2 法の支配と司法の民主化

 司法の本質的役割は、法の支配を貫徹し、もって国民の基本的人権を保障することにあると言われており、司法は、多数派から少数派の人権を守ることに意義があると言える。したがって、立法府などと異なり、多数決民主主義に支配されていないという意味では非民主的な機関であることから、民主的コントロールをどの程度及ぼすことが適当かというバランスの問題が生じる。

司法の民主化とそのバランス

 司法の民主化を推進するとともに、そのバランスを保っていくことについて、

  • 内閣、行政の民主化と同時に、ブレーキを踏む方向の司法の民主化を進めるべき、
  • 司法権では国民主権に立脚した再構成をすることが必要となる、

などの意見が出された。

 特に、裁判官の任命などの人事について、

  • 裁判官が民主的基盤を欠くことが統治行為論などにつながっており、最高裁長官・判事のみならず、裁判官の任命自体についても国会を関与させていくべき、
  • 裁判官の任命についても、国会の関与を考えていくべき、

などの意見が出された。

 また、最高裁判所裁判官の国民審査制度については、その有効性に疑問が示された。

見直しを求める意見
  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、現行の国民審査制度は、有効に機能しているか疑わしいため、これを改めるとしている(自由民主党)、
  • 党の論点整理(平成16年)は、最高裁裁判官の国民審査制度は廃止し、廃止後の適格性審査の制度については更に検討を行うことについて異論がなかったとしている(自由民主党)、
  • 有権者全体が裁判の偏向を判断することは現実には難しいので、最高裁裁判官の国民審査制度は廃止し、代わりに参議院に審査機関をつくってはどうか。政治情勢により簡単に弾劾されることのないよう、3分の2を必要とするなどしてはどうか、
  • 国民審査制が十分機能しているとは思えず、充実した情報公開がなされていない現状の下で、この制度を維持する意味があるか疑問、

などの意見が出される一方、

見直しに慎重な意見
  • 最高裁裁判官の国民審査の実効性には疑問を持つが、仮に参議院が裁判官の適格性を審査すると、例えば、参議院の定数不均衡判決のような判決が出た場合、その裁判官を不適格としてしまうおそれもあり、政治とも距離を置くべき、

などの意見が出された。

司法制度改革

 現在、司法制度改革が、政治改革・行政改革など一連の諸改革の最後として行われており、司法の民主化、国民の司法参加、法曹の養成・一元化等が進行している。こうした司法制度改革について、

  • 司法制度改革について、司法権の独立も含めた司法の権威、また裁判を受ける権利という観点からの位置付けが必要、
  • 裁判は公正であることと迅速であることが両立する必要があり、多様な紛争解決メカニズムと市民の司法参加が必要、

などの意見が出された。

司法の迅速化等

 司法の迅速化を進めるとともに、裁判の充実を図っていく必要性については、本憲法調査会では共通の認識があった。

  • 党の論点整理(平成16年)は、民事、刑事を問わず裁判の迅速化を図ることについて異論がなかったとしている(自由民主党)、
  • 裁判の長期化が問題となっているが、通常の裁判数の増加に対応した上で人権裁判の充実に司法が取り組むためには、司法制度改革が是非とも必要、
  • 裁判は迅速に行うこと及び迅速でない裁判は裁判でないことを宣言するプログラム規定を設けるべき、
  • 行政事件、知的財産権等の専門的事項を扱う専門裁判所を設け、ただし、終審としては事件処理できず、最高裁の下に設置する、ということを提案したい、
  • 代用監獄、証拠開示等、刑事裁判、刑事手続における様々な問題点の議論がまだまだ不十分、

などの意見が出された。

国民の司法参加

 司法への国民参加として、裁判員制がスタートすることに関連して、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、新しく追加すべき権利としては、司法への国民の参加の権利等を挙げている(自由民主党)、
  • 党の論点整理(平成16年)は、国民の司法参加に関する規定を置くべきとの意見が出たとしている(自由民主党)、
  • 裁判員制度が始まることを国民に認識させる意味で、司法への国民参加について一項目設けてもよい、
  • 裁判員制を実効的に機能させるためには、国民への制度の周知とともに、裁判所を国民に開かれたものとする努力が必要、

などの意見が出された。

法曹の養成・一元化

 法曹の数を増やし、また法曹の一元化を図ることについて、
  • 法曹人口を増やすために司法制度改革も司法試験の資格制度見直しも必要、
  • 任期を10年とし、再任を可能とする80条1項の文言に照らせば、憲法も法曹一元制度を予定していると言える、
  • 法曹一元化を進めるとしてもある程度の歯止め、限定が必要であり、裁判官と弁護士、検察官に求められている能力は違うので、裁判官登用試験と弁護士、検察官の資格試験を分けるのも一つの考え方、
  • 裁判官には権利が闘いによってしか確保できないことを理解してもらわなければならず、国民としての闘いを経験した弁護士から裁判官が任用されるのは好ましい、
  • 行政と司法の間の人事交流は、消極的であるべき、

などの意見が出された。

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