[司法]

1 司法権の意義・司法権の独立

司法権の意義

 日本国憲法は、大日本帝国憲法に比べ、司法の範囲を広げるとともに、司法権の独立を強化し、裁判所に違憲審査権を与えた点で、顕著な特色を有すると言われる。

 司法とは、「具体的な争訟について、法を適用し、宣言することによって、これを裁定する国家の作用」だと定義されるのが通例であるが、その本質的役割として最も重要とされるのは、国民の基本的人権を保障することである。

 司法の存在感について、

  • 三権の中で司法を強化しなければならないという点ではほぼ一致している、
  • 司法の存在感が薄いことは否定できず、その理由は、(1) 司法府の予算の実質的配分権が行政府にあること、(2) 最高裁裁判官の人事権が内閣にあることにある、
  • 日本は小さな司法と言われるが、増加する事件数に対応できず、(1) 行政と立法に対するチェックを十分に果たしていない、(2) 市民のニーズにこたえていないという問題がある、

などの意見が出された。

司法権の範囲

 司法権の範囲について、日本国憲法は、行政事件の裁判も含めてすべての裁判作用を「司法権」とし、これを通常裁判所に属するものとした。その趣旨は、憲法76条第2項が、英米に倣い、特別裁判所の設置を禁止し、行政機関による終審裁判を禁止しているところに示されている。

 行政事件訴訟制度及びその運用について、

  • 行政訴訟は権利救済の判断に至らず門前払いのケースが多いが、行政訴訟手続法の中で手続の正否を議論する以前に、憲法にさかのぼり、人権救済をどうすべきかという議論をまずすべき、
  • 団体訴訟の可能性を検討すべきこと、具体的事件性、処分性を要件として事実上の門前払いが横行していること等、行政訴訟制度が現行どおりでよいとは全く思っていない。司法が行政をチェックするという機能は相当意識すべき、
  • 団体訴訟がきちんと位置付けられていないし、首相の異議規定も残っている。行政訴訟をもっと国民に使い勝手の良いものにしていくという抜本的改正が司法の強化に資する、

などの意見が出された。

 なお、行政事件訴訟を憲法事項とするか否かについては、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、行政訴訟については、憲法事項とせず、法律事項とするとしている(自由民主党)、

などの意見が出された。

 特別裁判所の設置の禁止については、これを維持すべきとするのがおおむね共通の認識であった。

  • 憲法裁判所や軍事法廷等、現行裁判所が禁止している特別裁判所は設ける必要はないとの立場に立つ(社会民主党)、
  • 37条の迅速な裁判の保障が不十分として行政裁判所の設置を求める声があるが、特別裁判所は、軍法会議等で人権が侵害された歴史から禁じられたもので、人権保障のとりでとしての裁判所の役割を果たすには、裁判官の増員、裁判官の人権教育等によれば可能であり、特別裁判所の設置は筋違い、

などの意見が出された。

 もっとも、第9条改正等を視野においた場合については意見が分かれ、この原則を維持すべきとして、

軍事裁判所も最高裁の下位に置くべきとの意見
  • 自衛軍を有するようになり、軍事裁判所が必要になった場合には、最高裁の下位に属するという形がよい、

などの意見が出された一方、この原則を改めるべきとして、

軍事裁判所は特別裁判所とすべきとの意見
  • 9条改正により自衛隊を認知するのであれば、76条を改正して軍事裁判所を設置すべき、
  • 自衛権の行使及び自衛隊の国際貢献の場合における法の支配を徹底するため、自衛隊司法制度を確立し、(1) 隊内の命令、服従関係、ROE、武器使用の態様、緊急時における市民との関係等自衛隊及び自衛隊員の行動規範に関する法の整備、(3) >法務省管轄下における防衛刑事裁判所の設置、(2) 海外における自衛隊活動に対する法律の適用関係の整備、(4) 自衛隊及び自衛隊員に関する訴訟手続法の整備をすべき、

などの意見も出された。

司法権の独立

 司法権独立の原則は、近代立憲主義の大原則として、諸外国の憲法において広く認められてきており、

  • 人権保障には司法の独立が不可欠であるが、裁判官の独立はその中核をなしており、裁判官の市民的、政治的自由の保障が重要、

などの意見が出された。

 ただし、その運用については、

  • 最高裁長官は内閣が指名し、その他の裁判官は内閣が任命するという点に行政優位の出発点がある。参議院が最高裁判事の任命に加わるという形で 任用段階から民主的な基礎付けを行っていけば、組織面で司法の強化が図れるのではないか、

などの意見が出されたが、これに対して、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、裁判官の任期、任命は現行どおりとするとしている(自由民主党)、

などの意見も出された。

裁判官の身分保障

 裁判官の職権の独立(裁判官が裁判をするにあたって独立して職権を行使すること)こそ、司法権独立の核心であり、これを側面から強化するものが、裁判官の身分保障であると言われている。裁判官の報酬減額禁止規定は、経済的側面から身分保障を支えるものである。

 行政庁などに勤める一般職の公務員給与全体を引き下げる人事院勧告及び法改正が行われた際に、裁判官についても報酬減額が実施されたことに関連し、

減額を容認する意見
  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、79条6項、80条2項に、経済情勢又は財政状況により公務員の給与が一斉に引き下 げられる場合など、司法権の独立を不当に侵害するとは言えないような場合には、裁判官の報酬を減額することができる旨の明文規定を置くとしている(自由民主党)、
  • 79条、80条の裁判官報酬減額禁止規定は、裁判官の独立を害することになるような減額は禁止するとの形に改めるべき、
  • 国会は、経済状況などを勘案しながら裁判官報酬を一律に下げることは憲法違反ではないと判断したが、それは、最高裁の裁判官会議の結論も得た上での決断であったことを付言したい、

など、一律の報酬減額であれば容認されるとする意見が出される一方、

減額禁止は堅持すべきとの意見
  • 裁判官報酬の減額禁止規定については、むしろ意味が大きくなっており、判断内容により不利益な待遇を受けないことを制度的に憲法に保障する必要がある、
  • 裁判官報酬を減額可能とすることは、裁判官の独立の観点から賛成できない、

などの意見が出された。

 なお、裁判官の任期については、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、裁判官の任期、任命は現行どおりとするとしている(自由民主党)、
  • 現行の10年、再任できるという規定でよい、

などの意見が出された。

裁判の公開原則

 裁判の公開原則については、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、裁判の公開原則の見直しを求める意見があったが、82条2項において、「裁判所が、裁判官の全一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる」と規定されているため、公開原則の見直しのための憲法規定は必要ないとしている(自由民主党)、
  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、軍事裁判所を設置する場合には、原則非公開とするような法律上の手当てが必要となるとしている(自由民主党)、

などの意見があった。

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