1 主な論点のうち共通またはおおむね共通の認識が得られたもの

(7) 平和主義の堅持(前文、第9条関係)

 平和主義の意義・理念を堅持すべきことは、共通の認識であった。

(報告書66~67頁)

 憲法前文と第9条において表されている平和主義の理念は、戦争の惨禍を経験した国民から広く深い共感を呼ぶ一方、憲法制定後すでに半世紀以上を経過した現在、国際社会の実態に果たして適合しているのか問題であり、現実に即した平和主義の方針を持つべきとの考え方があります。これに対して、憲法に示されている理念は今なお有効であり、現実を理想に近付けるべきとの考え方があります。これは、平和を求める理念は共通しても、平和という状態の具体的内容をどう理解するか、平和主義の内容としてどのようなものを考え、どのようにして平和を実現するかという実践の在り方についての考え方がそれぞれ異なることに起因すると思われます。

 本調査会では、「戦後日本の平和国家としての国際的信頼と実績を高く評価し、これを今後とも重視するとともに、我が国の平和主義の原則は不変のものであることを強調し、今後とも積極的に国際社会の平和に向けて努力する」、「平和憲法の理念、精神性は堅持すべきであり、むしろ今こそ国民全体で再確認し、今後、より積極的に国際社会に対し平和主義からのメッセージを力強く発信すべき」などの意見が出され、平和主義の意義・理念を堅持すべきとされました。

(8) 第9条第1項の維持(第9条第1項関係)

 戦争の放棄を定める第9条第1項の維持はおおむね共通の認識であった。

(報告書71~73頁)

 第9条第1項は、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」ことで、戦争放棄を宣言しています。

 なお、政府統一見解は、第1項は独立国家に固有の自衛権までも否定する趣旨のものではないとしています。

 本調査会では、「9条1項は、不戦条約やそれに連なる国連憲章の精神等に沿い、国際法上も定着した侵略戦争放棄の理念を明らかにしたもので、堅持すべきだ」などの意見が出されました。

(9) 個別的自衛権(第9条関係)

 我が国が独立国家として個別的自衛権を有することを認めることは、共通した認識であった。

(報告書73~75頁)

 自衛権とは、一般に、外国からの急迫又は現実の違法な侵害に対して、自国を防衛するために必要な一定の実力を行使する権利とされています。

 個人の自衛権は自然権*であり、個人の自衛権の集合としての国の自衛権も条文以前の自然権であるとも言われます。

 憲法が強調する平和主義の価値は、広く国民から認められているところですが、国家の自衛権まで否定するのか、また、自衛隊の存在や在り方をどのように考えるかなどについて、様々な角度から議論がなされてきました。

 なお、1954年の自衛隊発足にともない、当時の鳩山内閣は、「第1項は独立国家に固有の自衛権までも否定する趣旨のものではなく、自衛のための必要最小限度の武力を行使することは認められている」とし、この政府見解の内容は、現在に至るまで維持されています。

 本調査会では、「日本の安全保障のために自衛権を持ち、自衛のための戦いをすることは、憲法が当然許容している」、「主権国家が国際法上、個別的・集団的自衛権を有していることは国連憲章にも明記されており、日本も独立主権国家として、当然に自衛権を有している」などの意見が出されました。

*自然権:人間が、生まれながらにして持つ、国家や憲法に先立って存在する権利。政府の権力、法律や憲法改正によっても、これを侵害することはできないとされています。

(10) 自衛のための必要最小限度の組織の必要性(第9条関係)

 自衛のための必要最小限度の組織が必要であることには、おおむね共通の認識があった。

(報告書79~81頁)

 自衛のための必要最小限度の組織が必要であることは、本調査会でおおむね認められました。

 なお、1954年の自衛隊設置に際して、当時の鳩山内閣は、第9条第2項が禁じる「戦力」の定義を、「自衛のための必要最小限度を超える実力」へと変更し(→参照)、「自衛隊は、我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織であるから、憲法に違反するものでないことはいうまでもない」としました。この政府見解は今日まで引き継がれています。

 本調査会では、「国家には自衛権があり、国民の生命・財産を守る手段として自衛組織は不可欠である」などの意見が出される一方で、現在の自衛隊については、違憲あるいは必要最小限度を超えているとの意見も出されました。

(11) シビリアン・コントロール(第9条関係)

 シビリアン・コントロール(文民統制)は重要であるということがおおむね共通の認識であった。

(報告書83~85頁)

 軍組織に対する民主的統制は、民主主義国家体制を守る上で不可欠です。現行憲法には、明治憲法下で現役の武官が大臣に就任し国政に大きな支配力を持った反省に基づき、内閣総理大臣その他の国務大臣を、「文民」とするとの規定が置かれています(第66条第2項)。このように軍組織を文民の統制の下に置く原則をシビリアン・コントロールと言います。

 今日、シビリアン・コントロールには文民が軍を統制するだけではなく、議会における戦争の宣言と予算の権限、行政府の長の指揮権、軍が国民の自由を不法に侵害した場合の裁判所の権限などもその内容に含まれるべきなどとも言われています。

 本調査会では、「シビリアン・コントロールは、軍隊の最高指揮者が非軍人、文民でなければならないといった狭義の意味でとらえられるべきではなく、民主的手続によって選ばれた議会の統制に服するという、民主的統制として理解されるべきである」、「先進国家が議会優位の民主主義体制から行政優位の形態に変貌し、シビリアン・コントロールにおいても、より専門性や機動性を持つ行政府のウエートが増し、国会によるコントロールが形骸化していくのではないかとの懸念を持つ」などの意見が出されました。

(12) 国際連合の重視と改革の必要性(第98条第2項関係)

 国際連合を重視するが、安全保障理事会をはじめ改革が必要であることは、おおむね共通の認識であった。

(報告書90~92頁)

 第一次・第二次世界大戦の惨禍の経験から、国際連合を中心とした国際平和の確立が目指されました。国連憲章の戦争の災害から将来の世代を救おうとの精神は、現行憲法の理念と基本的にはつながるものです。

 国際連合を中心とした国際平和活動に日本がどのようにかかわっていくかは大きな問題ですが、国際連合、特に安全保障理事会の在り方には、様々な考え方があります。

 本調査会では、「平和の構築や貧困格差の是正、地球環境など、21世紀の全人類が直面する課題の解決のために国連が果たすべき役割は重要」、「冷戦終結後、国連が本来の機能を発揮する道を切り開くことも可能となり、日本は、国連の機能強化を進めるべき」、「国連を中心とする国際機関の実効的措置やそのための組織・機関の強化について、国際刑事裁判所を始めとし、国連軍や国連警察軍の創設に至るまで、積極的に発言し、行動していくべき」など、国際連合を重視するが、安全保障理事会をはじめ改革が必要であるとされました。

(13) 国際貢献への姿勢(前文関係)

 日本が、国際社会の一員として、国際平和活動やODAを活用するなど国際協力に積極的に取り組み、行っていくべきことは共通の認識となっている。

(報告書94~95頁)

 我が国が一国平和主義を採るのではなく国際平和への責務を負うことは、自国のことのみに専念してはならないとする憲法前文からも明らかです。

 本調査会では、日本が、国際社会の一員として、国際平和活動やODAを活用するなど国際協力に積極的に取り組むべきこととされ、「日本が国際平和活動や国際協力に、より主体的、能動的に取り組んでいくためには、国民一人一人の理解が不可欠である」、「日本の国際貢献は地球村の一員として当然の責務であり、自衛隊も含め、NGO、NPO、市民団体等様々な形態の人道支援、ODAを通じた非軍事的な協力等が考えられる」などの意見が出されました。

(14) ODAなどの国際協力(前文関係)

 世界の平和保障は、経済問題の解決をなくしては成り立たず、特に、南北問題や貧困などの解決が不可欠であることは、共通の認識と言える。

(報告書97~98頁)

 世界の平和保障は、経済問題の解決をなくしては成り立たず、特に、南北問題や貧困などの解決が不可欠であるとされました。これらの問題を解決するには、国家間で多様な経済的・社会的援助がなされることが重要であり、我が国もODA(政府開発援助)として、開発途上国の経済・社会の発展や福祉の向上に役立つように資金・技術提供を行っています。

 本調査会では、「日本は、ODAを戦略的に活用し、また、紛争地域の平和構築に国際社会と協力して積極的に貢献していくべきであり、このような国際貢献の分野については、経済的貢献のみならず人的貢献、知的貢献などその総力を挙げて取り組むべき」、「自らの繁栄を平和で安全な世界の自由貿易体制に依存する日本は、国際社会共通の課題に応分の負担や協力を果たしていく責務があり、国際社会における長期的な国益につながる国際協力を打ち切ったり、性急に削減すべきではない」などの意見が出されました。

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