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第九十回帝國議會貴族院 帝國憲法改正案特別委員會議事速記録第二十號
付託議案◎帝國憲法改正案
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昭和二十一年九月二十三日（月曜日）年前九時四十八分開會
○委員長（安倍能成君） ソレデハ會議ヲ開キマス、第六章ノ司法、七條ヲ一括シテ、議題ニ供シマス、牧野委員、諄イヤウデスガ、出來ルダケ簡單ニ願ヒマス
○牧野英一君 簡單ニヤリマス、八點バカリノ疑ガゴザイマスルノデ御伺ヒ致シマスルガ、先ヅ第一ニハ、彈劾審査及ビ任期ヲ限ツテアルト云フコトノ件デアリマス、特ニ彈劾ニ付テハ前ニモ申上ゲマシタガ、司法權ノ獨立ト云フモノヲ完ウスル爲ニハ、佐々木委員ノ説ニ依ルト、俗論カラモ獨立セシメル工夫ヲシナケレバナリマセヌノデ、彈劾ト云フヤウナ制度ハドウ云フモノカト考ヘマス、審査モサウデアリ、任期ノ點モサウデアリマスガ、是ハ實ハ前ニ一應、此ノ政府ノ御説明モ伺ツタコトデゴザイマスルカラ、今日ハ重ネテ申上ゲマセヌ、唯斯ウ云フコトガ司法ノ將來ニ於ケル第一ノ疑デアルト云フコトヲ申上ゲテ置キマス、ソコデ第二ノ質問ト致シマシテハ、斯樣ニ彈劾ノ制度ガ設ケラレテ居リマスルガ、彈劾ト云フコトニ付テノ直接ノ規定ガ見エナイヤウニ思フノデス、何處カニ彈劾ト云フコトガ豫定サレテ居ツテ、サウシテ其ノ爲ニ、例ヘバ修正案第六十四條ノヤウナ規定ガアリ、又修正案第七十八條ノヤウナ規定ガゴザイマスノデ、サウ云フコトヲ豫定シナイ、唯素直ニ法ヲ讀ンデ見マスト云フト、一體何時何處デ彈劾サレルコトニナルノカト、斯ウ云フヤウナ疑ガ免レナイヤウニ思ヒマス、ソレデアリマスカラ、彈劾ト云フ制度、是ハ政府トシテハ、餘程御得意ノ制度デアルト、此ノ前モ仰シヤヒマシタノデ、サウナレバ、彈劾ト云フコトニ積極的ナ規定ヲ設ケテ戴イタラドウ云フモノカト思フノデゴザイマス、是ハ規定ノ形式ノ議論ニナルカト思ヒマスケレドモ、彈劾ト云フコトガ、政府ノ特ニ重要視セラレテ居ル制度デアルダケニ、私ハ其ノ點ヲ特ニドウ云フモノカト御説明ヲ伺ヒタイト思ヒマス、此ノ點ハ如何デゴザイマセウ
○委員長（安倍能成君） 司法大臣デアリマスカ
○牧野英一君 是ハ金森國務相カラ、今迄御話ヲ伺ツタノデスカラ、金森國務大臣カラ
○國務大臣（金森徳次郎君） 彈劾ト云フコトハ、固ヨリ具體的ニ致シマスル時ハ、其ノ内容ガ秩序整然ト規定セラレナケレバナリマセヌケレドモ、憲法ノ面ト致シマシテハ、大體彈劾ト云フ言葉デ、殊ニ公ト云フ言葉ヲ附ケマシテ、而モ裁制官ノ任務權限ノ方ニ於テ懲戒ヲ擧ゲ、一方ニ於テ、公ノ彈劾ト云フモノヲ擧ゲテ居リマスガ故ニ、目的ト公ト云フコトニ依リマシテ、手續ノ二ツノ意味ガ之ニ依ツテ明カニナツテ居リマシテ、サウシテ此ノ際裁判官ノ彈劾ト云フモノガ、國會ノ方ノ裁判所ニ依ツテ行ハレルト云フコトガ、私共、此ノ二ツノ所ニ規定ガアリマスル爲ニ、略々分ルモノト考ヘテ居リマス
○牧野英一君 サウ云フコトニナル今ノ御説明ノ御趣旨ハ、了解致シマシタ、私トシテハ明瞭ニ、積極的ニ裁判官ハ公ノ彈劾ニ依ツテ罷免セラレルコトガアルト云フコトヲ眞正面カラ先ヅ原則ヲ掲ゲテ、サウシテ第一ニハ、國會ガ彈劾ヲスル、第二ニハ、其ノ彈劾ニ依ルニ非ザレバ罷免セラレルコトガナイト、斯ウ云フヤウナ順序デ御書キ下サルト云フト、素直ニ我我ノ頭ニ入リハシナイカト思フ、是ハ恐ラク規定ノ形式ノ話ニナリマセウガ、私共ノ、サウ素直ニモノヲ理解シタイト云フ趣旨ノコトモ御考慮願ヘレバ、有願イト思ヒマス、折角、此ノ憲法ヲ誰ニデモ容易ク分ルト云フ趣旨デ、色々御苦心ニナツテ居ラレルノデスカラ、突如トシテ、彈劾ト云フ言葉ガ出ルト云フヤウナ感ジノナイヤウニ御配慮ヲ煩シタイト思フヤウナ次第デアリマス、ケレドモ、修正案七十八條ニ公ノ彈劾ト、斯ウ書イテアレバ分ルヂヤナイカ、斯ウ仰シヤレバソレダケノコトデ意見ノ相違ト云フコトニナリマセウ、今度ハ質問ノ第三ト致シマシテハ、下級裁判所ト云フ言葉ガ用ヒテアリマス、最高裁判所ニ對シテ、下級裁判所デアリマスガ、是ガ私自身異樣ニ感ジマシタ、殊ニ此ノ憲法ノ下ニ各裁判所構成法、其ノ他ノ法規ノ立案ト云フコトヲ考ヘテ見マスト、今ノ此ノ下級裁判所ト云フコトガ耳障リニナル、下級裁判所ト云フコトデ、普通ノ人ガドウ云フコトヲ考ヘルカト思ツテ二、三ノ人ニ聽イテ見マスト、區裁判所、セイゼイ地方裁判所程度ノコトヲ考ヘルノデ、控訴院ト云フモノニナルト、下級裁判所ト云フ言葉デハ映リガ惡イト、斯ウ思ヒマス、是モ言葉ノ爭ヒデアリマスガ、寧ロ差當リ私ガ考ヘテ居ル所デハ、普通裁判所トデモシテ戴イタラ、ドウ云フモノデゴザイマセウカ英譯ノ中ニハ「インフェリオル」ト云フ言葉ガ見エテ居リマスルガ、モウ少シ控訴院、而モ此ノ控訴院ハ御示シニナツタ司法制度審議會ノ一應ノ中間報告ニ依ルト云フト、高等裁判所ト云フ名稱ガ附セラレテ居リマスガ、下級裁判所中ノ高等裁判所ナドト言フト、映リガドウ云フモノカ、是モマア、文字ノ詮議ニ歸着スルト仰シヤレバ、ソレ切リデアリマスガ、苟モ此ノ高等裁判所、重大ナル權限ヲ持ツ高等裁判所ガ憲法ニ於テ下級裁判所ト云フ言葉デ現レテ居ルト云フコトハ、思想トシテ裁判所ノ權威ニモ關スルト言フコトハ、私ハチト言ヒ過ギデゴザイマセウカ、是モ一應御考ヲ願ヒタイ、唯是ハ文字ノ議論デアリマスノデ、餘リニヤカマシク言フノハ恐縮デゴザイマスガ、如何ナモノデゴザイマセウカ、是ハ金森國務相カラ御答ヘ願フナラバ結構デゴザイマスケレドモ、寧ロ司法大臣ノ御心持、即チ控訴院ヲ現ニ引廻テオイデニナル司法大臣ノ御心持ヲ一ツ伺ヒタイ
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、一應尤モナ御議論ノヤウニ拜承スルノデアリマスルガ、此ノ下級裁判所ト云フ文字ヲ使ヒマシタノハ、最高裁判所カラ見テノ下級裁判所デアリマス、此ノ下級裁判所トハ、今御話ノヤウニ控訴院ニ代ルベキ高等裁判所、地方裁判所、單位裁判所ト云フモノヲ包含セシメル意味デ使ツタノデアリマス、繰返シテ申シマスガ、最高裁判所カラ見テノ下級裁判所ト、斯ウ云フ意味デアリマス
○牧野英一君 誠ニ御尤モナ御説明デゴザイマスガ、高等裁判所ト云フモノハ、全ク偉イモノデ、控訴院以下ハ普通我々ノ考ヘル裁判所ダト、斯ウ云フ位ナ心持デ、私ハ普通ト云フ言葉ノ方ガ穩カデハナイカト思フノデアリマスガ、御説明ノ趣旨ハ誠ニ御尤モニ存ジマス、ソレデ質疑ノ第四ニ移リマスルガ、是ハ最高裁判所ガ規則ヲ定メルコトガ出來ルト云フ修正案第七十七條デゴザイマスガ、「最高裁判所は、訴訟に關する手續、云々」ノ「規則を定める權限を有する。」是ハ此ノ最高裁判所ノ定メマスル規則ト法律トノ關係デゴザイマスルガ、例ヘバ民事訴訟法、刑事訴訟法ト云フヤウナモノハ法律デ決ルニ違ヒアリマセヌガ、訴訟ニ關スル手續ニ付テ規則ヲ設ケルト言ヒマスト、民事訴訟法、刑事訴訟法、此ノ規則トノ境ハ、ドウ云フヤウナ所デ決ルモノデゴザイマセウカ、是モ司法大臣ノ御心持ヲ伺ヒタイ
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、申ス迄モナク、此ノ訴訟ニ關スル手續ト申シマシテモ、民事訴訟法、或ハ刑事訴訟法ノ如ク、一般國民ノ權利、義務ニ直接關係アルモノハ、此ノ中ニ入ラヌコトハ、當然言フヲ俟タヌノデアリマス、此處ニ掲ゲマシタ、「訴訟に關する手續」ト言フノハ訴訟ノ實際ノ運營ニ當リマシテ、圓滑ニ進ミ得ル爲ノ手續デアリマス、現在ノ民事訴訟法、刑事訴訟法中ニモ、實ハ此ノ「訴訟に關する手續」ニ該當スベキモノハ多少アルダラウト思ヒマス、私ヨリ御説明申ス迄モナク、萬々御承知デアリマセウガ、現在ノ訴訟手續ニ於テモ、全クノ訴訟運營ニ關シテ、實際ニ適用スベキ手續關係ノ條文ハ幾ラモアリマス、其ノ限界ト云フモノハ、ナカナカハツキリハ附ケラレマセヌ、併シ、今度ノ訴訟手續ヲ改正スルニ當リマシテハ、サウ云フコトハ十分考慮ヲ致シタイト思フノデアリマス、要ハ訴訟ニ關スル手續ト云フ、實際ノ訴訟事務ノ運營ニ當ツテノ所謂、「プラクチカル・ルール」サウ云フモノヲ指シテ居ルノデアリマス
○牧野英一君 折角規則ヲ御拵ヘニナツテモ、法律ニ違反スルト云フコトデ、例ヘバ刑事訴訟デゴザイマスト、第三章ノ所ニ「何人も、法律の定める手續によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」ト、斯ウ書イテアリマスカラ、折角ノ規則ガ法律デ出來テ居ラヌト云フ爲ニ、最高裁判所デ憲法違反ノ宣言ヲ受ケルト云フヤウナコトニナルト殘念ニ思ヒマス、サウ云フ所カラ法律ト規則トノ境ト云フモノヲ、何カハツキリシテ置カヌト行クマイカト思ツタノデゴザイマスガ、只今ノ御説明ヲ伺ヒマスト云フト、外部ニ對シテ法律關係、權利關係ヲ生ズルヤウナ場合ニハ、法律デヤル、唯單ニ手續ヲ滑カニスル程度ニ於テハ、規則デ宜シイ、コンナヤウナ工合カト伺ヒマシタガ、恐ラク是ハ更ニ學説ノ上デ、我々ガ考ヘネバナラヌコトデゴザイマスケレドモ、權利關係ヲ發生スルモノハ法律デ、サウデナイモノノホンノ便宜ノ爲ノ手續ハ規則デ宜シイト云フ位ニ伺ツテ置イテ宜シイノデゴザイマセウカ、ソコデ更ニ御伺ヒ致シタイノハ、質問ノ第六ニナリマスガ、此處ニ「辯護士」ト云フ言葉ガアリマスガ、辯護士ニ關スル、今ハ辯護士法ガアリマスガ、此ノ辯護士ニ關スル規則ト云フコトデ、辯護士法ト辯護士規則ト云フモノガ出來マスカ、讀ミ違ヒヲシテ居リマスカ知リマセヌガ「辯護士」トアリマスト、今日ノ辯護士法迄ガ最高裁判所ノ規則デ定メラレルヤウナ氣ガ致シマスガ、其處ハドウ云フヤウナモノニナリマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 現在ノ辯護士法ノ如キモノハ之ニ當ラヌト、私ハ解釋シテ居リマス、此ノ辯護士ニ關スル規則ハ、矢張リ實際ノ訴訟手續運營ニ當ツテ申ス迄モナク辯護士ト裁判所、檢事ハ相對立スルト申シマセウカ、或ハ一體ト申シマセウカ、訴訟運營ニ當ル一ツノ當事者ニナツテ居リマス、其ノ訴訟ヲ運營スルニ當ツテノ辯護士トノ關係ニ於ケル一ツノ「ルール」ヲ作ツテ行カウト云フコトデアリマス
○牧野英一君 實際ノ運用ニ付テハ相當ニ問題ヲ免レヌト思ヒマスガ、是モ現在ノ辯護士法ノヤウナモノ、即チ特ニ外部ニ對シテ權利關係ヲ生ズルヤウナモノハ法律デ定メルベキモノデアルト云フ御趣旨デアルト、斯ウ今伺ヒマシタ、サウ致シマスルト、今度ハ訴訟ニ關スル手續、辯護士ニ關スル事柄デ、法律ガ委任ヲスレバ、矢張リ政令デナク、最高裁判所ノ規則ニ依ツテ、委任ニ係ル事項ヲ規定スルコトガ出來ルヤウニナルモノデアリマセウカ、如何デアリマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 法律デ委任サレレバ、左樣ニナルト考ヘマス
○牧野英一君 是ハ委任命令ト云フコトニ關聯ヲ致シマシテ、委任規則ト云フモノガ考ヘラレルコトニナリマスガ、委任命令に關スル色々ノ議論ガアルト同ジヤウニ是モマア相當ニ御考慮ヲ願ハネバナラヌ問題ニナリハシナイカト思ヒマスガ、御心持ハ分リマシタ、此ノ程度ニ止メテ置キマス、今度ハ質問ノ第七ト致シマシテ、裁判所ハ憲法ト法律ニノミ拘束サレルト云フ規定ガゴザイマスガ、是ハ政令、規則等ニハ拘束サレナイト云フコトニナルモノデゴザイマセウカ、ドウ云フコトニナリマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 此ノ七十六條ノ「この憲法及び法律にのみ拘束される。」ト申シマスノハ申ス迄モナク裁判官ノ獨立的地位ヲ保障スル爲ニ設ケラレタモノデアリマシテ、其ノ地位及ビ身分ニ關シテノ保障ノ意味デ「この憲法及び法律にのみ拘束される。」斯ウ云フ規定ニナツテ居リマス
○牧野英一君 是ハ私ガ讀ミ違ヒヲシテ居ツタカトモ實ハ考ヘラレルノデアリマスガ、「その良心に從ひ獨立してその職權を行ひ」此ノコトニ付テ、憲法又ハ法律ガ之ヲ拘束スルコトガ出來ル、斯ウ云フ御趣旨ニナリマスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 左樣デゴザイマス
○牧野英一君 サウシマスルト云フト、裁判所ガ良心ニ從ヒ獨立ニ職權ヲ行フコトニ付テ議會ガ適當ニ制限ヲスルコトガアルノハ、良心ニ從ハナイデヤレト云フコトガ、チト言葉ハ荒ウゴザイマスガサウ云フヤウナ所迄行キマスト云フト、相當ニ三權分立ノ趣旨、即チ司法權ノ獨立ト云フモノニ影響ガアルヤウニ思ヒマスガ、ドウ云フコトニナリマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 其處迄ハ考ヘテ居リマセウ、詰リ憲法上ノ地位ヲ保障シヨウト云フノデアツテ、法律ヲ運用スルニ當リマシテハ、此ノ憲法及ビ法律ニ基イテヤル譯デ、又一方カラ考ヘマシテモ、今申上ゲマシタ通リ、主トシテ地位ヲ保障スルモノデアリマス、其ノ外ノ政令デ以テ、其ノ地位ヲ動スコトノ出來ナイヤウニシテ居ル譯デアリマス、サウ云フ建前デゴザイマス
○牧野英一君 御趣旨ハ大分理解ガ出來ルヤウニナツタト思ヒマスガ、私ガ一應「テキスト」ヲ讀ミマシテ理解シマシタ所ハ、今日ノ所デハ、裁判所ハ憲法ト法律ニノミ拘束サレナイ、斯ウ云フコトニナツテ居リマスルノデス、法律ノ憲法違反ナリヤ否ヤト云フコトハ、大審院ハ之ヲ審査スルコトハ出來マセヌガ、命令ニ付テハ審査出來ル、是ハ現ニ大審院ガ判例ヲ以テ我々ニ示シテ居ル所デアリマス、即チ裁判所ハ憲法及ビ法律ニノミ拘束サレルト云フコトハ、サウ云フ意味ニ今日迄使ハレテ居ツタ一ツノ言葉ト存ジテ居リマス、然ル處、此ノ憲法改正案デハ、最高裁判所ハ法令全體、即チ命令、規則、處分ニ至ル迄憲法ニ適合シテ居ルヤ否ヤト云フコトノ審査權ヲ持ツテ居ルノデアリマスルカラ、私共ガ從來考ヘテ居ツタ裁判所ガ憲法及ビ法律ニノミ拘束セラレルト云フ言葉トハ、此處ハ餘程違ツタ意味ニナリマスルノデス、裁判所ノ獨立權ハ、憲法及ビ法律デ之ヲ拘束スルコトガ出來ル、斯ウ云フ意味ニナルヤウニ、今ノ御説明デ伺ヒマシタガ、是ハ内容的ニ一ツ御考ヲ願ヒタイト存ジマス、司法權ノ獨立ト云フモノヲ、議會ノ議決デ何時デモ動カセルト云フヤウナコトニナリマスノハ、恐ラクハ此ノ憲法ノ精神カラ理解出來得ルデゴザイマセウカ、此ノ憲法ハ餘程司法權ノ獨立ヲ、現在ノ憲法ノ精神ト云ツテハ、惡ウゴザイマセウガ、實際ノ運用ヨリモ重ク見テ居ルノデゴザイマス、ソレガ片方デハ、裁判官ハ公ノ彈劾ニ依ツテ國會カラ動カサレル、又法律ニ依ツテ其ノ獨立ガ如何樣ニデモ拘束サレルト云フ決メ方ニナツテ居ルノハ、司法權ノ獨立ト云フコトニ付テ、格別ノ關心ヲ持ツテ居ル我々トシテハ、甚ダ理解シ難イヤウニ思ヒマスルガ、重ネテ伺ツテハ相濟ミマセヌケレドモ、司法大臣ノ御心持ヲ伺ツテ置キタイ
○國務大臣（木村篤太郎君） 御説御尤モデアリマスルガ、併シ裁判官モ申ス迄モナク、一般ノ公務員デアリマス、國民ノ詰リ總意ニ從ハナケレバナラヌ建前ヲ此ノ憲法ハ執ツテ居ルノデアリマス、併シ今申ス迄モナク、徒ニ法律デ以テ裁判官ヲ拘束スルト云フヤウナコトハ、實際ニ於テハ、運用上ナカラウカト思ハレル次第デアリマス
○牧野英一君 是ハ尚、私モ研究ヲ重ネマスルガ、何レ憲法ノ專門ノ方カラシテ何カ又質問ガオアリニナリハシナイカト思ヒマスルノデ、私個人トシテモ、十分重ネテ研究致シマスルト云フ程度デ、此ノ質問ヲ打切リマス、今度ハ第七番目ノ質問ニナリマスルガ、公開ヲ止メル場合デアリマス、最後ノ規定、修正案八十二條、政府原案七十八條デアリマスルガ、大審院ハ或場合ニハ公開シナイデ行フコトガ出來ル、但シ是々ノ場合ハ「公開しなければならない。」「この憲法第三章で保障する國民の權利が問題となつてゐる事件の對審は、」トアリマス、是ハ前ニ、第三章ノ始リニ於テ、金森國務大臣ノ御考ヲ伺ヒマシタ、此ノ基本的人權ト云フコトハ、第三章ニ個別的ニ書イテアル事柄ヲ御示シニナルノカ或ハ第三章ニ個別的ニ規定シテアル以外ニ尚廣ク基本的人權ト云フモノガアルト云フノガ御趣旨デアルカ、斯ウ云フ風ニ伺ヒマシタ時ニ、私ノ心持ダケヲ申シマスレバ、第三章ノ規定ハ基本的人權ノ原則ヲ決メテ、其ノ適用ヲ掲ゲタモノデアルカラ、第三章ノ列擧以外ニハ、此ノ憲法ノ解釋トシテノ基本的人權ト云フモノハナイト、斯ウ思ツテ、私ハ質問ヲ申シ上ゲマシタ、處ガ、サウデナイ、各條ノ規定ハ基本的人權ノ「エギザンプル」デアツテ、其ノ外ニ色々ナモノガ考ヘラレルト云フコトデアリ、此ノ點ハ佐々木委員カラモ重ネテ駄目ヲ御押シニナツテ、同ジヤウナ御答ヘデアリマシタ、サウ致シマスルト云フト、第三章デ保障スル國民ノ權利ト云フモノハ、權利トアリマスルカラ、矢張リ基本的人權ト云フコトニナルカトモ心得ルノデアリマスガ、ソレニ依リマスルト云フト、此ノ規定ノ運用ノ界ガ甚ダ不明瞭ニナリ、從ツテ其ノ裁判ガ憲法違反ニナルト云フ虞ガアルト云フコトニナリハシナイカ、尚ドンナモノガ基本的人權カト云フコトハ、廣イ意味ニ於テハ範圍ガ分リニクイノデアリマシテ、殆ド實際ニ於テハ、公開ヲ止メテ對審ヲスルコトガ出來ナイコトニナリハシナイカ、斯ウ思ヒマスル、尤モ今私ノ考ヘテ居ル處デゴザイマシテモ、個人ノ人格尊嚴ハ之ヲ尊重スルト云フコトガ、此ノ第三章ニ見エテ居ルノデゴザイマス、ガ實際我々ガ裁判所デ對審ノ停止ノ場合ニ遭遇スルノハ、マア風俗ニ關スル犯罪等デゴザイマスガ、併シ風俗ニ關スル罪ト云フモノハ、個人ノ人格ニ直接及ブモノデアリマスルシ、ソレガ基本的人權ニ屬スルモノト致シマスルト、努メテ公開シナケレバナラヌコトニナル、コンナコトニナルカトモ思ヒマスルシ、又ソレヲ離レテ、廣ク基本的人權ト云フ概念ヲ構成シナケレバナラナイト云フコトニナリマスルト、此ノ公開停止ノ規定ト云フモノハ、實際上應用ノ餘地ガ甚ダ狹イノデハナイカト云フ虞ガアルノデ、是ハモウ一ツ何トカ御考ヲ願フコトガ出來マイカト思フノデアリマスル、司法大臣ノ御心持ハドウノンデゴザイマスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 今ノ御議論ハ誠ニ御尤モデアリマス、私ト致シマシテハ、左樣ナ廣イ範圍デ此ノ規定ガ適用ニナルベキモノデハナイト云フ解釋ヲ執ツテ居ルノデアリマス、今ノ御示シニナリマシタ風俗問題ノヤウナ事件ニハ、是ガ廣ク基本的人權ニ關係スルモノダトシテ、孰レノ場合ニ於テモ公開シナケレバナラナイト云フヤウナ意味合ノモノデハナカラウカト考ヘテ居リマス
○牧野英一君 サウ云フ御趣旨デアツテ、内容的ニハ私ト意見ガ御同樣デアラレルト云フコトニナリマスルト、ドウモ此ノ憲法第三章デ保障スル國民ノ權利ト云フ言葉ガ非常ニ懸念ニナリマスノデ、是モ一ツ、御考慮ヲ仰ギタイト考ヘル次第デゴザイマスル、第八點トシテ、モウ一ツ小サナコトヲ伺ヒマス、裁判所ノ構成及ビ裁判官ノ身分ノコトデゴザイマスルガ、是ガ修正案七十九條、政府原案七十五條ニハ、「最高裁判所は、法律の定める員數のその他の裁判官でこれを構成し、」是デアリマシテ、其ノ末項ヘ行ツテ「最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する」、其ノ前、「彈劾」ト「心身の故障」ノコトガ書イテアリマスガ、下級裁判所ノ方ニ付テハ、此ノ法律ノ定メル所ニ依ツテ構成スルトカ、或ハ身分ガドウ云フ風ニ保障サレテ居ルカト云フコトニ付テ、マダ私ハ十分研究ヲ致シマセヌガ、少シ足リナイモノガアリハシナイカト思ツタノデゴザイマス、修正案八十條ノ第一項ノ終リニ、「但し、法律の定める年齡に達した時には退官する。」、是デアリマスガ、是ハ矢張リ今日ノ裁判所構成法ノヤウニ、構成法デ決ルベキモノデアリ、此ノ構成法デ決ルコトガ、憲法ニ依ツテ明カニサレテ居ルト云フコトノ必要ハナイモノデゴザイマセウカ、如何デゴザイマセウカ、最高裁判所ニ付テハ或程度迄、斯ウ云フ風ニ「法律の定める」ト云フコトガ書イテアリマスガ、是ハ總テノ裁判所ニ共通ノ規定デアリ得ルコトニ思ヒマスガ、實際ハサウナリマセウ、實際ハサウナリマセウガ、下級裁判所ニ聊カ缺ケテ居ル所ガ疑ニナツタ次第デアリマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 是ハ下級裁判所ニ付テハ、矢張リ法律ノ定メル結局裁判所構成法デ定メタ員數ノ裁判官デ構成スルト云フコトニナルト思ヒマス、裁判所構成法ハ、要スルニ私ノ申ス迄モナク法律デアリマス、結局ノ所ハ法律デ定メルコトニナリマスルカラ、事實トシテハ此ノ規定ト同ジヤウナコトニナツテ來ルダラウト思ヒマス、唯、此處デ最高裁判所ニ付テハ、法律ノ定メタル裁判官デ構成スルト云フコトヲ明カニシタニ過ギナイノデアリマス
○牧野英一君 是ハ實際ノ上ニ於テハ、サウ爭フ程ノコトデナイカモ知レマセヌガ、事ハ此ノ點ヲ離レテ、モツト大キイ根本的ナ問題ニ關聯ガアルト云フコトヲ申上ゲタイ、ト申シマスルノハ、一昨日ノ此ノ席上ニ於テ政令ノ性質及ビ限界ニ付テ、金森國務相ト私トノ間ニ意見ノ相違ガアツタノデアリマス、ソレハ政令ト云フモノハ單ニ執行命令ニ限リマスカ、斯樣ニ伺ヒマシタ處ガ、委任命令ハ認メル、併シ委任命令ノコトハ、憲法ニ明白ニ掲ゲテ、自ラ決ルデアラウト云フヤウナ御趣旨、今日ノ憲法ノ運用上、委任命令下云フモノハ、規定ヲ離レテ自ラ議會ノ慣習法トシテ發達シタモノダト言フコトガ出來マセウガ、併シ學説上、大イニ爭ヒノアルモノデアルコトハ申ス迄モゴザイマセヌ、而モ憲法改正案ノ趣意ニ於テハ、委任命令ト云フモノガサウ今日ノ國家總動員法ノヤウニ廣ク認メラレルノデハナイノデ、其處ニ一定ノ限度ガアルニ違ヒナイ、其ノ限度ハドウナルカト云フコトニ付テ私ガ十分‥‥、聽キ洩ラシタノカモ知レマセヌガ、金森國務相ノ御心持ハ限度ガアルト云フコトノ御言葉ガアツタヤウニ思ヒマスガ、其ノ限度ヲドウ云フ風ニ理解シテ行クカト云フコトニ付テハ、私マダ十分理解ガ出來ナイ儀デアツタノデゴザイマス、ソコデ第三ニ、獨立政令ト云フモノガ出セルカト云フコトニ付テ議論ガアリマシテ、初メ金森國務相ノ御言葉ヲ私ガ理解シタ所デハ、命令獨立ガ出セルト云フ風デアツタトモ私ハ理解シタノデスガ、ソレガ其ノ積リデ、後デ質疑ヲ續ケマシタ處ガ、金森國務相ハ、サウ云フコトハ申シタ積リハナイ、獨立命令ハ出セヌノデアルト云フコトデアツタカト思ヒマス、ソコデ私ガ、行政權ニ付テ絶對的ノ責任ヲ持ツテ居ル内閣ガ、全ク獨立命令ヲ、行政命令ヲ出スコトガ出來ナイデ、果シテ行政上ノ責任ヲ負ヘルモノデゴザイマセウカ、之ニ付テハ法律ノ規定ガナイカラ仕方ガナイト言ツテ、手ヲ控ヘテ居ルコトガ出來ルモノデゴザイマセウカ、斯ウ云フ風ニ伺ツタノデアリマス、其ノ點ハ、私ガ若シ誤解致シテ居リマセヌケレバ、今日マダ未決ノ問題デ、從ツテ私ハ最後ニ於テ命令權ノ種類及ビ範圍ニ關スル問題ハ、此ノ憲法改正案トシテハ重大ナル問題トシテ取殘サレテ居ルモノト考ヘマスト、斯ウ云ツテ、マア散會ニナツタ次第デゴザイマスルガ、私ノ考デハ、憲法ノ第三章ニ「法律の定めるところにより」ト書イテアル場合ト、書イテナイ場合トデ違フノデアリマス、「法律の定めるところにより」ト云フコトガ斷ツテアリマスルト云フト、必ズソレニ對スル行政ト云フモノハ、法律ヲ經過セネバ行政ガ運バヌノデアリマスルガ、サウデナイ場合ニハ、憲法上「公共の福祉」ト云フダケガ枠ニナツテ居リマスノデ、後ハ行政權ガ獨立ニ命令ヲ定メルコトガ出來ルシ、又處分モスルコトガ出來ルト、斯ウ思ヒマスルノデ、憲法第三章ノ場合ニ、「法律の定めるところにより」ト有ルト無イトデハ、大キナ違ヒガ生ズルモノデアルト考ヘテ居リマスト云フコトヲ申述ベマシタ、此ノ點ニ付テハ、第三章ノ所デハ結局水掛ケ論ノヤウナコトニナリマシタガ、政令ノ範圍ヲ論ズル所デ、初メテ問題ノ要點ヲ、少クトモ私共ガ持ツテ居ル疑トスル所ヲ、御理解下スツタラウト思ヒマスルガ、是ガ此ノ裁判所ノ構成ニ影響ヲ及シマスルノデ、結局最高裁判所ハ、常ニ法律ノ規定ヲ經ルコトヲ要スル、ケレドモ、下級裁判所ニ付テハ、ソレガ斷ツテ居リマセヌト云フト、政令ナリ、其ノ他ノ命令ヲ以テデモ定メルコトガ出來ルト云フコトニナリハシナイカ、恐ラク裁判所ノ構成ヲ、政府ガ法律ニ非ズシテ御定メニナルト云フヤウナコトハアリマスマイケレドモ、憲法ニ於テ現行憲法上、既ニ裁判所ハ法律ニ依ツテ總テノ構成ヲ決メラレルヤウニナツテ居ルノデアリマスルカラ、ソレヲ破ツテ迄、此處ニ最高裁判所ト、普通裁判所、下級裁判所モ、區別シテ御規定ニナルコトモアリマスマイ、矢張リ此ノ司法權ノ獨立ト云フコトヲ尊重致シマスル上ニ於テハ、裁判所ノ構成其ノ他裁判官ノ身分等ハ、法律ノ根據ガナケラネバナラヌト云フコトヲ、モツト此ノ率直ニ明白ニシテ戴クコトガ望マシイコトデハナイカト思ヒマス、私ハ司法權ノ獨立ガ、法律ニ依ツテ拘束サレルト云フコトハ、先程司法大臣ノ御言葉デゴザイマシタケレドモ、實體的ニハ、成程研究ヲシテ見タイト思ヒマスル、裁判所ノ構成及ビ裁判官ノ身分ニ付テハ、是ハ何トシテモ、政令ニ讓ルコトハ出來ナイコトヲ明カニシテ置イテ戴キタイト思フノデアリマス、金森國務相ノ一昨日ノ御話デハ、孰レニシテモ法律ヲ作ラネバ行政權ガ動ナイト云フヤウナ御趣旨デアツタカト思ヒマスルケレドモ、私ノ理解スル所デハ、法律ニ規定ガナイ範圍内ニ於テハ、現行憲法ト同ジヤウニ、「公共の福祉」ノ爲、「命令ヲ發シ又ハ發セシムル」ト云フコトガ言ヒ得ラレル譯デアリマスルノデ、從ツテ此ノ司法權ニ付テハ、一々法律ノ定メニ依ルト云フコトヲ斷ツテ戴キタイ、斯ウ云フ風ニ思ヒマスルノデ、ソコデ少シ氣ニナリマシタカラ、御伺ヒスル次第デゴザイマスルガ、其處ノ私ノ考ヘテ居ル心持ハ、ドウモ今ノ司法大臣ノ御答ヘデハ同ジコトニ歸着スルデアラウト思ヒマスルケレドモ、規定ノ上ニ缺ケテ居ルト云フコトハ、何カ此ノモウ少シハツキリシタ方ガ宜イト云フコトニナルモノデハゴザイマスマイカ、マアソレダケ少シ念ヲ押スヤウナ形ニナツテ恐レ入リマスケレドモ、尚重ネテ一應御心持ヲ伺ツテ置キタイ
○國務大臣（木村篤太郎君） 恐ラク金森國務相モ、裁判官ノ身分、員數ノコトニ付テハ、法律デ規定スベキモノデアルト云フ意見デアラウト、私モ考ヘテ居リマス、七十七條ノ「最高裁判所は、下級裁判所に關する規則を定める權限を下級裁判所に委任することができる」ト云フヤウナ規定ヲ設ケテ居ルノデアリマス、從ヒマシテ、實際問題トシテ左樣ナ御疑念ノ點ハ、マダ起ラナイト私ハ考ヘル次第デアリマス
○牧野英一君 是デ私、質問ヲ終リマシタ
○霜山精一君 司法ニ關係ノアル問題ヲ數點御伺ヒシタイノデアリマス、今回ノ憲法草案ニ於キマスル司法ノ規定ハ、現行憲法ニ比ベマシテ非常ニ進ンデ居ルモノデアリマシテ、私ハ結論ニ於キマシテハ、此ノ新ラシイ憲法ニ於ケル司法制度ニ關スル規定ニ付キマシテハ、全幅ノ賛意ヲ表シテ居ルノデアリマス、殊ニ最モ私ノ喜ビマスルコトハ、第六條ノ第二項ニ「最高裁判所の長たる裁判官」ノ任命ハ、天皇ガ御任命ニナルト、詰リ内閣總理大臣ト相竝ビマシテ、天皇ノ直接ノ御任命ニナルコトニ、衆議院デ修正致サレマシタ、此ノ規定ノ如キハ、此ノ修正ノ點ニ付キマシテハ、非常ニ喜ンデ居ル點デアリマシテ、三權分立ノ精神ガ非常ニ明カニナツタコトヲ喜ブ次第デアリマス、ノミナラズ、最高裁判所ガ憲法裁判所ニナル、詰リ法律ガ憲法ニ違反シテ居ルカドウカト云フコトヲ、審査決定スル機關ニナツタト云フヤウナコトハ、非常ナ著シイ特色デアリマシテ、裁判所ノ地位ヲ向上致シマスルコトガ、現行憲法ニ比ベマシテ、數段ト高マツテ居ルノデアリマシテ、非常ニ喜ンデ居ル次第デアリマス、先ヅサウ云フ關係デアリマスルカラシテ、此ノ度ハ最高裁判所ト云フモノガ非常ナ力ヲ持ツコトニナツテ參ルノデアリマシテ、其ノ點ニ於キマシテ、現行制度ト著シキ差ヲ示シテ來ルコトニナルノデアリマス、ソコデ今日ニ於キマシテハ、裁判所ト云フモノハ、裁判所構成法ニ依リマシテ、裁判官ハ全部司法大臣ノ監督權ノ下ニアルノデアリマス、處ガ、此ノ憲法草案ニ依リマスルト、最高裁判所ガ下級裁判所ニ對シテ色々規則ヲ定メルトカト云フ風ナ點、其ノ他ノ點カラ考察シテ見マシテ、司法大臣ノ裁判所ニ對スル監督權ト云フモノハ止メラレテ、サウシテ最高裁判所ノ長官ト云フモノガ裁判官ニ對スル監督權ヲ持ツテ來ルコトニナラウト考ヘマス、ソレガ一ツノ點、モウ一ツノ點ハ、現在ノ裁判所構成法ニ依リマスルト、大審院長ノ監督權ハ大審院ダケヲ監督シテ居リマシテ、下級裁判所ニ對シテハ監督權ヲ持タナイノデアリマス、處ガ、此ノ憲法草案ニ依リマスルト、下級裁判所ニ對スル規則ヲ作ルトカ、色々ナ事項ヲ決メテ居リマスルカラ、此ノ憲法草案ノ下ニ於キマシテハ、矢張リ最高裁判所ノ長官ノ監督權ト云フモノハ、最高裁判所ニ止ラズ、下級裁判所ニモ及ブモノデアル、詰リ最高裁判所ノ長官ハ、下級裁判所全部ヲ監督スルモノデアル、斯ウ云フ風ニ變ラザルヲ得ナイト思ヒマス、詰リ司法大臣ハ監督權ヲ失ヒ、丁度今ノ司法大臣ト同ジ監督權、同ジヤウナ監督權ヲ下級裁判所ニ對シテ持ツ、斯ウ云フコトニナラザルヲ得ナイト思フノデアリマスルガ、其ノ點ハ如何デゴザイマセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 最高裁判所ノ長官ハ申ス迄モナク今ノ大審院長ノ地位トハ相當隔リガ實際問題デ出テ來ルコトダラウト考ヘテ居リマス、從ヒマシテ下級裁判所ノ判事ニ對スル監督權ハ、恐ラク最高裁判所ノ長官ガ之ヲ行使シ得ルト云フコトニ將來ナルコトダラウト思ヒマス
○霜山精一君 其ノ意味ニ於キマシテハ、司法大臣ノ裁判所ニ對スル監督權ハ廢止サレルモノト考ヘテ宜シイデセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 其ノ監督權ノ性質ニモ私ハ因ルコトダラウト思フノデアリマス、最高裁判所ノ長官ハ國會ニ對シテハ何等ノ責任ヲ持ツテ居ナイノデアリマス、國會ニ對スル責任ハ、司法大臣ガ之ヲ持ツノデアリマス、從ヒマシテ、全面的ニ裁判所ノ裁判官ノ監督ガ、最高裁判所ノ長官ニ行クトハ限ラナイト私ハ考ヘテ居リマス、其ノ限界ハ今ハツキリ申上ゲルコトハ出來マセヌ、少クトモ司法大臣ハ、總テ司法部ノ事務ニ對スル責任ヲ國家ニ持ツテ居リマス、其ノ限界ハ何處ニ置クカ別問題デアリマスルガ、全面的ニ監督權ガ、最高裁判所ノ長官ニ移ルベキモノトハ、只今考ヘテ居リマセヌ
○霜山精一君 其ノ境ノ所ヲ實ハ伺ヒタカツタノデアリマス、最高裁判所ノ長官ガ下級裁判所ヲ監督シテ居ル、其ノ上ニ又司法大臣ガ監督權ヲ行フ、斯ウ云フコトニナリマスト、下級裁判所ノ方ハ、最高裁判所ト司法大臣ト兩方カラ監督權ヲ行ハレマシテ、最高裁判所ノ長官ノ監督權ト司法大臣ノ監督權ト云フモノガ、ドチラガ強イノカ、斯ウ云フコトガハツキリ分ラナイノデス、最高裁判所ノ長官ト司法大臣ノ監督權トノ間ノ強弱、優劣デスネ、サウ云フコトヲ決メテ置カナイト困ルト思フ、其ノ點ガマダ決ラヌト仰シヤレバ、ソレ迄デスケレドモ、ドウ云フ風ニナル御方針カト云フコトガ分ツテ居リマスレバ、伺ヒタイ
○國務大臣（木村篤太郎君） 只今法制審議會デ十分考慮中デアリマス
○霜山精一君 私ハ色々細カイ問題ガアルノデアリマスガ、例ヘバ裁判所ノ設立、廢止、管轄ノ變更等ニ關スル事務ハ、今司法大臣ノ監督ニナツテ居ル、是ガ最高裁判所ノ方ニ移ルカドウカト云フ問題、ソレカラ色々ナ登記事務、ソレカラ戸籍、供託、調停、サウ云フ風ナ色々ナ仕事ガ裁判所ニハアリマスルガ、斯ウ云フコトニ關スル最上ノ監督權ガ司法大臣ニアル譯デス、斯ウ云フモノガ司法大臣カラ最高裁判所ノ長官ノ方ニ全部移ツテシマフカドウカト云フコトガ、一ツノ問題デハナイカト思フ、ソレハ事務的ノ方面ノ事柄デス、今度ハ人事ニ關スル權限デスネ、人事行政、下級裁判所ノ判事ニ對スル人事行政ハ、今日司法大臣ノ監督ノ下ニアル譯デス、此ノ人事ニ關スル事務ガ、司法大臣カラ最高裁判所ノ長官ノ方ニ全部移ツテシマフカドウカ、此ノコトモ、一ツノ問題デハナイカト考ヘテ居リマス、其ノ外、司法官試補ノ採用、或ハ其ノ訓練等ニ關スル事務ハ、今日司法省ノ監督權ノ下ニヤツテ居リマスルガ、是ガ最高裁判所ノ方ニ移ルカドウカ、ソレカラ執達吏、公證人ト云フモノガアリマスガ、斯ウ云フモノニ對スル最高ノ監督權ヲ司法大臣ガ持ツテ居ル、執達吏、公證人等ヲ監督スル權限ヲ司法大臣ガ失ツテ、最高裁判所ノ長官ノ方ニ移ルカドウカ、斯ウ云フ點、色々疑問ガアルノデアリマス、モウ一ツ人事ニ關スル問題デハ、今日辯護士ノ監督ト云フモノハ、司法省デヤツテ居ル、司法大臣ノ監督ニナツテ居ル、司法大臣ハ辯護士會ヲ監督スル、色々登録ニ關スル事務ナンカモ、全部司法省デヤツテ居ルノデアリマス、辯護士ハマア、裁判所内部ノ人デハアリマセヌカラ斯ウ云フモノニ對スル監督權ヲ最高裁判所ニ移スカドウカ、辯護士ニ關スル規則ナンカハ最高裁判所デ決メルヤウニナツテ居リマスルガ、斯ウ云フ風ナ點カラ或ハ辯護士ニ關スルコトハ、最高裁判所ノ方ニ移ルノデハナイカト、マア想像ヲシテ居リマスルケレドモ、ドウナルノカ伺ヒタイノデアリマス、ソレカラモウ一ツノ問題ハ、裁判所ノ豫算ノ問題デ、會計ノ問題デアリマス、裁判所ノ豫算ニ關スル事務ハ、裁判所ノ方ニ移ツテシマフノカ、或ハ司法大臣ノ方ニ殘ルカト云フコトモ、一ツノ問題デハナイカト思ヒマスルガ、斯ウ云フ風ニ中ニ入リマスルト、細カイ問題ガアルノデアリマスガ、是等ノコトニ付テ、何カ今御分リニナツテ居ルコトガアレバ御話ヲ願ヒタイ
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、ソレ等ノ諸點ニ付キマシテハ、只今愼重ニ委員會デ審議中デアリマス、私ニ致シマシテモ、多少ノ案ハ持ツテ居ル積リデアリマス、此處ニ公表スルコトハ避ケマスルガ、唯一部ニ付テハ申上ゲテ置キタイ、裁判所ノ設置、廢止等ハ是ハ私ハ法律デ決メテ行クベキモノデアル、是ハ司法大臣ガ權限ヲ持ツベキモノダラウト考ヘテ居リマス、豫算ノ問題デアリマスルガ、御承知ノ通リ豫算ニ付テハ國會ニ國務大臣トシテ司法大臣ハ責任ヲ負ハナクチヤナラヌ、左樣ナ豫算ノ問題ニ付テ、最高裁判所ノ長官ガ國會ニ責任ヲ負フト云フヤウナ建前ハドウシテモ執レヌモノト考ヘテ居リマス、少クトモ裁判所ニ關スル豫算ノ方面ニ付テノ仕事ハ、從來通リ司法大臣ガ之ヲヤツテ行クベキモノデアル、但シ裁判所ニ要スル費用ハ、必ズ一括シテ最高裁判所ノ長官ニ之ヲ移シテ、其ノ任意ニ任セルコトニ建前ハナルト考ヘテ居リマス、ソレカラ戸籍、登記、或ハ調停等ノ事務ニ付キマシテハ、私ハ只今ノ考デハ、或程度裁判所ニ之ヲ移シテ差支ナイコトカト考ヘテ居リマス、詳細ナ點ニ付テハ、只今愼重ニ審議中デアルト云フコトヲ御了承願ヒマス
○霜山精一君 人事ノ問題ガ一番大事ナノデハナイデセウカ、此ノ點ハドウデセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 人事問題ニ付キマシテモ、是ハ建前トシテハ、矢張リ責任上司法大臣ガ持ツテ行クベキモノダラウト考ヘテ居リマス、併シ實際ノ運用上ニ於キマシテハ、ソレハ決シテ勝手ニヤル譯ヂヤナイノデアリマス、唯運用上ノ問題トシテハ最高裁判所ノ長官ト十分打合セヲシテ行クベキモノダラウト思ハレマスガ、建前ト致シマシテハ、矢張リ司法省ガ持ツベキモノダラウト私ハ考ヘテ居リマス、此ノ點ニ付テモ、只今十分考慮中デアルコトヲ御了承願ヒマス
○霜山精一君 人事ニ關スルコトハ、此ノ憲法ニ於キマシテ、八十條デスガ、「下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する」ト云フ風ニナツテ居リマスカラ、ドウモ下級裁判所ノ裁判官ニ對スル人事ト云フモノハ、結局ドウモ最高裁判所ノ指名シタ名簿ニ依ツテ任命サレルト云フコトニナリマスカラ、最高裁判所ニ移ルコトガ寧ロ適當デハナイカト云フ風ニ私トシテハ今考ヘテ居ルノデアリマスガ、尚其ノ點ハ御研究ヲ願ヒタイト思ヒマス、ソレカラ其ノ次ニ御伺ヒシタイコトハ、從來ノ裁判所構成法ニ依リマスト、檢事局ト云フモノガ裁判所ニ附置サレテ居リマスル、此ノ憲法ニ於キマシテハ、七十七條ニ檢察官ノコトガチヨツト顔ヲ出シテ居リマスルガ此ノ檢察官ト云フモノヲ、從來通リ裁判所ニ附置シタモノトシテ置クベキカ、或ハ此ノ檢察官ト云フモノハ、裁判所ト分離シテ切離シテシマフカト云フコトハ、マア我我司法部ノ者トシテハ、多年ノ懸案ナノデアリマシテ、切離シタ方ガ宜イト云フ議論ガ非常ニアツタノデアリマスルガ、新憲法ニ於キマシテハ、其ノ點ヲドウ云フ風ニ司法大臣ハ御考ニナツテ居リマスルカ、伺ツテ置キタイト思ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、今霜山委員ノ仰セニナリマシタヤウニ、從來、檢事局ハ裁判所ニ附置サレテ居ツタノデアリマス、現在モ附置サレテ居ルノデアリマス、此ノ點ニ付キマシテハ、非常ニ世間ノ誤ツタルト申シテ宜イカ、或ハ正シイト申シテ宜イカ、ソレハ疑問デアリマスルガ、世間ノ疑惑ヲ往々ニシテ招イタノデアリマス、裁判所ガ檢事局ノ方ニ、或力デ以テ押サレル、或ハ又一部ハ裁判所ト檢事局ト馴合ヒデアルノヂヤナイカト云フヤウナ、左樣ナ疑惑ヲ懷カレマシテ裁判所ニ對スル國民ノ信頼ト云フモノヲ傷ケルト云フ虞レガアツタノデアリマス、誠ニ遺憾ナコトデアリマス、左樣ナコトハ絶對ニナイト、今デモ確信シテ居リマスガ世間デハ左樣ナ疑惑ヲ懷イテ居ルノデアリマス、少クトモ左樣ナ疑惑ヲ一掃シテ、國民ノ裁判所ニ對スル信頼ヲ懷カセルコトニ付キマシテハ、裁判所ト檢事局ヲドウシテモ分離スル方ガ宜カラウト云フ考ヲ持ツテ居リマス、ソレデ、只今法制審議會ノ議ニ掛ケマシテ、檢察廳法ト云フモノヲ目下起案中デアルノデアリマス、恐ラク是ガ事實トナツテ明カニナリマスルト、裁判所ト檢事局ノ廳舍ナンカモ別ニナツテ、世間ノ疑惑ハ一掃サレルコトダト確信スル次第デアリマス
○霜山精一君 次ニ御尋ネ致シマスルコトハ、裁判官ノ任用ニ關スル問題デアリマス、ドンナ制度ニ於キマシテモ、人ヲ得ルト云フコトガ最モ大切ナコトデアルコトハ言フ迄モナイコトデアリマス、殊ニ此ノ裁判官ニ付キマシテハ、其ノ感ガ深イノデアリマシテ、良イ裁判官ヲ造上ゲルト云フコトガ最モ良イ司法ヲ形ヅル上ニ於テ必要ナ要件デアリマスル、從來ノ裁判官任用ノ方法ニ付キマシテハ、色色議論ガアリマス、在野法曹ノ方面カラハ、法曹一元論ト云フヤウナコトガアリマシテ、裁判官ハ全部辯護士カラ採レト云フヤウナ要求モアルヤウデアリマス、若イ優秀ナル青年ガドンドン此ノ裁判官ノ方面ニ向ツテ來テ、又之ヲ任用シテ、立派ナ裁判官ヲ造上ゲルト云フコトハ、是ハ非常ニ大切ナ問題デハナイカト思フノデアリマス、ソレ等ノコトニ關スル司法大臣ノ御考ヲ御伺ヒシタイト思ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 霜山サンノ今ノ御意見ハ、私ハ全面的ニ同感デアリマス、申ス迄モナク裁判官ハ一定ノ法律的ノ知識ヲ有スル人デナクテハイカヌノデアリマス、是ハ言ヲ俟タヌノデアリマスガ、ソレト共ニ、識見、人格、總テ國民ノ信頼スルニ足ルベキ人デナクテハナラヌト云フコトヲ確信シテ居リマス、從ヒマシテ、新憲法草案實施ノ曉ニ於キマシテハ、ソレ等ノ點ニ鑑ミマシテ、裁判所判事任用ニ付キマシテハ、有ラユル方面カラ人材ヲ物色致シマシテ、國民ノ信頼ヲ得ルヤウニ力メタイト考ヘテ居ル次第デアリマス
○霜山精一君 次ニ御伺ヒシマスル點ハ、新憲法ニ於ケル公ノ彈劾ト云フコトト懲戒ト云フモノトノ關係デアリマス、今日ニ於キマシテハ、判事懲戒法ト云フ法律ガゴザイマシテ、裁判官ノ色々職務上ノ失態ニ付キマシテハ、懲戒法ニ依ツテ酷イノハ免官スルコトモ出來ルシ、輕イノハ譴責ト云フヤウナコトニ、其ノ間ニ、停職トカ轉所トカ或ハ減俸トカ云フヤウナ色色ナ彈劾ガ其ノ間ニアル譯デアリマス、ソレガ一本デアツタノデスガ、今度ハ公ノ彈劾ト云フ制度ガ茲ニ執ラレマシテ、其ノ外ニ又懲戒處分ト云フモノガ認メラレルヤウデアリマス、此ノ公ノ彈劾ニ付セラレル者ト、懲戒處分ニ付セラレル者トノ限界、ドレダケノモノハ懲戒デアリ、ドレダケノモノハ公ノ彈劾ニ依ルカト云フ、其ノ限界ガハツキリシテ居ラナイノデアリマス、公ノ彈劾ニ依ツテ罷免セラレルノデスカラ、罷免セラレルヤウナコトニ付テハ彈劾ニナリ、罷免セラレナイ行爲ニ付テハ懲戒處分ニナルト、斯ウ云フノデハナイカト思フノデスケレドモ、其ノ點ガ頗ル明確ヲ缺イテ居ルノデアリマス、其ノ點ト、現行ノ憲法ニ依リマスト、裁判官ノ懲戒ニ關スル規定ハ、法律ヲ以テ定メルト云フコトニ七十九條ニ依ツテナツテ居リマス、新憲法ニ於キマシテハ、裁判官ノ懲戒ニ付テ法律ガ要ルト云フ規定ガナイノデアリマシテ、是ハ牧野委員ノ常ニ仰セニナル通リ、當然法律ガ要ルノダケレドモ、書カナカツタト云フ風ニナルノカ、裁判官ノ懲戒ト云フノハ、裁判官ノ獨立ニ影響ノアルコトデスカラ、チヤント決メナケレバナラヌ、斯ウ云フ風ニスルコトガ寧ロ必要デハナイカト思フノデスガ、彈劾ニ關スルコトハ、法律デ之ヲ決メル、國民審査ニ關スル事項ハ法律デ決メルト、新憲法ニ書イテアリマスカラ、懲戒ノダケ法律ニ定メルト云フコトカ書イテナイノデスガ、此ノ點ハ矢張リ、書カレル方ガ宜イノヂヤナイカト云フ疑ヲ持ツテ居リマス、此ノ點ハ、金森國務大臣ニ、後ノ部分ハ御願ヒシタイト思フノデスガ、先ヅ公ノ彈劾ト懲戒トノ差異ニ付テ御願ヒ致シマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、此ノ公ノ彈劾ハ、唯罷免スル場合ノミト御了承願ヒマス、罷免以外ノ所謂懲戒、御説ノ停職トカ譴責トカ云フモノハ、判事懲戒法、之ヲ改正シナクチヤナラヌコトトナツテ居リマス、判事懲戒法デ之ヲ定メル、斯ウ云フ建前ニナツテ居リマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 裁判官ノ懲戒ハ法律デ決メルト云フ方針ヲ初メカラ懷イテ居リマス、併シ何故ニ規定ナクシテ裁判官ノ懲戒ガ出來ルカト云フ疑問ガアリ、是ガ先日來ノ牧野委員カラノ御疑惑トモ一貫シテ居ル問題ト思フノデアリマスガ、ドウモ私ノ申上ゲル所ガ、十分御理解ヲ願ツテ居ナイ方面ガアルヤウニ思ヒマスルガ今回ノ憲法ノ草案ニ於キマシテ、從來ノ如ク、人ノ働キ、人間個人ノ行動ニ付キマシテ、或程度以上ノ、詰リ從來ノ法規ト謂ハレテ居リマシタ部分ノモノニ付キマシテハ、絶對ニ之ヲ抑制スルニ法律ヲ要スル、サウ云フ原理ヲ堅持ヲシテ居ルノデアリマス、在來ニ少シ遡ツテ申上ゲナケレバナリマセヌガ、委任命令、各種ノ命令ト云フコトガ問題ニナツテ居リマシタ、現行ノ憲法ノ下ニ於キマシテハ、謂ハバ命令權ノ解釋ノ範圍ニ於キマシテモ、可ナリ今日廣クナツテ居リマシテ、本來言フト、憲法所定ノ限界ヲ守ツテ居ルカドウカト云フコトニスラモ、私個人トシテハ、從來疑義ヲ持ツテ居ツタノデアリマス、疑義ノ程度デアリマシテ、詰リ此ノ憲法ニ於テ、命令權ニ付キマシテ、今チヨツト諳ンジテモ申上ゲ兼ネマスルガ、緊急命令、執行命令ト云フモノガアリ、又獨立命令ト云フモノガアリ、此ノ三ツガハツキリ致シテ居リマスケレドモ、其ノ外ニハ特ニ命令ガ出セルトカ、必ズシモ書イテアリマセスニモ拘ラズ、裏ノ方カラ、例ヘバ貴族院命令ト云フ命令ガアル、此ノ貴族院令ハ前述ノ、今ノ命令ノ概念ニモ當リマセヌ、ソレカラ官制ガ命令デ出テ居リマスケレドモ、官制ガ今日ノ如キ命令ノ形デ出ルノカ好イカ惡イカト云フコトニ付キマシテハ、別ニ憲法ハ解決シテ居ナクテ、唯官制ガ作ルト云フコトダケヲ決メテ居ル譯デアリマス、ソレカラ恩赦ニ關スル諸般ノ命令デアルトカ、其ノ外ニ各種各樣ノ命令ガ、果シテ命令デ出來ルカドウカト云フコトハ、憲法ニハ直接ニ書イテ居リマセヌ、多ク事柄ノ實體ノ方カラ規定シテアリマシテ、天皇ガ之ヲ御決メニナルト云フコトガアリ、天皇ガ御決メニナルノダカラシテ命令ガ出セルノダ、訓令モ出セルノダ、恩赦ノ規則モ出セルノダ、爵位勲章ニ關スル命令モ出セルノダ、且委任命令ト云フモノガ解釋カラシテ生レ出テ居ルト、斯ウ云フコトニナルノデアリマス、處ガ、此ノ憲法ノ下ニ於キマシテハ、其ノ邊ノ所ノ根本ノ原理、苟モ法規ヲ作ルノハ議會ノ爲スコトデアリマスト云フコトニ付キマシテ、政令ト云フモノハ、一定ノ要件ノ下ニ憲法及ビ法律ヲ執行スル趣旨ノ爲ニ出來ル、斯ウ云フ規定ガアリマシテ、之ヲ綜合シテ考ヘレバ、苟モ法規ヲ決メル意味ノモノデアルナラバ、是ハ國會ノ協賛ヲ經タル法律デナケレバナラヌト云フコトガ根本ノ原則ニナリ、又或意味ニ於テ法規ト接近シテ居ルモノデモ、今ノ政令ノ如キモノハ、特殊ナル前提ノ下ニ詰リ法律執行、憲法執行ト云フ枠ノ下ニ是ガ出セルノダト云フ解釋ヲ執ツテ居リマス、又國會ノ兩院ノ、自分ノ自治的規則ハ、特ニソレガ、人ノ行動ヤ、或ハ國家組織ノ實體ニ觸レテ居ツテモ、是ガ特別ナル事件ニ基イテ命令ガ出セル、裁判所ノ「ルール」ヲ作ルコトモ出來ル、斯ウ云フ風ニ裏カラ見テ居ル、斯ウ云フ建前デアル譯デアリマス、從ツテ此ノ憲法ガ、積極的ニ何カ豫想シテ居ル所ガアリマセヌケレバ、總テ國民ノ自由、權利、或ハ國家ノ外部ニ對シテ働キマスル其ノ權能ノ分擔ト云フコトニ付キマシテハ、必ズ法律ヲ以テシナケレバナラヌ、斯ウ云フ原則ヲ堅持シテ居ル譯デアリマス、デアリマスカラ、隨所ニソレダケノ判斷デ分リマス所ハ法律ニ依リト云フ言葉ヲ用ヒナイデ居ル譯デアリマス、其ノ現レガ、先日來法律ニ依リト云フ言葉ヲ加ヘタラ宜カラウト云フ御議論ニナツテ現レテ居リマスルガ、ソレガ在來ノ憲法ト、此ノ改正ノ憲法トガ根本ノ原理ヲ異ニシテ居ルト云フ結果デアリマシテ、成ル程、中ニハ解釋ノ餘地ガアル所モアリ得マスケレドモ、根本ハ左樣デアル、斯ウ云フヤウニ御理解ヲ願ヒタイト思ツテ居リマス、ソコデ官吏ノ懲戒デアリマスルガ、此ノ建前ハ内閣ノ制度ノ所ニアリマスヤウニ、官吏ニ付テハ根本的ニ官吏法ト云フヤウナモノヲ法律デ準則ヲ決メルト云フコトヲ豫想シテ居リマス、其ノ結果トシテ、官吏ニ關シマスル諸般ノ問題ハ、其ノ規定ガカブツテ來ルト、斯ウ云フ前提ニナツテ居リマス、此ノ懲戒等ニ依ツテ、若シ官吏ノ單純ナル服務規程ヲ抑制スルト云フ限度ヲ超エテ、苟モ其ノ人ノ獨自ノ存在ニ對シテ累ヲ及スヤウナ場合ニ於キマシテハ、絶對ニ法律ヲ以テシナケレバナラヌト云フコトニナルノデアリマス、ソレ等ヲ勘案シテ、此所ノ懲戒ト云フモノハ法律ニ依ルベキモノト思フノデアリマス、寧ロ懲戒ト云フコトノ中ニ入ラナイデ、上司ガ下僚ニ對シテ若干忠告ヲスルト云フヤウナ微温的ナモノハ、是ハ法律ヲ要スル譯デハアリマセヌガ、例ヘバ俸給ヲ減ストカ、ソレハ裁判官ニハアリマセヌケレドモ、ソレガ實體ニ觸レレバ當然サウナル、斯ウ云フ前提デアリマス
○霜山精一君 只今ノ金森國務相ノ御説明デ大體了解ヲ致シマシタガ審査ニ關スル事項ハ法律デ之ヲ決メルト云フヤウニ、或ハ彈劾ニ關スル規定ハ法律デ之ヲ決メルト云フヤウニ、特別ニ法律デ決メナケレバナラヌ事項ヲ擧ゲテ居ラレルノデスカラ、懲戒ノヤウナモノニ付テハ、矢張リサウ云フ風ニ殊ニ裁判官ノ懲戒ト云フコトハ、非常ニ獨立ニ關係ガアルコトデスカラ、法律デ之ヲ決メルト云フコトヲ特ニ書イテ戴イタ方ガ外ノ規定トノ關係デ非常ニ宜イヂヤナイカト云フ風ニ私ハ考ヘテ居リマス、次ノ問題ハ、最高裁判所ノ裁判官ニ對スル國民審査ノ問題デアリマス、是ハモウ既ニ他ノ方ニ依リマシテ、相當質疑ガサレテ居リマスルカラ、繰返シテ、此ノ審査ノ制度ニ付テ、詳シイコトヲ申上ゲル必要ハナイト思ヒマスルガ、唯一點ダケ、此ノ國民審査ト云フコトガ、餘リ合理的ナ結果ヲ生ジナイト云フコトヲ申上ゲテ見タイト思フノデアリマス、最高裁判所ト云フモノハ終審裁判所デアリマシテ、詰リ法律審デアリマス、上告審ニナリ、從ツテ最高裁判所ノ裁判ト云フモノハ法律ノ適否、或ハ大ニシテハ憲法ニ違反スルカドウカ、小ニシテハ、色々ノ法律ノ解釋適用ト云フコトニナリマシテ、法律判斷ナンデス、デ、最高裁判所ノヤリマスル法律判斷ガ能ク國民ニ分ルカト申シマスルト、法律ノ判斷ト云フモノハ、非常ニ微妙ナモノデアリマシテ、是ガ本當ニ適當ナ解釋デアルカドウカト云フコトハ、非常ニムヅカシイノデス、一般ノ民衆ニ親シマナイ事柄ナノデス、今日大審院ノ判例ニ對シマシテ、判例批評ト云フモノガ盛ニ行ハレテ居リマスル、私共ハ多年判例批評ヲ研究シテ居リマシテ、詳シク學者ノ判例批評ヲ讀ンデ居リマスガ、是等ノ判例批評ヲ見マシテモ、一ツノ裁判ニ對シテ、學者自身ニ既ニ良イトカ、惡イトカ云フ見解ガ分レテ居ルノガ非常ニ多イノデアリマス、斯クノ如ク立派ナ專門ノ學者ガ判例ヲ研究シテ、サウシテ判斷シテ見テモ、良イトカ惡イトカト云フコトニ、兩方ニ議論ガ分レル位ナ微妙ナモノナンデス、時トシテハ、其ノ判例ガ今ハ餘リ歡迎セラレナイケレドモ、後世ニ至ツテ、アレハ良イ判例デアツタト云フヤウニ、時代ガ過ギテカラ、判例ノ値打ノ出テ來ルモノモアル、時ニハ初メ良イ判例ダト思ツテ居ツタノガ、後世ニナツテ研究シテ見ルト、アレハ詰ラナイ判例ダト云フヤウナコトニナル場合モアリマス、判例ガ良イカ惡イカト云フ判斷ハ時ヲ要シ、或ハ學説ニ依ツテ色々變ツテ來ルモノデアリマシテ、微妙ナモノデアリマス、皆サン御存ジノ有名ナ判決デアリマスルガ、厘事件ト云フ事件ガアリマシタガ、斯ウ云フ事件デモ、裁判シタ時ハ餘リ歡迎サレナカツタ、攻撃サレタ、併シナガラ段々時ヲ經ルニ從ツテ、一厘事件ト云フノハ名判決デアルト云フ風ニ變ツテ來タモノデアリマス、サウ云フ風ニ、非常ニ微妙ナ法律判斷ニ對シテ國民一般ガ、七千萬ハナイカモ知レマセヌガ、選擧權者全部ガ適當ノ判斷ヲシテ、此ノ判決ハ惡イカラ裁判官ヲ罷免シロト云フヤウナコトヲ判斷スルコトハ、寧ロ難キヲ責メル譯デアリマシテ、非常ニ形式的ニ流レマシテ、良イ裁判ヲシテモ、或ハ罷免サレルカモ知レナイ、惡イ裁判ヲシテモ、チツトモ罷免サレナイカモ知レナイト云フヤウナ結果ニ結局陷ルノデハナイカト云フコトガ、最モ不合理ナ點デハナイカト思フノデアリマス、其ノ點ニ對スル司法大臣ノ御考ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、霜山委員ノ御説ハ一應御尤モニ伺ヒマス、但シ此ノ國民審査ト云フコトニ付キマシテハ、私ハ非常ナ一ツノ裁判官ノ刺戟ニナツテ良イ効果ヲ齎スノデハナイカト思ツテ居リマス、裁判官、是ハ將來人材ヲ集メテ、國民ノ信頼ヲ得ルヤウナ人カナルデアリマセウ、併シナカラ、是モ神樣デハナイノデアリマス、往々ニシテ職務ヲ遅滞スルヤウナ者ガナイトモ限リマセヌ、常ニ國民ノ前ニ曝サレテ居ル、審判ヲ受ケルノダト云フヤウニナリマスルト、一方ニ於テ、私ハ非常ニ刺戟ニナルモノト考ハテ居ルノデアリマス、又國民モ新憲法實施ノ曉ニ於キマシテハ、此ノ司法部ニ對スル一ツノ考ヘ方ト云フモノガ從來ト違ツテ變ツテ來ルノデハナイカ、簡單ナ言葉デ申シマスレバ非常ニ重キヲ置ク、從ヒマシテ、國民ノ關心ガ司法部ニ向ケラレマスルト、勢ヒ高最裁判所ノ裁判官ト云フ者ニ對シテ、非常ナ關心ヲ持ツテ來ル、是ハ此ノ新憲法ノ狙ヒ所デハナイカト私ハ考ヘテ居リマス、實際ノ運用ニ付キマシテ果シテ此ノ効果ヲ正シク擧ゲ得ルカ否ヤト云フコトハ今霜山委員ノ仰セノ如ク疑問ガアリマセウガ、少クトモ左樣ナ點ニ於テ、私ハ此ノ規定ガアルコトニ依ツテ最高裁判所ノ裁判官ニ良イ人ガ擧ゲラレルト云フコトヲ考ヘテ居ル次第デアリマス、又此ノ最高裁判所ノ裁判官ノ下シマシタ判決ノ當否、是ハ今霜山委員ノ仰セラレマスルヤウニ、誠ニ御尤モデアリマスルガ、是モ又從來ト異ニ致シマシテ、判決ニハ、各裁判官ノ意見ヲ記載致シマス、「イギリス」流ノ判決ノヤウデアリマスガ、サウシテ絶エズ國民ノ前ニ其ノ裁判官ガ如何ナル意見ヲ持ツテ居ルカト云フコトヲ明カニ致シマスルト、裁判官ニ對スル國民ノ注意ト云フモノモ、一段ト高クナリマシテ、此ノ憲法實施以後、時代ヲ終ルニ至リマシテ、相當ナ效果ヲ擧ゲテ來ルノデハナカラウカト、斯ウ考ヘテ居ル次第デアリマス
○霜山精一君 國民審査ノ規定ノ良イ點モ無論オアリノコトト思ヒマスガ、非常ニ良クナイ部面モアルノデアリマス、此ノ規定ノ適用ニ付テハ、非常ナ注意ヲ要スルコトト考ヘマス、其ノ次ニ伺ヒマスルコトハ、極ク小サナ問題デアリマスルガ、從來ハ裁判官ト云フモノハ終身官デアルト云フコトニナツテ居リマシテ、各國ノ憲法ノ中ニモ、裁判官ヲ終身官デアルト云フ規定ノ置イテアルモノモアリマセウ、現行憲法ノ中ニハ、終身官デアルト云フ規定ハアリマセヌガ、裁判所構成法ノ中ニ裁判官ハ終身官トスル、デスカラ、職務ヲ辭メマシテモ、判事タル身分ハ殘ツテ居ル、終身退職判事デアルト云フ身分ハ殘ツテ居ルコトニ從來ハナツテ居リマシタ、新憲法ニ於キマシテハ、ドウモ其ノ點ハツキリ致シマセヌガ、憲法草案ニ依リマスルト、法律ニ定メタ年齡ニ達シタ時ハ退官スルニアリマスルガ、過去ノ終身官ト云フモノハモウ此ノ新憲法ノ下ニ於テハ、御廢メニナル趣旨デアルカドウカ、其ノ點ヲ伺ツテ置キタイト思ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 御説ノ通リデアリマス、本案八十條但書、「法律の定める年齡に達した時には退官する。」、裁判官ノ終身官タルコトハ、將來廢止サレルコトト考ヘマス
○霜山精一君 終身官デアルコトヲ廢止セラレル理由ヲ伺ヒタイノデスガ、特ニ永ク終身官トシテ其ノ地位ヲ認メラレテ居リマシタ、ソレガ急ニ、此ノ新憲法デ變ヘナケレバナラヌト云フ理由ハ、ドノ點ニアルカト云フコトト、ソレカラ從來、既ニ退職シテ終身官タル身分ニ依ツテ退職判事ト云フ身分ヲ持ツテ居ツタ者ニ對シテハ、ドウ云フ風ニナルカ、其ノ點ヲ一ツ
○國務大臣（木村篤太郎君） 退官ノ理由ハ、申ス迄モナク職ヲ伴ハナイ官ト云フモノハ、實ハ不合理デアル、是ハ霜山委員モ十分御承知ノ通リデアリマスルガ、從來ノヤウニ官ダケアツテ、何等職ヲ持ツテ居ナイト云フコトハ私ハ不合理ダト考ヘテ居リマス、新憲法ノ下ニ於テハ、サウ云フ制度ヲ廢止スルト云フ考デアリマス、デ從來ノ所謂退職サレタ終身官ノ身分ヲ持ツテ居ツタ方ハドウナルカト云フコトデアリマスガ、ソレハ事實トシテ今考慮中デアリマス、直チニ今、此處デ申上ゲルコトハ出來兼ネル事情ニアリマス、左樣御了承ヲ願ヒマス
○霜山精一君 終身官ハ判事バカリデハアリマセヌ、檢事モ終身官デアリマスシ、ソレカラ陸海軍ノ軍人、皆終身官デアリマシテ、サウ云フ從來、澤山ナ人ガ終身官タル身分ヲ持ツテ居リマスカラ、是ハ非常ニ國民トシテハ關心ノアルコトデハナイカト思フノデ御伺ヲシタノデアリマス、ソレカラ其ノ次ニ御伺ヒスルコトハ、前回、公法上ノ權利ノ中デ、公法關係ニ基ク損害賠償ノ規定ガ出來マシタノデ、非常ニ是ハ救濟ガ完全ニナツタト云フコトヲ申上ゲマシタガモウ一ツ、官公吏ノ俸給、給與、退職金、隠退料、斯ウ云フモノノ請求權ト云フモノガ、今日ニ於キマシテハ保護サレテ居ラナイ、行政裁判所ニ訴ヘル規定モナイシ、サウカト云ツテ司法裁判所ニ訴ヘテ請求スルコトモ出來ナイト云フコトニ現在デハナツテ居リマス、是ハ矢張リ嘗テ御話シタヤウニ無告ノ民ヲ作ル譯デアリマス、何トカシテ、斯ウ云フ際ニ其ノ點ノ救濟ガ出來ルヤウニシタラバドウカト考ヘテ居リマス、或ハ之ヲ通普ノ金錢債權ト同ジヤウニ、民事訴訟デ請求出來ルト云フヤウニスルノモ、一ツノ考ヘ方デアル、或ハ又之ヲ行政事件トシテ、裁判所ニ請求出來ルト云フコトニスルノモ、其ノ一ツノ方法デアラウト思フノデスガ、此ノ點ニ關スル司法大臣ノ御意見ヲ伺ヒタイノデアリマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 尤モノヤウニ考ヘテ居リマス、是ハ行政事件トシテ取扱フコトガ將來出來ルヤウニナルカト考ヘテ居リマス、目下考慮中デアリマス
○霜山精一君 其ノ問題ニ關聯致シテ居リマスルノデ、前ニ遡リマスケレドモ、四十條ト十七條トノ關係ヲ御尋ネシテ見タイノデアリマス、前回チヨツト御尋ネ致シマシタノデ、ハツキリシタノデアリマスルガ、四十條ノ補償ノ請求デスネ、抑留、拘禁サレタ後ニ無罪ノ裁判ヲ受ケタ場合ニハ補償ノ請求ガ出來ル、此ノ方ハ公務員ニ何等ノ故意、過失ガナクテモ、補償ノ請求ガ出來ルノデアリマスルガ、處ガ、十七條ノ方ハ公務員ノ不法行爲ニ依ツテ損害ヲ受ケタ場合ニ國又ハ公共團體ニ賠償ノ請求ガ出來ル、斯ウ云フコトニナツテ居リマスルカラ、公務員ノ不法行爲ニ依ツテ生ジタ損害ノ賠償デアル、ソレガ十七條デアル、斯ウ云フ風ニ區別ガ出來ルノデアリマスルガ、唯茲ニ問題ニナルノハ四十條ノ場合、抑留拘禁、此ノ方ニ付テ公務員ニ不法行爲ガアツタ場合詰リ故意過失ニ依ツテ抑留拘禁サレタ、或ハ抑留拘禁後ニ拷問ニ掛ケラレタト云フヤウナ故意、過失ガ抑留、拘禁ニ伴ツテ居ル場合、其ノ場合ヲ四十條ニ依ツテ救濟スルノデアルカ、或ハ十七條ニ依ツテ救濟スルノデアルカ、詰リ公務員ノ不法行爲ガ、四十條ノ中ニ被サツテ來テ居ルヤウナ場合ハ、ドチラノ請求ニ依ツテ之ヲ許スノデアルカ、是ハ補償ノ請求ノ方ハ、刑事裁判所デ補償ヲ許スカラ、刑事裁判ノ方ノ管轄ニナル、十七條ノ方ハ普通ノ損害賠償デアルカラ、是ハ民事裁判ニナルト思フカラ、其ノ裁判所ガ違フカラ、四十條ノ場合ニ公務員ノ不法行爲ガ加ツテ來テ居ル場合ハ、孰レノ規定ニ依ツテ之ヲ處理スルカト云フコトガ問題ニナルノデハナイカト思フノデアリマスガ、其ノ點ニ付テ、何カ御考ガオアリデシタラ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、其ノ場合ハ要スルニ請求權ノ競合ノ場合デアリマス、ソレデスカラ、本人ノ意思ニ依リマシテ、ドチラニデモ請求出來ルカト考ヘテ居リマス
○霜山精一君 ソレカラ序ニ、前ニ返リマシタカラ、三十四條ニ關スル問題ヲ御伺ヒシテ見タイノデアリマス、第三十四條ト云フノハ、前回ノ御説明ニ依リマスト、是ハ刑事手續ニ關スル規定デアル、詰リ刑事手續ヲ始メタ時ニ、此ノ三十四條ニ依ツテ抑留、拘禁サレタ場合、其ノ時ニ此ノ規定ガ適用ニナルノデアルト云フ御考ヘデアルコトハ分ツタノデアリマスルガ、唯問題ハ、抑留、拘禁ハ刑事手續ノミニ付テ行ハレルモノデハナイ刑事手續以外ニ色々ナ不法ナ抑留、拘禁ト云フモノガ行ハレル譯デアリマス、例ヘバ氣違ヒデナイノニ、拘禁シテヤラウト言ツテ精神病院ニ叩キ込ンデ、抑留シテシマフ、拘禁シテシマフト云フヤウナコトモ行ハレマス、或ハ又色々政治上ノ理由等デ、反對黨ヲ軟禁シテシマツテ、何處カヘ抑ヘテシマフト云フヤウナコトモ認メラレル、サウ云フ場合モアリ得ル譯デアリマス、サウ云フ風ニ、刑事手續以外デ私人ノ抑留、拘禁サレル場合ガアリ得ル譯デアリマスガ、サウ云フ場合ニ對スル何カ特別ナ救濟ノ方法ヲ御認メニナルカドウカ、實ハ此ノ配付ヲ受ケマシタ參考書類ノ中ニハ、人身保護令ト云フモノガアリマシテ、何カサウ云フ場合ノ特別ナ措置ガ講ゼラレルノデハナイカト云フコトガ豫想サレルノデアリマスガ、サウ云フ風ナ刑事手續ノ内外ヲ問ハズ、刑事手續タルト刑事手續以外タルトヲ問ハズ、不法ナ抑留、拘禁ニ對シテ、人身ヲ保護スル何カ特別ナ措置ヲ御講ジニナル御積リデアルカドウカト云フコトニ付テ御伺ヒシタイト思ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、今御示シニナツタヤウナ場合、即チ私人ガ私人ヲ監禁、拘禁シ、又刑事手續以外デ官吏ガ不法ニ私人ヲ抑留、拘禁シタ場合ノ補償ヲ如何ニスベキカ、現在デハ御承知ノ通リ左樣ナコトハ刑法上許サレナイノデアリマス、判事、檢事、警察官、其ノ職務ヲ行フニ付テ凌辱行爲ヲシタ場合ニハ、刑法上一定ノ制裁ハアルノデアリマス、又私人ガ私人ヲ不法ニ監禁、抑留シタ場合ニハ、或ハ逮捕監禁罪トシテ一定ノ刑法上ノ制裁ガアルノデアリマス、是等ノ法律ヲ適用スルニ萬違算ノナイヤウナ建前ニナツテ居リマス、即チ、直チニ檢事局ニ之ヲ告發スルカ、或ハ救濟ヲ求メ得ルノデアリマス、併シ其ノ以外ニ今申サレマシタ人身保護令ト云フヤウナ規定ヲ設クベキカドウカト云フ問題デアルノデアリマス、實ハ其ノ點ニ付キマシテハ司法法制審議會ニ於キマシテモ、大イニ議論サレテ居リマス、私ノ手許ニ要綱案ガ今參ツテ居ルノデアリマスルガ、果シテ此ノ要綱案通リニ、將來法文トシテ現レルカドウカト云フコトハ、今直チニ言明スルコトハ致シ兼ネルノデアリマス、左樣ナ法案ニ付テ、只今愼重ニ審議中デアルト云フコトダケハ申上ゲルコトガ出來ルノデアリマス
○委員長（安倍能成君） 御回答モ合セテ一時間ニナツテ居リマスカラ、成ルベク簡單ニ願ヒマス
○霜山精一君 モウ少シデス、現行法ノ下ニ於キマシテ、三十三條等ニ付テ司法官憲ト云フ問題ノ所ヲ少シ伺ヒマス、現在ノ制度ニ於キマシテハ、拘留状等ノ令状ヲ發スル場合、裁判所ガ令状ヲ出スト云フコトニナツテ居リマス、檢事及ビ司法警察官ハサウ云フ令状ヲ出ス權利ヲ與ヘテナイノデアリマス、詰リ檢事、司法警察官ノヤウナ捜査官憲ハ強制捜査權ヲ持タナイ、令状ヲ出シテ人ヲ引張ツテ來ルト云フヤウナ強制捜査ノ權限ヲ持タナイコトニナツテ居ルノデアリマス、或程度ニ於テ強制捜査ノ權限ヲ捜査官憲ニ與ヘルカドウカト云フコトハ、從來カラ司法部トシテハ非常ニ大キナ問題デアツタノデアリマシテ、捜査官憲ガサウ云フ強制的ナ捜査權ヲ持ツト云フコトハ非常ニ困ル、強制權ヲ與ヘテハイカヌト云フ議論ト、幾ラカ與ヘナケレバ捜査ガ出來ナイヂヤナイカト云フ議論トガ長ク對立シテ居ツタ譯デアリマス、新憲法ニ於キマシテハ、サウ云フ令状ヲ出ス權限ガ司法官憲ト書イテアリマシテ、果シテ之ノ中ニ、裁判所ノミヲ含ムノデアルカ、或ハ檢事、司法警察官迄モ、司法官憲ノ中ニ包含スルノデアルカドウカト云フコトハ、ハツキリシナイノデスネ、斯ウ云フ廣イ文字ヲ使ツテアルト、或ハ現行制度ヲ改メテ、檢事及ビ司法警察官ニ依ル憲法ノ強制捜査權ヲ與ヘル積リデハナイカト云フコトガ豫想サレルノデアリマス、是ハ果シテドウ云フ趣旨デ、此ノ司法官憲ト云フ文字ヲ使ハレタカ、其ノ點ヲ御尋ネシタイト思ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 今ノ御質疑ニ對シテ御答ヘ致シマス、此ノ司法官憲ニハ、判事、檢事、司法警察官、之ヲ包含スル意味デアリマス、從來ノ建前デハ、判事ノミガ令状ヲ出スコトニナツテ居ツタノデアリマス、實際ノ問題ト致シマシテ、非常ニ事件ガ急速ヲ要スル場合ニ、一々判事ノ令状ヲ求メルト云フヤウナコトデハ甚ダ不都合ヲ生ズルノデアリマス、將來國家治安ノ維持カラ見マシテモ、甚ダ左樣ナコトデハ困ル場合ガ發生スル譯ト存ジマス、又一面ニ於キマシテ、從來人權蹂躙ナルモノト申サレルノハ、此ノ點ガ主ニ禍ヲナシテ居ツタノデハナイカト思フノデアリマス、司法警察官ガ、所謂行政檢束ト云フモノデ、判事ノ令状ニ據ラズシテヤツタノデアリマス、サウシテ不當ニ長ラク拘禁スルト云フ例ガ屡々見受ケタノデアリマス、ソレデ是ハ、ドウ云フ所カラ起因スルカト申シマスト、矢張リ一定ノ強制捜査ヲヤル權限ヲ持タナカツタカラ無理ヲヤツタト云フコトニ歸着スル所ガ多イノデアリマス、ソコデ、只今法制審議會デ立案中デアリマスルノハ、司法警察官ニモ、強制捜査權ヲ持タシタラ宜カラウ、併シソレニハ、定ノ限度ヲ置カウ、從來ノヤウナ無暗ナコトヲヤルコトハ絶對ニ廢シナケレバナラヌ、此處デ案ノ要綱ノ一部ヲ私ガ申上ゲルコトヲ御許シヲ願ヒタイノデアリマス、ソレニ依リマスルト、司法警察官ニハ一週間、檢事ハ一箇月ト云フヤウナ、一定ノ制限ヲ設ケテ、強制捜査權ヲ持タシタラドウカ、サウスルト、從來ノヤウナ茲ニ無理ガ生ジテ來ナイシ、從ツテ非難ノ的ニナリマシタ人權蹂躙ト云フヤウナ事柄ニ非常ニ緩和サレテ來ルノデハナイカト云フコトニナツテ居ルノデアリマス御答ノ要點ハ、此ノ地方警察官ニハ、判事、檢事、司法警察官、之ヲ含マセル意味デアルト云フコトヲ御了承ヲ願ヒタイ
○霜山精一君 私ノ質問ハ之ヲ以テ終リマス
○子爵大河内輝耕君 私ハ只今迄ノ司法大臣ノ御説明デシタカ、質問應答ヲ伺ツテ居リマシテ、伺ヒ損ヒガアルトイケマセヌカラ、確メテ置キタイ、司法權ノ獨立ノコトニ付テ御質問ガアリ、私ハ唯憲法デ保障サレテ居ルモノト思ツテ居リマシタガ、何カ伺ツテ居ル間ニ、司法權ノ獨立ハ法律デドウニデモナルヤウニ、ト云フヤウナ風ニ解サレテ來タノデアリマス、サウナリマスト云フト容易ナラヌ問題デ、司法權ノ獨立ト云フコトハ、飽ク迄憲法ニ之ヲ謳歌シナケレバナラヌト云フコトニナツテ居ルモノト私ハ考ヘテ居リマス、ソレカラ、此ノ規定ヲ見マシテモ、私ノ解釋ガ惡イカ知リマセヌガ、司法權ノ獨立ハ略々出來テ居ルヤウニ思ヒマス、チヨツト伺ツテ見ルト、法律ノ力モ借リナケレバナラヌト云フヤウナ風ニ取レルノデアリマスガ、其ノ點ハ如何デスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、決シテ裁判所ノ獨立ヲ侵害スルト云フコトニハナラヌノデアリマス、此ノ憲法竝ニ法律ノミニ拘束サレル、裁判官モ或ハ裁判所構成法、或ハ彈劾法ト云フヤウナモノニ或程度ハ拘束サレルノデアリマス、ソレ以外ニハ絶對ニ拘束サレナイ、寧ロ茲ニ裁判官ノ身分ヲ保障スル爲ニ設ケル規定デアルト御承知ヲ願ヒタイ
○子爵大河内輝耕君 能ク分リマシタ、ソレデ宜シウゴザイマス、ソコデ「すべて司法權は」トアリマスノハ、司法權ノ範圍デアリマスガ、私共素人デアリマスカラ能ク分リマセヌガ、素人ニ分ルヤウニ能ク説明シテ戴キタイ、民事、刑事ハ無論入ルガ、其ノ外ニ、以前ニ行政裁判所ニアツタヤウナモノモ、之ニ入ルカ入ラヌカ分リマセヌケレドモ、總テ權利ヲ害サレタト云フヤウナコトハ、皆何トカ救濟ノ途ガ附クノダラウト思ヒマスガ、何カ相當ニ範圍ヲ設ケルノデアリマセウカ、ソレトモ、何デモ皆構ハズ引受ケルト云フノデアリマセウカ、素人ニ分リ易ク御説明ヲ願ヒタイ
○委員長（安倍能成君） 司法大臣ニ伺ヒマスカ
○子爵大河内輝耕君 ドチラデモ
○國務大臣（木村篤太郎君） 何ガ司法權デアルカト云フコトニ付テハ、相當問題ガアリマセウガ、此ノ裁判所デ扱ヒマスル事件ハ、今大河内委員ノ仰セニナリマシタ、民事事件、刑事事件ハ勿論デアリマスガ、從來ノヤウナ民事事件モ扱フコトニナリマス、行政事件デハドウナルカト申シマスト、是ハ第二項ノ特別裁判所ハ設ケルコトガ出來マセヌノデ、從來ノ行政事件モ等シク裁判所デ之ヲ扱フト云フコトニナルノデアリマス
○子爵大河内輝耕君 從來ノ行政事件ハ、官吏ノヤツタコトデ、總テノコトガ含マレテ居ナイヤウニ思ヒマスガ、ソレハ從來ノ範圍ダケニ御止メニナリマスカ、ソレヲ更ニ擴張サレマスカ、若シ擴張サレルトスルト、如何ナル點迄擴張サレルノデスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 御説御尤モデアリマス、其ノ點ニ付テノ限界ヲ何處ニ設ケルカト云フコトニ付テハ、相當議論ノ餘地ガアルノデアリマス、只今之ヲ審議中デアリマス、左樣御了承ヲ願ヒマス
○子爵大河内輝耕君 ソレデ一ツ伺ツテ置キタイノハ、皇族樣ノ問題デゴザイマスガ、皇族樣ハ、是ハ民事上ノ御責任ハアルト思ヒマス、併シサウ云フコトヲ想像スルノモ何デスガ、是ハ理論ノ問題ダカラ申スノデスガ、刑事上ノコトダトカ、云フヤウナコトニナリマスト、ドウ云フコトニナリマスカ、矢張リ此ノ中ニ含マレマスカ、ソレトモ、サウ云フコトハ御責任ハ全然ナイト云フヤウナコトニナルノデセウカ、其處ハ如何ナモノデセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 大河内委員ニ申上グタイノデスガ、其ノ點ニ付テハ、私ハ成ルベク觸レタクナイノデアリマス、理論上カラ申セバ、勿論皇族デモ個人トシテハ國民デアラレルノデアリマスカラ、一般法規ノ下ニ之ヲ含マセナケレバナラヌト云フコトニナルノデアリマスガ、ソレカラ推論スレバ、凡ソ結論ガ出テ參ルカト思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 ソレデハ、ソレハ其ノ位ニ致シテ置キマセウ、ソレカラ其ノ次ニ彈劾ノ部分デスガ、是ハ皆樣カラ御質問ガゴザイマシタシ、私ハ分リマシタカラ、是ハ止メマス、私ノ質問ハ是デ止メテ置キマス
○澤田牛麿君 私ハ少シ、澤田ノ事柄ヲ持ツテ居リマスカラ、少シノ時間ヲ頂戴シタイ、此ノ司法ニ關スルコトニ付テハ大變是ハ進ンダ立法ダト云フ御話ガアリマシタガ、私ハ何時モ申上ゲル通リ、頭ガ舊イ爲カ、進ンダ立法ト云フヨリハ、寧ロ非常ニ混亂シタ立法デ退化シテ居ルモノデハナイカト私ハ思フ、大日本帝國憲法ニ依リマスルト、第五十七條ノ第二項及ビ第五十八條ニ於テ、裁判所ノ構成、ソレカラ裁判所ノ裁判官ノ身分、其ノ他懲戒等ノコトガ法律ニ依ルト明記サレテ居リマス、極メテ明確ナ而モ簡單ニシテ要領ヲ得タ非常ニ完備シタモノデアルト、私ハ大日本帝國憲法ノ司法ニ關スル所ヲ感ズルノデアリマス、新憲法ノ草案ニ依リマスルト、各所ニ疑問ヲ生ズルノデアリマス、ソレヲ極ク秩序ナク申上ゲテ、政府ノ御答辯ヲ伺ヒタイト思ヒマス、先ゾ順序ハ違ヒマスガガ、第一ニ第八十一條ノ憲法違反ノ法律ヲ裁判スル權能、是ハ私ハ三權分立ノ思想ヲ破壊スル最モ酷イモノデアルト思ヒマス、何處ノ國ニ斯ウ云フコトガ行ハレテ居ルカ、私ハ能ク知リマセヌケレドモ、抑々法律ヲ定ムルト云フノハ、定ムル權能ノアル者ガ其ノ良智ニ依ツテ制定スルノデアリマス、之ヲ若シ違法ナリトカ、イケナイ、違法ト云フコトハ、即チイケナイト云フコトニナリマス、イケナイトスル權能ヲ持ツ者ハ、ソレ以上ノ者デナクテハナラヌ、處ガ、國會ハ最高ノ機關ト云フコトニナツテ居ル、國會以上ノ機關ハナイノデアル、其ノ國會ハ最高機關デアル所ノ國會ガ定メタモノガイケナイト云フコトヲ、國會ヨリ下級ノモノ、國會ニ隷屬スルト云フカ、司法官憲デスカ、何デスカ、裁判所ガ判定スルト云フコトハ、最モ不合理ナ、常識的ニ言ツテ最モ不合理デアル、三權分立ノ頭カラ言ツテ甚ダ不合理デアル、ソレカラ新憲法ノ精神ニ依ツテモ、國會ハ最高ノ機關デアルト明言シテ居ル、其ノ最高ノ機關ガ定メタモノヲ、ソレヨリ以下ノ機關ガ、之ヲ不都合ナリト宣言スルト云フコトハ、是ハマア不合理ノ甚ダシイモノダト私ハ思フ、ドノ點カラ見テモ、憲法違反ノ法律デアルト云フコトヲ判決スル權能ヲ裁判所ニ持タセルト云フコトハ、ソレハ何處カラ、サウ云フ觀念ガ出テ來テ居ルカ、私ハ頗ル疑フノデアリマス、官廳ノ間ニハ、ソレハ甲ノ官廳ノ處置ヲ乙ガ是正スルト云フ途ヲ拓クト云フコトハ出來ナイコトモナイデセウケレドモ苟モ國家ノ最高機關ガ其ノ決定ヲシタ、立法權ト云フ大事ナ權能ニ依ツテ決定シタ法律ヲ、ソレハ間違ツテ居ルト云フコトヲ判定スルト云フコトハ、是ハ私ハ、甚ダ不都合デアルト思フ、現行憲法ニ依ル如ク、天皇ガ統治權ヲ總攬シテ居ラルヽナラバ、是ハ天皇ノ所ニ於テ如何樣ニモ、裁可モ廢棄モ、如何樣ニモ出來ルコトハ合理的デアルケレドモ、サウ云フ制度ガナクナツタ後ニ於テ、司法裁判所ガ國會ノ制定シタル法律、既ニ法律トナツテ行ハレテ何年カ或ハ經ツテ居ル後デナケレバ、此ノ裁判ハ起ツテ來ナイダラウト思フ、其ノ後ニナツテ、此ノ法律ハ駄目ダト云フヤウナコトヲ言フト云フコトハ、是ハドウモ常識カラ考ヘテ不合理ノ甚ダシイモノデアル、私共ハサウ云フ考ノ出處ガ分ラヌ、何處カラソンナ考ガ出テ來ルカ、殆ド我々ノ頭デハ了解出來ナイ、餘程進ンダ頭カ、餘程不合理ナ頭カ何カデナケレバ、普通ナ頭デハ出テ來ナイ考デアル、ソレカラ第二ニハ、三權分立ノモウ一ツノコトハ、是ハ三權分立ノ論カラ言ツテ、司法裁判所ガ不當ニ侵シテ居ル、進出シ過ギテ居ル、侵略シ過ギテ居ル所ノ方カラ言ツテ居ルノデアリマスガ、今度ハ、アベコベニ侵略サレテ居ル所カラ見ルト、裁判官ヲ内閣ガ任命スルト云フ風ニナツテ居ルヤウデアリマスガ、實ハ此ノ法文ヲ能ク讀メナイノデ間違ツテ居ルカモ知レマセヌガ、サウ云フ風ニナル、内閣ト云フモノハ、行政機關デアル、司法權ノ獨立ト云フコトヲ言フノニ、其ノ獨立司法權ノ人的組織、人的要素デアル所ノ裁判官、一人一人ヲ内閣ガ任命スルト云フコトニナレバ、ソレハ司法權ハ内閣ニ隷屬スルモノト云フコトヲ結論セサルヲ得ヌノデアル、此ノ點ハ甚ダ司法權ノ侵害ニナルト私ハ思フ、此ノ二點ガ三權分立的見地カラ觀テノ大ナル不都合デアルト私ハ思ヒス、ソレカラ其ノ他此ノ法文ハ非常ニ讀ミニクイ、政府ノ御説明ニ依ルト、法文ヲ平假名ニシテ、誰ニデモ讀メルヤウニシタト云フノデアリマスカラ、私共ソレ讀メナイトナツテハ、誰ニモ讀メルモノガ、我々ガ讀メナイト云フコトニナルト、我々ガ餘程ドウカシテ居ルト思フ、私ハ其ノ點ニ於テ非常ニ恥ヂ入ツテ居ル次第デアリマスガ、大分讀ミニクイ、先程牧野委員カラ御話ガアリマシタガ、大日本帝國憲法ノヤウニ、明文ガチヤント法律デ決ルト云フコトニキツチリ書イテアレバ、ソレハ實ニ明瞭デアリマスノデ、茲デハ一體明文ガドウナルノデアルカ、ドウモハツキリシナイ、豫テ金森國務大臣カラ色々御説ノヤウニ、處々方々ヲ綜合シテ推論スレバ、サウ云フコトハ分ルヂヤナイカト云フヤウナ話ガ度々アリマス、ナカナカソレガムヅカシイノデス、一目瞭然、明瞭ナ規定ガ何故出來ナカツタノデアラウカ、私ハ其ノ點ニ付テ疑フノデアリマス、ソコデ其ノ後ノ、明文關係ノ後ニ付テモ、色々ナ問題ガアル、ドウモ實際分ラナイデ困ルノデスガ、彈劾ハ彈劾ノ規定ガ出テ來ナケレバ、ドウ云フ彈劾ダカ是モ了解スルコトガ出來ナイ、其ノ彈劾ノ序ニ申上ゲマスガ、先程問答ガアリマシタガ、私ハ先程ノ問答ト正反對ノ意味ニ此ノ文章ガ讀メルノデアリマス、「裁判官の懲戒處分は、行政機關がこれを行ふことはできない。」、是ハドウモ懲戒處分ヲ法律デ作ルトカ法律デ作ラナイトカ云フ問題デハナイ、懲戒處分其ノモノガ行政機關デハ出來ナイコトニナツテ居リマスト書イテアリマスガ、懲戒處分ハ裁判デヤレバ、裁判所自ラシナケレバナラヌト云フコトニナルノデアルガ今迄ノヤウナ意味ノ懲戒ト云フモノガ無クナツタノダ、此ノ憲法デ斯ウ云フ風ニ解セザルヲ得ナイヤウニ私ハ解釋致シマスガ、其ノ點ハドウ解釋シタラ宜イノデアリマセウカ、ソレカラ若シサウデアルトシタラ、行政機關ガ懲戒ガ出來ナイトナレバ、今迄ノヤウニ司法大臣ガ懲戒スルト云フコトハ絶對ニ無クナル、一々懲戒ト云フヤウナコトニ裁判所ガ裁判ヲ開イテ裁判官ガ處置スルヨリ途ハナイト思ヒマス、ソレカラ審査デゴザイマスガ、是モ度々色々ナ點デ色々ナ方カラ御話ガアリマシタカラ、私ハ簡單ニシマスガ、審査ト云フコトモ、衆議院議員ノ選擧ト絡ミ合セテ規定シテ居ルヤウデスガ、衆議院ノ總選擧ト裁判官ノ適不適ト、何ノ關係ガアルカ見當ガ附カナイ、了解ガ出來ナイ、衆議院ノ總選擧ト、何デ絡ミ合セテ來ナケレバナラヌノデアルカ、若シ裁判官ノ適不適ヲ審査スルト云フナラバ、國民投票ガ必要ナラバ、何時デモヤツタラ宜イ、或ハ何年毎ニヤツタラ宜カラウ、國會議員ノ選擧ト何等ノ縁故ノナイコトデアル、是モ三權分立ノ點カラ言ヘバ國會議員ト裁判官トハ全然關係ガナイ、ソレヲ絡ミ合セテ、資格ガアルカナイカト云フコトノ審査ヲスルト云フコトハ、ドウモ何處カラ斯ウ云フ考ガ起ルカ、此ノ考ノ出處ガ私ニハ了解出來ナイ、ソレカラ其ノ審査トナレバ、例ヘバ大審院ノ判事ガ十人アル、其ノ十人ヲ全部審査シテ、其ノ中一人ガイケナイトナルト、後ノ九人ニ付テハドウ云フ風ニナルカ、其ノ次ノ審査ト云フコトニ付テハ何時行ハレルカト云フコトニ付テモ、實際問題トシテムヅカシイト思フノデアリマスガ、審査其ノモノニ付テモ、是ハ人民ニ其ノ審査ノ能力ガ無イト斷言シテ憚ラヌノデアリマス、能力ノ無イ者ニ裁判官ヲ審査サセテモ、何ノ役ニモ立タヌ、唯徒ニ手數ヲ掛ケルノミデアルト、斯ウ私ハ考ヘマス、マダ一項到ル處悉ク疑問デアリマスガ、餘リ一人デ時間ヲ取ルノモ惡ウゴザイマスガ、マダ時間モ
○委員長（安倍能成君） 長クオナリニナルヤウナラ午後ニ
○澤田牛麿君 イヤ、モウ少シデアリマス、ソレカラ順序ガ甚ダ惡ウゴザイマスガ、八十條ノ規定ニアル報酬ノ問題デアリマスガ「報酬を受ける」トアリ、而モ定期ニ「報酬を受ける。」トアリマスガ、是ハ少シ御丁寧ナ規定デアリマス、定期ニ「報酬を受ける。」コト迄、憲法ニ書カナクチヤイカヌノデアリマセウカ、一方ニ、國會議員ノ方カナンカガ報酬ヲ受ケルト云フヤウナコトガ書イテアリマスガ、ソレニハ定期ト云フコトガナイ、是ハドウ云フ譯デ區別シタノカ分ラヌガ、又此ノ報酬ト云フヤウナコトヲ、エライ神經過敏ニ書イテ居リマスガ、憲法ノ中ニソンナ、大マカナ國家ノ基本法ノ中ニ、相當ノ「報酬を受ける」トカソレハ總テ定期ニ「報酬を受ける」トカ云フヤウナ、俸給令ノ規定ヲ此處ニ細カク書クノハドウ云フ譯デアリマスカ、マダ外ニ幾ラデモ大事ナモノガアルダラウト思ヒマスガ、斯ウ云フ規定ヲ書クノハドウモ分ラヌ、彈劾ニ付テモ、是ハ法律ガ出ナケレバ批評ノ餘地ガナイガ、裁判官ハ公ニ彈劾スルト云フコトハドウ云フモノデアルカ、甚ダ了解ニ苦シムノデアリマス、何故、斯ウ云フ風ニムヅカシイ司法權ニ關スル疑問ノ多イコトヲ羅列スルノデアラウカ、寧ロ現行大日本帝國憲法ノ書キ方ノ方ガ、遙カニ簡明ニシテ、而モ要ヲ得テ居ルノヂヤナイカト私ハ思フ、御答ヲ交ヘルト相當長クナリマスカラ、此ノ程度デ一應止メマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 大體私ノ考ヘテ居リマスル全般ノ問題ト密接シテ居リマスカラ、私カラ御答ヲ申上ゲタイト存ジマス、現行憲法ノ司法權ニ關スル規定ノ方ガ、簡ニシテ要ヲ得テ居ルト云フ御話デアリマシテ、確カニ簡デアリマス、簡デアリマスル此ノ結果ト致シマシテ、又多方面ニ於テ幾分ノ不明瞭ナ點ヲ持ツテ居リマシテ、軍法會議ガ許サレテ居リマスルナラバ、又ソレニ準ズルヤウナ特殊ナモノヲ作ル可能性ヲ殘シテ居ルノデアリマシテ、矢張リ簡ト云フコトノ半面ニ於キマシテ、内容ガ充實シナイト云フ缺點ガアルノデアリマス、今回ノ憲法草案ニ於キマシテハ、内容ヲ相當充實致シマシテ、司法權ノ獨立ニ凡ソ必要ナルベキ總テノ規定ヲ網羅シヨウト努メタ譯デアリマス、其ノ結果幾分複雜ニナリマシテ、今戴キマシタヤウナ御批判ノ起ルノモ其處ニ原因ガアラウト思ツテ居リマス、ソレハ一面カラ言ヘバ、已ムヲ得ザル結果デアリ、又利益ヲ伴フコトデモアラウト思ヒマス、ソコデ、第一ニ此ノ法律審査ノコトデアリマシテ、裁判所ニ法律審査ノ權能ヲ與ヘルト云フコトハ、三權分立ノ趣旨ニ違反シ、又此ノ立法機關ノ最高機關ガ國會デアルト云フコトトモ背馳スルノデハナイカト云フ御考ヘデアリマシテ、或意味ニ於キマシテ、若シ三權分立ト云フコトヲ、固定シタル三ツノ權能ガ全然繩張リヲ異ニスルト云フ立場ヲ執リマスト、多少左樣ナ御批判ヲ生ズル餘地モアルノデアリマス、併シナガラ三權分立ト云フコトニハ、自ラ一定ノ幅ノアル内容ガアリマシテ、諸國必ズシモ一ツノ原理ニ據ツテ居リマセヌシ、又ソレニコダハルベキ憲法上ノ要請モナイ譯デアリマシテ、ソレハ憲法ガ適宜ニ認メル所ニ依ツテ、妥當ナル規定ヲ定メテ宜カラウト思フ譯デアリマス、大體ノ基本ノ考ト致シマシテハ、我々ハ法律ヨリモ、憲法ヲ現實ニ於テ最高ノ規定トシテ考ヘテ行カナケレバナラヌ、デアリマスルカラシテ、憲法ヲ常ニ護ラルヽヤウニ、規則ヲ設ケテ行カナケレバナラヌト思ヒマス、若シモ從前ノ日本ノ裁判所ノ解釋ニ從ツテ、現行制度ヲ理解致シマスルナラバ、憲法ニ違反シタル法律ガ出來マシテモ、ソレハ國民ニ對シテ規範力ヲ持ツテ來ルコトニナリマス、ソレハ本當カラ言ツテ憲法ノ精神ニハ合ハナイノデアリマス、從ツテ今回ノ草案ニ於キマシテハ、法律ト憲法ト二ツガ相背馳スルナラバ、憲法ニ據ルト云フ其ノ原則ヲ最高裁判所ヲ通シテ、ハツキリサセルヤウニシナケレバナラヌト云フコトデアリマシテ、是ハ憲法尊重ノ結果、已ムニ巳マレヌ必然ノ道行キデアラウト思ヒマス、現行制度ノ下ニ於キマシテ、裁判所ガ左樣ナ解釋權ガアルカドウカト云フコトハ、一ツノ問題デアラウト思ヒマス、又「ワイマール」憲法ガ出來マシタ當時ニハ、斯樣ナ條文ガナカツタケレドモ、之ニ付テノ諸種ノ見解ガアツテ、學説ヲ紹介サレテ居ル文獻ニ依リマスト、出來ルト云フ意見ト出來ナイト云フ意見ガ半々デアルト云フ風ニ傳ヘラレテ居リマス、此ノ憲法ハ其處ヲ明白ニ決定スルト、サウ云フ態度ヲ執ツテ居ルノデアリマス、ソレカラ斯樣ニ致シマスト、國會ガ最高機關デアルト云フコトト矛盾スルデハナイカト云フコトデアリマスガ、是ハ憲法ハ各條文ガ相對立シテ、御互ニ連絡シテ解釋サレルモノデアリマスカラ、國會ガ最高機關デアリマシテモ、ソレニ特別ナ規定トシテ、又此ノ憲法ガ最高裁判所ノ權限ヲ決メマスレバ、モノノ道理ニ於テ差支ハナイ、憲法違反ト云フヤウナコトハ起ツテ來ナイト思ヒマス、尚實際ニ於キマシテハ別トシテ、理論ト致シマシテハ、裁判所ガ法律ソレ自身ヲ直接ニ左右スルノデハアリマセヌ、裁判ニ必要ナル範圍ニ於テ、其ノ法律ノ解釋ヲ決定スルノデアリマスカラ、唯議會ノ權能ヲ正面カラ破壞スルノデハゴザイマセヌ、其ノ點恐ラク御質疑ニ於ケル御不滿ヲ或程度緩和スルコトガ出來ルト思フ譯デアリマス、次ニ裁判ノ獨立ヲ侵害スルヤウナ意味ガ別ニ起ツテ來ル、詰リ内閣ガ之ヲ任命スルト云フ風ナ規定ガアツテ、今迄任免權ノ大權ニアツタモノガ、今度内閣ニ代ルト云フヤウナコトデアルト云フコトカラ、逆ニ裁判官、主トシテ裁判官デアリマスガ、從ツテ又裁判所ノ獨立性ヲ害スルト云フヤウナ御疑惑ガアリマシタガ、是ハ其ノ考へ方、裁判官ヲ任命スルモノハ、結局國ガ任命スルノデアリマシテ、斯樣ナ任免權ノ本體ハ、大權ニ固ヨリ根據ヲ持ツト云フノガ現行憲法ノ考ヘ方デアリマスルガ、今回ハ度々申シマシタヤウニ、天皇ニハ出來ルダケ政治的ナ責任ノ歸屬シナイヤウニ、實質上ノ考慮ヲスルト云フ建前デ來テ居リマスルガ故ニ、裁判官ハ内閣ニ於テ之ヲ任命シ、サウシテ必要ナ範圍ニ於テ、天皇ノ認證ヲ仰グト云フコトニナツテ居リマシテ、其ノ點ハ此ノ國ノ制度ヲ整ヘテ行キマス上ニ於テ、已ムヲ得ザルコトデアリマスルシ、又理論ノ點ハ別ト致シマシテ、運用ニ於キマシテ、今迄内閣ガ結局其ノ任命ノ手續ヲ中心ニ爲シテ居リマスルガ故ニ、ソレ迄ノ支障ハ是カラ論定スルコトヲ得ナイト考ヘテ居リマス、尚、左樣ニ内閣ガ中心ニナルガ如キ任命ノ形式デハアリマスルケレドモ、他ノ一面ニ於キマシテ、最高裁判所ニ付キマシテハ、先程御述べニナリマシタ國民ノ審査ト云フコトガアリマスシ、ソレカラ下級ノ裁判所ニ於キマシテハ、最高裁判所ノ作ル名簿ト云フモノノ制約ガアリマシテ、實質ニ於テハ裁判所ノ行政ニ依ル影響ヲ受ケルト云フ心配ヲ、形式的ニモ除クダケノ注意ハ、十分サレテ居ル譯デアリマス、次ニ裁判所ニ關シマスル色々ノ細カイ規定トシテ、懲戒ト云フモノニ付テハドウスルノカト云フヤウナコトガアリマシタガ、是ハ此處ニ書イテアリマス通リ裁判官ノ懲戒處分ハ、行政機關ガ之ヲ行フコトヲ得ナイト云フコトニハツキリシテ居リマシテ、是ハ裏カラ申シマスレバ、詰リ司法機關カ、又ハ立法機關ガ懲戒ヲ爲シ得ルト云フ意味ニナラウト思ヒマス、併シ立法機關ハ公ノ彈劾ノ方面ニ於テ扱フコトニ、此ノ憲法ノ建前ニナツテ居リマシテ、現實ニ於キマシテハ、懲戒處分ハ裁判所ガ、裁判所ト申シマスカ、此ノ一般的ナ意味ニ於ケル裁判機關ガ、裁判官ノ懲戒處分ヲ行フコトニナリマシテ、此ノ點ハ現在ト格別ノ差ガナイコトト考ヘテ居リマス、ソレカラ此ノ報酬トカト云フコトハ、是ハ甚ダ妙デアリマシテ、憲法ニ書カナクテモ宜イデハナイカト云フ意味ノ御質疑デアリマシタガ、此ノ裁判官ノ身分上ノ獨立ト云フコトヲ保タシメマス爲ニ、現行ノ憲法ニ於キマシテモ相當ニ用意ハシテアルノデアリマス、併シナガラソレハ法律ニ關スル權衡デ申シマスト俸給デアリマス、報酬ニ關スル權利ガ確保サレテ居リマセヌ、デアリマスカラ、今迄モ色色ノ議論ガ起リマシテ裁判官ヲ減俸スルト云フヤウナコトハ、憲法ニ照シテドウカト云フヤウナ風ノ疑問モ起リ、若干紛糾シタ議論ガ起ツテ居ルノデアリマス、今度ノ草案ニ於キマシテハ、左樣ナ風ノコトヲ的確明瞭ニ致シマシテ、其ノ官モ奮ハルヽコトハナイ、同時ニ、官ニ伴フ如キ給與ヲ奪ハルヽコトハナイト、兩面カラハツキリサシテ居ル譯デアリマス、定期ト申シマスノハ、矢張リ給與ハ一定ノ決ツタ給與方法ニ依リマセヌト、結局給與シナイモ同ジヤウナ結果ニナリマシテ、五十年先ニ拂フト云フヤウナコトデハ有名無實ニナリ、矢張リ保障ヲ確實ニ致シマスルニハ、斯樣ナ規定ヲ設クルコトガ適切デアリマシテ、實ハ私自身モ、報酬ト云フコトハ身分保障ノ上ニ大シタ價値ノナイコトデハナイカト云フヤウナ疑惑ヲ持ツタ時代モアリマシタ、靜カニ靜カニ考ヘテ見マスト、廣イ眼カラ見マシテ、是ハ可ナリ重要ナ要件デアルヤウニ、今日デハハツキリ意識ヲ致シテ居リマス、大體斯樣ナ點デ、御質疑ニ對スル御答ヲ盡シタト考ヘテ居リマス
○澤田牛麿君 只今ノ御説明デ、マアソレ以上御聽キシテモ詮ノナイコトデアリマスカラ、大體其處デ止メテ置キマスガ、尚少シ、今ノ報酬ヲ受ケル、是ハ文字ニ拘泥スルヤウデ、甚ダ小サナ問題ノヤウニ見エマスガ、今迄ノ俸給ト云フモノハ報酬ト云フ觀念トハ少シ違フダラウト思ヒマス、私ハ行政法ニ付テモ、餘リ詳シクハ通ジテ居リマセヌカラ、餘リ的確ナコトモ申上ゲ兼ネルケレドモ、官吏ノ是ハ矢張リ俸給ト云フ方ニ當ルノダラウト思フノデスガ、官吏ノ俸給以外ニ報酬ヲ貰フト云フ意味デハナカラウト思フ、報酬ト云フコトハ官吏ノ俸給ト云フ字ト同ジダ、唯英文ノ譯ガ違フト云フ程度ヂヤナイカト思フノデスガ、サウスルト、裁判官ダケ、相當ノ「報酬を受ける。」トカ、「在任中、減額することができない。」トカ、エライ報酬問題ニシツコイヤウデスガ、是ハ官吏ニ付テモ何ニ付テモ、總テ公務ニ在ル者ハ同ジコトデアツテ、裁判官ダケニコンナニシテ置クト云フト、何ダカ裁判ノ官ガ少シ卑シク感ゼラレル氣ガシナイカ、裁判官ノ神聖ノ寧ロ之ニ依ツテ汚損スルヤウナ虞ガアリハシナイカ、サウ云フヤウナ感ジガスルノデアリマス、其ノ意味ヲ以テモ、マア伺ツタ譯デアリマス、是等ハ最高裁判所ノ裁判官ハ隨分偉イノデスガ、裁判官ハ總テ同ジデアラウト思ヒマスガ、是ハ餘程ムヅカシクテ、ハツキリ私モ質問ガ出來兼ネルノデアリマスガ、少クトモ七十九條ニ於テハ、最高裁判所ノ裁判官ハ「報酬を受ける。」ト、ドウモ是ハモウ少シ日本流ニ御改メニナツタラ如何デアリマセウカ、マア我々ハ、武士ハ食ハネド高楊子ト云フコトヲ、サウ自慢スルト云フヤウナ考ハアリマスヌケレドモ、何カ斯ウ云フコトハ、少シ最高裁判所ノ裁判官ト云フ風ナ偉イ人ニ對シテハ、甚ダ失禮ナ書キ樣ヂヤナイカト考ヘルノデス、字句ノ末ニコダハルヤウデアリマスケレドモ、自ラ是ハ思想ノ上ニ御關係ガアルコトデアリマスカラ、シツツコイヤウデアリマスガ、私ハ此ノ點ハ、何トカ御改正ニナツタラ如何カト思フノデアリマス、第七十九條、八十條、兩方共報酬ノコトヲ頻ニ神經ニ病ンデ居ルヤウデアリマスルガ、八十條ニハ定期ニ報酬ヲ受ケル、ソレカラ七十九條ニハ、之モ定期デアリマシテ、兩方共定期ニ報酬ヲ受ケル、減額ヲスルコトガ出來ナイ、是ハドウモ私共ノ舊イ頭ニハ、耳障リナコトデアル、是ハ寧ロ削ツタ方ガ宜クハナイカ、裁判所俸給令トカ云フモノガアレバ、ソレデモウ十分デアツテ、憲法ニ斯ウ云フコトヲ一々規定シテ置カナケレバナラヌト云フノハ、憲法ノ品ヲ下ゲルヤウニ私ハ思フ、併シ是以上ハ、モウ議論ト言ヘバ議論デアリマスカラ、此處デ止メテ置キマス、尚伺ヒタイノハ、行政裁判所ト云フモノハ認メテ居ラナイヤウデ、認メナイト云フコトデアリマスガ、此ノ理由ハ私ハ全ク分ラナイノデ、御教ヲ戴キタイノデアリマス、行政裁判所ノコトハ無論知リマセヌノミナラズ、外ノ裁判所ノコトモ知リマセヌガ、大陸系デハ大體是ガアルト思フノデアリマス、之ヲ現在ノ帝國憲法ニ於テモ採リ入レテ居ル、之ヲ止メル理由ハ何處ニアルノデアリマセウカ、先ヅ其ノ點ニ付テ御伺ヒシタイノデアリマス、實ハ内容ヲ能ク知ラヌモノデスカラ、深ク論ズルダケノ知識ガアリマセヌガ、行政裁判所ト云フノハドウモアツタ方ガ宜イヤウナ、素人考デスガ、氣ガ致スノデアリマス、ソレハ普通ノ民事、刑事トハ稍々異ツタ性質ノ裁判ヲスルノデアルカラ、是ハ特別ニアツタ方ガ便宜デハナイカ、マアサウ云フ點カラ、此ノ制度ガ、「ヨーロッパ」大陸ニ於テハ發達シタモノト、私知識ガアリマセヌケレドモ、想像シテ思フノデアリマス、折角現在、既ニ行政裁判所ト云フモノガアル、其ノ運用等ニ付テハ色々議論モアルコトデアリマセウガ、折角現在アルノニ、ソレヲ認メナイトシテシマツテ、司法裁判所ニ、全部其ノ權限ヲ移シテシマフト云フ必要ガ何處ニアルデアラウカ、今迄ナイモノナラバ、設ケナイト云フコトモ、或ハ宜イデセウケレドモ、今迄、既ニ相當年月在ツテ、而モソレガサウ大シテ不合理デハナイ、或點ニ於テハ、便宜ナモノデアル、其ノ理窟カラ言ツテモ、止メテシマフ必要ハナイノデハナカラウカ、今ノ制度デ悪イモノハ無論是ハ止メテシマハナケレバナラヌ、併シ惡クナイモノ迄モ止メテシマフト云フコトハ、餘リニ事ヲ好ミ過ギルノヂヤナイカ、往々ニシテ玉石倶ニ焚クト云フ言葉ガアリマスルガ、サウ云フヤウナ過ニ陥ルト云フコトハ、我々立法機關ニ關係ノアル者ハ餘程警戒シテ考ヘネバナラヌ點ト思ヒマス、サウ云フ點ニ付テ更ニ政府ノ御意見ヲ一應伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 行政裁判所ノ問題ハ可ナリ複雜ナル問題ヲ含ンデ居リマシテ、又事實ノ上ニ立脚シテ批判ヲ致シマスルト、現實ノ動キ工合ニ迄論及シナケレバナリマセヌノデ、聊カ言葉ヲ選ビタイト實ハ存ジテ居リマスルガ、大體ノ考ヲ申シマスルト、行政裁判所ヲ普通ノ裁判所ト別ニシテ設ケテ置クト云フコトニ、果シテ理論的ニ十分ナル理由ガアルデアラウカ、是ガ第一點トナツテ來ルト思フノデアリマス、其ノ制度ガ生レテ來マス氣持ニハ、色々ナ氣持ガ伴ツテ居ルト思ヒマスルガ、一番大キナモノト考ヘマスルノハ、何トナク國ノ行政部ト云フモノヲ、普通ノ裁判所カラ隔離致シマシテ、行政部タチガ脇カラ侵略サレナイデ、謂ハバ行政部ノ自己ノ小サイ殻ヲ特殊ナ司法ノ範圍内ニ納メテ置イテ、一般ノ裁判所カラハ批判ヲサレナイヤウニシヨウ、斯ウ云フ意圖ガ積極的ニ加ツテ發達シテ來タモノデハナイカト思ツテ居ルノデアリマス、是ハ或時代ニ於キマシテハ、多少理由ハアツタト思ヒマス、併シナガラ、今日ノ如ク一切ノコトヲ最モ的確ナ條理ノ上ニ於テ政治ヲヤツテ行カウト云フ時ニ、行政部ダケガ、謂ハバ切捨テ御免ノヤウナ、サウ云フ行キ道デ、嚴密ナル批判ノ外ニ置カレルヤウナコトニ適スル、事實サウナツテ居ルト云フコトハ、勿論アリマセヌ、サウ云フヤウニ適スルヤウナ、特殊ナ制度ヲ持ツテ居ルト云フコトハ、如何ナルモノデアラウカ、寧ロ斯樣ナ見解ヲ棄テテ、民主政治ノ平明ナル道ニ入ツテ行ク方ガ宜イノデハナカラウカ、是ガ第一ノ考ヘ方デアリマス、第二ノ考ヘ方ト致シマシテハ、次ニ行政裁判所ト云フモノヲ特別ニ置クト云フコトが、何カ一般的ノ目デ見テ故障ガ起ルノデハナカラウカト斯ウ云フコトガ考ヘラレテ行クノデアリマス、此ノ論ニ入ツテ行キマスルト、問題ハ可ナリ細カクナツテ行キマスルケレドモ、何シロ一國ニ於キマシテノ行政裁判所ト云フモノハ、範圍ノ狹イモノデアリマシテ、其處ニ入ツタ方々ハ結局終身官トシテ保護サレルト致シマスルト、ナカナカ廣イ範圍ニ裁判官ノ人員ノ流通ト云フモノガ出來ナイノデアリマシテ、此ノ點ガ廣イ地域ニ於テノ此ノ裁判官ノ交流ノ出來ル所ニ比べマシテ、其ノ裁判所自體ノ運營ノ上ニ於キマシテモ、相當不便ナ所ガアラウト思ヒマス、寧ロ原理ニ從ツテ一般ノ所ニ移ス方ガ宜イノデハナイカト、斯樣ニ考ヘラレテ居ルノデアリマス、ソレカラ第三ニ、之ヲ司法ノ裁判所ノ中ニ入レタナラバドウ云フ害惡ガアルカト云フ、斯ウ云フ問題ニナツテ來マスルガ、此處ニ移シマシテモ、今日以後ノ裁判所ト云フモノハ、從來ノ裁判所ヨリモ、遙カニ廣イ考ニ依ツテ動カナケレバナラヌコトハ、行政裁判ヲ持ツテ行カナクテモ當爲デアリマシテ、例ヘバ憲法ニ違反スル法律ト云フモノヲ批判スルト云フコトニナリマスレバ、殆ドモウ、從來ノ司法ノ域ヲ離レテ、研究ダケハ、可ナリ廣イ範圍ニ及バナケレバナラヌ立場ニ一層追ヒ込マレル、追ヒ込マレルト言フ言葉ハ惡イノデアリマスガ、サウ云フ状況ニナツテ、サウ云フ廣イ裁判所ニ之ヲ移シマスコトハ、行政全般ヲ公正ニ批判スル點ニ於テ、全般カラ考ヘテ、決シテ妥當ヲ缺ク點ハアリ得ナイト思フノデアリマス、勿論裁判官ノ中ニハ、民事、刑事ニ特ニ優レタ裁判官ガアル、サウ云フ方々ニハ、行政ノモノハ或ハ扱ヒニクイト云フコトガアリマセウケレドモ、ソレハ裁判所ノ内部構成ノ問題デアリマシテ、行政ニ付テ、十分練達堪能ノ人ガ、ソレニ關與セラルヽヤウニサヘナレバ、之ヲ一般ノ司法裁判所ニ移シテ差支ハナイト思フノデアリマス、今日ニ於キマシテモ、衆議院議員ノ選擧ノ結果ニ對シマスル裁判ハ、司法裁判所デヤツテ居ル、併シ地方ノ自治體ノモノハ別ニヤル、斯ウ云フヤウナコトニ依ツテ、判例ガ區々トナルト云フヤウナ虞モナクテ宜イト思フ譯デアリマス、次ニ第四ノ點ト致シマシテ、凡ソ此ノ種ノ裁判ガ一ツノ系統ニ蔽ハルヽト云フコトガ理論的ノ必然性ヲ持ツテ居ルノヂヤナイカト云フコトモ考ヘマス、詰リ一國ノ法律ノ判斷ト云フモノハ、一元的ニ統一サレナケレバ誠ニ工合ノ惡イモノデアリマシテ、司法裁判所ト行政裁判所トカ、全然別箇ノ系統ニナツテ居リマスルト、其ノ問ニ法律解釋ノ統一ヲ形式的ニ附ケルコトガ困難ニナリマスルシ、其ノ結果、一ツノ問題ガ行政裁判所ニ持出セバ斯樣ナ結果ニナル、司法裁判所ヘ持出セバ斯樣ナ結果ニナル、此ノ二ツヲ統一スル方法ハ、國法上絶對ニ不可能デハアリマセヌケレドモ、現在ノ所ハナカナカソレガ出來ナイ所ヲ見レバ、ソレニモ何カ難點ガアリマス、之ヲ一ツニ移シテシマヒマスレバ、他ノ一般ノ司法ガ皆一ツニナルコトト、併セテ最高裁判所ニ依ツテ、解釋ノ統一ヲスルコトガ出來ルト云フヤウナコトニモナラウト思ヒマス、其ノ他細カク此處デ申上ゲル必要モナイト思ツテ、殊更ニ避ケテ居リマスルガ、種々ナル利益ガ澤山得ラレルト云フコトガ考ヘラレマス、サウシテ第五ノ點ト致シマシテハ、政治的ニト申シマスルカラ、實ハ法律的ニトハ、チヨツト申シニクイ事情ガアリマシテ、政治的ニト云フ肩書ヲ附ケテ、其ノ利益ヲ見タイト思ツテ居リマス、現在日本ノ行政法ニ關スル國民ノ救濟ハ保タレテ居ルカト言ヘバ、保タレテ居ナイノデアリマス、行政裁判所ハ極ク爪ノ垢程ノ權限ヲ以テ、國ノ行政全般ニ付テ、普通ナラバ澤山ノ訴訟ガ起ラナケレバナラヌ、國民ノ權利ヲ保全スルナラバソレガ起ラナケレバナラヌ、然ルニ行政裁判所ニ訴ヘル事項ハ、甲、乙、丙、丁ト限ラレタモノデアリマシテ、霜山君ガ度々仰セラレル月給ノ請求モ出來ヌヂヤナイカト、確カニ其ノ通リニナツテ居リマス、何故月給ノ請求ガ出來ナイカ、是ハ表向ノコトヲ言ヒマスレバ、サウ云フ權能ヲ認メナイカラ出來ナイガ、サウ云フ權能ヲ認メズニ無事ニ是迄ヤツテ來レタト云フコトハ、ドウ云フコトカト云フト、行政裁判所ヲ全然別箇ニシ、從ツテ行政裁判所ト云フモノヲ比較的毛色ノ變ツタモノニ扱ツテ來タコトガ影響シテ居ル、故ニ私ハ政治的ノ見解ニ於キマシテモ、此ノ際一ツ頭ヲ人レ替ヘテ、出來ルダケ行政訴訟ト云フモノハ、廣ク出來ルヤウニ、漸次ト云フ言葉デハナクテ、寧ロ急速ナル考ヘ方ヲ以テ其處ニ向ケテ行カナケレバナラヌ、其ノ爲ニモ、矢張リ斯樣ナ根本的ナ變化ヲスルコトガ好イ結果ヲ得ラルヽト信ジテ居ル次第デゴザイマス
○澤田牛麿君 行政裁判ノ本質ニ付テハ、此處デ議論ヲスベキ問題デモアリマスマイシ、又議論ヲスレバ盡キル所デナイト思ヒマスカラ、私ハ只今ノ御説明ニ對シテ、駁論的ノ議論ヲスルコトハ愼シミマス、又十分ナ知識ハアリマセヌガ、一應ノコトハ申上ゲルコトガ自分ニモ多少出來ルト思ツテ居リマスケレドモ、ソレハ愼ンデ議論ニハ亙リマセヌ、唯一言申上ゲタイノハ、總テ分化、分業シテ行ク場合ニ、色々ノ専門ガソレゾレ分化シテ行クノデスカラ、或ハ文明ノ進行トシテ餘リ分化シ過ギテイケナクナルト云フコトモ、澤山例ガアリマスルケレドモ、其處ニハ程度ノ問題デアリマス、ケレドモ、行政ニ關スル裁判ガ普通ノ民事、刑事ノ裁判ト分化シテ行クト云フコトハ、是ハ進化ノ一ツノ階梯デアルト思ヒマス、是ハ重大ナ問題ト思ヒマス、小サナ實用上ノ色々ナコトハ盡キルコトノナイ問題デアリマスガ、分化シテ行クト云フコトハ、重大ナ問題ト思ヒマス、折角ノ分化シタモノノ、又一緒ニシテシマフ、甚ダ例ハヲカシウゴザイマスガ、ゴツチヤニシテシマフ、ウマイ言葉ガ見當リマセヌガ、所謂菽麥ヲ辨ゼズトカ、サウ云フコトニスルコトハ、寧ロ退化デハナイカ、私ハ唯其ノ考ダケヲ申上ゲテ私ノ質問ヲ打切リマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ休憩致シマス、午後一時十五分カラ開會致シマス
午後零時十五分休憩
━━━━━◇━━━━
午後一時二十五分開會
○委員長（安倍能成君） 會議ヲ再開致シマス、佐々木委員
○佐々木惣一君 私ハ司法ノコトニ付テ少シ質問ヲ致シマス、先ヅ第七十六條ニ付テチヨツト伺ヒマスガ、是ハマア此ノ第一項ニ關係スルノデスケレドモ、司法ト云フ中ニ行政裁判ト云フモノガ入ルト云フコトハ、此ノ間以來、今日ノ何デハツキリト分ツタノデスガ、唯チヨツト茲デ何ト云フカ、政府ノ方ノ御用意ニ付テ、行政裁判ト云フモノハ、晝迄モアリマシタヤウニ、普通ノ民事刑事ノ裁判ト違フノデ、ソレデ是迄所謂司法裁判所ノ方デハマアチヨツト苦手デアツタト云フコトハ疑ヒナイ、唯其ノ際司法官ノ養成ト云フヤウナコトニ付キマシテモ、決シテ今日司法官タル人々ハ行政裁判ヲ爲スニ適當デアルト云フ風ニハ言ヘナイ、殊ニ此ノ司法官試驗ナドデ試驗ヲシマス時ニハ、實ハ行政法、行政關係ノ裁判ヲスルト云フヤウナ能力ヲ見ルト云フヤウナコトハ初メカラ眼中ニ入レテ居ナカツタト云フノガ今日迄ノ状態デアリマスルガ、ソレガ今後所謂司法官ト云フモノニ依ツテ行政裁判ト云フコトガ出來ルト云フコトニ相成リマスルガ、此ノ點ニ付キマシテハ矢張リ政府ノ方デハ此ノ司法官ノ養成、行政關係ニ裁判スル能力ヲ持ツヤウナ司法官ヲ養成スルト云フヤウナコトニ付テ、特別ノ用意ガ要ルト思フノデスガ、如何デゴザイマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 今日ノ裁判所組立ガ變リマスルニ應ジテ、其ノ裁判官ニハ此ノ行政試驗ヲ扱フニ適スル人ヲ入レルコトハモウ疑ヒモゴザイマセヌシ、ソレカラサウ云フ裁判官ヲ活用致シマスニハ一部ノ何ト言ヒマスカ、部ノ分ケ方ト云フ點ニ付キマシテモ、全ク今迄ト違ツタ工夫ヲシナケレバナリマセヌ、サウ云フヤウナ方向ヲ以テ司法官ノ資格等モ考ヘルヤウニ研究シテ居リマス
○佐々木惣一君 ソレデ詰リ例ヘバ司法官試驗ト云フヤウナモノ等ニ付キマシテモ、多少是迄トハ違ツタヤウナ用意ガ要ルカト思フノデスカ、ソレダケヲ、‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 司法官ノ試驗ニモ考慮ヲ要シマセウシソレカラ又實際當分ノ内ハ、行政ノ問題ヲ主トシテ扱フ人ト、司法ノ問題ヲ主トシテ‥‥在來ノ司法問題ヲ主トシテ扱フ人トハ、裁判官ノ閲歴等ニ付テモ相當注意シナケレバナラヌト思ヒマスネ、ダカラ試驗ノ問題ヨリモ、ソレ以外ノ問題デ相當考慮シナケレバラヌト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 少シ諄イヤウデスケレドモ、今現ニ行政官デ居ルヤウナ人ヲ何等カノ資格ヲ認メテ司法官ニ其ノ方面ニ向ケル爲ニ、司法官ニ任用スルト云フコトハ別ニ御考ニナツテ居リマセヌデセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） マダハツキリシタコトヲ申上ゲ兼ネル時期デゴザイマスケレドモ、左樣ナ方向ニ於テモ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 ソレカラ次ニ七十六條第二項ニ特別裁判所ト云フコトガアル今日是ハモウ質問申上ゲル部分ニ屬シナカツタノデスケレドモ、今日司法大臣ノ御説明ノ中ニヒヨツト特別裁判所ハ設置スルコトガ出來ナイカラ、ソレデ行政裁判所等モ出來ナイト云フヤウナ、チヨツトサウ云フ説明ガアリマシタガ、若シヒヨツトシテ御答辯ガ喰違ツタライカヌケレドモ、此ノ特別裁判所ト云フノハ、現行憲法ニ於ケル特別裁判所デスガ、同ジク現行憲法デハ行政裁判所ナドハ入レテナイト云フ從來ノ解釋ニナツテ居リマスガ、サウデナイト思ヒマスガ、如何デスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 現行憲法ノ解釋ハ別トシテ、茲ニ考ヘテ居ル特別裁判所ト云フノハ、大體此ノ司法ノ所ニ、一應正式ニ規定シテアリマス裁判所トハ、毛色ノ變ツタ裁判所ト斯ウ云フ考ヘ方デ、特殊權限トカ、サウ云フ意味デアリマセヌ、元カラ違ツテ居ル、變ツタ裁判所斯ウ云フ意味デアリマス
○佐々木惣一君 兎ニ角是ハ一般ノ行政裁判モ入レマシテ、民事、刑事、行政事ノ裁判ヲ一般的ニ取扱ツテ居ル、其ノ一般權限ヲ有スル裁判所ニ對シテ、矢張リ特別ナ裁判所ト云フヤウニ思ツテ居ルノデアリマスガ、サウデナイノデスカ、ドウ云フモノデアリマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 勿論項目ニ依ツテ分ケテモ宜イノデアリマスガ、狙ツテ居リマスルノハ今迄ノ軍法會議ノヤウナモノヲ豫想シテ居リマシテ、詰リ普通ノ此ノ憲法ノ建前カラ云ツテ、司法權ニ關スル一般ノ原則ノ適用ヲ受ケテ居ナイ、サウ云フモノヲ作ツチヤナラヌ‥‥
○佐々木惣一君 サウスルト行政裁判所ハ入リマセヌカ、行政裁判所ハ初メカラ司法權ニ入ツテ居リマスカラ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス
○佐々木惣一君 ソレカラ同ジ第二項デゴサイマスケレドモ、「行政機關は、終審として裁判を行ふことができない。」ト云フコトガ、ドウモ此ノ間モチヨツト御伺ヒシタケレドモ、分ツタヤウデ、分ラナイノデ、此ノ行政機關ハ終審トシテ裁判ヲ行フト云フノハ、所謂一審、二審、終審ト云フ終審デナシニ、詰リ行政事件ニ關シテノ行政自體ニ關スル先決問題ト云フヤウナ意味デ、裁判的ノコトヲナスコトハ出來ルケレドモ、裁判其ノモノヲ決定スルト云フ意味デ行フコトハ出來ナイト云フ意味デアリマセウカ、或ハサウデナシニ、終審デナケレバ、行政機關モ裁判ヲ行ヘルト云フ意味デアリマセウカ、ソレハ解釋ニ依ツテ非常ニ重大ナ問題ダト思フノデアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 行政機關ニ裁判ヲサセルト云フコトヲ一體豫想スルノガ、其ノ範圍デアルカドウカト云フコトニナリマスルガ、茲デ考ヘテ居リマスルノハ、言葉自身ト致シマシテハ、行政機關ガ或段階ニ於テ裁判ヲシテモ、ソレハ此ノ憲法ノ違反ニハナラナイ、併シナガラ、ソレヲ以テ事件ガ終ルヤウナ意味ノ裁判ハイカヌト云フダケノ簡單ナル趣旨デアリマス、ソレデアルカラ、此ノ適用ヲ若シ致シマスレバ、現在ノ特許ニ關シマス特許局ノ事項ガ假ニ裁判デアルト致シマスレバ、ソレダケデ裁判デアルトスレバ、ソレダケデ裁判ヲ片附ケルヤウナ規定ヲ作ツテハ困ル、必ズ本當ノ裁判所ニ出ルヤウニシナケレバナリマセヌ、或ハ今日違警罪即決例ハ、今ノ研究ノ道行デハ、殘ラナイコトニナルヤウデアリマスガ、私ハ詳シクハ存ジマセヌガナルヤウデアリマスガ、假ニサウ云フモノガアルトスレバ、ソレデ終審トナルヤウナコトデハ、此ノ憲法デハ許サレナイ、必ズ本當ノ裁判所ヘ行カナケレバナラヌ、斯ウ云フコトデアリマス
○佐々木惣一君 ソレデ御趣旨ハ能ク分リマシタガ、終審トスルト云フ文字ヲ文字通リニ讀ムト、ドウシテモ今ノヤウナ御解釋ニナラザルヲ得ナイト思フノデアリマス私共ハ氣持トシテハ行政裁判所ガ終審デアラウガ何デアラウガ、裁判ヲナスト云フ、行政機關ガ裁判ヲナスト云フコトガ、ドウモ妥當デナイト思ツタノデアリマスカラ、ソレデ今御尋シタノデアリマスガ、假ニ、其ノ裁判ニ服セズシテ、上級裁判ヲ求メ得ルト云フコトデアレバ、形式上ソレデ宜イヤウデアリマスケレドモ、我々ノ實際ノ生活ニ於キマシテハ、上級裁判迄行カズニ濟ンデシマフト云フヤウナコトガ、ドウモ實際生活ノ關係ニ於テ、強制サレルヤウニ思フノデマリマス、今ノ違警罪即決例見タヤウナモノデ‥‥、ソコデ譯文ノ方ヲ言フトヲカシイノデズガ、結局是ハドウモ何デハナイカト思フ、裁判的判決ト云フコトヲ爲シ得ナイト云フ趣旨デハナイカト思ツタノデスガ、御解釋ガサウアレバ巳ムヲ得マセヌシ、言葉トシテハ無論サウモ見エマスカラ、其ノ點ニ付テハ申上ゲマセヌ、ソレカラ第三項ニナリマシテ「すべて裁判官は、その良心に從ひ獨立してその職權を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」ト云フ此ノ規定ノ解釋デスガ、之ヲ色々伺ツテ居ルト疑問ガドウモ起ツタノデスガ、是ハ法令審査權ト云フモノトハ關係ナイ規定ト思ツテ居マシタ處ガ、法律ハ審査出來ルトカ、出來ナイトカ、命令ハ出來ルトカ、出來ナイトカ云フ風ナコトガ色々アリマシテ、何カ此ノ規定ガ法令審査權ト關係ガアルヤウテ思ハレマスガ、私ハサウデナシニ、是ハ裁判官ガ職務ヲ行ヒマスル其ノ態度ガ、憲法、法律ニ依ツテノミ拘束サレルト云フコトデアツテ、其ノ適用スル法ノ問題トハ關係ガナイヤウニ、法律ハ審査出來ルトカ、出來ナイトカ、サウ云フモノト關係ナイヤウニ思ヒマスガ、如何デアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ今朝司法大臣カラ御答辯ヲ申上ゲマシタ、司法大臣ノ意見モ今御尋ノ通リト私ハ聽イテ居リマシタ
○佐々木惣一君 サウデスカ、ソレナラ結構デス、要スルニ法令審査權ノ問題トハ關係ナイト云フコトニ伺ツテ‥‥、ソレカラ裁判官ハ、凡ソ官吏ニ付テ大臣ガ能ク御存ジノ通リ、官吏關係ト云フモノニ入ツテシマヘバ所謂特別ノ權力關係ニ入ルノデアツテ、一般ノ國民ガ持ツテ居ル所ノ保障、立法乃至裁判ト云フモノニ對スル所ノ保障、普通ナラ法律デナケレバナラヌ所ヲ命令デモ規定出來ルト云フヤウナコトヲ能ク言フノデスガ、サウ云フ官吏ニ對スル所ノ特別權力關係ノ理論ト云フモノハ、此ノ憲法ハ排斥シテ、總テ法律デヤラナケレバナラヌ斯ウ云フコトニ相成リマスカ、ソレヲチヨツト伺ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 私ハ自分ノ考トシテハ、官吏ヲ特別服從關係ト云フコトデ説明シテ居ツタ過去ノ考ヘ方ニモ、疑惑ヲ持ツテ居リマス、此ノ憲法ハ左樣ナ枠ヲ作ツテ居ナイ積リデアリマス
○佐々木惣一君 ソレデ詰リ懲戒ノ場合デモ、司法官ニ付テハ特別ニ懲戒ニ關スル規定ガアルガ、併シ一般ノ普通ノ行政官ニ付テハ所謂上級機關カラ下級機關タル官吏ニ對シテハ懲戒ノ方法、程度ノコトハ別トシテ、懲戒ト云フモノハ官吏關係ノ性質カラ當然ニ爲シ得ルノダ、別ニソレガ爲ニ懲戒ヲ爲シ得ルト云フ特別ノ法的根據ヲ定メナクテモ、官吏、關係ノ性質上上官ガ下官ニ對シテ懲戒ガ出來ル、サウ云フ説明ハ今後ハ取ラレマセヌネ
○國務大臣（金森徳次郎君） ソレハ懲戒ノ、或ハ懲戒類似ノ事項ノ内容ニ依ツテ違ヒ得ルモノト思ヒマス、個人ノ自由トカ、權利トカ云フモノニ何等影響ノナイ範圍ニ於キマシテ、官吏關係ノ内部ニ於テ結末ノ附ク程度ノモノデアリマスレバ、必ズシモ法律ヲ要スルトハ考ヘテ居リマセヌ、併シ其ノ人ガ例ヘバ名譽ヲ害スルトカ云フ段階ニナリ、懲戒ニナレバ法律ノ要スルモノト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 又ソレト關係致シマスガ、例ヘバ官吏ニ向ツテ、明日ハ一ツ必ズ家ニ居ツテ何時命令ガ來ルカモ知レヌカラ待ツテ居ナケレバナラヌトカ、二三日旅行シチヤイカヌトカ云フヤウナ居住ノ制限デスガ、サウ云フコトハ無論第三章ニ依リマスレバ、一般人ニ對シテハ法律ノ根據ガナケレバイカヌノデスガ、今後ノ憲法デハドウデスカ、官吏ニ對シテハ法律ノ根據ガ要ルノデスカ、要ラナイノデスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 官吏關係ニ於テ、内部ニ於テ、左樣ナ措置ガ出來ル場合ハ要ラナイト思ツテ居リマス、併シナガラ左樣ナ場合ニハ之ニ服從シナカツタトシテモ、ソレハ官吏關係ノ内部ニ於ケルモノデアリマスカラ、サウ云フモノハ要リマセヌ
○佐々木惣一君 官吏關係ノ秩序ヲ保ツト云フ限リニ於テハ別ニ法律ガ無クテモ出來ル、サウ云フ風ニ解釋シテモ宜シウゴザイマスネ、第三項ハソレデ宜イトシマシテ、第七十七條ニ移リマス、辯護士ノコトヲ御尋ネシヨウト思ヒマシタガ、是ハ止メテ置キマス、ソレカラ檢察事務ノコトモ宜イノデアリマスガ、最高裁判所ガ檢察官ニ對シテ規則デ從ハシメ得ル、是ハ分ツテ居ルヤウデスケレドモチヨツト分リニクイノデスガ、兎ニ角最高裁判所ハドノ程度迄ト申シマスカ、ドノ範圍迄檢察官ノ行動ヲ規定シ得ルト云フ風ニ何カ解釋ガ附カヌノデアリマセウカ、檢察官ニ對スル色々ナ批評ハ無論アル、併シ又檢察官ガ最高裁判所ノ任意ニ定メル規則ニ從ハナケレバナラヌト云フコトニナルト、是亦弊害モ生ズルカト思ヒマスガ、ソコニ何カ限界ト云フヤウナモノハナイノデゴザイマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ關係ハ今朝司法大臣ガ御答辯ヲ申上ゲタト思ツテ居リマスカラ、ソレト重複ヲ避ケル意味ニ於テ、私カラハ御答辯ヲシナイ方ガ適切デアラウト考ヘマス、唯併シナガラ茲ニアリマスルノハ、最高裁判所ガ斯樣ナ規則ヲ定ムルトスレバ、檢察官ハ其ノ規則ニ從ハナケレバナラヌト云フダケノコトデアリマシテ法律ガ之ヲ定メルコトヲ排除シテハ居リマセヌ、デアリマスカラ若シ其ノ紛糾ノ起ル場合ガアリマスレバ、法律ガ適切ニ其ノ境ヲ實行上必要ナル限度ニ是テ、解決スルモノト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 法律モ、固ヨリ最高裁判所ノ専屬ニナツテ居ル譯デハゴザイマセヌデスネ、ソレハ分リマシタ、ソレカラモウ一ツ御尋ネシマス、第三項ノ「最高裁判所は、下級裁判所に關する規則を定める權限を、下級裁判所に委任することができる。」ト云フ規定ハ所謂當該ノ下級裁判所デアリマセウカ、例ヘバ最高裁判所ガ、控訴院ト云フモノガアルカドウカ知ラヌガ、控訴院ト云フモノガ管内ノ裁判所ニ關スル規則ヲ委任スルコトガ出來ル、斯ウ云フ風ニモ解釋出來マスガ、ドウ云フモノデゴザイマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ最後ノ項ノ規定ハ甚ダ廣イヤウナ言葉ガ使ツテアリマスケレドモ、趣旨ハ大體此ノ委任ト云フコトノ持ツテ居ル持チ味ヲ前提シツツ此ノ規定ガ出來テ居リマスルノデ、此ノ委任ニ付キマシテ、委任スル者、委任ヲ受ケル者ノ權限ノ分配等ニ付キマシテハ、何カ潜在的ナ原則ガアルモノト私ハ考ヘテ居リマス、ダカラ唐突ニ之ヲ委任スルノデハナクテ、大體其ノ裁判所デ所管スルヤウナ範圍ノコトニ付テ委任ヲスル、斯ウ云フ趣旨デアリマスカラ此ノ原則ノ下ニ理解ヲスルナラバ見當違ヒノコトヲ委任スルコトハ無イ、斯樣ニ考ヘマス
○佐々木惣一君 當該裁判所ニ其ノ裁判所ノ行動ニ關スル規則ヲ制定スルコトヲ委任スル、大體サウ云フ御趣旨ノヤウデスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デアリマス
○佐々木惣一君 サウスルト實際ノ運用上可ナリ重大ナ規定ダト思ヒマス、ソレカラ第七十八條ニナリマスガ、是ハ宜シウゴザイマス、彈劾ノ關係デ色々御説明モアリマシタヤウデスカラ、止メテ置キマス、七十九條、是モ色々任命トカ何トカ云フコトガゴテゴテアリマシタカラ止メテ置キマシテ、兎ニ角裁判官ノ態度ニ一般國民ト云フモノノ意思ガ不當ニ左右セラレルヤウナコトニナツテハ困ルト云フ點カラ、此ノ規定ヲ見テ居リマスケレドモ、是ハ皆サンガ色々御話ニナリマシタカラ、サウ云フ點ハ止メテ置キマシテ、唯茲ニ一ツ重ネテ御伺ヒシタイノハ、私ハ矢張リ最高裁判所ノ判事ダケハ懲戒ノ法規中ニ入レズシテ天皇ノ任命ニシタ方ガ宜イタラウ、斯ウ云フコトデアリマスガ、是ハ意見デスカラソレダケノコトヲ申上ゲテ置キマス、唯併シ最高裁判所ノ裁判官ノ國民審査ト云フコトニ付テモ、色々アツタコトデアルカラシテ、重ネテ申上ゲマセヌガ、斯ウ云フコトハ考ヘラレテイモノデセウカ成ル程最高裁判所ノ判事モ、ソレハ今期ハ司法大臣ノ御話ノヤウニ人間ダカラ間違ヒガナイト云フコトハ無イノダカラ、ソレガ何等カ特別ノ第三者カラシテ審査サレテ居ルヤウナ状況ニアルト云フコトハ、ソレ自身必ズシモ惡イトハ思ヒマセヌデスガ、唯國民ガ審査ニ直接與カルト云フコトハ少クトモ日本ノヤウナ所デハドウダラウト思フノデ、何カ茲ニ一ツ審査ノ機關ヲ設ケテ、サウシテ其ノ審査ノ機關ト云フモノガ、國民ノ前ニ於テデナシニ其ノ裁判官ヲ審査シテ居ルト云フヤウナコトヲ設ケルノハイケナイデアリマセウガ、若シソレガ前ノ方ニアリマシタヤウニ、公務員ト云フモノノ罷免ハ、結局國民ノ固有ノ權利ダトカ何トカ云フコトカラ言フナラバ、サウ云フ審査ノ機關ヲ作ルコト自體ニハ、或ハ何カノ方法デ國民ノ意思ヲ入レテ、審査機關ヲ作ツテ置クト云フコトガ宜カラウト思ヒマスケレドモ、直接ニ國民ガ最高裁判所ノ判事ヲ審査スルト云フコトガ大ツピラニ行ハレルト云フコトハ如何カト思フノデスガ、サウ云フ意味ノ審査機關ト云フモノヲ國民ノ意思ニ依ツテデモ作ツテ置ク、ソレニ依ツテ何年カ毎ニ審査セシムルト云フヤウナコトハ出來マセヌデセウカ、ソレダケノコトヲチヨツト教ヘテ戴キタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ七十九條ノ國民審査ノ規定ニ付キマシテ色々ナ御意見ノ御前提トシテ御質疑ガアリマスルガ、ソレニ付テ御質疑ヲ爲サル方カ、此ノ新シイ制度ノ此ノ局部ニ餘リニ或角度カラ重點ヲ御置キニナリ過ギテ居ルノデハナイカ、斯ウ云フ懸念ガスル譯デアリマス、此ノ規定ノ全體ノ趣旨ニハ色々意味カアリマスケレドモ、而モ其ノ最モ重大ナル一ツノ意味ト云フモノハ、結局人間ハ何時デモ金城鐵壁ノ中ニ人レテ置ク譯ニハ行カヌ天皇ハ固ヨリ金城鐵壁ノ中ニ御地位ガナケレバナラヌケレドモ、其ノ代リ又國務大臣ノ助言トカ、翼賛トカ云フヤウナコトデ實質上ノ責任ニ屬シナイヤウニスル、其ノ外ノ者、現實ニ働ク者ハ何處カニ流動的要件ヲ設ケテ居ナケレバナラヌ、期ウ云フコトカラ出發シマシテ、最高裁判所ノ如キモノハ、如何ナル方法ニ依ツテ其ノ流動性ヲ導キ來ルノガ宜イカト云フコトニナル時ニ、是ハ結局議會ノ流動性、内閣ノ流動性ナドト同ジヤウニ民主政治ノ基本ト云フ所ニ行キマスト、餘程微妙デアリマシテ、餘リ露骨ニ一ツ一ツノ論議ヲシナイデ國民ノ綜合的ナル結論ニ俟ツト云フコトノ方ガ妥當デアラウト云フ考ヘ方デアリマス、固ヨリ國會ノ選擧ト裁判官ノ審査トハ趣旨ハ非常ニ違ツテ居リマスケレトモ、或特殊ノ場合ニハ、似タヤウナ氣持ガ支配シテモ宜イノデハナカラウカト云フ氣持カラ、此ノ國民審査ト云フ途ヲ設ケタノデアリマス、其ノ結果ノ方法ヲ今度豫想致シマスルト、餘程是ハ微温的デアリマシテ、裁判シタ後直グニ此ノ審査ガ起ル譯デモナイ、此ノ憲法ノ豫想スルヤウニ直グニ來ルコトモアレバ、十年後ニ來ルコトモアルト云フヤウナコトデ、歳月ノ經過等ニ依リマシテ、公平ナモノヲ作ルヤウニシ、且又國民ノ心ヲ現實ニ刺戟致シマセヌデ、ドノ裁判官ガドウデアルトカ、ドンナコトヲシタト云フヤウニ、刺戟スルコトナクシテ、客觀的ニ已ムニ已マレズニ、刺戟スルヤウナ效果ヲ持ツテ來ルヤウナ風ニ工夫シテ、惡クスレバ餘リニ微温的デアルト云フヤウニ言ヘルカモ知レマセヌガ、是ハ大事ナコトデアリマシテ、國民ガ國民ノ心ヲ見ルト云フヤウナ場合ガ起ルコトハ望マシクナイノデ、此ノコトハ餘程工夫シテ出來テ居ル譯デアリマス、處ガ今ノヤウニ審査機関ヲ設ケマスト、餘程樣子ガ變ツテ具體的ニナルノデアリマシテ、淵中ノ魚ヲ察見スルハ不祥ナリト申シマスガ、餘リ觸レナイデ置ク方ガ宜イノヲ、ホジクリ出シテ毛ヲ吹イテ疵ヲ求メルト云フヤウナ氣分ノ導キマスコトハ、實ハ此ノ制度ノ狙ヒヲ少シ超越シテ居リハシナイカ、ソコノ所ヲ避ケタイト思ヒマス
○佐々木惣一君 分リマスガ、ソコノ所ハ見方ノ相違デ、私ハ審査機關ト申シマシテモ、審査ト云フノハ、或機關ガ始終監視シテ居ツテ、何カ一定ノ機關ニ意見デモアレバ言フト云フヤウナコトデスケレドモ、ソレガ一般國民ガ始終十年毎ニ監視シテ居ルト云フヤウナ意味デモ宜イヂヤナイカト思フノデスケレドモ、是ハ簡單ナ意見ハ‥‥、ソレカラ今度ハ八十條ニ付テチヨツト伺フノデアリマスガ下級裁判所ノ裁判官ハ任期ガ十年デ、再任サレルコトガ出來ルトアリマスノデスガ、是ハ現行ノ制度ニ比較シマシテ非常ニ珍シイ、現行制度デハ任期附キノ官吏ト云フモノハ滅多ニナイノデス、ソコデ法律上任期ガ十年トナツテ居ル、此ノ十年ト云フノハドウモ長イトモ言ヘマスシ、短イトモ言ヘル、例ヘバ裁判官ノ諸君ニハ恩給ナドノ勘定モアリマセウガ、ドウモ十年デ辭メルト云フ建前ニナツテ居ルト云フコトハドウカト思フノデスケレドモ、ソレハ何トシマシテモ、再任出來ルト云フノダカラ宜イヂヤナイカト言フケレドモ、斯ウ云フコトハイケマセヌカ、其ノ再任ガ出來ルカ出來ヌカハ、内閣ノ方デ言フ迄待ツテ居ナケレバナラヌノデスカ、十年經ツタラバ再任ヲ要求スル‥‥再任ヲ一ツ出願シテ見ルコトガ出來ルト云フヤウナ、サウ云フ規定ヲ假ニ、此ノ憲法デ直スコトガ出來ナイトスレバ他ノ規定デ設ケルト云フヤウナコトハイケナイモノデゴザイマセウカ、憲法ハ此ノ儘ニシテ置イテ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ人事ノ問題ト云フモノハ非常ニ華奢ナト云ヒマスカ、「デリケート」ナモノデアリマシテ、再任ノ場合ニ如何ナル判斷ヲ以テ再任ヲ許スカドウカト云フコトハ、法律的ニ考ヘルコトノ出來ナイモノデアリマシテ、多角形ニ然ルベキ人ガ考ヘル、斯ウ云フコトニナラウト思ヒマス、此ノ案ハ最高裁判所ニ付テハ、國民審査ト云フ、マア比較的明瞭ナ方法ヲ採リマシタケレドモ、是ハ政治的ニ餘程識見ヲ有スルヤウナ人ガ最高裁判所ノ裁判官ニナルカラ再任スルコトニシタノデアリマスガ、下級裁判所ノ方ハ左樣ニ考ヘル必要ハナイト云フ譯デ、ソレデ機械的ニ十年デ打切ルト云フ方法ニ依リマシテ、適材適所ニウマク按配スル、一ツノ形式的ノ考慮ヲ致シマシタ、ソレカラ最高表判所ハ、其ノ時ニ又新タナル「リスト」ニソレヲ載セマシテ、サウシテ再任ヲスル、斯ウ云フ手續ニナリマス、ソコデ最高裁判所デドウ云フ標準デ以テ其ノ「リスト」ニ載セルカト云フコトハ、此ノ憲法ノ上デハ雲ノ中ニ藏ツテアリマシテ、露骨ナル形ヲ採ツテ居リマセヌ、最高裁判所ガドウスルカト云フコトハ、相當是カラ裁判所ノ、謂ハバ統一體ト云フヤウナ原理ニ依ツテ十分研究サレルコトト思ヒマスガ、故ナク再任ヲ拒ムト云フヤウナコトハナカラウト思ヒマス、請求權ト云フ形ヲ將來採ツテ‥‥勿論採リ得ルカモ知レマセヌガ、サウ云フ規則ハ出來マスルケレドモ、其處迄行カナイデ、モツト日本ラシイ、日本人ラシイ、日本ノ組織ラシイ方法デ其ノ調節ガ取計ラハレルモノト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 ソレハ分リマスガ、但シ十年トスルトドウモ裁判官ニナル若人ガ望ミヲ‥‥外國ハ存ジマセヌケレドモ、日本デハ是カラ裁判官ニ若イ人ガ欲シイト思フノデスガ、其ノ事ニ付テ我々ハ十年ニスルト云フ感ジガ‥‥再任出來ルニシテモ‥‥アツタラ却テ良イ人ガ來ナイヤウニナリハセヌカトチヨツト疑點ヲ持ツモノデスカラ御尋ネ申上ゲタ譯デアリマス、ソレカラ今度ハ八十一條ニナリマスケレドモ、是ハ此ノ間モチヨツト司法大臣ニ御尋ネ申上ゲタト思ヒマス、ソレカラ今日モ他ノ方ニ對スル御答辯ノ中ニアツタト思ヒマスガ、ソレハ最高裁判所ガ法令ノ憲法達反デアルカ否カヲ審査致シマスルコトガ、例ヘバ或法律ガ出タ、此ノ法律ガ憲法違反デアル、ト斯ウ信ジタ國民ガアル、其ノ時ニ其ノコトトシテ其ノ審査ヲ頼ムコトガ出來ナイ何カ具體的ナ事件ガ爭ニナツテ、其ノ係爭事件ニ關聯シテ、其ノ係爭事件ニ關係アル、或ハ適用セラレルト申シマスカ、サウ云フ法律ニ付テ憲法達反ト云フコトヲ主張スルコトガ出來ルヤウナ風ニ伺ツタノデアリマスガ、ソレハドウモ私ハドウカト思フ、サウスルト餘リ此ノ規定ノ適用ハナイカト思ヒマシテ、ソコデ私ハ或法律ガ出タ時ニ、其ノ法律ガ憲法違反デアルカドウカト云フコト、其ノコトモ一ツ審査シテ貰ヘルト云フ風ニシタ方ガ宜イト思フノデアリマスルガ、併シ此ノ憲法ノ規定ノ解釋デハ、ソレガモウ許サルヽヤウニナツテ居ルノデノガ、ドウシテ其ノ係爭事件ニ關係シテノ法令デナケレバ審査ガ出來ナイト云フ風ニ司法大臣ハ御解釋ニナツタノデスガ、是ハチヨツト分ラヌデスガ、金森國務大臣ハドウデス、是ハ率直ナ意味ニ於テハソンナ關係ハナイノデス、此ノ八十一條ノ規定ハ實際‥‥、ト思ヒマスガ如何デゴザイマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 私ハ裁判所ト云フモノハ、勿論言葉ハ可ナリ廣ク用ヒラレテ居リマスルケレドモ、マア普通裁判所ト言ヘバ、個々ノ事件ヲ裁判スルモノデアルト、斯樣ニ考ヘテ居リマス、ソコデ此ノ憲法ニ於テ用ヒテ居リマスルモノモ總テ其ノ趣旨デアリマス、ソコニ唯附加ヘトシテ八十一條ニ「終審裁判所である。」斯ウ云フコトヲ加ヘテ居ル所ニ依ツテ明瞭デアリマスガ、此ノ「終審裁判所である。」ト云フ所ニ意味ガアルノデアリマシテ、終審ト云フコトガナケレバ、普通裁判所デ出來ルコトナンデス、デスカラ普通裁判所デ法律其ノモノヲヤル權能ガナイト云フコトガ當然デアルトスレバ、ソレガ終審裁判所ト云フ形ヲ取リマシテモ、矢張リ個別的ノ事件ヲ裁判ヲスルト云フコトニ當然ナツテ來ルト思ヒマス
○佐々木惣一君 ソレハ先日來ノ御解釋デ分ツタノデスケレドモ、サウシマスルト、折角憲法ト云フモノノ最高ノ法規ヲ我ガ國家ニ於テ遵スルヤウナ具體的ノ方策ヲ講ズルト云フ力ガドウモ缺ケルヤウナ風ニ思フノデス、詰リサウナルト云フト此ノ最高裁判所ノ憲法問題ト云フモノハ、先決問題トシテノ憲法問題ヲ議スルト云フコトニ結局ナツテシマツテ、憲法違反デアルカドウカト云フトコトヲ明カニスルト云フ、此ノ憲法ガ折角御考ニナツタ趣旨ト悖リヤセヌカ、先決問題トシテノ憲法問題ヲ扱フト云フコトニナリハシマスマイカ、實際上ニソレハマアソレデ宜シウゴザイマス、ソレデ例ヘバ外ノ國ノ例ヲ申上ゲルト、詰リ最高裁判所ト云フモノガ斯ウ云フ風ニナツテ居ルカラデアツテ、私ノ本當ノ希望ヲ言ヘバ、憲法裁判所ト云フ別個ノモノヲ設クル、成ル程「アメリカ」等ハサウヂヤナイ、最高裁判所デアル、併シナガラ從來憲法裁判ト云フ時ニハ、大陸流デハ大體特別ノ憲法裁判ト云フヤウナ意味ニ於テ憲法裁判所ト云フコトヲ言ヒ來ツテ居ルノデアルト思ヒマス、「オーストリア」デモ「ドイツ」デモ‥‥、サウ云フ意味ニ於テ其ノ憲法裁判所ト云フモノヲ、裁判所ト云フ言葉ハドウデモ‥‥設ケルト云ケルト云フコトガ私ハ我ガ國ニ於テ適當ダ、從ツテソコニ他ノ事件トシテ繋屬スルカドウカト云フコトハ無關係デアツテ、憲法裁判所ヲ設ケルカドウカト云フコトハ明カデ、其ノ爲ニサウ云フモノヲ設ケル方ガ宜イト思ツテ居リマシタシ、今モサウ思ツテ居リマスケレドモ、併シナガラサウ云フ風デナイト云フ風ニ御解釋ニナレバ、マア已ムヲ得ナイノデアリマスケレドモ、私チヨツト此處デ申上ゲテ置キタイデスガ甚ダ失禮デアリマスガ、此ノ憲法ノ規定ガ今申シマシタ此ノ法令ノ憲法違反デアルカドウカハ、其ノコトヲ獨自ニ裁判スルコトハ出來ナイノダ、何等カ具體的ノ係爭事件ガソレニ關係シテソレガ法令違反デナケレバ取扱ハナイト云フヤウナ御解釋ハ、ドウシテモ政策論デハナシニ、此ノ規定ノ通リダトドウシテモサウハ取レヌト存ジマス、是ハ解釋上ノ意見ノ相違デアリマスカラ、何ボ言ツテモ仕樣ガナイト思ヒマスガ、金森國務大臣ナリ、先日來ノ司法大臣ノ御解釋ニハ私ハ從フコトハ出來ナイト云フコトヲ留保シテ置キマス、サウシテ此ノ問題ハマア宜イト致シマシテ、ソレカラ最後ニチヨツト申上ゲテ御尋シタイノハ、全般的ノ問題デスケレドモ、裁判官ニ對スル所ノ行政官ト云フコトニ付テチヨツト御尋ネ申シタイ、裁判官ハ獨立デアルト云フコトハ、裁判ト云フ職務其ノモノニ付テノ裁判官ノ獨立デアツテ、裁判官ト雖モ、其ノ職務態度ニ於テ怠ケテ宜イト云フコトニハナラナイノデス、デアリマスルカラ、裁判行爲其ノモノヲ離レタ裁判官ノ職務態度ニ付テハ裁判官ト雖モ監督シテナラヌト云フコトハナイ、今日ハドウカ知リマセヌガ、自己ノ職務ヲ惡用シテ、グズグズシテ居テモソレハ獨立シタモノナンダカラ宜イト云フコトニナレバ、大間違ヒナンデス、ソコデ是迄規定ノアルヤウニ職務上ノ獨立ハ十分憲法デ認メテ居ルケレドモ、裁判官ニ對スル職務上ノ態度ニ付テハ監督ト云フコトモ必要ナノデアリマス、ソレハドウ云フ風ニナサル御考デアリマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ點ハ今朝司法大臣カラ御答ヲシタト思ツテ居リマスルガ、理論的ニハ内閣ガ其ノ最後ノ司法、何ト申シマスカ、司法ニ關スル行政ニ對スル監督權ノ最後ノモノハ内閣ガ持ツテ居リマス、併シサウ言フト言葉デハ角ガ立チマスルガ、事實ハ最高裁判所ガ持ツテ居リマス、理論的ニハ若干ノ差ガ出來ルノデアリマス
○佐々木惣一君 事實ハ最高裁判所ニヤツテ貰フト仰シヤイマスケレドモ、内閣ノ權限ヲ最高裁判所ニヤツテ貰フ譯デセウ、ソレカラ最高裁判所ノミナラズ中間ノ裁判所ト申シマスカ、サウ云フ裁判所ノ長官ナドニモサウ云フ意味ニ於テノ行政監督ヲ其ノ意味デ委ネテモ宜イ譯デアリマスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 私ハ左樣ニシテ宜イト思ツテ居リマス、今朝司法大臣ハ現實ノコトハ私ト同ジヤウナ趣旨ノコトヲ違ツタ言葉デ言ツテ居ルト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 ソレカラ最後ニ、是ハ司法大臣ガオ出デニナレバ、司法大臣ノ方ガ宜イノデスケレドモ、例ヘバ司法大臣ガ屡々裁判官ノ長官方、檢察ノ長官方ノ會同ノ時ニ、ドウモ言葉通リニハ今忘レテシマツタケレドモ、屡々私ハ思フノデスケレドモ、裁判ノ方針、法ノ解釋、適用ノ方針ト思ハレルヤウナ御訓示ガアルノデスガ、ソレハドウ云フ言葉デ仰シヤツタカト云フコトハヨウ言ハヌデスケレドモ、斯ウ云フ風ニ裁判シアヽ云フ風ニ裁判シ、或ハ斯ウ云フ風ニ檢察ノアレヲヤレト云フヤウナ言葉ガアツタヤウニ思フノデアリマスガ、サウ云フコトハ私ハ司法大臣トシテハ、所謂先刻申シマシタ裁判官ニ對スル行政監督ノ範圍外ニ出テ居ルト思ヒマス、ソレデ以テ裁判ノ人々ガ檢事ハ勿論ノコト、判事ハイヤモウ嚴罰主義ダトカ何トカ云フコトヲ何ノコトカ分ラヌガ、サウ云フコトヲ司法大臣カラ御訓示ヲ受ケルベキ筈ハナイト思ヒマスガ、此ノ點ハ金森國務大臣ハ能ク御存ジト思ヒマスガ、昔ハ非常ニ嚴格デアツタガ、近年ハ辭レテ居リマス、今ハ裁判所其ノモノニ付テノ上官デアルガ如キ觀ガアル、其ノ點ハ理論的ニハソンナコトハ出來ナイデセウ
○國務大臣（金森徳次郎君） 現在司法大臣ガドウ云フ訓示ヲシテ居ルノカ私モ能ク存ジマセヌケレドモ、多分御説ノヤウナ訓示ハナイダラウト思ヒマス、何カ友達向ノ忠告ノヤウナ氣持デヤツテ居ルモノト思ヒマスガ、私ニハドウモ御答ヘシニクイト思ヒマス、
○佐々木惣一君 宜シウゴザイマス、併シ實際アルノデス、實際サウ云フ訓示ハナイダラウト仰ツシヤツタコトカラ察シマスルト、性質上ハサウ云フ訓示ハ許サルベキモノデナイト云フ風ニ御汲ミ取リニナツタモノト解シテ宜シウゴザイマスナ
○國務大臣（金森徳次郎君） 宜シウゴザイマス
○委員長（安倍能成君） 高柳委員
○高柳賢三君 今朝丁度出席致シマセヌデシタモノデ、前ニ御答ニナツタコトヲ御聽キスルカモ知レマセヌガ、サウ云フ場合ニハドウカ御答ニナラナイデ結構デスカラ第七十六條第二項、「特別裁判所は、これを設置することができない。行政機關は、終審として裁判を行ふことができない。」ト、斯ウ書イテアリマスガ、行政機關ト裁判所トノ關係ニ付キマシテハ一番問題ニナルノハ、行政機關ト云フモノガ「エキスパート」シテ爲シタ事實認定ト云フモノヲ「エキスパート」デナイ最高裁判所ト云フモノガ最終裁判所、再審出來ルカドウカ之ヲ出來ルヤウニスルト云フト色々不都合が起ルノデ、事實問題ニ關シテハ最高裁判所ニ其ノ點ヲ更ニ調ベテ貰フコトガ出來ナイノダト、斯ウ云フヤウナ風ニ段段ナツテ來テ居ルヤウニ思ヒマス、又實際ノ必要モサウ云フ風ニスルコトガ妥當ナノデハナイカト思フノデアリマスガ、法律問題ニ付テハ裁判所ニ持ツテ行クコトガ必要デアルト、斯ウ云フコトハ疑ナイノデアリマスガ、事件ニ依リマシテハ事實問題ガ即チ問題ダト云フヤウナ事件ガアルノデアルガ、此ノ憲法ノ條項ニ依リマスルト、サウ云フヤウナ事實問題ニ付テモ、ドウシテモ最高裁判所ヲ最終裁判所、終審裁判所トスルト云フコトガ必要ニナルヤウニ思ハレマスケレドモ、其ノ點不都合ガナイノデアリマスカドウカ、其ノ點ヲ御尋シマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 裁判ト云フモノハ自ラ中味ガアルモノデアツテ、詰リ事實ノ判斷ト法律ノ判断ト兩方含ンデ、ソレガ一ツノ裁判トナルノデゴザイマス、事實ヲ離レテ法律ノミヲ裁判スルト云フコトハ、寧ロ裁判ノ一部分ニ過ギナイト斯樣ニ思ツテ居リマス、併シナガラ事實ヲ裁判スルト言ヒマスカ、事實ニ付テ判定ヲ致シマス時ニ、法律ガ色々ナ枠ヲ作リマシテ、此ノ範圍ノコトハ此處ニ任セルト云フコトニ規定致シマシテモソレハ可能ナコトデアルト思フノデアリマシテ、左樣ナ裁判ノ部分ヲドウ云フヤウニ分配スルカト云フコトハ、裁判ニ關スル法律ヲ然ルベク定メテ宜イト思ツテ居リマス、此ノ憲法ノ條文ハ、第七十六條第二項ハ、結局裁判ト云フモノハ終審トシテ司法裁判所ニ行カナケレバナラヌ、途中デ之ヲ動カシテハナラヌト云フ是ダケヲハツキリ限定シテ居リマシテ、其ノ中味ヲ如何ニシテ適切ニスルカト云フコトハ今後ノ法律ニ俟ツテ行カウ、斯ウ云フ趣旨デアリマシテ、實際御説ノ通リ裁判所ハ法律事項ノミヲ判斷スルコトガ適スルト云フヤウナ意味合ハ確カニアラウト思ヒマスケレドモ、併シ現在ガ左樣ナ段階ニ到達シテ居ルカト云フコトハ見極メガ付キマセヌ、茲ハ廣イ言葉ヲ以テ規定シテ居リマスガ故ニ、實際ニ於テハ何等ノ支障ノ起ルコトハ此ノ規定カラハナカラウト思ヒマス
○高柳賢三君 只今ノ點ニ付キマシテ事實問題ニ付テハ行政機關ノ認定ガ中心デアルト云フ法律ヲ作ツタ場合ニ、ソレハ違憲デナイト云フ風ノ御考デスカ、或ハサウ云フ規定ハ憲法上出來ナイト云フ御考デスカ、其ノ點ハ如何デスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 私ハ必ズシモ違憲デナイト考ヘテ居リマスガ、併シ是ハ實ハマダ當分豫想シテ居ナイ所デアリマシテ、學問上ノ論議ニナリマスガ、若シ出來ルナラバ、他ノ論點ノ發展ノ爲ニ必要ナラバ茲デ何トカ答辯シナケレバナリマセヌガ、成ルベクナラバ餘裕ヲ殘シテ置イテ戴キタイト思ヒマス
○高柳賢三君 此ノ問題ハ米國等デハ非常ニ問題ニナツテ居リマシテ、矢張リ此ノ事實問題ニ付テハ行政機關ノ認定ヲ以テ最終トシナケレバナラヌト云フコトガ殆ド實際ニナツテ居ル譯デアリマシテ、此ノ憲法ノ條項カラ當然矢張リ我ガ國ニ於キマシテモサウ云フヤウナ問題ガ起ルト思ヒマシテ、サウ云フヤウナ發展ヲ妨ゲルヤウナ憲法ノ條項デアルナレバ、再考慮ヲシタ方ガ宜イノヂヤナイカト云フ風ニ考ヘマシテ御尋ネシタノデアリマス、次ニ七十七條ノ問題デアリマシテ、是ハ今朝私出マセヌデ間接ニ伺ツタノデ、此ノ規則ヲ作ル權限ト云フモノヲ最高裁判所ニ認メル斯ウ云フ制度、是ハ大陸法ニハ發達シナカツタ制度デ、「イギリス」ニ於テ先ヅ十九世紀ノ終リ頃カラ慣習的ニ段々發展シテ來タ制度デアリマシテ、是ハ一種ノ「イギリス」ハ國會主權ヲ認メテ居リマスノデ、裁判所ニ對スル一種ノ委任立法、慣習的ニ成立シタ委任立法デアル、斯ウ云フ風ニマア「イギリス」デハ解釋サレテ居リマシテ、行政府ニ對スル委任立法ニ付テハ非常ニ問題ガ起リ、論議ガ重ネラレテ居リマスルケレドモ、此ノ司法部ニ對スル委任立法ニ付テハ誰モ非難スル人ガナイ、最モ妥當ニ行ハレテ居ル、是ハ殊ニ民事訴訟ニ關スル手續ノ如キ問題ハ國會ガ之ニ干渉スルト云フノハ宜シクナイ、ソレ等ノ問題ハドコ迄モ專門家デアル所ノ裁判官、辯護士等ノ「グループ」ニ之ヲ全部御委セヲスルト云フノガ正シイ行キ方デアルト云フコトノ認識ガ斯ウ云フ慣習ヲ「イギリス」ニ成立サセタモノデアラウト思ヒマス、一種ノ司法部ニ依ル立法權ノ行使デアリマシテ、議會ガ之ニ無暗ニ干渉シナイト云フ所ニ精神ガアルノダラウト思ヒマス、此ノ制度ガ丁度千九百二十年頃「アメリカ」ノ「ヒューズ」ガ「イギリス」ニ行キマシテ「イギリス」ノ司法ヲ見學シテ、此ノ規則制定權ノ問題運用ヲ能ク見マシテ、是ハ「アメリカ」ニ於テモ斯ウ云フ方向ニ向ツテ進マナケレバナラナイノダト云フコトヲ痛感シマシテ、其ノ後有ラユル機會ニ於テ此ノ司法部ニ依ル立法權ノ行使ト云フ問題ヲ雜誌等ニ於キマシテ宣傳シマシテ、遂ニ大審院ニ於キマシテ職邦最高裁判所ニ於キマシテ慣行的ニ斯ウ云フ同ジヤウナ慣行ガ成立スルコトニナリ、更ニ其ノ成績ガ非常ニ良好デアルト云フノデ州ノ裁判所ニ於テ、州ニ於テモ同樣ナ慣行ト云フモノガ成立スルト云フヤウニナリ、而モ或州ニ於テハ憲法デ此ノ權利ヲ保障スルト云フ所迄進展シテ居ル州モアル、私ハ此ノ憲法ヲ讀ンデ見マシテ、是ハ最モサウ云フ方向ニ向ツテ極端ナ所迄進ンデ居ル立法ダ、即チ憲法ニ依ツテ此ノ最高法院ニ依ル立法權ノ行使ト云フモノヲ保障シテ居ルト云フ意味ハ、國會ノ干渉ヲ排除スルト云フ所ニ意味ガアツテ、細カイ規則ナドヲ拵ヘル權能等ヲ憲法デ保障スルト云フコトハ「ナンセンス」デアルト思ヒマス、サウヂヤナクテ、最高法院ト云フモノヲ大イニ信頼シ、ソレニ事後ニ關スル問題ニ付テ自ラ國會ノ干渉ヲ排シテ之ヲ自治的ニ規律スルト云フコトヲ憲法的ニ認メタ所ニ此ノ條項ノ本當精神ガアルノダト思フノデ、從ツテ政府ハサウ云フ意味デ御書キニナツタノヂヤナイ、是ハ補充立法ト云フモノガ主デアツテ、裁判所ガ細カイ規律ヲ作ルノダト云フヤウナ解釋ハ此ノ規則制定權ノ沿革ニ照シマシテ、實ニ驚クベキ解釋デアルヤウニ私ニハ思ハレルノデアツテ、司法權ニ折角與ヘラレタル大キナ自治ノ力ト云フモノヲ自ラ捨テ去ツテシマフト云フ解釋デアルト云フ風ニ私ハ考ヘルノデ、其ノ意味デ此ノ規定ノ解釋ニ關スル政府ノ御解釋、是ハ私今朝出マセヌデシタカラ其ノ解釋ハ或ハ間違ヒカ知レマセヌガ、若シサウデアルトスルナラバ、其ノ解釋ハ此ノ條項ト云フモノヲ全部殺シテシマフ解釋デアラウト思フノデアリマス、尤モ此ノ最高裁判所ノ規則制定權ニ付キマシテモ、刑事訴訟ノ範圍迄ソレヲ及スベキヤドウカト云フコトニ付テハ立法上相當ニ問題ガアルト思フノデ、民事訴訟ニ關シテハ全部斯ウ云フ規定ガアツテモ宜イノデアルケレドモ刑事訴訟迄一切裁判所ニサセテシマフト云フコトガ果シテ宜イカドウカト云フコトニ付テハ相當疑ガアリ、相當議論モアル所デアリマスガ、從ツテ茲ニ訴訟ニ關スル手續ト云フノハ、是ハ民事訴訟ダケヲ言フノカドウカト云フコトニ付テ解釋上英譯文ノ方ト對照致シマスト、相當訴訟ト云フ廣イ言葉デ宜イノカ、是ハ寧ロ民事訴訟ノコトヲ言ツテ居ルノヂヤナイカト云フヤウナ點、ソレニ付テ疑ヲ持ツテ私ハ讀ンダノデアリマスガ、日本文ノ方デハ刑事訴訟ヲモ含ムヤウニ讀メルノデ、其ノ點ハ是ハ民事訴訟ニ關スル手續ナラバ非常ニ結構ナ規定ダラウト思フノデアリマス、次ニ第二項ニ於キマシテ、「檢察官は、最高裁判所の定める規則に從はなければならない。」、斯ウ云フノハ非常ニ書キ方ガ、寧ロ最高裁判所ハ檢察官ニ付テ規定ヲ設クルコトヲ得ルト云フ意味ナラバ前後相應スルノデスガ、此處ダケデ檢察官ガ何カ義務ヲ負フヤウナ形デ書イテ居ルノハ、書キ方ガ非常ニ惡インヂヤナイカト云フ風ニ考ヘルノデ、英譯文ノ方ハ其ノ點ニ付テ極メテ今私ガ申シマシタヤウナ意味合ニ書イテアルト信ズルノデアリマスガ、此ノ書キ方ニ付テハ相當文句ノ修正ト云フヤウナコトガ考ヘラレルノデハナイカト思ハレルノデアリマス、七十七條ニ付キマシテハ、或ハ既ニ十分ニ政府ノ御見解ヲ供セラレタノデアリマセウカラ、更ニ或ハ附加ヘラレルコトハナイカモ知レマセヌノデ、併シ何カ御意見ガアリマシタラバ更ニ伺ハサセテ戴キタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ憲法ハ國會ノ所ニ於キマシテ、國會ガ唯一ノ立法機關デアリ、サウ云フ風ニ致シマシテ從ツテ立法ト云フベキ範圍ノモノヲ他ノ所デ行フト致シマスレバ、ソレニ付キマシテハ特別規定ヲ憲法ノ中ニ設ケルコトガ必要デアルト考ヘマス、是ノ故ニ國會ノ兩院ノ所ニ於キマシテハ、兩院ガ自己ノ規定ヲ作リ得ルト云フコトヲ規定シテ居リマス、又裁判所ニ於キマシテモ最高裁判所ガ或程度ノ立法的規定ヲ爲シ得ルト云フコトヲ明カニシテ居リマス、ソレハ唯作リ得ルト云フ權能ヲ明カニシタノデアリマス、其ノ作ツタモノガ他ノ立法權ヲ排除スルト云フ所迄ハ此ノ憲法ニハ認メテ居リマセヌ、ソレハ憲法自體ノ書キ方ガ之ヲ示シテ居リマスルシ、又國會ガ最高機關デアリ、又立法權ヲ包括的ニ持ツテ居ルト云フコトカラ顧ミテ略々同ジヤウデアルト思ヒマス、若シ例ヲ日本ノ現行ノ憲法ニ取リマスルナラバ、法律ハ或範圍ノコトヲ規定シテ居ルト云フコトガアル、憲法九條ノ獨立命令ハ斯ウ云フコトヲ規定シ得ルト書イテアリマス、憲法九條ノ命令ガアルカラ法律ノ方ガ排除サレルト云フ解釋ヲ取ツテ居リマセヌ、兩々相對立シテ行ハレ得ルト云フ風ノ趣旨ヲ取ツテ居リマス、此ノ場合モ全クソレト同ジデアリマシテ、規定ハ出來ルンダト云フコトヲ言ツテ居リマス、其ノ効力ノ強弱ニ至リマシテハ、一般ノ原理ニ依ツテ解決スルコトハ尚今ノ憲法ノ解釋ト同ジヤウデアツテ然ルベキト考ヘテ居リマス、併シ固ヨリ斯樣ナ補助立法ヲ認メマシタコトハ謂レガナイ譯デハアリマセヌ、實際ニハ斯樣ナ補助立法ノ方法ヲ採ルコトガ都合ガ好イカラ斯ウ云フ規定ヲ設ケタノデアリマシテ、政治的ナモノヲ、立法的ニハソチラノ方ヲ尊重シテ行クベキデアリマセウガ、法律的ノ解釋ト致シマシテハ、私ガ今申上ゲマシタ處ニ歸著スルト思フノデアリマス、ソレカラ此ノ七十七條ノ二項ニ付キマシテハ、御趣旨ノアル所ト此ノ二項ノ規定トハ成ル程言葉ノ上ニ差ハアリマス、併シ結局内容的ニ歸著スル處ハ同ジコトデアリマシテ、強ヒテ是ノ内容ニ付テ御示ニナツタヤウナコトト合フカ合ハナイカヲ御答ヲシナクテモ、一ツノモノヲ色々ノ角度カラ規定出來ルノデアリマスカラ、從ハナケレバナラナイト云フコトニナレバ、其ノ前提ニ於テサウ云フ方向ニ向ケテ居ル規則ヲ作ルンダト云フコトモマア「インプライ」サレテ居ルヤウニ考ヘル譯デアリマス
○高柳賢三君 此ノ七十七條ト國會ノ立法權トノ限界ノ問題ハ、結局國會ノ法律ニ違反スル規則ヲ最高裁判所ガ制定シタル場合ニ於テドツチガ優先スルカ、斯ウ云フ問題ニナルトモ思フノデアリマス、私ハ憲法ニ於テ最高裁判所ノ是等ノ問題ニ關スル立法權ヲ保障シテ居トル云フ見地カラ、是等ノ事項ニ關スル限リハ國會ノ作ル法律ニ優先シテ、最高裁判所ノ立法ガ適用サレルノダ、斯ウ云フ風ニ解釋スルノデアリマスケレドモ、其ノ點ハ如何デアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 其ノ點ハ二重ノ論點ガアラウト思フノデアリマス、重複シテ居ルト云フコトニ依リマシテ、一般ノ原則カラ申シテ重複スル規定ガアリマスレバ、所謂上級法ガ下級法ニ勝ツト云フコトモ言ヘヨウト思ヒマス、ソレガ先ヅ基本的ナ原理デアリマス、其ノ見地カラ申シマスレバ、今御説デハアリマシタケレドモ、結局最高裁判所ノ規定ト國會ノ定ムル規定ト相反スル場合ニ於キマシテ國會デ定メタ所ノ法律ガ効力ヲ持ツト云フコトニナラウト思フノデアリマス、併シ他ノ一面カラ申シマシテ、一般法、特別法ト申シマスルカ、實際二ツノ法則ガ形ノ上デ相牴觸シテ居リマス場合ニ、單純ニ上級法ノミガ勝ヲ占メルト云フコトハ言ヒニクイ場合ガアリマシテ、現實ニハ個々ノ規定ニ依ツテ靜カニ解釋シナケレバナラヌト考ヘテ居リマス
○高柳賢三君 或ハ私ノ考ヘテ居ルノト、政府ノ御考トハ少シ喰ヒ違ツテ居ルヤウニ感ジマスケレドモ、此ノ點ハ議論ニナリマスルノデ、此ノ程度デ止メマシテ、更ニ此ノ問題ニ付キマシテハ司法部ノ十分ナ御考慮ヲ御願ヒシテ、司法部ト云フモノニ與ヘラレタ斯ウ云フ大キナ力ヲ司法部自ラ捨テ去ツテシマフト云フヤウナコトヲナサレナイヤウニ希望ヲ述ベマシテ、此ノ七十七條ニ關スル質問ハ打切リマス、次ニ七十九條デアリマスガ、七十九條ノ三項「前項の場合において、投票者の多數が」云々ト書イテアリマスガ、此ノ多數ト云フノハ過半數ノ意味デアリマスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 實質ニ於テ過半數ノ意味デアリマス、併シ此處ニ多數ト書キマシタコトハ幾分ソレトモ違ヒ得ル形ガアリマシテ、法律デ之ヲ定メルト云フ其ノ法律ニ依リマシテ、或程度ノ影響ヲ受ケルモノト考ヘテ居リマス
○高柳賢三君 サウスルト、法律デ以テ、例ヘバ三分ノ二ト云フ風ニ定メルコトモ出來ルト云フ趣旨デ、過半數ト書カズ、之ヲ多數ト御書キニナツタ、斯ウ云フ趣旨デアリマスガ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此處ノ所ハ大體ノ立法ノ精神ハ過半數ト云フ意味デアツタノデアリマス、憲法ヲ定メマス精神ハ過半數ト云フ意味デアツタノデアリマス、併シ單ニ此處ニ多數ト書キマシタノハ、此ノ場合ノ投票ノ計算ト云フモノガ可ナリ困難ナ場合ガ起リマシテ、本來ノ選擧ニ使フ投票ト、又其ノ投票ニクツ付ケテ此ノ裁判官ノ審査ノ投票ガアリマスノデ、之ヲ計算致シマシタ時ニ、何ヲ標準ニ執ルカト云フヤウナ色色ナ複雜ナ問題ガ起リ得ルト考ヘマシテ、ソコデ詳細ヲ法律ノ方ニ委スト云フコトニシテ、「審査に關する事項は法律で之を定める」ソレカラ本體ハ多數ト、斯ウアル譯デアリマス、デスカラ多數ト云フコトノ持ツテ居ル一般的ナ意議ノ範圍内ニ於テ必要デアツテ、然ルベク規定シ得ルモノ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○高柳賢三君 此ノ七十九條ニ付キマシテハ、本會議ニ於キマシテ、私ハ此ノ國民投票制度ト云フモノハ利益ヨリモ寧ロ弊害ガ多イノヂヤナイカト云フ點ヲ指摘致シマシタノデアリマシテ、私自身トシテハ此ノ制度ニハ反對デアリマス、其ノ時モ申上ゲマシタヤウニ、米國ニ於キマシテモ、聯邦司法制度ニ於テハ斯クノ如キ規定ト云フモノハ一切ナイノデアリマス、又一般ノ「アメリカ」ノ法律家ト議論シマスレバ、斯ウ云フ制度ハ非常ニ惡イ制度ダト言フ人ガ多數ダラウト思ヒマス、尤モ西部ノ州ニ於テハ之ニ類似シタ制度ト云フモノガアリ、恐ラクハ此ノ案ハ千九百三十四年ノ「カリフオルニア」ノ立法ニ示唆ヲ得タモノダラウト思フノデスケドモ、是ハ餘程考ヘナイト云フト、裁判官ト云フモノヲ政治化サセルト云フ弊害ニ陷ルノデハナイカ、裁判官トシテ一番容易イ途ハ、議會ヲ通過シタ法律ハ全部憲法ニ違反シナイト云フ風ニ判決シテ置ケバ、當リ障ラズ、自分ノ身分ニモ影響ガナイ、ソレヲ多數ノ人間ニ逆ツテサウシテ是ハ違憲ダト言ツタ場合ニハ相當ナ政治的波紋ヲ茲ニ起シマシテ、彼ハイカヌト云フヤウナ非難ノ聲ヲ相當ニ起スノデハナイカ、サウ云フヤウナ意味合ニ於キマシテ、若シモ制度ト云フモノ、即チ裁判所ニ依ル違憲立法審査制度ト云フモノヲ活カシテ行カウト云フ場合ニ於キマシテハ、普通ノ裁判官以上ニ最高裁判所ノ裁判官ト云フモノハ、身分ノ保障ト云フモノヲシツカリシテ置カナケレバ駄目デアル、從ツテ政治的ナ外部ノ勢力ト云フモノカラ全部絶縁シテ、國家ノ永久ノ利益ト云フモノノミニ著眼シテ、違憲デアル、違憲デナイト云フコトヲ言ヒ得ル人間ト云フモノヲソコニ置カナケレバナラナイ、而モ制度的ニ之ヲ保障スルト云フコトガ絶對必要デアラウト思フノデアリマス、斯ウ云フ制度ト云フモノヲ認メマスルナラバ、裁判官ト云フモノガ或ハ自己ノ爲シタ判決ヲ辯護シナケレバナラヌ、裁判官ガ自己ノ爲シタ判決ヲ辯護スルト云フノハ最モ怪シカラヌト云フコトニ一般ニ考ヘラレテ居ル、又政治運動ニ裁判官ガ乘出シテ演説ヲヤリ出シタリ何カスルト云フコトニナルコトハ裁判官トシテ最モ愼マナケレバナラナイコトダラウト思フ、從ツテ色々ナ角度カラ觀察致シマスト、此ノ制度ト云フモノハ若干ノ利益ガアルトシテモ、是ハ害ノ方ガ非常ニ多イ、サウ云フ風ニ私ハ考ヘルノデアリマス（拍手）其ノ意味ニ於テ此ノ條項ハ御撤回ニナツタ方ガ宜イノヂヤナイカト思フノデアリマス、（「大賛成」ト呼フ者アリ）併シ萬巳ムヲ得ズ斯ウ云フ「ライン」デ考ヘナケレバナラヌト云フ場合ナラバ、過半數ト云フヤウナコトデナク、之ヲ三分ノ二ト云フヤウナコトニシマスレバ、此ノ規定ハ或ハ骨拔キニナルダケニ無害ニナツテ來ルノデハナイカト云フ風ニ考ヘルノデアリマシテ、此ノ多數ト云フコトヲ御尋ネシタノハ其ノ點カラ非常ニ私ハ重要性ガアルト思ツテ御尋ネシタ譯デアリマス、併シ此ノ點モ或ハ既ニ度々政府ニ於テ御答ヲサレタコトト思ヒマスカラ、更ニ別ニ御附加ニナル點ガナケレバ御答辯ヲ求メマセヌ、次ニ八十一條ニ移リマス、政府ノ元ノ案デハ最高裁判所ハ終審裁判所ダ、斯ウ云フコトヲ謳ツテ、次ニ法律、命令、規則又ハ處分ノ憲法ニ適合スルカドウカヲ決定スル權限ヲ有ツテ居ルノデアル、斯ウ云フ風ニ書イテアリマスカラ、最高裁判所以外ノ裁判所、下級裁判所ガ法律ガ憲法ニ違反スルカドウカト云フコトヲ決定スル權限ヲ否定シテ居ルヤウニ見ラレルノデアリマスルケレドモ、衆議院デ修正ニナリマシタ此ノ原案ニ依リマスレバ、ドツチニモ解釋出來ル、最高裁判所ダケガ違憲立法ノ審査權ヲ持ツノデハナクシテ、最高裁判所ハ終審裁判所デハアル、併シナガラ外ノ裁判所モ矢張リ審査ガ出來ルノダト云フ風ニ解釋出來ルノデアリマスガ、此ノ點ハ政府ノ御考ハ、此ノ憲法デハ下級裁判所ニハサウ云フ權限ガナイノダ、ソレガ唯一ノ解釋デアルト云フ御考デアリマスルカ、或ハ又是ニ二ツニ解釋出來ルケレドモ、此ノ下ニ於テ立法スル場合ニ於ケル政府ノ政策ハ、下級裁判所ニハ之ヲ決定スル權限ヲ與ヘナイデ、最高裁判所ノミニ之ヲ與ヘル、斯ウ云フ趣旨デアリマスカラ、其ノ點ヲ御質問致シマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 解釋ト致シマシテハ、是ハドチラデモ含ミ得ル、詰リ憲法ニ適合スルカドウカヲ審査スルコトハ下ノ裁判所ニモ認メ、上ノ裁判所ニモ認メル、斯ウ云フ風ニモ出來ルシ、上ノ裁判所ニノミ認ムルコトニシテモ宜イ、詰リ是カラ裁判所ニ關スル規定ヲ拵ヘマスル時ニ於テ然ルベク考慮シテ宜イモノト考ヘテ居リマス、唯一ノ場合ニ於キマシテ此ノ問題ヲ解決スル終審裁判所ハ最高裁判所デナケレバナラヌト云フ要件ガ現實ニ存在シテ居ル、斯ウ云フ風ニ了解シテ居リマス
○高柳賢三君 立法政策トシテ此ノ憲法ノ下ニ於テ下級裁判所ニ違憲立法ノ審査權ヲ與ヘル方ガ宜イカ惡イカ、此ノ問題ハ昔カラ非常ニ議論サレタ問題デアリマスガ、矢張リドウモ此ノ制度ヲ認メル以上ハ、下ノ方カラドンドンヤツテ行ケルヤウニシタ方ガ宜イノデハナイカト云フ風ニ思フノデアリマシテ、所謂憲法裁判所ト云フモノヲ一ツダケ拵ヘテヤルト云フ制度デハ本當ニ憲法ト云フモノガ法律家ノ頭ニ滲込マナイ、憲法ハ特別ノモノデアツテ裁判所ダケガヤルモノデアル、一般法律家ト云フモノハ大シテ關心ヲ持タナイデモ宜イノダト云フ風ニ考ヘラレル虞ガアル、寧ロ此ノ制度ヲ徹底サセ、憲法ト云フモノヲ一般法律家ノ頭ニシツカリ入レルノニハ、有ラユル訴訟段階ニ於テ、此ノ點ガ爭ハレ得ルト云フコトニシタ方ガ宜イト思フノデアリマスケレドモ、是ハ憲法其ノモノノ問題デナクテ、立法政策ノ問題ニナリマスルノデ、一時其ノ點ハ質問ヲ留保致シマス、次ニ矢張リ二項デ、「一切の法律、命令、規則又は處分」斯ウ云フ文字ガ使ツテアリマスガ、命令、規則ト云フノハ十六條ニモ既ニ現レタ文句デアリマスガ、規則ト云フノハ、是ハ命令ノ中ニマア含マレル意味ノ規則カト思ヒマスガ、或ハ此ノ憲法ダケヲ讀ミマスルト云フト、此ノ規則ト云フノハ、裁判所ノ作ツタ規則ト云フ風ニ讀メルノデ、恐ラクハ英文ノ方ハ「ルールス」ニハナツテ居ラナイデ、「レギュレーション」ト云フノデ、命令ト云フノヲ英米人ガ書ケバ、「オーディナンセス・オア・レギュレーション」斯ウ云フヤウニ分ケテ書クノガ普通デアリマスノデ、是ハ矢張リ規則ト云フノハ、裁判所ノ規則、最高裁判所ノ規則制定權ノ問題モアリマスシ、ドウカト云フ風ニ考ヘラレルノデアリマスガ、此ノ點ト、モウ一ツハ處分デアリマス、處分ト云フノハ、條約締結ト云フコトモ矢張リ處分ノ中ニ入ルノカドウカ、此ノ點ハ前ニ質問シタノデアリマスケレドモ、十分ナ御回答ガナカツタト記憶致シマスルノデ、處分ノ中ニ條約締結ト云フモノモ入ルカ、條約ガ憲法ニ適合スルカ否カト云フコトヲ決定スル權限ト云フモノ處分ノ中ニ入ルノカドウカト云フ點ヲ御尋ネ致シマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 命令規則、此ノ二ツノ言葉ハ、廣義ノ命令ト云フコトト同ジデアリマス、唯此ノ憲法ガ既ニ規則ト云フ文字ヲ特殊ナ必要カラシテ使ツテ居リマスルガ故ニ、唯命令ト云フ言葉ダケデ言ヒ現スコトガ不自然デアリマスルカラ、命令ト規則、二ツ列ベマシテ、廣義ノ命令ヲ全部是デ「カバー」スル、斯ウ云フ考ヲ以テ出來テ居リマス、條約ガ處分ニ屬スルヤ否ヤト云フコトハ、稍々特殊ナ問題デアリマシテ、普通ノ意味ニ於キマシテ條約ヲ締結シタ其ノ條約自體ガ處分ト云フコトニハナラナイト考ヘテ居リマス、問題ハ、若シモ條約ガ憲法ニ違反シタナラバ、ソレハ最高裁判所ガ其ノ無效ヲ宣言スルカドウカ、斯ウ云フコトニ實質ガ懸ツテ來ルト存ジマシテ、其ノ點ニ付キマシテハ、本會議ニ於テ御答ヲシタカドウカ、ハツキリ覺エテ居リマセヌケレドモ、多分御答ヲシタト考ヘテ居リマスルガ、條約ハ直接ニハ此ノ八十一條第二項ノ裁判所ガ決定スル權限ノ範圍ノ中ニハ含マセテ居リマセヌ、實際ニ於キマシテ其ノ條約ガ如何ニナルカト云フコトハ、國際關係ヲ基本トスル問題トシテ別ニ考慮セラレテ然ルベキモノト思ツテ居リマス
○高柳賢三君 只今ノ御答デ、規則ト云フノハ、是ハ最高法院ガ作ル規則デハナク、別ノ意味ヲ持ツノデアル、斯ウ云フ風ニ理解致シマシタガ、サウ云フ御考デゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ナコトハ言ツタ覺エハゴザイマセヌ、命令ト規則トノ二ツヲ以テ廣義ノ命令ヲ充實スル意味デアリマス、而シテ何故規則ト云フ言葉ヲ使ツタカト言ヘバ、此ノ憲法自體ニ既ニ規則ト云フ言葉ヲ使ツテ居ルカラ、命令ダケニスレバ言葉ガ狹過ギル、ソコデ命令ト規則ヲ併セテ此處ニ掲ゲタ、斯ウ申上ゲタ積リデアリマス
○高柳賢三君 サウスルト最高法院ノ所謂規則モ、此ノ中ニ含マレルト云フ意味デゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 觀念的ニハ含マレルモノト思ツテ居リマス
○高柳賢三君 ソレ以外ニ何カ規則ト云フ言葉ヲ使ツテゴザイマスカ、此ノ憲法ニ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 例ヘバ最高裁判所ガ下級ノ裁判所ニ委任シテ、ソコデ作ル規則ノヤウナモノモアラウト思ツテ居リマス
○高柳賢三君 尤モソレハ同質ノモノデゴザイマスネ、其ノ外、行政關係ノ命令ニ付テ、矢張リ規則ト云フ字ヲ何處カ使ハレテ居リマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ憲法ノ中ニハ多分使ツテ居ナイト思ヒマス、私ノ申シマシタノハ、命令、規則ト云フ二ツノ言葉ヲ以テ廣義ノ命令ヲ「カバー」スル、斯ウ云フ意味デアリマスルガ故ニ、其ノ廣義ノ命令ニ屬スルモノノ全部ガ此ノ二ツノ中ニ入ツテ居ル、斯ウ云フ意味デアリマス、唯規則ト云フ字ヲ何故使ツタカト云フ理由ハ、此ノ憲法ノ外ノ部分ニ使ツテ居ルガ故ニ、ソレヲ此處ニ拾ツテ唯、文字ヲ現スノガ適當ダ、斯ウ云フ趣旨デ入レタ譯デアリマス
○高柳賢三君 第二ノ問題デアリマスガ、條約ガ憲法ニ適合スルカドウカハ、條約ト云フモノガ此ノ憲法ニ基イテ出來ルモノデ、憲法ニ基カナイデ條約ヲ締結スレバ、是ハ違憲デアルコトハ勿論ダラウト思ヒマスガ、其ノ條約ガ憲法ニ適合スルカドウカ、具體的ニ申シマスレバ、例ヘバ憲法第九條ニ違反シテ攻守同盟ヲ結ンダ場合ニ、其ノ攻守同盟ノ效力ハドウデアルカト云フヤウナ問題、其ノ他澤山問題ガ起ルト思ヒマス、ソレ等ノ場合ニ於テ矢張リ最高法院ト云フモノ、最高裁判所ト云フモノニハ其ノ點ヲ審査スル權限ガアルノカ、ナイノカ、其ノ點ガ只今ノ御答辯デハハツキリシナカツタノデアリマスガ、其ノ點ハモウ一遍伺ハセテ戴キタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 條約ニ關シマシテハ、第十章ノ「最高法規」ノ所ニ「これを誠實に遵守することを必要とする」ト云フ規定ヲ設ケテ、凡ソ條約ニ對スル日本ノ態度ヲ明カニシテ居リマス、併シナガラ是ガ現實ニ適用セラレ、如何ナル條約ガ如何ナル價値ヲ以テ國内法ニ於テ認メラレテ行カナケレバナラナイカト云フコトニ付キマシテハ、相當困難ナ問題ヲ含ンデ居ルト考ヘマス、ソレ等ハ學問及ビ、若シアルナラバ其ノ他ノ條件トヲ併セテ考慮シテ、個個ノ場合ニ考ヘナケレバナラヌト思ツテ居リマス、最高裁判所ノ此ノ此處ニ掲ゲマシタ權能ハ、特ニハツキリ積極的ニ之ヲ持ツテ居ルト書イタダケデアリマシテ、此ノ外ニ尚特別ナルハツキリシタ理由ニ基イテ、條約デモ國内法的價値ヲ持タザルモノニ付テハ、此ノ適用ヲ拒ムコトハ因ヨリ出來ルト思ヒマス、併シ此處ニ概括シテ書クコトハ出來マセヌカラシテ、ソコデ此處ノ所ハ條約ニ關スル規定ヲ除イタノデアリマス、斯樣ニ申上ゲタダケデハ或ハ不十分デアラウト思ヒマスガ、例ヘバ條約ヲ結ブニ必要ナ國内法上ノ要件ヲ充タサズシテ條約ヲ結ンダ、詰リ内閣ノ議ニ依ツテ、尚其ノ他ノ手續ヲ以テ結ブベキ條約デアリナガラ、其ノ手續ヲ用ヒスシテ、一個ノ出先官憲ダケ別條約ヲ締結シタト云フヤウナ場合ニハ、ソレハ條約自身ガ法律的ニ適格ナル效力ヲ持チマセヌ、最高裁判所ハ其ノ適用ヲ拒ムト云フコトハ固ヨリアルベキコトデアラウト思ヒマス、併シ條約自身ハ國際關係ニ於テ其ノ權限ノ見地ニ於テ適法ニ成立シタ條約ヲ此ノ裁判所ガ否定スルト云フコトハ、國際關係ヲ尊重スル建前ト致シマシテハ不適當デアラウト考ヘマスルガ故ニ、其ノ趣旨ハ此處ニハ規定シテアリマセヌ
○高柳賢三君 此ノ問題ハ米國ニ於キマシテハ、矢張リ憲法ニ違反スル條約ハ無效デアルト云フコトハ總テノ法律カラ爭ヒナイ所ト思ヒマスガ、裁判所モ矢張リ其ノ建前デ振舞ツテ居ルヤウデアリマスガ、併シ實際ハ一遍モマダ憲法ニ違反シタ條約ガ、憲法ニ違反シタ理由デ無効トサレタ例ハ一ツモマダナイヤウニ思ヒマス、從ツテ是ハ矢張リ最高裁判所ニ其ノ點ノ審査權ガアルンダト云フ建前ヲ執ラレテ置イテモ、條約尊重ノ原則ト云フモノカラ解釋ニ付テ、色々調節シテ之ヲ違憲デアルト云フヤウナコトハナイヤウニスルト云フノガ、一ツノ司法政策トシテ適當ナモノデナイカト思ヒマス、是ハハツキリ此ノ審査權ガアルンダ、斯ウ云フ風ニ言明サレテ宜インヂヤナイカト云フ風ニ私ハ考ヘルノデアリマス、併シ只今ノ金森國務大臣ノ御説明ハ諒ト致シマス、是デ私ノ質問ハ‥‥
○松村眞一郎君 私ハ司法大臣ニ御尋ネ致シマス、前ニ三十三條ト三十五條ノ規定ヲ、司法ノ部デ併セテ質問スルト云フ意味ニ於テ、留保サレテ居リマスカラ‥‥三十三條、三十五條ノ中ニアリマス、「司法官憲」ノ意味デス、是ハ今朝カラ議論ガアリマシタガ、私ハマダソレデハ了解ガ出來マセヌ、ソコデ此ノ憲法ニ於キマシテ「司法」ト云フ字ヲ何處ニ書イテ居ルカト申シマスト、此ノ三十三條ト、三十五條ノ末項ト、ソレカラ今表題ニナツテ居リマス「司法」ト云フ所ニアル譯デアリマス、此ノ文字ト、ソレカラ「司法事務」ト云フノガ何處カニアリマシタ、此ノ第六章ノ表題ガ「司法」デス七十六條ニ「すべて司法權は」ト云フ「司法」ソレカラ七十七條ニ「司法事務處理」ト云フコトガアリマス、ソコデ司法ノ章ノ表題ノ「司法」ト云フコトト、司法權ノ「司法」ト云フコトト、ソレカラ三十三條ノ「司法」ト三十五條ノ「司法」ト云フモノハ、同一ニ考ヘナケレバナラヌト私ハ考ヘテ居ル、從ツテ是ハ裁判所ニ限ルト云フ解釋ノ外解釋ノ途ナシ、解釋ト申シマセヌ、見解デス、見解ノ外仕樣ガナイ、「司法官憲」ト言ヒナガラ、若シ此ノ「司法官憲」ノ「憲」ト云フノヲ取ツタラドウデスカ、ソレハ裁判官ニ定ツテ居ル、「憲」ト云フ字ヲ附ケルト、直グ上ノ字ガ檢察官モ入ルト云フ解釋ハ何處カラ出テ來ルノデアリマスカ、之ヲ司法大臣ニ伺ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、「司法」ト云フ文字ノ詮議デアリマスガ、詮議ハ姑ク措イテ、此ノ「司法官憲」ト云フ文字ヲ使ツタ意味ニ於キマシテハ今朝程モ申上ゲマシタヤウニ、裁判官、檢事、司法警察官ヲ含マセル意味デアルト云フコトヲ申上ゲタノデアリマス
○松村眞一郎君 含マセル意味デアツテモ讀メマセヌト云フコトヲ斷言シテ置キマス、今申シマシタ如ク、司法ト云フ字ヲ解釋スルノハ、憲法ノ中デ搜スヨリ仕樣ガナイ、司法官憲ト云フ字ハ何處ニ、憲法ノ中ニ檢察官ト云フノハ何處ニアリマスカ、即チ司法部ノ七十七條ニアリマス「檢察官は」ト云フ‥‥司法部ノ中ニ檢察官ト云フ字ガアルカラ表題ノ司法ト云フ、「司法」ノ中ニハ檢察モ入ルト云フ解釋デスカ、ソレヲ伺ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 檢察官モ此ノ「司法官憲」ト云フ中ニ包含セシメル意味ト御解釋願ヒマス
○松村眞一郎君 御解釋願フト言ツテモ、私ハ解釋出來ナイト思ヒマス、今立法シテ居ルノデス、立法シテ居ルカラ申ス、ドウシテサウ云フ解釋ガ出テ來ルノデスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ申上ゲマス
○松村眞一郎君 サウ云フ御見解デアレバ宜シウゴザイマス、私ハサウ云フコトデ讀マナイト云フコトダケ申上ゲテ置キマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 今申上ゲマシタノハ、當局トシテノ見解ヲ申上ゲタノデアリマス
○松村眞一郎君 宜シイ、デスカラサウ云フ御見解デ宜シイガ、私ニハサウ讀メマセヌト云フコトヲ斷言シテ置キマス、第六章ノ「司法」ト云フノハ是ハ裁判デセウ、第六章ノ「司法」ト云フ字ハ裁判デゴザイマセウ、此ノ中ニハ檢察ガ入ツテ居ナイデセウ、如何デス
○國務大臣（木村篤太郎君） 見解ノ相違デアリマス、是ハ文字ノ使ヒ方ニ依ツテサウ云フ御議論モ出マセウガ、尠クトモ今申上ゲマスル「司法官憲」ト云フ字文ノ使ヒ方ニ依ツテ、我々ハ此ノ中ニ包含サセルモノト云フ意思ヲ持ツテ居ルト云フコトヲ申上ゲル
○松村眞一郎君 私ハソレヲ言ツテ居ルノデハナイ、第六章ノ「司法」ト云フ字ハ何デアリマスカ、第七十六條ノ「司法權」ト云フ其ノ「司法」ハドウデゴザイマスカ、是ハ裁判デアリマス、檢察ハ入ツテ居リマセヌ
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ申上ゲマス、御尤モデアリマス、此ノ司法ト云フ本來ノ意味ニ付キマシテハ色々解釋モアリマセウガ、我々ノ見解ト致シマシテハ主トシテ、裁判ヲ司ルベキモノト考ヘテ居ルノデアリマスガ、併シ現在普通ニ廣義ニ解釋致ス所ニ依リマスルト、司法ト云フ部ニハ檢察當局モ多ク含マレテ用ヒラレテ居ルノデアリマス、嚴密ナル意味ニ於ケル司法ト申シマスレバ、左樣ナ解釋ハ出來ルデアリマセウ
○松村眞一郎君 ソレハアナタノ御見解デアリマスカラ‥‥兎モ角此ノ司法ト云フモノハ、主トシテト云フ言葉ハヲカシイノデス、是ハ專ラデス、專ラ司法ト云フコトハ裁判官デセウ、第七十六條ノ、「司法權」ト云フノハ專ラ裁判權デセウ、如何デス、裁判權デアリマセウ
○國務大臣（木村篤太郎君） 御説ノ通リデアリマス、司法權ト言ヘバサウナリマス、併シ普通申シマスル此ノ司法ト云フ中ニハ、廣義ニ解釋サレル場合モアルノデアリマス、ソコデ普通司法官憲ト申シマスルト、裁判官モ所謂廣義ニ於ケル、裁判官、檢事、司法警察官ト云フモノヲ多ク含マセテ居ルノデアリマス、其ノ意味ニ於テ此ノ「司法官憲」ト云フ文字ヲ使ツタノデアリマス
○松村眞一郎君 ソレデハ司法官憲ト云フ例ガアリマスカ、何ト云フ法律ニゴザイマスカ、司法官憲ト云フ字ガ‥‥
○國務大臣（木村篤太郎君） 成規ノ條文ニハ司法官憲ト云フ文字ハ使ツテ居リマセヌ、併シ使ツテナイカラト言ツテ、此ノ憲法ニ使ツテ惡イト云フ儀ハナイノデアリマス
○松村眞一郎君 使ツテ宜イ惡イト云フコトヲ申シテ居ルノデナイ、使ツテナイト云フナラバ、從來ノ解釋ヲ此處ニ持ツテ來ルト云フコトハ出來マセヌ、司法官憲ト云フ字ガナイノデスカラ、ナイ以上ハ、ソレハアナタノ御解釋モ出來マス、私ノ如キ見解モ出來ル譯デアリマスカラ、ソンナ曖昧ナコトヲ書イテ、司法大臣ノ仰セラレタ如キ解釋ハ通リマセヌゾト云フコトヲ申スノデアリマス
○國務大臣（木村篤太郎君） ソレハモウ御議論ニナリマスカラ、私ハ御答ヘ致シマセヌ
○松村眞一郎君 御答辯ハ要リマセヌ、意見ガ違ツテ居ルト云フコトヲ申シテ居ル、見解ヲ異ニシテ居ルト云フコトヲ申シテ居ル、ソコデ問題ハ、私ハ若シ司法大臣ノ言ハレマスガ如キ意味ニ於テ、三十三條ノ中ニ檢察官ガ入ルト云フコトデアルナラバ、私ハ反對デゴザイマス、之ヲ私ハ裁判官ト讀ンデ居リマス、元來斯ウ云フコトニナル譯デス、是ハ私ガ申上ゲル迄モアリマセヌガ、併シ此ノ委員會トシテハ申サナケレバナラヌ、元來刑罰ニ付キマシテハ、刑罰請求權ト科刑權ト刑罰執行權トガアルコトハ申上ゲル迄モアリマセヌ、檢事ト云フモノハ刑罰請求權ト刑罰執行權シカ持ツテ居ナイ、科刑權ハ判事ガ持ツテ居ル、是ハモウ明瞭デス、ダカラ、元來、今茲ニ司法大臣ト云フ名前ガ附イテ居リマスガ、此ノ司法大臣ト云フ「司法」ハ裁判ヲシマスカ、司法大臣ニ伺ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 司法大臣ノ裁判ヲシナイコトハ、モウ私ノ申ス迄モナク明瞭デアラウト思ヒマス
○松村眞一郎君 ソレガ故ニ、司法大臣ノ「司法」ト云フコトハ司法行政大臣ト云フコトデス、他ノ言葉ヲ以テ言ヒマスト、檢事大臣ト云フコトデス、檢察大臣ト云フコトデス、ソレハ今申シマシタ如ク刑罰權ハ裁判所ガ持ツテ居ル、判事ガ持ツテ居ル、司法省ノ持ツテ居ルモノハ今ノ起訴ノ問題ト行刑ノ問題デス、今日御覽ニナレバ直グ分ル、裁判所ノ構成ノ中ニ行刑ト云フモノガアル、是ハ檢事ガヤツテ居ル、ソレカラ起訴ヲ檢事ガヤツテ居ル、起訴ト行刑ヲ檢事ガヤツテ居ル、中間ノ裁判ハ詰リ司法デス、司法ト云フモノハ司法大臣ハヤツテ居ナイ、カルガ故ニ司法大臣ト云フ名前ガ間違ツテ居ル、デスカラ今回憲法ヲ改正サレルト司法大臣ト云フ名前ハ廢メナケレバナリマセヌ、檢察大臣トカ檢事大臣トシナケレバナラヌ、若シ司法大臣ト言ヒマスト、今司法大臣ガ言ハレタ如キコトニ解釋サレテ困ル、司法大臣ト云フニハ裁判ハナイノデ、檢察モ入ル、是ハモウ惡イ弊害デアツテ、是ガ今日豫審ヲ廢セヨトカ、檢事ガ横暴デアルトカ云フ問題ノ起ル原因デス、全然判事ト云フモノト檢事ヲ明確ニ區別シナイトイケマセヌ、ソコデ豫審ヲ廢スルト云フコトガ司法省カラノ書類ニ見エテ居リマスガ、豫審ヲ廢シテ豫審ヲ何處ヘヤルノデスカ、司法大臣ニ伺ヒマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 豫審制度ヲ廢止スルト云フコトハ、マダ確定ノ議ニハナツテ居リマセヌガ、只今司法制審議會ノ答申ニハ左樣ニナツテ居ルノデアリマス、豫審制度ハ廢止サレル運命ニアルト云フコトダケハ多分間違ガナカラウト考ヘマス
○松村眞一郎君 豫審ヲ廢スト云フコトニ付テ二ツノ考ヘ方ヲシナケレバナリマセヌ、世間ハ之ヲ豫審ト云フコトニ付テ間違ツタ解釋ヲシテ居ル、豫審ヲ廢止シナケレバナラヌト云フコトハ‥‥豫審ト云フノハ豫審判事ガヤルベキモノナンデス、豫審判事ガヤルベキ所デス、豫審判事ガヤルベキ所ヲ檢事ガ出シヤバリマシテ‥‥私ハ此ノ場合出シヤバルト云フ言葉ヲ使ツテ宜カラウト思フ、檢事ガ判事ヲ押ヘテ色々檢察ノコトヲ行フノデス、ソレガ爲ニ豫審ガイカヌト言ツテ居ル、ソレハ大變ナ間違デス、豫審ハ判事ガヤル、デスカラ豫審ヲ廢シタ場合ニハ豫審判事ト云フモノハナイカラ公判デヤラナケレバイケマセヌ、是ハ民事訴訟モサウデス、民事訴訟ハ受理ヲシマスト、裁判所デ受命判事ガヤルノデス、其ノ裁判所ガ受理シテ後受命判事ノヤル部分ヲ、豫審判事ヲ止メタナレバ公判ノ判事ガヤラナケレバイケマセヌ、是ハ行政訴訟デ申シマスルト云フト、行政裁判所ニハ部ガアリマセウ、私ハ行政裁判所ノ評定官デアツタカラ自ラ經驗シテ居ル、ソレハ五人ノ合議裁判デス、其ノ中ニ專理ト云フモノヲ置ク、ソレハ民事訴訟ノ場合ノ受命判事ト同ジデス、專理ガ總テノ準備ヲスル、サウシテ公判ヲヤル、是ガ建前デアル、ダカラ豫審ヲ廢止スルト云フコトガ檢察ニ持ツテ行クト云フコトニナルト逆行デス、今日ハ豫審判事ト云フ判事ガヤツテ居ル、其ノ豫審判事ノヤツテ居ル部分ヲ檢事ガ抑ヘルガ故ニ非常ナ横暴ガ行ハレル、ダカラ豫審判事ノ豫審ヲ止メルナラバ、之ヲ公判ノ一部ニシナケレバナラヌ、是ハ豫審判事ヲ止メテ公判判事ガ受命判事トシテヤルト云フコトカ要點デス、若シ其ノ公判ノ方ノ判事ニ持ツテ來ナイデ、今度ハソレヲ檢察ノ方ニ持ツテ來タナラバ、是ハ逆行デス、司法大臣ハドウ云フ御考デスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 今ノ豫審判事ガヤルコトヲ檢事ガ拾ヒ上ゲテソレヲヤラウト云フ意味デハ毛頭ナイノデアリマス、要スルニアナタノ御議論ト同ジナンデス、詰リ豫審判事ガヤツテ居ルノヲ公判判事ガヤラウ、斯ウ云フコトニナル譯デス
○松村眞一郎君 是ハ非常ニ明快ナ御答辯ダト私ハ滿足シマス、其ノ點ヲ司法大臣ガ茲ニ明言サレタノデスカラ‥‥豫審判事ノヤルベキコトヲ公判ノ判事ニヤラセル、是ハ大ナル獲物デアリマス、是アツテ初メテ表判ガ公明ニナル、豫審判事ハ私ハ今迄ノ制度デ行ツテ宜イト思フ、ソレガ何故惡イカト云フト、昔ヲ申シマスト、私共若イ時デスガ、潮豫審判事ト云フ人ガ居ラレタ、是ハ今ノ樞密院ノ副議長ノ潮サンノ兄サンデス、ソレハドウ云フコトヲヤラレタカ、今ハツキリ憶エテ居リマセヌガ非常ニ有名デス、或ハ東京ノ鐵管事件、水道ノ鐵管事件デアツタカモ知レマセヌ、是ハ豫審判事デ十分豫審判事タルノ權威ヲ發揮シタト云フコトデ私ハ今日尚記憶シテ居リマス、ソレデドウ云フコトヲヤルカ云フト、豫審判事ニハ無力ナ人ヲ置イテ居ル、是ガ一番有力ナ人ヲ豫審判事ニ置イテ置ケバ豫審制度ハアツテモ宜イト思ヒマス、今申シマシタ如ク、裁判所ガ科刑權ヲ執行スルノニ、前ニ起訴アリ、後ニ行刑アリ、斯ウ云フ譯デス、司法大臣ハ行刑ト起訴ハ出來ナイ、處ガ司法大臣ハ、司法大臣ト云フ名前ガ附イテ居ルガ爲ニ‥‥午前ニ佐々木委員ガ言ハレタ、裁判官ヲ集メタ時ニ裁判ヲヤル方針ヲ與ヘルガ如キ訓示ヲ與ヘルト云フコトヲ佐々木委員ガ言ハレタノデアリマスガ、其ノ通リノコトヲヤツテ居ル、司法大臣ト云フ名前ヲ見テ自分ガ裁判官ニナツタ積リデ居ル、飛ンデモナイ間違デアリマス、ドウシテモ司法大臣ノ司法ト云フ字ヲナクシテシマハナケレバナリマセヌ、檢察大臣、檢事大臣デ宜シイ、實際ガサウナンデス、例ヘバ私ハ先日モ申シマシタ、此ノ恩赦ト云フヤウナモノヲ天皇ノ方ニ直屬セシメナケレバイカヌ、内閣ノ閣議ニ付サナクテモ宜イト云フコトニ非常ニ關係ガアル、恩赦ト云フコトハ行刑ノ特別ナモノナンデス、裁判ヲシテサウシテ犯罪人ヲ罪ニ陷レタ、其ノ中如何ニモ氣ノ毒デアルガ故ニ之ヲ恩赦スル、是ハ特赦デス、ドンナコトヲヤルノカト云フト是ハ自分ガ取扱ツタノデ申上ゲマス、或小學校ノ先生ガ女學生ヲ孕マシタ、ソコデ墮胎シタ、ソコデ體刑ニ處セラレタ、是ハ如何ニモ氣ノ毒デアルカラ‥‥是ハ行刑シテカラ後デスヨ、非常ニ謹愼シテ居ルカラ特赦ニシテ呉レ、是ガ特赦デス、恩赦デス、ソレヲ閣議ニ付セヨウト云フ‥‥ソンナコトヲ閣議ニ付スル必要ガアリマスカ、是ハ澤田サンモ言ハレタ、是ハ輕微ナコトデスカラ恩赦デヤツテ居ル、之ヲ閣議ニ付シテ起訴ノ方ヲ閣議ニ付サナイ、是ハ大變ナ間違デス、小サナ行刑ヲ閣議ニ付シテ、大ナル起訴ヲ閣議ニ付サナイ、斯ウ云フコトハ是ハ大イナル誤リデス、ソレダケヲ簡單ニ茲ニ申上ゲマス、ソレカラ例ヘバ大浦事件ト云フモノガアリマス、大浦内務大臣ヲ司法大臣尾崎行雄氏ガ起訴シテ居ル、ソレハドウ云フコトカト申シマスト、今申シマシタ檢事總長ダケデ判斷ガツカナイカラ、檢事大臣デアル所ノ司法大臣ニ相談シタノダ、ソレヲ司法大臣ガ起訴ヲスル、内務大臣ヲ起訴シタ、私ハ國務大臣ヲ起訴スルト云フヤウナコトハ、是ハ閣議決定ヲシナケレバイカヌト思ヒマス、斷乎トシテサウ云フコトヲヤラヌトイカヌト思ヒマス、サウ云フヤウナ大問題ヲ閣議デ決定セズシテ、墮胎ヲシテ居ル小學校ノ先生ノ恩赦ノ決定ヲスルト云フコトヲ閣議ニ付スルト云フコトハ、如何ニ不均衡デアルカト云フコトハ誰デモ分ルト思ヒマス、ソンナ愚カナ憲法ノ規定ナノデス、恩赧ノ如キハ天皇ニ直屬サセテ宜シイ、ソレト同時ニ國務大臣ヲ起訴スルガ如キコトハ閣議決定ヲシナケレバイカヌト思ヒマス、ソレノミナラズ、例ヘバ小橋一太君ガ文部大臣ヲ罷メタ、ソレヲ起訴シテ居ル、小橋一太君ガ罷メタ、現ニ帝人事件デモサウデス、是ハ小山君ガ司法大デ臣ス、司法大臣ガ總理大臣トハ相談シテ居リマシタ、併シナガラ閣議ニ付シテ居リマセヌ、今度ハ連帶責任ニナツテ居ルカラ本人ガ辭職スルト云ツテモ、連帶責任デアルカラ閣議決定ノ必要ハナイカ知レマセヌ、併シナガラ個人ノ犯罪ガアリマス、自分ガ大臣ニナラヌ前ニ斯ウ云フコトデ犯罪ヲシテ居ツタ、例ヘバ墮胎ノ罪ヲヤツテ居ツタ、ソイツガマダ發覺シナカツタ、處ガ大臣ニナツテカラ墮胎ノ罪ガ發覺サレタト云フ時ニ起訴サレマシタカラ相談シテ罷メヨウヂヤナイカ、ソレハヤツテモ宜シイカラ斯ウ云フコトハ閣議ニ付シテモ宜イノデスガ、此ノ憲法デハ内閣ヲヒツクリ返スヤウナ問題デス、場合ニ依ツテハ大臣ヲ辭職シナケレバナラヌト云フ問題ヲ閣議ニ付セズシテ、小學校ノ先生ノ墮胎ノ問題ヲ閣議ニ付スルト云フコトハ、斯ノ如キコトハ嗤フベキコトト思ヒマセヌカ、私ハ嗤フベキコトダト斷言シマス、サウ云フ譯デアリマスカラ、モウ少シ司法權ニ付テ御考ヲ願ヒタイ、サウシマスト司法大臣ニ申スノデスガ、豫審ノ奴ヲ公判デ行フト云フコトニナルト、司法官憲ガ令状ヲ出スト云フヤウナコトハ餘リ行ハレナイヂヤアリマセヌカ、ドウデス
○國務大臣（木村篤太郎君） 司法大臣デスカ
○松村眞一郎君 司法大臣ハ司法警察官ヲ入レルト云フ御話デセウ
○國務大臣（木村篤太郎君） サウデス
○松村眞一郎君 私ハ司法警察官ガヤルコトデモ、裁判官ノ命令ニシタイト云フ私ノ頭デス
○國務大臣（木村篤太郎君） ハツキリ其ノ點ヲ申上ゲマセウ、此ノ憲法ノ建前デハ所謂司法官憲ト云フノハ、此ノ中ニ裁判官、檢事、司法警察官ヲ包含サセル意味デアルト云フコトハ只今申上ゲタ通リデアリマス、但シ實際ノ問題ト致シマシテ、果シテ是ハ三者ニ強制捜査權ヲ持タセルカドウカト云フコトニ付テハ、只今司法法制審議會ニ於テ調査中デアリマス、今朝程ノドナタカノ御質問ニ對シテ私ガ御答ヘ致シマシタヤウニ、審査會ノ答申案ト致シマシテハ、三者ニ強制捜査權ヲ持タスベキデアルト云フ意見ノヤウデアリマス、是ハ確定致シテ居リマセヌ、ソコデ何ガ故ニ司法警察官ニ迄強制捜査權ヲ持タセルカト云フ理由ニ付キマシテモ‥‥
○松村眞一郎君 承リマシタ、午前ニ承リマシタ
○國務大臣（木村篤太郎君） ソレハ確定致シテ居ナイノデアリマス、唯答申案ノ内容ヲ私ガソコデ申上ゲタニ過ギナイノデアリマス、決定ハ後日確定サレルコトハダラウト存ジマス
○松村眞一郎君 午前ノ御答辯ガ私ハ宜クナイト云フノデス、ソレハデス、今迄人權蹂躙ガ行ハレタノハ、サウ云フ原理ヲ認メナカツタカラ行ハレタノダ、ダカラ認メテ人權蹂躙ヲ行ハセナイヤウニシヨウト云フコトハ餘程變ナ論法デアル、從來人權蹂躙シタカラソレヲ嚴罰シタラ宜イヂヤナイカ、監督シタラ宜イ、其ノ濫用ヲ爲スモノニ非常ニ大切ナ權利ヲ與ヘルトハドウ云フコトデスカ、與ヘラレナイ時サヘ濫用シタノニ、與ヘタラ尚濫用スル、益々當ルベカラズト云フコトニナルト私ハ斷言致シマス
○國務大臣（木村篤太郎君） ソレハ抽象的ノ御議論デモウ少シ實際ノ實務ヲ掘リ下ゲテ行ケバ御了解ヲ願ヘルト思ヒマス、今日色々ナ犯罪ガ頻發シテ起ル、其ノ場合ニ一々判事ノ令状ヲ要求シテ居ルト云フコトデアレバ、重大ナ犯人デモ之ヲ捜査スル上ニ非常ナ支障ヲ來ス、是ハ頻發シテ起ルベキ問題デアラウ、ソコデ從來何ガ故ニ人權蹂躙ガ跡ヲ絶タナカツタカト云フト司法警察官ガ一刻モ早ク捜査シタイト云フヤウナ時、一々判事ノ令状ヲ要求スルト云フコトニナルノデ、御承知ノ通リ所謂此ノ行政檢束ト云フモノヲヤツテ、不當ニ人權ヲ蹂躙シテ居ツタ所デアリマス、此ノ人權蹂躙ノ跡ヲ絶タシメル爲ニハ、少クトモ司法警察官ニ或程度ノ行政捜査權ヲ持タシテヤレバ左樣ナ心配ハナクナルデアラウ、但シソレガ度ヲ過ギルト又復人權蹂躙ノ虞ガアルカモ知レナイト云フノデ、其ノ範圍ヲ極メテ小範圍ニ止メテ、其ノ枠内ニ於テ行政捜査權ヲ持タセルト云フノガ、司法法制審議會ノ答申案ニ現レタコトダト思ヒマス
○松村眞一郎君 能ク分リマス、併シナガラ私ノ要點ハソレハ檢事カラ發セラレルモノデナイ、判事カラ發スベキモノデアルト云フ立論デス、或意味ニ於テハ、事前ニ命令ヲ待タズシテ事後ニ報告シテモ宜カラウト思ヒマス、今ノ御話ハ司法警察官ダケデ宜シイ、檢事ハ要ラナイ、若シサウ云フコトガ迅速ニ行カナイト云フナラバ、判事ヲ増員サレタラ宜イ、此處ニ大イニ言ハナケレバナラヌコトハ、非常ニ從來ノ司法省ノ人事ガ惡イ、何故惡イカト云フト斯ウ云フコトニナツテ居ル、司法省デハ裁判官ニ良イ人ガ見付カルト本省ニ持ツテ來ル、檢事兼司法省參事官ニスル私ハ法制局ニ居ル時ニハ、司法省ノ官制ヲ最モ嚴格ニヤツタノデス、檢事兼司法參事官ヲ澤山作ル、其ノ經費ハ總テ檢事局カラ出ス、ソレデ檢事局ノ仕事ハ一ツモシナイデ本省ノ仕事バカリシテ居ル、檢事兼司法參事官ト云フモノハ司法省ノ罪惡デス、豫算ヲ紊ルコト司法省ガ一番惡イ、サウシテ檢事ノ豫算ヲ食ツテ兼參事官デ居ル、其ノ結果ドウ云フコトニナルカト云フト、總テ良イ人ハ、初メ司法官ヲ志望シテ裁判所ニ入ルト、良イ人ハ皆檢事ニシテ本省ヘ持ツテ來ル、本省デ局長ニナリ、次官ニナリ、其ノ人ハ必ズ控訴院長、大審院長ニナツテ出テ行ク、是ハドウ云フコトデスカ、行政官ニナツテ、然ル後、裁判ノコトヲヤツテ居ナイ人、ソレガ必ズ控訴院長、大審院長ニナツテ居ル、此ノ前ノ大審院長ハ誰カ、其ノ前ハ誰カ、大阪ノ控訴院長ハ誰カ、高京ノ控訴院長ハ誰カ、御考ニナレバ直グ分ル、皆司法省カラ出テ行ツテ居ル、是ハ非常ニ判事ヲ侮辱シテ居ル、サウシテ判事ノ仕事ハチツトモシテ居ナイ、法律ヲ相當忘レテ居ル人ガ出テ行ツテ、直グ上ニ乘ツカツテ、控訴院長ニナリ大審院長ニナツテ居ル、今ノ大臣ハ辯護士ヲ長クシテ居ラレマシタガ、今日ノ司法省ハ蹈々トシテ皆然リデス、サウ云フコトヲスルカラ立派ナ司法官ガ出來マセヌ、司法官ハイヂケテシマヒマス、出世セムト欲スルナラバ須ク檢事ニナレ、檢事デナケレバ大臣ニナレナイ、カラ云フコトデ司法權ノ獨立ガ出來マスカ、司法裁判所ヲ重要ニ見テ裁判官ヲ終身官ニシナケレバナラヌ、處ガ檢事ハ非常ニ狡イ、敢テ狡イト申上ゲテモ宜イ、檢事ノ地位ガ上ルトソレニクツ附イテ判事ノ地位モ上ル、判事ノ地位ガ上ルトソレト共ニ檢事モ上ル、大審院長ハ親任官デアル、ソレハ司法權ノ尊重上當然ノ話デアルガ、今度出テ居ル檢察判度ニ其ノ正體ヲ現シテ居ル、何故カト云フト、是ハ檢察ノ大臣ハ能ク御覽願ヒタイ、檢察要綱ト云フモノハ、非常ニ檢察官ノ方ハ横暴デアル、檢事ハ親任官ト書イテアル、檢事ノ親任官ハドウ云フコトニナリマセウカ、親任官ト云ヘバ、天皇ガ命ゼラレルコトニナルガ、斯ウ云フコトガ許サレマスカ、チヤント此處ニ書イテアリマス、檢事ハ親任一級、又ハ二級トアル、一體何デス、是ハ、今度ノ憲法デハ何處ヘ入リマス、親任ト云フコトハ、天皇陛下ガ親ラ任用サレルト云フコトデアル、此ノ檢察要綱ト云フモノガ、如何ニ檢事ガ圖ニ乘ツテ來タカ、檢察廳ガサウ云フ風ニ跋扈シテ來ルト、再ビ人權蹂躙ガ起ツテ來ル虞ガアル、併シ私ハ司法大臣ノ今日ノ明快ナル答辯ニ依ツテ非常ニハツキリシタ檢察廳ヲシテ茲ニ考ヘサセルベキ問題ガ起ツテ居ル、ソレハ從來斯ウ云フコトガアルノデアリマス、豫審ヲ廢スベキカ否カニ付テ二ツノ議論ガアリマス、即チ裁判所ノ判事ニ入レルト云フ議論ヨリモ、此ノ檢察ニ入レルト云フ議論ガアル、豫審ヲ廢シテ、豫審ハ元來公判ノ準備ヂヤナイカ、公判ノ準備ハ或意味ニ於テ告訴ノ延長ヂヤナイカ、故ニ檢事ニ持ツテ來イト云フ議論ガアルガ、是ハ飛デモナイ間違デ告訴シタラ裁判所ノ手ニ入ツテ判事ノ手ニ移ル、告訴シタラ豫審判事ノ手デヤツテ居ル、ソレヲ檢察ニヤラウト云フカラ大變間違ツテ居ル、併シ司法大臣ハ僕ト共鳴デアリマシタカラ結構デス、ドウゾソレデ御ヤリ願ヒタイ、ソレヲ民間ノ聲トシテ斯ウ云フコトガアル、是ハ御承知ノ東京辯護士會ノ決議デ、大臣ハ、大臣ニナル前ノコトダカラ之ニ賛成シテ居ラレル譯デスガ、三十條ト、二十二條ノ第二項ノ、司法官憲ヲ、裁判所ト改メルト云フコトデスガ、之ヲ出シテ居ラレル、ソレガ大臣ニナルト司法官憲ヘ檢事ガ入ルト云フコトニナル、甚ダ奇怪デアルト思ヒマス、サウ云フ譯デアリマシタカラ、ドウシテモ私ハ大臣ハ、サウ云フ檢事大臣ニナラナイデ、最高裁判所ノ長ニナラレタ方ガ宜イト思フ、元來其ノ方ノ傾向ノ人デス、司法大臣ト云フヤウナ、檢察大臣ニナルト云フヤウナコトハ大變間違デアルト思ヒマス、ソコデ伺ヒタイノデアリマセウガ、今度出來ル最高裁判所ハ親任官デアル、國務大臣ガトニナル、ダカラ私ハ司法大臣ハドウシテモ檢事大臣ト替ヘナケレバイケナイ、ソコデ問題ハ裁判所構成法ニ於テ茲ニ問題ガ起ル、裁判所構成法ハ今日霜山サンガ色々言ハレマシタガ、司法行政ノコトヲ書イテ居リマス、司法大臣ガヤツテ居ルノハ司法行政デアツテ司法デハアリマセヌ、ソレハ司法大臣ガ能ク御存ジデス、裁判所構成法ニモ第四編ニハ「司法行政ノ職務及監督權」ト書イテアリマス、大臣ガ監督スルノハ司法行政デアリマス、佐々木博士ノ言ハレタ如ク裁判ヲヤル時ニハ、單獨判事ハ何等監督ヲ受ケマセヌ、司法大臣ハ監督ナドシナイ、ソコガ裁判所ノ獨立デス裁判ヲナス以上ハ司法權ノ行使ニ付テハ監督ヲ受クルコトナシ、是ハ明瞭デス、監督ヲ受ケルノハ司法行政、建物ヲドウスルトカ、豫算ノ分配ガドウトカ、サウ云フコトハ大シタコトデハナイ、裁判所ノ管轄區域ガドウトカ、斯ウトカ、ソレハ何處ヘ入レテモ宜イ、サウ云フモノハ輕イモノデアル、ソレヨリ司法權其ノモノヲ獨立シテヤルコトガ要點デアル、司法行政ノ監督ト司法權ノ監督トハ別々デス、司法權ハ監督ヲ受クルモノニアラズト云フコトガ明瞭デアル、司法權獨立デヤツテ居ル、サウ云フコトヲ司法省ニ居ツタ人ガ、裁判所構成法ガ能ク分ツテ居ナイト云フコトヲ私ハ申シマス、ソレデスカラ今日大臣ガ居ラレナイ時ニ佐々木博士ガ言ハレタヤウニ、司法大臣ノ訓示ガ惡イ、司法權ニ干渉スルヤウナ‥‥
○委員長（安倍能成君） 成ルベク質疑ノ目的ニ向ツテ直進セラレタイ
○松村眞一郎君 此處迄言ハナケレベ骨身ニ染マナイ問題デアリマス、サウ云フ譯デスカラ、ドウゾサウ云フ趣旨ニ於テヤツテ戴キタイ、次ニハ行政裁判所ノ監督ニ付テ申シマス、今度裁判所ノ中ニ民事部、刑事部、行政部ト云フモノガ出來ル、行政部ハ從來ト行政裁判所ノ評定官ノヤウナ人ヲ採ラナイデ先程高柳サンガ仰シヤツタヤウニ、事實問題ニ付テノ認定ハ、矢張リ行政ニ或程度色々苦勞シテ居ル者、ソレハ行政裁判所ノ評定官ハ判事ト行政官ト、兩方カラ採ルコトニナツテ居ル、私ハ行政官トシテ入ツタ、島田鐵吉ト云フ判事モ入リ兩方混ゼテ居ル、サウ云フ組織ガ行政部ニ付テハ要リマスカラ、サウ云フ御考慮ヲセラレナイト適切ナ裁判ガ出來マセヌ、司法大臣ノ御意見ハ如何デアリマスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 其ノ點ニ付キマシテハ、私ハ全然意見ヲ同ジウ致シマス、行政部ニ對スル係リ判事ハ、行政ノ方ニ經驗ノ深イ人ヲ起用スベキガ當然ト考ヘテ居リマス
○松村眞一郎君 ソレカラ八十二條ニ「裁判の對審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ」トアリマスガ、法廷ト云フ字ガアリマスト、臨檢ヲシマシタ場合ニ證人訊問ハチヨツト困リハシマセヌカ、臨檢ヲシテ、サウシテ證人訊問ヲヤリマス、矢張リ其ノ場合ニ對審デヤルダラウト思ヒマス、出張シテ行ク證人訊問デス、其ノ場合ニ對審ハヤレマセヌネ、公開デハヤレマセヌ、實際問題トシテ法廷ト云フ字ガアルト、サウ云フコトデ困リハシナイカト思ヒマスガ
○國務大臣（木村篤太郎君） 法廷ト云フモノハ、必ズシモ、一定ノ建物ヲ指サナイデモ宜カラウカト思ヒマス、裁判所ノ判事ヤ檢事デ構成シタ一ツノ機構デアリマスカラ、必ズシモ裁判所内デヤラナクテモ差支ナイカト思料致シマス
○松村眞一郎君 大變融通ノ利イタ解釋ヲナサレマスカラ結構デスガ、併シソレヲ法廷ト申シマスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 現ニ今デモヤツテ居ルノデス、是ハ斯ウ云フコトヲ話シテ諄々シクナリマスルガ、戰災デ多クノ裁判所ガ燒ケマシテ、甚ダシキニ於テハ、府縣ノ武道道場ヲ使ツタリオ寺ノ一室ヲ使ツテヤツテ居リマスカラソレハ私ハ構成法デ組織サレタ裁判官ナリ檢事ガ出テ一ツノ機構ヲ作ツテヤル時ニハ差支ナカラウト思ヒマス
○松村眞一郎君 大變ニ融通ノ利イタ御解釋デ結構デスガ、法廷ト云フコトヲヤカマシク仰シヤラナイト云フコトニナリマスト、ソレカラドノ條文ニ關係シマスカ、條文ノ關係ハ分リマセヌガ、口頭辯論主義デ決定サレマスカ、ソレハ行政裁判法ニハ斯ウ云フコトガアルノデアリマス、行政裁判法ノ所ニ、是ハ行政部ヲ若シ御設ケニナルトスレバ、行政訴訟ニハ斯ウ云フ風ニサレタ方ガ宜イノデハナイカト思ヒマスガ、三十三條ノ二項ニアリマスガ、「原告表告及第三者ニ於テ口頭審問ヲ爲スコトヲ望マザル旨ヲ申立テタル場合ニ於テハ行政裁判所ハ文書ニ就キ直チニ判決ヲ爲スコトヲ得」是ハ便利ナコトガアル、本人ガ要ラナイト云ツテ居ル、ドウゾ書面デ審理シテ戴キタイト云ツテ居ルノニ態々ドウシテモヤラナケレバナラヌノハヲカシイヂヤナイカト思ヒマスガ、ドウカ斯ウ云フ所ハ何トカ御考ヲ願ツタ方ガ宜イノヂヤナイカト思ヒマス、是ハ口頭辯論主義デ、總テ貫イテ居リマスガ、憲法ノ條文ノ何處ノ所デ氣付イタカ、チヨツト覺エテ居リマセヌガ、如何デスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 建前トシマシテハ、何處迄モ口頭辯論主義デヤラナクチヤナラヌト考ヘテ居リマス、併シ今松村委員ノ仰セニナリマシタ書面審理ニ依ルコトモ、或ハ便利ノ場合モアルカト考ヘテ居リマス、或事件ニ限ツテ‥‥ソレハ十分考慮シテ見タイト思ヒマス
○松村眞一郎君 私質問ハ是デ終リマス
○委員長（安倍能成君） チヨツト御諮リシマスケレドモ、前ニ野村嘉六君ガ委員ノ時ニ陪審法及ビ豫審ノコトニ付テ質疑ヲナサレタノデスケレドモ、其ノ所デナイト云フノデ、ソレヲ中止サレタノデスガ、其ノ後委員ヲ辭職サレタノデ、其ノコトニ付テ、是非此ノ司法ノ章デ質疑シタイト云フ御希望デゴザイマスガ、許可シテ宜シウゴザイマスカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） 野村嘉六君
○委員外議員（野村嘉六君） 私ハ自分ノ委員デアツタ時ニ、只今委員長ノ申サレタ通リニ、陪審法ニ對スル關係、豫審制度ニ關スル件ヲ申上ゲヨウト致シマシタガ、當時自分ガ、其ノ時ノ順番ニナツテ居ナイト云フコトデ、サウシテ後日ニ讓ルコトニナツタノデアリマスガ、幸ヒ今諸君ノ御同意ヲ得テサウシテ此ノ二ツノ問題ニ對シテ質疑ノ機會ヲ得タイト云フコトハ私ハ議員トシテ大イニ喜ブ次第デアリマス、ソコデ第一ノ豫審制度、此ノ問題ハ先程司法大臣ノ腹案、ソレカラ有力ナル松村委員ノ意見此ノ兩々相合シテ、サウシテ推考致シマスト云フト孰レモ皆豫審制度廢止ノ御意見デアリマス、サウ致シマスレバ、此ノ問題ニ對シテ再ビ質問ヲスル必要ハアリマセヌ、唯私ハ僅カデアリマスルガ豫審判事ヲ嘗テヤツテ居タノデアリマス、其ノ體驗カラ申シマスルト云フト、御承知ノ通リニ犯罪事件ガアルト云フト、第一番ニ司法警察官ガ取調ベ、調書ガ出來ル、第二ニハ檢事ガ取調ベ、調書ガ出來、第三ニ事件ニ依ツテ豫審ニ廻ス者ハ、豫審判事ガ取調ベヲシテ、サウシテ調書ガ出來ルノデアリマス、斯ウ云フ順序ニナツテ居ルノデアリマシテ、同ジコトヲ三遍モ繰返シテ居ルノデ、成ル程間違ヒハナイ、念ニハ念ヲ入レヨト云フ諺カラ申シマシタナラバ誠ニ結構デアリマスガ、三回同ジコトヲ繰返シマシテモ別ニ眞實ヲ發見シナイノガ多イ、却テ世界中デ言フ豫審制度ハ惡制ダ、封建制度ナリト非難ノ起ル點ハ、長イ間被告人ヲ勾留シ、サウシテ苦シメ又意思薄弱ノ被告人ヲシテ無實ノ罪ニ服罪セシムルト云フヤウナ大ナル弊害ガアルノデアリマス、ソレカラ又審理ノ關係ニ於キマシテモ一晩警察署ニ留メテ置カレルノト違ツテ、豫審ハ長ケレバ二箇年トカ、或ハ長イノハ三箇年間モ同ジ事件デ放リ込ンデアル、是ハ私ハ自分ノ職務上ヤツタ體驗カラ申上ゲルノデアリマス、斯ウ云フ譯デ長ク未決ニ置イタナラバ、意思ガ如何ニ鞏固デアツテモ、遂ニ寧ロ寃罪ニ服シテ早ク裁判ヲ受ケタ方ガ宜イヂヤナイカト云フ茲ニ人間ノ弱點ガ出テ、意思ノ脅迫ヲ受ケ、サウシテ寃ノ罪ニ服スル輩モアルノデアリマス、是等ハ法曹界ノ一般論ハ、惡制度ノ豫審制度ハ早ク廢スベシト云フコトガ今ヤ上下ヲ通ジテノ輿論デアリマス、幸ヒ此ノ輿論ニ司法當局ガ鑑ミラレテ、サウシテ豫審制度廢止ノ御意見ヲ洩ラサレマシタコトハ、誠ニ司法界ノ爲、國民ノ爲、喜バシイ次第デアリマス、理論ノ立テ方ハ違ツテ居リマスケレドモ、松村君ノ御意見モ結局歸スル所ハ同ジコトデアリマスカラシテ、私ハ是ダケ申シマシテ是非豫審制度廢止ノ實行ヲ希望スル次第デアリマス、ソレカラ第二ノ問題ハ、陪審制度、此ノ陪審制度ハ確カ大正十一年ニ初メテ日本ニ於テ行ハレタヤウニ感ジダ居リマス、此ノ陪審制度ノ出來タ當時ニハ、所謂當時ノ法曹家トシテ有名ナル、名前ヲ申スナラバ江木衷ナンカ言フ刑法ノ大家、又ソレト肩ヲ竝ベルヤウナ連中共ガ擧ツテ陪審制度ハ文明國ノ裁判デアル、是非トモ實行セラレナケレバナラヌ、其ノ時ニ私等屡々聞キマシタガ天來ノ福音ナリト迄法曹界ニ於テ稱セラレタモノデアリマス、又サウ云フ風ニ見ルノモ是ハ無理カラヌ、此ノ陪審制度ノ構成ハドウデアルカト斯ウ申シマスト「帝國臣民タル男子ニシテ三十歳以上タルコト」、「引續キ二年以上同一市町村内ニ住居スルコト」、「引續キ二年以上直接國税三圓以上ヲ納ムルコト」、「讀ミ書キヲ爲シ得ルコト」斯ウ云フ極ク簡易デアリ、平易デアツテ、サウシテ國民全體ヲ裁判ニ參與スルト云フ機會ヲ與ヘタ制度デ、是コソ本當ノ民主裁判デアル、ソレデアルカラ此ノ民主裁判タルヤ必ズ國民ガ大イニ歡迎スベキモノナリト斯ウ我我ハ思ヒ、先輩ガ天來ノ福音ナリト稱シタノモ尤モデアル、斯ウ云フ風ニ感ジタ次第デアルノデアリマス、詰リ今日普通選擧ノ程度ト同ジコトデ、「讀ミ書キヲ爲シ得ルコト」ト云フ程度ガ、詰リ人民裁判ノ知識ノ程度デアリ、學問ノ程度デアリマス、ソレデアルカラシテ、我々ハ必ズ立派ナ結構ナ效果ヲ得ルモノデアルト思ウテ居リマシタガ、圖ラザリキ、大正十二年ニ此ノ法案ガ執行サレマシタガ、扨、執行シタ結果ヲ見ルト云フト、餘リ芳バシクナイ、陪審法廷ハ閑古鳥ガ鳴イテ居ルヤウナ次第デアリマス、何處ノ陪審法廷デモ此ノ頃ハ寂寥タルモノデアル、ドウ云フ譯デアリマセウカ、是デハ我々ハ政治ヲヤル上ニ於テ、實際ニ國民ノ利害ヲ基礎ニシテ今迄デモ議論ヲシテ居ル、ソレデアルカラシテ、如何ニ名論デアラウガ卓説デアラウガ、サウ云フコトハ第二ニシテ、ドウシタナラ國民ヲ救フカ、再生ノ途ヲ見出スカ、是ガ我々ノ政治界デ長ク苦勞シタ原因デアルノデアリマス、私ハ考ヘタ、ドウシテ斯ウ云フ立派ナ福音的ノ制度、ソレガ國民カラ歡迎サレズニ荒レテ居ルノデアラウカ、此ノ原因ニ付テ考ヘマシタガ、ドウモ考ヘ付カナイ、畢竟是ハ一體國民ニ裁判サセルト云フ制度其ノモノガ間違ツテ居ルノデナイカ、矢張リ裁判官ト云フモノハ法服ヲ著テ衣冠正シク、威嚴正シク、サウシテ司法官試驗デモ受ケタ人デナケレバ、裁判ヲスル所謂資格ハ無イノカ、國民デ漸ク讀ミ書キシ得ルダケノ程度ノ人ヲ裁判官ニスルノハ、日本ノ國情ニ副ハナイノダ、斯ウ云フコトヲ考ヘタ、併シ是モヲカシイヂヤナイカ、副ハナイ理由ハ無イコトハナイ、何處カニ缺點ガアリハセヌカ、手續上ニアルカ、何處ニアルカ、内容ハ既ニ立派ニ豐富デアツテモ、手續上ナンカデチヨツト誤ルト云フト、立派ナ法律モ效力ヲ發揮シナイ、譬ヘテ見マスルト立派ナ機械器具デアツテモ、砂ヲ一握リパツトソレニブツケルト云フト、其ノ立派ナ精巧ナル機械モ活動ヲ停止シテシマフコトガアルノデス、是ハ機械ノ例デアリマス、ソレト同ジコトニ、法律自體ハ民主的政治デ國民ヲ裁判官ニスルノデアルカラ、誠ニ結構デアル、併シナガラ手續上ノ何カ缺陷ガナイカ、此ノ點ヲ私自分デ考ヘテ見タノデアリマスガ、司法大臣ニ御伺ヒシタイノハ私ガ是カラ申上ゲルコトガ事實ニ當ツテ居ルカ、サウデナイカト云フ點ニ付テ、ドウカ私ノ疑ヲ解イテ戴キタイト云フノハ、此ノ陪審手續法ノ第四十一條ニハ「第二條ノ規定ニ依リ事件ヲ陪審ノ評議ニ付スルトキハ裁判長ハ被告人ニ對シ事件ヲ陪審ノ評議ニ付スルコトヲ辭シ得ヘキ旨ヲ告知スヘシ」斯ウ云フコトガ書イテアル、是ハ一口ニ言ウテ見ルト、扨、オ前ノ方ガ陪審裁判ヲ請求スル、ソレモ宜ラウ、宜イガ、併シ是ハ辭退モ出來ルゾ、斯ウ云フ一面ニハ、陪審制度ハ結構ト云フ途ヲ開キナガラ一方デハ其ノ陪審制度ハオ前辭メテモ宜イゾ、斯ウ云フ規定デアル、言ウテ見ルト、一面ニ於テハ獎勵シ、一面ニ於テハ押ヘル、是ハ私ハ民主政治ト官僚政治ノ茲ニ大イニ差異ガアルヂヤナイカ、今日世間デ能ク謂フ所ノコトデ、當ツテ居ルカ、當ツテ居ラヌカ知ラヌケレドモ、民主政治ノ衣ヲ著テ官僚政治ヲヤツテ居ルト云フコトガアルガ、若シモ一面ニハ陪審制度宜シイ、據ルベシト言ヒ、一面ニハ辭メテモ宜シイ、斯ウ云フ勸告ヲシタ時ニ、サウ云フコトヲ言ウタ時ニハ、被告人ノ心理状態ハドンナ意思ノ強イ者デモ、裁判官ガ、裁判長ガオ前辭メテモ宜イゾ、斯ウ言ハレタ時ニハ、是ハ寧ロ玄人ノ裁判官ガアヽ言ツタ以上ハ、先ヅ辭メタ方ガ宜イノダ、陪審制度ハ素人ト素人ノ寄合ダカラドコニ轉ガツテ行クカ分ラナイ、斯ウ云ヲ懸念ヲ起スノハ當リ前、其ノ證據ニハ、私等知ツタ人デモ、何故オ前アレダケ申入ヲシテ置イテ辭メルノダ、裁判官ノ方デ辭メタラドウカト云フ勸告ガアツタカラ、私ハ裁判官サヘアヽ云フ勸告ヲサレタ以上ハ、是ハ辭メタ方ガ却テ自分ノ利益ニナルト思ウテ辭メマシタ、二、三件サウ云フコトヲ聞クノデアリマス、幾人カラモ聞ク、サウスルト云フト、陪審制度其ノモノハ結構ナ法律デアリマスガ、之ヲ運用スル、詰リ手續法ニ於テ缺陷ガアルノヂヤナイカシラ、曩ニ申シタ通リ、立派ナ機械デモ、ヤリ方ガ惡イト獨リデ其ノ機械ガ止ルト同ジデ、立派ナ法律デアルケレドモ、手續上ニ於テハ辭メテモ宜イト云フコト、此ノ言葉ハ被告人ノ立場カラ見ルト、頭カラ千鈞ノ石デ押付ケラルヽト同ジダ、是ハ被告人ノ心理状態デアル、此ノ状態ガ分ラナケレバ政治家ニモナレズ、裁判官ニモナレナイ、理窟ダケデ行カナイ、斯ウ云フ次第デ、斯ウ云フコトガ重ツテ、サウシテ今日ハ陪審法廷ニ閑子鳥ノ鳴ク有樣デアル、併シナガラ此ノ法律ヲ殺シテ宜イカ、斯ウナルト云フト、私ハマダ研究ガ足リマセヌ、足リマセヌカラシテ、ソレデ司法當局ニ伺フノデアリマスガ、私ノ考ハドウシテモ此ノ制度ヲ生カシテ、國民ノ裁判化、今日ハ所謂民主政治デアル、民主裁判ノ時代デアル、民主經濟ノ時代デアルト、總テガ民主ガ頭文字ニナツテ、政治、行政百般ノコトヲ行フ際デアリマスカラシテ、私ハ此ノ制度自體ハ宜イガ、運用ニ於テ間違タ所ガアリヤセヌカト云フノダ、是モ私ハ斷言ハ出來マセヌ、唯茲ニ於テ今迄陪審ヲ申入レタ被告人デ、任意ニドレ程取下ゲタカ、斯ウ云フ點ヲ一ツ御調ベヲ願ヒタイ、其ノ取下ゲト云フモノハ、所謂當局者ノ裁判長ノ善意ノ勸告カ、惡意ノ勸告カ、ソレハ第二ノ問題デアリマスガ、勸告ニ基イテ裁判官ヲ信用スル結果、素人ト玄人ノ言フコトハ尤ナリト云フ立場カラ取下ゲタ人ガ多イダラウ、斯ウ云フノデアリマス、私等ノ聞イテ居ルノデハサウ云フ人ガ多イノデアリマス、ソレデアリマスカラシテ、此ノ陪審法ノ制度ハ十二分ニ活用シタナラバ、司法界ニ於ケル民主政治化滿點デアル、斯ウ思フシ、又手續問題ニ觸レテ、拘ツテ、サウシテ十分ノ活用ヲセシメナカツタナラバ、立派ナ法律モ死法ニナツテシマフノヂヤナイカシラ、斯ウ云フ風ニ思ヒマス、ソレデ私ハ本日ハ豫審制度ノ不都合ナリト云フコトヲ申シマシタガ、幸ヒ司法當局ナリ、又松村委員トノ御話ニ於テ、是ハモウ廢止スルト云フ御意見ガ分リマシタ、ソコデ將來民主主義政治ノ基本ヲ爲ス所ノ陪審制度、之ニ對シテ當局司法大臣ハドウ云フ御考ヲ持ツテ居ラレルノデアリマセウカ、若シ夫レ私ノ考ガ十分デナイト云フコトデアツタナラバ、ドウカ知識フ借シテ戴キタイノデアリマス、是ハ國家ノ大問題デアリマス、自分等個人ノ問題ヂヤナイ、ソレカラ又唯議論ノ爲ニ議論ヲスルヤウナソンナコトハ始シマセヌ、此處ハ立法府デアリマス、此處ハ本當ノ政治ヲスル場合デアリマス、理論闘爭ナンカスル時期ヂヤナイ、國將ニ倒レムトスル際デアリマスカラ、私ハ心配ノ餘リ問フノデアリマスカラシテ、ドウカ司法當局ニ於テ此ノ點ニ對スル御意見ヲ御漏シヲ願フ次第デアリマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 今ノ御質疑ニ對シ御答ヘ申上ゲマス、私ガ申ス返モナク、陪審制度ハ我我ノ先輩ガ非常ニ盡力サレタノデアリマス、サウシテ此ノ制度ガ行レタ當初ニ於キマシテハ、全ク天來ノ福音ノ如キ叫ビガ起ツタノデアリマス、然ルニ拘ラズ、實際陪審制度ガ行レテ此ノ方約十七年、是ハ確カ昭和十七年ニ停止ニナツタカト考ヘテ居リマス、其ノ間陪審ガ實際ニ行レタノハ全國ニ於テ十件ニ滿タナイノデアリマス、何ガ故ニ斯樣ナコトニナツタノカ、色々ソレハ原因ハアリマセウ、國民ニ陪審制度ト云フコトニ付テノ理解ガ缺ケテ居ルノヂヤナイカト云フコトモ一ツノ原因デアリマスガ、野村委員御承知ノ通リ、陪審制度ガ行レタ際ニ相當國民ニ對シテ宣傳モシタノデアリマス、我々弱輩モソレニ呼ビ掛ケモ致シタノデアリマス、然ルニ拘ラズ、今申スヤウナ結果ニ至ツタト云フコトニ付テハ、一ツハ日本ノ國民性ガ未ダ陪審制度ヲ受ケルニ至ツテ居ナイノカト云フ一ツノ疑問モアルノデアリマス、モウ一ツハ、只今ノ陪審法ノ制度ガ餘リニ煩雜ニ過ギヤシナイカ、今御述ニナリマシタヤウニ、裁判長ガ被告ニ對シテ陪審ヲ辭退スルコトノ勸告、左樣ナコトモアリマセウ、色々ナコトヲ綜合致シマシテ、研究シテ居ルノデマリマスルガ、又更ニ我々司法當局トシテハ、深ク此ノ問題ヲ掘リ下ゲナクチヤイカヌト考ヘテ居ルノデアリマス、理念ト致シマシテハ、陪審制度ハ何處迄モ復活サセタイト云フコトヲ考ヘテ居ルノデアリマス、唯茲デ問題ニナリマスノハ、此ノ制度ヲ再ビ活スト致シマシテ、急速ニ行カナイト云フコトデアリマス、御承知デモアリマセウガ、戰災ニ依リマシテ、全國ノ裁判所中約五十數箇所ト云フモノハ焼失シタノデアリマス、此ノ復舊ト云フモノハ容易ナラヌコトデアリマス、而モ之ガ陪審制度ヲ復活サセルト云フコトニ至リマスト、厖大ナ設備ヲ要スルノデアリマス、之ニハ我々頭ヲ惱マシテ居ルノデアリマス、併シ陪審制度ニ付テハ何トカシテ復活スベキデアルト云フ氣持ハ持ツテ居ルノデアリマス、只今申上ゲマス通リ色々ノ觀點カラ之ヲ考慮シナケレバナラヌト云フノデ、折角當局ニ於キマシテハ各方面カラ檢討致シマシテ十分ナ考慮ヲ拂ヒタイト考ヘテ居ル次第デアリマス
○委員外議員（野村嘉六君） 只今司法當局ノ答辯デ結構デアリマス、ドウカ十分ニ研究シテ法律ヲ活カシテ、サウシテ國民ノ此ノ裁判ニ滿足サセルヤウナ結果ヲ得ルヤウニ一ツ御盡力ヲ御願ヒ致シマス、是デ私ノ質問ハ宜シウゴザイマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ第七章ノ財政ニ移ツテ、四時半位迄續ケタイト思ヒマス、白根委員
○男爵白根松介君 私ハ修正八十八條ニ付キマシテ二三ノ御質問ヲ致シタイト存ズルノデアリマス、此ノ憲法改正ノ政府草案ガ天下ニ公表セラレマシタ時ニ、色々ナ刺戟ヤ疑惑ヲ國民ニ與ヘタノデアリマスルガ、就中第一條ノ天皇ノ御地位、言ヒ換ヘマスレバ、國體ニ關スルコト、第九條ノ戰爭抛棄ニ關スルコト、ソレカラ第三番目ニハ、第八條及ビ第八十八條ニ規定シテゴザイマスル所謂皇室財産ノ意味ニ付テ、此ノ三點ニ付テハ非常ナル刺戟ト疑惑ヲ國民ニ與ヘタト云フコトハ私ハ爭ハレナイ事實デアルト思フノデアリマス、第一第二ノコトハ是ヨリ先ニ御審議ガゴザイマシタカラ別ト致シマシテ此ノ八十八條、第八條ニモゴザイマスガ、所謂皇室財産ノ意義ニ付テハ、之ヲ明瞭ニ致シテ、今申上ゲルヤウナ國民ノ疑惑ヲ解キタイト思フノデアリマス、實際津々浦浦ニ於キマシテ、此ノ八十八條ノ條文ヲ見マシテ、國民ハ非常ナル心配ト疑惑ニ滿チテ居ルノデアリマス、ソレデ私先ヅ最初ニ御尋ネシタイノハ、八十八條ノ所謂皇室財産ト云フノハ如何ナル意味デアルカ、是ハ此ノ八條ヲ御審議ニナリマシタ時ニ、金森國務大臣ノ一應ノ御説明ガゴザイマシタガ、其ノ時ノ御説明ハ、此處ニ所謂皇室財産トハ、三陛下、皇太子殿下竝ニ王子殿下方ノ御財産、ソレト皇族ノ御財産、此ノ二ツヲ言フモノデアル、斯樣ニ仰シヤツタヤウニ記憶致シテ居リマスルガ、左樣解シマシテ宜シイノデゴザイマセウカドウカ、ソレヲ一ツ第一ニ伺ヒタイト思ヒマス、附加ヘマシテ、王族ノ御財産ハ如何樣ニ考ヘテ宜シイカ、ソレモ併セテ伺ヒタイト存ジマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 第八十八條ニ於テ皇室財産ト申上ゲテ居リマスルノハ、言葉ト致シマシテハ、幾分新シイ言葉デアリマシテ、甚ダ内容ガ文字ノ上ニ直接ニ明カトハナツテ居ナイノデアリマス、是ハ色々規定ノ持ツテ居リマスル微妙ナ所ヲ考ヘマシタ爲ニ、斯樣ナ結果ニナツタノデアリマス、此處ニ皇室財産ト申シマスルノハ、廣イ意味ノ皇室全般ノ中ニ於キマシテ、個々ノ天皇及ビ皇族ノ方々ガ、國民一般ガ持ツテ居ルト同ジヤウナ趣旨ニ於ケル私有財産ヲ除キマシテ、其ノ外ニ考ヘラル、財産ヲ言ツタ譯デアリマス、言ヒ換ヘマスルト、皇室ト云フ一ツノ財産主體ハゴザイマセヌケレドモ、若シモ皇室ト云フモノニ個個ノ方々ノ私有財産ヲ除イテ、集團的ナル財産ト云フモノガ考ヘラルヽトスレバ、其處ニアルガ如キ財産ヲ皇室財産ト言ツテ居ルノデアリマス、之ヲ衆議院ノ會議ニ於キマシテハ、私ハ皇室ノ公的財産ト云フ言葉ヲ以テ申シマシタケレドモ、是トテモハツキリシナイ言葉デアリマスルガ、是ハ沿革的ニ考ヘナイト實ハ説明ノ出來ナイ言葉デアリマス、今日ノ皇室ハ從來ノ制度ニ依リマシテ、皇室ノ經費ヲ以テ國ノ政治ニ當ルベキ費用ヲ支辨シテオイデニナルノデアリマスルシ、又其ノ設備ハ同時ニ國ノ政治ノ設備ニ該當シテ居リマス、ト同時ニ、皇室ニハ先ニ申シマシタヤウナ各個ノ方々ノ純粹ノ私有的意義ニ於テ御行使ニナツテ居ル財産ガアル譯デアリマス、此ノ點ニ著眼致シマシテ、前者ヲ公的財産、後者ヲ私的財産ト味ブコトガ出來ヨウト思ヒマス、併シ或種ノ財産ハ財源ヲ供給スルヤウナ意味ノモノデアリマスルガ爲ニ、直チニソレガ正確ニ公的財産私的財産ト云フコトハ出來マセヌケレドモ、併シ達觀ニ依リマシテ、公的經費ヲ支辨スル爲ノ財源ト考ヘラレマスルモノハ、矢張リ公的財産ト言フコトガ出來ヨウト思ヒマス、斯樣ニ區別致シマシテ、其ノ公的財産ヲ此ノ八十八條ニ謂フ皇室財産ト云フ言葉ノ内容トシタ譯デアリマス、先程御質疑ニナリマシタ時ノ御言葉ノ御示シニナル所ハ、ハツキリ聽キ取レマセヌデシタケレドモ、或ハ私ノ今日申シマツタ所ト正反對ノ意味ニナツテ居ハシナイカト云フコトヲ恐レテ居リマス
○男爵白根松介君 私ノ今御尋ネシタノハ、此ノ皇室財政ト云フ中ニハ、今申シマシタヤウニ、三陛下、皇太子殿下、王子殿下方ノ御財産ト、ソレカラ皇族ノ御財産モ入ツテ居ルノデゴザイマセウカ、ソレカラ王族ハ如何カト云フ點ヲモウ一度御説明ヲ願ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 皇室財産ト申シマスル部分ハ、個々ノ方々ノ財産ハ多分皇室ノ御持チニナル公的財産ト云フコトノ概念ニハ當ラヌモノト存ジテ居リマスルガ、實ハ個々ノ内容ヲ非常ニ正確ニ存ジテ居リマセヌノデ、若シモ其ノ中ニ先程申シマシタ私ノ定義ニ依ル公的財産ガアレバ、ソレハ含マレルコトト存ジテ居リマス、又王族ノコトハ全爲此ノ條文ニ關係ノナイモノト考ヘテ居リマス
○男爵白根松介君 マダモウ少シ實ハ分ラナイノデゴザイマスルガ、世間デハ所謂皇室財産ニ付テ御心配申上ゲテ居ルト同時ニ、皇族ノ御財産ニ付テモ非常ニ御心配申上ゲテ居ルノデゴザイマスルガ、其ノ皇族ノ何々宮ノ御財産ハ公的デアレバ矢張リ此ノ皇室財産ニ入ルト、左樣ニ解釋シテ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 若シモ公的ナモノガアリトスレバ、之ニ入ルト云フコトニナラウト思ヒマス
○男爵白根松介君 最初御尋ネ致シマシタコトハ能ク了解致シマシタ、次ニ御尋ネ致シタイノハ、是ハ御言葉モソレニ觸レタヤウデゴザイマスルガ、公的、私的ト言ハレタ、公的ノ方ハ私ハ御尋ネ致シマセヌガ、私的皇室財産ト云フノハ、若シ御差支ナケレバ例ヲ引クトドンナモノデゴザイマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ私ガ度々申上ゲテ居リマスルヤウニ、天皇及ビ皇族ノ各位ノ方ニモ私的生活ハアル、私人トシテ考ヘラルベキ生活ガアルト云フコトヲ申上ゲマシタ、其ノ私人タル立場ニ於テ御持ヂニナルト客觀的ニ判斷シ得ベキ財産ト云フノデアリマス、例ヘバ皇族ガ現ニ萬年筆ヲ御持チニチツテ居ルトカ、眼鏡ヲ御掛ケニナツテ居ル斯ウ云ノノハ私的財産ノ最モ的確ナルモノト云フコトガ云ヘマス、此ノ觀念ヲ何處迄押シ及ボシテ行クコトガ出來ルカト云フコトハ、先ニ申シマシタ原則ヲ基本トシテ個々ノモノニ代テ判斷ヲシナケレバナラナイモノト考ヘテ居リマス
○男爵白根松介君 サウ致シマスルト、其ノ私的財産ヲ分ケテ考ヘマスル時ニ、其ノ中ニハ不動産ハ入ラヌ、斯樣ニ解釋シテ間違ヒハゴザイマセヌカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 私ハ不動産ガ入ラヌト云フ解釋ガ必ズシモ出ルモノトスベキ論據ヲ持ツテ居リマセヌ
○男爵白根松介君 其ノ點稍々マダ納得出來マセヌガ、餘リ細カイコトハ却テ御尋ネシナイ方ガ宜シイカト思ヒマシテ其ノ邊デ打切リマス、唯一ツ是モ國民ガ非常ニ心配シテ居リマスコトデアリマスカラ、具體的問題トシテ御尋シタイノデアリマスガ、陛下ノ御住ヒ遊バス宮城ト云フヤウナモノハドウ云フ形ニナリマスルノカ、一旦國ニ歸屬シテシマツテ、ソレヲ又何等カノ方法デ皇室ガ御使用ニナルト云フコトニデモナリマスルノカ、其ノ邊ハ御差支ガナケレバ御説明ヲ願ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 具體的ノコトハ實ハ此處デ確定的ニ申上ゲルダケノ段階ニハ達シテ居リマセヌノデ、謂ハバ一種ノ抽象的ナル形ニ於テ御答ヲ申上ゲタイト思ヒマス、假リニ具體的ナル言葉ヲ使ヒマシテモ、ソレハ抽象的ナルモノヲ分リ易ク例ヲ取ツテ言フト云フ意味ニ御取リヲ願ヒタイト思ヒマス、宮殿ノ如キ性質ノモノハ、是ハ公的ニ天皇ガ御使ヒニナツテ居ルト云フ面ガ主タル面デアラウト思ヒマス、從ツテソレハ此ノ八十八條ノ規定ニ依リマシテ、國ニ屬スルト云フコトニナラウト思ヒマス、併シ國ニ屬スルト云フコトハ、其ノ場合ニ於キマシテハ所有權ガ國ニ屬スルト云フコトニナリマス、物ヲ使用スル關係ニ於キマシテハ公的ナルモノヲ公的ナル方法ニ於テ利用スルコトハ當然ノコトデアリマスルガ故ニ、天皇ガ象徴トシテ御使ヒニナル場合ハ當然、所有權ハ國ニ移ツテ居ツテモ御使用ニナルコトト考ヘテ居リマス
○男爵白根松介君 尚方面ヲ變ヘテ少シ伺ヒタイノデアリマス、皇室財産ガ總テ國ニ屬スル結果ト致シマシテ、皇室ノ御費用ハ、豫算ニ計上シテ國會ノ議決ヲ經ルト云フコトニナツテ居リマスルガ、現在四百五十萬圓ノ皇室費ガ毎年議會デ協賛サレマシテハソレガ皇室經濟ノ收入ニ入ツテ居ルノデアリマスルガ、今度議會ノ協賛ヲ經マス皇室費用、何ト云フ名前ニナリマスカ、皇室費ナルモノハ一般ノ豫算ノヤウニ決算デ殘ガ出マスレバ、ソレハ不用額トシテ全部切リ捨テテシマフモノデアリマスカ、或ハ何カ皇室費ノ一部ト云フヤウナモノガ今迄ノ四百五十萬圓ト同ジヤウナ意味デ皇室御經濟ノ方ヘ入ツテ行ツテ、其ノ殘ガ出マスレバ、ソレハ皇室ニ於テ御蓄積ニナルト云フヤウナコトガ可能ナノデアリマスルカ、ドウ云フ經理ノ方法ニナリマスルカ、其ノ邊ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 御説ノ如ク皇室ニ要シマスル經費ハ、此ノ憲法ノ草案ノ定メマスル如ク豫算ニ計上シテ國庫ヨリ之ヲ支辨スベキコトニナルノデアリマス、既ニ豫算ニ計上スルト云フコトニナリマスレバ、其ノ言葉ノ示スガ如ク他ノ一般ノ國費ノ場合ノ豫算ト同ジデアリマスルガ故ニ、一般ノ方法ニ依ツテ、詰リ會計ノ規定ニ從ツテ仕事ヲシテ行ク、而シテ殘リガアレバ、ソレハ豫算ノ殘トシテ國庫ノモノトシテ殘ルト云フコトニナルノガ原則デアラウト思ヒマス、併シナガラ此ノ憲法ノ八十八條ニ定メテ居リマスル「皇室の費用」ト云フ言葉ハ、可ナリ廣イ内容ヲ持ツテ居ル言葉デアリマシテ、此ノ費用ノ一部分ハ國カラ支辨スルト云フコトニ依ツテ、支辨ト云フカ、國カラ拂出スト云フコトニ依ツテ豫算上ノ目的ノ全部ヲ果スヤウナモノモアリ得ルト思ヒマス、左樣ナモノニ付キマシテハ殘ルト云フ問題ハ起リマセヌ、ソレガ皇室ノ方面ノ收入トナリマシタ場合ニ、ソレ以後ノ扱ヒ方ハ皇室ノ私有財産トシテ扱ハレテ行ツテ宜イト考ヘテ居リマス、シカシ左樣ナ經費ガ果シテドウ云フ形ニ於テ、ドウ云フ限度ニ於テアリ得ルカドウカト云フコトニ付キマシテハ、今日尚未決ノ問題デアリマス
○男爵白根松介君 御答辯デ大變能ク了解致シマシタ、尚八十八條直接ノ問題デハゴザイマセヌガ、是ハ先般八條ヲ御審議ニナリマシタ時ニ、ドナタデアリマシタカ他ノ委員ノ方カラ、此ノ八條ハ寧ロ八十八條ノ次、詰リ財政ノ章ノ方ヘ移シタラドウタラウカト云フ御意見ガ出テ居リマシタ、ソレニ對スル御答辯モアツタノデゴザイマスルガ、私モ是ハ左樣存ジマスルノデ、天皇ノ章ニ八條ノヤウナ、何ト申シマスカ、天皇ノ章ハ陛下ノ御地位ナリ權能ヲ規定シテアル非常ニ尊嚴味ノアル章デアリマスルノデ、其處ニ、皇室ノ御財産ニ屬ストハ言ヘ、何カ此ノ八條ノアルコトハ、此ノ第一章トノ尊嚴、ト申シマスカ、ヲ稍々汚スヤウナ氣モ致シマスノデ、此ノ財政ノ章ノ八十八條ノ次ニ加ヘル方ガ宜イノヂヤナイダラウカ、殊ニ八十九條ノ條文等ヲ讀ミマスト、此ノ條文ノ間ニ挾ムノガ一番宜イノヂヤナイカト云フ風ナ氣ガ致シマスガ、是ハ前ニドナタカラカ今申上ゲタヤウナ御質問ガ出タノデアリマスガ、恐レ入リマスガ、重ネテソレニ對スル金森國務相ノ御答辯ヲ御願ヒ致シタイノデアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） チヨツト其ノ前ニ、先程カラ私ノ言ツタコトガ能ク得心ガ出來ナイト云フ所ニ何カマダ一ツ申上ゲタ所ノモノニ殘ツテ居ルヤウナ氣ガシテ、言ヒ方ガ惡カツタカモ知レマセヌカラ、御分リニナツテ居ルト思ヒマスケレドモ、念ノ爲申上ゲマス、詰リ不動産ガ皇室ノ私有財産ノ中ニ入ルべキモノデアルカ、斯ウ云フ御尋デアツタカト存ジテ居リマス、其ノ時ノ私ノ答ハ、少シグルグルト廻ツタヤウナ言葉ヲ申シマシタガ、是ハ已ムニ已マレヌ理由ガアツテサウ申シタノデアリマスガ、平タク言ヘバ、不動産ガ皇室ノ各人ノ方々ノ私有財産ニナリ得ナイト云フ理窟ハ私ハ知ラナイ、斯ウ云フコトヲ申上ゲタノデアリマス、ナルカナラヌカ、私ハ知リマセヌ個々ノ財産ニ付テ調査シナケレバナリマセヌ、併シ原則トシテ不動産ハ私有財産ニナリ得ナイ、併シ動産ナラバナリ得ルト云フ、斯ウ云フ區別ガ二者ノ間ニハナイト云フコトヲ申上ゲタノデアリマス、ソレハ御分リニナラヌ筈ハナイト思ヒマス、御分リニナラヌト仰シヤルノハ何カ私ノ申上ゲ方ガハツキリシナカツタカラダラウト思ツテ補足ヲシテ置キマス、次ニ第八條ヲ財政ノ章ニ持ツテ行ツタラドウカト云フ御話デアリマシタ、是等ノ條文ハ多少關係モアリ、又少シヅツ本來ノ章ノ中ニアルベキ性質ノハミ出シテ居ルヤウナ點モアリマシテ、論理的ニ何處デナケレバ絶對ニナラヌト、斯ウ云フ理由ハナイト思ツテ居リマス、併シ第八條ノ規定ハ、可ナリ含蓄ノ深イ規定デアリマシテ、單ニ皇室ノ御經費ヲドウスル、斯ウ云フ趣旨デハゴザイマセヌ、一面カラ言ヘバ皇室ト國家トノ間ニ或ハ皇室ト國民トノ間ニ於ケル所ノ財物ノ關係ニ於キマシテ、從來ノ憲法政治ノ發達ノ上ニ於テ、幾分疑惑ヲ強ク招イタ問題ヲ解決シヨウト云フノデアリマシテ、之ヲ平タイ言葉デ申シマスト、モツト分リ易ク申上ゲタイガ餘リ適當ナ言葉ガ見ツカリマセヌ、結局皇室ノ御權能ヲ限定スルト云フコトニ密接ナル關係ヲ持ツテ居ル次第デアリマスルガ故ニ、其ノ章ニアルコトガ適當デアラウ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居ル次第デアリマス、第八十八條ノ方ハ先ヅ大體純粹ニ皇室ト國トノ間ニ於ケル財産關係ニ關スル規定デアリマス、左樣ナ所ニ差別ガアルト思ツテ居リマス
○男爵白根松介君 以上デ私ノ質問ヲ終ルコトニ致シマス
○委員長（安倍能成君） 順序カラ申シマスト澤田委員佐々木委員ニ御質問願フノデアリマスガ、是ハ多クノ箇條ニ亙ツテ居リマスカラ、便宜上松本委員ノ第八十八條ニ對スル御質問ヲ願ヒマス
○松本學君 私ハ只今白根委員ノ御尋デ大體了承致シマシタガ、簡單ニ一ツ二ツノ點ダケヲ御伺シテ見タイト思フノデアリマス、此ノ八十八條ノ皇室財産ハ只今ノ御話デ、公的ナ財産ガ國庫ニ歸屬スルノデアツテ、私的生活ニ要スル所ノ御財産ハ之ニ含マナイト云フコトノ御答ガアツタノデアリマスガ、八條ニ依ツテ皇室ニ讓リ渡シ又ハ讓リ受ケタル財産ハ是ハ矢張リ八十八條ノ皇室財産ト云フコトニ相成ルヤウニ見エルノデアリマスガ、是ハ如何ナモノデアリマセウカ、矢張リ公的財産ト私的財産ニ分ケテ八條ニ依ツテ讓リ渡シ、又ハ讓リ受ケルト云フ財産ガ區別サレルト云フ風ニモ思ヒマスガドウデセウカ、此ノ點ニ付テ伺ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 御説ノ如ク八條ハ皇室ニ財産ヲ讓リ渡スト云フコトノ中味ト致シマシテハ、皇室ノ個々ノ方ノ純粹ノ私有財産トシテ讓リ渡サレルコトモアリ得ルノデアリマス、併シ物ノ性質、分量等カラ客觀的ニ判斷ヲ致シマシテ、ソレハ皇室ノ私有財産デハナク、所謂公的財産ノ如キ實體ヲ以テ讓リ渡ス場合ト、此ノ二ツヲヲ考ヘルコトガ出來ルノデアリマス、併シ其ノ結果ト致シマシテ私有財産トシテデアリマスレバ、國會ノ議決ヲ經テ私有財産トシテ讓リ渡サレル、此ノ場合ニ於キマシテハ皇室ニ屬セラルヽ方々ノ私有財産トシテ殘ルノデアリマスカラ、何等ノ不審モ何モゴザイマセヌガ、公的財産トシテ若シ其ノ讓リ渡シガ成立スルモノト致シマスナラバ、第八十八條ニ依リマシテソレハ又國ニ屬スルト云フコトニナルノデゴザイマス、從ツテ理論ノ上デハサウ云フ風ニナリマスケレドモ先ヅ斯クノ如キ形ニ於テ公的財産ガ八條ヲ經由シテ皇室ニ一先ヅ行キ、他日國ニ行クト云フノハ、事柄ノ實體トシテハナイモノト考ヘテ宜カラウト思ヒマス、併シ是ハ萬々一サウ云フコトガアツタラ八十八條デ斯樣ナ結果ニナルト、斯ウ云フ意味ヲ持ツテ居ル、一ツノサウ云フ場合ヲ防止スル規定ノ如キ意義ヲ持ツテ居ルト云フ譯デゴザイマス
○松本學君 サウシマスト八條ハ概括的規定デゴザイマシテ、議決ニ基ヅクト云フコトニ依ツテ法律ガ一ツ茲ニ出ルト云フコトニナルト思フノデアリマスガ、其ノ法律ヲ定メル時ニ只今ノ御話ノヤウニ實效ヲ收メナイヤウナ公的財産ノ讓リ渡シ、讓リ受ケト云フヤウナコトハ其ノ法律ノ内容ニ於テ何カ時ニ御規定ニナルト云フヤウナコトニナリマセウカ、サウ云フ風ナ制限的ナ御規定ガ法律ニ定メラレルト云フコトガ豫想出來ルノデアリマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 今其ノ法律ノ内容ヲ非常ニ具體化サセル迄ハ考ヘテ居リマセヌガ、大體ハ獻納シテモ宜シイト云フコトノハツキリシテ居ルモノヲ法律ニ列擧シタナラバドウカト考ヘテ居リマス、例ヘバ日常ノ御調度品ヲ獻納スル、或ハ何カ輕微ナル物ニ付テ或種ノ縁故ニ依ツテ獻納スルト云フヤウナ、先ヅ誰ガ見テモ不思議デナイト云フ種類ノ物ヲ其ノ法律ノ中ニ列擧致シマシテ、サウ云フ物ハ一々特別ニ國會ノ議ヲ經ナイデモ宜イト云フ風ニシタイト思ヒマス、其ノ後ドウ云フ羽目デ何カ變ツタ財産ノ獻納ノ申出ノアルヤウナ場合ニ於キマシテハ、ソレハ個々ノ場合ニ於テ國會ノ議決ヲ經ル、斯ウ云フ建前ニシタ方ガ宜イノヂヤナイカト云フ風ニ考ヘテ居リマス
○松本學君 八十八條デモウ一ツ伺ツテ見タイノハ、原案ノ方ニハ「皇室の支出は、豫算に計上して」トアリマスガ、修正ノ方ハ、「皇室の費用」トナツテ居リマス、是ハ文字ガ違ツテ居リマスガ、内容ニ於テモ大分違ツタコトニナルノデアリマセウカ、支出ト言ヒマスト、是ハ所謂支出デアツテ、經費トカ費用トカト云フコトデナク、單ニ支出ト云フコトニナツテ收入ガ入ツテ居ナイヤウニ思ヒマスガ、費用トナリマスト收入、支出ト云フ所謂經費ト云フヤウナ感ジガスルノデアリマスガ、何カ此ノ間ニ區別ガアルノデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此處ニ費用ト申シマシテモ、矢張リ皇室デ御使ヒニナル費用ト云フ風デアリマスカラ、支出ト云フ言葉ト實質ニ於テハ異ナル所ハナイ譯デアリマス、唯支出ト言ヒマシテモ一々出入リスル段階ヲ押ヘルヤウナ感ガゴザイマシテ、費用ト言フト一々支出スルト云フノデナク、先デ御使ヒニナルト言ヒマスカ、皇室ノ方デ用ヒラレル所迄モ含ンデ居ルヤウナ感ジガアリマシテ、同ジコトデアリマスケレドモ、例ヘハ曩ニ白根委員カラ御尋ニナリマシタヤウニ豫算ノ方デ拂ヒ切ツテシマヒマシテ、實際ハ使ハレナクテモ其ノ金額ハ其ノ儘ニナルト云フ場面ガ何等カノ形デアリ得ルト思ヒマス、サウ云フ所ヲ考ヘマスト廣イ意味デ皇室ノ費用ト言ツタ方ガ宜イノデアリマシテ、ホンノ心持ノ影響カラ來テ居ルノデアリマス
○松本學君 私ノ質問ハ是デ終リマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ松平委員
○子爵松平親義君 私ハ九十條ニ付テ伺ヒタイト思ヒマス、此ノ九十條ノ決算ニ關スル條項ガ現行憲法七十二條ト殆ド同樣デアルノデアリマス、我々毎年政府カラ提出サレル決算ノ議會デ審議シテ居ルノデアリマスガ、私ノ僅カナガラノ經驗カラ何時デモ感ジマスコトハ、決算ト云フモノハ既ニ政府ガ出納シテシマツタコトヲ、濟ンデシマツタコトヲ帝國議會ニ會計檢査院ノ報告書ト一緒ニ提出サレルモノヲ、我々ガ其ノ政府ノ豫算ノ使途ガ果シテ適正ナリヤ否ヤト云フコトヲ審査スル譯デアリマスガ、モウ既ニ政府ガ使用シテシマツタモノデアリ、ソレニ對シテ我我ガ唯議會ニ於テ審議ヲシマシテモ混ミ入ツタ使途ニ付テソコニ適正ナリヤ否ヤト云フ判斷ヲ下スコトハ何時モ出來ナイノデアリマス、正確ニ言ヘバ、矢張リ現地ニ我々ガ行クナリ或ハ現地ニ當局者ヲ呼ビ出シテ其ノ人ニ話ヲ聽クト云フヤウナ事デモシナイ限カギリナカナカ正確ナ豫算、決算ノ審査ト云フモノハ出來ナイニデアリマス、ソレデ何時デモ適正ナリ否ヤト云フコトハ、唯形式的ニ決定スル、サウシテソレニ對シテノ又政治的ナ效果ト云ツタヤウナモノモ一體ドノ程度ニ政府ニ對シテ效果ガアルノカト云フヤウナコトモ、是モ私ハ實ハ未ダニハツキリシテ居ラナイノデアリマス、ソコデマア今度ノ此ノ憲法ニ於キマシテモ大體同樣ナ規定ガ此處ニ現レテ來テ居ル譯デアリマスケレドモ、矢張リ今後ノ所謂民主政治ト云ツタヤウナコトカラ考ヘマシテモ、矢張リ決算ト云フコトハ非常ニ大切ナコトニハ違ヒアリマセヌガ、濟ンダコトニ付キマシテ彼此レ言ツテ見タ處ガ、ナカナカ本當ノ支出ガ適正デアツタカドウカト云フコトヲ濟ンダ所デ見ルト云フコトハ非常ニ困難ガアルノヂヤナイカト思フノデアリマス、勿論今度ノ憲法ニ依リマスト、此ノ國會ノ章ニ於キマシテ立法府ガ外部トノ交渉ヲスルコトガ出其ル規定ガ此ノ六十二條、詰リ「國政に關する調査を行ひ、これに關して、證人の出頭及び證言竝びに記録の提出を要求することができる」ト斯ウシタヤウナコトニ付キマシテ議會ガ外部ト接觸スルコトガ出來ルヤウニナツタノデアリマスカラ、恐ラク此ノ豫算ノ審査ト云ツタヤウナコトニ正確ヲ期スルコトモ出來ルト思ヒマモ、併シソレトテモ理想通リニハ參ラヌト思フノデアリマス、ソレト今度ノ帝國議會ヲ通過致シマシタ地方制度ノ改正法案、アレニ於キマシテ御承知ノ通リ自治圖體ニ於テ都道府縣、ソレカラ大都市、斯ウ云ツタヤウナ自治團體ニ於テノ中ニ監査委員ト云フモノガ設ケラレテ居ルノデアリマス、サウシテ是ガ其ノ事業ノ執行状況、ソレカラ出納ノ状況ト云フヤウナモノヲ管理スルト云フヤウナ役目ヲ以テ斯ウ云フ監査委員ガ出來タト云フコトデアリマス、詰リ斯ウ云フヤウナ決算ヲ我々ガ事後ニ於テ見ルト云フコトモ必要デモアリマセウガ、同時ニ事前ニ、政府ノ經費ノ支出ヲ、事後ニ監督スルノミナラズ、事前ニ於テ之ヲ監督スルト云フヤウナ形デ今後一ツノ考ヲ廻ラシテ置イタ方ガ宜イノデハナイカト云フ考モ致シマス、ソレデ此ノ只今申上ゲマシタ地方制度ニ於テ出來タ監督委員、之ヲ國ノ豫算ノ執行ノ上ニ於テモ斯ウ云ツタヤウナモノヲ一ツ利用サレテ、事前ニ經費ノ支出ヲ監督スルト云フヤウナコトノ一ツノ考ヘ方ガアルノヂヤナイカト私ハ思ヒマスノデ、其ノ邊ニ付キマシテ、政府ハ此ノ九十條ニ付テ何カ御考ガアリマスデセウカ、若シアレバ承ツテ置キタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 御説ノヤウニ、第九十條ハ大體現在アリマスル決算ノ規定ト同樣デアリマシテ、現在ニ於キマシテハ、決算ヲ帝國議會ニ提出致シマスル時ニドノ議會ニ提出スルト云フ制限ガアリマセヌガ、今回ノハ次ノ年度ニ必ズ提出シナケレバナラヌト云フコトニナリマシテ、憲法ノ上デハ可成リ嚴重ニナツテ居リマス、實際決算ト云フモノハ實行者ガ責任ヲ本當ニ負ヒ得ル時代ニ決算ガ審査ヲ了シマセヌケレバ、全體ノ方ハ審査ヲ致シマシテモ、政治的ニ非常ニ感情ガ鈍イノデアリマスカラ、其ノ所ハ早イ時代ニ決算スルト云フコトガ此ノ趣旨デアリマス、憲法ハ其ノ程度ニ止ツテ居リマスケレドモ、之ヲ現實ニ運營シテ行キマスル場面ニ於キマシテハ、御説ノ如ク此ノ豫算ヲ支出致シマスル段階ニ於キマシテ最善ノ注意ヲシナケレバナラヌコトハ固ヨリト思ヒマス、從來トモ之ニ關シマシテ、色々便法ヲ考ヘテ、斯クノヤウニシタナラバドウカト云フ論ガアリマシタケレドモ、例ヘバ此ノ支出ニ先立チマシテ、事前ニ然ルベキ部局ニ於テ之ヲ調査シテ、果シテ之ヲ支出シテ宜イカドウカヲ審査ヲシテ、其ノ審査ヲ了シタ後ニ支出ヲスルト云フヤウナ風ノ計畫ガ持チ出サレタコトモアルノデアリマスルケレドモ、併シ餘リニ之ヲ苦勞シ過ギマスルト、却テ目的ニ合ハナイ、角ヲ矯メテ牛ヲ殺スト云フヤウナ、此ノ例ハ度々出シマスルガ、ウマク行カヌ爲ニ事前檢査ト云フ方法ハ實行サレテ居リマセヌガ、今回ニ於キマシテハ、ドノ程度迄其ノ實行ノ上ノ注意ヲスルカト云フ點ニ付キマシテハ、今現ニ研究シテ居リマスル、此ノ財政實行ノ方法ト致シマシテハ、大藏大臣ヲ責任者ト致シマシテ、サウシテ豫算實行ノ上ノ適正ヲ期スル爲ニ、各省又ハ各官廳ニ對シマシテ、収支ノ實績ヤ見込ト云フモノニ付テ報告ヲ取リ、又ソレヲ基トシテ財政上適當ナル指示ヲ與フル、斯ウ云フ方法ヲ採ツテ行ツタラドウカト云フ考ノ下ニ案ヲ設ケタイト存ジテ居リマス
○子爵松平親義君 大藏大臣ヲ中心ニシテ一ツノ監査的ナ機關ヲ設ケルト云フコトニ付テ御研究中デアルト云フコトデアリマスガ、一ツ尚御研究ヲ願ヒタイ、私モサウ思ヒマス、唯サツキモ申シマシタ通リ今度ノ改正サレタ地方制度、都道府縣其ノ他大都市ニ於ケル所ノ自治行政ニ於キマシテハ、監査委員ト云フモノガ特ニ設ケラレタノデアリマス、此ノ考カラスレバ、此ノ國ノ豫算ヲ實行スル場合ニ於テモ矢張リサウ云ツタヤウナモノガ出來得ル可能性ハ十分ニ私ハアルト考ヘテ居リマス、併シ此ノ程度ノコトハ只今モ今モ御話ヲ伺ヒマシタカラ、是デ私ハ其ノ點ノ質疑ハ打切リマス、ソレカラ其ノ第二項ノ此ノ「會計檢査院の組織及び權限は、法律でこれを定める」是ハ現行法ト全ク同樣デアルト思フノデアリマスルガ、私ハ此ノ現行法デ法律デ之ヲ定メルト云フ風ニ書イテアルノト、今度ノ此處デ、「法律でこれを定める」ト書イテアルノトハ、文字ハ同ジデアリマスガ、此處ニ書イテアル文字ハ同ジデアツテモ、此ノ現レタ所ノ考ヘ方ト云フモノハ違ツテ居ルノヂヤナイカト云フカンジガスルノデアリマス、斯ウ云ウコトハモウ申スマデモナイコトデアルト思フノデアリマス、現行憲法ニ於テハ詰リ會計檢査院ト云フモノハ官制大權ノ一ツノ例外ト云フカ、制限ノ一ツノ規定デアルト云フ風ニ私共解シテ居ツタノデアリマス、詰リ同ジ是ハ行政官廳デハアリマスケレドモ、會計檢査院ノ職務ノ性質上、之ヲ官制大權ノ下ニ置カズニ一ツノ法律デ之ヲ構成シテ、國務大臣ニ對シテ一ツノ獨立ノ地位ヲ會計檢査院ニ與ヘルト云フ爲ニ此ノ法律ト云フ措置ガ必要デアルト云フ風ニ私ハマア考ヘテ居ルノデアリマス、「會計檢査院法ノ第一條ニモ會計檢査院ハ天皇ニ直隷シ國務大臣ニ對シ特立ノ地位ヲ有ス」ト云フ規定ガアルノデアリマシテ、其ノ點カラ行ケバ會計檢査院ヲ特ニ獨立セシムル、一般ノ行政官廳ニ對シテ之ヲ獨立セシムルト云フ其ノ考ヘ方ガアルカラコソ現行憲法ニ於テ之ヲ法律デ定メルト云フ風ニ書イテアルノデアルト私ハ解釋シテ居ルノデアリマス、併シナガラ此ノ第八十六條ノ新憲法ノ「法律でこれを定める」ト云フ意味ハ恐ラクサウ云フ風ナ意味カラ、此處ニ「法律でこれを定める」ト云フ風ニシタノダトハ、私ハ思ツテ居リマセヌ、是ハモウ金森國務大臣ガ度々仰シヤツテ居ラレル通リニ「法律でこれを定める」ト云フノハ此ノ憲法ノ根本ノ一ツノ考ヘ方カラ來テ居ルコトデアルト私モ解シテ居ルノデアリマス、サウシマスト、此ノ「法律でこれを定める」、其ノ他ノ行政官廳モ總テ原則トシテ政令デ定メナイデ、全部之ヲ法律デ以テ定メルト云フコトニナリマスト、會計檢査院ト云フモノノ職務ノ性質上カラ、是ハドウシテモ他ノ官廳ニ對シテ獨立ノ立場ヲ執ラナケレバナラヌト思フノデアリマスルケレドモ、ソレガ此ノ「法律でこれを定める」ト云フコトニナリマスト、他ノ行政官廳ト何等ソコニ獨立的ナ立場ト云フモノガ現レテ來ナイト云フ考ガ茲ニ出テ來ルト思フノデアリ、ソコデ若シドウシテモ會計檢査院ト云フモノニ、他ノ官廳ニ對シテ獨立ノ地位ヲ與ヘヨウトスルナラバ、是ハ法律トカ政令トカ云ツタ點ニ於テ獨立ノ立場ヲ與ヘルト云フコトハ、私ハ出來ナイノデアツテ、寧ロ是ハ會計檢査院ノ組織ト云ヒマスカ、其ノ構成員ヲ如何ニスルカト云フ、其ノ點ニ於テ他ノ行政官廳ニ對シテ獨立ノ地位ヲ與ヘサセルコトガ出來ルノデハナイカト、斯ウ思フノデアリマス、詰リ其ノ組織、構成員ヲ官吏ニスルカ、サウデナケレバ之ヲ寧ロ帝國議會ノ議員ヲ以テ此ノ會計檢査院ノ構成員ニ充テルト云フヤウナ、何カソコニ普通ノ官廳ト違ツタ、普通ノ官廳ノ勢力ト云ヒマスカ、普通ノ官廳ノ專ラ影響ヲ受ケナイ所ノ一ツノ獨立シタ地位ヲ之ニ與ヘル爲ノ一ツノ構想、考トシテ、何等カソコニ考ヘテ置カナケレバナラナイコトガアルヤウニ思ヒマス、其ノ點ニ付キマシテ、實ハ國務大臣ニ御質問ヲシタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ九十條二項ノ「法律でこれを定める」ト云フコトハ、御説ノヤウニ色々ナ意味ノ説明ハ出來ルト思ヒマスケレドモ、私自身ハ、其ノ動機ガ何デアツタカト云フコトヲ後カラ考ヘテ見ルヤウナモノデ、チヨツト妙ナ説明ニナリマスルガ、本來ハ斯ウ云フモノハ憲法デ書クベキモノデアル、併シ憲法デ書クニハ少シ不十分不便ナ點ガアルカラ、ダカラ法律ニ委シタノダ、斯ウ云フ趣旨デアリマス、可ナリ重大ナル意味ヲ以テ之ヲ決メタモノト考ヘテ居リマス、但シ其ノ趣旨ガ別ニ文字ノ上ニハツキリ現ハレテ居ル譯デモ何デモゴザイマセヌ、デ、兎ニ角私ハサウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、サウ考ヘマスレバ、會計檢査院ノ重要ナルコトハ、此ノ憲法ハ明カニ之ヲ主張シテ居ルノデアリマシテ、ソコデ例ヘバ是カラ更ニ法律デ決メル代リニ委任命令デモ出セルトスレバ、其ノ委任ノ範圍ガ妥當デアルカドウカト云フ委任命令ニ關スル法理ノ適用ノ上ニ於テ、相當ノ意味ヲ持ツテ來ル、手輕ニ委任ガ出來ナイト云フ、斯ウ云フ趣旨ガ出來來ルモノト考ヘテ居ル譯デアリマス、ソコデ次ニ會計檢査院ノ中ノ組織ヲドウ云フ風ニスルカト云フコトハ、今迄ノ會計檢査院ハ可ナリ政府ニ對シテ獨立的ノ立場ヲ取ツテ居リマシタ、是ハ如何ナル批評家ノ言ヲ聞キマシテモ、政府ニ對シテ先ヅ望ミ得ベキ程度ノ獨立性ヲ持ツテ居ルト云フコトハ言ハレテ居リマス、他ノ點ハ別ト致シマシテ、其ノ點ダケハ言ハレテ居ルヤウニ思ヒマス、從ツテ其ノ點ヲ尊重致シマスナラバ、現在ノ如キ方針ガ基本トナツテ考ヘラレテ行ツテ宜イノデハナイカト思ツテ居リマス、ソコデ檢査院ヲ例ヘバ此ノ國會ノ方ニ結ビ付ケテ考ヘテ見タナラバ、ドウカト云フコトモ考ヘラレマスガ、ソレモ一ツノ考トハ存ジマスケレドモ、是ハ國會ニ對シテ決算ノ報告書ヲ出スモノデアリマシテ、幾分國會ト獨立性ヲ持ツベキ立場ニ居リマス、又内閣トモ獨立性ヲ持ツベキ立場ニ居リマス、從ツテ國會ト餘リ緊密ナ關係ヲ結ビマスコトハ、内閣ト緊密ナ關係ヲ結ビマスト同ジ位奇妙ナモノニナルノデハナイカト、斯ウ云フ風ニ考ヘマシテ、只今ノ所ハソンナニ變ツタ構想ヲ持ツテ居リマセヌ次第デアリマス
○委員長（安倍能成君） 今日ハ是デ閉會致シマス、明日ハ休會ニ致シマシテ、明後日九時半カラ始メマス
午後四時三十三分散會
出席者左ノ如シ
委員長 安倍 能成君
副委員長 伯爵橋本 實斐君
委員
公爵岩倉 具榮君
侯爵細川 護立君
侯爵中山 輔親君
伯爵後藤 一藏君
三土 忠造君
子爵大河内輝耕君
男爵白根 松介君
子爵高橋 是賢君
子爵三島 通陽君
子爵松平 親義君
平塚 廣義君
牧野 英一君
佐々木惣一君
松村眞一郎君
男爵今園 國貞君
村上 恭一君
男爵飯田精太郎君
霜山 精一君
川村 竹治君
岩田 宙造君
高柳 賢三君
男爵松田 正之君
男爵渡邊 修二君
男爵松平 齊光君
田所 美治君
澤田 牛麿君
松本 學君
瀧川 儀作君
小山 完吾君
淺井 清君
渡邊 甚吉君
高木 八尺君
委員外 員 野村 嘉六君
國務大臣
司法大臣 木村篤太郎君
國務大臣 齋藤 隆夫君
國務大臣 金森徳次郎君
政府委員
法制局長官 入江 俊郎君
法制局次長 佐藤 達夫君
司法事務官 佐藤 藤佐君
同 奥野 健一君
