III 憲法調査会における主な論点の紹介

(報告書39~233頁)

 本章では、報告書の「第4部 まとめ」(報告書223~233頁)の内容に沿って、参議院憲法調査会の議論を紹介します。

 参議院憲法調査会は、国会法の規定に従い、「日本国憲法について広範かつ総合的に調査」を行い、憲法の各論点について、様々な意見が出されました。その結果、共通の認識が得られたものもあれば、見解が分かれたものもあります。また、意見が対立したもののうち一方が、「すう勢」と認められたものもありました。

 以下では、これらの意見の最大公約数的なものとして取り上げられた主な論点を紹介します。

 なお、日本共産党及び社会民主党は、本調査会を憲法改正の足がかりにすることが許されないとの立場から、本調査会に参加し議論を行ってきており、ことさらに論点を設定し「共通の認識」などと意見をまとめ方向付けすべきではないとしています。しかし、報告書の「まとめ」は、両党の意見を含んで整理されています。

1 主な論点のうち共通またはおおむね共通の認識が得られたもの

 共通の認識が得られたものとは、自由民主党、民主党、公明党、日本共産党、社会民主党の5党で一致している意見です。なお、党又は党内の一部に若干の異論がある認識については、「おおむね」を付しました。

(1) 三大基本原則(国民主権、基本的人権の尊重、平和主義)

 (前文、第9条、第11条、第97条関係)

 憲法の三大原則は、戦後半世紀以上の年月を経て、我が国に定着しており、これを今後も維持すべきであるとするのが共通の認識となっている。

(報告書46~47頁)

 現行憲法は、「国民主権」、「基本的人権の尊重」、「平和主義」の三つを基本原則とすると言われています。特に現行憲法の特色とされる「平和主義」は、第一次世界大戦後、不戦条約*等において成文化され、広がったもので、第二次大戦後の国際連合がその確立に大きな役割を果たしました。

 本調査会では、この三大原則を高く評価し、「将来ともに堅持し、より深化させていくべき」などの意見が出されました。

*不戦条約:国際紛争の解決は、戦争ではなくすべて平和的手段によるべきことを約束した条約。第一次世界大戦後の国際社会では「戦争の違法化」の考えが大きな流れとなり、1928年にパリで締結されました。

(2) 現行憲法の果たしてきた役割

 現行憲法は基本的に優れた憲法であり、戦後日本の平和と安定、経済発展に大きく寄与してきたと高く評価する意見が共通であった。

(報告書48~49頁)

 現行憲法が果たしてきた役割について、戦後日本の平和と安定、経済発展に大きく寄与してきたことへの高い評価が、共通の認識として得られました。

 その上で、本調査会では、これからの国のかたち、在り方については、「日本人のアイデンティティーを憲法の中に見いだすことのできる国づくり」、「基本的人権の確立に取組み、人権先進国と途上国との間の人権格差の是正に主導的な役割を果たし、世界に誇ることのできる国づくり」、「視野の狭い一国平和主義ではない国際貢献国家・平和人道国家を目指すべき」など様々な意見が出されました。

(3) 国民主権の堅持・発展(前文関係)

 「国民主権」の原則を今後も堅持し、さらに発展させていくべきであることは、共通の認識であった。

(報告書56頁)

 国民主権は、18世紀末から、それまでの君主主権に代わり、民主主義や国の在り方の基礎となる概念として各国憲法に採り入れられました。国民主権は、基本的人権の尊重、平和主義と並ぶ現行憲法の三大原則の一つとして位置付けられ、民主主義や統治機構を支える基礎的原理となっています。

 本調査会では、憲法三大原則の一つである「国民主権」の原則を今後も堅持し、さらに発展させていくべきとされました。

(4) 象徴天皇制の維持(第1条関係)

 戦後60年の歳月の中で、現在の象徴天皇制は定着し、今後も維持すべきことは、おおむね共通の認識であった。

(報告書60頁)

 現行憲法は、天皇を日本国及び日本国民統合の象徴とし、その地位を主権の存する日本国民の総意に基づくものと規定しました(第1条)。また、第4条は「国政に関する権能を有しない」と規定しており、この点で、天皇の地位の性格は統治権の総覧者であった明治憲法下の天皇とは全く異なっています。

 本調査会では、「天皇制の定着以後、天皇が直接的政治権力を持つことは極めて例外的で、天皇制自体は、ある意味で日本の文化的な存在」、「天皇と皇室は戦後も一貫して国民から敬愛され、今の開かれた皇室は国民にとり民主的な望ましい姿」などの意見が出されました。

(5) 公的行為(第7条関係)

 国事行為には該当しないが純粋な私的行為ともいえず、公的な意味がある行為(「公的行為」)が存在することは、おおむね共通の認識であった。

(報告書63頁)

 国事行為とは、天皇が象徴たる地位に基づき国家機関として行う、憲法が定めた行為です。国家的意義を有する行為であると同時に、国政に関する権能を持たない象徴としての天皇の中立性が守られるように、内容に天皇が責任を負わない行為でなければならないと、一般には理解されています。

 しかし、実際には、国会の開会式においておことばを述べる行為など、国事行為には該当しないが純粋な私的行為ともいえず、公的な意味がある「公的行為」が存在することは、本調査会で、おおむね認められました。

 なお、本調査会では、現行憲法が国事行為と定めている行為の範囲は適当か、また、公的な行為とはどのような行為であるかが議論され、その中では、公的行為の概念は認められないとの意見も出されました。

(6) 女性天皇(第2条関係)

 女性天皇を認めることについて、おおむね共通の認識があった。

(報告書65頁)

 皇位継承については、象徴天皇制の趣旨に照らして、国民の支持が得られ、かつ、日本の歴史や伝統に配慮した制度であるべきことが言われています。憲法は皇位を世襲のものと定めていますが、具体的な皇位継承の内容については、国会が議決する皇室典範によるものとしました。同典範では皇統に属する男系の男子が継承すること等が定められています。

 本調査会では、この点に関し、「女性天皇賛成が80%という世論調査もあり、そういうものも考えていくべき」、「男子誕生のプレッシャーを天皇家に掛けるのは良くない、女性天皇は過去にも存在した」などの意見が出されました。

ページトップへ