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第九十囘帝國議會貴族院 帝國憲法改正案特別委員會議事速記録第二十四號
付託議案◎帝國憲法改正案
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昭和二十一年十月三日（木曜日）午前十時十六分開會
○委員長（安倍能成君） ソレデハ是ヨリ開會致シマス、先ヅ本日ノ議事ノ進行順序ニ付テ申上ゲマス、最初ニ小委員會ノ經過竝ニ結果ノ御報告ヲ願ヒマス、引續イテ之ニ對スル御質疑ノアル方ノ御發言及ビ其ノ他ノ質疑ヲ行ヒ、是ガ終リマシタラ討論ニ入リタイト存ジマス、討論ノ際ハ贊否ノ意見ナリ、修正意見ナリ、修正案ノ提出及ビ説明ナリ、又小委員會ノ修正報告ニ對スル御意見ナリ、各位ノ御發言ヲ願ヒ、御意見ノ開陳ガ悉ク終リマシタラバ採決ニ入ルト、斯ウ云フ順序デ進ミタイト存ジマス、尚採決ノ順序ニ付テ申上ゲマス、最初ハ小委員會委員長報告以外ノ修正案、即チ各委員ノ提出ニ係ル修正案ヲ致シマス、ソレカラ其ノ次ニ小委員會委員長ノ報告ニ係ル修正案ヲヤリマシテ、最後ニ以上ノ如クニシテ決定シタ修正ノ個所ヲ除キ、衆議院送付ニ係ル帝國憲法改正案全部ニ付採決ヲ致スコトニシタイト思ヒマス、御異議ハゴザイマセヌカ
○山田三良君 チヨツト伺ヒマスガ、今ノ御報告ノ順序デスネ、小委員會デ報告ニナリマシタ其ノ案ノ採決ヲ先キニ願ヒタイト思ヒマスガ、小委員會デ認メラレタル案デスネ、ソレヲ先キニ願ヒタイト思ヒマス、討論ト表決ハ、サウシテ外ノ案ハ其ノ以後ニ願ヒタイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 是ハ議事ノ慣例上ソレハ都合ガ惡イノデ、矢張リ今提議シタ順序ニ從ツテ戴キタイト思ヒマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） 御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） ソレデハ此ノ議事ノ順序ニ付テハ御異議ナイト認メマス、小委員長ノ御報告ヲ願ヒマス
○伯爵橋本實斐君 小委員會ノ委員長報告ヲ申上ゲマス、只今議題トナリマシタ小委員會ニ於ケル議事ノ經過竝ニ結果ヲ御報告申上ゲマス、小委員會ハ去ル九月二十八日以來四囘之ヲ開キマシテ、御委託ノ五案ニ付終始愼重ニ檢討ヲ加ヘ、昨十月二日之ヲ討論ニ付シ、次イデ採決致シマシテ、多分只今御手許ニ配付申上ゲテアルト存ジマスル前文ノ修正案外第十五條ニ於テ第三項ト致シテ、「公務員の選擧については、成年者による普通選擧を保障する。」を挿入致し、第四十三條ハ其ノ儘、第六十六條ハ第二項トシテ「内閣總理大臣その他の國務大臣は文民でなければならない」ヲ加ヘ、第七十九條ニ付テハ、其ノ第二項、第三項及ビ第四項ヲ削ルベキデアルト云フコトニ多數意見ノ一致ヲ見マシタ、此ノ間小委員會ノ議事ハ終始懇談ノ形式ヲ用ヒマシテ、速記ハ必要ノ場合ノ外之ヲ附シマセヌデシタ、議事ハ又議員ヲ除ク外非公開ト致シマシタ、而シテ新聞發表ハ小委員長ヨリ之ヲ行ツテ參ルコトニ致シマシタ、又其ノ間金森國務大臣ハ三囘、總理大臣ハ一囘出席ヲ求メマシテ、其ノ説明ヲ聽取致シマシタ、是ヨリ各案ニ付キマシテ簡單ニ御説明ヲ加ヘテ參リタイト存ジマス、先ヅ前文デアリマスルガ、修正ノ方針ヲ努メテ衆議院修正ノ原文ヲ維持シナガラ、文章ノ簡易、平明化ヲ期シマシタル關係上、文章ノ大キナ移動ハ之ヲ避ケマシテ、文字ノ修正ニ止メタノデアリマス、又努メテ英文ノ文意ヲ忠實ニ傳ヘルコトヲ期シタ次第デアリマス、御手許ニ小委員會ノ修正案文ヲ御配付致シマシタカラ、之ニ就テ御覧ヲ願ヒタイト思ヒマス、次ニ第十五條デアリマスルガ、抑々此ノ憲法草案ニハ民主主義政治ノ基本原則タル普通選擧ノ規定ガ缺ケテ居ルカラ、之ヲ憲法草案中ノ何處カヘ挿入スルコトガ適當デアルトノ理由カラ起ツタ修正案デアルコトハ既ニ御承知ノ通リデアリマスルガ、之ニ關シマシテハ、初メ一委員ヨリ、第十五條ノ第三項トシテ「公務員の選擧については、男女成年者による普通選擧を保障する。」ト云フ風ナ提案ガゴザイマシタガ、懇談ニ際シマシテ、結局男女ナル文字ヲ冠セルコトハ其ノ必要ナカルベシト云フコトニナリマシテ、單ニ「成年者による」云々ト云フコトニ決ツタ次第デゴザイマス、尤モ本修正案ニハ委員中一二ノ反對モゴザイマシタガ、結局多數ヲ以チマシテ、前申上ゲタ通リノ修正ヲ行フベシト云フコトニ決定シタ次第デゴザイマス、次ニ第四十三條デアリマスルガ、本案ニ付キマシテハ、既ニ本特別委員會ニ於テ委員ト政府當局トノ質疑應答ニ依リマシテ各項ニ修正ヲ加フルコトノ困難性ガ看取セラレタノデアリマシテ、本條項ニハ觸レナイデ無修正ノ儘トスルコト、其ノ代リニ他日法律ニ於テ、最モ二院制ノ存在ノ意義ヲ發揮シ得ルガ如キ參議院ノ構成ハ如何ニスレバ可能デアルカニ付研究致スコトト致シマシテ、數委員ヨリ各私案ヲ持チ寄リ、選擧區ノ大小トカ、投票ノ方法、推薦ノ方法等ニ關シ愼重討議ヲ加ヘマシタ、小委員ヨリ提出セラレマシタ私案ノ二種ヲ御異議ガナケレバ委員長ノ御許シヲ得マシテ御參考ノ爲ニ速記録ニ掲載スルコトノ御許ヲ戴キタイト存ジマス、唯之ニ關シマシテ御參考迄ニ申上ゲマスルガ、「フランス」ノ新憲法ノ制定ニ當リマシテ、之ニ關聯シテ、上院ノ構成上、職能代表制ハ之ヲ採用シテ居ラヌト云フヤウナコトモ、御説明カラ聽キ得タ次第デアリマス、或ハ參議院ノ議員ヲ甲乙ノ二種ニスルトカ、一々細カイコトモゴザイマスルガ、是ハ省略致シタイト思ヒマス、次ニ第六十六條デアリマスガ、先刻モ申上ゲマシタルガ如ク、其ノ第二項ニ「内閣總理大臣その他の國務大臣は文民でなければならない」ト云フコトニ修正意見ガ纒リマシタガ、是ハ第二章第九條ノ戰爭放棄ノ規定ト相照應致シマシテ、世界平和ヲ末永ク續カセテ行ク爲ノ考慮カラ出タモノト思ヒマス、茲ニ「文民」ト申シマスルコトハ、武臣ニ相對スル言葉デ、之ヲ英語デ言ヘバ「シビリアンズ」トデモ云フ積リノ文字デアリマス、聊カ慣レナイ感ナキニシモアラズデゴザイマスルガ、慣熟シテ參リマスレバ、段々「シビリアンズ」ノ氣持ガ滲ミ出テ來ルコトト考ヘル次第デアリマス、委員會ニ於キマシテハ、初メハ「文人」デアルトカ、「文治人」デアルトカ、「文臣」デアルトカ、「平人」デアルトカ、「民人」デアルトカ、色々ノ案ガ出タノデゴザイマスルガ、結局「文民」ニ落チ著イタ次第デゴザイマス、又委員ノ一人ハ、之ヲ内閣法ニ書クコトニ致シマシテ、憲法上ノ規定ヲ避クルコトノ意見モゴザイマシタ、更ニ將來ノ國民ヲ拘束スルヤウナ修正ニ對シテモ贊成ヲ留保シタイトノ御意見モゴザイマシタガ、結局是モ多數ヲ以テ、以上申上ゲマシタヤウナ修正案ニ落チ著イタ次第デゴザイマス、次ニ七十九條デアリマスルガ、是ハ其ノ第二項、第三項及ビ第四項ヲ削ラムトスルモノデアリマス、蓋シ第二項ハ、最高裁判所ノ裁判官ノ任命ハ、任命後初メテ行ハルヽ衆議院議員總選擧ノ際、國民審査、所謂「レフェレンダム」デアリマスガ、國民審査ニ付シ、斯クテ其ノ後十年毎ニ國民審査ニ付セムトスルモノデアリマシテ、司法部ノ獨立ヲ害スル規定デアルトノ非難ガ存スルモノデアリマス、故ニ之ヲ削ルコトトスル、其ノ代リ、其ノ任命ニハ國會ノ同意ヲ要スルコトトスルトカ、若シクハ其ノ任期ヲ十年トスル等ノ代案モ當初出テ居リマシテ、政府ハ、裁判所モ亦一ノ立法府デアル、他ノ立法府ノ一デアル國會ニ解散ヤ總選擧ガアルコトヲ思ヘバ、裁判所ニモ國民審査ノ制ガアツテモ不當デハナイデハナイカ、又今後ノ憲法上ノ機關ハ國民ニ直結セラレ、國民ヲ背景ニ持ツモノデナケレバ弱イノデアル、斯ウ云フコトガ憲法ノ建前ニナツテ居ルカラ、國民審査ニ付スルト云フコトハ贊成デアルト思フ、斯ウ云フ御意見ガゴザイマシタ、併シ結局裁判官ノ任命ヲ國會ニ委ヌルコトハ政治上ノ勢力ガ裁判官ニ影響スル弊ガ惧レラレ、又米國邊リデモ法曹協會ニ於テ、裁判官ニ任期ヲ付スルコト、及ビ國民審査制トスルコトハ、所謂裁判官ノ「リコール」デゴザイマスガ、サウ云フコトハ司法權ノ獨立ヲ害スルト云フ意見ガ強イトノコトデアリマシタ、本條ハ、其ノ第二項、第三項及ビ第四項ヲ除外スルト云フコトニナツタ次第デゴザイマス、之ヲ以チマシテ本小委員會ニ付託セラレマシタ五案ノ御報告ヲ終了致シマス、唯小委員會ノ懇談ノ間ニ於キマシテ現レマシタ委員各位ノ御意見ノ二三ヲ御傳ヘ申上ゲマシテ、憲法審議ノ完璧ヲ期シタク存ズル次第デゴザイマス、其ノ御意見ノ一ト致シマシテ、法律案ニ付テモ兩院協議會ノ規定ヲ憲法上ニ設ケタ方ガ宜クハナイカ、然ラザレバ之ヲ國會法デ決メルコトモ結局憲法違反ニナル虞ガアリ、他日憲法裁判所デ指彈ヲ受ケナケレバナラヌ虞ニ陷ルノデハナイカト云フノデアリマス、政府當局ハ實質的ナ方法ト致シマシテ、兩院協議會制度ハ國會法ニ設ケル積リデアルケレドモ、憲法上ニ規定スルトスレバ、第五十九條第三項ヲ設ケテ、「前項の規定は法律の定める所に依り、衆議院が兩議院の協議會を開くことを求めることを妨げない。」、サウ云フコトニスレバ、第五十九條ニ關スル法律案ニ關スル場合ハ救ハルヽノデ、尤モ參議院デ可決シ、衆議院デ是ト異ル議決ヲシタル場合ニ、兩院協議會ニ付シ得ルカドウカハ稍々疑問ヲ殘スモ、少クトモ法律案ニ關シテ法律ヲ以テ兩院協議會ノコトヲ規定スルコトノ途ガ開カレル譯デアルトノ答辯ガアリマシタ、結局斯ウ云フヤウナ御意見ニ對シマシテハ、一二ノ御異議モゴザイマシタガ、私ノ拜察致シマシタ結果ハ、委員會ノ多數ノ御支持ガアツタヤウニ思フノデアリマス、次ニ第七條ノ五、六、八及ビ九號ニ付テ、認證ト批准トノ關係ヲ説明セラレマシタ、批准トスルモ天皇ノ大權ヲ實質的ニ増加スルコトハナイカラ、論者ノ惧レルヤウニ、天皇ノ御安泰ヲ危クスルコトハナイ、之ニ反シテ批准トスルコトニ依ツテ形式上カラ來ル效果ハ重大デアル、斯ウ云フ御意見ガゴザイマシタ、即チ大公使ヲ憲法草案ノ如クニ内閣ガ任命シ、天皇ガ之ニ認證セラルヽナラバ、駐箚國ニ於テ元首ヲ代表スル者デナイトシテ、出先ノ使節ハ不利ナ取扱ヲ受ケル虞ガアル、故ニ大公使ハ天皇ガ御任命ニナツテ、天皇ノ御威嚴ヲ代表ヲスルモノトシテ遇セラルヽヤウニシタイノデアル、斯ウ云フヤウナ御意見モゴザイマシタ、之ニ對シマシテハ、多數ノ委員カラ批准ト認證ノ條約成立及ビ條約ノ效力ノ發生上ニ及ス影響ガアリ、延イテハ天皇ノ御責任ニモ關係シテ來ルヤウニモ懸念セラレル、斯ウ云フヤウナ御意見モ開陳セラレマシテ、最後ニ家族制度ノ原則トシテ、第二十四條アタリニ「家族生活は、之を尊重する。」ト云フコトヲ入レテ欲シイト云フコトノ意見モ出テ居リマシタガ、之ニ對シテ多數ノ委員ハ、家族制度、殊ニ親子ノ縱ノ繋リニ日本ノ社會生活ノ重要性ガアルノデアル、之ヲ維持スルニハ、矢張リ今申上ゲタヤウナ規定ガドウシテモナケレバナラヌ、斯ウ云フヤウナ御意見モゴザイマシタ、以上甚ダ簡單デゴザイマスガ、是等ノコトハ矢張リ憲法ノ御審議ニ資スル所ガ少クナイト存ジマス、或ハ之ニ對シマシテ御意見モゴザイマスカト存ジマスガ、敢テ委員會ノ空氣ノ一端ト致シマシテ、此ノ委員會ノ席上ニ御披露申上ゲル次第デアリマス、私ノ報告申上ゲマスコトハ是デ終リマス
○委員長（安倍能成君） 小委員長ノ御報告ニ對シテ御質問ノアル方ハドウゾ御願ヒ致シマス
○子爵織田信恒君 議事進行デ申上ゲマス、配付ニナリマシタ修正案ノ刷物デアリマスガ、第六十六條第二項ノ中ニ「内閣總理大臣及び」ト、斯ウナツテ居リマスガ、是ハ誤リデ、「及び」ハ取ルコトニナリマス、「及び」ハナイノデアリマス、「内閣總理大臣その他の國務大臣」ト、斯ウ直接ニナリマス、「及び」ハ第一項ニアリマスノデ、重複シナイ爲ニ是ハ取ルコトニナツテ居ツタノデス、ソレダケ申上ゲマス
○小山完吾君 只今小委員會ノ委員長ヨリ細カイ報告ヲ承リマシテ、又小委員會ノ委員長トシテノ御任務ニ對シテ、深甚ノ謝意ヲ表シマスガ、併シ此ノ御報告中、竝ニ此處ニ配付サレタ書類ノ中デ、私ノ理解シ兼ネル點ガアリマスルカラ申上ゲルノデスガ、小委員會ハ申ス迄モナク此ノ特別委員會ノ委託ニ依ツテ、其ノ委託事項ハハツキリト決ツテ居ル、其ノ委託事項以外ニ御審議ニナルト云フコトハ權限外ノコトデアリマス、或ハ此ノ「小委員會ニ於ケル修正意見（付託事項外）」トアリマス、是ハ恐ラク小委員會内ニ於ケル私談デアツタラウト推察致シマス、果シテ然ルナラバ、小委員會ノ委員長トシテ此處ニ御報告ニナルベキ筋合ノモノデナシ、又我々ガ小委員會ノ委員長カラ承ルベキ筋合ノモノデモナイコトニナリマス、若シ此處ニ掲ゲラレテ居ル付託事項以外ノ修正ト云フモノガ、私談ノ間ニサウ云フ意見ガ多數デアツタト云フナラバ、ソレハソレ等ノ諸君ガ別ニ修正意見トシテ御出シニナルベキ筋合ノモノト思ヒマスカラ、最後ノ小委員會ニ於ケル所謂私談ト云フコトハ御取消ヲ願ヒタイト思ヒマス
○伯爵橋本實斐君 只今小山委員カラノ御尋ニ御答ヘ申上ゲマス、小委員會ト付託議案トノ關係ハ仰セノ通リダト存ジマス、併シ此ノ憲法ヲ議シマスル關係ニ於キマシテ、各委員モ非常ニ熱心デモアラレマシタシ、ソレカラ先程モ申上ゲマシタ通リ、此ノ委員會ハ殆ド總テガ懇談デゴザイマシタノデ、其ノ間議事ノ餘裕モ時ニハ生ジタノデアリマス、大臣ヲ御待合セ致シマスルトカ、左樣ナ間ニモ只今後デ御披露申上ゲマシタヤウナ御意見モゴザイマシタガ、ト云ツテ總テサウ云フヤウナ時ニバカリ出タト云フコトハ申シマセヌ、私モ眞正面カラ左樣ナ御意見ガ出マスレバ、私ノ責任ニ於キマシテ、矢張リ小委員會ニ對シテ限ラレタ議案ヲ付託サレタ時ニハ、ソレニ金縛リサレナケレバナラヌカト云フコトモ考ヘテ居リマスルガ、矢張リ其處ハ一方ニハ法律上ノ問題モゴザイマスガ、政治上ノ關係モアラウカト思フノデアリマス、左樣デアリマスルカラ、只今小山委員ノ仰セノヤウニ、私ハ御報告申上ゲマシタコトヲ速記録カラ削除ヲ御引受ケ致ス考ハゴザイマセヌガ、此ノ委員會ノ席上ニ於キマシテ、左樣ナ御意見ガ出マスレバ、是ハ又別デアリマス
○小山完吾君 私ハ何モ改ツテ委員長ノ、小委員會ノ長トシテノ色々ノ御配慮ヲ眞向カラ削ツテシマフト云フノデハナイノデスガ、唯此ノ法文ノ上ニ、小委員會ニ於ケル修正意見、付託事項外ト云フコトガ現レルノハ面白クアリマセヌカラ、唯此ノコトダケヲ御止ニナツテ、斯ウ云フ私談ガアツタト云フ御報告ダケナラバ、ソレハ謹シンデ拜聽致シタイト思ヒマス、サウ云フコトガ多數ノ意見デアツタトスレバ、其ノ人々ハ別ニ修正案ヲ出サルベキ筋合ノモノデ、會議體ト云フモノハ自ラ會議體ノ規則ガアツテヤツテ居ルノデスカラ、（拍手）之ニ餘リ外レタコトハシナイ方ガ宜イト考ヘマス、小委員會ノ委員長ノ御苦心ハ十分ニ拜察致シマスガ、唯後ニ斯ウ云フ記録ヲ殘シタクナイモノデスカラ、小委員會ニ於ケル修正意見、付託事項外ト云フモノハ、此處デ取上グベキモノデナクテ、若シ斯ウ云フコトヲ主張サレルナラ、修正意見ト云フコトデ後デ出サレルナラバ、ソレデ私ハ滿足致シマス
○伯爵橋本實斐君 小山委員ノ仰セハ能ク了承致シマシタ、而シテ是ハ御答ヘガマシイコトデゴザイマスガ、只今御手許ニ差上ゲマシタ書類ハ、一應ノ參考ノ書類ト御承知ヲ願ヒタイノデアリマス
○小山完吾君 結構デアリマス
○子爵大河内輝耕君 チヨツト此處ノ書類ニ誤解シ易イコトガアルモノデスカラ、サウ云フ意見ガ出タノダラウト思ヒマス、付託事項以外ノコトハ、唯斯ウ云フ意見ガアツタト云フ意味デ御報告下スツタコトデアルト思ヒマス、ソレガ多數デアルトカ、少數デアルトカ、サウ云フコトハアルベキコトデハナイ、若シサウ云フコトデアレバ、我我ハ何處迄モ爭ハナケレバナラナイ、左樣承知シテ宜シウゴザイマスカ
○伯爵橋本實斐君 ソレハ大變良イ御注意ヲ戴キマシタ、小委員長トシテ甚ダ恐縮スル次第デアリマス、委員會ノ情勢ヲ御披露致シマス用語ガ甚ダ不用意デアリマシタコトハ、茲ニ取消シマス
○山本勇造君 小委員會ノ方々ノ御努力ニ依リマシテ、色々ナ修正ガ行ハレタヤウデアリマスガ、私ハ其ノ中ノ前文ノ文章ニ付キマシテチヨツト御質問致シタイト存ジマス、今度ノ修正デ、「われらの安全と生存をあげて、平和を愛する世界の諸國民の公正と信義に委ねよう」ト云フヤウナ言葉ガ改リマシテ、「諸國民ノ公正ト信義トニ信頼スル」ト云フ風ナ言葉ニ變リマシタヤウナ點ハ、委員ノ方々ノ御努力ヲ私ハ非常ニ感謝スル者デゴザイマス、其ノ他ノ所ニモ色々アルヤウデゴザイマスガ、併シ私ガ今日御質問シタイト思ヒマスノハ、是ハ速記録ニ殘ツテ居ラヌト思ヒマスガ、此ノ前ノ懇談會ノ時ニ私ハチヨツト指摘致シマシタノデスガ、衆議院ノ方カラノ修正デ、「全世界の國民が、ひとしく恐怖と缺乏から免かれ、」ト、斯ウ云フ言葉ガアリマスガ、「缺乏から免かれ」ト云フ、是ハ文法ノ方カラ言ツテ如何ナモノデアルカト云フコトヲ此ノ前ニ指摘致シテ置キマシタノデスガ、今度モ此ノ點ガ改ツテ居リマセヌガ、ドウ云ヲノデアラウカト私疑問ニ思フノデアリマス、其ノ時モ申シマシタケレドモ、「免カレ」ト云フ字ハ、災ヒヲ免レル、厄ヲ免レル、災難ヲ免レルト云フヤウナ時ニ「免カレ」ト云フ字ヲ使フ、日本語デハ今迄ノアレデハ「ヲ免レ」ト云フコトデアリマシテ、唯「免カレ」ト言フヤウナ例ハ、チヤントシタ文章ニハ殆ド例ガナイノデハナイカト思フノデアリマス、是ハ恐ラク「恐怖と缺乏から解放され、」ト云フ言葉ガ「フリー・フロム」ト云フ字ノ直譯ナノデ、ナントナク飜譯臭ガアルモノデスカラ、其ノ飜譯臭ヲ成ルタケ取去ラウト云フヤウナ所カラ「免カレ」ト云フ字ヲ使ツタノカモ知レマセヌケレドモ、「免カレ」ト云フ字ヲ使フナラバ、助詞ニ「ヲ」ヲ使ハナケレバイカヌト思フノデス、併シナガラ其ノ場合ニ、「恐怖ト缺乏ヲ免カレ」ト云フコトハチヨツト言ヘナイノデハナイカト思ヒマス、「ヲ免カレ」ト云フコトハ外カラ來ル災害ノヤウナモノヲ免カレル場合スコトヲ言フノデ、缺乏ノヤウナ場合ニ、「ヲ免カレ」ト云フヤウナコトハ使ヒマセヌ、此處デハ矢張リ「ヲ免カレ」ト云フヤウナコトハ言ヘナイト思ヒマスガ、外ノ言葉ニ改メタ方ガ宜クハナイカ、少クトモ憲法ノ前書トシテ、サウ云フ風ナ文章ノ上ニ疑ヲ挿マレルヤウナモノヲ殘シテ置クコトハ、私ハ如何カト思フノデアリマス、サウ云フ例カラシマスト、此ノ一行ダケノ所デモ、其ノ次ノ所ニ「平和のうちに生存する權利を有する」ト云フコトガゴザイマスケレドモ、是モ只今ノ小委員長ノ御言葉ニ依リマスト、成ルタケ英譯文ト合フヤウニシテ行キタイト云フコトヲ努メラレタト云フ仰セデアリマシタガ、若シサウデアリマスナラバ、此ノ「平和のうちに」ト云フ言葉ハ、英譯ノ方デハ「イン・ピース」ト云フ言葉ニナツテ居リマスガ、「イン・ピース」ト云フノハ「穏カニ」ト云フ字デ、是ハ字引ヲ見ル迄モナク、サウ云フ譯語ニナツテ居ルト思ヒマス、サウシテ「ライツ・ツウ・リイヴ」ト云フ所モ、是ハ生存デナシニ、生活デハナイカト私ニハ思ハレル、既ニ其ノ前ノ所ニ「われらの安全と生存をあげて、」ト云フ言葉ガ使ツテアリマシテ、其處ノ生存ト云フ字ハ別ノ字デアリマスガ、此處モ字ガ違ツテ居ルノデアリマスシ、「ライツ・ツウ・リイヴ」ナラ生活デハナイカト思ヒマス、「平和のうちに」デナシニ、是ナドモ「安ラカニ」ト云フコトデナクテハナラヌ、斯ウ云フ風ニ言ツテ行キマスト、全體ニ付テ言フコトハ私ハ澤山ゴザイマスケレドモ、私自身此ノ前書其ノモノニドウモ同意シ兼ネマスモノデスカラ、全體ヲナゾツテ直スヤウナコトハ試ミナイノデアリマシテ、全體トシテハ申上ゲマセヌガ、此處ノ所ヲ取リマシテモ、今ノヤウナ文法ノ誤リガアルヤウナ氣ガ致シマスガ、サウ云フ風ナ點ニ付テ、小委員會トシテドウ云フ風ナ御考デアリマシタカ、承リタイト思ヒマス
○伯爵橋本實斐君 只今ノ御尋ニ御答ヘ申上ゲマス、仰セノ箇條ハ誠ニ御尤モニ存ズルノデアリマス、委員會ノ懇談會ニ於キマシテモ、前文ヲ審議致シマス時ニ左樣ナ意見モ出テ居リマス、併シ先程申上ゲマシタヤウニ、成ルベク原文ヲイヂラナイデ行キタイト云フ皆サンノ共通ナ意見ガソコニアツタノデアリマスカラ、遂ニサウ云フ風ニナツタノデアリマス、文法上カラ嚴正ニ御批評ニナリマスレバ、勿論左樣ナコトデアルト思ヒマス、又英譯文ノコトデゴザイマスガ、英語ニ成ルベク忠實デアルト云フコトモ申上ゲマシタガ、併シ或場所ハ寧ロ英譯ニ忠實ニスルヨリモ、大掴ミニ全文ノ意味ヲ取ツテ纒メタ方ガ宜シイト云フヤウナ箇所モ無論アルノデアリマス、サウ云フ場所ニ付キマシテハ、本當ノ日本文ニ直シタイト云フ我々ノ氣持カラハ大變遠イノデアリマスガ、是モ亦成ルベク修正ノ箇所ヲ少ク、且衆議院ニ於キマシテ修正サレマシタ原文ヲ成ルベクイヂリタクナイ、斯ウ云フ氣持ノ支配カラ御説ノヤウナ結果ニ相成ツタヤウナ次第デアリマス、左樣御承知願ヒタイト思ヒマス
○山本勇造君 サウシマスト、今ノヤウナ所、文法上ノ疑問ガゴザイマスガ、其ノ儘之ヲ御通シニナルト云フ意味デゴザイマセウカ、ソレトモ或ハサウ云フヤウナモノヲ何カ更ニモウ一度御改ニナルト云フ意味デゴザイマセウカ
○伯爵橋本實斐君 其ノ御尋ニ對シマシテハ斯樣ニ御了承願ヒタイト思ヒマス、御指摘ノ、是ハ固ヨリ大キナ文法上ノ間違ヒデアリマセウ、嚴正ナル文法上ノ批評ヲシテ參リマスト、矢張リ他ニモ目零シ‥‥我々カラ見マスト我慢ナラヌヤウナ箇所モアルノデアリマス、ソレノ中ノ一ツト矢張リ御了解願ヒタイノデアリマス、山本サン御自身トシテハ御了解ガ願ヘマスマイガ、私共ハ左樣ニ申上ゲルヨリ外ナイノデアリマス、ドウゾ左樣御了承ヲ……
○子爵織田信恒君 今ノ問題ハ私ノ思ヒマスノニ、小委員トシテハ斯ウ決定シテ居リマスカラ此ノ儘動カナイダラウト思ヒマス、此ノ本委員會ノ御意嚮デ是ハ改メタラ宜イト云フナラバマダ茲デ御訂正出來ルノダラウト思フノデ、別ニ本委員會ノ御意嚮ヲ問ウテ戴キタイ、斯ウ云フ風ニ願ヒマス
〔「贊成」ト呼フ者アリ〕
○山田三良君 私ハ此ノ小委員會トシテ修正ノ案ニ贊成シタ方デアリマスガ、今山本君カラ段々ト御説明ヲ伺ヒマシテ御尤モノコトト私ハ思ヒマスカラ、幸ヒ今日ハマダ審議中デアリマスカラ、其ノ御意見ヲ尊重セラレテ私ハ茲ニソレヲ修正トシテ此ノ我々ノ作リマシタ案ヲ變更スルノガ正當デアラウト思ヒマスカラ、兎モ角モ山本委員ノソレヲ修正サレタ御意見ニハ贊成致シタイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 委員會ニ對スル質疑デゴザイマスカラ、ドウゾ其ノ御積リデ質疑ノアル方ハ‥‥其ノ他政府ニ對スル御質疑ガゴザイマシタラバ……
○子爵松平親義君 私ハ後デモ結構デゴザイマスガ、若シドナタモ御發言ガゴザイマセヌケレバ一言發言サセテ戴キタイト思ヒマス、只今橋本小委員長カラ修正點ニ付キマシテ色々ト御報告ヲ伺ヒマシタノデスガ、其ノ中デ私二三伺ツテ置キタイト思ヒマス、ドナタニ御伺ヒシタラ宜シイノデゴザイマスカ、チヨツト私ニハ分リマセヌカラ其ノ邊ハ委員長ニ於カレマシテ適當ニシテ戴キタイト存ジマス、只今御話ノ中デ第七十九條ノ最高裁判所ノ裁判官ノ國民審査權ヲ之ヲ削ツテシマフト云フ御話デゴザイマス、私ハ之ニ付キマシテ何レ此處デ贊否ヲ決シナケレバナリマセヌト思ヒマスノデ、私ノ氣持カラ一言伺ツテ置キマスコトガ私ノ贊否ヲ決シマス上ニ於キマシテ大變仕合セナコトダト思ヒマスノデ伺フノデアリマス、此ノ七十九條ハモウ度々政府ノ御説明ガアリマシタヤウニ、今度ノ憲法ハ現行ノ大權中心主義ノ憲法ト違ヒマシテ、国家ノ權力ト云フモノガ國會ヲ最高中心ト致シマシテ、司法、行政、立法各々三ツニ分立シテ居ルト言ヒマスカ、分立シテ居ル形ニナツテ居ルヤウナコトデアリマス、其ノ點ハ大變現行ノ憲法トハ違ツタ行キ方ニナツテ居ルノデアリマス、サウシテ其ノ三權ガ御互ニ所謂牽制均衡ヲ保チマシテ、ソレデ國政ガ運用サレテ行クト云フ形デアルト私ハ了解ヲ致シタノデアリマス、而シテ其ノ三者ガ各々牽制均衡ヲ保ツ上ニ於キマシテ唯バラバラニナツテ居タノデハ國政ノ圓滿ナ遂行ガ出來ナイト云フノデ、左樣然ラバト言ツテ大權ト云フモノニ依ツテ是ガ統一綜合サレテ居ルト云フ形デモアリマセヌノデ、ソコニ自ラ司法、行政、立法機關各々、三者ノ間ニ色々ナ法律上ノ技術ヲ施シマシテ、御互ニ調節ガサレテ行クヤウニナツテ居ルト云フ風ニ私ハ政府ノ御説明デ伺ツタノデアリマス、處ガ光程橋本伯爵ノ御報告ニ依リマスト、此ノ七十九條ノ第二項ノ規定ヲ殘シテ置クト矢張リ裁判ノ、裁判官ノ獨立性ヲ害スル、サウ云フ點ニ於テ之ヲ削ツタノダト云フ御話デアリマス、ソレダケデゴザイマシタガ、恐ラク更ニモウ一點ハ、斯ウ云フ風ナ國民投票ト云フモノハマダ現在ニ於テ時期ガ尚早ナノダト云フ御氣持モ御アリニナツタノヂヤナイカト私ハ考ヘマス、併シナガラ此ノ裁判ノ獨立性ト云フコトハ現行ノ憲法ニ於キマシテハ其ノ獨立性ト云フコトノ意義ガアルト思ヒマスガ、今度ノ憲法ニ於キマシテハハ此ノ獨立性ト云フコトハ、勿論獨立ハ大切ナコトデアリマスケレドモ、現行憲法程ハ獨立ト云フコトヲ考ヘルコトガ私ハ出來ナイノヂヤナイカト考ヘテ居ルノデアリマス、何トナレバ國會ノ制定致シマシタ所ノ法律ニ對シマシテ、裁判所ガ其ノ法律ノ憲法違反ナリヤ否ヤト云フコトヲ審査スル所ノ審査權ヲ裁判所ガ持ツト云フコトニナリマス、從ヒマシテ其ノ點カラ言ヒマスト、今後ニ於キマシテハ殊ニ國會中心ニ、政府ニ副立法權ヲ認メズニ、一切議會ガ立法ヲスルト云フヤウナコトニナリマスト、法律ノ數ガ非常ニ澤山ニナルト云フ風ニ私ハ豫想サレマス、從ヒマシテ議會デ制定サレマシタ所ノ法律ト云フモノガ、或ハ憲法ニ違反スルト云フヤウナコトモ無キニシモアラズデアルト私ハ考ヘマス、サウ云フ場合ニ裁判所ガ違憲ナリヤ否ヤト云フコトノ法律審査權ヲ行フ、斯ウ云フコトニナル譯デアリマス、ソコニ自ラ調節ノ作用ガ營マレテ居ルノデアルト私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、而シテ其ノ調節ニ於キマシテ、幸ニ國會ノ方デ裁判所ガ違憲ナリト決定シタ所ノ法律ナルモノヲ更ニ新シイ立法ニ改メルト云フヤウナコトガアリマスレバ、ソコニ裁判所ト國會トノ調節ト云フモノガ圓滿ニ參ルト思フノデアリマスケレドモ、ソレガ必ズシモサウ參ラヌデ、矢張リ裁判所ノ考ト國會ノ考ト云フモノガ、ソコニ對立シタ儘ニ進ンデ行クト云フコトモ亦私ハ考ヘラレルコトデアラウト思フノデアリマス、而シテ此ノ憲法ハ‥‥私コンナコトヲ申上ゲルノハ甚ダ恐縮ニ存ジマスガ、申ス迄モナク國民主權主義ヲ採ツテ居ルノデアリマシテ、サウ云フ點カラ考ヘマシテ此ノ國會ト裁判所トノ意見ノ對立ト云フモノヲ最後ニ決定スルト云ヒマスカ、最後ニ其ノ兩者ヲ統一スル所ノ働キト云フモノハ、是ハ國民總意其ノモノニアルト私ハ考ヘマス、只今ノ憲法ニ於キマシテハソレガ天皇ノ大權ト云フ所ニ歸著スルノデアリマセウガ、今度ノ憲法ニ於キマシテハ、矢張リソコガ國民ノ總意ト云フコトニ私ハ落著カナケレバナラナイト云フ風ニ理窟ノ上デ考ヘテ居ルノデゴザイマス、サウ云フヤウナコトカラ考ヘマシタ時ニ、此ノ國民投票ト云フモノヲ除イテシマヒマスト、先程カラ申上ゲマスヤウニ、立法機關ト司法機關トガ意見ガ相對立シタ時ニ、ソレヲ一體ドウ云フ風ニシテ調節スルカ、其ノ最後ノ目的ノコトト云フモノガ私ハナクナツテシマフヤウニ思フノデアリマス、勿論七十九條ノ第一項ニハ裁判官ノ任期ト云フコトガ附サレテ居ルノデアリマス、デアリマスカラ任期ガ來レバ自ラ違憲ナリト判斷シタ所ノ裁判官ト云フモノハ自ラソコニ退官スルト云フコトモアリマスカラ、其ノ點デモ多少ハ調節ガ出來ルト思フノデアリマスケレドモ、併シ人間ノ命ハ何時迄續クカモ分リマセヌシ、又勿論裁判官ニハ定年制ガ設ケラレルデゴザイマセウガ、ソレニシテモ矢張リソコニ或一定ノ年數ト云フモノハ、國會ト司法機關トガ對立シ夕儘デ進ンデ行クト云フヤウナコトニナルト云フ風ニドウシテモ考ヘラレマス、ソコデサウ云フ點ニ於キマシテ矢張リ此ノ國民投票ト云フモノヲソコニ設ケマシテ、ソレニ依ツテ最後ノ調節ヲ圖ルト云フ、ソコニ此ノ七十九條第二項ノ規定ノ意味ガアルト云フ風ニ實ハ私ハ考ヘテ居ツタノデアリマス、デアリマスカラ、只今ノヤウナ御報告デアリマスト、ソレデハ最後ノ決定ト言ヒマスカ、最後ノ兩者ノ調節ハ一體如何ニナサル御積リデアリマセウカ、其ノ點ヲ私ハ伺ヒタイノデアリマス
○伯爵橋本實斐君 松平委員ニ御答ヘ申上ゲマス、只今御意見ヲ御述ニナリマシタ御質疑ノ御趣旨ハ能ク了承致シマシタ、之ニ對シマシテ私自身ノ考ヲ申上ゲマスルコトハ、私ノ立場デハゴザイマセヌカラ左樣ナコトハ申上ゲマセヌ、唯本小委員會ニ於キマシテ、今御述ニナリマシタ問題ノ審議ノ中ニソレガドウ云フ風ニ取扱ハレタカヲ申上ゲマスレバ、私ノ致スベキ任務ハソレデ足レリト思フノデアリマス、委員會ニ於キマシテハ固ヨリ憲法草案ノ個人尊重ノ大原則ノ流レテ居ルコトモ能ク了解致シテ居リマス、ソレカラ只今仰セニナリマシタヤウナ、國會ガ行政上ノ權限ヲ最後ニ於テ司法部ガ所謂、「チエック・エンド・バランス」ヲ行フヤウナコトモ勿論了解ノ下デアリマスルガ、委員會ニ於キマシテハ矢張リ國民ノ投票、先程モ仰セニナリマシタヤウニ時機尚早ノ意味カラシテ國民投票ニ付セナイデハナイカト斯ウ云フヤウナ御尋モゴザイマシタガ、煎ジ詰メマスルトソコニ落著クヤウナ御意見ガゴザイマシタ、例ヘバ所謂國民投票ニ付シマシテモ本當ノ意思ハナカナカ分ルモノデハナイ、之ニ對シマシテ裁判官ガ所謂俗論ニ制セラレルト云フヤウナコトガ起リハシナイカト云フヤウナ委員會ノ御心配ガ強カツタノデゴザイマス、ソレデ他國ノ立法例、殊ニ米國ノ制度等モ、委員ノ間ニハ英米法ニ御堪能ナ方モゴザイマシタノデ、是等ノ方ノ御意見トシテモ仔細ニ何シマシテ、例ヘバ米國ニ於テモ西部ニ裁判所ニ對スル「リコール」ノ制度ガ行ハレテ居ル、是ハ西部ノ極三四州ニ過ギナイノデアル、斯ウ云フヤウナ事例モ御指摘ニナリマシテノ御説明デ、矢張リ先程御報告申上ゲマシタヤウナ結論ニ委員會トシマシテハ致達致シタ次第デゴザイマス、尚私ノ答辯デ足ラヌト存ジマス所ハ他ノ委員カラモ御答ヘスルコトガ出來ルカト存ジマス、一應私カラ御答ヘ申上ゲマス
○委員長（安倍能成君） チヨツト申上ゲマスガ御質疑ハ成ルベク討論ニ亙ラヌヤウニ、討論ノ部分ハ討論ノ際ニ御述べ願ヒタイト思ヒマス
○伯爵橋本實斐君 チヨツト私ノ答辯デ言葉ガ足リマセスデシタガ、前ノ條文ニ彈劾ノ制度モゴザイマスルカラ、ソレニ依ツテモ國民一般カラ非難ヲ受ケルヤウナ者ハ、其ノ前ニ彈劾ガ或ハ行ハレ得ル餘地モアル、斯ウ云フヤウナコトモ今度ノ修正ノ結論ニ到達シタ一ツノ大キナ問題デアリマス
○子爵松平親義君 討論ニ亙ル處ガゴザイマスノデ、恐縮デゴザイマスカラ私ハ是デ終リマス
○委員長（安倍能成君） 外ニ御質疑ガゴザイマスカ
○子爵松平親義君 私モウ一點簡單ニ意見ヲ混ヘズニ質問トシテ伺ヒタイト思ヒマスガ、宜シウゴザイマスカ
○委員長（安倍能成君） 宜シウゴザイマス
○子爵松平親義君 只今矢張リ委員長カラ御話ガゴザイマシタ第七條ノ、天皇ノ御權能ニ關スルコトデゴザイマスガ、此ノ批准ヲ‥‥
○委員長（安倍能成君） ソレハ付託以外デゴザイマスカラ、討論ノ際ニ‥‥
○子爵松平親義君 ソレデハ私ハ是デ
○委員長（安倍能成君） ソレデハ御質疑ハ終ツタモノト認メテ差支アリマセヌカ‥‥討論ニ入リタイト思ヒマスガ、其ノ前ニチヨツト御諮リシタイコトガアリマス、牧野委員ヨリ修正試案ナルモノヲ審査御參考トシテ提出セラレテ居リマス、ソレヲ參考ノ爲、速記録ニ掲載スルコトヲ求メラレテ居リマスルガ、之ヲ許可スルコトニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） 御異議ナキモノト認メマス、是カラ討論ニ入リタイト存ジマスガ、御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） 御異議ナイト認メテ討論ニ入リマス、大河内子爵
○子爵大河内輝耕君 委員長ニ伺ヒマスガ、是ハ各條ズツトヤリマスカ、私ノハ各條ニ亙ツテ居リマスガ、一條一條トヤリマスカ、一度ニ述ベマスカ
○委員長（安倍能成君） 全部オヤリニナツテ下サイ、併シ大體御意見ハ前ニ御述ニナリマシタカラ成ルベク‥‥全部ヲオヤリニナツテ差支アリマセヌ
○子爵大河内輝耕君 金森大臣ハ先程要求シテ居ルノデスガ、誠ニ斯ウ云フ手違ヒガアツテハ困リマス、ドウ云フ譯ナンデスカ、昨日カラモ要求シ、今日モ二度モ言ツテ居ルノニマダ來ナイ
○委員長（安倍能成君） 重ネテ要求中デゴザイマス
〔小山完吾君發言ノ許可ヲ求ム〕
○委員長（安倍能成君） 大河内委員ハドウデスカ
○子爵大河内輝耕君 私ハ時間ガゴザイマセヌカラドンドンヤリマス、ヤリマスガ、唯御出デガナイノデ甚ダ困ツテ居ルノデス、續ケテヤリマス
○委員長（安倍能成君） 今再要求シテ居リマスカラ‥‥‥小山委員ハ議事ノ進行ニ付テデスカ
○小山完吾君 大河内サンノコトニ付テチヨツト申上ゲタイ、此ノ小委員會ノ修正ヲ贊成スル前ニ、一應公式ニ政府トシテノ、此ノ修正意見ニ對シテドウ云フ考ヲ持ツテ居ルカト云フコトヲ此ノ會議デ以テ辯明シテ戴キタイト思ヒマスガ、ソレダケヲ一言申上ゲマス
○委員長（安倍能成君） 全體デスカ
○小山完吾君 此ノ小委員會ノ結論ニ對シテデスネ、小委員會ニ於テハ何レ國務大臣ト應答ガアツタコトト思ヒマスケレドモ、併シ本委員會ニ於テ此ノ小委員會ノ結論ヲ採上ゲルニ當ツテハ、一體政府ハドウ考ヘテ居ルカト云フコトヲ承ル機會ガナイト困ルト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） ソレハサウ云フ機會ヲ與ヘルコトニ致シマス
○子爵大河内輝耕君 私ハ仕方ナイカラ始メマスガ、全ク是ハ困リマス、斯ウ云フ手違ヒハ‥‥‥‥、私ノハ前文、第四條、第五條、第六條、第七條ヲ削除シテ、第三條ヲ削除シテ別ニ左ノ一文ヲ加フ「天皇は國政に關する權能を有しない」、是ハ度々説明シテ居リマスカラ理由ハ省略致シマス、ソレカラ第二十七條第一項ノ「義務を負ふ」ヲ削ル、是ハ實ハ金森國務大臣ニ此處ニ來テ戴イテ私モ質問シマシテ、サウシテ其ノ工合ニ依ツテハ撤囘シヨウト思ヒマシタガ、御出デガアリマセヌカラ甚ダ兩大臣御迷惑デゴザイマセウガ、私ノ伺ヒタイコトハ斯ウ云フコトナンデス、第二十七條ノ、勤勞ノ義務ヲ負フ、ト云フコトニナレバドンナコトデモヤラサレハシナイカ、「アルバイト・ディーンスト」ノヤウナコトデモヤラサレハシナイカ、オ前チヨツト此所ヘ來イ、此所ヘ來テ此ノ土擔ギヲヤレ、或ハサウ云フヤウナ種類ノコトヲ此ノ結果ヤラセハシナイカト云フコトヲ憂ヘテ質問シマシタ處、ソレニ對スル金森國務大臣ノ答辯ハ、ソレハ決シテサウデナイ、是ハ唯勤勞ト云フモノハ權利バカリ見テハイケナイ、勤勞者ト云フモノハ兎角、勤勞者ト言ツテハイケナイガ、世間ニハ勤勞シタ以上ハ權利バカリヲ主張スレバ宜イト思ツテ義務ト云フモノヲ兎角怠リ勝チデアルカラ、自分ハ義務トシテ之ヲヤルト云フ觀念ヲ強メル爲ニ此ノ規定ヲ置イタト云フ御話、ソレナラ甚ダ危險ナ書キ方デアリマス、私トシテハ別ニ何モ削除スル必要ハナイ、ソレデ伺ヒタイノハ此ノ二十七條ニハ、法律デ之ヲ定メル、ト云フコトガ書イテアル、色々ナ條件ハ法律デ定メルト書イテアリマスカラ、其ノ法律ハドウ云フ風ニ御規定ニナルカ、十分私ノ言ツタヤウナ意味ガ其ノ法律デ現レマスモノナラ是ガアツテモ差支ナイ、其ノ點デ實ハ政府ニ伺ヒタイノデアリマスガ、御差支ナケレバ兩大臣ノ中カラ御答ヲ願ヒタイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） ソレハ御質問ナンデスカ
○子爵大河内輝耕君 政府ノ御意見ヲ質シマシテ、ソレカラ決定ヲ致シタイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 政府ニ對スル質疑ノコトガオアリデスカト伺ツタ時ニ御質疑ガナカツタモノデスカラ‥‥
○子爵大河内輝耕君 ソレダカラ私ハ御斷リヲシタノデス、討論ニナリマシタナラバ政府ノ意見ヲ質スコトガゴザイマスカラ、ソレハドウゾ御承知ヲ願ヒマスト云フコトヲ申上ゲタ筈ナンデス
○委員長（安倍能成君） 植原大臣カラ一ツ‥‥‥‥‥
○國務大臣（植原悦二郎君） 大河内子爵ニ御答ヘ致シマス、此ノ規定ノ趣旨ハ先程御述ニナリマシタ大河内子爵ニ對スル金森國務大臣ノ御答ニナツタ通リダト思ヒマス、サウシテ直グニ賃銀、就職時間等ノ勤勞條件ニ關スル規準ハ法律デ定メル、勞働者ニ對シテ最低最高ノ賃銀ヲ定メルト云フヤウナコトハ軈テ法律デスルコトガ起ルト思ヒマス、ソレカラ就職時間ハ八時間ニスルトカ、十時間ニスルトカ、其ノ八時間ハ實働時間八時間ニスルト云フヤウナコトモ軈テ法律デ定マルコトト思ヒマス、ソレカラ休息、一週間ニ一度休息スルトカ云フヤウナコトモ勤勞條件ニ關スル勞働ノ基準トシテノコトヲ法律デ定メルト云フコトニ考ヘテ居ルノデアリマス、ソレカラ未成年ノ年齡モ軈テ定マルデセウガ、何歳以上ノ男女兒童ハ勞働ニ從事サセテハナラナイ、或ハ兒童ヲ使フ場合ニ於テハ其ノ勞働時間ヲドウシテハナラナイト云フヤウナコトデ、何レ斯ウ云フコトハ法律デ定マルコトト思ヒマス、左樣御承知ヲ願ヒマス
○子爵大河内輝耕君 一通リ承リマシタガ、私ノ伺ヒタイ所ハ先程申述ベタヤウニ「ドイツ」デヤツテ居ルヤウニ無暗ニ人ヲ引張ツテ來テ、オ前斯ウ云フコトヲヤレ、ヤアオ前ハ斯ウ云フコトヲシロ、例ヘバ政治上ニ都合ノ惡イ者ヲ引ツ張ツテ來テ、ヤレ北海道ハ行ツテ炭礦ヲ掘レト云フヤウナコトヲスル、無暗ニサウ云フコトヲヤラサレテハ大變ダト思フ、此ノ憲法ニ依ツテサウ云フコトハ法律デ斯ウ云フコトガ出來ナイヤウニシツカリ御決ニナリマスカト云フコトデス
○國務大臣（植原悦二郎君） 大河内子爵ノ御懸念ハ、此ノ規定ニ依ツテ國民ガ何デモカンデモ働カナケレバナラナイト云フコトデ、「ドイツ」デ「ヒットラー」ガヤツタヤウナ國民ヲ此ノ規定ニ依ツテ強制的ニ働カセルヤウナコトガ起リハシナイカト云フ御質問ノヤウデアリマスガ、是カラ御承知ノ如ク日本モ議會中心ノ政治ガ行ハレルノデ、國民ノ輿論ヲ基礎トシテ致スノデアリマス、從ツテ勞働者モ今迄ト違ツテ組合又ハ團體交渉、勞働者ス動クベキ規定モ資本家ト對等ニ、又政府ニ對シテモ……政府ガ左樣ナコトヲ、酷使スルトカ、或ハ自由ニ使ノトカト云ノヤウナコトハ決シテ御心配ナカラウト思ヒマス、ソレガ議會政治ノ本義デアツテ、今大河内子爵ノ御考ニナツテ居ルコトハ「ドイツ」ノ軍國主義時代ノコトヲ御考ニナツテ居ルヤウデスガ、是カラハ左樣ナ御心配ダケハ必ズナイト云フヤウニ考ヘテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 是ハ私トシテハ實ニ植原國務大臣ノ仰シヤルヤウニナルト思ヒマス、私モサウナルト思ヒマスケレドモ、萬一ノコトヲ惧レマシテ私ハ原案ヲ修正スルコトヲ提案致シマス、次ガ五十九條ノ二項、是ハ協議會ノコトデスカラ、後ノ方ニアリマスカラ私トシテハ別ニ提案ハ致シマセヌ、唯私ガ茲ニ提案シタイノハ、私ノ申上ゲヤウガ惡カツタカラ拔ケテ居ル、同一ノ會期デ三分ノ二デヤルト云フコトニ五十九條ハナツテ居リマスケレドモ、之ヲ「次の會期に於て」ト云フ字ヲ此處ニ入レタイ、兩院協議會ヲ假ニ開クト致シマスト、兩院協議會ヲ開イテモ意見ガ一致シナイ時ハ、ソレハ別ナ規定ノ書キ方ニナリマシタカラ、衆議院ニ於テ次ノ會期ニ於テ多數デ再ビ可決シタル時ハ法律トナル、斯ウ云フ風ニ第二項ヲ修正致シタイト存ジマス、ソレカラ六十七條、是モ簡單ニ説明致シマスガ、詰リ同ジ會期デゴサイマスト、其ノ時ノ熱ガ出テ居リマスカラ、コツチカライケナイト言ツテ參議院ガ突ツ返シテモ、ソレハ三分ノ二デ可決スルコトハ分リ切ツタ話デス、デスカラ會期ヲ置キマシテ頭ヲ冷ヤシテ冷靜ニヤレト、斯ウ云フ意味ニ外ナリマセヌ、ソレカラ六十七條一項ハ是ハ總理大臣ハ衆議院議員ノ中カラ指名スル、六十八條ハ内閣總理大臣ハ衆議院議員ノ中カラ國務大臣ヲ任命スル、是ガアリマスケレドモ、此ノ二ツトモ説明ハ致シマセヌ、オ分リデスカラ……、ソレカラ七十九條、是ハ小委員會ノ案ガゴザイマスカラ、私カラハ提案致シマセヌ、ソレカラ第九十六條第一項ノ次ニ第二項トシテ左ノ一文ヲ入レル、是ハ稍々重大ニ考ヘテ居ル、他ノ事ニ付キマシテハ、參議院ト衆議院ノ間ニ權限ノ相違ガゴザイマス、之ニ對シテノミ權限ノ相違ガナイ、是ハ議事ヲ圓滿ニ進メル所以ヂヤナイ、成ル程考ヘヤウニ依ツテハ憲法ノ改正ノヤウナモノダカラ、衆議院デ通セバ參議院ナンカ黙ツテ居ルダラウト云フヤウナ斯ウ云フコトモ一ツノ考ヘ方デス、成ル程ソンナコトニナラウト思フ、ナラウト思フガ、ドウモソレヨリハ安全辨ヲ取ツテ置イテ、是モ次ノ會期ニ於テ、衆議院ガ議決シタナラバ、ソレハ其ノ儘參議院ハ何ト云ツテモ好ムト好マザルトニ拘ラズ、憲法ノ改正案トシテ認メラレルト斯ウ云フコトニシテ、詰リ五十九條ノ二項及ビ三項ヲ準用スル、斯ウ云フヤウニ致シタイト思ヒマス、是ダケデアリマス
○委員長（安倍能成君） チヨツト御諮リ致シマスガ、前ニ失念致シマシタノデスガ、先程橋本小委員長カラ報告ノ際ニ請求ノアリマシタ此ノ參議院ニ關スル御意見ガ下條、田所兩委員カラ出テ居ルノデアリマス、之ヲ速記録ニ掲載スルコトニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） 御異議ナイモノト認メマス、ソレデハ速記録ニ掲載致シマス
○子爵大河内輝耕君 私質問ヲ一ツ漏ラシマシタノデ、此ノ際質問サシテ戴キタイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 質問ト云フノハ政府ニ對スル質問デスカ
○子爵大河内輝耕君 矢張リ提案ノ理由ニモウ一ツ何ダツタラ附加ヘヨウト思ツテ居リマス、提案スルコトニナルカモ知レマセヌ、ソレハ何デス、司法ノ規定ノ「すべて裁判官は、その良心に從ひ獨立してその職權を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」斯ウアリマスガ、此處ヘハ、サウシテ又最高機關ノ所デ、條約其ノ他國際法規ハ誠實ニ遵守スルコトヲ必要トスル、トアリマスルカラ、矢張リ裁判官モ括ラレルコトニナラウト思フノデスガ、詰リ「この憲法及び法律」トアリマスケレドモ、條約ト云フモノハ此ノ中ニ入ルノダト云フ風ニ解釋シテ宜シウゴザイマスカ、此ノ七十六條ノ三項デゴザイマス、七十六條ノ三項ニ「すべて裁判官は、その良心に從ひ獨立してその職權を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」トアリマスガ、此ノ中ニハマア條約ト書イテゴザイマセヌガ、條約モ無論此ノ中ニ含マレルモノト、斯ウ解釋シテ宜シウゴザイマスカ
○國務大臣（植原悦二郎君） 大河内子爵ニ御答ヘ致シマス、此ノ七十六條ノ三項ニ付テ、「憲法及び法律にのみ拘束される。」ト云フコトガアルガ、條約ニ付テハ如何カト、斯ウ云フ質問ダト思ヒマスガ、條約ニ付キマシテモ法律ト同ジ關係ヲ有スルモノハ矢張リ之ニ依リ拘束サレルト思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 金森大臣ガ御出席ニナリマシタカラ、今一應此ノ二十七條ノ質問ヲ御許シ願ヒタイ、只今植原大臣カラ伺ヒマシテ、大變御丁寧ナ御答デ大體分ツテ居リマスガ、尚金森大臣御出席ノコトデアリマスカラ一應伺ヒマス、第二十七條第一項ノ「義務を負ふ。」ヲ削ルト云フ私ハ修正案ヲ出シ掛ケテ居ルノデス、此ノ二十七條ノ一項ト云フノハ、［すべて國民は、勤勞の權利を有し、義務を負ふ。」此ノ「義務を負ふ。」ヲ廢メヨウ、「有す」トスル、ナゼサウシタカト申セバ、此ノ間モ申シタ通リ、是ガ「ドイツ」ノ「アルバイト・ディーンスト」ノヤウニ人ヲ何デモカンデモ連レテ行ツテヤラセルト云フヤウナコトガアツテハ困ルト云フ心配カラヤツタノデアリマスガ、只今植原大臣ノ御説明デハサウ云フコトハ心配ナイト云フ御話デアリマスガ、ドウモ私ハ心配ナンデス、植原大臣ノヤウニ心配ハナイト思ヒマスケレドモ、萬一ノ場合ヲ考ヘテ是ハ削ツタラ宜イ、幸ニシテ此ノ第二項ニ「基準は、法律でこれを定める。」トアリマスカラ、此ノ法律ノ中ヘデモ織込ンデ、コンナコトハ決シテサセナイノダト云フヤウナコトデモアレバ強イテ私ハ提案スルコトモナイ、サウ云フコトハ禁ズルト云フコトヲ法律ニ書イテ貰ヘバ、法律ダカラ輕クナルガ、ソンナコトハオ負ケシテモ宜イト思ヒマス、デ金森大臣ノ御説ヲ一應承リタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 御答ヲ申上ゲマスガ、此ノ憲法ノ規定ハ民法ヤ其ノ他ノ個々ノ法律トハ趣ヲ異ニ致シマシテ、結局大原則ヲ表明スルト云フコトガ重點デアリマシテ、現實ノ場合ノ權利ヤ義務其ノモノヲ規定シテ居ル趣旨デハゴザイマセヌ、此處デ「國民は勤勞の權利を有し、義務を負ふ。」トスルト云フコトハ衆議院デ入レラレマシタ趣旨ヲ考ヘテ見マシテモ、一體人間ガ共同生活ヲ致シテ居リマスレバ、オ互ニ盡スベキコトヲ盡シ、盡サルベキコトヲ盡サルベキデアルト云フ基本ノ考ヘ方ガアリマシテ、人間共同生活ニ於キマシテノ各人ノ勤勞ニ關スル基本ノ考ヲ此處ニマア表明シタト云フダケデアリマシテ、之ニ依リマシテ現實ノ義務ヲ負フト、斯ウ云フ趣旨デハナカツタト衆議院ノ解釋ヲ考ヘテ居リマス、ト申シマスルノハ、當時衆議院デ此ノ言葉ヲ入レラレマスル時ニ、或人人ハ或年齡ニ達スレバ勤勞ヲスルトカト云フヤウナ具體的ナコトヲ豫想セラレテ居ツタガ如キ語氣ガアツタノデアリマスケレドモ、大局ニ於キマシテサウ云フ細カイコトヲ毛頭考ヘテ居ルノヂヤナイト云フ風ニ道義的方針ト云フモノヲ明カニスルト斯ウ云フコトニ落著イタヤウニ存ジテ居リマスルカラ、今仰セニナリマシタヤウナ點ハ何等御懸念ニナル必要ハナイ、之ニ基キマシテ各種ノ具體ナ法律ガアノ勤勞ノ義務ヲ強制スルナラバ、現實ノ問題ハソコカラ發生スルト考ヘテ居ル次第デアリマス
○子爵大河内輝耕君 植原大臣カラ政治的ノ御答ガアリ、金森大臣カラハ今迄ノ經過ヲ其體的ニ御述べ下スツテ能ク分リマシタノデ、兩大臣ノ言明ニ信頼致シマシテ二十七條第一項ノ修正案ヲ撤囘政シマス
○松村眞一郎君 是ハ委員長如何デスカ、一々讀ミマスカ、此ノ儘速記録ニ載セテ戴ケバ讀マナクテモ宜イト思ヒマスガ‥‥‥
○委員長（安倍能成君） 讀ンデ下サイ
○松村眞一郎君 「一 前文中「一切の憲法、法令及び詔勅」ヲ「憲法竝に一切の法令及び詔勅」ニ改ム」是ハ質問ノ時ニ申シマシタガ、是ハ「一切の憲法」ト云フノハ日本ノ現状ニ適切デナイカラ、此ノ「一切」ト云フ字ヲ下ニ下シマシテ「法令及び詔勅」ノ所ニ附ケル、斯ウ云フ意味デアリマス、「二 第七條第六號ヲ左ノ如ク改メ第七十三條第七號ヲ削ル」、是ハ質問ノ時ニ申シマシタ、「六 大赦、特赦、減刑及び復權を行ふこと」、「三 第十條ニ左ノ一項ヲ加フ」「前項に於て國民といふ言葉の意義には天皇を含まない。本章中に於て國民といふ言葉の意義には、何れも天皇を含まない」。「四 第二十四條第二項中「婚姻及び家族」ヲ「婚姻、親及び家族」ニ改ム」、是ハ質問ノ際ニモ申シマシタガ、婚姻ヲ致シマス者カラ見マシタ親ト云フ意味デ茲ニ親ト云フ字ヲ書イテ居リマス、ソレカラ第五ハ「「第四十三條第一項ヲ左ノ二項ニ書キ分ケル」、「衆議院は國民代表法の定むる所に依り選擧された議員でこれを組織する。參議院は參議院法の定むる所に依り選擧」、私ノハ「選擧」ト書イテ居リマセヌ「選定」ト書イテ居リマス、「擧」ト云フ字デハアリマセヌ、私ノ原稿ハ「定」ト書イテ居リマスカラ是ハ間違ツテ居ル、「定むる所に依り選定された議員でこれを組織する。參議院議員の選定は」、ソコニハ「選定」トアリマス、「參議院議員の選定は、その選定後初めて行はれる衆議院議員總選擧の際國民の審査に付する」。是ハ質問ノ時ニモ私ハ此ノ意味デ申シテ居リマスガ、結局二院制度ヲ採リマス以上ハ、二院制度ラシイ參議院ガ出來ナケレバナラナイ、ソレニハ衆議院ト同ジヤウナ選擧ノ規定デハ二院制度ト云フモノノ實質ガ破レルノデアル、ソレ故ニ參議院法ハ別ニ參議院ノ議員ヲ選定スル規定ヲ設ケルモノデアル、斯ウ云フコトヲ私ハ申シタノデアリマス、衆議院ト云フモノノ國民代表法ト云フ思想ヲハツキリ致シマシテ、國民ガ直接ニ政治ヲ行フコト、即チ「レフェレンダム」ト云フコトハ、徹底シタル民主主義的政治デアリマスケレドモ、事實上ソレヲ日常ニ行フコトガ出來マセヌガ故ニ、已ムヲ得ズ國民代表法ト云フモノ、即チ今日申シマス所ノ衆議院議員選擧法ニ依ツテ議員ヲ選ブノデアリマスカラ、其ノ衆議院ニ重點ヲ置ク意味ニ於キマシテ、國民代表法ト云フコトノ名前デ選擧法ヲ作ツタ方ガ宜カラウ、斯ウ云フ意味デアリマス、參議院ノ方ハ參議院法デ定メマスガ、ソレハ選定ハ法律デ色々書キ得ルト思ヒマス、其ノ趣旨ハ茲ニ申シマセヌ、サウシテ參議院議員ト云フモノハ今日ノ原案デハ衆議院ト同ジヤウナ工合ニ選擧スル譯デアリマスガ、私ハソレハ裏カラ行カウト云フ譯デアリマス、先ヅ選定デ決メテ置キマシテ、選擧シタ後デ衆議院議員總選擧ノ際ニ、逆ニ選定サレテ居ル所ノ參議院議員ハ適當ナルモノナリヤ否ヤト云フコトヲ國民ノ審査ニ付スル、斯ウ云フコトデアリマス、結局選擧スルノト實質ニ於テハ餘リ變ツタコトハナイト思ヒマス、先ヅ決メテ置イテ後カラ選擧ノ効力ト同ジヤウナ工合ニナルヤウニ裏カラ之ヲ審査スル、斯ウ云フ規定デアリマス、以上私ノ修正意見デアリマス
○委員長（安倍能成君） 山田委員
○山田三良君 私ノ提出シテ居リマス修正……（「聞エマセヌ、大聲ニ願ヒマス」ト呼フ者アリ）私ノ高柳君ト一緒ニ提出致シテ居リマス修正案ト言ヒマスノハ、御手許ニ配付願ツテ居ル通リデアリマスガ……讀ミマスカ
○委員長（安倍能成君） 御讀ミ願ヒマス
○山田三良君 第七條ノ五ニ「竝に全權委任状及び大使及び公使の信任状」ト云フ文字ヲ削ルト云フコトデアリマス、尚同條ノ六ニ「大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復權を認證すること。」トアリマスガ、其ノ終リノ「認證すること」ヲ「行ふこと」ト改メルコトデアリマス、同條ノ八ニ付キマシテ、「批准書及び」ト云フ五字ヲ削リマシテ「國會の承認により内閣の締結した條約を批准すること竝に」ト改メマシテ、提出草案ニアリマス「法律の定めるその他の外交文書」ト云フノノ「その他の」ト云フ四字ヲ削リマシテ「竝に法律の定める外交文書を認證すること。」斯ウ云フ風ニ改メルコトデアリマス、尚同條ノ九ニ「外國の大使及び公使を接受すること。」トアリマスガ、其ノ前ニ九ト致シマシテ「内閣の指名に基いて大使、公使及び全權委員を任命すること竝に外國の大使及び公使を接受すること。」斯ウ云フ風ニ改メルト云フコトデアリマス、是ハ本會議ノ質問竝ニ委員會ニ於キマシテノ質問等ニ於キマシテ屡々其ノ趣意ハ説明シテ居リマスノデ、御了解ノコトト思ハレマスガ、簡單ニ其ノ趣意ヲ此處ニ再ビ申上ゲマス、此ノ修正案ハ條約ノ批准ト云フコトヲ、今批准書ノ認證トナツテ居リマスノヲ、天皇ガ條約ヲ批准セラレルト云フコトニ改メルト云フコトガ骨子デアリマス、是ハ只今ノ草案ニ依リマスレバ、内閣ガ條約ヲ締結シマシテ、サウシテ其ノ内閣ガ條約ヲ締結致シマス際ニハ國會ノ承認ヲ要スル、斯ウナツテ居リマシテ、第七十三條第三ニ「條約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、國會の承認を經ることを必要とする。斯ウナツテ居リマスガ、御承知ノヤウニ此ノ條約ノ締結ト云フコトヲ内閣ガ國務トシテ準備スルコトハ無論デアリマスガ、内閣ガ條約ヲ準備シマシテ最後ノ段階迄、即チ批准ト云フ所迄内閣ガヤルト云フコトハ、是ハ實ハ國際慣例カラ申セバ、世界何レノ國ニモナイコトデアリマシテ、何處ノ國ニ於キマシテモ内閣ハ批准ノ前迄ノコトハ皆ヤリマスケレドモ、批准其ノモノハ其ノ國ヲ代表スル君主トカ、又ハ大統領ガ批准ヲナスト云フコトニ、何處ノ國ニ於テモナツテ居ル次第デアリマス、ソレハドウ云フコトデアリマスカト云フト、國ヲ代表スル資格ノアル者デナケレバ外國ト條約ヲ取交スト云フコトガ出來ナイト云フ考デ、今迄サウ云フ風ニナツテ居ルノデアリマス、然ルニ我ガ憲法草案ニ於キマシテハ國會ガソレヲナシテ、批准モ内閣ガ批准ヲシマシテ、サウシテ其ノ出來タ批准書ヲ天皇ガ、サウ云フ條約ガ出來タモノデアルト云フコトヲ認證セラレル、斯ウ云フコトニナツテ居リマス、是ハ法律ノヤウナ場合デアリマスレバ、國會ノ決議ニ依ツテ法律ガ出來上ルトシマシテ、サウシテ法律ノ裁可ト云フヤウナモノヲ止メテシマフ、是デ憲法ハ出來テ居ルノデアリマス、條約ノ批准ト云フモノハ恰モ法律ノ裁可ニ相應スルヤウナモノデアリマス、ダケレドモ内閣ガ條約ヲ締結シマシテ、ソレナリデ濟マスト云フコトハ出來ナイノハ何デアルカト云フト、内閣ハ外國ニ對シテ我ガ國ヲ代表スルト云フ資格、權限ヲ持ツテ居リマセヌカラ、ソコデ資格權限ノアル天皇ガ其ノ條約ニ、批准書ニ認證セラレル、斯ウ云フコトニナツテ居ルノデアリマス、サウデアリマスカラ法律ト同ジヤウニ、批准モ内閣デシテシマフ、斯ウ云フ風ニソコニ行カナイ理由ガ出テ來ルノデアリマス、ソコデ問題トナリマスノハ、天皇ガ内閣ノ批准シタ條約ヲ認證セラレルト云フコトト、天皇ガ此ノ認證ヲ止メテ自ラ批准セラレルト云フコトト、何處ニ違ヒガアルカ、斯ウ云フコトナノデアリマス、是ハ形式ニ於テハ非常ニ違ツテ居リマス、形式ニ於テ違ツテ居リマスト云フノハ、國ヲ代表スル天皇自ラガ最後ノ階段デアル條約ヲ批准スル、ソレニ依ツテ日本國家ノ意思ガ確定スル、内閣ノ爲シタノハ其ノ前ハ其ノ準備行爲デアル、其ノ手續形式ガ國際一般ニ行ハレテ居ル所デアリマスカラ、ソレニ依ルト云フヤウニシタイ、斯ウ云フコトガ目的デアリマス、然ラバサウ云フコトヲスルト云フト天皇ノ大權ガ増加スルコトニナツテ、天皇制ノ基礎ヲ却テ不安ニ導クヤウナ虞ガアルデハナイカ、斯ウ云フヤウナ疑ヒモ起ツテ來ルト云フコトニナルノデアリマスガ、此ノ點ニ付キマシテハ、天皇ハ條約ヲ批准セラレルトナリマシテモ、批准ヲ拒絶セラレルト云フヤウナコトハナイコトデアリマシテ、國會ノ承認ニ依ツテ内閣ノ締結シタル條約ヲ批准スル、其ノ天皇ノ批准セラレル條約ハ内閣ガ締結シ、サウシテ國會ノ承認セザル條約ハ一切批准ニ問題ニナラナイノデアリマス、又批准ヲ稀ニ必要トセザル條約モ、サウ云フ條約モ問題デハナイノデアリマシテ、國際間ニ批准ヲ必要トスル條約デアリマシテ、而モ其ノ條約ヲ内閣ガ締結シ、國會ガ承認スル、其ノ出來上ツタモノヲ天皇ガ批准セラレル、斯ウ云フコトニナリマシテ、天皇ガ批准セラレルト云フ條約ニ、天皇ノ意思デ條約ノ内容ヲ改メルト云フヤウナコトハ決シテナイノデアリマス、ダカラシテ天皇ガ條約ヲ結バレル、批准セラレルト云ツテ、責任ガ多クナルト云フコトハ、實質的ニハ認證モ、其ノ點カラ申セバ同ジコトデアリマス、何故ナラバ天皇ガ認證セラレルト云フコトニナリマシテ、初メテ内閣ノ批准書ガ外國ニ對シテ効力ヲ發生スルノデアリマス、デアリマスカラ條約ガ外國ニ對シテ効力ガ發生スルト云フノニハ天皇ノ認證ガ絶對ニ必要デアリマス、サウシテ見ルト、天皇ハ認證セラレタト云フコトニ付キマシテ、若シモ責任ガアルナラバ、其ノ責任ヲ持タレルト云フコトハ固ヨリデアリマス、併シ其ノ條約ハ内閣ノ助言ト承認ニ依ツテサウナサルノデアリマシテ、而モ國會ノ承認ニ依ツテ出來タ條約デアリマス、從ツテ天皇ハ條約ノ批准書ヲ認證セラレルト云フコトニ付テ特別ノ責任ヲ御持ニナル筈ハナイノデアリマス、ソレト同ジ程度ノ責任ヲ天皇ガ批准セラレルトシテモ、其ノ點カラ申セバ批准ヲセラレタカラ權力ガ多クナツタ、又責任ガ加ル、サウ云フヤウナコトハ實際ニ於テハ何ニモナイコトデアリマス、批准セラレル時ニハ矢張リ條約ヲ、之ヲ嘉納スルト言ツテ、其ノ條約ヲ確定サレルノデアル、認證ノ時デアリマシテモ批准書ト云フモノヲ認證セラレテ、ソレニ依ツテ外國ニ對シテ効力ガ發生スルノデアリマス、斯ウナルノデアリマスカラ、天皇ノ政治上ノ大權ト云フモノニ付キマシテハ、唯形式ガチヨツト外見ニ於キマシテ、自ラ批准セラレルト云フコトハ、認證ヨリモ形ガ重大ニナツテ來ル、形式ガ重クナツテ來ル、ソレハ確カニサウ云フコトニナルノデアリマス、又サウ云フコトガアルガ爲ニ斯ウ云フ風ニ改正セラレタイト申スノデアリマス、ソレニ依ツテ初メテ國際慣例ニ一致スル所ノ條約ノ批准ト云フモノガ日本ニ於テモ出來上リ、外國ニ批准ヲ交換セラレルト、斯ウナルノデアリマス、ソレデアリマスカラ形式的ニ違ツタ所ガ出來マスケレドモ、天皇ノ權力若シクハ責任ニ於キマシテ、何等増減スル所ハナイノデアリマスカラ、此ノ點ハ心配スルコトハ私ハ要ラナイダラウト確信シテ居ルノデアリマス、尚ソレト同樣ノ趣意カラ、大使、公使ノ任免竝ニ全權委員ト云フモノノ任免デアリマスガ、是モ大使、公使及ビ全權委員ト云フモノハ、國ノ元首ヲ代表スルモノデアリマシテ、元首ヲ代表シテ、サウシテ其ノ元首ノ信任状、又ハ全權委任状ヲ携ヘテ外國ニ行クノデアリマス、此ノ時ニ内閣ガ任命シタル大使、公使、全權委員ト云フコトニナリマスト、例ヘバ信任状ト云フヤウナモノハ同格ノモノデアリマス、今迄ハ天皇ガ此ノ使ニ出ル大使、又ハ公使ハ、自分ノ最モ信頼シテ居ル者デアルカラ、元首ト同ジヤウニ此ノ者ヲ取扱ツテ貰ヒタイト云フ御趣意ヲ加ヘラレテ信任状ト云フモノハ出來ルノデアリマス、内閣ガ若シモ任命シマシタ大使、公使ニ付キマシテ、内閣ガ之ヲ自分ノ、總理大臣ノ信任スル者デアルト云フヤウナコトニナリマスト云フト、是ハ大變ニ困リマシタコトハ、總理大臣ガ一年カ二年デ止メタ時ニハ、其ノ信任状ハ取替ヘナケレバナラヌト云フヤウナコトニナリマス、若シ總理大臣ト云フヤウナコトヲ、個人的ナ名前ヲ止メテ、日本政府ガ信任スルト、斯ウ云フコトニナリマスト云フト、此ノ信任ト云フモノガ、日本政府ガ信任スルト云フノト、又天皇ガ自ラ其ノ人間ヲ特ニ信任スルト、斯ウ云フ風ニ書カレルコトトデハ非常ナ相違ガアリマス、殊ニ外國カラ見マスト云フト、御承知ノヤウニ大使、公使ノ交換ガアリマスガ、向フカラハ君主又ハ大統領ノ任命シタル、且君主又ハ大統領ノ信任状ヲ持ツテ日本ニ來ルノデアリマス、ソレヲ日本ノ天皇ガ御受ケニナル、斯ウナツテ居ル、然ルニ日本ノ大使、公使ガ外國ニ使ヒシマシタ場合ニ、天皇ノ信任状ト云フモノハナイ、斯ウ云フコトニナリマスト云フト、日本ノ大使、公使ガ其ノ資格ニ於テ多少他ノ大使、公使ト劣ル所ガアルノミナラズ、向フノ元首カラ申セバ、自分ノ國ハ元首ガ、日本ニ派遣スル大使、公使ニ其ノ一身ヲ代表スル者トシテ派遣シテ居ルニモ拘ラズ、日本カラ自分ノ方ヘ寄越シタ使ハ天皇自身カラノモノデナイト云フト、禮儀ニ於キマシテ一等下ガルコトニナリマス、是ハ外國ノ元首ト日本ノ元首トノ間ニ於キマシテ同等ノ禮儀ヲ盡サヌト云フコトニナリマシテ、言ヒ換ヘレバ非常ニ外國ノ元首ニ對シテ失禮ナ取扱ヒニナリマス、從ツテ外國ノ元首ハ此ノ日本ノ大使ハ、日本ノ天皇ノ任命セラレ若シクハ天皇ノ一身ヲ代表スル者デナイカラト云フ風ニ取扱ハザルヲ得ナイノデアリマスカラ、此ノ點ニ於キマシテハ日本ノ大使、公使ハ一方ニ於テハ、外國ニ對シテハ禮ヲ失シ、自ラニ於キマシテハ其ノ資格、威嚴ヲ維持スルコトガ出來ナイ、斯ウ云フコトニナル虞ガアリマスカラ、此ノ點ニ於キマシテモ大使、公使、全權委員ト云フ者ハ對外關係トシテ天皇ガ任命セラレルト云フコトニナレバ、其ノ全權委任状トカ、信任状ト云フモノハ任命者タル天皇ガ付與セラレルコトニナリマスカラ、一切ノサウ云フ問題ハナクナリマシテ、普通ノ國際慣例トシテ取扱ハレル、斯ウナルノデアリマス、デアリマスカラ斯ウ云フ修正案ヲ出シタノデアリマス、之ニ付キマシテハ斯ウ云フ意見モアリマシタ、日本デ新憲法ノ下ニ於テ天皇ノ任命セラレル者ハ内閣總理大臣、ソレカラ衆議院ニ於キマシテ修正セラレマシタ第六條、第二項ノ最高裁判所ノ裁判長タル人ガ天皇カラ任命サレル、此ノ二人ニ付テノ任命ガアルダケデアリマシテ、他ノ國務大臣ヲ始メ今日親任官ト言ハレルヤウナ御方ハ皆内閣ガ任命シテ天皇ガ認證スルダケデアルカラ、外務大臣ノ下ニ居ル大使、公使ガ天皇カラ任命セラレテ、其ノ上ニアル外務大臣ガ天皇カラ任命セラレナイト云フコトハ權衡ヲ失スルデハナイカ、斯ウ云フコトモ言ヒ得ルノデアリマスガ、併シ若シモ出來ルナラバ國務大臣全部ヲ天皇ガ任命セラレルト云フコトニ私共ハアリタイト思フ、併シソレガサウ云フ了解ヲ得ルコトガ困難デアリマスカラ、ソコデ已ムヲ得ズ内閣總理大臣ト裁判所ノ長官トニ限ツテアルト云フコトニナツテ居リマス、是ハ甚ダ遺憾デアリマスガ、已ムヲ得ナイ結果デアルカラ我慢シテ行クト云フコトニ過ギナイノデアリマス、然ルニ大使、公使ハ國内ノ官吏ト違ヒマシテ外國ニ使ヒスル者テアリマスカラ、是ハ對外關係ニ關スル者トシテ總理大臣ヤ最高裁判所ノ長官ト同等ニ扱フベシト云フ意味デハナイノデアリマスケレドモ、外國ニ對スル大使、公使ノ體面ヲ維持セシメ、其ノ尊嚴ヲ保タシムルト云フ點ニ於キマシテ天皇ガ任命セラレルト云フコトニスレバ、極メテ對外關係ニ於テ當ヲ得タモノデアルト云フ考カラ此ノ修正ヲ出シタ次第デアリマス、尚第七條第六ニハ、大赦、特赦、恩赦ノコトガアリマスガ、是ハ内閣ガソレヲ定メマシテ、サウシテ内閣ノ助言ト承認ニ依リマシテ天皇ノ認證ヲ得ルト云フコトニナツテ居ルノデアリマスケレドモ、是ハ斯ウ云フ恩赦ト云フヤウナコトハ天皇ガ自ラ行フト云フ形ヲ採ラル、方ガ恩赦ト云フ趣意ヲ貫徹スル上ニ於キマシテ適當デアリ、且サウ云フコトハ政治ニ關係スルモノデナクシテ、別ニ政治上ソレガ爲ニ天皇ノ權力ヲ増スト云フコトデナイノデアリマスカラ、是モ併セテ修正致シマシテ、天皇ガ大赦、特赦ヲ行ハレル、斯ウ云フコトニシタラドウデアルカト云フ修正案デアリマス、チヨツト速記ヲ止メテ戴キタイ
○委員長（安倍能成君） 速記ヲ止メルコトニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） 速記ヲ中止致シマス
〔速記中止〕
○委員長（安倍能成君） 速記ヲ始メテ‥‥‥‥
○小山完吾君 議事ノコトニ付テ一言、私ハ此ノ憲法委員會ニ於テ假令懇談會ト雖モ左樣ナ今山田委員カラ伺ノヤウナ、私的ノ御言葉ヲ伺フト云フコトハ頗ル意外ニ感ジマス、凡ソ我々ハ我々ノ政府ヲ戴イテ我々ノ憲法ヲ議シツヽアル時、斯樣ナ、裏カラ廻ツタ私談ヲ伺フト云フコトハ、我ガ憲法委員會ヲ寧ロ是ハ傷ツケルモノト私ハ考ヘル、デスカラ左樣ナ話ヲ今後ナサルナラ、モウ私ハ委員長ニ於テ禁ジテ戴キタイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 只今ノ小山委員ノ御提議ニ御異議アリマスカ
○瀧川儀作君 非常ニ用意周到ナル御提案デスカラ、其ノ内容迄御話ナサツタコトハ……甚ダ小山委員ノ意見ニハ、私モ御趣意ニハ異議ナイノデスケレドモ、是ハ取リ消シトカ何トカ云フコトハ私ハ甚ダ穩ヤカデナイト思ヒマスカラ進行願ヒタイト思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 小山委員ノ御意見至極御尤デス、アヽ云フコトヲ此處デ言フコトハ宜クナイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 小山委員ノ御提議ニ付テ御意見ハアリマセヌカ、他ニ‥‥‥
○小山完吾君 尚補足致シタイト思ヒマス、別ニ是ハ決ヲ採ル問題デハアリマセヌガ、我々ハ日本國民ノ自尊心ヲ持ツテ此ノ憲法ノ審議ニ當リタイト思ヒマスカラ、我々ハ上ニ我々ノ政府ト云フモノヲ戴イテ此ノ憲法ノ審議ヲ進メテ居ルノデアリマスカラ、左樣ナ對外的ノコトハ必ズ國務大臣、政府ヲ代表スル人カラ承レバ、ソレデ我々ハ宜シイノデ、左樣ナ點ニ付テ各委員トモ各々自省シテ我ガ國ノ名譽ヲ傷ツケナイヤウニ致シタイト思フ一念デサウ申上ゲルダケデアリマス
○高柳賢三君 今ノ問題ニ付テ……
○三土忠造君 チヨツト如何デスカ、今ノヤウナ繼續ナラ御止メニナツタラ如何デスカ
○高柳賢三君 此ノ補充ヲ、此ノ案ノデスネ‥‥
○子爵大河内輝耕君 モウ澤山
○三土忠造君 今ノニ附加ヘルヤウナコトナラ御止メニナツタラドウデスカ
○委員長（安倍能成君） 高柳サンノ發言中デス
○高柳賢三君 此ノ案ハ實ハ山田委員カラ最初伺ツタ譯ナノデアリマス、私ハ途中カラ伺ツタノデ、一番最初私ハ其ノ御案ヲ伺ツタ時ニ得タ印象ハ、サウ云フ風ニスルト云フコトハ、大權ヲ増シテ、天皇ノ責任ト云フヤウナコトニ引掛ツテ來ルノヂヤナイカ、サウナレバ、サウ云フ改正ニハ贊成シ兼ネル、斯ウ云フ點ガ第一ノ私ノ印象デアツタノデ、恐ラク此ノ案ヲ讀ム多クノ人ハ、私ガ受ケタト同ジヤウナ印象ヲ先ヅ起サレルノヂヤナイカト云フコトヲ感ズルノデアリマス、ソレカラ此ノ問題ニ付キマシテ更ニ研究致シマシテ、天皇ノ大權ヲ擴大スルトカ、或ハ其ノ結果トシテ天皇ノ責任ニ影響ヲ及スト云フヤウナコトガ一切ナク、併シ天皇制ト云フモノヲ排撃スル立場カラ申シマスレバ、天皇ノ威嚴ト云フモノヲ増スト云フコトニハ、反對ナノデアリマスルケレドモ、天皇制ト云フモノヲ我ガ憲法ノ上ニ於テ認メル以上ハ、天皇ノ權限ハ之ヲ増シチヤナラヌ、併シナガラ矢張リ天皇トシテノ威嚴ダケハ成ルベク増ス、斯ウ云フ考ヘ方ニ基キマシテ、技術的ニ此ノ七條ト云フモノヲ改正スルコトガ可能ナリヤ否ヤ、斯ウ云フ「ライン」デ考ヘタ結果ガ、茲ニ御手許ニ廻ツテ居リマスル修正案ナノデアリマス、モウ一ツノ點ハ、サウ云フ大局的ナ天皇ノ責任トカ云フヤウナ問題ト離レテ、純技術的ノ點カラ、私ハ之ヲ山田委員カラ最初伺ツタ時ニ得タノデ、此ノ點ハ私ハ山田委員ト非常ニ意見ヲ同ジウシタノデアリマス、ソレハ私モ少シ國際關係ノコトヲ勉強シタ者トシテ、ドウモ此ノ憲法ノ對外關係ノ部分ヲ綜合スルト、非常ニ矛盾ガソコニアル、即チ總理大臣ガ全體日本ノ元首ナラバ、「外國の大使及び公使を接受する」ト云フコトヲ、天皇ガヤラレルト云フコトハ、矢張リ變ナノデ、是ハ矢張リ内閣ヲ代表スル人ガヤラナケレバナラナイノニ、コツチノ方ハ天皇ニナツテ居ル、而モ日本ノ公使ノ任命ト云フ方ハ、是ハ内閣ガ任命スルト云フ風ニナツテ居ル所ガ技術的ニ非常ニヲカシイ、ソレカラ更ニ、先程山田委員カラ仰シヤツタヤウナ國際慣例ト云フヤウナモノカラ著シク離レテ居ル、サウ云フ離レルト云フコトハ、ソレハ日本ノ憲法デ自由ニ決メ得ルコトデアツテ、チツトモ構ハナイ譯デアリマセウガ、併シ其ノ國際關係、國際的ナ慣例ト云フモノヲ、サウ必要モナイノニ打破ル必要ハナインヂヤナイカ、矢張リ從來ノ國際慣例ト云フモノニ對シテハ、尊重ノ態度ヲ執ツテ憲法ヲ書クト云フコトガ、立法者ノ態度トシテハ宜インヂヤナイカ、斯ウ云フ第二ノ技術的ノ點、即チ國際慣例トノ關聯ニ於テ、此ノ憲法ノ規定ト云フモノハ、改正シタ方ガ宜インヂヤナイカ、此ノ二ツノ點ニ付キマシテ、檢討ヲ經タ結果ガ、斯ウ云フ具體的ナ改正案トシテ提出サレテ居ル次第ナノデアリマシテ、從ツテ總テノ人ガ、私ガ最初ニ惧レタヤウナ危惧ノ念ト云フモノハ、私ガ檢討シタ結果、サウ云フ危惧ノ念ト云フノハ私ノ誤リデアツタト云フコトヲ、私自身ハ後デ悟ツタノデアリマシテ、其ノ點ハ極メテザツクバランニ私ノ頭ノ中ニ往來シタ考ヘ方ヲ、御參考ノ爲ニズツト申上ゲテ、私モ斯ウ云フ技術的ナ形ニ於テハ、此ノ七條ノ修正ヲスルト云フコトガ最モ適當ナル修正デアル、斯ウ云フ風ニ信ズル者デアルコトヲ一言附加ヘテ、山田委員ノ御説明ヲ補充シタイト思ヒマス、私ノ發言ハ是デ終リマス
○委員長（安倍能成君） 是デ休憩致シマス、開會ハ一時カラ致シマス
午後零時九分休憩
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午後一時四十五分開會
○委員長（安倍能成君） 會議ヲ開キマス、午前ニ引續キ討論ヲ續行シマス、田所委員
○田所美治君 會期ガモウ二三日ニ切迫シテ居ル今日ニ於キマシテ、今日ハ又小委員ノ報告ニ基イテ此處デ御決定ニナルト云フ日ニ、新シク修正案ヲ出シマスコトハ、甚ダ不本意デハアリマスケレドモ、最後ニ一ツ新シク御考ヲ願フ問題トシテ御採上ヲ願ヒタイノハ、今朝小委員長カラ御報告ニナリマシタ豫テ付託ノ案以外ニ、多少ノ餘裕ガアリマシタラ、全體ニ亙ツテノ「レヴィユー」ヲ、「レヴィユー」ト言フ程デモアリマセヌガ、時間ヲ借リマシテヤツタ中ニ、此ノ憲法ノ中ニ我ガ國ノ社會生活ノ基礎ト申シマスカ、延イテハ國體觀念ノ基礎ニナル家族主義ト言ヒマスカ、家族團體ト言ヒマスカ、家族生活ト申シマスカ、家族ニ關スル‥‥我ガ國ノ家ト申シマスレバ、今更此處デ申ス必要モゴザイマセヌガ、親子、兄弟、夫婦等デゴザイマセウ、外國語デ言ヘバ「ホーム」、我ガ國デハ家族ト言ツテ居ル、或ハ少シ伸張シテ親族、其ノ關係ト云フモノガ數千年來續キマシテ、ソレハ及シテハ君ニ對シテハ忠ニナル、忠ト孝トハ本ヲ一ニスルト云フコトデ忠孝一本、ソレガ明治二十三年ニハ教育勅語ニ現ハレマシテ、忠孝ハ即チ「我ガ國體ノ精華」ダ、「爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ」斯ウナツテ居ルコトハ御承知ノ通リデアルノデアリマス、孝經ニハ「孝ハ百行ノ本」、斯ウ云フヤウナ工合ニナリマシテ、生レナガラニシテ、一生涯親ノ居ル間ハ、子ハ全力ヲ盡シテ孝行ヲ盡ス、又親ハソレニ對シテ子ヲ慈愛シテ止マヌ、此ノ美風ガ、實ニ是コソ外ニ類ノナイ現存ノ事實ナンデアリマス、私ハ誠ニ薄聞薄見デアリマスケレドモ、「ヨーロッパ」各國ヲ見マシテ、此ノ意味ニ於テ日本ノ家ノ平和、和熟圓滿ト申シマスカ、或ハ琴瑟相和スト申シマスカ、ソレガ一緒ニ同居致シマシテ、或ハ近頃ハ生活ノ便宜ノ爲ニ、若イ夫婦ハ親トハ別レマスケレドモ、併シ本體ハ一家圓滿ニ親子、兄弟、夫婦、マダゴザイマセウ、爺モ婆モ‥‥‥、斯ウ云フ譯デアリマセウガ、ソレカラ相對シテ見ルト、私ハ教育ニ關係シテ居ツタ意味カラ申シマスト、總テノ教育施設ハソレカラ出テ居ル、明治天皇ノ教育勅語、固ヨリノコト、斯ウナツテ居ルコトハ、此處デ私ガ縷説ヲ要セヌノデアリマス、ソレガ一ツモ出テ居リマセヌ、而シテ所謂臣民ノ權利義務、國民ノ權利義務ト云フ條章ハ、所謂人權ヲ基トシマシテ、サウシテ近來ノ、今日拵ヘル憲法ト致シマシテハ、其ノ足ラサルヲ補ヒ、或ハ從來ノ思想ヲ一變シマシテ、サウシテ「デモクラシー」ニ導ク、斯ウ云フ方法ヲ執リマシタガ爲ニ、可ナリ新ラシイ條項ヲ含ンデ居リマス、私ハ古イ考デモアリマセヌケレドモ、此ノ間二三ノ質問ヲ教育ニ付テモ申シマシタ、或ハ學問ノ自由ヲ保障スルトカ、或ハ教育ノ機會均等ヲ保障スルトカ、義務教育ノコト迄書イテアリマス、從來ノヤリ方ハ、勅令デ義務教育ヲヤツタノハ少シ無理デアリマシタケレドモ、ヤツテ居リマシタネ、學問ノ自由ナント云フモノハ、憲法ノ規定ナドニ依ルコトハアリマセヌ、況ヤ私カラ見タラ不必要ノ規定デ、我ガ國デハ不必要デアリマス、教育ノ機會均等、國民ハ其ノ性能ニ應ジテ總テ教育ヲ受クルノ權利ヲ有スト云フコトヲ憲法ニ書イテアル、ソンナコトハ一ツモ要ラナイ、日本ニハ「ネセスティ」ハナイノデアリマス、事實モナイ、モウ明治ノ學制ガ、初メテ教育制度ヲ布キマシタマラウガ、ソレニ土農工商ノ別ヲ問ハズ學校ニ行ケルト云フコトニナリマシタガ爲ニ、爾來茲ニ七八十年ノ問教育ノ機會均等ト云フコトガ叫バレタコトハ、其ノ事實ハ根柢ニナイノデアリマス、サウ云フヤウニナツテ來テ居リマシテ、サウ云フ規定ガアリマスニ拘ラズ、日本ノ社會生活ノ基礎ニナリ國體ノ根本ニ迄ナツテ居リマスル家族生活ノコトガ一ツモゴザイマセヌ、是ハ牧野委員ガ實ニ連日連夜ノ勉強デ、十數箇條ニ亙ツテノ修正案ヲ詞ベラレテ今日ハ御手許ニ渡ツテ居ルヤウデアリマスガ、私マダ通讀モシマセヌケレドモ、其ノ中ニ矢張リ家族生活ノコトモ茲デ論及サレマシテ、私ハ聽イテ居リマシテ、此ノ憲法ヲ見マシテカラニドウモソレガ一ツモナイ、サウシテ婚姻ノコトガアル、婚姻ノコトハ夫婦ノ愛情デスカ、夫婦ノ兩性間ノ合意ノミニ依ツテ成ル、サウシテ兩性ハ同權デアリマスカラ權利ガ同ジト云フヤウナ規定ガアル、是亦新シイ規定デ、憲法ニ要ルカ要ラヌカ分リマセヌ、矢ツ張リ教育ノ機會均等位ナモノデアラウト思ヒマス、サウシテソレモ入ツテ來タ、民法デ之ヲ規定スレバ其ノ中ニ載セテ宜イ、ソレ等モ其ノ一ツデアリマセウ、斯ウ云フヤウナ規定ガ載ツテ居ルニ拘ラズ、其ノ本ノ「家族生活はこれを尊重する」ト言ヒマスカ、私ハ昨日マダ確定シテ居リマセヌデ文章ハ然ルベクサウスル規定ニ御直シヲ願ヒタイガ、趣意ハ親子兄弟ト云フモノヲ「インクルード」シマシタ家ノ其ノ觀念ト申シマスカ、家ニ付テノ根本ハ忘レナイゾト、ソレハソレニ基イテ教育トナリ社會トナツテ行ク、斯ウ云フ根本ノ‥‥ソレハ又決シテ惡イコトデハナイノデアル、是ガ我ガ國ノ誇リト云フカ、本當ノ強イ所ニナツテ居ルト思フノデアリマス、戰ニ強イナドト云フコトデハナイノデ、平和ノ國運ノ進展ニモソレハナルノデアル、所謂和ヲ以テ貴シトナスト云フコトハ、所謂家ノ和カラズツト及シテ居ル、今日ノ社會ノ世相カラ見マシテモ、感無量ナコトガ其ノ點ニ付テアルト思フノデアリマスガ、ソレヲ殊ニ害ガナケレバト云フカ、或ハ私共ノ考デハ非常ナ有效適切ナモノダト思ヒマシテ、牧野君ノ其ノ點ニ私贊意ヲ表シマシテ、其ノ一點ダケヲ御出シヲ願フ、是コソ貴族院ガ若シ足ラザルヲ補フ一ツニナレバ、其ノ一項デアラウト云フヤウナ意味ニ贊意ヲ表シマシタ、ケレドモ、先生ガ丁度缺席シテ居ラレマスカラ、自分デ述ベル機會ヲ失ツテ居リマセウ、私ハ私ノ贊成ヲシマシタ意味カラ、何卒此ノ際時間モアリマセヌカラ、二十四條ノ第一項ニ婚姻ヲ謳ヒマス初メ、三項バカリニナリマセウガ、其ノ第一項ニ「家族生活はこれを尊重する」、「リスペクト」スル、「リガード」スル、忘レテハ居ナイゾト云フ、斯ウ云フコトノ規定ヲ加ヘルコトニ御贊成ヲ願ヒタイト斯ウ申スノデアリマス、是ナキ場合ニ於テ、婚姻ダケニナリマスト‥‥只今ソレダケデアリマス、婚姻、其ノ中ニ「家族に關する」云々トアリマスケレドモ、ソレハ婚姻ニ基キマシテ、婚姻、離婚其ノ他家族ニ關スル其ノ立法ノ精神、其ノ時ニ矢張リ個人ノ尊嚴ヲ忘レテハナラヌト云フコトガアル、ソレトチツトモ衝突シナイノミナラズ、家族ト云フコトハ之ヲ尊重シテ行ク、而シテ「婚姻は、兩性の合意のみに基いて」、ソレデ宜シイ、ソレカラ又生レテ來ル子供ノ場合ハ、夫婦ト子供ト「相續」ニナツテ行ク、其ノ規定ハアルノデアリマスガ、一項之ヲ加ヘマシテ、其ノ條文デモ衡突シナイノミナラズ、一言一句モ修正スル必要ハ私ナイト思ヒマス、ソレ故皆サンノ御贊同ヲ得マシテ、第一項デ「家族生活はこれを尊重する」、モツト好イ言葉ガアレバドウゾ御直シヲ願ヒタイノデアリマスガ、ソレヲ御加ヘヲ願ヒタイノデアリマス、是コソ私ハ、前ニ申シタヤウナ、貴族院ガ新憲法ヲ見マシテ新シキヲ採ツテ善キヲ採入レマスト同時ニ、根本ノ基本觀念ハ忘レヌ、國體ノ基ク所、發シテハ忠トナル、斯ウ云フ所ヲ忘レヌヤウニ致シタイ、是ナキガ爲ニ世間ガ誤解シマシテ、私自身ノ經驗ニ依レバ、今度ハ親子ハドウナルンデスカ、ソレカラ家督相續モドウナルンデスカ、家ガ變ルト云フコトモ聞イタガ、親ハモウ放ツタカラシテ宜インデスカト云フコトヲ、私ノ家庭デモ質問ヲ受ケルノデ、ソンナコトハナイヨ、斯ウ申シマシテ、見ルト云フト、何處ニモ出テ居ラヌ、婚姻ハ麗々ト出テ居ル、若シ必要ガナイト云フ、民法ニ規定スルト云フコトナラバ、婚姻ノコトモ民法デ結構ニヤレルト思ヒマス、憲法ニ何モ書ク必要ハナイ、憲法ノ中ニハ、外ノ法律ト違ヒマス、刑法ノ如キモノト違ヒマシテ、教訓的ノモノモアリ、指導的ノモノモアリ、或ハ全ク無害デ、別ニ意味ノナイモノモ加ツテ居ルヤウナ譯デアリマス、ソレガ矢張リ新シキ根本思想ノ擴張ト言ヒマスカ、ソレノ敷衍ニハ役立ツモノトシテ、大分ニ入ツテ居ルヤウデアリマスカラ、ドウゾ其ノ邊ニ於キマシテ、皆サンハ本質上カラハ御異議ノナイ事柄ダラウト思ヒマスカラ、切迫ノ際デアリマスカラ、然ルベク文字ハ御修正ヲ願ツテ、其ノ意ヲ入レテ、一項ソレダケヲ御加ヘ願ヘレバ、非常ナ仕合セト存ジマス
○下條康麿君 私ハ第五十九條ニ關スル修正案ヲ提出致シマス、第五十九條第二項ノ次ニ「前項の規定は法律の定めるところにより衆議院が兩議院の協議會を開くことを求めることを妨げない」、斯樣ナ規定ヲ挿入シタイト云フ修正案デアリマス、此ノ趣旨ハ、第二項ニ、衆議院デ可決シ參議院デ是ト異ツタ議決ヲシタ場合ニ、法律案ニ付キマシテハ直チニ衆議院ニテ出席議員ノ三分ノ二以上ノ多數デ可決スルト法律ニナルト云フ規定ニ對シテ、兩院協議會ニ其ノ前ノ段階トシテ付議スルヤウナ手續ヲ取ツテ貰ヒタイト云フ趣意デアリマス、其ノ理由ハ、先程橋本小委員長カラ大體御説明ガアリマシテ、了解ヲ得テ居ル所ト思ヒマスガ、要スルニ豫算ト條約ノ締結竝ニ内閣總理大臣ノ批准ニ付キマシテハ、各々最後ノ段階ニ行ク前ニ兩院協議會ノ議ニ付シテ居ルノデアリマス、而シテ此ノ法律ノ場合ニハ左樣ナ規定ハナイ、併シナガラ政府ノ委員會ニ於ケル答辯竝ニ法制調査會ニ於ケル審議ノ模樣ニ徴シマスルト、此ノ場合モ矢張リ兩院協議會ノ議ニ付スル御考ノヤウデアリマス、併シナガラ若シ此處ニ其ノ兩院協議會ノ規定ヲ挿入致シマセヌト、國會法ニ左樣ナ兩院協議會ニ付スル規定ヲ御設ケニナリマシテモ、其ノ規定ガ或ハ憲法違反ノ疑ガアルヤウニ存ジマス、從ヒマシテ兩議院ノ議事ヲ圓滑ニシ、兩院互讓シテ案ノ成立ヲ圖リタイト云フ段階ヲ作リタイ意味ニ於キマシテ、此ノ第三項ヲ挿入シテ兩院協議會ノ規定ヲ茲ニ設ケタイ、斯樣ニ考ヘテ居リマス
○委員長（安倍能成君） 審議ノ都合上暫ク休憩致シマス、御相談致シタイト思ヒマスカラ、委員ノ方ト國務大臣、ソレカラ事務ヲ執ル人ダケ御殘リヲ願ヒマシテ、其ノ他ハ御退場ヲ願ヒマス
午後二時一分休憩
━━━━━◇━━━━
午後二時十二分開會
○委員長（安倍能成君） 會議ヲ再開致シマス、前文ニ付テハ小委員ニ付託サレタ小委員會ノ修正案ガアル筈デアリマスガ、ソレニ先立ツテ山本委員カラ提出サレタ訂正案ヲ‥‥
○山本勇造君 先程前書ノコトニ付テ質問致シマシタ處ガ、私ニ一種ノ代案ミタイナモノヲ作レト云フ御話デ、實際ハ私ハ御注意ヲ申上ゲタ程度デアリマシテ、自分トシテハ既ニ私ノ案ト云フモノハ提出致シテアルノデゴザイマスカラ、今度ノ是ハ私ノ修正案デモ何デモゴザイマセヌ、唯日本憲法トシテ出テ行キマス時ニ文言ニ疑點ガアツテハ如何カト思ツテ申上ゲタノデアリマシテ、代案ヲ作レト云フコトデゴザイマスカラ、急ノコトデゴザイマスシ、又私一人デハ如何カト思ヒマシタノデ、今園男爵ガ多年國語ノ方ノ教授ヲナスツテオイデニナツテ居リマスカラ、今園男爵ト御相談ヲ致シマシテ、斯ウ云フ風ニ訂正ヲ致シテ見タラドウカト思ヒマス、先程申シマシタ「恐怖と缺乏から免かれ」ト云フ言葉ヲ「免かれ」ト云フ字ヲ使フト色々困難ガ起リマス、「フリー・フロム」ト云フノハ英語ノ方ノ人ナドニ聽キマシテモ、殆ド「ナツト」ニ近イモノダト云フヤウナ意見モ聞イテ居リマスノデ、私チヨツト斯ウ云フ風ニヤツテ見マシタ、「ひとしく恐怖と缺乏とに惱まされることなく、やすらかに生活する權利があることを、かたく信じて疑はない。」、終ヒノ方ノハ私序デデスカラヤリマジタノデスガ、其處ハ餘計ナコトダト云フヤウニ思ヒマシタラ、勿論是ハ私ノ案デハゴザイマセヌカラ撤囘シテ宜シイノデスガ、「平和のうちに生存する權利」ト云フ所デ、「イン・ピース」ハ「安ラカニ」デアリマスシ、「ライト・ツー・リヴ」ハ「生活スル權利」デアラウト思ヒマス、又後ノ「權利を有する」ト云フノハ、「權利を」トアツテ、「有することを」ト云フ風ニ「を」ト云フ強イ助詞ヲ二ツ使ヒマスコトハ如何カト思ヒマスノデ、「權利があることを」トスレバ、「を」ノ字ガ一ツデ濟ミマスシ、言葉ガ滑ラカニ行クノデハナイカト思フ、一番終ヒノ「確認する」ト云フノハ是デ宜シイノデアリマスガ、併シ英譯ノ方ヲ見マスト、此ノ所ガ「ウイ・リコグナイズ・アンド・アクナレッヂ」トアツテ、認メルト云フ字ヲ二ツ使ツテ大變意味ヲ強メテ居ルヤウニ思ハレマスルガ、斯ウ云フ風ニ二ツ使フナラバ、「確認する」ト云フ言葉ヨリハ「固く信じて疑はない」ト是モ重ネタ言葉ニナツテ居リマスガ、ソンナ風ニシタラ如何カト思ヒマシタノデ、チヨツト此ノ所ヲサウ云フ風ニ致シマシタガ、是ハ私ノ御注意ノ意味デ申上ゲルノデゴザイマスカラ、如何樣共御取捨願ヒタイト思ヒマス、ソレカラ先程ハ餘リ色々ナコトヲ申上ゲルノモドウカト思ヒマシタノデ控ヘタノデゴザイマスガ、モウ一ツチヨツト此ノ中ニ言ヒタイコトハ澤山アリマスケレドモ、サウ云フノヲ除キシテ、其ノ中モウ一ツチヨツト氣ニ掛カルコトハ、前書ノ第一段デゴザイマスガ、「そもそも國政は」トアリマス所、ソコノ所モ序デト言ツテハ何デゴザイマスガ、サウ云フ意味デチヨツト一緒ニ訂正ヲ致シテ置キマシタノデアリマス、「そもそも國政は、國民の嚴肅な信託によるものであつて、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行使し、その福利は國民がこれを享受する。」斯ウ云フ風ナ小委員會ノ御訂正デアリマスケレドモ、「そもそも」ト云フ言葉デ始メマシテ「これを享受する」ト受ケルコトハ、私ニハドウモ疑問ニ思ハレルノデアリマス、其ノ點今園サント御相談致シマシタノデスガ、寧ロ此處ハ元ノ儘デイヂラナイ方ガ宜イノデハナイカト私ニハ思ハレル、「そもそも」ト云フ言葉ハ前ヲ受ケテ後ニ續クアレデ、ソモソモト來タラ何々デアルト云フ風ニナラナケレバイケナイノデハナイカト思ヒマスノデ、寧ロ此處ハ「そもそも國政は、」何々トシテ、サウシテ「その福利は國民がこれを受けるものである。」斯ウ云フ風ニシタラ如何カト私ハ思フノデアリマス、小委員會ノ修正ハ「享受する」トナツテ居リマスガ、享受ト言フノハ……
○委員長（安倍能成君） 山本委員ニチヨツト申上ゲマスガ、是ハ修正案トシテ御出シニナル御積リデスカ
○山本勇造君 モウ私ノ修正案ハ出シタノデスカラ、是ハ出ス意味ハアリマセヌ、併シ先程御注意デ……
○委員長（安倍能成君） 今ハ修正案ヲ出ス……
○山本勇造君 詰リ小委員會ミタイナモノヲ作ツテト云フ御話デアリマスケレドモ、代案ヲ作レト云フノデ、代案ヲ作ツタノデアリマス、私ノ修正案ハ別ニ出シテ居リマスカラ、ソレ以上出シマセヌ、唯御注意迄ニ申上ゲル………
○委員長（安倍能成君） 御注意ナラバ止メテ戴イテ、其ノ修正案ノ方ヲ進メテ戴キタイ
○山本勇造君 修正案ハ併シ、私ハ是ト一緒ニ申上ゲタイト思ツタコトハ修正案ハ既ニ出テ居リマスカラ、之ニ付テ私ハ前ニ懇談會ノ時ニ既ニ申上ゲテ居リマスカラ餘リ詳シク申上ゲル積リハゴザイマセヌ、既ニ皆サンノ御手許ニ廻ツテ居リマスカラ、十分御覽願ツテ居ルコトト思ヒマスカラ、之ニ付テ細カイ説明ハ省略サシテ戴キマス、サウシマシテ其ノ代リ今日極ク短イモノデゴザイマスケレドモ、漢字制限ノ問題ト絡ミマシテ、字句ノ修正ノコトヲ申出テアリマスカラ、其ノ方ヲ此處デ申上ゲタイト思ヒマス、今迄言葉ノ問題、或ハ文字ノ問題等ハ言葉ノ末ノ問題ダト云フヤウナ風ニ取ラレマシテ、後廻シ後廻シト云フコトデ到頭今日ニ至ツテシマツタノデアリマス、併シ斯ウ云フ文字トカ、言葉ノ問題ト云フノハ私ハ文字ノ末ノ問題デハナイ、之ニハ思想ヲ僕ハ含ンデ居ルモノト思ヒマシテ、其ノ意味デ申シ上ゲテ見タイト思ヒマス、其ノ一番好イ實例ト致シマシテ、今度ノ憲法ニ口語體ヲ採用シタト云フコトヲ先ヅ私ハ考ヘテ見タイト思ヒマス、政府ガ前内閣ノ時ニ口語體ヲ御採用ニナツタ趣意ハ私能ク分リマセヌケレドモ、私ノ解釋スル所デハ、今度ノ憲法ハ非常ニ民主主義的ナモノデアル、サウ云フ民主主義的ナモノデアルナラバ、「ベカラズ」トカ、「スベシ」トカ云フ風ナ、サウ云フ封建的ナ臭ヒノスル言葉ヨリモ、「デアル」ト云フヤウナ言葉デ行キタイト云フヤウナ所カラ、僕ハ斯ウ云フ口語體ヲ御採用ニナツタモノダト思ヒマス、又サウ云フ意味デ、非常ニ僕ハ前内閣ニ於テ初メニハ文章體ヂ書イテアツタニモ拘ラズ、途中カラ口語體ニ改メラレタコトニ敬意ヲ表スル者デアリマス、サウシテ又現内閣ガソレヲ其ノ儘承繼イデ此ノ議會ニ出サレタコトモ非常ニ有難イコトダト思フノデアリマス、サウシテ斯ウ云フ風ニ憲法ヲ口語體ニシタト云フコトハ憲法ノ内容ト其ノ文體トガ非常ニ合フト云フ上デ結構ナバカリデナシニ、更ニ考ヘマスト云フト、此ノ口語體ニシタコトガ、憲法ガ口語體ニナツタト云フノデ、諸官廳ノ文書ガ殆ド全部口語體ニ變ツテ參リマシタ、今ノ所私ガ見マストマダ「スタイル」ガ出來テ居リマセヌ爲ニ文章トシテハ隨分ドウカト思ハレマスケレドモ、是ノ方モ軈テ口語體ノ官廳ノ文章ノ「スタイル」ガ出來ルノダラウト思ヒマスルシ、又現ニ官廳ノ人達ガ集ツテ、サウシテサウ云フ方ノ研究ヲヤツテ居リマスシ、又サウ云フ書物ヲ出スト云フコトデアリマスカラ、軈テ纏ツテ行キマスト云フト、官廳ノ言葉ナドモ此ノ點ハ大變良クナツテ來ルト思ヒマス、ソレバカリデナシニ、役所ノ人達ガ口語體ノ文章ヲ書クト云フヤウナ氣持カラ、其ノ氣持モ大分柔カクナツテ、民衆ニ對スル態度モ逆ニ良クナツテ居ルヤウニ私伺ツテ居リマス、ソレバカリデナシニ、憲法ガ口語體ニナツタガ爲ニ今迄ノ國語運動ト云フモノガ非常ニ盛ニナリマシテ、今迄ハ抑ヘ付ケラレ抑ヘ付ケラレシテ居ツタモノガ、非常ニ今度ハヤリ宜クナリマシテ、現ニ國語審議會ニ於テハ此ノ間假名遣ヒノ改定ガ行ハレテ居リマス、又今度ハ漢字制限モ日ナラズ之モ世ノ中ニ發表サレルコトニナツテ居リマス、其ノ外樣々ナ問題ガ良イ方ニ進ンデ行クヤウニ思ハレマスノデ、此ノ憲法デ單ニ口語ヲ採用シタト云フコトガ世ノ中ニ與ヘタ影響ト云ノモノハ實ニ大キナモノダト私ハ思フノデアリマス、サウ云フ意味ニ於キマシテ‥‥
○委員長(安倍能成君) 成ルベク簡単ニ修正案ノ説明ノ程度ニ願ヒマス
○山本勇造君 サウ云フ意味デ非常ニ僕ハ口語體ヲ採ツテ呉レタコトヲ有難イト思ヒマスガ、併シ文章ノ方ハ口語體ニナツタカラソレデ良クナツタト云フ譯ニハ行キマセヌ、文章ト口語體トハ又別デアリマス、文章ノ方ハドウモ遺憾ナガラ非常ニ結構ナモノダトハ言ヒカネルノデアリマス、是ハ僕ダケデナシニ誰デモガソレヲ認メテ居ル所ダト思フノデアリマス、法律ノ文章ト云フモノハ出來ルダケ無駄ガナク、サウシテ出來ルダケ内容ノ充實シタモノヲ書クト云フノガ法律ノ文ノアレダト思フノデアリマスガ、昔「フランス」ノ文豪ノ「スタンダール」ハ「ナポレオン」法典ヲ暇ニ任セテ讀ンデ居ツタト云フコトガアリマスガ、「スタンダール」ノコトデスカラ法律ヲ勉強シタ譯デハナイノデスガ、「ナポレオン」法典ガ能ク出來テ居ツタ爲ニ、非常ニ簡潔ニ出來テ居ツタ爲ニサウシタト云フヤウナ話ヲ耳ニスルニツケマシテモ、今度ノ文章ガサウ云フノデナシニ、其ノ逆ノヤウニ行ツテ居ルノガ私ハ實ニ殘念デ堪マラナイノデアリマス、簡單ニ致シマスガ、其ノ意味ニ於キマシテ前書ミタイナモノハ國民ニ知ラセルモノデアルノデスカラ、私トシテハ提出シタヤウナモノデアツテ欲シイト思フノデアリマス、ソコデ其ノ次ニモウ一ツ申シタイコトハ漢字制限ノ問題デアリマス、是ハ今言フ通リ文部省デ國語審議會デヤツテ居ルノデアリマスカラ、斯ウ云フコトハ矢張リ憲法ノ方デモ十分御考慮ニナツテ然ルベキモノデハナイカト思フノデアリマス、此ノ憲法ノ前書ニハ「われらとわれらの子孫のために」ト云フ言葉ガアリマスガ、審議會デ漢字ノ制限ヲヤツテ居リヤスノハ物好キデヤツテ居ルノデハナイ、今ノ民衆ノ爲ニ、サウシテ此ノ次ノ時代ノ人ノ爲ニヤツテ居ルノデアリマシテ、實ニ「われらとわれらの子孫のために」ヤツテ居ルコトナノデアリマス、處ガ此ノ憲法の方デアリマストサウデナクテ大分ムヅカシイノガゴザイマシテ、殊ニ熟語ノ方ニ於キマシテハ澤山ゴザイマスノデ、サウ云フノヲ一々此處デ擧ゲテ居リマシタラ、大變時間モ掛カリマスシ、モウ此處迄押進ンデ來マシテハドウニモナリマセヌカラ私ハ熟語ノヤウナ問題バ殘念ナガラ割愛ヲ致シマシテ、サウシテ是ナラ誰ニデモ尤モヂヤナイカト思ハレルヤウナ極ク小サナ問題ヲ茲ニ提出シタノデスガ、第五十七條ノ二項ノ終ノ方ニ「一般に頒布」スルト云フヤウナ言葉ガアリマスガ、是ハ「配布」ニシテ戴ケナイモノデセウカ、頒布ト云フヤウナ言葉ハ外ニハ殆ド使ハレテ居リマセヌ、發賣頒布ト云フ言葉ハゴザイマスガ、是ハ官廳デ使フ言葉デアリマシテ、世ノ中ニ本ヲ配ルノハ配本デアリマシテ、頒布ナドト云フムヅカシイ言葉ハナイノデスカラ、是ハ何トカシテ「配布」位ニ改メテ戴ケナイモノデアリマセウカ、ソレカラ八十二條ノ二項ニ「風俗を害する虞がある」ト云フ言葉ガアルノデスガ、「虞」ト云フノハヒドクムヅカシイ文字デス、斯ウ云フムヅカシイ文字ガ憲法ノ中ニアリマスト、漢字制限ヲスル立場ノ方カラシマスト、憲法ニアル文字ハ是ハドウモ棄テル譯ニハ行カヌト云フノデ採ラナケレバナラヌノデスガ、斯ウ云フ字ヲ採ルノハ實ニ我々トシテ苦シイノデアリマス、デスカラシテ一ツ此ノ「虞」ト云フノハ假名デ書キマシテモ何等間違ヘル虞ノナイ文字デアリマスカラ、假名ニサセテ戴クコトガ出來ナイモノデアリマセウカ、ソレカラ九十七條ノ中ニ「幾多の試錬に堪へ」ト云フ言葉ガゴザイマスガ、是ハ今迄ニモ使ツテ居リマシタノデスカラ絶對ニ惡イト云フコトハ申シマセヌケレドモ、併シナガラ試錬ノ錬ト云フ字ハ古イ用法カラシテ、又現在行ハレテ居ル用法カラ致シマスト絲偏ノ字ガ普通ニハ使ハレテ居ルノデアリマス、勿論金偏ヲ使ツタカラ間違ヒダトハ申シマセヌケレドモ、漢字制限ノ立場カラ申シマスト「レン」ト云フ同ジ音ノ文字ハドレカ一ツニ纏メテシマヒタイノデアリマス、サウシナイト制限ガ出來マセヌノデ、此ノ字バカリデナシニ此ノ外ニモ溶解ノ溶ナント云フノハ火偏モ三水偏モゴザイマスガ、同ジ音デ同ジ意味ナノデアリマスカラ、一ツニ縮メタイト云フノガ審議會ノ方針デアリマス、サウ云フ意味カラ致シマスト錬ト云フヤウナ文字ハ絲偏ノ方ガ間違ヒデハナイ、古クカラ使ハレテ居ル言葉デアリマスカラ試錬ノ錬ト云フ字ハ絲偏ノ方ニ御改メヲ願ヒタイ、又「堪へ」ト云フ字ハ假名デ書イテモチツトモ差支ヘナイノデアリマスカラ、寧ロ假名ニシテ戴キタイ、サウ云フノデアリマス、ソレカラ尚其ノ外ニ「且つ」トカ「又」トカ、「但し」トカ云フ接續詞ハ假名書ニ改メテ戴キタイ、是ハ字ガヤサシイノデアリマスカラ、斯ンナ字ハ何モ漢字制限ヲスルニ當ラヌヂヤナイカト云フ御意見ガアルカモ知レマセヌガ、勿論ヤサシイ字デハアリマスガ、之ニ書イテアリマスヤウニ、「且つ」ト云フノハ漢字ニ「つ」ヲ送ツテ居リマスガ、斯ウ云フコトヲスルナラ、假名デ書イタ方ガズツト宜イノデアリマシテ、此ノ字ハ外ニ音トシテ讀ムヤウナコトガ少イノデアリマスカラ、サウ云フヤウナ音デモ讀マレナイヤウナ字ナラ、詰リ訓ダケノ字ナラ、日本語ナンデアリマスカラ、殊ニ日本語ノ接續詞ナンデアリマスカラ、總テ假名デ書クト、サウ云フ風ニシテ貰ヒマスト、漢字制限ノ上カラ非常ニ宜イバカリデナシニ、新聞社等デモ斯ウ云フ字ハ皆廢メタイト、今私達ノヤツテ居リマス漢字制限ノ立場デハ、新聞社ノ人達モ單ニ個人ノ人資格デ來テ居ルノデナシニ、社ヲ代表シテ通信社ノ人達モ來テ居リマスガ、皆ソレニハ同意ナンデアリマスカラ、憲法ノ方モソレニ歩調ヲ合ハセテ戴キマスト大變有難イト思フノデアリマス、此ノ中ニハ書イテアリマセヌガ、モウ一ツダケ言ハシテ戴キタイ、ソレハ「若しくは、」若イト云フ字ニ「しくは」ト書キ、第八條ニモゴザイマス、其ノ外ノ所ニモゴザイマスガ、此ノ「若し」ト云フ字ハ、是ハ皆サンモ御使ヒニナツテ居リマスガ、若イト云フ字ニ「し」ヲ送レバ「ワカシ」ナノデ、是ハ漢字ノ制限ト云フヨリハ、音訓ノ整理ナノデゴザイマスケレドモ、一ツノ字デ以テ幾通リニモ讀ムヤウ非科學的ナコトヲヤツテ居ツタノヂヤ是カラハイケナイノデ、ドウシテモ音訓ノ整理ヲシナケレバイケナイノデアリマス、若イト云フ字ハ、音デ言ヘバ「ジヤク」、「ニヤク」デアリマス、訓デ言ヘバ「ワカシ」トカ、「モシ」トカ、幾ツモノ訓ガゴザイマスガ、斯ウ云フノハ、成ルベク「ワカイ」ナラ「ワカイ」、或ハ「シ」ヲ送ツタラ、「ワカシ」ト云フダケニ制限ガ出來レバ非常ニ有難イノデアリマス、「モシ」ナント云フノヲ若イト云フ字ヲ書ク必要ハナイノデアリマスカラ、斯ウ云フモノヲ假名ニ改メテ戴キタイ、兎ニ角我々ト我々ノ子孫ノ爲ニ此ノ憲法ヲ作ツテ行クノデアルナラバ、文字ノ方ノ問題モ我々ト我々ノ子孫ノ爲ヲ考ヘマシテ、一ツ斯ウ云フ風ナ文字ノ使ヒ方ニ付キマシテモ、御贊同ヲ得ラレヽバ幸ヒダト思マノデアリマス
○子爵大河内輝耕君 私ハ實ハ全體ヲ何シテ見テ、餘リ大キナ修正モナイヤウデスカラ、時間ヲ節約スル意味ニ於テ、是カラ衆議院ニ行ツタリナンカシテ大變時間ガ掛カルカラ此ノ原文デ我慢シテ貰ヒタイ位ニ實ハ思ツタノデス、文法上ノ間違ヒト云フノハアリマスガ、或漢學者ニ伺ツテ見ルト、「ト」トカナントカ云フ字ヲ入レレバ宜イ位ノコトナンデス、ソレ位ノコトナラバ一ツ辛抱シテ戴イテ、時間ノ節約上、モウ暇ガナイノダカラ、原文デ行ツタラドウカト云フ風ニ考ヘマシタノデスガ、段々伺ツテ見ルト、高柳君ノ御意見モ至極御尤モデアリマスシ、ソレカラ又此ノ位ナ修正ナラバ、衆議院デモソンナニ暇モ取ルマイト思ヒマスカラ、私ハ此ノ意見ヲ撤囘致シマス、詰リ之ヲ止メルト云フ意見ヲ撤囘致シマス、原案ニ依ラナイデ、小委員會ノ修正案デ行ツテ宜イト思ヒマス
○公爵岩倉具榮君 私ハ改正憲法ニ付キマシテ、簡單ニ贊成意見ヲ述ベタイト思ヒマス
〔「マダ其處迄入ラス」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） 既ニ討論ニ移ツテ居ルノデアリマシテ、御意見ノ陳述ハ御自由ナンデアリマスカラ‥‥‥
○小山完吾君 討論ニ移ル前ニチヨツト伺ヒタイコトガアリマス
○委員長（安倍能成君) 發言中デスカラ‥‥‥既ニ質疑ヲ終ツテ討論ニ入ツテ居リマス、今迄ズツト討論ヲシテ來テ居ルノデス
○小山完吾君 議事進行ニ付テ‥‥
○委員長（安倍能成君） 岩倉委員ノ發言中デスガ‥‥‥
○小山完吾君 先刻委員長ノ御話デゴザイマシタガ、私ハ議事ノ方法トシテ斯ウ云フコトヲ考ヘテ居ルノデスガ、間違ツテ居リマセウカ、小委員會ニ於テ修正サレタ事柄ニ付テ、之ヲドウスルカト云フ結末ヲ付ケズシテ直チニ本論ノ大體論ノ贊否ノ討議ヲ始メテ見テモチヨツト變ナモノダト思ヒマス、私自身ト致シマシテモ先刻チヨツト御願ヲシテ置キマシタ通リ、此ノ小委員會ノ修正案ニ對シテ政府ハ何ト考ヘテ居ルカ、之ニ贊成スルノデアルカ、或ハ如何ナル點ニ於テ異議ヲ持ツテ居ルノデアルカト云フコトヲハツキリ本委員會トシテハ承知シタ上デ此ノ贊否ヲ決シタイト存ジマスガ、如何ナモノデゴザイマスカ
○委員長（安倍能成君） 小山委員ノハ、全體ノ贊否ヲ決スル前ニ、小委員會ニ付託サレタ議ニ付テノ討論ヲヤリタイト云フ、サウ云フ御考デアリマスカ
○小山完吾君 サウ云フ譯デアリマセヌ、ソレガ決マラナクチヤ一體此ノ小委員會ノ結末ガ付カヌダラウト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 討論ニ入ツタト云フコトハモウ既ニ前ニ申シマシタノデ‥‥、一番初ニ討論ノ方法ト云フモノニ付テハ大體御承諾ヲ得タト思フノデスガ‥‥
○小山完吾君 ソレナラバ更ニ改メテ政府委員ニ先刻申上ゲタコトヲ確メタイト思ヒマス、サウデナケレバドウモ小委員會ノ決議ニ贊成シテ宜インダカ、惡インダカ一向分ラナイ、本委員會トシテハ‥‥
○委員長（安倍能成君） 今迄ノ議題ハ大體提出者ノ説明ト云フモノデ‥‥、ソレカラ討論ノ材料ニナツテ居タト思フノデアリマスガ‥‥、小委員會ニ付テハ小委員長ヨリ既ニ報告サレテ説明モ終ラレタコトト思ヒマスカラ、茲デ一括シテ議題ニ付シテ差支ナイノヂヤナイカト思ヒマス、ソレニ付テ又政府ノ説明ヲ求メラレルト云フヤウナコトガアレバ、サウ云フ動議ヲ‥‥
○小山完吾君 ソレハドウシテモ説明ヲ求メナケレバ、小委員會ノ案ニ‥‥、一體小委員會ト政府委員トノ間ニドノ位ノ程度デ御討議ニナツタカ、ソレハ本委員會トシテハ分ツテ居ナイノデスカラ、本委員會デ政府ノ明カナル意思ヲ確カメテ贊否ヲ決スルト云フコトガ、議事ノ當然ノヤリ方ト思ヒマスガ‥‥
○委員長（安倍能成君） 其ノ點ハ御尤モト思ヒマス、ソレデハアナタカラ一ツ政府委員ニ質問シテ戴キタイ
○子爵大河内輝耕君 チヨツト議事進行デ、モウ一ツ、ソレデハバラバラニナツテイケマセヌカラ、此ノ修正案ヲ片端カラ議題ニオ出シニナツテ、サウシテ片端カラ討論ニ入ツテ可決ナリ、否決ナリシテシマフノデス、其ノ方ガ宜イ、サウスレバ一番能ク分ル、今小委員會ノダケト仰シヤツタケレドモ、小委員會ノダケデナク、我々ノ出シタノモアリマスカラ、片端カラ議題ニ出シテ、ソコデ討論ヲシテ、サウシテ片端カラ否決ナリ、可決ナリシテシマフ、サウスレバ一番早イ、ソレガ濟ンダ所デ金體ニ付テノ決ヲ採ル‥‥‥
○委員長（安倍能成君） チヨツト速記ヲ止メテ下サイ
〔速記中止〕
○委員長（安倍能成君） ソレデハ速記ヲ始メテ下サイ、第一ニ大河内子爵ノ修正案ニ付テ御意見ガアリマスカ、ソレデハ念ノ爲ニ御讀ミシマス、大河内委員ノ修正意見ハ「第四、五、六、七條ヲ削除。」「第三條ヲ削除シテ別ニ左ノ一文ヲ加フ。」「天皇は國政に關する權能を有しない。」「第五十九條ニ付テハ第二項ヲ次ノ如ク改メル。」「衆議院で可決し參議院でこれと異つた議決をした法律案は次の會期に於て衆議院で再び可決したときは法律となる。」ソレカラ「第六十七條第一項ハ次ノ如ク改メル」「内閣總理大臣は衆議院議員のうちから之を指名する」、ソレカラ「第六十八條第一項ハ次ノ如ク改メル。」「内閣總理大臣は衆議院議員のうちから國務大臣を任命する。」ソレカラ「第九十六條第一項ノ次ニ第二項トシテ左ノ一文ヲ入レル。」「前項の發議の場合は第五十九條第二項及び第三項を準用する。」
○澤田牛麿君 是ハ今御讀ミニナノタヤウニ全部ヲ問題ニ供スルト又混亂スルノヂヤナイカト思ヒマス、一箇條一箇條ニ付テ決ヲ採ツテ行ケバ宜イノヂヤナイカト思ヒマスガ‥‥
○委員長（安倍能成君） 採決ハ別々ニ致シマス、御意見ガアレバ述ベテ戴キマス、別ニ御意見モナイヤウデアリマスカラ採決ヲ致シマス、第四、五、六、七條ヲ削除ニ御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
○子爵大河内輝耕君 チヨツト第三條ニ附加ヘガゴザイマス
○委員長（安倍能成君） ソレハ又別ニ致シマス
○子爵大河内輝耕君 ソレハ不可分ノモノデアリマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ「第四、五、六、七條ヲ削除」シテ、「第三條ヲ削除シテ別ニ左ノ一文ヲ加フ。」「天皇は國政に關する權能を有しない。」之ニ御贊成ノ方ノ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デアリマス
○松本學君 議事進行ニ付テ‥‥採決ヲナサイマス時ニ、贊成ト反對ヲ兩方御採リニナルコトニシマセヌデ宜イノデゴザイマセウカ、ソレハ如何ナモノデゴザイマセウカ
○委員長（安倍能成君） 其ノ必要ハナイト認メマス、第五十九條ノ第二項デアリマスガ、「衆議院で可決し參議院でこれと異つた議決をした法律案は、次の會期に於て衆議院で再び可決したときは法律となる。」御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デアリマス、ソレカラ次ニ、「第六十七條第一項ヲ次ノ如ク改メル。」「内閣總理大臣は衆議院議員のうちから之を指名する」御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デアリマス、ソレカラ「第六十八條第一項ハ次ノ如ク改メル。」「内閣總理大臣は衆議院議員のうちから國務大臣を任命する。」御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デアリマス、ソレカラ「第九十六條第一項ノ次ニ第二項トシテ左ノ一文ヲ入レル。」「前項の發議の場合は第五十九條第二項及び第三項を準用する。」御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デアリマス、是デ大河内子爵ノ修正案ハ全部否決ニナリマシタ、次ニ松村委員ノ修正意見デアリマス、「一 前文中「一切の憲法、法令及び詔勅」ヲ「憲法竝ニ一切の法令及び詔勅」ニ改ム」ト云フ風ニ、一切ト云フ字ヲ法令ノ上ニ持ツテ來ルノデアリマス、ソレカラ第二ニハ、「第七條第二項ヲ左ノ如ク改メ第七十三條第七號ヲ削ル」「六 大赦、特赦、減刑及び復權を行ふこと」斯ウ云フ風ニスル、ソレカラ「第十條ニ左ノ一項ヲ加フ」「前項に於て國民といふ言葉の意義には天皇を含まない。本章中に於て國民といふ言葉の意義には、何れも天皇を含まない。」ソレカラ「四 第二十四條第二項中「婚姻及び家族」ヲ「婚姻、親及び家族」ニ改ム」、ソレカラ第五、「第四十三條第一項ヲ左ノ二項ニ書キ分ケル」「衆議院は國民代表法の定むる所に依り選擧された議員でこれを組織する。」「參議院は參議院法の定むる所に依り選擧された議員でこれを組織する。」ソレカラ「參議院議員の選定は、その選定後初めて行はれる衆議院議員總選擧の際國民の審査に付する。」以上ニ付テ御意見ガアレバ伺ヒタイト思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 チヨツト伺ヒマスガ、其ノ中ノ「大赦を行ふ」ト云フノハ確カアレハ山田先生ノ何カ御案デアリマシタカ、アレデ宜シウゴサイマスカ、是ハ只今一緒ニ松村サンノトシテオヤリニナツテ宜シウゴザイマスカ、私ハドチラデモ宜イノデスガ、唯念ノ爲ニ伺ヒマス
○委員長（安倍能成君） 此處デ決メルコトニ致シマス
○子爵大河内輝耕君 ソレデハ大赦ノコトニ付キマシテ私ハ簡單ニ意見ヲ述ベサセテ戴キマス、又政府ノ意見モ伺ヒマス、大赦トカ、特赦トカ、減刑トカサウ云フヤウナコトハ政治問題ヂヤナイト山田先生ハ御説明ニナツタ、私ハ是ハ非常ニ致治ニ大キナ關係ガアルト思フ、成ル程考ヘヤウニ依ツテハ司法上ノ問題カモ知レナイ、併シ是ハ裁判トカ何トカ云フ、訴訟トカ云ノ問題デハナイ、能クヤツテ居ルヤウニダ、刑務所デ金ガナクテ困ルカラ少シ危險性ノ者デモ解放シテヤレト云ノヤウナコトハ事實アツタノデス、ソンナコトデモアツタラソレハ非常ニ惡イコトダト思フ、ソレカラソレハ許ス方ガウマク行カナカツタ場合、今度ハソレデハ許サレナカツタ方ハドウカ、許サレナカツタ方ハ是ハ非常ニ恨ム、現ニ治安維持法ノ違反ノ一部ノ人ガ大赦ニ洩レテシマツタ、其ノ爲ニドウデス、皇室ハドノ位恨マレタカ、非常ナ恨ミ方ヲシテ居ル、ソレデ其ノ爲ニ皇室ニ非常ナ累ヲ及シタト云フコトハ是ハ今迄顯著ナ事實デゴサイマス、ソレデアリマスカラ、斯ウ云フ問題ヲ天皇ガ御自分デ行ハセラレルヤウナコトガアレバ、天皇ハ批評ノ的ニモナリ、怨謗ノ的ニモナル、殊ニ其ノ許サレナカツタ爲ニ大變失禮ナコトガ行ハレタト云フコトハ最近ノ事實デハアリマセヌカ、ソレナノニ之ヲドウシテ此ノ權限ヲ擴張シテサウシテ天皇ノ權限ニナサルノカ、私ハ斯ウ云フコトニハ贊成ハ出來マセヌ、ドウゾ是ハ從來ノ原案ノ儘デ行クコトヲ希望致シマス、外ニ意見モゴザイマスガ、述ベマセヌ
○委員長（安倍能成君） チヨツト念ノ爲ニ申上ゲマスガ、「刑の執行の免除」ト云フノハ山田サンノ中ニハアルノデスガ、此所ニハ「刑の執行の免除」ト云フノハナイノデアリマス、其ノ點違ヒマスカラ、念ノ爲ニ申上ゲマス、他ニ御意見ハゴザイマセヌカ
○高柳賢三君 此ノ「第七十三條第七號ヲ削ル」ト云フノハ私等ノ中ニハナイノデアリマス、デアルカラ其ノ點ハチヨツト松村委員ノ修正案ト少シ違フデアラウカト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） ソレハ山田サンノ問題ニナツタ時ニ御願ヒ致シマス
○高柳賢三君 ソレカラ意見ヲチヨツト述ベマス、只今御意見ガアリマシタガ、恩赦ノ特權ト云フモノニハ政治的ノ關係ガアルト云フ御意見、同樣ニ榮典、勳章ヲ授ケルトカ云フ風ナ點ニ付テモ矢張リ政治的ナコトガ現實ニ引懸ルノカト云フコトハ認メナケレバナラナイノダラウト思ヒマス、ソレ等ハサウ云フ制度ヲ認メル以上ハソコニ政治的ナル分子ガアルト云フコトハ勿論認メナケレバナラナイノデアリマスケレドモ、併シナガラソレ等ニ對スル責任ハ一切内閣ニ於テ負フト云フコトガハツキリシテ居ル、決シテソレハ天皇ガ‥‥‥唯最後ニ與ヘラレルノハ天皇ノ名ニ於テ榮典モ與ヘラレル、ソレカラ恩赦モサレル、政黨内閣ノ首領カラ恩赦サレタノデナクシテ、政黨ヲ超越シタ天皇カラ恩赦ヲ受ケルノダ、又榮典モ授カルノダ、矢張リ天皇制ト云フモノヲ現在認メル場合ニハ少クトモ天皇ノ威嚴ト云フモノガサウ云フヤウナ所ニアルノデアツテ、ソレ等モ皆取ツテシマフト云フノナラ天皇制ト云フモノヲナクシテシマツタ方ガ宜イト云フコトニナルノデ、又サウ云フ人ハ是等ノ威嚴ヲ増スコトニ付テモ反對ノ立場ヲ執ラレルト思ヒマス、併シ我々ハ一切政治的責任ハ天皇ハ負ハレナイト云フコトガハツキリシテ、而モ日本國ヲ代表スル象徴タル天皇ノ威嚴ト云フモノハ矢張リ維持シテ行クト云フ所ニ日本ノ君主制ト云フモノノアルベキ方向ガアルノデハナイカ、其ノ點ニ付キマシテ此ノ恩赦ノ場合ト榮典ノ場合トヲ區別スル必要ハナイノヂヤナイカ、ドツチノ場合デモ榮典ノ場合ヲ認メルナラバ、矢張リ此ノ場合ニ於テモ責任ハ内閣ガ負ヒ、之ヲ與ヘルノハ天皇ダト云フコトデ筋ガ通ツテ居ルノヂヤナイカト云フ意味ニ於キマシテ、此ノ松村委員ノ修正意見ノ半分ダケニ付テハ贊成ノ意ヲ述ベテ置キタイト思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 只今高柳先生カラ詳細ナル御話ヲ伺ヒマシタガ、私伺ヒ損ツタカモ知レナイガ、七條ヲ削ツテシマフノハ天皇制ヲ廢メテシマフコトダトト‥‥飛ンデモナイ、七條ハ政治上ニ關係ノナイ御安泰ノ地位ニ天皇ヲ置クト云フノデ、天皇制ヲ廢メルト云フコトデハナイ、天皇ハ象徴デアリマス、統合ノ象徴デアリ、國家ノ象徴デアリマス、飽ク迄モ我ガ國體ヲ維持スル、唯維持ヲスルニ於キマシテハ天皇ヲ御安泰ノ地位ニ置カナケレバナラヌ、只今恩赦ト勳章トヲ別ニ分ケル必要ハナイト仰シヤイマシタガ、ドウモ勳章ガ四等ニナツタトカ、五等ニナツタトカ云フコトナラソレハ不平モ言フデセウ、ケレドモマアマア其ノ位デ濟ンデシマフ、併シナガラ大赦ガナカツタ爲ニ外ノ人ハドンドン刑務所ヲ出サレテ行クノニ自分ハ十七年モ中ニ叩キ込マレタト云フコトニナレバ、サウ云フコトヲ考ヘルノガ惡イノダケレドモ、天皇ヲ恨ミ奉ルト云フヤウナコトガ起ツテ來ル、宜イトハ言ハナイガ、事實起ツテ來ル、内閣ガ責任ヲ負フカラ宜イヂヤナイカト仰シヤイマシタガ、此ノ前ノ憲法デチヤント内閣ハ責任ヲ負ツテ、「國務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス」ト明白ニ書イテアル、ソレデモ天皇二恨ミヲ歸シタヂヤアリマセヌカ、ソレヲ何ト御考ニナル、是レ以上ハ申シマセヌ
○委員長（阿倍能成君） 別ニ御意見ガナケレバ採決ヲ致シマス、第一、前文中「一切の憲法、法令及び詔勅」ヲ「憲法竝に一切の法令及び詔勅」ニ改メル、御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（阿倍能成君） 少數デアリマス、第二ニ、第七條第六號ヲ左ノ如ク改メ第七十三條第七號ヲ削ル、「六大赦、特赦、減刑及び復權を行ふこと」、御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デアリマス、第十條ニ左ノ一項ヲ加ヘル、「前項に於て國民といふ言葉の意義には天皇を含まない。本章中に於て國民といふ言葉の意義には、何れも天皇を含まない。」御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デアリマス、ソレカラ第二十四條第二項中「婚姻及び家族」ヲ「婚姻、親及び家族」ニ改メル、御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デアリマス、ソレカラ「第四十三條第一項ヲ左ノ二項ニ書キ分ケル」、「衆議院は國民代表法の定むる所に依り選擧された議員でこれを組織する。」「參議院は參議院法の定むる所に依り選定された議員でこれを組織する。」「參議院議員の選定は、その選定後初めて行はれる衆議院議員總選擧の際國民の審査に付する。」之ニ付テ御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デアリマス、以上デ松村委員ノ修正意見ハ全部否決ニカリマシタ、次ニ山田委員ノ修正案ヲ讀ミ上ゲマス、「第七條ノ五」ニアル「竝に全權委任状及び大使及び公使の信任状」ヲ削ル」、「第七條ノ六「認承すること」ヲ「行ふこと」ト改メル、「第七條ノ八「批准書及び」ヲ「國會の承認により内閣の締結した條約を批准すること竝に」ト改メ「その他の」ノ四字ヲ削ル」、「同條ノ九ノ始ニ「内閣の指名に基いて大使、公使及び全權委員を任命すること竝に」ヲ加ヘル」、御意見ノアル方ハ御述ベヲ願ヒマス
○子爵大河内輝耕君 ソコニハ大赦ノコトハ入ツテ居リマセヌデシタカ
○委員長（安倍能成君） 入ツテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 大赦ノコトガ入ツテ居ルサウデゴザイマスガ
○委員長（安倍能成君） 「認證すること」ヲ「行ふこと」ト改メマス
○子爵大河内輝耕君 大赦ニ付キマシテハ先程述ペマシタ、天皇ニ御恨ミガ歸サナイヤウニ我々ハ原案ガ宜シイト申上ゲマシタカラ其ノコトハ申シマセヌ、唯之ニ付キマシテ此ノ際政府ノ御意見ヲ伺ヒタイ
○國務大臣（金森徳次郎君） 只今ノ第七條ノ修正案ニ付テノ御意見ヲ御尋ニナリマシタガ、天皇ノ御大權ガ斯樣ニ變リマスルト、如何ナル説明ヲ用ヒマシテモ天皇ニ事實御責任ガ付與サレル嫌ノ増加スルコトハ一點ノ疑ヒナイト存ジテ居リマシテ、政府ハ斯樣ナ修正ニ對シマシテハ遺憾ナガラ反對ノ意見ヲ持ツテ居リマス
○子爵大河内輝耕君 ソレニ付キマシテ私ハ今度大公使ノ任命、或ハ批准ノ問題ニ付キマシテ意見ヲ申述ベタイ、批准ニシタ所デ、少シモ陛下ニ累ヲ及スコトハナイト繰返シ繰返シ御話ガゴザイマスルガ、又天皇ノ權限ヲ擴張シタノデハナイト繰返シ繰返シ仰シヤイマスケレドモ、是ハ小委員會ノ席上ニ於キマシテ、外ノ委員カラモ御指摘ニナリマシタヤウニ、是ハ天皇ノ權限ヲ増スコトニナリマス、ソレデ又ソレヲ假ニ百歩ヲ讓ツテソレガ増サナイト致シタ所デ、是ハ趣意ヲ變ヘマス、認證ト云フコトト批准ト云フコトトハ全然性質ガ違ヒマス、是ハ一部ノ學者ハ、ソレハ成ル程山田先生ノヤウナ方バカリガ世間ニイラツシヤレバソレデ宜シイガ、世間ハサウハ行カヌ、是ガ批准ト云フコトニ變ツタナラバ、外交大權ハ天皇ニ歸シテアル、斯ウ云フヤウナ説モ必ズ出テ來マス、又ソレト一緒ニナツテ騷ギ廻ル連中モ必ズ出テ參ル、一般ハ常識的ニ考ヘテサウ考ヘマセウ、現ニ學者ノ中ニモサウ云フ説ガアルノデスカラ、委員ノ中ノ學者ノ御方デ其ノ説ヲ御唱ヘニナツタ方モアル、サウダト云フコトニナリマスルト云フト、是カラ外交ニ付キマシテハ天皇ガ總テ責任ヲ御負ヒニナルト云フ、事實サウ云フ空氣ガ世間ニ漲ツテ來ル、サウ云フ場合ニハドウデゴザイマセウ、差向キ一ツノ例ヲ言ヘバ此ノ講和條約ニ付キマシテハ色々ナ註文ガ起リマセウ、ソレガ皆天皇ノ御一身ニ集中シテ來ル、是デ若シウマク行カナイデ、國民ノ思フヤウナ講和條約ガ出來ナカツタラ、ソレハ國民ノ思フヤウナ百點ノ講和條約ハ出來ツコアリマセヌ、滿點ノ條約ナンテアリハシナイ、法律ニハ滿點ノ法律ハアリマスケレドモ、條約ハ相手ガアル話ナンダカラ滿點ニ行キハシナイ、此ノ恨ミハ何處ニ歸スルカ、少シ考ヘテ見レバ分ル話ダ、ソレカラ講和條約ヂヤサウ云フコトガナイニシテモ、外ノ條約デ若シ他國ノ感情ヲ害スルヤウナコトガアツタナラバドウデセウ、此ノ度三國同盟ノアノ條約ヲ結ンダ爲ニ天皇ニドレダケ累ヲ及シタカ、我々ハ此ノ憲法ヲ讀ンデ血涙滂沱タルモノガアル、血涙滂沱ドコロデナイ、我々ハ此ノ身中ノ血ガ煮エ返ルヤウナ氣ガスル、此ノ憲法ヲ何ト御讀ミニナツタカ、是ガ三國同盟ノ條約ノ結果ヂヤナイカ、斯ウ云フ憲法ヲ我々ガ議サナケレバナラヌコトハ‥‥‥ソレヲ又繰返スト云フ、畏多イ話ダ、情ナイ話ヂヤアリマセヌカ、ソレハ法理ガ如何デアラウトモ、事實ガサウ云フ風ニ流レテ來ルノダカラ仕方ガナイ、認證ナラ認證デ、認證ダト言ツテソレハ誰ダツテ納得スルノデス、認證ナンダト斯ウ言ツテシマヘバ宜イ、批准トナツテ私ハ知ラナイヨヂヤ濟ミマセヌ、世間ハソンナコトヲ言ツタツテ通リマセヌ、其ノ理由ト、ソレカラ又批准ニ付キマシテハ大變手數ガ不便ダトカ、國際利益ニ違フトカ云フ御話ガゴザイマシタガ、申ス必要モナイノデゴザイマスケレドモ、一應ソレモ申シマセウ、陛下ノ御名前デナケレバ外國ヘ代表ガ出來ナイト仰ツシヤイマス、「スイス」ニモ例ガアルサウデス、元首デナイ人ノ署名デ行ツタ例モアルサウデス、コチラモ陛下ノ御名前デナクテ、外ノ總理大臣トカ、何トカノ名前デ何ガ不都合デスカ、ソレカラ大公使ガ天皇ヲ代表シナイカラヤリニクイ、同ジ日本帝國ヲ代表シテ居ル、天皇陛下ノ代表デナクテモ宜イヂヤアリマセヌカ、若シモ天皇陛下ノ代表ノ權限ガダ、假ニドウカ知リマセヌケレドモ、駐獨大使ナラ駐獨大使ガ戰爭ノ責任者ノ第一人者デアルト世間カラ認定サレテ、ソレガ天皇陛下ノ代表ダト云フコトデアツタナラバ、何ト情ナイコトダ、是ハ天皇陛下ノ代表者デナイ方ガ宜シイ、アレガ天皇陛下ノ代表デアツタ爲ニドレダケ國體ニ惡イ影響ヲ及シタデセウカ、如何ナル點カラ考ヘテモ斯ウ云フコトハナスベキコトヂヤナイ、ソレカラ又斯ウ云フコトモ言ハレル、國際儀禮ニ違フ、違フノデモ何デモゴザイマセヌ、唯異ルノデゴザイマス、私ハ「イギリス」ノ例ト日本ノ例トヲ此處デ分ケテ申上ゲマセウ、「イギリス」ハ「キング」ガ批准ヲサレマスガ、是ハ「キング・イン・パーラメント」、君民同治國デアレバコソ斯ウ云フ状態ガ起ツテ來マス、併シ日本ハ君民同治國デハアリマセヌ、何人ガ統治權ヲ總攬シテ居ノルカ、是ハ此ノ前私ハ政府ニ能ク確メマシタ、如何ナル説ニ於テモ國體、政體ニ苟クモ區別ヲ認メルモノヲ‥‥‥統治權ノ總攬者ト云フモノハ何人デアルカト云フコトハ、憲法ノ改正權ヲ握ツテ居ルノガ、即チ統治權ノ總攬者デアル、憲法ノ改正權サヘ握ツテ居レバ何事デモ出來ルノデスカラ、是ガ最高權者デアル、統治權ノ總攬者デアルト、斯ウ見ルノガ穩當デアラウト私ハ考ヘマスシ、政府モ其ノ意見ニ同意サレタ、サウシテ見マスルト、日本ハ新シク此ノ憲法ノ規定ニ從ヒマシテ、憲法改正ノ條文ヲ御讀ミニナルト分リマスケレドモ、九十六條デスカ、「この憲法の改正は、各議院の總議員の三分の二以上の贊成で、國會が、これを發議し、國民に提案してその承認を經なければならない。この承認には、特別の國民投票又は國會の定める選擧の際行はれる投票において、その過半數の贊成を必要とする。」即チ統治權ノ總攬者ハ何人デアルカト云ヘバ、兩院議員ト國民デゴザイマス、九十六條ガチヤント書イテ居ル、ソレサヘ一緒ニナレバドンナコトデモ出來ル、憲法改正ガ出來ルカラ其ノ憲法改正ヲ手段トシテドンナコトデモヤレル、是ガ日本ト「イギリス」ト違フ所デゴザイマス、「イギリス」ノ統治權ノ總攬者ハ「キング・イン・パーラメント」、即チ「キング」ガ國會ト共ニ統治權ヲ總攬スルノデアツテ、日本ハ天皇ガ統治權ノ總攬者デハナク、議會ト國民トガ統治權ヲ總攬スル、ソレデアリマスルカラ、國際儀禮ニ何モ違ツテハ居マセヌ、日本ニハ日本ノ風ガアル、日本ハ議會國トデモ申シマスカ、アチラハ君民同治國デアリマシテ、コチラハ君民同治國デハゴザイマセヌ、議會國デゴザイマス、ソレハ民主國ト名ヅケテ宜イカドウカソレハ知リマセヌ、兎ニ角統治權ノ所在ハ違ツテ居リマス、統治權ノ總攬者ノ地位、詰リ主權者ノ地位ガ違ツテ居リマス、ソレデアリマスカラ決シテ國際儀禮ニ違フ譯ガナイ、日本ニハ日本ノ風デ、斯ウ云フ風デアルカラ内閣總理大臣ガ署名モスルシ、代表モスル「イギリス」ハ「イギリス」デ「キング・イン・パーラメント」デアリマスカラ、統治權ノ總攬者タル、即チ「ヴュートー」ノ權ヲ握ツテ居ル「キング」ガ、ソレハ行ヘハシマセヌケレドモ、握ツテハ居ル、握ツテ居ル「キング」ガ署名ヲサレル、斯ウ云フコトニナルノデアリマス、是ハ變ツタ所デハゴザイマセヌ、ソレカラ又大公使ノ任命ヲ陛下ガ御自分デ御ヤリニナル、飛ンデモナイコトデス、内閣ノ批判、輔佐ガアルカラ責任ガナイノデハナイデスカト云フ、ソレハ憲法ノ規定ダケデゴザイマス、實際ハサウハ參リマセヌ、先程モチヨツト申上ゲタヤウニ、ソレハ事實カドウカ知リマセヌケレドモ、世評ノ如クダトスレバ、「ドイツ」大使ノ任命ガ如何ニ天皇ニ累ヲ及シタデアリマセウカ、今度又時勢ノ變遷ニ依ツテドンナ大使ガ出テ來ナイトモ限ラナイ、ドンナ亂暴ナ大使ガ出テ來ナイトモ限リマセヌ、斯ウ云フ場合ニ、一々天皇ハ、事實上ノ責任ハ御負ニナラナケレバイケナイ、憲法ニ如何ニ書イテアツテモ、世間カラ起ス所ノ囂々タル非難ハ、是ハ防ギヤウガゴザイマセヌ、今日ノ新聞ニモゴザイマシタ、何トカ二三ノ人達ガ天皇ノ御行爲ニ對シテ政治的ニ批評ヲシタ、サウシテソレガ裁判ニナリマシタ、是ハ不敬罪ニ問ハレズニ濟ンダト云フコトガ今日ノ新聞ニ出テ居リマス、アノ通リ天皇ノ御行爲ヲ政治的ニ批判スルコトハ、是カラ勝手ダト云フコトニナル、ソレダカラ、ソレハ餘程天皇ノ御行爲ト云フコトニ付テハ深甚ノ注意ヲ拂ハナケレバ、飛ンデモナイ結果ヲ喚ビ起シマス、斯ウ云フ意味ニ於キマシテ、私ハ是ハ認證ト云フコトガ宜イ、詰リ認證ト云フ字ハ小委員會デ誰方カガ御述ベニナリマシタ通リ、能ク政府デ考ヘテ書イタ言葉ナノデス、ソレデ法理カラ云ヘバ、何ダトカカンダトカ喧マシイ議論モゴザイマセウケレドモ、マア認證ト書イテアレバ何人ガ考ヘテモ天皇ガ御ヤリニナルト思フ人ハナイ、實體迄モ御ヤリニナルト考ヘテ居ル人ハナイ、ケレドモ批准トナリマスト、是ハ色々ナ甲論乙駁ガ出テ參リマス、ソンナコトヲシナイデ最モ安全ナ方法ニ行クコトガ宜シイト思ヒマス、其ノ意デ私ハ原案ヲ贊成シマスノデスガ、此ノ際ニ於キマシテ政府ノ御意見ヲ伺ヒタイ
○委員長（安倍能成君） 政府ノ御意見ハ述ベラレマシタ
○子爵大河内輝耕君 政府ノ御意見ハ先程述ベラレタト云フコトナラ宜シウゴザイマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 大河内委員ノ御質疑ニ依リマシテ所見ヲ述ベタノデアリマスガ、私ノ申シ方ガ不十分デアツタ爲ニ、一部分ニ對スル御答ト御取リニナツタヤウデアリマスガ、其ノ時ニ申シマシタヤウニ、如何ナル解釋ヲ以テスルモ、大權ガ擴張セラレタト解スルノ外ナク、從ツテ大權ニ御責任ヲ歸屬シ奉ル場面ガ事實ニ於テ殖エル、法律的ニハ色々ナ憲法上ノ保障ガアリマシテモ、事實其ノ虞ガ遙カニ増大スル、而シテ斯樣ナ考ヘ方ハ此ノ憲法ノ基本的ナル構想ノ一ツデアリマシテ、此ノ一點ニ手ヲ觸レマスナラバ、實質ヲ離レマシテモ、他ノ全部ノ之ニ類スル規定ニ影響ヲ及シ、容易ナラザル結果ヲ齎スモノデアリマスガ故ニ、此ノ第七條ノ御修正ノ諸點ヲ一括シテ、總テ政府ハ遺憾ナガラ御同意ヲ申上ゲ兼ネル次第デアリマス（拍手）
○子爵大河内輝耕君 今一點私ハ伺ヒマスガ、ソレデハ私ガ只今外交上不便ハナイト云フヤウニ説キマシタ、又「イギリス」ト日本ノ政體ノ區別モ述ベマシタ、政府ハ其ノ初メノ一點ハ、是非是ハ政府ニ伺ハナケレバナラヌ、是ハ私ノ言ツタ通リ不便ハナカラウト思ヒマスガ、其ノ點ハ如何デスカ、ソレカラ「イギリス」トノ違ヒハ政府ニ伺フノハ何デスカ、御差支ガナケレバ‥‥
○國務大臣（金森徳次郎君） 外交關係ニ於キマシテ、文書其ノ他ノ上ニ此ノ憲法ガ齎ス結果トシテ、多少ノ變化ガアルコトハ是ハ言ハナケレバナリマセヌガ、併シ國ノ造リ方、政治ノ建前ヲ如何ニスルカハ、各國ノ自ラ定メル所デアリマシテ、之ヲ基本トシテ外交關係ガ成立スルモノデアリマスガ故ニ、其ノ點ニ於テ何等懸念スベキ點ハナイト考ヘテ居リマス、而モ實際ニ於キマシテハ、其ノ懸念スベキト云フヤウナ假想的ナル問題ヲモ必要トセザル程度ニ、實行的ニ差支ナク動クモノト考ヘテ居リマス、ソレカラ「イギリス」トノ釣合ニ關シマシテハ、是ハ仰セニナリマシタヤウニ、相當違ツテ居リマスルノデ、強ヒテ御答ヲ申上ゲルコトハ出來マセヌ、此ノ憲法ハ全ク日本ノ國情ニ基キマシテ、日本獨特ナル天皇制ヲ基本トシテ居ルモノデアル、斯ウ御答申スヨリ外仕方ガナイト思ヒマス
○山田三良君 私ハ今迄度々説明モシテ居リマスカラ、何モ申シマセヌ唯大河内委員ノ今御述ニナツタヤウナ點ニ付キマシテハ、一々承服致シ兼ネル點ガアリマスケレドモ、今此處デ其ノ討論ヲ致シテ居リマスト、多大ノ時間ヲ要スルコトニナリマスカラ、是非ハ皆樣ノ御判斷ニ御委セヲ致シマシテ、此ノ上特ニ説明スルコトハ此處デハ見合シテ置カウト思ヒマス、其ノコトダケ申上ゲテ置キマス
○委員長（安倍能成君） 別ニ御意見ガナケレバ採決ニ入リマス
○子爵松平親義君 只今大河内子爵カラ色々御述ベニナリマシタカラ、モウ私申サナイデ宜イカト思ヒマシタケレドモ、實ハ此ノ問題ニ付キマシテハ、折角デゴザイマスケレドモ、私モ實ハ反對ヲ致シテ居リマスノデ、簡單ニ私ノ反對ヲ致シマス氣持ヲモウ一度述ベサセテ戴キタイト思フノデアリマス、先程山田博士、高柳博士カラ修正案ニ對スル御意見ガ出マシタ、山田博士ハ專ラ法理論トシテ、天皇ノ大權ヲ一向之ニ依ツテ増スモノデモ何デモナイノデアル、唯外交上ニ於テ天皇ハ國家ノ代表者トシテノ御立場デアルト云フコトヲ考ヘタ場合ニ、現在ノ此ノ規定ノ仕方デハドウモ外交上ノ權威ト言ヒマスカ、天皇ノ御立場ニ於テ缺ケル所ガアルト云フ御話デアリマス、高柳博士ノ方ハソレニ對シマシテ、天皇ノ威嚴ト云フモノヲソレニ依ツテ昂メヨウト云フ御考ガアルト云フ風ニ私ハ承ツタノデアリマス、何レモ私ハ其ノ御話ハ能ク分リマス、一應其ノ御氣持モ分リマスノデ、實ハ私此ノ修正ニ對シマシテ反對ヲ致シマスノハ、私トシマシテハ非常ニ心苦シク存ジテ居ル次第デアリマス、昨年十月ノ四日デアリマシタカ、「マツカーサー」司令部カラ言論ノ自由ト云フコトニ付キマシテノ指令ガ出マシタ、其ノ中ニ天皇制ヲ含メテノ言論ノ自由ト云フコトガ出マシテ、ソレ以來ト云フモノハ申ス迄モナク、御承知ノ通リ天皇制ニ關スル論議ト云フモノガ左カラ右ニ至ル迄非常ニ論議サレタコトハ私共非常ニ感慨無量ナモノガソコニアルノデゴザイマス、而シテ今囘此ノ憲法ガ制定サレマシタニ付キマシテハ、是亦私實ハ非常ニ感慨無量ナモノガゴザイマス、若シ此ノ憲法ガモウ少シ早ク起草サレタト言ヒマスカ、モウ少シ時期ガドウカナツテ居ツタナラバ、斯ウ云ノ風ナ憲法ニナラナクテ濟ンダノデハナイカト云ツタ感ジガ致シマスノデ、其ノ點私非常ニ感慨無量ニ考ヘテ居ル次第デアリマス、併シ今日一旦斯ウ云フ風ナ憲法ガ決リマシタ以上ハ、我々ハ「ポツダム」宣言ヲ受諾致シマシタ以上、之ニ依リマシテ之ヲ忠實ニ履行スル、「ポツダム」宣言ノ線ニ副ツテ我々ガ課セラレタ義務ヲ忠實ニ履行スルト云フコトニ日本ノ再建ノ方途ガアリ、又國運打開ノ途ガアルト私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、從ヒマシテ此ノ憲法ガ出來マシタ以上ハ、之ニ依リマシテ我々ハ忠實ニ今後我ガ國政ノ運用ヲシテ行クヨリ今ノ所私ハ方法ハナイト思フノデアリマス、而シテ此ノ天皇ノ大權ト云フカ天皇ノ御權能ニ付キマシテハ、私ハ實ハ先程モ申シマシタケレドモ、是ハ既ニ衆議院ニ於キマシテ通過シタ所ノ憲法デアリマシテ、サウシマシテ衆議院ニ於キマシテハ既ニ社會黨或ハ進歩黨、ソレゾレノ黨派ニ依ツテソレゾレ討議サレテ、左デモナイ右デモナイ、結局是ハ中庸ナ所ニ落著イタト云フ所デ此ノ第七條ガ茲ニ私ハ現レテ來タト云フ風ニ感ジテ居リマス、現ニ社會黨アタリデハ此ノ權能デモ尚且多キニ過ギルト云フノデ、之ヲ更ニ削除スルト云フ修正ガ出テ居ル位デアリマス、從ヒマシテ私ハ實ハ個人トシテ甚ダドウカト思フノデアリマスケレドモ、矢張リ我々貴族院トシマシテ、私ハ此ノ憲法ニ對シテ公平ナ立場ヲ取ルト云フ考カラ致シマスト、此ノ際之ニ修正ヲ加ヘルト云フコトハ私ハ實ハ非常ニ心苦シク思フ次第デアリマス、ソレデ先程御話ニナリマシタ山田博士ノコトモ、或ハ高柳博士ノコトモ能ク私ハ分リマスケレドモ、併シ此ノ際此ノ儘ニシテ置クノガ一番天皇ノ御安泰ヲ圖ル所以ニナル、天皇ノ御地位ノ御安泰ヲ圖ルコトハ現在ノ所ガ一番先ヅ穩當デアルト私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、而シテ先程來天皇ニ對シテ決シテ之ガ責任ハ及ブモノデモナイ、矢張リ國務大臣ノ助言ト輔弼トニ依ツテ批准ヲ行ハセラレルナラバ決シテ天皇ノ御責任ニ係ハルコトハナイト云フ御話デアリマシタケレドモ、併シ是ハ金森國務大臣カラモ屡々御言明ニナリマシタヤウニ、現行憲法ニ於キマシテモ天皇ヲ輔弼スルト云フコトガ假令アリマシテモ、天皇ノ御決定ト云フモノガソレニ依ツテ拘束サレルト云フモノデハ法律上ハ私モナイト思フノデアリマス、ソコニ矢張リ天皇ノ御意思ガ働キマス限リハ其ノ御意思トシテ、ソレヲ左ニスルカ右ニスルカト云フ天皇ノ御意思ノ働ク所ニ餘地ガ出テ來ルト思フノデアリマス、ソレガ爲ニコソ現在ノ憲法ニ於キマシテハ第三條ニ於テ「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」ト云フ一ツノ規定ガアリマシテ、ソレニ依ツテ天皇ノ無答責ヲ決メテアルモノト思ヒマスガ、今度ノ憲法ニ於キマシテハ此ノ無答責ノ規定ハゴザイマセヌ、サウ云フ關係カラシマシテモ此ノ第七條ニ天皇ノ批准權ヲ茲ニ附加ヘルト云フコトハ、若シサウ云フコトニナリマスト、先程モ御答辯ガアリマシタヤウニ、憲法全體ニ私ハ矢張リ響イテ來ル問題ト思フノデアリマシテ、サウ云フ意味カラ致シマシテモ、私ハ此ノ際矢張リ是ハ此ノ儘ニシテ置クノガ、私ハ情ニ於テハ忍ビナイモノガアリマスケレドモ、矢張リ反對セザルヲ得ナイノデアリマス、モウ一ツ又此ノ條約ノ批准ト云フモノハ國會ノ承認ヲ經テ決メルト云フコトデアリマスガ、ソレガ事後ニアル場合ト事前ニアル場合ト兩方ゴザイマスガ、事後ニアル場合ニ於キマシテハ、是ハ矢張リソコニ天皇ノ批准權ト云フモノト何カ關係ガシテ來ルト思フノデアリマシテ、其ノ邊モ檢討シテ見ナイト俄ニ私ハ贊成致シ兼ネルノデアリマス、甚ダ長ク喋リマシテ恐縮デアリマスガ、私ハソンナヤウナ氣持カラ此ノ修正ニハ反對ヲ致シタイト存ジマス
○委員長（安倍能成君） 別ニ御意見ガナケレバ採決シタイト思ヒマス
○高柳賢三君 チヨツト今迄ノ御話デ一點ダケ申述ベサシテ置イテ戴キタイ點ハ、此ノ修正案ニ依ルトソレニ依ツテ天皇ニ御責任ガ及ブト云フ一點ガ非常ニ強イ議論トシテ提出サレタヤウニ思ヒマス、サウシテ私ハ大河内委員ノ御説ハ非常ニ徹底シテ居ルダラウト思フノデアリマス、第一國政一般カラ天皇ハ批准ヲ執ラナケレバナラヌノダト云フ趣旨ノ御提案ヲサレテ居ルノデアツテ、此ノ點ハ非常ニ大河内子爵ノ立場カラハ徹底シテ居ラレル、大使、公使ヲ任命シタ爲ニ天皇ニ迷惑ガ掛ルト云フコトガ事實デアルナラバ、内閣總理大臣ヲ任命シテ、變ナ總理大臣ガ出テ國政ヲ誤ツタ場合ニハ、即チ天皇ガ責任ヲ負フト云フ「ロジック」ガ出テ來ルノデ、我々ハサウ云フヤウナ風ニハ見テ居ラナイノデス、内閣總理大臣ヲ天皇ガ任命サレテモ、矢張リ責任ハ天皇ニハナイノダト云フ意味デ其ノ規定ヲ我我認メテ居ルノデ、又サウ云フ風ニ見ルノガ立憲國ノ通念ダラウト思フノデアリマス、其ノ見地カラ大公使ニ付テ特ニソレトハ違ツタコトガアルト云フコトハナイノヂヤナイカ、其ノ意味ニ於テ大河内委員ノ御説ト云フノハ非常ナ論理的ニ徹底シテ居ルノデアリマスガ、第一ノ前提ガ茲デ否決サレタノデアリマスノデ、矢張リ其ノ「コロラリー」トモ言フベキ、而モ大公使任ノ命ダケニ付テハソレハ危險ダト云フコトハ私等ニハ了解出來ナイノデ、大河内子爵ノ御説ヲ徹底サセレバ、大河内子爵ガ、内閣總理大臣ヲ任命スルト云フコトヲ天皇ガヤラレルト云フコトハ、是ハ天皇ノ責任問題ヲ生ゼシメル所以ニナルモノデアル、斯ウ云フ結論ニナルノダラウト思ヒマス、其ノ點一點ダケヲチヨツト申述ベサシテ戴キマス
○子爵大河内輝耕君 サウ云フヤウナ御話ガ出マシタカラ、モウ述ベル必要モアリマセスガ、チヨツト、總理大臣ト云フモノハ國内ノ機關、國外カラソレ程ノ影響ヲ受ケテソレデドウト云フコトハ大公使カラ見レバ先ヅ少イ、ソレカラ今後私ノ信ズル所デハ、總理大臣ト云フモノハ衆議院ノ政黨ノ領袖ガナリマス、私ハサウ信ジテ居ル、ソレデナクテモ政界ニ於テ勢力ガアル人、此ノ人ガナル、此ノ人ガナルト云フコトハ分ツテ居ル、デスカラ陛下ガソレヲ假令御任命ニナリマシテモ、外部ノ勢已ムヲ得ズソコニ來タノダト云フコトヲ何人モ認メル、大公使ノ方ハサウハ參リマセヌ、何處カラデモ引張ツテ來テドンドンヤルノデスカラ、是ハ餘程性質ガ違フト思ヒマス、片方ハ對外關係デアリ、片方ハ對内關係デアル、片方ハ政治上ノ、議會ナンカノ形勢デ大概人ノ範圍ガ決ツテ居ル、一方ハ誰ヲ引張ツテ來テモ構ハナイ、大分性質ガ違ヒマス、其ノコトダケ
〔「討論終結」ト呼フ者アリ〕
〔山田三良君發言ノ許可ヲ求ム〕
○委員長（安倍能成君） 成ルベク簡單ニ御願ヒ致シマス
○山田三良君 モウ附加ヘルコトヲスル積リハナカツタノデアリマスガ、色色松平子爵、大河内子爵等カラ御述ニナリマシタ點ニ付テ一々反駁スルコトデナイノデスケレドモ、一、二ノ點ニ付テ唯私ハ自分ノ所信ヲ申上ゲテ置キタイ、ソレハ度々繰返シテ申シテ居リマスヤウニ、形式的ニ認證ト批准ト云フモノハ違ツテ居リマシテモ、其ノ天皇ノ責任、或ハ權限ニ於キマシテハ、實際上ハ同ジコトデアルト云フコトヲ私ハ屡々申シテ居ルノデアリマスガ、ソレヲ大變ニ、其ノ點ニ於テ批准ト認證トハ全ク別種ノ違ツタモノノヤウニ御認メニナツテ、認證デアルナラバ宜イケレドモ、批准デアルナラバ天皇ノ責任ガ大變加ハルカラ心配ダ、斯ウ云フ御話デアリマスガ、條約ノ批准書ノ認證ガアツテ始メテ外國ニ效力ヲ發スルト云フモノデスカラ、批准ト云フモノハ矢張リソレニ依ツテ效力ヲ發生スル、此ノ二ツノ點ニ於テハ少シモ變リハナイノデアリマス、天皇ガ認證セラレルト言ツテモ、其ノ爲ニ責任ヲ負フベキ場合ニハ負ハナクテハナラナイコトデアリ、批准ナレテモ其ノ點ハ同ジコトデアリマスカラ、ソレ以上ニ皇室ノ御安泰ニ關係スルコトガアルカナイカト云フコトハ、私共ハソレハナイト思ヒマスガ、ソレガアルト云フコトノ御主張ニナルノハ、是ハ意見ノ相違デアリマスカラ已ムヲ得ナイコトデアリマス、御考ニ委セル外ナイコトデアリマス、ソレカラモウ一ツハ、大使ヤ公使ト云フ者ヲ内閣デ任命シテモ、天皇ガ任命サレテモ、外交上ニ於テハソレデ宜イヂヤナイカ、斯ウ云フ御話デアリマスガ、外交ニ付キマシテハ、其ノ形式ノ相違ガ非常ニ重大ナ相違ガアルト云フコトハ、我々外交ノコトヲ能ク知リマセヌ者ヨリモ、總理大臣始メ外交ノ衝ニ當ツテ居ル方ハ、極メテ痛切ニ御感ジニナル筈デアリマシテ、ソレハ決シテ同ジモノデナイノデアリマス、其ノ形式ノ相違ガ、重大ナル國交ノ親善關係ヲ増進スル上ニ於テハアルノデアリマス、ノミナラズ日本ノ内閣總理大臣ダケガ國家ヲ代表スル資格ヲ持タズシテ條約ヲ批准スルト云フコトハ、是ハドウモ何ト言ツテモ説明ノ出來ナイコトデアリマスカラ、サウ云フ點ハ成ルベク世間普通ニシテ置キタイ、是ダケデアリマス、ソレカラ大使、公使ノ任命等ニ付キマシテモ、日本ダケガ異例ヲ以テスルヨリモ世間普通ノ慣例ニ從ツテ置クト云フコトガ、是ガ最モ安全ナ方法デアル、而モソレガ爲ニ皇室ニ累ヲ起スト云フコトハ何モナイト、我々ハ固ク信ジテ居ル次第デアリマスカラ、此ノ點ニ於テ世間並ノコトヲナサルヤウニシテ戴キタイ、ソレガ又スベキデアル、サウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、ソレ以上ハ意見ガ違ツテ居リマスカラ、皆サンノ御考ニ依ル外ハナイト思ヒマス、モウ一ツ最後ニ一點御反省願ヒタイコトハ、今カラ議題ニ入ツテ來マス小委員會ニ於ケル委員長報告ノアレハ、只今殘ツテ居リマスモノハ、第十五條ノ規定ト第六十六條ノ規定ダケトナツテ來マスガ、斯ウ云フコトヲ一方ニ考ヘマシテ、而シテ憲法改正案ノ審議以來、貴族院ニ於キマシテ色々ナ點ニ付テ審議ヲ十分ニ盡シマシテ、總テノ點ニ付テ顧ミマシテ修正スベキ道理ガアルモノナラバ、私ハ其ノ修正ヲスルノガ貴族院トシテノ立場ダラウト思ヒマス、ソレヲ色々ナ心配ガアルカラト云フノデ、色々ナ政治的問題ヲ特ニ考慮サレテ、其ノ爲ニ至極道理アルト云フ修正ヲドウシテモ認メナイ、斯ウ云フコトニナリマスコトハ、私ハ衆議院カ何カニ於テ、政黨ノ關係デ、サウ云フ意見ヲ抑壓スルト云フナラバ別デアリマスケレドモ、大義明分ヲ重ンズルコトガ從來ノ傳統デアル貴族院ニ於キマシテ此ノ大義明分ニ反スル規定ヲ改メズニ、今後帝國憲法ノ規定トシテ其ノ儘ニ置クキ云フコトハ、私ハ如何ニモ忍ビナイコトデアリマス、是ハ私ハ甚ダ失禮デアリマスガ、貴族院議員諸君ニ於キマシテモ、本來同感ダラウト信ジテ居リマス、其ノ意味ニ於キマシテ、貴族院ハ貴族院ノ立場トシテ爲スベキ修正ダケハ修正セラレテ、サウシテ其ノ結果ハ、ソレハ衆議院其ノ他ノ點ニ於キマシテ、成立シナケレバソレデ宜シイコトデアリマスガ、先ヅ貴族院トシテ斯ウ云フ規定ニ對シテ色ンナ心配モアリマスケレドモ、甚ダ不合理デアリ、甚ダ妥當ヲ缺イテ居ルト云フ點ヲ、若シモ御認メニナルナラバ、之ヲ適當ニ修正セラレルト云フコトハ、私ハ貴族院議員トシテ責任デアルト深ク信ジテ居ル次第デアリマス、其ノコトダケヲ一言申上ゲマス
〔「討論終結」ト呼フ者アリ、霜山精一君發言ノ許可ヲ求ム、其ノ他發言者多數〕
○委員長（安倍能成君） 成ルベク簡單ニ願ヒマス
○霜山精一君 ハイ、私ハ七條ノ第九號ニ付テ意見ヲ申述ベタイト思フノデス、七條ノ九號ハ、此ノ修正案ニ依リマスト、「内閣の指名に基いて」天皇ガ「大使、公使及び全權委員を任命する」ト、斯ウ云フコトニナツテ居リマシテ、此ノ點ガ頗ル私ハ疑問デハナイカト實ハ考ヘテ居ルノデアリマス、此ノ點ハ小委員會ニ於キマシテモ淺井委員カラ十分ニ議論サレタ所デアリマシテ、私モソレニ同感ナンデアリマスガ、今日ノ此ノ憲法草案ニ依リマスルト、天皇ガ任命セラルヽ官吏ハ内閣總理大臣ト最高裁判所ノ長官ト二人キリデアリマシテ、國務大臣以下ノ所謂親任官ニ屬スルモノハ、最早親任官デハナクナル譯デアリマス、天皇御自ラ任命サレル譯デハナイノデアリマス、然ルニ茲ニ大使、公使及ビ全權委員ニ付テハ、天皇御親ラ任命サレルノデアリマシテ、其ノ格ニ於キマシテハ、總理大臣及ビ最高裁判所ノ長官ト同格ニナルノデアリマス、而シテ是等ノ大使、公使ヲ監督シテ居ラレマスル外務大臣其ノモノハ、天皇ノ親ラノ御任命デハナイノデアリマシテ、詰リ此ノ大使、公使、全權委員ハ、此ノ修正案ニ依リマスルト、外務大臣以上ノ地位ヲ占メラレルト云フ結果ニナラザルヲ得ナイト思フノデアリマス、大使ハ今日デモ親任官デアリマスルケレドモ、公使ニ付キマシテハ勅任官デアリマシテ、天皇ノ今日御親任ニナツテ居ラヌノデアリマス、親任状ハ渡サレマスルケレドモ‥‥公使ニ付テハ、天皇ハ公使ヲ親任式ニ依ツテ任命サレルノデハナイノデアリマス、而モ公使ノ中ニハ四十臺位ノ極ク若イ人ガナツテ居リマス、サウ云フ人ガ一躍シテ總理大臣ト同格ニ跳上ツテシマフ、斯ウ云フ結果ニナルコトハ、此ノ外ノ點モ私ハアリマスルケレドモ、此ノ九號ニ付キマシテハ、此ノ任命ノ系統カラシテ非常ニ不合理ナ結果ヲ起スンヂヤナイカ、外交關係ダカラ之ダケ特別ダト云フ御意見ノヤウデスケレドモ、私ハ是ハ任命ノコトデスカラ、内閣關係デアツテ、サウ云フ不合理ヲ認メルト云フコトハ、是ハ宜シクナインヂヤナイカト云フコトガ一番問題ニナルノデアリマシテ、此ノ點ハ能ク御理解ニナツテ御採決アラムコトヲ希望スルノデアリマス
○委員長（安倍能成君） 議論ハ大體盡キタト思ヒマスカラ採決ニ移リタイト思ヒマス
〔瀧川儀作君發言ノ許可ヲ求メ、「チヨツト簡單デゴザイマスカラ」ト述ブ、「採決々々」ト呼フ者アリ、其ノ他發言者多數〕
○委員長（安倍能成君） 瀧川君
○瀧川儀作君 私ハ法律ノ知識ヲ持タナイ爲ニ、此ノ問題ニ嘴ヲ出スコトハ甚ダ恐縮デゴザイマスガ、私ノ常識ニ於キマシテ、本朝カラ提案者ガ誠ニ丁寧ニ、深切ニ爲サレタコトヲ伺ヒマシテ、政府ノ御心配爲サレルヤウナ、天皇ノ責任ヲ重荷スルト云フコトデナイ、寧ロ其ノ點ニ付テ細心ノ注意ヲ用ヒラレテ居ルヤウニ思ハレルノデアリマス、同時ニ國際間ノ慣例モ大イニ加味シテ説明ヲサレタノデアリマス、更ニ學界ノ權威者トシテ、兩博士ガ、法律上ノ見地カラ立案サレタノデアリマスカラ、各方面カラ見テ、私共ノ常識ニ於テ、誠ニ適當ナ修正案ト考ヘテ居ルノデ、政府ノ御心配ニナルヤウナ天皇ニ對スル權限擴張トカ、又大河内委員ノ御心配ニナツタヤウナ點ハ、更ニナイヤウニ、私ハ常識ニ於テ考ヘルノデアリマスガ、國際上ノ關係モアルノデアリマスカラ、強ヒテハ申上ゲマセヌガ、私ハ提案者ニ贊成スルノデアリマス
○委員長（安倍能成君） ソレデハ別ニ御議論モナイヤウデアリマスカラ、採決ニ移リマス、第七條ノ五ト第七條ノ九トノ修正ハ是ハ關聯事項デアリマスカラ、此ノ二點ノ修正ヲ一括シテ採決スルト云フコトニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） ソレデハ第七條ノ五「竝びに全權委任状及ビ大使及ビ公使の信任状」ヲ削ル、ソレカラ第七條ノ九ノ始ニ「内閣の指名に基いて大使、公使及び全權委員を任命すること竝びに」ヲ加ヘル、之ニ御贊成ノ方ノ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デゴザイマス、ソレカラ同條ノ六「認證すること。」ヲ「行ふこと。」ト改メル、之ニ御贊成ノ方ノ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デゴザイマス、ソレカラ同條ノ八「批准書及び」ヲ「國會の承認により内閣の締結した條約を批准すること竝びに」ト改メ「その他の」ノ四字ヲ削ル、此ノ修正案ニ御贊成ノ方ノ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デゴザイマス、是デ山田委員ノ修正案ハ全部否決ニナリマシタ、次ニ田所委員ノ第二十四條ニ家族生活ニ關スル適當ナル規定ヲ入レルコト、家族生活ハ尊重スルト云フ意味ノ規定ヲ入レルト云フコトデアリマス、改メテモウ一遍言ヒ直スト、第一項ニ家族生活ハ之ヲ尊重スル、サウ云フ規定ヲ入レルコト、大河内委員
○子爵大河内輝耕君 私ハ此ノコトニ付テ意見ヲ述ベタウゴザイマス、田所委員ノ仰シヤル所ニ依リマスルト、家族生活ヲ尊重スルト云フコトデアリマス、併シ此ノ中ニ流レテ居ル下ノ意味ヲ見マスルト、是ハ家族制度ヲ保存シロト云フコトニナリマス、ソレデ此ノ規定ハ家族制度ヲ保存スベキヤ否ヤト云フコトノ見地カラ贊否ヲ決シタイト思ヒマス、ソレデハ家族制度ト云フモノハドウ云フモノカ、マア其ノ前ニ申シマスガ、田所委員モ仰シヤツタ通リ「父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ」、是ハ實ニ立派ナコトデ、誰モ不贊成ノ方ハゴザイマセヌ、殊ニ今度ノ規定ニ依リマシテ、親權モ狹クナリマセウ、夫ノ權利モ狹クナリマセウ、或ハ兄弟ノ間ハ扶養ノ義務ガアルカドウカ知リマセヌガ、ソンナモノモ取レテシマフカモ知レマセヌ、併シ根本ノ趣旨ハ決シテ動クモノヂヤナイ、親子間ノ慈愛、兄弟間ノ思ヒ遣リ、夫婦關間ノ和合ノ係、是ハ社會ノ基礎デゴザイマシテ、是ハ守ラナケレバナラヌ、併シナガラ家族制度、家ノ氏族ノ制度ヲ憲法ヲ以テ保存スルガ宜イカ惡イカハ別ノコトデアリマス、家族制度ト云フモノハ、或地方、例ヘバ農村ニハゴザイマス、又是ハ長クハ續キマスマイガ、大キナ華族サンノ御屋敷ニハゴザイマス、此ノ爲ニ寄生蟲ガ殖エテ御迷惑デゴザイマセウガ、有ルニハゴザイマス、併シ是ハ全體ヲ通ジテ見マスト、或ハ私共ノ知ツテ居ル處デハ、家族制度ト云フモノハ今日ハ殆ド行ハレテ居リマセヌ、戸主ダカラ偉イト云フコトハアリマセヌ、親ヲ敬ヒ兄ヲ敬ヒ弟ハ慈シム、夫婦ハ和合スルト言ハレテ居リマスルガ、ソレハ唯、行ハレテ居リマス、家トカ戸主トカ云フコトハアリマセヌ、無論祖先崇拜ハアリマスガ、家ト云フコトデ、家族制度ト云フモノハ行ハレテ居リマセヌ、ソレデマダ行ハレナイ事情モ幾ラモアリマス、何シロ、此ノ通リ財産税ヲ課ケラレタラ、家ハ保テヤシマセヌ、家ハ本當ニ保タウト思ヘバ、相續税モ止メナケレバナリマセヌ、是ダツテ減シツコアリマセヌ、各種ノ工合カラ言ツテ見テモ、家ハ保テルモノヂヤナイ、農村ニ於テモ、今ハ認メラレテ居リマスガ、段々崩レテ參リマス、假令一部ニハ存シテモ、大體ニ於テ社會カラ遊離シタ制度ヲ、法律ヲ以テ無理ニ保存スル、無理ニト云フコトハ語弊ガアルカモ知レマセヌガ、人爲的ニ保存スルト云フコトハ、如何ナモノデゴザイマセウカ、勿論農村ニ家族制度ガゴザイマスレバ、ソレヲ保存スルコトガ宜ケレバ、其處デ保存スルコトハ一向妨ゲルドコロヂヤナイ、大イニ宜イコトデス、法律ヲ以テ、家族制度ガ惡イカラ廢メテシマヘト云フ規定ヲ置クコトハ、無論惡ウゴザイマス、又同時ニ遊離シテ居ル、滅ビニ亡ンデ行クヤウナモノヲ、迚モ斯ウ云フ風ニ財産税デモ課ケラレタラ、本當ヲ言フト親子ノ扶養ノ義務ナンカ、果セルカドウカ分ラナイ、親子ノ扶養ノ義務デモ事實危イト思ヒマスケレドモ、ソレハ別トシテ家ナド保ツテ行ケルモノヂヤアリマセヌ、サウ云フモノヲ人爲的ニ法律ヲ以テ保存スル、殊ニ人爲的ニ憲法ヲ以テ保存スルト云フコトハ、止メタガ宜カラウト思ヒマス、個人ノ説ハ別ト致シマシテ、憲法ノ立案ニ携ル委員ト致シマシテハ、斯ウ云フ制度ハ觸レズニ置クガ宜イト云フ意味ニ於キマシテ、原案ニ私ハ贊成致シマス、尚念ノ爲ニ政府ノ御意向ヲ
○國務大臣（金森徳次郎君） 二十四條ニ家族生活ヲ尊重スル意味ノ規定ヲ入レルコトニ付キマシテ、政府ノ御意見ヲ御訊シニナリマシタガ、是ハ豫ネ豫ネ申シテ居リマスヤウニ、家族生活ノ規定ヲ考ヘルコトガ惡イト、斯ウ云フ趣旨ヲ必ズシモ持ツテ居ル譯デハゴザイマセヌケレドモ、此ノ憲法ハ飽ク迄憲法トシテ相應ハシキ或範圍ト云フモノニ、一定ノ標準ヲ置キマシテ規定ヲ設ケマシタ、道徳的ナ規定トカ、或ハ將來ノ變化ヲ多少豫想シ得ルヤウナ規定ハ遠慮致シテ居リマス、二十四條ニ兩性ノ平等ト云フコトヲ置キマシタガ、是ハ所謂中世的ナル遺風ヲ摘除スルニ必要ナル意味ニ於キマシテ、之ヲ入レマシタ譯デアリマス、從ヒマシテ今後法律ニ依リマシテ、適當ニ國民ノ御考ニ依ツテ、宜イヤウニ導カレテ行クノデアリマシテ、憲法ニ入レルコトハ不釣合デ不適當デアルト考ヘテ居ル次第デアリマス
○田所美治君 時間モ長クナリマスカラ、ソレニ對シテ意見ヲ申述ベマセヌ、曩ハ簡單ニ申シマシタケレドモ、大河内サンノ御考ト私ハ多少違ツテ居リマス、又政府ノ御考ニ對シマシテ、私ノ述ベタ分モゴザイマスカラ、後ハ皆サンニ對シテ釋迦ニ説法デ、此ノコトコソ、貴族院ノ諸公ハ常ニ御考ニナツテ居ルコトデアリマスカラ、此處デソレヲ縷説ハ致シマセヌ、ドウゾ御自由ニ御判斷ヲ願ヒマシテ、相成ルベク是ハ憲法ニ入レマシテ、先程御話シシタヤウニ、國民ノ誤解ヲ直グ招クノデアリマシテ、親子ハドウナツタ、斯ウ云フ點デアリマスカラシテ、若シ不必要デアルト云フ政府ノ意見ノヤウニシマスレバ、民法ダケデ結構デアル、何モ手續スル必要ハナイ、是ハ意見デアリマスカラ、私ハ其ノ點ヲ觸レテ申シマセヌ、ドウゾ相成ルベクハ、第一項ニ其ノ原則ガ加リマシタナラバト、端的ニ、コンナ風ニ考ヘテ居リマス
○委員長（安倍能成君） 別ニ御議論モナケレバ採決ヲ致シマス、田所委員ノ修正案ノ第二十四條一項トシテ家族生活ハ之ヲ尊重スルヲ加ヘル、此ノ案ニ御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デアリマス、田所委員ノ修正案ハ否決ニナリマシタ、議事ノ便宜上、下條君ノ修正案ハ後ニシテ山本君ノ修正案ヲ問題ニ供スルコトガ好都合ダト思ヒマスガ、左樣ニスルコトニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） ソレデハ先ヅ山本君ノ修正ヲ問題ニ致シマス、山本君ノ修正ヲ讀上ゲマス、漢字制限ノ立場カラ文字ノ修正案、第五十七條第二項ノ終リ「一般に頒布」ヲ「一般に配布」ト改メル、ソレカラ第八十二條第二項ノ中、「風俗を害する虞がある」ヲ「風俗を害するおそれがある」ト改メル、ソレカラ第九十七條ノ中「幾多の試錬に堪ヘ」ヲ「幾多の試練にたヘ」ト改メル、尚「且つ」「又」「但し「若しくは」ト云フ接續詞ハ假名書キニ改メルコト、斯ウ云フ案デゴザイマス、御意見ガアレバ御開陳願ヒマス、御意見ガナケレバ採決致シマス第五十七條第二項ノ終リ「一般に頒布」ヲ「一般に配布」ト改メルコト、之ニ付テ御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デアリマス、ソレカラ次ニ第八十二條第二項ノ中「風俗を害すろ虞がある」、「虞」ト云フ字ヲ之ヲ假名ニスル、之ニ御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デアリマス、ソレカラ第九十七條ノ中「幾多の試錬に堪ヘ」ルノ「錬」ト云フ字ヲ金篇ヂヤナク糸篇ニシ、「堪ヘ」ト云フ字ヲ假名ニスル、之ニ御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デアリマス、ソレカラ第四ニ「且つ」「又」「但し」「若しくは」ト云フ接續詞ハ、假名書キニ改メルコトニ、御贊成ノ方ハ、御起立ヲ願ヒマス
〔起立者少數〕
○委員長（安倍能成君） 少數デゴザイマス、山本君ノ修正案ハ是デ全部否決ニナリマシタ、次ニ下條委員ノ修正案ハ第五十九條第三項トシテ左ノ如ク加フ、「前項の規定は法律の定めるところにより衆議院が兩議院の協議會を開くことを求めることを妨げない」之ニ付テ御意見ヲ伺ヒマス
○大谷正男君 私ハ、下條委員ノ修正意見ニ贊成スルモノデアリマス、先刻下條委員カラ説明セラレマシタ通リ、豫算ノ方ニハ兩院協議會ノ規定ガアツテ、法律案ノ方ニ於テナイ、此ノコトニ付キマシテハ度々衆議院ニ於キマシテモ、貴族院ニ於キマシテモ、質疑應答ハアツタノデアリマスルガ、私ハ是ハ原案トシテハ色々理由モゴザイマセウガ、私ハ規定トシテハ不十分デアルト、當初考ヘテ居ツタノデアリマス、尚政府カラ御答辯ガアリマシタヤウニ、是ハ當委員會ニ於テモゴザイマシタ、衆議院ニ於テモアツタト記憶致シマス、國會法ニ規定ヲ設ケル積リデアルト云フコトハ、ハツキリ仰セラレタヤウデアリマスガ、併シ先刻下條委員カラ御話ガアリマシタヤウニ、是ハ見方ニ依ツテハ、憲法ニ違反スルト云フコトガ疑問ニナル、少クモ疑問ニナル虞ガアルト云フコトデアリマシテ、私ハ其ノ點ニ付テハ、當初ハサウ云フコトニハ考ヘマセスデシタガ、其ノ虞ガアルト云フコトニ付テハ御尤モナコトト存ジマス、尚此ノ五十九條ニ依リマシテ、法律案ガ、多數決ニ依リマシテ出來ル、ソレカラ其ノ次ニ、五十九條ノ第二項ニ、「衆議院で可決し、參議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多數で再び可決したときは法律となる。」斯ウ云フコトニ依リマシテ、一切ノ法律ガ處理セラレルノデアリマスルガ、法律案ニ依リマシテハ、非常ニ重要ナモノガ多々アル、是ハ言フ迄モナイガ、就中、皇室典範、是モ第二條ニ依リマシテ皇室典範ト云フコトガ明示サレテアリマス、是ハ法律案デ提出セラレルコトニナツテ居リマス、是ガ矢張リ此ノ五十九條ノ規定ニ依リマシテ成立スル、斯樣ナ、皇室典範ガ將來改正セラレルト云フヤウナ場合ガアリマシタ時ハ、此ノ規定ニ依リマシテ決セラレル譯デアリマス、斯樣ナ重要ナル法規ガ、此ノ一般ノ法律案ト同ジヤウニナルト云フコトニ付キマシテハ、是ハ實ハ議論ノアル處デゴザイマスガ、今、此ノ草案ニ於キマシテハ、矢張リ外ノ法律案ト同樣ニ成立スル、是ハ已ムヲ得ナイト存ジマスガ、少クモ、斯ノ如キ重要ノ中ニモ重要ナル法律案ガ、兩院デ議ガ合ハナイ、斯ウ云フ風ナ場合ニ兩院協議會ノ途ガ開ケテ居ラヌト云フコトニナリマシテハ、甚ダ遺憾ナコトデアツテ、斯クノ如キ重要ナ法規ハ、愼重ノ上ニモ愼重ニ議セラルベキモノデアルト存ジマス、私ハ同樣ナ考ヲ以チマシテ、是非トモ茲ニ兩院協議會ノ規定ヲサレマシテ、更ニ國會法ニ於キマシテ、之ニ關スル規定ヲ設ケラレムコトヲ希望スルモノデアリマス
○委員長（安倍能成君） 御意見アリマスカ
○子爵織田信恒君 私ハ此ノ兩院協議會ト云フモノガ、法律ノ場合ニモアルト云フコトガ非常ニ便利デアルト云フコトハ、過去ノ經驗カラモ疑ヒナイ處ダト思フノデアリマス、唯、現行憲法ニ之ガ規定ガアリマセヌケレドモ、事實上議院法ニ規定サレテ運營サレテ居ルノデアリマス、今迄金森國務大臣ノ衆議院竝ニ貴族院ニ於ケル御答辯ニハ、將來、國會法ノ中ニ必ズ入レルノダト云フコトヲ言ツテ居ラレマスカラ、問題ハ、實ハ其ノ通リ入ツテ來ルナラ、私ハ何モ殊更條項ヲ入レル心配ハ要ラナイダラウ、建前トシテハ要ラナイダラウ、斯ウ思ツテ居ルノデアリマス、處ガ、先程委員ノ中カラモ御意見ガアルヤウニ、衆議院其ノ他ニ於テ、苟モ改正憲法カラ見ルト云フト、場合ニ依ルト、ソレハ憲法違反ニナル、論理的ニサウ云フ結論ガ出ル虞ガアルノダト云フ、今意見ガアル譯ナンデス、ソコデ我々ハ、我々ト言フト甚ダ失禮デアリマスガ、私ノ心配スルノハ、サウ云フ意見ガアルト、將來國會法ヲ制定シマス時ニ、其ノ中ニ兩院協議會ト云フモノガ入レナクナツテシマフノヂヤナイカ、ソレヂヤ、ドウモ將來ノ兩院ノ運營上、非常ニ御困リノコトガアルダラウ、支障ガアルダラウカラ、是ハ是非入レルノニ樂ニスルノニハ、今ノ修正案ノ出テ居ルヤウナ項目ヲ入レテ、安心シテ國會法ヲ御制定ニナツタラ宜イフデアル、斯ウ云フ意味デ、私ハ贊成スルノデアリマスガ、自然此ノ項ヲ入レルコトハ、衆議院ガ之ヲ呑ム、承諾スルト云フコトヲ前提ニシテノコトニナル、ダカラ逆ニ、若シモ衆議院ガ之ヲ承服サレナイト云フ結果ニナリマスト、却テ藪蛇ニナツテ、默ツテ居レバマダ入レタモノガ、是ガ正面カラ否認サレタ爲ニ、國會法ニ今度明瞭ニ兩院協議會ト云フモノハ入レナクナシテシマフノダ、論理的ニハサウ云フ結論ニナル、サウナルナラ、藪蛇ニナツテシマヒマスカラ、私ハ此ノ項目ハ結構デアリマスシ、サツキノ御趣意モ、詰リ將來ノ國會法ノ制定ニ際シテ、政府ノ立場モ樂ニシタイト云フ意味デ、私ハ贊成スルノデアリマスガ、萬ガ一、是ガ衆議院ニ行ツテ容レラレナイモノナラバ、寧ロ最初カラ是ハナイ方ガ宜イ、サウシテ從來ノ慣例ヲ重ンジテ國會法ヲドシドシ御制定ニナツタ方ガ宜イノヂヤナイカ、斯ウ云フヤウニ思フノデ、私ハ衆議院ガ同意サレルト云フコトヲ前提ニシテ、贊成シタイト思ヒマス
○委員長（安倍能成君） 外ニ御意見ハアリマセヌカ
○小山完吾君 私ハ、此ノ問題ハ成ルベク政治上ノ協力ト云フコトニ委セルコトガ一番安全デ、法律ノ上カラ行ケバ、政治上ノ協力ト云フコトヲ禁ズルト云フコトハアリ得ナイ、政治上ノ協力ナクシテ、一國ノ政治ガ行ハレルト云フコトハナイノデスカラ、斯樣ナ規定ヲ入レナクテモ、必要ナ場合ニハ、衆議院ノ方ト連絡ヲ執ツテ、其ノ時ノ最善ヲ盡スコトガ出來ルノデ、生マ半、一々コンナ細カイコト迄規定シナクモ宜イノヂヤナイカ、斯ウ思ツテ居リマス、ソレダケノコトヲ申上ゲテ置キマス
○子爵大河内輝耕君 只今織田委員カラ、衆議院ガ同意シナケレバ藪蛇ニナツテシマフト言ハレマシタガ、御尤モデアリマス、私ハ決シテ衆議院ノ鼻息ヲ窺フト云フ、變ナ考ハアリマセヌガ、藪蛇ニナル結果ニナルコトハ事實デス、衆議院ノコトハ能ク研究シテ置カナケレバナリマセヌガ、幸ニ植原國務大臣、御出席デアリマスカラ伺ヒタイノデスガ、私ノ考デハ、是ハ大概衆議院デ御不同意アルマイト云フヤウニ、各種ノ情報モ得テ居リマスシ、理論的ニモサウ考ヘラレマスガ、如何ナモノデセウカ、妙ナ質問ヲ致シマスガ
○子爵織田信恒君 今ノ大河内委員ノ御尋ニ關聯シマスガ、假ニ是ガ、後デ修正案ト云フモノガアリマシテ、ソレガ決定スル前ニ、何カ順序トシテ、小委員ノヤウナモノガ選バレテ、政府其ノ他ト御交渉ニナルヤウナ機會ガ起ルノデゴザイマセウカ、起リマセヌデゴザイマセウカ、若シモ起ルヤウナコトナラバ、其ノ時ニ確カメテ戴クコトガ出來ルト私ハ思フノデアリマスガ
○委員長（安倍能成君） ソレハ今ノ處、チヨツト決メル譯ニハ行カナイト思ヒマス
○子爵織田信恒君 ソレナラバ今此處デ以テ、政府ノ方カラ一應御答辯ヲ伺フコトガ適當ダト思ヒマス
○國務大臣（植原悦二郎君） 大河内子爵ニ御答ヘ致シマス、只今大河内子爵ノ御質問ハ、私トシテハ大變御答ヘスルニ困難ナ立場ニ居リマスノデ、政治ノ上カラ言ツタラバ、先刻小山委員ノ申サレタ通リデアルト思ヒマス、今迄ノ慣例ガアルカラ、必ズ兩院ニ縺レノアツタ場合ニハ、協議會ヲ開イテ解決シヨウト云フ形ニナラウト思ヒマス、又サウシテ國會法ニサウ云フ規定ガアレバ、左樣ニ縺レナク進行出來ルモノト思ヒマス、ケレドモ、ソレガ爲ニ、此處ニ規定ヲ入レタコトヲ衆議院ガ承諾スルカシナイカト云フコトハ、私トシテハ誠ニ御答ヘシニクイ譯デ、寧ロ其ノ衆議院ノ意向ヲ私ガ忖度シテ申上ゲルト云フコトハ甚ダ越權デ、却テ申上ゲナイ方ガ、圓滿ニ行クト思ヒマスカラ、左樣御承知ヲ願ヒマス
○松村眞一郎君 私ハ大變ヲカシナ問題ニナツテ居ルト思ヒマス、元來憲法ガ斯ウ云フヤウナ規定ヲ、今下條委員、大谷委員ノ御贊成ノ此ノ案ガ、憲法改正案トシテ衆議院ニ廻ツタ場合ニ、或ハ否認スルカモ知レヌト云フヤウナ虞ガアルト、之ニ贊成ガ出來ナイ、ソンナヤウナコトデハ意味ヲ成サヌト思ヒマス、若シ憲法ガ廻ツタ際ニ、之ヲ反對スルヤウデアルナラバ、今度國會法ガ出來ル時ニ、又兩院協議會ガ載ラナイコトハ、當然ノコトデアリマス、國會法ト云フモノハ、法律ナンデアリマスカラ、此ノ憲法ノ改正ヲシタ時ノ贊否ハ、國會法ガ成立スル時ニ贊否スルノト同ジコトデアルト思ヒマスカラ、私ハサウ云フコトニ關係ナク、之ニ贊成スル場合ニハ贊成シテ宜イト思ヒマス、私ハ此ノ案ニ贊成スル者デアリマス
○委員長（安倍能成君） 別ニ御議論ガナケレバ採決致シマス、下條君ノ修正案ノ、第五十九條第三項トシテ左ノ如ク加フ、「前項の規定は法律の定めるところにより衆議院が兩議院の協議會を開くことを求めることを妨げない」、御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
○子爵織田信恒君 私ハ條件附デ此處ニ起ツテ宜シウゴザイマセウカ
○委員長（安倍能成君） 條件附ハ許サレマセヌ
〔起立者多數〕
○委員長（安倍能成君） 三十七名中、十九名ノ贊成デ多數デアリマス、此ノ修正案ハ可決ニナリマシタ、是カラ小委員會委員長報告ニ係ル修正案ノ中、先ヅ前文ノ修正案ヲ問題ニ供シマス、前文ハ既ニ各位ニ配付シテアリマスガ、是ハ朗讀ヲ省略スルコトニ御異議ガゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） 之ニ對スル御意見ガアレバ
○霜山精一君 私ハ小委員トシテ、此ノ憲法ノ前文ノ修正ニ携ツタ一人デアリマスルガ、先程御指摘ニナリマシタ點デ、チヨツト修正ガ工合ガ惡イ點ヲ發見致シマシタノデ、其ノ點ヲ改メタラドウダラウカト云フ意見ヲ持ツテ居ルノデアリマス、ソレハ「そもそも國政は、國民の嚴肅な信託によるものであつて、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行使し、その福利は國民がこれを享受する。」ト、斯ウ云フ風ニ直シテアリマスルガ、「そもそも」、「享受する」ヂヤ、成ル程、是ハ工合ガ惡イノデアリマシテ、是ハ矢張リ「そもそも」、斯ウ云フ「ものである」ト云フコトガ、文章トシテ當然デハナイカト思フノデアリマシテ、是ハ「享受するものである。」ト云フ元ノ原案ニ復歸シタ方ガ宜イノデハナイカト思ヒマス、サウ致シマスルトデスネ、其ノ次ニ「これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。」ト此處ヘ「ものである」ヲ移シテ居リマスケレドモ、是ハ矢張リ此ノ「ものである」ヲ削ツテ、「かかる原理に基く。」ト、斯ウ元ノ案ニ此處モ戻ツタ方ガ宜イノヂヤナイカト、斯ウ云フ二點ノ修正案ニ對スル修正ノ意見ヲ持ツタノデアリマシテ、其ノ以外ハ贊成デアリマス
○委員長（安倍能成君） 修正案ニ對スル贊否ノ御意見ヲ御述ベ戴キタイ
○霜山精一君 ア、贊成ナンデス
○三土忠造君 確カメテ置キタイノデスガ、山本委員ノ御話シダツタカデアリマスガ、私共、實ハ之ヲ今朝見テ、「そもそも」トアツテ、終ヒニ「ものである」ト云フ所ガチヨツト續キガ惡イト思フノデスガ、處ガ、段々讀ンデ見マスト、「そもそも」ハ其處迄懸ツタノヂヤナイノデアリマセヌカ、「そもそも國政は國民の嚴肅な信託によるものであつて」此處迄ガ「そもそも」デハナイノデスカ、又文章ノ自然カラ行キマシテモ、其處迄ガ「そもそも」ガ利イテ居ルノデアツテ、内容カラ申シマシテモ、「國政は、國民の嚴肅な信託によるもの」ト云フコトガ「そもそも」デ、強ク言フタノデスガ、ソレカラ其ノアト、サウ讀ミマスト、此ノ小委員會ノ修正通リガ良クナル、私ハサウ解釋シテ宜カラウト思ヒマス
○霜山精一君 私モ一應サウ云フ風ニ讀ンダノデアリマスルガ、「國政は、國民の嚴肅な信託によるものであつて、」ト云フコトヲ、尚其ノ次ニ、其ノ内容ヲ説明シテ居ルモノデスカラ、「そもそも」ガ、矢張リズツト懸ツテ來ルモノデハナイカト思フノデス、繰返シテ説明シテ居ル譯ナンデス、國民ノ嚴肅ナ信託ニ依ルモノデアル、其ノ内容ハ是々デアル、斯ウ云フ風ニナリマスカラ「そもそも」ガ、「信託によるものであつて、」ト云フ所デ切レナイノデスカラ、文章ノ上カラ言ツテ、サウ云フ點カラ、矢張リ是ハ、「享受するものである。」ト云フ所迄、「そもそも」ガ懸ル方ガ、文章トシテハ好イノヂヤナイカト、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○三土忠造君 イヤ矢張リ、其ノ前ニ「そもそも」ガ懸ル方ガ體ヲ爲スノデハナイカト思ヒマス、國民ノ嚴肅ナル信託ニ依ツテ政治ヲスルノダ、國政ハ‥‥、ソレニ依ツテアトガ利イテ來ルノデスガ
○霜山精一君 其ノ信託ノ内容ガ、下ニ説明シテアルノデス
○三土忠造君 内容ハアルケレドモ、國政ハ信託ナンデス、「國政は、國民の嚴肅なる信託によるものであつて、」之ガ故ニ、「そもそも」ガ懸ツテ來ル
○霜山精一君 其ノ信託ノ内容ヲ、其ノ下ニ詳シク繰返シテ説明シタ譯ナンデスカラ
○三土忠造君 繰返シテアルケレドモ
○委員長（安倍能成君） 御互ノ御問答ハ止メテ戴キマス
○三土忠造君 小委員會ノ修正通リデ宜イト、私ハ思ヒマス
〔「採決」ト呼フ者アリ〕
○小山完吾君 私ハ、此ノ小委員會ノ修正案ヲ拜見致シマシテ、孰レモ瑣末ナ、好キ嫌ヒノ問題位ノコトデ、主意ノ問題ニサツパリ觸レタ問題デナイカラ、大體ニ於テドウデモ宜シイノデスガ、併シ一應本委員會トシテハ、政府ハ此ノ小修正ヲ行フニ付テ、ドンナ御感ジヲ持ツテ居ラレルカト云フコトヲ御答辯ヲ願ヒタイト思ヒマスガ
〔「無用々々」ト呼フ者アリ〕
〔「必要ナシ」「採決々々」ト呼フ者アリ〕
○小山完吾君 必要アリマス
○委員長（安倍能成君） 必要アルト考ヘル方ハゴザイマスカ……、ソレヂヤ、別ニ必要ナイト思ヒマス
○子爵大河内輝耕君 ドウモサウ云フ場合、必要ナイト思ヒマスケレドモ、一人デモサウ云フ御希望ガアツタラ、何トカサウ云フ御取計ラヒヲサレルノガ正當ヂヤナイカト思ヒマス、私モソレハ必要ナイト思ヒマスケレドモ、個人トシテノ意見ハサウデアリマスガ、ソレハ惡例ニナリマスカラ、委員ノ一人ガ政府ノ意見ヲ聽カウトスルノニハ、多數デ止メサセテシマフノハ、ドウカト思ヒマス
○小山完吾君 會議體トシテ、苟モ政府ニ依ツテ提案サレタ原案ヲ直スト云フ場合ニ、一言モ政府ノ意見モ聽カズニヤルト云フヤウナ、ソンナ會議ノ方法ナンテアリハシマセヌ、勿論、サウ聽クノハ當リ前デアリマスカラ、私ハ主張致シマス
○山田三良君 サツキ山本委員カラデスネ、自分ノ案ガ出シテアルカラト云フコトダツタガ、此ノ修正案ニ對スル修正トシテ御出シニナラナカツタノデアリマスガ、山本委員ノ指摘セラレタ「恐怖と缺乏とに惱されることなく、やすらかに生活する權利があることを、かたく信じて疑はない。」と云ふ此ノ一句ハ、此ノ前文ノ修正ヲ直サレタ方ガ宜イト思フノデアリマスガ
○委員長（安倍能成君） 山本委員ハ、是ハ注意迄ニ言フト云フ御話デアツテ、修正意見トシテ出サレナカツタ、ソレデ出サナイ
○山田三良君 外ノ者カラ出スノハ變ト思ヒマスガ、私ハ直サレタ方ガ宜イト云フコトダケヲ申上ゲマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 修正案ノ修正ニ付キマシテハ、拜見致シマシタ處、趣旨ニ於テ異ナル所ハナイノデアリマシテ、字句ノ點ニ於テ御心配ヲ願ツテ居ルコトト考ヘテ居リマスノデ、政府ニ關スル限リニ於キマシテハ、特別ナル異存ハ持ツテ居リマセヌ
○子爵三島通陽君 採決サレル前ニ御願ヒガアルノデアリマスガ、私ハ小委員會ノ修正案ニハ贊成デアリマスケレドモ、前文ニ付キマシテ、山本委員トカ、高柳委員トカ、ソレカラ牧野委員デスカ、大變好イ前文ガ三通リ、此ノ前出テ居リマスノデ、アレヲ闇カラ闇ニ葬ツテシマウノハ、大變殘念ナヤウニ思ヒマス、ソレデ小委員會カ何處カニアレノ全部ガ速記ニ載ツテ居レバ問題ナイト思ヒマスガ、又御本人ガ御引込メニナレバ、問題ハナイノデスガ、此處デ立ツタリ坐ツタリシナイデ、孰レカノ場合ニ、何處カデ速記ニ殘シテ置キタイト思ヒマス、御三人デスカ、御四人デスカノ前文ヲ其ノ儘、速記ニ殘シテ置キタイト云フコトヲ御願ヒシテ、サウシテ是カラ採決ニハ贊成シタイト思ヒマスガ、如何デゴザイマセウカ
○委員長（安倍能成君） 只今、三島委員カラ御提議ニナリマシタ山本委員、ソレカラ牧野委員、其ノ他ノ前文ニ對スル苦心ノ訂正ヲ速記録ニ載セルト云フコトニ、御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） 御異議ナイモノト認メマス、ソレデハ此ノ前文ニ對スル小委員會ノ修正ニ對シテ、御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者多數〕
○委員長（安倍能成君） 三十九人中三十人ノ多數デス、是デ此ノ前文ノ修正案ハ可決ニナリマシタ、次ニ第十五條第三項ニ左ノ如ク加フ「公務員の選擧については、成年者による普通選擧を保障する」、之ニ關シテ御意見ノアル方ハ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） 御意見ガナケレバ、決ヲ採リマス、此ノ案ニ御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者多數〕
○委員長（安倍能成君） 多數デアリマス、ソレカラ次ニ「第六十六條第二項トシテ、左ノ如ク加フ、「内閣總理大臣その他の國務大臣は文民でなければならない。」御意見ガナケレバ‥‥
○松村眞一郎君 私ハ反對デゴザイマス、元來既ニ第二章ニ於テ戰爭ヲ放棄シ、戰力ヲ保持シテ居ナイトナツテ居ル以上ハ、日本ノ國民ハ總テ文民デアリマス、若シ第六十六條第二項ノ修正案ノ如クスルナラバ、日本國民ノ中ニハ文民ニ非ザル者ト云フモノガアルト云フコトヲ想ハセル規定ニナルト思ヒマス、若シ文民ナリヤ否ヤト云フコトガ問題ニナツタ場合ニハ、國務大臣ガ任命サレタコトガ無效デアルカドウカト云フ問題モ私ハ茲ニ起ルト思ヒマス、サウシテ、其ノ國務大臣ガ爲シタ行爲ソレ自身ガ無效デアルト云フヤウナ問題ヲ起シ、延イテ裁判所ノ問題ニナルト云フコトニナルト思ヒマスガ故ニ、此ノ規定ハ存置スルコトヲ不適當ナリト考ヘマス、國民中ニ、所謂文民ト云フノハドウ云フ意味カ存ジマセヌケレドモ、此ノ趣旨ニ適サナイ者ガアツタナレバ、ソレハ任命サレナイデアリマセウ、サウ云フコト迄細カイコトヲ私ハ書ク必要ハナイト思ヒマス、今日公職ニ適セサル者トシテ、公職カラ所謂追放ト云フモノノ境遇ニ置カレテ居ラレル方ガアリマス、斯ウ云フ方ハ、只今直グニ國務大臣ニ任ゼラレルト云フヤウナコトハ、是ハナイコトハ當然デアルト存ジマス、併シ元來、所謂公職ノ追放ト云フ地位ニ居ラレル方ハ、身分ヲドウ云フ法律關係ニ置カレテ居ルノデアルカト云フコトヲ、私ハ法律デ規定サレル必要ガアルト思ヒマス、是ハ一種ノ公權剥奪デアルト考ヘマス、ソレデアリマスカラ、如何ナル場合ニ、其ノ公權ハ復權セラルヽモノデアルカト云フヤウナコトモ、私ハ想像スルコトハ必要デアルト思ヒマスカラ、サウ云フヤウナ規定ガ出來タナラバ、サウ云フ公權剥奪者ハ、自然國務大臣ニモナレナイト云フヤウナコトニナルノデアリマスカラ、斯クノ如キ規定ヲ置クト云フコトハ、私ハ宜クナイト考ヘマス、殊ニ嘗テ所謂職業軍人デアツタ人ハ、是ハドウ云フコトニ解釋スルノデアルカ、非常ニ是ハ曖昧ナコトニナリマスカラ、何ト致シマシテモ、斯クノ如キ規定ノ存スルコトハ當ヲ得ナイモノデアリマスカラ、私ハ反對致シマス
○山田三良君 私ハ此ノ案ヲ審議スル際ニ氣ガ附カナカツタノデアリマスガ、斯ウ云フ風ニ國務大臣ガ文民デナケレバナラナイト云フコトニシマスト、此ノ憲法第十四條ニ「すべて國民は、法の下に平等であつて、人種、信條、性別、社會的身分又は門地により、政治的、經濟的又は社會的關係において、差別されない。」此ノ政治的關係ニ於テ差別サレナイト云フ條項ニ、是ハ矛盾スルヤウニ思ヒマスガ、此ノ點ヲ御説明ヲ願ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 第六十六條ニ「文民」ト云フ條件ガ入リマスルト、今仰セニナリマシタヤウニ、一般ノ資格ニ、斯樣ナ區別ガアルト云フヤウナ結果ニナルノデアリマス、面シテ左樣ナ結果ヲハツキリ憲法ノ上ニ明カニ致シマシテ、此ノ場合ニ於テハ、左樣ナ點ニ於テ區別サレテモ致シ方ガナイ、ソレコソ、憲法ノ眼目トシテ居ル所デアル、斯ウ云フコトノ意味ガ出テ來ルノデアリマシテ、若シモ此ノ六十六條ノ今囘御改正ノ案ニ上ツテ居リマスルヤウナ規定ガアリマセヌト、場合ニ依リマシテ、過去ニ於テ職業軍人デアツタ人ヲ排除致シマスル場合ニ、憲法上ノ論議ノ餘地ガ發生スル虞アリト考ヘテ居リマス
○山田三良君 今ノデ分リマシタ、私ハ國務大臣ノ説明ヲ求メタノデハナイノデアリマシテ、此ノ提案者ノ説明ヲ求メタノデアリマス
○子爵織田信恒君 此ノ「文民」ノ言葉ニ付キマシテハ、申上ゲル迄モナク、山田委員モ同ジ小委員デ一緒ニ我々ト御研究ニナツタ譯デアリマスルガ、先程松村委員カラモ仰シヤツタヤウニ、論理上甚ダ面白クナイ點モ起ルカト思フノデアリマス、併シ之ニ付テハ、色々此ノ憲法ノ戰爭放棄ノ條章ニ關聯シテ、斯ウ云フヤウナ規定ヲ入レタ方ガ將來日本ノ國家ノ爲ニ有利デハアルマイカト云ツタヤウナ觀點カラ、小委員會ニ於テモ態々總理大臣ノ御出席ヲ求メテ、各委員カラ熱心ニ此ノ問題ニ付テ御討議ガアツタ結果、此處ニ收ツタ、斯ウ云フコトヲ私、御報告申シマス
○委員長（安倍能成君） 外ニ御意見ハアリマセヌカ
○子爵松平親義君 字句ノコトニ付キマシテ、今朝程小委員長カラノ御報告ガゴザイマシタノデスガ、チヨツト念ノ爲ニ伺ツテ置キタイノデアリマス、此ノ六十六條ノ第一項ノ方ニハ「内閣總理大臣及びその他の國務大臣」、斯ウナツテ居ルノデアリマスガ、此ノ六十六條ノ修正ノ第二項トシテノ方ニハ、「及び」ヲ削ル、「總理大臣及び」トアリマシタノヲ、「及び」ヲ削ルト云フ風ニ御話ガアリマシタガ、是ハ矢張リ「及び」ヲ復活サレテ、此處ニ書キ入レタ方ガ、文章ガ揃フコトニナルト思ヒマスガ、モウ一遍、其ノ點小委員長カラ御答辯戴キタイト思ヒマス
○伯爵橋本實斐君 只今御尋ノ件ニ關シマシテ、私モ理解致シテ居リマシタモンデ、其ノ點チヨツト懸念ヲ感ジマシテ、是ハ法制局等ニ付テ、其ノ適否ヲ確メタノデゴザイマス、其ノ第一項ト第二項ハ、規定ノ内容ガ違フ、ソレデ第一項ト第二項ノ規定振リガ、其處ニ差異ヲ生ズルノハ差支ナイ、斯ウ云フ御答ヲ得マシタノデ、私ハ安堵致シタ次第デアリマス
○子爵松平親義君 時間ガ何デアリマスガ、ソレデハ第一項ト第二項ノ區別、「及び」ガ有ルノト無イノト、ドウ云フ風ニ解釋ニ違ヒガアリマスカ、政府ノ御答辯ヲ戴キタイト思ヒマス、小委員會デ修正サレタ時ニ、「及び」ヲ削ツタヤウニ書イテアリマスガ、今、橋本小委員長ノ御話デハ、其ノ「及び」ヲ削ルト云フコトデアリマスデスカラ、サウスルト、其ノ「及び」ガ有ルノト無イノト、ドウ云フ區別ガアルノデアリマセウカ、ソレヲ伺ツテ置キタイト思ヒマス
○國務大臣（金森徳次郎君） 只今、委員長ノ御許シヲ得マシテ、私共ノ方カラ拜見致シマシタ場合ニ、第六十六條ノ第二項ニ「及び」ガアルノガ良イカ惡イカト云フ點ニ付キマシテ、所見ヲ述ベサセテ戴キタイト存ジマス、第六十六條ノ第一項ハ、内閣ト云フモノハドウシテ出來ルカト云フト、甲ト乙トデ出來テ居ル、其ノ組立ノ内容ヲ現シテ居ルノデアリマスカラ、色々ナモノヲ繋ギマス爲ニ、「及び」ト云フ言葉デ繋グ必要ガアラウト思ヒマス、ソレカラ第二項ニ御入レニナラウトシテ居リマス所ハ、此ノ大臣モ此ノ大臣モ此ノ大臣モト、ズツト竝ベテ居リマシテ、ドノ大臣モ、斯ウ云フモノデナケレバナラヌト云フノデアリマシテ、集メテ一ツニ置イテ塊リトスルト云フ趣旨デナクテ、孰レモト、斯ウ云フ趣旨デアリマスカラ、特ニ、「及び」ハ要ラナイト考ヘマス
○子爵織田信恒君 提案者ハ、正ニ其ノ通リデ出シマシタ
○委員長（安倍能成君） ソレデハ決ヲ採ルコトニ致シマセウ、第六十六條第二項トシテ左ノ如ク加フ、「内閣總理大臣その他の國務大臣は文民でなければならない。」之ニ御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者多數〕
○委員長（安倍能成君） 多數デゴザイマス、次ニ第七十九條第二項、第三項、第四項ヲ削ルト云フ修正案ヲ討議ニ付シマス、御意見ガアレバ
○子爵大河内輝耕君 是ハ實ハ、私ガ小委員會ヘドウゾ委託ヲシテ戴キタイト云フコトヲ申出タ縁故ニ依リマシテ、私カラ簡單ニ申上ゲマス、小委員會ノ模樣ヲ伺ヒマシテ、小委員會モ、斯ウ云フ風ニナサイマシタノデスガ、段々小委員會ノ模樣ヤ、或ハ皆樣方ノ御意向ヲ色々ナ方面カラ伺ツテ見マスト、ドウモ之ヲ無條件ニ削リツ放シト云フコトハ、少シムヅカシイラシイ、ソレカラ、色々ナ御意見ガ出テ來テ、ドレガ通ルカ分リマセヌケレドモ、飛ンデモナイ危イモノデモ通ツタラ、却テ惡イ、ソンナ變ナモノヲ附加ヘルヨリモ、私ハ私ノ願ツタコトヲ潔ク撤囘致シマス、是ハ原案ノ儘行ク、詰リ七十九條二項、三項、四項ヲ削ルト云フ、之ニ反對ヲ致シマス
○委員長（安倍能成君） 他ニ御意見ハゴザイマセヌカ、……ソレデハ決ヲ採リマス、第七十九條第二項、第三項、第四項ヲ削ル、之ニ御贊成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者無シ〕
○委員長（安倍能成君） 御贊成ノ方ハアリマセヌカラ、否決ニナリマシタ、――ソレデハ、小委員會付託ノ案ノ中デ、前文ノ修正案ハ可決ニナリマシタ、ソレカラ第二ニ「第十五條第三項ニ左ノ如ク加フ、「公務員の選擧については、成年者による普通選擧を保障する。」」是ハ可決ニナリマシタ、ソレカラ第三ニ「第六十六條第二項トシテ左ノ如ク加フ、「内閣總理大臣その他の國務大臣は文民でなければならない。」」是ハ可決ニナリマシタ、ソレカラ第四ニ［第七十九條第二項、第三項、第四項ヲ削ル」、是ハ否決ニナリマシタ、以上ヲ以テ修正ノ決定シタ點ヲ除キ、衆議院送付ニ係ル所ノ帝國憲法改正案全部ヲ問題ニ供シマス
○澤田牛麿君 此ノ憲法ハ、私ハ初メカラ考ヘテ居ル通リ、我ガ國ノ民情風俗ニ適シナイ所ガ非常ニ多イノデアリマス、之ガ修正ヲ一々提議スベキ筈デアリマスルケレドモ、修正ヲ提議スルト云フコトハ、唯時間ヲ費スダケデアリマシテ、通過ノ見込ハアリマセヌカラ、修正案ヲ提議スルコ卜ハ差控ヘマスガ、全體ニ於テ是ハ民情風俗ニ合ハナイモノデアルト思フカラ、大ナル修正ヲセザル以上ハ、私ハ此ノ原案ニ贊成スルコトガ出來ナイト云フコトノ意見ダケヲ申上ゲテ置キマス
○公爵岩倉具榮君 私ハ簡單ニ贊成意見ヲ述ベタイト思ヒマス、先ヅ第一ニ、現行ノ明治憲法ハ立派ナモノデアツテ、決シテ惡イモノデハナイノデアリマス、然ルニ之ヲ改正セザルヲ得ナクナツタノハ、憲法自身ニ缺點ガアル爲デハナク、之ヲ守ルベキ人間ノ不心得ニ依ツテ今日ノ悲運ヲ招イタカラデアリマス、故ニ憲法其ノモノニ罪ハナク、人ニ罪ガアルノデアツテ、敗戰ヲ招クニ至ツタノモ、明治憲法ヲ守ラナカツタカラデ、今囘憲法ヲ改正セザルヲ得ナクナツタノモ、罪ハ人ニアリマス、故ニ我々ハ其ノ罪ヲ謝サネバナラスノデアツテ、憲法其ノモノニ罪アリトスルノハ間違ヒデアリマス、現行憲法ガ惡カツタカラ之ヲ改正スルト云フコトニハ、私ハ贊成シナイノデアリマスガ、國際關係上已ムヲ得ザル事情モアリ、此ノ際更始一新ノ爲ニ、憲法ヲ改正スルト云フコトニ贊成スル者デアリマス、次ニ、改正憲法ハ完全ナモノデハナイト思ヒマス、由來、憲法ハ歴史的傳統ノ中カラ生エ拔イタモノデナケレバナリマセヌ、決シテ人間ガ一夜漬ケニ作リ上ゲルコトハ出來ナイノデアリマス、英米兩國憲法ノ如キモ、長イ間苦心ノ結果出來タモノデアルカラコソ、兩國共榮エテ居ルノデアリマス、一夜漬ケノ憲法ハ、如何ナル國デモ混亂ノ源トナリマス、今度ノ憲法ハ一夜漬ケノモノデハアリマセヌガ、日本ノ歴史的傳統ノ深味カラ生エ拔イタモノトハ申シ難イノデアリマス、殊ニ敗戰後ノ混亂ノ最中、早急ノ間ニ出來上ツタモノデアリマスカカラ、無理ナ點ナキヲ保シ難イト思ヒマス、併シ既ニ一旦是ガ公布セラレタ以上ハ、國ヲ擧ゲテ之ヲ守ラネバナラヌト存ジマス、併シソレニ付テハ、定メシ非常ナ困難ガ起ルト云フコトヲ只今カラ覺悟シテ、之ニ對處スルコトヲ怠ツテハナラヌト思ヒマス、又此ノ憲法ガ不完全ナモノデ、將來運用ニ困難ガ伴フコトヲ今カラ十分承地知シテ居レバ、ソレダケデモ將來混亂ガ未然ニ救ハレルコトニナルノデアリマス、此ノコトニ付テ、憲法施行ノ任ニ當ル政府當局ハ如何ニ考ヘラルルノデアリマセウカ、又我々議員モ、一般國民モ、此ノ點ニ付キ深キ戒心ヲ爲サネバナリマセヌ、憲法改正成レリトシテ有頂天ニナツタラ、飛ンデモナイコトト思ヒマス、殷鑑遠カラズ、現行憲法ノヤウナ祖宗ノ遺訓ヲ明徴ニシ、又廣ク先進國成敗ノ跡ニモ顧ミテ、アレ程愼重ニ制定サレ、内外人ガ共ニ理想的憲法ト仰イデ來タニモ拘ラズ、憲法政治ノ運用ト云フコトニナレバ、十分ノ成績ヲ擧ゲルコトガ出來ズ、今日ノ如キ悲運ニ遭遇セザルヲ得ナイコトニナツタノニ顧ミテモ、新憲法ノ前途ノ多難ナルコトハ推シテ知ルベシト思フノデアリマス、此ノ點特ニ政府當局及ビ同僚諸賢ノ明鑑ヲ仰グ次第デアリマス、以上ノ如キ苦言ヲ呈シマシテ、私ハ本改正案ニ贊成致シマス
○委員長（安倍能成君） 他ニ此ノ全體ニ對スル御意見ハゴザイマセヌカ……ソレデハ修正ノ決定ノタ點ヲ除キ、衆議院送付ニ係ル帝國憲法改正案、全部ヲ採決ニ付シマス、御賛成ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
〔起立者多數〕
○委員長（安倍能成君） 多數デゴザイマス、仍テ本委員會ニ付託トナリマシタ帝國憲法改正案ハ多數ヲ以テ修正可決サレマシタ
○伯爵橋本實斐君 私ハ此ノ際、修正ノ結果生ズル條文ノ整理ハ、之ヲ委員長ニ御一任スルノ動議ヲ提出致シタイト存ジマス
○委員長（安倍能成君） 御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○委員長（安倍能成君） ソレデハ、修正ノ結果生ズル條文ノ整理ハ、委員長ニ一任サレマシタカラ、委員長ノ方デ之ヲ取計ラヒマス
○子爵織田信恒君 私ハ手續ヲ能ク存ジマセヌガ、此ノ修正ノ御整理モ結構デアリマスガ、ソレガドウ云フ風ニ將來ナルカ、此ノ委員會ニ御報告ヲ求メルコトニナルノデスカ、ドウ云フ風ニナルノデスカ、是カラ本會議ニ移ツテ行ク順序ヲ、チヨツト仰シヤツテ戴キタイト思ヒマス、チヨツト速記ヲ止メテ戴キタイ
○委員長（安倍能成君） 速記ヲ止メテ
〔速記中止〕
○委員長（安倍能成君） 速記ヲ始メテ‥‥、チヨツト御挨拶ヲ致シマス、八月三十一日ニ始マリマシテ今日ニ至ル迄、數十囘ノ特別委員會竝ニ小委員會ニ於テ、熱心ニ憲法改正案ニ付テ御審議下サイマシテ、色々ノ點ニ付テ、時日ノ關係トカ、或ハ色々ナ事情ニ依ツテ、十分ニ我々ノ理想トスルヤウナ、サウ云フ風ナ案ニハ達シ得ナカツタト云フヤウナ、サウ云フ懸念モ幾分カハアリマスケレドモ、併シナガラ、憲法改正ニ關スル有ラユル問題ガ、有ラユル委員ニ依ツテ、殆ド論ジ盡サレルダケ盡サレタト云フコトハ、我々ノ本懐トスル處デゴザイマス、其ノ間、委員各位ガ非常ニ熱心ニ、朝カラ晩迄、御討議下サツタト云フ、其ノ御骨折ニ對シテ、深ク感謝致シマス、私ハ初メテ貴族院ニ參リマシタ者デアリマシテ、此ノ委員會ニ臨ミマスト、丁度ポツト出ノ田舍者ガ、非常ニ乘リ換ヘノ多イ滿員電車ニデモ乘ツタヤウナ有樣デアリマシテ、度々マゴツイテ、醜態ヲ暴露致シマシテ、甚ダ恥シク存ジマスガ、併シ委員長ヲ引受ケタ時ニ、既ニ其ノコトハ覺悟ノコトデアリマシテ、先ヅ之ニ依ツテ、大體委員各位ノ御考ヲ盡スコトガ出來、サウシテ今日ノ結論ニ到達シタト云フコトヲ以テ、滿足致シマス、色々ナ點デ御迷惑ヲ掛ケマシタコトヲ、深ク御詫ビ致シマス、終リニ臨ンデ委員各位ノ御健康ヲ祈リマス、（拍手）ソレデハ是デ散會致シマス
午後四時五十三分散會
出席者左ノ如シ
委員長 安倍 能成君
副委員長 伯爵橋本 實斐君
委 員
公爵岩倉 具榮君
侯爵細川 護立君
侯爵中山 輔親君
侯爵淺野 長武君
伯爵後藤 一藏君
三土 忠造君
子爵大河内輝耕君
大谷 正男君
男爵白根 松介君
子爵織田 信恒君
子爵高橋 是賢君
子爵三島 通陽君
子爵松平 親義君
山田 三良君
平塚 廣義君
佐々木惣一君
松村眞一郎君
男爵今園 國貞君
村上 恭一君
男爵飯田精太郎君
霜山 精一君
下條 康麿君
川村 竹治君
高柳 賢三君
南原 繁君
男爵松田 正之君
男爵渡邊 修二君
男爵松平 齊光君
田所 美治君
澤田 牛麿君
坂田 幹太君
松本 學君
宮澤 俊義君
結城 安次君
瀧川 儀作君
小山 完吾君
山本 勇造君
淺井 清君
高木 八尺君
國務大臣
内閣總理大臣兼外務大臣 吉田 茂君
國務大臣 男爵幣原喜重郎君
司法大臣 木村篤太郎君
内務大臣 大村 清一君
國務大臣 齋藤 隆夫君
遞信大臣 一松 定吉君
國務大臣 植原悦二郎君
運輸大臣 平塚常次郎君
國務大臣 金森徳次郎君
政府委員
法制局長官 入江 俊郎君
司法事務官 佐藤 藤佐君
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〔參照〕
前文修正試案 牧野英一
一、例外として、或場合には文脈上文語體に依る。特に口語體に依ることが法文の莊重性に影響あるものと考へられる場合においてしかり。
一、成るべく英譯と衆議院の修正とを尊重する。
一、成るべく漢字制限の趣旨に從ふ。
一、内容として、民主的、平和的、社會的及び文化的の四要素を盛り容れる。
日本國憲法
われら日本國民は、正當に選擧せられた國會における代表者を通じて、ここに、主權が國民に存することを宣言し、わが憲法を改正する。われらは、われらとわれらの子孫とのために、諸國民との協和による成果とわが國全土にわたつて自由のもたらす惠澤とを確保し、政府の手によつて再び戰爭の慘禍が發生することのないやうにすることを決意する。そもそも、國政は、國民の特に貴重な信託にかかるものであり、その權威は國民に出づるものであり、國民の代表者がその權能を行使し、國民がその福利を受ける。これは、實に、人類に共通な原則である。われらは、この憲法によつて、これに反する一切の詔勅と法令とを廢止する。われら日本國民は、恒久の平和を念願し、人間相互の關係を支配する高遠にしてまた現に人類を指導し鼓舞しつつある理想を十分に自覺し、われらの安全と生存とを擧げて、平和を愛する諸國民の正義とし信義とするところに委ねる。われらは、國際社會が、平和を保持し、專制と隷從とを、また、壓抑と頑迷とを永遠に地上から除去しようと努めてゐる間に伍して名譽ある地位を占めたいと思ふ。われらは、およそ地上に在る人人が、すべて、ひとしく恐怖と缺亡とに惱まされることなく、平和と安全とのうちに生活する權利を有することを固く信ずる。
われら日本國民は、かくして、戰爭を否定する。われらは、正義と秩序とを基調とする國際平和を誠實に希求し、武力をもつて國際紛爭を解決する手段となすことは、永久にこれを斷念する。
われら日本國民は、わが國に社會的正義を普ねからしめむことを期する。國民は、各、人としてその人格において尊重せらるべく、基本的人權において平等に保障せらるベく、特に男女は同等の權利を享有せねばならぬ。同時に、國民は、内、その家族生活においては敬愛協力の精神をもつて、外その社會生活においては信義誠實の原則に基づき、相共に、その地位に應じ、その職能に從つて、各、公共の福祉のために、その全力を盡くす義務を負擔する。國は、これに對應して、國民の各自に、その生存を完うせしめ、國政上、國民生活を、社會的に衡平ならしめ、經濟的に豐富ならしめねばならぬ。
これと共に、われら日本國民は、文化のためにその全力を盡くさむことを決意する。われらは、われらの生活を物質的に充實すると共に、われらの日常を文化的に向上せしめ、學問と藝術と技術との各方面にわたつて、その自由を尊重し、その發達を進めることにより、われらの受くべき福祉を精神的にも豐かならしめねばならぬ。更に、われらは、われらのかやうな努力をもつて、進んで、世界文化のため、國際社會に對し寄與するところあらむことを期する。
われらは、いづれの國家も、自己に對してのみ責任を感ずるに止まるベきものでないことを信じ、政治道徳の諸原則は普遍的なものであることを信じ、その諸原則に從ふことは、自國の主權を保持し、他の國家と對等關係に立たうとする各國の責務であることを信ずる。
われら日本國民は、國家の名譽にかけ、全力を擧げ、確固たる決意をもつて、この遠大崇高の目的を達成せむことを誓ふ。
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前文修正試案
大谷 正男
われら日本國民は、われらとわれらの子孫のために、諸國民との協和による成果と、わが國全土にわたつて自由のもたらす惠澤を確保し、再び戰爭の慘禍が發生しないやうにすることを決意し、正當に選擧せられた國會における代表者を通じて、ここに國民の總意が至高なものであることを宣言し、この憲法を確定する……（略）……
われらは、これに反する一切の法令及び詔勅を排除する。
………………（略）
………………（略）
われら日本國民は、國家の名譽にかけ、全力をあげてこの高遠な理想と目的を達成し、世界人類の平和と福祉に貢獻することを誓ふ。
＜右ノ如ク前文ヲ改ムルト共ニ一方、公布ニ當リ發セラルベキ上論文中ニ此改正憲法ヲ天皇ガ一般國民ト共ニ尊擁護スル旨ヲ明示セラレンコトヲ望ム
（附記）第九十五條「天皇………擁護スル義務ヲ負フ一ノ一條削除希望＞
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日本憲法改正案中前文の字句修正に關する提案
高柳 賢三
われら日本國民は、われらとわれらの子孫のために、諸國民との協和によつてもたらさるる成果と、わが全國土にわたる自由の惠澤とを確保し、政府の行動によつて將來再び戰爭の慘禍を發生せしめないことを決意して、正式に選擧せられた國會における代表者を通じ、ここに主權が國民に存することを宣言し、この憲法を制定する。そもそも國政は國民の嚴肅な信託に基き、その權限は國民に由來し、その權能は國民の代表者これを行使し、その福利は國民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であつて、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除し、これを廢止する。
われらは、世界永遠の平和を念願し、人間相互の關係を支配すべき崇高な理想を深く自覺して、平和を愛する諸國民の公正と信義とに信頼して、われらの安全と生存とを保持しようと決意した。われらは平和を維持し、專制と隸從、壓迫と偏狹とを永久に地上から除去することを目標とし、これに向つて精進する國際社會において、名譽ある地位を占めることを希求する。われらは、全世界の國民が、ひとしく恐怖と缺乏から免かれ、平和のうちに生存する權利あることを承認する。
われらは、いづれの國民も、自國に對してのみ責任を負ふものでなく、政治道徳の法則の、普遍的なものであることを信ずる。又いやしくも自國の主權を維持し、主權國として、他國と對等關係に立たうとする國民は、みなこの法則を守らねばならぬことを信ずるものである。
われら日本國民は、國家の名譽にかけ、全國力をあげて、この崇高な理想と目的との達成につとむべきことを誓ふ。
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改正憲法前書きの試案
山本 勇造
われら日本國民は、われらの正當な代表者である國會を通じて、こゝに主權が國民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも一國の政治は、國民の信頼と委任とによる神聖な行爲であつて、その權威は國民に由來し、その權能は國民の代表者これを行使し、その福利は國民がこれを受けるべきものである。これは人類共通の原理であつて、この憲法は、實にこの原理にもとづくものである。從つてわれらは、これに反する一切の法令と詔勅とを排除する。
われら日本國民は、眞理と自由と平和とを愛する。われらは、これが探究と實現（と確保）とに、こぞつて力をつくさんとするものである。すなはち、人權を重んじ、個性を尊び、人々をして、働くことに喜びを感ぜしめ、さらに社會正義に立脚して、國民生活の安定と向上とにつとめ、公共の福利をはかり、信教、言論、集會の自由を認め、學問、藝術および技術を尊重し、とりわけ教育に心を用ゐんとするものである。われらは、これをつらぬくに愛を以てし、これを全うするに努力を以てし、世界に恥ぢない文化國家を建設しなければならない。これは、ひとりわれらとわれらの子孫とのためのみではなく、世界人類のために貢獻しようとする、われらの念願にほかならない。
われら日本國民は、戰爭を憎み、戰爭を否認する。故にみづから進んで武器を捨て、國際間の紛爭に武力を用ゐないことを言明する。われらは、これに喜びと誇りとを感ずると同時に、われらの安寧と生存とに關しては、平和を愛する世界各國の公正と信義とに信頼する。およそ地上にある人は、いかなる人であらうとも、恐怖と缺乏とに惱まされることなく、やすらかに生活する權利があると確信する。われらは、この確信のもとに、世界の諸國民と協力して、平和と人道とのために、すべてをさゝげんとするものである。
われら日本國民は、國家の名譽にかけ、全力をあげて、これらの高遠な理想と目的とを達成することを誓ふ。
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參議院議員選擧制度
下條 康麿
一、議員ノ定數ハ二百五十人トスル
二、内百人ハ地域ニヨリ選擧スル
（イ） 選擧區ハ各都道府縣ノ區域ニヨリ各選擧區ニツキ二人（九十二人）爾餘ハ東京ニ二人、京都、大阪、神奈川、兵庫、愛知、福岡ニ各一人ヲ附加スル
（ロ） 選擧方法 直接、單記、無記名投票
（ハ） 年齡 選擧人ハ二十歳以上、被選擧人ハ四十歳以上
（ニ） 立候補 選擧運動トモ衆議院竝トスル
三、内百五十人ノ決定ニツキ左ノ方法ヲ考ヘル
（１） 内閣總理大臣、國務大臣二人、衆議院及參議院ノ議長、副議長、最高裁判所ノ裁判官三人ヲ以テ組織スル詮衡機關ニ於テ詮衡シテ議員トスル
（２） 右ノ詮衡機關ニ於テ定數ノ二倍ノ候補者ヲ推薦シコレ等ノ候補者ニツキ選擧人ガ全國一選擧區ニ於テ選擧スル（選擧方法、年齡ハ地域選擧制ト同ジ）
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案
田所 美治
一、參議院議員ノ數ハ參百名トスルコト
一、參議院議員ハ年齡四十歳以上學識經驗ニ富ム練達堪能ノ人物タルベキコト
一、選擧人ノ資格ハ衆議院議員ノ資格ト同ジウスルコト
一、百五十人ハ一府縣ヲ選擧區トシ人口ニ應ジテ議員數ヲ按分ニ配當シ選擧スルコト
一、百五十人ハ左記ノ方法ニヨリ之ヲ選擧スルコト
イ、内閣ニ參議院候補者選定委員ヲ置クコト
ロ、前項ノ選定委員ハ内閣總理大臣ヲ委員長トシ國務大臣、衆議院議長、參議院議長、大審院長等若干名トスルコト
ハ、全國ノ顯著ナル各種職業代表ノ團體ヨリ候補者若干名宛ヲ推薦シ前項ノ選定委員ニ申出ヅルコト
ニ、選定委員ハ右推薦者ニ付適當ト認ムル者三百名ヲ（百五十名ノ倍數）選定スルコト
ホ、委員長ハ各府縣知事ニ對シ右候補者參百名ノ氏名ヲ通知スルコト
一、全國ヲ一選擧區トシ選擧人ハ右候補者中ニツキ（衆議院議員ト同ジ）一人一票單記ノ方法ニヨリ選擧スルコト
一、選擧人ハ前項ノ候補者以外ノ者ヲモ選擧スルコトヲ得ルコト
一、選擧ハ公營トスルコト
