2 住民自治・基礎的自治体の強化、住民投票制

 憲法の保障する住民自治と団体自治の強化策についても、議論が行われた。


住民自治の強化

 地方自治が住民の意思に基づいて行われるべきことは憲法調査会における共通の認識であった。調査会においては、住民自治をいかに強化するかという観点から、地方における統治システムの在り方について議論が行われた。

  • 国政では代議制が基本であるが、地方政治では直接民主主義も大きな柱とされ、直接請求の仕組みとして住民の直接参加が定められており、これを実質的に保障することが必要である、
  • 議員の定数等全部チャーターで決め、住民投票で自分たちの自治体の姿をつくるということを憲法に書きたい、

などの意見が出された。

 地方議会については、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、地方自治体の議会の議員は、その地方自治体の住民が直接選挙することとしている(自由民主党)、
  • 三位一体の改革が進むと、知事はより一層強くなることから、バランスを取るため、議会の提案権を拡大するなど議会の権限を強化すべき、
  • 行財政の無駄を無くすことは当然だが、無原則に地方議員定数を行革の対象にするということは憲法の定める地方自治の本旨と全く相容れない、議会の自殺行為、

などの意見が出された。

 首長・執行機関の在り方については、多様な在り方を認めることを検討すべきとして、

  • 小規模の町村について、いわゆるシティーマネージャー制度の採用や、道州制を視野に入れるとすれば、地方自治体の長の選出方法を憲法上住民の直接選挙のみに限定しない方が適当ではないか、
  • 首長の選出について、直接選挙だけではなく議会による間接選挙やシティーマネージャー制度の採用など選択の余地を残した方が良いか検討の必要がある、
  • 執行機関等については、各団体の判断により多様な方式を選択できるよう幅を持たせることが望ましく、選択の余地を与える規定ぶりが望ましい、

などの意見が出され、また、首長の多選禁止について、

  • 大統領制である首長の権限が地方分権の進展にともなって強くなっていくと、民主主義を活性化する意味でも多選禁止についての議論は避けられないと思う、

などの意見が出された。

 条例については、

  • 条例制定権はあっても、立法・司法権を保障されているのではないという部分や、法律の範囲内でしか許されていないという部分があり、憲法改正が必要になるかについて議論の必要がある、
  • 地方自治体には、法律の範囲内の条例制定権にとどまらず、中央政府との権限配分に対応し、地方自治体にゆだねられる分野の専属的・優先的な立法権を憲法上保障すべき。国は、専属的分野については立法権を持たず、優先的分野については大綱的基準を定める立法のみ許されるとの原則を書き込むべきではないか、

などの意見が出された。

 なお、憲法95条の地方特別法の規定については、広島平和記念都市建設法などが戦後まもなく施行されたほかは全く利用されていない状況であるが、存廃をめぐり議論され、

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、95条の住民投票制度は廃止することとしている(自由民主党)、
  • 95条は、この半世紀余り全く機能しておらず、事実上死文化しており、意味がないので削除してよい、

などの意見に対して、

  • 95条の地方自治特別法に係る住民投票は、国と地方で見解のそごがあるような場合にはいきてくるので、削除する必要はない、
  • 官僚の小細工により、地方自治特別法とならないよう立法技術により95条が潜脱されているという事実を指摘しなければ、ただ95条に存在意義はないという結論にはならない、

などの意見が出された。


団体自治及び基礎的自治体の強化

 地方自治体の組織の在り方について議論がなされた。特に地方分権の流れの中で受け皿となる基礎的自治体を強化すべきことについては、調査会において共通の認識があった。

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、地方自治体は基礎的自治体とこれを包括、補完する広域自治体で構成することとしている(自由民主党)、
  • 地方自治体は、基礎的自治体と広域的自治体で構成されるという二層制の保障について、明記しておく必要がある、
  • 広域自治体と基礎的自治体の二層制を前提とし、かつ基礎的自治体を優先するという考え方を明確にするのが望ましい、
  • 基礎的自治体は市町村と考えており、都道府県は市町村の連合体のような形に組み立てていかざるを得ないのではないか、
  • できるだけ基礎自治体に多くの役割を担ってもらい、また、それに堪え得る基礎自治体をつくっていくべき、
  • 身近な基礎自治体に財源と権限を移譲し、負担とサービスの関係を適切に住民が判断できるよう透明性を確保しながら、自ら考え自ら決めるという民主主義の原点に立ち返り、地方の自主性、自己決定能力を高めていくことが地方の個性を回復させるために必要、

などの意見が出された。

 なお、現在進められている「平成の大合併」と言われる市町村合併について、

  • 分権化を進め地方自治を確立するには、基礎的団体である市町村の機能を拡大すべきことから、合併推進は肯定できる。ただし、合併は強制すべきものではなく、事務共同処理の仕組みも併用して市町村の権能を拡充することが望ましい、
  • 基礎的自治体の適正規模は人口と行政コストの関係という机上の計算だけで割り出せるものではなく、面積、地形、気候、風土、住民の生活様式などが総合的に判断されるべき、
  • 平成の大合併は、財政を主な理由として中央からの呼び掛けで進められている結果、古くから行われてきた本当の住民間の協力と事実上の住民の自治が無視されているのではないか。大合併についても、もっと国会で議論をすべき、

などの意見が出された。

 さらに、自治体の機能強化の一環として、監査制度を重視すべきであるとして、

  • 地方自治体をチェックする機能として、監査制度があるが、十分に機能してはいないので、公正な監査活動を担保する制度をしっかりと根付かせていく必要がある、

などの意見が出された。


住民投票制

 現在、原子力発電所の建設等について「住民投票」が行われる例が見られるが、憲法・地方自治法上は個別の問題を住民投票にかけることには触れられていない(合併手続の一環としての住民投票規定は存在する)。個別問題に関する住民投票については、住民の意識を高め、民主主義の実現に有効とする意見もあるが、その法的位置付けや濫用の危険性などの問題点も指摘される。

 本憲法調査会では、住民投票制を法定化するか否かについては意見が分かれた。

現在の住民投票について否定的な意見
  • 条例に基づく住民投票は、94条を受けて、地方自治法で認められている。条例が法律の範囲内で定められると憲法にある以上、法的には省令以下の重みしかないが、政治的には非常に大きな意味を持つので、法的に位置付けるか、完全に禁止するか議論を深めるべき、
  • 議員は公職選挙法の厳しい規定の下で選ばれるが、住民投票には買収や戸別訪問など同法の規制がかからず、世論では直接民主主義の結果の方が重いとされることに疑問を呈する、

など、現在の住民投票の在り方に疑問も呈されたが、住民の意思を直接反映するという意義を評価する立場から、

住民投票を評価する意見
  • 地方分権を強力に進め、生活にかかわる大部分の決定を地方自治体で行い、住民投票制度を実現すれば、より直接的に民意を反映した政治になる、
  • 地域に重大な影響を及ぼす問題について、住民が意思を表明する機会を安定的、普遍的に保障するために住民投票制度が必要、

など、積極的な意見が出された。

 これに対して、あくまでも補完的役割として考えるべき等、導入には慎重な意見も見られた。

住民投票導入に慎重な意見
  • 住民の意思を問うには、首長・議会の選挙のほか、発達した通信手段を利用することも可能。住民投票は、憲法の規定する首長・議員の直接選挙制や間接民主主義の在り方を曲げる使われ方をされてはならず、補完的な役割として考えるべき、
  • 憲法では代表民主主義が基本になっており、地域の議会の議論を経た上でテーマによっては住民投票を行うという手続が正しいのではないか、
  • 代表民主制を採用する以上、直接民主主義的手法である住民投票は代議制の補完が基本である。導入に際しては、対象の案件や項目の設定、住民への情報提供、拘束力等を検討する必要があり、なお議論の余地が多い、

などの意見が出された。

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