3 主な論点のうち意見が分かれた主要なもの

(15) 憲法裁判所制度(第6章関係)

 憲法裁判所制度の導入の是非については、意見が分かれた。

(報告書187~189頁)

 法令が憲法に適合するか否かを争う憲法裁判の在り方は、大別すれば通常の司法裁判所による憲法裁判と、憲法裁判所による憲法裁判とに分けられます。

 通常の司法裁判所による憲法裁判は、具体的事件を通じて憲法裁判を行うものとされ、日本やアメリカなどが採用しています。

 一方、憲法裁判所による憲法裁判は、もっぱら憲法事件の審査のために通常の司法・行政裁判所とは別に、特別に設けられる裁判所によるものです。その特徴として、具体的事件を通じてではなく、法令の規定そのものについて、憲法適合性を判断することができるものとされ、ドイツなどが採用しています。

 我が国の憲法裁判は、憲法第81条により、通常の司法裁判所が担っています。しかし、現在の憲法裁判制度には問題があるとの指摘がなされることも多く、本調査会でも同様の意見が出されました。

 こうした問題意識を背景に、憲法裁判の在り方について意見が出されましたが、憲法裁判所制度の導入の是非については意見が分かれ、憲法裁判所を導入すべきとの意見が出される一方、導入に消極的な意見も出されました。

 導入すべきとの立場からは、「具体的規範統制*と抽象的規範統制**の二つの役割を担う一審かつ終審の憲法裁判所を設置すべき」などの意見が出されました。

 一方、導入に消極的な立場からは、「憲法裁判所による抽象的審査には、裁判所が政治的判断を迫られる、人権保護より秩序維持に走りやすいなどの問題点があるのに対し、付随的違憲審査制は、具体的事件において深い議論の下で司法審査が行われる、立法作業の抽象的側面を補完するなど優れた制度と考える」などの意見が出されました。

*具体的規範統制:法令が憲法に適合するか否かの審査を、具体的事件の解決との関連で行うこと。「付随的違憲審査制」もほぼ同じ意味で用いられます。

**抽象的規範統制:法令が憲法に適合するか否かの審査を、具体的事件の解決とは関連なく行うこと。

(16) 私学助成の憲法上の明記(第89条関係)

 現行の憲法の規定のままでよいのかという点では見解が分かれた。

(報告書193頁)

 私学助成については、第89条により公の支配に属しない教育の事業に対する公金支出が禁じられていることから、憲法に違反しないか、憲法制定当初から議論されてきました。実務上は法律が制定され、政府解釈、判例上も合憲とされており、私学助成が必要であることは、本調査会における共通の認識となりました(→参照)

 しかし、現行の憲法のままでよいのかという点では見解が分かれました。

 憲法条文の改正を必要とする立場からは、「89条を素直に読めば私学助成は憲法違反と言わざるを得ない。条文が現実と合わず、現実の方が合理的な場合には条文を変えるしかない」などの意見が出されました。

 一方、不要とする立場からは、「私学助成は、憲法制定議会以来、憲法上是認されていると解されており、26条の立場からも当然の措置」などの意見が出されました。

(17) 会計検査院(第90条関係)

 会計検査院を国会あるいは参議院に附属させるか否かについては、意見が分かれた。

(報告書197~198頁)

 会計検査院とは、国の収入支出の決算を検査する憲法上の機関であり(第90条)、内閣に対し独立した地位を有するとされています(会計検査院法第1条)。

 本調査会では、参議院における決算審査重視の観点から、会計検査院の位置付け、機能等について議論が行われましたが、会計検査院の帰属・参議院との関係等については、意見が分かれました。

 会計検査院を参議院に帰属させるべきとの立場からは、「決算に対する参議院の責任を強化するため、会計検査院を参議院に所属させることは、ベストとは言わないが次善の策としてはふさわしい」などの意見が出されました。

 一方、会計検査院の参議院帰属に反対の立場からは、「会計検査院の独立性の確保の観点から、現行の規定どおりとする」などの意見が出されました。

(18) 住民投票制(第93条関係)

 住民投票制を法定化するか否かについては意見が分かれた。

(報告書208~209頁)

 現在、原子力発電所の建設等について、条例に基づく「住民投票」が行われる例が見られますが、憲法・地方自治法上は、個別の問題を住民投票にかけることには触れられていません(合併手続の一環としての住民投票規定は存在します)。個別問題に関する住民投票については、住民の意識を高め、民主主義の実現に有効とする考え方もありますが、その法的位置付けや濫用の危険性などの問題点も指摘されています。

 本調査会では、住民投票制を法定化するか否かについては、意見が分かれ、現在の住民投票について否定的な意見、住民投票を評価する意見、住民投票導入に慎重な意見が出されました。

 現在の住民投票について否定的な立場からは、「議員は公職選挙法の厳しい規定の下で選ばれるが、住民投票には買収や戸別訪問など同法の規制がかからず、世論では直接民主主義の結果の方が重いとされることに疑問を呈する」などの意見が出されました。

 住民投票を評価する立場からは、「地方分権を強力に進め、生活にかかわる大部分の決定を地方自治体で行い、住民投票制度を実現すれば、より直接的に民意を反映した政治になる」などの意見が出されました。

 住民投票導入に慎重な立場からは、「住民の意思を問うには、首長・議会の選挙のほか、発達した通信手段を利用することも可能。住民投票は、憲法の規定する首長・議員の直接選挙制や間接民主主義の在り方を曲げる使われ方をされてはならず、補完的な役割として考えるべき」などの意見が出されました。

(19) 道州制(第92条、第94条関係)

 道州制を導入するか否かについて、意見が分かれた。

(報告書211~212頁)

 地方分権を推進していくべきことは、本調査会では共通の認識となりました(→参照)が、現在の地方制度の枠組の下で推進を図るか、新たな枠組の設定まで視野に入れるか、様々な立場があり、見解が分かれました。分権の受け皿として基礎的自治体を強化すべく市町村合併を進めると、都道府県の機能にも影響があることから、都道府県連合、さらには新たな広域自治体として道州制まで視野に入れるか、議論は分かれます。

 道州制」とは、現在の都道府県の区域では狭すぎるという立場から、広域行政*の要請に応えるために、新たに全国を幾つかのブロックに分けて道または州をおくという新たな広域自治体制度です。道州制について、都道府県の見直しも含め、議論が行われましたが、道州制を導入するか否かについて、本調査会での意見は分かれました。

 導入すべきとの立場からは、「地方組織の再編なくして行政改革や政治改革は完成せず、道州制や連邦制の方向を目指すべき」、「道州制の導入は、組織体制の大幅な簡素化と国の仕事のスリム化をもたらし、行政改革の推進に効果がある」などの意見が出されました。

 一方、導入に消極的な立場からは、「道州制は、財界が巨大プロジェクトなど大型開発を進めるには都合が良いが、住民の自治はほとんど実体を失うおそれがある」などの意見が出されました。

*広域行政:既存の地方公共団体の区域を超えて行われる行政。柔軟性や経済合理性等が期待されています。

(20) 改正要件(第96条関係)

 現在の改正要件については、変更を求める意見と、慎重な意見があり、見解が分かれた。

(報告書214~216頁)

 憲法改正に際し、通常の法律の場合よりも厳格な手続要件が課される憲法のことを硬性憲法、通常の法律と同じ手続で改正される憲法を軟性憲法といいます。

 現行憲法の改正手続規定は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成による発議、国民投票の過半数の賛成による改正を定めており、典型的な硬性憲法です。この改正要件について、厳しすぎるものかどうか議論がありますが、本調査会では、現在の改正要件について、変更を求める意見と慎重な意見があり、見解が分かれました。

 変更を求める立場からは、「改正の発議に各議院の総議員の3分の2以上を要求するのは、ぎりぎりの政治的議論において、現状を変えさせないという人の意見が変えたいという人の意見の2倍の重みを持つことになり不合理。2分の1にして、国民の英知にかけるという意味で国民投票にかければよい」などの意見が出されました。

 一方、改正要件の緩和に慎重な立場からは、「改正のハードルを著しく下げることは、憲法の最高法規性を放棄するものにほかならない」などの意見が出されました。

 なお、前述の通り(→参照)、憲法改正手続における国民投票制の維持については、共通の認識がありました。

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