3 法の下の平等(マイノリティや外国人など)

 大日本帝国憲法には、日本国憲法第14条に該当する一般的な平等原則の規定はなかったが、日本国憲法には明確に平等原則が定められ、この分野は日本でも特に人権保障が発展した領域の一つと言われている。しかし、今日もなお法の下の平等は非常に重要なテーマであり、特に、今後、マイノリティや外国人などに対する取組が注目される。

 また、14条の規定のみでは、差別として許されない行為の具体的内容や、差別を受けた人の救済手段が不明確であり、具体的な人権の実現や人権侵害に対する救済が困難であることから、各分野の差別禁止法が必要とも言われる。

 本憲法調査会では、平等原則のさらなる発展について、

  • 党の憲法調査会中間報告(平成16年)は、法の下の平等については、私人と私人の関係でも14条が及ぶような積極的な規定を新たに設けるべきとしている(民主党)、
  • 党の憲法調査会報告(平成14年)は、在日韓国・朝鮮人、婚外子、アイヌ民族、被差別部落出身者、外国人などに対して国内に存在する差別を撤廃する積極的措置をとるよう自由権規約委員会から勧告を受けており、国際的基準を満たすよう誠実に対処すべきとしている(民主党)、
  • 党の憲法調査会中間報告(平成13年)は、人権救済の対象となる禁止される差別事由を、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産、収入、年齢、言語、宗教、政治的意見、性的指向・性的自己認識、皮膚の色、婚姻上の地位、家族構成、民族的又は国民的出身、欠格条項、身体的・知的障害、精神的疾患、病原体の存在、遺伝子などに拡充し、憲法上の人権カタログに明記することも検討すべきとしている(民主党)、
  • 経済のグローバル化により、所得格差、中高年や女性の雇用など差別的な待遇が問題となるが、年齢、性別、人種、宗教等により差別してはならないという米国の公民権運動の基本になった考え方をもう少し明確に出すことも必要ではないか、

などの意見が出される一方、平等原則の私人間への適用について憲法の規制を及ぼすことに慎重な立場から、

  • 差別禁止を私人間にも適用できるよう憲法を見直すとの意見には、賛成できない、

などの意見が出された。

 また、平等原則との関係で、女性や子供、障害者、マイノリティの人権について、これらを尊重すべきことは、憲法調査会において、共通の認識であった。

 それぞれの人権について、

(女性の人権)
  • 女性の立場からは、リプロダクティブヘルス・ライツも、性と生殖の自由な自己決定権として法の総合的確立が必要である、
(子供の人権)
  • 子供の人権として、子供を保護する対象から、子供を独立した人格の担い手として認めた権利として明記すべきではないか、
(障害者の人権)
  • 米国のADA法のように障害者の社会参画を妨げないような施策を立法府として考える必要、障害者差別禁止法制の整備を急ぐべき、またALSのような難病患者が自分の意思で投票することを担保する制度を早急につくる必要がある、
(マイノリティの人権)
  • マイノリティに、積極的な保護を打ち出し、一人一人が自己決定に基づき自由に権利を行使し行動できるようにすること、そのために、差別的取扱いを禁止し、人格権の侵害を救済する機関を充実することが重要、
  • アイヌ民族ないし少数民族という位置付けを憲法上明確にすべき、
  • 被差別部落、アイヌ民族、在日朝鮮人、外国人労働者に対する差別の解消にも、積極的な差別禁止の人権基本法と平等実現の施策のための個別法の制定が必要、

などの意見が出された。

 また、憲法が保障する「平等」について、憲法学の通説的見解は、機会の平等であるとしているが、この点についても議論があり、機会の平等だけでなくある程度の結果の平等も社会が保障すべきとする意見と、結果の平等を求める余りに逆に悪平等、不平等というようなことをもたらすおそれがないか危惧しているとする意見とが出された。

外国人の人権

 憲法は、元来、国民に対する国家権力発動の基準を示すものと考えられていることから、外国人の人権が憲法上保障されるか、保障されるとしてその範囲がどこまで及ぶかが問題となる。日本国憲法は、第3章の章題を「国民の権利及び義務」とする一方で、第3章の各条中では、基本的人権の享有主体性について「国民」以外に、「何人」というより広い範囲を含意するような表現も用いており、しかも、これらが厳密に使い分けられているわけではない。憲法学の通説的見解は、憲法の文言にとらわれず、権利の性質によって保障範囲を区別すべきとしている。

 本憲法調査会では、従来からの在日韓国・朝鮮人の問題に加え、グローバル化の進展から、外国人の人権保障問題が国際的にも注目を集めているという認識に基づき、議論が行われ、外国人の人権を基本的には保障すべきという点ではおおむね共通の認識があった。

 外国人の人権について、

  • 党の憲法調査会中間報告(平成13年)は、憲法第三章の国民の権利義務には外国人の人権は明文化されておらず、外国人の人権保障について憲法解釈はあいまいなままのため、その明確な規定が必要とし、その際には国際人権規約等国際人権保障に対応するものが求められるとしている(民主党)、
  • 歴史的負債を克服するためにも、アジア市民社会のビジョンを目指す観点から外国人の人権にも取り組むべき、
  • FTA等により人の移動が自由になるに際して、日本社会の閉鎖性と人種差別意識にかんがみ、外国人労働者に対する規制緩和と共生のための法制を整備し、意識も変わることが必要、
  • 在日外国人の子供の中には学校に通っていない子供が存在するが、義務教育について定めた26条に「すべて国民は」とあるのを、例えば「すべての人々」とか「何人」としてはどうか、

などの意見が出された。

外国人の参政権

 本憲法調査会では、外国人に地方参政権を与えるべきか否かについては、国民主権や地方自治の意義をどのように理解するかと関連し、意見が分かれた。なお、本憲法調査会では、外国人に国政参政権を与えるべきとの意見は出されなかった。

 外国人の地方参政権付与について、積極的に考える立場から、

外国人に地方参政権を付与すべきとの意見
  • 党の憲法調査会中間報告(平成13年)は、地域住民としての義務を果たしている永住外国人の地方参政権を制限する根拠は非常に乏しく、地域公共団体の構成員である外国人が住民投票に参加する権利を保障することも併せて、基本権としての整備が必要としている(民主党)、
  • 永住外国人については、一定の数・集団が国内に存在する以上、そのような人たちの意思を反映する選挙を考える必要がある(公明党)、
  • 「国民固有の権利」という規定を引き、永住外国人に地方参政権は保障されないとの解釈があるが、この規定は国民主権でない時代の歴史にかんがみ、主権者としての国民を強調する意味合いがあり、権利の性質や実態に即して保障の範囲を考えるべき。地方参政権付与を立法政策上の問題とした最高裁判例の見解は正当(公明党)、
  • 外国人にだけ参政権の保障が及ばないということには無理がある。今の時代、国民主権は人民の自己統治と解釈していくべきではないか、
  • 参政権は国家の意思形成機能の面もさることながら、個人の自己決定の集合的処理方法でもあり、在日外国人の地方参政権はこの観点から根拠づけられる、
  • 永住権を取得してから20年以上定住している人は日本がふるさとという意識が芽生えているのでは。そこを一つのポイントとして地方参政権を考えてはどうか、

などの意見が出される一方、消極的な立場からは、

外国人に地方参政権を与えることは難しいとの意見
  • 外国人も納税しているから参政権が付与されてもよいとの議論があるが、経済活動又は生活をする中で日本のインフラを使用していることの対価として納税の義務が生じるのであり、外国人参政権は難しいことを憲法にうたうべき、
  • 国防や教育の問題など、国政への参政権と地方参政権をきっちり分けられないこともあり、現状では地方参政権を外国人に認めることは非常に難しい、

などの意見が出された。

 なお、

  • 日本の植民地時代には、日本にいる朝鮮人の人たちには参政権も被参政権もあったこと、ローマ文字と同様朝鮮文字による投票も有効とされていたことを、外国人参政権の議論の前提として知ってほしい、

との意見もあった。

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