[天皇]

1 象徴天皇制の意義

 現行憲法は、天皇を日本国及び日本国民統合の象徴とし、その地位を主権の存する日本国民の総意に基づくものと規定した。戦後60年の歳月の中で、現在の象徴天皇制は定着し、今後も維持すべきことは、憲法調査会におけるおおむね共通の認識であった。

 象徴天皇制について、

  • 党の論点整理(平成16年)は、象徴天皇制は今後とも維持すべきであるとしている(自由民主党)、
  • 天皇制の定着以後、天皇が直接的政治権力を持つことは極めて例外的であり、その時期には結果的に国の形がいびつになり破綻している。天皇制自体は、ある意味で日本の文化的な存在であり、現代的に言えば象徴天皇制ということがふさわしい(公明党)、
  • 戦前は、天皇による専制政治をなくさない限り、民主主義も平和も実現できないとして天皇制打倒を訴えた。戦後は、憲法で国民主権が明確にされ、天皇制の性格が大きく変わり、天皇条項を廃止しなければ社会が抱える諸問題を解決できないという状況ではなくなっていることから、日本共産党現綱領では天皇制廃止を掲げていない(日本共産党)、
  • 象徴という耳慣れなかった言葉も今では国民の実感として定着していると思われる。天皇と皇室は戦後も一貫して国民から敬愛され、今の開かれた皇室は国民にとり民主的な望ましい姿である、
  • 天皇が「日本国の象徴であり日本国民の統合の象徴」であること、その地位が「国民の総意に基づく」ものであることについては、その趣旨を十分に尊重しつつ承継していくべき、
  • 憲法における天皇制の位置付けを変える必要はないのではないか。これからも国民統合のための象徴天皇であり続けてよいのではないか、

などの意見が出された。

国民主権との関係

 天皇制の維持については見解はおおむね一致したものの、国民主権と天皇制との関係をどのように位置付けるべきかには議論があり、また、憲法典における記載の順序として、現在のように第1条が「天皇」から始まることについては異論もあった。

 象徴天皇制と国民主権との関係について、

  • 共産党の綱領は、天皇条項について、(1) 国政に関する権能を有しないなどの制限規定の厳格な実施を重視し、天皇の政治的利用を始め、憲法の条項と精神からの逸脱を是正する、(2) 個人が世襲で国民統合の象徴となる現制度は、民主主義及び人間の平等の原則と両立せず、国民主権の首尾一貫した展開のためには、民主共和制の政治体制の実現を図るべき、(3) 天皇制は憲法上の制度であり、その存廃は、将来、国民の総意により解決されるべきもの、という立場を明確にしている(日本共産党)、
  • 天皇制が続いているとしても、それは、憲法で主権の存する国民の総意としてこれまで続いてきた天皇制を象徴制として位置付けたことによるという点は、踏み外してはならない。国民主権が日本の最大の原理であり、その下に象徴天皇制がある、
  • 象徴規定は、天皇主権から国民主権への激変緩和という点で歴史的には評価できるが、政治的権能を否定しておきながらも、三権の長の二つについて形式的ながら任命権を有する等、混乱している。法の支配の貫徹の見地から、国民主権の徹底化と同時に、象徴天皇制の意義を更に純化するため、天皇規定を再検討すべき、

などの意見が出された。

 また、憲法典における記載の順序について、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、天皇が日本の歴史、伝統及び文化と不可分であり、現行の象徴天皇として1章に位置付けることについては共通の党内理解が得られているが、前文において言及するか否かについては賛否両論があったとしている(自由民主党)、
  • 章の順序について、1章を天皇から国民主権に改めるべき、

などの意見が出された。

元首

 天皇をいわゆる元首と解すべきか、またその旨を憲法に明記すべきであるか否かについては、本憲法調査会では、意見が分かれている。この点に関して、内閣法制局は、憲法調査会において、元首について現行憲法には規定がないが、実質的な国家統治の大権を持たなくとも国家のいわゆるヘッドの地位にあるものを元首とみる見解もあることから、天皇は国の象徴であり、さらにごく一部であるが外交関係において国を代表する面を持っているため、政府としては、天皇は元首であると言っても差し支えないとした(平成13年6月6日)。

 調査会では、

  • 天皇が元首か否かについて、政府は元首の定義次第としているが、現在の在り方こそが伝統と文化に根差す本来の姿、
  • 文化、伝統の象徴としての天皇を大事にすることはよいが、元首ということについては違和感を覚える、
  • 天皇を元首にすべきとの意見があるが、全く反対、

などの意見が出された。

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