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第九十回帝國議會貴族院 帝國憲法改正案特別委員會議事速記録第二十二號
付託議案◎帝國憲法改正案
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昭和二十一年九月二十六日（木曜日）午前九時三十九分開會
○委員長（安倍能成君） 開議ヲ開キマス、昨日ノ第九章ノ改正ニ付テ大河内委員ノ御質疑ガアリマスガ、植原、齋藤兩大臣ノ御出席ガアリマセヌカラ、都合ニ依ツテソレハ後廻シニシテ「第十章最高法規」ニ移リマスガ、御通知順ハ牧野委員ガ最初ニナツテ居リマスケレドモ、高木委員ガ據コロナイ用事ガアツテ御退席ニナルサウデス、前ニ高木委員ニ質疑ヲ許可スルコトニ致シマス、高木委員
○高木八尺君 御許ヲ得マシテ特ニ發言ノ機會ヲ戴キマシタコトヲ恐縮ニ存ジマスガ、簡單ニ質疑ノ要點ヲ申述ベタイト思ヒマス、私ノ質疑ハ略々三ツノ點ニ關係致スノデアリマスガ、此ノ最高法規ニ關スル點ノミヲ只今ハ申述ベタイト思ヒマス、一口ニ申シマスト、第十章ノ最高法規ニ含マレマス三箇條ヲ削除スルコトニ付テノ質疑デアリマス、修正案ノ第九十七條、基本的人權ニ關スル宣言ヲ見マスト、是ハ第十一條ト實質的ニハ殆ド同一ノコトヲ規定シテ居ルト言ヘルト思ヒマス、之ヲ特ニ別ノ條文トシテ掲ゲルコトノ必要ハ殆ド認メラレナイト云フ考デアリマス、第九十八條ノ國ノ最高法規ノ規定ヲ見マスト、第八十一條ノ二項ノ「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は處分が憲法に適合するかしないかを決定する權限を有する。」ト云フ規定ガアリマス以上ハ、是モ亦必ズシモ必要トハ言ヘナイト思ハレルノデアリマス、次ノ第九十九條、憲法尊重擁護ノ義務ノ規定ヲ見マスト、殆ド是ハ自明ノ理ヲ述ベテ居ルノデアリマシテ、是亦必ズシモ必要デナイ、是ガナクトモ憲法ノ運用ノ上ニ差異ヲ生ズルトハ考ヘラレナイト思ハレルノデアリマス、政府ハ屡々此ノ憲法ハ法規デアツテ、例ヘバ論文ノヤウナモノデハナイト云フコトヲ述ベラレ、從ツテ其ノ根本的ノ見解カラ憲法ノ各條、憲法ノ條章ノ解釋ト云フモノハ行ハレナケレバナラナイト云フコトヲ主張サレテ居ルノデアリマシテ、其ノコトハ我々モ非常ニ大切ナコトノヤウニ考ヘルノデアリマス、憲法全體ヲ明確ナ統一ノアルモノニスルト云フコトハ非常ニ重要ナコトカト考ヘラレルノデアリマス、此ノ憲法ノ各章ヲ總括的ニ考ヘマシテ、若シモ必ズシモ必要デナイト云フ條文、又ハ字句ガアリマシタナラバ、是ハ寧ロ削除スルコトガ宜イデハナイカ、サウ云フ見地カラ私トシマシテハ寧ロ此ノ第十章ノ三箇條ハ削除シテモ宜イト考ヘラレマスノデアリマスガ、其ノ點ハ如何御考デアラレマスカ、其ノ點ヲ御尋ネ申上ゲタイト思ヒマス、甚ダ行過ギカト思ヒマスガ、一口今ノ最高法規ノ問題ニ付キマシテ申述ベマスト、直チニ此ノ最高法規ト云フ規定ノ淵源トカ、由來トカ云フコトニ關聯シテ何人モ思ヒ起シマスノハ、米國憲法ノ所謂最高法規ノ規定デアルト思ヒマス、米國合衆國憲法ノ六條二節ト云フモノヲ見マスト云フト、「本憲法、之ニ準據シテ制定セラルベキ合衆國ノ法律及ビ合衆國ノ權能ヲ以テ既ニ締結セラレ又將來締結セラルベキ總テノ條約ハ國家ノ最高ノ法タルベシ。而シテ之等ニヨリテ各州ニ於ケル裁判官ハ各州憲法或ハ州法律中ニ反對ノ規定アル場合ト雖モ拘束セラルベキモノトス」ト云フ規定ガアリマス、何人モ直グニ之ヲ思ヒ浮カベルノデアリマス、御承知ノ通リ此ノ規定ハ「アメリカ」ノ憲法ニ於キマシテハ所謂聯邦國家ノ優越ノ規定ト認メラレテ居リマシテ、合衆國ニ於テ聯邦ガ州ニ對シテ優位ヲ占メルト云フ事柄ヲ憲法ノ明文ノ上ニ現シタモノトシテ非常ニ重要視サレテ居ルノデアリマス、其ノ規定ノ後段、只今申シマシタ後段ガ明カニスルヤウニ、各州ノ裁判官ハ假令州ノ憲法及ビ法律ニ反對ノ規定ガアル場合ト雖モ、此ノ憲法及ビ聯邦法ニ依ツテ拘束サレルト云フ規定、ソレハ「アメリカ」ノ憲法ガ議會ニ立法ノ權限ヲ列擧シマシテ與ヘマシタ其ノ權限内ニ於テ行ハレタ立法ニ對シテハ、聯邦法ノ優越ヲ認メルト云フ意味ガアリマスコトカラ、初メテ非常ナ重要ナ意義ヲ持ツ規定ナノデアリマシテ、是ガ「アメリカ」ノ憲法史上デ聯邦制ノ「アーチ」ノ要石デアルトカ、憲法ノ楔トカ云フヤウナ名前デ呼バレテ此ノ規定ガ重要視サレタ本來ノ理由デアルト思フノデアリマス、ソレガ「アメリカ」ニ於テノ最高法規ノ意味デアルト思ヒマスガ、全ク此ノ聯邦制ト事情ヲ異ニシマス我ガ國ニ於キマシテ、何ノ必要ガアルカト云フ疑問ガ起ルノデアリマス、「アメリカ」ノ憲法ガ之ニ基イテ制定セラルベキ法律云々ト云フ規定ヲシテ居リマスノハ、全ク今申シタ聯邦會議ノ特別ノ立法ノ權限ヲ認メタ其ノ關聯ガアリマス故ノ重要性ヲ持チマス譯デアリマシテ、其ノコトヲ考ヘマスト直チニ此ノ規定ヲ移シテ我ガ憲法ノ規定ニスルト云フ必要ハ疑ハレナケレバナラナイモノト思フノデアリマス、日本ノ此ノ改正草案ノ原案、九十四條ヲ見マシテ、此ノ憲法竝ニ之ニ基イテ制定セラレタ法律及ビ條約ハ國ノ最高法規トシテ居リマス根據ガ十分ニ明確デナイモノト思ハレルノデアリマス、聯邦制ト云フモノノナイ所ニ何ノ必要ガアツテ要石ト云フヤウナ意味ヲ持ツ最高法規ノ規定ガ必要デアルカト云フ疑問ガ起ルノデアリマス、衆議院ノ修正ニ依ツテ、今ノ「竝びにこれに基いて制定された法律及び條約は、」ノ一句ガ削除サレマシテ、之ヲ補ツテ第二項ノ規定ガ設ケラレテ居リマスガ、私ハ寧ロ一歩ヲ進メテ、此ノ條文全體ヲ削除スルコトガ至當デハナイカ、更ニ此ノ十章其ノモノニ付テノ疑問ヲ抱ク譯デアリマシテ、是等ニ付テノ御見解ヲ伺ヒタイ、最高法規ニ關スル私ノ質問デゴザイマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 最高法規ノ章ノ三箇條ノ規定ガ無用デハナイカト云フ趣旨ノ御質疑ニ付キマシテ一應御答ヲ申上ゲタイト思ヒマスルガ、此ノ三ツノ條文ハ各々特別ナル意義ヲ持チ、一括シテハ決シ難キ事情ガアル譯デアリマス、「アメリカ」ノ憲法ノ形ヲ謂ハレナキ日本ニ於テ事情ヲ無視シテ、其ノ類型ニ近キ形ヲ持ツテ居ルト云フヤウナ御言葉デアリマシタガ、成ル程「アメリカ」ニハ之ニ類似スル所ノ若干ノ規定ガ特別ナル意義ヲ持ツテ居ルコトハ御説ノ通リデアラウト考ヘマス、併シ此ノ憲法草案ニ於キマシテ、此ノ三箇條ヲ設ケマシタノハ、全然斯樣ナ事例トハ違ツタ立場カラ設ケテ居ル次第デアリマス、先ヅ此ノ第九十七條ニ付テ申上ゲマスルガ、是ハ御説ノ如ク此ノ憲法ノ第三章ノ中ニアリマス規定、即チ修正第十一條ノ規定ト、稍々内容ニ於テ接近シテ居ル所ガアルノデアリマス、御承知ノ如ク「ポツダム」宣言ト云フモノノ一ツノ眼目トシテ居ル所ガ、國民ノ基本權ノ尊重ト云フコトデアリマシテ、是ハ獨リ「ポツダム」宣言ヨリ考フルノミナラズ、日本自體ノ立場カラ申シマシテ、過去ノ事例ニ徴シテ、國民ガ餘リニモ此ノ國民ノ權利自由ニ關スル自覺ニ於テ不十分デアツタト云フコトハ推論シ得ル所デアリマシテ、從ツテ此ノ宣言ノ趣旨及ビ國民ノ自覺ノ缺乏ヲ補ヒマスル爲ニ、若干強キ言葉ヲ以テ之ヲ述ブルコトガ正當デアルト思フノデアリマス、御説ノヤウニ、斯樣ナ規定ハ寧ロ啓蒙的ナル規定デアリマスルガ故ニ、憲法ノ中ニ置クコトハ不適當デアルト云フ御非難モ起リ得ルト思ヒマスルケレドモ、併シソレハ私ハ此ノ憲法ハ本體ガ法文デアリ、論文デナイ、斯ウ云フコトヲ申上ゲマシタケレドモ、同時ニ此ノ憲法ノ中ニ啓蒙的規定ヲ隨所ニ含ミ、一條文全部啓蒙デナイニシテモ、部分々々ニ於テハ啓蒙的デアル點ヲ、必要ナル限度ニ於テ、最小限度デハアルケレドモ、含ンデ居ルト云フコトヲ申シマシタガ、是モ亦其ノ趣旨ニ基クモノデアリマシテ、本來ナラバ之ヲ前文ノ中ニ置クト云フコトガ寧ロ適切デアルト草案ノ當時ニハ考ヘタ譯デアリマス、處ガ此ノ憲法ノ前文ハ寧ロ新タナル面ニ於テ重要ナル事項ヲ區別シテ擧ゲタノデアリマシテ、餘リニモ傳統的ニ發達シテ居ル此ノ基本ノ原理ヲ前文ノ中ニ入レマスルコトハ、前文ノ語調ヲ弱メ、ソレガ一面ニ於テ面白クナイト云フコトヲ考ヘマシテ、前文カラハ之ヲ割愛ヲ致シマシタ、サウスルト何處カニ此ノ趣旨ノ規定ヲ置ク必要ガアルト云フコトニナリマシテ、茲ニ第九十七條トナツテ起案サレタノデアリマシテ、此ノ規定ハ恐ラク國民ニ對シテ相當重要ナル意義ヲ持チ、此ノ規定ト相俟ツテ始メテ第三章ト云フモノガ十分理解シ得ル譯ト思ヒマス、從ツテ此ノ規定ハ必要デアルト信ジ、此處ニ設ケタ譯デアリマス、次ニ第九十八條ノ規定ハ、是ハ衆議院デ修正ヲサレマシテ、今御話ノヤウニ、衆議院デ修正ヲサレマシタコトニ依ツテ此ノ規定ハ幾分良クナツタヤウニ私ハ理解シテ居リマシテ、原案ヨリモ修正ノ方ガ良イト信ジテ居ル次第デアリマスガ、修正ヲ基礎トシテ考ヘテ見マスト、各種ノ法規ノ中デ憲法ガ國ノ最高法規デアルト云フコトデアリマス、是ハナクテモ勿論解釋ニ依ツテ補ハレ得ルコトデハアラウト思ヒマスケレドモ、併シ國法體系ヲ法律的ニ觀察シテ行キマスト、左樣ナコトハ規定スベキ十分ナ理由ガアルノデアリマシテ、何モ解釋ニ委シテ置クト云フヨリモ、寧ロ直截簡明ニ之ヲハツキリサセテ、憲法ノ重ンズバキ所以ヲ明カニスルコトガ適當デアラウト考ヘマス譯デアリマス、此ノ憲法制定ノ手續ト云フヤウナ點、或ハ此ノ基本的ナル關係ニ於テ、憲法ガ法律ノ基礎ヲ爲シテ居ルト云フコトハ固ヨリ言ヘマスケレドモ、併シソレガ果シテ効力ノ點ニ於テ如何デアルカト云フコトハ、能ク申シマスル「フレキシブル・コンスティテューション」ト云フコトモアリマシテ、單ニ規定ヲ設クル憲法ト云フモノガ出來タト云フコトダケデハ、法律トノ間ノ何カ効力ノ關係ニ付キマシテ疑義ヲ生ジ、法律ヲ以テ此ノ憲法ニ變更ノ可能性アル増加ヲスルト云フコトモ、ナイトハ思ヒマスケレドモ懸念サレマスカラシテ、此ノ規定ヲハツキリ設ケタ譯デアリマス、先ニ最高裁判所ノ點ニ觸レテ仰セニナリマシタケレドモ、結局最高裁判所ハ憲法ヲ以テ基本トスル準據ノ規定モ九十八條ニ之ヲ認メルデアラウト思ハレマスノデ、二ツノ規定ガ重複シテ居ルトハ思ハヌ譯デアリマス、尚其ノ條文ノ最後ノ項ニ、衆議院ニ於テ修正サレマシタ條約及ビ國際法規尊重ノ規定ハ、日本ガ在來執ツテ居リマシタ行動ニ付テ世ノ批判モアリ、又國内法ニ於ケル外國ノ疑義モアリマスガ故ニ、之ヲ設ケマスコトハ、是ハ實質的ニ意義ガアルモノト思ツテ居ル次第デアリマス、從來ノ考ヘ方ニ於テ日本ノ現行ノ秩序ニ於テ、條約ト法律トハドウ云フ關係ニアルカ、或ハ條約ト云フモノハ果シテ國内法トシテ、或ハ國内ノ法律秩序ニ於テ、如何ナル程度ニ之ヲ尊重スベキカト云フ點ニ付テハ、可ナリ不明ノ點ガアルモノトシテ取扱ハレテ居ツタヤウニ存ジテ居ルノデアリマス、此ノ規定ヲ置キマスコトニ依ツテ相當明白ニナツテ來ルモノト思フ譯デアリマス、ソレカラ第九十九條ノ規定ハ「天皇又は攝政及び國務大臣、國會議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」ト云フコトハ、是ハモウ國法ヲ尊重スルト云フ原理ヲ忠實ニ國内秩序ガ基本ト致シテ居リマスガ故ニ、之ヲ書カナクテモ宜イト云フ議論ハ一應成立スルコトト考フルノデアリマス、併シナガラ斯樣ナコトハ矢張リ憲法ト云フ法規ヲ重大視スル結果ト致シマシテ、何等カ國家ノ宣言ヲ要スルコトノヤウニ考フルノデアリマシテ、現行ノ憲法ニ於キマシテハ、上諭ノ勅語ノ中ニ於テ此ノ趣旨ガ言葉通リデハアリマセヌケレドモ、ハツキリサレテ居ルノデアリマシテ、其ノ上諭ノ勅語ニ於テ「朕カ在廷ノ大臣ハ朕カ爲ニ此ノ憲法ヲ施行スルノ責ニ任スヘク朕カ現在及將來ノ臣民ハ此ノ憲法ニ對シ永遠ニ從順ノ義務ヲ負フヘシ」ト云フ規定ガアルノデアリマスシ、其ノ他ニモ例ヘバ其ノ同ジ上諭ノ勅語ノ中ニ「朕カ率由スル所ヲ示シ朕カ後嗣及臣民及臣民ノ子孫タル者ヲシテ永遠ニ循行スル所ヲ知ラシム」ト云フヤウナ規定モアリマシテ、矢張リ憲法ノ制定ノ段階ニ於キマシテハ斯樣ナ規定ガ何處カニアルコトヲ必要トスルノデアリマス、現行ノ憲法ニ於キマシテハ、ソレガ上諭文ニアリマスルガ、此ノ上諭文ハ今回ノ憲法ノ建前ニ於キマシテハ、前文ガケツ付イテ居リマ爲ニ、幾分樣子ガ變ツテ來ル可能性ガアルト存ジマシテ、之ヲ寧ロ憲法ノ成文ノ中ニ規定ヲ置クコトノ方ガ體裁ヲ整ヘルト同時ニ、國民及ビ國民バカリデハナク、國家ノ事務ヲ擔任スル公務員等ニ對シマシテ、十分自覺ノ念ヲ高メシメル價値ガアルダラウト云フ風ニ考ヘマシタノデアリマス、要スルニ此ノ三ツノ條文ト云フモノハ憲法ヲ中心トシテ重要ナル規定ヲ茲ニ集メタノデアリマシテ、決シテ原案ニ存在スルコトガ無意味デアルト云フコトニハナラヌト思ヒマス
○高木八尺君 私ノ質問ノ根柢ト申シマスカ、本來日本ノ憲法トシテ望マシイコトハ國民的ノ信念、確信ト云フモノカラ自ラ湧キ出タ其ノ結晶トシテノ憲法ト云フ形ガ十分ニ認メラルレコトデアルト云フ風ニ考ヘマシテ、其ノ點カラ見マスルト、更ニ此ノ前文ノ御話モ出マシタガ、憲法前文ニ關シ、又其ノ他ノ點ニ付テモ、私ノ質疑ヲ續ケタイノデアリマスガ、今日ノ質問トシマシテハ最高法規ノ問題ニ限リマシテ、殊ニ切詰メタ質問トシマシテハ、第七條ノ認證ト云フヤウナ文字ニ付テノ質問、ソレカラ最後ニ第三點トシテ全般的ノ質問ト致シマシテハ國民主權ト云フ文字ヲ明記シ、現スコトニ付テノ質問デアリマスルガ、是等ハ簡單ニ書面ト致シマシテ、書面ノ質疑ト致シタイト思ヒマス、ソレデ私ノ質問ハ終リマス
○委員長（安倍能成君） 大河内委員カラ第九十八條ニ付テノ御質疑ガアツタノヲ間違ヘテ第九章ノ方ヘ入レテ居リマシタカラ‥‥大河内委員
○子爵大河内輝耕君 私ハ第九十八條ニ付テ質問ヲ致シタイノデアリマスガ、是ハ分ラナクナツテ來タノデアリマス、憲法ト條約トハ、是ハ衝突シタ場合ニドチラガ強イノデスカ、チヨツト言ツテ見ルト條約ハ條約トシテ公布ニナツテソレデ國民ヲ拘束スル力ガアルノダラウト思フノデスガ、マアソレヲ一ツ伺ツテ、ソレハソコニアルノダ、條約ガ公布サレタツテ法律カ、命令カ何カニナラナケレバ拘束スル力ガナイト云フナラ、ソレキリデスガ、若シアリトスレバソレハ憲法トドツチガ強イノデスカ、ソレヲ伺ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 條約ハ、其ノ當面ノ働キカラ申シマスルト、國ト國トノ間ノ約束デアリマスルガ故ニ、國内ノ人民ヲ國ノ手デ規律スルト云フ意味ノ法律トハ違フト云フ論ガ一應成立シ得ルモノト思ヒマス、詰リ國ト國トノ關係ヲ規律致シマスル條約ハ、其ノ儘直チニ、國ト國民トノ間ノ關係ヲ規律スル力ヲ持ツトハ言ヒ切レナイノデアリマシテ、多數ノ條約ハ國ト國トノ間ノ、例ヘバ同盟條約デアルトカ、或ハ修好條約ト云フモノハ其ノ限度ニ效力ガ止ルモノト思フノデアリマス、サウ云フモノハ國デ公布ヲ致シマシテモ、矢張リ國ト國トノ關係ヲ規律スルダケデアリマスルカラ、國民ハ其ノ存在ヲ承認シナケレバナリマセヌケレドモ、普通ノ法律ノヤウニ直チニ國民ノ權利義務ヲ拘束スルコトハナイト考ヘテ居リマス、處ガ條約ニモ色々ナ種類ガアリマシテ、或種ノ條約ハ國ト國トヲ規律スルト同時ニ其ノ形ガ、國ト國民トノ間ヲ規律スルガ如キ姿ヲ呈シテ居ルモノガアル譯デアリマス、例ヘテ申シマスルト、第一次歐洲戰ノ結末ノ時ニ、平和條約ガ結バレタ譯デス、例ヘバ日本ト「ドイツ」トノ間ニ戰爭終末ニ關スル條約ガ結バレマシタ、其ノ條約ノ中ニ於キマシテハ、日本ニ於ケル特許權トカ、或ハ民法上ノ或種ノ權利トカ云フモノノ中味迄モ決メテ居ツタノデアリマス、左樣ナ條約ハ、國ト國トノ關係ヲ規律スルト云フヨリモ、同時ニ國ノ持ツテ居ル國内法上ノ權利ヲモ規律シテ居ル形ヲ執ツテ居ルノデアリマス、斯樣ナ國内法的ノモノハ、如何ニシテ出來タカ、ト云フコトハ、是ハ條約自身デハナクシテ、實ハ國内法ノ解釋ニナルモノト考ヘテ居リマス、此ノ明治ノ憲法ガ出來マシテ以來、條約ハ直チニ法律トシテノ効力ガアルモノカドウカト云フコトニ付キマシテハ、相當議論ガ闘ハサレテ居ツタヤウデアリマス、併シ日本ガ公ニ解釋トシテ執ツテ居リマスル態度ハ、其ノ國内法トシテノ内容ヲ持ツテ居リマスル條約ハ、之ヲ公布スレバ直チニ國内法トシテノ力ヲ持ツテ居ル、デアリマスカラ特許權ナドヲ規定致シマシタモノハ、直チニ此ノ條約ノ公布ニ依リマシテ、法律ト同ジ効力ヲ持ツ、斯ウ云フ風ニ解釋ヲシテ居リマス、今後ト雖モ其ノ解釋ヲ變フル所ハナイト信ジテ居ル譯デアリマス、ソコデ問題ハ、今最後ニ御質疑ニナリマシタ點、是ハ或ハ條約ハ國内法上ノ効力ヲ持ツカドウカト云フコトヲ御答ヘスレバ、ソレデ十分ト思ヒマスルガ、少シ其ノ前ノ方デ御尋ニナリマシタ、條約ハ憲法トノ關係ニ於テドウ云フ効力ヲ持ツテ來ルカ、斯ウ云フマア御尋デアツタト存ジテ居リマスルガ、一國ガ憲法ヲ木ニシテ一切ノ國内秩序ヲ整ヘテ居リマスル限リ、國内法的ニハ憲法ニ違反スル條約的法律ガ行ハルヽ筈ハナイト、斯ウ云フ風ニ原則的ニ考ヘテ宜カラウト思ヒマス、詰リ國内ノ秩序ヲ決メマスル根本ノ原理ハ、憲法デアリマスルカラ、憲法ニ違反スル内容ノ條約ガ、國内法的ノ効力ヲ持ツト云フコトハ、普通ノ道理トシテハ考ヘ得ラレナイ筈デアリマス、處ガ此ノ條約ト云フモノニハ、種々ナル種類ガアラウト思フノデアリマス、國ト國トノ間ノ關係ヲ規律スルノデアリマスルカラ、國自身ヲ拘束シ得ル譯デアリマス、從ツテ國内ノコトハ條約ニ依ツテ影響ヲ受ケナイト云フ斯ウ云フ原理ハ必ズシモソレヲ決定スルコトガ出來ナイノデアリマス、マア普通ノ場合ニハサウ云フコトハナイト云フコトハ云ヘマスルケレドモ、特殊ノ場合ニハサウ云フコトモ國際法ノ見地カラ見テアリ得ルト考ヘナケレバナラナイト思フ譯デアリマス、例ヘバ「ポツダム」宣言ノ受諾ニ於キマシテ、此ノ憲法ノ認メテ居リマスル重要ナル原則ガ、或點ニ於テ進駐シテ居ル所ノ力ニ依ツテ制約ヲ受ケル、斯ウ云ウコトハ認メナケレハナリマセヌ、サウ考ヘテ來マスト、條約ト云フモノガ直チニ憲法以下ノモノデアルト云フ結論ヲ下シニクイト思フ譯デアリマス、先ヅ大體ハ憲法以下、普通ノ場合ニ於キマシテハ憲法以下ノモノトシテ考ヘテ宜イ、ケレドモ稀ニサウデナイ場合ガ、國際法的ニ起リ得ル、斯ウ云フ風ニ考ヘマシテ、ソコデ此ノ上諭ノ二項ニ於キマシテハ、其ノ兩方ヲ含メマシテ、多少言葉ハ廣過ギマシテ、的確ヲ缺ク虞ハアリマスルケレドモ、サウ云フ種々ナル關係ヲ命令的ニ規定ヲスルト云フコトハ、ナカナカヤリニクイノデアリマスカラ、斯樣ナ廣イ言葉ヲ以ノ遵守スルコトヲ必要トスルト云フコトヲ書キマシテ、ソレカラ以下ハ解釋ニ依ツテ判斷ニ依ツテサセルト云フ方法ニ出デタノデアリマス、是デ恐ラクハツキリシテ來ルト思ヒマス、政府ハ從來普通ノ意味ノ國内法的條約、國ノ法律ト云フ二ツガアリマスル時ニ、ドツチガ勝ツカト云フコトニ付キマシテ相當疑ハシイ、疑ハシイノデハナイ、甚ダ紛ラハシイト云フコトニ迄ナツテ居ツタト思フノデアリマス、ソレハ妙ナコトデハアリマスルケレドモ、國内法ノ或規定ヲ變ヘル條約ガ出來ルノデアリマス、私最近ノ知識ヲ持チマセヌノデ古イ事例シカ存ジマセヌガ、曾テ海難ノ救援救助、船ガ衝突シタ時ノ色々ノ損害補填ニ關スル條約デアリマスガ、ソレハ當時ノ海商法、日本ノ商法ノ一部デアリマスル海商法ノ規定ノ中ニハツキリアル規定デアリマス、處ガ、其ノ規定ヲ活ス所ノ大シタコトデハアリマセヌケレドモ、例ヘバ一年ノ時效ヲ二年ニスルト云フ修正、實質上修正スル條約ガ出來マシテ、其ノ條約ニ依ツテ商法ノ規定ガ變ツタカドウカト云フ議論ガ起リマシタ、其ノ當時ノ政府ノ採リマシタ解釋ハ、條約ハ公布スレバ商法ノ規定ハ、ソレデ變ルノダト云フ風ニ致シマシテ、詰リ條約ガ前カラ出來テ居ルモノヲ其ノ限度ニ於テ變更シタノデアリマス、處ガ、的確ニ其ノ例ヲ空ンジテ居リマセヌケレドモ、過去ニ於テ勞働關係ノ條約ガアリマシタ、例ヘバ一日何時間未成年者ハ就業セシムル、詰リ年少者ノ就業ニ關シマスル制限ナドニ付キマシテ、條約ガアツタリ、又法律ガアツタリ斯ウ云フヤウナコトガアリマス、サウ云フ場合ニドウ解釋スルデアラウカ、普通ノ原理ニ依リマシテ、前法後法ト言ヒマスカ、後カラ出來タモノガ勝ヲ占メルカ、ソレトモ條約ト云フモノハ一國ダケデ自由ニナラナイ國際的ナ關係ガアルトシテ、矢張リ強イモノニ附ク、斯ンナヤウナ議論モ出マシテ、多分未解決、實質的ニハ解決シテ居リマスルケレドモ、學問的ニハ、コトニ依ルト未解決ニナツタノデハナイカト存ジテ居リマス、サウ云フヤウナコトガ今回ノ規定ノ第二項ニ依ツテ「これを誠實に遵守する」ト云フ含蓄ノ中ニ、條約ガ後カラ出來タ法律ニモ勝ツテ儼然トシテ動カナイ、此ノ中カラ汲取ルコトガ出來ルト斯ンナ風ニ考ヘマス
○子爵大河内輝耕君 伺ヒ違フトイケマセヌカラモウ一遍私繰返シマスガ、サウスルト條約ハ公布サレヽバ國民ヲ拘束スルノデアル、其ノ効力ハ憲法ニ於テモ動カスコトガ出來ル場合モアル、ソレカラ法律ニ對シテハ寧ロ法律ヨリ以上ニ、假令後法ガ出來テモ條約ハ條約トシテ何處迄モ效力ガアツテ、サウシテ後法デ之ニ反スル規定ヲシテモソレハイケナイ、況ンヤ「命令、詔勅及び國務に關するその他の行爲の全部又は一部は、その效力ヲ有しない。」是ハ條約ニ依ツテ制限ヲ受クベキモノデアル、是デ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 大體御説ノ通リト思ヒマス、唯、一番初メニ條約ヲ公布スレバ憲法ニモ影響スルト仰シヤイマシタガ、コトニ依ルト公布シナイデモ國際的ノ關係デ憲法ニ制約ヲ受ケルコトニナリマスカラ、ソコダケチヨツト御言葉ガ…後ハ御説ノ通リト考ヘテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 併シ公布シナイデモ國民ニ拘束力カアルト云フノハヲカシウゴザイマスガ、ソコハ如何デゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 御説ノ通リ、唯國民ト云フト是モ少シ語弊ガ起リマスガ、條約ヲ締結致シマスレバ公布スルトセザルトニ拘ラズ國ハ義務ヲ負ヒマスル、憲法ノ或種ノ規定デ國ニ關スルコトハ其ノ制限ヲ受ケルモノデアラウト考ヘマス、國民ニ直接ニ響クモノハ公布ガナケレバナリマセヌ
○子爵大河内輝耕君 大變ムヅカシウゴザイマシテ、專門家ノ方ニハ能ク分ルデセウガ、私共ニハ實ニ分ラナイ、今ノ御答辯ハ少シ經ツタラ忘レチヤイサウデスガ、モウ少シ分ルヤウニサウ云フ點ヲ御書キニナツタラ如何デセウ
○國務大臣（金森徳次郎君） 條約ニ關シマスル部分ハ學問ニ依ツテ發達スベキ部分ガ非常ニ多イノデアリマシテ、之ヲ法律デ、憲法デハツキリ書クト云フコトニ付キマシテハ尚遠慮シテ宜イ部分ガアリマシテ、斯樣ナ規定ノ下ニ後ハ學問デ十分一ツ内容ヲ示シテ行キタイ、政府ノ持ツテ居リマス見解ハ私ノ持ツテ居リマス通リデアリマス、斯ウ云フ風ニシテ進行シテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 非常ニ重大ナコトデスカラ、ドウモ規定ガナイト云フト、其ノ度ニ相剋摩擦ヲ起シテ非常ニ困ルト思ヒマスガ、政府ノ仰ツシヤル所ハ如何ニモ御尤モデ、餘リ憲法ニ具體的ニ書クコトハ、成ルベク避ケラレルモノナラ避ケタイト云フ考ハ萬々デアリマシテ、如何ニモ御尤モデスケレドモ、其ノ爲ニ政治上ノ色々ナ、國際的又國内的ニゴタゴタヲ起スト云フ虞ガアルノデ、其ノ點甚ダ心配デゴザイマスガ、サウ云フコトハ如何デセウ、ドウモ少シハ杓子定規デモチツト書イテ置ク方ガハツキリシタ方ガ政治的ニ考ヘテ宜イノデハナイカ、何カ條約ヲ結ンダ時ニ、是ハ法律以上ノモノトカ以下ノモノデアルトカ、憲法ガドウナルトカ、キツト是ハ厄介ナ問題ガ起ツテ來マス、其ノ點支障ナクオヤリニナリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） ソレハ今迄現行憲法ニハ斯樣ナ趣旨ノ規定ガナクテモ亦或程度迄差支ナク來テ居リマス、今度ハ尊重スルト云フ規定ヲ置キマシタカラ、今度ハ政治的ニハ疑ハ全然餘地ガナイト思ヒマス、法律解釋ノ範圍ニ於キマシテハ斯樣ナ廣イ範圍デゴザイマスカラ、學問的ナ色々ナ難點ヲ考ヘマスナラバ、何分ニモ國内法ト國際法ノ交渉シテ居ル點デアリマス、國内法ノコトハ日本ダケデ一應決メラレマスケレドモ、併シ國際法ノ原理ト矛盾シタモノヲ決メルト云フコトハ、是ハヤツテモ弊害ノアルコトデアリマスカラ、其ノ點ハ學問ニ委セテ置クト云フコトヨリ外ニ安全ナ的確ナ途ハナイト考ヘテ居ルノデアリマス
○子爵大河内輝耕君 此ノ以上ハ議論ニナリマスカラ、第九十九條ハ此ノ程度デ止メテ置キマス
○牧野英一君 私ハ今高木委員カラ御話ニナツタコトヲ繰返スヤウナコトニナリマスガ、結局此ノ三箇條ハ特ニドウ云フ必要ガアツテ御設ケニナツタカト云フコトヲ伺ヒタイト思ツタダケノコトデゴザイマス、高木委員ニ對スル御説明デ一應政府ノ御考ノコトハ了解致シマシタガ、ソレニ關聯シテ尚私ノ少シバカリ疑トシテ居ル所ヲ附加ヘテ置キタイト思ヒマモ、先ヅ九十七條デゴザイマスガ、九十七條ノ規定ハ甚ダ消極的デ保障スル基本的人權ダケニ付テノモノデアリマス、前々カラ度々申上ゲマシタ通リ、私ハ此ノ憲法ニモツト日末再建ノ積極的ナ理想ヲ掲ゲテ欲シイト云フコトヲ考ヘテ居リマスルノデ、前文ニ致シマシテモ、此ノ最高法規ノ規定ニ致シマシテモ、如何ニモ縮コマツテ居ルノガ殘念ナヤウニ思ハレルノデアリマス、二十世紀ノ憲法ノ特色ハ單ニ基本的人權ヲ保障スルバカリデハナイ、積極的ナ人權ノ擴充ニ關スル規定ガ諸國ノ立法例ニモアル譯デゴザイマシテ、其ノ點ニ付テノ意氣込ガ見エテ居ラヌノヲ甚ダ殘念ニ思ヒマス、斯ウ云フ意味ニ於テ此ノ規定ハ矢張リナイ方ガ宜カラウ、斯ウ云フ風ニ思ヒマスルノデスガ、政府ハ主トシテ此ノ基本的人權ノ保障ニ重キヲ置イテオイデニナリマスノデ、矢張リ是デ宜イト云フ御考ニ違ヒゴザイマセヌ、是ハ特ニ駄目ヲ押スト申シテハ、金森國務大臣ニ失禮ナ申シ樣デゴザイマスルケレドモ、マア是デ澤山デアル、斯ウ云フ思召シデイラツシヤイマセウカ、如何デセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ前カラ申上ゲマシタ通リ、又牧野委員ガ私ノ答ヲ大凡ソハ豫想セラレテ居ル通リト申上ゲル外ハアリマセヌガ、重ネテ申シマスレバ、此ノ憲法全體ノ氣持ト云フモノハ、華カナル文字ヲ以テ規定スルノデハナク、先ニモ申シマシタヤウニ、東洋的ナル色彩ト申シマスルカ、蕾ノ花ヲ以テ咲クベキ花ノ前途ヲ書キ現スト云フヤウナ氣持、詰リ咲キ切ツタヤウナ風ノ態度ヲ執ツテ規定ヲシナイト云フコトハ、一貫シタル考ヘ方デアリマシテ、其ノ現レデアルト申上ゲルヨリ外ニ致シ方ナイト考ヘマス
○牧野英一君 尚九十七條ニハ、例ニ依ツテ文句ノ疑ガアリマスルケレドモ、ソレハマア稍々末梢的ナコトニナリマスルカラソレダケニ致シマシテ、九十八條ニ付テ御伺ヒ致シタイト思ヒマス、九十八條ノ第一項ノ方ハ、モウ前文ニ其ノ趣旨ガ現レテ居リマスルノデ、前文ニハ「一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。」トアリマスルノデ、此處ニ重ネテ斯ウ云フ風ニ規定ナサル必要ハナイト私ニハ思ハレルノデアリマス、ノミナラズ、文字ノ議論ヲ又致シマスルト云フト、前文ト同ジヤウニ「法律命令、詔勅」トアリマスルガ、「及び國務に關するその他の行爲の全部」斯ウ云フ風ニ網羅的ニナツテ居リマスルカラ、マア結構ハ結構デゴザイマスガ他ノ例ニ依リマスルト云フト、規則ト云フモノノ擧ゲラレテ居ル規定、最高裁判所ノ所ナドモアリマスルシ、文字ガ前文ト、外ノ規定ト、此處ノ所トノ間ノ統一連絡ニ於テ缺ケル所ガアリハシナイカト云フコトヲ慮リマス、ケレドモ、是モ言葉ノ使ヒ方ト云フコトニナリマセウ、ソレデ結局、第二項ニ付テ疑ヲ立テル譯デゴザイマスガ、之ニ付テハ今大河内子爵ヨリ御質問ニナツタ通リノコトヲ私モ疑ツテ居リマス、條約憲法ト、及ビ法律トノ關係ト云フコトハ、既ニ今日デハマア慣習法トデモ申シマセウカ、現行憲法デハ少クトモ政府ノ見解ト云フモノガ一貫シテ居ル譯デアリマス、ケレドモ、學説ニ於テハ御承知ノ通リ、大變議論ノアル所デアリ、而モ今金森國務相ハ、此ノ問題ハ學説ニ於テ更ニ發展ヲ希望スベキ問題デアルガ、政府ノ考ハ斯ウデアル、斯ウ云フ御答デゴザイマシタ、此ノ規定デハ學説ノ發展ノ基礎ニモナツテ居リマセヌシ、又政府ノ御考ヲ明カニシテ居ナイコトハ、大河内子爵ノ仰シヤツタ通リ、マアアツテモ邪魔ニモナリマスマイ、國際條約ハ之ヲ誠實ニ遵守スルト云フモノデスカラ‥‥、ケレドモ、特ニ此ノ規定ヲ置ク、國務相ハ、是デ大分良クナツタト云フ御話デゴザイマシタケレドモ、私カラ見ルト云フト、毒ニモ藥ニモナラナイヤウナ規定ノヤウニ思ヒマスルノデ、斯ウ云フモノヲ衆議院ガ特ニ掲ゲタ趣旨ガ分ラナイヤウニ思フノデス、唯稍々邪推ヲシテ申上ゲマスレバ、九十七條デモサウデゴザイマスガ、我ガ國ハ今日迄基本的人權ヲ蹂躪シテ憚ラナカツタヤウナ疑ヲ一種ノ方面カラ受ケテ居リ、又此ノ九十八條ノ第二項ニ付テモ、兎角條約ヲ蹂躪スルタチノ惡イ國デアルト云フヤウナ評判ヲ或方面カラ受ケテ居ルノデアリマス、ソレバカリデハゴザイマセヌ、前々私ガ申シマスル第三章ノ規定ニ致シマシテモ、マアドウモ能クモコンナ恥ヲ自ラ憲法ニ規定シタカト思フヤウナ規定ガアルヤウナ心持ガ致シマスルノデスガ、第三章ナドヘ歸ルコトハ愼マナケレバナラヌガ、斯ウ云フ心持カラ致シマシテ、條約ヲ誠實ニ守ラナケレバナラヌト云フヤウナコトヲ、特ニ憲法ニ書クト云フコトハ、サウ云フ疑ヲ受ケタ國柄ダケニ、或意味ニ於テハ殘念デゴザイマス、殘念バカリデハナイ、當リ前ノコトデアリマスカラ、矢張リ一項、二項ニ亙ツテ、斯ウ云フモノハ矢張リ私取止メニナツタ方ガ却テ宜クナイカト思フ、其ノ方ガ自由ニ學説ガ發達シ、又政府モ自由ニ、條約ト特ニ新シイ憲法トノ關係ニ付テ御説明ガアリマシタガ、是ハ相當ニ山々シイ問題デアリマシテ、憲法改正ノ手續ヲ經ナイデ、單ニ條約締結ノ國會ノ承認ダケデ憲法ノ改正ガ出來ルト解釋ニナルカラ、大河内子爵ノ御話ノ通リ、是ガ甚ダ重大ナ問題デアリマス、是ガ決シテ此處デ明カニサレテ居ナイト私ハ思ヒマスノデ、是ハ矢張リ御取止メニナツタ方ガ如何デゴザイマセウカト、斯ウ思ヒマスガ、是モ先走ツテ政府ノ心持ヲ申上ゲテハ濟ミマセヌガ、結局見解ノ相違ト云フコトニナルノデアラウカト思ヒマス、特ニ政府ニ伺ヒタイノハ、憲法改正ノ手續ニ依ラナイデ、條約ヲ以テ憲法ヲ改正スル途ガ開カレテ居ルノデゴザイマスガ、致シ方ガナイト云フコトニナリマスカ、ソレガ此ノ憲法ノ精神上當然ナコトデアルト、斯ウ云フ風ニ御考ニナツテオイデニナリマスノカ、一應共ノ點ヲ重ネテ御伺ヒ致シテ置キタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 色々ノ御尋ノ點デアリマシタガ、第九十八條ノ第一項ハ前文ト重複スルト云フ御意見デアリマシタ、政府原案ノ意味スル所ニ於キマシテハ、幾分重ナツテ居リマス、併シ前文ハ書キ方モ違ツテ居リマスシ、且政府原案ニ於キマシテハ、過去ノモノヲ處置スルト云フコトデアリマシテ、將來ニ發生スル所ノ憲法違反ノ如キモノノ取扱ハ決メテ居リマセヌ、其ノ全部ニ亙ツテ規定ヲ致シテ居リマスノハ九十八條第一項デアリマス、ダカラサウ云フコトヲ規定スルコトガ必要デアルカナイカト云フコトヲ決メレバ別デアリマスケレドモ、政府原案ノ前文ト九十八條ノ一項トハ必ズシモ重複シテ居ルトハ言ヒ切レナイト云フコトヲ申上ゲタイト思フノデアリマス、サウシテ前文ハ衆議院ニ於テ修正セラレタノデアリマスルガ、衆議院ニ於テ修正セラレタ所ノ此ノ字句ハ、移々廣イ意味ヲ持ツテ居リマシテ、的確ナル法律的ナル觀念ニ之ヲ當嵌メマスルニ付キマシテハ論議ノ餘地ガ多カラウト存ジマス、從ツテ九十八條第一項ガアルト云フコトハ、實體トシテハ十分意味ハ存在シテ居リマス、繰返シマスルガ、元モ子モナク、要ラヌト云フ御議論デアレバ、ソレハ一ツノ御議論デアルト思ヒマス、併シ是ナクシテ理論的ニ是ダケノ内容ヲ解釋デ産ミ出サウト云フコトニ付キマシテハ、多少ノ大膽ガ含マレテ居ル、斯ウ云フコトヲ申上ゲル次第デアリマス、次ニ九十八條ノ第二項デアリマスガ、是ハ主タル意味ハ政治的デアルコトハ、是ハ言フ迄モアリマセヌ、「遵守する」ト云フ言葉自身ガ法律的ナ的確サヲ十分ニハ備ヘテ居リマセヌ、デアリマスケレドモ、此ノ政治的ナル主張ヲ茲ニハツキリサシテ置クト云フコトガ、從來此ノ世界ヲ眼目トセズシテ動モスレバ行動スル虞ノアツタ所ノ日本ノ態度ハ、之ニ依ツテサウデハナイト云フ意味ニ於テ明カニシテ置ク力ガアルノデアリマシテ、是ハ重要ナ内容ヲ含ンデ居ルト思フノデアリマス、又此ノ原理ガ政治的ニデモハツキリセシメラレルコトニ依リマシテ、法律的ナル物ノ考ヘ方ニモ相當影響ノアリ得ルコトハ當然デアラウト考ヘテ居ル譯デアリマス、ダカラ全體ニ付キマシテ、毒ニモナラヌ、藥ニモナラナイ規定デアルト私共ハ考ヘテ居ナイ次第デアリマス
○牧野英一君 尚是ハ此ノ九十八條ノ第一項ニ於テ言ヒ洩シマシタ、前文ト重ツテ居ルヤウニ思ハレルバカリデナシニ、最高裁判所ガ法律規則其ノ他ノ處分一切ニ亙ツテ、憲法ニ違反シテ居ルカ居ナイカヲ判決スルダケノ權能ヲ持ツテ居ルト云フ規定モアリマスノデ、結局九十八條ハ無用ナ規定デアルト考ヘタノデアリマスルガ、重ナツテ居ツテモ、之ニハ是ダケノ意味ガアルト云フ風ニ御考ニナレバ、ソレカラ後ハ意見ノ相違ト云フコトニナリマセウ、ソコデ第九十九條ニ付テ申上ゲマスガ、斯ウ云フ風ニ、天皇首メ公務員ニ付テノミ此ノ憲法ヲ擁護スル義務ヲ負フトアリマスガ、國民ノ方ヲ除外サレテ居ルト云フコトガ、此ノ規定ノ形式上私ハ殘念ニ思フノデアリマス、ドウ云フ譯デ公務員ニ付テノミ斯ウ云フ規定ヲ御設ケニナツタノカ、現行憲法ニ關聯シテ考ヘマスト云フト矢張リ憲法ハ全國民ガ之ヲ擁護シナケレバナラヌト云フコトニナルカト考ヘマスガ、斯ウ云フヤウナ規定モ公務員ダケガ義務ヲ負フト云フノデアルト、ドウモ片手落チノヤウナ規定ノヤウニ考ヘラレマスガ、如何ナモノデゴザイマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ナ御見解モ成立シ得ル理由ハ恐ラクアリマセウ、併シ此ノ憲法自身ノ建前ガ、國民ガ作ツタ憲法デアル、斯ウ云フ建前ヲ採ツテ居リマス、自カラ作ツテ守ラザル國民ト云フノハ稍々考ヘニクイノデアリマシテ、茲ニ尊重シ擁護スル義務ヲ負フト云フコトヲ申ス前ニ、國民ガ自分ノ本當ノ考デ之ヲ作ツテ居ルト云フノデアリマスルガ故ニ、ソコハソチラノ方ノ根本思想ニ任セテ置クト云フ考ガ容レ得ルモノト存ジテ居リマス
○牧野英一君 御尢モナ御説ノヤウニ伺ヒマスガ、併シ天皇首メ公務員ニ至ル迄國民ノ一人デアルニ違ヒアリマセヌ、天皇ヲ國民ノ中ニ加ヘテ國民、即チ天皇ヲ含ンデ居ル國民ト云フ御説明モアツタ位デアリマス、ソレデ私ハドウカスルト、公務員ニ付テノミ規定シテアルノデ、此ノ規定ヲ讀ム人ガ誤解ヲスルラシク思ハレル事實ニ接シテ居リマスノデ、結局例ヘバ國民ガ作ツタ憲法デアルト云フコトヲ明カニスル爲ニ、公務員ハ國民ト共ニ、此ノ憲法ヲ尊重シ擁護スル義務ヲ執ル、國民ト共ニト云フ文字ヲ入レテ戴クト、此ノ規定ガ生キテ來ヤシナイカト、斯ンナ風ニ考ヘテ居ル譯デゴザイマスガ、今ノ金森國務大臣ノ御説明ハ一應御尤モト拜聽致シマスルガ、此ノ草案ヲ持ツテ廻ツテ色々ノ人ニ讀ンデ貰ツテドンナ心持ガスルカト聽イテ廻ツテ居リマス、此ノ規定ナドニ付テ妙ナ規定ダト言フ人ガ隨分相當ノ教養アル「クラス」ノ人ニ少クナイノデゴザイマシテ、斯ウ云フ形ハ尚一ツ御考慮ヲ仰グコトガ出來レバト、斯ウ私ハ考ヘテ居ル次第デゴザイマス、國務大臣ノ心持ハ理解致シマシタガ、私ノ積リトシテハ、セメテ國民ト共ニト云フヤウナ言葉ヲ御入レ下スツタラバ、御趣旨ガ明白ニナツテ世ノ中ノ誤解ヲモ防グト云フコトニナリハシナイカ、是ハ唯見解ノ問題デゴザイマスガ、是ダケノコトヲ申上ゲテ私ノ質問ハ終リマス
○委員長（安倍能成君） 齋藤國務大臣ガ見エマシタカラ、大河内委員ノ御質問ヲ願ヒマス
○子爵大河内輝耕君 私ハ九十六條ノ規定ニ付キマシテ、御許シヲ得マシテ金森國務大臣ト齋藤國務大臣トニ質問致シマス、其ノ質問ノ要點ハ、此ノ憲法ノ改正ニ付キマシテハ、參議院ト衆議院トヲ全然權限ヲ同ジモノニ見テ居リマス、私ハ是ハ參議院ハ一段下ニ見ルベキモノダト思ヒマス、矢張リ前ノ法律ノ規定ノヤウニ三分ノ二以上ノ、私ハチヨツトソレニ付テ改正案ヲ持ツテ居リマスガ、私ノ言フ通リニスレバ二ツノ續イタ會議デ、引ツ續イテ衆議院デ決議ガアツタラバ、參議院ハ好ムト好マザルトニ拘ラズソレデ行ク、詰リ法律ノ改正ノ規定、アレト同ジデス、アレヲ此處ヘ準用サレタナラバ宜カラウト思ヒマス、ソレデナケレバ參議院ガ頑張リ出セバ手ノ着ケヤウガナイ、非常ナ相剋摩擦ヲ茲ニ起シテ來ル、ソコニハ何カ融通ノ方法ガナケレバナラヌ、元元參議院ハ國民ノ代表カモ知レマセヌケレドモ、衆議院トハ大分違ツタ國民ノ代表デアツテ、政府ト私ノ考ガ少シ違フカモ知レマセヌガ、私ハ國民ノ代表ト云フヨリモ、ソレモ宜イカモ知レマセヌケレドモ、出來ルコトナラソレニ越シタコトハナイト思ヒマスケレドモ、ソレヨリモ參議院ト云フモノハ色々ナオ爺サンノ集リダ、アヽ云フ老爺連中ガ居ルノダカラ考ヘテヤラウヂヤナイカ、ト云フヤウナ程度ノモノニ私ハシタイ、元ハ非常ニ働イテ酸イモ甘イモ能ク知ツテ居ルオ爺サン、併シ今ハ第一線ヲ退イテ居ル、サウ云フ人達ノ意見モ一ツ聽イテ見ヨウ、ソコガ參議院ノ狙ヒ所デハナイカト私ハ思フ、何モ多數ヲ以テ衆議院ノ言フコトヲ堰キ止メルトカ何トカ、ソンナコトハスベキモノデハナイ參議院トシテハ何シロ此處ヘ來ルト、衆議院ト參議院トブツカリ合ツタラ始末ノ惡イコトニナル、結局トンデモナイ累ヲ國體ニ及スヤウナコトガ始マラヌトモ限ラヌ、現ニ「イギリス」ナンカデモ衆議院ガ二度モ三度モ議決シタノデ、ドウニモ斯ウニモナラナクナツテ、「アスキス」ガ「キング」ニ持ツテ行ツテアンナコトヲヤツテシマツタ、サウ云フ例モ「イギリス」ニアリマスカラ、コツチモ亦サウ云フコトデ累ヲ國體ニ及サヌトモ限ラヌカラ、融通ノ途ヲ付ケテ二度續イテ決議スルト云フヤウナコトニデモナツタラ、參議院ハ讓ルノダト云フコトニスベキデハナイカ、餘リ參議院ト云フモノヲ買ヒ被ツテ居ラレルノデハナイカ、強クシ過ギタ案デハナイカト思フノデスガ、其ノ點ヲ金森國務大臣ニ先ヅ以デ伺ヒマス、又齋藤國務大臣ニ對シテハ其ノ政治上ノ見解ヲ一ツ伺ヒタイ、政治上由々シキ大事ダト私ハ思ヒマス、參議院ト云フモノハ何時デモ落スベキモノダト私ハ一貫シテ考ヘテ居ル、殊ニ此ノ法律ヲ讀ムト皆サウ云フ風ニ出來テ居ル、何故ニ憲法改正ニ付テダケ同ジモノニ御覽ニナツタノカ、私ハ甚ダ其ノ點モ解シ得ラレナイ、其ノ點ヲ兩大臣ニ質問致シマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 只今仰セニナリマシタ參議院ノ權能ノ中ニ於キマシテ、憲法改正ト云フ點ニ付キマシテハ衆議院ト完全ニ同一ナル立場ニ置カレテ居ルト云フコトニツキマシテノ御質疑ノ趣旨ハ、一面ニ於テ私共モ左樣ナ方面ニ疑ヲ持ツテ相當研究ヲ致シマシタノデアリマシテ、御尋ノ點有難イコトト考ヘテ居ルノデアリマス、私共モ初ハソンナヤウナ風ニ、參議院ノ性質ヲ一貫スルコトニ致シマシテ、此ノ場合モ參議院ニハ補充的ナル立場ヲ取ルヤウナ制度ヲ、立テルコトガ妥當デハナイカ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居タノデアリマス、此ガ憲法ト云フモノハ固ヨリ變ヘラルベキモノデハアリマスルケレドモ、容易ニ變更スベキモノデハナイノデアリマシテ、相當長イ時期ノ間安定シ、維持シナケレバナラヌモノデアリマス、サウ考ヘテ行キマスルト、參議院ガ愼重練熟ノ氣持ヲ持チ、幾分保守的ナル性質ヲ持ツニ致シマシテモ、憲法ノ安定性ヲ保全スル上カラ言ヘバ、相當尊重スベキ性質ガ多カラウト考フル譯デアリマス、此ノ憲法ト云フモノガ比較的變ヘ易イヤウナ形ニスルノモ一ツノ方法デアリマスルシ、容易ニ變ハラナイヤウニ制度ヲ立テルト云フノモ一ツノ方法デアリマスルガ、併シ大キナ筋道ト致シマシテハ、憲法ハ容易ニ變ヘラレナイト云フ原理ヲ樹立致シマシテ、其ノ下ニ於テ敏捷ニ國務ガ行ハレテ行クヤウニスルコトガ、先ヅ誤リナキヲ期スル本當ノ途デアラウト考ヘマス、從ツテ是ダケハ參議院ノ權能ノ殆ド唯一ノ例外ト致シマシテハ、此ノ參議院ノ持ツテ居ル愼重、練熟、場合ニ依ツテハ保守性ヲモ十分尊重シテ、憲法ノ保障トスルト云フ態度ヲ執ツタ譯デアリマシテ、御議論ハ實ハ私共モ十分迷ヒ拔ク程考ヘテ、ソレヲ通リ拔ケタ後ニ此ノ論ニ到達致シマシタ次第デアリマス
○國務大臣（齋藤隆夫君） 御尋ノコトニ付キマシテ、只今金森國務大臣カラ御答ニナリマシタカラ、私ガ御答ヘ致シマシタ所ガ同ジコトデゴザイマスルカラシテ、別ニ是以上述ベルベ理由モアリマセヌカラ、重複ニ亙リマスコトヲ恐レテ私ノ答辯ハ致シマセヌ
○子爵大河内輝耕君 ソレデハ今一應伺ヒマスガ、憲法ヲ改正スルト云フコトガ、成ルベク恒久性ヲ持タセタイト云フコトハ、御趣旨ハ能ク分リマス、至極結構ダト思ヒマス、何シロ是以上ハ「デットロック」デ動キガ取レナイ、何トカ途ヲ付ケテ、例ヘバズツト讓ツタラ、衆議院ハ引續キ二度ヲ三度ニシテモ宜シイシ、三度ニシテモ尚イケナケレバ解散ヲヤルト云フ規定ヲ入レテ宜イト思ヒマス、ソレデ如何デセウカ、其ノ邊ノ所デ行ク方法ハナイカ、サウデナケレバ、ドウシタツテ是ハ國體ニ累ヲ及シテ來マスカラ、「イギリス」ノヤウナアヽ云フ風ニ憲法ノシ易クナツタ國デサヘ、衆議院ガ二度モ三度モ決議シテ來ル、解散ヲシテモ尚決議シテ來ルト云フコトニナレバ、ドウシテモアヽヤラナケレバ動キガ取レナイ、是ハ日本トシテハ非常ニ愼シムベキコトデ、サウスルト又國體論ガ起ツテ來マス、今度ハ言論ノ自由デアリマスカラ、遠慮ナクヤルト思フ、サウナツテ來ルノハ甚ダ面白クナイ話デ、如何デゴザイマセウカ、ムヅカシクシテ置クコトハ結構デゴザイマスガ、何トカ今一應御考ヘ願ヘマスマイカ、金森大臣ノ御説ヲ一ツ伺ヒタイノデス
○國務大臣（金森徳次郎君） 御説ノヤウナ考ヘ方モ十分成立ツモノト存ジテ居リマスガ、此ノ憲法ノ建前ト「イギリス」ノ建前トヲ比較シテ考ヘテ見マスルト、「イギリス」ノ現在ノ上院ハ、色々ナ變更ガアラウトシテハ居ルヤウデアリマスケレドモ、建前トシテハ大部分ガ門閥的ニ出來テ居リマシテ、國民ノ輿論ヲ其ノ儘代表スルヤウニハ出來テ居ナイト思フノデアリマス、從ツテ今御説ニナリマシタヤウナ紛糾ガ起ルト思フノデアリマスルガ、併シ今回ノ參議院法ニ於キマシテハ、國民其ノモノヲ背景トシテ參議院ガ出來テ居ルノデアリマス、勿論衆議院ガ代表スル面ト參議院ガ代表スル面トハ違フニシテモ終局ハ國民全般ニ基礎ヲ持ツテ居ル次第デアリマス、デアリマスルカラ、國民ガ十分或方向ニ考ヲ持ツテ居リマスナラ、其ノ反映ガ多少迂餘曲折シタル方法デアルニシテモ、衆議院ト參議院トノ兩方ニ現ハレテ來ルノデアリマシテ、國民ガ一體性ヲ持ツテ居ル限リ、矢張リ衆議院ト參議院トノ意見モ或順序ノ後ニハ一ツニナラウト云フコトハ先ヅ信ジテ疑ハナイ、信ズルト云フコトハ實ハ餘リ宜イコトデハゴザイマセヌケレドモ、此ノ場合ニハ左樣ナ考ヲ持チ得ルコトノヤウニ思ヒマシテ何シロ事ガ重大デアリマスルカラ、輕擧妄動ト言ヒマスガ急激ナル變化ヲ避ケマシテ、念ノ上ニモ念ヲ入レルト云フ立場カラ斯樣ニ致シマシタノデ、今仰セニナリマシタ更ニ細カク色々ナ手段ヲ設ケルト云フコトハ、一ツノ考フベキ方法デアルニ相違ナイト思ヒマスケレドモ、今ノ處其處迄行カナクテモ是ダケデモノハ圓滿ニ運ブデアラウト云フ前提カラ、此ノ原案ヲ説明申上ゲテ居ル譯デアリマス
○子爵大河内輝耕君 參議院ノ性質ニ付テ少シ政府ト私ノ意見ト喰ヒ違ヒガアルノデス、頻リニ參議院ハ代表ダ、代表ダト仰ツシヤマスケレドモ、私ハ參議院ハ國民ヲソツクリ其ノ儘代表シテ行クモノニハナリニクイト思フノデス、如何ニ公選ノ方法ヲ採ツテ見タ所デ、ドウモ一種ノ人間ガ出テ來ルノダシ、又一種ノ人間ガ出テ來ルコトヲ私ハ希望シテ居ル、デスガ是以上ハ議論ニナリマスカラ、私ノ質問ハ是デ止メテ置キマス
○澤田牛麿君 私ハサツキ佐々木委員カラ仰セラレタト同ジ見解ヲ持ツテ居ルノデアリマス、此ノ第十章ト云フモノハ削除スベキモノ佐々木委員ヨリモ私ノ方ガ少シ、何ント言ヒマスカ、語氣ガ強イノデゴザイマシテ、削除シテモ差支ナイヂヤナイカト云フ佐々木委員ノ御話デアリマシタガ、私ハ之ヲ削除スベキモノト云フヤウニ考ヘルノデアリマス、其ノ理由ハ大體佐々木委員ノ仰セラレタコトト同ジコトニナリマスガ、要スルニ歴史的ニ見テ、「アメリカ」ノヤウニ新タニ國ヲ建テル場合、其ノ時ニ憲法ヲ定メルト云フコトト、ソレカラ又其ノ國ガ聯邦制デアツテ、別ニ獨立國家ト見ルベキモノガ澤山其ノ統一國家ノ下ニアルト云フヤウナ場合ニ對シテ必要ナ規定ハ、日本ノ如キ既ニ憲法ヲ實施シテ百年ニモ近クナラムトスル所ノ國ト、ソレカラ地方ハ單ニ行政區劃ニ過ギナイ、全ク歴史モ事情モ異ニシテ居ル場合ニ於テ、其ノ直譯的ノ憲法ト見ラレルモノヲ制定スルト云フコトハ宜シクナイト私ハ思フノデアリマス、ソレデ此ノ第十章ノ規定ハ、國民ニ斯ウ云フコトヲ示シテ置ク方ガ宜イトカ、或ハ啓蒙ニナルトカ、色々御説明ハアリマスガ、私ハ是ハ日本國民ヲ侮辱スルモノダト思フ、斯ウ云フコトヲ書イテ置カナケレバ、日本人ハ憲法ヲ作ツテモ役ニ立タヌ、行フコトガ出來ナイト云フ風ニ思フト云フコトハ、（「其ノ通リ」ト呼フ者アリ）是ハ啓蒙ドコロヂヤナイ、侮辱スルモノダ、南方ノ土蠻カ、「アフリカ」ノ「ホッテントット」ノヤウナ國民ナラバ、ソレハ斯ウ云フ條項ヲ入レテ置カナケレバ、憲法ヲ作ツタツテ何ンダカ分ラナイ、憲法ハ最低ノモノカ最高ノモノカ分ラナイ、サウ云フモノデアルナラバ、或ハ國民ノ義務デアルトカ何ントカ云フヤウナ色々ナコトヲ言ハナケレバナラヌ必要ガアルカモ知レナイ、又小學校ノ教科書ニモ斯ウ云フコトヲ書イテ置カナケレバ分ラヌカモ知レヌ、併シ苟クモ日本國民ト云フモノガ、是迄ノ法制ニ於テモ相當發達シ、法律ノ秩序モ備ツテ居ル國ニ於テ、偶々軍閥ガドウシタトカ斯ウシタトカ云フ一時ノ現象ハアリマシタケレドモ、全體ノ水準トシテハ、日本ノ法制的ノ水準ト云フモノハ非常ニ高イモノト思フ、サウ云フ所ヘ持ツテ來テ、斯ウ云フ「プリミテイヴ」ナ野蠻人ニ教ヘルヤウナコトヲ書クト云フコトハ、私ハ國民ヲ侮辱スルモノデアル、是ハ佐々木委員ト同ジ理由デハアリマスルガ、私ハ是ハ削ラナケレバナラヌト云フヤウニ思フノデアリマス、ソレカラ細カイコトニ於キマシテハ、九十九條ニ於テ、牧野委員ノ御話モアリマシタガ、九十九條ニ國民ト云フコトヲ入レナイノハ、國民ガ作ツタ憲法ダカラ入レテイノダト、斯ウ云フ御説明デアリマシタガ、國民ガ作ツタ憲法ダト云フナラバ、此ノ第十章ノ規定ナドハ益益要ラナクナル、是ダケ立派ナ憲法ヲ國民ノ發意カラ、國民ノ各個人ガ本當ニサウ思ツテ作ツタト云フナラバ、第十章ナンカ全ク要ラナクナル、是ハ第九十九條ノ條文ノ問題トシテハ、私ハ是ハ片輪ノモノデ、國民ト云フコトヲ入レナケレバ意味ヲ成サヌ規定ダト思フノデアリマス、ソレデ尚私ハ申スコトヲ忘レマシタガ、第九十五條ノ、「一の地方公共團體のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共團體の住民の投票においてその過半數の同意を得なければ、國會は、これを制定することができない」、是ガ聯邦政治ニ起ル現象ヲ豫想シタ條項デアル、日本ノ今日ノ状態ニ於テハ想像シ得ナイヤウナ條項ヂヤナイカ、是モマア九十五條ニ基ク所ハ、聯邦國家ノ觀念カラ斯ウ云フ條項ガ出テ居ルノダト思フノデアリマスガ、是ハ併シ文字ニ於テハ別ニ不都合ハアリマセヌケレドモ、此ノ基ク觀念ハ丸デ日本ト國ノ成立チヲ異ニスル異國ノ例ニ依ルモノダト私ハ思フ、サウ云フ關係ニ於テ、此ノ第十章ハドノ條項モ置カナケレバナラヌト云フ理由ハ少シモナイト思ヒマス、サウ云フ譯デアリマスカラ、衆議院ガ此ノ訂正ヲシタ條約ヲ尊重シロト云フコトノ可否迄ニハ私ハ入ラナイ積リデアリマスガ、是等ノ點ニ付テモウ一度國務大臣ノ御説明ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 九十五條ノ規定ハ、聯邦的色彩ヲ持ツテ居ルト云フコトハ昨日モ仰セニナリマシタガ、是ハ何カノ特別ノ御考カラ御意見ガ出テ居ルト思ヒマスガ、九十五條ハサウ云フヤウナ趣旨ハ毛頭持ツテ居リマセヌ、唯寄ツテタカツテ一小地域ノ公共團體ニ不利益ナ立法ヲスルト云フコトハ、人權擁護ト云ヒマスカ、自治體權利擁護ノ見地カラ面白クナイト云フダケノコトデアリマシテ、特權又ハ特權ノ反對ト云フノハ何ト申シマスカ知リマセヌガ、或自治體ガ特別ニ他ノモノヨリモ違ツタ不利益ナ扱ヒニ置カルヽコトヲ、其ノモノヲ擁護セシメヨウト云フダケノ趣旨デアリマシテ、今仰セニナリマシタヤウナ思想ノ連繋トハ全然關係ノナイモノト存ジテ居リマス、次ニ第十章ノ各種ノ規定ニ付テ色々仰セニナリマシタガ、私共ノ申上ゲマスルコトモ結局一ツシカモノヲ知リマセヌノデ、正シイト思フ考ヘ方ハ唯一筋アルノミデアリマスカラ、結局繰返スコトニナツテ誠ニ恐縮ニ存ジマス、他ニ言葉ガアレバ實ハ初ニ申上ゲナカツタコトガ惡イト云フコトニ歸著シマスノデ、其ノ點ハ御許シ願ヒタイト思ヒマス、此ノ九十七條ノ權利ノ保障ニ關スル規定ト云フモノハ、決シテ日本國民ヲ侮辱シテ居ルト云フノデハゴザィマセヌ、明治憲法ニ於キマシテ、日本國民ハ確カニ人權ヲ其ノ規定ノ程度ニ於テ擁護サレテ居リマシタケレドモ、是ハドウ考ヘテモ徹底シテハ居リマセヌ、或學説ニ依リマスルト、唯立法權ノ範圍ヲ決メタノデアルト云フコトヲ言ツテ居リマスルガ、ドウモソンナヤウナ見地モアリ、個々ノ規定ヲ見テ行キマスルト、權利擁護ヨリモ、寧ロ權利擁護ノ形ノ下ニ、成ルベク其ノ國家的ナル見地ニ於テ調整スルコトノ便宜ナヤウニモ思ハレルノデアリマス、其ノ結果カ或ハ歴史的ノ結果カ存ジマセヌケレドモ、明治以來ノ日本國ハ、人權ノ尊重スベキコトヲ的確ニ理解シテ居ナカツタノヂヤナイカ、「ヨーロッパ」ノ國々ニ於キマシテハ、サウ云フ人權擁護ト云フ思想ガ湧キ起ルダケノ歴史的ナ段階ヲ經テ居リマス、處ガ日本ニ於キマシテハ明治初年ニ於テ斯樣ナ氣持ガ湧キ起リツヽアル傾向ノアツタ時ニ、此ノ明治憲法ニ依ツテ其ノ湧キ起ル考ガ憲法ノ各規定ノ中ニ融ケ込ンデシマヒマシテ、其ノ後十分伸ビル機會ガナカツタノデハナイカ、是ハ一ツノ判斷デアリマスケレドモ、多分其ノ結果デモアラウト云フノガ、吾レ人共ニ憲法上ノ此ノ自由權ガ可ナリ極度ノ點迄…極度ノ點ト申シマスルノハ、憲法上合理的ナリト言ヒ得ル最極度ノ點迄モ抑制セラレテモ、或ハ解釋ニ依リマシテハ憲法ノ許サザル點迄抑制セラレマシテモ、相當ニ柔順デアツタト云フコトガ言ヘルノデアリマシテ、ソレハ矢張リ此ノ個人ノ尊重ト云フ歴史ヲ眞劒ニ昧ツテ來ナカツタト云フ結果デアラウト思ヒマス、左樣ナ國民ニ對シマシテ、矢張リ十分ニ其ノ權利ガ明カニナルヤウナ憲法ノ規定ヲ設ケマスルコトハ不名譽デモ何デモナイ、國民ヲ健全ニ導ク爲ノ一ツノ適當ナル途デハナカラウカト斯樣ニ九十七條ニ於テハ考ヘテ居リマス、（拍手）九十八條ハ、是ハ當然ノコトヲ言ツテ居ルノデアリマシテ、サウ云フマア御考ガ御質疑ノ點ニナツテ居ルト思ヒマスケレドモ、本當ヲ考ヘレバ、當然ノコトカドウカ學問的ニ展開シナケレバ答ヘラレヌ問題デアリマシテ、サウ云フコトヲハツキリト、憲法ハ國内法ノ關係カラ言ヘバ他ノ何物ニモ優ルゾト云フコトヲ申シマスルコトハ、是ハ恐ラク言ツテ價値アルコトデアラウト思フノデアリマス、此ノ明治憲法ニ於キマシテハ直接ニ斯樣ナ規定ハアリマセヌケレドモ、其ノ法則ト申シマスルカ、經過規定ノ所ニ、逆ニ矢張リ此ノ憲法ニ名前ハ違反シテ居ツテモ或種ノ條件ヲ持ツモノハ尚效力ヲ存續スルト云フ、裏カラ書イタ規定ガアリマシテ、幾分此ノ氣持ヲ半面カラ表ハシテ居ルヤウナ規定モアルノデアリマシテ、矢張リ斯ウ云フ規定ハ立法ノ手續‥‥絶對必要ト云フ譯ハアリマセヌケレドモ、アルコトガ正當デアル、況ヤ此ノ條約ニ關スル規定ノ如キハ、是ハモウ國際關係ヲ尊重スル現代ノ憲法ノ建前トシテハ矢張リ欲シイ規定ノ一ツデアラウト思フノデアリマス、九十九條ニ付キマシテハ色々ノ御議論モアリマシテ、之ニ付キマシテハ私ガ前ニ申上ゲタ所以上ニハ別段ノ所見ヲ持ツテ居リマセヌ、ソレヲ以テ代理ヲ致ス次第デアリマス
○澤田牛麿君 私モソレデ終リマス
○委員長（安倍能成君） チヨツト速記ヲ止メテ下サイ
〔速記中止〕
○委員長（安倍能成君） 速記ヲ始メテ‥‥佐々木委員
○佐々木惣一君 第十章デスガ、是ハ色々御話ガアリマシテ、之ヲ九十七條、其ノ他ノ外國ノ聯邦國ノ規定ニアル所ノモノヲ見ルト云フ立場デ必要ダト云フコトモ一ツノ考ヘ方デアリマスガ、ソレハソレトシテ特ニ金森國務大臣ノ方デハ、政府ノ方デハサウヂヤナイト言フノデアリマスカラ、日本獨自ノ立場デ決メタト云フ御話デアリマスカラ、私ハサウダト取ツテ其ノ立場ニ於テ見ルヨリ仕樣ガナイト云フコトニ考ヘテ居リマス、ソコデ其ノ立場ニ於キマシテ私ハ之ヲ見テ參リマスト、九十七條カラ申シマスガ、九十七條ノ如キハ實ハ他ノ國ニ模倣シタト云フヤウナコトヲ離レテ、我ガ國獨自ノモノトシテマア法的ニハナクテモ宜カラウ、斯ウ云フ風ニ考ヘルノデアリマスガ、併シアツタカラ是ガ非常ニ侮辱トハ考ヘマセヌケレドモ、マアナクテモ宜カラウト思ヒマス、同時ニ又是ガナイ方ガ宜イ、ナクテモ宜イト云フ理由ガ、此ノ第三章ノ國民ノ權利義務ト云フモノト内容ガ同ジダカラト云フヤウナ意見モアリマシテ、サウシテ政府ノ方デモ少シソレトハ違フケレドモ、稍々同ジ、ソコノ所ガハツキリセヌヤウナ御答デアリマシタガ、私ハ是ハ其ノ規定ガナクテモ宜イト思ヒマスケレドモ、併シ第三章ノ規定ハ決シテ重複シテ居ナイノデ、第三章ノ國民ノ權利義務ノ規定ハ國民ノ權利義務ト云フモノヲ主題トシテソレヲ保障スルト云フ其ノコトヲ決メタト云フコトデアル、此ノ規定ハサウ云フ風ニ決メタ所以ノモノ、謂ハバ立法的ノ理由及ビサウ云フ第三章ノ規定ヲ重ンジナケレバナラヌト云フ所以ノモノヲ此處ニ表ハシタノデアリマスカラ、兎ニ角ナクテモ宜イニシマシテモ、只今トシテハ其ノ意味ハ私ハ全然違フケレドモ、決シテ重複ノ規定デハナイト斯ウ思ツテ居ル、其ノ意味ニ於キマシテ、私ハ決シテ重複ノ規定デアルカラノ故ニ、ナクテモ宜イ、ナイ方ガ宜イト云フ風ニハ取リマセヌノデ、唯斯ウ云フ規定ハ別ニ法規トシテ憲法ノ中ニ掲ゲナクテモ宜イノヂヤナイカト、斯ウ云フ意味デ、ナクテモ宜イ、斯ウ云フ風ニ取リマスノデスガ、大臣ハ如何デゴザイマスカ、サウ云フ風ナ立場カラ此ノ規定ヲ見ルコトハ間違ツテ居リマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 御説ノ通リ法律的ニ的確ニ言ヘバ矛盾重複ハシテ居ナイ譯デアリマス、何トナク常識上重複スルノデハナイカト云フ御尋ガアリマシタカラ、左樣ナ氣持モソレハスルカモ知レヌト斯ウ云フ風ニ申上ゲテ置キマス
○佐々木惣一君 ソレデハ九十八條ニ移リマス、九十九條ヲ其ノ先ニ申シマスガ、是モ私ハ御説ノ通リニ皆サンノナクテモ宜イト云フヨリモ、之ニナリマスルト、寧ロナイ方ガ是ハ宜イヤウニモ私ハ思フノデス、是ハ國民ト云フ文字ヲ入レタリスルノハ宜イデスケレドモ、入レル入レナイニ拘ラズ、斯ウ云フモノハ矢張リナイ方ガ宜イト私ハ思ヒマスケレドモ、ソレハドウデモ宜シウゴザイマス、九十八條ニ至リマスト云フト、是ハ少シ趣ガ異ツテ居ルノデアツテ、是ハ先刻金森大臣ガ仰シヤラレタヤウニ全ク法的ノ意味ガアル、九十七條、九十九條トハ其ノ存在ノ意味ガ私ハ違フト思フノデアリマス、ソレ故ニ此ノ九十八條ハ先刻申シマシタヤウナ意味ニ於テ、ナクテモ宜イトカ、或ハナイ方ガ宜イト云フ風ニハ私ハ此ノ規定ハ取レヌト思ヒマス、唯此ノ規定ハ取レヌト思ヒマス、唯此ノ規定ノ意味ガ少シハツキリトシテ居ナイモノデスカラ、ソコデ其ノ規定ノ意味ニ付テチヨツト御尋ネ申上ゲタイト思ヒマスガ、第一項ノ詰リ是ハ衆議院ニ依ル案ノ方ガ私ハ無論宜イト思ヒマスガ、國ノ最高法規デアツテ其ノ條規ニ違反スルトアリマスカラ、是ハ前文トハ違フノデアツテ、前文ハアノ時ニ議論ニナリマシテ明カニナリマシタヤウニ、憲法ニ違反スルト云フコトヂヤナイ、アノ原理ニ違反スル、「これに」ト云フノハ、原理ニト云フコトデアツテ、此ノ憲法ト云フ意味デナイト云フコトハ、其ノ當時解釋ガサウ云フ風ニ明カニナツタト思ヒマス、デアリマスカラ決シテ是ハ前文ト重複デモ何デモナイ、唯前文ノ適用ガ法規トシテ斯ウナツタト言ヘバ言ヘルカト思ヒマスガ、決シテ前文トハ重複デモナイ、是自身ニ法的ノ意味ヲ持ツテ居ルト考ヘマスガ、其ノ點ハ只今大臣ノ御説明ニナツタヤウナ法的意味ヲ持ツテ居ルモノトシテノ解釋ニ私ハ同感ナンデスガ、唯此ト憲法ノ條規ニ反スルト云フコトノ意味ニ付テ、一ツハツキリトシテ置キタイコトガアルノデアリマス、是ハ例カラ申シテ原理的ノ方ニ入ツタ方ガ宜シイカト思ヒマスガ、一體此ノ憲法ニ違反スルト云フノハ、例ヘバ官制ハ、先日來ノ御話デハ此ノ憲法デハ法律ニ依ラナケレバナラヌト云フコトニナツテ居ルノデアリマスガ、或ハ又ソレハ何モサウ云フコトガ直接ニ憲法ノ規定デハナイノダケレドモ、憲法全般ノ規定カラ官制ハ法律ニ依ラナケレバナラヌ云フト御説明、ソレハソレデ宜シイ、唯直接ニハ例ヘバ貴衆兩院ノ議長、其ノ他ノ役員ハ貴衆兩院デ選擧ヲスルト云フコトニナツテ居リマスルガ、ソコデ現在ノ官制ノ多クハ法律ニ依ツテ居ナイ、天皇大權ニ依ツテ居リマス、ソレカラ貴衆兩院ノ議長其ノ他ノ役員ト云フ方々ハ決シテ天皇ノ任命ニ依ツテナツテ居リマセヌガ、是等ノ効力ハドウナルノデスカ、是デサウ云フ風ニ具體的ニ御尋シタ方ガ宜シイト思ヒマスガ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ九十八條ノ規定ハ、實質的ニ此ノ憲法ノ規定スル所ト違反スレバ效力ガナクナルト云フノデアリマスルカラ、其ノ時々ニ正當デアツタ形式ニ依ツテ出來マシタモノハ、形式ガ變リマシテモ直チニ此ノ憲法ノ影響ハ受ケナイト斯樣ニ解シテ居リマス
○佐々木惣一君 大變ハツキリト致シマシタ、ソレハ矢張リハツキリト明カニシテ置カナケレバナラヌ解釋、説明ダラウト思ヒマス、先刻御引用ニナリマシタ現行憲法ノ七十六條ノ七十六條ノ解釋ニ付キマシテ、是ハ此ノ憲法ニ矛盾セザルト云フ文字ガ使ツテアル、ソコデ此ノ「矛盾セザル」ト云フ文字ニ付テ、從來解釋上ノ議論ガアルノデアツテ、内容ト内容トガ相牴觸シテ居ルト云フ場合デアルカ、後ノ法令ノ‥‥サウデハナシニソレヲ法令ヲ出ス所ノ手續ト云フモノガ此ノ憲法デ認メテ居ナイト云フコトデアルカト云フコトニ付テ學者ノ間ニ議論ガアリマシテ、ソコデ私モサウデアリマスルガ、今金森國務大臣ノ御説明ノヤウナ解釋ガ行ハレテ居ルト云フ譯デアツテ、此ノ間御引用ニナリマシタ徴兵令ノ如キガ好イ例デアリマシテ、徴兵令ハ今日ハ憲法實施以後ハ法律ニ依ラナケレバナラヌノダケレドモ、併シ法律ニ依ラズシテ命令デ出來テ居ル、仍テ之ヲ改メル時ニハ今日ヂヤ法律ニ依ラナケレバナラヌ、兵役法ト云フ法律ガ出來テ居ルガ、其ノ故ニ徴兵令ト云フモノハ矛盾シナイト云フヤウニ解釋シテ居ツタモノデアリマスカラ、サウ云フ解釋ハ私ハ寧ロ大臣ノ御説明ニ參加シテソレヲハツキリトスル爲ニ御説明ヲ戴キタイ、サウ云フコトハ此ノ憲法ヲ公布ナサル時ニ特ニ其ノ解釋ヲ國民ニ、或ハ又國家機關ニ知ラシテ戴キタイト、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス、金森大臣ノ御解釋ニ全然同感デアリマスガ、ソレデ其ノ點ハハツキリ分リマシタ、ソレカラ今度御尋スルノデアリマスガ、ソレハソレデ宜インデスケレドモ、既ニ此ノ新憲法ガ實施セラレル前ニ、或ハ行レマシタ行爲ニ依リマシテ‥‥法令デハアリマセヌ、今ノハ法令規則デスガ、サウデハナシニ、例ヘバ行政的ノ行爲ニ似タモノデアリマシテ、既ニ效力ヲ發生シテ居ルモノデスナ、ソレハ此ノ間丁度好イ例ニナルト思ヒマスガ、宗教團體ニ或保護ヲシテ居ツタケレドモ、ドウ云フヤウナ時ニ‥‥、此ノ間ノ御説明デハ、ソレガ別ニ宗教團體デアルカラ宗教ヲ保護スルト云フ所以デアルカデナシニ、ソレダカラシテ或補助ヲシタモノヲ與ヘタト云フコトデナシニ、前ニ不當ニ取上ゲラレタト云フヤウナ、一般所有權者トシテノ立場トシテ、山林ヲ還付シタトカ云フヤウナ、ソレハ其ノ儘殘ルガ、併シナガラ宗教團體デアルガ故ニ補助シタトカ與ヘタトカ云フモノハ、其ノ儘殘ルト云フ風ニハナラヌ、ト云フ風ナ御説明デアツタト伺ヒマシタデスガ、サウデアリマスト大變精密ナ規定ノヤウダケレドモ、私ハサウヂヤナイト思フンデス、サウ云フ問題ハ成程還附シタノハ、ソレハ宗教團體デアルカラト云フノデハナイニシテモ、ソレヲ還附スルト云フ法律上ノ理由ト、併シナガラ還附スルト云フ、宗教ヲ保護スル建前ダカラ、元ニ取上ゲタモノヲ還シテヤルト云フ、唯宗教團體ト云フ意味ヂヤナシニ、其ノ團體トシテヤツタコトハ‥‥ドウモ所謂法理論デアツテ、サウ云フ法理論ガ、社會ガ法律家ヲ擯斥スル理由ノ一ツデアラウト思フ、ソレハ矢張リ宗教團體ダカラ還附シテヤルノダト、斯ウ云フ風ニ考ヘナケレバナラヌト思ヒマスガ、ソレハ今宗教ノ例デスケレドモ、澤山サウ云フモノガアルト思フンデスガ、從來ノ新憲法前ニ行ハレタ所ノ行政處分ニ依リマシテ、サウシテソレガ既ニ效力ヲ發生シテ居ル、併シソレハ新憲法ニ依レバ、サウ云フ内容ニ從ツテノ效力ヲ發生スベカラザルモノデアルケレドモ、既ニ効力ヲ發生シテ居ルト云フヤウナモノガ隨分アルカトモ思ヒマスルガ、サウ云フ既往ニ發生シテ居ル效力ニハ是ハ影響ナイト解釋シテ宜シウゴザイマスカ、ドウデゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 具體的ノ場合ノ考ヘ方ハ、チヨツト御質疑者ノ御心持ガ知リニクイカラ御答ガ間違ツテ居ルカモ知レマセヌガ、私ノ申上ゲテ置キマシタノハ、既ニ宗教團體ニ土地ヲ無償貸付ヲシテ居ルヤウナ場合ヲ豫想致シマシテ、過去ノ分ハ適法デアル、併シナガラ今後無償デ宗教團體ニ土地ヲ使用セシムルト云フコトガアリトスレバ、此ノ憲法ニ違反ヲスルト云フコ卜ニナルノデハナイカ、其ノ部分ハ適當ナル補正ヲシナケレバナラヌ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 サウスルト、詰リ既往ノ效力ニハ影響ハナイ譯デスネ、今後トアリマスガ、今後宗教團體ニ物ヲ下ゲルトカ、保護スルコトハ出來ナイ、斯ウ云フ譯デゴザイマスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 少シ實質的ナモノガ殘ツテ居ルヤウニ思ヒマスルガ、物ヲ貸付ケテ居ルト云フ場合デアリマスルト、個々ノ契約ニ依ツテ色々アリマセウケレドモ、一ツノ貸付行爲ガアリ、其ノ貸付行爲ニ基イテ土地ガ無償デ人ニ利用サレテ居ルト致シマスト、ソレハ既ニ過去ノ效力デ出來テ居ルト言ヘバ別デアリマスケレドモ、兩方トモ話合デ其ノ貸付ケノ目的物ヲ整理スルト言ヒマスカ、處分スルコトガ出來ル譯デアリマス、ソレカ憲法違反ノ條件ニナツテ、今後モ其ノ状態ガ繼續シテ居ル、無償デ宗教團體ニ土地ノ使用ヲセシメテ居ルト云フコトハ、此ノ憲法カラ見テオカシイコトニナル、ソレハ取上ゲナケレハナラヌ、過去ニ於ケル民法上ノ處分ト云フコトハ當然アルノデアリマス、其ノ意味ニ於テ取上ゲナケレバナラヌト思ヒマス
○佐々木惣一君 分リマシタノデアリマスガ、效力ト云フモノハ事實上ノ現象ヲ言フノデハナイノデ、此ノ法律デハ、或法的ノ行爲ノ效力ヲ發生スル状態ヲ言フノデアリマスカラ、新憲法前ニ或宗教團體ニ契約スルトカ、或ハ許可ヲスルトカ云フ、サウ云フ法的行爲ヲ爲シマシテ、サウシテ其ノ法的行爲ノ結果ハ、ズツトマア一定ノ期間、其ノ土地ヲ使フコトガ出來ルト相成ツタト假定致シマスレバ、其ノ一定ノ期間其ノ土地ヲ無償デ使フコトガ出來ルト云フコトガ、其ノ行爲ノ效力デアル、ソレデアリマスルカラ此ノ新憲法ガ出來タ後ニモ、事實使ツテ居ルト云フ行爲ノ效力ト云フモノハ、一定ノ十年ナラ十年引續イテ使フコトガ、其ノ行爲ノ效力デアルカラ、其ノ行爲ニ影響スルノカドウカト云フコトヲ御尋シテ居ルノデアリマス、ソレデ此ノ憲法ガ發生シタ時ハ、從來ハ使ヘタケレドモ、今後五年殘ツテ居ルト致シマスレバ、今後五年ハ是デ使ヘナクナル、サウ云フ意味ノ效力ヲ失フト云フコトデアルカドウカト云フコトデアリマス、全ク法律上ノコトデアリマスガ、御尋シテ居ル譯デアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ具體的ノ問題デアリマシテ、私カラハチヨツト御答シニクイト思ヒマス、私自身トシテハ此ノ憲法ノ精神トシテ、苟クモ國家ガサウ云フ場合ニ、繼續的ニ使用ヲ許スト云フコトハ、精神ニ反對スル譯デアリマスカラシテ、何等カノ方法ヲ以テ此ノ憲法ノ要求スルヤウニ持ツテ行カナケレバナラヌモノデアル、斯ウ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 要スルニサウスルトサウ云フ場合ニハ、何等カノ行爲ヲ爲サナケレバソレト同時ニ當然效力ヲ失フモノト、斯ウ云フ解釋デスネ、法的解釋トシテハ、效力ヲ失ハヌトシテモ憲法ノ精神ト云フモノカラ、便宜上ノ行政上ノ處置ノ問題ハ別トシテ、私ハ此ノ憲法ノ法的解釋ヲ御尋シテ居ル、餘リ諄イ、餘リツツ突クヤウデスケレドモ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） ソレハ非常ニ大切ナ問題デアリマシテ、私ハ其ノ事柄ヲ所管シテ居リマセヌ爲ニ、私ノ此處デ申上ゲルコトガドンナ影響ヲ及スカ、チヨツト見當ガ付キマセヌ、暫ク御許シヲ願ヒマス
○佐々木惣一君 イヤ能ク分リマシタ、金森大臣ノ御立場カラソレダケノ御答辯デ、甚ダ結構デス、ソレ以上追及スル積リハアリマセヌ、ソレカラ第二項ニ付テチヨツト御尋ネ致シタイノデスガ、先刻來御尋ガアリマシタケレドモ、條約ト國際法規ト云フコトデアリマス、便宜上國際法規カラ御尋ネ致シマスガ、「これを誠實ニ遵守することを必要とする」トアル、先刻來ノ御話デハ國際法規ハ曾テ［ドイツ」ノ憲法ニアツタヤウニ、國内法トシテ「ギルティヒ」トカ、働ク、妥當スルト云フ意味ニ解スルノデアリマセウカ、唯誠實ニ國際法ヲ守ラナケレバナラヌト云フ意味デアリマセウカ、ソコノ所ヲ一ツ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ規定ノ方面ノ内容トシテハ、誠實ニ尊重スルト云フダケデアリマスカラ、當然ニソレガ國内法ト云フ所ニ迄踏込ンデ居リマス
○佐々木惣一君 宜シウゴザイマス、ハツキリト致シマシタ、矢張リ條約ニ付テモ御尋ネ致シタイノデスガ、條約ハ勿論、或定メヲ成スモノデアル、國家間ノ‥‥ソレデ條約ノ定メモソレ自身ハ當然ニ誠實ニ守ラナケレバナリマセヌガ、條約ノ定ムル所ガソレ自身ニ當然ニ日本ノ國法トナツタト云フ譯デモナインデスネ、同ジコトデスカ、ドウデゴザイマスカ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 同ジコトニナルト思ヒマス
○佐々木惣一君 ソコデ今度ハ其ノ意味其ノモノガハツキリシタト致シマシテ、實ハ之ニ付テハツキリトシナカツタモノデスカラ、ソコデサウ云フ意味ノ「誠實に遵守する」ナンテ云フコトヲ、憲法ガ特ニ書ク必要ガアルカドウカト云フコトハ、又色々ナ議論ガアリマセウガ、私ハ書カナクテモ宜イ、書イテモ別ニ差支ナイ、ト云フ位ニ私ハ思フノデスケレドモ、ソレハアヽ書カナクテモ當然ノコトデアル、ソレハ別ト致シマイテ‥‥ソコデ詰リ先刻來御話ガアリマシタノデスガ、是ハ大河内子爵ノ御質問デ、私モ質問シヨウト思ツダコトヲハツキリ質問シテ戴イタヤウナ氣持ガスルノデスガ、尚私自身ガハツキリシテ置キタイ、ソコデ第一ニ是ハドウデゴザイマセウカ、國際間ノ條約デ我ガ國ノ憲法ノ條規ト異ナルヤウナ定メヲ約束スル、約束シテモソレハ構ハヌガ、約束シタナラバ我ガ國ニ於キマシテハ、我ガ國ノ憲法ヲ變更スルヤウナ何カ計ヒヲスルト云フ義務ヲ外國ニ對シテ負フノデアリマセウケレドモ、併シソレガ爲ニ當然ニ我ガ國ノ憲法ノ條規ガ其ノ範圍ニ於テ變更サレタト解釋スルト云フ風ニモ聞エタノデスガ、サウデアリマセヌカ、大臣ノ先刻ノ御説明ハ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 私ハ變更サレタト云フ言葉ハ使ハナカツタト思ヒマス、影響ヲ受ケルト云フヤウナ言葉ヲ使ツタト思ツテ居リマスルガ、ソレガ變更ヲ受ケルト云フコトト同ジ意味ニナルカナラナイカト云フコトハ、ソレカラ先ニ發展スル問題デアリマス、ソコデ、ソコノ解釋ト云フモノハ學問的ニ決マルモノデアリマシテ、成ルベクナラバ個々ノ具體ノコトニ關聯シテ我々ガ意見ヲ決メル方ガ比較的安全デアラウト思ツテ居リマス、學問的ニ申シマスルト全然眼前ニナイコト迄抽象的ニ考ヲ進メテ行キマスルノデ、ドウカスルト行キ過ギマスノデ、私ハ言葉ヲ遠慮シテ決ツテ居ルノデアリマス
○佐々木惣一君 能ク了解致シマシタ、影響トカ云フコトハ少シソコニハツキリセヌモノガアリマスノデスガ、今憲法論ヲ言ツテ居ルノデスカラ、サウ云フ條約ノ締結スルコトガ憲法上許サレルヤ否ヤト云フ問題デスカラ、架室ノ問題デハナイノデ此ノ憲法ノ問題デスカラ、ソシテ非常ニ重大ナコトカト思ツテ居リマス、是ハ先刻牧野委員ガ別ノ方面カラソレハ重大ナコトダト仰ツシヤツタガ、私モ全ク同感デアリマシテ、兎ニ角憲法ノ改正ト云フコトガマア假ニ國家ノ政府者ノ‥‥日本ノ内閣ト外國ノ政府トノ間ニ何等カ話合ガアレバ、何カ憲法ノ變更ト云フモノガ當然ニ、影響ヲ受ケル、政治的ニ影響ヲ受ケルコトハ別デスガ法的ノ意味ニ於テ何等カノ影響ヲ受ケルト云フコトニ相成リマスト‥‥影響ト云フコトハ法的影響カ政治的影響カ此ノ問題デス、政治的影響ハソレハ色々受ケルデセウガ、法的影響ヲ受ケルト云フコトニ相成リマスト、是ハ非常ニ重大ナコトデアリマシテ、憲法ノ變更ノ手續ナント云フモノハ、日本デ憲法ノ上デヤカマシク言ツテモ何ニモナラヌコトデ、政府者同志ガマアグルニナルト云フトヲカシイガ、何カ話合ヲスレバ、ドンナニモ憲法ヲ變更出來ル、少クトモ法的影響ヲ受ケルト云フコトニナツタラ大變ダト思ヒマス、併シソコノ所ハ唯私ハサウ云フ問題ヲ申上ゲテ、法的ノ影響ヲ受ケル、サウ云フ御説明ニ尚マア御考ヘ置キノ餘地ガアレバ結構ダ、其ノ點ハソレデ宜シウゴザイマス、ソレカラ條約ト法律トノ關係デアリマスガ、是ハ先刻來大臣ノ御話ノヤウニ、詰リ憲法ニ於キマシテ法律デナケレバ決メラレヌコトモアルケレドモ、條約デ以テ其ノ内容ヲ同ジコトヲ憲法上ノ法律事項ヲ決メレバ、ソレデ直グ其ノ事柄ガ決ツテシマフノダト云フコトニナルノデゴザイマセウカ、チヨツトソレダケノコトヲ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） ソレハ先ニモ申シマシタヤウニ、憲法制定以來色々ナ疑惑ヲ、兎モスレバ議論ヲ生ジタ問題デアリマシテ、條約改正論ノ起ルアノ頃カラ根ガ殘ツテ、學者ノ間ニモ種々ナル見解ガ起リ、正直ニ言ヘバ政府ノ執ツテ居ツタ態度ニモ紆餘曲折ノモノガアツテ、一貫シタル原理ハ先ヅナカツタト考ヘテ客觀的ニ批評シナケレバナラヌト思ツテ居リマス、併シ其ノ後今ハツキリ記憶ハゴザイマセヌガ、大正三年頃カラト思ツテ居リマスガ、先ニチヨツト例ヲ上ゲマシタ海難ノ救援救助ニ關スル條約、今一ツ同時ニ結バレタ二ツノ條約ガアリマシテ、其ノ條約ガ國内法ヲ、ソレヲ公布スルコトニ依ツテ當然變更スルト云フ解釋ヲ採ラナケレバ動キノ付カナイヤウナ形ヲ以テ、行政的ニハ扱ハレテ來テ居ル、司法的ニモ扱ハレテ來テ居ルヤウニ思ヒマス、左樣ニシテ伸ビテ來マシタ考ヘガ漸次度ガ進ンデ來マシテ、サウシテ第一次戰爭ノ結末ニ關スル「ヴェルサイユ」條約ヲ實施致シマスルニ際シテ、「ヴェルサイユ」條約ト云フモノハ中ニ國民ヲ拘束スル司法的規定ガ相當ニ澤山入ツテ居タノデアリマス、併シナガラ其ノ「ヴェルサイユ」條約ニ應ジテ國内立法ヲスルコトハシナカツタノデアリマス、「ヴェルサイユ」條約ノ中デ幾ラカ司法的ノコトデモ、餘裕ノアル、國内デ多少或範圍内ニ於テ具體的ニ決メ得ルヤウナ點ダケヲ拾ツテ、ソレヲ法律トシテ制定セラレタノデアリマス、ソレ等ノ經緯ニ於キマシテハ、帝國議會ガ其ノ程度ニ於テ他ノコトヲ含ミツヽ協賛ヲサレタモノト思ツテ居リマス、大體其ノ邊ニ於テ國内ノ實際面ニ於ケル解釋ト云フモノハ略々一定シテ、學者ノ範圍ニ於キマシテハ依然トシテソレハ論議ノ的ニナツテ居ツタト、サウ云フ風ニ記憶シテ居リマス、然ルニ第一次戰爭ノ「ヴェルサイユ」條約デ其ノ方針ガ決リマスト、アノ法規、色々ナ國際條約、例ヘバ先ニ述ベタヤウナ國際勞働會議デ決メマシタ一ツノ決議ヲ國内法ニ盛込ムト云フ場面ニ於キマシテモ、同ジヤウナ考ノ趣旨ニ依ツテ漸次發展シテ來タ、現在ニ於キマシテハ理論ハ別ト致シマシテ、實際例ノ上カラ言フト、條約ニシテ國内法的内容ヲ有スルモノハ、是ガ締結セラレ、サウシテ一般ノ方法ニ依ツテ公布セラレマスレバ、國内法的ナ效力ヲモ持ツノダ、斯ウ云フ解釋ニナツテ居ルヤウニ記憶致シテ居リマス、此ノ憲法モ其ノ解釋ノ流レヲ負フモノト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 能ク分リマシタガ、サウナリマスト憲法上ハ、先ヅ國會ノ所謂議決ヲ經テ、法律ト云フサウ云フ國家行爲デ以テ行ハナケレバナラヌコトデモ、外國ト條約ヲ締結スルト云フコトニ依ツテ、國會ノ議決ヲ經ズシテモ行ヒ得ルト云フコトニナリマシテ、マア極端ニ言ツテシマヘバ、第三章ノ國民ノ權利義務ト云フモノガ如何ニ法律ヲ以テスベシト云フコトガ保障サレテ居リマシテモ、如何ニヤカマシイ保障ガアリマシテモ、外國トノ條約ト云フコトデスレバ、法律家ガ巧ミニ色々ナ説明ヲ考ヘテヤレバ、結局國民ノ權利義務ト云フモノハ何ニモナラヌコトニナルト云フ餘地モアルト私ハ考ヘルノデアリマスガ、併シソコハ矢張リ實際家ノ態度ニ依ルノデスケレドモ、私ハ其ノ點ニ於キマシテハ、飽迄新憲法ノ下ニ於キマシテモ、法律デ決メナケレバナラヌコトヲ事前ニ國會ノ詰リ議決ト云フコトナシニ條約デ以テ決メルト云フコトハ、此ノ新憲法ニ於テモ認メラレヌト云フ解釋ヲ採ツテ行カウカト思ヒマス、此ノ點ハ政府ノ方ト解釋ガ違フ所デアリマス、是ハ大臣ハ御承知デスガ、御説明ガナカツタモノデスカラ申上ゲテ置キマスガ、現憲法ト異リマシテ新憲法ニ於キマシテハ、條約ハ國會ノ承認ヲ經ナケレバナラヌ、デ、詰リ主トシテ本來ナラバ事前ニ、或ハ事後デモ宜シウゴザイマスガ、承認ヲ經ナケレバナラヌト云フコトガアルカラシテ、ソレマデマア實質上ハ國會ノ意思ガ加ハルト云フコトニ相成ルカモ知レマセヌデスケレドモ、併シシカモ大臣御自身ノ御説明ノ中ニアリマシタヤウニ、承認ヲ得ナイト云フコトガアリ得ルノデスカラ、承認ヲ得ナイト云フ、承認セヌト云フコトガ國會カラアツタナラバ、詰リ政治的ノ立場、其ノヤウナ場合ニ於ケル政治的ノ工作ニナルダラウ、斯ンナ意味ノ御話ガアリマシタシ、ソレカラ又此ノ承認ト云フコトハ、其ノ現行憲法ダケヂヤアリマセヌ、此ノ新憲法ノ下ニ於キマシテモ、國會ノ議決トハ違フノデアリマシテ、所謂承認デアツテ、ドウモソコノ所ニ非常ナ差違ガアリマスルカラ、假ニ新憲法ノ下ニ於テハ國會ノ承認ト云フモノヲ必要トスルノダカラ宜イト、假ニ私ガ政府者ニナリマシテ政府ニ有利ナ解釋ヲ主張スルト致シマシテモ、承認ト議決トハ非常ニ違フカラ、ドウモ私共ノ心配スル所ハマダ殘ツテ居ルト、斯ウ云フ風ニ思ヒマス、是ハ併シナガラモウ是以上應答致シマシテモ、解釋上ノ意見ヲ較ベルト云フコトニナリマスルカラ、私ハ矢張リ大臣ノ御説明トハ違フケレドモ、遺憾ナガラ、此ノ解釋ヲ持ツト云フコトヲ申上ゲテ私ノ此ノ點ニ關スル質問ヲ終リマス
○委員長（安倍能成君） 松村委員
○松村眞一郎君 私ノ質問ハ第九十七條ノ信託ニ付テ、此ノ信託ト云フノハドウ云フ意味デスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此處ノ信託ト云フノハマア預ケテ置ク、預ケテ置クト云フト少シ語弊ガアリマスルケレドモ、勝手ニ處分ノ出來ナイモノダト云フコトヲ反面ニ現ハス爲ニ、信託ト云フ言葉ヲマア此處ニ使ツタ譯テマリマス
○松村眞一郎君 是ハサウスルト法律語ヂヤナイヤウデスネ
○國務大臣（金森徳次郎君） 法律語デハゴザイマセヌ
○松村眞一郎君 法律語デナイモノヲ此處デ書クト云フコトニナルト、此ノ點ハソレ自身法律デナイト云フコトニ解釋致シマスガ、宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 法律語ト申シマシタノハ、法律ノ一般ノ扱ニ於テ一ツノハツキリシタ法律的内容ヲ與ヘラレテ居ルモノト、斯ウ云フコトニ於テ申シマシタ、併シ一ツノ法文ヲ書キマスル時ニハ、新シキ言葉ヲ用ヒテ書クコトハ又許サレナケレバナラヌノデアリマシテ、左樣デナケレバ新シイ立法ハ出來ナイ、斯ウ云フコトニナラウト思ヒマス、茲ニ信託ト云フ言葉ハ、一般ニ法律ノ方面ニ於テ發達シテ居リマスル其ノ意味デ使ツタノデハアリマセヌケレドモ、書キマスレバ是ハ憲法ノ一ツノ條文トシテ成立シテ居ル譯デアリマス、其ノ内容ニ織込マレタル意義ハ世間一般ノ意味ニ於テ解スル、斯ウ云フコトニナラウト考ヘテ居リマス
○松村眞一郎君 ドウモ是ハ法律的ニハオトリニナツテ居ナイヤウデス、ソレデアリマスカラ、後デ私ノ述ベル所ニ是ハ關係ガアルノデアリマスガ、今日其ノ信託ト云フ字ヲ法律的ニ解釋スルノハ根據法ガアルノデス、日本ノ法律ニハ‥‥、ソレハ信託法ト云フモノデ、信託法ニハ信託ト云フコトガ書イテアリマスカラ、ソコデ信託ト云フ思想デ、矢張リ解釋出來ルモノハ解釋シナケレバ私ハイカヌト思ヒマス、ソレハ信託法ノ第一條ナリ、第四條、第十六條ノ二項、又第七條ナリヲ御讀ミニナレバ、凡ソ信託ト云フモノハ斯ウ云フ心持ノ法律觀念デアリ、ソレハ結局今金森サンノ仰セラレタ常識ノ規定ナンデスヨ、ソレデスカラ矢張リ法律ガドンナニ法律的ニ結晶シ來ルカ、信託ト云フモノヲ考ヘルカト云フコトニナル譯デアリマスカラ、ソレニ依ツテ矢張リ考ヘル必要ガアルト思ヒマス、ソレハ結局委託者ト云フ觀念ト受託者ト云フ觀念ト、受益者ト云フ觀念ニナル、實ハ私考ヘマスノニ、此ノ規定ヲ見マスト、結局委託者ト云フ思想ハ、今日迄幾多ノ人類ガ血ヲ流シテト言ツテ宜シウゴザイマセウ、色々ナ努力ヲシテ出來タ權利デアルゾト云フ意味ニ於テ、人類カラ委託サレテ居ルモノデアルト云フ考ヘ方ヲ、此處デ持タナケレバイカヌト思ヒマス、其ノ意味ニ於テ委託者ハ自分デナイ、自分ハ受託者ノ地位ニアル、サウ云フ心持デ其ノ權利ヲ扱ハナケレバナラヌ、斯ウ云フ思想ニナルト思ヒマス、サウシテ其ノ受益者ハ全部後世ノ日本國民一般ニモ及ブ譯デアリマスカラ、其ノ信託ノ受託者ノ心持デ、此ノ信託法ノ受託者ト云フモノハ實ハ人ノ爲ニ努力スルモノ、受益者ト云フモノガアリマシテ、全體ニ廣イ將來ノ人類ノ爲ニ自分ノ權利ハ受渡スベキモノデアルト云フ心持デ此ノ權利ヲ取扱ハナケレバイカヌ、サウ云フ非常ニ廣イ意味デ、矢張リ此ノ信託法ニアル精神ノ據ツテ來ル所ニ心ヲ置イタ規定ダト思フノデス、デ受益者ト云フモノハ、十分又受益者ニナルコトガ出來マスル、デ自分モ受益者ノ一人デアル、其ノ受益者ハ將來ノ受益者ヲ包含シテ居ルト云フ意味デアル、信託ノ觀念ハ是ハ「イギリス」ノ「トラスト」カラ來テ居リマス、英文モ「トラスト」ト書イテアリマス「トラスト」ト云フモノノ思想ト云フモノハサウ云フモノデアルヤウニ思ヒマス、サウ云フ心持デ宜イト思ヒマスガ、如何デスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 實ハ此ノ前文ニモ信託ト云フ言葉ガアリマシテ、其ノ信託ハ御説ノ通リノ先ヅ法律家ノ用ヒル言葉ニ略々類似シタ意味ニ於テ用ヒラレテ居ルト思ヒマス、此ノ九十七條ノ方デハ、受益者ト云フモノヲ實ハ適切ナ發見ガ出來ナカツタモノデスカラ、私ガ今迄申上ゲタヤウニ、世間的ナ意味ニ使フト申シマシタガ、今御示シヲ願ヒマスト、受益者ト云フモノヲ私共氣ガ付カナカツタケレドモ十分説明出來ルヤウニ思ヒマス、サウスレバ餘程出來上ツテ居ル信託ト云フ言葉ノ意味ニ近イモノニナリマシテ、非常ニ良キ確信ヲ得ルヤウニナツタ譯デ、御禮ヲ申上ゲマス
○松村眞一郎君 私ハ實際サウ云フ風ニ御讀ミ戴キタイト思フ、英文ハ大變ウマク飜譯シテアル、ソレハ斯ウ云フ風ニ書イテアル、非常ニヨク書イテアルト思ヒマス、ソレハ「ゼ・フアンダメンタル・ヒューマン・ライツ・リザルト・フロム・ゼ・エーヂオールド・ストラグル・オブ・マン・トウー・ビー・フリー」「ゼイ・アール・コンフアード・アポン・ジス・エンド・フューチュア・ゼネレーションズ・イン・セークレッド・トラスト」トアリマス、此ノ「マン」ト云フノハ日本人ノミヂヤナイ、人類全體ト云フ非常ニ廣イ意味ガ入ツテ居リマス、「ゼ・フアンダメンタル・ヒューマン・ライツ」ト云フノハ、日本人ノミナラズ廣ク人類ノ有スル基本的人權ノコトニナルト思ヒマス、此ノ權利ハ世紀ヲ重ネタル奮闘努力ノ結果デアルト云フノデ、日本人ハソレ程努力シテ居ルカドウカ、私ハ餘リ日本人ハ此ノ點ニ付テハ努力ガ足リナイトシテモ、相當ノ努力ハシテ居リマセウカラ、全人類ノ努力ト讀ンダ方ガ宜イト思ヒマス、此ノ「フアンダメンタル・ヒューマン・ライツ」ノ「ライツ」ヲ承ケテ「ゼイ」ト申シ、「ゼイ・アール・コンフアード・アポン・ジス・エンド・フューチュア・ゼネレーションズ・イン・セークレッド・トラスト・トウー・ビー・ヘルド・フオア・オール・タイム・インヴアイオレート」ト斯ウ書イテアリマス、此ノ「ゼネレーションズ」、是ハ本文ノ方ハ國民ト書イテアル、「現在及び將來の國民に對し」信託サレタモノデアル、國民ハ、是ハ日本人ノコトヲ言ウテ居ル、處ガ英文ノ方ハ其ノ意味ヲ更ニ展開シマシテ、現在及將來ノ「ゼネレーション」ト云フ所ガ上ノ「ストラグル・オブ・マン」ト云フ所ノ「マン」ニ對應シテ居ル、英文ノ方ガ要ヲ得テ居ル、日本ノ文ガ「國民」トアリマスケレドモ、矢張リ英文ノ如ク廣イ包容ノ意味デ考ヘタ方ガ宜イト思ヒマス、兎ニ角此ノ第九十七條ハ包容ノ豐カナル第三章ノ人權ノ由來スル所ヲ非常ニ簡潔明瞭ニ書イテ居リマス、日本ノ國民ガ第三章ノ規定ヲ讀ム時ニハ此ノ九十七條ノ規定ヲ讀ンデ、基本的人權トハ容易ナラザル權利デアル、之ヲ行使スル時ニハ自己ノ一個ノ考デ行使シテハナラナイト云フヤウナ、色々ナコトモ此ノ中カラ出テ來ルト思ヒマスカラ、此ノ九十七條ノ規定ハ非常ニ意義ノ重大ナルモノデアルト云フコトニ於キマシテ、茲ニ書イテアルコトニ付テ非常ニ共鳴スルノデアリマスガ、金森國務大臣ハドウ云フ風ニ御考ニナリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 大體ニ於キマシテ、其ノヤウナ考ヲ以テ規定シタノデゴザイマスガ、今ノ言葉ノ使ヒ方ニ付キマシテ、更ニ蒙ヲ啓キマシタ、大變ハツキリシテ來タト考ヘテ居リマス
○松村眞一郎君 ソコデ私ハ次ニ參リマシテ、九十八條ト前文トノ關係ニ付テ質問致シマスガ、九十八條ノ「法律、命令、詔勅及び國務に關するその他の行爲の全部又は一部は、その效力を有しない」、是ハ或意味ニ於テ法規的ニ非常ニハツキリシタ規定デハナイカト思ヒマス、併シ是ハ前ニ申シマシタ如ク前文ノ規定ト幾ラカ重複スル所モアルノヂヤナイカト思フノデアリマシテ、是ハ巳ムヲ得ナイト思ヒマスガ、「條規に反する法律、命令、詔勅及び國務に關するその他の行爲の全部又は一部は、その效力を有しない。」トアリマスカラ、是ハ別ニ將來ノコトバカリデナク、過去モ、現在モ總テヲ包容シタ言葉ヂヤナイカト思ヒマスガ如何デスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 勿論過去モ現在モ將來モ含ンデ居ルノデアリマス、前文ト重複スルト申シマシタノハ先程佐々木委員ヨリ御指摘ニナリマシタヤウニ、政府ノ原案デハ、此ノ前文ハ過去、現在ノモノヲ一應茲デ處置致シテ居リマス、ソコデ九十八條ハ現在、過去及ビ將來ヲ處置シテ居リマスカラ、ソコニ過去ト現在ニ付テ幾分重複ノ點ガアルト申シマシタ、處ガ衆議院ノ修正ハ、此ノ「憲法」ト云フ言葉ヲ「これ」ト云フ風ニ直サレマシタノデ、「これ」ト云フモノノ承ケテ居ルモノガ原理デアリマシテ、此ノ憲法自身デハナイノデアリマスカラ、此ノ修正ノ後ニ於キマシテハ、全ク無關係ナモノニナツテ來テ居ル譯デアリマス
○松村眞一郎君 其ノ御解釋ハ前文ト是トノ關係ハ非常ニ明瞭デアツテ、私其ノ御解釋ニ賛成致シマス、從ツテ私ハ前ニ申シマシタ如ク、此ノ前文ノ方ノ「この原理」ヲ「かかる原理」、「この憲法に反する」ト云フノヲ「これに反する」ト書イタ結果、是ハ原理ノ方ヲ承ケルコトニナツテ憲法ト變ツタ譯デスネ、ソレハ御認メニナルノデアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス
○松村眞一郎君 ソレデ私ハ明瞭ダト思ヒマス、前文ハ前カラ申シマシタヤウニ法律扱ヒシナイ方ガ宜イト云フ結論デス、前カラサウ考ヘテ居ル、寧ロ此ノ九十八條ノ只今ノ解釋コソ法律的ノ解釋デアリマスカラ、是ハ實ハ殘シテ置カナクチヤナラヌト思フ、此處ノ部分ダケ除イテ‥‥、或ハ第十章デモ宜シウゴザイマス、最高法規ト云フノハ、標題ヲ改メテ、此ノ九十八條ノ今ノ部分ダケハ法律トシテ殘シテ置キタイト云フ考デアリアリマス、其ノ他九十七條、九十八條、九十九條ニ付キマシテハ、是ハモウ今日ノ御質問ノ方モ皆一致シテ居ル、是ハ法的ニ感服シナイノデアリマス、是ハ皆サンノ意見ガ一致シテ居ル、私モ全然共鳴スルノデアリマス、私ハ澤田委員ノ仰ツシヤル所ニ共鳴シマス、併シ私ハ此ノ前文ニ付テハ、今申シマシタヤウナ工合ニ、法律的ニ取扱ハナイ、是ハモウ今ニナレバ金森サンモ御承認ニナルト思ヒマスガ、前文ヲ法律的ニ取扱フ必要ハナイ、憲法ノ由來ヲ示シテ居ルモノハ法律的ニ御取扱ニナツテモ宜シウゴザイマスガ、出來ルダケナゴヤカニ、成ルベクゴツゴツシナイヤウニ取扱ヲスルコトニ解釋シテ戴キタイ、サウシテ第十章ノ規定ノ只今申シマシタ法的規定以外ノモノハ、前文ニ對スル後文デアルト私ハ考ヘル、憲法ノ本文デ今迄ノ所ハ條文ニ付テ譯論シテ來マシタガ、此ノ邊ニナリマスルト、ソロソロ道徳的ノコトヲ書キ出シテ居ルノデアルカラ、第十章ガ前文ニ對スル後文即チ末文デアルト云フ意味ノ考ヘ方デ、憲法ノ由來又將來此ノ憲法ノ色々ノ規定ガ流轉シ、發展シ來ル方向ヲ示スモノデアル、斯ウ云フ風ニ私ハナゴヤカニ考ヘタ方ガ宜イカト思ヒマス、嚴格ナル法規トシテ取扱フヨリモ、道徳的トカ、文學的トカ、ナゴヤカニ見タ方ガ宜イ、斯ウ云フ私ハ見解デアリマス、正確ナル法律論トシテハ澤田サント意見ヲ同ジクシマス、是ハ正確ニ論ズルナラバ、之ヲ存置スルトスレバ、法規トシテ取扱ハズニ、先程申シマシタヤウナ工合ニ後文又ハ本文ト解シタイ、斯ウ考ヘルノデアリマス、憲法ニ付テハドウ云フ言葉ヲ使ツテ宜イカ、潤色ト申シマスカ、飾リノ規定デアル、此ノヤウニ私ハ考ヘタイノデス、尚十分ニ御考置キヲ願ヒマス
○大谷正男君 私ハ申上ゲタイト思フノハ、九十九條デアリマスガ、是ハモウ高木、澤田兩委員、今モ松付委員カラモ縷々御説ガ出マシテ御答辯モ十分伺ツタノデアリマスルカラ、重ネテ申上ゲルコトモゴザイマセヌガ、私ハ九十九條ハ削除スル方ガ宜イト思フノデアリマス、其ノ理由ハ更ニ申上ゲル必要モゴザイマセヌガ、先刻來御話ガ出マシタヤウニ是ハ不完全‥‥斯ウ云フ「天皇又は攝政」云々、是ダケヲ書イテ、一般國民ガ遵奉ノ義務ガアルニハ相違ナイト思フケレドモ、規定トシテハ誠ニ不完全デアルト云フコトヲ信ジテ居リマシタ、ソレハ國民ガ作ツタ憲法デアルカラ、ソレデ要ラナイノダト云フヤウナ御説モ伺ヒマシタケレドモ、規定トシテ出ル以上ハ、一般ニ遵奉ノ義務ガアルト云フコトヲ書クノハ當然デ、是ダケ書クト云フノハ誠ニ不完全デアリマス、是ハ先刻モ御話ノ出マシタヤウニ、「アメリカ」ノ憲法ニ元老院並ニ代議院議員、各州議會ノ議員及台衆國並ニ各州ノ總テノ行政官並ニ司法官云々ト云フヤウナ其ノ眞似デゴザイマセウガ、兎ニ角斯ウ云フ規定ハ不完全ト云フ意味カラ云ツテモ、削除スベキデアルト思ヒマス、第二ニハ、是ハ他國ノ憲政史ニ見ルガヤウニ、國王及ビ官僚ニ對スル國民ノ闘爭ノ結果、闘ヒ取ツタト云フヤウナ、サウ云フ風ナ憲法ニ於キマシテハ、斯ウ云フ規定ハ必要ガアリマセヌガ、日本ノ憲法ニ於テハ全ク相應シクナイ、此ノ度ノ憲法モ矢張リ欽定憲法デアルト云ツテ居リマスガ、此ノ欽定憲法ニ於キマシテ、斯樣ナ規定ガアルト云フコトハ、誠ニ相應シクナイト申スヨリ外ハナイト思ヒマス、ソレニ付キマシテ、先刻御話モゴザイマシタ、私先日前文ニ付キマシテ意見ヲ述ベテ置キマシタ、又前文ノ文句ニ付テ御參考ニ供シテ置キマシタ、其ノ節ニ申上ゲテ置キマシタガ、上諭文ガ孰レ出マス、其ノ節ニハ天皇ガ一般ノ臣民ト共ニ憲法ヲ守ラレルト、斯ウ云フコトヲ力強ク仰セニナルコトガ宜イコトデアル、ソレガ正シイコトダト存ジテ居リマス、ソレハ先刻モ金森國務大臣カラ申サレタヤウニ、現行憲法ノ上諭文ニ「朕カ在廷ノ大臣ハ朕カ爲ニ此ノ憲法ヲ施行スルノ責ニ任スヘク朕カ現在及將來ノ臣民ハ此ノ憲法ニ對シ永遠ニ從順ノ義務ヲ負フヘシ」、左樣ナコトガ現在デモアルノデアツテ、斯ウ云フ文句ハ上諭文ニ示サレルガオ宜シイト、斯ウ考ヘテ居リマスガ、先刻金森國務大臣ノ御話ニ、上諭文ニ書ク途モアルガ、ソレヨリモ成文ノ中ニ入レル方ガ宜イト思ツテ居ル、斯ウ云フ風ニ御話ニナリマシタ、是ハ私ノ考トハマルデ反對デアルノデアツテ、私ハ此ノ九十九條ハ不完全デアリ、又我ガ國ノ憲法ニ於テハ全ク相應ハシクナイ規定デアルカラ、是ハ削除スベシ、其ノ代リ上諭文ノ中ニ御入レニナル方ガ宜イト云フ考ヲ持ツテ居ルノデアリマス、何カソレニ付キマシテ御考ヘ直シニナル御考ハゴザイマスマイカ、モウ繰返シテ申上ゲル必要モゴザイマセヌガ、一應御答ヘ願ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ要スルニ意見ノ差デアラウト考ヘマス、私ハ此ノ憲法ガ從來ノ欽定憲法ノ線ニ沿ツテ發達シテ來タモノデアルコトハ認メマスルケレドモ‥‥認メマスルデハナイ、其ノ趣旨デ以テハツキリト御説明申上ゲテ來テ居リマスルケレドモ、併シ此ノ憲法ガ出來上リマスルコトヲ取圍ンデ居ル所ノ諸般ノ事情、我々國民ニ對シテ大キナ過去ノ經驗ガ教ヘテ居リマス事情ト云フモノハ、幾多ノ所ニ考ヘ方ヲ變ヘテ行クベキモノヲ要求シテ居ルト考ヘテ居ル譯デアリマス、デアリマスカラシテ、今申シマシタ規定ヲ前文ニ置クカ、後ニ置クカト云フコトハ、是ハ尤モ其ノ在リ場所ノ問題デアリマシテ、他ノ點カラ是非ヲ論ズベキモノデアリマス、斯樣ナ規定ガ憲法ノ中ニ、前文ナリ本文ニアルト云フコトハ寧ロ必要ナ規定デアツテ、決シテ無用ナ規定デハナイト考ヘテ居リマス（拍手）
○大谷正男君 私ハ先刻來申上ゲルヤウナ譯デゴザイマスカラ、意見ノ差デゴザイマセウ、質疑トシテハ是デ打切リマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ是デ休憩致シマス、午後ハ一時半カラ開キタイト思ヒマス
午前十一時五十一分休憩
━━━━━◇━━━━
午後一時四十一分開會
○委員長（安倍能成君） ソレデハ會議ヲ再開致シマス、第十章ノ高柳委員ノ御質疑ヲ願ヒマス
○高柳賢三君 第十章ノ最高法規ニ付テ、只今迄色々ナ方面カラ御質問ガアリマシタ、是ハ全部無用デアルト云フ御論モ出タヤウデアリマス、私ハ此ノ規定ハ非常ニ重要ナ章デアツテ、是非トモ是ハ殘シテ置カナケレバナラナイト云フ意見デアリマシテ、其ノ點デ佐々木委員其ノ他ノ方々ノ御意見トハ、全然反對ノ意見ヲ持ツテ居ルノデアリマス、最高法規ト云フ言葉ハ、是ハ高木委員モ指摘サレマシタヤウニ「アメリカ」ノ聯邦憲法ヲ初メテ作ツタ言葉ガ、「シユープリーム・ロー・オブ・ザ・ランド」ト云フ言葉ヲ想ヒ出サセル言葉デアリマスガ、併シ是ハ更ニ遡ツテ「マグナカルタ」ノ「ロー・オブ・ザ・ランド」ト云フ言葉カラ由來スルノデアリマシテ、「アメリカ」ヲ超エテ「イギリス」ノズツト古イ憲法史ノ初メニ出テ來ル「マグナカルタ」ソレノ文句デアリマシテ、是ハ法治主義ト言ヒマスカ、法ノ優位ト申シマスカノ原則ト云フモノヲ表徴シテ居ル所ノ最モ顯著ナ言葉ナノデアリマシテ、此ノ民主的ナ憲法ト云フモノニ於テハ、最後ニ之ヲ謳ツテ置カナケレバナラナイ筋合ノモノダラウト思フノデアリマス、是ハ民主的ナ一ツノ憲法、民主的ナ國家體制ニ於キマシテ、最モ重要ナモノハ、法ノ尊嚴ト云フコトニ對スルコトデアリマス、是ガナカツタラバ、民主的ナ政治ト云フモノハ滅茶々々ニナツテシマフノデアリマス、封建的ナ條理或ハ官僚的ナ睨ミト云フヤウナモノハ、民主國家ニ於テハ、秩序ト云フモノヲ維持スル力ヲ失ツテ、法ト云フモノガ一番ノ秩序維持ノ力トシテ殘ツテ居リマス、從ツテ此ノ多數決主義デ持ツテ行クト云フノハ、是ハ矢張リ力ノ政治デ、一人ノ人ガ力ヲ揮フ、或ハ大多數ノ人間ガ力ヲ揮フト同ジデアリマシテ、一人專制デモ、多數專制デモ同ジデ、ソレダケノ力ノ原理ダケガ民主政治ノ根本デアルト云フコトニナルナラバ、民主政治ナルモノハ、動イテ行カナイデ、其處ニ異ナツタ原理、即チ法ニ對スル尊重ト云フコトガ、最モ大切ナ要素ヲナシテ居ルモノト私ハ理解シテ居ルノデアリマス、而ツテ其ノ所謂法ノ優位ト云フモノノ一番ノ源泉ハ、「アングロサクソン」ノ國ニ於テハ「マグナカルタ」是ハ最早「アングロサクソン」ヲ超エテ、人類ノ一ツノ政治的經驗トシテ表徴サレテモ一ツノ「ドキユメント」ト思フノデアリマスケレドモ、其ノ古イ歴史的ナ最高法規、「ロー・オブ・ザ・ランド」ト申シマスモノ、「イギリス」ノ憲政史ニ於ケル「ロー・オブ・ザ・ランド」ト云フコトハ、動カスベカラザル一ツノ原理、斯ウ云フ意味合ガ入ツテ來ルノデアリマシテ、其處ニ本憲法ノ九十七條ノヤウナ思想ト云フモノガ含マレテ居ル、是ハ動カスベカラザル原理ダト云フコトヲ謳ツテ居ル、サウ云フ意味合ニ於キマシテ、「アメリカ」ノ憲法ノ眞似ヲシタト云フヨリモ、更ニ進ンデ「マグナカルタ」ノ原理ヲ第十章ニ掲ゲタト云フ意味ニ於キマシテ是ハ非常ニ重要ナ規定デアル、全憲法ノ謂ハバ「クレッシェンド」デアリマシテ、法ノ支配、法ノ優位ト云フコトデ以テ全憲法ヲ結ンデ居ル、是ハ先程文學作品ニ譬ヘラレタノデアルガ、憲法モ或意味デハ思想的ナ産物デアリマシテ、矢張リ此處ニ最高法規ヲ置クト云フコトガ、一ツノ憲法法典トシテモ大切ナ意味合ヲ持ツデアラウト思フノデアリマス、尤モ之ヲ技術的ニ觀察致シマシタ場合ニ、九十八條政府原案ト云フモノハ、是ハ「アメリカ」ノ最高法規ニ關スル條章ヲ其ノ儘眞似シタヤウナ風ニ讀メタノデ、私ハ之ヲ讀ンダ時ニ、是ハ技術的ニハ非常ニマヅイ、「ナンセンス」ダト云フ風ニ考ヘタノデアリマス、是ハ聯邦憲法ニ於テ意味ガアル條文デアリマシテ、日本ノヤウナ國ニ於テハ少シモ意味ガナイノデアリマスカラ、是ハ技術的ニハ誤リデアツテ、趣旨ニ於テハ、此ノ憲法ハ所謂國ノ最高法規デアル、斯ウ云フ風ニ聲明シタ、而モ其ノ効力ノ問題迄モ論及シタ點、是ハ「イギリス」デハ十七世紀頃ニハ非常ニ議論ガアツタ所デアリマスガ、「アメリカ」ニ入ツテ違憲立法審査權ト云フ形デ法治主義ガ華ヲ開イタ譯デ、サウ云フ意味デ、是ハ「アメリカ」的ナ一ツノ技術ヲ採入レタト云フ意味デ結構デアルト思ツタノデアリマシテ、衆議院ノ修正ニ依リマシテ、其ノ點ガ益々ハツキリシテ來マシタ、修正案ニハ全部賛成スルノデアリマス、サウシテ九十九條ハ、是ハ斯ウ云フ永久不磨ノ一ツノ人類的ナ原理ト云フモノニ對シテハ、苟モ權力ヲ揮フ者モ之ニ從ハナケレバナラナイ、治者ハ神ト法ノ下ニ統治スト云フノガ立憲政治ノ根本的ナ思想デアリマシテ、其ノ意味ヲ宣明シタ條項トシテ非常ニ意味ノアル言葉ダラウト思ヒマス、唯技術的ニ申シマシテ、九十八條ニ條約及ビ國際法規尊重ノ原則ガ、第二項トシテ衆議院ニ依ツテ挿入サレタ結果トシテ、非常ニ思想的混亂ガ生ジテ來タヤウニ思ハレルノデアリマシテ、條約尊重ノ原則ト云フモノガ、最高法規ノ中ニ入ツテ居ルト云フノガ、何ダカ變ナヤウナ感ジガシマス、此ノ條文自體ハ結構ナモノト思ヒマスケレドモ、是ガ最高法規ノ所ヘ入ツテ來テ居ルノガ、何ダカ少シソグハナイヤウナ感ジガスルバカリデナク、憲法ト條約トノ關係、及ビ國内法ト國際法規トノ關係等ノ問題ヲ直チニ頭ニ浮ベサセルノデ、ソコデ色々ナ問題ガ起ツテ來ルヤウニ思ハレルノデアリマス、從ツテ私ノ質問ハ、其ノ技術的ナ點ダケニ集中サセタイト思フノデアリマシテ、本會議ニ於キマシテ政府ニ質問シタ點デアリマシテ、ソレニ對シテハツキリシタ御回答ガナカツタヤウニ記憶シテ居リマスル點ハ、「國務に關するその他の行爲」ト云フ中ニ條約ガ含マレルノカドウカ、斯ウ云フ點、此ノ點ハマダ御回答ガナカツタヤウニ思ヒマスノデ、其ノ點ヲ先ヅ御回答ヲ願ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 九十八條ノ「國務に關するその他の行爲」ノ中ニ條約ガ含マレルカドウカト云フコトデアリマスガ、條約ヲ締結致シマスルコト自身ハ固ヨリ國務デアリマスカラ、條約ノ締結ノ致シ方等ガ憲法ニ違反シテ居リマスルナラバ、第九十八條ニ依リマシテ、其ノ憲法ニ違反スル限度ニ於テ、効力ヲ失フト云フコトハ當然デアラウト思フノデアリマス、唯適法ニ制定スル手續ヲ經テ作ラレタル條約ノ効力ト云フコトニナリマスルト、茲ニ憲法ト條約トノ効力關係如何ト云フ根本ノ問題ニナリマシテ、ソレハ學理的ナル判斷ニ依ツテ解決スル場面ガ起ツテ來ルト存ジテ居ル譯デアリマス、譬ヘテ申シマスルト、「ポツダム」宣言ノ如キモノヲ受諾スル場合ニナリマスルト、稍々特殊ナル解釋ヲ要スルト云フコトニナラウト思ヒマス、國内法的ノ關係ニ於キマシテハ、固ヨリ第九十八條ガ當テ嵌マルモノト考ヘテ居リマス
○高柳賢三君 第二項デアリマスガ、第二項ノ此ノ「遵守することを必要とする。」ト云フ意味ハ、是ハ國及ビ國家ノ公務員ト云フモノガ遵守スルコトヲ要スル、斯ウ云フ意味ニ取ツテ差支ヘナイカドウカ、ソレカラモウ一ツハ、第二ハ、此ノ規定ハ國際的ナ意味、國際法的ナ意味、勿論國際法上サウ云フ意味ガアル、斯ウ云フ意味ト、國内法的ニモ意味ガアル、斯ウ云フ二ツノ意味ガアルノデハナイカ、他國ニ對シテ遵守義務ガアル、斯ウ云フ意味ト、他面ハ、國内ニ於テモ、國際法規及ビ條約ト云フモノヲ尊重スルト云フ建前ニ於テ、現在ノ法ノ解釋、適用ト云フモノヲヤラナケレバナラヌ、斯ウ云フ二ツノ意味ガアルヤウニ理解シテ宜イカドウカ、其ノ點ニ付テノ政府ノ御考ヲ伺ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ「遵守することを必要とする」ト云フコトハ、仰セノ如ク、國モ遵守スル、同時ニ國務ヲ擔任シテ居ル所ノ國家諸機關等ガ之ヲ遵守スルトコトガ必要ダト云フ意味ニナルト思フノデアリマス、此ノ規定ノ効果ガ國際法的ニ及ブモノデアルカ、國内法的ニ及ブモノデアルカト云フ點ニ於キマシテハ、是ハ國内法的ニ及ブモノト考ヘテ居リマス、併シ國内法的ニ遵守スルト云フコトハ、結局國際法的ニモ日本ノ立場ガ非常ニハツキリシテ、秩序整然タル法規遵守ノ形ヲ取ルト云フコトガ承認セラレルト思フノデアリマス、唯義務トシテ他ノ國ニ對スルト云フヤウナ意味ニ於テハ、此ノ規定ハ働カナイモノト考ヘテ居リマス
○高柳賢三君 國内法的ニ、條約ガ憲法違反ノ理由ニ依ツテ無効デアルトシテモ、ソレハ國際的ニ日本國家ノ責任ト云フモノヲ解除スルコトニハナラヌト理解シマスケレドモ、サウ云フ風ニ理解シテ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 固ヨリ國内法的ノ問題ヲ以テ、國際法的ノ義務、或ハ責任ヲ遠ザケル根據トハナラナイモノト考ヘテ居リマス
○高柳賢三君 ソレハ其ノ通リダラウト私モ思ヒマス、次ニ國内的ナ面ニ移リマシテ、國際法ト云フモノ、國際法規ト云フモノハ、之ヲ遵守スル義務ガアル、是ハ國家ノ各機關ガ之ヲ遵守スル義務ガアル、斯ウ云フコトニナルト云フ御回答デアリマシタ、ソコデ問題ニナルノハ、行政機關ノ國際法ノ解釋ト云フモノト、最高法院ノ國際法ノ解釋ト云フモノハ、ドウ云フ關係ニ立ツノカ、例ヘバ新國家ノ承認デアリマスルトカ、新政府ノ承認ト云フヤウナコトヲ政府ガヤル、其ノ場合於テ、果シテ其ノ承認ト云フモノハ、國際法ニ合致シテ居ルカドウカト云フコトヲ最高法院ハ審査シテ、同政府トハ異ナツタ國際法ノ解釋ヲ爲ス權限ヲ持ツカドウカ、或ハ戰爭ノ開始、又ハ終了ノ時期、是ハ其ノ點ニ付テ政府ガ一定ノ見解ノ下ニ國際法ヲ解釋シテ、國際法ニ照シテ一定ノ認定ヲシタ場合ニ裁判所ハ其ノ點ニ付テ、國際法ノ上ノ解釋ハ、政府ノ解釋トハ違フト云フ建前ニ依ツテ、自己獨特ノ見解ニ基イテ之ヲ解釋スルト云フコトガ新憲法ノ上ニ於テ許サレルカドウカ、其ノ點ヲ御伺ヒ致シマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 今ノヤウナ場合ガ、裁判所ニ現レ出ヅルカドウカト云フ問題ニナルト思ヒマスルガ、裁判所ノ持ツテ居ル審判ノ事項ノ範圍内ニ現ハルヽ問題ガ、左樣ナ問題ガ現レマスルナラバ、固ヨリ最高裁判所モ、其ノ問題ヲ判定シ得ルコトニナラネバナラヌコトニナルト思ヒマス、例ヘバ締結ノ手續等ガ、此ノ憲法ノ要請スル所ニ當ルヤ否ヤト云フヤウナ點ニ付キマシテハ、最高裁判所ガ判斷ヲスルコトガアルコトハ固ヨリト思ヒマス、又條約自身デアツテモ、最高裁判所ニ問題ガ現レル場面モアラウト思ヒマスルケレドモ、此ノ憲法ハ第九十八條ニ於テ、憲法ト條約トノ効力ノ關係ニ於テハ規定ヲ致シテ居リマセヌシ、又最高裁判所ノコトヲ規定スル所ニ於キマシテモ、最高裁判所ガ憲法ト條約トノ間ノ關係ヲ規律スルコトヲ認メテ居リマセヌ、詰リ條約其ノモノニ付キマシテハ兩方ノ規定共觸レテ居ナイノデアリマス、ソレダカラ、全ク學説ニ委セテ宜イト云フ態度ヲ執ツテ居ル譯デアリマス
○高柳賢三君 只今ノ御説明デ國際法ノ解釋ニ付テハ、政府ト獨立シテ最高法院ハ解釋權ガアル、斯ウ云フ風ニ理解シタノデアリマスガ、私ハサウ云フ風ニスルコトハ非常ニ此ノ憲法ノ運用ト云フモノヲ困難ニシテ、サウ云フ場合ニハ矢張リ政府ノ行ツタ國際法ノ解釋ニ從ハナケレバナラヌ、斯ウ云フ風ニスルコトガ適當デアラウト思フノデアリマシテ、是ハモウ「アメリカ」等ニ於テ、判例デ以テ度々サウ云フ事件ガ起ツテ、所謂是ハ政治問題デアル、政治問題ハ政治的ナ「デパートメント」ノ認定ニ從フト云フ、斯ウ云フ一ツノ慣習法ガ成立シテ居ルノデ、寧ロ最高法院ト云フモノハ、ソレ等ノ點ニ付テハ政府ノ國際法ノ解釋ニ從ハナケレバナラヌト云フ風ニヤラナケレバ、此ノ所謂違憲立法審査ニ關スル最高法院ノ大キナ力ト云フモノガ行キ過ギニナルノヂヤナイカト云フ風ニ考ヘルノデアリマス、尤モ、恐ラク金森國務大臣ノ意圖ハ、サウ云フ問題ハ、一ツノ將來ノ學説ニ於テ大イニ檢討スベキ問題デアルト云フノガ、只今ノ御答辯ノ本當ノ御精神ダト思ヒマスノデ、サウ云フ意味合ニ於キマシテ‥‥併シ、サウデナイトスレバ、是ハ意見ノ相違ト云フコトニナリマスカラ、唯問題ノアルコトダケヲ指摘シテ、私ハ斯ウ云フ風ニ考ヘルト云フコトダケヲ申シマシテ、更ニ政府ノ御答辯ハ求メマセヌ、私ノ質問ハ是ダケデ打切リマス
○山田三良君 私ハ別ニ御質問スル考ハナカツタノデアリマスガ、段々ト今朝以來ノ皆サンノ御質問ヲ伺ツテ居リマシテ、サウシテ其ノ結果ガ、此ノ儘デ置クコトガ甚ダ不適當デアルト云フコトヲ確信スルニ至ツタノデアリマス、ソコデ質問致スノデアリマスガ、條約ヲ尊重シタリ、或ハ國際法規ヲ尊重スルト云フコトヲ何處カニ於テ現スト云フコトハ、或ハ適當デアルカモ知レマセヌガ、併シ、ソレハ必ズシモ憲法ニ規定スルノ必要ハナイコトデアリマシテ、我ガ國民ガ條約ヲ尊重シ、國際法規ヲ尊重スルト云フコトハ、他ノ方面ニ於テ現サレルト云フコトガ、寧ロ適當デアラウト思ヒマス、茲デ衆議院ガ第一項ヲ修正セラレテ、第二項ヲ加ヘタノハ、第一項ノ中ニ條約ト云フモノガ、憲法ト共ニ國ノ最高法規デアル、斯ウセラレタモノデアリマスカラ、我ガ國ニ於テハ、國際條約ヲ最高法規トシテ憲法ト竝ンデスルト云フコトハ不適當デアルト云フコトヲ發見シマシテ、第二項ノ規定ニ移シタノデアラウト思ヒマス、「アメリカ」ノ憲法ノヤウニ、國際條約ハ最高ノ法律デアル、斯ウ憲法ニ明言シテアル所ハ、又「アメリカ」ニハサウ云フコトヲ明言スル必要ガアツテ、國際條約ト云フモノヲ最高法律ト、斯ウシテ居ルノデアリマス、我ガ國ニ於キマシテハ、條約ハ條約デアリ、憲法ハ憲法デアリマシテ、又法律ハ法規デアリマシテ、各々違ツタ方面ト效力ヲ持ツテ居ルノデアリマスカラ、條約ヲ最高法律ト書クコトハ、固ヨリ不適當デアリマス、サレバト言ヒマシテ、其ノ條約ノコトヲ此ノ最高法規ノ中ノ第二項トシテ掲ゲルト云フコトハ、尚條約ハ最高法律デアルカノ如キ考ガ殘ツテ居リマシテ、ソレハ最高法律トスルコトハ不適當デアルト云フノデ、茲ニ斯ウ云フ言葉デ現シタノデアラウト思ヒマスガ、サウスレバ是ハ唯單ニ國際條約ヲ尊重シ、國際法規ヲ尊重スル、是ダケノコトデアリマスカラ、最高法規ノ中ニ之ヲ掲ゲテ置クト云フコトハ如何ニモ不適當デアリマス、デアリマスカラ、是ハ他ノ場所ニ掲ゲラレルナラバ別デアリマスケレドモ、此ノ最高法規ノ中ニ第二項トシテ之ヲ掲ゲルト云フコトハ、甚ダ不適當デアラウト信ジマス、且條約ハ、法律憲法トドウ云フ關係ニアルカトカ、國際法規ハドウ云フ關係ニアルカト云フコトハ、是ハ憲法ヤ法律ニ規定スベキ事柄デナクシテ、學説ト裁判所ノ解釋ニ一任セラルルノガ最モ適當デアラウト思フノデアリマス、國ニ依リマシテハ、國際法ハ國内法ノ一部分デアル、斯ウ云フ風ニ謂フ國モアリマス、「インターナショナル・ロー・オブ・ザランド」或ハ「ロー・オブ・カントリー」ノ一部分デアル、斯ウ云フ解釋ヲ孰ツテ居ル國モアリマス、條約ハ法律ト云フ解釋ヲ執ツテ居ル國モアリマス、例ヘバ「フランス」ノ如キハ、條約ハ法律デアリマス、條約法ト云フ法律デアリマス、ソレハ議會ニ於テ兩方共法律ト同樣ノ手續ニ依ツテ、サウ云フ議會ノ承諾ヲ必要トスル條約ニ付キマシテハ、兩院ノ法律制定ノ手續ニ依ルノデアリマスカラ、條約ト云フ名前ガ法律デアル、「ロー・オブ」第何號、何何條約、斯ウシテ發表ニナルノデアリマスカラ、サウ云フ國ニ於キマシテハ、條約ト法律トハ各々等シク法律デアリマスカラ、唯前法後法ノ關係ガアルダケデアリマシテ、孰レガ強イト云フコトハ解釋ノ問題デアリマス、我ガ國ニ於キマシテハ、條約ハ今迄ノ處ハ條約トシテ締結ニナツテ居ル、條約ハ議會ノ今度ハ承認ヲ要スルト云フコトニナリマシテ、先ノドナタカノ説明ニアリマシタヤウニ、法律トシテノ承認デナクシテ、唯條約ニ賛成スルト云フ意味ノ承認デアリマスレバ、ソレハ議會ノ承認ニ依ツテ條約ガ法律トナツタト云フコトハ私ハ言ヘナイノデアラウト思ヒマス、併シ是ハ將來ノ解釋問題デアリマシテ、立法手續ト同ジ國會ガ承諾シタ以上ハ法律ト云フ名前ガナイケレドモ、條約ハ國内ニ於テ法律ノ力ヲ有スルト云フ解釋ガ成リ立ツコトモアルダラウト思ヒマス、其ノコトハ學説及ビ裁判例ノ解釋ニ一任セラレテ宜イコトデアリマシテ、憲法若シクハ其ノ他ノ所ニ、サウ云フコトヲ規定サレル必要ハナイト思ヒマスカラ、第九十八條第二項ノ規定ハ、其ノ精神ニ於テハ宜シイノデアリマスケレドモ、此處ニ掲グベキ規定デナイト思ヒマスカラ、是ハ他ノ法ニ‥‥、此處デハ削除セラレル方ガ正當デアラウト、斯ウ信ズルノデアリマス、此ノ點ニ付キマステ金森國務大臣ノ御意見ヲ伺ヒタイト思ヒマス、序ニソコデ段々考ヘテ來マスト云フト、第九十九條ニ憲法ノ尊重擁護ノコトモ規定シテアリマスガ、是ハ牧野委員ノヤウニ、國民ト共ニト云フ意味ガ入レバ、尚理窟ハ結構デアリマスガ、併シ斯ウ云フ規定モ、特ニ此ノ規定ノ所デ置カレルト云フコトハドウカト思ヒマス、是ハ最高法律ノ中デアリマスカラ構ハナイヤウナモノデアリマスケレドモ、天皇以下公務員ノ方ガ、皆憲法ヲ遵守スルト云フヤウナ義務ハ、是ハ誠ニ當然ナコトデアリマスケレドモ、憲法ニ必ズ掲ゲラレナケレバナラナイト云フ規定ト思ヒマセヌカラ、大谷委員ノ言ハレタ如クニ、是ハ憲法ノ發布ノ上諭其ノ他ニ於テ、サウ云フ意味ヲ加味セラレタナラバ、一番適當デアルト思ヒマス、此處ニサウ云フ規定ヲ置カレルノハ如何ト思ヒマスカラ、此ノ點ニ於テ、國務大臣モ先ニ御説明ガアリマシタガ、尚最後ノ御考ヲ伺ヒタイト思ヒマス、モウ一ツノ點ハ、第十章最高法規、此ノ章ガ置カレルトシマシテ、是ハ其ノ第九章ノ憲法改正ト前後セラレテ、第九章最高法規、第十章改正トセラレテ、最高法規ハ兎モ角モ憲法ノ一部分デアリマスカラ、サウ云フ總テノ規定ニ對シテ最後ニ將來憲法改正ノ手續ヲ規定スルノガ適當ト思ヒマスカラ、第九章ト第十章トハ入レ換ヘラレルノガ、法文ノ體裁上ニ於キマシテ宜クナイカト思ヒマスカラ、此ノ三點ニ付キマシテ金森國務大臣ノ御説明ヲ願ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 第一點ノ第九十八條ノ第二項ニ條約ニ關スル規定ガアリマスルコトハ、沿革的ナル事情ハ、衆議院ニ於テ本文ノ中ノ條約ト云フ文字ヲ削除セラレタ結果トシテ、條約ノ取扱ヒ方ニ付テ、此ノ憲法ガ何等ノ考慮ヲ持ツテ居ナイヤウナ感ジヲ持ツガ故ニト云フコトヲ考ノ動機トシテ、九十八條ノ二項ニ斯クノ如キ規定ヲ設ケラレタ次第ト了解シテ居リマス、此處ニ條約ノ規定ヲ置キマシタコトガ適當デアルカドウカト云フコトハ、是ハ又一ツノ問題デアラウト思ヒマスルガ、大體此ノ憲法ノ中ニ此ノ種ノ規定ヲ收ムルト致シマスルト、大凡此ノ邊ガマア適當デアルト云フヤウナ包括的ナ考デアラウト私ハ推察シテ居リマス、從ツテ最高法規ト云フコトト緊密ナル關係ハ必ズシモナイモノト思ヒマス、次ニ第九十九條ノ此ノ天皇其ノ他ノ憲法ヲ尊重シ、擁護スル義務ヲ負フト云フ規定ガ、有益デアルカ無益デアルカ、有益デアルニシテモ、此處ニ此ノ規定ヲ置クガ宜イカドウカト云フ問題ニ付キマシテハ、今朝來繰返シテ申上ゲテ居リマスルヤウニ、最高法規デアルト云フコトニ依ツテ、是ハ國家ノ有ラユル之ニ關スル擔任者ガ尊重シ擁護スル義務ヲ負フト云フコトヲハツキリ規定シタノデアリマシテ、ソレガ道義的ト云フカ、法的ト云フカ、ドチラデアルカト云フコトニナリマスルト、法的ニハ殆ド當然デアツテ、寧ロ道義的意味ニ於テ強調スルト云フコトニアルノデハアリマスルケレドモ、併シ主トシテ道義的ナ規定デアリマシテモ、之ヲ憲法ノ中ニ取込ンデ、同時ニ法的ニハツキリシタ規定ヲ置クト云フコトハ、斯樣ナ最高法規ノ扱ヒ方トシテハ、相應シキモノデアルト、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居ルノデアリマス、國民ヲ此處カラ除キマシタト云フコトハ、先ニモ申シマシタヤウニ國民ガ之ヲ制限シタト云フ立場カラ、態々ソレノ擁護ト云フコトヲ書カナクテモ宜イ、又一般ノ服從スル意味ノ國民デアリマスルナラバ、最高法規ニハ當然服從スルノデアツテ、態々尊重シ擁護スルト云フ國家ノ仕事ヲ擔任スル立場ノ今ニ用ヒル言葉ヲ此處ニ當テ嵌メル必要ハナイ、從ツテ國民ト云フ文字ハ、ドノ意味ニ於テモ此處ニ書ク必要ハナイノデアリマスルシ、若シ書クトスレバサウ云フヤウナ文字ノ解釋ノ下ニ國民ト云フ文字ヲ置クノデナカラウト思ツテ居リマス、尚最高法規ノ規定ヲ憲法改正ノ後ニ置イタ理由如何ト云フコトデアリマスガ、此ノ憲法ノ改正ト云フコトハ憲法ノ實體ニ關シマスル、實體ト申シマスカ、憲法ノ内容ト及ビ其ノ動キ方、即チ改正ト云フコトニ關シマスル規定ヲ一括シテ第一章カラ第九章迄ノ間ニ掲ゲマシテ、次ニ其ノ憲法ト云フモノニ向ツテ國民及ビ國家機關、及ビ天皇又ハ攝政ガ如何ナル考ヲ以テ之ニ對處スベキカト云フ包括的ナ考ヲ以テ、此處ニ規定シタノデアリマシテ、規定ノ順序トシテハ、此ノ取扱ヒ方ニモ相當ノ理由アル考ヘ方ダト存ジテ居リマス
○山田三良君 只今御説明ヲ承リマシタガ、其ノ中デ條約ノコトヲ第一項ノ中カラ削リツ放シデハ、條約ニ付テマア誤解ヲ來ス虞ガアルト云フコトヲ御考ニナツテ、第二項ニ入レラレタト云フコトデアリマスガ、兎モ角モ、最高法規デナイト云フコトダケハ御認ニナツテ居ルコトデアリマス、最高法規ニ非ザルモノデアリマシテ、而モ特殊ナ條約、國際法、斯ウ云フモノヲ最高法規ノ中ニ掲ゲテ置カレルト云フコトソレ自體ガ、甚ダ場所ヲ得ナイコトト思フノデアリマスカラ、私ハ今ノ御説明ニハ滿足スルコトヲ得ナイノデアリマスガ、是以上ハ意見ノ相違ニナリマスカラ、敢テ御説明ヲ再ビ煩スコトヲ致シマセヌ、又最後ニ憲法改正ト最高法規ノ章ヲ入レ換ヘタラト云フコトニ付キマシテモ、憲法ノ改正ハ實體法ノ改正デ、重要ナコトデアルカラ、其ノ實體的規定ノ終リニ置イタコトニモ道理ガアルト云フ御説明デアリマスガ、併シ此ノ憲法ノ改正ハ、將來最高法規ノ規定ニ付テモ憲法ノ一部分トシテ固ヨリ改正セラルベキ項目ノ中ニ入ルコトデアリマス、從ツテ最高法規ト云フモノモ皆掲ゲラレタ後デ、將來此ノ憲法ノ改正ハ斯ク斯クノ手續ニ依ルト云フ規定ガ出ルノガ、一體法律ノ體系ヲ成ス上ニ於キマシテ、體裁上當ヲ得タルモノト思フノデアリマスルケレドモ、斯ウ云フコトハ唯場所ノ置キ換ヘダケデアリマシテ、サ程ノ困難ノナイコトデアリマスルカラ、尚御再考下サイマシテ、私ハ唯憲法ノ體裁上ニ於テ、實質的ノ意味ハ變リマセヌケレドモ、後世子孫ガ見マシテモ、此ノ憲法ハ體裁上宣シキヲ得テ居ルト云フ風ニ致シタイト云フ念願カラ、場所ノ置キ換ヘ位ハ御同意ニナルヤウニ願ヒタイト思ヒマス、是ハ尚御再考ヲ願ツテ置キマス、是デ私ノ質問ハ終リマス
○委員長（安倍能成君） 第十章ヲ終ツテ、第十一章ニ移リマス、第十一章補則
○子爵大河内輝耕君 私ハ第十章最高法規ノコトデチヨツト政府當局ニ御尋ヲ致シタイト思ヒマス、各委員ハ色々ナコトヲ仰シヤイマスケレドモ、私ニ對スル今朝ノ條約ノ效力ニ付キマシテハ、ハツキリ御答ガアツテ、私ハ承知シテ居ルノデスガ、各委員ノ方ハ、サウデナイヤウナコトヲ言ツテ頻ニ解釋ハ異ナツテ居ル、併シ政府ノ仰シヤルコトハ、無論私ニ今朝御答ニナツタヤウニ、條約ハ最高法規ダ、斯ウ云フ風ニ御答ニナツタト思ツテ居ルノデアリマスガ、今朝御答ニナツタコトハ、其ノ儘ニシテ宣シイデスガ、尚政府ノ言フコトハ、後カラ讀ンデ見ルト曖昧デアルト云フヤウナコトヲ後世ニ疑ハレマスト、甚ダ面白クナイト思ヒマスカラ、アノ通リデ宣ケレバ、ソレデ宣シイノデスガ、シツカリシタ政府ノ意向デアルト云フコトデアレバ承知シマスケレドモ、甚ダ愚念ヲ押スヤウデアリマスガ、金森國務大臣ニ御伺ヒ致シタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 條約ガ最高法規デアルト申上ゲタカドウカ、私ニハハツキリシタ記憶ハゴザイマセヌ、條約ガ憲法ニ影響シ得ルコトハアルト云フコトハ申上ゲマシタ、詰リ憲法ト云フモノガ最高ノ法規デアリ、而モ之ニ影響シ得ルモノデアル、實例ヲ申シマスレバ、今回ノ事變ノ終リニ於キマスル國際交渉ト國内法トノ關係ニ於テ、左樣ナ場合ガアルト云フコトヲ含ミツヽ、左樣ナコトヲ申シマシタ、サウシテ條約ハ、法律ヨリモ國内法的ニハ、詰リ國内法ノ見地ニ於キマシテハ、法律ニ代ル力ヲ持ツテ居ル、サウシテ法律ニ關スル效力ノ關係ニ於テ若干申上ゲタト云フコトハ覺エテ居リマスガ、條約ソレ自身ガ最高法規ダト言ツタノハ、今ノ憲法トノ關係ニ於テ申上ゲタ以外ハ覺エテ居リマセヌ、其ノ他嘘ヲ吐イタ覺ハアリマセヌ
○子爵大河内輝耕君 サウ云フ意味デ申シタノデハアリマセヌ、サウスルト、法律ヨリモ條約ハ國内法的ニハ上ニ在ルト云フコトハ言ヒ得マスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ憲法ハ、條約ノ方ガ法律ヨリモ上ニ在ルト解釋シテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 サウシマスト、憲法トノ關係ダケガ殘ツテ來タノデスガ、私ハ今朝伺ツタノハ、私ハ伺ヒ方ガ惡カツタカモ知レマセヌガ、條約ガ批准サレル以上、公布サレルト否トニ拘ラズ、法律ヨリモ上ニ在ルノダ、是ハ例ガ惡カツタラ後カラ速記ヲ取消シテモ何デモ宜シウゴザイマス、外國ガ攻守同盟條約ヲ以テヤツテ來ル、斯ウ云フコトニナツテ、ドレダケノ兵ヲ置クンダト云フヤウナ條約ヲ假ニヤツタト致シマスト、サウスルト、其ノ結果ニ依ルト云フト、此ノ憲法ノ不戰事項ト云フモノハ當然變更サレテ來ルト云フ風ニナリマスシ、サウデナケレバドウナンダカ、其ノ時ノ調子ナンダト云フヤウナコトニナリマスンデスガ、私ハ何モ例ヲ固執スル譯デモゴザイマセヌガ、苟モ國家ガ條約ヲ結ンデ、ソレヲ批准シタ以上ハ、國内法上ニモ憲法ヲ以テソレニ對抗スルト云フコトハ無理デモアルシ、面白クナイト思フ、如何デスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 詰リ條約ノ性質ニモ依ルコトト存ジテ居リマス、今朝佐々木委員カラシテ、多少ノ疑ヲ御持チニナツタ御質疑ヲ受ケマシタケレドモ、例ヘバ日本ノ政府ノ持ツテ居ル權力ガ、條約ニ依ツテ何カ或權力ノ下ニ置カレルト云フコトハ、日本ノ憲法ダケデハ説明ノ出來ナイコトデアリマシテ、矢張リ憲法ニ加フルニ若干ノ制約ガ條約カラ起ツテ來ルト云フコト、斯クノ如キ場合ニハ認メナケレバナラヌト、斯ウ云フ風ニ考ヘテ今朝ノ御説明ヲ申上ゲタ次第デアリマス
○子爵大河内輝耕君 サウスルト、ソレハ事實上、政治的ニサウ云フ風ニナルト云フ御話ナンデ、法律的ニ憲法ガ效力ヲ失フンジヤナイ、法律ノ方ヂヤ條約ノ方ガ上ニアルンダカラ、法律ニ異ナル條約ヲシタラバ、法律ハ效力ヲ失フ、況ヤ命令、詔勅、其ノ他ノ其ノ他ノコトハ皆效力ヲ失フンデスガ、憲法ニ限リマシテハ效力ヲ失ハナインダト、サウ云フヤウニ解釋シテ宜シイデスカ、サウスルト條約ト憲法トドツチガ強イカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 其ノ場面ノ考ヘ方ハ、結局國ト世界トノ關係ヲ如何ニ理解スルカト云フ問題ニナリマシテ、サウ簡單ニハ答ヘ切レナイモノデアラウト存ズルノデアリマス、デアリマスルカラ、私ハ今朝來現實ノ問題ヲ前ニ置イテ御答ヘ申上ゲルト云フコトハ出來マスケレドモ、一般的ニ言フト云フコトハ、非常ニ私共トシテハヤリニクイ、斯ウ云フコトヲ申上ゲテ居ル次第デアリマシテ、此ノ一番顯著ナル事例ト致シマシテハ、今回ノ憲法改正ノ前提ト致シマシテ、「ポツダム」宣言ヲ結ンダコトニ依ツテ、日本ノ憲法ノ制定權ト云フモノガ、當然變更サレタカドウカト云フ問題ガ起リマシテ、ソレハ世間デ相當ニ論議サレテ居リマシタ、學問上ノ問題トシテハ今日モ恐ラク疑點ガアルカモ知レマセヌ、併シ政府ハ、此ノ現實ノ場合ニ於キマシテハ、國ノ憲法ハ、其ノ意味ニ於テハ何等ノ變更ヲ受ケテ居ナイ、唯國家ハ「ポツダム」宣言ニ基イテ動イテ行クベキ義務ヲ負ウテ居ルノデアル、ソコデ政府ト致シマシテハ、憲法ニ基イテ此ノ憲法ヲ改正シ、而モ「ポツダム」宣言ニ依ツテ負ツテ居ル國際義務ヲモ其ノ中ニ於テ履行スル、ソレヲ現實ノ姿ニ現シタノガ今回ノ手續デアル、斯ウ云フヤウナ形ニ於テ、總テ此ノ複雜ナル問題ヲ御説明申上ゲテ居ル譯デアリマシテ、之ヲ抽象的ニ、一般ニ條約ハ憲法ヲ否定シ得ルカ、斯ウ云フヤウナ形ニナリマスルト云フト、甚ダ大事ヲ取ルト云ヒマスルカ、今御答ヘシニクイ立場ニアルト考ヘテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 私ノ質問ハ、此ノ點ニ付キマシテハ之デ止メテ置キマス
○委員長（安倍能成君） 「アメリカ」ノ陸軍長官高級顧問ノ［ディヴェリアー」氏ガ參觀ニ來ラレマシタ、チヨツト御紹介致シマス（拍手）ソレデハ第十一章ニ移リマス、瀧川委員
○瀧川儀作君 改正憲法第十一章、補則、第九十七條ノ原案復活ニ付テ、政府ノ御意向ヲ伺ヒタイノデアリマス、原案ハ「この憲法施行の際現に華族その他の貴族の地位にある者については、その地位は、その生存中に限り、これを認める。」云々トアリマス、私ハ總論ニ於テ申上ゲマシタ如ク、教育上ノ見地ヨリ、現貴族院ハ其ノ構成、實質共ニ、各國ノ現状ニ照シテ重要ナル存在デアリ、就中、華胃ノ方々ハ其ノ品性人格、言行、動作ニ至ル迄、一世ノ師表トシテ仰グベキ貴キ存在デアリマス、之ノ性格ヲ新タニ生レムトスル參議院ニモ持タシムルベク、何等カノ形ニ於テ、政治上ノ特權ヲ有セザル華族ノ存續ヲ必要トスルモノデアリマス、此ノ意味ニ於キマシテ、原案第九十七條ハ、實ニ重要ナル補則デアルニモ拘ラズ、衆議院ニ於テハ全然之ヲ削除シ、政府モ又一旦提案シナガラ之ニ御同意サレタル御意圖ニ對シ、聊カ了解ニ苦シムモノデアリマス、勿論現貴族院ハ單リ華族ノ方々ノミデハアリマセヌ、幾多學界政界ノ先輩、功勞者タル勅選議員ト相俟ツテ、互ニ立法府ニ於テ格勤精勵、今日ノ重キヲ致シテ居ルノデアリマスガ、一面ニ於テ今回新タニ成立シタル衆議院ハ、民主主義ニ則リ完全ナル普通選擧ニ依リ成リ立ツタノデハアリマスガ、多數政黨簇出ノ結果、將來相當訓練ヲ要スルモノアルヲ痛感スルノデアリマス、之ニ對シ參議院ハ成ルベク權威アル組織ト構成ノ下ニ、萬一ノ場合、忠實ナル助言者トシテ、重要ナル役割ヲ持ツベキ使命ヲ有スルコトヲ確信シ、其ノ構成、内容、共ニ充實シ置クノ必要ヲ感ズルノデアリマス、就キマシテハ、其ノ選擧ノ如キモ、過去ノ經驗ニ鑑ミ、徒ニ普通選擧ノ形式ニノミ囚ハレテハ、選良ナル議員ヲ得ルコト到底至難ナリト信ズルノデアリマス、是ガ爲ニ來ルベキ參議院法實施ニ備フルベク、少クモ原案第九十七條ヲ復活シ、此ノ方面ヨリ若干ノ議員ヲ送ル準備ヲ爲シ置ク必要ヲ感ズルノデアリマス、又華族議員ノ今日迄議員トシテ、立法府ニ於テハ固ヨリ、又社會ニ於キマシテモ、有ラユル方面ニ於キマシテ、多年盡サレマシタル功勞ニ對シテモ、爾ク簡單ニ葬リ去ルベキモノデハナイト信ズルモノデアリマス、ソコデ原案第九十七條ヲ復活シテ、一旦衆議院ノ修正ニ御賛成ナサレタ爲ニ、萬一不可能ノ場合ニ於キマシテハ、何等カ之ニ代ルベキ對策ノ御研究ガ政府ニ於テ出來ナイノデアルカ、此ノ點ニ付テ、參考迄ニ伺ツテ置キタイノデアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 只今瀧川委員カラ御尋ニナリマシタノハ、第九十七條ヲ復活スルカ、又ハ之ニ代ルベキ適當ノ措置ヲ講ズルコトニ付テノ考ハドウカト云フコトデアリマシテ、此ノ規定ハ固ヨリ政府原案トシテ出テ居リマスルガ故ニ、政府トシテハ、一ツノ主張ヲ持ツテ居ツタ譯デアリマス、其ノ主張ハ、嘗テモ一部分ニ付テ申上ゲマシタケレドモ、今日迄ノ華族制度ガ根本ニ於テ誤ツテ居ツタト云フ譯デハナイノデアリマシテ、時代ノ發展ト共ニ、之ヲ或變化ノ下ニ置カナケレバナラナクナツタト云フコトニ基イテ居リマス、加フルニ、華族制度其ノモノハ、單リ門閥ニ限ラナイデ、一種ノ個人ニ對スル國家ノ榮譽ノ表彰、即チ國ニ偉勳ノアル者ニ對シテ、華族ノ地位ヲ與フルト云フ制度ヲ含ンデ居リマス、從ツテ是ハ、其ノ意味ニ於キマシテハ、他ノ榮譽ヲ表彰スル制度ト毫モ異ナル所ハナイト云フノデアリマスルガ、之ヲ外ノ面カラ申シマスルト、此ノ憲法ノ持ツテ居リマス根本ノ考ヘ方トシテ、個人ヲ原則トシテ平等ニ尊重スル、門閥其ノ他ノ特殊ナル事情ニ依ル社會的ナ扱ヲ區別シナイト云フ根本原則ヲ樹立致シマシテ、ソレ自身ニ非常ニ深イ意義ガアルト考ヘテ居リマスルガ故ニ、此ノ二者ヲ調節スル爲ニハ、ドウシテモ華族制度其ノモノハ廢メナケレバナラヌ、併シ現ニ華族デアル方々ヲ其ノ儘、廢メル必要ハナイ、ソコデ九十七條ノ規定ヲ置イテ、其ノ生存中ニ限リ其ノ地位ヲ保存スル、但シ政治的ナ特權ハ認メナイト云フ趣旨ヲ以テ立案ヲシタ譯デアリマス、然ルニ衆議院ニ於キマシテハ、斯樣ナ特權的ナ考ヲ以テ國民組織ノ上ニ此ノ制度ヲ設ケテ居ルコトハ、ソレ自身、現在ノ事情ニ適シナイノデアツテ、斯樣ナ考ヘ方ヲ維持スルナラバ、單リ華族ニ止マラナイデ、一般ノ人ヨリモ低イガ如ク世ノ中ニ言ハレテ居ルヤウナ人ノ立場モ考ヘナケレバナラナイデハナイカ、ト云フヤウナ氣分モアツタモノト思ヒマスル、詳シイコトハ固ヨリ政府トシテハ了知致シマセヌ、左樣ニ了解ヲシテ居ルダケデアリマスルガ、斯樣ナ事情ニ依ツテ、衆議院ニ於テハ此ノ際玉石倶ニ、一樣ノ措置ヲシテ、玉石ト云フ言葉ハ惡イノデアリマスルガ、其ノ華族ニナラレマシタ箇々ノ事情ハ別ニシテ、華族ト云フ一種ノ階級制度ヲ廢メテシマハウ、斯ウ云フ御考ヘデアツタノデアリマス、其ノ考ハ政府ノ考トハ幾分程度ノ差ガアリマスルケレドモ、斯樣ニシテ、國民ノ或重要ナル部面ヲ代表セラレテ居ル衆議院ガ可決セラレタナラバ、固ヨリ政府トシテ反對スベキ理由ハナイト云フ譯デ、御同感ヲ申上ゲタ譯デアリマス、其ノ考ハ今日モ尚政府ノ意見ヲ支配シテ居リマシテ、今御説ノ通リ、確カニ華族制度ト云フモノハ過去ニ於テ良キ效果ヲ見出シタニ相違ハナイ、榮譽ノ表彰トシテ十分ナル意味ヲ持ツテ居ツタニ相違ハアリマセヌケレドモ、個人ノ尊重ト云フコトニ重點ヲ置ク此ノ憲法ノ筋合カラ言ヘバ、衆議院ノ言ハレタ所ニ從フコトモ、相當ノ理由ガアリマシテ、詰リ程度ノ差デハアリマシタガ、衆議院ノ意見ニハ結局政府トシテ同感ヲ致シタト云フコトハ、依然トシテ政府ノ頭ヲ支配シテ居リマシテ、今日進ンデ、此ノ規定ヲ變ヘルト云フ考ハ持ツテ居リマセヌ、然ラバ、次ニ之ニ代ルベキ何等カノモノハ出來ナイカト云フコトデアリマシタガ、今迄ノ申上ゲマシタ所ニ依リマシテ明カデアルガ如ク、矢張リ斯ウ云フ風ニ門閥的ニ社會ノ人々ノ間ニ特殊ナル取扱ヲシテ行キマスルコトハ、此ノ憲法ノ上デハ面白クナイト考フル譯デアリマス、ソコデ參議院ノ組織ニ於テ如何ニ取扱フカト云フコトニナリマスレバ、是ハ全ク參議院ト云フ一ツノ此ノ憲法ノ豫想シテ居ル組織體ノ組立テ方如何ト云フコトニナリマシテ、別箇ノ見地ニ依リマシテ、ソレニ付キマシテハ、度々申上ゲテ居ル通リデアル譯デアリマス
○瀧川儀作君 只今金森國務大臣ヨリ稍々含蓄ノアル鄭重テル御答辨ヲ伺ヒマシテ、能ク了解致シマシタ、近來世相ヲ見マスルニ、徒ニ民主政治ノ名ニカブレテ、傳統ヤ美風ヲ破ルガ如キ嫌ヒナキニシモ非ズト考ヘルノデアリマスカ、此ノ方面ニ向ツテ、政府ニ於テ細心ノ注意ヲ拂ハレムコトヲ希望申上ゲマシテ、私ノ質問ヲ打切リマス
○子爵大河内輝耕君 私ハ只今ノ問題ヲ反對ノ方向カラ御尋ヲ致シテ見タイト思ヒマス、金森國務大臣ソ御説明デ大概分ツテ居リマスガ、華族ト云フ制度ハ、實際用ヲナシタノデス、殊ニ或場合ニハ之ニ大分強イ特權ヲ置キマシテ、御公卿サンハ宮中ノ直臣デアル、直臣ト云フ言葉ハ惡イガ、始終使ツテ居ル、大名ハ大名デ特權ヲ持ツテヤツテ居リ、ソレデウマク社會ガ治ツテ居タ時代モアル、ソレハ一ツノヤリ方デス、ヤリ方デスケレドモ、今ドキ、ソンナコトヲ良イモノダト思ツテ居ル者ハ一人モアリハシナイ、詰ラヌ僅カナ特權ヲ持ツテ居ツテ、華族ガ華族ラシイ特權ヲドウシテ保ツテ行ケルカ、ソレデアリマスカラ、今日ノ時相カラ言ヘバ、殆ド華族ヲ敬フ人ナント云フモノハアリハシナイ、特權ハナシ、敬ハレヌ、例ヘバ税ニシテモサウデス、同ジヤウニ課カツテ居ル、是デハ自滅スルヨリ外ニ仕樣ガナイ、華族ラシイ顏ガ出來ルカト云フト、出來ヤシナイ、我々等モ郷里ノ非常ナ世話ニナツテ、郷里ノ人ノ力ニ依リマシテ、今日華族ノ末端ヲ汚シ、又貴族院ニモ列シテ居ラレタノデスケレドモ、私ハ郷里ニドレダケノコトヲシタカト云フト、今日ノ状態デハ、我々ノ地位デハ地位相當ノ生活ヲスルノガヤツトデアツテ、迚モ郷里ノ人ノコト迄モ、或ハ小學校ノ費用ガ足リナイトカ、或ハ神社ガドウダトカ、或ハ經濟關係ガドウダトカ、戰災デスツカリ燒カレテシマツテ、家モナイカラ何トカシテヤツタラ宜イダラウ、ソレヲスルノガ本當ニ我々ガ郷里ニ報ユル當然ノ義務ナンデスケレドモ、ソレスラ出來ヤシナイ、事實カラ言ヘバ、サウ云フ力ノモノデアリ、世間カラ言ヘバ、誰モ尊敬シハシナイ華族ヲ尊敬スル美風ナント仰シヤルケレドモ、ソンナ美風ハ、美風カドウカ知リマセヌガ、ソンナ風ハアリハシナイ、サウ云フモノヲ置イテオイテ、唯自滅サセテシマフナント云フコトハ、是ハモウ華族ヲ曝シ物ニスルト云フコトナンデス、殊ニ民主政治カラ言ヒマシテモ、斯ウ云フ門閥ヲ一ツ作ルト云フコトハ甚ダ面白クナイコトハ、金森大臣ノ度々言明サレル通リ、尚勳功ノアツタ方ハト云フコトデスケレドモ、勳功ノアツタ方ニ爵ヲ授ケルト云フ意味ハ、其ノ勳功ノアツタ方々ノ家ヲ門閥トシテ認メヨウト云フコトナンデス、門地ト云フモノガイケナケレバ、華族ナント云フコトハ無論イケナイ筈ナンデアル、ソレデスカラ、是ハ又外ニ表彰セラレル道モアリマセウカラ、外ノ方デ表彰セラレルコトニシテ、華族ト云フ制度ハ、此ノ際一切綺麗ニシテシマフベキモノデアル、私ハ衆議院ノ九十七條ノ削除ニ對シテハ、非常ナ感謝ノ意ヲ持ツテ居ル、政府ノ原案ノ修正ニ付テモ、雙手ヲ擧ゲテ賛成ヲスル、華族制度ヲ癈止サレタト云フコトニ付テモ雙手ヲ擧ゲテ賛成シ、又九十七條ノ此ノ排除ニ付キマシテモ、同ジ意味ニ於テ感謝ヲスル、國家ノ爲ニ感謝ヲスルト云フコトデゴザイマス、甚ダ蛇足ナ質問ノヤウデハゴザイマスガ、只今瀧川委員ニ對スル金森大臣ノ御回答ガアリマシタノデスガ、一應御回答ヲ願ヒタウゴザイマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 大河内委員ノ仰セニナル所ハ能ク了解ヲ致シマシタ、併シ此ノ憲法ノ條文ヲ離レマシテ華族全般ガ全體ノ國民ノ中ニ居リマシテ、教養ガ相當高ク、物ニ對シマスル考ヘ方ガ穩健デアル、斯ウ云フヤウナ美點ハ、平均的ニ之ヲ考ヘマシテ、矢張リ社會的ニハ認ムベキモノノヤウニ私ハ考ヘテ居リマス、併シナガラ時代ノ變化ト共ニ、物ノ考ヘ方ガ變ツテ參リマシテ、個人ヲ制度ノ上ニハ平等ニ見テ、本當ノ見方ヲシテ、實質以上ノ形式的ナル效力ヲ考ヘナイ、斯ウ云フコトヲ基礎原理トシテノ一ツノ行キ方ニナツテ來マスレバ、サウシテ其ノ行キ方ガ是認セラレルコトニナツテ來マスレバ、是ハ矢張リ、斯ウ云フ時ニハツキリ問題ヲ解決スルコトガ宜イデアラウト云フ考デ、詰リ原案ハ少シク其處ニ他ノ考慮ヲ入レマシテ、第九十七條ヲ設ケテ居リマシタケレドモ、衆議院ノ意思ガサウデアツテ見レバ、其ノ方ニ御同感ヲ申上ゲタ次第デアリマシテ、其處ニ幾分ノ氣持ノ差ハアルカモ知レマセヌガ、大河内委員ノ仰セラレル所ト違フ所ハナイヤウニ存ジテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 私ソレデ‥‥
○委員長（安倍能成君） 是デ大體全體ニ對スル質疑ヲ終リマシタガ、尚補遺的ノ質疑ガアリマスカラ、サウシテ文書デ以テ質疑ヲサレタ方ニ對スル回答ヲ金森國務大臣カラ煩スコトニ致シマス、先ヅ第一ニ大河内委員ノ質疑ニ對スル御回答ヲ願ヒマス
○子爵大河内輝耕君 私ハマダ、是デノ質問ガチヨツト殘ツテ居リマスガ、其處ヲヤラシテ戴イテ宜シウゴザイマスカ
○委員長（安倍能成君） ソレハ司法大臣モオイデニナラヌトイケマセヌネ、アナタノハ‥‥
○子爵大河内輝耕君 宜シウゴザイマス、財政質問ハ金森大臣デ結構デス
○委員長（安倍能成君） マダ其ノ一般ノ外ニモアリマスカラ、ソレハ後ニシテ戴キマス
○子爵大河内輝耕君 サウスルト何デゴザイマスカ、書面質問ノ方ヲ先ニ御願ヒスルノデスカ
○委員長（安倍能成君） サウ
○子爵大河内輝耕君 ソレデハ宜シウゴザイマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 大河内委員ノ書面ニ依ル御質疑ニ對シテ御答ヘ致シマス、先ヅ第一點ハ、公務員ノ損害賠償ノ範圍如何ト云フ點デアリマス、公務員ガ國ノ機關トシテ其ノ職務ヲ行フニ當リマシテ、故意又ハ過失ニ依ツテ、不法ニ損害ヲ加ヘタ場合ニハ、被害者ハ國ニ對シテ賠償請求權ヲ有スルコトニナツタノデアリマス、而シテ其ノ賠償額ノ範圍ハ、其ノ不法行爲ト因果ノ關係ノアル範圍ニ於キマシテハ、國ハ賠償ヲシナケレバナラヌ、具體的ノ賠償額如何ノ問題ハ、是ハ公正ナル裁判所ニ於テ判定スベキ問題デアルノデアリマス、ソレカラ第二ノ改正憲法草案二十二條ノ‥‥
○子爵大河内輝耕君 ソレニ付テ質問致シタイガ如何デセウ、後ニ致シマセウカ、今ノ十七條ノコトニ付テモウ少シ質問致シタイノデゴザイマスガ、ドウ致シマセウカ、一ツ一ツ切ツテヤルカ、スツカリ濟ンデカラデモ宜シウゴザイマスガ一ツ一ツ切ツテヤツタ方ガ、ハツキリ致シマスカラ
○委員長（安倍能成君） 司法大臣ニ御質問デスカ
○子爵大河内輝耕君 ハア
○委員長（安倍能成君） ソレデハ大河内委員
○子爵大河内輝耕君 今ノ賠償範圍デスガ、賠償ノ範圍ト云フノハ、事實上ノ損害ハ全部含ムモノデスカ、ソレトモ、或具體的ノ標準ニ依ツテ賠償ノ範圍ヲ御限リニナルカト云フコトガ、質問ノ要旨デス、今御話ニ依ルト、裁判所デ決メルンダ、ソレハ當リ前ノ話デ、サウ云フコトヲ伺ツテ居ルノデナイ、具體的ノ範圍ヲ伺ツテ居ルノデ、何カ具體的ノ標準ヲ決メテ、サウシテ是ダケノ賠償ノ範圍ニスルトカ、或ハサウデナク、事實上損害ヲ受ケタモノハ皆賠償シテヤルト云フコトデゴザイマセウカ、サウ云フ點ヲ伺ヒタイノデアリマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、今申上ゲタ通リ、其ノ行爲ト因果ノ關係ノアル範圍ニ於キマシテハ、國ハ賠償責任ヲ負フノデアリマス、具體的ニ是ダケノ行爲ニ對シテハ、幾ラ國家ハ賠償スルト云フヤウナコトハ、法律デ規定シナイノデアリマス、其ノ賠償額ハ結局問題ニナレバ、裁判所ニ於テ判決スルト云フコトニナリマス
○子爵大河内輝耕君 其ノ次ノ御答辯ハ今アラウカト存ジマスガ、其ノ御答辯ノアル前ニ、私少シ此ノ第二ノ問題ニ付テ、此ノ書面質問ヲ補ツテ置キタイト思ヒマスガ如何デゴザイマセウ、宜シウゴザイマスカ
○委員長（安倍能成君） 大河内委員
○子爵大河内輝耕君 私ハ第二ノ質問ヲ致シマス趣意ハ、前提トシテ御斷リ申シテ置キマスガ、親族關係ノ道徳ヲ打チ壤シテシマフナンテ、サウ云フ考ハ少シモナイ、父母ニ孝ニ、兄弟ニ友ニ、夫婦相和シト云フヤウナコトハ是非守ラナケレバナラヌ、ソレカラ家族制度モ一部ニハ存シテ居リマス、確カニ存シテ居リマスガ、ソレヲ一部ニ存シテ居ルモノヲ法律ノ力デ打チ壤スト云フコトヲ申シテ居ルノデハナイ、所ニ依ツテ、ソレガ美風デアレバ、ソレヲ保存シテ置イテ宜イト思ヒマス、唯一面ニ於テ、戸主ヲ尊敬スルトカ、家族制度ヲ維持シテ居ルト云フヤウナコトハ、今ノ現實ノ社會カラ遊離シテ居リマスカラ、法律ヲ以テ之ヲ強ヒテ維持スルト云フヤウナコトハ、是ハ面白クナイコトダト存ジマス、ソレデ、詰リ政府ノ案デ宜カラウト云フコトデゴザイマスガ、ソレデ私ガ伺ヒタイノハ、戸主權、ソレカラ戸主の義務、扶養ノ義務ナンゾアリマスガ、斯ウ云フモノヲ御廢止ニナルコトダラウト思ヒマス、ソレカラ家族制度ニ付キマシテハ、別ニ之ヲ存置スルト云フヤウナ何ハナクテ、法律トシテハモウ無クナルナラ無クナツテモ宜シ、保存スルナラ保存スルデ宜イ、斯ウ云フヤウナ態度デ行クコトダラウト存ジマス、サウシマスト、家督相續ト云フモノハナクナリマシテ、サウシテ遺産相續ノ形ニ依ルト出テ居リマスカラ、男女老若ノ關係ナク、直系卑屬ト云フモノハ皆同ジ地位ニ立ツテ相續サルベキモンダト存ジマス、又遺留分ノ規定ハ、直系卑屬ニ付テハ二分ノ一ヲ認メル、サウシテアト二分ノ一ハドウシテモ宜インダ、ソレカラ其ノ二分ノ一モ直系卑屬ニ依ツテ四人ナラ四人トスレバ、、ソレガ四分サレル、詰リ全體ニ付テノ八分ノ一ダケヲ各人ノ遺留分ニ止メル、尤モソレハ遺留分デアリマシテ、戸主ノ考デ長男ニアトノ二分ノ一ヲ皆ヤラウト云フコトハ、是ハ勝手ダ、斯ウ云フヤウナコトニ解シタイト存ジマス、ソレカラ序ニ伺ツテ置キマスガ、氏デスガ、氏ハ置イテ御置キニナルヤウデスガ、氏ノ癈止ヲ實ハ私ハ希望シテ居ル、併シ是ハ事實ハムヅカシイト思フ、同ジヤウナ名前ガ澤山アリマスカラ、氏ヲ癈メテシマフ、氏ヲ置クトドウシテモ家族制度ヲ置イタヤウニナツテ、面白クナイデスカラ、家族制度ヲ廢シテシマフト云フコトニナレバ、氏ヲ廢止シテシマフガ一番宜イノデスケレドモ、サウスルト、同ジヤウナ名前デ分ラナクテ困ルト云フヤウナコトナラ置イテモ宜イト思ヒマスガ、是モ少クモ或機會ニ、例ヘバ相續シタ場合ダトカ、或ハ憲法ノ改正ニナツタ場合トカ、其ノ際ニ限リ、或ハ又相續デモ起ツタ場合ニハ、其ノ外ノ場合デモ、氏ヲ變ヘテ宜イト云フコトヲ一ツ御認メ願ヒタイト思フ、氏ガ附イテ居ルト、ドウシテモ門地ガ食附イテ居ルカラ、門地ヲ綺麗サツパリトスルニハ、矢張リ氏ガ無イ方ガ宜イシ、アルニシテモ變ヘルト云フコトノ自由ヲ認メラレルノガ宜カラウカト思ヒマス、斯ウ云フ點ヲ前提ト致シマシテ、政府ノ意見ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○松村眞一郎君 議事ノ進行ニ付テデスガ、從來ハ、今日迄ノ審譯ノ方法ガ關聯質問ハ許サレナイコトニナツテ居リマシタ、是ハ一般ノ質問ガ終ル迄ノコトダト思ツテ居リマシタ、今日ニナレバ關聯質問ハ御許ニナツテ宜イト思ヒマスガ、私ハ司法大臣ガ御答ニナルニ當リマシテ、今ノ大河内サンノ質問ト關聯シテ居ルコトヲ御尋ネシタ方ガ、司法大臣ノ御答辯ノ爲ニ便利ダト思ヒマスガ、如何デスカ
○委員長（安倍能成君） 大河内委員ノ御質問ハ終リニナツタノデスカ
○子爵大河内輝耕君 只今國務大臣ノ御答ヲ御願ヒシテ居ルノデス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ松村委員カラ關聯質問ヲ
○松村眞一郎君 私ハ前ニ司法大臣ト家ノ問題ニ付テ、私ト意見ガ一致シタカドウカ明瞭デナカツタノデアリマスガ、親子兄弟ト云フコトヲ申サレマシタカラ、私ハ現在ノ此ノ憲法ノ立テ方ヲ見マスト云フト、夫婦ガアリマシテ、子供ガ出來タ場合ニハ、其ノ夫婦ニ親ニナツテ子ニ對スル關係ニ於テ、親子關係ト云フ見方デハイケナイト云フコトヲ申シマシタ、親子關係ト云フモノハ、夫婦ガ自分ニ親ガアル場合ニハ親モ見ナケレバナラヌト云フ意味ノ親子關係ヲ要望シテ居ルト云フコトヲ申上ゲタノデ、ソレガ婚姻ニ付テモ起ル譯デアリマス、ソレハ私ハ例ヘバ、現行民法ノ七百七十二條ニ斯ウ云フコトガアル、「子ガ婚姻ヲ爲スニハ其家ニ在ル父母ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但シ男カ滿三十年女カ滿二十五年ニ違シタル後ハ此限ニ在ラス」斯ウ云フ規定ガアリマス、私ハサウ云フ問題ニ付テハ、斯ウ云フ考ヲ持ツテ居ル、結婚年齢ト云フモノハ、未成年デ宜イト云フコトハ、現行法ニ於キマスルト云フト、七百六十五條ニ於ケル「男ハ滿十七年女ハ滿十五年ニ至ラサレハ婚姻ヲ爲スコトヲ得ス」トアリマスガ、十七年ヲ超エ、十五年ヲ超エタナラバ、婚姻ハ出來ル、斯ウナツテ居リマス、其ノ規定ガ働キマシタナラバ、今度ノ憲法ノ規定ニ依ツテ、婚姻ハ兩性ノ合意ニノミ依リテ成立スルト云フコトニナリマスカラ、夫婦關係ガ其處ニ出來テシマフ、併シ私ハサウ云フヤウナ場合ニハ、未成年デアルガ故ニ、氏ヲ同ジクスル父母ノ同意ヲ得タ方ガ、日本ノ家族制度ノ本位上、宜シイト云フ考ヲ持ツテ居ル、其ノ意味ハ夫婦ヨリモ上ヲ見ルコトデアル、サウ云フ意味ニ於テ親子兄弟ト云フコトハ考ヘル方ガ健全デアル、未成年ナル子供モ、兩性ノ合意ニ依ツテ婚姻ガ許サレルノデアリマスカラ、サウ云フ場合ニハ、マダ思慮ノ到ラナイモノデアリ、民法ニ於ケル完全ナル能力ヲ持ツテ居ラナイ、婚姻ノ能力ハ完全デアリマセウ、併シナガラ社會的ニ立ツ上ニ於テ完全デナイト云フコトハ、民法自身ガ成年ト認メテ居ナイ、サウ云フ場合ニハ、親ノ同意ヲ得ルガ宜カラウト云フ考ヲ持ツテ居ル、今大河内子爵ノ言ハレル所ノ氏ト云フコトニ付テハ、私ハ斯ウ云フコトヲ考ヘテ居ル、親ガ子供ヲ生ンダ場合ニ戸籍届ヲシナケレバナラヌ、其ノ時氏ヲ同ジクシテ届ヲ致シマス、其ノ子ガ成年ニ達スレバ、子供ノ選ブ所ニ依ツテ氏ヲ變ヘルコトモ宜イト思ヒマス、ソンナ風ナコトハ、是ハ民法ガ考ヘナケレバイケマセヌ、今私ハ思ヒ附キヲ言ウテ居ルノデアリマス、サウ云フ程度ノ家族制度、上ニ親ヲ見ルト云フコトヲ考ヘルコトガ、私ハ日本ノ淳風美俗デアルト考ヘマスカラ併セテ其ノ點ヲ御答ヘ願ヒタイ
○子爵大河内輝耕君 私チヨツト補ツテ置キマスガ、夫婦關係ニ於キマシテハ、斯ウナラウト思ヒマスガ、結婚前ノ財産ハ夫ノ財産トスル、結婚以後ノ財産ハ、夫ノ取ツタモノハ夫ノ方、妻ノ取ツタモノハ妻ノモノニナル、兩方不明ナモノハ共有ニナル、斯ウ云フ風ニ解釋シテ宜カラウト思ヒマス、解釋デナイ、サウ云フ風ニナルコトダラウト存ジマス、ソレカラ又親權ニ付キマシテモ、今チヨツト出マシタケレドモ、親權ニ付テ、相當ナル變更ヲ要スル、併シ、ソレカラ夫ノ權利ニ付テハ、相當ナ變更ヲ要スルダラウト思ヒマス、例ヘバ親權ニ付テ、結婚ノ時ハ父母ノ同意ヲ要スルナント云フコトハナクナツテシマフダラウト思ヒマス、サウ云フ點モ併セテ御考慮ニナツテ、御答辯願ヒマス、今ノ私ノ述ベタノハ、唯例示的ニ色々ナ點ヲ述ベマシタノデスカラ、御答辯ニ付テハ私ノ質問ハ參考程度ニ止メラレ、政府トシテハ私ノ言ツタコトニ洩レタコトモ澤山ゴザイマセウ、ドウゾ包括的ニ、御遠慮ナク御答ヘ願ヒタイ
○松村眞一郎君 私ハソレニ關聯シテモウ一度質問致シタイ、ソレハ妻ナルガ故ニ無能力デアルト云フ規定ハ御止メニナルガ宜シイ、兩性ヲ平等ニ見テ居ルノダカラ當然サウ云フコトニナリマス、「イギリス」ニ於ケル「マリード・ウーマン・プロパテイ・アクト」サウ云フ思想ハ脱却シナケレバナラヌ、サウ云フ考ヲ持ツテ居ル、兩性平等ト云フコトニナリマスカラ、妻ガ無能力ニナルト云フ意味ニ於テ、夫ノ監督ヲ受ケルト云フ考ハ脱却シテ宜イノヂヤナイカ、殊ニ財産權上ニ色々ノコトガアルカラ‥‥、是ハ私未定稿ノコトヲ申上ゲテ居ルノデス、司法大臣ト雖モ、一方ニ於テ審議會ヲ開イテ居ルノデアリマスカラ、此處デ確定ノ意見ヲ申サレル程、マダ熟シテ居ナイト思ヒマス、サウ云フ譯デアリマスカラ、私ハ司法大臣ガ此處デ御答ニナツタカラト言ツテ、ソレヲ司法大臣ガ何時迄モ守ラナケレバナラヌト、責任ヲ負ハセル氣持ハアリマセヌ、御心持ヲ聽キタイト云フノガ、私ノ要點デゴザイマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 御答ヘ致シマス、憲法草案二十四條、之ニ依リマスルト、個人ノ尊嚴ト兩性ノ本質的平等、之ヲ強調シテ居ルノデアリマス、總テ此ノ憲法ノ建前ハ、個人ノ人格ノ尊重、男女同等ノ權力ヲ有スルト云フコトガ、基本ニナツテ居ルノデアリマス、從ツテ配偶者ノ選擇、其ノ他財産權、相續、住居ノ選定、離婚婚姻及ビ家族ニ關スル其ノ他ノ事項ニ關シテハ、此ノ原則ニ從ツテ法律ヲ制定シロト云フコトニナツテ居ルノデアリマス、而シテ現在司法當局ト致シマシテハ、此ノ憲法ノ原則ノ線ニ副ツテ民法ノ改革ヲ今企圖致シテ居ルノデアリマス、併シ法制審議會ニ於キマシテハ、只今是等ノ點ニ付テ愼重立案中デアリマス、私ノ手許ニ廻ツテ居リマス此ノ中間報告ニ依リマスルト、今松村委員ノ仰セニナリマシタヤウナ、未成年者ノ婚姻ニ付テドウスルカ、唯兩性ノ合意ノミニ依ツテ出來ルノデアルカ、或ハ又父母ノ同意ヲ要スルモノトスルノデアルカト云フコトデアリマスルガ、是ハ審議會ノ答申ニ依リマシテモ、父母ノ同意ヲ要スルト云フコトガ原則ニナツテ居ルノデアリマス、私モ此ノ點ニ付テハ賛意ヲ表シテ居リマス、結婚年齡ハ男ガ十八歳、女ハ十六歳ニナツテ居リマス、是等ノ者ガ結婚スルノニ、唯男女兩性ノ合意ノミニ依ツテヤルト云フコトハ、危險ガ茲ニ發生スルト考ヘラレマスノデ、未成年者ニ付テハ、父母ノ同意ヲ要スルト云フコトヲ要件トシテ居リマス、ソレカラ妻ノ無能力ノ點デアリマス、是ハ個人ノ尊嚴ト云フコトカラ顧ミマシテモ、現在民法ニ規定致シテ居リマスルヤウナ妻ニ付テノ色々ノ制限規定ハ、是ハ廢止スベキモノデアラウト考ヘテ居リマス、又司法法制審議會ノ答申ニ於キマシテモ、妻ノ無能力ノ規定ハ之ヲ廢止スルト云フコトニナツテ居ルヤウナ次第デアリマス、ソレカラ夫婦ノ財産ノ問題デアリマスルガ、之モ現行ノ民法ノ規定ハ大幅ニ改正サレルコトトナルヤウデアリマス、例ヘバ夫婦ノ一方ガ、日常ノ家事ニ關シテ第三者ト法律行爲ヲナシタヤウナ場合ニハ、他ノ一方ハ、之ニ依ツテ生ジタル債務ニ付テ連帯シテ其ノ責ニ任ズル夫婦連帯性ノ規定ヲ設ケル、或ハ又、夫又ハ妻ガ婚姻前カラ持ツテ居ツタ財産及ビ婚姻中ニ自分ノ名デ得タ財産ハ、其ノ特有財産ガ夫婦ノ孰レニ屬スルカ明カデナイヤウナ場合ニハ、夫婦ノ共有ト推定スルト云フヤウナ規定ヲ設ケラレルコトニナツテ居ルノデアリマス、其ノ他夫婦ノ同居ニ關シマシテハ、是ハ御互ニ相倚リ相扶ケルト云フ原則ヲ民法ノ規定ニ設ケルヤウナコトニナツテ居リマス、其ノ他色々ナ點カラ見マシテ、民法ノ現在ノ規定ハ之ヲ廢止、或ハ改正サレルベキ運命ニ立チ到ツテ居ルノデアリマス、詳細ナ點ニ付キマシテハ、只今十分述ベル機會デハアリマセヌガ、法制審議會ニ於テ愼重審議中デアルト云フコトヲ申上ゲテ置キマス、左樣御承知ヲ願ヒマス
○子爵大河内輝耕君 サウスルト、私ハ色々例ヲ設ケテ御尋ネ致シマシテ、戸主權ハ御廢止ニナルト云フコトダケハ、此ノ間御言明ニナリマシタカラ分リマシタガ、ソレカラ續イテ當然起ルベキ家督相續ノコトヤ、又今ノ家族制度ノコトガゴザイマスガ、ゾレハ今御答ヘ願ヘマセヌデセウカ
○國務大臣（木村篤太郎君） ソレハ脱ケマシタ、恐縮デゴザイマス、御答ヘ致シマス、家督相續ハ廢止ニナリマス、均分相續ノ建前ヲ執ルコトニナツテ居ルノデアリマス、此處デ私ガ申上ゲテ置キタイノハ、均分相續ト云フコトニナツタ結果、我々ノ最モ心配スルノハ、例ヘバ農地ノ如キデアリマス、是デ零細分割サレマシテ、分割デモサレルヤウナコトニナリマスルト、農業經營ニ於テ非常ナ支障ヲ來シハシナイカト云フ懸念ガアルノデアリマス、ソレニ付キマシテ、我々ハ十分ノ考慮ヲ拂ハナケレバナラヌ、例ヘバ此處デ親ガ三町ノ土地ヲ有シテ居ル、五人ノ子供ガアル、親ガ死ンダ場合ニ三町ノ田ヲ五人ノ子供ニ平等ニ分配スル、之ヲ分割スルト云フヤウナコトニナリマスルト、農業經營ニ於テ、果シテ惡イ結果ヲ起ス虞ガナイデアラウカト云フコトノ心配ガアルノデアリマス、ソレ等ノ點ニ付キマシテハ、假令均分相續ノ建前ヲ取ルニ致シマシテモ、十分ニ我々ハ考慮シナクチヤナラヌト云フ考ヲ以テ、只今ソレ等ノ點ニ付テハ、愼重ニ審議中デアルト云フコトヲ此處ニ申上ゲテ置キタイノデアリマス、ソレカラ我々從來ノ家族制度ニ於キマシテハ、祖先崇拜ト云フコトハ、是ハ何處デモ行ハレルコトダト考ヘテ居リマス、普通ノ家庭ニ於テハ、親ノ、或ハ祖先ノ墳墓ヲ守ツテ行クト云フコトガ、是ハ日本ノ、私個人ノ心持デハ良イ家族制度ダト思ツテ居ルノデアリマス、ソレダケハ是非トモ保存シテ行カナクチヤナラヌト考ヘテ居リマス、ソコデ家族ノ中ニ誰カ一人ハ先祖ノ墳墓ヲ守リ、祭祀ヲ續ケテ行クト云フ者ヲ殘シテ置キタイト云フコトデ、其ノ點ニ付テモ考慮シテ居ルノデアリマシテ、例ヘバ、是ハ法制審議會デノ草案デアリマスルガ、ソレヲ考慮致シマシテ、「系譜、祭具及墳墓の所有權は被相續人の指定又は慣習に從ひ祖先の祭祀を主宰すべき者之を承繼するものとすること。」是ハ極ク要領ダケデアリマスガ、此ノ線ニ沿ツテ、只今立案中デアルト云フコトヲ申上ゲタイノデアリマス
○子爵大河内輝耕君 サウシマスト云フト、均分相續ト申シマスト云フト、男女兄弟ノ別ナク、兄弟姉妹皆均分デ、四人アリマスト、四分ノ一ヅツ貰フ、斯ウ云フコトニナルノデゴザイマスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 原則トシテハ結局其處ニ行ク、兩性ノ本質的平等ト云フ所カラ致シマスト、原則トシテハ左樣ニナリマス
○子爵大河内輝耕君 遺留分ノコトハ、私ガ申上ゲタヤウニ、半分ハ直系卑族ノ遺留分ニシテ、後ハ同等デモ宜イノダト解釋シテ宜シウゴザイマスカ、サウ云フヤウニナルモノダト
○國務大臣（木村篤太郎君） 遺留分ノ規定ニハ、矢張リ中間報告ハアルノデアリマス、是ハ確定デナイト云フコトダケハ御承知ヲ願ヒタイト思ヒマス、今申上ゲマス、直系卑屬ノミガ相續人ナル時竝ニ直系卑屬及ビ配偶者ガ相續人ナル時ハ二分ノ一、其ノ他ノ場合ハ三分ノ一ト云フコトニナツテ居リマス、併シ是ハ確定案デハナイノデアリマスルカラ、或ハ今後色々ナ方面カラ檢討サレテ修正サレルカモ知ラヌノデアリマス
○子爵大河内輝耕君 尚一ツ伺ヒマスガ、家族制度ヲ強ヒテ維持スルヤウナ規定、斯ウ云フヤウナ規定ハ御入レニナルコトハ定メシ御反對デアラウト思ヒマス、先程申上ゲタヤウニ、兎ニ角社會ノ大部分ハ、社會カラ遊離シタ制度デスカラ、是ハ法律デ無理ニ維持シテ行クト云フコトハ良クナイ、又アル所ハアルノデ、別ニ無理ニ打チ壞ス必要ハナイ、サウ云フヤウナ規定ヲ御入レニナルコトハ無理ニ之ヲ存置スル、又無理ニ破壞スルト云フ風ナ規定ハ、御入レニナルコトハ御反對デアラウト思ヒマスガ、左樣承知シテ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 家ノ家族ハ、此ノ新憲法ノ建前ト致シマシテハ、所謂戸主ヲ中心トスル家族制度ト云フモノハ、是ハ廢止サレルコトハ當然デアル、併シ夫婦親子ガ相倚ツテ行ク、ソレノ程度ハ、ドコ迄モ維持シテ行キタイ
○子爵大河内輝耕君 ソレハ少シ語弊ガアリマスカラハツキリサシテ置キマス、夫婦親子ハ親族關係、此方ハ維持シテ行クベキモノダト思フ、今ノ家ト云フ戸主ニ對スル關係、斯ウ云フヤウナモノハイケナイト
○國務大臣（木村篤太郎君） 廢止サレル建前ニナツテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 ソレカラモウ一ツ伺ヒマスガ、此ノ改正ヲ樂ニスルヤウナ御考ハゴザイマスマイカ、今松村君カラモ御尋ガアリマシタデスガ、私モソレハ希望シテ居ル、ドウモ何デスネ、二條トカ一條ト言ヘバ御公家サンノ後裔デアルト云フコトハ、誰ガ考ヘテモ分ル、此ヲ置クト門閥ガ起ル、ダカラ氏ナント云フモノハ廢メレバ宜イノダガ、皆權兵衛、太郎兵衞デモ困リマセカラ仕方ガナイガ、或時期ニ之ヲ變ヘルト云フコトヲ樂ニシテ戴キタイト思ヒマス、如何デスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 只今私ハ確定ナ御答ハ申兼ネマスカ、一説トシテ參考ニシタイト思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 モウ一ツ御願ヒ致シマス、此處ニ民法改正要綱案トシテ實ハ政府カラ戴イテ居ルノデスガ、只今伺ツテ居ルト、之ニ付テ政府ガ意見ヲチヤント御決メニナツタ所モアルシ、又御決メニナラナイ所モアルノデスガ、之ヲ一ツ其ノ儘速記録ヘ載セテ戴クト大變是ハ參考ニナラウト、思ヒマス、是ハ委員長ノ御許可ヲ戴キタイト思ヒマスガ、之ヲ讀メバ宜イノデスガ、一々讀ンデ居タラ非常ニ時間ガ掛リマスカラ、如何デスカ
○委員長（安倍能成君） ドウ云フ御趣旨デスカ、モウ一遍
○子爵大河内輝耕君 民法改正要綱案トシテ政府カラ御提出ニナツタ書類ガアル、是ハ非常ニ參考ニナラウト思フ、此處デ讀ミマスレバ、ソレハ自然速記録ニ殘リマスガ、之ヲ讀ンデ居タラ大變デゴザイマスカラ、讀ム代リニ、之ヲ速記録ヘ載セテ戴キタイ
○委員長（安倍能成君） ソレハ憲法全體ノ審議ト云フコトニハ、無論關係ハアリマスケレドモ、一々サウ云フモノヲ速記録ニ載セテ居テハ限リガアリマセヌカラ
○子爵大河内輝耕君 サウスルト、私ハ之ヲ讀ミマスヨ
○國務大臣（木村篤太郎君） 是ハ大河内委員ガ特別ニ御要リ用ダト云フノデ、私ノ方デ實ハ外ニ配付シナイモノヲアナタノ御參考ニ供シタ譯ナンデスカラ、ソレヲ此處デ速記録ニ留メルト云フコトハ、私ハ甚ダ迷惑致シマス
○子爵大河内輝耕君 政府ガサウ云フ御都合ナラ、私ノ誤解デゴザイマシタカラ止メマス
○委員長（安倍能成君） チョット議事ノ進行ニ付テ申上ゲマスガ、今日デ質疑ハ終リタイト云フ大體ノ布望ナンデゴザイマス、ソレデ此ノ憲法全體ノ審議ト云フコトニ付テ關係ノ薄イコトハ、ドウカ御自制ニナツテ戴キタイト思ヒマス
○松村眞一郎君 此ノ委員會ニ對シマシテ、是ハ政府カラ既ニ御配付ニナツテ居ルノデス、民法改正要綱試案ト云フモノハ‥‥、是ハ第四十項迄アリマスガ、之ヲ大河内子爵ハ全部載セヨウト云フ御話デアツタノデスガ、全剖載セルコトハ如何カト思ヒマスガ、今色々司法大臣ト問答ガアリマシタ、私ハソレヲ拜見シテ居ルノデアリマスガ、ソレデ大體或所ハ了解シ得ル譯デス、私ガ尊屬親ニ付テサウ云フコトヲ申上ゲマシタノハ、今日私ハ斯ウ云フコトヲ申上ゲマス、是ハ民法ヲ議スル會ヂヤアアリマセヌ、此ノ委員會ハ‥‥、ソレダカラ私ハ詳シク申上ゲマセヌ、モウ要點ダケシカ申シマセヌ、ソレデ裁判離婚ノ原因ノ中ニ、矢張リ尊屬親ノ虐待ト云フコトガアリマスカラ、是ハ矢張リ親子ト云フモノヲ考ヘテ居ルノダト云フコトニ私ハ了解シテ居ルノデスガ、司法大臣モ大體サウ云フコトヲ御認メニナルト思ヒマスガ、如何デスカ
○國務大臣（木村篤太郎君） 尤モデス、ソレハモウ其ノ通リデス
○松村眞一郎君 ソコデ此ノ要綱ガ四十アリマスケレドモ、其ノ中デ、モウ少シ御考慮願ヒタイト思フノハ、今ノ離婚ノ原因ニ付テノ男女平等ノ關係ノ點、ソレカラ庶子、私生子ト云フコトニ付テノ御考慮、是ハ一夫一婦ト云フ所ニ非常ニ重大ナ關係ガアリマスカラ、御考慮ヲ煩シタイト云フコトデ私ハ質問ヲ終リマス
○國務大臣（木村篤太郎君） 十分考慮致シマス
○子爵大河内輝耕君 私ノ司法大臣ニ對スル質問ハソレデ終リマシタガ、マダ外ニモ書面質問ヲ出シテ置キマシタガ、此ノ次ニ願ヘマセウカ、ソレトモ委員長ノ御隨意デドウデモ宜シウゴザイマス、ドウ云フ御都合ニナリマセウカ
○委員長（安倍能成君） ソレハ憲法ノ條項其ノモノニ付テノ御質疑デアリマシタラヤツテ戴キタイト思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 ソレデハ願ヒマス、私ハ此ノ行政各部ヲ監督スル内閣總理大臣ノ權限強化ノ具體的方法如何、之ヲ質問ヲ致シテ置キマシタノデスガ、其ノ御答ヲ一ツ願ヒタウ存ジマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 大河内委員カラノ御尋ハ、此ノ憲法ノ規定ニ基キマシテ内閣總理大臣ガ内閣ヲ代表シテ行政各部ヲ監督スル、其ノ方法ニ付テ有効適切ナル具體的ノヤリ方ハドンナコトヲ考ヘテ居ルカト云フコトデアラウト思フノデアリマス、是ハ、是カラ實際ノ所ハ段々ト研究ヲシテ行ク譯デアリマシテ、今日概括的ニ御答ヲスルコトハ出來マセヌ、此ノ憲法自身ハ、内閣粗織ノ實在ガドンナ風デアルカト云フコトニ付キマシテハ、大シタ固定シタ形ヲ執ツテ居リマセヌ爲ニ、今ノ指揮、監督ノ規定モ甚ダボンヤリシテ居リマスガ、現ニ考ヘテ居リマスル内閣制度ト云フモノハ、是モ、是カラ具體化サレテ行キマスルカラ、今確定的ナコトハ申上ゲ兼ネル次第デアリマスルケレドモ、大體ノ處ハ、現在ト同ジヤウニ國務大臣ト行政ノ最高長官トガ同一人ヲ以テ兼ネテ行クト云フ行キ方ハ、此ノ儘尊重シテ行クベキモノト思ツテ居リマス、勿論國務大臣ヲ本體トシテ行政長官ヲ附屬ノモノトスルカ、行政長官ノ方ヲ官ノ本體トシテ、ソレガ同時ニ國務大臣ニナルカト云フコトハ、是カラ確定スル問題デアリマスガ、孰レニシテモ、現在ノヤウナ形ニ從ツテ行ク方針ヲ持ツテ居リマス、左樣ニナリマスルト、此ノ行政各部ノ監督ト云フコトハ、事實ハ内閣ニ集ツタ所ノ閣僚自身ノ仕事ニナルノデアリマシテ、非常ニ形式張ツタ監督ト云フモノハナクテモ濟ムト云フ一應ノ結論ニナル譯デアリマス、法律的ニ申シマスルト、左樣ナコトニナリマスルガ、多分大河内委員ノ御尋ハ、サウ云フ形式的ナコトデハナクテ、實際、内閣ガ一ツノモノノヤウニナツテ、而モ痒イ所ニ手ノ居クヤウニ行政ガ行ハレテ行ク爲ニハ、ドウ云フ方法ヲ執ルノカト云フ所ガ、或ハ御主眼點デナイカト思フノデアリマス、之ニ付テハ、今迄ノ内閣ノ行キ方ト云フモノニハ、相當研究ヲ要スベキ點ガアラウト思フ譯デアリマス、ト申シマスノハ、全體ノモノガ、一ツノヤウニナツテ行ク仕組ガ甚ダ不十分デアリマシテ、所謂「セクショナリズム」ト言ツテ居リマスヤウナコトガ、ドウシテモ現ハレルノデアリマス、之ヲ補正シテ十分ノ監督ノ實ヲ擧ゲマスル爲ニハ、一ツニハ先ヅ内閣ノ内部ノ組立ヲシツカリシナケレバナラヌ、併シ是モ憲法ノ法文ダケデ出來ルコトデモ、行政法ノ規定ダケデ出來ルコトデモアリマセヌノデ、主トシテ人間的ノ結合ニ依ツテ行クコトデハアリマスルケレドモ、併シソレヲ憲法ノ上カラハ、特ニ内閣總理大臣ノ地位ヲ強ク致シマシテ、而モ閣員ヲ内閣總理大臣ガ免ズルト云フ方法ヲ執リマシテ、一人ノ意見ノ纒ラザル爲ニ、内閣ノ方針ガ貫ケナイト云フヤウナ危險ヲ防止シテ居ル次第デアリマス、是ハ簡單ナ規定ノヤウデアリマスケレドモ、内閣一體ノ實ヲ擧ゲマスル上ニ、最モ重要ナ規定ト考ヘテ居ル譯デアリマス、次ニ今一ツ重大ナルコトハ、勿論閣僚各々ガ自己ノ職務ノ範圍ニ付キマシテハ、各人ガ責任ヲ執ツテ、内閣ト一ツノヤウニナツテ行クニハ相違アリマセヌケレドモ、併シ各省ノ連絡ガウマク行キマセヌト、殊ニ近代行政ガ複雜化致シマシテ、ドウシテモ其ノ連絡ヲウマクサセナケレバナラヌノデアリマシテ、其ノ連絡ヲウマクサセルト云フコトガ、是ガ實際各省分立シテ居リマシテハ、ナカナカ十分ニハ行キマセヌ、其處ニ總理大臣ガ或程度ニ行政ノ連絡統合ヲ圖ル特別ナル工夫ヲ持タナケレバナラヌト云フコトニナラウト思ヒマス、ソレヲドウヤツテ行クカト云フコトハ、是ハ又從來度々企テテ、而モウマク行カナカツタト云フ問題デアリマスルケレドモ、今成ルベク此ノ方針ニ依ラウトシテ居リマスルノハ、閣僚ノ中ノ若干ノ者ガ、特ニ其ノ連絡ニ付テ總理大臣ヲ援助シテ、其ノ連絡ヲ圖ルト云フ風ニ、總テノ制度ヲ進メテ行カウト云フノデアリマス、經濟安定本部ガ出來マシタアノ行キ道ト云フモノハ、多少サウ云フ風ナ行キ道ノ先ヅ先發隊トシテ、一ツノ將來ノ方針ヲ指示シテ居ルモノデアリマシテ、各省相互ノ間ニ、事實上良キ連絡ヲ執リ、且之ヲ法制ノ上デ調和サセマシテ、最後ノ手段ハ命令權ヲ以テ統一シ得ルト云フ形ヲ殘シテ居ル譯デアリマス、實際命令權ヲ行使スルト云フコトガアリマスレバ、是ハ却テ逆作用ニナラウト思ヒマスルケレドモ、形トシテハ、サウ云フ態度ヲ執ツテ行クコトニナルノデアリマス、尚更ニ細カイ點デアリマスルガ、各省全體ヲ貫キマシテウマク連繋ガ取レテ行カナイト云フコトハ、閣僚ノ問題デハナクテ寧ロ各省ニ割據シ、其ノ中ニ於テ現實ノ仕事ヲ執ツテ居ル所ノ職員ノ各々ノ考ヘ方、行ヒ方ト云フコトニ密接ナ影響ガアリマスルガ故ニ、結局官吏制度全體ノ統一ト云フコト、ソレカラ官吏ノ働キ工合ト云フコトニ付キマシテノ十分ナル注意ヲスル、及ビ此ノ官吏ノ人選等ニ付キマシテノ包括的ナ看取ヲスル、觀察ト迄ハ言ハナクテモ全體ノ注意ヲスル、人事行政サウ云フヤウナ點ニ付キマシテハ事ニ依ルト各省ニ委セナイデ、モウ少シ集中的ナモノヲ内閣自身ニ於キマシテ、全體ノ仕事ノ統一ガ人的ニウマク統轄サレテ行クヤウナ工夫ガ出來ルモノデハナイカト思フ、是ハ全然其ノ方ニ手ヲ著ケテ行カナイト云フノデハナクテ、現在ノ諸種ノ制度ガ其ノ方向ニ向ツテ行ク道程ニアルノデアリマス、大體斯樣ナ構想ニ依リマシテ、是カラノ内閣一體ノ實現ヲ圖ルコトニ致シマシテ、更ニ根本的ノモノハ稍々大仕掛ケナ調査方法ニ依リマシテ、名案ヲ方面カラ戴イテ實現シテ行キタイト斯ウ云フ風ニ考ヘテ居ル次第デアリマス
○子爵大河内輝耕君 只今ノ御説明デ能ク分リマシタガ、全ク是ハ今迄ウマク行カナカツタノデ、非常ニムヅカシイコトデアリマス、内閣ノ意見ガ能ク行ハレルコトハ希望致シマスガ、サウカト云ツテ茲ニ企畫院ナラバ企畫院ト云フヤウナ事務所ガ出來テシマツテ、サウシテソコノ事務所ノ人達ノ言ツテ居ルコトハ、各省大臣ヨリモモツト偉クナツテシマツタリナント云フヤウナコトハ、是ハ甚ダ面白クナイコトダト存ジマス、ソレハ矢張リ各省ノ權限、大臣ノ權限ト云フモノハ重ンジナケレバナラヌ、又同時ニ内閣ノ意思ハ十分ソコヘ浸潤シテ行クヤウニシナケリヤナラヌ、是ハ餘程ムヅカシイコトダラウト思ヒマスガ、ドウゾ一ツ其ノ點ヲ然ルベク卸考慮ヲ願ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） ソレカラモウ一ツ、大河内委員カラ御尋ガアリマシテ、政務官ノ強化ヲ行フ所ノ實行的方法如何ト云フ御話デアリマシテ、是ハ先日モ少シバカリ所見ヲ述ベタノデアリマスルガ、日本ノ實情ニ於キマシテ、政務官ニ關シテ、議會官界ニ於キマシテハ甚ダ十分デナイト云フ感ジヲシテ居リマス、ソレハ一ツノ原因デモアリマセウカ、先日御所見ガ多分アツタト心得テ居リマスガ、政務官制度ト云フモノハ、現在ニ於キマシテハ甚ダ十分ナル働キヲシテ居リマセヌ、或方面カラ見レバ、國務大臣ヲ除イタ政務官ハ無用ナモノデアル、斯ウ云フヤウナ判斷ヲシテ居リマス、他ノ方面カラ見マスルト、事務官ガ跋扈シテ政務官ヲシテ活動ノ餘地ナカラシムル、斯ウ云フ風ニ言ツテ居リマス、世間デ聞キマスルト、ドチラガ何ダカ分ラヌト云フヤウナコトニナリマスルガ、是ハ疑モナク、私ガ何時カモ少シ説明申上ゲマシタガ、國家ノ働キト云フモノハ專門家ノ仕事ト、一般的ノ目デ見ル仕事、此ノ二ツガウマク調和シナケレバナラヌ、一般的ノ目デ見ル、即チ議會等ニ反映シマスル所ノ、國民輿論ノ動向ト云フコトニ依ツテ決ル一般ノ指導方針、其ノ指導方針ノ個々ノ部分ヲ間違ヒナク確實ニ實行シテ行ク所ノ此ノ事務部局、此ノ二ツガウマク組合ハサレナケレバ政治ハウマク行カナイト思フノデアリマス、處ガナカナカ此ノ二ツノ調和ト云フモノガ保タレマセヌ、事務ガ蔓レバ所謂官僚獨善ト云フ形態ガ生ジテ來マスルシ、又或時期ノ如ク特ニ稍々元氣ノ良イ政黨ガ突發シテ勢力ヲ持チマスルト、之ニ依リマシテ行政ガ甚ダ不公平ナ場面ニ發展スル、斯ウ云フコトニナリマス、ソコデ正シイ考ト云フモノハ、此ノ國民ノ心ニ浮ンデ居ル一般動向ヲ代表スル人ガ、矢張リ行政部ノ大部分ヲ滿シ、サウシテ堅實ニ事務ヲ行ツテ行ク者ガ事務ヲ滿シマシテ、此ノ二ツノ中位ノ頭ト云フモノガ出來マシテ、其ノトニ事務ト政務トノ双方ヲ一人デ統轄スルモノガ抑ヘテ行ク、サウシテ此ノ中位ナ頭ト申シマシタ、其ノ事務ノ集團ト政務ノ集團ト云フモノノ下ニ、若干ノ必要ナ職員ガクツ付イテ行クト云フ風ナ姿ト云フモノガ、一番合理的デハナイカ、即チソレニ依リマシテ、下ノ方デハ事務ト政務トガハツキリ分離致シマス、中位ニナリマスルト、事務ト政務トガ密接ニ交渉ヲシ合ツテ、御互ニ所見ヲ披瀝シテ言フベキコトハ言ヒ、讓ルベキモノハ讓ルト云フコトニナリマス、一番頭ニナリマスルト、國務ト政務トヲ一ツノ手ニ合體サセテ現實ニ行ツテ行ク、斯ウ云フ風ニナラナケレバナリマセヌ、ソコデ政務官ノ問題ハ此ノ中位ノ頭ト云フ所ニ起ツテ來ルノデアリマス、事務ト政務トガ各々ソコデ交渉シ合ツテ二者ノ共ニ宜シイト云フ點ニ於テ最後ノ方針ヲ決メル御膳立ヲスルト云フ所ガ出來ナケレバナリマセヌ、ソレヲ考ヘマシテ、一方ノ政務ノ中心ヲ普通ノ意味ノ政務官ニスル、事務ノ中位ノ中心ヲ稱シマシテ、是ハ何ト言ヒマスカ、普通ノ事務次官ガ之ヲ擔任シテ居ル譯デアリマス、一口ニ申シマスト、政務次官ト事務次官ト云フ者ハ色々ナ考ヘ方ハアリマセウケレドモ、私ノ今迄ノ考ヲ持ツテ行ケバ、事務ト政務ト事柄ハ分レルケレドモ、大體對立シテ御互ニ縄張リヲ持ツ、頭ノ所ニ行ツテ大臣ノ所デ之ヲ統一スル、斯ウ云フ行キ方ガ恐ラク經験ニ徴シテ一番正シ行キ方デハナイカ、多年「イギリス」ニ發達致シマシタ所ノ政務官制度ト云フモノモサウ云フ風ニ出來テ居ルノデハナカト思フノデアリマス、現在ノ日本ノ政務官制度モ建前ハ其ノヤウナ風ニ出來テ居ルト考ヘテ居リマス、處ガ之ヲ實行致シマスル爲ニハ、事務官ノ方ニ一ツ十分ナル雅量ガナクチヤイカヌ、自分達ノ職務ノ範團ヲ確實ニ認識シテ、無暗ニ政務ニ頭ヲ入レナイ、斯ウ云フ一ツノ精神修養ガ出來ナケレバナリマセヌ、又政務官ノ方ニ於キマシテハ、實際事務ノ大部分ニ明ルイト云フダケノ經験ト識見ガ出來ナケレバナラヌノデアリマス、サウ云フ風ニ漸次良イ經驗ガ出來テ來ルト云フコトヲ私共ハ樂シミニシテ眺メテ居リマシタ、此ノ戰爭中ノ極端ナル政治變化ニ依リマシテ、此ノ政務官タルベキ方面ノ人ガ事務ニ付テ興味ト言ヒマスカ、ソレニ對スル知識經驗ト云フモノガ甚ダ乏シクナリマシテ、其ノ後ヲ承ケマシテ現在ノ政務官、事務官ノ對立問題ガ起ツテ來テ居リマスル爲ニ、ドウシテモソコガウマクハ行カナイノデアリマス、過去ニ於キマシテ此ノ議會ニ對スル説明ハ政務官ガ當ル、斯ウ云フ原則ヲ樹立致シマシテ、普通ノ事務次官ハ議會ニハ出ナイ、政務次官ダケガ議會ニ出ル、極ク細カイ所ハ別ト致シマシテ左樣ナ方法ヲ執ツタノデアリマスケレドモ、是ガ種々ナル實際上ノ必要カラシテナカナカウマク行カナイ、場合ニ依ツテハ事務次官ニ依ツテ事務ノ方ノ説明ガ聽キタイ、斯ウ云フヤウナ議會ノ御希望モアツタコトヲ聞イテ居リマスルガ、ウマク行カナイノデアリマス、此ノ段階ヲ眺メ渡シテ、將來ドウ云フ風ニシテ此ノ政務官制度ヲ完備サシテ行クガ宜イカト云ヘバ是ハ制度バカリデハイカナイ、人間ノ頭ヲ切替ヘルト云コトト、良キ慣習ヲ作ルト云フコト、即チ制度ト良キ慣習ト人間ノ頭ノ切替、此ノ三ツヲハツキリサセナケレバナラヌノデアリマスルガ、結局狙ヒ所ハ先ヅ其ノ事務官ノ頭ヲ切替ヘテ政務ト云フモノ自分達ガ關與スルモノデハナイ、其ノ代リ事務ノ方ハ正確ニ勤勉ニ業績ヲ擧ゲテ行ク、斯ウ云フ一ツノ頭ノ切替ヲシテ行ク、ソレカラ政務官ノ方ニ於キマシテハ、矢張リ職權ト云フモノハ事務ト相助ケ合ツテ、サウシテ最後ノ結論ヲ得ルヤウニ努力スルノデアツテ、徒ニ事務官ヲ抑ヘルノヂヤナイ、同時ニ事務官ニ繩張リヲ侵サレルノデハナイ、ト云フ風ニ頭ノ切替ヲシツカリ致シマシテ、ソレカラ制度ノ上ニ於キマシテハ事務ガ擔任スル場面ト、政務ガ擔任スル場面ト云フコトヲハツキリサセマシテ、今日各省ニアリト言ハレテ居リマスルヤウニ、政務官ニハ餘リ深入リシタ仕事ヲサセナイ、知ラヌ顔ヲシテ事務ノ方デ伏シテシマツテ居ル、アルカナイカ知リマセヌケレドモ、サウ云フコトガアツタコトト傳ヘラレテ居リマスガ、サウ云フ妙ナコトヲヤツテハイカナイノデアリマス、政務官ノ當然ノ權能ノ範圍内ノコトハ十分事務ノ方カラ連絡ヲ執ル、斯ウ云フ風ニ行キマシテ、更ニ今度ハ政務官ト云フモノガ本當ニ國民ノ輿論ノ歸著スル所ヲ自分ノ身ニ體驗シナガラモ、各部局ノ事務ヲモ相當ノ程度了解シ得、例ヘバ議會ニ對スル諸般ノ交渉モ相當ノ分量自分獨自ノ判斷デヤツテ行ケルト云フ位ニ其ノ政務官ノ修練ガ出來ナケレバナラヌノデアリス、サウ云フヤウナ、種々ナル角度ニ於テ之ヲ實現シテ行クヨリ外ニ好イ途ハナイト考ヘテ居リマス、從ツテ是ハ制度ダケデハ出來ナイ、徐ロニサウ云フ方向ニ向フヘキモノデアラウトマア存ジテ居リマス、甚ダ十分研究シテ居リマセヌガ、此ノヤウニ考テ居リマス
○子爵大河内輝耕君 サウスルト制度ノ改正ニ付テハ、マダ具體的ナ御考ハナイノデスカ、殊ニ先日申シタノデハ、今迄事務官ガ占メテ居ル重要ナ「ポスト」ハ政務官デモヤレルト云フヤウナ風ノ途ヲ御開キニナツタラドウカト云フヤウナコトヲ申シタノデスガ、マダサウ云フヤウナコトニ付テハ御答ハ出來マセヌカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 政務官ヲ入レルト云フ御言葉デ仰セニナリマシタケレドモ、ソレハ本來二ツニ分ケテ考ヘナケレバナラヌト思フノデアリマス、私共ノ政務官ト云ツテ居リマスルノハ大體内閣ト共ニ迭ツテ行ク、國民ノ心持ヲ其ノ儘身體ニ現シテ居ルト云フ人ヲ指シテ居ルノデス、サウ云フ人ガ先ヅ省ノ比較的下ノ方ノ事務ニ近イ所ヲヤツテ居リマシテ、内閣ノ迭ハル度ニ事務ガ手ニ付カナイト云フト面白クナイト存ジマス、大體中位ノ頭ノ附近ト云フ所ニハ、何人カハ別々ニ置カナケレバナリマセヌカ、其ノ邊ニ仕事ヲ持タシテ宜イト思ヒマス、ソレカラ各部局ノ地位ヲ擔任スル官僚デナイ所ノ廣イ世間カラ經驗ト知識ヲ集メテ來テ居ル、斯ウ云フコトガ必要デアリマシテ、ソレハ廣イ經濟人、文化人ト云フモノヲ純粹ナ此ノ事務系統ノ中ニ入レルト云フコトハ必要デアラウト思ヒマス、今日ノ役人ト云フモノハ沙彌カラ長老ニナツタト云フヤウナ格言ノヤウニドカラ上ニ行キマスル間ニソレハ確カニ事務ニ慣レテ行キマスルケレドモ、ドウシテモ政府ニ生キタ世間ノ認識ト云フモノガ乏シイト云フコトハ、是ハ防ギ得マセヌ、ソレヲ滿ス爲ニハ廣イ世間カラ人ヲ取ツテ來ナケレバナラヌ、ソレハ政務官デハナクテ、何ト申シマスルカ、人材ヲ廣ク現實ノ面カラ取ツテ行クコトガ必要デアラウト思ヒマス、其ノ方面ハ恐ラク時代ノ要請ト云フノデアリマセウケレドモ、今日漸次行ハレテ居リマシテ、殊ニ金融トカ經濟トカ云フ部面ニソレガ行ハレテ居リマシテ、是ガ自然擴ツテ行クノデアリマス、サウ云フヤウニ考ヘテ居ル次第デアリマス
○子爵大河内輝耕君 能ク分リマシタ、ソレデ私一ツ御詑ビシナケレバナラナイノハ、先程司法大臣ガオイデノ時ニ言ツテシマヘバ宜カツタノデアリマスガ、質疑ノ順序ニナツテ居リマシタモノデスカラ、質疑ノ順序ヲ逐ツテ行ツタノデ、司法大臣ガ御退席ニナツテ甚ダ金森大臣ニハ御迷惑ダト思ヒマス、斯ウ云フヤウナ質問ヲシタノデス、民事、刑事以外デ司法ニ含マレル範圍ガ、甚ダボンヤリシタ考ヘ方デスガ、詰リ行政裁判ノ範圍ヲ今カラ見レバドレダケ擴張スルカト云フコトヲ伺ツタノデスガ、金森大臣カラ伺ヒマセウ
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ行政裁判所ヲ廢メマシタ結果トシテ、行政上ノ訴訟ヲ何處迄普通ノ今回ノ司法系統ニ移シテ行クカ、斯ウ云フコトニナルノデアリマスルガ、今實質ニ付テハ研究中デアリマス、ソレデ今迄ノ日本ノ行政訴訟ノ建前ハ、今度ノ憲法ニアリマスルヤウニ非常ニ狹イノデアリマス、殊ニ行政部ニ取ツテ非常ニ痛イト云フヤウナ問題ハ、行政裁判所ヘ行カナイヤウニ相當注意深ク仕組ンデアルノデアリマス、左樣ナコトガ宜シクナイト云フコトハ言フヲ俟タナイノデアリマス、例ヘバ特ニ警察上ノ處分關シマスルヤウナ問題ハ、存外ニ法律的問題デアリマシテモ、色々ナ、私カラ言フト甚ダヲカシイノデアリマスケレドモ、規定以上ノ巧妙サニ依ツテソレガ抑制サレテ居ル、斯ウ云フコトガアリマス、サウ云フコトハ此ノ憲法ノ建前ト共ニ飛躍的ニ改正ヲシナケレバナラヌ、斯ウ考ヘテ居リマス、併シナガラ何處迄之ヲヤツテ行クカト云フコトニナリマスルト、矢張リ行政ノ中ニハ相當ノ比較的自由ニ近イ判斷ヲスル部面カアリマシテ、ソレガ一々訴訟ニ現レルト云フコトニナリマスルト、行政ヲ擔任スル人ガ臆病ニナリマシテ、其ノ結果却テ行政ノ能率ヲ擧ゲ得ナイト云フ危險ガアルノデアリマス、其ノドレダケガドレデ、又ハドレグケガソレ以下ノコトカ、其ノ自由裁量ノ範圍ニ任セテ處置シテ宜イカト云フコトハ仔細ニ研究シテ行カナケレバナラヌコトト思ヒマス、今ノ建前ハ、漸次是ハ法律ヲ以テハツキリシテ行カウ、併シ此ノ際飛躍的ナル進展ヲ企テヨウ、斯ウ云フ風ニ實際研究中ナンデアリマス
○子爵大河内輝耕君 給與ノコトハ是ハ入リマセウカ、給與ノコトハ行政裁判ニ入リマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 給與ト申シマスルカ、所謂法律其ノ他デ決ツテ居ル公務員ノ給與、是ハ公法上ノ權利ダト云フコトデ裁判所デ取扱ハナイト云フノガ今迄ノ解釋デアリマシテ、其ノ結果實際上ノ權利ハアツテモ取レナイト云フ譯デアリマスネ、其ノ部分ハ然ルベク今回ノ制度ニ依ツテ裁判所ニ行クヤウニシナケレバナラヌト云フコトハツイ此ノ間司法大臣ガ説明シテ居リマシタシ、私モ左樣ニ考ヘテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 尚二、三點チヨツト伺ヒタイノデスガ、此ノ間財政ノ時ニ私缺席シマシテ後ハ廻リマシタガ、是ハ後廻シニ致シマスカ
○委員長（安倍能成君） ソレハ後廻シニシテ下サイ、佐々木委員
○佐々木惣一君 私モ是迄私共ガ質問シマシテ皆サンカラモ出マシタ事項ニ付テ補遺的ナコト、同時ニ個々ノ一ツ一ツデナシニ二箇以上ノコトガ關聯シテ、從ツテ憲法全體ニ關聯スルヤウナコトニ限ツテ御尋ネシタイト思フノデアリマス、其ノ第一點ト致シマシテハ、前文ト上諭トノ關係デスガ、是ハアレデアリマスネ、此ノ間チヨツト御尋致シタノデスケレドモ、ハツキリトシテ居ナイノデ、御尋ネスルノデスガ、此ノ一體今ノ前文前文ト申シマスケレドモ、是ハ今日ノ制度上ニ於テハ、上諭トマア言フベキモノデハナイカト私ハ思フノデアリマスガ、是ハ外國文ナドヲ見マシテモ、此ノ憲法ニ關セズニ、例ヘバ日本ノ今ノ上諭ト云フモノハ總テ「プレアンブル」ト云フ文字デ出ル、ソレカラ新憲法ヲ批評シテ居リマスル外國ノ論文ナドヲ見マシテモ、皆「プレアンブル」ト云フコトヲヤツア居ル、サウ致シマスルト、此ノ上諭ト前文ト云フモノトノ異同關係ト云フモノハ頗ル不明瞭ニナツテ來テ、實ハチヨツトサウ云フコトヲ御尋ネシタノデアリマスケレドモ、ドウモハツキリシナイカラ私ハ御尋ネ申上ゲテ、更ニ一體今回新憲法ガ出來テ御發布ニナリマスル時ニ上諭ト前文トヲ一ツニシテ、言ヒ換ヘテ見レバ、前文々々ト云ツテ居ルノヲ上諭的ナ形ニ直シテ、サウシテスベキモノデハナイカ、之ヲ前文附ノ日本國憲法ナルモノヲ發布シテ、更ニ上諭ヲ附ケルト云フヤウナコトハ、ドウモ工合ガ惡イノヂヤナイカト、私ハ實ハ思フノデアリマスルガ、其ノ點ハ如何デゴザイマセウカ、チヨツト申シマスルガ、私ハ先刻來御尋ネ申上ゲタ法文ノ中ニ、是ハ法文トシテハ要ラヌト云フコトヲ申上ゲタノハ、ソレハ其ノ内容ガ要ラヌト云フコトヂヤナイノデス、從ツテ此ノ九十七條ノ最高法規ノ規定ノ如キハ、前文又ハ上諭ニ入レテ九十七條ノ如キモデスネ‥‥、ソレカラ又九十八條ノ第二項、第九十九條、唯併シ九十八條ノ第一項ダケハ是ハ皆サンノ御解釋ト少シ違フヤウデスガ、是ハ矢張リ經過的ノ規定ナンデス問題ハ、是ハ外國ノ規定ヲ模倣シタノデハナイト云フ金森大臣ノ立場ヲ取ル限リニ於キマシテハ是ハ經過的ノ規定デアリマシテ、從來ノ國家行爲ノ效力ガ此ノ新憲法ニ依ツテドウナルカト云フコトヲ決メテ居ルノデ、現行憲法ニ依レバ、帝國憲法ノ七十六條ニ該當スルモノデアリマス、デアリマスルカラ、是ハ上諭トカ、前文トカ云フモノト全然其ノ性質ガ違フ、デアリマスカラ最高法規トカ何トカ云フ中ニ入レベキモノデナイノデアリマシテ、私ノ考ニ依リマスト云フト十章ノ最高法規ハ九十七條、九十八條第二項、九十九條ノ此ノ三者ハ皆是ハ上諭又ハ前文ノ中ニ入レテシマフ、サウシテ九十八條第一項ハ最後ニ持ツテ來ル、百何條ニナルカ知リマセヌガ、此ノ憲法ガ行ハレレバ是迄ヤツタコトハドウナルカト云フコトニナルノデアリマスカラ、是ハ其ノ最後ノ一番オ終ヒニ持ツテ來ル、斯ウ云フコトニスルコトガ一體本當ヲ言フト整フノデハナイカト思ヒマス、其ノ點ニ付キマシテ大臣ノ御意見ハ如何デアリマスカ、私ハ今コンナコトヲ言ツテ見テモ、實際問題トシテハサウ云フコトハ出來ヌコトハ分ツテ居リマスガ、併シ理論的ニ御尋ネスルノデアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 御説ノ御趣意ハ、從來ノ日本ノ國法ノ作リ方カラ行キマスレバ、左樣ナノガ普通ノ考ヘ方デアラウト思ツテ居リマス、併シサウ云フ風ナ行キ方ガ宜イカドウカト云フコトニナリマスルト云フト必ズシモソレハ宜イト思ヒマセヌ、矢張リ斯樣ニ一ツノ法典ノ中ニ各個ノ條文ガアリマシテ、其ノ前ニ一ツ一ツ權利内容、義務内容ヲ書イテ見マセヌデモ、ソレガ其ノ權利義務ノ規定ノ前提トナリ、條件トナリ、釋明トナリ、方針トナルト云フ類ノモノガ含マレテ居ル、ソレハ餘リ澤由含マレテハ困ルカモ知レマセヌガ、適當ナ分量デ含マレテ居ルト云フコトハ一ツノ立法ノ新ラシキ形式デアリマシテ、是ハ前カラ申上ゲテ居リマスルガ、此ノ國家ノ成文法ト云フモノヲ冷ヤカナル唯權利義務ノ結晶ト見ルト云フ一ツノ考ヘト、サウデハナクソレニ肉モアリ、血モ流レテ居ル所ノ一ツノ作リ上ゲタモノト見ル考ト二ツアリマシテ、是ハ立法ノ體裁ニ關スル二ツノ思想ノ流レガアツテ、之ニ其ノ各々ノ學者ニ依ツテ提唱セラレテ居ルト思ツテ居リマス、日本ノ法典ト云フモノハ冷ヤカナル系統デアリマシテ、權利義務ニ關スル規定及ビ之ニ接近スルモノ以外ハ加フベカラズト云フノデ骨拔キニナリマシテ、實際ハ註釋ヲ持ツテ來ナケレバ分ラナイト云フヤウナ風ニ出來上ツテ來タノデアリマス、此ノ憲法ハソレトハ違フ方ノ行キ方ヲ採リマシテ、ソコデ此ノ前文ト云フモノガアリ、前文ト各個ノ條文ト云フモノハ、御互ニ對照シ合フ關係ニ於キマシテ双方ヲ讀ムト權利義務モ分ルシ、其ノ由ツテ來ル所ノ所以モ分ル、將來ノ理想モ分ルト云フヤウニ出來テ居リマシテ、サウ云フモノハ國ノ意思決定デ作ルト云フコトガソンナニ惡イコトデモヲカシイコトデモナイ、是コソ日本ノ立派ナ將來普通ノ法律、政令ノ面ニ於テモ行クベキ一ツノ途ヲ示シテ居ルモノト思ツテ居リマス、斯樣ニ考ヘマシテ此ノ憲法ニ前文ガアルト云フコト不思議デハナイ、外ノ例ヲ取リマスレバ、先ツ條約ヤ何カニ斯ウ云フ前文ノ附イテ居ルコトハ普通ノコトデアリマス、ソレカラ更ニ新シイ社會的ナ内容ヲ盛リ込ンデ居リマスル法律ナシカハ、日本ノ現ニ出來テ居ルモノデモサウ云フ姿ニ於テ斯樣ナ前文ガ盛リ込マレテ居リマス、其ノ形ヲ取ツテ斯ウ云フコトニナリマシテ、今此ノ前文ヲ「フレアンブル」ト申シマスカ、何ト申シマスカ、英語ノコトハ存ジマセスゲレドモ、兎ニ角是ハ國會ノ議決ヲ經タル所ノ一ツノ成文ニナル譯デアリマス、サウスルト之ヲ今度公布セラレマスル時ニハ、其ノ公布スルニ付テ、公布スル所以ノ旨ヲ明カニ示サレル所ノ一ツノ文章ガ之ニ加ハル譯デアリマシテ、ソレヲ何ト申シマスカ、我々ハ上諭ト言ツテ居リマス、今迄ノ形ニ於キマシテハ「エンアクティング・クローズ」ト云フ言葉ヲ使フ、英語ノコトハ知リマセヌガ、サウ云フヤウナ言葉デ言ヘルト思ヒマス、今ノ法律等ノ形デ言ヘバ、朕何々法ヲ裁可シ、茲ニ之ヲ公布セシムト云フコトガアル譯デアリマス、其ノ何々法ヲ裁可シ、茲ニ之ヲ公布セシムト云フ時ニ、モウ少シ又必要ナ内容ヲ加ヘマシテソレヲ敷衍シ、能ク其ノ趣旨ノ明カニスル、斯ウ云フコトモ考ヘラレマシテ、憲法ノ場合ニ於キマシテハ左樣ナ意味ニ於キマシテノ重要ノモノト考ヘテ居リマスルコトハ、今日ノ公式令ノ確カ第三條ノ規定ニ依ツテ明カデアルト思ヒマス、サウナリマスルト此ノ憲法ニ付キマシテハ初メニ上諭アリ、ソレカラ日本國憲法ノ前文ガアリ、ソレカラ又各條文ノ中ニ其ノ條文ニ相應ハシキ一種ノ特殊ナ餘リ冷ヤカデナイ規定ガ入ツテ居ルト云フコトニナリマスレバ、ソレガ互ヒニ相補ツテ一ツノ中核ヲ成スノデアリマスカラ、格別ノ不思議ハナイト云フ風ニ考ヘテ居ル次第デアリマス
○佐々木惣一君 能ク分リマシタ、私ハ此ノ憲法ハ此ノ憲法ガ出テシマツテカラハ別デアリマスケレドモ、此ノ憲法ノ出ルノハ矢張リ天皇ガ帝國憲法及ビ其ノ帝國憲法ニ依ル所ノ諸般ノ制度ニ基イテ御制定ニナル、之ヲ取扱ハレルト云フ立場ヲ取ツテ行クト云フコトヲ言ツテ居ルノデアリマスカラ、此ノ憲法ニ斯ウ云フ新形式ガ宜イカ、惡イカト云フコトヲ中上ゲテ居ルノデハナイノデアリマス、ソレデ此ノ前文、上諭ト云フヤウナモノハ無論今大臣ノ御話ニナリマシタヤウニ、例ヘバ樞密院ノ議ヲ經テ何トカ公布セシムルト云フノモ上諭デアリマスケレドモ、上諭ハ併シ從來既ニサウ云フ形式的ノモノノミヂヤナイノデアリマス、現ニ現行帝國憲法ニ付テ上諭ト云フコトヲ我々ガ言ツテ居リマスガ、レハ今原文ト同ジコトヲ、此ノ新憲法ト同ジコトヲ唯我々ハ上諭上諭ト言ツテ、上諭ノ性質如何ト云フコトヲ論ジテ居ル、皇室典範モ亦増補ノ時モサウ、更ニ進ンデ十年程前ニナリマスルガ、教育審議會ノ官制ト云フコトガアツタ、其ノ時ノ上諭ト云フモノハ、特ニ此ノ教育制度ヲ新タニ考ヘル必要ガアルト云フ所以ノモノヲ示サレマシテ、サウシテ特ニ所謂前文ニ該當スル所ノ上諭ガ下ツテ居ルノデアリマスカラ、上諭ト言ツタツテ必ズシモ茲ニ之ヲ公布セシムト云フヤウナコトヲ言フノヂヤナイ、其ノ法典自身ガ出マスル所以ノモノヲ言ウテ居ルコトハチツトモ妨ゲナイノミナラズ、サウ云フ例ガ澤山アルト思ヒマスケレドモ、ダカラ先刻近代ノ立法ニ於キマシテハ色々御言葉ガアリマシタガ、目的トカ、何トカ云フコトヲ入レルト仰ツシヤツタケレドモ、ソレハ條項ニ入レテ居ルノデス、總動員法、其ノ他總動員法ニ基キマス所ノ諸般ノ法令ニ於キマシテハ、法典ノ目的ト云フモノヲ入レテ居リマスケレドモ、ソレハ詰リ其ノ法ヲ條項ノ第一條ニ大抵入レテ居リマス、サウ云フコトトドウモ少シ違フカト私ハ思フノデスガ、ソレハマア意見デアリマスカラ致シ方アリマセヌガ、併シ私ハ此ノ前文以外ニ上諭ト云フモノヲ置イテ置クト云フコトハ、ドウモ餘リ宜クナイ、前文ト上諭ト云フモノヲ一緒ニシテ、即チソレヲ上諭デアル、サウシテ其ノ中ニ今ノ前文ノ趣旨ナリ、其ノ意味ナリ、或ハ私共ガ申上ゲタヤウナコトヲ御採用ニナリマスルナラバ、九十七條、九十八條、九十九條、サウ云フヤウナモノヲ入レルト云フヤウナ意味ガ宜イノヂヤナイカト思ヒマスケレドモ、ソレハサウ云フコトヲ申上ゲテ、其ノ點ニ關スル質疑ハ止メテ置キマス、第二點ハ新憲法ト社會上ノ意義ト云フヤウナコトカラチヨツト御尋ネ申上ゲタイノデアリマスルガ、其ノ中ノ一ツトシテ此ノ三權分立ト云フ主義ノ運用ニ付テハドウモ此ノ新憲法ノ下デ果シテ其ノ機關ニナツテ居ル人々ノ間ニ、所謂精神的ノ連絡デスカ、金森大臣ノ能ク用ヒラレル言葉ヲ拜借致シマスレバ、心ノ繋リト云フヤウナコトガ果シテ出來ルモノデアラウカドウカト云フコトヲチヨツト御尋ネ致シタイト思フノデアリマス、ソレハ三權分立ト云フコトハ私ガ申上ゲル迄モナク、形ハ似テ居リマスルケレドモ、各國ニ於テ其ノ制度ハ違ツテ居ル、我ガ國ノ現行迄ノ特色ト致シマスル所ハ、外國ノ三權分立主義トハ違ヒマシテ、其ノ機關相互ノ間ニ、單ニ其ノ制度上ノ從ツテ機械的ノ、「ボタン」ヲ押セバポツト動クト云フヤウナ、サウ云フコトデナシニ、立法、司法、行政ト云フモノノ其ノ三機關ノ間ニ何カ心ノ繋リガアルト云フノガ、我ガ國ノ三權分立ノ内面カラ見タ特色デアル、其ノ心ノ繋リハ天皇ヲ中心トシテ、中心ト云フコトヲ申上ゲルノガ惡ケレバ、天皇ヲ媒介トシテ、立法機關モ即チ天皇カラ、法律上ノ言葉ヂヤアリマセヌケレドモ、天皇カラ其ノ任務ヲ委託サレテ居ルノデアル、國家ノ爲ニ立法ヲスル爲ニ‥‥又司法機關モ天皇カラ國家ノ爲ニ此ノ良イ裁判ヲ爲スコトヲ委託サレテ居ルノデアル、行政機關モ天皇カラ此ノ良イ行政ヲ爲スコトヲ委託サレテ居ルノデアル、等シク天皇ヲ媒介トシテ國家ノ爲ニ働イテ居ルト云フ精神的ノ連絡ガアルコトハ實際疑ヘナイノデス、ソレガ同ジク三權分立主義ヲ執リマシテモ、我ガ國ノ三權分立主義ノ實質的、内面的ノ特色デアル、即チ制度的ノ、形式的ノコトヲ言フノデハアリマセヌ、形式ハ同ジヤウデアリマスルケレドモ、内面的ノ特色デアリマシテ、ソレガ私ハ此ノ新憲法ノ下ニ於キマステハ、或ハ弱クナルノデハアルマイカ、斯ウ云フ懸念ヲ持ツノデアリマスガ、併シソンナコトハナイ、ソレハアツテモドウデモ宜イト云フナラ別デアリマスケレドモ、其ノ點ニ付テ先ヅ一應大臣ノ御意見ヲ伺ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 其ノ點ハ國民ノ心持ノ上ニドウ響クカト云フコトノ問題デアリマスルガ、是ハナカナカ測定ハ出來マセヌ、如何樣ニ御答ヲ致シマシテモ、結局ソレノ論據ヲ示スコトハ出來マセヌガ、直感的ニ申シマスレバ、御説ノヤウニ幾分考ヘ方ノ據リ所ガ變ツテ來ルヤウニ思ヒマス、其ノ詰リ人間ガ、或簡單ナコトデ纒マル、思想ニ依ツテ心ノ連結ガ出來ル、是ハ人間ノ習性デアラウト思ヒマス、ト思ヒマスケレドモ其ノ點カラ行キマスルト、幾分影響ヲ受ケルモノト考ヘテ居リマス、併シソレニ代リマシテ國法尊重ト申シマスルカ、憲法ト云フヤウナ根本原理ニ依ツテ我々ハ密接ニ繋ツテ居ルノダ、更ニ其ノ背後ニ於キマシテハ、國民ノ公僕トシテト云フヤウナ風ノ思想ノ方ニ幾分轉回スルモノト考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 能ク分リマシ夕、其ノ國法ヲ尊重スルト云フヤウナコトデ行ケルト云フノハ、即チ人間機械觀デスナ、人間ハ立法機關ニ致シマシテモ、行政機關ニ致シマシテモ、司法機關ニ致シマシテモ、立法ナ人デアリマシテモ同時ニ人間デアル、從ツテ色々ノ感情ト云フモノガアルト云フコトヲ考ヘテ見ナケレバナラヌノデアリマスルカラ、ソコデ私ハ此ノ三機關ニ當ツテ居ラレル方々ノ間ノ心ノ繋リト云フモノガ、從來天皇ヲ媒介トシテアツタ時ト少シ變ツテ來ハセヌカト云フコトヲ申上ゲルノデスケレドモ、モウソレハ是以上ナニシテモ同ジコトデアリマスカラ、其ノ心配ヲ私共ガ持ツテ居ルト云コトヲ申上ゲテ、其ノ點ハ止メテ置キマス、ソレカラ其ノ社會的ナ意味ニ付テノ第二點ト致シマシテ、此ノ新憲法ハ兎ニ角此ノ非常ニ長イ社會生活ト云フモノヲ是デ變ヘテ行ク、變ツテ居ル社會生活ノ上ヲ地盤トシテノ憲法ト云フヨリモ、寧ロ之ニ依ツテ社會生活ト云フモノヲ變ヘテ行カウト云フヤウナ風ニドウモ私ハナルト思フノデス、ソレモ宜イデスガ、サウシマスルト云フト、社會生活ノ作ラレル、社會生活ニ移ル間ノ連絡デスネ、其ノ點ニ付テ少シ心配ガアルト思フノデアリマスルガ、殊ニ此ノ第三章ノ國民ノ權利義務ト云フヤウナコトハ、是ハ法的ノ意味ハ別ト致シマシテ、社會的ノ意味ハ、イツカモ申シマシタヤウニ、國民全般ヲシテ其ノ各々ノ創造的創造力ト云フモノヲ發展セシメテ、其ノ創造的活動ト云フモノヲ是デ導クト云フ爲ノ、サウ云フ效果ヲ持ツモノトシテ、第三章ガ社會的ナ意味ヲ持ツト僕ハ思フノデアリマスルガ、サウ云フ效果ガ擧ル社會的ノ今日ノ實情、地盤ト云フモノガ、ドウモ非常ニグラツイテ居ル、ソレデ例ヘバ小サイ例デアリマスケレドモ、小サクナイト思ヒマスガ、例ノ公職追放ト云フヤウナコトデモ、是ハ已ムヲ得マセヌガ、併シナガラ此ノ公職ノ追放ヲ受ケタ人々ガ果シテ皆社會生活ヲ擔ツテ、サウシテ創造的活動ヲ爲スコトニ不適當ナ人達カドウカハ非常ナ疑問デアルト思フ、公職追放ヲ受ケタ人デモ一般原則トシテハ已ムヲ得ヌデスケレドモ、併シナガラサウ云フ人々デモ、眞ニ其ノ人ノ本質ヲ見ルト、我ガ國社會生活ニ參加セシメテ、創造力ニ參加セシムルト云フコトガ寧ロ適當ナ人ガアリハシナイカト、斯ウ思フノデアリマスカラ、サウ云フヤウナ點ニ付キマシテモ、矢張リ十分ソレ自身必要デアルノミナラズ、新憲法ヲ實行スル爲ニサウ云フ用意ガ必要デアル、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマスガ、是ハ一例デアリマスヨ、サウ云フヤウナ見地カラ此ノ新憲法ノ適用サレル場合ト、社會生活ノ實情トノ關聯ヲドウ云フ風ニ御覧ニナルデアリマセウカ、其ノ點ヲ御尋ネシテ見タイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 新憲法ヲ實行致シマスレバ、ソレニ依ツテ社會的ノ色々ナ變化ガ起ツテ來ルト云フヤウナコトハ固ヨリアラウト思ヒマス、ソレガナケレバ新憲法ヲ作ルト云フコトノ效果モ寧ロ乏シイノデアルト思ツテ居リマス、ソレハ寧ロ之ニ依ツテ變化ヲ作ルト云フノデハナクテ、變化スベキ筈ノモノガ變化ガ遲レテ居ツタ、ソレヲ正シキ姿迄持ツテ行クト云フコトニ此ノ憲法ガ大イナル意味ヲ持ツ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、處デ御質疑ノ中ニ入ツテ居ルカドウカハ能ク分リマセヌガ、左樣ナ形ニ於テ此ノ憲法ガ出來マスル限リ、相當急速度ニ世ノ中ノ人ノ心持ヤ働キ工合ト云フモノガ加ツテ行クト云フコトハ當然ノ結果トナツテ來ルノデアリマス、併シ日本國民ガ果シテソレヲ受入レルダケノ十分ナル教養ヲ持チ、練磨ヲ經テ居ルカト云フコトニナリマスト、茲ニ大キナ問題ガアリマシテ、制度ハ制度ダケデ十分ノ働キハシナイ、是ハ骨組デアリマシテ、其ノ骨組ニ副ツテ左樣ナ社會的變化ガ起リ來ルコトニ對應スル根本ノ準備ヲ別ニ講ジテ行カナケレバナラヌト云フコトハ深ク考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 能ク分リマシタ、兎ニ角此ノ新憲法ヲ制定シテ實行スルコトニ付キマシテハ、今後ノ社會ニ於ケル各方面ノ人々ガ、各々其ノ力ニ應ジテ此ノ新憲法ヲ受入レテ、新憲法ニ依ツテ活動ヲシテ、サウシテ我ガ國ノ發展ト云フモノニ創造的努力ヲ加ヘ得ルヤウナ、サウ云フコトヲ新憲法制定、實行ト云フコトト別ニ御考案ヲ御願ヒシタイト云フヤウナコトヲチヨツト私ハ申上ゲルノデアリマス、其ノ點ニ付キマシテハソレダケ申上ゲマシテ此ノ點ハ止メマシテ、今度ハ第三點デアリマスガ、新憲法ト帝國憲法、現在ノ憲法トノ法的連絡ノコトニ付テチヨツト申上ゲ、御尋ネシテ見ネイ、是ハ前カラノ御話デ、折ニ觸レテサウ云フ問題ガ起ツテ居リマスカ尚最後ニチヨツト御尋ネシテ見タイト思フ、ソレハ其ノ中ノ一ツトシテ、言フ迄モナク此ノ新憲法ガ出來マシタ後ハイザ知ラズ、今日新憲法ヲ制定セラレル所ノサウ云フ任務ヲ爲サルノハ天皇デアリマヒウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣ニ考ヘテ居リマス
○佐々木惣一君 サウ致シマスト、此ノ前文中ニ日本國民ハ云々トアツテ、サウシテ此ノ新憲法ヲ確定スルト云フ、是ハドウデゴザイマセウ、將來ノ憲法制定ニ付テハソレデ宜イカモ知レヌガ、サウ云フコトニスルト云フ、サウ云フ憲法ヲ作ルト云フコトハ天皇ト云フ方ノ御任務ヂヤナイデアリマセウカ、私ハ是ハ牴觸スルト思フノデス、其ノ點デ連絡ト云フモノガ缺ケハシナイカ、サウ云フコトヲ御尋ネシマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ結局天皇ノ御裁可ニ依ツテ此ノ憲法ノ改正ガ出來ルノデアリマス、サウシテ其ノ御裁可ニ依ツテ出來上ツタ新タナル憲法條文ノ中身トシテ是ガ成ルモノデアリマシテ、其ノ時ニ斯樣ナ經過デ出來ダト云フ歴史的ナ事實ヲ主トシテ是ガ書キ現ハシテ居ル譯デアリマス、デアリマスカラ天皇ノ御裁可ト云フコトト矛盾ハシナイノデアリマシテ、天皇ハ御裁可ニナツテ、其ノ瞬間ニ之ヲ見レバ、此ノ憲法ガ如何ニシテ出來タカト云フコトヲ事實ガ書イテアリ、又國民ノ抱負ガ書イテアル、斯ウ云フコトニナルト存ジテ居リマス、從ツテ今是ハ國民ガ制定スルト云フコトニナルノデハナイカト云フ風ノ御質疑デアツタト存ジマスルガ、ソコノ所ハ「この憲法を確定する」ト書イテアリマシテ、相當用意ヲ致シテ居リマスカラ、其ノ邊ノ所デ御了解ヲ願ヒタイト思ヒマス
○佐々木惣一君 少シ私ハマタ實際納得セヌケレドモ、此ノ點ニ付テハ宜シウゴザイマス、ソレカラ最近ニ新聞等デ見マスルト云フト、此ノ憲法ガ制定サレマスト、詰リ式典ガ行ハレル、ソノ式典ハソレゾレ貴衆兩院ガ行フ、ソレニ天皇ヲ御招ギスルト云フヤウナ、サウ云フコトニナツテ居リマスガ、サウ云フコトハ憲法ヲ作ラレルノハ天皇デアルカラシテ、天皇ヲ中心トシタ或ハ政府トカ云フヤウナモノカサウ云フコトニ當ルベキデハアリマセヌデセウカ、ドウデゴザイマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 實ハ私ハ其ノ話ハ全然存ジマセヌ、新聞ニ依ツテサウ云フ記事ヲ見タト云フ程度ノコトデアリマス
○佐々木惣一君 ソレデハ貴衆兩院トシテノ行動ハ別ト致シマシテ、政府トシテノ御考デスネ、政府ハサウ云フ式典ヲ擧ゲルトカ何トカ云フコトノ御考ハアリマスカドウカ貴衆兩院ト無關係ニ、政府ノ御考ヲ唯聽クノデス、ソレハ聽イテモ宜イデセウ、人ノコトデハナイカラ宜イ筈デス、（「モウ宜イ」ト呼フ者アリ）併シ非常ニ重大ナコトナンデス‥‥、ソレカラ次ニハ是ハ金森國務大臣カラ曾テ促サレテ居リマスコトデアルカラシテ、即チ帝國憲法ノ改正トシテハ、詰リ例ノ國體ナラバ國體ト云フ言葉ヲ以テスル國體ヲ變ヘルヤウナ規定ハ出來ナイカドウカト云フコトヲ御尋ネシマシタ時ニ、ソレハドウカ、佐々木ノ方ノ意見ヲ聽クトカ何トカ云フコトニナリマシタケレドモ、ソレハ甚ダ失禮デアリマスケレドモ、金森國務大臣ヲ含メテノ總テノ憲法學者ガ、帝國憲法ヲ改正スルコトニ依ツテ、ソレハ國體ノ變更ハ出來ナイト云フ意見ガモウ一致シテ居ル、デアリマスルカラ之ニ付テ國務大臣ガ私ニ逆襲ヲ戴イタ譯デスケレドモ、此ノ逆襲ハ詳シクハ私ハ議論デスカラ申シマセヌ、ケレドモ、金森國務大臣自身モサウデアルト云フコトダケヲ申上ゲア置キマス、ソレデ十分ナ返答ニナルト思ヒマス、仍テ帝國憲法ノ改正ト云フ方法ニ於テハ國體ノ變更ヲ規定スルコトハ出來ナイノデアル、是ハ實際ニ斯ウ云フコトヲ申上ゲテ置キマス、是ハ法的連絡ヲ取ル所以、斯ウ云フコトニナルノデアリマス、ソコデ今度ハ次ニ最後ニ申上ゲマスルガ、若シ此ノ憲法、新憲法自身ガサウ云フ帝國憲法ノ定ムル所ト反シテ、即チ法的連絡ヲ失ツテ居ルノダト云フヤウナ、此ノ憲法自身ガ現在ノ帝國憲法ニ違反シテ出來タモノデアルト云フヤウナ問題ガ起ツタラドウ致シマスカ、其ノ點ノ用意ハアリマスカドウカデスカ、或ハソンナコトハアリ得ナイト思ヒマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 色々問題ガアリマスルガ、私ハ憲法ニ改正ノ手續ニ依ツテ第一條及ビ第四條ノ現行憲法規定ヲ改正スルコトハ出來ルト信ジテ居ルノデアリマス、而シテ若シ第一條及ビ第四條ヲ一ツノ學説、是ハ私ハ一ツト申シマス、他ニモ學説ガアリマスカラ、其ノ一ツノ學説ノ示スガ如ク國體規定ナリトスレバ、左樣ナ國體ハ憲法改正ノ手續ニ依ツテ變ヘラレルト私ハ明カニ信ジテ居リマス、私ノ過去ノ何十年前ノ書物ガ其ノ反對ノコトヲ書イテ居ルコトハ確カデアリマスケレドモ、ソレハ私ガ度々申上ゲテ居リマシタヤウニ、其ノ時代々々ノ一ツノ必要ニ依ツテ、或限ラレタ範圍ニ於テ議論ヲシテ居タ者ノ眞相迄モ論ニ入レナイデ、現象的ナ面ニ觸レテ言葉ヲ作ル、説明ヲシテ居ツタト云フコトデアリマス、サウシテ私ガ問題トシテ特ニ論議致シタイ所ハ、此ノ憲法ハ私ノ豫ネ豫ネ議場ニ於テ申述ベテ居リマシタヤウナ意味ニ於テ、此ノ憲法ハ何等國體ハ變更シテ居ナイ、又主權ノ所在ト云フコトニ付キマシテハ豫ネ豫ネ申シマシタヤウニ認識ハ變化シタ、多クノ人ニ取ツテ、併シナガラモノ自身ハ客觀的ニ昔モ今日モ日本デハ同ジデアル、故ニ其ノ意味ニ於キマシテ國家ノ其ノ意思ノ源泉ト云フモノニ何等ノ變リハナイ、シテ見レバ憲法ヲ其ノ意思ノ源泉ニ基イテ變ハルト云フコトニ於キマシテハチツトモ不思議モナイ、憲法ノ中斷モ何モナイノダト堅ク信ジテ居ル譯デアリマス、ソコデ此ノ憲法ハ其ノ基本ノ考ニ基キマシテ現行憲法第七十三條ニ依ツテ出來テ、明カニ此ノ憲法ノ法規ト云フモノハ一貫性ヲ持ツテ居ルト云フ點ニ於キマシテ、少數ノ疑フ者カ世ノ中ニアラウト思フソレハ總テノ人ヲ同ジ考ニ導クコトハ事實不可能デアリマシテ、ソレハ巳ムヲ得マセヌケレドモ、併シ中心的ナル人々ノ考ヘ方ハ其ノ點ニ於テ一致セラレテ居ル所デアリ、之ニ對シテサウ云フコトガ若シ問違ツタ考デアツタナラバドウスルカト云フ、用意ガアルカト云フヤウナコトニ付キマシテハ、私ハ御答ヘ申ス餘裕ヲ持ツテ居リマセヌ
○佐々木惣一君 私ハ國體ノ觀念トカソンナコトヲ御尋ネシタノデハナイ、要スルニ此ノ憲法ノ改正ガ現行憲法ト法的ノ連絡ヲ缺イテ居ルト云フ風ナ説ガ將來起ラナイト云フコトハ今大臣御自身ノ仰ツシヤツタ御話ノヤウニ、絶無ヲ期シ難イト思ヒマスカラ、ソレデ私ハ何モ大臣ヲ、政府ヲ責メル譯デモ何デモナイ、サウ云フ場合ニ付テノ御用意ヲ實ハ促シテ置クト云フ氣持デ此ノ質問ヲ出シタノデアリマスカラ、決シテ國體論ヲ今ココニ言ツテ居ルノデハナイ、唯現行憲法トノ法的連絡ニ付テノ色々ナ問題ガ起ル虞ガ十分ニアルカラト云フコトヲ申上ゲタノデアリマス、私ハ之ヲ以テ此ノ質問ヲ終リマス
○委員長（安倍能成君） 山本委員ハ前文ニ付テノ御質問デスガ、是ハ文章ニ付テナラバ後ノ懇談會ノ時ヤツテ戴キタイ
○山本勇造君 デハ其ノ時デ結構デス
○委員長（安倍能成君） デハ織田委員
○子爵織田信恒君 私前ニ質問ヲ留保シテ居リマシタノデ、極ク簡單ニ御伺ヒ致シマス、私ガ御尋ネ致シマスル心持ハ、第四十三條デアリマスガ、參議院ノ組織ノ色々考ヘマスル上ニ矢張リ此ノ四十三條ヲ明カニシテ置キマセヌト、色色考ヘニクイモノデゴザイマスルカラ、之ニ對シテ疑問ヲ明カニシテ、サウシテ將來參議院ノ組織、構成ニ付テ又色々考ヘテ見タイト思フ氣持デ御尋ネスルノデアリマス、自然私ノ質問以外ノモノデモ參議院ノ構成ニ付テ何カ參考ニナルコトガアリマシタナラバ併セテ御話ヲ願ヘバ甚ダ仕合セダト思ヒマス、先ヅ第一ニ此ノ四十三條ノ規定ハ、是ハ國會ノ性格ヲ明確ニシタ、所謂「デモクラシー」理念ノ基本的ナ看板デアツテ、是ハ私ハ外スコトノ出來ナイ大切ナモノダラウト思フノデアリマス、兩國會ニ對シテ理念ヲ明カニシテ居ルノデ、所謂民主政治ノ根本ヲ茲デ謳ツテ居ルモノデ、是ハ動クコトノ出來ナイモノデアル、斯ウ云フヤウニ私ハ見テ、考ヘテ行キタイト思フノデアリマスガ、其ノ點宜シイデアリマセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 左樣デゴザイマス
○子爵織田信恒君 ソコデ次ニ考ヘラレルコトハ、先ヅ斯ウ云フ一ツノ看板ヲ衆議院ト參議院ノ兩方ノ玄關ニ掛ケタト、斯ウ假定致シマス、サウシマスルト、ソコデ困ツタコトハ、衆議院ト參議院ガ不平等デアル、是ハ今迄ノ御説明デモ明カニ分ツテ居リマスルヤウニ、條文ノ總テカラ見マシテ、衆議院ト參議院ハ、看板ハ一ツデアリマスケレドモ、内容ハ不平等デ、差別ガアル譯デアリマス、サウナツク參リマスルト、此ノ看板ヲドウ云フヤウニ――不平等性ヲドウ云フヤウニ解釋シタラ宜イカト云フ問題ガ私ハ起ルデアラウト思フ、看板ノ方カラ見マスト、是ハ中ガ同ジデアリマスケレドモ、併シ此ノ憲法ハ、政府ノ御説明ニアルヤウニ、兩方ノ不平等、差別ヲ既ニモウ認メテ居ルノデアリマスカラ、ソコデ此ノ看板ヲドウ云フヤウニ解釋スルカト云フコトハ、中ノ實體カラ、實際的ニ此ノ看板ヲ解釋シテ行ク、斯ウ云フ立場ガ必要ヂヤナイカ、所謂英米的ナ解釋ヲ、歸納的ナ解釋法ニ依ツテ、實際的ニ同ジ看板ハ掛ケテアルケレドモ、此ノ解釋ハ中味カラ歸納的ニ斯ウナル、斯ウ云フヤウニ見ナケレバ是ハ矛盾スルノヂヤナイカト思フノデアリマス、ソコデ、尚進ンデ、ソレナラバ、中味カラ此ノ看板ノ「デモクラシー」理念ニ、何處ニ差ガアルノカ、若クハ、何處ニ差等ヲ付ケテ居ルノカト云フヤウニ考ヘテ見マスルト、是ハ選擧ノ問題ニ付テ、選擧權ハ衆議院ト同ジニシテ置キマスケレドモ、被選擧權ノ方ニ工夫ヲ廻ラス、是以外ニ此ノ實體ノ内容ヲ「デモクラシー」理念ニ反シナイノデ、此ノ實體ヲ考ヘル唯一ノ途ハ、被選擧權ノ方面ヲ考ヘル、斯ウ云フヤウニ私ハ思フノデアリマスルガ、如何デアリマスカ
○國務大臣（金森徳次郎君） 同ジヤウナ國民ノ中カラ、何カ此ノ參議院ノ趣旨ニ相應シキ者ヲ選ビ出スト云フ方法ハ、勿論被選擧權ガ其ノ中ノ一ツノ重要ナル點ヲ成スト考ヘテ居リマスシ、併シ單リソレニ必ズシモ止ラナイノデアリマシテ、被選擧權ト云フ言葉ノ擴張トデモ申シマスルカ、選擧區域ノ問題及選擧方法、裏カラ言ヘハ、投票方法ノ問題ガ矢張リ之ニ絡ミ付イテ來ルモノノヤウニ有ジテ居ル次第デアリマス
○子爵織田信恒君 ソレデ大變私ハツキリシテ參ツタノデアリマシテ、詰リ此ノ參議院ノ組織ヲ考ヘマスル時ニ、今ノ被選擧權ノ點ニ付テ一ツ考ヘル、ソレカラ今仰ツシヤツタ投票ノ形式モアリマス、ソレカラ範圍デスカ、ソレモ矢張リ併セテ考ヘテ行ケバ、此ノ「デモクラシー」理念ト相反シナイデ、サウシテ兩院ノ性格ヲ壤サナイ一ツノ組織ガソコノ所ニ生レテ來ルダラウ、大體サウ云フヤウニ私ハ考ヘテ行キタイト思フノデアリマス、聞ク所ニ依リマスト、此ノ參議院ノ選擧ノ形ニ付テハ、各國トモ今非常ニ苦心ヲシテ居ルトカ云フ話デ、日本ニ良イ組織ガ出來レバ是ハマア非常ニ各國ガ眞似ヨウトシテ待ツテ居ルノダ、斯ウ云フ話迄モ聞イテ居ルノデアリマシテ、是ハモウ是非貴族院ニ於テ十分御研究ニナツテ、世界ノ範、良イ御手本ヲ示スヤウニシテ戴キタイト私ハ熱望致シテ居ルノデアリマス、ソコテ只今御尋ネシマシタコトヲ前提ト致シマシテ、組織ノ問題ニ入ラウト思ヒマスカ、是モ細カイコトハ將來ニ殘サレタ問題デアリマスルカラ、サウ云フコトハ私ハ時間ノナイ時ニ御尋ネ申シマセヌテ、唯、骨格トナル所ダケヲ伺ツテ、サウシテ將來色々又考ヘテ見タイト思ツテ居ルノデアリマス、大體私ノ考モ、此ノ政府カラ下サイマシタ參考資料ノ參議院議員選擧法案要綱試案、是ガ大體私ハ行カレルンヂヤナイカト思ヒマスルガ、此ノ中ニ、マア議員ノ定員數ハ約三百、是ハ假定的デ、三百人ニナルカ四百人ニナルカ、モツト先コナラヌト分リマセヌデセウガ、大體其ノ半分百五十人ハ地域代表デアル、アトノ者ガ一ツノ推薦候補ノ形ヲ取ル、マア之ヲ甲種、乙種ト假リニ分ケマスルト、私ハ此ノ甲種ノ方ノ場合ニハ、此ノ儘デ殆ド問題ハナイダラウト思ヒマス、年齡モ三十五歳以上、是モ適當ダラウト思ヒマス、唯甲種、乙種ノ兩方ヲ通ジテ、選擧ニ當ツテ此ノ參議院ノ性格トカ、憲法上ノ職責トカ、參議院議員ノ職責トカ云フモノヲ先ヅ明示スルト云フコトハ、被選擧人ヲ選ブ時ノ一ツノ方針トシテハ必要ナコトヂヤアルマイカ、之ヲ明示スルト云フコトガ一ツ宜イノヂヤアルマイカ、是ハ甲種、乙種兩方ニ通ジテノコトデアリマス、ソレカラモウ一ツハ甲種ノ方ノ場合ニ、一ツノ交替制ヲ此ノ中ニ認メタラドウデアラウカ、此ノ交替制ト云ヒマスノハ、是ハ各地ノ利益代表ミタイナ形ニナツテ居リマスシ、又參議院ノ中ニ於テハ、地方ノ事情ヲ説明シタリ何カスル、大體自分ノ、山形縣ナラ山形縣ト云フモノヲ背負ツテ、其ノ議員ガ大體説明シタリ世話シタリスルコトニナルダラウト思フノデ、是ハ選バレタル府縣ト始終密接ナ連絡ヲ此ノ人達ハ持ツテ居ル方ダラウト思ヒマス、是ガ六年間居ルト云フト、色々其ノ間政治上ノ變化モアリマセウシ、色々ナ、知識ヤ何カニ付テ、初メテ出テ來タ時ト調子ノ變ツテ來ルヤウナ場合モアルダラウト思フ、自然選擧シタ地方ノ方デ、此ノ人ヂヤドウモ不滿足ダ、モツト變ツタ人ト之ヲ代ヘタイト云フヤウナ希望モ起ツテ來ルンヂヤアルマイカ、サウシマシタラバ、其ノ交替制ヲ認メル、但シ此ノ交替制ニ付テハマア是ハ參議院ト協議スル、其ノ地方ト‥‥、サウシテ參議院デハ例ヘバ三分ノ二以上ノ同意ガナケレバ交替ヲ認メナイ、ト云フヤウナ制限ハアリマセウガ、一ツノ交替制ヲ認メル、此ノ交替制ヲ認メルト云フコトヲ、何故私ガ考ヘタカト云ヒマスト、先程申シマシタ參議院ノ性格ヲ明瞭ニ其ノ人ニ示スト上フコトガ一ツアル譯デ、サウシテ又不適當ナ人ガ段々ソレデ以テ選バレテモ、質ノ良イ人ガ出テ來ハシナイカ、斯ウ云ツタヤウナ考カラ、交替制ト云フモノヲ假リニ考ヘテ見マシタ、ソレデ、大體甲種ノ場合ニ、私ガ特ニ考ヘマスノハサウ云フヤウナ點デアリマス、ソレカラ乙種ノ方ハ、是ハ私ハ總テ推薦制度、推薦ト云フ運營ノ上カラ人ヲ選ブ、推薦制度ヲ採ルト云フコトガ宜イノデアル、此ノ推薦ト云フコトガ、先程言ツタ最初ノ理念ト衝突スルカドウカト云フ疑問ハアリマスケレドモ、實際今衆議院ノ選擧ヲ見マスト、立候補ト推薦ト兩方私ハ實行シテ居ルト思ヒマス、形ハ色々違ヒマスガ、例ヘバ一ツノ例デ、尾崎行雄サンガ、此ノ間立候補ハシナカツタケレドモ、土地ノ人ニ推薦サレテ到頭出テシマツタ、實際上ノ話ハ私ハ知リマセヌガ、一應推薦デ出テ居ル、此ノ推薦ト云フモノハ「デモクラシー」ノ理念トサウ衝突ズル考ヘ方デナイノデ、當然衆議院デヤツテ居ルノデ差支ナイト思フノデアリマスガ、唯衆議院デハ推薦ト云フモノハ一緒ニヤツテ居リマスケレドモ、此ノ際ニ制度トシテ分離シテ考ヘルト云フコトデアリマス、乙種議員ト云フ者ハ矢張リ一ツノ推薦ト云フコトヲ基礎ニシテ考ヘテ見タラドウカ、ソレデ茲ニアリマスルヤウニ、推薦ニハ、衆議院モ推薦、參議院モ推薦、二倍ト云フ數ニナツテ居リマス、ソレカラ其ノ外ニモ一般ノ國民モ推薦出來ルヤウニシタラ宜イト思フ、推薦ニハ色々ノ形ガアツテ、例ヘバ一人ガ推薦サレテ出ル爲ニハ五百人以上、千人以上ノ推薦者ヲ要スルトカ‥‥人ハ五百人ト假定シテ宜シウゴザイマスガ、詰リサウ言ツタヤウナ推薦者ニ依ツテ出テ來ル、是ハ何故推薦ト云フコトヲ私ハ考ヘルカト申シマスト、全國的ニ人ヲ求メテ、サウ云フヤウナ錬達堪能ノ人ヲ求ムルト云フコトハ、サウ云フコトハ、サウ云フ人ハ大體ニ於テ自分カラナラウト云フ氣ノナイ所ニ又良イ人ガアルノダラウト思フ、皆ンナニ推サレレバ自分ハ出ルト云フヤウナ立場ノ人ニ良イ人ガアルト思フ、是ハ矢張リ推薦デ、所謂立候補シテ始終演説シテ歩クト云フヤウナ面倒ヲ掛ケナイヤウニシテ、良イ人ガ選バレルト云フコトハ、推薦ニ依ツテ出テ來ルト云フ形ガ、矢張リ錬達堪能ノ士ヲ求ムル、宜イ方法ダラウト思ヒマス、ソコデ一般ノ推薦ヲ認メマスガ、衆議トカ參議院ノ推薦ト云フモノハ、矢張リ選擧人カラ見ルト最モ「ウエート」ノ置カレテ推薦機關ダラウト思ハレマスシ、ソコラ邊ノ所ニ國會トシテ要求スルヤウナ意思モ相當現ハレテ出テ來ルノデハナイカト、斯ウ云フヤウニ考ヘラレルノデアリマス、無論之ニハ色々衆議院ヤ參議院ノ推薦ヲスルトシテモ、茲ニ「ボス」ガ出タリ政黨關係ガアツテ、色々弊害ガアリマスカラ、推薦班ヲ別ニ作ツテ、弊害ガナイヤウニ細カイ途ヲ選バレタラ宜イト思フ、何處カ地方カラ中央ニ來テ、一ツノ國會ニサウ云フ細カイコトハ一覽表ヲ作ツテ、是ハ推薦者ガ五千人ニナルカ、六千人ニナルカ分リマセヌガ、ソレヲ持ツテ歸ルト云フヤウナコトガ考ヘラレル、斯ウ云フコトハ細カイコトデスカラ別トシテ、推薦ニ依ル色々ナ形ヲ考ヘルコトハ必要ガアルト思フ、サウ云フコトハ矢張リ牴觸シナイカ、可能デアラウカト云フコトヲ伺ヒタイ、ソレカラモウ一ツハ、甲種ノ議員ハ三十五歳トシテアリマスガ、乙種ハ四十五歳ト年齡ヲ變ヘテモ宜イノヂヤナイカト思ヒマス、年齡ヲ甲種ト乙種ト變ヘル、是モ一ツノ考ヘ方デアラウ、ソレカラモウ一ツハ選擧區域デアリマスルガ、是ハ乙種ノ方ハ全國的ト云フノガ一ツノ原則デアリマセウガ、大體錬達堪能ノ士ハ山ノ中ニ居ルノデハナクテ、大體大都會ニ集ツテ居ラレルノデ、全國的ト言ツテモ、サウ云フヤウナ大都市ト云フモノヲ中心ニシテ、モウ少シソレヲ區切ツテ行ツタラドウカト云フヤウナ考ヘ方モアリマスガ、是モマダ確定的ニシタ方ガ宜イト云フ譯デハアリマセヌ、尚細カイコトハ、色々澤山集マツテ來タ被推薦人ヲドウ云フヤウニ整理處理シテ行クカ、重複シタヤウナノハドウスルカ、斯ンナコトハ他ノ機會ニ御教ヲ受ケテ見タイト思ツテ居リマス、大體サウ言ツタヤウナ形デ、此ノ參議院ヲ今申シマシタヤウナ形デ、參議院ノ組織ヲ考ヘルト云フコトハ差支ナイモノデアリマセウカ、其ノ點ヲ承リタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 此ノ六年ノ任期ノ場合ニ、甲種ノ議員ニ付キマシテ交替制ヲ認メルト云フ御趣旨ハ、例ヘバ二年位ノ時ニ辭メテ貰ツテ、外ノ議員ガ出テ來ルト云フヤウナ御考ヘ方デアラウト存ジマス、左樣ナ考ヘ方ハ確カニ一理アルトハ思ヒマスルケレドモ、此ノヤウナ謂ハバ國民代表トシテ最高ノ機關ヲ構成スルト云フ風ニ重ンゼラレテ居リマスルモノノ議員ガ、何カ或事情ニ依リマシテ任期ヲ打切ラレ、他面ニ於テ交替スルト云フコトハ、確カニ良イ點ヲ含ンデ居リマスガ、打切ラレルト云フ外部カラノ壓迫ヲ始終意識シテ居ナケレバナラヌト云フ行キ方ガ、果シテ宜イデアラウカドウデアラウトカ云フ點ニ付キマシテハ、是ハドウモ一利一害ガアリマシテ、相當深ク研究ヲシテ貰ハナケレバナラヌノデハナカラウカ、又左樣ナ制度ガ出來ルト致シマスルト、現在ノ草案ノ如ク任期ヲ六年トシ、三年毎ニ半數改選ト云フ規定ト、事ニ依ルト趣旨ノ上ニ於テ衝突ヲ致シマスカラ、此ノ草案ノ條文ノ儘デ正式ニ交替制ヲ認メルト云フコトハ、稍々ムヅカシイデハナイカ、斯ウ云フ氣ガ致シテ居リマス、乙種ノ方ノ選擧ニ付キマシテ、推薦ニ依ル、裏カラ言ヘバ候補者ガ自ラ立候補スルト云フコトヲ止メヨウト云フ一ツノ御意見ノヤウニ思ヒマスルガ、是ハ確カニ一理アルコトデアリマシテ、左樣ナ方向ニ持ツテ行クコトハ、憲法ノ草案ノ精神ト毫モ背馳スル所ハナイト考ヘテ居リマス、實際ドチラガ宜イカト云フコトニ付キマシテハ、色々研究ノ餘地ハアリマセウケレドモ、大體カラ甲シマシテ推薦制ヲ認メルト云フコトハ宜イト思フノデアリマス、唯其ノ推讓ガ非常ニ限ラレタ範圍ニ於テ推薦ヲサレマシテ、其ノ結果形ハ「デモクラシー」ノ選擧ニ依ルト致シマシテモ、結果ニ於テハ「デモクラシー」ノ結果ニナラナイ、或限ラレタ人ノミガ出ルト云フコトニナリマスルト、是ハ確カニ此ノ憲法ノ精神ニ合ハナイト存ジマシテ、今ノ推薦ト云フコトハ、御示シニナリマシタ例ノ如ク、廣ク一般カラ推薦セシムルト云フコトニナリマスレバ、一般ノ人ガドウ云フ風ニ離合集散シテ推薦スルニ致シマシテモ、ソレハ國民ノ輿論ニ依ツテ動イテ居ルノデアリマスカラ、何等不自然ナコトハナイト思ツテ居リマス、尚國會ニ於テ推薦スルノト、一般ノ方面ニ於ケル推薦ト云フモノト、兩方御擧ゲニナリマシタガ、制度ト致シマシテハ全般ニ推薦ガ公平且公正ニ行ハレルト云フコトヲ欲シマスルノデ、議會ガ推薦スルト申シマシテモ、ソレヲ法律的ニ特別ナル權能ヲ與フルト云フコトデナクテ、事實議會ニ居ラルヽ有識者ガ團結シテ推薦セラルヽト云フコトニデモナリマシタナラバ、非常ニ憲法ノ精神ニ結合致シマシテ、一般ノ推薦ノ意思トシテ十分尊重出來ルト思ツテ居リマス、年齡變更ノ點、乙種議員ヨリ甲種議員ヲ年齡ヲ高クスルト云フコトハ、特別ノ問題デアリマシテ、正確ニハ言ヒ切レマセヌケレドモ、別段ニ支障ハナイト云フ風ニ考ヘテハ居リマスルガ、被選擧人ヲドウスルト云フコトハ、第四十四條アタリニ於キマシテモ、特ニ年齡ノ點ニ於テ限定スルコトモゴザイマセヌ、宜イコトデハナイカト云フ風ニ存ジテ居リマス、ソレカラ選擧ノ區域ヲ全國的ニヤラナイデ、大都市ヲ含ンデ居ルヤウナ若干ノ區域ニ日本ヲ分ケテ、其ノ區域デヤラシタラドウカト云フ點ニ付キマシテモ、是モ此ノ憲法ノ建前カラ申シマシテ何等支障ハナイコトト考ヘテ居リマス、唯サウ云フ方法ガ全國一選擧區ニ較ベテ優ツテ居ルカドウカト云フ問題ニナツテ來ヤウト考ヘテ居リマス、私ノ只今ノ考ヲ申シマスト、衆議院デハ、憲法ノ改正ニ付キマシテ附帶決議ヲ附ケラレマシテ、參議院ノ議員ニ付テハ職能代表ノ精神ヲ盛込ムト云フヤウナ意向ガアツタ、ソレハ職能代表ト書イテゴザイマセヌデシタガ、「社會各部門各職域の知識經驗ある者がその議員となるに容易なるやう考慮すべきである」斯ウ云フ風ニ書イテアリマス、勿論各大地域デ選擧セラレマシテモ、知識經驗アル者ガ議員トナルト云フコトニ於キマシテ變リハナイト思ヒマス、事ニ依リマスト全國ヲ一選擧區ニ致シマシタ方ガ推薦母體ガ系統的ニナリ易イノデアリマス、全国ヲ一系統トシテ事實上ノ推薦母體ガ生レテ來マシテ、金融業者ハドウ云フ人ヲ推ストカ、或ハ文學者ハ、藝術家ハト云フ風ニナリマスナラバ、却ツテ一種職能的ナル先覺者ガ選バレル上ニ都合ガ好イヂヤナイカ、斯ウ云フ氣持デ居リマス、此ノ點ニ關シマシテ、全國ヲ一選擧區トシテ投票スルト致シマスト、投票ノ計算ナドニ於テ相當面倒ニナリマスノデ、ドノ位日數ガ掛ルモノカ、是モ試シノ調査デアリマスケレドモ、計算ヲシテ見マスト、少シ餘裕ヲ見マシテ、二十日位アレバ先ヅ間違ヒナク計算出來ルダラウ、少シク馬力ヲ掛ケマスト五、六日ハ節約出來ルヂヤナイカ、斯ウ云フ風ナ意見ガアル譯デアリマス、サウ考ヘテ見マスト、全國的ノ選擧ト云フモノハ實質的ニハ多少ノ煩瑣ハアリマセウ、又考慮スベキ餘地モアリマセウケレドモ、實行上著シク困ルト云フコトハナイヤウナ氣ガシテ居リマス、大體ソンナ考ヲ只今抱イテ居リマス
○子爵織田信恒君 有難ウゴザイマシタ、只今ノ御答辯ノ中ニ少シ誤解シテ居ラレタ點ガアルト思ヒマス、私ガ交替制ト云フノハ、甲種議員ヲ何年毎ニ交替スルト云フノデナクテ交替スルコトヲ得ルト云フコトニシタラドウカ、個人的ニ交替シナイデモ宜イ、ソレガ適當ナ人デアルナラバ六年間ヤツテ決シテ差支ナイ、又地方的ニモ交替サセヨウト思ツテモ、參議院ガ非常ニ良イ人ダト言ヘバ、交替サスニハ三分ノ二以上ノ議決ヲ要シマスカラ、交替サセナイコトモ出來ル譯デアリマスカラ、是ハ任意規定ニシテ、交替シ得ル制度ダケヲ設ケタイ、是ダケ申上ゲテ置キマス、ソレデ私ノ參議院ニ對スル御質問ハ終ツタノデアリマスガ、全體ヲ通ジマシテ二ツ程ノ點ヲ此ノ機會ニ伺ヒタイト思ヒマス、ソレハ今度ノ新憲法ガ國民ノ大部分ヲ選擧ニ依ツテ政治ニ關係ヲ持タシタ、今迄ハ婦人ト云フモノハ選擧權ヲ持ツテ居ラナイ、又一部ノ現役軍人ト云フモノハ政治ニ關與スルコトガ出來ナカツタ、處ガ今度ハ婦人ノ大部分、男子ノ大部分ガ選擧權ヲ持ツテ來タ、是ハ恐ラク私ハ此ノ憲法ノ非常ニ大キナ國民トシテノ喜ビデナケレバナラヌト思ヒマス、此ノ大キナ點ハ將來是非確保シナケレバナラヌモノダラウト思ヒマス、色々ノ事情ノ變化ニ依ツテ此ノ權利ガ薄クナルヤウナコトガアツテハ大變デアツテ、是ハ何トカシテ、選擧權行使範圍ハ別トシマシテ、色々技術的ニアリマセウカラ‥‥、兎ニ角原則トシテ多クノ青年其ノ他ノ國民ガ獲得シタ普通選擧ノ權利ト云フモノハ、何トカシテ保護シテ國家ガ保障シテヤルト云フヤウナ立場ヲ持ツコトハ大切ナコトダト思ヒマス、是ガ一ツデアリマス、ソレカラモウ一ツハ、私ハ總論ノ時カラ御質問シテ居ルヤウニ、私一人ノ觀方カモ知レマセヌガ、新憲法ノ一番ノ山ハ國際平和、第二章戰爭放棄、此ノ平和ノ山ニ登ル爲ニ我々ハ一ツノ「デモクラシー」體制ヲ採ツテ國際間ニ伍シテ行カウト云フ、非常ニ國際的ナ性格ヲ之ニ持ツテ居リマス、此ノ平和ノ條章、之ニ相反スルヤウナコトハ絶對ニ避ケナケレバナラヌ、ソコデ起ツテ來ルノハ、總理大臣トカ國務大臣、政治ノ最高級ニ立ツテ政治ヲスル人ガ、平和ト相反スルヤウナ人ガ立ツタナラバ、是ハ國民トシテ許サレナイデセウシ、國際的ニモ許サレナイコトダト思ヒマス、ソレデ是ハ少シ取越シ苦勞ニナルカモ知レヌケレドモ、國際的ニハ日本ガ又元ノヤウナ形ニナリハセヌカト云フ心配、疑念ハ誰シモ持ツダラウト思ヒマス、無論今度ハ日本ハ武裝ヲ解除シテ居リマスカラ、總テハ「シヴイル」デアリマスケレドモ、將來矢張リ總理大臣トカ國務大臣ト云フモノハ昔ミタイニ軍人ガナルト云フコトヲ避ケテ、「シヴィリアン」ニ依ツテ其ノ地位ガ占ヌラレテ行クト云フコトガ、矢張リ第二章ヲ中心トシテ考ヘテモ將來確保シタイ一ツノ行キ方ダラウト思ヒマス、（拍手）此ノ點一ツ御意見ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 第一ノ御質問ハ選擧ト云フコトニ付キマシテドウ云フヤウナ考ヲ持ツテ居ルカト云フ點デアリマスガ、此ノ憲法ハ固ヨリ國民ノ活動ニ總テノ政治ノ基本ヲ基ケヨウトシテ居リマシテ、前文ニモアリマスヤウニ正當ニ選擧サレタ代表者ト云フコトニナツテ居ルノデアリマス、處ガドウ云フ風ニ選擧ヲ致シマスト正當ニ選擧サレタ代表者ト云フコトニナルカ、法律的ニ言ヘバ、其ノ時々ノ法律ニ依ツテ選擧サレレバ宜イ譯デアリマスケレドモ、サウデハナクテ、實質的ニ國民層トピツタリ當ルヤウナ風ノ選擧制度ガ豫想セラレテ來ナケレバナラヌト考ヘテ居リマス、デ其ノ點ハ此ノ憲法ニ於キマシテ間接ニハ、國民ノ法律ノ下ニ於ケル平等ト云フ規定ニ依ツテ若干ノ基本ヲ示シテ居リマスガ、マア其ノ他ニ常識的ナモノヲ考ヘマシテ、現在ノ衆議院制度ノ持ツテ居リマスル原則ガ恐ラクハ標準トナルベキモノデアラウ、斯樣ニ考ヘテ居ル譯デアリマス、固ヨリ今ノ衆議院ノ選擧制度デモ、ツイ此ノ間大改正ヲ見タバカリデアツテ、國民ニ必ズシモ熟シテ居ル譯デアリマセヌシ、又今迄ノ秩序ニ從ヒマシテ、例ヘバ家族ニ選擧權ガアルカナイトカト云フヤウナ問題ニモ觸レテ居リマシテ、十分トハ言ヘマセヌケレドモ、大體ノ着想ハ衆議院議員選擧ノ原則ト云フモノニ根柢ヲ置イテ居ル譯デアリマス、ソコニ根柢ヲ置イテ居リマス結果トシテ、國會ノ選擧ニ付キマシテ一亘リ第四十四條ニ、選擧人資格ヲ定メマス標準ヲ、人種其ノ他ニ依ツテ差別シテハナラナイ、斯ウ云フ風ニ書イテ居リマス、之ニ依ツテアラカタハ盡シテ居ルト思ハレマスケレドモ、マダ衆議院議員ノ原理ニハ多少ノ差ヲ持ツテ居リマス、此ノ憲法ノ一ツノ缺點トデモ申シマスカ、必ズシモ缺點トハ考ヘマセヌガ、不十分トデモ申シマスカ、衆議院議員及參議院議員ノ選擧ニ付キマシテハ、第四十四條ノ規定ヲ置キマシテ、何處迄選擧權ヲ認メルカト云フコトヲ或ル程度迄ハツキリ致シタノデアリマスガ、地方自治ノ方ナドニ參リマスト、第九十三條ニ「その地方公共團體の住民が直接これを選擧する」ト云フ風ニ書キマシテ、誰ガ如何ナル選擧權ヲ持ツテ選擧スルカト云フコトハ書イテ居リマセヌ、是ハ大體常識ニ依ツテ標準ガアツテ、法律ガ適當ニ定メルデアラウト云フ風ニ考ヘテ居リマスケレドモ、マア嚴重ニ言ヒマスルト、國會ノ場合ニ詳シイ規定ヲ置イテ、其ノ外色色ナ選擧ガアラウト云フヤウナ場合ニ、十分徹底的ナ原則的ナ規定ヲ掲ゲテ居ナイト云フ弱點ノアルモノト考ヘテ居リマス、今御質疑ニ依リマシテソコ迄御答ヲ申上ゲマシタ次第デアリマスルガ、併シ法律ヲ以テドウセ適當ニ定メラルルノデアルカラ、憲法ソレ自身ノ缺點トモ考ヘテ居リマセヌケレドモ、多少ソコニ不十分ナ點ガナイトモ言ハレナイト云フヤウナ風ニ考ヘテ居リマス、次ニ國務大臣、總理大臣ガ軍人ガナルト云フコトハドウカ、斯ウ云フ御質疑デアツタノデアリマス、御説ノ通リ此ノ憲法ハ、第二章ニ於キマシテ戰爭ノ放棄ト云フ規定ヲ設ケマシテ、將來日本ハ國際關係ニ於キマシテ最モ平和的ナ態度ヲ執ルト云フコトヲ闡明シテ居リマス、又統帥ニ關スル規定トカ、其ノ外之ニ關聯スル一切ノ規定ヲ省キマシテ、國内ノ必要ヲ滿タシテ居ルコトハ勿論、國際關係ニ於ケル疑惑ヲ解クコトニ十分努メ、其ノ趣旨ハ前文ニモ明カニシテ居ル次第デアリマス、ソコデ今迄過去ニ於キマシテ職業的ナト申シマスカ、本來ソレヲ望ンデ軍人トナツテ、軍人トシテ大イニ世ノ中ニ努力セラレタト云フコトハ、其ノ當時々々ノ立場トシテハ極メテ正當デアツタ場合ガ多カラウト存ジマスルケレドモ、此ノ憲法ノ建前ヲ執リマスル限リ、左樣ナ職業軍人ノ方々ガ若干ノ世ノ疑惑ノ空氣ヲ持ツテ居ラルル、單リ日本人ガ疑惑ノ空氣ヲ持ツト云フ譯デハナク、何トナク世間ノ目デ疑惑ノ目ヲ持ツテ居ラルルト云フコトハナイデアラウカト云フ懸念ガ起ツテ來ル譯デアリマス、戰ヲ好ム立場デアルカ、平和的デアルカト云フコトハ、其ノ人其ノ人ノ個性ニ依ツテ決ルノデアリマシテ、過去ニ於テ軍人デアツタカラドウト云フコトハ、純粹ナル理論ト致シマシテハ筋違ヒノモノト思ハレマスルケレドモ、事自身ガ非常ニ重大ナルコトデアリ、何トシテモ矢張リ過去ノ經歴ガ其ノ人ノ精神ニ對シテ影響ヲ持チ得ル可能性ハ多イノデアリマスルガ、其ノ點ニ付テ若干ノ考慮ヲ用フベキ餘地ガアリ得ルト考ヘテ居ルノデアリマス、ガ、其ノ中デ最モ神經質ニ考ヘラレマスルノハ、行政權ヲ主管致シマスル内閣ノ構成ニ‥‥ムヅカシク申シマシタケレドモ、結局内閣總理大臣ト其ノ他ノ國務大臣ト云フモノハ非常ニ限ラレタ人デアリマシテ、其ノ人達ガ或一ツノ特殊ナル考ヲ持チマスルト、自然國政全般ノ行キ道ニ大キナ影響ヲ持チマスルノデ、過去ノ閲歴ニ依ツテサウ云フ職分ニナラルルコトノ途ヲ閉スト云フコトハ、一面ニ於テ非常ニ無理ナ點ガアルカモ知レヌトハ思ヒマスルケレドモ、併シ他ノ面カラ申シマスルト、世ノ疑惑ヲ解イテ、又國家ヲ極度ニ安定ニ導イテ行ク、兎ニ角社會的ニ見テ略々許サレ得ル範團ノ判斷ヲ以テ考ヘテ行キマスルト、相成ルベクハサウ云フ人達ガ總理大臣及國務大臣ニナラレナイヤウニスル方ガ宜イノデハナイカト考ヘテ居ルノデアリマス、併シ此ノ憲法ハソレニ付キマシテ特別ナル規定ハ設ケテ居リマセヌ、是ハ御承知ノ通リデアリマス、唯第三章等ノ規定ヲ噛合セテ實際ノ場合ニ恐ラク然ルベキ妥當ナ途ガ講ゼラレテ行クノデハナカラウカ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ別段ノ規定ヲ設ケテ居リマセヌ、精神ニ於キマシテハ大イニ考フベキ問題ガアルト斯ウ考ヘテ居リマス
○子爵織田信恒君 色々有難ウゴザイマシタ、政府ノ御意向ノアル所モ能ク分リマシタ、私ハ最後ノ二ツノ點ハ重大ナ問題ダト思ツテ居リマス、尚能ク御研究願ヒタイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 議事ノ進行ニ付テチヨツト申上ゲマス、今日ハ初メノ豫定シタ所デハ、全體ノ質疑ヲ終ツテ、サウシテ今後ノ方針ニ付テ御懇談致シタイト斯ウ云フヤウニ考ヘテ居タノデアリマシタガ、意外ニ御質疑ガ長クナリマシタガ、明日カラハ御懇談ナリ或ハ討論ナリノ形デ以テ、此ノ憲法全體ニ付テ修正ヲスベキカ或ハ修正ヲスルト云フコトニナレバ、又協議會トカ何トカ云フ必要モ起ツテ來マスシ、又色々政府トノ交渉ト云フモノモ起ル譯デアリマスガ、現在ノ事態ハ大體サウ餘リ長長トヤツテ居ラレナイト云フヤウナ形勢ニモナツテ居リマスルカラ、今日デ大體此ノ質疑ヲ終ツテ、サウシテ其ノ後デ御相談ノ結果、討論ナリ懇談ナリニ明日カラ移リタイト考ヘテ居リマスガ、唯一ツ大河内委員カラ財政問題ニ付テ、御休ミニナツタ時ノコトデ質疑致シタイト云フコトデアリマスカラ、ソレヲ簡單ニヤツテ戴イテ、皆サンガ御賛成デアルナラバ、今日デ以テ質疑ヲ打切リタイト思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 私ハ今ノ織田子爵ノ御質問ニ關聯シテ、極ク簡單ナ事項デスガ、チヨツト質問サセテ戴キタイ、私ノ質問致シタイノハ、只今軍人ト云フ御話デゴザイマシタガ、軍人ト云フノハ、職業軍人ヲ言フモノダラウト思ヒマスガ、サウ解釋シテ宜シウゴザイマスカ、其ノ中ニハ軍屬ガ入リマスカドウカ、其ノ點ヲ一ツ伺ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 之ヲドウ云フ範團ニ考ヘルガ宜イカト云フコトデアリマスルガ、結局私ノ申上ゲマシタノハ、國務大臣等ニナル立場トシテハ、軍人デアツタ方ト云フモノハ或意味ニ於テ個別的ノ判斷ヲシナイデ包括的ニ成ルベク國務大臣ニナラレナイヤウニスルト云フ考ヘノ當否ニ付テ申上ゲマシタノデアリマシテ、其ノ時ニ何ト云フ言葉ヲ使ヒマシタカ、過去ニ於テ軍人デアツタ方ト斯ウ申シマシタ、其ノ説明ノ範圍ニ於テノ軍人ト云フ言葉ノ釋明ヲ御求メニナツタト考ヘテ居リマスガ、ソレハ其ノ時ニモチヨツト申シマシタガ、軍人ト云フコトヲ本來ノ目的トシテ身ヲ立テラレテ、サウシテ其ノ方面ニ於テ任務ヲセラレタト云フヤウナコトヲ申シタノデアリマス、從ツテ軍屬ト云フ範圍ハソコニハ入ラナイシ、ソレカラ又職業的ノ武官ヲ指スト云フヤウナ風ノ考ヘデ私ハ申上ゲテ居ツタ譯デアリマス
○子爵大河内輝耕君 有難ウゴザイマシタ
○委員長（安倍能成君） 大河内委員ノ御質問ハ短カイデスカ
○子爵大河内輝耕君 後ノ方ハ極ク短カイデス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ大河内委員
○子爵大河内輝耕君 私ノ質問ハ極ク短カイノデス、詰リ豫算ハ議會デ議決スル時ニ之ヲ増加シテ修正スルコトガ出來ルカドウカ、之ヲ一ツ伺ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 是ハ學問的ニハ色々ナ考ヘ方ガ矢張リアルヤウニ存ジテ居リマス、併シ今迄ノ此ノ關係者ノ研究ノ範圍ニ於キマシテハ、豫算ト云フモノハ、政府ガ見込ヲ立テテ、サウシテ是ダケノ經費ヲ支出シタイト云フコトニ對シマシテ、實質ニ於テハ國會ガ其ノ承認ヲ與ヘル、斯ウ云フ趣旨デアリマスガ故ニ、削ラレルコトハ、是ハ當然デアリマスガ、増額セラレルト云フコトハ趣旨カラ言ツテナイノダ、斯ウ云フ考ヘ方ガマア勢力ヲ持ツテ居リマス、大體其ノ考ヲ踏襲シテ計畫ヲ立テテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 尚一ツ伺ヒマスガ、檢査院ノ院長並ニ檢査官ノ獨立デスガ、是ハ懲戒處分ニ依ルノ外、或ハ或一定ノ年齡ニ達スル外ハ、其ノ意ニ反シテ退職セラルヽコトナシト云フヤウナコトハ、趣旨トシテ御賛成ノヤウデアリマスガ、ソレヲ憲法ニ書クコトハ如何デセウカ
○國務大臣（金森徳次郎君） ソレハ憲法ニ書イテ惡イト云フ理窟ノモノトハ考ヘテ居リマセヌガ、大體今迄モ檢査院ノ方ハ、サウ云フコト迄現行憲法デモ書イテ居リマセヌ、ソレカラ裁判官ニ付キマシテモ、是ハ嚴重ニシテハ居リマスルガ、停年ナドモ法律ノ方ニ讓ラレテ居ル譯デアリマシテ、マア大體現行憲法ノ形デ行ケバ、此ノ草案ニ書イテアル位デ宜イ、ダカラ絶對ニ善惡問題デハナクテ、釣合等ヲ考ヘテ此ノ草案ガ出來テ居ル、斯ウ思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 モウ一ツ伺ヒタイノハ勤勞ノ義務ト云フノガアルノデスガ、是ハ大變誤解シ易イ規定デ、其ノ爲ニドンナヒドイ目ニ遭ハシテモ構ハナイ、ドンナ時ニドンナ苦役ヲヤラシテモ構ハナイト云フ誤解ヲ起シ易イノデスガ、此ノ義務ト云フ字ヲ削ツタラ如何デスカ、モウ一ツ伺ヒタイノハ、今ノ織田子爵ノ質問ト關聯スルノデスガ、推薦ニ參議院議員ヲ入レタラ宜カラウト云フ御話デアリマスガ、參議院議員ノ推薦ニ其ノ參議院議員ヲ入レルト、其ノ參議院議員ガ非常ニエライ勢力ニナル、寧ロ是ハ‥‥議長ナラ差支ナイガ、公平ナ立場デ、是ハ參議院議員ヲ參義院議員ノ推薦ニ入レルト云フコトハ多少御考ヘニナル必要ハアリハシナイカト思フ、其ノ二點ヲ一ツ伺ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 參議院議員ノ方ハ、私ノ主張シテ居ル意見デモ何デモナイノデ、何處ヲドウスルト云フヤウナコトハハツキリ考ヘテ居ル譯デナイ、サウ云フ考ヘ方ガ此ノ憲法ニ顧ミテ宜イカドウカ、斯ウ云フコトデアリマスカラ、非常ニ廣イ問題ト存ジテ居リマス、モウ一ツハ‥‥
○子爵大河内輝耕君 モウ一ツハ勤勞ノ義務ノ説明デアリマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 勤勞ノ義務ハ衆議院デ入レマシタ規定デアリマス、私共、衆議院ニ對シテ、其ノ修正ニハ同感デアルト、斯ウ申上ゲテ居リマシタ結果、茲ニ於テ之ニ異ナル御答ヲ申上ゲルト云フ譯ニハ行キマセヌデゴザイマスガ、大體是ハ此ノ憲法ノ斯樣ナ權利ノ性質ト致シマシテ、サウ云フ義務ガ本質的ニアルゾト云フコトヲ言ツテ居ルノデアリマシテ、是デ直グニ其ノ人間ヲ引ツ張ツテ働カセル、ソンナヤウナコトヲ考ヘテ居ル譯デハアリマセヌ、人間ト云フモノハ共同生活ニ於テ、オ互ニ此ノ働キヲ以テ助ケ合フ者デアルカラ、懶ケテ居ツテハイカヌ、是ダケノ趣旨デアリマシテ、其ノ點ニ付テ、是カラ來ル誤解ト云フモノハナインヂヤナイカト思ツテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 ソレデ宜シウゴザイマス、私ノハ濟ミマシタ
○委員長（安倍能成君） ソレデハ是デ質疑ヲ終ルコトニ致シマシテ、明日九時半カラ懇談會ヲ致シマス
○子爵織田信恒君 能ク勉強シマシタカラ、明日カラ十時ニシテ戴キタイ
○委員長（安倍能成君） 十時デナケレバイカヌト云フ何カ‥‥
○子爵織田信恒君 非常ニ混ンデ困ル
○委員長（安倍能成君） ソレヂヤ十時ニ致シマス、十時カラ懇談會ニ致シマシテ、其ノ上ノコトハ又懇談會デ御相談致シマス、散會致シマス
午後四時五十四分散會
出席者左ノ如シ
委員長 安倍 能成君
副委員長 伯爵橋本 實菱君
委員
公爵岩倉 具榮君
侯爵細川 護立君
侯爵中山 輔親君
侯爵淺野 長武君
伯爵後藤 一藏君
三土 忠造君
子爵大河内輝耕君
大谷 正男君
男爵白根 松介君
子爵織田 信恒君
子爵三島 通陽君
子爵松平 親義君
山田 三良君
平塚 廣義君
牧野 英一君
佐々木惣一君
松村眞一郎君
男爵今園 國貞君
村上 恭一君
男爵飯田精太郎君
霜山 精一君
下條 康麿君
川村 竹治君
岩田 宙造君
高柳 賢三君
男爵中御門經民君
男爵渡邊 修二君
男爵松本 齊光君
田所 美治君
澤田 牛麿君
松木 學君
宮澤 俊義君
結城 安次君
瀧川 儀作君
小山 完吾君
山本 勇造君
淺井 清君
渡邊 甚吉君
高木 八尺君
國務大臣
司法大臣 木村篤太郎君
國務大臣 齋藤 隆夫君
國務大臣 植原悦二郎君
國務大臣 金森徳次郎君
政府委員
法制局長官 入江 俊郎君
法制局次長 佐藤 達夫君
外務事務官 萩原 徹君
司法事務官 奥野 健一君
