2 憲法の本質的役割、現憲法の三大基本原則の意義

憲法の本質的役割

 近代憲法は基本的には権利の章典と統治機構に関する規定により構成されるが、最も重要な特質は、(1) 内容的には自由・人権の基礎法であること、(2) 法的性格としては、国の最高法規であり、法体系の頂点に立って国家権力の恣意的発動を制約する「制限規範」としての意味を持つことである。

 本憲法調査会では、従来の規範的機能を高めつつ、

  • 党の憲法調査会中間報告(平成16年)は、(1) 日本国民の意思を表明して世界に対して国の在り方を示すという宣言的機能と、(2) 旧来型の規範的機能とをあわせ持った新たなタイプの憲法を創造していくべきとしている(民主党)、

などの意見が出され、また、

  • 法律は国民に対する規範であるが、憲法とは、歴史的経験を踏まえ、国に対する規範であるという点が異なる、

などの意見が出された。

 一方、制限規範の側面を強調しすぎるのはどうかという立場から、

  • 党の論点整理(平成16年)は、憲法が権力制限規範にとどまるだけではなく、国民の利益、ひいては国益を守り増進させるための公私の役割分担を定め、国家と国民とが協力し合いながら共生社会をつくることを定めたルールとしての側面を持つものであることをアピールしていくことが重要であるとしている(自由民主党)、

などの意見が出された。

憲法典の在り方

 憲法は、成文法典が最も重要な法源であるが、法文という形式をとることによる限界があり、憲法附属法や慣習等が相まって生きた憲法として運用されている。これらの点をめぐり、

  • 憲法規定は、余り細かく定めずに運用の幅を持たせ、最終的に国民のために良い政治ができればよい、
  • 条文に書くべき部分とそうでない部分を区別して考えるべき。天皇とは何かというような千年以上前から伝わってきたような部分はあえてまずい文章で書く必要はないが、国のマネジメントに関する部分は明確に書くべき、
  • 憲法上様々な問題があるにもかかわらず、解釈で切り抜けていくという手段に訴え続けることは、憲法の軽視・無視を助長し、かえって危険な状態を招く、

などの意見が出された。

 また、憲法の表現の在り方について、

  • 憲法は国家の根本規範なので、分かりやすいことも要件の一つであり、義務教育の最高学年である中学3年生の学習レベルで分かることが望ましい、

などの意見が出された。

 さらに、憲法の文言と現実との間に乖離が生じている事態について、

  • 現実が憲法から乖離したのではなく、憲法が現実に取り残されたと認識する、
  • 憲法の規定と実態との乖離が続くことは、法の支配を危うくするものである、

などの意見が出され、さらに、

  • 憲法と現実の乖離を生み出した責任は憲法の側にあるのではなく、政治の側にあることをはっきりさせるべき、

などの意見が出された。

 また、

  • 党の憲法調査会中間報告(平成16年)は、日本の憲法状況には空洞化と形骸化という大きな問題があり、この発生原因は、国内的には、中央集権 システムの下で官僚による恣意的な行政指導が続き、法の支配が形骸化していることにあり、国際関係の中では、あたかも日米関係が憲法を超えるかのような政治実態が生まれていることにあるとしている(民主党)、
  • 歴史総括は、(1) アジアとの新しい21世紀の共同体構想の不可欠の前提であり、(2) この国の最大の問題点が現時点でも自己肥大する官僚制にある点で重要、

などの意見が出された。

三大基本原則

 日本国憲法は、「国民主権」、「基本的人権の尊重」、「平和主義」の三つを基本原則とするとされる。国民主権及び基本的人権の尊重は、近代啓蒙主義の思想を背景に、アメリカ合衆国憲法やフランスの人権宣言等において成文化され、全世界に広がっていった。一方、平和主義は、第一次世界大戦後、不戦条約等において成文化され、広がったもので、第二次大戦後の国際連合がその確立に大きな役割を果たした。日本国憲法は、特に、平和主義を強調しているところに特色があると見られている。

 この三大原則は、戦後半世紀以上の年月を経て、我が国に定着しており、これを今後も維持すべきであるとするのが本憲法調査会における共通の認識となっている。この点に関し、

  • 党の論点整理(平成16年)は、戦後日本に定着した国民主権、平和主義、基本的人権の尊重という三原則を高く評価し、このような人類普遍の価 値を維持し、さらに発展させるものでなければならないとしている(自由民主党)、
  • 新しい憲法をつくるに当たっては、現憲法が掲げる国民主権、平和主義、基本的人権の尊重の三つの根本規範を尊重し、さらにその深化、発展を図ることを基本にすべきと考えている(民主党)、
  • 民主主義先進国、人権先進国、平和先進国を目指し、現行憲法の国民主権主義、基本的人権の尊重、恒久平和主義の三原則は人類普遍の原理として将来ともに堅持し、より深化させ、成熟させ、発展させていくべき(公明党)、
  • 国民主権と国家主権、恒久平和主義、基本的人権、議会制民主主義、地方自治という憲法の五つの原則は、21世紀の日本の指針として将来にわたり擁護、発展させるべき先駆的なものであり、とりわけ平和と基本的人権は世界の最先端を行く内容であり、改正する必要は全くない(日本共産党)、
  • 国民主権、恒久平和主義、基本的人権の保障の憲法三原則は不変のものとしてこれを堅持すべき、

などの意見が出された。

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