3 地方分権・道州制

 地方分権を推進していくべきことは本憲法調査会における共通の認識であるが、現在の地方制度の枠組の下で推進を図るか、新たな枠組の設定まで視野に入れるか、様々な立場があり、見解が分かれた。分権の受け皿として基礎的自治体を強化すべく市町村合併を進めると、都道府県の機能にも影響があることから、都道府県連合、さらには新たな広域自治体として道州制まで視野に入れるか、議論は分かれる。なお、道州制の具体的な内容については、多様な考えが存在している。

地方分権

 地方分権の重要性について、

  • 長年地方自治にかかわった経験から、基礎的自治体の充実強化と地方分権の推進が住民の福祉の向上につながることを確信している、

などの意見が出され、地方分権に関わる憲法の在り方については、

  • 党の論点整理(平成16年)は、地方分権をより一層推進し、また、地方分権の基本的な考え方や理念を憲法に書き込む必要があるという点で大多数の同意が得られたとしている(自由民主党)、
  • 党の憲法調査会中間報告(平成16年)は、分権国家の創造を目指し、中央集権国家から分権国家への転換、自治体に優先的立法権限を認める、多様な自治体の在り方を認める、課税自主権・財政自治権を憲法上保障する、地方交付税制度に代えて新たな水平的財政調整制度を創設する等の提言をしている(民主党)、
  • これからの国家像として、中央集権から地方分権の社会になっていることを前文に位置付けていくことが重要、
  • 憲法の地方自治規定は内外の地方分権・地域主権への潮流に追いついていない。中央政府のみのガバナンスは限界であり、抜本的な地域主権の国づくりを、憲法論議を中核に据えながら行うべき、
  • 地方分権を進めていくことを考えると、国と自治体の関係、自治体相互の関係、首長と議会の関係について、憲法上明確に規定しておくべき、

などの意見が出された。

 また、国地方間の紛争解決機能について、

  • 地方分権が進むと、国と都道府県(又は将来の道州)、市町村と都道府県(又は将来の道州)、市町村同士における権限の調整が必要になり、裁定の機関を併せ持たなければならなくなるという意味で、81条は見直すべきではないか、

などの意見が出された。

 さらに、地方分権の方向性について、

  • 地方組織の再編なくして行政改革や政治改革は完成せず、道州制や連邦制の方向を目指すべき、

などの意見が出された。

道州制

 新たな広域自治体として構想されている道州制について、都道府県の見直しも含め、議論が行われたが、道州制を導入するか否かについて、意見が分かれた。

 道州制の導入については、積極的な立場から、

道州制を導入すべきとの意見
  • 地方組織の再編なくして行政改革や政治改革は完成せず、道州制や連邦制の方向を目指すべき、
  • 市町村の機能の拡充が進めば、国と市町村の間の中間団体である都道府県の役割と位置付けを見直す必要が生じるが、都道府県制に代えて道州制を導入することが望ましい、
  • 市町村合併が進めば都道府県の役割・権限が低下するのは当然であり、道州制の導入を考えていくことが必要である、
  • 道州制の導入は、組織体制の大幅な簡素化と国の仕事のスリム化をもたらし、行政改革の推進に効果がある。また、東京一極集中の是正にも有効で はないか、

などの意見が出された。この場合、導入に際して憲法の改正を要するか否かについては、

  • 現行憲法の規定でも道州制は実施し得るが、憲法の基本法典としての性格から、大幅な地方分権や地域主権への政体の変更のためには、憲法の規定を大幅に改めるべきである、

などの意見が出された。

具体的な道州制の内容については、

  • 道州制については広域自治体である道州と基礎自治体の二層制とすべきで、国と道州の役割を限定的に列挙すべきだが、市町村と道州との役割は補完性の原理にのっとり仕分けしていくべき、
  • 道州内の統治の仕組みについて、92条や93条のような規定が適切か。より大きなウエートを基礎自治体に与える、自治体間で決めるなど、中央政府が関与しない形で道州と基礎自治体の関係を規定すべきとの考え方も注目に値する、

などの意見が出された。

 これに対して、

道州制導入に消極的な意見
  • 道州制は、財界が巨大プロジェクトなど大型開発を進めるには都合が良いが、住民の自治はほとんど実体を失うおそれがある(日本共産党)、
  • 道州制を上からつくっていく発想より、基礎的自治体の流れをくみ上げ、広域的な二層制の在り方を考えるべき、

などの意見も出された。

ページトップへ