5 経済的自由権(自由な経済活動とその制限)

自由な経済活動とその制限

 経済的自由権は、自由な経済活動を保障する権利である。19世紀の自由主義国家では、国家は私人の経済活動に介入しないものとされていたが、現代国家では、社会的・経済的弱者のための福祉を実現する福祉国家が目指され、経済活動に関する規制が容認されるようになった。グローバル経済の進展に伴い、高福祉・高負担の方向性が見直され、近年、市場経済・市場競争万能主義に戻る動きが生じた。これに対して、特に金融危機以降、市場経済の暴走を止める規制やセーフティネットの整備が求められている。

 このような状況を踏まえ、本憲法調査会では、次のような議論が行われた。

自由な経済活動を最大限尊重すべきとの意見
  • 22条・29条との絡みにおいて、自由な企業活動を許すような形での経済活動の自由ということを明記してはどうか、

などの意見が出される一方、

一定程度の規制が必要とする意見
  • 憲法改正をすべき理由の一つとして、暴走する資本主義社会にどのようにして憲法上枠を入れるかという問題がある、
  • 経済的弱者の保護や資本主義の弊害の是正という点からの私権の制限が重要となっており、大企業のリストラ等についても法的に規制すべきであり、産業空洞化についても最低限のルールを守らせることが必要、

などの意見が出された。

 また、自由な経済活動と環境保護の関係について、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、財産権が一部制限される目的として、公益だけではなく、良好な環境(景観を含む)の保護を加えるとしている(自由民主党)、
  • 適切な市場原理に基づく資本主義、自由・公正で規律ある経済活動ができる社会システムをつくることが政治の課題であり、そのためには、地球環境の保全という理念が市場経済原理の上位にあるとの思想の確立、基礎的社会保障など国民の生命や生活の維持に必要な仕組みを政治の責任で整備することの二つが必要、
  • 資本主義が変質した点として、① 労使の対立、労働組合と国家の対立の時代ではなくなった、② 地球環境保全と経済の自由、人間の活動の自由との調整が必要になった、③ 情報文明化により、実体経済でなく投機経済が資本主義をおかしくしている、という3点が挙げられる、

などの意見が出された。

 なお、私有財産権の保障について、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、財産権が一部制限される目的として、公益だけではなく、良好な環境(景観を含む)の保護を加えるとしている(自由民主党)、
  • 党の憲法調査会中間報告(平成16年)は、合理的な財産権の行使と制約について、判例等の積み重ねもあるが、憲法上明らかにしておいた方がよいとしている(民主党)、
  • 財産権を見直し、土地や資源、自然エネルギー資源においても公共的な価値があるものはその利用と処分についてある制限を認め、そのことにより子々孫々に良好な資源や環境の維持の責務を果たすという未来への責任の精神にのっとった考え方を条文に盛り込むべきと考える、
  • ドイツ憲法では所有権には義務が伴うことが明言されているが、日本では所有権に義務が伴うという教育もされていなければ、そのような概念もない。1人の地主が反対したら道路が永遠にできないということのないよう、29条にもう少し強く義務の側面を書くべき、

などの意見が出された。

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