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第九十回帝國議會貴族院 帝國憲法改正案特別委員會議事速記録第十六號
付託議案◎帝國憲法改正案
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昭和二十一年九月十八日（水曜日）午前十時十分開會
○委員長（安倍能成君） 會議ヲ開キマス、松平委員
○男爵松平齊光君 私ガ御通知致シテ置キマシタノハ誤リマシテ第十八條ト書イテゴザイマスガ、ソレハ二十條ノ意味デアリマス、二十條ノ質問ニナル譯デアリマス、御答ヘ願ヒマスノハ國務相及ビ文相ノドナタカデモ宜シウゴザイマス、特ニ願ヒマシタ時ニハソチラノ方カラ御答ヘ願ヒタイト思ヒマス、私ハ此ノ規定ヲ見マシテ、是ハ此ニ憲法ノ中デ唯一ツノ特別ノ規定デアルト存ジマス、ソレハ規定ノ性質ガ特別デアルト云フノデハアリマセヌノデ、、詰リ他ノ規定ハ憲法ガ改正サレテソレガ施行ニナツテカラ行ハレル譯デアリマスガ、此ノ二十條ハモウ既ニ行ハレテ居ル規定デアルト思フノデアリマス、ト申シマスノハ、神道ノ廢棄ノ指令ガ出マシタ時ニ是ト同ジ精神ノ結果ニナツテシマツタノデアリマシテ、此ノ改正憲法ハソレト同ジ精神ヲ採ツテ居ルモノト考ヘルノデアリマスルガ、アノ指令ニ依リマシテドウ云フ變化ガ行ハレタカト云フコトヲ我々マダ能ク存ジマセヌノデ、此ノ二十條ヲ審議致シマスノニ當リマシテ、此ノ間ノ指令ノ結果、特ニ神社關係ノ實際上ノ取扱ガドウナツテ居ルカト云フコトヲ一通リ承ツテ置キタイト存ズルノデアリマス、差當リ此ノ二十條ノ規定ハ、結局過度ノ國家主義ヲ鼓吹スル宗教ヲ國家ガ強制スルコトヲ排斥シタノガ、此ノ自由ヲ保障スルト云フコト以後ノ文章ハサウ云フコトヲ規定シタモノデアラウト存ジマスガ、ソレ以外ニ之ニ附加ヘラレタ思想或ハ目標ガアルノデゴザイマセウカ、其ノ點ヲ一ツ先ヅ承リタイト存ジマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 只今松平委員カラ御尋ネノ點ノ、過去ニ於キマシテドウ云フ風ニ宗教ニ付テ現實ノ取扱ヒ方ガ變ツタカト云フコトハ、私ハ茲デ明白ニ申上ゲル程ノ知識ヲ持ツテ居リマセヌノデ、其ノ點ハ若シ必要ガアリマスルナラバ文部大臣等ニ願フコトニ致シマシテ、多分此ノ規定ノ趣旨ヲ御説明ヲ申上ゲマシタナラバ、大體御分リヲ願フコトガ出來ルノデハナイカト云フ立場カラ、一言御答ヘヲ致シタイト存ジテ居リマス、此ノ修正第二十條ノ規定ハ本質ニ於キマシテハ現行ノ憲法ノ保障ト異ル所ハナイ筈デアリマス、唯實際ノ運用ニ於キマシテ相當ノ開キガ起ツタコトハ之ヲ認メナケレバナリマセヌ、昨日モ御答ヘヲ申シマシタヤウニ、今回ノ憲法ノ此ノ改正ノ趣旨ハ、謂ハバ國家ノ働キヲ比較的狹クスルト云フ前提ヲ採リマシテ、何デモ彼デモ國デヤルト云フ態度ヲ採リマセヌデ、國ガ政治ノ範圍内ニ於テ行ヒマスル所ハ自ラ一定ノ限度ガアルト云フ、斯ウ云フ前提ヲ採リマシテ、ソコデ宗教ニ關シマスコトハ國ハ決シテ之ヲ輕ク見ルノデハナイ、寧ロ精神ニ於テハ重ンズルコトデハアルケレドモ、國ノ政治ノ働キトシテ之ニ關係スルコトヲシナイ、斯ウ云フ風ノ前提ヲ採ツテ居リマス、ソコデ修正二十條ノ信教ノ自由ト申シマスルモノハ實質ニ於テ今迄ヨリモ非常ニ廣クナルノデアリマシテ、ソレハ事苟クモ信教ト云フ範圍ニ入リマスレバ、國家ガ實際ニ於テ干渉スル餘地ガ殆ドナクナルト言ツテ宜イ位ニナル譯デアリマス、ソレハ第十一條ニ於キマシテ公益ノ枠ハ嵌ツテ居リマスルケレドモ、宗教ト云フモノハ、ソレ自身ガ其ノ人一人ト終始致シマスル間ニ於キマシテハ、公益ノ枠デ嵌メル餘地ハ非常ニ稀デアラウト思ヒマス、且昨日モ申上ゲマシタヤウニ、或宗教ガ果シテ正シイ宗教デアルカ、正シクナイ宗教デアルカト云フコトハ、政治力ヲ以テ決定スルコトハ殆ド不可能ト云フベキモノデアリマシテ、其ノ範圍ニ於キマシテモ國家ハ何等ノ關與ヲシナイ、斯ウ云フ心持デ、此ノ信教ノ自由ハ何人ニ對シテモ之ヲ保障スルト云フ規定ヲ設ケテ居リマス、從ツテ御觸レニナリマシタヤウナ在來ノ神社ニ關シマスル事柄ガ果シテ信教デアルカドウトカ云フコトハ、是ハ此ノ憲法ハ直接ニハ觸レテ居リマセヌ、宗教デアルナラバ此ノ規定ノ適用ヲ受ケル、斯ウ云フ意味デアル譯デアリマス、デ、現實ノ神社制度ガ宗教デアルカナイカト云フコトハ、實際家ノ間ニ多年論議ノ點デアリマシタケレドモ、包括シテ之ヲ考ヘマスレバ宗教的ナルモノトシテ見ラレ得ルノデアリマシテ、ソコデ最近ノ種々ナル行政處置トナツタモノト存ジテ居リマス、其ノ詳密ナルコトハ私ハ實ハ今日申上ゲルダケノ正確ナル知識ヲ持ツテ居リマセヌ、ソコデ此ノ規定ハ何モ特別ニ變ツタ原理ヲ出シタ譯デハナイト云フコトニナルノデアリマス、唯現行憲法ト違ヒマスル所ハ、現行憲法ハ信教ノ自由ヲ認メテハ居リマスルケレドモ、國家ガ之ニ或程度關與スルコトハ之ヲ禁ジテハ居ナイノデアリマス、從ツテ國民ニ對シマシテ或宗教ヲ信ジテハナラナイト禁止スルコトハ出來マセヌケレドモ、國家ガ或宗教ニ對シマシテ、人ノ自由ヲ束縛セザル限度ニ於テ、何等カノ特殊ナル扱ヒヲスルト云フコトハ許シテ居ツタ譯デアリマス、例ヘバ在來モアリマシタヤウニ、神佛ノ宗教ノ管長ニ對シテ特別ナル扱ヒヲスル、是ハ政府ノ規定デハアリマセヌケレドモ、廣ク見レバ國家ノ働キデアリマス、左樣ナコトヲ認メテ居リマシタ、又現實ノ宗教ノ扱ヒニ於キマシテモ、或範圍ヲ限ツテ特別ナル保護的秩序ニ歸セシメテ居ツタト云フ風ニ關係ヲシテ居リマシタ、今後ハ國家ハ積極的ニモ何等宗教ニ對シテ特別ナル働キ掛ケヲシナイト云フ原理ヲ認メテ居リマスルノデ、ソコデ其ノ條文ノ「いかなる宗教團體も」ト云フ下ニ現レテ居リマスル規定ガ出來テ來ル、又第三項ノ如キ規定ガ出來タノデアリマス、違ツタ點ハ詰リソコダケデ、ソレカラ神社ニ對スル考ヘ方ガ徹底シタ、此ノ二點デアラウト考ヘテ居リマス
○男爵松平齊光君 御説明ノ御趣旨ハ非常ニ能ク分リマシタ、私モ神社信仰ガ宗教デアルト云フコトハ常ニ考ヘテ居ツタ所デゴザイマス、サウ致シマスト、結局此ノ自由擁護ト云フコトハ別ニシマシテ、自由擁護ヲ嵌メル枠ト致シマシテ二ツアツテ、一ツハ公共ノ福祉ト云フ枠デアリ、モウ一ツハマア謂ハヾ政教分離ト云フ枠デアルト云フコトニナルト存ジマスガ、左樣心得テ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳郎次君） 左樣デゴザイマス
○男爵松平齊光君 サウ致シマスト、差當リ只今ノ神社ハ法律的ニ見ルトドウ云フコトニナルノデアリマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 神社ハ國ガ關與セザル範圍ニ置カレル、而モ國ハ一般的ニ見テ之ヲ正當ニ扱ツテ行クト云フコトニナラウト思ヒマス、言葉ハ少シ曖昧デアリマシタケレドモ、神社ニ對シマシテ特別ノ項目ヲ決メルノデハナクシテ、一般ニ公ノ事柄ニ對スルト同ジヤウナ態度ヲ以テ神社ニ臨ンデ行ク、宗教タルガ故ニ特別ナル扱ヲシナイ、斯ウ云フ限度デ以テ自然ニ伸ビテ行クヤウニ努メル、斯ウ云フコトニナラウト存ジマス
○男爵松平齊光君 サウ致シマスト法律的ニハ、社團法人トカ或ハ財團法人トカ云フモノノ取扱ニナル譯デゴザイマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 具體的ニ計畫ガドウ云フ風ニ進ンデ居ルカハ存ジマセヌガ、此ノ憲法ノ目カラ見マスレバ、公益法人ノ如キモノガ、神社其ノ他ノ宗教ニ伴ツテ出來ルコトハ毫モ嫌ツテ居ル譯デハナイト存ジマス
○男爵松平齊光君 左樣致シマスルト、之ニ對スル行政官廳ノ監督ハ、ドノ程度ニ行ハレルモノデゴザイマセウカ、曩に申上ゲマシタ公共ノ福祉ト政教分離ト、其ノ二點ニ依ツテ行ハレルモノト考ヘテ宜シウゴザイマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ現實ニハ文部省ノ所管デアリマシテ、私カラ御答ヘスルコトハ困難デアリマスルガ、此ノ憲法ノ目カラ見マスレバ、今仰セニナリマシタ通リニ、公共ノ福祉ト云フ見地ト云フモノ、ソレカラ國家ハ積極的ニハ此ノ個々ノ、宗教上ノコトニハ關與シナイト云フ見地、ソレカラモウ一ツ、文部大臣ガ始終言ツテ居リマスルガ、宗教的情操ハ之ヲ涵養スルヤウニ努メルト、斯ウ云ツテ居リマス、其ノマア三ツノ考ヘ方ガ伴フモノト存ジテ居リマス
○男爵松平齊光君 御趣旨ハ能ク分リマシテゴザイマス、ソレカラモウ一ツ伺ヒタイノハ、今迄神社ニ社格ト云フモノガ附イテ居リマシタガ、是ハドウナリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ具體的ノ處置ハ、私ハチヨツト今茲デ御答ヘスルダケノ知識ヲ持ツテ居リマセヌガ、國家的ニ其ノ社格ヲ決メルト云フコトハ、此ノ憲法ノ認ムル所ニ依ツテ、スルコトヲ得ナイコトニナルデアラウト思ヒマス、從ツテソレガ國家ノ關與セザル範圍ニ於キマシテ出來ルナラバ、此ノ憲法ノ觸ルヽ所デハナイト存ジマス
○男爵松平齊光君 尚其ノ外神職ノ任免デアルトカ、神職ノ給料ノ問題トカ、色々現在ドウ云フ風ニナツテ居ルカト云フコトヲ、當局ノ御口カラ承リタイト存ズルノデアリマスルガ、ソレニハ矢張リ文部大臣ノ御出デヲ御待チシタ方ガ宜クハナイカト存ジマスノデ、御見エニナリマスル迄私ノ質問ヲ一時停止致スコトヲ御許シ願ヒマス
○委員長（安倍能成君） 霜山委員
○霜山精一君 私ノ質問ハ取消シマス
○委員長（安倍能成君） 佐々木委員
○佐々木惣一君 私ノハ第十九條以下少シアリマスノデスガ‥‥、第十九條、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」ソレカラ序デニ關聯シテ、第二十條、「信教の自由は、何人に對してもこれを保障する。」ト云フヤウナ、詰リ斯ウ云フ條文ノ法的ナ意味デスネ、是ハドウ云フ風ニ法的ニハ働クノデアルカト云フコトヲ御尋ネシテ見タイノデス、ト申シマスルノハ、思想、良心ノ自由トカ、或ハ信教ノ自由トカ云フヤウナモノハ、何モ國家ガ與ヘテ初メテ出來ルノヂヤナイデスカラ、我々ガ人間トシテ既ニ思想、良心ノ自由ヲ持ツテ居ル、又宗教心ノ自由ト云フモノハ、我々人間トシテ既ニ自由ニ持ツテ居ルモノデアリマスルカラシテ、之ヲ斯ウ云フ憲法デ侵シテハナラナイトカ、保障スルトカ云フヤウナコトハ、法的ノ説明ガナクテハイカヌノデスカラ、本來ノ人間ガ持ツテ居ルノデ、法的ニハドウ云フ意味ヲ持ツテ居ルノデアルカト云フコトヲ御尋ネシテ見タイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ此ノ規定ノ文字ノ示シマスルガ如ク、國家ハ之ニ對シテ理由ナキ制限ヲ加ヘナイト云フノデアリマシテ、消極的自由權ト云フ風ニ學問ニ認メテ居リマスル、ソレニ當ツテ居ルカト思ヒマス
○佐々木惣一君 分リマシタ、結局サウシマスルト、國家ノ方カラ外的ノ何等カノ作用ヲ我々ノ方ニ及ボシテ、其ノ結果ガ我々自然ニ人間トシテ持ツテ居リマスル良心、思想、信教ト云フヤウナモノノ、サウ云フ自由ナル働キヲ爲スコトガ出來ナイヤウニスルト云フ、外的ノ何カ作用ヲ國家ガ及ボサヌコトト、斯ウ云フヤウニ理解シテ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス
○佐々木惣一君 ソレデ分リマシタ、「思想及び良心の自由」ト云フコトハ分リマシタガ、「信教ノ自由」ト云フコトニ、特ニ第二十條ノ質問ニ入ツテ見タイト思ヒマスガ、ソコデ「信教の自由」ト云フコトヲ、今申上ゲマシタヤウニ、又御認メ下サツタヤウニ、唯外的ナ國家ノ作用デ、我々自然ニシテ持ツテ居ル所ノサウ云フ宗教心ヲ抑壓スルコトハナイト云フ御話デアリマシテ、ソコノ中デ「信教の自由」ト云フコトハ、サウ云フマア保障スルト云フ、サウ云フ外的ノ何モ加ヘナイト云フコトヲ、モツト具體的ニ言ヘバ、ドウ云フコトニナルノデアリマウカ、私ノ方カラ少シ申上ゲタ方ガ却ツテ宜イカト思ヒマスガ、詰リ是ハ唯個人々々トシテ、佐々木ナラ佐々木ト云フ個人トシテ、或ル宗教心ヲ持ツテ宜イトカ、宗教心ヲ抑壓スルト云フコトダケデナシニ、現行憲法ナドノ精神カラ申シマシテモ、宗教ヲ平等ニ取扱フト云フヤウナ、サウ云フ精神ガ矢張リ此ノ憲法ノ規定ニ入ツテ居ルノデアリマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 國家ガ之ニ対シテ特別ニ抑制ヲ加ヘナイト云フコトニナリマスルカラ、結局平等ノ扱ヒヲ受ケルコトニナルト考ヘマス
○佐々木惣一君 具體的ニ申上ゲタ方ガ宜イカト思ヒマス、例ヘバマア監獄ノ教誨師ト云フヤウナモノヲ採用スル時ニハ、從來ノ例デハ多クハ佛教徒ト云フモノヲ採用スル、基督教徒ナドハ餘リ採用シナカツタト云フヤウナ、實際ノ傾向ガアリマシタガ、サウ云フコトハ私自身カラ申シマスレバ、私ハ基督教徒デハナイ、佛教徒デアリマスケレドモ、憲法論トシテ、ドウモ國家ノ態度ハ良クナイト思ツテ居ツタノデス、又官吏ニ採用スル場合デモ、法律上ハソンナ規定ハ設ケマセヌケレドモ、實際上ニハ基督教徒ヲ特ニ排斥スルト云フヤウナ態度ガアツタコトモアルト思ヒマスガ、サウ云フヤウナコトハ、從來モサウデアリマスケレドモ、此ノ憲法以後ハ固ヨリ特ニ是ハ排斥スルト云フヤウニ考ヘテ宜シイデスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 御説ノ通リト考ヘテ居リマス、尚其ノ刑務所ノ教誨師之ニ付キマシテハ、ドウモ教誨師ト云フ者ハ、此ノ第二十條ノ第三項ニ依リマシテ國ノ機關ニナルノデハナカラウカ、サウ考ヘマスルト、先ヅ茲デ教誨師ニ關スル問題ガ起ツテ參リマシテ、今迄ノヤウナ考ヘ方デハイケナイ、國ノ直接關與セザル形ニ於テ行ツテ行カナケレバナラナイ、其ノ際ニ自由ナル取扱ヒ方ヲ考ヘテ行カナケレバナラヌ、斯樣ニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 ソレデハ更ニ御尋ネシタイノデアリマスガ、ソレデ、サウ云フ意味ノ信教ノ自由ヲ認メルト云フコトニナツテ居ルト致シマスルガ、此ノ反面ニ於キマシテ、信教ノ自由、宗教ノ行爲ト申シマシテモ、矢張リ國家トノ關係ガ出テ來ルノヂヤナイカト思ヒマスガ、尤モ國務相ノ御話デハ公共ノ福祉ト云フヤウナコトカラ御話ニナリマシタカラ、宗教行爲ト雖モ勿論無制限ト云フコトヂヤナイト思ヒマスケレドモ、國家ガ取締ル方カラ申シマスルト、例ヘバ極ク卑近ナ例デアリマスケレドモ、或宗教ニ於キマシテ、婚姻トカニ付テ即チ一夫多妻ト云フヤウナコトヲ認メルト云フヤウナ、サウ云フ教義ヲ説クトカ、或ハ又今ハ丁度アベコベダガ、現行憲法ニ依レバ戰爭ハ大イニ宜イノダ、前ナラバ戰爭ハイケナイト云フノダガ、此ノ憲法ニ於テハ反對デ、戰爭ハ宜イノダト云フヤウナコトヲ教義ニ於テ説クト云フヤウナサウ云フヤウナコトガ宗教ニアリマシタナラバ、ソレハ國家ノ方針ニ反スルト云フヤウナコトデ、ソレヲモ止メルコトハ出來ナイノデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ナ原理ヲ持ツテ居ル宗教ガアリマシテ、ソレガ其ノ人個人ノ信仰ノ範圍ニアルノデナクテ、他ノ一般ニ影響ヲ及ボスト云フ段階ニナリマスレバ、當然公共ノ福祉ニ反スルト云フ結果ニナラウト思ヒマス、其ノ場合ニ國家ガ之ヲ抑制スルコトハ權能ノ中ニ屬スルト斯ウ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 ソレヲ抑制スル場合‥‥、又モウ一ツ例ヲ擧ゲマス、少シ下品ニナリマスケレドモ、實際デアリマスガ‥‥、例ヘバ或宗教團體ニ於テ神前ニ供ヘタ御水ト云フヤウナ、サウ云フ御水ナドハ非常ニボーフラデモ湧イテ居テ、サウシテ不衞生デアル、サウ云フヤウナモノヲ信徒ニ御水トシテ與ヘルト云フヤウナコトヤ、或ハ又夜ヲ徹シテ男女ガ亂舞シテ風俗上宜クナイト云フヤウナコトガアリ得ルト思ヒマスガ、サウ云フコトハ、ソレハ宗教ノ教義或ハ宗教的行爲トシテ其ノ團體ガ行ツテ居ルト云フ風ナ場合ニ、國家ハ之ヲ取締ルコトガ出來ルノデアリマスカ、ドウデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 結局公共ノ福祉ノ枠ニ入ルカドウカト云フ問題ニ依ツテ解決セラルヽモノト思ヒマス、宗教ニ關シテハ其ノ性質上政治力ハ觸ラヌノガ當然デアリマスケレドモ、今申シマシタヤウナ現實ノ枠ニ觸レテ來ルト云フコトニナリマスレバ、勢ヒ取締ルコトハ已ムヲ得ナイト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 サウシマスルト、今度ノ憲法ニ於キマシテモ、信教ノ自由ナルモノニ付キマシテハ、國家ノ立場カラ公共ノ福祉ト云フヤウナ問題トノ關聯ニ於テ制限ヲ與ヘ得ルト云フコトニ、解釋ダケハ理解シテ宜シイデスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デアリマス
○佐々木惣一君 ソレヲ取締リマス時ニ、法律ト云フヤウナコトノ根據ガナクテモ、行政處置デ、サウ云フモノト行政官ガ認定シテ直グソレヲ取締ルト云フコトガ出來ルノデアリマセウカ、或ハ矢張リ其ノ處置自體ニ付テ法律ト云フモノガナクチヤナラヌノカ、此ノ憲法ニ於テ特ニサウ云フ處置ガ出來ルノカ、此ノ憲法ニ基イテ法律ガ出來テ、其ノ法律ニ基イテサウ云フ處置ガ出來ルノカト云フ御尋デス
○國務大臣（金森徳次郎君） 必要ナル法律又ハ之ニ基ク規定ガアルコトヲ必要トスルト考ヘマス
○佐々木惣一君 兎ニ角法律ト云フモノガ要ルト云フ譯デゴザイマスネ、サウナリマスルト、實ハ現行ノ憲法トノ比較ニ於キマシテ‥‥現行ノ憲法ニ於キマシテハ、サウ云フ場合ハ法律モ要ラヌト解釋出來ルノデス、即チ公ノ秩序ヲ紊ストカ、或ハ臣民タルノ義務ニ背クヤウナコトヲ宗教的行爲トシテヤルナラバ、法律ナクシテソレヲ取締ルコトガ出來ルト云フ風ニ現行憲法ノ下ニ理解シテ居リマスルガ、私ノ現行憲法ノ解釋ガ誤リデ、今金森國務相ノ御話ノ通リト致シマスレバ、此ノ信教ノ自由ト云フモノハ、現行憲法ニ比シテ、一層國家的ニ制限ヲ受ケルト云フコトニナリハシナイデセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 現行憲法ニ比シテ制限ヲ受ケルトカ、ヨリ強キ制限ヲ受ケルコトガアツテハナラヌノデアリマシテ、サウ云フコトニハナラヌモノト信ジテ居リマス、ソレカラ個々ノ人々ノ行動ノ自由ヲ妨ゲマスルコトハ、縱ンバソレガ憲法上許サレテ居ル範圍デアリマシテモ、法律ニ依ラナケレバ之ヲ動カシテハナラヌト云フ原則ガ此ノ憲法ニアルモノト私ハ信ジテ居ル者デアリマシテ、其ノ前提ニ於テ御説明申上ゲマシタ
○佐木惣一君 私ハ何モ意見ヲ交換シテ居ルノデハナイノデ、國務相ノ御趣旨ノ在ル所ハ能ク分リマシタカラ、ソレハソレデ宜イノデスガ、ソレカラ今ハ第一項ニ關聯シテ御尋ネシテ居ル譯デスガ、神社ノコトデスガ、是ハ只今他ノ委員カラノ御質問ガアリマシテ、サウシテ更ニ之ニ付テハ文部大臣ノ御出席ヲ待ツト云フコトデアリマシタカラ、或ハ私モサウ云フ場合ニ關聯シテ質問サセテ戴ク方ガ宜イカト思ヒマスカラ、ソレハ除ケテ置キマス、ソコデ今度ハ第二十條ノ三項デス、三項ニ「國及びその機關は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」ト斯ウアルノデスガ、宗教教育ト云フコトヲ國ガシテハナラヌト云フコトハ、大變私モサウ云フ主義自體ニモ賛成デアリマスガ、是ハ申上ゲル迄モナク國務相御存ジノ通リ、從來ノ憲法ノ運用ニ付テモ可ナリ間違ツテ居ツタノヂヤナイカト思フノデスガ、但シ宗教教育ヲシテハナラヌト云フコトト、宗教的情操ヲ涵養スルト云フコトハ國家ガシテハナラヌト云フコトノ御話デスガ、分ルヤウデスケレドモドウモ分ラナイ、ト云フノハ、茲デ私ノ申シマスノハ、唯一般的ニ宗教的情操ト云フヤウナモノノ涵養ト云フコトガ出來ルモノデアルカ、宗教的情操ノ涵養ト云フコトニナルト、今日デハマア何教何教ト云フヤウナ、サウ云フコトトノ關聯ニ於テデナケレバ、宗教的情操ノ涵養ト云フコトハ出來難イヤウニ思フノデアリマスガ、ドウデセウカ、ソコノ所ヲチヨツト御尋ネ致シマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 其ノ問題ハ、實行面ニ於キマシテハ、相當ムツカシイ問題ノ一ツデアラウトハ存ジテ居リマス、ガ併シ國家ト宗教トノ關係ノ境界線ノ所ニ於キマシテハ、ドウシテモサウ云フムツカシイ關門ノ一ツヤ二ツハ越サナケレバ連絡ガ付キマセヌ、ソコノ所ハ私共ノ解釋ハ、左樣ナモノガ出來ルト信ジテ居ル譯デアリマスガ、教育家等デドウ云フ見解ガアルカ知リマセヌガ、私個人ノ經驗カラシマスト確カニ出來ルト思ツテ居リマス、私ハ何等特定ノ宗教ハ信ジテ居リマセヌガ、併シ宗教的情操ト云フモノニ付テハ、若干ノ道ヲ通ツテ居ルト信ジテ居リマスノデ、出來サウナモノダト思ツテ居リマス
○佐々木惣一君 今大臣ノ仰ツシヤルコトニ關聯シテ居リマスルガマア此ノ社會ト云フモノヲ、世界ヲ支配シテ居ル絶對的ノ力ガアルト云フコトヲ私モ信ジテ居ル、サウシテ自分ガ世上ニ於テヤルベキ道徳、其ノ他ノ諸規則ニハ極メテ忠實ニヤツテ居ル、ソレ以上ハ總テ此ノ絶對者ノ力ノ支配スル處デアツテ、運命ト云ヒマスカ、ソレニ追從シテ行クト云フコトヲ、私自身ハ、自分ノコトヲ申上ゲテ甚ダ失禮デアリマスケレドモ、信ジテ居ツテソレヲヤツテ居リマスガ、サウ云フコトヲ宗教的情操ト云フノデセウカ、ソレナラバ一ツノ意見トシテ學校等デ云ウテモ構ハヌカモ知レマセヌケレドモ、併シソレヲ具體的ニ實效アラシメルニハ、例ヘバ「キリスト」教ノ神ヲ信ズル、佛教ノ佛ヲ信ズル、私ハ佛ノ方ニナルノデスガ、天理教ナラ何トカヲ信ズルサウ云フコトト關係セシメナケレバ、今私ノ抽象的ニ申上ゲタヤウナコトヲ假リニ宗教的情操ト云ツテモ、實際涵養出來ヌト思フノデスガ、金森サンハ涵養サレテ居ルト仰ツシヤツタノデスガ、ドウモ出來ヌト思フ、是以上ハ宜シウゴザイマス、更ニ私ハサウ云フ意味ニ於テ、此處ノ點ノ質問ヲスル爲ニハ、宗教的情操ノ涵養ト云フヤウナコトハ國家ノ政治トシテ差支ヘナイト云フコト、其ノコトモ寧ロ云ハヌ方ガ宜イノヂヤナイカ、ソレハ非常ニ誤解ヲ生ズルコトニナリハシナイカト云フコトヲ實ハ御尋ネシタイノデアリマス、他ノ委員ノコトヲ批評スルノヂヤアリマセヌケレドモ、アノ衆議院ノ決議ニ付キマシテモ、私ハ實際上ノ政治トノ關係ニ於テ、アノ決議ガアツタコトニ依ツテ、政府ハドウ云フコトヲヤラウトスルノデテルカト云フコトニ付テ、チヨツト惑ツテ居ルノデスガ、私ハサウ云フコトデ御尋ネシタノデアリマスカラ、ソレハソレデ宜シウゴザイマスガ、ソレカラ此ノ宗教ノ自由ニ付テ‥‥、今ノハ國家カラ制限サレナイト云フ建前カラ申シマシタケレドモ、宗教ノ自由ノ範圍ニ付テ伺ヒタイト思フノデアリマス、例ヘバオ前ハドウ云フ宗教ヲ信ジテ居ルカト云フヤウナコトハ、國家ガ私ナラ私ニ云フコトハ出來マスカ、ドウデスカ、是ハ餘程重大ナ問題ダト思ヒマスケレドモ、實際問題トシテハ宗教ヲ信ジテ居ル、其ノ宗教ヲ告白スルコトヲ國家カラ強要セラレルコトハ出來ルカドウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ適用ノ問題デアリマシテ、重要ナコトデハアリマスケレドモ、私ハソレヲ非常ニ正確ニ御答ヘスルダケノ準備ハ持ツテ居リマセヌ、併シ本人ノ意志ニ反シテ左樣ナコトヲ聽キ質スコトハ、多分此ノ保障ヲ破ルト云フコトニナラウト解釋シテ居リマス
○佐々木惣一君 私モ全ク同感ナンデス、唯併シ例ヘバ國勢調査トカ、アヽ云フ時ニ、何宗トカ書カセル、アレハドウ云フ風ニ解シマスカ、是ハ行政法ノコトデスカラ構ヒマセヌケレドモ、アヽ云フコトハ出來ルデセウ、サウハ申シテモ目的ガ違フノデスカラ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 疑ハシイコトデハアリマスケレドモ、非常ニ嫌ヤダト云フ人ニ強制シタラ之ニ引掛カルヤウナ氣ガ實ハスルノデス、サウ云フ複雜ナ思想ヲ持ツテ居ル人ガ居ナケレバ、無事ニ行クノヂヤナイカト、斯ウ云フ風ニ思ツテ居リマス
○佐々木惣一君 大體宗教ノ自由ノコトニ付キマシテ、私ハ絶對的ニ宗教ノ自由ト云フコトヲヤツテ見タイト思ヒマスカラシテ、是迄ノ處デハ、或ハ私ノ認識ガ誤ツテ居リマスカ知レマセヌガ、御存ジノヤウニ「キリスト」教ニ對シテハ、外ノ宗教ニ對スルヨリモ可成リ偏頗ナ取締リヲヤツタト私ハ考ヘテ居ル、私ハ「キリスト」教徒デアリマセヌケレドモ、之ニ對シテ個人的ニ憤慨モスルシ、又國家政策トシテ宜シクナイト云フ風ニ思ツテ居リマシタ、此ノ新憲法以來、殊ニ宗教ヲ平等ニ取扱フト云フ點ニ重キヲ置イテ、信教ノ自由ト云フコトヲ御制定願ヒタイト云フ意味デ御質問申上ゲタノデアリマス、ソレカラ第二十一條ニ移リマスガ、茲ニ「表現の自由」ト云フコトガアリマス、此ノ表現ノ自由ト云フコトハ、是ハドウ云フコトデアリマセウカ、ソレヲ手取リ早ク例ヘバ他人ノ思想ヲ、言論、出版其ノ他ノ或手段ヲ以テ現ハスト云フヤウナコトモ矢張リ自由ナモノデアリマセウカ、是ハチヨツト現行制度上ノコトニ付テ申上ゲタ方ガハツキリスルカト思ヒマスガ、出版業者ガ他人ノ原稿ヲ出版ヲスルト云フヤウナコトハ、所謂表現ノ自由ノ中ニ入ルノデアリマセウカ、自分ガ自分ノ思想ヲ表現ヲスルト云フ、サウ云フヤウナコトデアリマセウカ、苟モ思想トカ何トカ云フモノデアレバ、苟モ出版ト云フコトデアレバ、誰ノ思想デアツテモ、出版ト云フ行爲ニ依ツテ表現スルト云フコトガ出來ルト云フコトデアリマセウカ、チヨツトソレダケノコトヲ御伺ヒ致シマス
○國務大臣（金森徳次郎君） ソレハサウ云フ形式ヲ許シタ、斯ウ云フコトニナルノデアリマスカラシテ、特ニ其ノ作者自身ニ對シテ許シタト云フ風ニ限定ハサレテ居ナイモノト思ツテ居リマス
○佐々木惣一君 サウシマスト、出版行爲ノ自由、他ノ言葉デ云ヘバサウ云フコトニナリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 出版行爲ト云フ意味ニ廣イ狹イハアラウト思ヒマスルガ、兎ニ角或思想ヲ印刷物ニ複製スル方法ニ依ツテ表明スルト云フ本體ヲ押ヘテ茲デ出版ト云ツテ居リマスガ、其ノ部分ニ付テハ保障スル、併シナガラ出版ハ色々ノ世ノ中ノ他ノ規定、例ヘバ届出トカ、保證金ヲ出ストカ云フヤウナ他ノ規定トノ釣合ニ於テ如何ニ處置スルカハ、其ノ方式ニ引掛ツテ來ルト思ヒマス
○佐々木惣一君 詰リ斯ウ云フ規定ハ、所謂思想、良心ト一緒ニナリマシテ、自分ガ自分ノ考ヲ出版ト云フモノニ依ツテ發表スルト云フ其ノ自由ダト、斯ウ云フ風ニ從來ノ憲法デモ考ヘテ居リマシタ、出版ト云フ業務的ノ行爲トハ無關係ダト思ツテ居リマシタガ、例ヘバ著作家ニ向ツテオ前ノ言論ナドヲ是カラ出版シテハイケナイ、サウ云フヤウナコトハ云フコトハ出來ナイ、サウ云フノデアツタト私ハ思ツテ居ルノデアリマスケレドモ、併シ此ノ憲法ハサウ云フノデナシニ、凡ソ自分ノ思想ヲ現ハスト云フコトト無關係ニ、他人ノ思想デモ何デモ出版ト云フ行爲デ現ハスコトガ自由ダ、サウ云フ御解釋デアレバソレデモ宜イノデスガ、ソレカラ小サイコトデスケレドモ、二十一條ノ第二項ニナリマシテ、「通信の祕密」通信ト云フノハ電話モ入ルノデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 固ヨリ入ルト思ツテ居リマス
○佐々木惣一君 是ハ現行憲法ノ時ニサウ云フ問題ガアツタモノデスカラ、第二十二條ニ相成リマシテ、茲デ私ハ此ノ規定ノ中デ、政府ニ對シマシテ私ハ非常ニ讃辭ヲ申上ゲタイノハ、「職業選擇の自由」ト云フコトヲ特ニ此ノ憲法デ御決メニ相成リマシタコトハ非常ニ宜イト思フノデアリマス、全ク二十二條ハ其ノ點デ非常ニ宜イ、ト申シマスノハ、御存ジノヤウニ現行憲法ニナイモノデスカラ、居住ノ自由ノ中ニ入ルトカ入ラヌトカ云フコトヲ言ヒ出シマシテ、ソレデマア議論ガアル譯デアリマスカラシテ、兎ニ角ハツキリト職業選擇ノ自由ト云フコトヲ此ノ中ニ入レテ戴イタコトハ大變宜イト思ヒマス、殊ニ今失業トカナントカ生活問題ガヤカマシイノデスケレドモ、事實ト致シマシテハ、職業ナシノ生活ハ出來ナイ、斯ウ私ハ思ヒマスカラ、結局我々ハ生活問題ニ付テハ、職業ヲ我々ガ選擇スルト云フコトガ自由ニ出來ル、ソレガ殆ド出發點ダト、斯ウ思ヒマスカラ、サウ云フ問題ニ付テ此處ニ入レテ戴イタト云フコトハ、私ハ非常ニ有難イト思フ譯デアリマス、ソコデ此ノ第二十二條ノ二項デスガ、是ハ國籍ヲ離脱スルト云フコトニ付キマシテ、昨日モ牧野委員カラノ御話モアリマシタガ、實ハ是ハ私ガ本會議デアリマシタカ、一般ノ會議デアリマシタカ、チヨツト御尋ネシテアル筈デスガ、我々ハ國民ガ國籍ヲ離脱スルト云フコトニ付テ自由ヲ侵サレナイト思ヒマスカラ、國家ハ國家ノ意思デ、國籍ヲ離脱スルト云フヤウナ、サウ云フ國民ノ何ニ付テハ、何等關與スルコトハ出來ナイト云フ風ニ解釋シナケレバナリマセヌガ、此ノ點ニ付キマシテ、私ハ立法上ドウモ工合ガ惡イト思ヒマス、此ノ場合ニチヨツト御尋ネ申上ゲマスガ、此ノ點ニ付キマシテモ、法律デ以テ公共ノ福祉ト云フヤウナ點ニ著眼シテ、何等カ其ノ場合トカ、條件トカ云フヤウナモノヲ決メルコトガ出來ルノデアリマセウカ、出來ナイノデアリマセウカ、ソレダケヲチヨツト伺ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 其ノ公益ノ枠ノ範圍内ニ於テ法律デ決メルコトハ出來ルモノト考ヘマス
○佐々木惣一君 ソレナラバ何モ申上ゲルコトハナイノデス、併シ其ノ條件ガ現行ノ國籍法等ニアリマスルヤウニ、御存ジノヤウニ、勅令ヲ以テ定メルタル所ノ國ニ於テ、例ヘバ「アメリカ」ノ如キデスガ、其ノ國ノ法ニ依ツテ、其處ニ生レタト云フコトヲ理由トシテ其ノ國籍ヲ得ルヤウナ、サウ云フ國柄ニ於テノ日本人ハ、生レタラ直グ即チ國籍ヲ離脱スルノ意思ヲ表示スレバ、日本ノ國籍ヲ離脱スルト云フ規定ガアル譯デスナ、サウ云フヤウナ國際的ノ關係ニ於テ二重國籍ト云フヤウナモノヲ、詰リ日本人デアツテ且「アメリカ」人デアルト云フヤウナ、サウ云フ二重國籍ト云フヤウナモノヲ避ケマスルコトノ爲ニ、アヽ云フ規定ガ出來タト理解シテ居リマスルガ、特ニサウ云フヤウナコトヲ眼中ニ入レテオイデニナリマスノデセウカ、ドウデスカ、チヨツト御尋ネシテ見タイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ國籍ヲ離脱スル自由ヲ侵サレナイト云フコトハ、本當ヲ言ヘバ、衆議院デ修正サレマシタ「日本國民たる要件は、法律でこれを定める。」ト云フモノト、或部分ニ於テ少シク關係ガ密接過ギル位ニ關係シテ居ルト思ツテ居リマス、唯原案ニ於キマシテ、第二十條ニ斯樣ナ規定ヲ置キマシタノハ、詰リ國家ト云フモノハ、固ヨリ自分ノ國ヲ主トシテ考ヘルト云フコトハ當然デアリマスケレドモ、併シ考ヲ廣クシテ、故ナク人ノ國籍ヲ移リ行クコトヲ妨ゲナイヤウニシヨウト云フ、謂ハバ此ノ憲法ノ持ツテ居リマスル一ツノ基本ノ考ヘ方ガ此處ニ一端ヲ表ハシタノデアリマシテ、國ノ公益ニ正式ニ説明ノ出來ル程ノ理由モナク、本人ハ國籍ヲ離脱シタイト云フモノヲ、何ノ爲ニ留メルカ、ソレハ其ノ自由ニ委シテ、國家ハ消極的ノ態度ヲ執ツテ宜カラウ、斯ウ云フ大キナ原則カラ來テ居ルノデアリマス
○佐々木惣一君 能ク分リマシタ、サウ云フヤウニ現行ノ制度ニ國籍ノ離脱ヲ認メタト云フノハ、モツト廣イ寛大ト申シマスカ、寛大ノ氣持ト伺ヒマス、ソコデ其ノ點デ御伺ヒ申上ゲルノデスガ、私共ノ考トシテモ、日本人デアルコトガイヤダト云フ人間ヲ日本人ニシテ置ク必要ハナイト實際ハ考ヘマスケレドモ、併シナガラドウモ日本ト云フ國家生活ヲ爲シテ居ル以上ハ、其ノ國家生活ヲ爲シテ居ル者ガ勝手ニ日本人デアルコトヲヤメヨウト思ヘバヤメラレルト云フヤウナコトハ、私ハ餘リ賛成シナイ、是ハ意見ノ相違ダカラ仕樣ガナイガ、從ツテサウ云フ氣持デアルニ拘ラズ、時ニ國籍ノ離脱ト云フコトガ其ノ人ノ意思ニ依ツテ爲シ得ルト云フコトヲ認ムル必要ガアル場合ハ、恐ラク外交的ノ、國際的ノ事情ト云フモノニ基イテサウ云フ必要ガアルノデハナイカト私ガ思ツタモノデスカラ、ソコデ此ノ國籍ノ離脱ヲ自由ニ爲スト云フコトヲ認メラレルト云フヤウナコトニ關スル御見込ヲ聽イテ見タノデスケレドモ、ソレ以上ハ意見ノ相違デスカラ、要スルニ其ノ點ニ付キマシテハソレダケノコトヲ申上ゲテ置キマス、ソレカラ第二十三條ニナリマシテ、學問ノ自由ト云フコトニナルノデアリマスガ、此ノ學問ノ自由ト云フヤウナコトヲ此處デ保障スルト云フ、是ハマア現行憲法ニハ特別ノ規定ハナイ譯デアリマスガ、其ノ根據デスネ、即チ思想及ビ良心ノ自由、ソレカラシテ信教ノ自由ト云フヤウナモノト同ジヤウニ、學問ト云フコトハ、我々ノ人間トシテノ働キトシテ、是ハマア與ヘラレナクテモ自然ニ人間トシテ持ツテ居ル所ノサウ云フ要求ダト、ダカラシテ之ヲ國家ガ保障スルノダト、此ノ規定ヲ爲サイマスル根據ニ付テ、サウ云フ風ニ理解シテ宜シウゴザイマセウカ、信教ノ自由、思想及ビ良心ノ自由ト同ジヤウニ、或ハ又サウ云フ人間ノ本質ノ問題デナシニ、何カ國家政策上ノ問題デアルト、サウ云フ風ニ御考ヘニナルカ、ソレダケノ規定ノ根據ヲ伺ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 斯樣ナ規定ヲ設ケマシタ目的ガ何デアルカト云フコトハ、政府トシテハツキリ決ツタモノヲ申上ゲルト云フ譯ニハ適シナイト思ツテ居リマス、併シ私ノ之ニ對シマシテ考ヘテ居リマスルノハ、大體此ノ憲法ノ狙ヒ所ノ一ツハ、此ノ人間ノ完成ト云フ所ニ狙ヒヲ持ツテ居リマス、學問ヲ止メテ人類ノ完成ト云フモノガドウシテ出來ルデアラウカ、總テノ我々ノ生活ヲ嚴密ニ批判ヲ致シマシテ、サウシテ有ラユル點ニ活動ヲシテ行キマスル根源トナル種ガ、外ニモアリマスルケレドモ、學問ト云フモノガ其ノ一ツノ重大ナルモノデハナカラウカ、ソレノ芽ヲ摘ムヤウナコトハ、縱令一時ノ國家ノ方便カラ行ツテ宜クテモ惡クテモ、其處ニ手ヲ付ケテハイカヌ、已ムヲ得ヌ場合ニハ例ノ公益ノ枠ガ出テ來ルカモ知レマセヌガ、ソレハ容易ニハナイコトデアリマシテ、先ヅ茲ニ大原則ヲ以テ保障シヨウ、斯ウ云フ考カラ出テ來テ居ルノデアリマス
○佐々木惣一君 能ク分リマシタ、ソコデ私ハ矢張リ伺ツテ宜カツタノデスガ、私ハ矢張リサウ云フ點ガ感ジガ違フノデス、學問ト云フモノハ何モ學者ノ商賣ニヤツテ居ルアノ行動ヲ學問ト言フノヂヤナイノデスカラ、學問、即チ事柄の本質、眞理ヲブツカツテ明カニスルト云フコトハ人間的要求ダト思ヒマス、ソレデアリマスカラ、チヨツト私ノ説明ノヤウナコトヲ言ハシテ戴キマスガ、赤ン坊デモ、子供デモ、何カ一ツノ事柄ガアルト、是ハドウ云フ譯ダ、是ハドウ云フ譯ダト言ツテ困ル位デアリマス、是ハ一ツノ眞理追究ノ要求、人間ノ要求ダト思ツテ居ルノデス、ソレ故ニ私ガ茲ニ御尋ネスルノハ、學問ノ自由ト云フノハ、所謂我々ノヤウナ學者、學問業者ノ自由ト云フコトトハ無關係デ、矢張リ人間ノ本質ニ基イテ誰デモ學問ノ自由ト云フモノガアルノダト、斯ウ云フ風ナコトヂヤナイカト思ツタモノデスカラ、ソレデ其ノ意味ヲハツキリトスル爲ニ本規定ノ根據ヲ御尋ネシタダケデアリマシテ、只今承ル所デハ、所謂大學ノ教授トカ、サウ云フモノヂヤナイデセウネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 話ガ混亂スル虞ガアリマシテ、急ニ發言ヲ求メマス、今佐々木委員ガ途中デ仰セニナツタ考デアリマス、學問ソレ自體ヲ狙ツテ居リマス、ソレガ大學教授ガヤラレヨウト道端ノ乞食ガヤラウト一ツモ其ノ觀念ニ於テハ區別致シテ居リマセヌ
○佐々木惣一君 ソレナラバ結局此ノ規定ノ根據ト云フモノハ、矢張リ人間ノ自然ノ要求ト云フ所ニ置カナケレバナラヌノヂヤナイデセウカ、ドウモ意見ノ相違ダケレドモ、信教ノ自由トカ思想、良心ノ自由ト同ジヤウニ言葉ノ眞實ニブツカツテ、サウシテ之ヲ明カニスルト云フノハ是ハ人間ノ本來ノ要求デアルト云フ、ソコニ矢張リ行カナケレバナラヌヤウニ私ハ思フノデスガ、是ハ意見ノ相違デスカラ伺ヒマセヌ
○國務大臣（金森徳次郎君） 其ノ點ハ大體ニ於テ御説ト同ジト考ヘテ居リマス、唯自然ノ要求ト仰シヤツタ所ガ少シ了解ニ苦シム所デアリマス、私ハ自然ノ要求ヂヤナイ、大理想ノ發現トシテサウ云フ風ニ行クベキモノト思ヒマス、事實ハ同ジコトニナリマス
○佐々木惣一君 ソレデ大體御意見ハ分リマシタ、私ノ今ノ質問ハ是デ終リマス
○委員長（安倍能成君） 田所委員
○田所美治君 私ハ文部大臣ニ主トシテ御伺ヒシタウゴザイマスガ、文部大臣ハ何時オイデニナリマスカ、今日ハ見エマセヌカ
○委員長（安倍能成君） 午前中ハ見エマセヌ
○田所美治君 ソレデハ午前丁度金森サンガオイデニナツテ居リマスカラ、一、二點御意見ヲ伺ツテ置キマス、私ハ文部大臣ニ學問ノ自由ノコトニ付テ佐々木委員カラ御尋ガ、モツト深ク廣クオヤリニナルダラウ、或ハ又牧野委員モ昨日續ケ樣ニオヤリニナルト考ヘテ居リマシタカラ、通告致シテ居リマセヌデシタガ、牧野委員ハ簡單ニ端折ラレマシタカラ、終ヒノ半分ハ不本意ナガラ極メテ簡單ニ、深ク御觸レニナラナカツタノデアリマスカラ、何時モノ御高説モ詳シイコトヲ承ラナカツタノデアリマス、私一、二點御觸レニナラナカツタ點デ伺ヒタイト思フノデアリマスガ、文部大臣ハ午後オイデニナリマスカラ午後伺ヒマス、ソレデ宗教ノ關係デ金森國務相ニ御伺ヒ致シマスガ、宗教ノ關係ヲ二人ノ委員、同僚諸君カラ御述べニナリマシテ大分分ツタ點モアリマスガ、サウスルト、今度ノ新憲法ノ信教ノ自由ト云フノハ、公益福祉ト云フモノノ制約ハ受ケル、斯ウ解釋シマシテ、又今日ノ御説明ノ中ニ實質ガ現行憲法ト變リガナイ、ソレハ他ノ自由ト云フ‥‥思想ノ自由トカ心ノ自由ト云フヤウナ意味カラ斯ウ云フモノガ出テ實質ニハ現行ノ憲法ト變リハナイ、斯ウ承知シテ宜シウゴザイマスカ、斯ウ伺ツテ見タイノデアリマス、即チ現行ノ憲法ハ二十八條デアリマシタカニ信教ノ自由ト云フ項目ハ「日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス」斯ウ云フ規定ガ現行ノ規定ニナツテ居リマス、ソレハ此處ニハ明文ハナイノデアリマスケレドモ、他ノ此ノ第三章ノ趣意カラ其ノ通リデアル、斯ウ解釋シテ宜シウゴザイマスカ、之ヲ伺ツテ置キタウゴザイマス、ソレヲ伺ヒマスノハ御承知ノ通リ宗教團體法ト云フモノガ廢止ニナリマシタ、是ハ丁度終戰後ノ聯合軍ノ司令部トノ關係ニ於テ其ノ他ノ法令ガ差當リ根本的ニ困ルト云フヤウナ意味、兩立シナイト云フヤウナ意味ノ、其ノ他ノ法令ノ中ニ入リマシテ、宗教團體法ト云フモノハ廢止セラレテ、ソレニ代ルニ今日ハ宗教法人令ト云フモノガ出テ居ル譯デアリマス、何ニモ無クナツテシマハナイカト案ジテ居リマシタガ、宗教法人令ト云フモノガ出テ、ソレデ運營ヲヤツテ居ル、先程來御答ニナリマシタ通リ、神社ノ如キモノモ從來其ノ中ニ入ツテ宗教ニナツテシマフ、是迄ハ宗教以外ノモノデナカナカ説明ガムツカシカツタデアリマセウ、長イ間彷徨シテ居リマシタガ、遂ニ宗教團體法ガ出ル時分ニ、兩院ト政府ト揉ミ合ヒマシテ、到頭神社ハ宗教ニ非ズ、國家ノ祖先ノ尊崇ノ營造物ダト云フ意味ニシマシテ、ソレヲ又一部分デ流用シテ今日迄ヤツテ居ルガ、ソレガ又或ハ聯合軍アタリニ直グニ響キマシテ、ソレハ怪シカラヌ、斯ウ云フ意味モアツタデアラウカト考ヘマス、宗教團體法モ直グ廢メテシマフ、ソレハ神社ノ關係ハ何ニモアリマセヌ、宗教ノ團體デアリマスカラ、聞イテ見レバ、神道ノ各派、宗教ニナツテ居ル神道ソレカラ佛教、「キリスト」教、只今デハ「キリスト」教ノ新教モ皆含ンデ居リマセウ、明治三十何年カニ宗教法ト云フモノガ出マシテ、金森國務相モ能ク御承知デアリマセウガ、何十年後ニ、三十年モ置キマシテ、第一回、第二回、第三回ト‥‥
○委員長（安倍能成君） チヨツト御注意シマスガ、閣議ガアツテ金森國務大臣ハ退席サレルサウデアリマスカラ成ルベク簡單ニ願ヒマス
○田所美治君 サウ云フコトデヤツト宗教團體法ガ出來マシタ、私ハ實ハ少シ前ノ第三回ニハ關係致シテ居リマシタガ、一回、二回ノ時分ハ握リ潰シヲヤリマシタ、貴族院ニ先ニ提出致シマシテ握リ潰シタノデアリマスガ、其ノ握リ潰シタノハ、今朝來ノ問答ノアリマスヤウナナカナカ宗教ノ面倒ナ點ニ觸レマシテ、神社トノ關係、或ハ「キリスト」教ト佛教トノ關係、ソンナコトデ、多少從來ノ行政上ノ扱ヒガ違ツテ居リマシタカラ、其ノ違ツタ點ナドヲ規定シテ居ツタノニ對シテ平等ト云フコトハイカヌ、均等ノ扱ヒヲシテハイカヌ、斯ウ云フ議論モアリマシタシ、又宗教ハ法律ナドニ規定スベキモノデナイト云フヤウナコトモアリマシテ、第一回ハ宗教法、第二回ハ宗教團體法、斯ウ云フコトデ二回、三回トヤリマシテ、三回目ニハ審議討論ノ後ニ、滿場一致デ貴衆兩院ヲ通ジテ是ハ決議シタヤウナ譯デアツタノデス、其ノ包含スル所ハ、國務相ハ能ク御承知デアリマセウガ、保護ノ規定デアリマス、神社宗教モ各宗教宗派ヲ極ク均等ニ公平ニ發達ヲ助長シテヤル、ソレヲ干渉シナイ、宗教ノ自治ニ委セル、自治ノ範圍ヲ二回、三回、四回ト段々ニ廣クシマシテ、殆ド各宗派ノ管長トカ或ハ教會ノ主管者トカト云フ者ノ自治ニ一任シマシテ、サウシテ國家ノ干渉ヲ殆ドナクシテシマツタノデアリマス、今モ丁度チヨツト覗イテ居リマシタガ、認可ノ規定位ガ幾ラカアル、ソンナコトハ結構デアリマスカラ、其ノ數箇條デモ認可ニ關スル行政上ノ干渉デモ何デモアリマセヌガ、サウ云フ面倒ナ手續ヲ取ツタナラバ、何ニモ支障ヲ及ス所ハナカツタト思フノデアリマスガ、ナゼ廢止サレタカ、斯ウ伺ヒタイノデアリマス、直グニ困ツテ又宗教法人令ヲ出サレテ居リマスガ、宗教團體法トチヨツトモ變リハアリマセヌ、一方ハ法律トシテ出シテ、一方ハ勅令トシテ出シテ居ル、ソレヲ一ツ伺ツテ見タイノデアリマス、取締ノ規定トシテハ、今朝來問答ガアリマシタ通リ、是モ非常ナ細心ノ注意ヲシマシテ、取締ノ條項ハ唯一箇條アル、或ハ個人的ニ申シマスト、モウ二箇條位ゴザイマスガ、ソレヲ憲法ノ二十八條ノ文字其ノ儘ヲ取ツテ來マシテ、「安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ」ト云フダケノコトヲ書イテ居ル、ソレニ其ノ團體ヲ解散スルトカ、其ノ團體ヲ處分スルトカ、或ハ其ノ次ノ條項ニ行キマスト、ソレニ注意ヲ與ヘルトカ、或ハ個人デアリマシタ場合ニ、ソレヲ罷免スルト云フ位ナ、タツタ一箇條カ二箇條ヲソコヘ移シマシタ、ソレニ第二回、第三回ハ風俗ヲ壞亂スルト云フコトモアリマシタガ、是ハマア淫祠邪教ナドモアリマシタガ、ソレモ取リマシテ、宗教ノ獨立自治ト云フコトヲウント尊重シタモノガヤツト滿場一致デ第四回目ニ宗教團體法ガ通ツタノデアリマス、アレガ終戰ノ當時直キニ廢サレルヤウナコトニナリマシタガ、ドウ云フ譯デ政府ハシタノデスカ伺ツテ置キマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 具體的ノコトハ多分文部大臣ニ出テ戴イテ、ソレカラハツキリシタ御答ヲ申上ゲタ方ガ都合ガ好イト存ジテ居リマス、私自身ノ此ノ憲法全體ノ目カラ申上ゲマスレバ、多分ソレハ矢張リ宗教ノ上ニ差別ヲシテ居ツタノデハナカラウカ、宗教團體法ハ一切ノ宗教ノ團體ヲ認ムルノデナクテ、特殊ナモノヲ認メテ、サウシテソレヲ保護シテ居ツタノデアリマシテ、如何ニソレガ廣汎デアルニシテモ、原則的デハナカツタト記憶シテ居リマス、サウ云フ點カラ申シマスルト、今日以後、此ノ憲法施行以後ニ於キマシテ、矢張リサウ云フモノハ此ノ憲法ノ精神ニ反スルト云フコトニナラウト思ヒマス、此ノ宗教ノ自由ノコトハ先程松平委員ニ申上ゲマシタ自由ヲ保障スルト云フ範圍ニ於テハ、現行法ト同ジデアル、併シ全然之ニ國家ノ手ヲ加ヘナイデ、極ク離レタ立場ヲ取ル、斯ウ云フ點ガ今度加ツテ居ルト、斯ウ申シマシタ、大體此ノ二ツノ原理デ、殊ニ後段ノ方ノ、國家ガ之ニ對シテ積極ニモ消極ニモ影響ヲ加ヘナイ、殊ニ第十四條ニ人種、信條等ニ於テ何等ノ差別ヲ受ケナイト云フヤウナ規定ガアリマスノデ、サウ云フ所ニ觸レテ來ル制度ハ勢ヒ此ノ憲法ニ反スル制度トナラザルヲ得ナイト思ヒマス、此ノ宗教ニ對シマスル考ヘ自身、法規ハ變リマセヌデモ、時代ノ轉換ニ伴ヒマシテ相當ノ徹底シタ所迄行ツテ居ルト思ヒマス、其ノ方面ノ影響カラ神社等ハ新ラシク見直シヲ受ケタト云フコトニナリマス、是等ノ事情ガ錯綜シテ、行政上ニ變更ヲ來シタモノト私ハ考ヘテ居リマスケレドモ具體的ニハ一ツ後カラ‥‥
○委員長（安倍能成君） 金森國務大臣ハ是カラ閣議ニ出席サレルコトニナリマシテ、質疑ニ對スル應答者ガアリマセヌカラ、午後一時迄休憩ヲ致シマス
午前十一時十四分休憩
━━━━━◇━━━━
午後一時二十九分開會
○委員長（安倍能成君） ソレデハ議事ヲ再開致シマス、田所委員
○田所美治君 文部大臣ガ御見エニナツテ居リマスカ、如何デスカ‥‥、午前ニ金森國務大臣シカオ出ニナリマセヌデ、御聽キシマシタコトハ宗教團體法ヲナゼ御廢止ニナリマシタカト云フコトヲ御聽キシタノデスガ、サウシタラ御聽キニナリマシタラウガ、各宗派ノ差別等ノ規定モ、各宗派ヲ平等ニ扱ツテ居ルト云フヤウナ趣旨ニ反シタヤウナ事柄モアルダラウト云フ事柄モ一ツノ理由ニモナツテ居リマシタノデ、私ノ考デハ、ソレハ午前中ニモ申上ゲマシタガ、此處デ二回握リ潰シテ三回目ニ漸ク通ツタ、其ノ間ニサウ云フモノハ皆「エリミネート」シマシテ、サウシテ一視平等デ、「キリスト」教モ、佛教モ、神道モ殆ド區別ナシニ、名稱ノ別モナシニ一視同仁デ、極ク「イクオリテイ」デ規定ガ出來テ居ツタヤウニ思フノデアリマス、ソレハ教會ガ入リ、寺院ガ入ル、文字ハ違ヒマスケレドモ、行政上ノ扱ヒハ殆ドト言ウテ宜イ位ニ全ク同一ニ扱ツタ積リデ、ソレデ各宗派共滿足シマシテ、兩院共滿場一致デ通ツタ、斯ウ云フコトニナツテ居リマスカラ、其ノ點ハドウモ大シタ理由ニナルマイト思フ、一々逐條デ見テ行キマシテ樣子デホジクルヤウナ見方ヲスレバアルカモ知レマセヌガ、ナイ筈デアリマス、ソレハ理由デナイダラウト思ヒマスガ、或ハ是ハ咄嗟ノ際ニ「キリスト」教ガ差別ヲ受ケタヤウナコトノ誤解ヲシマシテ、咄嗟ノ際ニ交渉ヲシ、又我ガ政府ノ方デモ十分ノ交渉モ出來ナカツタ、當時ハ此ノ外ニ十數ノ法律ノ廢止ヲ求メラレマシタカラ、サウ云フコトデソレハナツタコトカト思ヒマスガ、果セル哉、此ノ法人令ヲ見マスト、殆ド同一ナ規定ガ載ツテ居ル、宗教團體法ハ名前ガ宗教法人令ト云フ勅令ニ變ツテ、サウシテ同ジク法人ニナリマシテ、同樣ノ效力、效果ヲ持ツ規定ハ殆ド皆規定サレテ居ルヤウニ思フノデアリマスガ、其ノ邊ノ所デ何カ私ノ解釋ニ誤ツタ所ガアレバ御示ヲ願ヒタイ、ソレヲ御聽キスルノハドウモ今後ノ教育ノ交渉、宗教ノ交渉、文部大臣ノ御職務ノ中ニハ聯合軍ノ方トノ交渉ハ必ズ多イダラウト思ヒマス、餘程詳シク國情ヲ了解セシメテ、向フモ了解ノ上デサウシテコチラヘ「サゼスション」ヲスルナリ、又求メルナリシテ行キマセヌト、前途ナカナカ遼遠ナコトデアリマスカラ、教育ノ振興ヲ御圖ニニナルニ付テモ、丁度私ハ宗教ノコトニ付テアナタガオ出ニナラナカツタカラ國務大臣ニ御聽キシタノデアリマスガ、其ノ邊ニ付テ御説明ヲ願ヒマス、三十分ト制限サレマシタガ、ズツト私ハ御尋ネ致シマス
○委員長（安倍能成君） 文部大臣ニ今ノ御答ヲシテ戴キマセウカ‥‥
○國務大臣（田中耕太郎君） 御答ヲ申シマス、宗教團體法ガ廢止サレマシテ宗教法人令ニ變リマシタ主ナル動機ト申シマスノハ、宗教團體法ガ宗教ニ對スル監督、取締ト云フヤウナ精神ニ出テ居ルコトハ、是ハ認メラレ得ルト存ジマス、此ノ監督ナリ取締ノ精神其ノモノガ、詰リ宗教ノ自由、信仰ノ自由ノ民主主義的精神ト相容レナイモノガアルト云フノガ根幹デアルト存ジマス、從ツテ宗教法人令ノ目的ト致シテ居リマス所ハ、詰リ宗教團體ヲ、謂ハバ民法上ノ法人ノヤウナ建前ニ於キマシテ財産關係ヲ規律スルト云フ意味合ヲ持ツテ居ルノデアリマシテ、宗教ノ内容ニハ「タッチ」シナイ、從ツテ此ノ法人ノ認可ト云フヤウナコトモナイト云フ建前デゴザイマス、矢建リ官廳ガ認可權ヲ持ツテ居リマスルト、果シテ是ハ宗教團體トナルニ適スルカドウカト云フコトノ判斷ニ、政治的ノ考慮ガ入ツテ來ルト云フ虞モナイデハアリマセヌシ、内容ノ審査ニドウシテモナリ勝チデアリマス、從ツテ宗教法人令ニ於キマシテハ總テ届出主義ニ變更致シマシタ、是ガ非常ニ重大ナル差異ダト存ジテ居ル次第デアリマス、サウ云フ見地カラ御覧ヲ願ヒマシタラ、宗教團體法トソレカラ宗教法人令トノ差異ガ明瞭ニナリハシナイカト存ズル次第デゴザイマス
○田所美治君 ソレガ廢止ナサレタ後ノ御釋明ノヤウナ意味デアラウト思ヒマスガ、サウ云フ意味デハナイノデス、文部大臣モ丁度大學ニマダオ出デニナツタ時分デアリマシタカラ、或ハ尚オ暇ノ時ニ御調査ヲ願ヒタイノデアリマスガ、取締ノ規定ハ殆ド含ンデ居リマセヌ、ソレハ憲法ノ唯一箇條ヲ其ノ儘移シテ居リマス、團體ト個人ト特ニ分ケマシテ、是ハ殆ド同一ノ文デアリマスガ、安寧秩序ヲ妨害セザル限リ、臣民ノ義務ニ違反セザル限リニト云フ其ノ二句ダケニセラレマシタノハ、現状ニ鑑ミマシテ淫祠邪教ヲ取締ルニ付テ風俗ヲ壞亂スルナント云フコトガ前ノ案ニハアリマシタケレドモ、ソレハ削リマシテ、憲法ノ其ノ儘、ソレナラ一向差支ナイ、「キリスト」教ニ對シテモ差支ナイ、今後起キベキ新シイ宗教ニ對シテモ世界共通ノ規定ダカラ、是ハ新憲法ニ依レバ福祉云々、公益云々ト、斯ウ云フ譯デアルカラト云フダケデ、何ニモ取締ヲ新シクシテ居リマセヌ、寧ロ或ハ勸告ヲシ、制限シ、注意ヲ與ヘルト云フヤウナコトデ、豫備行爲ハ取締ヲ致シマシタケレドモ、取締ハ憲法其ノ儘デアル、斯ウ申シテ宜イノデアリマス、他ニ一箇條モナイノデアリマスカラ、ソレハ取締ノ側ガ云云ト云フコトニハチヨツト私ハ解シ難イノデアリマスガ、ソレハ議論ニナリマスカラ申上ゲマセヌガ、認可モ少シゴザイマセウ、ソレヲ届出ニ御直シニナツタト斯ンナニ考ヘマスト、筋ノ弱イ感ジガスルノデアリマスガ、宗教團體法ヲ何故廢止シタカト云フコトヲ詰寄ル意味デハチツトモアリマセヌ、唯斯ウ云フコトハ内容ノ同ジナモノヲ、認可ヲ届出マシタノハ、一方ハ憲法ニアルカラ其ノ取締規定ヲ取ツタト、斯ウ云フ工合ノ爲ニ法律ノ改廢ヲヤツテ行カヌナラヌト云フコトニナルト、非常ニ無駄ナコトヲヤル上ニ、其ノ間ニ誤差ヲ生ズル、斯ンナニ考ヘマシテ教義ノコトハ双方了解シタ上デナイトイケナイ、日本ハ野蠻國デハナイノデアリマスカラ、相當進ンデ居リマスシ、歴史モ持ツテ居リマスカラ一言申上ゲテ置カウト思ヒマス、學問ノ自由ト云フコトニ付イテ文部大臣ガオ出デニナツタカラ伺ツテ見マス、學問ノ自由ト云フコト、第二十三條ノ學問ノ自由トハ、英譯ヲ見マスト云フト「アカデミック・フリードム・イズ・ギヤランデイド」トナツテ居リマス、今朝國務相ノ御説明ニナリマシタ所デハ、學問ノ自由ハモツト廣イ意味ダ、大學ノ「アカデミッシエ・フライハイト」ダケヂヤナイ、斯ウ云フ御話デアリマシタカラ、多分サウダラウト思ヒマス、學問ノ自由トヤツタノデスカラ、大學ニ於ケル「アカデミッシェ・フライハイト」ダケヂヤアリマセヌ、相互ノ爲ノ、或ハ個人ノ研究、團體ノ研究、大學以外ノ研究、凡ソ學問ト名付ケラレル範圍ニ屬スルモノヲ總テ含ンデ居ルト云フ意味デアリマセウガ、文部大臣モサウ云フ御解釋デアリマセウカト、斯ウ伺ツテ置キマス、譯文ニハ「アカデミック・フリードム」ト書イテアル、恐ラクハ學問ト云フモノノ研究、教授ノ最高ノモノハ大學ニアルノデアリマスシ、又其ノ歴史ヲ見マシテモ「アカデミック・フリードム」ト云フモノハ「ドイツ」カラ起ツタモノデアリマセウ、「ドイツ」ノ「レーヤ・フライハイト」デアル、「アメリカ」ノ大學ハ「ドイツ」ノ系統ヲ受ケテ居ル、「イギリス」カラ來タモノヂヤアリマセヌ、「イギリス」ノ大學ハ御承知ノ通リ「フランス」デモナイ、「アカデミック・フリードム」ハ、「レーヤ・フライハイト」カラ來タモノデアリマセウガ、其ノ意味ニ於キマシテ文部大臣ハ我ガ國ノ大學デ、一番學問ノ自由ト云フモノヲ應用サレル所ハ我ガ大學デアル、斯ウ云フヤウニ御考ニナツテ居リマスカ、之ニ付テハ委員會ガ出來マシテ御研究致スダラウトハ思ヒマスケレドモ、私ガ伺ヒタイノハ「フリードム」ト云フト日本ノ大學ハ「フリー」ヂヤナイ、大學令デモ、私立大學令デモ何ト言ツテ居ルカト云フト、「國家ニ須要ナル學術」ヲ教授シ、其ノ蘊奥ヲ極メルノデスナ、ソレカラ國家思想ノ涵養、人格ノ陶冶ニ留意スル等、其ノ「ゼネラル」ナ規定ニアル、官公私立ヲ通ジテ「國家ニ須要ナル學術」ヲ教授研究シトナツテ居リマスカラ、國家ニ須要ナラザルモノハ其ノ外ニアル、斯ウ云フコトガ何時モ問題ニナルノデアリマス、或ハ東京帝國大學ニモ丁度文部大臣ガ御出デニナツテ御承知デアリマセウガ、京都大學ニ於キマシテモ問題ガ起リマシテ、詰リ其ノ時分ノ監督廳ノ文部大臣ノ考ト、大學ノ考トハエライ齟齬ヲ致シマシテ、ソレガ爲ニ教授、教育ノ全般ニ及ビマシテ、教授ノ總辭職、學生ノ總退學ト云フ所迄行ツテ、一月モ續キマシタカ、斯フ云フコトハ大學令ノ第一ノ目的ガ今日ノ「アカデミック・フリードム」ト云フ所カラ言フト正反對ノ規定ニナツテ居リマス、「國家ニ須要ナル學術」トアル、思フニ是ハ昔ノコトヲ言フト委員長カラ叱ラレルカモ知レマセヌガ、私モマダ知ラヌ前ノコトデアリマスガ、今ノ大學令ハ明治十九年ニ出來テ居ルヤウデアリマスカラ、十九年二十年頃ノ「ドイツ」ノ學風ガ日本ニ輸入シテ居ル初メデアリマシテ、國家主義ト云フモノガ丁度入ツテ來タ當時デ、其ノ上デ帝國大學ト云フモノガタツタ一ツ、東京大學ガタツタ一ツアツタダケデアリマセウ、大學ハ至高ノモノデアル、大學ノ「カテゴリー」ハ決ツテ居リマセヌケレドモ、タツタ一ツ其ノ他專門學校、早稲田專門學校トカ、何處ヤラ專門學校ト云フ間ガ、數十年續キマシタ、近年、二十年三十年前カラ段々私立學校ノ發達ニ伴ツテ、私立大學ガ出來マシタコトハ御承知ノ通リデアリマスガ、其ノ時分ニタツタ一ツアル大學ガ、固ヨリ國立デアル、政府ガ立テタ官立デアル、國家思想ノ時分デアル、モウ一ツハ明治天皇ガ教育ト云フモノヲ、國家教育、國家第一、サウ云フ方ノ側ニ重キヲ置イテ居ラレマシテ、朝野共ニ其ノ方ノ側ニ進ンデ參ツタ爲デアリマセウ、大學令ハドノ國ニモナイ例デアリマセウガ、「國家ニ須要ナル學術」ヲ教授研究スルト、ソレガ今日迄續イテ居ルヤウデアリマス、後ニ發達致シマシテ、大正七八年頃ノ、又國家思想ノ更ニ起リ始メタ時ニ、「國家思想ノ涵養」ト云フ字ヲ加ヘラレマシタ、ソレハ大學ノ目的デナシニ、目的ノ後ニ「國家思想ノ涵養」「人格ノ陶冶」ニ「留意スヘキモノトス」ト云フ風ニ加ツテ居リマス、文部大臣御承知ノ通リサウ云フヤウニ進ンデ參リマシテ、遂ニハ戰爭中デハアリマセヌ、戰爭ノ前デアリマシタガ、又一歩進ミマシテ教育審議會トカノ決議デハ、一般ノ學校ト共ニ「皇國ノ道ニ則ル」ト云フコトヲ加ヘタ、是ハ大學ノ方ノ側デモ非常ナ問題デアツタト思ヒマシテ、直チニ實行サレマセヌノデ、マダ殘ツテ居ルヤウナ譯デアリマス、其ノ點ガドウナリマスカト云フコトヲ伺ヒタイノデアリマス、學問ノ自由ト云フコトニナレバ學問ニ國境ナシ、日本ニ通ズル眞理ハ「アメリカ」ノ大學ニモ通ズル、「ヨーロッパ」ニモ通ジナケレバナラヌ、ソレヲ研究シテ行クノガ、其ノ蘊奥ヲ極メルノガ大學ノ任務デアル、是ハ數百年來「ドイツ」ノ大學ノ發達ヲ見マシテモ、ソレガ「ドイツ」ノ誇リデアル、「ドイツ」ノ文化ノ發達シタノハソレデアリマスガ、學問ノ蘊奥ヲ極メル、一面ニ於テハ最高ノ教育ヲ施ス、此ノ二ツニナル、英語デ申シマスト「ティーチング・アンド・インクワイアリー」デアル、是ハ「ドイツ」ノ「レーヤ・フライハイト」デ發達シテ來テ居ルノデアリマス、「フライハイト」ヲヤツテ來タノハ、申ス迄モナク歴史上ノ色々ノ、殊ニ宗教上ノ定ツタヲ押附ケヨウトシテ居ツタ「ドイツ」ノ大學ハ全部國立デ、今日デモ全部國立デアリマスガ、元、封建ノ諸侯ガ建テテ居リマシタ、其ノ時分カラアル「キャソリック」ノ王樣ハ、「キャソリック」ノ「ドクトリン」、之ヲ教ヘロト云フノデ、ソレガ段々變遷シテ遂ニハ其ノ方ガ段々影ガ薄クナリ、到頭晢學ハ「ヘーゲル」哲學デナケレバナラヌト云フコトヲ言ツテ、「ドクトリン」ヲ決メテ居ツタ次第デス、ソレデハ學問ガ發達シナイカラト言ツテ、其ノ覊絆ヲ脱シマシテ、極ク最近ニハ所謂「レーヤ・フライハイト」ト云フモノガ出來タ、「アカデミック・フリードム」ト云フモノガ出來タ、斯ウナツテ居ルヤウデアリマス、「アメリカ」ハ御承知ノ通リ「ドイツ」ノ大學ヲ大分採入レテ居リマスカラ、「アカデミック・フリードム」デヤツテ居ルヤウデアリマス、「イギリス」デハ餘リ聞キマセヌ、斯樣ナ譯デアリマスガ、其ノ意味カラ言フト五十年六十年經テ來テ、立派ニ發達シテ來テ居ル、其ノ大學ノ目的ガ「國家ニ須要ナル學術」斯ウナツテ居リマスルガ、是ハチヨツト學問ノ自由ト云フコトカラ、第一ニ文部大臣ハ御自身ニ大學ノ教授ヲヤツテ御出デニナリマシタカラ、ドウナサイマスカ、斯ウ伺ツテ見タイト思フノデアリマス、ト云フノハ東京モ京都モ、此ノ點デ問題ニナリマシタヤウニ憶エテ居リマス、此處ニハ佐々木教授モ居ラレマシテ、京都ニ名譽教授デ居ラレタ時代デアリマス‥‥
○委員長（安倍能成君） デハ文部大臣ノ回答ヲ‥‥
○田所美治君 序ニ申上ゲマス、其ノ時分デモ「國家ニ須要ナル」ト云フコトノ範圍ニ入ラナケレバナラヌ、此ノ頃ハソンナ狹イモノデナイ、斯ウ云フコトノ爭ヒカラ、學者ノ方デハ「レーヤ・フライハイト」斯ウ云フコトガ結ンデ解ケナカツタツテ、是ハ將來其ノ儘ニナサツテ御置ニナルト、其ノ問題ハナカナカ起ルダラウト思ヒマス、モウ「國家ニ須要」デアルカナイカト云フコトハ、時世ニモ依リマスケレドモ、イツモ其ノ範圍ハ明確ニナラヌ、續イテハ精神ノコトデアリマスガ、「アカデミック・フリードム」カラ言フト、國家思想ノ養成ダケデハイケナイ、人格ノ養成、「ヒユーマニズム」ノ養成モシナケレバナラヌ、是ハ「國家ニ須要ナル學術」ト云フノモ全體ニ廣ク採入レレバ、立派、立派ナ規定ニナリマセウケレドモ「國家ニ須要ナル學術」ト言ヘバ、「ヒユーマニテイー」カラ考ヘテモ立派ニ廣ク取レマスケレドモ、問題ニナルトサウナル、「アカデミック・フリードム」ハ絶對ノ「フリードム」デアル、マアサウデアリマセウ、「國家ニ須要ナル學術」モ、斯ウ云フコトニ廣ク取リマスト、狹イ規定ト云フ思想ガ殘ツテ參リマス、今日ハ大學ハ官立アリ、公立アリ、私立モアル、實ニ世界ニ立派ナ模範ヲ示シテ居ルヤウナ文化ノ發達ノ基礎ヲ持ツテ居リマス、廣イ深イ研究ヲヤツテ行ツテ、出來ルダケ進メナケレバナラヌノニ、第一ニ引ツ掛ルノハ大學令ノ問題デアル、「アカデミッシェ・フライハイト」ト大學令ノ關係、大學令ト云フノハ「アカデミック・フリードム」ノ「シムボル」デナケレバナラヌノデス、ソレデ二十一條トソレトノ關係ニ付テ御所見ヲ伺ヒタイ
○國務大臣（田中耕太郎君） 御質問ノ第一點デアリマス學問ノ自由ハ大學ノミニ關係スルカ、或ハモツト廣イ意味ヲ持ツテ居ルカト云フ點デゴザイマスガ、是ハ大學ガ重要ナ部分ヲ占メルト存ジマスケレドモ、併シナガラ必ズシモ大學ニ限ル意味デハナイ、總テノ教育機關ニ關係スルモノト存ジテ居ル次第デゴザイマス、或ハ研究機關ニ關係スルモノト存ジテ居ル次第デゴザイマス、詰リ學問ノ研究ガ政治的、行政的ノ、或ハ又宗派的ノ束縛カラ解放サレナケレバナラナイト云フ意味ヲ持ツテ居ルモノト存ジテ居ル次第デアリマス、次ニ大學令第一條竝ニ教育法令ニ於キマシテ、學問ノ自由ヲ阻害スルヤウナ規定ガ現ニ殘ツテ居ルデハナイカト云フ御話デゴザイマス、確カニサウデゴザイマシテ、終戰後今日ニ至リマス迄、マダ大學令カラ國民學校令ニ至ル迄、其ノ教育ノ目的ニ關スル事項ハ、其ノ儘放置サレテ居ルノデゴザイマス、併シナガラ「ポツダム」宣言ノ履行ナリ、又ソレニ從ツテ文部省ガ、色々ナ機會ニ於キマシテ教育ノ根本的ノ方向ヲ示シテ參ツテ居リマス所デ、其ノ點ハ世間ノ誤解モナイデハナイカト云フヤウニ存ジテ居リマス、第一條ダケヲ取リ離シマシテサウシテ直ス、勅令デゴザイマスカラ、樞密院ノ議ニ掛ケテ改正スルト云フヤウナコトニナリマス譯デアリマスガ、其ノ部分ダケヲ直ス程ノ必要ハナイノヂヤナイカト云フ風ニ存ジテ居リマス、何レ學校法令ハ改正ヲ要スル譯デゴザイマスカラ、サウ云フ意味合ニ於キマシテ、或ハ國民學校ト云フ名稱モ一部ノ意見デハ考ヘナケレバナラナイト云フヤウナコトモ聽イテ居リマスガ、サウ云フヤウナ點ハ、色々學校法令ニハ改正ヲ要スル點ガ多々ゴザイマスシ、又學校制度其ノモノヲ根本的ニ再反省モシナケレバナラナイト云フ譯デゴザイマス、ソレデ學校ノ目的ニ付キマシテハ、只今御話ノヤウニ、大學令ガ國家主義的ニナツテ居ル、詰リ教育或ハ學問ノ研究ヲ國家ノ手段トシテ居ル、詰リ功利主義的ノ考デアル、眞理ソレ自身ノ探究トカ、或ハ尊重ノ面カラ出テ居ナイト云フヤウナ點ハ、確カニサウデゴザイマシテ、今後ノ學校法令ノ目的トシテ掲ゲラレル所ハドウデナケレバナラナイカト云フコトハ、是ハ教育刷新委員會等ニモ諮リマシテ、十分愼重ヲ期サナケレバナラナイト思ヒマス、併シ憲法トノ關係ニ於キマシテハ、是ハ至急ヲ要スルコトデアリマスカラ、次ノ臨時議會迄ニ出來ルダケ教育根本法ノ問題ニシタイト思ツテ居リマシテ、只今文部省デハ案ヲ練ツテ居リマス、デ、眞理ノ探究デアルトカ、人格ノ完成ト云フコトヲ表ニ出シマシテ、サウ云フ所ヲ追究スル、其ノ目的ヲ追究スルコト自身ガ、是ガ結局良キ日本人ヲ作ル所以デモアルト云フヤウナ方向デ參リタイト存ジテ居リマス、尚此ノ外ノ學校關係ノ法令ニアリマス皇國ノ道ニ則リト云フコトニ付テモ、同樣ニ存ジテ居ル次第デアリマス
○田所美治君 文部大臣ハ愼重ナ態度デ御答ニナリマシタカラ、私ハ其ノ點ニ滿足致シマス、非常ニモウ我々ハ一方ニ行キ過ギル感ガアリマスルカラ、殊ニ教育ノ百年ノ大計ヲ御圖リニナル上ニ付テ、只今ノヤウナ、私ハソレヲ何モ國家思想、國家云々ヲ取レト云フ意味デモ何デモナイノデアリマスガ、大學ノ第一條デ「アカデミック・フリードム」ト云フコトカラ見テ直グ氣付ク一點ヲ申上ゲタノデアリマスガ、ナカナカサウ云フ點ガ從來‥‥「ポツダム」宣言ト仰シヤイマシタガ、其ノ他方「デモクラシー」ノ要請ト云フ方カラ言ツテモ、個人ノ價値ト云フモノハ國家ノ價値ヨリ劣ラヌモノダト云フコトヲ原則ニシテ居リマス、其ノ「デモクラシー」ト云フモノニ較ベテ見ルト、文化ノ根本法規ノ大學令ヲ初メトシテ、只今ノ丁度御話ニナツタ點ガ大分各所ニ見當ルト思ヒマスガ、能ク能ク愼重ニ御研究ヲ願ヒマス、唯「アカデミック・フリードム」ヲ「アブソルート」ニ御認メニナツタ以上ハ、研究ハ自由ニナツテ居ル、教授モ自由デアリマセウネ、モウ一體、是モ文部大臣ハ教授ノ經驗ニ御當リニナツタカラ、學生ノ生々シイ將來ヲ持ツテ居ル青年ニ、教授ノ自由ト申シテ、何處迄行ツテモ自由ニヤレルカ、「アブソルート」ニ自由ニ講義ヲシ得ルカ、ソレハ健全デアルカドウデアルカト云フ判繼ヲ要スルガ、ソレハ各人ノ自由ニ委セルト云フノガ「フライハイト」國家干渉ヲシナイト言ツテ居ル、「ドイツ」デハ‥‥ソレデ旨ク行ツテ居リマセウ、行カヌ時モアルカモ知レマセヌガ、行キ過ギガアルカモ知レマセヌガ、サウ云フ點ガアルノデアリマスガ、教授ノ自由モ、研究ノ自由モ、同樣ニ絶對ニ自由デアリマスカ、文部大臣ノ是迄ノ御體驗ニ基イテ御教ヘ戴キタイ、教授ノ方ハサウハ行カヌト思ヒマスガ、蘊奥ヲ攻究スルト、「インクワイアリー」ノ方ハ何處迄モヤル、斯ウ云フノデアリマスカ、御教ヘヲ請ヒタイ
○國務大臣（田中耕太郎君） 研究ハ自由デアルガ、併シ教授ノ方ハドウカト云フ御尋ネデゴザイマスガ、教授トシテノ活動ニ關シマシテノ條理上ノ制限ガアルト云フヤウニ存ジテ居リマス、ト申シマスノハ、教育ト云フ面ガ加ツテ參リマスト、第一年齡ニ依ツテ、或事ハ教ヘテ宜イコトデアルガ、教ヘルニ適スルコトデアルカドウカト云フ問題モゴザイマスシ、又年齡如何ニ拘ラズ、教育上弊害ガアルカドウカ、教育サレル方ノ側カラシテ、假令眞理デアルトハ雖モ、其ノ學生ノ立場カラ、或ハ生徒ノ立場カラ誤解ヲスル虞ガアリハシナイカト云フヤウナコトモアリ得ルト思ヒマス、從ツテ被教育者ニ對シテ、其ノ研究ノ結果ヲ必ズシモ發表シナケレバナラナイト云フ譯モアリマセヌシ、又發表ニモ自ラ限度ガアルコトハ、是ハ矢張リ研究ノ結果ヲ總テ言論自由ダカラト云ツテ、世間ニ公表スル場合ニ於キマシテモ、自ラ刑罰法規ナリ、警察法規ノ制限モアリ、善良ノ風俗ト云フヤウナコトカラ生ズル所ノ制限モ考慮セラレナケレバナラナイト同ジヤウニ、學校ニ關シマシテハ、多少廣狹ノ差違ガゴザイマセウケレドモ、同ジヤウナ考慮ガ拂ハレナケレバナラナイノデハナイカト云フ風ニ存ジテ居ル次第デアリマス
○田所美治君 モウ少シ伺ヒタウゴザイマスガ、モウ時間ガ三分位シカアリマセヌ、「レーヤー・フライハイト」ハ其ノ位ニシテ置キマシテ、モウ一ツ「ドイツ」デ唱ヘテ居ル「レルン・フライハイト」、就學ノ自由ト云フカ、業ヲ受ケル方ノ、被教育者ノ方ノ、學生ノ方ノ自由デアリマスガ、何カ新シイ御考慮ガアルカ、之ヲ伺ツテ見タイ、ト云フノハ、具體的ニ言フト、私モ關係シテ居リマシタガ、學生ハ皆東京大學ヘ行キタガル、其ノ次ハ京都、其ノ次ハ何處何處ト云フヤウナ譯デ、便利ノ宜イ學校、或ハ古イ學校、教授ノ有名ナ人ノ居ル學校ヲ選ブ、何處モサウデス、「ドイツ」ニモ二十幾ツカゴザイマセウガ、皆同ジコトデアリマス、「ベルリン」大學ガ宜イト言ツテワイワイ集ル、是ハ已ムヲ得ヌコトデアリマスガ、日本デハソコニ「レーア・フライハート」ガナイ、學問ノ自由ガナイノデアリマス、私ナラ私ガ假ニヤツトノコトデ北海道ノ大學ニ入レタ、斯ウ云フ場合ニ、東京ヘ轉學スル自由ハ絶對ニナイ、如何ニ田中文相ノ教授タリシ時代ニ、教ヘヲ受ケヨウト思ツテモ受ケラレナイ、何トカ御救濟ノ途ハアリマセヌカ、此處ヲ伺ツテ見タイノデアリマス、是コソ所謂「アカデミック・フリードム」學生ノ側カラ云ヘバ、實ニ重大ナ一生ニ係ル時ナンダカラ、良イ先生ノ教授ヲ受ケタイ、ソレガ出來ナイノデアリマスカラ、第一ノ「プライマリー・アンサー」ハ東京ニ集ルコトデアル、東京ニ集レバ、地方ノ學校ハ皆止ツテシマフ、ソレハ仕方ガナイ、優勝劣敗ト云フカ、東京ガ宜イカラ集ルノデアリマス、他モ年所ヲ經レバ段々宜クナル、又行政ノ手段ハ文部大臣ニ申上ゲル迄モナイガ、東京大學ノ教授タル田中教授ヲシテ各大學ノ教授ヲ兼ネシメタラ宜イ、此ノ學年ハ東京ヲ教ヘル、來學年ハ九州ヘ行ツテヤル、多少現在ハヤツテオイデニナルカモ知レマセヌガ、ソレハ實ニ寥々タルモノデアリマス、矢張リ分裂割據シテ居ル、東京ハ東京ト、其ノ方ニ段々或時代ニハ強クナリマシテ、東京ニ先ニ入レタ奴ハ俺ノ方ハ入レヌ、門戸ヲ閉鎖シテ行ク、三四年ノ間高等學校ヲ出テ停頓シテ居ル状況デアリマス、何千人モ居リマシタラウ、今ハサウモ居ラヌカモ知レマセヌガ、ソレコソサウ云フ状況ハ憲法ニ書カナイデモ行政手段ニ依ツテ止メナクチヤナラヌ、私ノ居リマシタ時代ニモ其ノ問題ガ萠シテ居リマシタ、今モ續イテ居リマスガ、是ナンカヲ「アカデミック・フリードム」ニ御變ヘニナツチヤ如何デアルカ、此處ヲ伺ツテ見タイト思ヒマス、出來マセヌカ、「ドイツ」ノ學校デハ自由デアル、ソレガ「アカデミッシェ・フライハイト」デアリマス、「イエーナ」ノ大學ニ居ツタ學生ガ、自己ノ好ム教授「プロフェッサー」ガ、他ノ大學ニ居レバ自由ニ轉學スル、即チ今度ハ「ベルリン」今度ハ「ハイデルベルヒ」ト斯ウ云フ風ニ轉轉移動シテ居ル、サウシテ各大學ニ在籍期間「ゼックス・ゼメスター」即チ六學期又ハ「アハト・ゼメスター」即チ八學期間トナレバ、其ノ學ンダ各大學ノ在學期間ヲ通算シテ學位ヲ取ル資格ヲ得ル、「ユニヴァーシテイ」ト云フノハ、元々「ファカルティ」ノ結合「ユニティ」デアル、今日日本國中ニ七ツ八ツアリマス帝國大學ヲナゼ一ツソレノ「ユニティ」ヲ作ラナイカ、是コソ大學ノ教授デアツタ田中博士ノ御在職中ニソコヲ一歩進ミタイト、斯ウ思ハレマスガ御所見如何デスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 各大學ノ學生ガ、自分ノ好ム所ノ大學ニ入學ガ出來、又自分ノ眞ニ教ヘヲ受ケタイト考ヘル所ノ教授ノ下ヘ馳セ參ジテ、講筵ニ列シタイト云フ要求ハ甚ダ正シイ、又自然ナコトデゴザイマシテ、サウ云フ要求ハ出來ルダケ滿足サセルヤウナ風ニ、サウ云フ意味ニ於キマスル就學ノ自由ヲ確保シナケレバナラナイト云フコトハ、我々モ考ヘテ居リマス所デアリマシテ、サウ云フ意味ニ於キマシテ御説ニ非常ニ同感申上ゲマス次第デアリマス、唯現在東京ニ學生ガ集中スルト云フヤウナ傾向ハ、色々ノ原因カラ來テ居リマスノデ、之ヲドウ云フ方法ニ依リマシテ地方ニ分散セシメルカト云フコトニナリマスルト、單ニ學問的ノ問題、詰リ各地方ノ大學ガソレゾレ特色アル學者ヲ輩出サセルト云フヤウナコトガ一番大切ナコトダト存ジマスケレドモ、尚日本ノ社會ニ存在シテ居リマス所ノ、一種ノ中央集權的ナ傾向ト云フヤウナモノヲ打破スル必要ガアルノデハナイカ、是ハナカナカ實現ガ困難ナコトデハナイカト存ジマス、然ラバト言ツテ機械的ニ地方ニ學生ヲ割振ルト云フヤウナコトハ、是ハ爲スベキデハアリマセヌ、是ハ又就學ノ自由ト云フコトニモ反スル譯デゴザイマス、將來ノ問題ト致シマシテ、是ハ大學ノコトハ本來文部省ガ干渉シナイ、大學ノ自治ニ委セテ居ル、ト云フヤウナ立場ヲ採ツテ居リマス、ガ大學當局ノ間ニ十分斡旋的役割ヲ勤メテ、斯ウ云フ問題ニ付テモ今後十分研究致シタイト存ジテ居リマス
○田所美治君 モウ三十五分ニナリマシタカラ私ハ打切リマス、賢明ナル文部大臣ハ私ノ意ノアル所ヲ、憲法デ自由ヲ保障スルト云フ規定ヲ十分ニ將來御活用ニナリマシテ、我ガ國ノ「ラーニング」ト言ヒマスカ、文化ト言ヒマスカ、「カルチャー」ト言ヒマスカ、十分ニ光ヲ放タシメルヤウニ御研究願ヒタイ、今日ノ三十分ノ私ノ權利ノ範圍内デ打切リマス
○委員長（安倍能成君） 白根男爵ハ文部大臣ニ御質疑ガゴザイマスカ
○男爵白根松介君 私ノハ此ノ間ノデ結構デゴザイマス、個人的ニ又伺ヒタイト思ヒマス
○男爵松平齊光君 今迄神社ハ宗教デナイト云フコトニナツテ居リマシタノデ、神社ノ法律的地位ガ非常ニ不明デアツタノデアリマスガ、現在ハドウ云フ風ニナツテ居リマスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 從來ハ、只今御話ガアリマシタヤウニ、神社ハ宗教デナイト云フ行政上ノ取扱ヲシテ參ツタ譯デゴザイマス、「ポツダム」宣言ノ精神ニ顧ミマシテ、又司令部ノ方ノ指令モ出マシテ、神社ト云フモノト、國家ト云フモノヲ切離シタト云フコトニナツテ居リマス、從ツテ神社ハ只今ノ處、詰リ宗教法人ノ一種ニ入ルベキ取扱ヲ受ケテ居ルノデアリマス、併シナガラ内容ニ立至ツテ考ヘテ見マスト、法人トシテ届出アル場合モアレバナイ場合モアリマスデセウシ、其ノ點ハ各個ノ關係者ノ今後ノ態度如何ニ依ルコトダト存ジマスガ、併シナガラ要シマスルノニ、從來ノ國家ト神社トノ關係ノヤウナモノハ今日存在シナイノデアリマシテ、宗教トシテ認メラレルコトヲ欲スルモノハ、宗教ヲ法人トシテ、他ノ宗教團體ト同ジヤウナ取扱ヒヲ受ケルト云フコトニナルノデアリマス
○男爵松平齊光君 サウ致シマスト、神社ハ法人トシテ届出ヲスルコトヲ先ヅ必要トスルモノト考ヘマスルガ、此ノ過渡期ニ於キマシテハ、何時迄ニソレヲシナケレバナラヌト云フヤウナ制限ハアルノデゴザイマスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 其ノ點ニ付テハ左樣ナ制限ハナイト考ヘマス、尚併シ特別ノ規定ガ若シアリマストスレバ、後デ申上ゲマス
○男爵松平齊光君 ソレカラ神社ノ社地デアリマスガ、領地デアリマスガ、是ハ矢張リ法人ノ届出ヲ致シマセヌケレバ、神社ノ土地トシテ土地ナドヲ持ツコトガ出來ナイト云フ風ニナルヤウニ思ハレマスガ、サウデアリマスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 只今申上ゲマシタ所ヲチヨツト訂正サシテ戴キマス、届出ハ八月一日迄デ終ツタコトニナツテ居リマス、ソレカラ届出ガアルコトニ依リマシテ、民法上ノ法人ト類似ナモノトシテ取扱ハレル譯デゴザイマスカウシテ、財産上ノ主體ニナリ得ル譯デアリマス、矢張リ届出ガナケレバ、財産ハ神社、詰リ宗教團體トシテノ神社トシテハ持チ得ナイコトニナル譯デアリマス
○男爵松平齊光君 其ノ點ハ分リマシテゴザイマスガ、尚神社ノ領地トシテゴザイマス中ニ、官有地ヲ使ツテ居ルモノガアルノデアリマスガ、斯ウ云フノハドウ云フコトニナリマスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 神社ノ境内地トカ或ハ保管林トカ云フヤウナモノニ付キマシテハ、佛教ノ方ノオ寺ノ、或ハ他ノ神道各派ノ、詰リ宗教團體ノ持ツテ居ルモノト同ジヤウナ關係デ取扱ハレナケレバナラナイト存ジテ居ルノデアリマス、又サウ云フ案モ考ヘテ居リマス次第デアリマス、ソレハ併シ神社ガ沿革的ニ自分ノモノトシテ持ツテ居ツタモノニ付テノコトデゴザイマシテ、官有地ト云フコトニナリマスルト、是ハ憲法改正案ガ實現セラレマス際ニ於キマシテ、一般ノ原則ニ從ツテ判斷セラレルモノヂヤナイカト云フ風ニ思ツテ居ル次第デアリマス
○男爵松平齊光君 ソレカラ社格ト云フモノガ今迄ゴザイマシタノデスガ、是ハドウ云フコトニナルノデアリマスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 是ハ全ク宗教團體デアル神社自身ノ内部ノコトニナルト云フヤウニ考ヘテ居ル次第デアリマス
○男爵松平齊光君 分リマシタ、ソレカラサウ致シマスト、神職ノ任免ト云フヤウナコトハドウナリマスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 是モ矢張リ同樣デゴザイマシテ、全ク國家トハ關係ノナイ各宗教ニ於テ、色々聖職者ニ付テノ階級制度モ亦資格、其ノ他モ内規ニ依ツテ決メラレテ居リマスルヤウニ、神社ニ付テモサウ云フコトニナルト云フ風ニ存ジテ居ル次第デアリマス
○男爵松平齊光君 サウシテ見マスルト、矢張リ神職ノ給料ヲ拂フト云フヤウナコトモ、同ジヤウニ考ヘテ宜イノデスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 從來ノ恩給ノ問題ハ、是ハ別デゴザイマス、將來ノ俸給等ニ付キマシテハ、詰リ國トハ關係ノナイ全ク内部ノコトト云フ風ニ考ヘテ居リマス
○男爵松平齊光君 サウ致シマスト、總テノ神社及ビ神職ヲ網羅シタヤウナ、例ヘバ神社本廳ト云フヤウナモノガ出來テ居リマスレバ、ソレニ對シテ監督官廳トシテノ取扱ハドウ云フ風ニ行ヒマスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 是ハ各宗教ニ對スル關係ト同樣デゴザイマシテ、サウ云フ大規模ナ神社方面ノ機關ガ出來マシテモ、別ニ特殊ノ關係ガ政府トノ間ニ出來ル譯デハナイト存ジテ居ル次第デゴザイマス
○男爵松平齊光君 大體了解ヲ致シマシタガ、唯最後ニ伺ヒタイノハ、氏子ノコトデアリマシテ、御存ジノ通リ、日本ノ神社信仰ハ、一番上ニ神樣ガアリマシテ、ソレカラソレヲ拜ム、又祀ヲスル神社ト云フモノガゴザイマシテ、其ノ下ニ一般ノ氏子ト云フモノガ居リマスノデゴザイマス、一般ニ氏子ト申シマスケレドモ、私ノ了解致シマスル所デハ、色々ナ種類ガゴザイマシテ、氏神ト氏子トノ關係ハ一樣ニ參リマセヌ、一番元ノ形ト致シマシテハ、多分一ツノ種族ガ、其ノ種族ノ第一ノ祖先デアル所ノ神ヲ、ソレヲ氏子ノ神トシテ祀ツテ、其ノ氏ニ屬スル者及ビ其ノ臣下一同ガ之ヲ氏神トシテ祀ルト云フノガ元ノ形デアラウカト考ヘマス、處ガ現在アリマスルモノヲ見マスト、サウ云フ一ツノ氏神ヲ持ツテ、ソレヲ中心ニ致シマシテ、一ツノ種族ノ同盟ト云フヤウナモノヲ組織シテ、地縁的ニ其ノ附近ニ住居スル者ガ集ツテ一ツノ村落團體ヲ作リマシテ、ソレハ村落ト云ツタ方ガ宜イカ、或ハ外ノ組合ト云ツタガ宜イカ、ソレハ第二ノ問題デアリマスガ、サウ云フ一ツノ團體ヲ作リマシテ、其ノ中心トナツテ居ル所ノ‥‥
○委員長（安倍能成君） 松平委員ニ御注意申上ゲマスガ、直接憲法ニ餘リ關係ノナイコトハ‥‥
○男爵松平齊光君 直グソコヘ參リマス、サウ云フ氏ノ氏神ヲ氏神トシタモノ、ソレカラ最後ニハ我我ガ今考ヘテ居リマスヤウニ、一ツノ土地ニ住ミ出シタ者ハ、其ノ土地ノ氏神ト云フモノヲ崇メル、斯ウ云フ三ツノ仕組ガアルト存ズルノデアリマスガ、第三ノ場合デアリマシテ、是ハ氏子ト云フモノガ一ツノ團體ヲナツテ、其ノ團體ノ守護神トシテ氏神ヲ祀ツテ居ルト思フノデアリマスガ、其ノ團體ガ圖ラズモ地方自治團體デアル場合ガアルノデアリマス、詰リ一口ニ言ヘバ、講トカ、奉讃會トカ、宮座トカ云フモノデナク、部落ナラ部落トカソレガ一ツノ團體トナツテ氏神ヲ奉齋シテ居ル、斯ウ云フ場合ガアリマスルカラシテ、是ガサウ云フ自治團體、公共團體デナケレバ、一ツノ氏子ノ團體ガ私ノ團體トシテ如何ナル宗教活動ヲシテモ構ハヌト云フコトニナルト存ジマスガ、ソレガ揣ラズモ公共團體デアリマシタ場合ニハ、其ノ公共團體ガ氏神ノ祀ヲスルトカ、或ハ寄附金ヲ集メルトカ云フヤウナコトヲ致シマシタ時ニハ是ハ矢張リ國家或ハ其ノ機關ガ宗教活動ヲシタト云フコトニ入ルノデゴザイマセウカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 左樣ニナルト云フ風ニ考ヘテ居リマス、ト申シマスノハ偶然其ノ地方團體ノ構成員ガ氏子デアルト云フコトナンデアリマシテ、論理的ニ申シマスト、地方團體ト云フモノト氏子ノ團體ト云フモノハ全然別ナモノヂヤナイカト云フ風ニ考ヘテ居リマス
○男爵松平齊光君 ソレデハサウ云フ場合ニ多少信仰的デハアリマスガ、又ソレガ實際ニ行レテ居ル所ト考ヘマスガ、丁度自治團體、公共團體ト二重ニ一ツノ組合ノ何何講ト云フヤウナモノヲ作リマシテ、其ノ構成員ハ全ク同ジデアルケレドモ、ソレト二重ニ重ツタ宗教團體ヲ作リマシテ、ソレガ宗教活動ト同ジヤウナコトヲ致スト云フコトハ出來ルノデアリマセウカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 具體的ノ場合ニ付テモツト立入ツテ承知致シマセヌケレバ分リマセヌデスガ、別ニ作ツテサウ云フ色々ナ催シヲスルト云フコトハ差支ナイヂヤナイカト思ヒマス、唯併シソレハ飽ク迄モ公共團體トシテヤル譯デハナイノデアリマシテ、偶然ニ詰リ公共團體ニ大多數或ハ全部ノ人ガ團體ヲ組織シテ私ノ催シトシテ擧行スルト云フダケノコトニナルノデハナイカト存ジマス
○男爵松平齊光君 了解ヲ致シマシタ、ソレカラ更ニモウ一點伺ヒタイト存ジマスノハ、日本ノ今迄ノ氏神ノ考ニ依リマスルト、是ハ元來ガ氏族ノ神デアリマス、サウデナイニシテモ、詰リ氏子ノ神樣ナノデゴザイマシテ、ソレガ明治以來之ヲ國家的ニ引摺ツテ行キマシタ爲ニ一部カラハ國家主義ノ道具ト使ハレタト云フ誤解ヲ受ケマシタト共ニ、之ヲ氏子ノ方カラ見マスルト矢張リ今迄ノ自分ノ信仰ヲ邪魔ヲサレテシマツタト云フ風ニ感ジテ居ル所ガ非常ニ多イノデアリマシテ、元來氏神信仰ハ、氏子ニ依ル、氏子ノ爲ノ、又氏子ノ信仰デアルベキ筈デアリマスガ、ソレガ今迄ハ社格ナドト云フコトニ拘泥致シマシテ、社格ガ昇ルト云フコトハ結局ハ氏子ト神樣ノ縁ガ遠クナルト云フコトヲ考ヘテ居ツタノデアリマス、從ツテ今迄一部デ言ハレテ居リマシタノト反對ニ之ヲ國家的ニシタト云フコトハ實ハ日本ノ固有ノ氏神信仰ノ觀念ト反對ノ考ヘデアツテ、寧ロソレヲ阻害シテ居ツタト云フヤウナ關係ニナツタノデアリマス、其ノ點ヲ心ニ置イテ戴キマシテ更ニ今度出來マス所ノ、例ヘバ氏神或ハ神、神社、全體ヲ組織スル一ツノ團體ト云フヤウナモノガ出來マス時ニソレ等ノモノハ謂ハバ神社及ビ神社ニ關係スル神職ノ利益ヲ代表スルヤウナ機關ニナリマス、ソレト氏子トノ關係ガドウナルモノデアラウカト存ズルノデアリマス、デソレガ兩方トモ私ノ團體トカ私ノモノトシテ國家ノ權力ノ外ニ共同シ立タセラレルモノナラ宜シイノデアリマスガ、今伺ヒマシタヤウニ或種ノ氏子團體ハ揣ラズモ、是ハ公共團體デアル場合ガアリ、ソレガ又相當アルノデアリマスノデ、氏子ノ方ガ却テアラヌ疑ヲ受ケマシテ、氏子ノ宗教活動ト云フモノガ、ソレハ法律ノ、憲法ノ精神ニモ反スルデハナイカト云フヤウナ汚名ヲ受ケテ、サウシテ今迄ノヤウナ氏子ニ對スル純粹ナ信仰ガ衰ヘテ行ク、ソレガ代ツテ神職及ビ神社ヲ網羅スル一ツノ新シイ團體、又網羅的ノ團體ガ結局ハ今迄ノ神祇院ニトツテ代ツタヤウナ權力ヲ持ツト云フヤウナコトニナリハシナイカト云フ一抹ノ懸念ヲ持ツテ居リマスノデアリマシテ、サウ云フヤウナ場合ニハ矢張リ政治當局ト致シマシテハ、絶對ニ干渉シナイト云フベキ立場ニ立ツモノデアリマセウカ、如何デアリマセウカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 氏子ト公共團體ノ範圍ヲ同ジクスルト云フ場合ニ於キマシテモ、實際ノ取扱カラ申シマシテ、是ガ明瞭ニ分離シナケレバナラナイト云フ風ニ存ジテ居リマス、詰リ公私ヲ明瞭ニシテ、神社崇拜ニ關スル事柄ハ、ソレハ私ノ事柄デアルト云フ立場カラシテ處理シテ參レバ誤リハナイト云フ風ニ存ジテ居ルノデアリマス
○男爵松平齊光君 ソレカラモウ一點伺ヒマスノハ、祀ノコトデアリマスガ、信仰ニ關スル自由ノ取締リ、枠ハ、結局公共ノ福祉ト政教ノ分離ト云フ二ツデアルト云フコトヲ先ニ伺ツテ置キマシタガ、偖此ノ日本ノ祀ト申シマスルガ、實ハ特殊ナモノデアリマシテ、一體信仰ト申シマスカ、頭ノ中デ考ヘテ居リマシタ教義、或ハ信念ト云フモノト、ソレカラ祀、ソレカラ其ノ宗教ガ我々ノ生活ノ一般ニ與ヘル影響ト、此ノ三ツノ方面カラ考ヘラレルト存ジマスガ、結局枠ヲ嵌メラレマスノハ、外ニ現レタ形、詰リ祀トカ儀式トシテノ形、或ハ其ノ他ノ一般ノ生活ノ上ニ於ケル特異性ト云フモノニ對シテ枠ガ嵌メラレルモノダト存ジマスガ、又其ノ枠ノ嵌メ方モソレガ一ツノ宗教ノ行爲デアルガ故ニ嵌メルノデハナクテ、ソレガ現レタ行爲自身トシテ、ソレガ枠ニ嵌ルカ嵌ラヌカト云フコトガ問題ニナラウト存ジマス、處ガ祀ハ屡々先程モ御教ヘニナツタ方ガアリマスヤウニ、非常ニ常軌ヲ逸スルコトガアルノデアリマシテ、喧嘩ガ起ル、或ハ群飲ヲヤル、非常ニ常軌ヲ以テ律スベカラザルコトガ起リマス、是ガ今日迄屡々警察ノ取締ノ對象ニナリマシテ、又ソレガ恰モ其ノ故ニ非常ニ野蠻カモ知レマセヌガ、一部ノ氏子ノ粗野ナ信仰ト衝突シタ場合ガアルノデアリマス、勿論是ハ程度ノ問題デハゴザイマスガ、サウ云フ場合ニ祀デアルガ故ニ、或特殊ノ寛容サヲ以テサウ云フコトヲ見ルヨリ或一ツノ宗教ニ好意ヲ寄セタ優遇ダト云フコトニナルモノデゴザイマセウカ、其ノ點ヲチヨツト伺ヒタイ
○國務大臣（田中耕太郎君） 祀デアルガ故ニ特ニ寛大ノ取締ト云フコトハ致スベキヂヤナイト云フ風ニ存ジテ居リマス
○男爵松平齊光君 私ノ質疑ハ終リマス
○宮澤俊義君 言論ノ自由、表現ノ自由ト云フコトニ關聯シテ一ツ此處デ御伺ヒ致シタイト思ヒマス、先程佐々木委員トノ質疑應答ノ中デチヨツトハツキリ致シマセヌデシタガ、何トナク誤解ヲ招クヤウナ虞ガ私ノ考ニ依ツテゴザイマスノデ、其ノ點ヲ確メテ置キタイト思ヒマス、此ノ憲法ノ言論ノ自由、表現ノ自由ヲ保障スル精神ハ申ス迄モナク其ノ言論或ハ思想ガ個人ノ人格ノ表現デアルト云フ意味デ、人格ヲ尊重スルト云フ其ノ結果デアラウト存ズルノデアリマスカラ、言フ迄モナク表現ノ自由ノ保障ト云フコトハ、私ナラ私ノ思想ヲ出版、其ノ外色々ナ形式デ表現スル所ノ自由ト云フ意味デアルト云フコトハ當然カト思フノデアリマスガ、先程此ノ質疑ノ中デ多少不明確デ、或ハ憲法ノ保障スル自由ガサウ云フモノデハナクテ、何カ出版ト云フコトノ自由デ、例ヘバ私ノ思想ヲ外ノ出版者ガ出版スルコトガ、私ニ關係ナク行ハレルコトガ其ノ自由デアルカノ如キチヨツト誤解ヲ招クヤウナ御言葉ガアツタヤウニ拜察シマシタガ、恐ラクサウ云フ意味デハナイコトハ明瞭ダト思ヒマスガ、一言念ノ爲ニ御伺ヒシテ置キタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 午前中ニ佐々木委員ニ對シテ御答ヲ致シマシタ私ノ其ノ考ハ、尚疑問ヲ持ツテ居リマシタガ故ニ、個人的ナ關係デアリマシタガ、佐々木委員ニモ私ガ疑問ヲ持ツテ居ルト云フ意味ヲ述ベテ置キマシタガ、段段考ヘテ見マスト、宮澤サンノ仰シヤルヤウナ趣旨ノ範圍ニ於テ之ヲ考ヘル方ガ妥當カト思ツテ居リマス
○宮澤俊義君 只今ノ御答ヘ御尤ト存ジマスガ、サウ致シマスト、前カラノ御話ニ依リマシテ此ノ憲法ノ自由ヲ保障スルト云フコトハ、國家ガ國家權力ヲ以テ不當ニ其ノ自由ヲ侵害シナイト云フコトハ勿論、他ノ第三者カラモ不當ニ其ノ自由ガ侵害サレナイヤウニ、國家ガ立法其ノ外ノ手段ニ依ツテ努力スルト云フコトヲ意味スルト云フヤウナ御説明デゴザイマシテ、私モ其ノ通リト存ジマス、サウ致シマスト表現ノ自由ト云フコトニ付キマシテハ、特ニ或人間ノ言論ノ自由ヲ尊重スルト云フコトハ、自己ノ言論ノ自由ヲ主張スルト同樣ニ、或ハソレ以上ニ他人ノ言論ノ自由ヲ尊重スルト云フコトヲ當然ニ意味スルコトト思ヒマス、從ツテ例ヘバ著作權ノ尊重ト云フヤウナコトハ、著作權ト云フモノガ其ノ著作者ノ財産法上ノ權利デアルト同時ニ人格權トモ言フベキモノデアルト云フ點ニ鑑ミテ極メテ重要ナ問題デアツテ、當然ニ此ノ規定カラ國家ニ負ハサルベキ職務デアルト考ヘルノデアリマスガ、從來國内的ニモ、國際的ニモ我ガ國ニ於キマシテハ必ズシモ著作權法、或ハ著作權ニ關スル法規ガ不備デアツタトハ存ジマセヌガ、其ノ運用或ハ國民一般ニ於ケルソレニ對スル關心ニ於テ聊カ遺憾ナ點ガアツタヤウニ思ヒマス、例ヘバ國際的ナ事件トシテハ有名ナ「プラーゲ」事件ノ如キ、國内的ニハ例ヘバ‥‥例ヲ引イテ良イカドウカ分リマセヌガ、或大臣ノ談話ヲ或映畫會社デ歪曲シテ發表シタト云フヤウナ如キコトハ、私ノ考デハ孰レモ言論ノ自由ノ尊重ト云フ精神ニ反スルノデアツテ、著作權ノ尊重ト云フコトニ缺クル所ガアツタ結果デアツテ、正ニ「デモクラシー」ノ精神ニ反スルコトデハナイカ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマスルノデ、此ノ憲法ノ規定ノ結果トシテ著作權ノ尊重ト云フヤウナコトハ特ニ立法的ニ、或ハ其ノ外ノ方法ニ依ツテ國家ニ負ハサレタ重大ナ任務デハナイカト考ヘルノデアリマシテ、若シモ必要ガアルナラバ國際法的ニモ、國内法的ニモ此ノ點ニ一層ノ改善ヲ爲スベク努力スルコトガ憲法ノ精神ニ副フ所以デハナイカト考ヘルノデアリマスガ、其ノ點ニ付テチヨツト‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 著作權ノ問題ハ此ノ第二十一條ノ中ニハ當然ニ入ツテ來ナイコトト考ヘテ居リマス、是ハ結局自由ヲ保障スル程度ニ止マルガ故デアリマス、併シナガラ此ノ基本ノ權利ガ存在シテ居リマスル其ノ影響ト致シマシテ、著作權ニ付テ十分ナル秩序ヲ設クルコトハ國家ノ當然執ルベキ筋道ノモノト考ヘテ居リマス
○宮澤俊義君 質疑ヲ終リマス
○佐々木惣一君 チヨツト關聯事項デ御尋ネシタイト思ヒマスガ、宜シイデスカ
○委員長（安倍能成君） ソレデハ後ニ御願ヒ致シマス、野村委員
○野村嘉六君 私ハ簡單ニ豫審制度ノ廢止、陪審制度ニ對スル意見、此ノ二點ニ付テ申上ゲマス、陪審法案ニ付テ我々ハ此ノ陪審法立法ノ當時ハ大ナル期待ヲ持ツテ居ツタ、即チ國民ノ裁判ガ出來ルモノダ、今迄ハ官僚ノ裁判デアツタガ、併シ陪審法ガ出來タノデ、所謂人民ノ裁判ニナル、斯ウ云フ希望ノ下ニ多大ノ望ミヲ囑シテ居リマシタガ、尤モ此ノ陪審法案ノ成立ハ、陪審法ノ第十二條ニモ書イテアル通リニ、「一帝國臣民タル男子ニシテ三十歳以上タルコト」、「二引續キ二年以上同一市町村内ニ住居スルコト」、「三引續キ二年以上直接國税三圓以上ヲ納ムルコト」ト、丁度衆議院乃至縣會議員ノ選擧資格ヲ當時有シ得タ人ガ陪審員ニナルコトガ出來ル、斯ウ云フ規定デアリマス、サウシマスルト、是ハ當時ノ言葉デ愈々國民裁判ノ端緒ヲ開イタモノデアルト、我々ハ非常ニ喜ンデ居リマシタガ、又當時刑法學者ノ大家ノ江木衷君ナンカモ、天來ノ福音ナリト迄稱シテ之ヲ謳歌シタノデス、陪審法ガ出來レバ、必ズヤ競ウテ陪審裁判ニ國民ガ其ノ是非ヲ訴ヘテ、サウシテ判決ガ出來ルモノナリト思ウテ居ツタノデアリマス、處ガ御承知ノ通リニ、大正十何年カデアリマシタカ陪審法案ガ出來マシタ、出來マシタガ、其ノ後ノ經過ヲ見マスルトナカナカ思フ通リニ行ツテ居ラヌ、詰リ國民裁判ノ實ガ擧ツテ居ナイ、衆議院議員乃至縣會議員ノ選擧資格ヲ有シテ居ル程度ノ人ガ、國民トシテ裁判ヲサル、立場ニアリナガラ、又其ノ實ニ携リナガラ實効ニ於キマシテハ、ナカナカ陪審裁判ノ效果ガ擧ラヌ、擧ラヌト云フコトハドウ云フ譯デアルカ、サウシテ陪審法案ハ申ス迄モアリマセヌ今日立派ニ活キテ居ル裁判方法ナノデアリマス、サウシテ即チ今日ノ民主政治ニ最モ適當シテ居ル行キ道デアリマス、併シナガラ此ノ法律ガ出來テ十年以上ニナツテ居ルノニ、十分ナル效果ガ擧ツテ居ラヌト云フノハ、一體日本ノ國民ハ陪審制度、即チ内容ハ國民裁判ヲ受ケルノヲ嫌フノデアルカ、又ハ裁判ノ組織構成ハ國民ヲ本トスルノデアルカラシテ、誠ニ結構デアルガ、ソレヲ行フ方法ニ於テ何カ缺點ガアツテ、サウシテ是ガ實效ヲ見ナイノデアルカ、此ノ二ツノ問題ニ當リマシテ、私ハ決シテ日本ノ國民ガ陪審裁判ヲ嫌フノデハナイ、即チ立派ナ國民裁判ヲ受ケタイト云フ意思ハ、是ハ私ハ今日ノ「デモクラシー」トシテ同ジ性質ノモノデアルカラシテ當然デアラウト、斯ウ信ズルノデアリマス、處ガ、然ラバ何ガ故ニソレガ實施サレテ居ラヌカト斯ウ申シマスルト、〔「手頃ニ願ヒマス」ト呼フ者アリ〕、私ハ疑問ヲ懷キマスカラシテ伺フノデアリマス、ソレハ即チ陪審法ノ手續ガ煩雜デアル、又誠ニ人情ニ悖ツタ手續法デアル、是ガ陪審制度ノ成功シナイ理由デアル、ト申シマスノハ、同法ノ第四十一條ニハ「第二條ノ規定ニ依リ事件ヲ陪審ノ評議ニ付スルトキハ、裁判長ハ被告人ニ對シ事件ヲ陪審ノ評議ニ付スルコトヲ辭シ得ヘキ旨ヲ告知スヘシ」
○委員長（安倍能成君） 野村委員ニ注意シマスガ、是ハ矢張リ司法ノ方ノ具體的問題デハナイカト思ヒマスガ、是ハ此處デ質疑サレルノハ不適當ダラウト思ヒマス
○野村嘉六君 私ハ陪審制度ニ付テ、何ガ故ニ陪審制度ハ、今日此ノ時局ニソレガ施行サレヌカ、施行サレテ居ツテモ效果ガ上ラヌカト云フコトニ對スル、國民ノ權利義務ニ最モ重大ナル關係ヲ持ツテ居ルカラ、ソレヲマア順序トシテ申上ゲマス、併シナガラ私ノ申上ゲル法文ノ條文ハ是ダケデ宜イ譯デアリマス、ソレデハ申上ゲマスガ、結局陪審制度ノ法律ハ出來テ居ルケレドモ、立派ニ出來テ居ラヌ、ソレハ手續法ガ良クナイカラデアラウト、斯ウ思フノデアリマス、ソレデ丁度譬ヘテ見ルト、ドンナ立派ナ精緻ナ機械デアツテモ、一握リノ砂ヲ打ツ掛ケルト云フト、其ノ立派ナ機械ガ動カナイト云フコトヲ能ク聞クノデス、ソレト同ジデ、陪審法ハ時勢ニ適合シテ居ル規定デアルケレドモ、今申上ゲタヤウナ手續法ニ於テ其ノ當ヲ得ナイ爲デアラウト、斯ウ信ズル、ト申シマスノハ、被告人ノ立場トシテハドウシテモ遁レタイト、是ハ一心デアル、其ノ時ニ至ツテ、裁判長ハ辭スルコトヲ勸告シ得ルヤウナ、ヤツテ宜シ、ヤラヌデモ宜シト云フヤウナ詰リ法律ノ書キ方デアリマス、言ウテ見ルト、官僚式ノコトヲ民間ノ事ニ致シマスカラ、ソレハイカヌ
○委員長（安倍能成君） ソレハ此ノ問題デハナイト思ヒマスカラ次ノ時ニ
○野村嘉六君 併シナガラ、要點ハ是デ御承知デアリマセウカラ、此ノ點ニ對スルダケ答辯ヲ願ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 陪審ノコトダケニ付テ答辯ヲ致シマス
○子爵大河内輝耕君 ソレハイケマセヌ、惡イ癖ガ附キマス
○國務大臣（木村篤太郎君） ソレデハ引下リマス
○野村嘉六君 ソレデハ宜シウゴザイマス
○委員長（安倍能成君） アナタハ第十八條ニ關スル質疑デアルト云フコトデスカラ許可シタノデスケレドモ、次ハ松村委員
○松村眞一郎君 私ハ今度ノ二十條ニ付テ質問ヲ致シテ居リマスガ、ソレハ金森國務大臣ニ御質問ヲ致シタノデアリマスケレドモ、問題ハ田中文部大臣ノ方ニ多クアルノデアリマスガ、只今オイデニナツテ居リマスカ、オイデニナルヤウデアリマスカラ、金森國務大臣ト併セテ御答辯ヲ願ヒタイ、先ヅ金森國務大臣ニ申上ゲマスガ、今日ノ午前ノ御答辯デハ、現行法ノ二十八條ト此ノ規定トハ同ジコトデアル、斯ウ云フヤウナ御説デアル、同ジデアルト云フ部分ハ、「信教の自由は、何人に對してもこれを保障する。」ソレダケノコトデアルト思ヒマス、如何ナモノデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ナ意味ヲ述ベマシタ
○松村眞一郎君 サウナリマスト一應後デ金森國務大臣ノ答辯ヲ伺フコトニシマスガ、今度田中文部大臣ニ御願ヒ致シマスルノハ、神社ニ付テノ只今ノ御答辯デハ私ハ滿足致サナイ、祭政一致ト云フコトデ、從來日本ノ政府ハ進ンデ來タノデアリマス、祭政分離ト云フコトガ、此ノ規定ノ何處カニ現レテ居リマスカト云フコトヲ文部大臣ニ伺ヒマス
○國務大臣（田中耕太郎君） 祭政一致ト云フ意味ガ、一體ドウ云フ場合ニ、ドウ云フ精神デ以テ使ハレテ居ツタカト云フコトニ關係致シマスガ、併シ此ノ宗教ガ國家ノ政策ニ依ツテ、是ハ詰リ特定ノ宗教デゴザイマスガ、庇護サレテハナラナイト云フヤウナ意味、詰リ公平ニ國家ガ宗教ヲ取扱ハナケレバナラナイ、詰リ國教ト云フモノヲ否定スル精神ハ、此ノ十八條ニ十分現ハレテ居ルト云フ風ニ存ジテ居リマス
○松村眞一郎君 處デ、何ガ故ニ國教ヲ否定スルト云フコトハ、言ハナケレバナラナイノデアリマスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 是ハ詰リ、近代文明國家ノ一大政治上ノ原則デアリマスト共ニ、又日本ニ於テハ、特ニ既往ニ於ケル經驗カラ致シマシテ、其ノ必要ヲ感ジテ居ル譯デゴザイマス、勿論制度上ニ國教ト云フモノハナカツタ譯デゴザイマス、併シ事實ニ於キマシテハ、神社ガ國教的ノ性質ヲ帶ビサセラレテ居ツタ趣ガゴザイマシタカラデアリマス
○松村眞一郎君 能ク分リマシタ、其ノ點ガ要點デアリマス、然ラバ此ノ神社ト云フモノガ宗教扱ヒニサレ來ツタト云フコトヲ御認メニナル譯デゴザイマスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 此ノ問題ハ何ガ宗教デアルカト云フコトニ關係シテ參ルノデアリマス、神社ノ宗教ガ、宗教學的ニ見マシテ宗教ニナルカドウカト云フコトハ、是ハ一部學者的ノ議論ニ委セルト致シマシテモ、併シ神社内ニ於テ行ハレテ居ル所ノ式典、其ノ他カラ、考ヘテ見マシテ、又大數ノ崇敬者ノ持ツテ居ル所ノ氣持ヲ考ヘテ見マシテモ、宗教的要素ガ多分ニアツタ、其ノ神社ガ國家ト特ニ密接ナ關係ニアツタト云フコトハ、否定出來ナイ事實デナイカト思フノデアリマス
○松村眞一郎君 非常ニ明瞭ニナリマシタ、結局神社ハ宗教ニ非ズヤト云フ解釋ノ下ニ、從來ハ宗教的色彩ヲ持ツテ居リ、且内容ヲ持ツテ居ルニ拘ラズ、神社ハ宗教ニ非ズ、何故ニサウ謂フカト言ヘバ、國家ハ或程度強制シテ居ツタノデアリマス、ソコデ直グ宗教ダト云フト、信教ノ自由ヲ認メルト云フ現法憲法ノ規定ニ引掛リマスカラ、其ノ關係カラ宗教ニ非ズトシテ居ツタト思ヒマスガ、如何デスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 全ク御説ノ通リダト存ジマス
○松村眞一郎君 ソレデアリマスカラ、非常ニ是ハ重大ナ關係ガ起ルノデアリマシテ、從來ノ信教ノ自由ト申シマス際ニハ、其ノ信教ノ中ニハ、兎ニ角神社ト云フモノハ入ラナイト云フコトデ突ツ張ツテ來タノデアリマス、今度ハ信教ノ中ニサウ云フモノガ入ルト云フ、故ニ廣クト云フヨリ、寧ロ公平ト言ツタ方ガ宜イカモ知レマセヌ、從來ハ幾ラカ歪曲シテ居ツタノデハナイカト考ヘマス、サウナリマスト、範圍ガ廣クナツタ、宗教ノ定義ヲ下スノデハアリマセヌ、何トナク宗教ラシキ感ジ、何デ問題ガ起ツタカト云フト、サウ云フ感ジヲ與ヘテ居ツタ爲ダト思ヒマスガ、如何デアリマスカ
○國務大臣（田中耕太郎君） 神社ガ宗教ラシキ感ジヲ持ツテ居ツタカラ、斯ウ云フ問題ガ起ツタト云フ御問ヒデアルト致シマスレバ、左樣ニ認メマス
○松村眞一郎君 サウシマスト此ノ規定ニ非常ニ重大ナ關係ヲ持ツ、是ハ金森國務大臣ニ轉ジテ伺ヒマスガ、此ノ二十條ノ「何人に對してもこれを保障する。」ト云フ、其ノ以下ノ文字ハ今度新ラシク加ツタ譯デアル、何ノ必要ガアツテ、斯ウ云フモノヲ加ヘタノデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 「いかなる宗教團體も」以下ノ文字ハ、サウ云フモノガ國家的ナ立場ニ於テ、宗教ノ働キヲスル虞ガアルガ故ニ、左樣ナコトノ宜シクナイコトヲ明カニシタ譯デアリマス
○松村眞一郎君 ソレハ唯空漠ト、將來サウ云フヤウナ國教的ノモノガ起ルカモ知レヌト云フヤウナ豫想デナクツテ、從來ノ形デ行クトサウ云フ傾キヲ生ズベキ現象ガアルト云フコトガ、入ツテ居ルノヂヤナイカト私ハ思ヒマス、具體的ノモノヲ掴ンデ居ルノデナク、將來斯ウ云フコトガアルダラウト云フコトハ、今迄日本ハ國教ヲ認メテ居ラヌ立場ヲ執ツテ居リマスカラ、サウ云フ組織ガ現ニ存在シテ居ルト云フコトヲ意味シテ居ルノヂヤアリマセヌカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 現在ノ組織ガ左樣ニアツタト云フコトト將來ニ對シテ左樣ナコトノ起ラナイヤウニハツキリサセル、兩面ノ意味ヲ持ツテ居リマス
○松村眞一郎君 將來ノコトハ結構デス、私ハ現在アルト云フコトヲ疑問ノ要點ニシテ居ルノデスガ、能ク分リマシタ、結局私ノ惧レマスノハ、宗教ト云フ觀念ヲ又逆用シマシテ、今度又神社ヲ宗教ニ非ズト主張シテ強制スル虞ガナイカ、斯ウ云フ點デアリマス、ソレハドウ云フヤウナ工合ニシテ其ノ關係ヲ説明サレマスカ、ソレハ田中文部大臣ニ御答辯願ツテ宜イノデアリマス、宗教デナイナラバ何デアリマスカ、何トシテ、從來ソレヲ維持シテ來テ居ツタノデアリマスカ、ソレヲ伺ヒマス
○國務大臣（田中耕太郎君） 單ナル崇敬トシテ生キテ居ツタト思ヒマス
○松村眞一郎君 私ハ崇敬デハ意味ヲナサヌト思ヒマス、私ノ解釋ヲ申シマセウ、是ハ國ノ安寧秩序ノ維持上必要デアツタ、斯ウ云フコトニ解釋シテ居ル、今日ニ於キマシテハ、サウ云フモノハ安寧秩序ノ維持ニ必要デナイ、斯ウ云フ見解デ進ムベキモノト思ヒマス、逆ニ其ノ制度ヲ維持シナケレバ、又國家ノ安寧秩序ノ維持ニ害ガアルト云フコトニナルト、又宗教ノ定義ヲ歪曲シテ、又宗教デハナイト云フ形デ、ソレヲ強制スル虞レガアリハシナイカ、斯ウ云フ點ヲ御尋ネ致シマス
○國務大臣（田中耕太郎君） 私ハ只今御答辯申上ゲマシタノハ、其ノ單ナル宗教ト區別サレタ、法制上ノ取扱ヒノ理由デゴザイマシテ、其ノ背後ニ存在スル所ノ日本國民ノ結束トカ、秩序維持トカ云フヤウナ、政治的ノ意味合ニ於テ申上ゲタ譯ヂヤゴザイマセヌ、此ノ點ハ御了承願ヒタイ、尚將來ノ問題ニ付テハ、是ハ御答ヘ申上ゲ兼ネルノデアリマス、ドウ云フ疑點ガ存在スルカ、具體的ニ伺ハナイト、御答辯ニ困難ヲ感ジマス
○松村眞一郎君 私ハソレ以上從來ノコトハ追究致シマセヌ、ソレハ私ノ申シテ居ルコトヲ能ク御了解ニナツテ居ルト私ハ思ヒマス、ソコデ矢張リ是ハ秩序維持ト云フ方向デ行クノ外ハナカツタト思フ、宗教デナカツタ、崇拜シテ居ツタ、崇拜ト云フコトハ、是ハ宗教的ノ觀念デアルナラバ、國家ハ之ヲ法制ノ上カラ不當ニ強制シテ居ツタコトニナリマス、私ハ從來神社ハ何デアルカト云フコトヲ神社ノ行政ノ當局ニ聽イタノデス、宗教デナイ、何カト云フト神社ハ神社ナリ、斯ウ云フ答ヲシテ居ルノデス、ソレデハ答ニナラナイノデス、法的效果ヲ持ツテ居ルモノデアル、斯ウ云フヤウニ私ハ考ヘテ居リマスカラ、ソレデ強制ヲサレテ居ツタンダト、斯ウ云フ私ノ解釋デアリマス、私ハ其ノ解釋ヲ間違ツテ居ルト思ヒマセヌ、ソコデ私トシテハサウ云フコトニナルコトヲ惧レル、宗教ノ意味ヲ裁判所ノ解釋ニ委セル外仕方ガナイコトニナル、何ガ宗教カト云フコトハ、今日デハ裁判所ガ決定シマセウ、ソレデアリマスカラ今度文部省ガ御取扱ニナツテ居ルヤウニ、神社ガ届出テ來レバ宗教ニスル、届出ガナイナラバ宗教デナイト云フヤウニ漠然タル御取扱ハイケナイト思ヒマスカラ、能ク御考究願ヒタイ、之ヲ以テ私ハ此ノ質問ヲ終リマス
○子爵大河内輝耕君 私ハ至極簡單ニ金森大臣ニ質問シタイト思ヒマス、金森國務大臣モ御觸レニナリマシタガ、モウ少シ具體的ニハツキリシテ置キタイノデス、十八條ナノデスガ、前ニ公娼ト云フ制度ガゴザイマシタ、此ノ公娼ハ第十八條カラ當然排除サレルコトニナリマセウカ、ソレトモ又別ニ立法ヲサレテ、初メテ排除サレルコトニナリマセウカ、其ノ解釋ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ憲法ニ依リマスト、私ガ昨日少シク言葉ヲ婉曲ニシテ御答ヘ申上ゲマシタガ、奴隷的拘束ヲ強ヒルト云フ種類ノ人ニソレハナルデアラウカト思ヒマス、サウスルト此ノ憲法ハ、何人モ如何ナル奴隷的拘束モ受ケナイト云フコトニナリマスルカラ、此ノ憲法ノ認メル處ニ依レバ公娼ヲ置クコトハ出來ナイ、斯ウ云フ意味デアリマス、ケレドモ、是ハ憲法ト云フモノガ稍稍特殊ナ法ノ上ノ法規ト申シマスカ、基礎的ノモノデアリマスカラ、現實ニハツキリ抑ヘテ之ヲ禁止スルコトノ方ガ正確ナ行キ道デアラウト、私ハ斯ウ思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 私ノ質問ハソレデオ終ヒデアリマス
○佐々木惣一君 私ハ宗教ノサツキノ關聯質問ヂヤナイノデス、宗教ノコトデ、矢張リ通告シテ置キマシタノデスガ、併シ餘リ長クナツテイケヌト云フヤウナ御話モアツタモノデスカラ、ソレハ他ノ諸君カラモ質問ガアリマシタカラ、一應取消シテ置イタノデアリマスガ、今色々伺ツテ居ルト云フトチヨツト簡單ナコトヲ言ツテ置キタイト思フノデス、私ハ詰リ只今松村サンカラモ御説ガアリマシタガ、ソレハチヨツト私ガ誤ツテ居ルカドウカ知リマセヌガ、思フ處ヲ言ツテ置ク必要ガアリマス、ソレハ無論從來モ一般社會的ニドウ見テ居ルカト云フコトハ別トシテ、國家、政府ノ取扱トシテハ、神社ハ宗教デナイト取扱ツテ居ツタト云フコトハ行政上ノ建前トシテソレデ宜イ、ト云フノハ、ソレハ何故カト云フノニ、今御質問アリ、又御應答ガアリマシタヤウニ、サウシテ國家ノ法ガ宗教デナイトスレバ、從來デモ憲法ノ宗教ノ自由ヲ妨ゲルコトナシニ、其ノ神社ニ對スル例ヘバ強制デスネ、神社ニ參拜ヲ強制スルト云フヤウナコトガ出來ル建前ダツタト云フ風ニナツテ居リマス、ソレハ全クサウダラウト思ヒマス、唯強制ガ出來タカドウカト云フコトニ付キマシテ、少シ私ハ考ヘガ違フノデアリマシテ、矢張リ其ノ神社ガ宗教デナイトシテ、サウシテ、マア、ソレハソレ、ソレヲ強制シテ居ツタト云フコト自體ガ私ハ從來誤リデアツタト思フ、法上許サレヌコトヲヤツテ居ツタト、斯ウ思ツテ居ルノデス、宗教デアルカラ強制出來ナイト云フコトトスレバ、宗教ヂヤナイトシテモ、強制スルコトハ出來ナカツタモノデアルト、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマシテ、只今ソレハ成ル程秩序維持ト云フヤウナコトカラモ強制シタト云フヤウニ言ヘルトスレバ、ソレモ一ツノ解釋デアリマセウガ秩序維持トシテモ強制ガ出來ルカドウカ、餘程問題デアルト私ハ思フ、ノミナラズ、元來神社ノ參拜等ヲ即チ利用シタ、強制シテ居ツタノハ、私ハ寧ロモツト積極的ノ、例ヘバ小學校ノ兒童ヲシテ必ズ神社ニ參拜セシムルト云フコトノ方ガ多カツタノデアツテ、實際ハ取締リト云フ秩序維持ト云フコトモアリマシタケレドモ、モツト教育的ト申シマスカ、文化的ト云ヒマスカ、サウ云フ氣持デ強制シテ居ツタト私ハ思ツテ居ルノデス、孰レニ致シマシテモ、從來ト雖モ、假リニ宗教デナイトシテモ、強制ト云フコト自體ガ根據ヲ缺イテ居ツタト、斯ウ思ヒマスカラ、ソコデ假ニ今後宗教ダ、サウシテ宗教トスレバ、之ヲ強制スルコトハ出來ナイ、宗教デアル故ニ、ソレハ明カデアリマスガ、宗教デナイトシテモ、強制スルト云フコトハ、矢張リ將來ノ憲法ニ於テモ明カニ出來ナイモノデアル、斯ウ云フ風ナ解釋ヲ致シマスガ、如何デゴザイマセウカ、兩大臣ドナタデモ宜シウゴザイマス、ソレナラ文部大臣ト申シマセウカ、ドチラモ御讓リニナルヤウデアリマスカラ
○國務大臣（田中耕太郎君） 宗教デアラウガナカラウガ、強制ト云フコトハ、宗教ノ自由ニハ入リマセヌデモ、良心ノ自由ノ方ニ入ルト云フコトガ有リ得ルト思ヒマス、思想ノ自由ニ入リマス、孰レニシテモ爲スベキデアリマセヌ
○佐々木惣一君 ソレデ宜シウゴザイマス、是デ私ノ質問ヲ打切リマス、後デ關聯質問ガアリマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ關聯質問ヲ
○佐々木惣一君 表現ノ自由ト云フコトデスガ、是ハ午迄ニ言ウタコトガ、宮澤サンガオイデニナリマスガ、最後ニ宮澤サンガ言ハレタ意味ニ於テ言ツテ居ツタノデス、此ノ表現ト云フコトハ、自分ノ思想ヲ例ヘバ出版ト云フ方法デ、私ガ出版ヲヤルノヂヤアリマセヌガ、何等カノ方法デ表現スルト云フ、自分ノ思想ヲ表現スルト云フコトガ自由ダ、斯ウ云フ意味デアツテ、出版業者ノ自由デナイト云フ、其ノ意味デ申上ゲタノデアリマスガ、ソレデ金森國務大臣ガ、其ノ時ハマダダツタケレドモ、サウヂヤナイカト云フ風ニ御考ニナツテ居ツタヤウデアリマスガ、最後ニ、休ミノ間ニ、先刻チヨツト御一言ガアリマシタガ、大分其ノヤウニナリマシテ、サウダラウト云フコトヲ私ノ席ニ來テ御話ニナツタ、學徒トシテ守勢的ニサウダウダト話シテ居ツタコトデスカラ、宮澤君ガ丁度アベコベニ、私ノ言葉ヲ御理解ニナツタヤウニ思ヒマスカラ、ソレダケノコトヲ明カニシテ置キマス、ソレダケノコトデス
○委員長（安倍能成君） 次ニ第二十四條ニ移リマス
○子爵大河内輝耕君 金森大臣ニ二十四條ノ「個人の尊嚴」ト云フコトニ付テ質問致シタイ、個人ノ尊嚴ヲ具體的ニ申セバ、家族制度ヲドウスルカト云フコト、私ハ家族制度ト云フヤウナモノハ、新日本出發ノ上カラ餘計ナモノダト思ツテ廢止ヲ希望スルノデスガ、何カ政府ノ御考ヲ見テ居ルト、何等カノ形ニ於テ存シテ置クヤウニ見エル、其ノ點甚ダ曖昧模糊トシタモノデスガ、是ハ家督相續ト云フモノハオ廢メニナルノデ、遺産相續ダケニナルノデアリマスカ、遺産相續ダケニナリマスト云フト、尤モ要綱ヲ戴イテ居ルノデスガチヨツトハツキリ致シマセヌカラ御尋ネ致シマスガ、男女年長年少ヲ問ハズ、同ジヤウナ財産上ノ分配ヲ受ケルノデセウカ、其ノ邊如何ナモノデセウ
○國務大臣（金森徳次郎君） 家族制度ノ問題ハ、私ノ今迄研究致シマシタ所デハ、憲法二十四條ハ直接ニハ之ヲイケナイトモ言ハナイシ、宜シイトモ言ハナイ、家ト云フモノハ如何ニスベキカト云フコトニ付キマシテハ、此ノ憲法ハ夫婦ノ「同等」ト云フコトト、ソレカラ「兩性の本質的平等」ト云フ二點、ソレニ加フルニ「個人の尊嚴」ト云フコト、詰リ合計三ツノ標準ヲ基礎トシテ考ヘルベシト云フダケノコトデアリマシテ、家族制度ソレ自身ヲ如何ニスベキカト云フコトニ付キマシテハ、相當幅ノアル規定デアルト考ヘテ居リマス、從ツテ此ノ憲法ガ施行サレテ如何ナル家ノ制度ヲ設ケルカト云フ點ハ、是カラ法律ヲ以テ適當ナル内容ヲ定ムベキモノト考ヘテ居リマス、如何ナル法律ヲ定ムベキカト云フコトニ付キマシテハ、臨時法制調査會デ目下研究中デアリマスルケレモド、今日尚、行届イタ結論迄至ツテ居ル譯デハアリマセヌ、從ツテ配布ノ書類ノ中ニアリマスルモノハ、是ハ全クノ試案ノ程度デアリマシテ、之ニ付テ餘リ詳シク御説明ヲ申上ゲマシテモ、效果ガナイト思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 ソレデハ、サウ云フコトヲ此ノ憲法ニ直接ニ關係ナイヤウナコトヲ伺フノハ、惡例ニナリマスカラ止メマスガ、「個人の尊嚴」ト云フモノハ、具體的ニ申スト、法律的ニ申スト、ドウ云フ所ニ引掛ツテ來マスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此處デ「個人の尊嚴」ト、斯ウ申シテ居リマスノハ、度々是モ繰返シテ申上ゲテ居リマスルガ、此ノ憲法ノ建前ガ、人間一人々々ト云フモノニ値打ヲ認メナケレバナラヌ、一體人間ト云フモノハ、他人ヲ以テ代フルコトガ出來ナイヤウナ貴重ナルモノデアリマスルガ故ニ、ソレヲ粗末ニシテハナラヌト云フコトヲ一ツノ根本ノ原理ニシテ居リマス、併シソレバカリガ原理ノ全部デハアリマセヌ、公共ノ福祉ト云フコトヲ同時ニ考ヘテ居リマス、ソコデ此處ニ言ツテ居リマス「個人の尊嚴」ト申シマスルノハ、故無ク之ニ對シテ、普通ニ申シマスル意味ノ人格ヲ認メナイヤウナ行キ方ガイケナイト云フコトヲ言ツテ居ルノデアリマシテ、例ヘバ是ハ時代ノ認識ニ依ツテ變ルコトトハ思ヒマスルケレドモ、此ノ條文ノ檢討デ申シテ見マスレバ、戸主權等ノ内容ノ中ニ於キマシテハ、可ナリ行キ過ギタモノガアリマシテ、謂ハバ封建的ナル氣持ノスルモノガ多イノデアリマス、サウ云フモノガ「個人の尊嚴」ト云フコトト打突カツテ來テ、研究ノ課題ニナル譯デアリマス
○子爵大河内輝耕君 大體意味ガ分ツテ參リマシタ、サウスルト、戸主權ト云フモノハ全部オ廢メニナルノデセウカ、ソレトモ或一部ダケオ廢メニナルカ、ドウ云フ所ヲオ廢メニナルノデスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 曩ニ申シマシタヤウニ、現在マダ此ノ問題ノ全部ガ調査研究中デアリマシテ、今後是デハツキリ決ルト云フコトハ申上ゲ兼ネルノデアリマス、併シ現在ノ戸主權ノ中ニ於キマシテ、住所ノ指定トカ、婚姻ノ同意トカ云フコトニ付キマシテ、可ナリ現代ノ常識ニ照シテ、面白クナイ規定ガアルノデアリマス、サウ云フモノニ付テハ、大體ノ行道トシテ異論ナク之ヲ廢メタラ宜イ、斯ウ云フ風ナ考ヘ方ニナツテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 ソレデ私ハ宜シウゴザイマス
○委員長（安倍能成君） 牧野委員ノ順ニナツテ居リマスガ、司法大臣ガ御見上ニナラナイデモ宜シウゴザイマスカ、四時頃ニハ御見エニナルサウデスガ
○牧野英一君 私司法大臣ノ御答辯ヲ仰イダ方ガ宜イト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ、澤田委員
○澤田牛麿君 私モ司法大臣ト總理大臣ノ御答辯ヲ仰ギタイト思ツテ居リマスガ、ソレハ止メテ置キマス、私ハ此ノ二十四條ニ付テハ、非常ナ變革ノヤウニ思ツテ居ルノデアリマシテ、是ハ本會議ニモ申上ゲタ通リ、日本ノ國體、言葉ハ惡イガ、民間的團體ヲ破壊スルモノデハナイカト迄疑ツテ居ルノデアリマスガ、今ノ金森國務大臣ノ御答辯ニ依リマスト、家督相續、其ノ他民法ノ方ハ、マダ將來決ルノデアルカラ、此ノ憲法デハドツチニナルカモハツキリシナイ問題ダト云フ風ナ御話デゴザイマス、若シサウデアルトスレバ、憲法デノ質疑ハ無意味ナコトニナルノデアリマス、併シドウモ此ノ條文ヲ讀ンデ見マスト、此ノ憲法ノ規定ノ必然ノ結果トシテ、今迄ノ家督相續ト云フモノハ、何ダカ無クナルノヂヤナイカト云フヤウナ感ジガスルノデアリマス、ソコデ其ノ點ヲモウ少シ金森國務大臣カラハツキリ御答ヲ願ヒタイト思フノデアリマスガ、若シ家督相續ト云フヤウナコトニ、大ナル變革ガ來ルトスレバ、是ハ日本ノ國民ノ、詰リ國民ノ間ニ存シテ居ル國體ハ、大ナル變革ヲ受ケルノデアルシ、又家督相續ト云フモノガ、何等カノ形デ續イテ行クモノナラバ、後ノ細カイコトナドハサウ大問題ニハナラナイト思フノデアリマス、サウ云フ點ニ付テ、モウ少シ詳シク御説明ヲ願ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 家督相續ト限リマセヌデ、此ノ規定ハ、結局家、其ノ他人間ノ作ツテ居ル小サイ集團ニ關シマシテノ相當根本的ナ原理ヲ含ンデ居ルモノト思フノデアリマス、先程大河内委員ニ御答ヲ申上ゲマシタヤウニ、夫婦ト云フモノト出來方ニ付テハ、今迄ヨリモ稍々進ンダ一ツノ原理ヲ明カニシテ居リマス、同時ニ「個人の尊嚴」ト云フコトト「兩性の本質的平等」ト云フコトヲ明カニシテ居ルノデアリマス、併シ是等ノ各々ノ一ツ一ツノ要點ハ、恐ラク此ノ儘御承認ヲ願ヘル程度ノ合理的ナル規定デハナイカト思ツテ居リマス、故ナク個人ノ尊嚴ガ冐サルベキ譯モゴザイマセヌシ、又兩性ト云フモノハ其ノ本質ニ於キマシテハ平等デアリマス、併シ色々ナ現シ方ニ於キマシテハ、必ズシモ平等デ有リ得ナイ、ソレハ生理的ナ必然、其ノ他社會的ノ事情モアリマスカラ、サウ云フ不平等ト云フモノモ考ヘラレルト思ヒマス、本質的平等ト云フコトハ、他面ニ於キマシテハ、場合ニ依ツテハ不平等ノコトモ有リ得ルト云フコトヲ含ムモノト解シテ居ル譯デアリマス、左樣ナ三ツノ原理ヲ組合セマシテ家ノ制度ヲ考ヘテ行キマス時ニハ、ドウ云フ風ニ家ノ制度ヲ立テタラ宜イカ、從來家ト云フモノガ或ハ夫婦關係ヲ基礎トシ或ハ親子ノ關係ヲ基礎トシ或ハ生活ニ適スル一ツノ人間ノ單位ヲ其ノ邊ノ所ニ豫想スル色々ナ考ヘ方ガアリマシテ、ソレガ社會的ニモ、法律的ニモ、種種錯綜シタル姿デ在ル譯アリマス、サウシテ茲ニドウ云フヤウナ風ニ、今後法律ヲ以テ家ノ秩序ヲ立テテ行クカト云フコトハ、是ハ全ク新ラシキ此ノ基盤ニ立ツテ考ヘ直ス問題デアリマシテ、此ノ憲法自身デ家ガ無クナルトカ、家督相續ガ無クナルトカ、或ハ又社會的ニ考ヘラレテ居ル家ノ制度ガ無クナルト云フ結論ヲ當然ニハ含マナイト思ヒマス、今現ニ調査研究中ノ民法ニ關シマスル改正案ハ、相當ノ程度迄研究ハ進メテ居リマスケレドモ、前カラ申シマスヤウニ、マダ其ノ委員會ト致シマシテモ、決定的ナル段階ニハ入ツテ居リマセヌ、況ヤ政府トシテ立案ヲスルト云フ所迄モ行ツテハ居リマセヌ、今日ハマダ御答ヘ申上ゲ難イ、斯ウ云フ次第デアリマス
○澤田牛麿君 大體御説明ノ趣旨ハ分リマシタガ、チヨツト此處デ私ノ考ヲ申上ゲテ置クコトガ必要ト思ヒマスルガ、此ノ二十四條ハ、私ハ是ハ立法技術ノ問題、學究的‥‥學究的ニモナラヌカモ知レマセヌガ、細カイコトノ問題カモ知レマセヌガ、是ハ一體私法ノ規定デアツテ、憲法ト云フノハ私法ノ規定ヲ入レベキモノヂヤナイト思フノデアリマスガ、其ノ意味カラ行キマスト、二十四條ハ削除シテ差支ナイ、削除スベキモノダト思フノデアリマスルガ、ソレハ一種ノ法律論ト云ヘバソレ迄デアリマスガ、此ノ二十四條ニ於テハ、ドウモ今迄ノ日本ノ社會状態ヲ是カラ是ガ引ツクリ返ス非常ナ力ノアル規定ノヤウニ思ハレルノデ、ソレガ心配デナラナイノデアリマス、御承知ノ通リ國民ノ個人個人デソレハ活動シテ居ル、ソレガ國ヲ成シテ居ル所モアリマセウシ、又家ト云フヤウナモノヲ一ツノ中心ニシテ、家ト云フ細胞ガ集ツテ國ヲ成シテ居ル、是ハ歴史ノ結果デアリマセウガ、サウ云フ國モアリマセウシ色々アルノデ、日本ハ長イ間家ト云フコトヲ細胞トシテ、家ガ一ツノ細胞デアル、是ガ集ツテ一ツノ體ヲ成シテ居ルモノト私ハ思フノデアリマスルガ故ニ、此ノ際他ノ國ノ例等ニ倣ツテ純粹ナ個人的、即チ夫婦關係ダケヲ中心トスル、團結ノ一ツノ中心トシテ、何千年ノ歴史ニ反スル制度ヲ設ケルト云フヤウナコトガ若シアリマシテハ、私ハ是ハ非常ニ心配スベキコトダト思フノデアリマス、併シ何遍繰返シテモ同ジコトデアリマスルカラ、大抵ノ所デ止メテ置キマスルガ、茲ニ一ツチヨツト文字ノ上デ分ラヌコトガアリマスガ、本質的平等ト云フコトガ、是ハ英文デハ「エッセンシャル・エクォーリティ」トカ何トカナツテ居ツタヤウデアリマスガ、私ハ本質的平等ト云フ言ヒ方ガ惡イノヂヤナイカ、原則的平等ト云フ風ニ見ルベキモノヂヤナイカ、言フベキモノヂヤナイカト思フノデアリマスガ、本質的ニハ男女ハ不平等ナモノデアツテ、本質的平等ト云フモノハ男女ノ間ニハナイモノデ、「イギリス」ノ國會ハ非常ニ偉イケレドモ、男ヲ女ニスルコトハ出來ヌ、女ヲ男ニスルコトハ出來ヌト云フ格言ガアル通リ、男女ノ間ニ平等ト云フモノハナイ、男女ハ不平等ノモノデアル、ソレヲ本質的ニ平等ダト云フコトハ、是ハドウモ了解出來ナイ言葉デアリマス、ソレハ言葉咎メト云ヘバソレ迄デアリマスケレドモ、是等ノ考ガ矢張リ、考ノ根本ニナルモノガ、ドウモ日本ノ國情ニ合ハナイ思想カラ出テ來テ居ルノデハナイカト云フコトヲ疑フノデアリマス、ソレダカラ唯言葉ノ末ノミノ問題デハナイト思フノデアリマス、デ今迄ハ家長ヲ中心トスル、家長ト云ツテモ、モウ今日ノ民法デハ餘程家長ノ權力ハ少クナツテ居リマスルガ、尚家長ヲ中心トスル細胞ガ單位トナツテ居ルノデアリマスガ、今後ハ夫婦ヲ中心トスル細胞ヲ單位トスルト云フ御趣意ダサウデアリマスガ、其ノ時ハ、ソレヂヤ親夫婦、子夫婦ト云フモノガアツタ時ハ、ドレヲ中心ニスルノデアリマセウカ、サウ云フ點ハ民法デ決メルノダカラ今ノ問題デハナイト仰セラレヽバ、ソレ迄ノ話デアリマスケレドモ、夫婦ヲ中心ニスルト云フコトハ、外ニ澤山ノ家族ガナケレバ、簡單ニ片付ケラレル問題デアリマスガ、親夫婦ガ、例ヘバ五十代ノ親ガアツテ其ノ夫婦ガアル、其ノ下ニ三十代ノ子ガアツヲ其ノ夫婦ガアル、サウ云フヤウナモノガアツタ場合ニハ、一體ドレヲ集團ノ中心ト見ルノデアリマセウカ、日本ノ在來ノ習慣カラスレバ、矢張リ親夫婦ヲ中心トスベキモノデアル、ソレガ此ノ二十四條ノ下ニ隠レテ居ル考カラ言フト、或ハ三十代ノ夫婦ヲ中心トスルト云フヤウナコトニ解釋サレルヤウナコトニナルノデハナイカ、サウ云フヤウニナルト、日本ノ善良ナル風俗、美風ニハ反スルコトニナルヤウニ私ハ思フノデアリマス、是等ノコトハ今意見ノ交換ヲシテモ始マリマセヌケレドモ、モウ少シ金森國務大臣ノ御説明ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 御意思ノアル所ハ能ク傾聽ヲ致シマシタ、今ノ處、色々ナ考ヘ方ガ此ノ關係者ノ間ニ錯綜ヲシテ居リマシテ、今日委員會、法制調査會等ニ付託シテ居リマスル關係上、中味ニ付キマシテハ立入ツテ御答ノシニクイ状況ニアリマスカラ、御許シヲ願ヒタイト思ヒマス
○澤田牛麿君 此ノ條ニ關スル質問ハ是デ打切リマス
○委員長（安倍能成君） 霜山委員ノ御質疑ガアルヤウデアリマスカ、司法大臣ハオイデニナツテ居リマセヌカ‥‥
○霜山精一君 金森國務大臣デ結構デゴザイマス
○委員長（安倍能成君） チヨツト私ガ間違ヒマシタ、チヨツト順序ヲ私ガ間違ヒマシタカラ、佐々木委員
○佐々木惣一君 私ハ矢張リ婚姻ニ何條デアリマシタカ、ウツカリシテ居リマシタガ、第二十四條デアリマシタカ、極ク簡單ニ、是デ私ノ規定ノ‥‥ノ規定ダケノ意味ハ分ツテ居リマスガ、之ニ付テ御尋ネ致シタイノハ、是デ所謂法律上ノ意味ノ家、從ツテ家督相續制度ト云フモノガナクナルト云フヤウナ御趣旨デアルラシク察セラレマスガ、ソレハ其ノコトヲ申上ゲルノデハアリマセスガ、ソレハソレトシテ別ニ詰リ、只今詰リ茲ニ今日ナラ今日家族ガアル、或意味ニ於テ其ノ姻家族ノ間ニ何等カノ範圍ノ家族ト云フモノガ何カ決マルデセウガ、其ノ家族ノ間ニハ、一般社會生活ニ於ケル共同制ト云フヤウナモノトハ違フタ意味ノ茲ニ特殊共同制、私ノ方ハ、一般社會生活ニハ御互ニ共同制ヲ以テヤラナケレバナラヌト云フモノトハ少シ違ツタ意味ノ特殊共同制ト云フヤウナモノハ此ノ家族ノ間ニハアルト云フヤウナコトハ認メナイト云ノ趣旨デアルカ、ソレカラ又今アリマスル所ノ家族ト、サウシテ後ニ次イデ來ル家族トノ間ノ、先家族、後家族間ノ精神的ノ連續性ト云フヤウナモノハ、之モ認メナイト云フ、御趣旨デアルカト云フコトヲチヨツト伺ツテ置キタイ、ソレハ家督相續トカ、サウ云フモノト關係ハアリマセヌ、ソレハ家督相續ヲ廢メテモサウ云フモノハ殘ル‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 御尋ノ點ハ、社會的ナ事實トシテ存在致シマスル家族制度ハ、此ノ規定ニ依ツテ何等變更ヲ加ヘヨウト意圖シテ居ル譯デハアリマセヌ、唯法律ヲ定ムルコトニ付テ規定デアル譯デアリマス、併シ私共常ニ氣ヲ付ケテ居リマスノハ、法律ノ出來具合ニ依ツテ、實際的ナ社會的ナ此ノ家族制度ニモ影響ヲ受ケルト云フ慮ハアルノデアリマス、其ノ二者ニ亙ル關係ニ於テ、此ノ規定ノ運用ハ餘程能ク注意ヲシナケレバナラヌト、斯ウ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 分リマシタ、私ノ質問ノ言葉ガ少シ足リマセヌデシタ、私ハ矢張リサウ云フモノヲ社會的ノ意味ニ於テノ特殊共同制トカ、社會的意味ニ於テノ先後家族ノ精神的連續ト云フコトニ止マラズ、ソレハ社會的ニハ認メル認メナイト云フコト、アルト云フコトハ疑ナイト云フ考ノヤウデアリマスガ、ソレヲ法的ニ何等カサウ云フコトニ特殊ノ形ヲ與ヘルト云フヤウナコトハ一切此ノ規定デハ出來ナイト云フ、斯ウ云フ趣旨カ、家族制度ト云フ戸主制度ハ廢メテモ、或範圍ニ於ケル所ノ家族ノ間ニハ矢張リ扶ケ合フト云フヤウナ、外ノ社會ト違ツタ意味ノ特殊共同制、ソレカラ又前ニ來ル家族ト後ニ來ル家族トノ精神的連續性ヲ認メルカ認メナイカ、法的ニデスヨ、サウ云フ社會的意識ヲ認メルト云フ特殊共同制ノ法的構想ハ廢メタト云フ趣旨カ御尋スル、モウ一ツ失禮デスケレドモ、モツト具體的ニ申シマスレバ、例ヘバ前ノ時代ニ於ケル親デモ何デモサウ云フモノニ對スル祀リデスナ、子孫ガソレヲ斯ウ‥‥私共ハエライ急進的ノヤウデアルケレドモ、實ハ舊弊デアリマシテ、祖先ナドノ祀リト云フコトハ非常ニ重ンズル思想ヲ持ツテ居ルノデスガ、サウ云フ風ニ先人ノ祀リト云フヤウナコトヲ詰リ認メル、社會的ニハソレハ行ハレマセウケレドモ、併シナガラ誰ガソレヲ祀ルカト云フヤウナ、一ツノ任務ヲ持ツモノデアルカト云フコトハ、是ハ社會的ヨリモ、同時ニ法的ニ何カ構想ガアリ得ルカト思フノデスガ、サウ云フコトハ一切此ノ憲法デハ、サウ云フ法的構想ハ認メナイ趣旨ノモノデ、總テ社會的ノ事實ニ任セルト云フ御趣旨デアルカト云フコト、ソレダケノ御尋デアリマス、ソレノ良イ、惡イヲ言ツテ居ルノヂヤアリマセヌ
○國務大臣（金森徳次郎君） 御説ノヤウニ前ナル者ト後ナル者トガ相承ケテ行クト云フ一ツノ社會的事實ガアリマスルナラバ、適當ナル範圍ニ於テ法律ガ之ヲ採入レテ規定ヲスルト云フコトハ、正當ナ考ヘ方ト思ツテ居リマシテ、此ノ憲法ハソレヲ排除シテ居ルモノト思ハレマセヌ、唯先ニ例トシテ御述ニナリマシタ祀リヲスルトカ云フコトニナリマスルト、稍々普通ノ意味ノ法律デハ扱ハナイコトニナルカモ知レマセヌガ、祀リノ道具ヲ繼承スル、或ハ墓ヲ繼承スル、サウ云フコトニ付テ特別ナル考慮ヲスルコトハ固ヨリ是ハ容認シテ居ルコトト存ジテ居リマス
○佐々木惣一君 イヤ分リマシタ、同時ニ私ハ自分ノ考ヲ言フコトヲ許シテ戴キタイ、私ハ大變滿足シマシタ、是デ若シサウ云フ社會的ノ我々ノ持ツテ居ル感情ヲ、意識ヲ、法的ニ何等カソレヲ取扱フト云フコトガ否定サレタト云フ憲法デアルナラバ、私ハ此ノ憲法自體ニ反對セザルヲ得ナイモノデスカラ、ソレダケ其ノ法的構想ヲドウスルト云フコトハ別トシテ、ソレハ此ノ憲法デ否定シタノヂヤナイト云フ御説明ヲ伺ツテ、御趣旨ノアル所モハツキリトシタシ、私トシテモ非常ニ滿足シタ次第デアリマス、是ダケデアリマス
○霜山精一君 日本ノ家ノ制度ハ非常ニ舊クカラアルモノデアリマシテ、日本ノ社會組織ノ根柢ヲ成シテ居ルモノト思フノデアリマス、殊ニ家ノ制度ハ武家ノ時代ニ於キマシテ最モ發達ヲ致シタノデアリマシテ、ソレハ武家時代ニハ矢張リ家ニ家祿ガ附イテ居リマシテ、サウシテ代々其ノ長男ガ家祿ヲ相續シテ、サウシテ其ノ家ヲ維持シテ行クト云フ、斯ウ云フ點カラ戸主ニ非常ニ重點ヲ置キ、從ツテ又其ノ戸主ヲ繼承スル長男ト云フモノニ重キヲ置イテソレガ財産ヲ相續スル、家祿ヲ相績シテ行クト斯ウ云フコトニナツテ來テ居リマシタノデアリマス、デ明治維新ニナリマシテ泰西ノ文物ヲ採用致シマシテ、個人的ナ思想ガズツト法律制度ノ上ニ入ツテ參リマシタ、社會的ニモ經濟的ニモ法律的ニモ、殆ド個人單位ノ考ヲ以テ入ツテ來タノデアリマスルガ、唯此ノ家ノ民法ノ此ノ親族、相續ノ關係ニ於キマシテハ、矢張リ此ノ家ト云フモノヲ保存致シマシテ、サウシテ家督相續ヲ認メル、戸主ト家族ト云フ一種ノ家族團體ヲ認メテ來ル、斯ウ云フコトニナレバ、非常ニ社會組織ノ單位ヲ家族制度ニ置イテ居ル所ノ日本ト、個人ニ置イテ居ル所ノ外來ノ思想トノ間ニ非常ニ合致シナイモノガ現在ニ於テモアルノデアリマス、是ガドウ云フ風ニ發展シテ行クカ、此ノ個人制ノ思想ト此ノ家族ヲ以テ單位トシテ行カウト云フ思想トガ將來ノ日本ニドウ云フ風ニソレガナツテ行カナケレバナラヌモノデアルカト云フコトハ、是ハ非常ニ大キナ問題デハナイカト考ヘルノデアリマス、私ノ考デハ此ノ家族制度ト云フモノハ昔ハ非常ニ家長ノ權利ガ強クテ、家族ト云フモノハ殆ド奴隷ノヤウナ状態ニ置カレテ、家長ノ頤使ニ甘ンジテ居ル、生殺與奪ノ權ヲ持タレテ居リマシタノデスガ、今日ノ民法ニ於キマシテハ、ソレ程ノコトハアリマセヌケレドモ、段々此ノ家長ノ制度、家長ノ權力ト云フモノハ弱マツテ來テ居ルコトハマア事實デアリマシテ、是ガ更ニ其ノ家長ノ戸主權ト云フモノガ段々弱マツテ來ル結果トシテハ、遂ニ個人制ニ移ツテ行クノデハナイカ、世ノ中ノ進化ト云フモノガ個人制度ニ、社會ノ單位ヲ個人ニ置クト云フコトニ移ツテ行クノガ全體ノ趨勢、世界ノ趨勢デハナイカ、移ル過程ハ色々ナ段階ヲ經テ移ツテ來ルノデアリマセウケレドモ、結局ハ個人制ニ移ツテ行クベキ運命ヲ負フテ居ルノデハナイカト考ヘルノデアリマス、其ノ意味ニ於キマシテ、此ノ第二十四條ノ規定ハ非常ニ重大ナル關係ヲ持ツテ居ルト思フノデアリマス、詰リ個人ノ尊嚴ト兩性ノ本質的平等ト云フコトニ着眼シテ此ノ家族制度ト云フモノヲ眺メテ行キマシタナラバ、之ヲ存續サセテ宜イカドウカト云フコトハ、頗ル疑ハシイノデス、是ダケノ規定ノ精神カラ持ツテ行キマスルナラバ、現在ノ家族制度ヲ維持シテ行クト云フコトハ、此ノ規定ノ精神ニ反スルノデハナイカト云フ風ニ私ハ考ヘテ居ルノデアリマスル、ソコデ私ガ御尋ネ致シマスルコトハ、今日ノ戸主權ト云フモノハ色々ナ權利ヲ包含シテ居リマスルガ、處ガ實際ニ於キマシテハ、此ノ戸主權ノ行使ガ頗ル問題ニナリマシテ、是ガ濫用セラルヽコトガ非常ニ多クノ場合ニ行ハレルノデアリマス、我々ハマア權利濫用ノ問題トシテ、牧野博士ガ此ノ間論ゼラレマシタガ、戸主權ニ付テハ殊ニ權利濫用デアル、サウ云フ戸主權ノ濫用ヲシチヤイカヌト云フノデ、判例デ以テ屡々戸主權ノ濫用ガアルト云フノデ、戸主權ヲ制限スルヤウニ解釋ヲシテ參ツテ來テ居ルノデアリマスガ、斯ウ云フ點カラ見マシテモ、此ノ民法ニ規定シテ居リマスル戸主ノ權利ト云フモノハ相當大キイノデス、居所ヲ指定スル權限ガアルトカ、或ハ色々ナ一々ノコトニ戸主ノ同意ヲ得ナケレバナラヌト云フ風ナコトニナツテ居テ、色々ナ親族相續上ノ行爲ニ付キマシテ、戸主ガ一々同意ヲスルトカ、戸主ノ承諾ガ要ルトカ云フヤウナコトニナル、届ケニ付テモ一々戸主ノ判コガナケレバ分家ノ屆ケモ出來ナケレバ何モ出來ナイ、斯ウ云フ状態ニナツテ居リマスノデアリマスルガ、其ノ今日ノ戸主權ト云フモノヲ維持スルコトガ個人ノ尊嚴ニ反スルモノデアルカドウカト云フ點ニ付テ、政府ノ御所見ヲ伺ヒタイノデアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 斯樣ナ個人ノ尊嚴ト云フ幅ノ廣イ言葉ヲ扱ヒマスル上ニ於キマシテハ、概念的ニハツキリト御答ヲ申上ゲル場面ガナカナカ扱ヒ方ガ困難デアリマシテ、大體現ニ現レテ居リマスル諸種ノ戸主權ノ働キト云フモノヲ一々批判ヲシテ、ソレガ社會ノ通念カラシテ個人ノ尊嚴ヲ害シテ居ルカドウカト云フ考ヘ方ヲ進メテ行クヨリ外ニ致シ方ハナイト思ツテ居リマス、ソシテ現在ノ制度ニ於キマシテ戸主ノ持ツテ居リマスル諸種ノ權能モ、一々調ベタコトハゴザイマセヌケレドモ、大體ニ於テ個人ノ尊嚴ト調和シ兼ネルモノガ多カラウト考ヘテ居リマス
○霜山精一君 只今ノ御説明ニ依リマシテ、大體ニ於テ民法デ認メテ居リマスル戸主權戸主ノ權利ト云フモノガ、個人ノ尊嚴ト相容レナイモノガ多カラウト云フ御考デアリマシテ、私モ全ク同樣ニ考ヘテ居ルノデアリマス、果シテ然ラバ、戸主權ガ此ノ個人ノ尊嚴ト相容レナイモノデアルト云フ見解ヲ取リマスルナラバ、戸主ト云フモノハ即チ戸主權ノ主體ナンデスカラ、其ノ戸主權ト云フモノハドウモ尊嚴ト相容レナイモノデアルト云フコトニナレバ、戸主ハイカヌ、戸主制度ヲ存置スルコトハイカヌト云フコトニナルコトハ、理ノ當然デハナイカト思フノデスガ、其ノ點ハ結局マダ決ツテ居ナイト仰セニナルノデアリマスルケレドモ、今迄ノ議論ノ結果トシテハ、戸主權ヲ認メナイト云フコトガ宜イト云フ御考ナラバ、家ヲ廢スルコトガ宜イト云フ結論ニナルノデアリマスガ、其ノ點ハ如何デゴザイマセウ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ問題ハ今迄度々御答ヘ申シマシタ所ニ依ツテ、私共マダ所見ヲ申上グル段階ニハナツテ居リマセヌ、唯私ノ、是ハ疑問デアリマスケレドモ、家族團體ト云フモノヲ何等カノ意味ニ於テ法律上ノ單位ニ採入レマシタ時ニ、ソレニ何カ事々シイ戸主ト云フモノガ必ズナケレバナラナイカドウカト云フコトガ先決問題トナリマシテ、戸主權ガ惡クトモ、家族團體ヲ何等カノ形ヲ以テ保持スル形式ガ案出出來ルモノデハナカラウカ、殊ニ法律ガ事實ヲ導キ易イモノデアリマスルガ故ニ、若シ此ノ順當ニ發達シテ行キマスル家ノ秩序ヲ、或見地カラ作ツタ法律ガ先ンジテ壞ス、未ダ熟セザルニ先立チ、國民ノ氣分ガソコ迄行カナイ中ニ壞スト云フヤウナコトハ、相當注意ヲシナケレバナラヌノデアリマスルカラ、戸主權ハ縱シンバ、或ハ戸主ハ縱シンバ之ヲ認メナイコトニ致シマシテモ、何等カノ方法ニ依ツテ今迄發達シテ居ル健全ナ家族團體ガウマク存續スルヤウニスルト云フノモ、一ツノ考ダト思ツテ居リマス、私ハ左樣ナ方向ニ於テ考ヘテ居ル次第デアリマス
○霜山精一君 外國ニ於キマシテハ社會組織ノ單位ガ個人ト申シマシテモ、各國ニ於キマシテ矢張リ家族ノ團體ト云フモノガ認メラレテ居ルコトハ間違ヒナイノデアリマス、「ファミリー」ト云フ言葉ハ何處迄モアル、「イギリス」人ノ如キハ「ホーム・スヰート・ホーム」自分ノ「ホーム」ト云フコトヲ城ノ如ク考ヘテ之ヲ守ツテ居ル、サウ云フ状態デアリマスルカラ、事實ヲ個人制ニ置イテ置キマシテモ、サウ云フ家族ガ一團ヲ成シテ共同生活ヲスルト云フコトハ、是ハ自然ノ事實ナンデアリマス、法律ニ依ツテヤル必要ハナイ、デスカラ、戸主、家族ノヤウニ法律ヲ以テ、オ前ハ戸主ダ、斯ウ云フ權利ヲ持ツト云フコトヲ一一規定スル必要ハナイノデアツテ、只今金森國務大臣ノ仰セニナリマシタヤウニ、家ト云フモノヲ廢メマシテモ、親子兄弟ノ自然ノ家族ノ團體ト云フモノハ茲ニ自然ニアル譯ナンデ、ソレニ矢張リ或意味ヲ認メルト云フコトハ是ハ少シモ妨ゲナイコトデアツテ、サウ云フ意味ノ、新シイ意味ノ家族制度ト云フモノガ今後續イテ行クト云フコトハ、是ハ固ヨリ差支ナイト思フノデアリマスケレドモ、民法デ言ツテ居ルヤウナ舊來ノ武家制度カラ來テ居ル所ノ、非常ナ戸主ニ或權限ヲ持タセルヤウナサウ云フ家ヲ存續スルト云フコトハ、此ノ規定ノ精神ニ反スル、斯ウ云フ風ニ私ハ考ヘマスノデ、只今金森國務相ノ言ハレマシタ意味ニ於キマシテハ、或程度ノ家族共同生活ト云フモノヲ認メテ行クコトハ、是ハ大イニ必要ナコトデハナイカト考ヘテ居リマス、ソレカラモウ一點二十四條ニ付テ伺ヒマスルコトハ、「婚姻は、兩性の合意のみに基いて成立」スル、ソレカラ「相互の協力により、維持されなければならない」ト云フコトガ規定サレテ居リマスルガ、是ハ固ヨリ協力ニ依ツテ維持サレルコトハ當然ナコトト思フノデアリマスルガ、私ノ問題ト致シマスル點ハ、夫婦間ニ貞操ノ義務ノアルト云フコトヲ明カニスルコトガ必要デハナイカト云フ問題デアリマス、甞テ大審院ガ男子ニモ貞操ノ義務アリト云フ判例ヲ出シマシタガ、是ハ固ヨリ其ノ判例ニ依ツテサウ云フ義務ガ生ジタノデハナイノデアリマシテ、苟クモ婚姻生活ニ入ル以上ハ、男子ト言ハズ、女子ト言ハズ、互ニ貞操ノ義務ヲ守ラナケレバナラヌコトハ、是ハ血ノ沌潔、日本國民ノ沌潔ヲ維持スル上ニ於キマシテ、最モ大切ナコトデアルノデアリマス、今日ノ法律ニ於キマシテハ女子ノ姦通ハ之ヲ罰シテ居リマシテ、男子ノ姦通ニ付テハ之ヲ罰シテ居ラナイノデアリマス、ケレドモ、ソレハ姦通罪ヲ罰スルカドウカト云フコトデアリマシテ、極ク政策的ナ結果ナノデアリマス、本來ハ罰スルト否トニ拘ラズ、貞操ノ義務ヲ相互ニ負ツテ居ル譯ナノデアリマス、或ハ又民法ナドニ於キマシテハ、貞操ノ義務ニ違反シタ場合ニハ離婚ノ原因ニナル、斯ウ云フ風ナコトニナルデアリマセウガ、サウ云フ風ニ罰スルトカ離婚ノ原因ニナルトカ云フ、サウ云フ消極的ナ意味デ此ノ貞操ト云フコトヲ見ルノヂヤナクシテ、血ノ沌潔ト云フ意味カラ積極的ニ此ノ貞操ノ義務ガ双方ニアルト云フコトヲ規定スルコトガ是ハ非常ニ必要ナコトデアルノデアリマシテ、寧ロ二十四條ニ其ノ意味ヲ宣言スルコトガ非常ニ私ハ必要ナ點デハナイカト考ヘテ居ルノデアリマスルガ、其ノ點ノ所見ヲ伺ヒタイノデアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 實質ニ於テ御説ノ通リ兩性各々貞操ノ義務ヲ持ツベキコトハ當然ト思ツテ居リマス、此ノ憲法ノ規定ハ明白ニ其ノ旨ヲ明カニハシテ居リマセヌケレドモ、「相互の協力により、」ト云フヤウナ言葉ノ含蓄ノ中ニハ、或ハソコ迄入ツテ居ルノデハナイカト云フヤウナ氣ガ致シマスルケレドモ、確タル實ハ見解ハ持ツテ居リマセヌ
○霜山精一君 或國ノ憲法ニ於キマシテハ其ノ點迄明瞭ニ憲法ニ書イテ居ル例ニアルヤウニ考ヘルノデアリマシテ、其ノ點カラ申上ゲタノデアリマシテ、私ノ質疑ハ之ヲ以テ終リマス
○松村眞一郎君 私ハ婚姻ニ付テト云フコトデ質問ヲ致スコトニ通告シテ置キマシタガ、私ハ度々申スノデスガ、第三章ハ天皇ニハ適用ナイ、斯ウ云フ思想デ進ミタイ、ソレハ矢張リ婚姻ノ問題ニ付テモサウ云フコトヲ私ハ感ゼラレル、ソレハ個人ノ尊嚴ト兩性ノ本質的ナ平等ニ立脚スルト云フコトニナリマスカラ、婚姻ニ付テハ身分門地ノ如キモノハ問ハナイ、斯ウ云フコトニナル譯デアリマス、是ハ非常ニ好イ思想デアリマスカラ、其ノ思想ヲ私ハ惡イト申スモノデハナイ、大變結構ナモノデアリマス、尚一方ニ於キマシテ、天皇ハ日本人デアリ、日本民族ノ中ニ屬シテ居ラレル方デアルト云フコトハ是ハモウチツトモ議論ガナイ、唯憲法トシテ法規的ニ規定致シマス場合ニハ、第三章ノ國民ニハ天皇ヲ含メナイ方ガ宜シイ、斯ウ云フノデアリマスカラ、其ノ點ハ能ク御了解ヲ願ヒタイ、ソコデ今度皇室典範ヲ御定メニナリマスル時ニ、其ノ重要ナル點ハ、皇位繼承ニ付テノ範圍ガ定メラレルコトト存ジマス、今日ノ皇室典範ニ於キマシテハ、第七條ニ「最近親ノ皇族ニ傳フ」ト云フ規定ガ一番終リニナツテ居リマスカラ、結局皇位繼承ハ皇族ノ範圍内ニ於テ行ハレル、斯ウ云フコトニナルト存ジマス、其ノ點ドウデアリマスカ、サウダト思ヒマスガ如何デスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） サウナルヤウニ考ヘマス
○松村眞一郎君 サウナリマスト現行ノ皇室典範ハ大變ニ皇族ノ尊嚴ヲ維持スルト云フ趣旨デ規定ガ非常ニ鄭重ニ出來テ居ルノデアリマス、例ヘバ三十九條ニハ「皇族ノ婚嫁ハ同族又ハ勅旨ニ由リ特ニ認許セラレタル華族ニ限ル」ト云フ譯デ、同ジ華族デアツテモ特ニ認許ガナケレバナラヌ、今度華族ガナクナリマシテ、此ノ規定ノ適用ガナイコトニナル譯デアリマス、サウシテ四十四條ニハ「皇族女子ノ臣籍ニ嫁シタル者ハ皇族ノ列ニ在ラス」ト云フ工合ニ、サウ云フ所ノ區分ガ極メテ明瞭ニ定メラレテ居ルノデアリマシテ、是ハ矢張リ身分ニ付テ重要ナル考慮ガ拂ハレテ居ルト云フコトニナルト思ヒマス、且典範ノ増補ノ規定デ第二條ニハ「王ハ勅許ニ依リ華族ノ家督相續人トナリ又ハ家督相續ノ目的ヲ以テ華族ノ養子トナルコトヲ得」ト華族ノ養子ノ途ガ拓カレタノデアリマス、第六條ニハ「皇族ノ臣籍ニ入リタル者ハ皇族ニ復スルコトヲ得ス」ト斯ウ云フ風ニ一旦臣籍ニ御降リニナツタ者ハ復サレナイト云フコトガ明瞭ニ書イテアリマスノデス、大正七年ノ典範増補ニハ「皇族女子ハ王族又ハ公族ニ嫁スルコトヲ得」是ハ朝鮮ノ關係デゴザイマス、ソコデ、是以外ニハ御降嫁ニナル方ハナイト云フ工合ニ極メテ限定シテ御定メニナツテ居ルト云フコトハ、結局皇室ノ尊嚴ヲ維持スルコトニナルノデアリマス、或意味ニ於テ申シマスト、身分ト云フモノガ非常ニ尊重サレテ居ルト云フコトニナルノデアリマスカラ、第三章ノ規定ガ是トサウ云フ御方々ニ適用ガアツテ、然ル後ニ又第一條ノ象徴タル關係カラ、ソレハ別ノ例外ノ規定ヲ設ケルト云フ‥‥別ノ例外ノ規定デ取扱フノデアルト云フ金森國務大臣ノ此ノ廻リ諄イ解釋ヨリモ、端的ニ私ノ申上ゲタ方ガ宜イト云フコトガ茲デ分ル譯デアリマスガ、此ノコトハ日本ノ皇室典範ノ方ハ、妃殿下ノ方ノ身分ニ付テハ、實ハ明瞭ナ規定ガアリマセヌ、皇族ガ妃殿下ヲ御迎ヘニナリマス時ニ、ドノ位ノ範圍ニ於テ身分ノ御考慮ガ要ルノカト云フコトハアリマセヌ、併シ或程度ノ御考慮ハアルベキデアルト考ヘマス、ソコデ問題ハ此ノ象徴タル尊嚴ノ關係カラ申シマシテ、サウ云フヤウナコトニ付テ考慮ヲ拂フト云フコトハ、私ハ決シテ時代遲レノモノデモナイト思フノデアリマス、是ハ「イギリス」ノ例ヲ申シマスト、是ハ今度ノ戰爭ノ前デアリマスカラ古イヂヤナイカト仰シヤレバ別デアリマス、前ノ大戰ノ直グ後「ボールドウヰン」内閣ノ時ニ、國王陛下ガ身分ノソグハナイ女子ノ方ト御結婚ヲサレルト云フ問題ガ起ツタノデアリマス、英國全體ガ非常ニ其ノ爲ニ騷イダノデアリマス、議會デ問題ニナリマシタ時ニ「ボールドウヰン」總理大臣ハ答ヘテ曰ク、是ハ「モルガナテイック・マリッヂ」デアルカラ宜イモノトハ考ヘナイト斷案ヲ下サレタ、結局ドウ云フコトニナリマスカト云フト、「モルガナテイック・マリッヂ」ト云フノハ身分ノ違フ女子ヲ妻トスルコトヲ申スノデアリマシテ、其ノ結婚ノ結果ハ、御妻及ビ御生レニナツタ、御子樣ハ外ノ關係ニ於テハ何等不平等ナ取扱ハナサレマセヌケレドモ、夫ノ尊貴ノ地位ニ伴フ妻及ビ子ノ尊貴ノ地位ニハ立ツコトハ許サレマセヌ、王位繼承ノ場合ニハ御子樣ハ御入レシナイ、斯ウ云フコトガ「イギリス」ノ不文法デアリマス、是ハ本ハ大陸カラ來テ居ルノデアリマシテ、寧ロ「フランス」ノ方ガサウ云フ思想ガ昔カラ非常ニ進ンデ居リマス、「マリアーヂュ・モルガナチーク」ト云ウテ居リマス、サウ云フ風ナ考ヲ矢張リ頭ノ中ニ入レテ皇位繼承ノコトヲ規定スルト云フコトガ私ハ非常ニ宜イコトヂヤナイカト考ヘルノデアリマスカラ、ソンナヤウナ意味ニ於テモ御考慮ヲ戴キタイト云フコトガ私ノ此ノ質問ヲ致シマス意味ノ要點デアリマス、皇室典範ヲ御定メニナリマス時ニハ矢張リ皇位繼承ノ範圍ニ付テノ相當ノ御考慮ガ私ハアルダラウト思ヒマス、サウダラウト存ジマスルガ、其ノ點ダケ御答ヲ得タイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 今松村委員カラ御示シニナリマシタ點ハ、今後皇室典範ヲ起案致シマスル際ニ於キマシテハ、適當ナル方法ヲ以テ十分ノ考慮ヲ加ヘタイト、加フベキモノト考ヘテ居リマス、唯此ノ華族制度ハナクナリマスル結果ト致シマシテ、形式的ニ範圍ヲ限定スルガ如キコトハ困難カモ知レナイト存ジマスルケレドモ、實質的ニ間違ヒノ起ラナイヤウナ方法ヲ考ヘタイ、斯ウ云フ風ニ存ジマス
○松村眞一郎君 私ノ質問ハ此ノ際ハ此ノ程度デ止メテ置キマス
○委員長（安倍能成君） 牧野君ハ如何デスカ
○牧野英一君 司法大臣ハオイデニナラヌヤウデスカラ質問ノ要領ダケデモ述ベテ置キマセウカ‥‥併シ御都合デ‥‥
○委員長（安倍能成君） 四時ニナリマスカラ今日ハ閉會ニ致シマス、明日ハ九時半カラ始メマス
午後四時一分散會
出席者左ノ如シ
委員長 安倍 能成君
副委員長 伯爵橋本 實斐君
委員
公爵岩倉 具榮君
侯爵細川 護立君
侯爵淺野 長武君
伯爵後藤 一藏君
三土 忠造君
子爵大河内輝耕君
大谷 正男君
男爵白根 松介君
子爵織田 信恒君
子爵高橋 是賢君
子爵三島 通陽君
子爵松平 親義君
山田 三良君
平塚 廣義君
牧野 英一君
佐々木惣一君
松村眞一郎君
村上 恭一君
男爵飯田精太郎君
霜山 精一君
下條 康麿君
川村 竹治君
岩田 宙造君
男爵松田 正之君
男爵渡邊 修二君
男爵松平 齊光君
田所 美治君
野村 嘉六君
澤田 牛麿君
松本 學君
宮澤 俊義君
結城 安次君
瀧川 儀作君
淺井 清君
渡邊 甚吉君
國務大臣
國務大臣 男爵幣原喜重郎君
司法大臣 木村篤太郎君
文部大臣 田中耕太郎君
國務大臣 齋藤 隆夫君
國務大臣 金森徳次郎君
政府委員
法制局長官 入江 俊郎君
法制局次長 佐藤 達夫君
