2 内閣の在り方・機能強化と政治のリーダーシップ

 憲法は内閣を行政権の主体と定めるが、本憲法調査会では、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、行政権の主体については、衆議院の解散権、自衛隊の指揮権、行政各部の指揮監督及び総合調整権の三つについては首相個人に専属させることとし、残余の権限は現行どおり内閣に属するものとするとしている(自由民主党)、
  • 行政の当事者である内閣の立場を憲法上一層明確にした上で、国民に対して内閣が責任をとる体制をつくることが必要、
  • 首相のリーダーシップ担保のための制度が不可欠。65条、66条1項について、首相を主体とする規定とし、首相の最終的責任を明確にする必要がある、

などの意見が出された。

 なお、公正取引委員会等、内閣から一定程度の独立した地位にあるいわゆる独立行政委員会については、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、独立行政委員会が内閣に対して高度の独立性を有していることが弊害となる場合については、それを除去すべく諸措置をとるとしている(自由民主党)、

などの意見が出された。

 内閣の在り方については、内閣を強化すべきという意見、逆に国会を強化すべきであるという意見などが出された。

内閣・首相を強化すべきとの意見
  • 縦割り行政の弊害を解消するため、内閣全体の機能強化と同時に、首相のリーダーシップを高めることが必要、
国会を強化すべきとの意見
  • 改憲論の多くは、内閣の権限強化を主張するが、国会の強化、内閣の監視機能の強化こそが現実の課題であり、そのため、議員立法の活性化と審議会政治の大幅改善が必要、

などの意見が出された。

 また、

  • 議院内閣制は、有権者が選出した議員が国会において首相を選出し、その首相が閣僚を部下として行政権を握ることにより、国民主権が完結するというものであるが、内閣は行政各部・各省庁の連合体という実態になっており、これをどう改めるかが重要で、首相個人で指揮監督又は相互調整できるとすることも一案であるし、行政権を内閣ではなく首相に属するとする組立ても可能ではないか、

との意見も出された。


閣議

 総理は閣議で決定した方針に基づき行政各部を指揮監督するとされる(内閣法6条)。憲法上、閣議について規定はないが、連帯責任制等を理由に、全員一致で決定するものとして運用されている。この点に関し、

全員一致原則を見直すべきとの意見
  • 事務次官会議及び与党事前審査制の廃止などによる閣議の実質化と責任の明確化の実現を求める(民主党)、
  • 閣議が全会一致で運営されるのは当然であるが、反対者がいると閣議決定ができず、行政各部の長が事実上、内閣の方針の拒否権を持ち得るような実態となっている点は是正すべき、
  • 首相の各省に対する指揮監督権は閣僚全員の合意に基づいてしか行えないと解釈されているが、これが内閣のリーダーシップを阻害する大きな要因となっている、

など、見直しを求める意見が出されたが、これに対し、

全員一致原則を維持すべきとの意見
  • 閣僚の全員一致制は、内閣の一体性・連帯責任という意味合いから、必要である、
  • 首相が自ら任免権を持つ閣僚の中ですら全員一致にならないような事柄を行うことがリーダーシップなのか疑問を持つ。それは、専制政治や独裁政治と呼ばれてもおかしくないような姿になりかねないのではないか、

などの意見も出された。


分担管理原則

 行政事務の分担管理原則(内閣法3条)は、省庁別の縦割り行政という弊害の元とも言われており、

  • 首相の権限の弱体化を招いているので改正が必要、
  • 縦割り行政の弊害を解消するため、内閣全体の機能強化と同時に、首相のリーダーシップを高めることが重要、
  • 議院内閣制の機能を発現するためには、基本的に内閣の分担管理原則を変えていかなければならない、

などの意見が出された。この問題は憲法上解決を図るべきとして、

  • 憲法上、各主任の大臣が首相の下にあり、首相ないし閣議により決定される方針の下にあることを明確化すべき、

などの意見も出された。


法律案提出権

 なお、法律案提出権を議員のみに限るべきとの議論も見られるが、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、内閣の法案提出権については、現行どおりとするとしている(自由民主党)、

などの意見も出された。


首相の地位・権限

 憲法は内閣総理大臣に他の国務大臣の任免権を与え、総理の強力なリーダーシップの下に各省大臣を通じて行政各部が統括されることを規定しているが、実際には閣議の全員一致原則、分担管理原則等により、首相の権限が制限され、リーダーシップ発揮の障害となっていると言われる。この点について、

  • 首相のリーダーシップを確保する環境が憲法の明文上も明らかになるように改正を図るべき、
  • 憲法上は十分な権限があり、政党との関係など憲法以外に問題がある、
  • 今以上に首相の権限を強めることは、国会として行政府の暴走に歯止めがかけにくくなり、国民の人権保障のために危険、

などの意見が出された。

首相公選制の導入の是非については、意見が分かれた。
導入に否定的な意見
  • 常にポピュリズムの危険が伴う、
  • 首相を辞任させる方法、国会の不信任案提出権の有無、解散権の有無、内閣の連帯責任をどうするか等問題が多い、
  • 首相公選制は、米国型の三権分立につながるものであり、現憲法の議院内閣制とは両立しない、

などの意見が出された。これに対して、公選制を評価する立場からは、

導入に積極的な意見
  • 衆議院選挙が首相を選ぶ選挙であるとの意識が国民に余りなく、議院内閣制というものを国民がしっかり意識し、自分たちもその確立に向け努力する中で、首相公選制について検討すべき。最終的には首相公選制にすべき、
  • 国民主権の徹底及び官僚政治からの根本的脱却という観点から、議院内閣制から首相公選制に移行すべき。行政府と遮断された中で初めて立法府の機能が充実・拡大する、

などの意見も出された。


政治のリーダーシップ・官僚制

 憲法の予定する統治システムでは、国会が制定した法律が内閣により誠実に執行されるものとされ、行政各部は内閣総理大臣に指揮監督される存在である。しかし、現実には、行政各部である官僚組織が専門性・情報量・組織力等で政治家を圧倒し、分担管理原則の下で省の利益を追求し、縦割り行政等の弊害をもたらし、官僚主義が日本で改革が進まない最大の原因と言われている。

 このような状況について、

  • 行政が複雑多様化し、行政の技術性や合理性が専門性を求めて、議員から実質的な政策決定権を奪っている、
  • 分担管理原則に基づく省益追求を行動原理とする官僚社会主義的国家像を変えなければならない、
  • 官僚機構にメスを入れないと、憲法の国会は唯一の立法機関、行政権は内閣に属するということが空洞化してしまう、
  • 政と官の関係については、政治のリーダーシップ、また、利益誘導等議員と官僚との不透明な関係の是正が求められている、
  • 副大臣、大臣政務官が国会議員から生まれ、立法府から行政府に人が移ったことが行政に対する国会のチェック機能を弱めていないか、

などの意見が出された。

 そして、官僚主導から政治家主導へ、政治のリーダーシップの回復をいかに図るかという点については、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、政令は、法律の個別の委任がある場合に限り、制定することができるものとするとしている(自由民主党)、
  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、「内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行う」(73条の柱書き)とあるが、 「他の一般行政事務の外」との文言により、国会のコントロール外で官僚が動くことをなくすため、この文言を削除するとしている(自由民主党)、
  • 統治能力の改善には、立法府から行政府への政治任用による、立法府と行政府の協力関係が不可欠、
  • フランスでは、行政権ではなく、行政を監視する国務院や会計検査院が強い点に政治の知恵がある、
  • 官僚社会主義を変更していくという意味では、会計検査院的機能をどのように位置付けるのか議論していく必要がある、

などの意見が出された。

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