトニ付キマシテハ、此ノ新タナル標準ニ照ラシテ研究ヲシナケレバナリマセヌ、ソレハ今日具體的ニ研究ガ進ミツヽアル次第デゴザイマス
○村上恭一君 次ニ皇室ノ財産關係ニ付テ質問致シマス、憲法改正案、衆議院修正ノ第八十八條ニ依リマスレバ、總テノ皇室ノ財産ハ國有トナリ、總テノ皇室ノ經費ハ國ノ豫算ニ計上シテ國會ノ議決ヲ經ルコトトナルノデアリマスル、茲ニ皇室ノ財産トアリマスルノハ、曩ニ申述ベマシタ如ク、天皇ノ御所有ニ屬スル御料ト各皇族ノ御所有ニ屬スル皇族財産トヲ包括スルモノデハアリマスルガ、事實上主要ナルモノハ御料デアラウト存ジマスル、古ヨリ君主國デハ、天子ハ國ヲ以テ家ト爲スト云フ觀念ガ行ハレテ居リマスル、此ノ觀念ハ、君主ハ私ニ一物ヲキ所有スルコトナク、其ノ代リ君主ノ必要ナ費用ハ一切國民ガ之ヲ負擔スルト云フコトヲ言フノデアルト私ハ解シマスル、君主ニ取ツテ必要ナ經費ハ全國民ガ喜ンデ之ヲ上納スルト云フコトヲ意味スル點ニ於キマシテ、君主國ノ本來ノ姿ヲ巧ミニ言ヒ表シタモノノヤウニ思ハレマスル、ソレ故本案ノ第八十八條ハ、此ノ君主ハ國ヲ以テ家ト爲スト云フ觀念ニ適合スルモノトシマシテ、趣旨ニ於テハ相當理由ノアルモノト私ハ考ヘマスル、一部ノ人々ハサウナツタ曉ニハ、例ヘバ天皇ノ常ノ御殿ノヤウナ建物モ國有トナル、天皇ガ之ヲ借用サレルト云フ姿トシテ、ソレハ餘リニ畏多イデハナイカト云フヤウナコトヲ言ウテ居ルノデアリマスル、成ル程其ノ間ノ法律的ノ成リ立チヲ言ヒ究メマスレバ、或ハ賃貸借デアルトカ、或ハ使用貸借デアルトカ云フヤウナ契約關係ノ存在ヲ認メラレルコトニナルノデアリマセウガ、國ノ經濟ト皇室ノ經濟トノ間ニハ、本來頗ル温イ繋リガアルノデアリマスルカラ、其ノヤウナ冷ヤカナ法律的ノ論議ハ多ク顧ミ慮ルニハ當ラナイデアラウト私ハ考ヘマスル、處デ、過日衆議院ニ於ケル憲法改正案特別委員會ノ最終ノ日ニ於キマシテ、其ノ委員長ト金森國務大臣トノ間ニ取リ交ハサレタ問答ノ一節トシテ傳ヘラレル所ニ依リマスレバ、金森國務大臣ハ天皇ノ御財産ノ中デ、公ケノ資格ニ於ケルモノハ國有トナルガ、私ノ御資格ニ於ケルモノハ依然天皇ノ御財産トシテ存續スル、サウシテ天皇ノ御財産トシテ存續スルモノハ一般ノ人民ノ財産ト同樣ノ取扱ヲスルト云フヤウナ趣旨ヲ答辯サレタヤニ聞クノデゴザイマス、果シテサウト致シマスレバ、ソコニ私ノ疑問ガ生レテ來ルノデゴザイマス、元來皇室ノ財産ハ其ノ性格ニ於キマシテハ皇室ノ私有財産デアルト私ハ思ヒマス、ソレ故ニコノ從來皇室法規タル皇室財産令ニ於キマシテ皇室ノ財産ニ付テ御料及ビ皇族財産ニ付キマシテハ頗ル廣イ範圍ニ亙ツテ普通法規タル民法第一編乃至第三編商法及ビ附屬法令ガ準用サレテ居ルノデゴザイマス、然ルニ天皇ノ御財産ノ中ニ更ニ公私ノ御資格ニ依ツテ區別ヲ設クルト云フ其ノ區別ハ果シテ如何ナル標準ニ依ツテ與ヘラレルノデゴザイマセウカ、サウシテ天皇ノ所謂私ノ御資格ニ於ケル財産ハ一般人民ノ財産ト同樣ノ取扱ヲスルコトトシマスレバ、例ヘバ、是ハ極端ノ場合ヲ想像スルノデアリマスルガ、天皇ノ御財産ト一般人民財産トノ間ニ爭ヒヲ生ジ、ソレガ遂ニ民事ノ訴訟トナツタヤウナ場合、此ノ訴訟ハ全然普通ノ手續ニ依ツテ處理サレルノデアリマセウカ、サウトシマスレバ、ソレコソ如何ニモ畏イ次第デアラウト私ハ存ジマスル、此ノコトハ前ニ擧ゲマシタ質問ノ第三點、天皇ノ權利、義務ニ關スル實體的ノ特例規定ノ問題ノ一部分ヲ爲スモノデアリマスルガ、茲ニ特ニ重ネテ質問スル次第デアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 第一點、第八十四條ニ主トシテ規定シテ居ル所ノ、又第八條トモ關係ヲ持ツテ居リマス所ノ皇室財産ニ付テ御尋ガアリマシタガ、仰セノ通リ皇室財産ハ、從來ハ其ノ如何ナルモノタルヲ問ハズ、私有財産ノ如キ考ヲ以テ進マレテ居ツタト云フコトハ正シイ觀方デアラウト思ヒマス、併シ其ノ本質上ノ意味ハ公ケニ用ヒルト私ニ御用ヒニナルトノ二ツノ區別ガアツタコト、又公ケニ御用ヒニナル所ノ財源ヲ爲シ、或ハ私ニ御用ヒニナル財源ヲ爲シテ居ル點ガアツタコトハ認メザルヲ得ナイト思フノデアリマス、大體古クカラ發達シテ參リマシタ所ノ此ノ君主政治ノ國ニ於キマシテ、世ノ中ノ轉換ニ從ツテ斯樣ニ此ノ憲法ノ考ヘテ居リマスルヤウナ財産ノ新タナル解釋ト、之ニ依ツテ生ズル變化ガ起ツテ來ルコトハ自然ノ道行キデアリマシテ、事例ノ多ク示ス所デアルト考ヘテ居ルノデアリマス、今回ノ此ノ憲法ノ改正案ニ於キマシテモ、過去ノ傳統ヲ踏襲シツヽ、之ニハツキリ事ノ性質ヲ見定メマシテ、天皇ガ公ケノコトニ御用ヒニナツテ居ル財産、又ハ主トシテ其ノ財源トシテ御用ヒニナツテ居ル財産ト云フモノハ、是ハ天皇ニ私ナシ、國ノコトハ國ノ費用ヲ以テスベキモノデ、天皇ノ御費用ヲ以テ、國費用ヲ御支辨ニナルベキ譯デハナイ、斯ウ云フ見地カラ國ニ移スベキモノトシタノデアリマス、併シ他ノ一面ニ於キマシテ、天皇ニモ全ク我々ト類似スル純粹ノ私生活ガアルノデアリマシテ、其ノ範圍ニ於テ御使用ニナリ、又其ノ範圍ノ財源トセラルヽ所ノ財産ガアリ得ルノデアリマス、ト云フコトカラシテ天皇ノ私的財産ト云フ觀念ヲハツキリ見定メタ譯デアリマス、八十四條ノ言葉ハ誠ニ其ノ複雜ナル内容ヲ言ヒ現スニハ適シテハ居リマセヌケレドモ、前後ノ關係ヲ綜合致シマシテ、左樣ニ讀メルト信ジテ、衆議院ノ修正ニモ御同感ヲ申上ゲマシタシ、又遡ツテ起案ノ文字モ左樣ナ意味ヲ含ンデ居ツタ譯デアリマス、此處迄思想ガ展開ヲシテ行キマシテ尚ハツキリ致シマセヌ問題ハ、ソレデハ其ノ公的財産ト私的財産ハ現實ニハドウシテ分ケラレルカト、斯ウ云フ問題ガ起ラウト思ヒマス、併シ是ハナカナカ簡單ナ議論一片デハ參リ兼ネルノデアリマシテ、現在ノ皇室ノ財産ノ動キ方ヲ窃カニ、イヤ違ヒマシタ、傍カラ拜聽致シマスト、相當錯雜シタモノデアリマス、之ヲ憲法ノ認メル簡單ナ形ニ組直シマスニハ、ソコニ處分的ナ色々ナ考慮ガ要ルト云フコトヲ考ヘテ居リマス、兎ニ角其ノヤウナ方針ヲ以テ天皇ノ私的財産ト云フモノハ、ハツキリ浮ビ上ルノデアリマス、ト致シマスト其ノ私的財産ノ中ニハドウ云フモノガアルカト言ヘバ、ハツキリ言ヒ究メラレマスモノハ、御身邊ニアル所ノ、日常私用ニ御用ヒニナル財産ト、斯ウ云フコトニマア言ヘバ、其ノ部分ハハツキリ致シマス、或ハ國ノ方カラ調出致シマス所ノ御内帑金ノ如キモ或場合ニ蓄積サレマスレバ其ノ方面ノ財産ノ内容トモナリ得ルモノト考ヘテ居ル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、ソコデ斯樣ニシテハツキリ天皇ノ私有財産ト云フ觀念ガ樹立致シマスレバ、茲ニ村上委員カラ先程御質疑ニナリマシタ通リ、ソレト他ノモノトノ間ニ民法上ノ法律關係ガ起ルノデハナイカ、是ハ御尤デアリマシテ、其ノヤウナ問題ガ起リマシタ時ニハ、之ヲ裁判ニ依ツテ解決スル段階モ現レテ來ルト思ヒマス、天皇無答責ノ規定ハ斯樣ナ場合ニ迄ハ當嵌ラナイモノト考ヘテ居リマス、然ラバ其ノ場合ノ裁判ノ手續、例ヘバ其ノ訴訟手續ヲ現實ニ擔任スル者ハ何人ガ之ニ當ルベキカト云フヤウナ問題ニナリマスルト、是ハ象徴タル御地位ニ顧ミテ、特別ナル留意ヲシナケレバナラヌト云フコトニナルノデアリマシテ、今日ソレノ研究ハ進行中デアリマシテ、決シテ恐ラクハ御趣旨ニ反スル方面ニハ向ハナイモノト考ヘテ居リマス
○村上恭一君 只今ノ論點ハ頗ル重要ナモノデアリマスノデ、只今ノ金森國務大臣ノ御説明ニハ私滿幅ノ賛意ヲ表シ難イ所モアリマスルガ、併シ其ノ御答辯ハ一應了承シテ置キマス、次ニ移リマスノデス、明治十八年十二月憲法實施ノ準備工作ノ一ツトシマシテ、宮中ノ機關タル宮内省ガ一般國務機關タル内閣ノ外ニ置カレマシテ、茲ニ所謂宮中府中ノ區別ヲ明カニスル原則ガ確立サレタノデゴザイマスル、次ニ此ノ頃聞ク所ニ依リマスレバ、金森國務大臣ハ將來ニハ宮中ノ機關モ亦一種ノ國務機關トナルト云フコトヲ言明サレタト云フコトデゴザイマス、ソレハ言ヒ換ヘレバ宮中府中ノ區別ヲ解消スル趣旨ト解サレルガ、ソレハ果シテ事實デゴザイマセウカ、果シテ事實ナリトスレバ將來宮中ノ機構ハ如何ナル機構トナルノデゴザイマセウカ、ソレハ國ノ立法部デモナケレバ司法部デモナイ、行政部ニ屬スル外ハナカラウト思ヒマスルガ、其ノ結果、宮中ノ機關ハ矢張リ内閣ニ隷屬スルモノデゴザイマセウカ、宮中ノ最高機關トシテ宮内大臣ガ設ケラレマスレバ、ソレハ内閣ニ列スル一國務大臣トナリマスルノデアリマスカ、若シ又宮内大臣ヲ設ケナイトシマスレバ、宮中ノ機關ガ内閣總理大臣ノ管理ニ屬スル外局ノ如キモノトナリマシテ、之ニ關スル責任ハ擧ゲテ内閣總理大臣ガ主管大臣トシテ、之ヲ負擔スルノデゴザイマセウカ、是亦事ノ詳細ハ、今日之ヲ明確ニ豫定スルコトハ出來ナイニ違ヒアリマセヌガ、大體ノ構想ニ付キマシテ現政府ノ御見解ヲ承ツテ置キタイノデアリマス、是ガ私ノ質問ノ第五點デゴザイマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 御尋ニナリマシタ點ハ、仰セノ通リマダハツキリ政府トシテハ決メテハ居リマセヌ、併シ此ノ憲法ノ建前ト致シマシテ、自ラ歸着スル方向ハ定ツテ居ルモノト考ヘテ居リマス、今日私ハ現在ノ宮内省ノ仕事ヲ詳シクハ存ジマセヌケレドモ、今日宮内大臣ノ所管セラレテ居リマスル事務ハ、恐ラク新シキ憲法ノ立場カラ判斷ヲ致シマスレバ、公ケノ地位ニ於カセラレテ居ル天皇ト、私ノ地位ニ於カセラレテ居ル天皇トノ雙方ニ亙ツテ居ルモノト考ヘテ居リマス、其ノ私ノ地位ニ於カセラレテ居ル皇室ノコトニ付キマシテハ、是ハ政府ハ直接關與スル所ハゴザイマセヌ、唯公ケノ立場ニ於テ、即チ國ノ象徴デアラレ、又是ト關聯シテ憲法六條、七條ノ權能ヲ御行使ニナリマスル範圍ニ於キマシテハ、全ク國ノ仕事トシテ諸般ノ附隨事務ヲ執行スベキモノト考ヘテ居リマス、デアリマスカラ其ノ公ケノ方面ニ於キマスル皇室ノ事務ニ於キマシテハ、從前ト面目ヲ一新セザルヲ得ナイ、モノト思ツテ居リマス、マダ茫漠タル考デゴザイマスルガ、左樣ナ事務ノ中ニ於キマシテ、純粹ノ一般國務ニ移シテ宜イモノモアルカモ知レヌト思ヒマス、例ヘバ外部的ナ御警衞ノ事務ト云フヤウナコトニナリマスルト、是ハ一般ノ行政ノ中ニ融込ンデモ宜イカモ知レヌト思ヒマス、サウ云フコトモ問題ニハ供シテ居ル譯デアリマス、ソレカラ皇室ニ直接關係アル所ノ公ケノ事務ニ付キマシテハ、是ハ御説ノ如ク、何等カ特別ナル行政ノ主宰者ガアルベキ譯デアリマシテ、ソレヲ如何ナル名ニ依ツテナスベキカ、如何ナル組立テノモノニ依ツテナスベキカト云フコトハ、ハツキリ致シマセヌガ、國務大臣デナイコトハ恐ラク自然ノ結果デアラウト思ヒマス、又仕事ガ内閣ニ屬スル、即チ廣イ意味ノ行政ニ屬スルト云フコトモ、是亦當然ノコトト思ヒマス、ソレヲ擁シテ行キマスルト、内閣ノヤウナ程度ノ高イ、外局的ナモノトシテ、之ヲ構想スルコトガ一番筋ノ通ルモノデハナイカ、現在ノ處デハ左樣ニ考ヘテ居ル譯デアリマス、之ヲモツト簡單ニ申シマスルト、皇室ニ關スル事務ハ、一部ハ事ニ依ルト普通ノ國政事務ノ中ニ流レ込ムノデハナイカ、一部ハ純粹ノ皇室ノ御内輪ノ仕事デハツキリ定ツテシマフモノデハナカラウカ、サウシテ殘ル公ケノ事務ト云フモノニ付キマシテハ、内閣ノ總理大臣ノ所管ニ屬スル、相當高級ナル官廳ガ出來テ、此處ニ於テ擔任セラレルト云フコトニナルノデハナカラウカ、ソレハ國務大臣デハナイ、コンナ御答ニナルト存ジマス
○村上恭一君 其ノ外、皇室ノ制度ニ關シマシテ、疑問ヲ感ズル所ハ多々ナイデハアリマセヌガ、斯樣ナ具體的ナ個々ノ事項ニ付キマシテ、餘リニ微ニ入リ細ニ亙ルコトハ此ノ機會ニ於ケル質問トシテハ稍々當ヲ得ナイ嫌ヒガナイデハアリマセヌカラ、私ノ質問ハ一應之ヲ以テ終ト致シマス、金森國務大臣ハ新憲法ニ於ケル天皇ノ御地位ヲ説明シテ、屡々天皇ハ國民ノ心ノ憧レデアルト云フ言葉ヲ用ヒラフレマシタ、ソコデ世間デハ取沙沃シテ、此ノ憲法ハ憧レ憲法ナドト申シテ居リマス、果シ斯樣ナテ言ヒ現シヲ以テ、新憲法ニ於ケル天皇制ノ根本義ヲ、國法的ニ十分説明スルコトガ出來ルカドウカ、ソレハ私保障ノ限リデハアリマセヌガ、天皇及ビ其ノ御一家タル皇室ガ、全國民ノ心ノ憧レデアルコトハ間違ヒノナイ所デアリマス、正シク國民ト僞リナキ信念ニ於テ飾ル所ナキ情操ニ於テ、紛レモナイ事實デアリマス、從ツテ皇室ノ制ニ關シマシテハ、形式ハ兎モ角モ、實體ニ於テ相當ノ規定ヲ設ケラルベキコトガ、極メテ當然ノ次第デアルト申サネバナリマセヌ、時ノ政府ガ此ノ事ニ付キマシテ、十分ノ用意ヲ以テ最善ノ措置ヲ取ラレムコトヲ、私ハ切ニ希望致シマス、私ハ此ノ希望ヲ申述ベテ、此ノ機會ニ於ケル私ノ質問ヲ結了致シマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ休憩致シマス、一時十分ヨリ再開致シマス
午後零時九分休憩
━━━━━◇━━━━
午後一時二十二分開會
○委員長（安倍能成君） 會議ヲ再開致シマス、佐々木委員、總理ガ丁度豫算委員會ニオイデニナツテ居リマスノデ、掛合ツテハ居マスケレドモ、金森國務大臣ハ御出席ニナツテ居リマス
○佐々木惣一君 私ハ總理大臣ニ御願シタイ部分ガアルト言ツテ置キマシタケレドモ、ソレハ必ズシモ總理大臣ノ御答辯ヲ得タイト云フ譯デハナイノデ、金森國務大臣デモ宜イノデス、總理大臣ニ聽イテ戴キタイト思ツタノデス、ソレデ矢張リ順序ヲ追ツテヤリマス、第一ト致シマツテハ天皇ニ關スル國家制度ト國民ノ意思、斯ウ云フ風ニ掲ゲテ置キマシタケレドモ、其ノコトニ付テ又色々質問ヲ分ツテ御尋シタイノデスガ、第一ノ質疑ノ點ハ天皇ニ關スル國家制度ト國民ノ意思、斯ウ云フ風ニ題シテアリマス、其ノ題ノ意味ニ色々ノ黠ヲ御尋ネ致シタイト思フノデアリマス、其ノ一ツト致シマシテ、金森國務相ガ先日來色々機會ニ於テ御答辯ト申シマスカ、御説明ヲナサイマシタ中ニ、現行憲法ニ依ツテ定ツテ居リマスル所ノ天皇ノ地位ト云フモノニ關シテ、從來ハ神祕性デアル、或ハ非現實性デアツタ、ソレヲ今度改メテ神祕性ヲ何ト申シマスカ、無クシ、又現實性ヲ明カニスルト云フヤウナコトヲ仰シヤツタノデアリマスガ、ソレデ私ハ先ヅ第一ニ其ノ所ヲ意味ハ能ク分ラナイケレドモ、從來ト云フヨリモ、今日マダアル憲法デアリマスガ、今日アル憲法ニ於テ天皇ガ御持チニナツテ居ル、或ハ又憲法ノ方ガ、法制ガ定メテ居リマス所ノ天皇ノ地位迄神祕性ダトカ、非現實性ダトカ云フコトハ、一體ドウ云フコトヲ言フノデアルカ、其ノコトヲ一ツ御尋シタイト思ヒマス、私自身ノ考ヲ先ニ申シマスレバ、決シテ神祕性ダトカ非現實ダトカ云フヤウナコトデハナイト思ツテ居リマスカラ、ソレヲ御尋ネ致シタイノデアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 私ガ前ニ御説明ヲ申上ゲテ居リマシタノハ、今日ノ天皇ニ對スル基本的ナ原理ガ神祕性ニ基イテ居ルト言ツタ覺エハアリマセヌ、神祕性ヲ含ンデ居ル考ヘ方、ソレカラ現實的ナ考ヘ方ニ依ルモノト二ツノ思想ノ流レガアツテ、過去ニ於テハ神祕的ナ考ヘ方ニ依ルモノノ方ガ強カツタノデアリマス、又ソレガ或場合ニハ殆ド全部デアルカノ如キ姿ヲ生ジタ、斯ウ云フコトヲ申シタノデアリマス、ソコデ其ノ御質疑ニ當リマスル神祕性ト云フヤウナコトヲ申シマシタ私ノ心持ヲ申シマスルト、天皇ガ統治權ノ總攬者デ御アリニナルコトハ固ヨリ憲法ニ決ツテ居リマス、而シテ何故ニ斯クアルカ、何故ニ是ガ國民ヲ其ノ文字ノ内容ニ從ツテ拘束スルカト云フコトノ根源トナル考ヘ方ガ結局神勅トカ、或ハ之ヲ取圍ンデ居ル所ノ神話トカ云フモノニ對スル國民ノ考及ビ其ノ考ヲ利用シテノ説キ方ガ根據ニナツテ居ル、斯ウ云フヤウナ意味ニ於テ申シタノデアリマス
○佐々木惣一君 私ノ言葉ガ足リナカツタカモ知レマセヌガ、或ハ大臣ノ是迄ノ御説明ト結局同ジデアルト、サウ云フ意味デ理解シテ御尋シタノデアリマス、處ガ私ノ考ニ依リマスト、今日天皇ガ統治權ノ總攬者トシテ御持チニナツテ居ル地位、ソレニ從ツテ我々ガ天皇ノ御行爲ト云フモノニ、我々ノ行爲ノ法的覊絆カヲ持ツテ居ルト云フコトハ、實ハ私ノ考ニ依リマスレバ、神勅ニ依ルトカ、サウ云フコトデハナイト私ハ思ヒマス、殆ド其ノ神勅ナルモノヲ思ツテ居ル人モ何モナイノデアリマシテ、今日ハ唯私ガ我ガ國家ノ制度上天皇ガサウ云フ地位ヲ御持チニナツテ居ル、サウシテサウ云フ位置ニ於テ我々ニ色々ノ命令ト申シマスカ、或ハ又指揮ヲナサイマスルトカ、詰リ我々ガ天皇ノ意思ニ從フト云フコトノ根源デアツテ、ソレガ神勅ニ依ルトカ何トカ云フコトハソレハ固ヨリサウ云フ風ニ説明スル人モアリマセウシ、又サウ云フヤウナ事柄デ説明ヲシテ歴史的ニ言ツテモ宜イト思ヒマスガ、併シナガラ其ノ天皇ガ統治權ノ總攬者トシテ我々ニ仰シヤルコトガ我我ヲ拘束スル、其ノ根據ガサウ云フ神勅ニ依ツテ居ルノダト云フヤウナコトヲ考ヘテ居ルト云フコトハ、我々トシテハ當然理解出來ナイ、固ヨリ色々ノ歴史ヤ何カデ、神勅ナドヲ説明セラレルコトハアリマセウケレドモ、私ハ一般國民ハサウ云フ神勅ニ依ルノダトカ、サウ云フヤウナコトカラ天皇ノ意思ニ從ツテ居ルト云フヤウナ思想ハナイト私ハ思ヒマスガ、併シソコノ所ハサウダト言ヘバソレ迄ノコトデアリマスケレドモ、私ハサウハ思ハナイ、ソレデ第二點ニソレハ支障アリマセヌガ私ハサウデナイト思フケレドモ、第二點ニ御尋ネ致シマスノハ、天皇ガ統治權ノ總攬者トシテ、我々ノ行動ヲ規定セラレルヤウナ、サウ云フ御力ヲ御持チニナツテ居ルト云フコト、ソレハ即チ制度デスガ、ソレハ矢張リ制度ニ據ツテ居ルノデアツテ、其ノ制度ト云フモノハ、何モ帝國憲法ト云フ成文法規ト云フ意味デハ固ヨリアリマセヌガ、要スルニ我ガ國ノ古來カラアル、サウシテ今日帝國憲法ト云フ成文トシテ現ハレタ、サウ云フ制度ニ據ツテ居ルノデアルガ、元來此ノ制度ト云フモノガ制度一般トシテ見テ、我々國民ガ之ヲ據ツテ居ルカラ存續シテ居ル、ソレデアリマスカラ、其ノ意味ニ於キマシテハ天皇ノ統治權總攬者トシテ、制度ニ依ツテ定マツテ居ルト云フノモ、結局ハ國民ノ意思デ據ツテ居ルノダ、斯ウ云フ風ニ私ハ解釋シテ居ルノデスガ、ソコデサウ云フ解釋ハ誤ツテ居ルカドウカト云フコトヲ、第二點トシテ御尋ネ致シタイノデス、其ノコトニ付テチヨツト私ノ考ヲ一言言ハシテ戴キマスガ、私ノ考ニ依リマスレバ、凡ソ國家ノ制度ハ如何ナル内容ノモノデアリマシテモ、國民ガ之ヲ擔ツテ居ルト云フ言葉ヲ私ハ豫テ使ツテ居リマス、之ヲ擔ツテ居ルカラシテ存在シテ居ル、又之ヲ擔ツテ居ル限リニ於キマシテ存續スルノデアリマス、從ツテ國民ガ其ノ制度ヲ擔ハナイヤウニナツタラ、其ノ制度ト云フモノハ結局廢滅ニ歸スル、其ノ廢滅ニ歸スルト云フノハ立法的、成文法的ノ手續ニ依ルト云フヤウナコトヲ必ズシモ言フノデハアリマセヌガ、サウ云フ制度ハ何時カ立法的ニ廢止サレルヨリ外ハナイノデアルシ、又廢止サレナクテモ結局皆ガ從ハヌト云フ意味ニ於テ廢滅ニ歸スル、此ノ意味ニ於キマシテ、私ハ國家ノ制度ハ、常ニ國民ノ意思ト云フモノガ其ノ存續ノ基礎ダト、斯ウ云フ言葉ヲ平常カラ使ツテ居ルノデアリマス、ソコデ國家制度ノ國民的基礎ト云フヤウナ言葉ヲ私ハ使ツテ居リマスガ、ソレハ憲法ダラウガ、他ノ民法、商法ダラウガ同ジコトデアル、從ツテドウ云フ制度ガドウ云フ規定ヲ設ケテ居ルト云フ、規定ノ内容トハ無關係デアリマシテ、凡ソ一般ノ制度ハサウ云フモノダト思ヒマスガ故ニ、天皇ト云フ制度デモ矢張リソレガ存續スルト云フコトノ爲ニハ、其ノ天皇ト云フ制度ヲ擔ツテ居リマスル所ノ我々國民ガ、擔ハナクナツタラソレハ無クナルト云フ考ヲ持ツテ居ル者デアリマス、併シサウ云フ風ニ考ヘルコトハ金森國務大臣ノ御考デハ御賛成デアリマセヌデセウカ、或ハ餘程違ツテ居リマセウカ、ソレダケノコトヲチヨツト‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 擔フト云フ比喩的ナ言葉ヲ御使ヒニナリマシタカラ、尚多少先ノ發展ヲ懸念シテ居リマスルケレドモ、今迄伺ヒマシタ範圍ニ於テハ私モ左樣ニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 サウデアリマスカ、擔フト云フコトハ私モ文字ニ甚ダ困ツテ居ルノデスガ、只今私ノ申上ゲマシタコトデ大體分ルト思ヒマスケレドモ、ソレハ國家制度ノ内容タル規定其ノモノトハ關係ナイコトデアリマスカラ、ソコデ斯ウ云フ風ニ考ヘマス、ソレハ天皇ガ、今、現ニ統治權ノ總攬者デアルト云フヤウニ制度トシテハナツテ居ルト云フヤウナコト、ソレカラ又今度ソレヲ變ヘマシテ、サウシテ或一人ノ方ガ天皇タル位置ニ即カレルト云フコトガ、國民ノ意思ニ基クト云フヤウナコトデ、サウ云フコトトハ全然關係ガナイコトデアル、内容トハ無關係デアル、ソレデ其ノ意味ニ於キマシテ、今回ノヤウニ或御一人ガ天皇ト云フ地位ニ即カレルコトガ、國民ノ總意ニ依ルト云フコトハ、是ハ矢張リ制度ナンデスカラ、サウ云フ制度ニスルコトモ、或ハ又從來ノヤウニ天皇ガ別ニ國民ノ意思ニ依ツテ、サウ云フ總攬者ノ地位ニ即カレルノデハナイ、當然ニ、法ニ依ツテサウ云フ御血統ニ出デラレテ居ルト云フガ故ニ、天皇ノ地位ニ即カレルト云フコトモ、同ジク國民ノ意思ト云フモノト制度トシテ繋ガツテ居ルノデアル、其ノ點ハ何ニモ差異ガナイ、ソレデサウ云フ國民ノ意思ト云フモノト何等繋ガリナシニ從來ノモノガアツタ、國民ノ總意ト云フヤウナモノト無關係ニアツタト云フヤウナコトカラシテ、何カ私先刻申シマシタ神祕性ト言ツテハイケナイノカドウカ知リマセヌガ、神祕的ナモノ、非現實的ノモノデアルト云フヤウナ見地カラシテ、今回ノ憲法ガ、現實的ニ或ハ神祕性ヲ剥イダト云フヤウナコトデアルナラバ、ソレハ詰リ凡ソ制度ハ之ヲ擔フ國民ノ意思ト云フモノトノ關係ニ關スルドウモ誤解ノヤウニモ私ハ思フノデアリマスガ、ソレデ此ノ間以來伺ツテ居リマスト云フト、我ガ國ノ天皇ガ所謂皇祖皇宗ノ後裔トシテ、其ノ御家デアルガ故ニ、天皇ノ地位ニ當然ニ御即キニナルト云フヤウナコトガ、今日迄ハソレ自身國民ノ意思ニナツテ居ル、ソレデアリマスルカラ何ニモ國民ノ意思ト云フモノト繋ガリガ無イト云フヤウナコトデハナイト私ハ思フノデアリマスガ、其ノ點ハドウデアリマセウカ、サツキ申シマシタ意味ニ於テ矢張リ國民ノ意思ト繋ツテ居ルノデハアリマセヌカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ニ思ヒマス
○佐々木惣一君 サウスルト云フト、此ノ間以來屡々伺フノデアリマスガ、所謂神權説トカ、神授トカ、神話トカ云フヤウナモノニ、思想的ナ基礎ガアルトカドウトカ云フヤウナコトハ、ドウモ私ハ現行ノ憲法ヲドウ改正スルカト云フコトハ別デアリマスケレドモ、現行憲法ガ我々國民ノ意思ヲ羈束致シテ居リマスルコトニ付テハ全然當ラヌヤウニ思ハレマスガ、神權説トカ、神話トカ、神授トカ云フコトハ、斯ウ云フ言葉ハ、神話デモ何デモナイ、神權説デモ何デモナイ、詰リ今申シマシタヤウナ、サウ云フ御家ニ御出ニナツテ居ル方デアルカラシテ、單ニソレ故ニ我々之ヲ君主ト仰イデ居ルト云フコトハ、神話デ神權デモ、神授デモ何デモナイ、我々ノ意思其ノモノデアルト考ヘテ、私ハ斯ウ云フコトヲ伺フノデアリマスガ、今日私ハドウモ從來ノ憲法ヲ廢シマシテ、次ノ憲法ニナル、其ノ善イ惡イヲ言フノデハアリマセヌガ、其ノコトノ爲ニ從來ノ憲法ガ何カ神話トカ、神授トカ、神權説ト云フヤウナ‥‥神權説トナリマスト君主ノ地位ニ關シテデアリマスガ、サウ云フヤウナコトヲ附加ヘテ説明スルコトハ、ドウモ私ハ却テ社會ノ誤解ヲ招キハシナイカ、從來ノ憲法ニ付テモ、誤解ヲ招キハシナイカト斯ウ云フ感ジガアルノデアリマシテ、此ノ間頻リニ此ノ言葉ガ出テ居リマスノデ一言致シマスガ、神權説トカ何トカ云フコトハ、元來日本ノ天皇ノ地位ト云フヤウナコトニ付テノ説明ニハ別ニ當ラヌノデ、唯穗積先生ガサウ云フ説明ヲ爲サツタコトガアリマスケレドモ、是ハ國家ガ、或ハ君主デモ宜シウゴザイマスガ、此ノ時ニハ國民ニ對シマシテ、國民ハ何ト申シマシテモ自由ヲ喜ビマスカラ、人ノ權力ノ下ニ束縛サレルト云フコトハ好ミマセヌ、ソレニモ拘ラズ國家或ハ又ソレヲ表現シマスル所ノ君主ノ權力ニ依リマシテ、自由ヲ束縛サレルト云フヤウナコトハ、一體ドウ云フヤウナ意味デアルカ、詰リドウ云フ根據ニ依ツテ、サウ云フコトヲ説明スルコトガ出來ルカト云フ時ニ、是ハ御存ジデアリマセウケレドモ、一體我々ハ宗教上、世界ヲ宗教的ニ支配シテ居ル所ノ絶對者ガアル、ソレヲ神ト謂フ、其ノ神ノ命令ニハ從ハナケレバナラヌ、私共ハ矢張リ多少宗教的デアリマシテ、サウ云フ絶對者ガアルカドウカハ別ト致シマシテ、サウ云フ絶對者ニ從ハナケレバナラヌト云フ感ジヲ持ツテ居リマス、處ガ君主ト云フモノガ、或ハ國家デモ宜シウゴザイマスガ、君主ト云フモノガ、所謂宗教的ノ意味ノ權力者ト云フモノカラ我々國民ヲ支配スルト云フ、サウ云フ力ヲ授カツタノデアルカ、即チ我々ガサウ云フ絶對的ノ神樣ノヤウナ、サウ云フ絶對者ニ從フト云フノデアルナラバ、サウ云フコトヲ認メルモノデアルナラバ、即チ論理的ニ、其ノ絶對ノ神ノ神權ト云フモノヲ授カツテ、其ノ神權トシテ我々ヲ支配シテ居ルト云フ、サウ云フ君主ト云フモノノ權力ヲ認メザルヲ得ナイ、サウ云フ君主又ハ國家ノ我々ヲ拘束シシマスル其ノ根據ノ説明トシテ神權トカ何ントカ云フコトヲ言ツテ居ルノデアリマシテ、決シテ我ガ國ノ天照皇大神宮、アレヲ神樣ト言フカラシテ、其ノ子孫ガ詰リ君主ノ位ニ即クト云フヤウナコトヲ説明スルヤウナ場合ニ當嵌メルベキ學説ヂヤナイト私ハ思ツテ居ルノデアリマス、元來我ガ國ニ於ケル天照皇大神宮ヲ神樣トカ何トカト云フコトハ、ソレハ我ガ國ダケデ云フ神樣デアリマシテ、絶對的ノ、宗教的意味ノ世界ヲ支配スルト云フヤウナ意味ニ於テ言ハレテ居ルモノデナイト私ハ思ヒマスカラ、ソコデ少シ意見ノヤウニナリマシタケレドモ、大臣モ時々仰セラレタノデアリマスケレドモ、從來我ガ國ノ天皇ト云フモノニ對シテ我々ガ持ツテ居ツタ思想ガ、所謂神權説ト云フヤウナモノト、何カ關係ガアル、或ハソレニ似テ居ルト云フヤウナコトハ私ハドウモ當ラヌト思フノデアリマスガ、如何ナモノデアリマセウカ、是ハ特別ニ御答辯ヲ願フ程ノコトデハナイガ、私ハ要スルニ此ノ神權説ト云フヤウナコトハ我ガ國ノコトトハ關係ガナイ、是ハ何故ニサウ云フコトヲ申シマスルカト云フト、斯ウ云フ神權説トカナントカ云フコトヲ言フト、之ヲドウ説明致シマシテモ、將來ノ即チ國民統合ノ象徴トカナントカ云フヤウナコトガ却テサウ云フ神權説ミタイナコトニナツテシマツテ、斯ウ云フ説明ヲ以テ行クト、却テ新憲法ニ於キマスル所ノ天皇ノ地位モ何ンダカ神祕的ノモノヲ少クトモ外國人ニハ思ハシムルヤウニナリハセヌカト思フノデスカラ、マア我ガ國ノ神權説トカナントカ云フモノハ將來ハ勿論ノコト、現在モソンナヤウナコトニハ關係ナイヤウニ説明シタラドウカト、斯ウ云フ風ニ思ツテ居ルノデアリマス、之ニ付テハ別ニ御答辯ヲ煩ハス程ノコトモアリマセヌガ、是ガ即チ私ノ意見デアリマス、ソレカラソレニ關聯シマシテ、従ツテ天皇ガ統治權ノ總攬者デアリマスカラ、詰リ此ノ統治權ノ總攬者デアルト云フコト自體ガ、今申シマシタヤウニ、我々國民ノ意思ト云フモノデ之ヲ擔ツテ居ル、國民ノ意思ニ基クト言フト工合ガ惡イノデスガ、國民ノ意思デ擔ツテ居ル、我ガ國トシテハサウアルベキモノダト、斯ウ云フ風ニ考ヘテ從ツテ居ツタト、斯ウ云フ風ニ私ハナルノデアリマスガ、併シナガラ國民ノ意思、我々ガサウ云フ風ニ考ヘテ居ツタノダト云フコトト、今度新憲法ニ依リマシテ、詰リ國民統合ノ象徴デアルト、サウ云フヤウナ地位ヲ天皇ガ御持チニナルコトハ、國民ノ總意ニ基クト云フノト、私ノ所謂國家ノ制度ヲ以テ擔ツテ居ルト云フコトノ意思ハ全然違ツテ居ルノデアリマシテ、同ジ意思ハ意思デアリマスケレドモ、基クト云フノハ、現實ニ其ノ地位ニ御即キニナツテ居ル其ノ方々ガ皆國民カラサウ云フ力ヲ授ケラレタト云フコトガ基クト云フ意味デアルカト思フノデアリマス、私共ノ言フ國家ノ制度ガ、國民ノ意思ガソレヲ擔ツテ居ルト云フノハ、サウ云フ制度其ノモノガ國民ノ意思ニ依ルト、斯ウ云フコトデアリマスルカラ、私共ノ考ニ依リマスルト云フト、内容ノ如何ニ拘ラズ、結局國民ノ意思ガ之ヲ擔ツテ居ルト云フコトニナルノデアリマス、サウ云フ立場ニ致シマスルト云フト、私ノ考デハ、此處デ御尋ヲ致シタイノデアリマスルガ、將來ハ知リマセヌデス、今日天皇ガアヽ云フ意味ニ於テ統治權ノ總攬者デアツテ、サウシテアヽ云フ御家ニオイデニナルト云フコト其ノコトカラ我々ガ統治權ノ總攬者トシテ仰イデ居ルト云フ、サウ云フ制度ニナツテ居ルト云フ我々ノ意思ガドウシテ今日ナクナツタト認定出來ルカト、斯ウ云フコトデアリマス、之ヲ新憲法デ申シマスルト云フト、今日アヽ云フノデナシニ、其ノ時々ノ天皇ガ總テ其ノ地位ヲ、直接ニ我々國民ノ意思ニ依ツテサウ云フ地位ヲ得ラレタノダト、國民カラ言ヘバ、サウ云フ地位ヲ我々國民ノ意思ガ授ケテ居ルノダト、サウ云フヤウナ意識デスナ、是ハサウ云フ制度ニセナケレバナラヌト云フ意識デス、制度ヲ擔フ意識デアリマスガ、サウ云フ意識ガ國民ノ方ニ今日アルト云フコト、認識ガアルト云フコトガドウシテ言ヘルカト、斯ウ云フコトデアリマスガ、ソレヲ何カ御説明ガ出來レバ一番宜イト思フノデス、モウ少シ之ヲ申シマスルト、矢張リ國民ノ傳統的感情ト云フモノ、或ハ傳統的意識ト申シマスルカ、是ハドウモ尊重シナケレバナラヌ、ソコデ凡ソ國家ノ制度ヲ定メマスル時ニ、殊ニ斯ウ云フ憲法ヲ定メテ、サウシテ天皇ノサウ云フ地位ト云フヤウナコトヲ定メルヤウナ時ニハ、是ハ立法者、我々自身デアリマスルガ、サウ云フ國家ノ機關トシテノ立法者ハ、自己ノ個人的ノ感情ト云フモノニ捉ハレナイデ、即チ其ノ時ニ現ニ存在シテ居リマスル所ノ傳統的ノ國民感情ト云フモノハ、是ハ客觀的ニ觀テ行カナケレバナラヌ、從ツテ私ガ假ニ天皇ハ厭ダ、天皇制度ト云フモノハ詰ラヌト思ツテモ、我ガ國ノ國民ガ一般的ニ天皇ト天皇制度ト云フモノヲマダ維持シテ居ルト云フ風ニ考ヘラレル限リニ於キマシテハ、自己ノ感情ハ別ニシテ、一般國民ノ傳統的ノ感情ト云フモノヲ尊重スルノガ制度ノ建前ナンデ、私自身ガ如何ニ天皇ト云フモノヲ尊重スル、天皇制度ヲ尊重スルト云フヤウナ考ヲ持ツテ居リマシテモ、併シナガラ國民的感情ガ既ニ傳統的ノ感情ト云フモノヲ棄テ、皆モウ天皇制度ト云フモノハ詰ラヌ、天皇ハ詰ラヌモノダト、斯ウ思ツテ居ルト云フ風ニ客觀的ニ考ヘラレル限リニ於キマシテハ、自分トシテハ天皇制度ガ宜イト思ツテモ、國家ノ制度トシテハ社會、國民ノ客觀的ナ意識ト云フモノニ從ツテ行カナケレバナラヌ、從ツテ天皇制廢止ト云フコトニドウシテモナラナケレバナラヌト、斯ウ云フ風ニ考ヘマスガ、斯ウ云フ制度ヲ立テル時ニハ、サウ云フ點カラ見マシテ、今日我ガ國ノ一般國民ガ從來、タツタ此ノ間迄傅統意識ダ、傳統意識ダト言ツテ居ツタモノガ全部ナクナツテ、サウシテ天皇制ト云フモノハモウ棄テヽシマフト云フヤウナ、サウ云フ一般的意識ト云フモノガアルト、斯ウ云フ風ニ認識シテ宜イノデアリマセウカ、ソレダケノコトヲチヨツト御尋シテ見タイト思フノデアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） チヨツト初ニ遡リマシテ、擔フト云フ言葉ニ付キマシテ私ハ非常ナ疑ヲ持チツヽ御賛同ヲ申上ゲマシタケレドモ、段々言葉ガ深ク入ツテ來ルニ從ヒマシテ、私ノ了解スル意味ト、佐々木委員ノ了解シテ居ル意味トハ、今ノ處デハ毫末ノ違ヒハアリマセヌガ、將來違フヤウニ發展スルト思ヒマスガ、一應申上ゲテ置キマス、私ハ改正憲法第一條ニ於キマシテ、基クト云フコトハ授ケルト云フヤウナ意味ニ御説明ヲ申上ゲマシタコトハ一遍モアリマセヌ、基クハ基クデアリ、授ケルハ授ケルデアツテ言葉ノ持ツテ居ル内容ハ相當違ツテ居リマス、私ハ此ノ重大ナル言葉ヲ説明致シマスルニ際シテ、決シテ、基クニ授ケルト云フヤウナ意味ヲ含マセタコトハ、恐ラク絶對ニナイト信ジテ居リマス、ソコデ擔フト仰セニナリマシタ言葉ハ、私ハ此ノ基クト云フ言葉ト同ジヤカナ御趣旨デハナカラウカト思ツテ御賛同申上ゲタノデアリマシテ、若シ先デ違フナラバ、私ノ賛同ハ始カラ取消スト云フコトニナリマスシ、此ノ言葉ト同ジ意味デアルナラバ、飽ク迄御賛成ト云フコトニナルヤウニ御了解ヲ願ヒタイト思ヒマス、次ニ今御尋ニナリマシタ本問題ニ入リマシテ、國民ハ果シテ、此ノ憲法ノ第一條ノ國民ノ總意ト云フヤウナ段階ニ來ツテ居ルノデアラウカ、若シ國民ガ、サウ云フ段階ニ來ツテ居ナイノデアルナラバ、此ノ機關タル立法府ハ、ソレヲ其ノ通リニ解釋スベキモノデアリ、ソレ以上ノ方法ヲ採ルベキモノデハナイデハナイカト云フヤウナ御氣持デ御質疑ニナツタト思ツテ居リマス、私ハ國民諸君ガ、恐ラク此ノ憲法改正案ニ對シテ、大體ノ方向ニ於テ賛成シテ居ラルヽノヂヤナイカト、斯ウ信ジテ居リマス、ソレハ今迄ノ衆議院其ノ他ノ新段階及ビソレヲ中心トシテ、アチラコチラニ起ツタ空氣、新聞其ノ他ノ言論機關ノ現ハレモアリマス、サウ云フモノヲ綜合シテ考ヘテ見マシテ、恐ラク斯ウ云フ處ニ來テ居ルモノト私ハ思ツテ居リマス、併シナガラ、縱ンバ、此處迄來テ居ナクテモ、私窃カニ考ヘマスルニ、此ノ議會ノ諸友、即チ國民ヲ代表セラレテ居ル方々ハ、石ノ如ク固ツテ居ル國民ヲ代表セラレテ居ルノデハナクテ、生生發展シテ行ク處ノ國民ヲ代表セラレテ居ル譯デアリマス、デアリマスカラ國民ハ今眠ツテ居ルニシテモ、皆樣方ノ頭ノ中ニ、若シモ其ノ伸展スル氣持ヲ持ツテ御判斷ニナルナラバ、即チ生ケル國民ヲ代表シテ居ラレル次第デハナカラウカト私ハ考ヘテ居リマス、從ツテ國民ノ各個ハ曩ニモ申シマシタヤウニ、實際此ノ段階迄大筋ニ於テハ來テ居ル、細カイコトヲ總テノ人ガ知ツテ居ル譯デハアリマセヌ、直感的又ハ荒筋ニ於テ理解シテ居ルコトハ、疑アリマセヌガ、縱ンバソコ迄周到ニ行カナクテモ、此處ニ御集リノ方ノ、謂ハバ總説的ナルト申シマスカ、總説的ナル御判斷ニ依ツテ、國民ノ總説的ナル氣持ヲ御代表ニナルコトガ然ルベキ筋合ノヤウニ僣越ナガラ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 只今國務大臣ノ御説明ノコトハ能ク分リマシタ、ソコノ所ハ大分違フノデスガ、詰リ斯ウ云フ問題ニ對シテ、國民ノ傳統的感情、傳統的意識ト云フモノハ尊重スベキデアルト云フコトニハ御賛成ノヤウニ見受ケマスガ如何デスカ、唯今日ハ、サウ云フ國民ノ傳統的ノ感情ナリ、意識ト云フモノガ既ニ變ツテ、新憲法ニ於ケルガ如キ状況ニナツタト云フ風ニ御認識ニナルノデスカラ、此處ノ處ハ仕樣ガナイト思ヒマスガ、私ノ考ヘル處デハ、此ノ憲法ガ、實際ハ國民ニ少クトモ能ク分ツテ居ナカツタノデアリマシテ、何日デシタカ、衆議院ノ方デ拜聽シタノデスガ、或ハ速記録デ讀ミマシタカ、此ノ憲法ガ始ニ斯ンナコトニナルト云フコトガ國民ニ知ラレテ居ツタナラバ、我々代議士ノ大半ハ當選出來ナカツタダラウト言フタ人モアリマスカラ、私ハドウモ傳統的ノ國民感情ガ、此ノ新憲法ニ於テ盛ラレムトシテ居ル、サウ云フ天皇ノ地位ノ根據ニ關シテ、其ノ傳統的精神感情ガ、サウ云フ風ニナツテシマツタト云フ風ニハドウモ考ヘラレナイノデスケレドモ、併シ唯茲ニ國民ノ傳統的精神ト云フモノノ如何ニ拘ラズ、兎ニ角法ヲ作ツテサウ云フ方向ニ國民ノ意識、感情ト云フモノヲ向ケテ行クト云フ御説明ナラバ私ハ分ル、其ノコトニ賛成スルトセヌトハ別ニシテ分ルノデアリマスケレドモ、サウデナシニ、唯國民ノ傳統的意識、感情ト云フモノガ此ノ内容ニナツテ居ルト云フ風ニナルノデ、是ハ國民意識ノ感情的ノ判斷ノ實際デアリマスカラ致シ方ナイ、其ノ基クト云フノハ授ケルト申シマシタケレドモ、授ケルト云フ其ノ法的意味ノサウ云フ行爲ガアルト云フコトデハアリマセヌ、要スルニサウ云フ地位ニ就カセテ居ルト云フ國民ノ意思作用、意思組織ト云フモノガアルト云フコトヲ言フノデアリマシテ、寧ロ授ケルト云フ特別ノ行爲ガアルコトハ疑ヒナイコトデアリマス、ソレダケハチヨツト御説明申上ゲマス、併シ是ハドウモ何ト言フテモ仕樣ガナイコトデモアリマシテ、私モ勿論凡ソ法制ノ役目ト致シマシテ國民的ニ既ニ存在シテ居ル所ノ意識、感情ノ如何ニ拘ラズ法ノ方ガ先ニ進ンデ、國民的ノ意識、感情ヲ即チ導イテ行クト云フコトノ必要ガアルコトハ固ヨリ認メマス、唯併シナガラ我ガ國體ニ關スル統治權ノ總攬者ノ地位ヲドウシテ決メルカト云フヤウナコトニ相成リマスルト、少クトモ我ガ國ニ於キマシテハ矢張リ國民ノ傳統的感情ト云フモノヲ尊重シテ、從ツテソレガドウデアルカ、ドウ變ツタカト云フコトハ極メテ客觀的ニ、制定ノコトニ當ル者ノ個人的ノ主觀的ノ意思感情トハ離レテ、從ツテ自分ノ主觀的、個人的意識ト別ノ内容ヲ持ツタ法制ヲモ作ラナケレバナラヌト云フ考ヲ持ツテ居リマシタモノデスカラ、其ノコトヲ御尋シタノデス、ソレ以上ハ此ノ點ニ關シテハドウモ仕樣ガアリマセヌカラ、サウ致シマシテ、ソコデ今度ハ大變重ナルヤウデ相濟ミマセヌケレドモ、此ノ機會ニ言ハシテ戴キタイコトハ、言葉ノ問題デアリマスガ、今ノコトト直接ニハ關係ナイコトデアリマスケレドモ、先日來國體ト云フ言葉ガ頻リニ使ハレテ居リマスガ、御存ジノヤウニ其ノ國體論ヲ此處デ再ビ繰返スノデハ決シテアリマセヌ、唯國體々々ト言フテ居リマスモノノ中ニ、言フ迄モナク言葉デスカラ、其ノ言葉ガ先日來アリマス通リニ茲デ國家制度ト言ヒマスカ、詰リ國家ノ制度ニ於ケル或技術ヲ言ツテ居ル場合ト、國家ノ或状態ニ付テ言ツテ居ル精神的ノ、從ツテ倫理的ノ道徳的ノ状態ニ於テノ國柄、國家ノ制度、精神トカト云フコトデハナシニ、國柄ト云フコトヲ言ツテ居ル場合ト二ツアルト云フコトハ、此ノ國體ノ意義ガ、是ハ昔カラ少シデモ其ノ方ノコトヲヤツテ居ル者ハ皆言ツテ居ルコトデアリマシテ、此ノ國體ノ、サウ云フ言葉ノ使ヒ方、ソレカラサウ云フ國體ト云フコトニ付テノ議論モ色々アリマシタコトハ、私嘗テ書物ニ書イテ居リマスカラ、金森サン暇ナ時ニデモ御覧下サレバ大變有難イデスガ、併シ此處デ言ツテ居ルノハ即チ國家ノ制度ニ於テ天皇ガドウ云フ地位ヲ御有チニナツテ居ルカト云フ、サウ云フ點ニ著眼シテノ國ノ姿ヲ國體ト言ツテ論ジタコトハ是ハ疑ヒナイ、唯併シソレトハ別ニ凡ソ國家ノ精神的ノ姿ト云フモノヲ國體ト云フ言葉デ言ツテ居ル者モアルコトハ、是ハ當然ノコトト私モ書イテ居リマスガ、當然ノコトデアルノデスネ、其ノコトヲ再ビ申上ゲルノヂヤアリマセヌガ、ソコデ國務大臣ノ仰シヤル心ノ繋リトカ、國民ノ心ノ繋リトカ何トカ云フコトハ、是ハ即チ精神的ノ、或ハ倫理的ノ、道徳的ノ國ノ姿ト云フモノヲ觀タ、サウ云フ方面ノ國體ト云フ言葉デアルト云フコトハドウモ疑ヘナイト考ヘマス、ダカラ、サウ云フ方面カラ觀ルコトガ惡イト云フノヂヤアリマセヌヨ、サウデアル、ソコデ一ツ御尋シテ見タイノデアリマスルガ、一體サウ云フ心ノ繋リトカ、憧レノ中心ニナルトカ、サウ云フヤウナコトハ、サウ云フ國家ノ基本的ナ姿ト云フモノハ天皇ガ國家ノ政治上ノ面ニ於テ、ドウ云フ地位ヲ御持チニナツテ居ルカト云フコトト無關係ニシナケレバナラヌモノデアルカドウカト云フコトヲ、チヨツト御尋ネ申上ゲタイト思ヒマス、モツト具體的ニ申シマスレバ、詰リ天皇ガ統治權ノ總攬者ト云フ地位ヲ御持チニナツテ居ルト云フ、サウ云フコトガナクナツテシマツタナラバ、從來カラ他ノ面ニ於テ天皇ガ、詰リ我ガ國ニ於テハ、我ガ國ノ姿ト云フモノハ道徳的ニ、精神的ニ、倫理的ニ特殊ノ性格ヲ持ツテ居ルヤウナ國ノ姿デアリマスルガ、其ノ道徳的ニ、精神的ニ特殊ノ一ツノ姿ヲ持ツテ居ルト云フ、其ノ姿ガ實ハ國家ノ政治的ノ姿ト無關係ニハアリ得ナイ、詰リ天皇ガ統治權ノ總攬者デアラレテ、サウシテ色々國家ノ爲ニモ一生懸命ニ御盡シ下サツテ居ル、今日色々ノ御話モ出マシタガ、天皇ニ私生活ナシト云フヤウナ、サウ云フ其ノ政治ヲ爲サル天皇ノ統治權ノ總攬者トシテノアリ方ト云フモノヲ含ンデ、國ノ精神的、道徳的ノ姿ト云フモノガ、私ハ出ルト思フ、言ヒ換ヘテ見マスレバ、天皇ガ統治權ノ總攬者デアルト云フ状態ガ一遍失ハレテシマツテ、是ハ今ハ我々ハ隋性ヲ持ツテ居リマスケレドモ、段々ト此ノ状態ガズツト長ク續キマシタナラバ、其ノ結果我ガ國ノ所謂他ノ意味ニ於ケル國ノ姿、即チ精神的、道徳的ト云フヤウナ、サウ云フ國ノ姿其ノモノガ變ツテ來ハシナイカ、斯ウ云フ考ヲ持ツノデアリマス、ソコデ概念的ニハサウ云フ政治ノ面カラ觀タ國ノ姿ト、ソレカラ政治ノ面デナシニ、道徳トカ倫理トカ總テノ有ラユル方面カラ觀マシタ國ノ姿ト云フモノハ、無論概念的ニハ別ノ觀念トカ内容ヲ持ツタ姿デアリマスルケレドモ、併シナガラ全面的ニ精神的ノ國ノ姿ト云フモノ其ノモノガ、實ハ政治的ナ國ノ姿ニモ影響ガアルト斯ウ私ハ思フノデス、デ天皇ガ是迄ノヤウニ統治權ノ總攬者デアルト云フ地位ヲナクセラレタト云フコトニナリマスルト云フト、今ハ知リマセヌケレドモ、段々ト我國ノ所謂精神的姿ナル意味ニ於ケル我ガ國ノ國體モ變ツテ來ルノデハナイカ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマスルガ、ソレデサウ云フ點ニ付テノ大臣ノ御考ヲチヨツト實ハ御尋シテ見タイノデス
○國務大臣（金森徳次郎君） 御質疑ノ點ハ一面ニ於テ肯定スルト共ニ、一面ニ於テ否定ヲ申上ゲタイト思ツテ居リマス、其ノ意味デ此ノ二ツノモノガ現實ノ世界ニ於テ相當ノ關係ヲ持ツテ居ルト云フコトハ疑フベクモナイト思ヒマス、併シナガラ其ノ關係ハドウ云フ割合デ來ルノカト云フ數量的ナ計算ト云フモノハ餘程困難デアリマシテ、日本ノ過去ノ歴史ニ付キマシテモ、皇室ノ御權能ノ幅ハ時ト共ニ變ツテ居リマスケレドモ、併シ之ニ對スル國民ハ愛敬ノ念ノ深サト云フモノハ必ズシモ其ノ分量ト比例ハシテ居ナイト思ツテ居リマス、ソコデ斯樣ナコトヲ御答ト致シマス
○佐々木惣一君 イヤ、ソレハ能ク分リマスガ、私ハ統治權ノ總攬者ト云フコトノ、個々ノ場合ニ天皇ガ權能ヲ御發動ニナル、個々ノ場合ノ事例ナドヲ言フノデハアリマセヌガ、例ヘバ先般來屡々御話ノ出テ居リマシタ、詰リ近クハ徳川時代、其ノ前ニ遡ツテハ其ノ時代ノ幕府デアルト云フヤウナ時デモ、兎ニ角ソレハ天皇ハ殆ド實際ノ政治ノ事實ハヤラレナカツタノデアリマス、總テ將軍ノ方ニ、幕府ノ方ガシテ居ツタト思ヒマスケレドモ、併シナガラソレハ天皇ガ統治權ノ總攬者トシテ、サウシテ其ノ實際ノ政治ヲ行フト云フコトヲ委ネラレタノダト、斯ウ云フ觀念カラ出テ居ツタト思ヒマス、昔ノ歴史ノコトハ詳シクハ知ラヌケレドモ、併シ少クトモ維新ノ時ニ於キマスル、即チ慶喜將軍ノ天皇ニ所謂大政ヲ奉還セラレタト云フコトノ中ニ、是迄ハ天皇ガ政權ヲ委任セラレテ居ツタト云フ、委任ト云フ言葉ヲハツキリ書イテアル、天皇ノ御委任ニ依ツテ其ノ政治ヲ行ツテ居ツタノダケレドモ、是カラハ其ノ委任ヲ解イテ戴イテ、政治ヲ陛下ニ奉還スルト、斯ウ云フ風ニ申シテ居リマスカラ、ソコデ大臣ガ今仰シヤツタヤウニ、政治ノ行ハレル實際ニ於テハ幅ガアルニ違ヒナイケレドモ、併シ幅ガドンナニ狹マツテ見テモ、狹ケレバ狹イ幅ノ儘ニ、ソレハ結局統治權ノ總攬者タル天皇ノ御地位ト云フモノカラ我々ニ授ツタモノダト云フ思想ハ、其ノ將軍連中自身ニ、天皇ヲ蔑ロニシテ居ルケレドモ、併シナガラ蔑ロニシテ居リナガラ、サウ云フ思想ガアツタト云フコトハ、ドウモ是ハ疑ヒナイ、古イ歴史ハ知リマセヌケレドモ、少クトモ維新ノ歴史ニ付テソレヲ言ヘバ、ハツキリソレガ言ヘルノデアル、斯ウ云フコトニナルノデアリマスカラ、私ハ今金森國務大臣ノ仰シヤツタ其ノ沿革ハ分ラヌコトハアリマセヌケレドモ、併シ將來天皇ノ統治權ノ總攬者タル地位ガ段々ナクナツテシマツテ、本當ヲ言ヘバ空ノヤウニナリマスト、段々國民ノ精神ト云フモノガ變ツテ、或ハ虞ル、幾十年ノ後ニハ天皇ニ對スル金森國務大臣ノ仰シヤル心ノ憧レ自體ガナクナリハシナイカト、斯ウ云フ憂ヒヲ持ツノデアリマス、金森國務大臣ノ仰シヤル心ノ憧レト云フコトガ分ラヌデハナイケレドモ、サウ云フモノガ政治的ノ地位ト無關係ノ、心ノ憧レト云フモノガ永久續クト云フ御考ニ私ハ疑問ヲ持ツテ居ルノデスガ、斯ウ云フ點ニ付テ、若シ大臣ノ何カチヨツトデモ御意見ヲ伺フコトガ出來レバ幸ヒデスケレドモ、無理ニ言ヒハセヌ、ソレデ宜シウゴザイマス、何カ言ツテ呉レマセヌカ、（笑聲）ソレヂヤ宜イ、ソレデハ次ノ點ニ移リマシテ、第二ト致シマシテ、皇位繼承ノ資格ト云フ點ニ付テ、論點ヲ今度ハ少シ具體的ニ、法理的ノコトニナリマスガ、宜シウゴザイマスカ
○委員長（安倍能成君） 成ルベク簡単ニ‥‥
○佐々木惣一君 ソレデ第二ノ問題ト致シマシテ皇位繼承ノ資格ト云フコトニ付テ御尋ネ申上ゲタイノデス、是ハ私ハ皇位繼承ト云フコトヲチヨツトドウ云フ意味、是ハ今ノ法典ガアリマスカラ、マアソレハ宜イデス、止メテ置カウ、其ノ中ノ一點トシテ皇位繼承ノ資格ト云フモノニ付キマシテハ、今回ノ憲法草案ニハ實質的ニ何ノ規定モナイノデスネ、「皇室典範の定めるところにより」トハアリマスノデス、固ヨリソレハアルケレドモ、併シナガラ「世襲のものであつて、國會の議決した皇室典範の定めるところにより」トアルノデスガ、ソコデ先ヅ世襲ノモノデアルト云フコトハ一體ドンナモノデセウ、ドウ云フ意味ナンデセウカ、所謂今日ノ現行憲法ニ於ケル萬世一系ト云フノト違フノデアリマセウカ、違ハナイノデアルカ、是ハ細カナヤウナコトデスガ大事ナコトデスカラドウカ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 本質的ニハ現行ノ憲法ト異ナル所ハナイト考ヘテ居リママス、唯現行憲法ハ萬世一系ト云フガ如キ多少比喩的ナ文言ヲ使ツテ居リマシテ、現實的ナル言葉デハアリマセヌ、ソレヲ現實世界ノ素朴ナル言葉ニ表ハスト云フコトガ主眼トナツテ居リマス
○佐々木惣一君 比喩的ト仰シヤルノハ私ニハ分ラヌノデスケレドモ、萬世一系ト云フノハ此ノ帝國憲法デ始メテ出來タ言葉デハナクシテ、ソレ以前カラ使ツテアル、ソレニハ實質ガ入ツテ居ル、即チドノ系統、ドノ家ノ方ト云フ、所謂皇祖皇宗、祖宗ノ皇統ニ屬スルト云フコトハ、萬世一系ト云フ文字ニ入ツテ居ル、單ニ世襲ト云フコトデハナイ、萬世一系ト云フノハドノ系統ニ屬スルカト云フヤウナコトト無關係デ、唯世襲トアルノデアリマセウカト云フコトヲ御尋シタノデアリマス、世襲ト言ツテモ祖宗ノ皇統ニ讓ル所ノ其ノ世襲ト云フ意味デアルカ、萬世一系ト云フノハチヤント實質ガ入ツテ居ル、帝國憲法ニ於テ始メテ出來タ文字デハ實際ハアリマセヌ、ソレハ重キヲ置クモノカラ言ヘバ非常ニ重大ナ所デス、ソレハマアソレデ宜イト致シマシテ、ソレカラモウ一ツノ點ハ「世襲のものであつて、」「皇室典範の定めるところにより」ト申シマスルガ、ソレナラバ世襲ノモノデアルト云フコト、是ハ議論ニモ何ニモナリマセヌ、サウダト仰シヤレバサウデアル、男系ノ男子ト云フノハ男子デナクトモ宜イカト云フコトデス、皇室典範サヘ決マレバ問題デモ何デモアリマセヌ
○國務大臣（金森徳次郎君） 男系ノ男子ト云フコトハ第二條ニハ限定シテアリマセヌ、其ノ趣旨ハ根本ニ於テ異ナルモノアリトハ考ヘマセヌケレドモ、併シ時代々々ノ研究ニ應ジテ或ハ部分的ニ異ナリ得ル場面ガアツテモ宜イト申シマスカ、サウ云フ餘地ガアリ得ルト云フ譯デ斯樣ナ言葉ニナツテ居リマス
○佐々木惣一君 要スルニ其ノ時時ノ事情ニ應ジテ皇室典範デ總テ定メサセル、斯ウ云フ意味デアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス
○佐々木惣一君 其ノ點ニ付キマシテハ私ハ意見ヲ言フノヂヤアリマセヌ、ヂヤサウ解釋致シマシテ、唯此ノ憲法ニモモウ少シ實質的ノモノガ入ツテ宜イヂヤナイカト思ヒマスケレドモ、例ヘバ男子ト云フヤウナモノ以外ニ女子ト云フモノヲ認メルカ認メヌカト云フヤウナコトハ、是ハドウモ或ハ大臣ノ仰シヤルヤウニ其ノ時々ノ事情ニ依ツテ皇室典範デ決メテモ宜イト云フコト、實ハ私自身モ其ノ意見デスガ、併シ男系カ女系カト云フコト位ハ、是ハ皇室典範デ自由ニ定メ得ルト云フコトハ餘リ廣イカト思ヒマスケレドモ、ソレハ御趣旨ハ分リマシタカラソレデ宜シウゴザイマスガ、ソコデ三點ニナリマスケレドモ、皇室典範ノ性質ト云フコトヲチヨツト御尋ネ致シタイト思ヒマス、ソレデ御存ジノヤウニ國務大臣ノ從來ノ御説明デスツカリ分ツテ居リマスカラ、私ハ非常ニ有難イノデス、皇室典範ハ皇室ノ私法デナク、國家ノ國法ダト云フコトガハツキリ憲法デモ御説明デモ出テ居リマス、此ノ問題ニ付テハ私自身モ皇室ノ私法的ノモノデナク、國家ノ國法ダト云フコトカラ或有力ナ學者ノヒドイ反駁ヲ受ケテ居ル位デアリマスカラ‥‥、併シ此ノ點ニ付テハ私ハハツキリシタ金森サンノ御説明ニ滿足ヲシテ居ルノデス、處ガソレハソレデ宜イノデアリマスガ、御尋ネ致シタイノハ、皇室典範ト云フノハ矢張リサウ云フ特別ノ形式ナノデアリマスカ、唯普通ノ法律ト同ジヤウナモノデアルカ、ソレナラバ別ニ「皇室典範の定めるところにより」ト云フヤウニ憲法ニ規定シナイデモ、別ニ法律ヲ拵ヘテ、皇位繼承等ニ關シテ法律第何號ナリ、或ハ其ノ法律ノ名稱ヲ皇室典範法ト、斯ウ云フ風ニ決メテモ宜イト思ヒマスガ、兎ニ角皇室典範ハ議會ノ議決ニ依ルノダケレドモ、皇室典範ト云フ、何カサウ云フ特殊ノ法ガアルカノ如ク思ハレルノハ、此ノ憲法ノ規定デハサウデハナイノデセウネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 仰セノ如ク皇室典範ヲ法律學的ナ見地カラ申シマスレバ、一般ノ法律ト毫末モ異ル所ハアリマセヌ、唯内容ノ特殊ナル所ニ顧ミマシテ、形式ハ、法律トシテハ他ノモノト同ジデアリマスルケレドモ、特ニ是ニハ憲法上特別ナル名稱ヲ付與シタト云フダケナンデス
○佐々木惣一君 サウスルト、詰リ皇室ニマア關シマシテ、皇位繼承トカ攝政ニナルコトハ、斯ウニ解釋出來マスデセウネ、皇室典範ト稱スル法律以外ノ法律デハ規定出來ナイ、是ハ明カデゴザイマセウカ‥‥、ソコデ、マアソレハ宜イデスガ、ソコデ、憲法ガサウ云フ皇室典範ヲ、特ニ名ヲ附ケテ、サウ云フ「皇室典範の定めるところにより」ト申シマシタノハ、サウ致シマストドウ云フ風ニ解釋致シマセウカ、憲法デ「定める」ト云フノハ、サウ云フ憲法ト云フモノガ、ソレガ皇室典範ト云フ別種ノサウ云フ法規ニ、皇位繼承ナリ、攝政ナリノコトヲ定ムル權限ヲ委任シタト云フノデアリマセウカ、サウデナシニ、皇室典範ト云フモノハ、憲法ノ委任ニ依ツテ出來得ルノデハナシニ、皇宗典範ト云フ別ノ法律ト云フモノガ、直接ニ憲法ニ依ツテアルンダト、斯ウ云フ風ニ言フノデアリマセウカ、何レニシテモ國法デハアルンダケレドモ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 御尋ノ趣旨ガ私ニハマダハツキリ呑込メマセヌガ、斯ウ云フ風ニ申上ゲタラ御分リニナルカト存ジマス、其ノ、此處ニ示シテアリマスル皇位繼承ノコトハ、此ノ憲法自體デ書ケルコトデアル、併シナガラ憲法自ラハ之ヲ直接ニ規定シナイデ、皇室典範ト云フ法律ガ之ヲ規定スルコトヲ豫定スル、斯ウ云フ趣旨デアリマス、從ツテ現在ノ秩序ニ於ケルガ如キ憲法ト皇室典範ト相竝ンデ對立スルト云フ考ヘ方トハ違ヒマシテ、上級下級ト云フヤウナ風ニ系統付ケラレテ居ルモノト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 分リマシタ、サウスルト云フト、將來トモ此ノ皇室典範デ規定スベキ事項ト今御考ヘニナツテ居ルヤウナ事項ハ、憲法其ノモノニ於テハ規定スルコトハ出來ナイコトニナリマスネ、ソレデ宜シウゴザイマスネ、詰リ攝政トカソレカラシテ皇位繼承ニ關スルヤウナコトハ、帝國憲法ハ規定出來マスデスカ、出來マセヌデスカ將來‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 若シ憲法ガ規定シヨウト思ヘバ規定出來ルノデゴザイマス
○佐々木惣一君 アヽサウデスカ、分リマシタ、ソレヂヤソレデ宜イデス、ソレカラドウモ‥‥委員長、マダ問題ガ殘ツテ居リマスケレドモ、外ノ方ノ質問ニ影響スルト思ヒマスカラ、私ハ茲デ又留意シテ置イテ止メルト云フコトハ出來マセヌカ、外ノ人ガ大分質問サレタイノダト思ヒマスカラ、此ノ問題ニ付テ‥‥
○委員長（安倍能成君） ソレヂヤサウ云フコトニ致シマス
○佐々木惣一君 私ハソレデハ通告シテアル質問ハ澤山アリマスケレドモ、外ノ方ノ御迷惑ニナルトイケマセヌカラ、茲デ止メマス、併シソレハ質問ヲ留保シテ置クノデスカラ、サウ云フ意味デ‥‥
○澤田牛麿君 私ハ議事進行ニ關シテデスガ、佐々木サンガ質問ガ殘ツテ居ルノナラバ、ズツト御ヤリニナツタ方ガ宜クハアリマセヌカ、ソレニ依ツテ一應終ツタ方ガ宜クハアリマセヌカ
○佐々木惣一君 ソレヂヤヤラシテ戴キマス
○子爵織田信恒君 矢張リ外ノ方ハ隨分待ツテ居ラレマスカラ、ソレヲ進メテ‥‥、マア折角佐々木先生モ自分カラサウ仰シヤツタンデスカラ‥‥
○佐々木惣一君 勿論サウナンデス
○子爵織田信恒君 先生憎マレルトイケマセヌカラネ
○佐々木惣一君 イヤ是以上憎マレテハ堪マラナイ
○子爵織田信恒君 外ノ方ノ質問ヲシテ戴イタ方ガ宜イト思ヒマス
○佐々木惣一君 私ハドチラデモ宜イデス
○委員長（安倍能成君） 留保ト云フノハ必ズ御ヤリニナルンデスカ
○佐々木惣一君 エヽヤリマス他日何時カハヤリマス、何時デモ宜シウゴザイマス、ソコデ第一章ニ關スル質問ヲ皆サンガオヤリニナツタ最後デ宜シウゴザイマス、サウシタラ宜イデセウ、ソレデモ今ヤレト云フナラ今デモヤリマスヨ
○澤田牛麿君 議事進行ニ關シテ申上ゲマス、是ハ矢張リ時間ガ掛ツテモナンデモ、順序ガアツテ其ノ方ガヤリ始メタラ途中デ切ラズニオヤリニナルベキガ正當デアルト思ヒマス
○佐々木惣一君 ソレデハ委員長ノ御説ニ依ツテ‥‥
○委員長（安倍能成君） ソレデハ出來ルダケ簡單ニ一ツ御願ヒ致シマス
○佐々木惣一君 ソレデハヤラシテ戴キマス、今度ハ出來ルダケ簡單ニ一ツ申上ゲマス、ソレデハ今度ハ第三ニナリマシテ天皇ノ職務ト云フコトニナルノデアリマスガ、ソコデ天皇ノ職務ト云フトヲカシイヤウナ言葉デアリマスケレドモ、現行ノ憲法ニ於キマンテハ御存ジノヤウニ天皇ノ職務ノ最モ本質的ノモノハ統治權ノ總攬者デアル、統治權ヲ總攬シテオイデニナルト云フコトデアリマシテ、其ノ職務ト云フモノガ個々ノ場合ニ現レマスルト云フト、憲法ノ範圍内ニ於キマシテ色々ノ具體的ノ事項ニ付テノ仕事ヲナサルト、斯ウマア二ツノモノデアルコトハ疑ヒナイデノアリマスルガ、併シ其ノ中デ統治權ヲ總攬ナサイマシテ、サウシテ我ガ國家ヲ統治シテオイデニナルト云フ此ノ事ガ天皇ノ御職務、私ハ天職ト云ツテ居リマスガ、天皇ノ職務ノ本質デアリマス、其ノ本質ノコトヲ帝國憲法デハ兎ニモ角ニモ現ハシテ居リマスガ、新憲法ニ依リマスト云フト天皇ノ職務ノ本質ト云フモノハ職務トシテハチツトモ示サレテ居ナイ、固ヨリ國家ノ象徴デアルトカ、國民統合ノ象徴デアルト云フコトハ書イテアリマスケレドモ、併シソレハドウモ天皇ノ職務ト云フベキモノヂヤナイノデアリマス、ソコデ何時カモ大臣ニ御尋ネ申上ゲマシタガ、是ハ別ニ此ノ事自體ハ法的ノ意味ハナイ、要スルニ是ハ天皇ガ國家ニ於テ斯ウ云フコトハ言ハナクテモ、當然ニ性質上判斷出來ル事柄ガ唯説明シテアルトシカ取レヌ、假ニ斯ウ云フ天皇ガ國民統合ノ象徴デアルト云フヤウナコトガナイニシマシテモ、今日ノ我ガ國ノ状態ヲ性質的ニ見テ象徴ト云フ言葉デ示サレルヤウナ状熊デアルコトハ疑ヒナイ、デアリマスカラ是ハ決シテ天皇ノ職務ト云フヤウナモノヂヤナイト云フコトハ疑ヒナイト斯ウ思ヒマスルガ、サウスルト云フト新憲法ニハ天皇ノ御職務ノ本質的ノモノハ何モ示サレテ居ナイ、此ノ新憲法デハ斯ウ云フコトニナリマシテ、現憲法ニ於ケル所ノ即チ統治權ノ總攬者、統治權、個々ノ場合ニ行使セラレテ居ル統治權ノ總攬ト統治權ノ行使トハ全然違フノデアリマシテ、統治權ヲ行使セラレテ居ル所ノ天皇ガ個々ノ場合ニ於テ行使セラレル其ノ個々ノ行使ニ付テ規定シテアルコトハ疑ヒナイ、併シソレハ現行憲法ニ依レバ決シテ天皇ノ本質デハナイ、デアリマスカラサウ云フコトニ付テハ何モ新憲法デハ規定シテナイノデアルガ、天皇ノ御職務ト云フモノヲ新憲法ニ付テ何モ規定シテナクシテモ、勿論言葉デ説明スルコトハ出來マスケレドモ、新憲法ニ於ケル天皇ノ職務如何、茲ニ一ツ假ニ學生デモ採用スル爲ニ、是カラ文官ノ試驗ヲ金森サンガオヤリニナツテ、天皇ノ新憲法ニ於ケル職務如何、斯ウ云フ風ニ出シタナラバ、ソレニ對シテドウ云フヤウナ答ヲシテ宜イカ、ドウモ此ノ點ガ統合ト言ツテモ職務ニナラヌト思ヒマス、ソレデ若シ何カ教ヘテ戴ケレバ大變結構ト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） ドウモ法律試驗ニハ合格シサウモゴザイマセヌガ、第一章ノ中ニ御職務ニ關シマスル規定ガ列擧サレテアリマシテ、ソレガ御職務デアルト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 サウ云フ列擧的ナコトヲ言ツタノデハアリマセヌガ、マア宜シウゴザイマス、ソコデ國務大臣ガ仰セラレタコトデアリマスガ、統治ト云フコトヲ權力、ソンナコトハナイト仰ツシヤレバソレ迄デスガ、ドウモアツタヤウニ思ヒマスガ、處ガ私ノ理解スル所ニ依リマスレバ、伊藤公ナドノ御書キニナツテ居ル所ニ依リマスレバ、統治ト云フノハソンナ權力ヲ持ツト云フヤウナコトデナク、即チ昔カラアル我ガ國ヲ「シラス」コトデアル、斯ウ云フ風ニ教ツテ居ルノデアリマスガ、從ツテ其ノ天皇ハ、是ハ詰リ日本國人全體ノ共同生活トシテアルベキヤウニ努力セラレ、又個々ノ人間ハ其ノ所ヲ得セシメルヤウニ、今日デ言ヘバ生活保障ナラ生活保障デ宜イヤウナモノデアリマスガ、サウ云フ風ナコトヲナサル、是ガ即チ統治デアル、「シラス」ト云フコトデアル、サウ云フ職務ヲ天皇ハ實ニ御持チニナツテ居ルノデアリマシテ、サウ云フ統治ノ爲ニハ、併シナガラ是ハ天皇ガ努力ナサル目標デス、其ノ天皇ガ努力ナサル目標ガ努力セラレル爲ニ行フ力ガ必要ナノデアリマスカラ、其ノ力ノ爲ニ國家ノ統治權ト云フコトヲ行ツテ行クコトニナルノデアリマスカラ、是デ天皇ノ其ノ職務ガ國家ヲ統治スルノデアル、斯ウ云フ風ニ我々ハ伺ツテ居ルノデアリマス、從ツテ是ハ權力ヲ行使スルトカ人ヲ抑ヘ付ケルト云フモノデナイ、ソレデアリマスカラ、教育モ統治デアル、教育ハ決シテ權力ヲ使ヒマセヌ、慈善デ人ニ惠ムノモ統治デアル、時ニ併シナガラ權力ヲ使ツテ租税ヲ取ル、兵隊ニ取ル、警察ニ入レル、是皆統治デアル、權力ヲ使フトカ權力ヲ使ハナイト云フ、サウ云フ手段ノ問題デナイ、統治ト云フノハ國家ヲ「シラス」ト云フ古言ニアル通リノ言葉デアルト云フコトヲ、是ハ私ガ言フノデハアリマセヌ、即チ我々ノ先覺者ガサウ云フ風ニ説明シテ居ルノデアリマスガ、詰リサウ云フ國家ヲ統治セラレルト云フ、サウ云フ天皇ノ御職務ト云フモノガ、今後ハドウモハツキリトシテ居ナイ、斯ウ云フ風ニ考ヘラレマスガ、サウ云フ風ニ理解スルコトハ誤リデゴザイマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 廣イ意味ノ統治ト云フ言葉ガ權力ヲ當然含ムモノデナクシテ、唯權力ヲ含ミ得ルヤウニ働クノダト云フコトハ、斯ウ云フ御趣旨ハ私モ御同感ト申上ゲテ居リマス、唯世間デ統治ト云フ言葉ハ必ズシモサウ云フ廣イ意味ニ使ハレテ居リマセヌノデ、無條件ニ指揮命令シ得ル力ト云フ風ニ定義ガ置カレテ居リマス、私ハ世俗的用法ニ從ツテ言葉ヲ使ツタ譯デアリマス、次ニ御示シニナリマシタノハ、此ノ憲法ニ於テハ天皇ノ御職務ニ關スル規定ガ理論的ニハツキリ充實シタモノデナイ、詰リ「シラス」ト云フヤウナコトニ該當スル充實シタ規定ガナイト云フヤウナ點ヲ御主眼トシテ御質疑ニナツタト存ジマスルガ、全ク左樣ニ出來テ居リマス、其ノコトハ度々繰返シテ恐縮デアリマスルケレドモ、時代ノ姿ニ顧ミマシテ、又過去ノ我々ノ經驗ニ顧ミマシテ、天皇ニ不測ノ禍ノ生ズルコトノナイヤウニ、御安泰ナル皇室制度ヲ樹立致シマスル爲ニハ、斯樣ナ考ヘ方ガ一番妥當デアル、假令權力ヲ持タナイデモ、現實ノ政治ニ權威ヲ以テ御働キニナルト云フコトニナレバ、ソレヨリ生ズル政治責任ト云フモノモ起リマセウシ、輔弼宜シキヲ失スレバ、怖ルベキ國ノ禍モ起リ得ルト思フノデアリマス、ソレ等ヲ考ヘマスレバ、天皇ガ此ノ權力ノ外ニ立タレルコトガ望マシイモノト存ジテ居リマス
○佐々木惣一君 ソレハ何デスケレドモ、ソレデサウ云フ天皇ガ統治ヲナサルヤウナ御地位ガアツテモ、其ノ力ヲ自ラ個々ノ場合ニ於テ發現シテ行ハセラレルト云フノヂヤナイノダカラ、ソコデ從來ノ言葉デハ、輔弼機關トカ協力機關トカ、方法、機關ト云フモノガアリマスカラ、是ハ私ハ今ハ廣イ言葉デ協力機關、天皇ニ、協力スル機關、デアリマスカラ、私モ今ノ考デハ、天皇ノ協力機關ト云フモノガ誤ツテ居タノデアルカラシテ、其ノ協力機關ノ作リ方ナリ、或ハ天皇ヘノ協力、サウシテ其ノ詰リ天皇ヲ協力スル所ノ其ノ方法ト云フモノニ徹底的ニ、是ハモウ私ハ外ノ方ヨリモ却テ急進的ニナルト思ヒマスケレドモ、其ノ内容ヲ言ハナケレバナリマセヌガ、徹底的ニ改革ヲ加ヘレバ宜イノデアツテ、決シテ天皇ノ統治權ノ總攬者ト云フ地位其ノモノヲナクスルト云フ必要ハナイト云フノガ、私共ノ根本ノ立場デアリマスカラ、其ノ立場ハ、固ヨリ新憲法ノ制定及ビ之ニ關スル政府ノ方々ノ御説明ヲ伺ツテ、無論自分ノ考ヘ方ガ誤ツテ居ルカドウカハ、始終ソレコソ反省シテ居リマスケレドモ、ドウモ其ノ考ヘ方ガ此ノ新憲法ヲ見テモ、誤ツテ居ルト考ヘラレナイモノデアリマスカラ、ソレデ斯ウ云フ御尋ヲスル、飽ク迄モ私ハ、要スルニ天皇ガ統治權ノ總攬者デアルト云フ其ノ地位ヲ奪ツテシマフト云フ必要ハ毛頭ナイ、從來ノ過チヲ繰返サザル爲ニモ、唯協力機關ノ構成及ビ方法態度ト云フモノヲ徹底的ニ革新スベキダト、斯ウ云フ議論デアルノミナラズ、モウ一ツ、ソレハ天皇ガ統治權ノ總攬者デアルト云フ、サウ云フ地位ヲ御持チニナツテ居ルコトガ、時ニ必要ガアルコトガアル、日本ノ爲ニ宜イコトガアルト考ヘテ居ルノデアリマス、ソレハ滅多ニ天皇ガ統治權ノ總攬者タル地位ヲ或個々ノ場合ニ具體的ニ發現セラレテ、御自分デ命令ナサルコトハ無論イケヌ、イケヌケレドモ、併シ協力者ガドウシテモ協力出來ナイト云フ状態ヲ示シタナラバ、ドウモ仕樣ガナイ、昨年ノ終戰ト云フコトハ、實ハ天皇ノ統治權ノ總攬者トシテ御持チニナツテ居ル所ノ其ノ地位ト云フモノガ、アノ個々ノ場合ニアノ力トナツテ、命令トナツテ發動シタノデアリマス、之ヲ若シ今後、アヽ云フヤウナ戰爭デハナイニ致シマシテモ、ドンナニ國家的ノ動亂ガ起ルカ分リマセヌガ、其ノ時ニ是ハ協力スル所ノ機關ト云フモノガ如何トモ能ウシナイト云フコトヲ觀念的ニ一應想像シテ御覽ナサイ、事實ハナイトシテモ、サウ云フ時ニハ、此ノ終戰當時ニ於テ天皇ガアヽ云フヤウナ御聖斷ヲ御下シニナツタト云フコトヲ必要トセストモ限ラヌ、斯ウ云フヤウナ、單ニ私ノハ、協力機關其ノモノヲ徹底的ニ改造シタラ宜イノデアツテ、天皇ノ總攬者タル地位ヲ廢メテシマフ必要ハナイト申シマシタガ、單ニ必要ハナイト云フ消極的ノ意味ノミナラズ、時ニハ天皇ガ自ラサウ云フ行動ニオ出ニナルコトノ必要ガアルカモ知レマセヌ、一般國民‥‥假ニ協力機關ト云フ國家ノ制度上天皇ニ協力スル所ノ内閣其ノ他ノ色々ノモノガ、ドウモ何トモ協力シ得ナイト云フヤウナ状況ニナツタナラバ、却テ國民ノ力ガ‥‥協力機關ガ何トモ能ウセヌト云フ時ニハ、國民ノ方カラ、天皇ノ非常ナル御迷惑デアリナガラ、發動ヲ御願スルト云フコトガナイトモ限ラナイ、サウ云フ必要ハアルト斯ウ云フヤウナ考カラ私ハ積極‥‥極メテ稀ナ、アツテハナラヌ、從ツテ稀ニアルニシテモ、去年ノ終戰ノ如キハサウダ、天皇ガ統治權ノ總攬者トシテ御持チニナツテ居ル力ヲ、極メテ稀デアルケレドモ、時ニ現實ニ發動セラレナケレバナラヌヤウナ場合ガアリハセヌカ、唯空論的ニ言フノデハナイ、去年ノ終戰ノ事實ニ付テ考ヘル、サウ云フコトハ天皇ガ新憲法ニ依ツテ絶對ニ出來ナイノデアルガ、即チ統治權ノ總攬者ト云フ地位ヲ天皇ニ殘シテ置クト云ト云フノハヲカシイガ、殘シテ置ク方ガ宜イノデハナイカト云フ考デアリマス、サウ云フ點ニ付テ國務大臣ノ御考ガアリマセヌデスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 統治權ノ總攬者ノ規定ヲ省キマシタコトハ、是ハ民主主義ノ政治ヲ徹底致シマスル見地カラ言ヘバ、固ヨリ總攬者ガアツテモ民主政治ハ出來ルニ相違アリマセヌケレドモ、併シ民主政治ヲ徹底スルト云フ見地カラ申シマスレバ、總攬者ト云フ考ヘ方ヲ棄テル方ガ合理的デモアリ、且總攬者ト云フ考ヘ方ガ殘ツテ居リマスル限リ、天皇制ノ御安泰ヲ確保スルニハ顧念スベキ點ガ殘ツテ居ルト存ジテ居リマス、尚非常ノ場合ニ、非常ノ措置ガ考ヘラレルコトハ、是ハ事實當然ノコトデアリマシテ、此ノ新シキ秩序ガ行ハルル、ト致シマスレバ、又其ノ時ニ應ズル非常ノ措置モ、如何ナル方法デアルカハ、ソレハ分リマセヌケレドモ、時ニ應ジテ日本國民ノ榮エル力ガ殘ツテ居ル限リ、然ルベキ方法ガ湧キ出シ得ルコトト思ツテ居ルノデアリマス
○佐々木惣一君 ソレハ其ノ點ハ御説明ヲ伺ヘバ宜シウゴザイマスカラ、何ト致シマシテ、今度ハ第四點ニナリマシテ、天皇ノ國事ニ關スル行爲委任ト云フコトガアリマシテ、是ノ趣旨ヲチヨツト御尋ネシタイ、新憲法第四條、「天皇は、法律の定めるところにより、その國事に關する行爲を委任することができる」トアリマシテ、是ハ意見デモ何デモアリマセヌ、此ノ「國事に關する行爲を委任する」ト云フノハドウ云フロトヲ言フノデアリマセウカ、要スルニ第七條ナド、其ノ他ノ規定ニ於テ天皇ガナサレ得ルトシテアル其ノ個々ノ行爲ヲ委任スルコトガ出來ルト云フダケノコトデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 「國事に關する行爲を委任する」ト云フコトハ、必ズシモ個々ノ行爲ニ限ツテノミ委任スルト云フ趣旨デハゴザイマセヌノデ、大凡此ノヤウナ規定、即チ委任ヲ許容スル規定ニ於テ爲シ得ル有ラユル意味ニ於テノ委任ガ茲ニ含マレルト考ヘテ居リマス、從ツテ全部的ニ委任スルト云フコトハ是ハ考ヘラレマセヌ、併シ個々ノコトヲ委任スルト云フノモ一ツノ方法デアリマセウシ、又全部的ナ委任ヲ或限ラレタ短カイ期間ニ於テ委任スルト云フコトモ考ヘラレルト思ツテ居リマス
○佐々木惣一君 サウスルト云フト、詰リ今天皇ガ憲法ニ於テ御持チニナツテ居リマスル天皇ニ屬スル行爲一般ヲ、或場合ニ誰カニ全般的ニ委任スルト云フコトモ出來ルコトニモナル譯デアリマスナ、サウスルト、ソレハ丁度幕府見タヤウナモノデアリマスカ、唯是ハ行爲ガ限ラレテ居ルカラ宜イガ、詰リ天皇ガ爲サレ得ル行爲ヲ全般的ニ見ル、ソレデ幕府ガサウデアツタカラ、唯モツト色々ナコトガ出來タト云フコトダケデ‥‥サウ解シテ宜シイデアリマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 幕府ト云フ例ハ此ノ場合ニ當嵌リニクイト存ジマスガ、要スルニ斯樣ナ委任規定ハ、此ノ規定ガ極度ニ、考ヘ得ベキ最極度ニ活用サレタ場合ヲ豫想シマスレバ、幾多ノ議論ガ起リ得ルト思ヒマス、併シ斯樣ナ規定ハ大凡或妥當ナ範圍内ニ於テ行ハレルモノト考ヘテ居リマス、此處デ普通に豫想シテ居リマスノハ、極ク瑣末ナト云ヒマスカ、大權ニハ屬シマスルケレドモ、瑣末ナ事項ニシテ、能ク例ヲ擧ゲテ言ヒマスル極ク輕イ意味ノ恩賞ノ制度ト云フヤウナコトヲ、或特定ノモノヲ委任スルト云フ個々ノ場合モアリマセウガ、御旅行等ノ場合、相當大幅ノ權力ヲ誰カニ委任セラレルト云フコトヲ豫想シテ居リマス其ノ外ノコトハ、言葉ノ中ニモ多分含ンデ居ナイト思ヒマスケレドモ、意味ノ中ニソンナ根本的ナコトハ毛頭考ヘテ居リマセヌ
○佐々木惣一君 ソレハサウダラウト思ヒマスケレドモ、唯其ノコトダケヲ質疑ノ形ニ於テデモ明カニシテ置キタイト思ヒマス、下手ヲヤツテ此ノ規定ヲ置キマシテ、從來ノヤウナ一般的ナ幕府ト云フヤウナコトヂヤナイニシテモ、天皇ガ凡ソ此ノ新憲法ニ依ツテナサレ得ル事柄ヲ全面的ニ誰カニ委任スルト云フヤウナコトガ出來ルト云フコトニナルト、私ハ大變ナコトト思フ、サウデナイト云フコトデ、ソレハ含マレナイト云フ御答辯ガアツタノデ、此ノ憲法ノ解釋上重大ナル結果ヲ得タ譯デアリマス、私自身ト致シマシテモ、ソレハ大變私自身モ同感デアルノデ、大變結構デアリマス、モウ一ツ尋ネタイノデスケレドモ、此ノ委任ハ、委任ヲスル相手ガ何人デモ宜シウゴザイマセウカ、例ヘバ外國人ニデモ委任スルコトガ出來マセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ規定ハ左樣ナ所迄ハ特ニ深入リシテ考ヘテ居リマセヌ、「法律の定めるところにより」ト云フ條件ガ入ツテ居リマスルガ故ニ、ソレニ依ツテ法律的ニハ制約サレマスルカラ、容易ニ今假ニ御定メニナツタ場合ノ如キハ起リ得ナイモノト存ジテ居リマス
○佐々木惣一君 起リ得ナイノデスケレドモ、併シ法理論トシテハ許サレルト云フ風ニ解釋シナケレバナリマセヌノデスガ、法律ガ定メレバ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） ソコ迄私ハ念慮ヲ付ケテ居リマセヌノデス、マアサウ云フコトハ豫想モシテ居リマセヌ、併シ理論的ニ仰セニナレバ出來ナイト云フコトハ御答ヘ出來マセヌデス
○佐々木惣一君 大變法律論的ニ言ツテ甚ダ皆サン御迷惑デスケレドモ、我々法律ヲヤツテ居ル者カラ見レバ、色々ノ事柄ヲ想定シマシテ、解釋ダケハ明ニシタイト云フ意味デアリマス、唯ソレダケニ外ナラヌノデアリマス、ソレカラシテ今度ハ第五ニ、天皇ト内閣トノ關係ト云フコトニ付テ御尋ネ申上ゲタイノデスケレドモ、是ハ内閣ノコトハ本章ノミデナシニ、後デ内閣ト云フ事柄ガ特ニ出テ居リマスカラ、其ノ時ニ又寧ロ御尋ネシタ方ガ宜イト思フ、唯茲デハ本章ニ規定シテアル内閣ト云フコトノ事柄ヲ説明スル爲ニノミ唯申上ゲルノデアリマスガ、ソコデ「天皇は、内閣の助言と承認により」ト云フコトデアルノデアリマスガ、此ノ助言ト承認ト云フコトハ例ヘバ天皇ニ對シテ内閣以外ノ者デモ助言ハ出來マスノデスカ、出來マセヌノデスカ－イヤ宜シウゴザイマス、兎ニ角今ノ、例ヘバ現行憲法ノ輔弼トドウ云フ風ニ違フカト云フコトヲ、其ノ方面カラ御説明願ツテ結構デスヨ
○國務大臣（金森徳次郎君） 大體ノ考ヘ方ハ、輔弼ト云フコトト同ジコトニ歸著スルト存ジマス、併シナガラ現在ノ輔弼ト云フ言葉ハ甚ダ解釋ニ幅ガアリマシテ、人ニ依ツテ恐ラク中身ニ付テ意義ヲ異ニシテ居ルト存ジマス、デ此ノ憲法ハ斯樣ニ具體的ナル文字ヲ用ヒマシタガ故ニ、ハツキリシタ姿ヲ持チ來ツタモノト存ジテ居リマス
○佐々木惣一君 サウスルト何デゴザイマスカ、色ンナコトヲ御尋ネスルヤウデスケレドモ、内閣以外ノモノノ承認ハ別デスケレドモ、助言ハ差支ナイト云フコトニナルノデセウカナラヌノデセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 其ノ御質疑ニ對シマスル御答ガドウ云フ所ニ意義ヲ持ツテ居ルカドウカト云フコトヲ私ハ承知致シマセヌガ故ニ、稍々芒漠タル立場ニ置カレマシテ、然リトモ否トモ御答ヘシ兼ネル次第デゴザイマス、事實行爲トシテノ助言ガ個人關係ニ於テアリ得ルコトハ、是ハ何ノ不思議モナイト思ヒマス、併シ憲法上ノ效力ノアル意味ニ於キマシテハ、ソレハアリ得ナイコトノヤウニ思ツテ居リマス
○佐々木惣一君 憲法上ノ效力アルモノトシテノ助言ハ無論アリ得ナイケレドモ、例ヘバ今非常ニ日本ノ「インフレ」ノ問題ガ喧シイ、ソコデ一體其ノ「インフレ」ト云フコトニ付テ天皇ガ、自分モ一應何カ知識ヲ得タイト云フコトカラシテ、誰デモ宜シウゴザイマスガ、例ヘバ特定ノ大學ノ教授ナリヲ呼ンデ、サウシテ「インフレ」一航ノ經濟學上ノ性質ナリ、或ハ又日本デハ一體「インフレ」ト云フヤウナコトハドウ云フ現状ダ、或ハ又ドウ云フ風ニヤツタ方ガ宜イト思フカト云フヤウナコトヲ、御尋ネニナルコトハ出來マセヌデスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 天皇ガ個人タル御立場ニ於テ知識ヲ吸收サレル爲デアルナラバ、差支ナイト考ヘマス
○佐々木惣一君 ハツキリシマシタ、サウスルト、是ハ斯ウ解釋シテ置イテ宜シウゴザイマスネ、是ハ單ニ天皇ノ個人トシテノ知識ト言ヒマスカナ、サウ云フ御徳ヲナスト云フヤウナ意味デナシニ、現ニ具體的ノ現實ノ國家ノ國務ヲドウシテモ實現シテ戴キタイト云フ意味ノ助言ダト、斯ウ云フ風ニ理解シテ宜シウゴザイマスネ、現實ニ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス
○佐々木惣一君 ハツキリト致シマシテ、大變有難イデス、本當ニ‥‥ソレカラ此處デ御尋ネ申上ゲタイノハ、第七條デスガ「天皇は、内閣の助言と承認により、國民のために、左の國事に關する行爲を行ふ」トアルノデスガ、言葉咎メヲスルヤウデ大變苦シイノデスケレドモ、此ノ「國民のために」ト云フノハドウ云フ意味デアリマセウカ、此ノ七條ニ於ケル「國民のために」ト云フノハデスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 「國民のために」ト云フコトハ特ニ御質疑ヲ下サル程ノ疑ノアル字トハ考ヘマセヌ、讀ンデ字ノ如キモノト思フノデアリマス、唯法律的ニ、是ガナカツタナラバドウ云フ變化ガアルカト云フヤウナ御趣旨ノ御尋デアルトスレバ、ナクテモ同ジ意味ニ歸着スルモノト考ヘマス
○佐々木惣一君 ソレハネ、實ハ私ハ非常ニ知識ノ恐ラク不足カラ致シマシタト思ヒマスガ、サウ云フ風ニ、モウサウ云フ御言葉デ宜シイ、サウデセウガ、併シ私ノ御尋ネ申上ゲマシタノハ、唯サウ云フ意味ヂヤナイ、「國民のために」ト云フノハ謂ハバ國民ニ代ツテトカ、或ハ國民ノ名ニ於テトカ、サウ云フヤウナコトノ時ニ、能ク斯ウ云フ文字ヲ使ヒマス、例ヘバ「アメリカ」政府ガ終戰時ニ於ケル所ノ我ガ國ノ問合セニ對シテ答ヘテ居リマスル言葉ニ、「アメリカ」ノ政府ハ、詰リ「アメリカ」「イギリス」、アヽ云フ四聯合國ノ政府ノ爲ニ、「ビハーフ」ト云フ文字ヲ使ツテ居リマスガ、サウ致シマスト、其ノ回答ヲシタノハ「アメリカ」政府ダケレドモ、ソレハ實ハ四箇國ノ政府ガ回答シタト云フコトニナルト云フ意味ニ於テ、此ノ四箇國ノ「ビハーフ」ト云フ文字ヲ使ツテ居リマス、私ハ英語ハ能ク知ラヌノデスケレドモ、大體斯ウ云フ凰ニ‥‥サウスルト、此ノ「國民のために」ト云フ文字ハ、或ハ此ノ飜譯ヲ讀ミマスト「ビハーフ」ト使ツテアルカモ知レマセヌ、是ハ私ハ殊更見マセヌノデス、初メ見タノヲ忘レチヤツタ、サウスルト、是ハ「國民のために」ト云フコトハ、詰リ國民ニ代ツテトカ何トカ云フ意味ニナルカドウカト云フ疑問ナンデシテネ、ソレデ輕イ意味デ御尋ネシタンヂヤナイ、私自身ハ‥‥ドウダラウ、ドチラデモ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 原案者ノ方ノ考ヘ方ハ、「ために」ト云フコトハ全ク其ノ利益ノ爲ニト云フヤウナ言葉ニ似タヤウナ意味デ使ツテ居リマス、代ツテト云フ意味デハナイノデアリマス
○佐々木惣一君 ソレナラソレデ宜イノデスガ‥‥私ハ詰リ意見ヲ言ツテ居ルノデアリマセヌ、ソレナラハツキリ分リマジタ、原案者ノ御趣旨ガ‥‥唯「主權の存する日本國民」ト云フヤウナ文字ガハツキリ出テ來テ居ルモンダカラ、ダカラシテ「國民のために」ト云フノハ詰リ外國文デノ「オン・ビハーフ」ト云フ意味ニナリヤシナイカトチヨツト疑ツタカラ御尋ネシタノデス、此ノ點ニ付テノ意見デハアリマセヌ、ソレカラ今度ハ第六ト致シマシテ、此ノ天皇ニ依ル任命ト天皇以外ノ機關ニ依ツテ指名サレルト云フコトガアリマス、ト云フノハ、天皇ガ或機關ヲ御任命ニナル場合ニ、他ノ機關ノ指名ニ基イテト、斯ウアリマス、例ヘバ内閣總理大臣ヲ任命セラレル場合ニハ、國會ノ指名ニ基イテ、或ハ又最高裁判所ノ長タル判事ヲ任命サレル場合ニハ、内閣ノ指名ニ基イテトアルノデス、是ハ運用論トシテハソンナコトハアリマスマイケレドモ、法理論トシテ、其ノ指名セラレタモノヲイケナイトシテ、ソレヲ任命セラレナイト云フコトハアリ得ルノデスカ、許サレルノデスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ寧ロ佐々木先生ニ御伺ヒシタ方ガ適當カト思ヒマスルガ、斯樣ナ場合ニ於キマシテハ、憲法ガ持ツテ居ル冷ヤカナル法律解釋ト、現實ノ政治ニ於ケル生キタ動キ方ト云フモノトノ間ニ存スル微妙ナ點ヲ此ノ言葉ヲ以テ解決シテ居ルノデアリマシテ、殊更ニ之ヲ法律的ニ説明セヨト仰セラレマシテモ、多少實際ニ於デ有益デナイト、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、政治ハ此ノ通リニ動クベキ筋合ノモノデアル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 ソレハソレデ宜イデスガ、要スルニ假ニ斯ウ云フ憲法論ガ出テ、天皇ガ國會ノ指名シタ者ヲ是ハィカヌト言ツテ任命ヲセラレヌト云フ時ニ、天皇ハ憲法違反デアルカドウカト云フ問題ガ法理的ニ起ルノデスガ、サウ云フ場合ハドウカト云フノデス、今ノ御説明ハ法理論トシテハ、私ハ滿足シマセヌケレドモ、併シ御説明ノ趣旨ハハツキリ分リマシタカラ、ソレ以上質問スル氣ハアリマセヌ、ソレカラ是ハ平凡ノコトデアリマスケレドモ、攝政ノ性質ノコトデアリマス、第五條ノ「皇室典範の定めるところにより攝政を置くときは、」是ハ宜イノデスケレドモ、攝政ヲ置クト云フ場合ニ付テハ、モウ新憲法デハ全然要件ヲ示サナイト云フ御立場デアリマスルカドウデスカ、サウノヤウデスネ、攝政ヲ置ク場合ハ、皇室典範デ總テ之ヲ規定セシメル、斯ウ云フ御趣旨ガアルカト云フコトデス
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス
○佐々木惣一君 サウ致シマスト、天皇ガ「大政ヲ親ラスルコト能ハサル」場合ト云フコトハ、今ハ皇室典範デアリマスケレドモ、憲法上ノ攝政ノ性質ヲ説明スル時ニハ、其ノ憲法ト皇室典範トヲ結ビ付ケマシテ、サウシテ天皇ガ大政ヲ親ラセラルヽコトガ出來ナイ場合ト云フコトヲ要件トシテ大抵説明シテ居ルト思ヒマスガ、ンレデハナイデスカ、皇室典範ハドウ云フ場合ニ攝政ヲ置クト云フヤウナコトヲ、憲法ハ何等豫想モ限定モシテ居ナイト云フ譯デアリマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 大體攝政ト云フ言葉ハ、君主國ニ於テ用ヒラレテ居リマスル時ニハ、自ラ自然ノ限界ト申シマスカ、常識的ニ認メラレテ居ル所ノ限界ハアルト思ヒマス、併シ其ノ限界ノ範圍内ニ於キマシテ、具體的ニ如何ナル條件ヲ當嵌メルカト云フコトハ、今回ノ此ノ草案ニ於キマシテハ、皇室典範ニ委ネラレテ居ル譯デアリマス、從ツテ又現在ノ攝政ニ關シマスル制度ト略々同ジデアラウトハ思ツテ居リマスケレドモ、併シ幾分ノ餘裕ガナイコトハナイト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 私ノ御尋ネ致シマシタノハ、憲法ニハ文字トシテハ規定ガナイノダケレドモ、併シナガラ或意味ニ於テ攝政ト云フモノハ、ドウ云フ場合ニ置クモノダト云フコトガ、憲法ノ實質上ノ規定ニ入ツテ居ルベキダト考ヘルモノデスカラ、サウスレバ皇室典範ヲ規定スル時ニソレガ指導原理ニナルト、斯ウ思ツテ居リマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 固ヨリサウ云フ考デアリマス
○佐々木惣一君 ソレカラ今度ハ皇室ト財産、是ハ先刻以來モウ既ニ説明ガアリマシタカラ、私ハ別ニ御尋ネスルコトハアリマセヌケレドモ、サウシテ又此ノ規定ハ、私ハ實ハ財政ノ章ニ至リマシテカラ更ニ御説明願ヒタイコトモアリマスカラ、其ノ點トノ關聯カラチヨツト御尋ネシテ見タイト思ヒマスノハ、妙ナコトデスケレドモ、第一ニ、皇室ガ財産ヲ御持チニナルコトガ必要デアルカト云フ點デス、單ニ法理的ニ財産權ノ主體デモアリ得ルト云フヤウナコトデハナク、皇室ハ財産ヲ御持チニナルト云フコトガ宜イノデアルカ、イケナイノデアルカ、サウ云フヤウナ點ニ付テ、強ヒテ伺フノハ何デスケレドモ、先刻來、皇室ニハ私生活ナシトカナントカ云フヤウナ言葉ガアリマシテ、ソレヲ表面的ニ徹底スルト、皇室ニハ財産ガナイ方ガ宜イノダト云フヤウナ理論ニナルカト思ヒマスガ、サウ云フヤウナ見地デ此ノ憲法ガ出來テ居ルノデアルカドウカト云フコトヲ御尋ネシテ見タイト思フノデス、私ハ念ノ爲ニ、御許シヲ得テ私自身ノ考ヲチヨツト言ハセテ言キタイト思ヒマス、私ハ理念的ニハ、皇室ニ財産ガナイ、言ヒ換ヘテ見レバ、皇室ニハ御財産ガナクテモ宜イト云フヤウナ國家生活状態ガ宜イト云フコトヲ、理想的ニハ思ツテ居リマス、併シソレハサウ云フ國家生活状態ガ出來レバ宜イト云フコトデアツテ、常ニサウダト云フコトヲ言フノヂヤナイ、サウ云フコトガ實現サレ得ル爲ニニ、國家生活、社會生活上ノ或事實上ノ事情ガ前提トサレナケレバナラヌノデアリマス、ソコデ私ハ、今日ハ皇室ハ財産ヲ御持チニナル建前ノ方ガ宜イト思フ、今日ハデスヨ、理想的ニ言ヘバ、皇室ニハ財産ガナイト云フコトデ我々ノ社會生活ガ行ハレル方ガ宜イノダケレドモ、ソレハ理想ヲ言フノデアツテ、ソンナ理想ハ今日デハ出來ナイ、ト云フノハ、皇室典範ノ全般ノ状況ヲ見テ、矢張リ皇室ハ財産ヲ御持チニナツタ方ガ宜イ、斯ウ云フ考ヲ持ツテ居リマス、併シ財産デ皇室ガ賄ハレルコトガ宜イト云フノヂヤナイ、ソレハ八十四條ハ前ノ政府原案ノ方ガ宜イト私ハ思ツテ居ルノデアリマスガ、皇室ハ矢張リ我々國民ガ其ノ御經費ヲ献上シテ、サウシテ皇室ノ御經費ヲ我々ガ賄フト云フ建前ノ方ガ宜イ、併シサウ云フ建前ヲ執ツテモ、今日ノ現状ハ、皇室ガ財産ヲ御持チニナラヌコトガ事實上宜イト云フ風ナコトヲ言ヒ得ナイ状況デアルト思ツテ居リマス、理念的ニハ、財産ナシト云フコトデ行クノガ一番宜イガ、今日ノ實情ハ、サウ云フコトハ言ヘナイト思ヒマス、併シ政府ノ方デハ、イヤサウデナイノダ、皇室ニハ財産ガナイ方ガ宜イノダト云フヤウナ建前デスカ、財産權ノ主體トシテハ認メテアルノデスガ、唯政治的ノ考デス、サウ云フコトニ付テ何カ御答ヲ得ラレマスカ、ドウデスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 既ニ理論的ニ御認メニナリマシタノデ、ソレ以上ニ餘計ナコトヲ申上ゲル必要ハナイト存ジマスルガ、現在ノ皇室ノ財産ノ中ニ於キマシテ、特ニ收益財産トモ見ラルベキモノニ付キマシテハ、世上幾多ノ議論ガアリ、又疑惑ノ中心トナツテ居ルノデアリマス、勿論疑惑ト申シマシテモ、大部分ハ國外カラ來ル疑惑デアリマスケレドモ、兎ニ角ソレデアルコトハ疑ヒナイト存ジテ居ル譯デアリマス、實際現在ノ日本ノ建前ニ於キマシテハ、年々四百五十萬圓ノ皇室費ヲ國ノ方カラ差出スト云フコトニナツテ居リマスルガ、四百五十萬圓デハ皇室ノ公ニ御用ヒニナル費用ト内面ニ於テ御用ヒニナル費用ヲ合算シタモノノ極ク一部分ニシカ當リマセヌノデ、此ノ實情ヲ維持スル限リハ、皇室ニ財産ガナケレバヤツテ行ケナイ、斯ウ云フコトニナラウト思ヒマス、斯樣ナ姿ニナツテ居ツテ、之ヲ中心トシテ理論的ニ幾多ノ疑惑ガアルバカリデナク、實際的ナ面ニ於キマシテハ、皇室ガ色々ナ土地其ノ他ヲ御持チニナリマスルト、ソコニハ國ノ法律ノ働キ方ガ變ツテ參リマシテ、列ヘバ地方税ハ取レナクナル、國民學校ノ生徒ハドンドン殖エル、學校ハ維持出來ナイ、斯ウ云フ風ナ羽目ニナリマスト、其ノ解決ニ非常ニ困難ナル状況ヲ生ジマス、又森林警察ノ如キ、一般ノ警察トハ違ツテ特殊ナル警察ガアリ、人家ノ軒ノ所ニ檜ヤ杉ガ森々トシテ繋ツテ居ル、而モ是ガ因ニナツテ或ハ犯罪ナドノコトガ起リ、其ノ怨ミガ皇室ニ屬スルト云フコトモ現實トシテ存在シテ居ルノデアリマス、サウ云フヤウナ、理論的ニモ、實際的ニモ、支障ノアル制度ヲ何時迄モ守立テテ行ク必要ハナイノデアツテ、此ノ際財産ハ基本的ナル財團トシタ方ガ矢張リ宜イノデハナカラウカ、其ノ代リ今ノ理論滿足ノ結果トシテ、何カ皇室ニ御不便ガ起ル虞ガアツテハナリマセヌカラシテ、之ニ對スル相當ノ用意ヲシタナラバ宜イデハナイカ、其ノ用意ノ仕方ト云フモノガ此ノ皇室ノ私有財産ノ方面ヲ漸次充實サセテ行クコトニ依ツテ決セラルベキモノト考ヘテ居ル譯デアリマス
○佐々木惣一君 政府ノ御趣意ハ能ク分リマシタ、兎ニ角是ハ八十四條トノ關聯デ、私ハ又一般的ニ申上ゲテ置キマス、ソレカラ又ココデ條文ノ解釋デスケレドモ、皇室ニ財産ヲ讓リ渡シタリ、皇室カラ財産ヲ讓リ受ケルト云フヤウナ場合ニハ、國會ノ議決ニ基カナケレバナラヌト云フノハ、是ハドウ云フ意味デセウカ、サウ云フ行爲ヲ爲ス時ニ、斯ウ云フ行爲ヲ爲ス其ノ行爲自體ニ對スル働キヲ、斯ウ云フ行爲ヲシヨウト思フ時ニ、國會ノ議決ガ必要ダト云フノデアリマスカ、唯意思決定ニハ要ルト云フノデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） チヨツト御質疑ノ御言葉ニ追隨シテ、考ガ纒マリ兼ネマスルガ、此ノ意味ハ基本ニ於テ國會ノ議決ガナケレバナラヌト云フノデアリマシテ、ダカラ法律ニ依ツテ原則ヲ決メテ置イテモ宜イ、個々ノ場合ニ議決シテモ宜イト云フノデアリマシテ、基クト云フ言葉ヲ特ニ使ヒマシタノハ、委任ノヤウナコトヲ念頭ニ置キマシテ具體的ニ決メナクテモ、根本ニ於テ國會ノ議決ガアレバ宜イノダト云フノデアリマス
○佐々木惣一君 有難ウゴザイマシタ、實ハソコヲ伺ツタノデアリマスガ、ハツキリ致シマシタ、ソレカラ最後デアリマスガ、一一點、天皇ノ無答責ノ規定ガ、私ハ此ノザ法ニ必要ヂヤナイカ、無イノデスガ、是ハ私ハ本會議デ御質問申上ゲタノデスケレドモ、少シ分リニクカツタ、其ノ時ニ申上ゲタ問題トシテ、例ヘバ天皇ガ刑法上犯罪トナルヤウニ行動ヲナサイマシタ時ニハ、ソレニ刑罰ヲ科スルト云フヤウナ、サウ云フヤウナ規定ヲ設ケルコトガ出來ルカト云フコトヲ御尋ネシマシタラバ、チヨツト實ハ暫ク返答ガナカツタヤウニ思ヒマスガ、併シ今日ハ其ノ返答トシテヨリモ、他ノ方ノ御質問ニ對スル御返答ノ中ニソレヲ含ンデ居ルノデアリマスガ、ソレハ即チ象徴デアルト云フコトカラ、私ハ實ハ是ハ法的意味ハナイト、斯ウ云フ風ニ國務大臣カラハ伺ツテ居ツタノデスケレドモ、今日ハ別ニ變ツタト云フノデハアリマセヌケレドモ、大河内子爵ノ御質問ニ御答ニナリマシタ御言葉ノ中ニ、確カ象徴ト云フコトカラ結果スル、其ノ結果ノ一ツトシテ何カ無責任ト云フヤウナコトガ出ルト云フ御話ヲ伺ツタガ、サウシテ例ヘバ或罰ヲ科スルヤウナ規定ハ出來ナイト云フコトヲ伺ヒマスガ、實質的ニハサウカモ知レマセヌガ、私ハドウモ象徴ト云フヤウナコトガサウ云フ或法的效果ヲ當然ニ持チ來スヤウナ、サウ云フ法的意味ヲ持ツタ言葉トハドウモ理解出來ナイ、象徴デアルカラ無責任ノ規定ヲ設ケナケレバナラヌト云フヤウナコトノ結果ハ生ジマスルケレドモ、政治的、立法的ノ象徴デアルト云フコトヲ言ツテ居ルカラ、當然ニ天皇ハ無答責デアルト云フヤウナコトハ、ドウモ出テ來ナイト思ヒマス、是ハドウモ仕樣ガナインデスケレドモ、ソレデ私ハ矢張リ憲法ノ中ニハ、我ガ國民ガ今日天皇ニ對シテ奉ツテ居ルヤウナ尊嚴ノ觀念ヲ害スルガ如キ方法ニ於テ天皇ノ責任ヲ問フト云フヤウナコトハ出來ナイト云フヤウナ意味ノ規定ヲ憲法ニ設ケタ方ガ宜イト、斯ウ思フノデス、併シソレハ第一條ノ解釋カラ行クト云フナラバソレデ宜イ譯デアリマスガ、併シ此ノ點ハ私ハ可ナリ茲ニ天皇ノ無答責、即チ天皇御自身以外ノ人間、御自身デハドウ云フ風ニ御考ヘニナツテモ仕樣ガナイ、御自分デ‥‥併シ他ノ方面カラ天皇ノ責任ヲ彼レ此レ言フコトハ出來ナイノデアル、斯ウ云フ風ナ規定ヲ憲法ノ何處カニハツキリトシテ一箇條設ケテ戴キタイ、是ハ解釋ガ異ツテ居ルカラ、從ツテ立法上ノ希望モ違ヒマスカラ已ムヲ得ナイケレドモ、サウ云フ私ノ希望ヲ申上ゲテ、國務大臣ノ、第一條カラサウ云フ天皇無答責ノ結果ハ、當然理上出來ルト云フヤウナ御解釋トハ、遺憾ナガラ解釋ヲ異ニスルト云フコトヲ申上ゲテ、從ツテ特別ニ無答責ノ規定ヲ設ケタラドウカト、斯ウ云フコトヲ申上ゲテ置クノデス、是ハ質問デアリマセヌ、私ノ意見ヲ言ウタダケデアリマス、之ヲ以テ私ノ質疑ヲ終リマス
○委員長（安倍能成君） 次ノ順底ハ川村委員デゴザイマスガ、川村委員ハ特ニ總理大臣ニ質問ヲシタイト云フ希望デアリマスケレドモ、總理大臣ハモウ既ニ歸ラレタト云フコトデアリマスカラ、長谷川委員ニ御願ヒ致シマス
○長谷川萬次郎君 私ノ質問ハ簡單ナコトデアリマスケレドモ、第一條ニ付テト申上ゲテ置イタト思ヒマスガ、佐々木委員カラ此ノ點ニ付テモ、色々又其ノ他ノ點ニ付テ質問ガアリマシタガ、佐々木君ノ御質問ハ、法理上此ノ憲法ヲ解釋スルニ付テ是非分ラシテ置カナケレバナラヌト云フ點ヲ刻明ニ擧ゲラレテ、一々質問サレタヤウニ覺エマスカラ、非常ニ長イヤウデアリマシタケレドモ、其ノ一々ノ點ハ、詰リ此ノ憲法ヲ法理的ニ解釋スル上ニ於テ、豫メ心得テ置カナケレバナラヌ點ヲ皆擧ゲラレテ居ル、唯其ノ間ニ少シ長イコトガ入ツテ、質問要領ガ長クナツテ、何ダカ分ラナクナツテ、サウシテ最後ニ斯云フウコトヲ質問スルンダト云フコトヲ重ネテ御述ニナラナケレバナラナクナツタノデスガ、最後ニ仰シヤツタコトダケヲ言ハレレバモツト簡單ニ行ツタト思ヒマスガ、併シ色々伺ツテ居ル中ニ我々ハ大イニ學問ヲシタコトニナツタノデアリマス、私ノ質問ハ之ニ反シマシテ、サウ云フ性質ノモノヂヤナイ、勿論専門家デアリマセヌカラ、サウ云フ性質ノ質問ガ出來ル譯デアリマセヌガ、私ノハ此ノ憲法ヲ定メタ何ト云フカ、寧ロ國民ガ定メタノデアリマシテ、定メタ國民ノ感情、理性、心理ト云フヤウナモノニ付テ、之ヲ定メタ者ガドレダケノ理解ヲ持ツテ居ルカ、又國民ハソレニ對シテドレダケ理解ヲ持チ得ルカ、又現在國民ガ理解ヲシテ居ル所トピツタリ合ツテ居ルカ、或ハ背イテ居ルカト云フ風ナ點ヲ御質問スルノデアリマシテ、解釋學トシテハ或ハ殆ド意味ガナイ質問ニナルカモ知レマセヌノデ、金森サンノ御返答ヲ求メルコトハ無理カト思ヒマスガ、首相モオイデニナラヌシ、兎角サウ云フ意味デアルコトヲ申シテ、更ニ此ノ問題ハ私ハ第二章デ質問スル場合ニ申上ゲヨウト思ヒマスガ、今日ハ簡單ニ申上ゲタイト思ヒマス、茲ニ「天皇は、日本國の象徴であり日本國民統合の象徴で」アルト云フ、象徴ト云フ言葉デアルガ、二ツモ象徴ト云フコトヲ言ツテ居ルガ、日本國ノ象徴ト云フ意味ト、日本國民統合ノ象徴デアルト云フコトト確カニ違フカラ二ツ竝ベタノデアリマセウ、反復ノ言葉デハナイト思ヒマスガ、サウシマスト先ノ日本國トハ何デアルカ、日本國民統合ト云フノハドウ云フコトデアルカ、法律解釋デナシニ國民ノ常識トシテ問題ニナル譯デアリマス、併シ一ツ嚴格ニ考ヘマスト常識論デハ間ニ合ハヌトモ考ヘラレマスガ、私共ガ此ノ條文ヲ見テ理解スル所ニ依リマスト、日本國ノ象徴ト云フノハ、日本國民ト云フモノヲ國土ト云フヤウナ意味ニトツタノデハナイコトハ、ソレハ明カデアル、日本ノ自然状態トカ天象、氣候ト言ツタ譯デハナイト思フ、我々ガ色々飯ヲ食ツタリ仕事ヲシタリスル生活状態ト云フ、其ノ意味デモナイト思ヒマス、詰リ法律其ノ他ニ於テ言ハレル日本國ト云フ意味デアルトスルト、政治國家ノ意味デアラウト思フ、政治國家トシテノ日本國ト云フ意味デアルカラ、嚴格ニ言ヘバ國家ト云フ言葉ガ用ヒラレテアルカラ、日本國家ノ象徴デアルト云フコトヲ日本國ト言ハレタ、明確ニ言ツタラ、政治國家ヲ現ハスナラバ日本國家ト云ツタ方ガ宜イト思フ、次ニ日本國民統合ト云フノハ、是ハドウ云フコトカト云フト、日本ノ國民ノ集リノ象徴デアルト云フ風ナ意味ダラウト思ヒマス、日本國民ノ集リト云フト、國民ト云フノハ一體‥‥國民ト云フ言葉ガ憲法ニ頻リニ使ハレテ居ルガ、是ノ觀念ハ當リ前ニ使ハレテ居ルト思フ、國家ノ人民、昔デ言ヘバ「シテイ」、都市ノ市民ト云フコトガ、アレト同ジ意味ニ於テ、國家ノ人民ト云フ意味ト思フ、處ガ日本人ニハ國家ノ人民トシテノ意味ト、日本ノ社會ニ生キテ居ル人間トノ見方ト二ツアルト思フ、是ハ日本バカリデハナイ、何處ニモアルト思ヒマスガ、此ノ日本國民ノ統合ト云フ意味ハ、國家ノ國民ノ統合ト云フ意味トスルト、日本國家ノ象徴ト云フ言葉ト重語ニナル、之ヲ別ノ意味ニ於テ茲ニ掲ゲラレタト云フノハドウ云フ意味カト云フノデ、參考ノ爲ニ英譯ヲ讀ンデ見ルト、英語ハ私ニハ能ク分リマセヌガ、アトノ方ニ「ピープル」ノ「ユニテイ」トアル、ソレデ幾ラカ分ツテ來ル、「ピープル」ト云フト、國家ノ人民バカリデハナイ、廣ク人民ト云フ意味デ、昔ノ「シテイ」ノ市民ト云フ意味バカリデナク、國民ト云フ意味バカリデモナイ、「ピープル」ト云ヘバ、寧ロ日本人ト云ツタ方ガ宜イト思フ、「ピープル」ヲ現ハス適當ノ譯語ハ日本ニハナイ、民ト云フガ、詰リ民ト云フノデモナイ、適當ナ譯語ハ中國語ニモ日本語ニモナイ、唯「ピープル・ユニテイ」ヲ本當ニ解釋スベキ言葉ト言ヘバ、何カソコニ新ナ造語ヲ作ルカ、日本人ノ結合ト云フヤウニ書クカガ、一番正確ナ現ハシ方ト思ヒマス、サウシマスト、ドウ云フ譯デ、斯ウ云フ字ガ出テ來タカ、「ピープル・ユニテイ」トアルベキ處ヲ國民統合ト云ツタノハ、是ハ先程申シマシタ通リ、過去ノ日本ノ國民ナリ、國家ナリノ行動ニ對スル反省ガ足リナイト云フ處カラ來タノダラウト思フ、心理的ニ申シマスト後悔シテ居ナイ、後悔ガ足リナイ、ソレハドウ云フ意味カト云フト、何デモ國家ニ持ツテ行カウトスル今迄ノ考ヘ方、人間ガ生キルノハ國家ノ爲、家ノ爲ト云フヤウナ、詰リ一種ノ結合體ヲ絶對ト見ル古イ考ヘ方ニ基イタモノデアル、基イタコトガドウシテモ拔ケ切レナイカラ、人間ト云ヘバ國民ノ結合、國民ノ結合ト云ヘバ直グ統合‥‥統合ト云フノハ統ベルト云フ説明ガアツタガ、政治的ノ意味ヲ以テ統合スルト云フ風ニ思ツテ來ル、サウデナク「ピープル」ノ「ユニテイ」ト云フ意味デ、天皇ハ「ステート」ノ象徴デアルト同時ニ、日本人ト云フ「ピープル」ノ象徴ト云フ意味ト思フ、サウスルト二ツ言葉ヲ持ツテ來ルノガハツキリシテ來ル、前々カラ、本會議以來法理學者諸君カラ色々御質問モアリマシタガ、此ノ生活ノ反省、今迄ノ國家的生活、個人的生活ニドレダケ誤ツタ日本人デアツタカト云フコトノ反省ガ、マダマダ質問者ニモ、答辯サレル政府者ニモ、サウ云フ反省ガ足リナカツタカラ、其ノ點ニ於テハ兩方共一致シテ居ル、喰ヒ違ヒハ唯些細ナ法理論ダガ、此ノ憲法ガ出ルト云フ必要ヲ何デ持ツテ居ルカト云フコトハ、サウ云フ法理論デハナイ、法理上正確ナ民主主義、自由主義ノ憲法ガ出來ヨウト云フノデハナイ、如何ニ日本人ヲ改造スルカ、日本人ノ心理的ノ誤リヲ如何ニ誤ラヌヤウニ持チ直スカト云フコトノ問題デアル、ソレニモ拘ラズ、サウ云フ意思ガナイカラ、直グニ國民統合ト云フヤウナ字ヲ持ツテ來ル、ソレハ日本人ガ色々今後モ嫌疑ヲ受ケル理由ニナルト私ハ思ヒマス、此ノ反省ノ足リナイノハ、恐ラク教育ノ誤リデアルガ、或ハ教育ト云ツテモ、國家教育バカリデナイ、社會一般ノ教育教養ノ方針ガ誤ツテ居ツタト云フカ、方針ノ誤リバカリデモナイ、國民心理ガサウ云フ處ニ立脚シテ居ツタカラ、教育モ、教養モ、サウ云フ處ニ行ツタノデ、間違ヒハ各個人ノ心掛ケデ、ソレヲ纒メル指導者ノ誤リデアツタト云フカ、第一條ガ既ニサウ云フ誤リヲ表現シテ居ルコトハ甚ダ遺憾デアリマシテ、私共カラ云フト、折角象徴ト云フ言葉ニ依ツテ、日本ノ天皇ヲ保存シ、天皇ヲ意義アリ、價値アル御地位ニ安全ニ保ツテ置カウト云フ、日本國民ノ意思ナリ、又世界一般ノ好意ガ能ク現ハレテ居ナイト思フ、ソレヲ今迄ノ長イ間ノ此ノ質問應答ニ於テ少シモ指摘サレナカツタト云フコトハ、是ダケ知識ノアル方ガ集ツテ居ツテ色々ノコトヲ言ハレルガ、如何ニ國民トシテ、又國家ヲ擔ツテ居ル方々ノ資格ガ足リナカツタト云フコトヲ證明スル譯デ、今後ノ危險ガ、其處ニ多分ニ潛ンデ居ルト思フノデアリマス、此ノ點ニ於キマシテ、私ハ此ノ第一條ハ是非何トカ書直シテ戴キタイト思フ譯デアリマス、書直サレル場合問題トナルノハ、是ハ少シ總論ノ方ヘ戻ツテ恐縮デアリマスガ、總論ノ質問ハ取消シマシタカラ、チヨツト補充サシテ戴キタイト思フノハ、此ノ第一條ノ解釋ニ少シク關聯シマスガ、國民統合ト云フノニ見マスト、私ハ政治的ノ意味ガアル、政治的ノ統ベルト云フ字ガイケナイト申シマシタ、ソレハ人民ノ結合デアルト申シマシタガ、然ラバ人民ノ結合ト、政治的ノ統合トハドウ違フカ、人民ガ結合スレバ政治體ヲ成スノヂヤナイカ、ト云フ疑ヲ生ズルカモ知レマセヌガ、サウデハナイ、是ハ法理學的ノ範圍ヲ超エテ社會學的ノ見地カラ説明サレナケレバナラヌト思ヒマスガ、人民ノ結合ト云フト、政治以前ノ形態、政治體以前ノ問題、政治體ノ根據トナル客體デアリマシテ詰リ實體デアリマス、人間的結合、ソレガ「ユニティー、オブ、ピープル」デアル、ソレカラ國家ト云フ方ハ、其ノ「ユニティー、オブ、ピープル」ガ政治的ニ結合サレテ國家ヲ成シタ場合ノ即チ國家デアリマス、此ノ點ニ於キマシテ、「イギリス」ノ社會學者ナドハ上ヲ「ステート」ト言ヒ、下ヲ「コンミュニティー」ト言ツテ、「コンミュニティー」ト「ステート」ハ對立スベキ、反對ナ性格ヲ持ツタモノデアルト云フコトヲ説イテ居リマスガ、私ハソレニハ同意致シマセヌ、「ステート」ト「コンミュニティー」ガ對立スルヤウニナツタノハ、詰リ政治ノ性格ガ誤ツタカラ‥‥政治ノ性格ガ誤ツタト言ツテハ語弊ガアリマスガ、「コンミュニティー」ト對立スルヤウナ形態ヲ執ツタコトガ、「イギリス」ノ社會學者ノ言フ如ク「ステート」ト「コンミュニティー」トハソレ自身對立スルヤウナ考ヲ持タセラレタ所以ダト思ヒマス、根本的ニ考ヘマスト「コムミュニティー」ト「ステート」ハ決シテ對立スベキモノデハナイ、現ニ二十世紀ノ今日ニ於キマシテハ、「ステート」ト「コンミュニティー」ヲ一ツノモノニシヨウト云フノガ此ノ憲法ノ趣旨デアリ、又各國ノ精神デモアリマス、其ノ精神ノ主ナル所ハ何デアルカト云フト、所謂政治體トシテノ國家ハ、詰リ人民ノ結合體、實體ノ結合體ヲ保護シ、其ノ危險ヲ豫防スルト云フ義務ガアル、其ノ義務ガ主デアリマスカラ、從ツテ「ユニティー、オブ、ピープル」ガ互ニ爭ヒヲ生ジマス、爭ヒヲ生ジタ場合ニ、國家ガ人民ニ代ツテ武力ヲ以テソレヲ防ガナケレバナラヌト云フコトニナリマスカラ、自ラ國家ノ性格ニ武力ガ伴フ、軍權ガ伴フト云フコトニナル譯デアリマシテ、其ノ意味カラ申シマスト、國家ト云フモノハ、「コンミュニティー」ノ平和ヲ妨ゲラレナイ爲ニ國家ト云フモノニ武力的防禦ヲ委ネルノデアリマス、ダカラ「コンミュニティー」ト云フモノノ本質的ナ性格ハソレ自身平和的ナ性格デアリマス、國家ト云フモノハ之ニ反シテ防禦ノ態勢ヲ執ラナケレバナラヌガ、又場合ニ依ツテハ攻撃ノ態勢ヲ執ラナケレバナラヌ、從ツテ武力的デアルト云フコトハ已ムヲ得ナイト思ヒマス、此ノ頃言ハレマス世界平和ノ觀念ニ依リマスト、國家モサウ云フ對立ヲ止メナケレバナラヌ、武力抗爭ヲ止メナケレバナラヌト云フ考ヘ方ガアル、是ハドウ云フ所カラ生ジタカ、「コンミュニティー」ト「ユニティー、オブ、ピープル」トガ互ニ爭フカラ國家ガソレヲ代表シテ戰フ、「ユニティー、オブ、ピープル」ト云フモノガ互ニ世界的ニ平和ニナリサヘスレバ、國家モ武力ヲ持タズニ濟ムト云フ觀念カラ來テ居ル、デスカラ之ヲ嚴格ニ區別シテ觀念的ニ考ヘル必要ガアルカラ、「イギリス」人ノヤウニ極端ニサウ云フ風ニ言ツテハイケナイガ、要スルニ終極ニ於テハ一致スベキモノデアルト考ヘナケレバイケマセヌ、今度ノ憲法デハ、日本ハ「コンミュニティー」國家ニシヨウ、武力ヲ持タナイ「ユニティー、オブ、ピープル」ト云フ國家ニシヨウト云フノガ此ノ憲法ノ本旨デアルト思ヒマス、サウシマスト、天皇ハ「ユニティー、オブ、ピープル」ノ象徴デアルト云フコトガ重大ナ意味ヲ持ツテ來ルノデアリマスガ、是ハ日本ノ天皇ノ詰リ昔カラノ傳統ダツタト思ヒマス、私共ハ日本ノ天皇ハ國家ノ對立抗爭的、武力的ナ方面ヲ象徴サレタモノデナクシテ、絶對平和的ナ生活結合ヲ象徴サレタモノデアルト云フノガ日本ノ天皇ノ性格ダト思ヒマス、其ノ意味カラ言ツテモ、日本國家ノ象徴デアルト云フヨリハ、日本國民統合ノ象徴デアルト云フコトノ方ガ、天皇ノ性格ヲ表ハスノニ本質的ニ當ツテ居ルト言ハナケレバナラヌト思ハレマス、從ツテ此ノ「ユニティー・オブ・ピープル」ト云フヤウナ意味ニ現ハサウトスルト、ドウシテモ國民統合‥‥統ト云フ字ヲ茲ニ使フコトハ私ハ甚ダイケナイ、サウ云フ心理的ナ非常ニ「デリケート」ナコトガ感ゼラレル、所謂感性ガ足リナイト云フコトガ、今ノ高級ナ知識階級ノ缺點デアリマスガ、ソレモ此ノ男女關係トカ、愛情關係トカ、夫婦關係ト云フコトニナリマスト、相當「デリケート」ナ作用ヲ持ツテ居リマスケレドモ、公ノ性格ニ於キマスルサウ云フ心理ノ「デリケート」ナ點ヲ缺イテ居ルト云フコトガ、日本ノ「インテリゲンツイア」ノ缺點ダト思ヒマスガ、ソレガ茲ニ現ハレテ斯ウ云ツタ文字トナツタト思ヒマス、サウ云フコトヲ申シマスト、恐ラク少數意見トシテ、此ノ憲法ハ此ノ文字ノ通リニナツテ現ハレルカモ知レマセヌガ、其ノ少數意見コソ本當ノ日本人ノ日本‥‥國家ノ再興ヲ支配スル心理デナケレバナラヌ、感性デナケレバナラヌ、觀念デナケレバナラヌト云フ風ニ私ハ信ジテ居リマス、此ノ少數意見ガ多クノ日本ノ高級ナ「インテリゲンツイア」ナリ、政府當局者ナリニ理解サレ、肯カレルト云フコトニナリマシテ、初メテ日本ハ世界ノ信頼ヲ得ルヤウナ平和國家ニナリ得ルノダト思ヒマス、動モスレバ斯ウ云フ文字ヲ使ツテ、斯ウ云フ觀念カラ離レルコトノ出來ナイ間ハ、此ノ憲法ガ出來マシテモ、日本ハ各國ノ猜疑ノ的トナルト思ヒマス、デスカラ自分ト致シマシテハドウシテモ此ノ文字ヲ改メテ戴キタイト考ヘテ居リマスガ、之ニ對シテ政府トシテハドウ云フ御考デアリマスカ、伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 國民統合ノ象徴ト云フ言葉ノ持ツテ居ル基本的ナ意味ニ付キマシテハ、只今御教ヘヲ受ケマシテ、長谷川委員ノ仰セニナリマシタ方向ニ於テ政府モ考ヘテ居ル譯デアリマス、唯其ノ思想ヲ國民統合ト云フ言葉デ現ハシタ方ガ適當デアルカ適當デナイカト云フコトガ、御意見ノ中ニ現ハレマシタケレドモ、其ノ點ニナリマスト、此ノ言葉デ以テ相當ノ程度迄言ヒ現ハシテ居ルノデハナカラウカ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、サウシテ此ノ憲法ノ建前ガ、從來ハ個人ト國家ト云フ二ツノ兩端ノミヲ見テ憲法ヲ規定シテ居ツタト云フノニ對シマシテ、ソレデハ不十分デアル、茲ニ國民統合ト云フ一ツノ思想ヲ用フベキ基本的ナ性格ヲ明カニシヨウト、斯ウ云フ考カラ入ツテ居リマス、偶々文字ガ不十分デアルト仰セニナリマシタガ、此ノ文字ニ關シマスル心ノ持チ方ガ、人々ニ依ツテ非常ニ繊細ナ動キヲ致スモノデアリマシテ、私共ハ是デ正シイト斯ウ申上ゲル外ニ、今ノ處御答ヘスル途ヲ存ジマセヌ
○長谷川萬次郎君 今ノ御答辯デソチラノ御心持ハ能ク理解シマシタガ、私ハ甚ダ危イ御心持デアルト云フ風ニ考ヘテ居リマス、ソレカラ其ノ裏ニ或ハモツト何カ深イ御考ガ‥‥是モ法理上ノコトデアリマスガ、此ノ前カラ屡々アリマシタ國體ノ變革ト云フ風ナコトヲ否定サレル心理ガ矢張リソレニ關聯シテ、今ノヤウナ御答ガ出ルノヂヤナイカト思ハレマスガ、是モ私ハ寧ロ世界ニ對スル日本ノ地位ヲ明カニスルノモ、國體ヲ變革シタト云フコトヲ明カニ言ハレタ方ガ宜イト思ヒマスシ、又學理上國家ヲ變革シタト考ヘテ少シモ違ヒハナイト思ヒマスガ、國體ガ變革シタト考ヘルベキデハナイカト言ハレタ方々ノ考ヘ方モ今私ガ申シマシタ説明ノ點ニ觸レテ居リマセヌ、ト言フノハ、此ノ日本國家ト云フモノノ性格ガ變ツタコトハ、國體ノ變革ヂヤナイカ、ダカラ國體ノ變革ト言ツテモ宜イヂヤナイカ、政府ノ方デハ國體ト云フ言葉ハ曖昧デアルト云フコトデアリマシタガ、「フアンダメンタル・キヤラクター」ト云フヤウナ言葉ガ出マシタガ、モウ一歩進ンデ、學理上、法理的ノ考ヘ方、社會學的ノ見地カラ申シマスト、差支ヘナイコトハ明カデアリマス、詰リ國體變革ト云フノハ、政治形態ガ、上ノ方ノ日本國家ノ「ポリティカル・ボデイ」トシテノ國家ノ政治形態ガ變ツタノデアリマスカラ、下ノ方ノ「ユニテイ・オヴ・ピープル」ト云フモノハ變ラナイ、實體ハ變ラナイ、ダカラ國民統合ト云フ政治的言葉ヲ用ヒナケレバ、チツトモ國體ノ變革ト云フコトヲ言ツテモ差支ナイ、之ヲ今ノ法理學者モ、上ノ國家ノ方バカリデ變ツタカ變ラヌカト云フコトヲ言フガ、變ツタノハ上ノ國家デアル、今日流行ノ粉食デ、小麥デ「パン」ヤ餅ヲ作リマスガ、小麥ハ「ユニテイ・オブ・ピープル」、電熱器ヤ何カデ作ツタ「パン」ガ國家、其ノ「パン」ニハ、フクラシ粉ヲ入レテフワフワニシタモノガアリ、搗イテ餅ニシタ固イノモアル、ソレガ國家ノ「ファンダメンタル・キヤラクター」デアル、固イノヲ專制封建的政體ニ譬ヘマスト、軟カイ、フクラシ粉ヲ入レタ「パン」ハ民主主義政體デアル、併シ小麥ト云フモノニハ變リハナイ、所謂「ユニテイ・オブ・ピープル」ハ變ラナイ、國體ノ變化ト云フモノハ、國民ノ性格ノ變化トハ又別ノモノデアル、ソレデ何時カ金森サンガ國家ノ持續性ガ失ハレル虞ガアルト言ハレテ、「ソビエート」ノ例カナンカ言ハレマシタガ、アノ場合ハ「ソビエート」ハ詭辯ヲ弄シタノデ、アレハ舊國家ノ債務ナドヲ問題ニサレルト生存ガ出來マセヌカラ、生存權ノ問題カラアヽ云フ主張ヲサレタトモ言ハレマスガ、アヽ云フヤウニハ行カナイト思ヒマス、詰リ「ユニテイ・オブ・ピープル」ノ實體ガ變ラナケレバ、幾ラ名ガ變ツテモ專制封建時代ノ責任ハ負ハナケレバナラナイ、惡人カラ善人ニナツタト云ツテ、惡人時代ノ責任ヲ負ハナイト云フコトハ言ヘナイノデ、自由國家ニナツテモ封建國家時代ノ責任ヲ負ハナイト云フコトハナイ、國體ガ變化サレタト云ツテモ、小麥ハ小麥、フワフワニナツタカ、餅ニナツタカト云フコトガ「ファンダメンタル・キヤラクター」デ、「フアンダメンタル・キヤクター」ガ國體デモ、チツトモ「ピープル・オブ・ユニテイ」ハ變ラナイカラ國家ノ持續性ガ失ハレルト云フコトヲ考ヘルノハ間違ヒダラウト思フ、サウ云フコトニ危險ヲ感ジマシテ、成ルベクソレニ觸レナイヤウニト云フヤウナ考ガアリマスガ、私ノ今申上ゲタコトハ、斯ウ云フ色々ノ煩ハシイ文句ガ出來タリ、文字ノ使ヒ方ニナツテ居ルガ、要スルニ私ノ意見ハ少數意見ニ止マリマセウガ、若シ出來得ルナラバ此ノ少數意見ニ御賛成下サレバ、サウ云フ御心配ハナク國體ハ變ツタト云フコトヲ言ハレルト思ヒマス、斯ウ云フ場合ニ、モツト平明ナ、サウ云フ政治的頭ヲ持タナイ文字ヲ‥‥文字ハ觀念ノ反映デアリマスカラ、其ノ文字ニ依ツテ觀念ガ如何ニ變ツテソレガ間違ツテ居ルカト云フコトガ分ルノデアリマス、ソレデモ此ノ文字ヲ改メラレナイデモ宜イト云フ所ニ、日本國民トシテノ完成ガマダ駄目デアルト云フコトヲ證據立テテ居リマス、ドウカ一ツ長イ間ニ、長イ間ト言ツテモ此ノ憲法ガ成立スル迄ノ間ニ御考ヲ願フト有難イト思ヒマスガ、是ハ希望デアリマス、モウ是レ以上別ニ御答ヲ求メルコトハナイノデアリマスガ、唯字句ノ問題ニナリマスケレドモ、「主權の存する日本國民の總意に基く」ト云フヨリハ、私ハ「日本國民の總意に基く」ト云フノデ宜イノダラウト思ヒマス、ト云フノハ、日本國民ニ主權ガアラウトナカラウト‥‥日本國民ニ主權ガナイト云フコトハナイガ、何處ニ主權ガアラウトナカラウト、其處ニ天皇ノ政治的權力ヲ持チ出ス必要ハナイ、詰リ「象徴」ト云フコトハ、數千年來ノ傳統ヲ保存サレル爲ニ茲ニ考ヘラレタコトデアリマスカラ‥‥國民ニ主權ガナイト云ツタ時代デモサウデアリマス、主權ガ國民ニ出來タ時代ニ初メテ天皇ガサウナツタノヂヤアリマセヌカラ、「主權の存する」ト云フコトヲ「日本國民の」ノ條件ニスル必要ハナイト思ヒマスカラ、此ノ言葉ハ要ラナイト思ヒマスガ、總テ斯ウ云フ要ラナイ言葉ヲ苦心サレテ加ヘタリスル所ニ實際ニ客觀的事實‥‥日本ノ天皇ノ象徴ト云フ性格ハウマイ表現ト思ヒマスルガ、其ノ表現ガ事實日本ノ歴史ノ上デドウ云フ意義ヲ持ツカト云フコトヲ理解サレナイカラ、特ニ此ノ「主權の存する」ト云フ文句ヲ加ヘタノデス、歴史ヲ達觀シテサウシテ能ク理解シテ居ラレルナラバ、コンナ言葉ヲ使ツテ行ク必要ハナイ、日本國民ハ主權ガ何處ニアラウト、天皇ハ日本國民ノ象徴デアルト云フコトデ宜イ、是等ハ總テ客觀的ナ認識ヲ缺イテ居ル所カラ來テ居ルノデアル、斯ウ云フ色々ノ煩ハシイ文句ガ出來タリ、文字ノ使ヒ方ニナツテ居ルガ、要スルニ私ノ意見ハ少數意見ニ止マリマセウガ、若シ出來ルナラバサウ云フヤウニナサレタイト思ヒマス、「主權の存する」ト云フ文字ヲ政府ハ初メハオ入レニナラナカツタノダカラ、政府ハソンナモノヲ入レナクテモ宜イト思ツテ居ツタニ違ヒナイノデアリマスカラ、此ノ點ニ付テノ質問ト云フヨリハ御賛成ヲ申上ゲル次第デアリマス、是デ質問ヲ打切リマス
○下條康麿君 私ハ若干ノ事項ニ付キマシテ簡單ニ御尋ネ致シマス、御尋ネシタイ點ノ第一ハ、第一章ニアリマス「助言」ト「承認」ト云フコトヲ實際ニ行フ段取リノコトデアリマスガ、是ハ衆議院ニ於ケル御説明ニ依リマシテ、「助言」ト云フノハ内閣カラ天皇ニ申上ゲル場合デアリマス、「承認」ハ天皇ノ行動ニ對シテ之ヲ承ケテ承認スルト云フ風ニ承知シテ居ルノデアリマスガ、「助言」カ「承認」カ一ツアレバ宜イカト思フノデアリマス、「助言」ト「承認」ト二ツ並ベテアリマスガ、ソレハドウ云フ風ニ御考ニナツテ居リマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 「助言」ト「承認」ト云フノハ、觀念的ニ斯樣ニ分ケタ譯デアリマスケレドモ、實際ノ行爲ノ現象的ナ姿ニ於キマシテハ、多クノ場合ニ關聯シテ、何處カラ何處迄ガ「助言」デアリ、何處カラ何處迄ガ「承認」デアルカ分ラナイヤウナ形ヲ以テ行ハルヽノデハナカラウカト思ツテ居リマス
○下條康麿君 能ク分リマセヌケレドモ、例ヘバ第七條ノ第三號ニ依リ衆議院ヲ解散スルト致シマシテ、衆議院ヲ解散セラレタシト云フコトヲ内閣カラ奏上シタ場合ニハ、其ノ「助言」ニ依ツテ最早完成スルノデハナイカト思ヒマス、改メテ其ノ天皇ノ御行動ニ對シテ承認スルト云フコトハナイト、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマスガ、或ハ此ノ以外ニ、天皇ノ方カラ直接御發動ニナツテ、サウシテ天皇カラ衆議院ヲ解散スベシト云フ御言葉ガアツテ、ソレニ對シテ承認スルト云フコトガアルノデゴザイマスカ、其ノ點ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ寧ロ觀念的ナ問題デアリマシテ、現實ノ場合ニ果シテアルカドウカト云フコトハ、實際ノ動キヲ俟タナケレバリマ分セヌケレドモ、觀念的ニハ今仰セニナリマシタヤウナ場合ガ有リ得ルト云フコトヲ信ジテ居リマス
○下條康麿君 ソレデ伺ヒタイノハ、例ヘバ今ノ天皇ガ衆議院ヲ解散スベシト仰セラレタ場合、内閣ガ承認スレバ宜シ、シナイ場合ニハソレガ行ハレナイ譯デアリマスルガ、其ノ逆ノ場合デ、内閣カラ衆議院ヲ解散スベシト云フコトヲ申上ゲタ場合ニ於テ、天皇ノ側ニ於テ御取上ゲニナラナイコトガ出來ルノデセウカ、消極的ノ場合ニ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 民主政治ノ通體ト申シマスカ、立憲政治ノ基本原則ト申シマスカ、斯樣ナ場合ニハ自ラ一定ノ解釋ガアルモノト思フノデアリマス、ソレハ助言ト云フ言葉ノ斯ウ云フ場合ノ使ヒ方ノ上ニ含ンデ居ル意味ト致シマシテハ、單ニ言葉ヲ以テ、知識ヲ申上ゲルト云フノデハナクテ、佐々木委員ガ前ノ機會ニ能ク言ハレマシタヤウニ、飽ク迄モ此ノヤウナ方針ヲ以テ御行動ヲ願ヒタイト云フ内容的ナル主張ヲ含ンデ居ルモノト解シマスルガ故ニ、其ノ主張ヲ含ンダ意味ニ於テ助言ト云フ言葉ヲ御解釋ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、極メテ之ヲ法理的ニ緻密ニ言ツテ、今下條委員カラ御尋ニナリマシタヤウナ場面ハ、法律學ノ教室ニ於テハ固ヨリ論結シナケレバナラヌ問題トハ思ヒマスケレドモ、斯樣ナ場合ニハ先ヅ立憲政治ノ常道ニ依ツテ動クモノト考ヘル程度ニ於テ御答ヲ申上ゲタイト存ジテ居リマス
○下條康麿君 私モ大體實際ノ運用ハ誤リナク行ハレルモノト信ジマスルガ、例ヘバ左樣ナ助言ト天皇ノ意思ト云フモノガ一致シナイ場合ノコトハ、第四條ノ「天皇は、この憲法の定める國務のみを行ひ、政治に關する權能を有しない。」ト云フコトノ枠カラ出ルト云フ意味ニ於テ、ソレガ出來ナイト云フコトニナルノデセウカ、是ハ念ノ爲ニ伺ツテ置キタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） チヨツト御伺ヒ漏レシマシタガ、詰リ助言ハ必ズ行ハレナケレバナラナイト云フ根本ノ原理ガ、第四條ノ「國務のみを行ひ」ト云フコトカラ結論サレルカト云フ御質疑ト思ヒマスガ、ドウモ言葉ダケデハサウ云フヤウニ見ルコトハ無理デアリマシテ、其處ノ所ハ政治的ノ讀ミ方デ行クベキモノデハナイカト私ハ考ヘテ居リマス、想ヒ起シマスルガ、衆議院ニ於キマシテ、確カ細迫君デアリマシタカ、誰デアツタカハツキリ覺エテ居リマセヌガ、天皇無答責ト云フコトノ基本的ナ基礎ガ此ノ憲法ノ中ニアルカト云フ御尋ガアリマシテ、其ノ論旨ハ今御觸レニナリマシタ點ニ竝行シテ居ルモノト思ツテ居リマス、詰リ天皇無答責ト云フコトハ天皇ニ過失ガ起リ得ナイト云フコトト竝行シテ考ヘナケレバナラヌヂヤナイカ、然ルニ此ノ憲法デハ、内閣カラ上申シタコトヲ其ノ通リ天皇ハ行ハセラレナケレバナラナイト云フハツキリシタ規定ガナイノダカラシテ、斯ウ云フ風ニ書イテモ、是ハ天皇ノ行爲ヲ立憲的ニ規正スルト云フハツキリシタ根據ハナイノデ、昔ノ不可解ナ、ナント申シマスカ、濫用サレタ天皇制ガ是カラ生レテ來ルノデハナイカト、斯ウ云フ風ノ御質疑ガアリマシテ、私ハ其ノ時ニ御答ヲシタト記憶シテ居リマスルガ、其ノ御質問デ摘出セラレタ點ハ、法律的ニ言ヘバ甚ダ尖鋭ナルモノガアル、併シ之ヲ政治的ノ判斷ヲ加ヘテ見レバ解釋ハ自カラ明カデ、サウ云フ場合ニハ間違ツタ結論ハ出ル餘地ハナイトフ云ヤウニ御答ヘシテ置キマシタ、大體ソンナ風ニ御答ヘシテ置キタイト思ヒマス
○下條康麿君 大體金森サンノ御考ハ分リマシタ、ソレカラ次ノ問題ニ移リマシテ、皇位繼承ノ制定手續ニニ付テ、實ハ皇位繼承ノ皇室典範ノ制定ノ手續ニ付テ伺フノデアリマス、皇室典範ガ法律ニ依ツテ制定セラレルト云フコトヲ伺ツテ居リマスルガ、其處ニ其ノ内容ガ、或ハ先程モ金森サンカラ御答ガアツタヤウニ、例ヘバ現在男子ノ天皇ノミヲ認メルコトニナツテ居リマスルガ、場合ニ依ツテ將來女帝ト云フコトモ考ヘラレルト云フヤウナコトモ御答ガアツタヤウニ思ヒマス、例ヘバ或機會ニ於キマシテ女帝ヲ置イタ方ガ宜イト云フヤウナコトデ、其ノ皇位ニ即キ得ル内親王ヲ擁立シテ、政黨ト結ビ付イテ多數ガ過半數デ法律ヲ通シテ豫定ノ天皇ヲ作ルト云フコトモ可能デアルト思ヒマス、元來斯樣ナ國ノ大事ガ容易ク法律ノ改廢ニ依ツテ動クヤウナコトハ、是ハ餘程考ヘナケレバナラヌコトデアラウト思フノデアリマス、ソレデ法律ニ依ルト云フコトハ、此ノ第七條ノ第一號ニハ憲法改正、法律、政令、條約ヲ公布スルト云フ規定ガアリマスガ、此ノ中ニ皇室典範ト云フモノガナイノデ、此ノ全般ノ解釋デハ出來ナイヤウニ思ヒマスルガ、之ヲ假ニ容認致シマシテモ、此ノ改正ノ時ニハ、ナントカ唯普通ノ法律手續デナク、其處ニ多少愼重ナ手續ヲ加ヘルコトガ必要デハナイカ、例ヘバ議決ニ付キマシテモ、過半數ニ非ズシテ、三分ノ二トカ‥‥或ハ三分ノ二ニ依ルコトヲ憲法ニ規定出來レバ結構デアリマスルガ、或ハ近ク出來ル皇室典範法ノ附則ノ中ニデモ置クトカ‥‥、此ノ内容ガ國ノ大事デアルト同時ニ、皇室ノ、天皇御自身ノ御事ニ關スルコトモ多イノデアリマスルカラ、或ハ天皇カラノ發議ニ依ツテ國會ニ掛ケテ議スルト云フヤウナ、色々ナ愼重ヲ期スル方法ガアラウト思ヒマス、サウ云フ方法ハ御採リニナル御考デアルカ、其ノ點ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 皇室典範ニ付キマシテハ、此ノ憲法自體ニ於テハ、名前ハ違ツテ居リマスルガ、性質ハ普通ノ法律デアル、故ニ法律一般ノ制定手續ト全ク同ジ手續ヲ以テ行ハルルト云フ風ニ考ヘテ居リマス、仰セ迄モナク、皇位ノ繼承ト云フコトハ重大ナルコトデアルコトハ固ヨリデアリマスケレドモ、併シハ法自體ト對比スル關係ニ於キマシテハ、非常ニ複雜ナ立法ノ手續ヲ設ケマスルヨリモ、普通ノ法律手續ニ隨ツテ、之ニ對スル國民ノ緊張シタル心理ヲ以テ議決セラレルコトガ妥當デアル、斯ウ云フ解釋デアリマス、尚或一ツノ考ト致シマシテハ、斯樣ナ特殊ナ法律ハ、憲法上ノ手續トシテハ固ヨリ此ノ憲法ノ豫期スル途ニ依ル外ハゴザイマセヌケレドモ、斯樣ナ法律ノ案文ヲ準備スル前提ニ於テハ、其ノ愼重ヲ期スル方法ニ付テ研究スベキ場面ガアルノデハナイカ、斯ウ云フ論モアリマシテ、是等ノ點ハ念頭ニ入レツツ考慮シテ居ル次第デアリマス
○下條康麿君 皇室典範ノ制定ニ付キマシテハ愼重ニ御考ヲ戴ケルヤウデアリマズルカラ、尚更ニ十分御研究ヲ願ヒタイト思ヒマス、ソレカラ次ノ問題ハ、第六條ニ「天皇は、國會の指名に基いて、内閣總理大臣を任命する。」トアリ、第二項ニ、衆議院ノ修正ニ依リマシテ、「天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。」ト云フ一項ガ加ハツタ譯デアリマス、是ハ金森サンノ御説明ニ依ルト、三權ノ一タル司法權ノ地位高キコトヲ明カニスル爲ニ、最高裁判所ノ長タル裁判官ノ任命ガ加ハツタト云フコトデアリマス、ソレデ私ハチヨツト疑問ニ思ヒマスルノハ、同ジ三權分立ノ一デアル所ノ國會ノ、衆議院及參議院ノ議長、副議長ノ任命モ、當該議院ノ選擧ニ基イテ天皇ガ任命スルト云フコトガ茲ニアツテ宜シイノデハナイカ、サウスルコトガ此ノ立法機關ノ地位高キコトヲ明カニスル所以デモアリ、又象徴タル天皇ト立法權ノ繋ガリト云フコトモ愈々ハツキリシテ來ルノデアリマシテ、實ハサウ云フ風ニ願ヒタイト思フノデアリマスルガ、茲ニ裁判所ノ方ダケ規定サレマシテ、立法權ノ方ノ關係ハ除ケテ居ルヤウデスガ、是ハドウ云フ御趣意デアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 衆議院ト參議院ハ國民代表ノ合議ノ府デアリマシテ、且又ソレガ此ノ憲法ノ建前ニ於テハ最高機關ト云フコトニナツテ居リマス、ソレ等ノ趣旨ヲ綜合致シマシテ、是等ハ大體自治的ナ立場デ以テ自己ヲ組立テルト云フ方針ヲ執ツテ居リマシテ、ソレノ役員等モ自ラ定メル、詰リ他カラ議長等ヲ任命サレナイデ、自ラ選擧スルト云フ原理ヲ執ツテ居リマス、斯ク致シマスルコトガ國會ノ地位ニ相應シキ行キ方デハナカラウカト云フ見地ヲ執ツテ居リマシテ、現在ノ大權政治ノ憲法ノ動キ方ト、改正案ニ於キマシテノ大權政治ニ依ラザル憲法ノ動キ方トハ、其ノ點ニ於テ差異ヲ生ズルコトハ已ムヲ得ザルモノト考ヘテ居リマス
○下條康麿君 其ノ點ハ三權分立ノ方カラ見マシテモ、左樣ナコトガ、ソレハ意見ニ屬シマスルカラ此ノ程度ニシテ置キマス、ソレカラ最後ニモウ一點伺ヒタイノハ、第七條ノ第七號ニ「榮典を授與すること。」ト云フ規定ガアリマス、此ノ榮典ハ、從來ハ大權事項デアリマスルカラ、關係ノ法令ハ勅令デ規定サレテ居リマスルガ、今後ハ此ノ關係ハ、國民ニ主權ガアリ、ソレカラ流レ出ル所ノ代表ノ力ニ依ツテ決定サレルト云フコトデアリマスカラ、榮典ニ關スル根本法ト云フノハ、法律デ以テ決メナケレバナラヌト云フヤウニ思フノデアリマスガ、此ノ邊ハ如何ニ御考ニナツテ居リマスルカ、ソレカラ榮典ノ範圍デアリマスルガ、原案ノ第十三條ノ第三項ニ「榮譽、勲章その他の榮典の授與は、」トアリマシテ、勲章ノアルコトダケハハツキリシテ居リマスルケレドモ、其ノ他ハドウ云フヤウナ構想ニ依ツテ之ヲ含マシテ居リマスルカ、又モウ一點ハ、現在ノ榮典ハ現ニ之ヲ有スル者ハ其ノ效力ヲ有スルト云フ規定ガアリマスルガ、ソレハ一應廢セラレマスノカ、繋ガリヲ以テ續ケラレルモノカ、サウ云フ現在ノ榮典ト憲法トノ繋ガリノ關係ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 榮典ノ制度ニ付キマシテ、之ヲ法律ヲ以テ規定スベキカ、或ハ法律以外、例ヘバ政令ヲ以テ規定スベキカト云フコトニ付キマシテハ、政府部内ニ於テモ議論トシテハ兩樣ノ見方ガアリマシテ、目下研究中デアル譯デアリマス、榮典ノ内容トシテ如何ナルモノヲ設ケルカト云フコトニ付キマシテモ併セテ研究中デアリマシテ、其ノ基礎タル規定ヲ何處ニ求メルカト云フコトト併セテ答ヲ致シタイト考ヘテ居リマス、從來ノ既ニ付與セラレテ居ル榮典ニ付キマシテハ、此ノ憲法ガ變リマシテモ、其ノ榮典タル效果ニ於テ變ル所ハナイモノト考ヘテ居リマス
○下條康麿君 私ノ質問ヲ終リマス
○子爵織田信恒君 チヨツト後二三分アリマスガ、次ハ私ノ番デゴザイマスカ
○委員長（安倍能成君） サウデス
○子爵織田信恒君 サウシタラ、私ハ實ハ質問スルコトガナクナリマシタガ、チヨツト二三分デ片附ケテシマヒマス、私ハ皇室典範ニ付テ御尋ネ致シタイト思ツテ居リマシタノデスガ、先刻來委員諸君ノ御質問ヲ拜聽致シマシテ、私ノ伺ヒマスコトハナクナリマシタカラ止メヨウト思ヒマスガ、唯一點マダドナタモ觸レテオイデニナラナイ點、且私ガ多少疑問ニ思ツテ居ル點ヲ一點ダケ簡單ニ伺ヒマス、ソレハ今後皇族ノ範圍ガ非常ニ狹クナラレルコトデアラウト思ヒマス、自然婚姻問題ト云フモノガ、矢張リ優生學的ノ立場カラ見テモ、皇族以外ノ國民カラ選バレルト云フヤウナコトガ當然起ツテ來ルノダラウト思ヒマスガ、其ノ中デ取リ分ケ皇后若クハ將來皇后トナラレルヤウナ女性ヲ選バレルト云フヤウナコトハ、是ハ皇室典範ノ中ニ入ルモノデアリマセウカ、ソレハ矢張リ皇室若クハ皇族ノ私事トシテ、其ノ外ニアルノデゴザイマセウカ、此ノ事柄ハ、皇后ノ選定ト云フヤウナコトハ、性質カラ見マストナカナカ重大ナモノデアリマシテ、日本ノ女性ハ矢張リ日本ノ女性ノ象徴トシテ皇后ヲ仰ギマスシ、又將來ノ天皇ノ母トナラレル方デ、清ラカサ、温カサト云フモノガ望マレル譯デアリマスガ、斯ウ云フヤウナコトガ皇室典範ノ中ニ入リマスノデスカ、ソレトモ私事トシテ外ニ出ルモノデアリマスカ、チヨツトソレダケ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 織田委員カラノ御尋ノ點ハ、實ハ非常ニ重大ナル問題デゴザイマシテ、單リ今仰セニナリマシタ點バカリデナク、婚姻ニ依ツテ皇族ノ中ニオ加ハリニナル一切ノ立場ヲ併セテ考ヘナケレバナラナイト思ツテ居リマス、先ヅ平タク申シマスレバ、婚姻ハ個人ノ立場カラ言ヘバ、私事デアルト云フコトハ言ヘルト思ヒマス、從ツテ一般ノ民法的ナル規定ニ依ツテ規律シテ宜イト存ジテ居リマスガ、併シ此ノ特殊ノ場合ニ付テ考ヘテ見マスルト、皇族ノ範圍ト云フコトハ即チ皇位繼承ノ範圍デアリ、攝政就任ノ範圍デアリマシテ、非常ニ重大デアリマス、ソレニ對スル國ノ秩序トシテハ餘程能ク考ヘナケレバナリマセヌ、現ニ問題トシテ居リマスル一端ヲ言ヘバ、例ヘバ嫡出子トカ庶子トカ云フヤウナコト迄モ公ノ關係ガアルノデハナイカト云フヤウニ考ヘテ居リマス、サウスルト、婚姻ノ關係カラ皇族ノ中ニ於ケル特殊ノ地位ヲオ持チニナル場合ニ於キマシテハ、ドウシテモ相當ニ注意周到ニ規定ヲ考ヘナケレバナラヌヂヤナイカ、斯ウ云フ論ガ起リマシテ目下研究中デゴザイマス
○子爵織田信恒君 私ノ質問ハ是デ終リマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ今日ハ是デ散會致シマス、明日ハ午前十時カラ開會致シマス
午後四時一分散會
出席者左ノ如シ
委員長 安倍 能成君
副委員長 伯爵橋本 實斐君
委員
公爵岩倉 具榮君
侯爵細川 護立君
侯爵中山 輔親君
侯爵淺野 長武君
三土 忠造君
子爵大河内輝耕君
大谷 正男君
男爵白根 松介君
子爵織田 信恒君
子爵三島 通陽君
子爵松平 親義君
山田 三良君
平塚 廣義君
牧野 英一君
佐々木惣一君
松村眞一郎君
村上 恭一君
男爵飯田精太郎君
霜山 精一君
下條 康麿君
川村 竹治君
岩田 宙造君
高柳 賢三君
南原 繁君
男爵松田 正之君
男爵中御門經民君
男爵渡邊 修二君
男爵松平 齊光君
田所 美治君
野村 嘉六君
澤田 牛麿君
松本 學君
宮澤 俊義君
結城 安次君
瀧川 儀作君
小山 完吾君
長谷川萬次郎君
淺井 清君
渡邊 甚吉君
國務大臣
内閣總理大臣兼外務大臣 吉田 茂君
國務大臣男爵幣原喜重郎君
文部大臣 田中耕太郎君
國務大臣 齋藤 隆夫君
國務大臣 植原悦二郎君
國務大臣 金森徳次郎君
政府委員
法制局長官 入江 俊郎君
法制局次長 佐藤 達夫君
外務事務官 大野 勝己君
