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第九十回帝國議會貴族院 帝國憲法改正案特別委員會議事速記録第二十一號
付託議案◎帝國憲法改正案
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昭和二十一年九月二十五日（水曜日）午前九時三十九分開會
○委員長（安倍能成君） 會議ヲ開キマス、一昨日ノ質問ニ引續イテ、松平委員
○子爵松平親義君 先達テノ委員會デ第九十條ノ會計檢査院ニ關スル條文ニ付キマシテ御質疑ヲ致シタノデアリマス、時間ノ關係デ其ノ時散會ニナリマシテ、尚私申上ゲタイコトガアリマシタガ其ノ儘ニナリマシタ譯ナンデ、簡單ニ一言發言サシテ戴キタイト思フノデアリマス、此ノ九十條ノ第二項ニ付キマシテ此ノ間御質疑ヲ致シマシタ處ガ、大臣カラ御答辯ガアリマシタ、ドウモ其ノ御答辯ガ私ニ實ハハツキリト呑込メナイノデゴザイマシタノデスガ、私ノ申上ゲマシタノハ此ノ二項ノ規定ト云フモノハ現行憲法ノ規定ト、文字ノ上ニ現ハレタ所ニ於キマシテハ變リガ全然ナイ、併シ茲ニ規定シテアル事柄ハ同ジ「法律でこれを定める」ト斯ウ書イテアリマシテモ、現行憲法デ法律デ定メルト斯ウ書キマシタ場合ト、此ノ新憲法デ「法律でこれを定める」斯ウ書キマシタ場合トハ、非常ニ違ツタ意味ニナツテ來ルノヂヤナイカ、詰リ斯ウ書キマシテモ之ニ依リマシテ、會計檢査院ノ國務大臣ニ對スル獨立性ト云フモノハ、維持サレナイノヂヤナイカト云フコトヲ私ハ伺ツタノデアリマスガ、ソレニ對シマシテ金森大臣ノ御答辯トシテハ、矢張リ此ノ「法律でこれを定める」ト云フコトハ非常ニ重大意義ヲ持ツテ居ルノデアル、矢張リ之ニ依ツテ會計檢査院ノ獨立ト云フコトハ、十分考ヘテ行カナケレバナラナイコトデアルト云フ風ニ私ハ伺ツタノデアリマス、ソレカラ尚此ノ會計檢査院ノ組織ニ付テモ、構成員タル者ハ私ハ國會議員ヲ以テ充テタラドウダト云フヤウナコトヲ申上ゲマシタラ、ソレハ矢張リドウカト思フ、國會其ノモノガ豫算、決算ノ審査ヲスル關係モアルノダカラ、其ノ國會ノ構成員ヲ以テ此ノ會計檢査院ノ組織ニ充テルト云フコトハソレハドウカト思フト云フヤウナ御答辯デ、詰リハツキリシタ御答辯ヲ伺ヘナカツタノデアリマスガ、詰リ此ノ第二項ノ規定ニ依ツテ十分ニ會計檢査院ノ獨立性ト云フモノヲ今後ニ於テモ工夫シテ行クノデアル、十分其ノ點ハ考ヘテ行クノデアル、併シ今此處デ具體的ニドウ云フ風ニ其ノ組織權限ヲ定メルカト云フヤウナコト、又「法律でこれを定める」ト云ツテモドウ云フヤウナ方法デ定メルカト云フコトニ付テハ、マダ成案ガ出來テ居ナイト云フ風ニ解釋シテ宜シイノデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 會計檢査院ノ獨立ニ付キマシテ一應御答ヲ申上ゲマスルガ、仰セノ如クマダ具體的ナル法律ノ組織ハ、政府デ決定ハ致シテ居リマセヌ、併シナガラ其ノ獨立性ヲ尊重スルト云フ點ニ付キマシテ、第一ニ斯ウ云フ仕事ノ點ニ於キマシテハ職務上ノ獨立ト申シマスルカ、詰リ職務ノ内容ニ付テ政府ノ指揮ヲ受ケテハナラヌト云フ原則ガナクツテハナリマセヌガ、是ハ此ノ憲法ノ建前ガ内閣ノヤツタ收入支出ヲ監督スルト云フコトデアリマスルカラ、ドウシテモ仕事ノ内容ニ於テ、獨立性ヲ保障シナケレバナラヌト云フコトハ理ノ當然デアリマス、憲法ニ特別ノ規定ハゴザイマセヌケレドモ、憲法ノ規定ノ解釋上左樣ニナルト思ツテ居リマス、尚ソレニ必要ナル規定ハ會計檢査院ノ組織ヲ決メマスル法律ノ中ニ於テ之ヲ定ムベキモノト考ヘテ居リマス、ソレカラ又此ノ會計檢査院ヲ組織シテ居ル人間ノ、此ノ身分上ノ獨立ト云フコトガ第二ニ殘リマスガ、其ノ點ハ是モ其ノ法律ニ於キマシテ、間違ヒノナイヤウニ其ノ獨立ヲ保障シナケレバナラヌト云フコトハ、現在ノ會計檢査院ノ場合ト同ジヤウデアルト考ヘテ居リマス、ソレカラ第三ニ此ノ議會ノ議員ヲ以テ、檢査院ノ職員ヲ組織シタナラバドウカト云フ點デアリマスルガ、是ハ憲法ノ上ニ現ハレテ居リマスヤウニ、結局是ハ議會ニ對シテ報告書ヲ出シテ、議會ガ政府ノ意見ト併セテ審査ヲ行フト云フコトニナリマスルノデ、謂ハバ議會ニ對シマシテハ被告ト云フト語弊ガアリマスルガ、參考資料ヲ提出スルト云フ立場ニナツテ居リマス、從ツテ是ハ議員デ以テ構成スルヨリモ議員以外ノ人デ構成ヲ致シマシテ、議會ハ絶對ニ自由ナル立場ヲ以テ之ヲ審査セラルヽ方ガ宜カラウト思ツテ居リマス、左樣ナ前提ノ下ニ今日法律ハ具體的ニ今研究中デアリマスルケレドモ、御趣旨ノアリマスル所ハ其ノ獨立性ヲ確保スル點ニ於テ十分努メテ居ル所デアリマス
○子爵松平親義君 終リマス
○澤田牛麿君 私ハ此ノ八十三條カラ質問ヲ致シマス、「國の財政を處理する權限は、國會の議決に基いて、これを行使しなければならない」、サウスルト此ノ權限ト云フコトハ、權限ハ既ニ政府ニアルノダガ、其ノ行使ノ方法ト云フカ、何カソレヲ國會デ決議スル、此ノコトニ從フト云フ意味デセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス、「財政を處理する」ト云フノハ、廣義ノ行政ニ屬スルコトハ是ハ疑ヒハゴザイマセヌ、内閣ノ指圖ニ基イテ行動スル行政部局ガ「財政を處理する」譯デアリマス、併シソレニ對シテノ嚴重ナル條件ハ、國會ノ議決ガ之ニ當ルト云フノデアリマス
○澤田牛麿君 第八十三條ト第八十五條ト關聯スル譯デアリマスルガ、「國費を支出し」、又ハ第八十五條ニ「國が債務を負擔するには、國會の議決に基くことを必要とする」、是モ其ノ當然ノ權限デハナカラウカ、行政部門、是ハ國會ノ決議ヲ經テ初メテ行政部ノ權限ニナルト云フコトデセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 御説ノ通リ支出ヲ致シマシタリ債務ヲ負擔致シマスコトハ、是ハ行政部ノ權限ニ屬スルモノデアリマス、併シナガラ行政部ハ此ノ國會ノ議決ト云フコトノ基礎ガナケレバイケナイト云フ譯デ、一種ノ行爲ヲ行ヒマスル所ノ條件ヲ構成シテ居ル譯デアリマス
○澤田牛麿君 チヨツト私共カラ逆ニ考ヘマスト當然ノ權限デアルコトヲ、又國會ノ決議ヲ要スルト云フコトハ、非常ニ是ハ行政權ヲ國會ガ侵スモノデハナイカト思フノデアリマスルガ、ドウ云フ實體ニナルデアリマセウカ、八十三條ニ付テモ、八十五條ニ付テモ、其ノ點ガチヨツト明瞭ナ觀念ガ得ラレナイノデスガ、ドウ云フコト迄國會ガ決議スルノデセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ現在ノ憲法ノ此ノ會計ノ章ニアリマスル所モ、稍々言葉ハ違ツテ居リマスルガ、中味ニ於キマシテハ大體ハ異ナル所ハゴザイマセヌ、今度ノ方ガ少シク包括的ニ規定セラレテアルト云フコトデアルノデアリマス、例ヘバ現行ノ憲法ニ於キマシテモ、豫算ノ整理ヤ、豫算外國庫負擔ノ整理ト云フモノハ拵ヘテアリマス、併シソレニ付キマシテモ比較的廣イ方面カラノ規定ガアリマセヌノデ、解釋デ補ツテ居ル次第デアリマス、今回ノ草案ニ於キマシテハソレヲ正面カラ書キマシテ、行政部ハ「財政を處理する」コトハ固ヨリデアルケレドモ、其ノ或點ニ付テハ必ズ國會ノ議決ヲ本ニシナケレバナラナイ、斯ウ云フ風ノ前提ヲ採ツテ居リマス、其ノコトハ恰モ行政部ハ行政ヲ一般ニ行フモノデアル、併シソレニ付キマシテハ、各個ノ行政ハ法律ヲ基礎トシテ行ハナケレバナラヌ、ト云フコトト略々同ジヤウデアリマス、是ハ政府内部ノ財政ノ部デアリマスカラ、直接ニ法律ヲ基點トスルト云フ、一般ノ原則ハ當嵌ツテ來マセヌ、ソコデ財政ノ見地ニ於キマシテハ、特ニ八十三條、八十五條ト云フモノヲ置キマシテ政府ガ財政ヲヤルノダ、併シ其ノ基本ニ於キマシテハ國會ノ議決ト云フモノガ條件ヲナシテ居ル、然ラハ如何ナル場合ニ於テ、條件ヲナシテ居ルカト云ヘバ、八十三條、八十五條ノ示シマスル限度ニ於テ、此ノ八十四條モ勿論其ノ限度ヲナシテ居リマスガ、左樣ナ限度ニ於テ條件ヲナスノデアル、斯ウ云フ風ノ建前ニナツテ居リマス、具體的ニソレガドウ云フモノデアルカト云フコトハ、大體八十六條以下ノ條文ガ或程度迄ソレヲ具體化シテ説明シテ居リマスルガ、獨リソレノミニ限ルト云フ譯デモゴザイマセヌ
○澤田牛麿君 第八十三條ハドウモ權限ノアルコトヲ行使スルノニ國會ノ議決ガ要ルト云フコトハ、國會ノ議決ガナケレバ權限ハアツテモソレヲ行使スルコトガ出來ナイ、斯ウ云フコトニ理論上ナル譯ダラウト思ヒマス、サウスルト八十六條トカ八十七條トカハ是ハマア是デ分ツテ居リマスルケレドモ、一般論トシテ政府ハドウ云フ國會ノ決議ヲ要スルノデアルカ、又國會ガドウ云フコトニ付テ決議ヲ一々スルノデアルカ、ドウモソコノ範圍ガハツキリ分ラヌノデス、寧ロ私共ノザツトシタ考ヘデハ八十三條ノ「國會の議決に基いて」ト云フコトハ要ラナイノヂヤナイカト思フノデスガ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ建前ガ、例ヘバ第六十五條ニ「行政權は、内閣に屬する」トカ、ソレカラ國會ノ所ニ付キマシテハ國會ハナントカノ立法機關デアル、或ハ國民ノ權利保障ノ所デ、衆議院ノ修正ニ依リマシテ少シ變リマシタケレドモ、アノ修正ガナケレバ一番初ノ條文ガ謂ハバ全體ノ總括規定ニナツテ居リマス、此ノ財政ノ所モ同ジヤウデアリマシテ、八十三條ハ一般的ナ原則ヲ示シテ居リマシテ、其ノ具體的ナルモノハ八十四條以下ニ於キマシテ次第次第ニ内容ガハツキリシテ來ル、斯ウ云フ風ノ建前ヲ執ツテ居リマス、詰リ總則ト御考ヲ願ヒタイト思ヒマス
○澤田牛麿君 八十四條以下ニ依ツテ分ツテ來ルト云フコトハ了承シマシタガ、總則的ナ規定ダト云フガ、一體權限ノアル者ガ、ソレヲ行使スルニ付テ更ニ他ノ機關ノ‥‥、又馬鹿ノ一ツ覺エト言ハレルカモ知レマセヌガ、三權分立ノ點カラ言ヘバ權限ガチヤントアルモノデアル、ソレヲ行使スルニ付テ一々決議ヲ要スルト云フ總則ヲ設ケルト云フコトハ、是亦三權分立ノ命令ニ反スルヤウニモ思ハレル、又實際問題トシテドンナ決議ヲ要スルノデアルカ、ドウ云フ事柄ニ付テ決議ヲ要スルノデアルカ、ドウモ其ノ内容ガハツキリ觀念ニ浮バナイガ、モウ少シ御説明ヲ願ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ八十三條ハ、財政ト云フコトハ自ラ一定ノ中ニアリマシテ、之ニ付テ解釋ノ疑義ハ起ラヌト思ヒマス、財政ヲ處理スル權限ト云フモノハ内閣ノ持ツテ居ル總テノ權限デハアリマセヌ、其ノ一部分ノコトデアラウト思ヒマス、一部分ノコトデアリマスルガ、其ノ範圍ニ於キマシテハ絶對自由ニ内閣ガヤルノデハナイ、必ズソコニ議會ノ議決ガ基礎トナラナケレバナラヌ、斯ウ云フ風デアリマスルカラシテソンナニ分リニクイ程ノコトデハナイト思ヒマス、例ヘバ金ヲ支出スルト云フ時ニハドウスルカト云フト、終局ハ國會ノ議決ニ基イテ居ル所ノ豫算ト云フモノニ依ツテ之ヲ行ハナケレバナラヌ、或ハ契約ヲスルト云フ時ニハドウナルカト言ヘバ、究極ハ其ノ財務ヲ負擔致シマスル契約ハ何處カニ國會ノ議決ガ要ル、其ノ議決ハナンノ形デアルカト云フコトハ問ハナイ、或ハ法律デ以テ議決ノ内容ヲ與ヘラレテ居ルコトモアル、或ハ個々ノ處分的ナル國會ノ議決ニ依ツテ與ヘラレテ居ルコトモアル、租税ヲ徴收スル、是ハ確カニ財政デハアリマスルガ、ソレハ勝手ニヤツチヤイカヌ、必ズ國會ノ定メタル規定、又ハ其ノ規定カラ派生シテ居リマス所ノ條件ニ依ツテ之ヲヤラナケレバナラヌト云フヤウナ風ニ出來テ居リマスルガ故ニ現在ト殆ド同ジコトデ、殆ドヂヤナイ、實質的ナル意味ニ於キマシテハ同ジコトデアラウト考ヘテ居ル次第デアリマス
○澤田牛麿君 ドウモマダハツキリ了得シ得ナイノデスガ、租税ヲ課スルコトハ無論是ハ法律ニ依ルト規定ガアルノデ、法律ハ國會ノ議決ヲ要スルノハ當リ前ノコトデアリマス、豫算モ國會ノ議決ヲ經タ豫算デアル、法律及ビ豫算、唯是迄ノ言ヒ方デハ法令及ビ豫算デスガ、法律及ビ豫算ノ範圍内デ財政ヲ處理シテ行クト云フコトハ是ハ當然ナコトデアツテ、八十三條ニ書イテアル議決ニ基イテ行使シナケレバナラヌト云フコトニナルト、モツト非常ニ細カイ何カ其ノ時々ノ議決カナンカヲ要スルト云フ風ニモ聞エルノデアリマス、法律及ビ豫算ニ基イテ財務ヲ執行スルコトハ當然ナ話デ、是ハ八十三條ヲ俟タナイコトデアリマス、此ノ八十四條以下ニ書イテアルコトハ無論當リ前デアリマスルケレドモ、八十四條以下ノコトハ其ノ適用ノ一ツデアル、其ノ他ニ原則的ニ八十三條ヲ置イタト云フノハ、其ノ原則的ト云フコトガドレダケノ範圍デアルカ、ドウ云フ意味デアルカ、ドウモ不明瞭デアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 大シタ意味ノ差ハナイト思ヒマスルガ、現行制度ニ於キマシテ多少取扱ノ上ニ不明瞭ナ點ガ之ニ依ツテハツキリシテ來ルト云フ風ニ考ヘラレマス、例ヘバ現在ニ於キマシテ、責任支出ト云フコトガアリマシテ現行ノ憲法ノ下ニ於キマシテハ責任支出ガ憲法違反デアルカ、サウデナイカト云フコトハ議論ガアリ、而モ議論ガアル儘ニ事實豫算ナクシテ支出ヲシテ居リマス、ソコニ一ツノ理論構成ガ出來テ來ル譯デアリマス、併シ今回ノ改正憲法ニ於キマシテハ、責任支出ト云フヤウナ支出ハ又國ノ財政ヲ處理スル權限ノ行使ニナリマシテ、國會ノ議決ナクシテ唯金ヲ出ス、豫算モナク何モナイ、現金ダケハアル、ソレダカラ出スト云フヤウナコトハ許サレナイ、斯ウ云フコトニナラウト思ヒマス、或ハ又現在ニ於キマシテ租税ヲ取リマスル時ニハ法律ヲ以テスルト云フコトニナツテ居リマスルケレドモ、租税ト稍々性質ヲ同ジク致シマシテ、而モ租税ト云フ名稱ヲ持ツテ居ナイ、何ント言ヒマスカ、受益者負擔トカナントカ云フヤウナ、其ノ他色々ノモノガ考ヘラレルト思ヒマスガ、サウ云フヤウナモノガ偶々憲法ニ法律ト云フモノガアツテ、租税ノコトハ書イテアルケレドモ、他ノモノガ書イテナイト云フコトニナリマスト恰モ法律ニ依ラズシテ、或ハ議會ノ議決ニ依ラズシテヤレルガ如キ感ジガスルノデアリマス、例ヘバ財政的ナ專賣ヲ行フト云フヤウナ時ニ於キマシテ、煙草ノ値段ヲ幾ラデ賣ルカト云フコトハ、本質カラ申シマスルト租税ヲ取ルノト殆ド違ヒアリマセヌ、併シナガラ現行ノ憲法ニ於キマシテハ、租税ハ法律デ決メルト云フコトハアリマスルケレドモ、專賣物品ヲ賣ル時ノ價格ハ法律デナケレバナラヌト云フコトハ一ツモゴザイマセヌ、ソコニ種々ナル解釋ガ生レテ來マシテ、煙草ノ値ヲ上ルコトハ自由自在ト云フヤウナ形ニナツテ居リマス、今度ノ憲法ニ依リマスルト、ソレガ財政、專賣ト云フモノガ財政ヲ處理スルト云フ解釋ニ入リマスレバ、之ニハ法律ノ基礎ガ要ルト云フコトニナラウト思ヒマス、サウ云フ若干ノ點ニ於キマシテ、現在制度ノ謂ハバ行政府ノ專横、財政ニ關スル我儘ト云フモノガ保障サレル、明快ナル標準ガ茲ニ示サレテ居リマスケレドモ、實際ニ於キマシテハ從來ノ不妥當ナル點ヲ補整スルト云フ限度ノ意味シカ持ツテ居ナイト考ヘテ居リマス
○澤田牛麿君 此ノ邊ハ其ノ程度デ止メテ置キマス、ソレカラ八十七條ノ緊急支出ヲ認メナイト云フノデゴザイマスガ、是ハ緊急支出ト云フヤウナコトハ事實必要ノアル場合ガ相當想像シ得ルト思フノデアリマスガ、如何ナル場合デモ緊急支出ヲ認メナイト云フコトハ、國ノ政務ノ上ニ非常ナル不便ヲ來ス場合ガアリハシナイカト思フノデス、ソレ等ハ八十七條デ十分賄ツテ行ケルト云フ御見込デアルノデスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 實際ノ運用ニ於キマシテ不便ヲ避ケルト云フ見地カラ申シマスルト、寧ロ此ノ種々ナル場合ノ準據法規ト云フモノハナイ方ガ宜イノデアリマシテ、モノヲ規律スル所ノ法則ガアリマスレバ實際ノ場合ニ於キマシテ融通無碍ヲ妨ゲルト云フコトハ是ハ已ムヲ得ザル當然ノ結果デアラウト思フ譯デアリマス、併シ人類ノ發展ノ上ニ於キマシテ矢張リ自由自在デヤレルト云フコトニハ幾多ノ弊害ガアル、經驗カラ色々ナ法則ヲ設ケ、例ヘバ現行憲法ニ於キマシテハ財政ニ關シマスル一ツノ規定ヲ置イテ來タ譯デアリマス、ケレドモドノ點迄實際ノ便宜ヲ得、ドレカラ先ハ窮屈ナ規範ノ中ニ入レルカト云フコトハ困難ナ問題デアリマシテ、ソコニ特別ナル謂ハバ技巧的ナル工夫ヲ要スルモノト思ハルヽノデアリマス、現在ノ憲法ニ於キマシテハ、御承知ノ如ク見タ所ハ非常ニ憲章燦然ト致シマシテ、國家ノ動キ方ニハ嚴重ナル規律ガアル、斯ウ云フ風ニ出來テ居リマス、併シナガラ一歩踏ミ込ンデ中ヲ見ルト、謂ハバ樂屋裏ニ入ツテ之ヲ見マスト、有ラユル規則ニ融通ノ利ク餘裕ガヒドク認メテアリマシテ、例ヘバ豫算ニ付キマシテハ色々ナ便法、責任支出ガ解釋上認メラレテ來ル、前年度豫算ヲ施行スルト云フ權能ガ認メラレテ來ル、斯ウ云フコトニナリマシテ、又財政上ノ緊急處分ヲ認メラレル、立法例ニ於キマシテハ、緊急勅令ガアル、其ノ外種々ノ便法ガアル、最後ニハ非常大權ノ規定ガアルト云フコトニナリマシテ、憲法ハ形ヲ整ヘテ居リマスケレドモ、他面ニ於キマシテ實際ノ要求ノ方ニ重キヲ置キマシテ、其ノ妥協ノ結果ガドウ云フコトニナツタカト言ヘベ、立憲政治ガ戰時ノ一時ノ勢ヒデアルトハ申スモノノ、可ナリ歪曲セラレタト云フコトハ否定スルコトハ出來ナイト思ヒマス、ダカラ本當ノ意味ノ民主政治ト云フモノヲ實現致シマスル爲ニ、行政部ガ專横ヲ以テ立法及ビ財政ヲ紛淆ト言ヒマスルカ、ソコニ甚ダ強イ自由ナ働キヲ持チマスルコトハ多少ノ不便ガアリマシテモ、先ヅ抑判スル方ガ宜イデハナイカト云フ所ガ此ノ憲法ノ着想デアリマシテ、斯樣ニ考ヘマシテ、財政ニ關スル面ニ於キマシテハ、現行憲法ノ持ツテ居リマスル政府ニ取ツテ有利ナル多クノ條件ヲ削除致シマシテ、其ノ結果今御説明ヲ戴キマシタヤウニ、財政上ノ緊急處分ノ權利ト云フモノハナクナツテシマヒマシテ、ノミナラズ前年度豫算ヲ施行スルト云フ權能モナクシタ譯デアリマス、サウ致シマスルト御示シニナリマシタヤウニ、實際ノ財政ヲ運用スル上ニ於テ直グニ困ルコトガ起ツテ來ルノデハナイカ、斯ウ云フ疑ヒガ起ツテ來マス、是ハ確カニ困ルコトヲ考ヘナケレバナリマセヌ、ソコデ其ノ一應困ルト思ハレマスルヤウナ部面ヲドウシテ解決スルカト言ヘバ、矢張リ原則ニ立戻リマシテ、出來得ル限リ國會ノ議決ト言フモノヲ基礎ニシテナスベキモノデアル、ソコニ多少ノ自由ガ許サルヽコトハ、是ハ望ムベキコトデアリマスルケレドモ、極度ニナリマスレバ、再ビ指導者原理ノ政治ニ立還ラザルヲ得ナイ、斯ウ云フ見地カラ出來タ譯デアリマシテ、ソコデ今御示シニナリマシタ第八十七條ノ豫備費ノ如キ、場合ニ依リマシテ豫算制度ニ伴ツテ居ル窮屈サヲ之ニ依ツテ緩和シ得ルコトガ考ヘラルヽノデアリマス、更ニ又御尋ノ範圍デハゴザイマセヌケレドモ、絶體絶命ト云フニ近イ場合ガ起リマスレバ、サツキカラ申シテ居リマシタ參議院ノ緊急集會ト云フ方法ニ依リマシテ或程度ノ暫定的ナル財政上ノ措置ガ講ゼラレルト思フノデアリマス、更ニ又年度ノ變リ目ニ於キマシテドウシテモ豫算ノ議了ガ得ラレヌト云フ虞ノアリマス場合ニ、若シ事情許シ得ルナラバ暫定豫算ト申シマスカ、一月二月ト云フ短期間ノ暫定豫算ニ付テ國會ノ議決ヲ經テソレヲ以テヤツテ行ク、サウ云フヤウナ凡ソ三通リノ方法ヲ考ヘマシテ、尚其ノ外ニ豫算ノ作リ方ト云フ點ニ多少ノ注意ヲ用ヒマシテ、先ヅ運用ノ上ニ於テ萬遺漏ナキヲ期スルヤウニ計畫ヲ致シテ居ル次第デアリマス
○澤田牛麿君 サウスルト、例ヘベ會期ノ終リ頃ニ衆議院ガ解散スル時ハ、五十四條ニ依ツテ參議院ガ急遽集ツテ本年度ノ豫算ノ全部若シクハ一部ヲ議シテ、ソレヲ以テ緊急支出ニ充テルトカ、或ハ翌年度ノ豫算ノ直グモウ二三日ニ迫ツテ居ル時ニ解散デモアツタ時ニ、翌年度ノ豫算ガ全クナイノデアルカラ非常ニ困ルト思フノデスガ、ソレハ參議院ノ決議デヤレルト云フ御見込ナンデスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） サウ云フ場合ニハ、今日私自身ノ腹案トシテ居リマスル所ハ、年度變リト云フヤウナ時ニナリマスルト仕樣ガアリマセヌ、豫備費ニ若干ノ餘裕ヲ認メマシテ、其ノ豫備費ガ翌年度分ノ支出ニモ充當シ得ルヤウナ意味ニ於テ豫備費ヲ考ヘルト云フヤウニ致シマスト、ソコニ少シノ餘裕ガ出來テ來ルト思ヒマス、サウシテ解散等ノ場合ニハ、若シ政治上ノ情勢ガ許シマスナラバ、暫定豫算ヲ議決シテカラ解散シテ貰フ、斯ウ云フコトガ考ヘラレルト思ヒマス、ソレモ出來ナケレバ、今御示シニナリマシタ參議院ヲ召集スル、サウ云フ方法ニ依ツテ解決スル積リデアリマス
○澤田牛麿君 其ノ點ハ分リマシタ、次ニ第八十八條デアリマスガ、此ノ「すべて皇室の財産は、國に屬する」、此ノ前半ノ規定ハ、此ノ憲法施行ニ際シテ唯一時的效力ヲ持ツモノデアツテ、永久ニハ何等ノ關係モナイモノデアリマシテ、法ノ性質上、是ハ附則デアルカ何デアルカ、經過法トシテ規定スベキコトデアツテ、憲法ノ本體トシテ規定スベキコトデハナイヤウニ考ヘマスガ、其ノ點ハ如何デスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 大體ノ見方ニ於キマシテハ御説ノ通リト考ヘテ居リマス、併シナガラ此ノ憲法自體ノ建前ハ、皇室ニハ公的財産ヲ屬セシメナイト云フ原理ヲ採ツテ居リマスルガ故ニ、將來何等カノ特別ナル事情ニ依リマシテ皇室ノ公的財産ガ出來タトスレバ、兎ニ角國ニ屬スルト云フコトニナリマシテ、是ガ經常的ナル意義ヲ理論的ナ價値ニ於テ持ツテ居ルノデアリマス、實際的ニハ規定シテアルコトハ疑ヒゴザイマセヌ、併シ將來尚サウ云フ状況ヲ發生セシメナイト云フコトヲ明カニ示ス意味ニ於テ經常的ナル規定ト云フ意味ヲ持ツテ居ル、斯ウ申上ゲタイノデアリマス
○澤田牛麿君 今ノ御説明ハ極メテ巧妙ナ御説明デアリマスガ、モウ既ニ此ノ憲法實施ト共ニ總テノ公的皇室財産ト云フモノハ國ニ屬シテシマフノダカラ、今後何等カノ機會ニ皇室ノ財産ガ出來ル、出來タラ其ノ瞬間ニ國ノモノニナルト云フヤウナコトハ、事實ノ問題トシテチヨツト想像シ得ナイコトト思フノデアリマスガ、寧ロ此ノ半分ダケハ經過法ニ御決メニナツテ、附則ノ方ニ御決メニナツタラ如何ナモノデゴザイマセウカ、ソレハ別ニ御答辯モ要リマセヌケレドモ、私ハドウモサウ思フ、此ノ憲法施行ニ際シテ一時限リノ必要ナ事柄ハ附則ニ當然決メルベキモノダト思ヒマス、ソレハモウ其ノ程度デ止メテ置キマス、ソレカラ下半分ノ總テノ皇室ノ費用ハ國會ノ決議ヲ要スル、是ハ誠ニ私共賛成デアリマス、國會ノ決議ヲ經ルヤウニシタ處ガ、日本ノ國會デ皇室費ニ付テ異議ヲ挾ム者ハ恐ラク絶無ダラウト思フ、又アツタ處ガ一「パーセント」位ノモノデアラウト思フ、此ノ點ハ大變賛成デアリマスガ、サウスルト第八條ニ又逆戻リシマシテ、國會ノ決議ヲ經タモノガ皇室ノ豫算デアルトスレバ、ソレニハ色々相當ノ細カイコトモ決マルデセウ、ソレガアルノニ拘ラズ、此ノ第八條ニ依ツテ皇室ガ勝手ニ何カ分ラヌ者ニ財産ヲ讓リ渡ス、或ハヤルト云フヤウナコトハ事實トシテハ起ラナイコトカト思フノデアリマス、ソレカラ前ノ皇室ノ讓受ケノ方モ、皇室財産ハ總テ國ニ屬スルト云フノデアルカラ、讓受ケヤウガナイ、讓受ケタ處ガ、其ノ瞬間ニ先程ノ御説明ニ依レバ國ノモノニナルノダカラ、是モ要ラナイ規定ト思フノデアリマス、サウスルト要スルニ第八條ト云フモノハ何カ準禁治産者ニ對スル規定ノヤウナ非常ナ匂ヒガスルノデアリマス、一般人民ニハ二十九條ニ於テ財産權ヲ侵シテハナラナイト云フ規定アルニ拘ラズ、皇室ニ付テハ特別ノ制限ガ要ル、一般人民以上ニ制限ヲ受ケルト云フコトハ、ドウモ是ハ皇室ニ對シテ甚ダ不都合ナ取扱ヒデアルト私ハ思フノデス、ソレデ此ノ規定ハ御削リニナツテモ、是ハ甚ダ口幅ツタイ言ヒ分デ、ソンナ權限ハオ前ニハナイヂヤナイカト云フ風ニ言ハレマスレバソレ迄デアリマスガ、恐ラクハ貴族院デ一人トシテ此ノ規定ヲ削ルコトニ付テ反對ノ意見ヲ持ツ者ハナカラウカト私ハ想像スルノデアリマス、又政府ニ取リマシテモ、此ノ規定ヲ削ツタ方ガ恒常的、保守的存在デアルト云フヤウナ非難ヲ政府ガ受ケルコトヲ防ギ得ルノデアリマス、是ハドノ點カラ見テモ、第八條ハ八十八條トノ關係ニ於テ削除スベキモノダト思フノデアリマスガ、御意見ヲ伺ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 第八條ト第八十八條トハ直接關係ハアルト云ヒマスカ、ナイト云ヒマスカ、ナイト云フ方ノ説明ノ方ガ大體ニ當ツテ居リマス、何トナレバ、第八十八條ノ後段ノ規定ハ、金錢自體ノ支辨ノ皇室ニ關スル經費ヲ國カラ出ス、斯ウ云フコトノ原則デアリマス、處ガ八條ノ規定ハ、國カラ出スト云フコトノ關係ハ一部分デアリマシテ、廣イ範圍ニ亙ツテ居リマスルシ、事柄自身モ豫算ノ施行デハアリマセヌデ、現實ノ財産ヲ動カス、物質デ、動産デアリ、不動産デアリ、金錢デアリ、ソレ等ヲ全部動カシテ居リマスルカラ、直接關係ガゴザイマセヌ、若シ御疑念ガアルト致シマスルナラバ、獨立シタ論點ニ於キマシテ第八條ヲ置クコトガ宜イカ惡イカト云フコトニナツタト存ズル譯デアリマス、ガ、八條ヲ置キマシタコトハ、繰返シ申上ゲマシタヤウニ、皇室ノ御地位ヲ政治ノ紛糾ノ中ニ置カナイト云フ觀點カラ致シマシテ、有ラユル角度カラ研究ヲ進メテ斯樣ナ所ニ結論ヲ得タ次第デアリマシテ、一ツ一ツ申上ゲマスルコトハ、誠ニ時間ヲ取リマスルカラ避ケマスルケレドモ、相當意味ノ深イ規定デアリマスルガ故ニ、之ヲ削除致シマスルコトハ、一面ニ於テ御滿足ヲ得ラルヽ要素ガアリマセウケレドモ、大局カラ申シマシテ如何ナモノデアラウカト私ハ固ク信ジテ居ル次第デアリマス
○澤田牛麿君 私ノ質問ハ是デ打切リマス
○委員長（安倍能成君） 次ハ佐々木委員デスガ、大藏大臣ニ御質問ガアルヤウデアリマスガ、大藏大臣ハ閣議デ御出席ガ出來ナイノデ、主計局長ガ來ラレルサウデアリマス
○佐々木惣一君 私ハモウ大藏大臣ニハ取消シテ居リマス、ドナタデモ宜イカラ、斯ウ云フ風ニ言ツテ居リマスカラ、金森國務大臣ニ御願シタイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ佐々木委員
○佐々木惣一君 ソレデハ私モ、極ク條文ガ多イノデスケレドモ、先刻來伺ツテ居リマシタ八十三條デスネ、國會ノ議決ニ基イテ國ノ財政ヲ處理スル權限ハ行使シナケレバナラヌトカ何トカ云フコトハ、詰リ今例ヘバ會計法ミタイナモノガアル、アヽ云フ風ナ法規ヲ、國會ノ議決ニ依ル法規デモ作ツテ、サウシテソレノ一般的ノ方針ヲチヤント豫メ決メテ置カナケレバナラヌト云フヤウナコトデハナイデスカ、一般的ニ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） サウ云フ場合モアリマスルケレドモ、サウ云フコトノミデハナクテ、私ガ先ニ申シマシタヤウニ、八十四條以下ニアリマスル總テノコトヲ概括シテ言ツタト云フ意味ノ方ガ強イト思ツテ居リマス
○佐々木惣一君 ソレデ宜シウゴザイマスガ、ソレカラ八十四條ノ租税トアリマスノハ、國税ニ限ルノデアリマスカ、地方税ヲモ含ンデ居ルト云フ風ニナリマセウガ、之ヲ伺ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ場合ニ於キマシテハ、國税ヲ指シテ居ル意味ニ了解致シテ居リマス
○佐々木惣一君 國税ヲ‥‥、サウデスカ「法律又は法律の定める條件」ト云フノハ、ドウ云フコトニナルノデゴザイマスカ、「法律の定める條件」ト云フ解釋デスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） ソレハ結局ハ、法律ニ依ルト云フコトニナルト思ヒマス、併シナガラ法律直接ノ規定ニ依リマセヌデ、例ヘバ法律ニ依ツテ何カ設ケタル特殊ナル審議機關ヲ通シテ、其ノ審議機關ノ決定シタル標準ニ依ルト云フヤウナコトモ考ヘラレマス、謂ハバ可ナリ廣汎ナル委任ノ問題ニナツテ居リマスガ、サウ云フ場面ガ普通ニハナイコトト思ヒマスガ、例ヘバ關税ナドノ外國カラ來ル物ニ掛ケル關税ナドニ付キマシテハ、法律ナドデナカナカ直接ニ其ノ税額ヲ決メルコトモ困難ナ場合ガアリマス、サウ云フコトニ裕リヲ付ケル爲ニ、廣汎ナル委任ガアルト云フコトヲ豫想シテ規定シタノデアリマス
○佐々木惣一君 此處デハ矢張リ命令ニ委任シタト云フヤウナコトガ一層或條件ヲ、場合ヲ決メテ、斯ウ云フ場合ハ命令ヲ以テ決メルト云フコトモ是デ以テ行ケル譯デスネ、一般的ノ委任命令ト云フ理論以外ニ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス
○佐々木惣一君 サウデスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 法律デ定メル條件ト云フコトデアリマスガ故ニ、勿論法律デ定メル條件ニナリマスガ、其ノ結果トシテ他ノ命令‥‥命令デナクテモ、モウ少シ細カイ規定カモ知レマセヌガ、ソレニ法律ガ若干ノ要件ヲ付託スルコトガアリ得ルト思ヒマス
○佐々木惣一君 チヨツト分リニクイモノデスカラ、法律ニ定メタ要件、此ノ租税、國税ノ用途ヲ定メマシテ、例ヘバ具體的ニ言ヘバ、今復員救濟事業ト云フ、其ノ費用ニ充テルト云フヤウニ、用途ヲ定メタル租税ト云フモノハ矢張リ許サヌト云フ考デアリマスカ、ソレハ許スト云フ‥‥租税ト云フモノノ性質一般論デアリマスケレドモ、ソレニ變更ガアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 細カイ問題ニナリマスト、何トモ非常ニ正確ニハ私ノ智慧デハ御答シニクイモノデスガ、大體サウ云フコトモ禁ジテ居ル趣旨デハナイト、斯ウ云フヤウニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 分リマシタ、サウナリマスト云フト、其ノ點デサウ云フコトモ禁ジテナイト云フコトニナリマスト、是ハ非常ナ變更ダト思ヒマス、財政法規上‥‥ソレデ是ハ實ハ私個人ノ意見トシテサウ云フコトニ賛成スルノデスケレドモ、禁ジテナイト云フ御説明ガ非常ナ變革ダラウト思ヒマス、租税ノ性質ニ‥‥、ソレカラシテ少シ御尋ネ申上ゲマスガ、先刻國務大臣ノ仰シヤツタ、例ヘバ道路負擔トカ云フヤウナ負擔金デスネ、其ノ負擔金ハ租税ニハ無論入ラナイ、性質上‥‥、サウスルト云フト、ソレヲ法律ニ依ラナケレバサウ云フ性質ノ負擔金ハ課セラレヌト云フコトハ、此ノ八十三條ノ國會ノ議決ニ基イテデナケレバ、サウ云フ財政上ノ處置ヲ執ルコトハ出來ナイト云フ規定ノ解釋上、負擔金ハ法律ニ依ル、斯ウ云フコトニナリマスカ、或ハ八十四條ノ租税トハ違フケレドモ、マア租税類似ノモノデアルカラト云フヤウナ解釋ニ、ドチラデ行クノデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ナモノハ本當ヲ言ヘバ、規定ガナクテモ、個人ノ財産ヲ國家ノ目的ニ命令デ取上ゲルト云フコトハ、國民ノ權利ノ方カラ言ツテモ出來ナイコトト思ツテ居リマス、ナクテモ行ケルト思ヒマシタガ、アト斯樣ナ規定ヲ設ケマシタ時ニ八十三條ニ入ルベキモノカ、八十四條ニ入ルベキモノカト云フコトニナリマスレバ、實ハ是ハ解釋問題ニナラウカト思ヒマス、ソレハ私自身ノ現在迄ノ研究ノ結果トシテハ、若シ八十三條ガナカツタトスレバ、今ノヤウナ租税類似ノ負擔金ハ、八十四條ノ解釋ノ範圍ニ入ツテ來ルト存ジテ居リマス、併シナガラ既ニ八十三條ノ一般原則ガアリマスガ故ニ、根本ニ於キマシテハ八十三條ガ働イテ、基本ノ原則ヲ決メル、サウシテ個々ノ點ニ於キマシテハ、例ヘバ「定める條件」ト云フヤウナ規定ノ響キハ八十四條ノ準用ト云フコトニナラウカト思ヒマス
○佐々木惣一君 ソレカラチヨツト現行法ト非常ニ違ツテ居ル所ハ、例ノ御存ジノヤウナ手數料トカ、使用料トカ云フコトニ關スル規定ガナイ譯デスガ、サウスルト、アヽ云フモノハ此ノ憲法デハドノ規定ニ基イテ之ヲ徴收スル、斯ウ云フコトニ相成リマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 現行法ノ規定ヲ憲法ニ於テ特ニ改正スルト云フ趣旨ハ持ツテ居リマセヌ、現行法ノ手數料ニ關シマスル規定ハ恐ラク自明ノ理ヲ書イタニ近イノデハナカラウカ、ダカラ書カナイ方ガ却テ宜イノヂヤナイカ、ダカラ純粹ノ、行政上ノ報償ノ性質ノモノデアルナラバ、何モ法律ニ依ル必要ハナイ、併シ法律ニ依ル意味ヲ持ツテ居ル使用料、手數料デアリマスカラ、此ノ八十三條ニ入ツテ行ツテ法律デナケレバナラヌト云フコトニナリマス
○佐々木惣一君 ソンハ報償デアルカラ別ニ規定ガ要ラヌト云フノデアリマセウカ、行政上ノ報償或ハ訴訟費用、サウ云フノハドウ云フ風ニナリマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 勿論行政上ノ報償デアルカラト云フヤウニ了解シテ居リマシテ裁判上ノコトハ法律上デ諸般ノ問題ガ決マリマスカラ、ソチラノ解釋ニ行クモノト斯ウ考ヘマス
○佐々木惣一君 サウシマスト郵便料ノ如キハ是ハ所謂行政上ノ報償ニ屬スルコトニナリマスカ、現行制度ハ別ニ郵便法ガアルケレドモ、アノ法律ノ規定ヲ離レテ行政上ノ報償ト云フコトニナリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 其ノ點ニ付キマシテハ、寧ロ御研究ノ結果ヲ御伺ヒ致シタイト思ツテ居リマス、私共日本ノ今ノ一種ノ國家ノ獨占事業ニ屬スル部分ニ於キマシテハ、單純ナル行政上ノ報償デアルカ、或ハ特別ナル經費負擔ヲ國民ニ要求シテ居ル、非常ニ紛ラハシイ點ガアリマス、ソレヲ實際ニ裸ニ剥イテ本當ニ報償ノ性質ヲ持ツテ居ルカ、報償以上ニ出テ居ルカト云フコトヲ見分ケテ個々ノ制度ヲ立ツベキモノト思ツテ居リマスガ、實際上サウ云フコトハ出來ナイカモ知レマセヌ、サウナレバ妥當ナル方法トシテハ、結局若干ノモノハ法律ニ依ルト云フ方面ニ移ラナケレバ筋ガ通ラヌデハナイカト斯ウ考ヘテ居リマスケレドモ、併シソレハ全ク八十三條ノ解釋ノ範圍ニ屬セシムル、斯ウ云フ風ニ了解シテ居リマス
○佐々木惣一君 私モ郵便料ノ如キハ是ハ矢張リ行政上ノ報償ニ屬スル、併シナガラ專賣ノ煙草ノ値段ト云フヤウナコトハ是ハ行政上ノ報償ト云フコトデナシニ、國家ノ財政上ノ詰リ收入ト云フモノヲ目的トシタ收納金ダト思ヒマスカラ、ソレハモウ當然ニ先刻御説明ノ八十三條ニ法律ニ定メナケレバナラヌケレドモ、併シ郵便料ト云フモノハ之ヲ法律的ニ決メルト云フコトヲ許サレルト云フコトハ當然デアリマスケレドモ、此ノ憲法ノ規定デハ法律デナクテモ宜イ、憲法ダケノ規定デハ先刻ノ御説明ニ從ヘバナルヤウニ思ヒマスケレドモ、ソレハソレデ宜シイ、行政上ノ性質ヲ持ツテ居リマスカラ、デアリマスカラ、ソレハソレデ宜イト致シマシテ、ソレカラ八十五條ニ移リマス、此處ニ「國が債務を負擔する」ト云フコトガアリマスガ、債務ト云フノハ言フ迄モナク廣イ言葉デアラウト思ヒマス、債務ト云フ字自身ハ廣イノデアリマスガ、是ハ勿論金錢上ノ負擔ト云フモノヲ生ゼシムルヤウナ債務デアリマスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ニ思ヒマス
○佐々木惣一君 現行法デハ國債ト云フコトガアリマスガ、國債ト云フノハ從來分ツテ居リマスケレドモ、債務ト云フノハ少シ文字ガ廣イノヂヤナイカト思フノデアリマスケレドモ、從ツテ今ノ御尋デ明カニナツタヤウナ解釋ヲ明カニシテ置クト云フ必要ガ益々出テ來ル、ソレカラ例ノ所謂大藏省證劵トカ、一時借入金ト云フヤウモノハ矢張リ議論ガアル所デスカラソレデ伺ツタノデスガ、八十五條ニ依リマシテ、「國會の議決に基くことを必要とする」ト云フ部分ニ入ルノデアリマスカ、入ラヌノデアリマセウカ、起案者ノ御趣旨ハ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 仰セノ通リ議論ノアル問題デアリマシテ、私ガ此處デ意見ヲ申シマシテモ發達シテ居ル議論ノ道行キヲ變化スルコトハ固ヨリナイト思ヒマスガ、私自身ハ國家ガ總テ債務ヲ負擔スルト云フコトハ、豫算ノ認メテ居ル範圍外ニ於テハ當ツテ居ル、從ツテ大藏省證劵モ、アレハ豫算ノ支出トハ違フノデアリマスカラ、私ハ矢張リ之ニ當ルモノト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 私ハ解釋ヲ伺ツタノデス、ソレカラ八十六條デスガ、此ノ八十六條ノ「内閣は、毎會計年度の豫算を作成し、」トアリマスガ、此ノ會計年度ト云フノハ、詰リ暦年ノ一年ト云フコトハ一ツノ會計年度ニナル、一年ヨリ短イ期間ハ一ツノ會計年度ニハ入ラヌ、斯ウ解釋シテ宜シウゴザイマスカ、ソレハ現行憲法ハ毎年トアリマスカラソレデ問題ハ解決シテ居ルノデスガ、矢張リ一年ガ一ツノ會計年度ダ、斯ウ云フ風ニ解釋シテ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 豫算ヲ含ンダ財政一般ノ規定ハ色々ナ沿革或ハ學理等ヲ含ンデ居リマシテ、私ニハ實ハ傳統的ナ學理ニ迄溯ツテ申上ゲルコトハ能力ノ範圍ヲ超越シテ居リマスガ、此ノ會計年度ト云フコトハ暦ノ一年ニ限定セラレルト云フ考ヲ持ツテ居リマセヌ、此ノ言葉自身ハ一年ヨリ短イ期間ヲモ會計年度ト云フノデアルシ、一年ヨリモ長キ期間ヲモ會計年度ト言ヒ得ルノデアル、併シナガラ自ラ年度ト云フ言葉ヲ使ツテ居リマスコトカラ、常識的ニヒドイ幅ノアリ得ルコトハ、ソレハ法律的ニモイカヌト云フ風ニナラウト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 サウスルト會計年度ト云フ言葉自體ハ別トシテ、此ノ憲法デ謂フ會計年度ト云フ言葉ハ一年ヲ一ツノ會計年度トスル趣旨ダト解釋シテ宜シウゴザイマスネ、此ノ憲法ニ規定シテアル會計年度ト云フ意味ハ別トシテ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 一年ヲ原則ト云フ言葉ノ意味、ソレヨリハ少シハ局部的幅モゴザイマスシ、變化ヲ受ケルト云フコトヲ前提トシテ暦ノ一年ニ近イモノヲ標準トスル、斯ウ云フ建前デ行ツテ居リマス
○佐々木惣一君 分リニクイヤウデスケレドモ分リマシタ、兎ニ角モツト具體的ニ言ヘバ、物價ノ非常ナ變動ガアルトカ、先ガナカナカ見透シガツカヌト云フヤウナ時ニハ、六箇月ヲ一ツノ會計年度トシテ豫算ヲ編成スルト云フコトハ、其ノ程度ハ許サレマセヌデスネ、ト云フコトヲ御尋シテ居ルノデスガ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） ソレガ許サレナイト云フ信念ハマダ持ツテ居リマセヌ、會計ト云フモノノ持ツテ居ル一般ノ原理カラ考ヘマシテソンナ窮屈ナモノデナイ、大體我々ハ會計年度或ハ「アニユアル・バゼット」ト云フ言葉ノ示ス如ク年ヲ單位トシテ考ヘテ居リマスケレドモ、具體的ニサウ云フダケノ考ヲ持ツテ居リマセヌ、詰リ之ニ基キマスル會計法ニ依ツテ其ノ邊ノコトハ規定出來ルモノト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 私ハ立法論ヲシテ居ルノデハナイ、解釋ダケハツキリ伺ツテ置カウト思ツテ伺ツタノデアリマス、ソレカラ豫算ノ作成ト云フコトノ、「豫算を作成し」トアリマスガ、是ハドウ云フ意味デアリマセウカ、内閣ガ豫算ヲ‥‥此ノ前ニモ内閣モ一般行政事務ノ所ニ出テ居リマシタガ、豫算ノ作成ト云フコトト、詰リソレカラ豫算ノ編成ト云ヒマスカ、ソレト豫算ノ詰リ調製ト云フ別ノ言葉ガ會計法デ使ツテアリマスガ、サウ云フ事務ヲ執ルモノハ内閣ニ屬スル、豫メ大臣ヲ例ヘバ今デハ大藏大臣ニナツテ居ル、サウ云フヤウナコトハ是デハ規定ガナイノデアリマスケレドモガ、豫算ノ作成ト云フノハ、所謂豫算ノ調製ト違ツテ、事務トハ違ツテ、其ノ事務ヲ執ル者ハ特定ノ大臣ト云フコトヲ此處デ指定爲サル法律カ何カデ‥‥、其ノ方針デアリマセウネ、ソレガ憲法違反デナイデセウト云フコトデ、大藏大臣ガ豫算ノ調製ノ事務ヲ執ルトシテモ、内閣ガ作成スルト云フノハ違反ト云フヤウナ議論ガ起ラヌカドウカト云フコトヲ伺ツテ見タイ
○國務大臣（金森徳次郎君） ソレハ此ノ今御示ニナリマシタ第八十六條ニモ、内閣ガ提出シタトアリマスシ、又第七十三條ノ内閣ノ制度ノ所ニモ、内閣ガヤルコトニナツテ居リマス、デ内閣ガ豫算作成ノドノ部分ヲ擔任スルカト云フコトニナリマスルガ、結局豫算ノ作成ト云フ其ノ本體ハ、豫算ト云フモノヲ確定スルコトト、其ノ確定スル前ノ内容ヲ決定スルコト、其ノ邊迄ハ内閣デヤリマシテ、其ノ準備行爲ニナリマスル部分ハ、現在ノ考ヘ方デハ矢張リ大藏省ガ、他ノ收入支出等ノ知識ヲ茲ニ集メテ來テ、纒メテ拵ヘルノガ宜イ、サウ云フヤウナ風ニ考ヘテ居リマス、結局ソレハ内閣ノ豫算ノ作成權モ、提出權モ害シテ居ル譯デハゴザイマセヌカラ、憲法違反ニハナラナイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 私ハ豫算ノ作成ト云フ言葉ガ、其ノ言葉ノ中ニ、大藏大臣ニ特ニ或事務ヲ委ネルト云フコトハ之ニ牴觸スルト云フヤウナ議論ガ起ルト大變ト思フモノデスカラ、其ノ解釋ダケヲ伺ツテ置クノデス、ソレカラ矢張リ豫算ニ關スルモノデアリマスケレドモ、此ノ憲法自體カラ直接ニ出テ來ルカモ分ラヌト思ヒマスケレドモ、總豫算、統計豫算ト云フモノトシテ毎年豫算ヲ作ルト云フコトガ、本來ノ建前デアツテ、特別會計豫算トカ、或ハ追加豫算トカ云フヤウナモノ、サウ云フモノハ、ソレヲ認メテ行ケヌノデハナイノダケレドモ、併シナガラ兎ニ角本來ノ建前トシテハ、ソレハ特別ノ必要アル場合ニ限ツテ之ヲ認ムルト云フヤウナ建前デ解釋シテ宜シウゴザイマセウカ、此ノ憲法ハ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ナ意味ヲ以テ草案ヲ作ツテ居リマスシ、實行面ニ於キマシテモ總豫算主義ヲ可ナリ極度ニ徹底シタイト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 ソレハ違憲デナイニシテモ、隨分ソレガ濫用サレテ居ルカモ知レマセヌデスカラ、或ハ其ノ餘地ガアリマスルカラ、違憲デナイニシテモ、建前、法則ガ總計豫算主義デアルト云フコトガハツキリナツテ居ルト云フコトハ非常ニ良イコトト私ハ思フモノデスカラ、ソレデ伺ツタ譯デモアリマスノデス、ソレカラ繼續費ノコトニ付テ、今度ノ憲法ニハ何等規定ガナイノハ、是ハ繼續費ト云フモノハ認メナイ、斯ウ云フ御趣旨デアリマスデスカ、ドウデスカ、ソレヲ伺ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 繼續費ハ現在ノ此ノ憲法ニアリマスルヤウナ特殊ノ形ニ於テハ之ヲ認メマスヌケレドモ、豫算ガ繼續費的ニモ存在シ得ルト云フ前提ノ下ニ、草案ヲ計畫シタ譯デアリマシテ、詰リ繼續費ト申シマスルモノハ、ムヅカシイ理窟ハ存ジマセヌケレドモ、結局、或特定ノ費目ニ付キマシテ、豫算年度ガ普通ノ暦年ヲ食ミ出シテ二年ニ亙リ、三年ニ亙ルト云フコトニナラウト思ヒマス、デスカラ原則ハ一年ヲ亙ツテ居リマスルケレドモ、或特定ノ費目ニ付キマシテハ、少シ一年ヲ食ミ出シテ行ク繼續費ト云フモノハ、濫用セラレナイ限リアツテ宜シイモノデアルト思ヒ、又此ノ憲法ハソレヲ禁ズル趣旨ヲ含ンデ居ナイ譯デアリマス
○佐々木惣一君 其ノ繼續費ハズツト繼續期間ヲ定メテ、サウシテ其ノ繼續費デ一遍協賛ヲ經タナラバ、其ノ次ノ年度カラハ、無論豫算面上ニハ計上スルノダケレドモ、併シナガラ議會ノ方デ自由ニソレヲ削減シタリスルコトハ出來ナイ、所謂實質上ノ意味ノ協賛ヲ要シナイト云フノガ繼續費ダト思フノデスガ、サウ云フモノハ認メナイ、矢張リ豫算ハ一々次年度カラモソレニ對シテ自由ニ協賛ハスル、斯ウ云フコトニナル譯デスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ナ御趣旨デハゴザイマセヌ、次年度カラハ一般ノ豫算ノ中ニ計數上ハ組入レマスガ、國會ノ議決ハ要シナイト云フ考デアリマス
○佐々木惣一君 サウ云フコトト相成リマスルト云フト、サウ云フ意味ノ繼續費、今日ノ制度ノ如キ繼續費ト云フモノヲ認メルト云フコトニ相成リマスルト、ソレハドウモ憲法ニ規定シナクテモ、ソンナモノハ出來ルデセウカ、例ヘバ會計法位デ‥‥、サウ云フ性質ノ繼續費トスレバ、ト云フコトヲチヨツト伺ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 憲法ハ豫算ヲ作ルト云フコトヲ考ヘテ居リマシテ、其ノ豫算ト云フモノニ對シテ非常ニ嚴重ナ、特殊ナ制限ヲ置イテ居リマセヌ、從ツテ繼續費モ其ノヤウナ廣イ意味ノ豫算ノ一種デアルト理解シ得ルナラバ、此ノ憲法ニハ何等規定シナクトモ、繼續費ヲ設ケ得ルモノト考ヘテ居ル次第デアリマス
○佐々木惣一君 詰リ豫算ハソレガ自然ノ暦年デアラウガ、一箇ノ會計年度毎ニ議會ノ協賛ヲ經ルト云フコトガ建前デアルト思ヒマス、カラシテ、サウ云フ風ニ一遍協賛ヲスレバ、次年度カラハ議會ハソレニ付テ協賛ヲ自由ニスルコトガ出來ナイト云フヤウナ、サウ云フ意味ノ繼續費ガ、今ノ御言葉ノヤウニ、サウ云フコトガ憲法ノ規定ニナケラネバ、ドウモ議會ノ豫算審議權ヲ害スルヤウニ思ヒマスガ、憲法ニ規定ガアレバ宜イガ、ナケレバト思ヒマスガ‥‥、今度ノ憲法ニ繼續費ノコトガナイノハドウカト思ツテ伺ヒマシタガ、唯意見ノ相違ニナリマシタケレドモ、念ノ爲ニモウ一遍伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 豫算ト云フモノハ今仰セニナリマシタヤウニ、一定ノ金額ヲ決メテ、其ノ支出ヲ是ナリト云フ國會ノ議決ヲ決定的ニ經ル所ニ豫算ノ本質ガアルト思ヒマス、從ツテソレダケノ範圍ニ豫算ヲ限定致シマスナラバ、十年先ノ豫算ヲ一遍ニ議定シテモ宜イト云フ理窟ニナラウト思ヒマス、併シ左樣ナコトハ一國ノ制度トシテ豫算制度ヲ認メルニハ不適當デアリマスカラ、此ノ憲法ハ固ヨリ一年々々ノ豫算ト云フコトヲ眼目ニシテ居リマシテ、ソコデ毎會計年度ト云フ言葉ガ生レテ來ルノデアリマスガ、併シ其ノ意味ハ原則的ナル意味デアリマシテ、豫算ト云フモノノ持ツテ居ル複雜多岐ナル性質ハ、自ラ之ニ或範圍ノ解釋ノ廣サヲ與フルモノデハナイカト思ヒマス、從ツテ此ノ憲法ノ許シテ居リマスル豫算ノ本體ハ、先ヅ暦年ニ依リマシテ一年分ノ豫算ト云フコトニナツ居リマスケレドモ、其ノ中ノ或特殊ナ費目、特殊ナ點ニ付キマシテハ、ソレガ一年間ノ豫算デナクテ、二年間ノ豫算デアリ、三年間ノ豫算デアルト云フ食ミ出シ的ナ意味ノ議決ヲ經ルコトモ考ノ中ニ入レマシテ、ソレヲ豫算ト言ツテ居ル、斯ウ云フ風ニ理解シテ居リマス、デアリマスカラ、一ツノ總豫算ノ中ニ繼續費的ナル費目ヲ含ンデ居リマシテモ、ソレデ豫算トシテ何等差支ナイデハナイカト、斯ウ考ヘマス、翌年度ノ豫算ニ其ノ繼續費ニ當リマス經費ヲ併セテ數字トシテ載セルコトガアリマシテモ、ソレハ唯數字ヲ集計致シマス便宜上載セルノデアリマシテ、何モ翌年度ノ本當ノ意味ノ豫算ト重複スルモノデハナイト、斯ウ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 ソレデ御解釋ノ御趣旨ノ意味ハ分リマシタガ、唯サウ云フ意味ノ繼續費ヲ憲法ニ規定スルコトナシニ、ドウセ會計法カ何カデ規定スルノデセウガ、ドウモソレハ憲法ノ解釋トシテハ、私自身モ無論研究シテ見マスケレドモ、尚ドウモ御説ノヤウニ納得出來ナイノデアリマスガ、チヨツトソレダケノコトヲ申シテ置キタイ、サウ云フコトハ留保シテ置キタイト思ヒマスガ、ソレカラ私ガ申上ゲタイノハ、豫算ニハ現行憲法デハ、詰リ豫算ノ項目ニ付テ、或憲法的效果ガ決ツテ居ル、詰リ款項ト云フモノハ流用スルコトガ出來ナイト云フヤウナコトハ、文字ハ憲法ニナイノダケレドモ、他ノ規定カラシテモハツキリトナツテ居リマスガ、今度ノ憲法ニ於キマシテハ、豫算ノ項目ノコトニ付テハ、直接ハ勿論ノコト、間接ニモ何等ノ示シガナイノデアリマシテ、豫算ニ色々ナ項目ガアリマシテモ、ソレハ政府ノ行政的ノ考デ自由ニ流用スルコトガ出來ル、少クトモソレガ法律上許サレルニシテモ、憲法上ハ差支ナイヤウニモ見エルノデアリマスガ、サウ云フ風ニ解釋シテ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ナ部分ニ付テ、議會ハ豫算ヲ議決致シマスル時ニ、如何ナル内容ヲ以テ議決スルカ、左樣ナ流用ノ利クモノトシテ議決スルカ、利カザルモノトシテ議決スルカト云フコトハ、結局八十三條ノ本ニ歸リマシテ「國會の議決に基く」ト云フコトノ内容トナツテ來ルト思ヒマス、サウ云フコトハ結局會計法ニ依ツテ、或程度迄會計法デ決メマシテ、ソレガ問題ヲ解釋スル標準トシテ認メラレル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 私ノ申上ゲテ居ルノハ、詰リ憲法論デスカラ、會計法ガドウセ細カイ規定ヲ決メルノデアリマスカラ、其ノ會計法ヲ決メル時ニ、其ノ流用ト云フコトヲ認メル限度ニ付テ、憲法ガ何等カ限定ヲシテ居ル、詰リ款項ハ流用ガ出來ナイケレドモ、其ノ目トカ云フヤウナモノノ間ニハ流用出來ルト云フコトハ會計法以下デ決メル、併シナガラ款項ノ流用ト云フコトハ、會計法以下デハ決メラフレナイ、ソレハ現行憲法ガ之ヲ禁ジテ居ルト云フコトデ、サウ云フヤウナ會計法以下ノコトニ付テ、憲法上ニ於テ何等カ拘束ガアリハシナイカ、今度ノ憲法デハ何等アリマセヌガ、流用ヲ會計法ガ決メテモ憲法其ノモノデハ違反セヌト云フコトデハ、是ハ或意味ニ於テ大變ナコトニナリマスカラ、是ハ憲法論デスカラ、サウ云フ議決ガアツタ時ニソレヲ尊重シテ流用セヌト云フコトハ行政運用論デスカラ、憲法論トシテ申上ゲタノデスケレドモ、今伺ツタダケデ分リマシタノデアリマスケレドモ、尚モウ一遍其ノ點ハドウデゴザイマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 豫算ト云フモノニハ自ラ一定ノ意義ガアルモノト思ヒマス、ダカラ全體ノ額ダケニ付テ議會ガ承諾ヲスルト云フコトハ、是ハ恐ラク豫算ト云フ概念ニ該當シナイノデアリマス、ダカラ何處迄ヲ具體的ニ決定スルカト云フコトハ、詰リ斯樣ニ日本ガ獨特ニ作ツタモノデハナイ、自ラ世界的ナ沿革ヲ以テ發達シテ居リマスカラ、ソコニ文字ニ書カナクテモ、根本ノ原理ガアルノデハナカラウカ、其ノ原理ヲ基本トシテ會計法ハ、恐ラク執行ノ法律トシテ現ハレテ來マス、今ノヤウナ何處ニモ制限ノナイ憲法ノ規定デアルト解スルコトハ、必ズシモ私ハサウヂヤナイト思ツテ居リマス
○佐々木惣一君 チヨツト私マダ理解出來ヌコトガアリマスケレドモ、其ノ點ハソレデ質問ヲ打切ツテ置キマスソレカラ今度ハ八十七條ニ「豫見し難い豫算の不足に充てるため、國會の議決に基いて豫算費を設け」トアリマスガ、是ハ豫算外ノ支出ト云フコトハ、此ノ憲法ノ「豫算の不足」ト云フコトニ含マレテ居リマヒウカ、詰リ其ノ事項自體豫算ノ豫想シナカツタモノデナシニ、現行憲法デハ御存ジノヤウニ、豫算外ノ支出ト、豫算不足ト豫算超過ヲ規定シテアリマスガ、會計法デモサウデアリマスガ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ現行憲法トハ違ヒマシテ、「豫算の不足」ト云フコトハ文字通リニ取リマシテ、豫算費目ソレ自身ガナイ、ガ又費目アルケレドモソレニ適當ナル金額ガ不足シテ居ル場合、双方ヲ含ムコトヲ規定シテ居リマス
○佐々木惣一君 詰リ豫算外支出ト云フコトモ含ンデ居リマス譯デスナ、現行法デ言フ不足‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス
○佐々木惣一君 イヤ能ク分リマシタ、今度ハ例ノ八十七條ニ關聯シマシテ豫算ノ不成立ノ場合、先刻來色々御話モアリマシタノデアリマスガ、此ノ豫算ノ不成立ノ場合ニ付テ、今度ノ新憲法案デハ何等規定ガナイノデアリマスガ、ソコデ暫定豫算ト云フヤウナコトガ、ドウ云フ意味カ分リマセヌケレドモ、暫定豫算ナルモノハ先刻伺ツタ所デハ分リニクカツタノデアリマスガ、何時暫定豫算ト云フモノヲ編成スルノデアリマセウカ、或ハ豫算ノ成立シナカツタ其ノ前ノ年度ニ、或ハ暫定豫算ト云フモノヲ何カ作ルノデアリマスカドウ云フコトデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 暫定豫算ト申シマスルノハ、結局正式ナル豫算ガ出來ナイヤウナ事情ガアリマスル時ニ、其ノ原則トシテ一部分ニ付テ、議定ヲ經テ居ル、斯ウ云フ趣旨ニ於テ暫定豫算ト云フ言葉ヲ私ハ用ヒテ申上ゲテ居ツタノデアリマス、デアリマスルカラ結局非常ノ場合ニ備フルモノデアリマシテ、不動的ノモノデナイコトハ申上ゲル迄モアリマセヌ、ソレガ一番適用ガ起リマスノハ、マダ豫算年度ニ入ラナイ前ニ國會ノ議決ヲ得テ置キマシテ、ソレヲ以テ新タナル豫算年度ニ入ツタ時ノ當面ノ經費ノ支出ノ目的ニ充テヨウ、是ガ一番普通ノ場合ノ暫定ノ豫算デアラウト思ヒマス、併シナガラ何カノ關係デ既ニ暫定豫算ヲ以テ會計年度ノ支出ガ使ハレテ居ルト云フ時ニ、マダソレダケデハ足リナクナリマシテ、新タナル暫定豫算ヲ作ラナケレバナラヌト云フコトモ起リ得ヨウト思ヒマス、例ヘバ四月分ノ豫算ハ經常的ニ前カラ暫定豫算ト云フ、國會ノ議決ヲ經テ居リマスルケレドモ、四月ニナツテ來テドウモ本豫算ハ迚モ直グニハ成立シサウモナイト云フコトニナリマスルト、又四月ニ五月分ノ暫定豫算ヲ提出シテ議決ヲ經ル、斯ウ云フコトモアラウカト思ヒマスルカラ、暫定豫算ノ應用面ハ可ナリ廣イモノト考ヘマス
○佐々木惣一君 能ク分リマシタ、是ハ要スルニ豫算成立ノ場合ニハ、憲法ニ何等規定ガナイカラ其ノコトニ付テノ處置トシテハ法律デ之ヲ別ニ定メ得ル、サウ云フ解釋ヲ取ツテ宜シウゴザイマス其ノ不成立ノ場合ノ處置トシテ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 少シ誤解ヲ生ジ易イト思フノデアリマスガ、勿論法律デサウ云フ場合ヲ規定致シマスガ、憲法ノ豫算ニ關スル規定ノ適用トシテサウ云フモノヲ作ル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 ドウモ私ハシツクリシマセヌケレドモ、尚細カクナリマスカラ止メテ置キマスガ、但シ此處ハ非常ニ重大デアルカラシテ、ドウセ此ノ憲法ヲ實施スル爲ニ色々ナ會計制度ガ出來ルニ違ヒナイノダカラ、此ノ場合ニドウカ概念ヲハツキリトシテ、サウシテ其ノ制度ヲ御制定ナサルヤウニ希望致シテ居ルノデアリマスガ、ソレダケデ宜シウゴザイマス、ソレカラ今度ハ第八十八條、是ハ色々ノ方カラ色々ノ場合ニ御質問ガアリマシテ、大體分ツテ居リマスケレドモ、チヨツト此ノ皇室財産ト云フノト、公的財産ト云フノハ、妙ナ話デアリマスケレドモ、其ノ財産權ノ主體ハドナタニナルノデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 皇室財産ノ主體ハ天皇デアルコトガ、何ト申シマスカ常ノ姿デアル、少シクハツキリシナイコトヲ申上ゲタカモ知レマセヌガ、其ノ程度デ御了解ヲ願ヒタイ
○佐々木惣一君 サウスルト常デナイ姿ハドウナリマスカ、天皇以外ノ方ガ財産ノ主體デアリ得ルノデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） ソレハアリトハ斷言致シマセヌガ、アリ得ナイトモ理論上ハ斷言出來ナイト斯ウ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 個々ノ皇族ノ財産ハ、別ニ此ノ皇室財産ト云フモノトハ關係ナイノデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） ソレハ常識的ナ御答ヲ致シマスル場合、併シ其ノ常識ハ恐ラク百萬中百萬中ルト云フ常識的ニ考ヘマスル場合、ソレカラ非常ニ理窟ヲ押シテ殆ドアリ得ナイケレドモ、アリ得ルト云フ立場ヲ取リマスル場合デ御答ガ違フト存ジテ居リマス、普通ニ申シマスレバ個々ノ皇族ハ私有財産シカ御持ニナレナイ、ト斯ウ申上ゲテ宜カラウト思ヒマス
○佐々木惣一君 モウ一遍伺ヒタイ、此ノ間來御説明ニナツテ居リマスガ、公的財産ノ公的ト云フ意味ハ分ツタヤウダケレドモ分ラナイ、念ノ爲ニ伺ツテ置キタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 公的財産ト申シマシタノハ、謂ハバ符牒ノヤウナ言葉デアリマシテ、其ノ言葉自身カラ直チニ内容ガ出テ來ルト云フヤウナ正確ナ言葉デハゴザイマセヌ、私ガ前カラ公的財産ト申シテ居リマシタノハ、天皇ハマア極ク理窟ツポク言ヘバ、其ノ他ノ方モ觀念的ニハ含ミ得ルノデアリマスルガ、從來日本ノ過去ヲ顧ミマシテモ、公ノ立場ニ於テ行動セラルヽ場合ト、私ノ立場ニ於テ行動セラルヽ場合トニ於テ、明確ナル區別ガナカツタノデアリマス、從ツテ之ニ對應スル財政的ナル面ニ於テモ、明確ナル區別ガナカツタノデアリマシテ、現在ノ姿ニ於キマシテモ、皇室ノ色々ノ御働キト云フモノハ、國カラ供進致シマシタ四百五十萬圓デ出來テ居ルノデナクテ、別個ノ財物ヲ用ヒ、又財力ヲ用ヒテ、其ノ行動ガ行ハレテ居ルノデアリマシテ、從ツテ天皇ノ御働キ及ビ天皇ニ接近シタル皇族ノ御働キト云フモノハ、國ノ公ノコトモ、私ノコトモ、色々ナ點ニ於テ區別シニクイト云フ状況ニナツテ居リマシテ、併シナガラ此ノ憲法ニ於キマシテハ、ソレヲハツキリ區別ヲ致シマシテ國ノ象徴タリ又ハ象徴タルコトト不可分的ニ行動セラレルヽ場合トヲ區別スルノデアリマス、サウ致シマスルト、其ノ國ノ象徴ト云フ立場ニ於テ御用ヒニナル財物及ビ財力ト云フモノ、又其ノ財力ノ基礎トナルベキモノト云フモノガ、茲ニ觀念的ニ區別出來ルト思ヒマス、斯ウ云フモノハ元來、國自身ノ經費デアレバ其ノ負擔ニ屬スベキモノデアリマスカラ、又財産デアレバ國自身ノ財産デアルベキモノデアリマスカラ、ソコデ筋ヲ立テルト云フ考ヲ起シマシタ、ソコデ斯樣ナ一團ノ財産ヲ稱シテ公的財産、斯ウ申上ゲタ次第デアリマス
○佐々木惣一君 分リマシタ、兎ニ角謂ハバ國ノオ仕事ヲナサツテ居ル、斯ウ云フ身分ト假ニ言ウテ、サウ云フ身分ニ於テマア御持チニナルモノト云フ風ニナツテ居ル財産、斯ウ云フ意味デスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デアリマス
○佐々木惣一君 ハツキリト致シマシタ、ソレハソレデ宜イトシテ、サウシテ此處デチヨツト、ソレト經費トハ違ヒマスガ、サウスルト此ノ經費ガ、私ハ是デ宜イト思ヒマスケレドモ、ドウモ不滿足ナノハ、皇室ノ經費ハ豫算ニ計上シテ國會ノ議決ヲ經ナケレバナラナイトシテアルガ、此ノコトハ決シテ惡イトハ思ヒマセヌガ、現行法ノヤウニ何故、是ハ皇室ノ經費ハ豫算ニ計上スルノダガ、國家ノ方カラ之ヲ獻上スルト云フヤウナ、サウ云フ正面カラ、皇室ノ經費ハ國家ガ之ヲ負擔スト、サウ云フ規規定ニ何故シナイカ、私ガ不滿足ナノハソレデス、ソレハ裏カラ分リマスケレドモ、皇室ノ經費ヲ如何ニスベキカト云フコトハ、ソレ自身ガ誰ガ負擔スベキカト云フコトハ、ソレ自身ヲ獨立シテ正面カラ考ヘナケレベナラヌ問題ダト思フ、從ツテ其ノ解決ハ、正面カラ規定スベキモノデアル、即チソレハ國庫カラ之ヲ差上ゲル、獻上スルト云フヤウナ風ニ、現行憲法ハサウナツテ居ルノデスカラ、現行憲法ハ唯ソレヲ殖ヤス場合ニ國會ノ議決ヲ經ルト云フ風ニナツテ居ルノデ、正面カラ國家ガ之ヲ負擔スルト云フ、正面カラ出テ居ル、ソレガ新憲法ニ依リマスルト云フト、出テ居ナイ、正面カラ‥‥無論半面カラ國家ガ之ヲ負擔スルノデアルト云フコトハ分ルケレドモ、併シ若シ屁理窟ヲ將來、今ハアリマセヌケレドモ、言フ者ガアリマシテ、是ハ皇室經費ヲ國家ガ支出スル時ニハ議會ノ議決ヲ經ナケレベナラヌト云フダケデアツテ、支出シナケレベナラヌカドウカト云フコトハ、是デハ決ツテ居ナイト云フヤウナ屁理窟ヲ論ズル者ガ將來、今ハアリマセヌヨ、將來サウ云フ一派ガ出テ來テ、サウシテ皇室經費ハ國家ガ負擔セイデモ宜イ、負擔スル時ニハ議會ガ議決ヲスルト云フヤウナコトヲ言ヒ出シタラ、ソレハ滅多ニナイケレドモ困ルト云フ風ニ、是ハ私ノ考デアリマス、正面カラ皇室經費ト云フモノハ、國家ガ之ヲ負擔スルト云フコトヲ規定スベキモノデアルト云フノガ、私ノ考デスガ、何故サウシテナイカト云フコトガ分ラヌ、ソレハ何カ特別ノ理由ガアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ案ハ御説ノ通リニ書イテアル積リデアルノデアリマス、是ハ國會ノ議決ヲ經ナケレバナラナイ、斯ウ云フ所バカリニナラナガイ、感ズル、響クノデハナクテ、豫算ニ計上シナケレバナラナイ、サウシテ國會ノ議決ヲ經ナケレバナラヌ、斯ウ云フ、二ツノ意味ヲ合體シテ、サウシテ豫算ニ計上シナケレバナラヌト云フコトハ、豫算技術ノ問題デハナクテ、必ズ其ノ手續ヲ執ツテ皇室費ヲ充シ當ナケレバナラヌ、斯ウ云フ意味デアリマシテ、唯言葉ガ或ハ十分デナカツタカモ知レマセヌ
○佐々木惣一君 能ク分リマスガ、國家ノ制度、國家ノ法規ト云フモノハ、矢張リ重大ナル重點ヲ區別スベキ時ハ、正面カラ、國家ガ之ヲ負擔シテ差上ゲルンダト云フ、其ノコトヲ私ハ正面カラ‥‥同ジコトヲ何遍言ツテモナンデスガ、御趣旨ハサウ解釋シテ宜イト云フコトハハツキリシマシタカラソレデ結構デス、チヨツト是ハ言ヒニクイガ、言ヒニクイト云フコトデハイカヌ、ハツキリシナケレバナラヌト思ヒマスカラ御尋ネ致シマスガ、政府ノ方ノ御考ニ依レバ、所謂三種ノ神器ト云フ物ハドウ云フ財産ニ屬スルカ、斯ウ云フコトハ少シ何ダカ、三種ノ神器ナドノコトヲ言フトヲカシイヤウダケレドモ、ヲカシイヤウデアルダケハツキリシテ置カナケレバナラヌカラ御尋ネスル、皇室財産ト云フモノノ公的財産ト私的財産ト‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 三種ノ神器ニ付キマシテハ、事極メテ鄭重ニ考ヘル必要ガアリマスノデ、現在何等ハツキリシタル結論ニ到達シテ居リマセヌ、併シナガラ唯御答シナイト云フコトモ‥‥從來政府ハハツキリシナイコトハ御答シナイ、又言ヘバ議會デ必ズ政府ハ責任ヲ御取リニナルト云フノデ、其處迄徹底スルト、申上ゲタイコトモ申上ゲラレマセヌケレドモ、假ニ少シク餘裕ヲ許シテ戴キマスレバ、三種ノ神器ガ此ノ場合ニ國ノ方ニ移ルノガ宜イカ惡イカト云フコトニ付キマシテモ、色色ナ考ヘ方ガ存在シテ居リマス、ソレデ三種ノ神器ハ、是ハ現在ノ皇室典範等ニ於キマシテハ、殊ニ皇位ノ象徴ト云フコトデ、比較的一方面ガ把握シテゴザイマスガ、三種ノ神器其ノモノハ皇室典範ガ把握スル面バカリデナイノデアリマシテ、モウ少シ別ノ精神的ナ意味ヲ含ンデ居ル譯ダト思フ譯デアリマス、併シ之ヲ或局部的ナ意味カラ申上ゲマスレバ、是ハ公的財産デアルト言ヒ得ルト思ヒマス、併シ其ノ周リヲ取圍ンデ居ル所ノ歴史的意義ヲ考ヘマスト、ソレヲ今カラ所有權ハ國ノ方ヘ持ツテ來テ、外ノコトハ皇室ノ方、斯ウ云フ説明ハ出來ヌコトハアリマセヌケレドモ、併シ傳統的ナ此ノ三種ノ神器ヲ取圍ンデ居ル所ノ諸種ノ、謂ハバ雰圍氣ト云フモノヲ念頭ニ置イテ考ヘテ見マスト、是ハ矢張リ皇室ノ特ニ精神的ニ重ンゼラルヽモノデアリマシテ、寧ロ國ノ方ニ移ス範圍ニ入レナイ方ガ適當デハナイカト、斯樣ナ意味ニマア研究中デアリマス
○佐々木惣一君 イヤ、サウハツキリト御考ヘ戴クト私ハ有難イガ、私自身モ何モ意見ガアル譯デアリマセヌ、アルケレドモ、確定的ニアル譯デアリマセヌカラ、併シ私モ是ハ御話ニナリマシタヤウニ色々ノ意味、影響ヲ持ツコトデアリマスカラ、私共無論研究サシテ戴キマスガ、政府ノ方ニ於カレマシテモ御研究ヲ願ヒタイト考ヘルノデアリマス、ソレカラ今度ハ第八十九條ニナリマスガ、宗教、學校、慈善財團等ノコトデアリマスガ、是ノ第一點トシテ、宗教ノコトダケヲ申上ゲマスガ、宗教上ノ組織若シクハ團體ノ使用、便益若シクハ維持ノ爲ニ、公ノ財産ヲ支出シタリ、利用シタリシテハイケナイト云フコトニ相成ツテ居リマスガ、先ヅ是ノ立法理由、之ヲチヨツト伺ヒタイト思ヒマス、ドウ云フ理由デ斯ウ云フコトガイケナイト云フコトニナツテ居ルノデスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ前段ノ宗教ニ關係スル部分ダケニ付テ見マスレバ、是ハ政教分離ノ方針ヲ採ツテ居リマスガ故ニ、財物的ニモ特定宗教ニ國家ハ保護ヲ加ヘナイ、是ダケノ原理カラ來テ居ルト御説明申上ゲ得ルト思フノデアリマス、其ノ後段ノ「慈善、教育若しくは博愛の事業に對し」ト云フ此ノ後段ノ部分ニ付キマシテハ、是ハ稍々意味ヲ異ニスルノデアリマシテ、此ノ財政ニ關スル憲法ノ規定ハ、國費ガ濫費セラルル危險ガナイヤウニト云フコトニ非常ニ重點ヲ置イテ居ルノデアリマス、處ガ慈善、教育、博愛ト云フモノハ、其ノ言葉ガ美シク、名前ガ華ヤカデアル爲ニ、斯樣ナ口實ノ下ニ、國費ガ濫費セラレル虞ガ多イノデアリマス、其ノ多イ道行ハ、國ガ自カラヤルノデハナクテ、何カ特殊ノ團體等ガ出來マシテ、ソレガ此ノ美名ニ依ツテ、國費ヲ、本來國民ガ負擔シタ租税ノ趣旨ニ實質上違反スルヤウニ使フ、是ハ非常ニ理論的ニイケナイト思ヒマス、ソコデ左樣ナ方面ニハ嚴重ニ監督ヲ加ヘヨウト云フノデアリマス、加ヘヨウトスル爲ニハ、サウ云フ場合ニ公ノ支配ギ必要デアル、ソコデ公ノ支配ト云フコトハドウ云フコトカト云フコトニナツテ來マスガ、是ハ一般監督トハ違ツテ特殊監督ヲ加ヘルト云フコトデアリマスカラ、ソレカラ先ハ個々ノ場合ノ運用ノ問題ガ起ツテ來マスケレドモ、國ガ十分其ノ博愛、教育、慈善等ノ事業ニ對シテ發言權ト監視權トヲ持ツテ居ル場合ニ於テハ國費デ出シテモ宜シイ、然カラザレバ出シテハイケナイ、斯ウ云フ趣旨デアリマス
○佐々木惣一君 分リマシタ、宗教ノ方ヲ先ヅ伺ヒマスガ、政教分離ト云フヤウナコトカラト云フ御話デスガ、或ハ特定ノ宗教ニ何カサウ云フ補助ヲ與ヘルト云フト、政教分離ト云フヨリモ所謂宗教ノ平等ノ取扱ヒト云フ、サウ云フコトヲ害スルカラ、サウ云フコトモ含ンデ居ル譯デアリマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 私ハ此ノ今度ノ憲法ハ、各宗教ヲ平等ニ扱フト云フ意味デハナイ、是ハ私ノ言ツタコトガ他ノ面ト矛盾スル虞ガアルカモ知レマセヌガ、私ハサウ思ツテ居リマス、平等、不平等ト云フノデハナク、全然國家ガ關係シナイコトヲ標準トシテ居ル、關係シナイカラ結果ニ於テ平等ニナル、平等扱ヒニナル、斯ウ云フコトニナルト思ヒマス、此處モ、或者ニ與フルコトガ宗教上ノ不平等ヲ起スト、斯ウ云フ立場デハナクテ、國家ハ此ノ宗教的ナル働キヲ財的ニハ援助シナイ、斯ウ云フコトト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 關係シナイト云フノハ、國家ガ自己ノ政治上ノ事務トシテ、宗教ノコトヲ行ハナイト云フコトデハナイデセウカ、何モ宗教ト云フモノヲ出來ルナラバ好クナルヤウニト云フコトヲ國家ガ念願シナイト云フヤウナコトヂヤナイデセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 何ダカ思想上ノ聯絡ガ質問應答ノ間ニ切レタカモ知レセマヌ、是ハ一般公益ノ見地カラナラバ如何樣ニ財物ヲ出シテモ宜シイ、宗教ト云フ見地カラ出シテハナラヌ、斯ウ云フ意味デアリマス、宗教ノ組織又ハ團體ガ、其ノ目的ノ爲ニ使用スルヤウナ場合ニ國家ガ關係シテハナラヌト云フ‥‥
○佐々木惣一君 宗教其ノモノノ發達ヲ助ケルト云フヤウナ意味デ出シテハナラヌ、サウ云フ譯デスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ナ譯デアリマス
○佐々木惣一君 ソレハ立法ノ問題デスケレドモ、私ハ矢張リ政教分離ト云フコトカラ、決シテ國家ガ宗教ニ便宜ヲ與ヘタリ、保護ヲ與ヘタリスルト云フコトハイケナイト云フコトニハナラヌト思ツテ居リマス、政教分離ト云フノハ、國家自體ガ宗教ヲ宣布シタリ、宗教上ノ事務ヲ行ツタリシテハイケヌト云フノデアリマシテ、別ニ國家以外ノモノガヤツテ居ル宗教ノ發達ト云フヤウナコトヲ望ンデナイト云フコトデハナイト思フモノデスカラ、ソレデ私ニハ此ノ規定ガ分リニクイノデスガ‥‥、ソレデ宜シイデセウ、次ノ「公の支配に屬しない慈善、教育」是モ公ノ支配ニ屬シナイト云フコトハ分リマシタ、特殊ノ監督ニ屬シナイト云フコトニナルヤウデアリマスガ、ソレガチヨツト分リニクイノデスガ、サウスルト或私立大學ナラ私立大學ニ國家ガ補助シテヤル、ソシテ何モ對償ト云フ譯デハナイケレドモ、補助スルト同時ニ特殊ノ監督ニ入レテシマヘバソレデ宜イノデスカ、特殊ノ監督ニアルト云フ状態ガ前ニナケレバナラヌノデスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 特殊ノ監督ト云フノハ、他ノモノト比ベテ特殊ノ監督ト云フコトデアツテ、私立大學相互ノ間ニ特殊ノ關係ガアルト云フコトヲ言ツテ居ル譯デハアリマセヌ、今日國家ハ私立大學ニ對シテハ一般公法人ニ對スルヨリモ特殊ナル監督ヲシテ居リマシテ、ソレガ此處ニ言フ公ノ支配ト云フ言葉ノ内容ニ當ル程度ノ監督ニナツテ居ルト考ヘテ居リマス、サウ云フ監督ノ關係ニアレバ支出ヲシテモ宜シイ、ソレガ豫メサウ云フ關係ニアルカ、補助ヲ受ケタ時ニ其ノ關係ニアルカト云フコトハ、別ニ區別スル所ハゴザイマセヌ
○佐々木惣一君 宜シウゴザイマス、兎ニ角私ハ此ノ私立大學、大學ニ限リマセヌ、私立學校ト云フモノハ、何時カモ申シタヤウニ、國家ガ自分デ本來ナラバヤツテモ宜イコトヲヤツテ貰ツテ居ルノデスカラ、私立學校、私立大學ト云フヤウナモノニ非常ニ補助シナケレバナラヌト云フ考ヲ持ツテ居リマスカラ、サウ云フ見地カラ言ツテ、何ダカ差障リニナルヤウニ思フモノデスカラ、チヨツト申上ゲタノデスガ、尚特殊ノ監督ト云フ意味ヲ此處デ檢討シナケレバナリマセヌ、保護ヲ受クル時ニ監督ト云フコトガ、本當ノ意味ノ必要ナル監督ノ限度ヲ超エテ、監督スルト云フ意味ニナツテハイケナイノデスカラ、研究ヲ要スル言葉デアルト思ヒマスケレドモ、要スルニ私立學校ナドニ補助ヲシタリ、之ヲ保護シタリスルト云フコト、其ノコトガ絶對ニ禁ゼラレテ居ルト云フ意味デハアリマセヌネ、ソレデ是迄宗教團體等ニ既ニ補助ヲシタリ、例ヘバ財産ヲ拂下ゲタリ、何カシテ居ルモノガ可ナリアルト思ヒマスガ、此ノ憲法ノ施行ト共ニサウ云フ基本ノ法律關係ニハ影響ガナイノデゴザイマセウカ、ドウデセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） ソレハ結局此ノ解釋ニ屬スルモノト思ヒマス、サウ云フコトニ付キマシテハ佐々木委員ハ非常ニ緻害ナ御判斷ヲ持ツテ居ラレマスカラ、一ツ考ヲ用ヒテ、寧ロ是モ御教ヘヲ願ヒタイト思ツテ居リマスガ、矢張リ宗教ト云フ見地ニ於テ特ニ保護ヲ與ヘテ居ツタ、其ノ保護ヲ今後モ繼續スルト云フコトハイケナイノデハナイカト私ハ考ヘテ居リマス、併シ現在之ニ付テ具體的ノ問題トナツテ居リマスノハ、寧ロソレ以前ニ或財産ニ付テノ私法關係ガ未解決デアツテ、其ノ解決ガ付カナイカラ、假ニ國家カラ保護ヲ受ケテ居ルヤウナ姿デ、繼續シテ來テ居ルト云フ財産ガ多イヤウニ思ヒマス、サウ云フモノハ根本ノ性質ニ立返ツテ見テ、本來是ハドチラノ財産デアツタカト云フコトヲ研究シテ、其ノ本來ノ私法上ノ權利ノ規則ニ從ツテ、處置シテ行クト云フ考ガ正シイノデハナイカト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 御説明ハハツキリ分リマシタ、サウスルトマア神社ニシテモ、或ハ又寺ニ致シマシテモ私法關係上本來自分ノモノデアツタモノガ、國家カラ取上ゲラレテ居ツタガ、ソレヲ還附サレタ、サウ云フモノニハ影響ガナイ、併シナガラ其ノ神社ナリ、其ノ宗教團體ヲ保護スルト云フコトノ爲ニ與ヘタヤウナモノハ、解釋上ドウナルカ分ラヌト云フコトニナルノデスネ、是デ影響ヲ受ケルカモ知レナイ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 私ハ左樣ニ考ヘテ居リマス、是ハ主管ノ方カラ言ヘバ文部大臣デ、文部大臣ガヤツテ居リマスカラ私ノハ少シ危イデス
○佐々木惣一君 ソレカラ今度ハ第九十條ニナリマシテ、會計檢査ノコトニナリマスデスガ、ソコデ此ノ會計檢査院ト云フモノハ言フ迄モナク非常ニ重要ナ任務デアリマスガ、現行憲法ニハアリマセヌデスケレドモ、會計檢査院法ニハ天皇ニ直隷シ國務大臣ニ對シテ特立ノ地位ヲ占ムルト云フヤウナ規定ガ特ニアルヤウデアリマスルガ、會計檢査院長ハドウデゴザイマセウカ、此ノ最高裁判所ノ長官ト同ジク天皇ノ任命ニ依ルト云フヤウナコトハイケナイノデゴザイマセウカ、ソレダケノコトヲチヨツト御伺ヒシマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ絶對ニイケナイトカ宜イトカ云フ範圍ノモノデハゴザイマセヌノデ、實ハ私共ノ原案ニ於キマシテハ、モウ殆ド理論的トモ言フベキ意味ニ於テ、勅任デナケレバナラヌト云フ内閣總理大臣ヲ認メタノデアツタノデアリマスルガ、ソレガ一應衆議院ニ於テ修正セラレマシタ今日、今ノ御尋デアル譯デアリマスルガ、斯樣ナコトハ程度的ニ段々ト廣メテ行キマスレバ、結局本來ノ趣旨ヲ沒却スルト云フコトニナラウト思ヒマス、會計檢査院長ガ重要デアルコトハ是ハ固ヨリ存ジテ居リマスルケレドモ、併シ任命ト云フコトノ形式如何ニ依ツテ、其ノ官廳ノ獨立性ト云フコトニハ事實關係ハナイト思ヒマスルカラシテ、先ヅソコ迄行カナイデ宜イノヂヤナイカト斯ウ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 現行ノ制度ノ下ニ於キマシテハ、會計檢査院長ハ御存ジノヤウニ親任トナツテ居リマスルガ、要スルニ憲法デハ規定ガナイケレドモ、是カラ會計檢査院ノ法律ヲ作ラレル時ニ、院長ヲ親任ニサレルト云フヤウナ規定ヲ假ニ作ツテモ憲法違反トハナラヌト云フコトニ解釋シテ宜シイデスカ、憲法論トシテハソレダケノコトヲ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 憲法違反ニナラナイト云フノハ、ドウ云フ意味デアリマスカ知リマセヌガ、此ノ憲法デハモウ其ノ親任ノ途ハ限定サレテ居ル、此ノ憲法ヲ改正スル時ニ左樣ナ意味ニ於テ改正ヲスルト云フコトハ、現ニ行ハレテ居ル憲法ノ移リ替リノ此ノ議會ノ議決トシテ行ケルカドウカ、斯ウ云フ問題ナラバソレハモウ問題ハアリマセヌ、別ニ差支アリマセヌ
○佐々木惣一君 兎ニ角此ノ憲法ノ下ニ於テハソレガ出來ナイト云フコトニナリマスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス
○佐々木惣一君 ソレデ其ノ御解釋ハ分リマシタ、ソレカラ此ノ會計檢査ト云フコトハ憲法論トシテ言ヘルト思ヒマスケレドモ、會計法トカ、會計檢査院法ト云フヤウナモトガドウセ出來ルノデゴザイマセウカ、檢査シ得ル政府ノ事柄ノ‥‥財政上ノ事務ノ範圍デスネ、其ノ範圍ヲチヨツト御尋ネシタイ、例ヘバ機密費、政府ノ所謂機密費ト云フヤウナモノデモ會計檢査ハ爲シ得ルト云フコトハ、此ノ憲法論トシテ‥‥、會計法ヲ言フノヂヤアリマセヌヨ、憲法論トシテハ機密費ヲ審査スルトシテ見テモ憲法上ハ差支アリマセヌカドウカ、ソレハ憲法論ダケヲ伺ツテ居ルノデス
○國務大臣（金森徳次郎君） 理論的ニ檢査ト云フコトト矛盾スルモノハ固ヨリ排除サレマスケレドモ、サウデナイ限リハ總テ檢査スル、斯ウ云フコトニナリマス、ソコデ機密費ト云フモノガ理論上檢査ト云フコトヲ排除スルモノカドウカ、斯ウ云フ問題ニナツテ解決セラルヽモノト思ヒマスルガ、今日迄ノ研究デハ決シテ檢査ハ排除スルモノデハナイ、從ツテ機密費モ檢査ノ客體ニナルコトガ憲法上認メラレテ支障ノナイコトダト斯ウ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 大變有難ウゴザイマシタ、其ノ問題ハ私トシテハ非常ニ重大ダト思ツテ居リマス、機密費トシテ、戰爭ノ時デモ隨分ヒドイコトヲヤツタノヂヤナイカト思ヒマスルガ、其ノ御解釋ハ私ハ非常ニ有難ク滿足スル譯デアリマス、是デ私ハ質疑ヲ打切リマス
○委員長（安倍能成君） 松村委員
○松村眞一郎君 私ハ佐々木サンナリ、其ノ前ノ方々ノ御話デ重複シテ居ル所ガアルカト思ヒマスガ、機密費ノ關係デ今金森サンガ仰ツシヤイマシタコトデ大抵分リマシタガ、結局現行憲法ニアルモノハ書イテ置カナカツタケレドモ、皆含ムト云フヤウニ大體解釋シテ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 大體左樣ナコトニナリマス、唯大權費ト云フノハ今度ハナイノデアリマスガ、他ハ大體同ジデアリマス
○佐々木惣一君 大體サウ云フ趣旨デアレバ、モウサウ云フ關係ニ付テ議論ヲスル餘地モナイト思ヒマスケレドモ、大藏省ノ政府委員ガオイデニナリマスガ、翌年度繰越明許トアリマスガ、豫算外國庫ノ負擔契約ト云フモノハ、今ノ解釋デ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 翌年度ノ繰越ハ、詰リ豫算外ト云フノハ其ノ債務ヲ負ツテ居ルコトノ規定ノ中ニ入リマスカラ、國會ノ議決ヲ‥‥
○松村眞一郎君 債務デナクテ、普通ノ災害カ何カ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 其ノ意味ハ豫算年度ヲ延バス、サウ云フ餘裕ノアル豫算年度ト云フコトニナリマシテ、此ノ憲法ハソレヲ禁止シテ居ナイ、ソレデ初メ一年度カドウカト云フコトデ申上ゲタ所ニ屬シマス、ソレカラ豫算外國庫ノ負擔契約ハ、ソコハ少シ變ツテ居リマシテ、現行制度ハ契約トナツテ居リマスガ、今度ハ契約タルト否トヲ問ハズト云フコトニナリマシテ、少シ範圍ガ廣クナツテ居リマス、從ツテ公法上ノ處分行爲ノヤウウナモノデ債務ヲ負擔スルト云フコトモ此ノ中ニ入リ得ルモノト考ヘテ居リマト
○松村眞一郎君 サウスルト現行憲法ニアルモノハ、大體是デ認メルト云フ廣イ解釋ヲシテ進マウ、斯ウ云フコトニナルヤウデアリマスガ、サウスルト責任支出ハドウデセウカ、從來責任支出ハ憲法ニ書イテナイカラ違憲ダト云フコトニナツテ居ルガ‥‥是ハ書イテアリマセヌ
○國務大臣（金森徳次郎君） 責任支出ハ、今朝既ニ申上ゲマシタガ、此ノ憲法ノ第八十三條、詰リ國ノ財政ヲ處理スル權限ト云フモノハ法律ニ依ル、ソレカラ第八十五條デ「國費を支出し」云々ト云フ一般規定ガアリマシテ、此ノ結果ト致シマシテ、責任支出ハ其ノ言葉ノ形ニ於テハ出來ヌ、斯ウ云フコトニナルノデアリマシテ、是ガ詰リ責任支出ノヤウナモノガ出來ル爲ニハ參議院ノ緊急集會ト云フヤウナコトデヤラナケレバイカヌト云フコトニナルト思ヒマス
○松村眞一郎君 參議院ノ緊急集會ト云フノハ、是ハ解散ノ場合ニ限ラレテ居ルヤウデスガ、サウ云フ融通ガ利キマスカ、從來ヤツテ居ル責任支出ト云フノハ、豫算ニナイコトヲヤツテ居ル、豫備費ノ中ニナイコトヲヤツテ居ルノデスガ、ドウデゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 御説ノ通リデアリマシテ、參議院ニ依リマスル場合ハ、サウ云フ特殊ノ場合シカ出來マセヌ、從ツテ此ノ憲法デハサウ云フ場合ニハ議會ノ方デ暫定的ナル議定ヲシテ戴ク、若シ議會ガアレバ‥‥、議會ガナケレバ臨時議會ヲ開ク、斯ウ云フコトデアリマス、ソレカラ又比較的輕微ナ場合ハ、豫備費ト云フ所ヲ活用致シマシテ、サウ云フコトニ適スルヤウナ豫備費ノ計上ノ仕方ヲシ、其ノ分量モソレニ合フヤウニシテ行ク、サウ云フ仕方シカナイト思ヒマス
○松村眞一郎君 實ハ實際禁止セラレナイノガ從來ノ沿革デスカラ、豫備費ヲ其ノ爲ニ膨ラスコトガ出來ナカツタノデ從來非常ニ困ツテ居ツタノデアリマスガ、結局同ジコトニナルノヂヤナイカト思ヒマス、憲法ニハナイケレドモ、併シ是ハ實際巳ムヲ得ヌト云フノデ行ハレルノデハナイカト云フ頭ガアルノデス、今ノヤウニ仰ツシヤツテモ、從來ヤツテ居ツテ、今度ハ嚴格ニスルト云フコトハムヅカシイノヂヤナイカ、從來憲法ノ規定ガナイケレドモ、ヤツテ居ツタ位ノコトハ、斯ウ云フ融通ノ廣イ規定ヲ御書キニナツタラ、事實サウ云フコトハ行ハレルダラウト云フヤウニ解釋スルヨリ外ハナイノヂヤナイカト思ヒマス、サウ云フコトハ成ルベクヤラナイト云フコトヲ原則ニシテ、萬巳ムヲ得ザル場合ニ於テハ、現行憲法デモヤツテ居ツテ、違憲デアルケレドモ兎ニ角何ト言ツテモヤツテ居ルノダカラ、委任立法ノ場合ト同ジヂヤナイカト思ヒマス、サウ云フヤウナコトガアリマスカラ、サウ云フ所ハ從來カラエラク變ヘルト云フ所デ、特ニ嚴重ニスルト云フコトヲ憲法ノ公布ト同時ニ考ヘテ居ルト云フコトデヨクハアリマセヌカ
○國務大臣（金森徳次郎君） ソレハ動キニ依ツテ憲法ヲ設ケナケレバナラヌコトハ明瞭デアリマスルケレドモ、今迄ノ民主的ナル財政ノ運用ヲ妨ゲテ居ツタ顯著ナルモノハ、此ノ憲法ニ依ツテ禁ゼラルヽト云フコトニナリマシテ、責任支出ノ如キハ其ノ禁ゼラルヽ範圍ニ屬スルト云フ建前ノ下ニ、此ノ憲法ヲ起草致シテ居リマス
○松村眞一郎君 サウスルト非常ニ結構ナコトデアリマスガ、マア非常ニ政治ガ亂ニ亙ラナイト云フ趣旨デ、從來ノ責任支出ノヤウナコトハ成ルベクヤラナイ方ガ宜イ、引締メテ行クト云フヤウニ解釋シテ宜イノデアリマセウカ、如何デセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 其ノ引締メルト云フコトハ全ク此ノ憲法ノ狙ツテ居ル所デアリマス、其ノ引締メル引締メ方ハ此ノ憲法ノ認メル所デハ窮窟ニナル、斯ウ云フコトモ當然ノ結果デアリマス、ソレカラ先ノ御話ハ私トシテハサウ云フコトニハ考ヘテ居ナイ、自由ニハ考ヘテ居ナイト斯ウ申上ゲル外ハアリマセヌ
○松村眞一郎君 次ハ八十八條ノ關係デスガ、只今佐々木サンノ仰セラレタコトデスガ、私モ今ノ三種ノ神器ノ問題、是ハ斯ウ云フ所デ餘リ論議スルコトハ如何カト思ヒマスガ、色々ナコトヲ考ヘサセラレルモノデアリマスカラ‥‥、私ハコンナコトニ付テノ問題ガアルノヂヤナイカト云フヤウナコトノ自分ノ心ニ浮ンデ居ルコトヲ申シテ、或場合ニ於テハ御注意モ願ヒタイト思ヒマス、ソレハ具體的ニハ三種ノ神器ニハ觸レマセヌ、ソレハ昨年ノ十二月十五日ノ政府ニ依ル國家神道、神社神道ノ保證、支持、保全、監理及弘布禁止方ト云フアノ問題ニ觸レテ、ソレハ非常ニ具體的ニ書イテアリマスカラ‥‥、官國幣社以下神社祭祀令ヲ廢止セラルベシト斯ウ云フコトニナリマスカラ、此ノ問題ハ私ハ三種ノ神器カラ、モウ少シ飛ビ越エマシテ、神宮及ビ神社ニ關スル從來ノ色々ナモノガアル譯デスネ、ソレニ付テノ御考慮ニ付テ御愼重ニ願ヒタイ、斯ウ云フコトヲ申上ゲルダケニ止メマス、ソレハ伊勢神官ニ於ケル御鏡、ソレカラ熱田神宮ニ於ケル御劍、サウ云フ問題ニ付テ色々御考ヲ願ヒタイト云フコトデス、勿論御考ニナツテ居ルトハ存ジマスケレドモ‥‥、處デ神社神道トカ神宮神道ト云フ方面ノコトデ考ヘルコトガアリハシナイカト云フコトモ私ノ頭ニ浮ブ、サウ云フコトヲ色々御考慮ヲ願フト云フコトヲ申上ゲタイノデアリマシテ、私ハ細カイコトニハ入リマセヌ、サウ云フコトニ付テ御考慮ニナツテ居ルコトトハ思ヒマスガ、尚具體的ナ問題ヲ申シマスト、皇靈殿、神殿、賢所ト云フモノガアリマス、其ノ三ツニ付テノ考ヘ方ガ一樣デハイカヌノデハナイカト私ハ考ヘルノデ、其ノ點モ私ハサウ云フ風ニ色々思ツテ居ルト云フコトダケヲ申上ゲテ置キマス、皇室ニ於ケル司祭トノ關係ト、三種ノ神器ノ方面ニ於ケル御鏡ト云フ關係トハ性質ガチヨツト違ツテ居ルノデハナイカト考ヘマスノデ‥‥、私共色々日デ申上ゲナイデ、私共ニ限ラズ皆心配シテ居ルノデアリマスカラ、各方面カラ十分申上ゲルコトト思ヒマスカラ、御考慮ヲ煩ハシタイ、斯ウ云フコトヲ申上ゲテ置キマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 私共モ其ノ方向ニ於キマシテ、可ナリ色々ナ問題ニ深ク考ヘテ居ルノデアリマシテ、今仰セニナリマシタ點ハ相當共鳴スル部分ヲ含ンデ居ルヤウニ考ヘテ居リマス
○松村眞一郎君 御陵墓ノ問題モ一ツ御考ヲ願ヒタイ、ソレハ冠婚葬祭ト云フコトガ國ノ方カラ觀ルカ、或ハ皇室ノ方カラ眺メルカ、是ハ色々ナ問題ガアルト思ヒマスカラ、是モ十分御考ヲ願ヒタイト思ヒマス、私ノ質間ハ是デ終リマス
○高柳賢三君 第八十四條ノ「規定の法律の定める條件」ト云フコトデアリマスガ、是ハ色々御質問ガアリマシテ、大體是ハ法律デ直接ニ變更ヲ加ヘルト云フノデナク、或基準ヲ法律デ示シテ置イテ、其ノ基準ニ基イテ、例ヘバ大藏省令ナラ大藏省令デ之ヲ變更スル相當「フレキシブル」ナモノニスル斯ウ云フ御説明ノ御趣旨デアツタヤウニ了解致シマスガ、ソレデ間違アリマセヌカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ憲法ノ解釋ノ仕方トシテハ左樣デ間違ナイモノト考ヘテ居リマス
○高柳賢三君 サウシマスルト所謂委任立法ノ問題ニ引ツ掛ツテ來ルノデ、委任立法ト云フコトガ近代的ナ情勢ノ下ニ於テ不可避的デアルト云フコトハ各國デ認メテ居ルノデ、千九百二十九年頃カラ「イギリス」ノ委員會デ非常ニ徹底シタ研究ヲシマシタ結果、ドウモ是ハ不可避的デアルト云フ結論ニ達シタノデアリマシテ、委任立法其ノモノハ認メルケレドモ、併シ此ノ租税關係ノ立法ヲモ委任立法デヤルコトガ出來ルトカ云フ政策ニハ絶對ニ反對シテ居ルノデ、斯ウ云フ問題ニ付テハ委任立法デヤルト云フコトハ非常ニ惡イト云フ大キナ政策ガアルノヂヤナイカト云フ風ニ思ハレマシテ、ソコニハ「フレキシビリティー」ト云フ要求ヨリモモツト重大ナ要求ガアツテ、ドウシテモ是ハ法律ニ依ル委任立法ニ依ツテハナラヌ、斯ウ云フ根本的ナ一ツノ政策ト云フモノガ健全ナノデハナイカト云フヤウナコトガ考ヘラレル譯デアリマス、サウ云フ面カラ見マスルト法律ニ依ルト多分シタ方ガ宜イノヂヤナイカト云フ風ニ思ハレルノデアリマスガ、此ノ「法律の定める條件」ト云フコトヲ附加ヘルコトニ依ツテ委任立法ヲ認メルト云フコトハ如何ナモノデアリマセウカ、其ノ點ニ付テ政府ノ御見解ヲ願ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 租税ト申シマスルモノハ特別ナル意味ヲ持ツテ居リマシテ、結局國家ニ其ノ金額ノ必要ガアルカラ租税ヲ取ルト云フコトニナラウト思ヒマス、ダカラ必要ガナケレバ寧ロ租税ナドハ取ラヌ方ガ理想的デアル、斯ウ云フコトモ言ヘル譯デアリマス、ソコデ日本ノ一般ノ秩序ハ恒久的ナル税ト云フ方法ヲ執ツテ居リマスガ、併シ税其ノモノノ本質カラ致シマスレバ、必要ヲ計ツテ取ル方ヲ限定スルト云フヤウナコトモ起リマセウシ、或ハ租税ニ關シマスル若干ノ事項ハ彈力性ヲ持タシメルコトガ妥當ナル場面モアリ得ルノデアリマシテ、ソコ迄モ強ヒテ矯メテシマフト云フコトモ如何ナモノデアリマセウカ、斯ウ云フ風ニ考ヘル譯デアリマス、固ヨリ國會ノ議決ヲ經テ決ルコトデアリマスルガ故ニ、實際ニサウ委任命令ガ濫用サレルト云フコトハナイト思ヒマスケレドモ、幾分條件ヲ緩ヤカニシテ置クコトハ是ハ亦巳ムヲ得ナイコトデアリマス、而モ氣持ト致シマシテハソレヲ委任命令ニスルト云フコトハ甚ダ面白クナイカラト云フノデ、特ニ八十四條ニ「法律又は法律の定める條件による」ト云フ言葉ヲ附加ヘマシテ、解釋上ハ別トシテ心持ダケハハツキリシテ租税ニ對シテ嚴重ナル態度ヲ執ツテ居ルト云フ氣持ダケハ此處デ示シテ居ル譯デアリマス
○高柳賢三君 只今ノ御説明デ大體御氣持ハ了解致シマシタガ、併シ此ノ文句デハ矢張リ委任立法ハ濫用ノ弊ガ非常ニ多イト云フノガ各國ノ情勢デアリマスカラ、此ノ根本政策ガ宜イカドウカト云フコトニ付テハ稍々疑ガアリマスケレドモ、ソレハ意見ノ問題ニナリマスカラ、此ノ程度ニ止メテ置キマス、次ハ第八十九條ニ移リマシテ、此處デ是ハ字句ノ意味デアリマスガ、「宗教上の組織」トアリマスガ「宗教上の組織」ト云フコトハドウ云フコトヲ言フノデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 讀ンデ字ノ如シト云フヤウナコトデ、斯ウ云フ言葉ハナカナカ深入ツテ説明ガ困難デアリマスガ、結局組織若シクハ團體ト云フ言葉ヲ一ツニ致シマシテ、ソレガ宗教的ナ働キヲスル意味ノ、人間ノ一ツノ統一セル集團、廣イ意味ノ集團ト云フ風ニ考ヘテ居リマス、其ノ中ニ團體ト云フ姿ノハツキリシタモノヲ團體ト云フ言葉ヲ以テ表シマシテ、團體トハツキリ言ヘナイ程度ノ、謂ハバ緩ヤカナ組立ヲ持ツテ居ル團體類似ノモノヲ、組織ト云フ言葉ヲ以テ表シタ積リデアリマス
○高柳賢三君 此ノ文字ガ英譯サレテ居リマス所ヲ見マスト「システム・オブ・レリージョン」ト云フ字ヲ使ツテ居ルノデアリマス、是ハ團體ノヤウナモノデナイ、寧ロ一ツノ教義ノ體系、「システム・オブ・フィロソフィー」トカ「システム・オブ、レリージョン」ト云フノハ教義ノ體系即チ宗教ノ或特定ノ教義ヲ「サポート」スル爲ニ公ノ金ヲ使ツテハナラヌ、團體デナイ一ツノ「ドクトリン」ソレヲ「サポート」スル爲ニ、斯ウ云フ風ニ讀メルノデ、サウ云フ風ニ解釋スルコトモ合理的デアリマスガ、宗教上ノ組織ト云フノモ或ハサウ云フ意味ヂヤナイカト云フ風ニ理解シテ居ツタノデアリマスガ、只今ノ御説明デハサウデナクシテ、是ハ團體類似ノモノデアルト云フコトニナルト、全然意味ガ違ツテ來ルヤウニ思ハレルノデ、此ノ點、寧ロ組織ト團體ト云フ類似ノ言葉ヲ二ツ使フ必要ハナイノデ、二重ノ網ヲ張ルナラバ寧ロ宗教上ノ教義、或ハ宗教上ノ團體ノ爲ニト云フヤウナ風ニ解釋シタ方ガ立法トシテハ網羅的デアルト云フ風ニ思ハレルノデ、例ヘバ或學者ガ或ル一ツノ宗教上ノ理論ヲ非常ニ檢討シテ居ル、斯ウ云フヤウナ場合ニソレニ金ヲ與ヘルト云フヤウナコトモイケナイト云フヤウナ所迄及ビ得ルト云フヤウナノガ此ノ譯文ノ方ノ意味ダラウト思ヒマスケレドモ、此ノ點ハ政府ノ御意向ハ今ノ御説明デ分リマシタケレドモ、私ハ譯文ト今ノ御説明ノ意味ニ於ケル此ノ本論トハ違ヒマスルノデ、寧ロ譯文ノ方ガ立法技術トシテハ優レテ居ルノデハナイカト云フ意見ダケヲ申述ベテ置キマス、ソレカラモウ一ツ是モ文字デアリマスケレドモ「慈善、教育若しくは博愛の事業」ト云フノデアリマスガ、慈善ト云フノト博愛ト云フノハドウ云フ風ニ違フノデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 慈善ト博愛ト云フ言葉ハ何處ガ違フトハツキリト言ヒニクイノデアリマスガ、是ハ高柳サンガ能ク御承知ニナツテ居ルヤウニ、我々ノ使フ言葉ト云フモノハ中心ニナルコトハハツキリシテ居ルノダガ、此ノ境界ノ線ニナリマス所ニ於キマシテハ、他ノ思想ト重複スルヤウナ部分ガアリマシテ、ハツキリ區別シ難イモノガアラウト思ヒマス、ダカラ慈善ト博愛ト云フモノモ應用ノ面ニ於キマシテ接近スル所ハ固ヨリアラウト思ヒマスガ、自ラ又異ル部分モアツテ、斯ウ竝ベテ置ケバ、全體トシテ一ツノ幅ヲ持ツテ來マシテ、支障ハナイ、一々是ハ慈善デアルカ博愛デアルカト云フ風ニ中味デ檢査致シマスルト、マア境界ノ分ラナイ所ガアルノヂヤナカラウカ、博愛ト云フノハ、餘程精神的ナモノデアリ、慈善ト云フノハ多少行動ノ上ニ現レテ來ルヤウナ、サウ云フ氣持ガ中心ニナツテ居リマスルケレドモ、ソレ以上チヨツト御説明ヲ申上ゲ兼ネルノデ、何カ實例デモ擧ゲテ御尋ネ下サレバ又御答ヲ申上ゲマス
○高柳賢三君 其ノ點ヲ御質問シタノハ、慈善ト云フ言葉ガ、果シテ是ハ普通我々ガ通常慈善ト理解シテ居ル言葉ノ意味デ使ハレタノカ、或ハ「イギリス」、「アメリカ」ノ法律的ナ意味、即チ公益ト云フ意味デ使ハレタノカト云フコトヲ疑ツタノデ、此ノ「イギリス」、「アメリカ」デハ「チヤーリタブル」ト云フ言葉ハ、元來慈善ト云フコトカラ來タノデアリマス、法律的ニハモツト廣イ、謂ハヾ公益、「チヤーリタブル、トラスト」ト云ヘバ公益信託デアツテ、慈善ノミニ限ラナイ、サウ云フ意味デ、法律家ハ常ニ此ノ言葉ヲ理解シテ居リマスノデ、此ノ慈善ト云フノハ、サウ云フ廣イ意味ナンダ、公益ト云フ意味ナンダト、斯ウ云フ風ナ御説明ガアルカトモ思ツタノデ、慈善ト博愛ノ區別ヲ、御伺ヒシタノデアリマスガ、只今ノ御説明デハ非常ニ狹イ意味ノヤウニ理解シタノデ、サウシマスルト、慈善、教育、博愛ト、之ダケニ限ル理由ガ何處ニアルカ、モウ少シ廣ク公益的ナ事業ト云フヤウナ風ニヤツタ方ガ宜インヂヤナイカ、之ニ限ラナイ公益的ナ事業、公ノ支配ニ屬シナイ公益的ナ事業ト云フ風ニシテ、此ノ三ツニ限ラナイ慈善、教育、博愛、斯ウ云フ公益事業ト云フ意味ナラバ宜シウゴザイマスケレドモ、サウデナイ場合ニハ、少シ限定シ過ギテ居リハシナイカト云フコトヲ感ズルノデアリマシテ、其ノ點、サウ云フヤウニ廣ク公益事業ト云フ風ニシテハイケナイノデアルカドウカ、其ノ點ヲ御伺ヒ致シマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 此處ノ所ハ結局國家ノ財物ヲ濫用サレナイヤウニ要心ヲスルノデアリマスルカラ、其ノ見地カラ云ヘバ、廣ク公益ト云フ言葉ヲ以テ、此處ヲ規定致シマシテ、一切ノ公益事業ト云フモノハ、原則トシテ國ノ經濟的利益ヲ與ヘナイト云フ建前モ、固ヨリ考ヘテ考ヘラレナイコトハナイト存ジマシテ‥‥、併シ之ヲ又應用ノ方面カラ見テ行キマスルト、今後新タニ種々ナル角度ニ於キマシテ、色々ナ意味ノ公益ガ起ツテ來ル、サウ云フ所ガ窮屈ナ原因ニナツテハマヅイノデアリマシテ、此ノ邊ハ一番弊害ノ起リ易イ公益トシテ、弊害ヲ導キ易イモノダケニ限定スルコトガ適當デアラウト云フ考デ規定ヲシタ譯デアリマス、併シ自ラ之ニ接近シテ居ルモノハ、此ノ解釋ノ一ツノ「エクイテイ」ノ中ニ、國家ノ採ルベキ政治上ノ制限ガ生レテ來ルモノト考ヘテ居リマス
○高柳賢三君 只今ノ御説明ハ全然了解シタトハ申シ兼ネマスケレドモ、ソレ以上御尋ネ致シテモ後ハ意見ノ相違ニナリマスルカラ、私ノ質問ハ是デ打切リマス
○田所美治君 私ハ大藏省ノ政府委員ガ御出デニナツタサウデアリマスカラ、承ツテ見タイト思ヒマス、先程來佐々木君、高柳君アタリカラ第八十九條及ビ前ノ方ニ行クト二十條、宗教ト國家トノ關係信教關係ニ付テ色々御尋ガアリマシテ、一通リ私モ了解シマシタガ、進ンデ少シ具體的ニ一ニ御尋ネシテ見タイト思フノデアリマス、金森國務相ハ八十九條ノ趣意ハ、政教分離ノ關係カラ來テ居ル、進ンデ尚佐々木君ノ問ニ對シテ、從來寺院其ノ他ニヤツテ居ル特殊ノ權利義務ノ關係等ハドウナルカ、斯ウ云フ意味ノ御問ニ對シマシテハ、其ノ權利義務ノ原因ヲ能ク調ベテ、繼續スル方ヲ適當ト認ムルト云フモノナラバ、此ノ憲法發布後ニモソレハ續イテ行クダラウ、斯ウ云フヤウナ趣意ニ承ツタノデアリマスガ、茲ニ一ツソレニ付テ御尋ネシテ見タイノハ、大藏省ノ政府委員ハ能ク能ク御承知デアリマセウガ、寺院ニ對シマシテ明治初年ニ常置シマシタ土地ヲ、昭和十四年デアリマスカ、宗教團體法ガ出來タト同時ニ其ノ問題ヲ解決シマシテ、其ノ間ニハ金森國務相ノ言ハレル色々權利ノ原因ガアツテ、即チ廢佛毀釋等ニ基イテ宗教ヲ彈壓シマシタ時ニ、無償デ國ガ取上ゲテシマツタ、沒收シテシマツタ、徳川時代ノ御朱印地デアル、朱印ト云フモノデ所有權ヲ寺院ニ認メタ、確認シテ居ルト云フヤウナ事實ノ證據ガ裁判等ニ上リマシテ、長イ間數十年間ノ問題ニナツテ居リマシテ、寺院ノ方デハ寺院ヲ維持シ發展シテ行ク上ニ付テ困ルノデアリマスカラ、積年或ハ訴訟ヲ起シ或ハ政府ニ請願ヲ致シタリシテ、數十年續イテ居ツタモノヲ、一體寺院ノ關係、宗教ノ關係ト云フモノガ十分ニ整ツテ居ラヌ、整備シテ居ラヌ、他日宗教法ナリ宗教團體法等ガ出ル時期ガアルダラウカラ、其ノ制定ノ時期ヲ待ツテ處理シテヤラウ、斯ウ云フコトデ長イ間待タセマシテ、昭和十四年宗教團體法ガヤツト成立シタ時ニ、同時ニ並行シテ、寺院ニ無償デ貸下ゲテアル官有地ヲ法要ノ爲其ノ寺院ノ極ク直接宗教ノ用ニ供スル土地ヲ限ツテ、其ノ他ハヤリマセヌガ、其ノ分ヲ限ツテ、或ハ由緒ニ密接ナ所、或ハ防火其ノ他公益ノ關係カラドウシテモ寺院ニヤラナケレバナラヌト云フヤウナモノヲ勅令デ規定シマシテ、サウシテ委員會ヲ作リマシテ、審査會ヲ起サレタ、私モ實ハ此ノ議會カラ出テ居ル數名ノ中ノ末席ニ加ツテ居リマシタガ、ソレガ十四年カラ一昨年迄還付處分ヲヤリマシテ、凡ソ五萬程、寺ガ三萬其ノ他佛堂等ヲ合セルト五、六萬アル、其ノ五、六萬アル中ノ三分ノ一位ハ處理濟ダラウト思フノデアリマス、サウシテ戰爭ニナリマシテ、戰爭ガ益々酣ニナツテ來テ、到頭一昨年國務ハ全ク戰爭事務ノ爲ニ追ハレテシマヒマシテ、其ノ事業ハ暫ク中止スルト云フコトニナツテ、委員會ノ開催モ其ノ儘ココ二年バカリハ止ツテ居リマセウ、宗教團體法ハ昨年ノ暮ニ廢止ニナリマシタガ、マア色色此ノ間御尋ネシタヤウナ關係デ廢止ニナツテ居ルノデスガ、此ノ法律ハ生キテ居ルト思ツテ居リマス、ソレハ此ノ八十九條ガ制定サレルトドウナルカ、即チ六箇月後來年ノ四月後ニハ此ノ憲法ガ行ハレルノデアリマスカラ、此ノ憲法ノ趣旨ニ反スル法律、命令ハ廢止サレルト云フ規定ニ依リマシテ、四月以後ニ持チ越サレテシマフト、寺院ニ無償デ貸付シテ居ツタモノヲ還付シテヤルト云フ法律ナルモノハ効力ヲ失フ、斯ウ云フコトニナリハ致シマセヌカ、ソレヲ伺ツテ見タイノデアリマス、若シソレデアルナラバ、現行ノ憲法ノ下ニ於テ、此ノ六、七箇月ノ間ニ八十九條ノ影響ヲ寺院ガ蒙ラヌ間ニ處理シテシマハヌト云フト、モウ一萬以上、二萬ニ垂々トスル寺ヘハ還付濟デアラウト思フノデアリマスガ、殘リノ二分ノ一カ三分ノ二足ラヌ位ナモノデアリマスガ、佛堂ヲ加ヘテ三、四萬ノモノガアリマセウ、ソレガチグハグニナツテシマツテ、マダ問題ハ殘サレテシマフ、ノミナラズ大變ナ不公平ナ結果ヲ生ジテ來テ、前ノモノハ貰ツテ居リマスガ、此ノ憲法實施後ハ其ノ法律アルニ拘ラズ、是ハ八十九條ノ解釋ニ屬スルノデアリマスルケレドモ、ドウモ今日ノ國務大臣ノ御話ニ依リマスト、サウ云フモノハマダ原因ヲ研究シテ‥‥直チニ法律ハ無效ニナツテシマフト云フコトニナルコトヲ私ハ恐レルノデアリマスガ、ドウ云フ御考デアリマスカ、ソレヲ伺ツテ見タイ、若シ夫レ現行憲法ノ下ナラバ、固ヨリ自由デアリマスカラ、此ノ六箇月ノ間ニ處理スルト云フコトデアリマスナラバ、ソレハ審査會ハ又ヤリ方モアリマセウシ、晝夜兼行デヤリマシタナラバ、寺ハ半分位ヲヤリマシタラウト思ヒマスカラ、後ノ殘リハ佛堂ガ多數ヲ占メテ居ルト思ヒマスガ、半分位ノ處理ハ濟ムト思フノデアリマス、之ヲ一ツ伺ヒタイ、モウ一ツ、時間ガアリマセヌカラ序デニ伺ツテ置キマスガ、神社ノコトニ付テ近頃ボツボツ伺ヒマス、當事者ニハ最近一向接近シマセヌガ、神社ハドウナリマスカ、先程松村君カラモ神宮其ノ他ノコトニ付テハ考ヘテ貰ヒタイト云フコトデアリマスガ、神宮ダケデハアリマセヌ、神社ハ宗教ニナリマシタ、從來ハ神社ハ宗教外ニ立ツテ居リマシタカラ、所謂何ト言ツテ居ツタカ、國家ノ營造物、國民ノ尊敬ニ基ク、國民ノ崇敬ニ基ク國家ノ宗祀デアル、或ハ公共團體等ニ至リマシテハ、公共團體ノ營造物、斯ウ云フヤウナ譯デアリマセウ、兎ニ角宗教外ノモノデアリマシタカラ、此ノ八十九條ニハ觸レマセヌ、ソレデ國家ハ神社ノ境内地域等ニ對シテハ、官有地ヲ矢張リ頗ル便宜ニ無償デ多分貸シテ居リマセウ、使用ニ供シテ居ルダラウト思フノデアリマスガ、是ハドウナリマスカ、是ハ總テ取上ゲテシマヘト言ツタラ、ソレコソ直チニ神社ハ破滅ニ歸スル、斯ウナツテシマヒマスガ、ドウ云フ御考ヘデアリマセウカ、或ハ法律デモ御出シニナツテ、神社ニ官有地ヲ無償デヤル、今使用シテ居ル部分、或ハ其ノ部分ノ一部分ヲヤルトカ云フコトデモナサラヌト云フト、土地ハ取上ゲラレテシマフ、建物ダケデヤツテ居ルト云フコトハ出來マセヌ、ソレデハ根本ニ於テ直グ壤レテシマフ、將來ノ維持ナンカニ入ラヌ前ヨリ神社ハ破滅ニ歸スル、斯ウ云フヤウニ思ハレルノデスガ、或ハ私ノ考ハ間違ツテ居ルカモ知レマセヌガ、神社ニ付テハドウナサイマセウカ、又「クリスト」教ハドウナリマセウカ「クリスト」教ニハサウ云フ部分ガアリマセヌガ、一視同仁、信教ノ自由、宗教ノ平等扱ヒ、斯ウ云フコトガ結果シテ參ルダラウト思フノデアリマスガ、「クリスト」教ニモ若シサウ云フモノガアルトスルナラバ、矢張リ官有地ヲ移管シテ神社ノヤウニ貸シテアル、或ハナイカモ知レマセヌガ、ソコラガ從來問題ニナツテ居ル、此ノ憲法ニハ宗教ノ自由ニ付テ可ナリ精細ナ規定ヲ設ケラレタト思フノデアリマスガ、「クリスト」教ハドウナツテ居リマスカ、「クリスト」教ニ矢張リ寺院、神社等々ト同ジヤウニ官有地ノ無償貸下ゲ等ノ便宜ヲ從來提供シタコトガアリマスナラバ、其ノ扱ヒ如何、具體的ニ言ヘバ寺院ニ無償貸ト、只デヤル、斯ウ云フ法律デモ改正ナサツテ、サウシテ神社、「クリスト」教等ヲ御加ヘニナリマスカ、或ハ新タニ神社ニ對シテハ特別處理ノ法律ヲ此ノ議會カ、或ハ間ガアリマスマイカラ次ノ議會ニデモ御出シニナリマスカ、サウシテ早急ニ現行憲法ノ下ニ處理スル方法ヲ御執リニナリマスカ、サモナクバ何カ解釋ヲツケテ四月後モ繼續シテ此法律ヲ有效ニスル、斯ウ云フヤウナ方策ヲ御執リニナリマセヌト云フト、失效ニナツテシマフ、斯ウ云フヤウニ私ハ恐レルノデアリマス、ソレ等ノ點ニ付テ政府ノ御考ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○政府委員（野田卯一君） 御答ヘ致シマス、第一點ノ寺院ノ處理ノ法律ガ明年四月以降效力ヲ失フカドウカト云フコトニ付キマシテハ、政府ノ考ヘ方ト致シマシテハ、效力ヲ失ハナイト云フ意味ニ考ヘテ居リマス、此ノ點ニ付キマシテハ今ノ政府ノ一存ニ依ツテノミ決メ得ラレナイ點モゴザイマスノデ、關係方面トモ十分ナ了解ヲ遂ゲマシテ、效力ヲ失ハナイト云フ建前デ進ンデ行キタイト斯ウ考ヘテ居リマス、委員會ノ活動デアリマスガ、只今御話ニゴザイマシタヤウニ、件數ガ澤山ニ上ツテ居リマシテ、未處理件數ガ大部分ト申シマスカ、數萬件アル中デ一萬數千件ガ捌ケテ居ル程度デハナイカト思ヒマス、大部分ノモノガマダ捌ケテ居ナイ、斯ウ云フ實情デゴザイマシテ、假ニ之ヲ六箇月間デヤルト致シマシテモ、事實上出來マセヌ、大部分ガ處理ガ出來ナイト云フ實情デゴザイマスノデ、是モ勿論委員會ノ活動ヲ促シマシテ、出來ルダケ早イ機會ニ處理ヲシタイト思ヒマスケレドモ、到底六箇月間ト云フ短時日ニハ出來マセヌ、其ノ點カラ申シマシテモ、法律ヲ依然トシテ效力ヲ存續サシテ、其ノ間急ギツヽ早ク實現サシテ行キタイ、斯ウ考ヘテ居ルノデアリマス、ソレカラ神社ノ境内地ニ付キマシテハ、是ハ大體ノ方針ト致シマシテハ、神社ノ境内地ハ寺院ノ境内地ト同樣ニ取扱ツテ行キタイ、斯ウ云フ考デゴザイマシテ、ソレガ爲ニ必要ナ措置モ講ジタイト考ヘテ居リマス、第四點ノ「キリスト」教ノ教會ニ政府ノ土地ヲ貸下ゲテ使ハシテ居ルト云フ例ハ私ノ今迄聞イテ居ル所デハ無イヤウニ考ヘマス、サウ云フ問題ハ生ジナイト思ヒマス
○田所美治君 四月以後ニ繼續スルト云フコトニ付テ了解ヲ得テ一ツ安心ヲ致シマシタ、是ハ憲法ノ解釋ノ問題ニ屬シマスカラ、八十九條ノ今朝カラノ問答ノアリマシタ點ニ、ソレニ對シテ金森サンガ答ヘラレタ點等ヲ見マスト云フト、法律ハ根本的ニドウナルカト云フコトハ矢張リドウモ殘ルダラウト思ヒマスカラ、今ノ中カラ一ツ十分ノ了解ヲ御遂ゲニナリマシテ、確定シテ御置キニナラヌト飛ンデモナイコトニナルダラウト思ヒマスカラ、餘計ナコトデアリマスルガ、政府ノ深甚ナ御注意ヲ願ヒマス、神社ノコトニ付テハ丁度寺院ト同ジヤウニ取扱フ、ソレデ私安心シマシタ、是迄ハ宗教ヲ超越シテ、ソレガ皆行過ギタ、今度ハ獨立シタ宗教ト云フコトニナツタ、從來モ問題ガアリマシタケレドモ、宗教以外ノモノダカラドノ宗教信者モ皆拜ミニ行ケト云フヤウナ譯デ、到頭戰爭ノ結果出マシタ神道ト云フヤウナコト一點張リニナツテシマツタ、斯ウ云フヤウナ譯デ一ツソコノ所ヲ認メラレテ今度ノ處置ニ出テ居ル、斯ウ云フ譯デアリマスガ、宗教ニナツタ以上ハ神社ハナカナカ維持スルニ困難デアリマセウ、是ハ一部ノ宗教信者デナケレバナラヌ、神道ノ信者デナケレバ拜マヌト云フコトニナリマスカラ、何分ノ一ニナリマセウネ、之ヲ維持スル金錢、維持ノ金錢等モ固ヨリ減ルデアリマセウシ、非常ニ困難ヲ感ジマセウカラ、神社ニ付テハ今ノ御考ヲ速カニ執行セシメテ安心ヲセシムルヤウニ御願ヒヲシタイ、ソレハ法律ガ無論要ルデアリマセウケレドモ、法律ヲ御制定ニナル、斯ウ云フ譯ト承知シテ宜ウゴザイマスカ、「キリスト」教ノコトニ付テハ安心ヲ致シマシタ、是ハ問題デアリマセヌ、ソレヲ伺ヒマス
○政府委員（野田卯一君） 神社ヲ寺院ト同樣ニ取扱フニ付キマシテハ、立法的ナ措置ト云フモノガ要ルモノト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 是デ休憩致シマス、午後ハ三島委員、佐々木委員ノ關聯質問‥‥
○子爵三島通陽君 私ハ大體皆サンノ御話ヲ伺ツテ居ル間ニ分リマシタカラ取消シマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ佐々木委員ノ關聯質問
○佐々木惣一君 午後デスカ、チヨツト短イデスカラ此處デ‥‥
○委員長（安倍能成君） 宜シウゴザイマス
○佐々木惣一君 私ハ實ハ國務大臣ト意見ヲヤリ取リシテモ役ニ立タヌト思ツテ、八十四條ノ所デ伺ツタダケデスガ、高柳サンカラノ御質問ニ依ツテチヨツト私ノ意見ト違ツタ所ガアルノデ、私ノ八十四條ヲ率直ニ了解シテ居ル所ヲ申上ゲテ御意見ヲ伺ヒタイ、此ノ租税デスガ、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を變更するには法律又は法律の定める條件によることを必要とする」ト云フノハ、斯ウ云フ風ニ率直ニ解釋シテ行ツタノデスガネ、租税ヲ課シマスルノハ兎ニ角行政行爲ナンダカラ、茲ニ租税ヲ課スルト云フ行爲ガドウシテモナケレバナリマセヌ、ソイツヲ法律ガ直接ニ課シテシマツテ、法律ノ執行デ以テ租税ガ課セラレルト云フコトニナリ、ソレガ法律デ定ムル法律ニ依ル、處ガサウデナシニ、法律ガ條件ヲ定メマシテ、其ノ行政行爲ノナサルルコトニ必要ナル條件ヲ定メテ其ノ法律ノ定ムル所ノ條件ニ依ツテ、更ニ租税ヲ課スル、法律ガ直接課スルノデナシニ、サウ云フコトヂヤナイカト初メ思ツテ居ツタノデス、サウ云フ委任命令ヤ勅令トハ無關係ニ考ヘテ居ツタノデスガ、今日ノ説明デサウ云フコトニナツテシマツテ、此處デ議論シテモ仕樣ガナイト思ツテ實ハ何シタノデスガ、高柳サンノ御質疑ガアツタ結果、矢張リ私ノ解釋ヲ申上ゲテ置キタイト思ヒマシタ、ソレダケノコトデスガ、サウ云フ解釋ハイケマスヌカ、私ノ今申上ゲタヤウナ委任命令ヤ勅令トカソンナモノデハナイノデス、ソレハイケマセヌカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 私ハ一番初メ御説明申上ゲマシタ此ノ條文ノ理由ハ、結局法律デ税ガ出來ル、決マルト云フノデハ工合ガ惡イ場合ガアツテ、關税ニ例ヲ擧ゲテ實ハ申上ゲマシタネ、是ガ其ノ條文ニ對スル私ノ説明デアツタノデス、委任命令ヲ使フカドウカト云フコトハ是ハ派生シタ、之ト關聯スル別箇ニ起ツテ居ル問題デスカラ、詰リ裕リガ取ツテアルカラ委任命令ガ出セルノダト云フコトヲ申上ゲタノデアリマシテ、私ノ申上ゲタノト筋ガ違ツテ居ナイヤウニ思ヒマス
○佐々木惣一君 ソレナラ宜シウゴザイマス、ソレ以上申上ゲテモ何デスカラ、私ノ申上ゲタ趣旨ヲ了解シテ戴ケバ結構デス
○委員長（安倍能成君） 午後ハ一時カラ始メマス、第八章地方自治カラ始メマス
午前十一時五十九分休憩
━━━━━◇━━━━━
午後一時九分開會
○委員長（安倍能成君） 會議ヲ再開致シマス、平塚委員ハ、内務大臣ニ御出席ヲ願フコトニナツテ居リマスカラ便宜上佐々木委員‥‥
○平塚廣義君 私後デモ宜シウゴザイマスガ、其ノ前ニ金森國務大臣ニ御願ヒシタイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） サウデスカソレデハ平塚委員
○平塚廣義君 私ガ御質問申上ゲルコトハ極メテ簡單デアリマスガ九十二條ソレカラ九十四條ニ關シマシテ、暫時金森國務大臣ニ御願ヒ致シタイト思フノデアリマス、九十二條ノ「地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」ト斯ウ書イテゴザイマスガ、其ノ地方自治ノ本旨ト云フノハドウ云フコトデアリマセウカ、之ヲ先ヅ第一ニ御説明ヲ願ヒタイト思ヒマス、次ニ第九十四條ノ「地方公共團體は、その財産を管理し、事務を處理し、及び行政を執行する權能を有し、法律の範圍内で條例を制定することができる。」ト、斯ウ書イテアリマスルガ、是ハ地方自治ノ本旨ヲ基ト致シマシテ公共團體ノ權能ヲ掲ゲタモノト思フノデアリマス、「法律の範圍内で條例を制定することができる。」トアリマスルノデ、是ハ先般來色々ノ方カラ御質問ガゴザイマシタガ、私モ此ノ條例ト云フコトハ、是ハ或ハ内務大臣ニ御質問シタ方ガ宜イノダラウト思ヒマスガ、根本ノ問題トシテ法律ト條例トハドウ云フ關係ニナルノデアリマスカ、其ノ點ヲ憲法ノ問題トシテ御説明ヲ願ヒタイト思ヒマス、其ノ少シ前ニ今ノクダリノ前ノ方ニ於キマシテ「地方公共團體は、その財産」トアリマスルノデ、事務ヲ處理スルコト及ビ行政ヲ執行スルノモ「その」ガ懸カルノヂヤナイカト考ヘマスルガ、サウ致シマスト、其ノ行政ハドウ云フ範圍ニナリマスルカ、地方公共團體ノ行政ト云フコトニハ違ヒナイデセウケレドモ、國ノ委託ヲ受ケテ、或ハ命令ニ依ツテ行フト云フヤウナ官治行政ナドハ一體ドウ云フ風ニナルノデアリマセウカ、ソレヲヅ先以テ御伺ヲ致シタイノデアリマス、極ク大要ダケ憲法ノ方面カラノ御説明ヲ御願ヒ致シタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 地方自治ニ付キマシテハ、現行憲法ニハ特別ナル規定ガナイノデアリマシテ、斯樣ナ事項ハ國ノ政治ト不可分的ニ考ヘナケレバナラヌモノデアリマスカラ、憲法ノ中ニハツキリ其ノ基礎ヲ明カニシテ其ノ區域ニ關スル限リニ於キマシテ、國政ノ一端ヲハツキリ行ツテ居ルト云フコトヲ基本トシテ然ルベキ規定ヲ作ルコトガ憲法ノ趣旨トスル所デアラウト考ヘテ居リマス、ソコデ第九十二條ニ於キマシテ「地方自治の本旨に基いて」ト申シマシタノハ、是ハ地方自治ト云フコトハ一定ノ觀念ガアリマスノデ、其ノ一定ノ觀念ヲ基本ノ原理トシテ法律デ決メル、法律デ決メル時ノ一ツノ實質的ナル指導原理トシテ「地方自治の本旨」ト云フモノヲ掲ゲタ譯デアリマス、ソレデハ「地方自治の本旨」ト云フコトハ何ヲ指スノカト云ヘバ、是ハ一ツノ學問的研究ノ範圍ニ屬スルコトト思ヒマスルケレドモ、暫クソレニ付キマシテ申シマスルナラバ、地方自治ト云フモノハ少クトモソレハ國家ノ一部ノ地域ニ於ケルコトデアリマスルガ故ニ、國家ト云フモノト無關係ニ於テ自治ヲ考フルコトガ出來ルト云フコトガ一ツノ角度トナラウト思ヒマス、ソレカラ他ノ角度ニ於キマシテハ、自己ノ區堅内ニ於キマシテ、又自己ノ支配スル人ノ範圍ニ於キマシテハ十分ナル自治ヲ認メテ、國家カラ故ナク干渉サルベキデナイト云フ一ツノ原理ガ生レテ來ルト思ヒマス、是モ亦地方自治ノ當然ノ趣旨トシテ現レテ來ルト思ヒマス、サウシテ又自治ノ意味ハ色々ニアリマセウケレドモ、アルベキ姿ノ自治、即チ「自治の本旨」ト云フ原理カラ申シマスレバ、其ノ中ニ住ンデ居リマス所ノ人間ノ個性ヲ尊重シテ、其ノモノノ自主的ナル政治行動ト云フコトヲ眼目トシナケレバナラヌト云フコトモ考ヘラレテ居リマス、是等ノ總テノコトヲ綜合致シマシテ地方自治ノ本旨ト云フコトニ指導原理ヲ明カニ致シマシテ、國家ガ法律ヲ作ツテ、如何樣ニモ公共團體ノ組織運營ニ關スル事項ヲ決メラレルヤウナ姿デハアルケレドモ、此處ニ謂フ指導原理ニ基カナケレバナラヌト云フコトヲ明カニ致シマシタ譯デアリマス、次ニ九十四條ハ其ノ地方公共團體ノ運營ノ中味ヲ若干ノ項目ニ分ケテ明カニ致シマシタ譯デアリマス、是ハ御承知ノ如ク又御示ニナリマシタヤウニ「その財産を管理し、事務を處理し、及び行政を執行する權能を有し」ト云フ其ノ權能ガ幅ヲ言ヒ現シタモノデアリマス、是ハ幅ヲ言ヒ現シタモノデアリマシテ、其ノ中味ニ盛リ込マルベキ諸般ノ考ヘ方ハ結局九十二條ニアリマスル地方自治ノ本能ニ基イテ、基本ノモノハ法律デ決メルモノト思フノデアリマス、斯樣ニシテ法律ガ或程度ノ基本ヲ決メマスト、今度ハ各地方公共團體ガ其ノ示サレタル枠内ニ於テ自分ノ諸般ノコトヲ決メ得ル譯デアリマシテ、茲ニ所謂自治權ト云フモノガ生レテ來ルト思フノデアリマス、地方公共團體ノ自治立法權ヲ行使致シマシタ結果トシテ現レマスルノガ、此處ニ掲ゲマシタ條例デアリマシテ、從ツテ此ノ條例ノ内容ハ法律ガ國ニ於テ持ツテ居ルト略々同ジヤウナ面ノ内容ヲ持チ得ルモノト思フノデアリマス、唯ソレノ效力及ビ規定事項ノ原則ガ法律ノ範圍内デト云フコトニ限ラレテ居ル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居ル譯デアリマス、是ハ要シマスニ九十二條、九十四條ト云フモノハ憲法ニ書イテアリマスルガ、寧ロ是ハ教科書風ノ比較的自明ノコトヲ列記シタ次第デアル譯デアリマス
○平塚廣義君 大體ノ御説明ニ依ツテ分リマスルガ、要シマスノニ今度ノ改正ノ憲法ニ於キマシテ、特ニ地方自治ニ關シテノ一章ヲ設ケラレマシタコトハ、誠ニ地方自治ノ發展ノ爲ニ極メテ明確ナル方針ヲ定メラレタ次第デアリマスルノデ、私ハ誠ニ喜バシク考ヘル所デアリマス、併シ地方制度ト申シマスルカ、地方自治ノ點ニ付キマシテハ、明治ノ初年ヨリ色々ナ御承知ノ通リノ沿慰ガゴザイマス、其ノ何レニ考ヘマシテモ國ノ色々ノ施設ヲシ、ヤル上ニ於キマシテノ、國會從來ノ議會制度、所謂立憲制度ノ實施ト云フコトニ相伴ヒマシテ色々ノ議論ハアツタヤウデアリマスルガ、今迄ノ市制、町村制ハ寧ロ議會制度ヨリモ少シ前位ニ出來テアツタヤウニ記憶致シテ居リマス、其ノ他ノ府縣制等ハ少シ後ダツタカト思ヒマスガサウ云フヤウナ關係デアリマスルノデ、其ノ後モウ六十年近イ間、五十年バカリノ間、各地ニ於テノ行政ハ餘程進歩致シタノデアリ、其ノ進歩ノ模樣ヲ辿ツテ見マスルト、其ノ時代ノ流レニ沿ヒマシテ、目前ノ目標ト致シマスル所ガ多少異ツテ參ツタヤウナ次第デアリマス、其ノ間ニ於テ統一、差別ガアルヤウナ時代モアツタヤウニ考ヘマス、併シ何レニ致シマシテモ是ハ矢張リ日本ノ古來ノ制度ヲ能ク勘考致シマシテ、サウシテ「プロシア」當リノ制度ヲ土臺トシテ考ヘタヤウニ承知致シテ居リマスルガ、何レニ致シマシテモ、此ノ地方自治ト云フ點ニ付テ立憲政治ノ一部トシテ明治時代ニ御決ニ相成リマシテ、今日ノ隆昌ヲ來シタト云フコトハ、明瞭デアルノデアリマス、唯其ノ當時ノ目標ト致シテ居リマスル根本ノ觀念ガ今日ニ言フ民主主義ト云フヤウナコトトハ、自治自由ト云フヤウナコトハ唱ヘラレテ居リマシタケレドモ、今日ノ民主主義、新憲法ノ眼目トスル民主主義ノ徹底ト云フコトニ付キマシテハ、十分ナ考慮モ拂ハズ、又其ノ職ニ當ル者ニ於キマシテモ此ノ點ニ付キマシテハ餘程用意ハ致シタヤウデアリマスルケレドモ、遺憾ナル點ガアツタノデハナカラウカト云フコトヲ考ヘサセラルヽノデアリマス、今日ノ如キ敗戰後ノ状況ヲ考ヘテ見マスルト、混沌タル状況ニ相成ツテ居リマスルガ、其ノ土臺ヲ成スモノニ於キマシテハ、各般ノ諸制ノ上ヲ考ヘマシテモ、所謂茲ニアリマスル地方自治ト云フモノガ根柢ニ相成ル譯デアリマス、從ツテ新憲法ニ付テ御説明ノアリマシタ通リ、民主主義ヲ實現シテ、サウシテ地方團體ノ主張ニ付キマシテハ十分其ノ觀念ヲ植付ケ又調ベマシテサウシテ此ノ地方公共團體ノ健全ナ發達ヲ得セシムベキモノト思フノデアリマス、ソレ故ニ今迄ノ地方制度ノ上カラ考ヘマシテ、或ハ官治行政ニ流レ、或ハ統一ニ墮シマシテ、サウシテ弊害ヲ生ジタコトモ、行キ過ギモアツタヤウニ思ヒマスルカラ、其ノ方面ニ於キマシテ、民主主義ノ實行ト云フコトヲ考ヘマスルト、極メテ地方ト云フモノガ根柢ニナリマシテ、重大ナモノデアラウト思フノデアリマス、就キマシテハ私ト致シマシテ、從來ノ地方行政ト云フ、自治ト云フヤウナコトニ關シマシテ、今日我々ガ思想ヲ新タニシテ進ムト云フ上ニ於テハ、此ノ只今御伺ヲ致シタ本質ト云フコトニ鑑ミマシテ、ドウ云フ點ガ最モ眼目トスベキモノデアルカト云フコトヲ甚ダ抽象的ノコトデアリマスルケレドモ、何カ此ノ點ニ付テ御考ガゴザイマシタラ御善處ヲ願ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 地方自治ノ本質ヲ私カラ申上ゲルノモ甚ダ僣越デアリマシテ、是ハ一般ノ見解ニ依ツテ決メラレルベキモノト思ツテ居リマスルガ、此ノ憲法自身ノ建前ガ從來ノ此ノ國家中心ト云フコトニ非常ニ重點ヲ置キマシタノト違ヒマシテ、個人ノ尊重ト云フ所ニ相當ノ重點ヲ置イテ居リマス、ソレト同ジヤウナ考ガ國家尊重ト云フ所ニ置イテ居ツタ重點ヲ、今度ハ地方公共團體ノ獨立的存在ヲ尊重スルト云フ所ニ相當ノ重キヲ置イテ居リマシテ、勿論其ノ割合ハ計算ハ出來マセヌケレドモ、斯樣ナ考ニ基イテアル譯デアリマス、ソコデ其ノ目ヲ以テ此ノ地方自治ト云フコトヲ考ヘテ見マスルト、在來ノ考ニ於キマシテ、地方自治ト云フモノハ、結局國家事務ヲ地方的ニ分ケテ參ツテ居ルニ過ギナイ、其ノ形ガ地方自ラヤルヤウニ見エルケレドモ、要スルニ國家ノ事務ヲスルノダ、斯ウ云フ風ニ多クノ見解ガ行ツテ居ツタヤウニ思ヒマスルケレドモ、必ズシモサウデナイノデハナカラウカ、個性ノ尊重ガ尊バルヽナラバ、同時ニ地方自治團體ト稱スル一種特別ナル存在ノ個性ト云フモノモ尊重セラルベキデアル、ソレ等ノ力或ハ存在ヲ合計致シマシタモノガ國家ニナル譯デハナクテ、地方公共團體ノ働キヲ合計致シマスレバ、ソレハ國家ノ働キヨリモ餘計ナモノニナルベキ筋ノモノデハナカラウカト云フ考ガ一ツ基本トシテ生レテ來ルノデアリマシテ、憲法ガソコ迄觸レテ居ル譯デモ何デモゴザイマセヌガ、考ヘ方ハ其ノヤウナ意味ニ於キマシテ、地方團體ト云フモノノ獨自ノ性質ヲ本當ニ尊重スル結果ト致シマシテ、此ノ憲法ハ之ニ大キナ指導原理ヲ示サナケレバナラナイ、斯ウ云フ風ニ考ヲ置イタ譯デアリマス、ソコデ此ノ從來ノ一ツノ缺點トデモ申シマスルカ、國家ト地方公共團體ガ相伴ツテ世ノ中ニアル譯デアリマスルガ、其ノ中何ト言ツテモ國家ノ方ガ地方公共團體ヨリモ強イコトハ是ハ當然デアリマシテ、其ノ強イト云フコトノ齎ス弊害ノ結果ト致シマシテ、次第次第ニ此ノ地方公共團體ノ活動力ヲ國ノ力デ以テ壓迫スル、或ハ地方公共團體ガ自己ノ本當ノ自治ヲヤラウト致シマシテモ、何カカニカ理論攻勢ヲシテ國ノ機關ノ方ガソレニ對シテ有力ナル支配ヲスルトカ、或ハ又人事運用ノ面ニ於キマシテモ國ノ方デ鍛ヘ上ゲラレタ所ノ人員ガ、可ナリ無遠慮ニ地方公共團體ノ職員ノ方ニ流レ込ンデ行クト云フヤウナ幾多ノ結果ニ於テ、地方公共團體ノ自立生ヲ妨害スルガ如キ姿ヲ生ジテ居ルノデアリマシテ、是ハ要スルニ強イ者ト弱イ者ガ世ノ中ニアル、國家ト公共團體トガ各々存在シテ居ルト致シマスレバ、ウツチヤツテ置ケバ自然サウ云フ結果ニナリ易イノデアリマス、サウ云フ所ハ憲法ニ於テ公正ナル立場カラハツキリシタ規定ヲ設ケテ置ク必要ガアルト云フヤウナコトデ、是等ノ條文ガ出來、今後ハ從來ト面目ヲ異ニ致シマシテ、本當ニ地方自治制ガ光ヲ發シテ行ク、斯ウ云フ風ナ建前ニナツテ居ル次第デアリマシテ、恐ラク今後僅カノ間ニ地方公共團體ハ從來ト面目ヲ異ニスル原理ト實際トニ依ツテ運營サレテ來ルト考ヘテ居リマス、地方自治ノ本旨ト云フコトハ色々申上ゲマシタカラ、結局廣イ政治ニ於テ研究サルベキ問題デアリマシテ、私ハ深ク申上ゲ兼ネル次第デアリマス
○平塚廣義君 只今地方自治ニ付キマシテ金森國務大臣ノ御説明ヲ伺ツタ次第デアリマシテ、時間ノ關係モゴザイマスカラ、丁度内務大臣ガオイデニナリマシタノデ、少シ方面ヲ變ヘマシテ内務大臣ニ質問ヲ致シタイト思フノデアリマス、只今ハ地方自治ノ本質ト云フコトハ何ヲ言フカト云フコト、ソレカラ此ノ條例ノコト等ヲ質問ヲ致シタノデアリマスルガ、大體御説明ヲ得マシテ了解ヲ致シタノデアリマス、唯私共ト致シマシテハ、此ノ新憲法ニ於テ地方自治ト云フコトガ第八章トシテ特別ナル章ノ下ニ茲ニ示サルヽト云フコトハ地方自治ノ根本的ノ發展、殊ニ新憲法ニ於テノ民主政治ヲ徹底スル上ニ於テ、非常ニ好イ機會ヲ與ヘラレタモノデアル、斯ウ考ヘル次第デアリマス、而モ其ノ民主政治ナルモノハ、今迄第一章カラ是迄ズツト審議セラレマシタ各條ニ亙ツテ、地方ニ關係ノナイモノハ殆ドナイノデアリマス、人權ノ問題ニ致シマシテモ、勞働問題ニ致シマシテモ、色々ノ産業ノコトハ申ス迄モナク、又司法問題ニ關係致シマシテモ、地方ニ接シナイモノハナイノデアリマス、從ツテ地方ハ最モ能ク是等ノ民主主義ヲ徹底シテ考ヘ、サウシテ徹底シテ效果ヲ擧ゲルト云フコトハ極メテ必要ナコトト思フノデアリマス、ソレニ付キマシテ内務大臣ハ固ヨリ先ヅ大體サウ云フヤウニ御考ニナツテ居ルコトト考ヘルノデアリマスルガ、殊ニ先般地方制度ノ改正ト云フヤウナ御提案モアリマシタノデ、又近クハモツト根本的ニ之ヲ改正スルト云フ御方針ノヤウニモ伺ツテ居ルノデアリマス、制度ノ内容ニ付テハ今御尋ヲ申上ゲル譯デハアリマセヌガ、唯地方ノ根柢ヲ固メテ行ク上ニ於キマシテノ御監督ノ内務大臣トシテノ御方針、殊ニ新憲法ニ於テドウ云フ點ニ重キヲ置イテ、サウシテ御監督ヲナサリ、地方自治ヲ助長致サルヽ御考デアリマスルカ、其ノ點ヲ極ク芒漠トシタ漠然タル御質問デアリマスガ、基本的ノ御考ヲ承ツテ置キタイト思フノデアリマス
○國務大臣（大村清一君） 新憲法ニ於キマシテ、特ニ地方自治ノ一章ガ設ケラレマシタ所以ノモノハ、只今平塚サンノ御指摘ニナリマシタ如ク、日本國民ガ民主政治ヲ確立シテ行キマス上ニ於キマシテ、地方自治、其ノモノガ甚ダ重要ナ役割ヲ果スモノト云フコトヲ確認セラレタコトト私ハ考ヘル次第デアリマス、地方自治ノ本旨ト云フ點ニ付キマシテハ、是ハ只今金森國務相カラ御答辯ノアリマシタ如ク、學説上ノ問題ト致シマシテ、特ニ深ク研究サルベキモノガ殘ツテ居ルト思フノデアリマスルガ、兎モ角モ國ノ政治ヲ行ツテ參リマス場合、殊ニ之ヲ民主的ニ行ツテ行ク場合ニ於キマシテ、國家ノ政治作用ハ之ヲ國家自ラガ行ツテ行クベキ性質ノモノト、又地方自治團體ヲシテ處理セシムベキモノト、ソコニ一線ヲ畫シ得ルト思フノデアリマス、ソレ等ノ點ヲ適正ニ調整致シマシテ、サウシテ新シイ地方自治團體ヲシテソレ等ノ自治團體ノ處理事項ハ之ヲ地方自治ノ本旨ニ基イテ處理サセルト云フコトガ、民主政治ノ發展ノ上ニ缺クベカラザルモノデアルト云フコトヲ確認サレテ居ルモノト信ジテ居ル次第デアリマス、從ツテ曩ニ新憲法ノ精神ニ從ヒマシテ、各般ノ點ニ亙リマシテ、地方自治制度ノ大改正ヲ致シタノデアリマス、而シテ其ノ改正ノ具體的ノ問題ト致シマシテハ、要スルニ地方團體ノ政治ヲ進メテ行ク上ニ於キマシテハ、住民ガ自ラノ費用デ以テ之ヲ處理スル、自治團體ノ政治意思ヲ決定スル上ニ於キマシテハ、廣ク男女ノ有權者ニ投標セシメ、又自治團體ノ執行機關ヲ構成スルニ當リマシテモ、是亦有權者ノ一般投票ニ依ツテ之ヲ決定スル、又或ハソコニ召還權、或ハ發案權モ附與スルト云フヤウナ各般ノ點ニ亙リマシテ、民主政治ノ行キ方ヲ採用シタ譯デアリマス、從ヒマシテ先般ノ改正ニ依リマシテ、ソレ等ノ市町村ノ事務ヲ地方自治ノ本旨ニ基イテ處理スル方向ニ於キマシテハ略々其ノ目的ヲ達シテ居ルモノト考ヘテ居ル次第デアリマス、併シ曩ニ申上ゲマシタ如ク我ガ國ノ各般ノ政務ヲ、國家ノ面ト地方團體ノ面トノ間ニ配分シテ行ク、如何ニ之ヲ新タニ配分スルカト云フ點ニ付キマシテハ、今後ニ殘サレタ問題ガ多分ニアル譯デアリマス、地方制度ノ第二次的改正ハ主トシテ此ノ方面ニ向ケラルベキモノト考ヘテ居ル次第デアリマス、或ハ不十分カモ存ジマセヌガ、大體私ノ考ヘテ居リマスコトヲ申上ゲマシテ一應御答辯ヲ申上ゲタ次第デアリマス
○平塚廣義君 只今内務大臣ノ御説明ヲ伺ヒマシテ、向ツテ行ク方針ハ先ヅ大體明瞭ニナツタヤウデアリマスルガ、私ハ今回ノ憲法ノ改正ニ依リマシテ、内務省ト言ハズ各省ニ於テ内閣ヲ始メ各省ニ於テ、此ノ憲法ヲ實施スル上ニ於テハ、一ツトシテ國民ニ關係ヲ持タナイモノハナイノデアリマス、而シテ其ノ國民ノ關係ハ、地方自治ニ關係セザルモノハナイノデアリマス、又所謂廣イ意味ニ考ヘマシテ内務行政ニ關聯ヲ致サヌモノハ一ツモナイノデアリマス、近來各省ノ事業ガ分レテ居リマシテ、ソレゾレ發展ヲ致シテ居リマスルケレドモ、之ヲ統合シテ、サウシテ地方ニ本當ノ今度ノ憲法ノ民主主義ヲ實施スル上ニ於キマシテハ、御監督ニナル内務當局ト致シマシテハ、十分此ノ點ニ付テ御考ガアリ、又御考慮ガアルモノト考ヘル次第デアリマスルガ、細カイ色々ノ點ニ付キマシテハ色々ノ問題モアルダラウト思ヒマス、要スルニ此ノ憲法ヲ實施スル上ニ於テ、而モ之ヲ隣組ニ迄能ク徹底セシメテサウシテ本當ノ茲ニ謂フ地方自治ト云フモノノ效果ヲ擧ゲル上ニ於テ今後一段ノ御努力ヲ希望セザルヲ得ナイノデアリマス、地方自治ト云フ大法章ガ出來マシタ此ノ時期ニ於キマシテ、心ヲ新タニシテ、サウシテ地方ノ成績ノ擧ガルト擧ラザルトハ國内ニ於テノミナラズ、外國ニ對シテ非常ナル影響ヲスルモノデアル、幾ラ中央ノ方面ニ於テ行政ノ制度ガ整備致シマシテモ、實際ガ振ハナケレベ、效果ガナケレベ何等ノ憲法改正ノ目的ヲ達スルコトガ出來ナイト申上ゲマシテモ過言デハナカラウカト思フノデアリマス、先般來色々ノ御質問モゴザイマシタガ、ソレニ關係致シマシテ、先ヅ私ハ地方ノ自治ト云フモノヲ人、土地等ヲ本トシテ考ヘテ見マスト云フト、又其ノ運用等ノ上ニ付テ考ヘテ見マスト、外交ト云フヤウナコトト私ハ表裏一體ヲ成スモノデアル、殊ニ日本ノ今後ニ於キマシテモサウデゴザイマセウガ、日本ト致シマシテハ外交ト云フコトハ國ノ民主主義ガ如何ニ實行セラレテアツテ、如何ナル効果ヲ收メテ居ルカト云フコトガ寧ロ外交ノ根源地ヲナス、サウシテ其ノ湧キ出ル所ノ力ニ依ツテ從來ノ外交的ナ效果ヲ擧ゲルコトモ出來レベ又我ガ國ノ發展ヲ見マシテ、サウシテ憲法ガ新タニ規定致シマシタヤウナ、先般御質問申上ゲマシタ戰爭抛棄ト云フヤウナ、從來其ノ例ノナイヤウナ事柄ガ規定セラレテアリマスルノデ、平和日本ヲ建設スル上ニ於キマシテハ大ナル覺悟ヲ持ツテ行カナクチヤナラヌ譯デアリマス、ソレ故ニ唯憲法ニ於テ兵備ガナクナツタト云フコトダケデハ濟マヌヤウニ考ヘルノデアリマス、之ニ代ルベキモノガナケレバナラヌト思フノデアリマス、語弊ガアリマスルガ、治安ヲ維持シテサウシテ安ンジテ國民ガ其ノ業務ニ服シ、其ノ權利ヲ履行シ、義務ヲ果シマシテサウシテ立派ナ國民トシテ進ンデ行ク、是ガ日本ノ今後ノ武器ニ相成ルモノデアル、武器ト云フ言葉ハ惡イデハアリマセウガ、兎ニ角武器ニナルト云フコトニナラナケレバナラヌト思フノデアリマス、先般來教育ノコトニ付テ、或ハ文化ノコトニ付キマシテ色々ノ委員方ノ御意見ヲ發表セラレマシタ、全ク其ノ通リデアルト私モ考ヘマス、就キマシテハ警察ノ改善ト云フコトモ從ツテ伴フ譯デアリマスルノデ、先般此ノ質問ニ關聯シテ此ノコトヲ申上ゲル機會ヲ持チタイト云フコトヲ委員長ニ御願ヒシテ居ツタ次第デアリマス、戰爭ノ抛棄、從ツテ陸海軍ノ組織ノ撤廢ト云フコトニ伴ヒマシテ、從來内務行政ナリ、其ノ他ノ方面ニ於テ行ヒ來リマシタ所ノ治安ヲ維持スルト云フ上ニ於テ缺陷ガアリト考ヘマスルノデ、之ニ對シマシテハドウ云フヤウナ御考ヲ内務大臣ハ持ツテ居ラレルノデアリマスカ、獨リ軍備トカナントカ云フコトニ拘ラズ、前段ニ申述ベマシタ外交ト云フ點、日本ガ再出發ヲシテサウシテ諸國ノ列ニ列シテ、再建設ノ目的ヲ達成スルト云フ方面ニ於キマシテノ治安等ニ付テノ御意見ヲ伺ヒタイト思フノデアリマス、ソレニ附加ヘマシテ警察ノ改善ト云フコトニ付テ色々細カク御説明ヲ願フノハ此ノ機會デハナカラウカト思ヒマスガ、唯地方警察デアルトカ、色々ノ問題モアリマスルガ、何處カモツト統一シタ組織ヲヤリ、或ハ内務省ノ一ツノ廳トシテ、或強力ナ組織ヲ統一シタ、而モ文化的、進歩的ナ警察制度ヲ完備スル、其ノ實效ヲ擧ゲルト云フ方面ニ於キマシテノ大體ノナンカ御方針カ、御考デモゴザイマシタナラバソレヲ伺ヒタイト思フノデアリマス、或ハ外國ニアリマスルヤウナ警察ノ制度ナリ、或ハ日本全國ヲ纒メテ、是ハ内務省ト協力スルヤウナ機關デモ宜シイノデアラウト考ヘマスルガ、先ヅ以テ内務省ノ外局ト云フヤウナ關係ニ於キマシテ警察廳トデモ‥‥能ク近頃ナントカ廳ト云フコトガ言ハレマスルノデ警察廳トカ云フヤウナモノデモ尚御考ニナツタラドウ云フモノデアラウカ、之色々ノ問題モ伴ヒマセウガ、ナンカサウ云フヤウナ劃期的ナ御考ガゴザイマセヌカ、其ノ點ヲ今御伺ヲ致シテ置キタイト思ヒマス
○國務大臣（大村清一君） 警察ノ改善ノ諸方策ニ付キマシテハ目下政府ニ於キマシテ種々考究中デゴザイマシテ、茲ニ來ノ結論ヲ申上ゲル時期ニマダ至ツテ居リマセヌ、唯從來ノ我ガ國ノ警察ニ於キマシテハ成ルベク多クノ事項ヲ警察ノ中ニ取込ンダ、ソコニ行キ過ギガアル、其ノ結果トシテ人權尊重ノ上カラ考ヘマシテ改善スベキ點ガ多々アルコトハ申上ゲル迄モナイコトデアリマス、此ノ點ニ付キマシテハ段々研究ヲ進メテ居リマスノデ、近ク成案ヲ得マシテ國會ノ御審議ヲ仰グト云フ運ビニ相成ルト考ヘテ居ル次第デアリマス、尚又平和國家ヲ建設シテ參リマス上ニ於キマシテ、今後ノ我ガ國ノ治安ハ警察一手デ之ヲ引受ケナケレバナラヌト云フコトニ相成ツテ居リマスノデ、此ノ面カラノ警察ノ改善モ是非成シ遂ゲナケレバナラヌ問題デゴザイマスルガ、併シ之ニ付キマシテハ人的、物的、其ノ他色々ノ制約ニ直面ヲ致シテ居ル次第デアリマス、又一面ニ於キマシテハ、今後我ガ國ノ政治ノ行キ方ヲ地方分權ニ徹スルヤ否ヤト云フヤウナ大キナ問題トモ關聯ヲ致シテ居リマシテ、此ノ點ニ付キマシテハ政府ニ於キマシテ、目下鋭意考究中デゴザイマス、茲ニ其ノ結論ヲ申上ゲル時期ニ達シテ居リマセヌガ、何ニ致セ此ノ點ニ於キマシテハ、極力努力ヲ致シマシテ、今後ノ我ガ國ノ社會治安ヲ維持スルニ十分ナル警察ヲ打立テルト云フコトデ、之ニ依リマシテ國民ノ信頼ニ應ヘテ、又警察ノ行キ方モ國民ノ信頼ヲ繋ギ得ル行キ方ヲスルト云フコトデ進ミタイモノト考ヘテ居ル次第デアリマス
○平塚廣義君 時間ガ以外ニ掛リマシタノデ、ソレ以上ノ御質問ハ致シマセヌノデスガ、ドウゾ今ノ警察ノ點ニ付キマシテハ、或ハ地方自治ト直接ノ關係ノナイ事柄モアラウカトモ思ヒマスルケレドモ、只今内務大臣ノ御説明ガアリマシタ通リ、警察制度ノ改善、而モ民主主義新日本ヲ打立テル上ニ於テ國民ヲ保護シ、サウシテ權利ヲ助長シ、義務ヲ立派ニ履行セシムル上ニ於キマシテ、又先刻モチヨツト申上ゲマシタ治安ノ維持ト云フヤウナ點モ、固ヨリ申上ゲル迄モナイノデアリマスカラ、ソレ等ニ付キマシテ各方面ノ御研究ノ上ニ收善ヲセラレマシテ、サウシテ此ノ組織ガ伴フト云フコトハ、一日モ早ク日本國民ノ外國ニ對スル信頼ヲ助長スルト云フコトニナルヤウニ私ハ希望スル次第デアリマス、其ノ他幾多ノ問題モアリマスルガ、時間ガ少シ過ギマシタノデ、私ハ先ヅ以テ是デ質問ヲ打切ル次第デアリマス
○佐々木惣一君 私ハ第八章九十二條カラ御尋ネ申上ゲマスルガ、此ノ憲法ノ第九十二條ノ規定ハ地方公共團體ニ依ル地方自治行政ト云フモノハ必ズ之ヲ認メルト云フ趣旨ナンデスカ、之ヲ認メルト云フ時ニハ法律デソレヲ認メルヤ否ヤヲ何スルト云フノデスガ、必ズ地方自治ト云フモノヲ認メルト云フ趣旨ナンデスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 第九十二條ハ實質上公共團體ノ働ヲスルヤウナモノハ、此ノ九十二條ノ規定ニ依ツテ必ズ法律デ之ヲ認メル、唯總テノ所ニ例外ナク自治體ヲ作レト云フ積極的ナ意味ヲ言葉ノ上デハ持ツテ居ナイ積リデアリマス
○佐々木惣一君 例ヘバ法律ヲ作リマシテ、地方自治制度ト云フモノハ止メテシマフト云フヤウナ法律ヲ作ルコトハ出來ルノデアリマスカ、法律ニスレバソレデモ出來ルノデアルガ、地方自治ト云フモノハ必ズ存在セシメテ行カナケレバナラヌト云フ趣旨デアルカ、ソレダケノコトヲ先ヅ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） ソレハ解釋論ト、政治論トハ恐ラク正反對ノ結果ニナリマスケレドモ、解釋論ダケトシテハ御説ノヤウナコトニモ論理的ニナリ得ルト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 御存ジノ通リ、西洋デハ地方團體ト云フモノハ、國家前ニアツタト考ヘラレテ居ルノデス、國家ノ中ニ於ケル國家ト云フヤウナ言葉ガアル位デアツテ、國家ガ認メテサウ云フ地方行政ヲ成ス團體ガ出來タト云フ觀念ヲ採ツテ居ナカツタ、今ハ採ツテ居ルト思ヒマスケレドモ、我ガ國ニ於キマシテハ國家ガ地方團體ト云フモノ、地方自治ト云フモノヲ認メルト云フ建前ヲ金森サン御存ジノ通リ今日ニ於テ採ツテ居リマスガ、サウ云フ趣旨デナシニ、國家ノ意思ト云フヤウナモノト無關係ニ地方團體、地方行政ト云フモノガ存立ノ基礎ヲ持ツテ居ルカドウカト云フコトヲ唯御尋ネシタノデアリマスガ、只今伺ヒマシタ所デハ、兎ニ角國家ト云フモノガ認メルカラシテ存立シテ居ルト云フ建前デアリマスネ、サウ理解シテ宜シウゴザイマスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス
○佐々木惣一君 ソレガドウ云フコトカト云フコトガ、殘餘ノ所ニモ影響スルノデスガ、ハツキリ致シマシタノデ、次ニ御尋ネスルノデアリマスガ、地方團體ト云フモノガ國家ガ始終ソレニ關係シテ法律ナリ何ナリヲ作ラナケレバナリマセヌガ、其ノ場合ニ地方團體内部ノ組織ニ關スル事項、殊ニ地方團體ノ住民トカ機關トカ云フコトト、ソレカラ團體ト國家トノ關係ト云フ兩面ガ出テ來ルコトガ、殊ニ日本デハ重要ナコトト思ヒマスガ、ソコデ國家ハ地方團體ニ對シテ、固ヨリ只今御話ノヤウデアリマスカラ、結局自分ガ行政ヲ爲スト云フコトノ一ツノ方法トシテ、例ヘバ東京ナラ東京ニ於ケル行政ハ、國家ガ直接ニ行政ヲシテ國民ノ爲ニ、東京市民ノ爲ニ良イ行政ヲヤラナケレバナリマセヌケレドモ、併シナカラ考ヘテ見ルト東京市民自體ガ行政ヲヤル方ガ却テ國家ノ目的ニ適フト云フヤウナ建前デ、東京市民ノ團體トシテ東京都ト云フモノヲ認メテ居ルト、斯ウ云フ風ニ理解シテ宜シウゴザイマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 御質疑ノ本當ノ御趣旨ガ實ハ私ニハマダ見當ガ付キマセヌノデ、御答ヘスルノニ稍々當惑ヲ致シマスルガ、此ノ憲法ノ建前ハ、度々申シマシタヤウニ、個人ヲ尊重スルト云フ原理ガアレバ同時ニ又個人ガ自然的ニ固マル氣持ガアリマシテ、ソレガ團體ヲ作ツテ來ルト云フコトモ亦前提トシナケレバナラヌ譯デアリマス、サウ云フモノヲ導キツヽ發達サセテ、國ノ組織ノ完備ヲ期スルト云フコトガ狙ヒ所デアル譯デアリマス、併シソレハ實體デアリマシテ、現實ニ法律的ナル範圍ニ持ツテ來レバ、法律トシテハ法律デ認メルカラ、國法上ノ自治體ガ出來ルノダ、斯ウ云フ解釋ヲ執ツテ居ル、斯ウ云フコト迄申上ゲタ譯デアリマス、ソコデ今東京都ノ如キモノニ付テ、國家ガ之ヲ自治體トシテヤラセル方ガ都合ガ好イカラ法律デ以テ自治制度ヲ設クルノカドウカ、斯ウ云フヤウナ御尋ト思ヒマシタケレドモ、其ノ邊迄行キマスルト、持ツテ居ル政治的理念ヲ離レテハ純粹ノ議論トシテハ申シ切レマセヌノデ、稍々御答ニ躊躇スル次第デアリマス
○佐々木惣一君 私ノ言葉ガ惡イノデアツテ、國家ガ自分ノ所謂政治的ニ都合ガ好イトカ云フコトデナシニ、ソレガ日本ノ國益ニ適フカラ、國家ガ自ラノ負擔デヤルヨリモ、東京都内ニ於ケル行政ト云フモノハ、ソコノ自治團體ト云フモノヲ認メテ、サウシテ自治行政トシテヤラセル方ガ國家ノ爲ニナル、東京都ノ爲ニナルガ、同時ニ國家ノ爲ニナル、斯ウ云フ建前ヂヤナイノデアリマセウカ、ソレダケノコトデス
○國務大臣（金森徳次郎君） 分リマシタ、詰リ東京都ノ爲ニナルト同時ニ國家ノ爲ニナル、兩面ノ意味ヲ持ツテ居ル‥‥
○佐々木惣一君 サウデス
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 ソレダモンダカラ、詰リ往々外國ニ見ルガ如ク、地方團體ニ對シマシテハ國家ハ自己ノ力ヲ全然抛棄スルト云フ譯ニ行カナイシ、又「アメリカ」ニ於ケル個々ノ「ステート」ト合衆國ト云フヤウナ譯ニ行カヌ譯デスネ、國家ガ始終利害關係ヲ持ツテ居ル譯デスカラ‥‥、ソコデソレデ分リマシタデスガ、處ガ其ノ地方ニ於ケル行政ヲ如何ナル行政ヲ爲スベキカト云フコトハ、矢張リ國家モ利害關係ヲ持ツテ居ル、ソレカラ又關心ヲ持ツテ居ル、ソレカラシテ其ノ地方團體モ關心ヲ持ツテ居ルト云フヤウナ事柄ガアルノデスガ、ソレハ各々ドツチモ‥‥例ヘバ東京都デ公園ヲ立テル、設ケルト云フヤウナ時ニ、東京都ガ主體トナツテ其ノ公園ト云フモノヲ設ケルコトモアリ、或ハ又國家ガ主體トナツテ其ノ公園ヲ立テルコトモ出來ルト云フヤウナ建前ニアルノデゴザイマセウネ、此ノ自治團體ヲ認メルコトニ付テモ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 理論的ニハ左樣ニナリマス
○佐々木惣一君 デアリマスルカラ、其處ノ限界ヲ、例ヘバ教育ノ問題デスナ、先刻來御話ノ通リ、警察ニ致シマシテモ、サウ云フ點カラ詰リ同一ノ地域ニ於テモ國家ダケニ何ト申シマスカ、留保シテ置クベキ行政ト、ソレカラシテ地方團體ニモヤラス、又ハ國家モヤレルト云フヤウナ、サウ云フ行政トノ自ラマア種類ガ出テ來ルト思ヒマスガ、サウ云フコトハ是カラ法律デ段々ト定メテ來ル譯デゴザイマセウナ、ソレヲ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 イヤ其ノ根本ノ私ノ理解ガ深マレバソレデ宜イノデスカラ、ソレデ結構デゴザイマスガ、ソレト、サウ云フ方面ノコトヲ九十二條ガ決メルト同時ニ、サウ云フコトヲ自治團體トシテヤラセマスルナラバ、自治團體ニ國家ハ其ノ活動能力ヲ認メナケリヤナリマセヌデスカラ、是ハマア分リ切ツタコトデアルガ、ソコデチヨット晝迄ニモ伺ツタノデスガ、租税デスナ、國家ノ詰リ租税ハ法律デ以テ定メルト云フコトニ相成リマシタ、其ノ租税ハ國税ダト云フ御解釋デアリマシタガ、此ノ地方團體ガ課シマス租税ト云フモノモ、是モドウシテモソレハ地方團體自身ガ直接デハ課シ得ナイノデアツテ、國家カラ地方團體ニ其ノ租税ヲ取リ得ルト云フ權能ヲ認メナケレバ課セラレヌ、是ハサウ解釋シテ宜シウゴザイマスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 サウシマスト、其ノ地方團體ノ課税權ヲ認メル國家ノ行爲ハ、ソレハ矢張リ法律デゴザイマセウナ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 其ノ法律ガ矢張リ此處ニ入ツテ宜シウゴザイマセウカ、尚九十二條ニ矢張リ地方團體、公共團體ノ運營ニ關スル事項デアルカラ、必ズ法律デ定メナケリヤナラヌト、是デ行ツテ宜シウゴザイマセウカ、サウデナイト今朝ノ租税ハ法律デ以テ定メルト云フ場合ノ租税ガ、國税ト云フコトニ限ルト、チヨツト工合ガ惡イデセウ、ソコデ此處ニ入ルカ、租税ナドニ付テハ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 此處ニ入ルト言ツテモ宜イト思ヒマス、ケレドモモツト外ノ方面カラ言ヘバ、國民ノ基本權ニ對スル一ツノ侵害トデモ云フベキモノデスカラ、其ノ見地カラ言ツテモ、法律ヲ要スベキモノヂヤナイカト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 唯其ノ最後ノ御説明ニ依ルト、國税ニ付テモ別ニ要ラナイデスネ、其ノ點ハ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 國税ニ付テハ要ラナイト思ツテ居リマシタ、從ツテ原案ニ於キマシテハ、其ノ國税ヲ取ルト云フ規定ハ實ハナカツタノデアリマス
○佐々木惣一君 兎ニ角マア法律デ定メルト云フコトハ、地方税ニ於テモ法律デ定メナキヤナラヌト云フコトモ分ツタ譯デスネ、ソレハソレデ宜シウゴザイマシテ、ソレデ分リマシタデスガ、今度ハ矢張リ九十二條關係ニナリマスガ、詰リ地方團體ガ地方團體其ノモノトシテ、自治事務ヲヤル場合ノ問題デアリマスルノデアリマシテ、國家ガ之ヲ利用シテ、自己ノ國家ノ事項ヲ委任スル、所謂委任事務デスナ、委任事務ト云フモノヲ委任スルト云フコトハ出來ルト云フヤウナ建前デアリマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 ソレハドウ云フ法ノ根據デ、ソレハ唯法律サヘ‥‥無論法律デナクチヤイケマセヌネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 勿論法律デアリマス
○佐々木惣一君 其ノ法律デナクテハナラヌ、又同時ニ法律ナラ出來ルト云フコトハ、憲法ノ第八章ノ規定カラデナクテモ當然サウ云フ法律ガアレバ宜イト云フコトデアリマスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 第八章カラデナクテ、一般ノ原理カラ來ルノデアリマス
○佐々木惣一君 ソレデ大體分リマシタノデスガ、ソコデ今後ハ第九十三條ニナリマスガ、是ハ第二項ニ、立法論見タヤウナコトニナリマスケレドモ、地方公共團體ノ長ナリ其ノ法律ノ定メマフル「その他の吏員」ハ住民ガ直接選擧ヲスルノデスガ、是ハドウモ直接選擧ト云フコトガ非常ニ良イデセウカドウデセウカ、是ハ仕樣ガナイカラ規定シテアルノデアリマシテ、ドウシテモ直接選擧デハ何カ弊害ガアル、市長ヲ直接選擧ニスルトカ、知事デモ直接選擧ニスルト云フヤウナコトハ、弊害ガアルト云フヤウナコトハ御考ニナリマセヌカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ市長ノ直接選擧ガ善イカ惡イカト云フコトニ付キマシテハ、在來ノ日本ノ學術研究者ノ中ニ於キマシテハ、相當議論ガアル問題デアリマシテ、寧ロ直接選擧ハ不便デアリ、又不適當デアルト云フ風ナ議論モ相當ニアツタモノト考ヘテ居リマス、處ガ此ノ憲法ノ採ツテ居リマスル基本ノ原理ト致シマシテハ、國民ノ氣持ヲ熱心ニ且有效ニ適切ニ代表セシムルニハ原則トシテ直接選擧ガ良イト云フ論ヲ堅持致シマシテ、ソレニ依ツテ總テヲ整理シテ斯樣ナ結果ニ相成ツテ居リマス
○佐々木惣一君 唯私チヨツト申上ゲテ置キマスガ、サウナリマスルト、其ノ人選デスガ、市長其ノモノニ良イ人ガ來ルカ來ナイカト云フ問題、或ハ政黨ノ力ガ及ブト云フサウ云フ人選ノ問題モアリマセウガ、市長ト、ソレカラ市會ナドトノ關係ガ、兩者ガ共ニ國民カラ選バレテ代表シテ居ルモノダト云フコトデ、兩者ノ間ニ對抗的氣分ガ起リハシナイデセウカ、誰方デモ宜イデスヨ、必ズシモ金森國務大臣デナクテモ宜イデス
○國務大臣（大村清一君） 憲法九十三條第二項ノ立法ニ當リマシテハ、之ヲ直接選擧ニシタガ宜シイカ乃至ハ日本ノ國情デハ間接ニシタガ宜シイカト云フコトニ付キマシテハ、當時政府ニ於キマシテ、段々研究ヲ致シタコトデアリマス、併シ此ノ現在ノ市長ノ選擧方法ハ是ハ一ツノ特長ハ持ツテ居リマス、即チ市會ナラ市會デ市長ヲ選擧シテ居ルノデアリマスガ、是ハ特長ハ持ツテ居リマスルガ、併シ一面ニ於キマシテハ、相當弊害モアルノデアリマス、必ズシモ之ガ絶對良イ選擧法デモナイ、尚新憲法ニ於キマシテハ、金森國務相カラ御答辯ノアリマシタヤウニ、總テノ政治ハ選擧民カラ發スルト云フヤウナ建前デズツト來テ居リマス、ソコデ結局此處ニ提案ニナツテ居リマスヤウナ直接選擧ヲスルト云フコトニ方針ガ一決致シマシタノデ、ソコデ改正地方制度ノ立案ニ當リマシテモ只今御話ノヤウナ議決機關ト執行機關ノ對立ヲスルト云フヤウナコトハ從來ヨリモ著シクナル點ガ豫想セラレマスノデ、ソレニ對シマシテノ何等カノ解決方法ヲ以テ臨マナケレバナラヌト云フコトデ、實ハ地方議會ガ、公共團體ガ市長ノ行動宜シカラズト云フコトニナリマスト、ソコニ不信任決議ガ出來ル、ソレニ依ツテ市長ノ更迭ヲ策スル、其ノ場合公共團體ノ議會ノ意見ガ正當デアリマス場合ニ於キマシテハ、市長ガソコニ潔ギヨク退陣ヲスルデアリマセウ、併シ必ズシモ地方議會ノ意見ガ適正デナイ場合ニ於キマシテハ、市長ニ於キマシテ、議會ヲ解散ヲスルト云フコトデ、民意ニ問フト云フ所デ問題ヲ解決スルト云フ方法ヲ採ツタノデアリマシテ、サウ云フヤウナ對立ヲ致シマシテ、自活制ノ運營ニ於キマシテ、支障ヲ來タシマシタ場合ノ極端ナ場合ノ打開策、ソレニ對シテ解決ガ出來ルト云フヤウニ考ヘテ居ル次第デアリマス、是ハ直接選擧ニ致シマス結果ト致シマシテハ、斯樣ナ方途ヲ講ジマスノガ最善デアルト云フヤウニ致シマシタ次第デアリマス
○佐々木惣一君 分リマシタ、要スルニ直接選擧ト云フコトニ依ツテ生ズルモノト考ヘラレル弊害トシテハ今御話ノヤウナ議事機關トノ對抗問題デアリマスガ、ソレニ付テサウ云フ即ニ制度的ノ改正ノ方法ヲ御考ニナツテト云フコトデアリマスカラ、其ノ方面ノコトハモウ問ヒマセヌ、他ノ方面、之ニ付キマシテ市長ナドハ適當ナ人ヲ入レル、斯ウ云フ問題デアリマスカラ、是ハドウモ仕樣ガナイ、茲ニ御尋ネ致シマスガ、直接選擧ハ直接選擧デ宜イトシテ、其ノ選擧ニ對シテ候補者ト云フヤウナモノヲ何カノ機關デ決メマシテ、サウシテソレヲ市民ニ示スト云フヤウナコトハ實際上、立法上良イ惡イノ問題デナイ、此ノ憲法ニ直接之ヲ選擧スルト云フ、憲法ニ牴觸スルト云フ二ツノ點ヲ、チヨツト其ノコトヲ‥‥、ドナタデモ宜イ、僕ハ指名シマセヌ、ドナタデモ宜イデス
○國務大臣（大村清一君） 地方公共團體ノ市長候補者ヲ何カ法律ヲ以テ制限ヲ致シマシテ、特定ノ候補者デナケレバ立候補ガ出來ヌト云フ問題ニ付キマシテハ研究ヲ致シテ見タノデアリマスルガ、新憲法ノヤウナ建前ニナリマスルト、法律上住民ガ市長ヲ選擧スル場合ニ於キマシテ管圍ヲ限定スルコトハ法律問題トシテ如何ナモノデアラウカ、又政治問題ト致シマシテハ、斯樣ナ立候補者ヲ制限スルト云フ制限ノ仕方ニ於キマシテ、色色研究ヲ致シテ見タノデスガ、是ナラバ納得ガ付クト云フヤウナ名案モゴザイマセヌ、旁々是ハ立法論トシテモ疑義ガアリマスシ、又實際問題トシテモ適當ナル立候補ノ制限ト云フコトニ思ヒ當リマセヌノデ、之ヲ抛棄致シマシテ、唯世間ニゴザイマスヤウナ、候補者ノ濫立ト云フコトヲ防グ方途ト致シマシテ、日本ニ於キマシテハ、且テ衆議院議員選擧ニ於テ保證金、供託金ニ依ツテ其ノ弊ヲ除去シヨウト云フコトガ試ミラレテ居リマスノデ、只今ト致シマシテハソレ以上ノ名案ガゴザイマセヌ、供託金ノ制度ハ地方公共團體ノ市長ノ場合ニモ用ヒヨウト云フコトニ致シタノデアリマス、從ツテ法律論ト致シマシテハ何等ソコニ新ラシイ解決ハ致シテ居リマセヌガ、併シ選擧ノ實際ニ於キマシテハ信頼ノ出來ル人々ガ市長候補者ヲ推薦スルト云フヤウナ、政治上ノ行動ハ一向差支ナイコトデモアリマスシ、今後是等ノ選擧ガウマク行ツテ行キマス爲ニハ、サウ云フヤウナ選擧民ガ信頼ノ出來ルヤウナ民間團體等ニ於ケル推薦ノアルコトハ期待サレルシ、又サウ云フヤウニ動クモノデアルト云フヤウニ考ヘテ居ル次第デアリマス
○佐々木惣一君 分リマシタ、是ハナカナカムヅカシイコトデ、私ハ何デスカ、マア假ニ詰リ、今御話ノヤウニ候補者ヲ限定スルト云フコトハ直接選擧ノ趣旨ニ合ハヌト云フコトハ無論考ヘラレマスカラシテ、併シ甲ナラ甲ト云フ機關ヲ作ル、其ノ機關ヲ作ル時ニ何カ市民ノ意思ニ依ツテ作ルト云フ方法ヲ講ジテ、サウシテ其ノ機關ヲ通ジテ候補者ヲ作ルト云フコトガ出來レバ、今サウシテ是ハ實ハ選擧ト云フト直グ立候補ト云フコトガ考ヘラレマスガ、議員ニ付テハ立候補ト云フヤウナコトハ無論是ハナケレバナラヌガ、併シ此ノ長官トカ市長ト云フモノノ選擧ト云フモノハ、サウ云フ立候補‥‥従ツテ運動ニナリマスガ、立候補、之ニ附隨スル運動ト云フコトナシニ、唯候補者トシテ指名サレル、ソレヲ住民ガ選擧ヲスルト云フヤウナ方法ガ考ヘラレタラ宜イガト、ヒヨツト思フモノデスカラ、立候補、選擧運動ナント云フコトハ地方長官トカ市長トカ云フヤウナ者ニ關スル選擧ニ付テハナクシテ出來ヤシナイカト考ヘタ、其ノ方ガ宜イヂヤナイカト思ツタモノデスカラ、チヨツト御尋ネシタノデ、其ノ點ハ分リマシタ、ソレカラ今度御伺ヒ致シタイノハ九十三條ノ第二項ニ「地方公共團體の長、その議會の議員及び法律の定めるその他の吏員は」トカアリマスガ、「その他の吏員」ト云フ文字ハ、如何ニモ議員ト云フモノハ、無論吏員ヂヤナイデスガ、此ノ「地方公共團體ノ長」「法律の定めるその他の吏員」トアルト宜イノデスケレドモ、「その議會の議員及び法律の定めるその他の吏員」トアリマスモノデスカラ、如何ニモ議員ガ吏員ニ屬スルカノ如ク思ハレル嫌ヒガアリマスガ、無論其ノ御考デハナイデセウネ、議員ハ吏員タル性質ヲ持ツテ居ルモノヂヤナイ、此ノ文章ガマヅイノデスガ、議員ハ吏員タル性質ヲ持ツテ居ルモノヂヤナイ、サウ云フ考ヘヂヤナイデセウナ是ハ當然ノコトダ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス上ノ公共團體、是ガアツテソレヲ受ケテ居ル
○佐々木惣一君 サウデスネ、其ノ次ニ來レバ宜イノデスネ、ソレハマア宜イ、ソレデマア九十三條ハ宜イトシテ、飛ンデ九十五條ニ付テ御尋ネ申上ゲタイト思ヒマスガ、「一の地方公共團體のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共團體の住民の投票においてその過半數の同意を得なければ、國會は、これを制定することができない。」ト云フノデアリマスガ、是ハ質問ヨリモ何ヨリモ、先ヅ例ヘバドウ云フヤウナ法律ヲ作ルト云フコトデアルカ、一ツ例示的ニ一ツ御説明ヲ願ツテ見タイト思フノデスガネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 第九十五條ノ考ヘテ居リマス所ハ、結局個性ノ尊重ト云フ考ノ延長デアリマシテ、公共團體ガ色々アルガ、併シ或特殊ナ公共團體ガ個性ヲ尊重セラレズニ、一般ノ力ニ依ツテ之ニ代ツタ状況ニ置カレルト云フコトハ餘程注意シナケレバナラヌ、共處デ此ノ公共團體自ラガ同意ヲスレバ宜イケレドモ、サウデナイ限リハサウ云フ特別ナモノヲ作ツチヤイケナイト云フ斯ウ云フ趣旨デアリマシテ、唯其ノ時ニ實ヲ言ヘバ、特權ヲ與ヘマスルヤウナコトデアルナラバ、何モ其ノモノノ同意ガナクテモ宜イ場合デスケレドモ、一切ヲ一ツニ纒メマシテ、苟クモ或特定ノ團體ニノミ適用ノアルヤウナ法律デアルナラバ、此ノ場合ニハマア本人ノ同意ガ要ル、斯ウ云フ譯デス
○佐々木惣一君 チヨツト、サウスルト此ノ特別法ト申シマスカ、詰リ國家行政、官治行政ニ關スルノデハナクシテ、其ノ團體ニ於ケル自治行政ヲ定メルニ付テ何カヲ定ムル法規デアリマスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス、東京都制ト云フヤウナモノガ若シ團體法トシテ完全ニ實施サレルコトニナリマスト、斯樣ナ場合ニ適用サレルヤウニ考ヘマス
○佐々木惣一君 其ノ點ハ伺ヒマシタガ、兎ニ角茲ニ官治行政デアルケレドモ、例ヘバ警察ナラバ警察、教育ナラバ教育ト云フ、官治行政ダケレドモ、東京ト云フ、サウ云フ東京都ダケノ範圍ニ於テ適用シタ所ノ警察法トカ、サウ云フヤウナ意味ヂヤアリマセヌデスネ、ソレダケヲ一ツハツキリシテ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 御説ノ通リデアリマス、何ト言ヒマスカ、サウ云フ場合ニ官治行政ノ範圍ニ於テ此ノ規定ヲ適用スルト云フ考デハゴザイマセヌ
○佐々木惣一君 ソレデ結構デス、私ノ質問ハ是デ終リマス
○松村眞一郎君 金森サンニ御尋ネシマスノデスガ、佐々木サンカラ度々繰返シテ御尋ニナツタノデスガ、私ハ矢張リ税ト云フモノハ地方税モ入ツタ方ガ宜イノヂヤナイカト云フコトヲ考ヘマスガ、ドウシテモ國税デナケレバナラヌト言ハナクテハイカヌデスカネ、是ハ内務大臣ニモ後デ御尋ネシヨウト思フノデスガ、税ト言フノハ、今日ハ國税ト地方税トハ殆ド一緒ニシテ居ルノデス、是ハ地方分與税ト云フモノガアリマシテ、是ナドモ取ツタモノヲスツカリ地方ヘヤツテシマフノデス、サウ云フ税ガアル際ニ、例ヘバ地方分與税ノ第三條ニハ「還付税」ト云フモノガアリマシテ、是ハ皆サン御承知ノ通リデアリマスケレドモ「毎年度分トシテ分與スベキ還付税ハ當該年度ニ於テ徴收スベキ地租、家屋税及營業税トス」、之ヲ全部地方ヘヤツテシマヒマス、是ハ自分ノ方デ取リマスケレドモ、スツカリヤツテシマフ、是ハ二條ニモアリマス、「地租、家屋税及營業税ノ徴收額ノ全部ヲ以テ還付税トス」、ト云フノデアリマスカラ、唯國ガ取ツテ居ルダケデ、實ハ地方ヘヤツテシマフノデス、サウ云フコトヲ考ヘマスト、税ト云フモノハ兩方掛ケルト云フコトニ御讀ミニナツタ方ガ宜イト思ヒマスガ、サウ拘ハツテ國税ダト仰シヤラナクテモ、今ノヤウナヤリ方ニシテ居ツテ、殆ド地租、家屋税、營業税ト云フモノハ地方ノ爲ニ取ツテアルノデスネ、所得税ヲシテモ、第二條ノ第二項ニアリマスガ、百分ノ幾ツト云フ、是ハ後デ税法ヲ改正シテ率ハ上ツテ居リマスケレドモ、所得税デモ、法人税デモ、入場税デモ、遊興飲食税デモ其ノ地方ヘ分與シテシマフ譯デス、是ナドハ取ル時ハ國税デスケレドモ、實ハ初メカラ地方ヘ與ヘル積リデヤツテ居ルノデ、餘リ強ク言ハヌヤウニシテヤツテ戴キタイノデスガ、ドウデセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ規定カラドウ云フ風ニ解釋シテ宜イカト云フコトハ、私共實質ニ於テハ矢張リ地方税ニ對シマシテモ、固ヨリ納税ノ義務ハ此ノ憲法ニ於テ豫想サレテ宜イコトト思ツテ居リマス、唯財政ノ所ノ「あらたに租税を課し」云々ト云フノハ詰リ條文ノ配置デ略々明カデアリマスルヤウニ、國ノ財政ヲ處理スル立場ニ於テ、其ノ所五條バカリノ間ハ連續シテ規定ガ出來テ居リマスカラ、此處ノ中ニ地方税ガ入ルト解スルコトハ少シク無理デハナカラウカト私ハ考ヘテ居リマス、ソコデ今折角仰セガアリマシタノデ、振返ツテ第三章ノ第三十條ノ衆議院デ修正サレマシタ、「國民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。」ト云フ、此ノ規定ハ如何ニ解シテ宜イカト云フコトニナリマスルト、是ハ稍々今申シマシタ八十四條ノ規定トハ別ニ解シ得ル餘地ガアルヤウニ思フノデアリマス、其ノ方ハ地方税モ入ツテモ宜イノデハナイカ、今御説ニ依ツテ左樣ニ考ヘマシタ
○松村眞一郎君 成ル程ソレニ結構ダト思ヒマス、是ハ三十條ノ方ニ引繰リ返リマシテ、廣ク言ウテ居リマスカラ、サウ云フ御解釋ニシテ戴イテ、地方税モ入ツニ居ルト、凡ソ税ト云フモノハ國民ハ出ス時ハ同ジデスカラ、是ハ三十條ノ方トシテ廣ク御考ヘ下サルト云フコトニナレバ宜シウゴザイマス、ソレデハ一ツ是デ御解釋願ヒマス、内務大臣如何デスカ、私ガ考ヘマスノニ、今度自治制ト云フコトヲ麗々シク書キマシタケレドモ、是ハ自治ヲ特ニ奬勵スルト云フヤウナエライ力ヲ入レテ居ルノデハナクテ、民主主義政治ガ段々助長スルニ從ツテ、地方ノ方ニモ段々自治ガ發達シテ來ルタラウ、國ノ方カラモサウ云フモノガ出來テ來ルコトハ結構ナコトデ、兩々相俟ツテ、委任事務、固有事務ト云フモノガ兩方錯雜シテ居ル、或場合ニハ國ノ事務ノ方ガ大キイコトモアルノデス、地方自治ト云フコトヲ特別ニ獎勵スルト云フコトヲ具體的ニ擇ブ必要ハナイ、民主主義政治ノ進展ト同時ニ地方自治モ發達シテ行ク傾向ニアルカラ、自然此處ニ掲ゲテ、國ト共ニ地方ノ自治モ發達サシテ、國ノ行政事務ヲ充實シテ行クト、唯サウ云フ意味ニ私ハ解シテ居ルノデスガ、此ノ機會ニ特ニ地方自治ニ獨立的ナ機能ヲ發揮サセヨウト云フヤウナコトヲ入レテ力ンデ居ルモノトハ私ハ思ハナイノデスガ、其ノ點ハ如何デスカ
○國務大臣（大村清一君） 憲法ノ九十二條ハ、金森國務相カラ御答ニナリマシタヤウニ、自治ヲドウシテモ認メナケレバナラヌ、又大イニ之ヲ推進サセナケレバナラヌト云フヤウナ意味ハナイモノト私モ考ヘマス、併シ政治問題ト致シマシテハ、此ノ日本ノ政治ヲ民主主義化スル上ニ於キマシテ、地方自治ハ非常ニ重要ナ立場ニアルト思フノデアリマス、地方自治ニ依リマシテ、選擧民ハ民主政治ノ實際上ノ訓練ヲ受ケ、教育ヲ受ケルト云フ點ヲ政治的ニハ重視シテ行キタイト云フヤウニ考ヘテ居ル次第デアリマス
○松村眞一郎君 大體御考ガ一致シテ居ルヤウニ考ヘマス、或ハ「アメリカ」ノ地方ノ州ト云フヤウナ思想ナドノ考カラ出テ居ルノデハナイノデ、日本ノ自然ニ發達シテ來ル所ノ自治制ヲ出來ルダケ助長シテ行カウト、斯ウ云フヤウナ御氣持ノヤウニ解シマスカラ、其ノ點ハ私ハ結構ダト思ヒマス、ソコデ餘リ自治ト云フコトヲ固クスルト云フト色々ナ問題ガ起ルノハ、例ヘバ地方ニ依リマシテハ、國有林ガ澤山アツテ税金ガ取レナイ爲ニ地方デハ非常ニ困ルコトガアル、サウ云フヤウナ場合ニハ國カラ特別ノ補助金カ何カ出シテ居ルト思ヒマス、サウ云フヤウナ制度ヲ廢メテ、餘リ強ク言フト、地方ノ自治體ノ方ノ森林ニシテシマハナケレバナラヌト云フヤウナ問題ガ必然的ニ起ツテ來ル、ソンナコトヲ考ヘテ居ルノデハナイノデ、ソレハ從來ノヤウニ國ノ方カラ補助シテ行ケバ宜イノデアリマスカラ、此ノ機會ニソンナヤウナ制度迄踏ミ込ンデ行ツテ何カ施設ヲ新タニスルト云フヤウナコト迄御考ニナツテ居ルノデハナイト思ヒマスガ、如何デスカ
○國務大臣（大村清一君） 只今御尋ニナリマシタヤウナ所迄考ヘテ居ル譯デハゴザイマセヌ
○松村眞一郎君 能ク分リマシタ、私ノ質問デ地方税ノ内容ト申シマシタノハ、夫役現品ト云フモノガ今アル譯デスネ、ソレハ府縣制ノ百十二條、百十六條、市制ノ百十七條、百二十四條、百二十五條、町村制ノ九十七條、百四條、百五條、百十一條ニサウ云フヤウナモノガアリマスガ、此ノ夫役ト云フノハ、税金ノ代リニ夫役ト書イテアル、サウ云フヤウナモノハ從來ドンナ工合ニ御取扱ニナツテ居リマスカ、税ト言フノモナントナク妙ナ感ジガスルノデスガ、實例ハ餘リ斯ウ云フコトハ行ハレテ居ナイト思ヒマスケレドモ、此ノ夫役ト云フノハ便利ダトハ思ヒマスガ、如何デセウカ
○國務大臣（大村清一君） 現在ノ地方制度ノ上ニ於キマシテハ、夫役現品、又ハ受益者負擔ト云フヤウナ公課ガゴザイマス、是等ノ公課ガ租税デアルカドウカト云フ點ニ付キマシテハ、學説上議論ノアル所テアリマスルカ、今日ノヤウナ金錢經濟ノ時代ニナリマシテハ、多クノ學者ハ租税ハ金納ダト云フノカ通説ノヤウデゴザイマス、併シソレ等ノ賦課ハ矢張リ財産上ノ利益ニ關係シタコトデゴザイマスノデ、租税ニ準ジタ扱ヲスベキガ當然ノコトデアリマスノデ、總テ從來ノ日本ノ法律ニ於キマシテモ、是ハ法律デ之ヲ決メルト云フ慣行ガ成立シテ居ル次第デアリマス、新憲法ニ於キマシテハ、矢張リ九十二條ニ依リマシテ、ソレ等ノ租税以外ノ夫役、現品、受益者負擔ト云フモノハ總テ法律デ定ムベキモノデアルト云フヤウニ解釋シテ居ル次第デアリマス
○松村眞一郎君 九十二條ニ持ツテ行カレマシテ、サウ云フ場合ニハ法律デ決メルト云フノハ、是ハ其處ニ引用サレルト云フコトハ結構デアリマス、併シ今迄ノ地方税ノ法律ヲ見マスト、例ヘバ府縣制ニ於テ第五章「府縣ノ財務」ト云フ所ニ書イテアリマス、第一款「財産營造物及府縣税」ト云フ所ニ、其ノ中ニアル、是ハ矢張リ税ト見テ居ルト思ヒマスガ、夫役ト云フコトヲ税ト見ルノハ、金森國務大臣ニ御尋ネスルノデスガ、ドウ云フ風ニ解釋シテ行クノデアリマスカ
○國務大臣（大村清一君） 尚御答ヘ致シマスガ、地方税ノ上ニ付キマシテモ、地方税法ト云フ別ナ税法ガゴザイマシテ、法律上夫役、現品ハ別ニ考ヘテ居リマス、只今御指摘ニナリマシタノハ「地方ノ財務」ノ中ニ規定シテアルヤウニ記憶シテ居リマス
○松村眞一郎君 地方税法ノ中ニアルト云フコトハ承知シテ居リマスケレドモ、今ノ夫役ト云フモノヲ税トシテ徴收スルト言ヒマスカ、賦課スルトカ云フコトハ、憲法デハドレニ據リマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 憲法デハ、納税ト云フコトヲ義務トシテ書イテアリマスルガ、要スルニ是ハ、目欲シイ所ヲ一ツ抑ヘテ、納税ノ義務ガアルト云フモノデアラウト思ヒマス、度々申シマスルヤウニ、從來ノ憲法ハソンナコトハ書カナクテモ一般解釋デ當然ダト、斯ウ考ヘマスケレドモ、衆議院デ修正セラレマシタノハ、現行憲法ト同ジヤウニ、納税ト云フコトハ國民負擔ノ中ノ最モ重要ナルモノデアルカラ、此處ニ掲ゲタト云フダケデアリマシテ、其ノ外ノモノヲ排除スル趣旨デハアリマセヌ、ソレデハドンナモノデモ取レルカ、ドンナ形デモ取レルカト云フト、今度ハ第三章ノ基本權ノ規定ガ入ツテ來マシテ、身體ノ自由ヲ拘束スルヤウナコトハ法律ニ據ラナケレバナラヌト云フコトニナリマスカラ、結局命令デハ出來ヌト云フ結論ニナラウト思ヒマス
○松村眞一郎君 私ハ現行法デハ、憲法トシテドレニ根據ヲ置イテ居ルモノカト云フコトヲ疑ツテ伺ツタノデスガ、今度ハドレニ據リマスカ、今ノ體力ヲ税トシテ課スルト云フコトハ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 税デハナイノデス、サウ云フ或特殊ナル勤勞ヲ自治體ノ爲ニ供給スル、サウ云フヤウナ意味デ負ハシテ居ルノデアリマシテ、ソレヲ積極的ニ、現行法デモ亦此ノ憲法デモ、サウ云フコトヲ義務トシテ直接ニハ掲ゲテ居リマセヌ、居ナイト云フノハ、何モ國民ノ義務ヲ總テ憲法ニ書ク必要ハアリマセヌ、目欲シイ税ダケヲ、國民ノ義務トシテ掲ゲテ居ル譯デアツテ、サウ云フ夫役、現品ハ、現行法デハ書イテアリマセヌ、今度ノ憲法ニモ書イテアリマセヌ、唯立法事項デアルト云フコトハ、現行法デモ、亦新ラシキ草案デモ同ジコトダト、斯ウ申上ゲタ譯デス、義務デアリナガラモ、憲法ニ書イテ居ナイモノハ外ニモアルダラウト思ヒマス、教育ノ義務モ亦其ノ一ツダラウト思ヒマス
○松村眞一郎君 ソレハ議論ニナルカラ何デスガ、根據ハ何處ニアルカト云フコトヲ伺ツタノデス、法律ニ依ラナケレバナラヌト云フコトハ當然デアリマシテ、是ハ「自由」ニ非常ニ影響スルノデスカラ、地方税法ハ税ト認メマスカラ、納税ノ義務ノ中ニ入ツテ居ルノカト、私ハ、從來解釋シテ居ツタノカト思フノデスカラ、ソレヲ伺ツタノデアリマスガ別ニドレニ根據スルト云フコトハナイヤウデアリマスカラ、是以上質問スルコトハ致シマセヌ
○子爵松平親義君 第八章ノ地方自治ノコトニ關シマシテ先程來御質疑ガアリマシテ、政府ノ御考モ分リマシタノデスガ、伺ツテ居リマスト、此ノ憲法ノ規定ノ地方自治ノ章ヲ特ニ設ケタト云フコトニ付キマシテ、内務大臣ハドウモ積極的ニ此ノ地方自治ヲ今後進メテ行クト云フヤウナ御考ガアルヤウデモアリ、又サウデナイノダ、唯「デモクラシイ」ノ思想ニ從ツテ、今後自ラ地方自治ハ發展シテ行クデアラウト云フヤウナ輕イ意味ニオトリニナツテ居ルヤウニモ伺ヒマスシ、孰レデアルカドウモハツキリ致シマセヌノデアリマス、併シ私ハ此處ニ特ニ書キマシタト云フコトハ、一ニ今後我々國民ガ此ノ地方自治ニ對シテ、ドウ云フ心構ヘヲ持チ、之ヲ如何ニ今後運用シテ行クカト云フ國民ノ氣持一ツデ以テ、地方自治ガ非常ニ發展ノ上ニ役ニ立ツモノニナリ、又心構ヘ如何ニ依リマシテハ、折角憲法ニ掲ゲマシテモ、ソレカ無益ニ了ツテシマフト云フヤウナコトニナルト私ハ考ヘルノデアリマス、ソレデ、先程來御質疑ガアリマシテ、先ヅ内務大臣ニ伺ツテ置キタイト思ヒマスノハ、今度地方制度ヲ改正シタニ付テハ、地方制度ノ機關ノ構成ニ付テ、或ハ行政事務ノ配分ト云ツタヤウナコトニ付テハ十分考慮シタ積リデ居ルト云フ御答辯ガアツタト思フノデアリマス、尤モ行政事務ノ配分ト云フコトニ付テハ、是ハ非常ニ問題ガ重大デアリ、殊ニ私モ、今日ノヤウナ斯ウ云フマダ終戰後總テノ關係ガ非常ニ紛糾、混亂シテ居ルヤウナ状態ニ於キマシテ、之ヲ唯地方ニ全部行政事務ヲ配分スルト云フコトハ、國家ノ統一性ヲ非常ニ害フト云フヤウナ虞ガ私ハアルト思ヒマスノデ、内務大臣ノ御意見ト私ハ同樣ニ考ヘテ居リマス、併シ先程内務大臣ノ御答辯ノ中ニアリマセヌ言葉デアリマシタノデスガ、私ハ今後ノ地方自治ヲ圓滿ニ遂行シテ行ク爲ニハ、先ヅ地方團體ト云フモノ、此ノ地方團體ト云フモノガ、一體ドウ云フモノデアルカト云フコトヲ、モウ一遍此ノ際認識シ直シテ見ル必要ガアルノデハナイカト私ハ考ヘテ居リマス、ト云フノハ、我ガ國ノ地方團體ト申シマスノハ、是ハ私ガ此處デ彼此申ス迄モナク御承知ノコトデアルノデアリマスガ、明治維新ニ我ガ國ガ王政復古ノ世ノ中ニナリマシテ、所謂中央集權ノ行政ヲヤツタノデアリマス、其ノ爲ニ中央集權ノ行政ヲ徹底スル爲ニ、アノ頃ノ歴史ヲ私淺イ知識デアリマスガ、讀ンデ見マスト、唯中央行政ヲ強化スル爲ニ、其ノ時ノ地方團體ト云フモノヲ其儘ニ認メルト云フヨリハ、寧ロ政府ガ中央行政ヲスル一ツノ便宜ノ爲ニ、行政區劃等ハ自分勝手ニ、地方團體ト云フモノヲ區劃ヲシタト云フヤウニ私ハ見テ居リマスデアリマス、從ツテ今日ノ市町村ト云フヤウナモノハ、是ハ先ヅ大體ニ於テ、公共團體トシテノ全法律的ノ一ツノ社會的ナ、ソレ自ラ一ツノ團體トシテ、意思ヲ持ツタ所ノ團體トシテノ存在ガ私ハアルト思フノデアリマスケレドモ、府縣ノヤウナモノニナリマスト、是ハ果シテ今ノ府縣ト云フモノ、或ハ東京都ト云ツタヤウナモノ、斯ウ云フモノノ、一體地方團體トシテハ社會的ナ、何ト云フノデスカ、法律的ニ言ヘバ、其處ニ團體トシテノ意思ヲ持ツテ居ルカドウカト云フコトハ、非常ニ私ハ疑ハシイト思フノデアリマス、デアリマスカラ、今後地方公共團體ト云フコトヲ考ヘマシタ場合ニ、市町村ハ兎ニ角ト致シマシテ、府縣ノヤウナモノ、之ヲ矢張リ地方公共團體デアルト云フ風ニ認メテ、サウシテ之ニ行政權ヲ付與スルト云フヤウナコトガ、是ハ餘程考ヘマセヌト、本當ニ地方ノ自治ト謂フコトハ、是ハ出來ナイノデハナイカト云フ風ニ考ヘテ居リマスノデ、先程内務大臣ノ御答辯ノ中ニ、此ノ公共團體トハ、一體ドウ云フモノヲ謂フノカト云フコトハ、之ヲモウ一遍一ツ内務省ノ地方制度調査會アタリデ此ノ問題ハ特ニ御考ニナル必要ガアルノデハナイカト云フ風ニ、私ハ先程感ジタノデアリマス、此ノ邊ニ付キマシテ、内務大臣ノ御考ヲ一ツ伺ヒマス
○國務大臣（大村清一君） 此ノ新憲法ノ地方公共團體ノ觀方デゴザイマスガ、是ハ我ガ國ニ於キマシテハ、國家以前ニ地方自治體ガアツタト云フヤウナ沿革ハ先ヅナカツタヤウニ思ハレルノデアリマス、外國ニ於キマシテハ自治團體ガ先ヅ發達シマシテ、後ニソレガ國家ニ變ツテ來タト云フヤウナ事例モ段々アルノデアリマス、ソレ等ノコトヲ念頭ニ置キマシテ、此ノ九十二條ヲ讀ンデ見マスルト、我ガ國ノ自治團體ノ發展ノ經過カラ見マシテ、適當ニ法律上規定サレテ居ルト云フヤウニ私ハ感ズルノデアリマス、併シ今日ノ政治ニ於キマシテハ、地方自治ト云フモノヲ政治上重視シテ行ク必要ガアル、殊ニ民主主義政治ノ發達ノ爲ニハ、地方自治ガ發展ヲ致シマスコトハ、國ノ民主政治ノ發達ノ寧ロ基礎ヲ成スト迄考ヘテ宜イノデハナイカ、政治的ニハ之ヲ重視シテ行カナケレバナラヌト云フヤウニ考ヘテ居ル次第デアリマス、次ニ今日地方公共團體ト稱セラレテ居ルモノノ中ニ於キマシテ、市町村ノ如キハ、其ノ實ガ非常ニ備ツテ居ル、府縣ハ未ダ十分デナイト云フヤウナ其處ニ逕庭ノアルコトハ、是ハ確カニサウダト思フノデアリマス、府縣ハ、世間デハ所謂不完全自治體トモ言ハレテ居リマシテ、市町村ノ如キ完全自治體トハ其處ニ相違ガゴザイマス、併シ孰レニ致セ、地方公共團體ノ一タルコトハ、現在ニ於キマシテハ疑ノナイ事實デアルト思フノデアリマス、併シ今後地方公共團體ヲ立法上ドノヤウニ取扱ツテ行クカト云フヤウナコトハ、固ヨリ考究モ致シ、措置モ出來ルコトデアリマス、或ハ今日ノ如キ府縣公共團體ニ代フルニ道州制ヲ以テシテ、府縣ノ公共團體ヲモウ少シ小サイモノニシタラドウカト云フヤウナ意見モ段々アルノデゴザイマス、是等ノコトハ、今後ノ日本ノ國政及ビ地方政治ノ發展ノ爲ニ如何ナル團體ヲ認メテ行ツタラ宜イカト云フコトト併セ考ヘテ行クベキモノデアラウト云フヤウニ考ヘテ居ル次第デアリマス
○子爵松平親義君 御答辯ハ承リマシタガ、只今ノ御話ノ中ニ、我ガ國ハ舊藩ト言ヒマスカ、明治維新迄、所謂徳川幕府頃迄ノ歴史ヲ觀ルト、我ガ國ハ地方ニ自治ト云フモノハナカツタノデアル、歴史ハサウ云フヤウニ教ヘテ居ルト云フ風ニ仰シヤツタト思フノデアリマスガ、是ハ如何ナモノデゴザイマセウカ、詰リ徳川幕府ノ下ニ大名、諸侯ノ舊藩地ガ澤山アリマシテ、アノ舊藩領ト云フモノハ、大名ノ下ニ一ツノ地方自治ト云フヨリハ、寧ロモツト強イ、一種ノ統治權ヲ持ツテ居ツタ所ノ統治團體ガ其處ニアツタ譯デアリマシテ、寧ロ地方自治ト云フヨリカハ、日本ノ國内ニ大名諸侯ノ一國ガ澤山アツタト云フコトヲ私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、併シソレハ、内務大臣ハドウ云フ風ニ其ノ點ヲ御考ニナルカ知リマセヌガ、私ハサウ云フ風ナ考ヲ持ツテ居リマス、ソレデ明治維新ニナリマシテ、王政復古ノ世ノ中ニナリマシタケレドモ、併シ其處ニ、地方ニソレゾレノ舊藩諸侯ヲ中心ニシタ所ノ地方團體ト云フモノハ、私ハ現實ニアツタト思フノデアリマス、唯ソレヲ時ノ政府ガ中央集權ノ名ノ下ニ全部其ノ土地、人民ヲ天皇ニ、所謂版籍奉還ヲシタト云フコトニナツテ居ル譯デアリマシテ、形ハサウデアリマスケレドモ、矢張リ其處ニ、團體ト云フモノノ存在ハ儼然トシテアツタト私ハ思フノデアリマス、ソレデアリマスカラ、先程申上ゲマシタヤウニ明治維新迄ノ團體ト云フモノヲ、時ノ明治維新ノ政府ガ中央集權ヲ行フ爲ニ、ソレヲ自分ノ方ノ唯、一方的ナ便宜カラ、勝手ニ行政區劃ヲ定メテシマツタト云フ所ニ、今日地方自治ガウマク行カナクナツタ原因ガアルヤウニ私ハ考ヘルノデアリマス、其ノ邊ヲ先程申上ゲタノデアリマスガ、併シソレハ内務大臣ノ御考モ又アルコトデアリマスカラ、私ハ敢テ申上ゲマセヌ、尚私モ今後色々研究ヲ續ケテ見タイト思ヒマス、ソレカラモウ一遍、是ハドチラカラ伺ツテモ宜シウゴザイマスガ、先程佐々木博士モチヨツト御質問ニナリマシタガ、外國デハ地方自治ト云ツタヤウナモノハ、我ガ國トハ非常ニ違ツタ形デアツテ、即チ地方ノ團體ソレ自ラガ一ツノ統治ノ權能ト云フカ、主權ト云フカ、統治權ト云フカ、ソレ自ラガ一ツノ統治ノ權能ヲ持ツテ居ツテ、ソレガ相集ツテ一ツノ國家ヲ成シテ居ル、併シ日本ト云フ國、我ガ國ハ其處ハ、其ノ關係ガ全然ナクテ、地方ニ地方團體ト云フモノハアルガ、ソレガ國家カラ其ノ地方團體ニ、所謂法人格ヲ認メテ、國家ノ行政權ヲ其ノ地方ノ自治團體ニ付與スルコトニ依ツテ、初メテ地方自治團體ト云フモノガ其處ニ出來、外國トハ非常ニ性格ノ違ツタ所ノ自治團體デアルト云フ御話ガ先程アリマシタ、金森國務大臣ハソレニ對シテ、今後ノ地方自治ノ行キ方モ、矢張リ其ノ線ニ沿ツテ行クノデアルト云フ御話デアリマス、其ノ點ハ實ハ自分デモ能ク分リマセヌケレドモ、斯ウ云フ憲法ノ所デ、私ガ斯ウ云フ御質疑ヲスルコトガ、或ハソレハ憲法ノ問題デハナクテ、モツト廣イ範圍ニ於テ解決スベキ問題ダト仰シヤルカモ知レマセヌガ、抑々此ノ現行憲法ノ建前ト云フモノハ、今御話シタヤウニ明治維新以來ノ非常ニ中央集權的ナ臭ヒノアル一ツノ憲法ナノデアリマシテ、ソレニ反シ、今度出來タ所ノ憲法ト云フモノハ、所謂基本的人權ノ尊重ト云フ個人々々ノ人格ヲ尊重シテ行キ、其ノ上ニ日本ノ國政ト云フモノヲ作ル、詰リ國政ノ權威ハ前文ニモアリマスヤウニ、國民ニ裏附ケラレルノダ、國政ト云フモノハ「國民の崇高な信託によるもの」デアルト云フ風ニ書イテアリマシテ、其處ニ現行憲法ト行キ方ガ非常ニ違ツテ居ルノデアリマスカラ、サウ云フ風ナ建前カラ考ヘテ見マスト、地方自治ト云フモノノ考ヘ方モ、私ハ非常ニ根本ヲ變ヘテ考ヘテ宜イノヂヤナイカト云フ風ニ考ヘルノデアリマス、併シナガラ外國ノヤウニ、地方ト中央トデ統治權ヲ分有スルト云フ行キ方ハ、是ハ行キ過キダト思フ、「アメリカ」ノヤウナ各州ノ聯邦國家、合衆國トハ違フノデアリマスカラ、サウ云フヤウナ行キ方ハ行キ過ギデアルト思ヒマスケレドモ、サレバト言ツテ、今日迄ノ行キ方デモドウカト思フノデアリマシテ、其ノ點ニ付キマシテ、私モハツキリシタコトガ分ラナイノデアリマスガ、金森國務大臣ニ、何カ其ノ邊ニ付テノ御考ガ若シアリマシタラ御話ヲ承リタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 松平委員カラ御尋ニナリマシタ地方公共團體ト國トノ關係ニ付キマシテハ、是ハ社會學等ノ範圍ニ於キマシテ相當ムヅカシイ論議ヲ含ンデ居ル點ト考ヘラレマスルノデ、私カラ申上ゲマスルコトハ稍々憚ル部類ニ屬シマスルガ、併シ私ノ今迄御説明申上ゲマシタノハ、一體、人間自身ハ國家ノ中ニ入ツテハ居リマスケレドモ、此ノ政治的意味ニ於ケル國家ト對比シテ考ヘテ見マスルト、人間ノ全部ガ國家ノ中ニ嵌リ込ム譯デハナイ、個人トシテ國家ノ外ニアル部分ヲ考ヘラレルノヂヤナイカ、斯ウ云フコトヲ前カラ申上ゲテ居ツタノデアリマス、從ツテ各人ガドンナ學問的ナ見解ヲ執ルカ、ドンナ宗教ヲ持シテ居ルカト云フコトハ、國家ノ政治的活動ノ外ニ置カレテ行クノダ、斯ウ云フ風ノコトヲ申上ゲテ居リマシタ、詰リモノノ本體ト致シマシテハ、個人ハ國家ノ中ニ入ツテ居ルト同時ニ、國家ノ外ニ出テ居ル部分モアルヤウニ思フノデアリマス、此ノ譬ヘヲ公共團體ト國トノ場面ニ持ツテ行キマスルト、矢張リ公共團體モ、國ノ中ニ全部入ツテ居ルト云フ觀方ガ世間ニアルノデアリマスケレドモ、其ノ他ニ公共團體ノ働キノ一部分ハ國家ノ外ニ自ラ獨自ノ運命ヲ持チ、存在ヲ持ツテ居ルモノデハナカラウカ、斯ウ云フヤウナ風ニ考ヘラレルノデアリマス、斯樣ニシテ、個人ト公共團體ト國家ト云フ三ツノモノノ各々ノ存在ノ仕方ト云フモノヲ考ヘルト云フノハ、是ハ社會學的ナル考ヘ方ト申シマスルカ、左樣ニ考ヘラル、ト思ヒマス、ソコデ國法ノ體系ニ於キマシテハ、其ノ中ノ國ト云フモノデ蔽ハレル部分ヲ、國ノ憲法デ規定シテ行ク譯デアリマシテ、個人モ亦此ノ國デ蔽ハレテ居ル部分ヲ國ノ掟ガ規定ヲシテ居リマスルシ、公共團體ニ付キマシテ、此ノ國ノ掟デ蔽ハレル部分ガ規定セラレテ居ル、斯ウ云フコトニナラウト思ヒマス、デアリマスカラ、今松平委員ノ仰セニナリマシタ地方公共團體ト云フモノニハ、國ヲ離レテ獨自ノ存在ガアルト仰セニナリマシタコトハ、私ノ考デ申上ゲマスレバ、社會的意義ニ於テハ、確カニソレハアラウト存ズルノデアリマス、併シ此ノ憲法ノ體系ノ中ニ入レマスル範圍ニ於キマシテハ、ソレハ矢張リ國家ノ一部分トシテ取入レテ行クノデアラウト思ヒマス、デスカラ、憲法ニ見タ公共團體ト、本當ノ公共團體其ノモノノ活動部面トノ間ニハ、少々複雜ナル關係ガアルノデハナカラウカ、コンナ風ニ考ヘテ居リマス、ソコデ此ノ憲法ハ、從來ノ憲法ト違ツテ、地方公共團體ニ特別ナル性質ヲ與ヘテ居ルカト申シマスルト、是ハ法ノ上ニ於キマシテハ、何等特別ナル性格ヲ與ヘテ居ル譯デハナカラウト思ヒマス、今迄ト同ジヤウニ、國ノ一部分トシテノ公共團體ヲ規定シテ居ルト考フルノデアリマス、併シナガラ此ノ著眼ノ仕方ガ、先ニ個人ニ付テ申上ゲマシタト同ジヤウニ、公共團體ニ付キマシテモ、本來ノ伸ビル方面ガアツテ、ソレハ國家ト雖モ、濫ニ犯スベキモノデハナイト云フ面ノアルコトヲ心ノ中ニ入レテ置キナガラ、公共團體ノ規定ヲシテ居ルノデハナカラウカト云フ風ニ考ヘマシテ、ソレガ非常ニ婉曲ナモノデアリマシテ、ハツキリシタコトモ申上ゲラレマセヌガ、私ハ左樣ニ之ヲ解シテ居ルノデアリマス、斯ウ解シテ行キマスルト、決シテ「アメリカ」ノ州ノヤウナ、サウ云フ獨自ナモノヲ認メタ譯デハゴザイマセヌケレドモ、唯社會的ナル存在トシテ、相當公共團體ノ値打ニ重キヲ置イテ居ルト云フ風ニ思フノデアリマス、其ノ結果ガ、先ニ述ベマシタ九十五條ニ一端ヲ現シテ居リマシテ、何モ是ハ其ノ説明ト不可分的ニ考ヘル譯デハゴザイマセヌケレドモ、氣持ハ、或一ツノ公共團體ノ獨自ノ存在ヲ壤スヤウナコトハ、國法デ決メルニシテモ、
〔委員長退席、副委員長著席〕非常ニ遠慮シナケレバナラナイト云フコトヲ云ツテ居リマスノハ、其ノ現レデアラウト考ヘテ居リマス
○子爵松平親義君 私ノ質問ヲ終リマス
○澤田牛麿君 私ハ此ノ地方自治全體ニ付テ質問シタイノデスガ、先ヅ九十四條ノ、是ハモウ御説明ニナツタカモ知レマセヌケレドモ、私ハチヨツト總理大臣ノ官舍ニ行ツテ居リマシタノデ、遲レマシタノデ、重複スルカモ知レマセヌケレドモ、「事務を處理し、」ト云フノハ、所謂固有事務デアツテ、「行政を執行する」ト云フノハ國政事務ナリト、斯ウ云フ意味デゴザイマスカ
○國務大臣（大村清一君） 「事務を處理し」ト云フ方デハ、固有事務モ委任事務モ入ツテ居ルト考ヘマス、ソレカラ「行政を執行する權能」ト申シマスト、行政權ヲ伴ツテ、或ハ租税ヲ徴收スルトカ云フ、サウ云フ部分ヲ「行政を執行する」ト云フヤウニ考ヘテ居リマス
○澤田牛麿君 サウスルト、其ノ説明デ却テ私ハ疑問ヲ生ズルノデアリマスガ、之ヲ讀ンダ時ニハ、事務ト行政ヲ分ケタ所ヲ見ルト、固有事務ト國家事務トニ分ケタノカト思ヒマシタガ、今ノ御説明ニ依リマスト、事務ヲ處理シト云フト、其ノ事務ノ中ニハ固有事務ト委任事務トアルト思ヒマスガ、サウスルト、「行政を執行する」ト云フ文字ハ要ラナイコトニナリハシマセヌカ、今御話ニナリマシタ租税ヲ徴ルトカ、色々ナコトハ、要スルニ委任事務デアラウト思ヒマスカラ、其處ハ重複シテシマフノデ「行政を執行する權能」ト云フコトガ、何ヲ指スカト云フコトガ不明デアリマスケレドモ、尚是ハ御説ニ依リマスレバ、是ハ要ラナイコトニナルト思ヒマスガ、如何デゴザイマスカ
○國務大臣（大村清一君） 「事務を處理し」ト云フ方ニハ委任事務、固有事務ヲ含ンデ居リマスガ、是ニハ公權ヲ伴ハナイモノト解シテ居リマス、ソレカラ「行政を執行する」ト云フ所ニ於キマシテハ、是ハ公法上ノ強制權力ヲ伴フモノヲ稱シテ居ルヤウニ解シテ居リマス、從ツテ是ハ地方公共團體ニ於キマシテモ、公權力ヲ持ツテ居ルト云フコトガ裏ニ表示サレテ居ルモノト考ヘテ居リマス
○澤田牛麿君 ドウモマダハツキリ分リマセヌガ、委任事務ヲ處理スルト言ヘバ、其ノ中ニハ當然權力行爲ハ含マレテ居ルコトト思ヒマス、權力行爲ヲ除イタ委任事務ヲ處理スルト云フコトノ委任事務ト云フモノハ、非常ニ小サイコトニナル、現在ノ状態トシテモ、委任事務ト云フコトノ中ニハ、權力ヲ伴フコトガ大部分デアルト寧ロ私ハ思ヒマスガ、如何ナモノデアリマスカ
○國務大臣（大村清一君） 「事務を處理し」ダケ書キマシテ、後ノ方ヲ書カズニ置キマスレバ、御説ノヤウニ解釋シ得ルノデアリマスガ、此ノ上ニ、「財産を管理し、事務を處理し」ト書キマスト、財産管理ニ付テハ公權力ヲ伴ハナイト思ヒマス、又「事務を處理し」ト云フコトモ曖昧デアリマス、次ニ「行政を執行する權能」ト云フ所デ、公權力ノアルコトヲ裏カラ讀メルヤウニ立法サレタモノト解サレマス
○澤田牛麿君 甚ダ諄イヤウデアリマスケレドモ、ドウモ私ニハ能ク分リマセヌガ、サウスルト、國政事務ト云フモノガ、固有事務ハ別トシテ、國政事務ト云フモノガ、「事務を處理し」ノ中ニモ配ラレテ居ルシ、下ノ「行政を執行する」ト云フ中ニモ配ラレテ居ル、國政事務ヲ規定スル中ニ、二箇所ノ記載ガアツタト云フコトニナル譯デスカ、只今ノ御説明デハ
○國務大臣（大村清一君） 斯ウ云フヤウニ書イテアリマスト、「事務を處理し」ノ中ノ一部ヲ取出シマシテ、モウ一遍、此處ニ公權力ノコトヲ規定サレテ居ルト云フヤウニ解スル外ナイモノト考ヘテ居ル次第デアリマス
○澤田牛麿君 甚ダドウモ分リニクイ、且、重複ナ面白クナイコトデハナイカト思ヒマスガ、サウ御解釋ニナルナラバ、ソレ以上ハ、ソレコソ議論ノ問題デスカラ、是デ中止シマスガ、ドウモ併シ、地方公共團體ノ仕事ノ上カラ見テ、此ノ九十四條ハマヅイ規定デハナイカト考ヘザルヲ得ナイ、ソレハソレニシマシテ、此ノ全體トシテ見テ、此ノ憲法デハ地方公共團體ノ、語リ主トシテ自治的ノ仕事ニ關スル限リノ方面ニ於テ、主トシテ規定シテアルノデゴザイマスガ、所謂國ノ事務、委任事務ト言ヒマスカ、國ノ事務ハドウ云フ風ニ此ノ公共團體ト結附クカ、言葉ヲ換ヘテ言ヘバ、官制ト云フモノハ、地方公共團體ト、ドウ云フ關係ヲ持ツノデアリマセウカ、今日ノ現行法ニ依レバ、官制トシテハ府縣知事ト云フモノガアツテ、是ハ憲法ノ官制權ニ依ツテ出來テ居ル一ツノ役所デアリマス、ソレガ府縣制トカ、市町村制トカ云フモノニ依ツテ自治體タル團體ノ長トシテ自然ニ規定サレテナルコトニナツテ居リマス、其處ニ結附キガ出來テ居ルノデアリマスガ、今後ハサウ云フ方ノ官制ト、地方自治體トノ結附キハ何處デ規定サレルノデアルカ、又其ノ範圍ハドウ云フ風ニナルノデアルカ、此處ニハ詰リ行政ヲ執行スル「事務を處理し」ノ中ノ半分ト、ソレカラ「行政を執行する權能」是トガ僅カニ所謂官治行政トノ連絡ニナツテ居リマスガ、併シ全體ノ建前ト言ヒマスカ、サウ云フ方面ニ於テ官治行政ト自治行政トノ連絡ト云フカ、關係ト云フカ、サウ云フコトハドウ云フ方カラ類推スルノデアリマセウカ、憲法ハサウ云フコトニハ全然關係ナイト云フコトニナルノデアリマセウカ、地方ニ對スル國ノ行政ノ機關トシテ自治體ト云フモノヲ見ナイ、國ノ行政ノ機關ト云フモノハ、此ノ憲法デモ否認シテ居ルノデモナカラウト思ヒマス、其ノ邊ハ如何デアリマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 私カラ、其ノ憲法ノ要請シテ居ル範圍ニ付テ御答ヲ申上ゲマスルガ、此ノ憲法ハ、地方自治體ニ地方自治ヲ行フコトヲ眼目トシテ規定ヲ致シテ居リマス、從ツテ國ノ政治其ノモノ、國ノ行政其ノモノヲ如何ニシテ同ジ區域内ニ於テ行フカト云フコトハ、此ノ憲法ハ毫モ觸レテ居リマセヌ、ソコデ例ヘバ、例ダケヲ取ツテ申上ゲマスルト、一ツノ自治體ノ區域ニ於テ國ノ行政ヲ致シマスル時ニハ、、全然新タナル官府ヲ置イテ、之ヲ行政セシメルト云フコトモ考ヘラレルノデアリマス、或ハ又其ノ自治體其ノモノニ、國ノ行政ノ事務ヲ委託致シマシテ、サウシテ自治體ヲシテ國ノ行政事務ヲ行ハシムルト云フコトモ出來マセウシ、又其ノ自活體ノ機關デアル首長、其ノ他ノ官吏ニ對シマシテ、國ノ行政事務ヲ委託シテヤラセルト云フコトモ出來ル譯デアリマシテ、憲法自身トシテハ、一ツノ答ヲ供給シテハ居リマセヌ、ソコデ之ヲ如何ニシテ行ナツテ行クカト云フノハ、今後ノ國ノ行政全般ノ考ヘ方ニ依ルモノト思ヒマス、サウシテ斯樣ナコトヲ致シマスニ致シマシテモ、結局ハ國ハ法律ヲ以テシナケレバナラヌト云フ前提ヲ執ツテ居リマス
○澤田牛麿君 略々大體ノ形ハ了承致シマシタガ、サウスルト法律デ以テ、府縣ト云フカ何ト云フカ、サウ云フ官制ヲ定メルト云フコトニ結局ナル外ハナイト思ヒマスガ、其ノ場合ニ、其ノ官制ニ依ツテ定マツタル官府ノ長タル者ト、憲法ニ依ツテ地方自治ト云フ所ニ書イテアル地方公共團體ノ長タルモノトノ關聯ハドウナリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 地方自治全般ニ付キマシテ、國ノ政治ト併セテ如何ニ構想スルカト云フコトハ、今後殘サレテ居ル問題デアリマシテ、今御質疑ニナリマシタヤウナ形ニ於テ直チニ、少クトモ私カラハ御答ヘスルダケノマダ準備ヲ持ツテ居リマセヌ、併シ今御尋ニナリマシタノハ、コトニ依リマスト、例ヘバ知事公選ト云フ原理ニ依リマシテ、地方ノ長ハ公選ノ吏員デアルト云フ時ニ、國ノ事務ヲ其ノ吏員ヲシテ擔任セシムルト云フコトニナレバ、國務ヲ官吏デナクシテ、吏員ガヤルト云フコトニナルノデハナイカト、斯ウ云フヤウナ點ヲ中心トシテノ御尋ネデアルヤウニ存ジマス、今日ノ此ノ憲法ノ下ニ於キマシテハ、殊ニ官制大權ト云フ窮屈ナルモノヲ考ヘマセヌシ、其ノ外官吏ノ制度ニ關シマシテ、憲法自體ハ特別ナル制限ヲ置イテ居リマセヌ、今ノヤウナ場合ニ、自治體ノ長タル其ノ特殊ノ公務員ニ對シマシテ、國ノ行政ヲ付託スルガ良イカ惡イカト云フコトハ、憲法ノ問題デハナクナツテ、是カラ法律ヲ立テテ行ク所ノ建前ノ善惡ニ掛ツテ來ルト考ヘテ居リマス、ソレハ多分、内務大臣ノ方ニ於テ將來研究サルヽコトト存ジテ居リマスルガ、私ハマア、此ノ程度シカ知識ヲ持ツテ居リマセヌ
○澤田牛麿君 サウスルト、ドウモチヨツト、其處ノ點ガ了解シ兼ネル點ガアリマスルガ、地方自治ニ關スル細カイコトモ法律デ定メルシ、ソレカラ國ノ行政ニ關スル詰リ各省ノ出張所トモ見ルベキ、今ノ丁度府縣知事ノヤウナモノ、サウ云フモノモ法律デ定メル、法律デ定メルト云フ點ニ付テハ、何モ疑問ハアリマセヌケレドモ、其ノ兩者ノ關聯ガ、此ノ地方自治ト云フ章ノ解釋ノ必然ノ結果トシテ、選擧サレタル役員ニ集中スルト云フコトニナルノデアリマセウカ、或ハソレハ
〔副委員長退席、委員長著席〕今後ノ建テ方如何ニ依ツテハ、地方公共團體以外ニ、別ニ官府ヲ設ケテ、地方ノ事務ヲ處理スル、即チ今ノ府縣ノ長タル知事ト、官廳デアル知事トヲ分離シテ二ツノモノガ置カレテモ、ソレハ憲法ニモ違反シナイシ、不都合ハナイト、斯ウ云フコトニナルノデアリマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 憲法ノ範圍ニ於キマシテハ、今仰セニナリマシタヤウニ、地方公共團體ノ首長ト、ソレカラ國ノ行政ヲ擔任スル其ノ部分ノ首長ト云フ者ガ、別ノ人間デアリマシテモ、同ジ人間デアリマシテモ、何等ノ支障ハナイコトト思フノデアリマス、併シソレハ法律論ノ範圍デ言ヘルダケノコトデアリマシテ、現實ノ行政ニナリマスルト、ソレヲ如何ニスルカト云フコトハ、相當大キナ關係ヲ持ツテ來ル問題デアラウト思フノデアリマシテ、此ノ點ニ於キマシテハ、内務省デ今後特ニ研究セラルヽ所ト思ヒマスルノデ、又内務省ハ從ツテ自重ヲシテ、此處デ容易ニ意見ヲ述ベラレナイコトト存ジマスルガ、唯私ノ理論ノ立テ方カラ申シマスレバ、左樣ナ場合ニ、曩ニ申シマシタヤウニ、三ツノ考ガアルト云ノコトハ、ハツキリ申シマシタ、詰リ今仰セニナリマシタヤウニ、行政トソレカラ地方事務トハ全然別ナ頭ヲ置イテヤラセルト云フコトガ一ツデアリマス、ソレカラ今一ツノ考ハ、自治體其ノモノニ國ノ事務ヲ委セテシマフ、誰ガ首長デアルカドウカト云フコトニ、一ツモムヅカシイ考ヲ歸屬セシメナイ、一團トシテ自治體ニ國ノ事務ヲ委セル、從ツテ自治體自身ノ内部ノ方針ニ從ツテ行ク、是ガ第二ノ考、ソレカラ第三ノ考ハ、自治體ノ首長デアル其ノ公務員ヲ、人的ニ直チニ、國ノ行政ノ首長ニシテシマフ、詰リ吏員ヲ以テ官吏ノ代リニ使フ、斯ウ云フヤウナコトニシテヤルト云フ考ガ出來マス、逆ニ又、現行ノ府縣知事ノヤウニ、國ノ機關デアル所ノ官吏ヲ、其ノ儘行政ノ首長ニ使フト云フコトガ考ヘラレルノデアリマシテ、斯ク考ヘテ見マスレバ、大凡四ツバカリノ方式ガ生レテ來ルモノト思フノデアリマス、大體ノ趨勢ト致シマシテ、此ノ最後ニ申シマシタ國ノ官吏ガ同時ニ自治體ノ吏員ヲ兼ネルト云フ考ヘ方ハ、何トナク前途ノ見込ガ薄イヤウナ氣持ガスルノデス、殘ル問題ハ、其ノ前ニ述ベマシタ三ツノ項デアラウト思ヒマス、是モ孰レガ良イカ惡イカト云フコトハ、是ハ今後關係者ニ於テ研究セラルヽ所デアラウト思ヒマスルシ、又其ノ各々ノドレカ一ツヲ取ラナケレバナラヌト云フ譯デモゴザイマセヌ、此ノ三ツノモノハ各々特色ヲ持ツテ居リマスルガ故ニ、ソレヲ然ルベク組合セテヤツテ行クト云フ考ヘモ出來マセウシ、又私共ノ氣ノ附イテ居ナイモツト有效適切ナル考モアルカモ知レマセヌ、是等ヲ念頭ニ置キマシテ、後ハ私ニモ結論ハアリマセヌケレドモ、適當ニ之ヲ組合セテ運用シテ行キマスレバ、サウシテ今迄ノ色々ノ沿革ニ絡マツテ居ル、心ニ何カ割切レナイヤウナ滓ノヤウナモノヲ取除イテ考ヘマスナラバ、相當ノ分量迄良イ答ガ出テ來ルノデハナカラウカト、サウ云フ風ニ考ヘルノデアリマス、之ヲモツト平タク申シマスレバ、極メテ特權ナル行政ニ付キマシテハ、是ハ特別ナル官吏ガヤラレテモ宜カラウト思ヒマス、併シ或ル程度ノコトハ自治體ニ委シテシマツテ、ソシテ自治體ニ於テ、自治體ノ普通ノヤリ方ニ從ツテオヤリニナルト云フヤウナ方法、或ハ自治體ノ機關ガ其ノ儘國ノ仕事ヲオヤリニナリト云フ方法、サウ云フ方法デ先ヅ目的ヲ達スルノデハナイカ、私ハ此ノ憲法ノ研究ヲシナガラ、左樣ニ考ヘテ居ツタ次第デアリマス
○澤田牛麿君 サウシマスルト、此ノ間通過シタ知事公選ノ問題ハ、其ノ中ノ一ツデアラウト思ヒマスガ、ソレニ依リマスト、自治體ノ首長ガ直チニ國ノ行政ヲ、ソレハ法律デ決メルカ何デ決メルカ能ク分リマセヌガ、何モ別段、格段ノ委任トカナントカ云フ形式ヲ持タズシテ、直チニ公選サレタ知事ガ公共團體ノ首長デアルト同時ニ、國ノ官吏デハナイカ知ラヌガ、職員トナルト云フ結果ニナルノデアリマスカ、ソレハ國ノ事務ガ非常ニ少ケレバ、其ノ構想ハ良イカモ知レマセヌケレドモ、國ノ事務ガ非常ニ多イ場合ニ於テハ、サウ云フ點ハ寧ロ不便デアツテ、官ノ事務ハ官ノ事務トシテ扱フト云フコトガ種々ノ點ニ於テ便宜デモアルシ、又正確ヲ期シ得ルヤウニ思フノデアリマス、斯ウ云フコトヲ言フト、漠然トシテ居リマスガ、例ヘバ差當リ迫ツテ居ル問題デ供出ト云フヤウナ問題、是ハ將來ハ供出ト云フヤウナコトハ出來ナクナルノデハナイカ、實行不可能ニナルノデハナイカ、自治體ノ長タル知事ニ、例ヘバ農林省ナリ何ナリガ命令ヲシテ出セト言ツテモ、ソレハ知事ハ諾カナイ、之ヲ懲戒トカ何トカ處分スル方ハ、是モ法律デ定メレバ定メラレナイコトハナイノデアリマスガ、任命權ノナイ所ニ懲戒ノ權ハ常識カラ言ヘバ餘リ存在シナイト言ツテモ宜イ位デアリマス、サウ云フ場合ニ於テ、各種ノ不便ガアツテ、自治體ト云フモノガ本當ニ外國ニ於ケルヤウナ半獨立國的ナモノデアルナラバ、ソレハ問題ハナイノデアリマスルガ、日本ノヤウナ單ナル行政區劃デアル場合ニ、自治體ヲ主トシテ自治體ノ首長ニ公選サレタ者ガ、直チニ官吏タル身分若シクハ官吏デナクトモ職員トシテノ身分ヲ取得シテ、ソレガ直グ國ノ地方事務ヲ執行スルト云フコトハ、事實ニ於テ色々ナ不便、不圓滑ガ生ジハシナイカト云フコトヲ惧レルノデアリマス、是ハ憲法問題デナイト言ヘバソレ迄デアリマスケレドモ、憲法ニ於テハ、國ノ大體ノ方針ヲ色々ナ點ニ亙ツテ決メテ居ルノデアリマスカラ、地方ノ自治體ト云フコトハ今デモ認メテ居リマスケレドモ、之ニ對スル實行ノ方法トシテ、何等其處ニ連絡ノ便法ガナケレバ、妙ナ形ノモノニナツテ、法律問題トシテハ、ソレデモ差支ナイ、法律デサウ決メルノダカラ、何ヲ決メテモ構ハナイト云フコトニナルガ、實際問題トシテハ、種々ノ不便ガ生ズル、今日ノ制度ハ、寧ロサウ云フ點ニ於テハ非常ニ有利ナモノデ、巧ミニ調節ガ出來テ居ルト思フノデアリマス、即チ國ノ事務ノ長ハ、同時ニ自治體ノ事務ノ長ニナル、當然ニナルト云フ、法律ノ結果トシテ出來テ居ルノハ、一ツニ纒マツテ大變都合ガ好イト思フノデアリマスガ、此ノ憲法ノヤリ方ニ依ルト、寧ロ逆デアツテ、正當ニ言ヘバマルデ別ノモノデアル、ソレヲ或特殊ノ法律操作ニ依ツテ、一ツノモノニスルト云フヤウナコトハ、實際問題トシテモドウモ無理ガアルノデハナイカト私ハ思フ、將來公選ニナツタ知事ガ、地方ノ長ニナルト云フコトハ、各種ノ點ニ於テ甚ダシキ弊害ヲ生ズルト云フ憂ガ十分ニアルト思フノデアリマス、是等ニ付テハ、モウ此處デ論ジテモ始マリマセヌ、ドウモ憲法ノ定メ方ノ觀念ガ、私共ハ疑問ヲ持タザルヲ得ナイ、金森國務大臣ノ今言ハレタ、色々ノ構想ガアルカラ、將來モツト適當ナ良イモノガ出來ルト云フ御話デアレバ、マア一應安心シテ居リマスガ、サウ云フ點ニ付テ、餘程是ハ巧ミニヤツテ行カヌト、名ハ大變良イケレドモ、政治ト云フカ、事務ト云フカ、其ノ實際ノ效果トシテ、色々ノ不便ガ生ジテ來ハシナイカト云フコトヲ私痛切ニ憂フルノデアリマス、從ツテ此ノ質問ヲ發シタ譯デアリマスガ、是以上ハ何度申上ゲテモ同ジコトデアリマスカラ、私ハ是デ省略致シマス
○委員長（安倍能成君） 第九章ニ移リマス、澤田委員
○澤田牛麿君 第九章ハ九十六條ニ付テノ疑問デアリマス、九十六條ハ、所謂「レフェレンダム」ト云フヤウナモノデアラウト思ヒマス、サウデアルトスレバ、是ハ私、國情ニ適シナイ法規デハナイカト思フ、講釋メイタコトヲ申上ゲルノハ、甚ダ恐縮デアリマスガ、「レフェレンダム」ト云フモノハ、「スイス」ノ如キ、若シクハ昔ノ「ギリシヤ」ノ如キ小サナ範圍、所謂「シテイ・ステート」ニ屬スルヤウナモノデアレバ、是モ效果ガアルト思ヒマスガ、八千萬モノ人口ノ大キナ國デ「レフェレンダム」ト云フコトハ、事實ハ甚ダ適切デナイト思ヒマス、是ダケノ多クノ人ノ投票ヲ取ツテ、ソレデ善イカ惡イカヲ決メルト云フヤウナコトハ、ナカナカ是ハ實際ニ於テハ効果ガ擧ラナイ、唯國民全體デ決メルノダカラ宜イト云フ、理想的ノ觀念トシテハ結構カモ知レマセヌガ、實際ニ於テハ「レフェレンダム」ト云フモノハ、私ハ餘リ効果ノ無イコトデアルト思ヒマス、之ヲ此ノ憲法改正ナドニ採用シタト云フコトハ、體裁ハ大變整ツテ居リマスケレドモ、實際ニ於テハ是ハ役ニ立タヌ規定デアツテ、此ノ「レフェレンダム」デ、果シテ本當ノ神聖ナル國民ノ意思ガドレ迄反映スルカト云フコトハ、餘程疑問デアルト思ヒマスガ、此ノ「レフェレンダム」ヲ採用ニナツタ理由ヲ一ツ伺ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ憲法ノ改正案ノ前文ニアリマスヤウニ、國ノ一番基本的ナル問題ヲ解決致シマスルノハ、國民ガ最後ノ鍵ヲ握ツテ居ル斯ウ云フ形デ今後ノ憲法ノ建前ガ出來ル譯デアリマス、從ツテ所謂憲法制定權ト云フモノト立法權ト云フモノハ、觀念的ニ區別ヲサレマシテ、憲法ノ制定ハ結局國民ノ意思ヲ直接ナル方法デ表明スル、立法權ハサウデハナクシテ、國民ガ選擧致シマシタル所ノ國會ニ依ツテ表明セラレル、斯ウ云フ基本ノ建前ヲ執ツテ居ル譯デアリマス、此ノ考ヘ方ガ良イカ惡イカト云フコトハ、固ヨリ批判ノ目的ニナリマスルケレドモ、是カラ此ノ民主政治ヲ徹底致シマスル結果トシテ、國ノ制度ノ一番基本的ナモノハ、一番基本的ナ方法、即チ國民ノ直接ナル意思ノ表示ニ依ツテ決スルコトガ、先ヅ妥當ナリト考ヘラレル次第デアリマス、其ノ前提ニ依リマシテ、一應ハ國會ニ於テ改正案ヲ發案ヲシテ、其ノ發案シタモノヲ決メルノハ、國民ノ投票デアルト云フ風ニ致シタノデアリマス、斯樣ナコトヲ致シマスルト、今仰セニナリマシタヤウニ、ソレハ實際ニ於テ實行スルコトノ困難デアルト同時ニ、國民ノ多數ニ判斷ヲ直接ニ行ハシムルト云フコトガ妥當ヲ失スルノデハナイカ、ト云フコトニ一應疑ガ置カルヽノデアリマスガ、形式的ニ國民ガ現實ニ投票ヲシテ、其ノ數デ決ルト云フ實行ノ方面ハ、サ程ムヅカシイコトデハナイト考ヘテ居リマス、ドウセ總選擧ト云フモノハ議會ノ民意ニ付テアルコトデアリマシテ、ソレト同ジヤウナコトヲ、若シクハ同時ニヤルダケノコトデアリマスガ故ニ、大シタコトハナイノデハナイカ、全體ノ投票ヲ計算致シマスルノニ、凡ソ全國デ十五日乃至二十日ヲ必要トスルカモ知レマセヌケレドモ、併シ十五日、二十日ヲ必要トスルト云フコトハ、大キイ問題ノ爲ニハ、大シタ支障ハナイノデハナイカ、斯ウ云フ考ガ致スノデアリマス、次ニ「レフェレンダム」ト云フモノハ煩雜デ困ルト云フコトハ、或種ノ法律案ヲ發案ヲ致シマスルトカ、或ハ箇々ノ法律ヲ批評シマス時、或ハ衆議院ノ解散ヲ要請スル、斯ウ云フ「レフェレンダム」ハ可ナリ警戒シナケレバナラヌト思フノデアリマス、政治上ノ一時ノ勢力デ「レフェレンダム」ヲ寧ロ濫用サルヽ虞モアリマシテ、政治ノ安定ヲ害スルト云フ見地カラ懸念ヲシナケレバナリマセヌガ、此ノ憲法改正ノ如キ、容易ニ起ラナイコトデアリマス、而モ國會ノ兩院ニ於キマシテ、三分ノ二ノ多數決ヲ經タト云フヤウナコトデアリマスルノデ、大凡問題ガハツキリシテ來ルノデアリマシテ、「レフェレンダム」ヲ行ヒマシタ爲ニ、特別ナ國民ノ中ニ紛雜ガ起ルト云フコトモ先ヅ無イト考ヘマス、次ニ國民ハ、斯樣ナ「レフェレンダム」ヲヤツテ、本當ニ眞實ニ或結論ヲ現セルモノカドウカト云フコトニナリマスト、是ハ確カニ一ツノ問題トナラウト存ジマス、箇々ノ國民ガ、若シモ其ノ修正ノ目的物ガ非常ニムヅカシイ問題デアリマスルナラバ、特別ナル素養ヲ持ツテ居ナイ所ノ國民ニ、直接判斷セシムルコトハ、ナカナカ困難デアルト云フコトハ言ハレ得ルト思ヒマスケレドモ、併シ國民ハ、色々ナ態度ヲ執リ得ルノデアリマシテ、一人々々ガ、内容ヲ審査スル人モアリマセウ、又然ラズシテ、自分達ガ信頼シタ所ノ國會議員ガ決メタト言フコトニ、先ヅ大部分ノ安心ヲ置イテ投票セラル、人モアルノデアリマセウカラ、國民ノ文化トカ、或ハ斯樣ナ方向ニ於ケル特殊ナル知識ノ發達ガ漸次充實シテ來マスルナラバ、ソレニ應ジテ適切ナル判斷ヲ下シ得ルト思ヒマス、又左樣ナ適切ナル判斷ヲ下シ得ルコトヲ、我々ハ國民ニ期待シテモ宜イノデアリマス、其處ヲ理想トシナイ限リハ、此ノ新ラシイ憲法政治ハ、以テ揚ガルコトヲ得ナイ譯ト思ツテ居リマス、「フランス」デハ先頃憲法改正案ニ付キマシテ、國民投票デ否決ヲシテ居リマスルガ、其ノ道程等ヲ仔細ニ考ヘテ見マスルト、矢張リ輕擧妄動スルヤウナコトニ、國民ハナカナカ同ズルモノデハゴザイマセヌ、此ノ「レフェレンダム」ノ制度ヲ持チマシタナラバ、落附イタ國民ノ氣持ガ、憲法修正ノ上ニ現レテ來ルノデアリマシテ、種々ナル角度カラ見マシテ、懸念スベキ何物モナイ、而シテ信頼スベキ多クノモノガ含マレテ居ル、斯樣ニ考ヘテ居ル次第デアリマス
○澤田牛麿君 御説明ノ趣旨ハ能ク分リマシタ、サウスルト此ノ九十六條ハ、今問題ニナツテ居ル草案トハ關係ノナイコトデアリマスカ、只今ノ御話ニ依ルト、國民ニ判斷ヲサセルト云フコトハムヅカシイコトデモナイシ、理想的ナコトダト云フ御話デゴザイマスガ、サウスルト、此ノ草案ガ議會ヲ通過シタ後ニ直グ御始メニナルノデアリマスカ、此ノ次ノ改正カラデナケレバ始メナイト云フノデアリマスカ、若シ此ノ次ノ改正カラデナケレバ始メナイト云フナラバ、何故ニソレ程宜イモノヲ此ノ次デナケレバイカヌト言ツテ制限スルノデアリマスカ、直グニオヤリニナツテハ如何デスカ、其ノ邊ハドウ御考ニナツテ居リマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ憲法ハ、現行憲法七十三條ニ據ツテ居リマシテ、外ノ言葉デ申シマスレバ、欽定憲法ノ延長ノ線ニ於テ變更セラルヽモノデアリマスルガ故ニ、「レフェレンダム」ニ依ルト云フコトハ致シマセヌ、ソレハ此ノ法ト言フモノノ變ツテ行ク手續ノ段階ニ於テ、其ノ時其ノ時ノ制度ニ基クノデアリマスルガ故ニ、輕々シク之ヲ變改スルコトハ決シテ適當デハナイト信ジ、又ナカナカ手續上モ、法律上ノ考ヘ方ニ於キマシテ容認出來ルコトデハナイト考ヘテ居リマス、今仰セニナリマシタヤウニ、良イコトナラ直グヤツタラドウカト云フ御話デアリマシタガ、ソレハ現行憲法七十三條ニ基キ、憲法ノ一貫性ト云フコトヲ尊重シテ、極ク落附イタ氣分デ此ノ憲法ノ改正ヲ取運ンデ行キマスル考カラ、ソレハシナイ方ガ宜イ、サウ云フ手續ノ方向ニ制度ヲ考ヘテ行カナイ方ガ宜イ、斯ウ信ジテ居ルノデアリマス、併シ實際ニ於テ、國民ガ此ノ憲法ニ果シテ如何ナル考ヲ持ツテ居ルダラウカト云フコトヲ能ク採入レテ置クト云フコトハ必要デアリマシテ、是ハ度々申上ゲテ居リマスルヤウニ、三月ノ初メニ此ノ草案ノ要綱ガ出來上リマシタ時ニ、之ヲ世ノ中ニ發表シ、更ニ其ノ後、衆議院ノ總選擧ガ行ハレルト云フヤウナ道行キ、ソレカラ可ナリ色々ナ方法ニ依リマシテ、國民ノ衆智ヲ求メテ居リマスル見地カラ、大體ニ於テ「レフェレンダム」デハアリマセヌケレドモ、ソレニ近キ實際上ノ結果ヲ得テ居ルヤウニ思フ譯デアリマス
○澤田牛麿君 只今七十三條ノ御話ガアリマシタガ、七十三條ハナカナカムヅカシク、私モ前ニ本會議ノ時ニモチヨツト觸レテ置キマシタケレドモ、法ノ繼續ト云フ點カラ言ヘバ、七十三條ニ依ツテ形式的ニハ出來テ居ルケレドモ、事實ハ七十三條ハ捨テテ居ルト私ハ思フノデアリマス、アソコノ所ハ餘程曖昧デ、ドツチトモ餘リ明確ニハ言ヘナイ程度ニアルト思フノデアリマスルガ、今ノ七十三條ニ依ルノダカラ、「レフェレンダム」ヲヤラナイノダト云フコトハ、少シドウモ當然ノ結論トシテ起ツテ來ルヤウニハ、私ニハ感ジラレナイノデアリマス、ケレドモ、ナイモノダカラナイト云フヨリ仕方ガナイト云フコトデ、ソレデ宜カラウト思ヒマス、ソレカラ次ニ「憲法改正について前項の承認を經たときは、天皇は、國民の名で、この憲法と一體を成すものとして、直ちにこれを公布する。」是ガドウモ私ニハ能ク讀メナイノデスガ、七十三條ニ結局懸ツテ來ルノデアリマセウガ、ドウモ七十三條ノ議論ハ、餘程ムヅカシイト思フ、七十三條ガ本當ニ完全ニ適用サレテ、所謂「レヒッツ・コンチュニイテーー」ガアルト云フナラバ、何處迄行ツテモ、此ノ憲法ハ改正サレテモ、矢張リ欽定憲法タル性質ヲ失ハナイコトニナルト私ハ思ヒマス、其處ノ議論ハ果テシノナイ議論デアリマスカラ、其處迄ハ入レマセヌガ、國民ノ名デ公布スルト云フノハ、ドウ云フ意味デアリマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ憲法ハ國民ガ議決シタ、國民ガ謂ハバ決定シタ、斯ウ云フ風ノ建前ヲ執ツテ居ル譯デアリマシテ、今回ノ改正案ノ前文ハ、ソレノ基本ニナル心持ヲ現シテ居ルト思フ譯デアリマス、此ノ考ニ基キマシテ、此ノ憲法ノ改正ハ國民ガ決メタノダト云フ譯デアリマスルカラ、國民ノ名ニ於テ之ヲ公布スルト云フ、極ク確カナコトデ、ソレヨリ何ノ變化モナイコトヲ此處ニ書イタ譯デアリマス
○澤田牛麿君 サウスルト、是ハ第七條ノ一項ノ適用ニ依ツテ公布スルト云フコトニナルト思フノデアリマスガ、一々國民ノ名デト云フコトヲ入レナクテモ、此ノ草案憲法ガ成立スレバ、其ノ第七條ノ一項トシテ當然公布スルコトガアルノデスカラ、此ノ第二次ノ憲法改正ニ付テ、一々斯ウ云フ風ニ入レル必要ハ何モナイヤウニ私ハ思フ、ソレカラ「この憲法と一體を成すものとして、直ちにこれに公布する。」「直ちにこれを布公する」モドウモ少シヲカシイノデスガ、直チニト云フノハ何時ノコトヲ言フノカ、其ノ時期ガ分ラナイ、ソレカラ「この憲法と一體を成すものとして」公布スル、一體ヲ成スモノトシテ公布スルコトハ當リ前ノ話デアツテ、憲法ノ或條項ヲ改正スレバ、其ノ改正サレタモノガ元ノ憲法ト一體ヲ成スト云フコトハ、是ハ何モ斷ル必要モ何モナイ、斷レバ却テヲカシイノヂヤナイカト私ハ思フ、其ノ他ノ法律デモ何デモ、改正サレタモノハ元ノ法律ト一體ヲ成スト云フコトハ、是ハモウ議論ノ餘地モ、常識モ何モナイ、當然ノコトデアツテ、改正ト云フコトガ、即チ廢止デアツテ新ラシイ發布デアレバ、是ハ別デアリマスガ、改正ト云フコトソレ自身ニ於テ、既ニ一體ヲ成スト云フコトハ分リ切ツテ居ル譯デ、何ノ必要ガアツテ、斯ウ云フコトヲ入レルノデアリマセウカ、チヨツト此ノ趣旨ガ分ラヌノデアリマスガ、御説明ヲ願ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 無クテモ分ルト云フ御見解ニ對シマシテハ、恐ラクサウ云フ風ニ言ヒ得ルモノト考ヘテ居リマス、併シナガラ極ク形式的ナ憲法ノ理窟デ申シマスルト、憲法ト云フモノハ、一ツハアトデ出來タ改正憲法、或ハ憲法改正ト申シマスルモノハ、形式的ニ言ヘバ別箇ノモノデアリマス、ソレハ何カノ意味ニ於テ一ツニナルモノデアリマスルケレドモ、別ノモノデアリマス、私共ガ所謂六法全書ト云フモノヲ持ツテ見マスルト、恰モ民法ナラ民法ト云フモノハ一ツノ法律デ出來テ居ルト云フヤウナ錯覺ヲ生ズルノデアリマスガ、焉ゾ知ラム、今日六法全書ニ出テ居ルヤウナ民法ト云フモノハ、制定セラレタコトハナイノデアリマシテ、根本ノ民法ダケアツテ、其ノ民法ノ改正ト云フ法律ガアツテ、又其ノ改正ト云フ法律ガアツテ、幾ツカノ法律ニ依ツテ出來テ居ル、極ク正確ニ云ヘバ、亂雜ナ幾多ノ法律ガ集ツテ、日本ノ國ノ成文法ヲ成シテ居ル譯デアリマス、ケレドモ、ソレデハマア讀ミニクイカラシテ、然ルベキ所デ之ヲ巧ク組直シテ、何トカヲ改ムトアレバ、字ヲ改メテシマフ、何トカヲ削ルトアレバ、活字ヲ除イテシマフト云フヤウナ方法デ編纂ヲシテ、我々ノ眼ニ入レテ居ルノデアリマス、サウ云フ所カラシテ、法律ト云フモノハ改正ヲスレバ一ツニナルノダト云フ風ニ、先ヅ割合ニ分リ易キ考ガ出來テ居リマスケレドモ、極ク正確ニ申シマスルト、矢張リ元ノ憲法、是ヲ改正スル憲法ト云フモノハ、基本ノ形ニ於テハ二ツアルガ、モウ一遍改正ガアレバ三ツアル、斯ウ云フコトニナラウト思ヒマス、ソレモソレデ宜イノデアリマスルケレドモ、併シ其處ノ所ハ、マア教育的ト申シマスルカ、國民ガサウ云フ時ニ、國ニ二ツモ三ツモ憲法ガアル、斯ウ云フ考ヲ起シマスルコトハ、非常ニマヅイノデアリマシテ、ソコデ、憲法ハ總テ一體デアリ、前ト合體スルト云フ趣旨ノモノデアルトシテ之ヲ公布スルト云フダケノコトデアリマシテ、マア分リ切ツタコトヲ言ツタト言ヘバ、サウデアリマスケレドモ、能ク考ヘテ見レバ、意味ノアルコトヲ言ツタ、斯ウ云フコトニナラウ思トヒマス
○澤田牛麿君 是ハ私ノ想像デスケレドモ、是ハ、ドウモ只今仰シヤツタヤウナコトデハナイノデ、寧ロ意味ガアルノヂヤナイカト思フノデスガ、ソレハ例ヘバ、聯邦ノヤウナ國ニ於キマシテハ、聯邦ノ箇々ノ憲法ヲ改正シテ、其ノ憲法ガ集合シタ國家ノ、單一ニナツタ國家ノ憲法ト、各州ノ憲法ノ改正サレタモノハ一體ダ、別ノモノヂヤナイト云フコトハ、サウ云フ場合ニ於テ大變意味ノアル言葉デアル、サウ云フ考カラ、此ノ文句ガ出テ來テ居ルノヂヤナイカト思フノデ、只今ノ御話ノヤウデアルト、ドウモ大變巧妙ナ御説明デハアリマスガ、我々ニハチヨツト了解シニクイ點ガアルノデスガ、何カサウ云フ關係ガアルノチヤナイノデスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ナコトハ全クナイコトト堅ク考ヘテ居リマス
○澤田牛麿君 モウ是デ宜シウゴザイマス
○佐々木惣一君 私モ改正ノコトデアリマスガ、第九十六條デスガ、其ノ一ツトシテ、「國民の名で」ト云フノハ、公布スルト云フコトガ國民ノ名ニ於テノヤウデスナ、處ガ本來ハ此ノ憲法ノ改正其ノコトガ實際國民ノ名ニ於テナサルヽノデアルガ、實ハ此ノ文章ガ少シマヅイノヂヤナイノデスカ、公布スルコトガ國民ノ名ノヤウニナツテ居ルノデ、本來ハサウヂヤナイノデ、實ハ公布ト云フコトハ無意味ナコトデアツテデスナ、此ノ憲法ヲ改正スルト云フコトガソレガ國民ノ名ヂヤナイノデスカ、サウヂヤアリマセヌカ、是ハサウ云フ意味ニ解シテハイケマセヌカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ニ御讀ミニナレルカモ知レマセヌケレドモ、併シ原案ノ意味ハ、天皇ガ公布サレルトスレバ、ソレハ國民ニ代ツテ、斯ウ云フ氣持デアリマシテ、天皇御一人ノ御考ヘヂヤナイ、斯ウ云フヤウナ氣持ヲ此ノ名デ示シテ居ル譯デアリマス
○佐々木惣一君 ソレヨリモ先刻御説明ノ前文等デ、國民ガ詰リ主權ヲ持ツテ居ル、國家ノ基本的ノ秩序ト云フモノヲ定メルノハ國民ダ、サフ云フ點カラ來テ居ルト云フ御答ヘデアリマスルカラ、ソレヲ恰モ取レバ、公布ト云フコトヂヤナイ、此ノ憲法ヲ拵ヘルト云フコトガ國民ノ名ダ、ドツチデモ宜イデスガ、サウ云フ風ニ解釋シテモ同ジヤウナコトデスカラ、ソレハマア宜シウゴザイマス、ソレカラ「一體として」ト云フコトニ付テデスガ、此ノ憲法ノ改正ト云フコトハデスナ、ドウ云フ意味デゴザイマセウカ、例ヘバ此ノ憲法ハ百三條デアリマシタカ、今度ハ新タニ憲法追補、皇室典範増補ト云フヤウナモノ、日本國憲法増補ト云フヤウナモノヲ拵ヘテ一、二、三、四ト云フ條文ヲ作ル、ソレモ憲法改正ト言フノデアルカ、或ハ詰リ百條、百一條、百二條、百三條ト云フ風ニスルカ、或ハ此ノ分ノ九十條ナラ九十條、斯ウ云フ風ニ條項其ノモノヲ改正スルト云フコトノドツチデアルカト云フコトモ、實際ソレヲ考ヘナケレバナラヌト思フノデスガ、如何デスカ、此ノ現行憲法デハ、此ノ「憲法ノ條項ヲ改正スル」ト云フヤウナコトニ相成ツテ居リマスルカラ、所謂増補、皇室典範増補ト云フヤウナコトハ許サナイ、詰リ帝國憲法第何條第何條ノ改正ト云フコトニナラナケレバナラヌノデスカ、此ノ新憲法ガ出來マシタ時ノ其ノ後ノ改正ト云フコトハ、矢張リ條項其ノモノトシテ改正スルト云フコトニ限ルノデアリマセウカ、或ハ増補、皇室典範増補、ドチラト見ラレルカ、ソレヲチヨツト御尋ネシテ見タイト思フノデスガネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ憲法ハ別ニ其ノ點ニ付テ、ハツキリシタコトヲ書イテ居リマセヌ、解釋トシテ答ガ出ル譯デアリマスガ、増補ノ如キ形ヲ執ツテモ、矢張リ改正ニナルモノト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 宜シウゴザイマス、伺ヒマシタ、ソレダカラ一體トシテト云フコトガ意味ガアルヂヤナイデスカ、サウ云フ場合ニモ意味ガアル、丁度「アメリカ」ノ「アメンドメント」トアルケレドモ、日本デハソレガ改正、改正ト云フノダケレドモ、アレガ増補デスワ、サウ云フノダカラ、別ニ名前ガ出テ居ツテモ、即チ一ツノモノトシテ、斯ウ云フ意味ガアルヤウニモ思フノデスガ、サウ思ツテハイケマセヌデスカ、サウハ思ヒマセヌカ、チヨツト國務大臣ノ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ナ場合ニ、一體ト云フ言葉ガ、割合ニ明確ニ現レテ來ル、斯ウ云フコトガ言ヘマス、サウデナイ場合ダツテ、ソレハ
○佐々木惣一君 ソレハ宜シウゴザイマス、兎ニ角孰レニシテモ「一體を成す」ト云フコトナンダカラ、マアサウ云フ場合ハ特ニ現レテ來マスナ、假ニ法典ガ別ニナリマシテモ、皇室典範及皇室典範増補ト云フヤウナ關係ニナリマスカラ、私ノ質問ハソレニ付テハ是ダケデゴザイマス
○松村眞一郎君 私ハ此ノ「レフェレンダム」ノコトデ御聽キスルノデスケレドモ、是ハ九十六條ノコトデスガ、各議院ノ三分ノ二以上ノ賛成デ憲法ノ改正ガ出來テデスナ、然ル後、出來テシマツタモノヲ國民ニ投票デ聽クト、斯ウ云フ意味デスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス、詰リチヨツト妙ナ考ヘ方ニナルカモ知レマセヌガ、國會デ、兩院デ議決シタト云フコト全體ガ當案ト云フコトニナリマス、デ、國民ガ之ヲ「レフェレンダム」デ決メル、斯ウ云フ考ヘ方デスカラ
○松村眞一郎君 ドウモ能ク分ラナイト思ヒマスガ、三分ノ二デ一應決ツタ、然ル後承認ヲ經ル、斯ウ云フ手續デスネ、是ダケデスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス
○松村眞一郎君 ドウモ文字ガ甚ダ別々ニナツテ、一旦議會デ決定シテ、サウシテ更ニ國民ノ投票ニ問フ、斯ウ云フ書キ方ノ方ガ宜イト思ヒマス、是ハマア同ジコトデスガ、又國民投票ハ、之デ宜イカト云フ可否ダケ聽ク譯デスネ、所謂「レフェレンダム」デハナイ、「ピープルス・ヴェートー」國民ガ良イカ惡イカ、是ダケノコトデスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス
○松村眞一郎君 サウシマスト、七十九條トハドウ云フ關係ニナリマスカ、七十九條ニ裁判官ヲ國民投票デ聽キマスネ、此ノ場合ス矢張リ國民投票ヂヤナイデスカ、此ノ裁判官ハ良イカ惡イカト云フコトダケ聽クノデセウ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス
○松村眞一郎君 ソレダト云フト、此ノ七十九條ノ方ニ「衆議院議員選擧の際の國民投票による」ト入レタラドウデスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 七十九條ノ所ヲ、詰リ國民投票ト云フコトニ書イテモ結果ハ同ジコトニナラウト思フ譯デス、併シ國民投票ト云フコトニ致シマスト云フト、初メカラ或原案ガアリマシテ、サウシテソレニ付テ可否ヲ決スル、斯ウ云フコトニナルノデアリマスルガ、七十九條ノ本文ハ其處迄ハツキリ出テ居リマセヌ、其ノ後ノ方ノ「審査に關する事項は、法律で之を定める。」ト云フ所迄行ツテ細カイ規定ヲ置クノデアリマシテ、ドウモ初メカラ國民投票ト書クト可ナリ見ニクイヤウナ氣ガシマシテ、斯樣ナ審査ト云フ實體ノ所デ抑ヘテ居ル譯デアリマス、左樣ナ特殊ナコトハ
○松村眞一郎君 ドウモ文字ノコトニナリマスケレドモ、ドウモ、此ノ國民投票ハ斯ウ云フコトニナルノデハナイカト思フノデス、結局或裁判官ノ名前ヲ出シマシテ、此ノ儘ガ良イカ惡イカ、斯ウ云フコトデセウ、デスカラ、矢張リ可否デセウネ、是ガ在職スルコトハ可ナリヤ否ナリヤト云フコトハ、法律ガ可ナリヤ否ナリヤト云フコトト、チツトモ違ハナイヤウニ思フノデスカラ、是ハ國民投票ト御書キニナツタ方ガ宜イ、是ハ既ニ國民投票ダト思フノデス、ドウモ此所デハ國民投票ト云フ字ヲ避ケテ置イテ、後デ國民投票ニナルト云フト、國民投票ト云フコトハ憲法ノ改正ノ時ダケシカヤラレヌヤウニナリマスケレドモ、是ハ國民投票デ直接ニ聽ク譯デスネ、ソコデ私ハ申スノデス、先達テモ申シマシタ如ク、衆議院議員選擧法ヲ英國ノ如クニ國民代表法、「レプレゼンテーション・オブ・ピープル・アクト」ト云フヤウナ名前ニ御變ヘニナツテ、國政上衆議院議員ニ重點ヲ置キ、ソレハ間接代表デアルガ、ソレヲ直接ニ國民ニ聽ク時ニ、國民投票ニ依ルノダ、斯ウ云フ思想ノ方ガ宜イノヂヤナイカト思フノデス、衆議院議員ノ選擧ノ際ト云フコトモ、矢張リサウ云フコトニ匂ハシテ居ルノデス、是ハ便宜ノ爲ニ書イテアルノダカラ、別ニ衆議院議員選擧ノ際ニハ限ル譯デハナイダラウト思フ、是ハ前ニ澤田サンカラ御質問ガアリマシタガ、是ハ別ニ「際」ニ限ル必要ガナイト思ヒマス、十年ヲ經過シタ時ニ、其ノ時ニ國民投票ニ問ハレ、バ宜イノデスカラ、其ノ點ニ付テモ疑義ガアツタノデス、私ハ矢張リ是ハ一種ノ國民投票ナンデス、全體ニ可ナルヤ否ナルヤト云フ極ク簡單ニ聽クコトハ、國民投票ト考ヘテ宜イノヂヤナカラウカ、此處ニ書イテナイガ、國民投票デ宜イノヂヤナイカ、サタ仰シヤツテモ宜イノヂヤナイカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 七十九條ノ審査ハ、國民投票ニ依ル審査デアルコトハ其ノ通リデアリマス、唯、外ノ點ハ別ト致シマシテ、七十九條デモ御尋ガアリマシタ「總選擧の際」ト云フコトハ「際」デナクトモ、別ニ新タニ國民投票ニ依ル審査ヲヤツテモ宜イノヂヤナイカト云フ御話モアツタヤウデアリマスガ、ソレハ考ヘテ居リマセヌ、ワザワザ特別ナ獨立ノ國民投票ト云フ必要モナイ、一緒ニヤレバ宜カラウト云フ國デ居リマス、憲法改正ノ場合ハ違ヒマシテ、同時ニヤル場合モ豫想シテ居リマス
○松村眞一郎君 九十六條ニアル「特別」ト云フモノノ解釋ハドウ云フ意味デスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 詰リ九十六條ノ憲法改正ノ場合ノ國民投票ハ、一般ノ選擧ノ時ヲ待ツテ居ルニハ、不便ナ時ガ相當アルダラウト思フ、獨立ノ「レフェレンダム」ヲヤルト云フコトガアル、ソコデ獨立ノ國民投票ヲヤル、獨立ノ國民投票ヲヤルト云フコトハ、チヨツト書キ方ハヲカシイカ知レマセヌガ、獨立シタ國民投票ダケヲ矢張リ國民投票デヤルカ、ソレデナケレバ選擧ノ際ニ同時ニ行ハレル國民投票デヤル、氏ノ二ツノ場合ヲ豫想シテ宜イノデス、裁判官ノ場合トチヨツト違ヒマス
○松村眞一郎君 文字ノコトニナリマスケレドモ、「特別の」ト云フコトハ下カラ來ル譯デスネ、「國會の定める選擧の際行はれる投票」ニ依リヤルコトニ對シテ「特別の」ト、斯ウ云フ
○國務大臣（金森徳次郎君） サウ云フ意味デスネ
○松村眞一郎君 餘リ意味モアリマセヌネ、意味ノナイモノダト云フコトガ分リマシタカラ
○委員長（安倍能成君） 佐々木委員ノ關聯質問
○佐々木惣一君 チヨツト御尋ネシマスガ、詰リサツキ「特別の國民投票」ソレカラ又「國會の定める選擧の際行はれる投票」ト、ドチラデモ宜イヤウニ思フノデスガ、立法論デスガ、私ハ特別ノ國民投票ノ方ガ宜イヤウニ思フノデスガ、ト云フノハ選擧ノ際ニ、ソシテ一緒ニ改正憲法ト云フモノヲ問ウテ見テモ、實際ソレガ眞面目ニドウモ考慮出來ナイト思フノデスケレドモ、是ハモウ仕樣ガナイデスカラ、案ガ出來テ居ルカラ、其ノ點ニ付テ御心配アリマセヌガ、落附イテ出來ナイ、選擧ノ際ニハ
○國務大臣（金森徳次郎君） 前ノ裁判官ノ審査ノ所モ、同ジヤウナ場合ガ起リマシタガ、一般ノ選擧ノ場合ニ、外ノコトヲ併セテヤルト云フト、選擧ノ方ニ重點ヲ置イテ肝腎ノ狙ツテ居ル憲法ノ改正ノ是非ノ方ヲ粗末ニスルノヂヤナイカト云フコトガ、一ツノ研究ノ問題ニナル譯デアリマスガ、同ジ時ニヤリマシテモデス、結局別々ノコトデアリマシテ、ソレガドチラガ重要カト云フコトハ、國民自ラ考ヘテ判斷ヲスル所ト思フノデアリマス、ソレヲ時期ガ比較的接近シテ居ル爲ニ、昨日總選擧ヲヤツテ、翌日憲法改正ノ國民投票ヲヤツタト云フコトニナリマスト、却テ選擧民ノ熱情ヲ缺キマシテ、缺席者モ多クナルト考ヘラレマシタ、是ハ左樣ナ風デ、サモ考ヘラレルト思ヒマス
○佐々木惣一君 ソレハ仕樣ガアリマセヌ、ソレカラ先刻チヨツト伺ヒマシタガ、國會ガ發議ヲシ、國民ニ提案ヲシテ承認ヲ經ナケレバナラナイノデスガ、ソレヲ如何ナル時期ニ、此ノ憲法ノ改正ト云フ國家意思ガ決定シタト見ルカ、國會ガ發議シテ、國會ノ議決ノアツタ其ノ時ニ、憲法ノ改正ト云フ國家意思ガ成立シタト云フ風ニ、先刻來サウ云フ風ニ伺ツタノデスガ、國民ノ承認ガアツタ時ニ、初メテサウ云フ憲法改正ノ國家意思ガ成立シタト見ルノデセウカ、法律論デスガ
○國務大臣（金森徳次郎君） 第二項ニ「前項の承認を經たときは」ト云フコトガアリマシテ、詰リ前項ノ承認ヲ經タ時ニ憲法ガ成立スル、併シ前項ノ承認ヲ經ルト申シマシテモ、是ハ過半數ノ賛成ト云フモノガ、或時期ニ三千萬ノ投票デアリマスレバ、段々其ノ結果ガ分ツテ來テ、千六百萬人ニナツタ時ニ憲法ガ確定スル、斯ウ云フ風デハ困ルノデ、何レ手續ハツキリ決ル時ヲ作ラナケレバナラナイ、考ヘ方ハ今ノ仰セノ通リデアリマス
○佐々木惣一君 ソレハサウデスガ、私ノ御伺ヒシタイノハ、議會デ以テ、兩院ガ一致シマセウ、其ノ時ニ憲法改正ト云フ國家意思ガ決マツタノデアルカラ、併シナガラ國民ノ國民投票ニ依ル承認ト云フコトハ、其ノ決ツタモノニ對スル效力ト云フモノヲ、或ハ解除スルトカ何トカ云フノデアルノカ、承認ヲ經ナケレバナラヌノカ、サウデナシニ國會ガ發議ナノダカラ、議決ヲシマシテモ、國會デハマダ憲法改正ノ國家意思ト云フモノハ成立シテナイト見ル方ガスラリト來ヤシマセヌカ、ドウデアリマセウカ
事柄ハ是デハツキリシテ居ルノデアリマスガ、後ノ法律的ノ組立テヲドウスルカト云フ問題ニナリマスガ、是ハ私ガ先程申シテ居リ、佐々木博士ノ仰セニナルコトモ多分同ジダト思ヒマス、發議ト承認ト兩方俟ツテ、發議ト云フ妙ナ字ガ茲ニ出テ來タノデスガ、ソレダケデハ完成シナイノデアリマス
○佐々木惣一君 ソレナラ、ソレデ宜シウゴザイマス
○松村眞一郎君 此ノ國民投票ト云フモノハ憲法ニ、私ノ解釋デハ二所アル譯デアリマス、凡ソ國民投票ト云フモノハ、此ノ法律ノ場合ノ外ハ行フコトガ出來ナイト云フヤウナコトハナイノデスネ、如何デアリマセウカ、憲法ニ二ツノ例ガ書イテアルガ、是以外ニハヤラナイ積リデ書イテアルノカ、或ハ必要ニ應ジテヤルコトガアルカモ知レナイト、斯ウ云フノデアリマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ外ニ、國民投票ガ成立シナイト云フコトハ考ヘテ居リマセヌ、唯憲法的効果ガナイト云フダケデアリマス
○委員長（安倍能成君） アトマダ第十章ト第十一章ガ殘ツテ居リマスケレドモ、今日中ニ此ノ審議ヲ終ルコトハ出來ナイト思ヒマスカラ、今日ハ此ノ程度デ散會致シマス、此ノ質疑ガ終ツタ後ニ之ヲドウ云フ風ニスルカト云フコトハ、一應連絡係ノオ方トモ御相談ノ上デ、又必要ガアレバ御諮リスルコトニ致シマス、明日ハ午前九時半カラ開會致シマス
午後三時五十四分散會
出席者左ノ如シ
委員長 安倍 能成君
副委員長 伯爵橋本 實斐君
委員
公爵岩倉 具榮君
侯爵細川 護立君
侯爵淺野 長武君
伯爵後藤 一藏君
三土 忠造君
大谷 正男君
男爵白根 松介君
子爵織田 信恒君
子爵高橋 是賢君
子爵三島 通陽君
子爵松平 親義君
山田 三良君
平塚 廣義君
牧野 英一君
佐々木惣一君
松村眞一郎君
村上 恭一君
男爵飯田精太郎君
霜山 精一君
下條 康麿君
岩田 宙造君
高柳 賢三君
南原 繁君
男爵松田 正之君
男爵中御門經民君
男爵渡邊 修二君
男爵松平 齊光君
田所 美治君
澤田 牛麿君
松本 學君
宮澤 俊義君
結城 安次君
瀧川 儀作君
小山 完吾君
山本 勇造君
淺井 清君
渡邊 甚吉君
國務大臣
内務大臣 大村 清一君
文部大臣 田中耕太郎君
國務大臣 植原悦二郎君
國務大臣 金森徳次郎君
政府委員
法制局次長 佐藤 達夫君
内務事務官 郡 祐一君
大藏事務官 野田 卯一君
同 河野 一之君
