2 国事行為とその範囲

 国事行為とは、天皇が象徴たる地位に基づき国家機関として行う、憲法が定めた行為である。国家的意義を有する行為であると同時に、国政に関する権能を有しない象徴の中立性が守られるべく、内容に天皇が責任を負わない行為でなければならないと解されるのが通例である。

 しかし、実際には国会の開会式においておことばを述べる行為など、国事行為には該当しないが純粋な私的行為ともいえず、公的な意味がある行為(「公的行為」)が存在することは、本憲法調査会におけるおおむね共通の認識であった。そこで、現行憲法が国事行為と定めている行為の範囲は適当か、また、国事行為には該当しないが、公的な行為として認めるべき行為があるか、あるならばどのような行為であるかが議論された。

  • 党の新憲法起草小委員会の検討(平成17年)においては、天皇の国事行為の規定の中で、「国会議員の総選挙」(7条4号)のように、文言の不正確な点は修正するとともに、憲法に定める「国事行為」と私人としての「私的行為」以外の行為として、「象徴としての公的行為」が幅広く存在することに留意すべきとしている(自由民主党)、
  • 共産党が国会の開会式に参加しないのは天皇制を認めないからではなく、戦後、国会が国権の最高機関に変わったにもかかわらず、議会が天皇の補佐機関として扱われていた戦前の方法を形を変えて引き継いでいることから、憲法を守るという立場に立ち、参加していない(日本共産党)、
  • 現憲法は、天皇の国政に関する権能を否定しながら、内閣と司法のトップの任命権、国会の召集のような形式的権限を付与しており、象徴概念に混乱が見られる、
  • 公的行為については、その時々の社会的政治状況に結び付けられ、天皇の国政関与や天皇の政治利用等の憶測が起きる可能性が否定できず、憲法で位置付けを条文化する必要がある、
  • 庶民的な立場からは、皇室が参加する行事が多過ぎるのではないかとの感覚を持つ、

などの意見も出された。

祭祀等の儀式

 また、天皇の象徴たる地位は我が国の歴史を背景としており、伝統への配慮は必要だが、天皇の祭祀等の儀式には宗教的色彩の強いものが見られ、政教分離原則との関係については十分な考察と注意が必要であると言われている。この点に関し、

  • 党の論点整理(平成16年)は、天皇の祭祀等の行為を公的行為とすべきかどうか検討すべきとの意見が出たとしている(自由民主党)、

との意見が出される一方、

  • 天皇の権威が祭祀に基づくことは歴史的事実であろうが、今日的には祭祀は私的なものと見るべき。国の予算を使用していたとしても、天皇家自身の祭祀と見るべきであり、それ以上に国家的・社会的な力を持つことは、政教分離の原則に反する(公明党)、
  • 昭和天皇崩御や現天皇即位の際の儀式について、国の隅々まで氏神があり、天皇家の神道儀式は、その中心であり、国家の儀式であるとの主張があったが、庶民の氏神信仰はもっと素朴で身近なものであり、これらは、やはり天皇家の私的な儀式と考える、

などの意見が出された。

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